約 1,701,796 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5816.html
…… 「…ここはどこだ?」 気がつくと、俺は真っ暗な空間へと浮かんでいた。 目の前には地球が広がっている…隣には月らしきものも見える。 「ここは…宇宙?」 あまりに広大すぎる暗黒の大空間に、 青く澄みきった水の惑星を目の当たりに 俺はただ呆然と立ち尽くすだけだった。 ! 「地球が燃えている…」 青かった地球がいつのまにか赤く変色していた。 「一体何がどうなってんだよこりゃ…」 自分の置かれている状態もそうだが、全く状況がつかめない。 !? 「今度は透明に…?」 次の瞬間には地球は水色に近い透き通った色へと化していた。まるで氷で覆われたかのごとく…。 …… 「…また青に戻ったか。」 再び地球は青色へと戻った。しかし、どうやら何か様子がおかしい。 「陸地が…ない…?」 地球全体が真っ青な球体へと化していた。緑や茶色といった陸地が ことごとく消滅してしまっているのが見てとれる。陸が海に呑まれてしまったとでもいうのだろうか。 …… 今度はどこからか泣き声が聞こえてくる… 「この声どこかで…」 どこか聞いた覚えのある声。 「まさか…ハルヒか!?」 そう叫ぶと、いつのまにか声は聞こえなくなっていた。 「…え?」 ふと地球のほうに目をやって俺は驚愕した。なんと、先程まで見えていた地球が消滅してしまっている… いや、消滅というのは言い方が悪い。正しくは【見えなくなっている】と言うべきだろう。物を見るためには 言うまでもなく光が必要であるが、その光が四方を見渡しても見当たらないのだ… 光源体である太陽は一体…どこへ行ってしまったというんだ?? 再び声が聞こえる。 「…や…い…あた…したく…な…」 その声は、しだいに大きなものへとなっていく。 「いや…い…あた…こ…な…くない…」 …… 「嫌…っ!嫌!!あたしは…こんなことしたくない…!!!!」 !? ッ!! …… …デジャヴ いつもと同じ見慣れた俺の部屋。窓から朝日が射していることから、 おそらく今は朝なのであろう。昨日のように時計を確認するまでもない。 いや… 一応確認しておくか。 時刻は7 38 ほら見ろ、やはり朝じゃないか!と得意げに語っている場合でもない。一歩間違えりゃ遅刻じゃねーか畜生。 急いでかばんに教科書やノートをつめる俺。にしても自らの不覚さを嘆かずにはいられない。 なぜ俺は【目覚ましセット】という当たり前にして当然のごとく行為を、昨夜忘れてしまったというのか? それほどまでに、俺は昨日疲れてたってのか? 準備を終えた俺は廊下で妹と軽く挨拶を済ませた後、 食卓に並んだトーストを口に頬張り、潔く玄関を飛び出した。 …… 「はあ…はあ…まったく、いい運動だぜ…。」 今俺がいる位置は、学校に隣接するあの忌々しい長い長い坂のちょうど真下である。つまり、 俺はここまで全速力で走ってきた…というわけだ。携帯で時刻を確認、とりあえず遅刻は免れたようである…。 時間的余裕もあるので歩くとする。この坂を走らねばならないとなった日には自殺ものであろう。 それが防げたというだけでも、俺は今日も力強く生きられるというものである。 …ようやく落ち着いたところで、俺は昨晩の事象を振り返ることができた。 「まさか二日続けておかしな夢を見るとは…。」 その一言に尽きる。支離滅裂かつ荒唐無稽な夢など一体誰が進んで見ようなどと思うのか… まあ夢など言ってしまえば、全てそういうもんなのかもしれないが。とにもかくも、 まず話をまとめることから始めるとするか…と思ったのだが、そもそも抽象的すぎて 何をどうすればいいのかもわからん。とりあえず…特徴らしきものだけでも挙げていってみるとしよう。 ・地球の崩壊 ・謎の声 …明確に挙げられるのはこの二つくらいか。なぜ俺があのとき宇宙にいたのかは知らんが… (単に視点が宇宙だったってだけかもしれんが)地球が燃えたり氷ったりするのを、確かにこの目で見た。 ならば崩壊という表現は別に差し支えないだろう。そして極めつけは、夢が覚める直前に聞こえてきたあの声… 「あの声は…ハルヒだったのか?」 もしそうなのだとしたら、一昨日みた夢との関連性が見えてくる。一昨日の夢では地震やその他怪奇現象で 町が壊滅。昨日は地球が…規模こそ全く違うが、同じ【崩壊】というワードでくくることができる。そして… 思い出したくはないが、地震により家族が息を引き取った際、放心状態に陥っていた俺の脳内に響いてきた… ハルヒの声。あのときハルヒは『助けて!』言っていた。昨日の例の声は…確か『こんなことしたくない!』 とかいう内容だったかな。両者に共通することは、俺に向かって何らかのSOSを発信していたということである。 俺は常識人だ。ゆえに町や、ましてや地球荒廃などといった異常にさらに異常をかけたような とんでも事態が発生するなどとは…微塵も思っていない。ただ、あれらがハルヒの無意識の内に 発動した…俺に対する干渉なのだとしたら?一連の超常現象はあくまで比喩であり、夢の本質自体が 実は、ハルヒが俺に救助信号を発信するだけのただの手段でしかなかった可能性が浮上してくる。 つまり、ハルヒは今現在とてつもない悩みを抱えている…その可能性が非常に高いということである。 その悩みが何なのかは俺には見当もつかないが。というのも、最近のハルヒに変わった様子など 特に見受けられないからだ。万一それに俺が気付かなかったとして、長門や古泉がそれを見逃すとは 考えにくい。だから、なおさらである。 …… とまぁ、ここまでカッコよく主張してみたはいいものの… 一連の夢がハルヒの能力とは無関係の、本当の意味でのただの【夢】だったのだとしたら、 ここまで深く熟考している俺など、傍から見れば滑稽以外の何者でもないだろう。 そうである場合、谷口にすら嘲笑される自信がある。それでもだ、俺自身こんなネガティブな展開など 望んじゃいない。ハルヒが何か多大な悩みを抱えて苦しんでる姿なんて、想像したくもないからな。 「あら、キョンおっはよー。予鈴ギリギリね。」 教室に着き、俺はいつもと同じく後部座席にて座っておられる団長様に声をかけられた。 「そうみたいだな。遅刻を免れて助かったぜ。」 どうするか…朝っぱらからいきなりハルヒにこんなこと質問すんのもアレかもしれんが、 一応言っておこう。杞憂であれば、それに越したことはないんだからな。 「なあハルヒ。」 「ん?何?」 「お前さ、今何か悩んでることとかあったりするか?」 「…は?」 「言葉通りの意味だ。」 しばらく沈黙が続いた後、その均衡を破ったのはハルヒだった。 「…ぷっ、あっはっはっは!キョン、朝からどうしたの?何か悪い物でも食べた?あはははっ!」 どうやら、団長様は真面目に答える気などさらさらない様子である。 「んー悩みねーまあ、ないこともないわよっ!!」 おや?一応答えてくれるみたいである。しかし万遍無く浮かべている笑みから察すると、 やはり真面目には答えてくれないらしい。しかも、展開が大体予想できた。 「悩みの種はね…あんたよあんた!テストは赤点スレスレだし今日は遅刻しそうになるわで、 ヒヤヒヤもんもいいとこよ!あんたはもう少しSOS団の団員なんだっていう自覚を持ちなさい! 団長に泥を塗るマネなんて許さないんだからね!」 楽しそうに俺を断罪するハルヒさん。うむ、やはり予想通りだった。相変わらず、俺に言い放題なのであった。 「まあそれは半分冗談としてさ、朝からそんなこと聞くなんて一体どうしたのよ?」 さて…どうしようか。変にはぐらかすと直感が鋭いハルヒのことだ、 ややこしいことになる可能性大。ゆえに、ここは素直に答えておくとしよう。 「いや、お前が俺に助けを求めてる夢を最近見ちまってな。ちょっと気がかりになって聞いてみたってところだぜ。」 「…何それ、気持ち悪い夢ね…。」 同意しておこう。現実的に考えて、お前が俺に助けを求めるなんてことまずありえんからな。 「もしかしてあんた、あたしに従順にさせたいって欲望でもあるんじゃないでしょうね??」 気持ち悪いって、そっちのほうかよ! 「助けを請うってのはつまりその裏返しだし、夢ってのは密かに思ってるようなことが 反映されたりするもんだし…あたしに何か変なことでも考えてたら承知しないわよ!?」 いやいや、そりゃ考えが飛躍しすぎだろう…ってか願望が夢で具現化なんて、一昨日、昨日の 夢見りゃ絶対ありえんことを、俺は知っている。何が楽しくて家族が死ぬことや地球の滅亡を 望まにゃならんのか…まあ、さすがにこういう夢の内容までハルヒに話そうとは思わないけどな。 …そんなこんなで時は昼休み。俺は谷口&国木田と席を囲って弁当を食っていた。 ハルヒは相変わらず学食のようだ。 「ところで国木田、昨日休んでいたようだが体のほうは大丈夫か?」 「ん?ああ、おかげ様で。」 「さてはお前、勉強のしすぎで熱でも起こしたか?」 谷口が横から言葉をはさむ。 「だったらまだよかったんだけどね…単なる風邪だよ、ほら、もうすぐ12月だってこともあって 冷えてきたじゃない?そのせいかな。二人は風邪ひかないよう気をつけてね。」 「おーおー、まあそのへんは大丈夫だぜ。特にキョンはな。バカは風邪ひかないって言うだろ?ははは!」 谷口よ、どの口がそれを言うんだ…確かに俺は成績も下の中くらいでバカかもしれない。 が、お前はお前で俺より成績悪かった記憶があるんだがなぁ…気のせいか? 「それを言うなら谷口もバカだから風邪ひくことないね。いや~二人とも羨ましいよ。」 おお、俺が言わんとしていたことを代わりに国木田が言ってのけてやったぞ。 が、しかし、最後の一言は残念だ国木田…お前も俺のことバカだと思ってたんだな…。 「でもよ~そうそう例年通り寒くなるわけでもないみたいだぜ? 今朝の天気予報見てたら、来週の中頃は夏みたいな気温になるとかなんとか。」 「…谷口が天気予報を見るなんて珍しいな。」 「うるせーよキョン、俺だってそんくらい見るぜ。」 「どうせ朝食ついでに適当にTVのリモコンいらってたら偶然映ったってところなんでしょ?」 「国木田…お前鋭いな…。」 鋭いも何も、普段のお前の性格や言動を考えりゃ当然の帰結だとは思うがな。 しかし、夏みたいな気温か…そういや夢の中でも確かあのとき暑かった記憶が… …… 「キョン、大丈夫?顔真っ青だけど。」 「おいおい、バカは風邪ひかないって言った手前にこれかよ。」 気付かないうちに、俺は随分と陰鬱そうな顔になってたらしい。 「あー、いや、何でもないぜ。ちょっと寒気がしただけだ。」 「まさか風邪にでもかかったのかよ?」 「じゃあもうバカは谷口一人になっちゃったね。」 「国木田てめーッ!!」 お前らのコントを眺めてたら、あの悪夢が少しでも薄れたぜ。感謝するぞ谷口、国木田。 あんな未来…俺は絶対信じねーぞ…。 操行している間に放課後。またいつものごとく部室へと向かう俺。 「お、長門、お前だけか。」 「そう。」 俺が定着席に座ると、何かのCD-ROMをもってこっちにやってくる長門。 「これがSinger Song Writer…軽音楽部から借りてきた作曲用ソフト。 パソコンにインストールすれば即行使える。そして、これが説明書。」 「ん?ああ、これが昨日古泉が言ってたやつか!サンキュー、長門!」 早速パソコンを立ち上げてインストールする俺。 …部室に、団員それぞれにパソコンが宛てがわれていることには深く感謝せねばなるまい。 これもハルヒがコンピ研から強奪だの従属命令などといった暴虐の限りを尽くしたおかげか。 コンピ研の皆さんにはもはや乙としか言いようがない…ありがたく、今日もパソコンを使わせていただきますよ。 インストールが完了したあたりで古泉と朝比奈さんが部屋へと入ってきた。 と、よく見たら二人とも楽器を担いでいるではないか。おそらく昨日言っていたように 軽音楽部から借りたものなのだろう。来るのが遅かったのはこのせいだったんだな。 「って、大丈夫か古泉?」 「いえいえ、これくらいどうってことないですよ。」 キーボード1台のみの朝比奈さんはともかく、 古泉はあろうこともギター2台に加え、ベース1台の計3つも担いでいるではないか。 「わ、私古泉君を手伝おうと思ったんですけど…。」 「朝比奈さんはキーボードだけで十分すぎるくらいですよ。僕は好きでこれらを担いでいるんですから。」 相変わらずのさわやかフェイスで涼しく答える古泉。なるほど、女の子に負担を負わせたくないというヤツらしい ジェントルマン精神だが、俺がお前の立場でも間違いなくそうしていたであろう。何しろ朝比奈さんだからな。 「そうだ、良い機会だ。古泉よ、ベースの弾き方俺に教えてくれないか?」 「お安い御用ですよ。では早速始めてみるとしましょう。」 「じゃあ私もキーボードのいろんな機能を確認しとくとしまーす♪」 「私も…ギターをいらっておく。」 「長門はギター弾けるから別にその必要もないんじゃないか?」 「単純にギターに興味がある…ただそれだけ。」 長門に読書以外に関心のもてるものが現れるとはな…。文化祭にて、突発でいきなりギター引っ提げて ステージ上にハルヒたちが現れたときは何事かと思ったが、今ではそのことがこうやってSOS団みんなで バンドを楽しんだり長門の人間的嗜好の開拓といったことに繋がってる…こればかりはハルヒには 感謝しないといけねーかもな。あのときのハルヒの飛び入り参加は、長い目で見れば英断だったわけだ。 「なるほど、左から右へ1フレットずつ移るにつれて音が半音ずつ上がっていくのか。」 「その通りです。ちなみに手前の太い4弦から順に開放弦の状態だと E、A、D、Gの音が鳴りますよ。ミ、ラ、レ、ソのことですね。」 「開放弦ってのはどういう意味だ?」 「左手で何も弦を押さえずに弾く状態のことですよ。」 「おー、了解したぜ。」 「慣れたらTAB譜を見て弾くのもいかがでしょうか。 そっちのほうが、フレット番号が明記されていて弾くのには楽だと思いますよ。」 「TAB譜って何だ?」 「それはですね…」 ピン! ん?何だ??長門のほうから何やら音が聞こえたぞ。 「どうしたんだ長門?」 「ギターにチョーキングをかけていたら弦が切れた。ただそれだけの話。」 …その弦、まだ新しいやつじゃなかったか?一体どんなチョーキングをかけてたんだ長門?? 「おやおや、しかもこれは一番細い1弦ですね。これでは切れてしまっても仕方ありません。」 「やりすぎた。次からは自重する。」 …仕方ない…のか? まあ、しかし そんな長門が楽しそうに見えるのは 決して気のせいではないはずだ。良い趣味を見つけられてよかったな長門。 「な、長門さ~ん、助けてくださ~い!」 「何かあったの?」 「いくら鍵盤押してもキーボードから音が出ないんです…電源は入ってるはずなのにどうしてなんでしょうか?」 「これはシンセサイザーの部類。よって単体では鳴らない。 シールドでアンプに繋いで初めて、アンプから音が鳴る仕組みになっている。」 「あ、これアンプからじゃないと音出ないんですね…勉強になりました!ピアノから入った私には そういうの疎くて…あ、でも今ここにはキーボのアンプがないです…今日はあきらめるしかないみたいですね…。」 「その必要もない。そこにあるベースアンプでも代用は可能。」 「本当ですか!?ありがとうございます長門さん!」 「礼ならいい。」 「キョン君、ベースのアンプ貸してください!お願いします!」 「どうぞどうぞ、使っていただいて結構ですよ。今日はベースの基本技術を学ぶだけでアンプは使いませんからね。 そんな感じで、俺たちは有意義な会話をしていた。いつもは古泉とボードゲームだのカードゲームだので 時間を費やしていた俺であったが…こういう時間もなかなか楽しいじゃないか。一昨日、昨日の悪夢のことを 一時的にでも忘れられるという意味でも、尚更貴重な時間である。特に、昼休みに谷口から例の天気予報の話を 聞いてからというもの、放課後までずっとそれを引きずっていた俺には…な。もちろん、今でもそんな未来は 信じちゃいないさ。ただ、一つでもそういった判断材料があると不安になる…それが人間というものであろう。 本来なら放課後にでもこれら夢の一部始終について長門や古泉に相談しようと思ってはいたのだが、 正直今のこの談笑している空気を壊したくはなかったし、何よりハルヒ本人が部室に顕在だから話せなかった ってのが一番の理由だな。本人の目の前で能力云々語るのは言わずもがな、禁句である。 …いや、待て。 今気がついた。そういえば、ハルヒはいまだ部室には来ていないではないか。 いつものあいつなら…とっくに来ていてもおかしくないはずだが。 「おや、どうされたんです。涼宮さんのことが気がかりですか?」 「いや、気がかりってわけでもないんだが…やけに来るのが遅いなと思ってな。」 「掃除当番にでもなってるんじゃないですか?」 良い指摘ですね朝比奈さん。が、それにしても遅いような気がしますが…。 「!」 突然立ち上がる長門。 「涼宮ハルヒが…倒れた。」 …俺はベッドで横たわっているハルヒを見つめていた。 「先生、ハルヒの具合はどうなんです!?」 「大丈夫、大事には至ってないわ。おそらく軽い貧血ね。」 「そう…ですか。」 「今日のところは安静にしておけば大丈夫よ。幸い明日は土曜日だから、 それでも気分が治らないようなら、病院に行って診てもらえばいいと思うわ。」 事なきを得たようで、ひとまず俺は安堵の表情を浮かべた。 ------------------------------------------------------------------------------ 「倒れたって…どういうことだ長門!?」 「涼宮ハルヒの表層意識が、たった今消滅した。」 …??意識が消滅?何を言っているんだ?? 「原因は不明。今それを解析中。」 「長門さん!涼宮さんは今どこにいるんですか!?」 「旧校舎の玄関口からすぐ入ったところの廊下。おそらく部室へ向かう途中に倒れたものだとみえる。」 「キョン君、何をボサっとしてるんですか!?早くそこへ行ってあげてください!!」 突然の事態に状況が把握できずうろたえていたのであろう俺に、怒鳴りつける古泉と朝比奈さん。 「お…おう…!お前らはどうすんだ!?」 「長門さんが解析に手間暇かけている時点でこれは非常事態に他なりませんよ。 身体機能における単なる物理的損傷ではない…そういうことですよね長門さん??」 「そう。」 「であるからして、我々は我々でできることをします。原因の調査および機関への連絡その他をね。」 「今、涼宮さんの隣にはキョン君がいてあげるべきです!」 考えるよりも先に体が動いたのか、気付くと俺は廊下へと跳び出していた。 もちろん、ハルヒのもとへとかけつけるために。 正直、いまだに俺は混乱していた。そりゃそうだろう?ついさっきまでいつものごとく ピンピンしていたハルヒが…意識を失う?倒れる?一体何をどうしたらそんな展開になるってんだ?? 説明できるやつがいるなら今すぐ俺の所に来い。 しかし、自分にだって今すべきことはわかってる。この際、原因などどうでもいい… ただ一つ言えることは、一刻も早くハルヒの容態を確かめ、そして救ってやることである。 …… ハルヒを見つけるのにそう時間はかからなかった。案の定、長門の指定位置にて ハルヒはぐったりとした様子で壁に背を向けた状態でもたれかかっていた。 とりあえず最悪の事態は回避できたようだ。意識を失うタイミングにもよるが、頭から地面に激突した際には 最悪、脳震盪に陥る可能性だってある。しかし、このハルヒの体勢から察するに、どうやらハルヒは徐々に 薄れてゆく意識の中、反射的に頭だけは守ろうとしたのであろう…壁にもたれかかっているのがその証拠である。 例えば街中で運悪く出くわした不良に背負い投げでもされたとしよう。柔道に精通している者ならば、 とっさに受け身をとろうとするはずである。野球にてピッチャー返しをしようものなら、投手は瞬間の中で 球をキャッチしようとする動きに出るはずである。 今のハルヒにも同じことが当てはまる。スポーツ万能&運動神経抜群の涼宮ハルヒだからこそ、 成し得た芸当と言えるかもしれん。正直、俺がハルヒの立場だとどうなっていたかわからない。 ハルヒの顔に手を近付ける俺。どうやら息はしているようだ。俺の動作に一切の反応を見せないことから、 どうやら本当に意識を失ってしまっているようである。見方によっては眠っているようにも見えるが… とにかく、俺はハルヒを背負い、急いで保健室へと駆け込んだ。 ------------------------------------------------------------------------------ そして話の冒頭へと戻るわけである。 …しかし保健の先生には悪いが、俺にはハルヒの倒れた原因が単なる貧血には思えない。 元気のかたまりとも言えるハルヒに貧血など、不似合いにもほどがある。おそらく、それだけは 天地がひっくり返っても起こりえない事態のはずだ。何より、長門や古泉の尋常ではない焦りから判断しても、 単なる生理現象でないことだけは確かだろう。とにかく一刻も早いハルヒの回復を…俺は待ち望んでいた。 「……ん…」 …意識を取り戻したようである。 「…ハルヒ?!大丈夫か??」 「あれ、キョン…何でこんなとこに?…ってか何であたし保健室にいるわけ…?」 「お前が旧校舎の廊下で倒れているところを、俺がここまで運んできてやったんだ。」 「うそ…?そういえば手や足に力が入らないわ…。倒れたってのは本当…みたいね。 無様な姿をあんたに見せちゃったわね…。」 「どうってことねーよ。お前が無事で何よりだ。」 「…とりあえず、運んだってのが本当なのなら、一応礼は言っとくわ。ありがと…しかし困ったわね。 家までどうやって帰ろうかしら…。」 「それについては心配およびませんよ。」 うお?!いつのまにか背後に長門に古泉、朝比奈さんが立っているではないか。 もう調査とやらを済ませてきたのであろうか。 「タクシーを呼んできてます。いつでも発進できる用意はできてますよ。」 もうそんな手配まで済ましていたのか…相変わらず対応が速くて助かるぜ古泉。 「古泉君ありがとう。みんなには迷惑かけちゃったわね…。」 「そんなことどうでもいいんですよう!涼宮さんが無事でいられただけでも私嬉しいです…。」 「みくるちゃん…心配してくれてありがと。