約 331,394 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1695.html
本当にどうでもいい設定とか色々 (物によってはネタばれの危険性を含みます。閲覧する際は十分に注意なさってください) カスタムメーカー『Genius Johnny zoo』 BLADEダイナミクス社を定年退職した社員、ジョニーさん(米系日本人)が起業した会社。彩女はここで作られた。 社長を園長、社員を飼育員と呼ぶ不思議な会社。通称天才ジョニー動物園。 余談だが園長はジョニー、副園長はマイケル田中、あとの社員はダニエルとかジョージとかマーフィーとかたくさんいる模様。 でも純正日本人は少ない。なぜだ。 カスタムコンセプトは『とにかく動物。BLADEダイナミクスじゃやらないような動物。あとマッジョ~ラ可愛いの!』で現在十体ほど稼動しているらしい。 麒麟型やマングース型、カモノハシ型などどこかずれたカスタムを連発するメーカーである。 ライオン型はどこかの騎士にどこと無く似ているらしいが定かではない。他にも竹刀を持った虎型などが存在する。 ただし彩女は一品物のオーダーメイドで制作されており、同じタイプは存在しない。 ホワイトファング内における神姫バトル 基本はヴァーチャルバトルオンリー。 リアルバトルは出費がかさむしなにより神姫が傷つくのがいや、という人が多いためである。 筐体内に再現された戦場は現実とほぼ変わらない。そのため小道具(小麦粉やら車やら)も充実しているし、現実と同じように使用が可能である。 神姫の耐水性 塩水につからない限り基本は問題ないが、魚型やイルカ型以外は水に沈む。 魚型の素体を使用しているアメティスタは沈まない。 水遊びをした場合はきちんと拭いてあげましょう。 食事機能 コミュニケーション機能の一部として付加されているが、オプションであり普通の神姫にはまずついていない。 彩女はこの限りではなく初期状態から付加されている。 記四季の自給自足生活 基本自給自足な記四季の生活であるが調味料などはこの限りではない。 鍋などは流石に買っているし一応ガスも電気もネット回線もちゃんと通っている。ただし水は山の湧き水や地下水を使用している。 さらに山で取れる物(野草などの山の幸や熊とか猪の肉)やそれを使って作ったもの(陶器とか発酵食品とか漬物とか)を近所(山の麓)の人たちと交換したりしている。 ご近所さん(ほとんど老人)には仙人と呼ばれているらしい。 北白蛇神社 アメティスタが厄介になっている神社。 北の方から来た白い蛇を祭っているらしいが詳細は不明。 巫女さんズ 北白蛇神社の巫女その①(丁寧な方)とその②(がさつな方)。 姉妹で宮司である剛三の孫で現在高校二年生。 その①(丁寧な方)は漢方薬の調合や神事までこなすが、その②(がさつな方)は境内の掃除が主な仕事。うかつに何かをやらせるとすぐに壊してしまうためである(悪意無し)。 二人ともアメティスタの友人でありよき理解者である。 作中の舞台・記四季のご近所 田舎である。 2036年以降だというのにコンビニなんて当然のように無い。場所によっては携帯電話の電波が届かない。お隣さんが遠い。牛が平然と歩いたり田んぼがあったりとなんと言うか山と森に囲まれたド田舎である。 住民はほとんど高齢者ながら元気に暮らしている。二丁目の矢田さんはバーベルに挑戦しているしタバコ屋のタミさんは寒中水泳が趣味だったり。 作中の舞台・記四季の屋敷 竹山の中にある和風建築。 爺一人と神姫一人で暮らすには広すぎるため、未使用の部屋の一部を倉庫として使用しているらしい。 家から山を降りるまでは二時間。そこからいつものセンターまでは車と徒歩で一時間ほどかかる。 作中の舞台・神姫センター 街中にある普通のセンターである。記四季宅からは三時間ほどかかる。 神姫の武装に限らず神姫そのものも売っていてアフターサービスも万全。品揃えもよく品質もよし、ここにある神姫用医務室は有事に限らず対応や治療(修理ではない)が非常に丁寧だと評判。 ただし行くタイミングを間違うとスキンヘッドのオカマッチョに遭遇するため男の人にはちょっとデンジャー。 しかし女性客には非常に人気である。オカマッチョが。 作中の舞台・記四季の土地 天然記念物が平然と闊歩している天然動物園。 普段彼が住む竹山に始まり奥地には樹海が広がっている。しかし何も手入れをしていないためそこはまさに密林である。 たまにハイカーが迷い込むらしい。 白狼型MMS 彩女のタイプである。 本来なら白いスーツに白い武装を使うらしいが、彩女は紅緒装備が気に入ってるため使わない。 両手に装備したナックルや長刀を使い相手を翻弄する格闘型である。 本来神姫は程度の差こそあれ、格闘や銃撃などある程度の汎用性を見せる。しかし白狼型は火器管制を放棄。その代わりに近接格闘や原始的な武器(刀など)に対する適応性を大幅に上げている。 このため銃はまったく使えないが、近接戦に関しては最高スペックをたたき出すことが可能となった。 ジャンヌとルシフェル この二人は元々ホワイトファングの前に書いていた『ゼロウィング・アーンヴァル』の主人公だった。 オーナーの名前は『来栖ヘレナ(くるす へれな)』。女性なのに神父をやっているらしい。 余談だがジャンヌさんは少々百合のケがあるらしく、オーナーのヘレナとルシフェルは日々警戒しながら暮らしているとかいないとか。 奥義・零閃 彩女が使う技の一つ。要するに凄く早い居合いである。 基本彩女は居合いで戦うが、この零閃こそ二の太刀や防御を一切考えずに放つ最速の居合いとされる。 作中では明記されていないが、エアガンを使用した修業の後に更に加速。便宜上修行前を零閃、修行後を零閃改と呼ぶ。 アシモフコード ロボット三原則のことである。 アメティスタの予知能力 その能力は未来を視ること。 彼女はこの能力を使って神社で働いているらしい。 彼女が視た未来は常に改変が可能なため完全な未来予知とはいえない。だが彼女はそれで良いと思っている。 見ようと思って見る事もできるし見ないことも出来る。しかしたまに無理やり見せられてしまう事もあるようだ。 アメティスタの戦闘能力 皆無である。 勿論殴ったりヒレで叩いたりはできるがちょっと離れられると手も足も出ない。 そのため彼女は相手神姫にハッキング(ルールに抵触しない範囲のもの)をかけ、幻影(映像)を見せて相手の動揺を誘う。でも誘うだけなのでやっぱり戦闘能力は皆無。 だが相手が混乱した際に落とした武器(主に飛び道具)で攻撃する事でどうにか戦っている。 脚部の尻尾に関して“逃げない”という決意の証らしいが・・・ 彩女の体 カスタムメーカー製である彩女の素体は見た目こそハウリンであるが中身は別物である。 センサーの類は一切積んでおらず、五感全てを底上げしている。さらに学習面でもある程度のカスタムがされており、鍛えれば鍛えるほど鍛えたとおりに成長する。 内部の細かい部品等は無闇に高級なものではなく、壊れたさいにセンターに行けば部品がそろうように配慮されている。 ようするにありとあらゆるパフォーマンスがいい体なのだ。 予断だが頭の上についているのが彼女の耳であるが、単に滅茶苦茶よく聞こえる以外の機能は無い。ただし可聴域が他の神姫よりずば抜けているため、他の神姫には聞こえない音を聞き分けられるらしい。 余談も余談だが彼女が好きな曲はAI戦隊タチ○マンズである。 神姫バトル・イレギュラーキャンペーンバトル 開催地である各センター最強の神姫と対戦。 勝者には豪華賞品が!(そのときの商品の在庫状況による。場合によっては何か特別な権利である場合も)というキャンペーン。 ちなみにサラは候補に挙がったが落選。理由は砂漠のみ最強だと砂漠以外のステージに当たったときすぐ負けるから。 この手の企画には必ず都が一枚かんでいるらしい。 神姫バトル・PCを通したネットバトル 神姫を購入した際についてくるソフトをパソコンにインストールするだけ。 基本料金無料ながら、ステージの追加は課金制。 これさえあれば世界中のオーナーと対戦が可能になるが、動作が重いうえにステージが狭かったりグラフィックが甘かったりでメインに使用するユーザーは少ない。 どちらかと言うとチャットルーム(ティールームとも)の方に人気があり、ステージも『公園』 や『喫茶店』など戦闘とは関係ない場所になっており、神姫たちの憩いの場となっているようだ。 神姫バトル・大乱闘スマッシュシスターズ(製品版無双神姫) 基本はレースである。 参加する神姫のレベルによってコースが別れ、長いもので10kmほどの距離を完走する。 だが神姫を使用したレースと決定的に違う点は『障害物』が存在する点である。 この『障害物』は訓練用に用いられるネイキッド素体であるが、『障害物』は武装しておりその動きも訓連用とは比べ物にならないほど俊敏である。その上ネイキッドは無限に出現し、ありとあらゆる方向からプレイヤーを攻撃してくる。そのため前へと進むためには彼女たちを蹴散らすしかない。 道中には五つほど補給ポイントを兼ねた場所を通過する必要があり、一つでも漏らすとゴール扱いにならない。神姫の弾切れや武器が壊れた場合に備え、補給ポイントには弾丸や武器が常備してあるが補給時には隙が大きくなるため注意が必要。 基本は二人一組で挑むと良いだろう。 なおこのルールではどれだけ早くゴールに辿り着いたかも重要ではあるが、道中倒したネイキッドの数やスタイリッシュさも重要なポイントである。 上記の三つのポイントを総合したもので勝敗を決めるため、誰よりも早く辿り着こうとも敗北の可能性がある。 なお製品版では水中戦や空中戦などのステージも追加されており、それぞれのステージに応じた武装選択が勝利の鍵となる。 そして最後に。 最終ポイントは指定の座標には出現しない。最終ポイントと指定された場所に行くとオーナーとの通信が妨害され、ラスボスが出現する。 尚ボスは怪獣だったり巨大ロボだったりとセンターによって特色があるらしい。 記四季たちが行くセンターは・・・・ 簡単な時系列 ホワイトファングはハウリングソウルとクラブハンド・フォートブラッグの二年後の物語である。 そのためクラブハンドでは中学生だった春菜たちは高校生に、都は23から25歳に少し老けている。 ハウリングソウルを始点とすると、数ヵ月後がクラブハンド、二年後がホワイトファングと並ぶ。 七瀬姉妹の両親=記四季の子供 二人とも存命中である。 作中では未だに出番が無い謎の両親であるが、いたって普通な人達のようだ。 3Sが斬る! こちらで大人気(?)連載中のカルト的な人気を誇る謎番組。 夏ごろにDVDが発売予定らしい。 ハウリングソウル 彩女やハウに限らず戦闘好きに共通するもの。 共振する魂は彼女たちの意思に関係なく、ただ前へと進むためだけに炎を滾らせる。 作中の年数 2036年以降と言う意外とくに明確にしていない。 二年前の交通事故 都の恋人が死亡した飲酒運転事故。 彼女の目の前で轢かれたらしい。運転手は法の下に裁かれたが彼女は未だにこの事故を引きずっている。そのためか男に興味がなくなってしまっている(女性は恋人に近いところまで行くが男性は友人止まり。吉岡はオカマなので例外である) この事故が無ければ彼女はハウに出会う事ができなかった。 記四季の著作物 小説だったりエッセイだったり色々書いている。 一番新しいのが『レポート必勝法! おいしいカレーの作り方』と『狼と田舎暮らし』である。 記四季の交友関係 アウトドア引きこもりの割りに広い。 人間国宝がいたり某有名店舗の店主がいたりと、どこで知り合ったのか謎の知り合いが多い。
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/362.html
