約 32,351 件
https://w.atwiki.jp/churuyakofu/pages/258.html
ゆらゆらと世界が回る。 くるくると色が踊りだす。 世界は華。 華は世界。 ちいさな小さな万華鏡。 そこは色彩の楽園。 嗚呼、嗚呼、美しいかな。 万の華よ、咲き誇れ。 枯れることなき花々よ、狂い咲け。 万華鏡 万の華よ 咲き誇れ くるり、くるりと手を回す。 目に映る景色が変わりだす。 鮮やかな赤の色彩が、より眩い紅になり、そうかと思えば深い藍となる。 世界は変わる。 手を廻す、ただその行為だけで世界は変わる。 それが酷く楽しいものだと思えた。 「あら、珍しいものを覗き込んでらっしゃるわね」 「ん?」 不意に聞きなれない声がして、霖之助はそれから目を外した。 場所は香霖堂。 目に余る品々が一定の秩序とある種の無造作を持って並べられた古道具屋。 幻想郷には珍しい外の品も混じった混沌めいた空間。 そこの主である霖之助の前に、一人の日傘を持った女が立っていた。 「おや、ずいぶんと珍しい客だね」 口調は冷静に、けれどどこか声は冷たく。 霖之助はどこか引き攣ったような表情を理解しつつ、その女――八雲 紫に声をかけた。 「買出しであれ、売りつけであれ、普段ならば藍にでも任せるのが常ではなかったのかな?」 彼女の式である九尾の狐の名を出す霖之助。 彼女ならまだいい。けれど、霖之助は目の前にいる紫を酷く苦手としていた。 そんな彼の心境をまるで読み取ったかのように、紫は手を口に当てて優雅に微笑む。 「ふふふ、時には私も気まぐれが働きますわ。女ですもの」 女の行動に口を挟むなと、軽く言外に匂わされているような気がした。 多分それは被害妄想なのだろうが、在ってそうで恐ろしい。 「そうかね」 ふーと軽くため息を付き、霖之助は手に持つ、先ほどまで覗き込んでいたそれを机の上に置いた。 「それで、何をお探しなのかな?」 さっさと用件を済ませて帰ってもらおう、そう考えての発言。 けれど、紫はそうと感じさせぬほど自然な足取りで霖之助に近づき、その前の机に置かれたそれを手に取った。 「――万華鏡、ですわね」 「百色眼鏡ともいうらしいが、どちらも正しいだろう」 霖之助が覗き込んでいたそれは万華鏡だった。 質素な意匠が掘り込まれた細長い筒、その尖端を先ほどまで彼は覗き込んでいたのだ。 「不思議ですわね、貴方にはそんな趣味があったかしら?」 可愛らしく首を傾げる紫。 そんな彼女に霖之助は心の中で苦笑を浮かべると、彼女の疑問に答えた。 「いや、これは無縁塚で拾ったものでね」 霖之助が商品を仕入れる先――外の世界のものが流れ着く場所の名前を告げた。 「なるほど、万華鏡も忘れられつつあるのね」 「そのようだね」 万華鏡の歴史は古い。 生まれは外国であるスコットランドだが、江戸時代の日本にも輸入され、博麗大結界が張られる前に神隠しと呼ばれる幻想郷への迷い人の手によって数本持ち込まれた。 多少材料集めに手間が掛かるが、素人でも拙いものであれば作成は可能であり、人里でもたまに見かける程度には流通している。 幻想郷にとっての当たり前が、外では幻想となった。 それがどうにも寂しいものだと、霖之助は常にない情緒感をもっていた。 「寂しいですわね」 まるで紫は霖之助の心情を代弁するかのように呟く。 「そうかもしれないね。僕には想像するしか方法がないが、外の世界は万華鏡を気にする必要もないほど美しいものに溢れているのかもしれない」 覗き込めば垣間見える幻想的な光景。 夢幻とも思える万華鏡の色々。 その美しさを外の人間はいらないと判断したのだろうか。 外の世界を知っている紫ならば、どれだけ進んだ世界なのか、美しいものに溢れた世界なのか知っているだろう。 けれど、霖之助はそれを想像するしか手段はなく、今は想像するだけ良しとする。 いつかは外に出て、知識を身に付けたいと願っている彼だが、彼にはまだまだ呆れるほどの時間があるのだから。 「そうかしら」 けれど、紫は霖之助の想像を否定する。 「きっと人は忘れているだけですわ」 ゆるゆると言葉が紡がれる。 妖怪の賢者である八雲 紫はどこか悲しげで、皮肉げに言葉を大気に紡ぎ上げる。 「たった小さな一本の筒を手にとって、覗きこむことを忘れているだけですわ。とても簡単なことなのに」 「そうかな?」 「そうですわよ。人は決して光を忘れることなど出来ないのだから」 ニコリと微笑んで、紫は不意に手に持っていた万華鏡を目に当てる。 くるりくるりとどこか妖艶な手つきで筒を廻し、艶のある笑みを浮かべる。 「あらあら、赤か紅、紅から藍、藍から翡翠、翡翠から紫と綺麗ですわね」 にこやかに、華のように、どこか無垢な少女のように笑みが咲き誇る。 「万の華を咲き誇る鏡とは上手いことを言ったものだと思いません?」 「そうだね」 万の華を映す鏡と書いて万華鏡。 誰が思いついたのか知らないけれど、とても正しく、とても幻想的な名前だった。 「まあ、それは――女も同じことですけれど」 「え?」 「あら。知らないのかしら? 女は万華鏡と同じですわ」 覗きこむ目を外し、紫はニッコリと笑みを零す。 どこか妖艶で、見るものを蠱惑するような美しい笑みを。 「楽しければ向日葵のように笑みを浮かべ、悲しければ雨のように涙を流し、怒れる時は鬼のように恐ろしく、喜ぶ時は雪溶きのように輝くもの。 感情という光を反射し、万にも届く、夢幻の華を咲き誇る」 ゆるゆると吐き出される言葉。 同じ顔のはずなのに、まるで別人のように、けれどどこか同じ輝きを帯びて。 霖之助はまるで魅入られたように、紫の顔を、目を見ていた。 「憶えておくべきですわ。とても大切なことですから」 そう告げて、紫は手に持っていた万華鏡を霖之助に差し出した。 「あ、ああ」 それを霖之助は受け取る。 同時に発動する能力――名前は百色眼鏡或いは万華鏡 用途は魅了されること。 まったくもって、目の前の女性のようだと霖之助は思った。 「それでは、そろそろ私は失礼します」 「え?」 「欲しいものがなかったですから」 ニコリと笑みで冷やかすだけだと告げて、紫はゆっくりと霖之助に顔を近づけた。 「ん?」 湿った音がした。 霖之助の頬に口付けがされていた。 「これは、いいものを見せてくださったお礼ですわ」 呆然とした表情を浮かべる霖之助に、余裕を持った紫はするりと抜け出るようにその場を離れる。 「それではごきげんよう。また縁がありましたら、お会いしましょう」 子供のように無造作に手を振って、紫の姿が瞬くように消える。 彼女の能力――境界を操る程度の能力で開いた隙間でも使ったのだろう。 「……やれやれ」 姿が消えたことを確認し、数秒後に霖之助は息を吐いた。 蠱惑し、魅了し、どこまでも朴念とした霖之助の心をかき乱す女性。 八雲 紫。 「やはり、彼女は苦手だ」 見惚れればきっと抜けられなくなる。 まるで万華鏡の世界のように。 口付けられた頬だけが、彼女の存在を示すようにどこか熱かった。 おまけ(カリスマブレイク警報発令中。素敵な紫のままでいたければ、見ないほうがいいです) 「藍様ー」 「なんだい、橙?」 「お部屋のお掃除してたら、こんなのが落ちてましたー」 「ん?」 橙が藍に見せたのは一冊のノート。 幻想郷のものではない、外の世界による紙の印刷物。 その表紙には『カンペノート』と書かれていた。 「ずいぶんと薄いが、これは本だろうか?」 紫様のものかな? と藍は思いながら、パラリと開いた。 そして、一番新しい書き込みがされたページを見る。 『 今日の霖之助さん誘惑台詞 1 「ふふふ、時には私も気まぐれが働きますわ。女ですもの」 ここで自分が女だということをアピール。妖艶な女ということを強調するわ! 2 「あら。知らないのかしら? 女は万華鏡と同じですわ」 霖之助さんが万華鏡を拾ったみたい、これは年長者として素敵台詞の出番ね。 3 「楽しければ向日葵のように笑みを浮かべ、悲しければ雨のように涙を(ry」 我ながら素敵な台詞。こんな台詞を吐かれたら、多分私だったら一気に恋に落ちるわ。 昔ポエムノートを書いていた日々を思い出すわ~。 』 などなど、複数の書き込みがあった。 そして、最後に「今日はなんかの理由を付けて、霖之助さんの頬にキスするの! 女は度胸よ! は、恥ずかしいけれど……」 と書かれていた。 「……」 「藍様?」 「橙。これをおいてあった場所に戻しておいてくれないかな?」 「え? でも、お部屋のお掃除してたら床に落ちていた」 「じゃあ、そこに戻しておこう。これは紫様のものだからね、なくしたと勘違いしたらきっとお困りだ」 「藍様がそういうのならー」 戻してくるーと橙がテコテコとノートを持って歩き出す。 藍はその背を微笑ましく見ながら――ため息を吐いた。 ハァッと。 どこかテンションがおかしい八雲 紫が帰ってくるのは五分後のことだった。
https://w.atwiki.jp/churuyakofu/pages/247.html
「人形劇を手伝って欲しいんだけど」 【嘘から出た真】 いきなり本題を切り出すという行為は、話術としては褒められたものではない。 それでも、主導権を握るという意味ではまずまず有効だ。 切り出されたほうは、相手の言ったことを理解し、その背景を推察し、つまるところ何を要求しているのか予想した上で返答しなければならない。 この作業が終わらないうちに次々と言葉を放たれればどうなるか。 大概の人間は混乱するはずである。 そのように有利な立場にいるにもかかわらず、目の前の少女は最初の一言を発したまま沈黙を保っていた。 どうやら、相当気合を入れてきたか、もしくは極度に緊張していたようだ。二の句を告げることも忘れるほどに。 霖之助はたっぷり時間をかけてアリスの言葉を咀嚼し、最も可能性が高いと思われる仮説を立て、これを証明すべく質問することにした。 「それは今度の祭りでの話かい?」 「ええ、どうしても霖之助さんの協力が必要なの」 どうやら仮説は真理の一片を捉えていたらしい。要はアリスが祭りで披露している人形劇を手伝えということだ。 すがるようなアリスの顔に、ふむ、とあごに手をやって考える。 魔理沙や霊夢とは違い、こうして真摯に頼みに来るあたりがアリスの好ましいところだ。 また、普段見せるそっけない言動の割りに、アリスという少女は人が嫌がることはほとんどしないし、なんだかんだで面倒見もいい。 そんなアリスの頼みとなれば、ここは一つ受けてやろうという気になるのが人情と言うものだ。 北風と太陽の童話を思い出しつつ、霖之助は快く協力を申し出た。 「僕に何が出来るのかはわからないが、君の頼みなら断るのも忍びない。喜んで手を貸すとしよう」 「そ、そう……ありがと」 『君の頼みなら』、『喜んで』と言う言葉に反応するアリス。 その頭は、裏の意味を探ろうとフル回転を始めた。 今の言葉はどういう意味だ? 霖之助にとって自分は特別なのだということか? 突飛な想像だが、あながち間違っていないかもしれない。 この男がここまで言うのだ。