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「没ね」 団長机からひらりと紙がなびき、段ボール箱へと落下する。 「ふええ……」 それを見て、貴重な制服姿の朝比奈さんが嘆きの声を漏らす。 学校で制服を着ているのが珍しく思えるなんて我ながらオカシイと思うが、普通じゃないのはこの空間であって、俺の精神はいたって正常だ。 「みくるちゃん。これじゃダメなの。まるで小学校の卒業文集じゃない。未来の話がテーマなんだから、世界の様相くらいは描写しなきゃね」 ハルヒの言葉に朝比奈さんが思わずびくりと反射するが、ハルヒは構わず、 「流線形のエレクトリックスカイカーが上空をヒュンヒュン飛び交ってるとか、鉄分たっぷりの街並みに未来人とグレイとタコとイカが入り混じってるとか。そーいうのがどんな感じで成り立っているのかをドラマチックに想像するの。将来の夢なんかどうでもいいのよ。それにドジを直したいだなんてあたしが許可しないわ。よってそれも却下」 グレイは未来の人間だって説もあるんだから、下手するとその未来は単に魚介類が陸上歩行生物に進化しただけの世界になるかも知れんぞ。まあ、どうでもいっか。 ハルヒは朝比奈さんに対し一通りダメ出しを終えると、ふてぶてしく頬杖をついてピッと朝比奈さんの指定席であるパイプ椅子を指さし、そこに戻ってもう一度やり直しという指令を無言で示した。 「うう」 朝比奈さんがカクンとうなじを垂れる。 それはハルヒの電波な未来観にへこまされているわけじゃあなく、いや実はそれもあるかも知れないが、今はもっと別の理由が考えられる。それはリテイクの厳しさを三倍程度にしちまう理由だ。 指示を受けてずるずると定位置へと引き返す朝比奈さんの後姿を見送りながら、ハルヒは団長机をパシンと叩き鳴らし、 「ちょっとみんな! 今回はノルマも少ないし、ページ数だってやたらになくてもじゅうぶんなの! 気張りなさい!」 俺はやや不機嫌なトーンを呈したハルヒの叱咤を半身に受けながら、パソコンを挟んで対面している古泉へと鋭利にこしらえた視線をありったけ突き刺し、それを受けた古泉は苦笑しながら、予想外でしたという陳謝を俺にアイコンタクトにて返信する。 しかし、これまた困ったことになっちまった。 ハルヒの腕章に黒マジックでしたためられた文字が今は何を表しているのかもう分かっている頃だと思うが、現在の涼宮ハルヒの役職は編集長である。 それはまさに肩に書かれているだけで、自称以外の何者でもないのは既に周知の事実であろう。 とゆうか、打ち上げ花火のような事件のときに作ったその布切れをよっくぞまあ今まで保管しといたもんだ。俺としてはそれが再び陽の目をみることなく、そのまま日に焼けない様に永久保存されといて欲しかったね。今からでも遅くないぞ。ついでにSOS団の皆が抱えてるトラウマも一緒に凍結しといてくれ。 「……それも良いかもね」 カチリ、何か良からぬものを踏んじまった音がした。 幻聴であって欲しいと俺の耳は切に願ったが、 「そうだわっ! SOS団の偉業を未来人に知らしめるために、あたしたちの功績を遺産として残すのよ! 今回の詩集だってもちろん入れなきゃね!」 俺の目は、今にも花びらが炸裂しそうなハルヒスマイルを映していた。 「何にだよ」 わかっちゃいるがな。一応。 「タイムカプセルに決まってるじゃない!」 ハルヒは色めきたって、やけに懐かしいワードを口に出した。 まあ正直なところ、俺もその計画自体に物言いをつけようとは思わん。が、それにはこれから書かされるであろう詩集は入れないぜ。 「なんでよ?」 「なんでだろうな」 そんなもん決まってる。他動詞的に作られたポエムがまともな形を成すとは思えんからだ。 それに前回の機関誌ならハルヒの論文が未来人にも有用だそうだからまだいいものの、今度の詩集ばっかりは後世の人間が見たところで「こいつぁクレイジーなヤロウだ!」とかいった驚嘆句しか出てこないだろう。未来に欧米かぶれがいるかは知ったこっちゃないが、無駄な驚きで寿命を無為に減らすのは気の毒である。なので、出来上がった詩集は俺が墓場まで持っていこうと思う。 「…………」 ――何だか長門の無言が聞こえた気がした。気のせいか? 「ってゆーか、そんなことを話してる場合じゃないでしょうが!」 ハルヒが不機嫌を取り戻す。それもやるけど、と続けて、 「みくるちゃんは受験生だし、あたしたちもボヤボヤしてらんないでしょ。学校があわただしくなる前に今年分の会誌は急いで仕上げないと困るの! これにつまずいてる様じゃ、これから先の団の活動に支障がでちゃうじゃないっ!」 一見まともなことを言っているようだが、よくよく考えればSOS団本位でしかない主張を団長もとい編集長はがなりたてている。 ――と、ここで一度、現在の俺たちの状況を整理しておこう。 場所はもちろんSOS団本部兼文芸部室である。 時の頃をおおまかに言うと、朝比奈さんが受験生なので俺たちは高校二年生ということになり、もう少しばかり掘り下げると一学期の初頭で、その時期に俺たちは二回目の機関誌の製作に取り掛かっているってわけだ。 我らが北校の学校方針から考えるにそれだけでも十分全員が忙しい身の上であることは想像するに難くなければ、朝比奈さんにとっては未来に帰りでもしない限り、この世界で生きていく上で至極当然にリテイクを重ねられている暇などない。 更に悩みの種となっているのが、今回の機関誌の企画である。 詩集だって? 冗談じゃないぜ。 そんなら前回の小説の方が幾分マシだったねと言えるもんだ。 それに古泉、こないだまで俺たちゃあ結構奔走してただろうが。イベントのスパンが短か過ぎる。 俺の視線に込められたそんな訴えを古泉は受信し、窮したように顔を苦ませる。なにか含む所がありそうだ。 ついでに俺たちがどんな奔走をしていたかと言えば、俺の旧友である佐々木との再会、そしてSOS団とは別種の異能、異性質な輩たちとのいざこざや、長門の病気だ。 長門が学校を病欠したとき、一時は天蓋領域とやらの侵攻を受けたのかと心配したのだが、本人いわく只の風邪だったらしい。そうは言っても、長門がウイルスですらも無い下等な雑菌に敗北を喫すること自体異常事態であるのに違いないのだが。 しかし何も知らないハルヒからしてみればそれは正常な状態異常でしかなく、俺たちにも懸念を抱く以上のは出来そうになかったので、長門には一般的な病人に対する普通レベルの介抱を行うことにした。 皆の心配を一身に受ける長門は、 「何か食べたいもんでもあるか?」 「お寿司」 などといった要求はしなかったが、心なしか、守られる側に立った状況を存分に味わっているようだった。 そしてハルヒは泊まり込みで看病するとガヤいだのだが(俺もそれには賛成だったが)長門の強い希望により、俺たちは日付が変わる前には渋々と部屋を出ることとなった。 そして何故か帰宅の途につけという要求は朝比奈さんに対して特に強かったようで、 「特に朝比奈みくる。あなたは早く帰って」 という言葉も賜った。 ……流石にショックだったせいか、次の日の朝比奈さんの挙動はかなり変だった気がする。 しかしまあ、既に出揃っている特殊な奴らは倍になったというのに、一向に異世界人は姿を見せんもんだ。 とは、俺が異種SOS団との諍い時に漏らしてしまった、会いたいという願望とは違った意味の言葉だ。 そのときの俺の言葉に対し、古泉は「もしかしたら、既に異世界人は僕たちと邂逅を果たしているのかも知れません」ときた。どういうことかと尋ねれば、 「異世界人は、異世界に存在することによってその定義を満たします。しかし、例えば未来人は時間を操作することよって、宇宙人は未知の知識によって、そして僕などは超能力の行使によって己の存在をより明確なものにしますが、異世界人はただ異世界から訪れたというだけで、僕たちにとって普通の人間以上の存在には成り得ない可能性があります」 もっとも、それが一般的な人類ならばの話ですがね。と続けて、 「なので、むしろ既にこちらの世界には別の世界へと渡る能力を持った者が存在し、そしてその者は、僕らの関知し得ない世界でSOS団に尽力しているのかも知れません。今の僕たちが存在するのも、その人物が異世界で頑張ってくれているからなのかも知れないのです」 つまり異世界人は異世界で頑張っているということなんだそうな。 どっちにしろ推察の域を出ない話だし、仮に現実だとしてもそれは認識の外だ。 まあ、もしそれが本当なら、一度は会ってみても良いかも知れん。 何だかんだいって、俺はハルヒが作ったSOS団とこの生活を気に入ってるんだからな。 そして異世界人が俺たちと同様同等の苦労をしているであろうことは身を持って分かることなんだし、俺が感謝の意を唱えてその苦労をねぎらっても悪くはあるまいて。 っと、話が脱線気味になっちまった。その軌道修正も兼ねて、少し時間を遡って今回の事の起こりから辿っていってみることにするか。 それでは回想列車、レッツゴー。 ……… …… … 放課後の文芸部室。佐々木たちとハルヒ以下俺たちとの一件も多少の落ち着きを見せ、俺たちSOS団全員が比較的普段通りの活動に従事していたときだった。 コンコン。 「失礼する」 扉をノックする音が聞こえたと思いきや、返答を待たずにすらりと長身な眼鏡の男とそれに伴う女性、つまり腹づもりの黒い生徒会長と喜緑さんが部室へと進入してきた。 「なにしに来たのよ。なんか文句でもあんの? 勝負事なら喜んで受け取るけどね」 生徒会からSOS団に対する文句などは重々にあるだろうし、勝負を受諾されても困る。 「ふん」 会長は入り口に立ったまま、 「君に対する苦言なら山のように持ち合わせているが、生憎そのようなものを言い渡しにこんな辺境までやって来る程私は暇ではないのだ。今日こちらへ足を運んだのは他でもない。一つ気になることがあるものでな」 「なによ。言ってみなさい」 ハルヒの方が偉そうなのは毎度のことだ。 「どうやら文芸部には新入部員が居ないようだが、その分で今年度の文芸活動は一体どうするつもりなのかね?」 「は?」 とは、俺の口をついて出た言葉だ。 ……以前にも、生徒会から文芸部的な活動を求められたことはあった。 それは文芸部およびSOS団潰しのある意味で真っ当な思惑によるものだったのだが、しかしてその実態は裏で古泉が根回しをしていたことによって発生したイベントで、しかも既に事の収まりを見ているはずだ。 それに文芸部部長の長門だって、新年度のクラブ紹介で分かる人が聞けば見事なのであろう論文を発表しているんだし、文芸活動はそれでオールクリアーにしときゃあ通るだろう。いいじゃん、それで。 しかもこれから進路の話やらで忙しくなるっちゅうのに、また機関誌でも発行しろとの一言が発せられるものであれば、ものの見事に層の薄いSOS団はペシャンコになっちまうぜ。本当に俺たちを潰す気か? 会長は。 そう思って俺は古泉に目配せしたが、何故だか古泉もハンサム顔に微小な驚きの色を浮かばせていた。 これは成り行きを見守っていくしかないなと思い、俺はそれ以上言葉を作らなかった。 「もちろん会誌を製作するわよ」 ハルヒは元から俺たちを潰す予定だったらしい。 「いや、それはもう良い。今回文芸部には、来年度用の我が学校のパンフを製作して貰おうかと思っている。潤沢に割り当てられた部費が、不明な団体の意味不明な活動で消費され尽くしてしまってはかなわんからな。それにこの時期は私も色々と忙しい。それもあって、例年は生徒会執行部が製作している学校案内書を君らに一任してみようとなったわけだ」 なるほど。来年用のパンフなら時間だって十分あるし、写真を切り貼りして文章をとってつければいいようなもんだから、苦になるほどじゃないだろうな。それで部費の分配に対する大義名分が得られるのなら、こっちの精神衛生面的にも好都合だ。まともに頑張っている他の部活動員に対し、多少は後ろめたさを感じることがなくなって良い。 「そんなのあんたたちでやってなさいよ。あたしたちもヒマじゃないの。もう会誌の内容も決めてあるんだから」 どうしてもハルヒは俺たちを潰したいらしい。 「まあ……キミたちが自主的に活動を行うと言うのなら、こちらはそれでも構わん。しかしそれが口からでまかせであった場合、私にも存在しないはずの団を抹消するための手間が生じてしまうのを覚えておくといい。そうだな、一度企画書を作成して明示して貰おうか。今から生徒会室まで来たまえ」 「ヒマじゃないって言ってんの! 無駄な心配してる余裕があるんだったら、あんたがここに書類持ってきなさいよ!」 どう考えても生徒会長の方が多忙を極めているはずであろうが、俺は別に会長の擁護をするわけもなく。 「何を言っているんだ君は。私は文芸部部長を呼んでいるのだ。部外者は口を挟まないでくれたまえ」 と……珍しく喜緑さんが長門に合図し、長門は生徒会長についていく。 「ちょっと、待ちなさいってばっ!」 二つのハリケーンが合流を果たしたかのような勢力で、会長の後姿をハルヒが追う。 おかげで残された俺たちと部室はいやに静かだ。 しかしまあ会長。企画書なんぞ出さなくたって、あの団長殿が言い切ったことが実行に移されるのは確実なんだがな。悲しいくらい否が応にも。 「おや、どうしたのですか? 何か他に用事でも?」 ん? 何故かまだ部室には喜緑さんが残っている。 前回の佐々木団との一悶着の際、病床に伏していた長門の代わりに我らSOS団の宇宙人ポストに入って奮闘してくれたので多少の親睦はあるが、 「すみません。実は、お話しておきたいことがあるんです」 身の上話でもするのだろうか? 喜緑さんが部室に取り残された朝比奈さん、古泉、俺に対して言い放つ。 「まずは長門さんの能力が弱体化している件についてなんですが、それは彼女と思念体との接続が弱まってきているためだと考えられます」 ――長門が自分でも制限をかけちゃいるが。 「ほう。しかし何故、長門さんと思念体との接続状況が芳しくないのですか?」 こういう説明を受けている時なんかの古泉の返答は助かるな。 喜緑さんは続けて、 「はい。