でも、もうあたし平気だから!ほらこの通り!」 潔くベッドからとび降り、仁王立ちしてみせるハルヒ。っておい、いきなりそんなことして大丈夫かよ?? 「ハルヒ、お前が元気だってことはわかったから、とりあえず 今日は無理はするな?俺がタクシーのとこまで背負っていってやるからさ。」 「まあ、あんたがそこまで言うなら仕方ないけど。」 渋々俺の背中にもたれる団長様。 …… タクシーには俺とハルヒの二人が同乗した。本当は長門と古泉、朝比奈さんも 付き添いたかったらしいが、あいにくタクシーにはスペースというものが限られている。 一旦古泉たちとは別れ、俺はハルヒを家まで送っていくのであった。 「しかしお前が倒れたというからびっくりしたぞ俺は。一体何があったんだ?」 「それはあたしが知りたいくらいよ!気付いたら意識がとんでたんだし…。」 「最近何か無理でもしてたんじゃないか?そのせいで一気に疲れがドバーッときたとか。」 「特に、何か無理をした覚えもないわ。」 「じゃあ精神的なものか?ストレスとかさ。」 「何に対してのよ?」 「いや…俺に聞かれてもな…。」 結局そんなこんなではっきりとした原因はつかめないまま、俺たちはハルヒ宅へと着いた。 「今日はゆっくり休めよな。なんせ明日は土曜だ。昼まで寝てたっていいんだぜ?」 「あんたねえ…あたしをバカにしてんの?ま、いいわ。とりあえず、今日はどーも。」 団長様が一日に二度も俺に礼を言うなんて、珍しいこともあるもんだな。 ハルヒと別れを済ませたあたりで、ちょうど携帯から着信音が鳴る。古泉からだ。 「もしもし、俺だ。」 「古泉です。涼宮さんは無事家まで戻られましたか?」 「おお、そりゃ元気な様子でな。」 「それはよかったです。ところで、涼宮さんが今日突如として昏睡状態に陥った原因についてなんですが…。」 息をのむ俺。 「長門さんとも話したんですが…正直に申し上げましょう。これは一言二言で伝えられる代物ではありません。」 …どうやら予想以上に深い事情がありそうな様子である。 「明日何か用事はあったりしますか?」 「用事?特にないぞ。」 「それは助かります。突然ですが…今日の夜11時に駅前近くのファミレスに来てほしいと言われたらどうします?」 「つまり、朝まで長話できそうなとこに集まろうってことだろ?全然構わないぜ。」 「ご明察です。それに加え、こういった場所だと食事も好きなときに注文できたりしますから、 聞き疲れを起こしたりしたときに、何かと都合がいいかと思いまして。」 なるほど…どうやら相当長い話になりそうである。それにしても食事か。なかなか用意周到じゃないか。 「だがな、なぜ11時なんだ?今6時だし、8時集合にしたっていいようなもんだが。」 「確かにその通りですね。しかし、もう少しだけ我々に時間をくれませんか? まだ原因の全てを把握できたわけではないのですよ。」 何、そうなのか。 「いえ、今のは表現が適切ではないですね。あくまでこれは僕自身の問題です。」 ?どういうことだ? 「今回の原因について、僕はかつてないほどの膨大な情報の処理や解釈に追われ… 弱音を吐こうなどとは思ってはいないのですが…正直、今僕はパニックに陥っている と言っても差支えないかもしれません。それほどまでに窮した事態なんですよ…。」 「な、何だ??その原因とやらがそこまで震撼させるような内容だったってのか??」 あの古泉が壊れかかってるんだ、おそらく話とやらは想像を絶するレベルなんだろう。 それを改めて認識したせいか、しだいに話を聞くのが怖くなってきた自分がいる。 「ですからその処理および解釈にもう少し時間がかかるということです。 そのへんはどうか、ご察しのほどをお願いします…。しかしですね、僕はこれに立ち向かいます。 立ち向かわずしてどうやって涼宮さんを救えますか。」 そうだ…これに目を背けたら、ハルヒは一体どうなるんだ?今日はあの程度で済んだが、もしかしたら次は こうはいかない可能性だってある。最悪の事態も考えられる。なら、俺も覚悟して立ち向かおうじゃないか。 それがハルヒを助けることに繋がるのならば…俺はそのための努力を惜しまない。 「長門さんと朝比奈さんにも連絡はつけています。では、夜11時にまた会うといたしましょう。」 「おう、またな。」 …まだ集合の時刻まで時間はある。 それまで家で仮眠でもとっておくとするか。話とやらは朝までかかるのだろうし。 …… 家に着いた俺は、とりあえず晩飯を食い、部屋に向かった後ベッドに横になった。タイマーは…念のために 10時半にセットしておく。寝過ごしたりでもしてしまうようなら、それこそ打ち首にされてもおかしくない。 そう例えられるくらい、今後を左右する重要な会議になるはずだ。 「少し眠るだけ…だ。さすがにまたあんな夢は見ねえよな…?」 内心不安だったが、しかしこればかりは気にしてもどうしようもない。 とりあえず、俺は目を閉じ、寝ることに専念した。 音が鳴っている… 俺はアラームを消した。 10時半…どうやらちゃんと起きられたようである。まだ少し眠たいが、そんなことを言ってる場合ではない。 さて、親に何と言うかだが…『友達の家で寝泊まりする』とでも言っとけば、まあOKだろう。 俺はコートを手に取り、部屋から出ようとした。そのときだった。 「ようやくお目覚めってわけだ。」 ふと背後から声が聞こえた。はて、これは幻聴か何かであろうか?当たり前だが、この時間帯俺の部屋には 俺一人しかいない。妹が勝手に部屋に侵入した?それはない。なぜならその声は男のものだったからだ。 しかもどこかで聞き覚えがある… 俺は後ろを振り返った。 「てめえは…!」 予想外の人物に俺は驚愕した。いや、俺が忘れていただけで、こいつと再び会うことは 必然だったのかもしれない。とっさに拳に力が入り、臨戦態勢に入る俺。 「おいおい、そんなに身構えなくったっていいだろう。別に僕は、あんたに危害を加えようなどとは思っちゃいない。」 どの口がそれを言うんだ。俺はお前らのしでかしたことを忘れたわけじゃねえぞ。 「誘拐の件についてはすでに謝っただろう?…まあ、それはいい。 今日は言いたいことがあってここに来た。」 朝比奈さん大の言葉を思い出す俺… 『藤原くん達の勢力には気を付けてください。』 …藤原…てめえ、一体何企んでやがる? 「差し金は誰だ?何の目的でココに来た??」 「…勘違いしてないか。確かに、この時代への時間移動命令については上からの指示だが、 あんたに会いにきたことに関しては、単なる僕の独断だ。」 「独断だと?そこまでしてお前は俺に何か言いたいってわけか。が、生憎様だな。どうせ俺に巧みな言葉をかけて 騙そうって魂胆なんだろうが、そうはいかねえ。朝比奈さんから、すでにそれに関しては忠告を受けてある。」 「何、朝比奈だと!?」 しまった、つい朝比奈さんの名前を出してしまった…まあ、もともと朝比奈さん大は藤原たちの勢力とは 敵対関係だったから、これも今更か。別に危惧するような情報流失でもない…と、とりあえず俺は信じたい。 「まさか…昨日の異空間からの転移は…ふ、まさか現行世界に直々干渉してくるとは。」 「おい、何ぶつぶつ言ってんだ?」 「いや、とりあえずあんたの話を聞いて理解はした。おそらく、僕が伝える予定内容を聞かせたところで、 あんたはそれに従わないであろうことにはな。やはり、僕らだけで何とかする問題だったか。」 「聞くだけ聞いてやる。一体何を伝えるつもりだったんだ?」 「『朝比奈みくるには気をつけろ』端折って言うならそういうこった。」 「なるほど、どうやら聞くだけ損したみたいだ。お引き取り願おうか。」 「まあ、はなからあんたは宛てにしちゃいないさ…さて、面倒なことになる前に撤収するとしようか。 九曜、もういいぞ。ここの時間軸を正常に…加えて、今の会話記録もこいつの記憶から抹消してやれ。」 「---了解した-------」 !?九曜だと??あいつもいたのか!!? その瞬間だったろうか 俺の意識はブラックアウトした
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/2615.html
γ-1 「もしもし」 山びこのように返ってきたその声は、ハルヒだった。 ハルヒが殊勝にも、「もしもし」なんていうのは珍しいな。 「あんた、風呂入ってるの?」 「ああ、そうだ。エロい想像なんかすんなよ」 「誰もそんな気色悪いことなんかしないわよ!」 「で、何の用だ?」 「あのさ……」 ハルヒは、ためらうように沈黙した。 いつも一方的に用件を言いつけるハルヒらしからぬ態度だ。 「……明日、暇?」 「ああ、特に何の予定もないが」 「じゃあ、いつものところに、9時に集合! 遅れたら罰金!」 ハルヒは、そう叫ぶと一方的に電話を切った。いつものハルヒだ。 さっきの間はいったいなんだったんだろうな? 俺はそれから2分ほど湯船につかってから、風呂を出た。 γ-2 寝巻きを着て部屋に入り、ベッドの上でシャミセンが枕にしていた携帯電話を取り上げてダイヤルする。 相手が出てくるまで、10秒ほどの時間がたった。 「古泉です。ああ、あなたですか。何の御用です?」 俺の用件ぐらい、察してると思ったんだがな。とぼけてるのか? 「今日のあいつら、ありゃ何者だ?」 「そのことなら、長門さんに訊いた方が早いでしょう。僕が話せるのは、橘京子を名乗る人物についてぐらいです」 「それでかまわん」 「彼女は、『機関』の敵対組織の幹部といったところですよ。まあ、敵対とはいっても血みどろの抗争を繰り広げているというわけでもないですが」 「なら、どんなふうに敵対してるってんだ?」 「彼女たちも僕たちも、そうは変わらないんですよ。似たような思想のもとで動いてますが、解釈が違うといいますかね。まあ、幸い、彼女はまだ話が通じる方です。組織の中では穏健派寄りのようですからね。あの朝比奈さん誘拐事件も、彼女の本意ではなかったと思いますよ」 ほう。お前が弁護に回るとはな。 「それはともかくとして、橘京子の動きは僕たちがおさえます。別口の未来人の方は、朝比奈さんに何とかしてもらいましょう」 まあな。朝比奈さん(大)だって、あのいけ好かない野郎に好き勝手させるつもりはないだろう。 「問題は、情報統合思念体製ではない人型端末です。何を考えてるのか、全く読めません。長門さんの手に余るようなことがあれば、厳しい状況ですね」 「長門だけに負担をかけるようなことはしないさ。俺たちでも何かできることはあるだろ」 「僕もできる限りのことはしますよ。でも、万能に近い宇宙存在に比べると、我々はどうしても不利です。こればかりは、いかんともしがたい」 それを覆す切り札がないわけではないがな。 だが、それは諸刃の刃だ。 「ところで、おまえのところにハルヒから連絡がなかったか?」 「いえ、何もありませんでしたが、何か?」 「いや、明日の朝9時に集合って一方的に通告されたんだが」 古泉のところに連絡がないとすれば、どうやら、明日ハルヒのもとに召喚されるのは、俺だけらしいな。 「ほう。デートのお誘いですか? これはこれは。羨ましい限りですね」 「んなわけないだろ。どうせ、俺をこき使うような企みがあるに違いないぜ」 「涼宮さんも、佐々木さんとの遭遇で、気持ちに変化が生じたのかもしれませんよ。奇妙な閉鎖空間については、先日お話ししたかと思いますが」 「あのハルヒに限って、それはありえんね」 「修羅場にならないことを祈りますよ。僕のアルバイトがさらに忙しくなるようなことは避けてほしいですね」 「勝手に言ってろ」 古泉との電話はそれで打ち切られた。 次は、長門だ。 今度は、ワンコールで出た。 「…………」 「俺だ。今日会ったあの宇宙人なんだが」 「彼女は、広域帯宇宙存在の端末機」 即答だった。 「俺たちを雪山で凍死させようとしやがった奴ってことで合ってるか?」 「そう」 「あの宇宙人とは、何らかの意思疎通はできたのか?」 「思考プロセスにアクセスできなかった。彼女の行動原理は不明」 「広域帯宇宙存在とやらの考えも分からんか」 「情報統合思念体は彼らの解析に全力を尽くしているが、成果は出ていない」 「そうか」 このあと、長門は、淡々とした口調でこう告げてきた。 「私は、情報統合思念体から、最大限の警戒態勢をとるよう命じられた」 長門の抑揚のない声が、異様なまでに重く感じられた。 γ-3 ハルヒにこき使われるに違いない明日に備えて寝ようとしたところを、妹が襲撃してきやがった。 しぶしぶ、妹の宿題につきあうこと1時間。 シャミセンと戯れ始めた妹を、シャミセンごと追い出すと、俺はようやく眠りについた。 γ-4 翌、日曜日。 妹のボディプレスで起こされた俺は、朝飯を食って、家を出た。 「遅い! 罰金!」 もはや規定事項となった団長殿の宣告も、今日ばかりは耳に入らなかった。 なぜなら、ハルヒの隣に意外な人物が立っていたからだ。 「なんで、おまえがここにいるんだ?」 ハルヒの隣には、佐々木の姿があった。 「酷いな、キョン。僕がここにいるのがそんなに不思議かい? まあ、驚くのは無理もないが、そんなに驚くことはないじゃないか。昨日、涼宮さんに電話で提案してみたのだよ。昨日会ったのも何か縁だろうから、いろいろと話し合いたいとね」 「あたしも聞きたいことがいろいろとあるし、快諾したってわけ」 ハルヒ。佐々木がお前の電話番号を知っていることを不思議に思わなかったのか? まあ、橘京子あたりが調べて佐々木に教えたんだろうけどな。 「事情は分かった。だが、なんで俺まで一緒なんだ? 話し合いたいことがあるなら、二人で話し合えばいいことだろ?」 「キョン、君は相変わらずだね。この調子じゃ、涼宮さんもだいぶ苦労してるんじゃないかな」 待て。なんでそんなセリフが出てくるんだ? この唯我独尊団長様に苦労させられてるのは、俺の方だぜ。 「フン。いつものところに行くわよ!」 なぜか不機嫌になったハルヒの号令のもと、俺たちはいつもの喫茶店に向かった。 ハルヒは、俺の財政事情には何の考慮も払わず、ガンガン注文を出しまくった。 話し合いというのは、何のことはない。 俺の中学時代と高校時代のことを互いに話すというものだった。 まずは、ハルヒが、佐々木に、高校時代の俺のことについて話した。 なんというか、話を聞いているうちに、俺は自分で自分をほめたくなってきたね。ハルヒにあれだけさんざん振り回されてきても、自我を保持している自分という存在を。 「キョン。君は、実に充実した学生生活を送っているようだね」 それが佐々木の感想だった。 なんだかんだいっても、充実していたというのは事実だろう。 だが、俺はこう答えた。 「ただ単にこき使われてるだけだ」 「くっくっ。まあ、そういうことにしておこうか」 次は、佐々木が、ハルヒに、中学時代の俺のことについて話した。 話を聞いているうちに、ハルヒの顔がどんどん不機嫌になっていく。 聞き終わったハルヒは、不機嫌な顔のままで、こう質問してきた。 「ふーん。で、二人はどういう関係だったわけ?」 「友人よ」 さらりとそういった佐々木を、ハルヒはじっとにらんでいた。 「あのなぁ、ハルヒ。確かに誤解する奴はごまんといたが、俺たちは友人だったんだ。やましいことなんて何もないぜ」 「友人以上ではなかったってこと?」 「それは違うわよ、涼宮さん。正確には、友人『以外』ではありえなかったというべきね。少なくても、キョンにとってはそうだったはず」 どこが違うんだ? 俺のその疑問には、誰も答えてはくれなかった。 「はぁ……」 ハルヒは、大げさに溜息をつきやがった。 「あんたが嘘をついてるなんて思わないわよ。でも、嘘じゃないなら、なおのこと呆れ果てるしかないわね。あんた、そのうち背中からナイフで刺されるわよ」 おいおい、物騒なこというなよ。 ナイフで刺されるのは、朝倉の件だけで充分だ。 「僕も同感だね」 佐々木まで賛同しやがった。 俺がいったい何をしたってんだ? 茶店代は当然のごとく俺の払いとなった。 総務省に俺を財政再建団体の指定するよう申請したい気分だ。俺の懐具合が再建するまでには、20年はかかるだろうね。 そのあと、三人で不思議探索となった。 傍から見れば、両手に花とでもいうべきなんだろうが、この二人じゃ、そんな風情じゃないわな。 そういえば、ハルヒとペアになるのは、あの日以来か。 結局のところ、俺はハルヒにさんざん振り回され、佐々木の小難しいセリフを聞き流しながら、一日をすごすハメになった。ついでにいうと、昼飯までおごらされた。 そして、駅前での別れ際。 俺がふと振り返ると、ハルヒと佐々木は二人でまだ何か話していた。 何を話しているかは聞こえなかった。 知りたいとも思わなかった。この時には。 γ-5 月曜日、朝。 昨日の疲れがとれず、俺は重い足取りで、あのハイキングコースを這い上がった。 学校に着いたころにはずっしりと疲れてしまい、早くも帰りたくなってきた。そんなことは、俺の後ろの席に陣取る団長様が許してくれるわけもないが。 ハルヒは、微妙にそわそわした感じだった。 また、何か企んでいるのだろうか? 俺が疲れるようなことでなければいいのだが。 疑問には思ったが、疲れた体がそれ以上考えることを拒否し、俺は午前中の授業のほとんどを睡眠という体力回復行為に費やした。 寝ている間に、何か長い夢を見たような気がしたのだが、目が覚めたときにはきれいさっぱり忘れていた。 昼休み。 なぜかハルヒが俺の前の席に陣取り、椅子をこちらに向けてドカッと座った。 俺の机の上に、弁当箱を置く。 「今日は弁当なのか?」 「そうよ。そんな気分だったから」 机の上には、俺の弁当箱とハルヒの弁当箱が並んでいる。 こうして、二人で向かい合って、弁当を食うハメとなった。 なにやら誤解を受けそうな光景だ。実際、クラスのうち何人かがこちらをちらちら見ながら、こそこそと話をしている。 ハルヒは、相変わらず健啖ぶりで、弁当を平らげていた。 「その唐揚げ、おいしそうね」 ハルヒは、そういうや否や、俺の弁当箱から、唐揚げを取り上げ、食いやがった。 「ひとのもん勝手にとるな」 「うっさいわね。しょうがないから、これをやるわよ」 ハルヒは、自分の弁当箱から玉子焼きを箸でつまむと、そのまま俺の口に突っ込んだ。 「むぐ」 クラスの女子から、キャーというささやき声が聞こえる。 とんだ羞恥プレイだな。 こりゃいったい何の罰ゲームだ? 「感想は?」 ハルヒが、挑むような目つきで訊いてきた。 「うまい」 実際、それはうまかった。 「当たり前でしょ! 団長様の手作りなんだからね!」 そういいながら、ハルヒの顔は上機嫌そのものだった。 だがな、ハルヒよ。 いくらお前が鋼の神経をしているとはいえ、こういう誤解を受けかねないような行為は避けるべきだと思うぞ。 まあ、誤解する奴はいくら説明してやったってその誤解を解くようなことはないんだけどな。 俺が中学3年生時代の経験で学んだことといえば、それぐらいのものだ。 その日の放課後、俺とハルヒはホームルームを終えた担任岡部が教卓を降りると同時に席をたち、とっとと教室を後にした。 いつものように部室に行くのかと思いきや、 「キョン、先に行っててくんない? あたしはちょっと寄るところがあるから」 ハルヒは鞄を肩掛けすると、投擲されたカーリングの石よりも滑らかな足取りで走り去った。 はて、何を企んでるんだろうね? そういや、あいつは、朝から妙にそわそわした感じだったな。 まあ、考えても仕方がないので、俺はそのまま部室に向かった。 γ-6 部室に入ると、既に長門と朝比奈さんと古泉がそろっていた。 「涼宮さんは?」 古泉がそう訊いてきたので、答えてやった。 「授業が終わったとたんにどっかにすっ飛んでいきやがったぜ」 「そうですか。何かサプライズな出来事を持ってきてくれるかもしれませんね」 「世界が終わるようなサプライズは勘弁してほしいぜ」 「まあ、それはないでしょう」 そこに、SOS団の聖天使兼妖精兼女神様である朝比奈さんがお茶を出してくれた。 「どうぞ」 「ありがとうございます」 「ところで、昨日はどうだったんですか?」 古泉がにやけ顔で訊いてきやがった。 いつもだったら無視しているところだが、あの佐々木の周りにはSOS団と敵対している超常野郎が集まっている。一応、古泉の見解も聞いてみたかった。 俺は昨日の出来事をはしょりながら説明してやった。 「おやおや。まさに両手に花ではありませんか?」 「あの二人じゃ、とてもじゃないがそんな気分にはなれなかったね」 「まったく、あなたという人は」 「それより、佐々木のやつは、あいつらに操られてるんじゃないだろうな?」 心配なのは、そこのところだ。 「それはないと思いますよ。昨日の一件は、佐々木さんの自由意思でしょう。問題は、その自由意思を利用しようとする輩が現れることです。先日もお話ししましたが、特に警戒すべきは周防九曜を名乗る個体です」 俺は、長門の方を見た。 「長門の意見はどうだ?」 長門は、分厚いハードカバーから視線を離さず、淡々と答えた。 「私も、古泉一樹の意見に同意する」 「そうか」 一応、もう一人のお方にも聞いておくか。 「朝比奈さん」 「はい?」 「二月に会った、あの未来人のことですが」 「ああ、はい。覚えてます」 「あいつらが企んでいることって何ですか? ハルヒの観察ってわけでもないらしいって感じなんですが」 「えーっと……あの人の目的は、そのぅ、あたしには教えられていません。でも、悪いことをするために来たんじゃないと思います」 うーん。自分を誘拐した犯人たちの仲間だというのに、不思議なことに、朝比奈さんはあの野郎には悪い印象は持ってないようだ。 仏様のように広い御心の持ち主なのは結構ですが、もうちょっと警戒心とかを持った方がいいと思いますよ。 それはともかく、とりあえず、警戒すべきは周防九曜を名乗る宇宙人もどきであるというのが、結論になりそうだな。 その話題は、そこで打ち切りになった。 「どうです、一勝負」 古泉が出してきたのは、囲碁かと思ったら、連珠とかいう古典ゲームらしい。 「五目並べのようなものです。覚えたら簡単ですよ」 俺は古泉の言うままに盤上に石を置きながら、実地でだいたいの遊び方を教わった。 朝比奈さんのお茶を片手に二、三試合するうち、たちまち俺は古泉に連戦連勝するようになる。 いつもどおりまったりと時間が過ぎていった。 それにしても、ハルヒは遅いな。 そう思った瞬間に、爆音とともに扉が開いた。 「ごめんごめん。待たせたわね!」 部室にいた団員全員の視線が、ハルヒに集ま……らなかった……。 団員の視線は、ハルヒの後ろに立っている人物に集中していた。 「みんな! 今日から入団した学外団員を紹介するわ! 佐々木さんよ!」 そこにいたのは、紛れもなく佐々木だった。 続き 涼宮ハルヒの驚愕γ(ガンマ)