なにかよほどの理由があると考えたほうが自然だろう。 もしかしたら好意を抱いてくれているのかもしれない。霖之助が、この自分に。 そう言えば、今までなんとも思っていなかったけど、見た目も悪くないし性格も……。 などと、霖之助が段々と魅力的な男性に思えてくる。 現金な自分に呆れつつも、アリスはなんとなく嬉しくてもじもじしていた。 それに対し、もっと喜んでもらえると思っていた霖之助は首をかしげていたが。 「それで、具体的には何をしたらいいんだい? 正直僕は人形繰りに関しては門外漢もいいところなんだが」 「え、ああ、まだ説明してなかったわね。ごめんなさい」 霖之助の声で我に返る。 冷静になると、さっきまでの自分が恥ずかしい。 たった一言好意的な言葉をかけられたくらいでなにを舞い上がっていたのか。 先ほどとは違った意味で頬を染めつつ、アリスは霖之助の質問に答えた。 「人形は操れなくても大丈夫よ。欲しいのは霖之助さんの声だから」 別のことに意識を割いているせいか、今日のアリスは言葉が足りなくていけない。 またしても頭に『?』を浮かべる霖之助を見て、アリスは今度やる人形劇には声を当てるつもりでいるのだと説明した。 男役も自分で声を当てようとはしたのだが、どうにも画竜点睛を欠くような気がしたので、こうして男の霖之助に頼みに来たとのことだ。 なんとか納得することが出来た霖之助は、まず今回の演題がどういう物なのかあらすじについて尋ねる。 アリスが語ったあらすじは以下の通りである。 ある国の王宮のお抱え魔法使いが王女と恋に落ちた。 身分の違いから周りに反対され、密かに逢瀬を重ねるもこれが発覚。 2人で駆け落ちし、国からの追っ手を含め様々な困難に立ち向かう。 全ての困難を乗り越えた2人はやがて小さな村に辿り着き、身分を隠していつまでも幸せに暮らした。 「ふむ、身分違いの恋に襲い掛かる困難、そしてハッピーエンドか。 使い古されている内容だが、使い古されるということはそれほど人の心を揺さぶるということだろうし、悪くはないな」 「まあ、奇抜さはないのは認めるわ。 でも私の持ち味はストーリーじゃないもの。ここは奇をてらわず王道で行くのが無難でしょ?」 「それには同意しておこう。それで、僕にこの魔法使い役をやれ、と」 「ええ。出来れば王様とか追っ手の騎士もお願いしたいんだけど、そこまでは言わないわ。 ナレーションでなんとか誤魔化せるしね。 それじゃあ台本を渡しておくわ。明日から稽古を始めるからしっかり覚えて頂戴」 どうやら霖之助が承諾することまで予想済みだったようだ。 まあ、たまには物語の傍観者をやめて登場人物になるのも悪くはない。 その日、霖之助は夜遅くまで台詞練習に没頭していた。 そして次の日。 「おはよう、霖之助さん。セリフは覚えられた?」 「大体はね。あとはやりながら覚えたほうが早いと思うんだが」 「あら、頼もしいわね。それじゃあ早速始めましょうか」 まずは人形抜きでセリフの確認と演技の稽古をする。 これは打ち合わせをした際、とにかくここさえしっかりしておけばなんとかなると言う結論に至ったためだ。 最悪セリフ練習しかできなかったとしても、アリスならぶっつけ本番で人形の動きを演技に合わせられるだろう。 そんなこんなで稽古は続き、今はこっそり落ち合った2人が愛を語る場面を練習している。 「どうして私は王女になど生まれてきたのかしら? ただの町娘に生まれていれば、身分の差に苦しむことなんかなかったのに」 「ですが、もしあなたが王女として生まれていなければ、私とこうして出会うこともなかったかも知れません。 ならば今はこうして、互いに愛する人と出会えた幸せを喜びましょう」 「もう、2人でいるときは敬語なんてやめてっていってるじゃない」 「おっと、これはすまないね。ついいつもの癖が出たようだ」 感情移入しやすくするため、台本に書かれている2人の口調は霖之助とアリスそのまんまになっている。 もちろん2人きりの場面に限ってだが。 そんなアリスの狙い通り、霖之助はかなり演技に熱が入っている。が、今回は入りすぎたことが問題になった。 そう、人形も置かずに向かい合って演技をしているため、霖之助とアリスが本気で愛を語りあっているような状況になっていたのだ。 アリスもなんだかんだ言って女の子。こういう場面はかなり気合を入れて書いているし、アリス本人の憧れるシチュエーションやセリフも存分に盛り込んである。 そんな"アリスが言って欲しい愛の言葉"を、霖之助が真剣そのものの顔で語ってくるのだ。おまけに今は香霖堂に2人きり。 恥ずかしいようなくすぐったいような思いで徐々に頬が熱くなるアリス。 一方、そんなことは微塵も意識していない様子で演技に没頭する霖之助。 演技に集中するのは悪いことではない。 それでも、自分だって面と向かって愛の言葉を投げかけているのだ。もう少し照れたりしてもいいではないか。 やはり霖之助に女として見られてはいないのだろうかと、少しだけ悲しくなるアリス。 だが、そんな悲しみなど吹き飛ばすような事態が起こった。それは、この場面も終わりに近づいたときのこと。 「そろそろ戻るとしよう。あまり長く抜け出していては怪しまれるからね」 「そうね……。どうして楽しい時間はすぐ終わってしまうのかしら。 ねえ、別れる前にもう一度聞かせてくれる? 私のことを愛してるって。 言われなくてもわかってるつもりだけど、あなたの口から聞いておかないと不安で仕方なくなってしまうもの」 「もちろんだとも。……愛しているよ、アリス。この世界の誰よりも」 「……え?」 「……あ」 いつの間にか劇の役と現実の自分が混ざってしまったらしく、王女の名前を呼ぶところでアリスの名前を呼んでしまった霖之助。 思わぬ不意打ちに、アリスは真っ赤になって口をパクパクさせている。 一方の霖之助も、あんまりといえばあんまりなミスに気まずくて仕方ない。 第一、これでは隠していた想いがつい口をついて出てしまったようではないか。 「す、すまない。ずっと君を見て稽古していたものだから、つい」 とにかくこの空気を何とかしようと声をかける霖之助。 アリスもこのままでは不味いと気が付き、なんとか事態の収拾をつけるべく霖之助の言葉に乗ることにした。 「ま、全く仕方ないわね。本番でやったら承知しないわよ」 「ああ、気をつけるよ」 どうにか落ち着くことは出来たようだが、こんな心境で稽古を続けられるはずもない。 霖之助は慣れていないから疲れたのだろう、ということで今日の稽古は終了となった。 2人ともこれが建前なのはわかっているが、わざわざそこを指摘して稽古を再開する理由もない。 明日また同じ時間に稽古を再開するということにして、アリスは自宅へと戻っていった。 その帰り道、アリスは帰り道を歩きながらため息を吐く。 「見ていたらつい、か」 やっぱり意識しすぎなのだろうか。ホッとしたような残念なような不思議な気持ちだ。 霖之助という協力者を得て、祭りの準備はとても順調だというのに、何か心が晴れない。 気が付けば霖之助のことばかり考えている自分に、アリスは顔をパシンと叩く。 そうだ、とにかく今は劇をやり遂げよう。自分が霖之助をどう思っているのかなんてその後で考えればいい。 「さあ、明日も頑張るとしますか!」 おー、とアリスは右手を振り上げた。 一方、アリスの帰った香霖堂にて、霖之助は最後にやらかしたミスについて考えていた。 なぜ自分はあそこでアリスの名を呼んだのか 目の前にアリスがいたから? 違う。アリスにはああ言ったが、どうも他に理由がある気がしてならない。 その違和感が気になって考えていると、一つの可能性に思い当たった。 「気付かぬうちにアリスに惹かれていた……か?」 流石にそれはない。確かに目を閉じればアリスの顔が浮かぶが、これは今日ずっと2人で稽古をしていたからだ。そうに決まっている。 ぶんぶん、と頭を振り、今日の自分はどこかおかしいのだと結論付けた霖之助は、普段より早めに就寝することにした。 そんなこんなで稽古は続き、ついに迎えた祭り当日。 生まれてこの方味わったことのない濃密な特訓を乗り越えた2人は、意気揚々と道の小脇にセッティングを進めた。 結果としては大成功。あまりの人だかりが通行の妨げになるほどだ。 観客たちの中には、感動して涙すら流しているものまでいる。 また、劇が終わった後は次々にアリスや霖之助の手をとり、その想いをぶつけてくれた。 「感動した!」 「いい話をありがとう!」 「また次の祭りでもお願いします!」 「辛い思いをしてきたんだねえ」 「おめでとう! お幸せに!」 どう聞いても劇の感想ではない発言も紛れ込んでいたが、とにかく返事を返すのに必死な霖之助たちは気付かない。 疲れ果てながらもなんとか香霖堂まで荷物を運んだ2人は、そのまま奥の部屋で眠りに付くのだった。 数日後、 『発覚! アリス=マーガトロイドと森近霖之助に隠された波乱万丈の過去!』 なる見出しの新聞が大量に発行される。 どうやら人里では、あの人形劇が2人の過去を忠実に再現したものということになっているらしい。 そこには連れ添って香霖堂に戻る2人の写真もあり、アリスが朝帰りした所も見ていたと鴉天狗が証言している。 これを見た幻想郷の女性陣はアリスと霖之助を尋問すべく結託。 逃げ回る2人の間にはいつしか愛情が芽生えたりもするのだが、それはまあ別のお話。
https://w.atwiki.jp/churuyakofu/pages/193.html
前の話へ 次の話へ あらすじ 霖之助の協力のもと日本人形を完成させたアリス 次は一人で作ろうと自宅に篭るが、霖之助にフラグを立てられていたため、寂しくなって香霖堂へ。 なんだかんだでめでたく毎日通うことになりました。 スー……、パタン。 霖之助にあてがわれた部屋に荷物を置きにあがったアリス。 廊下から見えないように襖を閉めると、糸が切れた人形のように崩れ落ちる。 「はぁぁぁぁぁぁぁぁ……」 畳に腰を下ろして両手を突き、大きく息を吐く。 本来陶磁器のように白い肌は首まで真っ赤に染まっていた。 心臓はここで一生分働きつくしてやると言わんばかりに回転数を上げ、手足はいまだに軽く震えている。 (あれは反則にも程があるわよ……!) 叫びだしたくなるほどに昂ぶる感情を抑え、アリスは先ほどのことを思い出す。 『ありがとう。また来てくれて嬉しいよ』 ただでさえ受け入れられたことが嬉しくて頭が煮立っている所だというのに、そんなことを言われた日にはもう声も出せなくなってしまう。 真っ白な頭の中とは正反対の真っ赤な顔で、カク……カク……と壊れた人形のように首を縦に振り、転びそうになるのを何とかこらえて部屋に辿り着いた。 訝しがられたかも知れないが、取り繕うことなど不可能だ。 スキマと閻魔と花の妖怪と亡霊の姫に同時に喧嘩を売って無傷で生還するくらい無理だ。 霖之助の笑顔が頭から、言葉が耳から離れない。 上海と蓬莱を呼び寄せて力いっぱい抱きしめる。 「~~~~~~~っ」 声にならない叫びと共に畳の上を転げ回るアリス。その顔はこれ以上ないほどにやけまくっている。 来てくれて嬉しい。 来てくれて嬉しい。 来 て く れ て 嬉 し い! それはつまり、霖之助もアリスに会いたかったということだ。 それもあの朴念仁がわざわざ口に出して思いを伝えるほどに。 期待しすぎてはいけないと理性が警鐘を鳴らそうとするが、このくらい自惚れたって構わないだろうと黙らせる。 いつまでも悶え続けるアリスが再び霖之助と顔を合わせられる程に落ち着くのは、相当後になりそうだった。 一方の霖之助は、部屋から聞こえてくる妙な音に首をひねっていた。 前の話へ 次の話へ
