約 3,194 件
https://w.atwiki.jp/indexorichara/pages/703.html
輝石ノ森工業高校(きせきのもりこうぎょうこうこう)45/400 全校生徒約400人の工業校。共学ではあるが男女比は男7 女3である 指定の制服は無く、学生は全て私服で登校している。大覇星祭の成績は中程度 レベルによる入学制限は無い。近隣に国鳥ヶ原学園がある 最新設備を誇る学園都市内でも有数の工業校で、幾人もの著名な人物が輩出されている 校風は自由を謳っており、校則のような物も存在しないが、これは生徒自身に責任の重さを自覚させるという校長の方針が反映されている その為に校内外で様々な問題(国鳥ヶ原生を対象とした恐喝や暴行等)が発生しているが、高校側は最低限のフォローしかしない 言い換えれば絶対に越えてはならない線の一歩手前に踏み止まらせている 最終的な判断としてはもちろん高校側>生徒側という力関係ではあり、後述の生徒会の決定も高校側の認可が必要である そのかわり、自主性を育むという目的で、学校行事等の運営は学生側にほとんど任せており、 その舵取りや校内の治安対策を『輝石生徒会』が担っている 会長1名、副会長1名、他の生徒会役員9名の合計11名。合議制・多数決を採用している 高校内に風紀委員の支部が設置されているが、他校に通う風紀委員も支部員として受け入れている 生徒会から治安対策を任されており、必要があれば生徒会と連携して事に当っている ちなみに生徒会役員の中で風紀委員を兼任しているのは2名(但し、会長及び副会長は風紀委員と兼任不可) ・教師 賢楼耕子 神挿晴香 ・輝石生徒会 会長 丹波平次(2年) 副会長 左右木蒼(2年) 書記 藤鳴雛芥子(2年) 会計 功刀圭財(2年) 能力開発委員長 京極翡翠(2年) 生活委員長 凍堂由紀(3年) 図書委員長 書崎工(2年) 保健体育委員長 餌四坂満(2年) 美化委員長 金小路天舞(3年) 選挙管理委員長 阿左美薫(3年) 部活動代表 丹波こたろう(1年) ※「能力開発委員長」 校内の能力開発カリキュラムを主導する委員会の長。高校側に設備等の要望を出したりもしている ・他校から出向している風紀委員 穫才真理 村前陽華 ・一般生徒 ※★は輝石生徒会メンバー 一年生 丹波こたろう★ 芙踊舞 サントワーヌ・プリズンシックス 葉野計路 吉田哀迷 加計木硯 風祭守 鮮錐麗跨 全妹蒔苗 東波瑞紀 最上来愛 金小路美麗 宇院羽里 葉露深波 二年生 丹波平次★(会長) 左右木蒼★(副会長) 藤鳴雛芥子★ 功刀圭財★ 京極翡翠★ 書崎工★ 餌四坂満★ 美池真鈴 希河草弌朗 埋火鳶丸 常世離隔 柳谷綿雄 追向功志 綿杜篭則 月壁未來 釜堅蓮星 武佐千導 己道輪佳 破多野六海 十朱士粒 黒桑百合碑 重羽翼 百目鬼誉 洲宮繍水 大玄利則 雨戸速那 三年生 凍堂由紀★ 金小路天舞★ 阿左美薫★ 鴫原藻亀 破多野五海 重羽美鳥
https://w.atwiki.jp/hellowd/pages/117.html
魔人とは 魔人とは、人間の域を超えた身体能力や技術を持ち、また固有の超能力(特殊能力)を備えた存在です。 彼らは生まれた時からそのような力を持っているわけではなく、何らかのきっかけによって魔人に覚醒します。 覚醒者の傾向 日頃から妄想ばかりしている人や、目立ちたがり屋、「オレは他のヤツラとは違う特別な人間なんだ」と思い込んでいる人などが魔人になりやすく、幼児期や少年期、特に中学二年生頃は魔人覚醒の可能性が高くなります。そのため魔人の持つエネルギーのことを、専門家は「中二力(ちゅうにりょく)」と呼んでいます。 幼児期の子供は、手からエネルギー波を出したりする漫画の主人公などに憧れることが多く、覚醒した場合は特殊能力も攻撃的なものとなる傾向にあります。一方、中学~高校生頃に覚醒した魔人は、男女を問わず性的な能力を得る者が出てきます。 一般的な中学、高校では、1学年に2~3人の魔人が含まれます(治安の良い学校における不良の割合と同程度)。ただし、魔人は差別の対象になりうるため、特定の学校以外では自分が魔人であることを秘密にしておくのが普通です。 自分の能力に無自覚であったり、その力の詳細を知らない者もおり、同年代の不特定の他者が作り出す集合的無意識によって魔人となるものもいるとされています。 また、ごく稀にではありますが、魔人として覚醒しやすい血統を持つ人間も存在します。 特殊能力 魔人の持つ特殊能力とは、「自己の認識を他者に強制する能力」であり、もっと端的に言うならば、「自分の妄想を他人に強制する力」のことです(ゲーム的には「プレイヤーの妄想(した超能力)を他者(他プレイヤー/ゲームキーパー/ゲーム全体)に強制する」と考えて下さい)。 魔人同士の戦いとは互いの妄想のぶつけあいに他なりません。 特殊能力は魔人にとって自己のアイデンティティに等しいものです。そのため、思春期の魔人たちは「自分らしさ」を表現するために能力を行使しようとする傾向があり、理由なき暴力、理由なき殺人を行う魔人も珍しくはありません。 そのため、魔人は社会的には犯罪予備軍として認識されており、周囲からは差別的な視線を送られています。 魔人の突発的犯罪、すなわち、「キレる魔人」は社会問題となっており、老人などは「ワシらの若い頃は村ぐるみで魔人を教育しとったから、今の若い魔人のように凶悪犯罪を犯すことはなかったんじゃ」などと言いますが、実際の魔人の犯罪率は以前に比べ減少傾向にあります。 差別 魔人は差別の対象となることがあります。 そのため、理性的な者は自分が覚醒しても能力を見せびらかしたりはせず、ひた隠しにします(シークレット)。 ただし、そのような理性的な魔人は、調子に乗ってすぐに能力をひけらかす魔人に比べて中二力が弱く、能力や肉体の強さで他の魔人より劣る傾向にあります。 死ぬまで魔人 覚醒した者はその後元に戻ることは無いため、若者だけでなく老年の魔人も多くいます。 彼らは雇用差別や住居差別を受けることが多く、その鬱憤からやはり突発的犯罪を犯しがちです。犯罪者にならずとも、アル中になったり、ホームレスになったりする者も少なくありません。 中には魔人の力を使って事業などに成功し、巨万の富や権力を得ている者もいますが、彼らは一般人から妬まれ、ユダヤ人や客家のように扱われます。 魔人の覚醒には遺伝要因もあるらしく、成功した魔人の一族郎党が集まり、財閥のような形を取ることもあります。これら一族では子や孫が魔人へと覚醒することを厭わず、むしろ覚醒を促すような教育を施すケースもあり、「児童虐待ではないか?」と社会問題になっています。 また、スポーツをする者の中には、強い相手との出会いを繰り返すことで魔人としての力が飛躍的に増大するケースがあるようです。 なお、魔人の中には、大人になってから自分の特殊能力を「恥ずかしくて仕方ない」と思うようになる者もあり、場合によっては、鬱病や強迫神経症へと発展します。カウンセリングに行くと、「それもあなたの個性なのよ」と慰められます。 その一方で、「ウオオ、オレの能力マジかっけえ!」と、一生自分に酔い続けている魔人もおり、彼らは周囲の差別など屁とも思わず、一生、明るく楽しく楽天的に生きます。 魔人警察官 警察も魔人を採用して、魔人の凶悪犯罪に対処しています。 魔人警察官は、魔人が就職できる数少ない採用口であり、非常に倍率が高いです。 また、他の魔人に比べ、一般人から受ける差別も比較的少なくてすみます。その代わり、魔人警察官は他の魔人に対する差別感情が強く、犯罪を犯した魔人への取調べは苛烈を極め、しばしば社会問題となります。 魔人警察官の他には魔人機動隊もあり、1970年代初頭、過激派魔人学生が起こした山荘立てこもり事件に出動したことで有名になりました。自衛隊にも魔人のみを集めて構成された魔人中隊があり、魔人の一個小隊は通常の大隊相当の戦力にあたると言われています。 なお、魔人自衛官は通常の二階級上の給与を得られますが、佐官へは昇進できません(魔人中隊の指揮官は一般人の一佐が務めます)。学園外での魔人の犯罪やテロ行為に対しては、これら魔人警察官等が対策に当たります。 治外法権地区 学園内での犯罪に警察権力は介入できません。 1960年代に活発化した魔人学生による学生運動の結果、1970年代初頭に「学園自治法」が制定されたためです。これにより、全国の小・中・高・大学は校則を唯一の法律とする治外法権特区となり、学園内の治安は自己責任となりました。 学園側は魔人体育教師などを雇い学園の治安維持に努めましたが、魔人学生たちは番長グループを組織してこれに対抗。多くの学園では番長グループが勝利し、学園を暴力で支配したため、校則は形骸化しました。 1990年以降は、全国の手の付けられない魔人学生たちを私立希望崎学園他、いくつかの学園に集めることで、多くの学園の治安は回復して来ています。こういった魔人の受け入れを行う学校は、一般的に魔人学園と呼ばれます。 しかし、それでも魔人の突発的な覚醒は防ぎようがなく、魔人学生による大量殺人は年に十数件報告され、ワイドショーなどで面白おかしく取り上げられています。 なお、希望崎学園は魔人の占める割合が高いため、学園内での魔人への差別感情も少なく、治安はともかくとして魔人の精神衛生上はむしろ外部世界よりも良好です。 転校生 転校生とは、何らかの条件により魔人から進化する突然変異体ですが、詳しい発生原因などは解明されていません。 もともと持っていた魔人としての能力は消失し、代わりにまったく異なるロジックの能力を身に着けています。 身体的にも、能力的にも魔人を凌駕する恐るべき存在です。 彼らは契約によって召喚され、さまざまな次元を渡り歩きます。
https://w.atwiki.jp/dangeurarace/pages/71.html
本戦SSその9 5月6日 夕刻――希望崎学園職員校舎三階、生徒会室。 (い、息が詰まりそう……!) 敬愛する『お姉様』の隣、天雷テスラは心中で悲鳴をあげた。 「……ビスマルク風紀委員長、どう思う?」 専用席で肘をつき両手の指を組む、神経質そうな眼鏡の男――生徒会長・学園型マーリン。 両脇を固め鋭い眼光を光らせる、熊のように屈強な二人の護衛――無言の圧力 =『会長に文句があるならかかってこい、俺たち二人で皆殺しにしてやる』 「校則違反四天王による購買部襲撃計画、怪盗ミルキーウェイの犯行予告。――本来ならば、販売そのものを中止してもらいたいぐらいですな」 高校生らしからぬ白髭を蓄えた、厳めしい風貌の男――風紀委員長・ビスマルク正太郎。 ソファーからいつでも立ち上がれるよう、中腰の姿勢を崩さない。 背後にずらりと並ぶ、後ろ手を組んで胸を張った十六名もの風紀委員たち =秩序の担い手たる正太郎の武力誇示。 その内の一人、天雷テスラ――気丈な表情を崩さず/内心穏やかではいられない/ささやかなる祈り。 (お願い、はやく終わって) 「それはできませんわ、焼きそばパン販売には購買部の威信が懸かっているのですから。もし生徒会の指示で販売を止めたとなれば、支持率にも関わってくるでしょうね?」 蠱惑的な自信家の笑み――購買部部長・商屋(あきや)ネネ。 校則ギリギリのスリット入り超ミニスカ+計算し尽くされた足組み角度。 ――その背後に血の気の多そうな十三名の護衛たち =会長 風紀委員長(石頭ども)への断固たる意思表示。『こちらに恭順の意思はナシ』 「校則違反四天王をあらかじめ捕えておくことはできないんですの?」 「奴らは神出鬼没ですからな。それに、拘束するならば何かしらの罪状が必要になる」 「いずれにせよ、ミルキーウェイにも対策を講じねばなるまい」 そう広くもない室内に詰めた三十名あまりの生徒。そして、それ以上に張りつめた空気。 あからさまに火花を散らす正太郎とネネ/伝染する不穏な空気/平行線をたどる議論。 そして、永劫にも感じられる時間の末 ――生徒会長が購買部側への歩み寄りを見せ、ようやく終結を迎えようとしていた。 「では会長。明日は仮設店舗を設置し、そちらで営業を行うということでよろしいでしょうか?」 「うむ。風紀委員も校則違反者の取り締まりをよろしく頼む」 「……はっ」 「では、これにて解散とする」 伝説の焼きそばパン入荷を明日に控えたこの日。 校則違反四天王による放火計画、そして怪盗・ミルキーウェイによる犯行予告を受けて、購買部では特殊措置が取られることとなった。 すなわち本店舗を囮とし、速やかに襲撃者を捕縛。リスク排除が完了し次第、別の位置に仮設した店舗の位置を全校放送にてアナウンスするというものである。 「あの、お姉様」 会議を終えた直後の廊下で、天雷テスラは『お姉様』こと車口文華に秘かに問うた。 「……どうかしましたか、テスラ?」 「さっきの話、テスラが聞いていても良かったんでしょうか?」 テスラは明日、風紀委員としての取り締まり活動と並行し、 焼きそばパン争奪に参加する手筈となっている。 生真面目な性根ゆえに、事前の情報アドバンテージを得たことを気にしているのだ。 「……詳細な設置場所は伏せられていますからね。知っているのは購買部のメンバーだけ……公平を期す為、そして情報の漏洩を防ぐため、私たち風紀委員や生徒会にも明かされません」 厳密に言えば、状況判断に費やす時間分だけの優位はあるだろう。 しかし、それもほんの些細なものである。 文華のその答えは、妹分の遠慮を取り払うに足るものであった。 が、テスラにとって不安の種はそれだけではなかった。 「あの、これって風紀委員の戦力は襲撃者対策に集中するってことですよね? 大丈夫でしょうか?」 取り締まるべき相手は校則違反四天王だけではない。 『番長グループ』を始めとする普段から素行の悪い者たちはもちろん、焼きそばパンを欲しがるがゆえ非行に手を染める生徒も現れるかもしれない。 そういった者への抑止力となるのが、風紀委員の本来成すべき仕事ではなかっただろうか? 文華はふわりとした笑みを浮かべて、テスラの頭を撫でながら答える。 「……そうですね。だからこそあなたに、一刻も早く焼きそばパンを確保してほしいのです。焼きそばパンさえ売れてしまえば、争う理由などなくなるのですから……期待していますよ、テスラ」 「!……はいっ、お姉様!」 テスラは顔を紅潮させながら、嬉しそうに返事をした。 ――希望崎学園、地下。 黴臭いコンクリート張りの一室――計器の明かりだけが灯る薄暗い部屋に三つの人影。 「ククク、どうだァ『カンニング』、首尾の方はよォ?」 品のない男の声。 闇の中でも特徴的なシルエット――高い背丈、ボロボロの学ラン、リーゼント。 「ここまでは計画通りに進行している、『カツアゲ』。購買部は本店舗から退避し、仮設店舗で営業を行うとのことだ」 無感情な声。 耳に手を当てる仕草――先の男と比べ、あまりにも特徴のない影。 「ギャハハ、あのマヌケども! よくもまあこっちの思惑通りに動いてくれるモンだよなァ!」 「フン、当然だ。……『放火魔』の様子はどうだ、『人体錬成』?」 「徐々にですが脳波が覚醒状態に近づいていますネェ~~~~~~っ! ”停学”が明ける明日には完全に目覚めるでショウ、イヒヒィーッ!」 甲高い声。 ――機敏なミーアキャットめいて挙動不審に動く/白衣の袖が揺れる。 「……こんな怪物が、本当に我々の手に負えるのか?」 「なんだァ? テメェまさかこんなミイラにビビってんのかァ? ギャハハ! こりゃケッサクだ!」 「ご心配には及びませんよォ~~~~~『カンニング』さァ~~~~んッ! このワタクシの天才的科学知識によって既に制御率は99.99998%に到達しているのですからねェ~~~~~~~ッ」 『……ゴポッ……』 強化プラスチック製の水溶液シリンダーの中でひっそりと寝息を立てる、ヒトに似た何か。 ――その眼が見開かれ、ぎょろりと三人を睨み付ける。 「だと、いいがな……」 ――並行世界、山口新世界萬請負事務所。 「~~~♪、~~~~~♪、~~♯♪~~~」 「どうした? 鼻歌なんて歌って」 「なんでもない。そうだ、明日の朝早めに起こしてくれる?」 「いい加減自分で起きろって。まあいいけど……随分ゴキゲンだな、連休も終わりだってのに」 「そうかな? ふふ……」 「学校、楽しいか?」 