実は、わたしたちのようなインターフェイスには上の方から一つ禁令が下されているのですが、その禁令に長門さんが少しずつ触れてきているがゆえに、思念体から敬遠されているみたいなんです」 どんな禁令を……ん? そういえば以前に長門から聞いた記憶がある。 「確か、死にたくなっちゃいけないってやつでしたっけ」 そのまま俺は疑問も口に出す。 「長門がですか? 俺にはそんな風には……むしろ、生き生きしてきたように感じますが」 そうだ。長門の鉱石の様だった瞳にも、だんだんと血が巡り出してきたかのような、柔らかさと温かみが度々見受けられるようになってきていた。春休みの映画撮影(予告編のみ)の最中なんか、長門的には最高にハッチャケていたような様だったぜ。死にたいなんて、そりゃ相反してる。 「死にたい、ですか。それはまたどういうお話なのでしょうか?」 確か、アポだかネクロだか、自殺因子って単語もあったかな。 「ふむ……PCD、のように聞き受けられますね」 「古泉。いったい何だ? それは」 「例えば生物の進化の過程において、あらかじめ死が決定された細胞のことです。オタマジャクシの尻尾が、カエルへと変態する際に失われるといったような。その例のようにPCDはむしろポジティブな細胞の消失ですし、これが行われなければ僕たちにも手指などのパーツが形作られません。これをアポトーシスと言います。このように細胞の自殺が計画的に行われる、それがプログラム細胞死なのです。他にもネクローシスという、」 よし解らん。次へ行ってくれたまえ。 喜緑さんが古泉の言葉を受けてコクリと頷き、 「わたしたちインターフェイスは人類と同じ物質で構成されています。我々が死ぬような事態は殆どないのですが、有機的な活動を行う過程によって死の概念が組み上げられてしまうといったことなどが憂慮されます。思念体は元より死の概念を持ち合わせていないので、わたしたちによって情報構成に自殺因子が紛れ込む可能性をひどく嫌っているんです。恐らく、良い変化は期待されませんので」 ニコリと笑って、 「ゆえに、わたしたちは死を思うことを禁じられています」 うん。長門の話もたしかそんな感じだった。 「なるほど。情報統合思念体は群体のような性質を持っていると思うのですが、多細胞生物に見られるPCDにも一応の懸念を発起させている訳ですね」 「そんなところです」 喜緑さんは続けて、 「あと、先日の長門さんの不調は病気などではありません。おそらく、上の方と何かトラブルがあったのだと思います」 まあ、原因が周防九曜じゃないならそんなところだろう。俺は得心したように頷いて、 「して、そう思う理由は?」 と質問した。喜緑さんは微笑を消し、 「……あの日以降、長門さんと思念体との接続が異常なほど軽薄なものとなっているからです。なので、今の長門さんには殆ど力の行使が認められていません。皆さん、どうか長門さんをよろしくお願いします」 無論だね。むしろ注文を受ける前から走り出してる程に気をつけてるさ。 「ありがとうございました、喜緑さん」 俺の言葉を最後に、喜緑さんはぺこりと退室の礼を尽くし部屋を退出した。 そして閉められた扉は程なくしてドバン!と破裂音を上げ、 「おっまたせー! 勢いで計画進めてたら、こんななっちゃった! まぁ、善は急げ!美味しいものははやく食え! ってことでいいわよね! 明日の団活からさっそく原稿の執筆に取りかかるから、みんな楽しみにしてなさい!」 そう声高々と宣言するハルヒの後には長門の姿があり、ハルヒが右手で俺たちへと提示する紙には、 『企画内容:詩集。上稿予定:今週中』 というデススペルだけが書きなぐられていた。 俺には、最早それが死神との契約書にしか見えていなかった。 そんなこんなでやっと次の日になったかと思やぁハルヒは、休み時間が来るたびに何やらハサミで紙をショッキリショッキリいわせていた。 一体お前は何やってんだと聞けば、 「ひみつ! 放課後まで待ってなさいっ!」 と、ニカリとした笑みを作りながら溌剌と意気の良い返事をするばかりだった。 恐らくハルヒは俺の妹のようにハサミを装備することで破壊衝動を満たす化身へと変貌しているわけでなく、なんらかの創作活動に勤しんでいるのだろうから、折角だし作品の完成まで楽しみにしておくか、と俺は自分の席にいるときも心して後のハルヒへ目をやらずにいた。 そうなると俺はこれといってやることもないので、隣の窓越しに広がる過剰に陽気の良い春模様の空を見やり、その余った陽射しを我が身に受けて体内に貯蓄し、無駄に消えゆくエネルギーを減らそうといった仕事に献身していた。 ああ、春ってのはなんでこんなにも素晴らしいのだろうね。爛漫。 そして放課後、文芸部室にて。 朝比奈さんは俺たちにお茶を配膳する業務を終え、既に部室の風景と化していた。長門は最初から風景だった。 部室なら長門に何事もなかろうと、俺はいまだ姿を見せぬハルヒを待つ事もなしに古泉とヘブンオアヘルという創作トランプゲームに興じていた。 どんなゲームかと言えば、最初から片方がジョーカーとエースを手に持ち、相手をかどわかしながら選ばせるといったもので、つまり二人で行うババ抜きの最終決戦だけを抽出しただけである。これは経験によって無駄を省かれた。 しかし、単純なゲームをいかに楽しく行うかというテーマに沿って繰り広げられる熾烈な心理戦も、単純作業の繰り返しには飽きが来るという人間の心理の前には立つこと敵わず、また古泉も俺に敵わず(逆にやり込められている感がないとも言いがたいが)いつの間にか俺たちのやっていることはカードを弄びながらの雑談へと変わっていた。 「しっかしハルヒの奴、何でまた詩なんかに興味を惹かれたんだろうな。俺たちが詩なんか嗜んだ所で、痛い目と身悶えするような駄文を見るだけだろうに」 古泉はカードを四隅の一点だけで倒立させようと試みながら、 「そうでしょうか。感性多感な時分の僕たちの心模様を紙へと投影してみることは、未来の自分がそれを見た際に、その時代の感傷を想起さし得る貴重な宝物になるのではないかと」 「どうだか。次の朝にでも目が覚めたら、貴重な資源をゴミに変えてしまったってのに気がつくだろうぜ。その後に色んな意味で後悔するだけさ」 実体験ですか?という古泉からの質問に対し、俺は見聞きした深夜のラブレター作成理論の応用だと答えておいた。 「それはさておき、今回涼宮さんが機関誌の内容に詩集という形を取ったのも、受験生の朝比奈さんや僕たちへのちょっとした配慮なのかも知れませんね。詩なら、文量が少なくて済みますから」 「それこそ問題だ。少ない文字で成り立たせにゃならんから、構想に余計時間がかかる。それにどんな詩を書くのかも考えにゃならんから、よほど手間だ」 ズバン! 「待たせたわねっ! みんなは一秒が千秋に感じる程に待ちわびていたことだと思うわ! 今回も時間がないから、みんなの詩のテーマはコレで決めちゃいましょうっ!」 心臓を打ち抜くような音を鳴らしてハルヒが扉を押し開いてきた。 驚きの眼を配る朝比奈さんとハルヒの途方もない思い違いに呆気に取られている俺に、ハルヒは何やら励んでいた創作活動の賜物と思われる物体を、左手で作ったOKサインのOを示す指に挟んで見せびらかしていた。 「サイコロ、ですか?」 多分古泉の質問はその通りの答えだろう。 俺にも、それは三角形の紙を八枚セロハンテープで繋ぎ合わせて作られたフローライトナチュラル八面体に見える。 「そっ。特にキョンなんか書き始めるまでにも時間かかりそうだから、今回も内容はアトランダムに決めるわっ! キョン。雑用でしかないあんたのために労を負った団長様に感謝しなさいよね!」 先程の俺の言葉を見れば感謝すべきであろうが、アトランダムの偶然性に対し不満があったので「すまんな」という謝辞にて言葉を終了した。 ハルヒはフッフンと得意げに天井へと高々にサイコロを掲げ、 「それぞれの面にお題が書いてあるから、これをホイコロリンッって投げて出たヤツを詩の内容にすること! 異議があるなら言いながら投げるといいわよ。そして忘れちゃいなさいっ!」 俺には言い捨てる言葉もないが、 「しかしまた何でサイコロなんだ? わざわざ紙を切ってゴミを増やさずとも(そして作らずとも)、前みたいにくじ引きかアミダで決めりゃ良かったじゃないか」 という小さな疑問を投げかけた。 それを聞いたハルヒはチッチッっと右手の人差し指をメトロノームにしながら、 「それじゃバラエティに貧するってものよ! SOS団たるもの、些事の決め方にも広く手をのばしていかなきゃ! そして、ゆくゆくは世界の森羅万象を掴み取るのよっ!」 グッと決めポーズ。ハルヒは今日も絶好調なようである。ま、絶不調でなくて何よりだろうね。世界の平和的に。 だが、恐らくこのネタは外部から、というかテレビから受信して閃いただけだろう。 と、俺は手元に落とされた八面体ダイスを見ながらそう推察してみた。 何故かと言えば、サイコロのやっつの面に書かれているワードはそれぞれ 『私の詩』『未来予想図』『恋の詩』『本音の詩』 『元気が出る詩』『褒められた詩』『失敗した詩』 とあり、後半のテーマが若干日本語として妙なのはハルヒに国語力がないからではなく、お昼の某テレビ番組で転がされているサイコロに書かれた『~話』をそのまま詩という言葉に変換したせいだと思われるからだ。 「じゃっ、順番は団への貢献度が多い人からね! 序列は大事よ! 大きな組織の中では特にねっ!」 じゃ俺からでいいだろ。 「なんでよ? はいっ! 最初は副団長からっ」 SOS団は小規模だから、と説く前に、ハルヒはひょいと俺の手からサイコロをつまみ取り、流れるような動きでそれを古泉副団長へと手渡した。 古泉は卵をのせるような手の平の中でそれを弄び、 「さて、なにがでるかな?」 合唱しようと思ったが、古泉が出す目は大体の予想が立つし、多分予想通りである。 スマイル仮面の古泉のテーマは多くて二択であり、およそ『私』か『本音』だと、 「……おやっ?」 俺と古泉が思わず言葉を漏らす。 「褒められた詩、ですか。僕が以前に書いたポエムの傑作を載せるということでしょうか?」 書いてる姿も含めてそれも見てみたい。が……何だ? 確率論が復活したのか? 本来ならおかしくはないはずなのに俺が妙に思っていると、 「ちがうちがうっ。褒められたときの気持ちやらをポエムにするのよ」 俺にとって古泉のそれは不愉快なポエムになるなと思っていたら、ハルヒは続けざまに、 「でも、振り直しっ。それは国木田が書くから」 国木田? 「そうよ。名誉顧問と準団員には既に振ってもらって、『元気』『褒め』『失敗』は決まってるから」 ハルヒはくるリとメンバーを見回し、 「みんなもカブっちゃったらもう一回! 同じことやっても良いものは生まれないし、SOS団はバラエティに富んでないといけないって言ったでしょ!」 それよりも近い過去に序列がどうのと言ってた気がするが、それは覚えていないらしい。 「って、じゃあ俺はサイコロの振りようもないだろうが。全員が振った後じゃ、必然的に残りの一つに決まっちまうだろ?」 「いいじゃん。特に変わらないわ」 実際問題どうでもよかったし、例え同じサイコロを八つ同時に八人が投げたところで結果は変わらないであろうから、俺はそこで閉口した。 そして古泉は『本音』を出し、次いで長門が『私』、朝比奈さんが『未来予想図』、ここで俺は再度口を開いて抗議の旨を団長、いや編集長へと必死に訴えたが、ハルヒはガイウス・ユリウス・カエサルがルビゴン川を渡った際に言い放ったのと同じ言葉で俺の訴状をねじ伏せた。 ――そしてまた次の日の放課後。現在に至る。 目の前のハルヒが何故こんなにも不機嫌なのかと言えば、 「ちょっとみんな! あの三人はすぐ詩を完成させて持って来たってのに、何でみんなはちーっとも筆が進んでないのよ!」 ハルヒが代わりに言ってくれた。その理由を申せと仰るのであれば、説明するまでもなく「そりゃそうだ」の一言に尽きる。 鶴屋さんは『元気』、国木田は『褒められた』、谷口は『失敗』の詩を書いており、言葉そのままでも違和感のない程にそれぞれピッタリはまった題目だ。 一夜で詩が書けた理由としては、各自それのネタなんていくらでもあるだろうし、万能である鶴屋さんの才の一つに詩的才能が含まれている予測は疑いようもなく、国木田と谷口なんかは適当に済ませたのだろう。 重ねて俺たちときたら、古泉と朝比奈さんのテーマはまるで名探偵にズバリズバリとトリックを言い当てられて言葉を失った犯人のようにアワワとしか言いようがなくなってしまうようなものであるし、『私』の長門なんか前回の小説で自分のことであろう作品を書いているので、俺と共に前回とお題がモロかぶりである。 言うまでもないとは思うが、俺は『恋』のネタである。 もう、そんなもん俺の在庫には最初っからないんだし、長らく入荷待ちの札が掛かってるだけだっつーのに。 それらの理由により、俺はもう一度ハルヒに儚い希望を提訴してみた。 「ハルヒ。じゃあ皆のテーマを変えてくれないか? 俺だって恋なんてもんは幼い頃、従姉妹に一方的に苦い思いをしただけだし、それ以来そういった甘そうなのは味わったためしがないんだ。だから俺の中にあるそんなネタは、前回の小説が最後っ屁でもうグウの音も出ん。終了だ」 却下。という二文字の一言が虚しく飛んでくると思っていたが、 「そうなのですか? むしろ味を感じないのは、あなたにとってそれが空気みたいな物だからなのでは?」 予想に反し、助け舟を渡してやった筈なのにそれを撃沈させるかのような言葉が古泉から飛んできた。 「うん? どういう意味だそれは」 特売アイドルみたいなスタイルのお前と違って、俺にはそんなに身の回りに溢れているもんじゃないんだよ。それにそんなことを言われるとな古泉。俺だって……泣くんだぞ。 「いえいえ、そうではないですよ」 若干苦味を持たせたスマイルで、 「あなたにとって必要不可欠であるにも関わらず、身近に存在しすぎてあなたが気付いていないだけ。ということです」 ほう。そいつは嬉しいじゃないか。つまり、俺に想いを寄せているがそれを伝えられずにいるうら若き乙女の視線が、恋の矢の如く俺の後頭部に突き刺さっているのが古泉には見えるってわけだな。 