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森近 霖之助/1弾 森近 霖之助/7弾 森近 霖之助/12弾 森近 霖之助/16弾 森近 霖之助/20弾
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これは 未知との遭遇(2)第三種接近遭遇 の続きとして書かれたものです。 変人さんはそこらに落ちてるので探してお読み下さい。正常な方は今すぐ閉じて下さい。どちらでもでもない方は慧音と霖之助がちょっと仲良くなった状態と考えてお読み下さい。 接近遭遇の順序がおかしいのは仕様です。 第四種接近遭遇 霖之助は商品の調達時以外は基本的に外出しない。読書が好きだからとか店番をしなければいけないから等は 体のいい言い訳でしかない。いや、もちろんそれらも大きな理由なのは間違いない、間違いはないが他にもいろ いろとあるのだ、長く生きていれば事情のひとつやふたつなどあって然るべきだ。とまあこれはどうでもいい話。 詰まるところ、今日も今日とて霖之助は香霖堂に籠っていた。 いつもと違うのはこの店にしては珍しく客がいることだ、常連以外の。霖之助にとっては不思議なことだが、 ある日を境に人間の客が急激に増えた。彼らはみな一様に好奇心に溢れた目で店主と商品を見て、たまに売上に 協力している。中にはなぜか霖之助に好戦的な態度を取る者もいた、全く相手にされていなかったが。 いやはや、理由が分からない。 ある陽光麗らかな午後、数人の女性客が店内にいた。彼女らもまた冷やかし目的で来店した集団だ。霖之助は 読書に意識の大半をまわしているので気づいていないが、冷静に見れば彼女らが見ているのが商品ではなく霖之 助であることを看破することは容易い。彼は時たま上がる黄色い声がうるさいとしか感じていなかったが。 「ごめんください」 店主が読書と客にいかにして売上に協力してもらうか姦計を巡らせることに気をやっていると何者かの声がし た。霖之助が本から顔を上げると果たしてその姿が春風に衣をはためかせていた。 「いらっしゃいませ。何かお探しでしょうか?」 「今さらあなたにそんなことを言われるのは変な感じがしますね。すみませんが今日も何か買おうというわけじ ゃないんですよ」 一応礼儀としての声を丁重に断る彼女――上白沢慧音だった。慧音は自分以外の客に気づいていないらしく、 形としては敬語だがどことなく柔らかい口調で声を掛ける。 一歩店内に踏み込んだ辺りでやっと客に気づく。慧音はすぐさまそれぞれの名前らしいものを挙げ、話しかけ るたが、女性客らは口々に何かを言ってすぐさまきゃいのきゃいのと退店していった。 「なんだったんだ彼女らは……」 その息のあった引き際の良さに霖之助は唖然としてしまった。慧音は自分に出会いの挨拶も交わさず、店主に 別れの挨拶もせずに帰ったことに不満をもらす。 「代わりに謝罪します、すみませんでした。彼女達の内のひとりは私の教え子でしてね、普段は礼儀正しい真面 目な生徒なんですが今日は少々様子がおかしかったようです」 律儀に霖之助に頭を下げる、彼としてはそんなことはどうでもよいのだが。走り去った客の容姿を思い出しつ つ質問する。 「今考えてみると彼女らは全員とも寺子屋の生徒といった風貌ではなかったようだけど」 きょとんと霖之助を見返す慧音だったが、すぐに合点がいった。 「寺子屋と言っても歴史の学校です。本分は歴史を教えて人間と妖怪の共存を図ろうというものですからね、門 戸は広く開けています。多少歳を食っていようと本人にその気があればみんな生徒ですよ。それにしてもあな たが他人の容姿を覚えているとは驚きですね」 それでも生徒は多くありませんが、と付け加えることは忘れなかった。 半妖からすれば人間の容姿を覚えるなぞ馬鹿らしいにもほどがある。彼らにとってのそれは、動物嫌いの人間 が野良犬や野良猫の成長を事細かに記録するような行為なのだ。気がつけば大きくなっているし、気がつけば死 んでいる、当然その内記録することが馬鹿らしくなってくる。それほどまでに寿命に差がある。 それから派生して妖怪などの長命な種族相手ですら容姿を覚えることなどしない。ただ「この相手はどこの誰 だ」という情報のみで事足りてしまう。むしろそれ以外は蛇足だ。 よって彼らにとって大体の場合、外見の記憶とは信愛の証とほぼ同義である。慧音のようにいちいち覚えてい る方がよっぽど稀有な例だ。 「彼女らは君と同じくらいの歳に見えたよ」 店主は客に椅子を勧め、客は店主の言に甘える。 「半獣の私と人間の彼女達を見比べるという愚かしいことをする方とは思っていませんでした。そういえばなぜ 彼女達は私に対してお邪魔しました、なんて言ったんでしょうね」 首をかしげる半獣、香霖堂での彼女は本当に物を知らぬ少女のようだ。 「僕にはがんばってくださいだの応援してますだのだったな。香霖堂の応援をするのならば声援ではなく商品の ひとつでも買って行ってくれた方が数倍助かるのだけど」 同じく首をかしげる半妖、彼に商人としての才があるのか甚だ疑問だ。 「今日は何の用だい? 買い物でないのはさっき聞いたけど」 霖之助は奥からカップをふたつ持ち出してくる。中は黒い液体がなみなみと満ちており、光を飲み込んでいる。 「はい、今日はですね。ええっと、あれです、前回相談したことについてです。あれがどうやら解決したらしい ので、相談した手前森近さんにも話しておくのが筋かと思いましてお邪魔しました」 もちろん霖之助にとってはどうでもいい話だが、彼女自身の気が済まないのだろう。つくづくつまらない堅物 だと霖之助は再認識する。 「その女生徒なんですがどうやらうまく行ったようで、ある男子生徒と一緒にいるところをよく見るようになり ました。うれしそうに礼も言って来ましたよ」 真っ黒な珈琲を啜りながら報告する。 「それは何より。でも少し意外だな、君がその手の相談に的確に答えられるとは思わなかったよ。前回の様子を 見る限りではね」 笑いを噛み殺しながら霖之助はカップを傾ける。慧音は苦々しい顔をするしかない、あれはどう考えても失態 だった。 「馬鹿にしないでください、と言いたいところですが私自身は何もしてないんですよね。礼もなんと答えれば良 いか困っていたところに突然言われたものですから」 「それは妙な話だな、何もしてないのに礼か。自己解決したが一応言っておこうとしたんじゃないのかい? 君 のように」 「その線も考えられますが、勇気を出して先生の真似をしたらうまくいきました、と言われたんです。私の真似 ということは知らず知らず何かをしていたんでしょうね。それが何かはわかりかねますけど」 いやはや、全く理由がわからない。 また珈琲を啜る。そこではたと気がついた。 「ここで珈琲を頂くのは初めてですね。何かあったんですか?」 「ああ、君の家でごちそうになったときにあまり飲めなかったのがくやしくてね。家で練習中なのさ」 「練習しなければいけないようなものは嗜好品とは言えませんよ。楽しめているうちに留めておくのが華です」 慧音の鼻は出された珈琲がなかなかの上物であると判断している。 「そこで何か不快な思いをしてね。最近はちょうど収入もあったから里で仕入れてみたのさ」 半獣はまたもや首をかしげる。 「不快な思いをしたのにわざわざそれを思い出すようなものを買ったんですか?」 「……言われてみればそれもそうだな。どうして僕はこれを買ったんだろう。心当たりはないかい?」 半妖の質問に答えられるはずもない。いや、答えは簡単だ、だがその簡単な答えを持っている存在は今の香霖 堂の店内にはいない。 慧音は黙って珈琲を啜る。霖之助のカップはすでに空だ。 いやはや、全く理由がわからない。わからないったらわからない。 ある夜、霖之助は珍しく表を歩いていた。たなびく雲が月にかかり、風が花を揺らし、霖之助の手にはいくら かの命の水。風情はないが、いい夜だ。彼は春風薫るあまりにいい夜なのでついつい散歩をしていた。 商売人が最も気をつけなければいけないのは情報だと聞いたことがある、なので職人芸というものを知ってお くのも悪くなく、自家製では出せない味を知るのも非常に重要なことだ。品物の価値を見極め、価格交渉をする に至ってはまさに商いの実践演習である。つまり今これを持っているのはつらい修行の一環だということは明ら かである。 普段は飲まぬ少し高めの酒を手に入れて霖之助はご機嫌だった。 まだまだ人里に近いというのに青年の足音を除いて実に静かである。夜遅いことを差し引いても少し静かすぎ る。浮かれた霖之助はそんなささいなことに気が回っていないようだが。 風があるとはいえせっかくの花を見ない手はないと外れに群生する桜を尋ねることにしたらしく、風呂敷包み をゆらゆら道を行く。 桜の木に近づく青年の姿を見つけた妖怪がいた。それは彼をまじまじと見つめ、しばしの逡巡の後に音を立て ずに移動を始めた。 「普段は挨拶挨拶とうるさい君が何も言わずに消えようとするとはどういうわけだ。お互い知らぬ仲ではないだ ろう」 霖之助は素早く動く影を見逃さなかった。もし目で見えなくとも妖怪ならではの気配を察知できただろうが、 確かに彼は彼女の後ろ姿をとらえていた。ばれずに逃げるには彼女の決断は遅すぎた。 「まけると思ったんだが逃げるかどうか迷ってしまったよ」 姿を見られては逃げてもやむなし、慧音はゆっくりと歩いて霖之助の元に寄る。すると木陰と月光を遮る雲に よって陰になっていた姿が露になった。 トレードマークの珍妙な帽子はなく、比喩ではない緑の髪に禍々しい二本角と毛むくじゃらの尻尾、片角には 血の色のリボンが揺れている。里が静かなのも当然だ、月に一度の特に妖怪が元気な夜である。 「やあ、こんな夜に偶然だね。お暇であれば一献どうだい? いいものが手に入ったんだ」 それを知ってか知らずか霖之助は普段と変わらぬ声で包みを持ち上げる。 「それは?」 「般若湯ってやつさ」 「店主殿は仏門に入られてるのか」 あいかわらず堅いねと霖之助は呆れ顔で笑う。 桜を前にふたりはどっかりと座り込んでいた。あり合わせの器に酒を注ぐ。 「肴はないけど宴会ってわけじゃないから我慢してくれ」 霖之助の杯は酒の瓶の蓋だ、おかげでろくに飲めやしない。彼は最初瓶に直接口をつけての回し飲みを提案し たが、下品だと一蹴されていた。 「春風に舞う花吹雪以上の春の肴は知りません、腹は満たされませんがそれ以上のものなど望むべくもない」 慧音の杯はなぜかひとつだけ霖之助が持っていた普通のぐい飲みである。途中で誰にも会わずとも呑むつもり だったのかもしれない。 「じゃあ、夜に」 杯を軽くぶつけ合う、霖之助の椀からはそれでも酒がこぼれた。 「こんな時間になぜ君はここにいたんだい」 やや辛めの味わいを口腔に染み渡らせながら質問をする。 「仕事の最中の小休止だ、ひと月もたまっていると量が多くてかなわん」 白沢化しているせいか普段より口調が強い。霖之助はやっと慧音の変化に気がついたようだ、空を仰ぐと一部 隠れているものの月はまん丸である。 「学校の仕事がたまっているのかと思えば……。そうか、今日は満月か。道理で僕の気分も高揚するわけだ。君 も珍しく洒落っ気を出しているようだし」 「気がついていなかったのか? やれやれ、不用心にもほどがある。それに私が逃げようとした意味がない」 慧音が溜息をつく。出来の悪い生徒に頭を悩ませているようにも見える。先生が板についてきたと言えば聞こ えはいい。 「妖怪を受け流す術なんていくらでもある、それに今の幻想郷で昔より危険な場所があるなら是非ともご教授願 いたいところだね」 昔の世を知っていれば今の幻想郷で恐れるようなものはろくにない。半妖は両者の長所を併せ持つのでずるが しこく出し抜くことも容易だ。ここでは彼らに命の危険などないに等しい。 「そういえばなぜ君は逃げようとしたんだ。普段の君が嫌いそうなことだが」 「質問を続けるのは無礼だぞ。まあ非があるのは私だから仕方ないか。すまない、癖のようなものだ。