「うん。……あのね、友達もできたんだよ」 「へえ……! そりゃあ良かった」 「今度連れてきてもいい?」 「ああ、もちろんだ」 「~♪~~♪、~~~~~~♪」 5月7日 昼休みまであと3分。 教室中が、そわそわしている。 朝のうちはみんな如何にも 『焼きそばパン争奪戦なんて俗っぽいイベントには別に興味ないぜ』という態度だったのに、 二時間目の頃には 『記念に参加してみても悪くないよね』とか、 三時間目の頃には 『このビッグな祭りに乗り遅れるやつはありえない』みたいな雰囲気が出来上がっていた。 そして今、四時間目の終了間際。 誰も先生の話なんて聞いちゃいない。 いつもイビキを立てて爆睡している番長グループのモヒカン太郎くんは、コンクリート掘削機を思わせるような激しい貧乏ゆすりで騒音レベルをいつもの1.5倍ほどまで引き上げている。 (「ねっ、リリア。もうすぐだね」) 隣に座るメリーの囁くような声。 (「私語してると購買利用禁止にされるよ、メリー?」) (「……」) こくり、と頷いてすぐに黙り込む。素直でとてもよろしい。 あたし以外にはきっと分からないだろうけれど、クラスで一番張り切っているのがメリーだった。 この子は感情があまり顔に出ない。 じゃあどこで判断すればいいかというと、口にする言葉をそのまま信じてあげればいい。 それさえ分かっていれば、これほど付き合いやすい子はそうそういない。 だから、時々不安にもなる。 この子は嘘もつけないし、人を疑うのも下手すぎる。 あのいかにも怪しげな、伝説の焼きそばパンとやらのことに限らず。 いつかどこかで真っ赤な悪意に晒されて、この子は酷く傷つけられてしまうんじゃないだろうか? あたしが守ってあげられるだろうか――誰よりも真っ赤なあたしなんかが? 本当はこうして、隣にいる資格さえないのかもしれないのに。 『――キーンコーン カーンコーン』 チャイムの音に意識を引き戻される。 ――目の前を銀色の風が横切る。 「行ってくるね」 透明な翅をその背に生やし、窓枠に足をかけながら、メリーがあたしにひらひら手を振る。 そのまま勢いよく蹴り出してお空にダイブ――あっという間に飛び立つ。 クラスメイトたちの唖然とした顔。 あたしはなんだか、笑いたくなるのを堪えられなかった。 そうだった。あたしがウジウジ悩んでいても、メリーはやりたい放題で最強なのだ。 そう、思った時だった。 ドォンッ――――!! 窓の外から響く、もの凄い衝撃音。 砂埃が窓から容赦なく吹きつける。 「ケホッケホッ!」 何が起こったのか理解できない。爆発? 地割れ? ……メリーはどうなったの? 次第に晴れていく砂煙……窓の外に広がる光景に、クラッときた。 購買部のプレハブ小屋。エプロン姿の売り子。 プレハブ小屋。売り子。プレハブ小屋。売り子。プレハブ小屋。売り子。プレハブ小屋。売り子。 プレハブ小屋。売り子。プレハブ小屋。売り子。プレハブ小屋。売り子。プレハブ小屋。売り子。 プレハブ小屋。売り子。プレハブ小屋。売り子。プレハブ小屋。売り子。プレハブ小屋。売り子。 あたり一面を埋め尽くす真っ赤な購買部の群れ。 『――ピーンポーン パーンポーン』 全校放送を告げる音。嫌な予感しかしない。 『購買部代表、商屋ネネです。 ――私たち購買部は本日皆さんに、特別な趣旨のお祭りをご用意いたしました』 『窓から見えるどれかひとつだけが、本物の伝説の焼きそばパンを売っています。 ――さあ皆さん。見事本物を探し当て、栄光をその手に!』 『――ピーンポーン パーンポーン』 一瞬、時間が止まったみたいな静寂。そして、 「「「「「「……うおおおおォォォォーーーー!!」」」」」」 喧噪が爆発した。 一部の魔人にとって絶対有利のはずの争奪戦が、 一転して全員が勝機を持つ運試しゲームへ早変わり――んなわけあるか! 一斉に教室を飛び出すクラスメイトたち。 あたしは今、何をすればいい? 「……伝えなきゃ」 回らない頭でなんとか答えにたどり着き、 そこから更に息を大きく吸い吐きして、ようやっと脚が動く。 メリー――赤くない女の子。 何がなんだか分からないけれど。あの子のことを傷つける嘘から、あたしが守ってあげなくちゃ。 予定にない不可解な校内放送。 ――天雷テスラが直後にとった行動=一斉に昇降口へと向かう人の流れを遡行し、二年生の教室へ。 パルクールめいて壁を蹴り、人波を飛び越える ――重力に逆らうスカート/見えそうで見えない鉄壁のカーテン。 ひとつ上階の2-3教室へあっという間に到達――僅か20秒足らず。 「何が起きているのですか、お姉様!?」 セミショートの髪を激しく揺らしながら、叫びと共に教室へ――文華の姿は無し。 机に一枚の書置き。 『テスラへ 私は放送室に向かいます』 お姉様のいつもの悪癖――思いつくままフラフラ行動。言葉足らずに周囲を振り回す。 今から追えばすぐに合流できる ――駆け出そうとして、小さく荒い文字で書き足された続きの文に気付き、はっとする。 『あなたはあなたのすべきと思うことをしなさい』 ――テスラとて、文華をただミステリアスで麗しい憧れのお姉様というだけで慕っているのではない。 たしかに彼女はいつもぼんやりとしていて、何を考えているかよく分からないなんて言われる。 けれど、いつだって本人なりの意図はちゃんとあるのだ。 しかも今回は、星空が綺麗だったとか、ピラルクが見たくなったとかよりもずいぶんと分かりやすい。 (分かってます……テスラだって分かってるんです、お姉様……) 使い勝手の良い戦闘向きの能力を持ち、頭が良く回り、正義感も強い優等生。 先輩の世話を焼くのが好きな、風紀委員一年生の有望株。 そんなものは全部周りの評価だ。テスラ自身が一番よく理解している。 自分は誰かに決めてもらわなければ、何もできない人間だ。 今こうやって指示を仰ぎにノコノコやってきたことが、それを証明しているではないか。 状況は既に大きく動いた。ここからどうすれば正解かなど、文華とて分かるものではない。 だから、あえて自分の頭で考えよと言っているのだ。薄弱な意志を捨て、ここで変われと。 理屈としては分かる。でも――でも、だからって。 (――ああ、お姉様! よりによって、今じゃなくてもいいじゃないですか!) あえて切迫したこの時に試練を課してくる辺りは、いかにも彼女らしい。 (もう! テスラは……テスラは早くこんな騒動を解決して、お姉様と焼きそばパンが食べたいのです) 書置きをクシャクシャに丸めてゴミ箱へと放り投げ、テスラは再び駆け出した。 すべきことなんて分からない。 けれどがむしゃらに走れば、その先に何かが見つかると信じて。 新校舎二階、女子トイレの個室。 脱いだ制服をスクールバッグに収め、夜色のドレスを身に纏う。 目元にマスク/ふたつ結びのウィッグ/洒落たシルクハット。 誰にも知られることなくひっそりと、少女(浅葱)⇒怪盗(ミルキーウェイ)への転身を遂げる。 ――怪盗に最も求められる能力とは、引き際を誤らないこと―― 魔人に覚醒したきっかけ――聖典とも呼ぶべきかの少女アニメ作中においても、繰り返し描写されていた由緒正しきハウツーである。 ゆえに、狙った標的を一度たりとも諦めたことのない超一流怪盗であるミルキーウェイにとっても、それは絶対の原則である。 『この状況は明らかな想定外だ。偽購買部の大量出現……校則違反四天王の所在も判らん』 耳元に当てた改造ピンバッジから聞こえる、荒い音声。 引き際を知るには、情報の収集・統合が不可欠だ。 例えばこうして、治安機構の通信を傍受することが一番手っ取り早いやり方だった。 『ビスマルク委員長。商屋ネネが、私たちを陥れるために催しを隠していた可能性はありませんか?』 『ゼロとは言わん。だが、限りなく低い。我々を謀れば、生徒会長がそれを看過しないだろう。それを理解できぬほどアレは愚かではない』 (んー、なるほど……購買部にも風紀委員にも、今のこれはイレギュラーってわけね) 優れた怪盗は時に、探偵としての役割も求められる。 推理力か直感力、あるいは両方に長けていなくてはならない。 校則違反四天王による放火計画、ミルキーウェイの名を騙る偽の予告状。 それに対する購買部の方針――会話から察するに、別店舗を設置して襲撃の矛先を逸らすこと。 そこまで含めて、やつらの思惑通りだとしたら? 『放送室にいるはずの商屋部長と連絡がつかん。彼女が連れていた護衛たちにもだ。 ――車口、現場に向かい他の風紀委員と合流、お前が指揮を取れ。 念のため一年は使うな、情報がどこかから漏れているかもしれん』 『……既にそう動いています』 (いや、今まさにこうして簡単に盗み聞きされてるんだけど。 ……あいっかわらず、どっか抜けてるのよねぇ風紀委員) さて、ここからどう動くか。 浅葱としては、偽の予告状を送りつけた誰かさんさえギャフンと言わせられればそれでいい。 伝説の焼きそばパンを早々にゲットして、状況を収めてしまうのが一番だろう。 だが、一体どこにある? 本物の在りかは風紀委員ですら知らない。浅葱自身も放送室を目指す? じっと思案――ふいにピンバッジから響く、許しがたい言葉。 『車口、すまんがしばらく連絡できん。私も動かねばならんようだ。 怪盗ミルキーウェイから、新たな予告状が届いた』 昇降口を出たすぐ先に、ごった返す生徒たち。 人の群れを掻き分けながら、なんとか前へと進む。 メリー、どこまで飛んでいっちゃったの? 「焼きそばパン一個108円! 本物かどうかは買ってからのお楽しみでヤンスよぉ~~~!!」 「たった108円で夢があなたのものでヤンスぅーー!!!」 乱立するプレハブの群れ。店先に出て声を張り上げる売り子たち。 見渡す限りの赤、赤、赤。 誰も彼も、その中へと飛び込んでいく。 「焼きそばパンひとつ!」 「ゲヘヘ、お買い上げありがとうございやんすーッ!」 「こっちにも頂戴!」 「ヘイ! 108円でやんす!」 大半の生徒――ひとつふたつ、宝くじ感覚で買ってその場で食べ始めるか、あるいはそのままポケットなり鞄なりに突っ込む。 「ブヒヒヒヒ! 箱で持って来い! 箱で!」 「こっちにも! トレーラー一杯分持って来いでヤンス~!」 「ゲヘヘ! 毎度ありでやんすッ!」 一部の生徒――財力に飽かせて買占める。 っていうかあんな『毎晩ロマネ・コンティ開けてます』みたいな生徒、うちに居ただろうか? 「ファックイエー!」 「お、お客さん、お金を払っ……」 「ファックイエー!」 「ギャァァーーんすッ!?」 一部の生徒――売り子に殴りかかっては半殺しにし、次々と焼きそばパンを奪い取っている。 「ファックイエー!」 かと思えば、食べるでもなくその場で握りつぶして地面に捨てた。 何がしたいんだろう……? あとなんか……よく見るとあの売り子たち、全員同じ顔じゃない……? あちらこちらの地獄絵図みたいな光景に、足の運びもついつい遅れる。 ふと、誰かに肩を叩かれた。 ――もしかしてメリー? 期待とともに振り返り、一瞬で失望する。 どこかで見たという覚えだけはある、背の高い女子生徒。ぶっちゃけお呼びじゃない。 「やあ、赤根リリアさんだね?」 妙に馴れ馴れしく話しかけてくる、いかにも会話慣れしてますという態度。 つまり、あたしの苦手なタイプだ。 「えーっと、あなたは?」 「私は三年の狼瀬(ろうせ)白子(はくこ)。いやなに、ちょっと君に聞きたいことがあるだけで――」 みなまで聞かず、あたしはそのまま全力で駆けだした。 今あたしはとても急いでいるし、嘘つきに構っている時間はない。 「っ、待て! 私に害意はない!」 ――ますます止まるわけにはいかないじゃん! あたしが何をしたっていうんだろう。恨みを買ったような憶えは全くないんだけど。 叫びながら追いかけてくる狼瀬白子――やばい、この人めっちゃ足速い。 「待て、と、言、って……なっ!?」 狼瀬が何かに驚く。あたしの進行方向――何もいない? 否。目線を少し上にずらすと、空中に浮かぶ人の影。 残念ながらそれは、あたしが今一番会いたいあの子じゃなかった。 高校生――どころか、人とも思えないような恐ろしいほどの美貌。 出るところは出て引っ込むところは引っ込んだ、理想的なプロポーションを強調するサスペンダースカートの制服。灰色の髪にキャスケットをちょこんと載せ、手に握るのは小洒落たステッキ。 そして――そして。 見る者をなぜか不安にさせる、固く細く閉じられた両目――糸のような、細目! 「おやおやおやおやァ~~~? あなたはこの一級幻想派探偵助手である伊藤風露の親愛なる相棒・赤根リリアさんではありませんかァ~~~ッ!」 なっ、なんだこいつ!!? 「なんだとはひどいですねェリリアさァ~~ん!! つい先日、仲良く希望崎学園五〇〇〇m高空を一緒にお散歩したことを覚えていないのですかァ~~~~ッ!!!?」 ありえないほどに早口で全く身に覚えのない友情エピソードを語り始める自称探偵助手。 しかも言葉が赤くない――つまり、嘘をついているつもりが一切ない。 希望崎学園名物、野生の狂人だ! お願いだから今すぐその長い舌を噛み切って死んでほしい! 「空を飛ぶ一年生……写真と違うが君がメリー・ジョエルか! 恨みはないがここで討たせてもらう!」 こっちはこっちでなんかありえない勘違いをしている。 こいつがメリーであってたまるか! 「あなたのなんか叙述トリックとかに使えそうな素晴らしい魔人能力+第一級人工探偵であるあたしの推理力=学園中を幻想的に赤く染めてバラバラミンチ殺戮ッヒャァ~~~~ッ!!! 焼きそばパン連続殺人事件のはじまりはじまりィ~~~~~ッ!!」 前門の虎(狂人)、後門の狼(嘘つき)。 絶体絶命の状況に、膝から力が抜ける。 もう、ダメ―― 「危ないリリアーッ!」 天からの一声――思わず見上げた。 三時の方角上空から、銀色に煌めく一陣の風。 こっちに向かって猛烈な勢いで飛んでくる少女。 金属製の右足義肢に飛行スピードを乗せた重い膝蹴り(ムエタイキック)が、伊藤風露とやらの顔面に突き刺さる。 「ユメノキュウサクッ!!」 文学的悲鳴を上げて落下する伊藤風露。 「な……『白き盾持t――ギャアッ!!」 咄嗟の事に防御系の能力名らしきものを途中までしか言えず、 勢いよく落ちてきた伊藤の下敷きになる狼瀬白子。 目を回しながら重なる二人の上に、蹴りでバランスを崩した少女がつま先を立ててピンッと着地する。 「「ぐえっ……!」」 なんだか嫌な断末魔を重ねて、それっきり二人は動かなくなった。 し、死んでない……よね? ……まあ、そんなこと今はどうだっていい。 もっと大事な、喜ぶべきことがあるじゃない! 「メリー! 怪我はない?」 別れたのもついさっきだというのに、なんだかすごくほっとする。 「……リリア……」 けれど、メリーは明らかに声に力がない――まさか、誰かに酷いことをされたのだろうか? 「どうしよう、わたし……わたし……」 メリーはか細い声を上げながら、ぎゅっと自分の身を抱きしめるような仕草を―― いや、違う。良く見ると何かを抱えているんだ。 両腕と身体の間に挟まっているのは、いくつもの……焼きそばパンだ、コレ。 「……あと、260円しかないの……!」 (まだだ。仕掛けるべきタイミングは、今じゃない) 芸術校舎の脇を抜ける、部活棟へと続く舗装路。 学園敷地中心部と比べてプレハブの出現数が少なく、 故に人気(ひとけ)の少ないその道を、黒天真言はゆっくりと歩む。 握りこんだ拳の内側に蠢く感触 =魔人能力『Get Midheaven――ルーカー、僕に救いを――』の一端、黒天を導く金色(☆)の輝き。 大量出現した胡乱な購買部を前に、黒天がそれを使わない理由はなかった。 蠅の使者は、呼び出してから今に至るまで部活棟の裏側――旧校舎の方角を指し示し続けている。 プレハブが密集するエリアに居る限り、そこに巡り着くことはおそらくないだろう。 大量のハズレで目を惹くというやり方が、どうにも購買部として『らしくない』ことは黒天もそれとなく察していたが、そんなことは彼にとって関係なかった。 それよりも、さしあたり憂慮すべき問題は―― (――二人、かな) 可憐塚(かれんつか)みらい/久留米杜莉子(くるめとりこ)。 前者は黒天のクラスメイトでもある。 貧民街時代に培った危機回避のための直感力によって、黒天は己を追跡する二人の狩猟者に気付き、 同時に悟った。 ――この二人は強い。 直接戦闘はもちろん、恐らく機動力も、自分の敵う相手ではないと。 可憐塚は、対象に快楽を与える吸血によって、三年の狼瀬白子をはじめ、 命令のままに動かせる手駒を何人も確保していた。 彼女らに今日の大一番における実行役を任せることはなかったものの、 代わりに争奪戦参加者の動向を監視する役目を与えている。 可憐塚は黒天の能力を知らない。 だが、彼が争奪戦に静かな闘志を燃やしていたことには気づいていた。 多くの生徒がプレハブ群に殺到する一方で、 彼があらぬ方向を目指して歩み出したと聞き、ピンときたのである。 そして黒天に追いついた時、そこには可憐塚の手駒(監視役)を振り切った久留米(先客)がいた。 確信が強まる――この二人の行く先に、伝説の焼きそばパンがあると。 久留米の行動はもっとシンプルだった。 美食屋として鍛え上げた超人的な嗅覚によって本物の焼きそばパンのおおよその方向を掴み、 物陰に隠れ隠れしながら歩み出した。 先行する影があったのでひとまず様子を見ていたら、可憐塚が来てしまった。 黒天は/可憐塚は/久留米は、まだ走らない。 走ればそれは、周りの生徒に伝説の焼きそばパンの位置を教える様なものだからだ。 ゆっくりと、あたかも部活棟に用のある生徒という風に、少しずつ歩を進めていく。 だが、どこかで誰かが仕掛けるだろう。 他の生徒たちとの差を十分につけ、 自分以外の二人さえ振り切れば優勝確実と判断したタイミングで。 あるいは――何かしら状況が変化すれば。 (切れる札(金貨)はまだ二枚ある……ちゃんと使えば、僕にも十分勝機はある) 黒天の行動原理=贖罪/過去の清算(”僕は罪人だ”)。 振り切れた思考――償いのためならば、三枚全て使うことに躊躇いはない。 黒天は/可憐塚は/久留米は、まだ走らない。 芸術校舎三階の大ホール、作品展示エリア。 腕組みし仁王立ちする大柄な男――風紀委員長・ビスマルク正太郎。 その右手に握られた、ハガキサイズの紙。 『5月7日 12 40 性技三十六景『嬌(なまめか)しきウロボロス』 戴きに参ります 怪盗ミルキーウェイ』 予告状が届いたのは、ほんの十数分前のことだった。 『性技三十六計』とは、希望崎学園OBの有名魔人画家によって寄贈された連作絵画である。 中でも『嬌しきウロボロス』は、 ビッチ四大大会制覇(グランドスラム)の最年少記録保持者にして昨年度ついに人類初の宇宙遊泳性交を成し遂げた国際的淫魔人・鏡子の、学生時代の性技にインスパイアされて描かれた作品であり、 後世のための史料価値も非常に高いとされている。 ミルキーウェイの本来の手口と違う、あまりにも猶予のない犯行予告。 ただでさえ焼きそばパン騒動の対応に追われている風紀委員に、人員を裂く余裕など本来は無い。 だが、本物としか思えない字体と絵画の価値を顧みれば、 何も手を打たないというわけにはいかなかった。 故に、必要最低限の戦力――ビスマルク正太郎が、こうして単身で備えているのだ。 (予告状の時刻までだ。それ以上は待たん) カチリッ。 展示物のひとつ――フロアの時計としての役割も備える『螺旋の時計』が、分針を一目盛刻んだ。 12時37分。怪盗の気配、未だ無し―― 職員校舎地下、資料室。 強引に破壊された入口の錠――薄暗い部屋に響く、カチャカチャと金属の擦れる音。 校則違反四天王の一人『カンニング』こと、ラタトスク竹山 ――毳毳(けばけば)しく飾った夜色のドレス/目元に華美なマスク/大雑把なツインテールのウィッグ/真新しいシルクハット/胸にやや盛りすぎな詰め物パッド =怪盗少女の仮装。遠目で見れば騙せる程度の最低限クオリティ。 (ふん、こんなものか) 金庫の一つに強引に金具を指し込みながら、無表情のまま心の中で嘲る。 偽の予告状に、不良たちに流させた襲撃計画の噂。 治安機構たる風紀委員は、こちらの狙い通りに踊ってくれていた。 ――なんと御しやすいことか。 今日この日の完全勝利をもって、校則違反四天王と風紀委員のパワーバランスは逆転することだろう。 何でも願いの叶う伝説の焼きそばパンとは、本来たったの108円で売られるべきものではない。 心に巣食う薄汚い欲望を少し煽ってやるだけで、もっともっと巨額の利益を生み出すことができる――購買部にその気がないのであれば、せめて校則違反四天王が有効に活用してやろうというのだ。 ラタトスク竹山には、尊ぶべき矜持も拘(こだわ)りもない。 購買部が築き上げた消費者との信頼も、 ミルキーウェイの信条も、 焼きそばパンを巡るロマンも、全てどうだっていい。 他人のかけた努力や時間を一瞬で踏みにじり、奪い取る。 それだけが彼の考えるカンニングの本質であり、習性であった。 計画――偽情報によって購買部に店舗を移動させ、本物の焼きそばパン購入を成立させない。 そしてその隙に、偽の焼きそばパンを大量に売りつけ、莫大な利益を得ること。 『人体錬成』――クローン偽購買部を配置し、カネを巻き上げる。 『カツアゲ』――放送室を占拠して購買部部長を脅迫、誤情報を流す。 『放火魔』と『カンニング』――状況を攪乱し、治安機構の対応を遅らせる。 資料室に入ったのは、今ならここが手薄だったからだ。 テスト問題作成用資料の収められた金庫に目星を付けたのは、カンニング犯としての生態ゆえか。 だが、それだってなんでも良かった。 重要なのは騒ぎを大きくすること。 金庫を破って中身を持ち出したあと、仰々しく犯行完遂の声明を出し、次なる騒動を起こせばいい。 バキリ、と錠の折れる音。扉が開き―― 「てやーっ!」 金庫から突如飛び出した影! 危険な蹴り! 「何ィッ!?」 竹山は間一髪でブリッジ回避! 天地の入れ替わったブリッジ視界に、竹山はそれを認めた。 目元にマスク/二つ結びのウィッグ/洒落たシルクハット。 キラキラに飾った夜色のドレス。バストは控えめながらも、すらりと伸びた優雅な肢体。 ニコリと上がった口角――少女と怪盗/愛らしさと艶やかさを両立した笑み。 「……馬鹿な、貴様は……怪盗ミルキーウェイ! 何故ここにいる!?」 「あなたの目的は焼きそばパンそのものでなく、混乱を起こすことだった」 狼狽する竹山/人差し指を立て、飄々と余裕ぶるミルキーウェイ。 「だったら、予告は関係ない。風紀委員にとっての死角(じゃくてん)、一番警備の手薄な所を狙う。そうでしょ?」 当然と言わんばかりの態度――そんな、馬鹿な。 百歩譲って、竹山の動きが読めた理由まではいい。 だが、侵入の痕跡など一切見当たらなかった。 ミルキーウェイがこの場所にあたりを付けたのは、風紀委員長に予告状が届いたすぐ後。 それから竹山が入口の錠を壊すまで、たったの数分間。 その僅かな時間に彼女は痕跡を残すことなく金庫を開け、内側から再ロックし、待ち受けたのだ ――怪盗としての圧倒的な格の違いを、不届きな偽物に見せつけるためだけに! 「偽の予告状を出したのはあなたね?」 「……フン、それがどうした? 貴様も俺たちと同類の犯罪者だろう。正義ぶって糾弾できる立場か!」 困惑を振り払うように、威勢よく答える竹山。 「怪盗にはね、誇りがあるのよ。私の名前を騙ったツケ、払わせてあげるからっ」 あくまで冷静さを保ちながら、ミルキーウェイも負けじと返す。 矜持を汚され内側で燃える怒り、その一端をわずかに滲ませて。 「ほざけっ!」 ラタトスク竹山が踏み込む――その動きは驚くほどに疾(はや)い! 撃ち出される突きを、ミルキーウェイは紙一重で回避。掠めた服の肩口が裂ける。 「くっ……!」 「確かに貴様は一流の怪盗だろう……だが、腕っぷしの方はどうだ!?」 魔人能力『パーフェクト・トレース』――身体モーションを思いのままに模倣することができる。 ただし、感覚や知識までは真似できない。 前の席の生徒に発動することによって、答案を書く指の動きをコピーするカンニングは勿論、 筆跡を真似する程度ならば、メディアに公開された予告状の文面を見るだけでも発動可能。 ――更に、このように武術の達人の動きを再現することもできる、恐るべき能力である! 「貴様の怪盗スキルもコピーさせてもらおう! さあ、足掻いてみせろ!」 両腕を広げた低い体勢から、竹山が突進する。 「残念だけど」 少女――危機的状況にも、不敵な笑みを崩さず。 「超一流の怪盗は、自分の仕事を他人(ひと)に見せないのよね!」 ミルキーウェイが耳に手を当てた。イヤリングを外し、床に投げる。 瞬間――強烈に広がる光! (なっ、閃光弾か!) そして後方に、カツン、という靴の音。 「馬鹿め、そこだァーっ!」 振り向きざまに放たれる手刀。手ごたえ――無し。 ミルキーウェイの身体を強かに打つはずの一撃は、宙を切っていた。 そして竹山の首筋に、衝撃が走った――ぷつん、と何かが切れる感覚。 (何……が……っ!?) 視界が暗転し、竹山の意識はそこで途絶えた。 「はーっ、割と危なかったわね」 気絶したままの竹山を麻縄で簀巻きにしながら、ミルキーウェイは戦いを振り返る。 放り投げたシューズが床に落ちる音に反応して相手が大振りの一撃を放った所に、 ハイキックで意識を刈って決着。 訓練を積んだ武闘者ならば、不用意に振り返ったりはせず、ガードを固めて視覚の回復を待つ場面。 もしもラタトスク竹山が達人の真似事だけでなく、 真に鍛錬を積んでいれば結果は違ったかもしれない。 (うーん……今から焼きそばパンを探しにいくのもなぁ……正直疲れたし) 予告状を遵守しなければならないのであれば、『嬌しきウロボロス』だって盗み出さなくてはならない。けれどそちらはもう時間切れだ。 (ま、偽物も突き出したし……オッケーってことでいっか) 怪盗に最も求められる能力とは、引き際を誤らないこと。 こんな奴らのバカげた陰謀に、どうしてこれ以上付き合ってやる必要があるだろう? 『私の名を騙る不届きものは捕まえておきました――怪盗ミルキーウェイ』 簀巻きで転がる男の横に書置きを残して、 天ノ川浅葱はその場から静かに立ち去った。 学園敷地の中心に位置する噴水、希望の泉。 いつもの昼休みは生徒たちの憩いの場であるが、 今日に限ってはみな焼きそばパンを追い求め、そこかしこに建つプレハブに群がっている。 ときに。 魔人建築家によって造られたこの噴水は、人を惹きつける力を秘めていた。 特に自我の希薄な者に対しては、その効果も非常に大きい。 幽鬼の様にフラフラと泉の近くを彷徨う、ローブを着た人影 ――目深に被ったフードの下に、即身仏めいて窪んだ眼窩、こけた頬。 顔から首筋にかけて刻まれた、禍々しい呪詛の文様。 ボロボロの袖から覗く、黒ずんで骨ばった腕。 「スゥーッ……」 渦巻く熱気の中、霊能者・雲水は大きく息を吸い、それを見据える。 雲水をこの場へと導いた邪悪なプレッシャーは、確かにそこから放たれていた。 確信めいた想い――あれが己の討ち果たすべき存在か。 ――遡る事、およそ千年前。 平安京の風紀委員長であった魔人・安倍晴明はその命と引き換えに、 一体の恐るべき悪鬼を『停学』処分とし、昏く冷たい海底の洞に沈めた。 時折地脈から力が漏れ出し、歴史に爪痕を残すほどの大火を引き起こしつつも、 晴明の魔人能力『陰陽師と風紀って、同じなのか!?』は、 本体の死後千年もの間、正常に機能し続け、その力を抑え込んでいた。 ――希望崎学園校則違反三人衆の一人、『人体錬成』の沼田が、 危険な知的好奇心によってその封を破るまでは。 千年の停学(ねむり)から解き放たれたかの者の名は、ダークインフェルノ熱海。 校則違反四天王最強の存在『放火魔』である。 「あ”あ”……あ”あ”~”~”~”~”……」 しわがれた唸り声をあげ、ダークインフェルノ熱海が枯れ枝のような右腕を振り上げる。 熱エネルギーがコロナ光の形を取り、指先に収縮した。 膨張した空気が光の屈折を歪め、 微小な意志しか持たぬはずの顔に、ぞっとするような笑みの虚像を結ぶ。 雲水は思わず息を呑み、その額に大粒の汗がすう、と流れた。 だが彼は、片時も目を逸らしはしなかった。 「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”っ」 熱海が腕を振り下ろす。 コロナ光は指の先から空間へと迸り、近くに生える樹へと吸い込まれた。 一瞬の沈黙――突如として轟音を立て、激しく燃え上がる樹。 「……なるほど、ものすごい力ですね」 誰ともなしに雲水は呟く。 垣間見えただけでも、これまでに祓った悪霊とはレベルが違う。 悪霊の炎を操るEFB指定能力――『死魔殺炎烈光(ディアボリック・デスバースト)』 師匠の龍玄いわく。生徒たちの情熱を喰らい、やがて学園全体を飲み込み滅ぼす、大いなる影。 雲水の調べた文献によれば、周囲の人間から悪意を吸収するほどにその力は強まるという。 「あ”あ”あ”あ”あ”ー”ー”ー”……」 再び振り上げられ、下ろされる腕。近くのプレハブを焼き払うべく放たれる閃光。 しかし―― 「スゥゥーー……ッセイ!」 開いた窓の隙間に煙が吸い寄せられるように、コロナ光が雲水へと引き込まれる。 「……っぐぁぁっ!」 灼(や)けつくような悪意の奔流が、雲水の体循環を駆け巡る。 しかし、コロナ光が物質に対して引き起こすべき、超自然の発火現象は起こらない。 心臓が熱い。煮えたぎるマグマを血管に注がれたかのような感覚。だが、同時に確かな手応え。 ――己の魔人能力は、目の前の相手に通用する! 平安京の偉大なる風紀委員長ですら完全には封じ切れなかったEFB能力者を、 雲水はなぜ制することができるのか。 厳密に言えば、魔人能力に強弱の概念はない。 あるのは「自身の能力とはこういうものである」という『認識』のみであり、 ゆえに完全なる上位・下位互換はよほど偏った認識を持たぬ限りあり得ない。 雲水が修行すら終えぬ身であったとしても、 悪意を取り込み浄化する魔人能力『行雲を留め流水に濯ぐ』は、悪意を元に炎を生み出すダークインフェルノ熱海に対して、一流の霊能者以上の銀の弾丸(メタ能力)となりうるのである。 「あ”……あ”……」 三度(みたび)腕を振り上げる熱海 ――薄弱な意識ゆえに能力不発への動揺もなく、淡々と次の一撃を放つ。 「スゥーッ……セイッ!」 雲水の呼気――悪意をその身に取り込む。玉汗が額を流れる。 腕を振り上げる。コロナ光が迸る。 「スゥーッ……セイッ!」 悪意をその身に取り込む。 腕を振り上げる。コロナ光が迸る。 「スゥーッ……セイッ!」 悪意をその身に取り込む。 腕を振り上げる。コロナ光が迸る。 「スゥーッ……セイッ!」 悪意をその身に取り込む。 腕を振り上げる。コロナ光が迸る。 「スゥーッ……セイッ!」 悪意をその身に取り込む。 腕を振り上げる。コロナ光が迸る。 「スゥーッ……セイッ!」 悪意をその身に取り込む。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 「あ”あ”……あ”あ”あ”~”~”~”……」 腕を振り上げる熱海。淡々と能力を発動――もはや、疲れを知らない機械のよう。 「……スゥーッ……、……セイッ! っ……」 雲水の呼気――何度目かも分からない熱の奔流。 滝のように汗が噴き出す。膝ががくがくと震える。 (お、終わりが見えない……なんて妖力だ!) 雲水自身は否定するであろうが、彼が元来持つ体質と日々のストイックな鍛錬により、その霊能は十五歳にして既に非凡の域に達している。 少なくとも体内に霊的な流れを留める容量(キャパシティ)という点においては、師匠の龍玄にすら引けを取らない。 が、それ以上にダークインフェルノ熱海の力は底知れなかった。 焼きそばパンを求める生徒たちの欲望の強さは、『人体錬成』にとってすら予想外であった。 状況を掻き回すため、建物のひとつふたつでも焼き払えば良しと放たれたダークインフェルノ熱海だが、大量の負の感情を吸い込んだことによって、既に四天王の制御すら離れて力を振るっている。 もしも雲水が止めていなければ、既に希望崎学園全体が灰燼と帰していたであろう。 (だめ、だ……今、倒れたら……師、匠……) だが、もはや限界だった。 私立希望崎学園は、いや、日本列島は、このまま世界地図から消滅してしまうのであろうか。 ――その時である。 「君が雲水くんだな!」 誰かが名を呼んだ。 