約 1,702,093 件
https://w.atwiki.jp/yaruofullcourse/pages/186.html
ハルヒ /' / / / | ! !ヽ ヽ、 | | |\ ! |、`ゝ | //~‐--、_ v | | ! \ ! ! |~~| / ̄ヽ | |\、//~/ ´| !/ ~Y、 !、.! ! \ ! ! / | / | | |、 ヽ ゝ、_.| | /´~ ̄`ヽ、! \ ヽ \ | !/ ̄~|/ヽ | ! |ヽ/´ヽヽ/ /、| | イ、 /〇。 1\ \ヽ イO。 ! \ .|イ |〃ヽ / / ∧ | \ ! 色 ! | 欲 / | | | ヽ ヽ./ / / |\ | ヽ '! ´ ! | |、 ! ! / / ||! \ | ヽ~ ̄´ , ~ ̄~` /! / } / ! ヽ| \ ,--――――--、 /! //ヽ ! ! 从、 |/´ `\| /-/ / ヽ! !、 ヽ | | ノ/ /. | ! ヽ \ \ ヽ / / / / | ヽ ヽ \ \ \ / //// / | \ \ \ "''‐ 、_ -'" ─────────────────────────────────────── 【名前】 【職業】 【ランク】 涼宮 ハルヒ SOS団の団長 レベル 18 こうげき A HP 550 ぼうぎょ B 総カロリー 500 すばやさ A 装備 武器 超団長の棍棒 たまに物理耐性を無視して攻撃できる 防具 超団長の服 斬撃に耐性がある アクセサリ 【技】 魔神斬り 思いっきり殴る 消費カロリー100 単体 盗人斬り 稀に何か盗む 単体 【必殺技】 大魔神斬り 全力で殴る 消費カロリー200 単体 【スキル】 『極端富豪』 自動 得意なものは成長が早いが苦手なものは成長しない 『特攻団長』 任意 攻撃力が2倍になるが、受けるダメージも2倍になる 『神様の言うとおり』 自動 攻撃を外した場合、次の攻撃を必中にする 『破天荒勇者』 自動 素早さが上がるが、かばうなどの対象に出来なくなる 【備考】 美食屋組織SOS団の団長 キョンにイワンコフ牛を食わして女にした張本人 ある意味刹那に負けないくらいの変態 スキル『極端富豪』持ち
https://w.atwiki.jp/yaruaka/pages/106.html
, -―- 、 -― - 、 / ,_ -―‐- _ \ / ,ィ/_ -――- _ヽ ヽ / ,.-/ /´ / \ \`ヘ ヽ. ', / rイ / 〃./ .{ . l . ヽ .ヽ .ハ fヘハ / 〉i,'./ {{ ..{ . ハ .. . ! .... ! ヽ..', i| |ヽ ', / く/| l. ij>k{八 . {\ ..i;ィ匕i i| |_∧ハ ,' i ヽ| l. |ィfチ必`\ヽ くfチ必メ'! L!Nハ i ! . l. {| ヽト, r'_;;ソ r'_;;ソ l | l ..i i | ! ! ! i. ム ´ _' ___ ` ハ j j l | | ! ! ! ∧ {ヘ { i ,イ,' / ,' i | ヽ!ハ ヽ ヽ .', >,、 ゝ._ _ノ , イ / / ./ i! ! l ,‐<゙ヽ=、{ヾヽ f,/>ー<{_1`/ / /_ノi リ/ / /⌒ン<ヽ \ ト、_ _,, レ/ { / iiヽ〈' / / / | `! V‐===-V ヽ ii l ヽ_ 〈_ ' ' j ! V ̄ ̄ V / / i ヘ≦\ / ヽ,、 / i! i! / / / j ヽ r‐ '― / `~ ∧ i! i! / / / / i L団?のSOS団の団長。 一人しかいないのに団長なのは他の団員が皆寿退団したため。 ようするにいき遅れボッチ。 ハナダシティにて新たにギャル夫が部下になった。 トレーナースキルは理不尽。 混乱にかかったポケモンの状態異常を回復する。 さらに二度と混乱にかからなくするおまけ付き。 手持ちのポケモンはサンドパン一体。 やる夫に逆ギレしてバトルをふっかけ、勝ったらやる夫の身ぐるみを全て剥がしてホロをエロ水着と首輪姿で街中を露出プレイというとんでもルールを提案。 安価による読者の提案により、ハルヒが負けた場合には、ハルヒは身ぐるみを全て没収され、ホロと共にエロ水着に首輪という格好で街中を連れまわされるというルールとなった。(なぜか勝っても負けてもホロは露出調教を受けてしまうルール。) 結果敗北したものの、うまいことすり抜けて露出調教はされなかった。 しかし後にこの一件を覚えていたやる夫にエロ水着で街中を歩かされ、その映像をビデオに撮影されてしまった。 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5428.html
ハルヒに巻き込まれて数ヶ月、日々起こる非日常の連続に俺の精神は多少の事では動じない強靭さを手に入れていた。 つもりだったんだがな……。 休日、いつものようにハルヒに呼び出されていた俺が駅前に辿り着くと、そこにはいつもの4人と……誰だ? あの黒人 ハルヒ「この可愛いのがみくるちゃん、こっちの静かな子が有希。彼は古泉君で……あそこに居る、まぬけな顔をしてるのがキョンよ」 黒人「ハジメマシテ、キョンサン。ニャホニャホタマクローデス」 やたらフレンドリーに俺の手を握りしめるのは、ニャホニャホタマクローさん……らしい。 えっと……どうも。 おい、この人誰が連れてきたんだ? っていうかこんなことをするのは ハルヒ「あたしよ!」 やっぱりか。 ハルヒ「あんたは遅いし、そこでふらふらしてたから捕まえてきたの」 文書の前後で意味が繋がってないんだがな。 で、この人がどうかしたんだ。道案内とかか? ハルヒ「ちょっと違うわ。彼は日本の文化を知りたいんだって」 日本の文化? タマクロー「ソウナンデス。ニホンコライノセイギノミカタ、ミトコウモンヲサガシニキマシタ」 ハルヒ「じゃ、行くわよ。みんなついてきて~」 3人「は~い」 ……お、おい?! なんでみんないつも通りなんだよ? 数時間後――俺達は映画村に来てしまっていたわけだが…… タマクロー「スバラシイ、コレガシタマチブンカデスカ」 ハルヒ「そうよ~。古き良き時代って奴よね」 みくる「ふぇ~……タイムスリップしたみたいです」 それ、随分前からですよね。 で、ハルヒ。俺達をここに無理やり連れてきた理由ってのはなんだ。 ハルヒ「そんなの決まってるでしょ? 今からあたしたちでタマクローに水戸黄門を見せてあげるのよ。あんたは意味もなく殺される町民Aね。 古泉君は同心で、みくるちゃんは越後屋の一人娘で有希はその妹って設定でいきましょう」 1人娘なのにその妹ってなんだ。 ハルヒ「じゃあ、有希は後妻の連れ子って事で」 古泉「心得ました」 みくる「が、がんばります……」 長門「把握」 ……まあ、朝比奈さんと長門の着物姿が見れそうだからいいか。 タマクロー「タノシミデス」 ハルヒ「何言ってるの? あんたもやるのよ」 タマクロー「ワタシモ?」 ハルヒ「あんたは……そうね。凄腕の素浪人、珠九郎ね!」 お題は水戸黄門じゃなかったのか? ――なんて俺の突込みが聞き入れられるはずもないわけで、それぞれに着替えを終えた俺達は……高校生にもなって何やってるんだ? 俺。 珠九郎「おや、お似合いですよ、キョンさん」 そりゃどうも……あ、あれ? 珠九郎さん今、普通に話してませんでした? ハルヒ「みんな着替えたわね!」 ん、お前も着替えてるって事は今回は監督じゃないのか。その格好で何の役をやるつもりなんだ? ハルヒ「決まってるじゃない、水戸黄門よ! さ、朝比奈みくるの冒険 EP江戸を撮るわよ!」 ……かくして、日本史上類を見ない『新解釈水戸黄門』のはじまりはじまり~……。帰っていいかなぁ~。 ところでハルヒ、お前水戸黄門ってどんな話しなのか知ってるんだろうな。 ハルヒ「もちろんよ! 印籠片手に敵を行動不能にする本格派老人アクションでしょ?」 前半はどう考えて間違ってるが、後半は意外にあってるな。 それはいいとして……全員が町人とかじゃ悪人役が居ないじゃないのか?。 ハルヒ「甘いわね、本当の悪は身近に潜んでいるものなのよ~」 なるほどな。納得だ。 珠九郎「……」 ハルヒ「あんたもやっとわかってきたじゃない! じゃあ最初のシーンは……みくるちゃんと有希が悪事を企んでて、それをあんたが見つけるの」 一応最後まで聞いてやろうか。 ハルヒ「とりあえずそこまでよ。ほら、有希とみくるちゃんはそこの店から適当な箱を持って出てきて。出番が無い人はカメラとレフバン!」 みくる「は~い」 お団子頭の朝比奈さんも可愛いなぁ……。 ハルヒ「で、二人が裏道を歩いてる時に路地から出てきたあんたがぶつかるの」 へいへい。 シーン1 町で評判の美人姉妹、有希とみくるが怪しげな箱を何やら大事そうに持って歩いている。 ――そんな二人が裏路地を歩いていると おっとぉ。 みくる「きゃっ!」 ガッシャン。 急に飛び出してきた町人A――つまり俺――とぶつかり、二人は箱を落としてしまう。 ……で、次は何だ? え~なになに古泉からのカンペによると…… おっとすまねぇお嬢さんがた、怪我はないかい?(何だよこの口調は) みくる「だ、だいじょうぶです! なんともないんです!」 有希「平気」 あ、大事そうな箱が壊れちまったじゃないか。すまねぇ、こいつは大変な事を……ん、これは。 みくる「ああ! そんな」 有希「見られた以上、生かしてはおけない」 まってくれ、俺は何も見なかった! だから命だけは! 有希「問答無用」 白昼堂々、ちっこい娘さん相手になんの抵抗もせずに、胸にかんざしを深々と刺された俺は早々に出番を終えた。南無。 シーン2 ――川原のそばで寝ている俺の隣で、古泉が何やら難しそうな何も考えていなさそうな顔をしている。 古泉「鋭い刃物で一突き、これはかなり腕の立つ人間の犯行でしょうね」 おい古泉、なんで俺の着物をそこまではだけさせるんだ。傷口の所だけでいいだろ。 ハルヒ「こら! 死体が喋るな!」 へいへい。 古泉「これだけの事ができる人間は、そう多くはありません。例えば……そう、最近よく聞く流れの浪人……とか」 なるほど、ここで珠九郎の出番なのか。 ――場所は変わって下町の長屋。 珠九郎「で、私に御用とは」 やっぱり普通に喋ってる。 古泉「先日、殺しがありまして。その下手人を探しているんです」 珠九郎「なるほど、それで私が疑われていると」 古泉「端的に言えばそうなります。かなりの達人でなければ、人を一瞬で殺す事何てできませんからね」 珠九郎「買いかぶりでは? 私にそんな腕があれば、こんな浪人家業なんてやっていないでしょう」 なんであんた浪人にそこまで詳しいんだよ。 古泉「――もっふ!」 突然刀を抜いた(そもそも同心は簡単に刀を抜かないはずだが)古泉の一撃を、あっさりと珠九郎は避けてみせる。 珠九郎「……何の真似ですか」 古泉「失礼ですが試させて頂きました。やはり……貴方は強すぎます。ですが、それだけではお縄にする訳にもいきません」 珠九郎「……」 古泉「暫くの間、貴方を監視させて頂きます。それでは……また」 ――立ち去っていく古泉を、珠九郎はじっと見つめている。 おお、シリアスな展開だな。 シーン3 越後屋の店先でのんびりと団子を食べている珠九郎。 みくる「お茶が入りました~」 珠九郎「アリガトウ、ミクルサン」 何で今更カタコトなんだよ。 みくる「それで、さっきのお話ですけど……」 珠九郎「ドウシンサンノコトデスカ? ダイジョウブ、ボクハムジツデスカラ。キットシンハンニンガミツカリマスヨ」 よりによって長文がカタコトってのはどうなんだ。 ――店を出る珠九郎、みくるはそれを見届けると店の中へと入っていく。 みくる「……ふぅ」 店の奥に戻ったみくるの表情は晴れない。 そこにやってくる有希。 有希「姉さん。今のお客」 みくる「……珠九郎さんの事?」 有希「彼にも死んでもらう」 みくる「えええ! そんな、どうして?」 有希「役人は彼を疑っている。このまま彼に失踪してもらえば、私達は安心」 みくる「そんな?! そんなの駄目です!」 有希「そうしなければ、この店を守れない」 みくる「だからって、何の関係もない珠九郎さんにそんな酷い事を」 有希「もう、後戻りはできない」 ……なんだか話の雲行きが怪しくなってきたな。 シーン4 ――下町の長屋、あばら家同然の珠九郎の家。周囲を見回してから、長門は家の中へと入っていく。 珠九郎「おや、貴方は……確か越後屋の」 有希「……」 無言のままかんざしを構えて飛び掛ってきた長門を、珠九郎はなんとかかわす。 珠九郎「何をするんですか!」 有希「貴方には死んでもらう」 珠九郎「何故です?」 有希「問答無用」 狭い部屋の中で長門から逃げ惑う珠九郎、しかし追い詰められてついに転んでしまう。 有希「覚悟召されよ」 その時、窓から飛んできた風車……――が、カメラを持っていた俺の足元に刺さった。 ばか! 危ねぇだろ? 本当に投げるな! ここは後でエフェクトで誤魔化すって言ってただろうが! ハルヒ「だってそこでちょうどいい風車が売ってたんだもん。ま、そんな事はどうでもいいのよ。 ……まちなさぁい!」 無駄で長い口上と共にその場に現れたのは、それっぽい杖を手にしたどうみても町娘にしか見えない着物姿のハルヒだった……。 なあ、やっぱり黄門様が町娘って違わないか? ハルヒ「水戸黄門って何人も居たんでしょ? 1人くらい女の子も居たわよ。きっと」 いるわけないだろ。 有希「貴女は」 ハルヒ「あたしは越後のちりめん問屋のご隠居よ! 越後屋の娘、有希。観念してお縄につきなさい!」 ちりめん問屋のご隠居にそんな権限があるのか? 古泉「ここからは僕からお話しましょう」 もったいぶってハルヒの後ろから現れたのは、説明したくて仕方ないといった顔をした元超能力者、現同心の古泉だった。 古泉「この事件にはあまりにも手がかりが少なかった。ですから僕は、犯人がこのまま隠れていられないように準備をしました」 有希「準備」 古泉「そうです。犯人はかなり腕の立つ存在、それがそもそも嘘なんです。そう触れ回れば、真犯人は疑いを掛けられた人に興味を持つ。その人を失踪でもさせれば 濡れ衣を着せられるかもしれない、とね。その結果、目ぼしい人物が見つかればいいと思っていましたが……まさかいきなり殺そうとするとは」 珠九郎「では、僕を試したのも」 古泉「すみません。貴方を囮にしてしまいました」 有希「でも、何故私の動きが。この周辺に役人は居なかった事は確認済み」 ハルヒ「そこであたしの出番な訳よ! 古泉君……じゃなくて同心さんに頼まれて、珠九郎さんの様子をあたしが見守ってたわけ!」 古泉「ご隠居様でしたらどこに居ても目立ちませんからね」 いや、目立つだろ。 有希「……迂闊」 ハルヒ「さあ! 年貢の納め時よ!」 有希「ここで捕まるわけにはいかない」 ――部屋の奥にある勝手口から外へ逃げていく長門 古泉「逃がしません!」 ハルヒ「まちなさ~い!」 シーン5 ――大通りに出た3人が睨みあっている。その様子をたまたまその辺に居た観光客は携帯やカメラ片手に見守っていた。 有希「こうなったら仕方ない。ここで貴方達を始末して、自分の安全を確保させてもらう」 古泉「手荒な真似はしたくありませんが……止むを得ません」 十手を構える古泉と、かんざしを持つ長門がじりじりと距離を詰める。 ハルヒ、お前は何もしなくていいのかよ? ハルヒ「あんたね~。正義の味方が1:1の勝負に手出しするわけないじゃない」 水戸黄門は普通に袋にすると思うが。 睨み合う2人――長門は無表情だが――先に仕掛けたのは古泉の方だった。 せめて怪我をさせないようにとの配慮なのか、十手を片手に組み付こうとする古泉の腕をすり抜け 古泉「しまった!」 すれ違いざまに、長門は古泉の腰にあった刀を奪い取っていた。 有希「公務中の事故により殉職」 不吉な事を口走りつつ、刀を手にした長門が一歩踏み出したかと思うと――次の瞬間、古泉の体は通りの先まで吹き飛ばされていた。 観客「おおおおーーー!!!」 い、今何をしたんだ? ……っていうか古泉、生きてるか? 普通に切られた様に見えたぞ? 古泉「ご安心を。ちゃんと寸止めしてもらえましたから」 何で寸止めで吹っ飛ぶんだよ。 古泉「僕の脇腹に刀が触れた瞬間、長門さんは一回刀を止めてくれたようです。ですが、その後に振り飛ばされた様ですね」 まあ、今更長門が何をやっても驚かないが……。っていうか、このシーンは長門が捕まって終わりだったんじゃ? ハルヒ「いいアドリブね。でも、最後に勝つのは正義の味方なのよ!」 杖を両手で構えてご機嫌なハルヒと、 有希「その意見には同意。勝った方が正義となる」 それを迎え撃つ刀を構えた長門。 ……おいハルヒ、ところでどうやって杖で刀と戦うつもり ハルヒ「先手必勝ー!」 聞けよー! 飛び掛ったハルヒの杖はあっさりと避けられ、次の瞬間 ハルヒ「あああ!!」 長門の刀を受けた杖は、あっさりと分断されてしまった。 ハルヒ「なんで? これって中に刀が入ってるんじゃないの?」 それは違う時代劇だ。 ハルヒ「こうなったら奥の手よ! 必殺の印籠を……あ、あれ? 印籠は?」 印籠は普段角さんが持ってるはずだぞ。 ハルヒ「角さんはどこ?」 っていうかお前、助さんも角さんも八兵衛もお銀も弥七も飛び猿もキャスティングしなかっただろうが! ハルヒ「……飛び猿って誰よ」 そろそろ新キャラに馴染めよ! 有希「覚悟」 みくる「待って!」 絶体絶命のピンチにやってきたのは、有希の姉であるみくるだった。 みくる「もういいの! お店なんてどうなっても。だからお願い、これ以上罪を重ねないで!」 有希「……それでは困る」 みくる「え?」 有希「私の目的は越後屋を手に入れること。その為に、私はここに居る」 長門、随分ノリノリだな。 みくる「な、何を……言ってるの?」 有希「ご禁制の品に手を出したのはお店の為ではない。貴女に罪を被せて、店を手に入れる為」 みくる「そんな? そんな事をしなくても私達は姉妹なんだから」 おお、朝比奈さんも役に入りきってらっしゃる。 有希「違う、私は後妻の娘。お父様の跡を継ぐのは貴女。どれだけ店の為に尽くしても、それは変わらない」 有希は刀をハルヒからみくるへと向ける。 有希「貴女に罪を被せるよりも、こうすれば早かった」 みくる「そんな……」 有希「さよなら、姉さん」 振り上げられる刀。 ハルヒ「だ、だめ! 誰か!」 雰囲気に呑まれて悲鳴をあげるハルヒ。 古泉「く……どうすれば?」 役に立たない古泉。 振り下ろされた刀は――ガキッ!! 有希「!」 珠九郎「サセマセン」 颯爽と現れた素浪人、珠九郎の刀によって防がれたのだった。 みくる「珠九郎さん!」 有希「邪魔立てするつもり」 珠九郎「ユキサン、アナタハマチガッテイル」 有希「間違ってなどいない、越後屋は私にこそ相応しい」 珠九郎「チガイマス。エチゴヤノホントウノカチハ、ミクルサンノエガオトマゴコロアフレルセッキャクデス」 聞き取りにくい事この上ないな。 珠九郎「ソノコトニキヅケナイアナタニハ、エチゴヤヲツグシカクハナイ!」 有希「なんと」 狼狽する長門の手首に、珠九郎の一撃が飛ぶ。 有希「くっ」 刀を落とした有希は、その場に崩れ落ちるのだった。 エピローグ ハルヒ「本当にいいの?」 みくる「はい。妹が戻るまで、ここで頑張ろうと思います」 古泉「ですが、彼女は貴女の事を……」 みくる「それでも、あの子は私の妹なんです。それに、珠九郎さんも居ますから」 珠九郎「ユキサンガモドルマデ、ミクルサンハボクガマモリマス」 ハルヒ「そっか……。じゃあまたね! 近くを立寄ったらお団子食べにくるから!」 みくる「はい! 待ってます!」 看板娘の健気な笑顔とそれをそっと見守る珠九郎を見て、越後屋の未来は明るいと感じたご老公の足取りは軽かった。 めでたしめでたし ハルヒ「か~っかっかっか~~!」 ハルヒ、お前それが言いたかっただけだろ。 後日談―― ハルヒ「それにしても有希、ずいぶんノリノリだったじゃない」 長門「時代劇は毎日ラジオで聞いている」 みくる「迫真の演技でした~」 確かにいい絵が撮れたな。 ついでに、これで今年は映画の撮影で悩まされずに済みそうだ。 みくる「それにしてもあのタマクローさん、嬉しそうに帰って行きましたね」 ハルヒ「国に帰ったらみんなに話して聞かせるって言ってたから、SOS団の名前もいよいよ全世界に知れ渡ったって事よね!」 それは勘弁して欲しいんだけどな。 古泉「それにしても変わったお名前でしたよね、ニャホニャホタマクローさん」 みくる「あの、パソコンで見つけたんですけど、タマクローさんって有名な人みたいで歌まであるみたいですよ」 ハルヒ「そうなの? どんな曲?」 みくる「え、えっと。……ガーナのサッカー協会会長♪ ニャホニャホタマクロ~♪」 長門「ニャホニャホタマクロ~♪」 ハルヒ「ニャホニャホタマクロ~♪」 古泉「ニャホニャホタマクロ~♪」 ……ふぅ……やれやれ………………医者で政治家、結構偉い。ニャホニャホタマクロ~♪ おしまい お題「ニャホニャホタマクロー」「水戸黄門」
