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名前: 斉藤 涼 年齢: 28 性別: 男 性格: 冷静 容姿: 若白髪 眼鏡 武器:ボウガン アーミーナイフ 長所: 医術の心得有り 短所: 体力がない 職業: 学者 一言: 足手まといにならないように努めよう。
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第五章 ハルヒは放心状態、長門は朝倉と交戦中、朝比奈さんはハルヒの横で気絶している、古泉は神人と交戦中、俺にいたってはハルヒのいる病院の中で立ち尽くしてい。 不運と言うものは続くもので、ボロボロに破壊されたドアから人影が見えた。 見覚えのあるおとなしそうな生徒会書記担当、黄緑江美里だ。しかもその手には血のついた日本刀…え?日本刀? 今度は黄緑さんがエラーか?しかも血がついてるってことは誰かを殺したてきたと言うことなのだろうか。 長門は朝倉と交戦中である、よって黄緑さんに抵抗できる人間はいない、ここにいるのは俺とハルヒと朝比奈さんだけなのだ。 ここまでかと思ったそのとき、またドアの奥から人影が見えたと思った瞬間である、人影がすごいスピードで黄緑さんに近づき持っていた薙刀で黄緑さんの体を真っ二つにした、そしてポケットからビンを取り出し中に入っていた液体を真っ二つになった黄緑さんにかけた、すると黄緑さんは塩をかけられたナメクジの様に縮み消滅した。 そして黄緑さんを切り殺した人物に俺はとてもびっくりした。 なんと久々の朝比奈さん(大)である。俺はハルヒや朝比奈さん(小)の前に現れていいのかという疑問の前に朝比奈さんの身体能力に驚いていた。 アホみたいに口をあけている俺に朝比奈さんは「久しぶり。」と、そしてハルヒに向かって「久しぶりです、でもこの姿では始めましてですね。」 そして朝比奈さんは説明してくれた。「黄緑さんは情報統制念体によってコピーされました、そしてそのコピーはオリジナルを抹殺しあなた達を抹殺しに来ました、それを止めるために来たんです、他にも目的はあったのですが。本当はこういうことをしてはいけないんですが私にとっても規定事項なので大丈夫です。」 朝比奈さん(大)が説明を終えた後、ハルヒが突っ込んだ「あんた、誰なの?みくるちゃんのお姉ちゃんか何か?この姿って…」 その質問には俺が答えた「この人はここにいる朝比奈さんの未来の姿だ、何度か会った事がある。」 そして朝比奈さん。「そうです、なんなら今までにしたコスプレ全部言いましょうか?」と笑顔で言った。 そして真剣な顔をして続けた。「私がここに来たのは黄緑さんからあなた達を守るためだけではありません、もう一つ重要な仕事があるんです、でもその前にキョン君、涼宮さんにあなたの正体を教えてあげて下さい。」 「キョンの正体?」とハルヒがいいこちらを見る。 俺は言った。「そういえば言おうとして朝倉が来たんだったな。いいかハルヒ、よく聞け?俺の正体はな…」ジョンスミスなんだ、と言うつもりだった。 「そいつの正体はジョンスミスさ。」とまたドアの奥から人影が現れる。またも見覚えがあるやつだった、しかもいけ好かない未来人、花壇で会った奴だ。 なんでこの事を知っている?そんなことを考えているとハルヒが「キョンがジョンスミス…?本当なの?キョン」 「そうだ、俺は確かに4年前の七夕の日にハルヒに会って落書きの手伝いをしたジョンスミスだ。だが何でお前が知っている。」恐らくこのときの俺はきっとものすごい顔で睨んでいたのだろう。 しかし煽るようにそのいけ好かない未来人は言った。 「何故知っているかって?それは俺がジョンスミスだからさ。」 朝比奈さん(大)以外の顔が凍りついた。 こいつがジョンスミス?そりゃ俺だろう、こいつがジョンスミスなわけがない。それともジョンスミスって結構多い名前なのか? 昔の船長にそんな名前の奴がいたっけ? などと脳内で思考を巡らせていると、 朝比奈さんがまじめな顔でこう言った。 「キョン君、この人は未来のあなたなんです。それは間違いありません。そしてこの人の目的は…」 いけ好かない未来人が割って入った、しかもまたとんでもないことを言い出した、俺はその言葉にこいつがジョンスミス…つまり俺なのだということ以上にショックを受けた。 「涼宮ハルヒと朝比奈みくるの暗殺だ。もちろん過去の自分であるお前は殺さない、俺が存在できなくなるからな。」 なんだって?未来の俺が朝比奈さんやハルヒを殺す?一体全体何があったら俺はそんなことをするような人間になるんだ? 大体、朝比奈さんやハルヒを狙っていることを知っているはずの朝比奈さん(大)は何故何もしないんだろうかという疑問を朝比奈さん(大)に向かって視線に込めて送ってみた。 すると朝比奈さんは「まだ大丈夫です。」とだけ言った、まだ? そしてその未来人は続けた。 「俺の来た未来では朝比奈みくる、長門有希、古泉一樹、涼宮ハルヒはとっくに死んだ人間になっている。 涼宮ハルヒ、朝比奈みくるは俺に殺され、古泉は神人に敗れ、長門有希は朝倉に殺された。 そういうことになっている。しかしこいつらを殺すのは長門有希、古泉一樹が敗れた後、俺も難しいことはわからないがその両名が敗れたショックでハルヒが完全に能力を失うらしい、恐らく自分の能力で友達が傷ついたことで自ら能力を消したんだろう。 そしてそんな能力を持った涼宮ハルヒを殺し、まあ口封じっって奴だ、そして朝比奈みくるからTPDDを奪い殺し、ほんのちょっと未来のお前に渡してやるんだ。それで万事解決だ。」 いやいやいやこれはないって、絶対ないよ。何で朝比奈さんまじめな顔してんの?こいつおもしろいこといってんだから笑ってあげなよ。 などと考えていたらやっぱり朝比奈さんが「全部本当です。」 …やれやれ。 そしてその未来人は喜んでいいのか泣いたらいいのかわからんことを言った。 「そこでだ。当然朝比奈みくるのふけたほうがここにいるってことは当然勝ち目もあるってことだ。なぜか2つの異なった未来が繋がってしまったらしいからな、それも涼宮ハルヒの影響か?それに全部規定事項って奴ですか?朝比奈みくる。まあどうなるかはお前しだいって奴だな。まあがんばれよ」 朝比奈さんによると全部事実で間違いなさそうだ。 奴の言うと通り、俺達が勝つ道もあるみたいだしな。 って言うことはやっぱり長門、古泉を何とかしないとだめみたいだ。 長門、古泉両名が死ぬまでこいつはハルヒや朝比奈さんみたいに手をだぜないみたいだし。 長門は何とかなるとして、まず古泉を何とかしてやろう。 第六章
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【作品名】ハルヒシリーズ 【ジャンル】アニメ 【名前】 涼宮ハルヒ 【属性】 世界の中心 【大きさ】人間並み 【攻撃力】一般的な体育会系女子高生並み&金属バット 【防御力】一般的な女子高生並み(体操着) 【素早さ】一般的な体育会系女子高生並み 【特殊能力】 新しい時空を生み出し、その時空に移動する。 次元断層の隙間に閉鎖空間を生み出す能力の延長線と思われる。 この新しい時空は最初の内は元の時空と繋がりが有るが、極めて入りにくい。 次元断層の隙間の閉鎖空間に入れる能力者が何人も(少なくとも7~8人)全力を振り絞り、 ようやく幻のような存在を一人送り込み、数分の伝言を届けられる程度。 長門有希も干渉を試みたが、新時空のパソコンに文字情報を送り数分間会話するのがやっとだった。 しばらくすると(長くて数時間)、本来の時空間との連結が完全に消滅し、 更にしばらくすると、本来の現実空間が閉鎖空間に変わってしまうらしい。 古泉曰く『世界の破滅』。 これによる勝ち、あるいは『優勢・封印勝ち』を狙う。 現実空間が閉鎖空間に変わるのに掛かる時間は作中の記述から推測して 長くてもせいぜい丸1日程度。現実空間側からは干渉できない。 世界から逃げられる奴なら別世界に退避してドローには持ち込めると思われる。 ……と、考えたいところだが 実際には世界は滅びていないので単なる時空生成能力である可能性がある。 【長所】 とりあえず運動能力は人並み以上。 【短所】たとえ目の前に宇宙人や未来人や異世界人や超能力者がいても気づかない可能性がある。 この能力で世界を破滅させた実績が無い。(能力を使った時点で逃亡負け) 【戦法】殴る 【備考】アニメなら主人公じゃね? 野球大会のやつで参戦 vol.1 306 名前: 格無しさん [sage] 投稿日: 2009/01/07(水) 19 32 36 涼宮ハルヒ考察 能力的に一番下
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涼宮ハルヒの24 シーズンⅠ市内探索 涼宮ハルヒの24 シーズンⅡそれぞれの休日 涼宮ハルヒの24 シーズンⅢ
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声優 か行検索 名前:金本 涼輔 よみ:かねもと りょうすけ 性別:男性 誕生日:9月2日 出身地:岡山県 血液型:- 所属:青二プロダクション 出演作品 2012 TV - パパのいうことを聞きなさい! - アナウンス 関連商品 声優 か行検索
