約 375,221 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/507.html
第1話 二日酔いの朝の出会い ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ 「あ、つぅ…………朝、かぁ………うう、頭いてぇ………飲みすぎたかなぁ……」 痛い頭を抱えつつ、俺の眠気を見事までに吹き飛ばしてくれた目覚し時計を手探りで探し当て、叩く様に止める。 そしてぼんやりと朝日に照らされた自分の部屋を眺めつつ、昨日あった事を思い出す事にする 頭にガンガンと響く頭痛の所為で多少記憶のローディングが遅くなっている物の、少しずつ思い出してくる 昨日は俺の働いている会社の近くの居酒屋で、転勤となる上司の送別会で記憶が半分ほど消し飛ぶ位、飲んで騒いだのだ。 それこそ店の店員さんや他の客とかに嫌な目で見られるくらい………反省しなきゃorz あ、それで確か、その送別会のビンゴゲームか何だったかで何かを当てたんだっけ………? 「何だっけ……えーっと………武装………戦記?」 「武装戦記ではありません。武装神姫です、主殿」 「ああ、そうだった、武装神姫だった……って誰だ?……あれ?居ない……」 突っ込みに対してついつい肯定した後で、自分以外の誰かが居ることに今更気付き、 思わずその声の主の居る方向を見るがその姿は無く、俺はつい首をかしげてしまう。 「下です、主殿」 「下?……って、あ」 声に言われるがまま、俺が目線を下に向けると、それは其処に居た 身長15cmほどの人形・・・いや、武装神姫と言うのだろうか 金髪の凛々しい顔立ちの蒼い鎧の女騎士が俺の傍にちょこんと正座していた。恐らく彼女が声の主なのだろう。 良く周り見れば、俺の寝ている布団の傍に恐らく彼女が入っていただろう空っぽの箱が転がっており 送別会の後で家に帰った俺が昨日の内に開けた事をおぼろげながらも思い出した。 と、俺がそうこう考えている内に、彼女は礼儀正しくお辞儀をした後、話し掛けてくる。 「おはようございます、主殿。昨日は大分御疲れの様でしたが、御加減は宜しいでしょうか?」 「あ、ああ、二日酔いの頭痛はするけど大丈b……ってそうじゃなくて、 お前さんは一体………」 「む……どうやら、主殿は昨日の記憶の一部がリセットされている様ですね……… ならば再度説明いたします、私(わたくし)は武装神姫シリーズ、TYPE KNIGHT『サイフォス』と申します」 「は、はぁ……それで、お前さんはサイフォスって名前なんだ………」 「いえ、『サイフォス』と呼ばれるのは所謂形式名みたいなもので、人間で言う名前とは異なっております それと……現在、私の名前がまだ登録されていない状態です」 「へぇ、そうなんだ。じゃあ、名前をつけなきゃ……何が良いかな?」 「主殿が御与えになる名前なら、私はどのような名前でも喜んで受け入れましょう そう、たとえどのような屈辱的な名前でも、(ピー)だとか(チュドーン)だとしても!(検閲済み)」 「いや、そういわれると逆に困るんだよな………う~ん………」 しばらく悩み、彼女が「私のなんかの為に悩む事はないのです」とか言い出しかけたその時、 俺の頭の中でピンと良い名前を思い浮かべる 良し、そうだ、ルージュって名はどうだ? 「ルージュ、ですか……では今後は私の事をルージュと御呼び下さい、主殿。 ………所で、不躾ながら主殿にお伺い致しますが、何故、そのような名前に………?」 自分自身の名前の登録をしていたのだろうか、少しの間動きを止めた後 徐(おもむろ)に自分の名の理由について聞いてくる彼女、もといルージュ 「いや、何、最初は女騎士とかその鎧の蒼色にちなんだ名前を付けようかな、とか思ったんだけど。 女騎士に関しては、どっかのエロゲのサーヴァントと同じじゃあ、ある意味困るし。 それじゃ、ジャンヌはと言うと何処ぞのバ金持ちが先に使っているのを思い出した訳で、アレと同じなんぞ面白くもない。 かといって蒼色に因んだ名前じゃあ余りにもありきたりだと思ってな。 其処でふと、お前さんの顔を見てたら何となく口紅が似合いそうだなって、 それじゃあルージュだ、と決めたんだけど……やっぱ、変か?」 俺が苦笑しつつ彼女にそう言うと 「いいえ、主殿が私の名に関して悩みに悩んでくれた事、大変嬉しいです! もし、私の名を変だなんて思う者が居るのなら、私のこのコルヌで斬り伏せてやります!!」 「わ、分かった分かった、とりあえず落ち着け、な?」 腰の剣を抜き、自分の頭上に振り上げて興奮するルージュをなだめる俺 どうやら、こいつは主の事を愚弄されると熱くなる性格って奴か……… 「あ……も、申し訳ありません!主殿に大変御見苦しい姿を見せてしまった様で…」 自分のはしたない姿を見せてしまった事で、少し表情が暗くなるルージュ やれやれ、妙に礼儀正過ぎるってのも困り者だな…… 「いや、もう気にしなくても良いから、そんな暗い顔を止めて笑顔になれって それに、妙に堅苦しくしなくても良い、そんな堅苦しくされると俺が逆に緊張しちまう だからリラックスリラックス、お前さんの好きな様にすれば良い」 「そんな……主殿の御優しい心遣い……私は……私は本当に嬉しいです」 俺の言葉にルージュは今までの堅苦しい表情から笑顔に変わる、 その笑顔を見て、俺は武装神姫にハマっている連中の気持ちが少し理解できた…… 「………まあ、とりあえず今後とも宜しくな、ルージュ」 「ハイ、宜しくお願い致します、主殿! 主殿が望むのであれば、この私の仮初めの命、幾らでも差し出します」 「いや、流石に命は差し出さなくても良いって………ハハ」 苦笑しつつ俺が差し出す人差し指の指先と固く握手するルージュ こうして、俺と妙に礼儀正しいがキレると途端に熱くなる、笑顔の可愛い女騎士との生活が始まった。 おまけ 所で、何でルージュは俺の事を「主殿」と呼ぶんだ………? ひょっとしてそれがお前さん等のデフォルトなのか? 「いえ、呼び方に関しては他にもマイロード・ご主人様・マスターなどの呼び方が設定できたのですが 昨晩、私を起動させた際、主殿は赤ら顔で「何と言われようとも俺の事を主殿と呼べ!!」 と仰られた後、私がその設定を完了した事を伝える間も無くバッタリと御休みに…… 主殿、どうか致しました?やはり体の具合が……」 いや………何でも無いよルージュ、気にしないで……… 心配するルージュを尻目に昨日の自分の酷い行動を思い出した所為で、 より一層激しさを増した頭痛をこらえつつ俺は、 酒だけは本当に程々にしなくちゃなと、暫し猛省するのであった………orz 第2話に続く メインページに戻る トップへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2853.html
ぶそしき! これから!? 登場人物紹介 <第0話> ●佐伯友大(さえき ともひろ) 10歳 父の転勤に合わせ、上里小学校に転校した少年。 現在父子家庭の一人っ子。 父親の仕事の忙しさと転勤の多い家庭環境により、寂しい思いをしている。 父親に心配をかけさせたくないため、不満は口に出さずに家事もしている。 ある日、ずっと一緒にいられる友だち欲しさに、今まで貯めていたお年玉とおこずかいをはたいて神姫購入に踏み切る。 ヒイロの件を見て分かるように、好きなカラーは「赤」。 小学生のため主に金銭的な関係で神姫のパーツ入手に苦労することになる。 <第1話> ●羽々辺誠志郎(はばのべ せいしろう) 15歳 実家から離れた新戸守市の竹上高校に入学した少年。 色付きのメガネを着用している。 学校ではうっすらとしたもので、普段は青系の色が付いたものを使っている。 同年代と比べてかなり小柄で、同じ位の年齢と友大に間違えられて、彼の初めての神姫バトルの相手となる。 背丈と見た目に関しては、今は家系的なものと諦観しているらしい。 ・・・ ●星原店長 今年三十路となった社会人の独身男性。 昔はとある企業に勤めていたが辞めて、色々あった後におもちゃ屋スターフィールドを始める。 実は武装神姫が初めて発売された頃からの紳士である。 神姫に関することならソフト面ハード面ともに強い。 紳士淑女を増やすために初心者のために、筐体改造とトレーニング用ロボなどを作っている。 他にも色々やっているらしい。 ・・・ <第2話> ●成行春澄(なりゆき はずみ) 10歳 佐伯と同じ上里小学校に通う女の子。 少々内気。 チャオは遊び相手として買い与えられた。 衝撃的な出会い? で記憶のかなたに飛んでしまっているが、実は友大が引っ越した当日に会っている。 本人に自覚はないが、友大を神姫マスターの道に引きずり込んだ原因その1。 成り行きで友大と友だちになる。 両親はおらず、祖父母に育てられている。 料理や裁縫などの家事は勉強中。 トップページ
https://w.atwiki.jp/2chbattlerondo/pages/274.html
アーマー/フィギュア武装 容量オーバーのため分割しています。 第1弾~第13弾 / ライトアーマー他
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1567.html