何だか涙が別の理由で出てきそうだと思っていると、 「古泉くん。それどういうこと? 団長に報告もなしに男女交際をしている輩がいるっていう告発?」 そう古泉に話しかけながらも、ハルヒの視線はまるっきり俺の方へと向いている。 そんな目をされても俺はなにも知らん。 「そうではありません」 今日が、古泉にとって初めてハルヒにノーと言えた記念日となった。 「僕はただ、恋とは意識して感じ取れるものではなく、無意識の内に自分が恋に落ちていたという事実を自らが認識した際に知り得るものだ、という考えを述べたまでですので、他意はありません。ご安心を」 「ああ、なるほどね。それはあたしと似たような捉え方だから良くわかるわ」 うん? お前、恋愛は精神疾患だとか言ってなかったか? 「もちろん。風邪と同じでかかりたいと思ったときにはかからないし、忘れてる頃にはいつの間にやら患っているものってことよ。まさに病気じゃない。あたしは抗体持ってるから絶対かかんないけどね」 蝶がヒラヒラと舞い寄ってくるような古泉の思想が、ハルヒの例えによって一気に消毒液臭くなった。 俺は飛び去った蝶の採集を試みるように、 「じゃあハルヒ。抗体持ってるってんなら、以前に恋患いの経験があるんだな?」 「あるわよ」 「へっ?」 っと、俺がハルヒから思わぬクロスカウンターを喰らって目を丸くしていると、 「はしかやオタフク風邪と一緒よ。ちっちゃい頃に感染しとくべきなの。それは」 ……やれやれ。まったく、現実的なものにはどこまでも夢のない奴だな。非現実に見せる積極性をピコグラム単位でも振り分けてみたらどうかと提案するね。それだけでも、お前には男共がわんさと群がってくることだろうぜ。黙ってりゃあもっと良い。 「ド馬鹿キョン! つまんない奴らがいくら集まっても、あたしの欲求は埋めらんないのっ!」 壊れたミニカーのようにキーキー言っていたハルヒは、俺に近づいてきて急に止まったかと思えば、俺の心臓あたりをスイッチを押すようにしつつ不敵な笑みを浮かべ、 「だからね! あたしが集めて作ったSOS団は、みーんな粒ぞろいの精鋭なのっ! 全員一緒なら意図せずとも世界は盛り上がっちゃうって寸法よ! わかるわねっ!」 「……ああ、よく分かってるさ。もちろんだ」 ――そうだとも。佐々木の閉鎖空間をめちゃくちゃにしたあいつらなんかとは、SOS団は全く存在を異にする。 俺たちだってそれぞれ形は違っちゃいるが、いつの間にかそれはパズルのようにガッチリ組みあがって、今では全員で一つのものになっていたんだ。前回の事件で、俺たちはそれを身にしみて感じる事が出来たのさ。 ――そして、その中心にいるのは……ハルヒ。いつだってお前なんだ。 「なにアホヅラかましてんの! そんな暇あったらとっとと書きなさい! ちなみにテーマ変えはなしっ!」 それは変えて欲しかったが、俺はもうハルヒに抗弁をたれるまでには至らなかった。 ハルヒは憤怒しているように見えたが……その表情はまさに、楽しくて堪らないともの語っていたからな。 しかしいつまで経っても団員の誰一人としてポエムを完成させることはなく、修練の結果は翌日に現れるといったハルヒ理論により、詩の作成は宿題という形で団員に背負わされ、俺たちは普段よりも重い足取りながら、いつもの並びで帰路についていた。 「もしかしたら涼宮さんは、己の能力と僕たちの正体に気付いているかも知れません」 何の脈絡もなしに世界が終焉を迎えそうなことを言い放っているのは、もちろん古泉である。 「そりゃまた、えらく段階を踏まない話だな。なぜそう思う?」 ハルヒと朝比奈さんが先頭、次いでハードカバーを読みふけりながら歩く長門、そして最後尾の俺と古泉。 古泉は部室からずっと手に持っていた物を俺に見せるように掲げ、 「……これですよ」 「って、ハルヒが作った只のサイコロじゃないか」 テーマ決めの際に使用された八面体の紙製サイコロだった。 ちなみに、このサイコロ君は生まれて間もなく存在意義を失ってしまった可哀相な奴である。 というより、また使われるようなことがあっては堪らんので、俺としてはいち早く鉄のゆりかごの中で眠って頂き未来人に起こされる日を待って頂きたい次第である。……そういえば、タイムカプセルって自分たちで掘り起こすもんだったよな? 「その話はまた別の機会にしましょう」 古泉の提案を拒む理由は皆目なかったので、俺は話を聞く態勢に入った。 「何故、今回のテーマを涼宮さんがこのような物で抽選したと思います?」 「そりゃあおそらく、学食でテレビでも見ててネタを頂戴したんだろ」 ふむ、っと古泉は視線のみを数瞬だけ横に流して、 「たとえば、涼宮さん自身がクジの偶然性に疑問を持っていたとします。そして無意識の内に、確率を確認するのにはこの上なく最適であるサイコロという手段を取ったのであれば……涼宮さんは表層の意識に限りなく近い所で、己の能力の存在について勘付いているという可能性が示唆されます」 それを聞いた俺は「へえ、」と一呼吸おいて、 「考えすぎじゃないか? あと、お前たちの正体に気が付いてるという予測は何処から立つんだ?」 ほのかに微笑んだ古泉は手に持っていたサイコロを俺に渡し、俺がそれをつぶさに眺めていると、 「これに書かれているテーマですよ。偶然にしては……余りに、僕らが有する要素に対して的を射すぎている。なので涼宮さんは僕たちの正体を心の何処かで知っていて、これによって確証を得たいのかも知れません。これも多分、無意識の内の行動でしょうがね」 はん。年がら年中どこまでも特殊な存在と一緒に過ごしてたら、だれだって少しはそう思うだろうぜ。 「それも深読みし過ぎだろう。サイコロのネタだって、提供元はシャミセンの親類が経営する洗剤会社に違いない」 この言葉に古泉はいつものスマイルを取り戻し、 「そうですね。それに僕たちが一発で各自のテーマを当てなかった理由は、むしろ涼宮さんは自分にそんな能力があるということを否定したいからなのでしょうし、ひょっとしたら、単純に涼宮さんの力が弱まっているだけなのかもしれませんしね」 ん? ちょっと待て。一つだけ合点がいかない。 「……俺のテーマが『恋』になった理由は何だ?」 「それは本当は朝比奈さんが未来人であるように、あなたも本当は恋を」 「なあ古泉。だいたい生徒会長は何でまたこんな時期に文芸活動を要求してきたんだ? まあ当初の要求は文芸部的なんてのじゃてんでなかったが。機関が関係してるのか?」 「それなんですが」 と古泉はスマイルのレベルを最小にまで下げ、 「これは僕らの手回しによるものではありません。会長なりに考えてみた結果なのかも知れませんが、若干、あの人に生徒会長の仮面が定着し過ぎている感が否めませんね。いえ、もしかしたら、喜緑さんの手によるものだったというのも考えられます」 「ほう。まあそれなら重要だったよな。長門に何かがあったのは分かってたのに、俺たちはその何かまでは知らなかったわけだし」 古泉はフフフと不気味に笑い、 「それなんですが、僕にはおおよその見当が付いています」 一体それはなん、まで俺が言葉を出したときだった。 ゴスンッ! ――今の音は長門の頭から出たのか電柱から出たのか、一体どっちだ!? ……なんて、不毛な論議に変換している場合じゃない。 「ちょっと有希っ! あたま大丈夫!?」 ハルヒは長門がアッパラパーになっていないか心配しているのではなく、本を読みながら電信柱に頭部を強打した長門を案じながら、怪我の有無を確認している。 そして古泉と俺は長門が電柱にケンカを吹っかけた光景を目撃して目を丸くし、朝比奈さんはわたわたと長門に気遣いの言葉を途切れとぎれでかけていた。 「心配しなくていい、平気」 いやゴッツンコした所が小高い山を作って、まだ春だってのに紅葉を迎えてるぞ? 「大丈夫か?」 駆け寄る俺に、 「ありがとう。……みんなも」 たんこぶを抑えるのをガマンしている様に見える長門が答えた。 「でも、珍しいわね。有希が物にぶつかるだなんて。そういえば……見た覚えがないわ。いつも本読みながら歩いてるってのに」 「別のことでも考えてて、そっちに気がいってたんじゃないか? 詩とかポエムとか……ポエムを」 「そ、そうなのかな……」 俺のギャグにハルヒは悩ましい顔を作ってしまったので、 「すまん冗談だ。多分、まだ調子が戻ってなくてフラついたんだろ。長門も読書は中断してハルヒたちと歩くといい」 「…………」 沈黙する長門をハルヒと朝比奈さんに任せ、俺は古泉の話の続きを聞くために後列へと戻った。 「長門さんに怪我はありませんでしたか?」 「ん、おでこがプックリだが心配なさそうだ」 「そうでしたか」 そう話す古泉は、どこか嬉しそうな面持ちである。 「なにか良いことあったか」 ムッとした俺が硬質な感触のする言葉を作ると、 「……むしろ現在、機関はある懸念を抱えて悶然としています。ですが、確かに最近の長門さんの変化については喜ばしいことのように思いますね」 「弱っている長門が良いってのか?」 それでは語弊がありますね、と古泉は微笑をたたえ、 「近頃、というか先程の長門さんもそうなのですが……とても人間味を感じませんか? TFEI端末として弱体化してきているというのは、ちょっとずつ長門さんが人間に近づいていきるという側面があると思うのです。それはあなたにとって嬉しいことでしょう? もちろん、僕にとってもね」 俺を目で落としてどうするんだと言わんばかりの温和な視線で、古泉はふわりと柔和な笑顔を作った。 「……そうかもな。俺にとって、そりゃもちろん嬉しいことだ。それに俺たちだけじゃない。ハルヒに、朝比奈さんに、そして何より……長門自身にとってな」 そう。長門にむける心配は、そろそろ見方を変えなけりゃならんのかもしれん。 力を失っていく宇宙人に対するそれから、細腕で柔弱な少女への気配りへと。 「ところで、お前が抱えてる懸念ってのは一体なんなんだ? 俺以外に話せる奴なんていないだろうし、話してみるだけでも多少違うんじゃないか?」 俺の言葉に古泉はどんな表情を出して良いのか解らないといった顔つきになり、 「……そうですね。話しておいた方が良いかも知れません。あなたには」 「なんだ?」 俺の目を見て、 「程ない以前、閉鎖空間と《神人》が久しぶりに乱発された時期がありましたよね?」 「ああ、佐々木とハルヒが出会った日以降だったっけ。お前でも疲労の色が隠せてなかったよな」 「それなんですが、閉鎖空間の発生は二週間ほど前……特定すれば土曜日にまるっきり沈静化しました」 土曜日? ――ああ、俺が佐々木たちと会合した前日か。だが、 「良かったじゃないか。この言葉以外に何がある?」 古泉は全然良くないことを話すような顔で、 「それが、不可解な点がいくつかあるのですよ」 「一体どこにあると言うんだ?」 「まず、何故に突然閉鎖空間の発生が沈黙したのか。機関の諜報部をもってしても原因が判明しません。そして他に……これは閉鎖空間内で《神人》の討伐を担う役割の僕や仲間たちしか感じないのですが……」 古泉は前方で談笑しているハルヒを一瞥し、 「閉鎖空間は世界中の何処にも発生していないにも関わらず、僕たちにはそれが存在しているという確信が、沈静化した直後から心の隅の方で、こうしている今でもくすぶり続けているのです。……それによって一つの推測が立つのですが、これは多分、あなたは聞きたくもない話です」 「聞きたくないかは俺が判断する。さわりだけ言ってくれ」 古泉は眼に真剣をやつし、神妙な雰囲気でこう言った。 「――涼宮さんが、まさに神と呼ぶに相応しくなったのではないか? という内容です」 「そうか。そりゃ全くもって聞くだけ無意味な話だな」 ハルヒが神だって? あいつはいつだって奇想天外な行動を起こしちゃいるが、根っこの方は特に変わりのない普通の女の子じゃないか。お前だって良く知ってるはずだろ。そんなの、考えるだけバカらしいってもんだ。 「ええ、全くです。仮にこの推論が当たっていたとしても、何が起こるのか皆目見当が付かない故に対処の方法も思い浮かびません。なので案じたところでどうにもなりませんし、ただの杞憂であればなお良いだけです。すみません、あなたはこの話を忘れて下さい。それに僕も――」 古泉は、長門の後ろ姿を温もりさえ感じる視線で見つめながら、 「……いかなる憂いすら、今の彼女を見ていると消し飛んでしまいますよ」 そうだな。俺たちが憂うべきものは、今のところ帰ってからどうやったらポエムを書かないで済むか考えることだけだろうぜ。 「……まあ、そうですね」 古泉はまた思案顔を作り、悩ましげに顎を支えていた。これはこいつの癖になっちまったのかね? 「無駄な心配はしないに限るぞ。時間と神経を無為に減らすだけだ」 いつもより元気はないが、それでも十分爽やかなスマイルで、 「……そうすることにしましょう。まあ、詩は頑張って執筆してみますがね」 「ああ。やっぱり俺もお前にならって机の前で頑張ってみるかね。思えば、書かないで済むかなんて思案することだって無駄なんだしな」 「ふふ。お互い頑張りましょう」 そうやって、その日俺たちはそれぞれ自分の家へと足を辿り着かせた。 ……さて、無から有を創造するある意味で神的な作業に入るとするか。 ――俺はこのとき、この平穏は当分の間続くものだと信じていた。 SOS団は今までにない程まとまっていたし、ハルヒと長門が落ち着いてきているのは良い変化だと疑わなかったからだ。 だが、それは違った。それらの吉兆は、裏を返せば……最悪な事態が引き起こされる前兆でもあったんだ――。 第一章
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19.涼宮ハルヒ 「全軍突撃ー!!」 ①ドロップキック 威力1800 ③ギター演奏 威力2100 効果:防御力を完全に無視する ④ハレ晴れユカイ 威力3000 相手を萌え状態にする ⑤SOSストーム 威力:3800 攻撃力・防御力を2倍にする