いくら慣 れ親しんだ相手でも、初めてこの姿を見せると大抵怯えられてしまう。向こうがそういう素振りを見せないよ うにしてるのがわかってしまうのがなおさら辛くてね。あまりこの格好で人前に出ないようにしているんだ」 「それはそれはご立派な心構えだ、しかし半妖相手にその対応は失礼じゃないかね。たかが角の一本や二本生え たくらいで腰を抜かすと思われているようだ」 だからすまないと言っているでしょうとなだめる慧音は酒のせいかゆるい表情だ。早く言えば笑っている。 二人の飲むペースは遅い。慧音はこの後の仕事に障らない程度に飲んでいるし、霖之助はあまり飲んで注いで 飲んで注いでを繰り返すのも無粋だと抑えている。結果、話すか散る花を見送るかのどちらかの時間が長くなる。 「僕に仏門に入っているのかと聞いたが君のほうがそれらしいんじゃないかい? 不邪婬戒も守っているようだ し」 ニヤリと笑う、目はやたらと楽しそうに光っている。もちろん慧音が嫌がるのを承知の上でやっているからた ちが悪い。 「陰険だな、それにお互い様だろう。そもそも、だ。そういう機会がこれまでなかったのだから正確には不邪婬 戒を守っているわけではない」 「はあ、面白い返しのひとつも期待した僕が馬鹿だったよ。口調や態度が違っても君は君だな」 「……悪かったな」 「悪いとも言ってない、生半可な答えを返してくるような相手だったら今こうしていることはなかったろう。そ れにしても本当に一度も恋仲になった男はいないのかい? 声のひとつもかかって良さそうだが」 霖之助の性質を考えればこれは駆け引きでなく純粋な疑問なのだろう、信じがたいことに。 「そういうお話を頂いたことはありますし声をかけられたこともあります。ですがね、迂闊に応えて悲しい思い をするのは御免だ」 「やっぱり考えることはみんな似たようなものになるんだね、僕の場合はそれ以上に面倒だというのがあるのだ けど。それらがなければ今頃僕も君に森近の旦那さんと呼ばれていたかもしれないね」 たぶんない、例え両者ともただの人間だったとしてもおそらくそんなことにはならない。 それに後天性と先天性が会うこともなかっただろう。 「気づかれていたか。商家の男主人は旦那と呼んでいいんですけどね、私は未婚なら店主と呼ぶことにしている」 しばし沈黙が流れる。風の勢いが増し、まるで吹雪のように花が散る。散ってしまう。月も完全に隠れ、ほの 明るい花びらの反射では人の輪郭は見えても表情までは読み取れない。 ふたつの影の片方がぐいと杯を空け、語りかける。 「仲のいい人間がいるな」 その声は高い。 「君が言っているのが魔理沙なのか霊夢なのかはわからないけどね」 「霧雨の娘さんの方だ。貴方の力で彼女を家に帰らせることはできないか?」 「魔理沙の家は森の中だよ。何も言わなくても家に帰る」 「わかっててひねた答えをするな。霧雨の旦那さんも歳は食う、娘が可愛くないわけがないでしょう」 わかっていてもどうすることもできないこともあるし、どうにかする気にもならないこともある。放っておいて 欲しいなら人の生き方に干渉しすぎるのは下策だ。 「僕が霧雨の家にできる魔理沙に関する最大のことは、彼女の最期を見送ることだと思ってる。それは変わらない よ」 珍しくはっきりとした拒否に舌打ちが響く。 「貴方も半分は人間でしょう」 「もう半分は妖怪さ。完全な人間の経験はない、君とは違ってね」 「……皆が仲違いなく幸せに暮らすことができればそれが一番だろうに」 「なにが幸せかなんて本人にしか決められないよ」 説得させるための説得はあえなく失敗に終わった。負け惜しみまで否定するのは少々趣味が悪いが、らしいと言 えばらしい。 休憩のはずが心労が溜めているのはどうなのだろうか。慧音は角の根元のさらに下あたりを押さえながら深いた め息をついている。 それを見て今度はもう片方が杯を干す。まだ満月は雲に隠れている。 「ちょっと酔ってきたようだ、満月のせいかもしれないな。これから先は酔っ払いの鼻歌程度に聞いてくれ」 軽く息を吸う。 「君はなぜそこまで人間に肩入れする? いや、できる? 産まれたての赤子だって五十年もすれば死ぬ、運よく 病を患わなくともせいぜいが七十。親しくなればなるほど死別で傷付くのは自分だってことくらいわかるだろう。 僕は運よく親からだからそういうものとわかっているが、君は違う。先立った者の中には幼馴染や友もいただろ う、だのになぜ今も人の間で笑っていられるんだ」 淡々と声が紡がれる、少なくとも淡々としているように聞こえる。好奇心から来るどうでも良い質問のひとつの ような響きだ。男女の機微に疎く性格上皮肉にも弱いとはいえ、相手は伊達に賢人と呼ばれてはいないが。 「そう、ですね……。逆に質問させてもらうが貴方は目の前に広がる眺めをどう思う? 掃除が大変そうだとかそ ういうひねた答えはいらないぞ」 「素晴らしいと思うよ、もちろんね」 「うむ、桜、蛍、花火、紅葉、満月、一部での雪。美しいとされるものには見られる期間が短いものが多いです。 逆に短いからこそそこに趣を見出すのでしょう。あなたはすぐに散ってしまうからと桜を見ないのですか? す ぐ死んでしまうからと蛍を見ないのですか? 私はできるだけ近くで見たいと思っているだけです。もっとも今 見ているものは必ずしも美しいだけとは限りませんが、それを含めて見るのも一興ですよ」 私がもともとは人間というのもありますけどね、と付け加える。 「いつか貴方から聞いたお話ですがね。私は半妖になってからもしばらくは恵まれていたんだ。両親だけでなく知 り合いのほとんどがそれまでと変りなく接してくれた。もしそうでなかったら今頃私は陰険でひねくれた半妖に なっていたかもしれない。貴方が霧雨の娘さんに対して考えていることのように、私がそのときの恩を返し続け ることは変わらない。返し終える日が来るとは到底思えないがね」 「全く、君は真面目すぎる。いつか足元をすくわれるかもしれないよ」 群雲が晴れ、月が再び顔を出す。 仏頂面の霖之助が自らと含み笑いを帯びた慧音に酌をする。酒はまだほとんど飲まれていない、こんな量で妖怪 と混ざっている者たちが酔えるわけがない。 「すくわれたらすくわれたです、古い歴史が終わって次の歴史が始まる。伝えるべきことを伝え終えたら私が不要 になるだけだ」 愛する人達の為になるならば消えることも吝かでない。しかしそれまではいつ自分が不要になるのかわからぬま ま全力で里を守る、らしい。 「やれやれ、君を見てると悟りを開いた聖人なのかただの白痴なのか判断に苦しむよ。苦痛を受けることを苦痛と 思わないなんて僕の理解できる範囲からは少し外れている」 「私は半妖だからな、体も心も丈夫なんだ。……ただ、受けるのは構わないがその逆は少々辛いものがある」 慧音の表情がやや湿る。淀む口に酒をあおる間に霖之助が先を続ける。 「人から人の形をしたものになった蓬莱人、藤原妹紅、か。確かに彼女ほど寿命比べを挑むのが馬鹿らしくなる相 手はいない」 「知っているのか?」 「ちょっと縁が合って最近ね。あの目の持つ力はやはり永い人生で培ったものなのだろうか」 慧音は驚きを隠そうともしない。霖之助も妹紅も自ら進んで誰かと会うタイプではない、それどころか追い返す ようなこともする人間だ。今でこそ妹紅は永遠亭への患者を護送したりしているが積極的には人の元へは行かない。 ふたりに接点など全く思いつかない。 「どんな縁なんだ」 「聞くは無粋だ。続けてくれ」 動かないふたりの関係に興味津々といった様子である。ならば余計に霖之助が応えるわけがない。 「ああ、妹紅と知り合ったのは少し前でな、そこら辺は今は割愛するか。人と馴れようなんて毛ほども思っちゃい ないとのたまったんだ。人間ならそんなことあるはずないだろうのにな」 霖之助の脳裏には本気で嫌がっている蓬莱人とそれを根っからの善意でつけまわす半獣の姿がありありと浮かん だ。ついでにあまりのしつこさについに根負けする姿も。 「妹紅に笑顔は増えた。だが冷静によくよく考えてみると私がしていることは彼女に苦しみを与えることになりか ねん、親しくしようとすればするほどにな。半妖の永いは長いの言い換えだが、蓬莱人の永いは正真正銘の永い だ。付き添うべきは私のような紛いものではなく竹林にいる月人のような本物なのかもしれないと思うと、ね。 貴方はどう思う?」 花吹雪の名の通り桜が雪のように舞う。夜桜であれば毎回雪月花を同時に楽しめると思えば、なるほど春風も悪 くない。 「これはとある人からの受け売りなんだが……」 小さな杯を乾かしてからゆっくりと口を開く。 「君はすぐに散るからといって桜を見ないのかい?」 しばししてふたりの口の端が吊り上る。まだ声はこぼれない。 「なるほど、うまい冗談とはこういうものなのだな。下らないだけでなくそれ自体で完結している。それに答えと しても二重丸だ」 ひとしきり――やや下品なほどに――高らかに笑い声を上げていた慧音が話し始める。上ずった声と腹を押さえ る手がまだまだ余韻が残っていることを示している。 「だが私を花に例えるとは少しほめすぎだ、それでは精一杯これほどまでに美しい薄桃色の花を咲かせている桜に 失礼というもの。もう少し位を下げてくれ」 「僕は嘘なんて面倒なものは使わないよ。それに君は……、んん、君の人間に対する強い心は桜に負けるとも劣ら ず素晴らしいものだと思う。僕には到底真似できないよ」 対して霖之助は至って落ち着いている。彼女が過剰反応しすぎていると思っているのだろう、彼の笑みは若干引 き吊り気味になっている。 「実際妹紅がどう思っているかかはわからないが少し気が楽になった、感謝する。貴方も陰険なだけじゃなかった んだね」 「今回は少しばかり自信があるから今まで通りに彼女と接すればいい。あともしいい人に見えるなら今僕がべろべ ろに酔っているからだろう。明日になればいつも通りの陰険な店主に戻ってるよ」 それは残念だとまた妖怪が笑う。あまりの笑いっぷりに半妖は引く。 「残念だがまだ仕事もある、今日はここらで退散させてもらうよ」 「なら僕も引き上げるとしようかな」 杯を瓶の口にあてがうと素早く風呂敷で包む。霧雨店での修行の成果を披露する場面の大半が客前でないのが残 念である。 やたらきっちり別れの文句を述べる慧音を霖之助が放置する形でふたりは別れた。最後にやや大きな声で投げか けた感謝の意に対する返事は、あまりに小さくて届くことはなかった。 「悩みがひとつなくなった! ありがとう!」 「こちらこそ」 霖之助の荷物の重量はほとんど変わっていない、それをゆらゆら家路を進む。彼は道すがら今日の会話を思い出 していた。 「そういえばとても不格好な皮肉を言われたような気がするな……」 首を振って自らの記憶を否定する。相手はあの慧音だ、そんなはずはない。 慧音の足取りは軽い、跳ねるように家路を辿る。彼女は道中今日の会話を思い出していた。 「今日は珍しく真面目に話を聞いてくれたししてくれたような……」 首を振って自らの記憶を否定する。相手はあの店主だ、そんなはずはない。 それでも胸の奥底になにか不気味なものを埋め込まれた気がする。 つづけーね
