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前ページ次ページPersona 0 Persona 0 第十八話 「ぐがぁあああああAAAAAAAAAAA!」 肉が軋む鈍い音を立てながらジュリオの体が作りかえられていく、韻竜の幼生を火龍山脈のサラマンダーを、鍛え上げられたグリフォンを、 そして数知れぬ多くの幻獣たちを取りこみながら、ジュリオが一匹の巨大な獣へと姿を変えていく。 次々に新たな命を取り込み異形を深めるジュリオ、その変態を主であるヴィットーリオは悲しそうな瞳で見つめていた。 だがその悲しみの奥底には奇妙なことだが歓喜にも似た熱が宿っている。 悲哀と歓喜、その矛盾した二つはけして相反することなくこの一人の狂信者のなかで息づいている。 ――そしてそれは、彼の使い魔もまた同じ。 「はぁっ、はぁっ、はぁ、ふふふ、どうだいヴィンダールヴもすごいもんだろう?」 そうたとえ使い魔のルーンなどなくとも彼〈ジュリオ〉は彼〈ヴィットーリオ〉の使い魔だ。 主を守り、主の目となり足となり、主の望んだことを行う。 使い魔の役目とされているその役目を誰よりも忠実に果たすと言う意味にかけて、ジュリオに比肩しうる者はないのだから。 そして今のジュリオはヴィットーリオの〈夢〉にその身すべてを捧げた。 天に向かって腕を伸ばすその姿が何に似ているかと問われれば、おそらく多くの人間がこう答えるだろう。 〈天使〉と。 だが、その天使は天からの使いと言うにはあまりにも生々しすぎる肉を身に纏う存在だった。 確かにその背中には巨大な三対の翼が有り、頭上には球状の塊がそのうちに白熱した炎を灯して輝いている、全体のシルエットは歪ながらも人のように見える。 しかしいくつもの幻獣をその血と肉としたその天使は、傍から見ればあまりにも毒々しい。 そしてよく見ればロマリアの地下で使われるのを待ち続けていた〈場違いな工芸品〉の数々もその体に融合していた。 右腕には三対のカラシニコフが機関砲の如く聳え、その背の翼の骨格はおそらくかつて聖槍と呼ばれたものの模造品。 他にもさまざまな時代な多様な兵器を内蔵した今のジュリオは、さながら生きた要塞とでも言うべき存在となっていた。 そのマジックアイテムの名前は〈ヴィンダールヴの鞭〉 人、或いは獣を、ヴィンダールヴが使役するための最強の「聖獣」へと作り変える、けして使われることのなかった奇蹟の残り香。 「ほら、こんなこともできる……!」 「――――!?」 ジュリオの六本の手のうち竜の形を蒼い腕がタバサに向けて手を伸ばすと、ふわりとタバサの体が浮き上がる。 「い、いやっ……」 短い叫び声、それに満足したようにジュリオは軽く笑うと自分の体の一部に命じて、腕を巡る精霊の力を強くした。 引き寄せられる華奢な体、一瞬でタバサはジュリオの体へと引き寄せられ…… 「やめ、こんなの……やめっ!?」 「おねえさま、シルフィと一緒になるのね、きゅいきゅい」 ジュリオの体から浮き上がった蒼い竜の顎に一飲みに飲み込まれる。 ごくりと喉を鳴らしたシルフィードは、そのままジュリオのなかへと沈んでいった。 「ふ、ははは、まずは一人……! いや二人かな?」 その顔だけを天使の額から露出させた状態で苦しそうに呻くジュリオ、そのジュリオの顔の下には一人の少年が縫いとめられている。 両手と両足を肉の中に縫いとめられた状態で忘我した状態で聖人のように吊るされる彼の名は、平賀才人。 サイトがほんの少し前まで取り憑いていた、こちら側の世界の才人に他ならない。 「やめろっ、こんなことをして何になる!」 「聖下と僕の夢が叶う……それだけで、それだけで僕には十分なんだ」 ジュリオは叫びながらその体に内蔵された火器を点火、無数の三十九mm弾頭が高速回転しながらサイト達をなぎ払う。 「ぐあっ!?」 「きゃあぁぁぁあああああ」 咄嗟に全員がペルソナでガードするが、その被害は甚大だった。 特に物理に対して耐性があるわけではないルイズと、貫通に弱いギーシュにはこの一撃は耐えがたい。 「ルイズ!? ギーシュ!? 待って今メディアラを……」 ペルソナを展開しようとするキュルケ、そのキュルケへ。 「させないよ……堕天の微笑み」 ぞわりとキュルケは体を震わせると、そのまま体を痙攣させながら立ち竦む。 何が起きたのかは、おそらくその魔法をその身に受けたキュルケさえも分かってはいないだろう。 ――それは対象に術者の想いを流し込む魔法 キュルケの精神は今、ジュリオの狂信によってオーバーフローさせられているのだ。 だから思えない、何をすべきなのか考えられない。 そしてその間隙でキュルケが垣間見たのは、凄愴とも言うべきジュリオの過去の記憶だった。 まるで夢のようなその情景のなかで、子供の姿のジュリオは死の床にあった。 周囲には何人にも大人たち、彼らは口々に先祖還りだの、マギ族の血だの、わけのわからない言葉を吐いている。 だがひとつだけ共通しているのは、誰ひとりとしてジュリオを助けようとはしていないことだ。 「呪われた子め!その悪魔の眼で私を見るな!」 助けを求めるように見上げた瞳に帰ってきたのは痛烈な拳骨の一撃だ。 顔を、腹を、もう一度顔を、体中を滅多打ちに殴られて肺の底にたまっていた血の塊が再び喉元へとせり上がり、ごぽりとその口からあふれ出る。 その光景に、回りの大人たちは尚ジュリオへの嫌悪を深めたのだろう、ジュリオを甚振る拳がまた一つ増えた。 もういやだ、逃げだしたい。 助けは来ないことなど分かっていた、それでも祈ってしまった。 ――ブリミル様、どうかこの汚らしい僕を、この世界から消し去ってください。 その願いは叶えられることはなかったが、しかしジュリオは運命とでも言うべき出会いを得た。 突然の怒号、周囲にいた大人たちを杖を奮って制圧していく聖堂騎士たち。 その背後から現れたのは先代の教皇と、未だ年若い少年と言っても差支えない神官であった。 あたりに満ちる噎せ返るような血臭のなかで、ジュリオは目の前でありきたりな慰めと慈しみの言葉を自分に向かって投げかける老人よりもなお。 その後ろで微笑みながらも涙を浮かべる少年神官のほうが、何倍も何十倍も尊く思えた。 「キュルケしっかりしろ、キュルケ!」 じんじんとする頬の痛み、一瞬の白昼夢からキュルケは目覚めた。 状況は一つも変わっていない、いや前よりも何倍も悪くなっている。 タバサと“才人”は肉の牢獄へと囚われ、ルイズとギーシュはとても戦列に戻れそうもない瀕死の重傷を負っている。 そして無事なのがサイトとキュルケの二人だけしかいないと言うのがもう一つの最悪だった、二人のうちどちらにしても人質だけを避けてジュリオを倒す手段がない。 もしサイトが“記すことさえ憚られる使い魔”の力を使えばジュリオは倒せるかもしれないがタバサと才人は無事では済むまい。 そしてキュルケには一撃でジュリオを打倒するだけの力がそもそもない。 「さぁおとなしく僕らに協力するんだ、そうすれば……」 じりりとジュリオがその巨体を揺らしながら二人へとにじり寄る、背後には壁、目指す階段はジュリオがふさぐ吹き抜けを走り抜けてなお遠く、もはや完全に手詰まりかと思われた。 だが…… 「ジュリオ、一つだけ聞かせろ……」 「なんだい? 兄弟」 「もし、もしも此処で俺が首を縦に振ったらお前や、お前が取りこんだ使い魔たちは元に戻れるのか?」 そのサイトの言葉に、ジュリオは僅かに悲しそうに首を振った。 「それは無理さ、僕と彼らは“神の獣”として混沌に溶けてしまった、この状態でなんとか出来るとしたら本当に神か始祖ブリミルくらいのものだろう」 僅かに嘆息、口の端に浮かべた苦笑はこの期に及んで何を聞いてくるのかと言うサイトへの呆れか、それともこんな姿になってまで軽口が減らない自分への嘆息か。 「ああ、でも安心してくれていいよ、君の半身とシャルロット姫殿下は体内に幽閉してるだけで取りこんだ訳じゃないからね、君が聞き分けよければ二人の身の安全くらいは保証でき……」 皆まで聞くまでもなくサイトは駆け出していた。 「くっ、おとなしくし……」 ジュリオが腕を振りかぶり……その瞬間にすべては終わっていた。 サイトが唱えたのは虚無のスペル、〈加速〉だったから。 瞬きの一瞬の間にサイトはジュリオへと迫り、そしてデルフリンガーを振り下ろす。 鮮血が舞った。 ジュリオではなく、その体に縫い止められたもう一人の“才人”の体からだくだくと止め処なく。 「ごぷっ」 口から盛大に吐血する才人、その心臓にはデルフリンガーが深々と突き刺さっている。 「あんた、何してるの!? 何してるのよおおおおおおおお!?」 キュルケの絶叫など意に介さず、サイトは才人の体からデルフリンガーを引き抜いた。 切り裂かれた胸からは派手に血が飛び散り、天使となったジュリオの体を赤く染める。 どう見ても致命傷だった。 「その体は“ヴィンダールヴ”の能力で制御してるんだろう?」 「サイ……ト……マサカ……キミは……」 サイトはもう一人の己の死を悼むように瞳を閉じ、途中で首を振ってジュリオを見た。 悼む資格なんて、とうの昔に自分からは失せている。 「だったら、“俺”が死ねばいい」 もう一度盛大に才人が血を吐き、その右腕のルーンの光が次第に薄く掠れていく。 それとシンクロするように、ジュリオの体のあちこちが自分の好き勝手に動きだす。 てんでばらばらに方向に発射される銃弾、苦しむように背中から吐きだされる火球、皮膚から聞こえるいくつものうめき声。 本来ならば異なる者同士を混ぜ合わせたことに拒絶反応、ヴィンダールヴの能力で抑えていたそれが一気に噴き出したのだ。 「黙れお前ら! 僕に従え!」 「ジュリオ、タバサを返せ!」 自壊していく肉体、そのうちの一本がもげ落ちた。 「ぐあああああああ!」 内側から強烈な冷気の一撃を見舞われたのだと気づく間もなく、蒼い髪の少女が空中へと躍り出る。 まとわりつく粘液と肉片をへばりつかせながら、半裸のタバサは生還した。 「タバサ!」 「ごめんなさい、心配させて」 かろうじて残ったローブで体を隠しながら、雪風の少女は戦列へと復帰した。 「はは、はははははは、ははははははははは!」 ジュリオは笑う、笑いながら拒絶反応で崩れていく体で最後の悪あがきとばかりにサイトに向かって飛びかかる。 「さよならだ……ジュリオ。みんな、やってくれ」 「でも、まだ才人が……」 「いいんだ! どうせあの傷でたすかりゃしねぇよ。やってくれ、さっさと俺ごと奴を撃ってくれ!」 「キミは、自分を殺すと言うのかい!?」 「だめよ、そんなの許さ……」 ――――マハブフダイン 真っ先にジュリオの体に付き立ったのは、巨大な巨大な鋭い氷柱。 それをぶつけた少女は食い締めた唇から血を流しながら、涙を堪えてジュリオを……その体に取り込まれた才人を見ていた。 「彼の意思を無駄にしてはだめ」 そう言うと、タバサはさらに氷の雨を降らせて行く。 次々に傷つき、凍り付いては砕けるジュリオの体。 傷つき、原型を失っていく才人の体…… 辛そうに魔法を唱え続けるタバサの後ろにサイトは寄り添うと、その肩を抱きながら共に詠唱 スペル を唱える。 全てを終わらせるために。 その姿が皆の決意を固めたのだろう、誰にともなくギーシュやルイズも頷き、そして魔法を唱えだす。 「合体魔法で一気に決める……いいね?」 ――――タルカジャ! ――――メギドラ! ――――ハイプレッシャー! 「合体魔法、ゴッドハンドだ!」 シグルズの握った剣にイドゥンの放ったのメギドラが纏わりつき、まるで巨人の拳のような形をした力の塊になる。 飛び上がったシグルズはそれを躊躇なくジュリオへと叩きつけた。 自分に向かう死を眺めながら、とろけた体でジュリオはぼそりと呟いた。 「これでいい、後は彼女が……ああ、ヴィトーリオ様、僕はあなたのお役に立て……」 その言葉だけ残し、ジュリオの意識は闇へと飲まれた。 誰も一言も交わさず、極彩色に塗りたくされた回廊を歩く。 いつの間にかヴィットーリオはいなくなっていた、もはや彼らを阻むものはない。 だがジュリオの死は皆の心に黒々とした影を落としていた。 そもそも何故自分たちはこんな塔に登っているのか? それもただ顔見知りと言う間柄の相手の頼み如きで。 或いははじめからずっと共に死線を潜り続け、その心の闇を共有してきた仲間の頼みなら今此処で迷うことはなかっただろう。 だが多かれ少なかれ自分たちが信じてきた信仰を敵に回し、目の前で生の人間の死に直面して、ゆるぎない決意がない限りその心に迷いが生じない筈がないのだ。 ペルソナとは心の力、想いの結晶。 故に先ほどからシャドウたちを蹴散らす彼らの動きには、いつものような覇気が欠けている。 だがその時はやがて訪れる、誰にでも運命の時はいつかやってくる…… 「いる……この上に奴が……!」 震える拳を握り締め、サイトはルイズたちへと振り向いた。 「すまねぇ、こんなところまでつき合わせて。あとは俺一人で決着を……」 パンと乾いた音が響く、腫れた頬を押さえながらサイトはルイズを見る。 毅然とした表情、震えながらも虚勢に満ちたその姿、愛しくてしょうがない彼のご主人様。 「こんなところまで連れて来て、今更何言ってるのよ!」 サイトは頭を掻きながら僅かに苦笑する。 「そうだな、今更か」 サイトはゆっくりと長い長い階段を上り始めた。 カツカツとそれに追い縋るように軽い足音が続き、やがて怯えながらも優雅な足音が続き、決意を込めた足音が続き……最後におずおずと言った様子の足音が続く。 「この先にはガリアの無能王、ジョゼフとそして奴がいる筈だ……」 「奴?」 「ああ、運命を玩び、運命を嘲笑う。さいっていの野郎だ」 それは誰? その問いかけが届く前に視界が開ける。 見上げれば満天の星空と空に輝く二つの真月、その月光に照らされ、月を臨む塔の中心で一人の男が椅子に腰掛けていた。 「ようこそ待っていた、トリステインの虚無の担い手ルイズ」 男はゆっくりと立ち上がると、その顔に嬉しそうに嬉しそうに笑みを刻みながらサイトたちへ向かって歩みを進める。 「そしてその使い魔、ヒラガサイト……」 そして無能王はぴたりとその歩みを止める、その左手には始祖の香炉を、その右手には水晶で出来た髑髏。 それら二つを空へ向かって放り投げると、ジョゼフは月に向かって高々と吼えた。 「待っていた、待っていたぞーーーーー!」 取り出したのは銃と言うにはあまりにも禍々しい夜に塗りつぶされた漆黒の塊。 それを自らの頭に押し付けると、ジョゼフは躊躇うことなく引き金を引いた。 「ペルソナッ!」 ぞわりとジョゼフの影が蠢く、影達は空へ向かって立ち上がり幾多の触手となって湧き出した。 夜を塗りこめた体にはあらゆるモノを嘲笑する歪んだいくつもの目、いくつもの口があり、今もまたケタケタと嘲笑うことを上げ続けている。 人の持つ暗黒面の象徴たるペルソナにして、破滅を望む者たちに力を与え、その自滅していく姿を嘲笑う者。 千の貌を持つそのペルソナの名は這いよる混沌-ニャルラトホテプ- 「さぁ舞踏会のはじまりだっ、俺を退屈させるなよっ!」 前ページ次ページPersona 0
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翌日。 トリステイン魔法学院では、早朝から訓練が行われていた。 中庭で整列した生徒達が、点呼のやり方や集団行動の基本などを教えている。 その光景を、本塔の学院長室から見ているのは、オールド・オスマンとアニエスの二名であった。 「優秀な秘書がおりませんでな、仕事がたまる一方ですわい」 「秘書というと、ミス・ロングビルのことですか」 部屋の中央に置かれたテーブルを挟むようにして、六人がけのソファに座っている。 すぐ傍らには『遠見の鏡』が立てられており、そこには中庭の様子が映し出されていた。 「便利なものだな…これがあれば作戦も立てやすくなるだろうに…」 そんなアニエスの呟きに、オスマンがフォフォ、と笑った。 「何、この遠見の鏡が通用するのは、せいぜい魔法学院の敷地内だけじゃよ」 「しかし、王宮では、特にアカデミー関係の研究者からは、貴方は今も恐れられている。”トリステイン全土を見渡している”と」 「それはただの噂じゃ。少し長生きしすぎてのう……教え子達が沢山いるだけじゃ。ま、そやつらの若い頃の失敗談を、ちょいと知っているだけじゃよ」 「なるほど、それは確かに驚異だ。裏の裏まで見通されているようで、さぞかし恐れられましょう」 アニエスが唇を僅かにゆがめて、笑った。 しかし、その瞳は笑っているというより、オスマンを見定めようとしているようにも思える。 「ところで、今日は、昨日の話の続きですかな?」 軽く前屈みになって、アニエスを試すような目で見つつオスマンが切り出した。 するとアニエスは懐から一枚の羊皮紙を出し、テーブルの上に差し出す。 「これは…女王陛下の許可証じゃな。アングル地方ダングルテールの虐殺に関する調査ですか」 「そうです。オールド・オスマンならご存じでしょう。高等法院のリッシュモンが、ロマリアへ媚びを売るためダングルテール虐殺を行い、賄賂を受けておりました」 オスマンはひげを撫でて、ふぅむと呟いた。 「これによって得たロマリアとの太いパイプを利用し、マザリーニ枢機卿の裏を掻いて多額の賄賂をため込んだリッシュモンをはじめ、その関係者を逮捕するのが私の役目です」 二人の視線が交差する、アニエスは得体の知れない老人の鋭い目を見据え、オスマンは冷静を装う復讐鬼を見つめた。 「仇討ちじゃな」 「否定は致しません。ご協力願います」 「かまわんよ、理由はどうあれ、ミス・アニエス…君にはその権利があろう。協力を約束する」 「では後ほど、いくつかの資料を貴方の記憶と照合して頂きたい。私はこれより軍事教練の指導にあたらねばなりませんので」 アニエスがソファから立ち上がり、学院長質の扉に向かって歩き出す。 扉の前に立ったところで、オスマンが口を開いた。 「……ところでミス。君は此度の”総力戦”にどう思われるかね」 アニエスはその場で立ち止まると、少し間をおいてから答えた。 「戦争は避けられません。将軍閣下は非道きわまりないクロムウェルを、早急に討ち滅ぼすべしと躍起になっています」 「ワシは、君に聞いてみたいのじゃが。あくまでも君個人にじゃ。この軍事教練にしても、貴族子弟の登用にしても、あまりにも急ぎすぎではないかね?」 「戦争には男も女もありません、そして時間もありません。逃げまどう暇も無ければ立ち向かう時間もないのです。すべてに平等な死が訪れます。戦争など皆、そうでありましょう」 アニエスは振り返りもせず言い放ち、学院長室を出て行った。 「もったいないのぉ、有能ではあるんじゃが、あれでは王宮で恐れられるじゃろうて」 呟きつつ、オスマンは念力で水パイプを手元に引き寄せる。 「剃刀は、むき出しではいかん。かといって鞘に入っていてもいかん。なまくらに見せかけるのが一番じゃて」 …………遠くから声がする。 屋敷の庭園から抜け出して、外の世界を見ようとした僕を、乳母が追いかけてきた。 視界がとても低く、小さな林も迷い込んだら出られない気がした。 木漏れ日がまるでシャンデリアのようで…ああ、乳母に抱きかかえられ、揺れ動く視界の中で、鳥が飛び立ち、風が頬を撫でて…… 「うっ…あ?ここは」 子供の頃の夢から目覚めると、天井には木漏れ日ではなくシャンデリアが下がっていた。 辺りを見回すと、自分がベッドに寝かされていたのが解った。 「お目覚めでございますか。ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド様」 声の主はメイドだった、くすんだ金髪を首のあたりで切りそろえた少女で、12歳ほどにしか見えなかった。 額に乗せられた冷たいタオルもどうやら彼女がやってくれたようだが、ワルドはそれを訝しげに思った。 なぜこんな所に寝かされていたのか記憶のハッキリしない。 「石仮面様より言伝を賜っておりますが」 「…聞かせてくれ」 「『概要は自分が伝えるので、体調が回復次第王宮へ出頭し、細部を報告するように……』」 ルイズからの伝言を聞くと、ワルドは体を起こし毛布をどける。 頻繁に汗を拭き取られたのであろう、全裸の上に吸水性の高いガウンを身に纏った姿で、義手も外されていた。 窓からは夕焼けが差し込んでいる。 「私が運ばれたのは、今朝か?」 「はい」 「君の、所属と名は?」 ワルドが質問する。 「私は銃士隊の身の回りをお世話するよう、アニエス・シュヴァリエ・ド・ミラン様より賜りました、ハンナと申します。今はワルド様のお世話を石仮面様より賜っております」 「そうか。ではハンナ、ここは王宮ではないようだが、何処だ?」 「トリスタニアの、元はリッシュモンというお方の屋敷だと伺いました」 「僕がここに来た経緯は解るか」 「こちらのお屋敷は、銃士隊の方々が調査しておられました。石仮面様は明け方にこちらに現れて、ワルド様の体調が整うまで預けると……」 「わかった。すぐに僕の服と装備を持ってきてくれ」 「ですが、まだお熱が引きません…」 ハンナがワルドを留めようとする。 