* 七瀬 都 性別:女 年齢:23歳 職業:本屋 好物:レアチーズケーキ 女性にしては妙な喋り方をする本作の人間側主人公。 ハウとノワールのオーナーである。 歳の離れた妹がいるらしい。 数ヶ月前に恋人を失っており、その悲しみから街を徘徊していた所ハウを発見し保護する。 * ハウ オーナー:七瀬 都 オーナに対する呼称:マスター Kemotech社製オートマトン・神姫・犬型MMSハウリンタイプ 本作の第二の主人公。 常にテンガロンハットを被っている。 数ヶ月前、雨の中傷だらけで倒れている所を七瀬 都に保護される。 保護される以前の記憶は喪失しているようだが・・・・・ なぜか『刃物』に対して強い恐怖感を抱いており、武装もTMPやハンドガン等を使う。 って言うかガン=○タ。 誰が何と言おうとガ○=カタ。 * ノワール オーナー:七瀬 都 オーナに対する呼称:マイスター Front line社製オートマトン・神姫・悪魔型MMSストラーフタイプ。 見た目が主人公っぽい脇役。 口下手、無表情、物ぐさな性格であり七瀬 都が経営する本屋のレジ打ちをしているが、客が来ないため大抵寝ている。 派手な銃器を好み、背面ユニットの両腕にガトリングやミサイルを搭載したり肩にキャノン砲乗っけたりと一番物騒な子。 古来より人類の敵とされてきた『忌まわしき黒い悪魔(生息地・台所)』を見つけるとひたすらにぶっ放す。 以前は『刃物』を中心とした戦闘スタイルであったが数ヶ月前にそれを止めてしまった。 吉岡 昴 性別:男(自称心は乙女) 年齢:23歳 職業:神姫センター・神姫用医務室室長 好物:上腕二頭筋 筋骨隆々身長2メートルスキンヘッドにサングラス。 どう見ても堅気には見えないデカイオカマ。 七瀬 都とは中学以来の付き合いらしいが、どんな学生生活だったのかは不明。 今現在は七瀬の家の傍にある神姫センターで働いている。 もっぱらバトル等で破損した神姫の修理をしているようだ。 オカマッチョ 美代子さん オーナー:吉岡 昴 オーナに対する呼称:旦那様 Magic Market社製オートマトン・神姫・マーメイド型MMSイーアネイラタイプ 聖母マリアの如く常に微笑んでいるがその実何も考えていない。 吉岡と並ぶとまさにガリバーである。 富豪の爺 性別:男 享年:78歳 既に死んでいる謎の老人。 『切り裂き』 全てが謎に包まれている神姫。 その名の通り、神姫にいきなり襲い掛かってはブレードで切り裂いてしまう通り魔。 自意識の存在は不明。
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/485.html
凪さん家シリーズ 真・凪さん家の十兵衛さん 凪さん家の弁慶ちゃん 舞台設定 凪家(なぎけ) 三階建ての一軒家 私立黒葉学園(しりつこくようがくえん) 保育所から大学院まで、無理やり言うならば保幼小中高大院一貫という超巨大学園。 航空写真で見ると校舎が放射線状に広がっており、まるで四葉のクローバーの様に見える。 高校生以上を対象に学生寮も完備している。 地下鉄の駅が学園内にあり、交通の便は最高。 東西南北と地下鉄の改札が学園の門である。 高等部以上の生徒は学生証、生徒手帳なども兼ねるPDAで入場出場を行い、時には財布として購買や食堂などを使用する。 学園の生徒達の働きもあって、神姫同伴での登校、授業参加が可能になった。 ちなみに高等部以上の生徒証はPDA、授業はノートパソコンで行う。 中等部以下は生徒証がパスカード式、授業は紙媒体を使用する。 なお、この学園では男子制服、女子制服ときっちり決まっておらず、「~系制服」で表す。 別に男子系制服(パンツ)を女子が穿いても良い。あまりいないが、その逆も許されている。 部活動についても少し変わっており、中等部~大学部まで分け隔てなく同じ部活を行う事が可能。 そのため大学部の部員が中等部の部員の指導をするな事も可能。 黒葉学園制服 左 男子系制服(冬)モデル「凪千空」 右 女子系制服(夏)モデル「渡瀬美琴」 腰にPDAラックあり。 黒葉学園PDA 喫茶店LEN(きっさてんれん) ホビーショップ【エルゴ】にほど近い場所に位置する喫茶店。 凪家の親戚、真凪京都が父より受け継いだ店。 一階は駐車場、二階が店、三階が住居となっている。 ちっちゃいもの研と提携しているようで、神姫サイズの小物を扱う店でもある。 武装関係はエルゴに任せるとして(笑) LENに置いてあるのは神姫サイズの食器や手作りお菓子など。 喫茶店なので自動販売機は無いが、神姫サイズのコーヒーマシンなど、看板神姫のレンが使用してモニタリングしている。 神姫が頼んだオーダーははレンが、人間のはオーナーの京都が作る。味はどちらも変わらないらしい。 千晶のバイト先であり、黒葉学園神姫部のたまり場でもある。 カウンター付近 カウンターの上に神姫サイズのカウンターがある。 (椅子ももちろんあります。描いて無いだけで(爆) 店内(カウンター側から) テーブルの上にも神姫サイズのテーブルが。 店入り口 二階が店舗なのでこんな感じに。 轟号(ごうごう) 「LEN」所有の大型トレーラー 元々は神姫狩り部隊用の移動指揮車兼台所で京都が車長だった。 京都が神姫狩りをやめ、喫茶店を継ぐことになった際、緊急時の全面協力を条件に特別に受領。 現在は各種イベントや長期間遠征などに使用する移動式店舗となっている。
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2418.html
キズナのキセキ ACT1-8「聖女のルーツ その2」 ◆ 「姐さん、お世話になりましたね」 「あ、あぁ……そんなことは……いいんだけど、さ……」 微笑すら浮かべて挨拶する桐島あおいに、姐さんは呆気にとられた。 同時に、激しい違和感を感じた。 姐さんの知っている桐島あおいは、こんな笑い方をしない。 これが三日前、裏バトル会場で泣き叫んでいた神姫マスターと同一人物だろうか。 そして、あおいの新しい神姫。ノーマルのハーモニーグレイス型に見えるが、立ち居振る舞いはまったく違う。 二人とも何とも言えず不気味だった。 この三日の間に、裏バトルでの顛末は知れ渡っていた。 ゲーセンの常連たちが、ニヤニヤと笑いながらこちらを見ている。 しかし、あおいはどこ吹く風といった表情で、空いている筐体に座ると、アクセスポッドにマグダレーナを送り込んだ。 常連の一人が、すぐに筐体の向かいに座った。完全に小馬鹿にした表情。 対戦が始まる。 そして、対戦が終わったときには、常連たちの表情はすべからく、驚愕と畏怖に塗りつぶされていた。 マグダレーナの勝利。重武装の神姫相手に、三十秒とかかっていなかった。 常連たちは次から次へと対戦を仕掛けてくる。 マグダレーナはことごとく圧勝し、連勝を積み重ねた。 マグダレーナの武装は、ハーモニーグレイスのデフォルト装備と変わらない。スカートアーマーの中に小型スラスターが追加されたのと、キャンドルに柄がついて、ビームトライデントにカスタマイズされている程度だった。 それでも、あらゆる神姫を退ける。 あおいは薄ら笑いを浮かべながら、その様子を見守っているのみだった。 マグダレーナの勝ち星が二桁を越えたが、彼女はかすり傷一つ負っていなかった。 「……誰か、アダチさんに報告しろ」 常連の一人が小声で言う。 アダチは、ゲーセンで一番の実力者で、裏バトルでルミナスを破壊した因縁の相手だ。 こうしてあおいは、その日のうちに仇敵を引っ張り出すことに成功した。 「神姫を無くしたばかりだってのに、ずいぶん調子こいてるみたいじゃねぇか、ええ?」 現れたアダチは嘲笑を浮かべつつ、あおいに近づいてきた。 あおいは微笑みを返し、言った。 「あなたとここでバトルする気はないわ」 「なにぃ……?」 「わたし、また裏バトルに参戦しようと思ってるの。そこでお相手してくださる?」 「上等だぜ……また笑い物になりたいみてぇだな……」 アダチは舌なめずりしながら承諾した。裏バトルのマッチメイカーには、自分が話を通す、とも。 週末、あおいは再び裏バトルに挑む。 姐さんはことの成り行きを見守るしかなかった。 □ 「……その試合の内容は……思い出したくない……」 「見たんですか? その裏バトルの試合を」 「ああ……見た。……見なければ良かった……」 姐さんは自らの両肘をぎゅっと抱いた。 「あれは……残虐なんてもんじゃない……それ以上に、むごい……そうとしか言いようがなかった……」 長く息を吐くように、姐さんは静かに呟く。 それほどに、思い出したくもないほどにひどいバトルを、俺は想像できない。 だが、この後姐さんから語られた話は、その片鱗を知るのに十分な内容だった。 ◆ 悪魔モチーフの神姫と、修道女モチーフの神姫のバトルは、さながら悪魔対エクソシストの様相だった。 観客たちの予想は、もちろん悪魔の勝利だった。フル装備の高性能なストラーフと、ほとんどノーマルのハーモニーグレイスでは、勝負にならないと見るのが普通である。 賭け率も九対一でアダチ有利のオッズになっていた。 あおいはアダチに一度手ひどく負けているから、このような評価になるのも当然だった。 確かに、勝負にならなかった。 圧倒的な戦闘力で、修道女は悪魔を蹂躙した。 もはや、ステージ上の大型ディスプレイで展開されていたバトルは、一方的な残虐ショーになり果てていた。 エクソシストが、地べたに這いずる悪魔ににじり寄る。 