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第1章 ―春休み、終盤 結局俺たちは例の変り者のメッカ、長門のマンションの前の公園で花見をしている …はずだったのだが、俺の部屋にSOS団の面々が集まっているのはなぜだ? よし、こういうときはいつものように回想モード、ON 「我がSOS団は春休み、花見をするわよ!」 ハルヒの高らかな宣言を聞き、俺は少し安心した 春といえばハルヒの中では花見らしい もっと別のものが出てきたらどうしようかと思った ま、原因はさっきの古泉が付き合う付き合わないとか言っていたせいだろう 春は恋の季節と歌った歌があったからな 「お花見…ですか?」 ハルヒの言葉に北高のアイドルにして俺のエンジェル、そしてSOS団専属メイドの朝比奈さんが反応した 「そ、お花見。言っとくけどアルコールは厳禁だからね!!」 アルコール厳禁を宣言するだけなのに何がそんなに楽しいのか、ハルヒの笑顔は夜空に栄える隅田川の打ち上げ花火のようにまばゆい光を放っていた 「わぁ…あたしお花見って初めてで…すごく楽しみ」 対抗意識を燃やしたわけではないだろうが、それに負けじと朝比奈さんの笑顔も春の花畑を優雅に舞う蝶が羽休めのためにチューリップに静かにとまったかのような清楚な微笑みだった 「このメンバーでお花見とは、楽しくなりそうで僕も楽しみです。」 ハルヒに従順なイエスマン、古泉も相変わらず微笑をうかべたまま反対しようとはしない もちろん長門はというと寡黙なその視線を分厚い文庫本に注いでるだけだ と、いうわけでSOS団お花見計画は満場一致で開催が決定された しかし、春休みに楽しい予定が入ったからといって時間の流れというのはその時間を頭出ししてくれたりはしない 目の前に立ちはだかるでっかい問題をどうにかするのが先だった そう、すべての学生の不倶戴天の敵 ―もうわかるだろう、奴の名は学年末テストだ どうにかしようとは思っていても結局至極当然のように放課後になると俺はここ、文芸部の部室にいるわけで、それは鳥が空を飛ぶように、魚が水の中を泳ぐように足が部室をめざすのだから仕方ない このままだと俺がリアルにハルヒの力によってではなく、俺の力不足によって1年生をループすることになるのですべてのプライドを捨て、部室でネットサーフィンしてばかりの我らが団長様に教えを請うことになった ハルヒはこんなのもわからないのといった表情で、それでいて勉強しているというのにどこか楽しそうで、それでも親切丁寧に俺に勉強を教えてくれた しかも、教えるのがやたらうまい 俺のバカ頭で、見ただけで頭が痛くなりそうな数式を頭を痛めつつだが、なんとか解けるまでにしてくれた なるほど、だからあの眼鏡の少年は将来タイムマシンに準ずるものを開発してしまえるのか だから画家にはならないでくれ もう二度と俺のモンタージュを書かないように、と思ったのは余談だ なんやかんやで学年末テストでは学年でとまではいかないがクラスで5本の指に入るくらいの点数を叩きだすことができた 担任の岡部もびっくり仰天だっただろう ハルヒ様様だ テストが終わればあとは春休みを待つばかりで俺はwktk…じゃなかった、期待して到来を待った 春休みまでの数日で俺が古泉にボードゲームでかなり勝ち越したことも付け加えておこう ―そして 春休み初日 天気予報で今年の桜開花予想を聞いたハルヒは終業式の日のうちに本日の集合を決めていた その場で話し合えばいいのにハルヒはいちいちみんなで集まりたいらしい その点に関しては俺も異論はないが なので俺がめずらしく一念発起し、たまには俺以外の―そうだな、古泉辺りが理想だが、 他の団員に喫茶店代を出させてやろうと思っても俺含むすべての団員がハルヒの願いによって操られるためいつでも最後に到着するのは俺だ なぜハルヒが俺におごらせたいのかは謎だが というわけで結局いつもの喫茶店に俺たちはいるわけだが1ついつもと違うことといえば長門が2つの合宿以外で見せなかった制服ではない私服姿でいることだ 淡い水色のワンピース その寒涼系のコーディネートはひどく似合っていて何かあるのかと勘ぐった俺の思考を一瞬止めた しかし、勘ぐったのは束の間、長門から特に特別な表情は読み取れなかったため特異な理由があるわけではなく、 ただたんに長門が‘そうしたかったから’このワンピースを着ていると悟った俺は「よく似合っている」の一言で片付けることにした ハルヒはというと春というより夏に近い格好で、ノースリーブシャツにキュロットといった服装 愛しのマイエンジェル、朝比奈さんはタートルネックにスリットの入ったロングスカートとこれまた何ともそそる格好をなされていた 蛇足だが古泉はワイシャツにジーパン、そのうえにスプリングコートを羽織っていた それが道行く女性の視線を集めたのはいうまでもない 「今年の開花予想は4月3日だって。例年より早いらしいけど、地球温暖化の影響によって東京の桜はかなり早く咲くらしいの。 それを考えると騒ぐ程のことではないってテレビでいってたわ」 温暖化云々と地球環境問題のことを聞くと危惧するべきだろうが、俺は正直、ホッとしていた 学校が始まってからの開花だったらどうしようかと考えていたからだ これもハルヒの力によるものかもしれないのだが 「と、いうわけでキョン、場所取りお願いね、ちゃんと前の晩から徹夜するのよ」 さらりととんでもないことをぬかしたハルヒは穏やかな笑顔で俺を見つめた 仕方なく反論を用意した 「確かに場所取りは重要だがいくらなんでも一人で徹夜はひどいだろう、せめて…」 せめて古泉も道連れにと言い掛けたところでハルヒが口を開いた 「誰も一人で行けなんていってないでしょ?大丈夫」 そのあと、ハルヒは南極に白くまが、北極にペンギンが住み、地球の自転、公転が逆になっても耳を疑うようなことを言った 「あたしもいくわよ」 と、いうわけで何度かの市内探索パトロールを経て、4月2日夜、ハルヒに呼び出された俺は変り者のメッカの例の公園でハルヒとともにブルーシートを広げ、場所を確保している さすが変り者のメッカというべきか他にも数ヶ所で場所取りの人材が場所を確保している ちなみにハルヒが場所取りを立候補したのは「あんただけに今年の1番桜を見せるわけにはいかない、むしろあたしが見るべきよ」というものだった 次の日の昼頃に他の連中が来てドンチャン騒ぎをしたのだがハルヒが「やっぱり花見は満開のときがいいわね」と言ったため本日4月5日にもう一度花見が割り当てられたのだったが ―雨 一言で片付く事象で花見は中止 なぜかSOS団は俺の家に集まっているといった状況になっている 回想モード、終わり 第2章
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四章 時刻は夜11時。俺は自宅にてハルヒの作ってくれたステキ問題集を相手に格闘中だ。 「やばい、だめだ。全然わからん。」 朝はハルヒに啖呵を切ったものの、今では全くもって自信がない。 今の時期にE判定を取るようじゃ、どう考えても結果は目に見えている。 そもそも俺よりも頭のいいあいつが、それに気付かない訳がないのだ。 ただ遊ばれているだけなのか? …………ハッ!いかんいかん!俺の中の被害妄想を必死でかき消す。 頭を一人でブンブン振っていると、俺の右手に違和感があることに気付いた。 俺の右手はいつのまにか机の引き出しの中に伸びている。 手は引き出しの中の『奴』を掴んでいた。 そのことを俺の頭が理解した途端、俺はバネにはじかれたように机から遠ざかった。 「はぁ、はぁ…」 これ以上ないくらいの恐怖を感じながらも、俺の手はまだ『注射器』を握り締めている。 「何で…何でこんなことになっちまったんだ…」 俺は力なくそれを床に叩き付けた。 あれは、きのう… 「ど、どうしたの?キョンくん?」 下駄箱で春日が俺をその大きな瞳で見ていた。 その時の俺が普通じゃなかったのは言うまでもない。 「クソ!俺はハルヒを!!バカだ!最低だ!なあ、春日! 明日から俺はハルヒにどう接すりゃいい?!」 突然激昂した俺に、春日は動揺したように言った。 「ちょっ、待って!話は聞くから取り敢えず落ち着いて!場所は…公園でいい?」 ここは公園。俺と春日はベンチで並ぶように座っている。 事情を知らない人が見たらカップルに間違われるかもしれない。 ここで俺が春日の肩に手など回せば完璧だな。だが生憎、俺にそんな余裕はない。 「どうしたの?涼宮さんと何があったの?」 春日とは朝の挨拶以外はほとんど話したこともなかったが、話は本気で聞いてくれるようだ。 俺は今までのことを呼吸をするのも忘れてぶちまけた。 ほとんど話したこともない女子に、こんな長々と話すのは俺のキャラじゃないんだがな。 今はとにかく誰かに話を聞いて欲しかった。春日は俺の話を真剣な目で黙って聞き、 俺がたまに同意を求めると目を優しくさせ、「そうだね」と相槌を打ってくれた。 「どう思う?!」 その最後の言葉を俺が吐き終えると俺の興奮は冷めていった。 が、代わりにいいようのない虚無感が襲って来る。 何もやる気が起きない。ふう、と俺が久々に肺に酸素を運んでいると、 春日は俺の質問には答えず、ベンチからすっと立ち上がった。 「ねえ!今からうちに来てみない!?ほら!いーから、いーから♪」 ハルヒにも負けないような笑顔を見せながら俺の手を引っ張る。 「お、おい、どういうことだよ?」 言葉ではこう言ってるが、俺は大した抵抗もせず、フラフラと春日のあとを付いていく。 正直、どういうことかなんてどうでもいい。全てが色褪せて見えていた。 春日の家につくと、すぐにリビングに通された。両親はいないようだ。 「それじゃ、早速あたしの意見をいうね?明日にでも涼宮さんに謝って? あたしは今までのキョンくんの頑張りを教室でいつも見て来た。 だからキョンくんがその反動で、涼宮さんについ当たっちゃった気持ちもわかるよ。 でも男の子から殴られるってことはあたし達女子にとっては、 とても耐えられないことなの。 好きな男の子からなら尚更…きっと今涼宮さんは泣いてるよ? お願い!涼宮さんを元気づけられるのは、あなただけなの!」 いつもなら『好きな』の所で何らかの反応をして見せるんだろうが…当然、どうでもいい。 わかってる、わかってるんだ。俺がこれから何をしなければならないのかくらい。 「だけど…俺は自分が怖いんだ。 あいつに会ったら…またあいつを殴っちまうんじゃないかって…」 今の俺は誰がどうみても、とてつもなくヘタレなんだろうな。 さすがにこれは春日も愛想を付かしてしまうか。と思っていると、 「ちょっと待ってて!」 と言ってリビングから出ていってしまった。 「おまたせ!」 戻ってきた春日の手には小さな怪しく光る注射器が握られていた。 夕日の逆光のせいでシルエットになっている春日と注射器はシュールで、とても気味が悪い。 「おい、それ何だよ。」 「ん?かくせーざい♪」 力なく問い掛ける俺の質問に、特に悪びれる様子もなくそう答える。 その態度と質問に対する答えは、俺を動揺させるには十分だった。今日一番の揺れの観測だ。これはさすがに力なく「そうか」で済ますことは出来ない。 「な…な……何を言ってるんだよ!馬鹿らしい! それをどうするつもりだ?! 俺にヤク中になれっていってるのかよ!」 「何言ってるの?たった一回だけだよ! 今のキョンくんは自暴自棄になっちゃって、自分に全く自信がない状態なの! そんな、どうしたらいいか分からない時のための、一生で一度だけの切り札! これさえあればどんどん自信がついてくるんだよ? まるで自分がスーパーマンにでもなっちゃったみたいに!」 いやいや、まてまて、おい。WHY!?いやマジでWHY!? 「覚せい剤だぞ?!そんなもん一度やったら、 二度と抜け出せなくなっちまうことくらい俺でも知ってる! 悪いな。邪魔した。俺はもう帰る。」 ここにいちゃいけない!そう警告している本能に言われるまま、俺は部屋を出ようとした。 「また涼宮さんを傷つけるの?」 その言葉に俺の足はいとも簡単に止められた。 「自分が何するかわからない、怖いって言ったのはキョンんだよ? このまま会っても今の溝がもっと深まるだけ… 涼宮さんのことを想うなら、これを使うべきじゃない?」 何度もいうがこの日の俺は本当にどうかしていた。 たったそれだけの言葉で気持ちが傾いて来やがるんだからな。 「だ、だけど!それを打っちまったら、俺は…」 「依存症なんて意志の弱い人だけ。あたしは知ってるよ?キョンくんがそんなに弱くないってこと。」 確かに、俺は薬物依存など意志が金箔よりも薄い奴がなるものだと思っている。 「それと、キョンくんが、誰よりも涼宮さんを愛してるっていうこと。」 春日は終止、優しい目で言う。でも…だけど… いや、もしこれを使えばまたハルヒと…楽しい日常を…こんな押しつぶされそうな気持ちも… 「いいの?涼宮さんを泣かせたままで… また仲良くしたいでしょ?何にもなかったように…」 「何もなかったように…俺は…俺はあいつと…また笑いあいたい…」 「うん、そうだよね。これさえあればその全てが叶うんだよ?」 ああ、藁をもすがりたいとは今の俺のためにあるんだな、なんて思っていると、 俺の口は勝手に動きだした。 