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ディスクをセット・・・ 本体のボタンを押し、ローディングを開始・・・ コントローラーを操作し、自分の分身を作り出す しばらくして、夜明けの船で目を覚ました「自分」は、ヤガミと名乗る眼鏡の男と・・・ 「はい。私は本艦「夜明けの船」のメインコンピュータ、MAKIです」 彼女・・・MAKIに出会った。 MAKI「出陣を。平和をもたらす人。」 MAKI「OVERSは告げています。貴方こそは銀河で一番多くを殺し、もっとも多くを助けるでしょう。」 そうして、彼の火星での戦いが始まった。 彼は100年の平和を得る為に、火星の海で戦い続け、そして、戦い続ける彼の傍らには、常に彼女の助力があった。 それから時が経ち、彼はアイドレスへとやってきていた。 ある日、彼の所属する海法よけ藩国で小笠原ゲームへのマイル補助の話があがった。 ある願いを持っていた彼には、またとない話であった。 その願いとは、MAKIに会い火星でのお礼を伝える、という事だった。 そして・・・ 丸い月と様々な星々がまたたく夜空。 その夜空の下、巨大な船が小笠原の海に浮かんでいた。 よけ藩国が発掘した秘密戦艦DAIVAである。 暗く星空の光を映す水面に、8000mもの巨大な姿を静かに浮かべている。 普段は海のそこで眠っているDAIVAであるが、今はメンテナンスの為に浮上していたのである。 昼間は忙しく走り回っていたよけ藩国の作業者達も、夜になると作業を止めて帰路に付いているだろう。 そんなDAIVAの上を、ロボットカーに乗って移動している二人の人影があった。 「もうすぐMAKIさんに会えますね」 付き添いとしてやってきた涼華と 「は、はい・・・」 今回の主役である、総名代佐佑介である。 総名代佐佑介、もう何杯目か分からない程麦茶を飲んでいる。 既に目がぐるぐる状態である。 「ふふ、総名代さん大丈夫ですよ。」 「は、はい!」 総名代の緊張を解こうと笑顔を見せる涼華。普段は医者として患者を癒している涼華の笑顔で総名代の緊張も少しは和らいできた。 少し落ち着いてきた総名代の耳に、遠くで花火が上がる音がしたような気がした。 音のした方を向こうとした直後、視界が開けてロボットカーが艦橋に到着した。 「すごい…」 巨大な立体吹き抜け構造の艦橋を見上げながら涼華が呟く。高い所が苦手なのか、心なしか顔色が青ざめている。 目的地に到着しロボットカーが停止すると、周りの景色が一変した。 正面にあった100mほどの高さのディスプレイ全てに、花火大会の光景が映し出されたのだ。 「うわぁ・・・」 あまりの絶景に、総名代も感嘆の呟きを漏らす。 花火に見入っていた二人だが、涼華は本来の目的を思い出し、声をかけた。 「はじめまして。MAKI。海法よけ藩国の涼華と申します。」 すると、周囲にあるスピーカーから、総名代にとって懐かしい声が返ってきた。 MIAKI:「おまちしていました」 驚いている総名代に、涼華が笑顔を向ける、まるで「頑張って」と言うように。 「こんばんは、MAKIさんいらっしゃいますか、初めまして総名代佐佑介と言います海法よけ藩国にいます」 MAKI:「はじめまして。総名代佐佑介。私は貴方を歓迎します」 作品への一言コメント 感想などをお寄せ下さい。(名前の入力は無しでも可能です) 名前 コメント ご発注元:涼華@海法よけ藩国様 http //cgi.members.interq.or.jp/emerald/ugen/ssc-board38/c-board.cgi?cmd=one;no=191;id=gaibu_ita 製作:うにょ@海法よけ藩国 http //cgi.members.interq.or.jp/emerald/ugen/ssc-board38/c-board.cgi?cmd=one;no=765;id= 引渡し日:2007/ counter: - yesterday: -
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・ 3000574:霧原涼:芥辺境藩国 ・技族なのでイラスト(静止・gifアニメ)が描けます。 人物ばかり好んで描いていたので背景などは苦手です; サイト制作が可能です。(リアルお仕事の関係で) cgi設置、wiki編集は可能です。 Flash、JavaScript、エクセルは初歩レベルです。 ・21時以降であればおそらく作業可能です。(残業のときはご容赦くださいませ…)
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まだまだ寒さが残っているがもう菜の花が芽吹く季節になった。 1年程前に結成されたSOS団は右往左往ありながらも無事に続いている。 最近思うのだが何かがおかしい気がする。何がおかしいのか、と聞かれると 俺も困るのだが変なもんは変としか言いようがない。 宇宙人や未来人、超能力者が普通に出入りしているだけで十分変なのだが まぁ、それは置いておこう。そんなこといいだしたらキリがないしな。 こんなことを考えてたのも一瞬でもはや生活習慣の一部になりつつある SOS団のアジト、文芸部室へと足をはこんでいた。 ノックをすると可愛らしい声で返事が返ってきた「あっ、はぁい」 今日も似合い過ぎのメイド服を着た朝比奈さんはにこやかに微笑んで 音を立てているヤカンへと駆け寄っていった。 俺は部室を見まわした。 いつものさわやかな微笑みをうかべた古泉とこれまたいつもの無表情で ハードカバーを読みふけっている長門がいた。 「どうも。涼宮さんは一緒じゃないんですか?」 古泉はチェス盤とコマを用意しながら言った。1回も勝ったことないのに こいつもよくあきないな。 あいつは掃除当番だと言い俺は既に指定席になりつつあるパイプイスに 腰をおろした。 そんないつもの日常に俺は安心しきっていた。 まさかこんなことになるなんてな・・・。 俺は朝比奈さんの煎れてくれたお茶に今世紀最大の幸せを感じつつ 進級テストについて考えていると「どうしましたか?」 古泉が声をかけてきた。 「ちょっと将来のことを考えて暗澹たる気分にひたってたんだよ」 「いやぁ、あなたがそんな顔をしているのが珍しくて恋でもしてる んじゃないかと思いましてね」 それはない。絶対にない。 古泉のクスクス笑いを無視しつつあいつ遅いなぁなんて考えていた。 あいつと言うのはわれらが団長、涼宮ハルヒのことだ。 「涼宮さん遅いですねぇ・・・。」 俺と同じことを考えていたのは俺の天使朝比奈さんだ。 どっからみても中学生か小学生の高学年にしか見えないのだが 実は俺より年上らしい。 まぁ、実年齢は禁則事項♪らしいので本当のところは 知らないが・・・。朝比奈さんが何歳かなんて問題は置いておこう。 最近感じていた違和感も忘れ退屈な日常を過ごしていた。 ただ、今日は何かがおかしかった。 何故なのだろう。ハルヒが部室にこなかった。 次の日俺が心臓破りの坂(命名俺)をのぼっていると後からやかましい 男が歌いながら近寄ってきた。 「WAWAWA忘れ物~っとキョン今日もしけた顔してんなぁ」 お前ほどじゃないよと言いつつ俺は冷たい手に息を吹きかけた。 「それより谷口チャックが開いてるがそれはファッションか?」 「なっ、ありがとな。このままだと変態扱いされるとこだったぜ」 元から変態だろ。 「お前程じゃないぜなんせキョンなんてあだ名で呼ばれるなんて 俺は死んでも無理だ」 うるさい。俺も好きで呼ばれてるわけじゃないんだぞ。 なんて無駄なやりとりをしている間に学校についた。 教室にはいると俺の後ろの席には誰もいなかった。 いつもは俺より早く来ているんだがな・・・。 まぁ心配するだけ無駄だな。前にも遅かったことあったしな。 だが、ハルヒはこなかった。担任の岡部に聞いても連絡はきてない としか言わない。 ハルヒのことが気がかりで授業なんて聞いていられない。 理科の教師が谷口にチョークを投げつけて「おい!谷口!チャック を開けるな!」と言ってたのも聞き流す。 そして4時限目の終了を告げるチャイムが鳴るやいなや俺は部室棟へ 向かった。もしかしたらハルヒはここに泊まってるんじゃないだろうな なぁんてありえもしない事を考えながら、文芸室の扉をノックした。 「だっだれ!?」・・・ハルヒの声だ 「俺だ。それより教室にもこないでここで何してる」 ガチャガチャ・・・鍵閉めてやがる。 「キョン?何かよう?用がないなら帰ってよね」 「いや用があるわけじゃないんだがちょっと心配になってな」 「えっ・・・」 そこでハルヒは鍵を開けて顔を出してきた。 目が赤く少し腫れている。何かあったのか? とたずねると。 「ちょっと親父と喧嘩しちゃってさぁ・・・それで家出してきたの!」 やれやれ。それはいつだ? 「昨日の夜よ?」「ってことは何か?お前は昨日の夜からここにいたのか?」 「そうよ」そこで俺は言葉を失ったね。 ハルヒは笑っている顔を作っているのだが下手っぴすぎる。 笑顔の目の端の方、涙が滲んでいる。 残念ながら俺はそんな顔をしている女性にかける言葉は知らないから お前にかけてやる言葉はないぞ?古泉あたりならかまってくれるかも しれんが。 そのまま沈黙を保っているとハルヒが 「しばらく授業にはでないわ。あと、SOS団は休m」 「ちょっとまった。」 俺はハルヒの言葉を聞き終える前に言った。 「理由はわからんが、とりあえず親父さんも反省してるはずだし 心配もしてるはずだ。だから帰ってやれよ」 「なっ・・・」 何故だかハルヒは悲しそうな表情を作って 「・・・やだ」 泣きながら拗ねている子供のように言った。 やだって・・・。 「キョンの家いってもいい?」 俺が何を言おうか迷っているとハルヒが何を血迷ったか 俺の家に行きたいなんて言っていた。 「あぁ、家に帰るのは夜でもいいが親御さんにあんまり心配 かけんなよ」 「遊びにじゃなくて・・・しばらく泊めなさいよ」 今にも泣き出しそうにしてるハルヒに俺はダメだ・・・とは言えなかった。 それから俺は、他のSOS団メンバーに今日は部室にこなくてもいいと 伝えて俺は魔の坂(命名俺)をハルヒと2人で下っていった。 その間に会話はなかった。沈黙。 そのまま沈黙を保ちつつ家に帰ると妹が 「ハルにゃん!どうしたのぉ?キョン君ハルにゃん泣かしたの? うわぁ~。わ~るいんだわ~るいんだ」 そんな幼稚なことを言っていたがとりあえず無視しておいた。 そして事情をおふくろに説明すると 「ハルヒちゃんなら大歓迎よ。いつまででも泊まっていきなさい。」 「はい!ありがとうございます」おいおい・・・。本当に 何年間も泊まったらどうするんだ?まぁ、困るのは俺だけのようだが。 俺は妹+おふくろの行末を案じつつハルヒと一緒に俺の部屋に向かった。 その間ハルヒは小さく「ごめんね・・・」と呟いたのだが 聞こえない振りをしておく。人間できてるなぁ俺って。 部屋につくなりハルヒの元気は再活動をはじめやがった。 「ねぇキョン!今日の晩御飯は?あと、お風呂にも入りたいんだけど!」 やれやれ、と何度も封印しようと思った語を口にする。 こんな状況でもハルヒは元気な方がいいな。うん。 「風呂は沸いてるから好きにつかえ。晩飯は寿司の出前とるそうだ」 「わかったわ!じゃぁご飯食べてすぐお風呂つかわせてもらうね」 好きにしろ。 俺は3人分くらいの寿司を皿にのせて自室へと運んだ。 さすがのハルヒでも他人の家族の中にはいっていくのは抵抗があるかも 知れないと俺は考えたからだ。 部屋に入ると「遅い!」何て我がままなお客さんだ。 ほらよ。皿を渡して居間に戻ろうとすると 「ぇ?一緒に食べないの・・・」 「戻ろうと思ったが腹が減って動けねぇ。こっちで食べてくかな」 我ながらこれはひどい。 ハルヒは安堵したように吐息をもらした。 「いただきま~す!」 「いただきますっと」 ハルヒは大きく口を開けて寿司を放り込んだ。 うぉ。何故かハルヒが泣きながらバタバタと暴れだした。どうしたんだこいつ? 「キョンお茶!はやくっ!」 どうやら山葵が鼻にきただけらしい。 「バカキョン!遅いわよ!」 持ってきた緑茶を1瞬で飲み干してあろうことか俺の分まで飲みやがった。 それから30分もしないで寿司は空になりハルヒは風呂へ。俺は妹の宿題をやらされていた。 こんなの小学校でならったっけ?俺は習ってないぞ? と独り言をもらしつつ最終ページにある答えを解答欄に書き写した。 そんな作業を5教科分終わらせた頃に妹が俺を呼びに来た。 「ハルにゃんお風呂にいるんだけどぉキョン君呼んできてぇって言ってるの。 あっ、宿題終わったんだぁ。ありがとね」テヘっと舌を出してシャミセンをどこかに つれていった。さらばシャミセン。 しかし風呂で用があるって・・・なんだ?背中あらえとか頭洗えとかだったら 速攻で拒否してやる。理由?俺だって健全な高校生だからだ。 風呂場についた。うちの風呂は曇りガラスのドアなので中は見えることはないが それでも少し変な妄想をしてしまう。あぁくそ。あいてはハルヒだぞ? そんなことを考えつつ俺はドアをノック。 「・・・キョン?」少しこもって聞こえるのは風呂場に声が反射しているのだろう。 「ああ、んで何だ?用ってのは?」 「・・・がないの」ん?なんだって? 「着替えがないの!急に家を飛び出してきたんだもん・・・」 「俺か妹の服でよければ貸すが・・・妹のは無理そうだな」 「まぁ、仕方ないわ。あんたので我慢する」 俺はとりあえず自室に戻りTシャツとハーフパンツを手に取ったが そこで気がついた。下着がないな・・・。残念ながら俺はそういう趣味は ないから女物の下着なんて持ってないんだ。ほっ、本当だぞ? そんな事を考えながらもう一度風呂場へ。 「なぁ。Tシャツとハーフパンツは持ってきたんだが下着はどうするんだ?」 「あっ、考えてなかった・・・。」 やっぱりな。 その後の会話は思い出したくない。 俺が必死にチャリを漕いでいる理由と相違ない。 「キョン・・・下着だけでいいから買ってきなさいよ!」 「何で俺が?」 「だって裸で外出たらつかまっちゃうでしょ」 それはそうだが・・・。それでも俺が女性物の下着を買いに行くのは忍びない。 