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前の話へ 次の話へ あらすじ 霖之助の協力のもと日本人形を完成させたアリス 次は一人で作ろうと自宅に篭るが、いつの間にか霖之助にフラグを立てられていたらしく寂しくなって香霖堂へ。 なんだかんだでめでたく毎日通うことになり、ひたすら悶えるアリスだった。 アリスが毎日香霖堂へ通いつめるようになって数日、そろそろ生活のリズムも定まってきた。 朝は夜明けともに起床。サンドイッチなど簡単な朝食を作ってバスケットに押し込み、身だしなみを整えて香霖堂へ。 霖之助も朝は早いのでアリスが来るころには起きている。挨拶を交わしつつ奥の座敷にあがりこむ。 持ってきた朝食を2人で平らげ、食後はのんびりと霖之助が淹れてくれた紅茶を味わう。 本当は自分が淹れてあげたいのだが、『このくらいはさせてくれ』と言われては無碍に断るわけにもいかない。 使った食器を仲良く台所で並んで片付け、霖之助が店の部分を、アリスが住居部分の掃除を行う。 このとき服が汚れてはいけないからと割烹着に三角巾を借りるのだが、日本人離れした顔の割りに良く似合う。 一段落したら霖之助は店番。アリスは客の邪魔にならない場所に椅子を置いて人形作りに取り掛かる。 紅白の巫女や瀟洒なメイド、竹林の師弟に白玉楼の庭師などが来店するが、 これら頻繁に訪れる客にはすでにアリスが霖之助に師事していることを説明済みのため、特にどうこう言われることはない。 日が西に傾き始めれば夕食の用意を始める。 アリスの専門は洋食だが、霖之助が和食を好むため教わりながら作ることも多い。 かつてアリスが語った通り、彼女の腕前は人形たちより数段上だった。夜雀のように店でも開けば大盛況間違いないだろう。 2人で存分に舌鼓を打つと暗くならないうちに自宅に戻る。 人形作りの道具は全て香霖堂に置いてあるため、帰宅してからはスペルカードや人形の操作について研究し、早めに就寝する。 何の不満もない幸福な生活。強いて言えばいっそ香霖堂に住み込んでしまいたいが、それはまだ早いだろう。 自分も霖之助も人間に比べてずっと長く生きる。焦らなくて良い。むしろ親密になっていく過程をじっくり味わおう。 自分の人生はいまから絶頂期に入るのだ。 ……そう、思っていた。 「いやー疲れた疲れた。やっと研究が形になったぜ」 そう言いながら入ってきたのは、最近めっきり足が遠のいていた黒白の魔法使い、霧雨魔理沙だった。 「おや、久しぶりだね魔理沙。だいたい2ヶ月ぶりかな?」 「あ~、そういやこの前来たときは会わなかったんだよな。あの時は口やかましい奴がいたからなあ」 「口やかましくて悪かったわね」 どうやら部屋の隅に居たためか気付かれなかったようだ。人がいないと思って好き勝手なことを言う悪友に声をかける。 「うおっと、今日もいたのかアリス。和裁だか白菜だか知らんが、お前ならもう香霖なんかに教わることはないだろうに」 「なんかとはなんだなんかとは」 「そうよ失礼な。言っとくけど霖之助さんの腕前は相当なものよ? だいたい、あんたも裁縫くらい覚えなさいよ。一応仮にも生物学上女の範疇に引っかかってんでしょ?」 「ひどいぜ。こんなに可憐な美少女を捕まえて」 「可憐だと自称するなら、せめて言葉遣いくらい何とかするべきね」 「善処するぜ。んで、まだ香霖にアドバイスもらいにこんな埃臭い所に通ってるわけか。お前も物好きだよなあ」 「別にアドバイスはもらってないわよ。とりあえず一人で作り上げて、何ができて何ができないのか確認するつもりだから」 流れるように掛け合いを続ける2人を眺め、本当に仲が良いなと微笑みつつ口を挟む霖之助。 「この前は一人で作ることにこだわる必要はないとか言ってたような気がするんだが、気のせいだったかな」 「気のせいね。ダメよ霖之助さん、人の話はちゃんと聞かないと。それとも私に話しかけてもらえなくて寂しいのかしら?」 「あれだけ根掘り葉掘り聞き出そうとしていた君がパッタリと質問しなくなったからね。なんとなくしっくり来ないだけさ」 「人間正直が一番って聞いたことがあるわよ?」 「それなら人妖の僕には当てはまらないな」 「ああ言えばこう言う……」 「君がそれを言うのかい?」 今度は魔理沙が2人の会話を眺める。 (……こいつらこんなに軽口叩き合うほど仲良かったか?) 少なくとも前に2人の会話を見たときはもっとよそよそしかった筈だ。 なのに、今の会話からはなんとなく甘い雰囲気すら漂っているように思える。 「何でお前らそんなに仲良くなってるんだ?」 霖之助はアリスとの会話を一時中断、魔理沙の質問に答える。 「そりゃ毎日顔を合わせてれば嫌でも相手のことを理解するようになるさ」 「あら、霖之助さんは私のことなんか分かりたくないって言うわけ?」 「今のは言葉のアヤというか極端な例えを提示しただけだよ。いくら僕でも嫌いな相手に部屋まで貸すほど酔狂じゃない」 「あ~、待て待て待て!」 放っておけばすぐに2人で話を進める。なんとなく自分が蚊帳の外のように思えてイライラする。 おまけに聞き捨てならないことが聞こえた。 「毎日顔を合わせて部屋を借りてる? いつからアリスはここに引っ越してきたんだ?」 「いや、別に住んでるわけじゃないよ。ただ、最初に日本人形を作ってるときは事あるごとに質問しに来てたからね。 ほとんどうちで作ってたせいか体がこっちに順応してしまったらしい。 今では一人で閉じこもっているよりここで作ったほうがはかどるんだそうだ。 部屋は人形作りの道具や材料の置き場所として提供しているだけさ」 「……ふーん……つまり通い妻か。香霖にそんな甲斐性があったとはなぁ?」 「「通っ……!?」」 アリスだけならまだしも、霖之助までそろって顔が赤くなる。 これが他のやつならニヤニヤとしつこいくらい笑ってやるところだが、今回ばかりはそうはいかない。 自分がからかったのは認めるが、その反応はなんだ。 自分がいくら好意を匂わせても歯牙にもかけなかったくせに。 ストレートに伝えても、回りくどくほのめかしても全く動じなかったくせに。 だから、 「……なんでだよ」 気がつけば、不満が口からあふれ出して止まらなくなっていた。 「なんで!? なんでアリスなんだよ!? ついこの前まで赤の他人だったのに! その他大勢の客の一人でしかなかったくせに!! 私のほうがずっと昔から香霖の近くにいたんだ! 実家で修行してるときも! この店を建てたときも! 私が実家から出てった時だって! 途中でふらっと出てきたくせに私の場所を取らないでくれよ! そこはお前の場所じゃない!! 今までもこれからも死ぬまでずっと! 香霖に一番近いところにいるのは私なんだ!!! 他のやつに取られるなんで耐えられないんだ!!! だから……だからっ……」 「……魔理沙」 声が詰まって俯いてしまった魔理沙になんと言って良いか分からず、霖之助はただ名前を呼んだ。 ビクッと肩を震わせ、顔を上げた魔理沙の両目は、今にも涙が溢れそうになっていた。 「……う……うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」 耐えられなくなったのだろう。魔理沙は箒をつかむと、叫びながら香霖堂から飛び出していった。 「魔理沙……」 こちらはアリス。 考えたこともなかった。いつも自分勝手で人の迷惑を顧みないあの魔理沙がこんなに取り乱すことがあるなんて。 魔理沙は強いわけではなかった。弱い自分を一生懸命隠して、それを他人に絶対に悟らせないようにしていただけなのだ。 気付かなかった? 違う。気付こうともしなかった。 思えば霊夢は魔理沙の内面をなんとなく察していたような節がある。だからこそ、魔理沙と上手くやっているのだろう。 「……やれやれ」 そんなアリスの思考は、もう一人の当事者によって中断することになった。 「霖之助さん……」 「驚かせてしまったようだね。だいぶ成長したようだが、あの子もまだまだ子供のようだ」 なぜ……そんなに落ち着いているんだろう? 「多分、父か兄が取られて悔しいような気分なんだろう。しばらくそっとしておけばまた元気に……」 パァン! 「あなた……本気でそんなこと言ってんの……?」 考えるより先に、全力で目の前の男を張り飛ばしていた。 ずれた眼鏡を直すことすら忘れているのだろう、呆然としてこちらを見ている霖之助にさらに苛立ちを増す。 「朴念仁だとは思ってたけどここまで救いようがないとは思ってなかったわよ! お父さんが取られた!? お兄さんが取られた!? ふざけんじゃないわよ! そんなことで女の子が、あの魔理沙が! あそこまで取り乱すわけがないでしょうが! 人の感情に疎いのも大概にしなさいよ!」 ああ、さっきの魔理沙と同じことをしてる。 どこかで冷静な自分がささやくが、止められない。 「他人の気持ちなんて気にならないような顔をして! 気にならないんじゃないわ。分からないのよ! 勝手にああだろう、こうだろうって結論付けて、それを疑いもしない。 普段なら笑って済ませてあげるけどね、今回だけは絶対許さない! 自分が何をしたのか、なんで魔理沙が泣いてるのか、悩んで悩んで悩みぬきなさい! それが分かるまではそのとぼけた顔を見せないでちょうだい!」 そう言い残すと、アリスもまた香霖堂から出て行ってしまった。 「荷物……置きっぱなしだったなあ……まあいいか……」 怒鳴り散らして出てはきたが、少し言い過ぎたかもしれない。 そもそも魔理沙の内面を見ようとしていなかったのは自分も同罪だ。 それなのに自分だけは分かっていたような言い方。 自己嫌悪で足が止まりそうになるが、それを押し込めてでもやるべきことが残っている。 とにかく足を進めるアリスが辿り着いたのは、魔理沙の家の前だった。 大きくノックするが、返事はない。 それでも、今の魔理沙が他の誰かのところに転がり込むことは考えられない。 深呼吸して、家の中の魔理沙にも聞こえるよう声を上げる。 「魔理沙……いるんでしょう?」 「まずは謝っておくわ……。 そんなつもりはなかったけど、結果として私はあなたから霖之助さんを奪おうとしている。 しかもあなたが研究でいない間にこそこそとね。 卑怯といわれても構わない。それだけのことをした自覚はあるもの」 やはり返事はない。だが間違いなく聞いているはずだ。 そして、アリスは決定的な言葉を口にする。 「それでもこれだけははっきりさせておくわ。 私は霖之助さんが好き。今までに出会った誰よりもね。 だから誰にも渡したくはない。例えあなたや他の誰かに恨まれたとしても。 あなたはどうなの? こうして一人で閉じこもって泣いてるだけなの? 失いたくないなら、奪われたくないなら……立ち上がりなさい。 それができないなら、あなたの思いは所詮その程度のものだったということになるわ。 どういう結果になるかはまだ分からないけど、あなたの想いが本物なら、また私の前に立ちふさがりなさい。 ……待ってるから」 勝手なことを言っている。謝っているのか喧嘩を売っているのか分かったものじゃない。 魔理沙にはすまないと思う。それは間違いない。 それでも霖之助を失うのは嫌だ。 ……自分は一体何がしたいのか。 霖之助に怒鳴ったのも意味が分からない。魔理沙の方を向いて欲しいわけではないのに、魔理沙の気持ちを考えろなどと。 とにかく、自分も気持ちを整理する必要があるだろう。 アリスが遠ざかる足音が聞こえる。 声は聞こえていた。 だが、答える気にはならなかった。 自分がいない間に霖之助を取ろうとするアリス。 自分の気持ちになんて気付こうともしてくれなかったのに、知り合ったばかりのアリスといちゃついてた香霖。 2人とも大嫌いだ。 そして、そんなことを考えている自分はもっと大嫌いだ。 ベッドにうずくまったまま、とにかく今は何もしたくなかった。 前の話へ 次の話へ