「本当に…本当に一回だけなら大丈夫なんだな。」 「それはキョンくん次第だよ。でも…あたしはそう信じてる。」 その言葉を聞き、俺は春日から注射器を取り上げた。 おい、いいのか俺。本当にいいのか?顔からは脂汗が吹き出ている。 脳細胞を除いた体中の細胞がその全総力を結集して、奴の進入を拒んでいる。当たり前だ。 腕に針を刺すだけでも抵抗があるんだ。そのうえ、その針の中には悪名高い奴がたっぷり詰まっているんだからな。 だがその警告すら脳が一喝すると、あっさり解けていった。 腕に針先を添え、深呼吸をし、俺は………刺した。 想像以上の痛みを覚えたため慌ててピストン部分を押す。 次の瞬間、何とも言えない感覚が俺を襲った。…いや包みこんだ。 まるでこの世の全てが俺を受け入れた感覚。酸素は溶け、 俺に混ざっていき、俺も溶けて酸素に混ざっていく。 今、この瞬間のために俺の人生があったのではないかと錯覚してしまうほどだ。 今なら日本の裏側にあるブラジルのニーニョさんが何回ドリブルしたかも分かってしまいそうだ。 いや、その気になれば世界の改変でさえも… 「……ん!キョ…ん!キョンくん!」 ハッ!、意識が飛んでいたようだ。 「どう?キョンくん?」 「ああ、とても清々しい気分だ!」 一瞬春日が顔をしかめた気がした。 「これならきっとハルヒにもちゃんと謝れそうだ!」 ほんと、依存症とか、何を心配してたんだ?俺は! 俺がそんなもんになるはずない!なんてったって俺は あれだけハルヒに引っ張り回されたり、耳を疑うようなトンデモ体験をして来たんだ! 今さらそんなんでヒイヒイ言うようじゃ、SOS団万年ヒラ団員の名が廃るぜ! 「そう良かった。あっ、もうこんな時間だね。送って行こうか?」 春日がすっかり調子を取り戻した笑顔で言った。 いつのまにか七時すぎになっていたようだ。 「いや、自転車だし、大丈夫だ。」 「そう、はい!カバン!!」 飛び切りの笑顔で見送りした春日に俺も飛び切りの笑顔で、手を振った。 それから家に帰ってからだ。カバンの中に注射器と粉の入った袋を見つけたのは。 いつ入ったんだ。あいつが…入れやがったのか… 「はあ…はあ…」 床の上の注射器が怪しく光っている。 なんで今日あいつに話に行ったとき返さなかった。クソ!あいつ…俺をどうする気なんだ! いっそ警察に…いや!俺も捕まっちまう!そうしたらハルヒが……… もうハルヒを傷付けたくない!古泉とも約束したんだ! いや、でもこのままじゃいずれ…よそう、こんな考えは… それにしても…何だ、この感じは? 昨日は奴を拒んでいた体中の細胞が、今は奴を渇望している。 もう…逃げられない… 脳細胞があきらめかけたその時、ケータイが鳴りだした。 着信………長門 長門の 名前を見て、俺は心底安心した。今の長門には何の力も無いのにな。 やれやれ…すっかり長門に対して頼り癖がついてしまったらしい。 「もしもし、長門か。」 「そう。」 ………沈黙。いやいや「そう。」じゃなくて!そっちから電話をかけて来たんだから、 会話のキャッチボールは長門から投げるべきだろう。 だけど、それが余りにも長門らしくて、俺はまた安心した。 「あなたに謝らなければならないことがある。」 その言葉を聞いて、俺は考えを改めた。なるほど、さっきの沈黙は、 どう切り出すかを考えていたのか。 「いや、謝らなければならないことなら思い当たるんだけどな。」 「昨日、私はあなたの涼宮ハルヒへの第一撃目を、阻止することが出来なかった。 感情が………邪魔をした。」 そうだ、いくら長門でも今は普通の女子高生なんだ。俺がいきなりキレて暴れだせば そりゃ呆然とするだろう。 「いや、お前は全然悪くない。逆に俺が謝るべきだ。あのままじゃ、 俺はハルヒをリンチしていただろうからな」 「でも、私があの時もっと早く対処していればこんなことにはならなかった。」 一瞬にして顔が冷や汗でいっぱいになった。こんなことだと?もしかして全部気付いているのか? 「お、おい、俺はもうハルヒとはちゃんとケジメつけたんだ。 今日も部室で見てたろ?何だよ。こんなことって。」 「私にはわからない。だからこそ教えてほしい。何があったの? とても胸騒ぎがする。あの注射跡は何?」 全てを気付いてるわけではなさそうだ。だけど勘づいている。こいつから胸騒ぎなんて言葉が 出てくるとはな。 「だから、あれは献血で…長門、お前は知らないだろうが、俺はハルヒと古泉に約束したんだ。 もう二度とハルヒを苦しめたりしないってな。」 どの口がいってやがる。 「………」 無言だ、 「そ、そうだ!長門!手、大丈夫か?かなり力入れてたからな、 ケガ無かったか?」 「肉体の損傷は問題ない。ただ…」 「ただ、何だ?」 今なら長門が電話の向こうで思案している顔が、はっきりと分かる。 「あんな思いは…もうたくさん…」 俺ははっとした。そうだ、傷ついたのはハルヒだけじゃないんだ。こいつは、長門は 俺の暴力を目の当たりにしてしまったんだ。その心の傷は、計り知れない。 「ああ、本当にごめんな、もう二度と傷つけない。」 「そう、あなたを……信じたい。信じていいの?」 すがるように聞いて来る長門。ここは瀬戸際だ、全てを話すか、このことは俺の中に秘め、無かったことにするか。 そうだ、もう二度とやらなけりゃいい!『奴』の誘惑なんかに負けなければ今までどおりの平穏は、 守られるんだ 「ああ!」 「そう…なら…信じる。」 そういうと長門は電話を切った。 ふう、この注射器はもういらないな。ありがとう、長門。お前のおかげでこいつの誘惑に、負けずにすんだよ。 何を考えているかしらんが、お前の思い通りになんかなってたまるか!春日! 俺は!俺の欲望に打ち勝つぞ!! 「もしもし?古泉です。お久し振りですね。 実はですね………おお…察しがよろしいようで。そう、機関の創立6周年パーティについてです。 はい、もうそんな時期になるんですよね。 全く、今はもう存在しない機関だというのに。はい、もちろん主催者は今年も、森さんです。 彼女らしいといえばらしいですね。ええ、そこであなたも招待しようということになりまして………… いえいえ、あなたは今でも、そしてこれからも我々の仲間、いわば同士です。 そろそろ河村のことも、気持ちの整理がついたのではないですか? …はい、そうですか!それは皆さん喜ぶと思います! それでは、今週の土曜に。いつもの場所と時間で。 待っていますよ?春日さん?」 五章へ
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「ちょっと……どういうことよ、記憶を消去するって!」 「言葉の通り。あなたの能力は自覚するにはあなたの精神への負担が大きすぎる。 故に、このことを忘れ自覚してない状態に戻すのが適切と判断した。」 「でも……でもそれじゃあ、今までと変わらないじゃないの!」 確かにな。ハルヒの能力が消えるわけじゃない。 ハルヒ自身が忘れるだけで、神懸り的な能力も閉鎖空間もそのままだ。 だが…… 「いいんじゃないのか?それで。」 自然に口から出た言葉。これは俺の本心だ。 「これは俺自身の勝手な考えだがな、ハルヒ。俺はお前に振り回される日々、嫌いじゃないんだぜ? 能力的な面でも、そうでない部分でもだ。 お前、自分の役職言ってみろよ。」 「……SOS団の、団長……」 「だろ?お前普段から言ってるじゃないか。団長について来い、ってさ。 お前は自分の周りのヤツらを振り回すぐらいで丁度いいのさ。」 「でも、迷惑だとは思わないの!?」 「正直、時々は思うさ。でもな、今のお前みたいな姿を見るよりは、迷惑かけられる方が100倍いい。 お前には、いつでも笑っててほしい。さっきみたいな笑みじゃないぞ、心から笑ってるいつもの笑顔だ。 これが俺の気持ちだ。……みんなは、どう思う?」 俺は朝比奈さん、長門、古泉に問い掛けた。 さっきのは完全に俺の本心であるから、他の三人がどうかはわからない。 もしかしたらこのまま自覚したままの方が都合がいいかもしれない。 だが…… 「わたしも、キョン君と同じ気持ちです。」 「……わたしも。」 「僕もです。涼宮さん、あなたが笑っていてくれることが、僕らにとっては1番重要なことなのですよ。」 ほらな。みんな同じなんだ。 そりゃ最初はいろんな組織の思惑があってSOS団に居たのかもしれないさ。 だが今は違う。ハルヒの笑ってる顔が好きだから、俺達はここにいるのさ。 「じゃあ長門、やってくれ。」 「わかった。」 長門がまた例の高速呪文を唱えた。するとハルヒは瞳を閉じて、その場に倒れこんだ。 「ハルヒ!」 「心配ない。今は寝ているだけ。起きた時は能力に関する記憶は全て消えている。 涼宮ハルヒが能力を自覚した上で願ったことも全て無かったことになる。 だから朝比奈みくるの未来も、大丈夫。」 「そ、そうですか、良かったぁ……」 朝比奈さんはへたへたと座りこんで安堵の笑顔を見せた。あなたもその笑顔が1番似合っていますよ。 しかし…… 「俺は時々、コイツの能力をうらやましいと思ったことがあったが…… 考えてみりゃ、残酷な能力だよな。」 もし俺がハルヒと同じ能力を無自覚で持っていて、ある日突然自覚せざるを得なくなったら…… 俺だって正気を保てる自信が無い。 「その通りです。考えてみてください。夏休みがいつまでも続いてほしい…… こんなこと、誰だって考えることです。悪いことではありません。 ですが、それを叶える能力を持ってしまったが故に、時間のループという現象を生み出してしまうのです。 しかも本人は無自覚のままで。こんなに残酷な能力はありませんよ。」 古泉が俺の意見に同調した。 実際、ハルヒの能力に1番振りまわされているのは古泉と言える。 ハルヒのご機嫌を取ったり、閉鎖空間に駆り出されたりな。 「なあ古泉、ハルヒを恨んだことはあるか。」 「……無い、と言ったらウソになりますね。 能力に目覚めたての時は、憎かったですよ。なんで僕が、ってね。 ですが今は違いますよ。彼女もまた、能力の被害者の一人だと認識していますし…… なにより、彼女に振りまわされる日々も気に入っていますから。あなたと同じように、ね。」 古泉が俺に対してウィンクをした。だからやめろって、気持ち悪い。 「涼宮ハルヒは能力という爆弾を抱えている、非常に脆い存在。」 長門が口を開いた。脆い、か……そうかもな。また今回みたいなことが起きないとは言いきれない。 「だから、彼女を支える。それが、私達の役目。」 ……そうだな。長門の言う通りだ。 爆弾を持っているんなら、俺達が爆発しないように見守っていてやればいいのさ。 とりあえず、俺はハルヒが目を覚ましたらこう言ってやろうと思ってる。 「お前は、笑顔が1番似合ってるぞ。」ってな。 終わり
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製作中 基本情報表紙 タイトル色 その他 目次 裏表紙のあらすじ 内容 あらすじ「あてずっぽナンバーズ」 「七不思議オーバータイム」 「鶴屋さんの挑戦」 登場人物 後に繋がる伏線 刊行順 基本情報 涼宮ハルヒシリーズ第12巻。2020年11月25日初版発行。 表紙 通常カバー…涼宮ハルヒ、鶴屋さん 初回限定生産版で、かつての角川スニーカー文庫を再現したリバーシブルカバー仕様になっている。 タイトル色 通常カバー…赤 初回限定生産版…赤 その他 本編…440ページ 形式…短・中編集 目次 あてずっぽナンバーズ 七不思議オーバータイム 鶴屋さんの挑戦 裏表紙のあらすじ 初詣で市内の寺と神社を全制覇するだとか、ありもしない北高の七不思議だとか、涼宮ハルヒの突然の思いつきは2年に進級しても健在だが、日々麻の苗木を飛び越える忍者の如き成長を見せる俺がただ振り回されるばかりだと思うなよ。 だがそんな俺の小手先なぞまるでお構い無しに、鶴屋さんから突如謎のメールが送られてきた。 ハイソな世界の旅の思い出話から、俺たちは一体何を読み解けばいいんだ? 天下無双の大人気シリーズ第12巻! 内容 短・中編収録の巻 あらすじ 「あてずっぽナンバーズ」 + ... 「七不思議オーバータイム」 + ... 「鶴屋さんの挑戦」 + ... 登場人物 [[]] [[]] [[]] [[]] [[]] [[]] [[]] [[]] [[]] [[]] [[]] [[]] [[]] [[]] 後に繋がる伏線 刊行順 <第11巻『涼宮ハルヒの驚愕(後)」』
