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孤独は湿度のない乾いた空気であり、冷たい風のようなものだ。 乾いた空気は喉を痛めつける。 冷たい風は体を冷やす。 乾いて、傷ついた喉は水を求めて熱を発し。 冷えた体は熱を求めて、震え出す。 最初は辛い。 寒さに震え、痛みにもがくだろう。 しかし、何時しか慣れる。 冷え切った体と声すら出せない喉を残して。 ――岩陰で朽ちて死んだ男の口癖より 【UnrimitedEndLine】 外伝 『Biscuit・Shooter/5』 その日、足音が聴こえた。 古代遺失物管理部【機動六課】 地上部隊に置かれておきながらも、その所属は本局に属しているという異例な部隊。 所属している魔導師は最低でもBランク以上。 五名存在する隊長陣に至ってはAAA以上、リミッター保持でもAAクラスという常識外れの部隊。 その存在を知った地上部隊の人間はこう囁く。 ――海から送り込まれた地上への牽制だと。 ――金と権力を持て余した馬鹿が作ったお飾り部隊だと。 ――海と地上の戦力差を見せ付けるためだと。 そう囁かれる。 好意的な意見もあれば、悪い噂もある。どんなものにもマイナスな面があるように、妬む者も居れば憎む者もいる。 稀に出てくる才能ある魔導師はその待遇の良さ故に本局――『海』へと渡り、地上所属――陸は限りある戦力で任されている次元世界を保護する。 年々監視規模を増やす次元世界の調査や対処に海は人手不足を嘆き、陸は少ない戦力で嘆きながらも見捨てられない人々のために力を尽くす。 海は扱っている規模故に一つ次元の世界で戦う地上を軽んじて、地上は戦力を引き抜いていき防げるかもしれない事件への対処を遅らせる海を憎悪していた。 人は全て善人なわけがない。 治安を護ることを理念とする管理局に所属していても、全ての人間が清らかな面を持っているわけじゃない。 次元世界を管理するなどと謳っても、そこに所属し、そこで働くのはヒトだ。 もちろん次元世界には様々な生命体がいる。 様々な獣人、知能を持った獣、限りない情報から生まれた情報構成体、発展した文明から産み出された電子生命体、鋼鉄の血肉と配線と電子部品の頭脳を持った機械生命体 その他にも沢山の存在が居る。 けれど、決して完全なる善性を持った存在などいなかった。 失敗を起こさぬものが居ないように、悪が産まれない世界などどの次元にもなかった。 穏やかな性格の獣人たちが住む惑星があった。 けれど、そんな彼らでも誤解から喧嘩になることもある。 暴力を嫌う故に起こるのは小さな子供のような喧嘩だったが、それでも争いというものは産まれる。 ある研究者は言った。 「もし本当の意味であらゆる次元を作った創造主がいるのであれば、それはおそらくヒトなのだろうね」 ヒト。 それは不完全な存在を指し示す言葉だと、研究者は告げた。 不思議なことにどんな世界にも同じように伝わる神話がある。 神は土よりヒトを創り、己の分身とした。 己の手足である天使とは違う、己と同じ存在を産み出したのだ。 神話にはそう語られている。 だからこそ、ヒトは不完全なのだと研究者は言った。 創造主が完璧な存在ならば、生み出されたものも完璧になるはずだと。 完璧な存在が悪などという不具合を産み出すはずはないと。 その研究者はそう告げると、静かに笑った。 「だからこそ、可能性というものもあるのだがね」 不完全な存在だからこそ、完璧なものはない。 完璧ではないからこそ、可能性がある。 可能性があるからこそ、不完全。 不完全だからこそ、心がある。 心というのは不完全だからこそ生まれるのだから。 メビウスの輪のように永遠に結論へと辿り付かない疑問、ループし続ける きっと千年経っても見つからない答えを探しながら。 もがき続けるんだろう。 海と陸は油と水のような関係だ。 決して混じり合えない、反発するだけの存在。 水の中に油を垂らすように、機動六課という存在は地上部隊からどこか浮いている。 もしも混じり合わせたければ、それこそ石鹸水でも使わないといけないだろう。 「まあその場合、石鹸水になるのは親交関係ってとこか」 隊舎の寮。 ヴァイスはハッカの飴を舐めながら、地上本部の連絡員から渡された情報を見ていた。 手には待機状態のストームレイダー。演算処理と簡単な処理ならそのままでも行えるので、問題は無い。 空間に展開するモニターではなく、直接網膜に画像を投影しながら目を走らせる。 【陸士108部隊 部隊長――ゲンヤ ナカジマ】 映し出されているのは二日後、機動六課の面子がホテル・アグスタへの警備任務に向かう際に合同任務を行う部隊の隊長。 スターズのフォワードであるスバル・ナカジマの父親である人物であり、それ以前にヴァイスはこの人物を知っていた。 「あの時のおっさんか」 思い出すのは六年前。 “ティーダが死んだ事件”のこと。 かつてミッドチルダで起きた事件、今よりも遥かに多かったテロ行為。紛争があった時代。 ヴァイスとシグナムとティーダが。 地上本部の部隊全てが一丸となった大規模紛争。 【ミッドチルダ閉鎖事件】 ミッドチルダが7日間に渡り次元閉鎖された悪夢のような一週間。 その中で、直接は見ていないが著しい働きをした部隊の隊長として彼の名前をヴァイスは知っていた。 「古参組……か」 ヴァイスはどこか含みを持った呟きを洩らした。 そこに篭められたのは過去を思い出す感情。 地上本部も六年前と比べて大分状況が変わった。 頻発していたテロを鎮圧していた熟練の局員は退役や本局に引き抜かれて、今地上本部にいるのは碌なテロも知らない新人ばかり。 そんな中でも実戦を知り尽くし、熟練した隊員を揃えているのが陸士108部隊だった。 「純粋に警備だけなら、奴らに任せれば安心だろう」 ヴァイスはファイルを閉じて、証拠隠滅にデータを削除する。 大体必要な情報は頭に叩き込んだ。 主要な人員の顔も覚えたし、後は現場で何も起こらないことを祈るだけだ。 「俺は出ないしな」 そうなのだ。 今回の警備任務の舞台はクラナガンにある高級ホテル。 少々僻地にあるとはいえヘリで向かうわけがなく、陸で活用される移動トレーラーで輸送されることになっている。 ヘリパイロットであるヴァイスは緊急時に備えた交代部隊の輸送要員として、待機が決まっていた。 華やかな人員と優秀極まる魔導師が数を揃えたスターズとライトニング分隊だが、それの予備であり、交代部隊である人員もまた優秀な人員である。 B以上の陸戦魔導師が大半を占めており、その人員は地上本部から出向した隊員による部隊。 人手不足だというのに、なんとか運営に支障がない分の人員や面子を揃えて、差し向けたレジアスの苦労には頭が下がる一方だった。 彼らはレジアスから渡されたストッパーでもあり、同時に地上の地形や事情に疎いスターズやライトニングでは任せられない任務を請け負っている。 何かと癖の多い面子が揃っているが、陸の所属だったシグナムが指揮を取っていることで今のところ問題は起こっていない。 まああまり顔を合わせないこともあって、フォワード四人は交代部隊の人員のことなど殆ど知らないだろうが…… ――ピッと不意に音が鳴った。 「ん?」 ベッドの脇に置いておいたストームレイダーが電子音声で内容を伝えた。 『It is Time(時間です)』 「そんな時間か」 パキリと噛んでいたハッカの飴を噛み砕き、ヴァイスは立ち上がると、自室の隅のハンガー掛けに掛けたプライベート用のジャケットを羽織る。 ベットの縁の置いておいた待機状態のストームレイダーをズボンのポケットに入れ、机の上に置かれた小さな鏡で身だしなみを軽く確認しながらタバコの箱をジャケットの内ポケットに放り込む。 事前に申請しておいた外出許可証を手に持ち、ヴァイスはドアを開いて歩き出した。 エンジンが唸りを上げる。 己の手でチェーンナップしたエンジンが、タイヤに効率的にエネルギーを伝えて、低く唸るような咆哮を上げていた。 太陽も翳る夕闇の中、点灯もしてない大型二輪が一直線にクラナガンの路地裏を疾走し、その乗り手であるヴァイスは迷いもせずに狭い路地裏を突破し、転がっている紙切れやゴミなどを吹き飛ばしながら走っていた。 硬質な樹皮の感触がグローブ越しに伝わってくる。 狭い路地裏の曲がり角を、角に差し掛かる数秒前に体を大きく傾けて――曲がる。 アスファルトに傾いた体が擦れそうになりながら、握り締めた手でグリップを回し、加速。 タイヤの溝がアスファルトを噛んで、ギャリギャリと音を立てながら、されどスリップする事なく走る。 そして、直進。 数百キロにも至る鋼鉄のボディを引きずりながら、僅かに浮かんだ前輪を押しあげる様に後輪が回転する。 傾いた体が真っ直ぐに進む道に合わせて体勢を立て直し、バイクが唸り声を上げながら走った。 「んっ」 目的地が見えた。 路地裏を活用し、大きくショートカットした末に通常よりもずっと早く目的の店が見えたヴァイスは速度を落としながら、ブレーキを掛けていく。 