https://w.atwiki.jp/thefool/pages/26.html
ハルヒ 19歳/181cm/大柄 フレイと一緒にいる双子の弟。姉・カスガとフレイに振り回 されている。レッドコメット団の印である黄色のロングスト ールは腰に巻いている。3人の中では一番常識人。 元々孤児であったのを姉と一緒にフレイの父親に拾われた。 フレイに密かに恋心を抱いているが言い出せないでいる小心 者。 ◆◆◆◆◆
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/949.html
プ ロ ロ ー グ 俺たちの高校生活最後の冬。 俺とハルヒの意地の張り合いがもたらした、二度目の世界崩壊の危機。 そうだ。俺が弾を装填し、ハルヒが引き金を引いた、全宇宙を一方的に巻き込んだあの大事件。 あれから既に長い歳月が過ぎているというのに、今思い起こしても平常心ではいられなくなる。関係各位には、誠に申し訳ないことをしたという気持ちでいっぱいだ。 未来の機密組織がハルヒを抹消しようと潜入してきた、その中に自称涼宮ハルヒの子孫がいたが結局、改心したらしく計画は見事中止になった、まぁその後SOS団の準団員って形で学校に留まってたがな。 しかしこれはハルヒにとってただの演習ぐらいにしかすぎなかったと思う。その後 全宇宙規模で発生した閉鎖空間。その内部では、ハルヒを知る存在たちが一堂に会し、好意的に見ればそれは、ハルヒ杯争奪全宇宙オールスター対抗大運動会(強制参加型)とも言うべき様相を呈していた。 閉鎖空間内では、現状維持派と急進革新派とのあいだで様々な思惑が入り乱れ、熾烈な戦いが繰り広げられた。 情報制御すらままならず物理的攻撃が不可能な敵対的広域帯宇宙存在たちは、以前の雪山のような方法でSOS団への精神的攻撃を試み、未来を予測可能である敵対未来人組織たちは、俺たちを内部分裂させるべくハルヒと俺に対してあらゆる工作活動をおこない、閉鎖空間内でその力を存分に振るえる敵対的超能力者たちは、赤い光となって俺たちに攻撃を仕掛けてきた。 長門は制限を余儀なくされた能力をなんとか駆使して抗戦し、朝比奈さん(大)が未来人の知識をもって俺たちに助言を与え、朝比奈さん(小)はおろおろしつつも時間移動を応用した空間移動と長門によって解禁されたフォトンレーザーやら超振動性分子カッターやらの超科学的兵器で俺たちを何度も危機から救い、そして古泉はその能力を遺憾なく発揮して敵対勢力の物理的攻撃に対抗した。 当然の反応として、この超常的展開に一人狂喜するハルヒは、以前俺が見たものよりも質、量ともはるかにパワーアップされた神人軍団を無意識的に生み出し、敵対勢力を次々となぎ倒しはじめた。 だが神人の活躍もむなしく、一人また一人と倒れてゆくSOS団員。 そうしてハルヒはついに、これが自分の望む世界の在り様ではないことを受け入れた。 閉鎖空間の終焉は、やはりというべきか、俺とハルヒのキスによるものだった。 以前のような、成り行きまかせのものでも一方的なものでもない。 俺たちはこの騒動のおかげで、お互いに対する気持ちを確かめ合うことが出来た。 俺の場合は、なによりも俺自身の想いをはっきりと認識し、覚悟することになったわけだが。一度目と同じ、あのグラウンドで、俺たちは永遠とも思えるほどの長い時間を共有していた。 唇を重ね合わせ、お互いをしっかりと抱き寄せて。 絶対にこの手を離したくないと思った。 ハルヒだってそう思っていたはずだ。 俺は、本当に心から時間が止まって欲しいと感じていた。 世界が変わったとさえ思える瞬間だった。 いつしか閉鎖空間は消滅し、俺はまた自室で目覚めた。 今回はベッドから転げ落ちることもなかった。 フロイト先生もきっと祝福してくれていたに違いない。 その後、立て続けに携帯が鳴った。 最初の電話は長門からだった。 「六年前の涼宮ハルヒによる情報爆発、それを超える二度目の情報爆発が観測された。それと同時に、情報統合思念体は自律進化の糸口を得た。情報統合思念体主流派は、あなたと涼宮ハルヒに感謝している」 と、いつもの淡々とした口調でそれだけを述べ、ぷつりと電話は切れた。 なんてことだ。それはあのキスが原因なのか? まさかそんな大それたことが起こっていたとは。 ところで長門、お前自身は感謝してくれないのか? 長門の電話が切れるなり、続けざまに古泉から連絡があった。 「機関の方がかなり混乱していまして、手短にお話しします。僕の能力が消滅しました。ですが、これはむしろ喜ばしい状況と言えます。我々の能力の消滅と同時に、涼宮さんが二度と閉鎖空間を生み出さず、世界も改変しないという確証を得ました。なぜ解るのかと言うと、残念ながら説明出来ません。解ってしまうのだからしょうがない、としか。僕のアルバイトがなくなってしまうのは少々寂しいですが、これで世界が永遠に救われたと思えば、それもまたよしです」 その口調の端々に本心からの喜びがうかがえた。 どうやら、キスの瞬間に感じたことは事実だったようだ。 本当に世界は大きくその様相を変化させてしまったのだ。本来あるべき姿に。 それから数分後、最後は予想どおり朝比奈さんからの電話が鳴った。 「キョ、キョ、キョン君っ!」 明らかに混乱していた。当然ながら、俺には朝比奈さんが次に何を言うのか想像出来る。 「すすす涼宮さんからの、じじ時空振動が、けけ検出されなくなりましたっ!」 「朝比奈さん、解りましたからとにかく落ち着いてください」 電話口からゆっくりとした深呼吸が数回聞こえた。落ち着きを取り戻した朝比奈さんは、 「涼宮さんに関係する時空の不確定要素が消滅しました。つまり未来が確定されました」 そして、少なからず寂しそうな声で、 「私の役目もこれで終わっちゃいました。名残惜しいですが、もうすぐお別れのときがくると思います」 そうか。ついに朝比奈さんともお別れなのか。 あなたのお茶が飲めなくなるかと思うと、俺も本当に寂しいですよ。 このようにして、唐突に始まった涼宮ハルヒを取り巻くありとあらゆる不思議な現象は、唐突に終わりを告げたのだった。 そう思っていた。これが実は終わりなどではなく、本当の意味で全ての始まりになることなど、当時の俺には全く想像出来ないことだった。 第一章
https://w.atwiki.jp/haruhi-2ch/pages/53.html
涼宮ハルヒの退屈 基礎データ 著:谷川流 口絵・イラスト・表紙:いとうのいぢ 口絵、本文デザイン:中デザイン事務所 初版発行年月日:平成16年(2004年)1月1日 本編298ページ 表紙絵:長門有希 タイトル色:黄色 初出涼宮ハルヒの退屈(ザ・スニーカー2003年6月号)、笹の葉ラプソディ(ザ・スニーカー2003年8月号)、 ミステリックサイン(ザ・スニーカー2003年10月号)、孤島症候群(書き下ろし) 初出順:涼宮ハルヒの退屈(第1話)、笹の葉ラプソディ(第3話)、ミステリックサイン(第4話)、孤島症候群(第7話) 裏表紙のあらすじ紹介 ハルヒと出会ってから俺は、すっかり忘れたと言葉だが、あいつの辞書にはいまだに"退屈”という文字が光り輝いているようだ。その証拠に俺たちSOS団はハルヒの号令のもと、草野球チームを結成し、七夕祭りに一喜一憂、失踪者の捜索に熱中したかと思えば、わざわざ孤島に出向いて殺人事件に巻き込まれてみたりして。まったく、どれだけ暴れればあいつの気が済むのか想像したくもないね……。非日常系学園ストーリー、天下御免の第3巻!! 目次 プロローグ・・・Page5 涼宮ハルヒの退屈・・・Page7 笹の葉ラプソディ・・・Page74 ミステリックサイン・・・Page133 孤島症候群・・・Page182 あとがき・・・Page304 アニメ テレビアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』より 2006年放送第4話『涼宮ハルヒの退屈』(2009年放送では第7話) 2006年放送第6話『孤島症候群・前編』(2009年放送では第10話) 2006年放送第7話『ミステリックサイン』(2009年放送では第9話) 2006年放送第8話『孤島症候群・後編』(2009年放送では第11話) 2009年改めて放送した『涼宮ハルヒの憂鬱』より 2009年放送8話『笹の葉ラプソディ』 漫画 ツガノガク版(雑誌の発表号などの詳しい情報はツガノ版漫画時系列で) コミックス第3巻に収録第10話『涼宮ハルヒの退屈 I』 第11話『涼宮ハルヒの退屈 II』 第13話『笹の葉ラプソディ I』 第14話『笹の葉ラプソディ II』 コミックス第4巻に収録第15話『ミステリックサイン I』 第16話『ミステリックサイン II』 第17話『ミステリックサインおかわり』(オリジナルだが、原作で示唆アリ) 第18話『孤島症候群 I』 第19話『孤島症候群 II』 ぷよ版 涼宮ハルヒちゃんの憂鬱コミックス第2巻に収録 笹の葉ラプソディのパロディ少年エース連載第12回、2008年8月号(7月7日-対策-やる気-願い-失念-ミッション-再利用-笹の葉ラプソディ(非4コマ)-変態-不法侵入-地上絵-寝起き-おつかい-パジャマ-解読-ニアミス) みずのまこと版 コミックス未収録 ※保有している方加筆お願いします。 登場キャラクター(原作のみ登場) キョン 涼宮ハルヒ 長門有希 朝比奈みくる 古泉一樹 鶴屋さん 朝比奈さん(大) コンピュータ研究部部長 喜緑江美里 谷口 国木田 キョンの妹 森園生 新川 多丸圭一 多丸裕 あらすじ 後に繋がる伏線 刊行順 ←第2巻『涼宮ハルヒの溜息』↑第3巻『涼宮ハルヒの退屈(原作)』↑第4巻『涼宮ハルヒの消失』→
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3672.html
翌日の朝。俺は懐かしい早朝ハイキングコースを歩いて学校へと向かっていた。 とは言っても、向こうの世界じゃ毎日のように往復していたけどな。 北高に入り、下駄箱で靴を履き替えていると、 「おっ。キョンくん。おはようっさ。今日もめがっさ元気かい?」 「キョンくん、おはようございます」 鶴屋さんの元気な声と朝からエンジェル降臨・朝比奈さんの可憐なボイスが俺を出迎えてくれた。 何か向こうの世界じゃ何度も聞いていたのに、帰ってきたという実感があるだけで凄く懐かしい気分になるのはなぜだろう? 靴を履き替え終わった頃、長門が昇降口に入ってきた。 「よう、今日も元気か?」 「問題ない」 声をかけてやったが、やっぱり帰ってきたのは最低限の言葉だけだ。ただし、全身から発しているオーラを見る限り 今日の朝は気分はそこそこみたいだな。 階段を上がっている途中で、なぜか生徒会長と共にいる古泉に遭遇する。 「やあ、これはおはようございます――どうしました? 何かいつもと雰囲気がちょっと違うように見えますが」 「朝からお前と遭遇して、せっかくの良い気分がぶちこわしになっただけだ」 「これは手厳しい」 ふと、俺はあることを思い出し、古泉と生徒会長を交互に見渡して、 「とりあえずご苦労さんとだけ言っておく」 「はい?」 俺の台詞の意味がわからず、呆然とする古泉と生徒会長を尻目に俺は自分の教室へと向かった。 そして、教室に入ってみれば、ハルヒのしかめっ面が俺をお出迎えだ。 少しはこっちの気分を読んで欲しいぞ、全く。 「遅い! せっかく良いもの見つけたから、朝ご飯食べながら学校に走ってきたのに!」 「お前の都合でどうこう言われても困るぞ」 団長様のありがたい怒声を聞きつつ、俺は自分の席に座る。 見ればハルヒは机の上にチラシを沢山並べていた。どうやら何かの催しの案内らしいな。今度は何だ。 全米川下り選手権にでも丸太に乗って参加するつもりか? 「ほら見てよ、これって凄くおもしろそうじゃない? ついでにSOS団のアピールもバッチリだわ! これは――」 意気揚々と語り始めるハルヒ。俺はそれを耳から垂れ流しつつ、ちょっとした考え事に入る。 最初に言っておくが、これは昨日の夜家に帰って風呂に入りながら考えた俺の妄想だ。 俺はずっと向こう側の世界に行って、SOS団を作り上げるまで試行錯誤しまくってきたわけだが、 実際のところ不可解な点もたくさんあるのが実情だ。 特に情報統合思念体については明らかに矛盾している点がある。連中は長門によるハルヒの力の使用は二度あって、 一度はハルヒのリセットで隠蔽、もう一つは直前で阻止したようだったが、今俺が帰ってきた世界の長門の世界改変分が カウントされていないのはなぜだ? 最初に聞かされた話じゃ、ここの連中とあっちの連中も結局は同じもののはずだからな。 そう考えれば、俺の知る限り長門による力の行使は三回あったはず。これはあきらかに矛盾している。 じゃあ、実はハルヒの勘違いで、こことあっちの連中は実は別物と言う可能性はどうだろうか? 一応パラレルワールドみたいなものだし、 その分だけ情報統合思念体が存在していてもおかしくはない。が、それはそれで矛盾がある。見たところ同じような考えを持った 存在だったことを考えれば、この世界で長門が世界改変を実施したら、同じように長門の初期化、さらにハルヒの排除という 流れになるんじゃないだろうか。向こうの連中は過剰反応しただけで済ませるにはどうにも腑に落ちない。 まあ、なんだ。前置きが長くなったが言いたいことはこういうことだ。 俺が去った後にリセットされてやり直されている世界――それが今俺のいる世界なんじゃないかってね。 つまり俺はずっとここに至るまでの軌跡をずっと描き続けてきたってことだ。 情報統合思念体にも実は俺たちとは違うが時間の流れみたいなものがあって、あの交渉の結果、 この世界では長門の世界改変がスルーされた。約束通りに。 それだといろいろつじつまの合うことも多い。 ハルヒがどうして宇宙人(長門)・未来人(朝比奈さん)・超能力者(古泉)・異世界人(俺)がいることを望んでいたのか。 それは最初からSOS団を作るために、探していたんじゃないだろうか。だからこそ、不思議なことを探してはいるものの、 全員そろっている現状に密かに満足しているのではないのか。それだと唯一いないと言われている異世界人は、俺だし。 それに…… ―――― ―――― ―――― なーんてな。考えすぎにもほどがある。本当にそうなら、今目の前にいるハルヒは自分が神的変態パワーを持っていることを 自覚していることになっちまうが、それなら最初に世界を作り替えようとしてしまったこととか、元祖エンドレスサマーとかの 説明が全くつかなくなってしまう。自覚してあんなデリケートな性格になっているんだから、あえてやるわけがない。 普段の素振りを見ても、そんな風にはとても見えないしな。自覚しているハルヒを知っている身としては。 ……ただし。 ――あんたの世界のあたしがうらやましい。何も知らずにただみんなと一緒に遊んでいられるんだから―― この言葉が少々引っかかるが。 まあ、どっちにしろ凡人たる俺にそんなことがわかるわけもない。一々確認するのも億劫だし、面倒だ。 現状のSOS団に満足しているのに、わざわざヤブを突っつく必要なんてあるまい。 俺の妄想が本当かどうかはその内わかるさ――その内な。この世界も別の神とか宇宙的勢力とか出てきて、 まだまだ騒がしい非日常が続いて行きそうな臭いがプンプンしているし。 「ちょっとキョン! ちゃんと聞いているの!?」 突然ハルヒが俺のネクタイを引っ張ってきた。やれやれ、妄想もここまでにしておくか。 俺はハルヒの手をふりほどきつつ、 「で、次はどこに連れて行ってくれるんだ?」 その問いかけにハルヒはふふんと腕を組み、実に楽しそうな100W笑顔を浮かべて、 「聞いて驚きなさい。次はね――」 ~涼宮ハルヒの軌跡 完~
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3549.html