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雪山で遭難した冬休みも終わり3学期に突入し、気付けばもうすぐ学年末テストの時期になった なのに相変わらず、この部屋で古泉とボードゲームに興じている俺ははたから見ればもともと余裕のある秀才か、ただのバカか2つにひとつだろう どちらなのかは言わなくてもわかるだろ? 先程、俺と古泉に世界一うまいお茶を煎れてくれた朝比奈さんもテスト勉強をしている 未来人なんだから問題を知ることぐらい容易であるように思えるがその健気さも彼女の魅力の一つだ この部屋の備品と化している長門も今日はまだ見ていない 最近はコンピューター研にいることが多いようで遅れて来ることもしばしばだ 観察はどうした?ヒューマノイド・インターフェイス 「最近涼宮さんに変化が訪れていると思いませんか?」 わざわざ軍人将棋なんてマイナーなものを持ってきやがった、いつものにやけ面がもう勝てないと踏んだのか口を開いた 「その台詞、前にも聞いたぞ、今度はなんだ?」 半ば勝ちが決まったゲームの駒をすすめながらこたえる 「いや、失礼。表現があまりよくなかったようですね。あなたが最近…というかクリスマスイブ以降、長門さんに無意識に目がいくようになったのを目ざとく最初に見つけたのは涼宮さんです。」 「質問の答えになってない」 俺の言葉は自分で思ったよりぶっきらぼうだったらしく古泉は微笑のなかで眉をひそめた 「最後まで聞いてください。あなたには話していませんでしたが、それ以来閉鎖空間の頻度が少しだけあがっているのです」 「ほお、それで?」 聞き役に撤するのは得意ではないが、ここは言葉を続けさせるべきだろう 「あなたが長門さんを気にするのを涼宮さんは気に入らないのですよ」 にやけ面が含み笑いを取り入れ、いつもの数倍は苛立つ顔になる あまり続きを聞きたくなくなったので手元のボードゲームの勝ちを決めることにした 「あなたも、もし僕が朝比奈さんと仲睦まじげに話していたらイライラするでしょう?…それとも、この例えは涼宮さんの方が的確でしたか?」 やめろ、古泉 忘れたかった記憶が戻ってきそうだ 「ありません」 勝ちが決まったゲームを投了するのはいささか不快だが話を終わらせる手段はこれしか見つからなかった 「投了ですか?確実に負けたと思っていましたが、あなたには何手先が見えたんです?」 今しか見えていないさ 話を中断する理由がほしかっただけだ とも言えないので俺は黙ってお茶を飲むことに集中した うん、うますぎる 「そんなことはどうでもいいですね、今回は僕の勝ちです」 そう言いながら古泉は対戦成績表に丸をつける ながら丸付けか、小学校の教師ならやりそうだ 「では話を戻しましょうか」 思わずお茶を吹き出しそうになるがもったいないことこのうえない しかし、ごまかしたと一瞬でも油断した俺がバカだった 俺がバカなのは冒頭で述べたばかりなのでいまさらだが 「涼宮さん風に言うと、一種の精神病ですね、彼女はまさに今その状態です」 やめろ、そこまで記憶がさかのぼると閉鎖空間での悪夢を思い出す そんな俺の危惧を知ってか知らずか古泉は続ける 「閉鎖空間から涼宮さんと二人で戻って来れたのですからあなたもまんざらでもないのでしょう?」 …近くに44オートマグがあったなら自分の頭を打ち抜いていただろう 銃刀法に感謝しろ、古泉 「おやおや、そんな顔をするなんて予想外でした。続きを話すのが少し億劫になってきましたね」 そんなことを言いながらもちっとも表情を崩さない古泉に殺意すらおぼえた どういう言葉で殺意を表してやろうか考えていると、いつものようにどでかい音をたてて我らが団長が飛び込んできた 「やっほー!みんないる?」 銀河系の星達がすべてちりばめられたような笑顔を振りまきながら入ってきたハルヒ やばいな、これは何かろくでもないことを思いついた時の顔だ 「…あれ?有希はまだ来てないの?」 寡黙な宇宙人の指定席であるパイプイスに目をおき、疑問をなげかける 「長門なら、多分コンピ研じゃないか?」 疑問にこたえたのは俺だった 朝比奈さんはハルヒのお茶を煎れに行ってしまったし、古泉は微笑を浮かべるだけなので自動的にこたえるのが俺の役割になっていた 「ふぅん、じゃああたし連れ戻してくるから、それまでに会議の準備しといて」 それだけ言うとハルヒはスピードスケートの清水のようなスタートダッシュで駆け出した やれやれ、おっとこれは禁句だったか だが、口に出してはいないので大目にみることにしよう やれやれ、また会議か 時期的に今度は春休みか? 「あなたの席はここ一年ずっと涼宮さんの前でしたよね?」 急に何の脈絡もないような話を振ってきた古泉 「ああ、そうだ」 「それは恐らく、彼女が望んだからそうなったのです。涼宮さんはあなたのそばにいたいのです」 指で前髪を遊ばせながら古泉が語る 誉め言葉ではないがこういう仕草がこいつにはむかつくほど似合う 「単刀直入に言います。涼宮さんと付き合ってみてはいかがですか?」 いつもの糸のようなが見開かれ、その視線は真っすぐ俺の目を見ている どうしてお前の真面目な顔はこうも不気味なんだ 「お断わりだ、付き合う付き合わないは人に言われてどうこうの問題じゃないだろ」 俺がそう言うと古泉は口をへの字には曲げてはいたが、顔に笑みを戻した 「そうですね、失礼しました。それではあなたにお任せしますよ」 だから付き合わないと言っているだろう 任せるもへちまもあったもんじゃない 「たっだいま~!」 話が終わるのを見計らったようなタイミングでハルヒが長門をともない戻ってくる ハルヒは朝比奈さんの煎れたお茶を飲み干すとこう叫んだ 「我がSOS団は春休み、花見をするわよ!」 第1章
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基本情報表紙 タイトル色 その他 目次 裏表紙のあらすじ 出版社からのあらすじ 内容 あらすじ「プロローグ」 「第一章」 「第二章」 「第三章」 「第四章」 「第五章」 「第六章」 「第七章」 「エピローグ」 挿絵口絵 挿絵 登場人物 後に繋がる伏線「第五章・第六章」(伏線) 「第七章」(伏線) 「エピローグ」(伏線) この巻にて回収した伏線「プロローグ」(回収した伏線) 刊行順 基本情報 涼宮ハルヒシリーズ第7巻。2005年9月1日初版発行。 表紙 通常カバー…朝比奈みくる 期間限定パノラマカバー…橘京子、谷口 タイトル色 通常カバー…青 期間限定パノラマカバー…紫 その他 本編…422ページ 形式…長編 目次 プロローグ…P.5 第一章…P.58 第二章…P.112 第三章…P.162 第四章…P.224 第五章…P.265 第六章…P.319 第七章…P.265 エピローグ…P.401 あとがき…P.428 裏表紙のあらすじ 年末から気にしていた懸案イベントも無事こなし、残りわずかな高一生活をのんびりと楽しめるかと思いきや、 ハルヒがやけにおとなしいのが気に入らない。 こんなときには必ず何かが起こる予感のそのままに、俺の前に現れたのは8日後の未来から来たという朝比奈さんだった。 しかも、事情を全く知らない彼女をこの時間に送り出したのは、なんと俺だというのだ。 未来の俺よ、いったい何を企んでいるんだ!?大人気シリーズ怒涛の第7弾! 出版社からのあらすじ 残りわずかな高一生活をのんびりと過ごすはずだった俺の前に現れたのは、8日後の未来から来た朝比奈さん!? しかもこの時間へ行くように指示したのは俺だというのだ。8日後の俺よ、いったい何を企んでるんだ!? 内容 シリーズ中最長編の巻。この巻では、朝比奈みくるメインでストーリーが進んでいく。 時系列では、第6巻『動揺』収録の「朝比奈みくるの憂鬱」の直後となり、冒頭では『消失』での伏線を回収する回想シーンが挿入されている。 新たな伏線が多く張られる巻でもある。 あらすじ 章ごとに記載。また、ネタバレ記述があるので、原作未読の場合は注意。 「プロローグ」 +... 時は2月3日。キョンの回想から始まる。 1月2日、キョンは長門、みくるとともに12月18日へと時間遡行する。長門の行為によって変わってしまった世界を再改変するためだった…… 「第一章」 +... 節分から数日が経過した日の夕方、キョンは部室へ向かうと、掃除用具入れの中から音がする 不審に思ったキョンは中を確かめてみると、そこには朝比奈みくるがいた。みくるはキョンも一緒に隠れるようにと言い、2人で掃除用具入れに入る。 しばらくして、部室に入ってきたのはまぎれもなく朝比奈みくるであった。 みくるが2人。掃除用具入れから現れた自分は、8日後から時間遡行した未来のみくるであり、時間遡行をするように言ったのはキョンだというが…… 「第二章」 +... 学校に登校したキョンは、いつものように自分の下駄箱を開けて靴を履き替える。 だが、そこには朝比奈さん(大)からの指令書(#1)が入っていた。放課後、キョンは指令書に書かれていた道具を取りに家に帰り、 自転車で長門のマンションへと向かう。 8日後から時間遡行したみくるとともに、指令書に書かれている場所に向かう。 その後、鶴屋邸へと向かい、キョンは8日後から時間遡行してきたみくるを預かってもらえるよう頼む。 「第三章」 +... 翌日、学校に登校したキョンは、自分の下駄箱を開けて靴を履き替える。そこにはまたしても朝比奈さん(大)からの指令書(#2)が。 指令書(#2)をクリアするため、みくる(みちる)とともに鶴屋家の私有山へと向かうが…… 「第四章」 +... 翌朝、キョンは目覚まし時計を止めに来た妹によって起こされ、SOS団一行で鶴屋山へと向かう。土、日曜日の件について話すハルヒ。 解散後、キョンは帰宅し鶴屋邸に電話をすると、みくる(みちる)が電話に出て、明日の件についての話をするのだが…… 「第五章」 +... 土曜日の朝、キョンは自転車で駅前へと向かい、SOS団のメンバーでいつもの喫茶店へ。 12時に再び集合した際に再びクジを引くと、今度は長門と一緒になり、長門とともに市内図書館に行く。 中で待っていたみくる(みちる)はキョン達の元へと駆け寄る。キョンとみくる(みちる)は指令書(#3)をクリアするため目的地へと向かい、 指令書(#3)に書いてある物を探すが、なぜか見つからない…… 「第六章」 +... 日曜日の朝、キョンは自転車で駅前へと向かい、SOS団のメンバーでいつもの喫茶店に入る。ハルヒの作ったクジを引き、長門と一緒になる。 キョンは長門とともに市内図書館に行く。指令書(#4)をクリアするため、その場所へと向かう。後にみくる(みちる)と合流する。 だが、朝比奈みちる誘拐事件が起こる。みくるを誘拐した犯人を追うため、キョンは新川の運転するタクシーに乗車し、古泉、森園生とともに みくるを誘拐した車を追うが…… 「第七章」 +... キョンは長門とともに駅前に戻り、ハルヒは総員解散を告げる。 翌日、キョンは駅前に向かい、鶴屋山を登り、指令書(#2)で行った場所を掘ると、箱のようなものが出てくる。その中身は… 日没後、キョンは自転車で長門のマンション近くの例のベンチに向かう。そこには朝比奈さん(大)がいた。 だが、彼女の言っていることは、これから起こる出来事らしいが…… 「エピローグ」 +... 次の日の昼休み、鶴屋さんが1年5組の教室に来る。キョンに用事があるらしく、薄暗い踊り場にキョンを連れて話を始める。 鶴屋山にて、本物の鶴屋家の宝が出てきたらしい。 その日の放課後、ハルヒはSOS団プレゼンツをする。それは、当たりのクジを引くと、みくるから手渡しでチョコがもらえるというものだった。 だが、参加者が多かったため、いつ終わるのかも分からない。長門に情報操作をしてもらったキョンは、みくるの手を引っ張ってを部室に連れて行き、 時間遡行をするように頼む。 8日前に時間遡行したみくる。少ししてから再び、掃除用具入れの中から音が聞こえる。そこに登場したのは…… 挿絵 口絵 涼宮ハルヒ、朝比奈みくる、長門有希、古泉一樹(プロローグ) ⇒ 朝比奈みくる(みちる)(第一章) ⇒ キョン、長門有希(第一章)、朝比奈みくる(みちる) ⇒ 長門有希、朝比奈みくる ⇒ 挿絵 「プロローグ」 P.57…SOS団 ⇒ 「第一章」 挿絵なし 「第二章」 P.143…朝比奈みくる(みちる)、鶴屋さん ⇒ 「第三章」 P.197…涼宮ハルヒ、キョン ⇒ 「第四章」 挿絵なし 「第五章」 P.291…未来人 ⇒ 「第六章」 挿絵なし 「第七章」 P.381…涼宮ハルヒ、朝比奈みくる、長門有希 ⇒ エピローグ 挿絵なし 登場人物 涼宮ハルヒ キョン 長門有希 朝比奈みくる(=朝比奈みちる) 古泉一樹 鶴屋さん 朝比奈さん(大) 谷口 国木田 キョンの妹 森園生 新川 多丸圭一 多丸裕 シャミセン ハカセくん 未来人 誘拐少女 後に繋がる伏線 「第五章・第六章」(伏線) 対立組織の登場・目的 ⇒第9巻『分裂』にて半分回収 「第七章」(伏線) 朝比奈さん(大)の言う「とても強力な未来」 ⇒未回収 「エピローグ」(伏線) 鶴屋山で発掘された謎のオーパーツ ⇒未回収 この巻にて回収した伏線 「プロローグ」(回収した伏線) 第4巻『消失』にて、もう一度12月18日に時間遡行しなければならないこと ⇒長門の行った時空改変を元通りに戻す 第4巻『消失』にて、ハルヒの見た謎の少女の正体 ⇒長門有希 刊行順 <第6巻『涼宮ハルヒの動揺』|第8巻『涼宮ハルヒの憤慨』>