「君は貴族に仕えたことは無いようだな」 「えっ」 「怖がらなくていい。なあに、貴族は見栄っ張りなものなんだ。”僕はもう治った”。いいね?」 「は、はい。ただいまお持ち致します!」 ぱたぱたと小走りで部屋を出て行く、年若いメイドを見送って、ワルドはほほえんだ。 「まだまだ子供か。メイド見習いといったところか。ふふ、ウエストウッドを思い出すとはな……」 体調はだいぶ良くなっている、少し頭痛はするが、海岸にたどり着いたときとは天と地の差がある。 もうろうとした意識の中で見た、懐かしい夢のおかげか、それとも看病してくれたメイドのおかげか、ワルドは清々しさを感じていた。 更に数時間後。 場所は変わって、トリステインの王宮、大会議室。 神聖アルビオン帝国の宣戦布告の際、大臣や将軍達を一喝したアンリエッタの姿が記憶に新しいこの部屋に、トリステインの重鎮が揃っていた。 一人遅れてやってきたマザリーニが、奥の席に座るアンリエッタを見る。 アンリエッタが二人いた。 「!? ………ああ、石仮面どのですか」 「そんなに驚くことも無いじゃない」 並んで座るアンリエッタ二人のうち、一人が立ち上がり、椅子を移動させる。 クスクスと笑う二人のアンリエッタを見て、マザリーニは目を細めたが、さすがにため息はつかなかった。 会議室の座席に、秘密会議のメンバーが揃ったところで、会議が始まった。 席順は、奥にアンリエッタ。右列奥からウェールズ、ルイズ。左列奥からマザリーニ、ワルドである。 本来ならアニエスにも参加して貰うところだが、今は魔法学院で軍事教練を行っているため、この場には居ない。 マザリーニはテーブルの上に、幅2メイル以上あるアルビオンの地図を広げて、口を開いた。 「概要は石仮面から聞きましたが。ワルド子爵、細部の報告を」 「はっ」 ワルドは立ち上がると、地図を指さしながら、アルビオンに潜入して得た情報を話していった。 今はアニエスが居ないので、ルイズが身を乗り出し、書記官役をした。 報告内容は、ワルドの遍在が各地に飛んで得た情報や、マチルダの協力者から得たもの、そしてルイズが姿を変えて町中で調べたものであった。 中でも、ルイズが直接確認した兵站の情報は、アルビオンの残存戦力をはかる上で重要度が高い。 しかし報告を終えた後、マザリーニとウェールズは、どこか困ったような顔をしていた。 「枢機卿、何か気になる点でも?」 アンリエッタが問いかけると、マザリーニは恐れながら…と呟き、考えを述べた。 「この情報は戦争を早めるには有効です、しかし、現時点では何の準備も整っておりません。戦争になれば年若い貴族が功績を求め、我先にとアルビオンに上陸しようとするでしょう」 「それは、良いことなのではありませんか?」 アンリエッタが不思議そうに首をかしげた、すると今度はウェールズが口を開く。 「僕もその気概には、大いに賛成するところがある。しかし……」 ぐっ、と口を閉じて、ウェールズが何かを耐えるような表情を見せた。 それがなんだか解らず、アンリエッタはますます不思議がった。 「……自国の民を犠牲にするようだが、トリステインとゲルマニアの連合軍が確実に勝利するには、最低でもあと半年は兵糧攻めにせねばならない」 「そんな…!」 ウェールズの言葉にアンリエッタが驚く。 「ウェールズ様、ですが、ルイズ達の報告では、アルビオンの民は略奪による過酷な飢餓状態で苦しんでいるのですよ」 「それを疑ってる訳じゃない。ただ、この情報を将軍らに開示することによって、トリステインは大儀を得てしまう。 『民を苦しめる邪悪なレコン・キスタ』を討伐するという、より大きな大儀だ。それがいけない。 戦争の準備が整っていないのは、トリステインも同じ、今戦いに赴けば途方もない犠牲を生む。 アルビオンのためにトリステインが疲弊し過ぎれば、それはアンリエッタ…君を糾弾する十分な理由となって襲い来るかもしれない」 アンリエッタが息をのんだ。 「その上殿下をトリステインの傀儡にすべく、将軍らが動くでしょうな……。ウェールズ殿下がアンリエッタ女王陛下と結婚されても、ウェールズ皇太子の実権は認められぬかもしれません」 マザリーニがそう語ると、アンリエッタはがたっと椅子をならして立ち上がった。 「そんな!」 「アン、落ち着いて。これは最悪の場合よ……枢機卿、話を続けて」 ルイズがアンリエッタを落ち着かせると、マザリーニは小さく咳払いをしてから、地図を見た。 「残酷なようですが、開戦のタイミングを計らなければなりません。アルビオンの貴族から力を削ぎつつ、民がかろうじて余力を残し、反撃に出られる程度に、です」 マザリーニとウェールズ、そしてワルドによる話が続けられた。 将軍達は、トリステインで建造中の戦艦が完成次第、遠征をすべきだとしている。 しかしマザリーニ、ウェールズ、ワルドの意見は、遠征は早くても3ヶ月後にすべき…であった。 トリステインは、隣国ゲルマニアやガリアに比べて半分以下の国土だが、戦力としてのメイジの数が匹敵している。 帰属主体の国家形成が、歴史に残る優秀なメイジを輩出していた。 ところが戦艦を建造する資源と技術には、秀でていると言い難い、『レキシントン』に搭載された大砲の威力など、トリステインでは再現不可能である。 竜騎兵などの貴重な空の戦力にも、秀でているとは言い難い。 一部の突出した存在により、トリステインは他国に劣ることなく存続してきた。 だが、決して秀でているとは言えなかったのが、トリステインという国であった。 その国内で横行した貴族の腐敗は、貴族達の貴族至上主義を増長させ、結果として平民による第一次産業の低迷を招く。 それによる不満は、タルブ戦の勝利により解消されたかに見えたが、根の深さは計り知れないのであった。 アンリエッタはあることに気付き、愕然とした。 「つまり、トリステインという国は、増えすぎた貴族子弟を間引く時期に来ている…というのですか?」 「……陛下、間引く、という発言はいけません。ただ、歴史は同じ事を繰り返しているのです。 戦争は何度も行われております、小競り合い程度などと言われる者から、大戦と呼ばれるものまで様々です。 しかし、大戦と呼ばれる戦の後には、どの国も如何に疲弊から立ち直るかに苦心しておるのです、その中には汚名を被ってまで国を立て直した王もおります。 この戦争は、最小限の被害で早期に終結させ、なおかつウェールズ殿下に功績を残し主権を認めさせ、その上で民や諸侯の不満を反らすためアルビオンの利権を奪わねばならないのです。 そのために最適な機会はまだ先なのです、アルビオンという国を救う救国の女王となるか、王子にうつつを抜かした悪女と罵られるかは、時の運と言うほか無いのです。 陛下、これはもはや逃れられません……数百年前にエルフと戦い、数えきれぬ損害を出した時とは違うのです、人間が相手なのですから」 アンリエッタはしばらく顔を俯かせていたが、目を閉じたまま顔を上げ、ゆっくりと、自分の視界を確かめるように目を開いた。 「わかりました。私は女王です。自国の民を救わんとウェールズ殿下が苦しんでいるように、私も苦しみましょう。マザリーニ、軍議に私が列するのは、来週でしたわね?」 「はい、そのように承っておりますが」 「数日早めなさい、そして此度ルイズ達が持ち帰った資料を小出しにしなさい。遠征の時期を遅らせます。……これでいいのですね」 「すまない…」 しばらくの沈黙の後、ウェールズが呟いた。 それがアルビオンの民に向けての言葉なのか、それともアンリエッタへの言葉なのか… おそらく両方だろう。 「では、ルイズ、貴方に任務を与えます」 「はい」 アンリエッタがルイズを見る、ルイズはアンリエッタの姿で頭を下げた。 「魔法衛士から傭兵まで、いかなる身分を用いても構いません。影ながら魔法学院を護りなさい」 「…!」 「もし、魔法学院が襲撃されれば、取り返しのつかぬ事になりましょう。 レコン・キスタのみならず、アンドバリの指輪で操られた者達を恨み…いいえ、アルビオンの国民すべてを恨む風潮となるやもしれません。 アンドバリの指輪が今の世に存在するなど、知られてはならないのです。悪用する者が必ず出るでしょう。 私たちはあくまでも、クロムウェルが人身を操る邪法の使い手だとして葬らねばならないのです。 でなければ…この戦争は、アルビオンとトリステインの、永遠に終わらぬ確執を作ることになります」 ルイズはアンリエッタの言葉に驚いた。 「姫様、そこまでお考えに…」 「皆の知恵から借りただけですわ、ルイズ…貴方には辛いでしょうけど、魔法学院を守って。 アニエス達は将軍達から嫌われているから、きっと将軍達はアニエスのミスを望んでいるわ、そうならないために監査して欲しいのも理由の一つなの」 「…では、すぐに魔法学院に向かいますわ。引き続き陛下から賜った身分証を使わせて頂きます」 「ええ、お願いね、ルイズ」 アンリエッタが微笑む。 その表情は少し疲れを見せていたが、疲れを見せて微笑むのは、幼なじみであるルイズだからこそである。 ソレを知っているからこそ、ルイズは嬉しかった。 「僕からも、頼む。君には何から何まで、世話になる…本当にありがとう」 ウェールズの言葉は、自分の力が足りず申し訳ないと言っているようで、どこか力がない。 「私に礼を言うなんて、まだ早いわ。すべては…そうね。戦争が終わってからよ」 「そうだな。どうしても弱気が出てしまう、これじゃかえって申し訳ない」 ルイズはにやりと笑みを浮かべた。 ウェールズとアンリエッタを交互に見てから、マザリーニとワルドに視線を向けた。 「それでは…殿下と陛下におかれましては、引き続き二人で軍議を続けてくださいませ」 「「え」」 マザリーニが避難するような目をルイズに向ける。 「石仮面どの…」 「いいじゃないの、たまには。息抜きも必要よねえ、そう思わない?ワルド」 ルイズが話を振ると、ワルドはひげを撫でながら呟く。 「我が家の故事にこうある。”後は年若い二人で”…という奴かな」 二人きりの会議室で、何が行われたのか、それは十月十日後に明らかになるかも…しれない。 早朝、四時過ぎ。いまだ日は昇らず、空は暗い。 ルイズは顔立ちを変えて髪の毛を金に染め、麻のローブに身を包み、トリステイン魔法学院への道を歩いていた。 背に乗せたデルフリンガーとは、ずっと口をきいていない。 もし、メンヌヴィルが現れたら……そう考えると、どうしてもデルフリンガーが必要になる。 今まで何度もデルフリンガーに心を読まれているのに、今回ばかりはタブーを犯してしまったようで、心を読まれるのが恐ろしかった。 あるいは、心を既に読まれているかもしれないと、恐れていた。 「…早く行かなくちゃ」 そう呟いてはみるものの、魔法学院に行って、どうしていいのか解らない。 あそこにはシエスタがいる。 近くの森に隠れて、監視し続けるべきだろうか? ふと、足が止まった。 「…早く、行かなくちゃ」 そう呟いてまた歩き出す。 ワルドは会議の後、体調が完璧に回復するまで休むように言ってある。 今頃はリッシュモンの屋敷で水系統のメイジに治癒を受けているだろう。 ……そんなことを考えていると、また足が止まっていた。 「早く、行かなくちゃ」 魔法学院の上空に、一隻の小さなフリゲート艦が現れた。 甲板に立つ男は、顔に大きな火傷の痕があり、目は白く濁っている。 艦には、体温のある男が十数名、体温のない男が三名乗っている。 男は光の映らぬ眼でまっすぐに宙を見つめ、不気味に唇をゆがめた。 To Be Continued→ 前半へと戻る← 69前半< 目次 >70前半
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前ページ次ページ超1級歴史資料~ルイズの日記~ ある日 グランパに剣を買ってあげるために町へ出た。 正直、頼めば1時間で作ってくれそうな気もしたが、ご主人様としてのプライドがある。 町へ行くのに『さいどかー』というものを使った。いわゆる鉄の馬だ。 さいどかーを動かしたのはあの桃髪のメイドだった。なんでも恩返しらしい。 あと、さいどかーにも乗ってみたかったらしい。 「私がコイツに命を吹き込んであげます!」 乗り込むとメイドは顔つきが変わった。さいどかーはすごく速かった。 町へ行くとそこかしこにBALLSを見かけた。 町の人たちはすでに違和感を持っていないとのこと。 平民に字を教えたり、食料の配給を行ったり、仕事の斡旋をしているらしい。 なんだかわからないが、役に立つならそれでもいいか、といったスタンスらしい。 金のBALLSを見かけると今日は1日ラッキーであるという迷信まで生まれる始末。 さて、武器屋。 行ってみたがどの剣も高い。平民の年給があっさり飛ぶほどだ。 これなら1時間で作ってもらったほうがいいだろうか? 一番安く、おでれーたを連発するインテリジェンスソードを買った。グランパが気に入ったみたいだし。 グランパ曰く、知類皆兄弟らしい。 剣知類デルフリンガーってなによ? 「相棒の国じゃ俺みたいなのでも人権があるのかい。おでれーた」 私もおでれーた。 次の日 今日は授業。教室はこないだリフォームされたところだ。 コルベール先生の授業で『えんじん』なるものが出てきた。 機械で物を動かすというもので、魔法はいらないものらしい。 でも、私たちは普段からもっとすごい機械を見ているような気がするんですけど……………。 具体的に言えば今ここにいる教室とか。 みんなそう思ったのか、えんじんのすごさが浸透しないので、コルベール先生は必死にかまって状態だった。ハズした芸人みたいだ。 と、思ってたらBALLSが今朝部屋に増えてたアレを持ってきて、えんじんと繋いでた。 「はい、これで魔法を使わなくても涼しいですね~~」 たしか『せんぷうき』といったか。 たしかに風は来るが、燃焼するえんじんの熱のおかげで熱風だ。意味ネエ 大いに改良の余地ありだ。蛇がぴょこぴょこよりは良いだろうが。 こるべーる先生はグランパとしばらく話し込んでいて、自習と言ってでていった。 あんまり暇だったんで教室の机のゲームを使ったゲーム大会が開かれた。 するとBALLSがえんじんより面白いPCえんじんを持ってきた。 キュルケ曰く、私は遊びで負けると怒るタイプで、賭けで負けるとムキになる遊びに向かないタイプだそうだ。 よって私の成績はブービー、最下位はチョンボしてハコのギーシュ。 机のゲーム側を見るとタバサがまいんすいーぱで9秒台出してた。スゲエ。 マリコヌルが負けじと6秒台出した。なにその無駄な才能。 ポ~~~ン コルベールが研究室で倒れました。 またやったか。最近2日に1回は倒れてる。教師ってのはなんて激務なんだ。 コルベール先生との密談は、 グランパがメイドと相談した所、えんじんで車や飛行機は作れるが、環境汚染のことを考えると必要でない限りあまり多く作るものではないとしたらしい。 少なくとも今は馬車や船があって流通そのものはうまくいっているかららしい。 変に発展させると馬や船を潰さないといけなくなるかららしい。 なんでメイドと相談するのよ!? ある日 授業でギトー先生が風強ス風強スと威張っていた。 それでわざわざキュルケを挑発してコテンパンに伸したりしていた。 なんかムカついたのでBALLSに命じて教室内の金属防壁をON。 下から競りあがった金属板は見事にキトーをヒットし、悶絶させた。 そこに変なヅラをかぶって駆け込んでくるコルベール先生。 なんでも使い魔品評会をご覧になりにアンリエッタ姫様が学園にいらっしゃるらしい。 そして走ったためかヅレるヅラ。 「滑りや…………何ニィィィ!!!」 一発ギャグを狙っていたタバサ驚愕。少なくとも王族がやるリアクションではない。 つまりはそれほど驚愕だったわけで。 コルベール先生の頭には2323した 毛 が 生 え て い た 。 どうやらBALLSにぷちぷちと植えさせたらしい。多芸よね。 とりあえずBALLSには身体を磨いておくように命令した。 使い魔品評会 姫様が学園にいらした。あ、私の婚約者のワルド様もいる。 使い魔品評会の会場の設営はBALLSまかせだ。発表の台上で起きたことは背後の大型テレビジョンに映されるらしい。 とりあえず使い魔発表会はグランパの持ってた秘蔵の『でーぶいでー』というのをモニターに流した。 内容は雪山に閉じ込められた士官学校生徒が少ない食料をめぐってバトルロイヤルする話だった。最後にはゴーレムまで持ち出してた。 技術的にはすごいんだろうが、すこぶる不評だった。俳優や展開が悪く癇に障るとのこと。 姫様のコメント:ペンギンはシブカワイかったですね。無難なコメントです。 子爵のコメント:すごいよアニメ!君はいつかやってくれる子だと思っていたよ!無理に褒めてくれなくて良いです。 その夜 姫様が私の部屋をこっそりと尋ねてこられた。 「ようこそこんなむさくるしいところにいらっしゃいました」 所狭しと電子レンジ、サンドバッグ、ツインファミコン、ガンパレ攻略本、アタッシュケースなどなど並んでてほんとにむさ苦しかった。 とりあえず冷蔵庫からこーらをお出しする。 ひたすらに珍しがられていた。私も毎日珍しいです。 どうやら姫様は愚痴を言いに来たのと、密かにアルビオンの王子が持つ手紙を取り返してほしいらしい。 クイクイ ん?なによ? クイクイ BALLSが何かガラス盤と文字盤が合体した箱を持ってきた。 ポ~~ン アルビオンにいるウェールズ皇太子と通信がつながりました。 箱のガラス版に映し出されたのはウェールズ王子そのひとだった。 うはっwwwアンタラそんなこともできちゃうの!? そこからはもう愁嘆場でした。 亡命するしないで引き合ったり、愛している愛していないでもめたり、姫様号泣したり。 どっちにしても飛車角金銀歩をとられて王手されてるようなものなので、脱出もままならずどうしようもないそうだ。 却って残酷なことしちゃったかな? 王子様なんとかならない?とグランパに聞いたら無理ではないとのこと。 なんとかなるんですかそうですか。 グランパ曰く、なんとかなるではなくなんとかするのだとのこと。 つまりなんとかするなら私もアルビオンへ行く必要があるのだと。 見も知らぬ誰かのために血を流す覚悟はあるのかということだ。 わかりました、女ルイズ、一肌脱ぎましょう。 (少なくとも手紙は直に回収する必要があるみたいだし。) 姫様には思いっきり抱きつかれて頼まれた。 国とか王女とか関係なしにやらねばならないだろう。友達だから。 でも、立ち聞きしてたギーシュは正直足手まといだと思った。この時は、だが。 この時点でまさかギーシュが勝利の鍵になろうと予想していたのは、OVERSぐらいしかいなかっただろう。 え?グランパもわかってたの? 次の日 いざ、アルビオンへ! 空中大陸へ行くため、BALLSたちが船を調達してきました。 ………………………………おでれーた。 どうも昨晩姫さまが来た後、一晩の突貫作業で作り上げたらしい。 一晩しかなかったので小型ですまないとのこと。充分でかいよ。 ちゃんと最低限の武装もしているらしい。 操舵士を紹介された。こないだのメイドだ。 家訓とやらで髪をピンクに染めたメイドはシエスタ・カトー・タキガワ5世と名乗った。 なんでも彼女のひいおじいさんがグランパの戦友なんだそうだ。相当に有能な竜騎士だったらしい。 彼女の家系はえんじんがついてるものならなんだって動かせるお家芸を持ってるそうだ。 グランパってかなり年上だったのね 250歳近いんだそうだ。すごっ デルフリンガーは6000歳だけどあんまりすごさを感じないのはどうしてだろ? 私は艦長席に座ることになった。 この座ると90度回転する椅子はデフォルトらしい。 目の前にある机やガラス板のおかげで前が良く見えないのが玉に瑕だ。BALLSなだけに。 艦長席は私の身体に合わせた設計ではないらしい。 グランパはBALLSと連絡取ってるので航海長席。 シエスタはもちろん操舵士席。 ヴェルダンデは耳が良いので水測長席。 ギーシュはやることないんで飛行長席。 他の席にはBALLSがかじりついている。 でもモグラに負けてるギーシュってどうよ? ぷろぺらを回して発進するヴァリエール1号。 ふと窓の外を見るとグリフォンに乗ったワルド子爵が追いかけてきていた。 婚約者をわざわざ見送りに来てくれたのね。 ワルド様がどんどんと小さくなっていった。この船早いのね。 ワルド様が手を振っている。私も手を振り返した。 アルビオンへ向けて出航しました!!! 前ページ次ページ超1級歴史資料~ルイズの日記~