目的地の十数メートル前、誰もいないことを確認し、ヴァイスは大きくバイクを振り回しながら後輪を滑らせた。 焦げ臭い臭いを撒き散らしながら、ギャリギャリと引き攣るような音を立ててバイクが止まる。 遠心力を失い、自然に傾くボディを地面に差し出した脚が支えた。 「着いたな」 バイクから居り、駐輪出来る位置にまで手で押すと、キーを抜く。 ヴァイスはフルフェイスのヘルメットを外すと、ヘルメットをハンドルに被せた。 一応チェーンを付けると、彼は静かに顔を見上げた。 そこにあったのは――六年前、一つの信じるものを教えられた場所だった。 カランと静かに音がした。 ドアに付けられた鈴が音を立てる。 「いらっしゃい」 ヴァイスが入ったドアの向こう、外見からは想像付き難いぐらいに大きなバーの中で、マスターがグラスを磨いていた。 八年前、今は死んだ先輩にして同僚の男に連れられてやってきた時から多少老け込んでいるものの、変わらない動きと笑みでこっちを見つめていた。 「おや? ヴァイス君か、一月ぶりだね」 「お久しぶりです」 返事を返しながら、ヴァイスは店内を見渡す。 まだ夕暮れに差し掛かった時刻、夜勤明けもいなければ通常業務が終わる時間でもない店には殆ど客がいなかった。 ――奥に座る見覚えのある人物を除いて。 「奥の席は空けてあるよ。存分に話すといい」 「ありがとうございます」 「なに、君は八年以上の付き合いだからね」 店と客という立場の違いあっても、人同士ということには変わりは無いとマスターは付け足した。 静かに飲みたいのなら静かに飲ませ、騒がしく飲みたいのならば騒がしく飲ませる。 望まれるままに品を出し、温かく見守るだけ。 そんなスタイルを保ち続けているから、どこか癖の強い陸の隊員がよく寄り付く場所になっているのだろうなとヴァイスは思う。 「それと注文は?」 「ロックの水割りで」 指二本並べてヴァイスが告げると、マスターは承知したように後ろに並べてある酒瓶を手に取り、準備を始めた。 その間にヴァイスは歩き出す。 奥のテーブル席へと近づいて、挨拶をした。 「えっとお久しぶりです、オーリスさん」 「久しぶりですね」 そこには私服姿に鞄を膝の上に置いたオーリスがカクテルを手に座っていた。 プライベートと仕事では使い分けているのか、前に地上本部では見かけた時よりも若干大きめなメガネを付けていた。 上には っと、観察はそこまでにしてヴァイスは用件を切り出した。 「連絡員なら、ドゥーエでも来ると思っていたんすけど」 それなりに顔馴染みになっている隠密諜報用の戦闘機人の名を上げる。 「彼女なら博士のところに連絡に向かわせました」 彼女が博士と言って、該当する人物は一人しか居ない。 ジェイル・スカリエッティ。 ヴァイスも良く知る科学者。広域指名手配犯、レジアスとの共犯者。 ――“奴ら”を叩き潰すための仲間。 「彼女の擬態能力はとても優秀です。連絡要員としてはこちらとしても欠かせないのですよ」 説明が足りないと思ったのか、オーリスは少しだけ早口で言葉を継ぎ足した。 実際ドゥーエは優秀だ。 顔を変え、体型も、見かけ上ならば性別も変更出来る彼女はどんな立場にも縛られないフリーな存在として動ける。 諜報員としてあれ以上の存在はいないだろうと、ヴァイスは承知していた。 「あ、いや、それは分かりました」 「それならいいのですが」 ほぅっと息を吐くオーリスを見ながら、ヴァイスはオーリスの正面から少し外れた横の位置に座る。 っと、そこでトレイを持ったボーイが二人のテーブルの上に水割りのグラスを置いた。 「どうぞごゆっくり」 礼式めいた言葉を残して、ボーイが立ち去る。 彼が立ち去ったのを確認し、ヴァイスは口を開いた。 「そういえばレジアスの大将は元気ですか?」 話の切り口としてヴァイスがレジアスの名を上げると、オーリスは彼独特の呼び方も含めておかしかったのか少しだけ微笑を浮かべた。 「ええ、元気です。少し仕事をし過ぎだと注意はしても、あまり聞いてくれないところが困ったものですが」 昨日も栄養ドリンクを飲んで、書類を書いてましたと少しだけ呆れたように呟くオーリス。 その言葉に、レジアスが目の下に隈を浮かべて、大量の書類に目を通している姿がヴァイスの目に浮かんでくるようだった。 「あー、それならよかったっす」 まずまずな会話の出だしに、ヴァイスが少しだけ笑みを浮かべた。 彼は別に初心な男というわけでもないのだが、女誑しというほど女になれているわけでもない。 あまり親しくもない女性には多少は気を使うし、そういう場合には普通の対応ぐらいしか出来ない。 「そういえば、あまり話したこともないですね」 「あ、そうっすね」 オーリスが不意に口を開いて、ヴァイスを見つめた。 氷のように冷たい女だと地上本部に所属する心無い人間が囁く怜悧に相応しい、切れ長の瞳が少しだけ和らぐ。 唇を湿らせたカクテルの縁には、口紅の跡。 「折角の機会ですので、礼を言わせていただきます」 「え?」 「貴方のお陰で、中将が――父が救われています」 淡々とした、けれどどこか感情を篭った言葉がヴァイスの耳に届く。 「父は喜んでいます。地上にも正義を理解している人がいるということを」 どこか冷たく、乾いた目に力が篭っていた。 「海は知らない。陸の窮地に、外へと羽ばたく人々の後ろを必死で護っている人間の正義を」 多少の酔いはあるのかもしれない。 けれど、それは本心なのだろう。 「父は孤立しています。海からは危険分子を軽蔑され、陸からは英雄だと尊敬されていますが、誰もその苦悩を知りません」 よく耳に届くレジアスの中傷。 海よりの局員が在籍する機動六課。そこには陸への軽視がある。 「たった100年でいい。ただ平和が欲しいだけなのに」 海には海の事情があるのだろう。 けれど、それは陸も同じだ。 外へ目を向け、次元を救うのはいいことだろう。 誰もが称える栄誉であり、誇らしいことだろう。 けれど、だからといって人々を護る陸が無駄なのか? 否。 そんな偉業よりも、オーリスはただ平和を求めていた。 そのために、父の反対も押し切って、今の職場にいる。 平和の殉教者に仕えていた。 「……と、すみません。礼を言うはずなのに、愚痴をもらしてしまって」 「いや、いいっす。気持ちは、その……よく分かりますから」 普段抑えていたものがお酒で噴出したのだろう。オーリスの目は少しだけ潤んでいた。 ヴァイスは取り繕うように、けれどしっかりと本音が混じった言葉で慰める。 「それで今回の用件なのですが。これをどうぞ」 コホンと調子を整えたオーリスが、持っていたカバンから数枚の書類を手渡す。 そこに書かれていたのは何らかの地図と地上本部の武装隊で使われる用語を多用した作戦書。 ヴァイスはそれを読み、そして次第に怪訝な顔つきを浮かべて――不意に目を厳しく細めた。 地図と作戦書に書かれていた場所の名前に。 「これは、まさか」 「その通りです。博士から依頼ですが」 「ビスケット・シューター。あなたへの狙撃任務です」 痛みがある。 誰もが痛みを抱えている。 生きるということは痛みだ。 苦しみながら悶える日々だ。 だから、これから行うことも平気だ。 痛みは増したところで、痛みなのだから。 覚悟を決めろ。 親しみを持った仲間を撃ち抜けるだけの覚悟を―― 戻る 目次へ 次へ
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人は何かを思い出しながら生きている。 現在は過去の終着点であり、未来は過去の延長線。 日を浴びながら歩いていても、その背後から付き従う影のように、過去を振り切れるものなんてこの世にはいない。 過去は追ってくる。 過去は刻み付けられる。 過去は迫ってくる。 記憶は、思い出は、降り積もる雪のように膨大な記録に埋もれていくだろう けれども、いつかは雪は溶ける。 そして、その下に芽吹く過去は春の兆しを浴びる新芽のように、或いは迂闊に足を乗せた地雷のように。 その者の前にそれは姿を現すのだ。 ――脳漿をぶちまけた遺骸の手に握られた手帳より そいつのことは一目見た瞬間から理解出来た。 ティアナ・ランスター。 特徴的なファミリーネーム。 誰かを思い起こさせる赤毛。 だから、ヴァイスは彼女を見た瞬間、息を飲んだ。 かつて失った親友の面影を、かつて取りこぼした悲劇を突きつけられたような気がして。 「平和と法の守護者、時空管理局の部隊として事件に立ち向かい、人々を守っていくことが私達の使命であり、 為すべきことです」 本来ならば聞かなければいけない部隊長の挨拶を殆ど聞き流してしまっていた。 だから彼は、パチパチと続く拍手の音に、慌てて手を鳴らし始めた。 そして、同時に思い出す。 今いる場所。 ――古代遺失物管理部【機動六課】本部隊舎。 そして、目の前で手を振るっているのは八神 はやて。 若き天才指揮官として目される才女だった。 【AnrimitedEndLine】 外伝 『Biscuit・Shooter/3』 その日、過去と出会った ……機動六課。 そこに所属することになったのは俺の意思ではなく、一つの誘いからだった。 