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天蓋領域との壮絶かつ困難なバトルの話は俺の中で整理がついた時にでもゆっくり 語ろうと思う…… 。 季節は三度目の桜がまるで流氷を漂うクリオネの姿で舞う光景を見ながら、 俺はシーシュポスの苦痛を3年間も続けたんだなという感慨にふけり、後ろを 振り返った。 北高に入り、ハルヒと対面したあの日が走馬灯のようによみがえってくる。 思えば「宇宙人、未来人、…… 」あの言葉を聞いた瞬間から俺は夢のような時を 過ごしてきたんだなとも思う。 まさに光陰矢のごとし、カマドウマにも五分の魂ってやつか…… 。 そんなこんなで今日は朝比奈さんの卒業式当日。 もちろん鶴屋さんもその満面に笑みを称え、卒業生の輪の中にいた。 「安定していますね、まさに一般人に戻ってしまった涼宮さんそのものですね。 あっ、それと僕の能力も消えてしまいました」 顔が近すぎるんだよ、古泉、あいも変わらずなぜそんなにくっついて話す 必要があるんだ? 「情報統合思念体も二次的なフレアの原因は涼宮ハルヒという生命体が持つ 内部の自己矛盾から開放されたと推測している。わたしの役目も終わりに 近づいているのかもしれない」 寂しそうな笑顔を向ける長門…… 寂しそうな笑顔? 長門、お前はいつから そんな感情を露にした表情ができるようになったんだ…… 。 「観察が終わればわたしはここから去らねばならない…… 」 その神のごとき能力を失ったハルヒは泣きじゃくる朝比奈さんと大笑いしている 鶴屋さんの真ん中で大いにはしゃいでいた。 卒業式の余興にあのバニーのコスプレでどうやら「GOD KNOWS」を 歌うらしいのだ。 もちろんSOS団内に結成したENOZⅡというバンド名なのはいうまでもない。 はしゃいでいるハルヒを俺はずっと目で追っていた。相変わらずハイテンション なハルヒ、昨日まで世界はお前を中心に回っていたといっても過言じゃないんだぜ! あの日を境にな、あの日を境にお前の能力が失われていることに気づいたのは つい最近なんだ、だが俺はなぜかほっとしている。これで、お前を、ちゃんと真正面から 見ることができるんだ。 不思議から開放されることが、いやもう二度とあの世界へは戻れないんだと してもだ、俺は心からハルヒ、お前が普通でいてくれることをありがたく思うよ。 この世界の創造主なんて役目はかわいい女の子には荷が重過ぎるだろ、違うか!? なんたって神様好きになっちゃバチが中るってもんさ、 卒業まで一年俺はこう思ってるんだ。不思議じゃない高校生活もきっといいもんだぜ…… 。 ハルヒ、告白しちゃいけないか、手をつないじゃいけないか、デートしちゃいけないか? この世界にたった一つ不思議があるとしたらめぐり合った奇跡じゃないのか? 「ハルヒ…… 俺は…… お前を…… アイシテル…… 」 了
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涼宮ハルヒの遡及Ⅲ 「え……? この世界に来るまでにいくつかこの世界のパラレルワールドに行ってたって……?」 「そういうこと。まあ、あたしはキョンくんとあんまり関わりがなかったんで別の世界に着いて、あたしの知ってるキョンくんじゃないって判断できたらさっさと戻ったんだけどね。蒼葉の方は少し関わってきたみたい」 「パラレルワールドって実際にあるんですか!?」 「だって、ここに行き来したあたしがいるし。なんならどんな世界だったか教えてもいいわよ。あ、先に言っとくけど、基本的にはこの世界とほとんど変わんないからね」 「ふわぁ……でも、パラレルワールドってどうやってできるんですか?」 「ううん……これはあたしたちの世界の並行世界の論理に基づいた考え方になるんだけど……そうね。あなたたちにとって時間は可逆? それとも不可逆?」 難しい話じゃないな。だいたいここにいる人間の内に一人、未来人さんがいらっしゃるし、それをハルヒも知っている。てことは不可逆なんて誰も思っていない。 「もっちろん! 可逆ですよ!」 ほらな。ハルヒならこう答えるさ。 「なら話は早いわ。あたしたちの世界でも時間遡行は可能だと考えられている。でないと並行世界の根源の理論が成り立たないからよ。たとえば、キョンくん。あなたが時間遡行できるとする」 どき。 な、なんか見透かされているような気がしたんですけど…… 「そんなあなたがある日、ケーキを食べたとするわよ。ただ、そのケーキが痛んでて翌日、腹痛を起こした。でも、その歴史は嫌なんで時間を遡って今度はケーキを食べないことにした。当然、翌日は腹痛を起こさない」 だろうな。てことは歴史は変換され上書きされたってことだ。前に古泉の言っていた理論と言うよりもちゃちな推論と同じだな。 「ここで質問」 ん? 「じゃあキョンくんが腹痛を起こした世界はどうなったと思う?」 どう……って……歴史が変わったんだから無くなっちゃうんじゃね……? 「どうして消えてなくなるのかしら? ひょっとして一個人の力ってそんなに大きなものだと思ってる? 変えられたのは『キョンくんに関わった歴史』だけなのよ。それなのにこの世界――全宇宙を含めた想像もできないような広大な世界が上書きできるとでも? こう言っちゃなんだけどあたしも含めて『人間一人の歴史』なんて大宇宙から見ればチリの一つにすらならないわ」 「あ……それは確かに……」 ハルヒが驚嘆のため息を漏らし、俺もまた愕然とした。 「そういうこと。この時間遡行ができる人が分岐点を創り上げて、そこから木の枝分かれのように、本当にほんの少しずつだけど新しい世界を形成していってる、これがパラレルワールド=並行世界の起源、って考えられているのよ。もちろん、分岐した側の世界は分岐前の世界よりも進んでいるし、これは時間が可逆じゃないと説明できない」 てことはつまり、俺が腹痛を起こした方の世界も存在するってことになるんだ。いや待て、それじゃその世界の俺は? 居なくなるのか? 「さて、それはなんとも言えないわね。実際に、あたしは時間遡行、タイムテレポテーションの魔法は持ってないし結論付けることはできないんだけど、いちおーあたしたちの世界だと二つの考え方が存在しているわ」 「あ、それはなんとなく解ります! 別のパラレルワールドの本人が移動してくるか、それとも神隠し扱いにするか!」 ハルヒの奴、即答しやがった。本当にこういう話になると目ざとい奴だ。 「大正解♪ まあ、これは本当に仮説の域を出ないんだけどね。だってどっちにも確証って論理が存在しないから」 しかし、これはなかなか俺も興味深い話だ。 去年の十二月に長門が改変した世界、あれは今でも並行世界として存在し続けているってことになるんだからな。今の話が事実だとすれば。 「そろそろ、その世界はどんな世界だったのか、を差支えなければ教えていただけないでしょうか」 だろうぜ。この話は古泉の興味も引くだろう。 こいつはなんだかんだ言っても『未知』が『現実』になったときにかなりの興味を示す。 ある意味、こいつが所属する機関と敵対関係にあるはずの未来側のタイムトラベルに対してでさえ並々ならない関心を持っているからな。 「そうね……あたしが見てきた世界だと――まあ大抵はキョンくんとハルヒさんが付き合ってる世界が多かったかな? 毎回毎回キスしているようなのやら、それよりも深い関係になってあんなことやこんなことをしてるのもあったし、と言うか、バカップル化してんのが異様に多かった。んで、それに共通して言えるのはまったく人目を憚ってなかったってことね――って、どうしたのよ? キョンくん、アサヒナさん、ハルヒさん、顔を真っ赤にして俯いて」 そ、そんな話されたら誰だって……! 見ろよ、古泉だって汗を滴らせながら苦笑を浮かべてるじゃないか。唯一、平然としているように見えるのは長門だけだ。 もっとも、俺にしか分からんだろうが、その長門も少し困惑しているみたいなんだがな。 「な、なんであたしがあんたなんかとそんな関係になってるのが多いのよ……」 「俺が知るか」 ハルヒの完全に意識してしまった強気なのにちらちら横見視線に俺も返す言葉がない。 「初々しいわねぇ」 「俺たちはまだ十代半ばなんです! そんな話に免疫があるわけないじゃないですか!」 にこにこ笑顔のアクリルさんに俺は思いっきりツッコミを入れるしかできなかった。 が、それでもその空気を読んでいるのかいないのかさっぱり分からん問いかけは意外な人物から発せられた。 「あなたが見てきた世界は理解した。では、あなたが先ほど言ったアオバなる人物が見てきた世界についての情報は?」 そう、発信源はなんと普段は我関せず無関心を貫きまくる長門なのである。 ん? 何でそんなことが気になるんだ? 「蒼葉が見てきた世界、ね……もしかして、あなたは何かに気づいているのかな?」 「そう。あなたからはわたしの匂いがする。理由を知りたい」 匂いだと? 「彼女からはわたしの存在形態パターンの残留痕跡を感じる。それは端的に表現すると『匂い』。しかし、語弊があるが、わたしは今日初めて直接、彼女と出会った。と言うことは、可能性としては彼女は別の並行世界のわたしと遭遇したと予測できる」 なるほど。 「その通りよ。別の並行世界のあなたがあたしたちの世界に迷い込んだの。まあ世界が違っても本人は本人だからね。自分自身をあなたがあたしから感じても不思議はないわ。あーでもその因果は言わない方がいいのかな?」 