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「暇だな……」 魔法の森の小さなお店、香霖堂。 店主の森近霖之助は、いつになく暇をもてあましていた。 【宿敵と書いてライバルと読む?】 店の中は今日も閑古鳥が威勢よく鳴いている。 まあそれはいつものことなのだが、困ったことに手持ちの本を全て読んでしまった。 もう一度読んでもいいのだが、やはり先の展開がわかっていると面白さも半減である。 「こんにちは~」 そこに現れたのはスキマ妖怪こと八雲紫。 狙い済ましたかのようなタイミングだが、実際話しかけるチャンスを3時間ほど伺っていたりする。 それはまあさておき、 「……君か」 暇なせいか、霖之助は虫の居所が悪いようだ。 あまり歓迎されていない様子にちょっとショックを受ける紫。 しかしそんな内心を悟られるのは恥ずかしいので、何とか取り繕いつつ本題に入る。 「あら、お邪魔でした?折角時間をつぶせるものを持参いたしましたのに」 「……できれば正当な客としてきて欲しいものだけどね。 まあ時間をもてあましていたのは確かだ。それで何を持ってきたんだい?」 霖之助さんも良く知ってるものですけど、と前置きして紫が取り出したのは、何の変哲もないトランプだった。 「霖之助さんはスピードというゲームはご存知?」 「一応ね。 昔は少々やりこんだこともあったよ」 (※ルールは長くなるので略。いないと思うけど知らない人はwikiをみてね!) 「それなら話は早いわ。 ただやるだけじゃあつまらないし、何か賭けるというのはどう? 例えば、7回勝負で勝ち数の多いほうが相手に言うことを一つきいてもらうというのはいかがかしら?」 何か嫌な予感がしないではないが、霖之助も勝つ自信はかなりある。 それになんだかんだで紫の力はいろんな意味で大きい。 トランプ如きで貸しを作れるチャンスをみすみす逃すこともあるまい。 「いいだろう。ただし、相手に何かしらの被害を与えるような過激なものはなしだ」 「それはもちろんよ。じゃ、賭けは成立ね」 互いにカードを切り、戦いの用意は整った。 「「せえの、スピード!」」 シュバババババババババババババババババババババババッ!!! 「ぬっ!」 「くうっ!」 互いの手が残像を残すほどの速度でカードを切り続ける。 (おのれ紫!さては相当特訓した上で持ちかけたな!) (何が少しやりこんだことがある、よ! これじゃあホントに5分5分の勝負じゃない!) 実力を隠していたのはお互い様と言うものだが、文句を言っていてはその隙に差をつけられてしまう。 手を一切休めずカードを切り続け、初戦は後1枚で霖之助が負けた。 「くっ……なかなかやるじゃあないか」 「いいえ、霖之助さんのほうこそ」 声は笑っているが2人とも戦士の目になっている。 賭けのことも忘れてもう一回、もう一回と勝負は続き、結局藍が迎えに来るまで互いに172勝172敗という互角の勝負を繰り広げた。 「ハァ、ハァ、この決着はまた今度……だね」 「フゥ、フゥ、ええ、今度こそ完璧に打ちのめしてあげる」 勇ましい捨て台詞を残して帰っていった紫。 何しにいったんですかと藍に突っ込まれ、実は最初に決めたルールでは勝っていたことを思い出した紫は3日間寝込んだらしい。 「……紫は今日も来ないのか!?」 その代わり、霖之助が紫の来訪を今か今かと待ち焦がれるようになったとか。
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森近 霖之助 ステータス Lv1 Lv30 成長率 HP 103 531 ? MP 9 10 ? TP 16 16 ? 攻撃 40 267 ? 防御 40 267 ? 魔力 40 267 ? 精神 40 267 ? 敏捷 102 109 ? 回避 4 4 ? 状態異常耐性 猛毒 10 10 麻痺 20 20 鈍重 30 30 衝撃 40 40 恐怖 50 50 沈黙 60 60 即死 70 70 能力低下 80 80 属性相性 炎属性 132 132 冷属性 132 132 風属性 80 80 然属性 80 80 魔属性 80 80 霊属性 80 80 冥属性 100 100 物属性 144 144 HP回復率:16 SP回復率:2 レベルアップ難度:56 加入条件:最初から加入 スペル 名前 消費MP 対象 属性 攻撃種類 効果 使用後ゲージ量 備考 応急処置 1 味方単体 物 補助行動 HPを微回復し、更に猛毒と恐怖を回復 7000 スキルレベル上昇により、治療可能な異常状態が増える 戦闘指揮 2 味方単体 物 補助行動 対象の全能力を僅かに上昇 6600 SLv1で+10% スキルリスト 名前 現状Lv 上限Lv 必要SP HPハイブースト 取得不能 Lv5 6Pts MPハイブースト 0Lv Lv5 3Pts TPハイブースト 0Lv Lv5 6Pts 攻撃ハイブースト Lv0 Lv5 6Pts 防御ハイブースト Lv0 Lv5 6Pts 魔力ハイブースト 0Lv Lv5 6Pts 精神ハイブースト Lv0 Lv5 6Pts 敏捷ハイブースト 取得不能 Lv5 6Pts 回避ハイブースト 取得不能 Lv5 6Pts 命中ハイブースト 取得不能 Lv5 6Pts 属性ハイブースト 取得不能 Lv5 6Pts 状態ハイブースト 取得不能 Lv5 6Pts 名前 現状Lv 上限Lv 必要SP 効果 補足 向上心 Lv0 Lv2 5Pts 経験値が(SLv*10)%上昇する 必須条件:探索メンバー(12人)に加わること。「実戦経験」との効果複重はしない 実戦経験 Lv0 Lv2 5Pts 経験値が(SLv*25)%上昇する。 必須条件:前衛4人に加わること。「向上心」との効果複重はしない。 幻想郷の古道具屋店主 Lv0 Lv10 1Pts 戦闘終了後の敵ドロップ率が(SLv*4)%上昇する。 連戦ボーナスも含めると更に効率UP。 目聡い店主のサガ Lv0 Lv10 1Pts 戦闘終了後の取得金額が(SLv*2)%上昇する。 連戦ボーナスも含めると更に効率UP。 隊列変更効率化 Lv0 Lv2 5Pts スキル取得者が「隊列変更」で後衛の味方を前衛に配置した場合、その味方の行動値が7500+SLv*800に設定される。 前衛での活躍も期待できる。 ヘンな生き物の知識 Lv0 Lv2 5Pts スキル取得者が前衛にいる場合、敵他種に与えるダメージが上昇する。 同スキル取得者が複数人いる場合、効果は復重しない。 行動時敵攻撃低下 Lv0 Lv2 5Pts スキル取得者に行動が回ってきた際、敵全員に(SLv*4)%の攻撃低下効果を付与する。 行動時敵魔力低下 Lv0 Lv2 5Pts スキル取得者に行動が回ってきた際、敵全員に(SLv*4)%の魔力低下効果を付与する。 備考 戦力としては全くの役立たず なので、「目聡い店主のサガ」と「幻想郷の古道具店主」をマスターさせ後衛に控えさせて雑魚戦はもちろん、ボス戦のドロップ吟味もだいぶ楽になるお助けキャラとしての運用がメインに思われる。 また、「行動時敵魔力低下」「行動時敵攻撃低下」や「隊列変更効率化」で戦闘の補助をさせることもできる。 ステータス振りについて ステータスは攻撃等に振ってもしょうがないので、敏捷に振って「隊列変更効率化」のスキルを活かすのが精いっぱいか。 序盤はHPに振ることで多少の壁とはなる。 スキル振りについて やはり「目聡い店主のサガ」と「幻想郷の古道具店主」を真っ先にとるといいだろう。 今のところはレベルを上げても、ボス戦時にはどうせレベル1で後衛待機となってしまうので、向上心や実戦経験の取得はそれほど重要ではない……か?
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外の世界で幻想と化した物が、最終的に行き着く幻想郷。 だが幻想郷に来るモノは、物ばかりというわけでもない。 【偶然が重なった必然】 魔法の森にある店、香霖堂。 この店の店主こと森近霖之助は、今日も商品を仕入れに無縁塚へと赴いていた。 普段は一人で黙々と進むはずの道中だが、今日は珍しく霖之助に話しかける者がいる。 「いつもこんな道を歩いてんのか……? もやしっ子だと思ってた香霖も結構体力あるんだな」 声をかけたのは、人間の魔法使い、霧雨魔理沙。 霖之助の昔なじみにして、香霖堂の儲けにならない常連である彼女。 一度くらい見ておいても損はないだろう、と言ってついて来たのはいいが、すでにその疲れを隠そうともしていない。 「僕としては、どこへ行くにも足を使わないで飛んでいく君や霊夢のほうがよほど不健康だと思うんだがね」 「その分弾幕ごっこで汗を流してるから問題ないぜ」 こんなやり取りもいつものことだ。 無縁塚に到着した霖之助は、早速落ちているものを吟味し始める。 たまごっち。これは一時期随分な数が落ちていたが、今ではほとんど見ることはない。 似たように、かつては大量に仕入れていたが、今では見かけなくなったものが目に付く。 これらはすでに大量に在庫があるため、目をくれることはない。 なにか珍しいものや新しいものはないか。 そう思って探していた霖之助だったが、 「うわっ!? なんだなんだ!?」 魔理沙の声で探索を一時中断することになる。 「どうかしたかい? 魔理沙」 「こ、香霖! い、い、今なんか変な声が聞こえたんだ!」 よほど驚いたのか、尻餅をついたまま虚空を指差す魔理沙。 「とにかく落ち着くんだ魔理沙。それで、どんな音が聞こえたんだい?」 「あ、ああ。なんか歌声みたいな感じだったぜ。時計がどうとか……。 あ、気をつけろよ香霖! ちょうどその辺だ!」 歌と聞いて、霖之助の記憶にピンと来るものがあった。 魔理沙が言う場所に立ち、必死に止めようとする魔理沙を手で制して耳をすませる。 ……今は……もう……動か…… 確かに聞こえた。が、これは別に驚くようなことではない。 魔理沙を安心させるべく、霖之助は口を開いた。 「そうか、魔理沙は知らなかったのか。 それなら無理もないが、これは別に怖がることじゃないよ。 最近はあまりなくなったが、これは歌が幻想入りしているんだ」 「歌が幻想になる? 誰もその歌の存在を知らなくなったってことか? そんなことがめったにあるとは思えないんだが?」 「まあ最後まで聞きたまえ。 そもそも歌というのは元となる歌詞や音程が一緒でも、歌い手によってかなり印象のかわるものだろう? 声の高い人が歌うのか、低い人が歌うのか。歌いやすいリズムや抑揚だって違ってくるだろう。 かつてはある代表的な歌い手のものとして認識されていた歌が、世代交代やその歌い手の死などによって新たな歌い手の ものとなる。 時が経つにつれ、以前の歌い手がどのようにその歌を歌っていたのかを覚えている人間は減っていく。 そうして忘れ去られた、『かつてそれが標準だった歌い方』が幻想となって無縁塚に訪れるんだよ」 「はあ、なるほどな。それにしても人騒がせな幻想入りだぜ」 「まあそう言うものじゃないよ。結局のところ、これらの歌もほとんどが誰の耳に届くこともなく消え去っていくんだ。 むしろ、誰かが一生懸命歌っていた、そんな歌の最後に立ち会えてよかったというべきだろうね」 結局その日はたいした収穫もなく、霖之助も魔理沙も自宅に戻ることになった。 その夜、霖之助はなかなか寝付けなかった。 理由は明白。昼間無縁塚で聞いた歌が気になるのだ。 『今はもう動か……』、ここまで聞こえたその歌。 おそらくこの後、動かない、と続くのだろう。 幻想入りするほどに人々に親しまれた歌。その歌は、何かしらの道具が壊れたことを歌っている可能性が高い。 一体何についての歌なのか。最終的にこの歌はどういう結末を迎えるのか。 道具を扱う者として、知識人を自称する者として、あの歌が気になって仕方がない。 ……ダメだ。 夜中に歩き回るのは危険だが、あの歌を知らないまま生きていくほうがよほど体に障る。 決心したら後は早い。最低限の用意を済ませ、霖之助は無縁塚へと急いだ。 「確か……この辺だったな」 昼間と夜中とでは、同じ景色でも印象ががらりと変わるものだ。 数十分間かけて捜し歩いた後、ようやく霖之助は歌の聞こえる場所を探り当てた。 ……嬉しい……ことも……悲しい……ことも…… 低い男の声だ。 歌詞からすると、どうやらまだ歌の途中。 座り込んで目を閉じ、なんとか聞き取れる程度のその歌に耳を傾ける。 音は昼間よりやや小さくなっていた。明日には消えているかもしれない。 間に合ってよかったという安堵と、丸1曲聞き取れるだろうかという焦燥。 その2つの想いが、より霖之助の聴覚を鋭敏にする。 一旦歌が途切れた。 おそらく後半部分だったのだろう。ある人物の死期を悟った時計が、その逝去を告げたという歌。 さあ、これから前半だ。 どういう経緯でこの時計がその人物と知り合ったのか。 誰かから送られたのか。自作したのか。ふと気に入って購入したのか。 少なくとも言えることは、この人物は時計をとても大切にしていたということだろう。 でなければ、主の死に反応するなどという芸当には到底至らない。 それから数分が経過した。 しかし、一向に歌が始まる気配はない。 まさか、今のが最後だったのだろうか。 昼間もっときちんと聞いておけばよかった。 