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前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百四十七話「決闘!ウルトラマンゼロ対悪のウルトラ戦士」 ウルトラダークキラー 悪のウルトラ戦士軍団 登場 六冊の本の旅を終えた才人とゼロだったが、ルイズの記憶は元に戻らなかった。更にはルイズが ダンプリメなる謎の人物に、本の中にさらわれてしまった! 才人たちはダンプリメの正体を、 ガラQに説得されたリーヴルから知らされる。ダンプリメは長い年月を経て本に宿った魔力が成長して 誕生した存在であり、人間に関心を持った末に莫大な魔力を秘めているルイズを自分のものにしようと、 リーヴルを脅して今回の事件を仕組んだのであった! そんなことを許せる才人ではない。彼は リーヴルの手を借りて、ダンプリメが待ち受ける七冊目の世界へと突入していった……! 「うッ……ここは……」 才人がうっすら目を開けると、そこはもう図書館ではない別の場所であった。本の中の 世界に入ったに違いない。 しかし七冊目の本の世界は、これまでの六冊の世界とは大きく異なっていた。それまでの 本の世界は、様々な宇宙の地球の光景そのままの街や自然で彩られた景観が広がっていたのに、 この世界は360度見渡す限り薄暗い荒野が続いていて、石ころとほこりしかないようであった。 「随分殺風景だな……。至るところに何もないぜ」 「それはそうさ。この本の物語はまだ一文字たりとも書かれていない。だからこの世界には まだ何もないのさ」 才人の独白に対して、背後から返答があった。才人は即座にデルフリンガーを抜いて振り向いた。 「ダンプリメ!」 果たしてそこにいたのはダンプリメ。才人のことを警戒しているのか、デルフリンガーの刃が 届かない高さで浮遊している。 「物語はこれから綴られるんだ。ウルトラマンゼロ……君たちが敗北し、ボクとルイズの永遠の 本の王国が築かれるハッピーエンドの物語がね」 ダンプリメはすました態度でこちらを見下ろしながら、そんなことを言い放つ。対して才人は、 デルフリンガーの切っ先をダンプリメに向けて言い返した。 「残念だったな。これから書かれるのは、俺たちがルイズを救出して現実世界に帰るハッピー エンドの物語だ!」 早速ダンプリメに斬りかかっていこうと身構える才人だが、それを察知したダンプリメは 才人から距離を取りつつ告げた。 「まぁ落ち着きなよ。そう勝負を急がずに、前書きでも楽しんでいったらどうだい? たとえば、 ボクがどうして六冊もの本の世界を君たちにさせたのか」 「何?」 自在に宙を舞うダンプリメが逃げに徹していると、才人も狙うのが難しい。相手の動きを 常に警戒しながら、ダンプリメの発言を気に掛ける。 「ルイズを手に入れる上で最大の障害である君たちを排除するため……おおまかに言って しまえばそういうことだけど、それは旅のどこかで本の怪獣たちに倒されればいいな、 なんて希望的観測じゃないんだよ。ボクも、そんな不確実な方法に頼るほど馬鹿じゃない」 「じゃあ何のためって言うんだ」 才人が聞き返すと、ダンプリメは自分でも言っていたように、遠回りな説明を始める。 「ところでボクは本から生まれた存在なだけに、その知識量はこの世界の誰の追随も許さない ものと自負している。何せ、トリステインの図書館の蔵書数がそのままボクの知識だからね。 それは世界の全てを知っているということに等しい。それこそあらゆることをボクは知っているし 実際に行うことも出来る……剣術も間合いの取り方だって達人のレベルさ」 いつの間にか、ダンプリメが剣を手に才人の背後にいた! 間一髪察知した才人は振り向きざまに、 相手の斬撃をデルフリンガーで弾く。 「図に乗るな! いくら本の内容を全部知ってるからって、世界の全てを知った気でいるのは 自惚れだぜ!」 「そうだね。逆に言えば、本に書かれてないことをボクは知らない。そう、君の中の光の戦士、 ウルトラマンゼロ。それなんかがいい例だ」 単なる余興だったのか、剣を弾かれても平然としているダンプリメは、才人の胸の内を指差した。 「ハルケギニアの外の世界からやって来て、超常的な力であらゆる敵を粉砕する無敵の戦士。 その力の前では、どこまで行っても本の世界から外に出ることは出来ないボクは呆気なく 粉砕されてしまうだろう。そう考えたボクは、リーヴルを通じてある策を実行した。無敵の ウルトラマンゼロを『本の中の登場人物』にしてしまうというね」 「何!?」 ここまでの説明で才人も、ダンプリメの狙いが薄々分かってきた。 「本の中に引き込んでしまえば、ボクは相手の能力を分析することが出来る。六冊分もの 旅をさせて、既にウルトラマンゼロの力は隅々まで把握してるよ。……だけど、狙いは それだけじゃあないんだ」 「まだあるってのか!」 「旅の中で、君たちは度々その本の世界には本来存在しない怪獣と戦っただろう。あれらは ボクの介入で出現したんだ。何でそんなことが出来たのかって? それはこの『古き本』の 力によるものさ!」 ダンプリメが自慢げに取り出して見せつけたのは一冊の本。それは……。 「怪獣図鑑!?」 どこで出版されたものか、古今東西の様々な怪獣の情報が記載されている図鑑であった。 そんなものまでトリステインに流れ着いていたのか。 「それだけじゃない。本の中の存在も生きてるんだよ。本の中の怪獣が君たちに倒されるごとに 生じた怨念のエネルギーも、ボクは集めてたんだ。そういうこともボクは出来るんだよ」 それは黒い影法師の力か。ダンプリメはそんな能力まで学習していたのだ。 そしてダンプリメの周囲に、六つの禍々しく青白い人魂が出現する。 「……それが真の狙いかよ!」 「さぁ、機は熟した。ウルトラマンゼロへの怨念が一つになり、今こそ誕生せよ! ゼロを 上回る最強の戦士よッ!」 ダンプリメの命令により人魂が一つになり、マイナスエネルギーも相乗効果によって膨れ上がる。 そして人魂が巨大化して戦士の形になっていった! 「あ、あれは……!」 新たに生まれた、邪悪な力をたぎらせる巨人の戦士を見上げて、才人は思わずおののいた。 あまりにもおぞましいオーラを湛えた異形の姿だが、胸の中心に発光体を持つその特徴は、 明らかにウルトラ戦士を模していた。頭部には四本ものウルトラホーン、腕にはスラッガーが 生えていて、様々なウルトラ戦士の特徴を有しているようである。 「目には目を。歯には歯を。古い言葉だが、ウルトラマンを葬るのにも闇のウルトラマンが 最もふさわしいだろう。君たちウルトラ戦士を抹殺する闇の戦士……ウルトラダークキラー とでも呼ぼうかな」 「馬鹿な真似はよせ! 闇の力ってのは、手を出したら取り返しがつかないことになるぞッ! 今ならまだ間に合う!」 警告を飛ばす才人だが、ダンプリメは取り合わず冷笑を浮かべるだけだった。 「おやおや、ウルトラダークキラーを前にして臆病風に吹かれちゃったかな? 君が勇士と いうのは、ボクの買い被りだったかな」 「……どんなことになっても知らねぇぞッ!」 才人はやむなくウルトラゼロアイを装着して変身を行う。 「デュワッ!」 才人の身体が光り輝き、この暗い世界を照らそうとするかのように閃光を発するウルトラマン ゼロが立ち上がった。 「ふふ、いよいよ最後の決戦の始まりだ。さぁウルトラダークキラーよ、恨み重なるウルトラマン ゼロをその手で闇に還すがいい!」 ダンプリメの命令によって、ウルトラダークキラーが低いうなり声を発しながら腕のスラッガーで ゼロに斬りかかってきた! 「セアッ!」 こちらもゼロスラッガーを手にして対抗するゼロだが、ダークキラーの膂力は尋常ではなく、 押し飛ばされて後ろに滑った。 『くそッ、とんでもねぇパワーだな……!』 ダークキラーは倒した本の怪獣全ての怨念の結集体というだけあり、力が途轍もないレベル だということが一度の衝突だけでゼロには感じられた。 『こいつは全力で行かねぇと駄目なようだな! デルフ!』 そこでゼロはゼロスラッガーとデルフリンガーを一つにして、ゼロツインソードDSを作り出した。 本の世界では一度も使用していないこれならば、ダンプリメも対策はしていまい。 『こりゃまた歯ごたえのありそうな奴じゃねぇか。相棒、遠慮はいらねぇ。かっ飛ばしな!』 『もちろんだぜ! はぁぁぁぁぁッ!』 ゼロはツインソードを両手に握り締めて、一気呵成にダークキラーへと斬りかかっていった。 ゼロツインソードとダークキラーのスラッガーが激しく火花を散らしながら交差する。 ダークキラーはその内にゼロを突き飛ばすと、スラッガーを腕から切り離して飛ばしゼロへ 攻撃してきた。 「セェェアッ!」 ゼロは一回転して迫るスラッガーをツインソードで弾き返す。スラッガーがダークキラーの 腕に戻った。 『なかなかやるじゃねぇか……』 一旦体勢を整えて、ひと言つぶやくゼロ。ダークキラーの戦闘力はかなりのもので、 ゼロツインソードを武器にしてもやや押されるほどであった。しかし、ゼロは決して戦いを あきらめたりはしない。どんな相手だろうとも最後まで立ち向かい、勝利をもぎ取る覚悟だ。 だが、この時にダンプリメが次のように言い放った。 「そっちもさすがにやるものだね。このダークキラーに食い下がるなんて。……だけど、 ボクはより確実に君を倒す手段を用意してるんだよ」 『何!?』 「さぁ、ここからが本番だッ!」 パチンと指を鳴らすダンプリメ。それを合図にしてダークキラーの身体から怨念のパワーが 次々と切り離されて飛び散り、それぞれ実体と化してゼロを取り囲む。 それらは全て、ダークキラーと同じように暗黒のウルトラ戦士の形を成した! 『な、何だと……!?』 カオスロイドU、カオスロイドS、カオスロイドT、ダークキラーゾフィー、ダークキラージャック、 ダークキラーエース、ウルトラマンシャドー、イーヴィルティガ、ゼルガノイド、カオスウルトラマン、 カオスウルトラマンカラミティ、ダークメフィスト……ウルトラダークキラーも含めたら何と十三人にも 及ぶ悪のウルトラ戦士軍団! ゼロはすっかり囲まれてしまった! 『おいおいおい……こいつぁ絶体絶命って奴じゃねえか?』 口調はおちゃらけているようだが、その実かなり本気でデルフリンガーが言った。 「行くがいい、ボクの暗黒の軍勢よ! 恨み重なるウルトラマンゼロを葬り去れッ!」 ダンプリメの号令により、悪のウルトラ戦士たちが一斉にゼロへと襲いかかる! ゼロは ツインソードを握り直して身構える。 『くぅッ!?』 カオスロイドやダークキラーたちが飛びかかってくるのを必死でかわし、ツインソードを振り抜いて ウルトラマンシャドーやゼルガノイドを牽制するゼロ。だが悪のウルトラ戦士は入れ替わり立ち代わりで 攻撃してくるので、反撃の糸口を掴むことが出来ない。 そうして手をこまねいている内に、カオスロイドSのスラッガー、ウルトラマンシャドーの メリケンパンチにツインソードが弾き飛ばされてしまった。 『し、しまった!』 回収しようにも、カオスウルトラマンたちやダークメフィストが立ちはだかって妨害してきた。 立ち往生するゼロをイーヴィルティガ、ゼルガノイドが光線で狙い撃ってくる。 『うおぉッ!』 懸命に回避するゼロだったが、十三人もの数から狙われてそうそう逃げ切れるものではない。 ウルトラダークキラーを始めとした悪のウルトラ戦士たちの光線の集中砲火を食らい、大きく 吹っ飛ばされた。 『ぐはあぁぁぁッ!』 悪のウルトラ戦士はどれも本当のウルトラ戦士に迫るほどの恐るべき戦闘能力を持っている。 しかもゼロがたった一人なのに対し、二桁に及ぶ人数だ。多勢に無勢とはこのことで、ゼロはもう なす術なくリンチにされている状態であった。 完全に追いつめられているゼロのありさまに、ダンプリメが愉快そうに高笑いした。 「ははは……! 実質一人で乗り込んでくるからこんなことになるのさ。仲間を危険な罠から 守りたかったのかもしれないけど、一緒に本の世界の中に入る方が正解だったのさ」 今もなお袋叩きにされているゼロを見やりつつ、勝ち誇って語るダンプリメ。 「君はこれまで、一人の力だけで勝ってきた訳じゃないようだね。仲間の助けを受けることも あった。……だけど、この本の世界では君の仲間なんてどこにもいない。君は独りなのさ、 ヒラガ・サイト……ウルトラマンゼロッ!」 最早エネルギーもごくわずかで、息も絶え絶えの状態のゼロにウルトラダークキラーが カラータイマーからの光線でとどめを刺そうとする……! その時であった。 「それは違うわ!」 突然、ダンプリメのものではない甲高い声……才人たちにとって非常に慣れ親しんだ声音が 響き渡り、ダークキラーがどこからともなく発生した爆発を受けてよろめいた。 恐るべき暗黒の戦士のウルトラダークキラーの体勢を崩すほどの爆撃……それも才人たちは よく覚えがあった。 『ま、まさか……!』 ゼロが振り向くと、その視線の先に……桃色のウェーブが掛かった髪の少女が腰に手を当て、 無い胸を張っているではないか! 『ルイズッ!!』 才人は歓喜や驚愕、疑問など様々な感情が入り混じった叫び声を発した。また驚き、動揺 しているのはダンプリメも同じだった。 「そ、そんな馬鹿な! ルイズの意識は確かに眠らせていたはず……それがどうしてこの場に いるんだ!?」 ルイズはダンプリメの疑問の声が聞こえなかったかのように、ゼロに向かって叫んだ。 「ゼロ、しゃんとしなさい! あなたは独りなんかじゃない。……本の世界でも、あなたは たくさんの人を助けて、絆を紡いでいったんでしょう? わたし、覚えてるわよ!」 そして空の一角を指し示す。 「ほら、みんなが駆けつけてくれたわよ!」 ルイズの指差した方向から、ロケット弾や光弾が雨あられと飛んできて、ゼロに光線を 発射しようとしていたカオスロイドU、S、カオスウルトラマン、カラミティの動きを阻止した。 『あれは……!』 ゼロの目に、この場に猛然と駆けつけてくるいくつもの航空機の機影が映った。 ジェットビートル、ウルトラホーク、テックライガー、ダッシュバード! どれも各本の世界で 共闘した防衛チームの航空マシンだ! 「何だって……!?」 またまた絶句するダンプリメ。だがそれだけではなかった。 「彼らだけじゃないわ。ほら見て! みんなやって来たわよ!」 各種航空機の編隊に続いて飛んでくるのは……あれはウルトラマン! ウルトラセブン! ゾフィー! ジャック! エース! タロウ! コスモスにジャスティス! マックス! ティガにダイナにガイアも! 計十二人ものウルトラ戦士がマッハの速度で飛んできて、 ゼロを守るようにその前に着地してずらりと並んだ。さすがの悪のウルトラ戦士たちも、 この事態にはどよめいてひるんでいる。 『み、みんな……!』 声を絞り出す才人。最早言うまでもないだろう。彼らは六冊の本の世界の旅の中、才人と ゼロが出会い、助け、助けられた者たちである。 才人は最後の旅の終わり際にティガ=ダイゴが言っていた言葉を思い出した。「この恩は 必ず返す」……その約束を果たしに来てくれたのだ! 『みんな、本の世界の枠を超えて、助けに来てくれたのか……!』 強く胸を打たれるゼロ。彼はコスモスとジャスティスからエネルギーを分け与えてもらって、 力がよみがえった。 そしてルイズが救援のウルトラ戦士たちに告げるように、高々と宣言した。 「さぁ、行きましょう! このウルトラマンゼロの物語をハッピーエンドにするために!!」 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
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前ページ次ページ雪と雪風_始祖と神 「――あなたが仕事を成したら、おそらくわたしはこの世界から消える」 そう長門有希が切り出したのは、アーハンブラ城を望む街の湿った裏道であった。 ルイズや才人、そして誰にも代えがたい親友であるキュルケにさえも切り出さず、 タバサがトリステイン魔法学院を静かに去ってから、既に半年が過ぎようとしていた。 「ミョズニトニルン、この空間を作り出した人間は、 変化のないハルケギニアに、既に閉塞感を感じ始めている。 ガリア王に与えられた任務を失敗し、最後に残った存在理由、それがわたし。 あなたの母を取り戻せば、それはミョズニトニルンの敗北。 そして、わたしたちが負ければ、ミョズニトニルンの自意識は満たされる。わたしがあなたといられるのは、あとわずか」 普段通りの淡々とした口調で語る長門有希の背中を、月明かりが照らす。タバサはわずかに、長門有希を見やった。 しばしの沈黙の後、タバサが問う。 「ならば、……教えて。本当はなぜ、あなたが、ここにいるのか」 + + + 「わたしに僅かなエラーが発生し始めたのは、あなたと出会う半年前」 「――わたしは人間ではない。それはあなたに話した通り。 だから、有機生命体の感情の概念が、わたしに発生する筈などなかった。 でも、彼との対話を少しづつ重ねるうち、わたしを構成する有機体に、 与えられた機能を超えた部分――あなたたちの言語に翻訳すると、魂……のようなものが芽生え始めた」 「本来、わたしは与えられた命令を遂行するだけの存在に過ぎない。あなたと同じ」 「変化に気付いたのは、行動の可否の判断を、彼に委ねられたときだった」 「微小な変化。まずわたしは、それが"嬉しい"ということに気付いた」 「彼を助けること、それが彼にとっても嬉しく、わたしにとっても嬉しいという仮説を持った。 でも、すぐにそれは否定した。有機生命体が可視化した言語情報――本に創作された意識たちは、それを打算と呼んだから」 「でも」 「わたしがそのことに気付くまでの短い間に、彼に何かをしなくても、 彼のイメージを"魂"の中に認識するよう、わたしが作り変えられたことに気が付いた」 「そして、そのことを自覚してはじめて、彼のために行動すると、嬉しさだけではない、安堵感を生じるようになった」 「それは、"嬉しい"とは違うの?」 初めてタバサが問いかける。 「ちがう。わたしはそれを、"恋"と判断した。――ただし、あくまでもそれは萌芽。原初的なもの」 「恋?」 「そう。本に書かれた心理の変化のうち、わたしに新たに生じた事象は、"恋"に相当すると思われる」 「恋をしたあなたは、どうしたの」 「……何も、できなかった」 「なぜ」 「わたしが恋をした相手に、神――つまり、ミョズニトニルンもまた、恋愛感情を抱いていた。 ――わたしには、どうすることもできない。わたしが彼と結ばれることは、彼女の望まないこと」 「それでも」 「わたしは彼を忘れられなかった。だから、わたしは自身の望むように、世界を作り変えようとした――」 「世界を?」 「そう。あなたに見せたわたしの能力に似たもの」 タバサの脳裏に叔父の姿が過ぎる。彼もまた、世界を望む人間。 長門有希もまた、彼女にとって都合のよい世界を望むというのだろうか? タバサは彼女がそのような人間であることを信じたくないし、考えたくもない。 幸い、長門の独白は続いた。 「世界を変革することは簡単。でもその前に――」 「わたしにできる、精一杯のことを、彼にすることにした」 「精一杯のこと?」 長門有希は答えない。だが、彼女はタバサに視線を合わせようとしない様子から、 それ以上を話したくない様子がありありと読み取れた。 恥じらいの感情、彼女が初めて見せた表情にタバサは驚く。 タバサもそれ以上求めない。タバサ自身、自己を隠すことを友人に許されているのだ。 使い魔とはいえ、タバサも他人の秘密は最大限尊重しようと心得ている。 「精一杯のこと……。つまり――"ぴと"」 しかし長門は、自身の行動について説明する一言を搾り出した。 それは彼女にとって最大限の譲歩であった。 もう一つの決定的行動について、長門が口にすることはなかった。 「ぴと?」 タバサが問う。 「そう、"ぴと"。それが、わたしの行動。――でも、その行動もミョズニトニルンに察知されていた。 そのことで、彼女の持つ能力によって、わたしは元の世界からこのハルケギニアに閉じ込められた」 長門有希は口をつぐむ。 + + + 代わって、タバサが語る。 「――ユキ、わたしはあなたを誤解していた。 あなたをわたしと同じ、心に壁を築いた人間だと認識していた。 でも、それは違う。ユキは本物の感情を持っている」 「それに――、恋と言う感情がわたしには分からない。 わたしには、そんな感情を抱く相手がいない。これからも、ずっと――」 「違う」 長門有希が再び言葉を発する。 「あなたは本物の有機生命体。全くのゼロから感情が発生したわたしとは違う。 あなたがこれまでに得た全ての感情、それが恋に繋がる。書物だけではない、全ての経験」 「全て?」 「そう」 「――ユキの感じた嬉しさと安堵感。わたしも感じられる?」 「可能。できないはずがない」 「ありがとう、ユキ」 タバサは立ち上がり、アーハンブラ城を見上げる。 「わたしはシャルロットになる。そして、いつかわたしも――」 + + + + + + アーハンブラ城に接近すること、それ自体は難しいことではない。 幾何学模様に彩られた、エルフの築いた城塞は、ガリア王家の所有ではあるものの、 ほんの数ヶ月前までは荒れるに任され、城内は浮浪者の住処に成り果てていたのである。 タバサの母がアーハンブラ城に幽閉されているという情報を掴んだきっかけも、 廃墟であったこの城が、にわかに整備され始めたという噂であった。 かといって、王弟の妃という貴人に見合う警備体制が敷かれているわけでもなく、 明かりの灯った一角のほかには、変わらず住人が我が物顔で闊歩していた。 「こんどはわたしの番。この城には伝説がある」 突入を前にして、歩みを止めると、今度はタバサがおもむろに語り出した。 「伝説?」 「そう。三人の姫の話」 + + + ――エルフがこの一帯を支配していた頃の話。 この城には、三人の姫が閉じ込められていた。 閉じ込めたのはエルフの王。王は娘を恋から守りたかった。 彼は、恋が三人の娘を連れ去るという、占い師の言葉を信じていた。 そして三人の姫は、恋以外の全てを知って育った。 でも、ついに姫たちは恋を知ってしまった。 三人の姫が城から街を見下ろしていると、窓の下に三人の着飾った男が通りがかった。 男達は人間だった。 人間とエルフが互いを憎んでいなかった頃、互いの領域を行き来するのは普通のことだったらしい。 男達が窓の下で休息を取ったのは偶然だった。 男の一人は弁当を早く食べ終わると、楽器を取り出し、歌いはじめた。 男が歌ったのは、他愛のない恋の歌だった。 恋を歌った詩の一つも見たことがなかった三人の姫にとって、それは初めて知る感情だった。 三人の姫は、男達が去るのを見ていることしかできなかった。 でも、男達は次の日も、同じ場所で昼食を取った。 三人の姫は、今度は見ているだけではなかった。 最初に長女が、次に次女が、最後に三女が、男の歌っていた歌を、窓から男達に向けて歌い出した。 男達はすぐ歌声に気付き、城を見上げた。 やがて三人の姫のもとへ、手紙を掴んだ梟が飛んできた。梟は、男の一人の使い魔だった。 こうして三人の姫と、三人の男が出会った。 手紙を交わすうち、三人の男はそれぞれ王子で、遊学のためにエルフの領域を訪れていることが分かった。 一人はガリアの王子で土メイジ、使い魔は熊。 一人はアルビオンの王子で火メイジ、使い魔は火竜。 一人はトリステインの王子で風メイジ、使い魔は梟。 ガリアの王子は得意の錬金で姫に髪飾りを贈った。 二人は宝石の美に、一人だけが彼が錬金した彫刻の技術と知識に魅せられた。 二人は魔法の知識について手紙を交わし語り合った。彼は、知識を愛する姫と恋に落ちた。 アルビオンの王子は、三人の姫に少しでも近づこうと、城壁を登った。 使い魔の火竜で近づくのは、目立ちすぎて不可能だった。 彼は三度挑戦し、三度目に姫の元へ達した。 二人の姫は彼を無謀と罵り、一人だけが彼の勇気を称えた。 彼は、勇気を愛する姫と恋に落ちた。 トリステインの王子は使い魔の梟と視界を共有し、三人の姫を見た。 彼は、使い魔が手紙を渡したときから、最も美しい姫に恋していた。 彼がこの世で最も美しい手紙を書くと、美しい姫はそれ以上に美しい手紙を書いた。 彼は、美を愛する姫と恋に落ちた。 三人の王子がこの街を去る前日になった。 その晩、ガリアの王子がゴーレムを作り、三人の王子を窓辺に届けた。 三人の王子が三人の姫に結婚を申し込むと、 勇気を愛する姫と、美を愛する姫は、ゴーレムの掌に乗り移った。 一人だけ、知識を愛する姫だけが躊躇していた。 彼女は知識に囚われるばかりに、行動を起こすことができずにいた。 ついにエルフ達がゴーレムに気付き、ゴーレムは精霊の力で土塊に戻った。 間一髪、アルビオンの王子の使い魔、火竜が三人の王子と二人の姫を助け、 人間の領域へと飛び去っていった。 一人、知識を愛する姫だけが、アーハンブラ城に取り残された。 アルビオンの王子は勇気を愛する姫を、トリステインの王子は美を愛する姫を妃とした。 エルフの王は、占い師の予言通りになったことを悲しみ、 一人残った知識を愛する姫を、この城の外にある塔に閉じ込めた―― + + + 「初めて耳にする」 長門有希の正直な感想である。 「当然。この伝説は、ハルケギニア中でも最も危険な異端に属する。 もしこの伝説が事実ならば、王家にエルフの血が流れていることになる。 それでなくとも、ハルケギニア中が恐れるエルフと、交流のあった時代があったこと自体 ロマリアの教皇庁が全力で隠している事実」 「――知識を愛する姫はどうなったの?」 長門がタバサに問う。 「わからない。ガリアの王子と手紙を交わし続けたとも、 悲嘆に暮れて若くして死んだとも言われている。恋を知った彼女は、不幸だったかもしれない。――だけど」 「だけど?」 「わたしは恋を知ることを恐れない。 だから、ユキ、あなたも恐れないで。 ミョズニトニルンは、あなたと同じひとを愛しているかもしれない。 でも、あなたの感情とミョズニトニルンの感情に優劣を付けることなんてできない」 長門は小さく頷いた。 「――どんな王も占い師にも、わたしは縛られない」 長門有希の高速詠唱によって、灯りのついた部屋まで一直線に、通路が構成される。 + + + 二人が部屋に姿を現すと、ベッドに身を起こす人影から花瓶を投げつけられる。 「シャルロットを連れ去りに来たのでしょう!? 去りなさい、無礼者!」 しかし、タバサは母の前に跪き、 「シャルロット、母様の元へ、今、戻りました。悪夢はこれで終わりです。――ユキ、お願い……」 長門有希は掌をタバサの母に向け、高速詠唱を開始する。 しかし、今回ばかりは様子が異なった。 これまで一瞬で終わった詠唱が、普段より明らかに長く続いていることがタバサにも分かった。 その間もタバサの母は狂乱し、言語にならない奇声を上げている。 長門は一旦、詠唱を中断せざるを得ない。 「やっぱり――」 「もう少しだった。エルフによる情報操作とのせめぎ合い。 わたしには少しづつ押し切っていくことしかできない」 「母様をここから連れ出してからでもいい」 「――次はできる。もう一度、やらせて」 「わかった。お願い」 再び、長門有希の高速言語が母へ向かう。 輪を掛けて長い詠唱。 やはりエルフの先住魔法には、使い魔の情報操作でも対抗できないのか。 エルフに対し成す術もなかった、オルレアン公領の光景が脳裏を過ぎり、自然、タバサの手に汗が滲む。 しかしだんだんと、取り乱していたタバサの母の様子に変化が現れる。 奇声が止まり、目の焦点がだんだんと二人に合わされる。 そして長門が詠唱を止めたとき、母は、二人のことを静かに見据えていた。 「シャルロット――?」 「母様?」 タバサはベッドの母の胸に飛び込むと、涙を流し、心の全てを吐き出した。 それは、彼女の孤独そのものである。 長門有希は、情報操作によって部屋をハルケギニアから隔離し、自身はその狭間に姿を隠した。 本来ならば一刻も早く脱出しなければならないところだが、いかにエルフとはいえ、 空間全体を情報制御下に置けば、進入できまい。 やがてタバサは泣きつかれてか、母と寄り添って寝息を立て始めた。 この空間から出るまで、しばらく時間がかかりそうだ。 長門は気付かず微笑する。 しかし、その甘さが命取りであった。 自身の体を包み込もうとしている倦怠感、眠気のような感覚に気付く。そのときにはもう遅い。 それはまさに、彼女の体を侵食する、情報操作に他ならなかった。 タバサと母が眠りに落ちたのも同じ理由であろう。 