https://w.atwiki.jp/churuyakofu/pages/198.html
「こんにちわ~」 魔法の森の古道具屋、香霖堂に女性の声が響き渡る。 声の主は幻想郷トップクラスの有名人、八雲紫。 今日もまたスキマを使って入ってきた紫に、霖之助が声をかけた。 「いつも言っているが、せめて店の戸を開けて入って来てくれないか? 心臓に悪いんだが」 「だあってこっちのほうが楽なんですもの」 「あんたがどうこうじゃなくてこっちが迷惑だって言ってんのよ……」 突っ込むのは最近店の看板娘となった七色の人形遣い、森近アリス。 今日はいつもの洋服ではなく、水色の着物を着ている。 「こんなか弱い女性を2人でいじめるなんて。このドS夫婦」 「あんたがか弱かったら大概の妖怪は虚弱体質よ」 今日も皮肉の切れ味は良好なようだ。 「霖之助さん、こんな意地悪な女なんかほっといて私とイイ事しない?」 「折角のお誘いだが遠慮しておこう。僕は愛する妻で十分だよ」 「あらあら、お熱いことことねえ。まあ飽きたら言って頂戴。いつでも相手になるわ」 どうやら今回は簡単に引き下がるようだ。 適当に相槌を打とうとした霖之助だが、何かが頭に巻きくのを感じた。 「アリス?」 見れば、アリスが霖之助の頭を胸に抱き寄せて紫を睨みつけていた。 「そんな怖い顔しなくてもほんとに取ったりしないわよ。まったく見せ付けてくれるわ。それじゃあまたね」 そういい残して紫は帰っていった。 が、アリスは霖之助の頭を離そうとしない。 「アリス。そんなことをしなくても僕は逃げたりしないよ?」 「だって……」 「アリス。何度も言っているが、僕が愛しているのは君だけだ。 世界中のどんな美女が言い寄ってこようが僕が動くことはありえない。 僕の心は君でいっぱいで、他の女性が入り込む余裕なんてないんだから」 「……うー」 今までの反動か、事あるごとに霖之助にくっつこうとするアリス。 そのアリスを説得しているうちに、歯が浮くような台詞をこともなげに放つようになった霖之助。 アリスとしては嬉しいやらくすぐったいやらで、むしろ前よりたちが悪い。 結局、今度は赤面してしがみつくアリスが離れてくれたのは、夕食時になってからだった。 前の話へ
https://w.atwiki.jp/pmvision/pages/2312.html
《森近 霖之助》 No.1031 Character <第十二弾> GRAZE(1)/NODE(2)/COST(1) 種族:人間/妖怪 (常時)(1)(S): 〔あなたの手札にあるコマンドカード1枚〕を破棄しても良い。破棄した場合、〔あなたのデッキ〕を全て見て、コマンドカード1枚を抜き出し、相手プレイヤーに見せてから手札に加えても良い。その後、デッキをシャッフルする。 攻撃力(3)/耐久力(2) 「君達は大きな勘違いをしている様だね」 Illustration:鶴亀 コメント 非常に軽くなって帰って来た香霖堂店主。 起動効果は所謂手札のコマンドカードを別のコマンドカードに入れ替えるという物。手札で腐っているマナの生成等を強引な取引等に交換できる。 また、この効果はコストが1掛かるものの、捨てるコマンドカードの対象に制限が無い。よって銀ナイフと組み合わせれば毎ターン好きなカードを手札に加える事が出来るのだ。このカードが低ノードなのを活かして序盤からマナの生成で加速するのも良し。強引な取引でさらに手札を増やしても良し。是非曲直庁の威令や陰謀論、緑眼のジェラシーなどを手札に溜め込んで相手の行動を次々妨害するのも良し。手札にまだ無い銀ナイフを加えても良し。状況に合ったコマンドカードを選んでいこう。 逆にこのカードを相手にする場合、放っておくとカウンターを大量に握られる等して手が付けられなくなる場合もあるので優先的に除去して行きたい所。 地味にグレイズ1の3/2と平均以上の戦闘力まで持っている。目ぼしいコマンドカードがデッキから無くなった場合でも十分戦列に並ぶ事が出来るだろう。人間/妖怪と、サポートを受けやすい種族であることも好材料といえる。 相手の強引な取引に干渉してハートフェルトファンシー、エンパシーなどにはラストリモート、ワンショットされそうなときに雲外蒼天などが後出しできるため、(自動β)を持つコマンドカードとの相性が良い。 収録 第十二弾 スターターデッキ風 関連 森近 霖之助/1弾 森近 霖之助/7弾 森近 霖之助/12弾 森近 霖之助/16弾 森近 霖之助/20弾
https://w.atwiki.jp/jojotoho_row/pages/188.html
その部屋は一言で言えば「漫画家の作業部屋」だった。 整理された机の小物入れには執筆の為のペンやインクが置かれ、棚には画材が幾つも置かれている。 びっしりと置かれたノートは恐らく『ネタ帳』のようなものだろうか。 机の前に置かれた椅子に座っているのは銀色の髪が特徴的な半妖の青年。 窓から外を眺めながら、ただ無言に静かに物思いに耽っている。 「………。」 動かない古道具屋、森近霖之助。 半人半妖のハーフであり、古道具屋「香霖堂」を営む店主だ。 といっても、どちらかといえば「商売人」というよりもある種の「蒐集者」と称する方が近い人物だが。 そんな彼は、この場における自らの行動方針を決め倦ねていた。 ―――あの人間達は、僕らに「殺し合いをしろ」と。 ―――あの人間達は、あれ程までの人数を巻き込む程の力がある。 それは当然理解している。あの山の神様…秋穣子、と言ったか。 彼女の死を目の当たりにした。見せしめ、というべきか…殺し合いに逆らったものの末路をまざまざと見せつけられた。 正直に白状しよう。あの時の僕は、ほんの少しだけ「恐怖」していた。 自分達の命が手中に握り締められているということをはっきり思い知らされたのだから。 同時に、こんなことに巻き込まれた自分の不幸を大いに呪っていた。 「僕の役割は、『やられ役』ってところかな」 窓際で頬杖をつきながら、自嘲気味に呟く。 最初に断っておくと、僕は荒事は苦手だ。蒐集の為に危険な場所までちょっとした散歩に行くことはある。 自分が危険に近付くことなんて精々それくらいだ。 幻想郷の妖怪達が起こすような喧騒は苦手だし、戦闘能力があるワケでもない。 評価出来る点と言えば、妖怪の血が混ざってることで「人間よりちょっぴりしぶといこと」くらいだ。 精々その程度。はっきり言って勝ち残れる気なんて無い。 この惨劇において、殺人者と運悪く出会ってあっさり殺される『やられ役』くらいの役割でしかないだろう。 「…やれやれ」 盛大に溜め息をつきながら霖之助はぼやく。 柄にも無くネガティブになってしまっているのが自分でも解る。 そりゃあ、そうだ。何の脈絡も無く殺し合いなんてことに巻き込まれてしまったのだから。 幻想郷とは「理解できないこと」に満ち溢れているとは解っているが、此処まで来ると理不尽な程だ。 その上、あの主催者たちに立ち向かうことも絶望的と見える。 曰く「下手に逆らえば頭部を爆破する」と。…何だか笑えてくる。やっぱり、圧倒的なまでに理不尽だ。 僕の知識を持ってしても、あの二人に対抗出来るかどうかは怪しいだろう。 こうやって一人打開策を考えようとしても一向に浮かばない。 諦観というものを嫌になってくる程に堪能している所だ。 あの主催者には逆らえないとは思うし、かといって殺し合いに乗った所で勝ち残れる気もしない。 将棋で言う所の詰み、外来品のチェスで言う所のチェックメイト。そう表現するに相応しいかもしれない …そう言えば、支給品や名簿をまだ確認していない。 机の上に放置していたデイパックをおもむろに開き、まずは支給品をを取り出す。 閉じられた紙の中から道具が飛び出すと言うのは流石に驚いたが、マジックアイテムの一種なのだろうか? ともかく、僕は自らの支給品を確認してみることにした。 「…『スタンドDISC』?」 その手に持った円盤をまじまじと眺めながら彼は呟く。 「道具の名称と用途が解る能力」により、手に取った円盤の名前は理解することが出来た。 用途を調べてみた所、このDISCとやらは「スタンド能力を封じ込める道具」と。 …スタンド能力とは一体何なのか?同封されていた説明書によれば、このDISCは「頭に挿入して使用する」らしいが… そのスタンドとやらが何なのか解らないし、そもそもこれが頭に挿入することが出来るというのがいまいちピンと来ない。 それに…何だろうか。この円盤からは言い寄れぬ「不安感」のようなものが感じられる。 蒐集者の心持ち故に好奇心で使ってみたい気持ちもあるのだが、それ以上に僕の中の警戒心がこれを拒絶する。 …得体の知れない物には触らぬが吉だな。一先ず僕はそれをデイパックにしまうことにした。 さて、もう一つの支給品を確認しよう。次は――― 「……。」 賽子。賭け事に使うような六面体の賽子が3つセット。 …だからどうした。こんなものを殺し合いでどう使えと。用途を調べてみても、何の変哲も無いただの賽子でしかない。 結論を述べれば、僕の支給品に「武器」は一つも入ってなかったのだ。ますます気合いが抜けてくる。 呆れた気分になりながらも、とりあえず名簿も確認してみることにした。 ざっと見た所、どうやら90名もの人物がこの殺し合いに巻き込まれているらしい。 記載されている名前を見る限りでは参加者に幻想郷の住民が何人もいることが解る。 紅魔館の主。白玉楼の姫君。スキマ妖怪。永遠亭の医者――― 幻想郷においても別格レベルの実力者達の名が幾つも見受けられた。 いよいよあの主催者達の格が凄まじく見えてきた。彼らは幻想郷において名だたる猛者ですら手中に収めてしまう程の実力なのか? 同時に、そんな中何故自分のような非戦闘者まで混じっているのかが疑問だった。 この場においては支給品や制限があるらしいが、それを込みにしても戦闘経験皆無の自分に勝てる気はしない。 相変わらず諦めのような感情を抱いている中で、彼は「よく見知った名前」を発見した。 『博麗霊夢』 『霧雨魔理沙』 「………。」 …あの二人まで、この場に巻き込まれているのか。 霊夢。しょっちゅう僕の店に訪れる博麗の巫女。 いつも用も無く店に入り込んでは勝手に商品を持っていったり、勝手にお茶を淹れてたり。 横柄ではある物の、時に世話になることもあり関わりの深い相手であることは確かだ。 魔理沙。僕の昔馴染み、かつての修業先の娘さんだ。 霊夢と同じようにしょっちゅう店に顔を出す。