いや、せめてあと何分か早く店を出ていれば……。 悔恨で折れそうになる心を何とか保ち、霖之助はひたすら待ち続ける。 ……大……きな……のっぽ……の…… 聞こえた! 音の大きさから言って、正真正銘これで終わりだろう。 待っていてよかった。それとも、最後の聴衆に応えてくれたのか。 とにかく、これがおそらく最後のチャンスだ。 一字一句たりとも……聞き逃してなるものか……! ……そ……の……と………け…………ぃ…………… この歌の最後の1回が、今終わった。 先ほど聞いたのはやはり後半部分だったようだ。 全部通して聞いてみれば、実にありふれた内容と言える。 主と共に産声をあげ、常に人生を共にした時計。 大切にされた時計は、最初だけではなく、その最後までも愛する主と共にした。 よくある話。 大事に使い続けた道具が、魂を持つという話。 日本ではままある話だ。 それなのに……どうして…… こんなにも涙が止まらない…… 頬を伝う涙と閉じた目をそのままに、霖之助は考えを巡らせる。 おそらく、あの歌にこめられた想いが、自分の心を打ったのだろう。 低くて包み込むような、熟年の男の歌声。 名を知る由もないが、この歌い手が心底敬意を払って歌っていたことが伝わってきた。 惜しいことだ。あれほどの歌い手が、外の世界では幻想と化したとは。 いや、それは違うか。 外の世界では、おそらく新たな歌い手がこの歌を歌っているのだろう。 その新しい歌い手は、自分が今聞いた歌い手に勝るとも劣らぬほどに、この歌を愛しているに違いない。 ならば、先ほどの歌い手が幻想になったとしても、嘆くことはない。 想いを引き継ぐ者がいてくれるのだから。 真相はわからないが、これほどの歌が簡単に忘れ去られるとは思えない。 と言っても、自分にできることは外の世界の人間たちを信じることだけだが。 そして、霖之助はそっと目を開けた。 徐々に暗闇に慣れた目が、周囲の景色を映し出す。 その視線の先、こうして腰を下ろしていなければ見逃していただろう位置に、あるものが見えた。 「あれは……もしや」 近づいてみると、それはいわゆるGrandfather Clockと呼ばれる、成人男性より大きな振り子時計。 年季こそ入ってはいるが、傷はよくみなければわからない擦り傷程度。表面はきれいに磨かれ、異様な程に高水準の保存状態といえた。時計の針は12時59分を指している。 偶然にしてはあまりに出来過ぎなこの状況。 興奮に震える手をそっと当て、この時計の名を調べる。 「……『おじいさんの古時計』。やはり……そうなのか?」 もし、できることなら手元に置きたい。 値打ちがどうのこうのという問題ではなく、この時計がまさしくあの歌の時計ならば、こんなところで朽ち果てさせるわけにはいかない。 手を優しく当てたまま、そっと時計に話しかける。 「……もし、君が良かったら、僕の店でまた時を刻んでくれないか……? あれほどの想いが籠められた君に、僕の人生を見守って欲しいんだが……」 言った後で我に返る。 物言わぬ時計に話しかけるなど、自分は何をしているのだろうか。 例え魂が宿っていたとしても、積極的にはそのことを悟らせないだろうに、と だがその時、 カチッ ボオォォーーーーーーーンンン…… 時計の針が確かに動き、時を告げる音が響き渡った。 振り子は動いていない。 ましてやねじなど巻いていない。 霖之助は、ただそっと触れただけだというのに。 「……は、はは、はっはっはっは!」 考えてみれば、昨日から今までの経緯は異常だ。 たまたま連れてきた魔理沙が、幻想入りした歌を聞きつけた。 ほんの一節しか聞いていない歌が気になって仕方なかった。 先延ばしにせずに来てみれば、消え行く歌の最後の1回に間に合った。 目を開ければ、普段なら見逃してしまいそうな位置にある時計が目に入った。 そしてこれだ。 動かぬはずの時計が、まるで霖之助の呼びかけに応えるかの如く一度だけ音を上げた。 これはもう偶然なんかではない。いや、偶然であってなるものか! 彼は僕のもとに現れるべくして現れたのだ! ならば僕も応えよう! 誠心誠意を持って君を整備し、この命尽きるまで君と共にあろう! 霖之助の笑い声が、いつまでも無縁塚に響いていた。 そうして、その時計は香霖堂で再び時を刻み続ける。 新たな主も、その時計を大事にし続けた。 そんなある日。 「それにしても、こいつはこの店に似合わず随分立派なものだな。 一体どこでこんな逸品を見つけてきたんだ?」 「ん? この大時計かい? コレは外の世界に住む、ある人物が――――」 あんなに誇らしそうに話す霖之助は後にも先にもなかったと、後に慧音は語った。
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森近霖之助 ステータス Lv1 成長率 消費SP HP 124 16 SP 102 16 TP 2 攻撃 83 16 防御 51 10 魔力 62 12 精神 51 10 敏捷 100 11 回避 2 3 状態異常耐性 猛毒 15 0 麻痺 15 0 沈黙 15 0 即死 15 0 パラ低下 15 属性相性 熱属性 163 0 冷属性 169 0 風属性 165 0 然属性 166 0 魔属性 167 0 霊属性 69 0 SP回復率:6% レベルアップ難度:144 加入条件:18Fで霖之助を倒す スペル 名前 消費SP 対象 属性 倍率 攻撃力 防御力 効果 使用後ゲージ量 備考 緋々色金の一刃 52 敵単体 無 175% 攻200% 防25% 命中+25 48% 敵防御反映率が低い 驚天動地の覇道 188 味方全体 - - - - 攻撃、防御、魔力、精神+150% 0% 自分のTPが0になる自分のTPが0のときに使用しても効果発動しない 世界の合言葉は森 88 敵全体 然 200% 攻200% 防50% 命中+100 30% 綺羅星トロイメライ 88 敵一列 魔 250% 攻150%魔150% 防50%精50% 命中+65 30% 複合スペル 天つ終焉の開闢 132 敵全体 無 200% 攻150%魔150% 防50%精50% 命中+200 20% 複合スペル 備考 全体的に超高性能。TPのドーピングは必須だが、複数体に攻撃できて命中補正が高い技もあり、非常に優秀。 驚天動地の覇道は攻撃・防御・魔力・精神を実質+100%の状態にするが、 使用後にTPが0になる、一度の戦闘で一回のみ、霖之助を控えに戻せない、など欠点も多い。 しかし開幕に覇道を使うことで、ボス戦での速攻や即時防衛ライン形成を実現したりすることが出来る。 もちろんピンチに陥ったときに使用し、霊夢の魔浄閃結と合わせて体勢を整えたり、 ここぞという時やスパートをかけたりする時などにも非常に役に立つ。 緋々色金の一刃は属性耐性による減衰を受けずかつ防御反映率が小さいため、相手を選ばず安定したダメージが取れる。 また消費SPも持ち技の中では最小なので、ボス戦では緋々色金の一刃がメインとなるだろう。 ザコ戦での複数相手はもちろん相手が単体であっても、属性相性次第では森やトロイメライを使った方がダメージ効率は上がる。 良性能の技が揃っているのだが、天つ終焉の開闢だけはかなり使い所が制限される印象。 よほど敵を選ばない限り十分なダメージは取れないし、コストパフォーマンスも悪い。 ボス戦ではレミリア等と同じく、居座りつつ攻撃を行うポジションが一番輝けるだろう。 SP回復率の低さから後列待機の恩恵があまりなく、また覇道の性質的にも前線に留まる事が多いので、 HP回復の出来るキャラと組ませ、常に前線で戦えるようにしたい。 全キャラの中で最もLVアップに必要経験値が多い。(LV1→100への必要経験値は5933866) その為、このキャラを活用するならしっかりとPTにいれて経験値を稼がせておかないと、 ステータス上昇量は高くてもレベルが低くなってしまい、結局他のキャラと大差がなくなってしまう。 背伸び狩りの際に開幕覇道を使うだけでも十分利用価値はあるので、 Lvアップが遅れて敏捷が追いつけなくならないように、使う気がなくてもPT枠が開いているのなら入れておくとよい。 ステータス振りについて 回復率が悪いのでSP、もしくは集中している間も前線で壁として働けるように耐久面を振るのがお勧め。 攻撃のメインとなる緋々色金の一刃は性能自体が良いので、攻撃にはさほど振らずとも火力は取れる。 開幕覇道を使うだけであれば敏捷に振っておくと良い。
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前の話へ 次の話へ あらすじ 少しずつ縮むアリスと霖之助の距離。 それに嫉妬した魔理沙が爆発、それでも朴念仁な霖之助に今度はアリスがキレる。 皆自分の気持ちが整理できなくなっていた。 アリスが飛び出していった香霖堂。 霖之助は魂が抜けたような顔をして座り込んでいた。 思い出すのはアリスの言葉。 ―――自分が何をしたのか、なんで魔理沙が泣いてるのか、悩んで悩んで悩みぬきなさい!――― かつては、自分がすでに男としては枯れているものと思っていた。 だが、アリスと触れ合ううちにそれは自分の思い込みだと気付いた。いや、アリスが気付かせてくれたのだ。 ……魔理沙の顔が頭に浮かぶ。 小さいころは甘えん坊だった。 年の割りに賢かった。 魔法を志してからは父親とそりが合わず、自分が何度も仲裁に入った。 自分が霧雨の家を出てからも縁は切れていない。 研究に行き詰ればここに来て一言二言口をこぼし、帰っていく。 うまくいったら嬉しそうに自慢しにくる。 店のものを持っていく代わりに差し入れをもらうことも多い。 料理を振舞ってくれることもしゅっちゅうだ。 ここまでなら仲の良い兄妹と言っても差し支えないだろう。 だが、 ―――安心しろ。香霖を好きになる物好きな女がいなくても私がもらってやるぜ――― ―――貰い手がなかったらよろしく頼むぜ――― こんなことは兄妹同士で言ったりしない。 なのに、本気に取ったことは一度もなかった。 自分に見せる彼女をそのまま彼女の本質だと思って疑いもせず、ただの軽口と切って捨てた。 どんなに年が経っても、言葉遣いや表面上の性格が変わっても、魔理沙は魔理沙だったというのに。 小さいころのまま、甘えん坊で寂しがりやな女の子だったのに。 今ならわかる。彼女が軽口に見せかけて、その裏でどれだけの緊張と不安を押し殺していたのか。 「最低だな……」 「ええ、本当にね」 独り言に対する、ありえないはずの返答。 こんなことをするのは一人しかいない。 「見ていたのかい……? 紫」 「ええ、あの人形遣いがここに通うようになってからさっきの顛末までずっと」 背後に気配を感じる。スキマから上半身を出して話しかけているのだろう。 「いまさら覗いていたことをどうこう言う気もないが……情けないところを見られてしまったね」 「そうね。さっきのはちょっといただけなかったわ」 ふぅ、とため息を吐く。 手厳しいことだが、今はその率直な物言いが心地よい。 「それで? あなたはどうするつもりかしら?」 「どう……か」 「まさかここまで来て選べないなんて事は言わないでしょうね? 事態をここまでこじらせたのは間違いなくあなたの責任。ならこの問題はあなたが片をつけないといけない」 「そう……そうだね。わかってはいるつもりさ」 わかっている。これは自分が答えを出さないといけない問題だ。 そんなことは痛いほどわかっているのに、それでも自分の気持ちははっきりしていない。 情けなくて腹立たしくて自分を殴りつけたい心境だが、そんなことをしても何にもならない。 「一つ……簡単に済ませるほうがあるわよ?」 その言葉が耳に届くと同時に、両肩に重みを感じる。 しなだれかかって来た紫は、霖之助の耳元でさらに言葉をつむぐ。 「私を選んでくれたら、全部きれいに収めてあげる。 私の持つありとあらゆる力を持って、元の鞘に必ず戻してあげる。八雲の名において誓うわ。 ……そのかわり、私をあなたのものにして」 それは、抗いがたい甘美な誘惑。 