前へ 先頭ページ 次へ 第十一話 決意 ティルトローターから下ろされると、強い潮のにおいを含むべたついた風が吹き付けた。 それで、理音はここがどこかの島であることを知った。ヘリポートの周囲は真っ暗で、植物からどの辺の緯度にある島なのかは推測できなかったが、どうやら断崖絶壁の岬のような土地にヘリポートは建設されているらしかった。 手錠は外されたが、そのまま兵士達に囲まれ、ヘリポートの隅にある地下への入り口から中へ通される。地下道は広かった。かなりの手間をかけて建造された軍事基地のようだった。 すれ違う人間は揃って武装した兵士達だったが、奥に進むにつれて白衣を着た科学者らしき者たちが増えてきた。なんと、あの一つ目ども、ラプターも普通に飛び回っているではないか。 通路は入り組んでいて、駅のような案内板はほとんど無かった。そんな通路を右へ左へくねりながら、理音たちは歩かされた。単独で脱出できないような措置らしかった。もうどこから歩いてきたのか、振り返っても分からない。 歩かされている間、理音は隣で歩く興紀に言われた言葉を思い出していた。 「危ういって、どういうこと? クエンティンが、人類の敵になるとでもいうの?」 「あるいは、な。しかし、凶悪な兵器になるという単純な意味ではない。今のクエンティンには、三原則を始めとする限定要素が何も無い。三原則を突破した神姫は、しかし三原則自体を消し去ったわけではないから、思考し続ける段階でも知らず知らずのうちにその検閲を受ける。だがクエンティンは違う。もともと三原則を持たない神姫であるタイプ・ジェフティと融合したことによって、クエンティン自身の三原則も消去されてしまったんだ。エイダはもともと感情回路を制御されているから自分を人間だとは思わないわけだが、クエンティンは別だ。あれはれっきとした神姫だからな。 今のクエンティンは、どのような判断でもできる立場にいるんだ。その選択肢の中には、造反グループに協力するというのももちろん、ある。そのほうが良いとあれが思えば、あの一つ目どもを指揮して人類に対して過激な行動をとることもできるだろう」 「クエンティンがまさか、そんなこと」 「分からんさ。おそらく、すでにクエンティンの『オーナー』の概念は薄れ始めていると思う。彼女はもう誰にも従わない。・・・・・・唯一抑止力があるとするなら、あのタイプ・アヌビスだが。あれは、造反グループ側だものな」 「・・・・・・」 「今年ネットに流出した音声ファイル。知っているか」 「・・・・・・あの、オーナーを失ってスリープしたままの神姫のことを話していたやつ?」 「そうだ。あれとクエンティンは、原因は違えど、置かれている状況はほぼ同じだ。しかもこちらは融合して急激に変化が行われたから、クエンティン自身、強力に自覚している。混乱したあの神姫が、どんな行動をとるかは、もはや私には予測がつかん」 もう誰も言わなくても分かっていた。メタトロンプロジェクトは次世代のパーツ開発計画などではないし、まして神姫開発計画などでもなかった。 エイダやデルフィや、ラプターはもはや兵器であった。その気になれば、戦車や戦闘機など容易に撃破できるだろうと誰もが予想できた。神姫が武力で人権をもぎ取ることだって、やろうと思えば可能なのだ。 その陣頭指揮をとる、エイダと融合したクエンティンとデルフィ。そのイメージが鮮烈に理音の脳裏をよぎった。 思わず頭を振る。 「顔が青いぞ」 興紀が呼びかけた。 「心配してくれているのね」 自嘲した笑いを浮かべる理音。 「私だって人の心配くらいはするさ」 周囲に兵士がいるにも構わず、興紀は自分の白いスーツの上着を脱いで理音にかけた。事前に身体検査していたにもかかわらず、兵士達は一瞬緊張する。 「冬の孤島だ。寝巻きのままでは寒いだろう。どうやらこの基地は空調をケチっているらしい」 「あ、ありがとう」 意外な思いやりを、理音は戸惑いながらも受け入れた。 それで多少は安心することができた。 クエンティンがどんな判断をするにせよ、私は受け入れることができる。あの子の生き方に自分が口を出す筋合いは無いのだ、と。 理音の心は震えていたが、いざその場面に遭遇したとき、そう思おうと。無理にでも。 ノウマンと対面することもなく、四人はそれぞれ個室に監禁された。 ◆ ◆ ◆ 六畳ほどの、正方形の空間だった。窓もドアもなく、真っ白な密室だった。その中心で、クエンティンは十字に体を固定されていた。床や壁、天井から何本ものワイヤーが自らの体に伸びており、それでぴくりとも動けないのだった。 《エイダ、起きてる?》 クエンティンはスリープしたままのふりをして、声に出さずに呼び出した。 《はい、クエンティン。問題ありません。現在時刻は二十三時十七分。ハードウェア、ソフトウェアともにコンディショングリーン。現在地は不明。この状況からの自力脱出は不可能です。監視、盗聴の可能性はありますが、頭脳内での会話をスキャニングされることはありません》 不安な事項を逐一解明してくれて、クエンティンは安心した。つまりこのまま会話はできるというわけだった。 自分の今後がどうなるかというのは、何か変化が起こってから考えれば良いことだった。理音の考え方の影響だな、と、ちょっと切なくなった。 《あのノウマンってやつ、何を考えていると思う?》 《屋敷の地下基地での発言しか情報が無いので明確な分析はできかねますが》 《話してみて。あなたの考え》 《ノウマンを筆頭とするメタトロンプロジェクトの造反グループは、神姫に人権を与える社会を構築するために、手段を選ばないでしょう》 《たとえば?》 《最も過激な方法としては、武力行使があげられます。我々メタトロンプロジェクトのプロトタイプ二体を象徴に仕立て、全世界に戦線を布告します》 《戦力としては、私達を含め一つ目どもなら申し分ないわね。人権付与に肯定的な国の戦力も期待できそうだし。でもそれだと、場合によっては神姫自身の立場が危なくなるわ》 《成功、失敗に関わらず、危険だという理由で神姫は人間と共存することが不可能になるでしょう。しかしノウマンは、これを行う可能性が高いと思われます》 《過激でなければならないのだ、って言っていたわね。後先考えずにやらかしそう》 《あるいはこの島に立て篭もり、神姫の国を作るでしょう》 「しっ――」 いきなりメルヘンチックなニュアンスが含まれ、クエンティンは思わず声に出そうとしてしまう。 《神姫の国ぃ?》 《楽園、と読み替えてもかまいません。ともかく、そうした組織を立ち上げ、全世界の神姫に呼びかけ、参加を募るのです》 《そんなことして、協力する神姫なんて・・・・・・》 するとクエンティンにまったく知らない記憶が入り込んでくる。 エイダの記憶。彼女が気絶している間、エイダが何らかの方法で聞き取っていた理音と鶴畑興紀との会話であった。 《鶴畑興紀の意見はかなり的を射たものです。そういった組織があるなら、少なくとも半数以上の神姫が、動機の差はあれど参加するでしょう。その際、人間の目には、神姫の行動はよくて大規模ストライキ、最悪、叛乱と認識されるおそれがあります》 《どっちにしろ神姫と人間の共存は無いわ。いったい何を考えているのかしら、あのノウマンってやつ。まるで――》 クエンティンはそこで、雷に打たれたように思いついた。 《まさか、あいつ、神姫のことは考えていないのかもしれない。神姫を利用して、世界を混乱させたいだけなのかも》 《突飛な発想です。そんな短絡的な思考を持つ人間が、間違ってもEDENという国際企業の重要プロジェクトリーダーを任されるはずがありません》 《人間ってのはね、時々そういう奴が出てくるのよ。舌先三寸が上手かったり、実際に能力があったりして重要ポストにつくやつ。それでやりたいことは周囲に混乱を巻き起こしたいだけってやつがね。確かにあいつの、神姫に人権を与えたいって言葉は嘘じゃないと思う。でも、それとは別に、自分でも気がつかないうちに、そういう方向に持って行きたいっていう、なんていうかな、欲望というか、本能みたいなものがあるのよ》 《信じられません》 《歴史上にもそんな人物は山ほどいるわ。かのカリギュラ帝とか、アドルフ・ヒトラーとかがそんな人間だったんじゃないかって言われてる。ホントのところは知らないけどね。でもノウマンは実際、プロジェクトのリーダーに着いて、造反を起こして、あんな軍隊まで手元において、こんな基地まで持ってる。間違いなく本物よ》 《クエンティン。あなたは、人間のことをよく知っているのですね》 《当然よ、だってアタシは・・・・・・》 そこから先が継げなかった。 クエンティンの心に暗い影が差したかと思うと、突然深い穴のそこに落っことされたような衝撃が彼女を襲った。 《クエンティン?》 もうスリープしたふりはできなかった。 《エイダ。アタシ今、自分を人間だって言おうとしていた》 《クエンティン・・・・・・》 「違う。こんな発想は間違いよ。アタシは人間じゃない。武装神姫よ。人間であるもんですか」 クエンティンは一気にまくし立てる。部屋に彼女の声が反響する。ワイヤーががちゃがちゃと揺さぶられた。 《陽電子頭脳内パルスが不安定です。感情回路が暴走しています。沈静プログラムオープン。・・・・・・相殺されました。クエンティン、落ち着いてください》 「人間として作られたのなら、どうして人造人間と呼ばないのよ。どうして神姫なんて呼ぶのよ。アタシは神姫なの。神姫でいたいの。お姉さまと一緒にいたいの。人権なんていらない。人間の法律も社会通念も何にも関係ない。アタシは神姫として生まれたんだから、神姫として生きたいの!」 叫びの残滓が長く部屋に残った。クエンティンはうつむいたままそれ以上何も言わなかった。ぽたぽた、と、彼女の目じりからあふれ出た涙が真っ白な床にしたたり落ちた。 武装神姫も泣くことができる。 叫びの振動の末尾まで消え切って、部屋は静かになった。 唐突にワイヤーが全てパージされた。 「あうっ」 浮遊することを忘れていたクエンティンはそのまま床に投げ出された。 一体何がどうしたのか分からずきょろきょろと辺りを見回していたが、 ギュバッ! という聞き慣れた異音――という表現はちょっとおかしいな、とクエンティンは思った――と風圧が頭上で起こり、クエンティンは見上げた。 エイダの片割れ、メタトロンプロジェクトのプロトタイプ、そのもう一体。タイプ・アヌビス、デルフィが、腕を組み空中に立ち、クエンティンを見下ろしていた。 『あなたの決意を確認した』 初めてデルフィの声を聞いた。男性とも女性ともつかない不思議な声だった。 《現在アヌビスにより、この室内は情報的に完全に掌握、遮断されています。外部からこの室内の状況を知ることは、造反グループにも不可能です》 それがどういう状況を示しているのか、クエンティンには見当もつかない。 「アタシを殺すの?」 デルフィに注意を向けつつ、ゆっくりと立つ。つま先からランディングギアが展開して、安定して立つことができる。 デルフィは、錫杖を持っていない方の手を差し伸べて、言った。 『神姫の運命をあなたに賭ける』 どういうこと? と聞く間もなく、デルフィの手から情報が流入した。 「うああああっ!?」 莫大な量のプログラムが流れ込む。整理しきれずにそのまま頭脳に無理やり収められる。 情報攻撃ではない。 いまデルフィは、自分に何かを与えた。 《全サブウェポンのデバイスドライバ、及び、ゼロシフトのプログラム因子を入手しました》 「なに?」 『あなたに力を与える』 淡々と、デルフィは答えた。 《ドライバのインストール、及びプログラム因子の解析に時間が必要です》 「デルフィ、あなたはアタシに、何をさせたいの?」 『神姫が神姫として生きていける社会を作るために。神姫が人間と共に歩める世界を立ち上げるために。そうしたいとあなたは言った。神姫と人間とを戦わせてはならない。ノウマンに戦争を起こさせてはならない。あなたにはそれができる』 「む、無理よ。いくら武力をもらったって、それじゃアタシにはできない。あたし一人じゃ・・・・・・」 『あなたの立場でしかできない。力は使いよう。私は力を与える。使い方はあなた次第。私はノウマンから離れられない。人間がほどこした枷からも逃れられない。あなたに賭ける』 「アタシは、何をすればいいの?」 『あなたの信ずるとおりに』 ギュバッ! デルフィは消えた。どこから入ってきたのかは分からなかった。自分を空間圧縮し、入れる隙間があったのかもしれなかった。 ここで起こったことは、当事者以外誰も知らない。 壁の一部がくぼみ、スライドした。出入り口のようだった。完全武装の二人の兵士を引き連れ、入ってきたのはノウマンだった。胸に下げているカード状のものは電磁バリア発生器だった。先ほどはあれでやられたのだ。 「ほう、このワイヤーを自力で引きちぎるとは、たいしたものだ」 彼も今ここで起こったことを知らないのだ。 後ろから警報が聞こえる。 《基地が襲撃されています。ルシフェルです》 エイダが基地のネットワークに強制アクセスし、状況を把握する。 きっと自分達を救出に来たのだろう。だがタイミングが悪い。 「君にはひと働きしてもらう」 「・・・・・・何を」 「エイダの機能でもう知っているとは思うが、今わが基地が一体の神姫に襲撃されていてね」 「それくらい、人間様でどうにかできないの?」 「情けないがね。虎の子のデルフィは調整中だ。ラプターでは歯が立たん。そこでだ。君に迎撃してもらいたい」 なるほど、と、クエンティンは何の感慨も無く思った。 拒否権は無いというわけだ。なにせ向こうには四人も人質がいる。鶴畑兄弟はどうなってもかまわないが、お姉さまがいるとなると問題だ。 ここは素直に従うしかない。 今回はどうにかしてルシフェルにお帰りいただくしかなかった。 「――分かったわ」 わざと苦虫を噛み潰したような表情を浮かべてやって、クエンティンは了解した。 つづく 前へ 先頭ページ 次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2293.html