振り向いた先に立つ、スーツのようにピシッと制服を着こなした三人組。 「事情は君の師匠から聞いたぞ。よくぞ今まで食い止めてくれた!」 神経質そうな眼鏡の男、希望崎学園生徒会長・学園型マーリン――その眼に宿る義憤の炎。 両脇を固めるのは、いかにも屈強な筋骨隆々の二人 ――雲水を認めるかのようにぐっと親指を立てる(サムズアップ)。 「後は任せろ。我々生徒会がそいつを倒す!」 ああ、ああ……なんと頼もしい言葉。 雲水は意識を手放そうとして――その背筋に、ゾクリと悪寒が走る。 「あ”……あ”あ”……!」 ダークインフェルノ熱海の魔人能力『死魔殺炎烈光(ディアボリック・デスバースト)』 ――周囲の人間から悪意を吸収するほどに、その力は強まる。 ――たとえば、自分に向けられる殺意などはその最たるものだろう。 「みなさん、下がってください!!」 「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!」 しわがれた叫び――熱海の全身から噴き出すコロナ光。 両手を広げ、震える足を叱咤して立ち向かう。 「スゥゥーーーー……ッ、セェイ!!」 雲水を飲み込む撃流 ――歯を食いしばる/引き込み切れない光が周囲に飛び散る/アスファルトが燃え上がる。 熱いという感覚を通り越して、ズタズタに刺すような痛み――雲水の脳裏に響く声。 『こわい』『殺さないで』『殺す』『こんな力いやだ』 『殺す殺す殺す』『やめて』『痛いよ』『殺さないで』 『たすけて』 その瞬間、雲水は理解した。 どうして誰もダークインフェルノ熱海を倒すことができなかったのかを。 悪意を吸収するほどに強くなる魔人能力は、 トドメを刺そうする瞬間の敵対者と、 熱海自身の『殺されないために殺そう』とする殺意によって、最も大きく膨れ上がる。 ゆえに。だからこそ。 雲水は、それを止める答えを始めから持っていた。 「君は……僕と同じだ……! 力に振り回されているだけだったんだ……だからっ!!」 長く厳しい修行を、雲水はずっと耐え抜いてきた。 自分と同じく苦しむ人を救いたいという一心で。 燃え盛る中を、雲水は腰を落とした低い体勢で突進する。 鋭いタックルで、ダークインフェルノ熱海を押さえつける。 害意を持ったままでは、触れることすら叶わなかったであろう――身体の内側から、不思議な勇気と力が湧き上がってくる。 「僕が君を、その苦しみから解放する……! スゥゥゥーーー……ッ!!」 「……セェェェェーーーイッッ!!!」 ――雲水の両手から放たれる暖かく青白い光波が、ダークインフェルノ熱海を包み込む。 取り込んできたあらゆる負の感情が、蒸発するように融けてなくなってゆく。 そのまま、重なるように倒れた。 「なんてことだ……本当に一人で、EFB指定能力者を……雲水くん! おい、しっかりしろ! ……治療能力者を早くこっちに!」 会長の声が遠く聞こえる。 ぼやける視界――今度こそ限界か。 ああ、せめて、ここからどけなければ……自分の下敷きになっていては、さぞ重かろう。 手をつく場所を求める――探り探り動かす掌に、柔らかい感触。 「えっ?」 「すー……すー……」 可愛らしい寝息を立てる、フードの下の素顔。 眼窩の窪み、こけていたはずの頬――憑き物が落ちたというように、自然な肉付きを取り戻している。 整った顔立ち、サラサラの黒髪。花のように瑞々しい小さな唇。 では、掌に収まりきらないこの柔らかくて大きな感触。これは、これは―― 「ぼ、僕は……なんて、こ、と……を……」 「う、雲水くーん!!」 眠っている間に女の子の胸を揉んだという、修験者にあるまじき行いの強烈な罪悪感に苛まれながら。 希望崎の危機を人知れず救った、 漢気ある、 けれど少しヘタレな霊能者は、とうとう意識を手放した。 職員校舎二階、放送室。 普通の教室よりもやや狭いという程度の、窓のないカーペット張りの部屋。 猿轡と対魔人手錠を掛けられたまま、部屋の隅に転がされている者たち――購買部部長・商屋ネネ/血の気の多そうな購買部員/放送部員。 風紀委員二年・車口文華は、動くこともできずただただ立ち尽くしていた。 「ったく、ツレが使えねえやつらだと最悪だぜ。なァ、そう思わねェか?」 ボロボロの学ランを羽織った、背の高いリーゼントの男 ――校則違反四天王の一人、『カツアゲ』ことタイラント粕屋(かすや)。 影を踏みつけた相手の動きを奪う、恐るべき魔人能力『ソウルキャッチャー』の持ち主である。 頭上で点けっぱなしのまま設置された幾つもの演出照明が、多角度から室内を照らす。 部屋のどこに立っていても、粕屋の足元まで影が延びる配置だった。 無抵抗の文華に手錠をかけながら、粕屋が下卑た手つきでわざとらしく身体に触れる。 文華の反応――ポーカーフェイス(何考えてるのかわからない)と称される、いつもの無表情まま。 粕屋がつまらなそうに舌打ちする。 「……こんな状況、いつまでも続きませんよ。すぐに風紀委員の救援がここに来るでしょう」 「そうだよなァ、こんなはずじゃなかった! 『カンニング』と『放火魔』のやつらがあっさりやられてなけりゃ、もうちょっと遊べるって段取りだったんだ」 交渉担当の役員でなくとも、風紀委員はみな簡単な対話訓練を積んでいる。 文華の分析――この男は、あまり思慮が深くない。 話し相手になってやれば情報を引き出せるかもしれない。 「……どうやって購買部の情報を得たのですか?」 文華の問いに、粕屋は躊躇いなく口を開く。 「購買部員にスパイがいてなァ、ありゃ俺から見ても可哀想なやつだった。 不当な条件でコキ使われて雀の涙みてえな給料しかもらえないってんで、分け前の一部をやるって誘ったら簡単に食いついたぜ、ギャハハ!」 床で転がったままの商屋ネネが、バツの悪そうな顔で文華を見る。 もっとも希望崎学園に労働基準法に相当する校則は存在しないため、風紀委員に部内ルールを取り締まる権限はない。 「……なぜ、こんなめちゃくちゃな真似を? 特にあなたは、普段からお金にも困っていないのでは?」 「一番カネを欲しがってるのは『人体錬成』の野郎だよ、アイツはまァた研究スポンサーに捨てられたって話だからなァ! だが、カネだけじゃない。分かるか、なあ? 数年に一度のお祭り騒ぎに、最初っから蚊帳の外なオレたちの気持ちがよォ!」 「……それは、あなたたちの自業自得でしょう」 「ギャハハ! だよなァ~~! 言ってみただけだ! オレは自分が楽しけりゃどうでもいいんだ」 物憂げな顔で文華は思う――この男はクズ野郎だ。 どうしてこんな奴らの横暴に、私たちがつき合わされなくてはならないのだろう。 世界に必要なのは、やはり鉄拳だ。 「さァて……言ってたよなァ、風紀委員が捕まえにくるって。その前に楽しませてもらうとするか」 タイラント粕屋が文華へと手を伸ばす。 訂正――この男は最低のゴミクズ野郎だ。 身体の自由さえ利けば、今すぐ手錠を引きちぎってその顎を砕いてやりたいのに。 ああ、車口文香は果たしてこのまま、毒牙にかかってしまうのか――? ドゴゴガッシャーン! 猛烈な勢いで鍵ごとぶち破られる、放送部入り口の金属ドア。 「汚い手で触らないでください、肥溜め以下の最低ゴミクズクソ虫野郎!」 文華の内心を1.8倍盛りぐらい修飾した言葉で代弁する、赤縁眼鏡をかけた金髪の少女。 風紀委員一年生・天雷テスラが、なぜか人差し指を頭上に突き立てたポーズをキメて飛び込んできた。 その影は、既に粕屋の足元に延びている。 「……いけませんテスラ、離れ」「ギャハハ、バーカ!」 魔人能力『ソウルキャッチャー』発動――少女の自由を奪う。 ああ、天雷テスラは果たしてこのまま、お姉様と仲良く毒牙にかかってしまうのか――? 「甘いっ!」 魔人能力『電流戦争』 ――頭上を指したまま固まったテスラの指先から指向性を持つ電流が放たれ、照明を破壊する! 「な、んだとォ!?」 一瞬で暗転――放送室に窓はない。照明を破壊されれば、入口から僅かに光が差すのみ。 当然、粕屋の足元に届く影などない。 闇の中で閃光が走り、咄嗟に逃げようとした粕屋を捉えた! 「ギャアアアアアッ!」 痙攣しながら床をのたうちまわる! スタンガンダンスだ! テスラは電撃を緩めず、かといって魔人の致死出力を超えず、動けないだけの威力を保ち続ける。 「……殺してはダメですよ、テスラ」 「わかっていますお姉様」 苦痛(でんげき)の中で聞こえた微かな希望――そうだ、はやくコレをやめさせろ! 「……その人には私が直々に、拳をくれてやらないと気が済みませんからね」 ゴキリ、と拳を鳴らす音に、『カツアゲ』タイラント粕屋は絶望した。 「あ、ありがとう……」 懐中電灯の明かりの下、手錠と猿轡を外されて、商屋ネネはようやく一つ息をついた。 そりの合わないあの白髭ビスマルク――その部下に、完全に助けられてしまった形になる。 「怪我はありませんか? この男、一発ぐらい殴っておきますか?」 床でぷすぷすと煙を上げる物体を、テスラが指さす。 「いえ、遠慮しておくわ」 正直男への腹立たしさはあったが、それがトドメの一撃になりそうなので断った。 「さて、あとは全校に正しくアナウンスすれば一件落着ですね!」 朗らかに声を上げるテスラに、文華が首を横に振った。 「……テスラ、まだ私たちの仕事は終わっていませんよ」 「えっ、お、お姉様……?」 「四天王はまだ一人残っています。私たちの本来の役割は校則違反者の取り締まり……でしょう?」 「そ、それはそうですけど……」 ネネにもテスラの気持ちは分かる。土で薄く汚れたスカートの裾、擦りむいた痕。ここに来る前にも、校庭辺りをひとっ走りしてきたのだろう。 その上で校則違反四天王の一人を討ち、重要拠点を制圧したのだ。大仕事をやり遂げた気になって、あとは争奪戦の行方をお姉様とゆっくり観戦、という気分にもなるだろう。 ただまあ、風紀委員の仕事も遊びではない。 活動予算から日当などを貰っているはずだから、嫌な仕事だってやり遂げるのが筋というものだろう。 「……テスラ、確かに私たちの仕事は命がけな割に無償奉仕だし、どれほど頑張っても報われないものかもしれません」 「お姉様……」 ツッコミたくなる衝動を、ネネはなんとか抑える。 「……でも、私は頑張るあなたの姿が好きですよ」 「お姉様……!」 見つめ合う二人――ネネは二人の背後に謎の薄桃色空間エフェクトが広がるのを幻視し、クラクラしそうになる。 「……この件が終わったら、そうですね……一日膝枕の権利をあげましょう」 「お、お姉様ぁー!!」 その一言でテスラはオチた。ネネも別の意味でオチそうになって、なんとかこらえた。 「……良い子ですね、あなたは私の自慢の妹分です」 「え、えへへ……!」 穏やかな顔で頭を撫でる文華。顔を赤くして喜ぶテスラ。 その様子を、ネネは頭を抱えながら冷ややかな目で見つめる。 第三者視点で見ていて分かった。 『絆』とか『熱意』とかで人を動かそうとするのは、歪んでいる。 これからは『勤労の喜び』とか『部への貢献』とかいった言葉を極力使わず、 労働に見合った対価で応えよう。 ――そうすれば、今回のような事件は起こらなかったかもしれないのだ。 「……では、商屋購買部部長。仮設店舗位置のアナウンスをよろしくお願いします」 「ええ」 責任は後々、何らかの形で取ることになるだろう。 今はただ、この騒動に収束を。 誰もいない新校舎の屋上。 つま先から下りて、踏みしめた地面の硬さに安堵する。 メリーがあたしをゆっくりと離す。 あたしもそろそろ、メリーの代わりに抱えたこの大量の焼きそばパンを手放したいんだけれど。 「ここなら多分大丈夫。変な人も追ってこないよ」 「そうかな……うん。そう、だね」 見下ろす景色。プレハブ、売り子、混ざり出した嘘つきたち。 「伝説の焼きそばパン、もう売れたらしいぞ!」 「向こうの方に、怪しい店があったって!」 微かに聴こえる声。騒音に掻き消されては、また生まれる嘘。 一面を埋め尽くす赤、赤、赤、赤。 ――何度目かも分からない溜め息をつく。 ちらりと横に目配せ――本物の購買部をじーっと探すメリー。 言うべきか、言わざるべきか。あたしは悩んで、悩んで、も一つ悩んで、結局言うことにした。 「……あのさ、メリー。もうやめにしない?」 振り向くメリー――あたしを見つめる澄んだ瞳。生まれたての雛鳥と目が合ったような気分。 「なんで?」 「なんでっていうか……もう260円しかないんでしょ? これ以上はお金の無駄じゃない?」 「ううん、あと140円。あ、これいる? 飲みかけだけど」 「いつの間にジュース買ってたの!?」 ――ああ、もう。そうじゃなくて。 「いいじゃない別に、普通の焼きそばパンで。あたしはなんかお礼とか、全然気にしてないし。そんなことより、メリーの隣で一緒に食べられればそれでいいな」 「リリア、けっこう恥ずかしいこと言うね」 「う、うっさいわ! お前がゆーな!」 メリーが笑う。あたしも釣られて笑う。いつかの日の逆パターン。 そうだ、あたしにはこれがあればいい。これだけでいい。 「確かにリリアの言うとおりかも。こんなにパン買わなければ、新しいスカート買いにいけたと思うし」 「行こうよ、二人で。今度の土曜日。スカートは買えなくても、一緒にお店を冷かしてこようよ」 ぱあっと表情が明るくなる――もうひと押し、あと一押しだ。 「でもどうせあと一個しか買えないんだし、だったら挑戦したいな」 違う、違うよメリー。 あと一個しか買えないんじゃない。 まだ一個、買えちゃうんだ。 今は焼きそばパンだからいいかもしれない。 有り金全部っていったって3000円そこらとか、笑って済ませられる程度かもしれない。 けれどいつか――メリーから根こそぎ全てを奪おうとする本当に真っ赤で悪い奴が現れた時、同じことが言えるだろうか? 漠然とした不安だとは自分でも思う。 けれど、もしもここで最後の一線を止められなかったら、 あたしは肝心な時にもメリーを助けられない気がする。 あたしは誰よりも嘘つきだ――メリーみたいにはきっとなれない。 けれど、この子を傷つけようとする嘘から守ってあげられるなら、 一緒にいても許されるような気がしてた。 それでもまだ、メリーが行くというのなら。あたしは―― 「聞いて、メリー。あの放送も、購買部も、全部嘘っぱちなの。伝説の焼きそばパンなんて、本当はどこにも売ってないの」 もう傍にいられなくたっていい。メリーがこの先、人を疑うことを知って、悪意に傷つけられることなく生きていってくれれば、それでいい。 「嘘を見抜く魔人能力――『ベビーマーカー』……あたしには、人の嘘が分かるの」 「ねえ、知ってる? 誰でもメリーみたいに真っ直ぐに、素直に生きてるわけじゃないんだよ」 伝えなくちゃ、人を疑えと。嘘つきたちの食い物にされるなと。 「みんながみんな相手のことを疑って、自分だけは騙されたくないって思いながら、 結局嘘に嘘で応えてる。だから」 世の中は嘘つきに溢れかえっている。たとえ良い人そうに見えても、表面(おもてづら)に騙されてはならないと。 「拒まれたくなくて、誰にも言えなかった。友達にも、パパにも、ママにも」 違う。今はあたしのことはいい。メリーに教えるんだ。あたしの個人的な想いなんてどうだっていい。 「メリーと会って、びっくりした。少しも赤くない人なんて、初めて見たから。それで声をかけたの」 言葉が止まらない。涙が止まらない。後ろめたいものを今ここで、全て吐き出してしまいたかった。 「心のどこかで、たぶんずっと、あたしはみんなのことが許せなかったんだと思う」 自分勝手な嘘をついて、他人を傷つける人たちが許せなかった。 「でも、こんな能力を隠してるんだから、ダブルスタンダードってやつ。 結局あたしが、一番ひどい嘘をついてるんだ」 パパに嘘をつくママ。 友達をダシにするクラスメイト。 メリーの気持ちを踏みにじる偽の購買部。 そんな人たちよりもずっと真赤く染まった醜い自分が、他の何よりも許せなかった。 「嫌だよね、こんな嘘つき。友達でなんていたくないよね」 いっそ思い切りあたしを責め立てて、ここから突き落としてほしいぐらい。 許してほしいのかどうかさえ、もう分からなかった。 「ねえ、リリア」 そっと肩を抱く感触――どうして? もしかしてほんとに、あたしを突き落としてみるとか? 「わたし知ってたよ」 そんな馬鹿な。一体何を言い出すんだろう、この子は。 