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天蓋領域との壮絶かつ困難なバトルの話は俺の中で整理がついた時にでもゆっくり 語ろうと思う…… 。 季節は三度目の桜がまるで流氷を漂うクリオネの姿で舞う光景を見ながら、 俺はシーシュポスの苦痛を3年間も続けたんだなという感慨にふけり、後ろを 振り返った。 北高に入り、ハルヒと対面したあの日が走馬灯のようによみがえってくる。 思えば「宇宙人、未来人、…… 」あの言葉を聞いた瞬間から俺は夢のような時を 過ごしてきたんだなとも思う。 まさに光陰矢のごとし、カマドウマにも五分の魂ってやつか…… 。 そんなこんなで今日は朝比奈さんの卒業式当日。 もちろん鶴屋さんもその満面に笑みを称え、卒業生の輪の中にいた。 「安定していますね、まさに一般人に戻ってしまった涼宮さんそのものですね。 あっ、それと僕の能力も消えてしまいました」 顔が近すぎるんだよ、古泉、あいも変わらずなぜそんなにくっついて話す 必要があるんだ? 「情報統合思念体も二次的なフレアの原因は涼宮ハルヒという生命体が持つ 内部の自己矛盾から開放されたと推測している。わたしの役目も終わりに 近づいているのかもしれない」 寂しそうな笑顔を向ける長門…… 寂しそうな笑顔? 長門、お前はいつから そんな感情を露にした表情ができるようになったんだ…… 。 「観察が終わればわたしはここから去らねばならない…… 」 その神のごとき能力を失ったハルヒは泣きじゃくる朝比奈さんと大笑いしている 鶴屋さんの真ん中で大いにはしゃいでいた。 卒業式の余興にあのバニーのコスプレでどうやら「GOD KNOWS」を 歌うらしいのだ。 もちろんSOS団内に結成したENOZⅡというバンド名なのはいうまでもない。 はしゃいでいるハルヒを俺はずっと目で追っていた。相変わらずハイテンション なハルヒ、昨日まで世界はお前を中心に回っていたといっても過言じゃないんだぜ! あの日を境にな、あの日を境にお前の能力が失われていることに気づいたのは つい最近なんだ、だが俺はなぜかほっとしている。これで、お前を、ちゃんと真正面から 見ることができるんだ。 不思議から開放されることが、いやもう二度とあの世界へは戻れないんだと してもだ、俺は心からハルヒ、お前が普通でいてくれることをありがたく思うよ。 この世界の創造主なんて役目はかわいい女の子には荷が重過ぎるだろ、違うか!? なんたって神様好きになっちゃバチが中るってもんさ、 卒業まで一年俺はこう思ってるんだ。不思議じゃない高校生活もきっといいもんだぜ…… 。 ハルヒ、告白しちゃいけないか、手をつないじゃいけないか、デートしちゃいけないか? この世界にたった一つ不思議があるとしたらめぐり合った奇跡じゃないのか? 「ハルヒ…… 俺は…… お前を…… アイシテル…… 」 了
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前線基地に向かうトラックを激しい爆発音が揺さぶる。突入前の準備として、学校の砲撃隊が北山公園の植物園に 120mm迫撃砲による徹底した砲撃を行っているのだ。空気を切り裂くような音が頭上をかすめるたびに 身震いを覚える。あれに当たれば、身体が傷つくどころか粉々に吹っ飛ぶんだろうな。 そんな中、前線基地に到着し、古泉小隊と鶴屋さん小隊の入れ替えが始まる。 「やあっ! キョンくん! また、会えてうれしいよっ! これから一緒にめがっさがんばろうね!」 鶴屋さんのテンションの高さは相変わらずだ。そんな彼女にハルヒも満足げのようである。 てきぱきとしたハルヒの指示により、2分とかからずに入れ替えが完了し、 「さて! いよいよ突入よ! 気を引き締めなさい!」 ハルヒの声が合図となり、またトラックが動き始める。 植物園が近くなるにつれて、爆発音が激しくなってきた。激しい土煙が植物園を覆っている。 その中、俺たちはついに北山公園内の植物園に突入した。同時に砲撃も停止する。 先行するトラックに乗っていたハルヒは一目散にトラックから降りると、 「行け行け行け!」 そう他の連中に降りるように指示を出し、自身はM16を抱えてそこら中めがけて乱射を始める。 ハルヒの配下の生徒たちもそれに習うように、トラックから降り乱射を始めた。辺りに広がる森、建物に向かって。 俺も遅れまいと、次々にトラックから自分の小隊を降ろし始める。鶴屋さんも同様だ。 2~3分だろうか。そのまま、乱射が続いたが、やがてハルヒが右手を挙げた。どうやら、撃ち方やめという意味のようだ。 俺も周りに乱射をやめさせる。ほどなくして、乱射が収まり、辺りに静寂が戻った。しかし、銃声音が頭の中に残って うっとうしいことこの上ない。 「何にもねえな……」 俺は思わず声に出してしまったが、これは予想外だった。当然、激しい抵抗があるものと思っていたが、 すんなりと突入に成功し、さらに敵の一人すらいない。どういうことだ? みんな地面に伏せて銃を構えている中、ハルヒだけは仁王立ちのように突っ立っていた。あのバカ、狙撃されたらどうするんだ。 「国木田。俺はハルヒのところに行ってくる。ここを頼む」 「了解」 俺は国木田の肩を叩くと、前屈みでハルヒの元に走った。同じタイミングで鶴屋さんもやってくる。 「どういうことなの? まるっきり抵抗がないなんて張り合いなさ過ぎ」 「何でも良いから少しは身を低くしろ、おまえは」 そう俺は脳天気なことを言っているハルヒの迷彩服をつかみ、無理矢理屈みさせた。 「さ~て、ハルにゃん、これからどうするにょろ?」 鶴屋さんの問いかけにハルヒは真剣に悩み始める。確かに、これはおかしい。やはり古泉の言うとおり罠だったのか? だが、敵は俺たちに考える余地を与えるつもりはないようだ。数発の爆発音が北高の方から飛んできた。 すぐ近くにいた通信機を持った生徒をハルヒは呼び、 「有希!? 何かあったの!?」 『前回と同じ攻撃を受けた。数発だけで、損害は軽微』 的確な長門の返事にハルヒは安堵した表情を見せる。だが、またすぐに苦渋に満ちた表情に戻り、 「罠だろうが何だろうが、あれの攻撃方法をつぶさない限り、あたしたちに勝ち目はないわ。予定通りに行きましょう。 鶴屋さんはロケット弾発射地点と思われる北山公園南部をお願い。キョンは北側ね。とっとと制圧したら鶴屋さんの援護に 向かうこと! いいわね!」 話し合いはここまでだ。俺は自分の小隊まで戻る。 「よっし、俺の小隊はこれから公園北部に行くぞ。前進しろ」 俺の指示の元、小隊は北部へ移動を開始した。鶴屋さんも南部に移動を始める。とにかく、とっとと北部をつぶして、 鶴屋さんの援護に向かわねばならん。 ◇◇◇◇ 「なあ、キョン」 林の中をじりじりと北部へ移動する最中に谷口が気の弱そうな声で聞いてきた。 「なんで散策用の道をつかわねえんだよ。歩きにくくてたまんねえ」 「おまえは待ち伏せされて、皆殺しにされたいのか?」 そう谷口の意見を一蹴する。北山公園は公園だけあって何本かの道があるが、当然敵がいるなら、 やすやすと通してくれることはないだろう。それに見通しが良すぎて狙い撃ちにされてはたまらん。 そばにいた国木田もあきれたように、 「谷口は結構貧弱なんだね」 「うるせえ。戦争するための訓練なんてやっているわけがねえだろうが。はっきり言ってこれは無駄な浪費だぜ。 あー、この体力をナンパにまわしてぇな」 「おまえが黙れ」 黙々と俺についてくる小隊の中で、ただ一人ピーピー文句を言う谷口を黙らせる。 ただ、薄暗い森の中、おまけにどこに敵が潜んでいるかわからない状況では、谷口の普通っぷりが かえって俺に安堵感を与えているのは事実だ。 と、国木田が突然真剣な目つきで銃を構えた。さらに一斉に周りの生徒たちも構え始める。 呆然としていたのは俺と谷口だけだったが、目の前の木々の隙間に何かがいることに気がつくと、 あわてて構えた。 隠れていたのは、鶴屋さんの行ったとおり真っ黒なシェルエットのような人間?だった。 腰にAKらしき銃を抱えているが、こちらには向けていない。 「おい、キョン……! とっとと撃とうぜ……」 今にも泣き出しそうな声で谷口が言う。どうする? 撃ってしまって良いのか? それとも捕まえるべきか? だが、俺が迷っている間にそいつはとっとと逃げ出しやがった。全力で地面の悪さも気にせず、 一目散に北に向かって失踪する。 「くそ! 逃がすな!」 ミスをしてしまった。偵察兵かもしれないのに、ここで見逃せば俺たちの位置が敵の主力に伝わり、 攻撃されるかもしれない。そうなる前に……! 「キョン、待って!」 国木田の制止も聞かずに、俺は一目散に逃げるシェルエット人間を追いかけ始めた。 小隊全員も俺について走り出す。 逃げる奴は姿が真っ黒というだけで、全く人間と同じような走り方をしていた。 草を手ではねのけ、溝を跳び越え、ばたばたと足音を発しながら逃げていく。 「もう少し……!」 もうちょっと追いついたら、奴を背中から撃ってやる。それで仕留められるはずだ。 だが、先に発砲したのは俺じゃなかった。タンタンと乾いた破裂音の次に、バスっと二度と忘れないんじゃないかという いやな音が背後から飛んできた。俺は立ち止まって振り返ると、そこには通信機を背負っていた阪中が倒れていた。 頭部から出血までしている。撃たれたのは確実だった。 「キョン! まずいよ!」 国木田がそばにいて切迫した声を上げた。前からは逃げていた敵と入れ替わるように、 銃を手にした数人の敵がこっちに向かって来ていた。さらに左右からも銃撃が始まる。 「阪中から無線機を!」 俺は身近にいた生徒に無線機を取るように伝える。阪中がやられた以上、別の誰かに持たせないと―― だが、すぐにその生徒も胸を撃ち抜かれた。血しぶきと肉片が飛び散った光景は当分忘れないだろう。 「おいキョン! どうするんだよ!」 谷口はひたすらおろおろして持っているM60を撃ちもしない。代わりに周りの生徒たちがおのおの敵に向けて反撃を始めた。 俺もそれに続くように迫るシェルエット人間に向けて発砲を始める。だが―― 「だめだ……!」 敵がどんどん増えて、数人どころか数十人にふくれあがったのを見れば、つい絶望もしたくなる。 やはり古泉の言うとおり、鶴屋さん小隊を襲撃した連中はただのおとりで、本隊が北部に陣取ってやがったんだ。 そして、俺たちはまんまと誘い込まれてしまっている。そう考えたとたん、自然と身体が引き返せと悲鳴を上げ始めた。 「後退しよう! 負傷者を連れて行け!」 撃たれて倒れている阪中たちを別の生徒たちが引きずり始めた。俺はそれをカバーするように 迫る敵に向けて撃ちまくる。そのうち一発が敵に命中し、まるで液体が始めるように飛び散って消滅した。 確かに鶴屋さんの言うとおり、まるでゲームの敵を撃ったぐらいの感覚にしかならない。 俺たちはそのまま数十メートル後退する。その間にまた一人の生徒が肩を撃たれた。これで3人目だ。 「下がれ下がれ!」 俺はわめくように指示を出す。だが、今度は二人の生徒が背後から撃たれた。そう背後からだ。間違いない。 なんで俺たちが通ってきた方から銃弾が飛んでくる!? 「後ろにも敵がいるよ!」 「どーするんだよ、囲まれちまっているぞ!」 未だに健在な国木田と谷口が大声を上げた。まずい。やばい。どうすりゃいいんだ!? 「伏せるんだ! みんな、伏せろ!」 思ってもいない声が俺の口から飛び出した。一斉に全生徒が茂みに隠れるように地面に伏せた。 すぐ頭上に弾がヒュンヒュンとかすめていく。もう一歩遅かったら蜂の巣立ったかもしれん。 背面の敵はこっちを狙撃するように動かずに撃ってきているが、前面――北側の敵は遠慮なくつっこんできていた。 このままでは皆殺しにされる。 「谷口! M60をこっちに置け!」 俺の指示に谷口は俺のすぐ横にM60を置いて撃ちまくり始めた。 「このやろ! 死ね! くるんじゃねえ!」 情けない声を上げつつも、突撃してくる敵に次々と命中し、黒い影が飛び散りまくる。 一方、俺の背後では国木田が小隊の背後にいる敵に対処していた。 「手榴弾を投げるよ!」 ピンの抜かれた手榴弾が宙を舞い、背後の敵を吹き飛ばした。同時に銃撃が収まったのをみると、 背後にいた奴は仕留められたらしい。さらに、前面から突撃してきた敵はM60の乱射を恐れたのか、 じりじりとこちらの視界外に引き始めた。何とか急場をしのげたようだな。 だが、国木田はほっとする様子もなく、俺の元に駆け寄って、 「キョン! のんびりしている場合じゃないよ! 第2波が来る前に砲撃の支援要請をしないと!」 くそ、国木田の方が指揮官みたいじゃないか。今からでも変わってくれないか? いや、そんなことはどうでもいい。 俺は引きずられてきてぴくりともしない阪中から無線機を取ると、ハルヒに――いや、そんな暇はない。 長門に直接指示しないと! 「長門! 聞こえるか!」 『聞こえている』 通信機は無事のようだ。俺は胸ポケットから地図を取り出すと、 「今から言う座標に向けて砲撃を頼む!」 俺は俺たち周辺の座標を伝えると、 『わかった。砲撃を開始する』 「ああ、頼む! こっちは包囲されて孤立状態だ!」 通信を終えたときに、ちらりと阪中の目が俺の視界に入った。 地面に突っ伏したまま、けっして瞬きしない。もう死んでいる…… ――あのね、お願いがあるんだけど。 ――涼宮さん、誘ってほしいんだけどね。 ――球技大会。だって、涼宮さん、すごいスポーツ万能じゃない。 前日、あった阪中との会話が脳裏にフラッシュバックしたとたん、俺は胃のものをすべてリバースしてしまいそうになった。 何とかぎりぎりのところで押さえ込んだが、全身に走る悪寒と鳥肌はやみそうになかった。 