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前ページ次ページ虚無と狂信者 アルビオン ウエストウッド村 マチルダはその村の様子に息を飲んだ。 その村を包むのは、真の無音。 そこに響いているはずの子ども達の、あの賑やかな声が聞こえ無い。 家の中に入る、争った形跡は無い。着替え、その他必要なものが消えうせている。 「どこかに逃げてくれたか………?」 あの仮面の男から渡された手紙に書かれた場所。この村の場所。 何をするかは言ってこなかったが、それだけで充分だった。 少し安堵した。で、あるなら自分がトリステイン魔法学院で秘書をしていることは知らせてある。 ならばトリステインで待てばいずれ来るだろう。 そう思って港に戻ろうとした時、その鼻孔をつく臭いに気づく。 急ぎ、風上に移動する彼女。そこで見た物。 なぎ倒された木々、吐瀉物、そして残された大量の血痕。 地面に伏すマチルダ。頬を伝うもの。 生きている筈だ、生きている筈だ、それでも。 彼女の心は不安で押し潰されそうだった。 破壊された城壁、転がる死体の群れ。ニューカッスルの戦いの後、美しかった王都はその姿をとどめてはいなかった。 その王都の一室で、レコンキスタ首領、クロムウェルはある人物と会っていた。 元トリステイン魔法衛士隊グリフォン隊隊長ワルド子爵。 トリステインのメイジの中でも五指に入る戦闘能力を持つ風のスクウェアメイジ。 その彼が、目の前にいる男に膝ま付いている。 (勝てない………) ワルドは自分がこの男に比肩しえないと気づいた。 それほどまでに余裕と、底知れなさを感じる立ち振る舞いだ。 (恐ろしい……) 一瞬でも早く退出したい。なにせ自分は任務を失敗したのだ。 しかし、彼は退くわけにはいかない。 「一つ……お聞かせ下さい………吸血鬼とは、どういうことですか?」 「ああ、黙っていたな」 あっけらかんとクロムウェルは答える。ワルドは心中で歯軋りする。 吸血鬼を手駒とする。その行為は構うまい。問題は別にある。 「吸血鬼をばら撒き、数多の人間を殺すことが始祖の意思だというのですか?」 「聖地の奪回には必要なことだ」 「罪の無い人間を殺すことがですか?」 「ただの平民だ。何、始祖も許して下さる。エルフどもから聖地を取り戻せるならな」 ワルドは眩暈を覚えた。聖地の奪回、確かにその行為は間違いなく正しいことだ。 そのための犠牲も覚悟している。しかし、それはあくまで常識の範囲のことだ。 化け物を作りだし、それをばら撒く。その犠牲は不必要であり、常識を越える。 ハルケギニアの人間が全滅しうるのだ。 ワルドは目の前の人物に心底戦慄した。尚も意見しようとした時、後から肩を叩かれる。 猫耳の少年が、何かを自分に握らせる。 それはナイフ。地下水と呼ばれるインテリジェンスナイフは、その体を乗っ取った。 一方、トリスタニアのとある酒場では一人の少年が倒れ伏していた。 「うう、理不尽だよう…」 ルイズとシエスタはサイトを痛めつけるだけ痛めつけてどこか行ってしまった。 「何であいつらあんなに怒るんだろ……」 ふとそこにアンデルセンがやって来る。 「あ、神父」 その顔が優しい顔だったので、嫌な予感がした才人は少し警戒する。 アンデルセンはそんなサイトの両肩に両手を乗せ、とくとくと話始めた。 「いいですか、サイト君。神は言われました。汝姦淫するなかれと」 「それは罪、それによってゾドムは…」 「ですが神はそれでもあなたを……」 「主イエスキリストはあなたを許す……」 「神に祈りを捧げ…」 「祈りとは戦い……」 神父が言葉を重ねるごとにサイトの目がだんだんトロンと酔ったようになっていく。 その様子を、組み技をしているセラスとされているベルナドットは唖然として見ていた。 「わかりましたか」 「はい、わかりました」 アンデルセンは少年の反応に満足そうに頷いた後去っていく。 「おい、サイト?」 「サイトくん……?」 「何でしょう? おふた方?」 二人の問に答えるサイトの目はキラキラと輝いている。しかし焦点は会ってない。 「おい、サイト。女は……」 「あはは。やだなあ隊長。ヤハウェの地上代行者たる僕がそんなことする訳ないじゃないですかぁ」 凄まじく元気に答え、悠然と歩いて行く彼を茫然と見送るセラス達。 「ああやって、13課ってのはできるのかね…」 「イ、イヤアァァァァ!!! ていうかどうするんですか! あの子まで神父みたくなったら」 学院の空気が偉いことになる。主にアーカードの回りで。どうしたものかと彼らは頭を捻った。 サイトはシルフィードに愚痴っていた。その瞳は何と言うか、ヤバい。 「全く。皆酷いよなぁ。俺はヤハウェの地上代行者なのにー」 風韻竜はそんな彼にかなり引いていた。追い詰められているのではなく、 ぶっ飛んでいるからだ。そこにベルナドットがやって来た。 「あ、隊長。お父チャンはお前の好きな金の玉を二つ持っちょる~ (東京都足立区の方言でこんにちはの意味)」 「今から飲みに行くぞ!ついてこい!!」 「いや、でもー僕は神に仕える人斬り包丁ですからー」 「じゃあ、メシだ! メシだけでも来い!」 このままでは彼がぶっ飛び狂信者になってしまう。あの神父のストッパーがいなくなるのは 学院生活に重大な支障をきたすので必死である。ふとシルフィードが騒ぐ。 「それじゃあシルフィも連れてくのね! お兄様達だけズルイのね!」 「え? いいけどどうやって店に入るんだよ」 「シルフィは韻竜なのね。舐めて貰っちゃこまるのね! 我を包みこむ風よ……」 そしてシルフィードは呪文を唱える。すると、彼女の体が光に包まれた。 そして現れたのは、二十歳前後の女性。驚くべき変身能力だ。 「どう? 凄いでしょ? 精霊の力は凄いのね」 「ああ、スゴイな…」 彼らの注意はそこでは無く、ただ一点に注がれる。すなわち裸だということ。 サイトはコートの中をまざくりある物を取り出す。それは彼が以前着ていたパーカーだった。 コルベール先生に珍しい素材ということで渡したところ、錬金で直され戻って来たものだ。 ベルナドットはそのパーカーがコートの中から出てきたことにはあえて突っ込まなかった。 そして着せてみる。パーカーだけ。サイズはやや大きく。大事な部分は隠れた、が。 「ベルナドットさん…………。コレは」 「よくやったサイト。お前は世界の半数から勲章を授与されるべき大功をたてたのだ」 サイトは極めてあっさり自然に狂信者からただのエロガキに戻った。隊長はホッと胸を撫で下ろす。 けれど流石にこの格好で町に行くわけには絶対いかないので、ベルナドットはスカートを買って来た。 「何でミニスカートなんですか?」 「セラスには内緒だぜ」 二人はがっしりと握手した。その瞬間二人の世界の歯車はがっしりと噛み合ったのだ。 ベルナドットに連れられてやって来た酒場。サイトは解放感で一杯であった。 おいしい料理、旨い酒、そして、 「キワドイ服着たお姉さん」 「ヒャッホー!!!!」 である。そんなお姉さんがたがお酌してくれたり乾杯してくれたりするものだから、 若い少年のテンションは馬鹿上がりである。 「おらおら死に掛けたんだから飲んでもバチ当たんねえぞ!楽しめよ!」 「隊長!一生付いていきます!」 「きゅいー!男前なのね!」 シルフィードはちょっといないくらいの美人故に、男性客を魅了する。 サイトはハルケギニアでは珍しい容姿から人目を惹き、 ベルナドットは元からこういう場になれていたこと。 そしてなにより羽振りが良いからこのテーブルは異様な盛り上がりである。 青い竜は鬼神の如く肉料理を食い漁っている。既に皿で塔が出来ている。 ベルナドットは女の子を両手に侍らせひどく楽しそうだ。 サイトはその二人のあまりのハジケっぷりに若干引きながらも、楽しく料理を食べていた。 何か懐かしい気がする肉とジャガイモの煮付けをパクつきながらふと気づく。 「これ………肉じゃが………?」 「?この料理をご存じですか?」 「ああ、何か故郷の料理に似てるんだ………」 「そう言えばサイトさんって私のひいおじいちゃんの刀も知ってましたね………」 「うん?」 隣をまるで油を入れ忘れた扉のようなぎこちなさで見るサイト、 そこに立っていたのは町娘の服を着たシエスタだった。 先程の仕打ちを思い出し、身を屈める。シエスタはそんな彼を見て恥ずかしそうに俯いた。 「あ! すいませんさっきは! そ、そうですよね、付き合ってないですしサイトさんは……… 男の子ですから………。それに健康なのはいいコトですし………。将来的にも……子どもは……」 「いや、そうじゃなくて………シエスタは何でここに?」 別の世界にトリップしていたシエスタはついうっかり、とでも言うように舌を出した。 「実はここ、私の従姉の働いている店で………この店の料理は私の故郷の味なんです」 サイトは思い出す、明らかに日本のものである刀と剣術を扱った目の前の少女の雄姿を。 「そういえば………シエスタのひいおじいちゃんって異世界から来たんだって?」 「ええ、東の方から………」 「そっか……じゃあシエスタの村へ行けば、帰れるかな……?」 サイトは遠くを見る、望郷の念が込められたその目をシエスタは潤んだ瞳で見た。 「サイトさん………帰っちゃうんですね」 「うん……いつまでかかるか解らないけど、いつかは………」 「………そうですか」 二人の間に気不味い空気が流れる、サイトはそれに気づき慌てて取り成す。 「まあ、でもとりあえず学院に帰って仕事しないとな、それにもうちょっと居たいし……。 すぐに帰郷できる訳じゃないんだろ?」 「え?ええまあ、纏まって休みがとれないと……夏休みまでは……」 「んじゃそれまでよろしく! ってことで乾杯な」 彼女は笑ってグラスを取る。慣れない手つきで酌をする彼らを見ながらベルナドットは笑う。 (休みくらい簡単にとれるだろ、やろうと思えば、ったく鈍いな………) しかし、ぎこちなく彼の機嫌を取ろうとする少女を見ると、わざわざ言う気にはならなかった。 三十分後 「いいですか?サイトさん……。あなた女の子二人に怪我させて……。 両性動物のクソをかき集めた値打ちしかないんですよ?あなたになんか」 「はい、すいません。俺クソでしゅ、むしろ魚糞でしゅ……」 「馬鹿言ってんじゃ無いですよ!肥料になるんですよクソは!わかってるんですか?」 「じゃ、じゃあ鉄くずでしゅ、肥料にもなんないでしゅ」 「何言ってんですか?鉄は大事な資源ですよ!?メイジにかかれば使いようはあるんですよ?」 「あ、あう……。それじゃあ……」 このような問答が延々と続いている。どうやらこのメイドには酒乱の気があるようだ。 ついでにこの少年はへべれけに酔っているので正常な思考が出来ていない。 そんな珍風景を見ながらベルナドットはまたこの子らをつれてこようと思うのだった。 だって面白いし 任務から帰った翌日、一同はオールド・オスマンの部屋に呼び出された。オスマンの手には一枚の紙がある。 トリステイン王家の紋章が書かれた指令書である。 「サイト君。そなたをルイズ・ヴァリエールの使い魔、アレクサンド・アンデルセンの助手とする。だそうじゃ」 正直最初は何を言っているのか分からなかった。自分はこの前まで厨房で世話になっていたのだから。 「不満かの?」 「いえ……。文句はありませんが……。何でまた急に?」 「さあ……。まあ、給料は増えるし、引き受けてくれんかの」 彼としても特に異存はない。元々彼を敬愛していたこともある。だが、何か引っかかるものを感じたのだ。 「あ、ああそう! い、いいんじゃないかしら!」 才人の思考は可愛らしい少女の声で寸断される。ルイズである。 「駄目ですよ!サイトさん!」 ルイズを押しのけて才人に言葉を掛けるのはシエスタだ。 「よ、要はミス・ヴァリエールの従僕ということでしょう?確かに給料はいいですけど仕事は大変ですよ?」 成程、アンデルセンはルイズの使い魔であるから、そういう仕事もあり得るだろう。 その後ルイズとシエスタは言い争いを始めたが、才人は構うこと無く再び思考の闇に自身を沈めた。 助手。ということはアンデルセン神父の教会建造をサポートしろということか。 これは小さいながらも吸血鬼をレコンキスタが運用していることを考えれば中々重要な仕事だろう。 それを彼とある程度気心が知れた関係とはいえただの平民、それも出仕不明の俺に任せるか? いや、待てよ。確かブリミル教の本山であるロマリアは大きな力を持っているんだろ? だったら俺はただの平民な訳だからもしロマリアとやらに捕まったとしよう。 けれどトリステインとしては言い逃れは効く訳か……。 「仕事は大変だけど! 給料は高いんだからいいじゃない!」 「サイトさんはもとの世界に戻るんだから給料なんて気にしません」 このような会話を聞きつけ、サイトの思考が他にも移る。 (そうか……。元の世界に帰ることを考えたら、厨房の手伝いよりも勝手が効くか?) 厨房の仕事は年中ほぼ無休と言っていい。けれど従僕というならそんなに仕事は無いのでは? それはサイトの頭の中の話であって、実際はむしろ従僕の方が責任を伴うため一般的には忙しいのだが。 「そ、それに給料が高ければあの馬鹿でかい竜にいい食事を与えられるんじゃないの!?」 ルイズのその言葉が不味かった。ガシャンという音とともに眼前の窓ガラスが突き破られた。 「きゅい! きゅい!」 才人は頭を抱え、窓を突き破った食いしん坊の竜に近寄る。 「シルフィ? お前が窓を突き破っちゃったから俺はその弁償のためにお金を払ってお前にお肉買う お金が無くなっちゃうんだよ? あと、もしお前がやったことで学院追い出されたらマルトーさん からのごはんも無くなっちゃうんだよ? そこんところ分かるかな?」 シルフィードは才人の妙な迫力により怯んだ。 そしてこんなことをしでかして学院長の申し出を断れるはずもなかった。 オスマンは学院長室にて、水キセルを吹かしながら考えていた。 彼は才人を気の毒に思った。ワルドを倒したことは、王宮にも、彼らの敵対者にも、彼の存在を知らしめた。 この通達の意味も分かっていた。 使い魔とはいえただの平民に助手、といっても限りなく召使に近い人間を与えること。 明らかに不自然である。 また、彼の給付も学院からでなく王政府から直接出されるようになった。 すなわち、平賀才人の身柄は限りなく政府に近いものになったということである。 いや、おそらくは政府内の誰かが彼を確保しようとしたのだろう。 もしこのまま学院内の手伝いのままでいさせたなら、他国に引き抜かれる可能性もあった。 しかし、この措置により、彼の接触には制限がつくようになった。 要はヘッドハンティングに限り無く近い。 オスマンの机には、学生は持ち出し不可の書物が平積みで置いてある。 しかし、異世界に関する事柄は見つからない。溜息が洩れる。 「恨まんでくれよ、サイトくん」 彼を助けることはできない。戦いの最中に行く、年端の無い少年を止める術を持ってなどいないのだ。 彼が望んでいくなら尚のことだ。 「これで良かったのですか? 枢機卿」 王女の一室にて、アンリエッタと、幼い姫に代わり、実質国の実権を持っているマザリーニ枢機卿。 彼は、その瞳の色を何ら変えずに頷いた。 「ルイズ・ヴァリエールの仲間は多ければ多い程よろしい」 「彼は平民ですよ?」 「ワルド子爵を撃退できる平民です」 アンリエッタの密命は、もはや彼女ただ一人の秘事ではすまなくなった。 魔法衛士隊の隊長が裏切ったのだから当然である。彼に知られぬ筈もない。 そして何よりレコンキスタが吸血鬼を運用していることを枢機卿に相談せぬ訳にもいかない。 また、彼女自身も、彼を国に仕える人間としては信頼していた。 ただ、彼の中では自分の優先度が国全体より低いというだけだ。 無論わだかまりはあるが、一時の私情を国事より優先させるほど出来ていない人間ではない。 「よろしいですか。姫。味方は一人でも多い方が良い。そしてヴァリエール殿はあなたの味方です」 アンリエッタは頷く。おそらく唯一と言っても良いだろう。 「そして、それならば彼らもまた、味方でありましょう。そして、そこにある不純物は取り除きなさい」 もし、彼がこのまま学院に所属していたなら、彼の行動はオスマン老によってある程度制限される。 よって、この制限を取っ払っただけのことだ。 これ以降ルイズに密事を依頼する場合、彼は容易に追従してくれるだろう。 それは理解できるものの、アンリエッタは何故か薄暗いものを感じていた。 マザリーニの中では、才人に対する評価はかなり高い。はっきり言ってワルドの強さはトリステイン全体 の中でもかなりの部類に入る。それを打ち破った男を手放すなど、マザリーニから言わせれば、ありえない。 まして、彼の耳には当然各地で暗躍する吸血鬼の存在も耳に入っている。彼らは一見無計画に人を殺して いるだけだったが、彼らを計画的に運用している存在が明らかになったのだ。 そしてその集団。レコンキスタがアルビオン政府を打ち倒し、ここトリステインに攻め入ろうとしている。 その時、アンデルセンや才人の存在は欠かせぬ力となる。 アンデルセンの場合は公爵子女の使い魔ということもあり、そう気軽に運用できる者ではない。 しかし、サイトは身分としてはただの平民である。彼ならば、自分の計画に最適な人物であろう。 条件次第ではあるが、取り込めるやも知れない アンデルセンの力、あるいは吸血鬼達の力は凄まじい。 しかし、彼らは自分達で制御できる存在ではない。 それならば力は劣っても確実に制御できることの方が重要だ。 マザリーニの手には一つの草案があった。 『対吸血鬼戦専用部隊 王立特務機関第十三課』 「俺はいいですけど……。神父はいいんですか?」 「何が?」 「いや、足手纏いとか。邪魔とか……」 気まずそうに才人は訊ねる。アンデルセンはごそごそとあるものを取り出した。 それは、生物工学の粋をこらした再生能力が入った箱。ヴァチカンから失われた技術。 その力を持つのはアンデルセンと才人のみとなった人類が生み出した技術である。 「これをヴァチカンに還したい」 もとより一度滅んだ身である彼には元の世界に戻ることに興味は無い。 むしろ一度死んでなお生き返るというのは彼から言わせてみれば神への冒涜であり、吸血鬼と同じである。 だが、この箱の中に入っている技術は元よりヴァチカンのもの。 であれば、これを元に戻すのが神から与えられた使命であろう。 才人は口元を緩めて答える。 「わかりました。俺が元の世界に帰る方法を探しますよ。それでは、一応マルトーさんに挨拶してきます」 「ええ、私も彼女に一応断っておかねばなりませんので」 そう言って二人はそれぞれ別れた。 学院長室にはルイズ達に続いて、ミスロングビルが入室してきた。 「おお、ひさしぶりじゃ。休暇はどうじゃった?」 「ええ、まあ。」 「さて、さっそくお願いしたいことがあるんじゃがのう。」 そう言って、書類を出す。 「何でもこの前、軍艦がアルビオンとの定期船と事故を起こしてのう。 そこに乗っていた子ども達が、トリステイン魔法学院にいるマチルダという女性に厄介に なる予定だったと言っておる。しかし、そんな女性、うちで勤務しておらんでのう。」 その言葉にロングビルの顔が輝いた。 「そ、その方は私の友達ですわ!色々と事情のある方で………。とにかくその子達は私が………。」 「む?そうか………。まあわしはかまわんし、余計な詮索もせんが。」 「で、では用意致しますわ」 「うむ、まあよいようにしなさい、フーケどの。」 駆け足で退出しようとしたロングビルの動きがピタリと止まる。オスマンは楽しそうに笑う。 「ま、改心しようとする人間をどうこうしようとはおもわんわい……。 あとは破壊の杖を返してくれればな。 それに。」 ゴホンと咳ばらいしてつづける。 「その、髪もボサボサ、服は後ろ前、靴は左右逆、おまけに下着もはかんようになるまで、 その子達を心配していた女性を捕まえるのは忍びないでのう」 「え!あ!」 マチルダは顔を真赤にして杖を振る。 「オールド・オスマンが落ちて来たぞ!!」 「でもなんか幸せそうだわ!」 自分に対し様々な思惑が絡んでいるとは露ほども知らない才人は、余りに急すぎる展開に上の空になりつつも、やるべきことをする。 まずはマルトーに挨拶、急過ぎる辞職に戸惑ったようだったが、神父の助手ということで割りと歓迎していた。 「頑張れよ!腹が減ったらいつでも来い!」 背中を叩かれ噎せ返る。けれど気の良い言葉に元気づけられた。 「サイトさん。辞めちゃうんですか?」 シエスタが潤んだ瞳で聞いてくるので彼はどうしようもなく焦る。 「あ、いや別に学院にいることには変わらないし、神父の助手ってだけだから!」 「……また遊びに来てくれますか?」 「う、うん」 そこで納得したのか、明るい顔になるシエスタを見て、才人はホッと胸を撫で下ろした。 「また困ったことがあったら手伝うから、いつでも頼りにしてください」 「おうよ。またいつでも来い。『我らが銃剣』」 「ちょっと待って下さい!何すかそれ!?」 「ん?そりゃあお前、何か知らんが重大な任務を任され、おまけに風竜を操るなんて凄いじゃねえか!俺達の誇りだ!」 「いや、それなら神父の方が」 「神父様は『我らが神父』だ」 「ってそのまんまやないかーい」 冷静になって考えれば、厨房勤めから神父の手伝いに代わるだけなのでさして変わらない。 神父と共に吸血鬼を狩ったり教えを乞いたりする分にはむしろ都合がいいくらいである。 ふと、ワルドとの戦いを思い出す。おそらく近いうちに彼は才人の前に現れる。 次は本気で殺し合うだろう。 「まだ足りない。まだ」 ワルドを打ち倒すには何かが足りない。教えてくれるだろうか。 人狼。最後の大隊。レコンキスタ。そして吸血鬼。 ふと、才人は頭を傾げた。 「俺、何でこんなに吸血鬼が嫌いなんだ?」 確かに殺されかけたが、それだけで自分の人生全て掛けるほどの憎しみがあるのは何故なのか。 なぜ自分はあのアンデルセン神父にこうも執着するのか。 よくわからない感覚を覚え、困惑する。考えてみれば不自然ではないか。 ただの高校生である自分がこうも無茶な戦いをするなどということは。 「前世に何かあったのかもな」 カトリックとしてはどうかと思う発言をしながら、才人はルイズの部屋までやって来た。 ふと耳を澄ませば、何やら言い争いの音が聞こえる。といってもルイズが一方的に捲くし立てているだけの ようだが。才人としても彼らの仲が悪いのは非常に頂けない。意を決し中に入る。 「WAWAWA~~」 「おお、サイト。ちょうど良かった」 アンデルセンが才人の肩を掴むと、信じられない力で彼を持ちあげ、自分と主人の間に立たせた。 「後はよろしく」 抜けた声を出す彼を置いて、アンデルセンは凄まじい速さで廊下を駆けて行く。 「待ちなさい! アンデルセン!」 ルイズは廊下を走る彼に向けて杖を振り上げる。才人は慌てて彼女の杖を取り上げた。 「何すんのよ! 逃げちゃうじゃない!」 「いや! お前何する気だよ! いいからおちつけって!」 「うるさいうるさいうるさいうるさーーい!!」 才人から杖を引ったくり、そのまま少年にレビテーションを掛ける。 ドカン!! 爆風をバックステップで避けた辺りこの娘も成長しているようである。 「成程、神父が教会を作るために出かける。けどそれは使い魔として失格だから止めたと」 煤だらけになった才人は恨めしげに彼女を見る。 「あのな。使い魔とは言え神父は人間だぞ?それなのにそういつまでも束縛したり、 あまつさえ爆破したりするなよ!人間扱いしないんじゃ神父だっていつまでもお前を守りはしないぞ!」 才人の説教にルイズはそっぽを向き、頬を膨らませる。普段の彼なら顔がニヤけんばかり の愛らしさだが、いかんせん先程爆破されたばかりなので顔に張り付くは怒りの形相だ。 (落ち着け、才人。こいつはいくら可愛くても、人がどっかいっちゃうと教室を半壊させる爆破を 人間相手(まあ神父だが)に平然とぶっぱなす女だ。これはハルヒやナギのようなツンデレではない!ヤンデレだ!山岸由香子だ!) 「とにかく反省しろよ?!」 ルイズはしばらく憮然としていたが、ふと気になって声を掛ける。 「あんた何でここにいるの?」 シカト? いや、もっと他に御免とか! わかったとか! 才人は前途多難すぎて泣けてきた。 結局、元の世界に帰る方法を探すどころではない程忙しい日々が始まることになる。 前ページ次ページ虚無と狂信者