妹にいかせろと言ったらハルヒは 「妹ちゃんはキャラ物とか買ってきそうで危険そうだもん」 それにコンビニでいいからさとハルヒは付け足し制服のポケットから1000円札を 俺に渡した。「風邪ひいちゃうから速攻で買ってきてね。3秒以内で!」 おいおい3秒って・・・。それでも風邪なんかひかれたら目覚めが悪いので 俺はチャリを漕ぎ続けている。立ち漕ぎダッシュだ。 コンビニの前で急ドリフト。キレイに停めてコンビニへと入っていく。 織物が置いてあるコーナーの横に女性物の下着が売っていた。 色とか大きさは知らないので一番端にあった白いのを手に取った。 そしてレジへ・・・。今までにないドキドキと緊張感。やれやれ。 これは何プレイだ。店員は「738円です」と平坦な声で言ってくれた。 店員は40代くらいのおばさんだ。若い人だったらきつかったな。 ハルヒに渡された1000円札を店員に渡しておつりを貰うまでの時間が かなり長く感じた。まぁ、実際数秒しかたってないんだがな。 それから走ってチャリに向かい、急いでチャリを漕いだ。 行きよりも早いと思われるスピードで家に着いた。 息は切れ切れだ。だが待ってもいられないのでハルヒの待つ風呂場へ。 バスタオルを巻いたハルヒが立っていた。 「遅いわよキョン!すっごい寒かった!」 やれやれ。俺の超マッハダッシュ(命名俺)でも遅いというなら どんな速度ならお前の速いに該当するんだ? 「・・・って」「ん?」「・・・・てけ」 「ああ?」「服きるからでてけ~!」 ハルヒがそう叫んだときこう・・・バスタオルが ハラリっていうかフワっていうかそんな感じにハルヒの体 から剥がれ落ちた。目の前にはハルヒが生まれたままの姿で・・・。 お互いに違う理由で沈黙した。っていうか俺は気を失っていた。 「・・・ッン?・・・キョン?」 ハルヒの声が聞こえる。だが一度寝た俺はそう簡単には起きないぞ? 「このバカキョンっ!団長様の命令に逆らう気?死刑よ死刑。絞首刑!」 目が半開きの状態で真上を見るとハルヒが涙目で俺を殴り起こしていた姿 が目に入った。 サイズが合わなくてブカブカのTシャツ(俺の)とハーフパンツ(これも俺の) を着ているハルヒ・・・下から見ると色々と丸見えだぞ? 「あぁ・・・。なんか見てはいけない物を見てしまった気が・・・」 そう言うとハルヒが顔を真っ赤にして俺の襟を掴んできた。 「記憶から抹消しなさい!宇宙人と契約して!アブダクショーンって呼ぶのよ」 やれやれ。無茶言うなよな。もしアブダクションで長門や朝倉なんかが来たらどうすんだ 長門はいいが朝倉にはトラウマがある。しかももう立ち直れないくらいのな。 ハルヒはそのあともギャーギャーと騒ぎ立てていたが、心配して妹が来たあたりで 「まぁいいわ。不可抗力だったし」わかってんならこんなことするなよな。 やれやれ。まぁこれで大きな問題は解決だ。 「お風呂入ったから何か眠い・・・」 子供の用に両手で目をこするハルヒはすごくかわい・・・何考えてるんだ俺 相手はハルヒだぞ?(本日2回目) 「ああ。じゃぁ妹の部屋にでも布団ひいてやる。」 「何言ってるのよぉ・・・あんたのベット使わせて貰うわぁ・・・」 もう寝そうだ。まだ9時だぞ?俺の妹でさえまだ寝てない・・・ ってこいつ今何ていった?俺のベットで寝るって・・・俺はどこで寝ればいいんだ? 「下に布団ひけばぁ・・・。それとも一緒にねるぅ?」 眠気に負けて投げやりだ。 「んじゃぁ下に布団ひかせてもらうな」「うぅん・・・」 ハルヒは覚束ない足取りで俺の部屋へと向かった。 俺もその後ろを追って自室へとむかった。 部屋に入るやいなやハルヒは俺の枕へ顔を埋めた。使ってもいいが 涎はつけるなよと言い残し俺はさっさと布団をしいた。 まだ眠くなる時間でもなかったので長門から借りていた 【宇宙の原生物】とかタイトルのハードカーバーを広げた。 ハルヒが電気をつけるなとかうるさいのでスタンドライトを使って文字をたどった。 そうして何時間たったんだろうな。本に熱中してしまうと時間の経過が わからなくなる。1人の少女が上から降ってきた。 ここで言う少女は紛れもなくハルヒの事で上と言うのはベットのことだ。 結構派手に落ちたのだが俺がクッション代わりになったらしい。 どうりで腹が今までにないくらい痛いわけだ。 「おい、ハルヒ。起きろーおーい・・・だめか」 そのまま読書を続ける気にもなれずハルヒを起こそうとした。 声をかけても反応が無いので体をゆすってみた。 すると寝ていて力の入っていない体は俺の真横に・・・。 我ながらこれは失敗だったな。俺の顔面とわずか15cmくらいの所に ハルヒの顔が!?理性のタガが外れそうになったが相手はハルヒ相手はハルヒ と呟いてどうにか自分を押さえ込んだ。 とりあえず現状をどうにかしないとな・・・。 と、考えている時にハルヒの目から涙が溢れていた。 「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」 家族の夢でもみているのだろ。 泣いているハルヒをこのままほおって置くのも何なので体の動くまま 起こさないように弱い力で抱きしめてやった。 明日俺の体が五体不満足になっていても知ったことか。何故かおれはこうしなきゃ いけない気がした。気のせいかも知れないが。
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百物語というものをご存知だろうか。 一人ずつ怪談を話し蝋燭を消していき、100話目が終わった後に何かが…!!というあれである。 俺は今まさになぜか部室でハルヒと愉快な仲間たちとともにそれをしているわけだが、何故そのような状態 に至ったのかを説明するには今から数時間ほど遡らなければならない。 ______ 夏休み真っ盛りのその日、俺はそろそろ沈もうかという太陽の暑さを呪いながらニュースを見ていた。 東北の某都市ではいまごろ七夕祭りをするのだなあ、などといつかのことを思い出しながら今まさに瞼の 重量MAXに至らんとしたその時、携帯が盛大にダースベーダーの曲を奏でた。 ハルヒだ。 市販されているどのカフェイン飲料よりも効く恐怖の音色によって冴えた頭で出ようか出まいか一瞬迷った後、 恐る恐る携帯を手にした。 「あ、もしもし?キョン今暇?」 恐ろしく不躾な第一声、間違いなくハルヒである。 いーや、今まさに夏休みの課題に取り組もうと今年一番のやる気を出していたところだぜ。 マシンガンに対し襖の盾を構える様に、ささやかな抵抗を試みる。 「ちょうどいいわ、そんなのやめて駅前に集合!」 何が調度いいのだろう、などと問うのは風呂上りに鏡の前でポーズをとるよりも時間の無駄というもんだ。 相手はハルヒなのだから。 駅前に着くと、時をかける美少女こと朝比奈さんが小さく手を振って俺を迎えてくれた。 「あ、キョン君、こんばんは…!」 純白のワンピースに可愛らしいポーチ、なんという麗しのお姿、もしかしてあなた未来人じゃなくて 天使か何かなんじゃないですか? 「私突然呼ばれて…キョン君は何するか聞いていますか?」 あいつが突然じゃないことなんてないんですよ、朝比奈さん。 ついでに言うとあいつの頭の中に何か計画があるのかも怪しいもんだ。 「ヤッホー!」 話題の主が何故か胡散臭い笑顔と鉄仮面を引き連れてやってきた。 「いやあ、涼宮さんと長門さんと電車で一緒になったもので。」 お前には聞いてないけどな。夏休みの、しかもこんな暗くなるような時間から何しようってんだ、ハルヒ。 「うんうん、みんな行動が迅速でとても良いことだわ。SOS団の未来も明るいってものよ!」 聴いてないな。 「失礼ね、ちゃんと聴いてるわよ。これからみんなで百物語をやります!」 帰っていいか。 「夏といえば怖い話。怖い話といえば百物語。百物語といえば学校よ。そういうわけで今から部室に行って 納涼百物語大会を行います。」 朝比奈さんは既に怯える準備万端、古泉はいつもどおりのインチキ笑顔、長門は幽霊のように冷たい無表情でハルヒを見つめていた。 意外と長門は読書で得たネタがあるかもしれないなと考えそうになったが、つっこみ担当の脳内俺がそれを遮った。 ちょっと待て、こんな時間に学校に忍び込んだのが見付かれば、バニーガールの時よろしくまた何を言われるか… 「大丈夫、ちゃんと昼間のうちに部室の窓の鍵は開けておいたわ。窓から縄梯子を垂らして、蝋燭も用意しておいたから完璧よ。」 どこからそんなもんを調達…じゃない、つっこむべきはそこじゃない。 何が大丈夫なんだ、ハルヒ。こいつの思考がわかる奴がいたら「機関」とか言う変態組織から表彰されるかもな。 俺だったら、たとえ古泉に土下座されてもいらないが。 「いいんじゃないですか。怪談、僕は嫌いじゃありませんよ。幽霊というものにも少し興味があります。」 少しは躊躇しろ、このニヤケヅラ。 「ふぇ…幽霊…出るんですか、百物語ってなんなんですか…。」 今にも泣きそうな朝比奈さん。大丈夫です、あなたのことは俺が命に代えても守ります。 いつかのクラスメイトによる俺殺害未遂に比べれば幽霊なぞ。 「……」 メンバー中最も幽霊に近い存在のような気がする宇宙人製有機ヒューマノイドインターフェースは、 なにやら不気味な表紙の本を読むのに忙しいようだ。何読んでるんだ? 「……これ」 えーと、いながわじゅん…… !? やる気か、長門。 はあ、何も起きないでくれよ。もしものときは頼むぜ、長門。 ハルヒの場合、幽霊どころかヤマタノオロチを召喚するなんてことは十分あり得るからな…。 というわけで、俺たちは夜の学校に忍び込み、百物語に挑戦しているわけだ。 しかし、5人で100話、一人20話の割り当てだ。正直、俺はそんなに話すネタを持っていない。 どこかで聞いたような、しょうもないネタを披露するといった具合だ。 ある種のオカルトマニアのハルヒと、今まで読んだ本を積み上げると富士山すら凌駕するであろう長門は、 順番が来ると躊躇なく話し始める。長門の話はどちらかというと、都市伝説のような気がするのは、この際目を瞑ろう。 古泉は少し考えた後に無難な怪談を語っている。こいつのことだ、即興で考えた嘘話だろう。 朝比奈さんはというと、専ら悲鳴あげ係である。話せるネタもないようで、ハルヒか長門が代わりに話している。 何なんだこの2人は。 さて、そろそろ納涼百物語大会(命名:ハルヒ)も佳境である。 最後の100話目を俺が話そうとしたところ、ハルヒに権利を奪われた。 曰く、イベントのおいしい所は団長の物なんだそうだ。 俺にとってはおいしいかどころか、不味い役回りだったので有難い。蓼食う虫もびっくりだぜ。 「それじゃあ、最後の怪談、いくわよ。 皆、この1年5組の教室に実しやかに囁かれる噂を知ってるかしら。あの教室はね、いわくつきの教室なの。 あたし達が入学するよりもずっと前、一人の男子生徒の遺体が発見されたの、胸にコンバットナイフを突き刺されて。 特に恨みを買うようにも見えない、ごく普通の男子生徒だったらしいわ。その子が殺される前日、 ラブレターを貰ったと言って浮かれてたという証言もあって、事件との関連性を疑われたけど、遺留品からそんな手紙は見付からず、 結局犯人は分からずじまい。以来、あの教室に一人でいると何か悪いことが起こるらしいわ…。」 ……結末以外はなにやらどこかで聞いたことのあるような話である。こいつ実は全部知ってるんじゃないだろうな。 長門、あまりこっちを見るな。こういう状況でのお前の眼差しはナイフなんかよりよっぽど怖い。 朝比奈さんはもう完全にギブアップ、古泉は相変わらずニコニコしている。 俺と朝比奈さんの青ざめる様子に気付いたのか、ハルヒは満足げな顔で言った。 「あははは、うっそ。今のは完全なあたしの作り話。こうも良い反応をしてくれるとは思わなかったわ。 持つべきものはキョンとみくるちゃんよねえ。」 こいつ実は読心術もマスターしてるんじゃないだろうか。 「じゃあ、消すわよ。」 そういって最後の蝋燭を吹き消した。 …暗闇 朝比奈さんの「ふえぇぇ」という舌足らずな悲鳴が聞こえたかと思った次の瞬間、蛍光灯が瞬き始めた。 誰が点けたんだ。そう思って部室の入り口に目を向ける。俺にとって、ハルヒとは別の意味で生涯忘れないであろう顔がそこにあった。 ……朝倉涼子? 何なんだ?訳がわからない。なんで復活してるんだ?一人を除いて目を丸くして入り口を凝視している。 驚く朝比奈さんも実に愛らしい、写真に撮って起きたい気分だが、今はそれどころではない。 どうでもいいが少しは驚けよ、長門。 「あんた…カナダは?」 ハルヒが訳のわからない質問をしている。 「何のこと?あなた達こんな時間に学校で何してるの?」 それはこっちの台詞だ。何しに出てきた。学校の警備員のバイトでも始めたのか、働き者だな。 瞬間、長門が何か呟いた。よく聞こえなかったが、例の「呪文」って奴だ。同時に明かりが消え、再び点いたときには入り口には誰もいなくなっていた。 なんだ?何をしたんだ、長門? 「何…今の?」 ハルヒが驚き半分、興味半分の器用な顔で声をあげる。あれはいったい何なのか、それは俺が知りたい。 朝比奈さんはもはや放心状態、古泉は胡散臭い笑顔に戻っている。 長門は勿論表情を変えていないが、一言 「……幻覚」 とだけ言った。いくらハルヒをごまかすためとはいえ、それはないだろ長門。 「幻覚…?みんなも見たでしょ?」 「…見ていない」 長門が無茶な否定を始めたが、他にどうしようもないので俺も続いて首を横に振った。 「ん~、おっかしいなあ。確かにそこに朝倉涼子が……まあいいわ。考えてもわかんないし。今日はそれなりに面白かったし。 終わりにしましょ。」 こんなフェルマーの最終定理の証明よりも意味のわからない説明で納得してくれるんですか、ハルヒさん。 お前が、大雑把な奴で良かったよ。 帰りの道中、俺は長門へ説明を求めた。さすがの俺もあれでは納得がいかない。古泉も興味があるようで、 話に勝手にまざってきた。あっちでハルヒの話し相手でもしてろよ。 「残念ながら、涼宮さんは朝比奈さんと話すのに忙しいようですのでね。」 見ると、ハルヒが朝比奈さんへまだ怪談を語っている。もう、いつでも失神する準備万端な朝比奈さんは 半分ハルヒに引っ張られて歩いている。すみません…朝比奈さん。 「…ノイズ」 長門がいきなり蚊の鳴くような声で説明を始めた。 例によってさっぱり意味がわからなかったが、古泉によるとこういうことらしい。 長門は朝倉涼子の情報連結を解除したが、それは朝倉涼子のデフォルトの状態を消去したのであって、 朝倉涼子が長門のあずかり知らない所で得た経験値までは対象となっていなかったらしい。 つまり、1年5組委員長としての朝倉涼子の情報はいまだ学校を彷徨っていて、ハルヒの願いに呼応して現れ、 今さっき長門が、消去したというわけだ。 なあ、それって所謂幽霊じゃないか? 「…そう、通俗的な用語を使用するならば、そういうことになる。」 …笑えない、何故か笑っている古泉の顔をひっぱたきたい気分だぜ。 「遠慮しておきましょう。僕にそういう趣味はありませんから。あ、そうそう、もう電車もないでしょうから帰りのタクシー代は 僕が出しますよ。面白いものを見せてもらったお礼です。」 なにやら、どこかで見たことのあるタクシーを呼び止めて古泉は言った。 「さすが副団長ね。キョンにも見習って欲しいわ。」 真夜中なのにこいつの元気は底なしだな…。朝比奈さんはハルヒを自分の家に招待しようと必至に懇願している。 一人で寝るのが怖いんだろう。俺を誘ってくれれば、インチキパワーを発揮した長門の如きすばやい動きで挙手をして、 二つ返事で引き受けるというのに。 さて、俺も今日はもう眠い。少しばかり癪だが、古泉の好意に甘えてとっとと家に帰って寝よう…電気を点けて。 END