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1675.html
放課後、俺はいつものように階段を上っていた。 いちいち説明しなくても分かると思うが、文芸部の部室へ向かうためである。 しかしそこで文芸部的な活動をする分けではない。 SOS団なる謎の団体の活動をするのである。 廊下の窓から外を眺めると部活動に励む生徒の姿や、 その他に学校に残って友達と遊んでいる者、 さっさと帰宅して個人的な趣味や塾に通う者、 そして男女のカップルのイチャつく姿が見えた。 「はぁ、俺はいったい何をやってるんだか・・・」 俺は普通の高校生の姿を眺めながら溜息をついた。 俺は別に好きでSOS団の活動をしているわけではない。 活動をサボったら我がSOS団の団長、ハルヒに怒られるのであり、 ハルヒが怒れば神人という謎の化け物が暴れだすからであり、 そのハルヒの機嫌を損ねないために俺はSOS団に参加してハルヒを喜ばせているのである。 しかもそのSOS団の活動と言えば、平日は古泉とボードゲームをし、 休みの日には街を散策して未確認生物を探し回るという、まさに時間の無駄遣いであった しかし全てが無駄と言うわけではない。 その理由はSOS団の女神であり、全校の男子生徒のマドンナである 朝比奈さんのいれたお茶を飲めることである。 そのお茶のおかげで俺の憂鬱の8割は解消されてるね。 いつものようにドアをノックすると、いつものように朝比奈さんの 「はぁ~い」 という返事が聞こえ、俺はドアを開けて部室の中に入る。 その朝比奈さんは、いつものメイド服ではなく、黒い色のくノ一(女忍者)の格好をしていた。 「あ、キョン君、いっらしゃ~い。いまお茶を入れますね」 その女忍者の格好は、スカートが膝下より長いメイド服とは異なって、 太ももがほとんど露出しており、あと少しでパンツが見えそうなくらい短かった。 実際、少し前かがみになっただけでパンツが丸見えだった。 俺はお茶をいれる朝比奈さんの姿(特にお尻)を眺めながら朝比奈さんに尋ねた。 「朝比奈さん、その衣装、またハルヒが用意したんですか?」 お盆にお茶を載せてこちらに運びながら朝比奈さんは言った。 「いえ、これは自分で用意したんです。いつも長いスカートだったでしょ? だからお店の人に短いスカートの衣装をください、って言ったらこの黒いくノ一(女忍者)の衣装をくれたの」 「へ~、朝比奈さんが自ら衣装を買いに行くなんて驚きですね。 ところで、なんでスカートの短い衣装が良かったんですか?」 朝比奈さんは顔を真っ赤にしながらこう言った。 「だってキョン君・・・短い方が嬉しいでしょ・・?」 「そりゃ、まあ、そうですけど・・・」 「あの!触りたかったら触ってください。そのためにこの衣装を着てるんです!」 俺は一瞬何が起こったのか分からなくなり、数秒間考え、結論を出した。 「では、お言葉に甘えて」 俺は朝比奈さんの後ろに立った。 そしてお尻を触った。朝比奈さんの息が荒くなっていく。 それに飽きてきたので前を触ろうとする。 しかし朝比奈さんは両手を前で組んでいる。 「すみません、両手をどかしてもらえますか?」 「あっ、はいっ、すみません・・・」 その時だった。 バタン!!!!!! 扉が急に開いた。 「こらー!なにやってるのよ!SOS団は社内恋愛禁止なんだから!」 ハルヒだった。 いきなり登場して俺と朝比奈さんを怒鳴ったかと思ったら スタスタと自分の特等席に着席してパソコンの電源をつけた。 俺はハルヒなど無視して続きをしようと思ったが、 朝比奈さんは、「今日はもうダメ・・」と言って俺から離れてしまった。 続いて古泉と長門が来て、朝比奈さんは3人分のお茶を入れることになった。 古泉の席の後ろで、朝比奈さんはお茶を入れている。 そして朝比奈さんのパンツを見ることが出来る。 さすがの古泉も後ろで何が起こっているのかは分からないのだろう。 お前の後ろではパラダイスが広がってるんだぞ、と心の中で思っている時だった。 俺は横からの視線を感じ、横を振り向く。 その視線の主はハルヒだった。俺のことをギッと睨んでいた。 なんなんだよ一体・・・ 「キョン、今日あんた居残りだから」 「はぁ、なんでだよ?」 「いいから残りなさい!」 やれやれ、理由さえ聞かせてもらえませんか。 俺は仕方なく居残りすることにした。 長門と古泉と朝比奈さんが帰り、文芸部の部室にいるのは俺とハルヒだけになった。 「なんで居残りさせたんだ?」 「あんた、ひょっとしてミクルちゃんのこと好きなの?」 「なんなんだよいきなり。好きだったとしたらなんなんだ?」 「いいから答えてよ。好きなの?嫌いなの?」 「まぁ、どっちかと言えば好きだね。優しくて思いやりがあって、お前とは大違いだ」 しまった。口が滑って変なこと言っちまった。 きっとハルヒはこの言葉でご立腹だろうと思い、俺はハルヒを見た。 しかしハルヒは怒ってなどいなかった。 俺の勘違いかもしれんが、少し泣いているような気がした。 「そう・・・あんた、あーゆーのが好きなのね」 そしてハルヒは走って帰ってしまった。 次の日、教室でハルヒは授業が終わるまで顔を伏せていた。 そして放課後、いつもどおり、俺は放課後に文芸部室へ行った。 そしてドアをノックした。 「は~い」 という返事。 ドアを開けて室内を見た俺は、ドアを閉めた。 何が起こったのか理解できなかった。 「なんで閉めるんですか~」 そして内側から扉は開けられて、俺は混乱してるまま室内に入った。 部室に居たのは朝比奈さんではなく、ハルヒだった。 しかも昨日、朝比奈さんが着ていたくノ一の格好だった。 しかし黒色ではなく、白色だった。 これでは忍者的活動が出来ないぞ。もしかして雪国での忍者か? 「ハルヒ、頭でもぶったのか?」 それとも変なモンでも食ったのだろうか。 まさかまた不思議な力によって世界が改変されたとか、そんな面倒なことが起こったのだろうか。 「違いますよ~。頭なんてぶってませぇん。 昨日キョン君はこういうのが好きだって言ってましたよね? だからやってみたんです~。どうですか?似合ってますか?」 呆然と立っているとハルヒは 「あ、座って待っててくださいねぇ、今お茶入れますから」 と言った。俺は言われたとおり座って待ってることにした。 お茶を入れるために前かがみになったハルヒは、昨日の朝比奈さん同様、パンツが見えた。 しかも「好き」という文字がプリントしてあった。 俺は呆然とその文字を眺めていると、ハルヒが急に振り返り 「あのぉ、パンツ見ましたかぁ?」と言った。 これはひょっとして、あのコンピュータ研部長のときと同様、なにか恐喝でもされるのか? 等と考え、返答に困っていると、ハルヒが 「あのぉ、触りたかったら触ってもいいですよぁ」と言った。 やれやれ、俺の我慢の限界も低いもんだな。 「では、お言葉に甘えて・・・」 ハルヒに近づき、尻の穴を指で触ってとき、ドアが開いた。 朝比奈さんだった。 「あ、涼宮さん、キョン君、まさか、、こういう関係だったんですか? それ、私がこの前買った衣装と同じのですね」 「ええ、そうよ、ミクルちゃんがあまりにも可愛いから買っちゃった。 結構動きやすいし便利よねこれ」 「あの、、それよりも何をやってたんですか?」 「お茶入れてちょーだい」 「私の質問に答えてくだ、、」 「お茶入れてちょーだい」 ハルヒはいつも通りの乱暴な性格に戻った。 なんなんだ一体・・・ やがて古泉と長門もやってきた。 「キョン!なにか面白い話題とかないの! なんかこう、とてつもなく面白い話よ!」 ねぇよ。自分で調べろよ。 というとハルヒはネット巡回を始めた。 俺はいつもどおり古泉とゲームをしていた。そこに長門が俺のそばに来て本を渡した。 「・・家に帰ったらすぐ読んで・・・」 古泉は不思議そうな目で俺を見ていたが、それを無視して俺はゲームに戻った。 そして長門が部室から出て行き、その日のSOS団の活動は終わった。 家に帰った俺は長門に言われたとおり、本を読むことにした。 正確に言えばページをめくって栞を探していた。 それはちょうど真ん中らへんのページに挟まっていた。 「晩ご飯を食べる前にすぐに私の家に来て」 俺はダッシュで長門の家に向かった。 ハルヒの頭がおかしくなった事と何か関係があるのだろうか。 長門の部屋のインターフォンを鳴らし、ドアが開いた。 そこでまた俺は頭がおかしくなりそうになった。 「あ、キョン君、おかえりなさぁ~い」 長門が忍者の格好をしていた。しかもピンク。 俺は溜息をつきながら長門の部屋に入った。 「ご飯にしますか?お風呂に入りますか?それとも、、、うふっ」 なんか長門の頭もおかしくなってしまったようだが 俺はそんなことは無視してご飯を選択した。まずは飯だ。 そこで気がついた。 なんと長門の衣装はパンツがギリギリ見えるとかそんなレベルではなく、パンツ丸見えだった。 その衣装はヘソの辺りまでしかなかった。 「あのぉ、触りますかぁ?」 またこれだ。 「いや、断る。今は触るって言う気分じゃないんだ。 匂いを嗅ぎたいんだ」 そして俺は仰向けになって寝た。 そして俺の顔の上に長門がまたがった。 俺が匂いを嗅いでいると、玄関の扉が急に開いた。 「長門さん、、なにやってるの・・・?」 朝倉だった。 「ちょ、朝倉、違うんだって!これは、その・・・」 しかし俺の言葉を無視して、朝倉は走って自分の部屋に帰ってしまった。 とりあえず飯だけ食って俺も帰ろう。 次の日の朝、下駄箱の中に手紙が入っていた。 「今日の5時ごろに教室に来てください」 なんなんだろうね、まったく。 そして放課後、いつものようにドアをノックする。 「入っていいわよ」 そこにいたのは忍者姿の朝比奈さんだった。 「キョン、お茶入れてちょーだい」 「あの、朝比奈さん、どうしたんですか?」 「さっさとお茶をいれなさい!」 どうやら今度は朝比奈さんがハルヒの性格になってしまったようだった。 「あ、やっぱお茶はいいわ。コップだけ持ってきて」 そう言われたので俺は朝比奈さんのもとへコップを持っていった。 コップを床に置くと、朝比奈さんはパンツを下ろし、オシッコをした。 「さっさと飲みなさい!」 俺は一気に飲み干した。 「カレーがあるけど食べる?」 いえ、それは遠慮しときます。 そして古泉が部室にやってくると同時に朝比奈さんはいつもどおりの正確に戻った。 夕方の5時である。 教室で待っていたのは朝倉だった。 しかも忍者の姿。そして衣装は肩らへんまでしかなかった。 パンツも胸も丸出しである。 もはや忍者かどうかも分からない。 「お前か・・・」 「そ。意外でしょ」 俺は朝倉に聞いた。 「なあ朝倉。教えてくれ。長門やハルヒや朝倉さんがおかしくなってしまったんだ。 いや、お前もおかしくなった。何故だ!」 「みんなキョン君のことが好きなのよ。だからああいう格好をしているの。 そして私もあなたのことが好き」 「で、お前はなんの用なんだ?」 「人間はさあ、よく、やらなくて後悔するよりも、やって後悔したほうがいい、って言うよね。 これ、どう思う?」 と朝倉は顔を赤らめながら言った。 「言葉どおりの意味なんだろう」 「じゃあ、やろっ!」 次の瞬間、さっきまで教室だったこの空間は ベッドルームになっていた。そして朝倉は俺に迫ってきた。 俺の服は朝倉の不思議な力によって消えていき、ついには全裸になった。 ベッドに寝た朝倉にいろいろやろうとしたその時、横の壁が爆発した。 そこに立っていたのは長門だった。 「情報連結解除、開始」 「そんな・・・」 朝倉は悲しそうな声で言った。 「そんな・・・」 俺も悲しそうな声で言った。 朝倉の体は消えていってしまった。 そして部屋はベッドルームではなく、いつもの教室に戻っていた。 どうやら教室を再構築したようだった。 しかし俺の服は再構築されなかった。つまり全裸である。 そして俺は全裸で帰った。 次の日、俺はいつもどおり文芸部の部室へ行き、ドアをノックした。 「どうぞ」 という古泉の返事が聞こえ、俺はホッとした。 そしてドアを開けた瞬間、俺はドアを閉めた。 なんと古泉が全裸で立っていたのである。 俺はドアノブを掴んで、ドアが開かないようにした。 逆に古泉は内側からドアを引っ張っている。 「開けてくださいよ、ねぇ、開けてくださいよ」 ドアの引っ張り合いをしていると、後ろから谷口と国木田の声がした。 「おい、谷口!国木田!助けてくれ!俺の全財産をやるから助けてくれ!」 しかし俺は谷口と国木田の姿を見て諦めた。 なんと二人とも全裸だったのである。 俺は谷口と国木田に抑えられ、ついに部室の扉は開いてしまった。 そして中に運ばれていった。 起きなさい、起きなさいってば! ハルヒの声がする。 助けてくれハルヒ・・・ 起きなさい! 「ああ、、夢か」 どこまでが夢だったのか俺は考えてみる。 そうだ、ハルヒが忍者の衣装をしていて、そしてお茶を飲みながら 他の団員が来るのを待ってる間に眠ったんだ・・・ 外は真っ暗だった。 ハルヒは他の団員が帰った後も俺が起きるのを待ってたらしい。 「あんたが気持ちよさそうに寝てたから、起こそうと思っても起こせなかったのよ」 今は10月の下旬で、昼間は暖かいが夜になれば寒い。 時刻はもう6時半である。 既に外は真っ暗で、街灯がついている。 俺は俺が起きるのを待っていたハルヒと一緒に帰ることにした。 ハルヒは忍者の衣装のままだった。 「なぁハルヒ、寒くないのか?」 「寒いわよ。でも着替えるの面倒だったからこのままでいいわ」 「でも上着を羽織るくらいなら面倒じゃないだろ?」 「このままでいいの!」 「そうか・・・」 夜道を歩く男子高生徒と白い忍者。 明らかに不審者である。 無言のまま帰り道を歩いているとハルヒが口を開いた。 「ねぇ、キョン。あんた告白ってした事ある?」 「ないね。お前はあるのか?」 「されたことなら何度でもあるけど、自分からしたことは無いわ」 俺たち5人組は街中を散策した。 特に目的も無かったので本屋に行って立ち読みをしたり 服屋をいろいろと見て回ったりした。 今日の女子3人は忍者の格好をしていた。 ハルヒは白、朝比奈さんは黒、長門はピンクである。 まぁ、服装の趣味はひとそれぞれだし、忍者の格好をしてはいけないという法律は無い。 それはいい。忍者だろうが気にしない。 女子3人は街行く人の視線を浴びながら一日を過ごした。 ハルヒと長門は特に気にすることなく歩いていた。 朝比奈さんはつねに人目を気にしながら歩いており 解散時間になる頃には精神的疲労で倒れそうなほど疲れている感じだった。 なんだかんだで解散時間である。 「とろこで古泉、なんでお前は全裸なんだ?」 古泉は全裸だった。 古泉は全裸のまま叫びだした。 「これは人類のありのままの姿ですよ! 僕を否定するということは人類を否定することになります! ここ数千年の間で人類は服を着ました! しかし!これは進化ではありません!退化なのです! 昔は人類は猿のように体中に毛が生えてたました! しかしある時期を境に人類は毛が抜け、裸になりました! まさに進化ですよ!しかし5000年ほど前から服を着だしました! そこからが退化の始まりです!我々人類は進化しているようで退化してるのです! 今の人間に出来ることはなんでしょうか!地球を汚すことしか出来ません! 我々は母なる地球のために生きています!いや、生かされてます! しかし人類は汚してばかりだ!これは母なる地球に対しての冒涜であり、地球上の生物として退化である!」 古泉は警察に逮捕された。 ハルヒは言った。 「逃げるわよ!」 これはさすがに逃げるのが一番いい選択だな。 俺たちも古泉の仲間だと思われて逮捕されるかもしれん。 古泉のことである。拷問をされても仲間を売るようなことはしないだろう。 安心しろ古泉、出所した後は鍋パーティーでもしようぜ。 俺とハルヒと長門は全力で走った。 しかし朝比奈さんは足をガクガクと震わせ、走れそうになかった。 「朝比奈さん!」 俺が戻ろうとしたらハルヒに止められた。 「私たちまで捕まってどうするの!とにかく逃げるのよ!」 朝比奈さんはパトカーに囲まれた。 「こちら北署、こちら北署、全裸男の仲間と思われし女を包囲しました」 「ひぇ~、私はこの人とは関係ないですよ~。ただの忍者ですよ~」 手錠をかけられた古泉が暴れだした。 「僕は新人類です!旧人類に僕を拘束する権利などありません! 自ら服を着るなど猿以下の存在ですよ!その女の子も離してあげなさい!」 「ひぇ~、あなた誰ですか~?私はただの忍者です~。あなたなんか知りませよ~」 結局、古泉だけが連行された。 「古泉・・・」 俺は胸が痛くなった。 仲間を見捨てた自分に対して胸が痛くなった。 「なぁハルヒ、お前、忍者の格好してるだろ? 古泉を助けに行かないか?」 「なんでよ!無理に決まってるじゃない!」 「長門!なんとかしてくれ!」 「・・・無理」 その後、俺たちはそれぞれの家に帰った。 リビングでテレビを見ていると妹が 「キョンくーん、古泉君がテレビに出てるよ~」と叫びだした。 俺は妹の目を隠し、テレビを消した。 どうするんだよ古泉。 次の日、俺とハルヒは文芸部室で喧嘩をした。 「おいハルヒ!なんで古泉を見捨てたりしたんだ! 古泉だけならともかく、朝比奈さんまで見捨てるとは何事だ!」 「だってしょうがないじゃない!警察に勝てるわけないじゃん!」 「それとこれとは別問題だ!例え勝てなくても助けるのが仲間だろ!」 朝比奈さんは泣いていた。 「あのぉ、、2人とも喧嘩はやめてください・・・うぅ」 俺はすかさず朝比奈さんへ言った。 「朝比奈さんもなんで古泉を裏切ったんですか!」 朝比奈さんは大泣きして俺の言葉は耳に届いていないようだった。 その日、俺は留置所に行った。 古泉が牢屋に閉じ込められているはずである。 5メートルはありそうな塀を眺めていたら 中から古泉の声がした。何を言っているのかは分からない。 しかしいつもの演説的なものであることは分かった。 俺は門番の人に頼んで古泉との面会を許してもらった。 何重もの門をくぐり、薄暗い廊下を歩き、何枚もの扉を通り、面会室へたどり着いた。 透明な防弾ガラスの向こうに古泉はいた。 「古泉、、元気か?」 「会いに来てくれたのですね。とても嬉しいです。 しかし僕のことはもう忘れてください。僕は犯罪者です。 僕に関われば世間はあなたのことも犯罪者だと思うでしょう。」 「そうか、、お前がそう望むなら俺は何も言わない。お前とはもう関わらない」 「ありがとうございます。僕にとってそれが一番うれしいことです」 じゃあな、古泉。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3330.html
「今日はこれで終わり! みんな解散よ!」 窓から入ってくる夕焼けに染められたわけではないだろうが、ハルヒの黄色く元気の良い声が部室内に轟く。 この一言で、今日も変わったこともなく、俺は古泉とボードゲームに興じ、朝比奈さんはメイドコスプレで居眠り、 長門は部屋の隅で考える人読書バージョン状態を貫き、年中無休のSOS団の一日が終わった。 正直ここ最近は平凡すぎる日常で拍子抜け以上に退屈感すら感じてしまっているのだが、まあ実際に事件が起これば二度とご免だと思うことは確実であるからして、とりあえずこの凡庸な今日という一日の終了に感謝しておくべき事だろう。 俺たちは着替えをするからと朝比奈さんを残しつつ、ハルヒを先頭に部室から出ていく。どのみち、朝比奈さんとは昇降口で合流し、SOS団で赤く染まったハイキング下校をするけどな。 下駄箱に向かう間、ハルヒは何やら熱心に長門に向かって語りかけている。 それをこちらに注意を向けていないと判断したのか、古泉が鼻息をぶつけるぐらいに顔を急接近させ、 「いやあ、今日も平穏無事に終わりましたね。こうも何もないと返って不安になるほどですよ。 まだまだあの神人狩りに明け暮れていたときのくせが抜けていないようでして」 「ないことに越したことはないね。犬が妙な病気になったことを相談されたりされるぐらいならちょうど良い暇つぶしにはなるが、事と次第によってはとんでもない大事件の場合もあるからな」 俺は古泉と数歩距離を取りつつ返す。古泉はくくっと苦笑を浮かべると、 「何かが起こった方が楽しい。だけど、その影響範囲を含めた規模や自分にとって利益不利益どちらになるかわからないなら、いっそどちらとも起きない方が良いというわけですか。実にあなたらしい考え方と思いますよ。 恐らく涼宮さんとは正反対の思考パターンですが」 「あいつの場合は、自分にとって楽しいことだけ起こればいいと思っているんだろ。世の中そんなに甘くはねぇよ。 ま、命を狙われたり世界を改変されて孤立したりしたことがないんだから、当然っちゃ当然だな」 大抵、人間ってモノはどこかで何かが起こることを期待しているもんだ。俺だって昔は宇宙人とか未来人とか超能力者がいてくれればいいなぁとか、映画並みのスペクタクルが起きたりしないかと思っていたしな。ただ、実際に目の前でそんなことが起これば考え方も変わる。少なくとも、もう俺はタヒチのリゾートにあるような透明度の高い純真な期待感なんて持たないだろう。 そんな俺に古泉はさらに苦笑いして、 「おや、ひょっとして今まで多くのことを経験しすぎて、一生分のインパクトを消化してしまったんですか? 前途ある十代の若者にあるまじき枯れっぷりな考え方ですよ」 うるせえな。一度ヒマラヤの頂上に届きかねないびっくり仰天事やマリアナ海溝以上に深いどん底に突き落とされる経験しちまうと、何だかんだで海抜ゼロメートルプラスマイナス数百程度が一番いいと思い知らされただけだ。 そんな話をしている間にようやく下駄箱に到着だ。ハルヒの長門に対する語りかけは、もうヒトラーの演説、テンション最高潮時な演説と化している。もっとも当の長門は相づちを打つように数ミリだけ頭を上下させるだけなんだが。 しかし、そんな自分に酔っているような話し方をしながらも、ハルヒはちゃっちゃと下駄箱から靴を取り出し下校の準備を進める。全く口と身体が独立して稼働しているんじゃないか? もう一つの脳はどこにある。