「お久しぶりね、キョン君」 ん・・・?この声は・・・?まさか!? そう、俺は、一番聞きたくない奴の声を聞いて目を覚ましたのだった。 「朝倉!?どうしてお前らがここにいる!?というかこれはどうなっているんだ!?それに・・・そこにいるのはハルヒか!?おい、ハルヒ!無事だろうな!?」 場所は今、文芸部部室、もといSOS団アジト。いつもの平穏な空気など微塵も残っておらず、今や部室内は一面が闇に包まれ、暗黒に染まっている。 その中で、ひとつの闘いが、今まさに幕を閉じようとしていた。 「なんか彼、ごちゃごちゃうるさいけど、覚悟はできてるわね?それじゃあ本当に終わりにしましょうか、涼宮さん?いくわよ?・・・・・の攻撃!プレイヤー涼宮ハルヒにダイレクトアタック!!!」 何も言わずにモンスターの攻撃を喰らって吹っ飛ぶハルヒ。そしてライフも0になった。 「大丈夫か!?ハルヒ!?」 駆けつけようにも情報操作でもされているのか、俺の体はピクリとも動かない。 クソ・・・なんでこんなことになっちまったんだよ!? なんで朝倉が復活してるんだ!?こりゃあ一体どうなっているんだ!?これもハルヒの力のせいなのか!? なぁ、ハルヒ。本当にお前がこんな状況を作り上げたのか? 俺は、『闇のゲーム』に立ち会うこととなった原因へとフラッシュバックした。 ・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・ 俺は、相変わらず自分に搭載されているコンピューターでは解析不能な「英語」という名の謎の文字列の授業を、素晴らしき「夢」という名の世界に旅立つことによって克服し、SOS団のアジトと化した我等が文芸部室へ歩みを進めていた。 ハルヒはハルヒで、授業が終わるや否や教室を台風の通り過ぎるようなスピードで飛び出していった。たしか手に何か本みたいなのを持っていた気がするな。あまりのスピードでよくわからんかったがな。本なんかアイツに似合わんが一体どうしたんだ? なんて、そんなことを考えているうちに俺の足は文芸部室のドアの前についていた。 コンコン、とノックをする。もしかしたら、麗しのマイスイートエンジェル、朝比奈さんがお着替え中かもしれんしな、うん。たまにはノックをし忘れたことにしてそのお姿を拝見してみたい、なんて考えたことないぞ。本当だ。本当だからな。 「はぁ~い、どうぞぉ~」 天使のような声が耳をうずかせる。どうやらもう着替えは終わっているようだ。ちょっと残念・・・なんて思ってないからな。 かちゃり、と戸を開けると、そこにはいつもの席で石像の様に静かに本を読み続ける宇宙人、小動物のように愛くるしい未来人、0円スマイルを貼り付けてニヤニヤしている超能力者、そして、我等が団長、涼宮ハルヒがいた。 「すぐにお茶を淹れますから、ちょっと待ってて下さいね~」 いつもいつもありがとうございます、朝比奈さん。もう俺はあなたのお茶なしでは生きていけませんよ。 「うふふ、ありがとうございます。お世辞でもうれしいです」 そういうと朝比奈さんはちょこちょことお茶を淹れにいった。教室で少し様子のおかしかったハルヒは、というと、相変わらず、まるで長門のように本のようなものを読み漁っていた。 その本が何かって?そんなの俺にも分からんさ。なぜならカバーをかけているからな。 それに、険しい顔して読んでるもんだから、聞く気にもならんしね。 「おい古泉、ハルヒのやつ、また機嫌でも悪いのか?授業の時からずっとあんな感じなんだが」 「いえ、そういう事はないようです。僕のところにはなんの連絡も入っていませんし」 まあ古泉がそういうんだ。間違いはないだろう。触らぬ神に祟りなし、というやつか。 「それはそうと、久々にアレ、やりませんか?実は結構楽しみにしてたんですよ」 別に構わない、というより実は俺も結構楽しみにしていたぞ。最近ご無沙汰だしな。だが手加減はせんぞ。俺の無敗伝説をコレでも更新したいからな。 「今回は甘く見ていると痛い目にあうかもしれませんよ?」 望むところだな、それじゃいくぞ! 「「決闘(デュエル)!!!」」 結果から言ってしまうと俺の勝利だった。マイスイートエンジェル、朝比奈さんの前で醜態を曝す訳にはいかないからな。長門もちらちらと見てたし。だが、古泉は古泉でなかなか強かった。 少しでも手を抜いていたら下手したら負けてたかもしれん。 「今回は結構自信があったのですが。いやはや、やはりあなたはお強いですね」 いつもより一割くらい減ったニヤケ具合で話しかけてくる。お前はそんなに俺に負けたのが悔しかったのか?でもお前も十分強かったぞ。 「あなたが僕のことをそういうなんて珍しいですね。僕もまだまだ捨てたもんじゃないってことですか」 調子に乗るな。そういうのは俺に勝ってから言え。挑戦は受けてたつぞ。 「ではお言葉に甘えまして、もう一勝負どうです?今度は負けませんよ?」 いいだろう、相手をしてやるよ。来い、古泉! 「それでは・・・」 「「決・・・」」 闘と続けようとしたが、突如、 「覚悟はいいわね、キョン!!!滅びの呪文、デス・アルテマっ!!!」 との言葉とともに後頭部に激痛が走る。あまりの痛みに、少しの間、頭を抱えたまま悶絶する。そしてしばらくして後ろを見ると、モップの柄をもって、目をキラキラ輝かせながら団長様が仁王立ちしていた。 「痛ってえな!なにしやがる!」 「何ってデス・アルテマよっ!あんた、聞いてなかったの?」 そういう問題ではない。俺が聞いているのは何でお前がモップの柄で俺の頭を叩いたのかってことを聞いているんだ。ただでさえ赤点レーダーギリギリ低空飛行な俺の頭がこれ以上悪くなったらどうするんだ? 「あんた、もうあんまり悪くなりようがないじゃないのよ。そんなことよりやっぱりデュエルモンスターズは王国編よね!ストーリー的にあれが一番面白いわよ!」 そうかい、俺の話はもうスルーかい。そしてお前が今日ずっと読んでいたのはアレだったのか・・・。それと古泉、お前、見えてたんならあいつをちゃんと止めろよ。俺は痛いこととか苦しいこととかはまっぴらなんだからな。 「すみません、不注意でした」 そのニヤニヤ顔で言われても全く誠意が伝わってこないのだが。 「ごごご、ごめんなさい、キョン君・・・」 いえいえ、あなたが謝るなんて、とんでもないですよ、頭を上げてください、朝比奈さん。悪いのはハルヒの馬鹿なんですから。 「…………」 お前も気にしなくていいぞ、長門。 「あんたを差し置いて誰が馬鹿よっ!それにあんたねぇ、もう過ぎたことを気にしても遅いのよ!ちゃんと前を見なくっちゃ、前を!」 やれやれ、当の本人がなんとも思っちゃいないなら意味ない、か。 「それよりもキョンに古泉君、あんたたちがやってるのって、デュエルモンスターズよね!?私もいまデッキあるのよ。さあ!どっちか決闘しなさい!」 そういって、ハルヒは自分のポケットからデッキを取り出した。目には炎を灯らせてな。しかもなぜか腕章には『決闘王』の文字が。 悪いが古泉、続きはまた今度になりそうだな。 「そうですね。残念ですが仕方ありません」 「そこっ!コソコソしゃべらない!じゃあ・・・そうね、キョン。あんたが相手しなさい!」 やれやれ、もうすっかりさっきのことを忘れてやがる。仕方ない、カードで軽く仕返しでもしてやるか。 「分かったよ、こい、ハルヒ」 「あんたなんかに絶対負けないんだからね!」 こうして俺たちの決闘は始まった訳だが、思惑通りあっさり勝負は決まってしまった。 「・・・え?嘘よ・・・こんなの嘘よ・・・もう一度勝負よ!」 構わんぞ。何度やっても変わらんと思うがな。それに俺の鬱憤晴らしにもなるしな。 その後、三回ほど決闘し、俺が全勝したところで長門がパタンと本を閉じて、お開きとなった。俺に数連敗してぶつくさ言いながらぶーたれているハルヒをよそ目に俺はカードを片付け、デッキをしまおうと鞄をあけた。そうしたら中に何のラベルも貼られていない謎のディスクが入っているではないか。ここに来る時は確かなかったよな?古泉とやるために鞄を開けたときは・・・・覚えていない。が、恐らくその時にでも紛れ込んだのだろう、と思って他の部員に声をかけた。 今思えばあんな怪しいものはないのだが、そのときの俺はなんとも思わなかったのかね。出来る事なら過去に戻って面倒なことになるからやめろ、と過去の俺に言ってやりたいくらいだ。残念ながら俺にそんな記憶はないので、できない話なんだろうがな。 「このディスク、誰のだ?俺の鞄に入っていたんだが」 古泉、お前か? 「いいえ。違いますよ」 じゃあ長門か? フンフンと頭を横に1ミクロンくらい振る。 なら朝比奈さん、あなたのですか? 「ふえっ?何ですか?え~と、そのディスクですか?う~ん、違う・・・と思いますよ」 ということは消去法でハルヒ、お前のだな? 「違うわよ。でも何か怪しいわね!キョン、これの中身調べるわよ!」 と言ってディスクを俺の手から奪い取った。 「なぁ、長門、あのディスク、大丈夫なのか?」 「……分からない。あのディスクには高度なプロテクトがかけられている。それを解くには情報操作が必要」 と言ってチラッとハルヒを見た。そうか、アイツがいるからそれができないんだな? そう聞くと長門はコクッと頷いた。古泉もこの話を聞いていたらしく、アイコンタクトを送ってくる。ピコッ、とパソコンの起動音がした。 「さぁて、この中身はなんなんでしょうね!?もしかして宇宙人からのメッセージが入ってるとか!?あ!まさか!キョン、実はあんたのディスクで、中にいやらしい画像とかが入ってるんじゃないでしょうね?」 馬鹿かお前は。もし本当に自分のだったらいちいち人に聞かんぞ。 「さぁ、どうかしら?あ、ついたついた」 そういって起動したパソコンに目を移す。長門は少し緊張した顔をしている。古泉もいくらか真剣な目をしていた。 カチッ。 その音を聞いて俺は自分の意識を突如として失った。 ================================================================= 「一体何よこれ!?どうなってんのよ!」 ディスクのデータをクリックして起動させたとたん、部室一面が闇に覆われてしまった。 ぱっと見、前に見たキョンと二人っきりの夢の世界に似てるけど・・・ ううん、ぜんぜん違うわね。あの巨人こそいないものの、なんか禍々しいものを感じるというか・・・ 「ね、ねぇキョン?」 これどうなってんのよ!?と言いかけてあたしは言葉を失った。 だってそこにはさっきまでいたはずのキョンが、いや、キョンだけじゃない。有希やみくるちゃんや古泉くんといったみんなが、どこを見回しても影も形もなく消えちゃってるんだもの。 もう一度パソコンに目を移す。だってこれをやってからおかしくなったのよ?だったらもっかいなにかをやれば元に戻るはずよ!そう思ってパソコンに手を伸ばしたとき、突如あたしの後ろから声がした。 「ふふふ、お久しぶりね、涼宮さん?」 ハッとして後ろを振り返る。 「あんたは・・・朝倉?!いつの間に!?いったいどこから!?」 「あら、せっかくの再開なのに、その言い様はないんじゃないの?」 「そんなことどうでもいいのよ!それよりも、ねえ、あんた、みんなのこと知らない!?」 「知ってるわ。だってあたしが閉じ込めたんだもの。」 「ならさっさと解放しなさい!」 「いいわよ。ただし、命をかけた『闇のゲーム』でわたしに勝てたら、だけどね。もちろん決闘で」 そういって朝倉は左手をガッツポーズの形にした。その腕にはいつの間にか決闘盤(デュエルディスク)がついている。一体いつの間につけたのかしら?それに『闇のゲーム』って・・・まさにあたしが今日読んでたあたりじゃない!でも今はそんなこと気にしてる場合じゃない。 「なんだかよく分かんないけど、その勝負、乗ってやろうじゃないの!このあたしに決闘を申し込んだことを後悔させてやるわ!」 そう言ったとたん、急に左手に重量を感じた。なんと、あたしの腕にも決闘盤が。 ほんと、これこそまさに不思議よね。・・・てそんな場合じゃなかった。 「分かったわ。それじゃあいくわよ?」 「「決闘!!!」」 掛け声とともにあたしたちはデッキから5枚のカードを引いた。 「ふふふ、闇のゲームの始まりよ!わたしの先行、ドロー!そうね、ここはリバースカードを2枚セット、さらにモンスターを守備表示でセット。これでわたしのターンは終了」 朝倉がカードをセットするのと同時に巨大なカードのビジョンがブォンという音と一緒に部室内に現れる。何よこれ!超おもしろそうじゃないの! 「それじゃいくわよ!朝倉!あたしのターン!ドロー!あたしはヂェミナイ・エルフ(攻1900/守900)を召喚!」 さっきと同じように、ブォンという音とともにフィールドに双子エルフのヴィジョンが出現する。 「それじゃ、いくわよ!ヂェミナイ・エルフであんたのモンスターを攻撃!」 エルフの姉妹の息のあったコンビネーション技が相手に決まり、セットされたモンスターがパリーンという音とともに撃破される。凄いじゃないの、これ!!! 「やったわ!どうよ、朝倉!さっさと観念しなさい!」 「ふふっ、ありがと、涼宮さん。あなたの攻撃したモンスターはリバースモンスター、メタモルポット(攻700/守600)だったの」 メタモルポット・・・確かアレは・・・ 「あなたの攻撃でメタモルポットは表表示となり効果発動!お互いのプレイヤーは手札を全て捨てて、新たにデッキから5枚引く」 やっぱり!?せっかく手札にいいカードがあったのに!ううう、悔しいわね。 「あんた、よくもやってくれたわね!?」 「ううん、本当はこれからなのよ?」 といって朝倉が微笑む。それを見たあたしは、なんだか嫌な予感がしたの。まあそれは奇しくもあたることになるんだけど・・・ そして突然、ウヲヲヲヲヲヲという地獄の底から響いてくるような雄たけびが聞こえ、暗黒の渦が現れ、雷とともに中から一体の白銀の悪魔がフィールドに舞い降りた。 なんで!?なんでこんな強そうなモンスターがいきなりでてくんのよ!? 「このカードは暗黒界の軍神シルバ(攻2300/守1400)。このカードは他のカードによって手札から墓地に送られたとき、フィールドに特殊召喚することができるの。あなたがメタモルポットを攻撃してくれたおかげよ。そのおかげでデーモンの召喚が墓地にいっちゃたんだけどね。一応お礼を言わせてもらうわ」 何よそれ、反則じゃない。いきなり2300とか対抗できるわけないじゃないの! 「だ、だったらリバースカードを1枚セットしてターン終了よ!」 朝倉、かかってきなさい!あんたなんか次のターンでボコボコにしてやるんだから! 「わたしのターン、ドロー!まずは手札から魔法カード、未来融合-フューチャー・フュージョン-を発動!このカードが発動したとき、わたしは融合モンスターを指定して、それの融合素材をデッキから墓地に送る。そして2ターン後のスタンバイフェイズ時にその融合モンスターを特殊召喚することができるの。ちなみにわたしが選ぶモンスターは有翼幻獣キマイラ。よって、デッキから幻獣王ガゼルとバフォメットを墓地に送るわ」 ううう、厄介なカードね。でもなんでキマイラ?あれはそこまで強くないじゃない。 「そして手札からシャインエンジェル(攻1400/守800)を召喚!」 リクルーターね。戦闘で破壊してもデッキから特殊召喚してくる嫌なカードだわ。 「ふふふっ、それじゃバトルフェイズね。いくわよ!暗黒界の軍神シルバでヂェミナイエルフを攻撃!」 やっぱり来たわね。でもこの攻撃をくらうわけにはいかないのよ! 「今よ!リバースカードオープン!攻撃の無力化!よってシルバの攻撃は無効よ!」 「なんですって!?」 「残念だったわね、朝倉!これであんたのバトルフェイズは終了よ!」 「やるわね。ターン終了よ」 ふう、危なかったわ。エルフが破壊されてたら結構やばかったかもね・・・いくわよ!朝倉! 「あたしのターン!ドロー!あたしは手札から魔法カード、召喚師のスキルを発動っ!このカードは、デッキから星5以上の通常モンスターを手札に加えるカード。あたしはこの効果で真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)を手札に加えるわ。」 「あら、あなたのフィールドにはモンスターは1体しかいないわよ?どうやって出すつもり?」 「まだあたしのメインフェイズは終わってないわ!今度は手札から黒竜の雛(攻800/守500)を召喚!」 「ふふっ、なぁに、そのかわいい竜は・・・ん?・・・・はっ!そ、そのカードは!?」 「ようやく気がついたようね、朝倉!あたしは黒竜の雛の効果を発動!表表示でフィールドに存在するこのカードを墓地に送ることによって、あたしは手札から真紅眼の黒竜を特殊召喚することができる。出でよっ!真紅眼の黒竜((攻2400/守2000)!」 フィールド上にいた可愛らしげな雛が閃光に包まれたかと思うと、疾風とともに中から大きな黒竜が現れた。くううう、かっこいいじゃない!あたしのレッドアイズ!!! 「えっ・・・ここで一気に形勢逆転されるなんて!?」 朝倉の顔に驚きの色が浮かぶ。いくわよ、レッドアイズ! 「バトルフェイズに入るわ!レッドアイズでシルバに攻撃!」 レッドアイズが口を開き、そこに熱く燃え盛る炎がみるみるうちに集まっていく。 「喰らいなさい!黒・炎・弾!!!」 レッドアイズの口から炎が発射され、シルバを捕らえた。ドガァァァァァンという轟音の後にはもはやシルバは完全に消え去っていた。 「くっ!!!やるわね!?」 よし、朝倉のライフが3900になったわ。このまま一気に攻めるわよ! 「それと、ヂェミナイエルフでシャインエンジェルを攻撃!」 「きゃあああ!!!!」 これで朝倉のライフは3400。このまま一気に押し切るわよ! 「ちょ、ちょっと待ってもらえる?シャインエンジェルの効果を発動するわ」 なによ?なんかあるわけ? 「シャインエンジェルが先頭で破壊されたとき、わたしは攻撃力1500以下の光属性モンスターを特殊召喚することができるわ。だからわたしはもう一度シャインエンジェルを特殊召喚」 リクルーターだったのすっかり忘れてたわ。まぁ盾ってわけね。なかなかしぶといじゃないの。 「これであたしのターンは終了よ」 「それじゃあわたしのターンね。ドロー!そうしたらリバースカードを2枚セット。シャインエンジェルを守備表示に。これでターン終了するわ。かかってきたらどう?涼宮さん?」 なんだ、朝倉ったらよくわからない魔法使っただけで何もしかけてこないじゃない。あのリバースカードは気になるけどね。あたしのライフはまだ無傷だし、攻撃あるのみ、かしら。 「あたしのターン、ドロー。下級モンスターはこない、か。なら戦うしかないわね、いくわよ、ヂェミナイエルフでシャインエンジェルを攻撃っ!」 どうどう?トラップは来るの!?・・・とハラハラしたが、どうやら間違いだったみたいね。だって、苦い顔しながら効果でもう一度シャインエンジェル出してきたくらいだもん。 これってかなりのチャンスよね!? 「続けてレッドアイズでシャインエンジェルを攻撃よっ!黒・炎・弾!!!」 朝倉のモンスターは攻撃表示。特殊召喚されるのは厄介だけど、1000ダメージは大きいわね。なんて思ってる間に黒炎弾がシャインエンジェルに命中し、爆発が起きる。それで出た爆煙がフィールドを埋め尽くした。 でも朝倉が包まれる寸前、その顔に笑みが浮かんでいたのは気のせい、よね・・・? 「どうよ朝倉。1000ダメージは痛いでしょ!?あんたがいくらモンスターを呼ぼうと・・・」 「それ、よんでたわよ、涼宮さん!あなた、自分のライフを見てみなさい」 煙の中で朝倉が笑う。何が言いたいのよ?あたしのライフ4000のままでしょ?減ってるわけが・・・・・ あれ?なんで?なんであたしのライフが3000になってんの!? 「それはわたしがトラップを発動したから」 煙が徐々に晴れ、そのトラップが姿を現した。 「トラップカード、ディメンションウォール。このカードは、プレイヤーが戦闘ダメージを受けたときに発動するカード。その戦闘ダメージを相手に与えることができる。よってあなたに1000ダメージ!」 「くっ、そうくるなんて思ってもみなかったわ」 最初の攻撃で使ってこなかったのは戦闘ダメージが発生しなかったからなのね。モンスターを伏せてこなかったのも、確実にシャインエンジェルに攻撃させるため、か。 ホント強いわね、こいつ。ライフ的には負けてるけど、朝倉の場はリバースカード1枚と未来融合だけ。次の朝倉のスタンバイフェイズにキマイラが出てくるけど・・・ レッドアイズの敵じゃないわね。それにこのカードがあればキマイラなんてちょちょいのちょいよ。しょうがないけど、このターンはもう何もできないかな。 「あたしはリバースカードを1枚セットしてターン終了!」 「いくわよ、私のターン。ドロー!スタンバイフェイズで有翼幻獣キマイラ(攻2100/守1800)を未来融合によって特殊召喚!」 残念だったわね、キマイラは破壊させてもらうわよ! 「今よ!リバースカードオープン!速攻魔法、サイクロン発動!」 相手ターンでも使える速攻魔法。サイクロンはその中でもかなり優秀で、フィールド上の魔法・罠カードを1枚破壊することができる。 未来融合は、未来融合自体が破壊されたら特殊召喚した融合モンスターも破壊する効果も持っていたはず。これで相手のフィールドはほぼがら空きね! 「もちろん破壊するカードは未来融合よ!」 グラフィック化された未来融合のカードに向かって一つの竜巻が迫る。これで朝倉ももうお終いよ! 「惜しかったわね!リバースカードオープン!カウンタートラップ、マジックジャマー!このカードは手札を1枚捨てることによって、相手の魔法カードの発動を無効化し、破壊することができるカード。よって、わたしは手札を1枚捨てて、サイクロンの発動を無効化するわ!よって、キマイラも健在よ。」 竜巻の進行方向に魔方陣が突如として現れ、竜巻を吸い込んでいった。 「ふ、ふんっ。でもあんたのフィールドにはキマイラしかないじゃない。だったら早めにあんた自身で負けを認めなさい!それで、このゲームを終わらせてみんなに会わせなさい!」 あたしがそう言ったとき、朝倉は、ふふふっ、とこれで何度目か分からない笑いをこぼしたの。その眼には狂気の色を浮かべて。 「そうね、このゲームを終わらせるのにはわたしも賛成だわ。