約 1,689,404 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2857.html
中学を卒業し、春休み兼高校への準備期間といったところの3月。 卒業後の3月というのは夏休み並に長い休みとなり、宿題もないため基本的に卒業生は皆遊び呆ける期間ということになる。 「ユーリ、今日は負けないから……ねっ!」 「フン、甘いな!」 『行けマスター! そこだぁ!』 もうあらかた準備を終えている彼は、同じく準備を終えている「ユーリ」と呼ばれる友人の家に遊びに来ていた。 もっとももう3月の26日であり、入学式も近づいてくる頃。 のびのび遊ぶ余裕もなくなってくる頃であるのだが。 「……あっ」 (また負けた……) 『やったなマスター! またマスターの勝ちだぜ!』 「まあ俺のゲームだからな、俺が勝たずしてどうする」 (今日は自信があったんだけどな) 「しかしまあ飽きてきたな、そろそろやめるか」 「え、うん……そうだね」 (悔しいけど仕方ないか) 『今日もマスターの一人勝ちだな!』 「う……」 小さな褐色肌の銀髪の小さな、本当に小さな少女が言う。 『ま、お前もまあまあ強いけど、マスターが桁違いに強すぎて話にならないんだよな~』 「ふ、あまり褒めるな」 「あはは……」 2ヶ月前、1月中旬 「やったね、二人で合格!」 「あぁ、やったな」 ユーリは小さく左手を挙げた。 それに対して彼も大して右手を出し、ハイタッチ。 「……これで残りは遊べるね」 「フ、そう言うことにもなるな」 (僕達二人は同じ高校に合格。 4月には同じ学校に二人で通うことになった。 そして、合格が決まって数日後、月は変わって2月の頭にユーリの家に御呼ばれした時の話) 「……ぶそうしんき?」 「あぁ」 (……聞いたことあるような、ないような) 「合格祝いに買ってもらったんだ」 「へえ……どんなの?」 「俺の言うことには従順だし、いい話相手にもなってくれる。 ……いかにもお前が喜びそうだが」 (僕が喜びそうなもの? アニメか何かなのかな?) 『お? お前がマスターの友達ってヤツか?』 (……ん、この声って) 「あぁ、その通りだ。 紹介しよう、私の友人で……」 ユーリはフィギュアに向けて、彼の友人の説明を始めた。 ここだけ見れば、ちょっとおかしな人に見えなくもないが、そうではない。 (今……喋ったよね?) 『気の弱そうなやつだな。 まあ、マスターの友達ってんならよろしくしてやるか』 (やっぱり聞き間違いじゃない…… フィギュアが……しゃべった?) 「なにこれ、エンジェリックレイヤー?」 「ずいぶん古いなおい」 「……冗談はともかく……すごいね、どうなってるのこれ?」 冗談は、と言っているが彼にとっては割と本気であった。 「あぁ、これはだな……」 (その後10分程度、ユーリによる説明が入る。 つまりは着せ替えて戦うロボットアクションフィギュアだそうだ。 女の子ばっかりのメダロット……もしくはダンボール戦機。 いや、パーツじゃなくて武装を変えるだけなんだからカスタムロボだね。 つまり、この口の悪い一人称がオレ様の子も女の子、と) 「アニメに興味があるなら、こういうものもどうかと思ったのだが」 「確かに僕はオタクだけど、何でもかんでも好きになるわけじゃないよ」 (フィギュアはあんまり買わないし。 でもまぁ、これは可愛いとは思えるな) 「……とりあえず、この娘の声が小林ゆうさんだってことは分かる」 「悪いが俺は声優に関しては詳しくはない」 詳しくない人に声優の名前を言ってわかるわけがない。 『いやまぁ、正解だけどな』 「そうか、俺はそういうのは疎いが、劫火が正解と言っているのだから正解なんだろう」 「いや、かなり分かり易い声だと思うけど」 分かりやすい声であろうと、気にしなければ結構わからないものである。 「ちなみにこの子、名前はあるの?」 「あぁ、あるぞ。 『劫火(ごうか)』と名づけた」 「……はぁ、劫火」 (かっこいい、のかな、その名前は) 劫火とは世界を焼き尽くす大火のことである。 粗暴な態度であるとは言え少女にそんな名前をつけるということにこの少年は疑問を持った。 「劫火はヘルハウンド型のガブリーヌといって、地獄の番犬という設定なんだ」 と、ユーリに耳打ちされた。 (なるほど、ユーリが好きそうな設定だ) 『んでマスター、なんでこいつ呼んだんだ? オレ様を自慢するためか?』 「まぁな」 冗談交じりに笑いながらユーリは言う。 「こいつは俺と同じ学校に通う事になる。 それで、長い付き合いになるわけだ、お前にも紹介しておこうと思ってな」 『ふーん、同じ学校?』 「あぁ、お前も劫火とは長い付き合いになるだろうし、紹介は早いほうがいいかと思ったんだ」 (じゃあこれから一緒に遊ぶときは劫火も一緒になるわけなのかな) 「ところでお前は、神姫は買ったりしないのか? そもそも俺はお前が知らなかったことに驚きだ、こういうものに関してはお前の方が造詣が深いと思っていた」 (ぶそうしんき、ね……) 「……僕はフィギュアはあまり……買わないかな」 (可愛いのはわかるけどさ) 「まあ確かに、特にこれは高いからな。 ちょっといいパソコンが買える程度の値段はする」 (仮にもロボットなわけか、安いわけがないよね) 『ま、貧乏人には手の届かないもんってこったな』 「いや買おうと思えば買えるけどさ…… もう3月に発売のゲームの限定版を予約してるんだよね」 これが何故かゲームの値段の域をはるかに超えているとんでもなく高い品であり、お年玉を叩いてネットで予約したのである。 そのため現在彼は他の物を買う余裕がないのだ。 『ふ~ん? ま、なにに金を使うかはそれぞれだよな』 「うん、そういうことだよ」 (別にあまり興味はないし、まあいいかな。 買ったら買ったですぐ飽きるかもしれないし……でも) 彼にはひとつ、気になることがあった。 「ねえ、ユーリ。 『ぶそうしんき』って、どう書くの?」 「ん? あぁ、武器を装備するの意味の『武装』に、 『神』の『姫』と書くが……それがどうかしたか?」 (つまり、漢字で書けば『武装神姫』 ……やっぱり、最近どこかで……?) 彼はよくよく思い返してみると、最近『武装神姫』という単語をどこかで目にしたことがある気がしていた。 しかし、どうしてもそれを思い出すことができないのである。 「どうかしたのか?」 「いや、なんでもないよ。 ありがとう」 「む……そうか」 「あはははは……」 (僕はこの時、こんなものに興味は持っていなかった。 かわいいとは思うけど、数ある萌えキャラ系コンテンツの一つだと思っていた。 でも、この後あらゆる意味で意外な形で、意外な広い交友関係を持ち、意外な事件に巻き込まれていくことになるなんて…… 今の僕には、知る由もなかった) 回想終わり、再び3月26日。 「……もう3時か」 彼はなんとなく時計を見て言った。 「もう3時って、まだ3時じゃないか?」 『そうだぜ、まだオヤツの時間だ』 (まあ、普通ならそうなんだけど) 彼にとって、今日は普通ではなかったのだ。 「今日はちょっとね、この後用があるから」 「なんだ、そうなのか。 なら仕方ないな」 「ごめんね、もう帰るよ」 『じゃあ、また来いよな!』 ユーリと劫火の見送りを受けながら、彼は荷物をまとめて早々と退散した。 「ごめんユーリ、しょうもない理由で帰って」 ユーリの家の前でそう呟き、少年は自分の家へと早足で帰った。 そして彼が家に戻ると、見慣れない箱が届いている。 しかし、彼にはすぐその中身がわかった。 今日3月26日は予約していたゲームの発売日、コ○ミスタイルでの予約なので、今日はお届けの日、ずっと待ちわびていた日である。 「やっとこの日が来た! やっとこのゲームが来た! 『ハヤテのごとく!! ナイトメアパラダイス豪華版』! 本当に何故かかなり高かったけど、まあ関係ないや!」 そう、この少年はハヤテのごとく!の大ファンである。 ハヤテのごとく!の主人公、『綾崎ハヤテ』の姿に憧れたのがきっかけでその作品を愛するようになったのである。 もっとも、この少年をオタクの世界へ橋渡ししてしまった作品でもあるのだが。 「それじゃ、さっそく!」 少年はその箱を抱え、いつものように階段をものすごい勢いで駆け上がる。 二階の自分の部屋の扉を勢いよく開けると、机の上のPSPを持ち出してベッドの上に座り込んだ。 「PSPよし! 充電器もよし! 箱の状態もよし! オールグリーン!!!」 普段は控えめでローテンションな彼だが、ハヤテのごとく!のことになると性格が変わる。 流石にこれには友人であるユーリも苦言を呈している。 「それにしてもゲームソフトにしては大きな箱だな。 それだけ特典が豪華なのかな」 特別版ということは、予約特典、早期購入特典が多数付いているということである。 彼は特に特典の内容は気にせず、コナミスタイル販売限定の一番高い物をとりあえず予約したのだ。 『ハヤテのごとく!』の大ファンという理由だけで。 「いくぞっ! オープンっ!!」 満を持してその箱を開け。 「うぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」 中身を確認し、必要以上のリアクションをとる。 「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ…… ……え?」 箱の中身を見た彼は必要以上のリアクション以上に驚きを隠せない様子を見せた。 何かが足り無かったわけでもなく、内容がそれほどでもなく拍子抜けしたわけでもない。 その中に、予想外の物が入っていたからだ。 「これって……まさか?」 箱の右側に収まっているゲームソフトへの興味はどこへやら。 左側に収まっている箱を手に取り、上下左右裏表、箱の外装をすみずみまで見回し、彼は静かに口を開く。 「武装……神姫?」 それはまぎれもなく、武装神姫だったのである。 「このパッケージ絵って……」 金髪ツインテール、ツリ目のライトグリーンの瞳。 そして、白皇学院の制服を模したカラーリングの素体。 少年にはそれに描かれている少女が誰か、一目で分かった。 「ナギ……?」 ナギ、ハヤテのごとく!のメインヒロインの名前である。 その武装神姫のパッケージに描かれていたのは、ハヤテのごとく!のヒロイン、三千院ナギその人だった。 「武装神姫……ナギ……!?」 驚きのあまり、再び声が出なくなった。 そして、ようやく理解した。 ナギのフィギュア付属が付属するというコナミスタイル販売限定豪華版だけが、異常に高かった理由が。 ユーリの言う「ちょっといいパソコンが買える値段」である、武装神姫が付属するのならば、それは当然高くなるわけである。 そしてこの時、やっと思い出したのだ。 約2ヶ月『武装神姫』という単語をどこで見たのか。 その場所は、彼がこの度予約したゲーム、『ハヤテのごとく!!ナイトメアパラダイス』の公式サイト及びコナミスタイルに書いてあった、 『コナミスタイル「武装神姫ナギ」付き豪華セット』という文字だったのである。 「……」 彼はゲームは基本初見プレイ派なので、公式サイトには通わなかったために、ゲームの予約以来目にすることがなかったのだ。 「……これでいいのかな? よくわからないんだけど……」 待ちわびていたはずのゲームソフトには手をつけず、ナギの箱を開封し、起動に手間取っている彼の姿がそこにあった。 やっとのことで設定は終わり、あとは起動させるだけである。 