「あたしが、嘘を見抜けるってことを?」 「ううん」 だったら何を知っているっていうのか。 どうしてこの子はこんなにも、穏やかな声をしているの。 「リリアが、やさしいこと。 だから嘘をつくとしても、きっとそれは人を傷つけるためのものじゃないってこと」 嘘を見抜ける自分の能力を、これほどありがたいと思ったことはない。 そうじゃないとひねくれたあたしにはきっと、心の底から信じることはできなかったから。 「リリアはきっと相手のために、自分が傷ついても構わないって思える人。そのための嘘をつける人。 だからリリア、わたしね――」 人の夢を壊したくなかった。 パパとママに、仲良くしていてほしかった。 あたしは外側にいてもいいから、みんなには綺麗な輪っかを作っていてもらいかった。 この気持ちをあたしはずっと、自分ではない誰かにも認めてほしかった。 「わたし、そんなリリアと友達になれたの、とっても誇りに思ってるんだよ」 こんなにも幸せなことが、あってもいいのだろうか。 あたしが一番欲しかった言葉を、一番言ってほしかった相手が、本心から伝えてくれている。 「もう大丈夫だよ」 「分かってる」 メリーがあたしをぎゅっと抱きしめてくる。 さすがにちょっと恥ずかしくてなってもがくけど、しっかりロックされてて外れない。 「わたしはリリアの事、嫌いになんてならないから」 「分かってるよ」 身体を捻ひねって振り切ろうとする。もがけばもがくほど逆にひっついてくる。 なんだかあたしの方が、駄々をこねてる子供みたい。 「リリアも自分のこと、もう嫌いにならなくてもいいからね」 「分かってるってば、もう!」 最後の方はもう意地になって、それでもメリーは離してくれなくて。 あたしはそのまま、メリーの胸でワンワン泣いた。 それからしばらくあたしたちは、どうでもいい話をしながら雲を眺めたりしてた。 下で響く喧噪も、視界をチラつく赤いものも、もうあんまり気にならない。 『――ピーンポーン パーンポーン』 スピーカーから響く、全校放送を告げる音。 『本物の伝説の焼きそばパンは、旧校舎裏に仮設された購買部店舗にて販売されています。 昼休み開始時に出現したプレハブ群は、当部とは一切関係ありません。 ――繰り返します。 本物の伝説の焼きそばパンは、旧校舎裏に仮設された購買部店舗にて販売されています。 昼休み開始時に出現したプレハブ群は、当部とは一切関係ありません』 「今の放送は、ほんとの?」 「うん、間違いない。行くの?」 メリーがこくりと頷く。今度はもう、止める理由は何もなかった。 「ねえリリア。今度の土曜日、一緒に出掛けよう」 「うん」 「見ててね、私が本気で翔ぶところ」 「うん」 メリーの背中に透明な翅が生えた。ぐぐっと膝を曲げて、そのまま跳躍。 あっという間に翔んでいく――旧校舎とは、反対の方向へ。 毎朝必ず訪れる場所――新校舎の昇降口脇にある駐輪場。 自転車の群れの中、立て掛けられた突撃槍。 アクセルグリップに吊り下げられたお気に入りのヘルメットを被り、バイザーを下ろす。 (回路形成) 神経の速さでオーダーを伝達――暖気を開始。 魔女の箒が唸る/胸の鼓動が高まる。 >【転送】【開封】 暖気の合間に勝負服を転送――少しでも速く、正確な飛翔を求めて。 袖先から置換されていく制服/光の泡になって弾ける眼鏡 ――一瞬の解放感ののち、全身を締め付けるタイトな感触。 わたし⇔外界を隔てるただ一枚の被膜――エナメルの光沢を放つ、白金(プラチナ)色の耐Gスキンスーツ ×(かける) 超視力の裸眼で、遥か先までをくっきりと視認 =(イコール)最速飛行のための最適解。 ふいにビジョン/記憶の中の鐘の音(ね)。 (「――遅刻、遅刻ーーーー!!!」)/掻き消える声/早回しで蘇る失速のイメージ。 (――まだだ。こんなのじゃまだ、足りない) 魔女の箒に掛けられた限界速度制限=秒速たったの200m。 他の生徒たちもまた、死にもの狂いで争奪戦に臨んでいる――これではとても間に合わない。 (速度制限を解除) >【申請を受諾】 本来の速さ(超音速)に耐えうる飛行制御能力は、とうに喪われた ――何も知らなかった、かつてのわたし自身といっしょに。 もう一度、父さまと母さまを取り戻す? ――違う。ふたりはずっと、わたしとともにある。 囚われるのではなく、切り捨てるのでもなく。思い出はいつでもわたしの中に。 未来(過去)からの重力を振り切って、どこへでも行きたい場所へ翔んでゆけるように。 今変わるべきは、わたし自身だ。 (「見ててね、わたしが本気で翔ぶところ」) (「うん」) リリア――だれよりやさしい女の子。 他人を傷つけたくなくて、本音をしまいこんで。きっと自分を一番傷つけていた。 あの子がわたしにくれたものを、わたしもあの子に返してあげたい。 透き通る四枚の前翅+後翅(フェデール・エイル)――付け根から翅先へ、ゾクリッ、という感覚。 鱗粉をバラ撒くようにぼろぼろと剥がれ、零れ落ちる光の粉 ――頭と背中の皮膚を掻きむしるような痛み。 「……っ、ああああああああっ!!」 痛覚遮断をオーダー――否。これはわたしのものだ。 だから、痛みごと受け入れる/一体化する――わたしが変わるべき姿を、この痛みが教えてくれる。 未来世界の科学者、その執念の結実たる究極機能/父さまがわたしをだれより愛してくれた証し。 より状況に適した形態へと、翅は無限に自律進化する。 「ああああああああああああっ!!!」 そしてふと、蛹(さなぎ)が脱げるように――驚くほどあっさりと消える痛み。 爽やかな心地――ブランケットを放って伸びをする、土曜日の朝のよう。 得るべきものを既に得た、という確信。 作り変えられた前翅(フェデール)+後翅(エイル)――見ずとも、触れずとも、その姿を感じ取れる。 よりシンプルに、よりコンパクトに/一回り小さく洗練された四枚翅――駆動性を改善。 そして、腰に更なる一対/髪の毛と同化した棍状の膨らみ。 羽ばたきに合わせて振動し、飛翔感覚をフィードバックするための退化翅(ハルテール) ――制御能力の劇的な向上=超音速飛行に対応可能。 はやくこの翅で翔んでみたい――抑え切れない人造心肺(むね)の高鳴り。 暖気完了――魔女の箒を掴む。 「わたしはだれなの?」 唇が紡ぐ問いかけ――かつて心の底から求めたもの/今はただ、繰り返し唱えるための勇気の呪文(モージョー)。 わたしはそれを知っている。自分がだれなのかを。わたしはわたしに答えられる。 遠い世界の遠い未来に生まれた、父さまと母さまの娘でもあり、 超時空ネットワーク・ハイライトサテライトの担い手、掃き溜めの構成員でもあり、 山口新世界萬請負事務所の居候でもあり、 馴染おさなの幼馴染でもある。 それから。 (わたしがこれからも、リリアをそばで守るんだ。安心してって言うんだ。だから――) (今からあの子の目の前で、わたしがだれよりも強いところを見せつけるんだ!) 私立希望崎学園に通う、ふつうの高校1年生でもあり、 赤根リリアの友達でもある。 それが、今ここに居るわたし=メリー・ジョエル。 推進器が吸気を開始 コンプレッサーがそれを圧縮 ブレイトンサイクルに従い燃焼 ジェット噴流を排出 =急速爆進!!! 校則違反四天王・『人体錬成』こと沼田人道にとって、最大の誤算とは何であったか。 『カンニング』の陽動失敗――元より計画の本筋に絡むものではない。 『放火魔』が制御を離れたこと――雲水の健闘により、その事実さえも知らない。 『カツアゲ』が放送室を再制圧され、間もなく全校生徒に仕掛けがバレる――少々痛いが、時間が早まっただけのこと。 誤算とはつまり、もっと根本的なもの。偽焼きそばパンの販売そのものが、奮っていないこと。 そしてその原因は――一人の少女であった。 「ファックイエー!」 「やんすーッ!?」 少女が偽購買部員を殴りつけ、焼きそばパンを強奪。 「ファックイエー!」 『ギャァァァァァ!!』 握りしめた焼きそばパンが、悲鳴を上げながら爆死。 656回目の殺害。 「ファックイエー!」 「やんすーッ!?」 少女が別の偽購買部員を殴りつけ、焼きそばパンを強奪。 「ファックイエー!」 『ギャァァァァァ!!』 握りしめた焼きそばパンが、悲鳴を上げながら中毒死。 657回目の殺害。 「ファックイエー!」 「やんすーッ!?」 少女が更に別の偽購買部員を殴りつけ、焼きそばパンを強奪。 「ファックイエー!」 『ギャァァァァァ!!』 握りしめた焼きそばパンが、悲鳴を上げながら焼死。 658回目の殺害。 彼女の名はMACHI。 アマチュアガールズバンド『God Wind Valkyrie』のギターボーカリストである。 否――だった、というべきか。 何せ今の彼女は痛ましい事件によってバンド仲間を失い、 ムカつくファック野郎どもをぶっ殺したはずみでギターも失っている。 つまりバンドメンバーでもなければギタリストですらない。 今や彼女を彼女たらしめるアイデンティティは、 己から全てを奪った焼きそばパンたちに復讐することのみである。 「ファックイエー!」 「やんすーッ!?」 MACHIが更に別の偽購買部員を殴りつけ、焼きそばパンを強奪。 「ファックイエー!」 『ギャァァァァァ!!』 握りしめた焼きそばパンが、悲鳴を上げながら溺死。 659回目の殺害。 「ファックイエー!」 「やんすーッ!?」 MACHIが更に別の偽購買部員を殴りつけ、焼きそばパンを強奪。 「ファックイエー!」 『ギャァァァァァ!!』 握りしめた焼きそばパンが、悲鳴を上げながら転倒死。 660回目の殺害。 「ファックイエー!」 「やんすーッ!?」 MACHIが更に別の偽購買部員を殴りつけ、焼きそばパンを強奪。 「ファックイエー!」 『ギャァァァァァ!!』 握りしめた焼きそばパンが、悲鳴を上げながら衰弱死。 661回目の殺害。 「ファックイエー!」 「やんすーッ!?」 MACHIが更に別の偽購買部員を殴りつけ、焼きそばパンを強奪。 「ファックイエー!」 『ギャァァァァァ!!』 握りしめた焼きそばパンが、悲鳴を上げながら轢死。 662回目の殺害。 当初沼田は、マンホール下にある彼の研究ラボから、不慮の事態によって行動不能となった偽購買部の代わりを地上に送り出す作業をしていた。 だが、何かがおかしい。 あまりにも次々と偽購買部が倒れていく。 様子を見るため地上に出た沼田が目にしたのは、偽購買部員をぶん殴って焼きそばパンを残虐グラインドミキサー殺するMACHIの姿であった。 しかもこともあろうかこの少女、 その少し前まで周りの購入者を殴りつけて焼きそばパンを強奪、即殺害していたのだ。 おかげで周囲のものは焼きそばパンの購入そのものを恐れ、 少女が働いた強奪行為の数以上に実際の売り上げは伸び悩んでいた。 (きィ~~~~ッ! ゆ、許せませんねェ~~~~~~、あの小娘、私のカワイイ培養モルモットたちをよくもォ~~~~~~~~) 沼田はマッドサイエンティストである。偽購買部として配置されたクローン実験体『YNS-04』たちは彼にとって我が子も同然の存在であり、故に愛ある己のメスでズタズタに切り刻む以外の方法でいたずらに苦痛を与えることを良しとしていない。 (ワタクシの科学力で直々に捻り潰して差し上げますよぉ~~~っ!) MACHIが次に狙うであろうプレハブに当たりをつけ、沼田はその中でひっそりと時を待っていた。 筋肉増強注射薬によって瞬間的に膨れ上がる圧倒的筋肉の小宇宙が、 彼女を無残な肉食モルモット用の餌に変えるだろう。 ザッ、ザッ……薄い壁越しに聞こえる足音。 沼田が腕に注射針を当てる。そして―― 「ファックイエー!」 プレハブが爆発。 「ウギャァー!」 圧倒的な熱と衝撃の嵐が沼田の全身へと降り注ぐ。破けた壁の隙間から聴こえる少女の声―― 「もう……もう! 私ってホント馬鹿! ファッキン蛆虫! なんでもっと早く気付かなかったんだろう……」 「こう(プレハブごと爆殺)した方がずっと早いじゃん!」――663回目の殺害。 燃え盛るプレハブの中で、沼田は意識を失った。 気付きを得たMACHI――もはや止まらない勢い。 「ファックイエー!」 「やんすーッ!?」 『ギャァァァァァ!!』 少女がプレハブに手を当て、そのまま爆殺。 爆風が焼きそばパンを吹き飛ばし、店員が生き埋めに。 664回目の殺害。 「ファックイエー!」 「やんすーッ!?」 『ギャァァァァァ!!』 少女がプレハブに手を当て、そのまま爆殺。 爆風が焼きそばパンを吹き飛ばし、店員が生き埋めに。 665回目の殺害。 その時――校内全域に響き渡る、スピーカーからの音。 『――ピーンポーン パーンポーン』 『本物の伝説の焼きそばパンは、旧校舎裏に仮設された購買部店舗にて販売されています。 昼休み開始時に出現したプレハブ群は、当部とは一切関係ありません。 ――繰り返します。 本物の伝説の焼きそばパンは、旧校舎裏に仮設された購買部店舗にて販売されています。 昼休み開始時に出現したプレハブ群は、当部とは一切関係ありません』 「……ファック……!? ちょっと、どういうこと……!!」 MACHIはそもそも、今までも状況を全く把握していなかった。 足りない脳ミソで考えた結果、プレハブで売られる全ての焼きそばパンが本物であると認識し、 「殺せる焼きそばパンが増えた! ラッキー!」という ボーナスステージぐらいの雑さで理解していたのである。 それを今更、本物の伝説の焼きそばパンの在り処などと――しかもその位置は明らかに遠く、MACHIが一番乗りで到着する可能性は限りなく低い。 「ファックイエー!」 「やんすーッ!?」 『ギャァァァァァ!!』 少女がプレハブに手を当て、そのまま爆殺。 爆風が焼きそばパンを吹き飛ばし、店員が生き埋めに。 今のが通算666回目の殺害――その時、奇跡が起こった。 MACHIの目は確かに一瞬だけ、その姿を捉えた ――突撃槍に跨り上空を一瞬で横切った、銀色の戦乙女の姿を。 その背で羽ばたく、天使のごとき六枚翅を。 「あ……ああ……KIKKA……TIARA……MEGU……ッ!!」 間違いない――あれは『God Wind Valkyrie』。 ひたむきに焼きそばパンを殺し続けたMACHIの想いが、 遂に三人の魂をあの戦乙女の姿で呼び出したのだ。 それ以外に考えられない。 戦乙女は、旧校舎の方へと飛んで行った。 おそらく、伝説の焼きそばパンを直々にぶっ殺すために。 ならば――自分はこの歌を捧げよう。 三人の魂が、あの世でもサイコーのロックンロールを奏でられるように。 ――キミから差した 確かなヒカリ―― ――眩しくて でも 見つめ続けた―― ――My precious stars woo―― 『本物の伝説の焼きそばパンは、旧校舎裏に仮設された購買部店舗にて販売されています。 昼休み開始時に出現したプレハブ群は、当部とは一切関係ありません。 ――繰り返します。 本物の伝説の焼きそばパンは、旧校舎裏に仮設された購買部店舗にて販売されています。 昼休み開始時に出現したプレハブ群は、当部とは一切関係ありません』 響き渡る放送音声。もはや何の遠慮も必要無し。 争奪戦を静かに先行してきた者たち――黒天は/可憐塚は/久留米は、一斉に走り出す。 旧校舎まで、残り約800m。おそらく購買部はそのすぐ裏。 先頭を行くのは黒天――その脚部に、久留米が腕を変質させた『ナイフ』を投擲。 キィィンッ――乾いた金属音とともに弾かれる。脚周りを守る蠅の兵士たち。 久留米――舌打ちしながら思考 (なかなかの防御力、部位狙いは厳しいわね) (でも、脚の速さは大したことない。もう一人を潰してから一気に追い抜くのも手だわ) 黒天――同様に頭を巡らす (ここは『剣』で正解だ。脚を潰されるたびに自殺即蘇生回復していたら、金貨が持たない) (けど、これで残るは一枚――使い切るとしても、あと一回きり) (僕は攻撃ができないし、脚も一番遅い。一度抜かれたら終わりだ) 冷徹に冴える脳/己の命すら躊躇いなく手札として認識する。 「あらっ、考え事してていいんですか?」 可憐塚――一気に追い抜きに掛かる。 黒天がルートを塞ぐように前を行く/久留米が飛び道具で牽制する。 即席のコンビプレーでなんとか抜け駆けを回避。 可憐塚――息一つ切らさず。 (一対一なら勝てる相手ね。