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【名前】 葦原涼 【読み方】 あしはら りょう 【俳優】 友井雄亮 【登場作品】 仮面ライダーアギト 【分類】 人間、仮面ライダー 【詳細】 『仮面ライダーアギト』の登場人物。 元は水泳選手。 アギトの亜種・ギルスの変身者。 だが、ギルスの変身には肉体に負荷をかける。
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キャラ名 秋月涼 img1356185336_95359_0.png 年齢 29歳 性別 男 身長/体重 148㎝/42㎏ 職業 医学関係の研究者 システム クトゥルフの呼び声 参加卓 エレベーターシナリオ 【キャラクターシート】 【キャラ概要】 涼には、エレベーター怪談の数少ない生き残りが知人にいた。 だが彼は精神を病み自殺してしまう。彼が言うにはその場にいた人間を全員殺して生還したそうだ。 彼の死の謎を解明するために、涼は自身もエレベーターに乗り込むことにする。 いざと言う時生還できるように、スタンガンとナイフを隠し持って。 【キャラ性能】 医学、信用、目星、精神分析と一家に一台欲しい性能。 高回避、高SANなので耐久力も上々。 ただ、圧倒的に小さいサイズと、低すぎる近接性能により戦闘には向かない。
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〔ベーシックプロフィール〕 名前 青柳 涼 役職と担当 役職:会長 担当:このサークル責任者、イベント出展責任者、金銭管理、頒布物管理、漫画・イラスト時々SS書き 誕生日/心の年齢 1月1日/永遠の23歳です♪ 心の性別 心にtnkが生えそうなので、もう少しで男性になれそうな気がします 生息地 茨城県 別サークル/個人プロジェクト 個人サークル:WHITE-MAP(基本よろず。現在最遊記中心) 合同サークル:おひるねケット・シー(青柳家の猫のグッズ中心) リンク WHITE-MAP(大元の個人サイト) 青柳涼Twitter 青柳涼pixiv WHITE-MAP BLOG(徒然日記) いちごいちえ。(SS置き場) WHITE-MAPお絵かき帳(漫画・イラスト置き場) ネットラジオ放送用Ustream ネットラジオ用ツイキャス 〔エクステンドプロフィール〕
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そんな感慨を抱きつつ、放課後、文芸部室。 今週の頭に生徒会から突如として課せられた、というかハルヒが課したポエム創作に紛糾していたSOS団員であったが、本日その内の二人の悲鳴は安堵の溜息となって開放された。 一人はもちろんであろう古泉だ。 そして残す一人は長門……ではなく、朝比奈さんである。 それぞれの詩を端的に紹介すると、古泉のはこいつが超能力者になる以前、自分の胸に秘めていた世界に対する本音を夢見がちな視点から書き綴ったもので、つまり少年の頃に密かに抱いていた願望をポエムにしたものだった。 朝比奈さんのはテーマが未来予想なものであるにも関わらずほとんど創世記のような内容で、後半に少しだけ未来の世界像が抽象的に書かれているという感じであった。俺の読解によるところでは、本来人間は諸々の管理や調整を行うために生まれており、未来では自然と人間の調和が実現するといった隠喩が含まれているようにとれた。ためしに朝比奈さんに聞いてみると、 「んっと、これはただのポエムですから♪」 不用意に禁則事項ですと言わないのが、きっとこの一年で成長した所なんだろうね。俺としては、この人には成長して欲しくないような、成長して欲しいような複雑な心境である。 あとこれは余談だが、古泉のポエムを読んでいると俺には短パンでタンクトップというよりはランニングシャツ(もちろん白)で野原を駆け巡る古泉少年の姿が脳裏に浮かんでしょうがない。 何故ならポエムの内容がヒーロー戦隊隊員に志願希望であるとかスクールライフにはシリアスさとピュアラブコメディを求めるとかいったえらい純朴な要望的願望なのだ。 そしてこれらは殆ど叶っているようなものなのでおめでとうと言いたいが、ピュアラブコメディなんぞをやっていたら俺は古泉の後頭部を狙ってウイリアム・テルをしなければならん。 ……そういえば、こいつは昔天体観測が趣味だったとかも言ってたし、筆致もあまり勉強してない子のように乱雑であるので、ひょっとして仮面を脱いだら無邪気で裏表のない明朗快活野郎になるんじゃないだろうか。もしあのツラでそんなコンスティチュエントがあった日にゃあ谷口の立つ瀬はナノメートル単位すらなくなっちまうな。というか、俺含めほぼ男子全員が例にもれず。 しかしまあ、現在の裏がありそうなスマイル古泉のスタイルもこれはこれで小憎らしい。この自称仮の姿は機関とやらの厳しい特訓で培われたものなんだろうか? 勉学も短期間で必死に習得したゆえに、紙相手の問答には優秀だが対人戦になるとてんでダメになるのかも知れんな。 ……などと、俺が取りとめのなさ加減にも程があるといわんばかりの思索をしていると、二人分の原稿の提出を受けて上々気分のエセ編集長が意気揚々と、 「キョン! それに有希っ! 残すはあんたらだけよ! ほら、早く書くのっ」 いやだからポエムなんてのは自主創作であるべきなんだし、詩的センスも恋愛経験も皆無な俺にはどうやったって恋の詩など書きようがないっての。 という文句を目で訴えつつ「ああ」と生返事で答え、 「…………」 無言で読書をしている長門に視線を流した。なぜこいつはポエムを書かずに読書などをしているのかといえば、「詩など書かん」という抵抗の意思を体で表しているわけではなく、読書物が前回の会誌であるため、恐らくは自分の小説を読み返して何かしらのインスピレーションを働かせようとしているのだろう。多分ハルヒもそう思っているから、その行動に待ったをかけないのだろうね。 「……長門の小説、か」 俺は知らぬ間に小さく呟いた。 題名のない、長門の小説。 およそ長門自身が主人公の物語で、物語にしてはオチがついていないような不思議な終わり方をしていた。 だがもっと不可解なのはその内容である。なんの隠喩があるのか、はたまた何の意味もありゃしないのか。長門のことだから意味がないというのは考えにくいのだが、しばしば長門が会誌を開いて読んでいる姿を見る度、なんだか俺は言い知れぬ不安を覚えてしまうのだ。 それは今も一緒で、俺の必然的に養われてきた長門観察眼が確かならば、長門の頭上には閃きを示すビックリマークではなく、 「はてな?」 という言葉と共にクエスチョンマークが浮かんでいるのが見える。 ……長門、適当に思わせぶりだけしといて自分でも何がなんだか分からないなんてのはナシだぜ? それはまあ置いといて、最近の長門は少し気にかかる。単に宇宙人として弱体化しているからだとかいったことではなく、ただ、なんとなく行動が妙なのだ。まるで俺たちに何かを伝えようとしているが叶わないといった感じで。 もしかして周防九曜が言っていた、長門の中の止まった時間ってのに何か関係が……。 ん、そうだった。この話はまだしてなかったな。前の分の回想だけでは消化不良な部分も多々あるので、今からあれに続く話である、後日の喫茶店での佐々木たちと俺たちの会談を思い返してみようと思う。 そこには喜緑さんではなく、病床から復帰した長門が列席している。俺たちは安静にしているよう諭したのだが、長門は今回の事件の際に自分が倒れていたのを申しわけなく思っていたらしく、「今度は私がみんなの側にいる」と言って聞かなかったのだ。 そして話は、みんなが喫茶店に揃い、それぞれ並んで席に着いたときから始めることにしよう。 俺たちとテーブルを挟んで相対した佐々木たちは、佐々木以外、三者三様の沈黙を貫いていた。言葉が出たのはウェイターに飲み物を注文した古泉の台詞程度で、それからしばらく沈黙が続き………… 「キョン、先日はすまなかった。最後の最後で取り乱してしまって。つくづく己の精進不足に気が滅入るところだ。なにかキミに対して非常に身勝手な言葉を漏らしてしまったように思い返されるんだが、本当にキミには平身低頭して詫びるよりない」 沈黙を破って佐々木が発した言葉に不意をつかれた俺は、「んぁ」と言葉にならない声を漏らし、 「……佐々木。それはお前が気にすることじゃない。謝るのもこっちだ。それにさ、そこらへんについてはもう言わなくたって、お互い何を考えてるかはもう解ってるんじゃないか?」 佐々木はくっくっと可笑しそうに笑い、 「そうだねキョン。このまま続けていると、また押し問答になりそうだ。よかろう。理解した。だがね、最後に一つだけ言わせてもらうよ」 と、佐々木は微笑みを崩さぬままSOS団全員をするりと見回し、 「みなさん。今回は私のせいで迷惑を掛けてしまって、ごめんなさい。そして……」 ちらりと俺へ目配せした後、お辞儀をしながら、 「ありがとう」 言い終えて顔を上げた佐々木の表情は心の底から澄み切っているような輝きに満ちていて、そんな佐々木の静やかな笑顔に、俺は自分の胸の内で何かが呼応したような心地を漫然と覚えていた。 そして俺の隣の朝比奈さんはあわてるように、 「わわっ、迷惑なんてそんな……とんでもないです。それに、これは……」 と藤原を見て沈黙した。続いて、通路から見て席の一番奥に据わっている古泉が、 「僕にも佐々木さんから謝辞を賜る資格は到底ありません。僕が所属する機関も、こうなる前にもっと貴女に対して目を向けるべきだったのですから。勝手ですが、これからはそうさせて頂くことにします。ね? 橘さん」 そう如才なく言い放つと、恐縮という言葉をこれでもかと体現しながらうな垂れている橘京子に右手を向けた。 「彼女は事情により、僕たちの機関を手伝って頂くこととなりました。経緯についてはご自分でお話しされますか?」 こくんと首肯する橘京子の挙動には、思わず「大丈夫か?」と気遣ってしまうような愁傷さが溢れている。 「……佐々木さんの閉鎖空間の消滅と一緒に、あたしたちの能力も消失してしまいました。多分、もう佐々木さんの閉鎖空間が発生することはないと思います。なので、あたしたちの組織には、もう存在する理由がありません」 だからって、そんなに落ち込むことはなかろうに。 「あ、いいえ。それで落ち込んでいるんじゃないの。ただ、あたしたちは利己性を否定しながら行動していたのに、むしろ誰のことも考えていなかったという事実に対して申しわけなく思っているのです。あの頃はあれが絶対に良いことだって信じてやまなかったんだけど、終わってみればあたしは佐々木さんを傷つけただけでした。……本当にごめんなさい」 ズズンと背景の暗闇を重くさせる橘京子に俺は少々憐憫の情を抱き、古泉は「続きを」と促した。橘京子は首がそのままポロリといきそうなほど力なく頷き、 「……あたしの組織の一部は、あたしを含めて古泉さんの機関に併合させてもらうことになりました。これからあたしは、佐々木さんの傍にいて心のケアをしていく役目を果たそうと思います」 言葉を終え、再びシュンとする。外様大名というよりは、借りてきた猫ってところのような気がするね。 そんな橘京子の姿を見ていた古泉が佐々木に微笑みかけると、佐々木は応じたように、 「橘さん。お願いだから、そんなに落ち込まないで。それに、そんな形式的な関係はナシにしない? 監視されてるみたいで、逆に心がまいってしまうもの」 「ふぇ……」 橘京子は佐々木へと振り向き、その表情は今にも泣き出しそうである。佐々木は橘京子を見つめてニッコリと、 「だからね、友達。そんな関係として、私からもお願いして良いかな? これからもよろしくね」 「佐々木さん……」 クスンクスンと若干嗚咽をまじえながら、佐々木の言葉を受けた橘京子はすすり泣き出してしまった。背中でもさすってやろうかと思ったが、その仕事は隣にいる佐々木が担った。 ……色々あったが、これで橘京子に関しては一件落着だろう。 残るは、 「…………」 「――――」 もしかしたら長門と無言の会話をしているかもしれない周防九曜と、 「…………」 これまた無言で不機嫌そうに横柄な態度を取っている未来人、藤原だ。 俺が藤原を難渋な目つきで見ていると不意に視線がぶつかり、藤原は特に興味がないといった感じで面を返した。俺はなんとも居心地が悪くなったので、 「……藤原。