冷やかしにくることも多々あるが、個人的な付き合いもかなり多い。 ある意味、僕にとっての妹分のような奴かもしれない。 はぁ、と溜め息を吐きながら顔に軽く手を当てる。 あの二人が殺し合いに乗ることはないと思う。そこそこ付き合いを続けてきて、そうゆう性分だってことを理解している。 だからこそ危なっかしいし、僕は怖いと思っている。 魔理沙と霊夢はこの殺し合いを止める為に無茶をしそうな気がしてならないのだ。 彼女達の名を確認した途端、急に心配が胸の内から込み上げてきた。 僕はその場で暫し考え込む。――どうせ普通に戦った所で自分生き残れないだろうな、と。 支給品には武器さえ入っていない。勝てる訳があるか、と主催者に問い詰めたいくらいだ。 かといって主催者に反抗することも出来る気はしない。…僕の力などたかが知れている。 だからといって、何もかも諦めるのは少し馬鹿らしくなってきた。 あの二人の名を確認してから、いてもたってもいられなくなってきたのだ。 「…どうせ、こんな所でぼんやりとしているくらいなら…な」 せめて、あの二人を捜そう。魔理沙、霊夢のことが心配で仕方がない。 自分に出来ることなんてちっぽけなものかもしれないが、それでも何もしないまま死ぬのは御免だ。 故に僕は「少しだけ」主催者に抵抗してみることにした。やれるだけのことはやってみよう、と。 柄にも無く、そんな気持ちになってきたのだ。 誰が信用出来て、誰が信用出来ないかなんてのは解らない。だが一つだけ確かなこともある。 あの二人なら、確実に信用出来ると言うことだ。 椅子から立ち上がり、霖之助は歩き出し部屋を後にする。 彼は何の力も持たない古道具屋の店主。 それでも、この殺し合いの場で行動することを決めた。 自分が生き残れるとは思えない。だけど、この場には霊夢と魔理沙も巻き込まれている。 そうなると、彼とて黙ってはいられない。少しはこの場で抵抗してみる気になったのだ。 自分なりに――――やれることをやってみるとしよう。 森近霖之助の『バトル・ロワイアル』が、幕を開けた。 ◆◆◆◆◆◆ ―――スタンドDISCを使わなかったのは、彼にとって『正解』だったと言える。 そのDISCに封じられているのは『最弱』であり『最悪』の能力。 使用されなかったとはいえ、DISCが今も尚彼のデイパックに保管されていることも確かである。 果たしてこの力は、そのまま彼のデイパックの中に『封じられる』ことになるのか。 何らかの拍子で使用してしまい、図らずも災厄を呼び寄せてしまうのか。 あるいは、他の参加者に奪われその力を利用されてしまうのか。 今はまだ誰も知らない。 それは邪悪の化身でさえ「手に余る」と称したスタンド能力。 そう、そのスタンドの名は―――― 【E-4 人間の里(岸辺露伴の家)/深夜】 【森近霖之助@東方香霖堂】 [状態]:健康、不安 [装備]:なし [道具]:スタンドDISC「サバイバー」@ジョジョ第6部、賽子×3@現実、基本支給品 [思考・状況] 基本行動方針:自分が生き残れるとは思えないが、それでもやれることはやってみる。 1:まずは人里を探索。出来れば自衛の為の武器が欲しい。 2:魔理沙、霊夢を捜す。 3:殺人をするつもりは無い。 [備考] ※参戦時期は後の書き手さんにお任せします。 <スタンドDISC「サバイバー」> 森近霖之助に支給。 かつてDIOがプッチ神父に渡したスタンド。 対象の脳内の電気信号に影響を与えることで闘争本能を極限まで引き出し凶暴化させる。 能力の影響下に置かれた者達は闘争心の赴くままに殺し合いを始める。 また凶暴化した者達は相手の「最も強い部分」が輝いて見え、ダメージを負った部分が消し炭のように黒く淀んで見えるようになる。 敵味方問わず乱闘を引き起こす能力を持つこのスタンドをDIOは「最も弱いが、手に余る」と評価している。 このスタンドに課せられた制限は現時点では不明。 <賽子×3> 森近霖之助に支給。 卓上遊戯や賭博などに用いられる道具。 何の変哲も無い六面体の賽子3つセットである。 041:迷い猫オーバードライブ! 投下順 043:夜は未だ明けず 040:Missing Powers 時系列順 044:最初のトリニティストーリー 遊戯開始 森近霖之助 072:Trickster ーゲームの達人ー
https://w.atwiki.jp/churuyakofu/pages/243.html
次の話へ 【彼女の葛藤】 「……今日はなんの御用で?」 霖之助がいつものように本を読んでいると、両肩にずしりと重みがかかった。 以前は慌てふためいていたものだが、数日に一度のペースで同じことをされては流石に慣れる。 まあ、たまに気が緩んでいるときはいまだに飛び上がったりもするのだが。 くるりと振り向いてみれば、予想通りの整った顔が鼻のくっつきそうな距離に浮いていた。 いつもと違うのは、その顔は眉が寄って唇の端が下がったしかめっ面ということ。 「もう。女性のほうからここまでしているっていうのにぃ。 ちょっと反応が淡白すぎるんじゃなくて?」 めっ、と霖之助の額を小突く八雲紫。 なんだか子ども扱いされているみたいだな、とも思う霖之助だが、あまり反発する気にはならない。 これが霊夢や魔理沙ならば、何かしらの一言は返すところだというのに。 「この店に来ていただけるのはありがたけどね。 毎回毎回スキマから死角に出てくるものだから、すっかり慣れてしまったよ。 あとは、何か買ってくれれば言うことはないんだが」 何も言い返さない理由としてはこんなところだろう、と自己分析しながら返事を返した。 「つまんないわねぇ。 前は顔を真っ赤にして『い、いきなり何をするんだ!』とか言ってくれたのに。 ……もう……私の体には飽きてしまったのね……」 扇子で顔を隠してよよよ、と泣く振りをする紫。 これさえなければもっと踏み込んで接してもいいんだがなあ、と霖之助は内心でため息を吐いた。 「ああ、すまなかったよ。このとおり謝るから泣かないでくれ」 「……」 謝ったというのに唇を尖らせ、ジトーっとした目で見てくる紫。 霖之助が頭の上に?を浮かべていると、 「……飽きたっていうの否定してない……」 などと言い出した。 そちらが冗談めかして言ってきたというのに。そもそも飽きるも何も堪能した覚えすらない。 今度こそ、ため息を隠さない霖之助だった。 「それにしても霖之助さんは優しいわねえ。 藍に同じことしても、冷たーい声で『いいから要件を言ってください』なんて言うのよ」 「それは君の発言を流していきなり要件を聞いたりするな、と言うことか」 「流石霖之助さんね。みなまで言わなくても私の言いたいことを察してくれるんだから」 先ほど彼女の式と同じことをしようか迷っていた霖之助は、差し当たり自分の判断に感謝することにした。 「まあ、いつまでもこうして言葉遊びをしていても仕方ないわね。 私としては一日中続けてもいいくらいだけど。それはそれとして、今日はちゃあんとお客様としてお邪魔してるつもりよ」 「できれば今日は、ではなくて今日も、になって欲しい所だがね」 「むぅ~、いいじゃないそのくらい。 それで、今日は霖之助さんを頂きたいのだけど」 「……僕の店では生物は取り扱っていないことくらい知っているだろう?」 「もちろんよ。私が言っているのは霖之助さんに今日私と過ごして欲しいってこと。 霖之助さんの時間は生物ではないもの。何の問題もないでしょう?」 そうきたか。 はじめに今のことを切り出されていれば、自分の時間は非売品だと言い切ることもできた。 しかし、既に会話の中で『生物は扱っていない』と、生物以外ならなんでも扱っているようにも取れる発言をしてしまっている。 ここで自分の時間も非売品だと言ったところで、この発言を盾に押し切られるのが落ちだ。 それに、八雲紫の機嫌を損ねるのはよろしくない。彼女でなければ取引すらできないものが多すぎる。 主にストーブの燃料とか。 そう、それだけだ。 これで機嫌を損ねてぱたりと彼女が来なくなった店内を想像してなんとなく寂しかったのは気のせいだろう。 「……どうやら現時点で僕に反対する理由はないようだね。 それで、僕と一日何をするつもりだい? 極力お客様の期待には応えさせてもらうと言いたいところだが、内容によっては販売拒否もあり得るよ」 何を言われるかビクビクしながらの発言だったが、紫の提案は想像以上にささやかなものだった。 「そんなむちゃくちゃなことは言わないわよ。 人里に新しい甘味処ができたから、一緒に行って欲しいの」 「……拍子抜けするほど簡単な申し出だね。それくらいなら頼めばいつでもお供したのに」 スキマツアーにでも連れて行かれるのかと思っていた分、この申し出は非常にハードルが低いように思える。 まあ紫とお茶をするくらいは特に問題ないのも確かだが。 一方、紫は予想以上の好感触に喜んでいる。 「あら、本当?」 「ああ、君にはいろいろと便宜を図ってもらっているからね。それくらいならお返しにもならないよ」 「……どうせそんなところだと思ってたけど」 ころころ表情が変わる紫に首をかしげながら、霖之助は先ほどから気になっていたことを尋ねた。 「まあそれはさておき、どうして僕を? 一人で行くのが嫌なら君の式なり、式の式なりに頼めばいくらでもついてくるだろうに」 「その店はバイキングっていう方式を採用しているのよ。 簡単に言うと、一定料金を払えば並べてある料理をいくら食べてもいいっていうスタイルね。 もちろん制限時間はあるけど。 同じ商売人として興味があるんじゃなくて?」 「……それは確かに興味深いな。 食べ放題という言葉に釣られる客は多いだろうが、甘いものをそう大量に食べられる者は少ないだろうしね。 ある程度の料金を受け取っていれば赤字にはならないはずだ。 あとは大量に材料を仕入れることによる値引きなどか……。 実際にどのレベルのものが提供されているのかも気になるな。 僕は営業努力をしない商売人としては失格の部類だろうが、そういう営業形態の原理には確かに惹かれるものがあるね」 「でしょう? 聞いてみた甲斐があったわ。それじゃ、早速行きましょうか」 人里へと向かう霖之助と紫。 目的の店はすぐに見つかった。通常の倍はあるのぼりを掲げていれば当然だが。 「中は洋風か……。 確かにこれなら座敷と違ってとりにいくたびに履物を脱いだり履いたりする必要がないな」 「ほら霖之助さん、このお皿に欲しいものをとって食べるみたいよ。 あっちには紅茶やコーヒーもあるわね。まあ手ずから淹れたものには適わないでしょうけど」 店に入って料金を支払うなり、店の中を見渡す2人。一見似たもの同士だがその着眼点はかなりずれていた。 しばらく店内を観察すると、適当なケーキを1つ2つと紅茶を淹れて席に座る霖之助。 紫はすでにかなりの量を皿にとっているが、それでもまだ選ぶつもりのようだ。 「紫、飲み物は何にする?」 これは少々時間がかかるかな、と考えた霖之助は紫の分も淹れてくることにした。 すこし驚いたような顔をした紫だったが、すぐ嬉しそうに笑って紅茶を頼んできた。 