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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第59話 平和と出会いと流れ星 宇宙怪獣 ザランガ 登場! ルイズたちの旅も、そろそろ前半が終わろうとしていた。 内戦状態のアルビオン大陸も、戦場以外では治安はなかなかよく、盗賊だのなんのには会わずに、 目的地であるウェストウッド村まであと一時間ほどの距離まで来ていた。 「内乱中だっていうから用心してたのに、結局平和なもんだったな」 「そーだな、俺っちも出番あるかもと思ってわくわくしてたのに、期待はずれだったわ、つまんね」 才人とデルフが仲良く髀肉の嘆を囲っている。馬車の旅というのも慣れれば退屈なもので、ラジオや カーステレオがあるわけでもなく、豊かな自然も逆に変化がなくて飽きが早い。カードゲームをしたり 本を読もうかと思ったりもしたが、馬車はけっこう揺れてカードが飛び散るし、この際こっちの文字にも 慣れようかとタバサに借りた本を開いたが、すぐに酔ってしまってやめた。 ルイズやキュルケなどは例によって先祖の誰彼がどうだとか、よく飽きもせずに言い争いを続けているが、 寝疲れてもしまった以上、退屈は最高の敵だった。仕方がないので御者をしているロングビルといっしょに 行き先を眺めた。街道は、旅人や商人が行きかい、こちらも平和そのものだった。 「この調子だと、予定より早く着きそうですね」 「そうですね……うーん」 「? どうかしたんですか」 予定が早くなりそうなのに、なぜか納得のいかない顔をしているロングビルに、才人は不思議そうに 尋ねると、彼女は首をかしげながら答えた。 「いやね。いくらなんでも平和すぎるなって、普段なら一、二度は盗賊に、特にこんな女子供ばっかりの 一行なんてすぐにでも襲われると警戒してたんだけどね」 「そりゃ物騒な。けど、王党派ってのが治安維持に力を入れてるって聞きましたが」 「かといっても、内戦中にそんなに兵力を裂けるはずがないんだけど」 「なるほど、でも襲われるよりは襲われないほうがましでしょ」 才人としても、悪人とはいえあまり人は斬りたくない。だからといって宇宙人や怪獣は殺してもいいのか といわれると困るが、更正の余地があるなら生きてもらいたい。もっとも、「こらしめてやりなさい」の パターンでギッタギタにしてやりたいとは、是非願うところだが。 そうしてまた一〇分ほど馬車を進めていくと、街道の先に槍や剣を持った一団がたむろしているのを 見つけた。最初は盗賊かと思ったが、身なりを見ると役人のようだ。彼らは一〇名ほどで、道端に 転がっている汚い身なりの男たちを縛り上げている。どうやら盗賊の一団が捕まっているようで、 街道を一時的に封鎖されることになった一行は、馬車から降りて役人の一人に話しかけて事の 次第を聞くことにした。 「実は、ここのところあちらこちらで盗賊集団が次々と壊滅させられていて、我々が通報を受けたときには すでに全員気絶させられて見つかるんです。おかげで、ここ最近は盗賊の被害が以前の一〇分の一 くらいに減りましたよ」 こちらが貴族の一行だとわかったようで、役人の対応はていねいなものだった。 「盗賊が次々と? どういうことですの」 「それが、盗賊たちの供述では一人旅をしている女を襲ったら、これがめっぽう強くて気がついたら 気絶させられて捕まった後だったとか」 「たった一人で!? そんな凄腕のメイジがいるんですか」 「いいえ、それが魔法は一切使わずに、盗賊のメイジも体術だけで片付けてしまったとか。もうアルビオンの 全土で数百人の盗賊や傭兵くずれが半殺しで捕縛されています。平民たちの間では、『黒服の盗賊狩り』と 呼ばれてもっぱらの噂になってるくらいですよ」 「『黒服の盗賊狩り』……体術だけでメイジを含む盗賊団を壊滅させるなんて、サイトみたいな人がほかにも いるものねえ」 ルイズは世の中は広いものだと、しみじみ思った。自分の母である『烈風』カリンもしかり、世の中には いくらでもすごい人がいるものだ。 なお、この噂の人物の正体は旅を続けているジュリなのであるが、別に好き好んで盗賊狩りをしている わけではない。若い女性があんまり無防備に一人旅をしているものだから、身の程を知らない盗賊たちが 喜んで集まってきて、その挙句返り討ちにあっているというわけである。この盗賊団にしても、昨日 似たような行為をしたあげく、丸一日野外に放置されて、気がついたときには縛り上げられていたのだが、 この時点では当然ルイズたちがそれを知るよしはない。 顔をボコボコにされて肋骨を二、三本はへし折られたいかつい男たちは、いったい自分たちに何が起こった のかわからないまま、役人に連行されていった。傷の手当てもろくにされずに、この酷暑の中を歩かされて いくのは死ぬような思いだろうが、所詮は盗賊働きをしようとしての自業自得なので同情には値しない。 「失礼しました。どうぞお通りください」 役人たちの事後処理が終わって、馬車は再び走り出した。役人は去り際に、この近辺の盗賊団はこいつらで ほぼ一掃されました。ごゆるりと、旅をお続けくださいと、まるで自分の手柄のように言っていたが、それもまた 彼の顔といっしょに忘却の沼地への直行となった。 一行を乗せた馬車は、それから街道の本筋を離れた森の中の脇道に入っていった。こちらに入ると、 本道のにぎやかさも嘘の様で、自分たち以外にはほとんど人とすれ違うこともなかった。木々の張った枝は 広く、昼間だというのに小さな道は木漏れ日がわずかに射すだけで薄暗い。しかしその分涼しくはあり、 これでやぶ蚊さえいなければ天国といえた。 馬車は、そんな木々のトンネルの中をわだちの跡をたどりながら進んでいく。 「つきましたわよ」 ロングビルに言われて馬車から身を乗り出したとき、一行はそこに村があるのかすらすぐにはわからなかった。 よくよく見てみれば、森の中に数件の小屋と、畑らしきものが見え隠れしている。 その後、ロングビルの言う村の中央に馬車を停め、一行はようやく到着したウェストウッド村を見渡した。 本当に、村というよりは山小屋の集まりといったほうがいい。家々は、この森の中ではたいした存在感を持たず、 畑も自給自足というレベルに達しているのかどうかすら疑わしい。 「ここが、ウェストウッド村……ね」 自分自身に確認する意味も込めて、ルイズは村の名前を復唱した。はっきり言えば、タルブ村より少し小さい 程度を想像していたのだが、その予測は完全に裏切られた。これでは村という呼び方すら過大に見えてしまう。 産業などある気配はまったくなく、ロングビルの仕送りがなければあっという間に森に飲み込まれてしまうのは 疑いようもない。ただ、村の裏手の森が台風に合ったみたいに広範囲に渡ってなぎ倒され、中途半端な平地に なっているのには、前はこんなことはなかったのにとロングビルも合わせて不思議に思ったが、とにかくも 村であるなら住人がいるはずである。 「テファー! 今帰ったわよーっ!」 そうロングビルが、目の前の一軒の丸木の家に向かって叫ぶと、数秒待ってから樫の木作りのドアが 内側から開き、中から緑色の簡素な服と、幅広の帽子をかぶった少女が飛び出してきた。 「マチルダ姉さん!」 「ただいま、テファ」 ティファニアと、マチルダと呼ばれたロングビルはおよそ一年近くになる再会を手を取り合って喜び合った。 けれど、ティファニアと初対面となるルイズ、才人たち一同は感動の再会を見て素直にお涙頂戴とは いかなかった。ティファニアが、ロングビルから聞いていた以上の、妖精という表現をそのまま使える、 美の女神の寵愛を一身に受けたような美少女だったから、というのもあるが、最大の、そう最大の問題は 彼女の胸部の二つの膨らみにあったのだ。 「バ、バストレヴォリューション!?」 と、平静であれば本人でさえ自己嫌悪したと思える頭の悪い台詞を、才人が呆然としてつぶやいたとき、 残った女性一同の中で、その台詞に怒りを覚える者はいても、否定できる者は誰一人としていなかったのだ。 「な……なに、アレ?」 「た、多分……胸」 と、ルイズとシエスタ。 「ね、ねえタバサ、わたし夢を見てるの?」 「現実……」 青ざめて絶句しているキュルケをタバサがなだめている。唯一、年長者たちが何に驚いているのか わからずにアイだけがきょとんとしている。まぁ、阿呆な思春期真っ盛りな一同の気持ちを代弁するとすれば、 ティファニアの胸が彼らの常識を逸して大きかった。それで男の子の才人は思わず見とれてしまい、女子 一同の場合は、胸に自信のないルイズは逆立ちしても勝てない相手に絶望感を味わわされ、バストサイズに 優越感を抱いていたキュルケとシエスタは、完全に自信を打ち砕かれて天から地へ打ち落とされ、タバサは 一見平静を保っているように見えたが、内心では勝ち目〇パーセントの相手に、冷静な判断力を持って 敗北を認めていた。ただし、一時の激情も過ぎれば、それを埋めるための代償行為を要求する。 「このエロ犬! あんた何に見とれてんのよ!」 と、才人に蹴りを入れたルイズなどはその際たるものだろう。ほかの者たちも、小さくても形がよければ とかなんとかぶつぶつと言っているが、現実逃避以外の何者でもない。 けれど、いくら現実を拒否しても時間の流れを停止も逆流させることもできない。ロングビルと再会を 喜んでいたティファニアが、いっしょに付いてきた奇妙な一団に気づいて尋ねてくると、言葉尻を震わせながら 自己紹介をせざるを得なくなった。 「ト、トリステイン魔法学院二年生の、る、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ。あ、 あなたのお姉さんには、い、いつもお世話になってるわっ!」 他の者たちもだいたいはこんな調子である。ティファニア本人は、何故この客人たちが動揺しているのか さっぱりわからなかったが、自分も陽光のように明るく無邪気な笑みを浮かべて、自分の名を名乗った。 そうして、一同はそれぞれ大まかなことを語り合った。ロングビルの名前が偽名であることはフーケ事件の 時から一同は察しをつけていたが、本名はマチルダといい、ずっとティファニアのために仕送りをしていたこと、 ティファニアも今はマチルダが魔法学院で秘書をしており、その縁で仲良くなった生徒たちだと聞かされた。 むろん、土くれのフーケについては一言も触れられてはいない。 それから、マチルダはアイを前に出して、この子を預かってほしいと頼んだ。すると、ティファニアは 自分の腰ほどの身長しかない少女の視線にまで腰を下ろして。 「はじめまして、アイちゃん。小さなところでがっかりしちゃったかな」 ティファニアは、「今日からここがあなたの家よ」などと押し付けがましいことは言わなかった。元々、 子供の育成に理想的な環境などではないことくらい彼女も承知している。来るものは拒まないが、 いくら幼かろうと相手の意思を無視してはいけない。しかし、ティファニアの懸念は無用のものとなった。 「いいえ、これからよろしくお願いします。テファお姉さん」 はつらつとアイは答えた。よき親を持った子供はよく育つ、ロングビルが育ての親となって暮らした この数ヶ月、純粋な子供は水と日差しを貪欲に得て伸びる朝顔のように成長していた。単に自由に育てたり、 勉強を押し付けたりするだけが教育ではなく、人はそれを躾といい、ティファニアに快い初印象を与えていた。 「こちらこそよろしくね。よーし、じゃあみんな出ておいで!」 ティファニアがドアを開けっ放しだった家に向かって手を振ると、中からいっせいに歓声をあげて 子供たちが飛び出てきて、一行に群がっていった。 「わっ、こ、こんなにいたのか!?」 才人たちは、この村の住人にとってちょっと久しぶりの歓迎すべき客人になる者たちを、喜んで 出迎えてくる十数人の子供たちに囲まれて、またもうろたえていた。どの子たちも、身なりこそみすぼらしいが、 瞳は明るく強く輝いている。むしろ大人に近いはずの才人たちのほうが力負けしてしまいそうな勢いだった。 「こらこらあなたたち、お客さんを困らせるんじゃないの。それじゃあ皆さん、狭いところですけど、自分の家だと 思ってくつろいでください」 はしゃぐ子供たちを落ち着かせて、ティファニアは困惑する一同を、家の中に誘った。まだまだ話したい ことは山ほどあるが、とりあえず立ち話もなんであった。時間はまだたっぷりとある。こうして、夏休み旅行の 本番は、小さいながらもいろいろハプニングの種がありそうな村で、革命的な胸の持ち主の美少女との 出会いによって始まったのだった。 それから、場所を室内に移して、子供たちにまかれながらいろいろと話し合った結果、一行はこの数ヶ月分の 驚きをいっぺんに使い果たすくらいの驚愕を味わうことになった。 「エ、エルフぅぅっ!?」 と、ルイズとキュルケとシエスタの絶叫が響いたのが、その際たるものだっただろう。ティファニアの正体が エルフであることは、ロングビルが隠す必要がないと言ったおかげで早々に明かされることになったのだが、 ティファニアは驚く三人におびえた様子を見せていたが、一時の興奮が収まると。 「なにを怯えてるんだお前ら、アホか?」 白けた口調でつぶやいた才人の声もあり、落ち着きを取り戻していった。けれども、エルフがハルケギニアの 人間にとって恐怖の対象だということは変わりない。以前ジュリと話したときもティファニアは怯えていたが、 ジュリはエルフなど、文字通り星の数ほどいる宇宙生物の一つとしか思っていなかったために、すぐに 打ち解けられていた。また、才人は地球人であるために、エルフとはゲームの中で出てくる人間以外の 種族という印象しかない。けれど今回はあからさまな恐怖を向けられて、彼女は自分が大勢の人から 見たら忌まわしいものなのではと、泣きそうになっていたが、子供たちが怒りの声で糾弾をはじめた。 「テファおねえちゃんをいじめるな!」 その数々の声が、ルイズたちを攻め立て、ティファニアは慌てて子供たちを止めようとしたが、それより 早くルイズが謝罪した。 「ご、ごめんなさい。あんまり突然だったものだから驚いてしまって、失礼したわ」 キュルケとシエスタもルイズに次いで謝罪した。冷静になると、どう見ても弱い者いじめをしているようにしか 見えないし、才人の侮蔑するような視線が痛かった。むしろティファニアに「やっぱり、エルフは怖いですよね」 と、涙ながらに言われると、罪悪感ばかりが湧いてくる。 「いえ、悪かったのはわたしたちよ。エルフなんて見たことないから、怪物みたいなものかと先入観を 持ってたけど、案外人間とさして変わらないのね。けれど、なんでエルフがアルビオンに?」 ティファニアは、訥々と自分の素性についてルイズたちに語った。自分の母はエルフで、東の地から来て、 父は昔はこのサウスゴータ地方一帯を治める大公だったが、ある日エルフをかこっていたことが王政府に ばれて、追われる身となり、両親をその混乱で失い。親戚筋で、彼女を幼い頃から可愛がっていた マチルダにかくまわれてこの森で過ごしていることなどを、途中何度かロングビルの助けを借りながら 話しきった。 「ハーフエルフ……可能性だけは聞いていたけど、本当に可能だったのね」 「母が、なぜアルビオンに来て、父と結ばれたのかは何も語ってはくれませんでした。それでも、母は わたしが生まれてからずっと、国政に関わることもなく、隠遁生活を続けていました」 何故ティファニアの母がアルビオンにやってきたについては、結局娘であるティファニア本人にも わからないということだった。話し終わると、ぐっとティファニアは喉をつまらせた。ルイズたちは、悪いことを 思い出させてしまったと後悔したが、彼女に悪いものは感じられずに、ちょっと無理をして微笑んだ。 「顔を上げて、ミス・ティファニア、あなたが悪に属するものではないということはよくわかりました。 夏の間の短い期間ですけど、しばらくよろしくお願いするわ。そうでしょ、キュルケ」 「ちょっとルイズ、あたしが言おうとしてたこともっていかないでよね。ま、いいわ。休暇の間、仲良く やりましょう。友達としてね……ある意味ライバルだけど」 「わ、わたしも負けませんよって、なに言ってるんだろうわたし!? と、とにかく人間……いえ、エルフも 人間も中身で勝負です! よろしくお願いします、ティファニアさん」 ルイズ、キュルケ、シエスタがそれぞれ、自らの内にあった偏見との別れを告げるべく、強く、そして 親愛を込めて笑いかけると、落ち込んでいたティファニアの顔に紅がさした。 「わ、わたしこそよろしくお願いします。それではわたしのことも、テファと呼んでください。マチルダ 姉さんのお友達なら、わたしにとってもお友達です!」 一同の間に、春の陽気のような暖かな空気が流れた。先程まで恐怖と警戒心を向けていたルイズたちと ティファニアは、仲良く手を取り合って旧知のように笑いあっている。それを静かに眺め見ていたロングビルは、 にこりと微笑んだ。 「よかったわね、テファ」 「姉さん、ありがとう。今までで最高の贈り物よ」 いきなりこんなに大勢の友達を得れて、ティファニアは今さっきとは別の意味を持つ涙を流していた。 元々、ルイズもシエスタもキュルケも、陰より陽に属する性格の持ち主なのである。それは怒りも憎しみも 存在するが、いわれもなく他者を貶めることに快楽を求めたことはない。しかし、そんな様子を同じように 見ていて、後一歩で飛び出そうかと思っていた才人はロングビルに軽く耳打ちした。 「ちょっと、無用心じゃないですか? もし、誰かが激発して彼女に危害を加えたり、秘密を漏らしたり するようなことがあっちゃ、大変じゃないですか?」 「大丈夫よ、オスマンのセクハラじじいのところに入って後悔したときから、人を見る目は磨いてきた つもりなの、じゃあ逆に聞くけどこの面子の中に一人でも恐怖や偏見に従って裏切るような人がいるの?」 そう言われると、ルイズやキュルケが裏切りなどという貴族の誇りを真っ向から否定する行為に手を 染める姿は想像できないし、シエスタも人一倍友愛や人情には厚いタイプだ。