エルフによる情報操作。 まさか、絶対の自信を持っていた空間の制御に、こうも簡単に介入されるとは。 誤算は、この空間が情報統合思念体の観測下とは物理法則の異なる、隔離された空間であることであった。 彼らにとって、ハルケギニア全体はホーム、利はエルフにある。 タバサと長門有希は、まんまとあのエルフに捕らえられたのだ。 薄れゆく意識の中、かろうじて長門は魔法学院に情報を飛ばす――。 + + + 二人のいない間に、トリステイン魔法学院も戦時体制に突入していた。 ルイズやキュルケたちも、従軍しないとはいえ、学院に派遣された軍人による教練を受けている。 その中に混じって剣の稽古を受けていた平賀才人が自室に戻ると、 机に置かれたノートパソコンの電源が入っている。 彼がパソコンの蓋を開けると、モニタは真っ黒のまま、白い文字だけが表示されていた。 YUKI.N みえてる? 「なんだこれ――、長門さん!?」 しばし呆けたあと、記された名前に気付き、キーボードを滑らせた。 『ああ』 YUKI.N わたしたちの負け。わたしにはもう、タバサを助けることはできない 『なんだって?』 YUKI.N わたしという個体は、もうすぐこの空間から消失する 『消える?』 YUKI.N 一方的な願いだと思っている。タバサを助けて。アルハンブラにいる 『長門さんはどうなるんだよ』 YUKI.N 元の世界に戻るか、完全に消失するか、どちらか 『そんな――』 YUKI.N わたしが消えたら、わたしがこの空間に及ぼした影響の大半が消える。ルイズをよろしく 『ルイズがどうなるんだ』 しかし返答はない。 「長門さん!?」 才人は思わずノートパソコンのディスプレイを叩く。 すると、思い出したように新たな文字が現れ、そしてパソコンの電源が切れた。 YUKI.N 虚無 「長門さん! ちくしょう、いったいどうしたっていうんだよ!?」 思わずパソコンに向かって叫ぶ才人。 だが、その大声は、部屋の外から聞こえた爆発音に掻き消された。 才人が廊下に出ると、ルイズの部屋の扉が吹き飛んでいる。 「ルイズ!? 大丈夫か? なにがあったんだ!」 煙が晴れると、木やガラスの破片が散乱する部屋の真ん中に、ルイズがへたり込んでいる。 「サイト……。わたし、またゼロになっちゃった……」 才人はルイズの爆発魔法を直接目にしたことはない。 それでも彼女の口から、才人と出会う直前まで、どんな魔法でも爆発する「ゼロ」だったということは聞き知っていた。 おそらくこの爆発が、彼女をゼロと呼ばせた魔法なのだろう。 そして、そのとき才人の頭を過ぎったのは、同じくルイズから聞かされていた、 彼女がアンドバリの指輪によって洗脳されていた間の体験。 そして、ルイズが本物の虚無であったという、長門有希の言葉である。 ルイズは確かに、虚無の魔法を唱えさせられたと話していた。 そして長門有希も、ルイズの虚無の力を証言していた。 最後の一押しは、今、もう一度伝えられた「虚無」。 あまりに話ができすぎている。 「ルイズ」 才人はルイズの前に座り込み、彼女と目線を合わせる。 「ゼロなんかじゃない。ルイズは本当の系統に目覚めたんだ」 「ありがとう、サイト。でも、慰めなんかいらないわ」 「慰めなんかじゃない。ルイズ、前に虚無の魔法について話したよな?」 「え、ええ」 「試しにそれを唱えてくれ。部屋が吹っ飛ばないくらいのを」 「まさかわたしが虚無だっていうの? 出任せにも程があるわ」 「俺が今までに、ルイズに嘘をついたことがあったか?」 「ええ、あったわ。あのメイドとイチャイチャして――」 「それは悪かったと思う。でも、ルイズを思う俺の気持ちは本物だ。 ――俺が本当にルイズを好きになる前、ルイズを尊敬していたのは、 ルイズが本物の貴族でメイジだったからなんだ。 今一度でいい、俺に初心を思い出させて、 ルイズ以外の女の子を忘れさせるために、ルイズの魔法を見せてくれないか?」 「……なによ、芝居がかって気持ち悪い。でもいいわ、一度だけよ。爆発するでしょうから離れてて」 ルイズが唱え始めたルーンは、虚無の魔法、イリュージョンのものだった。 単語の一つ一つが才人に心地よさを覚えさせ、ガンダールヴのルーンが光り輝く。 ルイズもまた、以前エクスプロージョンを唱えようとしたときとは違う、 体の中にある力の流れが、一方向に放出されるような感覚を覚える。 ルイズが詠唱を完成させると、二人の間には、光とともに人間の像が現れる。 それは、白銀の鎧に身を包み、デルフリンガーを構えた姿の平賀才人であった。 「わ、わたしったら、なにあんたのこと思い浮かべてるのよ! えいっ、えいっ、消えて!」 ルイズの言葉に従い、虚無の虚像は音もなく消える。 「ルイズ……、今の俺、なんか表情が……。お前の頭の中じゃ、俺ってあんな風に見られてたのか」 「な、なんにも聞こえないわ。今のは事故よ、事故」 顔を赤らめ下を向くルイズ。 しかし才人は、そんな彼女を優しく抱きしめた。 「でも、ありがとう。何も言われてないのに、使い魔の姿を思い浮かべるなんて、そうそうできやしないぜ」 「恥ずかしいからそれ以上言わないで――」 「それに、虚無の魔法が使えたじゃないか。ルイズはゼロなんかじゃない。 四系統を使いこなす天才でもない。伝説――だったんだ」 「――わたしが、虚無」 「ああ。……だけど、どうなっちゃうんだろうな、俺たち。伝説だぜ――?」 前ページ次ページ雪と雪風_始祖と神
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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第67話 決闘!! 才人vsアニエス (前編) 殺し屋宇宙人 ノースサタン 登場! どこともしれない民家のベッドの上で、窓枠から差し込む日差しに目を細めて、温かなスープの香りが鼻腔をくすぐってくる。そんな穏やかで安らいだ時間が訪れたことを、全身の半分を包帯で覆われて、傷ついた体をゆったりと横たえさせてもらっている青い髪の娘は、最初信じることができなかった。 「アニエス隊長!? それに、お前たちは!?」 二度目に目を覚ましたとき、そこで自分を心配そうに見守っている見知った顔の数々が幻覚でないことを知ったとき、ミシェルは思わず飛び起きようとしたが、全身を貫く激痛に阻まれて、ベッドの上に見えざる手で押し付けられてしまった。とたんに、珠のような汗が額に浮き出るのは、彼女の今の姿からすれば当然の肉体的反応だったが、その傷の一つ一つの痛みが、彼女にようやく今が間違いなく昨日からつながっているのだということを教えてくれた。 「無理をするものでは、ありませんことよ」 苦悶のうめきを漏らすミシェルの額を、赤毛の少女がハンカチでぬぐってくれると、不思議と痛みも汗といっしょにぬぐわれていくように、次第に苦痛は地平の果てにまで後退していってくれた。 「ここは、どこだ? なぜ、私はここに?」 呼吸を整えて、室内を見渡したミシェルは、とりあえず自分の状況を確認しようと思った。自分の記憶は、昨日の、恐らく昨日だと思うが、闇夜の川原で途切れており、なぜ、あれから今の状況になったのか、まったく見当がつかなかった。 その答えは、彼女の枕元で腕組みをして立つ、彼女自身の上司、いや、もはや、だったと過去形で呼ばれるべき人物から与えられた。 「王軍陣営近くの集落の一つだ。街道で見つけたお前を、私がここに連れてきたのだ。もっとも、村人はすでに軍に徴用されてしまったらしく、勝手に家を借りているだけだがな」 「隊長が、私を……?」 見渡せば、そこは元は女性の部屋であったのか、花瓶に花が活けられているなど、どことなく女性的な雰囲気があった。けれど、勝手に家を借りても誰も文句を言わないとは、ずっと城の中で足止めを食らわされていた彼女には信じられなかったが、才人たちからこの近辺の町や村から住人が、法外な税金の代償に労働に駆り出されていると聞かされてさらに驚いた。外では、そんなことにまでなっているとは。 「いったい……奴らは何を企んでいるんだ?」 また一つ、理解不能なことが加わってミシェルは混乱した。あの、正気を失ったウェールズならば、何をやっても不思議ではないが、少なくともいい予感はまったくしない。 「ミシェル、やはり何か知っているんだな?」 「あ、いえ……」 設問されるようにアニエスに睨みつけられて、ミシェルは言葉に詰まった。あの、ワルドや川原のガーゴイルのことをどう説明すればよいのか。しかし、そこで思わぬ方向から助け舟が来た。いったん部屋の外に出ていたロングビルが、トレイの上に、温かな湯気を立ち上らせる、大豆のスープの皿を持ってきたのである。 「まあまあ、けが人を相手にそう一気に話さなくても。とりあえず、ありあわせの材料ですけど、これなら食べられると思いますわ。食欲はありますか?」 「あ……すまない」 最初は断ろうかと思ったが、スープの匂いをかいだら、すぐに空腹の虫が襲ってきて、あっさりと牙城は陥落した。そういえば、昨日の晩から何も食べてない。 けれど、トレイを受け取ろうと思ったら、両手も包帯で厚く巻かれていて、受け取ることも、スプーンを握ることも、とてもできそうもなかった。そこへ、代わりにトレイを受け取って、彼女の口元にスープをすくったスプーンを差し出したのは、やはり赤毛のおせっかい焼き娘であった。 「はい、あーんしてください」 「え!? おっ、おいお前!」 慌てるミシェルだが、空腹には耐えがたく、ほとんど反射的にぱくりとスプーンをくわえ込んでしまった。その赤ん坊のような姿には、周りで見ていた才人やルイズからも笑いがこぼれて、彼女は赤面するばかりであった。 「はいはい、けが人は素直に甘えておけばいいんですよ。そのほうが、可愛いですからね」 「むぅ……」 開き直ったように、憮然と運ばれてくるスープを口にしているミシェルに悪いので、才人たちは仕方なく話を一時中断して、食事が終わるのを待った。だがそれにしても、キュルケはいつもタバサといっしょにいるためか、誰かの世話をしている姿が非常に絵になっていると彼は思った。もしかしたらキュルケは幼稚園の保母さんなんかが似合うのではないか? 子供たちといっしょに庭を駆け回るだけでは飽き足らずに、川原や裏山に飛び出ていって、園長に心配をかけてばかりな、どちらが子供かわからないような、けれど、誰からも嫌われることのない、そんな先生。 さて、そんな他愛もないことを考えているうちに、スープの皿は空になった。量は少なかったが、内臓や食道をやられている危険もあるので、あまり多くは与えられなかった。それでも空腹は去って、一息をついたミシェルは、部屋の隅でじっと立って見守っていたアニエスに恐る恐る話しかけた。 「あの、ところで隊長がなぜ、アルビオンに……」 「姫殿下の命令だ。昨日の夕方トリスタニアから竜籠でラ・ロシュールまで飛び、手近な船がなかったので、輸送用の竜を借りて夜のうちにスカボローについて、あとはひたすら馬を飛ばした。だが、驚いたぞ、王党派の陣に向かって急いでいたら、街道の向こうから血まみれのお前をかついだ女が歩いてきたときは、すでに死体かと思った」 「女……?」 「ああ、全身を黒衣で包んだ、風変わりな女だったな」 そのときのことは、アニエスにもうまくは説明できなかった。 一刻も早く、アルビオン王党派の元へ駆けつけようと馬を走らせていたアニエスの前に、反対側から、肩に気絶したミシェルを担いだ女がやってきて、仰天した彼女は馬を止めると、その女を呼び止めた。 「おい貴様! そこで止まれ! その肩のものはなんだ!?」 「……お前に答える義務があるのか?」 「なにっ!?」 女が怒鳴りつけられても泰然としているのに、焦ったアニエスは剣を抜こうとしたが、柄に手をかけた時点で思いとどまった。ミシェルがいるからだけではない、彼女の磨き上げた戦士の感覚が警鐘を鳴らしていた。なんだ、まるで隙がない、こいつはいったい何者だ、と。 「用件があるなら、手短に言え」 剣に対して、まったく恐怖した様子もなく、無防備なようでいて、それでいていつでも攻撃ができる体勢を保つ相手に、アニエスは激情を抑えて武器から手を離すと、今度は騎士として礼節をもって答えた。 「私はトリステイン王軍、銃士隊隊長アニエス・シュヴァリエ・ド・ミラン、その女は、私の部下だ。名はミシェル、その者に会うために私は急いでいた。なぜ貴女がその者を連れているのだ?」 「……私はただの旅の者だ。この娘は、この先の川原で倒れているのを拾っただけだ。捨てておくわけにもいかんから、近隣の村にでも預けようと思ったが、身内ならばちょうどいい。引き取ってもらおう」 女はそう言うと、担いでいたミシェルを軽々と両手に抱き上げてアニエスに差し出してきた。むろん、断る理由もなく、ミシェルを受け取ったが、真近で見ると、彼女は全身がズタズタになった痛々しい姿であり、アニエスはよくこれで生きていたなと息を呑んだ。 「応急手当はしてある。しばらく安静にしていれば助かるだろう。ではな」 「あ、待て! この者がこうなった原因を、貴女は知っているのか?」 「さあな、だが私が立ち寄る前に、戦う音が聞こえたから、それで受けたのだろう」 「戦っていただと? 相手はどうしたんだ?」 「さてな、私が見つけたときにはすでに戦いは終わっていた。恐らく彼女が刺し違えて倒したのだろう。気になるならこの先の川原を調べてみろ、まだ残骸が散らばっているはずだ」 それは半分嘘であったが、口調を音程の一つも変えずに話されたので、さしものアニエスも見抜くことはできなかったが、ミシェルが何者かと戦っていたということだけは分かった。 「その、戦っていた相手というのは王軍の兵士かメイジか?」 すでに、ミシェルがレコン・キスタの間諜で、ウェールズ暗殺の実行犯の一人だと知っていたアニエスは、ミシェルが王党派に正体を見破られて追われていたのではないかと予測したのだが、相手から返ってきたのはまったく別の答えだった。 「人間ではない。動く人形、だいたいそんなところだな、お前達の言うガーゴイルとかいうものに似ているが、はるかに強力だな。よく、あんなものに襲われて助かったものだ」 「ガーゴイル?」 「のようなものだ、似たものをいくつか知っているのでな。しかし、この娘の生きようとする執念はたいしたものだ。アニエスといったか? ずっとうわごとのように、お前の名や、ほかにサイトとかなんとか、何人かの名をつぶやき続けていたのだ。よほど、帰りたかったのだろうな」 そう言われて、はっとしてアニエスは腕の中で眠り続けているミシェルを見つめた。すでに苦しむことにさえ疲れきってしまったかのように、深い眠りについているが、アニエスの腕に抱かれているのが無意識にわかるからか、穏やかな顔で静かに寝息を立てている。 「ミシェル……」 「精々大切にしてやることだな。では、私はゆくぞ」 「あっ、待て! もう一つだけ答えろ! 倒れていたのはミシェルだけか、ほかに誰かいなかったか?」 「その娘だけだ。ほかには誰も見あたらなかった」 それだけ言うと、黒服の女はアニエスが礼を言う間もなく、無言のままで立ち去っていった。残ったアニエスは、このままアルビオン王党派の元へ向かうかどうか迷ったが、ミシェルの身に異常な事態が起こったのは確かだし、重傷者を連れて行くわけにはいかないと、わき道に入って、無人となった宿場町に立ち寄ったのだが、そこで偶然休息をとっていた才人たちと出会ったのであった。 そこまでのことを、アニエスは噛み砕いて説明し、かたわらの椅子に腰掛けて一息をついた。 「と、いうわけだ。実際、わからないことだらけだがな。特にあの女、王党派でもレコン・キスタの手の者でもないようだが、ただ者ではなかった」 アニエスにとって、素手で自分を圧倒した相手が何者であるのか気になるところであったが、とりあえずは今必要とされることではなかったので、その一言でそれを記憶の内側にしまいこんだ。 ただ、アルビオンと一言に言っても何十万人もの人間がいるために、確証とまではいかなかったので口には出さなかったが、才人たちはその黒服の女が誰なのかを、薄々勘付いてはいた。 ともかく、アニエスがミシェルを拾えたことはまったくの幸運であって、もしその黒服の女がいなければ、街道を外れた川原で倒れているミシェルにアニエスは気づきえず、実際には、見つけていてもすでに死体であっただろう。 けれども、それ以上にミシェルを不思議がらせたのは、こんな場所に才人たちまでがいたかということであった。目的地が同じサウスゴータ地方ということぐらいは聞いていたが、学生が遊びに来るにはここは戦場に近すぎる。それについて、才人たちはウェストウッド村が役人に化けていたブラック星人に襲われたことなどを説明し、それで王党派が怪しいと睨み、探りを入れようと考えて、この地方の出身のロングビルに道案内を頼んで、ここまで来たと語った。 「ただ、ブラック星人が倒されたことで、別のヤプールの手下が留守中にウェストウッド村を襲っては大変ですから、タバサに護衛してもらって、村のみんなやシエスタには一時別の街に避難してもらってますけどね」 よく見渡せば、船で見た小柄な眼鏡の少女と、黒髪の少女がいなかった。 「そうか、お前たちも大変だったんだな……」 どうやら想像以上にヤプールはアルビオンに根を下ろしているらしい。トリステインやゲルマニアなどでは、白昼堂々怪獣や宇宙人が破壊活動をおこなっている分、かえって表面上は怪獣が出現しないから、この国の人々も目の前の内戦に気をとられて、多少の変事も雑多なニュースにまぎれてしまうのだろう。 「さて、これでこちらが言うべきことは伝えたが、今度はお前が答える番だ。お前ほどの者に、いったい何者がそれほどの傷を与えた。任務の途中で何があったのだ?」 厳しく問い詰めるアニエスに対して、ミシェルは恐れていたときが来たと感じた。才人たちの手前、公言はしなかったが、彼女の言う『任務』のことが、トリステイン大使としてのものではないことは、その目を見れば明白だったからだ。 「あ、ええと……」 冷や汗が背中をつたるのが、いやというほど自分で自覚できた。どう言えばいいのか、すでに隊長は自分のことに気づいている。しかし、才人たちにまで自分が裏切り者だと知られたくはなかった。 だが、口ごもっていても、アニエスの苛烈な視線は変わらない。どんな嘘をついても、ごまかせるようなものではなかった。 「どうした? 言えないなら、言えるようにしてやろうか?」 無言の抵抗の末に、ミシェルに突きつけられたのは、アニエスがトリスタニアで間諜から奪った密書だった。 「それは!」 「ん、なんですそりゃ。ルイズ、なんて書いてあるんだ」 「んー、なにこれ? 文字が雑多に書かれてて訳わかんないわ。キュルケ、あんた読める?」 「ふーん、なんか軍の暗号文に似てるわね。残念だけど、解読するためのキーがわからないと読めないわ。で、ミス・アニエス、なんなんですのこれは?」 首をかしげたルイズたちは、アニエスに説明を求めたが、彼女はその密書をミシェルに突きつけたままで無言であった。けれど、当然ミシェルはそれを読むことができ、最後に記された暗殺者の名に、自分の名前がワルドと並んであることを見ると、もはや逃げ道がなくなったことを理解して、観念せざるをえなくなった。 「すべて……お話します……ですが」 もう、隠し事は通用しない。それでも、せめて裏切りの事実をここで才人たちにまでも知られたくなかったが、アニエスの態度は冷断だった。 「だめだ、どうせいずれ知れることだ。お前が選んだことなら、最後まで責任を持て」 「……はい」 一時ごまかしたとしても、すでにトリステインでは知られている以上、遅かれ早かれ彼らの耳にも入る、誰のせいでもない、自分で選んだ道なのだから、その落とし前は自分でつけるしかないのだ。 「ちょっとアニエス、話が見えないわよ!」 二人の間だけで、意味のわからない話が続いたことにいらだったルイズが怒鳴ったが、アニエスは黙ってミシェルに目配せしただけで、やがてミシェルは覚悟を決めたように、うつむきながら、血を吐くように告白した。 「皆……私は、実はレコン・キスタの内通者、間諜だったんだ……」 たったその一言を告げるのに、どれだけの勇気と覚悟が必要だったのかはわからない。才人たちの反応は、最初は沈黙で、やがて言葉の意味を理解して「なんだって!」という叫びの後に、「嘘でしょう」というのが続いた。 「嘘じゃない……私の父はトリステインの法務院の参事官だったが、十年前、身に覚えのない汚職事件の主犯とされ、貴族の身分を失った。父は、国に裏切られたと、自ら命を絶ち、母も後を追った。幼い私は帰る場所を失い、路頭に迷った。そんな私を拾ってくれたのが、トリステインでレコン・キスタに通じている、ある人だったのだ。それ以来、恩返しと、腐敗した国を変えるために、内通者として軍に、銃士隊に入った」 慄然として才人たちはミシェルの告白を聞いていた。特に才人は以前ツルク星人を倒すために、共に特訓をしたときと、アルビオンへの船上で聞いたミシェルとの会話を思い出して、そういえば恩人がどうとか、レコン・キスタのあり方がどうかと聞かれたなと、「信じられない」という一言さえも言い出せずにいた。 また、彼女の口からは同時にワルドもレコン・キスタの一員であったということが語られて、昔馴染みで許婚だったルイズを一時愕然とさせたが、他の者たちにとっては、とうにアルビオンへの『ダンケルク』号での一件で彼を見限っていたので、やっぱりなと逆に納得させるものであり、ルイズも心を落ち着かせると、幼い頃の約束をそこまで真剣に考えていたわけでもなく、また『ダンケルク』の件で彼への評価を落としていたことには皆と変わりなかったので、脳内の好意的な人名語録のワルドの名に墨を塗って終わらせた。 「それで、お前の後ろで糸を引いていた、ある人というのは誰だ?」 「それは……それだけは言えません。父の古い友人で、あの人だけは父の無実を信じてくださいましたから」 「リッシュモン高等法院長か」 「え!?」 愕然と、自分の顔を見上げたミシェルの顔を見て、アニエスはやはりとうなずき、 そして彼女にとって恐るべきことを教えた。 「十年前の、お前の父の事件は私も調べた。証拠はないが、首謀者はリッシュモンだ」 「ば、馬鹿な! でたらめを言うな」 「本当だ。私は奴に関することはなんでも調べた。なぜなら、リッシュモンは私にとっても仇だからだ!」 きっとして見返すアニエスの顔には、明らかな怒りと憎悪の影があり、ミシェルはそれに圧倒されて、その言葉が嘘ではないと感じた。 「二十年前、奴は権力争いの中で、公然とした手柄を欲していた。それで生贄に選ばれたのがダングルテール地方の私の村だった。奴は新教徒狩りとありもしない罪をでっちあげて、村を焼き尽くした。生き残ったのは、私だけだ」 「……」 「お前の父のことも、奴は出世の邪魔だったから濡れ衣を着せたのだ。奴はそうして、敵を排除して、今の地位を手に入れた」 「嘘だ……」 「ならばよく思い出してみろ。お前の父が失脚して、誰が一番得をしたのか、当時参事官補佐で、お前の父のやってきた事業をむだにするわけにはいかないなどとほざき、結局役職の後釜に納まったのは、リッシュモンだったではないか。奴は何もせずに、お前の父の努力の結果だけを手に入れた。それも一度や二度ではない。奴の出世街道は、まさに他者の地位の強奪の連続だ。もはや、簡単に手を出せる身分ではなく、確たる証拠を残さない用心深さから逮捕できずにいるが、いずれ奴は私のこの手でひねり殺してやる!」 今まで見せたことのない強烈な憎悪の決意は、その場にいた全員を震え上がらせた。しかし、もっともショックを受けたのは、当然ながらミシェルであった。 「……そんな、それでは私は」 「甘い言葉で誘惑するのは、奴の常套手段だ。奴にとって、自分以外の人間は都合よく 利用するための道具にすぎん。つい先日も、奴の情報を聞き出そうとした奴の家の 使用人が事故死した。お前も、利用されていたんだ」 「……じゃあ、私がこれまでやってきたことは……」 「全て、無駄だったということだ」 その瞬間、堰を切ったかのようにミシェルは狂った音程の悲鳴をあげて、のどをかきむしりながら泣き喚き始めた。包帯が破れて、開いた傷口からまた血がにじみ始めるのを見て、慌てて才人やキュルケが彼女の手足を押さえにかかるが、ミシェルの狂乱は収まらずに、のども張り裂けんと叫び続ける。 「アニエスさん! いくらなんでもひどすぎます!」 壊れてしまったように暴れ続けるミシェルを必死で押さえつけながら、才人はアニエスに向かって怒鳴った。 「ひどいものか、このまま何も知らずに、哀れな道化として踊り続けるより、床に落ちて壊れてたとしても糸を断ち切ってやるべきだろう。違うか!!」 苛烈で、冷断ではあったが、その言葉には、自分の目で見て、考えて、そして決断して一人で生きてきたアニエスの強さが込められていた。 やがて、十数分後にミシェルは顔を涙と鼻水でぐっしょりと濡らしながら、錯乱から覚めて、見かねたロングビルが濡らしたタオルで顔を拭いた後に、彼女は訥々と、順を追いながら、自分でも確認するように、昨晩起きたことを語り始めた。 「私は、ワルドといっしょに、この先の城へとウェールズ皇太子に会うために赴きました……」 ウェールズ皇太子と会い、大使としての任務を果たし、夕食前にワルドとウェールズを見送ったが、次に現れたときには二人は変貌しており、手の中に目と口があったワルドに手傷を負わされ、必死で川に落ちて逃げ延びたが、追っ手のガーゴイルにやられて、その後のことはここで気がつくまでわからない。 そこまでのことをざっと聞かされて、一同はぐっと息を呑んだ。ある程度の予想はしていたが、それは甘い予測を悪い形で見事に裏切ってくれた。ルイズは、ワルドが取り付かれてしまったことに多少驚いたが、すでに内通者だったということを知っていたために、それ以上はショックは受けなかった。 むしろ、ワルドの変貌に驚いたのは才人のほうである。 「手に、目と口が?」 それは才人だけでなく、彼と同化しているウルトラマンA、北斗星司にとっても忘れがたい記憶であった。ヤプールの配下で、そんなことのできる奴はただ一匹、そいつのために、かつてTACは新型超光速ロケットエンジンを破壊されてしまったことがある。 「また、やっかいな奴が……」 もし、予測が当たってワルドがそいつだとすれば、これまでにない強敵となるだろう。時間が経つにつれて、ヤプールの戦力が次第に強大になっていくことを才人は実感せざるを得なかった。 それに、川原で戦ったというガーゴイルも、ロボットに違いないと彼は確信した。こちらのほうは、単に等身大の人間型ロボットというだけで、それ以上はわからないが、他の宇宙人も敵の中にまぎれていると考えたほうがいいだろう。 最後まで話し終わったミシェルは、それっきり人形のようにうつむいて動かなくなった。彼女にとっては、これまでの人生すべてを否定されたに等しく、それまでの自分を正当化してきた意義も、誇りも、さながら球根を水栽培していた鉢の底に、穴を空けられたかのように、根こそぎ零れ落ちてしまって、残った球根を包むのは空虚でしかない。いや、育てようとしていた球根も、見た目は変わらないが、すでに細菌に侵されて腐り果てており、芽を出すことなどもはやありえない。 「ミシェルさん……」 才人は魂の抜け果てた、生ける屍のようになってしまったミシェルを見て、人間はここまで残酷に打ちのめされることができるのかと、憤然たる思いを抱き、自らの無力さを痛感していた。もはや、どんな慰めの言葉も彼女には意味を持たないだろう。こんなとき、ウルトラ兄弟ならどうするのだろうか、どうすれば彼女を救えるのだろう…… けれどそこへ、剣を腰に挿し、ミシェルの前に立ったアニエスが皆を見渡して、全員外へ出て行くようにうながすと、才人以外の三人の顔に、さっと緊張が走った。 「えっ、どうしてですか?」 才人は怪訝な顔をしたが、アニエスが再度反論を許さない口調で命令したので、 仕方なくこの小さな一軒家の外へと出て、無人の村の広場に降り注ぐ日光に身を晒した。 「どうしたんだろう? アニエスさん」 追い出されて、暑い日差しを手でさえぎりながら才人はいぶかしげにつぶやいた。まだ、ミシェルさんから聞きたいことがあったのだろうか? けど、それならば別に自分たちを追い出さなくてもよかったのに。 才人は、何かわからないが二人だけの話をするのだろうかと、ロングビルやキュルケに聞いてみたが、二人とも不思議なことに視線をそらすばかりで、仕方なくルイズに問いかけてみると、ルイズもまた、気まずく、沈痛な面持ちで顔をそらそうとしたが、才人の何にも気づいていない顔を横目で見ると、ぽつりと苦しげに答えた。 