それから10分後。 すぐに淹れては紅茶が冷めるからと、紫の様子を見つつタイミングを計る霖之助。 そんな努力の甲斐あって、良い状態で渡すことができたようだ。 「……ふむ」 パクパク食べる紫を眺めつつ、霖之助は店について考察を重ねていた。 菓子の出来は上々。多少の時間置きっぱなしでも、これなら十分金を払う価値がある。 周りを見れば座ったり立ったりを繰り返す客も少なくない。軽い椅子はこれを見越してのことか。 机の配置はいわゆる碁盤目状ではないが、客の流れを見ていると上手い具合に計算されて置かれていることがわかる。 ついついそういうことを考え込んでいると、 「ちょっと霖之助さん」 思考の海に沈む霖之助を、紫が咎めた。 「ん? なんだい?」 「なんだいって……。 折角2人で来ているんだから、お店ばかり見てないでもっと構って頂戴」 ぷぅ、と頬を膨らませる紫。 いつもの姿からは想像もつかないそんな紫の様子に思わず笑みがこぼれそうになるが、ここであまり大げさに笑うとさらに機嫌を損ねるだろう。 「ああ、すまない。見れば見るほど興味深い作りをしているからね。 不愉快な思いをさせてしまったようだし、これからは君だけを見ていることにしよう」 「そ、そう? まあそれならいいわ。許してあげる」 蔑ろにしていた分しっかり相手をするという意味だったのだが、紫は思った以上に嬉しそうにしている。 どうやら機嫌は直ったようで、左手を頬に当ててなにやら照れくさそうにしている紫の姿に、霖之助は胸をなでおろした。 それから。 「あ、これ美味しい。霖之助さんもどうぞ」 「どれどれ……む、これは確かに」 「でしょう? あ、霖之助さんが取ってきたそれ私も取ろうか悩んでたのよ。一口いただける?」 「ああ、もちろんだ」 「あ~ん」 「……まあいいか。今日は君に付き合おう。ほら、あ~ん」 「あ~ん。ん~、おいし~」 振り回されてばかりだが、こういうのも悪くないなと思う霖之助だった。 「それじゃあね霖之助さん。今日は楽しかったわ」 「僕のほうこそ。今日はいい経験が出来たよ」 「もう、そういう時は『君と居れて楽しかったよ』くらい言って欲しいんだけど?」 「ああ……そうか、そうだね。 今日はとても楽しかったよ。こんなに楽しいのは久しぶりだった。 よかったら、また誘ってもらえるかい?……いや、是非こちらからお願いするよ」 「そ、そう? そこまで言うならまたお誘いするわね」 「ああ、僕のほうは知ってのとおり年中暇だから、いつでも言ってくれ」 「自分で言うなんて、もうお店に関しては開き直ることにしたのかしら?」 クスクス、と2人で笑いあう。 「じゃあ、今度こそ帰るわ。またね霖之助さん」 「ああ……それじゃあ」 紫は何もない空間にスキマを開いて帰っていった。 その場所を見つめつつ、霖之助は今日の紫を思い出す。 いつものような胡散臭さなど微塵もなく、まるで普通の少女のようにはしゃぐ紫。 大妖怪であろうが結界の管理者であろうが、紫も根っこの部分は女の子ということだろう。 次に紫が訪れるときは、今まで以上にその来訪を歓迎できそうだ。 霖之助は暖かい気持ちで家路を急いだ。 一方紫の自室では、 「……ふぅ」 足取りも軽い霖之助とは対照的に、やや落ち込んだ様子の紫が見えた。 「……やっちゃったわねえ……。 特定の誰かに入れ込むのは控えていたつもりだったのに」 いつもは人を手玉に取るような言動が目立つが、八雲紫は幻想郷を誰よりも愛している妖怪である。 その存在は博麗の巫女同様、幻想郷の存続になくてはならない。 だから、ある意味で博麗の巫女以上に心を傾けることは自戒してきたつもりだ。 それが今では霖之助に心惹かれている。このままいくと何もかもを投げ捨ててでも彼の元に走りたくなるだろう。 最初は、幻想郷の外にあこがれる半妖を監視するだけのつもりだった。 あくまで外の世界と幻想郷との境界を守るため。霖之助にしても最初は自分を敬遠していた節がある。 だが、いつしか霖之助と会うことが楽しみになっている自分に気付いた。 なぜかはわからないが、彼と話していると心が弾む。ついつい我を忘れて話に夢中になることもあった。 霖之助もしつこく来訪されるうちに慣れてしまったらしく、最近は普通に接してくるようになった。 自分は否が応でも彼に惹かれているし、彼も憎からず思ってくれているだろう。 だけど、と紫は手を握り締める。 一線を超えるようなことだけはできない。 そんなことになれば歯止めが利いてくれるかどうか自信がない。 だからこれ以上の関係は求めまい。たまに話をして、気が向けば2人で出かける以上のことは。 やるせない思いは確かにあるが、霖之助一人と幻想郷を天秤にかけることもできない。 大丈夫。彼とはまだまだ一緒にいられるのだから。 そう自分に言い聞かせると、紫は辛い現実を今だけは忘れて今日の思い出を楽しむことにした。 次の話へ 以下没にしたプロット。最期の葛藤のわりにちょっとやりすぎな気がしたので。 ―――香霖堂にて――― 「……そういう営業形態の原理には確かに惹かれるものがあるね」 「そう?よかった。 ああ、それとバイキング形式は恋人の男女限定だから、そういうことにしといてね」 「……何だって?」 ―――道中――― 「……歩きにくいんだが」 「今私と霖之助さんは恋人同士なんだから、それらしいことをしないとダメでしょう?」 「だからって店に入る前から腕を組まなくてもいいだろう……」 ゆかりんは満面の笑みで腕に頬を擦り付けたり。 ―――店内――― 「それじゃあ食べましょうか。じゃ、霖之助さん、あ~ん」 「……僕は一人で食べられるんだが」 「恋人同士っていったでしょ?」 「……あ~ん(実はまんざらでもない)」 結局全部食べさせあったりするといいよ。
https://w.atwiki.jp/churuyakofu/pages/297.html
天狗たちとは霖スレ住人である。 【香霖堂】森近 霖之助スレッド31【店主】において、スレ住人さながらにカップリング談義をする天狗たちが登場した。それぞれのカップリングの味わいとそれにかける想いを各一行で的確にまとめた有様に感銘を受けたスレ住人たちは、いつしか己を妖怪の山の天狗に仮託するようになった。 本来はカップリング話をするペルソナについた名前であるが、現在ではスレ住人一般を指すようになっていると言える。 問題のレス 635 :名前が無い程度の能力:2009/01/20(火) 18 59 11 ID ocqxZ6520 天狗A「俺は断然霊夢×霖之助だな。枯れた老夫婦の路線」 天狗B「いやいや魔理沙×霖之助でしょう。憧れのお兄さんから一歩関係を進めるがいい」 天狗C「僕はあの咲夜さんと霖之助がかもし出す不思議空間が好きなんだ!」 天狗D「話にならん。未熟な妖夢を正してあげる霖之助に俺は惚れた」 天狗E「幻想郷を揺るがす大妖怪である紫様と一介の半妖でしかない霖之助の恋愛などロマン溢れるじゃありませんか」 天狗F「我儘な吸血鬼お嬢様とそのニーズい答える店主たまんねー」 天狗G「私みたいなしがない新聞記者としがない古道具屋の店主、相性いいと思いませんか?」 天狗H「お前ら霖之助が人里にいたこと知らんのか……とうの昔に慧音先生と付き合ってるに決まってるだろう」 天狗I「人里っていうなら阿礼乙女と代々付き合いがあってもおかしくなかろう」 天狗J「最近入ってきた山の巫女はいい娘だぞ。外の人間相手なら霖之助も関心を示すこと請け合いよ」 天狗K「まあまあみんなの間を取ってここは一つチルノ×霖之助という奇抜な発想をだな」 天狗L「甘い。その道はすでにルーミアちゃんが通ってるとわしは考えるぞ!」 天狗M「お前ら永遠亭忘れすぎ。永琳先生なんて銀髪でりんりんで相性抜群じゃないか」 天狗N「小生はあの弟子の兎がどうにも辛い過去を持っているように見える…霖之助のような男が幸せにしてやれるとよいのだが」 天狗O「ちょっと年を取りすぎた貴様達は一度少年心に戻って半妖とお姫様という王道ポジションを意識すべし。よって輝霖」 天狗P「姫? 四季映姫様しか思い浮かばないのさおいらには。説教していくうちにだんだん芽生えていく何かがだな…」 天狗Q「殺意か何かが芽生えるのか? 四季様もいいがこまっちゃんと霖之助の酒飲み談義が聞きたいね俺は! 聞けるなら仕事サボる!」 大天狗「天狗Qちょっと後で来い。しかし西行寺の嬢ちゃんなどいいと思うのだが。霖之助は風情を大切にする男だ。妖夢は娘ポジで」 天狗R「娘? フ ラ ン ウ フ フ」 天狗S「ここまで幽香霖が話題に出ないのに俺が泣いた。ドS同士何か芽生えるものがあるだろうに」 天狗T「本読み友達でパッチェさんとか最高……是非薀蓄議論を展開して欲しい」 天狗U「あー名前が分からないけどあの朱鷺っぽい娘。あれは一目ぼれした。是非霖之助の嫁に。ダメなら娘に。看板娘でも可」 天狗V「どうしようもない店主にさらにどうしようもない天人が降りてきた。次の連載小説は決まったッ!」 天狗W「ちょっと今度天狗権限で河童けしかけてみるわ。案外うまくやると思う」 天狗X「すいません、アリスを忘れないでください……同じ森に住んでるんです……」 天狗Y「らあぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁん!! 知的冷静カップルやほぅぅぅい!!」 天狗Z「お前ら霖之助をハーレム状態にするの好きだな」 天狗A~Y「何がハレームだ。霖之助は(少女の名前)とくっつくのが一番いいんだ」 643 :名前が無い程度の能力:2009/01/20(火) 19 15 44 ID XZPLYR/Q0 なんてキモいカプ厨天狗達・・・これは間違いなく俺ら その後の流れ 659 :名前が無い程度の能力:2009/01/20(火) 21 23 32 ID XBI1Z7NAO 衣玖さんとさとりんが入ってないのは納得いかないって天狗αと天狗βが言ってた 661 :名前が無い程度の能力:2009/01/20(火) 21 30 44 ID Op9zYOrw0 取りあえずsageようぜ あと、何故か簀巻きにされてた天狗γが「わた、犬走椛が入っていないのは天狗Gの陰謀です」って言ってた。 663 :名前が無い程度の能力:2009/01/20(火) 21 33 50 ID FWJw1CW20 今日は不在の天狗δと天狗εから、大妖精と美鈴を推しといてくれって伝言を預かってきたんだが 670 :名前が無い程度の能力:2009/01/20(火) 21 58 56 ID g8a842Bg0 天狗たちは霖之助にいったいどんな恩があるんだwww 675 :名前が無い程度の能力:2009/01/20(火) 22 32 47 ID zemAGDhgO 670 恩があるわけじゃない。 面白いから語ってるだけだ(笑)。 って、雛霖を押してる天狗555が言ってた 678 :名前が無い程度の能力:2009/01/20(火) 23 25 37 ID fMoUDRls0 旧作キャラにももっと目を向けるべきだと思う。