聞きたいことがある」 「ふん」 鼻で返事をされてしまったが、聞きたい内容の重要度にくらべたらどうでもよく思えたので特に構わず、 「お前は天蓋領域……いや、周防九曜の存在に関して、一体どの程度まで知ってるんだ?」 「無意識概念集積体」 ――うん? と、SOS団の全員が一様に藤原の言葉の前に停止した。それにかまわず藤原は話を続け、 「あれに名称を付けるとしたら、そんなところだ。そちらの喜緑とかいう人形の操り主は……情報統合思念体とか言ったか? それの対極に位置するような存在だろう。情報統合思念体とやらが情報生命の連なりとするなら、あれは無意識の領域から発生した概念の集積物みたいなものなんだ。もっとも、結晶というよりは雲に近い。その性質上、無意識概念集積体の端末には思考するという観念と個別の存在に対する認識が欠如している」 ほう。と、俺と古泉は承知したように頷き、俺よりももっと良く理解しているであろう古泉が藤原に、 「……なるほど。彼女を見ているとそれも納得できます。しかしその物言いによると、あなたの未来には情報統合思念体が存在しないように聞き受けますね。そこはどうなのでしょう? ――それと、彼女たちを人形などと呼ぶのはやめて頂きたいのですが」 ……古泉がそんなことを言うってのは、こいつにはもうSOS団を裏切るかもしれないなんて懸念はないんだろうな。きっと。いや、確信を持って言える。ない。 古泉の質問と要求を受けた藤原は怪訝そうにしながら、 「……この周防九曜のような端末は存在するとだけ言っておこう。あれについて、僕が話せるのもここまでだ」 「ちょっと待ってくれ」 俺は言葉を挟み、 「お前、周防九曜の頭に妙な髪飾りを付けた後で指示を聞かせていたよな? あれはどういうことだ?」 「ふん。禁則事項だ」 「なっ……」 俺が言葉を失っていると、藤原は「ふくく」と笑いを堪えたような声を漏らし、 「……はっ。ふざけてないで、答えてやるとしよう」 ふざけるなこの野郎である。 「あれは無意識概念集積体の端末にこちらの意識を繋ぐ同期型装置だ。あの媒体には、人型端末の外的制御と個体が持つ情報操作能力を制限する働きがある」 「じゃあお前らは、そうやって周防九曜みたいなのを意のままに操って悪さをしてるのか?」 「悪さだって? はっ、笑えない冗談はよしてくれ。怒るしかなくなる。それに、キミは何もわかっちゃいない。端末を制御しているのは自己防衛のためでもあるんだ。それに一つ言っておくが、僕だってああいう風に人型端末を操るのは嫌いだ。まったく気分が悪い。だから任務が終わった今、既に周防九曜は僕たちの制御下には置かれていない」 俺はギョッとして、 「……悪い冗談はよしてくれ。俺がまたあいつに拉致られでもしたら、今度もお前が助けてくれるってのか?」 「こちらの関知するところじゃない。キミを助けるのに、もう理由はないんだ」 ……なんて奴だ。という驚愕をこれ見よがしに藤原に見せつけていると、 「話をちゃんと聞いていたのか? あの髪飾りには能力を抑制する効果があると言ったはずだ。それと同時に操り主からの接続も遮断している。つまり、こちらから干渉しない限りあれが何かをしでかす心配はないんだ。それに人型端末をその状態に置いておくのは、僕たちにとっては至って普通の対応だ」 そう言いながら隣に座っている周防九曜を一瞥し、 「――しかし、この端末はキミに対して関心を持っているみたいだな。まあ危険性はない。安心するといいだろう。せいぜい付きまとわれる程度だ」 待て、そういうのはストーカー被害っていうんだぞ。夜にうなされそうじゃねぇか。不眠症になったらどうしてくれる。 「僕が知るか。勝手にうなされでも、不眠症にでもなってりゃいい」 ……まあ確かに、藤原に訴えたとしてどうにもならない気はしている。だがそれでも、周防九曜本人に言ったところで更にどうしようもないだけだし。まったく、俺はどうすりゃいいんだろうね? 俺がやれやれとばかりに嘆息していると、突然横から、 「それなら、私に任せてください」 最近になって特に聞き慣れた声だった。俺はその声の発信元を視認して、 「……喜緑さん?」 「ご注文の品をお持ち致しました。皆様どうぞごゆっくりお寛ぎ下さいませ」 喜緑さんはホットコーヒーを並べながら、ほんわかした笑顔で俺に微笑みかけて、 「安心して下さいね。私が彼女を見張っておきます。今の九曜さんなら、私にも抑えられるかと思いますので」 いやぁとても頼りになるんですが、喜緑さんに頼るのも男としてはどうなんでしょうね。それでいいのか俺。 「お気になさらずに」 ニッコリと喜緑さん。 まあ、とにかくだ。俺は長門と無限にらめっこ中の周防九曜に目をやりながら、 「藤原。大体なんでこいつは俺にちょっかいを出して……いや、出してないとも言えるかも知れんが、周防九曜は俺の何が気になるってんだ」 藤原はさもつまらない話をするかのように、 「無意識概念集積体は、人間の内の意識でない領域に惹かれやすい。そしてこの端末は、キミのその領域に潜むものに関心があるみたいだな」 「俺の中に、なにか潜んでるってのか?」 「……ふん」 む。それはアホを見る目だぞ。俺を見てくれるな。 「この端末にからすると、時間の流れが遅いもの……ってところだ」 「……もしかして、時間を操る能力みたいなもんがあるってのか?」 まさかな。自分で言ってても、あまりにもバカげてる話だと思うぜ。 それにそんな能力があるならなぜみんな今まで……。 ――いや、待てよ。ひょっとして今まで、みんなは俺の強大すぎる(多分)力をハルヒみたいに自覚させないようにしてたんじゃないか? ……困ったな。これはありえん話じゃないぞ。元より俺はこのSOS団にどうして所属しているのかが不思議な位に不思議さが皆無だ。だが、やっぱり俺にも何か特殊な要素があったってのか? 「……まさか、本当に俺にそんな力が、」 「それはありません」 一つの声にしか聞こえないほど見事に古泉と喜緑さんの言葉が重なった。爽快な程にキッパリと言ってくれるのでむしろ気持ちが良いね。それに第一、俺はこのポジションが気に入ってる。仮に俺に力があったとしても気付きたくはないし、そんなもんはいらん。 カップを置き終えた喜緑さんはペコリと一礼してテーブルを離れ、その後には、くらりとくるような微芳香と少しの静寂とが残された。するとそこから漏れ出すような声で、 「――――今なら、確認……」 もちろん周防九曜である。こいつは変わらず長門を見つめながら、 「あなたの――時は―――止まっている………」 長門が「ひでぶ」などと言い出さないか不安になったが、長門は眉をピクリとさせただけだった。 周防九曜は微動だにせず、 「――綺麗ね……」 ………………。これは全員分の三点リーダ。もう後は笑うしかない程に意味が不明である。当の長門は、 「………?」 ポカンとしたような無表情を俺に向けてきた。長門よ、笑っとけ。 そうこうしている内に、朝比奈さんが「あの、」と、ビクビクしながら藤原をちらちら伺い「ハカセ君……じゃなくって、時間平面理論の少年が……橘さんの組織の車に撥ねられそうになったのは、そちらの未来の規定事項だったんですか……?」 ――そういえばそうだった。モスグリーンのワンボックスカー。ハカセ君は俺があのときとっさに行動しなけりゃ、危うく死んじまうところだったんだ。こればっかりはごめんねじゃ済まされん。この罪は重いぞ。俺だって死にかけてる。 俺は明らかな非難の目を轟々と藤原に向けていたが、「……その、」と、いつの間にやら泣き止んでいた橘京子が心苦しそうに、 「あれは……あたしの組織の中で、未来人を毛嫌いしている派閥が起こしたことなのです。あの少年がいなかったら、未来人は過去に来れないって話を藤原さんから聞いていたから。……正直、現代を生きるあたしたちにとって未来からの干渉は脅威でしかありません。でも、だからってあの子をどうにかしようなんて……」 またもや泣き顔になっていく。こいつは悪くなさそうなので気遣ってやろうと思ったが、 「あんたが気にすることはない」 意外な人物が慰めるような言葉をかけた。そいつは続けざまに、 「キミたちはよくやってくれたよ。僕たちは、それを起こすために少年の情報を渡したんだ。あれは朝比奈みくる側に少年を助けさせるための規定事項でね。あの殺人未遂は、他の未来人から少年を守るために必要だった」 わけの分からない理屈を言い出した。俺はしかめっ面で、 「何言ってんだ。守るってんなら、なんでわざわざ他のヤツに襲わせたりしやがる。それに、そうなるように仕向けておきながら、実はこっちに助けさせるのが目的だったってのはどういった了見だ。他力本願な愉快犯のマッチポンプだってんなら話は別だがな」 若干語気を荒げながらの話を藤原は黙って聞いていたが、話が終わると頬杖をついたまま、 「はん。じゃあキミは、見ず知らずの人間から突然『あんたは狙われているから気をつけろ』なんて言われて、そいつの言葉を本気にするのか? 僕なら、逆にそいつが不審人物に思えてしょうがないね」 俺に向けて手をヒラリと返すと、 「わかるか? 少年にちゃんと周囲を警戒させるのには相応の状況が必要だったんだ。しかも、これは朝比奈みくるの上層部と示し合わせて実行したことだ。文句なら、そちらの未来人に言ってくれ」 「……上の人が、そんな…………」 驚き入って茫然とする朝比奈さん。それは俺も同じだったが、「そうだとしても」と糾問を止めず、 「もしあそこでハカセ君が死んじまってたら、お前らも朝比奈さんも困るどころの騒ぎじゃなかったはずだ。車の運転にも、俺が助けることにも万が一ってのがあるだろう」 そうだ。未来ってのが固定されていないなら、ハカセ君と俺が死んじまう事態だって起こり得たはずだ。それなのに、大人の朝比奈さんは藤原たちと結託して、それを俺たちにやらせたってのか……? ……俺の中に抱きたくもない感情が発生していると、藤原は「そんなヘマはしない」と言いながら、どこか思いつめたように、 「未来の規定事項は、過去の膨大な記述統計学に基づく多変量解析によって実行されているんだ。そして、それによって僕の予定表も作られている。他の未来人の邪魔が入ることはあっても、それによって導き出された答えが間違うなんて考えられない。しかし……」 「しかし、なんだ?」 と俺が求めると、藤原は俺を睥睨しながら、 「キミを周防九曜から助け出さなければならないというのは、僕の予定表には入っていなかった。それは、僕たちの分析に誤りが生じた可能性があるということだ。そうなれば、それによって導き出されていた……佐々木を過去に連れて行き、現在を変えるという目的が達成されなくなってしまう恐れがある。だから僕たちは、例え重大なルール違反を犯すことになろうとも、より確実な方法で目的を達成せざるを得なくなった。涼宮ハルヒの能力によって世界を修正し、そして能力を消してしまえば、僕らは正しい世界で過去に行くことが出来るようになるんでね」 「……つまり、それが前回の事件を起こしたきっかけというわけですね」 藤原の話を聞いていた古泉が納得したように言い放ち、そして納得がいかないといった感じで、 「ですが、あなた方が当初予定していた佐々木さんを過去に連れて行くといった行動も、そもそもが重大なルール違反だったのではないですか? 佐々木さんを通して過去に干渉するにしても、今の佐々木さんを過去に連れて行くこと自体が間接的とは言えないでしょう」 「違反には変わりない。が、それは許容範囲内だ。むしろ結果を考えれば、最初からやっておくべきだった」 そうやって俺に顔を向け、 「……佐々木とキミは、将来もっと親密な関係になる予定なんだ。が、その未来を脅かす存在が発生した。当然、それは涼宮ハルヒ以外にいやしない。本来キミと涼宮は、歴史上では単なるクラスメイトの関係以上にはなり得ないんだ。……しかしキミは涼宮に接触し、しかも時間が進むにつれ、キミたちの距離はどんどん近くなっていっている。それによって、将来の佐々木とキミの関係が失われる可能性が強く示唆されていたんだ。そしてここで、組織から一つの対策が生まれた」 それは何か、と前置きし、 「過去のキミと佐々木との関係性を強めて、未来の二人の関係を守ろうという計画だ。そうすれば、その歴史の過程には涼宮ハルヒが時空の断裂を生み出す瞬間は生じない。つまり、二人の間に涼宮ハルヒが入り込まないように対処すれば、時空の断裂は生まれないということだよ」 「ちょっと待て。俺と佐々木がある程度話すようになったのは中三の頃だ。ハルヒの能力が発現したのはあいつが中一のときだったんだろ? 俺と佐々木の関係が始まる前からハルヒの能力は発現してるじゃないか。それは辻褄があってないんじゃないのか?」 俺が言うと、藤原は微量の困惑を顔に浮かべ、 「……キミの言う通り、キミと涼宮ハルヒが出会ったのは能力発現の後という問題が出てくる。しかし、問題といえるのはいつだって涼宮ハルヒの存在だろう。あの女は時間の歪みの原因……説明としてはそれで十分だ。キミと涼宮ハルヒの関係が時空間に影響を及ぼしたのは間違いない」 まったくわからんが、こいつも正直良くわかってないようだ。まあ……ハルヒはいつもややこしい事態を起こすってことか。 「だが」と俺は、「なんで佐々木を過去に連れて行く必要があるんだ。普通の未来人の間接的な干渉方法じゃダメな理由でもあるのか?」 これを聞いた藤原はジト目で俺を見ながら、 「……キミたちは未来の自分という特殊な存在から話を聞かなければ、自分の気持ちを認めるどころか、気付こうとすらしない。これは確かな分析によって裏付けされた結果だ。……その分析の信用も落ちてしまったが、現にキミは今でも認めていないというのがその証拠だ。そして過去の修正へと踏み切った僕たちは、この喫茶店でキミと会合した後で佐々木に話を持ちかけた。過去の自分に会って、今の自分の気持ちを教えて見ないかとね。その話をしたときも嘘はついちゃいない。ただ、世界が変わることについて否定も肯定もしなかっただけだ」 「道理でだ。あいつが今を変えちまうことをハナっから聞いていたら、絶対に話に乗らなかっただろうからな」 「しかし、彼女はそれを望んだじゃないか。