『お嬢様型ナギ。 セットアップ完了、起動します』 「え……もう? 起動するの? 本当に?」 驚いているうちに、その少女は金髪のツインテールをなびかせ、ライトグリーンの瞳を開きながらゆっくりと起き上がる。 『ん……』 その少女は目を閉じて背伸びをした。 「わぁ……!」 『……おぉ……お?』 その金髪ツインテールの小さな少女は眠たげな目こすりながら、『マスター』の方を向く。 「う……動いた……!!」 『……当然だ、動くぞ、神姫なのだから』 「……そ、そう、だよね」 聞きなれているツンデレ系ヒロインの鉄板である釘宮理恵ボイスが部屋に響く。 今さっき起動した金髪ツインテールの少女がツンデレボイスで、マスターだけに話しかけている。 アニメのように『綾崎ハヤテ』やその他キャラクターや、全国の視聴者に向けてではなく。 (ナギが僕だけに話しかけてくれている) 感動で胸が打ち震えた。 事前情報がなかった分、特に。 『……問おう。 お前が、私のマスターか?』 「え?」 ハヤテのごとく!特有のジト目を少年に向けながら、別のアニメの名台詞を言う。 二人称は変わっているが。 「……はい、かな?」 『……おい、もうちょっと乗れよ』 「い、いや、あのアニメは見てなくて……」 『途中で切るなよ、アニメの評価は自ら全て見て判断するのだ』 「……ごもっともです」 別に視聴を切ったわけではないが。 『む……』 少女渾身の目覚めのあいさつを躱されたせいか、少女の顔が明らかに不機嫌になったのが分かった。 『なんだか、あまり歓迎されていないように感じるのだが。 なんだ? もしや転バイヤーか? 起動して問題がなかったらリセットして売り飛ばすつもりか? ならば残念ながら未開封のほうが高かったと思うぞ』 「い、いや、生まれてこの方僕は転売なんてしたことないけど」 この少年はダブったトレーディングカードを売ったことすらないのである。 「その……驚いたから」 『驚いた?』 「うん……神姫を手に入れるつもりなんてなかったから…… まさか、ゲームの特別版の特典で付いてくるなんて」 『……なんだ、公式サイトを見ていないのか? ちゃんと神姫ナギが付属すると書いてあったと思うのだが』 「はい、確かに書いてあったんですけれども」 公式サイト及びコナミスタイルで予約時に二目見て以来今まで忘れていた、とは言えないわけである。 「その、僕予約の内容とか気にせずに予約するから」 『……』 その少女は顔を背ける。 『それでは私が傷つくではないか……』 「え、え?」 『だってお前は、私を心からは必要としていないんだろう?』 神姫というものは基本的には買った人に必要とされているからこそその人の下へ行くのであるが、 この少年の場合は『武装神姫ナギ』が付属することを知らなかったわけである。 捉えようによっては、必要とされていない、とも感じてしまうかもしれない。 「そ、そんなことないよ! えっと……お、お嬢様?」 『ん、お嬢様?』 「だって君はナギなんでしょ? だからお嬢様」 この神姫である少女の元となった人物、ハヤテのごとく!のヒロイン、三千院ナギは圧倒的材力を持つお嬢様、という設定である。 『あぁ、そういえば設定がまだだったな』 「え、せ、設定?」 『……神姫を手に入れる予定がなかったのなら知るわけがないな。 仕方ない、教えてやろう、まず私のマスター……つまりお前のことを私がどう呼ぶかを決めるのだ』 「ま、マスター……」 『あぁ、マスターになる気はないのだったか? 別になりたくないのならいいぞ、誰かハヤテ好きの知り合いにでも引き取ってもらえ。 それかやっぱりヤ○オクにでも出したらどうだ、私としても私を落札してくれるなら大事にしてくれるだろうからな』 「い、いや、なります! えっと、僕、ハヤテのごとく!が大好きですから!」 『……そうか。 その言葉に、嘘はないな?』 「ありません!! 絶対に!」 『……ほう』 「……」 少年は15年間生きてきて中で一番今までになく真剣な目を少女に向けて言った。 『ならばお前は。 私とハヤテの出会った時の、ハヤテの告白のシーンを一字一句言えるのか?』 「……」 沈黙が走る。 目を閉じて、息を整えた。 『まあ、流石にそれは冗談……』 少女が言い切る前に少年はゆっくりと目を開け、口を開く。 「僕と…付き合ってくれないか?」 『へ?』 彼女に確認をとる間もなく、それを演じ始める。 「僕は君が欲しいんだ」 『なっ……』 ナギに真剣さが伝わる。 先ほどとはまるで違う気迫に、思わず後ずさりをしてしまうほど。 「わかってるさ!! だがこっちだって本気だ!!」 『……』 その真剣な眼差しに思わず彼女は…… 『で…でも!』 そのシーンのナギの役を、無言で引き受けた。 「こんな事、冗談じゃ言わない…」 吐息のかかる距離。 完全に役にのめり込む二人。 「命懸けさ…… 一目見た瞬間から… 君を…」 犯罪者の目。 ……をするハヤテを完璧に演じる。 「君をさらうと決めていた。」 『………………』 「………………」 二人はしばらく見つめあう。 そして、『ナギ』は口を開いた。 『本気の想い…… 伝わったぞ』 「…… シャキーン」 『擬音まで言わんでいい』 「……ごめん」 『……フ』 彼女は笑顔で『ハヤテ』に言う。 『合格だ。 お前の想いは本物だな』 「君に合格をもらえるなんて……光栄だな」 『私も、お前がマスターならば安心できそうだ。 さっきの言葉は撤回しよう』 (ハヤテのごとく!を好きでよかった) 少女の言葉を聞き、少年は心からそう思った。 『では、続けよう。 なんと呼んでほしい?ご褒美にできるだけ希望に応えてやるぞ』 「呼び方……か」 なんて呼んで欲しい? 少年はそう言われたのは初めてだ。 「……ピンと来ないよ」 おそらく、それが普通である。 「例えば、どんなの?」 『そうだな、普通ならば「マスター」やら、お前の名前やら。 それとも「私の執事」、とでも呼ぼうか。 そうだ「バカ犬」でもいいぞ。 望むなら「兄さん」とも呼んでやらないこともないが』 バカ犬、兄さん。 どちらもハヤテとは関係のない作品である。 声を当てている声優は同じであるが。 その縁でハヤテのごとく!でネタにされたこともある。 『……推奨は全くしないが、「下僕」やら、「豚」やら、「そこのお前」、「そこの人」でも』 「……普通に僕の名前で」 ナギの姿の少女にバカ犬およびほかの呼び方で呼ばれても違和感しかない、とハヤテは考えた。 きっとそれはハヤテのごとく!よりとらドラ!やゼロの使い魔がのほうが好きな人でも同じことであろう。 『まあそれが無難だな。 では……あ』 少女は何かを思い出したように、話を中断し口が空いたままにした。 『そういえば、名前を聞いていなかったな。 お前、名前は?』 「名前……僕の?」 『そうだ、どうした、早く言うがいい』 「うん……僕の名前は」 吐息のかからない距離。 机の上の少女の眼を真っ直ぐと見て、少年はその名を言う。 「ハヤテ」 『え?』 「鷹峰 颯(たかみね ハヤテ)。 僕が憧れた君の執事と……同じ名前だ」 ハヤテのごとく!の主人公、綾崎ハヤテはヒロインである三千院ナギの執事という設定である。 その、自身と同名の『綾崎ハヤテ』の、何があっても、どんな不幸があっても挫けずに立ち向かっていく『ハヤテ』の姿に。 『ハヤテ』にハヤテは憧れた。 『ハヤテ』の勇姿を見た瞬間……彼はハヤテのごとく!のファンになったのだ。 『ハヤテ……か……お前……』 「ん?」 『……まさか名前を詐称などしていないだろうな?』 「してない! ええい!! だったらこれを見よ!」 ハヤテは生徒手帳を取り出し、個人情報の乗っているページを見せた。 まだ高校に入学していないため中学時代の生徒手帳であるが。 『おぉ……!! こ……これは……!!』 「ふふん」 『随分と無愛想な顔の写真だな』 「君に言われたくないし見るべきところはそこじゃない! それにその時は眠かっただけ!」 『おぉー、本当に名前はハヤテではないか!!』 「だから最初っからそう言ってるじゃない! ……流石に苗字は綾崎じゃないけどね」 ちなみに『綾崎』及び『三千院』という苗字は実在しないそうです。 『まあ、ならばいいのだ。 なんというか、呼びやすくて良い』 「それは……よかった」 『では、次は私の名前だ。 いい名前をつけるのだぞ、一生物なのだからな』 「え?」 名前。 (この少女に付ける名前なんて一つしかない) ハヤテはそう思うのだが、一応聞き返す。 「ナギじゃ……だめなの?」 『いいや、ダメではない。 だが、ゲームでもデフォルトネームと言うものがよくあるだろう? 私で言えば「ナギ」はデフォルトネームなのだ、別に変えてもかまわないぞ。 別に魔法少女モノが好きならフェイトと呼んでくれてもいいし、全く関係ない名前をつけても構わないのだ』 そう言うことなのか、とハヤテは納得する。 しかし、ハヤテにとってはこの少女を『ナギ』以外の名前で見ることはできなかった。 「でもやっぱりナギはナギじゃないと……しっくり来ないな」 『そうだな、キャラクターの名前をデフォルトネーム以外に変えてプレイすると人によっては違和感を覚えるかもしれん。 面白味のない遊び方ではあるが、それはそれで懸命な判断だな』 「そ、それはどうも……」 『ということは、私の名前は「ナギ」でいいんだな?』 「うん、もちろん」 『わかった、それじゃあ私の名はナギだ。 よろしく頼むよ、ハヤテ』 ナギはハヤテに向かって微笑んだ。 「う……!」 その笑顔にハヤテは思わずキュンとしてしまった。 この瞬間、ハヤテの中でナギの株が鰻登りになったことは言うまでもない。 『ところで、早速だが私は疲れた。 クレイドルを出してくれ』 「……」 『……おい、ハヤテ?』 「えっ? あ、あぁ、はい、何?」 『……クレイドルを出せと言っているのだ』 「く、クレイドル?」 『私の入っていた箱に一緒に入っていなかったか?』 その言葉を聞いて、ハヤテは箱の中を探す。 すると、比較的大きめな白い物体を見つけた。 「えっと、これ?」 それを取り出してナギに見せつける。 『おぉ、それだそれだ!』 ナギは早く早く、と言わんばかりにクレイドルに向かって両手を伸ばしている。 「えっと、どう設定すればいいの?」 『適当に組み上げてUSBのケーブルをパソコンに差し込めばいい』 (大雑把すぎるって……) そう思いつつもハヤテはナギのために設定をする。 パソコンにUSBケーブルをつなげるという組み上げると言っていいのかわからないほど短い手順であったが。 「……組み上げた(?)けど」 パッと見ハヤテには、この物体の正体が何かわからなかった。 「これ、何?」 『簡単に言ってしまえば、充電器だ』 (これで充電器なんだ) 「でもこれ……どうやって充電するの? ナギにこれのどこかにある何かを差し込めばいいの?」 『いいや』 ナギはクレイドルの上に乗り、それに横たわりながら言う。 『この上で寝ていれば、勝手に充電されるのだ』 「……へぇ」 (最近の充電器って、進歩してるなぁ) そう思いながらハヤテはつぶやく。 「……科学の力ってすげー」 『まぁというわけで私は寝るぞ、起動したばかりでエネルギーが少ないのだ。 夜には充電が終わるはずだ、話なら後にしてくれ』 「え、あ、あの……」 『Zzz……』 ハヤテが止める間もなく、ナギはクレイドルで眠りについてしまった。 「…… 武装神姫、か」 ひょんなことから、神姫のマスターになってしまった少年、鷹峰ハヤテ。 これは、ナギや友人とともに駆け抜けた、ハヤテの激動の高校生活を綴る物語である。 プロローグ 「悪夢の楽園より」 完 次回『ナギのごとく!』 『なんだ、お前ニートじゃなかったのか』 ハヤテ「あくまで、執事ですから……」