確かに、彼女の能力を持ってすればこの問題はすぐにでも解決するだろう。 しかも幻想郷最高の妖怪を伴侶に持つ。これ以上の名誉は幻想郷に存在しない。 だが、その選択はありえない。 「君にそこまで言ってもらえるとは光栄だが、受けるわけにはいかないな」 「あら、やっぱり? まああなたならそういうと思っていたけど」 そういうと、紫はあっさり霖之助から離れた。 「じゃあ、しっかり考えて答えを出すことね。 この八雲紫を振った男が生半可なことをしたら、永劫許さないからそのつもりでね」 「紫、君は……」 彼女なりに励ましてくれたのか。それとも……。 そんな思いがよぎった瞬間、唇を指で押さえられた。 「変なこと考えるんじゃないの。それじゃあね霖之助。頑張りなさい」 そういい残して、紫はスキマに戻っていった。 「ああ、もちろんだ。ありがとう、八雲紫――」 さあ、ここからは自分の仕事。 ――紫の自室にて―― 「はぁ……私も完全には悪役にはなりきれないのね……」 たったいま香霖堂から戻ってきた紫。 霖之助が考えたとおり、彼女も霖之助に淡い思いを抱いていた。 そんな彼女がアリスの接近を許したのは、ひとえに楽観と自信が原因だった。 客観的に見て自分は美人だと思う。 妖怪や人間を問わず言い寄る男はいくらでもいた。 だから焦る必要はない。 アリスのような1000年も生きていない小娘に自分が遅れをとることなどありえない。 そう思って放置していた。 もっと早く、自分から積極的に動いていればこんな事態にならなかったであろうことも知らず。 気付けば女にあれだけなびかなかった霖之助がアリスと懇意になっていた。 そのときにはもう手遅れで、なまじ明晰な頭脳を持つだけに、自分にはもうチャンスが訪れないことを理解してしまった。 これは自分の自業自得。 相手を侮り、自惚れていた自分の落ち度。 だから、泣くのはこの一回きりだ。 ぎゅっと目を瞑る。目じりにたまっていた涙は頬を伝い、ぽろぽろとこぼれ落ちた。 だがそのまま落とすことはしない。涙の落ちる先にスキマを開き、回収する。 自分の式は優秀だ。涙の跡でもあれば簡単になにがあったか察してしまうだろう。 いや、おそらくはもう気付いているのだろうが。 さあ、もうすぐ式の式が食事の時間を伝えに来るだろう。 それまでには、悲しみも後悔も心の奥に封じ込めてしまわないと。 「藍さま。まだ紫さまをお呼びに行かなくていいんですか?」 「もう少し、もう少しだけ待ってくれ橙」 妖怪は精神的な病に弱い。つまり心の傷の治りが遅いということだ。 たとえ霖之助がどんな答えを出したとしても、今現在人間の魔理沙や元人間のアリスはそう長くないうちに立ち直ることだろう。 だが妖怪の紫はそうはいかない。表には出さなくても、10年、20年、いやもっと長く心の痛みは残る。 だから今は、もう少しだけそっとしておきたい。 その日、マヨヒガの夕食はいつもより少しだけ遅かったという。 前の話へ 次の話へ
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前の話 「いやー疲れた疲れた。やっと研究が形になったぜ」 そう言いながら入ってきたのは、最近めっきり足が遠のいていた黒白の魔法使い、霧雨魔理沙だった。 「おや、久しぶりだね魔理沙。だいたい2ヶ月ぶりかな?」 「あ~、そういやこの前来たときは会わなかったんだよな。あの時は口やかましい奴がいたからなあ」 「口やかましくて悪かったわね」 どうやら部屋の隅に居たためか気付かれなかったようだ。人がいないと思って好き勝手なことを言う悪友に声をかける。 「うおっと、今日もいたのかアリス。和裁だか白菜だか知らんが、お前ならもう香霖なんかに教わることはないだろうに」 「なんかとはなんだなんかとは」 「そうよ失礼な。言っとくけど霖之助さんの腕前は相当なものよ? だいたい、あんたも裁縫くらい覚えなさいよ。一応仮にも生物学上女の範疇に引っかかってんでしょ?」 「ひどいぜ。こんなに可憐な美少女を捕まえて」 「可憐だと自称するなら、せめて言葉遣いくらい何とかするべきね」 「善処するぜ。んで、まだ香霖にアドバイスもらいにこんな埃臭い所に通ってるわけか。お前も物好きだよなあ」 「別にアドバイスはもらってないわよ。とりあえず一人で作り上げて、何ができて何ができないのか確認するつもりだから」 流れるように掛け合いを続ける2人を眺め、本当に仲が良いなと微笑みつつ口を挟む霖之助。 「この前は一人で作ることにこだわる必要はないとか言ってたような気がするんだが、気のせいだったかな」 「気のせいね。ダメよ霖之助さん、人の話はちゃんと聞かないと。それとも私に話しかけてもらえなくて寂しいのかしら?」 「あれだけ根掘り葉掘り聞き出そうとしていた君がパッタリと質問しなくなったからね。なんとなくしっくり来ないだけさ」 「人間正直が一番って聞いたことがあるわよ?」 「それなら人妖の僕には当てはまらないな」 「ああ言えばこう言う……」 「君がそれを言うのかい?」 今度は魔理沙が2人の会話を眺める。 (……こいつらこんなに軽口叩き合うほど仲良かったか?) 少なくとも前に2人の会話を見たときはもっとよそよそしかった筈だ。 なのに、今の会話からはなんとなく甘い雰囲気すら漂っているように思える。 「何でお前らそんなに仲良くなってるんだ?」 霖之助はアリスとの会話を一時中断、魔理沙の質問に答える。 「そりゃ毎日顔を合わせてれば嫌でも相手のことを理解するようになるさ」 「あら、霖之助さんは私のことなんか分かりたくないって言うわけ?」 「今のは言葉のアヤというか極端な例えを提示しただけだよ。いくら僕でも嫌いな相手に部屋まで貸すほど酔狂じゃない」 「あ~、待て待て待て!」 放っておけばすぐに2人で話を進める。なんとなく自分が蚊帳の外のように思えてイライラする。 おまけに聞き捨てならないことが聞こえた。 「毎日顔を合わせて部屋を借りてる? いつからアリスはここに引っ越してきたんだ?」 「いや、別に住んでるわけじゃないよ。ただ、最初に日本人形を作ってるときは事あるごとに質問しに来てたからね。 ほとんどうちで作ってたせいか体がこっちに順応してしまったらしい。今では一人で閉じこもっているよりここで作ったほうがはかどるんだそうだ。 部屋は人形作りの道具や材料の置き場所として提供しているだけさ」 「……ふーん……つまり通い妻か。香霖にそんな甲斐性があったとはなぁ?」 「「通っ……!?」」 アリスだけならまだしも、霖之助までそろって顔が赤くなる。 これが他のやつならニヤニヤとしつこいくらい笑ってやるところだが、今回ばかりはそうはいかない。 自分がからかったのは認めるが、その反応はなんだ。 自分がいくら好意を匂わせても歯牙にもかけなかったくせに。 ストレートに伝えても、回りくどくほのめかしても全く動じなかったくせに。 だから、 「……なんでだよ」 気がつけば、不満が口からあふれ出して止まらなくなっていた。 「なんで!? なんでアリスなんだよ!? ついこの前まで赤の他人だったのに! その他大勢の客の一人でしかなかったくせに!! 私のほうがずっと昔から香霖の近くにいたんだ! 実家で修行してるときも! この店を建てたときも! 私が実家から出てった時だって! 途中でふらっと出てきたくせに私の場所を取らないでくれよ! そこはお前の場所じゃない!! 今までもこれからも死ぬまでずっと! 香霖に一番近いところにいるのは私なんだ!!! 他のやつに取られるなんで耐えられないんだ!!! だから……だからっ……」 「……魔理沙」 声が詰まって俯いてしまった魔理沙になんと言って良いか分からず、霖之助はただ名前を呼んだ。 ビクッと肩を震わせ、顔を上げた魔理沙の両目は、今にも涙が溢れそうになっていた。 「……う……うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」 耐えられなくなったのだろう。魔理沙は箒をつかむと、叫びながら香霖堂から飛び出していった。 「魔理沙……」 こちらはアリス。 考えたこともなかった。いつも自分勝手で人の迷惑を顧みないあの魔理沙がこんなに取り乱すことがあるなんて。 魔理沙は強いわけではなかった。弱い自分を一生懸命隠して、それを他人に絶対に悟らせないようにしていただけなのだ。 気付かなかった? 違う。気付こうともしなかった。 思えば霊夢は魔理沙の内面をなんとなく察していたような節がある。だからこそ、魔理沙と上手くやっているのだろう。 「……やれやれ」 そんなアリスの思考は、もう一人の当事者によって中断することになった。 「霖之助さん……」 「驚かせてしまったようだね。だいぶ成長したようだが、あの子もまだまだ子供のようだ」 なぜ……そんなに落ち着いているんだろう? 「多分、父か兄が取られて悔しいような気分なんだろう。しばらくそっとしておけばまた元気に……」 パァン! 「あなた……本気でそんなこと言ってんの……?」 考えるより先に、全力で目の前の男を張り飛ばしていた。 ずれた眼鏡を直すことすら忘れているのだろう、呆然としてこちらを見ている霖之助にさらに苛立ちを増す。 「朴念仁だとは思ってたけどここまで救いようがないとは思ってなかったわよ! お父さんが取られた!? お兄さんが取られた!? ふざけんじゃないわよ! そんなことで女の子が、あの魔理沙が! あそこまで取り乱すわけがないでしょうが! 人の感情に疎いのも大概にしなさいよ!」 ああ、さっきの魔理沙と同じことをしてる。 どこかで冷静な自分がささやくが、止められない。 「他人の気持ちなんて気にならないような顔をして! 気にならないんじゃないわ。分からないのよ! 勝手にああだろう、こうだろうって結論付けて、それを疑いもしない。 普段なら笑って済ませてあげるけどね、今回だけは絶対許さない! 自分が何をしたのか、なんで魔理沙が泣いてるのか、悩んで悩んで悩みぬきなさい! それが分かるまではそのとぼけた顔を見せないでちょうだい!」 そう言い残すと、アリスもまた香霖堂から出て行ってしまった。 「荷物……置きっぱなしだったなあ……まあいいか……」 怒鳴り散らして出てはきたが、少し言い過ぎたかもしれない。 そもそも魔理沙の内面を見ようとしていなかったのは自分も同罪だ。 それなのに自分だけは分かっていたような言い方。 自己嫌悪で足が止まりそうになるが、それを押し込めてでもやるべきことが残っている。 とにかく足を進めるアリスが辿り着いたのは、魔理沙の家の前だった。 大きくノックするが、返事はない。 それでも、今の魔理沙が他の誰かのところに転がり込むことは考えられない。 深呼吸して、家の中の魔理沙にも聞こえるよう声を上げる。 「魔理沙……いるんでしょう?」 「まずは謝っておくわ……。 そんなつもりはなかったけど、結果として私はあなたから霖之助さんを奪おうとしている。 しかもあなたが研究でいない間にこそこそとね。 卑怯といわれても構わない。それだけのことをした自覚はあるもの」 やはり返事はない。だが間違いなく聞いているはずだ。 そして、アリスは決定的な言葉を口にする。 「それでもこれだけははっきりさせておくわ。 私は霖之助さんが好き。今までに出会った誰よりもね。 だから誰にも渡したくはない。例えあなたや他の誰かに恨まれたとしても。 あなたはどうなの? こうして一人で閉じこもって泣いてるだけなの? 失いたくないなら、奪われたくないなら……立ち上がりなさい。 それができないなら、あなたの思いは所詮その程度のものだったということになるわ。 どういう結果になるかはまだ分からないけど、あなたの想いが本物なら、また私の前に立ちふさがりなさい。 ……待ってるから」 勝手なことを言っている。謝っているのか喧嘩を売っているのか分かったものじゃない。 魔理沙にはすまないと思う。それは間違いない。 それでも霖之助を失うのは嫌だ。 ……自分は一体何がしたいのか。 霖之助に怒鳴ったのも意味が分からない。魔理沙の方を向いて欲しいわけではないのに、魔理沙の気持ちを考えろなどと。 とにかく、自分も気持ちを整理する必要があるだろう。 