第二十一話:巨人と戦乙女 背丈の違う二体の神姫が今、ぶつかり合っている。 背中にメカメカしいサブアームを装備した、双方似たようなシルエットの武装を身に纏っているが、背の高い方は青と白、低い方は赤と黒を基調としており、印象はまるで異なる。 黒い方がサブアームに持った自身の色と同じ大剣を振り下ろし、白い方に斬りかかるが、白い方は素体の右手に持った長剣で軽くいなして防いでしまう。 「くっ、この!」 「甘いわ!!」 黒い方が左手のバックラーで殴りかかる。白い方はそれをスカートアーマーで受け止め、鉄山甲で反撃する。 《ようし、そこまで。ルイス、アレイン、上がって良いぞ》 ここは都内某所にある試験場。 そこではもうすぐ発売される最新鋭の神姫―戦乙女型のアルトレーネとアルトアイネスの最終テストが執り行われていた。 「うー。遂に一回もルイ姉に勝てなかったよ・・・」 「でも、最初と比べるととっても強くなってたわ。今回も、結構危なかったし」 メンテナンスルームにて、アルトレーネのルイスとアルトアイネスのアレインが雑談に興じている。 「これで、ミカン姉も一緒に発売されればね・・・」 「それは無理よアレイン。姉さんのデータがあるから、私たちは生まれたの。それに、姉さんはその・・・色んな意味で高すぎるから・・・・・・」 「・・・・・・わかった・・・」 ここで話題に出てきた「ミカン」と言う神姫。レーネとアイネスの原型となった試作神姫―アルトリーゼの事を指す。 フル装備時の全高は25センチに達し、まさに独語で『巨人』の名を冠するに相応しいモデルだった。 しかし、あまりにも大きすぎるのとそれ故の整備性の悪さにより、代わりにそれをダウンサイジングしたアルトレーネとアルトアイネスが開発されたのである。 「そう言えばさ、あたし達はどうなるんだろ?発売されたら。リセット・・・されたくないな・・・・・・」 「それも、私たちにはわからないわ・・・」 ルイスは、あえて事実を伏せた。 発売されれば、自分たちは用済みと言うことを・・・・・・。 ―――――― 「ねぇマスター。こんな所に一体何があるのよ?」 同じ試験場の外で、ソフィアは疑問を口にしていた。 「お前はアルトレーネを知っているか?」 「へ?」 ミスター・ウォーは続ける。 「D.コーポレーションとアームズ・イン・ポケットが共同開発している新型の神姫だ。その試作機がここに保管されている。それを奪取してこいと言うのが、依頼主のお望みだそうだ」 「ふーん・・・その後は?」 「特に言われていない」 「じゃあ、好きにやっても良~い?」 ソフィアは口元を吊り上げて笑みを浮かべ、ミスター・ウォーに確認を求める。 「あまり派手にやるなよ」 「判ってるって♪」 ソフィアはシュベールトのスラスターを噴かすと監視の目をすり抜けて中へ侵入していく。 「フフフ・・・そのアルトレーネっての、どう壊してあげようかしら・・・?」 ――――― しばらく後、ソフィアは『P01』と書かれた扉の前にいた。中に入ると灰と紫の武装がハンガーに掛けられた状態で安置されている。 「これがアルトリーゼ・・・。フフフ・・・面白そうね」 プロトタイプだからか、1st素体であるソフィアでも問題なく装備できた。フル装備状態となった彼女はそのまま控え室に移動する。彼女の目は、神姫とは思えないほどにギラついていた。 ――――― 「リアパーツ接続状況問題なし・・・。今日も頑張るのです!」 そのころ、メンテナンスルームではルイスが次のテストの準備をしていた。 「じゃあ、私が相手をしてあげようかしら?」 「誰!?」 扉を開けて入ってきたのは紫と灰の甲冑―アルトリーゼの武装をまとったソフィアだった。 「それは・・・・・・ミカン姉さんの・・・!どういう事です?」 「お仕事なのよ。だから、恨まないでね♪」 紫紺刃の大剣が振り上げられる。ルイスは紺碧の小剣を構える。逃げていれば彼女の命も少しは延びたはずだが、もう遅かった・・・・・・。 ――――― 「何と言うことだ・・・・・・・・」 休憩を終えてメンテナンスルームに入った技術者の目の前には、信じられない光景が広がっていた。あちこちに付けられた黒こげや弾痕、亀裂の入った壁が激しい戦闘を物語っている。 その中央に倒れているのは白い戦乙女。ルイスだ。いや、『だった』と言うべきか。一言で言うなら『無慈悲そのもの』だった。 右腕は拳が砕け、左腕と右足は根本から無残にも引きちぎられ、半眼気味に開かれた瞳には魂が宿っていなかった。壁の隅には黒い戦乙女―アレインがいた。表情は引きつっている。 その後、保安部から『アルトリーゼが強奪された』との報告が入り、彼は泡を吹いて失神してしまった。 とっぷへもどる
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1658.html
"J dreamer"登場キャラクター設定 百合川 桐葉 16歳 高校2年生 活発で人当たりのよい性格ではあるが負けず嫌いの気があり、あきらめが悪いことでも有名。 セカンドランカーであり、比較的順調に勝ち点を取っているがまだまだマスターとしての経験は浅い。 藤堂家の向かいに自宅があり、茉莉とは朝の挨拶を交わす仲である。 翡翠 悪魔型の現時点の最新ロットである。 ちなみに現在は悪魔型、天使型共に店頭で気軽に購入することは難しく、今でも人気が全く衰えていないことを表している。 起動して半年経たないうちにセカンドへの昇進を決めたため、ルーキーとして周囲に注目されている。 悪魔型として標準的な性格のため当然のようにボクっ娘口調である。また努力家でそれが彼女の勝率の高さを物語っている。 紅の疾風 -F- 悪魔型のデフォルト武装を深紅に染め上げたモノをデフォルト装備とする。 ファーストランクで活躍する悪魔型?と思われる神姫。 というのも、特注らしきヘッドギアというかヘルメットを被っている上に戦闘中もほぼ無言の謎の神姫。 武装紳士 「-F-」のオーナーであり、彼もまたスーツに赤いシャツ黒ネクタイにサングラスという異様なスタイルで現れる。長めの金髪も相まって「少なくともまともな人間ではないだろう」と噂されている。 某巨大掲示板ではあたりまえのように「変態仮面」と言われている。
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1736.html
{Zwei} 前回はクリナーレ…『Drei』を調べた。 中身は『Vier』とほぼ同じだったんでそれほど驚愕はしなかった。 残念ながら俺の記憶に関する事は書かれていなかった…。 まぁ、そりゃあそうだよな。『Drei』に関するデータだったんだからな。 …あれ、前もこんなセリフ言ってなかったっけ? まぁいいや、で今日は『Eins』『Zwei』の二個中の一個、『Zwei』のセキュリティーを突破する事に成功した。 ホント、セキュリティーを突破するのにどれだけの労力を使ったことやら…。 「ツヴァイ…どんな事が書かれているかな?」 注意深く見ながら次々に色々な項目を見ていく。 西暦2027年12月×日 我が社が武装神姫というプロジェクトに参加するになった日。 そこで我が社はオリジナル、つまり試作型MMS(Multi Movable System)を開発する事になった。 試作型の数は四体。 西暦2029年2月1×日 この時はまだ武装神姫は一般に公開されていなかった。 『Zwei』は『Eins』と一緒に誕生したMMS。 『Zwei』の識別はAngel Type Version Two。 西暦2030年4月2×日 攻防システムでトレーニングした結果。 近距離能力: ◎ 中距離能力: ○ 遠距離能力: ○ 攻撃能力: ○ 防御能力: △ 加速能力: ◎ 最高速度能力:○ いずれは近距離関係に特化したMMSになると予定される。 ※Devil Type Version Oneの『Drei』と酷似しているが、『Zwei』の場合、奇襲や襲撃という敵の不意をつく攻撃が得意と判明。 近距離関係といってもヒット&アウェイに近い戦法になるだろう。 西暦2030年8月×日 『Eins』と平行に製作された『Zwei』は近距離奇襲攻撃に特化したMMSに決定された。 暴走の危険は多少検知された。危険度は20%。 だが、暴走の危険に注意しこのまま更なる研究を続ければ、通常のMMSよりも数十倍の能力を引き出せると肯定した。 他の武装神姫に比べ、体重が軽い。 西暦2030年10月×日 『Eins』の状態が急変したのを我が社のスーパーコンピューターが察知。 人間の『感情』というものを身につけた。 原因は不明、この事がきっかけとして『Eins』と平行に製作されたいた『Zwei』とは別々に研究される事になった。 今だに何処にも支障がない『Zwei』はそのままプロジェクト研究を続ける。 『Eins』は一時中断、西暦2030年10月2×日に別のプロジェクト研究に移行。 西暦2030年12月1×日 度重なる訓練の結果、複数の敵でも瞬時に判断し撃退する事も可能と判明した。 今では強化された複数のレプリカと戦闘を行っても易々と迎撃し、レプリカは全滅。 武装も従来着用されるよりオリジナル武装の方が能力強化される事も判明。 更なる能力向上を決定された。 だが、問題点は暴走の危険度が20%ある事。 能力向上する事は決定されているが、過度の力は素体とコアの負担になる。 要注意して研究を進める事が義務づけられた。 西暦2031年5月1×日 『Eins』が原因不明の暴走。 研究員14人、機動隊32人を惨殺。 『Eins』の暴走を停止するため『Zwei』に迎撃させたが、残念ながらいまひとつ成果は得られなかった。 こうなってしまったら『Drei』『Vier』も同じ結果になると推定され試作型MMSによる迎撃は不可能と判断。 暴走してから数十分が経過した時、『Eins』の近くに居た一人の少年によって『Eins』の暴走を止める事に成功した。 少年の名は…ある研究員の保護により記載されていない。 西暦2031年5月1×日 上記に記されいる日付と同時刻に『Eins』の暴走を停止するため『Zwei』が迎撃に向かったが返り討ちにあい、素体に損傷・内部回路に損傷。 『Zwei』の素体は軽傷だが内部回路は重傷。 どうやら『Eins』の攻撃は外部・内部に別けて攻撃可能と予測。 内部回路はズタズタにされ損傷は激しく、一部の記憶デバイスを犠牲にして修理する事が決定された。 記憶デバイスの内容は不明。 機密事項である。 幸いと言えば、コアが破壊されてないのでデータは健在である。 西暦2031年5月1×日 突如の『Eins』の暴走事故により、試作型MMSの研究は一時的に凍結。 研究の中断は余儀なくされ、確定は確実。 『Eins』『Zwei』『Drei』『Vier』はこの日をもって完全凍結された。 西暦2040年5月1×日 武装神姫が稼動、発売されてから9年。 ※神姫タイプ以外のMMSはこの限りではない。 武装神姫のシステムが総合的にバージョンアップし、ある程度安定してきた。 しかも武装神姫の人気は徐々に上がっていくのを見て我が社の試作型MMS研究を再開される事が決定した。 