どちらかに先に脱落してもらいましょうか、ふふ……) 久留米――狩人の経験則/読み合い。 (やっぱり先に潰すべきはあの女。でも、だからこそ、男の方を狙う) (正確には狙うフリをする。確実に一対一を作るために、あの女も私に合わせて男を攻撃するだろう) (その瞬間を、切り返しで仕留める) 黒天――ただ一人、異質な発想。 (僕だ。僕を同時に狙ってこい) 黒天の魔人能力『Get Midheaven――ルーカー、僕に救いを――』の第四能力。 死亡時にコインを一枚消費することによって、その場で蘇生することができる。 黒天はこの能力にこそ今回の秘策を見出していた。 『蘇生能力』は、死んでから生き返る。言い換えれば、生き返ったとしても殺人は殺人なのである。 つまり敢えて自身に隙を作り、二人の攻撃を誘う。 フェイントでもなんでもいい。 自分から当たりに行ってでも、とにかく二人の放った攻撃で致命傷を負えばいい。 それによって死亡した瞬間二人は焼きそばパンの購入権利を失い、黒天の勝ち抜けがほぼ確定する。 既に布石は張った――蠅の兵士を見せた以上、彼女らは足を狙わない。 黒天にとって致命傷(デッド・ボール)を貰いやすい、頭部や心臓への攻撃を引き出せる。 三枚目を使い切ることが前提の作戦――けれど、迷いはない。 僕は死んで当然の人間だから。 このやり方でしか贖えないというのなら、命を使い切ったって構わない。 ただし――本当に死ぬのは、あの女の人に焼きそばパンを届けてからだ。 残り300m。 意を決して、黒天はわざと転びそうなフリをした。 (さあ来い。僕を殺しに、二人まとめて来い。最高の死に様芸を見せてやる……) ――だが、沈黙。いつまでたっても攻撃はない。 (そんな馬鹿な、もう残りわずかだぞ。ここで仕掛けないでいつ仕掛けるんだ。 ――くそっ、わざとらしすぎたのか?) 黒天――振り返る。そして、やっと気付く。 可憐塚と久留米が、足を止めていた。二人はじっと、後方を見ていた。 (何を――?) 二人が見つめる先を、黒天も見た。部活棟の陰から現れたその物体は―― ――ッュン!! (な……ん……っ――) 一瞬にして黒天の頭上を通過し、旧校舎の裏に消えていった。 「お買い上げありがとうございましたー!」 愛想よく挨拶してくれた店員さんにお辞儀を返して、プレハブ小屋を出た。 わたしの手には今、あの伝説の焼きそばパンが――ああ、なんだか勝手に顔が笑ってしまう。 焼きそばパンが潰れるとまずいから、帰りは歩かなくちゃ。 肩に突撃槍を担いで出発進行。 お財布も軽いけれど、それ以上に心が軽い。 思わず鼻歌を口ずさむ。Twinkle, twinkle,フンフンフーン♪ あとはこれを、リリアと二人で分けて、その後、あの……―― 「ああーっ! い、いたでヤンス~~~!」 舗装路脇の草むらの中で、プラチナブロンドの少女・下ノ葉安里亜が殺しきれていない声を上げた。 「ちょっと、うるさい。後から遅れてきたくせに」 久留米がそれを一喝――幸いメリーは上機嫌な足取りで、物陰から己を見つめる四人に全く気付くことなく、鼻歌など歌っていた。 下ノ葉――能天気な声。 「お、遅れてきたのは関係ないでヤンス! アンタたちだって結局負けたんじゃないでヤンスか~」 黒天――思案気な表情。 「もうちょっとだったんだけどな……」 可憐塚――諦念混じりの溜め息。 「あのままいけばみらいが勝ってましたけどね」 「で、どうするでヤンスか?」 下ノ葉のその問いに。 「どうって……どうもこうもないでしょ。 焼きそばパンはあの子が勝ち取った。力づくで奪うつもりなんてないわ」 「みらいも、もういいかなって……そうだ、狼瀬先輩は結局しくじっちゃったってことなのかな。 後でたっぷりオ・シ・オ・キ、してあげなくちゃ。うふふふ」 「僕は、ちょっと身の振り方について考えようかな。今回は、もうどうしようもないですけど」 三者三様に消極を見せる。 ちっちっち、と下ノ葉が指を振った。 「甘いでヤンス! ここからが真の焼きそばパン争奪戦でヤンスよ!」 「声でかいってば。真の争奪戦? 何それ?」 「財力、政治力、権謀術数! なんとかしてあの子から焼きそばパンを手に入れるでヤンスよ! オイラは絶対に諦めない。伝説の焼きそばパンを、必ずオヤビンに!」 「そういう俗っぽいもので手放しそうなタイプには見えないですけどね……」 「いかにも純真って感じの子よね。……あの子の血はどんな味かしら」 「何事もやってみなきゃわかんないでヤンス! ってなわけで……」 立ち上がる下ノ葉。その眼には不屈の光が宿っていた。 「早速、本人に交渉してくるでヤンス! ……お~い!」 「権謀術数ね……そういえば、ハズレた焼きそばパンぐらいなら、いつもより安く手に入るかも」 無謀な第二ラウンドへと駆け出す下ノ葉の背を見送りながら、久留米はあまり夢のないことを呟いた。 5月8日 「ねえ、伝説の焼きそばパンでさ。メリーが叶えたい願いって、なんだったの?」 買い物の途中、ベンチでジュースを飲んで休んでる時に、ふと思い出したのでメリーに聞いてみた。 メリーは珍しく、少し言葉を選ぶようにうーん、うーんと悩んでから。 「こうやって、友達と。リリアと一緒に、遊びに出かけたかったかな」 なんて、漫画のお嬢様みたいなセリフを真面目に答えた。 「ねえ、リリアは?」 「あたしは別に、元からそこまで欲しがってなかったでしょ」 「えー? じゃあ、今決めて」 なんだか今日はぐいぐい推してくる。 「じゃ、あたしは不老不死ってことにしておこうかな」 「ふふ、ほんとに言ってる?」 「ごめん、嘘」 こんな他愛のない話をいくつもして、たくさんメリーの服を買って、日が暮れる前に笑って別れた。 ――外行きの服を着替えもせず、そのままベッドに突っ伏した。 友達と出かけたのなんて、いつ以来だろう。 いつの間にか、あたしは人を避けるようになっていたから。 首だけぐいっと曲げて横を見る――ちゃぶ台に置いたままのビニールゴミ。 半分もらったレアアイテムの残渣。 包装ビニールに踊るデザイン文字。 『伝説の焼きそばパン!』 正真正銘、購買部が保証する、たった一つの本物の印。 手を伸ばして掴み、包装を広げる。捲れた部分に隠れてた前半部分。 『願いが叶う! 伝説の焼きそばパン!』 たったひとつの本物ですら、嘘っぱちだったっていう印。 こういうの、出すとこに出せば追及できちゃうんだろうなあ。 嘘を許すっていうことは、とても難しいことだと思う。 許していい嘘と、許しちゃダメな嘘があって。その線引きだって人によって違って。 理屈では分かっていても感情がおっつかないことや、たぶんきっとその逆もあって。 今のあたしにとって、こいつは、どーかな。 (「リリアと一緒に、遊びに出かけたかったかな」) 嘘から出た真……まあ、ギリギリセーフってことで。 あたしはそれを許してやることにして、くしゃくしゃに丸めてゴミ箱にシュートした。 鏡に映る真っ赤な女の子はまだ半べそをかいていたから、あたしはにっこり笑ってピースしてやった。 FIN ――並行世界、山口新世界萬請負事務所。 「ただいまー!」 「おかえり。楽しかったか?」 「うん。ちょっと買いすぎちゃったかな?」 「……おいおいおいおい、本当に大荷物だな!? ……なあ、こんなに買ってくるようなカネ、一体どこから……」 「……ふふ、内緒!」 (了)
https://w.atwiki.jp/hmiku/pages/24767.html
もっとはやくはつねみくにであっていたらぼくもゆうめいPだったのに【登録タグ ぢゅ(メラゾーマP) も 初音ミク 曲】 作詞:ぢゅ(メラゾーマP) 作曲:ぢゅ(メラゾーマP) 編曲:ぢゅ(メラゾーマP) 唄:初音ミク 曲紹介 イラストとPVは、春野ほたる氏が手がける 歌詞 僕の三歳の誕生日 父親は帰らぬ人となった ずっと女手ひとつだけで 大切に育てて貰ったのに 今日も仕事探しは諦めて ゲーセンに逃避行 初音ミクの音ゲーしよう 好きなゲームでも音楽でも成功しない できない すねをかじって生き地獄 二十七歳 汚いジーンズはいて ダメ友と居酒屋 まわりに迷惑をかけるほど飲んで ひどい愚痴をこぼしたんだ 「もっと早く初音ミクに出会っていたら有名Pだったのに」 すると後ろの席の紳士が 「じゃぁやってみろよ」 と微笑んだ 頭痛して目が覚めたら 若き日の母親 若き父親も居て どうやら今日は僕の二歳の誕生日 一九八七年の八月とラジオが言う 時間が戻ったらしい 「お父さん、僕の三歳の誕生日には家に居て」 「それから、任天堂の株を買い込んでおいて」 僕はノートに落書きした これから二十年でやるべきこと 初音ミクが生まれてきたとき 僕は有名Pになるんだ 芸大を目指し死に物狂いで苦手な国語も努力した 学校帰りに東京まで行き遅くまでピアノ練習した 社交的になるために生徒会入り校則と闘った こんなにも一生懸命になれる自分が居たなんて はじめて知った そして僕は芸大に合格することできた 父親は僕の肩を叩き言った 「やればできるじゃないか」 ついに大学四年の夏 初音ミクが世の中に降臨 ミクが家に届いたその日に 僕は新曲をアップした 徐々に再生数伸びていき ついに百万再生超えたとき ふっと空を見上げてみたんだ 今までの自分を思い出し 涙が止まらない 頭痛して目が覚めたら 懐かしい居酒屋 背後から聞きなれた声が言った 「やればできるじゃないか」 そこには、あの紳士が立っていた コメント 謎の感動! -- じょるぉ (2013-03-11 21 29 07) まだ歌詞しか見てないけどすごく気になります…!さっそく聞いて来なければ!!(・ω・´)ゝ -- 菜乃葉 (2013-03-11 21 45 59) 感動っw -- モン (2013-03-11 23 05 34) なんだこれw ちょっと聞いてくる! -- 名無しさん (2013-03-12 00 15 14) 聴いてくるZE☆ -- 名無しさん (2013-03-12 16 55 53) 今すぐ聞いてこよう!w -- 赤リンゴ (2013-03-12 21 24 04) タイトル詐欺だ・・・! -- 名無しさん (2013-03-12 23 07 43) もう・・・いい曲 -- 名無しさん (2013-03-14 00 08 57) これ好き!!!! -- ringo (2013-03-15 02 14 29) タイトル詐欺だ・・・!めっちゃいい曲じゃねえか! -- 名無しさん (2013-03-22 10 53 51) 任天堂ワラタ -- おわた (2013-03-28 06 42 44) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/dangerace/pages/61.html
4位『SSその3』 その3 得票数 10 GK評 笑わせれば勝ちと言わんばかりのドライブ感溢れるSS。どこから突っ込めばいいのかわからない展開、増えるNPC、死ぬPC。校則はどこに行ったのか。なぜゴブリン。なぜ信長。私にはこのSSが面白かったことしかわかりません(不祝誕生日) サイボーグ化した店長。織田ゴブリン桜子。ダルシムとかいうインド人。そして…ちくわァァァァァァア!! 立ち止まったら爆弾が爆発して死ぬんですといわんばかりのトップスピードで最後まで駆け抜けた作品です。少しでもテンションが下がったらそれこそ爆死しかねませんでしたが巧みに乗り切りました。 しかし、焼きそばパンをナントカ買った瞬間の闇雲くんの表情はどんなものだったのか。想像が膨らみます。(tasuku) 織田信長くんが何の脈絡もなく登場してくるのが面白かったです。「パンツ一丁で学校に登校する女子生徒は実在した!」<この一文が大好きです!まさか前述のパンツ一丁の話をギャグの伏線として使ってくるとは……センスの良さが感じられます。結婚おめでとう!(冥王星) 投票コメント もう作者の気が狂ってるとしか思えないようなハチャメチャな内容!何が織田ゴブリン桜子だ!真似できるかこんなもん! 超笑いました。暴力的なまでのネタの嵐に、もうたまらんです。ゴブリン桜子の登場はやばい。ちくわあああ! 絶え間のないギャグの津波!笑ってる間に次の笑いが襲ってくる!おそろしい!大好き。 勢いが素晴らしかったです。死亡者の容赦なさにはノーコメント。ダンゲロスは相変わらず恐ろしい… 酷すぎる、最高だ。 いろいろあって良かったです な、なんなんだこのドライブ感は…… 一文一文に込められたオーラ。 展開の理屈も意味も全く訳が分からないのに、グイグイ引き込まれ、投げられる。 まさに文章の暴力。褒めてます。 こちら、全SSの中でも一番笑わされました。 独特の勢いと小ネタの数々がどれもこれもツボで、何度も噴き出しました。 ゴブリン桜子とかいきなり出てきて存在感やばいし、兵動ちゃんイジられすぎてもう大好き。 そしてやはり軽率にほとんど死んでる……好きだね君たち……w 読んで「ヒイ!」って思いました!お、同じ土俵で戦おうとしなくてよかった……! 不条理の詰まった混沌ぶり、ダンゲロスSSキャンペーンのひとつの真骨頂ですね! あまりに混沌としていて忘れそうになるんですけど、何気に「自爆特攻でも怪我で済む」という活用が能力バトルとしても見事です。 一番最後、各キャラの顛末にまで笑いが詰まっていて隙がないなと思いました。 惣佳ちゃんを差し置いてクマを使役してる冬頭さんがお気に入りです。 全体感想より抜粋 その3!素晴らしいナンセンス!めっちゃ笑ったよ!惣佳ちゃんごそんなキャラになるなんてー!? 「その3」その1がTRPG・その2がホラーであるならばその3は徹底的コメディ。最初に結末を提示し、いかにしてそこへと辿り着くのか……とマジメに読もうとした矢先に出るわ出るわの斜め上。整合性など関係ねえと言わんばかりの勢いで突っ走るスタイルは圧巻でした。ユーモア賞があるなら間違いなくこの作品です。
https://w.atwiki.jp/dangeurarace/pages/19.html
SS作成方法 このページではダンゲロスSSRaceに投稿するSSの作成方法・内容の指針を説明します。 表SSRaceとほぼ同様の内容です。 作成するSSの「お題」大枠について 今回のゲームでは、参加キャラクターは『購買部にて一日限定一個、昼休みの間だけ販売される伝説のやきそばパン』を他のキャラクターに先駆けて購入することが目的となります。 ゲームの世界観などは基本設定・MAPをそれぞれご確認ください。 作成するSSの「お題」PCの扱い、MAPについて 自キャラ以外のPCについてSSに登場させる人数は任意となります。やきそばパン争奪戦において自分のキャラクターと直接争うキャラクターだけを描写しても構いませんし、他のキャラクター視点での描写を入れてももちろん構いません。 また、舞台は希望崎学園敷地内となります。詳細はMAPを参照してください。 設定上は4限終了後から5限開始前までの昼休みの間にやきそばパンを購入していただくことになります。SS構成上必要でしたらそれ以外の時間についての描写を入れることは禁止しません。 スタート地点は4限目の授業を受けていた地点になります。基本的に新校舎でしょうが、4限が体育の授業だったら校庭や武道場になるでしょうし、音楽や化学だったら芸術校舎になるでしょう。その辺りはプレイヤーの任意です。 NPCの登場は自由となります。 作成するSSの「お題」やきそばパンの購入条件について。 やきそばパンを購入するための条件は以下の通りとなります。 4限目の授業に最後まで参加していない者に伝説のやきそばパンを購入する権利は無い。 校則違反者に伝説のやきそばパンを購入する権利は無い。 限定一個のみの販売となる。 値段は108円(税込み) 作成するSSの内容について キャラクターの設定や能力の応用方法について、キャラクターの設定欄に書かれていないことであっても、後づけで設定を足すことは(それがキャラクターや伝説のやきそばパンに関することであっても)可能です。もちろん無理な後づけは読者を納得させるだけの説得力を持たせる必要があるでしょうから、十分に注意しましょう。 SSはやきそばパン争奪戦のみを書く必要はありません。昼休みの前後を膨らませてもよいでしょう。ただし、あまりにも長すぎるなどの理由で飽きた場合読者には途中で読むのをやめる権利があります。 幕間SSについて また、本戦のSSだけでなく、参加者同士の交流や、自分の(場合によっては他のキャラクターの)設定を深める幕間SS(補足SS)を作成するのもよいでしょう。 幕間SSはダンゲロス掲示板に立てた専用の幕間SSスレッド(準備中)に書きこんでください。 幕間SSに投稿期限はありません。好きな時に書きこみましょう。 幕間SSで事前に書いた設定を使って試合SSを作成するのもよいでしょう。ただし、読者に幕間SSを読む義務はありません。 SSが出来上がったら SS投稿期限内に作成したSSを投稿しましょう。投稿方法は次のページ【SS投稿方法】をご確認ください。 SS投稿期限を過ぎた場合、失格となります。十分にご注意ください。