『ひっ』 アダチのストラーフは、恐怖に顔を歪めながら、這うようにして、マグダレーナから逃れようとする。 彼女はすでに深刻なダメージを負っており、もはや戦闘できる状態ではない。 対するマグダレーナは、攻撃時に舞った埃を纏うのみ。 マグダレーナは、ストラーフの背後から、ゆっくりとした足取りでにじり寄る。 やがて、ストラーフを足元に捉えたマグダレーナが、のんびりと攻撃を開始した。同時に、アダチのストラーフの絶叫が会場に響きわたる。 「やめろっ! おい、聞こえてんのかよ! あいつの装備は高けぇんだぞ!? 百万は下らねぇんだ! やめてくれよぉっ!」 筐体の向かいに座るあおいに対し、アダチは怒鳴った。 あおいはそんな怒声を受け流し、微笑を浮かべ続けている。 「……マグダレーナ、装備も残らず粉々にして」 『承知』 「な……てめぇぇっ!!」 顔を真っ赤にして睨むアダチに、あおいは涼やかな視線を向けた。 「強い奴がエラいんでしょ? あなたがそう言ったのよね? だったらわたしに……マグダレーナに勝てばいいんじゃない?」 「なっ……こっちはもう戦えねぇだろ、勝負はついたんだ! だったらもう、バトルは終わりだ!」 「……それが、負け犬の分際で、人に物を頼む態度?」 「くっ……」 アダチは悔しさに拳を握りしめながら、うつむいたまま、言葉を絞り出した。 「もう……勘弁してください……おねがいします……」 あおいは満足したようににっこり笑って頷いた。 「いやよ」 「なっ……!?」 「だってあなた、わたしがこの間そうやって必死にお願いしたけど、聞いてくれなかったじゃない」 「て、っめえぇぇ……!」 筐体のイスを蹴り飛ばし、アダチが飛び出した。 掴みかかろうとする。 その手が、あおいの胸ぐらを掴もうとした瞬間、 「がっ」 身体が大きく震え、その場にうずくまってしまった。 あおいの右手に、小さな箱のようなものが握られている。先端から青白い火花が散った。 「夜の一人歩きは危ないでしょう? だから護身用に持ってるの。スタンガン」 アダチが顔を上げる。 美しいあおいの顔が、自分を見下ろしていた。 不気味な、能面のような笑顔で。 そのとき、ようやくアダチは理解した。こいつは俺に復讐しに来たのだ。俺がこいつにしたのと同じように。だとしたら、はじめから赦すつもりなんてないのだ。 ストラーフの絶叫がひときわ高くなった。 リアルバトルのフィールド上で、マグダレーナが単純作業をこなすように、淡々と装備を破壊していく。まるで職人芸のような、悪魔の所行だ。 目の前で丁寧に破壊されていく装備は、アダチが時間をかけ、苦労を重ね、お金もたくさん使って集め、カスタマイズしたものだ。 「やめてくれ……もう、勘弁して……やめてくれぇ……」 弱々しく、呟くような懇願を漏らす以外に、できることはない。 彼の神姫はいまだ絶叫を続けている。 観客たちは静まりかえっていた。目の前で繰り広げられる、予想外にして想像を超えた惨劇に、言葉を失いながらも、ディスプレイの映像から目をそらすことが出来ないでいる。 そんな中。 姐さんの耳にかすかに聞こえてきた、鈴を鳴らすような、声。 「ふふ……うふふふ……あは……あはははははは……!」 ステージの上、あおいが嗤っている。 本当に、心からおかしい、というように、身体を反らせて。 美しい哄笑が、静まりかえった会場の奥まで染み渡った。 すると、あおいは観客席の方を向いて、見回しながら、言った。 「……ねえ、どうしたの? なんでみんな笑わないの? わたしのときには、みんな笑ってたじゃない!? わたしは笑うわよ? あははははははは!」 ステージの上で一人爆笑を続けている。 甲高い笑い声が、いやでも耳に入ってくる。 観客席の一番後ろでその様子を見ていた姐さんは、思わず一歩後ずさった。 「……狂ってる……」 思わず呟いてしまった。 だが、あおいにしてみれば、神姫を失った絶望をから自分を守るためには、狂うしかなかったのかも知れない。 そうさせたのは、紛れもなく、アダチであり、この裏バトル会場に来ている面々なのだ。 ならば、彼女の言うとおり、ここで笑わないのは不公平かも知れない。 しかし、観客の誰も絶句したまま、笑うことは出来なかった。 マグダレーナは、あおいの指示を忠実かつ確実に実行した。 最後には、相手のストラーフの素体さえ、修理可能な部品がないほどに粉々に撃ち砕いた。 やがて、マグダレーナがレフェリーの勝利宣言を聞いたときには、おびただしい数の神姫の欠片が足元に敷き詰められていた。 □ 「それ以来、アダチの姿は見てない。手塩にかけた神姫が、たったの一試合で文字通り粉々にされたんだ……もうバトロンもやってないだろ」 姐さんはうつむき、顔を暗くしていた。 聞いている俺でも、気持ちのいい話ではなかった。姐さんの断片的な話だけでもそう思うのだ。会場で目の当たりにしたなら、俺の想像を遙かに超える惨劇が目に焼き付いたに違いない。 酷な話をしてもらったと思う。 それでも俺は言葉を続けざるを得ない。 「……それでその後どうなったんですか?」 「……あんた、まだ聞き足りないのかい?」 「このエリアでバトルロンドが流行らなくなった理由と、さっきの神姫マスターたちが桐島あおいを敵視する理由をまだ聞いてません」 ただアダチという有力マスターが再起不能になっただけでは説明が付かない。 話のはじめで、姐さんは言った。桐島あおいのせいで、このエリアのバトルロンドは廃れてしまったのだと。 いったい、彼女は何をした? 姐さんはじっと俺の顔を見つめていたが、俺に折れる気がないことが分かると、ふっとため息をついた。 「まったく……強情だねぇ」 「時間も金もかけて、ここまで来てますので」 「へえ、どこから来たんだい?」 「C県です」 「そりゃ……ご苦労なこった。じゃあ、もう少し話しようかね」 姐さんは薄く笑って、残りを話してくれた。 ◆ アダチがいなくなったのと入れ違いに、あおいが再びゲームセンターに顔を出すようになった。 だが、歓迎すべきことではなかった。 あおいとマグダレーナは、有力な神姫たちをことごとく狩り始めたのだ。 そう、バトルではなく、狩りだった。 M駅周辺エリアで最強だったアダチの神姫にすら圧勝したマグダレーナである。他の神姫では決してかなわない。 初めて戦ったときにはあらゆるバトルを秒殺で終わらせたが、今度のマグダレーナは違っていた。 裏バトル並に残虐な戦い方をした。 もちろん、ゲームセンターでのバトルはバーチャルバトルだから、神姫も武装も破壊されることはない。 しかし、神姫のAIがダメージを負った。 マグダレーナと戦った神姫は、あまりのバトル内容に、マグダレーナを見ただけで畏れおののくようになった。 特にひどいダメージを負った神姫は、もはやバトルする事もかなわなかった。 そんな神姫たちが続出し、ゲームセンターでのバトルが成り立たなくなってしまったのだ。 対戦相手もいなくなり、バトルする神姫マスターも減って、姐さんの勤めるゲーセンのバトルロンドコーナーはすっかり寂れてしまった。 そんな状況に呆然としていると、今度は違うゲーセンでマグダレーナが猛威を振るっているという噂が聞こえてきた。そこのゲーセンでも、瞬く間にバトルが廃れてしまった。 このエリアの有力なゲームセンターは、マグダレーナの洗礼を受け、神姫たちが狩り尽くされた。近隣のエリアにもその噂は広まり、遠征にやってくる神姫マスターも皆無になった。 もはや、このエリアはバトルロンドの空白地帯になり果てたのだった。 だが、あおいの暴走は止まらなかった。 秋が終わる頃、姐さんの耳に、噂が届いた。 このエリアの裏バトルが壊滅した。 裏バトルのフィクサーは、マグダレーナの選手登録を大いに歓迎した。 長らく有力選手だったアダチのストラーフを下したのだ。新たな有力選手、そして残虐なバトルをするヒール役として迎え入れた。 そして、観客の人気も上々だった。裏バトルでは強い神姫に人気が集まる。金を賭けているのだから、当然だ。 しかし、フィクサーの判断は裏目に出た。 裏バトルで多額のファイトマネー得たあおいは、マグダレーナの武装を整えていた。 もはやアダチと戦ったときのマグダレーナではない。 アダチのストラーフ以上の実力者を相手に、圧倒的な力の差を見せつけた。しかも、前回同様、完膚無きまでに神姫を破壊して。 その戦いぶりから、桐島あおいとマグダレーナは『狂乱の聖女』の異名を取ることになった。 二人の狂乱はとどまることを知らなかった。 リアルバトルでもバーチャルバトルでも、負けた相手は必ず再起不能になる。 さすがのフィクサーもこれには困り果てた。 そろそろ負けてもらわねばならない。 そこで、この裏バトル会場で最強の神姫とマッチメイクした。マグダレーナに負けず劣らず極悪な神姫である。 いくら『狂乱の聖女』といえど、無傷というわけにはいかないはずだ。 そのはずだった。 だが、装備を整えたマグダレーナは無敵だった。 フィクサーの意図を察していたマグダレーナは、最強神姫との戦いを秒殺劇にして見せつけた。 これには、裏バトルの関係者、観客のすべてが、絶句した。 もうこのエリアにマグダレーナの敵はいなかった。いや、最初からいなかったのかも知れない。誰もマグダレーナにダメージの一つも与えることは出来なかったのだから。 そしてついに、裏バトルも閉鎖になった。 有力な神姫は『狂乱の聖女』にことごとく狩り尽くされたのだ。 