「えっと、シグナム姐さんもう一回言ってくれるか?」 運搬部隊の宿舎からの散歩道。 非番の日に懐かしい声で呼び出された先に居たのは、鮮やかな髪をなびかせた見覚えのある女性。 数年ぶりに顔を合わせた元同僚であり、先輩でもあるシグナムの姐さん――“ヴォルケンリッター”のシグナムは相変わらず何一つ変わらない顔つきで告げた。 「主……いや、私たちが創る新設部隊に入らないか? ヴァイス・グランセニック」 「新設……部隊?」 「ああ。詳しい話はまた今度するが、ある試みを持った実験部隊になるだろう」 「試み?」 ヴァイスが首を傾げると、シグナムは少しだけ鋭さを秘めた瞳を浮かべた。 「ヴァイス。お前は今の武装隊の事件への対応をどう考えている?」 「今の武装隊って……俺が武装隊にいたのはもう二年も前ですよ? 状況なんてわからないっすよ」 「外部の人間としての感想でいい。どう思う?」 「そうっすね……海の方は相変わらずよく分からないっすけど、地上のほうは相変わらず人手不足みたいすね。 発生する事件に対応しきれて居ないというか……」 ヴァイスは空の彼方に自分の思い出すべきことがあるというように空を見上げながら呟いた。 そんな……彼の手は小刻みに震えていた。 煙草が欲しい。 控えめにしているが、どうしてもやめられない煙草を吸いたくなった。 思い出そうとする思い出を殺し尽くすほどの苦々しい毒を吸いたくなってくる。 「お前もそう思うか……」 そんな彼の手先の震えに気が付いたかのように、シグナムはヴァイスの言葉の終わりを待たずに結論を言った。 「地上では頻発するテロや治安に追われ、海では広大な管理世界に慢性的な人手不足に悩まされ、常に対策は後手に回り、 重要度の低い事件は後に回されている。ヴァイス、私達はそんな状況を変える一石を投じたいのだ」 「……一石?」 「ああ。そのための実験部隊、優れた高ランク魔導師と高い成長性を持った新人たちによって構成された広域機動部隊。 既存の管理局にはありえないほど充実した部隊になるだろう」 高ランク魔導師によって構成された部隊。 高い成長性を持った新人。 それはすなわち選りすぐりのエリート部隊とも呼べるものだろう。 「そんな部隊に……俺なんか誘っていいんすか。優秀なヘリパイロットが欲しいなら、Aランク試験落ちたばっかの俺じゃなくて、 他の奴を紹介しますよ?」 ヘリパイロットとして最高位のAランクライセンス。 その取得試験にヴァイスは落ちた。 勉強もした、腐るほどシミュレーターもやって、輸送用ヘリから軍事ヘリまで動かしても届かないAランクライセンス。 それが手に入れられなかったのはただ単純に才能がなかったのか、それとも今だにヘリの操縦桿を握る自分に 違和感を覚えているからだろうか。 いや、それは単なる言い訳だ。 「確かに単なるヘリパイロットが欲しいならAランクの者を紹介してもらったほうがいいだろう。 けれど、私はお前を誘っているんだ。いや、お前にこそ来て欲しいと思っている」 シグナムの言葉に、ヴァイスは不審げな表情が浮かんだ。 「……なぜ俺なんすか?」 疑惑の目でヴァイスはシグナムに目を向けた。 ヘリパイロットとして特別でもない、自分を誘うメリットが読めなかった。 武装隊も止め、“表向き”には引退したも同然の自分に誘う価値なんてあるわけがないと思っていた。 けれど。 「ヴァイス……私はな、お前に夢を見せたいのだ」 「夢?」 「ああ。お前の妹の悲劇……それを食い止められるかもしれない可能性を見せたいのだ」 可能性? 「“救えなかったはずの誰かを救える部隊”、“助けられなかった誰かを助けられる力”。 つまらない夢物語かもしれないが、そんな可能性がある。だからこそ、お前に見届けて欲しいのだ」 その言葉は、その時の彼にはあまりにも眩しかった。 まるで太陽のようで、もし少しでも違う俺だったら希望を携えて頷いていただろう。 雨の日に引き金を引き続けていた俺だったら、多分涙を流しながら惹かれていたかもしれない。 けれど、“もう一つ信じるべき正義を持っていた俺は”。 太陽ではなく、月明かりのような“もう一つの正義”を知っている俺は。 「少し……考えさせてください」 即答も出来ずに、そう答えるので精一杯だった。 あの時とは違う空が見上げた視界に見えた。 同じ晴れた日。 「そうやって二年前の俺は結局頷いて来たわけで……」 これからの任務を共にする武装隊用の新鋭機【JAF04式】の装甲に背を預けながら、ここに来るまでの経緯を思い出し、 自分の情けなさに呆れた。 (自己嫌悪に陥るぐらいなら、最初から断れっつう話だよな) 先ほどの部隊長挨拶の時のスーツから着替え、専用のフライトジャケットと皮製のグローブを身に付けた手で 眉間をつまみながら、ヴァイスはため息を吐いた。 自己嫌悪。 そうなのだ。この機動六課に入ったのはなにも自分の意思だけが全てではなかった。 レジアス・ゲイズ中将。 あの人からの指令もあったのだ。 「――彼女達の正義の行く末を見極めろ。もしお前の正義が間違っていると思った時には、 それを“止める”力になれ」 たった数行の言葉と渡されたデータベースへのアクセスコード。 それだけを手に、俺はここにいる。 阻むためでも、排除するためでもなく、“止める”ために。 (まったく大将は難しい注文をするよな) ただ単に瓦解されるだけならまだしも、それを止める、或いはその進路を逸らす。 それがいかに難しいことか、分かりきっているだろうに…… (レジアスの大将も期待しているんだろうか……彼女たちに) 天才には頼らない。 奇跡には祈らない。 それを公言し、レアスキル保持者に対しては嫌っているとまで誤認されているあの人はどこまで 厳しい道を歩むのだろうか。 ただの手足としか望まない自分だけれども、心配になる。 あの人が実現させる【100年の平和】の足掛かりを築き上げるまでの幾多の苦難に。 『――Friend』 「ん? ああ、もうこんな時間か」 ストームレイダーの声に気が付いて、時計を見ると既に八神はやて部隊長とフェイト・T・ハラオウン隊長の 輸送予定時間まで五分を切っていたことに気が付いた。 「よしっ」 顔を軽くはたいて、気合を入れる。 見れば、隊舎内から出てこようとしている二人の少女を見て、俺は笑みを浮かべた。 「あー、ヴァイス君。もう準備出来たんか?」 「準備万端。いつでも出れますぜ」 心の葛藤を押し潰し、焼き潰し、押し込めて。 俺はただこの場にいる人間として相応しい笑みと言葉を作っていた。 首都クラナガン 中央管理局。 地上本部の中心部とも呼ぶべき場所に、ヴァイスは足として二人と……あと忘れていたが、リインフォースⅡ空曹長を 運び終えていた。 業務を終えた三人の再輸送まではまだ時間がある。 JAF04式から起動キーでもあるストームレイダーを引き抜いて、隊舎だと吸えないニコチンを 補給するため駐機場から立ち去ろうとした時だった。 「あ、すみませんがちょっと待ってください」 ヴァイスを呼び止めたのは変哲もない作業服を着た男。 油にまみれ、世話しなく働き続けているであろう整備員の一人。 「ん? なんだ」 「あ、9番駐機場の申告されている時間での航空規制なんですが……」 そういって、その整備員はヴァイスに歩み寄り――“一枚の紙を握らせた”。 誰にも見えないように、不自然ではない動きと角度で、ヴァイスの手に一枚の紙が収まる。 「ん? もしかして、また航空ルートに指定が入ったのか?」 それにヴァイスは気づいて、軽口を叩きながらその紙切れを裾に仕舞い込んだ。 「ええ。最近はクラナガン上空の航空規制も厳しいようで、このレポートに書かれたルート通りに 離陸してください」 そう告げて、整備員は脇の下に挟んでいたバインダー付の航空ルートについて書かれた書類を ヴァイスに渡すと立ち去っていった。 「なるほど、ね」 周囲を一瞥し、駐機場で邪魔にならない壁際に背を預けると、ヴァイスは手に持ったバインダーを前に立て、 周囲の視線から隠すように裾から出した紙切れを広げる。 そこに書かれていたのは簡素なアクセスコードと参照すべきデータベースのアドレス。 その文面をヴァイスは頭の中で数度反芻すると、紙切れを音を立てないように細かく千切った。 そして、あくびを隠すような動作でその紙切れを口の中に放り込む。 (まずっ) 当たり前だが、美味くもなんともない味にヴァイスは一瞬だけ眉間に皺をよせた。 メモに使われている繊維もインクも人体には影響がなく、唾液で溶ける特殊な紙。 何度も同じ手段で処分してきたからわかっているものの、この不味い味にはいまだに慣れない。 ……慣れたくもないが。 「……ストームレイダー」 『YES』 待機状態の己の相棒に呼びかけて、ヴァイスは思考操作によって先ほど覚えたばかりの アクセスコードとパスワードを入力する。 静かな駆動音と共にストームレイダーが、複雑なヘリの操縦システムも扱える高精度の処理能力を稼動させて、 地上本部のデータベースにアクセスを開始する。 その際に本来ならば出現するはずのディスプレイは浮かばない。 