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1227.html
第四話「バトルロンド」 午後3時30分ごろ 「久しぶりだな、ここも…」 二人は神姫センターの前に居た。 神姫センターとは、武装神姫専門の大型店舗の名称である。 武装神姫の戦場「バトルロンド」の筐体の他、神姫専門ショップやメンテナンスショップなどMMSの事なら ここにお任せな店である。 形人は数ヶ月前にここを訪れ、今のヒカルであるエウクランテを購入している。 「あれっきりここには来ないで、プラモ屋に行ってるからね」 「僕にあっさり染まって、「バルキリー買って!」「フェニックスミサイル買って!」と言ってたのは誰だ?」 「う…、私…」 二人がバトルロンドコーナーに行くと、既に聖憐がそこに居た。 「あら、遅いわよ」 「こっちだって事情があるからね、途中でヒカルが「コンビニ寄って」とか言ってコンビニ行ったりとか」 「形人だってノッて肉まん買ってたじゃん!」 かく言うヒカルの隣には、食玩のレイズナーが肩を並べていた バトルのルールはこうだった 『ヘッドオンで対峙し先に相手本体にダメージを与えたほうが勝ち』 もろに影響を受けている。 「ラリー、今回の装備は「ZERO」装備よ。戦闘方法は任せるわ」 「………10-4(了解)」 暗い、オマケに初台詞が無線用語である。 「形人、スパロー4発、サイドワインダー2発、機関砲はアデンタイプで」 「他の人わかるのか?それ」 「それより、敵の情報は?」 「データを見たがよくわからん、MPBMと載っていた」 「はーん…」 もはや知ってる人にしかわからない事を言い合いながら、バトルはスタートした。 静寂を突き破る翼の風切り音 現実に換算すると音速で飛行する飛翔体。 鳥のような翼にミサイルと機関砲を搭載したセイレーンが空を行く 「司令部(ヘッド・コーダー)!敵はどこから来る!?」 「司令部よりセラ(TACネーム)へ、2時の方向、間もなくスパローの射程内」 「了解、レンジ・オン」 ヒカルが装備しているバイザーに中距離用のレーダー・レンジが映る、だが… 「ちょっと待った形人!敵がよっつ映ってるよ!」 「知るかそんな事!人間換算1キロまで近づかんと観戦画面に映らんルールになってるからな」 「考えられるとしたらプチマスィーンズか…、ま、いいや」 レーダーが四つの機影をロックする 「ファイヤ!」 ヒカルの予想通り、レーダーに捕らえられたのは、Kemotech社製サポートマシン 「プチマスィーンズ」であった。 スパローは寸分狂わずマスィーンズを撃墜したが、当然ラリーの作戦であった。 数秒経たない内に今度はヒカルが射程内に入っていた。 「発射」 『ミサイル接近』 バイザーにそう映った直後、ヒカルは推力を全開にし急旋回を行った ミサイルは見当違いの方向に飛んでゆく、しかし…。 「うわっ!」 ミサイルは大爆発を起こし、ヒカルは衝撃に煽られた。 「やっぱり散弾ミサイル!」 MPBM(散弾ミサイル)とはエースコンバットゼロに登場する架空の軍用機「モルガン」に搭載されている 広範囲用の対空・対地ミサイルのことである。 「やっぱり「片羽の妖精」の名を持つだけあるわね!」 体勢を立て直し、急上昇を開始する 目と鼻の先でヒカルが上昇した。 ラリーは考えた、『こちらの欠陥に気付いてるのでは』と。 実はラリーが装備する天使型基本部品「リアウイングAAU7」は改造の結果強度が低くなっていた。 エリアオーバーギリギリの高度まで上昇すると、最悪空中分解を起こしてしまう欠陥を抱えてしまったのだ。 元々運用能力を持たない種類のミサイルを使用出来る様にしたのだから、当然と言える。 「降りて来い!臆病者!」 「言われなくても…!」 そう呟くと、ヒカルは踵を返し急降下を始めた。 来たか。 ラリーは体を上にして降下を始めた。 静止した状態では、急降下してくる敵を捕らえるのは一瞬である。 相対速度を合わせるこちらの命中率を上昇させる。 無論、相手の攻撃が命中する確立も上昇するが。 レーダーが飛行物体を捕らえる。 「終わりだ」 手にしたのは「LC3レーザーライフル」、しかも広域攻撃用に威力を犠牲に照射範囲を広げたものである。 相手にダメージを与えれば勝敗が決定するこのバトルでは、例え威力が低くても関係ないのだ。 引金(トリガー)を引いた直後、物体に命中した事が目に映る。 しかし、戦闘は終了しなかった 「何!?」 その直後、一閃のレーザー光がラリーを貫いた。 『BINGO!』 命中したとゆう情報が、バイザーによってヒカルに伝えられた。 「やった!」 ラリーの誤算、それは熱くなるばかり、エウクランテが『プレステイル』に分離できる事を忘れていた事だった。 ――戦闘終了後 「納得できない、なぜ分離状態で攻撃できたんだ」 さっきの無口が何処へやら、ラリーは不満を主にぶつけていた。 プレステイルの欠点は、武装形態の部品のほぼ全てを使用する故、分離中は攻撃が不可能になる事だ。 無論、機関砲もポッドとゆう形で翼に下げてあった。 「理由は、あれよ」 そう言って、聖憐は形人が手に持っていた食玩のレイズナーを指差した。 「は…?、…まさか!?」 「そう、レーザードライフル」 食玩を買った理由、それは付属する武器が目当てだったからである。 「ホントはスコープドックのヘビィマシンガンが目当てだったけど…、今回は結果オーライかな」 「箱の振り具合からして、頭が丸いとは判ってたんだけどな(笑)」 午後6時14分 形人の自宅 「疲れた~…」 「あの後二回も続けてバトルしたからな、当然だ」 実は単純だったラリーの負けず嫌いの性格が災いし、あの後同じ条件で二度バトルを行ったのだ。 結果は、一回目が翼の空中分解でヒカルの不戦勝、三回目が散弾ミサイルで自爆してヒカルの勝ち。 結局ラリーは一度も勝てなかったのである。 「もう寝る」 そう言ってヒカルはくまのキーホルダーを抱き、クレイドルに寝た。 「おやすみ、形人…」 そう言って、ヒカルはスリープモードに入った。 「おやすみ、ヒカル。よい夢を」 形人は部屋の明かりを消し、部屋を後にした。 『戦士は夢をかいまみる… 空のかなた… みはてぬ夢の青い蜃気楼…』 エリア88「青い蜃気楼」より引用 終 次回予告 あら、こんにちわ。 形人くんは何か作ってるようね? あら時間がないわね。 次回「プラモ」それではまた今度(N:聖憐) 武装神姫でいこう!?に戻る トップページ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/402.html
「俺とティアナの場合」 プロローグ 「やっぱ、買うしかないよな!」 俺、木ノ宮 翔(このみや かける)はある小売店の店頭のショーウィンドウの中のあるものの購入を決めた。 それは…武装神姫だった。 しかもつい先日発売されたばかりの、最新の第4期モデルの「ジルダリア」。 ちょっと前から神姫は欲しかったけど、どうせなら最新モデルを買ってやろうと決めていた。 そうして発売日に量販店に朝一で突撃するもライバルは多くて買えなかった。 であきらめてと、とぼとぼ家への道を歩いていると寂れた玩具屋(電気屋か?)のショーウィンドウにジルダリアのパッケージが置かれ、ポップには「予約キャンセル品につき5%OFF!」と書かれてた。 それを見て数秒で俺は購入を決めた。 即入店と共に店のおじさんに代金(バイトでせっせと貯めたものだった)を全て現金で払って手に入れた。 おじさん曰く「神姫の購入代金を全て現金で払う学生はあまりいない。」らしい。 というわけで意気揚々とウチに帰ってパッケージを開けた。 そして説明に沿ってCSSをはめ込む。種類は性格、戦闘特性、その他の順で「気さく」「オールマイティ」「自動学習」だ。 そうして"彼女"が起動する。 「はじめまして、マスター。」 「ああ、はじめまして。俺の名前は翔、カケルだ」 「カケルね。了解したわ。 さっそくなんだけど、名前をもらいたいな~」 「わかってるよ、君の名前はティアナだ」 「…ティアナ…いい名前。」 「よろしく、ティアナ。」 「ええ、カケル。」 そうして俺とティアナの生活が始まる。
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2678.html
キズナのキセキ ACT0-8「理想の体現者」 ◆ 二階フロアへとつながる店内階段から上がってくる、細い人影。 花村は、片手をあげてほほえむ彼女の姿を認め、相好を崩した。 「こんにちは」 「おや……久住ちゃん、ひさしぶりだね」 「ええ、今回はちょっと長引いちゃって」 「遠征先は埼玉だっけ……どうだったの、遠征先は?」 「……イマイチでしたね」 微笑みながらも、辛辣な評価。 久住菜々子がここ「ポーラスター」に顔を出すのも三週間ぶりくらいか。 その間、彼女はまた武者修行と称して、他のゲームセンターを回っていた。 いまや彼女の二つ名も、『アイスドール』より『異邦人(エトランゼ)』の方が通りが良くなっている。 「最近は面白いバトルをする神姫がめっきり少なくなりました。噂の強い武装神姫を求めて大宮あたりまで行ったけれど……結局、勝つことだけを意識した連中ばっかり」 「それは仕方がないかもしれない。全国大会も盛り上がっていたからね。大会仕様のレギュレーションに合わせて、勝ち抜くことを考えると、どうしても似通ってしまうものだよ」 「それはそうですけど……」 菜々子は少し頬を膨らませた。いたくご不満な様子だ。 魅せる戦いか、勝ちを優先する戦いか。 彼女の疑問は、答えのでない問いである。 それこそ、前世紀の終わり頃、ビデオゲームで対戦格闘ゲームがブームになった頃から、幾多のゲームを経て問われ続け、未だに明確な答えは出ていない。 それは菜々子が、神姫マスター人生のすべてを通じても、答えが出ないかも知れない。 実際、ゲームのキャリアが菜々子の人生よりも長い祖母に、この疑問を投じたことがあったが、鼻で笑われた。そして、久住頼子の答えは、 「そんなの、楽しんだ方の勝ちなのよ」 それは答えになってないと菜々子は思うが、今考えると、頼子はすでに達観しているのではないか。 答えになっていない祖母の答えを思い出し、菜々子はそっとため息を付く。 「そういえばさ」 近くにいた『七星』のメンバーが、不意にこんなことを言った。 「最近、珍しい戦い方をする神姫がいるって、噂になってるけど、知ってる?」 「珍しい戦い方?」 「なんでも、インラインスケートみたいな脚部装備だけで戦うオリジナルタイプだって。俺も見たことはないけど、動きがすごいって噂だよ」 「動き、ねぇ……?」 聞いたことがない噂だった。 脚部パーツだけの装備というのが本当なら、ライトアーマークラスの装備より軽装だ。 それでフル装備の神姫よりもすごい動きができるというのは、ちょっと信じがたい。 「まあ、地上戦しかできないのは間違いないけど、『ハイスピード・バニー』って二つ名からして、かなり高速に動き回る神姫なんじゃないか?」 「ふうん……それで、どこにいる神姫なの?」 「T駅前の「ノーザンクロス」ってゲーセンだったかな」 「……すぐ近くじゃない!」 