ええっと、その言い方は余計気になるんですが? 「本当に知りたい? さっきの話でさえキョンくんたちは付いてこれなかったのに?」 「……と言うことは、その世界では有希がキョンとただならない関係にあるってことなんですね?」 って、おい! そりゃここにいる俺じゃないんだから、百獣の王・ライオンですらビビって逃げ出しそうな視線で俺を睨むなっての! とまあ結局、午前中はこうやって異世界の話と理論で盛り上がり、歌を一曲も歌うことなく過ぎ去っていった。 ……なんか勿体なくないか? しかし……歌以上に貴重な話を聞けたと思えばそれはそれで得した言えないことも…… で、なぜかは分からん。 いや、分からんことはないわな。ハルヒがいれば厄介事というものはどんな状況からでも、あたかも餌に群がる鳩のようにどこかしらから集まってくるわけで、しかも、そいつらはまるで猿山のボス決めのように競い合い、勝ち残った『一番強力』な厄介事だけが俺たちの前に現れることを許されるという決まり事が存在するんだ。 いいか。ハルヒの前に、じゃない。あくまで俺たちの前に、だ。 つーわけで、いつも通り、もはや日常と化していると言っても過言ではない『厄介な』出来事が俺たちの目の前に現れたのである。 UMAとか心霊現象とか言った特殊なプロフィールを持つ『者』なら話してみれば案外友好的かつ平和的に接することが可能なのかもしれんが、特殊なプロフィールを持つ『事柄』はどうやら勝手が違うようだ。 しかも、今回はなんとハルヒも巻き込まれたんだ。 いったい何がきっかけだったんだろう。 もしかしたらこの会話がネタフリだったのかもしれない。 「……クリエイター?」 「そうよ。それだけ想像を強く望むなら紙上に表現すればいいじゃない。そうすればあなたの『想像』は文字通り、『現実』で見られるわ。頭の中に置いてたって誰の目にも――そしてそれを一番望むあなたの目にも留まらないわよ」 不思議探索パトロール午後の部。 今回はアクリルさんも含めて班分けしたのだが……アクリルさんもよく付き合ってくれるな。こんなことに。 てことで、班分けは俺、ハルヒ、アクリルさんと古泉、長門、朝比奈さんになったんだ。 まあそれはいい。それはいいのだが……「何か不思議なものを見つければいいんでしょ。で、それはどんなふうに不思議だったらいいの?」とアクリルさんが言ったことが問題だった。もちろん、ハルヒは自信満々にUMAとか心霊現象とか言い出したんだが…… そう……あろうことか、アクリルさんは本当にソレ系を見つけてしまったのである…… いや、見つけた、というのは表現が違うな。 何と言うか……『出現』させやがったんだ…… 「もうキョンくんも機嫌直してよ。反省してるから。あたしだってあんな騒ぎになるなんて思わなかったんだし」 苦笑満面に俺に語りかけてきてくれたのはたぶん、俺の不機嫌極まりない表情が目に入ったからだろう。 実は、俺とアクリルさんがハルヒの両端を固めているので、当然、ハルヒに話しかけていれば、何かの拍子がなくても俺が目に入る。 「そうですね。お願いですからもう二度とやらないでください。召喚魔法なんて」 「あははははははは。いやぁ、この子が『正体不明の生き物を探す』って言ったもんだからさ。なら、見つかればそれで目的達成できて、後の時間を遊べると思ったからよ。そっちの方がキョンくんも嬉しいんじゃない?」 そりゃ否定はしませんが。 「いいじゃない。さくらさんはあたしのためにやってくれたんだから。それに、あの場にいた人たちの記憶って消したんでしょ。なら問題ないじゃない」 ハルヒは思いっきり満足げな笑顔を浮かべている。 問題とかそういうことじゃなくて、お前がこういう存在がいるってことを認識することの方が怖いんだから仕方ないだろ。 「それにしても、ああいう人に見えない霊とか妖怪って本当にいるのね。こういうのもなかなか面白いじゃない」 ……こういうの“も”か。 お前の口からこの助詞が聞けるなんてな。入学したての頃のお前はこういうもの“しか”追いかけてなかったってのに。 俺はふっと自嘲のため息をついていた。 ――心配いらないわよ。ちゃんとフォローしてあげる。教えてもらった手前、確かにキョンくんが恐れる気持ちも解るから―― え? ――今、あたしはキョンくんにテレパシーで話しかけてる―― そ、そうか……俺の頭の中に声を響かせたのはアクリルさんか……つか、こんな真似ができる俺の知り合いなんざ、ここにはこの人しかおらん。 ふと、アクリルさんに目をやると彼女はウインクしてくれていた。 「でもハルヒさん。あくまであれはあたしがいたから出来たこと。要するにあれができるのは特殊な『眼』がいるってことね。見るためにそういう『眼』にできるのはあたしのような魔法使いだけよ。たまに『霊感が強い』って人がいるのも事実だけど、その人たちは自分の本当の『力』を自覚してないってことなのよね」 「そうなんですか? じゃあ、霊感が強い人って本当は魔法使い?」 「まあそうね。でも、それはそういう方面の魔法。ただ本人が自覚しないと自由自在に使えないし、ついでに自覚してもそれを自由自在に使えるようになるまでには相当の年月を必要とするわよ。なんせ色んな魔力の構成を理解しないとできないから」 「はぅむ……」 「あたしたちの世界でも『魔法』が認知され本当に使えるようになるまでに数百年の時間が必要だったもの」 「そっか。じゃあ、仮に今、発見できたとしてもあたしの生きている間はほぼ不可能に近いですね」 「そういうこと。もっとも遠い未来は分かんないけどね」 「そっかそっか、じゃあみくるちゃんに聞いてみようかな? 未来の世界に『魔法』があるのかどうか」 やめとけ。というか時間遡行自体が魔法みたいなもんだろうが。高度に発達した科学は魔法と見分けがつかないって警句を聞いたことがある。 「確かにね。どっちも『人の力』が作り上げるものだから」 アクリルさんが同意してくれますか。なんか違和感を感じるな。 「そういうものなんですか?」 「そういうものよ。だからね、さっきの話に戻るけど、本当にまったく白紙の状態から想像を短時間で現実化できるのはクリエイターくらいなもんね。なら即座に現実化を求めるハルヒさんはクリエイターに向いている気がする」 ……それは色々な意味でヤバい表現なんですが…… 「クリエイター、か……」 「小説でも漫画でも構わないわよ」 つうか……ハルヒは文字通り『創造主』なのだが…… いや待てよ。ひょっとしてアクリルさんの考え方はある意味、俺たちに平穏をもたらすんじゃないか? なんたってどんなにトンチキな妄想だろうと、それはすべて紙の上でしか起こらん訳だからな。しかも、『作家』ならまさに文芸部の通常業務だ。 「そうですね。やってみようかしら。何か面白そう。小説とか漫画を創作することが自分の想像を現実にする、なんて考え方、思いもよらなかった」 おぉ! これは長門はハルヒの情報奔流の理屈を大好きな読書で堪能できるし、古泉は『役割』なんて(たまにバイトはあるかもしれんが)ウザったい使命からも解放されるし、朝比奈さんの未来に影響するものだけを労せず自分の意志で選べるじゃないか。んで、これでようやく何の特殊な肩書を持たない俺も単なる一高校生としてようやく一歩目を踏み出せるってもんだ。誰にとってもいいこと尽くめって気がするぜ! 「ん! じゃあ、まずは道具をそろえないとね! そうね、パソコンは部室にあるから、小説は差し障りないけど、マンガとなると絵を描く周辺設備が必要になるわね。スキャナとかペンタブとかソフトとか買いに行きましょう!」 とびっきりの笑顔を浮かべたハルヒが俺の手を引っ張って量販店へと舵を切った。 おう、俺ももちろん付き合うぞ。なんたってこれはこれまでとは違う、そして誰もが望む世界への第一歩なんだからな。 結局、この日はお絵かきソフトを一通りそろえて終わった。 「あたしは何かプロットを考えてくるわ! 明日見せてあげる! てことで明日もここに朝9時集合よ! あ、さくらさんもいいですか?」 「まあ、構わないわ。じゃあ明日までこの世界にいてあげる」 「ありがとうございます!」 そう言って、ハルヒは輝く笑顔を見せて帰宅の途に付いたのである。しかし、今からどこかに遊びに行くような軽やかな足取りだったな。 んで、ハルヒが去ってすぐ、 「どうされたんです? 涼宮さん、いたくご機嫌のようですが。おまけに何かイベントを思いついたようですけど」 などと爽やかスマイル超能力者が話しかけてきた。 ええい! だから顔を近づけるな! 息を吹きかけるな! 気持ち悪いんだよお前は! 「そりゃお前、異世界人とのひとときを心ゆくまで堪能したし、UMAも心霊現象も見つけられたし、ついでにやってみたいことが見つかったからだろ。三つもあいつにとっての『楽しいこと』が見つかればそりゃ、あいつじゃなくても上機嫌になるもんだ」 と答えて俺はさりげなく離れる。 「やりたいこと?」 「ああ。さくらさんがな、うまくハルヒの力をある意味、封じ込める提案をしたんだ。それをハルヒがえらく気に入ってな。もしかしたらこれからは異常現象が起きんかもしれん提案だったぜ」 「そうなんですか? でしたら僕もこれからは普通の一男子高校生として友との青春を謳歌できる日が来るかもしれないんですね」 うぉ! お前! なんだその希望に満ち溢れた笑顔は! 「僕らの望みは現状維持、しかも涼宮さんが世界を揺るがすことのない無茶以上をしないとなれば、こんな嬉しいことはありませんから」 「具体的には何を涼宮ハルヒに吹き込んだ?」 