でもね、負けるのはあなたよ」 何言ってるのよ、圧倒的に有利なのはあたしのほうじゃないの。 「見てれば分かるわよ。嫌でもね」 その時あたしはなんだかとっても嫌な感じがしたの。何度もそれが何かの間違いであるように願ったわ。でもね、嫌な予感ってのはなかなかはずれないもんなのよね。 「まずは速攻魔法、魔道書整理を発動。これによってわたしはデッキの上から3枚までのカードを見て、それを好きな順番で戻すことができる」 朝倉はデッキの上から3枚のカードをめくり、ふふん、と笑って順番を入れ替えた。何考えてるのかしら?まったく分からないわ。 「残念ね、涼宮さん。あなたの負けはもう規定事項みたい」 は?あんた何言ってるのよ? 「ふふっ。すぐに終わらせてあげるわ。わたしは、墓地に存在する、デーモンの召喚、暗黒界の軍神シルバ、バフォメット、シャインエンジェルの、3枚の闇の悪魔、1枚の光の天使をゲームから除外し、混沌の世界から破滅の使者を呼ぶわ!降臨せよ!天魔神ノーレラス(攻2400/守1500)!!!!!」 そう朝倉が言い放つと、あたしと朝倉の間に闇が集まり、ゲートを作り出した。そのゲートの中心部から一筋の光が放たれ、その中から暗黒の巨体に闇の翼を生やし、髑髏の仮面をつけた、邪悪な魔人が現れた。なんなのよ、コイツは・・・ 「お、大口たたいた割には、出てきた奴はレッドアイズと同じ攻撃力のモンスターじゃない。あんた、まだ本当に勝つつもりなの?」 確かにレッドアイズと同士討ちされて、キマイラでヂェミナイを攻撃されたら痛いわね・・・でもあたしの手札には聖なるバリア-ミラーフォース-があるのよ。次のターンで相手モンスター全滅よ!この状況であたしが負けるわけないじゃない。 「あら、何を勘違いしてるの?わたしはノーレラスでは攻撃しないわ」 じゃあ何のために出したっていうのよ? 「もちろん効果のために決まってるじゃない。あなたを敗北の道に突き落とすための効果をね」 あんた、一体なにを考えてるのよ? 「見せてあげるわ!ノーレラスの効果発動!プレイヤーはライフを1000払うことによって、お互いのフィールド、手札を全て破壊し、墓地に送る!その後、お互いはカードを1枚引く」 ええ!?あたしのミラーフォースが!レッドアイズが!なんてことなの!フィールドと手札がリセットされちゃったじゃない!こんなのって反則よ! で・・・でも何かしら?何か忘れているような気が・・・・ 「あながちそれも間違いじゃないわ」 その言葉であたしは朝倉のフィールドを見て、そして驚いた。 「なんで!?すべてのカードが破壊されたはずなのになんであんたのフィールドにモンスターがいるのよ!」 おかしいじゃない!まだカードだってドローしてないわよ? 「あなた、キマイラの効果、覚えているかしら?」 キマイラの効果・・・?確か・・・キマイラが破壊されたときに、墓地から幻獣王ガゼルかバフォメットを場に特殊召喚できる・・・・・っ!!! 「そうよ。ノーレラスによって破壊されたキマイラは効果を発動!わたしは幻獣王ガゼル(15攻00/守1200)を攻撃表示で特殊召喚!」 あたしには今手札も場もがら空き・・・次のターンまでもつの?! 「それよりも涼宮さん、わたしたちはまだドローしてないわよね?」 ええ、そうね。このドローで次のターンにつなげるしかないもの。 「それと、さっきわたしが使ったカードも覚えてる?」 何だったかしら?確か・・・魔道書整理・・・ってまさか!?今のために!? 「そうよ。全てはこのときのため。それじゃあゲームを終わらせましょうか。あなたの敗北でね。幻獣王ガゼルを生け贄に、偉大魔獣ガーゼット(攻0/守0)を召喚!」 攻守0ですって?そんなカードで何ができるっていうのよ? 「あら、あなたはこのカードの効果を知らないの?なら教えてあげる。このカードはね、このカードを召喚するのにつかった生け贄モンスターの攻撃力の2倍の数値を自分の攻撃力として得ることができるのよ」 そ・・・それじゃあ今、ガーゼットの攻撃力は・・・・・ 「3000、ね。ちょうどあなたのライフポイントと同じね」 あたしは絶望した。この攻撃を耐えることなんて不可能だから。そう・・・あたしの負け、なのね・・・ 「朝倉、あたしの負けよ。でも、ひとつだけお願い聞いてもらえないかしら?」 「いいわよ。どうせこの後消えちゃうんだもんね。わたしにできる範囲なら構わないわ」 よかった。それを聞いて安心したわ。 「じゃ、じゃあ・・・・・キョンに会わせてほしいの」 「あら、そんなことでいいの?いいわよ、会わせてあげる。でもしゃべっちゃ駄目よ?」 分かったわ。会えるだけでも十分よ。それを聞いて朝倉は満足したのか、ポケットからカードを1枚取り出し、なんかよくわからない言葉を早口でつぶやいた。そして、カードが一瞬光ったかと思うと、部室の空間の一角が歪み、そこからキョンが出てきた。 あれから数十分しか経ってないのに、すごく懐かしく感じる。でも、キョンは目を閉じていた。 「ちょっと!キョン、気失ってるじゃない!あんた、何やったのよ!」 朝倉は、大丈夫よ、と言うと、また謎の早口言葉を始めた。なんなのかしら、あの呪文は。 「お久しぶりね、キョン君」 しばらくして朝倉がそういうと、キョンが目を覚ました。 ああ、これでもう未練はないわ。いや、もうすこしこいつと話がしたかったな・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・ ・・・・ 「大丈夫か!?ハルヒ!?」 体が動かせない分、ありったけの声を張り上げる。頼む!無事でいてくれ! 「そんなに心配しなくてもすぐ起きるわ。何もしてないもの。だって彼女、まだ罰ゲームを受けてないからね」 「貴様!これ以上ハルヒを苦しめるな!なんなら俺が相手になってやるぞ!」 俺なりに一番迫力がありそうな眼で朝倉を睨み付ける。身体はエースキラーに捕まったウルトラ兄弟みたいな格好で動かせないがな。そこ、ダサいとか言うな。 「でもこの決闘は彼女も望んでしたこと。きつく言うようだけど、部外者のあなたには関係ないことよ。闘ってみたいっていう気持ちもあるけどね」 な、なら俺と・・・! 「あら、彼女が起きたみたいよ」 俺は、朝倉がそう言い終わるのよりも早くハルヒのほうを向いた。 「おいハルヒ!ここからさっさと逃げろ!逃げるんだっ!」 「・・・あんた、何勘違いしてるの?」 ハ・・・ハルヒ?その顔は冷静そのものだった。 「決闘ってのはね、そもそも古代ローマで、奴隷たちが自由を求めて命を懸けて闘ったのが始まりなのよ?それはあたしたち決闘者も同じ。あたしは負けた。命を懸けた決闘に。その闘いはあたしの望んでしたことだった」 その真剣な表情に俺は何も言い返せなかった。俺にこんな覚悟はできるだろうか。俺はハルヒみたいに何かに命を懸けられるだろうか。 「だからね。あんたには笑って見送って欲しいの」 ハルヒ・・・お前・・・ 「お話中悪いけど、そろそろいいかしら?もともとしゃべらないって約束だったんだし」 「ええ・・・そう、ね。もう時間ってわけか。」 ちょっと待ってくれ・・・頼む朝倉・・・待ってくれ! そんな俺の必死の願いも虚しく、朝倉はポケットから何も書かれていないカードを取り出した。 「それじゃ、さようなら。涼宮さん。罰ゲーム!!!魂の牢獄!!!」 そしてその口から無情な言葉が発せられた。ハルヒの体から光が抜け出し、カードに吸い込まれていく。全ての光がカードに吸い込まれる直前、あいつは言ったんだ。 「今までありがとね・・・キョン・・・」 静かに、そして悲しい微笑みを浮かべながら。 「ハルヒ!?ハルヒーーーーっ!!!!!!」 ドサッ。 ハルヒが床に倒れる。その瞬間、俺の体も動くようになっていた。その証拠に、その場に俺は泣き崩れていたんだ。 「くそおおおおぉぉおおおぉおおぉおぉ!!!!」 なんで!なんで俺じゃなかったんだ!なんで俺じゃいけなかったんだ! 「ひとつだけ、いい事を教えてあげる」 なんだ・・・? 「涼宮さんがわたしの闇のゲームを受けたのはね?あなたたちのためだったのよ?」 ・・・・・それはどういう意味だ? 「わたしは、あのディスクが起動したとき、対象を全ての能力を封じ、かつ意識を失わせた上で空間閉鎖された亜空間に閉じ込めるようにしたの。あ、いい忘れたけど亜空間っていうのはこのカードね」 そういって朝倉はみんなが描かれたカードを見せてきた。 「もちろん、対象と言うのはあなたたちのこと。」 それじゃあハルヒは・・・ 「あなたたちを助けるためにわたしの決闘を挑んだのよ」 体中に電撃が走ったみたいだった。悔やんでも悔やみきれないとはこのことだろう。そう。この事件は俺が引き起こしたも同然、いや、俺が引き金となって起こったものだったのだ。そのために古泉が。長門が。朝比奈さんが。そしてハルヒが。 それと同時に俺は分かったんだよ。俺が命を懸けれる、懸けなければならないものってのがな。 「・・・・・朝倉」 「なにかしら?」 「俺はお前に闇のゲームを申し込む」 あいつらのためなら、あいつらとの毎日を取り返すためなら、この命、微塵も惜しくはない。 「そうね。いいわよ」 ならば話が早い。いまここで・・・ 「でも条件があるわ」 条件だと?さっさと言え。 「それはあなたがわたしのところに辿り着く事」 はぁ?お前はなにを言っているんだ?全く話がつかめんぞ。ちゃんと言え。 「んん、もう。キョン君が突っ込むのが早いんじゃない。ちゃんと聞いてよね」 ああ。分かった。 「これからあなたにはある島に行ってもらって、その島にあるお城を目指してもらうわ。でもここからが重要。お城に入るには4つの証が必要なの。その4つを持っているのは4人のプレイヤーキラー。1人1つ持ってるから全員倒してもらうわ」 簡単に言うと、全員倒さなきゃお前とは闘えんということか。 「うん。そういうこと。言い忘れてたけど、あなたのライフと命は繋がってるからね」 簡単に言うと、俺のライフが0になったら俺は死ぬってことか。 「うん。そういうこと」 ・・・負けるわけにはいかないな。あいつらのためにも、俺のためにも。 「分かった。それじゃ、俺を島へ送ってくれ」 構わん。俺は勝たなきゃならないからな。いや、勝つんだからな。 「ふふっ。そういうところ、嫌いじゃないわよ。ええ、分かったわ。始めましょうか。」 ・・・・・すぐに助けてやるからな。待ってろよ、ハルヒ、長門、古泉、朝比奈さん。 「「それじゃあいく「わよっ!」「ぞ!」」」 「「決闘!!!」」 そう口にした瞬間、俺は閃光に包まれ目を閉じた。 失ったもの、命を懸けられるもの、その「答え」を取り戻すため。 俺は長く険しい闘いのロードへと足を踏み出したんだ。 ~涼宮ハルヒの決闘王国2へ続く~ ※この作品は「涼宮ハルヒの決闘」を参考にさせていただいております。 このような場所で恐縮ですが、改めてお礼とお詫びを言わせていただきたく思います。 作者様、どうもありがとうございました。そして、許可なく参考にさせていただき、すみませんでした。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5815.html
「…ルヒ…ハ…」 …… 「ハルヒ!!」 …… 俺は、気がつくと自分の部屋のベッドにいた。 「一体これはどういうことだ…?」 冷静に辺りを見渡してみる。確かにここは俺の部屋だ。 はて、部屋とか以前に俺の家は地震によって倒壊したはずなのだが。 …… 着ている服も確認してみる…どうやらこれは私服ではなく寝間着らしい。 携帯も確認してみた。何々、今日は11月29日、時刻は午前7時10分。 「…夢?あれは全部夢…?」 …よくよく考えてりゃ、おかしなことだらけだった気はする。 冬にもかかわらずの酷暑、大地震、暗黒、そして大寒波…まるで世界の終わりを告げるかのごとき夢。 ここまで支離滅裂では、さすがに夢だと考えたほうが合理的なのは誰もが納得するところだろう。 何より、人が死にすぎて… …… …死? 「妹…妹は…?!」 俺は思い出してしまった。全身から血を流し、倒れている妹の姿を…! そして、ついに帰らぬ人となってしまったことを。 考えるよりも先に体が動いていた。気付くと、俺は自分の部屋を出て廊下へと立っていた。 目的はもちろん…妹の安否の確認である。 「あ、キョン君だ!」 ふと、後ろから声をかけられた。 「今日は私が起こしに来なくても自分から起きたんだね!偉い偉い!」 …妹である。確かに妹である。 「お前…生きてたんだな…。」 「?キョン君何言ってるの?」 「ああ、すまんすまん、なんでもないぜ。」 「?とりあえず私は先行ってるね。お母さんがもう朝ごはんできたって言ってたよ!」 階段を下りてリビングへと走っていく妹。ったく、家の中で走るなっての。転ぶぞ。 …… 「よかった…本当によかった。」 妹の話しぶりからして、どうやら親父もオフクロも健在のようである。 …… 当たり前のようで気付かなかったが、家族がいるということがどれほど幸福なことなのか… 今更ながらそれを実感する。真に大切なものは無くして初めて気づくとは…まさにこのことか。 俺は部屋へと戻った。とりあえず、学校へ行くための準備をするためだ。 「しまった…宿題やってくんの忘れた。」 さすが、俺である。いつもいつも期待を裏切らない。 …… 今から忌まわしき【それ】をやり遂げようと、一瞬考えた俺であったが… どうやら時間的にそれは不可能のようである。 「学校行ってハルヒか国木田に見させてもらう他ないな…。」 頼るべきは友である。あ、いや、前者が果たして言葉通りの友なのかどうかは承服しかねるが… しかも冷静に考えてみれば、ハルヒが俺に宿題を見せてくれるなど、とてもではないがありそうにない。 おそらく、『あたしに頼るくらいなら自分でやれ!』の一蹴りでこの会話は終了だろう。 「…そういやハルヒ、随分と消沈してたな…。」 再び夢のことを思い出す俺。おかしなことと言えば、 ハルヒの様子も十二分にそれに該当するものであったからだ。 …俺は回想していた。ハルヒによって、閉鎖空間に呼ばれたあのときを。 ハルヒは新世界を構築する際に俺を閉鎖空間に呼び出した。なぜ俺が呼ばれたのかは古泉曰く、 『あなたが涼宮さんに選ばれた人だからです。』だそうだが。そこで俺が…まあ、あまり 思い出したくはないが…。とにかく、結果的に世界は元に戻り、事なきを得たわけだ。 まさか、今回俺が見たあの夢も、実はハルヒの能力に関したものだったのだろうか…? もしそうであるなら、夢の中でのハルヒの様子がおかしかった理由も説明がつくが…。 しかし、それではどうも俺には腑に落ちない点が多い。仮に、あれがハルヒによって 引き起こされたものだとしよう。ならば、あの世界はまず閉鎖空間のはずである。ご存じの通り、 この空間には本来古泉のような超能力者しか出入りができないはずだが、あの夢の中で 確かに俺は見たのである…この現実世界とほぼ差し支えのない、いや、現実世界そのものと言っても 過言ではないくらいの数の人間を。デパートで買い物をする客、地震で死んでいった住民、 校舎の瓦礫の下敷きとなって死んでいった生徒たち等…。 確かに、超能力者と全く関係のない第三者が閉鎖空間に呼びだされるという稀なケースもあるにはある。 俺が世界改変時ハルヒによって閉鎖空間に呼ばれたあのときのように。しかし、あれはあくまでハルヒに 呼ばれたがゆえの結果。閉鎖空間に一般人が呼び出される場合、まずハルヒ本人がそれを願ったかどうか、 それが最も重要なのである。 しかし、今回の夢に出てきた多くの一般人をハルヒ自ら願って呼び出したとは…俺にはとても思えない。 なぜか? ハルヒが人を死ぬことを望むはずないからだ。 承知の通り、あの夢の中では多くの人が命を落とした。 あの世界で起こる事象は無意識ながらもハルヒの深層心理と深く結び付いており、 つまりその理屈でいくと、ハルヒは天変地異による人間の大量死を願望として抱いていたことになる。 しかし、それがありえないことを俺は知っている。ハルヒ自身が自分の周りにいる宇宙人、未来人、超能力者に 気づかないことが何よりの証拠だ。ご察しの通り、これら3者はハルヒの願望によって出現したものであり、 にもかかわらず、ハルヒはそれらの存在を認知していないという矛盾した二重構造を成している。 これは一体どういうことか?ハルヒは願望としてはいてほしいと願っていても、それらが現実に 存在しうるわけがないという、いわゆる常識的かつ理性的な感情を密かに抱いている… というのが事の真相だ。分かりやすくいえば、ハルヒは【常識人】なのである。 例えば去年の夏、孤島での出来事。ハルヒが何かしらの事件が起こることを熱望していた最中に 起こった殺人事件。結果として古泉ら機関による自作自演劇だったわけだが、つまりはハルヒは、 事件は事件でも人が死ぬといった常軌を逸したものは望んではいなかったというわけである。 さて、いい加減納得してもらえただろうか。つまりハルヒは根本からして破壊願望など 抱くことはありえず、よって今回の事態もハルヒ本人が引き起こした可能性はゼロに近いのである。 …… 問題は解決したはずなのに、喉に何かがひっかかったかのようなモヤモヤ感…これは一体何だろう? …… 単なる夢…ハルヒのせいでないのなら、あれは単なる夢だったということになるが、 それにしては妙に感覚が生々しかったのはなぜだろうか? そもそも夢の中というのは本来痛みを伴わないはずである。漫画やアニメ等で 夢か否かを判断するために頬をつねったりする光景はもはや誰もが知るところであるだろうし、 まあ別に、漫画アニメに限らずともそれが通説であることはまず間違いない。 だが、俺は地震によって体を地面に強打している際 確かに痛みを感じているのである。 そうでなければ…夢の中で数時間にわたって気絶することなどありえない。 さらに言うべきは、俺が夢の内容を一部始終はっきりと…まるで本当に体験したのではないか? と言っても差支えないくらい鮮明に覚えているということ。たいてい、夢というのは見ていても 忘れる場合がほとんどだし、仮に覚えていたってそれを事細かに記憶しているケースはまずない。 そして、極めつけはハルヒの尋常ではない様子。 『助けて!』『あたし自身が怖い』『あたしを守って…』等の言動 …… どう客観的に捉えたって、あれは俺に助けを求めていたとしか考えられない。 もしかしたら、ハルヒはそれを伝えるために俺の夢に何らかの干渉を… いや、さすがにこれは考えすぎか。痛みはともかくとして、この場合は【単なる夢】でも説明がつく話だろうし…。 …… いかん、考えれば考えるほどわけがわからんくなってきた。 もうこの夢に関しては考えるのはよそう、いくら考えたって明確な結論など出やしないさ。 ただ、念のために一応話しとく必要はあるかもな…。 「もしもし、俺だ。」 「何か…用?」 俺は電話をかけた。ありとあらゆる方法でこれまで異常事態解決に尽力してきてくれた… そう、長門有希に。SOS団員に助けを求めるとなれば、思いつくのはまずこのお方であろう。 「昨日の夜、ハルヒに何かおかしなことはなかったか?」 「…通常の閉鎖空間に限っては昨日は発生していない。」 「通常のって…それはどういうことだ?」 「昨日の夜から深夜にかけてごく小規模な閉鎖空間が発生するのを一度だけ観測した。ただし、 それは通常の閉鎖空間とは異なり、空間形成を司る中核体が脆弱だったため内部組織を維持できず、 発生してわずか2.63秒で消滅した。ただそれだけのこと。」 「そうなのか…でも、小規模でも閉鎖空間ってのは、やっぱハルヒはストレスか何かを貯め込んでるってことか?」 「そのへんについては深く考える必要はない。そもそも昨日の閉鎖空間のレベルではストレス、 いわゆる欲求不満自体があったかどうかすら判別不可。単に涼宮ハルヒが無意識下に引き起こした、 あくまで誤差の範囲内での反応と見なすのが現状では一番。」 …? 「わかりやすく例えるならば、ある人間が喉が渇いたという理由で、 自身の一日における平均水分補給量にプラスしてコップ一杯分、その日は多く水分を摂取したようなもの。」 これは長門にしてはわかりやすい例え…なのか? 「ということはあれか、昨日の閉鎖空間はあってもなくてもどうでもいいくらい、 気にしなくてもいいものだったってことか?」 「端的に言えばそういうこと。」 なるほど、ならハルヒに何かあったわけじゃなさそうだな。俺の考えすぎか…。 「ありがとう長門!いつもいつもすまないな。」 「別にいい。しかし、なぜこのような質問を?」 「いや、なんでもないんだ。俺の気のせいってやつだな。」 「そう。」 「じゃ、また学校でな!」 「また、学校で。」 そう言って俺は長門との電話を終えた。あの万物万能の長門先生から太鼓判を押されたんだ、 ハルヒのことは特に気にする必要はなかろう。 …まだ時間はあるな。一応閉鎖空間の専門家古泉にも電話しておくとするか。もちろん、長門の言ったことは 信じてるさ。ただ、実際あの空間に出入りするやつが…昨日のあの空間をどう認識したかってのが 気になってるだけで、ようは単に感想を聞きたいだけだ。それだけのために電話をかけるのもアホみたいだが… まあ相手が古泉だし別にいいだろう。あ、いや、決して古泉をバカにしてるわけではないぞ?たぶん。 …… 「もしもし、俺だ。」 「おやおや、あなたですか。おはようございます。朝っぱらから 僕なんかに電話をかけてくださるとは、一体どういう風の吹きまわしでしょう?」 「いちいち長文句を言うな、電話きるぞ。」 「ははは、すみません。で、どういうご要件で?」 「長門から聞いたんだ。昨日小規模だが閉鎖空間が出たんだってな。」 「その通りです。まあ、現れてから数秒もしないうちに消滅してしまわれたので、 僕たち超能力者が入る余地などありませんでしたけどね。もちろんそんなわけですから、 神人も一切現れておりません。あなたが心配するようなことはないと思いますよ。」 やっぱ古泉からみても、あの閉鎖空間はほとんど害をなすもんじゃなかったんだな。 「そうか。ところであーいう現象は頻繁に起こってたりするのか?」 「いいえ、滅多に起こりませんね。とはいえ、現在の涼宮さんの精神状態には ほとんど問題はないわけですから、特に考えるべき事態でもないことだけは確かでしょう。」 そうか、それだけ聞けりゃ満足だ。 「ご丁寧に説明どうもな。じゃ電話きるぞ。」 「お役に立てて光栄です。しかしこのような質問をなさるとは、 何か涼宮さんの異変に心当たりがあるようなことでもお有りですか?」 おお、古泉なかなかお前も鋭いじゃないか。まあ、別に語らずともいいだろう…俺の杞憂で終わりっぽいしな。 「いや、なんでもないんだ。気にしないでくれ。」 「そうですか。それではまた学校で会いましょう。」 「おう、じゃあな。」 電話終了っと。これで悩みはほぼ解消したってわけだ。一件落着だな。とはいえ内容が内容なだけに、 夢の中での凄惨な光景はしばらく忘れられないだろうとは思うが…。そんなことより、 今は目の前にある宿題だ…むしろ、こっちのが死活問題だッ!!早く朝飯食って学校行くとするか。 この段階では俺にはまだ気付きようがなかった。 あの夢が、これから起こる恐ろしい事件の序章でしかなかったということに。 飯を食い終わり、学校へと向かう俺。 「しっかし…。」 いっつもいっつも登校時に立ちふさがるこのなっがい坂は、いい加減どうにかならないのかね? 今日はまだいい。遅刻を免れるため走っていく日などは、もはやただの死神コースへと成り果てるのだから、 正直たまったものではない。学校側も学校側だ、こんな丘の上に学校を建てるなど 一体何を考えているのだろう?生徒の身にもなってほしいもんだね。切実にそう思う。 「あ、キョン君!おはようございます!」 ふと声をかけられる。この可愛らしいスイートボイスは…もはやあの方しかいないであろう。 「朝比奈さんじゃないですか。おはようございます!」 そう、まごうことなき、我らがSOS団随一のマスコットキャラクター、朝比奈みくるさんである。 「こんな所で会うなんて奇遇ですね。」 「ふふ、私もちょうど今来たところなの。…どうせだから学校まで一緒に歩いて行きませんか?」 「もちろん構いませんよ。」 いやはや、まさか登校途中に朝比奈さんに会えるとは夢にも思わなかった。さっきまで 坂がどうのこうの愚痴を吐いていた自分がきれいさっぱり消滅してしまっていたのは言うまでもないだろう。 それにしてもラッキーな日である…朝比奈さん効果で、今日も一日なんとか乗り切れそうな自分がいる。 …… そういや昨晩の夢のことをまだ朝比奈さんには伝えてなかったっけ。いや、夢の話に限っては まだ長門や古泉にも話してはいないか…あくまでハルヒの容態を確認しただけだったなそういえば。 俺が今朝、ハルヒを除くSOS団の中で朝比奈さんにだけ電話をかけなかったのには理由がある。 まず、朝比奈さんには長門や古泉のようにハルヒの様子を確認すべく技術を持ち合わせていない。 よって、ハルヒのことを尋ねたとしてもそれは野暮というものだろう。 まあ、実際は【変に情報を与えて朝比奈さんを混乱させたくない】ってのが 俺の最もなところの理由であるわけだが。いくらあの夢に異変性・特殊性を感じたところで、 所詮客観視すればただの夢にすぎないのである。あくまで夢である。そんな曖昧かつ抽象的不確定情報を べらべらしゃべってみようなどとは、俺は思わない。特に朝比奈さんのようなタイプなら尚更である… 状況を把握できずオロオロし、必要以上に心配した挙句、疲弊してしまう彼女の姿を… 俺は容易に想像できる。そういうわけで、俺は朝比奈さんには電話をかけなかった…というわけである。 「キョン君、今日は私いつもとは違うお茶の葉をもってきてるんですよ♪」 「そうなんですか。一体どんな味のお茶なんです?」 「ふふふ、それは秘密です♪放課後つくってあげるからそのときまで楽しみにしていてね。」 「それはそれは、楽しみにしときますとも!」 朝比奈さんのお茶を飲めるというだけでも幸福そのものだというのに、ましてや俺たちSOS団のために 粉骨砕身して新たなお茶を作ってくださるとは、いやはや、もはや感謝しても足りないくらいですよ朝比奈さん。 これでまた、今日一日頑張れそうな俺がいる。 …さっきから朝比奈さんに元気づけてもらってばっかだな俺。 こんなお方に例の夢のような重苦しい話など 本当お門違いというものであろう。 皆も知るように朝比奈さんは未来人なわけであるが、時々そのことを忘れかけてしまう自分がいる。 まあ、仕方ないであろう。未来人にもかかわらず、禁則事項とやらで未来のことは一切話ができないようだし 普通に接していれば、彼女がこの時代の人間ではないなどと… 一体誰がどうやって判別できようか。 未来か… 未来という言葉に何かがひっかかる。俺は何か大事なことを見落としているような… …… そうだ…俺ははっきりと覚えている。あの惨劇が起こった日は… 12月23日 夢の中に俺が身を置いていた世界での日付である。そして、あの世界の俺には【自分が高校二年生だ】 という確かな自覚をもっていた。今の俺も同じく二年生である。そして今日は11月28日。 つまりこれはどういうことか? いや、まあ考えすぎだよな。長門や古泉が異常ないと言ってるんだ、別に俺が憂慮すべき事態でも何でもない。 うん、そうだ、あれはただの夢なんだ。そうに決まってる…!とりあえず俺は、そう強く言い聞かせることにした。 「どうしたのキョン君?何か元気がないみたいだけど…大丈夫?」 おっと、いけない…思ってることが顔に出ちまったか。 まあ、あれだけ深刻に長考してりゃ、そう思われても仕方ないよな。 …ふと思ったんだが。朝比奈さんは未来についての情報をある程度把握しているはずである。 未来人なのだから当然と言えば当然なのであるが。どうする、朝比奈さんに何か聞いてみるか? 仮に何か知っていたところで、『禁則事項です。』と返されるのがオチかもしれないが… しかし何らかのヒントは得られるかもしれない。俺は当初の理念を貫き、あくまで 朝比奈さんを混乱させることだけはないよう、質問に変化球をつけて尋ねてみた。 「朝比奈さん、突然こんなことを聞くのもあれですが、何か最近変わったことは起きませんでしたか? 例えば、未来のほうから何らかの報告を受けたりとか。」 ちょっと足を踏み入れすぎた発言だっただろうか。しかし、今の俺にはこの表現が限界である。 「み、未来からですか?」 突然の思わぬ質問に動揺する朝比奈さん。 「いえ、特に何もないですよ♪」 かと思えば明るくお答えなさる朝比奈さん。内容を問うのではなく、あるかないかという類の質問なら 禁則事項とやらにもひっかからないのではないか…?という俺の読みは当たった。 「最近は何々しろみたいな指令もあまり送られてこないから私としては助かってるんですよ。 その分、時間をおいしいお茶を作ったりとか他のことに回せるわけですから♪」 いやー、なんとも幸せそうな顔をしてらっしゃる。これでは、 さっきまで長考していた自分がまるでバカに感じられる。もはや杞憂の一言に尽きるのであった。 さて、では事態がややこしくならないためにも先手を打っておくとするか。 「それを聞けてよかったです。最近の朝比奈さんは特に明るいんで、 きっとそういう面倒な指令とやらもないのかな…と思ってちょっと確認してみたんですよ。」 「あら、そういうわけだったんですね。そんなに私明るく見えますかぁ?」 「ええ、それはもう。」 「もー、キョン君ったら♪」 よし、うまく話をはぐらかすことができた。なぜ俺がこういう質問をしたのかに対して、朝比奈さんの場合は 長門や古泉のように『ああ、そうなんですか。』のごとく簡単には納得してくれそうにないと思ったのだ。 彼女のことだから、心残りになって引きずることもおおいに有り得る。ならば、先手を打って俺からそのワケを 説明したほうが、彼女もすんなり納得してくれると思ったのである。そして、それは見事に成功した。 …操行しているうちに、俺たちはいつのまにか学校へと着いていた。 これでしばし彼女ともお別れである。なんとも、貴重な時間でしたよ朝比奈さん。 「じゃあ私教室あっちだから、また放課後ねーキョン君!」 「はい、ではまた!」 名残惜しいが、朝比奈さんと別れ教室へと入る俺。そういえば、俺はかばんの中に入っている 忌々しい宿題という名の悪魔を処理しなければならないのであった。早速国木田を探そうとする。 …… 「いねーな…。」 もうすぐ朝のHRの時間だというのにあいつはまだ来ていなかった。 優等生なだけあってあいつが遅刻することなど考えられないのだが…。 「よーキョン!なんだ、国木田のやつ探してんのか?あいつなら今日休みだぜ。」 俺は体を硬直させた。 「ん?どうしたキョン?もしかしてお前も体調悪いのかよ?まあ、こんな季節だし仕方ねーっちゃ仕方ねーけど。」 確かに11月末なだけに気候は寒く、風邪をひきやすい時期というのは間違ってはいないだろう。 ただ、俺がさきほど体を硬直させた理由は…それとは別にある。 「そういうお前は元気そうだな谷口。バカは風邪ひかないってのは本当なのかもな。」 「て、てめー!人が心配してりゃいい気になりやがって!」 妹を今朝見たときも同じセリフを言ったが、また敢えて言わせてもらおう。『生きていてくれて本当によかった』と。 夢の中での谷口の死に様が、鮮明に記憶されているだけに…尚更である。 …… っと、そんな感傷に浸っている場合ではない。例の宿題をなんとかしないといけないんだったな。 いつものように、俺の後ろ席に座ってるやつに声をかける俺。 「よっハルヒ。おはよ。」 「あ、キョン、おっはよー。相変わらず間抜け面ねー。」 朝っぱらからなんてひどいことを言い出すんだこいつは。まあ、いつものハルヒだし、別に驚くことでもない。 それにしても夢の中で意気消沈してたお前は一体何だったんだろうな。やっぱ単なる夢だったんだな。 もう知ったこっちゃねーや。 「ところでな、ハルヒ…数学の宿題のことなんだが…。」 「へえ~今日は国木田が休みだからあたしのノートを写させてもらおうって、そういう魂胆なのかしら?」 う…!?まずい、ハルヒ様には全てお見通しってわけか… 「ダメに決まってるでしょ。こういうのは自分でやらないと力つかないってのは、あんたもわかってるでしょ。」 うむ、正論である。涼宮ハルヒにしては珍しくまともなことを言ったではないか。 よしよし…と感心している場合ではない。 「頼むハルヒ!これが今日中に提出だってのは知ってるだろ? 俺の学力じゃどう考えたって間に合いそうにないんだ…頼む!力を貸してくれ!」 俺は必死に嘆願してみた。…まあ、徒労に終わりそうだが。 「そうね…ま、考えてやらないこともないわ。」 マジですかハルヒさん。こりゃ意外な返答だ。 「その代わり、それ相応の条件は飲んでもらうけど。」 …… 世間は甘くない…しみじみとそれを痛感する。 「わかった…飲めばいいんだろう。で、その条件とやらは一体何なんだ?」 「それはね…。」 ハルヒの言葉に耳を傾ける俺。 「あたしに曲を作って提供することよ!!」 ザ・ワールド、そして時は動き出す …え? 曲?作る?提供? 「というわけで、頼んだわよキョン!!じゃ、これ、あたしの数学のノート。大切に使いなさいよ。」 ハルヒからノートを手渡される俺。これで宿題という不安材料は解決したわけだが… どうやら、それと引き換えに大変な問題を背負っちまったらしい。俺は。 「ハルヒ…とりあえず説明を要求するぜ。曲作りってどういうことだ??」 「イチイチそんなことも説明しなきゃいけないわけ?団員なら黙ってても 団長の心を察せられるくらいの力量はもつべきよ。」 いや、これはあきらかに何の脈絡もなしに作曲の話をだしてきたお前に問題があるだろう。 もしこの状況でハルヒの心中を見抜けたやつがいたのなら、今すぐ俺のところに来い。 洞察力のスーパーエキスパートとして、俺が称えてやる! 「…仕方ないわね。とはいえ、もうすぐ授業も始まるし話す時間はないわ。1時間目が終わったら話してあげる。」 ハルヒにしては珍しく良心的な回答だな。常識人の俺がきちんと理解・納得できるような説明を どうかそんときは頼みますぜハルヒさんよ。そう切実に思いながら、俺は宿題に手をつけるのであった。 さてさて、人間の時間概念というものは随分とまた環境に左右されるものである。TVで延々と バラエティー番組を観ていたり、はたまたファミレス等で親しい知人と会話をしていたりしたら、気付かない間に 自分の思った以上もの時間が経過していたというのはよくある話だ。人間というのは心理学上、自身が楽しい と感じている状況においては前述通りの事象が成立する傾向にあるようである。これを逆説的に捉えれば、 つまり自身が嫌だと感じる状況下では、時間の経過は非常に遅く感じてしまうのである。 ま、要は授業が俺には苦痛ってことだ。といっても俺にかかわらず大多数の万人はそう思っているに違いないが。 とりあえず朝の朝比奈さんスマイルを活力にし、俺はこの長々しい時間を乗り越えた。 「さあ、聞かせてもらうぞハルヒ。」 「あんたねえ…そんな急がなくてもあたしは逃げも隠れもしないわよ。」 おいおい、逃走でもされたら 俺はこのモヤモヤとした感情を一日中抱えたまま過ごすことになっちまうぞ。 とりあえず、説明してくれる様子で助かった。何しろ、いきなり『作曲しろ』である。こんな要求を突きつけられ、 作曲の『さ』の字も知らない人間が、一体どうやって平静を装ってられようか?いや、できるわけがないだろう…。 「今年の文化祭、あたしがギターもって歌ってたのは覚えてるわよね?」 覚えてるも何も、忘れられるわけがない。 未だにバニーガール姿のお前が目に焼き付いて離れないぜ。いろんな意味で。 「その後、あたしはENOZのメンバーから彼女たちの作った曲のデモテープとか いろいろ聞かせてもらったんだけど…改めて思ったんだけど、彼女たち凄いのよ! とても高校生が作ったとは思えない出来ばかりだったわ!!」 だろうな。音楽的素養のない俺でも、あのときは凄さを感じずにはいられなかったぜ。言うまでもないが、 この『凄さ』とは、ハルヒや長門が纏っていた変な衣装による視覚的衝動を取り除いた、あくまで 曲そのものの純粋な感想だ。メジャーなロックバンドのだす曲と比べても遜色ない出来だったと思う。 あー、ハルヒの言いたいことがわかってきたような気がする…。 「だからさ、あたし感動して!SOS団もそんなふうにオリジナルな曲を作って演奏できたらな~と思ったのよ!!」 やっぱりそうか。要はSOS団もバンドを組んでENOZみたく頑張りましょうってことか…まあ、バンド自体は 面白そうだし 別に反対しようとも思わない。長門みたいな高度なテクを求められるのなら、話は別だがな! 「ハルヒよ、大体の概要はわかった。自作曲をやるのは良いとしてだな、 なぜそれを作るのが俺なのか…そこんとこキチンと説明してもらおうか。」 もはや俺の言いたいことはそれだけだ。オリジナルをやるにしても、なぜよりにもよってこの俺が 作らにゃならんのだ??本来なら言いだしっぺのハルヒ、あるいは何でもこなす万能長門さんが 遂行するお仕事であるはずだろうに。まさかあれか、俺がSOS団の中で雑用係だからとかいう むちゃくちゃな理由じゃねーだろーな? 「だってあんた雑用でしょ。そのくらい頑張ってもらわなきゃ。」 やっぱりそうですか。団長さんよ、あんたはホント期待を裏切らないな。 悪い意味で。できれば、そういう期待ははずれてほしかった…。 「とは言ったって、別にコード進行から全楽器パートのフレーズまで、みたいな全てを考えてこいって 言ってるんじゃないわ。あんたはボーカルのメロディーライン考えてくるだけでいいの。」 ?とりあえず俺の負担は減ったとみていいのだろうか。 「メロディーラインだけ…ってのはどういうことだ?」 「あんた、まさかその意味すらわからないって言うんじゃないんでしょうね!? そこまでアホキョンだったとは思わなかったわ…心底がっかりね。」 待て待て待て待て、勝手に失望するんじゃない!さすがに意味ぐらいわかるっての! 「そういうことじゃなくてだな、それ以外の作業…例えばお前がさっき言ってた… コード進行とかいうやつか。それは一体誰がやるんだ?」 「あー、そういうことね。それはあたしがやるから、あんたが出る幕じゃないわ。」 いや、むしろ出なくてホッとしましたよハルヒさん。 …… まあ、こいつがコード進行を担当するっていう理由はなんとなくわかる。ハルヒのことだ、 このSOS団バンドにおいても、ENOZ同様ギターボーカルでコードバッキングに徹するつもりなのだろう。 最もコードが絡む役柄なだけに、本人がそれをやったほうが良いっていうのはあるんだろうな。 「他作業の分担具合はどうなってるんだ?」 「他はそうね、有希はギターフレーズ、みくるちゃんはキーボードフレーズ、 古泉君にはドラムとベースのフレーズを作ってもらうつもりよっ!そうそう、歌詞はあたしが作る予定。」 おお古泉よ、お前は二つも楽器フレーズを作らにゃならんのか。どういうわけかは知らんが、 これも副団長の務めと思ってせいぜい頑張ってくれ。 …ん?待てよ 「今のフレーズ担当を聞いてまさかとは思ったんだが、 誰がどの楽器を担当するかってのはもう決まってたりするのか?」 「あったりまえじゃない!あたしはギタボ、有希はギター、みくるちゃんはキーボード、古泉君はドラム。 …そしてキョン!あんたはベースよ!」 どうやら俺はベースをマスターせにゃならんらしい。 「それはどうやって決めたんだ?」 「イメージよ!」 