「ポーラスター」のあるF駅からは、電車で二駅しか離れていない。 すぐ近くで活動している神姫なのに、どうして『七星』の誰も噂を確認しに行こうとしないのか。その保守的な姿勢こそ、菜々子は批判しているのだ。 「あそこ、『三強』とかいう連中が幅利かせてて、雰囲気があんまり良くないんだよな」 「……だったら、わたしが行ってみる。『ハイスピード・バニー』がつまらない相手だったら、その『三強』ともどもぶっとばしてやるわ」 菜々子は不敵に笑う。 見たことのない相手に対する不安を闘志に変える術を、菜々子は放浪した二年ほどで身につけていた。 しかし、菜々子は同時にうんざりもしていた。 「全国大会常連」とか「エリア最強」とかいう肩書きの武装神姫とのバトルを求めて遠征し、実際何度も戦ったが、菜々子が記憶にとどめるようなバトルをしたのは二割に満たない。大会で勝とうとする神姫は、どうしても似通ってしまう。 菜々子が求める「魅せる戦い」は、「勝利を求める戦い」と対局にあることを、嫌と言うほど思い知らされていた。 そして、その二つを両立させようとする矛盾。「魅せる戦い」を求めながら、勝ち続けなければならないことの難しさ。 「魅せる戦い」は自分で戦い方を制限しているとも言える。単純に強い方法を使わず、あくまで自分の決めたポリシーからはずれた戦いはしない、ということなのだから。 菜々子の神姫、イーダ型のミスティは、魅せる戦いを旨としているが、勝利を優先する戦いもできる。 だからこそ、遠征先の強敵を相手にしても遅れは取らず、高い勝率を維持し続けられる。 しかし、「勝ちにいく戦い」は菜々子とミスティの本意ではない。 そこに生じる矛盾を、菜々子は嫌と言うほど感じていた。 だからこそ、面白い、珍しい戦いをする武装神姫とのバトルを求める。 そんな噂をたどっていった方が充実したバトルができる、というのも、遠征の経験から学んだことだ。 「でも、ライトアーマー程度なんでしょう? 秒殺しちゃうかもしれないわ」 「それで食い足りないなら、それこそ『三強』とやらもまとめて相手すればいいじゃない」 ミスティの不遜な言葉に、菜々子も自信満々で答えている。 花村は思う。 『エトランゼ』の実力は、もはや『七星』のメンバーを凌駕している。 桐島あおいとの再戦も近いのかもしれない。 だけど、桐島ちゃんに勝ったとして……久住ちゃん、君はどうする? 決戦の先、菜々子は何を目指すのか。大きな目的が果たされた後、強くなった彼女が何を望むのか。あるいは、大きな目的を失った彼女は、もう武装神姫をやめてしまうのではないか……。 花村は少し気がかりだった。 ◆ 翌日、菜々子はミスティを連れ、T駅で電車を降りた。 T駅はこの沿線で一番若者が多い街と言われている。近くに大学や予備校、学習塾もあるし、高校への通学バスも出ているから、自然と若者が集まるのだ。 もちろん、菜々子も何度かT駅で降りたことがある。 目指すゲームセンター「ノーザンクロス」ももちろん知っていた。 駅のバスロータリーから一本はずれた路地に入り、迷うことなく目的のゲームセンターにたどり着く。 肩に乗っているミスティと視線を合わせ、二人して頷く。そして、菜々子は敵地へと足を踏み入れた。 自動ドアをくぐれば、聞き慣れたゲームセンターの喧噪が彼女を出迎える。 一階の奥がこの店の武装神姫コーナーだった。 奥へと歩みを進める間に、バトルロンドの対戦を映す大型ディスプレイに目をやった。 「……この程度の対戦レベルの店に、面白い神姫なんているのかしら」 と口の中だけで呟く。 大きな画面上の対戦は、お世辞にもレベルが高いとは言えなかった。 その時、菜々子はふと視線を感じた。 武装神姫コーナーの奥の壁際に、二人の男が立っている。 真面目そうな青年と、ヤンキー風の大男。奇妙な取り合わせである。 その二人と視線が合う。 ちょうどいい。どうせ誰かに声をかけなければならないのだから、いっそこのまま彼らに協力してもらおう。 菜々子はその二人に向かって、まっすぐに歩を進める。 彼らの前に来て、 「こんにちは」 とびきりの営業スマイル。 これで九割がた、コミュニケーションは円滑に進む。菜々子が遠征で得た経験則である。 大男の方がこれ以上はないという嬉しそうな顔で応じた。 「こんにちは!」 「誰かお探しですか?」 菜々子は自分の営業スマイルを、斜めにすぱっと切られたような気がした。 真面目そうな青年は、表情一つ変えずに、言葉で切り込んできた。 大男の挨拶が終わるより早く切り出してきた、その妙なタイミングに、菜々子は少し驚いた顔を見せてしまう。 青年と視線が交わる。 ひどく真っ直ぐな視線だった。疑惑の色も、探る風もない。ただ真っ直ぐに菜々子を見ている。その視線で菜々子の本当の部分を見ようとしているかのようだ。だから、浮かべただけの笑顔を切られたような気がしたのだろうか。 菜々子は一瞬目を伏せる。 焦らなくてもいい。人を捜しにきたのは本当だ。用件を正直に切り出せばいい。 「ええ。……『ハイスピード・バニー』のティアっていうオリジナルの神姫をご存じですか? このゲーセンがホームグランドだって聞いたんですけど」 青年は眉根を寄せる。 この時気が付いたのだが、この青年は随分と端整な顔立ちをしていた。 「ハイスピード・バニー?」 「はい。なんでも地上戦専用の高機動タイプで、バニーガールの姿をしているとか。とても 特徴的な戦い方をすると噂に聞いています」 「……それで名前がティアなら、俺の神姫かもしれないけれど……。」 「本当ですか!?」 どうやら大当たりを引いたらしい。 この喜びは営業スマイルではなく、心からのものだった。 これが菜々子と遠野貴樹の出会いであった。 ◆ ミスティとティアの初戦は、ミスティの敗北で終わった。 試合後、菜々子は久々の満足感を覚えていた。 ティアは並の神姫ではなかった。リアルモードを出さなかったとは言え、あの軽量装備でミスティを翻弄した神姫は今までいなかった。 つまり、装備ではなく、マスターの戦略や戦術、神姫自身の技で、ミスティと同レベルの強さを持っているという事である。 そしてなにより、ティアの戦いぶりは美しかった。 菜々子とミスティは、こんな神姫と戦いたかったのだ。それがまさか、遠征先ではなく、地元にほど近いゲームセンターにいるなんて。 この神姫のマスターともっと話をしてみたい。 バトル終了後、すぐに彼に声をかけ、二人してゲームセンターを抜け出した。 こんなことは、遠征先でもしたことはない。 思えば、もうこの時には、遠野貴樹というこの神姫マスターに特別な感情を抱いていたのだろう。 駅前のドーナツ屋での時間は、あっという間に過ぎていった。 話すのはもっぱら菜々子だったが、遠野はずっと彼女の言葉に耳を傾けていた。 その会話の中、菜々子に分かったことがある。 遠野は勝敗に固執していない。納得のいくバトルであれば、負けてもかまわないとさえ考えている。 彼の対戦のモチベーションは、独特の戦闘スタイルを追求し、彼の神姫・ティアの能力を最大限引き出すことにある。 「俺は、『強い』と言われるよりも……そう、『上手い』と言われるようなプレイヤーになりたいんだろうな」 この言葉に、遠野のバトルへの姿勢がすべて現れている気がする。 菜々子は内心、驚いていた。 バトルの内容にこそ価値を見いだす姿勢。そのためには、バトルの勝敗にさえこだわらない。 かつての桐島あおいが目指し、菜々子が受け継いだ理想の、ある意味極端な形。 遠野貴樹という神姫マスターは、彼女たちの理想の一端を体現していたのだ。 「しばらくこっちのゲーセンに通うわよ」 遠野と別れた後、菜々子はミスティにそう宣言した。 菜々子は遠野に惹かれていた。そして、理想を体現するマスターの戦いぶりをもっと見てみたいとも思っていた。 ◆ しかし、理想の体現者への敬愛の念は、ある日唐突に裏切られる。 菜々子と同様に遠野と親しい大城大介が、ある日難しい顔をして、丸めた雑誌を持ったまま立ち尽くしていたのだ。 「どうしたの、大城くん。そんな顔して」 「菜々子ちゃん……」 どうにもばつの悪そうな顔をした大城。 いつも陽気な男だけに、こういうはっきりしない表情は珍しい。 菜々子が不思議そうに彼の顔を見上げていると、不意に背後から笑い声があがった。男たちの、蔑んだ調子の声。 振り返ると、そこには三強の一人が、取り巻きのメンバーと一緒に雑誌を広げている。 それが、今大城が持っている雑誌と同じものだとすぐに思い当たった。 「大城くん、その雑誌、何か書いてあるの?」 「あ、いや……菜々子ちゃんは見ない方がいいんじゃ……」 こういう時、大城は嘘が言えない性格である。 明らかに、菜々子が見て都合の悪いことが、その雑誌に書いてあるのだ。 「見せて」 「いや、でも、なぁ……」 しばらく迷っていた大城だが、うらまないでくれよ、と変な一言とともに雑誌を渡してくれた。 それは菜々子が今まで手にしたことも、手に取ろうとも思ったこともない、ゴシップ誌のたぐいだった。 ペラペラとページをめくり、雑誌のちょうど中央、袋とじになっているページで手が止まった。封は切られていた。記事のトビラに「神姫」の文字が踊っているのが異様だったことだけ覚えている。 意を決してページをめくった。 次の瞬間、頭をぶん殴られたような感覚、というのを思い知った。 「なに、これ……」 そこには、理想の体現者の神姫……ティアの痴態があった。なぶられ、犯され、悶える神姫の姿を、菜々子は初めて目にした。 そういうことがある、という事実は、知識で知っていても、目の前で画像として見せられると、ひどく生々しい。 「ティアは……風俗の神姫だったんだ……」 「ふうぞく、の……」 神姫風俗、というものがあることは、裏バトルに関わっていれば嫌でも耳に入ってくる。 バトルで残虐な方法で神姫を破壊するのにも吐き気がするが、性行為を神姫に働くことは、菜々子の理解の範疇を越えていた。 ティアは、人間の男の欲望を処理する神姫だった。 それじゃあ、遠野はいったいどうやって、ティアを手に入れたのだろう? 風俗店に通い、気に入った神姫を身請けした。それがティアだった……と考えるのが自然だろう。 ということは、遠野も神姫風俗の常連客だったのではないか? なんと汚らわしい! そこまで考えて、菜々子は遠野に「裏切られた」と思った。 理想の神姫マスターだと思っていたのに。 まさか、神姫マスターとして最低最悪の行為に手を染めていたなんて。 菜々子は、怒りと悲しみと失望と疑念が一度に押し寄せてきて、混乱し、頭がくらくらする。だから、顔に出てきたのは呆とした無表情だった。 肩の上の小さなパートナーが、なぜかわずかに眉をひそめただけで、いっそ冷静な様子が憎らしい。 菜々子は無言で、大城に雑誌を押しつけると、ふらふらとした足取りで店を出た。 その後、どこでどうしたのか、菜々子には記憶がない。 気がついたら、自宅のベッドでじたばたしていた、というわけだった。 ◆ 特別に思っていた男性の汚点を否定して見せたのは、彼女自身の相棒であるミスティだった。 ミスティは確信していた。遠野貴樹が神姫風俗に手を出すような人物ではないと。ティアと遠野の絆は本物だと。 なかば自分の神姫の言葉に引きずられ、菜々子は再び遠野を信じてみることにした。 ホビーショップ・エルゴに連れて行ったのは、菜々子が必死になって考えたアイデアだった。 いつもと違う服装で遠野を待ちかまえたのも、策と言うには幼稚だったのではないか、と菜々子は今思い出しても照れくさい。 しかし、結果はオーライだった。 