とと、長門がアクリルさんに聞いている。ああ、心配するな。ハルヒの情報奔流メカニズムの研究もできる提案さ。 「ん? 単にクリエイターになってみたら? って言っただけよ。そうすれば即座にあの子の想像が現実化するじゃない。無理に探さなくてもそこに現れるしね」 「なるほど」 な、いいアイディアだろ? 「ええ、それは確かにすばらしいアイディアです! 紙の上で起こる超常現象であれば現実世界には何の影響も及ぼしません!」 って、おーい古泉? 何かいつものお前と違うぞ? 「それじゃあとりあえずまた明日、ですね?」 そうですね朝比奈さん。じゃあまた明日。 そう言って、俺たちもそれぞれの帰宅の途に付くことにした。 ちなみに俺は今回は自転車で来てない訳だから…… 「そ、そんなにスピード出さなくてもよろしいですよぉ! あ、あと、絶対に手を離さないで下さいね!」 ……再びアクリルさんと供に空中遊泳を満喫したのである……ああ、俺はぜっんぜん楽しくなかったがな…… と、このときは本気で思っていたんだが……どうも俺はハルヒの力とやらをまだまだ過小評価していたらしい。 それはアクリルさんも同じで、後々、自分の発言を激しく後悔したのではなかろうか。 いや推測じゃなくて確信だな。アクリルさんも間違いなく後悔した。 だからこそ、少し見落としがあったんだろう。 それは突然訪れた。 涼宮ハルヒの遡及Ⅳ
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涼日P(りょうび) BB祭りでデビュー 最新作 ネタ☆MAD支援動画 代表作 ニコ動一覧 タグ マイリスト タグ一覧:P名 P名_り デビュー2008.7上旬
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0:夢 夜空に輝く天の川。 周りの喧騒がひたすら耳障りだった。 瞼は開いているが、飛び込んでくる情報は限りなく絞られ、指向性を持たされている。 ぼんやりと認識されるのは、人の声と、顔と、感触と……。 水滴。 とうとう雨が降り始めた。 雨脚は強まっていく。 ああ、星が綺麗だ。 俺は願った。 次に目が覚めるその時は、今より強い自分であれますように。 …………。 やがて俺は溺死した。 1:予言 世界の始まった日。 諸説ある。 うん十億年前。 四年前。 昨日。 今。 記憶という脆弱な結晶体を、証明する術はまだない。 出口の見えないラビリンス。 迷子になった思考が、己の存在の危うさを露呈させる。 だからこそSOS。 信号を発信し、居場所探し。 助けてください。 このSOSがあなたに届きましたら。 どうか早急なる救出を。 当サイトはもれなく未来永劫リンクフリーです。 § 「…………」 デリート。 …………。 ………………。 「U、N、K、O」 カタカタカタ。 うんこ。 ついでにネットで拾ってきた画像も貼り付けてやる。 「ふう……」 業務終了。 「いたっ」 背後からしたたかに殴られる。 振り向く。 顎を少々持ち上げ、視野とフォーカスを調整。 無自覚な行動の先に待ち受けていたのは、艶やかな十二単に身を包んだ麗しき姫君。 だったらいいな。 ないけどな。 「アホキョン」 目が合った瞬間、罵倒が飛んできた。 「キョン、あんたはどうしてそんなにアホなの? あんたが愚かな行動を起こすたびに引き合いに出される有蹄動物が不憫に思えてきたから、 これからはささやかなリスペクトの意味も兼ねてアホと呼ぶことに決めたわ」 ふふん、と得意げに胸を反らして見せた。 動作と同調して、後頭部から垂れて腰にまで達する馬の尻尾が、ゆらゆらと振幅する。 「ほらな」 「なによ」 「いや、なんだ、うん?」 鮮やかな原色のメガホンに目が行った。 「ああ、これ?」 手元で固定された視線に気づいたらしい。 「落ちてた。野球部に」 「へえ」 そうか、盗んだのか。 「…………」 「…………」 沈黙が流れる。 「さっさと書き直しなさいよ」 せっつかれる。 「え、ダメなのか?」 「愚問」 叩かれた。 「あんた、あたしが前に言ったこと覚えてる?」 「はて」 確か、普通と一味違うただならぬ気配がぷんぷんと漂うサイトにしなすわ~い、だったかな。 「はいっ、やり直す!」 消される。 なんてことを……。 「せっかく一気にただならぬ気配がぷんぷんと漂うサイトになったというのに」 「うんこの臭いしかしないわよ! これじゃあ寄るものも寄ってこないじゃない!」 「それは早計だな。もしかしたら、この“うんこ”という三文字が、とてつもない能力を秘めた人材を惹きつけるキーワードなのかもしれないじゃないか」 「うんこに引き寄せられるアブノーマルな性癖を秘めた人材なんて願い下げよ!」 放課後の文芸部部室にてうんこを連呼する二人。 それを遠巻きから見物している超能力者と未来人、マイウェイを突き進み上製本の薄紙を繰り続ける宇宙人。 日常があった。 § やがて定時となり、解散となった。 「いかん」 明日提出のプリントを机に入れっぱなしだったと気付いたのは、坂の中腹まで来てからだ。 「いかん……」 ものすごく億劫だ。 だがこのまま愚図っていても始まらない。俺は踵を返し、今しがた下ってきた道を登る。 もうずいぶん遅いため、校内に人の姿はまばらだ。 とっとと帰ろう。 教室に足を踏み入れる。 「あら」 人がいた。 それはどこか懐かしいような。 いや、そんなはずはない。 毎日顔をあわせているじゃないか。 「こんばんは」 少女――朝倉涼子は微笑を浮かべた。 「…………」 「忘れ物?」 「…………」 「違った?」 首を傾げる。 「ああ」 なんだろう。 一瞬、動けなかった。 「プリントを取りに」 席を指差す。 「そう」 含みのある笑い方だ。 「帰り道で気付いて」 夕日、教室、朝倉、二人きり。 単語が中空に羅列する。 「明日まで提出だから」 長門、手紙、谷口、再構成。 強烈なフラッシュバック。船酔いにも似た吐き気と頭痛に、立っていられない。 「だから」 右手を、無意識に見た。 「…………」 ……何もない。 当たり前だ。 「大丈夫よ」 朝倉が歩み寄ってくる。言葉の意味は不明。 しゃがみこんだ俺の足は、床に根を張ったように動かない。 「大丈夫、大丈夫」 なにが? その問いに答えるように、すれ違う瞬間、耳元で彼女が囁いた。 「今日は殺さない」 「あ……」 暗転。 § 意識を取り戻すと、私室のベッドの上に横たわっていた。 時刻はすでに深夜。 あの放課後での出来事から、記憶は途絶えている。 朝倉涼子。 思い出した。 思い出したということは、忘れていたということだ。 あんな凶悪すぎるイレギュラーを。 身震いがした。 § 翌日の昼休み、朝倉を屋上に呼び出した。 「告白?」 「馬鹿なことを」 「誤解だってされるわよ、こんな人気のない場所に連れ込んだら」 「しないさ、おまえは」 「涼宮さんよ?」 「…………」 いやな汗が背中を伝った。 「見てるの?」 「ええ、バッチリと」 「…………そうですか」 振り向くことは不可能だった。 「さあ、説明しろ」 俺は恐怖を押し殺し、無理矢理話を進めた。 「どれを?」 「すべてだ」 「うーん、どうしよっかな」 「ふ」 朝倉の体を壁に押し付ける。 背中に注がれる視線の熱量が増した気がしたが、この際気にしないことにする。 「言うこと聞くまで、逃がさないぜ。大人しくしな」 「あなたヤケクソになってない?」 「な っ て ま せ ん」 朝倉は、ひとつ小さく息を吐いた。 「私は昨日、七月八日、あの場所で生まれた」 とつとつと語り始める。 「それは私にとっても計算外の出来事だった。正直驚いたわ」 くるっとターンして、俺に背を向ける格好になる。 「生まれた。人間のように、限りなく受動的に。どうしてだと思う?」 「まさか、ハルヒが望んだからとでもいうのか」 一番可能性がありそうな解だった。 ていうか、それしか考えられない。 理由は知らないが、はた迷惑なことを。 「いいえ」 かぶりを振る。 「あなたが望んだから」 「え?」 豆鉄砲を食らった鳩状態となる。 「俺が?」 「ええ」 現在、俺のステータスは【混乱】だ。 「……そんな、嘘を」 「望んだのよ、それはとても強く」 再度ターン。 「迷子のあなたにヒントをあげる」 俺たちは、一メートルの空気を隔てて対峙する。 「まずあたしの存在、これが一つ目の間違い」 間違い。 嵌まらないジグソーパズルのピース。 それはすなわち異常。 「これはあなたの始めた間違い探し」 コンクリートの地面に、黒いシミが広がり始める。 「その途中で、あなたは失い続ける。 小さかった波紋は次第に広がりを持って、いずれ大切な仲間さえも。 そうやって辿り着いた真実にも、きっと破滅しかない」 彼女は息を継ぎ、俺と視線を接ぐ。 「だからせめて……」 ゲームの開始を告げる合図のように、唐突に。 「大切に、正誤なさい」 雨が降り出した。 2:違和感 教室に戻って席に座るや否や、背中をシャープペンの先端で刺される。 プスプスプスッ。 痛い。 顧みて訴える。 「痛いよ」 「痛くないっ」 えー。 「あのなあ」 抗議すべく、ハルヒをガン見する。 「あれ?」 違和感。 「なに」 「なあ」 「なによ」 「……いや」 ポニーテール。 おまえって、前からそんな髪型だったっけ? 疑問を飲み込み、俺は前に向き直る。 ――正誤なさい。 