特に魅魔様とか。 って天狗Ωが言ってたよ 切っ掛けになったと思しい流れ(ただし裏スレである) 295 :愛欲が尽きない程度の能力:2008/12/31(水) 17 31 50 ID quhZefMo 文々。新聞以外にも取材に来た天狗はいるかもしれんぞ 302 :愛欲が尽きない程度の能力:2008/12/31(水) 18 09 59 ID L2kcvhAc 294 相変わらず椛は犬だぜ! 295 ああ、俺らみたいな天狗が 「本命は誰?」 「文はどうだ?」 「やっぱり妹的存在との禁忌というのは……」 とか、取材とは思えない取材を繰り広げるのだな 306 :愛欲が尽きない程度の能力:2008/12/31(水) 18 44 06 ID snLtHv0Y ちょっと山行って天狗になってくるからお前ら早く俺のこと忘れろ 307 :愛欲が尽きない程度の能力:2008/12/31(水) 18 46 33 ID ixC6CLHg え、みんな天狗じゃないの? わしだけなの? 309 :愛欲が尽きない程度の能力:2008/12/31(水) 19 19 00 ID M9.D8tpU 森近霖之助を攻略する乙女達を生暖かい目で見守る天狗達19日目 「せっかくだから俺は紅い妹を選ぶぜ!」 「待て、それはもこたんか? それともフランちゃんウフフか?」 「何故だ……何故巫女がプッシュされない……」 「天狗ならあややだろJK」 「いやいや椛だろTK」 「誰か、慧音先生と大人の恋愛をする店主の姿を見たい者はおるか!」 「そんなことより妖精牧場を香霖堂にだな」 「こまっちゃんとちゅっちゅしながら酒を呑む霖之助を見たいよぅ」 「閻魔様も忘れないでね!」 「お前らぁよく聞け、妖夢ちゃんをいぢめる店主こそが至高だ!」 「おしとやかさのある幽々子様が一番だ、庭師として仕えたワシにはわかる……」 「苦労人カップルってよくね? らんしゃまとかさ……」 「ゆ か り ん は ど う し た」 こうだな? (*森近霖之助を攻略する乙女達19日目より)
https://w.atwiki.jp/churuyakofu/pages/218.html
次の話へ 【趣味が高じて……】 魔法の森に店舗を構える香霖堂。 大抵の客は商品の代価を払わないこの店にも、まともな客がこないわけではない。 この日香霖堂に訪れたのは、そんなまともな客の一人、アリス=マーガトロイドだった。 「いらっしゃい」 相も変わらず来客に一言だけ発して手元に目を落とす霖之助。 「毎回思うんだけど、もう少し丁寧に応対したら? お客さんとして言わせてもらえば、品揃えが同じでも店員の態度がいい店を選びたいものよ」 「僕はそうした応対が苦手でね。この店は半ば僕の趣味であり、趣味とは楽しむものだ。 ここに苦手なことを無理やり組み込めば、店を続けること自体が苦痛になっていくかもしれない。 その結果店を閉めることになれば、それこそお客さんに迷惑だろう。 よって僕は僕の思うがままに応対させてもらう」 何を言っても無駄か……。そう思ったアリスがふと霖之助の手元に目をやると 「霖之助さん……裁縫できたの?」 普段本を読んでばかりいる店主の手元には、珍しく針と糸が握られていた。 霖之助といえば家事か商品の仕入れか読書しかしないものだと思っていたアリスにとって、これはかなり意外だった。 実際のところ霖之助は裁縫もするしマジックアイテムも作れるなかなか多芸な男であり、 まれにしか店に訪れないアリスが今日までそれを目にすることがなかっただけなのだが。 「魔理沙や霊夢が弾幕ごっこで破れた服の修繕を押し付けてくるからね……。 霊夢の服を一から仕上げることも度々あるし、今ではそれなりの腕だと自負しているよ」 対価をもらったことは一度としてないけどね……と愚痴る霖之助に苦笑いで応えるアリス。 ここでふと思い当たる。洋服の仕立てに必要な事を。 「霖之助さん……霊夢の採寸したの?」 「……」 アリスの頭では早くも霊夢の服を脱がせてサイズを測る霖之助の図が展開されている。 視線から軽く軽蔑の念を感じた霖之助は、いらぬ誤解を避けるために口を開くことにした。 「君は洋裁を基準として考えているようだが、霊夢の服は和服を基本とした物だ。 そして、和服は基本的に着る者に合わせてサイズを変えることはほとんどないんだよ。 和服には基本的に子供用、女性用、男性用があるだけ。細かい調節は着付けの段階でやることなんだ。 だから霊夢の身長さえわかっていればあとは何とでもなる」 「随分いい加減ね……。服を作るなら着る人に最適なものを作るのが誠意というものだと思うけど」 「確かにそうかもしれないが、そうすると本人しか着れなくなるだろう? 特に女性は出産で体型が変わることもあるし、この方法なら親から子に高価な服を受け継いでいくこともできる。 君に言わせれば、大切な人間に送る服は相手に合わせて仕立てるべきなんだろうが、 日本人は金に任せて新しく作ったものよりも、自分が長い間大事にしていたものを与えることにより大きな意義を見出し ている。 自分がそれほど大事にしてきたものを授けるくらいに、相手を愛しているということだからね」 そう言われると、アリスも否定する気にはならない。 むしろ和裁というものに俄然興味が湧いてきた。 今までの自分とは異なる発想。その発想に基づいて積み重ねられた技術なら、何か人形作りに活かせるかもしれない。 それに、この店主は他にもいろいろ知っていそうだ。 「霖之助さん、和服と洋服の違いについてもう少し聞かせてくれる?」 霖之助としては正直めんどうくさいのだが、この少女は上客だし、機嫌を損ねるのは得策ではない。 それに和服に興味を持ってくれれば、さらに売り上げが期待できるかもしれない。リスクがタダ話なら安いものだ。 「いいだろう。まず……」 これが全ての始まりだった。 「ふう……なかなか上手くはいかないものね……」 ここは魔法の森、七色の人形遣いことアリス=マーガトロイドの自宅である。 あれから数週間、アリスはひたすら日本人形の作成に勤しんでいた。 コンセプトが違うとはいえ基本は同じ人形、すぐに完成させてみせると意気込んだアリスだったが、現実はそんなに甘くはなかったようだ。 「おかしいわねえ。この前聞いたとおりにやってるはずなんだけど。ちょっと確認してもらったほうがいいのかしら?」 日本人形の作成を始めて以来、アリスが香霖堂に足を運ぶ頻度は右肩上がりに上昇している。 人形作りとなると驚異的な集中力とこだわりを見せるアリス。 最初に和裁への興味を植えつけたこともあって、わからないことがあれば霖之助に相談することになっている。 「よし、善は急げ。試行錯誤も大事だけど、素直に助けを求めるのも大事よね!」 そう結論付けたアリスはいそいそと荷造りを始めた。 所変わって香霖堂。 アリスの人形を見た霖之助はその問題点を把握、早速アリスに講義を開始した。 「おそらくここの縫い合わせがその後の作業に微妙な狂いを起こしたんだろう。ここの工程は非常に複雑だから無理も ないが……」 普段は買い物目的以外の訪問者を好まない霖之助だが、趣味が近いこともあってアリスの来訪はわりと歓迎しているようだった。 なにしろ人形作りの知識になるからということで、霖之助の薀蓄を真剣に聞いてくれる。 おまけに物覚えもよく、指導したことはすぐに吸収し、必要になれば布や糸まで買ってくれる。霖之助にとっては理想の客と言えた。 「なるほど……これはもっともっと頑張らないといけないかしらね」 「まあ、この前始めたにしては十分すぎるほど上達しているよ。流石という他ないね。 これはそのうち僕が君に教わることになりそうだ」 「ふふ、ありがとう霖之助さん」 その後もたわいない会話が続き、気付けば夕日が差し込む時間。 「あら、もうこんな時間? 今日はこのあたりにしておきましょうか?」 「そうだね。若い女性の一人歩きはよろしくない。暗くなる前に帰ったほうがいいだろう」 その言葉に少し悪戯っぽい笑みで返すアリス。 「なに? 心配してくれるの?」 「当然だろう? 君がいくら強くても万が一ということもある。 折角できた趣味の合う友人を、心配するなと言うほうが無理というものさ」 まさかここまで大真面目に心配されているとは思わず、アリスの思考が一瞬停止する。 「……どうかしたかい?」 「う、ううん、ないでもないの! それじゃあ暗くなるといけないから帰るわね!」 「そうかい? じゃあ気をつけて。またいつでも来てくれたまえ」 家に戻るころには多少落ち着きを取り戻していた。 アリスは今日教わったことを忘れぬようにと、すぐ人形作りを再開。 順調に手が進む。やはり霖之助に相談に行って正解だったようだ。 それにしてもあの店主とここまで話をするようになるとは、ついこの前まで思ってもいなかった。 接客もせずに本ばかり読んでいる偏屈物。そんなかつての評価は跡形もない。 「……ふふ」 今日のやり取りを思い出すと自然に笑みが浮かぶ。 今度は人形作りとか、買い物とか、そういうのは抜きで香霖堂に行くのも良いかもしれない。 そんなことを考えながら、アリスの1日は過ぎていった。 そしてまた数日が過ぎたある日、 「で・・・できたーっ!」 魔法の森にアリスの声が響き渡った。 声の主、アリスは先ほど完成した人形を頭上に掲げ、どこぞの厄神の如くくるくると回っている。 今回作成した人形は、今まで作ってきたものとは作り方がかなり異なる日本人形である。 基本となる人形の体は何とかなったが、慣れていないせいか和服の作成に苦労した。 その分、喜びもひとしおと言うわけだ。 「今日はお祝いね! 久しぶりにフルコースでも作ろうかしら? あーうれしー!」 たっぷり30分は喜び続けたアリス。そろそろ料理に取り掛かろうと考えたところでふと気付いた。 「霖之助さんにも見てもらわないとね……!」 新しい人形を嬉しそうに抱きしめつつ、つぶやくアリス。 実際、今回の人形作りでは霖之助に随分と世話になった。霖之助のアドバイスがなければ到底完成しなかっただろう。 「見てもらうだけっていうのもなんだし、お礼もしないとね……よし!」 「こんにちわ、霖之助さん!」 「ああ、いらっしゃい。人形作りは順調かい?」 「ふっふっふ……これを見なさい!」 アリスの差し出した人形を手に取り、目を丸くする霖之助。 「すごいな……とても初めて作ったとは思えないよ」 「でしょう? 我ながら上手くできたと思ったのよ!」 えっへん! と胸を張るアリス。 「ふむ……いやたいしたものだよ。よく頑張ったねアリス。おめでとう」 そう言って体を乗り出し、アリスの頭を撫でる。 「あ……ありがとう……」 さっきまでの勢いはどこへやら、アリスは顔を赤らめて俯いてしまう。しかしその顔は照れ笑いで本当に嬉しそうだ。 「わざわざ見せに来てくれたのかい?」 「ええ、霖之助さんがいなかったら完成しなかったもの。霖之助さんに見せないなんてありえないわ!」 本当に嬉しいのであろう、いつもよりテンションの高いアリスを見て霖之助も顔を綻ばせる。 