そうなれば、賭けは成り立たない。神姫マスターの出入りもなくなり、観客も減ってしまった。もう、興業としては壊滅だった。 こうして、M市のバトルロンドは衰退した。 桐島あおいの復讐は、こうして完遂されたのだった。 □ 「……確かに、あの子をおかしくしちまったのは、このエリアの連中みんな……だったんだろうよ。 でも、あんまりじゃないか……。いくら強いからって、このエリアのめぼしい神姫を全部潰すなんて……。 バトルの姿勢がどうあれ、みんな武装神姫が好きだったのに……」 桐島あおいの容赦ない粛正の結果、M駅を中心としたエリアにあるゲームセンターでは、バトルロンドは下火になった。今は粛正を免れた連中が来て、細々と愚痴を言っているだけである。 このあたりでバトルロンドが盛り上がっているのは、隣町の神姫センターだという。 なるほど、どうりでM市のバトルロンドの状況について調べても、めぼしい情報が出て来ないわけだ。 今のこのエリアの状況は、桐島あおいの望んだとおりとも言える。 神姫センターでのバトルなら、勝負にこだわったプレイスタイルであるとしても、公式のレギュレーションに則るため、健全性が約束される。 彼女はエリアに蔓延したプレイスタイルに対しても復讐を成し遂げたのだ。 俺はそう思った。 「わたしの話は、これで終わりだよ」 姐さんが呟くように言った。その横顔は、どこか寂しそうに、悲しそうに見えた。 「最後に一つだけ教えてください」 「なんだい、まだあるのかい?」 「桐島あおいが今どこにいるか、知っていますか?」 「知らないね……でも、噂は聞こえてくる。あの子がまだ、どこかで戦い続けていることはね……」 姐さんは瞼を伏せ、うつむいた。 そして、小さな声で、こう言った。 「……なあ、あんた、もし……あの子に会ったら、伝えてくれるかい?」 「なんでしょう」 「もう……あの子は十分戦った……もう休めって。これ以上、他人も自分も傷つけないで……そう伝えておくれ」 「……わかりました」 その短い言葉から、姐さんという女性の情の深さが伝わってくるようだった。 M駅中心のエリア自体が、桐島あおいによって壊滅させられたのだ。バトルロンドが出来なくなった店の損害もあっただろう。 だが、それでも姐さんは、桐島あおいの心配をしているのだ。 口で言うのは厳しいが、不器用で情が深い。だからこそ、常連たちは姐さんの言うことに素直に従うのだろう。 俺は姐さんに改めて礼を言って、ゲームセンターを後にした。 随分長く話し込んでいたらしい。日が西に傾いていた。そう言えば昼飯もまだ食べていない。 とりあえず、座れるところで、食べながら考えをまとめよう。 そう思って、俺はマクドナルドに足を向けた。 夕方のファーストフードショップは、学校帰りの学生たちで、それなりに賑わっていた。 レジ待ちの列の後ろについたところで、携帯端末が鳴った。 ポケットから端末を出し、相手を確認する。 大城だ。 「もしもし」 「遠野、お前今どこにいる?」 「……なんだ、やぶからぼうに」 「緊急事態なんだよっ!」 大城の怒鳴り声が携帯ごしに飛んできて、俺は思わず耳から遠ざけた。 何を焦ってるんだ 「今、ちょっと用事があって、M市に来てる」 「M市……だと? なんだってこんなときに、そんな遠くにいやがる……」 「なんだよ、何かあったのか?」 まさか、また何かやっかいごとか。 俺がため息をつこうとした時、携帯から聞こえてきた大城の声。 「あったんだよ! 桐島あおいって女が、ノーザンに来て……」 俺の手から携帯端末が滑り落ちた。 次へ> Topに戻る>
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/650.html
第漆幕 「READY STEADY GO」 華墨のここ二戦における敗因・・・それは俺のマスターとしての至らなさと、華墨自身の「猪突猛進なゴリ押し」スタイルにある 華墨は実戦経験がまだまだ足りない・・・にも関わらず、その身体能力でもって勝ちを続けてしまった事が、自身の弱点を見えにくくし、ひいては慢心さえ生んでいた 弱点を改良していき、より良い戦術を開発しなければ、勝利し続ける事は出来ない 例えば、俺はあの「シルヴィア」について殆ど何も知らないが、公式武装主義者が勝ち続けるには、多分ゴリ押しだけじゃ駄目なのだろうという事くらいは判る 別に俺は公式武装主義者になろうとしている訳ではない が、目下の所その「公式武装」もまともに扱えているのかどうか怪しい華墨に、山の様なカスタムパーツを託すというのは・・・かなり無理がある気がしてもいた 取敢えずは、今迄の華墨の戦闘データを見てみて、どういう戦術が良くて、どういうのが不味いのか、何が得意で何が不得手なのかを検証してみる事。今はそれが第一だろう (とは言ってもな・・・) 自慢じゃないが俺は戦術だとか戦略だとか、頭が要りそうな事はほとほと苦手だった (ええい、だからってやらない訳にはいかないだろう!華墨はこういうの、もっとやらない「たち」なんだから) それもまた、「二人で闘う」ことの一つの有り方だろう (まず注目すべきなのは華墨の「ゆらぎ」の賜物、この超抜の運動能力だろうな) 今迄華墨は、「ストラーフ(ニビルではない)」「マオチャオ」「ハウリン」「ジルダリア(?)」「サイフォス」と闘った事があるが、その運動能力・・・というか脚力は、ほぼ「ストラーフ」のパワードスーツと大差無いレベルに見えた その脚力が叩き出す瞬間速度は、全身に鎧を纏っていてもマオチャオやハウリンのそれを越える かなりの練習が必要だと思うが、半端な高度を飛んでいる相手になら補助装備無しで空中戦を挑む事すら可能だろう ただし、回避が下手糞というか、速度に頼って見え透いた突込みをし過ぎる所から、多分同じ相手とやると相当な高確率で敗れるだろうし、明らかにこういうタイプに強いであろう「エルギール」に勝利する事は不可能だろう (多分もうちょっと跳躍とダッシュを織り交ぜたトリッキーな動きをした方が良いんだろうなぁ・・・) 例えば、初めてヌルと闘った時に見せたあの壁蹴りの様な・・・だ 武器は今の所、「紅緒」に付属していた標準装備は一応全て使ってみたが、太刀が合っているだろう どのみち、運動能力を全面に押し出した戦いをするなら大き過ぎる武器は邪魔になる可能性が高い かといって、ナイフコンバットさせるには、密着戦のセンスが未知数だ。そもそも「紅緒」は、比較的大型の白兵武器を振り回すタイプなのだから、剣を手放させてもあまり良い事は無いように思える だが、太刀を主力に闘う限り、あの「エルギール」の「魔女の剣」は重大な壁になるだろう・・・あの剣は、太刀より遥かに間合いが広く、加えて長い武器を絡め取るのに向いている・・・ (もう少し強力な飛び道具があればアウトレンジから一方的に攻撃出来るんだがな・・・装甲が薄いから白兵戦相手じゃ強そうだが弾幕には弱そうだ) 結局華墨にとって最も攻略しなければならない第一の難敵があの魔女、エルギールである事は明白だった 「うぅ~むむむむむ・・・」 俺は頭を抱えて部屋でごろごろ転がるのだった 「・・・暇だな」 私はベランダで頬杖をつき、甲羅干ししている「ヴェートーベン君」をつついていた マスターが色々考え始めたのは良いが、どうもそういう作業に慣れて居ないのか、知恵熱が出る寸前の様だった かといって私は私で、普段は一人で色々考え込む癖に、いざ戦闘の事になると、何も考えずに突っ込んでしまえば良いと思っている(実際今でもそうだが)ものだから、結局マスターが考える事になってしまった様だ 少しずつ等身大の自分が見えて来たが、どうも私は、自己存在についてあれこれ悩む事と、何も考えずに体を動かす事が好きな様だ 「・・・また一人でバトルスペースに行こうかな・・・」 呟きつつ振り返る。そこでばっちりボナパルト君と目が合ってしまった 「・・・」 なんかまた激しく片目をぐるぐる動かしつつ片目はしっかり私を見ている・・・だから体の隅の方だけ色変えんな!気色悪い 「えぇいっ!相変らずでかい面してっ!言って置くが私はお前に負けた訳ではないのだからな!其処の所はっきり・・・うをっ!!」 またしても私の顔の横を凄まじい速度で通り過ぎるボナパルト君の舌・・・おのれ、爬虫類め・・・馬鹿にしくさって! その時、部屋のインターフォンが鳴る。同時に、これまた凄まじい勢いで駆け出すマスター 「はいはいっ!はいはいっ!!待ってましたっっ!!」 宅配されて来たものは・・・なんとも大掛かりな機械だった。結構な額を支払っているマスター 「へへっ・・・ようやく来たぜ」 「マスター、それは一体何だ?」 ごそごそと説明書を取り出してパソコンと繋ぎ始めるマスター 「所謂トレーニングマシンってやつさ。二個前の機種だから結構安く買い叩けたぜ・・・おっけい!多分コレで動く筈」 『ふいいいいぃぃぃ』とか間の抜けた唸りを上げながら起動するトレーニングマシン。無骨なアクセスポッドが大袈裟な蒸気を上げて開く・・・なんか微妙に入りたくねー 「さぁ華墨?カモ~ン」 渋々・・・という顔だけしてポッドインする。入ってみれば槙縞玩具店のアクセスポッドと大差無いな 『実際のリーグで使われてるのと殆ど同じステージが幾つか入ってるっぽいな・・・取敢えずこの「ゴーストタウン」とかいってみるか』 画面を切り替える度に『ぶひいいいん』とか一々音がする仕様を何とかして欲しい 切り替わった世界、出現するダミー神姫 「ふっ!」 