「…………」 プスプスプスッ。 「……痛い」 昼休みが終わっても、ハルヒの機嫌が好くなることはなかった。 授業・休み時間を問わず、ハルヒに無言でシャープペンで背中を突かれ続けるという荒行を堪えしのぎ、ようやく放課後となる。 やれやれ。 とっとと教室を離脱しようと考えていると、不運は続くもので朝倉と目が合ってしまった。 「バイバイ」 去り際に手を振ってくる。 ブスブスブスッ! いっそう突かれまくるのであった。 § 部室には、古泉と長門がいた。 「あれ、涼宮さんは一緒じゃないんですか」 「撒いてきた」 「はい?」 「いや……」 古泉の正面に腰掛ける。 しばし俺たちはボードゲームに興じる。 「なあ」 「なんです?」 「何か異常はないか」 「異常ですか」 顎に手を当てて考え出す。 「いえ特には。平和なものです」 「そうか」 「おとといの七夕も何事もなく終わりましたし、ずいぶんと気が楽ですよ」 七月七日。 必ずハルヒがとんでもないことをやらかすと肝を冷やしていた日。 しかし、結局何も起こらなかった。 強いてあったことを挙げるなら、自転車がかっぱらわれたことと、ハルヒの思いつきで夜に河畔に繰り出して花火をしたことだろうか。 「ま、ハルヒも成長したということだろう」 「これもあなたのおかげです。……あれ、また僕の負けですか」 古泉、三戦全敗。 驚異的な弱さだった。 「遅いな」 朝比奈さんと他一名。 北高は曲がりなりにも進学校を銘打っている。 受験生である朝比奈さんは、講習が夜にまで及ぶことがあった。 他一名は……あの様子なら帰ったかもしれん。 パタン、と長門が本を閉じる。 「帰るか」 「ええ」 長く座りっぱなしというのは腰にくる。 「あ、そうだ長門。話があるから残ってくれ」 「……」 こくり、と頷いた。 § 古泉を先に帰宅させ、長門と二人きりになる。 「すまんな」 「いい」 「朝倉のことだが」 初っ端から本題に入る。 「呼び出して、少し話したんだ」 「そう」 「間違い探し、なんだそうだ」 「……」 長門は黙っている。 「おまえは当然知ってると思うけど、世界がちょいと違うというか」 歯痒さ。 この世界は歯車が微妙にかみ合っていない。 「……それで」 「うん?」 「どうする気」 値踏みするような口調だ。 「どうするって……んー、そうだな」 朝倉も俺の始めたことだって言ってたしな。 やっぱ、俺がなんとかすべきなのだろう。 「しなくていい」 答えを見透かしたような言葉だった。 「あなたは何もしなくていい」 念を押される。 「えーと」 長門のガラス玉のように無機的な双眸が、俺を射抜く。 「普段どおりでいろと?」 「そう、私がすべて執り行う」 珍しい長門の自己主張。 確かに、そうすることが最善なのだろう。 尊重してやりたい、という私的な気持ちもある。 ……だけど。 だけどなあ。 「いや、俺でやれるところまでやってみるよ」 俺は申し出を断った。 「頼りっぱなしというのも情けないし」 「……」 「本当にマズイ事態になったら、頼るから」 それもそれでかなり情けないが。 「その時はよろしく」 頭を下げた。 「……わかった」 納得、してもらえたのだろうか。 長門の申し出の真意はわからない。 ただ。 あの時の長門は、いつになく必死なように見えた。 3:ナンパ 別の日の放課後。 微笑を貼り付けた谷口が歩み寄って来た。 親指を立てる。 「ナンパしようぜっ」 「しない」 「え」 部室へ。 「ちょ、ちょっと待てよ!」 進路を塞ぐ谷口。 親指を立てる。 「ナンパしようぜっ」 「お前誰だっけ」 「アイアムタニグチィ!」 部室へ。 「ちょ、ちょっと待てよ!」 進路を塞ぐ谷口。 親指を立てる。 「ナンパしようぜっ」 「一足す一は?」 「にー!」 部室へ。 「ちょ、ちょっと待てよ!」 進路を塞ぐ谷口。 親指を立てる。 「ナンパしようぜっ」 「RPGのイベントに出てくるエンドレス選択肢みたいだなお前……」 「ん? 何の話?」 白々しい……。 「どうかしたのかい、キョン」 国木田が興味を示した。 「シャルウィーナンパッ」 飽きがきたのか、メッセージがイングリッシュになった。 「ナンパしたいんだと」 「涼宮さんにバレたら、大変だよ」 「言われんでも、俺はやらない」 「だよねぇ。なのにキョンを誘ったの?」 谷口に問う。 「ああ、実はな」 物憂げな表情になる自称ナンパ王。 「俺さ、気づいちまったんだ」 「気づくな」 「ふぅ……つくづく俺って奴はとことん罪な男だぜ」 「生まれついての痴漢野郎だもんな。この先天性猥褻物陳列罪めが」 「昨日の学校帰りのことだ」 「ここだけの話、谷口くんはイジメられっ子だから正式には保健室の帰りなんだ」 「街で女の子に声かけたんだよ」 「女の子Aは逃げ出した」 「ヘイ、そこのカノジョ、お茶でも飲まない? って」 「女の子Bも逃げ出した」 「そしたらさ」 「女の子Cはイケメン彼氏を呼んでいる」 「お前うるさいな!」 キレた。 「ただの相槌だ。気にするな」 「その相槌が、ことごとく話の腰をバッキバキに折ってるんですけど!?」 口角泡を飛ばす抗議は、いささか不気味だ。 「落ち着けよ、醜い男と書いて谷口」 「普通に谷口と書いて谷口だよ!」 さすがに疲れたらしく、肩で息をしている。 「お前らなあ、俺に不満があるならはっきりと言えよっ」 そんなこと言うもんだから。 「じゃあお言葉に甘えて言わせて貰おう」 「うん、そうだね」 「へ?」 俺はコホンと咳をする。 「ナンパ王? 何がナンパ王だ。難破するばかりじゃねえかこの難破王。無計画にイカダ船に手ぶらで乗り込んで着水式気取ってんじゃねえよ」 「航海するたび後悔してるよね」 「何度失敗重ねれば学習するんだお前は。シャケか。とりあえず帰れればいいやあ、って思ってんのか。いい加減、海図か羅針盤持つこと覚えろやサーモン」 「辞書もね」 「役に立たないだろ、そんな不可能しかない落丁辞書」 「アハハハ」 すでに俺たちの隣に、谷口の姿はない。 「チキショーー!」 奇声を上げて、十メートルほど前方を全力疾走していた。 と思ったら倒れた。曲がり角から出てきた人と交錯したようで、もつれ合っている。 担任の岡部だった。 逃げ出す谷口。 追跡の岡部。 すぐさま御用となる。 世界は平和になった。 § 今日は全員勢ぞろい。 「……」 入室早々、約一名に物凄い形相で睨まれる。 ほとぼりはまだ冷めないようだ。 「はい、どうぞ」 「ああ、すいません」 朝比奈さんから湯気の昇る湯飲みを受け取ろうと手を伸ばす。 ……が、朝比奈さんの背後から腕が伸びてきて、それをかっぱらっていった。 誰かというと、もちろんハルヒなわけで。 ごっきゅごっきゅ。 なんと一気に嚥下していく。 熱くないのだろうか。 「ごちそうさま」 飲み終えると、指定席に帰っていく。 空っぽになった湯飲みだけが残される。 朝比奈さんは引きつった笑みを浮かべている。 俺の心は冷えるばかりだ。 「蒸発しちゃったよ」 古泉は俺に哀れみの目を向けた。 4:ナンパ2 放課後になると、また谷口が歩み寄ってきた。 「ナンパしようぜ」 「お前の学習能力にはつくづく驚かされるな」 「ははっ、そう褒めるなって」 「その返しは発想になかった」 「ほら、行くぞ」 腕を引っ張られる。 「学校の中でするのか……」 「ナンパ初心者のキョンにいきなり街頭デビューはハードルが高いからな」 「だから俺はしない」 「まあまあ、そう言わず一発キメてみろよ。すぐによくなるぜ」 「おまえ後輩にシャブ売りつける上級生みたいだな」 こつこつと近づいてくる足音が聞こえた。 「おっと、誰か来るみたいだ」 物陰に隠れる谷口。 「まずは手始めに、そこの角を曲がってくる女子生徒に声をかけろ。指示は俺が出す」 言って、谷口はおもむろにノートを取り出す。 どうやらそれに文字を書いて台詞を伝えるらしい。 大丈夫なんだろうか……。 ともあれ俺は角を曲がってきた人物に近寄っていく。 「ちょっといいかな」 呼び止める。 「はい?」 始めて見る顔の女子だった。 俺は谷口を見る。 『愛してる』 「…………」 空気が凍った。 「あの?」 「いや、なんでも……人違いでした」 俺は首を傾げる女子の横をすり抜け、谷口の方へとダッシュする。 勢いそのままに蹴りつける。 「もうしないか!」 「しません! しません!」 そんなこんなでテイク2。 「来たぞ」 谷口から合図が送られる。 俺は指定の位置につく。 コツコツコツ……。 足音が迫ってくる。 「あー、もし。そこのあなた」 曲がる人影に声をかける。 「……なによ」 鬱陶しげにシルエットが振り返る。 「うげ……」 「……なにやってんのあんた」 白い目を向けてくる人物。 ……涼宮ハルヒその人だった。 「こんなところで暇つぶし? 部活さぼっていい度胸ね」 試合開始早々に胸倉をつかまれる。 「いや、待て待て。これはだな」 俺は救いを求めて谷口を見やる。 『ナンパしてたんだ』 「ナンパしてたんだ」 思わずそのまま口走った。 「へー……」 フリーズドライされた瞳が俺を睥睨する。 「ち、違うぞ、今のはお茶目なジョークだ。本当はな」 谷口を見る。 『君を待ってたのさ』 「お前を待ってたんだ」 やっとまともそうなのが来た。 「あたしを? 部室で待ってればいいじゃない」 それはもっともなご意見だ。 『大切な話なんだ』 「あー、実は大切な話があってな」 とりあえず指示に従っておく。 「ふーん、なに?」 