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第3部 「竜の嘶き」 「ドラゴン-1」 2030年代に登場した飛行能力を備えた航空MMS。 それらは多種多様なメーカーから出された数を含めれば数え切れないほどの多種多様性を誇ったが、一応の一定の安定した戦果をあげる活躍をし、:名機:とよばれるワクで絞っていくと、だいたい10機種くらいになる。 フロントライン社の天使型シリーズ「アーンヴァル」、戦闘機型「飛鳥」、スタジオ・ルーツ社製サンタ型「ツガル」、マジック・マーケット社セイレーン型「エウクランテ」コウモリ型「ウェスペリオー」、アキュート・ダイナミックス社製ワシ型「ラプティアス」ディオーネ・コーポレーション社製戦乙女型「アルトレーネ」 といったところが安定した強さを持っている。 もちろん、各神姫に対する評価は、オーナーにより、また神姫マニアの見方によっていろいろ違ってくる。 例えば旧式で性能的には最新鋭の武装神姫には劣っていても、局地迎撃用や戦闘可能時間の違いとか、火力、防御力、搭載能力、稼働率、整備製、コストパフォーマンスなどの点も考慮にいれなければならない。 このような観点から、総合的に採点してみると、天使型「アーンヴァル」、セイレーン型「エウクランテ」、戦闘機型「飛鳥」などが、武装神姫の中で空中戦ナンバー1を競うことになる。 アーンヴァルは、スピード、ダッシュ力、上昇力および安定性、生産製の高さで、他の航空MMSよりあまりある戦闘能力を保持している。 また「エウクランテ」は軽量で高機動、また支援ユニットに可変することで高速一撃離脱の戦闘方法で一世を風靡した。 「飛鳥」はずば抜けた運動性能で、登場した2030年代初期から中期にかけて、他の航空MMSを徹底的に痛めつけている。 いずれも武装神姫の可動初期からはたらき、改良されながら長期にわたって活躍したことが、他の航空MMSよりもポイントを稼いだ決め手になっている。 もちろんその他の「ツガル」「ウェスペリオー」「ラプティアス」「アルトレーネ」にしてもそれぞれ長所を大きくいかしての活躍が名神姫として数えられている要素になっている。 それらの中で、本来ならもっと高く評価されてもいいはずなのに、地味な存在なのがカタリナ社製の「ドラッケン」シリーズである。 「ドラッケン」は航空MMSの中でも「アーンヴァル」とほぼ同等の古い航空MMSである。上記3機が軽装甲、機動性と格闘戦闘を重視したのに、対してドラッケンは頑丈さと火力、防御力で相手の小技を跳ね返す真逆の発想で設計された。 強固な装甲と重火力、それなりの機動性を持つこのドラッケンシリーズは万能戦闘機として結果的に成功をおさめ、その合理性を立証した。 2041年10月16日 天王寺公園神姫センター 第3フィールド森林ステージ ズンズズン・・・ドン・・・ドドン・・・ 天王寺公園の一角、森の中の小川を挟んで、大砲を背負った神姫が激しい撃ち合いを行なっている。 少しはなれた小高い丘で、フィールド参加神姫の待機所で複数の重武装の神姫たちがトレーラに乗って砲声を聞きながらのんびりと出番を待っている。 チーム名「ドラケン戦闘爆撃隊」 □戦闘爆撃機型MMS「シャル」 Sクラス □戦闘爆撃機型MMS「ライラ」 Aクラス □戦闘爆撃機型MMS「セシル」 Aクラス オーナー名「伊藤 和正」♂ 27歳 職業 工場設備関係メーカー営業員 とくに話すこともない知れた顔ぶれ、彼女たちは同じ伊藤の所有する神姫たちだ。 伊藤はのんびりと新聞を読んで戦闘中のフィールドからの応援要請を待っている。 シャルは自慢の武装の2mm機関砲を布で綺麗に拭いて手入れをしている。 ライラはぼけーと口を半開きにしてどんよりとした曇った秋空を眺めている。 セシルは地面を這うアリを観察している。 ラジオもネットもなく、お互いがそれぞれ別のことをしながらただ、ゆっくりと時間が過ぎるのを待つ・・・・ ダガガガガッガガン!!!ガッガガガガン!! ふいにカン高い機械音が鳴り響き、ボンボンと黒煙が戦場になびき、樹脂の焼ける独特のにおいが流れてくる。 ポーンと情けないメールの着信音が待機所に設置されているメールボックスに届く。 伊藤がカチカチとノートパソコンのメールボックスを見て待機しているシャルたちに話す。 伊藤「出撃だぞ、手前の赤チームから救援要請だ。敵の神姫にアイゼンイーグルを装備した重火力の武装神姫が出たらしい」 シャル「了解、ドラケン戦闘爆撃隊、出撃します」 ライラがエンジンのスタートキーを回す。 ドルン、ドルンンドルルン・・ルンルン・・・グオオオオオオンン まるで獣の吼え声のように強力なエンジンが唸り、心地よい振動を生み出す。 セシル「敵機は?今日は上がってくるのでしょうか?」 セシルはぼつりとつぶやく。 シャル「俺たちに救援要請を出したってことは向こうも迎撃機を出すってことだ、足の速いアーンヴァルか、もしくは格闘戦に優れた戦乙女か・・・」 ライラ「こちらドラケン2、出撃準備完了」 セシル「ドラケン3、いつでもいけます」 シャルがうなずく。 シャル「マスター、ドラケン戦闘爆撃隊、出撃準備完了、今日の武装は、2mm機関砲、多連装ロケット砲、マイクロミサイルを搭載しています」 伊藤「よし、目標は地上で戦っている陸戦MMSの支援爆撃だ。迎撃機が出るかもしれない、十二分に注意しろ」 シャル「了解しました」 ライラ「はっ」 セシル「YES、SURE」 ドドドドドン!!ズドドドドドッ!! 強力なアイゼンイーグルガトリングキャノンを構えた悪魔型神姫が前線を押し上げている、横には数体の夢魔型が護衛として付き添っている。 くぼんだ塹壕に、火器型のゼルノグラードとヤマネコ型が身動きがとれずに必死に応戦していた。 ヤマネコ型「畜生、応援のドラッケン部隊はどーした!」 火器型「まだです!まだ来ません!!」 片腕を失った騎士型が荒い息を吐きながら舌打ちをする。 騎士型「あの重機を仕留めないことには、5分も持たないぞ!!!」 剣士型「おい!!あれを見ろ!」 キラキラと黒光するネービーブルーの機体を輝かせながら、上空から多連装ロケットランチャーで爆装したドラッケン戦闘爆撃機型MMSが3機、急降下で舞い降りる。 シャル「いいか!味方の塹壕まで2メートルと離れていない、慎重に爆撃しろ!」 ライラ・セシル「了解」 バシュバシュバシュバシュッ!!! 白い噴煙を吐きながらシャルたちは一斉に悪魔型たちに向かってロケット弾を全て打ち込んだ。 夢魔型「ド、ドラッケン戦闘爆撃機!!」 悪魔型「迎撃ッ!!」 悪魔型が強化アームでがっしりと構えたアイゼンイーグルを向けて、攻撃しようとするが、ガトリングは砲身が回転するまでのわずかな空転時間を要する。 それが致命的なタイムロスとなり、悪魔型の命運を分けた。 ドドドンッ!!!ズッドオオム!! 数十発のロケット弾が悪魔型と夢魔型数体を巻き込んで大爆発が起きる。 □悪魔型MMS 「ノーザス」 Aクラス 撃破 □夢魔型MMS 「リセム」 Bクラス 撃破 □夢魔型MMS 「パッセル」Bクラス 撃破 シャル「命中命中!」 ライラ「ドンピシャリ!」 セシル「全弾命中!」 下をちらりと見ると味方の神姫たちがしきりに手を振ったり被っているヘルメットや兜を振って声援を上げている。 火器型「助かったぜ!おまえんとこのマスターによろしくな!」 ヤマネコ型「さすがはドラケン隊だ!頼りになるぜ!」 騎士型「次もよろしく頼むぜ!!」 ぐるりと味方の神姫たちの上空で機体を振りながらバンクするとシャルたちは帰り道に急ぐ。 行きはどんよりとした曇り空が今は、風が出てきたのか晴れてきて見通しがよくなってくる。 シャル「・・・まずいな、晴れたきたぞ」 シャルは嫌な悪寒がし、キョロキョロと辺りを警戒する。 チカチカと上空から黄色い閃光が瞬く。 ドガドガドガン!! 右翼を飛んでいたライラの機体を黄色い閃光が貫いたと思った瞬間、ライラの体がバラバラに空中分解して爆散する。 □戦闘爆撃機型MMS「ライラ」 Aクラス 撃破 セシル「ライラッ!!」 ウオオオオオオオオオオオオオンン!!! シャルたちの上空から4機のアーンヴァルMK-2テンペスタが雲の切れ目から急降下で襲いかかって来た。 シャル「畜生!!待ち伏せされていた!!」 バスンバスン・・・ 全身穴だらけのボロボロの体でシャルは伊藤の待つ待機所まで、黒煙を吹きながらたどりつく。 伊藤がバッと新聞を投げ出し叫ぶ。 伊藤「なんてこった、行きは3機で帰りは1機か!」 ガッシャーーン!! 地面に胴体着陸してバラバラになるシャルの武装。 シャル「クソッタレ!」 シャルはむくりと立ち上がると砂埃を払う。 伊藤「大丈夫か?シャル!!他の連中は?」 シャル「セシルは手誰のアーンヴァルに追い詰められて自爆した。ライラは粉々にされちまった」 伊藤「なにがあった?」 シャル「たぶん、アーンヴァルの改良型だ。いきなり雲の中から飛び出してきた」 伊藤「しかし、それにしてもよく無事に戻ってきたな」 シャル「こいつの重装甲のおかげだ。もっともこの重装甲のおかげで逃げ切れなかったという点もあるがな・・・」 伊藤はぽりぽりと頭を掻く。 伊藤「しかし、待ち伏せとはな・・・」 シャルは遠い目をして答える。 シャル「俺たちを襲った連中は知ってやがるんだ。鈍重な俺たちが爆撃にくるってことをな」 天王寺公園の一角にあるこの神姫センターは立地条件に恵めれた大型神姫センター店である。 市営地下鉄、私鉄、電気軌道の路面電車、路線バス、高速バスが集中するターミナルとなっており、周辺はキタ・ミナミに次ぐ規模の繁華街を形成している。ミナミの難波とは大阪市街の南玄関としての機能を二分する。 大型商業施設には、百貨店、地下街も充実しており観光地としての表情も併せ持っており、老若男女を問わず賑わいを見せている。 そのため、老若男女を問わず、近隣の郊外から暇をもてあました強力なオーナーが集中し関西でも指折の激戦地区となっていた。 シャルが他の神姫たちと軽い雑談をする。 