真っ直ぐに向き合えば、遠野はすべてを話してくれた。 ティアを手に入れた経緯も、彼女に対する想いも。裏切られたと思っていた自分が恥ずかしくなるほどに、彼は真っ直ぐに、純粋に、ティアを愛していた。 それが分かったから、ちょっとティアに嫉妬した。 □ 「ずっと……出会ったときからずっと、あなたは理想の神姫マスターだった。その後も、本当にいろんなことがあったけれど、全部覆して見せた。自分の信念を持って、真っ正面から立ち向かった」 「それは……それが出来たのは、君や大城や……みんなのおかげだろ」 俺が言うと、菜々子さんは頭を振った。 「あなたはティアを助けて、風俗の神姫をたくさん救って、雪華やランティスみたいな実力者とも渡り合って……少しくらい、偉そうになってもいいものなのに、全然自分のスタンスを変えない。ただ、理想のバトルを目指す……その姿こそ、わたしの理想を体現したマスターだわ」 「そんなのは、買いかぶりだよ」 今度は俺が頭を振る。 本当にいろいろなことがあった。 セカンドリーグ・チャンピオンの雪華との対戦、バトロン・ダイジェストに記事が載り、周囲の見る目が変わった。 宿敵・井山との決戦。事件の終結。 チームを組み、仲間ができた。八重樫さんと安藤が持ち込んだトラブルも解決したっけ。 塔の騎士・ランティスの挑戦。 それから……菜々子さんの告白を賭けた対戦。 武装神姫を始めてから、まだ一年も経っていない。その間、息つく間もなく、怒濤のような日々が過ぎていった。 そして、俺たちはまだその激流のただ中にいる。 そのことを後悔しているわけではない。しているはずもない。 こうして菜々子さんと二人で話している今は、確実に過去の出来事からつながっているのだから。 菜々子さんを見る。 月明かりと小さな街灯の光を受けた彼女は、本当に美しい。 無性に、彼女がいつも見せてくれる、あの反則な笑顔を見たいと思った。 なぜ俺はこんな時にかけられるような、気の利いた言葉の一つも持ち合わせてはいないのだろう。 「……あした……」 「うん」 菜々子さんの微かな呟きに、俺も小さく応じる。 「明日……ついにお姉さまと戦うのよね」 「ああ」 「……勝てるかな」 「勝てる。それだけの準備をしてきた」 俺は嘘つきだ。 確かに、『狂乱の聖女』に勝つための準備は全てやった。だが、勝てるかどうかまでは、わからない。 だが、今この時、これ以外に彼女にかける言葉があるだろうか? 菜々子さんはゆっくりと俺の方を向いた。 吸い込まれそうな瞳の色。 「ほんとうに?」 「君が勝つ。それ以外は想定してない」 俺の視線は菜々子さんの瞳に吸い込まれた。 菜々子さんの引力に導かれるままに。 俺と菜々子さんの唇が重なった。 ■ 結局、わたしとミスティは、何も言葉を交わすことはできなかった。 わたしはミスティさんの想いを伝えたかったけれど、また激しい口調で拒否されるのではないかと思うと、声に出せなかった。 決戦を目前にして、ミスティの気持ちを乱したくなかった……と思っているのは、わたしの体のいい言い訳に過ぎない。 帰り道、マスターの胸ポケットの中で、考える。 無理矢理にでも伝えるべきだっただろうか。 たとえ拒否されたとしても、話してしまえばよかったのではないか。 でも、それじゃあ、本当の気持ちが伝わらないような気がした。 虎実さんは「想いは必ず伝わる」と言ってくれたけれど。 言葉がなくても、想いは伝わるだろうか。 わたしは一晩後悔しながら過ごし、いつの間にか決戦の朝を迎えていた。 もう後悔したところで遅いのだけれど。 もしわたしが、ミスティさんの言葉を伝えていれば、今日の決戦はまた違った結果になるのだろうか……。 ◆ 翌朝。 夜が明けたばかりの朝の空気は、肌にひんやりと感じられる。 街灯も消え、日が射し始めた。 花咲川公園は、その名の通り、東京湾に注ぐ花咲川の川沿いに作られた公園だ。この時期、桜並木が美しいことで有名である。 川沿いの道を迷うことなく歩を進める。 指定された場所……花咲川公園の表の入り口はもうすぐである。 朝六時ちょうどにたどり着くと、そこには小さな人影がひとつあるきりだった。 髪型はショートカット。ブラウスの上にハーフコート、細いジーパンを履いた、ボーイッシュな出で立ち。 銀色の無骨なアタッシュケースを手に提げている。 美しい顔立ちには、凛とした決意に一抹の不安を乗せている。 「……菜々子」 きれいになったわね。 桐島あおいは口の中だけでそう言った。 久住菜々子は微笑んで、あおいを迎えた。あおいもまた、微笑みで応える。 二人は無言で頷き合うと、並んで公園に足を踏み入れた。 満開の桜。 数え切れないほどの花が、今を盛りと咲き乱れ、並木道を淡い 桃色に染めている。 無数の花びらが音もなく舞い、並木道の先を霞ませる。 目指す場所は桜色に霞んだ道の先にある。 二人は並んで歩く。 その姿が霞みそうなほどの、桜の乱舞。 息を飲むほどに美しい。 その光景の中で、二人が手にしているもの……無骨なアタッシュケースだけが異彩を放っている。 桜吹雪の中、二人は静かに歩いてゆく。 「……こうして、またあなたと話せるとは思っていなかったわ」 「わたしもです、お姉さま……お話したいことが、たくさんありました」 「そう?」 「ええ」 「どんなことを?」 「たとえば……」 菜々子は少しはにかんで、そして言った。 「たとえば、そう、恋をしたこととか」 本当は、ずっとこんな話がしていたい。 いや、そんな日常を取り戻すため、菜々子はこれから戦うのだ。 二人の向かう先、桜吹雪の先にあるのは……決闘の地だった。 次へ> Topに戻る>
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2714.html
7月25日(月) その翌日、つまり月曜日。私はまたもや炎天下の元に歩いていた。 今日は神姫センターに行って、マスター登録をするそうだ。そうすることで公式大会にも出られるらしい。出る気はないんだけど。 「いいじゃん、無料だし色々特典ついてくるし」 「でも暑い」 「仕方ないでしょ。仁さんはお店あるんだし」 定休日とか言ってなかったっけ? 「樹羽はちょっと外に出て散歩した方がいいんじゃない?」 肩掛け鞄の中から、シリアがひょっこり顔を出す。 「シリアまで華凛の味方だ」 「私は樹羽のためを思って言ってるんだよ」 それくらいわかっている。が、やっばり不思議だな、神姫って。 その時、華凛がこちらを見て笑っていることに気が付いた。 「不思議でしょ、神姫って」 「……うん」 「??」 シリアは何のことかわからずキョトンとしている。 神姫は小さな人。見た目は人形そのものだけど、ちゃんと人の「心」を持っている。後8年早く神姫に触れていたら、私はあの時、笑っていられただろう。 「シリア、ありがとね」 「?? どういたしまして……」 やって来たのは駅前だった。ビルには「武装神姫」と書かれた垂れ幕がかかっており、さらに武装したアーンヴァルmk,2の写真や、TVにも神姫についての特集をやっている。 「ここまで人気だったんだ」 「元々2031年の発売から人気だったし、4年前の神姫ライドシステムの開発に3年前の大会ラッシュでさらに人気が高まったのよ」 3年前は神姫を使った事件とかもあったんだけどね、と華凛は付け足した。 「ま、今はそんなことも無くなって、みんな安心して神姫と一緒にいられるんだけどね」 「安心」 最近の世の中に関して、私はよく知らない。テレビはあまり見ないし、新聞(今時紙性の新聞をとっている家は割と珍しい)だって見ない。 「神姫を悪いことに使う、か」 鞄の中で、シリアは小さく呟いた。 3年前の事件、神姫は物として扱われたに違いない。それは、神姫のことなど考えていないと言うことだ。 それはシリアにも共通している。シリアはそれを思っているのだろう。 「今は安心」 「うん、そうだね」 私が言うと、シリアは笑ってくれた。でも、その笑いはどこか悲しそうに見えたのは気のせいだろうか。 「ほら樹羽、ここだよ」 華凛が指差す先、そこには一際大きなビルが建っていた。大きく「神姫センター」と書かれている。 なんか、今から不安になってきた。 建物の中は、人で賑わっていた。みんな神姫と一緒にいるか、中には買ったばかりの神姫を紙袋に入れている人もいる。 あの猫みたいな神姫は、マオチャオ型だ。思えばあの日、ゲームセンターで神姫バトルを見たことから始まったような気がする。 「まずカウンターに行ってカード作ってもらわないとね」 「……うん」 私は華凛の手を握った。人込みはそれほどではないが、はぐれたら嫌だ。華凛もそれをわかってくれたのか、無言で手を握り返してくれた。そのまま進んで行く。 「え~と、確か3番だったかな……?」 華凛の背は私より高い。よって手を引かれた状態だと、華凛がどこへ向かっているのかイマイチよく分からない。 「あ、いたいた!」 華凛の歩く速度が上がる。どうやら目的の場所を見つけたらしい。視界が軽く開ける。白いカウンターが目に写った。 「いらっしゃいませ、神姫センターへようこそ!」 その緩やかなソプラノに、私は懐かしさを覚えた。思わず顔をあげる。 「長谷川……さん?」 「あ、覚えててくれたんだ。お久しぶりね、奏萩さん」 そう言って微笑んでいるのは、私の中学生の時のクラスメイト、長谷川碧(はせがわみどり)だった。 わずかにウェーブのかかった薄緑色の髪に、きっちりとした制服。未だにあどけなさが残る顔立ちはだいぶ大人びた感じがする。 「何で長谷川さんがここに?」 「そりゃ、私がここで働いてるからよ」 それはそうだろう。でなかったらカウンターの向こう側で制服を着ているわけがない。 「私に自ら話しかけてくるとは、華凛にしかなついてなかった子がねぇ……」 「話しやすくなった?」 「そうそう、なんか空気って言うかオーラみたいな物が変わった気がするわ」 華凛と長谷川さんが笑い合う。 変わった――私は変わったのだろうか? だとすれば、その要因はやはりシリアとの出会いだったんだろう。 「で、今日は何の用? 昔話しに来た訳じゃないんでしょう?」 「ああそうだった。碧、樹羽に神姫カード作ってくれない?」 華凛がそう言うと、長谷川さんは一回微笑んでから、 「では、新しく神姫カードをお作りいたします」 すっかり様になった受付嬢になった。 「まず、お客様の名前や生年月日など、こちらのタブレットにご記入下さい」 渡されたのは、B5サイズのタブレットとタッチペン。赤い縁で囲われた部分を書けばいいらしい。自分の携帯の番号など覚えてなかったが、すかさず華凛が教えてくれた。 最後に、自分が持っている神姫とその名前を記入する。 「ありがとうございます。少々お待ちください」 長谷川さんはタブレットを受け取ると、慣れた手付きでタブレットを操作した。カウンターの向こうのパソコンと一緒に動かしていく。 やがて全ての作業が終わると、長谷川さんは一枚のカードを出した。銀色のカードで、エウクランテのシルエットと「武装神姫」と言う文字がプリントされている。 「お待たせ致しました。こちらがお客様のカードになります」 カードを受け取る。裏面には、細かい文字で注意書きがビッシリと書いてあった。ま、進んで読もうとは思わない。 「なお、お客様のランクは3からとなっております」 「ランク?」 ランクとは何だろう。3とは高いのだろうか? 「ランクって言うのは、まあ武装制限みたいなものね。このランクの登場で、初心者でも金を積めば勝てるって風潮が無くなったの。