何を悩んでいる? 俺があのときとっとと逃げる敵を撃っておけばこんなことにはならなかっただろ? でも、これはゲームだ。仕掛けたものの言うとおりに勝てばいいじゃないか。そうすれば元通りさ。 大体、この阪中が俺の知っている阪中とは別人かもしれない。だから、罪悪感なんて持つことはない。 持つことなんてないって言っているだろうが! 「――キョン! 大丈夫!? しっかりして!」 いつの間にやら国木田が俺の肩をさすっていた。全身汗だらけになっていることにも気がつく。気色わりい。 「あ、ああ、大丈夫だ――大丈夫……」 のどからひねり出される俺の言葉を聞けば、誰も大丈夫じゃないとわかるだろう。しっかりしろ、俺! 今までだって、朝倉にナイフで刺されたり、朝倉にナイフでぐりぐりされただろうが! 「ああああっ! キョン、また敵がこっちに近づいてきたぞ!」 谷口の悲鳴とともにまたM60が火を吹き始める。見れば、また懲りもせず前方からシェルエット軍団が 突撃を敢行し始めていた。当然、銃を乱射しながらだ。 しかし、ここで長門のきわめて正確な砲撃が始まった。シャァァァという空気を切り裂くような音とともに、 俺たちの周囲が次々と吹き飛び始める。轟音で耳の鼓膜がはじけそうになった。 「撃ち方やめ! 撃ち方やめ! おい谷口! やめろっていってんだろ! 弾を無駄にするな!」 こっち大火力で突撃して来る敵はほとんど吹き飛び、俺たちのところに到達できる奴は一人もいなかった。 ならば、こっちはしばらく見物していた方が良い。 「今の内に負傷者の手当をするんだ! 残りは残弾の数を数えておけ!」 その間、徹底的な砲撃を受けた敵はさすがに堪えたらしい。次々と北側に引いていくのが確認できた。 頼むからもう来ないでくれよ。 俺はまた長門に――すまん、阪中。また借りるぞ――連絡して砲撃を停止させる。 続いてハルヒに連絡だ。 「おい、ハルヒ聞こえるか?」 『何よ、こんなときに! こっちは大騒ぎよ!』 返ってきたハルヒの声は、植物園がどんな状況かすぐにわかるようなものだった。無線機越しに、 銃声音やら爆発音がひっきりなしに飛び込んでくる。 『敵よ敵! 辺り一面囲まれているわ! 鶴屋さんも同じみたい! 完全にしてやられたわ!』 ああ、また撃たれた! 衛生兵! そっちで怪我した人を見てやって! 古泉くんの部隊はまだ来ないの!?と 俺に向けてではない声も入ってくる。やばい。ハルヒの方も襲撃されているのか。さらに鶴屋さんもだと? 学校まで攻撃されている訳じゃないだろうな? 『それは大丈夫だって有希が言っていたわ! 今のところ、戦闘が起こっているのは北山公園内だけみたい!』 そうか、それなら当面は俺たちだけの問題だ。 「こっちも囲まれて数人がやられたが、長門の砲撃で何とか撃退できたようだ。 あと、鶴屋さんが言っていた20人ぐらいはとっくに倒しているが、まだまだ敵がいそうだ。 これじゃ、いくらやってもきりがないぞ。これからどうすりゃいい?」 『とにかく、古泉くんの言ったとおり罠だったんだから、引き上げるのよ! だから、早く戻ってきなさい!』 明確でわかりやすい。短絡的とも言えるが、今はありがたかった。 俺は国木田と谷口を呼びつけ――なんだかんだでこいつらが一番話しやすい――、 「おい、植物園まで戻るぞ。今すぐにだ。無線機を誰かに持たせないとな」 「負傷者は?」 国木田の言葉に俺は即答する。 「決まっているだろ。引きずってでも連れて行く」 「なら、死んじゃった人は? すでに4人死んでいるよ」 続いて飛んできた質問に俺は息をのんだ。辺りを見回すとけが人5名、死者4名の状態だった。 なら、無事な生徒は残り21人。けが人だけなら運べないこともないだろうが、死者を含めると、 ほとんど運ぶだけで部隊全体がいっぱいいっぱいになる。 俺はもう冷たくなりつつある阪中を見る。そして、 「死んだ奴はおいていく。落ち着いたらあとで戻って回収する。場所はきちんと地図に記してな。 戻ってこれるのかなんていうな。絶対にだ」 俺の声に反論する奴はいなかった。なんて薄情な奴だなんて言わないでくれ。 今は生きている奴を助けるだけで精一杯なんだ。 俺は無線機に向かって、 「ハルヒ。これから俺たちはそっちに戻る。時間はかかるだろうが、努力はするぞ」 『キョン! 戻ってこれそうなの!?』 「わからんが、やれることはやるつもりだ」 できるとは言えなかった。情けない。俺がこんなにだめな奴だったとは、正直ショックだ。 『……キョン。これだけは言っておくわ』 ハルヒの決意じみた声。そして、続く。 『こっちもひどいけど、絶対にあんたたちを見捨てない。どんな手を使ってもここを死守するわ。 逃げない。約束する。だから――』 俺にはハルヒが次に何を言うか、予測できた。だから、無線機を小隊の生徒たちに向けた。 『全員帰って来いっ! 絶対に!』 ◇◇◇◇ 俺たちはじりじりと慎重に植物園に向けて移動を始めていた。途中、何度も襲撃を受けたが、 その度に長門からの支援砲撃を要請し、ある時は谷口や他の生徒たちの活躍で撃退することができていた。 しかし、来た道とは違い、帰りはとんでもなく時間を食ってしまっていた。もうすでに12時を越えようとしている。 さらに、移動の間に負傷者が死者に変わり、また新たな負傷者が発生していた。すでに半数以上が負傷、あるいは死亡している。 「またさっきの負傷者が……」 国木田が沈痛な表情で報告に来た。これで死者は13名になった。置き去りにした生徒と言ってもいい。 大丈夫。これはゲームだ。勝てば元通り元通り…… そう俺は自分に暗示をかける。俺には生徒の死を受け入れるような頑強で器の広い心なんて持っていない。 だから、死者が増えるたびに自分に暗示をかけるようにこの言葉をつぶやき続けた。 でなけりゃ、無能な自分が許せなくなるからだ。 「あと、100メートルぐらいだろ。とっとと走っていこうぜ!」 目前まで迫った植物園に俄然焦り始めたのは、唯一の普通人、谷口だ。弱気な言動が多いのに、 なんだかんだでこいつのM60には助けられっぱなしだが。 「まあ、焦ることはないと思うよ。もうちょっとでつくんだからさ」 「そうだな。今まで通りのペースで行くぞ」 俺たちは移動を開始する。確かにもうゴールは目の前だから、はやる気持ちが沸々と俺の頭にも沸いてきた。 だが、敵もそれを阻止しようと必死だ。シェルエット野郎が数名襲ってきた。 「俺がしんがりをつとめる! 先に行け!」 もともと銃の扱いは頭の中にたたき込まれていたが、ここに来ていい加減慣れてきたのだろうか。 俺の射撃の命中率もかなり上がっていた。もっとも敵が物陰にも隠れようとせず、 ひたすら銃を乱射しながら突撃というワンパターンなため、簡単に命中させられているだけなんだが。 また、数名をシェルエットを飛散させると、先行して移動した小隊に戻る。見れば、植物園の建物が 木々の隙間から見えるほどまでに近づいていた。 「ここで、きちんとどこから戻るか伝えておいた方が良いよ。間違って攻撃されるかもしれないしね」 相変わらず冷静な国木田のアドバイスが飛ぶ。こいつとは腐れ縁みたいなものだが、こんなことが得意だった覚えはない。 俺たちと同じように相当頭の中をいじられているようだな。 俺は無線を持たせた生徒から無線機を受け取ると、 「ハルヒ。もうすぐそばまで戻ってきたぞ。北側から植物園に入る。間違って銃撃しないでくれよ」 『わかったわ。そこを守っているのは古泉くんだから、伝えておく』 なんだ。結局古泉もこっちに来ているのか。結局総動員だな。 「よし移動するぞ。もう少しだからな」 「ひゃっほう! これでうっとうしい森の中からおさらばだぜ!」 俄然やる気を取り戻した谷口に笑顔が戻る。まあ、それで終わりって訳じゃないが、 こんなところにいるよりかは幾分かマシだろうな。 木々を分けて移動を開始する。数メートル進むと、森との境に陣取っている古泉の小隊が見えた。 向こうもこっちに気がついたらしい。右手を挙げて、来てくださいと合図している。 その刹那、俺は右手に一人だけのシェルエット野郎がいることに気がついた。 向こうは目がないので、視線があることはないだろうが、俺ははっきりと悟った。今にもその構えたAKから弾丸が撃たれ、 俺に命中すると。 だが、ここで偶然なことが起こった。そうこれは偶然だ。突然、うきうき足で走る谷口が俺と敵の間に割り込んで来たんだから。 「谷口っ――!」 越えも間に合わず、俺の縦になるように谷口の上半身に2発の弾が命中した。貫通した弾はぎりぎりのところで 俺には当たらず背後に去っていった。まるで一連の事がスローモーションのようにはっきりと見えた。 そう、谷口が撃たれたのだ。 谷口を撃ったバカ野郎はすぐに国木田が始末した。俺はそんなことにかまわず谷口を引きずり、 古泉の部隊の場所に連れ込む。とにかく、古泉との再会は後回しだ! 「おい谷口! 大丈夫か! しっかりしろよおい!」 痛みのためか、谷口はうなるだけだった。ちくしょう! やっとここまで戻って来れたってのに! 「キョン、また敵が攻撃をしてきた。ここじゃまずい。ここは僕らが食い止めるから、谷口を涼宮さんのところへ」 俺の隣に飛び込んできた国木田がそううなずく。少し離れたところにいた古泉も任せてくださいと いつものスマイル声で言ってきた。すまねえ! 俺は谷口を背負うと、全力でハルヒの元に向かった。とにかく、トラックに乗せて学校に戻してやりたい。 そうすれば、きっと助かる。助かるに決まっているさ! 「へへっ、思ったより痛くないもんだな……」 背中から谷口の声が俺の耳に届く。 「痛いだろ。もうちょっとの辛抱だ! だからがんばれ!」 「痛くねえよ……ただ、あつくてたまらないけどな」 俺の背中にだらだらと血がしみこんでくるのがはっきりとわかった。もう痛みすら認識できないのか。 こんな中で、今まで俺がごまかし続けてきた言葉が浮かぶ。これはゲームなんだ。勝てばいい。勝てば元通り。 この世界で誰かが死んでも大したことはない―― 「そんなわけねえだろうが!」 俺は言うまいと思っていた言葉を口にしてしまった。ゲームだろうが何だろうが、谷口は今まさに死のうとしている。 これが現実だ。いまはっきりと起こっていることなんだよ! 何をどういっても否定のしようがないんだよ! 「キョン、俺がんばったよな。何度もお前を助けたし……」 「ああっ! おまえはすげえよ。何度もみんなを助けたんだ。誇りに思っていい!」 「これであの子も俺を見直すだろうな。振ったことを後悔させてやるぜ……」 「そうだな! だから、もう少しだ!」 もう俺は泣き出しそうだった。むしろ、どうして泣き出さないのか不思議なくらいだった。 「頼むぜキョン、ここでの俺は勇敢だったってみんなに伝えてくれよ……」 「自分で広めればいいだろ! そんな弱気なのこと言うな! 死ぬな死ぬな死ぬな!」 俺の必死の呼びかけにも関わらず、谷口がそれ以降言葉を発することはなかった。 ◇◇◇◇ 「キョン、谷口の遺体は学校に向けて搬送したわ……」 「……そうか。ありがとな、ハルヒ」 俺は声をかけてくれたハルヒに振り返りもせず、呆然と植物園の入り口付近に座り込んでいた。 谷口は結局死んでしまった。同時に俺の肩に14人分の死の乗りかかってきてしまった。 もはや、罪悪感を越えて、どうでもいいほどの放心状態だ。 しかし、一方で今後ろにいる人間に対する黒い感情が少しずつ広がっていることにも気がつく。 作戦を立てたのもハルヒだし、何よりもこれを仕組んだ者の目的は明らかにハルヒだ。 谷口や学校の生徒たちが死ぬ必要なんてない。大体、古泉が罠だって指摘していたじゃないか。 罠だとわかったからと言ってそんな簡単に引き返せるわけもないんだ。 「谷口は友達だったんだ。悪友だったけどな。普段はいてもいなくても、なんて考えたりしていたけど、 いざこうなると初めてどういった存在だったのか、よくわかったよ」 「ゴメン……なんて言っていいのかわからない」 ハルヒのしょぼくれた声に、一瞬で俺は正気を取り戻した。何を考えているんだ、バカバカしい。 仕組んだ者の目的がハルヒであっても、これはハルヒが望んだわけじゃない。ハルヒだって被害者だ。 それに作戦を立てて賛同した中には俺もいたじゃないか。ハルヒ一人を責めるのは明らかに間違っている。 俺だって同罪だ。 「なあ、ハルヒ」 「……なに?」 「俺、絶対に負けないからな」 やるしかない。やけにもならずに冷静にやるしかない。それでいい。 「うん……絶対に負けない、あたしも」 ハルヒの声もすっかり元気がなくなっていた。ちくしょう、これを仕組んだ奴はハルヒのこんな姿が見たいってのか? 「そんな声を出すなよ、中佐殿。不安になるだろうが」 「わ、わかっているわよ……! 当たり前じゃない! 絶対に負けない!」 少しムキになるところを見てほっと一安心。まだハルヒらしさが残っているようだ。 俺はようやくハルヒの方に振り返って――このときに見たハルヒの歯を食いしばるような表情は早々忘れないだろう。 と、ハルヒの迷彩服の肩の辺りの色が変わっていることに気がつく。大量の血が付着しているようだった。 「それ、大丈夫か? どこかやられたんじゃないだろうな?」 「え、ああ、うん、大丈夫。自分の血じゃないから。さっき負傷者を背負ったときについたんだと思う」 ほっと胸をなで下ろす俺。たのむぜ、団長殿。お前がやられたら終わりなんだからな。 俺はヘルメットをかぶり直し、 「また、戻る。鶴屋さんを助けに行かないとな」 そう言って俺は戦場に戻った。とびきりの作り笑顔をハルヒに見せてから。 ~~その3へ~~