一度決めた友情を、 自分から裏切るようなことは絶対にするまい。ただ、三人の誰もまったく全然、どうしようもなく敵わない 二つの巨峰の持ち主に、冷たくすれば返って敗北を認めることになるという、負け惜しみの悪あがきに 近い屈折した感情があったのも事実であるが、それでも彼女たちは宇宙人とでも親交を持った稀有な 経験の持ち主である。エルフであるということを回避すれば、仲良くしない理由のかけらも存在しなかった。 「それでも、秘密を知る者は少ないに越したことはないでしょ」 なぜ、そんなリスクを犯してまでと聞く才人に、ロングビルは古びた木製のワイングラスから一口すすると、 自嘲げに才人に話した。 「実を言うとね。そろそろ私一人でこの子たちを守っていくのが限界になってきてたんだよ。子供はいずれ 大人になるものだしね。いつまでもこの森に隠しておけるはずもないし、今のうちに信頼できる味方を 与えてやりたいと思ったのさ。本来こんなことを頼めた義理じゃないかもしれないが、あの子の力に なってやってくれないか?」 「そういうことすか……でも、さっきのあなたの台詞を借りれば、おれたちが万一にも断ると思ってたんですか?」 才人は、投げられた変化球を同じ形でロングビルのミットにめがけて投げ返した。エルフの血を引く少女と たくさんの子供たち、自分の力だけではどうにもならず、多分ルイズやキュルケたちの地位や財力を頼る ことにもなるかと思うが、できるだけのことはしてやろうと彼は思った。 「まっ、ティファニアくらい可愛い子だったら、守って腐るほどおつりがくるわな」 「サイトくん、嫁にはあげないわよ」 「そういうとこだけは親バカですね。ま、無関心よりゃずっといいか」 親バカなロングビルというのもなかなか親しみが持てると、才人は苦笑しながらも、タバサを巻き込んで 輪に入っていった。 それから、一行は薄暗くなってきた外に合わせるように、夕食の準備を始め、最終的にティファニアの家で 二十人以上が一つの卓を囲んでの大宴会をおこなって、終わる頃にはもうなんらの屈託もなくティファニアや 子供たちと交流できていた。 やがて夜も更けて、子供たちはそれぞれの家に帰って早めの就寝についた。アイは、早めにこの村に 慣れるためということで、エマという子といっしょの家で寝ることになった。 さて、子供たちが大人しくなると、今度は夜更かし大好きな少女たちの時間である。ルイズたちは ティファニアと女同士の話し合い、というか、どうすればどこが大きくなるかという重要会議を始めて、 男性である才人は外に追い出されて、同じように外で涼をとりながら酔いを醒ましていたロングビルと、 ぽつりぽつりと話し合っていた。 「やれやれ、雁首揃えて何を話し合ってんだか」 今、ランプの明かりをこうこうと照らした室内では、”ティファニア嬢との親交と友愛を深めるための会談” が、おこなわれているはずであったが、実際に中から聞こえてくるのは、何を食べているのかとか、 普段どういう運動をしているのかとか、根掘り葉掘りティファニアに尋問する言葉ばかり聞こえてきて、 持たざる者の哀愁を感じざるを得ない。特にルイズは、今後成長期が奇跡的にめぐってきたとしても ティファニアを超えることは物理的に不可能なので、なおさら哀れを感じてしまう。あれはあれでいいもの なのだが…… 「サイトくんには、胸の小さな子の悩みはわからないのかしら?」 「正直あんまりわかりません。けど、やたら大きけりゃいいってもんじゃないと思うがなあ。誰も彼も大きければ 個性がねえし……それよりも、ロングビル……えーっと、マチルダさん」 「どっちでもいいわよ。どのみち帰ったらロングビルで通すんだし。それで、私に何か用?」 ロングビルも、久々の里帰りで機嫌がよいようだ。 「じゃあロングビルさん。あの連中、ほっといていいんですか? どーもテファの教育上よくない気がするんすが」 「なあに、いずれ外で暮らすようになれば嫌でもそういうことは関わっていくことになるから、予行演習には ちょうどいいわ。あの子はちょっと純粋すぎるところがあるからね」 要は、無菌室で育てはしないということか、それに比べて、世の大人には子供にはいつまでも天使の ように純粋でいてほしいと、子供の一挙一頭足まで厳しく制限する親がいるが、それは子供への愛ではなく 自らの妄想が作り出した理想の子供像への執着に過ぎない。そして、親の幻想を押し付けられる子供には かえって有害でしかない。悪魔どもが天使を陥れようと跋扈するのが世の中なのだから。 「純粋すぎますか。けど、テファがあいつらに感化されたらそれはそれで問題な気がしますが」 「……」 誇り高く尊大で暴力的なテファ、お色気ムンムンで男あさりをするテファ、妄想爆発でイケナイ子なテファ、 果ては無口で本ばかり読んでいるテファ、思わず想像してみた二人はぞっとするものを感じた。 「ま、まあそのことは、あとでテファに注意しておきましょう……」 朱に染まれば赤くなるというが、あの連中の個性は朱というよりカレーのしみのようなものだ。一度 ついてしまえば洗っても落ちない。ロングビルは、この際積もる話もあるということで寝る前に悪い影響を 受けてはいないかと確認することにした。 だが、先程の話ではあえて出さなかったが、アルビオンにいるエルフということで、才人は一つ心当たりを つけていた。けれど、それを直接ティファニアに聞くことははばかられたので、ロングビルにそれとなく 話を振ってみようと思っていたのだが、せっかくの再開で機嫌がいいときにそんなときに話を振って よいものかと、才人は今更ながら少々迷っていた。 「ところで、ロングビルさん」 「なに?」 「実は……えーっと」 やはり、いざとなると簡単には踏ん切りがつかなかった。それに、エルフであるからと迫害されてきた ティファニアの素性のことを思うと、聞きたくないという気持ちも同じくらいある。しかし、彼の心境を読んで 先手を取ったのはロングビルのほうだった。 「まあ、言わなくてもだいたいの予測はつくけどね。あの子の母親のことでしょ?」 「えっ!? あ、はい」 こういうところは、さすが元盗賊だなと才人はロングビルの読心術に感心した。とはいえ、そうなれば 話は早い。才人は、覚悟を決めると一気に疑問を口にした。 「タルブ村で聞いた、アルビオンに旅立ったエルフの少女、もしかしてテファのお母さんは……」 「察しがいいわね。私も、タルブでその話を聞いたときは驚いたけど、間違いないわ。あの子の母は、 三〇年前にタルブを訪れたエルフの少女、ティリーよ」 やっぱり、と、才人は予測が当たったことに心中で喝采したが。 「なんで、あのときにすぐおっしゃってくれなかったんですか?」 「時期を見て、順にと思っただけよ。あのとき全部話したら、あなたたちパニックになったでしょう」 「まあ、そりゃそうですね」 才人はロングビルの気遣いに感謝した。けれど、才人の目的はティリーではなく、彼女といっしょに アルビオンに旅立ったもう一人のほうだ。 「ですが、こうなったらもう単刀直入に聞きます。ティリーさんといっしょに、ここにはもう一人、異世界からの 来訪者、アスカ・シンさんがいたはずです。彼がこちらに来てからどうしたのか、知っていたら教えてください」 誠心誠意を込めて、才人はぐっと頭を下げた。しかし、ロングビルから帰ってきた答えは、彼の期待には 副えないものだった。 「ごめんなさい、残念だけど何もわからないの」 「そんな……」 「知っていたら教えてあげたいわ。けれど、何分私はティリーさんと会ったことは何度もあるけど、私が あの人と会ったころに、アスカさんはすでにいませんでしたし、私の実家が没落する際に彼女に関する ものは全て消失してしまって、今となっては……」 「そうですか……わかりました」 残念だが、三〇年も昔であれば仕方がない。だが、才人は同時に運命というもののめぐり合わせの奇妙さに ついて、思いをはせずにはいられなかった。 「それにしても、まさかと思ったけど……こんな簡単に出会えるとはなあ」 元々、アルビオンについた後は可能な限りアスカの、ダイナの足跡を探そうと決意していたが、あんまりの あっけなさには怒る気も湧いてこない。しかし才人は絶望はしていなかった。以前、完全に消息不明と オスマン学院長に言われたアスカの足跡が、今回はこんな簡単に見つかっている。今は途切れてしまったが、 運命というものがあるのだとすれば、その歩調は時代の流れと比例して停滞から速歩、疾走へと進んでいる のかもしれない。ならば、次のステップに進めるのも、そう遠い話ではないかもしれないと、才人は自分に 言い聞かせた。 「さあ、そろそろ子供は寝る時間よ」 「へーい」 気づいてみたら夜も更けて、月は天頂に今日は赤い光を輝かせている。室内では、飽きもせずに女子 五人がわいわいとやっていたが、ロングビルに一喝されてベッドの準備を始めた。この村にいる間は 貴族といえども自分のことは自分でやるというのが、最初にルールで決められていた。でなければ、 子供たちの見本にはならない。 「おやすみなさーい!」 一斉にした合図とともに、一行は昼間の疲れも重なって急速に眠りの世界へと落ちていった。後には、 鈴虫の鳴き声と、風の音だけが夏の夜の平穏さを彩り、朝までの安らかな天国を約束していた。 ただ、約一名、いや一匹、理不尽な不幸に身を焦がす者が存在していた。 「きゅーい! おなかすいたのねーっ!!」 村の上空をグルグルと旋回しながら、シルフィードは朝からずっと悲鳴を上げ続けている胃袋の叫びに 呼応して、自分にまったく声をかけようとしない主人に抗議していた。 「まさかお姉さま、シルフィのこと忘れてる? そんなの嫌なのねーっ!」 ここにも、バストレヴォリューションの犠牲者が一人……タバサがティファニアにショックを受けて、 シルフィードにエサをやるのをすっかり忘れていたのだ。けれども、空の上で月を囲んで回りながら叫んでも、 タバサはとっくにすやすやと安眠モードに入っていて、朝まではてこでも動かないだろう。 そんなとき、悲しげに空を見上げたシルフィードの目に、月のそばを横切るように飛んでいく小さな光が 見えてきた。 「きゅい? 流れ星?」 光り輝く小さな点は、夜空を横切って次第に遠ざかっていく。シルフィードは、しばしぼおっとその流れ星を 眺めていたが、ふと前にタバサから流れ星が消える前に願い事を言うとかなうという言い伝えを聞かされたのを 思い出して、前足を合わせて祈るようにつぶやいた。 「おなかいっぱいお肉が食べられますように、おなかいっぱいお魚が食べられますように、おなかいっぱい ごちそうが食べられますように」 なんともはや、自分の欲求にストレートなことである。けれども、シルフィードがたとえば「世界が平和に なりますように」とか願っても、みんな気持ち悪がるだけだろう。シルフィードの幼さもまた、シルフィードの 個性であり魅力でもある。ルイズにしたって「胸が大きくなりますように」と願ったに違いないのだから。 「きゅーい、お星様、シルフィのお願い聞いてなのね……ね?」 そのとき、シルフィードは自分の目をこすって、見えているものを確かめた。なんと、どういうわけか いつの間に流れ星の傍に、もう一つ小さな流れ星が寄り添うようにして飛んでいるではないか。 「きゅいーっ、お星様のお母さんと子供なのね。これなら、シルフィのお願いもよく聞いてくれるかもね。きゅいきゅい」 シルフィードは、このときだけは空腹を忘れて空の上ではしゃいでいた。 だが、残念ながらシルフィードの願いは届くことはないだろう。なぜなら、シルフィードから見て流れ星に見えたのは、 この星の大気圏ギリギリを高速で飛んでいく怪獣の姿だったからだ。 その正体は、宇宙のかなたからやってきた、丸っこい体つきをした、カモノハシとイタチとカエルの あいの子のようなユーモラスな姿の怪獣、ザランガだった。そしてそのかたわらには、ひとまわり小さな ピンク色の怪獣が元気に飛び回り、ときたま前に飛び出ていっていたが、やがて疲れて後ろに下がって休み、 大きなほうは、小さなほうが遅れないようにその間速度を緩めてゆっくりといっしょに飛んで、疲れが癒えたら、 また一生懸命飛び回っていた。そう、それはザランガの子供だった。 ザランガの一族は、この広大な宇宙を時が来れば長い年月をかけて旅をして子供を生み、また元の場所へと 親子で帰っていく渡りの性質を持っている。彼らも今から何年も前に、ここからはるかに離れたある星で親子になり、 子育てをするための元の星へと帰る途中だった。その彼らがこの星に寄ったのも、この惑星が今は宇宙の果ての 水と自然にあふれたその星によく似ていたからかもしれない。 やがて親子は、旅の間のわずかな寄り道にきりをつけて、また宇宙のかなたへと飛び去っていった。 もしかしたら、何百年か先にこの子供か、別のザランガがこの星を訪れるかもしれない。けれども、 ザランガは美しい水が大量にある星でしか子供を生めない。果たしてそのとき、この星はザランガが安心して 子供を生める平和な星であり続けられるのか。流れ星に願いがかけられるように、流れ星もまた願いを かけていた。 ずっと平和でありますように、と。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 15話 剣の誇り (後編) 奇怪宇宙人ツルク星人 登場! 軍民合わせて100人近い犠牲者を出した恐怖の夜が明けた。 市街地は警戒する兵士達が行きかい、戒厳令が解除された後は、それらのほかに、いくつも運ばれていく 棺や涙に咽ぶ遺族達の姿が人々の不安をあおり、平日だというのに出歩く人は少なく、用が済めば家に 立てこもって固く鍵をかけて閉じこもり、噂は噂を呼び、不安は幻影の殺人鬼像を作り出し、トリスタニア全域が 見えない恐怖に包み込まれていた。 そんななか、王宮内での兵士達の鍛錬場では、銃士隊隊長アニエス、副長ミシェル、そして才人が 抜き身の剣を構え、対ツルク星人のための作戦を練っていた。 才人からの情報により敵の正体は知れたものの、たった一体でトリステイン軍すべてを翻弄するような 相手には正攻法では勝ち目がない。そして、人間大で暴れまわる相手にはウルトラマンの援護も期待できない。 トリステインの人々は、今初めて自分自身の力のみで侵略者を打ち倒さなければならない事態に向き合おうとしていた。 「ひとつの技にはひとつの技で勝てる。しかし二段攻撃には三段攻撃しかない」 俊敏な動きと、両手の刀を使った二段攻撃を操るツルク星人を倒すには、かつてウルトラマンレオが用いた 三段攻撃の戦法を使うしかない。だが、ウルトラマンレオほどの身体能力の無い人間の身で三段攻撃を 習得するのは一朝一夕のことではない。 そこでアニエスが考案したのが、三段攻撃を変形させて一段を一人が受け持つ、三身一体の戦法であった。 これは、星人の第一刀を最初の一人が受け止めた後、二人目が星人の二段攻撃を防ぎ、間髪いれずに 三人目が星人にとどめを刺すといったものであった。 だが、現状唯一星人に対抗できそうなこの作戦が決定したとき、銃士隊の隊員達に別の意味での緊張が 走った。それは、この戦法が三人で行う以上、誰がやるのかということだった。剣技の順から考えて、隊長、 そして副長は間違いない、問題は三人目である。皆が息を呑んでアニエスの発表を待った、しかしその口 から出たのは信じられないような言葉だった。 「この作戦はまず、変幻自在に繰り出される奴の第一撃を受けられるかどうかにかかっている。その役目を 少年、お前がやれ」 「えっ、俺が!?」 いきなりアニエスに指名されて才人はとまどった。ツルク星人の討伐には参加するつもりではあったが、 手だれぞろいの銃士隊の隊員達を差し置いて自分が選ばれるとは思ってもみなかった。 当然、他の隊員達からもどよめきが起こる。大事な先鋒をいきなり現れたよそ者に任せるとは、隊長は何を 考えているのだ。 「奴の攻撃は並みの人間では見切りきれん。腹立たしいが、私の見た限り奴の太刀筋を見切れる動体視力を 持つのはお前だけだ」 「は……いえ、了解です!」 そうまで言われては才人にも断る理由は無かった。形ばかりの敬礼ではあるが、精一杯のやる気を示す。 隊員達も、昨晩のことを思い出して口をつぐんだ。押されていたとはいえ、まがりなりにも星人と打ち合いが できたのはこの少年だけ、隊長は現実的な判断をしたのだと。 「よし、二撃目はミシェル、お前だ」 これは妥当な人選であったので文句は出なかった。副長という肩書きが示すとおり、彼女の剣技はアニエスに 次ぐものであることは誰もが知っている。 「はっ! ですが、彼のインテリジェンス・ソードはともかく、我々の剣は奴の剣との打ち合いに耐えられませんが」 「王宮の魔法使いに依頼して『固定化』の魔法を限界までかけてもらう。一撃くらいは耐えられるはずだ。そして、 とどめの三撃目は私がやる。いいか、奴は今晩も必ず現れるだろう。それまでになんとしても三段攻撃を会得 しなければならん。覚悟しろ!!」 三段攻撃を会得できるまで地獄を見せるというアニエスの叱咤に、才人とミシェルは身を引き締めた。 そして地獄の特訓はスタートされた。 方法は、手だれの銃士隊員二人の連続攻撃を才人とミシェルが受け止め、アニエスの攻撃につなげると いうものだったが、当然真剣を使った実戦さながらのものであり、しかも三人の間に一糸乱れぬ完全な 連携が要求されたために、訓練は難航した。 「馬鹿者!! 反応が遅い、それでは二撃目に間に合わんぞ」 「小僧!! それでは二撃目をミシェルが受けるスペースが無いぞ!!」 「もっと剣の根元で受けろ、深く受け止めなくてはすぐに逃げられるぞ!!」 「本物の星人はもっと速いんだ、目を見開け!! 瞬きをするな」 アニエスの怒鳴り声がする度に最初からやり直され、日が高く昇るころには相手役の隊員達も10回近く交代し、 二人とも肩で息をしているような状態になっていた。 もちろん、アニエス自身も二人に合わせて攻撃できるように突進を繰り返し、全身汗まみれになっているのには 変わりない。相手役の隊員には代わりがいるが、この三人に代役はいないのだ。 だがやがて、あまりに過酷な訓練に隊員のひとりが根を上げて叫んだ。 「隊長、こんなことやっても無駄です。こんなことであの悪魔に勝てるわけがありません!」 隊員達の間には、昨夜の戦いの絶望的な様子が焼きついていた。人間をはるかに超えた星人に対する恐怖感は 地球人もハルケギニア人も変わりない。 すると、ほかの隊員達もそうだと言わんばかりにアニエスに詰め寄ってきた。 「魔法を軽く避けて、20メイルはジャンプするんですよ。人間に捉えられるわけがありません」 「そうです。それに、無理に相手しなくても、そのうち巨大化したところをウルトラマンAに倒してもらえばいいじゃ ありませんか、第一、元はといえばウルトラマンAがあいつを取り逃したのが原因なんですし!」 口々に特訓の中止を訴える隊員達を、アニエスは黙って聞いていたが、やがて大きく息を吸うと、剣を振り上げ これまでにない声で一喝した。 「黙れ!! 今弱音を吐いた奴、全員首を出せ。いつから銃士隊はそんな意気地なしばかりになった!! ウルトラマンに 任せればいい? 今荒らされているのは誰の国だ!! 我々は何のために陛下から剣を預かっているのか忘れたか」 阿修羅のようなアニエスの怒り様に、隊員達は完全に気圧されて言葉を失った。 「し、しかし……」 それでも、何人かの隊員はまだ食い下がろうとしたが、そこでデルフリンガーを杖にして休みながら見守っていた 才人が割り込んだ。 「恐らく星人はもう2度と巨大化しないよ」 「な、なに、なんでそんなことがわかる!?」 「巨大化したところでウルトラマンAには敵わないのがわかっているからさ。だから小さくなって直接人間を襲い にかかってきたんだろう。ずる賢い奴さ」 隊員達は絶句した。 確かに、ツルク星人はウルトラマンAの敵ではない。だがそれはエースと比較すればの話で、星人の身体能力と 武器は人間のそれをはるかに上回る。現に、たった一晩暴れただけでトリスタニア中が恐怖に包まれ、都市機能にも 影響が出始めている。 アニエスは全員を見渡して言った。 「このまま奴の好きにさせたら、1月と経たずにトリスタニアは人の住めない死の街になる。そうなれば、もう後は ヤプールの思うがままだ。魔法では奴を捉えられん以上、剣には剣を持ってあたるしかない。そして、それしか ないなら、我々がやらずに誰がやる!? 誰がやるんだ!!」 もう、反論できる者などいなかった。 「だがチャンスは、奴がウルトラマンから受けた傷が癒えていない今、おそらく今晩が限界だろう。それを逃したら、 もう奴を倒す機会は永遠にやってこない、不満を垂れる前に、自分達の剣にかかった重みを考えてみろ!」 「…………」 無言で、特訓は再開された。 誰も一言も発せず、ただアニエスのやり直しを命じる声だけが何度も響いていた。 そして、太陽が天頂に達したとき。ようやく休憩の許可が下りた。 