ぎらついた目つきの悪い黒い天使型のエーベルと、胡散臭いステルス戦闘機型のフェリアだ。 □ 黒天使型MMS「エーベル」 Sクラス オーナー名「斉藤 由梨」 ♀ 22歳 職業 商社OL □ステルス戦闘機型MMS 「フェリア」 Sクラス オーナー名「今宮 遥」 ♀ 23歳 職業 商社営業員 エーベル「そうかーライラもセシルも落とされたのか」 フェリア「運が悪かったんだろ、よくあることだ・・・気にするな」 シャルはこめかみを押さえて顔を歪めて話す。 シャル「2人はバラバラにやられちまってオーバーホールだ。直るのに1週間はかかるよ」 ファリア「テンペスタの小隊か、厄介だな・・・この辺りにはあんまり見かけなかったんだが・・・」 シャル「テンペスタにこっちの武装で勝っているのは装甲と火力だけだ。よほど有利な条件でなければ空中での格闘戦では勝てない」 シャルはエーベルやフェリアにも警告する。 シャル「お前たちも注意しろよ」 エーベル「・・・」 フェリア「・・・」 シャル「まあ、注意したってやられるときはやられるんだがな・・・」 夜になり、あたりは鈴虫やコオロギの秋の虫たちの音色で溢れる。 騒がしいまでの虫の音色がピッタと止まる。 ズズンドンドドドン・・・ズンズズン・・・ 低い砲声が唸り、爆発音が響く、そして機関銃のカン高い音と照明弾が夜空を照らす。 数機のコウモリ型が夜襲を仕掛け、フィールドで砲台型が迎撃の対空攻撃を仕掛けている。 天使型のエーベルが塹壕からひょこりと顔を出す。 エーベル「やれやれ、今日も懲りずにきやがったな、コウモリの連中」 エーベルはギュムと柔らかい何かを踏みつける。 シャル「いてェ、足を踏むなよエーベル」 エーベル「おおっとシャルか?」 シャルがヒラヒラと手を振る。 シャル「今日はコウモリ型の連中しつこいな」 エーベル「フェリアの奴が露払いにさっき出撃したぜ?」 シャルはちらりとエーベルを見る。 シャル「オマエは行かなくていいのか?」 エーベルは肩をすくめる。 エーベル「連中、逃げ足が速いからな、ちょっとでも不利になるとすぐ逃げ出す」 はあーーーとシャルは重いため息を吐く。 シャル「待ち伏せが来るってことは分かっていたはずなんだけどな・・・それをしっかりとライラたちに警告できなかったのは俺のミスだ」 エーベル「シャルを狙ったテンペスタは機関銃が故障していたんでしょう。でなきゃシャルもやられていた。シャルだって危なかったんだ、戦いなんてものはどうしようもないときのほうが多いんだ。イチイチ気にしてたら気が持たないぜ」 シャルは顎に手を付いて考え事をする。 シャル「・・・・・・」 エーベルが顔を上げる。 いつの間にか辺りは静さを取り戻し、虫の音色が再び聞こえてくる。 エーベル「コウモリ型もどこかにいっちまったようだ」 シャルがきょろきょろと警戒する。 シャル「今日は戦艦型の艦砲射撃は無さそうだな」 エーベル「明日も速いし今日は早めに寝るよ」 秋の夜は、少し肌寒い・・・・ To be continued・・・・・・・・ 次に進む>「ドラゴン-2」 トップページに戻る
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そのろく「類は共を呼び友になるのか?」 きりきりきりきり ひゅっ ずとん 「的中」 現在部活動の真っ最中。 人間何事も平常心が大切だよね、って取って付けた事を言うつもりも無いけど、雑念邪念を振り払いたい僕にとって、この部活を選んで良かったと言わざるを得ない。 昨晩のアレは、なんて言うかダメすぎる。 おかげで今朝は、なんとなくティキを正視出来なかった。 そういう意味でも弓道っていいよね。精神修行だし、集中しないと動作に現れる。 つまりへまをやらかしたくなければ余計な事は考えないようにしないといけない。 ひとしきり矢を番えた僕は、更に精神を落ち着かせる為道場の隅で正座し、反目閉じる。 ウチの学校の弓道部は大会等で好成績を残す事を目的としていない。なら何が目的なのかと言えば、「修練」なのだそうだ。 だから勝つ為の技法より、心構えや求道性を求められる。そんな指導で強い選手など早々育ちはしない。 つまり、そんな空気感のある部活と言う事。 だから僕が隅で心を落ち着かせる為に正座をしようが、誰にもとがめられる事は無い。 顧問に言わせればむしろ奨励。 実際にどんな邪念妄想を打ち消そうとしているかなんて、誰にもわかるはず無いのだから、僕はこの時間を有効活用し、必死に平常心を取り戻そうとしていた。 すうっ、と僕の隣に誰かが座る気配を感じる。 一人が座して、他の部員がそれに倣う事も多々あることなので、僕は気にしないで雑念と闘っていた。 の だ が、 「武装神姫」 耳元ではっきりとそう聞こえた。 雑念を読み取られるわけ無いんだけど、僕はそれでもギョッとして今となりに座した人を確認する。 同じ一年の式部敦詞(しきぶ・あつし)がそこにいた。 式部は目を閉じたまま、小声で続けた。 「明日の放課後、神姫を連れて三丁目の公園に来い」 「……わかった」 僕は、やはり小声で答えるしかない。僕は学校ではそういう興味がまったく無い人間として過ごしているので、事を大きく出来ない。たとえそれが脅迫だとしても、だ。 結局僕は、新たな雑念を抱えて家路に就くことになった。 次の日 部活が無い日をわざわざ選ぶのは、やはり同じ部に所属するからで、部活がある日だと時間的に都合が悪い。そういう意味じゃ常識的な相手。 つまり、あまりにも非常識な要求はしてこないだろう、と僕は予測する。 正確に時間を決めていたわけじゃないので特に急ぐ事も無く、僕は公園に到着した。 「遅い!」 来るなりヤツはそう言う。 「別に時間決めてたワケじゃないだろう?」 僕は答える。チョット言葉が強張るのは緊張してるから。 「それがお前の神姫か?」 「そ……そうだ」 式部は僕の頭の上にいるティキを見る。今日のティキは母さんが作った服を着ていた。 そんなティキを確認し、式部はチョットだけ目付きをきつくした。 頭の上でティキがビクッと震えるのを感じる。 「なんで武装して無いんだよ」 「……はぁ?」 「それじゃあバトル出来ねーじゃんかー!」 式部はそう言うと、大げさに天を仰ぐ。 「……話が読めないんだけど?」 そう言った後で、僕は式部のすぐ近くで宙に浮いている、小さな人影を確認した。 白い素体に真っ赤なアーマー。 「おい、それって……」 僕は思わず指差す。 果たしてそこにいたのはMMS TYPE SANTA CLAUS ツガル。 その姿に頭上のティキも気付いたんだろう。僕の頭の上でジタバタと暴れだす。 「マスタ! マスタ! 見た事無い娘がいるですよぉ☆ すごいですよぉ♪」 「まだ発売して無いウエポンセットの!!」 「はい。はじめまして。きらりです。よろしくお願いします」 未だ天を仰いで悶絶している自らのオーナーを尻目に、きらりと名乗った神姫が丁寧にお辞儀した。 公園にいたままじゃ埒が明かないという結論に至って、僕らは連れ立って近所のアミューズメント・センターに場所を移した。 ここは所謂昔で言うところのゲーセン。それにファーストフード店とそして武装神姫のアクセスセンターとを兼ね備えている施設だ。 「つまりBAのコニ○・パレスみたいなところなのですよぉ♪」 「……誰に対して言ってるかわからない上に、僕には言ってる意味もわからん」 遠慮がちにティキにつっこむ。 場所柄だろうか、周りには神姫を連れた人たちで賑わっている。ここではセカンドリーグまで扱っているらしいので、そういう意味じゃリーグ参加者が多いのも当然か。 僕らの様な地方(と言っても首都圏)に住んでいる人間にとって、こういう施設は需要が高い。 僕らは適当に空いている席を陣取ると、軽食を取りながら改めて話を始めた。 あー……でも、たいした話でも無いので内容だけ。 要するに、式部は僕とティキが初めてバトルしたあの試合を偶然にも目撃していたらしい。それでオーナーの顔を覗いて見たら、何と見知った顔じゃないか。神姫ユーザーである事を(僕とほぼ同じ理由で)隠していた式部は、何としても発見した同士を逃がすわけには行かない。 「と思って、つい声をかけちまったんだよ」 式部はそう言ってジュースのストローに口をつける。 「それにしたって、もっとやり方ってあるだろう? っと、ティキ、ウロチョロしない」 答えながらもティキをあやす。ティキとしては珍しいんだろうな。もっと色々と外に連れ出さないと。反省。 そういう意味じゃ、きらりは落ち着いたもので、大人しく座って式部と一緒にポテトをかじっている。 「あんな言い方じゃ、どう好意的にとっても友好的には受け取れないよ」 僕は大好きなマウ○テン・デューに手をつける。 「あー…… それについては反省してる。よっぽど切羽詰ってたんだな、俺」 「一人で納得するなよ」 「ははは。まぁ良いだろ? で、それじゃ、改めて。今度部活が無い日に、俺のきらりとお前のティキでバトルしようぜ」 そう言って右手を僕に差し出す。これは握手しようってことかな? 「わかった。明々後日だね。……最初からそう言ってくれれば良かったんだよ」 僕は式部と握手を交わす。こういうのって慣れて無いからチョット照れる。 「へへへ、こういうの、チョット照れるな」 まるで僕の心の中に浮かんだ言葉をそのまま言った様な、そんな事を口にした式部に驚く。 だけど、僕が驚いた事には気付かなかった様で、式部はごく普通に話を続けた。 その後、僕と式部は今まで誰にも言えなかった神姫の話を十分に語り合い、ティキときらりはお互い知らない事を情報交換し、親睦を深めていった。 「それじゃぁ、またな」 「うん、また明日」 「今度はバトルフィールドで会おうね」 「ハイですぅ♪ 楽しみなのですよぉ♪」 僕らが別れの挨拶を交わす頃にはもう時間は十分に遅くなっていて、とても高校生が遊んでいる時間とは言えない。 空には満天の星が輝いていた。 「明日も晴れそうだね」 「ハイですぅ♪」 足取りも軽く、僕は家路についた。 ……母さんに怒られる事は必至なんだけど、ね。 終える / もどる / つづく!