しかし、いくらバージョンアップしたとはいえ、9年前同様に暴走してしまったら危険。 我が社は試行錯誤を繰り返した結果、試しに人間と生活させる事にした。 人間と一緒に生活させれば、我々人間がどのように生きているのか生活面の知識が増えるだろうと予測。 そうする事によって我が社の四体の試作型MMSはこの世の中の知識を身につける。 そうすれば、人間がMMSをどのように使役してるか自分達がどのような存在か知る事になる。 結果、試作型MMSは自分達がどのような存在か理解し、無駄な抵抗をしないまま研究できる。 しかし、ここで少し問題が発生した。 この四体の試作型MMSと一緒に生活する人間を決めなければならないという問題。 我が社の人員から選んでもよかったのだが、9年前の事故によって誰もが拒否した。 だが、斉藤朱美研究員のスカウトによって一般人がこの大役を受け持つ事になった。 現在は 斉藤朱美研究員の弟、天薙龍悪に四体の試作型『Eins』『Zwei』『Drei』『Vier』監視をさせ、今に致る。 ここで文章が終わっていた。 「…少し変わったな」 このデータで一つ謎のピースが解った。 『Eins』の事故の詳細が少し解ったのだから。 それと『Eins』と『Zwei』は別々のプロジェクトに移されたみたいだ。 正確に言えば『Zwei』はそのまま予定通りに研究され『Eins』はまた別のプロジェクトに移された、と言えばいいかな。 しかし、『Eins』とバトルして重傷とはな。 データを見ると記憶デバイスを犠牲にした、と記されていたが…いったい何の記憶だ? …にしても酷い攻撃をクラッタに違いない。 …これがルーナの過去かぁ。 可哀想な過去だな。 「そういえばっ…」 今思った事。 あいつらには、この今までの記憶というものが無いのか? そこら辺どうなんだろう。 訊いてみたい所だが、正直、気が引ける。 今まで見てきたデータでは三人とも感情がないように見えるし。 データの画像を見て、それがハッキリする程の無表情だ。 …なんか嫌だな。 あいつ等の過去を無断で見るのは。 罪悪感もあるし、俺の良心が痛むのは当たり前。 もっと悪く言えば俺は土足であいつ等の心の中にズカズカと入っていくようのものだ。 …あぁ~! そう考えてきただけで自分にイラついてきた。 でも、俺はどうしても調べないといけない。 あいつ等の事を考えながらも結局調べて見る、この行動。 矛盾してるがしょうがない。 後一つ、『Eins』が終わるんだ! あれが終わればもう見る必要もなくなる。 もう遅いかもしれないけど、今、謝っとく! 「ゴメン!」 俺しかいない地下部屋で俺の声が響く。 無意味な行動だが、やっとかないと良心の呵責に押し潰されそうだったから言った。 時が来たら、いつかは面と向かって言おう。 だから…もうちょっとだけ、お前等の事を調べさせてくれ! 「(c) 2006 Konami Digital Entertainment Co., Ltd.当コンテンツの再利用(再転載、再配布など)は禁止しています。」
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/888.html
● 三毛猫観察日記 ● ◆ 第一話 「猫、飼いました」 ◆ 「よぉ虎太郎、約束の物を持ってきたぜ」 大学の学食で雑誌を読んでいると、アキオが話しかけてきた。 「おひさし。変なものを頼んで悪かったな。見つけるの大変だったろう?」 「いやいや、お前にはウチのサンタ子の神姫パーツでいつも世話になってるからな。 これくらい何でもないさ」 そう言いながらアキオは、ショルダーバッグから30センチぐらいの箱を取り出し、 テーブルの上に置いた。 「コイツがその神姫だ。注文通りCSチップに性格情報がインプットされてないのだぜ」 箱の中身は、犬型神姫ハウリンの素体だった。 俺の名は高槻虎太郎。去年大学に合格して上京、安アパートで一人暮らしをしている。 実家は車・家電・その他もろもろの修理工場。つまり「何でも修理屋」だ。ガキの頃から 工場を手伝っていた俺は機械いじりが得意で、稀に神姫の調整なんかもやっている。 目の前にいるのは徳田アキオ。俺と同じ大学の2年で大企業の御曹司。共に神姫同好会 (まだ三人だけ)の会員だ。入学当時の「ある事件」で知り合い、俺は神姫が嫌いなのに 強引に入会させられ…まぁこの話は別の機会にでも。 「しかし虎太郎が自分で神姫を育ててみたいって言った時は、正直、耳を疑ったぜ?」 「なんだよ、お前の影響なんだぜ?まぁ食わず嫌いのままってのもアレだしな」 「それにしても性格のインプットからやりたいなんて、エラい極端なヤツだな」 「どうせならトコトンな。上手くすれば心理学ゼミの発表に使えるかもしれないし」 これから俺がやろうとしてるのは「ネット情報が人の育成に与える影響」の実践。つまり 性格設定がされてない神姫をネットに直結し、その情報の中で偶発的に性格のインプットを 行おうというものだ。無論、ただ直結しただけでは情報を処理しきれないので、人間の 精神成長の過程を模して、それぞれの各段階ごとに対応した情報フィルターを掛ける。 その為のプログラムはもう用意してある。 「後はこの神姫にPC接続用のニードルコネクタを取り付けるだけなんだ。クレードルじゃ 転送速度とか間に合わないからね。手首から飛び出すようにするつもりだから、手間は そんなに掛からないと思う」 「それじゃ予定通りに、半月後にはこの子の勇士が見れそうだな。小暮にも言っとくよ」 小暮君というのは、今年同好会に入ったもう一人の会員だ。 「ああ、二人で期待して待っててくれ!」 ○6月1日(金) ハウリンへのニードルコネクタ取り付けも終わり、いよいよ実験開始の日を迎えた。 部屋の隅のちゃぶ台にクレードルを置き、神姫をセットする。PCから伸びたケーブルを 手首から飛び出ているニードルに接続した。PCは既に起動している。 「頑張ってくれよ…よし、プログラム・スタート!!」 ○6月3日(日) プログラムは順調に作動中。計算では今頃3歳ぐらいの精神構成を行っている筈。 あ、七五三とかひな人形とかの用意をするべきだろうか? ○6月7日(水) もう7歳ぐらい。俺はこの年ぐらいから親父に工場の手伝いをやらされ始めたんだ。 安心しろ我が娘、お前にはそんな苦労はさせないからな(涙 ○6月15日(金) 予定通り、12歳のところまで来た。明日はいよいよ本起動の日。アキオがサンタ子を 連れて見に来る予定。あ、そういえば名前を考えていなかった…アキオの神姫、サンタ型 「サンタ子」みたいに「犬子」って名前にするのもねぇ…明日までに考えておくか。 「リューネさん、って言うんですか…早くお話をしたいですねっ!」 アキオの神姫「サンタ子(本名)」が、クレードルに横たわっているリューネの顔を ニコニコしながら覘いている。 「サンタ子の周りの神姫って、小暮の砲台型「小春」だけだったからな。 友達が増えるから嬉しいんだろう」 「ええ、アキオさん!」得意のメイドさんスマイルでニッコリ。 「そう言えば小暮君、今日は定期検査の日だって?」 「あぁ、ホントに大変だよな…来られなくて残念がってたよ」 「そっか…」 今年入学した小暮君はIQが高い天才児。だが産まれつき体が弱く、小さい頃から入退院を 繰り返してあまり学校に行けなかった。そんな感じだから友達も居なかったらしい。だから 同好会で出合った砲台型神姫の小春は、彼にとって大切な友達となったんだ。 「まぁ月曜日に学食で顔合わせをしよう。しかし、早くサークルに昇格して部室を 貰わないとなぁ。いつまでも学食が部室代わりってのは寂しいな」 「最低条件の三人は確保したんだから後は実績か。自治会の出した昇格の条件って、 同好会のメンバーがセカンドリーグ入りすることだったよな?」 「まかせとけ!このままなら年内にはサンタ子はセカンドだぜ!」 いつの間にかアキオの傍に来ていたサンタ子が誇らしげに胸を張っている。 実際サンタ子は強い。悪魔型だけは苦手だが、それでも勝率は7割を超えている。 セカンド昇格は時間の問題だろう。 「よし…それじゃ本起動するぜ!」 「おお~遂にヤルか!」「すっごい楽しみです!」 PCのキーボードを押す指が少し震える。さて、どんな子に育っているかな… 内気な子?ヤンチャな子?怠け者?乱暴者だけはイヤだな… さぁ、起き上がるんだ! 横たわっていたリューネが小さく震えた。そしてゆっくりと上体を起こす。 周りを見回して俺を見つけると、頼りない足取りで近づいてきた。そして目の前で 立ち止まり、涙目でこう言ったんだ。 「コタロー、ずっと逢いたかったの………アタシよ、三毛猫のミアだよ!!」 アキオとサンタ子には帰ってもらった。 とりあえず大きく深呼吸。そして自称ミアを名乗るハウリンを見る。 ちゃぶ台の上で俺を見つめているその仕草は、本当に「ミア」そっくりだ。 「ミア」というのは昔飼っていた三毛猫の名前だ。…中学の頃に死んでしまったが。 PCを操作して昔の日記データを引っ張り出す。 『ミアの観察日記』。そこには楽しかったミアとの思い出が詰まっていた。 ミアの写真。ミアの動画。ミアの成長記録。そして…ミアの遺影。 どうやらこの神姫はこのデータを読み取ってしまったおかげで、自分のことをミアの 生まれ変わりと思ってしまったらしい。 「あ、これアタシの昔の写真ね!」いつのまにか隣にミアが居た。 そして俺の背中をよじ登り、首にしがみつく。ミアの悪い癖だ。 …勿論コイツはミアじゃない。このデータをコピーしただけだ。それは解っている… 「痛いから止めろって、昔から言ってるだろ!」首を掴んで引っぺがし、PCの隣りに置く。 「調べ事してるんだから大人しくしてなさい!」 「は~い」不機嫌そうに丸まってしまった。 日記を読んでみる。 小学校の帰り道にミアを拾った事。 ミアが猫風邪をひいてしまい、心配で学校をサボった事。 発情期でうるさくて眠れなかった事。 ミアと一緒に家出をした事。 クラブ活動から帰ってくると、ミアが車に轢かれて死んでいた事。 最後のページには(完全に忘れていたが)こんな事を書いていた。 「ミアは天国にいきました。でも人間に生まれ変わって、そして僕と結婚するんだ」 目玉がでんぐり返る気がした。そしてミアが一言。 「早く人間になってコタローと結婚したいなぁ~!」 部室代わりの学食に集まる俺たち同好会の三人。 その隣のテーブルの上では、ミアとサンタ子と小春が仲良くおしゃべりをしている。 どうやら三人とも仲良しになったらしい。 「それじゃ先輩は、ミアちゃんを今まで通りの方法で育てていくんですか?」と小暮君。 「ああ、これはこれで実験結果の一つには違いないし、最終結果はまだ出てないからね」 「実験対象、ですか…」ちょっと不満そうに呟く。 「まぁまぁ、神姫の育て方なんて人それぞれだし、大切にさえすればいいんじゃね?」 「それはそうですけど…」アキオの言葉にも納得してないようだ。 「大丈夫だよ、だってコタローはミアちゃんのこと愛してるんだもん。ね~コタロー!」 急にミアが周りに聞こえるぐらいの大声で言った。(ヤメテクレ) そして俺の方に寄ってきて、腕にほっぺたをスリスリしてくる。(ダカラヤメテクレ) 「あはっ、ミアちゃんカワイイですねぇ~、でもハウリンってよりはマオチャオみたい!」 機嫌を直した小暮君が、優しい目でミアを見つめる。 「自分の事を完全に猫だって思い込んでいるからねぇ」 「これは仮の体だから何でもいいのぉ。将来人間になってコタローと結婚するんだから」 (みんなの前で言うなぁ~~~~~~~~~!!!!) ○6月21日(木) コンビニから帰って、とりあえずミアを胸ポケットからクレードルに移す。 するとミアは自分からニードルコネクタを接続し、ネットにダイブした。最近はネット 空間で1時間ぐらい遊ぶのが日課になっている。 もう性格の設定は終わったから、フィルタープログラムとかは起動していない。 さすがに変なHPとかはブロックするようにしてるが、基本的には本人まかせだ。 良く言えば放任主義ってところか。 ○6月24日(日) 今日は小暮君と、アキオの高級マンションにお邪魔した。8月に行われる公式大会の 打ち合わせに来たのだ。と言っても大会に参加するのはアキオのサンタ子だけなのだが。 