「サイト、ミシェルはいまや、トリステインにとっては反逆者、銃士隊にとっても恥ずべき裏切り者なのよ。アニエスは、その銃士隊の隊長として……」 最後まで聞くことなく、才人は韋駄天のごとく駆け出していた。 アニエスとミシェル、二人だけになった部屋の中で、アニエスの抜いた剣がミシェルののどもとで冷たく輝く。 「ミシェル、わかっているな?」 「はい……」 乾いた声で返事をしながら、ミシェルは来るべきときが来たと、不思議と明瞭な思考の中で、アニエスが突きつけてきた剣の意味を違えることなく理解してうなづいた。 裏切り者には死の制裁を、それは軍隊という救いがたい残酷な組織の中で、統率を守るための非情の掟。この前には、たとえ銃士隊といえども例外ではない。 それに、かつてミシェルはワイルド星人の事件のときに、メイジであることと、素性を偽っていたことをアニエスに知られてしまったときに、「どんな理由があるにせよ。お前がこの国に仇なす存在になったら、私はお前を殺す。それだけは覚えておけ」 と、見逃してもらったときの約束も破ってしまっている。 「思い残すことは、ないか?」 「いいえ……」 「そうか……」 アニエスは、ミシェルの心臓に狙いをつけると、ゆっくりと剣を振りかぶっていった。その剣先に焦点の合わない視線を向けても、もうミシェルの心に恐怖はわずかも浮かんではこなかった。 「目をつぶれ」 それは、アニエスからミシェルへ向けた、せめてもの情けだったのだろう。アニエスにとって、リッシュモンによって同じ苦しみと悲しみを味わわされてきたミシェルは、いわば鏡に映したもう一人の自分であったといってもいいのだ。しかも、復讐を決意した自分とは裏腹に、真実を知らずに、もっとも憎むべき者のために人生の全てを利用されてきた。せめて、もうこれ以上苦しまなくてすむように、安らかな眠りを…… だが、そこへ部屋のドアを蹴破るようにして、怒気を顔全体に張り付かせた才人が飛び込んできて、アニエスに掴みかかった。 「なにをやってるんだ! あんたはあっ!!」 あと半瞬遅かったら、アニエスの剣は確実にミシェルの心臓を貫いていたことは疑いようもない。しかし、アニエスは胸倉を掴もうとする才人を、彼よりずっと強い腕力で振りほどき、昂然と言い放った。 「邪魔をするなサイト! これは我ら銃士隊の問題だ、お前には関係ない!」 その、烈火のような強烈な怒声は、いつもの才人であったなら、それだけで腰を抜かしてしまいかねない圧倒的な迫力を噴出していたが、すでに怒りの臨界点を超えている今の才人はひるまなかった。 「目の前で人が一人死ぬかどうかってときに、関係ないもなにもあるもんか! あんた、自分が何しようとしているのかわかってんのか!!」 「当たり前だ! 誰が好き好んで自分の部下を殺したいなどと思うか! だが、裏切り者を放っておいては銃士隊の規律が維持できん。それに、どうせトリステインでは、すでにミシェルは反逆者として死罪が確定している。ならばせめて、私の手で引導を渡してやるのが幸せという……」 「ふざけるな! 死んでなにが幸せだ、誰が救われるっていうんだ!!」 一歩たりとて譲らず、ミシェルをかばうようにアニエスの前に立ちふさがる才人を、アニエスだけでなく、戻ってきたルイズたちも見つめる。誰も、ここまで才人が怒りをあらわにするのを見たことがなかった。 「サイト、気持ちはわかるけど、これはもう個人の感情じゃどうにもならないのよ。どういう理由があるにせよ、彼女はトリステインの法と、彼女を信じていた人々の信頼を裏切ったんだから」 ルイズが、ミシェルを粛清するのはもうどうしようもない、決められた筋だと言い聞かせようとしても、そんな正論で納得するほど才人の怒りは半端ではなかった。 「それがどうした! 私利私欲で裏切ったとかいうならともかく、ミシェルさんは、ただだまされてただけじゃねえか! 散々苦しんで苦しんで、それでも悪い世の中を変えようと、自分の全部を捨ててまで戦おうとしたのはなんのためだ、そんな人がこれ以上、なんで貶められなきゃならないんだ!」 たとえ理不尽であろうが、そんな簡単に人の命を奪うことは絶対に許されない。その身を唯一の盾として、才人はアニエスの白刃の前に立ち続けた。しかし、その壁は内側から、守られるべき者の言葉の一弾によって揺さぶられた。 「サイト……もういい、私なんかのために、そこまで怒ってくれて本当にうれしく思う。けれど、もうどこにも私のいる場所はないし、生きている意味もなくなった。もう、疲れたから眠らせてくれ……」 全てをあきらめ、死の安寧を求めようとしている人間の願いを、しかし才人は聞き入れはしなかった。 「寝とぼけたこと言うんじゃねえ! おれだって、着の身着のままで、このバカで無茶で気まぐれで、嫉妬深くて、人使い荒くて気位ばかり高い貴族のとこに召喚されたけど、それでも一応はうまくやってんだ!」 「こらサイトぉ! そりゃどういう意味よ!」 ルイズが怒鳴るのをとりあえず聞き流して、才人はなおも言う。 「生きている意味がないだって? たとえ裏になにがあったにせよ、あなたはこれまでずっといろんなものを守るために戦ってきたじゃないか、命を懸けて、大勢の人を救ってきたじゃないか!」 「……けれど、もう私には、守るものなどなにもない」 「馬鹿言うな、守るものなんて……いくらだってあるじゃないか! あんたがここで死んだって、精々殺す手間がはぶけたとヤプールが喜ぶくらいだ。それに、ミシェルさんが死んだら、おれはどんな顔すりゃいいんだ。こんな、悲しみしかのこさねえようなルール、おれは絶対に認めねえぞ!」 呆然と、ミシェルは自分に向かって怒鳴り続ける才人の顔を見ていた。誰にも、どうして才人が裏切り者のためにここまで怒るのかを、理解しきることはできずにいる。 しかし、生きて、生きてさえいれば、わずかな希望も見つけることができるかもしれない。たとえ理屈に合っていようと、未来への可能性を奪う行為を、才人は、そして彼のあこがれた者たちは許しはしない。 「どうしても、ミシェルさんを許してはもらえないんですか?」 「ああ、これは私の私情でどうこうできる問題ではない。たとえ隊長といえど、隊の規律と、国の法は守らなければならんのだ。お前こそ、どうしてもどかんというならば、共に斬り捨てねばならんぞ」 どちらも決して譲れない意志を示し、妥協点は星くずほども見つけられそうはなかった。例え、死んだことにして見逃してくれと言っても、鉄の規律で縛られた銃士隊の隊長たるものが、生半可な温情などかけはしないだろう。 もはや話し合いで解決できはしないとわかったとき、才人はウルトラマンとしてではなく、人間として戦う覚悟を決めた。 「わかりました。ならば、アニエスさん、あなたに決闘を申し込みます」 一瞬の沈黙を置いて、驚愕と困惑の二重奏が小部屋を包み込んだ。 「決闘、だと?」 「ええ、もしおれが勝てば、この人の身柄はおれが預かります。それだけが条件です」 「正気か……と、聞くのは愚問か。なぜ、そこまでミシェルを庇い立てしようとする? こいつの裏切りが成功していたとしたら、ハルケギニア全土が戦火に巻き込まれ、お前も死ぬことになったかもしれん。第一、決闘となれば、私がお前を殺したとしても何も問題にはならんし、当然私も容赦などはせんぞ」 才人は一瞬目をつぶり、一つの忘れられない過去を思い返してから答えた。 「罪を犯した者に罰が必要だっていうなら、ミシェルさんはもう充分すぎるほど罰を受けてますよ。それにおれにも、絶対に譲れない誇りと、義務があります。ここでこの人を見殺しにするくらいなら、たとえ死ぬ危険があっても。絶対に引くわけにはいかねえ」 今の才人の目には、いつものなよなよした雰囲気はなく、自ら傷つくことを恐れない戦士の炎が宿っていた。 「よかろう、もはや力によってしか解決をなしえぬのなら、力づくでねじ伏せてやる」 表へ出ろとうながして、先に外に出て行くアニエスのあとを追いながら、才人もデルフリンガーを抜けるようにして、ずっと自分の背中で経過を見守っていたはずの愛剣の言葉に耳を傾けた。 「いいのか相棒? あの姉ちゃん、冗談でなく強いぜ。以前戦った両手が刃物の奴みたいに、スピードと破壊力はあっても、単純な攻撃しかしてこねえならともかく、剣術じゃ素人同然のお前さんに、つけいる隙なんかまずねえ」 デルフリンガーの忠告も、幾度もアニエスと肩を並べて戦った才人にはいまさらわかりきったことだったので、特に反論もしなかったが、一言だけ言っておいた。 「おれは決闘をするんだ、試合や殺し合いにいくわけじゃない」 だが、決闘、しかも実力でははるかに才人より勝るアニエスを相手にして、才人が無事ですむとは絶対に思えないルイズたちは、口々に彼を止めようとした。 主人の命令が聞けないのと怒鳴るルイズ、勝てっこないわと止めるキュルケ、本当に殺されるわよと言うロングビル、そして、ロングビルに背負われながら、お前が隊長に敵うはずがない、私が死ねばすむことだと頼むミシェルの声が、次々に才人の耳に響くが、彼の歩みは止まらない。 「ルイズ、悪い、今回だけはお前の言うことでも聞けない。これはもう、おれだけの問題じゃないんだ」 場合によっては死をすら覚悟した意志の強さが、今の彼の言葉には宿っていた。 それほどまでに、才人を駆り立てるものがなんなのか、ルイズにも、他の誰にも、どうしてもわからなかった。 それは、才人にとって決して忘れられない記憶。 かつて、地球と光の国の滅亡を画策したエンペラ星人が、自ら地球への攻撃を開始したとき、奴は手始めにと、巨大人型戦闘用ロボット、無双鉄神インペライザーを地球に送り込んできた。 このインペライザーは、対ウルトラ戦士抹殺のためにと生み出した超破壊兵器で、頭や肩の砲門からのエネルギービームや、圧倒的な腕力と防御力、そしてウルトラマンタロウのストリウム光線やウルトラダイナマイトを受けてさえ、簡単に自己再生するという桁違いのスペックを持って、一度はメビウスを完敗させたほどの恐るべき敵であった。 しかも、エンペラ星人は一体でもやっかいな、この超兵器を、一気に東京をはじめとする地球の主要都市に十三体も送り込み、地球を破壊されたくなければ、ウルトラマンメビウスを地球人みずからの手で追放せよと脅迫してきた。 むろん、GUYSはこれを呑むわけはなく、メビウスも登場して東京のインペライザーを迎え撃ったが、倒されてもすぐに次のインペライザーが補充されるために、さしものメビウスとGUYSも敗退を余儀なくされてしまった。 その絶望的な光景を、才人は家族とともに避難する途中で、街頭のテレビで見て愕然としていた。ウルトラマンでさえ歯が立たないとは、才人の見ている前で、大人たちは肩を落とし、絶望に打ちひしがれていった。 そして、絶望に取り付かれた人間の一部は、その恐怖から逃れるために、GUYSにウルトラマンメビウス、ヒビノ・ミライの引渡しを要求した。 メビウスを追放するべきか、絶望と狂騒の中にあった地球人類を見て、エンペラ星人はほくそえんだことだろう。 しかし、地球人が悪魔の誘惑に乗りかけたとき、GUYSのサコミズ総監は、テレビを通して 人々に語りかけた。そのときの言葉は、今でもはっきりと覚えている。 ”昔、私が亜光速で宇宙を飛んでいたとき、侵略者から地球を守るために、人知れず戦っていたウルトラマンを目撃しました。 そのとき彼は言いました。いずれ人間が自分たちと肩を並べる日が来るまで、それまでは我々が人間の盾となろうと。 彼らは人間を愛しています。 そして人間を、命がけで守り続けてくれました。私たちは、その心に応える責任がある。 地球は我々人類自らの手で守りぬかなければならない。ウルトラ警備隊キリヤマ隊長が残した言葉です。 この言葉はウルトラマンが必要でないといっているわけではありません。彼らの力だけに頼ることなく、私たちも共に戦うべきなのだと伝えているのです。 最後まで希望を失わず、ウルトラマンを声援し続けるだけでもいい。それだけで、彼らと共に戦っているといえるのです。 彼らに、力を与えることができるのです。だから、お願いします、今こそ勇気を持ってください。 侵略者の脅しに屈することなく、人間としての、意思を示してください。 一人一人の心に従い、最後の答えを出してください” その心から呼びかけに、地球人はついに迷いを振り切って選択した。メビウスを守れ! メビウスとともに戦おうと、心を一つにした。 むろん、才人も同様に力の限り叫び、戦いの終わるまで声援を送り続けた。 「おれはあのとき決めたんだ。どんなことがあっても、力の脅しには屈しない。守らなきゃいけないものを守るとき、相手がなんであろうと戦い抜く、それがおれが教わった人間の誇りだ!」 たとえ時が流れ、守るべきものが変わろうと、ウルトラマンから教えられた、人々のために戦うという気高い思いは、彼の中で少しも損なわれてはいなかった。 だがそのころ、アルビオン王党派の城では、送り込んだアンドロイドが破壊されたということを知った参謀長が、慌てふためいていた。 「ううむ、まさかこの星の人間が宇宙金属製のアンドロイドを破壊するとは、ともかく、こんな失態をしてはただではすまんし、何よりあやつから余計なことが外に漏れても面倒だ……仕方ない、扱いにくい奴だが、あいつにやらせるしかないか」 彼はそうつぶやくと、自分の部屋の中に隠してある、次元連結マシーンを起動させて、出番待っていた宇宙人たちの中から、一人の、青い表皮と、悪魔のような不気味な顔を持つヒューマノイド型宇宙人を呼び寄せた。 「ノースサタン、いいか、この女を見つけ出して殺せ、すみやかに確実にだ」 ノースサタン星人、それはGUYSのドキュメントMACに記録されている宇宙人で、宇宙の殺し屋と異名をとる残虐極まりない星人である。こいつもまた、ハルケギニアのことを知ってヤプールに接触してきた星人の一人である。 ただし、他の星人が主に侵略を目的としてるのに対して、宇宙の殺し屋と言われるとおりに、ハルケギニアそのものには興味を持っていなかった。 「…………よかろう、報酬は貴様の言うとおりにしよう。わかったから、さっさと行け」 参謀長は、報酬として好物である一〇〇〇トンの宇宙金属メタモニウムを要求するノースサタンの条件をしぶしぶ呑むと、監視カメラの映像に残っていたミシェルの映像を見せて、アンドロイドが破壊された場所と、そこに残されていた血痕から、相手もかなりの深手を負っているはずという情報を与えて送り出した。 このとおり、ノースサタンは報酬しだいで殺しを請け負ってやると、いわば仕事を売り込んできたのであって、集まってきた宇宙人たちの中でも、ヤプールもいまいち扱いかねている存在であった。 「……ちっ、何を考えているのかわからんやつだ」 まるで自分のほうが格上であるかのように、依頼を受けると悠然と消えていったノースサタンに、参謀長は思わず舌打ちした。ブラック星人などのように、侵略目的でこちらの足元を狙ってきている奴は、自分から動くし、思考も読みやすいために扱いやすいが、ああいうふうに条件を満たしてやらなければ動かない奴は、いちいち使うのに手間がかかるし、考えを読みにくい。 しかし、人間の追っ手をトリステイン大使だった相手に送っては、軍・政府内に動揺が起こり、これからの計画に支障をきたすかもしれないし、同族ゆえに懐柔されてしまう恐れもある。高い買い物だが、迅速さと確実さを優先するならばやむをえない処置であった。 「だが、あと二日……あと二日あれば、計画は完成する。そうすれば……フフフ」 窓から見下ろす彼の眼下には、集結を続ける両陣営の軍隊と、徴用されて働かされている大勢の民間人の姿が、アリのように群がっていた。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
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前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第八十五話「泣くな失恋怪獣」 硫酸怪獣ホー 登場 ……ウチのクラスにルイズが転校してきてから、一日が経った。第一印象が最悪だったんで、 一時はどうなることかと思ったが……ルイズはきついところはあるけれど、意外と気さくで 人当たりのいいところがあって、案外すぐ打ち解けられた。いやぁよかった。どうしてかそれと 前後してシエスタが妙に不機嫌になっているが……。 何はともあれ今日も登校すると……校舎の玄関口で、そのルイズが一人の男子といるところを 目撃した。あいつは、確か……同じクラスの、中野真一って奴だったっけな? ルイズは中野に対して、バッと頭を下げた。 「ごめんなさい!」 何故か謝られた中野は、思いっきりショックを受けているようだった。 「そ、そんな!? ルイズさん、せめてもう少し考えてくれても……!」 「えーと、何て言うか……わたし、あなたをそういう風には見られないんです! だから…… ほんと、ごめんなさい!」 もう一度謝ったルイズが校舎の中へ逃げるように駆け込んでいく。何だ何だ? 「そんなぁ……ルイズさ~ん……」 置いていかれる形になった中野は、ガックシと肩を落としうなだれた。 呆気にとられる俺とシエスタ。これってまさか……。 「朝から賑やかなことだな」 と言いながら俺たちの元に現れたのはクリスだ。 ……あれ? クリスって……この学校にいたっけ? 昨日はいなかったような……。 まぁいいや。俺はクリスに何事だったのかを尋ねる。 「クリス」 「ああサイト、おはよう」 「おはよう。クリス、今さっきルイズと中野が何やってたのか知ってるか?」 「ああ。あの男子が、ルイズに自分とつき合ってほしいと告白をしたんだ」 告白! 俺とシエスタは目を丸くして驚いた。 「しかし、あの様子ではきっぱりと断られたみたいだな。かわいそうに」 「ナカノさん、ルイズさんは転校してきてまだ一日なのに、大胆ですねぇ……」 シエスタが呆けながらつぶやいた。確かに、大胆というか急ぎすぎって感じはするな。 「彼の気持ちがそれだけ真剣だったのだろう。真剣な気持ちに時間は関係がないということ、 師匠も言っていた」 クリスはそう語った。弓道部主将にして剣の達人でもある、女侍といってもいいクリスの師匠…… どんな人なんだろう。 ん? つい最近教えてもらったんじゃなかったっけ? でも、記憶には全然ない。また何か 変な思い違いをしてるのかな、俺……。 俺たちが話している一方で、中野は依然として肩を落としながらトボトボと校舎の中に入っていった。 その背中からは哀愁が漂っている……。確かにかわいそうだが、俺たちに出来ることなんてないよな。 せめて、早く失恋から立ち直ってくれることを祈ろう。 おっと、授業が始まる時間が近づいてきた。俺たちも教室に行こう。 教室に入り、授業が開始される寸前に、ルイズが俺に呼びかけた。 「ちょっと……」 「ん? ああ、また教科書持ってきてないのか?」 俺はまだルイズが教科書をそろえてないのかと思ったが、そうではなかった。 「違う! ……これッ!」 と言ってルイズが俺に突き出したのは、布にくるまれた箱型のものだった。 「何だこれ?」 「これは……その……あの……!」 「あの?」 「お、お、お、お弁当よ!」 弁当? どうしてそんなものを、こんな時間に出すのか。 「そうか、弁当か。随分でかいな。こんなに食ったら太るぞ」 「わ、わたしのじゃないもん!」 「じゃ、誰の?」 「あ、あ、ああああんたに決まってるでしょ!」 ……え? 「俺の? 弁当? お前が?」 「か、勘違いしないでよね! た、ただ、昨日、道でぶつかって謝りもしないままだったから……。 ほ、ほんのちょっぴりだけ悪かったなって! だから、お詫びの気持ちよ、お詫びの! ほ、ほんとに そ、それだけなんだからね!」 弁当……。女の子が俺に弁当を……。 俺は思わず教室の窓を開け放ち、青空に向かって叫んだ。 「神様ー! 生きててくれてありがとおおおおおお!! 僕は幸せで――――――す!」 「えぇッ!?」 驚くルイズ。周りの奴らもこっちに振り向いていた。 「ど、どうしたの? 平賀くん、何をやってるんですか?」 「ああ、またサイトが変なことしてるだけ。気にしたら負けよ」 目を丸くしている春奈に、モンモランシーがそう答えていた。変なことで悪かったな! この感動を表現するには、これくらいのことはしないと駄目だったんだよ! 「ちょっと! 恥ずかしいじゃない! どうして空に向かって雄叫び上げるのよ! みんな見てるわ!」 慌てふためくルイズに、俺は熱弁する。 「だって、弁当だよ? 手作り弁当だよ!?」 「そ、そうだけど! は、恥ずかしいからやめてよ!」 「お、俺、女の子に弁当もらうのなんて……。う、う、生まれて初めてで……。うっうっうっ……」 感動のあまり、俺は嗚咽を上げて泣きじゃくってしまった。 「ち、ちょっと泣かないでよ。こんなことくらいで……」 「いやいや、男子高校生三種の神器には、一生縁がないと思ってたから……」 「三種の神器?」 「女の子の手作り弁当、バレンタインデーの本命チョコ、誕生日プレゼントの手編みセーター! この三つを称して、三種の神器と呼ぶのですッ!」 誰が呼んでいるのかは俺も知らんが、ともかく俺の中ではそうなっている! 「ああッ、今日は最高の日です。お父さん、お母さん。俺を生んでくれてありがとう!」 「ふ、ふーん。よく分からないけど、そんなに喜んでもらえるならよかったわ」 俺の感動ぶりに、ルイズは満更でもなさそうに言った。 「はッ!? そ、そうか、そうだったのか!?」 「え?」 「ちょっとこっちに来てくれ、ルイズ」 「こっちにって……! もうすぐ授業始まっちゃうってば! サイト!?」 教室じゃ何なので、俺はルイズを屋上まで連れていった。 「ごめんよ、ルイズ。君の気持ちに気づかないままで……」 「さ、サイト? な、な、何真面目な顔して……」 戸惑い気味のルイズに、俺は尋ねかけた。 「お前、俺のこと好きなんだろ?」 「なッ!?」 「だから今朝、中野からの告白を断った。そうだろ?」 そうか、そういうことだったんだな……。俺のことが好きだったから、中野の気持ちには 応えられなかったんだな。 「ち、違うもんッ! あれは……!」 「そんな言い訳いらないさ。さあ、ルイズ……!」 「サイト……」 腕を広げた俺の顔を、ルイズはじっと見つめて……。 ドゴォッ! 「バカッ!」 「ぐがッ!」 お、俺の股間に膝蹴りが決まった……。 「ぐおおおおお……! お、俺の股間の夢工場が……!」 「だ、誰があんたをす、す、好きなのよ!? 全く笑えない冗談だわ!」 苦悶にあえぐ俺に、ルイズは真っ赤になりながら怒鳴りつけてきた。 「一つ教えてあげる! 冗談も過ぎると命取りになるの! 分かった!?」 「……勉強になりました……」 「全く! 馬鹿なこと言ってないで、教室に戻るわよ!」 「ふぁい……」 すっかり怒ってしまったルイズは、早足で屋上から中へ戻っていった。く、くそう…… 少し焦りすぎたか……。もっと落ち着いてから質問すればよかった……。ああ、すっげぇ 痛い思いをしてしまった……。 反省しながら俺も教室に戻ろうとした時……扉の陰に春奈とシエスタがいることに気がついた。 あんなところで、授業が始まる前に二人は何をやっているんだ? 「……見ましたか、ハルナさん?」 「ええ、しっかりと。これは……由々しき問題ですね。何とかしなければ」 ……な、何をやってたんだ? まさか……さっきの俺とルイズのやり取りをこっそり見ていたんじゃ……。 異様な威圧感のあるシエスタたちに対して、俺は知らず知らずの内に怖気づいていた。 教室に戻ると……中野がとんでもなくショックを受けたような顔をしていて、次いで俺に 一瞬恨めしい視線を向けた。 げッ……そ、そういえばルイズに振られた張本人がいるんだった……。さっきの、俺が手作り弁当を もらうところを目撃したに決まっているよな……。き、気まずい……。 俺は針のむしろにいるような気分になりながらも、その日の授業を受けたのであった。 そして夜遅くに、自室にいたところにゼロに呼びかけられた。 『才人! 外で何か異常が起きてる!』 「えッ、何だって!? 本当か!?」 『外を見てみろ!』 促されて、窓を開け放つと、俺の住む街に怪しい霧が掛かっていることに気がついた。 「霧……? 今日は晴れだぜ……?」 『ただの霧じゃないぜ。マイナスエネルギーの異様な高まりを感じる……。こいつはマイナス エネルギーの実体化だ!』 マイナスエネルギー……! 俺も話には聞いたことがある。人間の怒りとか嫉妬とか、 負の感情から生じる良くないエネルギーだとか。あのヤプールのエネルギー源でもある。 このマイナスエネルギーが高まると、怪獣が出現しやすくもなるらしい。 ということは……。俺の嫌な予感は的中してしまった。 街に漂う霧に投影されるように青い怪光が瞬くと、一体の巨大怪獣の姿が不気味に浮き上がったのだ! 「ウオオオオ……!」 「あいつは……!」 まっすぐ直立した体型にピンと立った大きな耳、手の甲は葉っぱのような形状で、腹には幾何学的な 模様が描かれている。生物というよりは、何かの彫像みたいだ。そして二つの目から、何故か涙をこぼしている。 データには、硫酸怪獣ホーとある! 「またまた怪獣か……! 行こうぜ、ゼロ!」 俺は怪獣と戦うために変身しようとしたが、それをゼロ当人に止められた。 『待て、才人! あの怪獣、まだ実体って訳じゃないようだぜ!』 「えッ? どういうことだ?」 『奴はマイナスエネルギーの結晶体の怪獣みたいだが、肉体が完全に固形化してないんだよ。 いわば中間の状態だな』 と言われても、俺にはよく分からないが……。 と、その時、怪獣ホーの姿が一瞬揺らぎ、あの中野の姿が見えたような気がした。 「今のは中野……!?」 『俺にも見えたぜ。気のせいとか幻とかなんかじゃねぇ。あの怪獣はどうやら、中野真一の 負の感情が中核になってるみたいだ!』 な、何だって!? 中野の感情は、怪獣になるまで大きかったのか……! というかそうなると、 ホーの出現の原因の半分は俺ってことになるのか!? 俺があいつを尻目に、ルイズから弁当を 受け取ったりしたから……。 さすがに中野の感情の化身を闇雲に倒すのは目覚めが悪い。ホーの核があいつっていうのなら、 中野を説得して怪獣を消し去ろう! 「中野に、怪獣を消すように説得をしなくちゃ!」 『ああ!』 俺は遮二無二部屋を飛び出し、中野の家の方へと大急ぎで走っていった。ホーにまだ暴れる 様子はないが、いつまで続くかは分からない! しかし中野の家にたどり着く前に、夜の街の中で肝心の中野を発見した。何故か、矢的先生と一緒にいる。 「真一、聞こえるか? あの怪獣の鳴き声は、お前の声だ! 夢の中でお前が作ってしまった怪獣だ! 憎しみや悲しみ、マイナスの感情を吸収して、あそこで泣いてるんだ!」 先生は中野に向けてそう告げた。先生もホーの正体を見抜き、俺よりひと足先に中野を説得して、 怪獣から解放しようとしているのか? 民間人のはずの先生が、そんなことまでするなんて……。 そんなにも生徒のことを考えているのだろうか。 話がややこしくならないように、俺は物陰にこっそりと隠れながら話の行方を見守る。 そして矢的先生は、中野に対して語り出した。 「愛しているから、愛されたい。愛されなければ腹が立つ。でも、本当の愛ってそんなちっぽけな ものなのか? 人のお返しを期待する愛なんて、偽物じゃないかな」 ……矢的先生……。 「想う人には想われず! よくあることだぞ。先生だってそんなことあったよ」 「先生も?」 「うん。……故郷にいた頃、本当に好きな女の子がいてなぁ、その子のためなら、何でもしようと思った。 その子、楽器欲しがってたんだ。先生どうしても買ってあげたくてさ、必死になってバイトした! だけどな…… 二ヶ月目にやっと手に入れた時には、遅かったよ。その子には、新しい恋人が出来てたんだ。悲しかった……。 悔しかった。憎かったよ! だけどな、先生そのままプレゼントしたよ! その楽器が、先生の本当の心を、 鳴らしてくれると思ってな。それで終わりだよ……! 今はもう懐かしい思い出だ」 先生に、そんな苦い思い出があったんだな……。 『……何だ? どこかで聞いた話のような……』 何故かゼロが首をひねっていた。 自分の過去を話した先生は、改めて中野に呼びかける。 「真一、あの怪獣を作った醜い心が、お前の本当の気持ちなんて先生思わないぞ。今にきっと お前にも分かる!」 しかし、中野は、 「分からないよ! 俺、憎いんだ! 