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キズナのキセキ ACT0-8「理想の体現者」 ◆ 二階フロアへとつながる店内階段から上がってくる、細い人影。 花村は、片手をあげてほほえむ彼女の姿を認め、相好を崩した。 「こんにちは」 「おや……久住ちゃん、ひさしぶりだね」 「ええ、今回はちょっと長引いちゃって」 「遠征先は埼玉だっけ……どうだったの、遠征先は?」 「……イマイチでしたね」 微笑みながらも、辛辣な評価。 久住菜々子がここ「ポーラスター」に顔を出すのも三週間ぶりくらいか。 その間、彼女はまた武者修行と称して、他のゲームセンターを回っていた。 いまや彼女の二つ名も、『アイスドール』より『異邦人(エトランゼ)』の方が通りが良くなっている。 「最近は面白いバトルをする神姫がめっきり少なくなりました。噂の強い武装神姫を求めて大宮あたりまで行ったけれど……結局、勝つことだけを意識した連中ばっかり」 「それは仕方がないかもしれない。全国大会も盛り上がっていたからね。大会仕様のレギュレーションに合わせて、勝ち抜くことを考えると、どうしても似通ってしまうものだよ」 「それはそうですけど……」 菜々子は少し頬を膨らませた。いたくご不満な様子だ。 魅せる戦いか、勝ちを優先する戦いか。 彼女の疑問は、答えのでない問いである。 それこそ、前世紀の終わり頃、ビデオゲームで対戦格闘ゲームがブームになった頃から、幾多のゲームを経て問われ続け、未だに明確な答えは出ていない。 それは菜々子が、神姫マスター人生のすべてを通じても、答えが出ないかも知れない。 実際、ゲームのキャリアが菜々子の人生よりも長い祖母に、この疑問を投じたことがあったが、鼻で笑われた。そして、久住頼子の答えは、 「そんなの、楽しんだ方の勝ちなのよ」 それは答えになってないと菜々子は思うが、今考えると、頼子はすでに達観しているのではないか。 答えになっていない祖母の答えを思い出し、菜々子はそっとため息を付く。 「そういえばさ」 近くにいた『七星』のメンバーが、不意にこんなことを言った。 「最近、珍しい戦い方をする神姫がいるって、噂になってるけど、知ってる?」 「珍しい戦い方?」 「なんでも、インラインスケートみたいな脚部装備だけで戦うオリジナルタイプだって。俺も見たことはないけど、動きがすごいって噂だよ」 「動き、ねぇ……?」 聞いたことがない噂だった。 脚部パーツだけの装備というのが本当なら、ライトアーマークラスの装備より軽装だ。 それでフル装備の神姫よりもすごい動きができるというのは、ちょっと信じがたい。 「まあ、地上戦しかできないのは間違いないけど、『ハイスピード・バニー』って二つ名からして、かなり高速に動き回る神姫なんじゃないか?」 「ふうん……それで、どこにいる神姫なの?」 「T駅前の「ノーザンクロス」ってゲーセンだったかな」 「……すぐ近くじゃない!」 「ポーラスター」のあるF駅からは、電車で二駅しか離れていない。 すぐ近くで活動している神姫なのに、どうして『七星』の誰も噂を確認しに行こうとしないのか。その保守的な姿勢こそ、菜々子は批判しているのだ。 「あそこ、『三強』とかいう連中が幅利かせてて、雰囲気があんまり良くないんだよな」 「……だったら、わたしが行ってみる。『ハイスピード・バニー』がつまらない相手だったら、その『三強』ともどもぶっとばしてやるわ」 菜々子は不敵に笑う。 見たことのない相手に対する不安を闘志に変える術を、菜々子は放浪した二年ほどで身につけていた。 しかし、菜々子は同時にうんざりもしていた。 「全国大会常連」とか「エリア最強」とかいう肩書きの武装神姫とのバトルを求めて遠征し、実際何度も戦ったが、菜々子が記憶にとどめるようなバトルをしたのは二割に満たない。大会で勝とうとする神姫は、どうしても似通ってしまう。 菜々子が求める「魅せる戦い」は、「勝利を求める戦い」と対局にあることを、嫌と言うほど思い知らされていた。 そして、その二つを両立させようとする矛盾。「魅せる戦い」を求めながら、勝ち続けなければならないことの難しさ。 「魅せる戦い」は自分で戦い方を制限しているとも言える。単純に強い方法を使わず、あくまで自分の決めたポリシーからはずれた戦いはしない、ということなのだから。 菜々子の神姫、イーダ型のミスティは、魅せる戦いを旨としているが、勝利を優先する戦いもできる。 だからこそ、遠征先の強敵を相手にしても遅れは取らず、高い勝率を維持し続けられる。 しかし、「勝ちにいく戦い」は菜々子とミスティの本意ではない。 そこに生じる矛盾を、菜々子は嫌と言うほど感じていた。 だからこそ、面白い、珍しい戦いをする武装神姫とのバトルを求める。 そんな噂をたどっていった方が充実したバトルができる、というのも、遠征の経験から学んだことだ。 「でも、ライトアーマー程度なんでしょう? 秒殺しちゃうかもしれないわ」 「それで食い足りないなら、それこそ『三強』とやらもまとめて相手すればいいじゃない」 ミスティの不遜な言葉に、菜々子も自信満々で答えている。 花村は思う。 『エトランゼ』の実力は、もはや『七星』のメンバーを凌駕している。 桐島あおいとの再戦も近いのかもしれない。 だけど、桐島ちゃんに勝ったとして……久住ちゃん、君はどうする? 決戦の先、菜々子は何を目指すのか。大きな目的が果たされた後、強くなった彼女が何を望むのか。あるいは、大きな目的を失った彼女は、もう武装神姫をやめてしまうのではないか……。 花村は少し気がかりだった。 ◆ 翌日、菜々子はミスティを連れ、T駅で電車を降りた。 T駅はこの沿線で一番若者が多い街と言われている。近くに大学や予備校、学習塾もあるし、高校への通学バスも出ているから、自然と若者が集まるのだ。 もちろん、菜々子も何度かT駅で降りたことがある。 目指すゲームセンター「ノーザンクロス」ももちろん知っていた。 駅のバスロータリーから一本はずれた路地に入り、迷うことなく目的のゲームセンターにたどり着く。 肩に乗っているミスティと視線を合わせ、二人して頷く。そして、菜々子は敵地へと足を踏み入れた。 自動ドアをくぐれば、聞き慣れたゲームセンターの喧噪が彼女を出迎える。 一階の奥がこの店の武装神姫コーナーだった。 奥へと歩みを進める間に、バトルロンドの対戦を映す大型ディスプレイに目をやった。 「……この程度の対戦レベルの店に、面白い神姫なんているのかしら」 と口の中だけで呟く。 大きな画面上の対戦は、お世辞にもレベルが高いとは言えなかった。 その時、菜々子はふと視線を感じた。 武装神姫コーナーの奥の壁際に、二人の男が立っている。 真面目そうな青年と、ヤンキー風の大男。奇妙な取り合わせである。 その二人と視線が合う。 ちょうどいい。どうせ誰かに声をかけなければならないのだから、いっそこのまま彼らに協力してもらおう。 菜々子はその二人に向かって、まっすぐに歩を進める。 彼らの前に来て、 「こんにちは」 とびきりの営業スマイル。 これで九割がた、コミュニケーションは円滑に進む。菜々子が遠征で得た経験則である。 大男の方がこれ以上はないという嬉しそうな顔で応じた。 「こんにちは!」 「誰かお探しですか?」 菜々子は自分の営業スマイルを、斜めにすぱっと切られたような気がした。 真面目そうな青年は、表情一つ変えずに、言葉で切り込んできた。 大男の挨拶が終わるより早く切り出してきた、その妙なタイミングに、菜々子は少し驚いた顔を見せてしまう。 青年と視線が交わる。 ひどく真っ直ぐな視線だった。疑惑の色も、探る風もない。ただ真っ直ぐに菜々子を見ている。その視線で菜々子の本当の部分を見ようとしているかのようだ。だから、浮かべただけの笑顔を切られたような気がしたのだろうか。 菜々子は一瞬目を伏せる。 焦らなくてもいい。人を捜しにきたのは本当だ。用件を正直に切り出せばいい。 「ええ。……『ハイスピード・バニー』のティアっていうオリジナルの神姫をご存じですか? このゲーセンがホームグランドだって聞いたんですけど」 青年は眉根を寄せる。 この時気が付いたのだが、この青年は随分と端整な顔立ちをしていた。 「ハイスピード・バニー?」 「はい。なんでも地上戦専用の高機動タイプで、バニーガールの姿をしているとか。とても 特徴的な戦い方をすると噂に聞いています」 「……それで名前がティアなら、俺の神姫かもしれないけれど……。」 「本当ですか!?」 どうやら大当たりを引いたらしい。 この喜びは営業スマイルではなく、心からのものだった。 これが菜々子と遠野貴樹の出会いであった。 ◆ ミスティとティアの初戦は、ミスティの敗北で終わった。 試合後、菜々子は久々の満足感を覚えていた。 ティアは並の神姫ではなかった。リアルモードを出さなかったとは言え、あの軽量装備でミスティを翻弄した神姫は今までいなかった。 つまり、装備ではなく、マスターの戦略や戦術、神姫自身の技で、ミスティと同レベルの強さを持っているという事である。 そしてなにより、ティアの戦いぶりは美しかった。 菜々子とミスティは、こんな神姫と戦いたかったのだ。それがまさか、遠征先ではなく、地元にほど近いゲームセンターにいるなんて。 この神姫のマスターともっと話をしてみたい。 バトル終了後、すぐに彼に声をかけ、二人してゲームセンターを抜け出した。 こんなことは、遠征先でもしたことはない。 思えば、もうこの時には、遠野貴樹というこの神姫マスターに特別な感情を抱いていたのだろう。 駅前のドーナツ屋での時間は、あっという間に過ぎていった。 話すのはもっぱら菜々子だったが、遠野はずっと彼女の言葉に耳を傾けていた。 その会話の中、菜々子に分かったことがある。 遠野は勝敗に固執していない。納得のいくバトルであれば、負けてもかまわないとさえ考えている。 彼の対戦のモチベーションは、独特の戦闘スタイルを追求し、彼の神姫・ティアの能力を最大限引き出すことにある。 「俺は、『強い』と言われるよりも……そう、『上手い』と言われるようなプレイヤーになりたいんだろうな」 この言葉に、遠野のバトルへの姿勢がすべて現れている気がする。 菜々子は内心、驚いていた。 バトルの内容にこそ価値を見いだす姿勢。そのためには、バトルの勝敗にさえこだわらない。 かつての桐島あおいが目指し、菜々子が受け継いだ理想の、ある意味極端な形。 遠野貴樹という神姫マスターは、彼女たちの理想の一端を体現していたのだ。 「しばらくこっちのゲーセンに通うわよ」 遠野と別れた後、菜々子はミスティにそう宣言した。 菜々子は遠野に惹かれていた。そして、理想を体現するマスターの戦いぶりをもっと見てみたいとも思っていた。 ◆ しかし、理想の体現者への敬愛の念は、ある日唐突に裏切られる。 菜々子と同様に遠野と親しい大城大介が、ある日難しい顔をして、丸めた雑誌を持ったまま立ち尽くしていたのだ。 「どうしたの、大城くん。そんな顔して」 「菜々子ちゃん……」 どうにもばつの悪そうな顔をした大城。 いつも陽気な男だけに、こういうはっきりしない表情は珍しい。 菜々子が不思議そうに彼の顔を見上げていると、不意に背後から笑い声があがった。男たちの、蔑んだ調子の声。 振り返ると、そこには三強の一人が、取り巻きのメンバーと一緒に雑誌を広げている。 