「そういうわけで、今日はお礼とお祝いをかねて夕御飯をご馳走するわね!」 「僕は自分の知識を自慢しただけで、大したことはしていないよ。 と言っても、折角作ってくれるというのを断るのも失礼だ。お願いするとしよう」 「任せて! といっても、作るのはほとんど人形だけどね」 と、軽く舌を出すアリス。 (初めて会ったときはこんな表情をする子だとは思わなかったな……) そう思う霖之助だが、口から出たのは違う言葉だった。 「そういえば君は家事を人形にさせているんだったね。折角だし、人形たちが料理するところを見ててもいいかい?」 「……霖之助さんらしいわね。別に見られて困るものでもないし、いくらでもどうぞ。私は代わりに店番をしておくから」 本当は料理を人形に任せて霖之助と話がしたかったアリスだが、お礼をしに来た手前そんな我侭は言えない。 話すのは料理を食べながらでもできるか、とここは引き下がることにした。 「いいのかい? 別に店は閉めても構わないんだが・・・」 「お礼をしに来て店に迷惑をかけるわけにもいかないでしょう? いいから今日は私に任せなさい!」 胸を張るアリス。 そこまで言われては無理に断るのも悪い、という結論に達し、霖之助は人形たちとともに台所に引っ込んでいった。 「ああは言ったけど……お客さんなんて来ないじゃない……」 張り切って店番を始めたアリスだったが、店内には見事なまでに閑古鳥が鳴き続けていた。 こんなことなら店を閉めてもらってもよかったかな……。いやいや、まだお客さんが来ないと決まったわけじゃない。 そんなことを考えていると、店の扉が開く音が聞こえた。 正直待ちくたびれていたが、店番を引き受けた以上疲れを見せるわけにはいかない。 「いらっしゃいまs「おーっす香霖!」」 渾身のいらっしゃいませをさえぎって入ってきたのは、自称普通の魔法使い、霧雨魔理沙だった。 「あれ? 何でアリスが店番してるんだ? 香霖はどこ行った?」 「……まあいいわ。説明してあげる」 どっと疲れが出たのを感じつつ、律儀にこれまでの経緯を説明するアリス。 「と言うわけで、今は代わりに店番してるの」 「なんだなんだ、人が研究で篭ってる隙にこそこそと。そういう時は一言教えてくれるのが人情ってもんだぜ」 「あんたが来なかったんでしょうが……」 「で、いま気合の入った料理作ってんだろ? こりゃ晩飯が楽しみだ」 「話聞きなさいよ……。ていうか、あんたの分まで作ってるわけないでしょうが」 「薄情なやつだな全く。まあいい、今日は退散しとくぜ」 「珍しいわね……。強引に奪ってでも食べそうなものなのに」 「お前は私を何だと思ってんだ? 今日は仕入れに来たんだよ。まだ研究の目途がたってないからな」 そう言って店内を漁りだす魔理沙。 「じゃ、香霖とよろしくやってな」 「ちょっと待ちなさい」 そのまま出て行こうとする魔理沙を引き止める。 「お、ご馳走してくれる気になったのか?」 「んなわけないでしょうが。あんた商品持っていくならお金払いなさいよ」 「香霖から聞いてないのか? 私は借りてるだけだから代金はいらないんだぜ?」 「あんた私や紅魔館だけじゃなくてここでもそんなことしてたの!? とにかく今は私が店番してるんだから、きっちり代金は請求するわよ!」 「よう、香霖。邪魔してるぜ」 「ああ、霖之助さん? 今ちょっと魔理沙と売買の神聖さについて話してるから……」 と言いつつ台所のほうを振り合えるが、霖之助の姿など影も形もない。 「引っかかったな! 甘いぜアリスーーーーぅぅぅぅ……」 その隙を突いて箒で飛び出す魔理沙。あっけにとられたアリスが我に帰ったときには、その姿は遥か彼方に消え去っていた。 「まったく魔理沙ときたら! 霖之助さんももっと厳しく言わないと駄目よ!?」 「言って聞くような相手なら苦労はしないんだけどね」 さっきから憤りっぱなしのアリスに対し、霖之助は既に諦めているらしく、苦笑しながら料理を食べ続ける。 結局店番を放りだしてまで魔理沙を追いかけるわけにもいかず、見逃す結果となってしまった。 アリスとしては憤懣やるかたないが、店主がこれではアリスが怒っていても仕方ない。 「それにしても美味しい料理だ。洋食はよくわからないが、人形に遠隔操作させてこれなら君自身の手料理はもっと 美味しいんだろうね」 「まあ、自分で作れないものを人形を介して作れはしないわね」 「それはいいことを聞いた。是非君自身が作った料理を食べてさせて欲しいね」 一瞬、『僕のために味噌汁を……』という台詞が頭に浮かんで顔が熱くなる。 (まあ実際は好奇心で言っているんだろうけど・・・) かと思えば、そう思った途端に顔の熱は消え、少し寂しさを感じる。 (……参ったわね) どうやら自分は、自分が思っている以上にこの男に好意を抱いているようだ。 「ご馳走様。実に美味しかったよ」 「はい、お粗末さまでした」 食事が終わった後も2人の会話は途切れることはない。話題は主に今日完成した人形について。 どこどこが大変だった、あそこは割りとスムーズに行ったとアリスが語り、 その割には良くできていた、流石高名な人形遣いだと霖之助がほめる。 会話は収まる所を知らず、むしろさらにヒートアップしていく。 霖之助が人形を手に取って、細かい箇所を指で示しながら語り出し、アリスも霖之助の真横に腰を下ろして手元を覗き込む。 その状態で霖之助の講釈を聞いているうち、いつのまにか霖之助にしなだれかかるような体勢になっていることに気付く。 そのときアリスが感じたのは、拒絶でも喜びでもなく、驚きだった。 話に夢中だったとはいえ、自分がここまで無防備に他人に近寄っていることに。そしてその相手が男性であることに。 しかしその変化は忌避する類のものではない。むしろなんとなく心地よさを感じる変化と言えた。 こうなると気になるのは霖之助がどう思っているのかである。 こっそり様子を伺うが、霖之助のほうは気にした様子もなく口を動かし続けている。 別に霖之助を誘惑するつもりはない。 好意を抱いていることに間違いはないが、まだ積極的にどうこうなりたいというほどに強いものでもない。 それでも自分は女性で、彼は男性だ。こんなに近くに居るというのに、本当になんとも思っていないのだろうか。 そもそも自分から通っていたとはいえ、ここ数週間の間に何度も2人きりになることがあった。それなのに、一度も自分はそういう目で見られなかったのか。 自分もついさっきまでそういう目で見ていなかったことを完全に棚に上げているが、まあそこはご愛嬌。 とにかく、ちょっとだけ女としてのプライドが傷ついたアリスだった。 「おや、もうこんな時間か」 気付けば日はすっかり落ち、辺りはすっかり闇の帳が落ちていた。 「普段なら帰るよう促すところだが……」 そう言いつつ立ち上がった霖之助は、ちょっと待っていたまえと言い残して奥に引っ込む。 戻ってきた霖之助の手には酒瓶とお猪口が2つ握られていた。 「これは霊夢の略奪から運よく逃れた一品でね。折角のお祝いだし、今日飲んでしまおう」 霖之助としても、完成した人形を褒めるだけでは物足りない。 優秀な弟子を労うべく、縁側に出て月見酒と洒落込むことになった。 「僕はこうして月を肴にちびちびとやるのが好きでね。 魔理沙なんかは『酒は豪快に飲んで豪快に酔うもんだぜ』などと言って風情を楽しむということをしない。 その点、君は繊細さで言うと魔理沙とは比べ物にならないし、きっと理解してくれると思うんだが」 乾杯、と杯を軽く合わせ、注がれた酒を少し口に含む。 普段余り酒を飲まないアリスでも、なんとなく良い酒なのだろうとわかった。 「これって結構いいお酒じゃないの? 私より他にお酒の事がよくわかる相手がいると思うんだけど」 「構わないさ。君は僕にとっていわば弟子のようなものだ。頑張った弟子にご褒美を上げるのも師匠の義務というものだよ」 「そう、そこまで言われちゃ断るのも失礼ね。ありがたく頂くわ」 先ほどまでとは打って変わってほとんど会話はなかったが、アリスも霖之助もこの雰囲気を楽しんでいた。 杯を開けては互いに酒を注ぐ。月を眺め、風の音を聞き、ちびりちびりと酒を味わう。 たしかにこれは良い。じんわりとなんともいえない心地よさが広がっていく。 「霖之助さん」 「うん?」 「ありがとう。今日は最高の一日だわ」 月を眺めながらそうささやく。 白い肌は酒のせいかうっすらと上気し、月明かりを受けて神秘的なまでに美しい。 そして何よりも、その微笑みがとても綺麗で、思わず我を忘れて見とれていた。 (参ったな・・・) 自分は当の昔に枯れ果てている。そう思っていたが、 (僕の中にも、まだ男としての感性が残っていたとはね・・・) そんなことは、自分の勝手な思い込みに過ぎなかったようだ。 ここ最近、アリス=マーガトロイドの生活は非常に充実していた。 新しい技術に出会った。 習得するために努力を続けた。 その成果は自分の予想をずっと上回るものとなった。 まだまだ反復し体に覚えさせなくてはならないが、自分を成長させるためならそれすらも喜びと言える。 なのに、 「はぁ……」 口から漏れるのはため息ばかりだった。 数日前に日本人形を完成させたアリス。 生まれて初めて作ったそれは、商品として見ても申し分のない完成度であり、アリスにとって師といえる霖之助も太鼓判を押してくれた。 とはいえ、まだまだ基本を修めたばかり。和と洋の技術を融合させるには至らない。 今は続いて2体目の製作に取り掛かっているところである。 1体目に比べ作業は順調そのもの。 不満などあるはずがないのだが、気がつけば手を止めて物思いにふけっている。 「……私がこんなに寂しがりやだとは思ってなかったわね」 所変わってここは香霖堂。 今日も今日とて、店主の霖之助は読書に没頭……してはいなかった。 なにかやることがある訳ではない。いつもどおりに椅子に腰掛け、いつもの姿勢で本を開く。 後はいつものとおりに本の世界にのめり込むだけなのだが、気がつけば店の扉に目をやり、本をめくる手は止まっている。 「いったい何を期待しているんだろうね……僕は」 ここ最近、森近霖之助の生活は非常に充実していた。 同じ趣味を持つ仲間に出会った。 自分の持つものを惜しげもなく伝授した。 教え子は全幅の信頼を寄せてくれるばかりか、想像以上の成長を見せてくれた。 すぐに自分など追い抜いていくだろうが、それすらも楽しみにしている自分がいる。 なのに、 「ふぅ……」 口から漏れるのはため息ばかりだった。 最初の人形が完成して以来、アリスは1度も香霖堂に訪れていない。 自分ひとりの力で2体目を完成させたい。いつもいつも霖之助を頼るわけにはいかない。 純粋な向上心から霖之助にそう言ったアリスだが、すぐにどうにも落ち着かない自分に気付いた。 霖之助に助言を請い、そのまま香霖堂で人形を作っていたときを思い出す。 会話こそほとんどなかったが、どこか暖かさと安らぎを感じていた。 別に毎日香霖堂で過ごしたわけではない。自宅で人形を作る時間も決して短くはなかった。 