機械に対する不満は幾つかあったが、こうやってバトルが出来る事自体には不満は無い・・・むしろ望む所だ 『んじゃぁ俺ちょっと出てくるから、その間に「慣らし」やっといてくれ』 「応!」とだけ応えて、私は手近のダミー神姫との殺陣に没頭し始めた 俺が帰って来た時、華墨は新しい相手と闘い始めた所の様だった。それを邪魔しない程度に、「買って来たモノ」をサイドボードに放り込む 新しい相手は「アーンヴァル」か・・・華墨が今迄闘った事がなく、そしてもし「エルギール」を下したら、その後最も大きな課題になるであろう神姫だ 上空から距離を保ったまま強烈な砲撃を繰り返すアーンヴァルに、華墨は大いに攻めあぐねている様だった 丁度良い 「華墨!今からサイドボードを送るから、巧い事ソイツでなんとかしてみろ。いくぜ!?」 さぁ行け、モデルPHCハンドガン「ヴズルイフ」!!華墨の可能性を俺に示せェェ!! たかだかボタンを一個押すだけに無駄に気合いを込めて、華墨の左手に大型リボルバーを転送する しっかり握り締める華墨、そして 『おおおおおおおおおおおおおおォォォオ!!』 ハンドガンを握り締め、傾いたビルの壁面を駆け上がる華墨。そうだ、それだ!お前にもし魂があるなら・・・ 跳躍する華墨。無論、実際に「飛んで」いるアーンヴァルに、翼無き身では届く筈も無い だが今の華墨には俺が与えたもう一つの剣がある・・・!やってみろ、華墨・・・お前の力を 「お前の力を見せてみろおおおおおぉぉぉォォ!!」 天使は、堕ちながらバーチャルの空気に溶けて消えて行った・・・ 神姫が人と同じ心を持ち、その身に燃える魂が有るならば・・・華墨のその魂の名は「闘志」に他ならないだろう 多分華墨は、良くも悪くも「武装神姫」を体現しているのだ プログラムされたものでありながら、ひとのそれと実質は変わり無い感情。機械の体に、熱い魂。 多分俺が抱え、悩んだあの葛藤すらも含めて、神姫は神姫足り得、華墨を「俺の神姫」として扱うならば、その全てを飲み込んでやらなきゃならない・・・ 人でもあり、機械でもある。玩具であり、パートナーでもある その、一見背反するもの全てがブレずに、ひとつの形として存在しているのが 「武装神姫」・・・人工の戦女神達なのだ 非常に軽いブレーキ音が槙縞玩具店の表に響く 待ち兼ねていた様に、皆川彰人は店の前に立っていた 「おかえりなさい西さん。大会はいかがでした?」 エレカのドアから電気盲導犬。それに引かれて女性が一人 「ええ・・・なかなか良かったようです。この子もかなりの刺激を受けたようですし・・・」 その女性の後から 堂々とした仕草で蒼い鎧姿がゆっくりと降りて来る 「有り難い・・・助かりました、奥様」 「もう、奥様はよしてと言っているでしょう?」 身長15センチの筈が、圧倒的に大きく見える威厳を備えた「サイフォス」 狗の頭部の様にカスタムした兜を脇に抱え、濃紺のマントを羽織った金髪の神姫・・・ 「おかえり・・・『クイントス』・・・」 それが槙縞ランキングの女王「クイントス」帰還の際のやり取りだった 剣は紅い花の誇り 前へ 次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2822.html
SHINKI/NEAR TO YOU Phase02-7 大会が終わり、アミューズメントフロアでは後片付けにスタッフ神姫たちが飛び交う。 ゲーム筐体には<メンテナンス中。ご迷惑おかけします>の表示。すでに夕方、会場を訪れていた観客たちも次々に帰っていく。 シュンは一足先に会場を去り、一階の喫茶店で休んでいた。 本当は優勝者としてインタビューなんかもあったのだが、面倒なのでそういうのは全部伊吹たちに任せてきた。 あのコンビはマスター・神姫揃ってノリがいいから別に問題ないだろう。今度配信される神姫センターの公式ウェブマガジン「武装神姫ジャーナルMAYANO」では、きっと悪ノリした二人がデカデカと載ることになるに違いない。 ウェイトレス神姫が運んできた紅茶を飲みながら、シュンは向かいの席に目を向ける。 そちらではワンピースの上に白衣をまとった妹の由宇が、机に広げたタブレット端末を熱心に操作している。端末の先にはクレイドルが繋がれ、そこに腰掛けているのは当然ゼリスだ。 由宇は嬉々として操作を終えると、ツインテールを揺らしながら顔を上げる。 「うん、ゼリスも武装もどっちも問題なし! お疲れ様♪」 ゼリスは「ユウ、感謝するのは私の方です」と頭を下げる。ゼリスの言うように、オーラシオン武装と由宇の調整がなかったら、優勝するのは難しかっただろう。その意味で彼女は今日の最大の功労者と言ってよかった。 「ありがとな、ユウ。優勝できたのはお前のお陰だよ。奢ってやるから好きなもん頼んでいいぞ?」 「ホント!? じゃあ、ムルメルティアの無限軌道ロールケーキセットね! やったー、これ前から一度食べてみたかったんだぁ♪」 ころころ笑みながら、由宇は早速近くのウェイトレス神姫を呼び止めている。……全く、こういうところは年相応に可愛らしいんだけどなあ。 「……ふふん、そういうことなら私も何か奢ってもらおうかしら?」 「わわっ、伊吹!? いつの間にいたんだ?」 「やっとインタビューが終わってね、ついさっきよ。もう~夏大会に向けての抱負とか、シュッちゃんとの関係とかいろいろ聞かれてねー。長くなりそうだから途中で抜け出してきちゃった。ワカナも疲れて眠っちゃったしね」 上着のポケットでスヤスヤ寝息を立てるワカナを、伊吹は愛おしそうに撫でている。いや、途中で抜け出したって……それって終わったって言わないだろう。 呆れるシュンに対し、伊吹は「まあ、人気者の特権みたいなもんよ」と気にせずケラケラと笑っている。 「でも、今日はシュッちゃんに奢ってもらわなくてもいいわよ」 えっ、とシュンが顔を上げる。そこでは伊吹と由宇、ふたりがやさしく微笑んでいた。 「簡単な話です。今日一番の功労者はシュン、あなただからですよ」 ゼリスまで当然といった顔でシュンを見上げる。 いや、でもどちらかと言うと僕は足を引っ張ってばかりだったはず。そもそも試合で一番活躍していたのは伊吹とワカナだった訳で…… 「な~に言ってるのよ。決勝戦を勝てたのは、シュっちゃんの作戦があったからでしょう?」 「……偶然だよ。たまたまうまくいっただけで、みんなのフォローがなかったら成功しなかったって」 伊吹にそう言われても、シュンとしては今回の大会は反省することばかりだったのだ。 作戦にしたってシュンはアルミフォイルを〝チャフ〟にするアイデアを思いついただけで、成功したのは伊吹とワカナによる陽動や、ゼリスの判断が的確だったからだ。シュン一人で成し遂げたものではない。 シュンがウジウジと悩んでいると、不意にゼリスが彼の頭に飛び乗る。かと思うと―― 「――っ!? いってー!」 額に強烈なデコピンが炸裂した。 「いつまで悩んでいるのですか? もっと堂々としていればいいのです」 痛みを堪えつつ目を開けると、エメラルドの瞳と目が合った。 「……何もかもひとりでやろうとする必要はないでしょう? 仲間同士で助け合い、長所を合わせ短所を補い合った方が効率的というものです」 ゼリスらしい単刀直入な理攻めだった。まあ、確かにその通り。 「それから――」とゼリスは続ける。 「それは神姫とマスターも同じです。足りない部分があったらお互いに補っていけばいいのですよ。少なくとも――」 ゼリスの小さなささやき――それが、突然の闖入者に遮られた。 「ちゃーっす。兄ちゃんたち、ここにおったんやな~!」 「姐御も一緒か。こりゃちょうどええな!」 「あなたたち、どーしたのよ?」 唐突に現れた金町兄弟は、口の端をニッとそっくり同じ角度で持ち上げる。 「帰る前にアイサツしとこう思うてたんや。……今日はありがとうな、負けたけど久しぶりに楽しい試合やったで」 晴れ晴れとした笑顔の兄、笑太。 「前の街は退屈やったけど、これからは姐御を目標に頑張ることにしたんや。よろしくな~」 同じく笑みを浮かべる弟、福太。ふたりとも負けた悔しさを感じさせない、さっぱりした態度だった。 そんな双子の屈託のない笑顔に、伊吹も自然と顔がほころぶ。 「ふふん、挑戦ならいつでも歓迎するわ。また楽しいバトルをしましょうね?」 もちろん、と双子は嬉しそうに返事をする。 「せやけど、お兄さんの作戦には負けたわ。あんな方法でオレらのコンビネーションを破られるとはなあ、仰天したで!」 「シュン兄ちゃんも、今度はシングルバトルで勝負しようや!」 ふたりのキラキラした眼差しに、なんだかシュンまで嬉しくなってきた。 「ああ! また一緒に試合しような」 シュンの返事に満足そうに頷くと「じゃあ、また会いまひょ~」と言いながら金町兄弟は帰って行った。 去り際に「次は負けへんからな」と啖呵をきるアテナとそれを抑えるリアナを見送りながら、ゼリスもどこか嬉しそうだ。 「さて……あたしたちもそろそろ帰りましょうか?」 「えぇ? このケーキ食べ終わるまで待ってよー」 見送りが終わって伊吹がそう切り出すと、一緒にニコニコしていた由宇がとたんに慌て出す。 「……ユウちゃん、半分手伝ってあげよっか?」とチェシャ猫のように笑う伊吹。 「だめー」と皿を持つユウの手を、いつの間にかテーブルに戻ったゼリスがつつく。