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翌、土曜日。 ハルヒの一存で決定された市内パトロールに意気込んで、というわけではなく、早く会っておきたいやつがいるために俺は早く家を出た。今日ばかりは妹の必殺布団はぎもなしである。一人で起きた朝ってのは爽快感に満ちあふれているもんなんだろうが、俺の心は昨日のホームルーム前から陰鬱にまみれている。 ママチャリをこぎこぎ、駅前の有料駐輪場に自転車を止めてから俺が集合場所に到着するまでには十分とかからなかった。時計は八時三十分を指している。 あたりを見回してみたが団員は誰も見あたらなかった。この時間帯に来れば俺が奢るはめにもならなさそうだが、ハルヒのことだ、屁理屈をねじ曲げて理屈にした上で俺のサイフから金を徴収するに違いない。それに、どうせ今日は俺の奢りが確定しているのだ。木曜日に宣告された。五人分、いや四人分だっけ。 「やあ、おはようございます」 俺がサイフの中身を確認していると声をかけられた。 ハッとして振り向いた。 見飽きたような微笑がある。昨日閉鎖空間で青カビ野郎とバトルしていたとは思えないほどの颯爽さをまとうそいつは、見間違いようもなく古泉一樹だった。 俺は何を言ってやろうかとしばし思い悩んでから、 「姿を見れて安心した。とりあえず、そう言っとく」 「そうですか。そう言ってくれると嬉しいですよ。僕がいることであなたが安息を感じるのだったら、僕も努力のしがいがあるというものです」 何やら思惑のありそうな笑みをたたえている。誤解しているようだったら俺は即座に今の発言を取り消すぜ。 「いいじゃないですか。人間誰しも、他人に必要とされるのは嬉しいものなんですよ。僕が思うに、本質的に孤独が好きな人間というのはこの世にはいないと思いますね」 「そういう話は佐々木とやってくれ。そんなことを言われても、俺には何とも答えようがないぜ」 古泉は苦笑して申し訳ありませんと謝罪すると、ではと言ってあさっての方向を指さした。指先からレーザーでも出ているのか? 「違いますよ。僕は平常の状態ではそんな力は持っていませんからね。僕が指さしているのは喫茶店です。長門さんが消えたことについて、僕が知っているだけをお話しようかと思いまして。立ち話も何ですからね」 * 提案通りに喫茶店に入って腰を落ち着けたところで、ハルヒは朝比奈さんと一緒に来る、と古泉は言った。 「涼宮さんがいつもの調子だと、あと十分と経たずに到着してしまいますから。申し訳ないですが朝比奈さんに足止めをお願いしました。時間稼ぎしてください、とね」 ムチャな話だ。朝比奈さんにハルヒの足止めを頼んだところで三秒ほど遅らせられるかも微妙なところだが、そこの無用なツッコミは控えておく。 「本題に入ってくれ。なぜ長門がいないんだ。冬の時みたいに世界改変があったのか?」 「いいえ」 古泉は俺の説をあっさり否定した。 「と、僕は思っているんですがね。せっかくですから段階を踏んで考えてみましょうか。たとえば、今の状況とあの時の状況を比較してみればそういう答えにたどり着けます。思い出して下さい、冬に長門さんの世界改変があったとき、その世界は元の世界と何が違いましたか?」 古泉の問いに、俺は記憶を探った。つい半年前のことがかなり昔のことに感じられる。 「そんなもんは簡単だ。まず、俺の後ろの席にハルヒじゃなくてカナダに行ったはずの朝倉がいた。そしてハルヒはお前と一緒に光陽園学院にいて、長門や朝比奈さんは何も知らない眼鏡っ娘と上級生だった。SOS団がなくて、SOS団の部室はただの文芸部室で……」 「いえ、そんなところはいいんですよ。僕が言いたいのは、あの世界の涼宮さんや長門さん、朝比奈さん、僕に不思議な力があったかどうかというところなんです」 断言してやる。なかった。 「そうでしょう?」 古泉はウーロン茶の入ったコップをカチャカチャと音を立てて振りながら、 「では今の状態と比較してみましょうか。現在、少なくとも僕や朝比奈さんには超能力者や未来人といったプロフィールが失われていません。冬に世界改変が起こったときにSOS団の団員からそういう力がなくなったことを思えば、僕たちの力がまったく何も変わっていない状態は世界改変だとは考えにくいですよ」 そんな強引な。 疑わしそうな顔をする俺に、古泉は続けた。 「もう少し推理ゲームを続けてみましょう。今度は別の観点からです。あなたは昨日ずいぶんと学校を探索なさったようですが、その時違っていたものは何でしたか? 長門さんがいたときと、いないときで違っていたものです」 「長門の机と椅子、長門の本、長門の七夕の短冊とか、そんなところだな。全部なかった」 「他には?」 「特にない。ああ、マンションの長門の部屋が空き部屋になってたか」 俺の返答を聞いて、古泉はわざとらしく笑った。 「ものすごく単純明快ですね。もうお解りになっていると思いますが、変わっているのは長門さんに関するものだけなんですよ。いえ、正確に言うのならば、地球上に存在するTFEI端末に関するものだけ、ですね。考えてみて下さい、長門さんや喜緑さんのもの以外のものは何一つとして変わってなかったのではありませんか?」 その通りである。長門に関わる記憶と長門の所有物をのぞいて、木曜日と金曜日で変わっているものは何もない。偶然にしてはできすぎだというのは俺も思っていた。 今言ったことをふまえれば、と古泉がまとめをするように述べた。 「つまり、これは世界改変で世界ごと変わってしまったのではなく、むしろ正しい世界からTFEI端末だけがきれいさっぱり消え失せてしまったというほうが考えやすいですね。それ以外のものは以前と変わっていないのは不自然ですから。ようするに、TFEI端末なんてのはこの世界に最初から存在しなかったんですよ。だから誰も長門さんのことを知らない。そういう理屈です」 俺は大きく息を吸った。そして吐いた。 世界改変ではなく、長門たちだけがこの世界から消失したのだ。長門が最初から世界にいないのだから、それに関する記憶もそれに関する物も一切ない、と。 そんなバカなと思う一方で、俺は納得していた。 古泉の言うとおりである。変わっているのは長門に関するものだけで、他におかしなところはない。まるで長門有希という存在や喜緑江美里という存在が最初からなかったかのように扱われているのが現在の状況だ。それは世界改変が起こって長門たちがいなくなったのではなく、もっと単純に、長門や他のインターフェースが何かの事情で元の世界から消えてしまったということなのではないか。筋が通った理屈ではあるが、これでは何の解決にもなっていないぜ。 何らかの事情ってのは、何なんだ。誰かが意図して長門たちを消し去ったのか。だとしたら、それは誰なんだ。いや、誰かという部分でなら大方見当はついているのだが。 「ほう、もう見当がついているんですか? 奇遇ですね、実は僕もだいたいこれではないかという予測なら立っているんですよ。そしてもっと奇遇なことに、おそらく僕が思っている人物とあなたが思っている人物は同じです。当てて見せましょう、それは周防九曜です。違いますか?」 違わん。しかし、かといって俺は驚かなかった。奴の他に心当たりなどない。 「そうですね。長門さんのようなインターフェースたちを一気に片づけることのできる存在など、他にはありえません。それに彼女たちは前々から敵対していたため、いつ侵攻が再開されてもおかしくはありませんしね。ところが、ここで疑問が浮上してきますよ。そうですね、三つですか」 古泉は顔の前で手を組んで、おもむろに言った。 「一つ目は、なぜ長門さんたちがそのような圧力に簡単にやられてしまったかということです。長門さんたちのことですから、完全敗北などというのはまずありえません。それなのに情報統合思念体製のインターフェースはほとんど何の痕跡もなく一夜にして姿を消している。それはなぜかということです。 そして二つ目の疑問ですね。それは、存在を消去するなどということが本当に周防九曜にできるかどうかということです。長門さんたちのような強大な存在を元からいなかったことにするわけですから、これは相当の情報改変能力を持っていないと不可能ですね。 さらに三つ目ですが、これはちょっと種類の違う問題です。それは、なぜ僕たちだけが普通の人間とは違う記憶を持っているのかということです。普通の人間は消えてしまったインターフェースについての記憶を持っていないらしいですが、なぜか僕たちは持っている。長門さんが世界に存在していたことを知っている。どうしてでしょうね」 「いや、一つ目の謎なら解ったぜ」 俺は思わずにやけた。そうか、そういうことだったのか。 なぜ長門たちが九曜相手にそんな簡単にやられちまったのか。聞いた瞬間ピンときたね。 まず古泉の考え方が間違っているのだ。九曜は長門を相手に真っ向勝負などしていない。真っ向勝負なら長門だって互角か、勢力的にはそれ以上だ。それでも長門や他のインターフェースは抵抗できずに消されちまった。なぜか。 部室で聞いた長門の言葉が蘇る。 ――天蓋領域が、彼らのインターフェースを地球上から退去させた。 ――天蓋領域の持つ力は情報統合思念体とほぼ互角だと判明している。退去の理由をはっきりさせないまま放っておくわけにはいかない。今、情報統合思念体が総力を挙げて天蓋領域の位置特定をしているところ。 そういうことだったのだ。やはり俺の勘は正しかった。長門は簡単にやられちまったんじゃない。敵がどこにいるか解らなくて防御できなかったのだ。九曜が行方をくらましたのもそのためだろう。自分の攻撃を見切られないために、長門たちの死角に回ったのだ。そして不意打ちのごとく奇襲を仕掛け、見事インターフェースたちの存在を消すことに成功した。 そんなところだな。 俺が話してやると、古泉は感嘆したように唸った。 「なるほど。不意打ちですか。確かに充分ありえます。まったく、考える役まで取られたら僕はどうしたらいいんでしょうかね」 「取る気はねえよ。それに俺にも二つ目と三つ目は解らん」 なんで俺らだけが正しい記憶を持っているのかとか、存在を消去するなんて芸当が九曜にできるのか。まず二つ目、存在を消去するということが九曜にできるかだな。 しかし、さすがに手がかりなしで解る問題ではない。できないんじゃねえか? 勘だけどさ。 「同感です」 意外にも古泉が乗ってきた。若干真面目っぽい口調で、 「たとえ話をしますが、朝倉涼子が長門さんと戦って敗れたときがあったでしょう。事実上はカナダに転校したことになっていますね」 その話はあまり思い出したくないのだが。朝倉と聞いただけで鳥肌が立つ。 「申し訳ありません。少しですから辛抱して下さい。ここで浮上する問題は、なぜ朝倉涼子はカナダに転校したなどと、事実をねじまげてややこしいことにしているのかです。もし長門さんが個体の存在を消す能力を持っているのだとしたら、朝倉涼子という存在を消して、そういう人間は最初からいなかったことにすればいいのです。そのほうが安全で、より確実ですしね。周りの人間の記憶にも、最初からいなかったわけですから、朝倉涼子に関することは何も残らないわけです。ちょうど今回の長門さんのようにね。しかしあの時の長門さんがそれをしなかったということは、つまり存在自体を消してしまうのは不可能だったんですよ。だから仕方なく、カナダに転校したということにしてすませたんです。無論、長門さんにできないことが周防九曜にもできないという保証はありませんが、彼女が長門さんと同程度の力を持っていることを考えればできない可能性のほうが高いですよ。どうです、解りましたか?」 …………。 ああ、まあ解ったと言えばそうなのだが、否定するだけ徹底的に否定されてもな。九曜には長門たちの存在を消せないだろうというのは理解したが、じゃあ現に長門が消えてるこの状況は何なんだよ。実は長門はどっかに隠れてるとか、そういうオチか? 「いえ、それはありません。我々の組織が世界中をくまなく調査しました。ですから長門有希という存在が消えていることは事実です。長門さんの消失に直接的または間接的に周防九曜が関わっているということも事実でしょう。しかしそれ以上は解りかねますね。それ以上を推理しようとすると、それはただの予測になってしまいます。何かヒントのようなものでもあればいいのですが……」 古泉がウーロン茶のグラスをかたむけながら俺に流し目を送ってくる。何だよその目は。 「あなたが何かヒントのようなものでも握っているのではないかと思いまして」 何だこいつ、さては知ってるんじゃないのか? 俺はせめて聞こえよがしにため息を吐いてポケットに手をつっこんだ。どうせこいつに見せるために持ってきたのだ。あるだろうと言われてあえて隠すほど俺は幼稚じゃないからな。 「ほらよ」 俺は古泉に例のコピーを手渡した。喜緑さんが書いたと思しき文書である。 古泉はにやりと笑ってコピーに目を通し、俺に出所と作者を言わせた。