「よし、午前の訓練はここまでだ。全員、食事と休息を充分にとっておけ」 アニエスはそれだけ言うと、訓練場を立ち去っていった。 銃士隊は、食堂を使うこともあるが、野戦の訓練もかねて訓練場で空を見ながら食事をとることも多い。 メニューは、黒パンに牛乳、あとは野菜スープと干し肉にチーズと、栄養価は考えられているが味気ない ものばかりだったが、学院でルイズに"犬のエサ"を食わされ慣れている才人には全然問題なかった。 それに、特訓のせいで疲れているからまずいなどという味覚はどこかに飛んでいた。空腹は最高の 調味料とはよく言ったものである。 いや、というよりも才人にとって味覚より視覚のほうが腹を満たしていたかもしれない。なぜなら、 いっしょに食事をとっている銃士隊の隊員達は全員若い女性の上に、一人の例外もなく美人揃いである。 そんななかに一人だけ男が混ざっていたら、どちらを向いても花畑でちょっとしたハーレムのようなものであった。 これを学院に残っているWEKCの少年達が見たら、死ぬほどうらやましがるだろうし、ルイズが見たら 灼熱怪獣ザンボラーのごとく怒り狂うだろうが、幸せいっぱいの才人の脳髄はそんなことに気を使うキャパシティはない。 やがて、食物を全部胃袋に放り込んで満腹になった才人は、次の訓練開始までできるだけ休んで おこうと芝生に腰を下ろしたが、そのとき突然後ろから声をかけられた。 「おい貴様」 振り返ると、そこには銃士隊副長のミシェルがいた。 「あ、なんですか?」 「立て……ふん、貧相な体つきだな。始めに言っておく、私は貴様のことが気に食わん、確かに貴様の 能力はこの目で見た。昨日結果的に助けられたのも認める。しかし私はどこの馬の骨とも知れん奴に 背中を預けて戦うつもりにはなれん」 「まあ、そりゃそうでしょうね」 頭をかいて苦笑しながら才人は答えた。 傷つく言葉だが、才人はミシェルの言葉を否定する気にはまったくなれなかった。自分の人並みはずれた 剣技はガンダールヴとかいう訳の分からない使い魔のルーンのおかげだし、昨日今日会ったばかりの奴を 信用して命を預けろというのがそもそも無茶なのだ。 「だが、隊長の命令である以上、私はそれに従って戦わねばならん、それが銃士隊副長である私の 義務だからな。しかし、お前は銃士隊ではなく、ラ・ヴァリエール嬢の使い魔だ。本来はこの戦いに なんの義務も責任もない。ならば貴様はなぜ主人を置いてまでここに来た? なぜ何の関係もないはずの 戦いに自ら命を張ろうとする。それだけは答えてもらおう」 才人は、ミシェルの問いに苦笑いすると、きまずそうに、だが真っ直ぐに目を見据えて答えた。 「別に、そんなたいした理由はないです。ただ、俺は知識から星人が等身大で人間を襲うことを知っていて、 トリスタニアの人々が狙われるかもしれないことがわかっていた。だから、どうしても不安でほっておくことが できなかった。それに、望んだわけじゃないけど、俺には人よりうまく武器を扱える魔法をかけられちまったから、 力が無かったから何も出来なかったなんて言い訳はもうできないんです」 「はっ、呆れたな、そんなことのために貴様は死ぬかもしれない戦いに駆け込んできたわけか」 ミシェルの見下す目がさらにきつくなった。 「だから、たいした理由は無いって言ったでしょ。まあ、強いて言うなら……命がけで俺達を守ってきてくれた ウルトラマンに、少しでも答えられるようになりたい、あんなふうに強くなりたいと思ったからです」 才人は心の奥にあるあこがれをそのまま口に出した。 「そうか、だがそのために死ぬことを怖いとは思わんのか」 「そりゃ怖いです。本当はみんなまかせて知らんふりをしていたい。けれど、ここで逃げ出したら、 俺は自分だけじゃなくて、ずっとあこがれてきた自分のなかのウルトラマンまで裏切っちまうことになる。 そうしたら、俺はもう俺じゃいられなくなる……ウルトラマンを真っ直ぐに見ることができなくなる」 ミシェルは、その答えをじっと聞いていたが、やがて呆れが呆れを通り越して感心にいたったように 苦笑いすると、やや声のトーンを落として言った。 「ふん、臆面も無くそんなことを言えるとはたいしたものだ。貴様はよほどの馬鹿か、それともよほどの ガキか……だがまあ想像していた以上の答えはいただけた。今回限りだが、貴様に私の背中を 預けてやろう」 「あ、期待にそえるように頑張ります!」 「だが勘違いするなよ。私はまだ貴様を信用したわけじゃない。この作戦の要は貴様が奴の第一撃を 抑えられるかどうかにかかっている。次の訓練で完璧にそれを身につけてみろ、いいな」 「はいっ!!」 元気良く答えた才人に、ミシェルもようやく相貌を崩してくれた。 「ふ、元気だけはいいな。そうだ、ついでにもうひとつ答えろ、ウルトラマンはお前のいた国とやらでも 人間を守って戦っていたそうだが、なぜ彼らは命を賭してまで人間のために戦うのだ?」 「それは、俺にも詳しくはわかりません。ウルトラマンが人間に語りかけることはほとんどないんです、 ただ……」 「ただ……?」 「ウルトラマンは……みんなすごく優しいから」 才人は目を輝かせてそう答えた。ウルトラマンは、ただ戦うだけの戦士ではない。悪意のない怪獣の 命は奪わずに、時には人々の命を守るために盾となって敗北をきしたり、卑劣な罠に落ちたりもする。 けれども、そうした無言の優しさがあるからこそ、人間もウルトラマンを信じて、共に力を合わせて 戦えるし、無条件のあこがれを向けることができる。 ウルトラマンは決して全知全能の神ではない。いや、むしろ人間にとても近い存在なのだ。だから、 言葉はなくとも、人々はウルトラマンと心をかよわすことができる。 「優しいから……か」 ミシェルは、少なからず自分の中の価値観が崩されていくのを感じていた。優しさ、ずいぶん長い間 忘れていた気がする言葉だった。 「じゃあ、俺からもひとつ聞かせてください。ミシェルさん、貴女はなんのために剣を握ったのですか?」 すると彼女は一瞬だけ悲しそうな表情を浮かべると言った。 「私は、恩人のためだ。私がすべて失い、存在すら無くなりかけた時、その人が私をすくいあげてくれたから こそ、今私はここにいられる」 それから数十分後、改めて特訓は再開された。 相変わらず、アニエスの怒声が飛び、同じことが繰り返されていたが、互いに腹を割って話し合った おかげか、才人とミシェルの間には午前中には見られなかったお互いへの配慮が感じられ、第一撃目から 二撃目へのつなぎ合わせがみるみる上達していった。 そのうち、依頼してあった固定化した剣がふた振り届けられた。見た目は変わらないが、強度は鋼鉄 以上に強化してある。これなら宇宙金属製のツルク星人の剣とも打ち合えるだろう。 そして、太陽が山陰に没しようとしている時刻、三人とも肩で息をし、隊員達もほとんどがへばっている そのとき。 「! できた!」 もう何百回目になるかの繰り返しの末、遂に三人の連携は完成を見た。相手役の隊員二人は 吹き飛ばされて芝生に横たわっている、アニエスの剣だけが訓練用の木剣でなかったら二人とも 死んでいるだろう。 「よし、今の感覚を忘れるな。いいか、今晩中にケリをつける、もうこれ以上一人の犠牲も出させはせん!!」 「はいっ!!」 ミシェル、才人、そして銃士隊員達の声が響き渡る。これで準備は整った、待っていろツルク星人。 そして、太陽が姿を隠し、再びトリスタニアに恐怖の夜が訪れた。 市街地は闇に包まれ、人の気配はない。人々は日が落ちると同時に家の鍵をかけて閉じこもり、 まるでゴーストタウンのようなありさまになっていた。 それだけではない。街を守るべき魔法衛士隊も兵士も、夕べの惨劇を思い出して捜索が及び腰に なり、いざ星人が現れても戦えるべくもなかった。 だがそんななかを、銃士隊は闇の中、目を梟のように研ぎ澄ませ、どこかに潜んでいるであろう ツルク星人を求めて警戒に余念が無かった。 凍りつくような時間がゆっくりと過ぎ、双月さえ地平に消える闇夜。 突如、闇夜に一発の銃声がこだました。 「出たな!!」 それは敵発見を知らせる合図であった。すぐさま街中に散らばっていた全銃士隊が駆けつける。 場所は、市街中心ブルドンネ街の大通り。星人はその中央にいた。 「いたぞ!!」 通りの両側から銃士隊員達が星人の逃げ道を塞ぐように布陣する。見ると、星人の顔面について いた火傷の跡が昨日に比べて小さくなっている。やはり、チャンスは今夜しかない。 連絡の銃を撃ったと思われる隊員は星人のそばに倒れていた。しかし死んではいない、斥候が 倒されることを避けるために、アニエスは前もって全員に『灰色の滴』というマジックアイテムを 渡していた。これは体に降りかけると、ごく短時間ではあるがその者の存在を近くにいる者の視界から 消し去る効果を持つ、欠点としてはその間一切身動きしなくては効果が無くなるということと、メイジの ディテクトマジックには見破られてしまうという点であるが、星人から隊士の命を守るには充分だ。 ツルク星人は、その隊員を探していたのだろうが、新たな敵を察知するとすぐさま臨戦態勢に入った。 「いいか、チャンスは一度、我々と奴、どちらの剣の重みが勝るか、思い知らせてやるぞ!!」 「「おうっ!!」」 アニエスの声とともに、3人は星人へ向けて突撃を開始した。 先頭に才人が立ち、デルフリンガーとともにガンダールヴのルーンが光る。未知の魔法の力で強化 された彼の視力は、振り下ろされてくる星人の右腕の刀を捉えた。すると、体があの特訓で鍛えた とおりに自然に動き、絶妙の位置で星人の刀を食い止めた。 すると、右腕を止められた星人は、左腕の刀で才人の背中に二段目の攻撃を繰り出そうとしたが、 そこへミシェルの剣が割り込んで、その自由を封じ込める。 「でゃぁぁ!!」「イャァァ!!」 次の瞬間、ふたりは渾身の力で星人の刀を押し返した。完全に虚を突かれた星人は、押し戻すことも できず、両腕を大きく広げ、胸を前にさらけ出す無防備な体勢を見せる。二段攻撃の姿勢が崩れた!! そして、今こそ三段攻撃完成の時。二人の後方から突進してきたアニエスが全力の突きを星人の 心臓を目掛けて打ち込む、星人は身動きを封じられている上に、火傷のせいで一瞬視界がぼやけ、 アニエスを発見するのがほんのわずか遅れた。 「くらえぇぇっ!!」 刹那。 アニエスの剣はツルク星人の心臓を打ち抜き、背中まで突き抜けていた。 「貴様が戯れに手にかけた人々の痛みを、知れ!」 そう言い捨てると、彼女は剣の柄から手を離した。 星人は、少しの間彫像と化したように固まっていたが、やがて短く鳴き声をあげると、両腕がだらりと 垂れ下がり、続いてその長身がゆっくりと後ろに傾き、やがて重い音を立てて地面に崩れ落ちた。 「や、やった……やったああ!!」 地に伏した悪魔の姿に、全銃士隊員の歓声が上がる。 侵略者の手先、仲間の仇、街の人々の仇、悪魔の化身を本当に人間の手で、しかも魔法衛士隊すら 敵わなかった相手を平民の手で倒した。 「隊長……」 「アニエスさん」 ミシェルと才人は気力を使い果たしたように、剣を下ろし、微笑を浮かべていた。 そしてアニエスも、二人に答えようと振り返った、そのとき。 「隊長!! 危ない!!」 突然、死んだと思っていたツルク星人が起き上がって、アニエスの背後から剣を振りかざしてきた。 丸腰のアニエスには避ける術はない。才人とミシェルは、とっさに星人とアニエスの間に割り込もうとしたが、 とても間に合わない。 (駄目か!!) 誰もがそう思い、絶望したその瞬間、いきなり星人の顔面、なにも無いはずの空間が火炎をあげて爆発を 起こし、星人の動きが止まった。今だ!! 「「でやぁぁっ!!」」 これが本当に最後の力、才人とミシェルの渾身の縦一文字の斬撃は、星人の腕を肩から斬り落とし、 今度こそ星人は仰向けに倒れ、その目から光が消えた。 「やっ、た……」 「隊長、ご無事ですか!?」 ミシェルが慌てて駆け寄ると、アニエスは自嘲しながら言った。 「すまん、勝ったと思ったとき一番隙ができるか。まったく、わかっていたつもりだったがこの様だ。私もまだまだ 修練が足りんようだ。迷惑をかけたなミシェル、それから……感謝する、サイト」 「いや、そんなこと……あ、そういえば初めてサイトって呼んでくれましたね」 「礼を尽くす価値のある者には、私はそれを惜しまん。見事な戦いぶりだった、戦友よ」 才人はアニエスに認められたことで、うれしいやら恥ずかしいやら、とにかく照れていたが、やがて大事なことを 忘れていたことに気づいた。いや、気づかされた。 「サーイートー」 「!! こ、この声は……ル、ルイズ!?」 振り返ると、路地の闇の中から浮かび上がるかのようにルイズの姿が現れた。 顔は、前にうつむいているせいで桃色の髪の毛に隠れて見えないが、本能的に才人は血の気が引いていくのを感じた。 「お、お前、なんでここに?」 「シエスタに、あの子に一日かけてようやく聞き出したのよ。まったくメイドのくせにはぐらかすのがうまくて何回 逃げられたことか。あ、心配しなくても手荒なことはしてないわよ。丸腰の平民に杖を向けるなんて貴族の名折れ ですものね」 口調は平静としているが、顔が見えないのでよけい恐怖心がかき立てられる。 そして一歩一歩近づいてくるのに後ずさりしたいが、あっという間に後ろは壁だ。 「それで、さっきの爆発は……」 「もちろんわたしよ。わたし以外にこんなことができる人間がいると思って? まったく、あんたというやつは、ご主人様を ほったらかして出かけたあげく、こんなところで戦って……あんたって、あんたってやつは!!」 ルイズの声が急に大きくなる。才人は鞭、いや、月まで届くほどの特大の爆発を覚悟して目を閉じた。 だが、2秒経っても5秒経ってもいっこうに痛みがやってこない。それどころか、なにやら胸のところに柔らかい 感触を感じる。才人がおそるおそる目を開いてみると。 「バカバカ!! サイトのバカ!! あんた、あんな化け物と戦って、死んじゃったらどうするつもりなのよ。わたしを 置いて、わたしのいないところで、そんなの、そんなの絶対に許さないんだから!!」 ルイズは、才人の胸に顔をうずめて泣いていた。怒りのためか、会えたうれしさのためか、小さなこぶしが 才人の胸板を叩く。やがて、胸に温かいものを感じて、それがルイズの涙だとわかると、才人は優しく彼女を 抱きしめ、耳元でささやくように言った。 「ごめんルイズ。でも、助けに来てくれたんだよな、ありがとう」 プライドの高いルイズの泣き顔を見ないようにしながら、才人はしばらくのあいだ、ルイズを抱きしめていた。 そして、それから十数分後。 「もう、帰るのか。せめて今晩くらい泊まっていけばいいのに」 ふたりは、ルイズの乗ってきた馬に乗って銃士隊に別れを告げようとしていた。 アニエスとミシェルの後ろでは、銃士隊の面々が残念そうに才人を見ている。共に死地を潜り抜け、もう彼を 素人と見下す者はいなくなっていた。 「いえ、お気持ちはうれしいですけど、一応俺はこいつの使い魔なんで、いろいろやることもありますから」 「そうか、だが今回の功労者は間違いなくお前だ。陛下に報告すれば勲章、いやシュヴァリエの称号も夢ではないぞ」 だが才人は笑いながら首を横に振った。 「せっかくですが、内密にお願いします。元々今回は俺の独断で出てきたんで、抜け駆けで表彰なんかされたら 仲間達に恨まれる。それに、使い魔なんかと並べられたらあなた方の今後にも不利でしょう」 アニエスは、才人の欲の無さと自分達への気配りに感心した。 「わかった。しかし私も銃士隊もお前に相当な借りができてしまったのは事実だ。何かまた困ったことがあったら うちに来い、出来る限り力を貸してやる」 その言葉には、ただ純粋な感謝のみが含まれていた。そしてアニエスに続いてミシェルも笑いながら才人に言った。 「お前、剣の振り方はまだまだだが中々見込みがある。今度みっちり鍛えてやろう、いやなんなら使い魔なんぞ やめてうちに来ないか、銃士隊は男子禁制だが、一人くらい多めに見てやるぞ」 「い、え、遠慮しときます」 「はは、言ってみただけだ。だが、見込みがあるというのは嘘じゃない、気が向いたらいつでも来い、私自ら 稽古をつけてやる」 彼女も、最初会ったときとは想像もできないような笑顔を見せている。 だが、黙って見守っていたルイズがそろそろ忍耐の限界に来たようだ。 「ちょっとあんたたちいいかげんにしなさいよ。そうやって朝までくっちゃべってる気?」 「あ、ごめん。じゃあアニエスさん、ミシェルさん、俺達そろそろ帰ります」 「うむ、また会える日を楽しみにしている。そうだ、ミス・ヴァリエール、貴公にも借りができたな、いずれこれは なんらかの形で返そう」 「かまわないわよ、平民を助けるのが貴族の責務ですから」 「いや、貴族にも誇りがあるように騎士にも誇りはある、借りは借りだ。サイト、お前の乗ってきた馬は後日 届けさせよう。では、壮健でな」 そして二人は、銃士隊に見送られて、星空の元を魔法学院へと帰っていった。 「ねえサイト」 「なんだ?」 学院へと続く街道を、二人きりで馬に揺られながら、ルイズは才人に話しかけた。 「あんた前に言ったわよね。次になにかするときには俺も連れてけって、でもあんたが何かするときに、わたしを 置いていっていいわけないでしょ」 「悪い、お前に迷惑かけたくなかったんだ。それに……」 すまなそうに答える才人に、ルイズはその言葉をさえぎって続けた。 「わかってるわよ。あんたが人の命を何より大事に思ってるってことくらい、でも、ご主人様に心配かけるなんて これっきりだからね」 「わかりました。次からはいっしょに来てもらいます、ご主人様」 「ふ、ふん、わかってるならいいのよ!」 二人は、たった一日会えなかったことを懐かしむかのように、双月の見守るなか話し続けた。 翌日、トリスタニアは大変なニュースで盛り上がっていた。 新設された女ばかりの騎士隊である銃士隊が、魔法衛士隊すら敵わなかった怪物を倒し、街に平和を取り戻した。 闇夜に潜む悪魔への恐怖におびえていた人々は、その活躍を褒め称え、朝日とともに戻ってきた平和を喜びあった。 そして王宮でも、銃士隊が王女アンリエッタの元で、果たした戦功にふさわしい対価を今度こそ得ようとしていた。 「トリステイン王女、アンリエッタの名において、銃士隊隊長アニエスをシュヴァリエに叙する。高潔なる魂の持ち主よ、 貴女に始祖ブリミルの加護と、変わらぬ忠誠のあらんことを」 アンリエッタの杖がアニエスの肩を叩き、シュヴァリエ叙勲の儀式が終わった。 シュヴァリエとは、王室から業績や戦績に応じて与えられる爵位で、これを与えられるということは貴族となると いうことを意味する。だが通常、貴族に与えられるのがトリステインのやり方で、平民がこれを得るということは まず無い。異例中の異例のことであったが、それだけの手柄を彼女があげているのも、また間違いない。 立ち上がったアニエスの肩にシュヴァリエの証である、銀の五芒星の刻まれたマントがかけられ、彼女の凛々しさに よりいっそうの磨きがかかったように見えた。 「おめでとうアニエス、まさかこんなに早くこれだけの手柄を立ててくるとは、わたくしも思いもよりませんでした」 「私達は、自分達のなすべきことをなしただけです。この称号は、いわば我ら全員で得たもの、私一人では 何もできませんでした」 あくまで謙虚なアニエスの姿勢に、アンリエッタは春の陽光のように優しい笑顔を彼女に見せることで答えた。 「いいえ、その強い団結力こそ何よりも誇るべきものでしょう。シュヴァリエのマントは一枚しか用意できませんが、 銃士隊全員にわたくしの名においてトリステイン全域での行動許可証を与えます。貴族と同格とまでは いきませんが、身分に関係なく魔法衛士隊などと同等に行動できるようになるでしょう」 儀式に立席した貴族達から声の無いどよめきが走った。平民にシュヴァリエを与えるだけでも異例なのに、 あまりにも破格の待遇だということだ。しかし、実際に王国の誇る魔法衛士隊の敗退した相手を彼女達は 倒している。表立って文句をつけられる者はいなかった。 「殿下……」 「驚くことはありません。貴方達は自らの力で剣が魔法に劣ることの無い武器だということを証明したのです。 これからも、その力をわたくしに貸していただけますか?」 「もとよりこの命、殿下のご自由であります」 最敬礼の姿勢をとり、すでに貴族としてふさわしい気高さを見せるアニエスに、アンリエッタはうなづくと 最後のトリステイン貴族入りの名乗りを命じた。 「ありがとう。それでは、新たなる貴族アニエスよ、その名を始祖の元へ報告を」 アニエスは、剣を抜くと天に向かって高くかかげ、高らかに宣言した。 「我が名はアニエス・シュヴァリエ・ド・ミラン、この命はすべてトリステインのためにあり!!」 その声は、城に響き、空を超え、天に届いた。 そして、雲ひとつ無い空に輝く太陽が、新たな勇者の誕生を祝福するかのように、何よりも気高く雄大に輝いていた。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