それが、今大城が持っている雑誌と同じものだとすぐに思い当たった。 「大城くん、その雑誌、何か書いてあるの?」 「あ、いや……菜々子ちゃんは見ない方がいいんじゃ……」 こういう時、大城は嘘が言えない性格である。 明らかに、菜々子が見て都合の悪いことが、その雑誌に書いてあるのだ。 「見せて」 「いや、でも、なぁ……」 しばらく迷っていた大城だが、うらまないでくれよ、と変な一言とともに雑誌を渡してくれた。 それは菜々子が今まで手にしたことも、手に取ろうとも思ったこともない、ゴシップ誌のたぐいだった。 ペラペラとページをめくり、雑誌のちょうど中央、袋とじになっているページで手が止まった。封は切られていた。記事のトビラに「神姫」の文字が踊っているのが異様だったことだけ覚えている。 意を決してページをめくった。 次の瞬間、頭をぶん殴られたような感覚、というのを思い知った。 「なに、これ……」 そこには、理想の体現者の神姫……ティアの痴態があった。なぶられ、犯され、悶える神姫の姿を、菜々子は初めて目にした。 そういうことがある、という事実は、知識で知っていても、目の前で画像として見せられると、ひどく生々しい。 「ティアは……風俗の神姫だったんだ……」 「ふうぞく、の……」 神姫風俗、というものがあることは、裏バトルに関わっていれば嫌でも耳に入ってくる。 バトルで残虐な方法で神姫を破壊するのにも吐き気がするが、性行為を神姫に働くことは、菜々子の理解の範疇を越えていた。 ティアは、人間の男の欲望を処理する神姫だった。 それじゃあ、遠野はいったいどうやって、ティアを手に入れたのだろう? 風俗店に通い、気に入った神姫を身請けした。それがティアだった……と考えるのが自然だろう。 ということは、遠野も神姫風俗の常連客だったのではないか? なんと汚らわしい! そこまで考えて、菜々子は遠野に「裏切られた」と思った。 理想の神姫マスターだと思っていたのに。 まさか、神姫マスターとして最低最悪の行為に手を染めていたなんて。 菜々子は、怒りと悲しみと失望と疑念が一度に押し寄せてきて、混乱し、頭がくらくらする。だから、顔に出てきたのは呆とした無表情だった。 肩の上の小さなパートナーが、なぜかわずかに眉をひそめただけで、いっそ冷静な様子が憎らしい。 菜々子は無言で、大城に雑誌を押しつけると、ふらふらとした足取りで店を出た。 その後、どこでどうしたのか、菜々子には記憶がない。 気がついたら、自宅のベッドでじたばたしていた、というわけだった。 ◆ 特別に思っていた男性の汚点を否定して見せたのは、彼女自身の相棒であるミスティだった。 ミスティは確信していた。遠野貴樹が神姫風俗に手を出すような人物ではないと。ティアと遠野の絆は本物だと。 なかば自分の神姫の言葉に引きずられ、菜々子は再び遠野を信じてみることにした。 ホビーショップ・エルゴに連れて行ったのは、菜々子が必死になって考えたアイデアだった。 いつもと違う服装で遠野を待ちかまえたのも、策と言うには幼稚だったのではないか、と菜々子は今思い出しても照れくさい。 しかし、結果はオーライだった。 真っ直ぐに向き合えば、遠野はすべてを話してくれた。 ティアを手に入れた経緯も、彼女に対する想いも。裏切られたと思っていた自分が恥ずかしくなるほどに、彼は真っ直ぐに、純粋に、ティアを愛していた。 それが分かったから、ちょっとティアに嫉妬した。 □ 「ずっと……出会ったときからずっと、あなたは理想の神姫マスターだった。その後も、本当にいろんなことがあったけれど、全部覆して見せた。自分の信念を持って、真っ正面から立ち向かった」 「それは……それが出来たのは、君や大城や……みんなのおかげだろ」 俺が言うと、菜々子さんは頭を振った。 「あなたはティアを助けて、風俗の神姫をたくさん救って、雪華やランティスみたいな実力者とも渡り合って……少しくらい、偉そうになってもいいものなのに、全然自分のスタンスを変えない。ただ、理想のバトルを目指す……その姿こそ、わたしの理想を体現したマスターだわ」 「そんなのは、買いかぶりだよ」 今度は俺が頭を振る。 本当にいろいろなことがあった。 セカンドリーグ・チャンピオンの雪華との対戦、バトロン・ダイジェストに記事が載り、周囲の見る目が変わった。 宿敵・井山との決戦。事件の終結。 チームを組み、仲間ができた。八重樫さんと安藤が持ち込んだトラブルも解決したっけ。 塔の騎士・ランティスの挑戦。 それから……菜々子さんの告白を賭けた対戦。 武装神姫を始めてから、まだ一年も経っていない。その間、息つく間もなく、怒濤のような日々が過ぎていった。 そして、俺たちはまだその激流のただ中にいる。 そのことを後悔しているわけではない。しているはずもない。 こうして菜々子さんと二人で話している今は、確実に過去の出来事からつながっているのだから。 菜々子さんを見る。 月明かりと小さな街灯の光を受けた彼女は、本当に美しい。 無性に、彼女がいつも見せてくれる、あの反則な笑顔を見たいと思った。 なぜ俺はこんな時にかけられるような、気の利いた言葉の一つも持ち合わせてはいないのだろう。 「……あした……」 「うん」 菜々子さんの微かな呟きに、俺も小さく応じる。 「明日……ついにお姉さまと戦うのよね」 「ああ」 「……勝てるかな」 「勝てる。それだけの準備をしてきた」 俺は嘘つきだ。 確かに、『狂乱の聖女』に勝つための準備は全てやった。だが、勝てるかどうかまでは、わからない。 だが、今この時、これ以外に彼女にかける言葉があるだろうか? 菜々子さんはゆっくりと俺の方を向いた。 吸い込まれそうな瞳の色。 「ほんとうに?」 「君が勝つ。それ以外は想定してない」 俺の視線は菜々子さんの瞳に吸い込まれた。 菜々子さんの引力に導かれるままに。 俺と菜々子さんの唇が重なった。 ■ 結局、わたしとミスティは、何も言葉を交わすことはできなかった。 わたしはミスティさんの想いを伝えたかったけれど、また激しい口調で拒否されるのではないかと思うと、声に出せなかった。 決戦を目前にして、ミスティの気持ちを乱したくなかった……と思っているのは、わたしの体のいい言い訳に過ぎない。 帰り道、マスターの胸ポケットの中で、考える。 無理矢理にでも伝えるべきだっただろうか。 たとえ拒否されたとしても、話してしまえばよかったのではないか。 でも、それじゃあ、本当の気持ちが伝わらないような気がした。 虎実さんは「想いは必ず伝わる」と言ってくれたけれど。 言葉がなくても、想いは伝わるだろうか。 わたしは一晩後悔しながら過ごし、いつの間にか決戦の朝を迎えていた。 もう後悔したところで遅いのだけれど。 もしわたしが、ミスティさんの言葉を伝えていれば、今日の決戦はまた違った結果になるのだろうか……。 ◆ 翌朝。 夜が明けたばかりの朝の空気は、肌にひんやりと感じられる。 街灯も消え、日が射し始めた。 花咲川公園は、その名の通り、東京湾に注ぐ花咲川の川沿いに作られた公園だ。この時期、桜並木が美しいことで有名である。 川沿いの道を迷うことなく歩を進める。 指定された場所……花咲川公園の表の入り口はもうすぐである。 朝六時ちょうどにたどり着くと、そこには小さな人影がひとつあるきりだった。 髪型はショートカット。ブラウスの上にハーフコート、細いジーパンを履いた、ボーイッシュな出で立ち。 銀色の無骨なアタッシュケースを手に提げている。 美しい顔立ちには、凛とした決意に一抹の不安を乗せている。 「……菜々子」 きれいになったわね。 桐島あおいは口の中だけでそう言った。 久住菜々子は微笑んで、あおいを迎えた。あおいもまた、微笑みで応える。 二人は無言で頷き合うと、並んで公園に足を踏み入れた。 満開の桜。 数え切れないほどの花が、今を盛りと咲き乱れ、並木道を淡い 桃色に染めている。 無数の花びらが音もなく舞い、並木道の先を霞ませる。 目指す場所は桜色に霞んだ道の先にある。 二人は並んで歩く。 その姿が霞みそうなほどの、桜の乱舞。 息を飲むほどに美しい。 その光景の中で、二人が手にしているもの……無骨なアタッシュケースだけが異彩を放っている。 桜吹雪の中、二人は静かに歩いてゆく。 「……こうして、またあなたと話せるとは思っていなかったわ」 「わたしもです、お姉さま……お話したいことが、たくさんありました」 「そう?」 「ええ」 「どんなことを?」 「たとえば……」 菜々子は少しはにかんで、そして言った。 「たとえば、そう、恋をしたこととか」 本当は、ずっとこんな話がしていたい。 いや、そんな日常を取り戻すため、菜々子はこれから戦うのだ。 二人の向かう先、桜吹雪の先にあるのは……決闘の地だった。 次へ> Topに戻る>
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武装神姫 MMS,Type ANGEL ARNVAL Mass-production model 『量産型アーンヴァル』 「我々は、大儀のために戦うのです」 【基本能力】 量産型アーンヴァルは集団戦闘の専門家である。 そのため戦闘基本値に以下の修正を得る。 【射撃基本値】(+2) 【格闘基本値】(+2) 【回避基本値】(+3) 【特殊】《フォーメーション効果》を受けた場合【効果】(+1) 【技能】 量産型アーンヴァルはキャラクター製作時に、以下のリストから技能を2つ習得できる。 また経験を積んでキャラクターレベルが上昇した場合、3で割り切れるレベル(3,6,9,12……)に到達する度、新しい特殊技能をひとつ、修得できる。 量産型アーンヴァル 技能リスト 《追加HP》 《一斉発射》 《ウェポン習熟》 《緊急回避》 《逃走》 《シールドブロック》 《追加SP》 《反射神経》 《連携攻撃》 《タフネス》 《突撃》 《不死身》 《SP回復》 《狙撃》 《複数目標攻撃》 《一斉掃射》 ○量産型アーンヴァル(ソルジャー) 【基本性能】 【射撃修正】(±0) 【センサー性能】(+0) 【速度】(6) 【格闘修正】(±0) 【装甲値】 ( 5 ) 【旋回】(3) 【回避修正】(±0) 【HP】 ( 24 ) 【パワー】 ( 5 ) 【シールド】 ( 2 ) 【格闘武器】 名称 /威力/格闘補正/使用回数 格闘 / 5 / ±0 / ∞ ライトセイバー / 8 / +1 / ∞ 【射撃武器】 名称 /威力/~5/~10/~15/~20/使用回数/間接/連射 アルヴォLP4ハンドガン / 7 /+3/ - / - / - / 8M / ×/ × アルヴォ PDW9 / 9 /±0/ -2/ - / - / 9M / ×/ ○ ○量産型アーンヴァル(ガード) 【基本性能】 【射撃修正】(±0) 【センサー性能】(±0) 【速度】(4:VTOL) 【格闘修正】(±0) 【装甲値】 ( 8 ) 【旋回】(3) 【回避修正】(-6) 【HP】 ( 24) 【パワー】 ( 6 ) 【シールド】 ( 2 ) 【格闘武器】 名称 /威力/格闘補正/使用回数 格闘 / 6 / ±0 / ∞ ライトセイバー / 8 / +1 / ∞ 【射撃武器】 名称 /威力/~5/~10/~15/~20/使用回数/間接/連射 アルヴォLP4ハンドガン / 7 /+3/ - / - / - / 8M / ×/ × アルヴォ PDW9 / 9 /±0/ -2/ - / - / 9M / ×/ ○ 【カスタムデータ】 ○アーンヴァル・ソルジャー 【部位】 /【CP】/ 【名称】 /【効果】 頭部 / (0)/ ヘッドセンサー・アネーロβ /《センサー+1》 胸部 / (1)/ buAM_FL010アーマー /《HP+2》 《装甲+1》 《シールド(2)》 脚部 / (1)/ AT2レッグパーツ /《HP+2》 《装甲+1》 背部U / (1)/ リアウイングAAU3 /《速度+1》 計 /( 3 ) ○アーンヴァル・ガード 【部位】 /【CP】/ 【名称】 /【効果】 頭部 / (0)/ ヘッドセンサー・アネーロβ /《センサー+1》 胸部 / (2)/ buAM_FL011フルアーマー /《HP+2》 《装甲+3》 《回避-4》 《シールド(2)》 脚部 / (2)/ ホバリングギアAT4 /《HP+2》 《装甲+2》 《回避-2》 《速度-1》 《VTOL》 背部U / (0)/ / 計 /( 4 ) (*1)以上の装備はアーンヴァルが装着しても【CP-1】のボーナスが適用される。