そのまま教えてやると、古泉は興味深そうな顔をしてあごに手を当てていたが、 「少々お借りするわけにはいきませんかね」 と言い出した。いいぜ。しかしそのパスワードは部室のパソコンのものじゃないみたいだ。起動させたところでロックがかかってるパソコンは一つもなかった。 「了解しました。鋭意努力させていただきますよ。場合によっては、二つ目の謎――周防九曜に存在抹消能力があるか――も解けるかもしれません。僕にはあなたのように涼宮さんをどうにかできる力はありませんから、僕は僕のできることをするまでです」 古泉は宝物を扱うような手つきでコピーをポケットにしまい、 「では、三つ目の謎に移りましょうか」 ふむ。 古泉が提示した三つの謎のうち最後の謎。 なぜ俺や朝比奈さんや古泉だけが、谷口や国木田とは違う記憶を持っているのか。つまり、なぜ俺たちだけが長門有希という人物が存在したことを知っているのか。 そういえば十二月に長門の世界改変があったときも俺だけが正しい記憶を持っていた。しかしあれは違う世界に俺が一人放置されたからであり、今回はどうも世界が違うわけではないらしい。元の正しい世界で条件は一般人と同じはずなのに、なぜか俺たちだけがいないはずの長門の記憶を持っている。 「いくつかの仮説が立てられますね」 古泉は言い、 「一つ目は僕たちが長門さんの近くにいたからという仮説です。長門有希という存在が消されるにともなって他の人間の記憶から長門有希という存在は抹消されたわけですが、長門さんに関する記憶をたくさん持っていた僕たちは、記憶が完全に抹消されずに痕跡が残っているという仮説です」 「それはダメだな。俺と同じくらい長門の記憶を持ってるハルヒは長門のことを完全に忘れちまってるみたいだ。昨日いろいろ話してみたが、ちっとも思い出さなかった。それに後半部分も否定させてもらうが、俺の長門に関する記憶はこれっぽっちも破損してない。痕跡なんかじゃなくてしっかり残ってるんだ」 だから世界のほうが変わっちまったんじゃないかと勘違いしたのだ。木曜日から金曜日になった時点で、俺の記憶は昨日とこれっぽっちも変わっていない。 「ううむ、では二つ目です。次の仮説は、この状態を創り出した人物が何らかの理由で僕たちの記憶だけを操作したのではないかということです。つまり長門さんを消した後に僕たちに長門さんの記憶を埋め込んだという仮説ですね。これは少し現実味があって、たとえばこういう状況下で僕たちはどういった行動を取るかなどというデータを採取するためとかいう理由も考えられます」 確かにそれはありえるかもしれん。どうせあの地球外生命体のことだから、俺たちのことは実験用モルモット程度にしか考えてないに違いない。いつか窮鼠になったとき噛んでやりたいものだが。 「あるいは」 と、古泉は重々しい表情で最後の仮説を口にした。 「これから僕たちの身に何かが起こるという可能性です。最初は僕や朝比奈さんのような能力者たちも統合思念体のインターフェースと一緒に消すつもりだったのが、何らかの事情で失敗してしまった。結果、僕たちは長門さんの記憶を持ったままこの世界にとどまることになった。しかし推理小説で真相を知ってしまった人物が殺されるように、僕たちもまた消されるのを待つ身なのかもしれません」 俺が何か言い返してやろうと模索しているとき、 「こらあーっ!」 耳が痛い黄色い叫び声が大音響でした。 同時刻に居合わせた店の客が何事かとそちらを振り返る。 ああ……。古泉が渋い顔になるのが解ったね。 客の視線を受け止めながらも傲然とこちらに向かって歩いてくるその女、周りの人間はその叫び声が自分に向けられたものでないと解ってさぞかし安堵したことだろう。ただしその中に必ず一人はどんよりしなければならない人間がいるわけで、それが俺と古泉であるのは言うまでもない。 Tシャツとデニム姿で憤然とした顔をしてこっちに歩いてくる女の横には、ワンピースにカーディガンを羽織って顔を赤らめる朝比奈さんの姿を見て取ることができる。俺を見つけると、ゴメンナサイと手を合わせた。 その朝比奈さんを従えるようにして、見物客の興味深そうな視線と下心ある視線を受け止めるそいつは、我がSOS団の団長に他ならないのだった。 * 「何でここにいたのよ」 周りの視線が痛くて非常に居心地が悪いためできれば場所を変えたいのだが、ハルヒがそんなことを聞き入れてくれるわけがなく、俺はただただ平身低頭するのみだった。 どうやら俺の予想通り、朝比奈さんのハルヒ引き留め作戦はまったく長持ちしなかったらしい。それでも時計を見ればもう九時五分なのだから、朝比奈さんにしては無理な敵相手に充分健闘したほうだろうね。 「いや、九時よりも三十分も前に来ちまったんでな。この暑い中で立ってるのも嫌だったから、一緒にいた古泉と涼ませてもらうことにしたんだ。悪かった」 当然ハルヒがそれだけで収まるわけもなく、目を三角形に吊り上げて、 「あたしたちはこの暑い中を五分も待たされてたのよ! ねえ、みくるちゃん?」 「え、ええと……あの、その……」 朝比奈さんはどうしていいか解らないらしい。いやいや俺なら構いませんよ。 「申し訳ありませんでした。副団長として失格ですね」 一方で、白々しいにも程がある言葉を平気で吐いているのは古泉であり、それにハルヒが納得顔でうんうんうなずいているのもなんかむかつく。 「古泉くんはいいのよ。働き者だし、SOS団の発展に大いに貢献してくれてるもんね。一回くらいのミスなら充分許せる範囲よ。けどキョン、あんたは一番古参のくせにいまだに平団員なの。恥ずかしくないの? もっと気を引き締めなさい」 誰に恥ずべきものか。むしろこの珍妙な団体に所属していること自体を恥じるべきなのではないかと思いながら、 「だからすまなかった。謝る。悪かった」 「口だけの謝罪なら受け取らないわ。そんな行動を伴わない謝り方じゃ全然ダメよ」 では他にどうしようがあるかと思い悩む俺にハルヒが言った。 「代償は今日のお昼ですませてあげるわ。今日のお昼、キョンの奢りだから!」 * 私服にエプロン姿の店員がアイスミルクティーを運んできてハルヒの前に置いた。他の二人は俺のサイフを気遣ってか何も注文していないのに。ハルヒ、空気を読め。 「じゃあクジ引きね。いつもみたいに二人と二人のペアで」 ハルヒはストローに口をつけると遠慮知らずに半分ほど一気飲みし、テーブルの容器から楊枝を四本取り出した。ささっと印をつけると俺たちの手元に楊枝をやり、古泉、朝比奈さん、俺の順番で楊枝を引く。最後に残った楊枝はハルヒが持った。楊枝は四本。これだけ。 瞬間、俺は目眩を感じた。 ああくそ、何だこの違和感は。 いや理由なら解っているのだ。 俺の対面にいるはずの誰かがいない。印入りの楊枝を珍しいものでも見るような目でじっと見つめている読書少女が。希薄のようで強い存在感を誇る長門が。まるで、ぽっかりと空いた底なし穴のようだ。決定的に違うのに誰も指摘せず、自分も指摘してはいけないというこのもどかしさ。長門の分を忘れるんじゃねえと叫んでやりたいのに。 「ふうーん。この組み合わせね」 ハルヒの一声で我に返った。 自分の手元にある楊枝を見ると、赤印入りだった。朝比奈さんを見ると無印の楊枝を握っていて、古泉を見ても営業スマイルを崩さないまま無印の楊枝を握っている。四人だから、ということは。 「あんたはあたしとねえ」 ハルヒが楊枝と俺を見比べて不気味に笑っている。 うむ、俺はとことん運に見放されたようだ。いや別に俺がハルヒと一緒だからとかいう意味ではなく、古泉と朝比奈さんが一緒だからという意味でだ。一応釈明しておくが。 「都合がいいじゃないですか」 隣に座っていた古泉が耳打ちしてきた。顔が近い。 「大丈夫ですよ。あのメッセージについては僕と朝比奈さんでよく検討してみます。あなたはどうぞ、涼宮さんとゆっくりなさっててください」 「よく言うぜ。俺がハルヒといてゆっくりできた経験なんて数えるほどしかねえよ」 「数えるだけあれば充分ですよ。僕からすれば、そんな涼宮さんはえらく貴重ですからね。あなたにとってどうなのかは知りませんが」 俺にとっても何も、ハルヒはいつもああなんだろ。傍若無人とか猪突猛進とか、そういう感じの四字熟語で簡単に表現できる。 「さあ。あなたなら彼女の本質を見抜けているものだとばかり思っていたのですがね」 古泉は音もなく笑い、俺はハルヒに目をやった。朝比奈さんに意味もなく抱きついてひいひい言わせている。何が本質だ。 「じゃ、みんなそういうことでいいわね。みくるちゃんも、いい?」 「え? あ、はい」 朝比奈さんはハルヒに無理やりうなずかされ、古泉はイエスマンで、俺にはもともと反対票を投じる権利がなく、よって俺は午前中の間ハルヒと街をぶらぶらする権利もとい義務を負ったのだった。ハルヒは残っていたアイスティーをきれいに飲み干して、 「そうとなったら出発ね! さあみんな、じゃんじゃん不思議を見つけてきなさい!」 俺はそんなハルヒの声をバックに聞きながら、誰も手に取る気配がない伝票へひっそりと手を伸ばした。 * 俺が会計を終えて喫茶店を出たところで朝比奈古泉ペアと別れた。 「まずは服ね」 よくよく考えてみれば、ハルヒと不思議探索を行うのはけっこう稀なことである。ハルヒのチートパワーが無意識のうちに働いているのか、まあ二月頃に八日後から朝比奈さんが来たときには俺のほうから長門に頼み込んでイカサマをやってもらったときもあったわけだが、それにしてもハルヒと二人で市内ぶらぶら歩きを共にしたのは、以外と団員の中で一番少ないかもしれない。 故に俺はハルヒが普段どのような不思議探しっぷりをするのか知らない。当の団長様である。マンホールの中に侵入してUFOの破片を探せとか人気のない神社の裏側で幽霊とツーショットを撮れとか言うのだろうか、とりあえずメジャー運動部並の肉体労働程度は強いられるものだと思っていたが、意外なことにハルヒが俺の手を引いて真っ先に向かったのは駅の近くにある総合デパートだった。 食品、衣料品がメインの大型デパートである。俺が団活動外でもたまに足を運ぶほどの超一般的な場所ということに加えて、この街でもトップ争いに加わるほどメジャーな場所である。いったいここに何があるというのか。 「服よ」 ハルヒは言ってのけ、他の物には目もくれずにエスカレーターで衣料品売場に上がっていった。俺もハルヒの大股に置いて行かれまいとしてエスカレーターに足を乗せる。 到着した先は確かに衣料品売場であった。夏が近いからか、目一杯に広がった店内には水着の類の姿も見受けられる。どうせ俺には縁のないシロモノだな。朝比奈さんか長門あたりに着せてみたい水着ならいくつかあるが。 「おいハルヒ、こんなところに不思議があるのか?」 「あるわよ」 ハルヒは自信満々に答えた。 「最初は裏路地とかマンホールの中とか探してたんだけどね、でもおかしいくらいに何も出てこなかったのよ」 当然である。 「それで閃いたわけ。不思議のほうも、最近はあたしみたいな不思議探索者に見つかるまいとして、あえてマイナーな場所じゃなくてメジャーな場所に来てるんじゃないかってね。だって、見るからに怪しそうなところにいなかったんだもん。消去法的にメジャーなこういうところにいることになるのよ」 「それだったら、不思議は普通の買い物客にも見つけられちまうんじゃないのか?」 「普通の買い物客の目は所詮一般人並よ。あたしみたいな熟練した目を持ってないと不思議なんか見つかりっこないわ」 都合のいいハルヒ的理屈である。マイナーなところにもメジャーなところにもオトモのように従わせてハルヒが身をくっつけている長門や朝比奈さん、古泉が実は不思議の塊だったと気づくのはいつだろうね。 「じゃ、こっからは別行動で。みくるちゃんとかの新しい水着も見ておきたいしね」 と言い残し、ハルヒはさっさとどこかへ消えてしまった。 あいつは何だろう、こんなところで本気で不思議が見つかるものと思っているのだろうか。 いや思ってるはずがないね。目的が服の物色であることは明らかだ。 だったらなぜ不思議探しをするなどと言って休日に俺たちを集めるのか理解できないが、まあそれでいいんだろうよ。そうでなけりゃこんなSOS団とかいうハルヒが探す不思議以上に謎な団体があるわけないし、ありもしない幻想を追い求めるのが涼宮ハルヒという女の定義だからな。いまさら朝比奈さんや古泉の肩書きが一般高校生に戻されても俺を含む全員が困惑するだけだろうし、そう考えると現状維持ってのは大切なものだと思えてくる。何の不可抗力だろうと、長門だろうが朝比奈さんだろうが、たとえ古泉だとしても、団員の誰かが突然いなくなるなんて事態になってもらっちゃ困るんだよ。誰だってそう思うだろ? * 結局さっきの衣料品売場ではボロ雑巾製造器(シャミセンのことだ)に引き裂かれたGジャンの代用品になりそうなものは見つからず、その代わり去年の夏だったか長門が恐ろしく貴重なことに私服だったときのクロスチェックのノースリーブを売っているのを見つけた。だからどうしたという話だが、俺はそこに合わせて長門の小柄な姿がそこにあるような錯覚を受けて、いやもうこれは本当にヤバイのかもしれん。精神疲労が溜まりすぎて視覚情報がぶっ飛んじまってるのだろうか。 ところで、ハルヒは終始まともな女子高生を演じ続けた。