その代わりにヴァイスの網膜に、浮かぶべきディスプレイの映像が投影されていた。 もし注意深く、彼を観察しているものが居たら気づいたかもしれない。 ファイルを読んでいるだけにしては激しく動き過ぎている、彼の眼球の動きに。 (なるほど……ようやくフォワード陣のデータが提出されたのか) 他の誰にも見えずとも、ヴァイスにだけは見えるディスプレイには本日配属されたばかりの 新人フォワード陣四名のデータが写っていた。 (スバル・ナカジマ……あのゼスト部隊の所属のクイント・ナカジマの娘で――戦闘機人? しかも、タイプゼロシリーズかよ。隊長たちはそれを知っててスカウトしたな) 蒼い髪の凛々しい決意を秘めた瞳を浮かべる少女を見て、ヴァイスは僅かな息を吐いた。 彼は知っている。 ライトニング分隊の隊長であるフェイト・T・ハラオウン捜査官が誰を追っているのかを、いずれぶち当たるであろう必然という名の偶然に皮肉を感じられずには居られない。 (それとキャロ・ル・ルシエとエリオ・モンディアルは……フェイトさんの保護対象だってのは知ってたけど、 こんなに幼くて大丈夫なのか? 片方はレアスキル持ちみたいだが、もう片方は魔力適正の高いだけの子供だぞ?) 魔力適正の高さは年齢や身体能力の差を軽々と凌駕する。 才能は経験の差を簡単に覆し、力を与える。 それを知っているとはいえ、ヴァイスはどこか嫌悪にも似た感覚を抑えることが出来なかった。 幼い子供。 それだけで彼のトラウマを連想させて、吐き気がする。 (それで最後に……ティアナ・ランスター。やっぱり、アイツの妹か) データベースに登録された情報を見て、半ば確定事項だった予想を確信する。 ティーダの妹、ティアナ。 同名同姓の別人だという希望は崩れ去った。 苦々しい思いと溶けきったはずのインクの混じった唾液が苦い。 彼は気づかない。 その手が僅かに痙攣するように震えて、バインダーの上の用紙が見えないほどに震えていることに。 (やっぱりアイツの後を追うつもりか……) 何度も何度も聞かされていたアイツの夢。 ――オレは執務官になりたいんだ。 ――だけど、それまではお前と一緒の戦場で飛んでいたいな。 いまだに夢に見る友人の顔。鋭く刻まれた傷の一つ。いまだに後悔し続ける悪夢。 彼女は目指しているのだろうか。 執務官という選ばれた者にしか成りえない高い道を、まるでティーダの道をなぞるように彼女は歩むのだろうか。 (かんべんしてくれ……) 彼女達の身体データ、経歴、地上本部に提出されているだけの情報と裏づけされた事実。 それらを総合し、頭の中であることを実行するためのデータとして咀嚼しながら吐き気を堪える。 (オレに、友の肉親を撃たせないでくれ) ――知りうる限りの戦闘機人の急所と重要臓器の位置。 ――竜という生物が持つ臓器の箇所と生体データ、及びそれらに通用する毒物の情報。 ――高速機動を行う魔導師に対する狙撃方法。 ――幻術魔法に対する解析プログラムの用意手段とその脳漿をぶちまけた時の想像図。 二年間の武装隊での従軍経験が、六年間の“対テロ経験”が、必要無いと叫ぶヴァイスの意思に反して、 冷徹なまでの狙撃手段を模索させる。 骨の髄まで染み込んだ肉を撃つ感触と匂い立つ硝煙の幻嗅に、手を震えさせながらヴァイスは祈った。 誰に? それは彼にも分からない。 ただ―― 彼女たちの道と己が歩む道が違わないことを祈っていた。 しかし、彼は知らない。 その願いは叶わないことを。 二つの正義があった。 太陽のように眩しく、誰もが引き付けられる輝かしい正義。 夜闇のように暗く、輝かしくもないけれど必要な正義。 二つの正義が交わり続けることは決してありえない。 太陽と月が同時に重なるかのような奇跡。 それがこの運命の果てにあるのかどうか、それは誰にも分からなかった―― 軋みを上げる信念の咆哮は今だ時は訪れず。 ただただ噛み合わない歯車が回り続けるのみ。 盲目の正義。 理想の正義。 現実の正義。 重なり合う正義は歪な悲鳴を上げて、破綻の時を待つばかり。 戻る 目次へ 次へ
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「そこまで、だ。ヴァイス=シュヴァルツ」 「む……」 その声が響いた瞬間、常に余裕と嘲笑を崩さないヴァイスの表情が、はっきりと顰められた。ばっ、と後ろに飛びのく。 彼にこの顔をさせるのは、二人。 一人は以前関わって以来、ちょっとした勘違いからヴァイスを追い続けているシャルラ=ハロート。 そしてもう一人が、この男。 「またアナタですか。ブラウ=デュンケル」 「お互い縁があったということだ。これがな」 現れたのは、色合いと顔だけが違う、ヴァイスの鏡映しのような男。ブラウ=デュンケルを名乗る男だった。 その目線が、ちらりと「シャットアウト」で隔離された千鶴に向けられる。 「……奴にいろいろ言っていたようだが、遅きに失したな」 「? どういう……」 「今の意見は、あるいは異見は、奴が『人間』であるという前提がなければ成立しないからな」 つまり、今のヴァイスはもはや人間ではないのだと。 「死体が発見された時点で奴は人間としての存在を放棄している。今の奴は、ヴァイス=シュヴァルツの姿を取った現象そのものだ」 「……間違ってはいませんがね」 「だろうな。でなければ、貴様の操り人形だった俺がこうして自由意志で動ける理由がない」 聞き捨てならない言葉に詠人とマナが一瞬反応したが、ブラウは一瞬だけ目線を向けるとまたヴァイスを見る。 「……さて、さっきの指摘について何か言うことはないのか? 貴様のことだ、反論はいくらでも用意しているだろう」 今のヴァイスは、言うなれば「ヴァイスという男を構成していた要素」を拾い出して具現化させたような存在だ。 それくらいはあり得るだろう、と予測していた。 「そうですねェ。そもそもワタシは、特に何かを求めて事件を起こしているワケではありませんしね」 「愉快犯だからな、貴様は」 「ワタシが楽しければそれでいいのです。……と思っていたのは『生前』の話でしたが」 つまり? 「今は本当に何一つ目的はありません。言うなれば事件を起こすことそのものが目的です」 「……何だと?」 「今のワタシには時間すらも無意味な概念です。かつてのワタシは完全な愉快犯でしたが、今はそのようなレベルでは動いていません」 「どういうことだ……なら、何故僕を!?」 詠人の叫びにも、何でもない事のように答える。 千鶴へ話しかける形で。 「チヅルさん、先程アナタはワタシの演出を独りよがりであり、情愛という視点が欠けているがゆえにつまらない、ゆえに演出家を気取るのはやめた方がいいと。神の真似事であるがゆえに下らないと、そう言いましたね」 しかし、 「ワタシという存在は、その根幹が『神』という存在、あるいは概念の模倣という側面を持っています。ですから、どう足掻こうとワタシのすることは神の模倣でしかないのですよ」 千鶴の言うような「面白さ」が現れることは、ヴァイスである限りあり得ない。 「ありきたりなのも当然です。何故なら、ワタシはそもそも造り出すことを最初から求めていないのですからね」 「それは」 「『人間』だからこの辺りが限界……ですか? さあて、それはどうでしょうかね」 今も昔も、この男は容易に本音を悟らせない。表に出ている言葉や態度が真か偽か、確かめる方法はないのだから。 「今のワタシの存在概念は『原因』。答えなき問いの答え、理由なき事象の理由となるコトがワタシの存在です」 つまりは「だいたいこいつのせい」である。 「そこに情愛など必要ないのですよ。重要なのは、それによって事象が確定するコトです。それがどれほど有り触れた、つまらないものであっても、原因となるならば問題などないのですよ」 面白さを求める段階はとうに過ぎ去り、今は演出そのものが手段に切り替わっている。 千鶴の指摘は「作品」に対する評価のようなものだったが、ヴァイスはそもそも他者の評価というものを求めていない。ましてや今は、「作品」はただの手段。 他者からみてどれほど下らなかろうと、それは問題ですらないのだ。 「同時に、ワタシ個人の目的というものも消えました。まあ、演出を続ける中で何かしら面白そうなことが起きないか、とは考えていますが」 それでもやはり、本質は変わらない。人を操って嘲笑する、愉快犯。 ヴァイス=シュヴァルツとはそういう遍在だった。 「……あなたは……何なんですか」 千鶴の呟きは、まさに心底からの疑問、と言った風情だった。 ヴァイスは帽子を深くかぶり直して視線を隠し、その裏から言う。 「さあて、ね。演出家、道化師、愉快犯、人形遣い、あり得ざる遍在、眠らぬ死者、神の手違い、あざ笑う者、闇の彷徨者……」 さて、 「ワタシは、何なのでしょうねェ……?」 黒ずくめの男の姿をしたナニモノカは、そう言ってくつくつと嗤った。 永遠にも似たしばしの静寂の後、ブラウが口を開いた。 「……貴様が何なのかなど、どうでもいい。ただ、殺すだけだ」 「さすがにそれは御免被りたいですねぇ。