やっぱりあそこか。 「遅れちゃってごめんなさい」 背後から可憐ボイスが背中にぶつかる。振り返れば、いそいそと北高セーラ服に着替えた朝比奈さんが小走りに現れた。 背後にある窓から夕日が入り、おおなんと神々しいお姿よ。 俺がそんな神秘的情景を教会で奇跡がおきるのを目撃した神父の如く感涙して(していないが)いたところへ、 「ほらっキョン! なにぼーっとしてんのよ! とっとと靴履いて帰るわよ!」 いつの間にやら演説を停止したハルヒ団長様からの声で、幻想的光景から強引に引きずり出された。 全くもうちょっと堪能させてくれよな。まあ、当の朝比奈さんもとっとと俺を追い越して、靴をはき始めているから俺も続くかね。 そんなわけで俺は自分の下駄箱を開けて―― 「…………」 すぐに気がついた。俺の靴の上に一枚の紙切れ――手紙じゃない。本当にただの一枚紙である――があることに。 朝比奈さん(大)の仕業か? またいつもの指令書か…… しかし、違うことにすぐ気がつく。朝比奈さん(大)はもっとファンシーで可愛らしくいい臭いがしそうな封筒入りを使うが、今ここにあるのはぴらぴらの紙一枚。こんな無愛想なもので送りつけるような人じゃない。それに書いてある内容が 『あと30分以内に●●町の公園に来なさい。一人で』 とまあ何とも一方的な内容である。しかも命令口調。まるでハルヒからの電話連絡みたいだ。 ふと、これはハルヒが書いて何か俺に対してイタズラでもしようとしているのでは?と思ったが、 「なーにやってんのよ! さっさとしなさい!」 当のハルヒは俺につばを飛ばして急かしてきている。大体、こんな手紙なんていう回りくどい手段をあいつがとるはずもなく、誰もいなくなったところで俺のネクタイ引っ張って行きたいところに走り出すだろうな。 じゃあ、これはなんだ? ラブレターの可能性は否定できないのも事実。せっかくだから行ってみるのも悪くないか。 時計を確認する。ここから指定された場所まではゆっくり歩いて30分もかからない。帰りに道に寄ってみるかね。 俺は他の団員に見つからないように、その紙をポケットにねじ込んだ。 ◇◇◇◇ さて、下校途中に他の連中と別れた俺は、とっとと目的の公園に向かう。初めて行く場所だったので、 その辺りにあった看板の地図を見ながら向かった。 が。 「……全く」 おれは嘆息する。さっきから背後をハルヒたちが付けてきているからだ。どうやら、あの紙をもらってからの俺の挙動が不審だとハルヒレーダーが捕らえていたらしい。相変わらずの動物並みの嗅覚だよ。 しかし、別に俺はやましいことをしているわけでもないんだから、このまま放っておいてもいいか。 俺はそう割り切ると、俺は背後のストーカー集団を無視して目的地に向かった。 ◇◇◇◇ 俺はようやく目的地にたどり着いた。時計を見ると、あの紙切れを読んでから20分程度。指定された時間には間に合っている。 平日夕方でぼちぼち日が落ちつつあるためか、指定された公園には人一人おらず、閑散とした静けさに覆われていた。 どこからともなく流れてくる夕飯の香りが俺の空腹感を刺激する。 ふと、背後を突けていた連中がいなくなっていることに気が付いた。なんだ? 捲いたつもりはなかったから、 途中でハルヒが尾行に飽きたのか? 俺はそんなことを考えながら、あの紙切れをポケットから取り出して―― この時、初めて俺はここに何の警戒心も持たずのうのうとやってきてしまったことを後悔した。見れば、その紙の文面が 『付けていた連中はいないわよ。邪魔だったから追っ払っておいたわ』 そう変わっていた――ちょっと待て。この紙はずっと俺のポケットに入ったままになっていたはずだ。 それを書き換えるなんていう芸当ができるのはごくごく限られた特殊能力を持つものしかあり得ない。 つまり、俺を呼び出した奴は一般人ではなく、宇宙人・未来人・超能力者――あるいはそれに類する奴って事だ。 ちっ。これで呼び出したのが朝倉みたいな奴だったら、洒落にならんぞ。 すぐに携帯電話を取り出し、とりあえず古泉に―― しかし、時すでに遅し。俺の周りの景色が突然色反転を起こしたかのようになり、次第にぐるぐると回転を始める。 やがて、俺の意識も落下するように闇に落ちていった…… ◇◇◇◇ 「いて!」 唐突に叩きつけられた感触に、俺は苦痛の悲鳴を上げた。まるで背中から落ちたような痛みが全身に走り、 神経を伝って身体を振るわせる。 そんな中でも、俺は必死に状況を探ろうと密着している地面を手でさすった。切れ目のようなものが規則的に感じられ、コンクリートや鉄ではなくそれが木でできている感触が伝わってくる。 ようやく通り過ぎた痛みの嵐に合わせて、俺は閉じたままだった目をゆっくりと開けた。まず一面に広がる教室の床が視界を覆う。同時についさっきまで俺に浴びせられていた夕日の灯火が全くなくなっていることに気が付いた。 俺を月明かりでもない何かの弱い光を包み込んでいる。その光のせいか、俺のいる部屋の中は灰色に変色させられ―― 気が付いた。この色合い、以前に見たことがある。あのハルヒが作り出す閉鎖空間と同じものだ。 俺は痛みも忘れ、飛び上がるように立ち上がり、辺りを見回した。 出入り口・黒板・窓の位置。俺がいるのは文芸部室――SOS団の根城と同じ構成の狭い部屋だった。 ただし、ハルヒの持ち込んだ大量のものは一つとして存在せず、空き部屋の状態だった。ただ一つ、見慣れた団長席と同じように窓の前に置かれた一つの机と、その上に背中を向けてあぐらをかいて座っている一人の人間を除いて。 「……誰だ?」 自分のでも驚くほど落ち着いた声でその人物に語りかける。窓から見える景色は、薄暗い闇に包まれた灰色の世界だった。 やはりここは閉鎖空間なのか? しかし、誰だと語りかけた割には、俺はその机の上に座っている人物に見覚えがあった。いや、そんな曖昧な表現ではダメか。 北高のセーラ服に身を包み、肩に掛かる程度の髪の長さ、そして、あのトレードマークとも入れるリボンつきのカチューシャ。 該当する人間はたった一人しかいない。 こちらの呼びかけに完全に無視したそいつに、俺は再度声をかける。 「俺を呼び出したのはお前なのか? ここはどこだ?」 「黙りなさい」 ドスのきいた声。しかし、殺気に満ちたそれでも、俺はその声を知っていた。 ………… ………… ………… 長らく続く沈黙。俺はどう動くべきか脳細胞をフル回転させていたが、さきに目の前の女がそれを打ち破った。 「――よしっ!」 そう彼女は威勢のいい声を放つと、机から身軽に飛び降りてこちらをやってきた。そして、問答無用と言わんばかりに俺のネクタイをつかむと、 「成功したわ。奴らにも気が付かれていない。今回はちょっと難易度が高かったから、失敗するかもと思っていたけど、案外簡単にいったわね。そういうわけで協力してもらうわよ」 おいちょっと待て。なにがそういうわけだ。その言葉には前後のつながりがなさすぎるぞ。 「そんなことはどうでもいいのよ。あんたはあたしの質問に答えれば良いだけ。簡単でしょ?」 「状況どころか、自分が一体全体どこにいるのかもわからんってのに、冷静な反応なんてできるわけねぇだろうが」 ぎりぎりとネクタイを締め上げてくるそいつに、俺は抗議の声を上げた。 だが、この時点で俺は確信を持った。今むちゃくちゃな態度で俺に接してきている人物。容姿・声・性格全て合わせて、完全無欠に涼宮ハルヒだった。ああ、こんな奴は世界中探してもこいつ以外一人もいないだろうから、 そっくりさんということはないだろう。 俺の目の前にいるハルヒは、すっとネクタイから手を離すと、腰に手を当てふんぞり返って、 「全く情けないわね。少しは骨があるかと思っていたけど、どっからどうみてもただの一般人じゃない」 「当たり前だ。今までそれは嫌というほど見せつけてきただろ」 俺の返した言葉に、ハルヒはふんと顔を背けると、 「あんたとは今日初めて合ったんだから、そんなことわかるわけないでしょ」 あのな、初対面の人間に一方的に問いつめるのはどうかと――ちょっと待て。なんだそりゃ、俺の記憶が正しければ、お前とはかれこれ一年以上の付き合いになるはずなんだが。しかも、クラス替えまでしてもしっかりと俺の後ろの席に座り続けているじゃないか。 「それはあんたの所のあたし。あたしはあんたなんて知らないし、こないだ平行時間軸階層の解析中に見つけるまで存在すら知らなかったわ」 このハルヒは淡々と語っているんだが、あいにく俺には何を言っているのかさっぱりだ。しかも、話がかみ合ってねえ。 このままぎゃーぎゃー言っても時間の無駄だろう。 俺は一旦話をリセットすべく両手を上げてそれを振ると、 「あー、とりあえず話がめちゃくちゃで訳がわからん。とにかく、まず俺がお前に質問させてくれ。 それで状況が把握できて納得もできたら、お前に協力してやることもやぶさかじゃない」 俺の言葉にハルヒはしばらくあごに手を当てて考えていたが、やがて大きくため息を吐くと、 「わかったわよ」 そう渋々承諾する。よし、とにかくボールはこっちが握った。まずは状況把握からだ。 真っ先に俺が聞いたのはこれである。 「お前は誰だ?」 俺の質問に、ハルヒはあきれ顔で、 「涼宮ハルヒよ。他の誰だって言うのよ」 「巧妙に化けた偽物って可能性もあるからな。俺の周りにはそんなことも平然とやってのけそうな連中でいっぱいだし」 「それじゃ、証明のしようがないじゃん。どうしろっていうのよ」 ハルヒの突っ込みに俺は返す言葉をなくす。確かに疑えばどうとでも疑えるのが、俺を取り巻く現在の環境だ。 となると、これ以上追求しても意味がない。それに俺の直感に頼る限り、今目の前にいるのはあのわがまま団長様と人格・容姿ともに完全に一致しているわけで、それを涼宮ハルヒという人間であると認識しても問題ないだろう。 だがしかし、先ほどの言い回しを見ていると、俺が知っている『涼宮ハルヒ』ではない。 「えー、聞きたいのはな、お前がハルヒであることは認めるが、俺の知っているハルヒじゃなさそうだって事だ。 なら俺のつたない脳を使って判断すると、ハルヒが二人いるって事になるんだが」 「そうよ」 そうよ、じゃねえよ。そこをきっちり説明してくれ。 「あー。あんたの頭に合わせて言うと、別の世界のあたしってことよ。平行世界って言葉ぐらい聞いたことあるでしょ? ここはあんたのいた世界とは似ているけど別の世界ってことよ」 簡単すぎてかえってわからんような。まあいい、いわゆる異世界人ってことにしておこう。このハルヒから見れば、俺の方が異世界人なんだろうが。 ……しかし、ついにでちまったか、異世界人。しかもよりにもよって別の世界のハルヒとはね。こいつは予想外だったぜ。 ここでふとハルヒが口をあんぐりと開けて呆然としているのが目に入った。 「ちょっと驚いたわ。随分あっさりと受け入れるのね」 「最初は本意じゃなかったが、いろいろ今までそういう突拍子もない話は聞かされまくったから、 いまさらここは異世界で自分は異世界人ですっていわれても、今更驚かねえよ。異世界人については今まで伏線もあったからな」 俺の言葉にハルヒは興味深そうに目を輝かせている。何だ? こいつも宇宙人・未来人・超能力者のたぐいを求めているのか? まあいい。俺は次の質問に移る。 「ここはどこだ?」 「時間平面の狭間よ」 ……何というか、ハルヒが真顔で朝比奈さんチックなことを言うと違和感がひどいな。それはさておき、それじゃわからん。 わかるように説明してくれ。 「何よ、そんなことぐらい直感でピンと来ないわけ? 呆れたわ。未知との遭遇体験に慣れているだけで、 肝心の理解能力は本当に凡人なのね。まあいいわ、ざっと説明すると、あたしが作った空間で誰も入って来れず、誰も認識できない場所。これくらいグレードを落とせばわかるでしょ」 いちいち鼻につく言い回しなのもハルヒ独特だよ。確かにわかりやすいが。って、なら俺が今ここにいるのは、 お前が招待したからってことなのか? 「そうよ。もっとも周りの人間に悟られずにやるのには、それなりに細工が必要だけどね」 なら次に聞くことは自然に出てくる。 「で、一体俺を何のためにここに連れてきたんだ? 何が目的だ?」 これが核心の部分になるだろう。自己紹介は終わった以上、次は目的についてだ。 ハルヒは待ってましたと言わんばかりに、にやりと笑みを浮かべ、 「それは今から説明してあげる。長くなるから、そこの椅子に座って聞きなさい」 そうハルヒは、また窓の前にある俺的に団長席の上に座る。そして、すっと手を挙げると、床から一つのパイプ椅子が浮かび上がってくる。 ここまでの話で大体予測していたが、このハルヒは普通じゃない。いや、確かに俺のよく知っているSOS団団長涼宮ハルヒも変態的神パワーを持ってはいたが、自覚していないため自由にそれを操ることはできない。しかし、この目の前にいるハルヒは自分の意思で長門レベルのことを今俺の目の前でやってのけたのだ。 やれやれ、これはちょっと異世界訪問という話で済みそうにない気がしてきた。 俺はハルヒの頼んでもないご厚意に甘えることにして、パイプ椅子に座る。 「さて……」 ハルヒはオホンと喉の調子を整えると、 「あんた、宇宙人の存在は信じる?」 このハルヒの言葉に何か懐かしいものを感じた。あの北高入学式のハルヒの自己紹介。ただ、いくつか欠けてはいるが。 俺は当然と手を挙げて、 「ああ信じるよ。少なくとも俺の世界ではごろごろ――とはいかないが、結構遭遇したしな」 「……情報統合思念体の対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインタフェースに?」 返されたハルヒの言葉に、俺は驚く。何だ、このハルヒは長門のパトロンのことを知っているのか? 「当然よ。あいつらの存在、そして、どれだけ危険な連中かもね。実質的にあたしの完全無欠な敵よ」 ――敵。ハルヒの口から放たれた声には明らかに敵意が混じっていた。 どういうことだ。俺が知っている限り、奴らは内部対立はあるとはいえ、主流派は黙ってハルヒを観察することにしていたはず。 あからさまな敵意を見せてはいないんだよ。 「何ですって……? まさか……いや……」 ハルヒは予想外と言わんばかりに思案顔に移行するが、軽く頭を振ると、 「まあいいわ。とにかく、あたしと情報統合思念体は対立関係にある。というよりも、情報統合思念体が一方的にあたしを敵視して排除しようとしているだけなんだけどね。こっちとしても、敵意さえ見せなければ別に相手にする気もないんだけどさ」 ハルヒはあきれ顔でふうっとため息を吐いた。 排除しようとしているとは、まるで俺の世界とは正反対の行動じゃないか。 「何で対立しているんだ? いや、どうして情報統合思念体はお前を排除しようとしているんだ?」 「細かいレベルでの理由は知らない。とにかくあたしの存在を勝手に危険と認識して、襲ってくるのよ。 それも狙うのはあたしだけじゃない。この星ごと消滅させようとするわ。そんなの許せるわけないじゃない」 「星……ごと?」 何だか話がSF侵略映画っぽくなってきたぞ。情報統合思念体が地球を攻撃するとは、まさにハリウッド映画。 ――ここでハルヒは思い出に浸るように天井に視線を向けると、 「三年前――いや、あんたのいた時間から見れば四年前か。その時、あたしは自分が持っている力に気が付いた。野球場に連れられていったあの日、自分の存在がどれだけちっぽけな存在であるか自覚したとたん、体内で何かが爆発したような感覚がわき起こり、この世の全ての存在・情報がどっとあたしの中に流れ込んできたのよ。当然、その中に情報統合思念体についてのこともあった」 ここで気が付く。さっきまで俺は灰色に染まった教室の中にいたはずなのに、いつの間にかまるで360度スクリーンの映画館のような状態になっていることに。そこには野球場の人数に圧倒されるハルヒ・電卓で野球場の人間が地球上でどのくらいのわりあいなのか計算するハルヒ・ブランコで物思いにふけるハルヒの姿が映し出される。 「きっとその時に向こう――情報統合思念体も気が付いたんでしょうね。あたしはその巨大な存在に触れてみようとした。 そのとたん……」 ハルヒの言葉に続くように、今度は宇宙から眺める地球の姿が映し出される。そして、 「嘘だろ……」 俺は驚嘆の声を上げた。まるで――そうだ、長門が朝倉を分解したときみたいに、地球が一部が粉末のように変化を始めた。 それは次第に地球全土へと広がっていき、最後には風に飛ばされるようにちりぢりにされ消滅してしまった。 呆然と見ることしかできない俺。と、スクリーンに星以外に一つだけ残されているものがあった。 「無意識に自分のみを守ろうとしたんだと思う。気が付いたとき、あたしは宇宙から消えていく自分の星を眺めていた。ただその恐ろしさと悲しさに泣きじゃくりながら何もできずに」 ハルヒだった。まだ幼い容姿のハルヒが宇宙空間で座り込むような格好で泣きじゃくっている。 目の前で淡々と語るハルヒは決してそのスクリーン上の自らの姿を見ようとせず目を閉じながら、 「何でこんな事になったのか、この時は理解できなかった。いや、今でも完全に理解できた訳じゃないけど。 あたしはただ情報統合思念体という大きく魅力的に見えたものに触れようとしただけ。なのに、奴らはあたしどころか、周囲全てを巻き込んで消し去ろうとした――許せるわけないじゃない。あたしは何の敵対行動も取っていないのに」 その声には怒気どころか殺気すら篭もっていた。確かに、なにも悪いことをした憶えもないのに、いきなり攻撃されてしかも無関係な人たちまで抹殺したんだから怒って当然か。しかし、何でそこまでして情報統合思念体はハルヒを消そうとする? 「知らないわよそんなこと。とにかく、その後あたしは情報統合思念体からの次の攻撃に備えていた。 あたしの抹殺に失敗した以上、また仕掛けてくると思ったから。でも、いつまで経っても襲ってくる気配はなく、 ただ時間だけが過ぎたわ。おかげでその長い時の間に大体自分ができることがわかったわ。奴らへの対抗措置もね」 「何で連中は追撃してこなかったんだ?」 「あとで奴らの内部に侵入して確認したときにわかったんだけど、最初の攻撃時にあたしは無意識に情報統合思念体に対してダミー情報を送り込んだみたい。あたしは強大な力を手にした。だけど、あたしはそれを自覚していないという形でね。 だから、奴らは地球を抹殺した理由がなくなり、どうしてそう言った行為を取ったのかわからない状態として処理されていた。 そこにあたしは目を付けた」 ハルヒの言葉に続き、周囲のスクリーンに無数――数えることのできないほどのガラス板のようなものが並列で並んでいる映像が映し出される。その一枚一枚には無数のカラフルな丸い点が描かれ、様々な形に変化・縮小・拡大・消滅・発生を繰り返している。 「あたしは地球抹殺の理由の接合性がなくなっていた情報をさらに改ざんした。あたしは自分の力を自覚していない、だから情報統合思念体は何の行動も起こさなかった。だから地球は消滅していないと。 地球自体は消滅前の時間軸に残されていた情報をコピーしてあたしが再生した。幸い、連中も脇が甘いのか、 そういったことは多々にあるのか、あっさりとあたしの情報改ざんは成功したわ。おかげであの日の惨劇はなかったことにできた。 ただあたしが力を得たという情報まで奴らから消去することはできなかった。結構希少な情報だったせいか、前例として広域な情報に関連づけられていたから、これを改ざんすると他への影響範囲が大きすぎて、全部改ざんなんて不可能だったから」 あまりのスケールの大きさに呆然と耳を傾けることしかできない。 「……ここじゃそんなことがあったのかよ」 俺は聞かされた衝撃的な話に疲れがたまり、パイプ椅子の背もたれに預ける体重を増加させる。 ハルヒは続ける。 「とりあえずリセットはできたわ。状況はあたしは力を得たが、それを自覚していないと情報統合思念体は理解している。 この状況下でどうすれば奴らの魔の手から逃れることができるのか、次はそれを模索する必要ができたのよ。 あたしが力を得たことで奴らに目を付けられた以上、うまくやり過ごなければならない」 ここでスクリーンに映し出された一枚のガラス板がアップになる。 「一度でうまくいくとは思っていなかったあたしは、一つの時間平面――このガラス板一枚があたしたちのいうところの『世界』と認識すればいいわ――を支配することにした。こうしておけば、いざ奴らにあたしが力を自覚していることに気が付かれてもいつでもリセットできるし、情報統合思念体には同じようにダミー情報を送り込めばごまかせるから」 「で、どうなったんだ?」 俺の問いかけに、ハルヒはいらだちを込めたように髪の毛を書き上げ、 「それがさっぱりうまくいかないのよ。どこをどうやっても途中で奴らに力を自覚していることがばれて終わり。 その度にリセットを続けて来ているけどいい加減手詰まり状態になってきて……」 ここでハルヒはびしっと俺を指差し、 「そこであんたを呼び出したって訳よ」 「何でそうなるんだよ?」 俺が抗議の声を上げると、ハルヒは指を上げて周囲のスクリーンに別のガラス板――時間平面とやらを映し出す。 「手詰まりになったあたしは別の時間平面に何かヒントがないか調べ始めたのよ。そこであんたたちの存在を知った。 同じようにあたしが力を得ながら、情報統合思念体が何もせずにずっと歩み続けている。力を自覚した日から、 4年も経過しているってのに。それはなぜなのか? どうしたらそんなことができるのか? 詳しく別の時間平面を調査していると奴らに気が付かれる可能性があったから、とりあえず一人適当な奴を こっちに連れてきて教えてもらおうってわけ。とはいってもあたし自身を連れてくるとややこしいことになりそうだから、事情を知っていそうな奴を選んだけど」 そういうことかい。で、唯一の凡人である俺が選ばれたって事か。 ここでハルヒは机を飛び降り、また俺のネクタイをつかんで顔を急接近させると、 「さあ、白状なさい。一体あんたの世界のあたしは何をやったわけ? どうやったら情報統合思念体は手出しできなくできる?」 「何もやっていない。少なくとも俺の知っているハルヒは自分の力を自覚していないからな」 「は?」 ハルヒの間の抜けた声。が、すぐに眉間にしわを寄せて額までぶつけて、 「そんなわけないじゃない! 例えなんかの拍子で自分の力に自覚していなくても、周りに情報統合思念体がいるならどこかでちょっかい出してくるに決まっているんだから、すぐに気が付くはずよ!」 