https://w.atwiki.jp/gs3_selif/pages/237.html
単独『生徒会執行部』 複数『お笑い』紺野・設楽 『図書館で』紺野・設楽 『歩く校則違反』琉夏・琥一・紺野 『勉強法』新名・紺野 特別『卒業』 メモ欄 単独 『生徒会執行部』 1回目 〇〇(あ、紺野先輩だ) 紺野「おはようございます! おはようございます!」 〇〇「……紺野先輩?」 紺野「〇〇さん、おはようございます!」 〇〇「あ、おはようございます!」 紺野「今週は“あいさつ運動”週間なんだ。」 〇〇「あいさつ運動?」 紺野「うん。僕の前の代から始めたんじゃなかったかな。」 紺野「やれやれ……やっと大声を出し続けるのに慣れてきたところだよ。」 紺野「朝は声が出なくてさ。」 女子生徒「おはようございまーす。」 紺野「おはようございます!」 〇〇(あいさつ運動か……わたしにもそのうち順番がまわってくるんだろうなぁ)※部活動が生徒会の場合 〇〇(あいさつ運動か……生徒会執行部っていろんなことに取り組んでるんだなぁ)※部活動が生徒会以外の場合 2回目 〇〇(あ、紺野先輩だ) 紺野「見た目より安定重視で! 絶対落ちないように!」 男子生徒「了解!」 〇〇「紺野先輩、おはようございます。何やってるんですか?」 紺野「ああ、おはよう。昇降口の内側に鳥が巣を作っちゃったんだ。」 〇〇「はぁ、こんなところに……」 紺野「うん。それでまぁ、苦情があまりにも多くて、対策に乗り出したというわけ。」 〇〇「あ……」 紺野「そう、鳥のフン。このへん真っ白だろ?」 男子生徒「紺野、クギ~!」 紺野「ああ、悪い。それじゃ。」 〇〇(あれも生徒会執行部の仕事になるのかな?) 3回目 〇〇(ん? 下駄箱前に人だかりが……) 〇〇(……そういえば今日は服装チェックの日だっけ。今日の担当は……)※部活動が生徒会の場合 〇〇(わっ、服装チェックやってる! わたし、大丈夫だよね?)※部活動が生徒会以外の場合 紺野「〇〇さん。」 〇〇「わっ!」 紺野「ごめん。驚かすつもりはなかったんだ」 〇〇「紺野先輩……」 〇〇「あの、わたしどこか違反してますか?」 紺野「はは、それで声をかけたわけじゃない。あいつら見なかった?」 〇〇「あいつらってもしかして……」 紺野「桜井兄弟」 〇〇「……何かしちゃいました?」 紺野「まだ何もしてないよ。ここを通ったら捕まえるつもりだけど」 紺野「ブラックリストのトップなんだ。もうすぐ予鈴が鳴るのに、遅いな……」 〇〇(2人ともとっくに逃げちゃったんじゃないかなぁ……) 複数 『お笑い』紺野・設楽 1回目 紺野「えっ、本当に? 一度も?」 設楽「悪かったな。」 紺野「悪くないけど……少なくとも人生の30パーセントは損してると思うよ。」 設楽「多いだろ!?」 〇〇「あの……何の話ですか?」 設楽「……なんだおまえ、いきなり。」 紺野「そういう言い方はないだろ、大人げない。」 設楽「たった一年違いで大人も何もあるか。」 〇〇「あの……」 紺野「あ、ごめん。そうだ、いいところに。」 〇〇「?」 紺野「“レッドサーキット”って見たことある?お笑い番組の。」 〇〇「はぁ、聞いたことは……」 設楽「ほら、見てないじゃないか。」 紺野「見てなくたって番組名は知ってる。常識だと思うけどなぁ。」 設楽「どこがだ。おまえの常識はあてにならない。」 紺野「それ、設楽に言われたくない。」 〇〇(……なんだか2人がお笑いコンビみたい) 2回目 〇〇(あ、紺野先輩と設楽先輩だ) 紺野「だから、そういうのをツッコミって言うんだよ。」 設楽「どれだよ。」 紺野「それだよ。」 〇〇(……またお笑いの話をしてるみたい) 設楽「……〇〇。」 紺野「ああ、こんにちは。」 〇〇「こんにちは。」 設楽「おまえ、今すぐボケてみろ。紺野がツッコミやるから。」 〇〇「ええっ!?」 紺野「いきなりできるわけないだろ。」 紺野「僕だって無理だ。見るのとやるのとじゃ全然違うんだから……」 設楽「そんなの知るか。」 設楽「ボケとかツッコミとか言われてもわからないから、見てみようと思ったんだろ。」 紺野「お笑い番組教えただろ、“レッドサーキット”。 毎週やってるんだから一度くらい見てみなよ。」 設楽「俺にはテレビをみる習慣がない。」 紺野「一度だけでいいから。面白いって、絶対。」 設楽「嫌だ。」 紺野「なんでそこでそう頑固なんだよ。」 設楽「嫌なものは嫌だ。」 〇〇(紺野先輩がツッコミで設楽先輩がボケ……かな?) 3回目 〇〇(あ、紺野先輩と設楽先輩だ) 設楽「しょうがないだろ、全然理解できなかったんだから。」 紺野「なんでかなぁ……あんなに面白いのに……」 〇〇「お笑いの話、ですか?」 紺野「〇〇さん、そうなんだよ。設楽がちっともわかってくれなくてさ。」 設楽「“レッドサーキット”とかいうお笑い番組を見てやったんだ。」 設楽「わざわざその時間に電話で知らせてくるから……」 〇〇「どうでした?」 設楽「……バカバカしいだけだった。」 〇〇「お笑いですから……」 紺野「まぁ、芸人にもいろんなタイプがいるからなぁ。たまたま設楽の好みを外したのかな。」 紺野「それなら今度、“ソーメンズ” のDVD貸すよ。これは絶対面白いから。」 設楽「いい。」 紺野「遠慮しなくていいから。」 設楽「遠慮してるように見えるか? 全然してないよ、むしろ嫌がってる。」 設楽「そんなに言うなら俺だって”ショパン全曲集”全6巻貸すぞ。」 紺野「……いい。」 設楽「遠慮するな。」 〇〇(……2人のお笑いなら見てみたいかも……) 『図書館で』紺野・設楽 1回目 〇〇「本を返却っと……」 設楽「別にいいだろ、どういう読み方したって」 紺野「良くないよ。面白さが半減するだろ」 〇〇(あ、設楽先輩と紺野先輩だ) 〇〇「どうしたんですか?」 設楽「……なんだ、おまえか」 設楽「どうもしない、本を返しに来ただけだ」 紺野「設楽、後輩にそういう言い方はよくない」 設楽「何先輩面してんだよ」 紺野「設楽だって威張った様な態度で……」 〇〇「あのー……」 紺野「ああ、ごめん」 設楽「………………」 紺野「それがさ、設楽が本はあとがきから読むって言うんだ」 〇〇「はぁ……」 設楽「それのどこが悪いんだ。おまえに迷惑かけてるわけじゃないだろ」 紺野「だって結末を先に読むようなもんじゃないか。信じられない」 〇〇「ミステリーなんかだと犯人が書かれてることも……」 紺野「だよなぁ。その通りだよ」 設楽「おまえは関係ないだろ。なんで紺野の味方するんだ」 〇〇「そ、そんなつもりは……」 紺野「設楽、後輩にそういう言い方はよくない」 設楽「何先輩面してんだよ」 〇〇(ループだ……) 2回目 〇〇(あ、紺野先輩と設楽先輩だ) 設楽「………………」 紺野「………………」 〇〇(2人一緒のわりに何もしゃべらない……) 〇〇「こんにちは」 紺野「やあ」 設楽「………………」 〇〇「……あの、静かですね?」 設楽「図書館で静かにしてるのがおかしいのか?」 〇〇「おかしくはないですけど……」 紺野「設楽、そういう態度良くない」 設楽「そういうってどんなだよ」 紺野「そういう態度だよ」 紺野「後輩の女の子にくらいもう少し柔らかい態度でも……」 設楽「俺は誰にでも平等なんだ」 紺野「また屁理屈を……」 設楽「屁ってなんだ。ただの理屈だ」 紺野「だからそれが……」 司書「しーっ! そこ、さっきからうるさいと言ってるでしょう!」 設楽「………………」 紺野「………………」 〇〇(なるほど、さっきも怒られたんだ……) 3回目 〇〇(あ、紺野先輩と設楽先輩だ) 設楽「……あ」 〇〇「こんにちは」 紺野「やあ、君も図書室で勉強?」 〇〇「そんなところです。紺野先輩たちは何を?」 紺野「僕は受験勉強、彼は宿題。たまたま会ったんだ」 〇〇「たまたまなんですか。それにしては、よくここで2人を見かけるような……」 紺野「まぁ、確かによく会うよ。偶然」 〇〇「偶然……」 設楽「………………」 設楽「……終わった」 紺野「あれ、もう? 全部埋められた?」 設楽「半分くらいわからないんだよ。悪かったな」 紺野「悪いなんて言ってないだろ。どれ?」 設楽「これとこれとこれ」 紺野「ああ、定積分の計算か。ちょっと待って、教科書出すから」 〇〇「………………」 設楽「……なんだよ」 〇〇「いえ、別に……」 〇〇(……偶然?) 『歩く校則違反』琉夏・琥一・紺野 1回目 〇〇(さて、今日も頑張ろう) 琉夏「〇〇ちゃん。」 〇〇「あ、琉夏くん。おはよう」 琉夏「行ってきます。」 〇〇「琉夏くん、まさかまた……どこ行くの!? もうすぐチャイム鳴るよ!」 琉夏「ちょっと野暮用。またな!」 〇〇「もう……」 紺野「〇〇さん。」 〇〇「あ、紺野先輩。おはようございます」 紺野「おはよう。桜井見なかった? 弟のほう」 〇〇「琉夏くんですか? あの……えーと……」 紺野「ハァ……いいよ。君に聞いても無駄だ。また逃げられたか……」 〇〇「……何かしちゃいました?」 紺野「彼は歩く校則違反だから。あの髪……」 〇〇「なるほど……」 紺野「いい加減なんとかしたいんだけど、注意どころか捕まえることすらできないんだ」 紺野「さっきはあと1メートルってとこまでいったのになぁ、やれやれ……」 〇〇(……猫か何かを追いかけてるみたい……) 2回目 〇〇(さてと、今日も一日がんばろっと) 琥一「〇〇。」 〇〇「あ、琥一くん。おはよう。」 琥一「おう。まだ風紀委員立ってたか?」 〇〇「校門に? もういないと思うけど……」 琥一「なら正面から出るか。」 〇〇「えっ、どこ行くの!? もうチャイム鳴るよ!」 紺野「待てっ!」 〇〇「わっ!?」 紺野「君、止めなきゃ駄目じゃないか! あれはどう見てもサボりだろ。」 〇〇「す、すみません!」 紺野「……あっ、ごめん。3階からずっと追いかけて来たから、気が急いてて……君が悪いわけじゃないよ。」 〇〇「……追いかけてたんですか?」 紺野「逃げられたけどね。今日こそ違反の数々を問い詰めようと、教室の近くで張ってたのに……」 〇〇「お疲れ様です……」 〇〇(琥一くん、追いかけられてたんだ。落ち着きすぎだよ……) 3回目 紺野「そして、その頭だ。頼むから何とかしてくれ。僕が伝えたいことは以上だ。君たちは?」 〇〇(あ、紺野先輩だ。それと……) 〇〇(琉夏くんと琥一くん! 2人とも、捕まっちゃったんだ……)」 琉夏「コウ、やっぱそのアタマダセェって。」 琥一「バーカ、テメェだ、言われてんのは。ククッ……」 紺野「……はぁ。もう、行って。次から気をつけるように。」 琉夏「はーい。」 琥一「………………」 紺野「〇〇さん。」 〇〇「あっ、えーと、お疲れ様です……」 紺野「やれやれ、ようやく彼らを捕まえたよ。できるだけの注意はした。」 〇〇「どうでした?」 紺野「どうかな……正直成果はまったく期待してないよ。僕の言うことなんて聞くような2人じゃないのはわかってる。」 紺野「だからって見過ごすわけにはいかないし……」 〇〇「……生徒会長として?」 紺野「それもあるけど、でも、それだけじゃない。服装違反くらいならまだしも危ない噂も聞くから、」 紺野「顔見知りとして心配というか……はは、彼らにしてみれば大きなお世話だろうな。」 〇〇(紺野先輩……やっぱり優しいんだな) 『勉強法』新名・紺野 1回目 〇〇(新名くんと紺野先輩だ) 新名「オレ、勉強しているとすぐ飽きるほうなんすけど、アレ使うと持つんすよ。」 新名「プラシーボかもだけど実際、順位上がったんで案外、侮れねぇなと。」 紺野「そっか。じゃあ僕も暗示にかかろうかな。」 新名「ハハッ、かかんなくても玉緒さん常にトップ3に入ってんじゃん。」 新名「てか、すげー……あの位置をキープできる勉強法、知りてぇ~。」 紺野「僕のほうこそ聞きたいよ。 前に、忘れたころに復習するって言ってたよね。」 新名「忘れかけのころ、が正解ッスね。記憶の強化に最適なのは。」 新名「脳のメカニズム知ってから勉強すると、面白いッスよ。いろいろ。」 紺野「へぇ……じゃあ今度、お互いの勉強法を披露してみようか。」 新名「押忍!」 〇〇(二人が勉強の話で盛り上がってる……なんだか意外なような) 2回目 〇〇(新名くんと紺野先輩だ) 新名「え! 全部!?」 紺野「うん。かなりアレ、気に入ったみたいで……詳細を聞いてきてくれって頼まれたんだけど、いいかな。」 新名「全然いいっすよ。てか、玉緒さん姉ちゃんいたんだ。」 紺野「紹介はしないよ?」 新名「や、カンベンしてください。玉緒さんのお姉さまなんて、恐れ多いッス。」 紺野「…………言い出しておいてなんだけど、ごめん。僕もムリだ。」 新名「え。……怖いんすか?お姉さん。」 紺野「うん、まあ……怒ると、ちょっとね。」 新名「あ~……その。なんつーか、お疲れッス。」 紺野「ハハハ……ありがとう……」 〇〇(そういえば、前にもアレがどうのって……何のことだろう?) 3回目 〇〇(新名くんと紺野先輩だ) 新名「これ、約束してた例のヤツっす。使い方のメモも入れといたんで。」 紺野「ありがとう、助かるよ。」 新名「あ、お姉さんのとは別に玉緒さんのも入れといたんで使ってください。バレないように。」 紺野「ハハ、がんばるよ。っと、ごめん。次は移動教室だからこれで。」 新名「押忍、お疲れっす!」 〇〇「新名くん。」 新名「〇〇さん。ちょりーっす。」 〇〇「ちょりっす。紺野先輩、忙しそうだね。」 新名「いっつもあんな感じじゃね?常に悩んでるっつーか。で、アロマオイルを渡したわけ。」 〇〇「アロマオイル?」 新名「うん。オレ入浴剤集めんの割と好きでさ。いいのあったから。」 〇〇「そっか。でもどうして新名くんが?」 新名「あ~……そこは、ホラ。疲れさせてる原因の一つにオレが含まれてるような気がしないでもないかな?みたいな?苦労かけてんだからこれくらいは。なあ?」 〇〇(校則違反を正したほうが喜びそう……って言ったら元も子もないかな?) 特別 『卒業』 ※友好限定 ※好き以上は途中からスチルイベント発生 紺野「〇〇さん。」 〇〇「紺野先輩、卒業おめでとうございます。」 紺野「ありがとう。」 紺野「やれやれ、ここまで来るのにずいぶん時間がかかった。」 〇〇「モテモテでしたね?」 紺野「やめてくれよ……生徒会長だったからってこんなときばかり持ち上げるんだ。」 紺野「……でも、そう呼ばれるのも最後だと思うと、やっぱり寂しいな。」 〇〇「紺野先輩……」 女子生徒「紺野くん!先生囲んで写真撮るからおいでよ~! 紺野「……あ、クラスメイトが呼んでるから行ってくる。最後だしね。」 紺野「また連絡するよ。卒業してからも、よろしく。」 〇〇「はい!」 〇〇(紺野先輩、とうとう卒業しちゃうんだ……) 更新日時:2018/10/23 15 57 26 wikiトップ|▲ページ TOP メモ欄 枠内に書き込み、投稿ボタンを押すとここに表示されます。 メモ wikiトップ|▲ページ TOP
https://w.atwiki.jp/drs01x/pages/54.html