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ウサギのナミダ ACT 1-11 ◆ 久住菜々子は大学生である。 東京にある大学からの帰り、あのゲームセンターに寄るのは、一度最寄り駅を行き過ぎなくてはならない。 また、武装神姫を常に持ち歩いているわけではない。 だから、あのゲームセンターに行くのは、週末にしていた。 だが、今日は違う。 朝からミスティを連れ、装備の入ったアタッシュケースを持って、大学に行った。 はやる気持ちを抑えて、大学の授業をみっちりと受け、講義が終わったらダッシュで駅まで。 それでもゲームセンターにたどり着いたのは、夕方も遅くなってからだった。 今日は金曜日。 繁華街は、翌日休みの気楽さで、週末の夜を楽しもうと、すでに多くの人が繰り出している。 浮ついた世間の雰囲気とは逆に、菜々子の心は緊張していた。 ゲームセンターにつくと、すぐに武装神姫のコーナーへと向かう。 平日とはいえ、金曜日の夕方。休日に劣らず盛況である。 壁際に、見知った顔を見つけた。 大城大介だ。 雑誌を片手に、なにやら難しい顔で、バトルロンドの筐体を睨んでいる。 「大城くん、こんばんは」 「おお、菜々子ちゃん!」 振り向いた男の顔がぱっと明るくなった。わかりやすい。 「もう、来ないかと思ってたぜ……」 「うん……迷ってたんだけど……やっぱり、ね」 微笑みながら頷く大城。 そんな彼に、菜々子は片手を突き出した。 「その雑誌……またティアが出てるんでしょう? 見せて」 「いや、あの……これは」 雑誌と菜々子を見比べながら、困った顔をする大城。 「刺激が強すぎるから……見ない方がいいんじゃ……」 なかなか雑誌を渡そうとしない大城を一瞬睨み、菜々子は物も言わずに雑誌をひったくった。 薄い雑誌をぱらぱらとめくる。 中ほどの袋とじに、目的の記事はあった。開封されている。 扉は写真の反転画像で、黒の背景に白のラインで女性の姿を形作っている。 「大反響アンコール! 淫乱神姫・獣欲のまぐわい」と、また奇妙な字体で貼り付けられていた。 菜々子には中身の想像がつかないタイトルだ。 意を決して、一枚目をめくる。 「……っ!!」 肩にいるミスティが息を飲む気配。 震える手で、二枚目をめくる。 次のページを目にした瞬間、菜々子は雑誌とミスティを大城に押しつけると、すごい勢いでお手洗いに駆け込んだ。 「だからいわんこっちゃない……」 半分あきれ気味に大城が呟いた。 確かに、あの内容なら、見るのを止める方が親切よね、とミスティも思う。 しばらくして、菜々子が戻ってきた。 顔面は蒼白。ハンカチを口元に押しつけている。身体は小刻みに震えている。 それでも菜々子は、また黙って、大城に片手を突き出した。 「いや、だから、やめといた方がいいって」 「わたし、決めたの……もう逃げないって。あの二人の力になるって。だから、どんなに辛くても、わたしはそれを見なくちゃいけないのよ」 大城はため息をつくと、雑誌とミスティを菜々子に手渡した。 ミスティを肩に乗せ、再び例の記事を開く。 今度は、さっきよりも冷静に見ることが出来る。 しかしまた身体が震えだした。 「……ひどい……」 怒りだ。怒りに身体が震える。 雑誌の中で、ティアは陵辱されていた。 よつんばいのティアの後ろからのしかかっているモノ。 人間じゃなかった。人型ですらなかった。 犬だ。 神姫サイズの犬型ロボットが、ティアの背後から覆い被さっている。 雑誌の中のティアは、苦悶と恍惚が入り交じった表情を浮かべていた。 写真を見ているだけで、胸が張り裂けそうになる。気が狂いそうになる。 ティアは……毎日、こんな仕打ちに耐えていたというの。 菜々子の耳に、笑い声が聞こえてきた。 少し離れたところで、数人の男達が同じ雑誌を見ている。同じページを開いている。 下卑た笑い声を上げ、ティアのことをあることないこと声高に話している。 みな見知った顔だった。このゲーセンの常連達だ。 だったら、知っているはずではないのか。ティアと貴樹がどんな戦いをしたのか。それを見てもまだ、そんなバカにしたことが口に出来るのか。 ミスティは憎しみすらこもった眼差しで、猥談に花を咲かせる男達をねめつけた。 「あいつら……ふざけやがって……」 憎々しげな呟きの主に目を転じると、それは虎実だった。 ミスティはちょっと驚いて、虎実を見つめた。 「あら……虎実はちがうの?」 「たりめーだろ! ティアと戦ったヤツにはわかるはずだ! こんなクソ雑誌の記事なんか……いまの二人に何の関係もねぇんだって!」 虎実はミスティを睨んだ。 「アンタもそうじゃないのかよ、ミスティ」 ミスティを見る虎実の目は、真剣だった。 いつもはミスティがからかったのを真に受けて、ただ怒った視線を向けてくるだけだ。 だが今日は違う。 眼差しの質が違う。 自分の確固たる信念の下に、相手の嘘を許さない、揺るぎない視線。 「わたし、初めてあなたに関心したわ」 「……どーゆー意味だ、それ」 「あなたと同じ意見、っていう意味よ」 ミスティは薄く笑いかけた。 「虎実、わたしたち、協力しない? ティアが戻ってこれるように力を尽くすの」 「だったら……一時休戦すっか?……ティアのために」 「いいわ。これからわたしたちは仲間……戦友よ」 ミスティが握った拳の親指を立て、サインを出す。 虎実もサムアップして頷いた。 奇妙なシンパシーでつながった二人の神姫に、マスター達は顔を見合わせて、肩をすくめた。 そして、大城が、ちょっと難しい顔をして、言いにくそうに口を開く。 「先週末……遠野が来てな……日曜日に、ちょっと騒ぎになった」 「え? ……なにが、あったの」 日曜日の出来事を、大城はかいつまんで話した。 菜々子の顔がみるみる険しい表情になっていく。 「壁叩いて右手壊したって……あの、遠野くんが……!?」 にわかには信じがたい。 あの、いつもクールな雰囲気の遠野が感情を剥き出しにして自分を傷つけるなんて。 それほどまでに、彼は深く傷ついているのだ。 菜々子の想像よりも遙かに。 菜々子がうつむいて、思いを巡らせていたその時、 「よお、エトランゼ。珍しいな、平日の夕方に来るなんて」 男が声をかけてきた。 思わず睨みつけてしまったのは、タイミング的に仕方がないことと思う。 むしろ、空気を読め、と菜々子は言いたかった。 声をかけてきたのは、ヘルハウンドのマスターだった。 一緒に二人の男がいる。 いずれも見知った顔だった。 「三強が揃い踏み……ね。何か用?」 菜々子ははっきり言って、三強のマスター達が嫌いだった。 『ヘルハウンド・ハウリング』の二つ名を持つハウリン・タイプのマスターは、坊主頭で日焼け肌の男だ。 三人の中では一番の常識人だが、自分が三強の一角であることを時々鼻にかけることがある。 後ろの男達の一人は、ウェスペリオー・タイプのカスタム機のマスター。 『ブラッディ・ワイバーン』と呼ばれている。 背がひょろひょろ高く、薄気味悪い顔色。 困ったことに菜々子に気があるらしく、しょっちゅう言い寄ってくる。 このゲーセンに来た頃、「バトルに勝ったらデート」を無理矢理承諾させられた。 もちろんバトルは菜々子が勝ったが、その後の対戦者も次々に同じ条件を申し入れてきて、断れなくなった。 それを見た遠野に釘を刺されたのは苦い思い出だ。 遠野くんがわたしを、そんなに軽い女だと思っていたらどうするつもりなのかと、この男と顔を合わせるたびに腹が立つ。 もう一人は、年下の高校生だ。 三強の一角だけあってバトルは強いのだが、とにかく「俺強い」と主張する。 バトルに勝てば、相手を見下し、自分の強さをえらそうに自慢する。 逆に負けると、今回チョイスした武装、自分の神姫のせいにして、やっぱり対戦相手を見下す。 ミスティに言わせれば、最低の武装神姫プレイヤーだ。 そんな彼の神姫はエスパディア・タイプ。基本ユニットと素体はエスパディアだが、武装は種類も搭載量も毎回違う。 対戦相手に合わせてチョイスしているわけでも、武装を試しているわけでもないのだ。 あまりにも毎回武装が違うので、『玉虫色のエスパディア』と呼ばれていた。 本人は意味をよく分かっていないらしい。 三強を代表して、ヘルハウンドのマスターが口を開く。 「エトランゼを誘いに来た。……俺達の仲間に入らないか?」 「……あなた達の……?」 「強いヤツは強い者同士が仲間になった方がいい。情報交換や練習、戦術の研究もその方が効率的だ。 あんたの実力は、俺達三強も認めるところだ。だから誘いに来た。 それに……」 ヘルハウンドが一瞬口ごもったのを引き継いで、ワイバーンのマスターが口を挟んだ。 「それに、ティアのマスターも、もう来ないしさぁ! り、陸戦トリオも解散だよねぇ!」 ワイバーンのマスターは嬉しそうだ。 菜々子に気があるワイバーンにしてみれば、いつも菜々子のそばにいる遠野は、目の上のタンコブだったのだろう。 さらに、玉虫色が言った。 「てか、もうアイツはここに来られねーよな。あんな風に発狂しちゃったんじゃさ! あはははは!」 「……は、はっきょう……って……?」 「ああ、ティアのマスター、こないだの日曜日にキレて暴れ出したんだよ。 『悪いのは全部人間だ』とか言っちゃってさ。 他の男にヤられた神姫使っておいて、そんなこと言うなんてさ! 笑っちゃうよね! あはははははは!!」 「おい……言い過ぎだぞ」 さすがに、ヘルハウンドのマスターが、玉虫色のマスターの態度をとがめた。 菜々子は、そっと、唇を噛んだ。 あの遠野くんが、そこまで怒ったの。 あそこまで真っ直ぐに神姫と向き合っている人を。 あなたたち、そこまで彼を追い詰めたの。 菜々子は、肩にいるミスティにだけ聞こえる声で、ささやいた。 「ねえ……この悔しさって、遠野くんの悔しさに比べたらどれくらいかな」 「いいとこ、百四十四分の一くらいじゃない?」 「ずいぶんキリのいい数字ね……」 もう、許せない。 意を決して、うつむけていた顔を上げる。 菜々子は三強の男達を鋭く見据えた。 「わかったわ……それじゃあ、わたしとバトルして、あなた達が勝ったら、仲間になってもいい」 「なに?」 「わたしだって、組むなら強い人と組みたいもの。あなた達の実力、もう一度見せてもらいたいわ」 「そうか……わかった、今からバトルしよう。それでいいか?」 「ええ」 「対戦する順番は……あんたが指名してくれるのがいいかな……」 「何言ってるの?」 ヘルハウンドのマスターの言葉を、菜々子は鋭く遮った。 「違うわよ。『あなたたち』って言ったでしょう?」 武装神姫コーナーの奥、複数人数同時プレイ可能な大型の対戦筐体を指さした。 「スリー・オン・ワン。三人まとめてお相手するわ。準備して」 次へ> トップページに戻る