「だが、事実だ。情報統合思念体はハルヒがその状態を維持することを望んでいるし、それに俺をここに呼び出す前に俺を付けていたハルヒと一緒にいた小柄な女の子はその対有機生命体ヒューマノイドインターフェースだ」 「バカ言わないで! あたしがあいつらと一緒に仲良く歩いていられるわけがないじゃない!」 ハルヒはつばを飛ばして言ってくるが、そんなこと言われても知らんとしかいいようがない。 それにしてもこのハルヒが持っている情報統合思念体への敵意は痛々しいまでに強く感じる。 「じゃあなんであんたはあたしの力について知っているのよ!」 「長門――情報統合思念体とかその他周囲から教えてもらった」 「じゃあなんであたしに教えようとしないわけ!?」 「一度言ったが、信じてくれなかった」 とりあえず事実だけ淡々と返してやると、ハルヒの顔がだんだん失望の色に染まっていった。やがて、ネクタイから手を離し、机の前まで戻ると、 「……だめだわ。それじゃだめよ。ただ運良くそこまで進んだだけじゃない。とくにあたし自身が自分の力の自覚がないのは致命的だわ。自覚したとたん、情報統合思念体に星ごと抹殺されて終わり。そして、リセットもダミー情報による偽装もできない。 あんたの世界も長くはないわね」 そうため息を吐く。 このハルヒの言葉と態度に、俺の脳天に少し血が上り始めた。まるでいろいろあった俺のSOS団人生を 簡単に否定された気分になったからだ。 「おい、俺のやってきたことをあっさりと否定するんじゃねえぞ。確かにお前みたいに壮絶じゃなかったかもしれないが、俺は俺で色々やってきたんだ。大体、俺のいる世界を全部見たって言うなら、俺たちのその後もわかっているんじゃないのか?」 「あのねぇ、時間平面ってのは数字に表せないほど大量にあるのよ。そこから無作為に検索をかけて、 偶然見つけたのがマヌケ面のあんたがあたしと一緒に歩いている姿を見つけただけ。その後の様子まで確認している余裕はなかったわよ。あまり長時間の時間平面検索は奴らに察知されかねないから」 それを先に言えよ。ってことは、このハルヒは俺たちSOS団についてもさっぱり知らないって事になる。 そこで俺はこのハルヒに対して、俺を取り巻く環境についてかいつまんで説明してやった。 情報統合思念体の対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインタフェースである長門有希。 未来からハルヒについての調査・監視を命じられてやってきた朝比奈みくる。 ハルヒの感情の暴走を歯止めする役目を与えられた超能力者古泉一樹、そしてそれを統轄する組織、『機関』。 ………… だが、ハルヒは話自体は信じたようだったが、やはり俺たちがその後も平穏に進むということについては 懐疑的な姿勢を崩そうとしなかった。 「まさかあたし自らそういう連中とつるんでいたとはね。それも自覚がないからこそできる芸当なんでしょうけど、 とてもじゃないけどリスクが大きすぎてできそうにない。それに皮一枚でぎりぎりあたしに気が付かれていないだけにしか感じられない以上、いつ自覚してもおかしくないわね。その時点であんたの世界は終わりよ」 「なぜそんなに簡単に否定できるんだよ?」 ハルヒはわからないの?と言わんばかりに嘆息し、 「まず『機関』とやらは、情報統合思念体に逆らえるだけの力があるとは思えない。あんたと一緒にいた色男――古泉くんだっけ? ――が、機関の意向よりあたしが作ったSOS団とやらを優先すると言っても、個人で何ができるわけもなし。 未来人については、同じ時間平面上なら移動可能ということは使えそうだけど、そもそも情報統合思念体はそんなことなんて朝飯前。対抗手段としては物足りないわね。最後の情報統合思念体の対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインタフェースについては論外。 奴らの支配下から離れて独立しつつあるとか言われても、信じられるような話じゃない。所詮は操り人形なんだから」 その言葉に俺はいらだちを募らせるばかりだ。まるで外部の人間にSOS団の存在意義を必死に説明してみせているような気分になってくる。いや、このハルヒは確かに俺たちについてまるっきり知らない――それどころか、情報統合思念体に対して明確な敵意を見せているので余計たちが悪い。 だが、俺はSOS団として満足して生きてきていたし、危険も感じていない。長門のパトロンはさておき、 長門自身には信頼を寄せているし、古泉はSOS団副団長という立場の方がすっかり似合っている状態。 朝比奈さんはもうマスコットキャラが板に付きすぎて抱きしめて差し上げたいぐらいだ。そして、皆ハルヒとともに 平穏無事にいたいと願っている。 それの何が問題だというのだ? このハルヒは自分の力を自覚していないとダメになるということを 前提に語っているようにしか見えない。 その後も必死に説明した俺だったが、ハルヒは聞く耳を持たない。 「悪いけど、これ以上議論しても無駄よ。あんたを元の時間平面に送り返すわ。一応礼を言っておくけど、 そっちもかなりぎりぎりの状態ってことはわかったんだから――」 「そうはいかねえよ」 「え?」 元の世界への機関を拒否した俺に、ハルヒはきょとんとした表情を浮かべた。 俺は正直このまま元の世界に戻るような気分じゃなかった。このままSOS団を完全否定されたっきりでは、 気分が悪いことこの上ないし、そもそもこのハルヒのいる世界は破滅とリセットのループを繰り返している。 だったら、俺の世界と同じようにSOS団を作れば同じように平穏に過ごせる世界が作れるはずだ。 俺にはその絶対の確信があった。 「何度でもリセットできるんだろ? だったら、俺の言うとおりに動いてくれ。そうすりゃ、俺たちの世界が どれほど安定しているか教えてやれるし、ここの世界の安定化も図れる。お前だって手詰まり状態だって言っているんだから、 試す価値はあるはずだ。少なくともお前が到達できない場所に俺たちは到達できているんだからな」 「…………」 ハルヒはあごに手を当てて思案を始めた。 ふと、他人の世界にどうしてそこまでするんだという考えが脳裏に過ぎる。しかし、すぐにその考えを放り捨てた。 ここまであーだこーだな状態になっておめおめと引き下がるほど落ちぶれちゃいない。 「……わかったわよ」 ハルヒは渋々といった感じに了承の言葉を出した。しかし、すぐにびしっと俺に指を突きつけ、 「ただし! 条件付きよ。あんたのいう宇宙人・未来人・超能力者にまとめて接触はしない。一つずつ試していくわ。 情報統合思念体の目はどこでも光っているんだから、変に手を広げて取り返しの付かない事態にならないよう 石橋をハンマーで殴りつけながら進ませてもらうわ。あと、あたしは自分の力の自覚はそのままにする。 この一点だけは譲れない。これがダメというなら即刻あんたを元の世界に送り返すから」 条件付きというわけか。はっきり言って、3勢力がそろわないとSOS団には成り立たないが、この際贅沢はできない。 一つずつ接触しても俺のいた世界のSOS団と同じぐらいの平穏な関係は築けるはずだ。 力の自覚については仕方ない。ハルヒは自分がそれを理解していない状態を極端に恐れている節がある。 それに、これに関してはうまい具合にハルヒが黙っているだけで済むから大丈夫か。 「わかった。それで構わん」 「じゃ、決まりね」 こうして別の世界でSOS団再構築という壮大なプロジェクトが始まった。 ――そして、俺がどれだけ甘い考えをしていたのか、嫌と言うほど思い知らされることになる。 ~~涼宮ハルヒの軌跡 機関の決断(前編)へ~~
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5815.html
「…ルヒ…ハ…」 …… 「ハルヒ!!」 …… 俺は、気がつくと自分の部屋のベッドにいた。 「一体これはどういうことだ…?」 冷静に辺りを見渡してみる。確かにここは俺の部屋だ。 はて、部屋とか以前に俺の家は地震によって倒壊したはずなのだが。 …… 着ている服も確認してみる…どうやらこれは私服ではなく寝間着らしい。 携帯も確認してみた。何々、今日は11月29日、時刻は午前7時10分。 「…夢?あれは全部夢…?」 …よくよく考えてりゃ、おかしなことだらけだった気はする。 冬にもかかわらずの酷暑、大地震、暗黒、そして大寒波…まるで世界の終わりを告げるかのごとき夢。 ここまで支離滅裂では、さすがに夢だと考えたほうが合理的なのは誰もが納得するところだろう。 何より、人が死にすぎて… …… …死? 「妹…妹は…?!」 俺は思い出してしまった。全身から血を流し、倒れている妹の姿を…! そして、ついに帰らぬ人となってしまったことを。 考えるよりも先に体が動いていた。気付くと、俺は自分の部屋を出て廊下へと立っていた。 目的はもちろん…妹の安否の確認である。 「あ、キョン君だ!」 ふと、後ろから声をかけられた。 「今日は私が起こしに来なくても自分から起きたんだね!偉い偉い!」 …妹である。確かに妹である。 「お前…生きてたんだな…。」 「?キョン君何言ってるの?」 「ああ、すまんすまん、なんでもないぜ。」 「?とりあえず私は先行ってるね。お母さんがもう朝ごはんできたって言ってたよ!」 階段を下りてリビングへと走っていく妹。ったく、家の中で走るなっての。転ぶぞ。 …… 「よかった…本当によかった。」 妹の話しぶりからして、どうやら親父もオフクロも健在のようである。 …… 当たり前のようで気付かなかったが、家族がいるということがどれほど幸福なことなのか… 今更ながらそれを実感する。真に大切なものは無くして初めて気づくとは…まさにこのことか。 俺は部屋へと戻った。とりあえず、学校へ行くための準備をするためだ。 「しまった…宿題やってくんの忘れた。」 さすが、俺である。いつもいつも期待を裏切らない。 …… 今から忌まわしき【それ】をやり遂げようと、一瞬考えた俺であったが… どうやら時間的にそれは不可能のようである。 「学校行ってハルヒか国木田に見させてもらう他ないな…。」 頼るべきは友である。あ、いや、前者が果たして言葉通りの友なのかどうかは承服しかねるが… しかも冷静に考えてみれば、ハルヒが俺に宿題を見せてくれるなど、とてもではないがありそうにない。 おそらく、『あたしに頼るくらいなら自分でやれ!』の一蹴りでこの会話は終了だろう。 「…そういやハルヒ、随分と消沈してたな…。」 再び夢のことを思い出す俺。おかしなことと言えば、 ハルヒの様子も十二分にそれに該当するものであったからだ。 …俺は回想していた。ハルヒによって、閉鎖空間に呼ばれたあのときを。 ハルヒは新世界を構築する際に俺を閉鎖空間に呼び出した。なぜ俺が呼ばれたのかは古泉曰く、 『あなたが涼宮さんに選ばれた人だからです。』だそうだが。そこで俺が…まあ、あまり 思い出したくはないが…。とにかく、結果的に世界は元に戻り、事なきを得たわけだ。 まさか、今回俺が見たあの夢も、実はハルヒの能力に関したものだったのだろうか…? もしそうであるなら、夢の中でのハルヒの様子がおかしかった理由も説明がつくが…。 しかし、それではどうも俺には腑に落ちない点が多い。仮に、あれがハルヒによって 引き起こされたものだとしよう。ならば、あの世界はまず閉鎖空間のはずである。ご存じの通り、 この空間には本来古泉のような超能力者しか出入りができないはずだが、あの夢の中で 確かに俺は見たのである…この現実世界とほぼ差し支えのない、いや、現実世界そのものと言っても 過言ではないくらいの数の人間を。デパートで買い物をする客、地震で死んでいった住民、 校舎の瓦礫の下敷きとなって死んでいった生徒たち等…。 確かに、超能力者と全く関係のない第三者が閉鎖空間に呼びだされるという稀なケースもあるにはある。 俺が世界改変時ハルヒによって閉鎖空間に呼ばれたあのときのように。しかし、あれはあくまでハルヒに 呼ばれたがゆえの結果。閉鎖空間に一般人が呼び出される場合、まずハルヒ本人がそれを願ったかどうか、 それが最も重要なのである。 しかし、今回の夢に出てきた多くの一般人をハルヒ自ら願って呼び出したとは…俺にはとても思えない。 なぜか? ハルヒが人を死ぬことを望むはずないからだ。 承知の通り、あの夢の中では多くの人が命を落とした。 あの世界で起こる事象は無意識ながらもハルヒの深層心理と深く結び付いており、 つまりその理屈でいくと、ハルヒは天変地異による人間の大量死を願望として抱いていたことになる。 しかし、それがありえないことを俺は知っている。ハルヒ自身が自分の周りにいる宇宙人、未来人、超能力者に 気づかないことが何よりの証拠だ。ご察しの通り、これら3者はハルヒの願望によって出現したものであり、 にもかかわらず、ハルヒはそれらの存在を認知していないという矛盾した二重構造を成している。 これは一体どういうことか?ハルヒは願望としてはいてほしいと願っていても、それらが現実に 存在しうるわけがないという、いわゆる常識的かつ理性的な感情を密かに抱いている… というのが事の真相だ。分かりやすくいえば、ハルヒは【常識人】なのである。 例えば去年の夏、孤島での出来事。ハルヒが何かしらの事件が起こることを熱望していた最中に 起こった殺人事件。結果として古泉ら機関による自作自演劇だったわけだが、つまりはハルヒは、 事件は事件でも人が死ぬといった常軌を逸したものは望んではいなかったというわけである。 さて、いい加減納得してもらえただろうか。つまりハルヒは根本からして破壊願望など 抱くことはありえず、よって今回の事態もハルヒ本人が引き起こした可能性はゼロに近いのである。 …… 問題は解決したはずなのに、喉に何かがひっかかったかのようなモヤモヤ感…これは一体何だろう? …… 単なる夢…ハルヒのせいでないのなら、あれは単なる夢だったということになるが、 それにしては妙に感覚が生々しかったのはなぜだろうか? そもそも夢の中というのは本来痛みを伴わないはずである。漫画やアニメ等で 夢か否かを判断するために頬をつねったりする光景はもはや誰もが知るところであるだろうし、 まあ別に、漫画アニメに限らずともそれが通説であることはまず間違いない。 だが、俺は地震によって体を地面に強打している際 確かに痛みを感じているのである。 そうでなければ…夢の中で数時間にわたって気絶することなどありえない。 さらに言うべきは、俺が夢の内容を一部始終はっきりと…まるで本当に体験したのではないか? と言っても差支えないくらい鮮明に覚えているということ。たいてい、夢というのは見ていても 忘れる場合がほとんどだし、仮に覚えていたってそれを事細かに記憶しているケースはまずない。 そして、極めつけはハルヒの尋常ではない様子。 『助けて!』『あたし自身が怖い』『あたしを守って…』等の言動 …… どう客観的に捉えたって、あれは俺に助けを求めていたとしか考えられない。 もしかしたら、ハルヒはそれを伝えるために俺の夢に何らかの干渉を… いや、さすがにこれは考えすぎか。痛みはともかくとして、この場合は【単なる夢】でも説明がつく話だろうし…。 …… いかん、考えれば考えるほどわけがわからんくなってきた。 もうこの夢に関しては考えるのはよそう、いくら考えたって明確な結論など出やしないさ。 ただ、念のために一応話しとく必要はあるかもな…。 「もしもし、俺だ。」 「何か…用?」 俺は電話をかけた。ありとあらゆる方法でこれまで異常事態解決に尽力してきてくれた… そう、長門有希に。SOS団員に助けを求めるとなれば、思いつくのはまずこのお方であろう。 「昨日の夜、ハルヒに何かおかしなことはなかったか?」 「…通常の閉鎖空間に限っては昨日は発生していない。」 「通常のって…それはどういうことだ?」 「昨日の夜から深夜にかけてごく小規模な閉鎖空間が発生するのを一度だけ観測した。ただし、 それは通常の閉鎖空間とは異なり、空間形成を司る中核体が脆弱だったため内部組織を維持できず、 発生してわずか2.63秒で消滅した。ただそれだけのこと。」 「そうなのか…でも、小規模でも閉鎖空間ってのは、やっぱハルヒはストレスか何かを貯め込んでるってことか?」 「そのへんについては深く考える必要はない。そもそも昨日の閉鎖空間のレベルではストレス、 いわゆる欲求不満自体があったかどうかすら判別不可。単に涼宮ハルヒが無意識下に引き起こした、 あくまで誤差の範囲内での反応と見なすのが現状では一番。」 …? 「わかりやすく例えるならば、ある人間が喉が渇いたという理由で、 自身の一日における平均水分補給量にプラスしてコップ一杯分、その日は多く水分を摂取したようなもの。」 これは長門にしてはわかりやすい例え…なのか? 「ということはあれか、昨日の閉鎖空間はあってもなくてもどうでもいいくらい、 気にしなくてもいいものだったってことか?」 「端的に言えばそういうこと。」 なるほど、ならハルヒに何かあったわけじゃなさそうだな。俺の考えすぎか…。 「ありがとう長門!いつもいつもすまないな。」 「別にいい。しかし、なぜこのような質問を?」 「いや、なんでもないんだ。俺の気のせいってやつだな。」 「そう。」 「じゃ、また学校でな!」 「また、学校で。」 そう言って俺は長門との電話を終えた。あの万物万能の長門先生から太鼓判を押されたんだ、 ハルヒのことは特に気にする必要はなかろう。 …まだ時間はあるな。一応閉鎖空間の専門家古泉にも電話しておくとするか。もちろん、長門の言ったことは 信じてるさ。ただ、実際あの空間に出入りするやつが…昨日のあの空間をどう認識したかってのが 気になってるだけで、ようは単に感想を聞きたいだけだ。それだけのために電話をかけるのもアホみたいだが… まあ相手が古泉だし別にいいだろう。あ、いや、決して古泉をバカにしてるわけではないぞ?たぶん。 …… 「もしもし、俺だ。」 「おやおや、あなたですか。おはようございます。朝っぱらから 僕なんかに電話をかけてくださるとは、一体どういう風の吹きまわしでしょう?」 「いちいち長文句を言うな、電話きるぞ。」 「ははは、すみません。で、どういうご要件で?」 「長門から聞いたんだ。昨日小規模だが閉鎖空間が出たんだってな。」 「その通りです。まあ、現れてから数秒もしないうちに消滅してしまわれたので、 僕たち超能力者が入る余地などありませんでしたけどね。もちろんそんなわけですから、 神人も一切現れておりません。あなたが心配するようなことはないと思いますよ。」 やっぱ古泉からみても、あの閉鎖空間はほとんど害をなすもんじゃなかったんだな。 「そうか。ところであーいう現象は頻繁に起こってたりするのか?」 「いいえ、滅多に起こりませんね。とはいえ、現在の涼宮さんの精神状態には ほとんど問題はないわけですから、特に考えるべき事態でもないことだけは確かでしょう。」 そうか、それだけ聞けりゃ満足だ。 「ご丁寧に説明どうもな。じゃ電話きるぞ。」 「お役に立てて光栄です。しかしこのような質問をなさるとは、 何か涼宮さんの異変に心当たりがあるようなことでもお有りですか?」 おお、古泉なかなかお前も鋭いじゃないか。まあ、別に語らずともいいだろう…俺の杞憂で終わりっぽいしな。 「いや、なんでもないんだ。気にしないでくれ。」 「そうですか。それではまた学校で会いましょう。」 「おう、じゃあな。」 電話終了っと。これで悩みはほぼ解消したってわけだ。一件落着だな。とはいえ内容が内容なだけに、 夢の中での凄惨な光景はしばらく忘れられないだろうとは思うが…。そんなことより、 今は目の前にある宿題だ…むしろ、こっちのが死活問題だッ!!早く朝飯食って学校行くとするか。 この段階では俺にはまだ気付きようがなかった。 あの夢が、これから起こる恐ろしい事件の序章でしかなかったということに。 飯を食い終わり、学校へと向かう俺。 「しっかし…。」 いっつもいっつも登校時に立ちふさがるこのなっがい坂は、いい加減どうにかならないのかね? 今日はまだいい。遅刻を免れるため走っていく日などは、もはやただの死神コースへと成り果てるのだから、 正直たまったものではない。学校側も学校側だ、こんな丘の上に学校を建てるなど 一体何を考えているのだろう?生徒の身にもなってほしいもんだね。切実にそう思う。 「あ、キョン君!おはようございます!」 ふと声をかけられる。この可愛らしいスイートボイスは…もはやあの方しかいないであろう。 「朝比奈さんじゃないですか。おはようございます!」 そう、まごうことなき、我らがSOS団随一のマスコットキャラクター、朝比奈みくるさんである。 「こんな所で会うなんて奇遇ですね。」 「ふふ、私もちょうど今来たところなの。…どうせだから学校まで一緒に歩いて行きませんか?」 「もちろん構いませんよ。」 いやはや、まさか登校途中に朝比奈さんに会えるとは夢にも思わなかった。さっきまで 坂がどうのこうの愚痴を吐いていた自分がきれいさっぱり消滅してしまっていたのは言うまでもないだろう。 それにしてもラッキーな日である…朝比奈さん効果で、今日も一日なんとか乗り切れそうな自分がいる。 …… そういや昨晩の夢のことをまだ朝比奈さんには伝えてなかったっけ。いや、夢の話に限っては まだ長門や古泉にも話してはいないか…あくまでハルヒの容態を確認しただけだったなそういえば。 俺が今朝、ハルヒを除くSOS団の中で朝比奈さんにだけ電話をかけなかったのには理由がある。 まず、朝比奈さんには長門や古泉のようにハルヒの様子を確認すべく技術を持ち合わせていない。 よって、ハルヒのことを尋ねたとしてもそれは野暮というものだろう。 まあ、実際は【変に情報を与えて朝比奈さんを混乱させたくない】ってのが 俺の最もなところの理由であるわけだが。いくらあの夢に異変性・特殊性を感じたところで、 所詮客観視すればただの夢にすぎないのである。あくまで夢である。そんな曖昧かつ抽象的不確定情報を べらべらしゃべってみようなどとは、俺は思わない。特に朝比奈さんのようなタイプなら尚更である… 状況を把握できずオロオロし、必要以上に心配した挙句、疲弊してしまう彼女の姿を… 俺は容易に想像できる。そういうわけで、俺は朝比奈さんには電話をかけなかった…というわけである。 