俺が知りたい。 『今日、親帰ってこないんだ』 「今日な、ウチの親帰ってこないんだよ」 偶然にもこれは本当だった。 そういえば谷口には、昼間に話したような気もする。 「はあ!?」 ガン飛ばされた。 「だからなに!? な、なななななななんだってんのよ!」 胸倉つかまれたまま前後に揺すられる。 俺の家庭事情の一部分を掻い摘んで話しただけで、なんだってコイツはこんなに怒りを露わにしてるんだ。 いかん、酔ってきた。 「あ~……」 正常な思考が保てない。 とりあえず谷口を……。 『俺ん家こいよ』 ………………。 …………。 ……。 § 「…………」 「あの、大丈夫ですか?」 古泉が心配そうに覗き込んでくる。 「うぷっ」 「大丈夫じゃ……なさそうですね」 気が付けば俺は、グロッキーになって机に突っ伏していた。 「あの……」 「なんだ」 「さっきからハンカチを甘噛みした涼宮さんが、あなたに熱のこもった視線を送ってるんですが……何か心当たりありませんか?」 「……そもそもここ一時間の記憶がない」 「それは、災難でしたね」 同情の眼差し。 「相当つらいようですし、家まで肩貸しましょうか?」 「すまん……」 今日は早めに上がらせてもらうことにした。 古泉の肩を借りてよろよろと歩く。 「あの……」 「どうした」 「さっきからリボンを甘噛みした涼宮さんが、あなたに熱のこもった視線を送りながら三メートル後方をぴったりとついて来るんですが……」 「……すまん、俺にも意味がわからん」 「そうですか」 家に着いた。 「悪かったな」 「いえいえ、では僕はこれで」 ぺこりと一礼して古泉は去っていった。 「ふう」 「二人きり……」 「うおっ!」 すぐ背後にハルヒがいた。 「川沿いリバーサイド……」 「おーい」 「これ」 買い物袋を取り出した。 「カレーにするから」 「え、作るの?」 「嬉しいでしょ」 「ああ、まあ」 出前を取る手間と出費が省けるのは嬉しいが。 「肉じゃがが良かった?」 「いや、カレー好きだけど……」 妙に甲斐甲斐しいな。 「おじゃまします」 勝手に上がりこむ。 「あ、ハルにゃんだー」 先に帰宅していたマイシスターがとたとたと駆けてきた。 「…………」 「ハルにゃん?」 「ハルヒ?」 ハルヒの動きがPAUSEボタンを押したときのように微動だにしなくなる。 「誰……」 ぼそっ、と呟く。 「誰よこの女」 「はい?」 耳を疑う。 「やっぱり女を連れ込んでたのね」 「あの、なにがなんだがさっぱりなんだけど」 「しらばっくれないで!」 殴られる。 「OUCH!」 予想の遥か斜め上を行く急展開に、さしもの俺も英国調だ。 「なんでこんな可愛い女の子が、あんたの家に上がりこんでるのよ。説明しなさい!」 「いや、家族だし」 「ていうことはアレ? 一つ屋根の下?」 「そりゃ家族だし」 「いや!」 目を覆った。 はしたない!ということらしい。 そのままトイレに駆け込む。 「ねーハルにゃん、どうしたの?」 「さ、さあ?」 それから二十分ほど待ってみたが、出てくる様子はない。 このまま夜通し立て篭もられてもたまらないので、説得に向かう。 「ハルヒ、入るぞ」 扉を引く。 ハルヒは便器の隣で膝を抱えてうずくまっていた。 「…………」 「ハルヒ?」 おそるおそる声をかける。 「インセスト」 「うん?」 判じかねる。思考を疑問符が埋め尽くした。 「インセスト。つまり近親相姦」 「うん」 一応相槌。 「キョンはインセスト。不潔な不潔なインセスター」 「おいおいおい」 制止すべく手を伸ばす。 ハルヒはひらりと身を翻してこれをかわした。 「攻撃? 攻撃するのね?」 「いや、違うって」 「伏せカードを発動するわ」 「はいっ!?」 「インセスター馬鹿(トラップカード)。世間からずっとドローされ、攻撃され続ける」 なんか補足説明文っぽいの出てきたぞ。 「がぶっ」 「あいたっ」 腕に噛みついてきた。 「帰って、もう帰ってよ……」 「いや、ここ俺ん家だから……」 説得はかれこれ三時間に及んだ。 § カレーを美味しくいただき、満腹となった俺は一足早く自室に戻ってきた。 寝転がると、眠気が去来する。 俺は逆らうことなく、眠りの世界へと旅立つ。 ぐー。 …… ………… ………………ぎしっ。 物音に目が覚める。 「……誰だ?」 視線を発信源に移す。 「……なにやってるんだ、おまえ」 寝巻き姿のハルヒがマクラを抱いて立っていた。 長い沈黙の時間が流れる。 「ぬ……ぬか床」 「???」 意味がわからなかった。 わからなすぎて、逆に何かを悟ってしまいそうだった。 「具合確かめようと思って」 やっと合点がいく。 「あーはいはい、ぬか漬けの」 「うん。キョンの部屋でこっそり漬けさせてもらってたの」 「人ん家でなにしてんだてめぇ」 素でブチ切れる。 安眠を妨害されたことも加え、怒り心頭なのである。 「ぬか……美味しいよ?」 メインぬか単体かよ。 「はあ……」 眠気が勝る。 「用済んだら出てけ」 文字通り目を瞑り、酌量した。 「すぴー……」 俺はすぐさま眠りの世界の舞い戻った。 ……。 …………ドスン。 ……………………。 「うーん」 どうも寝苦しい。 得体の知れない重圧感に、俺は薄目を開ける。 「じー……」 ハルヒが俺の腹に跨り、こちらを凝視していた。 「…………」 悪夢だ。 うわ、やべ、目あわせちまったよ……。 「…………」 するとハルヒは今度は体勢を低くして、コアラのようにしがみついてきた。 「?」 忍んでいるつもりなのだろうか。 「おい」 「…………」 「いや、信じられないくらい呆気なくバレてるから」 頭頂部を小突くと、ハルヒはういーんと上体を起こした。 「あらキョン、偶然ね」 「すげぇ偶然だな……」 どんだけの奇跡を起こせば、ここまでの窮地に陥れるのか。 「そこで何をしている」 「…………」 逡巡。 「……ぬか床の」 「この限局にも程がある状況だと、俺をぬか床としたケースのシミュレーションしか想定できないんだが!?」 あまりに非道で遠まわしな嫌がらせ。 「ち、違うわ。あのね」 あたふたとハルヒ。 「うん?」 「ぬかを」 「ふむふむ」 「……枕の下に」 「!?」 跳ね起きる。 「仕込んだのか?」 もし本当なら、翌朝気づかずにのこのこと登校したが最後……。 じゃんじゃんじゃんじゃじゃじゃーん。 イマジン(想像してごらん)。 谷口にあれキョンお前なんか臭くないかとか言われたのを発端に国木田にもキョン今日は一味違うね主に体臭の方向性がとかなんとかで担任の岡部に誰だあ教室でぬか漬けてる奴はって言われて女子にクスクス笑われて晒し者になってるよ。 ユーーーーー(俺)! さらば青き日々よ。 きっとその日から、糠田キョン子なる忌々しきニックネームが人生の汚点ワーストワンとしての市民権を獲得し、確固たる地位と財力を築き上げるんだ。 過酷すぎる未来予想図に絶望した俺はさめざめと泣き出す。 「ジョークよ……ジョーク。そう、スパニッシュあたり出典のやつ」 適当に茶を濁すハルヒであった。 「さあ、明日も早いわ。早く寝ましょ」 極めてナチュラルな動きで俺の布団へと潜りこんでくる。 「ハルヒ」 「おやすみ」 三秒ですこやかな寝息が聞こえてくる。 「ハルヒ!」 「すーすー……」 「…………神よ」 その神は隣で寝ていた。 夜は更けていく。 5:約束 翌朝は極度の寝不足である。 抵抗率百パーセントな体を無理矢理ベッドから引き剥がし、だるさを堪えて登校する。 「しゃきしゃき歩く」 背中を押され坂を登る。 「てか、おまえ外泊するって家に連絡したのか」 「してない」 「冷静に考えたらヤバくないか、それ」 「ヤクいわね」 「いや、ヤクくないし意味ぜんぜん違ぇから」 「大丈夫よ」 しれっと言い切ってみせる。 だらだらと歩いているうちに学校に到着。 教室に入ると、谷口が不自然ににやけていたので、鞄を置くと廊下に舞い戻った。 今日一日は近づかないのが吉だろう。 廊下をあてもなくぶらつく。 すると古泉に遭遇した。 「おはようございます。眠そうですね」 「いろいろあってな」 眠気覚ましに、少し立ち話でもしたい気分だった。 「どうだ、最近は」 「相変わらず暇なものですよ、どうしてですか?」 「昨日か一昨日に、異変はなかったか」 「異変ですか」 「閉鎖空間」 俺の言葉に、場には見えない緊張の糸が張り巡らされた。 「どうなんだ?」 「……いえ、閉鎖空間も例の神人も、発生してません」 「そんなはずはないだろう」 古泉の微笑が歪む。 「根拠が?」 「理屈が合わないんだよ」 「なんのでしょう」 「あの空間は、ハルヒの精神状態が不安定になると発生するんだろ」 「ええ」 「三日前に、俺が女子を屋上に呼び出したところを見られてるんだ」 古泉の糸目がかすかに見開かれる。 「自惚れじゃないよ」 「……そうですね」 賛同を示す頷き。 「人の好意に、鋭くなられました」 成長した我が子を慈しむような声色だ。 俺はもう一歩踏み込んで質問を投げかける。 「なあ……おまえ、俺になにを隠してる?」 「…………」 少しの静謐な時間。 喧騒が遠い。 「約束をしました」 少年は長い時間をかけて、一言を発した。 「侵略する者は」 始業のチャイムが鳴った。 「潰します」 § この日、古泉は部室に顔を見せなかった。 「なんか、バイトが忙しいから少しの間休ませて欲しいって」 ハルヒが伝言を承っていた。 「みくるちゃんも講習みたいだし……あーもう! まったく」 ここ最近の参加率の低さに、ハルヒは頭を抱え深々とため息をついた。 