「……」 まあ、正直ベースでよかったと密かに思ってはいる。少なくともギターだけは絶対嫌だったからな… こいつが求めてそうな高等テクは長門にしかできそうにないし。ベースならそこまで目立つわけでもないし、 何より俺自身が低音好きな人種だからな。他メンバーの楽器具合にも大体納得だ。 特に長門がギターなのは…もはや誰もが賛同するところであろう。 「最初みくるちゃんにはタンバリンでもやらせようかって思ってたんだけどねー、 実際それするとドラムの音にかき消されちゃうじゃない?同じ打楽器だから役割かぶっちゃうし。」 いや、それ以前の問題だろう…そもそもバンドでタンバリンなんて聞いたことないのだが… まあ、ハルヒのその判断は適切だろうよ。ギターやベースの横で必死にタンバリンを叩く不憫な朝比奈さんなど 見たくないからな。光景自体には萌えたりするかもしれんが、それとこれとは別問題だ。 「大体のところはわかった。で、俺はメロディーに専念するわけだが、まずは曲作りの土台ともなる コードを知る必要があるぜ。長調なのか短調なのか、みたいに曲調がわからなけりゃ作りようがないからな。 というわけで、そこは任せたぞハルヒ。」 「何言ってんの?あんたがまずメロディーを作るのよ!」 何やらハルヒは意味不明なことを言ってきた。 「ちょっと待て。そりゃ一体どういうことだ?」 「だから、あんたのメロディーをもとにあたしがコードを作るってことよ。」 …とりあえず、俺はこの言葉を言わせてもらおう。 「順序が逆じゃないか?」 「つべこべ言わない!とにかく作ってくること!いいわね!?特に期間は設けないけど、 あんたが作らなきゃこっちも作りようがないんだから!なるべく早くお願いね!!」 もうここまで来ると手のつけようがない。わけがわからないが、 とりあえずここは同意しておこう…それが賢明ってもんだ。 さてさて、操行するうちに2時間目が始まってしまった。 とりあえずさっきからのモヤモヤ感が解消したって点でさっきよりは快適な授業を送れそうだ。 まあ、それでも、俺にとって授業が苦痛であることには変わりないわけだが。 午前の部を経て、時は昼休み。ところで、ここで俺はある深刻なことに気付いたんだが…。 「どうやってメロディー作りゃいいんだ…??」 やり方がわかっていても、そのために必要な設備を俺は持ち合わせてはいないではないか。 ピアノやギター等の楽器で音を鳴らさない限りメロディーが把握できないのは自明であるが、 残念ながらこれらは家にない。つまり実行不可というわけである。 「詰んだな…。」 とりあえずハルヒに話してみるか。もしかしたら何か貸してくれるかもしれん…という淡い期待を抱き、 教室を見渡すが、すでにハルヒの姿は見当たらなかった。もう食堂へ向かったというのか…相変わらず 行動の速い奴だ。とはいえ、別に焦る必要もないだろう。どうせ放課後になれば否応にも例の部室で ハルヒと顔を合わせにゃならんくなるんだし、そのときにまた事のあらましを聞けばいいだけだ。 ってなわけで、ひとまず落ち着いた俺は用を足しにトイレへと向かった。 …… 「おや?こんなところで会うとは奇遇ですね。」 学校のトイレで他クラスのやつと対面する、この状況の一体どこが奇遇だと言うんだ?? 完璧に奇遇の使い方間違ってるぞ。 「それもそうですね、失礼しました。ところでどうされたのです?何か浮かない顔をしてますが。」 どうやら古泉から見て、俺は浮かない顔とやらをしていたらしい。ハルヒの例の命令で、俺は無意識のうちに 若干鬱ってたのか、それとも古泉の洞察力が鋭かったのか?まあそんなことはどうでもいい。 「実はだな…」 俺は事の詳細を簡潔に説明した。 「なるほど、そういうことですか。実はその話については僕も聞き及んではいましたよ。」 何、そうなのか。 「それについてもっと込み合った話をしたいところですが、さすがにここで立ち話はなんですね…。」 確かに、トイレの手洗い場で長話を延々とするわけにもいくまい。 「どうせですし、部室へでも行って話をしませんか?昼ごはんもそこで食べればいいでしょう。 もしかしたら長門さんもいるかもしれませんし、悪い提案ではないと思うのですが。」 長門か…あいつならいろいろ知ってそうだな。というか、あいつが知らないことなんて ほとんどないような気もするが。とりあえず俺達はトイレを後にし、部室へと向かった。 「あ、キョン君に古泉君!どうしたんです?」 なんと、朝比奈さんまで部室にいらっしゃった。ちなみに隣には長門が顕在である。 「いえ、ハルヒの思いつきで始まった作曲云々の話でも古泉としようと思って ここに来たわけですね。朝比奈さんはどうしてここに?」 「私も同じなんです。どうしたらいいかわからずに…とりあえず、長門さんに聞けば何かわかるかなあと思って。」 そりゃそうだ。いきなり曲を作れと言われ取り乱さない人間などどこにもいない。 つくづくSOS団員はハルヒに振り回されてんだなと実感する。 「まあ、とりあえずご飯でも食べながら会話といきませんか?」 古泉が言う。言われなくてもそうするさ。 …… さて、一体何から話せばいいのやら。 「あなたは確かメロディーラインの作成でしたよね?それについて何かわからないことでもお有りですか?」 なんだ、俺の役割もすでに把握してんのか。 「いや、別にそれ自体には問題ないんだが…作曲の手順というかな、メロディーの後に ハルヒがそれにコードをつけると言ってたんだが、順序が逆のように思えてな。 コードとかで曲の雰囲気がわからなけりゃ、普通メロディーも作れねーんじゃねえかと思ってな。」 「なるほど、確かにメロディーは曲の中核なだけに、材料もなしにゼロから作り出すというのは かなり難しい作業ですね。しかし、逆もありですよ。涼宮さんの立場になったとして、 いきなりゼロからコードを作りだすことも難しいとは思いませんか?」 「それはそうなんだろうが…少なくとも前者よりは容易いだろう?コードは基本CDEFGABの 7通りとその派生しかないが、メロディーなんか無限大に作れるじゃねーか…。」 「おっしゃる通りです。コード進行にはパターンが限られてますからね…現に最近の邦楽がその証拠ですよ。 有線やラジオから流れてくる音楽を聴いて、どこかで聴いた覚えがあるようだと錯覚したことはないですか?」 確かに…あるな。もしかして俺が最近の音楽をあまり聴かない理由はそれか? まあ、単に俺が流行に疎いって可能性もあるが、90年代のJ-POPで満足してる感はあるような気はする。 「あの山下達郎さんや坂本龍一さんですら、そのことについては言及していますからね。 今の曲が過去曲の焼き直しのように感じるのは決して気のせいではないでしょう。」 「おいおい…なら、なおさらメロディーから作り出すってのは理不尽すぎんじゃねーのか? やっぱこれに関してはハルヒを説得する必要があるように思えるぜ。」 「それが好ましいやり方だとは僕は思いませんね…。」 好ましくないってのはどういうことだ古泉?お前は、俺が苦しむ姿を見たいってか? 「まさか、滅相もないです。そうではなく、もしこれが涼宮さんが望んでいることなのだとしたら、 あなたはそれを叶えてあげなくてはいけないのではないですか?」 …いや、何を当たり前のことを言っとるんだお前は。 ハルヒが俺に命令してる時点で、つまり望んでるってことじゃねーか。 「そういうことではなく、涼宮さんはあなたが何事にも縛られず、 純粋に感じたままのメロディーを一から作り出してくれることに期待しているのですよ。 簡潔に言えば、涼宮さんはあなたのメロディーをもとにコードや歌詞を付けたいと思っているわけです。」 「俺に期待されてもな…そもそもなぜそれが俺なんだ。」 「まさか、あなたはそんなことも理解していなかったのですか?涼宮さんはあなたのことが… いいえ、言うのはよしておきましょう。正直あなたがここまで鈍感だったとは思いませんでした。」 「涼宮さんが可哀相です…。」 「…鈍感。」 な、何だ何だ??先程まで二人っきりで会話を交えていた長門や朝比奈さんまでもが いきなり古泉との会話に割って入ってきたぞ??しかも全員そろって俺を非難ときた。 いや、いくら俺でも言わんとしていることはわかる。わかるが…ハルヒがそういった感情を俺に抱くとは、 正直考えられねーんだけどな…この3人の考えすぎなのではないかと思う。 「落ち着いてくれ3人とも。とりあえず、メロディーから作らにゃならんって状況だけは理解したさ。」 しかしゼロからの出発…か。ハルヒも酷なことを求めるものだ…。 「まあまあ、気を落とさないでください。」 気を落とさないで一体どうしろと言うんだ古泉よ。 「あなたからすれば、【メロディーからコード】の順番は、いつもの涼宮さんのごとく 荒唐無稽な手法に思えるのかもしれませんが、実はそうでもないんですよ。 この作成法はプロの作曲家やアーティストも普通にやっていることなんですから。」 何、そうなのか?? 「本当です。というのも、そっちのほうが想像が膨らみやすいという方も世の中にはいるらしく。 つまり、メロディーから作るのかコードから作るのかは本人の資質しだいだということですよ。」 そりゃ驚いた。もっとも、俺がどっちの資質かはわかりようもないが…とりあえず安心はした。 ハルヒの勅令から来る特例的なやり方ではないとわかっただけでも、不安材料が一つ解消したようなもんだ。 「しかし古泉、お前妙に音楽に詳しいな。」 「実は自分、中学時代バンドをしていた経験があるんですよ。そういうわけで、知ってるところもある、 といった感じでしょうか。もっとも、僕の場合は一時的なものでしたので、継続的にライブ活動している 人達からすれば、僕の知識や経験など取るに足らないものでしょうけどね。」 そうだったのか…そりゃ初耳だ。まあ、こいつが自分の過去を語るなど 今までほとんどなかったからな。今度機会あったらいろいろ聞いてみるとしよう。 「つまり、お前はそのときドラムをやっていたというわけだ。」 「おやおや、バンドパートのこともすでに涼宮さんから聞いていたというわけですね。ご明察です。」 「俺はベースみたいなんだが…果たして大丈夫なんだろうか。やったこともいらったこともないんだが。」 「大丈夫ですよ、楽器は慣れですから。今度僕が教えてあげます。」 こいつはベースもわかるのか。万能だな。 「いえいえ、単に【ベースがドラムと同じリズム隊だから】に過ぎませんよ。バンドにおける この二つの楽器は役割が似てるんです…ゆえに詳しくなるのも必然といったところでしょうか。 リズムは演奏する上での絶対条件ですからね。極論を言えば リズムさえ合っていれば ギターやキーボードがどうであれ、グダグダには聴こえないというわけです。」 ベースは地味なもんだと思ってたが、結構重要な役割担ってんだな…まあ、よくよく考えてみりゃ 重要じゃない楽器なんてあるはずない…か。そんな楽器は、そもそもバンドポジションとして定着していない はずだしな。しかしあれか、もしかして楽器初心者は俺だけという構図か?それなら、尚更プレッシャーも かかるというものだが…。隣にいる女子二人の会話も落ち着いてきたみたいなんで、ちょっと尋ねてみるとする。 「朝比奈さんはキーボードやったことはあるんですか?」 「キーボードはないんですけど、ピアノなら何年か習っていたんですよ。」 朝比奈さんにピアノ…可憐な彼女にはなんとも相応しい楽器だ。 「それなら何を長門に聞いていたんです?弾けるのなら特に問題はないように感じますが。」 「えっとですね…私が言ってるのはそういう技術的な問題じゃなくて機能的な問題なんです。」 機能?キーボードのことか。そういやあれってボタンがたくさんあるよな… やっぱいろいろと多彩な機能がついているんだろうか。 「ひとえに鍵盤楽器といっても、キーボードはピアノと違ってストリングス、シンセリードみたいな 独特な音を使い分けなきゃいけないの。エフェクトのかけ方だって知らなきゃいけないみたいで…。」 なるほど…キーボードもいろいろと大変のようだ。 「つまり、そのあたりを長門に聞いたり確認していたというわけですね。」 「その通りです♪あと、長門さんに聞いていたのはそれだけじゃないの。 さっき古泉君がキョン君に【ベースとドラムのバンド的役割は似ている】って言ってましたよね?」 ええ、言ってましたね。 「同じように実はキーボードとギターも役割が似ているの。音をリードしていったり 飾り気をつけていくようなところがね。そのへんの調節具合を彼女と話していたの。」 「ギターとキーボードの関係上、どちらかが目立ちすぎると片方の音を殺してしまったりといった あまり好ましくない事態に発展しますからね。いつ、どちらがメインになるかやサポートに回るかなど、 そのへんの折り合いをつけていたというわけですね。」 「古泉君の言うとおりです。」 なるほど、なかなか的確でわかりやすい説明だったぞ古泉。やっぱ経験者は違うな。 「もっとも、そのへんもまずは曲のメロディーやコードがわからないことには何もできませんから… 曲調によって使う音やメインな楽器も違ってきますからね。というわけで、頑張ってね!キョン君!」 朝比奈さんに頑張れと言われて頑張らない男などまずいるのだろうか? いたら今すぐ俺のところに連れてこい!俺が一刀両断してやろう! …… さてさて、ところで俺は何か根本的なことを忘れているような気がするんだが… そもそも俺は当初ハルヒに何を聞こうとしてたんだっけ…。 そうだ、思い出した。なぜこんな大切なことを今まで忘れていた? 「古泉よ、俺がメロディーを作るってのはさっき言ったが、それをするための楽器や設備を 俺は持ち合わせていないんだ。そのへんハルヒは何か言ってなかったか?」 こればかりはいくらやる気があってもどうしようもない。 「そのへんは心配無用です。ENOZさん達との縁もあってか、軽音楽部の皆さんが楽器や作曲用ソフトを 貸してくれるみたいですよ。ここでいう楽器とは、あなたで言うならベースのことですね。」 マジか、なんて親切な人たちなんだ…ベースに作曲用ソフトか…ありがたく使わせてもらおう。 これでひとまず問題は全て片付いたというわけだ。まさか放課後までに解決できるとは思ってもいなかった… これもSOS団みんなのおかげだな。感謝するぜ古泉、朝比奈さん、長門。 キリのいいところで昼休み終了を告げるチャイムが聞こえる。弁当も食べ終わった俺たちは それぞれの教室へと戻り、再び忌々しい午後の授業へと励むのであった。 時は放課後。ようやく今日の授業から解放された俺は、後ろの席に座っている団長様に声をかけた。 「ハルヒ、今日は数学の宿題見せてくれて本当にありがとな。なんとか放課後の提出までに間に合ったぜ。」 「お礼は別にいいわ。それにしたってねえ…あたしだって本当はこんなことしたくなかったのよ。 他人のノートを写すだけなんて、朝にも言ったと思うけど一時しのぎにしかならないのよ! テストの時とか困るのはあんたなんだからね。次はないと思いなさいよ!」 「お前の言うとおりだ。以後気を付けるさ。」 「その代わり例のバンドのやつ、頑張ってよね!!あたしに合った最高のメロディーを考えてくるのよ!!」 「おいおい、俺はお前じゃないんだからさ…お前に合った最高のメロディーとか言われてもな、 抽象的すぎて把握しかねるぞ。」 「頭を捻りだしてでも考えるのが団員の務めってものでしょう!? 大体、音楽に具体性なんかないわ。あんた、そのへんわかってないみたいね。」 むむむ…確かにこいつの言ってることも一理ありそうだ。 「否定はしない。だがな、ならせめて曲調だけでも言ってはもらえないか。 お前に合った音楽をやりたいのなら、まず俺はお前の感性を問う必要があるぞ。」 「じゃ逆に聞くわ。あんたから見たら、あたしはどんな感じの曲が合ってそうに見えるの?」 そうくるとはな。ここはバカ正直に言っておくか。 「ありえないほど明るい曲だ。」 …… ん、なぜ黙るんだ?何か俺変なことでも言ったか?? 「あ、いや、あんたにしては珍しくストレートに言い切ったなあ…って感心してたのよ。 いつも何かと回りくどい言い方をするしね。」 回りくどくて悪かったな。 「それに、さっき音楽に具体性がないって言ってたのはお前だろ? なら、俺も理屈だの何だのそういうものは要らないと思ったんだよ。」 「ふーん…なかなか飲みこみが早いじゃないの!」 笑顔を輝かせるハルヒ。ようやく俺も臨機応変な対応をとれるまでに成長できたってことか… いや、慢心はいけないな。これからも気をぬかず頑張るとするか。 「で、結局俺がさっき言った曲調はお前的にどうなんだ?」 「いいんじゃない?あたしそういうの好きだし。にしても、どうしてあんたはそう思ったわけ?」 「単刀直入に言おう。イメージだ。それ以上でもそれ以下でもない。」 本当に単刀直入に言ってしまった。まあ、別にいいだろう。ちょうどお前が俺をイメージという理由で ベースを割り当てたのと同じ理由さ。理屈じゃないってのはまさにそういうことなんだなと、しみじみ感じる。 「イメージか…あたしってあんたにそこまでプラスに思われてたのね。」 プラス?ああ、そうか、こいつは明るいってのを良い意味でとっているというわけか。どちらかというと、お前の 【明るい】ってのはクレイジーに近いんだが…もっとも、それを言うのはやめておく。大惨事を引き起こしかねん。 「じゃあ、そういう曲調で作ってきてよね!これで話はオシマイね。」 「おいおいちょっと待て。他に何か追加注文とかはないのか?Aメロやサビはこんな感じにしたいとか。」 「そのくらい自分で考えなさい!それに、あたしのイメージ像を捉えられたあんたならきっと作れるわよ!」 おや、ハルヒに太鼓判を押されたようだぞ。その言葉、ありがたく受け取っておくとしますよ団長様。 「あ、いや、一応伝えておくべきことはあったわね。あたしの音域についてよ。」 音域…そうか、すっかり忘れていた。どこまで高い声や低い声が出るかというのは、人間それぞれ 十人十色のはずである。危ないところだった…もし俺がハルヒが歌えないキーの低さや高さで作っていたら、 一体何と言われたことか。特に前者においては注意せねばなるまい。男と女で音域が違うのは当たり前、 ゆえに、男の俺が無自覚のまま作っていたらキーが低音によりがちという事態になりかねない。 「高さの限界は高いD♯、低音は低いB…と言ったところかしら。」 …D♯だと??確かDでも女性にしては高いほうだったはずだが。 それからさらに半音上げとはな…歌手レベルじゃねーか。すげえなお前。 「わかった、把握したぜ。その枠内に収まったメロディーラインを作ってくるとしよう。」 「お願いね!ちなみに、特にこれといった期限は設けないわ。今のところバンドで何かに出れるような イベントもないしね。でも、早いのに越したことはないから、そのへんは胆に命じときなさいよ!」 へいへい、命じておきますとも団長様。 さてさて、いつもの通り部室へと向かった後、俺たちSOS団員は団長ハルヒによる一連の音楽活動の 布告を正式に受け…かといってそこから何か具体的な活動ができるかというとそうでもなく、とりあえず俺は 古泉とボードゲームを、朝比奈さんは編み物を、長門は読書を、ハルヒはネットサーフィンをという 毎度お馴染みの団活を過ごした後、今日のところは解散となった。 玄関へと着いた俺は自分の下駄箱を開けてみたわけだが、なんと中に手紙が入っているではないか。 …今回は一体誰からのどういう要件なのだろうか。ごく普通の男子高校生なら、下駄箱に手紙という シチュエーションにトキメキを隠さずにはいられないのであろうが…残念ながら、俺はごく普通の男子高校生 などではない。ハルヒと出会ってからというもの、俺はあまりに非日常的経験をしすぎてしまった。ゆえに、 俺はこういう手紙に対し、一般認識を持ち出すことができない思考回路へと変質してしまっているのである…。 