「キョン君、今日は私いつもとは違うお茶の葉をもってきてるんですよ♪」 「そうなんですか。一体どんな味のお茶なんです?」 「ふふふ、それは秘密です♪放課後つくってあげるからそのときまで楽しみにしていてね。」 「それはそれは、楽しみにしときますとも!」 朝比奈さんのお茶を飲めるというだけでも幸福そのものだというのに、ましてや俺たちSOS団のために 粉骨砕身して新たなお茶を作ってくださるとは、いやはや、もはや感謝しても足りないくらいですよ朝比奈さん。 これでまた、今日一日頑張れそうな俺がいる。 …さっきから朝比奈さんに元気づけてもらってばっかだな俺。 こんなお方に例の夢のような重苦しい話など 本当お門違いというものであろう。 皆も知るように朝比奈さんは未来人なわけであるが、時々そのことを忘れかけてしまう自分がいる。 まあ、仕方ないであろう。未来人にもかかわらず、禁則事項とやらで未来のことは一切話ができないようだし 普通に接していれば、彼女がこの時代の人間ではないなどと… 一体誰がどうやって判別できようか。 未来か… 未来という言葉に何かがひっかかる。俺は何か大事なことを見落としているような… …… そうだ…俺ははっきりと覚えている。あの惨劇が起こった日は… 12月23日 夢の中に俺が身を置いていた世界での日付である。そして、あの世界の俺には【自分が高校二年生だ】 という確かな自覚をもっていた。今の俺も同じく二年生である。そして今日は11月28日。 つまりこれはどういうことか? いや、まあ考えすぎだよな。長門や古泉が異常ないと言ってるんだ、別に俺が憂慮すべき事態でも何でもない。 うん、そうだ、あれはただの夢なんだ。そうに決まってる…!とりあえず俺は、そう強く言い聞かせることにした。 「どうしたのキョン君?何か元気がないみたいだけど…大丈夫?」 おっと、いけない…思ってることが顔に出ちまったか。 まあ、あれだけ深刻に長考してりゃ、そう思われても仕方ないよな。 …ふと思ったんだが。朝比奈さんは未来についての情報をある程度把握しているはずである。 未来人なのだから当然と言えば当然なのであるが。どうする、朝比奈さんに何か聞いてみるか? 仮に何か知っていたところで、『禁則事項です。』と返されるのがオチかもしれないが… しかし何らかのヒントは得られるかもしれない。俺は当初の理念を貫き、あくまで 朝比奈さんを混乱させることだけはないよう、質問に変化球をつけて尋ねてみた。 「朝比奈さん、突然こんなことを聞くのもあれですが、何か最近変わったことは起きませんでしたか? 例えば、未来のほうから何らかの報告を受けたりとか。」 ちょっと足を踏み入れすぎた発言だっただろうか。しかし、今の俺にはこの表現が限界である。 「み、未来からですか?」 突然の思わぬ質問に動揺する朝比奈さん。 「いえ、特に何もないですよ♪」 かと思えば明るくお答えなさる朝比奈さん。内容を問うのではなく、あるかないかという類の質問なら 禁則事項とやらにもひっかからないのではないか…?という俺の読みは当たった。 「最近は何々しろみたいな指令もあまり送られてこないから私としては助かってるんですよ。 その分、時間をおいしいお茶を作ったりとか他のことに回せるわけですから♪」 いやー、なんとも幸せそうな顔をしてらっしゃる。これでは、 さっきまで長考していた自分がまるでバカに感じられる。もはや杞憂の一言に尽きるのであった。 さて、では事態がややこしくならないためにも先手を打っておくとするか。 「それを聞けてよかったです。最近の朝比奈さんは特に明るいんで、 きっとそういう面倒な指令とやらもないのかな…と思ってちょっと確認してみたんですよ。」 「あら、そういうわけだったんですね。そんなに私明るく見えますかぁ?」 「ええ、それはもう。」 「もー、キョン君ったら♪」 よし、うまく話をはぐらかすことができた。なぜ俺がこういう質問をしたのかに対して、朝比奈さんの場合は 長門や古泉のように『ああ、そうなんですか。』のごとく簡単には納得してくれそうにないと思ったのだ。 彼女のことだから、心残りになって引きずることもおおいに有り得る。ならば、先手を打って俺からそのワケを 説明したほうが、彼女もすんなり納得してくれると思ったのである。そして、それは見事に成功した。 …操行しているうちに、俺たちはいつのまにか学校へと着いていた。 これでしばし彼女ともお別れである。なんとも、貴重な時間でしたよ朝比奈さん。 「じゃあ私教室あっちだから、また放課後ねーキョン君!」 「はい、ではまた!」 名残惜しいが、朝比奈さんと別れ教室へと入る俺。そういえば、俺はかばんの中に入っている 忌々しい宿題という名の悪魔を処理しなければならないのであった。早速国木田を探そうとする。 …… 「いねーな…。」 もうすぐ朝のHRの時間だというのにあいつはまだ来ていなかった。 優等生なだけあってあいつが遅刻することなど考えられないのだが…。 「よーキョン!なんだ、国木田のやつ探してんのか?あいつなら今日休みだぜ。」 俺は体を硬直させた。 「ん?どうしたキョン?もしかしてお前も体調悪いのかよ?まあ、こんな季節だし仕方ねーっちゃ仕方ねーけど。」 確かに11月末なだけに気候は寒く、風邪をひきやすい時期というのは間違ってはいないだろう。 ただ、俺がさきほど体を硬直させた理由は…それとは別にある。 「そういうお前は元気そうだな谷口。バカは風邪ひかないってのは本当なのかもな。」 「て、てめー!人が心配してりゃいい気になりやがって!」 妹を今朝見たときも同じセリフを言ったが、また敢えて言わせてもらおう。『生きていてくれて本当によかった』と。 夢の中での谷口の死に様が、鮮明に記憶されているだけに…尚更である。 …… っと、そんな感傷に浸っている場合ではない。例の宿題をなんとかしないといけないんだったな。 いつものように、俺の後ろ席に座ってるやつに声をかける俺。 「よっハルヒ。おはよ。」 「あ、キョン、おっはよー。相変わらず間抜け面ねー。」 朝っぱらからなんてひどいことを言い出すんだこいつは。まあ、いつものハルヒだし、別に驚くことでもない。 それにしても夢の中で意気消沈してたお前は一体何だったんだろうな。やっぱ単なる夢だったんだな。 もう知ったこっちゃねーや。 「ところでな、ハルヒ…数学の宿題のことなんだが…。」 「へえ~今日は国木田が休みだからあたしのノートを写させてもらおうって、そういう魂胆なのかしら?」 う…!?まずい、ハルヒ様には全てお見通しってわけか… 「ダメに決まってるでしょ。こういうのは自分でやらないと力つかないってのは、あんたもわかってるでしょ。」 うむ、正論である。涼宮ハルヒにしては珍しくまともなことを言ったではないか。 よしよし…と感心している場合ではない。 「頼むハルヒ!これが今日中に提出だってのは知ってるだろ? 俺の学力じゃどう考えたって間に合いそうにないんだ…頼む!力を貸してくれ!」 俺は必死に嘆願してみた。…まあ、徒労に終わりそうだが。 「そうね…ま、考えてやらないこともないわ。」 マジですかハルヒさん。こりゃ意外な返答だ。 「その代わり、それ相応の条件は飲んでもらうけど。」 …… 世間は甘くない…しみじみとそれを痛感する。 「わかった…飲めばいいんだろう。で、その条件とやらは一体何なんだ?」 「それはね…。」 ハルヒの言葉に耳を傾ける俺。 「あたしに曲を作って提供することよ!!」 ザ・ワールド、そして時は動き出す …え? 曲?作る?提供? 「というわけで、頼んだわよキョン!!じゃ、これ、あたしの数学のノート。大切に使いなさいよ。」 ハルヒからノートを手渡される俺。これで宿題という不安材料は解決したわけだが… どうやら、それと引き換えに大変な問題を背負っちまったらしい。俺は。 「ハルヒ…とりあえず説明を要求するぜ。曲作りってどういうことだ??」 「イチイチそんなことも説明しなきゃいけないわけ?団員なら黙ってても 団長の心を察せられるくらいの力量はもつべきよ。」 いや、これはあきらかに何の脈絡もなしに作曲の話をだしてきたお前に問題があるだろう。 もしこの状況でハルヒの心中を見抜けたやつがいたのなら、今すぐ俺のところに来い。 洞察力のスーパーエキスパートとして、俺が称えてやる! 「…仕方ないわね。とはいえ、もうすぐ授業も始まるし話す時間はないわ。1時間目が終わったら話してあげる。」 ハルヒにしては珍しく良心的な回答だな。常識人の俺がきちんと理解・納得できるような説明を どうかそんときは頼みますぜハルヒさんよ。そう切実に思いながら、俺は宿題に手をつけるのであった。 さてさて、人間の時間概念というものは随分とまた環境に左右されるものである。TVで延々と バラエティー番組を観ていたり、はたまたファミレス等で親しい知人と会話をしていたりしたら、気付かない間に 自分の思った以上もの時間が経過していたというのはよくある話だ。人間というのは心理学上、自身が楽しい と感じている状況においては前述通りの事象が成立する傾向にあるようである。これを逆説的に捉えれば、 つまり自身が嫌だと感じる状況下では、時間の経過は非常に遅く感じてしまうのである。 ま、要は授業が俺には苦痛ってことだ。といっても俺にかかわらず大多数の万人はそう思っているに違いないが。 とりあえず朝の朝比奈さんスマイルを活力にし、俺はこの長々しい時間を乗り越えた。 「さあ、聞かせてもらうぞハルヒ。」 「あんたねえ…そんな急がなくてもあたしは逃げも隠れもしないわよ。」 おいおい、逃走でもされたら 俺はこのモヤモヤとした感情を一日中抱えたまま過ごすことになっちまうぞ。 とりあえず、説明してくれる様子で助かった。何しろ、いきなり『作曲しろ』である。こんな要求を突きつけられ、 作曲の『さ』の字も知らない人間が、一体どうやって平静を装ってられようか?いや、できるわけがないだろう…。 「今年の文化祭、あたしがギターもって歌ってたのは覚えてるわよね?」 覚えてるも何も、忘れられるわけがない。 未だにバニーガール姿のお前が目に焼き付いて離れないぜ。いろんな意味で。 「その後、あたしはENOZのメンバーから彼女たちの作った曲のデモテープとか いろいろ聞かせてもらったんだけど…改めて思ったんだけど、彼女たち凄いのよ! とても高校生が作ったとは思えない出来ばかりだったわ!!」 だろうな。音楽的素養のない俺でも、あのときは凄さを感じずにはいられなかったぜ。言うまでもないが、 この『凄さ』とは、ハルヒや長門が纏っていた変な衣装による視覚的衝動を取り除いた、あくまで 曲そのものの純粋な感想だ。メジャーなロックバンドのだす曲と比べても遜色ない出来だったと思う。 あー、ハルヒの言いたいことがわかってきたような気がする…。 「だからさ、あたし感動して!SOS団もそんなふうにオリジナルな曲を作って演奏できたらな~と思ったのよ!!」 やっぱりそうか。要はSOS団もバンドを組んでENOZみたく頑張りましょうってことか…まあ、バンド自体は 面白そうだし 別に反対しようとも思わない。長門みたいな高度なテクを求められるのなら、話は別だがな! 「ハルヒよ、大体の概要はわかった。自作曲をやるのは良いとしてだな、 なぜそれを作るのが俺なのか…そこんとこキチンと説明してもらおうか。」 もはや俺の言いたいことはそれだけだ。オリジナルをやるにしても、なぜよりにもよってこの俺が 作らにゃならんのだ??本来なら言いだしっぺのハルヒ、あるいは何でもこなす万能長門さんが 遂行するお仕事であるはずだろうに。まさかあれか、俺がSOS団の中で雑用係だからとかいう むちゃくちゃな理由じゃねーだろーな? 「だってあんた雑用でしょ。そのくらい頑張ってもらわなきゃ。」 やっぱりそうですか。団長さんよ、あんたはホント期待を裏切らないな。 悪い意味で。できれば、そういう期待ははずれてほしかった…。 「とは言ったって、別にコード進行から全楽器パートのフレーズまで、みたいな全てを考えてこいって 言ってるんじゃないわ。あんたはボーカルのメロディーライン考えてくるだけでいいの。」 ?とりあえず俺の負担は減ったとみていいのだろうか。 「メロディーラインだけ…ってのはどういうことだ?」 「あんた、まさかその意味すらわからないって言うんじゃないんでしょうね!? そこまでアホキョンだったとは思わなかったわ…心底がっかりね。」 待て待て待て待て、勝手に失望するんじゃない!さすがに意味ぐらいわかるっての! 「そういうことじゃなくてだな、それ以外の作業…例えばお前がさっき言ってた… コード進行とかいうやつか。それは一体誰がやるんだ?」 「あー、そういうことね。それはあたしがやるから、あんたが出る幕じゃないわ。」 いや、むしろ出なくてホッとしましたよハルヒさん。 …… まあ、こいつがコード進行を担当するっていう理由はなんとなくわかる。ハルヒのことだ、 このSOS団バンドにおいても、ENOZ同様ギターボーカルでコードバッキングに徹するつもりなのだろう。 最もコードが絡む役柄なだけに、本人がそれをやったほうが良いっていうのはあるんだろうな。 「他作業の分担具合はどうなってるんだ?」 「他はそうね、有希はギターフレーズ、みくるちゃんはキーボードフレーズ、 古泉君にはドラムとベースのフレーズを作ってもらうつもりよっ!そうそう、歌詞はあたしが作る予定。」 おお古泉よ、お前は二つも楽器フレーズを作らにゃならんのか。どういうわけかは知らんが、 これも副団長の務めと思ってせいぜい頑張ってくれ。 …ん?待てよ 「今のフレーズ担当を聞いてまさかとは思ったんだが、 誰がどの楽器を担当するかってのはもう決まってたりするのか?」 「あったりまえじゃない!あたしはギタボ、有希はギター、みくるちゃんはキーボード、古泉君はドラム。 …そしてキョン!あんたはベースよ!」 どうやら俺はベースをマスターせにゃならんらしい。 「それはどうやって決めたんだ?」 「イメージよ!」 「……」 まあ、正直ベースでよかったと密かに思ってはいる。少なくともギターだけは絶対嫌だったからな… こいつが求めてそうな高等テクは長門にしかできそうにないし。ベースならそこまで目立つわけでもないし、 何より俺自身が低音好きな人種だからな。他メンバーの楽器具合にも大体納得だ。 特に長門がギターなのは…もはや誰もが賛同するところであろう。 「最初みくるちゃんにはタンバリンでもやらせようかって思ってたんだけどねー、 実際それするとドラムの音にかき消されちゃうじゃない?同じ打楽器だから役割かぶっちゃうし。」 いや、それ以前の問題だろう…そもそもバンドでタンバリンなんて聞いたことないのだが… まあ、ハルヒのその判断は適切だろうよ。ギターやベースの横で必死にタンバリンを叩く不憫な朝比奈さんなど 見たくないからな。光景自体には萌えたりするかもしれんが、それとこれとは別問題だ。 「大体のところはわかった。で、俺はメロディーに専念するわけだが、まずは曲作りの土台ともなる コードを知る必要があるぜ。長調なのか短調なのか、みたいに曲調がわからなけりゃ作りようがないからな。 というわけで、そこは任せたぞハルヒ。」 「何言ってんの?あんたがまずメロディーを作るのよ!」 何やらハルヒは意味不明なことを言ってきた。 「ちょっと待て。そりゃ一体どういうことだ?」 「だから、あんたのメロディーをもとにあたしがコードを作るってことよ。」 …とりあえず、俺はこの言葉を言わせてもらおう。 「順序が逆じゃないか?」 「つべこべ言わない!とにかく作ってくること!いいわね!?特に期間は設けないけど、 あんたが作らなきゃこっちも作りようがないんだから!なるべく早くお願いね!!」 もうここまで来ると手のつけようがない。わけがわからないが、 とりあえずここは同意しておこう…それが賢明ってもんだ。 さてさて、操行するうちに2時間目が始まってしまった。 とりあえずさっきからのモヤモヤ感が解消したって点でさっきよりは快適な授業を送れそうだ。 まあ、それでも、俺にとって授業が苦痛であることには変わりないわけだが。 午前の部を経て、時は昼休み。ところで、ここで俺はある深刻なことに気付いたんだが…。 「どうやってメロディー作りゃいいんだ…??」 やり方がわかっていても、そのために必要な設備を俺は持ち合わせてはいないではないか。 ピアノやギター等の楽器で音を鳴らさない限りメロディーが把握できないのは自明であるが、 残念ながらこれらは家にない。つまり実行不可というわけである。 「詰んだな…。」 とりあえずハルヒに話してみるか。もしかしたら何か貸してくれるかもしれん…という淡い期待を抱き、 教室を見渡すが、すでにハルヒの姿は見当たらなかった。もう食堂へ向かったというのか…相変わらず 行動の速い奴だ。とはいえ、別に焦る必要もないだろう。どうせ放課後になれば否応にも例の部室で ハルヒと顔を合わせにゃならんくなるんだし、そのときにまた事のあらましを聞けばいいだけだ。 ってなわけで、ひとまず落ち着いた俺は用を足しにトイレへと向かった。 …… 「おや?こんなところで会うとは奇遇ですね。」 学校のトイレで他クラスのやつと対面する、この状況の一体どこが奇遇だと言うんだ?? 完璧に奇遇の使い方間違ってるぞ。 「それもそうですね、失礼しました。ところでどうされたのです?何か浮かない顔をしてますが。」 どうやら古泉から見て、俺は浮かない顔とやらをしていたらしい。ハルヒの例の命令で、俺は無意識のうちに 若干鬱ってたのか、それとも古泉の洞察力が鋭かったのか?まあそんなことはどうでもいい。 「実はだな…」 俺は事の詳細を簡潔に説明した。 「なるほど、そういうことですか。実はその話については僕も聞き及んではいましたよ。」 何、そうなのか。 「それについてもっと込み合った話をしたいところですが、さすがにここで立ち話はなんですね…。」 確かに、トイレの手洗い場で長話を延々とするわけにもいくまい。 「どうせですし、部室へでも行って話をしませんか?昼ごはんもそこで食べればいいでしょう。 もしかしたら長門さんもいるかもしれませんし、悪い提案ではないと思うのですが。」 長門か…あいつならいろいろ知ってそうだな。というか、あいつが知らないことなんて ほとんどないような気もするが。とりあえず俺達はトイレを後にし、部室へと向かった。 「あ、キョン君に古泉君!どうしたんです?」 なんと、朝比奈さんまで部室にいらっしゃった。ちなみに隣には長門が顕在である。 「いえ、ハルヒの思いつきで始まった作曲云々の話でも古泉としようと思って ここに来たわけですね。朝比奈さんはどうしてここに?」 「私も同じなんです。どうしたらいいかわからずに…とりあえず、長門さんに聞けば何かわかるかなあと思って。」 そりゃそうだ。いきなり曲を作れと言われ取り乱さない人間などどこにもいない。 つくづくSOS団員はハルヒに振り回されてんだなと実感する。 「まあ、とりあえずご飯でも食べながら会話といきませんか?」 古泉が言う。言われなくてもそうするさ。 …… さて、一体何から話せばいいのやら。 「あなたは確かメロディーラインの作成でしたよね?それについて何かわからないことでもお有りですか?」 なんだ、俺の役割もすでに把握してんのか。 「いや、別にそれ自体には問題ないんだが…作曲の手順というかな、メロディーの後に ハルヒがそれにコードをつけると言ってたんだが、順序が逆のように思えてな。 コードとかで曲の雰囲気がわからなけりゃ、普通メロディーも作れねーんじゃねえかと思ってな。」 「なるほど、確かにメロディーは曲の中核なだけに、材料もなしにゼロから作り出すというのは かなり難しい作業ですね。しかし、逆もありですよ。涼宮さんの立場になったとして、 いきなりゼロからコードを作りだすことも難しいとは思いませんか?」 「それはそうなんだろうが…少なくとも前者よりは容易いだろう?コードは基本CDEFGABの 7通りとその派生しかないが、メロディーなんか無限大に作れるじゃねーか…。」 「おっしゃる通りです。コード進行にはパターンが限られてますからね…現に最近の邦楽がその証拠ですよ。 有線やラジオから流れてくる音楽を聴いて、どこかで聴いた覚えがあるようだと錯覚したことはないですか?」 確かに…あるな。もしかして俺が最近の音楽をあまり聴かない理由はそれか? まあ、単に俺が流行に疎いって可能性もあるが、90年代のJ-POPで満足してる感はあるような気はする。 「あの山下達郎さんや坂本龍一さんですら、そのことについては言及していますからね。 今の曲が過去曲の焼き直しのように感じるのは決して気のせいではないでしょう。」 「おいおい…なら、なおさらメロディーから作り出すってのは理不尽すぎんじゃねーのか? やっぱこれに関してはハルヒを説得する必要があるように思えるぜ。」 「それが好ましいやり方だとは僕は思いませんね…。」 好ましくないってのはどういうことだ古泉?お前は、俺が苦しむ姿を見たいってか? 「まさか、滅相もないです。そうではなく、もしこれが涼宮さんが望んでいることなのだとしたら、 あなたはそれを叶えてあげなくてはいけないのではないですか?」 …いや、何を当たり前のことを言っとるんだお前は。 ハルヒが俺に命令してる時点で、つまり望んでるってことじゃねーか。 「そういうことではなく、涼宮さんはあなたが何事にも縛られず、 純粋に感じたままのメロディーを一から作り出してくれることに期待しているのですよ。 簡潔に言えば、涼宮さんはあなたのメロディーをもとにコードや歌詞を付けたいと思っているわけです。」 「俺に期待されてもな…そもそもなぜそれが俺なんだ。」 「まさか、あなたはそんなことも理解していなかったのですか?涼宮さんはあなたのことが… いいえ、言うのはよしておきましょう。正直あなたがここまで鈍感だったとは思いませんでした。」 「涼宮さんが可哀相です…。」 「…鈍感。」 な、何だ何だ??先程まで二人っきりで会話を交えていた長門や朝比奈さんまでもが いきなり古泉との会話に割って入ってきたぞ??しかも全員そろって俺を非難ときた。 いや、いくら俺でも言わんとしていることはわかる。わかるが…ハルヒがそういった感情を俺に抱くとは、 正直考えられねーんだけどな…この3人の考えすぎなのではないかと思う。 「落ち着いてくれ3人とも。とりあえず、メロディーから作らにゃならんって状況だけは理解したさ。」 しかしゼロからの出発…か。ハルヒも酷なことを求めるものだ…。 