話の内容がアレだったことは否めないわけだがデートしてますよと言われればそう見えなくもない状態であり、ついでに俺にはそんな意識などノミほどもなかったことを付け加えておく。 まあ楽しかったさ。 メガネ少年を助けたときに朝比奈さんと食った地下食品売場の団子もハルヒと一緒に食べたりした。不思議探しと名付けられた暇つぶしだ。 「あら、もう時間ね」 他の店を見たりして適当にぶらぶらしているうち二時間はあっという間に過ぎ、ハルヒのその一声で俺たちはデパートの自動ドアをくぐった。 ちょっと意外だった。ハルヒもけっこう常識人並の時間の使い方を知っているものだ、と。 * デパートから出ると俺はハルヒに無意味なダッシュを強要され、それに加えて夏の日差しのが容赦なく照りつけるために駅前に着く頃には全身汗まみれになっていた。そんな状態の俺を出迎えたのはスマイルの古泉と、それに伴われて買い物袋を提げている朝比奈天使である。古泉、てめえ朝比奈さんに寄り添うんじゃねえ。 「何か不思議なものは見つかった?」 訊くハルヒに古泉は苦い顔になって、 「いえ、何も見つかりませんでした。申し訳ありません」 「あっそう」 ハルヒはずいぶんとどうでもよさそうに反応する。 「ま、やってりゃそのうち何かが出てくるわよ。今まで一年やっても出てこなかったんだから持久戦になるかもしれないけど、絶対に諦めちゃダメよ。みくるちゃんも、お茶ばっか買ってるんじゃなくてしっかり不思議を探しなさい」 「え、あ、はい」 いきなり話を振られて動揺する朝比奈さんである。その顔がいつもより若干疲れているように見えるが、それは古泉と一緒だったからという理由ではなく、未来と接続を絶たれたからなんだろうね。俺がどうあがいたところで、朝比奈さんの故郷はあっちらしいからな。 「じゃ、お昼ご飯にしましょ」 ハルヒの一声で、SOS団の面々は駅前からファーストフードへと居場所を移すことになった。俺の財産を慮ってくれたのか知らないが、安上がりの店で助かった。 昼飯を食べている途中、ハルヒは楊枝を取り出してまたチーム分けしようと言い出した。 「また二人二人のペアでいいわよね」 ナポリタンスパゲティをズズズと口に収めると、ハルヒは朝と同じように二本の楊枝に赤印をつけ、俺たちの手元に持ってくる。 「おお」 俺の引いた楊枝には赤印が入っている。そしてどうだろう、向かいに座っている朝比奈さんがぽわっとした感じで見つめているその楊枝にもしっかりと赤印が入っているではないか。当然、残りのハルヒと古泉は無印である。 何ということだ、どこぞの神様が不運の果てに漂着した俺を見かねたのだろうか。 俺が思わずにやけでもしていたのだろうか、ハルヒは朝比奈さんと俺を見比べてペリカンのような口をした。 「ふうん、あんたはみくるちゃんとね。強運なことねえ」 ハルヒは目を細めて俺を見ると、伝票を俺に叩きつけて席を立った。
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俺の日常はきっと赤の他人から見れば、まあ大変ねとか、苦労なさっているんですねとか 言われてしまうようなきわめて非日常的な状態にあるんだろうが、俺にとってはこれが楽しくて仕方がない ごくごく普通の日常であると断言できる。 宇宙人・未来人・超能力者。こんなのが得体の知れない情報爆発女を中心に闊歩している世界に 俺のようなきわめて一般的平凡スペック人間がコバンザメのようにくっついて歩いている光景は、 確かに不釣り合いと言えばその通りである。が、いったんそんな現実を受け入れてしまえば、 細かいことはもうどうでもよくなり、どうやってこの微妙に非日常を満喫するか考える毎日だ。 てなわけで、本日もハルヒ発案による不思議探索パトロール中である。 相変わらず、ハルヒの望むような変なものが見つかるわけでもなく、ほとんどSOS団という謎の集団による 食べ歩き・散策・名所巡り状態になっているが。 「にしてもだ。ハルヒが本当に変なものに遭遇を望んでいるなら、とっくに見つかっていそうだけどな」 俺は朝比奈さんをうらやましくも抱き寄せほおずりしながら歩くハルヒを尻目に言う。 それにすぐ横を歩いていた古泉は苦笑しながら、 「涼宮さんにとってそういった奇怪なものを見つけることよりも、我々と一緒に遊ぶことの方が楽しいのでしょう。 そうでなければあなたの言うとおり、今頃町中がエイリアンやUMAで溢れかえっていますよ」 確かのその通りだろうな。実際に俺もそんな物騒な連中が現れずに、こうやって遊び歩いている方が遙かに楽しい。 ハルヒ自身も未知との遭遇がなくても、現状の不思議探索パトロールで満足しきっているんだろうな。 と、古泉は珍しく胡散臭さのない屈託のない笑顔で、 「このままこの日常が続けば良いですね。僕のアルバイトもいっそのこと無くなってしまった方がいいですし」 そんなことをしみじみとつぶやく。 お前達の言うようにハルヒが世界を平然と作り替えられる能力を持った神的存在って言うなら、 この平穏な日常は永遠に続くだろうよ。ハルヒがそう望み続ける間はな…… ……この時まで俺はそう確信していた。 ◇◇◇◇ 「ちょっと公園で一休みしましょう」 そうハルヒの一声で俺たちは公園のベンチに座る。ところでハルヒさん。いくら何でもずっと朝比奈さんに抱きついたままなのは どうかと思うぞ。全くうらやまし――じゃない、少しは朝比奈さんの迷惑を考えろよな。 「いいじゃん。今日は思ったよりも寒かったからカイロが必要なのよ。う~ん、さっすがみくるちゃんは暖かいわね」 「ふえ~」 ハルヒの傍若無人の振る舞いに朝比奈さんは困り切った顔を浮かべているんだが、 ついついそんな彼女にもこうエンジェル的優美かつ華麗さを感じ取って見とれてしまう俺も相当罪深い。 アーメン。俺の男としての性を許してくれたまへ。 一方の長門は相変わらずの無表情ぶりでベンチの上にちょこんと座っている。すっかり謎の超生命体印の宇宙人というよりも 文芸部部長兼SOS団最大の功労者という肩書きが似合うようになった。そんな彼女も今日もいつも通り無表情・無口で 無害なオーラを延々と見せているところから別に変なことが背後やら水面下とかでうごめいてはいなさそうだな。 ふと、ここでハルヒと目が合ってしまった。なんてこった。俺としたことが飛んだミスを。 「ちょっとキョン。のどが乾いたからみんなにジュースを買ってきなさい。あ、当然あんたのおごりでね」 「何で俺が」 横暴極まりない俺への指令に、俺は抗議の声を上げるが、ハルヒは朝比奈さんを抱きしめたまま、 「今日も遅刻したじゃん。罰金よ罰金! ほらほらぶつくさ言わないでとっとと買ってきなさい! あ、あたしは暖かい紅茶でね♪」 満面の笑み100%を浮かべているところを見ると、全く今日もいつもの傍若無人ぶり全開だな。 いつもどおりってのも安心できると言えばそうなんだが。 俺は長門と古泉、それに朝比奈さんの要望を聞くと、近くの自販機を探し始めた。 ちなみに俺の癒しの朝比奈さんは、ごめんなさいとぺこぺこしていたが、そんなに謝る必要なんてありませんよ。 あなたがアルプスの天然水が飲みたいというなら、今すぐ新幹線に飛び乗っていくことなんておやすいご用ですぜ。 しばらくきょろきょろと見回していた俺だったが、やがて公園に乗ってはしる道路の向こう側に 自販機が並んでいるのが目に入った。俺は横断歩道の信号が青になったことを確認し、小銭を数えながらそこを渡り始める。 ――キョンっ!? 後頭部に突然ハルヒの声がぶつけられる。そのあまりに突飛な声に何事だと俺は右回り180度ターンで振り返っている途中で 気がついた。俺の鼻先30センチのところにばかでかい巨大トラックがいることに。 当然ながら空中に突如出現したわけでもなく、猛スピードで信号を無視して俺に突っ込んできている。 鈍い衝撃が俺の鼻に直撃した以降、俺は何も感じなくなった―― ◇◇◇◇ ――キョンっ――キョンっ――お願い――目を開けて―― ハルヒの声だ。何だやかましい。言われなくてもすぐに起きてやるよ…… 俺はすぐにまぶたを開こうとして気がついた。どれだけ強く力を込めて目を見開こうとしても まるでそれを拒否するかのように、強くまぶたが閉じられている。目の上の筋肉辺りは動いているようだったが、 肝心のまぶたは力を込めると逆にしまりが強まる。くっそ――どうなってやがる…… ――キョンくん……どうして……こんなことに―― 次に聞こえてきたのは朝比奈さんの声だ。耳に届く美しい言葉に俺は再度目に力を入れるが、やはり開かない。 ずっと続く闇の中、朝比奈さんのすすり声だけが俺の脳内に響く。ここで気がついたが、俺の手足も俺の意志に反して 全く動かなかった。まるで全身に釘を打ち込まれたかのように身体が硬直し、直接的な痛みよりも 動くはずの俺の身体が動かないというもどかしさに、俺は強烈ないらだちを憶えた。 しばらくして朝比奈さんのすすり泣きも聞こえてこなくなった。そのままどれだけの時間が過ぎたころだろうか。 いい加減、自分の身体が動かないことにあきらめつつあったころ、今度は言い争いが聞こえてきた。 はっきりと言葉の末尾が聞こえないが、片方が古泉の声であることはすぐにわかった。聞いたことのない男の声と 激しくやり合っているみたいだ。おい古泉、そんな声を出すなんてお前らしくないぞ。どうした? しばらく意味不明な怒声のキャッチボールが続いていたが、やがてバンという大きな音とともにそれが止まった、 ――何――やってんのよ――病人の前なのよ!? 出て行って! 出て行ってよ!―― ハルヒの声だ。すまん、ハルヒ。助かったよ。これが続いていたら俺の耳がくさっちまいそうだ。 ん? 今ハルヒはとんでもないことを言わなかったか? なんだったっけ……ま、いいか。ちょっと眠くなった。寝よう…… ――やあ、キョン―― ……ん、誰だよ。人が寝ているってのに…… ――久しぶりに顔を合わせたかと思えば、こんなことになってしまうとは、ついていないと言えば良いんだろうかね? ……うっさいな、俺は眠いんだよ。寝かしてくれ…… ――僕は君が起きているつもりで話すよ。いまさらだけどね。少しでもその意味を理解できているなら―― 俺はここで眠りに落ちた…… 一体どのくらい経ったんだろうか。眠っては起きてまた眠っての繰り返しの日々。いい加減飽きてきたんだが、 起きても指一本動かせず、目すら開かないのでどうしようもない現実だ。聞こえてくるのは耳を通してではなく 頭蓋骨を伝わってくるようなぼやけた声だけ。最初はそれを聞き取ろうと努力したんだが、どうやら俺がどうこうしても 無駄なようだ。はっきり聞こえてくるときとそうでないときの違いは、俺の意志や努力とは関係なかった。 そして、久しぶりにはっきりと聞こえた声。 ――ゴメン、キョン。全部あたしの責任よ。あたしがあの時あんたを使いっ走りにしなければよかった。 ――あたしが悪いの――――――――――――ごめんなさいっ――――本当にごめんなさい――だから目を開けて――お願い―― そんな悲しそうな声を出すなよ、ハルヒ。お前のせいじゃないに決まっているだろ? 自分をあんまり責めるなよ。 らしくなさすぎるほうが帰って俺を不安にさせるんだからさ。大体、あんなことはいつもどこかで起きているんだから―― あれ? なんだっけ? 俺、なんかとんでもない目にでも遭ったのか? なんだっけ…… それから果てしない時間が過ぎたような気がする。 もうはっきりした声も聞こえなくなり、雑音のような声らしきものが俺の脳内に拡散していく毎日。 飽きたなんて言う感覚すら通り越して、意識が麻痺しているんじゃないかと思いたくなるほどの無感状態になっていた。 寝て起きて寝て起きて寝て起きて寝て起きて――もう考えることすらうっとおしくなってきている。 ――あきらめないで。 長門の声だ。すごく久しぶりに聞いた。ちょっとうれしくなる。すまないがちょっと俺の目を開ける手伝いをしてくれないか? ――今、わたしは何もできない。 そりゃまた白状だな。SOS団の仲間だろ? ――あなたと意識レベルでの言語的会話をすることが、わたしにできる唯一できること。 なら、せっかくだ。話でも聞かせてくれ。そうだな。おとぎ話でもいいぞ。いい加減、退屈で感覚が麻痺しているんだ。 ――残念ながらわたしにはあなたの身体構造の再起動を促せるような言語刺激を持ち合わせていない。 そうか。それなら仕方がないな。そろそろ眠たくなってきたから、寝るよ。 そうだ、また退屈になったら話してくれないか? ――もうこのインタフェースであなたと会うことは二度と無いかもしれない。でも聞いて。 なんだ? ――このままでは涼宮ハルヒはこの惑星にすむ知的生命体全てからの憎しみをぶつけられる。 ――そして、世界は消滅する。 は? なんだそりゃ。そんなことがあってたまるか。 ハルヒはな、確かに行動が突飛だったりわがままだったりするが、何だかんだで常識的な奴なんだよ。 人を本気で傷つけたりとかなんてしないしな。見た目で判断するんじゃねえよ。 誰も彼もが誤解しているってなら俺が教えてやる。ハルヒって奴が本当はどんな奴って事をな…… そう思った瞬間、今までの目の拘束状態が嘘だったかのように消える。 そして、俺はゆっくりと目を開いた…… ~~その1へ~~