手紙をもらって朝比奈さん大(ここで言う朝比奈さん大とは、未来からやって来た大人朝比奈さんのことである) に会ったこともあったし、今は亡き朝倉涼子に呼び出され殺されかけたこともあった。 せめて面倒ごとだけにでも巻き込んでほしくはないものである…そう願いながら、俺はその手紙を開封した。 その内容は以下のようなものだった。 『こんにちは!お元気にしていますでしょうか?いきなりこういう突然の手紙をよこしたことをお許しください。 キョン君の身の回りで近いうちに不穏な動きがあります。どうか、未来にはお気をつけください。 では、幸運を祈ってます 朝比奈みくるより』 …… なるほど、差出人は朝比奈さん大のようだ。しかも先ほどの願いも虚しく、 どうやらこれは…俺にとって良い知らせとは言えないようである。 「不穏な動き…ねえ…。」 朝倉の俺への殺人未遂、ハルヒや長門による世界改変、藤原&橘一派による朝比奈みちる誘拐事件、 天涯領域による雪山遭難事件に匹敵するような何かでも…これから起きるということなのだろうか? そして気になるべき点は、この『未来にはお気をつけください。』の文章である。 『未来』というのが一体何を指しているのか…? …ええい、考えていても一向にわからない。とりあえず、『未来』というワードを 心の奥底にしまっておくとしよう。何か、事態を打開できる重要なヒントなのかもしれない。 しかし… 「変だな…。」 こういう重大な案件ともなると、手紙よりも本人が出向いて直接口頭で説明してくれたほうが 効率的なのではないか?一応周りを見渡してみるが、人の気配はない。 っ!足音がする…誰か来る…! …… 「部室のカギ返してきたわよー、ってキョン何つったんてんの?」 かと思えばハルヒだった。いかん、少し朝比奈さんの手紙で過敏になりすぎてたな。 「あ、いや、ちょっとぼーっとしてしまってな。」 「もう、しっかりしなさいよね。そんなんじゃ年寄りになっちゃう前に痴呆になっちゃうわよ。」 相変わらずひどい言い草だな…まあ、ハルヒは置いとくとして、この件については長門に相談するのが 一番だろう。もっとも、今日はすでに帰っちまってるようだが。…よく見りゃ古泉と朝比奈さんもいないのな。 「何してんのキョン、帰るわよー。」 考えてもラチがあかないのでハルヒと一緒に帰ることにした。 「ところでキョン、何か最近変なこととか起こったりした?」 一瞬ビクンとなる。変なことと言われさっきの手紙のことを思い出す俺。 まさか、ハルヒに何か心当たりでもあったりするのか…? 「特にねえな…ハルヒは何かあったりしたのか?」 「無いからあんたに聞いてんじゃない!SOS団が発足してからというもの、あたしたちは力の限り 不思議探索に努めてきたわ!けどね、いまだ何かしらそういう大それたものは見つかってないじゃない!? そんな状況にあたしは憤りさえ感じてるのよ!!こんなに懸命に探してるっていうのに!!」 いつものハルヒだ。心清いほどにいつものハルヒだった。 そんなこんなで奴とも別れ、自宅へと着こうとしていたとき…玄関の前に誰かがいることに気がついた。 あれは…もしかして大人朝比奈さんか?? 「あ、キョン君!お久しぶりです!」 やはり朝比奈さん大であった。まあ、あのグラマーすぎる体型に 栗色に輝いた髪を見れば…遠くからでも認識可能というものであろう。 「ど、どうしたんです?こんな場所で?」 「えっと、キョン君に伝えたいことがあって…落ち着いて聞いてください。 これからキョン君は大変なことに巻き込まれていくんですけど…」 嗚呼…やはり、また何かの渦中に俺は置かれてしまうというわけなんですね… まあ覚悟はしていたんで、別にそこまでのショックはないというものです。あきらめる的な意味で。 「特に藤原くん達の勢力には気を付けてください。それを心得ていれば、きっと未来は良い方向へと 好転するはずです…じゃあ時間がないんでもう行きますね。どうか気をつけてねキョン君!」 「え、あの、ちょっと…!?」 …… 颯爽と立ち去っていく朝比奈さん大。もう少し話がしたかったところだが、 何か彼女も急いでいたようだったし…仕方がないというものだろう。それにしても 「あの手紙の『未来』ってのは藤原のことだったんだな…。」 藤原は以前朝比奈みちる誘拐事件に関わっていたメンバーの一人である。 そしてヤツは朝比奈さんと同じ未来人でもある。『未来』ってのが藤原一派の未来人集団だと考えれば、 確かに合点もいく。…なるほど、これで不安は解消したというわけだ。後は藤原たちの動向に気を付ける… それさえ徹していればOKということだろう。 俺は帰宅し、疲れた体を風呂で癒した後、夕食を食べた。 明日の準備をし終えてベッドに横になった。これで後は、明日に備えて寝るだけである。 …それにしても、何か違和感があるのは気のせいだろうか…? …… そうだ…あの手紙は一体何だったのだろうか? 朝比奈さん大が直接俺に出向いて『藤原』という特定の個人名を出してきた時点で、 あの手紙に意義はなくなった。言うまでもないが、あの手紙の差出人は朝比奈さん大である。 (執筆的に以前のと字体が似ていたことから、あれを書いたのは朝比奈さん大で間違いないとは思うのだが…) にもかかわらず、なぜ彼女は手紙で未来に注意を促すよう喚起した後、再び俺に会って 直接伝えるといった二重行為をしてしまっているのか…俺に会うつもりでいたのなら、 そもそもあの手紙自体に意味はなかったはずなのであるが…。 まあ、とりあえずは藤原たちの動向を警戒するに越したことはないだろう。そう結論を下すことにする。 いろんなことを一日中考えすぎてしまっていたせいか、睡魔が予想より早く襲ってきた。 今日はもう寝るとするか…俺は静かに目を閉じた。 まさか、このとき下した結論がどれだけ迂闊で軽率なものだったか …近いうちに、俺はそれを痛感させられることになる
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3330.html
「今日はこれで終わり! みんな解散よ!」 窓から入ってくる夕焼けに染められたわけではないだろうが、ハルヒの黄色く元気の良い声が部室内に轟く。 この一言で、今日も変わったこともなく、俺は古泉とボードゲームに興じ、朝比奈さんはメイドコスプレで居眠り、 長門は部屋の隅で考える人読書バージョン状態を貫き、年中無休のSOS団の一日が終わった。 正直ここ最近は平凡すぎる日常で拍子抜け以上に退屈感すら感じてしまっているのだが、まあ実際に事件が起これば二度とご免だと思うことは確実であるからして、とりあえずこの凡庸な今日という一日の終了に感謝しておくべき事だろう。 俺たちは着替えをするからと朝比奈さんを残しつつ、ハルヒを先頭に部室から出ていく。どのみち、朝比奈さんとは昇降口で合流し、SOS団で赤く染まったハイキング下校をするけどな。 下駄箱に向かう間、ハルヒは何やら熱心に長門に向かって語りかけている。 それをこちらに注意を向けていないと判断したのか、古泉が鼻息をぶつけるぐらいに顔を急接近させ、 「いやあ、今日も平穏無事に終わりましたね。こうも何もないと返って不安になるほどですよ。 まだまだあの神人狩りに明け暮れていたときのくせが抜けていないようでして」 「ないことに越したことはないね。犬が妙な病気になったことを相談されたりされるぐらいならちょうど良い暇つぶしにはなるが、事と次第によってはとんでもない大事件の場合もあるからな」 俺は古泉と数歩距離を取りつつ返す。古泉はくくっと苦笑を浮かべると、 「何かが起こった方が楽しい。だけど、その影響範囲を含めた規模や自分にとって利益不利益どちらになるかわからないなら、いっそどちらとも起きない方が良いというわけですか。実にあなたらしい考え方と思いますよ。 恐らく涼宮さんとは正反対の思考パターンですが」 「あいつの場合は、自分にとって楽しいことだけ起こればいいと思っているんだろ。世の中そんなに甘くはねぇよ。 ま、命を狙われたり世界を改変されて孤立したりしたことがないんだから、当然っちゃ当然だな」 大抵、人間ってモノはどこかで何かが起こることを期待しているもんだ。俺だって昔は宇宙人とか未来人とか超能力者がいてくれればいいなぁとか、映画並みのスペクタクルが起きたりしないかと思っていたしな。ただ、実際に目の前でそんなことが起これば考え方も変わる。少なくとも、もう俺はタヒチのリゾートにあるような透明度の高い純真な期待感なんて持たないだろう。 そんな俺に古泉はさらに苦笑いして、 「おや、ひょっとして今まで多くのことを経験しすぎて、一生分のインパクトを消化してしまったんですか? 前途ある十代の若者にあるまじき枯れっぷりな考え方ですよ」 うるせえな。一度ヒマラヤの頂上に届きかねないびっくり仰天事やマリアナ海溝以上に深いどん底に突き落とされる経験しちまうと、何だかんだで海抜ゼロメートルプラスマイナス数百程度が一番いいと思い知らされただけだ。 そんな話をしている間にようやく下駄箱に到着だ。ハルヒの長門に対する語りかけは、もうヒトラーの演説、テンション最高潮時な演説と化している。もっとも当の長門は相づちを打つように数ミリだけ頭を上下させるだけなんだが。 しかし、そんな自分に酔っているような話し方をしながらも、ハルヒはちゃっちゃと下駄箱から靴を取り出し下校の準備を進める。全く口と身体が独立して稼働しているんじゃないか? もう一つの脳はどこにある。やっぱりあそこか。 「遅れちゃってごめんなさい」 背後から可憐ボイスが背中にぶつかる。振り返れば、いそいそと北高セーラ服に着替えた朝比奈さんが小走りに現れた。 背後にある窓から夕日が入り、おおなんと神々しいお姿よ。 俺がそんな神秘的情景を教会で奇跡がおきるのを目撃した神父の如く感涙して(していないが)いたところへ、 「ほらっキョン! なにぼーっとしてんのよ! とっとと靴履いて帰るわよ!」 いつの間にやら演説を停止したハルヒ団長様からの声で、幻想的光景から強引に引きずり出された。 全くもうちょっと堪能させてくれよな。まあ、当の朝比奈さんもとっとと俺を追い越して、靴をはき始めているから俺も続くかね。 そんなわけで俺は自分の下駄箱を開けて―― 「…………」 すぐに気がついた。俺の靴の上に一枚の紙切れ――手紙じゃない。本当にただの一枚紙である――があることに。 朝比奈さん(大)の仕業か? またいつもの指令書か…… しかし、違うことにすぐ気がつく。朝比奈さん(大)はもっとファンシーで可愛らしくいい臭いがしそうな封筒入りを使うが、今ここにあるのはぴらぴらの紙一枚。こんな無愛想なもので送りつけるような人じゃない。それに書いてある内容が 『あと30分以内に●●町の公園に来なさい。一人で』 とまあ何とも一方的な内容である。しかも命令口調。まるでハルヒからの電話連絡みたいだ。 ふと、これはハルヒが書いて何か俺に対してイタズラでもしようとしているのでは?と思ったが、 「なーにやってんのよ! さっさとしなさい!」 当のハルヒは俺につばを飛ばして急かしてきている。大体、こんな手紙なんていう回りくどい手段をあいつがとるはずもなく、誰もいなくなったところで俺のネクタイ引っ張って行きたいところに走り出すだろうな。 じゃあ、これはなんだ? ラブレターの可能性は否定できないのも事実。せっかくだから行ってみるのも悪くないか。 時計を確認する。ここから指定された場所まではゆっくり歩いて30分もかからない。帰りに道に寄ってみるかね。 俺は他の団員に見つからないように、その紙をポケットにねじ込んだ。 ◇◇◇◇ さて、下校途中に他の連中と別れた俺は、とっとと目的の公園に向かう。初めて行く場所だったので、 その辺りにあった看板の地図を見ながら向かった。 が。 「……全く」 おれは嘆息する。さっきから背後をハルヒたちが付けてきているからだ。どうやら、あの紙をもらってからの俺の挙動が不審だとハルヒレーダーが捕らえていたらしい。相変わらずの動物並みの嗅覚だよ。 しかし、別に俺はやましいことをしているわけでもないんだから、このまま放っておいてもいいか。 俺はそう割り切ると、俺は背後のストーカー集団を無視して目的地に向かった。 ◇◇◇◇ 俺はようやく目的地にたどり着いた。時計を見ると、あの紙切れを読んでから20分程度。指定された時間には間に合っている。 平日夕方でぼちぼち日が落ちつつあるためか、指定された公園には人一人おらず、閑散とした静けさに覆われていた。 どこからともなく流れてくる夕飯の香りが俺の空腹感を刺激する。 ふと、背後を突けていた連中がいなくなっていることに気が付いた。なんだ? 捲いたつもりはなかったから、 途中でハルヒが尾行に飽きたのか? 俺はそんなことを考えながら、あの紙切れをポケットから取り出して―― この時、初めて俺はここに何の警戒心も持たずのうのうとやってきてしまったことを後悔した。見れば、その紙の文面が 『付けていた連中はいないわよ。邪魔だったから追っ払っておいたわ』 そう変わっていた――ちょっと待て。この紙はずっと俺のポケットに入ったままになっていたはずだ。 それを書き換えるなんていう芸当ができるのはごくごく限られた特殊能力を持つものしかあり得ない。 つまり、俺を呼び出した奴は一般人ではなく、宇宙人・未来人・超能力者――あるいはそれに類する奴って事だ。 ちっ。これで呼び出したのが朝倉みたいな奴だったら、洒落にならんぞ。 すぐに携帯電話を取り出し、とりあえず古泉に―― しかし、時すでに遅し。俺の周りの景色が突然色反転を起こしたかのようになり、次第にぐるぐると回転を始める。 やがて、俺の意識も落下するように闇に落ちていった…… ◇◇◇◇ 「いて!」 唐突に叩きつけられた感触に、俺は苦痛の悲鳴を上げた。まるで背中から落ちたような痛みが全身に走り、 神経を伝って身体を振るわせる。 そんな中でも、俺は必死に状況を探ろうと密着している地面を手でさすった。切れ目のようなものが規則的に感じられ、コンクリートや鉄ではなくそれが木でできている感触が伝わってくる。 ようやく通り過ぎた痛みの嵐に合わせて、俺は閉じたままだった目をゆっくりと開けた。まず一面に広がる教室の床が視界を覆う。同時についさっきまで俺に浴びせられていた夕日の灯火が全くなくなっていることに気が付いた。 俺を月明かりでもない何かの弱い光を包み込んでいる。その光のせいか、俺のいる部屋の中は灰色に変色させられ―― 気が付いた。この色合い、以前に見たことがある。あのハルヒが作り出す閉鎖空間と同じものだ。 俺は痛みも忘れ、飛び上がるように立ち上がり、辺りを見回した。 出入り口・黒板・窓の位置。俺がいるのは文芸部室――SOS団の根城と同じ構成の狭い部屋だった。 ただし、ハルヒの持ち込んだ大量のものは一つとして存在せず、空き部屋の状態だった。ただ一つ、見慣れた団長席と同じように窓の前に置かれた一つの机と、その上に背中を向けてあぐらをかいて座っている一人の人間を除いて。 「……誰だ?」 自分のでも驚くほど落ち着いた声でその人物に語りかける。窓から見える景色は、薄暗い闇に包まれた灰色の世界だった。 やはりここは閉鎖空間なのか? しかし、誰だと語りかけた割には、俺はその机の上に座っている人物に見覚えがあった。いや、そんな曖昧な表現ではダメか。 北高のセーラ服に身を包み、肩に掛かる程度の髪の長さ、そして、あのトレードマークとも入れるリボンつきのカチューシャ。 該当する人間はたった一人しかいない。 こちらの呼びかけに完全に無視したそいつに、俺は再度声をかける。 「俺を呼び出したのはお前なのか? ここはどこだ?」 「黙りなさい」 ドスのきいた声。しかし、殺気に満ちたそれでも、俺はその声を知っていた。 ………… ………… ………… 長らく続く沈黙。俺はどう動くべきか脳細胞をフル回転させていたが、さきに目の前の女がそれを打ち破った。 「――よしっ!」 そう彼女は威勢のいい声を放つと、机から身軽に飛び降りてこちらをやってきた。そして、問答無用と言わんばかりに俺のネクタイをつかむと、 「成功したわ。奴らにも気が付かれていない。今回はちょっと難易度が高かったから、失敗するかもと思っていたけど、案外簡単にいったわね。そういうわけで協力してもらうわよ」 おいちょっと待て。なにがそういうわけだ。その言葉には前後のつながりがなさすぎるぞ。 「そんなことはどうでもいいのよ。あんたはあたしの質問に答えれば良いだけ。簡単でしょ?」 「状況どころか、自分が一体全体どこにいるのかもわからんってのに、冷静な反応なんてできるわけねぇだろうが」 ぎりぎりとネクタイを締め上げてくるそいつに、俺は抗議の声を上げた。 だが、この時点で俺は確信を持った。今むちゃくちゃな態度で俺に接してきている人物。容姿・声・性格全て合わせて、完全無欠に涼宮ハルヒだった。ああ、こんな奴は世界中探してもこいつ以外一人もいないだろうから、 そっくりさんということはないだろう。 俺の目の前にいるハルヒは、すっとネクタイから手を離すと、腰に手を当てふんぞり返って、 「全く情けないわね。少しは骨があるかと思っていたけど、どっからどうみてもただの一般人じゃない」 「当たり前だ。今までそれは嫌というほど見せつけてきただろ」 俺の返した言葉に、ハルヒはふんと顔を背けると、 「あんたとは今日初めて合ったんだから、そんなことわかるわけないでしょ」 あのな、初対面の人間に一方的に問いつめるのはどうかと――ちょっと待て。なんだそりゃ、俺の記憶が正しければ、お前とはかれこれ一年以上の付き合いになるはずなんだが。しかも、クラス替えまでしてもしっかりと俺の後ろの席に座り続けているじゃないか。 「それはあんたの所のあたし。あたしはあんたなんて知らないし、こないだ平行時間軸階層の解析中に見つけるまで存在すら知らなかったわ」 このハルヒは淡々と語っているんだが、あいにく俺には何を言っているのかさっぱりだ。しかも、話がかみ合ってねえ。 このままぎゃーぎゃー言っても時間の無駄だろう。 俺は一旦話をリセットすべく両手を上げてそれを振ると、 「あー、とりあえず話がめちゃくちゃで訳がわからん。とにかく、まず俺がお前に質問させてくれ。 それで状況が把握できて納得もできたら、お前に協力してやることもやぶさかじゃない」 俺の言葉にハルヒはしばらくあごに手を当てて考えていたが、やがて大きくため息を吐くと、 「わかったわよ」 そう渋々承諾する。よし、とにかくボールはこっちが握った。まずは状況把握からだ。 真っ先に俺が聞いたのはこれである。 「お前は誰だ?」 俺の質問に、ハルヒはあきれ顔で、 「涼宮ハルヒよ。他の誰だって言うのよ」 「巧妙に化けた偽物って可能性もあるからな。俺の周りにはそんなことも平然とやってのけそうな連中でいっぱいだし」 「それじゃ、証明のしようがないじゃん。どうしろっていうのよ」 ハルヒの突っ込みに俺は返す言葉をなくす。確かに疑えばどうとでも疑えるのが、俺を取り巻く現在の環境だ。 となると、これ以上追求しても意味がない。それに俺の直感に頼る限り、今目の前にいるのはあのわがまま団長様と人格・容姿ともに完全に一致しているわけで、それを涼宮ハルヒという人間であると認識しても問題ないだろう。 だがしかし、先ほどの言い回しを見ていると、俺が知っている『涼宮ハルヒ』ではない。 「えー、聞きたいのはな、お前がハルヒであることは認めるが、俺の知っているハルヒじゃなさそうだって事だ。 なら俺のつたない脳を使って判断すると、ハルヒが二人いるって事になるんだが」 「そうよ」 そうよ、じゃねえよ。そこをきっちり説明してくれ。 「あー。あんたの頭に合わせて言うと、別の世界のあたしってことよ。平行世界って言葉ぐらい聞いたことあるでしょ? ここはあんたのいた世界とは似ているけど別の世界ってことよ」 簡単すぎてかえってわからんような。