「私が手伝ってもいいですよ?」 ギャーギャーと姦しく騒ぐ三人を眺めながら、シュンは思う。 さっきゼリスが呟いた言葉。シュンにはしっかりと届いていた。 (少なくとも――私はシュンのことを必要だと思っていますよ) なんのことはない。シュンの悩みなど、ゼリスはとっくに気づいていた訳だ。 その上でスタンドプレーにも走らずに、彼女はバトル中ずっとシュンの指示に従って動いていた。 ――シュンのことを信頼してくれていたから。必要だと思っていてくれるから。 ゼリスは、それをずっと行動で示していた。 ならばこれからは、シュンも行動で示していけばいい。 (自分に何ができるか――じゃない。ゼリスのためにできることをやるんだ!) ゼリスがシュンのことを必要だと思ってくれるなら、シュンはゼリスのために今の自分ができることを見つけていこう。 神姫がマスターを信じて戦い、マスターは神姫のために最大限のバックアップを行う。 もとより神姫バトルとは、そういうものなのだから――。 かくして少年と彼の神姫は、新たな一歩を踏み出し始める。 今は小さな波紋に過ぎないそれが、この摩耶野市に集う神姫とマスターを巻き込んで、より大きな波紋となって疾走してことになることを、彼らはまだ知らない。 ……To be continued Next Phase. ▲BACK///NEXT▼ 戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2599.html
第3部 「竜の嘶き」 「ドラゴン-4」 2041年10月30日 22:20 天王寺公園神姫センター 第3フィールド森林ステージ 森林ステージの小川を闇夜に紛れ低い重低音を奏でながら、3隻の巨大な灰色の塊が水面スレスレを航行する。 チーム名「あああああああ」 □重装甲戦艦型MMS 「ドセットシャア」 SSクラス 二つ名「キャノン・ワールド」 オーナー名「細田 勇」♂ 27歳 職業 統合商社営業マン □重装甲戦艦型MMS 「スーザン」 SSクラス 二つ名「アイアン」 オーナー名「西野 公平」♂ 28歳 職業 統合商社営業マン □重装甲戦艦型MMS 「ウォース・パイト」 SSクラス 二つ名「オールド・レディ」 オーナー名 「和田 真由美」 ♀ 29歳 職業 銀行員 対岸の青チームは何が何でもA飛行場を最悪使用不能にさせたかった。その為には陸戦MMS部隊を安全に対岸にまで送らなければならない。しかしすでに制海権は赤チームに奪われつつある上に周辺の味方MMS航空隊は連戦続きによって激しく損耗していた。その為、A飛行場からはいつでも敵機が出撃できる状態であり、このままでは輸送艦型MMSによる増援をしても撃沈されるのが目に見えていた。 味方MMS航空隊は頼りにならない。テンペスタ使いの女子高校生たちは明日までテスト中で使い物にならない。だが輸送を成功させるには何としてもA飛行場を一時的にも無力化しなければならない。しかしその為には味方MMS航空隊の援護が必要。だが航空隊は使えない。この無限のループを打破すべく、青チームは最後の切り札を使う事にした。 当時、大規模バトルロンドの常識であった航空MMSの次に攻撃範囲の広い武装神姫。それは旧世紀の主力兵器、戦艦をモチーフとした戦艦型MMSの一群であった。 青チームのオーナーたちはA飛行場に対し、戦艦型MMSによる艦砲射撃作戦を立案した。この作戦は電撃作戦でなければならないのだ。なぜならば攻撃に成功しても、撃ち漏らした敵機がすぐさま迎撃に向かってくるからだ。 戦艦型神姫の攻撃力は確かに最強クラスだが、速度は低速。逃げ切る事は難しい。迎撃されればいくら最強クラスの攻撃力を持っている戦艦型MMSといえど損害は避けられず、最悪沈没という事もありえた。圧倒的な力の象徴である戦艦型MMSを失う事は、青チーム全体の士気にも関わる。その為に白羽の矢が立ったのがこの3隻であった。 カタリナ社製の重装甲戦艦型MMS「ヴィクター級」 速度は鈍足ではあるが、分厚い装甲と強力な砲撃力を持つ重装甲戦艦型MMSにはもってこいの作戦であった。さらに同型が3隻あるといのもひとつの理由でもある。 もし投入した戦艦型が最悪沈められても、代わりがいるからである。数隻の同型で艦隊を組み闇夜に紛れて殴りこみを仕掛ける。 これらの理由も踏まえ、青チームはヴィクター級重装甲戦艦型神姫3隻による艦砲射撃作戦「A飛行場艦砲射撃」を提示した。 かくして、青チームは作戦を発動したのだった。 ゴオオオンゴオオンゴオン・・・ 低いエンジン音を唸らせながら小川を進むドセット。 ドセット「はー、大阪城公園からはるばる天王寺公園まで環状線伝ってきたけど・・・なんともなァ・・・」 スーザン「遠距離からの艦砲射撃かー、メンドクサイなーいつもの定期便みたいに決まったルートで護衛引き連れて爆撃する方がまだマシだよ」 ドセット「本当は俺たち、戦艦型神姫は同じ戦艦型同士で真正面で撃ち合いするのが筋だけどな」 パイト「まあ、どっちでもいいけどー、とりあえずバカスカ撃ちまくればいんだろ」 スーザン「この作戦、うまく行くと思う?」 ドセット「前例あるし、余裕だろ」 パイト「前例って?」 ドセットたちはべらべらとおしゃべりしながら、小川を下る。 ドセット「今からええと、ちょうど100年前だな!太平洋戦争中の1942年10月に行われた日本帝国海軍によるガダルカナル島のアメリカ軍飛行場・ヘンダーソン基地への艦砲射撃の作戦があったんだ。艦砲射撃部隊は金剛級の高速戦艦を主力とした作戦だったらしいなー」 スーザン「1942年の10月?今は2041年の10月だぜ!ちょうど一世紀前じゃねか!!」 パイト「前例って100年前の俺たちのモチーフの実績事例じゃねえか!ふざけんな!あーーーどおりでなんかマスターたちが妙に作戦をサクサクって立てるからおかしいなーと思ったんだよ!」 スーザン「だいたいよー、こんな真っ暗闇の中で撃って当たるのかよ!照準はー」 ドセット「心配するな、コウモリ型が照明弾を撃って、場所を教えてくれる。砲撃はレーダー射撃と三角法を用いたアナログ光学測定の併用な」 スーザン「めんどくせーし古臭せーよ」 パイト「GPS使って位置割り出しの方がよくね?今ならネット使って衛星とリンクできるけど?グーグルアースで誤差、3センチまでいけるぜ」 ドセット「アホォ!なにいうとんねん!衛星からの画像はアテにならへんで!画像処理されてめちゃくちゃなところに落ちんで」 パイト「けっきょくアナログか!!!あほくさ」 スーザン「めんどくせー」 ドセット「艦砲射撃任務も戦艦型神姫の十八番だ!連中に俺たちの火力を見せ付けてやろうぜ」 スーザン「めんどくせーから俺帰りたいんだけど?」 パイト「アナログアナログアナログクマー♪」 ドセット「黙れ」 2041年10月30日 22:30 天王寺公園神姫センター 第3フィールド森林ステージ A飛行場 リイン「本当ですか!?」 飛行場の片隅でリインたち、ドラッケン部隊が集まって盛り上がっている。 シャル「そうだ、マスターたちと話し合って、ついにテンペスタ対策に装備が改変されることになった、重い増加装甲とロケット弾の搭載をやめてオーバードブースタを代わりに装備する。今までの倍の高度で航空性能をUpさせるんだ」 ライラ「あれがくれば、テンペスタなんかバラバラにできるぞ!それに前にオマエのやられた仲間の整備が終わって部隊再編でおまえを小隊長に推薦しておいた」 リイン「シャル・・・ありがとう」 セシル「よかったな!リイン」 エーベル「明日は忙しくなるな」 ヒュウウウウンン・・・・パァアアンン・・・ 真っ暗だった飛行場が明るくなる。 シャル「!!」 空を見ると照明弾が明々と燃えてゆっくりと夜空を照らす。 エーベル「照明弾だ、いつものコウモリ型が落としたな」 闇夜の小川に静かに浮かぶドセットは目標の飛行場の位置をじーと見つめる。 その時、飛行場の方角から光がぱっと湧き出る。光を見詰め、ドセットはニヤリと笑みを浮かべた。 それは、計測用にコウモリ型が投下した照明弾だった。 そしてそれは艦砲射撃開始の合図だった。 ドセット「合図だ」 スーザン「照明弾、確認!」 ドセットはゆっくりと砲塔を動かす。主砲はわずかに方向・仰角を変え、さらにもっと撃ちやすい場所に移動する。 ドセット「よォーーし、では始めようか・・・全艦、撃ち方用意―」 チカチカと発光信号で合図をするドセット。 スーザンもパイトも軽口をピタっと止めて、砲撃に移る。 ドセット「撃ち方ァーーーはじめッ!!撃ッ!!!!!」 ドゴオオオオオンンドッゴオオオオオオオン!! ズン・・・ズシン・・・ドオン・・・ ライラ「なんだ?砲台型神姫か?」 遠くの方で雷のなるような音が聞こえ、滑走路からはずれた所に砲弾が着弾し爆発する。 セシル「いいや、ありゃ艦砲だな」 セシルは目を細めて砲弾の着弾位置を見る。 ガオオオン・・ズズウム・・・ドゴオオオオン・ズドム・・・ じわじわとシャルたちに向かって着弾が近づく。 シャル「まずい!!射角が合ってきた!!」 リイン「来るぞ!!」 シャシャシャシャシャシャムシャムシャム・・・ エーベル「逃げろォ!!」 ドッガッガッガガアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!! 