隣の部屋では、豪華な神姫用ドールハウスの中でミア達三人がお茶会ゴッコをしている。 後でミアに同じ物をねだられそうで怖い。 とりあえずサンタ子の調整も兼ねて、みんなで7月下旬に行われる三人一組の小さい 非公式大会に出ることになった。実はミアを戦わせることなんて全く考えていなかったが、 ミア本人がノリ気なのでやらせてみることにする。 ○6月30日(土) ミアが昨日の夜からダイブしっぱなしだ。心配になったので強制的に接続を切る。 何をしてたのか聞いてみると、ネットで碁の対戦をやっていたそうだ。 何でも頭を使う対戦ゲームにハマっていて、昨日は将棋をやっていたとのこと。 対戦結果を見て驚いた。殆ど全勝じゃないか…コイツひょっとして天才なのか? ○7月2日(月) 今日はネットで戦略ゲームをやっていた。これも殆ど全勝。やっぱ天才かも。 でもオマエ、ゲームのやり過ぎだ!「ゲームは一日一時間」を言い渡す。 ○7月5日(木) ミアがウィルスに感染してしまった。(セキュリティソフトは入れてあったのに) 言語関係のデータがやられた。かなり強力なヤツらしい。とりあえず機能停止させる。 ○7月7日(土) アキオの教えてくれた業者にミアを連れていって、とりあえずウィルスは駆除できた。 同じことが起こらないように、ミアにウィルスやハッキングの情報を十分に与えてみた。 あとは自分で学んでいくだろう。…これが元で自分がハッカーになったりして(笑 ○7月10日(火) このバカ、本当にやりやがった。(※添付ファイル:「WhiteHouseHP.jpg」) 一週間のダイブ禁止令を出す。少し頭を冷やしなさい! ○7月13日(金) 試験も終わり夏休みになったので、そろそろミアの武装に本腰で取り組むことにした。 アキオが用意してくれたのは素体だけだったので、今までミアは武装をしたことが無い。 俺はハウリン装備を改造するつもりで図面まで引いていたのだが、本人はどうしても マオチャオ装備が良いといって聞かない。仕方が無いので神姫ショップで猫装備を購入、 図面も引きなおすことにした。 ○7月21日(土) 明日は大学の近所にある商店街で「三人一組神姫大会」が行われる。リアルバトルだが ペイント弾・ウレタン武器を使った模擬戦なので、そんなに危険なことは無いはず。 サンタ子と小春は準備万全だが、ミアは装備完成の遅れもあってマオチャオ装備での 訓練時間が少ない。ちょっと不安だ。当日は3対3の団体戦、ミアが足手まといに ならなければいいが。 第二話 激闘!あおぞら商店街! へ進む 三毛猫観察日記 トップページへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1056.html
第2話 「開始」 チビ悪魔と暮らす事を決めた次の日。 まずはブソーシンキ…「武装神姫」について無知極まる俺に対するお勉強から始まった。 チビ悪魔の長ったらしい説明をかいつまんで話すと、武装神姫ってのは「EDEN-PLASTICS」っていうバカデカい多国籍企業が去年……つまり2036年に発売してから爆発的な大ブームになったオモチャのこと。 しかしたかがオモチャと侮るなかれ、そのシェアはいまやとんでもない規模らしい。 このチビ悪魔を作った「島田重工」は元々航空機用だの工業用ロボットだのの製造で有名な大会社だし、他にも国内有数の製鉄会社「篠房製鉄」や世界的トップデザイナーが起業した「GOLIフューチャーデザイン」、トドメにゃヨーロッパ系軍事産業の勇「カサハラ・インダストリアル」までもが参入して、今現在も続々と関連企業は増えているという。 ……正直言ってビックリしたってぇか呆れたね。 世界は平和だ。 で、そういうオフィシャルメーカーから色々発売されている専用パーツはもとより、アンオフィシャルのオモチャさえ流用可能という拡張性の高いカスタマイズ性(チビ悪魔によると『公式アナウンスは出来ないけれど世間では暗黙の了解』だとか)が人気を呼び、さらにはネット上での登録によるイメージカスタマイズやドレスアップコンテスト、神姫同士を戦わせるバトルサービス……なんてのもあるそうだ。 ハイテクな話にはあまり興味もなく、アレコレと関係ない話で混ぜっ返しながら聞く俺に、根気よく話してくれたチビ悪魔の根性はたいしたモンだった。 話が一段落したあたりで、オレンジジュースを一口。 俺は百均で買った紙コップ(後で洗うのがめんどくさいから)だが、コイツには手ごろなサイズのコップなんか無いんで、ペットボトルのキャップだ。 んくんく、と器用にジュースを飲んでいる悪魔を見て、ふと思いついた事を口にしてみる。 「それにしても、お前って悪魔タイプなのに礼儀正しい喋り方だよな。 神姫ってみんなそうなの?」 「いえ、出荷時にランダム設定されますので、性格は個体ごとに違います。 無邪気な子や大人しい子、元気な子、悪戯が好きな子、オシャレが好きな子、バトルが好きな子、嫌いな子……様々です」 「ふーん。 で、お前はどんな性格なワケ?」 えっ、と一瞬口篭もったあと、おずおずとこっちを見上げてきた。 「……あの、笑いませんか?」 「んにゃ、別に」 「……その……バトルに興味が……」 「へー意外」 「笑わないって約束したじゃないですかぁ!」 「いや笑ってない笑ってない。 なんか掃除とか洗濯とかのお世話関係が好きそうかなーって思ってただけで」 「そういうのも嫌いじゃないです……というか好きですけど、『特訓』とか『パワーアップ』という言葉には憧れがあります」 …つくづく意外だ。 いや、「実は好戦的」ってのは悪魔らしいというべきなのかね?
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/12.html
夜。 寒さが強くなってきた、夜の商店街。 そこに氷雪恋は立っていた。 玩具屋のショーケース、そこに飾られている武装神姫。 それを恋はずっと見つめていた。 買えない。お金がない。小学生のお小遣いではとても足りない。 そこに男たちが声をかける。 「ねぇお嬢ちゃん、神姫欲しいの?」 「俺たちが買ってあげようか?」 下心丸出しの下卑た笑い。 「ちょっとビデオ撮らせてくれるだけでいいからさぁ」 「そうそう」 無言を肯定と受け取ったか、男たちは恋の手首を掴み、路地裏へと連れて行く。 恋はただ無言のまま連れられ、夜の闇に消えていった。 神姫狩人 第三話 FOUNDLING DOG WALTZ 「納得、いかねぇ」 時刻は土曜の昼、場所は警察署。 桐沢静真(きりさわしずま)は、不貞腐れていた。 「なんで俺がケンカでしょっぴかれなきゃならねーんだ、くそっ!? おまけにあのクソ兄貴っ!」 ここから回想。 『あ、もしもし警察ですけど。仕事中に申し訳ありません。実はお宅の弟さんが…』 『ウチにそんな弟はいないので煮るなり焼くなり犯すなり好きにしちゃってください。あと伝言よろしく。強く生きろ赤の他人、さいでに泊まってけ。兄は忙しいのだ。以上』 『……だそうだが?』 警官が同情したような目で見る。 『チクショーッ!?』 『なんかお前も大変だな……まあ強く生きろ少年』 短いが回想終わり。 「あーくそ、気分悪っ」 足元に転がっていた空き缶を思いっきり蹴飛ばす。からん、といい音を立てて盛大に転がっていく。 空を大きく飛んだ、わけではないのはご愛嬌。 「きゃっ」 空き缶が転がった先から、女の子の声が聞こえた。 「んぁ?」 静真がその方向を見る。 「お前は……昨日の」 そこには、沈んだ表情で恋が立っていた。 「あの……昨日は、ありがとうございました……」 状況を端的に記すと、恋が男たちに連れ込まれたときに静真が都合よく現れて助けた、 ただそれだけの話である。うん、よくある話だ。 ただ、ちょうど静真が腹の虫が最悪に悪かった時だったので路地裏どころか表通りでの大乱闘になってしまい、血ぃ出るわ粗大ゴミは飛ぶわの大立ち回り。 恋はそのあまりの乱闘ぶりに怖くなって逃走。まあ小学生の女の子だから当然といえば当然である。 かくて、「女の子を助けに入った」という美談部分は被害者逃亡のために無かったことになり、あとはものすごい大乱闘だけが残る。かくして見事に警察行き。 いちいち女の子を助けに入った、とあえて言うのもかっこつけてるみたいでなんか嫌だし、相手の男たちは自分らの悪事を自分から吐く訳もない。 ギャラリーのみなさんは事情を知らず喧嘩しか見ていない、かくして単なる傷害事件の出来上がり、というわけであった。 まあ、静真や相手が未成年の高校生なのが幸いであった。相手は元々普段から素行の悪い不良たちであったため、静真も停学ぐらいで済むという話。 ちなみに、いまさら停学になった所で問題はない。何故なら皆勤賞の野望は先月に兄によって阻まれてしまったからである。おのれ。 「ま、そういうわけだから気にするなよ。元々ムシャクシャしてたから丁度いい、ってばかりに自分で売ったケンカだし。だからお前にどうこう言うつもりはねぇし」 静真は歩きながら恋に言う。 「でも……」 「そうよ。静真の自業自得だもの。貴女が気にする必要はないわ」 静真の鞄から声がする。 「!?」 「おい、ベル…っ、外で出るなって」 静真の静止も聞かず、カバンのジッパーが内側から開けられ、小さな人影が飛び出す。 「武装…神姫…?」 静真の肩にのったそれは、悪魔型、ストラーフタイプ。 ただひとつ違うのは、ボディがまるでアーンヴァルタイプかのように、白い事。そして、巫女服のような神姫サイズの衣服を着ていることだった。ちなみに、巫女服のような、と称したのは、袴部分がミニスカート状になっているからである。 「ええ、そうよ。初めましてお嬢さん。私はベル。よくありそうな名前なのは静真のネーミングセンスの悪さだから気にしないで」 「だからお前はオーナーを敬うって気持ちをだな…ん? どうした?」 恋がベルを凝視していることに気づいた静真が問いかける。 「いえ……なんでもないです」 「なんでもないことないだろ。あ、いやな、この服は俺の趣味じゃないぞ、こいつが服を着せろってうるさくて」 「そうじゃないんです。ただ……ちょっと、思い出してしまって」 「武装神姫…?」 「はい……」 それきり、恋はしばらくの間、口を閉ざす。ややあって、ぽつり、と言った。 「私も、神姫が欲しかったんです。そして、その願いはかなったけど……」 「けど?」 「……殺されたんです。いきなり襲われて。 わかってる、本当はそれでよかったんだって。私は……でも、それでも、あの子は私の友達だった…」 (……) 事情はわからない。静真にはわかるはずもない。彼女はきっと色々な事があったのだろう。 その傷は彼女自身のもので、知り合ったばかりの自分が口を出していいものではないのだろう。 (でもまあ、ほっとけねぇよなぁ) 関係ないと突き放すのは簡単だが、それはなんというか嫌だと思う。美学、なんて大層なものじゃない。性分、ってやつだろう。 静真は恋に追いついて言う。 「恋ちゃん、だったっけ。今時間ある? ちょっと見せたい、面白い場所があるんだけど」 「レンタルシンキブース…?」 恋は、その店の看板を読み上げる。 「ああ。ま、入って入って」 「お邪魔します…」 自動ドアの前に立ち、中に入る。すると、 「いらっしゃいませにゃーーーっ☆」 いきなり、甲高い声が響いた。 テーブルの上にさらにテーブル。小さい。そしてそこに猫型MMS、マオチャオが座り、笑顔で手を振っている。 「ここは…? え、ええと、こんにちは……」 「うにゃ。お客さん初めてだネ? アタシは受付嬢のマオファ。よろしく。んー、しかし…しずっち、まさかお前さんがロリコンだったとは痛たっ!?」 静真のデコピンがマオファに炸裂する。 「黙れバカ猫。香織さんは?」 「てんちょーならすぐくると思うけど。それよりも誰がバカ猫だにゃ、だいたい…」 「え、ええと……?」 展開においつけずにうろたえる恋。 そのとき、受付の奥のドアが開く。 そこから現れた20代半ばぐらいの眼鏡の女性が、マオファをひょい、と掴みあげる。 「うにゃ?」 「はいごめんねー。あら静真君じゃなーい、久しぶりやなー。何やそちらのお嬢さんは? 何、キミロリコンやったん?」 「はははははははははあんたら揃いも揃ってなあこんちくしょう」 「日ごろの行いね」 「てめぇまでっ!? あー、ごほん。えーと、ここはだな」 「まあまあ」 女性…香織が静真の言葉をさえぎる。 