しばらくは今いる三人だけの集まりになりそうだ。 「うーむ」 ゲームも対戦相手がいないと退屈なだけだった。 § 水曜日。 授業中、窓の外に見知った背中を見かけた。 そいつは旧校舎へと歩いていく。 休み時間になると、俺も旧校舎に向かった。 すぐに目的の人物は見つかる。 そいつは文芸部部室の前で突っ立っていた。 「入らないのか?」 古泉は驚いた様子もなく俺を見た。 「あれ、どうしたんです? こんなところで」 「それはこっちの台詞だ。二日もサボりやがって」 「ついさっきまで忙しかったんですが、唐突に暇になりまして」 「そっか」 「はい」 古泉はもう一度、部室をしげしげと眺め始める。 「提案なんですが」 「なんだ」 「遊んでくれませんか」 § 部室には誰もいなかった。 長門も、さすがに学校にいる間中ここにいるというわけではないようだ。 「オセロでいいか」 「ええ、どれでもけっこうです」 パチパチと石を打ち始める。 白と黒。 二色の世界を外へ外へと広げていく陣取りゲーム。 戦争において、肝心なのは手駒の量ではなく管理者の質である。 兵器の差が戦力の決定的な差ではない、と某少佐もおっしゃっている。 土地、天候、兵力の振り分け。 最適な演算処理が求められる。 優れた統率者が指揮を執る軍が勝利を手中に収めるのだ。 「ふむ……」 古泉が唸る。 力の差は歴然で、俺の圧倒的優勢となる。 どう見ても逆転の余地は無い。 「お聞きしたいのですが」 「なんだ?」 「この大差、誰もが僕の負けだと確信する局面で……もしも、ですよ。この差をも埋めてしまう逆転の一手があるとしたら、あなたならどうします?」 「あん?」 古泉の意図がわからない。 「おまえ、そんなの……」 俺はその後の言葉を発する前に、口を閉じた。 無理。 現実逃避だ。 ありえない。 そんな手は存在しない。 きっとそういう風に答えていただろう。 堂々巡りするかつての俺を、俺は斜め上から眺めていた。 いつかの自分より、少しだけレベルアップした自分で。 「俺なら……」 馬鹿なことと知りながらも、真剣に立ち向かう。 それは凄いことだと思った。 「その手に見合った、最高の石で打ってやるんじゃないかな」 だから俺はそう答えていた。 古泉はその答えに満足したように立ち上がる。 「すみません、もう時間です。続きはまたいつか」 足早に部室をあとにする後姿は、妙に清々しく見えた。 § それから三日後の七月十八日。 古泉の訃報が届いた。
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涼宮ハルヒの遡及ⅩⅠ 終った……のか……? 俺は茫然と呟いていた。なぜならとても凌ぎきれそうにないと想像せざる得なかったあの怪鳥の集団が完全に消滅したのだから。 それも長門とアクリルさんが二人で放った、たった二発の融合魔法――フュージョンマジックによって。 「終わり? 何言ってんの?」 が、俺をあっという間に現実に引き戻したのは、肩越しに振り返ったアクリルさんの不敵な笑みである。 ……その頬には嫌な汗を一滴浮かばせていたからな。 ついでに言うなら隣に肩を並べて佇んでいる長門は振り返ることすらしていない。 そうだな。おそらくそれはその視線の先に在る者のためだろう。 ああそうだ。さっきと同じくらいの大群がまた、俺たちに迫って来てやがるんだよ。悪いか。 「嘘よ……」 ん? 「こんなの嘘よ……」 心細く呟いているのは俺の腕の中にいるハルヒじゃないか。それも前髪で瞳を隠して全身が震えてやがる。 どうしたんだ? 「だって……この世界は、あたしの想像が現実化している世界なんでしょ……?」 まあな。俺と古泉がそれを教えたもんな。 「だったら!」 ハルヒがどこか涙を浮かべた瞳で睨みつけてきた。 「何でみんなを危ない目に遭わせなきゃいけないのよ! あたしはみんなで面白おかしく過ごせることを望んでいるわ! なのに何でみんなを苦しませてるの!?」 ハルヒが慟哭の叫びをあげている。 確かにそうだな。お前は無理難題を吹っ掛けることは多いが、それでも俺たちを苦しめてやろう、などと思ったことは一度もなかったよな。 「蒼葉さんの時もそうだった……あたしは、ただ面白い世界であってほしいだけなのに何で……」 その通りだ。お前は誰も不幸にしたいと思っちゃいない。少し方向性はズレているがそれは間違いないだろうぜ。 だからさ、 「誰もあなたと一緒に居て不幸だと思ったことはない」 え? 俺のセリフを取ったのは長門。お前なのか? 「その通りです。僕も涼宮さんに出会って不幸だなんて感じたことはありません」 「あたしもです。あ、でもあんまり恥ずかしい格好させられるのは……」 「みんな……」 「だとよハルヒ。てことは今、この状況でさえもお前のことを恨んでる奴なんかいないってことだ。SOS団にはな」 俺はこの場に似つかわしくないであろうとびっきりの笑顔を浮かべている。 「キョン……」 「だからさ気にするな。必ずこの世界から脱出できるさ」 「で、でも……あの怪鳥の数とか世界の異常気象とかは……」 「何か勘違いしているようだけど、あたしたちに襲ってくるこの世界はハルヒさんの意思じゃないわよ」 割ってきたのは唯一SOS団とは無関係の異世界人さんである。 「だって、もうこの世界は『一つの世界』として定着してしまっている。それは異世界という意味。つまり、ハルヒさんの力はもうこの世界に及んでいない。なぜならハルヒさんも元の世界の一部だから。世界を越えてまでその力が作用されることはないの。 要するに今、この世界はあたしたちを完全に敵とみなしたってことよ。当然よね。だって、あたしたちはこの世界を滅亡させようとしているんだから」 ……なんつう説明だ……いいのか……? 「ついでに言うなら、アサヒナさんの……えっと、ミクルミサイルだっけ? アレが確実にこの世界を滅亡できるってことを意味していることでもあるわ。だからこそあたしたちを、正確にはアサヒナさんを排斥しようと躍起になってるわけだしね」 「え? じゃあ世界を滅亡させよう、なんて考えなければ攻撃されないってこと?」 「……元の世界に戻るにはこの世界を崩壊させるしかない、って言ったはずだけど」 戸惑いながら問うハルヒに、苦笑を浮かべて応えるアクリルさん。 が、次の句は再び襲いかかって来た怪鳥の大群によって阻まれてしまったのである。 再び、大激闘が始まる。長門とアクリルさんと古泉の。 長門とアクリルさんは怪鳥の群れに突っ込み、なんとヒットアンドアウェイ作戦で一羽一羽を各個撃破していくんだ! 確かに作戦としては間違いじゃない。 集団に突っ込んでしまえば向こうの同士討ちも誘発できる。ただし、それは長門とアクリルさんが相手よりも素早く動き回れる、ってことが絶対条件だ。 空を飛ぶ怪鳥相手に、魔法で飛ぶ二人が動きで負けないのだからとんでもない話だ。 んでもって、古泉は古泉で、俺たちを守るこの赤い球を消すわけにはいかず、笑みが消えた必死の形相で現状維持を図っているんだ。 くそ……また見ているだけなのかよ……俺にも何かできることはないのか…… 「キョン見て……」 俺にどこか愕然とした声をかけてきたのはハルヒだ。 「何だ?」 「よく見てよ……さくらさんと有希を……」 ん~~~正直言って、あまりに動きが早いんでなかなか細かく見ることが難儀なんだが…… 目を細めてみる。 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!?! 俺もまた驚嘆した。 「嘘だろ……まさか……」 「そうよ……これじゃあの時とまったく同じよ……」 俺とハルヒの震える声が響く。 そう……長門とアクリルさんが肩で息をし始めているんだ……しかも動き回っているわけだからその度に小さな光が点々と反射してやがる…… つまりそれは疲労が蓄積し始めてるってことだ。 無理もない。さっきから怪鳥の大群を相手しているだけじゃなく、大地がもうないわけだからずっと『飛んだ』まま戦い続けているってことになるからな。 それは魔力とやらを放出し続けているって意味だ。 体力と同じで魔力だって器量を越えれば必ず尽きるときがくる。 そしてそれが意味することは―― 「じょ……冗談じゃねえぞ……今、ここにいる古泉も含めてこのままじゃ……」 「分かってるわよ! だから、あたしたちにも何かできないことはないの!?」 ハルヒが叫ぶ。 その気持ちは痛いほど解るさ。俺だってあんなことは二度とごめんだ。 だが俺たちに何ができるというのか。 確かに今の俺は、ゲーム作りした時に創り上げた数多くの中の一つのゲームの時の妙な力は使えるが空を飛べるわけじゃないんで役には立てない。 さっきも言ったが、ハルヒの大技は朝比奈さんが戦列に加わることができない以上、使えない。 いったいどうしろと……って、いや待てよ! 「ハルヒ、お前だ! お前が呼ぶんだよ!」 それは俺の思いつき。しかし、確実に来るだろうと予感できるもの。 「って、何をよ!?」 「前にゲーム作りした時にお前が宇宙戦艦を呼べたじゃないか! アレを呼べ! おそらく、いや絶対に来る! だって、俺にだって妙な力があったんだ! だったら!」 「そっか!」 ハルヒが満面に勝気な笑みを浮かべて、しかし、即座に瞳を伏せてマジ顔に変化! 「来なさい――」 静かに呟き、そして『かっ』という効果音が聞こえてきそうな勢いで瞳を開き、 「ザ・デイオブサジタリアス!」 