このワタシが死んだところで、それはヴァイス=シュヴァルツという存在の消滅を意味するところではありませんが……」 どこまで本気かわからないような声音で、ヴァイスは首を竦めつつ言う。 そんな黒ずくめの男を複雑な感情を宿した目で見る、詠人。 「……だとしても。僕が、お前を見逃す理由にはならない」 「見逃す見逃さないではありません。ワタシがどうするか、なのですよ」 逃げようと思えばいつでも逃げられる。ただ、退屈しのぎにこうして話に興じているだけなのだと。 「それに、今まで自分が為したコトを棚に上げて言いますか? 厚顔無恥とはこのコトですね」 「言われる筋合いはない、お前には」 ばっさりと切り捨てたのはマナだ。詠人を庇うように一歩前に出る。 「今の言葉を返してやる、そっくりそのまま」 「……ふむ。これは困りましたねェ」 全く困ってなどいない、むしろ面白そうな顔で、ヴァイスはその言葉を受け取る。 「お前の言葉はただの呪い。聞く価値はない、全く」 「では、どうしますか?」 「決まっている」 きり、と睨み付け。 「―――ここで、終わらせる」 差し上げた手で、 「―――“ウェーブファンクション・リミテッド”」 指をひとつ、打ち鳴らす。 瞬間、場の空気が、いや流れが、明らかに「変わった」。 「!!? こ、コレは!?」 「……馬鹿な!? この力は……」 はっきりと驚きをあらわにしたのは、自身既に現象そのものに近いヴァイスと、マナの成したことを「見」たブラウの二人。 ついて行けず当惑する詠人やシュロ達に、マナは淡々と説明する。 「私の『ウェーブリンク』は波動を操り、また同化する力。超音波、電波、真空波、電磁波、物質波、脳波、重力波、光波……波とつくものは全て私の思うが儘」 それは、何を意味するのか? 「……ねえ。『波動関数』って知ってる?」 「……わかんないよ、マナちゃん。それ、何なの?」 「波動関数とは、簡単に言うと『何かの状態そのものを波として表した概念』のコトよ。波というものは、重ね合わせの概念を実現する……つまり、1つのナニカが、全く異なる状態を同時に取り得る、そんなコトを引き起こせる」 しかし、 「世界の構造上そんなコトは無理。状態は必ず、1つに収束される」 「つまり……どういうことなんだ?」 「……私の“ウェーブファンクション”は、物質、状況、なんでもいい、それらの状態を波として捉える技法。そして“リミテッド”は、それを私の望む形に収束させる力」 ここに来てマナが何をしたのか理解した面々が、一様に最大の驚愕を表に現した。千鶴や、ヴァイスですらも。 「ま、さか……」 ブラウの絞り出すような声に、マナは―――ニヤリ、と嗤う。 「―――そうよ」 「私は、私の望むままに状況を規定することが出来る。世界を波として捉え、そこに私という『観測者』を規定することで、淘汰された可能性を引き寄せて実現化する……それが、私の特殊能力」 ……もはや、絶句するしかなかった。そして、それを聞いたランカとアズールは、まさにそれが齎したであろう結果に思い当たって驚愕した。 「! ほ、ほな……」 「まさか、お母さんや琴音さんが帰って来たのって……!?」 「多分、それも“リミテッド”の作用ね。死んで『ここからいなくなった』二人を、私は観測して『ここにいる』と認識していた。そこに諸々の要素が重なってたまたま“リミテッド”が発動して……」 「……マナちゃんの観測した『二人がここにいる』って認識を、現実に持ってきたってワケか」 シュロの推測に「恐らくは」と注釈しつつ頷くマナ。 つまり彼女は、正しく「世界を左右する力」を手に入れたのだ。 その力を、彼女、夜波あらため白波 マナはどう使ったのか? 「……この力も万能ではない。あったコトをなかったコトには出来ない」 事実として規定されている事柄を覆すことは出来ない。アカネと琴音の場合は、『ここからいなくなったが、もう一度戻って来た』という流れを造り上げたのであり、二人が死んだという事実を覆したわけではない。 「けれど、その逆。なかったコトを実現させるコトは、出来る」 つまりは、予想外の事態を任意に引き起こせる。 「この状況を覆すために、私が望むのはずばり介入者」 「助っ人?」 「そう。ヴァイス、お前を倒すために、あるいは状況を進めるために、もっとも適任となる存在」 マナがそこまで行ったところで、突然「流れ」が途切れた。 同時に“リミテッド”がその作用を顕在化させ、マナが望んだ「適任」がどこからともなく、現れる。 「……ほら。もう来てくれたわ」 微笑んでマナが見やる、そこにいたのは――――。 集束する、可能性 (少女の指先が導く未来は―――?)
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「貴様…ッ!」 ストラウル跡地。 ようやく舞台は終末を迎えていた。 「ではワタシはこれにて」 未だ震える美琴を抱えていた司は、当然ながらヴァイスへ突進しようとした。 が、それよりも先に行動を起こしたのは。 パキパキパキィッ!!! 「! …通してくれませんかね?」 「断る」 ヴァイスにとっては飛び入り役者の一人でしかない、ヴェンデッタだった。 彼女は炎を閉ざした氷の如き表情を浮かべ、ヴァイスが今通ろうとした道を凍らせていた。 「貴様のやり方といい、さっきの発言といい…『あの女』を思い出してな……どうにも怒りを抑えられない」 「よせ! ヴェンデッタ!」 しかし彼女はゲンブの制止を受け入れるどころか。 「今は黙れゲンブ」 「ッ!」 ただならぬ怒気にゲンブはつい気圧されてしまう。 強まるそれに呼応するように、彼女の周りを冷気が取り巻き始めた。 「…死なす事は叶わずとも、せめて四肢を満足に使えなくしてやる!!!!!」 ヴェンデッタの右腕の氷が溶け出す。 それにより、禍々しい魔物の腕が露になった。 彼女はその腕でヴァイスを引き裂こうとするも、容易く避けられる。 そこで彼女は口から冷気を吐き、ヴァイスの腕を凍らせようとした。 しかしそれも避けられてしまった。 「やれやれ、その程度では四肢を壊すのは無理ですね」 ニヤリと笑い、いつの間にか手にしていたナイフを数本、ヴェンデッタの腹に突き刺した。 「ぐぅッ!」 「ヴェンデッタ!」 「来るな…」 ゲンブが駆け寄ろうとするが、ヴェンデッタはそれを良しとしない。 「フフフ…どうしました? もう終わりですか?」 「まだ…だ」 「…先程、『あの女』と言ってましたね? ヴェンデッタという名前を察するに…その人に恨みがあるのでしょう?」 「ああそうだ」 素っ気なく答えるヴェンデッタ。 「……どうです? ワタシと手を組みませんか?」 『!?』 突然の発言に驚く一同。 「ワタシといれば、アナタに相応しい、納得のいく復讐劇が出来ますよ。悪くない話だと思いますが?」 「誰が貴様みたいな奴と…」 「部外者は黙ってて下さい。それに」 一間置いてヴァイスは言った。 「アナタは復讐を果たせればそれでいいのでしょう?」 「………」 黙り込むヴェンデッタ。 「……ヴェンデッタ、奴の話には絶対に乗るな」 「そうだぜ。さっき自分から言ったろ、嘘つきだと」 「………」 ヴェンデッタの答えは。 「いいだろう」 「なッ!?」 「おま…正気か!?」 「フフフ…ではこちらへ」 ヴァイスの元に歩み寄るヴェンデッタ。 「ヴェンデッタ…」 「………」 「ではこの氷を溶かしてくれませんかね?」 「…分かった」 「―――だがその代わりにお前を凍らせる!」 「!?」 「フゥウウウウウーーーーーッ!!!!!!」 ヴェンデッタの口から冷気が放たれ、ヴァイスの腕を凍らせる。 生憎再びヤミまがいに邪魔されたが、霜が張り付く程度に凍らせれた。 「事実には事実を。そして嘘には嘘を、だ」 「く…ッ!」 「…我は、復讐者。だがその為に周りを犠牲にしようなどと考えていないし、するつもりもない。どれだけの時が流れようと…我は我のやり方であいつの血を手に染める!!!」 「…そうです、か」 ブワッ 「うわッ!」 舞い上がったヤミで身構えるヴェンデッタ。 晴れた時にはヴァイスはいなかった。 「………」 「ヴェンデッタ」 「…何だ」 「さっきから聞こうと思っていたが、中々その暇が無くてな。…何故助太刀に?」 それを聞いたヴェンデッタは薄く笑って言った。 「…心配だった。ただ、それだけだ」 「そうか…すまなかったな」 「ああ。また何かあれば助ける」 「ねえ!」 声をかけたのは、海猫だ。 「さっきは、ありがとうね。危うくやられるとこだったよ」 「いや、気にするな」 「アンタ強いわねー…あ、折角知り合えたんだし! 友達にならない?」 と、手を差し出す海猫。 しかし。 「すまない、気持ちはありがたいが……我は、人間の友になれない」 「え?」 「…では」 そう言い残し、ヴェンデッタは何処かへと姿を消した。 復讐者、何処かへ去る (我は) (人間と仲良くなれるような) (存在ではない)