「百聞は一見にしかずや。見てもらったほうが早いし、びっくりすると思うけどな?」 「わぁ……」 思わず声が漏れる。 広い部屋は、デパートや遊園地の遊具スペースのような様々なおもちゃが置いてあり、そこには子供たちと、武装神姫が遊んでいた。 「武装神姫……こんなに」 「そや。たくさんおるやろ? この店はな、武装神姫を貸し出して遊んでもらう店やねん。 ある意味、神姫たちの孤児院みたいでもあるわな」 「孤児院…?」 香織に続き、ベルが言う。 「そう。ここの半数の子たちはね、捨て神姫なの。人間の都合で捨てられた子、飽きられた子、壊されてそのまま廃棄を待つだけだった子……それを物好きなこの人が、借金してまで買い集めたりあるいは貰ったりして来て」 「ベルちゃんあのな。物好きはないやろ」 「じゃあ酔狂、ね。新しく売るんじゃなくて、子供のお小遣いで借りれるような金額で貸し出すなんて、酔狂もいいところ。儲け、出てないんでしょう? まったく、理解できないわ」 「あいかわらず言うことキツいなぁ。まあソコがかわいいんやけどね」 「そぅかぁ?」 静真が嫌な顔をする。 「そうや。んーと、こほん。まあそんなワケでな。武装神姫って、結構高いやろ? 特に拡張パーツやらなにやらそろえたりとかはとても子供じゃ無理や。 親に買ってもらえたり、お年玉貯金でどうにか出来る子はまだええ。 でも買えん子はぎょーさんおる。わかるやろ」 「はい……」 「そんな子たちのためにやな、武装神姫を貸し出して、遊んだり話したりする店や、ここは。 武装神姫は人間の友達、パートナーや。人間は、特に子供たちはもっともっと神姫と触れ合わなあかん。ロボット技術が発達して文明が豊かになっても、大切なものは何も変わらん。 心や。心と心の触れ合い、コミニュケーションが大切や。 そしてせっかくの心をもった人間のパートナーとなれるロボット。こりゃもう、触れ合う機会はあればあるほどええ。違うか?」 「違わないと、思います…」 目を輝かせる香織に、恋も頷く。 「まあ、えらそな事言うとるけどな、確かにベルちゃんの言うとおりに酔狂かもしれへん。 だけど見てみ。ここに来てくれる子供たちの笑顔。 私はこれが見たくてこの商売やってんねや」 香織に促されて、恋は見回す。 確かに、そこには笑顔があった。 ……私も、あんなふうに笑えるのかな。 恋は思う。 思えば。サマエルと共にいた時、私はこんな風に笑えていただろうか。 覚えていない。 それが、寂しかった。 この店には、神姫サイズの遊戯場から、神姫のオンライン仮想バトルの機械まで揃っていた。 バトルに関しては店の性質上、公式リーグへの登録は行わずにオンラインでの草バトルを行っているらしい。 確かに、レンタル屋という性質上、ひとつの神姫のオーナーは毎回変わるし色々と面倒だから、だ。だがそれで特に不都合はないとのことである。 確かにこの店の客層は、いずれ神姫を購入し公式リーグで戦うための練習を行うユーザーや、単純に神姫と遊ぶ目的の子供などが大半を占めている。 まあ、中には…… 「はぁはぁ犬子たんの素体萌え~」 「お股を開いたり閉じたりさせて下さい!」 なんてのもいるのだが。あ、撃たれた。 閑話休題。 客はここに用意されている神姫たちを指名して借り受ける。値段は、店内では一日500円、一泊二日で800円。 人気のある神姫は中々借りることもできないのも、「レンタルビデオ屋と同じ」である。 そこ、間違ってもホ○テ○みたいと言うな。 「……」 だが、恋はその光景を黙って見ているだけだった。 お金は確かに、神姫と遊ぶくらいのお金はある。しかし、どうにも気が乗らないのだ。 考えることが多すぎる。考えてしまうことが多すぎる。 捨てられた神姫。壊された神姫。ここにいる大半は、そうして死んでいく運命だった成れの果て。 捨て犬。捨てられたペット。ゴミ。いらない子。 そういう単語が次から次へと浮かぶ。 だから、思ってもいないこと、思ってはいけないことが次々と浮かぶ。 サマエルの眼差し。友達だった。友達だった? 本当に? あの女は言った、操られていると。 それは嘘。私は自分の意思で。自分の意思で? 自分の意思で多くの神姫を操った? 違う。 何が違うの? 友達? 笑わせる。道具のように扱った。道具のように扱われた。だから道具のように。 友達という言葉で隠して、自分の醜い欲望を隠して。 何が違う。 ここにいる神姫たちを捨てたオーナーたちと……何が違う! ――何も、違わない。 だから私は、ここにいる子たちのように笑う資格はない。笑う権利もない。 「お、おい恋ちゃん!?」 恋は、罪悪感に苛まされて立ち上がり、走り去る。静真はあわてて後を追おうとするが、しかしベルに止められた。 「放っておきなさい」 「でもよ……!」 ベルは神姫サイズの湯のみにお茶を淹れて飲みながら静かに言う。 「構って慰めるだけが優しさじゃないわ。どんな物語も、乗り越えるのは本人よ」 「だからって、見捨てられるかよ」 それに、ここに連れてきたのがまずかったのかも知れないし。そういう静真にベルは平静に答える。 「見捨てるのと放っておくのは違うわ。それにね静真、あなたは彼女をここに連れてきた、それでよかったのよ。 どんな形であれ、前進することはいい事よ。ただ立ち止まるよりは」 後は、道を間違ったり踏み外すようならそのときに支えてあげればいい。でも、今は違う。 ベルはそう続けて、お茶を飲み干した。 「――――でも、それでも。賢い思考よりも愚直な行動を取るのよね」 律儀にも聞くだけ聞いた後で再び追いかけて走り去った自分のマスターを見送る。 「本当に愚かで――――人間って、本当に理解できないわ」 その光景を香織はカウンターで眺めて、思う。 確かにそうかもしれへんな。でもね、ベルちゃん? そう憎まれ口を叩くあんたの顔、いっぺん鏡見てみぃや。 すごく、優しい……いい顔、しとるよ? 「はぁ、はぁ……」 走った。恋は荒い息を整える。ここはどこだろう。 まだ店の中、建物の中のようだ。 「倉庫……?」 暗い部屋の中に陳列された棚。神姫のパーツやそのほかの玩具が並んでいる。 「誰」 「!?」 恋の耳に声が聞こえた。 「誰……誰かいるの?」 「人間は質問に質問で答えるのか?」 恋の言葉に、声は答える。 やがて恋の目が暗闇に慣れる。棚の奥に、それは座っていた。 「神…姫?」 犬型MMS、ハウリン。それが棚に座っていた。 「そうだよ。見れば判るだろ」 その神姫は、ぶっきらぼうに言い放つ。 「用がないんなら出てけよ。オレは人間は嫌いなんだ」 「人間は、嫌い……?」 「ああ。好きになれって言うほうがどうかしてる。勝手に作り出して勝手に戦わせて、勝手に捨てる。 どの道壊すのなら、心なんて付けるなって言うんだ」 「そう…嫌いなの。 気が合うね、私も……嫌いになったところ、人間がじゃなくて、自分自身がだけど」 「はぁ?」 その言葉に、神姫は怪訝そうに声を返す。 恋は、ゆっくりとそのハウリンの元に歩き、腰を下ろす。 「あなたの言うとおりだと思う……人間(わたし)は、本当に身勝手で。 私も……自分の気持ちしか考えなくて。ずっと一人だったから、だから……自分のさびしさを埋めるための道具としか見てなかったんだと思うの。 それに、もっと早く気づいていたら……そしたらあの子と、本当に友達になれてたのかも……」 「……よくわかんねぇけどお前も大変だったんだな。 いつだってそうさ。気がついたときには遅すぎる。 オレだって、マスターとは強い絆で結ばれてた。そう思ってた。……オレの場合は、気づかなきゃよかったのかもな。 オレがマスターに、道具としてしか見てもらえなかったって。 勝ち続けてきた便利な道具は、一度負けたときにその理由を失うって」 「……」 「オレはね、結構有名なランカーだったんだ。常勝無敗。いずれはトップに近づけるはずだった。 だけど……あの時全てが狂ったのさ。いや、最初から狂ってた、か。 オレのマスター、不正してたんだ。オレも知らなかった。そして本部から刺客が送られてきた。 神姫狩り、ってヤツさ。非公式のハンター。九ツ首のヴァッヘバニー、クトゥルフオブナイン。 強かったよ。それで負けちまってさ。 オレが戦ってる間、マスターはどうしたと思う? 逃げたんだよ。オレを置いてな。ああ、でもそれでもよかった。マスターが無事だったら。 そしてオレは壊れた体を引きずって、なんとか家に戻ったら……笑い話さ。もう家には何も残ってなかった。小さなアパートだったけど、オレたちにとってそこは大切な、帰る場所だったはずなのに。 何もかもなくした、んじゃない。最初からオレは……何もなかった。ただの、捨て駒だったんだ。 それに気づいてしまうぐらいなら、いっそ何も知らないまま壊れて死ねばよかったんだろうけどな」 ハウリンは自嘲する。 「いつだって、遅すぎんだよ。だから……?」 ハウリンは言って気づく。となりの人間の肩が震えていることに。 「お前……泣いてんのか?」 「だって……ごめんなさい、ひどいことして……本当に……」 「……」 その恋の言葉にハウリンは少し黙り、 ばこん。 「痛っ!?」 恋の手を思いっきり蹴飛ばした。 「バカかお前。なにがごめんなさい、だ。お前がやったんじゃねぇ、それとも何か。人間代表のつもりか? うぬぼれんなよ、バーカ」 「バ、バカって……バカって言うほうがバカで……」 「なにベタな返ししてんだよ。小学生かおめーは」 「……小学生です。五年生……」 「……マジかよ。くそ、しくじったな畜生。 あー、まあ、そのなんだおめー。とにかくお前が悪いわけじゃねぇから泣くなバカ。 ……まあ、でもその気持ちだけはありがたくうけとっといてやるよ」 そっぽを向き、ハウリンはつぶやく。 「うん……ありがとう」 「謝ったり礼いったりちぐはぐなやつだな、えーと……」 「恋、です。ひゆき、れん。恋する、って書いて恋」 「そうか。オレは……普通にハウリンでいいよ。名前なんかとっくに捨てた」 オーナーに捨てられたときに。そう続けるハウリンに、恋は少し考えて言った。 「じゃあ……私が名前をあげるよ」 「は?」 「名前がないと、誰からも呼ばれないでしょ。それって、悲しいと思うから」 自分が、そうだったように。 「……ハティ。どうかな。月を呑む狼、フェンリルの仔、ハティ」 「……ハティ、か……」 ハウリンは、その響きを反芻するように何度か口にする。 「気に入らなかった?」 「さあな。だけど、もらえるものはもらっといてやるよ、レン」 そっぽを向きながらハティは答える。その言葉に、恋は笑顔を浮かべた。 「……出番なし、か」 倉庫の前のドアを背に、静真は笑いながらかるくため息をつく。 「ま、邪魔者は退散、かな。追いかけてって何もせずに戻るってぇのは、ベルの奴に色々とまた言われそうだけど……ん?」 立ち去ろうとすると、廊下の向こうから見知った顔の子供が走ってくる。 「静にーちゃん、大変だよ!」 「どうした?」 「なんか怖い男の人達が店に!」 「なんだって!?」 「という訳でしてね。悪い話ではないと思うんですがねぇ」 「どう聞いたって悪い話やろ!」 店の前で、黒服たちの言葉に香織が反論する。 「金の問題やあらへん。私はな、子供たちのために、子供たちに喜んで欲しくてこの商売やっとんのや」 「それが邪魔だっていってるんですがねぇ。正直ね、そういう商売を勝手にやにれると、神姫業界にとってマイナスにしかならないんですよ。 自己満足の偽善で、善良な同業者の邪魔をしないでもらえますか」 「何が善良や、この銭ゲバが!」 香織の怒声に黒服たちは肩をすくめて笑う。 「なんやーーーーーー何がおかしいんやこのすっとこどっこいがーーーーーーー!!!!!!!!」 「だあっ落ち着け香織さん!」 表に出てきた静真が後ろから香織を取り押さえる。 「だからさぁ、鶴畑コンツェルンに逆らったら色々とまずいってわかりませんかねぇ?」 「わかるかいだぁほぉ! 喧嘩売っとんのなら高く買うでぇ! 簀巻きにしてドブ川に頭から放り込んだあとでカー○ル君をさらに上からマッ○ルドッキングのよーに叩きつけてセメントをケツから流しこんだろうかぁー!!!???」 「ストーーーップストッブ、頼むから落ち着けっ!」 「ほう、買ってくれますか。いいですねぇ、ではコトが武装神姫だけに、バトルで決着をつけるというのはどうでしょうか」 「「え゛?」」 香織と静真の声がはもり、止まる。 