飛行場で待機していた数十機の武装神姫が艦砲射撃の砲撃に飲み込まれて一瞬でスクラップに変わる。 ズッガアアアアアアアアアアアアアンンンンン!!!!!ボオゴッオオオオオン!! ライラ「うっわああああああああ!!滑走路が!」 地面を抉るように深く砲弾が突き刺さり大爆発を起こして神姫や武装を巻き込み大爆発が起きる。 リイン「これは戦艦型MMSの艦砲射撃だ!」 ライラ「派手ですねー」 セシル「うひいい!恐ろしい、この間の仕返しかァ!?」 シャル「これは挨拶みたいなものだ、明日はテンペスタの連中が出てきて忙しくなるぞ・・・」 ズンズズン・・・ズウム・・・ドン・・・ズズウン・・・ 12:50の「撃ち方・止め」までに、重装甲戦艦型MMSの艦隊は全艦合わせて計966発の艦砲射撃を実施した。この艦砲射撃により、A飛行場は火の海と化し、各所で誘爆も発生した。 赤チーム側は、96機あった武装神姫のうち、54機が被害を受け40機が完全に撃破され、燃料タンク、弾薬庫も炎上した。滑走路も大きな穴(徹甲弾による)が開き、A飛行場は一時使用不能となった。 もちろん、戦いはこれで終わるはずもなく、更なる激戦が後日控えていた。 To be continued・・・・・・・・ 次に進む>「ドラゴン-5」 前に戻る>「ドラゴン-3」 トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2285.html
キズナのキセキ ACT0-2 ひどい顔 ◆ 「神姫センターに行きましょう!」 「前から訊いてるけど、何しに行くのよ」 「前から言ってますが、もちろん、バトルをしに、です!」 「前から言ってるけど、イヤ」 「これも前から言ってますが、なぜマスターは神姫センターに行くのを嫌がるんですかっ」 ミスティは菜々子に、まなじりをつり上げて見せた。 菜々子はため息をつく。 ここのところ、同じ会話ばかりだった。 ミスティはどうしても神姫センターに行って、バトルロンドで対戦がしたいようだ。 それは武装神姫のAIにプログラムされた、闘争本能みたいなもの、なのだろうか。 一方、菜々子はバトルに興味がなかった。 頼子さんは対戦仲間に引きずり込みたいと思っているのだろうが、あいにく菜々子にその気はない。 菜々子はミスティが気に入り始めていた。小さな姿は可愛らしいし、性格も素直でいい子だ。 でも、だからこそ、なぜそんなに相手と戦ったり傷つけあったりする野蛮なことをしたがるのか、分からない。 「この間調べたら、最寄りの神姫センターでも結構遠いじゃない」 県下の神姫センターまでは、最寄り駅から電車で二〇分ほど。 中学生の菜々子にしてみれば、少ないお小遣いを電車賃に変えてまで行くのはきつい。 これがいつもの断り文句、だったのだが。 「じゃあ、近所のゲームセンターに行きましょう」 「……ゲームセンター?」 神姫のバトルは神姫センターだけではなく、ゲームセンターやホビーショップでもできるらしい。 そう言えば、最寄りのF駅前のゲームセンターで、武装神姫のポスターを見た気がする。 もっとも、菜々子がゲームセンターに入るのは、友人とプリクラを撮る時くらいだろうか。 ゲームセンターに一人で行くのは、かなり気が引ける。 しかし結局、ミスティの熱意に押され、渋々ゲームセンターに足を運ぶことになった。 ◆ F駅前のゲームセンター『ポーラスター』の二階に、武装神姫コーナーはあった。 フロアの半分以上をバトルロンドの筐体が占拠している。プレイヤーたちは大きな筐体を挟んで、バトルに熱中している。 天井から吊された大型ディスプレイには、現在進行中の激しいバトルが映し出されていた。 他の客たちは、筐体を取り巻き、あるいはディスプレイを見上げて、熱心に観戦している。しのぎを削る好勝負に、歓声が上がった。 「わあ! 対戦、すっごく盛り上がってますよ、マスター!」 はしゃぐミスティとは逆に、菜々子は気後れしてしまっていた。 なんだか場違いな場所に来たような気がする。 武装神姫の対戦ゲームがこんなに盛り上がっているものとは知らなかった。 しかも、この場にいる人は皆、神姫のオーナーなのだ。こんなにたくさんのオーナーと神姫が集まっているのも驚きだった。 こんな場所で、まったく初心者の菜々子とミスティが、見ず知らずの相手とバトルする。 まず間違いなく、無様に負ける。 そんな恥ずかしいことできるわけないじゃない。 菜々子は早くも回れ右して帰りたくなっていた。 知り合いの神姫マスターでもいれば、練習と言って対戦することも出来ただろう。 あるいは、神姫センターならば、対戦者のレベルに合わせた対戦相手のマッチングなども行ってくれるサービスもあるのだろう。 しかし、ここはゲームセンターで、菜々子に知り合いのマスターもいなければ、マッチングサービスもしてくれない。 レベルや相性も自分で判断して、対戦を申し込まなくてはならない。 初心者の菜々子に、そこまでの度胸があるはずもなかった。 菜々子は大型ディスプレイを見上げる。 今行われているバトルの一つが、演出重視のカメラアングルで、実況されている。 高速で飛び交う銃弾に、一瞬の隙を突いたクロスレンジでの攻防。 今繰り広げられている激しいバトルが、自分とミスティにできるなどとは、どうしても思えなかった。 菜々子はため息をつく。 少しは気が晴れるかと思ってきてみたけれど、憂鬱になるばかりではないか。 胸ポケットにいるミスティを見ると、大型ディスプレイの対戦に目を輝かせていた。 めちゃくちゃ嬉しそう。 そんな顔をされてしまっては、帰るとも言い出せないではないか。 菜々子は壁の花になり、所在なげに対戦の光景を見つめていた。 ディスプレイの中で戦っているのは、白い天使型と、花をモチーフにしたという神姫だった。 二人とも空中を舞うように飛び、華麗な空中戦を繰り広げている。 蒼い空を背景に、二機の機動によって引かれる飛行機雲をきらめくレーザーや爆炎が彩り、まるで万華鏡を見ているようだ。 やがて、その一戦も終わりを告げる。 天使型の大型ビームキヤノンが必殺の一撃を放ったのだ。 絶妙のタイミングで放たれたビームは、見事花を散らした。 バトルが終わり、マスターが筐体の前から立ち上がった。 先ほど勝利した、天使型のマスターの姿に、菜々子は目を見張る。 高校生だろうか。 ブレザーを着た、肩までかかるウェーブ髪が印象的な、女性だった。 「あんな人が、武装神姫なんてやるんだ……」 菜々子には意外だった。 バトルなんて、男の人が好んでやるものだと思っていたからだ。 しかも、天使型のマスターは、思わず見とれてしまいそうなほどの美少女だった。 常連のプレイヤーや、彼女のファンらしい人たちに取り囲まれている。 彼ら一人一人に微笑みかける彼女を、菜々子は見るともなしに見ていた。 すると不意に。 その視線に気が付いたかのように、彼女がこちらを向いた。 視線が合う。 菜々子はあわてて顔を伏せた。 自分の視線は不躾すぎただろうか。 下を向く菜々子に、人の気配が近づいてくるのが感じられた。 目の前で、誰かが立ち止まった。 菜々子の視界に、その人物が履いているローファーが映る。 声がした。 「ひどい顔ね」 さすがにカチンと来て、顔を跳ね上げる。 初対面の相手に対する、第一声がそれか。 目の前に、思わず見とれてしまいそうな美貌がある。先ほど勝利した神姫のマスターだった。 思わずにらみつけてしまったその女性は、しかし、言葉とは裏腹に邪気のない顔で、 「そんな表情じゃ、かわいい顔が台無し。ほら、笑って」 そう言って、にっこりと笑った。 女の菜々子でさえ、ドキリとするほど素敵な笑顔。 怒りが霧散するのも一瞬。菜々子は呆けた顔をするのが精一杯という有様だ。 その女性は、軽く一つ吐息をつくと、顔に微笑みを絶やさずに言った。 「あなた、見かけない顔だけど、ここは初めて?」 「え……はい」 「気をつけなさい。あっちの男ども、あなたに声をかけようと、さっきから狙ってるんだから」 視線を男性たちのグループに投げた後、彼女はいたずらっぽくウィンクした。 その表情がまた、やたらと様になる。 菜々子は内心、びっくりしたり、どきどきしたりしながら、彼女を見つめるほかない。 「見たところ、初心者みたいね。バトルしたことはある?」 「……ありません」 「バトルしに来たの?」 「あ、ええと……」 一瞬口ごもった菜々子の隙をついて、 「はい、そうです!」 ミスティが元気よく返事をしてしまっていた。 「ちょ、ミスティ!」 「なんだ、神姫を連れてるんじゃない」 「その、これはちが……」 違っていない。 イヤイヤではあったが、ミスティのためにバトルしに来たはずだ。 言うべき言葉が見つからない菜々子の手が取られた。 目の前の彼女だった。 「じゃあ、わたしが教えてあげる」 「ええと……わあ!」 菜々子は強引に引っ張られた なんという女性だろう。 菜々子の頑なな心に、無理矢理割り込んでくる。でもそれが全然嫌じゃない。ただ、展開の早さに戸惑っているだけ。 「わたし、桐島あおい。あなたは?」 「……久住菜々子、です」 「いい名前ね」 彼女が笑うたび、彼女のペースにどんどん引き込まれていってしまう。 戸惑いながらも、つながれた手を菜々子は握り返していた。 ◆ バトルロンドの筐体のまわりは、喧噪に包まれている。 そんな中、先ほどあおいと対戦していた花モチーフのジルダリア型のマスターがこちらに気付いて、顔を上げた。 