アリスが遠ざかる足音が聞こえる。 声は聞こえていた。 だが、答える気にはならなかった。 自分がいない間に霖之助を取ろうとするアリス。 自分の気持ちになんて気付こうともしてくれなかったのに、知り合ったばかりのアリスといちゃついてた香霖。 2人とも大嫌いだ。 そして、そんなことを考えている自分はもっと大嫌いだ。 ベッドにうずくまったまま、とにかく今は何もしたくなかった。 アリスが飛び出していった香霖堂。 霖之助は魂が抜けたような顔をして座り込んでいた。 思い出すのはアリスの言葉。 ―――自分が何をしたのか、なんで魔理沙が泣いてるのか、悩んで悩んで悩みぬきなさい!――― かつては、自分がすでに男としては枯れているものと思っていた。 だが、アリスと触れ合ううちにそれは自分の思い込みだと気付いた。いや、アリスが気付かせてくれたのだ。 ……魔理沙の顔が頭に浮かぶ。 小さいころは甘えん坊だった。 年の割りに賢かった。 魔法を志してからは父親とそりが合わず、自分が何度も仲裁に入った。 自分が霧雨の家を出てからも縁は切れていない。 研究に行き詰ればここに来て一言二言口をこぼし、帰っていく。 うまくいったら嬉しそうに自慢しにくる。 店のものを持っていく代わりに差し入れをもらうことも多い。 料理を振舞ってくれることもしゅっちゅうだ。 ここまでなら仲の良い兄妹と言っても差し支えないだろう。 だが、 ―――安心しろ。香霖を好きになる物好きな女がいなくても私がもらってやるぜ――― ―――貰い手がなかったらよろしく頼むぜ――― こんなことは兄妹同士で言ったりしない。 なのに、本気に取ったことは一度もなかった。 自分に見せる彼女をそのまま彼女の本質だと思って疑いもせず、ただの軽口と切って捨てた。 どんなに年が経っても、言葉遣いや表面上の性格が変わっても、魔理沙は魔理沙だったというのに。 小さいころのまま、甘えん坊で寂しがりやな女の子だったのに。 今ならわかる。彼女が軽口に見せかけて、その裏でどれだけの緊張と不安を押し殺していたのか。 「最低だな……」 「ええ、本当にね」 独り言に対する、ありえないはずの返答。 こんなことをするのは一人しかいない。 「見ていたのかい……? 紫」 「ええ、あの人形遣いがここに通うようになってからさっきの顛末までずっと」 背後に気配を感じる。スキマから上半身を出して話しかけているのだろう。 「いまさら覗いていたことをどうこう言う気もないが……情けないところを見られてしまったね」 「そうね。さっきのはちょっといただけなかったわ」 ふぅ、とため息を吐く。 手厳しいことだが、今はその率直な物言いが心地よい。 「それで? あなたはどうするつもりかしら?」 「どう……か」 「まさかここまで来て選べないなんて事は言わないでしょうね? 事態をここまでこじらせたのは間違いなくあなたの責任。ならこの問題はあなたが片をつけないといけない」 「そう……そうだね。わかってはいるつもりさ」 わかっている。これは自分が答えを出さないといけない問題だ。 そんなことは痛いほどわかっているのに、それでも自分の気持ちははっきりしていない。 情けなくて腹立たしくて自分を殴りつけたい心境だが、そんなことをしても何にもならない。 「一つ……簡単に済ませるほうがあるわよ?」 その言葉が耳に届くと同時に、両肩に重みを感じる。 しなだれかかって来た紫は、霖之助の耳元でさらに言葉をつむぐ。 「私を選んでくれたら、全部きれいに収めてあげる。 私の持つありとあらゆる力を持って、元の鞘に必ず戻してあげる。八雲の名において誓うわ。 ……そのかわり、私をあなたのものにして」 それは、抗いがたい甘美な誘惑。 確かに、彼女の能力を持ってすればこの問題はすぐにでも解決するだろう。 しかも幻想郷最高の妖怪を伴侶に持つ。これ以上の名誉は幻想郷に存在しない。 だが、その選択はありえない。 「君にそこまで言ってもらえるとは光栄だが、受けるわけにはいかないな」 「あら、やっぱり? まああなたならそういうと思っていたけど」 そういうと、紫はあっさり霖之助から離れた。 「じゃあ、しっかり考えて答えを出すことね。 この八雲紫を振った男が生半可なことをしたら、永劫許さないからそのつもりでね」 「紫、君は……」 彼女なりに励ましてくれたのか。それとも……。 そんな思いがよぎった瞬間、唇を指で押さえられた。 「変なこと考えるんじゃないの。それじゃあね霖之助。頑張りなさい」 そういい残して、紫はスキマに戻っていった。 「ああ、もちろんだ。ありがとう、八雲紫――」 さあ、ここからは自分の仕事。 ――紫の自室にて―― 「はぁ……私も完全には悪役にはなりきれないのね……」 たったいま香霖堂から戻ってきた紫。 霖之助が考えたとおり、彼女も霖之助に淡い思いを抱いていた。 そんな彼女がアリスの接近を許したのは、ひとえに楽観と自信が原因だった。 客観的に見て自分は美人だと思う。 妖怪や人間を問わず言い寄る男はいくらでもいた。 だから焦る必要はない。 アリスのような1000年も生きていない小娘に自分が遅れをとることなどありえない。 そう思って放置していた。 もっと早く、自分から積極的に動いていればこんな事態にならなかったであろうことも知らず。 気付けば女にあれだけなびかなかった霖之助がアリスと懇意になっていた。 そのときにはもう手遅れで、なまじ明晰な頭脳を持つだけに、自分にはもうチャンスが訪れないことを理解してしまった。 これは自分の自業自得。 相手を侮り、自惚れていた自分の落ち度。 だから、泣くのはこの一回きりだ。 ぎゅっと目を瞑る。目じりにたまっていた涙は頬を伝い、ぽろぽろとこぼれ落ちた。 だがそのまま落とすことはしない。涙の落ちる先にスキマを開き、回収する。 自分の式は優秀だ。涙の跡でもあれば簡単になにがあったか察してしまうだろう。 いや、おそらくはもう気付いているのだろうが。 さあ、もうすぐ式の式が食事の時間を伝えに来るだろう。 それまでには、悲しみも後悔も心の奥に封じ込めてしまわないと。 「藍さま。まだ紫さまをお呼びに行かなくていいんですか?」 「もう少し、もう少しだけ待ってくれ橙」 妖怪は精神的な病に弱い。つまり心の傷の治りが遅いということだ。 たとえ霖之助がどんな答えを出したとしても、今現在人間の魔理沙や元人間のアリスはそう長くないうちに立ち直ることだろう。 だが妖怪の紫はそうはいかない。表には出さなくても、10年、20年、いやもっと長く心の痛みは残る。 だから今は、もう少しだけそっとしておきたい。 その日、マヨヒガの夕食はいつもより少しだけ遅かったという。 一体どれくらいの時間がたったのだろうか。 部屋を閉め切っているから、今が昼か夜かもわからない。 ずっとベッドにうずくまっていたせいか、体中が硬くなっているのがなんとなくわかった。 霖之助とアリスに対する負の感情はピークを越え、今は小康状態だ。 代わりに、自己嫌悪が心をじわじわと侵食していた。 「……やっちまったなあ……」 もっと賢い方法があったかもしれない。 あの時点での行動次第では、今のような未来が訪れはしなかっただろうに。 合わせる顔がないというのはこういうことかと、体験して初めてわかった。全く嬉しい経験ではないが。 「……はは」 そんなことを考えている自分がおかしくて、声に出して笑ってやった。 今考えることはそんなことじゃないだろう。 少し冷えた頭は、アリスの言葉を浮かべてくる。 ―――あなたの想いが本物なら、また私の前に立ちふさがりなさい――― 最初は、諸悪の根源が何を、と思った。 しかし、よく考えてみればおかしな話だ。 アリスが霖之助を奪いたいなら、そんなことを言いに来る必要はない。 兄を取られたようで悔しいんだろうとでも言っておけば、あの朴念仁は簡単に騙される。そして自分が沈んでいるうちにまんまと篭絡すればいい。 これ以上簡単な話はないはずなのに、アリスはわざわざ恋敵を激励しに来た。 そもそも今から対等な勝負を挑んだって結果は目に見えている。 店での反応を見れば一目瞭然。霖之助の気持ちが誰にあるのかわからないほど短い付き合いではない。 だがアリスはそんなことを微塵も考えていないのだろう。本気で正々堂々と戦う気だ。 (あいつらしいと言うかなんと言うか……) そうだ。アリスはそういうやつだった。 普段は斜に構えたような態度で、自分の好意を意地でも悟らせないような言動が目立つ。 なのに、人が迷惑かけても文句は口先ばかりで、困っていたら損得抜きで助けてくれる。 ひねくれもののおせっかい。 今回もきっとそうだ。 「……やれやれ」 気がつけば口元が緩んでいる。 ああ、全くこんなの自分らしくない。 勝ち目なんかないに等しい。立ち上がったところで、また打ちのめされ一敗地にまみれるだけだろう。 それでも、膝を屈することは許されない。 せめて、あの不器用で真っ直ぐな友情だけは失わないために、決着だけはきっちりつけてやる。 「悲劇のヒロインなんて、真っ平ごめんだぜ」 一方、アリスはいまだに自己嫌悪の渦から抜け出してはいなかった。 魔理沙にはああ言ったものの、この件で自分に何ができるというのか。結局のところ、自分か魔理沙かを選ぶのは霖之助だ。 自分はただそれを待つだけ。いまさら霖之助の気を引くことなどできるわけがないし、これ以上魔理沙に塩を送るような真似もできない。 結局全て自分のエゴだ。霖之助を魔理沙から掠め取るような真似をしたくない。それなのに、霖之助を失うのが怖い。 「アリスーーー! 出てこーーーい!」 ああ、ついに幻聴まで聞こえ出したか。 いまあいつがここに来るわけなんてないのに。 「いるのはわかってんだ! 出てこないならこの家吹っ飛ばすぜ!?」 うるさい。今はそっとしておいてくれ。 「よーし良い度胸だ! さーん! にー! いーち!」 ああもう、幻覚までが自分を追い詰めるというのか。 「うるさいわね! 用事があるならそっちが勝手に入ってくれば良いでしょ!?」 怒鳴りつけると声は聞こえなくなった。 やはり幻聴か。自分もなかなか追い込まれている。 そう思った瞬間、 ガチャ 「人が折角立ち直ってきたってのに。全くご挨拶なやつだ」 あれ? 「ほらさっさと立て。香霖のとこに行くぞ」 「何……で……?」 なぜこいつがここにいるんだろう。 「何でってお前が言ったんじゃないか。また立ちふさがりに来いって。それともありゃ嘘か? ほら、早く立てって。」 「あ……うん」 「よし、じゃあ香霖のとこにいくぞ。あいつにはきっちりカタをつけてもらわないとな」 「ねえ」 「あん?」 「あんたはそれで良いの? なんなら私は何日かじっとしてるからその間に……」 「おいおい、私をなめるのも大概にしろよ」 睨みつける魔理沙。 「そんなお情けをかけてもらって、それで勝ったからって何も嬉しくないぜ。 どんなに不利な状況でも構わない。自力で勝ち取ってこそ意味があるんだ お前が私の立場でもそうだろう?」 言葉が詰まる。そうだ。もう自分にできることなんて何もない。 威勢のいいことを行っておいて情けない限りだが、霖之助の選択を甘んじて受け入れよう。 「わかったわ。あんたは本当にそれで良いのね?」 「くどいぜ。女に二言はないって言うだろう?」 魔理沙がここまで言うのならば、もう何も言うまい。 後は霖之助がどのような選択を取るのか、ただそれだけだ。 2人の魔法使いが並んで空を舞った。 「……」 最近ここまでひとつのことを考え続けたことがあっただろうか。 自分に好意を寄せる2人の少女、アリスと魔理沙。 魔理沙とは彼女が物心ついたときからの付き合いだ。 人前では常に明るく振舞い、陰で血のにじむような努力を続ける少女。 自惚れかも知れないが、彼女の支えになってきた自信はあるし、そのことを誇りに思う。 アリスとはつい最近一気に距離が縮まった。 皮肉屋で素直じゃないが、思いやりのある優しい少女。 ここ1ヶ月ほどの、彼女がいる生活はとても充実していた。 どちらかが選ばれ、どちらかは選ばれない。 残酷なようだが、2人とも幸せにするなんて言っても彼女たちは納得しないし、そんな都合の良いことは口が裂けてもいえない。 