ハルヒが吠えると同時に空が割れ、その暗闇の空間から、深紅に輝く、とあるトレーディングカードをテーマにした物語に出てきた天空を大いなる翼で羽ばたく神の竜を彷彿とさせるデザインの、一機だけではあったが、戦艦が現れたのである。 「行くわよ! キョン!」 「もちろんだ!」 戦艦に乗り込むべく、ハルヒは俺に手を差し出し、迷わず俺はその手を取った。 「あ、あの?」 古泉が戸惑いの声を漏らして、 「古泉! お前は朝比奈さんを守っていろ! 俺とハルヒが抜ければその赤玉も小さくより強固にできるだろ! なんせ守る人数が減る訳だからな!」 俺は勝気っぱいの笑顔で吠える。 もっとも俺がこう言っている時でもハルヒと俺は深紅の戦艦にトラストされている。 完全に中に入ったとき、俺が最後に見ていたのは古泉と朝比奈さんの戸惑っている表情だった。 が、それでいい。 頼むぜ古泉。 そう心の中で呟き、俺とハルヒはコクピットへと駆ける。ま、入った順番の関係で俺が後ろ、ハルヒが前ではあったがな。 …… …… …… …… …… …… 古泉一樹は感慨深げに上空を眺めていた。 深紅の戦艦がゆったりと動き始めた様を、今、自身は親友という念を抱いている少年を見送るが如く眺めていた。 もし、自分自身が創り出した赤い結界球の中にいなければ、その風圧で古泉一樹の柔らかな髪は揺れていたかもしれない。 「まったく、あなたという人は……」 ひとつ、ため息交じりの呟き。しかし、その表情には自嘲気味ではあったが笑顔が浮かんでいる。 おそらくは彼の親友は見たことがない笑顔。 そこには仮面ではない本当の本物の素直な古泉一樹の笑顔があった。 もっとも、たった一人だけ、その笑顔を見止めた者もいる。 「くすっ、古泉くんってそんな風に笑うこともできるんですね」 「朝比奈さん……」 無邪気な笑顔を向ける朝比奈みくるに、古泉一樹が苦笑を浮かべる。 どことなく照れくさかったから。 「しかしまあ」 が、もう一度、上空へと視線を移し、 「確かに、彼の言うとおり、これで僕は結界球を縮小させ、強化することができます。あなただけを守ることに専念できるということです」 「よろしくお願いしますよ。もう少しですから」 「はい」 などと会話しつつ、しかし、古泉一樹はとある提案を思いつく。 むろん、それは嘘ではないのだが、受け入れてもらえる提案かどうかが判らなかったので、 「ところで僕があなたに近づけば近づくほど、もっとより強固にできるのですが? なぜなら、結界球は範囲が小さければ小さいほどより強固になるものですから」 「どういう意味でしょう?」 もちろん、朝比奈みくるはキョトンと問う。もっともみくるミサイル発射態勢のままではあるが。 「つまり、僕があなたを抱きしめられるくらい近づけば、という意味ですよ。そうすれば、ほとんど一人分の範囲しか必要ありませんし、今、僕が創りだせる一番強固な状態にできることでしょう」 しかし、朝比奈みくるの反応は顔を赤らめるわけでもなく、また慌てふためくわけでもなく、 「ふふっ、ゴメンだけどそれはいいです。だって意識してしまってミサイル充電に支障を来たしそうですから。そうなってしまえば、キョンくん、涼宮さん、長門さん、さくらさん、そして古泉くんに迷惑かけちゃいますから」 それだけを笑顔で言うと、再び瞳を伏せ、精神を集中させる。 ふぅ……やっぱりですか…… そんな彼女を見たあと、古泉一樹は再び視線を上空へと、正確には涼宮ハルヒが呼び、今は自分たちのやや前にある深紅の戦艦を、どこか残念な諦観の笑顔を浮かべて眺めていた。 古泉一樹には解っていた。 朝比奈みくるが一番最初に呟いた名前、正確にはあだ名を聞いて、それを確信させられてしまったから。 彼女にとって誰が一番大切なのかを。 なんとなく辛いことでもあったのだが、古泉一樹はそれをどういう訳かすんなり受け入れている自分に気がつき、どこか吹き出したくなってしまったのである。 …… …… …… …… …… …… 「キョン、あんたが操縦して! あたしは砲撃するからちゃんと当たるように動かすのよ! あと、絶対に有希とさくらさんを巻き込まないようにね!」 「言われんでも分かっている!」 ハルヒが一段高い、コントロールパネルに、ブラインドタッチでいうホームポジションで指を置き、俺はその下で四つに分かれたレバーを軽やかな手つきでさばいていた。 もちろん、二人とも勝気な笑顔を浮かべたままだ。 そりゃそうだろう。 前回と違い、今度は見ているだけじゃない。俺たちだって長門やアクリルさんのために、朝比奈さんや古泉のために戦うことができるんだ。 以前の蒼葉さんのことを思い出せば、どんなに危険なことだろうと、このやる気全開の高揚感がそれを地平線の彼方へと追いやれるってもんさ。 「行くわよ! 連続発射! 撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て!」 おいおい本当に楽しそうな声だな、つか撃つのはお前だ。 などと心の中でツッコミを入れる俺の表情も笑顔が途切れていない。 眼前では、ハルヒの狙撃が怪鳥を確実にヒットする光景が映し出されている。 まあ数は半端なく多い訳で、しかも、この怪鳥もその嘴の奥から怪光線を発射できるんだ。当然、戦艦を衝撃が襲うことだってある、というか襲いまくってきている。 俺の目の前のパネルには、戦艦の破損情報が逐一送られてきており、いくらこの船が強固なものだろうと、相手の数が数である。 当然受け続ければいずれは沈むことだろう。 もっとも、俺とハルヒにとってはそんなことはどうでもよかった。 「こらキョン! ちゃんと操縦しなさい! 一匹外しちゃったじゃない!」 叱咤してくるハルヒの声は妙に明るいしな。 などと、どこか場違いなくらい無邪気な俺たちの耳が軽い金属音を二つ捉えた。幻聴じゃない。確実に聞こえたんだ。 何だ? ――外部回線ONを申請する。互いの声が聞こえるように。可能なはず―― 「んな!?」 「ちょっと! 今の声、有希!?」 ――そう。わたしは今、精神感応魔法、テレパシーであなたたち二人に声を届けている。彼女の使用する魔法をプログラム化しインプットした今の私はこれが可能。しかし彼女はこの戦艦の機能を知らない。だから声をかけるのわたしの役割―― きちんと説明してくれた長門に、ハルヒがやや戸惑いながら外部回線をONに切り替える。 「聞こえる? 有希」 『聞こえる。そちらは』 「こっちも大丈夫よ」 『あなたの方は?』 ん? 俺に聞いているのか? というか、ハルヒが聞こえているなら俺にも当然聞こえていることくらい長門にも解かっているはずだが? 『ええ、あたしの方も大丈夫よ。これで、もっと連携しやすくなるわね』 って、何だアクリルさんに確認していたのか。 俺は思わず苦笑を浮かべてしまったね。 『それにしても助かったわ。空飛ぶ魔法を使いながら攻撃をしてたからちょっと疲れてきてたのよ。でも、この艦隊のおかげで足場ができたわけだし、かなり楽に魔法を使えるようになるわ。あたしも、んで勿論、ナガトさんもね』 外部モニターに映るアクリルさんが俺たちの方を、正確にはコクピットに向けてウインクをしてくれている。 どうやら本当に俺たちは役に立っているようだ。こんな嬉しいことはない。 『そう。そしてこれで大技を使いやすくなる』 長門? などという疑問はアクリルさんが放った魔法によって、驚嘆と供に解明された。 『スターダストエクスプロージョン!』 そう! あの銀河を駆ける数多の流星群を彷彿とさせる魔法が放たれたんだ! 撃ったのは勿論アクリルさんだ! 怪鳥群の一角に確実に大きな風穴を空ける! って、どうして今の今までこの魔法を使わなかったんですか!? 『簡単に言わないでよ。この魔法って三つの魔法を同時に使うようなものなんだから。空を飛んで、防御魔法を使って、コイズミくんの防御結界の威力を高める魔法を使ってたらこの魔法は使えないの。だって、あたしは複数魔法同時使用は五つだから』 『わたしにとってはあなたが五つの魔法を同時使用できることの方が信じられない。どうやっても、わたしは三つまでしか使えなかった』 『それも凄いわね。あたしたちの世界で複数魔法を同時使用できるのは、あたしを含めてたった四人よ。しかも三つ以上となるとあたしと蒼葉の二人だけね。魔法を使い始めてすぐのナガトさんが三つ使えることが驚き。ひょっとして魔法使いの才能あるんじゃない?』 『そう』 ううむ。思いっきり雲の上の会話だな。見ろよ。ハルヒだって目が点になってるぜ。 『それはともかく、じゃあナガトさんも当然いけるわよね?』 『もちろん』 どういう意味だ? 『スターダストエクスプロージョン』 んな! 長門が棒読みに呟くのが聞こえてきたと思ったら、またもや流星が放たれたんだ! もちろん、怪鳥群の一角が完全に吹き飛ぶ! って、凄すぎるから! 『キョンくんとハルヒさんのおかげよ。この戦艦が足場になってくれているおかげで、あたしたちは空飛ぶ魔法を使うことなく、攻撃に専念できるから』 『そう』 二人の満足げな声が聞こえて、 「よぉし! なら、あたしたちも負けてらんないわよ!」 「ああ!」 ハルヒと俺もまた、いつまでも傍観者でいるつもりはなく、長門とアクリルさんを乗せたまま、再び怪鳥の群へと攻撃を再開する。 そうだな、こう表現しても間違いないだろう。 俺たちの快進撃が始まった、と。 涼宮ハルヒの遡及ⅩⅡ