後、その人がどれぐらい強いのか、だいたいの目あすかな?」 「へぇ……」 確かに一里あるが、やっぱり武器が強くても使う人が駄目では宝の持ち腐れではないだろうか? だとすれば、このランクという制度が出来る前も、金を積んで勝てたのは初級から中級の人までだっただろう。つまり、真に強い人にはあまり意味のない制度なのかもしれない。 まあそれはそれとして、 「何で3から?」 シリアが疑問の声をあげる。普通ランクは1からではないのだろうか? 「あ、あなたが奏萩さんの神姫? シリアっていうんだよね」 「あ、はいそうです。よろしくお願いします、長谷川さん」 「やっぱえうえうはマジメよねぇ、ウチとはおお違い」 「ウチ?」 「私もオーナーだからね。後、そのランクは私からのプレゼント」 「長谷川さんからの?」 「強いんでしょ? 奏萩さん」 後ろで華凛がニヤニヤしている。絶対華凛の差し金だ。 「まあいいじゃない、ランク3からなら、公式でも今まで通り純正装備で戦えるんだから」 「そうなの?」 「そうなの。あと、ヴァーチャルバトルでは、武装データで武装するのは知ってるでしょ? その武装にはポイントがあるの。ランクが上がると、装備出来る武装の種類だけじゃなくて、武装が装備出来るキャパシティも増えていくのよ」 つまり、神姫には790や530と言ったようにキャパシティが設けられており、そのキャパシティ以内で武装をやりくりしなければならないらしい。 「めんどう……」 「そこが楽しいんじゃない。オリジナルの武装パターンを作りだすのよ!」 カードゲームに近いものがある気がする。余談だが、最近新しい決闘板がKCから発売されるとかビルの広告に書いてあった。 と、その時だった。 「う~うっさいじゃん。人が静かにロックを聞いてる上でごちゃごちゃ喋らないで欲しいじゃん」 カウンターの下から神姫が顔だけ出した。シンバルみたいな物(むしろシンバルそのもの)が頭に付いているその神姫は、確かベイビーラズ型だったはずだ。 「ちょっとグリーン、今接客中……」 「マスターが楽しくお喋り出来てるなら問題ないじゃん。マスターの友達ってことじゃん?」 独特な語尾で喋るグリーンと呼ばれた神姫は、こちらを――正確にはシリアを見た。 「私はグリーンって言うじゃん! よろしくじゃん!」 「よろしく」 「あ、よ、よろしくお願いします」 シリアは突然のハイテンションについていけていない様子。 「かー! 噂には聞いてたけどやっぱエウクランテはマジメじゃん! もっと羽目を外すくらいでちょうどいいじゃん?」 「は、はぁ……」 なんと言うか、元気な子だった。ある意味シリアとは対称的な感じ。 「碧も神姫持ってたんだ」 「うん、この仕事してるとさ、自然と惹かれるものがあって、つい……」 「なんの予備知識もなく買ってしまったと?」 「うん。元気なのはいいんだけど、家で留守番させるとすねるし、かと言ってこっちも接客業だから……」 なるほど、つまりカウンターの下でロックを聞いてて貰うので妥協してもらったのか。 そのグリーンは、今シリアと話している。思えば、シリアも私同様交友関係は少ないはずだ。これは交友関係を築くいい機会かもしれない。 「…………」 ふと見ると、華凛がグリーンのことをじっと見ていた。 「どうしたの?」 「あ、ううん! なんでもない」 華凛はまた長谷川と話し始めた。 (華凛?) さっきまでの華凛の表情は、まるで無くしてしまった何かを想っているような、そんな顔だった。 「明日はバトルしに行きましょう」 帰り道、華凛はそう宣言した。 「明日、月曜日」 「夏休み」 そう言えばもうそんな時期である。 「ゲームセンター行ってさ、バトルしに行こうよ!」 「…………」 正直、乗り気ではない。バトル事態が嫌な訳ではないが、初対面の人とバトルするのは、まだ抵抗がある。 「いいですね、行きましょう」 「シリア……」 シリアは鞄の中から手を上げた。神姫はやる気があるらしい。 つまり後は私次第。 「……わかった」 「よし、決まり! じゃあまた明日ね! 迎えに行くから、ちゃんと服着て寝ててよ! あられもない姿晒してたら問答無用で襲うからね!」 華凛は早口で巻くし立て、自らの帰路についた。 「……帰ろっか」 「うん、そうだね」 私たちも、帰り道を歩きだした。 夕日がコンクリートの地面を紅く染める頃、私は翌日の来訪を僅かながらに楽しみにしていた。 第五話の1へ 第六話の1へ トップへ戻る
https://w.atwiki.jp/magicman/pages/14684.html
「アビリティプッシュ!」。 ■アビリティPush!(バトルゾーンでこのクリーチャーに能力を与えた時、次の!能力を使ってもよい。) 能力が追加されるとトリガーする任意能力。 処理はバトルゾーンで能力を追加した際に行うので、《セイント・キャッスル》を要塞化した後など常在型で能力を追加する効果が発動している状態でこの能力を持ったクリーチャーを出しても、バトルゾーンへ出る前に能力追加処理を行うため、この能力はトリガーしない。 また、一度消えた能力が元に戻ってもトリガーしない。一方で、既に能力を持っているクリーチャーに同じ能力を与えた場合はトリガーする。(例えば、パワーアタッカーを元から持っているクリーチャーや既にパワーアタッカーを与えているクリーチャーにパワーアタッカーを再び追加した場合でも、能力をトリガーすることが可能) なお、追加される能力はすべて「得る」や「与える」と書かれたテキストにしか対応しない。そのため、アンタップキラーやアンブロッカブルなど「」で囲っていないものは能力追加にならないので注意。 作者:切札初那 キリューの場合は2回使えますか?(cipて「スレイヤー」と「スピードアタッカー」付与) -- Orfevre (2019-02-26 21 12 20) ↑使えます。特定のカードで能力を同時に与えた場合は1つずつ追加処理を行います -- 切札初那 (2019-02-26 22 08 31) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/syobon96/pages/209.html
※複数のカテゴリに渡って効果があるものも存在するため、他カテゴリの記述も残してあります <調合系アビリティ> ・『基本調合』:調合の基本、最初は簡単なものしか出来ないが様々な調合術へと成長する ・『簡易調合(薬)』:手持ち若しくは周囲のアイテムから簡単な薬品を作成する ・『薬品調合』:手持ち若しくは周囲のアイテムから複雑な薬品までをも調合・作成する ・『薬品調合(錬金)』:調合を極めし者がもつアビリティ。身近なものから薬物のレアアイテムすら生み出すことが可能 ・『魔法調合』:手持ち若しくは周囲のアイテムからマジックアイテムまでをも調合・作成する ・『魔法調合(錬金)』:調合を極めし者がもつアビリティ。身近なものから魔法のレアアイテムすら生み出すことが可能 <作成系アビリティ> ・『簡易拠点』:野外での依頼で1度だけ使用可能。簡易な拠点を作成し体力を回復させる。使用後、拠点は消滅 ・『ボマー(弱)』:タル爆弾等の火薬系アイテムの威力を1.5倍にし、爆弾の作成を行うことができる ・『ボマー』:タル爆弾等の火薬系アイテムの威力を倍加させ、爆弾の作成・爆弾の解体までをこなすことができる ・『工作員』:対物へのダメージが1.2倍になり、設置系アイテムをターン消費なしで設置することができる
https://w.atwiki.jp/bbh3/pages/817.html
2014西武選手アビリティ Vol.1 選手名 ノーマル ノーマル(追加) レア 岸 孝之 勝負運 尻上がり 球速安定 西口 文也 ナイトゲーム スタミナ配分 スピン 増田 達至 球速安定 スピン 投手守備範囲 大石 達也 荒れ球 投手守備範囲 デーゲーム 菊池 雄星 スタミナ配分 危険失投率ダウン 尻上がり 豊田 拓矢 球速安定 荒れ球 剛球 野上 亮磨 尻上がり 勝負運 スタミナ配分 十亀 剣 剛球 スタミナ配分 危険失投率ダウン 岡本 篤志 勝負運 荒れ球 デーゲーム ボウデン ナイトゲーム 投手守備範囲 スピン 藤原 良平 投手守備範囲 ナイトゲーム 変則軌道 岡本 洋介 スピン 投手守備範囲 スタミナ配分 牧田 和久 スタミナ配分 尻上がり 勝負運 中郷 大樹 球速安定 投手守備範囲 スタミナ配分 レイノルズ 尻上がり デーゲーム スタミナ配分 高橋 朋己 スタミナ配分 球速安定 荒れ球 ウィリアムス 荒れ球 危険失投率ダウン 剛球 松下 建太 危険失投ダウン 投手守備範囲 ナイトゲーム 佐藤 勇 荒れ球 球速安定 スピン 森 友哉 チャンスメーカー パワーヒッター 捕手守備範囲 炭谷 銀仁朗 捕手守備範囲 粘り打ち 選球眼 金子 侑司 流し打ち 粘り打ち 遊撃守備範囲 鬼崎 裕司 粘り打ち 流し打ち 固め打ち 山崎 浩司 初球 代打 デーゲーム ランサム 逆境 三塁守備範囲 流し打ち 脇谷 亮太 固め打ち 三塁守備範囲 サヨナラ 渡辺 直人 代打 遊撃守備範囲 選球眼 浅村 栄斗 二塁守備範囲 連発 広角打法 永江 恭平 遊撃守備範囲 チャンスメーカー 代打 中村 剛也 満塁 選球眼 威圧感 森本 稀哲 チャンスメーカー 初球 代打 栗山 巧 チャンスメーカー 左翼守備範囲 アベレージヒッター 大崎 雄太郎 代打 満塁 サヨナラ 坂田 遼 逆境 パワーヒッター 固め打ち 木村 文紀 一塁守備範囲 広角打法 ラインドライブ 石川 貢 右翼守備範囲 流し打ち 粘り打ち 秋山 翔吾 流し打ち チャンスメーカー 初球 熊代 聖人 粘り打ち 初球 チャンスメーカー 田代 将太郎 サヨナラ 粘り打ち 流し打ち 斉藤 彰吾 初球 サヨナラ 右翼守備範囲 メヒア 一塁守備範囲 アーティスト アベレージヒッター 岩尾 利弘 投手守備範囲 勝負運 スピン 武隈 祥太 投手守備範囲 デーゲーム 危険失投率ダウン 林崎 遼 初球 逆境 二塁守備範囲 宮田 和希 投手守備範囲 スピン 危険失投率ダウン 岡田 雅利 捕手守備範囲 粘り打ち デーゲーム 山川 穂高 逆境 パワーヒッター 三塁手守備範囲 梅田 尚通 右翼守備範囲 逆境 代打 未記入アビリティを書き込んで下さい。 危険失投率ダウン -- 武隈 祥太 (2014-11-04 01 31 19) デーゲーム -- 岡田 雅利 (2014-11-19 11 29 45) 三塁手守備範囲 -- 山川 穂高 (2014-11-19 11 30 29) スタミナ配分 -- 西口 -- 名無しさん (2014-12-30 09 17 14) デーゲーム -- レイノルズ (2014-12-31 01 49 59) レアアビリティ 代打 -- 梅田尚通 (2015-01-15 23 07 25) 梅田 逆境確認 -- 名無しさん (2015-02-25 17 50 52) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1671.html