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前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百十五話「決戦!怪獣対マシーン」 自然コントロールマシーン テンカイ 自然コントロールマシーン エンザン 自然コントロールマシーン シンリョク 友好巨鳥リドリアス 地中怪獣モグルドン 電撃怪獣ボルギルス 古代暴獣ゴルメデ 登場 タバサをガリアの魔の手から救出し、ラ・ヴァリエール領まで逃れてくることに成功した ルイズたち一行。だがしかし、彼らの元へ異常な現象が接近してきた! 暴風が吹き荒れ、 気温が急上昇し、森が森を侵蝕してくる! 敵の新たな攻撃か! ルイズと才人にまたしても危機が迫る! ラ・ヴァリエール領に広がる森の木々を、台風が吹き飛ばし、猛烈な熱波が焼き焦がし、 そして元の場所には別の樹が新しく生えてくる。このサイクルが恐ろしい速度で進んでいく。 まるで土地が別のものに塗り返されていくようであった。 才人は徐々にラ・ヴァリエールの城に近づいてくるその現象を、険しい目つきで見やった。 「どう見ても自然の現象じゃない……。あれもガリアの差し金か!?」 『どうやら、タバサたちより先に俺たちを始末しようってつもりみたいだな』 ゼロのひと言にうなずいて、才人は額に浮かんだ玉のような汗を腕でぬぐった。台風の方角から 飛んでくる熱波は、城内の気温も殺人的な勢いで上げていっているのだ。 「うぅ……!」 「カトレアさんッ!」 真っ先にダウンしたのはカトレアだった。身体の弱い彼女が、急上昇していく気温に耐えられる はずがないのだ。才人は思わず振り返って叫ぶ。 「お嬢さま、大丈夫ですか!? しっかりして下さい!」 「……!」 カトレアの身体を支えるヤマノが必死に呼びかけた。エルザも不安な眼差しをカトレアに 向けている。 カトレアは高熱に耐え切れずに意識を失っていた。危険な状態だ。 「エルザ、君の力で気温を下げられないか?」 「ダメ……周囲一帯の精霊が、怪しい力で抑えつけられてる。これじゃ、精霊の力が使えない……」 エルザの返答を受けてヤマノは、才人へ振り返った。 「私たちはお嬢さまをここから避難させる。どうか君たちの力で、お嬢さまたちを助けてほしい!」 「はい! 頼まれるまでもないです!」 ヤマノの懇願に、才人は即座に首肯した。このままではこの城にいる全ての人々が危うい。 いや、もしかしたら危険なのはトリステインの全国民の命かもしれない。そんなことを許せる はずがなかった。 「すまない、頼んだよ!」 ヤマノとエルザは二人でカトレアを運んでいき、医務室から出ていった。 一方で、接近してくる異常気象に新たな動きが起こった。 『才人、あれを見ろ!』 台風が引き起こす渦巻く暴風が徐々に収まり、その中から三つもの巨大な影が露わになった。 「プア――――――!」 「ギュウウウウウウ!」 それらは全て明らかな人工物……巨大な機械であった。宙に浮いているものは釣り鐘のような 形状で、中央のタービンが回転することで暴風を引き起こしている。後の二体は手足のある ロボットであり、片方はクワガタムシを思わせる二本の角を生やしていて、もう片方は塔の ような胴体をしていた。 この三体のロボットには、表面に謎の文字が刻まれているという共通点があった。当然ながら、 ハルケギニアに存在する文字とは全く違うことは明白だった。 「何か、漢字に似てるな……」 才人はそんな風に感じた。実際に、現在の漢字のルーツの一つである篆書体が正体であった。 これらロボット怪獣たちの正体は、ある宇宙の地球の環境を作り変えることを目的として 送り込まれた自然コントロールマシーン……人工の台風で大気を洗い流すテンカイ、気温を 自在に操作するエンザン、そして大地を森林で埋め尽くさせるシンリョクである。 三体の自然コントロールマシーンが才人たちへの刺客となって、城に接近してきているのだった。 「くッ、これ以上近づけさせてたまるか!」 マシーンたちの侵攻を阻止するために、才人は医務室を飛び出して屋敷の正門へ向けて駆け出した。 こっちから可能な限り近づいて、そこから変身して一気に仕留めてやる。 「うぅッ……! あ、暑い……!」 「く、苦しい……! 誰か、手を貸して……!」 「しっかりしろッ! 気を強く持つんだ!」 城内の至るところで、使用人らが急激に上昇していく気温に当てられて悶え苦しんでいた。 脱水症状を引き起こして、近くの者に助けられている人も少なくない。熱波の影響は、既に これほどの事態を発生させているのだった。 ぐッ、と歯を食いしばる才人。こんな光景は他の場所でも起きているのだろう。使用人だけ ではない、先ほどのカトレアのように、他のルイズの家族、自分の仲間たち、そしてルイズも また苦しめられているのだろうか。メイジの系統魔法が先住魔法にどうやっても敵わないのと 同じように、自然の法則そのものをねじ曲げる自然コントロールマシーンの力には魔法で 太刀打ちすることは出来ない。 「俺がみんなを救わなくちゃ……!」 辺りには苦しむ人たちが大勢いるが、彼らに構っていても根本的な解決にはならない。 才人は後ろ髪を引かれる思いを覚えながら、それを振り切って正門から外へ飛び出した。 マシーンたちは才人の正面から少しずつ接近してきている。 「よし……行くぜッ!」 覚悟を固め、マシーンたちに正面から向かっていこうとした。が、 「待ちたまえ、きみ! こんな時に一体どこへ行こうと言うのだね!?」 「うおぅッ!? ギーシュ!?」 後ろからギーシュに肩を掴まれて引き留められてしまった。途中で走っていく自分の姿を見つけ、 追いかけてきていたのだった。 「きみ、屋敷の中には助けを求める人たちでいっぱいだ! 副隊長として、彼らを助けないで どうするのだね!?」 「い、いやけど、あいつらを……!」 「まさかあのゴーレムたちを止めようというつもりか!? 馬鹿な真似はよしたまえ! 暑さで頭がおかしくなってしまったのか!?」 「いやそうじゃないんだけどッ!」 しどろもどろになる才人。早くギーシュをかわして変身しなければならないのに、上手い 言い訳が思いつかない。 そんなことをしている間にも、マシーンたちは距離を詰めてきている! しかしその敵たちに対し、果敢に立ち向かうものが現れた! 「ピィ――――――!」 「グウワアアアアアア!」 「ピュ――――――イ!」 「グイイイイイイイイ!」 リドリアス、ゴルメデ、モグルドン、ボルギルス。カトレアの厚意でラ・ヴァリエール領に 暮らす怪獣たちだ! それぞれテンカイ、エンザン、シンリョクにぶつかっていき、進撃を食い止める。 「あいつら……!」 才人は驚きと、喜びの感情を浮かべた顔で怪獣たちを見上げる。カトレアのあらゆる種族に 対して分け隔てない優しさが今、彼女たち自身を助ける結果につながっているのだ。 「ギュウウウウウウ!」 「プア――――――!」 だが怪獣たちの抵抗も短い時間の間だけだった。テンカイは機体から突風を吹き出して リドリアスをはね飛ばし、エンザンは胸部から高熱火炎を発射してゴルメデを弾き、 シンリョクは森を操って巨大な蔓を伸ばし、モグルドンとボルギルスを地に伏せさせる。 更にテンカイは倒れたリドリアスの上に落下して押し潰し、エンザンは角から赤い電撃を ゴルメデに向けて撃ち、シンリョクは緑色の光弾を放ってモグルドンとボルギルスを一方的に 痛めつける。 「ピィ――――――!」 「グウワアアアアアア!」 「ピュ――――――イ!」 「グイイイイイイイイ!」 自然コントロールマシーンは高い戦闘力も有していたのだった。怪獣たちの苦悶の叫び声が轟く。 「やめろぉーッ!」 思わず叫ぶ才人。早く怪獣たちを助けてやりたいが、ギーシュがすぐ横にいる今、彼の前で 変身することは出来ない。どうしたらいいのか。 いっそのこと当て身を食らわせてギーシュを気絶させてしまおうかと物騒なことが頭をよぎった その時、彼らの元に一陣の疾風が吹き荒れた! 「うわぁぁぁッ!?」 風に吹かれてひっくり返るギーシュ。彼の側から、才人の姿が忽然と消えた。 才人の方は疾風の正体――シルフィードにまたがったタバサに引っこ抜かれていた。 「タバサ!?」 一瞬面食らった才人だが、タバサは自分が困っているのを察して手を貸してくれたのだろう。 彼女はこれまでにも、いざという時に自分を助けてくれた。感謝しきりだ。 だが次の彼女の発言に、更に驚愕させられることとなった。 「どの辺りで出来る?」 「えッ、何が?」 「ウルトラマンゼロに変身」 当たり前のようなひと言に、才人は思い切り目をひん剥いた。 「お、お前どうしてそれ……い、いや! 何のことかな……」 「ルイズの系統は“虚無”」 一瞬シラを切ろうとしたが、続く指摘で、タバサが当てずっぽうにものを言っているのでは ないことを分からされた。 「……知ってたのか」 「見てれば分かる」 才人は脱帽した。タバサは聡明な少女だ。彼女の目を欺き続けることは土台無理だった訳だ。 気持ちを切り替えた才人の判断は素早かった。怪獣たちをいたぶるマシーン軍団の影響がない ギリギリ手前の地点を指して頼む。 「あの辺まで近づいてくれ!」 タバサがうなずき、シルフィードが迅速にその方向へ飛んでいく。そして才人はシルフィードの 背の上で、ウルトラゼロアイを装着した。 「デュワッ!」 才人が飛び出していきながら変身、巨大化し、弾丸のようにエンザンへと突撃していく! 「シェアァァァッ!」 「ギュウウウウウウ!!」 ウルトラマンゼロの体当たりによってエンザンが弾き飛ばされ、ゴルメデは電撃攻撃から解放された。 ゼロは続けてテンカイを鷲掴みにして投げ飛ばし、シンリョクに猛然と肉薄してハイキックで 蹴り倒すことで残る三体も救出した。 『テメェらの傍若無人もここまでだ! こっから先に通ろうなんて、二万年早いんだよッ!』 下唇をぬぐって啖呵を切るゼロ。その姿を、タバサがどこかほれぼれとした様子で見上げた。 『お前たち、よく頑張ったな。後は俺に任せて避難しな!』 「ピィ――――――!」 ゼロは助けた怪獣たちをこの場から下がらせる。一方でマシーンたちは体勢を立て直して、 攻撃の矛先をゼロに向けた。 「ギュウウウウウウ!」 まずはエンザンが一番手となって、角を前に突き出して突進してくる。ゼロは変に避けよう とはせず、角をはっしと掴んで突進を受け止めた。 『であッ!』 「ギュウウウウウウ!」 そして後方へと受け流す。前のめりになったエンザンは腹這いになり、勢い余って地の上を ズリズリ滑っていった。 「プア――――――!」 だがエンザンへの追撃は出来ない。直後にテンカイが突風を吹き、竜巻を巻き起こして ゼロにぶつけてきたからだ。 『ぐッ!』 さすがのゼロも猛烈な風の影響を無視することは出来ず、身体がよろめく。その隙を突いて、 シンリョクが植物を操って蔓でゼロの身体を拘束した。 『うおッ! このッ!』 ゼロは瞬時にゼロスラッガーを自動で飛ばして蔓を切断する。が、間髪入れずにエンザンが 背後から火炎攻撃を飛ばしてきた。 「ギュウウウウウウ!」 更に前方からはシンリョク、テンカイが光弾と竜巻をぶつけてくる。ゼロは三体のマシーンに 袋叩きにされる。 『うおおぉぉぉッ!』 同じ系統のマシーンだけあって、三体の連携は確かなものだ。合体攻撃を耐えるゼロだが、 その時に彼の超感覚が応援の声を聞き止めた。 「ゼロ! 頑張ってッ!」 それはルイズの叫ぶ声であった。姿は見えないが、彼女は自分も熱波と暴風に苦しめられる中、 ゼロと才人の戦う姿をしっかりと見届けてくれているのだ。 そしてルイズの存在を意識した途端に、才人の心にめきめきと力が湧き上がってきた。 『ルイズ……! おおおおおおッ!!』 『才人!?』 ルイズの声を聞く。それだけで才人の精神に、不思議なくらいに気力と闘志、彼女を助けるのだ という使命感が膨れ上がり、ゼロの力につながった。 「セアァッ!」 ゼロは自分の周囲にスラッガーを回転させ、マシーンたちの攻撃を切り払った。次いでその場で 回りながらエメリウムスラッシュで反撃。 「ギュウウウウウウ!」 「プア――――――!」 エンザン、シンリョクはレーザーに撃たれて倒れ込んだが、テンカイは上空へ飛び上がって回避。 しかしその瞬間にゼロはルナミラクルに変身。無防備になったテンカイの底部に向けて、 一直線に突っ込んでいく! 『せぇぇぇぇいッ!』 超能力で急加速した勢いでの突進はテンカイを綺麗に貫通した! ゼロはテンカイから 引き抜いたダンベル型のコアを、テンカイの機体に投げ返す。 テンカイはコアごと粉々に爆散して、風に吹かれて消えていった。 「プア――――――!」 着地したゼロにシンリョクが再び蔓を伸ばして拘束しようとする。しかしゼロは着地と同時に ストロングコロナに変化を遂げていた。 『うおおおおぉぉぉぉぉッ!』 ストロングコロナゼロの怪力が易々と蔓を引き千切り、ゼロはシンリョクに向けて灼熱の 光線を拳から放つ。 『ガルネイトバスタぁぁぁぁ――――――――ッ!』 光線がシンリョクに突き刺さり、貫通。一瞬にして全身を爆散させた。 「ギュウウウウウウ!」 最後に残ったエンザンに対し、元の姿に戻ったウルトラマンゼロは、才人の意志に突き動かされて 指を突き立てた。 『俺はこの星を守るッ! 出ていけぇッ!!』 才人の恫喝にエンザンは怖気づいたようによろめき、ガクリと腕を垂らすと背を向けて去り始める。 と見せかけて振り返り、火炎放射を繰り出してきた! 汚い騙し討ちだ! だがゼロはその程度のことは読み切っていた。スラッガーをカラータイマーに接続して、 エネルギーチャージ。 「シェアァァァァァッ!」 そうしてツインゼロシュートを発射! 超威力の必殺光線がエンザンを撃ち、瞬時に消し飛ばした。 『よしッ!』 心の中でガッツポーズを取る才人。自然コントロールマシーンが全て破壊されたことで、 熱波は収まり気温は元通りになっていく。黒雲も晴れていき、満点の星空が露わになった。 『やったな、ゼロ! 俺たちの逆転勝利だぜ!』 才人は喜びはしゃいでゼロに呼びかけたが、何故かゼロからの反応が薄い。 『ああ、そうだな……』 『ん? どうしたんだ?』 『……いや、何でもねぇさ』 何やら含みのありそうなゼロだったが、結局何も言わずに飛び立って星空の彼方へと飛び去っていった。 自然コントロールマシーンの襲撃を乗り越え、一夜を明かしたルイズたち一行。日が昇ると、 彼らはいよいよ魔法学院に帰るためにラ・ヴァリエール領から発っていった。 その道程の途中で、ウェザリーが離脱する。彼女は役目を果たしたために刑期を繰り上げて 内密に釈放されることになっていたので、ここで解放されることとなったのだ。中途半端な 場所ではあるが、以前襲撃した学院に顔を出す訳にもいかない。 「お別れですね、ウェザリーさん」 街道の途中で馬車を止め、才人たちはウェザリーを見送っている。 「タバサを救出する作戦があんなにも上手く成功したのは、ウェザリーさんの力のお陰です。 本当に助かりました」 「肝心なところでは、力になれなかったけどね……」 「いえ、そんなことないですよ! ……ところで、ウェザリーさんはこれからどうするつもり なんですか?」 ウェザリーは一家離散して、頼るあてのない身の上だ。彼女のこれからを才人は少々案じるが、 ウェザリーは快活に微笑んだ。 「大丈夫。新しく演劇好きの仲間を募って、劇団を立ち上げてハルケギニア中を回るわ。 もちろん今度は裏なんてなしの、ね。旅路の中で、離ればなれになった家族や元領民も 見つけられるかもしれないし」 ウェザリーは並んだルイズたちの顔をゆっくりながめる。 「決してあきらめずに困難に立ち向かっていったあなたたちのように、私も前だけを向いて 生きていくわ」 「……頑張ってね、ウェザリー。遠く離れた場所からでも、ずっと応援してるわ」 「ありがとう。いつかまたトリスタニアで劇を行う時には、必ずあなたたちを招待するわ」 「楽しみに待ってるわね!」 ルイズと固い握手を交わすウェザリー。そして彼女は一行の元から離れ、自身の新たな道を 進み始める。 「さようなら、ウェザリーさーん!」 ウェザリーの旅立ちを、才人たちは大きく手を振って送り出したのだった。 ルイズたちの一方で、王宮に帰還したアンリエッタの元には、突然の来客が訪れていた。 それもとびきり驚くべき人物の。 宮廷の応接間に迎えたその客を前に、アンリエッタはしばし呆然としてしまった。 濃い紫色の神官服に、高い円筒状の帽子を身に纏った美青年。彼の服装は、ハルケギニア中の 神官と寺院の最高権威、つまりロマリアの教皇だけに許されたものである。 彼こそはヴィットーリオ・セレヴァレこと、聖エイジス三十二世。三年前に即位したばかりで あるが、ロマリア市民から絶大な支持を持つ現在のロマリア教皇である。形式上は、アンリエッタ よりも地位が上なのだ。 「教皇聖下、即位式には出席できませんで、大変失礼致しました」 当時のアンリエッタは流行風邪により、彼の即位には立ち会えなかった。その無礼を詫びると、 エイジス三十二世は慈愛に満ちた微笑を返した。 「ヴィットーリオとお呼び下さい。私は堅苦しいばかりの行儀を好みません。即位式など、 ただの儀式です。あなたが、神と始祖の敬虔なるしもべということに変わりはありません。 それで私には十分なのです」 エイジスの雰囲気は、その辺の神官によくある、権威を笠に着た尊大さは欠片ほどにもなかった。 ある意味ではハルケギニアの最高権力者という立場とは裏腹な、あまりにも物腰柔らかな姿勢には、 アンリエッタにはまぶしくさえ見えた。 しかし、そんな彼の突然の訪問にはどのような目的があるのだろうか。教皇ほどの人物が、 一国の王とはいえ権力が下の人物の元にわざわざ出向いてくるなど、滅多にあることではない。 アンリエッタがそのことについて尋ねると、エイジスは深いため息を吐いて聞き返した。 「アンリエッタ殿は、先立っての戦役をどうお考えか?」 エイジスは、アルビオンでの戦のことを尋ねているのだ。レコン・キスタのアルビオン王家 転覆から端を発し、異次元人の陰謀により戦火が広がり、遂にはハルケギニア人同士の衝突に 発展して、戦火が生む負の念が最悪の事態を招きかけた、忘れようもない一連の戦。ウルトラマン ゼロたちの献身がなければ、ハルケギニアは間違いなく滅亡していたことだろう。アンリエッタは そのことには自分にも責があるとして、この戦のことは非常に重く受け止めているのだった。 「悲しい戦でありました。もう二度と、あのような戦は繰り返したくない。そう考えております」 アンリエッタの回答に、エイジスは満足げにうなずいた。 「どうやらアンリエッタ殿は、私の友人であるようだ」 「どのような意味でしょうか?」 「その通りの意味ですよ。常々、私は悩んでおります。神と始祖ブリミルの敬虔なるしもべで あるはずの私たちが、どうしてお互いに争わねばならぬのかと。まして、現在のハルケギニアは 人間同士の争いの他にも、恐るべき災厄に見舞われています」 怪獣災害や侵略者の攻撃のことである。当然ながら、これらの大問題にエイジスは思うところが 大きいようだ。 「我々のような立場の者は今こそ、神と始祖の名の下に団結し、これらの災厄に立ち向かい 世の平和と安寧を取り戻さねばならぬ。そうは思いませんか?」 「まこと、聖下のおっしゃる通りです。しかしながら、わたくしたちに立ちふさがる困難に対して、 悲しいことにわたくしたちはあまりに無力。わたくしのような未熟者では、どうしたら良いのか 見当がつきません」 それがアンリエッタの悩みの種であった。自分たち人間がもっと強い存在であったならば、 今よりもずっとゼロたちを手助けできるのに。 すると、エイジスはこのように言ったのだった。 「私はそのための手段の提示と、アンリエッタ殿のご協力の取り次ぎを申し出るために参ったのです」 エイジスは餌を取り合う二種類のアリの例で喩えながら、その手段というものをアンリエッタに 語った。アリ同士の争いを治めるためには、両方に餌を与えればよい。そしてそれが出来るのは、 アリにとって巨大すぎる人間のような、絶大な力を持った存在。 要するに、平和を維持するためには巨大な力が必要なのだと。 「わたくしたちのどこにそのような力が……」 聞きかけたアンリエッタは、目の色を変えた。エイジスは“虚無”のことを示しているのだった。 彼は、アンリエッタが既に“虚無”の担い手に関わっていることを見抜いているのであった。 エイジスは今こそ四つに分かれた“虚無”の力を集め、またその力に行き先を与えるのだと唱えた。 その力に行き先とは、聖地。エイジスはエルフから聖地を取り返し、そこを心の拠りどころにして ハルケギニア中の人間の信仰を回復し、意識を一つに纏めることを考えているのだった。 「“虚無”の力で異界からの災厄も祓えることは実証済みです。