審判を下すのは自分だ。理屈ではなく、2人のうちどちらと生きていきたいのか、自らの感情を問う。 そして、その答えはすでに出ていた。 「入るわよ」 「じゃまするぜ」 件の2人が店に訪れる。 「用件はもうわかっているよな?」 「はっきり聞かせて頂戴。あなたの口からね」 「……ああ」 2人の顔を交互に見つめる。 もう一度だけ、目を閉じて心に浮かぶ少女の顔を確認する。 心臓はこれ以上ないほど早鐘を打ち、手のひらは汗がじっとりにじんでいる。 だが、逃げ出すわけにはいかない。 「……魔理沙」 2人の反応は異なる。 魔理沙はさらに顔を険しくし、アリスは唇をかみ締め、顔をそらす。 ああ、おそらく2人はわかっている。次に続く言葉を。 「すまない。僕は君を選ぶことはできなかった」 目を閉じ、息を吐く。 ―――ああ、やはりそうか――― 覚悟はしていた。予想もしていた。 なのに、面と向かって言われると想像以上に堪える。いっそ崩れ落ちてしまいたいくらいだ。 それでも、今度ばかりは取り乱すわけにはいかない。 「はあ~あ、やっぱりな」 「やはりわかっていたんだね」 「まあな。何歳からの付き合いだと思ってんだ? 香霖の考えなんてお見通しだぜ」 「……」 「なに辛気臭い顔してんだよ全く。あれだけ女っ気がなかった香霖がこんな良い女に言い寄られるなんて金輪際ないぜ。 それも2人同時にだ。もっと喜べよ」 「魔理沙……」 今度はアリス。 なんともいえない顔をしている彼女にも声をかける。 「お前も同じだよアリス。たった今想いが通じたんじゃないか。笑わないなんてそれこそ私に対して失礼だぜ」 自分自身よくこんなに口が回ると思う。 多分、ごまかしているだけなんだろうが。 「さて、そうと決まればこんなとこに用はないな。若い2人に任せて退散させてもらうぜ」 「……ああ」 「じゃあな香霖。これでアリス泣かしたら許さないぜ」 さあ、一刻も早く外へ出よう。取り繕うのはもう限界だ。 そして店には2人が残る。 しばらく沈黙が続き、それをアリスが破った。 「霖之助さん」 「なんだい?」 「これでよかったの? 本当に私でいいの?」 その表情からは喜びを見て取ることはできない。 魔理沙のことが気になっているのだろう。 「ああ。いつものように理屈でどうのこうのとは考えなかった。 僕が店にいて、その傍らにいて欲しいのが誰か。それを考えたとき、真っ先に浮かんだのが君だったんだ」 「……そう」 そうしてまた続く沈黙。 「ねえ」 「うん?」 「今日は帰ることにするわ。まだ気持ちの整理ができなくて。 あ、嬉しくないわけじゃないの。でも、まだ素直に喜べないから……」 「ああ。急ぐ必要はないさ」 そうして店を出ようとするアリスの背中に声をかける。 「そうだ、一つ伝えないといけないことがあった。 次に君が来たときには、是非とも渡したいものがあるんだ。 ……待っているよ」 香霖堂を飛び出した魔理沙は、とにかくスピードを上げて箒を飛ばしていた。 歯はきつく食いしばられ、目は前を見ていない。 山から一本だけ突き出た大木。それに向かって突っ込んでいくが、顔を伏せている魔理沙は気付かない。 あわや激突かと思われた瞬間、魔理沙は目の前に開かれたスキマに飛び込んでいった。 気がつけば、布団の中にいた。 見覚えのない部屋。一体ここはどこだろうと思った瞬間、声をかけられる。 「危ないわね全く。自殺なんかされたら霖之助さんが悲しむわよ」 「……お前か、紫」 「ええ、久しぶりね」 「……見てやがったのか」 「もちろん、一部始終をね」 「それで? 惨めな私をあざ笑いに連れてきたってのか?」 「命の恩人に失礼なことね。それに、私にはあなたを笑うことはできないわよ」 「……」 その言葉を聴いてなんとなく察する。 「で、その大量のつまみと酒はなんだ?」 「わかってるんでしょ? こういうときは呑んで呑んで呑みまくるものよ」 「……まあいいや。どうせ呑むつもりだったしな。ここか家かが違うだけだ」 「そうそう。じゃあ乾杯ね。」 それから数十分後。 「随分呑んだわねえ」 「なあ~にまだまだこれからよお~」 2人で次々瓶を開け、気付けばすでにかなりの量を飲んでいた。 そろそろ溜め込んだものを吐き出させようと、紫は魔理沙の本心を尋ねる。 「で、どうなの? まさかすっぱり諦めきれたわけじゃないんでしょ? 言いたいことがあるなら吐き出してしまいなさいな」 少し目を左右にやる魔理沙。酔いはやや醒めたらしく、迷いつつもぽつぽつと話し始めた。 「最初はさ……あいつらが憎くて仕方なかったんだ。 私のいない間にこそこそしやがって……って。 でも段々、自分に対する後悔のほうが大きくなってくのがわかったんだ。 何でもっと積極的に行かなかったんだろう。 貰い手がなかったら頼むなんて軽口でごまかして、そんなんで香霖が気付いてくれるわけないって知ってたのに。 まだ私は大人になってないから、もっと大人にならないと香霖とは釣り合わないからって、本気になるときを『今』から 『いつか』にすり替えてた。 そんなことをしているうちに、『今』本気になってるアリスが香霖を動かし始めたんだ。 気がついた時にはもう手遅れで、香霖はすっかり私の方を向いてなかった」 その言葉に思うところはあったが、今はとにかく聞き手に徹する。 「なんで『いつか』なんて考えてたのかなあ。チャンスなんかいくらでもあったはずなのに。 やりたいこともいっぱいあったんだぜ。 唐突に『愛してるぜ』とか言って香霖を赤面させたり、 新しい料理を覚えて『おいしいよ』って言わせたり。 祭に2人で手をつないで出かけたり、 花見や月見でのんびり酒を酌み交わしたりもしたかった。 同じ布団で寝て、香霖の腕を枕にして。寒いからぴったりくっついて『これで寒くないぜ』ってささやいたり。 つい何ヶ月か前まで、手を伸ばせば届いたかも知れなかったのに、今じゃもう届かないんだ。 どんなに泣き喚いても、力づくで奪い取っても、それは私が欲しかった香霖じゃない。 ……私を一番愛してくれる香霖じゃないんだ……」 そこまで言うと、魔理沙は肩を震わせて俯いてしまった。 自分もこの子と同じだ。 その気持ちは手に取るようによくわかる。 だから、魔理沙の頭を優しく胸に抱いた。 「泣いたっていいのよ。あなたはまだ若いんだから。 こういうときは、泣いて泣いて全部吐き出しなさい。 そうして成長していけばいいの」 そう言いながら魔理沙の頭を撫でる。 「うっ……ぐっ……うわああああああああああああああ!」 いちど決壊してしまえば、もうあとは吐き出すだけ。 爪のあとが残るほど強く紫を抱きしめ、魔理沙はいつまでも泣きじゃくっていた。 2日が経過した。 しかし、まだアリスはやってこない。 (もう少し時間がかかるのかもな……) そんなことを考えつつ、霖之助は先ほど届いた文文。新聞の号外を開く。 その目に飛び込んできたのはこんな記事だった。 『熱愛発覚! 香霖堂店主森近霖之助と、七色の人形遣いアリス=マーガトロイド!』 同じころ、アリスもその記事を目にしていた。 つい先ほど、この新聞を作った本人、射命丸文が直接渡しに来たのだ。 「この号外はあなたが見なくちゃダメなんです! 今回情報をくれた人から頼まれたんですから!」 何が言いたいのか良くわからなかったが、どの道今は何も手につかない。 まあ気を紛らわすくらいのことはできるだろう。 そう思って新聞を開いた瞬間、アリスの頭は一気に覚醒した。 新聞の内容を要約するとこうだ。 『いつものようにネタを探していたところ、急遽取材の申し込みがあった。 渡りに船とその人物にあえば、なにやら人知れず咲いた恋があったとのこと。 しかもそれが有名な魔法の森に住む2人、森近霖之助とアリス=マーガトロイドと聞けば、これは記事にせざるを得ないと判断した』 その後は2人の馴れ初めについて記されている。 情報提供者の名前を見ると、こう書いてあった。 『霧雨 魔理沙』 「……ここまでお見通しってわけね」 どこまでも世話焼きなやつだ。 自分が失恋した直後だというのに、アリスが魔理沙のことを気にして動けなくなることまで考えていたのか。 ここまでされては、自分も腐っているわけにはいかない。 人の恋路を勝手にばらすのは不届き千万だが、背中を押されたのも事実だ。 この記事を見た読者が押し寄せる前に、霖之助の下へ。 バタン! 勢いよく戸が開く音を聞きつけて目をやると、ここ2日待ち焦がれた少女の姿があった。 「……見た?」 何を、とは聞かない。 「ああ。全くあの子らしいな」 「そうね。私もようやく覚悟が決まったわ」 2人で笑いあう。どちらかといえば苦笑に近い笑みだったが。 「それでは僕の思いを伝える前に、この前話したものを渡そう」 そう言って奥に引っ込む霖之助。 戻ってきた霖之助の手に乗せられていたのは紙の包み。 「開けてごらん」 言われるがままに包みを開く。 出てきたのは、非常に細かな刺繍が施され、生地も糸も高級な品を使用した『振袖』であった。 「これを……私に?」 「ああ。……それは僕の、母の形見なんだよ」 「え?」 目を丸くするアリスを眺めつつ、話を続ける。 「僕が人間と妖怪のハーフということは知っているだろう? 人間だったのは母のほうでね。それなりの良家の一人娘だったらしい。 父は母が僕を身ごもったあと、親族たちに追われ、今は行方知れずだ。 母は妖怪の子を宿したために家を勘当されたそうなんだが、そのとき母親、つまり僕の祖母からこの振袖を 渡されたそうだ。 祖母も曾祖母から譲り受けたもので、母が嫁に行くときに着せたかったそうだが、今話したような事情でそれも 適わなくなってしまった。 だからせめて、まだ見ぬ孫が女なら孫に、男ならその伴侶となる女性に受け継いで欲しい、とね。 この話を聞いたのは母が他界する直前だった。もう何十年も前の話さ」 「……そんな大事な物を私がもらうわけには「アリス」」 軟らかくアリスの発言をさえぎる霖之助。 「僕と君が、初めて和服について語った時の内容は、まだ覚えているかい?」 当然忘れてなどいない。 確か、和服は着る人間が代わっても大丈夫なように厳密な採寸をしない。 そしてその理由は 「……あ」 大事な着物を、子へ、孫へ。 何年も何年も大事にしてきた着物だからこそ、それを授けることによって、 相手に愛情の深さを伝えるのだ。 「……」 言葉もないアリスに、霖之助が声をかける。 「その着物以上に大切なものは、僕の店にもない。値打ちの問題ではなく、ね。 これが僕の答えだ。 ……受け取ってくれるかい?」 ともすればあふれそうになる涙を必死に抑える。 今は泣くときじゃない。笑うときだ。 そうしてアリスは霖之助に応える。 「はいっ!」 その顔は、見るもの全てを魅了する最高の笑顔だった。 魔法の森の入り口に存在する店、香霖堂。 そこを訪れた客に、店の名物は何かと問えば、皆が口をそろえてこう言った。 それは、いつ見ても仲睦まじい銀髪と金髪の夫婦である、と 了 前の話 おまけへ
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柴とはそこいらにいる柴犬、または八雲紫を揶揄して使われた言葉である。 そもそもの発端は霖之助スレ15の 860が 「紫」 の字を打とうとして今まで 「し」 で変換していたのであろう、間違って 「柴」 と打ってしまい、字が似ていることもあり、住民のツボに嵌ったのが由来である。 その後しばらく八雲紫=柴のような用法がなされ、次第に業を煮やした住民が是非を問い出し、問題は収束する。 以後はたまに香霖堂の近くをうろつく犬程度の使い方になったが、反射的に八雲紫を思い浮かべる人もいるため無闇に使うのはあまりよくない。 そもそも霖之助スレ住民は長らく二次設定に頭を悩まされており、スレ内でも度々 「霖之助さえまともなら他のキャラはどうでもいいのか」と問題になる。 とはいえ面白いことが好きな人間なのだから、このような問題が発生するのは完全には防ぎようがない。 予防も大事だが、真に大事なのは二次設定が発生したときにどう対処するかである。 花は半開を看、酒は微酔に飲む。人生に必要なことだと思いませんか?