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「もう逃げられないわよ!レオン!!!」 とうとうプリアラに追い込まれてしまったレオン。 レオンはこの危機を乗り越えられるのか!? 次回「レオン VS プリアラ 直接対決!」 来週のこの時間は 「ヴァイスと学ぶ地球環境」をお送りします。 「ままま…待ってくださいプリアラ!」 慌てるレオン。それもその筈だ。彼はプリアラに追い詰められてしまったのだから。すべての始まりはひとつのクリームパン。ヴァイスが恐れをなして手を出さずにいたプリアラのクリームパンをレオンが食べてしまい、それに激怒したということである。 「待たない。許さないわ。」 「いぃぃい?!ちょ…!ヴァイス、ヴァイスどこにいるのオォォォ?!」 「で、地球温暖化っつーのはぁ、平たく言うと地球がグリーンハウスにいれられてるみたいなカンジなわけ。何がグリーンハウスにしてるかっつぅと、温室効果ガスっていうやつでー」 「だああああああ!本気でこの人地球環境説明しちゃってるよ!誰か、この人たち止めてあげてくださああああああい!!」 「ごちゃごちゃ言ってないで覚悟をきめなさいッ!」
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そうそう、そういえばこの旅ではこんなこともあった。 なんてこった、この俺サマが旅の思い出を全て語ったわけではないことを―自分自身で理解していなかったなんて!世界の損失…とまではいかないが、せっかくだから話そうか。 そう、呑気でゆったり、それでいてドタバタしてたあの旅に微塵も影響を及ぼさなかったおもしろい出来事たちを、いま此処で。 外伝1章 俺サマと愉快な仲間たちと手下 優れた魔導師も、そうじゃなくても、たいていの魔法使いは使い魔を従えている。ていうか、最近は魔法が使えない人間もペット感覚で飼い始めているとか何とか… たいていは主人に忠実で、あまり複雑な感情を持たない。まぁせいぜい喜怒哀楽程度のものらしい。 その点から言って、プリアラは力も強いし、感情も複雑。さらには主人から逃げ出したっていうところが並外れてるっていうかなんというか…。あいつはとんでもない奴だってことがわかってもらえればそれでいい。おっと、こんなこと思ったらぶっ殺されかねないんだけれどね。 今俺たちは荒野を歩いている。木が生えていなくて日陰になる場所もないから太陽の光がビシビシ当たって熱い。吹き抜ける風は熱波のごとく。さらに厳しいのは全く町が見える気配がないっていう現実だ。 「…俺疲れたよ……」 「しっかりしなさいよ!ほら、レオンを見て!鎧なんて着てるから―」 「アハハハハ熱い熱い熱いむしろ痛いーーーーーーー」 「…俺、もうちょっと頑張ってみるよ…」 可愛そうに、人間が一人だけびっくり人間のなかに入り込むとこういう目にあうらしい。…そう、俺もプリアラもほとんどバケモノみたいなものだ。普段は呪うべき称号ではあるが、こういうときには役に立つ。竜の姿をとっていなくても、やっぱり普通の人間よりは格段にタフだし。 「…ん?」 空間が黒くねじれた。やだなぁ、これは魔物が生まれるときのサイン。このかったるいときに魔物と戦わなければならないのは、気が進まない。他の2人も同じらしく、その場からさっさと離れようとしていた。俺もそれに従う。…が 「グオォォォォォオオオオオ!」 「えぇぇぇぇえ?!ちょ、早くない?!生まれるのはやい!このこ安産だ!すんげぇ安産だったアァァァァァ!」 「ふざけてる余裕があるなら戦う準備しなさいよっ!」 「み、見たことのないモンスターですねっ…強そうだ…」 姿はただのデビルに似ているが、ゴブリンのようなうめき声。そして、ゴーレムのような巨大さだ。まったく、こんなのがホイホイ生まれてたまるかよ。仕方なしに俺はゴブリンに向かっていった。まぁ生まれたばかりの魔物なんだ。一発魔力のこもった蹴りでも食らわせれば、簡単に倒れるに違いない。 「おーらよっと…って、へ?」 「てへっ?」 「復唱しないの、レオン!ヴァイス、どうしたのよ?!」 プリアラが魔法弾を当てながら叫んだ。俺の背中を冷や汗が伝う。何度力を入れても無駄だ、この状態を打破できない。むしろ悪化しているのか? 「…足、取れない…ていうか、手も取れないイィィィィ!」 「うぇえ?!じゃあ、僕も攻撃できませんよ!剣が駄目になっちゃいますよ!」 「レオン!お前いつからそんな子になったのっ!俺とお前の剣どっちが大切なのか胸に手を当てて考えろォォォォ!」 「…私がやるしかなさそうねっ……」 プリアラは強力な呪文を唱え始めた。ちょっとまて、そんな呪文つかったら、俺にも当たる!俺にもあたる!どうするんだよ、お前ら仲間をいたわる気持ちはねぇのかアァァァァァ! そのときだった。モンスターの頭に矢が数本ささり、あっさりとモンスターは消えた。矢には弱い魔法がかけられているようだ。 もしかして、もしかしなくても。こんな魔法をつかうのは… …まずい。逃げないと。 「おいお前らッ!逃げるぞ!」 「へ?!ヴァイス?!」 「どうしたんですかっ?!」 「ええい、ごちゃごちゃ言わないでついてこーいっ!」 相手はすばやい、逃げ切れるか?否、逃げ泣ければ!でないと、俺が俺が俺がッ! 「みぃーーーーーーーつけたッ!」 悲しい目にあうからだ。 案の定、上から降ってきた物体に俺はどつかれ、地面に平伏した。その様子を見ている二人の目線はまぁ大体想像がつく。 「この子…誰?」 「さぁ…?」 俺の上にのっかっているのは小さい子どもだ。金髪に金色の目。修道服をまとっているが、俺とは違って白い一般的なものだ。そして、あどけない顔にのっかっているモノクルが賢そうな雰囲気をかもし出していた。背中には少し大きい弓矢を背負っている。 なにを隠そう、こいつが俺の恐れている奴なのだ。 「ヴァイス様!す、すいません!俺としたことがヴァイス様をばたんきゅーにさせるとはアァァ!!!!」 「…ベル…ク」 「ベルク?この子の名前ですか?」 「はい、といっても本名はベルセルクといいます。こちらにおられる漆黒の優しき君からいただいた名前です」 「ウガァァァァア!てめぇーーー!その甘ったるい話し方をやめねぇか!」 そう、こいつは甘ったるい。いちいち甘い。その甘さに耐えかねて俺はこいつをゼクスの所においてきたのだ。なのに…なぜ?! 「いやぁ、俺をだれだとおもっているんですかっ!ヴァイス様の居場所ならすぐに判明しますよ~。俺は調べる能力を授かったエレメンティアマウスなんですから!」 エレメンティアマウスとは使い魔の一種だ。広く世間で知れ渡っているもの凄く弱い…スライムのような存在だ。そのベルクに俺が名前を与えたわけだから、当然こいつは俺の使い魔ってことになる。プリアラが訝しげな表情で俺を見た。 「あなたも使い魔を従えていたのね…幻滅」 「ちょっとまてよ、お前のトコのマスターと一緒にするな」 「そうですよ!そこの女ァァ!ヴァイス様に謝れよ!ていうか、ヴァイス様にヘンな気起こしてないだろうなー!そこのヘタレもッ!ヴァイス様の耳引っ張ってみたいとか髪引っ張ってみたいとか思ったりしてないだろうなー!」 小さいくせに他人には生意気なのもこいつの特徴。あぁ、さようなら俺の威厳… 「なによ、あなた鼠らしいわね…?私ヤミネコだから本能がうずくのよねー…?」 「ヴぁ、ヴァイス様~!この女なんなんですかぁッ!」 「プリアラ。本人の言ったとおりヤミネコだ。逆らわないほうが良いぞー。ついでにこの人レオン。ただの…ツッコミ役だ」 「ハ・・・ハハ、ヴァイスが僕のことをどう思っているかよぉくわかったよ」 「なんだとぉぉぉう!おいレオンとやら!この俺をさしおいてヴァイス様につっこむとはいい度胸!お前はこれから俺とヴァイス様の敵だ!敵だ!」 「…あー、レオン、あんまり気にしないでやってくれ」 大丈夫、こいつゲロ弱ですから。敵とかいいながらまともに戦えませんから…と思った瞬間、ベルクが姿を変えた。いつもの子鼠の姿に変えるかと思いきや。俺よりも背の高くなったベルクがそこにいて。知的な表情、端正な顔つきの青年としか言いようのないベルクがたっていた。弓を片手に持っている。今度はあまり違和感がなかった。 「いや、大きくなったって、弓と剣じゃあ弓が不利だろ」 「…はッ!さ、さすがヴァイス様!気づきませんでした!」 「ねぇヴァイス。この子なんとなくイラっとくるんだけれど」 「すんませ…」 「僕もちょっとイラっときました」 「うるさいぞ人類の敵!」 「いつの間にか人類の敵にまでされた!」 「あーもう、ベルク!お前な!孤児院の面倒頼むって言っておいたろ?!帰れ帰れ!おうちに帰れ!オデンとジャンプ買って帰れーーー!」 「…そんな、ヴァイス様~!!駄目ですよ、俺がいないとヴァイス様絶対夜寂しくて泣きますよ!俺がいないとヴァイス様はため息ばっかりついて何事も力がはいらないの知っているんですよ!?」 「ただの妄想だからね!決して事実じゃないからね!このやろ、もういい!いいから俺を傷つけるなアァァァ!」 少し遠くでプリアラとレオンの生暖かい目線が俺をとらえていることを感じながら俺は説得を続け、やっとベルクは去っていった。あいつが帰ったときにはもう、日は沈んでいたけれど。