その意味が分かるか? キミへの想いに気付かなかったのを佐々木は後悔してたのさ。そして、キミが今も佐々木に対しての昔の自分の想いに気付かないのは何故だか教えてやる」 む、と俺は押し黙り、 「キミの中の佐々木がいた場所に、現在は涼宮ハルヒがいるからだ。上書きというのは厄介でね、忘却よりも強力に情報を消し去ってしまう。キミが今涼宮に感じている想いは、以前の佐々木に対する想いと同じなんだ」 何言ってんだこいつは。俺は中学の頃、ひょっとして佐々木の目の前に猫じゃらしを垂らしたら飛びつくんじゃねえかとか思わなかったし、実際にやってみたとしてハルヒのように握りつぶしてくるとも思えん。 俺が悩ましい顔をつくっていると、 「まあ、実際は涼宮ハルヒの数値が拡大しているだけで、佐々木の数値が消えたわけじゃない。だから、キミもいつか気付くだろう。それに佐々木が過去の自分に会おうと思ったのも、涼宮がキミの隣にいたせいだ。いや、これはおかげというべきか。僕にとっても佐々木にとっても良い……」 コホン。藤原の話が終わる前に佐々木は大きな咳払いをし、 「……その、なんというか……論議を交わすのは素晴らしいと思うのだが、少々周りを見てみてはくれないか? こんな場所でその話をされてしまうと……うん。ここには、顔を赤く染めなければならない女の子がいるはずだが」 耳まで真っ赤にしている佐々木が珍しくモジモジとした口調で喋っている。佐々木は藤原を見て、 「それにね、その件については、既にカレとは話がついているんだ。そしてキミにはすまないのだが、僕はもう過去に行こうとは思わない。約束を反故にする形となってしまうが、どうか分かって欲しい」 「ああ、構わない。どのみち、キミが行きたいと願ったところでもう叶えることは出来ない。僕たちの行動は規約違反の罰則によって著しく制限されている」 そう言う藤原を俺はしげしげと見ながら、 「……どうだかな。やろうと思えば強引にでもやっちまうんじゃないか?」 「出来やしない。僕のTPDD……時間平面破壊装置は没収されている。それに、僕たちは罰則をきちんと受ける」 「どうだろうね。またルールを破って周防九曜を操って行動を起こすかもしれん」 「……はっ」とふてくされたように、「未来人の中でも僕たちのような組織は、世界の調律のために存在するんだ。それぞれの未来人が強引に過去へと干渉したら、それこそめちゃくちゃだ。そうならないように、未来人同士で規則が設けられている。そして僕たちは嘘などつく真似もしなければ、本来規則を破る行為など絶対にしない。自らの存在の意義に反するからだ」 「佐々木まで巻き込んで、あんな事件を起こしときながらよく言えるもんだ」 藤原は「ぐ」っと言葉をなくし、バツの悪そうに、 「……あの僕の任務はルール違反だったが、何故朝比奈みくる側がキミたちを送り込んできて僕の邪魔をしてきたのか未だに理解できない。彼女たちにとっても、過去に行く方法はあれしかなかったはずなんだ。それに、キミたちだって涼宮の能力が消えたところで困りはしないだろう」 ……確かに、あのときは朝比奈さん(大)には何も聞かされず藤原がいた場所に向かわされたな。それに、俺たちにとって大事なのはキングではなくクイーン……ハルヒの能力じゃなくて、ハルヒ自身なんだし。 が、それがもし消えちまってたら、朝比奈さんは未来に帰っちまうのか? それに、古泉の機関はどうなるんだろうか。ああ、長門は多分残るだろうね。情報統合思念体のそもそもの目的はハルヒの観察だ。だから事件の際、思念体は協力してくれたんだろう。ハルヒに余計な刺激を与えないように。 「それに、」と藤原は悩ましげに「朝比奈みくる側は当初、僕たちが現代を変える計画にも難色を示していた。意味が解らない。あれは正しい歴史を迎える為の数値に調整する計画だ。現在のバカげた世界を正しくした上で、僕たち未来人は凌ぎを削れば良い。それにこのままでは、近いうちに全ての未来にとって危険な分岐点を迎えてしまう。『彼女』は規則が設けられている意味も知らず、ただ規則に盲従するだけの木偶じゃないと思っていたが、違ったようだな」 なんとなく大人の朝比奈さんへの評価は良いらしい。が、 「そりゃ、それでも朝比奈さん側は過去を変える行為に抵抗があったんだろうし、朝比奈さんの行動は今のハルヒに関した規定事項とやらが大半だ。それに、俺たちは今を大切にして、その大きな分岐点とやらに正々堂々と立ち向かってやる。そのためにはSOS団が必要だし、過去を変えて現在を修正するっていう反則はやりたくなかったんだと思うぜ。ハル……SOS団が大事だってのは、団員にとっても同じだ」 俺の古典的な決意表明に藤原は「くだらない」と言いやがり、 「キミたちにとってその組織は大事なのかも知れないが、朝比奈みくるにとっては違う。情報統合思念体とやらの目的は能力が発現した場合の涼宮の観察で、そこの超能力者の目的は彼女の保護だろう。彼らにはキミたちのお遊びが多少は有益かもしれないが、僕たち未来人にとっては茶番でしかない。朝比奈みくるの目的は何だったか覚えているか?」 「そりゃハルヒの…………」 と、俺は口を開けたまま停止してしまい、藤原は朝比奈さんに向かって、 「朝比奈みくる。きみはよもや、手段と目的を間違えていやしないか? キミがSOS団とかいうグループに入っているのはキミが未来人だったからで、それだけでしかない。それとも、キミが彼と仲良くしているのは、彼を過去に連れて行き過去の数値を調整するためなのか? だが、それももう叶わなくなっているはずだ。彼はSOS団とやらに相当浸ってしまっている。例えそれが変容した世界でも、彼は本当の世界よりこちらを選ぶだろう」 ――これには絶句せざるを得なかった。俺はかなりのマヌケ顔で凍っていただろう。 前に古泉も言っていた。朝比奈さんは俺を篭絡させることが目的だと。 それは、俺を過去に連れて行くための……本当の話だったってのか? だが、今は……、 「違います!」 朝比奈さんが渾身の否定句を飛ばし、 「……あたしたちの未来を導くには、現在、SOS団の皆の協力が必要なんです。それに……」 世の男共を瞬間ノックアウトさせるような悲しそうに潤んだ瞳を俺に向け、 「あたしが……あたしとして持っている気持ちとしても、みんなはとっても大事な人たちです」 「朝比奈みくる」 と、藤原は朝比奈さんの宣言に感動を起こす暇も与えずに、 「僕たちがここにいる理由は時空の歪みの元である涼宮の調査だ。そして、それは過去に行く為の手段を模索するためで、過去に行くことこそが目的だ。そして、既に結果は出たじゃないか。たとえ過去を修正して情報統合思念体の端末がそれを妨害しようとしてきたところで、こちらの端末でそれを鎮圧すればいい。つまり、あんたたちが僕を妨害する意味などなかった。むしろ逆効果だ。そのせいで、涼宮ハルヒの能力を消して過去へ行く方法と、佐々木を過去に連れて行き現在を修正する方法も今では不可能になってしまった。ふん、攻めはしないさ。形式的には僕の行動の方が間違っている。……しかし、結果はその限りじゃなかったとだけ言っておこう」 少し落胆したように話す藤原に、 「……一つよろしいでしょうか?」 と古泉が話しかけた。古泉は藤原の返事も待たずに、 「もしその歴史が修正されてしまえば、現在の佐々木さんは存在しないはずです。これはタイムマシンのパラドックスと同じで、居ないはずの佐々木さんをどうして過去に連れて行けるというのでしょうか」 疑問の質問に応じようとする藤原からは哀愁の色が消え、またさっきまでの横柄な態度を取りながら、 「佐々木を過去に連れて行くのは可能だ。この時代の人間に分かりやすく説明するなら、そうだな……テレビゲームというやつが捉えやすい。個別にセーブされたデータは、以前のデータが変わってしまったからといって後のデータに影響を及ぼしたりはしない。すべてそのデータ内で行われることだ。これが時間平面理論の基礎だというのは理解できるな。そして僕たち未来人は、いわばゲームのクリアデータってところだ。そのデータで過去の物語に入り込むから、僕たちはキミたちの知らない情報、アイテムを現代に持ち込むことが出来るというわけだよ」 「待てよ。おかしいじゃないか。だったら、過去を変えたって未来にはなんの影響もないって話になる。お前の行動の理由にはならないはずだぜ」 藤原はやれやれといった感じで、 「言っておくが、未来はまだ確定しているわけじゃない。だからこそ多様な未来人が存在し得るんだ。これはつまり、逆に未来が確定した瞬間が未来人の最期だということになる。【選択された未来の歴史によって他の未来の歴史は上書きされてしまうために、選択されなかった未来は消えるんだ。】このように、分岐点での選択によって未来の決定は成されている。だから僕たちのような未来人は、選択肢を自分の存在する未来に繋げるために動いているってわけだ」 「ほう。それはつまり、『平行世界は存在しない』ということを示しているのでしょうか? そして、過去と未来は関連しているが、時間平面は独立しているために未来は過去に干渉し合えるというという」 「概ねその通りだ」 藤原は何かを理解し始めた古泉に、 「時間平面破壊装置はこの理論に基いている。これはあの少年が構築した理論だが、実際は元々世界に存在していた法則を発見しただけに過ぎない。つまり、人間によって創造されたものなどは存在せず、僕たちの世界には最初から全てが存在しているということだ。……だから涼宮ハルヒの創造能力は、不明なものを明らかにするだけの能力と考えられていた」 「うん? 過去形になってるようだが、それは間違いだったってのか?」 俺の質問に、藤原は悩ましげな顔と低調な声で 「……ああ。大間違いだ。時間平面が独立しているという考えは本来矛盾しているんだよ」 「そんな、時間平面の理論体系は完全に成立しているはずです。その理論が正しいから、時間平面破壊装置が機能しているんじゃ……」 「なっ……」 藤原は朝比奈さんから豆鉄砲を食らったように目を丸くし、その数瞬後にはまくしたてるように、 「はっ。これは驚きだ。信じられないな。成立してしまっているから全ての矛盾が発生しているんじゃないか。それすら知らされてなかったとは、キミはまさに人形だ。そうだな、キミにはお茶運びのからくり人形が適任だ。せいぜい涼宮ハルヒに遊ばれているがいい。ふん、ちっとも笑えやしない」 ……本気でぶん殴ろうかと思った。こいつはインターフェイスを人形と呼ばなくなったと思いきや、朝比奈さんに対しては極めて明確な嫌悪の情をぶつけてきやがる。俺は「ひう」とたじろいだ朝比奈さんの代わりに、 「意味がわかりかねるな。時間平面理論ってのは物理法則なんだろ? それに矛盾があるなら、この世界は崩壊しちまうんじゃないか?」 藤原は眉をしかめて、 「むしろ世界を崩壊させないために矛盾が発生している。本来この三次元の世界は、箱の中に満たされた『光』みたいなものであるべきなんだ。そして、僕らの物質的なTPDDはその時間の性質を応用して機能している。元になる理論体系は、この世界を『面』の集合で捉えた時間平面理論とは違い、『点』の集合で捉えた理論だ。そして、『点』の理論を元にしたTPDDが機能しなくなったのは『点』の理論が崩壊しているからだというのが判明した。世界人仮説という、一つの理論によってね」 「……世界人仮説?」 「世界を『人間』に見立てて考えた理論だ。つまり、『人間』は色んな形から形成され、時の流れによって存在する。人は生まれてから一本の道を歩み、そして体と情報は伝えられていく。人生とは時の流れの連続であり、生まれてから死ぬまでの一本の線なんだ。……そして、この世界人仮説を唱えた者によって、新たな次元の存在が展開されている」 「新しい次元?」と俺。 「それは他人という『異次元』だ。世界人仮説では、進化には『他人』と関連しあうことが必要であり、存在同士が対になることによって進化という現象が促されると考えられている。物質と物質、人と人が惹かれあうのは当然で、他人と関わる行為こそが『進化』するためには必要。世界は、そうやって作られているんだとね」 ……ん? それって、情報統合思念体にとっての自立進化がどうのとかのヒントなんじゃないか? 「……長門。お前、藤原の話聞いてどう思う?」 長門は俺をゆるりと見やると、 「意味が解らない」 本当に解ってなさそうだったので、 「理論的なもんはお前の専門じゃないか。藤原の話が間違ってるのか?」 長門はふるふるとショートヘアを揺らし、 「そうではない。彼の理論は人の言葉によって作られている。つまり、理論形成がとても人間的。彼の主張が正しいのかどうかすら思念体には理解出来ないということ」 「く」 藤原は長門の言葉を聞いて息が詰まったような笑い声を出し、 「――はっ。人間的か。……くくっ、確かにその通りだ。ふくっ、この世界人仮説を作ったヤツはある意味でひどく人間的だ。はっは、それが理論にも漏れ出し……くっ、あんまり笑わせてくれるな……。それに長門、あんたはそうやって静かにしているほうが似合っている。ははっ、不気味でもあるが……くくく」 笑い過多な台詞を吐くな。それに馴れ馴れしい。しかも、笑っている理由がまったく不明である。 「それに、まさかあんたも人型端末だったとは驚きだ。『アレ』は今も大事にしているのか? 僕がちょっと触っただけで……と、これは禁則だ」 もしかしたらセクハラの内容かもしれない話をしている藤原に、 「…………?」 長門は、サイズ的には特大の称号を与えられるクエスチョンマークを頭上に浮かべている。 そんなやり取りをしている間、ずっと思案顔を浮かべていた古泉が、 「世界人仮説によって、どのような時間平面理論の矛盾が指摘されるのですか?」 「現在の次元の構成が変わってしまっているということ、それにより世界の法則が変容してしまっているということだ。現在の次元の姿がどういったものなのか……説明が面倒だな。仕方ない。九曜、キミの手を貸りるとしよう」 藤原が「頼む」と周防九曜に声を掛けると、周防九曜の眠たそうな瞳には生気が灯され、 「―――指定空間座標認識。極局地的光学式理論形態模型、展開――」 第三章