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盛大な音が響き渡ってから、一刻。 「ごめんなさい兄さま。私ったらつい……」 「すいません周防先生。つい反射的に……」 部屋の中には、ベッドに座っている周防の前で土下座し、平謝りをしている二人の姿があった。 「いや、もう怒ってないから……2人とも顔をあげてくれないかな」 まだジンジンと痛む頬を摩りながら、必死に笑顔を作る周防。だがその顔には、見事な紅葉(もみじ)がくっきりと浮かび上がっている。 「……はい。本当に申し訳ありませんでした、兄さま」 「本当にすみませんでした。このお詫びは必ず」 尚も深く頭を下げる2人。 「本当に気にしないでくれ。アレは事故だったんだよ」 そう周防がなだめ続けると、2人ともやっと落ち着いたようで、ゆっくりと泣きはらした顔をあげる。 「……それは、それとして」 そして…… 「「この女(ヒト)、誰?」」 冷たい声が、極寒の音色を奏でた。 第5話 『 いんたーみっしょん 』 2つの冷たい視線を浴びながら、先ずはスミレに対して説明と言う名の言い訳を始める周防。 「ええと、此方は『白瀬 雪奈(しらせ ゆきな)』先生。大学の同僚講師なんだよ。わかったな」 「……はい、わかりました。って、ぇえ?」 ショボンと萎縮していたスミレがその説明を受けた途端、目を丸くする。 「だって白瀬先生って、普段はもっと地味でイモ……」 「(しー、しー!)」 一言ポロリと漏れるスミレに対し、必死のアイコンタクトを試みる勇人。 「あら、私の事ご存知なんですか?」 しかし、時既に遅し。 「え、いや、その、あの……」 白瀬の疑問に、あからさまにうろたえるスミレ。余計怪しいとしか言いようが無い。 「いやほら、家でコイツに学校の事とか色々と話していますし、それで知ってたんじゃないかなー……と」 すかさずフォローを入れる周防。 「そ、そうなんです! 白瀬先生の事は兄さまからよくお伺いしていて……! ですよね、兄さまっ」 「……あぁ、そうなんだ。いやすみませんね、勝手な事を言ってまして」 2人のやや白々しい笑いが、部屋に響く。 「はぁ……。まぁ、そういう事でしたら」 白瀬は完全に納得した様子ではなかったが、その説明を聞いて一応は矛を収める。 「……次に、こっちは……えぇと、白瀬先生は『武装神姫』はご存知ですか?」 「……はい。知ってます」 何故か、微妙な間。しかし勇人は気にすることなく話を続ける。 「それは良かった、話が早い。 ちょっと色々ありまして、少し前にとある友人からこの子を貰い受けたんですよ。 でも人に見られちゃ不味いかなと思いまして、ちょっと隠していたんです」 色々と端折ってはいるものの、一応嘘はついていない。と自分を納得させながら語る周防。 「成程……。でも何故お隠しに? 別に隠すほどの事でもないと思いますけれど……」 「そ、そうですかね。この年になって、こういう事をやってるというのは、周りに引かれそうな気もしますし」 「――そんな事ありません! えぇ、絶対に!!!」 それまでとは一転した、部屋の外にまで聞こえそうな白瀬の大声に、周防とスミレの2人はビクリと身を硬直させる。 「あ、すみません私ったら…………」 その行動が自分でも意外だったらしく、先刻以上に小さく縮こまってしまう白瀬先生。 「(……まさか、白瀬先生って)」 「い、いえ気にしていませんから。なぁスミレ?」 「え、あ……そ、そうですね。うん、そうですよ」 チグハグな相槌を返すスミレ。 「よかった。……あ、彼女のお名前、スミレさんって仰るんですね」 「はい、そうなんです。……それが何か?」 その答えに、何故か首を傾げる白瀬。 「あ、いえ。スミレってお名前、何処かで聞いた記憶が……」 ギクリと、再び硬直する2人。 「(兄さまこれは不味いです。早くなんとかしないと……!)」 「(あ、いや……。そうは言っても迂闊な事を言うと、更に墓穴を掘る可能性がだな)」 必死のアイコンタクトで秘密会話をする2人。 緊急事態で互いの認識能力が上がっているのか、今度はやたらツーカーである。 「そうですかね。日本人なら、割とよくある名前のような気がしますが」 「――そう、ですね。すみません私ったら変なこと言っちゃいまして、忘れてくださいね」 「わかりました。――それに、このすみれ色の髪が綺麗で、それから名前を付けたんですよ。な、スミレ?」 「あ、はいっ。実はそうなんですよー。 兄さまったら、『スミレの髪、凄く繊細で綺麗だな』だなんて……」 「――ん。いやそこまでは言ってない気がするが。お前の中で美化されてるんじゃないか、ソレは」 「そ、そんな事ないですもん。私と兄さまの思い出は、しっかり全部記憶してるんですから」 そのさくら色の頬を可愛く、ぷーっと膨らませるスミレ。 「――――ふふ。お2人はとても仲が宜しいんですね」 そんな2人の一部始終を、白瀬は微笑ましく見つめている。 「う、すいませんお客様の前で……」 「いえいえ、構いませんよ。お2人を見ているとこっちまで楽しくなってきますし」 「そ、それはなんとも……」 「あうあう。き、気をつけます……」 そう返されると、むしろ周防たちの方が恐縮してしまう。 「――ところで髪で気づいたんですけど、スミレちゃんはアルトレーネなのに、髪の色や服装が違いますよね」 「嗚呼……、スミレはアルトレーネはアルトレーネでも『アルトレーネ・ヴィオラ』というタイプなんですよ。 今度発売される限定モデルなんです」 「そうなんですか。私はてっきり、周防先生のお手製なのかと思いましたわ。 ……嗚呼、だから内緒にしてらしたんですね。発売前の子をあまり見せてはいけないと」 「はぁ……まぁ、そんな所です」 白瀬先生の疑問はそこで解決したらしく、納得したようにウンウンと頷く。 「……もしかして白瀬先生、武装神姫にお詳しいんですか?」 「えっ。 ど、どおしてそれ……じゃなくってっ。どうして、そうお思いになるんですか」 白瀬は動揺を抑えようとしているらしいが、あからさまに声が上ずっている。 「いえ。スミレがアルトレーネなんだとよくわかったなと思いまして。それに既存のタイプとは少し違う子な訳ですし」 周防はそう疑問に思うのだが、それ以前に、この数年でだいぶ普及して一般認知度も上昇したとはいえ、普通の人が武装神姫の種類までを覚えているとは思えない。 「……あはは、バレちゃいましたか。――実は、うちにも1人いるんですよ」 これ以上は隠し切れないと思ったのか、白瀬はあっけらかんと白状する。 「そうだったんですか。白瀬先生が……」 「えぇ、似合いません?」 「いや、そういう訳ではないですが……」 武装神姫も普及してきたとはいえ、女性型である為に必然的にユーザーの多くは若年~青年層の男性が占めている。 女性ユーザーもそれなりに増えてきているとはいえ、まだまだ少数派だった。 「そうですよね、お堅いイメージの白瀬先生がそんな趣味を……もがーっ!?」 「いえ、ちょっと意外だなって思っただけですよ。女性のユーザーは少ないと聞きますから」 スミレの口を慌てて塞ぎながら、周防は答える。……尤もサイズ差のせいで、全身をアイアンクローされたに等しい惨状になっているが。 「(あぁ、兄さまの手に全身抱きしめられてる……)」 ……幸せと苦しみがない交ぜになった、なんとも表現しにくい表情を浮かべている。 「そうですね。神姫センターに行っても男の人が多くて、少し戸惑ってますわ」 そんなスミレを無視するように、2人の会話は続いていく。 「そんなに男ばっかりなんですか。実はまだそういった店に行ったことがないので、よく知らないんですよ」 「そうなんですか」 「えぇ。まだ日も浅いですし、機会もなくて……。まだまだ初心者で」 「あら勿体無い。ネットで買われているのかもしれませんけど、やっぱり直接見たほうが良いですよ。 特にお洋服とかアクセサリーは直接見られた方が良いですよ」 「お洋服、それにアクセサリー……!」 そのワードに、スミレが勢いよく食いつく。 「えぇ。可愛いのとか、綺麗なのとかいっぱいありますよ」 「私、神姫センターに行ってみたいです。デートしましょ、デートですっ!」 子供のように瞳をキラキラと輝かせて、スミレが提案してくる。 「いや、しかしなぁ……」 周防としては、スミレをそんな公の場に連れ出していいモノかどうか、判断に迷わざるを得ない。 「そうですよ~、たまには遊びに行きましょ。じゃないと兄さま、ビール腹がもっと出ちゃいますよ」 「ぐぬ……」 最近気になりだした事を、スミレがピンポイントで抉ってくる。 「ほら。俺、場所も何処にあるか知らないしさ。神姫にあまり詳しくもないし……」 やはり危険だと思い、とりあえず適当な理由をあげてみる周防。 「あら。それなら、私がご案内しますよ」 「「え」」 白瀬の善意によって、周防の包囲網が狭まっていく。 「いやいや、先生にご迷惑はかけられません。コイツの我侭なんですし、マトモに請合わないでも」 「そんな事ありません。それに、先ほどのお詫びも兼ねて……」 周防の脳裏に、先程の恥ずかしい記憶が蘇る。 「あ、ソレこそ気にしないでください。本当に……」 「……それにですね。さっきも言いましたけど、女性1人じゃなんとなく行きづらいんですよ。 それで出来れば誰か一緒に来て欲しいな、なんて前から思っていまして」 「あ、嗚呼……なるほど」 「でも、周囲には神姫をやっている人もいなくて……周防先生が、初めての人なんです。 だから今回は私の為と思って、一緒に来てくれませんか。お願いしますっ」 そう来られると、周防としては同僚のお願いを無下にするわけにもいかず、退路を絶たれた格好になる訳で。 「わかりました。――今度の日曜日、神姫センターへの買い物に付き合ってください」 「――――はいっ。喜んで」 「やったぁ。兄さまとお買い物デートです~」 渋い顔の周防と、無邪気に笑うスミレ。そして、何故か頬を赤らめた白瀬の姿が、そこにあった。 続く トップへ戻る