悔しいんだよぉーッ!!」 その絶叫に呼応するように、とうとうホーが完全に実体化して暴れ始めた! 「ウアアアアアアアア!」 地団駄を踏むように行進して、近くの建物を薙ぎ倒す! 「くそッ、結局こうなっちまうのか……!」 『仕方ねぇ! 才人、怪獣を止めるぜ!』 「ああ! デュワッ!」 俺は街を守るためにゼロアイを装着して、ウルトラマンゼロに変身した! 『やめろ、ホー!』 巨大化したゼロはすぐさまホーに飛びかかっていって、押さえつけて街の破壊を食い止めようとした。 「ウアアアアアアアア!」 けれどホーは暴れる勢いを止めようとしない。その両眼から涙がボロボロと飛び散り、 一滴がゼロの手に落ちる。 途端に、ゼロの手がジュウッと焼け焦げた! 『うおあぁッ!? あぢッ、あぢちちちッ!』 反射的にゼロは手を放してしまう。 『ゼロ、ホーの涙は硫酸なんだ!』 『くそッ、何て迷惑な奴なんだ……!』 「ウアアアアアアアア!」 ホーはわんわん泣きわめき、辺り一面に硫酸の涙をまき散らす! 何て危険な! 『や、やめろ! くそぉッ!』 阻止しようにも、涙の勢いは雨あられで、ゼロも容易に近づくことが出来ない! そして涙の一滴が、ホーを生み出した中野にまで飛んでいく! 『あッ……!』 「危ない真一ッ!」 それを助けたのは矢的先生だった。けど中野の身代わりに、先生が肩に硫酸を浴びて火傷を負ってしまう。 「先生……俺のために……!」 「そんなことより……怪獣を見ろ……! 奴は、ルイズの家の方に向かってる……!」 何だって!? 確かに、ホーはどこかに移動しようとしているように見える。まさか、 ルイズを殺そうってのか!? くそッ、それだけは絶対にさせるものか……! 「お前の潜在意識が、怪獣をルイズのところに行かせるんだ! お前は本当にルイズが憎いのか!? いいのかそれで!」 先生は大怪我を負ってもなお、中野を説得しようとしていた。矢的先生……! 「本当にそれでいいのか!? 真一ッ!」 先生の呼びかけに……中野も遂に応えた。 「消えろー! お前なんか俺の心じゃない! 消えろーッ!!」 中野は自分の憎しみを捨てた! 「ウアアアアアアアア!」 ……けど、ホーは消えない! それどころか、ますます凶暴になって暴れ狂う! 『ど、どうしてなんだ!?』 『ホーはもう、あいつの心から離れて独立した存在になっちまった! こうなったからには、 倒す以外にないぜ!』 くっそぉ……! だったら、とことんまでやってやるぜ! 俺たちは気持ちを重ねて、 ホーに立ち向かう! 『おおおおおッ!』 「ウアアアアアアアア!」 今度は硫酸にもひるまず、正面から間合いを詰めて打撃を連続で入れていく! が、ホーは ゼロの身体を掴んで軽々と投げ飛ばした! 『うッ!』 「ウアアアアアアアア!」 地面に打ち据えられたゼロに馬乗りになったホーは、両手の平で激しくゼロを叩く。 『ぐッ……! 調子に乗るなッ!』 自分の上からホーを振り払ったゼロだが、起き上がった瞬間にホーの口から放たれた火炎状の 光線をまともに食らってしまった! 『ぐああぁッ!』 痛恨のダメージを受けるゼロ! カラータイマーもピンチを知らせる! 『今の光線の威力……何てパワーだ!』 『人の心から生じたマイナスエネルギーを直接吸収して、力と憎しみが膨れ上がってるってところか……!』 マジか……! 人間の憎しみは、それだけのパワーになるってことなのか……! 同じ人間として、 恐ろしい気分になる……。 『だからこそ、負ける訳にはいかねぇぜ! とぉあッ!』 勇んで地を蹴ったゼロは、そのままウルトラゼロキックをホーにぶち込んだ! この必殺キックは さすがに効いたようで、ホーに大きな隙が出来る。 「シェエアッ!」 そこにワイドゼロショットが発射される! 直撃だ! 「ウアアアアアアアア……!」 しかし、ホーはワイドゼロショットを食らっても倒れなかった! ほ、本当にとんでもない奴だ……! 『だが、こいつで今度こそフィニッシュだぁッ!』 ゼロはひるまず、ゼロツインシュートを豪快に放った! 「ウアアアアアアアア!」 それが遂に決まり手となった。ホーの全身が赤い炎のように変わり果て、身体の内側から 輪郭の順に飛び散って完全に消え失せた。 やった……! ゼロの勝ちだ。ゼロは恐ろしい、人間の憎しみの心にも勝ったんだ……! ……今日もまた、才人は覚醒して身体を起こした。 「……本当の、愛……」 またしても夢のことはほとんどを忘れ去ってしまった才人だが……誰かが熱く語った 「本当の愛」についての内容だけは、記憶に残っていた。 そして日中、 「こらぁーサイトッ! あんたまた、わたしの見てないところでメイドとイチャイチャしてたそうね! しかも今度はクリスともだそうじゃない! この節操なしの犬! 一辺教育し直してあげようかしら!?」 ルイズはまた何か変な誤解をしたようで、怒り狂って才人に詰め寄ってきた。いつもの才人なら、 彼女の怒りから逃れようと必死に言い訳を並べていることだろう。 だが、今の才人は違った。 「なぁ、ルイズ」 「な、何よ? 今日はいやに落ち着き払って……どうしたっていうのよ? 何か変よ」 「愛しているから、愛されたい。愛されなければ腹が立つ……。本当の愛って、そんなちっぽけな もんじゃないだろう?」 困惑したルイズに、才人は夢で覚えた言葉を、すました態度で告げた。 「人のお返しを期待する愛なんて、偽物。お前もそう思わないか?」 ふッ、決まった……と言わんばかりに、格好つけた様子でルイズと目を合わせる才人。 果たして、ルイズの反応は、 「……知った風な口を利くんじゃないわよぉッ!」 余計に怒らせて、ドカーンッ! と爆発をお見舞いされた。 「ぎゃ―――――――――ッ!!」 「ふんッ! どこでそんな言葉覚えてきたんだか……!」 ツカツカとその場を離れていくルイズ。後には、黒焦げになった才人がバッタリと倒れ込んだ 姿だけが残された。 「ど……どうしてこうなるんだ……」 ピクピク痙攣した才人は、そうとだけ言い残して力尽きた。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
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前ページ次ページ東方のキャラたちがルイズたちに召喚されました 03.明日ハレの日、ケの昨日(*1) その年の召喚の儀式は、初めは例年のように進行していた。生徒達の召喚呪文に よって、普通に使い魔として見かける生き物達が召喚される。猫やカラス、蛇に フクロウ。特殊なところでは風竜が呼び出され、周囲を驚かせたくらいだ。 しかし、ある男子生徒の召喚から状況が一転する。彼のところに現れたのは、 何と妖精だった。身長七十サントほどのそれは透明な羽を持ち、何より人間の 言葉で挨拶をしてきたのだ。 初めはエルフの類かとも思われたのだが、その愛らしい笑顔が周囲を魅了した(*2)。 聞けば、特別なことは何も出来ない(*3)という。それでも、召喚した男子生徒は 得意満面で妖精とコンタクト・サーバントを行った。風竜には敵わないけれど、 それでも十分特殊な生き物だ。メイジの力を見るなら使い魔を見ろ、というでは ないか。今はただのドットクラスだけれど、きっと自分には秘められた力があるに 違いない――。 残念ながら彼のその希望は儚くも砕かれることになる。次々と呼び出される 妖精達。先ほどの妖精を羨ましそうに見ていた生徒達が一転、今度は嬉しそうに 契約をしていく。 そして毛色の変わった生き物が呼び出されはじめた。基本的に人間の姿をして いるものの、鳥の様に翼があったり、虫の触角が生えていたり、猫の尻尾が二本 生えていたり、捻れた角が生えていたりと様々である。ただ共通しているのは、 みな女性――それも少女と言っても良いような年頃の姿をしていること。そして みな知り合いだということだ。 彼女たちは自分たちのことを『ヨーカイ』なのだと話した。妖精とは比べものに ならない力を持っており、契約すれば使い魔として働くという。 「まあ妖怪って基本的に、人を襲って食べたりするんだけどね。でもそれはそこの 大きいの(*4)だってそうでしょ? 大丈夫大丈夫、使い魔として呼び出されたん だから、ちゃんと使い魔をするよ」 角の生えた少女――自らを伊吹萃香と名乗った――は笑顔でそういうと、腰に ぶら下げた奇妙な形の入れ物を口につけた。ゴクゴクと喉が動き、プハァと息を 吐き出す。酒臭い。それを見た召喚主は、コンタクト・サーバントしただけで 酔っちゃいそう、と現実逃避気味に考えていた。本当は考えなければならない ことは他に沢山ある。どういう種の生き物なのか。何が出来るのか。自分の 専門属性は何になるのか。そして、コンタクト・サーバントをすべきか否か。 彼女は助けを求めるように、引率の教師を振り返った。 召喚の儀式は神聖なものであり、契約は絶対のもの、とはいうものの、引率の 教師であるコルベールは内心頭を抱えていた。敵意はない。自分たちから進んで 使い魔をやるという。その点はとても望ましいことだ。しかし、自分の中の何かが 危険信号を発している。これは危険な生き物だ、と。 結局彼は、召喚と契約の続行を決めた。召喚の儀式で使用される、魔法に対する 信頼があるからだ。また今までの記憶にも記録にも、召喚した生き物が制御 できなかったということはない。 彼女は諦めて、自分の呼び出した酒飲みとコンタクト・サーバントを行った。 案の定、酒臭い。眉をしかめる様に気づいた様子もなく(*5)、萃香はどこから ともなく取り出した茶碗に酒をつぐと、召喚主に向かって差し出した。萃香達の ところでは、主従関係を結ぶ場で酒を飲むしきたりがある(*6)、という。匂いを 嗅いだだけでも、かなりアルコール度数が高いことが分かった。彼女たち貴族も 一応普段からワインを嗜んでいるが、それは様々な香料を入れたり甘みをつけたりと アルコール度を薄めたものを少し飲むだけだ。ここまで度数の高いものをそのまま 飲んだことはない。それでも彼女は、その酒を一息に呷った。使い魔になめられる わけにはいかない、と思ったのかどうか。しかし彼女は茶碗を手から取り落とし、 目を回して倒れ込んだ。地面にぶつかる前に、彼女の使い魔となった萃香が軽々と 彼女を抱え、ゆっくりと地面に寝かせてやった。そして手を叩き笑う。 その心意気は見事、と。 それを見ていた他の妖怪や妖精も、手に手に湯飲みや茶碗を取り出した。 そして自分の召喚主に対して笑いかけた。さあ、私たちも、と。こうして召喚の場が 宴会場へと変わっていくのであるが、未だ召喚を行っていない者達には それどころではない。なにしろ次に呼び出された生き物は、今までとは段違いに 危険だったのだから。 背格好自体は十歳に満たない少女の様。日傘を差し、背中には蝙蝠のような羽、 笑った口元には牙のような犬歯が見える。彼女は辺りを見回すと、威厳に満ちた 口調で言い放った。 「私はレミリア・スカーレット、誇り高き吸血鬼の貴族。 さあ、私を召喚した幸運な子は誰?」 「吸血鬼!」 コルベールは油断なく杖を構えると、レミリアに相対した。彼の知っている限り、 吸血鬼などといった人間に敵対する知性体が召喚されたことはない。 「吸血鬼が一体どうして召喚されたのだ?」 「もちろん、使い魔をするためよ」 そこの連中と同じよ、と酒を飲んでいる妖怪を指さした。指された方は笑って 手を振り返す。 「いや、私が聞きたいのはそういうことではなく……」 「何故、こんな得体の知れない連中が大量に召喚されてるのか、ってこと?」 「……まあ、そんなところだ」 明らかな敵意を向けられてなお、レミリアは悠然と笑い言い放った。 「後に召喚される妖怪の中には、説明が得意なのもいるわ。 彼女達に聞いてちょうだい」 知識人っぽいのとか、家庭教師っぽいのとか、と含み笑いをするレミリア。 「後に……ということはまだ君たちのような人外が呼び出されるというのか?」 「そうよ。まあ、その中でも私が一番(*7)だけど」 何が一番(*8)なのやら、と妖怪連中から戯れ言が飛ぶが、一睨みで黙らせる。 「むやみに人間を傷つけるつもりはないわ。貴族の誇りにかけて、ね」 貴族の誇りを出されてしまっては、人間達も黙るしかない。それに納得も していた。人間にも平民と貴族がいるように、吸血鬼にも普通の吸血鬼と高貴な 吸血鬼がいるのだ、と。粗野な平民と違い、貴族には礼儀と誇りがあるものだ。 それは、吸血鬼でも変わらないのだろう。 コンタクト・サーバントを終わらせると、レミリアはニヤリと牙を見せて笑った。 「吸血鬼に相応しい主人にしてあげるわ」(*9) レミリアを呼び出した女生徒は、顔色を青くしながらも頷いた。普通の下級貴族で ある自分にそんなことが可能なのか。いや、やるしかないのだ。吸血鬼を使い魔に した貴族など、きっと後世にも名前が残るだろう。貴族にとってそれはこの上も ない名誉なことである。 こうして召喚の儀式は継続された。レミリアの言ったように、それからも様々な 妖怪が呼び出される。中には、どう見ても人間にしか見えない者達もいた。 例えばキュルケが呼び出した者は、自らを蓬莱人だと名乗った。それが何を 意味するかは不明だったが、少なくとも彼女は炎を操ることが出来た。呪文も なしに火を生み出す様に精霊魔法なのか、と騒然となったが、当の本人は至って 平然と答えた。 「そこの大きいのだって火を吐くんだろ(*10)? まあそれと同じようなもんさ」 それに精霊魔法は、その地に存在する精霊と契約して発動する魔法。逆に言えば、 契約をしなければ発動できない。召喚されたばかりの彼女に、そんな時間や呪文の 詠唱はあったか。答えは否だ。 それでも、いきなり彼女のような存在が呼び出されていれば、また話は違った だろう。魔法を使わずに特殊なことが出来る者に対する偏見は大きい。だが今回の 召喚の儀式では、妖精に始まり吸血鬼まで、特殊な生き物が数多く呼び出されている。 さすがに人間達も感覚が麻痺してきていた。慣れてきた、とも言える。 その最たる例として、自らを神と称する者が召喚されたが、比較的スムーズに コンタクト・サーバントまで至っていることがあげられるだろう。 「神って言うけど、こっちの世界じゃ精霊みたいなものかね」 背中に縄を結ったような飾りを付けた(*11)女性は、そう言いつつどっかりと 腰を下ろした。 「なにしろ今までいたところには、神様が八百万もいたからね。こっちは神様は 一人なんだろ?」 彼女を召喚した男子生徒は、どう返答したらいいのか分からず、とりあえず頷いた。 この世界の神と言えば始祖ブリミルということになるのだろうか。もちろん、 神聖な存在であり、威厳があって厳かな存在なのだろうと思っている。しかし……。 ちらりと横を見る。そこではやはり神を自称する少女が、召喚主の女生徒に後ろから 抱きつかれて困っていた。 「あーうー、私は神なのだぞー」 「か~わい~」 蛙を模した帽子をかぶった少女は手足をばたばたさせるが、威厳の欠片もない。 どういう経緯でこうなったのかは彼にも分からなかったが、可愛いことは確かだ。 「あははは、土着神の頂点も形無しね、諏訪子」 「そう思っているなら助けてよ、神奈子」 それも親交(*12)よ、と取り合う様子もなく、神奈子はどこからともなく盃を 取り出した。同じく、どこからともなく取り出した瓶から何かを注ぐ。言うまでも なく、酒だ。 「さあ、私たちもやろうじゃないの」 確かにもう辺りは、酒を飲まない方が不自然な状態にまでなっている。 楽器ごと宙に浮いた三人組が音楽を奏でると、翼を持った少女が歌を歌う。 やたら偉そうな妖精が空中にダイアモンドダストを発生させると、別の妖精が 輝きを集めて虹を作る。幻の蝶(*13)や見たこともない赤い葉っぱが辺りを舞い、 どこかに消えていく。ついでにコルベールはしきりに頷きながら、奇妙な帽子を かぶった者から話を聞いている。制止役がこれでは、騒ぎが収まるわけがない。 これは酒でも飲まないとやってられない。彼は神奈子から杯を受け取ると一気に 呷った。奇妙な味だが悪くない。 最初の爆音が響いたのは、ちょうどその位だった。 生徒達はその音に振り返り、ああ、あいつか、と呟いた。ゼロがまた魔法を 失敗した、と。 「ゼロ?」 その声に一人の少女が反応した。紫色のゆったりとした服(*14)に身を包んだ 自称魔女は、視線を自分の召喚主の男子生徒へと向ける。その全てを見通すかの ような視線にたじろぎながらも、彼は問いに答えた。 「あいつは魔法を成功したことがないんだ。だからゼロ」 彼が指さす先で、一人の女生徒が杖を構える。他の生徒に比べ、幾分幼い感じが する少女は真剣な面持ちでサモンサーバントの呪文を唱え杖を振った。が、 二度目の爆音が響いただけで、何も召喚されない。 なるほど、と彼女は頷くと感想を述べる。 「ふーん。零点ね」 「そうさ。零点――」 しかし魔女は召喚主の口をふさぐかのように指を伸ばした。 「零点なのはあなたよ」 「は?」 呆けたような顔を面白くなさげに一瞥すると、魔女は少し大きな声で説明を始めた。 「費やされた魔力のうち、サモンサーバントの分は正しく消費されてるわ。 あの爆発は余剰分が行き先をなくして発生しているだけ」 「まさか。だいたい何でそんなこと――」 わかるんだよ、と続けようとして、ジロリとにらまれる。 「貴族の合間にメイジをやってるあなた方には分からないかもしれないわね。 だけど私は生まれたときから魔法使いなのよ。言葉を話すより先に魔法を 使っているの」 魔法の動きを知るなんて呼吸をするのと同じ事よ、とつまらなそうに言うと、 手に持った本に視線を落とした。この世界は発動体が必須とされるようなので、 常に持ち歩いているこの本が発動体だと言うことにしてある。別に嘘だという わけではない。上級スペルを詠唱する際には、一部の負担を本に蓄えた魔力で 代替わりしているのだ。疲れないために。 しかしこの世界の魔法は彼女の知っているそれとは全く違う。呪文はあくまで キーワードでしか過ぎない。もちろん各自が持っている魔力は消費されているが、 消費分に対して発動される内容が高度なのだ。大体、この程度の魔力消費で空間を 転移するゲートを開けるなど、彼女の常識からすれば冗談の様である。まるで、 合い言葉を唱えると、世界そのものが魔法を発動しているかのようだ。 この魔法はどのような原理で構築されているのか。これからの研究対象を考えると、 彼女は興奮を覚えるのだった。なぜなら彼女の名前はパチュリー・ノーレッジ。 知識こそが彼女の生き甲斐なのだから。 「で、でもさ、じゃあなんで何も召喚されないんだよ」 本に向かって顔を伏せたまま、上目遣いにルイズを見ると、このやり取りが 聞こえたのか当のルイズと目があった。絶対に諦めない、という眼差し。 その視線に知り合いだった人間を思い出す。彼女もよくこんな目をしていた。 普通の人間の魔法使いだったくせに。いや、だからこそ、か。 そんなことを考えていると、再び爆音が轟いた。 「ふん、やっぱり失敗は失敗だよな。あいつはゼロなんだから」 「……零点。おめでとう、これでダブルゼロね。ダブルオーの方がいいかしら」 「なにーっ」 最近流行だったみたい(*15)だし、などとよくわからない解説が追加される。 「なぜ召喚されないのか、ということを考えず失敗と思考停止するのは、 愚か者のやることよ」 「僕が愚か者だって――」 「違うというなら考えてみなさい」 ピシャリと言い切られ、歯がみをして悔しがる。なんで僕は使い魔にこんな 言い込められないといけないんだろう。こんなことなら普通の動物がよかった。 と数分前とはまったく逆のことを彼は考え始めた。そんな様子を歯牙にもかけず パチュリーの考察と解説は続く。 「サモンサーバントで発生するゲートは、強制的に相手を転送させるものではないわ。 対象となったものが触れて初めて効果を現す。逆に考えれば、触れなければ 召喚されないという事よ」 「……じゃあ、触ろうかどうしようか迷ってるっていうのか?」 「そうね。意図的に触れずにいることを選択しているのかもしれないし、 何らかの事情で触れられない状態になっているとも考えられる――」 少し離れたところでそのやり取りを聞いていた狐の妖怪、八雲藍は、口元に 笑みを浮かべ呟いた。紫様も人が悪い、と。 もうほとんどの生徒は召喚を終えている。見回したところ、幻想郷にいた妖怪は 一人を除いて全員召喚されているようだ。その残った一人こそ、八雲藍の主人であり 幻想郷の賢者といわれた八雲紫。少々戯れに過ぎるのが玉に瑕。今回もその戯れだと 思ったのだ。 「紫様を使い魔にするのだ。これくらいの苦労は越えられねばな」 早々に酔いつぶれてしまった自分の新たな主人に膝枕(*16)をしながら、藍は しみじみと呟いた(*17)。 そしてルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの召喚魔法 失敗が二十回を超え、儀式の場はますます盛り上がっていた。 「さあ、次の呪文で召喚できたら、銀貨一枚につき二枚払うよー」 頭から兎の耳が生えた妖怪が、賭け事を始めている。 「人の失敗を賭に使うなーっ!」 ルイズの怒声もなんのその。生徒達や妖怪達が、おもしろ半分に賭け金を出し 始めた。 「あんた達も賭けるんじゃないわよっ!」 手に持った杖を突きつけるルイズだったが、次で召喚すれば問題ないでしょ、 と笑って返され二の句が継げなくなる。どうやらみな、酷く酒に酔っているらしい。 一体どうしてこんなことになったのだろう? もちろん答えは決まっている。 このヨーカイといかいう連中の所為だ。でもその一人がさっき言っていた。 魔法自体は成功している、と。本当のことかどうかは分からない。けれど、 今のところ縋ることの出来る唯一にして最高の言葉だ。だから自分は魔法を 唱え続ける。続けられる。 そんなことを考えながらも呪文を唱え、杖を振った。が、爆発。また失敗だ。 賭けた者からは罵声が、賭けなかった者からは歓声があがる。 「じゃあ次は銀貨一枚で、銀貨三枚ねー」 兎の声に、先ほどより多くの賭け金が集められた。思わず怒鳴ろうとしたが、 よくよく考えれば賭けるということは、召喚の成功が、つまり魔法の成功が 期待されているということだ。酔っぱらい共の戯れだとしても少しだけ気分が良い。 詠唱、そして杖を振り……また爆発。何も現れない。汗が目にしみる。まだまだ 諦めるには早すぎる。 集中、詠唱、杖、爆発。一体何が召喚されるというのだろう。 深呼吸、集中、詠唱、杖、爆発。もう周囲が騒ぐ声も気にならない。 「そう。重要なのは集中することよ」 その様子をじっと見ていたおかっぱ頭の少女が呟いた。背中には二本の刀、 隣には半透明な物体がふわふわと浮いている。半分人間である彼女は、努力して 技術を習得するということを人の半分程度は慣行している。だから、周囲の声にも 拘わらず召喚呪文を唱え続けるルイズという少女を、彼女は内心応援していた。 もっとも、彼女の主人はそうとは思っていないようだが。 「無理だと思うんだけどな」 「何故?」 鋭い視線で見つめられ、腰が引けそうになる。背の武器で斬りつけられたら…… と思うと気が気ではない。コンタクト・サーバントは終わっているので危害を 加えられることはないだろう、とはいうものの、やはり怖い。もちろん、その前に 魔法で何とか出来るとは思うが…… 「ダメよ~、妖夢。ご主人様が怖がっているじゃないの」 「何を言うんですが、幽々子様!」 「あらあら、怖い怖い」 突然横から現れた女性は、広げた扇子で口元を隠すと含み笑いを漏らした。 「妖夢は真面目すぎるのよ」 「性分ですから」 憮然として答える妖夢。その様子はまるで教師に叱られた生徒のようであり、 現役の生徒である彼女の主人は不意に親しみを感じた。 「もっとこう、余裕を持った方がいいと思うのよ」 「幽々子様は余裕がありすぎです!」 「そうねぇ。でも『今の』ご主人様は真面目な人みたいだし、 従者が余裕を持たないとね~」 その言葉に妖夢はハッとさせられた。なるほど、従者とは主人を補う者だ。 幽々子様の下では今までの自分でよかった。しかし新しい者の従者になるという ことは、自分も変わっていかなければならないのではないか。 「……努力します」 「そうそう。変われる、というのは人間の特権ですもの」 再び口元を扇子で覆い、笑い声を漏らす。その言葉は、果たして誰に向けられた ものか。 そんな周囲の会話ももはや聞こえる様子もなく、ルイズの召喚失敗は回を重ねる。 兎の賭の倍率が十倍にもなり、辺りが夕日に包まれてもまだ召喚は成功しなかった。 肩で息をする。喉も渇いた。魔力が尽きかけていることが、自分でも分かった。 これで最後にする。そう気合いを入れ、呪文を唱えた。そしてイメージする。 自分が最高の使い魔を使役している姿を。 「!」 杖を振ると共に起きる爆発。だがその中に、人影が見えた。 「おや……?」 その姿に真っ先に反応したのは藍。なぜならその容姿が彼女の想像と違って いたからだ。片手には日傘。これはよい。髪の色は金色。これも想像通り。 だが頭には黒いとんがり帽子を被り、黒い服の上に、白いエプロン。ドロワーズも 露わについた尻餅の下敷きになった箒。これではまるで、知り合いの魔法使いの ようではないか。その人間の名前は―― 「魔理沙っ!」 何人もの妖怪が叫んだ。疑惑に満ちた声で。単純に驚きで。喜びをにじませて。 嫌そうな声色で。溜め息と共に。 静寂の中、呼ばれた本人はゆっくりと立ち上がるとスカートに付いた土埃を払う。 そして不貞不貞しく笑みを浮かべると、口調だけは残念そうに第一声を放った。 「くっそー、ついに捕まっちまったか」 「ついに……ってどういうことよ」 その魔理沙の正面に立つ少女、ルイズ。杖を構え、肩で息をする様を一瞥し、 魔理沙は納得するように二度三度と頷いた。 「ん、ああ、あんたが私を召喚したのか。よろしくな。勝負に負けたんだ。 潔く使い魔になってやるぜ」 「ししし勝負ってなんのこここことかしら?」 あくまで冷静な魔理沙に対し、ルイズは興奮のあまり口が回っていない。 「根比べさ、召喚の。あんたが私を捕まえるのが先か、魔力が切れるのが先か。 寿命まで無料奉仕してやろうってんだ。これぐらいは試させてもらわないとな」 「じじじ寿命ですって?」 「ああ、私はこいつらと違って、普通の人間だからな」 周囲に座った妖怪を指さしながらの言葉。普通の、人間。その意味をルイズが 理解できるより先に、周囲が反応した。 「普通の人間って事は平民か?」 「なんだ、これだけ大騒ぎして結局普通の平民かよ」 「これって失敗だよな!」 「やっぱりゼロのルイズね」 いつも通り巻き起こる嘲笑。肩を落とすルイズ。よりにもよってただの平民とは。 また失敗なのか。しかしそれを認めるわけにはいかない。例えそれが強がりと 見られようとも。ルイズは顔を上げ、言い返そうとした。いつものように。 しかしルイズより先に、目前に立った少女が大声を上げた。 「ああ、そうだ! 私は霧雨魔理沙! 普通の人間だ!」 ルイズに背を向け、ルイズを守るように、霧雨魔理沙は立っている。 「だがなっ!」 だからルイズだけは気がついた。他の人間から隠すよう背に回した右手に、 光が集まっていることに。 「普通の人間の……魔法使いだぜ!」 そういうなり、右手の光――魔力塊を真上に向かって打ち出した。 一瞬の静寂。そして閃光。 まるで花火のように、光り輝く星屑が夜空に広がる。きらきらと輝くそれは 幾何学的な模様を徐々に変えながら、ゆっくりと広がっていく。 「わぁ……」 其処此処から感嘆の声があがる。四つの系統のどれにも属さない魔法。しかし 誰もそのことを言い出さない。 それほどに美しかったのだ。 そして何が起こるかうすうす感づいている妖怪連中は、にやにやと笑っていた。 人に馬鹿にされてただで済ますほど、霧雨魔理沙という人間は温厚ではないのだ。 「おっと、ちょっと魔力を調整しそこなったぜ」 わざとらしい声とともに、上空に広がった七色の星屑が一斉に地面目がけて 落ちてきた。(*18) そりゃあもう、唐突に。 「うぉあっあたる、あたる!」 「馬鹿っこっちくるな!」 「いやーっ」 「ブリミル様、お救いをーっ」 右往左往した挙げ句、互いにぶつかって倒れてみたり。地面に伏して祈ってみたり。 そんな様子を、魔理沙の召喚主であるルイズは唖然として眺めていた。 普通の人間? 魔法使い? 先住魔法? 星屑? 自分は一体、何を呼び出したんだろう? 「あー、別に危険じゃないぜ。ちゃんと消えるし」 その声にルイズが顔を横に向ける。