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その日、空橋 冬也はその男と偶然に遭遇していた。 自分にとって忘れがたいトラウマを植え付けた張本人、漆黒を纏う最悪の愉快犯。 「!? ヴァイス=シュヴァルツ……!!」 名を呼ばれた本人は、「おや」と空を見上げていた顔を降ろして振り返り、何とも意外そうな表情をしていた。 「誰かと思えば、いつぞやの……その後、あの氷使いとはいかがですかね」 「お前に心配される謂れはない……!」 目の前にいるのは紛れもない敵、しかし冬也個人には戦う術はほぼない。 ヴァイスがその辺をわかっているかどうかは不明だが、人気のないこの状況で向こうがかかって来ないのは不幸中の幸いだった。 簡単に逃げられないのはわかっている、ならば少しでも情報を引き出すまで。 決意して、目の前の男に「万象透視」を使おうとして、 「!!」 「……ふむ」 直前で踏みとどまった。ヴァイスの能力「マニピュレイト」は目を合わせた相手を操る。意識を集中するために「見る」必要がある自分の能力とは相性が悪かった。 「存外冷静ですね」 「……お前、ここで何を」 問うと、ヴァイスはまた空を仰ぐ。 「さあて、ねぇ。何かをしようとは思っていたのですが……はて、何をしたかったのでしょうかね」 空々しい言葉だったが、冬也は警戒しつつも違和感を覚えていた。 自分の知る、あるいは仲間達の語るヴァイスにあった、どこか壊れたような狂気の気配が欠片もないのである。 むしろ、獏也に通じる自然な感覚があった。 「……お前……本当にヴァイスか?」 思わずそう尋ねてしまったのも、無理からぬことと言えよう。 対するヴァイスは、落ち着き払ってこう言った。 「その問いが、『今、ここにいるワタシがヴァイス=シュヴァルツであるのか否か』という意味でしたら、その通りと答えましょう。それも真実です」 まるで、他にも真実があるかのような物言いだった。 冬也の困惑を意に介さず、ヴァイスは言う。 「空橋 冬也さんでしたか。アナタには、ワタシが確かにここにいると、断言できますか?」 「何……?」 断言も何も、実際に目の前にいるのだからそうするしかない。 そう思う冬也をこそ、ヴァイスは嗤う。 「何がおかしい!」 「ククク……いえ、ね。『確かにここにいる』と断言されれば、真実と認めざるを得ないのですよ。事実としてワタシはここに『も』いるワケですから」 相変わらず人を煙に巻く物言いだったが、冬也の認識はその中に聞き逃せない一言を捉えていた。 「……ここに『も』いる、だって?」 「そう、ここに『も』です。ワタシはここにいる。そして、秋山神社にいる。『運命の歪み』の本拠にいる。ストラウル跡地にいる。いかせのごれ高校にいる。UHラボ跡地にいる。ホウオウグループの支部にいる……」 「な、に?」 不意にすっ、と笑みが消える。 「ワタシはね、空橋 冬也さん。『遍在』しているのですよ」 「遍、在?」 「『遍』く『在』る。もっとも、『こう』なったのは少し前の話ですがね。そう、ワタシの死亡記事が出たあの日ですよ」 その記事は冬也も知っていた。左目のない、黒ずくめの男の身元不明死体が発見され、今なお身元がわかっていないというあのニュースだ。 ウスワイヤ情報ではその後、回収された遺体が消えた、と掴んでいる。 「諸事情あって一度死にましたが……これによってワタシという存在は、遍在へと変わりました」 「…………?」 意味のつかめない冬也に、ヴァイスはなおも語る。 「今のワタシは、場所も、時間も関係なく『在る』モノです。過去も、未来も関係なく、ワタシは『在る』。ですから、そう」 「語られていない過去の事件に、ワタシが関わっていたとしても、何の不思議もないのですよ。例え遙かな過去だろうと、今のワタシが『在る』のですから」 「な……!」 「アナタは不思議に思いませんか? このいかせのごれは、世界全体を見ても類のないほど、能力者や超常の存在が闊歩している。言うなればここは、神の手違いが集約された場所なのですよ」 ヴァイスは言う。それはつまり、このいかせのごれには世界……運命の歪みとでもいうべきモノがあふれているのだと。 「歪みが大きくなれば、その分事象にもズレが生じ、やがてはいかせのごれ全体のバランスの崩壊を招きかねません。そう、明らかに超常の事件でありながら、未だ解決されていない事象などがね」 トリガーの定かならぬ事象は、いずれ巡り巡っていかせのごれ全体に波及する。 「今のワタシは言うなれば、世界の歪みの化身にして、それを是正する者。霧に隠された事件に『原因』という形で関わり、世界に調和を齎すための必要悪。それが、アナタ達の知る、あの死亡記事以降のワタシです。………都市伝説に近いですかね?」 「………!」 「以前のワタシには人としての過去がありましたが、『こう』なった時点でほぼ無意味となりましたよ。ま、どうでもいい話ですが」 絶句する他なかった。それでは、まるで……。 「まあ、ワタシ個人の趣味も多分に含まれていますがね。大仰な使命感など背負った覚えはないのですよ。ワタシはどこまでも運命の歪みであり、それ以上に演出家なのですから」 くつくつと、心底愉しげに笑う。 「ともかくそういうワケです。今のワタシは、殺すことは出来ても滅ぼすことは出来ません。例えここにいるワタシを殺したとて、仮に存在を消し去ったところで、それはワタシの『遍在』を否定するには足りないのですから」 「……何度殺しても、何度滅ぼしても、また現れるっていうのか」 「そういうコトです。もっとも、だからと言って素直に殺されるつもりはありませんがね」 それでは、と一礼し。 「長話はこれまでとして、失礼させていただきます。今後の健闘をお祈りしますよ、アースセイバーの皆さん」 前触れもなく、不意に、ヴァイスの姿が消えた。 「…………」 残された冬也は、ただ呆然と、彼のいた場所を見つめていた。 道化師、遍く (暗躍はなおも続く……)
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「クリスタルベアラー!頼むぜ、マジで!」 キャラ区分 クリスタル 黄 覚醒 80 攻撃タイプ 遠距離物理 バトルスタイル 吹き飛ばしサポーター スフィア A(自己強化)・D(味方強化)・E(敵弱体) おススメAF 最大BRV330/情報通のセルキーアップ★★ 評価 92点 キャラ解説 吹き飛ばし,追撃をサポートする能力に特化したサポーター。パンデモニウムと組み合わせて出撃させたときの吹き飛ばし支援による火力貢献は凄まじいものがある。 ぶっ壊れなのかと言われると微妙(吹き飛ばし無効みたいな敵にはほとんど活躍できないため)だが、ボスラッシュクエストや"プレイヤーのアクションでカウントが増えるルフェニア"等にはクァイスの吹き飛ばし支援能力はとても活きるだろう。 また、BRV供給を軽減してくるルフェニアによってクァイスの評価がガクッと落ちたが、LDアビリティのデバフ"BRV漏出"が追加されたことで全く気にならなくなった。 HPダメージアップのバフ,デバフ等と組み合わせたりして、クァイスの性能通り、敵をHP面でも行動面でも吹き飛ばしていこう。 使い方としてはキャラ解説記載の通り相手を吹き飛ばすことを念頭に置いて立ち回ればよく、特にヒーローサポートによるスマッシュサポートの使いどころを見極める事が重要である。 追撃は味方が連続行動してくれないときに行ってもあまり意味がないため、しっかり相手のターンとこちらのターン管理をしっかりしていく必要があり少し扱いが難しいかもしれないが、馴れて使いこなせるようになった時のクァイスは半端ないため、しっかり追撃の特性,性能を理解しよう。 また、クラウドをクァイスを組み合わせると、クラウドのBT火力がおかしい事になる。 クラサメの"氷牢"やオニオンBTなどのBT効果やデバフと合わせたりすると、400万ダメージ以上は容易に出してくれる。 通常アビリティ 「セルキースロー」は4Hitの遠距離物理BRV攻撃+HP攻撃を行い、自身に6ACTION"セルキー魂","攻撃力50%アップ"を付与するもの。 対象外50%が付いているためダメージ効率が良い。 "セルキー魂"の性能は以下の通り。 ~~~~~~~~~~ 味方全員の最大BRV&攻撃力20%アップと、クリティカル率100%アップ 付与中、通常"BRV攻撃"が"BRV攻撃+"に、通常"HP攻撃"が"HP攻撃++"変化 追撃"BRV攻撃"が“セルキーチェイス(BRV)"に、追撃"HP攻撃"が"セルキーチェイス(HP)"に変化 ~~~~~~~~~~ 各種コマンド変化は以下の通り。 ~~~~~~~~~~ ◎BRV攻撃++ 3Hitの遠距離物理BRV攻撃 味方全員に自身の最大BRVの20%分BRVを加算 ◎HP攻撃++ 味方全員に自身の最大BRVの20%分BRVを加算し、2Hitの遠距離物理BRV攻撃+HP攻撃 奪ったBRVを最大BRVを超えて加算する(上限は自身の最大BRVの120%分) ◎セルキーチェイス+(BRV) ブレイク中でない対象のBRVを0にし、味方全員に自身の最大BRVの50%分BRVを加算 対象に6ACTION"弱体の仕込み"付与 ◎セルキーチェイス+(HP) 味方全員に自身の最大BRVの30%分BRVを加算し、HP攻撃 加算したBRVを最大BRVを超えて加算する(上限はそれぞれの最大BRVの120%分) 対象に6ACTION"弱体の仕込み"付与 ~~~~~~~~~~ "弱体の仕込み"の性能は以下の通り。 ~~~~~~~~~~ 防御力20%ダウン、素早さ10%ダウン ~~~~~~~~~~ 「ヒーローサポート」は6Hitの遠距離物理BRV攻撃+HP攻撃を行い、与えたHPダメージの30%分BRVを味方全員に加算し、自身に付与されている"セルキー魂"を1ACTION延長し、指定した味方単体に1ACTION"スマッシュサポート"付与するもの。 アビリティ使用時に指定した味方の直後に自身のターンを割り込ませる。 この攻撃では吹き飛ばしは発生しない。 "スマッシュサポート"の性能は以下の通り。 ~~~~~~~~~~ 攻撃による吹きとばし易さアップ(耐性のない敵は確定で吹きとばし) BRV攻撃を受けた際、ブレイクされず1で耐える 効果は延長できない ~~~~~~~~~~ 特出すべきはやはり「ヒーローサポート」のアビリティで、ここからの追撃によるダメージは凄まじい。 しっかりBRV供給も出来るため、追撃の火力が出やすいのが特徴だ。 Aアビはヒーローサポートの回数を回復するもので、3回も使える。アスピルが付与されれば勿論タダで使用できるため、ヒーローサポートをどんどん回復して敵を吹き飛ばしていけるのが強い。 EXアビリティ 「スカイハイ」は6Hitの全体遠距離物理BRV攻撃+全体分配HP攻撃を2回行い、自身に6ACTION"用意周到"を付与し、敵のターンを1ターン遅延させるもの。 自身のバフを2ACTION延長させる事もできるため、基本的に溜まったら即使っていこう。 "用意周到"の性能は以下の通り。 ~~~~~~~~~~ 味方全員が追撃時に与えるHPダメージ20%アップ 敵全体の素早さ10%ダウン ~~~~~~~~~~ LDアビリティ 「エリアルドライブ」は4Hitの遠距離物理BRV攻撃+HP攻撃+6Hitの遠距離物理BRV攻撃+HP攻撃を行い、与えた合計HPダメージの20%分BRVを味方全員に加算し、敵全体に6ACTION"BRV漏出"付与するもの。 対象外50%が付いているためダメージ効率が良い。 また、通常HP攻撃が「HP攻撃+(エリアルドライブ)」に変化する。 「HP攻撃+(エリアルドライブ)」の性能は以下の通り。 ~~~~~~~~~~ 味方全員に自身の最大BRVの50%分BRVを加算後、2HIT遠距離物理BRV攻撃+HP攻撃 奪ったBRVを最大BRVを超えて加算する(上限は自身の最大BRVの120%分) 使用後、"HP攻撃+","HP攻撃++"への変化条件を満たしている場合は、"HP攻撃+","HP攻撃++"に、そうでない場合は通常"HP攻撃"に戻る ~~~~~~~~~~ "BRV漏出"の性能は以下の通り。 ~~~~~~~~~~ スリップの効果 吹きとばしおよび追撃で受けた合計HPダメージの10%分のBRVを吹きとばした側全員に加算 ~~~~~~~~~~ 弱体効果"BRV漏出"は、吹きとばしや追撃に絡む能力を多く持つクァイスに特化した性能で、付与された敵にはスリップ効果に加えて、吹きとばしや追撃で受けた合計HPダメージ(Totalに表示される値)の10%分のBRVをプレイヤー側全員に加算する効果が発生する。 追撃でBRVを使い切っても、合計HPダメージに応じてBRVが返ってくるため、再度の追撃コンボや、自身の次回行動で高いHPダメージを狙い易い。 クァイス自体が"ヒーローサポート"を使って指定した味方に敵を吹きとばさせる以外に、クラウドやセシル(暗黒)、ラムザなど各自のアビリティ効果で吹きとばしが行えるキャラクターと組み合わせるとより火力が出し易くなるだろう。 その他 CLDアビは高威力のHPダメージを与えた上で、敵全体に"BRV漏出"が付与出来るため自陣で吹き飛ばしが出来るキャラクターにセットすると良いだろう。 また、Cアビではヒーローサポートによるスマッシュサポートを付与出来るため、吹き飛ばせないキャラにセットしても活用できるアビリティとなっている。 おススメAFに関しては味方全体の最大BRVと攻撃力を最大15%上げられる情報通のセルキーアップ★★を最優先に、また、クァイスは最大BRV依存の供給を持っているため次いで最大BRV330を目指そう。 まとめ クァイスは吹き飛ばしサポーターとして唯一無二の性能を持っており、クエストによってはぶっ壊れ級になるため、持っておいて損は無い。 EX/LDを引けた人はラッキー。第三防具まで引き換えて育てていくことをおススメします (_ _) コメント コメント
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LL/W24-004 カード名:“僕らのLIVE 君とのLIFE”園田 海未 カテゴリ:キャラクター 色:黄 レベル:1 コスト:0 トリガー:0 パワー:3000 ソウル:1 特徴:《音楽》? 【永】他のあなたの《音楽》?のキャラすべてに、パワーを+500。 【起】集中[① あなたのキャラを2枚レストする]あなたは自分の山札の上から4枚をめくり、控え室に置く。それらのカードのクライマックス1枚につき、あなたは自分の山札を見て《音楽》?のキャラを1枚まで選んで相手に見せ、手札に加え、その山札をシャッフルする。 レアリティ:R SP 13/07/02 今日のカード。 ヴァイスなどの参加のために書き下ろされた新規イラストカード9枚のうちの1枚。 運が良ければサイン付き。 「“僕らのLIVE 君とのLIFE”」系カードのうち、唯一チェンジ元を持たないレベル1以上のキャラであるが、その代わり全体強化と集中を持った。 一つ目は《音楽》?の全体500強化である。他のタイトルのレベル1帯のパワーパンプに比べ少し不足ということに感じるだが、 0コスト6000以上のキャラが多い同タイトルでは、 自身を2枚並べると、ノーコストでパワー7000以上パワーラインの維持が容易になる。 特に“僕らのLIVE 君とのLIFE”絢瀬 絵里併用すれば、ノーコストでパワー7500のパワーラインを形成し、盤面維持が容易になった。 そしてもう一つは《音楽》?の集中サーチ、使い方は見守るほむらなどとほぼ同様だが、 レベル1からになるので初動が少し遅れるくらいの差である。 しかし、レベル0でサーチしようと思えば、同タイトル内で1コスト+1ハンドサーチのレベル0が3種類ある、さらにCIP山札削るを持ちレッスン着の絵里があるので、そこまで気にする必要もないか。 また、2枚レストという点、園田 海未のパワーパンプに大きな貢献してくれる。 前述のようにレベル1から終盤まで活躍できる、サーチである性質上陽炎型駆逐艦7番艦 初風などの回収メタの対象外である。 トーナメントシーンでは同タイトルがトップメタの一角を占める要因となった。 ただし、同タイトルが多い、(園田 海未以外の)レスト関係能力との相性が悪い点は残念 余談ではあるが、自身を2枚並べると、パワーが3500になるので、飛天無双斬で落ちなくなる。 自身を2枚並べるのはすこし手間が掛かるが。 全体上昇に関して、同タイトルではチェンジ連動型回収持ち副リーダータイプ ことり、“親愛なる探求者”静流互換カードであるメイド服の絵里が存在する為。使う能力と色で採用を考えることになるだろう。 このカードの集中サーチ効果に関する、見守るほむらまでに存在している集中サーチ(黒ネコのルイズなどQ A261/269に記述した例)と異なり、このカード以降の集中サーチのテキストの構文が「~手札に加える。その山札をシャッフルする。 」から「~手札に加え、その山札をシャッフルする。」に変更された。この変更により、山札のシャッフル回数はめくれたクライマックスの枚数に依存している。めくれたクライマックスが0枚の場合、山札のシャッフルを行わない事に注意。 (Q A262)
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63214 C(ゲージ150%) 通称デカリング? EXイカリングを一発のみ出す 確か8HIT HITorガード中にワルクが行動可能 HIT時は横吹っ飛び 壁バウンド時の受身不能時間は短め 421系 後ろヴァイス Aはその場に出現 B,Cと下がる距離が増える 終わり際を623各種でキャンセル可能 消えてる間しか無敵が無い 空中214系 空中ヴァイス 距離に関しては地上ヴァイスと同じ? Cは後ろへ