と、いうわけで次の対戦のテーマは「接近戦も試してみよう」と相成りました。 今まで砲撃ばかりを狙い、接近戦は懐にもぐりこまれた際の迎撃程度しか行なっていなかったので若干不安は残りますが、何事も経験の積み重ねが肝要です。 そうと決まれば善は急げ。早速ターミナルへと、バトル登録に向かいます。 ……が。恥ずかしながら、ここですんなりとは行かないのが私たちで。 「ええと、カードをここに入れるんでしたよね?」 「マスターさん、惜しいですがカードの前後が逆です」 戸惑いつつ確認するマスターさんに、私はその胸元からお返事いたします。 「やや、これはうっかり」 そう言いつつ、カードを『裏返して』挿入しようとするマスターさんには、ある意味でお見事です。 カード投入の段階で手間取るワケですから、その後のタッチパネル画面操作などはさらに苦戦するわけで。 ああ、私たちの後ろに並んでいる方のイラついた目が心に刺さります。 正直なところ、私がやってしまえば早いのですが、これもまたマスターさんに操作を覚えていただくために必要なこと。 マスターさんとて、確かにかなりの機械オンチではありますが、それでも何度も練習すればできるようになるのです。実際、携帯やPCメールの扱いだって、そこそこはできるようになっているのです。 先ほども言いましたが、何事も経験の積み重ねが肝要なのです。 マスターさんも、やれば出来る子なのですっ! ですからこうして私はあえて助言に留めているのも、これもまた愛なのですっ! もちろん、いつも温和で何事もそつなくこなすイメージのマスターさんが慣れない操作に戸惑われる姿が愛らしく思えることとは一切無関係なのですっ! 「『対戦申し込み』で……条件設定は……ええと……これでしたっけ?」 「マスターさん、そこは違います」 「やや、これはうっかり。えーと、戻るには確か……」 「申し訳ありませんがそこも違います。戻るにはそちらでなくこちらで」 「やや、これはうっかり」 ああ、私たちの後ろに並んでいる方が舌打ちなどをされています。 「では今度こそ。『対戦申し込み』で……」 「ああマスターさん、今押されたアイコンが戻るためのものです」 そして無情にも排出される管理カード。 「やや、これはうっかり」 「仕方ありません。また最初からいきましょう」 「……どきな」 「はい?」 む? なにやら後ろに並んでいた方が、強引にマスターさんの前に身を割り込ませてきます。 そして排出されているマスターさんの管理カードを無造作に手に取ると、手馴れた動作で再投入、やはり手馴れた動作でターミナルを操作して行きます。 そして瞬く間に設定が終了し、排出されたカードを手に取ると、それを乱暴な仕草でマスターさんの胸に押し付けました。 「『VRバトル』『対戦申し込み』『ステージ:ランダム』『条件:ランダム』『対戦相手指名:なし』 ……これでいいだろ?」 「あ、はい、十分です」 「……ふん」 呆然としつつも、我に返ってカードを受け取るマスターさんでしたが、その方は一瞥しただけで 鼻を鳴らし背を向け、ご自身のカードを取り出しターミナルに向かいます。 ……といいますか、あまりの急展開にちょっと流されてしまいましたが、無礼ではないでしょうか。 せっかく私がマスターさんのまごまごされる姿を堪能……もとい、マスターさんにターミナル操作を練習して頂いていたところにっ。 「あの……」 マスターさんが、その方の背中にお声をかけています。 「なんだ?」 ……その方は、お返事こそされたものの見返りすらされません。やはり無礼です。 「ありがとうございました、代わりに操作していただきまして」 さすがはマスターさん。相手の態度は無礼でも、礼を言うべきはきちんと言う、ご立派な姿勢です。 さすがにその方も、操作の手を止めて肩越しにこちらを振り返りました。 改めてその方を見てみますと……年頃は二十歳をやや越したくらいでしょうか? ぼさぼさの髪にシンプルな革ジャンにGパンというラフな服装と、ターミナルの脇の置かれた立派な神姫キャリングケースをみるに、おそらく自由に使える時間の多い大学生さんあたりではないでしょうか。 ですが真っ当な大学生さんというには、三白眼とへの字に結んだ口元がやや不穏な雰囲気をかもし出しています。 「ターミナルの操作くらい、慣れろよ」 そしてお話の仕方も、失礼ながら丁寧とは言いがたいですね。 「いやはや、面目ない」 そんなお方を前にしても、マスターさんの態度は柔らかいまま。さすがです。 その三白眼の方は、ちらりとマスターさんの胸元……つまり私へと視線をうつしました。 な、なんでしょうか……? 「どノーマル装備のハウリンか……はん」 は、鼻で笑いましたよ?! 今この方、私を見て鼻で笑いました! なんと失敬な! 思わずムッとしてしまう私をよそに、その方はもう興味はない、とでも言いたげに再びターミナルへと向き直ります。しかもそれだけでなく、背中越しの捨て台詞まで吐かれるオマケ付きです 「そんな何にも出来ねぇ神姫でバトルに出たって、金と時間の無駄だぜ。 ウチ帰ってキャッキャウフフしてな」 な、何と言うことを……! いえ確かに実際連敗続きでマスターさんに言い訳のしようもないと思っておりますが、それにしても言い方と言うものがあるでしょうに! 憤然とそう口を開こうをした私……でしたが。 「ほほう……」 頭上より発せられた冷ややかな声に、思わず私はそちらを仰ぎ見ます。まっすぐに三白眼の方を見据えるマスターさんのお顔は私の位置からお窺いしづらいですが、いままでついぞ耳にした事のなかった冷たい声色は、しかし確かにマスターさんのお声でした。 「犬子さんが、何も出来ない武装神姫だと仰いましたか?」 その冷ややかな声に、さすがに三白眼の方もこちらに向き直りました。 「あ? なんか文句あるのか? まだ未勝利のクセによ?」 私たちの管理カード、しっかり見られていたようです。 「ええ、戦績が振るわないのは認めましょう。ですが、『何も出来ない』というのは取り消していただきます」 「へぇ……」 三白眼の方が、口元をゆがめます。獲物を目の前にした肉食獣を思わせる、獰猛な笑みです。 「そんな気はさらさらねぇ、っつったらどうすんだ?」 「取り消すと、認めさせます」 それに対して、萎縮することなくはっきりと言い切るマスターさん。 「おもしれぇ……この俺に勝負でも挑もうってのか?」 「そうすることであなたが、犬子さんが何も出来ないなどと言うことはないと認めてくれるというなら」 マスターさんは、きっぱりと即答されました。それを聞き、三白眼の方はますます笑みを獰猛なものにします。 「決まりだな」 「ええ。どちらの武装神姫が優れているか、証明してご覧に入れましょう」 ……そして私はといえば。 恥ずかしながら、いつも温和でいらっしゃる印象しかもっていなかったマスターさんの新たに見る果断さに、口を挟むことも出来ずに状況の推移を見守るばかりです。 と、三白眼の方のキャリングケースが、内側から開かれました。 「……なによアキ、またなんか揉めてるの? いい加減にしてよね、おちおち寝てらんないじゃない」 そう言いながらキャリングケースから身を起こしたのは、気だるげな雰囲気を纏わせたストラーフタイプでした。胸元に飾られた、バラと剣をあしらったエンブレムがオシャレです。 彼女は素体の状態ながら……その立ち振る舞いに、只者ならざる様子をうかがわせます。 なんと申しましょうか、動作の一つ一つが洗練されている……いえ違いますね、「動作の一つ一つ」ではなく、動作全体が非常に滑らかで人間的なのです。 それはつまり、どうしても動作の継ぎ目継ぎ目が不自然になるプリインストールされた身体制御プログラムではなく、自ら調整した身体制御プログラムを構築しているということです。 私も脚部パーツをGS ver1.13に換装させて頂き、そこから派生したモーションパターン全ての総調整を余儀なくされた事があるからこそそれがどれほど膨大な処理を必要とすることかを垣間見ることはできますが……脚部パーツからの派生のみならず全身の動作において、しかもあれだけの洗練された高度な身体制御を可能とできるようになるまでにどれほどの試行錯誤と経験の積み重ねがあったのか……想像するだけで戦慄を覚えます。 その一点だけを以ってしても、相手とするなら強敵になると言わざるをえません。 「まあそういうなよロゼ。俺たちに勝負を挑もうって言う勇気ある身の程知らずどもさ。 丁寧に遊んでやらねぇと罰が当たるってもんよ」 三白眼の方が、にやりと笑ってご自身の武装神姫に声をかけます。 ロゼ、というのがこの武装神姫の呼び名のようです。そういえば先ほどロゼさんが口にしていた「アキ」というのが、三白眼の方のお名前でしょうか。 「ふうん……この子がその相手? 見たところてんで素人っぽいけど」 余計なお世話です。と言いますかオーナーがオーナなら、神姫もまた随分と態度が尊大ですねっ。 それにしても位置的には貴女の方が低い場所にいるというのに、それでも私を見下す視線を取れるとは、なかなかに器用なお方です。 と、ロゼ(仮)さんはあからさまに肩をすくめ、首を振ります。 「ホントいい加減にしてよね……そうやってアキがバカみたいに噛み付いたケンカ、全部アタシにお鉢が回ってくるんだから」 「バカとは何だバカとは?! このバカ神姫が」 「なによー! バカって言う方がバカなんだからね!」 「その言葉、そっくりそのままノシつけて返す! ってーか今回は俺から売ったケンカじゃねぇ!」 「ふーん、今回『は』ね、今回『は』」 「う……」 「どうせそれだって、またアキが余計なこと言ったのが原因なんでしょ?」 「うう……!」 なにやら、類似の件は今までにもあったご様子。 アキ(仮)さん、口をしばらくパクパクさせておりました。反論の言葉を捜しているものと思われます。 結果、そのお口をついて出たのは。 「……メール管理もろくすっぽできねぇバカ神姫に言われる筋合いはねぇ!」 ……いえアキ(仮)さん、それは反論になっていません。と言いますか、明らかに逆切れです。 「何よ! そんな雑用なんて、電子秘書でもなんでも買ってやらせればいいでしょ?! アタシは武装神姫よ、ぶ!そ!う!神姫! だからバトル最優先に決まってるじゃない!」 いえロゼ(仮)さんも、その反論はさすがにどうかと。 と申しますか、もしかしてお二人とも私たちの事をお忘れではありませんか? お二人とも睨み合っておりまして、完全にお互いしか見えていないものとお見受けしますが。 「あのー……」 そんな私の思いを汲み取っていただけた……という訳でもないのでしょうが、マスターさんがおずおずとお二人に話しかけられました。 はたと、睨み合っていたお二人が同時にこちらを向かれました。 そのお顔は、如実に「私たちの存在を今思い出した」と語っておられます。 そしてアキ(仮)さんが、咳払いをひとつし、マスターさんへと向き直りました。 「勝負の方法はどうするんだ?」 あからさまに誤魔化し+照れ隠しです。 あ、ロゼ(仮)さんがキャリングケースに引っ込みました。 なんと申しますか、お二人の醸し出していた『未知の強敵』のイメージがわりと台無しです。 「僕のほうから提示する条件は一つ。三本勝負での決着を望みます」 そんなアキ(仮)さん達のご様子を見ていなかったかのように振舞うマスターさんは、やはりすばらしい方だと思うのです。 「別に三本だろうが十本だろうがかまわねぇけど……それなら勝てると踏んだってのか?」 「ご想像にお任せしますよ。一本目は譲ります。そちらのお好きに条件を設定してください」 「へぇ……大した自信じゃねぇか」 アキ(仮)さんは不敵にお笑いになりました。どうやら調子を取り戻されたようです。 「ええ、どんな条件にしろ、結果は変わりませんからね」 「……よく言った。後悔すんなよ?」 