いつの間にかルイズの横に並んだ魔理沙は、 困惑したという口調で嘯いてみせた。 事実、それは地面に一つも届いていない。流星の様に落ちてきた星屑は、最初から 幻であったかのように、中空で溶け込み消えていく。その様子もまた幻想的で、 混乱していた生徒達は徐々に呆けたように空を見上げていった。 一方妖怪達は、いつもの宴会芸に大喝采である。やはり酒の席にはこの花火が ないと始まらないとばかりに再び音楽が始まり、静寂が一転、喧噪に包まれる。 「さて、と」 そんな様子に満足したのか魔理沙は、ルイズを見るとウインクして見せた。 「契約をしなきゃなんないんだろ?」 言われて思い出す。そういえばまだコンタクトサーバントを行っていない。 「さっさとやろうぜ。せっかく注目を外したんだしな」 「注目を……?」 おうむ返しの質問。頭が混乱して、考えがまとまらない。 「いくら女の子同士でも、人の注目浴びながらキスをするのはちょっとな」 ファーストキスだからな。と帽子を目深に被りなおしながらつぶやく。 その頬が夕日の下でもそれと分かるほど赤く染まっていることに、ルイズは 気がついた。普通の人間で、魔法使いで、先住みたいな魔法を使って、でも、 中身はルイズと同じ少女なのだ。 そのことに気がついたルイズは、ようやくいつもの調子を取り戻した。 「感謝しなさい。わたしみたいな貴族の使い魔になれるなんて、名誉なことなんだからね」 胸を張り宣言する。その様子に魔理沙は、ニヤリと笑い言葉を返す。 「さすが私のご主人様だ。そうこなくっちゃな」 こうして、魔法が使えない貴族、ルイズと、魔法が使える普通の人間、魔理沙は コンタクト・サーバントを行ない、主従となったのであった。 そして二時間後。月明かりの中、ルイズは目を回して倒れていた。別にルイズに 限ったことではない。多くの生徒はルイズ同様、召喚の儀式が行われた草原に制服の まま倒れ伏している。 全ての原因は魔理沙だ。コンタクト・サーバントが終わるとルイズの手を引いて、 妖怪達の宴会に飛び込む。ここまではいい。自分が酒を飲み、ルイズにも酒を飲ます。 これもある意味当然の流れだ。だけど言ってしまったのだ。「さすが私のご主人様だ、 いい飲みっぷりだぜ」と、他の生徒を挑発するように。その結果がこれだ。 「みんななさけないわね」 余裕を装うキュルケも、目が虚ろ。手に持ったグラスは今にも滑り落ちそうだ。 ルイズより先に酔いつぶれるわけにはいけない、と半ば意地で意識を保っていた ものの、そろそろ限界らしい。自慢しようにも当のルイズはさっさと潰れている。 その使い魔は、狐っぽいのと日傘を挟んで深刻そうな話をしている。さあどうしよう。 その揺れる視線が親友の姿を捉えた。青い髪を持った小柄な少女、タバサ。 いつものように本を開いてはいるが、遠い目をして何か呪文のように呟いている。 ずりずりと膝立ちで近づいたキュルケのことも、目に入っていない。 「…………」 「なに一人でぶつぶつ言ってるのよ」 「亡霊だから幽霊じゃない…… 騒霊だから幽霊じゃない…… 半人半霊だから幽霊じゃない…… 亡霊だから――」(*19) 「ねえ、タバサ~」 反応のないタバサに業を煮やし、何気なく肩に手を掛ける。が、ビクン、 と一瞬背筋が伸び、こてんと倒れてしまった。 倒れてしまった親友を一人寝かしておく訳にはいかないわよね、とようやく 理由が出来たキュルケは、タバサを抱きしめるように横になり、自分の意識を 手放すことが出来たのだった。 一方タバサの使い魔となった風竜――もちろん実際には風韻竜なのだが―― のシルフィードは、そんな主人の事も気づかずに、他の使い魔達との会話に 夢中だった。他の使い魔とはいっても、妖怪が主である。それも特に、幼い雰囲気の 連中だ。 「きゅいきゅい!」 「へえ、一人で二百年も」 「きゅいきゅい」 「へーそーなのかー」 「きゅいきゅいきゅい」 「うんうん、その気持ち、よく分かるよ……あ、八目鰻、食べる?」 「きゅい!」 「えへへ~おだてても何もでないわよ~」 「みすちー、私のはー?」 「もうとっくに食べちゃったでしょ?」 「きゅい……」 「あー、いいのいいの、こいつが食いしん坊なだけだから」 「ひどいよー、そんな嘘、言いふらさないでー」 「そうそう、食いしん坊と言ったらやっぱり、アレよね」(*20) 「きゅい?」 まだまだ話は尽きそうもなかった。 脳天気な話をしている連中もいれば、ただ杯を傾けている連中もいる。 蓬莱山輝夜と八意永琳、そして鈴仙・優曇華院・イナバは、言葉少なに月を 見上げていた。 「イナバが二つに見せてるんじゃないの?」 波長を操作できる鈴仙なら、光を操作して一つのものを二つに見せることなど 雑作もない。 「姫様が一つ増やしているんじゃないですか?」 先日の夜が終わらない騒ぎの元凶は、輝夜が作り出した偽物の月である。 二人そろって盃を干すと、大きな溜め息をついた。そんな二人を照らす月も、二つ。 「確かに世界が違えば、月が二つあってもおかしくはないのでしょうけどね」 永琳も、遅れて溜め息をついた。 「本当にあなたたちって、違う世界から来たのね」 永琳の主人が口を挟む。言葉の意味に気がついたから。 「それにしては驚いてないのね」 「もう驚き疲れちゃったわよ」 大体なんで貴族である私が、夜の野外に酒盛りなんてしないといけないのかしら、 それも地面に座り込んで、などとブツクサ呟きつつ、盃を傾けた。そしてちらりと 斜め向こうを見る。そこでは彼女と付き合っているキザっぽい少年が、自分の呼び 出した使い魔に何かを囁いていた。あんな光景を見せられたら、酔うに酔えない。 うふふ、という笑い声にキッと使い魔を睨むが、永琳は嬉しそうに笑うばかりだ。 「若いっていいわね」 しばらく睨んだ末の言葉がこれだ。色々とやるせなくなって、永琳の主人である モンモランシーは一息に盃を干したのだった。 一方、そのキザっぽい少年の使い魔となったアリス・マーガトロイドは、安堵の 溜め息をついていた。やっと酔い潰せた、と。 基本的には悪い人間ではないと思う。選民思想が少々気になるが、まあ特権階級の 子息ならこんなものだろう。服装のセンスが悪いのも、多分なんとかできる。 だが、語彙の乏しさはなんとかならないものか。延々と同じ口説き文句を 聞かされると、最初いい気分だっただけ落差が酷い。 「?」 そうして落ち着いてみると、なにやら視線を感じる。月の姫達と共にいる少女が なにやらこっちを見ているようだ。アリス自身がそちらを向くと見ていないフリを するが、周囲の状況は腕にさりげなく抱えた上海人形により、常に把握している。 人形の目は彼女の目なのだから。もっとも、状況自体はわかっても、それが何を 意味するものなのかを推測するには、アリスには経験が足りなすぎた(*21)。 特に男女間の人間関係における心情については。こうして今しばらくの間、アリスは 据わりの悪い思いをするのだった。 一方、そんな状況を早速手帳に書き留めている者もいる。 「『三角関係勃発か?』 ……うーん、 『主人と使い魔の恋は成り立つのか?』 の方がいいですかねえ」 「アヤ、今度は何を書いてるの?」 問うたのは彼女の主人。ポッチャリとした体型の彼は、先ほどまで使い魔の 射命丸文から質問責めにあっていたのだ。律儀に使い魔からの質問に答えて いたのは、時に鋭くなる言葉の槍が、妙に心地よかったから。 「ふふふ、秘密ですよ」 そんな文の不敵な笑みもまた、彼の心を撫で上げるようである。これって もしかして恋なのかな?(*22) などと考えるマリコルヌ少年が、自身の性癖に 気がつくのはもう少し先のことである。 一方、文はそんな主人の様子よりも、目の前で起きている出来事の方が重要だった。 そこでは唯一使い魔となった人間、霧雨魔理沙と、主人達の教師であるコルベールが 興味深い話をしていたのだ。先程の藍と魔理沙の会話も興味深いものだったが、 こちらの話もまたそれに劣らず面白そうだ。 「ほう、変わったルーンだ」 「ふーん、そうなのか?」 コルベールに言われ自分の額を撫でる魔理沙。コンタクト・サーバントにより浮かび 上がる使い魔のルーンが、魔理沙は額にあった(*23)。月明かりの下、手元の本を 広げるコルベール。誰からもらったのかそれは、幻想郷縁起(*24)であった。苦労して 魔理沙のページを探すと、そこにルーンの形状を書き込んでいく。 「しょうがないなぁ」 そんな魔理沙の言葉と共に、辺りが明るくなる。見上げれば、本の上に明かりが ともっていた。星も集まれば、月よりも明るい。その輝きをしばし見つめた コルベールは頭を振ると、魔理沙に問いかけた。 「それは一体どういうものなんだね?」 「星の魔法だぜ」 さも当然だと言わんばかりの返答に、コルベールは再度頭を振った。 この世界で人間が使う魔法と言えば、四つの属性に分類されるものだ。例外として コモンマジックと、伝説と言われる虚無。しかしこの魔法は、そのいずれにも該当 しないものだ。いや、少なくともコモンマジックと属性魔法には該当しない。では虚無 魔法か? いや、あれは遠い伝説のものだし、そもそもこの人間は、杖を使ってすら いない。では先住魔法か? いや、彼女は人間だ。それは間違いない。マジック アイテムを所持しているものの、自身は普通の人間であることは、ディテクトマジックで 確認済みだ。ならばそのマジックアイテムの力なのだろうか? コルベールは使い魔の印を書き写す作業に戻りながら、考えを巡らす。それを 知ってか知らずか、さらにコルベールを混乱させる事を口にする。 「他には、恋の魔法とかもあるぜ」 「は?」 「ま、星も恋も、遠くにあって憧れるものさ」 何かの聞き間違いかと思った。今、恋、と言ったのだろうか? どこか遠い目をしてのその言葉に、コルベールは聞き返せなかった。いずれ詳しい 話を聞く機会もあるだろう。彼は三度頭を振ると、本を閉じた。 「ん、終わりか?」 「うむ、これは後日、調べることにしよう。 それより一つ、聞いておいて欲しいことがある」 「あー?」 聞き返す魔理沙は十分に酔っているように見える。これから話すことを覚えて いてくれるかも怪しい。それでもコルベールには伝えておきたいことがあった。 「他でもない、君の主人となる者のことだよ」 当のルイズは、魔理沙の脇で横になり、寝息を立てている。その寝顔がどことなく 微笑んでいるように見えるのは、うがちすぎであろうか。 「もう知っているかもしれないが、彼女――ミス・ヴァリエールは、 魔法が使えないのだ」 「でも、私を呼び出したぜ?」 「ああ。だが明日以降も魔法が使えるかどうかはわからない。 今回が特別なのじゃないかとも思う」 もちろん、そうでないことを願うがね、という言葉とは裏腹に、コルベールの顔は暗い。 「ははん。だから面倒を見ろって?」 「そういうわけではないが……覚悟して欲しい、ということだ」 「ふん、覚悟か。 そんなのは、この世界に来ることを決めた時に、とっくに終わってるぜ」 魔理沙は手に持った茶碗に残った酒を一気に空けた。 「なにしろ私は、普通の人間の魔法使いだからな」 そういうと、おーい、酒が切れたぞー、と傍らの集団に声をかけた。コルベールが 何か言うより早く、新たな酒が魔理沙の茶碗に注がれる。ついでにコルベールの 手にも、コップが持たされた。 「お、おい、私が飲むわけには――」 「まぁまぁ、そういいなさんな。これからも長い付き合いになるんだしさ」 傍らに巨大な鎌を置いた女性が気軽に肩を叩き、コップに酒を注ぐ。その容姿に、 コルベールの相好も思わず崩れる。彼とて木石ではない。女性に酌をされれば それなりに嬉しい。(*25) 「昨日までの日々に別れを。明日から世界に祝福を」 生真面目な雰囲気の女性が盃を掲げると、まだ意識のあるものは自らの酒杯を 掲げた。数瞬の静寂。ある者は離れてきた家を想い、ある者は残してきた者達を想い、 ある者はそこにあった自然を想い……みな幻想郷のことを想い、そして別れを告げた。 こうして今までの昨日は終わり、全く新しい明日が始まったのである。 人間にとっても、妖怪にとっても。 *1 タイトルは、同人弾幕ゲーム「東方風神録」のBGM名より借用 *2 こうやって人間をだまして悪戯する *3 空を飛ぶのと弾幕を撃つのは、幻想郷では標準技能。 *4 大きいの談「きゅいきゅい、きゅいきゅいきゅい!」(訳:そんなことないわ! 普通の風竜と一緒にしないで欲しいのね!) *5 絶対に気がついてる。 *6 酒を飲むありがちな口実。 *7 多分カリスマ度。 *8 多分幼女度。 *9 レミリアの能力は、運命を操る程度の能力。 *10 大きいの談「きゅいきゅい、きゅいきゅいきゅい!」(訳:そんなことないわ! 野蛮な火竜と一緒にしないで欲しいのね!) *11 正装。 *12 親交=信仰。って神主が言ってた。 *13 見ているだけなら安全。 *14 実は寝間着らしい。 *15 早くも幻想郷入りしていた? *16 尻尾枕だったかもしれない。 *17 とてもこき使われたらしい。回転しながら特攻とか。 *18 この弾幕はフランからのパクリなのか? *19 現実逃避。あるいは自己暗示。もちろん、全部幽霊。 *20 ご想像にお任せします。 *21 魔法ヲタクかつ人形ヲタク。 *22 恋ではなく変です。 *23 ミョ(略)ンなルーン。 *24 妖怪にとってはイラスト付きの自己紹介本。自己アピールあり。だから信頼性は不明。 *25 それに体型的にも嬉しい。 前ページ次ページ東方のキャラたちがルイズたちに召喚されました
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前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第三十話「ダダVSギギ」 三面怪人ダダ 三面異次元人ギギ 登場 「『ファイアー・ボール』!」 「『ジャベリン』!」 キュルケが火球を、タバサが氷の槍を放ち、自分たちを取り囲んだギギXY08と09を攻撃する。 「ギギッ!」 しかしギギたちは足を全く動かさないで、高速で横にそれて二人の攻撃を回避した。そのまま 07と合わせて、五人の周囲を旋回して翻弄する。 「速いッ!」 キュルケたちは、アルビオンで自分らを軽くあしらったガッツ星人を思い出した。その時と全く同じ、 慣性すら無視した超高速移動だ。しかも今回は、三人もいる。 「これじゃ、こっちから手が出せないわ……!」 ルイズの杖先が大きく迷う。ギギの動きが速すぎて、狙いを定めることが出来ないのだ。 彼女の爆発は強力だが、狙いの精密性は低いので、こういう敵相手には不利。下手をしたら、 味方に当たってしまうかもしれない。 「ギギギギギ!」 「ルイズ、危ない!」 戸惑っているルイズの背後から、XY07が光線銃を撃つ。そこに割り込んだ才人がデルフリンガーで レーザーを受け止めるが、 「うわあッ! あ、相ぼおおおぉぉぉぅ……!」 「デルフ! デルフまで!」 レーザーは魔法ではないので、デルフリンガーも吸収することは出来ずに豆粒ほどに小さくされてしまった。 剣を失った才人は、代わりにガンモードのウルトラゼロアイを取り出す。 「こっちだ、縞々お化け!」 「ギギギギギギ!」 才人は威嚇射撃を行いながら、07を引き寄せてその場から離れていった。 「サイトぉ!」 「ルイズ、危ないわよ! ぼさっとしないで!」 追いかけようとしたルイズだが、そこに08の目から黄色い光線が放たれたので、慌てて 倒れ込むようにかわした。08はキュルケの炎を回避して、ルイズから離れる。 才人の方は、ルイズたちのところから遠く離れつつ、自分を追ってくる07にゼロアイの 光線を発射する。だが07の動きはやはり速く、当てることが出来ない。 「ギーギギギギギギ!」 「! しまった!」 気がつけば、背後を取られていた。今からではレーザーをかわすことは出来ない。 「デュワッ!」 咄嗟の判断でゼロアイを開き、顔に装着した。それとレーザーを浴びるのが同時だった。 「シェアッ!」 一瞬才人の身体が縮むが、ゼロの姿に変身すると、レーザーを振り払って元の等身大の大きさに戻った。 『ウルトラマンゼロッ!』 『ギギ! 何でお前らが侵略者どもに荷担する! お前らの種族は、凶悪な気質じゃないはずだ!』 ゼロは07に指を突き立てて詰問した。ギギは元々、他の種族を積極的に攻撃する敵性異次元人ではない。 かつてウルトラマンコスモスの宇宙であるコスモススペースの地球に侵入したのは、それまで生活していた 次元が崩壊の危機に瀕したため、移住場所を探すためだった。現在は新しい住居となる次元を発見したので、 もう侵略行為に出る必要はないはずなのだ。 そのことに関して、07が答える。 『それは腰抜けの科学者たちだけの話だ! 我らギギ軍人は、軍部の完璧な移住計画を妨害し、 派閥の地位を貶めた地球人とウルトラマンコスモスに報復を行う! だが住居の次元では、 科学者どもが目を光らせていて準備を進められない。それ故に、奴らの監視の目を逃れる土地が 必要なのだ!』 要するに、軍部の地球を新天地にする計画が頓挫し、手柄をギギ科学者たち穏健派に取られたことを 逆恨みしての、派閥争いの延長線上の凶行のようだった。 『そんな身勝手な理由で、ハルケギニアの人々の土地を奪い取ろうってのか! この大馬鹿野郎どもがッ! 何が論理的で完璧だ! 丸っきり反対だぜ!』 『ほざけ! 邪魔者は誰であろうと排除する! 我らの完璧に傷を入れる者は許さん!』 ゼロに光線銃を向ける07だが、その瞬間にゼロは腕をバツ字に組んで、ウルトラ念力を発揮した。 「ジュワッ!」 「ギギィッ!?」 念力によって光線銃からボン! と音が鳴り、黒い煙が立ち昇った。07が引き金をカチカチ鳴らすが、 もうレーザーは出ない。故障した光線銃をかなぐり捨てた07は、来た道を引き返してゼロから逃げていく。 『待てぇッ!』 すぐにゼロが駆け出し、それを追いかけていった。 元の場所では、依然としてルイズたちが08と09に苦戦していた。 「ギギギギギギギギギ!」 「くッ……! さっきからギギギギうるさいわね……!」 嘲笑うように鳴き声を上げるギギたちに、キュルケが苛立って舌打ちした。とそこを、 コルベールに突き飛ばされる。 「危ないミス・ツェルプストー!」 「きゃッ!」 キュルケの頭があった位置を、09の赤い光線が通りすぎていった。キュルケをかばった コルベールは杖を構えると、敵の動きをよく見据え、杖の先から炎の鞭を飛ばす。 「ギギギィッ!」 炎の鞭は08、09を同時に打ち据え、動きを止めた。 「当たった!?」 「意外……」 喧嘩を一度もしたことがなさそうな見た目のコルベールが、タバサも捉えられなかった ギギの動きを見切ったことに、ルイズたち三人は驚かされた。 だがそのコルベールに、舞い戻ってきた07が目から光線を撃とうとする。 「先生ッ!」 『おらぁぁッ!』 コルベールの危機を、ゼロが流星キックで07の頭部を蹴り飛ばすことで救った。07は吹っ飛び、 青い光線は天井に当たる。 「ウルトラマンゼロ! ありがとう……」 『礼はまだ早いぜ、先生。奴ら、立ち上がってくる』 「先生って知ってるんだ……」 キュルケがツッコんでいると、起き上がったギギたち三人は高速移動でゼロを翻弄しようとする。 「シャッ! セアッ!」 だがゼロはその動きを見切り、背後に光線が三方向に分かれるワイドゼロショット、言うなれば スリーワイドゼロショットを撃った。 「ギギギギィッ!」 光線は見事ギギたち三人に同時に命中し、大きく弾き飛ばして壁に激突させた。 ダダの待機している教室では、再びモニターが点き、マグマ星人が命令を飛ばした。 『ウルトラマンゼロだ! 迎撃しろ!』 『了解! ウルトラマンゼロを倒すダダ!』 命令を受けたダダは、腕に力を込めてガッツポーズを取ると、透き通るようにその姿を消した。 そして直後に、学院の外に巨大化した状態で出現した。 「ダ―――ダ―――――!」 「ゼロ! 敵が外に!」 『分かってるぜ! デュワッ!』 窓から外のダダを指差すルイズ。ゼロはテレポートをすると、巨大化してダダの後ろに出現した。 「ダ―――ダ―――――!」 振り返ったダダはゼロへと走っていき、殴りかかる。だが腕を掴まれて、綺麗な一本背負いを 食らって大地に転がった。 「ダ―――ダ―――――!」 悶えるダダだが、その姿が急に消える。直後にゼロの背後に、髭の生えたような顔のダダが 現れて羽交い絞めにした。 「さっきのと顔が違うわ! あいつも複数いるの!?」 塔から中庭に飛び出したルイズたちは、ダダの顔を見て疑問を抱いた。しかしそれは違うことを ゼロは知っていた。 『つまらねぇ真似はよせ! 本当は一人だけなんだろ!』 ダダを振り払いながら突きつけるゼロ。ダダには顔を三パターンに変える能力があり、 複数いるように見せかけて敵を欺く戦術を得意とする。だがタネが割れている手品など、 何の意味もない。 『ぜああぁぁぁぁッ!』 「ダ―――ダ―――――!」 三つ目の顔に変わったダダに瞬時に接近し、ボディに連続パンチを入れると、横拳を入れて 大きく殴り飛ばした。ダダは格闘戦に優れてはいないようで、ゼロに一方的に押される。 その時、学院から新たな敵が飛び出して大地の上に立った。 「ギギギギギギギ!」 「! あれは、さっきの奴じゃない!」 「顔が三つになってる……!」 新たな敵は巨大化したギギだった。しかし、ただ巨大化しただけではない。三人が重なり合って 合体することで、首の三方向に顔面を持った、プログレスという状態になっている。 『邪魔だ、どけぃ!』 「ダダッ!」 巨大化、合体したギギは倒れているダダを蹴飛ばして、ゼロへ悠然と近づいていく。ゼロは その足元にビームゼロスパイクを撃ち込む。 「ギギギギギギ!」 だがギギは巨大化しても損なわれていない高速移動能力で光弾を回避し、ゼロの周囲を 旋回して翻弄する。背後に回ったところで、正面の顔から青い光線を発射して攻撃した。 「ゼアッ!」 「ギギギギギギギギギ!」 ギギの左側に逃れるゼロだが、相手の左後方へ回ると、黄色い光線が飛んでくる。反対側へ 転がっていったら、赤い光線を撃たれる。三方向に顔面を持つギギは、直立したまま全方位へ 攻撃することが出来るのだ。360度に隙がなく、ゼロを寄せつけない。 『だったら真上はどうだ!?』 しかし頭上だけは唯一の死角。それを見抜いたゼロが上から攻撃しようと飛び上がる。 「ギギッ!」 だがその瞬間にギギが三人に分離すると、07が素早くゼロの後方に回り込み、三人同時に 顔から光のロープを発して左腕、右腕、両足を縛り上げた。 『何!? ぐッ、ぐおおおぉぉぉぉ! 身体が、引き千切れる……!?』 『我らの切り札、重力制御光線グラビトンビーム。このままバラバラにしてくれる!』 ゼロを空中に持ち上げたギギたちが、グラビトンビームで締め上げる。ゼロは光線から 逃れようともがくが、光線はきつく締めつけて離れない。 『だったらこうだ! うおおおぉぉぉッ!』 捕まった状態でストロングコロナゼロに変身するゼロ。しかしストロングコロナの怪力を以てしても、 グラビトンビームは振りほどけない。 『無駄だ! どんな力があろうと、これから逃れることは出来ない! お前は最早死を待つのみだ!』 豪語する07。が、ゼロは動じなかった。 『ロープが千切れないんなら……根元のお前らを引っこ抜くッ! おおおおおぉぉぉぉぉッ!!』 「ギギィ!?」 ゼロは勢いよく大空へ飛翔。それによりギギ三人がビームに引っ張られて持ち上がり、 アメリカンクラッカーのように衝突し合う。そして、 『だりゃああああぁぁぁぁぁぁ――――――――!!』 「ギギィーッ!」 大空からゼロが急降下したことにより、三人とも大地に激しく叩きつけられた。根元のギギたちが 大ダメージを受けたことにより、グラビトンビームは消滅した。ギギたちがストロングコロナの パワーに抗えている訳ではない点を突いての攻略法だった。 「ギギギギギギギ……!」 それでもしぶとく立ち上がったギギたちは再度合体して、プログレスに戻った。敵が完全に 再起する前に、ゼロがとどめの一撃を繰り出す。 『でりゃああああああああッ!』 赤く燃え上がるウルトラゼロキックが、ギギの頭上に迫る。しかしギギはその瞬間に頭上に バリアを展開し、ゼロキックを受け止めた。以前に頭頂部の弱点を突かれたことでコスモスと 地球人に敗北を喫した反省から生み出した対抗策だ。 バリアはストロングコロナのキックすら止めた。が、ゼロの方はそれで止まらなかった。 『メビウス! 技を借りるぜ! うおおおおおぉぉぉぉ――――!』 飛び蹴りの姿勢のまま、高速きりもみ回転を始めるゼロ。それにより足の炎は再燃し、 バリアがゴリゴリ削られていく。ゼロの先輩となるウルトラマンメビウスが、あらゆる光線を はね返す身体を持つリフレクト星人を攻略するために、レオの課した特訓を乗り越えて開発した、 摩擦熱でキックの破壊力を高める技、スピンキックだ。 果たしてスピンキックはバリアを突き破り、ギギの頭頂部に突き刺さった。 「ギギギギギギィ――――――――――!」 頭頂部から火花を噴いたギギはガクリと崩れ落ちて、大爆発を起こした。 「ダ……ダ―――ダ―――――!」 元の顔に戻ったダダはギギの敗北を目にして、やけくそ気味にゼロに向かっていく。だが同じく 通常状態に戻ったゼロのエメリウムスラッシュを顔面に食らって大火傷を負った。 「ダ―――ダ―――――!」 きりきり舞いしてまたも倒れたダダが、テレポートで姿を消した。ゼロは周囲を警戒するが、 ダダは現れる気配を見せなかった。 それもそのはず、ダダは等身大の大きさで教室に戻っていた。そしてほうほうの体でモニターの スイッチを入れて、マグマ星人に報告する。 『駄目だ……ウルトラマンゼロは強い……!』 それを聞いたマグマ星人はしかし、冷酷に命令を下すだけだった。 『速やかに任務を完了させろ! 急げ!』 「シエスタさん……外の状況は、どうなってるんですか……?」 「だ、大丈夫です。すぐにゼロが敵をみんなやっつけますよ」 ルイズの部屋では、ベッドの上の春奈がシエスタに尋ねかけていた。二人とも、学院に 異常が起こっていることと、外でゼロが戦い始めたことはすぐに気づいた。しかし春奈は 激しく運動させられない状態。そのため、ずっと息を潜めていたのだ。 『シエスタ、危ない! 敵だ!』 「え? きゃあッ!?」 だが、この場所をダダに突き止められてしまった。いつの間にか部屋の中にダダが侵入し、 火傷を負った顔で光線銃を向けている。 「は、ハルナさん!」 シエスタは春奈を抱えながら、窓際へと追い詰められていく。窓を開放してギリギリまで ダダから逃れるが、落ちればどっちにしろ助からない。 にも関わらず、シエスタと春奈は足を滑らせて窓から転落してしまった。 「きゃああああああああああ!?」 「見て! シエスタと、誰かが落ちてくる!」 キュルケがそれに気づいて叫んだ。タバサが杖を握り直したが、それより早くゼロが動く。 『うおおおおおッ! 間に合えぇッ!』 ヘッドスライディングするように二人をキャッチ。静かに地面の上に降ろしたので、ルイズたちは ほっと息を吐いた。 長く変身しているのでカラータイマーが鳴るが、構わずにルイズの部屋の中のダダを見下ろすゼロ。 それに脅えたダダは、光線銃をバンバン叩いてから引き金を引く。 故障の直った銃から光線が放たれ、ゼロに浴びせかけられるが、ゼロはそれを振り払うように跳んだ。 と同時に、ダダが部屋の中から消える。 『あだッ!』 ゼロは光線の効果で人間大まで縮小され、部屋の中に転がった。代わりに、再度巨大化した ダダが三つ目の顔で外に仁王立ちする。 『こんなもの……デュワッ!』 身長差を逆転されたゼロだが、気合いを入れて身体を光らすと、元の大きさに一瞬で戻った。 ミクロ化機の効果まで通用しないとなって、ダダはとうとう根を上げたか、透明化して戦場から逃げ出す。 しかしゼロに、宇宙人連合の刺客をみすみす逃がすつもりはなかった。両目から空へウルトラ眼光を 発すると、空を飛んで逃走しているところのダダの姿を暴き出す。そこに本気のワイドゼロショットを撃ち込んだ。 「ダ―――ダ―――――……!」 撃たれたダダは黒い煙を立ち昇らせながら墜落。野原にぶつかると、爆発四散した。 敵を全て倒したゼロだが、まだやることは残っている。ルナミラクルゼロに変身すると、 自分から小さくなってルイズたちの下に立った。 「わッ!? ゼロ!」 『宇宙人たちに小さくされた奴らはそこだな』 コルベールが運んできたケースを地面の上に降ろすと、ゼロが超能力でギギの使っていた 光線銃を手元に召喚し、更に復元して故障を直した。