「おお? また、あおいお姉さまの新人講習の始まりか?」 「うるさいわね」 苦笑しながら、あおいは菜々子を一番端の筐体まで連れて行く。 後で聞いた話だが、この桐島あおいという人物はかなりの実力の持ち主なのだが、『ポーラスター』にやってくるバトルロンド初心者にいつも世話を焼いているのだそうだ。 「バトルのプレイヤーを増やすのも、ベテランの仕事でしょ」 というのが当人の弁。 あまりにも世話を焼くので、常連たちからは「あおいお姉さまの新人講習会」呼ばれ、からかわれていた。 しかし、当のあおいは気にすることもなく、むしろそう言われて喜んでいる節さえあった。 菜々子にしてみれば、これは渡りに船だった。 あおいの行動に少し驚いたが、右も左も分からない自分に、向こうから教えてくれるのなら、こんなに都合のいいことはなかった。 初心者相手のお試しプレイなら手加減もしてもらえるだろうし、ミスティもちょこっとバトルの真似事さえできれば、しばらくは満足してくれるだろう。 おっかなびっくり筐体に座り、ふむふむとバトルのやり方を教わって、いよいよ菜々子とミスティの初めてのバトルが始まった。 この時、菜々子は大事なことを失念していた。 自分がとても負けず嫌いな性格だということを。 ◆ 「しまった……」 今日も菜々子は、『ポーラスター』への道を歩きながら、自己嫌悪に陥っている。 武装神姫によるバーチャルバトルゲーム……バトルロンドに、菜々子はすっかりハマってしまっていた。 実際にプレイしてみると、今まで触れたどんなゲームよりも奥が深くて面白い。 対戦ではそう簡単に勝てないことも、菜々子の負けん気に火を付けた。 今は友人達とも距離を置いているから、放課後にさしたる用事もなく、自らの闘争心の赴くまま、毎日のようにゲームセンターに足を運んでしまうのだった。 もちろん、ミスティは毎日ご機嫌である。 『ポーラスター』に通うのには、もう一つ理由がある。 桐島あおいに会うためだった。 「あら、今日も来たわね、久住ちゃん」 「……はい」 ふふん、と勝ち誇るように笑うあおいに、菜々子は少々むかつきながらも、返す言葉がない。 初めてバトルした日、もう一回、もう一回と何度も対戦を申し込んだのは、むしろ菜々子の方だった。 生来の負けず嫌いがこんなところで顔を出してしまった。 あまりにもムキになった様子がおかしかったのか、 「あらー、ここまで坂道を転げ落ちるようにバトルにハマるのも、ちょっと珍しいわー」 といいながら、あおいは爆笑していた。 それもまた悔しい。 自分から誘っておいて、何という言いぐさか。 いつかこの人に吠え面かかせてやる、と菜々子は密かに誓っていた。 だけど、桐島あおいが嫌いなわけではなく、むしろとても惹かれていた。 端正な顔に、いつも様々な表情を宿し、生き生きとしている。 明るく、社交的で、仲間達からは好かれ、慕われている。 こんな女性になりたいなぁ、と漠然と思う菜々子だった。 そんな憧れの女性は、なぜか、菜々子の面倒をよく見てくれる。 あおいを「お姉さま」などと呼んで慕う女子中高生は一人や二人ではなかった。 しかし、なぜかあおいは、新参者の菜々子が店に来ると、真っ先に声をかけてくれて、菜々子の練習相手を買って出るのだった。 そんな彼女の行動を不思議に思う。 なぜ、自分なのか? まだ出会って間もなく、いまだ悲しみに心捕らわれて、微笑むことすら出来ていない無愛想な女なのに。 それでもあおいは、 「さ、今日もやろっか」 と鮮やかに微笑んで、菜々子の相手をしてくれるのだった。 ◆ それから数日後のある日、『ポーラスター』からの帰り道。 「……何か悩んでる?」 「……え?」 「だって、久住ちゃん。あなた、全然笑わないじゃない?」 「……」 「久住ちゃんの笑顔は、絶対かわいいと思うんだけどなあ」 いつもは門限を気にして、あおいよりも早く帰る菜々子だったが、今日は菜々子に合わせて、あおいが一緒にゲームセンターを出た。 二人並んで歩く帰り道。 ……そういえば、桐島さんってどこに住んでるんだろう? 自分と同じ方向なのかな、などと考えてるときに、あおいから声をかけられたのだった。 二人は近くの公園に足を向けた。 噴水を望むベンチに並んで腰掛ける。 もう夕陽はビルの合間に落ちていき、空はオレンジ色から夕闇へと変わりつつあった。 「なにかあった?」 「……」 「まあ、言いたくなかったら言わなくてもいいけど」 口調はさりげなかったが、瞳の色は限りなく優しかった。 この人は、どうしてわたしのことを、こんなに気にかけてくれるんだろう。 不可解に思いながらも、心の中では少し嬉しく思ってしまっている。 心惹かれる憧れの人が、自分を気にしてくれているのだ。 だが、彼女の前でも、いまだ笑うことが出来ないでいる。 自分の心の内を話せば、彼女は理解してくれるだろうか。 わたしが笑顔を取り戻すきっかけになってくれるだろうか。 期待と不安が心に渦巻く。が、しかし。 「……ええと、その……実は……」 いつの間にかしゃべり出したことに、菜々子自身が驚いた。 意識しないうちに、桐島あおいを信頼してしまっていたのだった。 あおいは、話し始めた菜々子に微笑みかけながらも、真剣な様子で耳を傾けていた。 菜々子の話を聞き終えたあおいは、空に浮かぶ星を見つめ、言った。 「ふーん、そう」 それだけか。 自分のつらい胸の内を吐露したにもかかわらず、気のない一言で片付けられるなんて。 話さなければよかった、と菜々子は一瞬後悔する。 が、次の瞬間、菜々子はあおいに肩を抱き寄せられた。 そして、耳元で聞こえた一言。 「よくがんばったね」 その一言は、菜々子のかたくなな心を、一瞬でほどいてしまった。 菜々子が欲しかったのは、これだった。 同情でも気遣いでもなく、ただ、ただ、わたしが悲しみや不安や辛さに耐えていることを分かって欲しかった。 分かっていると言って欲しかったのだ。 菜々子のほどけた心から、ため込んでいた想いがどっと溢れてきた。 まるで洪水のように、菜々子の心を押し流す。 両親がもういないという実感。もう最愛の家族に会えないという事実。 祖母の気遣い。それは彼女自身の哀しみの裏返し。 友人たちの同情。それは心を許した友への精一杯の優しさ。 本当はみんな分かっていた。 心から菜々子を心配して気遣ってくれているということは。 それに素直に応えられなかったのは……自分に降りかかった不幸をいいわけにした、ただの甘えだった。 「ごめんなさい……」 菜々子の唇から、自然に言葉が転げ落ちてくる。 それは、いままで言いたかった言葉。言わなくてはならなかった言葉。 「ごめんなさい……ごめんなさい、ごめんなさい……」 菜々子の大きな瞳から、涙がこぼれ落ちていく。 優しくしてくれた人たちに謝りながら、泣いた。 やっと実感した胸を突き上げる悲しさと寂しさに、泣いた。 あおいの肩にすがりつき、菜々子は声を上げて泣きじゃくった。 やっと、心の底から泣くことを許された気がした。 桐島あおいは優しい表情で、号泣する菜々子の肩をそっと抱き続けていてくれた。 ◆ 「どうして……」 「うん?」 「どうして、わたしに声をかけてくれたんですか?」 あおいが声をかけてくれなければ、菜々子の心はまだ闇をさまよっていただろう。 あおいはちょっと上を向いて、うーん、と考えると、また菜々子の方を向き直って、言った。 「女の勘」 「え?」 「ゲーセンで、あなたと目が合った時、ビビッ!ときたのよねぇ……。 この子と仲良くなっておかなくちゃダメって思ったの。仲良くなっておけば、きっと素敵なことが起こるってね」 そう言って、いたずらっぽくウィンク。 相変わらず様になる。 限りない優しさと、太陽のような明るさと。 桐島あおいは、どこか祖母に似ている気がする。 「これからは、菜々子って呼ぶわ。いい?」 「はい、桐島さん」 「あおい」 「え?」 「あなたも下の名前で呼ばなくちゃ、不公平でしょ」 「……はい、あおいお姉さま」 あおいはあからさまに嫌そうな顔をした。 「あなたも、そう呼ぶわけ?」 「それが一番しっくりくるので」 それはささやかな反撃。 だけど、菜々子はこの呼び方がいいと思っていた。 お姉ちゃん、というほど馴れ馴れしくなく、憧れと尊敬を持った距離感のある呼び方。 親愛の情を込めて、その名を呼ぶ。 「お姉さまと呼ばれるのは嫌ですか、あおいお姉さま?」 あおいはその美貌を、心底嫌そうに歪めている。 後で聞いたところ、常連さんが「お姉さまキャラだから」という単純な理由で、あおいをお姉さまと呼び始めたらしい。 それがいつの間にか定着してしまったのだ。本人は自分がお姉さまキャラだなどとは微塵も思っていないから、迷惑この上ない、とのことだった。 それでも、眉をひそめながらも、あおいは頷いた。 「いいわ、もう好きにして」 他の人がそう呼ぶの禁止にしようかな、なんて言って、あおいは笑った。 つられて、菜々子も笑った。 もう真っ暗になった夜空に、二人の笑い声が響く。 両親が亡くなって以来はじめて、菜々子は心からの笑うことができたのだった。 ◆ こうして、桐島あおいは、菜々子にとって、特別な人になった。 憧れの女性であり、武装神姫の師匠であり、目標であり、ライバルであり、もっとも心許せる友人であり、一番の理解者で……本当の姉のように思っている。 今も。 次へ> Topに戻る>