「まあまあ、気を落とさないでください。」 気を落とさないで一体どうしろと言うんだ古泉よ。 「あなたからすれば、【メロディーからコード】の順番は、いつもの涼宮さんのごとく 荒唐無稽な手法に思えるのかもしれませんが、実はそうでもないんですよ。 この作成法はプロの作曲家やアーティストも普通にやっていることなんですから。」 何、そうなのか?? 「本当です。というのも、そっちのほうが想像が膨らみやすいという方も世の中にはいるらしく。 つまり、メロディーから作るのかコードから作るのかは本人の資質しだいだということですよ。」 そりゃ驚いた。もっとも、俺がどっちの資質かはわかりようもないが…とりあえず安心はした。 ハルヒの勅令から来る特例的なやり方ではないとわかっただけでも、不安材料が一つ解消したようなもんだ。 「しかし古泉、お前妙に音楽に詳しいな。」 「実は自分、中学時代バンドをしていた経験があるんですよ。そういうわけで、知ってるところもある、 といった感じでしょうか。もっとも、僕の場合は一時的なものでしたので、継続的にライブ活動している 人達からすれば、僕の知識や経験など取るに足らないものでしょうけどね。」 そうだったのか…そりゃ初耳だ。まあ、こいつが自分の過去を語るなど 今までほとんどなかったからな。今度機会あったらいろいろ聞いてみるとしよう。 「つまり、お前はそのときドラムをやっていたというわけだ。」 「おやおや、バンドパートのこともすでに涼宮さんから聞いていたというわけですね。ご明察です。」 「俺はベースみたいなんだが…果たして大丈夫なんだろうか。やったこともいらったこともないんだが。」 「大丈夫ですよ、楽器は慣れですから。今度僕が教えてあげます。」 こいつはベースもわかるのか。万能だな。 「いえいえ、単に【ベースがドラムと同じリズム隊だから】に過ぎませんよ。バンドにおける この二つの楽器は役割が似てるんです…ゆえに詳しくなるのも必然といったところでしょうか。 リズムは演奏する上での絶対条件ですからね。極論を言えば リズムさえ合っていれば ギターやキーボードがどうであれ、グダグダには聴こえないというわけです。」 ベースは地味なもんだと思ってたが、結構重要な役割担ってんだな…まあ、よくよく考えてみりゃ 重要じゃない楽器なんてあるはずない…か。そんな楽器は、そもそもバンドポジションとして定着していない はずだしな。しかしあれか、もしかして楽器初心者は俺だけという構図か?それなら、尚更プレッシャーも かかるというものだが…。隣にいる女子二人の会話も落ち着いてきたみたいなんで、ちょっと尋ねてみるとする。 「朝比奈さんはキーボードやったことはあるんですか?」 「キーボードはないんですけど、ピアノなら何年か習っていたんですよ。」 朝比奈さんにピアノ…可憐な彼女にはなんとも相応しい楽器だ。 「それなら何を長門に聞いていたんです?弾けるのなら特に問題はないように感じますが。」 「えっとですね…私が言ってるのはそういう技術的な問題じゃなくて機能的な問題なんです。」 機能?キーボードのことか。そういやあれってボタンがたくさんあるよな… やっぱいろいろと多彩な機能がついているんだろうか。 「ひとえに鍵盤楽器といっても、キーボードはピアノと違ってストリングス、シンセリードみたいな 独特な音を使い分けなきゃいけないの。エフェクトのかけ方だって知らなきゃいけないみたいで…。」 なるほど…キーボードもいろいろと大変のようだ。 「つまり、そのあたりを長門に聞いたり確認していたというわけですね。」 「その通りです♪あと、長門さんに聞いていたのはそれだけじゃないの。 さっき古泉君がキョン君に【ベースとドラムのバンド的役割は似ている】って言ってましたよね?」 ええ、言ってましたね。 「同じように実はキーボードとギターも役割が似ているの。音をリードしていったり 飾り気をつけていくようなところがね。そのへんの調節具合を彼女と話していたの。」 「ギターとキーボードの関係上、どちらかが目立ちすぎると片方の音を殺してしまったりといった あまり好ましくない事態に発展しますからね。いつ、どちらがメインになるかやサポートに回るかなど、 そのへんの折り合いをつけていたというわけですね。」 「古泉君の言うとおりです。」 なるほど、なかなか的確でわかりやすい説明だったぞ古泉。やっぱ経験者は違うな。 「もっとも、そのへんもまずは曲のメロディーやコードがわからないことには何もできませんから… 曲調によって使う音やメインな楽器も違ってきますからね。というわけで、頑張ってね!キョン君!」 朝比奈さんに頑張れと言われて頑張らない男などまずいるのだろうか? いたら今すぐ俺のところに連れてこい!俺が一刀両断してやろう! …… さてさて、ところで俺は何か根本的なことを忘れているような気がするんだが… そもそも俺は当初ハルヒに何を聞こうとしてたんだっけ…。 そうだ、思い出した。なぜこんな大切なことを今まで忘れていた? 「古泉よ、俺がメロディーを作るってのはさっき言ったが、それをするための楽器や設備を 俺は持ち合わせていないんだ。そのへんハルヒは何か言ってなかったか?」 こればかりはいくらやる気があってもどうしようもない。 「そのへんは心配無用です。ENOZさん達との縁もあってか、軽音楽部の皆さんが楽器や作曲用ソフトを 貸してくれるみたいですよ。ここでいう楽器とは、あなたで言うならベースのことですね。」 マジか、なんて親切な人たちなんだ…ベースに作曲用ソフトか…ありがたく使わせてもらおう。 これでひとまず問題は全て片付いたというわけだ。まさか放課後までに解決できるとは思ってもいなかった… これもSOS団みんなのおかげだな。感謝するぜ古泉、朝比奈さん、長門。 キリのいいところで昼休み終了を告げるチャイムが聞こえる。弁当も食べ終わった俺たちは それぞれの教室へと戻り、再び忌々しい午後の授業へと励むのであった。 時は放課後。ようやく今日の授業から解放された俺は、後ろの席に座っている団長様に声をかけた。 「ハルヒ、今日は数学の宿題見せてくれて本当にありがとな。なんとか放課後の提出までに間に合ったぜ。」 「お礼は別にいいわ。それにしたってねえ…あたしだって本当はこんなことしたくなかったのよ。 他人のノートを写すだけなんて、朝にも言ったと思うけど一時しのぎにしかならないのよ! テストの時とか困るのはあんたなんだからね。次はないと思いなさいよ!」 「お前の言うとおりだ。以後気を付けるさ。」 「その代わり例のバンドのやつ、頑張ってよね!!あたしに合った最高のメロディーを考えてくるのよ!!」 「おいおい、俺はお前じゃないんだからさ…お前に合った最高のメロディーとか言われてもな、 抽象的すぎて把握しかねるぞ。」 「頭を捻りだしてでも考えるのが団員の務めってものでしょう!? 大体、音楽に具体性なんかないわ。あんた、そのへんわかってないみたいね。」 むむむ…確かにこいつの言ってることも一理ありそうだ。 「否定はしない。だがな、ならせめて曲調だけでも言ってはもらえないか。 お前に合った音楽をやりたいのなら、まず俺はお前の感性を問う必要があるぞ。」 「じゃ逆に聞くわ。あんたから見たら、あたしはどんな感じの曲が合ってそうに見えるの?」 そうくるとはな。ここはバカ正直に言っておくか。 「ありえないほど明るい曲だ。」 …… ん、なぜ黙るんだ?何か俺変なことでも言ったか?? 「あ、いや、あんたにしては珍しくストレートに言い切ったなあ…って感心してたのよ。 いつも何かと回りくどい言い方をするしね。」 回りくどくて悪かったな。 「それに、さっき音楽に具体性がないって言ってたのはお前だろ? なら、俺も理屈だの何だのそういうものは要らないと思ったんだよ。」 「ふーん…なかなか飲みこみが早いじゃないの!」 笑顔を輝かせるハルヒ。ようやく俺も臨機応変な対応をとれるまでに成長できたってことか… いや、慢心はいけないな。これからも気をぬかず頑張るとするか。 「で、結局俺がさっき言った曲調はお前的にどうなんだ?」 「いいんじゃない?あたしそういうの好きだし。にしても、どうしてあんたはそう思ったわけ?」 「単刀直入に言おう。イメージだ。それ以上でもそれ以下でもない。」 本当に単刀直入に言ってしまった。まあ、別にいいだろう。ちょうどお前が俺をイメージという理由で ベースを割り当てたのと同じ理由さ。理屈じゃないってのはまさにそういうことなんだなと、しみじみ感じる。 「イメージか…あたしってあんたにそこまでプラスに思われてたのね。」 プラス?ああ、そうか、こいつは明るいってのを良い意味でとっているというわけか。どちらかというと、お前の 【明るい】ってのはクレイジーに近いんだが…もっとも、それを言うのはやめておく。大惨事を引き起こしかねん。 「じゃあ、そういう曲調で作ってきてよね!これで話はオシマイね。」 「おいおいちょっと待て。他に何か追加注文とかはないのか?Aメロやサビはこんな感じにしたいとか。」 「そのくらい自分で考えなさい!それに、あたしのイメージ像を捉えられたあんたならきっと作れるわよ!」 おや、ハルヒに太鼓判を押されたようだぞ。その言葉、ありがたく受け取っておくとしますよ団長様。 「あ、いや、一応伝えておくべきことはあったわね。あたしの音域についてよ。」 音域…そうか、すっかり忘れていた。どこまで高い声や低い声が出るかというのは、人間それぞれ 十人十色のはずである。危ないところだった…もし俺がハルヒが歌えないキーの低さや高さで作っていたら、 一体何と言われたことか。特に前者においては注意せねばなるまい。男と女で音域が違うのは当たり前、 ゆえに、男の俺が無自覚のまま作っていたらキーが低音によりがちという事態になりかねない。 「高さの限界は高いD♯、低音は低いB…と言ったところかしら。」 …D♯だと??確かDでも女性にしては高いほうだったはずだが。 それからさらに半音上げとはな…歌手レベルじゃねーか。すげえなお前。 「わかった、把握したぜ。その枠内に収まったメロディーラインを作ってくるとしよう。」 「お願いね!ちなみに、特にこれといった期限は設けないわ。今のところバンドで何かに出れるような イベントもないしね。でも、早いのに越したことはないから、そのへんは胆に命じときなさいよ!」 へいへい、命じておきますとも団長様。 さてさて、いつもの通り部室へと向かった後、俺たちSOS団員は団長ハルヒによる一連の音楽活動の 布告を正式に受け…かといってそこから何か具体的な活動ができるかというとそうでもなく、とりあえず俺は 古泉とボードゲームを、朝比奈さんは編み物を、長門は読書を、ハルヒはネットサーフィンをという 毎度お馴染みの団活を過ごした後、今日のところは解散となった。 玄関へと着いた俺は自分の下駄箱を開けてみたわけだが、なんと中に手紙が入っているではないか。 …今回は一体誰からのどういう要件なのだろうか。ごく普通の男子高校生なら、下駄箱に手紙という シチュエーションにトキメキを隠さずにはいられないのであろうが…残念ながら、俺はごく普通の男子高校生 などではない。ハルヒと出会ってからというもの、俺はあまりに非日常的経験をしすぎてしまった。ゆえに、 俺はこういう手紙に対し、一般認識を持ち出すことができない思考回路へと変質してしまっているのである…。 手紙をもらって朝比奈さん大(ここで言う朝比奈さん大とは、未来からやって来た大人朝比奈さんのことである) に会ったこともあったし、今は亡き朝倉涼子に呼び出され殺されかけたこともあった。 せめて面倒ごとだけにでも巻き込んでほしくはないものである…そう願いながら、俺はその手紙を開封した。 その内容は以下のようなものだった。 『こんにちは!お元気にしていますでしょうか?いきなりこういう突然の手紙をよこしたことをお許しください。 キョン君の身の回りで近いうちに不穏な動きがあります。どうか、未来にはお気をつけください。 では、幸運を祈ってます 朝比奈みくるより』 …… なるほど、差出人は朝比奈さん大のようだ。しかも先ほどの願いも虚しく、 どうやらこれは…俺にとって良い知らせとは言えないようである。 「不穏な動き…ねえ…。」 朝倉の俺への殺人未遂、ハルヒや長門による世界改変、藤原&橘一派による朝比奈みちる誘拐事件、 天涯領域による雪山遭難事件に匹敵するような何かでも…これから起きるということなのだろうか? そして気になるべき点は、この『未来にはお気をつけください。』の文章である。 『未来』というのが一体何を指しているのか…? …ええい、考えていても一向にわからない。とりあえず、『未来』というワードを 心の奥底にしまっておくとしよう。何か、事態を打開できる重要なヒントなのかもしれない。 しかし… 「変だな…。」 こういう重大な案件ともなると、手紙よりも本人が出向いて直接口頭で説明してくれたほうが 効率的なのではないか?一応周りを見渡してみるが、人の気配はない。 っ!足音がする…誰か来る…! …… 「部室のカギ返してきたわよー、ってキョン何つったんてんの?」 かと思えばハルヒだった。いかん、少し朝比奈さんの手紙で過敏になりすぎてたな。 「あ、いや、ちょっとぼーっとしてしまってな。」 「もう、しっかりしなさいよね。そんなんじゃ年寄りになっちゃう前に痴呆になっちゃうわよ。」 相変わらずひどい言い草だな…まあ、ハルヒは置いとくとして、この件については長門に相談するのが 一番だろう。もっとも、今日はすでに帰っちまってるようだが。…よく見りゃ古泉と朝比奈さんもいないのな。 「何してんのキョン、帰るわよー。」 考えてもラチがあかないのでハルヒと一緒に帰ることにした。 「ところでキョン、何か最近変なこととか起こったりした?」 一瞬ビクンとなる。変なことと言われさっきの手紙のことを思い出す俺。 まさか、ハルヒに何か心当たりでもあったりするのか…? 「特にねえな…ハルヒは何かあったりしたのか?」 「無いからあんたに聞いてんじゃない!SOS団が発足してからというもの、あたしたちは力の限り 不思議探索に努めてきたわ!けどね、いまだ何かしらそういう大それたものは見つかってないじゃない!? そんな状況にあたしは憤りさえ感じてるのよ!!こんなに懸命に探してるっていうのに!!」 いつものハルヒだ。心清いほどにいつものハルヒだった。 そんなこんなで奴とも別れ、自宅へと着こうとしていたとき…玄関の前に誰かがいることに気がついた。 あれは…もしかして大人朝比奈さんか?? 「あ、キョン君!お久しぶりです!」 やはり朝比奈さん大であった。まあ、あのグラマーすぎる体型に 栗色に輝いた髪を見れば…遠くからでも認識可能というものであろう。 「ど、どうしたんです?こんな場所で?」 「えっと、キョン君に伝えたいことがあって…落ち着いて聞いてください。 これからキョン君は大変なことに巻き込まれていくんですけど…」 嗚呼…やはり、また何かの渦中に俺は置かれてしまうというわけなんですね… まあ覚悟はしていたんで、別にそこまでのショックはないというものです。あきらめる的な意味で。 「特に藤原くん達の勢力には気を付けてください。それを心得ていれば、きっと未来は良い方向へと 好転するはずです…じゃあ時間がないんでもう行きますね。どうか気をつけてねキョン君!」 「え、あの、ちょっと…!?」 …… 颯爽と立ち去っていく朝比奈さん大。もう少し話がしたかったところだが、 何か彼女も急いでいたようだったし…仕方がないというものだろう。それにしても 「あの手紙の『未来』ってのは藤原のことだったんだな…。」 藤原は以前朝比奈みちる誘拐事件に関わっていたメンバーの一人である。 そしてヤツは朝比奈さんと同じ未来人でもある。『未来』ってのが藤原一派の未来人集団だと考えれば、 確かに合点もいく。…なるほど、これで不安は解消したというわけだ。後は藤原たちの動向に気を付ける… それさえ徹していればOKということだろう。 俺は帰宅し、疲れた体を風呂で癒した後、夕食を食べた。 明日の準備をし終えてベッドに横になった。これで後は、明日に備えて寝るだけである。 …それにしても、何か違和感があるのは気のせいだろうか…? …… そうだ…あの手紙は一体何だったのだろうか? 朝比奈さん大が直接俺に出向いて『藤原』という特定の個人名を出してきた時点で、 あの手紙に意義はなくなった。言うまでもないが、あの手紙の差出人は朝比奈さん大である。 (執筆的に以前のと字体が似ていたことから、あれを書いたのは朝比奈さん大で間違いないとは思うのだが…) にもかかわらず、なぜ彼女は手紙で未来に注意を促すよう喚起した後、再び俺に会って 直接伝えるといった二重行為をしてしまっているのか…俺に会うつもりでいたのなら、 そもそもあの手紙自体に意味はなかったはずなのであるが…。 まあ、とりあえずは藤原たちの動向を警戒するに越したことはないだろう。そう結論を下すことにする。 いろんなことを一日中考えすぎてしまっていたせいか、睡魔が予想より早く襲ってきた。 今日はもう寝るとするか…俺は静かに目を閉じた。 まさか、このとき下した結論がどれだけ迂闊で軽率なものだったか …近いうちに、俺はそれを痛感させられることになる
https://w.atwiki.jp/haruhi_dictionary/pages/60.html
商品情報 あらすじ 特徴 楽曲オープニング「冒険でしょでしょ?」 エンディング「世界が夢見るユメノナカ」 「最終未来を見せて!」 「恋のミクル伝説」 登場人物 公式HP 商品情報 通常版 タイトル 涼宮ハルヒの約束 発売日 2007年12月27日 価格 5,040円(税込) ジャンル 非日常体験アドベンチャー 対応機種 PlayStation Portable メディア UMD 開発元 ガイズウェア 発売元 バンダイナムコゲームス プレイ人数 1人 対象年齢 C(15歳以上対象) 限定版 タイトル 涼宮ハルヒの約束 超プレミアムBOX 発売日 2007年12月27日 価格 9,450円(税込) ジャンル 非日常体験アドベンチャー 対応機種 PlayStation Portable メディア UMD 開発元 ガイズウェア 発売元 バンダイナムコゲームス プレイ人数 1人 対象年齢 C(15歳以上対象) 限定版同梱物 いとうのいぢ 描きおろし特製BOX 北高制服モチーフ特製ポーチ SOS団ロゴ入りソフトケース "長門有希のおしゃべりたいまー"縦置きスタンド 朝比奈ミクルのふきふきクリーナーストラップ 特製デザインヘッドホン 描き下ろしスティックポスターセット ビジュアルアーカイブ the best版 タイトル 涼宮ハルヒの約束 発売日 2008年12月4日 価格 2,940円(税込) ジャンル 非日常体験アドベンチャー 対応機種 PlayStation Portable メディア UMD 開発元 ガイズウェア 発売元 バンダイナムコゲームス プレイ人数 1人 対象年齢 C(15歳以上対象) あらすじ もう何度目になるだろうか、このデスクで目覚めるのは…。 時は北高祭前日。誰もがクラスや部の出し物の準備に追われる中、SOS団もあの迷作「朝比奈ミクルの冒険」の上映に向けて準備中だった。 超監督ハルヒの指示のもと、完成に向けて連日徹夜編集作業に勤しんでいるのは我らが主人公、キョン。 今日も映画を編集中のパソコンの前で目覚めてしまった彼。 いつの間にか北高祭前日になってしまった。かれこれ何日も編集作業を続けてきたのに一向に完成を観ない映画を尻目に、キョンは顔を洗いに部室をでる。 各々の出し物の追い込みでバタつく校内で出会うのは、占い師姿の長門や鶴屋さん、谷口などなど馴染みの顔ばかり。 しかし、彼はそれらひとつひとつにふとした既視感を抱くのだった…。 そして徐々に明らかになる学園の「異変」。例によって次々と起きる非日常的アクシデントの数々。 なあハルヒよ、これもお前が望んだことなのか…? はたしてキョンは無事に映画を完成させ、文化祭当日を迎えることが出来るのだろうか……!? 特徴 アニメ版の声優を起用し、フルボイスで話が展開される。 また、さまざまなルートがあり、進む方向によって話が変わり、エンディングも変わる。 楽曲 オープニング 「冒険でしょでしょ?」 作詞:畑亜貴/作曲:冨田暁子/編曲:藤田淳平 歌:平野綾 エンディング 「世界が夢見るユメノナカ」 作詞:畑亜貴/作曲:田代智一/編曲:安藤高弘 歌:平野綾、茅原実里、後藤邑子 「最終未来を見せて!」 作詞:畑亜貴/作曲:田代智一/編曲:安藤高弘 歌:平野綾、茅原実里、後藤邑子 「恋のミクル伝説」 作詞:山本寛/作曲・編曲:神前暁 歌:後藤邑子 登場人物 涼宮ハルヒ キョン 朝比奈みくる 長門有希 古泉一樹 鶴屋さん キョンの妹 シャミセン 谷口 国木田 喜緑江美里 コンピュータ研究部部長 朝比奈さん(大) 謎の少女 公式HP 涼宮ハルヒの約束 公式サイト
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3668.html
涼宮ハルヒの時駆 第一章
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/4245.html