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「しかしフォートブラッグの外骨格に、そのような機能が搭載されていたとは驚嘆すべき事実です」 「それはもう、俺に良し、お前に良し、皆に良しの魂を引き継ぐ武装神姫ですから」 「なるほど、あなたに対し出力マイクから神姫物質を排出する前と後には『サー』……いえ、『マム』とつけるべきでしょうね」 「ところでドーナツ食べますか?」 「この流れでそれを頂くと、同僚が連帯責任で腕立て伏せをする目の前で食べないといけなくなりそうなので、お気持ちだけ頂いてご遠慮申し上げます」 「そうですか。 ところで話を戻しまして、フォートブラッグのバックパックで正座をするのが邪道なら、逆に考えてみてはどうでしょう?」 「と、仰ると?」 「バックパックで正座をするのではなく、バックパックを用いて正座及び土下座をさせるというのは?」 「土下座でなく座礼です。 ……なるほど、矯正装置として活用するのですね」 「むしろ強制装置で」 「焼いた鉄板の上で?」 「10秒は必要ですね」 「基本ですよね」 「今度は料理のお話でしょうかねぇ?」 「違うと思う、絶対違うと思う!」 ○参考資料:「フルメタルジャケット」「賭博黙示録カイジ」 <戻る> <進む> <目次> 犬子さんの土下座ライフ。 クラブハンド・フォートブラッグ
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G・L《Gender Less》、それは失う事、狂う事。では、アイデンティティを失い、それでも尚“生きる”事を選択した神姫には、まだ何か失っていない部分、狂っていない部分があるというのだろうか? 否。それは人間になど推し量れる筈は無い。何故ならば、“アイデンティティを設定された人間など居ない”のだから。 G・L ~Gender Less~ 第1章 狂犬 闇、闇。飛、飛、飛、黒。 冬の夜の住宅街に飛び込む、3つの闇。それは3人の武装神姫。2人のアーンヴァルは装甲を黒く彩り、先頭を行くストラーフも【悪魔の翼】で軽快に飛ぶ。 飛来、飛来飛来、着地。開線。 「・・マスター、目標地点に到達」 一軒家の塀に降り立つ闇。ストラーフが無線を繋ぎながら、暗視スコープで周囲を警戒する。 『よし、周囲に誰もいないな? クロト、ラケ、アトロ、予定通りに1階南側の換気扇から進入しろ。今なら2階にガキが居るだけの筈だ』 「了解。以降無線封鎖します」 『期待しているぞ、お前達』 断線。飛、飛、飛。 「「「マスターの、為に!!」」」 MMSの暗部、その一つが犯罪への転用。未だ表面化していないとは言え、それは確かに増加していた。神姫も例外ではない。その為に法による登録の厳正化、機体リミッター、論理プロテクト等が存在するのだが、禁を破るのが人の世の常、そして完全なるプログラムなど存在しないのもまた、世界の常識。 今、不法侵入を試みる彼女達もその産物。違法改造コードによるプログラム改変、そして、“歪んだ愛”に彩られた武装神姫。主の為にと、彼女達は望んで、その手を罪に染める。 分解、解体。 慣れた手つきで換気扇を分解していくのはストラーフタイプの長女アトロ。残る妹達は周辺警戒をしている・・が、末のクロトは暇そうにあくびまで立てる。 「後少しでファンが外せる。警戒怠るな・・特にクロト」 「だあ~ってヒマなんですもん。マスターも言ったように誰も来る訳無いしぃ、ついでに寒いしぃ。ラケ姉さまもそう思うよね?」 「・・・」 クロトの問いにも、ラケは眉一つ動かさず、只黙々と警戒を続ける。同じアーンヴァルタイプと言えど、CSCによって刻まれた“心”はそれ程にも違う。 「あ~もうラケ姉さまもつまんないぃ~! 早く帰ってマスターと遊びたいぃ~!!」 「クロト! お前のその喧しい声が誰かに聞こえでもすれば忙しくもなろうが、そうすればマスターにお叱りを受ける事、判っているのか?」 「は、はいぃ」 アトロの怒号で、クロトはその小さい体を項垂れる。 分解、解体。 「あ~、少し曇ってるな~。お星様、なんにも見えないや。お月様は今新月だっけ?」 分解、解体。 「そう言えば、コレ上手くいったら、マスター新しいパーツ買ってくれるかな? アタシあのうさみみ付けてみたいぃ~♪」 分解、解体。 「ねえねえラケ姉さま、しりとりしない? じゃあアタシからね。え~っとぉ~、わ・・・」 分解、解体・・・止。 「アトロ、いい加減に!・・・」 轟粉砕。 「わぱひゃ!?」 「・・・わぱ・・?」 「・・・・!!?」 緩、落下、崩。 始め、それはクロトのいたずらと思い、また作業も終わりに差しかかっていたのでアトロは無視しようとしていた。 「・・・!!!」 急降下、抱、受止。 だが、無言のまま血相を変えて降下したラケの姿に、彼女は異変と感じ、彼女達の方を覗き見た。 「・・・! クロ・・ト!?」 「ら、ぁ、あらけ、kkkelaaa・・・」 そこにあったのは次女に抱かれた、グロテスクに破壊された三女の姿。頭部は左半分が潰され抉られもぎ取られ、左の乳房ごと腕はどこかに吹き飛んでいた。当然ウイングも跡形もなく、そして、壊れた言葉も途切れ、彼女は・・・ 崩、壊、停止。 「・・・・っ!」 「クロト!!!」 彼女は死んだ。 「GuaaaaaaaaaaaaaooNn!!!」 轟、咆吼。 「・・何!?」 低く響く獣のような声。何処か歪な音。悲しみも止まぬままに、その咆吼の先を見るアトロ。其処には影。小さい影。塀の上に立つ、自分達と同程度の影。 「!!?」 クロトの亡骸を下ろしたラケも、その物体を望む。 微、明。月光。 雲間からの光が、その物体の姿を明確にする。それは確かにMMS、神姫だ。識別は・・・どうやらハウリンタイプだった。しかし。 「Guuu・・・」 しかしその四肢は見た事もない増加パーツで肥大化し、尾はグロテスクに長く太く、塀の向こう側に垂れ下がっている。そして、顔には、表情も見えぬほどの、分厚い鉄仮面。 「な・・に・・あれ・・・?」 アトロは、か細く、声を漏らす。気丈な彼女が、初めて、少女のように。 目次へ
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剣は紅い花の誇り 用語解説 「槙縞玩具店」 田舎の玩具店 武士達が住んでいる町の中で唯一、武装神姫のバトルが行える店である 店員は本来、皆川と店長の二名、時々店長の娘も手伝っていたらしいが、現在その娘は失踪しており、店長は恐らくそれを探す間皆川に店を任せているものと推測される 「槙縞ランキング」 「槙縞玩具店」に集まる神姫の間で自然発生した地元リーグであり、順位は皆川達がサードのレギュレーションに併せて評価したものの模様 基本的にバーチャルバトル ランカーは華墨、ヌルを含めて初期で21人。強さのレベルには相当なばらつきがあり、特に、一位のクイントスはセカンド中上位級の実力だが、17位以下はエルギール曰く「通常神姫に毛が生えた程度」らしい 傾向として、本来の製品の属性を半ば喪失した様な神姫が多い(合気めいた技を使うジルダリアの『エルギール』や、最早素体が何であったのかを推し量る事にすら意味が見出せない変形MS神姫の『ズィータ』、どんな距離でもほぼ万能に闘える上に、公式のパーツが一切使われていないアーンヴァルの『リフォー』等・・・) 皆川が店長代理になってから、年一回だった「チャンピオンカップ争奪戦」の開催は年二回に増えており、その他イベント大会も多数催されている 「ナイン」 「槙縞ランキング」一桁ナンバーの9人のランカー達を総称して使われる(厳密には、『クイントス』は別格扱いで、それ以外の8名を指して使われる事が多い) セカンドランカーが多数含まる事、マスター自作の改造武装や強化武装を施されている者が多く、現時点の「ナイン」である『ジルベノウ』『リフォー』『ズィータ』の武装には公式パーツが一切装備されていない 「ナインブレイカ-」 「槙縞ランキングチャンピオンカップ争奪戦」の変則的なルールによって、ランキング二桁以上のランカーは全て同列に扱われ、その中で勝ち上がった8名のみが、「ナイン」と対戦する権利を得る・・・言わばナインはシード選手の様な扱いなのだが、それにしても不自然な程に「上位ランカーが保護されて」いる体制である 「ゆらぎ」 神姫の個体差 神姫が身長15センチの人間として作られた以上、同じタイプでも身体能力、性格等にある程度の個性が存在し、製造段階でそういったものが発現する様に、神姫の設計にはある程度のファジーさが設けられている 必ずしも戦闘向きの能力が突出しているとも限らないが、「悪い癖」にあたるゆらぎを減少させる修行、「タクティカルアドバンテージ」にあたるゆらぎを伸ばす修行を行なった神姫は、それだけで結構な強さを発揮する事がある 以上の事から、神姫自身の持って産まれた「資質」そのものを「ゆらぎ」と呼ぶのは明らかに間違った用法なのだが、本作ではその様な表現が多用される 「オップファー」 ドイツの銃器メーカー。神姫用ではなく、普通の拳銃を主に手掛けている エルゴノミクスデザインの優美なデザインのハンドガンが有名で、代表作は.40口径ダブルカァラムの「G40」や、その小型版で、380ACP仕様の「G380d」 「ホーダーアームズ」 東杜田技研の様な、本来人間用のモノを神姫サイズにダウンサイジングしているメーカーのひとつ 主に銃器を手掛けており、12分の1「パイソン」や「エボニー アイボリー」等、実銃フィクションを問わずにやっているようだ 神姫の拳銃は本来、形はリボルバーでもオートマチックでも、使用する弾は変わらない(とどこかの設定でみた)のだが、ホーダーは12分の1「.45ACP弾」とか12分の1「5.56mmコンパクト弾」とか、訳の判らない拘りの元にモノを作っている様だ ニビル達がここの銃を愛用している 「鬼奏(キソウ)」 神浦琥珀作の刀剣を扱っている、神姫用の刃物専門店 経営は実質琥珀の家族が行っているといわれるが、その姿を見た者は居ない(いつも琥珀が店番で、居ない時は閉まっている) ルートは不明だが、世界中の殆どの(神姫用)実刀剣が手に入ると豪語する 琥珀作の刀剣は、彼女にコネが無いのであれば(あっても達成値が足りなければw)正規ルートではここで展示してある一振りずつしか手に入らない クイントスはここで武器を打って貰う事が多い様だ 現在の琥珀作品の在庫状況はこちらから 「オーバーロード」 通常では持ち得ない何らかの超常的能力を備えた神姫、またはその能力妄想神姫 通常、能力に見合った『何か』の代償もかかえており徒然続く、そんな話。 「ゆらぎ」の強烈なものというには過ぎた代物である事が多く(というよりも、「ゆらぎ」の範疇であるものは「オーバーロード」とは呼ばれないだろうが・・・)本作ではしばしば「異能力」等とも表記される事になる 華墨の脚力はオーバーロードではないが、「オーバーロード」の神姫も本作には登場する 「Gアーム」 某正義のヒーローでも、黒光りする昆虫でもない、言わば第3の「G」で現される何かw その力を使った強化武装である 武装と言っても武器の形をしているとは限らない キャロとクイントスの因縁の源、「槙縞ランキング」の真の目的、「バニシングフォー」の秘密・・・いずれのピースとしても非常に重要 「バニシングフォー」 本編第壱幕以前に、マスター共々消息不明になった四体の武装神姫 うち3体は「ナイン」であり、さらにその内2体は所謂「ランキング黎明期のランカー」である 槙縞玩具店では公然の秘密というか、タブー視されている いずれも、「槙縞ランキングチャンピオンカップ争奪戦」の開催中、開催後に消息を絶っている 「人形遣い」 神姫を素体のまま操り、相手を倒すという伝説のマスター レギュレーションから考えると本来不可能な筈なので、都市伝説の一種であろうと推測されるが・・・ 剣は紅い花の誇りTOP?