それから銃の側面のダイヤルの向きを 反対にし、小さくされた者たちにレーザーを照射した。ギギの光線銃は、ダイヤルを逆にすることで 機能が逆転するのだ。 「わああああッ!」 「ふう、元に戻れたぜ。もう小さくなんのはごめんだ」 すると小さくされた人たちはデルフリンガーも含めて全員、元の大きさに戻った。一気に 元に戻したので、中庭が一気に埋まってしまったくらいだ。 皆を元に戻すと、ゼロは光線銃を握り潰して改めて破壊した。こんなものがあったら、 また騒動の種になる。 「デュワッ!」 「ありがとーう、ウルトラマンゼロー!」 何もかもを元通りにしたゼロは、ようやく空へ飛び立って去っていく。それをコルベールら、 助けられた人たちが手を振って見送った。 さて、学院の侵入者が退治されると、学院はその事後処理を行うことになり、生徒たちは 一旦寮塔に戻ることとなった。才人たちはそのどさくさに紛れて、春奈をルイズの部屋へと連れ帰った。 「よいしょ……春奈、大丈夫だったか?」 才人がお姫さま抱っこした春奈を、ベッドに戻して寝かせた。その様子を、ルイズがイライラした 様子でながめていて、シエスタはそのルイズに戦々恐々としていた。 「うん……。落っこちた時は怖かったけど、平賀くんのお陰で怪我一つないよ」 気遣われた春奈は才人に頬を赤く染めながら笑顔を向ける。それで才人は釣られて笑った。 「はは。俺が助けたんじゃないよ。みんなゼロがやってくれたことさ」 「それでも、平賀くんも私のために戦ってくれたんでしょ? 嬉しいな……」 「春奈……」 才人と春奈が見つめ合っていると、ルイズがわざとらしく咳払いして、注目を自分に集めた。 「サイトだけじゃなくて、わたしも一緒だったんだけど? わたしの方には、何かお礼はないのかしら?」 「えッ、えっと……」 春奈が言いよどむと、才人が顔をしかめてルイズを咎める。 「やめろよルイズ、そんなきつい言い方して。春奈は病人なんだから、もうちょっと気遣ってやれよ」 と言うと、ルイズはますます不機嫌さを募らせる。 「何よ、随分親切にするじゃない。そこまでハルナが大事なのかしら?」 「何言ってるんだよ、病人なんだから大事にするのは当たり前だろ。もう、そんなに大声出してたら、 春奈の身体に障るかもしれないじゃねえか」 才人の物言いに、ルイズは更に腹を立てた。 「何よそれ! いくら病人だからって、わたしのことはどうだっていいっていうの? 大体、 わたしには、そんなに優しくしてくれたことないじゃない……」 「だってお前、いつも元気じゃんか。それとも病気になりたいのか? 変な奴」 「変って何よ変って! そういうことじゃないわよ! もう、馬鹿なんだから」 ブツブツ不平を漏らしていると、春奈がキッと目を吊り上げてルイズを睨んだ。 「いい加減にしてください」 「ッ!」 「平賀くんは、別にルイズさんの道具ではありません。それは一番ルイズさんが知っているはずでしょ?」 「あ……あんたに、そんなこと好き勝手に言われる筋合いはないわよ! それに、何よ! 病気病気って、そんなに病気が偉いわけ? サイトなんて知らないんだから!」 春奈に逆上したルイズは、そのまま部屋を飛び出していってしまった。 「あ、おい、ルイズ!」 追いかけようとする才人だが、シエスタがそれを止めて申し出た。 「わたしが行ってきます。今はサイトさんよりは、わたしがお話ししたほうが良いと思いますし。 サイトさんは、ここで待っててください」 と才人を部屋に留めると、シエスタも部屋を出ていった。 部屋から飛び出したルイズは、塔の空き部屋で一人自省をしていた。 「……なに考えてるのよ、わたし。自分でもわけ分かんない。そもそもサイトは悪くないのに…… あんなこと言っちゃって」 一人つぶやいていると、シエスタが追いついて中に入ってきた。 「ミス・ヴァリエール。ここにいたんですね? 探しましたよ」 「シエスタ……。な、何の用よ」 「サイトさんは、部屋に残ってもらいました。ここにはわたしとミス・ヴァリエール、それと ジャンボットさんだけです。他の誰にも話は聞かれません」 「へ?」 急にそんなことを言うシエスタに面食らうルイズ。シエスタはそのまま続ける。 「ミス・ヴァリエール。お気持ちは良く分かります。今のサイトさんは、ハルナさんが現れてから、 彼女のことしか考えていない……。いえ、それは言い過ぎとしても、今はハルナさんのことを 一番に考えてます。もちろん、それはサイトさん本来の優しさであることは、わたしも分かってるつもりです」 「……」 「ハルナさんはどうみても、サイトさんに気があると思って間違いないでしょう。このままでは、 サイトさんはハルナさんに取られてしまいます。いえ、それだけならまだいいのですが…… 最悪、時が来たらハルナさんと一緒に元の世界に帰っていってしまうかもしれません」 『それで良いではないか。サイトが故郷に帰るのは、至極当然の権利だ』 「ジャンボットさん、今は黙ってて下さい。これは女の話なんです」 ジャンボットが口出しすると、シエスタにたしなめられた。その声音に言い知れぬ迫力が あったので、ジャンボットは思わず閉口した。 「ミス・ヴァリエール、率直に言います。今の間だけ、手を組みませんか?」 「あんたの言い分は分かったわ。でも、平民がわたしに指図をするなんて、どうかと思うわ」 素直にシエスタの申し出を受け入れられないルイズを説得するシエスタ。 「ミス・ヴァリエール。あなたの信条に口出しする気はありませんが、今はそんなに甘い状況ではありません。 ハルナさんはサイトさんと同じ世界の人です。サイトさんは口にはしませんが、きっと、今も故郷が恋しいはずです」 セーラー服の騒動を思い出すルイズ。才人があんな行動に出たのは、故郷を懐かしんで という理由もあったのだろう。 「そんなサイトさんにとって、ハルナさんは故郷なんです。きっと、サイトさんはハルナさんに、 特別な感情を持ってるはずです。しかも悪いことに、ハルナさんもサイトさんに故郷を感じています。 そして、それを利用しようとしています」 「り、利用!?」 「たとえば、ハルナさんの病気。触った時分かりましたが、あの時にはもう熱は下がってました」 「え、本当?」 『それは確かだ。私もバイタルチェックをしたが、少なくとも今は自力で立てない状態では 決してない。それなのにサイトに甘えるので、奇妙には感じていた』 ジャンボットも口添えした。 「……それじゃ、なに? あの娘は、仮病を使ってサイトの親切心につけ込んでるってわけ?」 「そうです。正直もので、優しくて、だまされやすいサイトさんは、それに気づいていません。 ハルナさんは、サイトさんをより占有する方法として、仮病を使ってきました。きっと、 わたし達とサイトさんの関係を見て、勝負をしかけてきたと思われます。このまま放置していたら、 ハルナさんの思うつぼです」 「ふ、ふふ……。わたしの部屋で、そんな真似が許されると思われてたとはね……。ずいぶんと 舐めたことをしてくれるじゃないの」 怪しい感じに笑ったルイズは、その気になってシエスタに向き直り、固い握手を交わした。 「いいわ。あの性悪女をやり込めるまでの間だけ、休戦といきましょう」 「では、同盟成立ですね。頑張りましょう。サイトさんのためにも!」 「サ、サイトはどうでもいいのよ。ご主人様のこと、ぜんぜん考えてくれないし……。あの バカ使い魔のことなんか……」 あくまで意地を張るルイズ。その様子を端から見ていたジャンボットは、はぁとため息を吐いた。 『何やらおかしなことになってきたな……。やはり、有機生命体はよく分からない。私も、 ジャンナインのことをまだまだとやかく言えないな……』 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
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前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百六話「暗王からの使い」 毒ガス幻影怪獣バランガス 火炎飛竜ゲルカドン 登場 ミョズニトニルンを背にするタバサは、連続して氷の矢を飛ばして攻撃してくる。才人は横に 転がることでどうにか避ける。 「タバサ! お前これ、一体どういうつもりだよ!」 タバサに攻撃される理由が全く分からない才人が怒鳴るが、返事は氷の矢であった。 「くッ……!」 才人はデルフリンガーで氷の魔法を吸い込むことで防御。再びタバサに問いかける。 「どういう理由があって、俺を攻撃するんだ」 それにタバサは短く答えた。 「命令だから」 「……お前ッ! タバサに何をしたんだ!?」 才人はミョズニトニルンがタバサの精神を操作しているのではないかと考えたが、ミョズニトニルンは 冷笑を浮かべて否定した。 「わたしは何も特別なことはしてやいないさ。さっき言っただろう? この子は、北花壇騎士。 わたしたちの忠実なる番犬だもの」 「番犬?」 「見ものだねえ。シュヴァリエ対シュヴァリエ。わたしの主人が小躍りして喜びそうな組み合わせだよ」 ミョズニトニルンは余裕でも見せつけているのか、その場に留まって才人とタバサの戦いをながめている。 才人は跳躍し、一気に距離を詰めてタバサの杖を切り落とそうとしたが、タバサは魔法で 軽やかに跳ねてかわした。タバサの体術と魔法を組み合わせた動きに才人は翻弄される。 「くそッ、はえぇ……」 「相棒の心が震えてねえからだ」 「そりゃそうだよ! 何で俺があいつと……」 才人が翻弄されているのは、いつもの半分の力も出せていないからでもあった。まさか、 タバサ相手に本気で攻撃するなんてことは出来ない。せいぜい、杖を切り落とそうとする 剣戟を繰り出すのが精一杯。そんな剣の軌道は簡単に読まれてしまうのだ。 何度かの攻防の後、才人とタバサは十五メイルの距離を挟んで対峙した。するとタバサは 中腰にずっしりと構えて、呪文を詠唱し出す。 途端、タバサの魔力が色濃くなり、彼女の周囲に陽炎のように漂い始めた。向こうは勝負を 決めるつもりのようだ。 才人も息を呑み、もう一度タバサに呼びかける。 「タバサ。お前は強いから、手加減できねぇ。……どいてくれ! お前を斬りたくはねぇんだ!」 だが、タバサの呪文は途切れなかった。才人は諦めたように首を振ると、跳躍する。 同時にタバサも杖を振り下ろし、氷の槍が放たれた。 剣と氷の槍が交差。氷の槍は砕け散って、才人は氷の破片の隙間を突き進むが、タバサは もう一本の槍を用意していた。 「一本目は囮か!」 「うぉおおおおおおお!」 才人の絶叫に合わせて左手のルーンが光り、才人は加速。距離を詰めてタバサを突き飛ばし、 あおむけに倒れた小さな身体に馬乗りになってデルフリンガーを振りかぶった。 「杖を捨てろ!」 最後の警告を送るが、それでもタバサは杖を捨てず、氷の槍を突き出す。 才人もやむなく、剣を振り下ろした。 ドシュッ! ……剣と槍が交差した後、タバサは呆然と才人を見つめた。 剣はタバサの顔の横に突き立てられ、槍の先端は才人の脇腹に刺さっていた。 「……どうして?」 口の端から血が垂れる才人に尋ねかけるタバサ。才人は明らかに、剣の切っ先を外したのだ。 苦しそうな顔で才人はつぶやいた。 「だってよ……お前を殺せる訳ねぇだろ……。ルイズを守るためでも……何度も助けてくれたお前を、 犠牲に出来るかよ……」 「……」 タバサの碧眼から、透き通った液体が流れ出たのを才人は見た。 次いで才人を突き飛ばして、杖を振るって風と雪の破片を作り出す。 才人はとどめを刺されるものかと思ったが、違った。雪片は、ミョズニトニルンに向かって 放たれたのだ! 雪片はガーゴイルをズタズタに裂いた。飛び下ろさせられたミョズニトニルンの目が、 すっと冷たく細められた。 「おや……北花壇騎士殿。飼い犬が主人に刃向かおうというの?」 「……勘違いしないで。あなたたちに忠誠を誓ったことなど一度もない」 「ああそう……」 ジロッとタバサを見据えたミョズニトニルンが、すっと腕を上げた。 「主人に牙を剥くような飼い犬は、処分しなくちゃねぇ」 「クアァ――――――!」 それを合図に沈黙を保っていたバランガスが行動を開始。全身の噴出孔から、赤い毒ガスを 噴き出し始めた。 「うッ……!」 タバサは風を起こして毒ガスを散らすが、その間にバランガスがゆっくりと彼女に迫り、 押し潰そうとする。 才人は赤いガスに覆われている状況を利用し、ウルトラゼロアイを装着した! 「デュワッ!」 たちまち巨大なウルトラマンゼロへと変身! ゼロは猛然と飛び出し、タバサに迫るバランガスに 組みついて進行を阻止した。 「セェェイッ!」 「クアァ――――――!」 バランガスは力ずくでゼロを振り払うと、狙いをタバサからゼロに移し、後ろ足で立ち上がって ゼロと対峙した。 ゼロがバランガスを引きつけている間に、タバサはミョズニトニルンを見据えたが、ミョズニトニルンの 方にタバサと事を構える意思はなかった。 「獲物はいただいていくわよ」 そう言った瞬間、上空から巨大な影が降ってきた。 「キュアアアッ!」 全長六十メイル以上もあるトカゲ型の怪獣。腕が四本もあり、その間に皮膜が生えているという 異様な姿で飛行している。 火炎飛竜、ゲルカドン! 『あれは……あいつが噂の怪鳥の正体か!』 才人はそう判断した。羽の差し渡しが百五十メイルというのは大袈裟だが、暗闇で恐怖とともに 大きさも倍化して見えたのだろう。 ミョズニトニルンはルイズを抱え、ゲルカドンの背の上に飛び乗った。ゲルカドンはそのまま浮上し、 上空へと逃れようとする。ルイズを連れていくつもりだ! 『させるかぁッ!』 そんなことはさせないと、ゼロはゲルカドンに向かってゼロスラッガーを投擲する構えを取った。 「クアァ――――――!」 だが背後からバランガスよりぶちかましを食らい、はね飛ばされた。 『ぐわッ! このヤロッ!』 ゼロは先にバランガスを倒そうと、左腕を横に伸ばした。ワイドゼロショットの構えだ。 しかしその瞬間に脇腹に激痛が走り、姿勢が崩れた。 『ぐぅッ……!?』 先ほど、才人はタバサから手痛い負傷をもらってしまった。そのダメージがゼロにも反映されているのだ。 如何に凄腕のゼロでも、重傷を負った状態では満足に戦うことは出来ない。 「クアァ――――――!」 バランガスはそれをいいことに、ゼロに突進して突き飛ばすと、その上にのしかかった。 「クアァ――――――!」 動きを封じ込んだゼロに毒ガスを浴びせる! 『うぐあぁぁぁぁッ!』 この攻撃にはゼロも大いに苦しめられる。カラータイマーが早くも危険を知らせ始めた。 バランガスに足止めされているゼロに代わり、タバサが呼び寄せたシルフィードに跨って ゲルカドンを追いかけ、その前方に回り込んだ。 「ウィンディ・アイシクル!」 目を狙って氷の槍を放ったが、ゲルカドンは口から火炎を吐き出して氷の槍を溶かしてしまい、 タバサとシルフィード自身も狙った。タバサたちはたまらずゲルカドンの側方に逃れる。 そこからゲルカドンの体表にウィンディ・アイシクルを発射するも、突き刺さらずに弾かれてしまう。 「キュアアアッ! キュアアアッ!」 ゲルカドンは周囲に火炎をまき散らしてタバサを執拗に襲う。懸命に立ち向かうタバサだが、 彼女の氷の魔法はゲルカドンに対してあまりにも相性が悪い。その上、才人との戦いで既に精神力を 消耗した状態にある。このままでは勝ち目などない。それでも彼女は抗っている。 タバサがピンチであるが、ゼロはバランガスに下敷きにされたまま切り返すことが出来ないでいた。 やはり、脇腹のダメージが重すぎる。 この状況下で、才人は己のことを深く悔やんでいた。 (くそ、俺は何やってたんだ……。俺がもっとしっかりしてれば、負傷することもなかったはずなのに……!) タバサとの戦いの時に迷いを振り払い切れなかった。覚悟を決めてガンダールヴの全力を 出せていれば、深手を負うことなくタバサを無力化することも出来ていただろうに……。 自分が甘かったせいでこんな事態になってしまった。このままでは、ゼロもタバサまでもが やられてしまうかもしれない。 (何がシュヴァリエだ……。浮かれてた自分が恥ずかしい……!) 悔やむ才人の脳裏によみがえったのは、コルベールの顔。才人が人のために戦う努力をする 決意を固めたのは、大好きだったあの先生の存在もあった。 異邦人に過ぎない自分のことを認め、心配し、困った時にはいつも助けてくれたあの人。 生徒のために立ち上がる、勇敢な心を持ったあの人。過去の罪を悔やみ、世のため人のために 働こうという道の半ばで倒れてしまったあの人。才人はコルベールの生き様に尊敬の念を抱き、 彼のようになりたいとも思っていた。それなのに……。 (俺、コルベール先生のようには半分も……十分の一もなれてねぇよッ……!) 才人が心の中で叫んだ時……はるか上空で、何かが光った。 そして荒れ狂う炎が天から降り注ぎ、ゲルカドンの顔面に炸裂を引き起こした! 「キュアアアッ!」 爆発の衝撃を顔に浴びたゲルカドンはひるみ、タバサへの攻撃の手を止めた。そのお陰で タバサとシルフィードは救われる。 炎はバランガスにも命中し、バランガスも一瞬動きが鈍った 「クアァ――――――!」 『! てぇやぁッ!』 その隙を見逃すゼロではない。力を振り絞ってバランガスを押し上げ、遠くへ投げ飛ばした。 『どぉりゃあぁッ!』 バランガスを払いのけて立ち上がったゼロが見上げたその先の空から……巨大な何かの影が 降下してきた。シュシュシュシュシュ……という聞き慣れない音がそれから聞こえる。 そしてゼロの目に飛び込んできたのは、巨大な翼。差し渡しは、百五十メイルはあろうか。 ゲルカドンよりも更に巨大だ。そして翼の後ろには、プロペラが回っている。胴体はハルケギニアの 空飛ぶフネのようであるが、航空力学の理に適った流線型をしていた。 フネというよりは、才人が駆っていたゼロ戦……『飛行機』によく似た形状であった。 「キュアアアッ!」 ゲルカドンは両目からレーザーを放って反撃したが、翼を持ったフネは巨体に似合わないほどの 速度で旋回、回避した。通常のフネではありえない飛行性能だ! そしてフネから、拡声器か何かを通したようなエコーのかかった声が発せられた。 「“ウルトラマンゼロ、聞こえているでしょうか?”」 それは今の才人が、誰よりも聞きたかった声……コルベールの声であった! 『――えッ!? 何で生きてんの!?』 驚かされて腰を浮かすゼロ。彼が声に反応したことで、コルベールは続いて呼びかけた。 「“こちらで飛行怪獣の動きを止めて隙を作ります。その間に仕留めて下さい”」 それでハッと我に返ったゼロは、首肯することで返事を示した。 フネから一斉に、コルベール謹製のマジックアイテム“空飛ぶヘビくん”――地球で言うところの ミサイルが発射され、ゲルカドンに次々直撃。連続した炸裂を食らってゲルカドンが姿勢を崩した その瞬間を狙い、ゼロが動く。 『ウルトラゼロランス!』 ウルティメイトブレスレットからウルトラゼロランスを出し、ゲルカドンに向けて一直線に投擲! ぐんぐん空を突っ切っていったランスは、見事ゲルカドンの胴体を貫いた。 「キュアアアッ! キュアアアッ!」 ゲルカドンはもがき苦しみ、一気に高度を落としていく。ゼロはそれを目指して駆け出した。 才人の心の沸き上がりによって、気がつけば脇腹の痛みも消えていた。 コルベールが生きていた……。それは才人にとって、これ以上ないほどの喜びであったのだ。 「まずいね」 落下していくゲルカドンの上でミョズニトニルンは舌打ちした。このままでは、確実に自分も捕まる。 やむを得ず、ミョズニトニルンはルイズを放り出してゲルカドンの背を蹴った。ルイズを囮にして、 自分はバランガスの方へ乗り移った。 ゼロは空中に投げ出されたルイズをキャッチ。ゲルカドンは直後に爆散した。 『よっしゃ!』 駆けつけたタバサに取り返したルイズを託すと、バランガスの方へと振り向いた。 「クアァ――――――!」 途端に、バランガスはガスを辺りに充満させて身を隠す。 ゼロは即座にガスの中に飛び込んでバランガスを捕らえようとしたが……いつの間にか、 バランガスの気配は消えていた。 ガスが晴れる。やはり、バランガスの姿は周囲のどこにもなくなっていた。 『逃げやがったな……』 ゼロはひと言つぶやき、変身を解除して才人の姿に戻ったのだった。 激戦の夜が明けた、朝。才人たちを救ったコルベールのフネは、学院から離れた草原に停泊された。 学院の生徒や教師たちが集まり、遠巻きにしながら興味津々に見つめていた。 「合計三つの回転する羽が、このフネに帆走の数倍に達する推進力を与えるのです。あの回転する 羽を動かす動力は……、石炭によって熱せられた水により発生する水蒸気の圧力で得ています。 “水蒸気機関”とわたしは呼んでおります。あの“竜の羽衣”に取りつけられた動力装置と、 似たような設計です」 当のコルベールはフネのことを、オスマンに説明していた。 「すごいフネじゃな……、どうしてあのように巨大な翼を取りつけたのじゃ?」 「東へ行くためです。長い航続距離を稼ぐためには……、なんとしても風石の消費を抑えねばなりません。 あの巨大な翼でフネを浮かす浮力を稼ぐのです。そのためわたしは、このフネを『東方(オストラント)』号と 名づけました」 「いや見事じゃ。軍艦に応用したら、どれだけの空軍力が編成できるか……」 「私はこれを軍艦にするつもりはありません。あくまでこれは“探検船”なのです。使用した技術は 対怪獣用にならば提供の意思はありますが、研究費はミス・ツェルプストーの家から出ておりますし、 これの船籍はあくまでゲルマニアに所属します。トリステイン政府が勝手に軍艦に使用することは、 外交問題になりますでしょう」 コルベールとオスマンのやり取りを、ちょっと離れたところでキュルケ、ギーシュ、モンモランシー、 ルイズ、そして才人が見守っていた。 モンモランシーが、気の抜けた声でつぶやく。 「あの先生、生きてたのね……、というかあんた、どうして“死んだ”なんて嘘ついたのよ」 キュルケが、得意げに髪をかきあげて答える。 「だって……、あの怖い銃士隊のお姉さんを騙さなくちゃいけなかったでしょ? あのままじゃ、 わたしのジャンは殺されてたわ」 「わたしのジャンってどういうこと?」 「いやだわ。彼の名前じゃないの」 「はぁ? 彼の名前?」 「そうよ。素敵な名前……」 うっとりとしたキュルケの声で、モンモランシーは彼女の想いに気づいた。 「あんた……、まさか……」 「そのまさかなの。だってわたしのジャンってば、あんない強いし、その力をひけらかしたりしないし、 物知りだし、終いにはあんなすごいフネまで造っちゃうんだもの!」 「何歳離れてるのよ」 「年の差なんか、何の障害にもならないわね」 「頭薄くない?」 「太陽のようだわ。情熱の象徴ね!」 のろけるキュルケにモンモランシー、ギーシュが呆れ果てる一方で、才人はゼロにこそっと尋ねかけた。 「ゼロ、お前までキュルケの嘘に気づかなかったのか?」 『いやぁ、全然……。だってさぁ、あの状況で生きてるなんて思わないだろ?』 「いやまぁ……うん、そうだね」 うなずく才人。かくいう自分も、雰囲気に呑まれて信じ込んだ。勢いあまって墓まで建てたほどだ。 コルベール本人から苦笑いされて『悪いけれど、後で撤去しておいてくれたまえ』と言われてしまった。 「ミス・ツェルプストー」 「はーい! っていうかキュルケってお呼びになって! と何度言ったらそうしてくれるの! いやだわ! わたしのジャン!」 コルベールに呼ばれ、キュルケはスキップでも踏みかねない勢いで飛んでいった。その背中を 見送ったモンモランシーがぽそりとつぶやく。 「まぁ、収まるべきところに収まったのかしらね」 ギーシュがモンモランシーの肩に手を伸ばした。 「よく分からんが……、ぼくらも収まるべきところに収まろうかね……、あいで」 モンモランシーに手の甲をつままれた。 「痛いじゃないかね!」 「あんた、サイトたちが大変なことになってたとき、何してたの?」 「いやぁ、舞踏会で……」 「騎士隊作ったんなら! ちゃんと働きなさいよ! 隊長でしょ! あんた!」 ぎゃんぎゃん怒鳴られ、ギーシュはしょぼんと肩を落とした。 その傍らで、ルイズは才人に告げた。 「サイト、また助けてくれてありがとう。そして、コルベール先生が生きててよかったわね」 「うん……」 しかし、才人はどこか浮かない表情であった。 「どうしたの? 先生が死んだと思った時、あんなに悲しんでたのに……嬉しくないの?」 「そりゃもちろん嬉しいさ。でももう一つ、気がかりなことがある……だろう?」 聞き返され、ルイズは難しい顔になって首肯した。 「ミョズニトニルンと名乗った女と、タバサのことね……」 二体もの怪獣を操っていたミョズニトニルンという女……何者なのだろうか。しかもタバサと 何らかの関係まであるようであったが……。ガリアのシュヴァリエであるタバサを「自分たちの番犬」と 呼んでいたが……まさか……。 タバサにそのことで問いただしたいところであるが、肝心のタバサの姿が見えなかった。 その頃タバサは、寮塔の自分の部屋で一通の手紙を広げていた。署名も花押もないまっさらな 手紙だが、差出人は痛いほどに分かっていた。 文面にはタバサの好意を非難する言葉は一切書かれていないが、代わりにシュヴァリエの称号を 剥奪する旨と、ラグドリアンの湖畔に蟄居していた母の身柄を押さえたことだけが、たった二行で 述べられていた。 タバサは読み終えた手紙を細かく破り、窓から放った。 後悔などない。どうせ母は囚われの身だった。住むところが変わったというだけのこと。 自分の手で母を取り返す……“約束”の時が、遂にやってきたのだとタバサは思った。 口笛を吹き、シルフィードを呼び寄せると、その背に飛び乗ってひと言短く命じた。 「ガリアへ」 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
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「栄光は……おまえに…ある……ぞ…やれ……やるんだペッシ。オレは………おまえを見守って……いるぜ…」 「わかったよプロシュート兄ィ!!兄貴の覚悟が!『言葉』でなく『心』で理解できた!」 成長したペッシはブチャラティを後一歩まで追い詰める。 だが…ブチャラティの『覚悟』には敵わず敗北した。 スティッキィ・フィンガーズのラッシュを受けバラバラになっていく体。 数秒後に訪れる明確な死を感じながらもペッシには死への恐怖はなく、唯唯プロシュートの敵を取れなかったことへの『後悔』だけだった。 (プロシュート兄ィ…ごめんよ……) プロシュートの言った『栄光』………まるでそれが目の前にあるかのごとく、最後の力を振り絞り千切れかけた腕を伸ばすペッシ。 そして…ペッシは光を掴む。 鏡のような光を。 新手のスタンド攻撃かと身構えるブチャラティの目の前で、ペッシは光に呑み込まれた。 「プロシュートが線路わきで死亡している」 ブチャラティ達が去り、しばらく後に現れたメローネが言う。 「全身を強く打ち右腕を失っている」 仲間を失った激情を深く押さえ込み酷く淡々と報告する。 「ん?ペッシがいない?」 確かにペッシの足跡はある。 だが、肝心のペッシがいない。 (プロシュートがヤラれた以上、ペッシが一人生き残ったとは考えにくい…それに、ペッシはマンモーニとはいえ仲間を捨てて逃げるようなゲスじゃない) 若干考えた後、一番確立が高かったモノを報告する。 「……ペッシは別の場所でヤラれたようだ」 仲間の死の報告を終えたメローネの携帯を握る手は微かに震えていた。 (なんで私がこんな目にあうのよ~) 春の召喚の儀を終え部屋に帰って来たルイズは頭を抱えていた。 原因は目の前でバカ面をしている使い魔―ペッシだ。 何度も失敗しようやく成功したと思えば居たのは…首がない変な平民。 泣く泣くファーストキスを捧げ、契約をしてみたら……記憶喪失でペッシという名前しか覚えていないらしい。 しかも…見るからに頭の悪そうな顔。 ルーンが刻まれる時、絶叫を上げていたので根性もなさそうだ。 (私の人生……終わった)orz ルイズは絶望した…前代未聞の平民の使い魔と、それを召喚した『ゼロ』の自分に。 周囲に暗黒を背負っているルイズと状況に付いて行けずオドオドするペッシ。 ……こうしてルイズの栄光への道は先行き暗~く始まった。 ルイズ姉ェの栄光への道