信仰によって、真の平和は 訪れます。今こそがエルフより聖地を奪還する時なのです」 「……また争うのですか? 今度はエルフと? おっしゃったではありませんか! もう争いは たくさんだと!」 「強い力はエルフに向けて使うのではありません。我らは“虚無”を背景に、エルフたちと 平和的に“交渉”するのです」 エイジスの言葉には、一点の嘘の曇りもなかった。彼は本気で、ハルケギニアに平和を 取り戻すことを考えているのだ。そのために彼が提唱する方法にも、一理ある。 しかし……アンリエッタは、そう安易にうなずくことは出来なかった。彼女はアルビオンで、 人の『闇』を見た。闇が結集して生まれ出た究極超獣は、エイジスが絶対的な自信を見せる “虚無”すら寄せつけなかった。あの出来事で、アンリエッタは人の心の闇と、力の危険性に 対して以前よりもずっと慎重な態度を取るようになっていた。 果たして聖地を取り返すことで、本当に人の意識は一つに纏まるのか? 人が集まるほどに、 闇が巨大化することはもう分かっている。もし何かを間違えて、集めた“虚無”の力の矛先が 自分たちに向いたら、それ以上に恐ろしいものがまた生まれたりしたら……その時は取り返しが つくのだろうか? アンリエッタはその気持ちをエイジスに吐露した。 「聖下のお話は壮大すぎて……人の身であるわたくしには、それが正しいのかどうか判じかねます。 それに、わたくしたちには幸いにも災厄を取り除いてくれる、強い味方がおります。焦ってエルフと 相まみえるという大きな危険に臨むこともないのではないでしょうか?」 と告げた、その瞬間……エイジスの聖職者の威光が、かすかに陰ったようにアンリエッタには 感じられた。 「ウルティメイトフォースゼロと呼ばれる巨人たちですね……。確かに彼らは現在、我らを 助けてくれております。しかし……彼らは本当に善意ある存在なのでしょうか」 「は……?」 「彼らは後に、私たちを助けた報酬としてハルケギニアを要求するつもりかもしれません。 いえ、彼らが現れ出してから、怪獣もまた出現するようになったのです。ひょっとしたら 彼らこそが、ハルケギニアを覆う災厄の黒幕なのかもしれませんよ」 その言葉に、アンリエッタは思わず耳を疑った。聖人という言葉がそのまま人間になったかの ようなこの教皇が……そのような心ない発言をしようとは! 「聖下! お言葉ですが、それはあんまりですわ! わたくしたちとは根本から異なるとはいえ、 人の行いにそのような穿った見方をなさるとは……清廉たる聖職者の頂きに座するお方のご意見とは 思えませんッ!」 つい語気を荒げて批判すると、エイジスの表情に柔らかな微笑が戻った。 「失礼、言いすぎましたね。しかし、教皇である他に大勢の人身に対して責任を持つ立場で ある以上は、残念ながら人を疑わねばならぬ時もあるのです。どうぞご理解いただきたい」 エイジスの謝罪により、アンリエッタは幾分か落ち着いた。よく考えれば、自分は実際に ゼロたちと対面して彼らの人となりに触れたからエイジスの言うようなことはありえないと 判断できるが、エイジスからしたら彼らは未知の存在なのだ。警戒心を抱いていて然るべき なのかもしれない。 結局はエイジスの心配は杞憂なのだから、この件をこれ以上論ずる必要はないだろう。 「ともかく、“虚無”という大きな力に対して慎重になられるのは当然のことです。しかし、 あまり猶予がありません」 「猶予とは」 「ガリアです。哀しいことに、かの国は民の幸せより、己の欲望を是とする狂王が支配しております。 かの男には、“始祖の虚無”を与える訳にはいきませぬ」 アンリエッタの脳裏に、ガリア国王ジョゼフの姿が浮かんだ。実の弟であるオルレアン公を 虐し、ルイズやタバサたちに非道を繰り返した残虐な男。しかも未だ確証はないが、彼には怪獣を 操る恐るべき力までがあるのだ。そこに更に“虚無”まで明け渡すことは許されない。 ジョゼフをどうにかしなければならないことだけは、全面的に同意できた。 「神と始祖のしもべたるハルケギニアの民のしもべである教皇として、私はあなたに命じます。 お手持ちの“虚無”を一つところに集め、信仰なき者どもよりお守り下さいますよう」 アンリエッタはエイジスの命令により、ルイズの他にもう一人の“虚無”の担い手、 アルビオンのティファニアのことを考えた。 彼女はウェストウッド村に留まることを選び、また忘却の“虚無”も有しているので、 彼女が“虚無”の担い手であることは自分たちの他に知られていないはず。しかし…… 相手は脅威の全容も見えないジョゼフ率いるガリア。それだけで、絶対的に安心とは思えなかった。 やはり、ティファニアを暗黒の魔手から保護する必要がある。アンリエッタはそう判断した。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
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{ | .'. i ,ィ ´ ̄ ` ‐- _ノ '. { , '⌒´ < { .V ./ { i \ ヽ` | V / i .ハ ` ヽ.} 、 < | .V i `iへV{、 }才≦ ヽ ヾ} i j、iィf''笊ミヽ ィf笊ヾX/ }.V____ . -‐ .''´.i ノ ヾ { r' } .}/{ r' } '.∧イ ` / _ -‐´ヽ _ イ i.} } ´ _''_ ` .∧'-‐<  ̄ >/ /〃 . -‐ ´ ノ 入. ,' ¨ハ ∧ ヽ ` / / { -‐ ´ _ ィ . . . . . >. ゝ- ' ィ´__ ヽ .\ / { (. / -───< . ', / . . { . . .i . .\`_´ }ヘ . } . .ヽ_ } ヽ ` _ ` .)', { . . . i . . . ゞ、 . V }- ヘソ . . . ./ .ヽ { \ ー-- _ i / . .V . . . { . . . . . .ヾ .ヽ_/. . ./. . . . . ,{ ヽ _ ´ ノ / /. . . . ヾ. . . ゞ. . _. . . . > . . < . . . . . ノ. . } .} .ヽ {`くー < .ノ .ノ. . . . . . .V . . . . . . . . . . . . 小 . . . .ヾ . ´ . /. /` ミト.、` ー _ニ._ フ 〃. . . . . . . . .i.ヾ . . . . . . .才/ ヾ. . . . .  ̄ . . ./ ヽk彡'⌒_ _ノ⌒. . . . . . . . . . . | ` ̄ ´ 〃 .ヾ. _. . ._/ / /. . . `´. . . ./. . . . . ./. . . . | .〃 } ./. . { `ヽ .//r.、 ./. . . . . . . . /. . . ./. . . . . | .{i i ./. . . .ヽ ⌒' >n、ヘヘ } <. . . . . . ./. . /. . . . . . . . . 「 _ / ,}. . . . . . .V ヽ`>-‐'´. . . .ヽ 人間の貴族の娘 姉のカトレアの病弱さを克服手立てがないかとカトレアと共にバタラシに訪れていた 魔力はあるが魔法を使うと爆発して失敗してしまう悩むを抱えており カトレアの体調がヤルオに薬によって良くなったのを機に潜入21日目で魔術ギルド「エーテルの風」に訪れていた そこでデキルオ達と遭遇し、館で爆発する原因を探ってもらうことになったがデキルオの催眠による力のセーブが解除され その結果、自身も瀕死の重傷を負ってしまう 傷の治療のため強制的に半魔族にされてしまい現在は意識不明の状態である
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前ページ次ページルイズVSマジク~史上最哀の会合~ 第2話『音声魔術とは』 マジクは驚いた。何を驚いたかと聞かれれば今ギーシュの言った 『ゴーレム』についてである。 (確か記憶が正しければ――ゴーレムそれはドラゴン種族が1つ「天人≪ノルニル≫」がかつて作ったものだ。) (そうだよ。アレンハタムで地人兄弟がクリーオウにぶんどられたアレだ。) あのときマジクではなく彼の師がこともなく,本当にこともなくぶっつぶしたアレ。 (アレに比べると小さすぎるけど,代わりになんか無駄に細かいな?) てっとりばやく魔術を使って終わりにしようと思ったが,マジクはそれをしなかった。 (でも,あれくらいのサイズなら魔術をつかわなくてもコレを使えば何とかなるよね?) マジクは自分のブーツに目線をやる。 「ふっ。どーした平民?今さら怖気づいたのかね。何今回のことに…」 ギーシュはまだ戦ってもないのにすでに勝った気でいた。 (お師さまなら――やる。絶対にやる。それにさっきいってたよね。) 「懲りてこれから貴族に対する態度を改めるなら…」 (あれ青銅なんだよね。) マジクは突然走りだす。ギーシュ自慢の青銅のゴーレム『ワルキューレ』に向かって。 ワルキューレはマジクに向かって大ぶりに右の拳を繰り出す。 それなりに速度はあるがあまりにも単純に,そして正直に。 これが魔法に頼りっぱなしの魔法学院の生徒や,メイジというだけで恐れをなす平民なら 十分だっただろう。 だが仮にも世界を滅ぼす戦いに関係ないのに巻き込まれ,また世界は違えど 大陸一の魔術士養成機関で年間首席をとった者にはぬる過ぎた。 紙一重というにはやや遠すぎる――経験不足ゆえにひきつけるのが足りなかったが なんとかマジクは右に避ける。そしてそのまま反転して拳をふるため重心を寄せていた ワルキューレの左足に自分の右足の踵をぶち当てた――鉄骨をしこんだブーツで。 「許さないわけでもないよ。うん。あれっ?」 ギーシュが気づいたときにはワルキューレは左足を粉々に砕かれていた。 【注】ほんとに鉄骨ブーツで青銅が粉々になるかはしりません。 誰かが言ったように,世界いろいろ神様いろいろ,ついでに金属いろいろ,な方向で 思い描いたとうりになってふぅとマジクは息をつく。 (いつか旅にでるときは僕も買おうと思ったけどこのブーツ高いよなぁ。) 牙の塔をでてマジクが最初にやったことは持ち金はたいて特注のブーツを作ることだった。 「ねぇ,今の動きみた?まだぎこちないけどそれなりじゃなかった?」 野次馬が一人で誰かとは正反対の胸をもつキュルケが隣の青い髪のタバサに話しかける。 「ビックリあったくには程遠い…」 「何?それ…」 「知らない。言ってみただけ。」 「あら,そう。」 ギーシュはやっと事態をのみこんでキレた。 「ぐぬううう。いや,まずは誉めよう。よくそんな動きで僕のワルキューレを とめたものだと。」 「だが君は…僕を本気にさせたのだよ。」 ギーシュは冷たく微笑み,手に持ったバラをふった。 花びらが舞い,こんどは6体のゴーレムが現れた。 最高で7体までしかギーシュは呼び出せないのである。 「もういいでしょっ。早く謝りなさいよ。あんな動きで,今度は6体も… 相手にできるわけないじゃない。」 「おおっと。ヴァリエール残念だが今さら謝っても許しはしないよ。」 ギーシュの残酷な宣言に凍りつくルイズ。 いよいよクライマックスだと騒ぐ野次馬達をマジクは他人事のように見ていた。 ギーシュが新たなゴーレムをだした時点ですでにある決心をしていた。 ――魔術を使うと。 (そういえば,こっちにきてから使ってなかったな。) こちらで言う魔法とマジク達の世界でいう魔法。ならびに魔術が違うものだと いうのは数日来の生活で分かっていた。 なるべくなら使いたくはなかった。先ほど魔術を選ばなかったのにも関係している。 だが,いい加減ガマンするのも限界だった。 (実際僕は我慢した方なんだ。そうに違いない。お師さまを含めて 僕の知ってる魔術士ならとうの昔に使っているに違いない。) 魔法とは,神々の使う力。 魔術とは,神々からドラゴン種族とよばれる力ある種族が盗みだし, 自分達に使えるようにしたもの。 魔術とは,魔力により限定された空間に自らの理想の事象を起こすこと。 音声魔術とは,人間種族が使う力。 魔術の設計図――構成を編み,声を媒介にして発動する。 そのため魔術の効果は声が届く範囲でしか発動しない。 又,声が霧散したら効果が消えるため効果は長くて数秒。 そんなことは関係なくマジクは意識を集中する。 もっとも使い慣れた構成を―― まだ意識をしなくても使えるわけではないあの構成を。 右手を上げ,高らかに叫ぶ。 「我は放つ光の白刃っ!」 光の帯がのびる。高熱と衝撃波の渦が,6体のゴーレムのもとへ到達した。 瞬間,つんざくような轟音と跳ね返る光が,熱が,あたりすべてを純白に焼き尽くす。 光が消えたあとにはかろうじて燃え残った何かの小さな破片があるだけだった。 あたりは静まりかえる。 マジクはゆっくりギーシュのもとへ歩いて行く。震える彼のもとへ。 「えっと,こういうとき何ていうのか分からないけど。」 いったん区切ってから 「続ける?」 つぶやくようにマジクはいった。 「ま,参った」 ギーシュは犬どころか狼に噛まれた気持ちになった。 …絶対に忘れられない,と思ったかはさだかではない。 次回予告 シエスタ「ビームで簡単にミスタ・グラモンを倒したマジクさん。」 「だけど,すぐにミス・ヴァリエールに連れていかれ…」 ルイズ「きっちりかっちり説明してもらうわよ。」 マジク「うぅっ。面倒だなぁ。」 「こんなとき…都合よく説明してくれる神様がいたらなぁ。」 ???「そうであろ。そうであろ。」 「余のありがたみが,こう…背筋のあたりからゾクゾクっとのぼってきたであろ?」 シエスタ「そんなことは放っといて。」 「次回,第3話『今になって分かる説明役っぽいものの大切さ』に…」 コルベール「我は癒す斜陽の傷痕。」 前ページ次ページルイズVSマジク~史上最哀の会合~
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春の使い魔召喚の儀式。メイジであるならば当然のごとく使い魔の召喚に成功する……はずだったのだが、ルイズと呼ばれる少女はそれが出来ないでいた。 ルイズは魔法が使えないと揶揄される。彼女が魔法を唱えれば生じるのは爆発のみ。しかし、ルイズは努力を積み重ねていた。 ただ、いくらその努力を積み重ねていようとも彼女は使い魔を呼び出すことが出来ず、本来ならば彼女はメイジ失格の烙印を押され、退学乃至留年という結果になったであろう。 だが彼女には幸運なことにもう一度チャンスが与えられた。それは教師であるコルベールが他の教師や学院長に嘆願した結果でもあった。 月が頭上に昇った今宵、ルイズは中庭に出ていた。コルベールの温情に答えるべく、魔法の練習をするために……。 繰り返される爆発音、眠りを妨げるこの騒音も、いつもは冷やかす生徒達は今夜だけはと、目を瞑るのであった。 沢山の書物を読んだ。 沢山の人に助言を仰いだ。 それでも結果がでない。明日こそは、明日こそは魔法を成功させて見せると誓い、練習に励むのであった。 そして日付が変わったであろうその時に、それは起こった。 ルイズが練習を切り上げようと思い、最後の一回と杖を振るう途中にそれは起きた。 いつもならば杖が振り切ってから生じる爆煙が杖を振る途中に起きたのだ。 そして月明かりによって明らかになる何かの影……この時ルイズは理解した。使い魔の召喚に成功したのだと……。 思わず小躍りして煙が晴れるのを待つルイズであったが、煙が晴れるにつれ、彼女の顔から喜びが消えていく。 そうどう見てもそこにいるのは妙齢の女性であったのだ。 ルイズは誰であるか問おうと一歩踏み出した。その時、女性が唐突に動き出した。 「ラジカール、レヴィちゃん、参上!」 なにやらピロリロリーンやらキュピーンとかいう擬音がついてきそうな挨拶をしでかしたのだ。 呆気にとられたルイズはレヴィちゃんなるこの人物をつぶさに観察する。スタイルは羨むぐらいに良い。黒髪を後ろでまとめている彼女の容姿は綺麗と言っても過言ではないだろう。 けどその格好はどうかと思う。彼女が美少女、少女と言われるような年齢ならば有りかも知れない。けど現実には彼女は美女であって美少女ではない。魔法少女チックな服装は痛々しい。 「誰……?」 辛うじてそう声を出すことが出来たルイズ。彼女はこの状況でよくまともな質問をしたと自画自賛していることであろう。 「魔法少女としての素質がいまいちな貴女を、スナック感覚で助けるために、ヘストンワールドからやってきた正義と平和の使者なのよ!」 くるくる踊りながらそんなことを言ってのける彼女をルイズは冷たい目で見ながら、スナックとかヘストンワールドって何?と心の中で思っていた。 決して突っ込んだら負けと彼女が思っていないということを弁明しておく。 ルイズの様子などお構いなく、ノリノリなレヴィちゃんは目をキラキラさせてルイズの両肩をがっしり掴んだ。 「悩み事とかあるでしょう! 言ってみて!」 鼻息が荒いレヴィちゃんはルイズをがくがく揺さぶる。 ルイズは絶対こいつは使い魔じゃない、そう思ったか定かではないが言い放つ。 「帰ってくれない?」 そんなルイズを素直じゃないツンデレかと思っているレヴィちゃんは尚をルイズに詰め寄る。 「ほらー、やっつけて欲しい人とか嫌いな奴とかいるでしょ! ほら!」 「いないことはないけど…」 折れた。ルイズは折れた。彼女のテンションについて行けなくなったルイズは用事が終わったら帰るのかしら、なんて思ったのか話に乗ってしまったのだ。 そして夜が明け、物語は魔法学院の教室へと移る。 「なんだよ”ゼロのルイズ”、使い魔は召喚できなかったんじゃないのか?」 教室に入るなり行き成りいちゃもんをつけ始めたこの少年、マリコルヌとその取り巻きはこの後降りかかる災いを知らない。 「え? こいつ? うざったいやつって…」 「こんな感じでうざいのよ…」 妙にうきうきしたレヴィちゃんとは対照的に覇気がないルイズ。 「なんだちょこざいな。あんなもんひとひねりですよー♪」 それはルイズに語ったのか、それとも彼らを挑発するために言ったのか、理由はともかく結果としてマリコルヌとその他数名の生徒は激昂した。 「なにー!ルイズの癖に生意気な!」 どこぞのガキ大将のごとく顔を真っ赤にさせて襲いいかかる彼らを尻目にレヴィちゃんは踊り始めた。 「トカレフ、マカロフ、ケレンコフ、ヘッケラーコックで―――」 キラリラリンという効果音つきで踊るそれは彼女の魔法を使うための舞、そして…… 「見敵必殺ゥ!」 何とも頼もしい掛け声と共に現れたのは二丁の銃、それは彼女の相棒ソードカトラスに他ならない! 驚くルイズを尻目に銃口はマリコルヌの額に合わさった! 教室に響く銃声、悲鳴、怒号…そして…… 「魔法じゃないの!」 「誰が?」 虚しく叫ばれるルイズの突っ込み。 「イェーイ! 物事なんでも速攻解決! 銃で!!」 一仕事終えて楽しそうに叫ぶ彼女にルイズはもはや突っ込みを入れる気もなくしてしまった。 「魔法なんて非現実的なものよりよっぽど確実な方法よ!」 高らかに笑い、そう宣言するレヴィちゃん。彼女はここが魔法学院とは知らない。 「ああ、風上のマリコルヌが風穴のマリコルヌになってしまった…」 誰ともなくそう叫ぶ声が教室に響く。 「頭痛いから教室に帰るわ……」 これは悪い夢、目を覚ませばいつもの日常が……。逃避を試みるルイズ、だがそうは問屋が許さない。 レヴィちゃんに首根っこを掴まれ引き止められる。 「何言ってんの?ここは教室だから帰るなんてできないぞぉ」 彼女の言うとおり。そもそも教室にいるのに教室に帰ることなど出来ないのだ。それよりもレヴィちゃんに突っ込まれるなんて……。 「そんなことより、今日はレヴィちゃんから素敵なプレゼントがありまーす」 「いらないいらない」 「何とこの銃をあげちゃいまーす!」 心の底から全力で拒否しようがレヴィちゃんには無駄無駄。無理やりルイズの手に二丁の銃を握らす。それはまだ発砲の余韻で銃口が暖かい。 「あ、それじゃあ時間だから帰るね! バイバ~イ!」 こうして自己満足を思うさま堪能したラジカルレヴィは、ヘストン・ワールドに帰っていきました。 テンション爆超のまま。 物語はここで終わらない。当然その後教室に踏み込んだ教師達によって、ルイズは事件の首謀者として拘束されてしまうのでした。 「ミス・ヴァリエール。君は、君はそんなことをする生徒ではないと信じていたのに……」 コルベールが目元を拭う。オスマンはそんな彼を気遣いながらルイズに優しく問いかける。 「何故こんなことをしでかしたのじゃ。君にはチャンスが与えられた…自棄になる必要はないじゃろう」 「ごめんなさいごめんなさい……」 ルイズは謝罪の言葉を口にしながら心の中で助けを求めていた……そしてそれに呼応するものが現れたのだ! 「マジカールメイド、ロベルタちゃん、参上!」(猫耳) 「お、同じくマジカルメイド、シエスタちゃん参上!」(猫耳) 続きません