それなのに、たった数日霖之助に会っていないだけなのに、心に穴が開いたように感じられてならない。 今まで普通に生活してきた家の中がやけに広かった。 「うー……」 テーブルに頬を押し付けて唸ってみるが、そんなことで気が紛れるわけもない。 香霖堂に行きたい。それは間違いないのだがどうにも踏み出せない。 霖之助に呆れられるのが怖いのだ。 ―――君はもう少し意志が強いと思っていたんだけどね――― そんな台詞が頭をよぎるだけで全身が凍りついたような錯覚すら覚える。 実際には彼がそんなことを言うはずはないとわかっているのだが、万が一を考えると二の足を踏んでしまうのである。 ここ2日ほどそんな葛藤を繰り返していたのだが、 「あーもうやめやめ! 自力で頑張るったって、こんなんじゃいい人形ができっこないわ!」 ついに限界がきたようだ。 霖之助がどうこう言い出しても押し切ってやろう。 そもそも自分がこんなことで悩むようになったのは霖之助の責任だ。 責任がある以上霖之助にはこのもやもやを取り払う義務がある。 理不尽なようだが、ぐるぐると考えることに疲れたアリスはそのことに気付かない。 「見てなさい! 私だって我侭言いたいときくらいあるんだから!」 「……着いた」 勢いのままに香霖堂の前まで来てしまったが、ここまで来ると多少冷静にもなる。 大丈夫よアリス。この前まで普通に話していたじゃない。拒絶されることなんてありえないからそんなに心臓バクバク言わせてんじゃないわよ。 大きく深呼吸を2回。よし、少なくとも顔には出さなくてすむだろう。あとは淡々と、しかし強気で押し切るのみ。 バタン 店の戸を開く音が来客を知らせてきた。だが今回の訪問者は自分の望んでいる人ではないだろう。 何しろ、彼女はもうしばらくは家から出てこないと言ったのだから。 そんなことを考えつつ顔を上げた霖之助が見たものは、 「いらっしゃ・……い……?」 「お久しぶりね、霖之助さん」 来るはずのない、されど待ち焦がれた人形遣いの姿だった。 完全に意表を衝かれ、動かなくなる霖之助。 アリスはアリスで、さっきまでの強気はどこへやら。 「何で来たんだい?」 とか言われやしないかと気が気ではない。 2人の間に沈黙が降りる。 真顔で行われるにらめっこに、先に耐えられなくなったのはアリスだった。 先手必勝とばかりに言葉がつむがれていく。 「その、まだ2体目は完成したわけじゃないんだけどね。なんていうか今まで事あるごとに相談してたから一人で 篭ってるとしっくり来なくて。そりゃ私も『自力で完成させるまで助言は請わないから!』なんていった手前ここに 来るのはちょっと気が進まなかったんだけど、そもそも私の目的は人形作りの技術を身につけることであって、 一人で人形を完成させるのはその手段に過ぎないわけ。 だから調子が出ないのに意地張って作業を停滞させるくらいなら、当初の方針を少しくらい曲げてでも、目的を 達成するために有効な手段をとるのは悪いことではないでしょ? 言っとくけど別に霖之助さんがいなくて寂しいなとかそういうんじゃないから。 環境を変えたせいで調子が出なかったのを何とかしようと思ってここに来ただけだから。 あとここのほうが家よりはかどるなら家で作業する必要はないわよね。 これから毎日朝から夕暮れまで通わせてもらうわ。言っとくけどあくまで作業効率のためよ。 本当は夕方とは言わず夜まで居たいところだけど、前に霖之助さんが心配してくれたし、 暗くなる前には帰ることにしておくから。 もちろんただとは言わないわ。家事は人形たちにさせるし、料理は私が作ってあげる。 霖之助さんも読書に集中できるし、私は魔理沙や紫や霊夢と違って霖之助さんの邪魔はしないから悪い条件じゃない でしょ? というかもうそのつもりで用意してきたから空いてる部屋に荷物置かせてもらうわよ」 本人はいたって冷静なつもりだが、誰がどう見てもいつものアリスには見えない。おまけにごまかそうとして逆に本音がちらほら漏れている。 そもそも普段自分がこんなにまくし立てたりはしないことに気付いていないあたり、アリスもかなりテンパっているようだ。 そんなアリスを呆然と眺める霖之助。 反応が返ってこないことで再び不安になるアリス。 なんで何も言ってこないのよ。 唐突過ぎて驚いているのかしら? それとも呆れられた? 自分から来ないと言い出して連絡もしなかったくせに今度は毎日来るとか言い出したのは拙かったかな。 でも理屈としてはおかしいところはないはずよね……いやでも……。 ええい! なんでも良いから早く何とか言いなさいよ! 緊張のあまりすでに足元の感覚すらなくなっている。 ほんの数秒が永遠のように感じられて気が遠くなりそうだ。 一方の霖之助はというと、普段と違うアリスに戸惑ってはいたものの、要はまた足しげく通ってくれるのだなと結論付けることにした。 「わかった。そういうことなら協力することもやぶさかじゃないよ。 奥に入って突き当たりを左の部屋が空いているから好きにしたまえ」 一瞬その言葉が理解できずに固まるアリス。頭の中で霖之助の言葉がゆっくりと翻訳されていく。 好きにしたまえ→ 部屋を使っても構わない→ 毎日通ってきてもいい! そこまで理解した瞬間、アリスの頭の中で数万人のミニアリスが一斉に諸手を天に向かって突き上げ、大歓声が響き渡った。 おもわず自分まで叫びそうになるが、ここまで喜んでいるのを気取られるのも恥ずかしい。 落ち着け。声を上ずらせるな。後一言、一言だけ返せば部屋で思い切り喜べる。 「そそ、そう? よかった。じゃあ勝手に使わせてもら、もらうわね」 多少噛んでしまったが問題ない。この心境でここまで抑えられれば上出来だ。さあ早く部屋に。もう平静を装うのは限界だ。 だがここで奥に上がろうとするアリスに霖之助が声をかける。 「ああ、アリス」 ビクッと肩が震える。 いったいこれ以上何があると言うのか。話なら後でするからもう開放してほしい。 それともやっぱりダメと言われるのだろうか。 いい加減爆発しそうな心臓の鼓動を感じながら振り返ったアリスが見たものは、 「ありがとう。また来てくれて嬉しいよ」 心の底から嬉しくたまらない、そんな霖之助の笑顔だった。 スー……、パタン。 霖之助にあてがわれた部屋に荷物を置きにあがったアリス。 廊下から見えないように襖を閉めると、糸が切れた人形のように崩れ落ちる。 「はぁぁぁぁぁぁぁぁ……」 畳に腰を下ろして両手を突き、大きく息を吐く。 本来陶磁器のように白い肌は首まで真っ赤に染まっていた。 心臓はここで一生分働きつくしてやると言わんばかりに回転数を上げ、手足はいまだに軽く震えている。 (あれは反則にも程があるわよ……!) 叫びだしたくなるほどに昂ぶる感情を抑え、アリスは先ほどのことを思い出す。 『ありがとう。また来てくれて嬉しいよ』 ただでさえ受け入れられたことが嬉しくて頭が煮立っている所だというのに、そんなことを言われた日にはもう声も出せなくなってしまう。 真っ白な頭の中とは正反対の真っ赤な顔で、カク……カク……と壊れた人形のように首を縦に振り、転びそうになるのを何とかこらえて部屋に辿り着いた。 訝しがられたかも知れないが、取り繕うことなど不可能だ。 スキマと閻魔と花の妖怪と亡霊の姫に同時に喧嘩を売って無傷で生還するくらい無理だ。 霖之助の笑顔が頭から、言葉が耳から離れない。 上海と蓬莱を呼び寄せて力いっぱい抱きしめる。 「~~~~~~~っ」 声にならない叫びと共に畳の上を転げ回るアリス。その顔はこれ以上ないほどにやけまくっている。 来てくれて嬉しい。 来てくれて嬉しい。 来 て く れ て 嬉 し い! それはつまり、霖之助もアリスに会いたかったということだ。 それもあの朴念仁がわざわざ口に出して思いを伝えるほどに。 期待しすぎてはいけないと理性が警鐘を鳴らそうとするが、このくらい自惚れたって構わないだろうと黙らせる。 いつまでも悶え続けるアリスが再び霖之助と顔を合わせられる程に落ち着くのは、相当後になりそうだった。 一方の霖之助は、部屋から聞こえてくる妙な音に首をひねっていた。 アリスが毎日香霖堂へ通いつめるようになって数日、そろそろ生活のリズムも定まってきた。 朝は夜明けともに起床。サンドイッチなど簡単な朝食を作ってバスケットに押し込み、身だしなみを整えて香霖堂へ。 霖之助も朝は早いのでアリスが来るころには起きている。挨拶を交わしつつ奥の座敷にあがりこむ。 持ってきた朝食を2人で平らげ、食後はのんびりと霖之助が淹れてくれた紅茶を味わう。 本当は自分が淹れてあげたいのだが、『このくらいはさせてくれ』と言われては無碍に断るわけにもいかない。 使った食器を仲良く台所で並んで片付け、霖之助が店の部分を、アリスが住居部分の掃除を行う。 このとき服が汚れてはいけないからと割烹着に三角巾を借りるのだが、日本人離れした顔の割りに良く似合う。 一段落したら霖之助は店番。アリスは客の邪魔にならない場所に椅子を置いて人形作りに取り掛かる。 紅白の巫女や瀟洒なメイド、竹林の師弟に白玉楼の庭師などが来店するが、 これら頻繁に訪れる客にはすでにアリスが霖之助に師事していることを説明済みのため、特にどうこう言われることはない。 日が西に傾き始めれば夕食の用意を始める。 アリスの専門は洋食だが、霖之助が和食を好むため教わりながら作ることも多い。 かつてアリスが語った通り、彼女の腕前は人形たちより数段上だった。夜雀のように店でも開けば大盛況間違いないだろう。 2人で存分に舌鼓を打つと暗くならないうちに自宅に戻る。 人形作りの道具は全て香霖堂に置いてあるため、帰宅してからはスペルカードや人形の操作について研究し、早めに就寝する。 何の不満もない幸福な生活。強いて言えばいっそ香霖堂に住み込んでしまいたいが、それはまだ早いだろう。 自分も霖之助も人間に比べてずっと長く生きる。焦らなくて良い。むしろ親密になっていく過程をじっくり味わおう。 自分の人生はいまから絶頂期に入るのだ。 ……そう、思っていた。 次の話へ
https://w.atwiki.jp/churuyakofu/pages/282.html
機織とは、好機であるにも関わらずそれを逃す行為、フラグブレイク(旗折り)を指す。 フラグ自体はある出来事(恋愛の成就、死亡など)の前触れとなる起点を指す。 幻想郷はファンにとってまさしく理想郷であり、登場人物の少女達もまた理想である。 そんな少女に囲まれるというのは羨ましい限りのことだが、現在唯一東方世界で実態を伴った存在が確認されるのは霖之助のみである。 境遇だけならばハーレムと捕らえる輩もいるであろう中、少女達の思わせぶりな態度を流すように裁ききった霖之助はしばしばフラグブレイクの達人と称される。 と言っても原作中で明確に霖之助に思いを寄せる少女の描写は皆無である。 そもそも霖之助が相応の態度しか見せなかったのは当たり前とも取れるが、二次創作における「鈍感」のような設定に生かされる要素にもなっている。 ちなみに死亡フラグは何故か折れない。