アキ(仮)さんが、再びにやりと獰猛な笑みを浮かべました。 「俺の名前は佐藤正昭(さとうまさあき)。こいつがローザリッタだ。大口叩くだけの歯ごたえを期待してるぜ?」 申し訳ありませんアキ(仮)さん改め佐藤さん、不敵な台詞もわりと手遅れ感が漂います。 「ま、せいぜい頑張りなさいな」 えーとロゼ(仮)さん改めローザリッタさん、キャリングケースの中からそう言われましても。 「……ですが正直、意外でした」 ここは休憩スペース。いつも私たちが対戦後の反省会を行なっている場所です。 もっとも今は反省会ではなく、単に飲み物を購入しに立ち寄っただけですが、何はともあれ佐藤さんたちと一時別れ私たちだけになったところで、私はかねてよりに疑問を口にしてみました。 「何がです?」 自動販売機にコインを投入しながら、マスターさんがお答えになります。 「マスターさんが、勝負を受けたこと……いえ、ご自身から勝負を挑んだことがです」 私の知っている限りのマスターさんには、相手が少々無礼な態度を取っても柔らかく受け流すような、そんなイメージを抱いていたものですから。 「僕のほうこそ、ちょっと意外ですねぇ」 自販機から出てきたペットボトルを二本拾い上げながら、マスターさんが少し不本意そうなお顔で仰いました。 「僕は、犬子さんのことを侮辱されて黙っているような、そんな人間と思われていたのですか?」 ………………………! 申し訳ない気持ちと、それをはるかに上回る感極まる気持ちが私の感情回路を乱し、ドッグテイルが暴走を開始します。 私のためにお怒りになってくださっていたとは……そんなことにも気付かなかった、自らの不明を恥じ入るばかりです。 「あー、いえ、そんな風に畏まらないでください。僕自身も熱くなっていてのことですし、改めてそんな風に言われると、こちらこそ恥ずかしいですから」 そう仰るマスターさんのお顔を伺えば、かすかに赤みがさしていらっしゃいます。そんなマスターさん のご様子は、先ほどの初めてお見かけした果断なるマスターさんでなく、私のよく知る温和なマスターさんでした。 そのことになんとなく根拠のない安心感を覚えた私は、次の話題を振ることにします。 「ところでマスターさん」 「なんでしょう犬子さん」 「先ほどの浜野さんのお話ですが、どうお考えですか?」 「そうですねぇ……」 実は私たちがこちらに来たのは、単に飲み物を買いに来ただけという訳ではありませんでして。 浜野さんが私たちのことを、佐藤さんに見つからないようにこっそりと手招きしお呼びになった、それに応えるための離席の口実でもあったのです。 『ちょっと揉めちゃったみたいだねー』 佐藤さんたちから見えない位置に誘われた私たちへ、浜野さんはいつものにこやかなお顔に若干の苦笑いを混ぜてお話くださいました。 なんでも佐藤さんはこちらのセンターでも指折りの実力者なのですが、バトルでの苛烈さや好戦的で尊大な態度、歯に衣着せぬ物言いであまり評判はよろしくないお方だとのことです。 とくに弱者や敗者にかける言葉などは、相手の至らない点を容赦なくビシバシと指摘する厳しいものばかりで、『そんな言い方をしなくても』ということが多いとか。 『でもさ、そんな悪い子でもないんだよ。丁寧に手入れされた神姫を見てればそれは分かるし。 ただちょっと熱くなりやすくて口が悪くて、思ったことをそのまま口にしちゃうだけなんじゃないかな』 それだけ揃えば十分問題人物と言う気もしないでもないですが、さておき今はさらにちょっと機嫌が悪いため、いつもよりも余計に荒れているとのことです。 『実は佐藤君、今まで通算29連勝しててね。それで今日は30連勝達成だって意気込んでて、店のほうでもこっそり記念品とか用意してたんだけど、そこで当たった相手が変わっててさー』 数値としては凡庸な勝率でしかないその対戦の相手は、その実よく見れば特定のステージ以外ではてんでからきし、されどそのステージであるならば常勝不敗と言う、極端な戦績を持つ規格外なお方だったとか。 そしてロゼさんが30連勝をかけてその相手と戦ったステージが、あろうことか先方がまさに無敗を誇る砂漠ステージだった、と。 油断をしていたわけでは決してなかったにせよ、ぱっとしない勝率を見てつい気が抜けてしまったのであろうその対戦の結果は、推して知るべし、です。 『うん、単に強敵に負けたってだけならまだ良かったんだろうけどね。 そんなピーキーな戦績の、しかもしっかり注意してそのあたりをちゃんと読み取っていれば少なくとも警戒は出来た対戦を、自分の不注意でコテンパンにされて念願の30連勝を逃したってのがかなりショックみたいでさー』 それは確かに、悔やんでも悔やみきれないことでしょう。 『要するに君たちは、その八つ当たりの矛先にたまたま当たっちゃったってことだね』 浜野さん、身も蓋もなさすぎです。 『まあ、これも縁だと思って、適当に気晴らしに付き合ってあげてくれるかな?』 浜野さんはそう締めくくって、お仕事へと戻られました。 以上、回想終了です。 「……正直なところ私は、あの方々が『悪い人ではない』と言われても賛同しかねますね」 マスターさんにも無礼な態度でしたし。鼻で笑われましたし。見下されましたし。 「うーん、まだ確証を持てるほど彼と関わったわけではありませんが……僕としては、やっぱり彼はそれほど悪い方とも思えませんね」 「思えませんか」 さすがマスターさん、人間が出来ていらっしゃる……と言いたいところですが、さすがに意外です。 「はい。なんだかんだと言いつつ、僕達のバトル登録を代わりにやってくれたじゃないですか」 それは言われて見れば確かに。態度はやや悪かったですが、困っているところを見かねて手を貸した、とも見えなくもないです。 「そして、そのあとの『何も出来ない武装神姫』の下りも……まぁ、あの時は僕も冷静ではいられなくて思わず反発してしまったわけですが、もしかしたら『能力の平均的なハウリンタイプは器用貧乏になりやすいから、なにか一芸を持つようにしないといけないよ』というアドバイスだったのかもしれませんし」 「それはさすがに、好意的過ぎる解釈かと」 「うーん、そう言われると弱いですねぇ」 マスターさん、少し困ったように苦笑いされながら、頭を掻いていらっしゃいます。 「ただまぁ、ああいう感じの方はいますからね。ご自身が優秀な分、周りの至らない部分がどうしても目に付いてしまって、それを黙っていられないような方が。 佐藤君も同じで、武装神姫に対して真摯であるからこそ、他の人の未熟な点が見過ごせないのかもしれません」 そういうものなのでしょうか? 「確証があるわけでもないんですけどね……まぁ、そのあたりは対戦しながら見極めていきましょう」 そしてマスターさん、口元に拳を当てて小さくクスッとお笑いになり。 「それでやっぱり性根のよろしくない方で、犬子さんを侮辱したのも悪意からのものだったと言うのであれば、その時は土下座して『もう勘弁してください』と言いたくなるまで叩き潰せばいいことですし。 くすくすくすくすくすくす」 「マスターさん、申し訳ないですけれどもその笑い方少し怖いです」 「やや、これは失敬」 どこかで聞いた覚えがあるような会話はともかくとして。 「マスターさんには、勝算がおありなのですね」 正直なところ、私があのローザリッタさん……ロゼさんに勝てるとは思えないのですが。 「ええ、佐藤君もうまい具合に、こちらの思惑に乗ってくれましたからね」 けれども、マスターさんがそう即答で断言されたならば、私に疑いようなどありません。 「でしたらマスターさん、私も微力を尽くします。ご采配よろしくお願いいたします」 深々。 「はい、こちらこそよろしくお願いしますね」 深々。 「……ところで犬子さん」 「何でしょうマスターさん」 「先ほど佐藤君の仰ってた『キャッキャウフフ』というのは、どういう意味なのかご存知ですか?」 あー、口にしていましたねぇ。前後の文脈の方の気をとられてスルーしていましたが、確かに仰っていました。 「『キャッキャウフフ』というのは、『武装神姫と睦びあっている』状態を差す俗語表現で、古典コミックにおける男女間の睦びあう描写に際して使用された表現をなぞらえたものが語源といわれています」 「……色々な意味で、わりと微笑ましい台詞回しですね」 「ええ、わりと」 「……………………」 「……………………」 「やっぱり佐藤君、さほど悪いお方ではない様な気がするのですが」 「奇遇ですね。私も今しがた、ちょっとだけそんな気がしてきていた所です」 こうして、私たちの初の『対戦相手の顔を見据えての、指名対戦』の火蓋が切って落とされようとするのでした。 ……が。 「お待たせしました」 ペットボトルを片手に、マスターさんはにこやかにご挨拶なさいます。 「別に待ってねぇ」 対する佐藤さんは順番待ち用ベンチに膝を組んで腰掛け、その膝の上に立てた腕に顎を乗せて、そっぽを向いていらっしゃいます。 「んー、順番待ちの列はあんまり減ってませんねぇ」 「俺に話しかけるな」 「武装神姫の人気は、さすがと言うことですねぇ」 「だからどうした」 「この分だと、まだまだ待ちそうですねぇ」 「見りゃ分かるだろ」 「実は前から疑問に思ってたんですよ。ほらゲームなどを題材にした少年漫画とかにある、主人公とライバルが対戦することになるシーン」 「唐突だなおい」 「大抵そういうのは人気のゲームとかを扱ってるんですが、それにしては都合よく二人分の機械があいてるなぁって。そう思ったことありません?」 「ねぇ」 「やっぱり現実にはそうそううまく行きませんよねぇ。漫画だと冗長にならないように その辺は省いてるんでしょう」 「俺が知るか」 「……聞きましたか犬子さん。この打てば響くようなシンプルでそれでいて的確なツッコミっぷり」 「はい。私たちにはなかったスキルですね」 「何がスキルだ何が」 「……いやはや本当に、いちいち反応を返してもらって、ありがたい限りです」 「お見事な律儀なツッコミっぷり、頭が下がります」 「ホントに下げるな」 「あ、よかったらこれ飲みません? まだ時間ありそうですし」 「いらん」 「まぁそう言わずに。二本あっても一人じゃ飲みきれませんし」 「……ちっ、仕方ねぇな。よこせ」 「はいどうぞ。お茶でよかったですか?」 「なんでもいい。……ありがとよ」 「聞きましたか犬子さん」 「聞きましたよマスターさん」 「なんか文句あんのかこら?! 物もらったら礼くらい誰だって言うだろうが?!」 「文句なんてとんでもない。むしろそれを当然と言い切れる誠実さに、感銘を受けているところですよ」 「私、先ほどのお話を信じてもいいような気がしてきました」 「何の話だ何の?!」 「……ちょっとぉ、なに騒いでんのよアキー? うるさくて眠れないじゃない」 「あ、これはお騒がせしました。まだ順番は回ってこないようですから、ごゆっくりお休みください」 「申し訳ありません、すぐに静かにしていただきますから」 「俺か?! 俺が悪いんか?!」 とまぁ、こんな風に。 カッコよく宣戦布告した相手とのんびり順番待ちをしなければならない情況がいたくご立腹であるらしい佐藤さんと、そんなことはお構いなしに物怖じせずいたって友好的に話しかける私たちの対戦の火蓋が実際に切って落とされたのは、それから10分後のことでした。 <その13> <その15> <目次>
https://w.atwiki.jp/hirosen/pages/218.html
ページ集約→アビリティ/区分E