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「……そんなことが」 「はぁー、そんな神姫もいるんだねぇ。……私が言えた義理じゃないけどさー」 空いた休憩所で今までのことを話し終えた。 シオンもだいぶ落ち着いてきた。 シオンが来てから、最近なんか人に自分の境遇を話してばっかりだな。 別に嫌ではない。身の回りがガラッと変わったようなそんな感じがするだけ。 「そんなわけで、なんとかバトル恐怖症を治したくてここに来たのだけど」 「結局こうなってしまった……」 「う、うん。ごめんね」 霧静さんたちは迷惑じゃないのだろうか。普通に考えたら、自分でもこんな神姫はおかしいと少し思ってしまうわけで、まともにバトルできなかったし。 「大丈夫、気にしてないよ。銃が使えない神姫だけどアリエって今はちょっと強いんだよ。昔はまともに戦えなかったし。……それでいえば、アリエとシオンちゃんは似ているのかもね」 なんだよーそれはー、とアリエは納得がいかなそうな顔をしている。 それで、あの奇妙な大剣を使っているのか。わざわざ銃に似せた剣もアリエの為を思った武装なのかも。 優しい子だな、霧静さんは。 「とりあえずさー、私のこの『エレメンティア』が件のストラーフが使っていたのに似ていたのが問題だったんだからさ。他にもバトルさせてみてもいいんじゃない? 何回かやれば勝てるかもよー」 アリエが意見を言う。 『エレメンティア』というのはその大剣の名前だろう。 ファンタジー色の強い、物語に出てくるような名称だ。 僕としては少しカッコイイと思えてしまった。 しかし、あの大剣の状態が変わった時、イスカのに似ていたってのもあるのだけど、まだバトルをやらせてもいいのだろうか。 大丈夫なのかな? 僕はシオンを見る。 「……まだ、やれます……」 涙を拭いて、僕の目を見てくる。 ただそれがうまく出せないだけで、根性はやっぱりあるんだなと思った。 ―――― 駄目だった。 何人かとバトルを申し込ませてもらってみたけど、戦えていなかった。 犬型や砲台型、イスカと同じような悪魔型とも戦うことはできた。 でも、戦うことはできても全敗だった。 負ける度に泣いてしまうシオン。慰める僕たち。 シオンが気になっているのか――バトルの度に、僕の傍に霧静さんとアリエもいてくれる。 ここで真剣に付き合ってくれる友達が出来たのは嬉しいけど、肝心なバトルは白星を挙げられなかった。 そううまくはいかないか。簡単にできたら、宮本さんにいた頃に治っているはずなんだから。 「う~ん、このまま、やらせても勝てないだろうね。きっと」 「……ちょっと、アリエ。言い方が……」 たしなめようとする霧静さん。 「だって、事実でしょー。銃撃を当てられてもない、撃てたとしても、見当違いの所に当たってる。打撃も本気で打ち込めてないみたいだし。こりゃまじ重症だねー」 アリエの言う通り、相手と戦わせてみても、シオンはダメージを与える攻撃を一切できてない。 勝たせるにはどうしたらいいのだろうか。 いや、勝つまでも、まともに勝負ができるぐらいにならないと、どうしようもない。 ああでもない、こうでもないと、僕たちが思考錯誤している時だった。 「いやー、遅れてごめんな!!……ありゃ?」 「……えっと、この人は?」 「うるさい、おにいさんだねー」 霧静さんたちは僕に訪ねてくる。 場が読めてない淳平だ。 そういえば、淳平が遅れて来るのをすっかり忘れていた。 「マスターがご迷惑をおかけしました……それで、この方々は」 といつも通り胸ポケットにいるミスズが言う。 「うわー、羨ましいなー。こんな可愛い子と仲良くなっちゃって。このこの」 僕を淳平が肘でつついてくる。 「えっ……あの……」と霧静さんは可愛いと言われて恥ずかしそうに顔を赤らめている。 「……淳平、それ以上何も言わない方がいいよ」 「えー、なんでー?」 ミスズが冷徹な瞳で見ているから。 神姫が人間に攻撃できるようなら、絶対危ないだろうな。いつか、目で殺されるかもしれないけど。 「リミちんになんかしたら、許さへんでー!」 アリエがエセ関西弁で凄む。(なんで関西弁?) 「そんなのじゃないって。さっき友達になった霧静 璃美香さんと神姫のアリエだよ。まあ、淳平が来ないから、霧静さんたちと仲良くなったのは事実だけど」 「え、そうなのか」 淳平が来なかったから、霧静さんと話そうとしたわけだしね。 でも、僕は今はシオンのことで頭がいっぱいだよ。 「あなたがシオンね。初めまして、ミスズです」 「……初めまして……」 ミスズが床に降り立って、泣き止んだシオンに挨拶をする。 そういえばどっちも初対面だよな。僕がシオンとの会話のタネにしたことがあるくらいだし。 その本人に会えたんだ。 なんとなく、仲良くなれる気がしたからな、この二人は。 「はーい、私はアリエだよ。よろしくー」 「アリエね。よろしく」 目の前で武装神姫が三人集まった。 友達が増えていくのはいいことだな。 「あれー、どこかで見たと思ったら、キミってO大女子高の生徒でしょ。前にここでバトルしてたの見てたよー。この神姫とかがすっげぇ強かったな。あ、俺は伊野坂 淳平。この子はアーンヴァル型の神姫でミスズだからね!」 「……えっと」 「ほら、霧静さんが困ってるでしょ。やめなって」 少し興奮している淳平が見てられない。 可愛い子が好みらしいから、霧静さんの近くに淳平を寄らせないほうがいいのかも知れない。 あ~、霧静さんは人見知りをするらしいから、こっちは仲良くなれるのか心配だ。 ―――― 「シオンのはなかなか重いみたい」 缶ジュースを買って、三人で飲んでいる。 休憩所のベンチに僕が真ん中で左に霧静さん、右に淳平がいる。人は人同士で、神姫は神姫同士で交流を深めると、なぜかアリエが場を仕切った。 まあ、文句はなかったし、別にそれでいいと思ったからこうなった。 少し向こうにシオンたち三人がいる。 楽しそうに話しているのが見える。 三人寄れば姦しいっていうのかな、あれは。 ……うるさくはしてないけど。 「ふーん、戦えない武装神姫、ね。CSCのせいなのか。螢斗は破棄やリセットは許せないんだろ? だったら、このまま、バトルしないってのは駄目なのか?」 (さっきから、その考えが頭にチラつくけど、それは駄目なんだよな) 「元々、宮本さんの所から家出したのもそれが原因だけど。でも、なんとかしてやりたい。シオンはバトルをしたくない訳ではないみたいだし、嫌がってる様子もない。逆に自分からやろうと思ってる。だけど、身体が拒否する感覚があるって。神姫センターに修理にも出したこともあるらしいけど……なにもなかったってさ」 「……したいのに、できないなんて、変な話」 改めて考えると、人間の精神病みたいだなと思った。 神姫なのに人みたいに反応を起こすなんておかしいよな。 人間の思考に近く、感情があるのも大変なことだと思う。 「まぁまぁまぁ、俺たちも、なんとか協力するからさ。元気出せよ! っな! この後、ミスズともバトルさせてからまた考えてみようぜ」 「……そうだね」 肩を叩いて励ましてくれる淳平。 いけないな、僕が暗くなってた。こういう常時明るい淳平が少し羨ましくなった。 「私も……協力する。シオンちゃんがあんなに泣いて可哀想」 「ありが――」 「あんがとねー! 霧静さん!」 「えっ……その……」 なんで、淳平がお礼を言うんだ。ああ、身を乗り出すから、僕の隣から霧静さんが若干距離を離した気がする。 いまだに淳平に慣れていない霧静さんを助けてから、シオン、ミスズ、アリエを呼び戻すことにしよう。 でも、このままバトルを続けて、なんとかなるのだろうか。 ―――― 「はい、これ、ヂェリカンだよー。私の奢りだからー」 螢斗さんたちと離れて、アリエさんとミスズさんと私。 こんな風に神姫だけで集まるなんて初めてだ。 アリエさんが自分の神姫サイズのバックパックから、色んなヂェリカンを取り出した。ヂェリカンは神姫用の趣向品で、人間と同じような、種類のある飲み物だ。 お酒みたいに酩酊状態になる飲み物から、ジュースのドリンクと色々ある。 私の基本データにはそうあった。 「なんで、アリエはこんなの持ってきているの?」 ミスズさんがアリエさんに対して、疑問に思ってそう言う。 ミスズさんは、マスターの淳平さんや螢斗さんたちには丁寧だけど、神姫同士では気軽に接するみたいだ。 ……でも、私はこういうのは初めてで、いまだに緊張している。 「いやだなー、ミっちゃん。敵であったとしても戦い終わって互いにヂェリカンを一杯飲む。それで私たちはもう友じゃん」 「……一緒にヂェリカンを飲んだら友達ということですか?」 「YES!」 「だからって、このヂェリカンをたくさん持っている理由にはならないのだけど。そもそも、なによこれ。『ゲルリン☆ヂェリー』って」 ミスズさんがそれを手に持つ。 ゼリーでできている人間のような、そんな感じ……いや、そうとしか言えないキャラクターのデフォルメイラストが前面にされている。 「ネタで持ってきたんだー。友達がいたら、飲ませようと思って」 「……ひどくない。それ」 アリエさんが、あははっと笑う。 アリエさんは明るいし友達が多そうだ。 私とは大違いだ。バトルに銃武装が使えないっていうハンデがあるのにすごく強いし。 「ほれ、シーちゃんも、これ」 とアリエさんが一つのヂェリカンを渡してくる。 『イチゴ・オレ ヂェリー』と書かれてある。 「ピンク同士、似合いそうだよー」 「……すいません、頂きます」 手渡されて、蓋を開けてみて飲んでみる。 「あ、おいしい」 「だしょー。それ結構お気に入りなんだ。人間の飲むイチゴ牛乳と似せているんだよ。でも、こっちの方が美味いんだよねー」 甘みがあって、ほんのりとイチゴの味がする。 神姫に合うように、調整されているんだろうな。ヂェリカンは初めて飲んだけど、確かにおいしいと思った。 「神姫ショップにこんなのがあった記憶はないのだけど……」 「あー、こういうのは、リミちんの伯父さんが経営している神姫ショップに売ってるんだ。独自に取り寄せててさー。ちなみに、わたしの武装も伯父さんが作ってくれたんだよー。伯父さん、リミちんに甘いから」 「だからって、こういうの買うのはオーナーの霧静さんなんだから。迷惑かけない方が……」 「大丈夫、大丈夫。ちょびーと、貰っただけ」 「……もしかして、無断?」 「もち!」 「だめでしょ!!……ああ、飲んじゃった、お金払わないと。でも、払えるのはマスターだしなー、ああ、どうしよう」 「……ふふ」 なんとなく、可笑しくて笑ってしまった。 この場がなんとなく楽しく思えた。バトルはうまくできなかったけど、この子たちと友達になれたのは素直に嬉しいと思える。 「この際だ! あんた、これ飲みなさい!」 「うわー! やめてってば! ……うッゴク…………マズッ! ガク」 さっきの「ゲルリン☆ヂェリー」を飲ませているミスズさんと、飲まされているアリエさんとがいつのまにか展開されている。 それで、パタリとアリエさんが倒れてしまった。 あれはそんなに不味いのだろうか。 「それ、ちょっと飲んでみたいんですけど、いいですか?」 「やめておきなさい、死ぬわよ」 「マズマズー」 せっかく持ってきてくれたのだし、もったいない。それにイラストもなんか可愛く思えてきた。 「ッゴク……あ、……私、これ、結構好きです」 ドロッとしてはいるけど、飲めるゼリーみたいな。それでいて柑橘系の味がして、しつこいようで、なんでかあっさりしている不思議な飲み物。 私としては、大好きな部類に入りそう。 「ホ、ホント!? シオンが言うなら……どれどれ……ッゴク…………マズッ!……キュ~」 パタリとミスズさんも直立から倒れてしまった。 あれ? なんで、こんなにおいしいのにみんな倒れるのだろうか。不思議だ。 とにかく、このままにしておけない。 螢斗さんたちに、知らせにいかないと。 ―――― 「あ、螢斗さん。大変です、二人が」 なんでか、ミスズとアリエが倒れていた。 傍らには『ゲルリン☆ヂェリー』と書かれたヂェリカン。それから、なにかドロッとしたのがこぼれ出ている。 何があったんだろうか。これを飲んで倒れだしたよな、二人とも。 うめき声でどちらも寝言のように「マズマズー」と言っていた。本当に何があったんだよ。 シオンに聞いても「……おいしいと思うのですけど」と不思議そうに言う。 「うぉー!! ミスズゥーー!!」 「あっ! これって伯父さんの所の。アリエってば、まったく、もう」 結局、この後二人が強制スリープモードから帰ってこず、バトルもせず、その場はお開きとなってしまった。 淳平は何のために来たんだろうか、わからなくなっちゃったな……。 前へ 次へ