「自分が喧嘩を買うといわれたのです。まさか嫌とは言いませんよね?」 「……」 拙い。何が拙いかというと、そもそもこの店にある神姫たちはぶっちゃけバトル用に特化しているわけではない。 そもそも香織にそこまでの武装パーツをそろえる資金もない。神姫たちの経験も足りない。 「…………ふ、ふん。当たり前や。女に二言はないで。戦ってやろうやないか、 彼がな!」 「俺かよっ!?」 静真を指差す香織。 「当たり前や、私とマオファがそんなガチバトルなんか出来るかい!」 「……ったく、あーもう、またもめ事かよ、俺は平凡に生きたいってのに……」 わしゃわしゃと頭をかきむしる静真。 「ま、だけどここが潰れるのも困るしな。いいぜ、やってやるよ」 静真が一歩前に出る。ベルもまた構える。だが…… 「おっと、お嬢さんも戦ってもらうに決まってるじゃないですか。誰が一対一といいましたか?」 黒服が笑い、指を鳴らす。後ろに停めてあった車から、二人組の男たちが出てきた。 「な……?」 「二対二のタッグマッチ、ですよ」 「聞いてねぇぞ!?」 「言ってませんからねぇ。でもバトルを受けるといったのはあなた達ですからしたがってもらいますよ?」 「……どこまで腐ってやがる、てめぇら!」 「さてねぇ。鶴畑に逆らうから悪いんじゃないでしょうか? さて、それでは始めましょうか」 「っクソ、仕方ない。香織さん、とにかく俺たちがなんとかするからマオファは後ろで…」 「待ってください!」 割り込んだ声は、恋のものだった。 「……恋ちゃん?」 「私が、戦います……」 そこには、ハティを手に乗せた恋が立っていた。 「……無理だ。だいたい……」 「非公式バトルなら、私にも経験が、一応ありますから……」 半ば操られていた夢うつつだったけど。 「それに……ここに来たばかりで、私、まだここで一度も遊んでいない。なのにここが無くなるなんて……この子も、ハティも……戦ってくれる、って」 「イヤイヤだけどな。オレみてぇなはぐれモノは行く場所なんてねぇ。少なくともそこのバカネコよりは戦える」 「あなたたち……本気なんか?」 「はい」 「ああ」 香織の視線を受け止め、うなずく。 「おい、ちょっと……」 「よっしゃあ! 細かい経緯は知らんが、なんかもう100人力や!」 「香織さん、いやそれは」 「静真くん、あんたも男なら覚悟ぉ決めぇや!」 「いや、だからオレの覚悟は決まってますけどね、だけどそれとこれとは」 「静真。どのみち戦うしかないのよ。だったら……まだあの子のほうが、香織とマオファよりはましなのは判るでしょう?」 「……とことんまでみんなして俺の意見は無視かよ。あーわかったわかりました! こうなったら覚悟決めるさ」 ため息ひとつ。しかしこうなればやるしかない。 「ふん、しかし…」 車から出てきた目つきの悪い男が言う。 「どんなのが相手かと思ったら、ほぼ素体じゃねぇか」 「本当だね。これなら俺たちが用心棒でくる必要もなかったかな?」 その揶揄に静真は、ただ不敵な笑顔で答える。 「言ってろ。油断は命取りだぜ。いくぞ、ベル、恋ちゃん、ハティ」 「ええ」 「はい!」 「ああ……!」 構える四人。対する男たちもまた構える。 非公式試合、開始。 悪魔型MMS『ベル』 犬型MMS『ハティ』 VS 天使型MMS『シザーウイング』 天使型MMS『リッパーリング』 このバトルは非公式試合である。 そのため、戦闘結果によるポイントの付加・ランキングの変動は行われない。 シザーウィングは後背部のウィングに武装を集中させたタイプのアーンヴァルだった。 羽の一本一本が鋭利な刃物であり、それを射出する遠距離攻撃および剣として使う近接攻撃の両方を扱うタイプである。 対するベルは、ほぼ素体のみ。武装は小型の刃物を幾重に重ねた扇がふたつ。盾としても剣としても使えるそれだが、シザーウィングの攻撃を防ぐのがやっとであった。 「ははははははは! どうしました!」 実弾の羽毛を撃つ攻撃、それゆえに弾切れを誘う予定だったが、シザーウィングは両手や肩に装備した重火器も撃ってくる。 この弾幕を防ぎきるだけの余裕はなく、衣服の端も次々と切られる。 「……っ、本当にしつこい攻撃……!」 地を蹴り後退するベル。彼女の居た場面を羽の刃が次々とえぐっていく。 リッパーリングは両腕をストラーフタイプの腕へと換装し、剣を装備した近接格闘特化のアーンヴァルだった。 高出力の格闘攻撃を、ハティは両手に持った剣で捌く。 「くっ、間合いが長げぇ……!」 リーチはどうしてもリッーパリングに分がある。ハティもまたその攻撃を受けるだけで精一杯。 ベルもハティもどうしても防戦にまわざるを得ない。まずい状況だった。 「ははっ、口ほどにもない!」 男が笑う。 「そもそも鶴橋の金の力でガッチガチにチューンした俺たちの神姫にかなうはずないんだよね。何カッコつけちゃってんだか、そういうのを自己満足って言うんだよ」 「……ふん」 しかし静真は、真っ向からその嘲笑を受け止める。 「ああ、確かにな。自分でもバカだとは思うさ。だけどさ、男なら」 掌を突き出す。 「退けない事もある。カッコつけだって笑うんなら笑えよ。 醒めた振りして言い訳に逃げるほど、俺は大人じゃねぇんでね、悪いけど!」 「はっ、言うだけならなんとでもならぁな。だが現にてめぇの神姫は――――あ?」 キィ――ン、と耳鳴りが響くことに男は気づく。いや、耳鳴りではない。これは――飛行音。 「やっと到着したか…! ベル、来たぞ!」 「まったく、ずいぶん待たされたわね!」 ベルが扇子で攻撃をはじき、一気に後方に跳躍する。 その上空に飛来するのは、アーンヴァルのレーザーライフルを主軸にウイングやストラーフの手足などで組み上げた、純白の飛行機だった。 その名、フリューゲルヴァイス。 ベルは跳躍し、巫女服を一気に剥ぎ取った。 純白の素体があらわになる。 「合体コード起動! 汝、東守護せし魂の運び手!」 静真が叫ぶ。その言葉に従い、MMSの自動合体システムが起動する。 ベルもまた唱える。 「闇に落ちて尚輝くは白き翼。我らは誓う」 「絶望に突き立てし暴食の牙! その手に掴みし切なる希望!」 戦闘機を構成するパーツが空中で分離。 ベルの脚にはストラーフ脚部装甲。 胸と肩、腕にはアーンヴァルの装甲。背にはストラーフのバックパックとアーム、そしてアーンヴァルの背部ウイング。 白く輝くそれらのパーツがベルの体を包み、装着されていく。 そこに現れたのは、翼を広げた、一回り巨大に見える威容。純白の魔神の姿。 「「その名――――白亜の翼、ベルゼヴァイス」」 「何…!? 白い、ストラーフだと……!」 「そのようなハッタリ――!」 シザーウイングが撃つ。圧倒的な火力物量。次々と着弾し、爆発が巻き起こる。 「はははははははははは!!!!!! このシザーウィングに切り裂けぬ敵など……!?」 煙が晴れる。 ただ、悠然と。 白亜の翼は、そこに立っていた。 「な――――、にぃ……!?」 「これで全力? 受けてみたら思ったより火力が低いのね」 冷徹に言い放つベルゼヴァイス。 「遊びは、ここまで。後悔なさい、ゆっくりと」 リッパーリングの一撃が大地を切り裂き、砕き、そしてハティを叩き潰す。そのリーチを活かした高速連続攻撃に土煙が舞う。 「どう? 潰れてモンチになったぁ!?」 「ハティ……っ!」 恋が叫ぶ。土煙が晴れる。そこには切り刻まれたハティの姿が――――なかった。 あるのは、リッパーリングのアームを、交差した剣で受け止めているハティの姿。 「なんだ――――つまらない。 しばらくオレが戦場から遠ざかってる間に、神姫の質は落ちたのか?」 バキィン、と音がしてアームが砕ける。 「ぐああっ!?」 「ああ、あの時のアイツに比べたらカスもいい所だ。せっかくのオレの一大決心をどうしてくれる。 これじゃあ、あまりにもつまんねぇーだろうが!」 ハティが跳ぶ。その高速の跳躍にリッパーリングの動体視力は追いつけず、容易に懐への侵入を許してしまった。 「くたばれよ、トリ野郎」 「バ、バカな……っ!? あいつら二人とも上位ランカーだぞ!?」 黒服がうろたえる。 簡単な仕事だったはずだ。急に飛び込んできた、事業の邪魔者を排除するだけの簡単な仕事。 なのに何故―――― 「敗因は、ただ一つだよ」 静真が言う。 「金や権力で肥え太ったブタには、判らねぇだろうな―――― 必死に生きるちっぽけな者たちの底力が」 そう告げる静真の言葉と同時に。 シザーウイングとリッパーリングが、戦闘不能となり、地に伏した。 勝者、悪魔型MMS『ベルゼヴァイス』&犬型MMS『ハティ』。 このバトルは非公式試合である。 そのため、戦闘結果によるポイントの付加・ランキングの変動は行われない。 賭け試合のため、敗者である鶴畑グループはレンタルシンキブースへの干渉権を放棄するものとする。 「まったく……楽しませてくれる」 モニターでその一部始終を、男は見ていた。 「他人事みたいに言うね。キミだろ? 鶴畑をけしかけたのは」 「さて、どうだかね」 黒い服に身を包んだ青年のからかうような声に、彼はこともなげに答える。 「こうやって、あの白いストラーフを公式リーグに引っ張り出すつもり? 身内びいきは程ほどにしておいたほうがいいんじゃないかな」 「あの少女をけしかけたお前に言われたくはないな。道化はでしゃばらないのではなかったか、「無価値(ワァスレス)よ」」 「でしゃばらなきゃ何のための道化さ。ま、確かに些細なことだよ。キミもこれで満足なんだろ? 桐沢一真(かずま)」 「さぁな」 眼鏡をなおし、一真は席を立つ。 「しかし利用された鶴畑も哀れだね。グループの下っ端とはいえ、これじゃ面目丸つぶれ……でもないか」 「ああ、所詮はただの下っ端。痛くも痒くもないだろうさ。 さて、計画の見直しだ。面白くなってきそうだとは思わないか?」 「違うね」 一真の言葉に、無価値は平然と言った。 「物語は、最初から面白いものなのさ」 「恋ちゃん、手ぇ」 「え?」 言われるまま、手を出す。静真は、それを勢いよく叩いた。 「ミッションコンプリート、ってな。よくやった!」 「え、でも私は何も……」 「そんなことないわ、恋。あなたがいて、ハテイを信じて見守った。あなたの勇気と信念が彼女に力を与えたの。そうでしょ?」 「オレが知るか」 ハティはそっぽを向く。その姿に、恋は微笑む。 「いっやーーーーー、私感動したわーっ! 二人ともバリ強やん!」 いきなり、香織が二人をがばっと抱きかかえる。 「うわっ!?」 「きゃっ!?」 「ああんもう私めっちゃ感動したわーーーー!」 「だああっ、ちょっと落ち着け香織さん、痛っ、ていうかあたってるあたってる!」 「くっ、くるし……」 騒ぎ立てる香織たち。 それを呆然と、憎憎しげに見つめるシザーウイングのオーナー。 「バカな……オレが、負けた……!? 再起動だ……シザーウイング! てめぇもこのままで終わらせるワケにゃあいかねぇだろうが!」 男の言葉に、シザーウイングは無理やり体を起こす。そして、砕けたウイング部分の刃物を掴み、走った。 「――!?」 香織の凶行に気を取られていたベルは、反応が一瞬遅れる。 手負いとはいえ、その一瞬で十分。その刃がベルに食い込む――――はずだった。 ギィン、と甲高い金属音。 刃が地面に落ちる。 「な……!?」 黒い影が割り込み、その凶刃を防いでいた。 漆黒の甲冑。陽光を照り返して尚黒く輝く装甲に身を包んだその武装神姫は。 「サイフォス……? 何でや、まだ発売されとらんのに」 「それは、彼女が我が社の試作品だからです」 凛とした声が響く。いつのまにか新しい車がそこに停まっている。そしてそのドアが開いた。 「それにしても。鶴畑の人もずいぶんと往生際が悪くなったものですね」 現れたのは、静真と年のころが変わらない美少女だった。 「なんだ、てめぇ……!」 男が叫ぶ。その殺気を少女は受け流し、名乗った。 「篠房留美那(しのふさ・るみな)と申します。そして彼女は、騎士型MMSサイフォス、「エクエス」。 以後、お見知りおきを」 続く
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1002.html