NG集 プロローグ 「気がついた!」 ハルヒが突然俺のネクタイを締め上げた。いつだったか似たようなシーンに遭遇した覚えがあるぞ。 「く、苦しい離せ」 「どうしてこんな簡単なことに気づかなかったのかしら!」 「何に気づいたんだ?」 「自分で宗教を作ればいいのよ!涼宮ハルヒ教よ!」 誰がお前なんか拝むんだ。古泉が喜ぶだけだろ。 「お呼びに応えて参りました。ラマ僧の古泉です」 「いえいえ、わたしが巫女としてお仕えするわ」 「……いざなぎのぅ、アッラー南無阿弥アーメン華経~」 仮説1 十年後。 「ちょっとキョン、このロウソクの明かりでわびしく仕事するのなんとかならないの」 「電気代払ってねえからしょうがないだろ」 「えーい、こうなったら株に投資よ。新聞を過去の私に送ったら値上がり銘柄が分かるわ。もうウハウハよ」 「そんなことをしたら日本経済が混乱するぞ」 「そうだわ、これをネタに資金調達できるわね。市場を大いに盛り上げる涼宮ハルヒの投信をよろしく!」 ブラックマンデー、再び。 仮説1 ── 敵の本拠地に潜入した。人影が多い。まだ武器は調達できていない。M9かMK22が必要。擬装用にダンボール箱も欲しい。誰か来る。目標を捕捉した。二十三才男性、身長体格髪の色、データと一致する。これより背後から襲う。まずい、目標がこっちにやってくる。偽装は完璧のはず。発見されたのか!? 「ロッカーの中でなにやってんだ長門」 仮説2 「おおジョン、ジョン、あんたはなぜジョンスミスなの?」 「は?何言ってんだこいつ」 「あたしのことが好きなら、あんたの親父さんを捨てて、苗字を捨てなさい。それがいやなら、あたしに愛を誓いなさい。そうしたら、あたしは涼宮家の人でなくなりましょう」 「す、すまんが、お前の気持ちには応えられないんだ」 「ひ、ひどいわひどいわっ。あたしをもてあそんだのねっ」 「あらら、女の子を泣かしちゃだめよキョンくん」 「まったく、女性を泣かせるなど火あぶりの刑に処せられるべきですよ」 「……この銀河始まって以来の、悪事」 お、おまえら……(ワナワナ)。 仮説2 「みんな、冒険の旅に出るわよ!」 「いきなり何なんだ。どこになにしに行くんだ」 「目的なんてなんでもいいわ、指輪でも聖杯でも。言っとくけど勇者はあたしだからね」 「僧侶なら僕にお任せを」 「……魔法使いなら、得意」 「じゃ、じゃあわたしは吟遊詩人で」 「ってキャラ全部埋まってんじゃん、俺はなにをすりゃいいんだ」 「あんたはただのしかばねでもやってなさい」 仮説3 「話ってハルヒのことか」 こういう内緒話はたいていハルヒの能力に関わることだが、俺はいきなり腹にボディブロウをかました。腹をおさえてうんうん唸っている俺(大)を尻目にセキュリティカードを取り上げドアを開けた。あいかわらず人を信じやすい性質だ。 俺は部屋に戻るなりハルヒに向かって叫んだ。 「ハルヒ、お前に言ってなかったことがある!」 「な、なによいきなり」 「じ、実は俺はジョンレノンなんだ!」 「バッカじゃないの、ギターかかえてイギリスに帰りなさい」 アワナホージョーハーン。 仮説3 「キョンくん、お話したいことがありますっ」 「キョンくん、わたしもお話したいことがありますっ」 「わたしはこの時代の人間ではありません」 「わたしもこの時代の人間ではないんです」 「ずっと未来から来ました」 「ずっとずっと未来から来ました」 「いいえ、わたしはそのまたずっと未来から」 「いえいえ、わたしはずっとずっとそのまたずっと」 もう二人とも未来に帰っちゃってください。 仮説3 「みんな、みくるにタイムマシンが戻ったようだから、時間を遡ってタイムマシンの破壊工作を実行するよ」 タイムマシンを使って別のタイムマシンを壊しに行くなんて、なにか間違っている気もするが。それを聞いて新川さんが真っ青な顔をして叫んだ。 「ま、待ってくれ」 「新川さん、どうしたの?」 「ダンボールだ、ダンボール箱がない。あれがないと戦えないっ」 「森軍曹、彼にちょっと眠ってもらって」 仮説3 「ここでいいよ」 俺は公園のベンチの前で別れを告げた。 「……そう。気をつけて」 「お前も元気でな」 長門は俺の目をまっすぐに見詰め、しっかりと親指を立てた。 「……I ll be back」 号泣。 仮説4 次の日、ハルヒからミーティングの召集がかかった。 「みんな、時間移動技術会議よ。キョン、記念すべき第一回なんだから居眠りなんかしてたら減俸だからね」 俺には懸念すべき、 「……誰がうまいこと言えと」 仮説4 「長門、給与明細作ってんだが、あんときのゴニョゴニョの部分を教えてくれ」 「……分かった。再生する」 『いいわ、いくらほしいの?』 『ええと、コスプレ技術者手当てとして、毎月の給与に十万円上乗せで』 『それはちょっと高いわ。じゃ、これくらいで……一日の初乗り五千円、以降三十分ごとに千円』 ってタクシーかよ!十万上乗せって未来人の金銭感覚はどうなっとるんだ。 仮説4 「東中より出ずる、やんごとなき雅な涼宮ハルヒにおじゃる。宇宙人、未来人、超能力者がおれば麿のところへ参れ。いぢゃう」 唐突になに言ってんだこいつは。 「涼宮さんはなってみたいんですよ、おじゃる丸に」 「これキョン!そちは麿のプリン食べたでおじゃろう!?」 「イタタ、杓で叩くでない。俺は食べておじゃりませぬ」 仮説4 そりゃそうと紙に書かれたもんがほとんどない。和紙みたいなごわごわした厚い紙があったが、丁寧に綴じてあった。紙がないってことは、トイレでかなり苦労するぞ。忘れてた、トイレはどこだ。 「すいません、トイレはどこでしょうか」 「はい?トイレとはなんでございましょうかミコ様」 「ええと、便所、カワヤ、いや雪隠、ええい御不浄」 「あ、バスルームのことでございますね」 って英語かい! 仮説4 ブゥードゥー伝来お寺にご参拝 鳴くよウグイスこけこっこー なんと平凡な平城京 涼宮がいい国作る鎌倉幕府 「す、涼宮さんのせいで歴史が……日本史が・……ああ」 「朝比奈さん、しっかりしてください。おい誰か救急車!」 仮説4 7年前。 「おかえり有希。内部的なエラーが頻発してたそうだな」 「……そう」 「無理なら誰かと代わってもいいんだぞ。一人娘に苦労させるつもりはない」 「……くそったれ」 「い、今なんと言ったぁああ!お前をそんな下品な子に育てた覚えはないぞ!ぺしぺしっ」 「……ごめんなさいごめんなさい」 「長門、どうしたんだ涙目になってるが」 「……あなたが、悪い」 仮説5 三人でいただきますを言って善哉を食った。餅がうまい。小豆もうまい。 「長門さん、おかわりたくさんあるからね」 「……うん」 心なしか長門の頬は緩みっぱなしなようである。長門はその後もおかわりを続けていたが、途中で顔を真っ赤にして箸が止まった。 「おい、長門どうした」 揺すってみるが目が点になったまま固まって動かない。まさか善哉がうますぎて機能不全とかじゃないだろうな。 「もしかして餅がノドに詰まったんじゃ」 「ええっ!?」 俺は長門の背中をドンドンと叩いた。 「長門、長門、しっかりするんだ」 「……ぷは」 創立総会議事録(未使用) 「ええと、株式会社SOS団の創立総会を開会したいと思います。議長はわたくしキョンでよろしいでしょうか。異論がなければ満場一致をもって、」 「裁判長、異議あり!」 裁判じゃないっての。 量子猫 吾輩は猫である。名前は呼ぶな。どこで生まれたのかとんと検討がつかぬ。 ただ、なんでも、暗いじめじめした箱の中でみゃーみゃー泣いていたことだけは記憶している。 目を開けると光の中にいた。そこがどこなのか吾輩には分からなかった。 誰かに呼ばれたような気がして、そちらに歩いていった。はて、吾輩の名前は誰も知らないはずなのだ。 吾輩は匂いをかいだ。人にしては匂いが違う。指をなめてみた。味も違う。 人の形をしたそれは吾輩に向かって「ミミ」と呼んだ。 それが吾輩の名前になった。 10年後 「なるほど。MOREってこんな雑誌だったんですか……スタイルごとにすべてキャッチがあって、洗練されていますね。まったく新世界です」 「よっ古泉じゃねえか。立ち読みか?」 「うわあ、こっこれはなんでもありません」 なんだアイツ、走って逃げやがった。 師走の朝、吐く息も白く曇る冷たい乾いた空気の中、長門が通りの向こうから歩いてきた。いつものダッフルコートを着ていない。 「おう、おはよう」 「……おはよう」 「そのコート、新しいな。買ったのか」 「……そう」 厚手のこげ茶のコートに身を包んでいた。フードはないが、生地が柔らかくて暖かそうだ。 「……」 おもむろに長門が俺の腕に寄り添った。 「……ぴと」 「なんだ?」 「……カシミヤ効果」 ハルヒのワームホール 四人は顔を突き合わせてあれやこれやと意見を出し始めた。 「これはミステリーですね。密室にあったはずの手紙はどこへ消えたのか?」 推理好きな古泉が安っぽいサスペンスドラマっぽく仕立て始めた。 「壁の向こう側から盗まれたんじゃないかしら?」 朝比奈さんが穴の奥の壁を探っていた。 「向こう側は廊下ですよ。それに穴は鉄筋で止まってますから」 「……」 長門だけはじっと考え込んでいた。 「どうした?」 「……この穴の内壁」 穴の内側をなぞっている。指先に、微妙に光を反射する粉がついていた。でこぼこを埋めたときの石膏かと思ったが、そうでもないようだ。 「……ぺろり。これは、エキゾチック物質。……うぐぐぐ」 「長門が泡吹いて倒れたぞ、おい誰か救急車!」 次回予告 「次回、涼宮ハルヒの経営Ⅱ!」 「え、次お水関係?」 「我が団には豊富な人材が揃っているわ。みくるちゃん、特注の衣装用意しといたわよ」 「こ、こんな裾の短いスカート履けません。それにこんなスケスケ!」 「では僕が着て進ぜましょう」 「あらっ似合うわよ古泉くん」 「俺は何すりゃいいんだ」 「キョンは芸がないんだから客引きでもしてなさい」 「はいっそこのお兄さん今日だけ千円ぽっきり!宇宙人未来人超能力者、いい子いるよっ」 「……シャチョサン、ビルノムカ」
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4380.html
「ねぇ、キョン。あんたポケモン持ってないの?」 近頃は最新型パソコンと睨めっこバトルをくり広げている団長様が、やおら話題をふってきた。まだまだ嵐の前のナンとやらを堪能していたい俺は、何をやらかすか分からんハルヒの目論見をできるだけけしかけないように答えた。 「あんな面倒なものは小四で卒業した」 「私、昨日ゲーム機ごと買ったんだけど……あんたもやらない?」 何故たった一言返しただけでここまで話が進むんだ?…まぁ、ゲームごときで深刻に考えるのもどうかしてるが、ハルヒはここ最近ネットばかりしているからなぁ 「昔は誰でもやったことあるわよね、どぉ?みんなで対戦とかやりたくない?」 「ふぇ~ゲームですかぁ…」 ゲームにまで手を出したら、今流行りのフリーター万歳人間になってしまうのではないか…仕方ない。ハルヒにこんな話をしても無駄だと思うが、たまには世界の平穏の為に働いてみるか 「…ハルヒぃ……こんな話を…知ってるかぁ?」 「な、何よ変なしゃべり方して」 「ポケモンシリーズの初代主人公は死んでいるらしい。」 「!!」 思った以上にリアクションがでかいな。気を悪くするなよ、お前の将来の為だ。 「し、知ってるわよ。金銀で話かけても『………』ってヤツでしょ?そんなんで死んでるって決め付けるなっ!!」 「マサラタウンの母親に聞くと、何か月も音信不通らしい。それに、ゴースト系のポケモンばかり出てくるしな」 「………。」 「これ以外にもポケモンには不気味な噂が沢山あるんだぞ?」 それでもやりたいか?…と言うのはまだ速いか。とりあえず、この意外と怖がりちゃんには精神的に死んでもらおう 「GBA版の伝説ポケモンで、レジアイス、レジスチル、レジロックっているだろ。」 「あれ、第二次世界大戦で死んだ障害者の権化らしい」 「ちょっと!!今日のあんたおかしいわよ、酷いじゃないッ!!」 「ホウエン地方って、九州がモデルだろ?」 レジアイスは長崎 レジスチルは宮崎 レジロックは大分 どれも原爆があった場所だ …朝比奈さん、泣かないで下さいよ。ハルヒの怪しい力でみんなにとばっちりがいかないように頑張ってるんだから 「ふぇ…」 ちなみに今呻きをあげたのは朝比奈さんではなく、団長様である 「奴らの祠にある文字は、病気の人用の『点字』だしな」 「…もう、止めた方がいい」 今から、森の洋館について話そうかと話を繋げようとする前に長門が教えてくれた。ハルヒが泣いてる。 「ふぇ…ふぇ…クスン」 萌えた。 「こんのバッカキョーンッ!!!買ったばかりなのにー!!もうできないじゃないのぉ……」 「ロトムってポケモンが―――」 「いやぁぁぁぁぁぁッ!!!」 古泉はニヤけているが、いいのか?閉鎖空間が発生しそうだか? 「おや、貴方はそんなつもりであんな話をしたのですか?」 「…スマン、まさか泣くとは思わなかった」 ハルヒは腰を抜かしたらしく、長門におぶってもらいながら坂を降る。怖がりすぎだ 「ゆきぃ…トイレ」 「ハルヒ、後ろにピカチュウが――」 「いやぁぁぁぁぁぁッ!!!」 失禁するなよ? ただでさえ、下校中の北高生に見られてるんだから。それにしてもお前がそんなに怖い話が苦手だなんて知らなかったよ 「今日の彼は a bully。私も苛められたい……」モミモミ 「ちょっと、有希。お尻揉まないでよーオシッコ出るぅ」 …ほら、貴方の後ろにもピカチュウが――
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/669.html
…━━━━もうすぐクリスマスがやってくる…。 …街中が恋とプレゼントの話題で騒がしい。 ところで…「手編みのマフラーとかセーターとか…貰うと結構困るよね…」なんて言う輩を希に見掛ける昨今…… 実を言うと俺は、そういったプレゼントに僅かながらも、密かに憧れを抱いていたりするのだった━━━━━… 【凉宮ハルヒの編物@コーヒーふたつ】 吐息も凍る様な、寒空の朝… 俺は、相も変わらずいつもの公園でハルヒを待っていた。 つい先程まで、自転車を走らせる事により体温を気温と反比例させる事が出来ていた俺だが、公園に辿り着いてから暫くの間に指先は痺れる様な寒さを感じ始めていた。 (まったく…こんな日に限って待たせる…) 大体…ハルヒの奴はいつもそうだ。 来て欲しい時に来なくて、来て欲しくない時に限って現れる… 「まったく…俺に何か恨みでもあるのか…」 「ん?何か言ったかしら?」 「…………へ?……うおっ!?!」 気付かぬうちに側に居たハルヒに、俺は思わず驚きの声をあげる。 そして…その驚きの声を辛うじて挨拶に差し変えた。 「お…おおはよう!だな…」 「うん、おはよう。…何慌ててんのよ?…………まあ、良いわ。あのさ…これ、前のカゴに入れてって?」 「あ?ああ…」 ハルヒが差し出したのは、見覚えがあるデパートのロゴの入った紙製の手提げ袋だった。 その半開きになった口の中には、いくつかの青い毛糸と…編み針?…そして、編みかけの『何か』が見える…。 「ハルヒ?これ…」 「ああ、マフラー…もう少しで完成なのよ!だから、学校で仕上げちゃおうと思って…」 「ああ、そうか…」 気の無い返事をして見せたものの… 俺は今…… 猛烈に感動していたっ!! だって、そうだろ!? このハルヒに限って『手編み』など絶対に有り得ないと思っていたが、今まさに…その『手編み』のマフラーを制作中なのだ! しかも、この場合のプレゼントの相手は禍いなりにも『彼氏』であるこの俺だろう! この世に生を受けて十余年… 遂に俺の首に手編みのマフラーが巻かれようとしているっ! ところで…コレはクリスマスプレゼントなのか? だとしたら少し気が早い気もするが、セッカチなハルヒなら十分ありえる話だ…。 俺は逸る気持を押さえきれずに、自転車の後ろにハルヒを乗せると力一杯ペダルを踏み始めた。 「ち…ちょっとキョン!何、急いでんのよ?」 「ん?急いでなんかないさ!それより、いつもの販売機に寄るだろ…?」 「え?…まあ、寄るけど…」 「奢ってやるよ!」 「はあ?」 「だから、奢ってやるって!」 「…うん。…………(キョンが元気いっぱいだと、微妙な気分になるのは何故かしら)…」 「ん?何か言ったか?」 「べ…別に何も言ってないわよっ!」 やがて、いつもの販売機にハルヒを乗せて到着した俺は、自転車から降りる瞬間にハルヒに気付かれない様、そっとカゴの中の袋に目をやった。 先程の通りに半開きになった口から、編みかけのマフラーが見える。 俺は、思わずニヤケそうになるのを必死に堪えながら販売機に向かうと、コーヒーとカフェオレを買いカフェオレをハルヒに手渡した。 「ほら…飲めよ」 「あ、ありがと…」 「大変だったろ?」 「え?何がよ」 「編みモノ」 「…うん。まあね…」 「そうか…」 大変だったんだろうな……だが! だからこそ手編みは良いのだ! その『大変』な作業により編み込む想いの数々…これこそが手編みの醍醐味だ…! 俺はコーヒーを一気に飲み干すと、ハルヒを自転車に乗せ、再び全力でペダルを踏み始めた。 学校に着いて…授業が始まっても、俺の意識は黒板へと向く事は無かった。 (今、この時も…おそらくハルヒは俺の為に一生懸命にマフラーを編んでいる…) 考えただけで、顔の筋肉が弛緩む。 そして、振り返って様子を伺ってやりたくなる…が、今は止めておく。 楽しみは後回しにしたほうが喜びが大きいからな。 (さて、今のうちにマフラーを受け取った時に言う言葉でも考えておこうか…) 俺は、ハルヒがどんな顔をしてマフラーを俺に手渡すのか考えてみた。 そして…やっぱりハルヒの顔が少しだけ見たくなって、気付かれない様にそっと振り返えった。 伏し目がちに手元を見つめながら、忙しく編み針を動かすハルヒが見える… もうそれだけで俺は、胸の中にジンワリとこみあげて来るモノを感じていた。 様子から察するに、おそらく完成は放課後くらいだろうか…。 長い一日になりそうだ。 昼休みになっても、ハルヒの手は止まる事は無かった。 俺は何か労いの言葉でも…と考えながらも、(やっぱり、そういうのは後にとっておこう)と思い直して、ただ振り返ってハルヒを見つめるだけにする。 そんな俺の様子に気付いたハルヒが、手元と目線はそのままに俺に語りかけてきた。 「なあに、キョン…どうしたのよ…」 「えっ…ああ、いや…その…毛糸の色、良いな」 俺は上手い言葉が思い付かずに、適当に見つけた言葉を返した。 ハルヒは、そのまま話を続ける。 「そう。この毛糸を見付けた時ね?この色は絶対にアタシに似合うって思ったのよ。 丁度…良さそうなマフラーが売って無くて、がっかりしてた時だったから…すぐに自分で作る事を決めたわ!」 (何……と?) 「あら、キョン?どうしたの?固まっちゃって…」 「……………いや、何でも………無い」 …やっぱり…ハルヒはハルヒだった…。 俺は、今朝からの浮かれまくった自分を思いだし、激しく自己嫌悪に陥りながらも姿勢を元に正しながら冷静に考えてみる。 (そういえば、ハルヒの得意なセリフの一つに「無ければ自分で作ればいいのよっ!」ってのがあったな…) おそらく今回も…街へマフラーを買いに行ったものの、気に入ったものを見付けられずに結局自分で作る事を思い付いたんだろう。 (なんてことだ…まったく…俺ときたら…) やがて…授業が始まっても、俺の意識は黒板へと向く事は無かった。 今朝からの激しい期待感を失った事に因る倦怠感が全身を漂っている…。 ああ…長い一日になりそうだ…。 そして…放課後… 部室に行くと、既にそこには古泉と朝比奈さん…そして長門に…ハルヒも居た。 「あら…古泉君。素敵なマグカップですねぇ…」 朝比奈さんが、古泉の持ってきたと思われるマグカップを、何やら羨ましげに眺めている。 そして、毎度お馴染のニヤケ面で古泉がそれに応えている…。 (ふん、たいしたマグカップじゃ無いじゃないか…) 俺は意味もなく腹立たしくなり、二人の前を軽く挨拶をしてすり抜けると、ストーブの近くの椅子に腰を下ろした。 ハルヒは教室より引き続き、忙しく編み物に興じている。 そして俺の存在に気付くと、先程と同じく手元と視線はそのままに「見てなさい?もう少しで完成するわよっ」と得意気な口調で話しかけてきた。 俺は「ああ…そうか」とそっけない返事をしながら、ストーブに両手をかざす。 そんな俺とハルヒの様子に気が付いた古泉が、ハルヒの方に視線を送りながら「キョン君のですか?羨ましいですね?」とでも言わんばかりに俺に微笑みかけてきた。 俺は「違う違うっ」と手を鼻先で二三度振ると、古泉が「それは残念」と両掌を天井に向けるのを待って、ポケットから携帯を取り出して開いた。 とりあえず…授業中に来ていた分のメールを確認しようとディスプレイを見るが…なんだか面倒だ……そしてダルい…。 俺は何もしないまま、携帯を閉じると机に上体を伏せた。 ふと気が付くと、視界に本を読む長門が映る…。 (ああ…こいつは、こんなダルさとは生涯無縁なんだろうな…) やがて、俺は足元に当たるストーブの暖かな感触に眠気を覚え…そっと目を閉じた。 「…ョン…」 「ん…?」 「…キョン……」 「なん…だ…?」 「起きなさいよっ!バカキョンっ!」 ハルヒの怒鳴り声に慌てて体を起こすと、既に部室の中にはハルヒ以外に誰も居なくなっていた。 「あれ?みんなは…どうした?」 「とっくに帰ったわよ!……それより…ねえ、見て?遂に完成したわよ!素晴らしい出来栄えだと思わない?」 「ああ…まあな…」 「いっその事…もういくつか作って、アタシのブランドでも立ち上げてネットで売り捌いてやろうかしらっ?」 ハルヒは、出来上がったばかりのマフラーを俺に見せながら満面の笑みを浮かべていた。 (手編みは貰い損ねちまったが…まあ、いいか…) 俺は「良かったな」とハルヒに軽く微笑みかけると、立ち上がって帰り支度を始めた。 ハルヒは既に支度を終らせていた様子で、コートをはおり手袋も着けている。 そして…俺がコートを着終わるのを見計らって、出来上がったばかりのマフラーを首に巻き始めた。 (確かに…ハルヒに似合う色だ………あれっ?) ハルヒがマフラーを首に巻き始めたその時…俺は、ある事に気が着いた。 ハルヒの作り出したマフラーは………恐ろしく長い…! 戸惑う俺をよそに、ハルヒは手早くマフラーを巻くと、俺に余った長い部分を差し出した。 「…はい、キョン」 「ん?な、なんだっ?」 「アンタの分よ……」 そう言いながら、ハルヒの顔がみるみるうちに赤くなってゆく…… そして…とりあえず言う通りに、余った分を首に巻いた俺を見て「ふふっ、暖かい?」と照れた様に笑った。 「暖かいが……物凄く恥ずかしい……」 「ええっ?何よ!この場合『恥ずかしい』じゃなくて『嬉しい』じゃないのっ?」 俺達は暗くなり始めた部室棟の廊下を、二人三脚の様にぎこちなく歩く…。 しかし…全くハルヒの奴ときたら、とんでもない事を思い付くものだ。 こんなところを誰かに見られたらと思うと、恥ずかしくてしょうがない……… ただ…マフラーからハルヒの匂いがして、少し幸せだったりするが… 「こらっ!もっと嬉しそうにしなさいよっ!…えいっ!」 「ぐあっ!ひ…引っ張るなっ、首が締まるっ!」 「あははっ!面白~いっ!…えいっ!」 「ぐあっ!し…洒落にならん…」 「…えいっ!」 「グァ……」 「…いっ!」 「…ァ」 「……」 「…」 「」 「なあ、ハルヒ…」 「なあに?」 「ありがとう…な」 おしまい