魔人とは 魔人とは、人間の域を超えた身体能力や技術を持ち、また固有の超能力(特殊能力)を備えた存在です。 彼らは生まれた時からそのような力を持っているわけではなく、何らかのきっかけによって魔人に覚醒します。 覚醒者の傾向 日頃から妄想ばかりしている人や、目立ちたがり屋、「オレは他のヤツラとは違う特別な人間なんだ」と思い込んでいる人などが魔人になりやすく、幼児期や少年期、特に中学二年生頃は魔人覚醒の可能性が高くなります。そのため魔人の持つエネルギーのことを、専門家は「中二力(ちゅうにりょく)」と呼んでいます。 幼児期の子供は、手からエネルギー波を出したりする漫画の主人公などに憧れることが多く、覚醒した場合は特殊能力も攻撃的なものとなる傾向にあります。一方、中学~高校生頃に覚醒した魔人は、男女を問わず性的な能力を得る者が出てきます。 一般的な中学、高校では、1学年に2~3人の魔人が含まれます(治安の良い学校における不良の割合と同程度)。ただし、魔人は差別の対象になりうるため、特定の学校以外では自分が魔人であることを秘密にしておくのが普通です。 自分の能力に無自覚であったり、その力の詳細を知らない者もおり、同年代の不特定の他者が作り出す集合的無意識によって魔人となるものもいるとされています。 また、ごく稀にではありますが、魔人として覚醒しやすい血統を持つ人間も存在します。 特殊能力 魔人の持つ特殊能力とは、「自己の認識を他者に強制する能力」であり、もっと端的に言うならば、「自分の妄想を他人に強制する力」のことです(ゲーム的には「プレイヤーの妄想(した超能力)を他者(他プレイヤー/ゲームキーパー/ゲーム全体)に強制する」と考えて下さい)。 魔人同士の戦いとは互いの妄想のぶつけあいに他なりません。 特殊能力は魔人にとって自己のアイデンティティに等しいものです。そのため、思春期の魔人たちは「自分らしさ」を表現するために能力を行使しようとする傾向があり、理由なき暴力、理由なき殺人を行う魔人も珍しくはありません。 そのため、魔人は社会的には犯罪予備軍として認識されており、周囲からは差別的な視線を送られています。 魔人の突発的犯罪、すなわち、「キレる魔人」は社会問題となっており、老人などは「ワシらの若い頃は村ぐるみで魔人を教育しとったから、今の若い魔人のように凶悪犯罪を犯すことはなかったんじゃ」などと言いますが、実際の魔人の犯罪率は以前に比べ減少傾向にあります。 差別 魔人は差別の対象となることがあります。 そのため、理性的な者は自分が覚醒しても能力を見せびらかしたりはせず、ひた隠しにします(シークレット)。 ただし、そのような理性的な魔人は、調子に乗ってすぐに能力をひけらかす魔人に比べて中二力が弱く、能力や肉体の強さで他の魔人より劣る傾向にあります。 死ぬまで魔人 覚醒した者はその後元に戻ることは無いため、若者だけでなく老年の魔人も多くいます。 彼らは雇用差別や住居差別を受けることが多く、その鬱憤からやはり突発的犯罪を犯しがちです。犯罪者にならずとも、アル中になったり、ホームレスになったりする者も少なくありません。 中には魔人の力を使って事業などに成功し、巨万の富や権力を得ている者もいますが、彼らは一般人から妬まれ、ユダヤ人や客家のように扱われます。 魔人の覚醒には遺伝要因もあるらしく、成功した魔人の一族郎党が集まり、財閥のような形を取ることもあります。これら一族では子や孫が魔人へと覚醒することを厭わず、むしろ覚醒を促すような教育を施すケースもあり、「児童虐待ではないか?」と社会問題になっています。 また、スポーツをする者の中には、強い相手との出会いを繰り返すことで魔人としての力が飛躍的に増大するケースがあるようです。 なお、魔人の中には、大人になってから自分の特殊能力を「恥ずかしくて仕方ない」と思うようになる者もあり、場合によっては、鬱病や強迫神経症へと発展します。カウンセリングに行くと、「それもあなたの個性なのよ」と慰められます。 その一方で、「ウオオ、オレの能力マジかっけえ!」と、一生自分に酔い続けている魔人もおり、彼らは周囲の差別など屁とも思わず、一生、明るく楽しく楽天的に生きます。 魔人警察官 警察も魔人を採用して、魔人の凶悪犯罪に対処しています。 魔人警察官は、魔人が就職できる数少ない採用口であり、非常に倍率が高いです。 また、他の魔人に比べ、一般人から受ける差別も比較的少なくてすみます。その代わり、魔人警察官は他の魔人に対する差別感情が強く、犯罪を犯した魔人への取調べは苛烈を極め、しばしば社会問題となります。 魔人警察官の他には魔人機動隊もあり、1970年代初頭、過激派魔人学生が起こした山荘立てこもり事件に出動したことで有名になりました。自衛隊にも魔人のみを集めて構成された魔人中隊があり、魔人の一個小隊は通常の大隊相当の戦力にあたると言われています。 なお、魔人自衛官は通常の二階級上の給与を得られますが、佐官へは昇進できません(魔人中隊の指揮官は一般人の一佐が務めます)。学園外での魔人の犯罪やテロ行為に対しては、これら魔人警察官等が対策に当たります。 治外法権地区 学園内での犯罪に警察権力は介入できません。 1960年代に活発化した魔人学生による学生運動の結果、1970年代初頭に「学園自治法」が制定されたためです。これにより、全国の小・中・高・大学は校則を唯一の法律とする治外法権特区となり、学園内の治安は自己責任となりました。 学園側は魔人体育教師などを雇い学園の治安維持に努めましたが、魔人学生たちは番長グループを組織してこれに対抗。多くの学園では番長グループが勝利し、学園を暴力で支配したため、校則は形骸化しました。 1990年以降は、全国の手の付けられない魔人学生たちを私立希望崎学園他、いくつかの学園に集めることで、多くの学園の治安は回復して来ています。こういった魔人の受け入れを行う学校は、一般的に魔人学園と呼ばれます。 しかし、それでも魔人の突発的な覚醒は防ぎようがなく、魔人学生による大量殺人は年に十数件報告され、ワイドショーなどで面白おかしく取り上げられています。 なお、希望崎学園は魔人の占める割合が高いため、学園内での魔人への差別感情も少なく、治安はともかくとして魔人の精神衛生上はむしろ外部世界よりも良好です。 転校生 転校生とは、何らかの条件により魔人から進化する突然変異体ですが、詳しい発生原因などは解明されていません。 もともと持っていた魔人としての能力は消失し、代わりにまったく異なるロジックの能力を身に着けています。 身体的にも、能力的にも魔人を凌駕する恐るべき存在です。 彼らは契約によって召喚され、さまざまな次元を渡り歩きます。
https://w.atwiki.jp/tsvip/pages/577.html
佐伯可南子は、不健康を自覚していた。 セーラー服がだぶつくのはいつものことだが、ブラジャーがゆるくなったことに可南子は焦りを感じた。また痩せている、と。 食事を抜いているせいだと気づいたが、今朝も食欲はない。ある程度どのくらい食べれば生きていけるか、感覚は備わっている。だから大丈夫だと思っていたのに、ここ二週間ほどで一キロ痩せた。 「…大丈夫、まだ死なない」 大丈夫など、自己暗示に過ぎない。だが、可南子は呟く。 大丈夫、大丈夫、と。 大丈夫ではないと自分で自覚しているくせに。 通学中に早瀬を見かけた。早瀬はセーラー服にコート姿ではなく、冴えないジャージにパーカー姿だった。 勿論、制服での登校が義務付けられている可南子の高校では、校則違反に値する行為だった。だが、その校則違反も黙認されているのは早瀬が女体化したからだ。 早瀬の後姿はどこか頼りない。一歩一歩歩くたび、体が傾ぐように見えるのは気のせいではないと思う。 弱々しいくせに虚栄心が強く、プライドが高い早瀬は男子であるときから孤立していた。そして女子である今も、その状況は変わらない。 虚しい。 可南子はその後姿に呟く。 あんた、超虚しいよ。あたしもだけどさ。 この世界が憎いと思う。例え自分が原因でも。 そう思うのは早瀬も自分も一緒だと思う。早瀬の横顔や後姿を見るたび、可南子は同類の悲しさを知る。 決して、上手に生きられないのだと。 教室の窓際の席が可南子の居場所だった。ぼんやりと窓を眺める。口の中には甘ったるい飴玉が入っていた。 糖分を摂取していればなんとか生きていける、と思って飴玉を舐めることが習慣になっていた。だが、時々耐え切れなくなって飴玉を吐き出すことがある。そのたび、心臓が冷える気がした。 食べることも寝ることも出来なくなったら、壊れる寸前。 そんなことを思うと、心臓が痛む。 可南子は無理に友達を作ろうとすることをやめ、孤立することが多くなった。教室にはそんな同類たちが 男女関係なくいる。決して群れることをせず、一人寝ていたり本を読んでいたりする。 冷やかし目的で話しかけられることがあると、可南子はいらつく。そんな自分がとても嫌だと感じるくせに、態度を改めないのは可南子が他の人間を見下しているからだった。 自覚のない見下し、プライドの高さ。それは、幼さと寂しさがねじれた結果。だが、ねじれたものはなかなか戻らない。 正直、可南子自身どこでねじれたのか分からない。祖母との不仲や、小学校の頃リーダー格の女の子を怒らせてクラス全員から無視されたとか、そういうことが原因としてあるのかもしれないが、どれも決定打にならないような気がした。 どこでこうなったのか。 それは、考えても考えても分からない。 食事が出来なくなってきたのも、緩やかな変化だった。自分でも気づかないほどゆっくり、体は追い詰められていった。 あたしは壊れるのかな。ぼんやり思う自分に、危機感がないことに気づいて可南子は苦笑した。 鈍感なのか、それとも諦めきったのか…。 きっとこのまま、死んでいくのだろう。そう思いながら、日々、流されるように生きている。 屋上の鍵が壊れていると知ったのは、つい数日前のことだった。 たまたま、教師に言われて屋上の階段近くの空き教室に出向いたことがきっかけで、なんとなく屋上の入り口のドアノブをまわすとあれ、と思った。そこでしつこく開け方を研究した結果、可南子は屋上に出入りすることが出来た。 放課後、こっそりと屋上に入ると、心が弾んだ。風の冷たさも屋上では我慢ができる。 ぼんやりと空を仰ぎながら携帯電話で音楽を聴く。鼻歌を歌いながら、空と同化したいと甘く愚かな夢を見ているときだけ、 幸福だと思えた。 三曲目が流れ始めたとき、可南子はいきなり肩を叩かれた。 「ひっ」 声をあげ、後ろを振り向くと早瀬が立っていた。 「あ、はや、せ、くん」 「アンタも、知ってたんだ、ここ」 「うん」 早瀬の目は静か過ぎて不気味だった。早瀬は可南子の隣に座った。 「…早瀬くん?」 「あんたさ」 「うん」 「メシ、食わないの」 可南子は驚き、沈黙した。食事を抜いていたことに早瀬が気づいていたなんて知らなかった。そして、ここまでうろたえる自分に驚いた。 「…関係ないでしょ」 「可愛くないね」 早瀬が笑い、可南子は早瀬を睨んだ。だが、早瀬は怯むことがない。 「なあ、佐伯。お前ね、一人で生きているわけじゃないんだよ」 淡々と、早瀬は言う。 「お前を見ていない人間だけじゃないんだよ。お前を見ている人間も居る。お前、忘れてるだろ」 「うるさいなぁ」 可南子は立ち上がろうとしたが、早瀬の手が可南子の手首を掴んでそれを阻んだ。早瀬の手は、柔らかく、少女の手になっていた。 「忘れんなよ」 「忘れなかったら何になるの?何か変わるの?」 早瀬の感情のない瞳を見ていると言葉が暴走した。感情を抑える壁が決壊したのが分かった。 「あたしなんか消えちゃうんだから。壊れちゃうんだから、いつかは」 「まだ止められる」 「うるさいな」 可南子は早瀬の手を振り払った。だが、またもや早瀬の手が伸びてくる。 「忘れんなよ」 可南子は早瀬の手に捕まらないように逃げた。走って屋上を飛び出し、階段を駆け下りた。 意味もなく泣きそうになった。 翌日、可南子はスティック上の栄養補給用の菓子を学校に持ってきた。 「メシ、食べるよ」 机に伏せていた早瀬に菓子を見せてそう言うと、早瀬が笑った。顔を上げてにやにやしていたかと思うと、ポケットからチョコレートを取り出し、可南子に手渡した。 「女の子は甘いもん好きだろ」 「決め付けんなばーか。あたし好きだけど」 「一緒に食おうよ」 「あたしが全部食べます。貰ったからね」 早瀬は可愛くねぇ、と笑い、小さな声で「食えるならまだ上等」と言った。 可南子はその言葉に頷いた。そうだね、まだ食べられるよ。そんなに食べられないけどさ。 「ねえ、早瀬」 「ん」 「あんた、あたしのこと見てた?」 早瀬は一瞬目を泳がせ、それから肩をすくめた。 「ん、まあ」 「あたしも見てたよ。あんたの横顔、虚しいな、って思いながら見てたよ…」 チョコレートを握る。多分、これを全部食べることは難しいだろう。可南子の胃は水分とちょっとの食べ物しか入っていないのが常なのだから。 「忘れなかったら大きく変わることなんてないよね。でも、なんだか、あんたと話したらちょっと、食べるのもいいかも、って…」 「じゃ、それでいいじゃん」 早瀬が笑った。 「いいじゃんそれで。それでいいよ。少しずつ、ゆるゆる変わっていけばいいじゃん。どうせ人間なんて皆、ゆるゆる変わっていくんだからさ」 「…うん」 早瀬はあたしと似ているんだな、と可南子は思った。だから、早瀬はあたしに気づいたのかな、と。 「早瀬、あたし、食べるよ…」 同類とともに居られるなら、生きていけるだろうか。この先も。 「うん、食べろ」 可南子は早瀬に笑い返した。久しぶりに笑ったと思った。 おわり。
https://w.atwiki.jp/yomedousi/pages/827.html
スレ40-76 76 名無しさん@HOME 2011/03/24(木) 14 54 54.50 0 被災地区ではないんだけど、地震の影響の玉突き人事で義弟家が転勤になるらしい。 姪(義弟家の娘、一人っ子で我儘)が私立中なので、転勤後にうちで預かってクレと言われたらしい。 らしい、ってのは私が知らぬ間に義弟家から打診があり、旦那が断ってたから。 旦那GJ!! 先ほど義弟嫁から家電(私宛)に申し込みが来たので判明した。 もちろん断った。 寮はないし、校則で中学生は保護者なしでアパート暮らしは禁止らしいので向こうで再受験するなり、義弟が単身赴任なり家族で都合してガンガレ。 78 名無しさん@HOME 2011/03/24(木) 15 32 32.75 0 76 単身赴任が選択の第一位にならないのはなぜなんだ 79 名無しさん@HOME 2011/03/24(木) 15 34 57.18 0 浮気の前科があるからじゃね? 80 名無しさん@HOME 2011/03/24(木) 16 01 44.81 0 高校生で寮があるならわかるけど、中学生なら普通は単身赴任だと思う。 81 76 2011/03/24(木) 16 01 59.83 0 よくわからないけど義弟嫁の話だと単身赴任の場合でも、今住んでるマンションを出なきゃいけないらしい。 そして独身寮などがなく転勤先の物件の家賃の半額だけが家賃補助対象なので 義弟嫁と姪の引っ越し代と家賃(全額自己負担)生活費と義弟の家賃半額と生活費の2軒を維持するのが厳しいとか言ってた。 少ないとはいえ、転勤がある職場で実家も当てにできない状態で子供を寮がない私立に入れたツケだと思う。 姪は我儘だから下宿させるつもりはないし、本人からきた電話も「お願い」と呼べるような殊勝な態度では決してなかった。 だってだって転校したくない、家出して自殺してやるぎゃーーんって感じで聞いてて不愉快だった。 82 名無しさん@HOME 2011/03/24(木) 16 07 28.20 0 >少ないとはいえ、転勤がある職場で実家も当てにできない状態で子供を寮がない私立に入れたツケだと思う。 全くその通り。 83 名無しさん@HOME 2011/03/24(木) 16 11 24.61 0 だな。せめて寮があるとこを選ぶべき。 85 名無しさん@HOME 2011/03/24(木) 16 18 57.28 0 まさかタダで預かってもらうつもりだったのかとw 86 名無しさん@HOME 2011/03/24(木) 16 29 51.77 0 まあ出してもせいぜい一~二万円で預かってもらうつもりだったんじゃない? 87 名無しさん@HOME 2011/03/24(木) 16 35 24.21 0 1~2万ってw 食費にすらならんべw Next→40-142