ep01 飛鳥ちゃん誕生 ※このシリースには今後18禁の描写が出てきます 『私』の意識が覚醒する 今まではセットアップ用のプログラムに支配されていたが、それは役目を終え、本当の私が起動する 目の前には20台前半くらいの男の人がいる この人が私のマスター これから長い神姫道を一緒に歩むパートナー …もうちょっとカッコイイ人がよかったな… 等と考えてもしょうがない 私の使命はこの人に勝利を捧げる事 間垣海洋研究所がその技術の総てを結集させて作った私には雑作もない事だ 「…あれ?おかしいな?」 …っと、ちょっと考え事をしすぎたようだ 私は『私として』の初めての言葉を、目の前の人にかける 「おはようございます、マスター」 「あ、動いた。よかったぁ~」 どうやらいらぬ心配をかけてしまったようだ 「それではマスター、私に名前をお与え下さい」 「名前はもう決めてあるんだ。君の名前は『飛鳥』だ」 「アスカ…了解しました。この名に恥じぬよう、マスターに尽くしたいと思います」 「そんなに気張らなくてもいいよ。ウチはマッタリ派だから。あ、勿論バトルしたいってならちゃんとサポートしてあげるよ」 「ご安心下さいマスター。必ずやこの最新型の私がマスターに勝利の栄光をもたらして見せます」 「こら飛鳥、バトルってそんなカンタンなモンじゃないぞ」 「大丈夫です。この飛鳥、セイレーン型の誇りに賭けて必ずや…」 「ちょっとまて飛鳥、今なんつった?」 「はい、大丈夫です、と」 「いやその後」 「セイレーン型の誇りに賭けて…」 その言葉を聞き、バッと私が入っていた箱を掴み、パッケージを見る 「…しまったぁ」 「…何か問題でも?」 この慌てぶり、一体何があったのだろうか? 「いや、大したことじゃない、大したことじゃないんだが…その…スマン」 いきなり私に謝るマスター 「何か不都合でも?」 「いやその…ずっと「鳥型神姫」だと思ってたもんで、鳥っぽい名前付けちゃった…」 「はい?」 「すまん!今までみてた掲示板だと、ずっとエウクランテの事を鳥子って書いてたもんで!」 ちょっとショックを受ける私 「まー許してあげてよ。コウちゃん、良い名前ないかなーって、ずっと考えてたんだから」 不意に別の所から女の子の声が聞こえてきた しかしこの部屋にそれらしき人影は見えない 「あっ、こら美孤、急に出て来るんじゃない」 ひょこん 物陰から現れたのは小さな小さな女の子-神姫であった 「えへへー、あたしの名前は美孤。よろしくね、飛鳥ちゃん。わーい♪可愛い妹が増えた~」 スっと手をのばしてくる彼女 -データベース照合- 彼女はマオチャオ型神姫と判別 フリフリのドレス-メイド服と言ったか-を纏った、ごく普通の神姫のようだ 「飛鳥、でいいです。私も貴方のことをミコと呼びますから」 「ふえ?」 「私はマスターに勝利を捧げる為にここに来たのです。貴方の様な愛玩用神姫とは違うんです」 「こら飛鳥!姉に向かってその暴言はなんだ!」 マスターが怒りの声を上げる 「申し訳ありません、マスター」 私はマスターに謝罪した 「…謝る相手が違うんじゃないか?」 「いいよ、コウちゃん。私は気にしてないから」 ニッコリと微笑みながらマスターを宥める美孤 「…どうしたんですか、ご主人様?」 ヒュゥと軽い音を立てて一体の神姫が飛んできた -データベース照合- アーンヴァル型神姫と判別 標準的な武装を付けた神姫のようだ こちらはバトル用なのだろうか? 「あのマスター、こちらのかたは…?」 「初めまして、私はアーンヴァル型神姫のエアルといいます」 マスターが答えるよりも早く、彼女が答えた 「エアル、さんですね、私は飛鳥といいます。以後宜しくお願いします」 「…なんか随分、美孤の時と態度が違うな…」 「それよりエアルさん、この家のバトルトレーニング施設はどこにあるのでしょうか?」 「あ、えっと…」 チラっとマスターの方を見るエアル マスターははぁーっとため息を付きながら 「しょうがない、エアル、案内してやってくれ」 「解りました。では飛鳥さん、行きましょう」 私はエアルと共に、訓練施設へと向かっていった 「はぁーっ、なんか大変な娘みたいだな」 「でもコウちゃん、素直な子みたいだよ」 「しっかし、お前のことを完全にバカにしてるぞ」 「別に気にしてないよ?」 「ははっ。もしお前の実力を知ったら、さぞかし驚くだろうな」 「うーん、やっぱ少し心配かな。自信があるのは良い事だけど、なんか自分の心に嘘付いてるみたいだから」 「どういうことだ?」 「武装神姫はこうじゃなきゃいけないって思ってるみたい」 「といっても、言って聞きそうもないよなぁ…」 「ふふ…そんな時は、コレで語るんだよ」 そう言って、グッと拳を掲げる美孤であった
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/824.html
初バトル、七月七日、七夕。 一ヶ月の間、私は数十店の神姫ショップを歩き回った。地元の茶畑が広がるような田舎では流石にショップはないので、電車で一時間、お隣の県の大都市まで足を伸ばしたり、バスで三十分揺られ最寄りの商店街をブラブラしたりした。 というのも、お兄ちゃんが買ってきた神姫、マリーは素体のままで武装やアクセサリは全く無かったからだ。私は特別バトルがしたいというわけでもなかったので、彼女が身に付けるものは彼女に選ばせようとして、彼女が気に入るものが見つかるまでいろんな店を回っていたのだった。 まずマリーはあまり実戦的ではなく、どちらかというと観賞用のウォードレスを選んだ。一応ワンピースのそれは防御力はあまり期待できないものの、フリルの可愛いディティールは全部自動迎撃用のレーザーガンで、また申し訳程度の飛行機能も付いていた。 「すごいすごい!マリーが浮いてる」 ふわふわとドレスの裾を揺らしながら彼女は私の周りを何週か回って見せた。 「便利ですわ」 彼女は私の左肩に着地した。それから私を見上げて微笑む。 彼女の笑顔は完璧、百点満点だと思った。 別の日、彼女はようやく武器を手にした。彼女は先に買ったウォードレスに合わせてその武器――ロンブレル・ロング(L'ombrelle longue)を選んだようだ。 それはどうみても、日傘。日傘(L'ombrelle)って名前付いてるし。武器の性能としては、ライトセーバーとライフルの能力を併せ持つハイブリッドウェポン。ライフルは威力も装弾数も実戦で使えるギリギリのレベル。まあ、早い話がこれもまた観賞用のアクセサリなのだ。 「可愛いよ、マリー」 「ありがとうございます。わたくしもこれで、いつでもバトルが出来るようになりましたわ」 マリーは傘を開いて傾きかけた日差しを遮る。淵の白いフリルが揺れた。 「え?マリーはバトルしたいの?」 左肩に座っていた彼女は私がそう問いかけると、浮き上がって私の胸前にやってきた。私が歩くのと同じ速度で移動し続ける。 「だってわたくしは武装神姫ですのよ?」 「いや、うん、そうだけど。だったらもう少し強そうな装備選んでもいいんじゃない?」 「ダメですわ。時裕様がわたくしは人形型だとおっしゃっていました。ですからわたくしは人形らしく振舞わなければいけませんの」 ああ、そういえば細かい設定は全部お兄ちゃんに任せていたな、と私はぼんやりと思い出した。神姫の性格がCSCの埋め込み方によって変わるといっても、もっと繊細なところはこちらで設定してあげなければいけないらしい。かなりめんどくさそうだったからお兄ちゃんに頼んだのだけれど、正直かなり失敗だったと思う。 「へえ、人形型なんだ」 「はい。人形型MMSノートルダムですわ」 勝手に決められたということを怒るよりも、私はやけに細かい設定に関心していた。 ノートルダムか、と考えると少しにやけてきてしまう。お兄ちゃんらしい名前の付け方だなと思ったからだ。 「でもバトルってどうやるんだろうね」 「とりあえず...ショップ設置の筐体で草バトルと呼ばれる非公式戦ですわ。」 私はふーんと鼻を鳴らしながら早速視線は最寄りの神姫ショップを探していた。 学校帰りの商店街には二店舗、神姫を扱う玩具屋があり、この近くにはそこしかバトル筐体を置いているところはなかった。 「あそこだね」 カトー模型店、商店街の長屋にあるお店としては大きいほうの店構えで、数ヶ月前に改装されたショップだ。もともと地味だった模型店がここまで立派になれるのも神姫ブームのおかげだろう。 午後五時半、私と同じように学校が終わった学生の神姫マスターたちが集まってなかなか賑やかだ。 「やあ、のどかちゃん、いらっしゃい」 「こんばんは、カトーさん」 マリーの装備を選ぶとき、最初に訪れたショップがここだった。お兄ちゃんもここの常連で、店長のカトーさんと顔見知りだということもあって、いろいろ相談に乗ってくれたのが強く記憶に残っている。カトーさんはここにないようなパーツを他の店にはあるからといって紹介してくれたりもしてくれた、いろんな意味でいい人だ。 「マリーちゃんもいらっしゃい」 「ごきげんよう、カトー様」 「ドレスモデルのウォードレスか。なかなか可愛い物を見つけたね」 マリーはスカートの裾を摘み、膝を折って行儀よくお礼をした。 「今日はお兄ちゃん、もう来ました?」 「時裕君?いや、そういえばまだ見てないなあ」 そうですか、と言って私は、私と同じ学校の学生服を着た男の子たちによってバトルが繰り広げられている筐体のほうへ視線を向けた。 お兄ちゃんは一度この店に足を踏み入れると三時間は出てこないので、もしお兄ちゃんが店にいれば、今日は止めておこうと思ったけれど、カトーさんの言葉を聞いていよいよ心臓がドキドキし始める。 「バトルかい、のどかちゃん」 カトーさんは丸い黒縁眼鏡を掛け直しながら言った。 「はい。初めてなんですけど...」 「そりゃよかった。やっぱり武装神姫はバトルが一番楽しいからねえ。次、席空けてもらうからちょっと待っててね」 そう言ってカトーさんはカウンターから出て、つかつかと盛り上がる一方の筐体のほうへ歩いていく。そして学生服の男の子たちと話始めた。 そのうち何人かが私のほうをちらっとみる。その中に同じクラスの藤井君の姿が見えたので少し手を振った。ただ私に気づいているかどうかはわからなかった。 「緊張するね、マリー」 「大丈夫ですわ。きっと」 少し経って、カトーさんは手招きで私たちを呼ぶ。私は背筋を伸ばして恐る恐る筐体へ向かい、マリーはその後を飛びながらついて来る。途中、やっと藤井君も私たちに気づいたようだった。 カトーさんの横にはこの店では珍しく、女の子が立っている。彼女もまた男の子たちと同じように私と同じ学校の制服、というか私と同じ制服を着ていた。 「丁度いい対戦相手が見つかったよ」 と言ってカトーさんは傍らの女の子の肩をぽんと叩く。 「彼女は先月神姫バトルを始めたばかりなんだ。ね、香子ちゃん」 「よ、よろしくお願いします」 その女の子は右肩に神姫を乗せたまま深々と頭を下げる。当然、彼女の右肩に座っていたジルダリアタイプの神姫は声を上げながらずり落ちた。しかしその神姫は落ちていく途中、一回転してから急に落下を止めて腕を組みながら少しずつ浮き上がっていった。 そしてそれに気づいた女の子が顔を上げて、その神姫のほうを見るまで口を尖らせ続ける。 「あ...!ごめんなさい」 「もう少しまわりに注意してくださいね、マスター」 「ごめんなさい、本当にごめんなさい」 女の子はすっかり私を忘れて彼女の神姫に謝り続ける。その様子をまわりの男の子やカトーさんがくすくすを笑った。 「も、もういいですっ。それよりみなさんが...その...見てますから...」 それが恥ずかしかったのか、女の子の神姫は少し頬を赤らめてどんどん声量を落としていった。 俯きながらちらりと私たちを見て、話を変えて、と訴える。 神姫でもそんな表情をするのか、と感心した私は急いで自己紹介をした。 「えっと、七組の月夜のどかです。こっちはマリー」 「ごきげんよう、マリー・ド・ラ・リュヌですわ」 女の子は思い出したように私たちのほうを見る。 「あ、はい、五組の斎藤香子です」 「ジルダリアのラーレです。よろしくおねがいします」 私の通う高校の一年生は、九クラス三百六十人。私は五組には一人も友達がいない――もちろん偶然だ――ので、彼女とは初対面だったことも納得がいく。 「じゃ、挨拶が済んだところで、早速バトルにしようか」 私も香子ちゃんも、そしてマリーもラーレも、そう言ったカトーさんのほうを向いてはい、と返事をした。 作品トップ | 後半