まあいい、いわゆる異世界人ってことにしておこう。このハルヒから見れば、俺の方が異世界人なんだろうが。 ……しかし、ついにでちまったか、異世界人。しかもよりにもよって別の世界のハルヒとはね。こいつは予想外だったぜ。 ここでふとハルヒが口をあんぐりと開けて呆然としているのが目に入った。 「ちょっと驚いたわ。随分あっさりと受け入れるのね」 「最初は本意じゃなかったが、いろいろ今までそういう突拍子もない話は聞かされまくったから、 いまさらここは異世界で自分は異世界人ですっていわれても、今更驚かねえよ。異世界人については今まで伏線もあったからな」 俺の言葉にハルヒは興味深そうに目を輝かせている。何だ? こいつも宇宙人・未来人・超能力者のたぐいを求めているのか? まあいい。俺は次の質問に移る。 「ここはどこだ?」 「時間平面の狭間よ」 ……何というか、ハルヒが真顔で朝比奈さんチックなことを言うと違和感がひどいな。それはさておき、それじゃわからん。 わかるように説明してくれ。 「何よ、そんなことぐらい直感でピンと来ないわけ? 呆れたわ。未知との遭遇体験に慣れているだけで、 肝心の理解能力は本当に凡人なのね。まあいいわ、ざっと説明すると、あたしが作った空間で誰も入って来れず、誰も認識できない場所。これくらいグレードを落とせばわかるでしょ」 いちいち鼻につく言い回しなのもハルヒ独特だよ。確かにわかりやすいが。って、なら俺が今ここにいるのは、 お前が招待したからってことなのか? 「そうよ。もっとも周りの人間に悟られずにやるのには、それなりに細工が必要だけどね」 なら次に聞くことは自然に出てくる。 「で、一体俺を何のためにここに連れてきたんだ? 何が目的だ?」 これが核心の部分になるだろう。自己紹介は終わった以上、次は目的についてだ。 ハルヒは待ってましたと言わんばかりに、にやりと笑みを浮かべ、 「それは今から説明してあげる。長くなるから、そこの椅子に座って聞きなさい」 そうハルヒは、また窓の前にある俺的に団長席の上に座る。そして、すっと手を挙げると、床から一つのパイプ椅子が浮かび上がってくる。 ここまでの話で大体予測していたが、このハルヒは普通じゃない。いや、確かに俺のよく知っているSOS団団長涼宮ハルヒも変態的神パワーを持ってはいたが、自覚していないため自由にそれを操ることはできない。しかし、この目の前にいるハルヒは自分の意思で長門レベルのことを今俺の目の前でやってのけたのだ。 やれやれ、これはちょっと異世界訪問という話で済みそうにない気がしてきた。 俺はハルヒの頼んでもないご厚意に甘えることにして、パイプ椅子に座る。 「さて……」 ハルヒはオホンと喉の調子を整えると、 「あんた、宇宙人の存在は信じる?」 このハルヒの言葉に何か懐かしいものを感じた。あの北高入学式のハルヒの自己紹介。ただ、いくつか欠けてはいるが。 俺は当然と手を挙げて、 「ああ信じるよ。少なくとも俺の世界ではごろごろ――とはいかないが、結構遭遇したしな」 「……情報統合思念体の対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインタフェースに?」 返されたハルヒの言葉に、俺は驚く。何だ、このハルヒは長門のパトロンのことを知っているのか? 「当然よ。あいつらの存在、そして、どれだけ危険な連中かもね。実質的にあたしの完全無欠な敵よ」 ――敵。ハルヒの口から放たれた声には明らかに敵意が混じっていた。 どういうことだ。俺が知っている限り、奴らは内部対立はあるとはいえ、主流派は黙ってハルヒを観察することにしていたはず。 あからさまな敵意を見せてはいないんだよ。 「何ですって……? まさか……いや……」 ハルヒは予想外と言わんばかりに思案顔に移行するが、軽く頭を振ると、 「まあいいわ。とにかく、あたしと情報統合思念体は対立関係にある。というよりも、情報統合思念体が一方的にあたしを敵視して排除しようとしているだけなんだけどね。こっちとしても、敵意さえ見せなければ別に相手にする気もないんだけどさ」 ハルヒはあきれ顔でふうっとため息を吐いた。 排除しようとしているとは、まるで俺の世界とは正反対の行動じゃないか。 「何で対立しているんだ? いや、どうして情報統合思念体はお前を排除しようとしているんだ?」 「細かいレベルでの理由は知らない。とにかくあたしの存在を勝手に危険と認識して、襲ってくるのよ。 それも狙うのはあたしだけじゃない。この星ごと消滅させようとするわ。そんなの許せるわけないじゃない」 「星……ごと?」 何だか話がSF侵略映画っぽくなってきたぞ。情報統合思念体が地球を攻撃するとは、まさにハリウッド映画。 ――ここでハルヒは思い出に浸るように天井に視線を向けると、 「三年前――いや、あんたのいた時間から見れば四年前か。その時、あたしは自分が持っている力に気が付いた。野球場に連れられていったあの日、自分の存在がどれだけちっぽけな存在であるか自覚したとたん、体内で何かが爆発したような感覚がわき起こり、この世の全ての存在・情報がどっとあたしの中に流れ込んできたのよ。当然、その中に情報統合思念体についてのこともあった」 ここで気が付く。さっきまで俺は灰色に染まった教室の中にいたはずなのに、いつの間にかまるで360度スクリーンの映画館のような状態になっていることに。そこには野球場の人数に圧倒されるハルヒ・電卓で野球場の人間が地球上でどのくらいのわりあいなのか計算するハルヒ・ブランコで物思いにふけるハルヒの姿が映し出される。 「きっとその時に向こう――情報統合思念体も気が付いたんでしょうね。あたしはその巨大な存在に触れてみようとした。 そのとたん……」 ハルヒの言葉に続くように、今度は宇宙から眺める地球の姿が映し出される。そして、 「嘘だろ……」 俺は驚嘆の声を上げた。まるで――そうだ、長門が朝倉を分解したときみたいに、地球が一部が粉末のように変化を始めた。 それは次第に地球全土へと広がっていき、最後には風に飛ばされるようにちりぢりにされ消滅してしまった。 呆然と見ることしかできない俺。と、スクリーンに星以外に一つだけ残されているものがあった。 「無意識に自分のみを守ろうとしたんだと思う。気が付いたとき、あたしは宇宙から消えていく自分の星を眺めていた。ただその恐ろしさと悲しさに泣きじゃくりながら何もできずに」 ハルヒだった。まだ幼い容姿のハルヒが宇宙空間で座り込むような格好で泣きじゃくっている。 目の前で淡々と語るハルヒは決してそのスクリーン上の自らの姿を見ようとせず目を閉じながら、 「何でこんな事になったのか、この時は理解できなかった。いや、今でも完全に理解できた訳じゃないけど。 あたしはただ情報統合思念体という大きく魅力的に見えたものに触れようとしただけ。なのに、奴らはあたしどころか、周囲全てを巻き込んで消し去ろうとした――許せるわけないじゃない。あたしは何の敵対行動も取っていないのに」 その声には怒気どころか殺気すら篭もっていた。確かに、なにも悪いことをした憶えもないのに、いきなり攻撃されてしかも無関係な人たちまで抹殺したんだから怒って当然か。しかし、何でそこまでして情報統合思念体はハルヒを消そうとする? 「知らないわよそんなこと。とにかく、その後あたしは情報統合思念体からの次の攻撃に備えていた。 あたしの抹殺に失敗した以上、また仕掛けてくると思ったから。でも、いつまで経っても襲ってくる気配はなく、 ただ時間だけが過ぎたわ。おかげでその長い時の間に大体自分ができることがわかったわ。奴らへの対抗措置もね」 「何で連中は追撃してこなかったんだ?」 「あとで奴らの内部に侵入して確認したときにわかったんだけど、最初の攻撃時にあたしは無意識に情報統合思念体に対してダミー情報を送り込んだみたい。あたしは強大な力を手にした。だけど、あたしはそれを自覚していないという形でね。 だから、奴らは地球を抹殺した理由がなくなり、どうしてそう言った行為を取ったのかわからない状態として処理されていた。 そこにあたしは目を付けた」 ハルヒの言葉に続き、周囲のスクリーンに無数――数えることのできないほどのガラス板のようなものが並列で並んでいる映像が映し出される。その一枚一枚には無数のカラフルな丸い点が描かれ、様々な形に変化・縮小・拡大・消滅・発生を繰り返している。 「あたしは地球抹殺の理由の接合性がなくなっていた情報をさらに改ざんした。あたしは自分の力を自覚していない、だから情報統合思念体は何の行動も起こさなかった。だから地球は消滅していないと。 地球自体は消滅前の時間軸に残されていた情報をコピーしてあたしが再生した。幸い、連中も脇が甘いのか、 そういったことは多々にあるのか、あっさりとあたしの情報改ざんは成功したわ。おかげであの日の惨劇はなかったことにできた。 ただあたしが力を得たという情報まで奴らから消去することはできなかった。結構希少な情報だったせいか、前例として広域な情報に関連づけられていたから、これを改ざんすると他への影響範囲が大きすぎて、全部改ざんなんて不可能だったから」 あまりのスケールの大きさに呆然と耳を傾けることしかできない。 「……ここじゃそんなことがあったのかよ」 俺は聞かされた衝撃的な話に疲れがたまり、パイプ椅子の背もたれに預ける体重を増加させる。 ハルヒは続ける。 「とりあえずリセットはできたわ。状況はあたしは力を得たが、それを自覚していないと情報統合思念体は理解している。 この状況下でどうすれば奴らの魔の手から逃れることができるのか、次はそれを模索する必要ができたのよ。 あたしが力を得たことで奴らに目を付けられた以上、うまくやり過ごなければならない」 ここでスクリーンに映し出された一枚のガラス板がアップになる。 「一度でうまくいくとは思っていなかったあたしは、一つの時間平面――このガラス板一枚があたしたちのいうところの『世界』と認識すればいいわ――を支配することにした。こうしておけば、いざ奴らにあたしが力を自覚していることに気が付かれてもいつでもリセットできるし、情報統合思念体には同じようにダミー情報を送り込めばごまかせるから」 「で、どうなったんだ?」 俺の問いかけに、ハルヒはいらだちを込めたように髪の毛を書き上げ、 「それがさっぱりうまくいかないのよ。どこをどうやっても途中で奴らに力を自覚していることがばれて終わり。 その度にリセットを続けて来ているけどいい加減手詰まり状態になってきて……」 ここでハルヒはびしっと俺を指差し、 「そこであんたを呼び出したって訳よ」 「何でそうなるんだよ?」 俺が抗議の声を上げると、ハルヒは指を上げて周囲のスクリーンに別のガラス板――時間平面とやらを映し出す。 「手詰まりになったあたしは別の時間平面に何かヒントがないか調べ始めたのよ。そこであんたたちの存在を知った。 同じようにあたしが力を得ながら、情報統合思念体が何もせずにずっと歩み続けている。力を自覚した日から、 4年も経過しているってのに。それはなぜなのか? どうしたらそんなことができるのか? 詳しく別の時間平面を調査していると奴らに気が付かれる可能性があったから、とりあえず一人適当な奴を こっちに連れてきて教えてもらおうってわけ。とはいってもあたし自身を連れてくるとややこしいことになりそうだから、事情を知っていそうな奴を選んだけど」 そういうことかい。で、唯一の凡人である俺が選ばれたって事か。 ここでハルヒは机を飛び降り、また俺のネクタイをつかんで顔を急接近させると、 「さあ、白状なさい。一体あんたの世界のあたしは何をやったわけ? どうやったら情報統合思念体は手出しできなくできる?」 「何もやっていない。少なくとも俺の知っているハルヒは自分の力を自覚していないからな」 「は?」 ハルヒの間の抜けた声。が、すぐに眉間にしわを寄せて額までぶつけて、 「そんなわけないじゃない! 例えなんかの拍子で自分の力に自覚していなくても、周りに情報統合思念体がいるならどこかでちょっかい出してくるに決まっているんだから、すぐに気が付くはずよ!」 「だが、事実だ。情報統合思念体はハルヒがその状態を維持することを望んでいるし、それに俺をここに呼び出す前に俺を付けていたハルヒと一緒にいた小柄な女の子はその対有機生命体ヒューマノイドインターフェースだ」 「バカ言わないで! あたしがあいつらと一緒に仲良く歩いていられるわけがないじゃない!」 ハルヒはつばを飛ばして言ってくるが、そんなこと言われても知らんとしかいいようがない。 それにしてもこのハルヒが持っている情報統合思念体への敵意は痛々しいまでに強く感じる。 「じゃあなんであんたはあたしの力について知っているのよ!」 「長門――情報統合思念体とかその他周囲から教えてもらった」 「じゃあなんであたしに教えようとしないわけ!?」 「一度言ったが、信じてくれなかった」 とりあえず事実だけ淡々と返してやると、ハルヒの顔がだんだん失望の色に染まっていった。やがて、ネクタイから手を離し、机の前まで戻ると、 「……だめだわ。それじゃだめよ。ただ運良くそこまで進んだだけじゃない。とくにあたし自身が自分の力の自覚がないのは致命的だわ。自覚したとたん、情報統合思念体に星ごと抹殺されて終わり。そして、リセットもダミー情報による偽装もできない。 あんたの世界も長くはないわね」 そうため息を吐く。 このハルヒの言葉と態度に、俺の脳天に少し血が上り始めた。まるでいろいろあった俺のSOS団人生を 簡単に否定された気分になったからだ。 「おい、俺のやってきたことをあっさりと否定するんじゃねえぞ。確かにお前みたいに壮絶じゃなかったかもしれないが、俺は俺で色々やってきたんだ。大体、俺のいる世界を全部見たって言うなら、俺たちのその後もわかっているんじゃないのか?」 「あのねぇ、時間平面ってのは数字に表せないほど大量にあるのよ。そこから無作為に検索をかけて、 偶然見つけたのがマヌケ面のあんたがあたしと一緒に歩いている姿を見つけただけ。その後の様子まで確認している余裕はなかったわよ。あまり長時間の時間平面検索は奴らに察知されかねないから」 それを先に言えよ。ってことは、このハルヒは俺たちSOS団についてもさっぱり知らないって事になる。 そこで俺はこのハルヒに対して、俺を取り巻く環境についてかいつまんで説明してやった。 情報統合思念体の対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインタフェースである長門有希。 未来からハルヒについての調査・監視を命じられてやってきた朝比奈みくる。 ハルヒの感情の暴走を歯止めする役目を与えられた超能力者古泉一樹、そしてそれを統轄する組織、『機関』。 ………… だが、ハルヒは話自体は信じたようだったが、やはり俺たちがその後も平穏に進むということについては 懐疑的な姿勢を崩そうとしなかった。 「まさかあたし自らそういう連中とつるんでいたとはね。それも自覚がないからこそできる芸当なんでしょうけど、 とてもじゃないけどリスクが大きすぎてできそうにない。それに皮一枚でぎりぎりあたしに気が付かれていないだけにしか感じられない以上、いつ自覚してもおかしくないわね。その時点であんたの世界は終わりよ」 「なぜそんなに簡単に否定できるんだよ?」 ハルヒはわからないの?と言わんばかりに嘆息し、 「まず『機関』とやらは、情報統合思念体に逆らえるだけの力があるとは思えない。あんたと一緒にいた色男――古泉くんだっけ? ――が、機関の意向よりあたしが作ったSOS団とやらを優先すると言っても、個人で何ができるわけもなし。 未来人については、同じ時間平面上なら移動可能ということは使えそうだけど、そもそも情報統合思念体はそんなことなんて朝飯前。対抗手段としては物足りないわね。最後の情報統合思念体の対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインタフェースについては論外。 奴らの支配下から離れて独立しつつあるとか言われても、信じられるような話じゃない。所詮は操り人形なんだから」 その言葉に俺はいらだちを募らせるばかりだ。まるで外部の人間にSOS団の存在意義を必死に説明してみせているような気分になってくる。いや、このハルヒは確かに俺たちについてまるっきり知らない――それどころか、情報統合思念体に対して明確な敵意を見せているので余計たちが悪い。 だが、俺はSOS団として満足して生きてきていたし、危険も感じていない。長門のパトロンはさておき、 長門自身には信頼を寄せているし、古泉はSOS団副団長という立場の方がすっかり似合っている状態。 朝比奈さんはもうマスコットキャラが板に付きすぎて抱きしめて差し上げたいぐらいだ。そして、皆ハルヒとともに 平穏無事にいたいと願っている。 それの何が問題だというのだ? このハルヒは自分の力を自覚していないとダメになるということを 前提に語っているようにしか見えない。 その後も必死に説明した俺だったが、ハルヒは聞く耳を持たない。 「悪いけど、これ以上議論しても無駄よ。あんたを元の時間平面に送り返すわ。一応礼を言っておくけど、 そっちもかなりぎりぎりの状態ってことはわかったんだから――」 「そうはいかねえよ」 「え?」 元の世界への機関を拒否した俺に、ハルヒはきょとんとした表情を浮かべた。 俺は正直このまま元の世界に戻るような気分じゃなかった。このままSOS団を完全否定されたっきりでは、 気分が悪いことこの上ないし、そもそもこのハルヒのいる世界は破滅とリセットのループを繰り返している。 だったら、俺の世界と同じようにSOS団を作れば同じように平穏に過ごせる世界が作れるはずだ。 俺にはその絶対の確信があった。 「何度でもリセットできるんだろ? だったら、俺の言うとおりに動いてくれ。そうすりゃ、俺たちの世界が どれほど安定しているか教えてやれるし、ここの世界の安定化も図れる。お前だって手詰まり状態だって言っているんだから、 試す価値はあるはずだ。少なくともお前が到達できない場所に俺たちは到達できているんだからな」 「…………」 ハルヒはあごに手を当てて思案を始めた。 ふと、他人の世界にどうしてそこまでするんだという考えが脳裏に過ぎる。しかし、すぐにその考えを放り捨てた。 ここまであーだこーだな状態になっておめおめと引き下がるほど落ちぶれちゃいない。 「……わかったわよ」 ハルヒは渋々といった感じに了承の言葉を出した。しかし、すぐにびしっと俺に指を突きつけ、 「ただし! 条件付きよ。あんたのいう宇宙人・未来人・超能力者にまとめて接触はしない。一つずつ試していくわ。 情報統合思念体の目はどこでも光っているんだから、変に手を広げて取り返しの付かない事態にならないよう 石橋をハンマーで殴りつけながら進ませてもらうわ。あと、あたしは自分の力の自覚はそのままにする。 この一点だけは譲れない。これがダメというなら即刻あんたを元の世界に送り返すから」 条件付きというわけか。はっきり言って、3勢力がそろわないとSOS団には成り立たないが、この際贅沢はできない。 一つずつ接触しても俺のいた世界のSOS団と同じぐらいの平穏な関係は築けるはずだ。 力の自覚については仕方ない。ハルヒは自分がそれを理解していない状態を極端に恐れている節がある。 それに、これに関してはうまい具合にハルヒが黙っているだけで済むから大丈夫か。 「わかった。それで構わん」 「じゃ、決まりね」 こうして別の世界でSOS団再構築という壮大なプロジェクトが始まった。 ――そして、俺がどれだけ甘い考えをしていたのか、嫌と言うほど思い知らされることになる。 ~~涼宮ハルヒの軌跡 機関の決断(前編)へ~~