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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第三十三話 灼熱の挑戦 ミイラ怪人 ミイラ人間 赤色火焔怪獣 バニラ 登場! 彼は、長いあいだ闇の中にいた。 いつから、どうしてここにいるのかも忘れてしまうほど長い時の中を、静かな闇の中でまどろんでいた。 ときおり、ぼんやりと夢の中で何かを思い出す。遠い昔……まだ、太陽の下を歩き回っていたころ。 そのころ、自分の周りにはたくさんの生き物がいたように思える。 大きいのもいれば小さいのも、数え切れないほどいろんなものがいる。 と、彼はその中で一つ、珍しいものがあるように思えた。 周りの生き物たちとはどこか異質な、人間のような気配。けれど、彼はそれが悪いものとは思えなかった。 顔はわからないが小柄な男性のようだ。隣には、髪の短い女性と、幾人かの人間がいるようだ。 ここはどこで、彼らは誰なのだろうか……? 思い出せない。でも、どこか懐かしいような感じがする。 そうだ、自分は彼らから…… やがて眠りは深くなり、また幾分か眠りが浅くなると彼は同じ夢を見た。 それを何万回、何十万回かと繰り返したろうか。 あるとき、闇に閉ざされていた彼のまぶたに光が射した。 太陽の光ではなく、ろうそくの薄暗い灯りだった。 いつからかの外からの刺激に、彼は延々と繰り返してきた夢の中から、外に向かって意識を向けてみた。 どうやら、大勢の人間がいるらしい。がやがやと、何かをしゃべっているようだが言葉の意味はわからない。 目覚めるときが来たのかと、彼は思った。 まぶたを開け、体を起こしてみた。感覚が蘇り、体が自分の思うように動くのがわかる。 と、彼は何気なく周りを見渡すと、人間たちの様子が変わっているのに気づいた。なにやら驚いたり怯えたり した様子で、奇声をあげて部屋から逃げ出していく。 どうしたのか? 彼は疑問に思ったが、目覚めたばかりからか考えがまとまらない。 しかし、部屋の中にあった祭壇に目をやった瞬間、彼ははっとした。 ここには、何かがあったはずだ。それは確か……思い出せない。 自分はそれを……思い出せない。 長すぎる眠りが、彼の記憶の重要だった部分までほこりに覆わせていた。それでも、彼はここにあったものを 取り返さなければいけないという意思で動き出す。 あれを、あれを取り返さなくては大変なことになる。なのに、彼の目の前に何人もの人間がやってきて 自分に攻撃をかけてきた。 彼らは何者なのだ? なぜ自分が攻撃されねばならない? 意味がわからないまま、彼は自分を守るために 彼らを排除していった。力では自分が上だし、なにやら術を使うやつらも目から出せた光を浴びせたら 簡単に倒すことができた。 そうして地上に出ると、彼はすっかり変わってしまった外の風景に驚きつつも、目的のものを見つけることができた。 よかった……彼は安堵した。しかし、まだ何かを忘れているような気がする。 それに、人間たちは徒党を組み、またも自分に襲い掛かってきた。 ここは危険だ。彼は大切なもの、赤いカプセルをかついで走り出す。 自分は、あの人たちからこれを…… 眠りに着く前にしたはずの、何か大切な約束。それを思い出そうとしながら、彼は一心不乱に駆けた。 ミイラの復活から、およそ一時間後…… 小雨の降り始める中、いまだ混乱の収まらぬトリスタニア郊外の発掘現場に、一機の竜籠が着陸した。 「これはいったい、どういうことなの!」 飛び降りるように竜籠から真っ先に下りてきたエレオノールの絶叫が、惨劇の現場となった遺跡に響き渡った。 所用で現場を留守にしていて、ようやく遺跡に戻ってきた彼女を待っていたのは、まるで戦場跡のような 惨状だった。掘り出した遺物を置いていたテントはのきなみ野戦病院のようになり、即席のベッドには 負傷者が並べられて苦しそうにうめいている。 なにがあったのかを、エレオノールは近場にいた人間に説いただしていった。混乱する現場では、 右往左往する平民、ひたすら怒鳴るばかりの貴族など、要領を得ない者にいらだたされはしたけれど、 ようやくテントの中で負傷者に治癒の魔法を使っていた若いメイジを捕まえることができた。 しかし、古代のミイラが蘇ったことまでを知った彼女は当然のように驚愕するのと同時に、歓喜した。 「ミイラが動き出した? ……ふふ……うっふふふ」 報告を聞くなり、エレオノールは口元を含み笑いを浮かべだした。逆に報告した若い研究者や、治癒を 受けていた土方の平民たちは悪い予感を覚える。案の定、彼女は眼鏡を光らせて手を上げると、 高らかに命令したのである。 「すばらしいわ! 数千年ものあいだ生命を保管する技術が存在しただなんて。これは不老不死に 人間が近づく大いなる一歩だわ! あなたたち、なんとしてでもそのミイラを生け捕りにするのよ。 アカデミーの総力をあげて、永遠の生命の謎を解明するのだわ」 「い、いえ! すでに警備班や幻獣捕獲隊から追撃が出ています。どうかご安心を」 「生ぬるいわ! これがどれほどの大発見だかわかってるの? さあ、発掘を再開するわよ。動けるのは 働きなさい! ミイラの追撃隊も、いるだけのメイジを送りなさい、あなたもよ!」 エレオノールの剣幕に、若い研究者は震え上がった。 しかし、興奮して命令を飛ばすエレオノールの肩を、彼女と同乗してきていた親友のヴァレリーが掴んで止めた。 「待ちなさいよエレオノール、負傷者が続出してる中で発掘の再開なんて本気? まして、追撃隊の 増強なんて、できると思ってるの?」 「なにを言ってるのよヴァレリー? あなたこそわかってるの。これは大発見なのよ、有史以前の 古代人の生き残り、歴史が根底からひっくり返るほどの大発見じゃない」 興奮を抑えきれていない様子のエレオノールの主張を、ヴァレリーはそれはわかるけどと受け止めた。 彼女も大発見だということは重々承知している。でも、エレオノールよりは社交性の高い彼女は、興奮を 押し殺した冷めた目つきで、彼女の耳元に口を寄せてささやいた。 「いいから、黙って周りの平民たちを見てみなさい。みんな、親の仇みたいな目でこっちを見てるじゃない」 エレオノールは、憎らしげに睨んでくる平民の工夫たちの視線に気づいたが、なおも強気だった。 「なによそんなの、平民が貴族のために尽くすのは当然でしょ」 その言葉がどれほど彼らを怒らせるか、ルイズと違って平民と対等に付き合ったことのない彼女には まだわからなかった。一方、ヴァレリーのほうは貴族らしい平民への蔑視と完全に無縁というわけでは なかったが、友人よりははるかに温厚で人との付き合い方を知っていた。彼女はエレオノールの耳元で 強い口調でささやいた。 「バカ、時と場合をわきまえなさいよ。いい? 研究するのは私たち貴族でも、現場で発掘作業するのは 大半が彼ら平民なの。彼らを怒らせて仕事が雑になったら、今後大発見があってもパーになるかもしれない じゃない。それに、無茶をして死傷者を出したら、私たち全員の管理責任になる上に、アカデミーの空気を 入れ替えてくれた姫さまの期待を裏切ることになるわ。冷静になりなさい、エレオノール・ド・ラ・ヴァリエール!」 普段温厚なヴァレリーの厳しい警告と、姫さまのことを出されたことでエレオノールもやっと気を落ち着かせると、 こほんと咳払いをしてうなづいた。 「ごめん、頭に血が上ってたわ」 「わたしに謝ってもしょうがないけどね。我が親友は物分りのよい人物で助かるわ」 「いいえ、私の独断で死傷者を増やしたら、お母さまにきついお叱りを受けるところだったわ。ヴァレリー、 あなたは命の恩人よ」 苦笑を浮かべたエレオノールを、ヴァレリーは微笑を浮かべて見返した。エレオノールは、きつい性格で 研究熱心で度を超してしまうところもあるけれど、決して残忍な人間ではないことを親友の彼女は知っていた。 「あなたも大変ねえ。ともかく、発掘は一時中断しましょう」 ヴァレリーは、エレオノールが同意するのを確認すると、現場責任者に先の命令は撤回、全員を 地上に上げて休息をとらせておくようにと命じた。これのおかげで、急落しかけていた工夫たちの 信頼はある程度つなぎとめられた。 「やれやれ、これはアカデミーの大失態ね」 「こんな事態を予想できた人なんていないから仕方ないわよ」 落ち着きを取り戻したエレオノールは、てきぱきと指示を出して混乱していた現場を片付けていった。 と、そのとき空から一羽の伝書フクロウが飛んできた。あて先はエレオノールになっていて、差出人は アンリエッタ王女。婚礼を控えたこの時期に、なんの用かと書簡を開いてみると、そこには早急なる 出頭を命ずる旨の内容が記されていた。 「こんなときに……間が悪いわね」 そうは思っても、姫さまはここの惨状は知らないのだし、知らせるわけにもいかない。エレオノールは 眼鏡の奥の瞳をしかめさせた後、現場は元々の監督官に任せると告げて、ヴァレリーを誘った。 「やむを得ないから、私は王宮に赴くわ。できるだけ早く戻るつもりだけど、ヴァレリー、あなたは アカデミーに戻りなさい」 「エレオノール、仕事を頼みたいのかしら? 見返りは」 不敵な笑みを浮かべる友人に、エレオノールは雨に濡れた口元を軽く歪ませると、研究者の目つきに 戻って答えた。 「緊急事態よ、ツケにしといて。ミイラは赤い液体のカプセルのみを持ち去ったんでしょう? だったら、 先日発掘された青いカプセルも狙われる恐れがあるわ。今のうちに開封して、中身を確認しておくのよ」 「なるほど、道理ではあるわね」 「この際だから、多少荒っぽい手を使ってもかまわないでしょう。それと、あの生きのいい新人がいたでしょ。 助手に使ってみるいい機会かもしれないわよ」 エレオノールの提案に、ヴァレリーもそれもそうねとうなずいた。少し前にアカデミーに来て以来、昼夜を 問わずに様々な分野の研究に顔を出している、金髪の新人。名前をルクシャナということ以外、ほとんど 自分のことを語らないけれど、どの分野でも秀でた才覚を見せている彼女ならこの仕事も任せられる。 エレオノールとヴァレリーを乗せた竜籠は、遺跡を離れるとトリスタニアの方角へまっすぐに去っていった。 同時刻、トリスタニアの郊外の森林地帯では、魔法アカデミーからの追っ手が必死にミイラを追撃していた。 「ユーノフとハイツは北から回りこめ、俺たちは西の道を塞いで退路を断つ」 「小隊長どの、見張りにつけていた使い魔のフクロウが落とされました!」 「くそっ! この雨じゃ人の視界が効かないし、奴は頭がいい」 捕獲の命令を受けてきた十人ほどのアカデミーのメイジは、すでに三人が負傷して脱落し、二人を救護のために 残して半数になっていた。残る五人も、長引く追撃戦で精神力を消耗し、使い魔も失って疲弊している。 「せめて抹殺命令が出ているなら気が楽なのだが、最低でもカプセルは奪取しなくてはならん。くそっ、やっかいな!」 小隊長は、受けた任務の困難さと、思うようにいかない苛立ちから吐き捨てた。彼らはアカデミーの中でも、 秘薬の材料となる入手困難な薬草や、危険な生物の捕獲を主として請け負う一隊なので魔法の実力は高い。 それでも苦戦を強いられているのは、ミイラの捕獲とカプセルの確保という、厳命された任務内容と、雨中の 森林地帯という追撃には不利な地形、そして予想以上に強力なミイラの武器にあった。 「奴の怪光線は風や水の防壁では防げません。この雨の中では火や土の魔法は効力が半減します。 このままでは、逃げられてしまいます」 「おのれ……我々がここまで手こずるとは。それにしても、あのミイラはいったいなんなんだ? 目から 光線を放つ亜人など聞いたこともない!」 彼もアカデミーの一員である以上、亜人などの知識には精通しているが、ミイラの正体はまったく わからなかった。とにかく、ケタ外れの腕力と体力を持っており、これだけの時間追撃しているのに 疲れる様子を見せない。特に目から放たれる怪光線の威力は絶大で、魔法と違って相手を見るだけで 発射できるために避けられず、近寄ることさえままならなかった。 「奴は北東へと逃げています。これ以上進まれると、街道に出ることになります。もし、誰かに見られる ようなことになったら大変ですよ」 「わかっている! くそっ、俺たちも残った精神力は少ないし、こうなったら賭けに出るしかないか」 捕らえるにしろ殺害するにせよ、近づくことができなくては無理だ。頭の悪いオークやコボルドなど ならまだしも、奴は人間並に頭が働くのは明らかだ。 考えた末に、小隊長は一計を案じた。 「確か、この近くに小川があったな。ようし、そこに奴を誘い込め」 起死回生をかけて、小隊長は最後の作戦を開始した。 追われるミイラは、森の木々のあいだを素早く駆け抜けていく。地面の様子は凸凹で、雨でひどく ぬかるんでいるというのに、それを感じさせないすごい脚力だ。また、肩には子供ほどの大きさがある 透明なカプセルを担いで、大事そうに守っている。これは、先日発掘されたカプセルと同型のものだが、 中の液体は赤色であった。 うなるような声を漏らし、木々のあいだを縫って逃げているミイラは、ふと空を見上げた。人間が一人、 こちらに向かって飛んでくる。追っ手だと気づいた彼は、そいつを向かって目を見開くと、眼球から 白色の破壊光線を撃ちだした。 命中、肩に攻撃を受けた追っ手のメイジはうめきながらふらふらと墜落していく。しかし、そいつと 入れ違いに現れたメイジが風をふるい、周辺の木々をなぎたおしてミイラの行く手を塞いでしまった。 あれは囮か、そう気づいたミイラは道が全部ふさがれる前に、残っている道へと駆け出した。 それを見て、伏兵のメイジは作戦通りとほくそえむ。ミイラの行く先には川があった。 一方、先回りをしていた小隊長は、部下の風のメイジ二人とともに川べりで隠れて待っていた。 作戦通り、誘導されてきたミイラが彼らよりもわずかに上流に現れる。 「小隊長」 「待て、焦るな」 はやる部下を抑えて、小隊長はじっとチャンスを待った。呪文の詠唱はすでに完了している。 しかし残った精神力すべてを注ぎ込んだ一撃であるから、万一にも失敗は許されない。ミイラは、 川辺に出たことで躊躇し、引き返そうかと迷っているように思える。 「来い、そのまま来い」 心の中で叫びつつ、気配を殺して彼らは待った。もし、ミイラが引き返したら作戦は失敗に終わる。 けれど、彼らの忍耐は望むとおりに報われた。ミイラは退路を塞がれることを焦ったのか、川の中に 入ってきた。幅はほんの四メイルほどの浅い川、すぐに渡れると思ったのも無理は無い。だが、それこそが 小隊長が待っていた瞬間だった。 「かかったな! くらえ、『ライトニング・クラウド!』」 三人分の電撃魔法が川に向かって放たれ、電撃が水を伝ってミイラを感電させた。 さしものミイラも巨像すら即死させる威力の電撃を浴びてはたまらないと見え、全身をけいれんさせて もだえている。作戦が図に当たって、小隊長は偽装をはぎとるとからからと笑った。 「どうだ怪物め、この雨中では電撃もまともに直進できないが、それならそれでやりようはある。人間様の 知恵をあなどったな。さあて、身動き取れまい。アカデミーに連れ帰ってじっくり調べてやる」 部下を傷つけられた恨みもあって、小隊長は残忍な笑みを浮かべてミイラに歩み寄った。 ミイラは大きなダメージを受けたと見え、小川の中にひざまずいて荒い息をついている。まだ、あの目からの 怪光線は脅威で慎重に近づかなければならないものの、もう逃げられる心配はなさそうだ。 「よし、ミイラは俺が捕まえる。お前たちはカプセルを回収しろ」 「はっ」 これで任務は終了だと、小隊長は部下に任務の半分をまかせて、自分はミイラに向かって『蜘蛛の糸』の 魔法をかけようと杖を向けた。 だが、そのとき……ミイラの手から取り落とされ、川の水につかっていたカプセルから乾いた音がした。 ”ピシリ……ピシシ……” まるで、卵から雛が孵化するような音が、一回だけでなく断続的に続き、次第に大きくなっていった。 そのころ、才人とルイズは馬車に乗って魔法学院への帰途を急いでいた。 「ひでえ雨だな」 窓から外を覗き見た才人は、忌々しそうにつぶやいた。街を出たときから雨は降り続き、すっかり 土砂降りになってしまった。冬の雨は冷たく、馬車の中も冷えて気がめいる。いや……気温などより、 向かい合って座っているルイズの沈黙こそが、才人にとって寒かった。 「なあ、ルイズ」 「なに?」 話しかけても気の無い返事しかしてこないルイズに、才人のほうがため息をつきそうになった。それでも、 おせっかい焼きの才人は、明らかに言外に話しかけるなと言われているのに続けて声をかけた。 「そんな、つっけんどんにしなくてもいいだろ。お前の姉さんと違って知識はないけど、もう短い付き合いじゃ ねえだろう、俺たち」 「このことは誰にも言わない秘密だってこと、もう忘れたの? どこに敵の目があるか、わからないのよ」 「ここには俺しかいないんだし、気兼ねする必要はねえだろ」 御者は自動操縦のガーゴイルなのだからと、才人はルイズをうながした。 けれど、好意はうれしいけれども、こればかりは才人に相談してもどうにかなるとは思えない。 「あんた、魔法のことなんかわからないでしょう?」 「そりゃそうだが、落ち込みようがひどいからな。虚無だかなんだが知らないが、すごい魔法が使える ようになったって、それだけのことだろ」 「はぁ、あんたの気楽さの半分でもあれば、わたしも気が楽なんだけどね」 『エクスプロージョン』の炸裂のとき、才人は魂を奪われていたために、その光景を見ていなかった。 それゆえ、ルイズがすごい魔法使いになったと言われても実感は薄かったのだろう。しかし、すごい 魔法使いという表現さえ、虚無の前には過少評価というべきだろう。 これを、あのエレオノールにどう説明すればよいかと考えるだけで、限りなく憂鬱になっていく。 そんなルイズの心境には思い至らず、才人は、むしろ「黙っていなさいよ」とか怒鳴りつけられたほうが、 まだましだと思った。から元気すらないルイズなど、まったくもってルイズらしくない。どうしたものかと 元気付ける方法を考える才人は、ふとかたわらに置いてあるデルフリンガーがやけに静かなのに気がついた。 「そういえば、デルフお前も何か言ってやれよ。このままじゃ葬式の帰りみたいでたまらねえぜ」 ここはデルフリンガーの軽口に期待しようと、才人はデルフリンガーを鞘から抜いて話しかけた。しかし、いつもは 饒舌なデルフリンガーが、今日に限ってはしゃべろうとしないので、才人は不審に思った。 「どうしたんだよデルフ、湿気でさびるのが嫌なのか? それとも、しばらく抜いてなかったんですねちまったか」 「……そんなんじゃねえよ」 「なんだ、ルイズに続いてデルフまでどうにかなっちまったのか? 勘弁してくれよ」 元来、めったなことでは物事を深刻に考えない才人は、大げさな身振りで呆れて見せた。しかし、ルイズも デルフリンガーも黙り込むばかりで、才人は自分が出来の悪い道化のようで情けなくなった。仕方なく、おどけるのを やめて真面目な口調でデルフリンガーに尋ねる。 「デルフ、お前らしくないぜ。なんで何も言わないんだよ」 「……」 「おい、おれのことを相棒って言い出したのはお前だろ? お前は口の軽い奴だとは思ってるけど、 嘘をつく奴だとは思ってないんだぜ」 「……そうだな、わりい相棒。少し、昔のことを思い出しててな」 「昔のこと?」 才人は、意外なデルフリンガーの答えに怪訝な顔をした。そういえば、デルフが自分のもとに来る前のことは ほとんど聞かされていなかった。デルフリンガー……意思を持つインテリジェンス・ソード。魔法を吸収し、 自らの姿を変化させることのできる、自称伝説の剣。 考えてみたら、自分はデルフリンガーのことを何も知らずに振るっていた。相棒と互いを呼んでいたのに、 いつどこで誰が何のために作ったのか、一つも知らなかった。 「昔って、いつぐらいのことだ?」 「さあな、俺は生き物じゃねえから寿命ってやつがない。時間の概念ってもんが、当の昔にふっとんじまって るんだ……けど、大昔だったのは間違いねえ。そう、虚無、嬢ちゃんの虚無に関するこった」 「なんだって!」 なぜそれを早く言わないんだと、才人だけでなくルイズも詰め寄る。お前は、昔に別の虚無の使い手と 会っていたのか? いったい虚無とはなんで、その人はどういう人だったのか、聞きたいことは山のようにある。 だがデルフリンガーは、期待をかける二人にすまなそうに告げた。 「すまねえ、話してやりたいのはやまやまだが、昔過ぎてなかなか思い出せねえんだ。さっきから思い出そうと 努力はしてんだが」 「おいおい、せっかく手がかりが見つかったと思ったのに。ほんとに、何一つ覚えてないのか?」 「いや、少しはある。例えば相棒、おめえに初めて会ったとき、俺はおめえを『使い手』と呼んだよな。 以前、俺を使ってたのもおめえと同じガンダールヴだった。それは感覚が覚えてんだ」 才人は、大昔のガンダールヴと言われて、今はルーンが消えてしまった左手の甲を見つめた。自分の 前のガンダールヴ、その人も自分と同じように虚無の担い手を守って戦ったのだろうか。 ほかには? と尋ねると、デルフリンガーはうーんとうめいた後、自信なげに言った。 「始祖の祈祷書にも書いてあったと思うが、ブリミルは四つの秘宝と指輪を残してる。そして奴は三人の 子供と一人の弟子に、力も分けて残した。だから、担い手は嬢ちゃんを含めて四人いるはずだ」 「四人? そんなに!」 「ああ、そして四人の担い手と秘宝と指輪、使い魔が揃ったとき、虚無の力は完成する」 「虚無の力の完成って、何?」 「覚えてねえ」 「デルフ……」 がっくりと、二人は肩を落とした。 「ほんとだ。ただ、ぼんやりとだが……でっかくて訳がわかんなくて、俺なんかの想像を超えてた。 それこそ、世界を変えてしまいそうなくらいの……そのことだけは覚えてる」 「世界を、変える」 ごくりとつばを飲み込む音が二つ響いた。漠然とではあるが、初歩の初歩の初歩である『エクスプロージョン』の 度を超えた破壊力からすれば、完成型の威力はデルフの言うとおり想像を絶するものなのだろう。それが もし悪用されたらと考えると、戦慄を禁じえない。 「シェフィールドの一味は、いったい虚無の力をどうしようというのかしら?」 ルイズのつぶやきに、才人も考え込む。聖地の奪還、虚無の存在する目的はそれだが、そんなことでは あるまい。力を背景にしての世界征服、手口の悪どさからして九割がたそんなところだろう。そんなこと、 絶対に許すわけにはいかない。 二人はそれからも、デルフリンガーに覚えていることはないのかと散々尋ねた。そのことの努力の多数は徒労に 終わったものの、デルフリンガーのにわかには信じがたい話は、才人とルイズに半信半疑ながらも、おぼろげな 道を示したように思えた。 ただし、デルフリンガーは何かを思い出したら必ず教える、と約束するのに続いて、不吉極まる勧告を二人に残した。 「二人とも、これだけは覚えといてくれ。虚無の力は、四系統とは文字通り格が違う。ブリミルのやろうも、 わざわざ警告を残したくらいだ。お前さんが成長すれば、威力も上がるし使える種類も増えてくだろう。 だが、虚無のことを思い出そうとすると何か嫌なものがひっかかるんだ……もしかしたら、俺は思い出せない んじゃなくて、思い出したくねえのかもしれねえ。何か……とんでもなく嫌な、悲しいことがあったような、 そんな気がするんだ」 それだけ言うと、デルフリンガーはしばらく考えさせてくれと言って鞘の中にひっこんだ。 才人とルイズは、デルフリンガーの話に大きな衝撃を受けて、頭の中の整理がつかずに押し黙った。 誰も言葉を発しなくなり、馬車の中はひづめと車輪の音、それに雨音だけが無機質に響いていく。 雨は先程よりも激しくなり、街道は彼らの馬車以外には通行している人影はない。 魔法学院までは、あと二時間くらいだろうか。ルイズは、始祖の祈祷書を握ったまま瞑目している。 才人も、次第に船を漕ぎ出した。疲れから、馬車の揺れがゆりかごに、雨音も子守唄のように 快く感じられて、睡魔が急速にやってくる。 このまま、着くまで寝てよう。才人は睡魔に抗うことをあきらめて、からだの力を抜こうとした。 だがそのとき、鼓膜の奥にわずかだが人の悲鳴のようなものが響いてきて、はっと顔を起こした。 「いまのは……」 「サイト、あなたも聞こえたの?」 ルイズも気づいたと見えて、鋭い目つきになっている。普通なら馬車と雨音に紛れて絶対に聞こえない ようなかすかな声だったけれど、ウルトラマンAと合体したことによる作用で、二人は聴力が常人の何倍にも 強化されているのだ。 聞こえてきたのは前からと、揃って馬車の前の窓を覗く。しかし、雨足が強くて視界がさえぎられて、 前方の様子は霧のようにかすんで判別しがたかった。 「だめだわ、これじゃ何もわからない」 「馬車を止めて、歩いて探ってみるか。傘、あったよな?」 「ええ、座席の下に……待って、あれ何かしら?」 「ん? なんだ、電灯? いや、そんなはずないか」 いつの間にか、街道の行く先にぽっかりと二つの白い光が浮いていた。まるで、東京にいたころに 毎日見ていた道路の街路灯のように、街道をはさむように二つが同じ高さで浮いている。 なんだいったい? 正体を掴みかねて戸惑う二人に向かって、白い光はじわじわと近づいてくる。 いや、光ではなく二人を乗せた馬車のほうが近づいているのだ。 好奇心がわいて、二人は光がよく見えるところまで近づこうと思った。 ところが、光が近づいてくるにつれて街道の先にぽっかりと暗い穴のようなものが見えてきた。 ”トンネル? いや、学院とトリスタニアのあいだにトンネルなんかなかったはずだ!” 背筋にぞくりと冷気を感じた瞬間、穴の中の上下に鍾乳石のようなとがった柱が幾本も見えてきた。 さらに、穴の奥には真っ赤な洞穴。いや、これは洞穴なんてものではない! その証拠に、白い光の 中に黒い瞳が動き、こっちを睨んでいるではないか。 「止まれぇーっ!!」 反射的に二人は叫んでいた。御者のガーゴイルが命令を忠実に実行し、馬の手綱を引く。 しかし、遅すぎた。勢いのついた馬車は止まりきれず、穴の中に突っ込んでようやく停止したとき、 天井が落ちてきて馬車を押しつぶそうとしてきた。 「きゃあぁーっ!」 「ルイズ!」 悲鳴をあげるルイズに、才人は覆いかぶさってつぶれてくる馬車から守った。だが、馬車の中に 何本もの鋭い柱が突き刺さってくる。馬車は踏まれた缶のようになり、馬は穴の奥へと悲鳴をあげて 落ちていった。 二人は、押し上げられるような感触を覚え、砕けた窓から外を見て絶句した。森が、街道が空から 見たときのようにはるかに下にある。このとき確信した。自分たちは何か巨大なものの口の中へと 飛び込んでしまったのだ。 馬車を咥えた巨大な何かは、歯ごたえでそれが何かを確かめているようだった。そうして、それが 食べ物ではないとわかると、ぺっと外へと吐き出した。馬車は地面に激突してグシャグシャになり、 その何かは興味を失ったかのようにきびすを返そうとする。 だが、そのとき! 「ヘヤァ!」 上空から急降下してきたウルトラマンAのキックが、何かの背中に炸裂して吹っ飛ばした。 間一髪、馬車が押しつぶされる直前に、才人とルイズは合体変身することに成功していたのだ。 着地したエースは、構えをとって敵を見据える。 しかし、起き上がってきた敵の姿に、才人は愕然としていた。 細身の体に、タツノオトシゴのような頭。らんらんと光る両眼に、なによりもその赤一色の姿。 (赤色火焔怪獣バニラ! なんでこんなところに!?) (サイト? 今度は知ってる怪獣なの) 知っているどころの話ではない。ウルトラマンに少しでも興味があれば、バニラの名前は知らない ほうがおかしいほどだ。 かつて、地球上に栄えていたといわれる古代文明ミュー帝国において猛威を振るっていた、 赤い悪魔と呼ばれていた恐るべき怪獣。かつても、科学特捜隊や防衛軍の攻撃がまるで通用せず、 オリンピック競技場を壊滅されられたことをはじめ、暴れるにまかせられた東京は甚大な被害を受けている。 その、バニラがなぜこんな場所にいるのか? 才人は理由がわからず戸惑った。 けれど、戸惑う才人とは裏腹に、ルイズの腹は明確に決まっていた。 (サイト、そんなこと考えるのは後でいいわ。怪獣が出たんなら、こいつが街に向かう前に倒すべきでしょう) こういうとき、ルイズのほうが現実的な思考をする。幼い頃から魔法を使えず、なぜ自分は魔法を 使えないんだろう。といちいち考えるのをあきらめ、ひたすら困難にぶつかってきた経験が形を変えて生きていた。 (そうだな、ルイズの言うとおりだ) 才人も、考えるよりもやるべきことがあると気がついた。同時に、ルイズへの信頼感と、ある意味の尊敬を 深くする。いかなるときでも折れない芯と、気高さが彼女の魅力なのだ。 寒風吹きすさび、雨がみぞれに変わりつつある嵐の中で、ウルトラマンAの戦いが始まる。 「トァァッ!」 先手必勝、エースは体当たり攻撃を仕掛けた。肩から突っ込み、バニラの胸板にぶつかっていく。 衝突! 太鼓を百個同時に打ち鳴らしたかのような轟音が響き、衝撃が木々の枝を揺さぶる。 組み合ったエースとバニラは、エースが身長四十メートル、バニラが五十五メートルだから頭一つ分 バニラがエースを見下ろす形となる。しかし、戦いは体の大きさだけで決まるものではない。エースは、 組み合ったまま、バニラの胴体へと膝蹴りを繰り出す。 「デヤッ!」 相手の動きを封じたままの姿勢での、巨岩をも砕くエースの攻撃が連続して炸裂する。 だが、バニラは細身の体に見合わぬ力で、がっしりとエースの攻撃を受け止めると、すかさず腕を ふるって逆襲に転じてきた。 「ヘアッ!」 振り下ろされてきたバニラの腕を、X字にクロスさせた両腕でエースは受け止めた。 (くっ! 重いっ) しびれるような感触が、両腕を通して体に伝わってくるのをエースは感じた。完全に止めたはずなのに、 まるで斧で打たれたような、強烈な感触だ。細身に見えてこの怪力、まともに組み合っては不利だと、 エースはガードを解くと、バニラの腹をめがけてキックを入れる。 「ヌンッ」 中段からの体重を込めたキックが、バニラの腹に当たって後退させた。 (よしっ、いまだ!) 間合いが開き、チャンスを逃してはなるまいと才人の檄が飛ぶ。エースはそれに応え、バニラへ 攻撃を続行した。人間に似た形の腕で掴みかかってくるバニラの攻撃をかわしつつ、比較的柔らかそうな 腹にパンチの連打を浴びせ、反動で距離が開くと助走をつけてドロップキックをお見舞いする。 (いいわよ、その調子) (そのまま一気にいけっ!) エースの猛攻に、ルイズと才人も歓声を送る。キックを受けたバニラが、森の木々を巻き添えにしながら 倒れてもがいているところへ、馬乗りになったエースはパンチを連打して追い討ちをかけていく。だが当然 バニラも無抵抗ではなく、鳥の鳴き声のような叫びをあげてエースを振り払い、尖った頭を打ちつけて 反撃を繰り出す。 (右だ! エース) 肉体を共有している才人の叫びで、エースはバニラの頭突き攻撃を寸前でかわした。そして、空振りして 体勢を崩したバニラの頭にキックを浴びせ、バニラは悲鳴をあげて倒れこむ。 (いいわよ。このままいけるんじゃない!) 優勢に運ぶ戦いに、先日から閉塞感を感じ続けていたルイズは胸のすく思いを感じていた。才人の ほうも、理由はともあれ元気を取り戻してくれたルイズにならって「いや、まだ油断はできないぞ」と 言いながらも声色が浮いている。 ウルトラマンAの攻撃は着実にバニラをとらえ、エースの勝利は疑いないように思われた。 しかし、湧き上がる二人とは裏腹に、エースは攻撃を加えるごとに違和感を感じていた。 確かに、攻撃して手ごたえはある。攻撃が着実にヒットしているという自信はあるのだが、それが ダメージに結びついているという実感がわかないのだ。例えば、腹など弱そうな部分を狙って打っても、 バニラにはこたえた様子がない。 戦いを見つめているうちに、才人も次第にそのことに気づいてきた。至近距離からのパンチを受けても なおバニラは平然と立ち上がってくる。 (なんて頑丈な奴だ!) そのタフさに才人は舌を巻いた。エースのパンチは蛾超獣ドラゴリーの体を貫いたほどの威力があるというのに、 耐え切るとは恐ろしい奴だ。いや……それにしても異常だと才人、それにエースは感じ始めていた。 このバニラは、これまでに見るところでは科学特捜隊が交戦した初代バニラと大きく変わるところはない。 なのに、この異常なまでのタフネスさはなんなのだろう? 無限の体力を誇る怪獣は、液汁超獣ハンザギラン など例はあるが、バニラにそんな能力があると聞いたことはない。第一、ウルトラマンと戦う前に倒された 怪獣なので、倒せないはずはないと思っていたがとんでもない。才人は、自分の知っている中で、何かバニラの 特徴に見逃しているところはないかと考えた。 古代ミュー帝国において、赤い悪魔と恐れられた怪獣。性質は凶暴で……いや、能力自体はそこまでの 脅威ではない。バニラと同程度の怪力や能力を持つ怪獣などは、探せばいくらでも見つかる。はるかに文明が 進んでいたと伝えられるミュー帝国の人々をして、悪魔と言わしめたものはそんなものではないだろう。 ならばと、才人は考える。確か、バニラは同時に暴れていたもう一匹の…… (そうか!) 頭の中でピースが組みあがったとき、才人にはなぜバニラが恐れられていたのかという理由がわかった。 もしこの仮説が当たっているとしたら、このままバニラといくら戦い続けても無駄でしかない。 そのとき、バニラの口が開かれると、真っ赤に裂けた口腔からさらに紅蓮の火焔がエースに向かって放たれた。 「ヌオオッ!?」 近距離にいたエースは火焔を避けきれず、胸に直撃を受けて大きくのけぞった。 これが、バニラが赤色火焔怪獣と呼ばれるゆえんである。 (エース!) (北斗さん!) (大丈夫だ……) 直撃を受けた箇所を押さえて、エースは苦しげに答えた。バニラの火焔は二万度の熱量を誇ると言われ、 エースの胸は大きく焼け焦げている。口では大丈夫というものの、そんな生易しい傷のはずはない。 その証拠に、カラータイマーも青から一気に赤の点滅を始めた。 この機を待っていたと、バニラはエースを見下ろしてさらに火焔を放射した。 (避けて!) (くっ!) 転がり避けた後を火焔がなぎ払い、森が一瞬のうちに炎に包まれていく。しかも、勢いあまった炎は、 そのまま数百メイルに渡って森を焼き、炎の壁ともいうべき森林火災が引き起こされた。 (な、なんて炎なの!?) (バニラの火焔は、空の上の戦闘機を狙い撃ちできるほどの射程もあるんだ。エース、もう時間がない。 一気に決めましょう!) カラータイマーの点滅は、バニラとの格闘戦が長引いたことで急速に早まっている。これ以上引き伸ばされては 光線技を放つエネルギーもなくなる。エースは、この戦いはここで終わらせると決意すると、腕をL字に 組んで最大の得意技を放った。 『メタリウム光線!』 赤、青、黄の輝きを放つ光の奔流が驟雨を貫いてバニラへ向かう。いかに奴が頑丈であろうとも、これを 喰らえばただではすまないのは確実だ。 ところが、バニラは避けようとするどころか火焔をメタリウム光線に向けて放射した。 (なにっ!?) 三原色の光線と、灼熱の火焔が空中で衝突して激しいエネルギーのスパークがほとばしる。三人は 信じられなかった。火焔がまるで障壁と化したかのように光線を受け止めている。そしてついに、メタリウム光線は バニラに届くことなく空中ですべてかき消されてしまったのだ。 エネルギーを大量に消耗し、エースはがくりとひざを折った。カラータイマーの点滅は一気に限界まで達し、 才人は愕然としてつぶやいた。 (メタリウム光線を防ぐなんて……なんて奴なんだ) 起死回生の一手もしのがれて、もはやエースにはまともに戦うだけの力は残されていなかった。 バニラは、今の攻撃がこちらの最後の切り札だったことを見透かしたかのように、安心して悠然と向かってくる。 (いけない! 奴が来るわよ、エース立って!) (くっ!) 急激な疲労感の中で意識が遠のきかける中、ルイズの叫びでエースは我に返った。目の前まで 迫ってきたバニラに飛び掛り、投げ倒そうとする。だが、逆に軽く弾き飛ばされてしまった。 「ウッ、フゥゥーンッ……」 地面に叩きつけられ、エースから苦悶の声が漏れる。森の木々をへし折り、仰向けに倒れるエースは 起き上がることもできずに、平然と接近してくるバニラを見上げることしかできなかった。 (エース! バニラがくるぞ! がんばれ、がんばってくれ!) (そうよ! あなたが負けたら誰がこの世界を守るの。お願い、立って!) 苦しむエースの心に、才人とルイズの必死の叫びが響く。二人とも、エースがダメージを受けたことによる 反動で、すでに激しい苦痛を受けている。それにも負けずに呼びかけてきた声にはげまされ、エースは 最後の力を振り絞った。起き上がろうと、しびれる腕に鞭を打ち、地面に手を着いて体を支えようとする。 だが、バニラはそれすらも許さなかった。火焔を放ち、周辺の森ごとエースを炎に包み込んだのだ。 「ヌワアアッ!」 (うあぁぁっ!) (きゃああぁぁ……) 太陽が地上に出現したような業火の中に、ウルトラマンAの姿が飲み込まれていく。 バニラの勝ち誇った遠吠えが、暗雲の中にとどろいていった。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第十四話 戦い終わって、はじまりへ 金属生命体 アルギュロス 登場! 『聖マルコー号』を先頭にして、大艦隊が粛々とロマリアの空を進んでいる。 艦隊の名はガリア両用艦隊。いや、今は元とつけるべきだろう。そのマストの頂上に高らかに翻るのは、ガリア王国旗ではなく ロマリア連合の旗。両用艦隊は、その全艦、一将、一兵にいたるまでガリア王ジョゼフへの忠誠を捨て去り、ロマリア教皇 ヴィットーリオ・セレヴァレにひざを屈して頭を垂れていた。 「尊き神の子、ガリアの臣民たちよ。私はすべてを見ていました。苦しい戦いだったでしょう。神に杖を向けるなどと、望まぬ暴挙に 心が痛んだことでしょう。しかし安心してください。神は常に正しき者の味方です。脅迫され、仕方なく撃たざるを得なかった 子羊たちを罪に問おうなどとはもってのほか! 真に断罪すべきはあなたがたを騙して堕落させようとした、ガリア王ジョゼフ一世に あります。私はここに宣言しましょう。この艦隊に所属する、貴族から平民いっさいに、いかなる罰も与えることはないということを! さあゆきましょう真の信仰を取り戻すために。ロマリアはあなたがたを心より歓迎するでしょう」 すべての将兵が熱狂して、聖マルコー号からガリア艦隊を一望するひとりの男を称えていた。 男の名こそ、誰あろうヴィットーリオ・セレヴァレ。ハルケギニアに浸透するブリミル教の総本山ロマリアの、その頂点に 君臨する教皇である。二十代前半という、若さに溢れた容姿はそれを感じさせぬほどの威厳と風格を備えて神々しくもあり、 人間ではなく神像がそこにあるかのような錯覚すら人々に与える美青年が彼であった。 ヴィットーリオの演説に、ガリア両用艦隊の全艦から吼えるような歓声が響き渡り、熱狂する声が轟いた。 「教皇陛下万歳! ロマリア万歳!」 恐らく両用艦隊が誕生しての歴史上、これほどまで貴族と平民のクルーの気持ちが合わさったことはなかっただろう。 それをたやすく成し遂げたヴィットーリオの力は凡人のものではない。彼は、ヨルムンガントとサラマンドラの消滅に動揺し、 浮き足立っていた両用艦隊の前に聖マルコー号で姿を現し、その雄弁なる言葉であっというまにガリア艦隊将兵の心を 掌握してしまったのだ。 「神と始祖の前にありて、我々は平等です。しかし、今や信仰なき者が国をすべ、神の子らを苦しめています。このような 理不尽が許されてなるものでしょうか? いいえ、人にはそれぞれ神より与えられた崇高な使命があります。そして、 あなた方には戦う力があります。その力で、信仰なき王に服従するか、それとも真の神の使途としてふるまうか。 皆さんはもうお気づきでしょう」 ヴィットーリオの言葉に、ガリア軍の将兵たちは涙まで流している。彼らは誰もが、ロマリアへ無断で入り込み、 言われるがままに破壊を繰り返したという罪悪感に捕らわれていたが、そこへ飛び込んできたヴィットーリオの言葉は まさに福音であった。 もはや、ガリアからどんな命令が届いても両用艦隊を反意させることは不可能であろう。ハルケギニアにおいて、 ブリミル教の教皇の権威というものはそれほど強かった。どんな優れた艦隊でも、操っているのは人間だということである。 両用艦隊は完全に掌握され、聖マルコー号に従者のようにつき従ってゆっくりと飛んでいた。 そして、苦闘の末にシェフィールドの操るヨルムンガントとサラマンドラを倒した才人やルイズたちは、水精霊騎士隊や 銃士隊とともに聖マルコー号に収容されていた。 「あなたがたが、あのガリアの悪魔のような人形とドラゴンを倒してくださったのですね。おかげで、ロマリアは救われました。 ロマリアの市民すべてを代表してお礼を申し上げます。あなたがたは、まるで始祖が遣わしてくれた天子のようですね」 「そ、そんな、ぼくら、いや私どもはなにもたいしたことは! きょ、教皇陛下におきましてこそ、侵攻してきたガリア軍を お許しになる寛大さ。我ら一同、感服いたしましたっ!」 代表者としてヴィットーリオと対面することになったギーシュは、冷や汗ダラダラしどろもどろになりながら、どうにか話していた。 小国トリステインの一貴族の子弟が、いきなりハルケギニアで一番偉いというべき人物と対面させられているのだから パニックになるのも無理はないといえる。 しかし、いくら水精霊騎士隊の隊長とはいえ、これはギーシュには荷が重過ぎる仕事なのは、後ろで不安そうに見守っている ギムリやレイナールたちのひきつった表情を見てもわかる。なぜこうなったかといえば、ミシェル以下銃士隊には重軽傷者が多く、 船の医務室で手当てを受けている。また、メンバーの中ではもっとも格式の高いヴァリエール家出身のルイズも、虚無魔法の 使いすぎで気力が尽きて眠り込んでおり、繰上げでギーシュがこのとんでもない大役をおおせつかることになったのである。 ルクシャナは、ミシェルの容態がまだ安定しないので、責任を最後までとるとつきっきりになっている。 ヴィットーリオと対面しているのは、水精霊騎士隊と才人とティファニアである。なんと聖マルコー号には南へ先に避難させていた モンモランシーとティファニアも同乗していた。呆れた手回しのよさだが、その理由はすぐにわかった。この少人数が聖マルコー号内の、 聖堂のような間でヴィットーリオに拝謁しているのだが、才人はヴィットーリオよりも、その隣で不敵な笑みを浮かべている少年に 目がいっていた。 「ジュリオ……てめえ、なんでここにいやがる。てめえ、ほんとうにいったい何者なんだ?」 「ふふ、サイトくん、そう剣呑な眼差しを向けないでくれよ。心配しなくても、僕が君たちの味方だということは、これまでの 数々の協力で明らかだろう? そう警戒せずに、友達として見てくれよ」 それで納得できるか! と、才人は場もわきまえずに怒鳴って周りを青ざめさせた。教皇陛下の前での態度としては 正気のさたではないが、意外にもおとがめはなく、ヴィットーリオが代わって説明した。 「サイトくんでしたね。いろいろと不信を与えてしまったことは、私からお詫びいたします。実は彼、ジュリオは私が教皇に なる以前からの古い友人でしてね。宗教庁の人間とは別に、私のために働いてくれているのです。本当のことを申しますと、 私はあなたがたがロマリアに入ってきたときから知っておりました」 「なんですって!?」 さすがにそれは聞き捨てならなかった。ここには東方号が墜落してからずっと、公にはなにも出さずにやってきたというのに、 どうして存在を知られていたというのだ? すると、今度はジュリオがいたずらっぽく笑って答えた。 「難しいことじゃないさ。僕らロマリア宗教庁は、ハルケギニア中の聖職者とつながっている。その中でも特に、ロマリアの 国境沿いでは、異端者やロマリアに害をなす者の入出国を、一般人に紛れて監視しているんだ。そのうちのひとりが、 トリステインで有数な大貴族のヴァリエール家の令嬢が通っていくのを見つけて報告してくれたんだよ」 「ルイズが?」 「そうさ。強いて言えばギーシュくん、君もグラモン元帥の息子だろう? そういうわけで、トリステインに問い合わせてみたら、 君たちだけが帰国していないことが判明してね。出迎えるべきであったのだけど、なにやらただならぬ雰囲気だったもので、 失礼かと思ったけれど、僕がしばらく様子を見ることにしたというわけなのさ」 全員が、ロマリアの情報収集能力に驚いていた。まさか、とっくの昔に気づかれていたどころか、ルイズやギーシュの顔まで 出回っているとは想像をはるかに超えていた。 呆然とするギーシュたち。才人も、あまりの答えに愕然として二の句が次げない状態だ。 すると、ヴィットーリオは申し訳なさそうに軽く会釈して、穏やかな声で言った。 「もう一度失礼をお詫びします。ジュリオはこのとおり、少々人を食ったところがある悪い癖がありましてね。悪気はなくとも 不必要に他人に警戒させてしまうことがあるのです。ジュリオ、あなたも謝りなさい」 「はい、すまなかったねサイトくん。でも、僕らとしても黙ってロマリアに入ってきた君たちの真意をはかりかねていたんだ。 なるほど、空を覆った黒雲の原因を調査しに来ていたとは意外だったよ。僕たちもそれについては調査をしているんだよ。 これからは、協力してハルケギニアに太陽を蘇らせるようがんばろうじゃないか」 ジュリオはそうして握手を求めてきたが、才人はすぐには応じなかった。 確かに一応の説明にはなっている。しかしまだ、地下墓地に眠っていた地球の兵器群、ハルケギニアの人間ならば 使い方などわかるはずもないあれらのところへ、迷わず自分たちを連れて行ったことが腑に落ちない。自分でも言っている とおりに人を食った態度で煙にまこうとしているが、こいつにはまだどうしても危険な匂いを感じてならない。 いや、それを言うならば教皇ヴィットーリオも才人は気に食わなかった。ロマリアの街があれだけの惨状になっているのに、 お偉いさんであるこいつはなにをしているのだ? 才人には政治や経済に関する知識などはないけれども、いままで 見てきたハルケギニアの国で、トリステインはもちろん、アルビオンやガリアも天国とはほど遠いものの人々はそれぞれの 生活を前向きにがんばっていたが、この国にあるのは絶望と虚栄心だけではないか。 そうして、才人が握手をためらっていると、秘書官らしい人がやってきてヴィットーリオに耳打ちし、彼は皆に告げた。 「すみません皆さん、時間が来てしまいました。これから私はガリアの艦隊を巡って、将兵の方々を慰問しなくてはなりません。 ジュリオも、まだお話があるでしょうが私の護衛についていただかなくてはなりませんので、申し訳ありませんが、続きは またの機会にということにいたしましょう。さ、ジュリオ」 「はい、陛下」 「よろしい。では、失礼させていただきますが、今回の一番の功労者の皆さんを邪険にしてしまうのは、本当に心苦しく思います。 おわびに、略式ですが皆さんに祝福を授けてあげましょう。それで許してくださいませ」 ヴットーリオの真摯な姿勢に、ギーシュや水精霊騎士隊の少年たちは「そんな、もったいないことです!」と、慌てて叫んだ。 教皇の祝福といえば、敬虔なブリミル教徒にとっては喉から手が出るほどほしいもので、末代までの誇りとなるばかりか、 祝福を得られた者は神に認められたとして、神と始祖のためなら命すら惜しまぬ勇猛な戦士となるほど価値のあることなのである。 略式の場合は儀式的なものはなく、ただヴィットーリオが短く祝福の言葉をかけるだけであるが、それでも教皇直々にと いうことが大変な名誉になることは変わりない。 「ギーシュ・ド・グラモン、あなたに始祖の加護がありますように」 「あ、ありがとうごさいますすすす!」 ひとりひとりにこう短く語りかけるだけだが、ギーシュたちは完全に恐縮しきっており滑稽としか言いようがなかった。 一方で、ブリミル教徒ではない才人は冷めたもので、義務的に礼と会釈をしたのみだった。これをロマリアの神官などが 見たとしたら、額に青筋を立てて怒り出すところだが、ヴィットーリオは穏やかな表情のままだった。 そして、たいした数もいない水精霊騎士隊の祝福はあっというまに終わり、才人はそれを退屈そうに横目で眺めていたが、 最後にティファニアの番になったところで才人の眉が動いた。 「ティファニア・ウェストウッド、あなたにも始祖の加護があらんことを」 「は、はい。あ、ありがとう、ございます」 ティファニアの声が震えていた。最初は、緊張によるものかと思ったが、冷静さを保っていた才人はすぐに脅えによるものだと気づいた。 ”テファ……?” どうしたんだろう。人間に化けるルクシャナの魔法は完璧だったはず。なのに、彼女の震えは尋常ではない。 才人はいぶかしんだが、さすがにこの場でティファニアに問いかけることはできない。不信に思いながらも静観していると、 やがて全員の祝福を終えたヴィットーリオはジュリオを連れて足早に去っていった。 室内には、感動のあまり呆けた様子のギーシュたちと、憮然とした才人に、ティファニアが残っている。 「なんか、人間ばなれした人だったな」 才人は、白昼夢でも見ていたかのような気持ちで率直な感想を口にした。とにかく、今まで出会ってきたどんな人間とも 異なる種類の人であった。まるで、この場にいるけど、実体ではないような……奇妙なようだが、よくできた人間の仮面を かぶっているような、そんな違和感を最後までぬぐえなかった。 こんな気分ははじめてだ。才人はそう考えていたが、ふと思い出してティファニアに話しかけようと思った。ところがそこへ、 我に返ったギーシュたちが一気に突っ込んできたのだ。 「おいサイト! 教皇陛下に対してなんだね今の態度は? 陛下がご寛大なお方だったからよかったが、あんな無礼をしたら その場で聖堂騎士隊に処刑されててもおかしくないんだよ」 彼らはさっきとは違う剣幕で怒っていた。価値観がまったく違うからある程度しょうがないとはいえ、こちらの常識から してみたらとんでもないことを才人はしでかしていたのだ。彼らとしては、教皇陛下のご機嫌が損ねられたらと、戦々恐々と 才人を見ていたに違いない。 ひとしきりの叱責が続き、やがて才人も自分の態度が皆に心配をかけていたのは納得すると、謝罪した。 「悪い、みんな。次からは気をつける」 「わかってくれればいいさ。思えばぼくらも君にハルケギニアの常識が欠けているのを忘れていた。君はこの場に出さないほうが よかったようだ」 異なる文化風習の人間が合わさるとき、無知や無理解からいざこざが起こるのはよくあることだ。今回はどうやら、 無事にすんだらしい。 「ところでギーシュ、おれたちはこれからどうするんだ?」 「うーん、教皇陛下はしばらく戻られないだろうし、到着するのは明日になるはずだ。しばらくはやることがないから、各自自由行動で いいだろう。聖マルコー号の船内は自由に使っていいそうだし、食事をとるなり休むなり好きにしてくれたまえ」 ギーシュがそう言うと同時に、複数のあくびの声が響いた。どうやら、魔法で治療を受けたとはいえ戦いの疲れがどっと来たらしい。 全員が揃って生還できたことが信じられないような死闘だったのだ。勝利の女神のささやきも、睡魔の歌にかき消されてしかるべきだろう。 ともかく、まだ話は山のようにあるが、今はとりあえず一晩の眠りがほしいところだ。 各人がとろんとしてきた眼をこすりながら出て行くと、才人もティファニアをともなって部屋を出た。 「大丈夫かテファ? 顔色が悪いようだけど、なにか、気にかかることがあるなら話を聞くぜ」 「サイトさん……お話したいことがあるんです。ただ、ここじゃちょっと」 「わかった。けど、その前に寄りたいところがあるんだ。少しだけ待ってくれ」 才人はティファニアを連れて聖マルコー号の医務室を訪れた。そこでは、負傷した仲間たちが寝かされてすやすやと寝息を 立てており、付き添いで椅子に座ったまま居眠りしている銃士隊員の姿もあった。 ルイズも、その奥のベッドに寝かされており、静かに死んだように眠っていた。 「皆さんも、ルイズさんも、疲れたんですね」 「ああ、特にこいつは今回一番がんばってくれたからな。おれには過ぎたやつだよ、ほんとにさ」 メーサー車の操縦のサポートから虚無の魔法の連続使用と、ルイズががんばってくれなくては自分だけの力ではどうにもならなかったと 才人はしみじみ思った。ルイズがいなければ、今の自分はない。この小さな体に、何度命を救われてきたことか。 起こしちゃいけないと、才人はそっとルイズのベッドを離れた。そして最後に訪れたベッドで彼を待っていたのは。 「来たか、サイト」 「起きてたんですか、ミシェルさん」 才人は、あえて自分のこの世界での戸籍上の姉のことを名前で呼んだ。それが、どういう意図で口から出たものなのかは 才人本人にも実はよくわかっていないが、彼の心情が単純でないという証明でだけはあったろう。 「姉さん」ではなく、さん付けでも名前で呼ばれることがミシェルにもどういう心境を与えたのか。ベッドに横たわったままで、 彼女は口元に薄い笑みを浮かべると、穏やかな声色で言った。 「それは気づくさ。あんな無用心でへたくそな足音を立ててくるやつはお前しかいない」 「どうですか? 体の具合のほうは」 「落ち着いたよ。まだ、大丈夫とはいえないが、それなりに鍛えてるからな。それに、彼女ががんばってくれた」 ミシェルの傍らで、治癒をかけ続けていたルクシャナは疲れ果てて寝こけていた。精神力を使い切り、こころなしか 細身の体がさらにやせてほおがこけているようにも見える。彼女も、いや今回は誰もが死力を尽くさなくては生き残れない 戦いだった。 しかし、才人の心には安堵よりも罪悪感が強い。それを見抜いたのか、ミシェルは少々声色をきつくした。 「こら、今回一番の功労者がそんな沈んだ顔をしていてどうする? 我々は勝ったんだ。もっと誇らしくしろ」 「いえ、そもそもおれがウジウジしていたから、みんなが危ないときに」 「バカ! 過ぎたことをいつまでも悔いていてどうする。そうやって後悔し続ければ、時間を戻せるわけでもないだろう。 経緯はどうあれ、お前が来てくれたおかげでわたしたちは助かった。今回、お前は間違いなく英雄だよ」 「はい……」 才人はうなづいたが、やはりまだ納得しきれていなかった。あの夜のことはミシェルには話せない。先の戦いでは、 その迷いを怒りで無理矢理抑えて戦ったが、終わった後で得られたのは、どうしようもない虚しさだけだった。 戦う意味が取り戻せないまま戦っても、心は空虚で満たされない。いや、戦ってなにかで心を満たそうという、血を 欲するような嗜好を持ってはいないつもりだが、なにもなしに無償で戦い続けられるほど、聖人じみた慈善精神も 才人は持っていなかった。 これが、戦闘の高揚感や金銭を目当てに戦う人間ならば悩まなくてすんだだろう。けれども、才人の戦ってきた目的は 利益や私欲のためではない。まして名誉なんかを望んだことは一度もない。ならばなにを求めてきたのかと問われると、 それを才人も答えることができなくて苦悩していた。 すると、ミシェルは呆れたように息をついて才人に言った。 「どうやら、まだ吹っ切れないようだな。困ったやつだ。前に、わたしにはさんざん説教しておいて自分のこととなるとこれか?」 「面目次第もないよ」 恥ずかしさと情けなさで才人は死にたくすらなった。長々と、こんなことに時間をとってみんなに迷惑をかけ、いらだたせている 自分がほんとうにバカに思えてしまう。けれども、ミシェルは才人を怒りはしなかった。 「まあいい。人から出してもらった模範解答で納得できるような悩みばかりじゃないことは、わたしも知っているさ。それに お前は、自分で納得のいく答えを出したいんだろう? なんなら、叱り付けてやろうかと思ったが、やめておくよ」 「ほんとすみません。おれ、自分で言うのもなんですけど、バカですから」 「ふっ、なにを今さら。でも、お前は自分をそう言えるだけたいした奴だよ。本当のバカとは、自分を利口だと思ってるバカのことさ。 昔のわたしはまさにそうだったろう? 自分の考えが唯一無二の正解だと信じて、みんなに大変な迷惑をかけてしまった」 ミシェルは苦笑いしながら思い出を辿る。 「だけど、そんな大バカのわたしを、サイト、お前は助けてくれた。そのことは、わたしは一時たりとも忘れたことはない。 だからサイト、お前は自信を持て。なにに迷っているか知らないけれど、お前はひとりの人間を確かに救った男だ。誰にでも できるようなことじゃない。お前は英雄だ。少なくとも、わたしにとっては永遠にな」 「ミシェルさん……ありがとう」 才人の目には、いつのまにか涙が浮かんでいた。 「バカ、礼を言わなきゃいけないのはわたしのほうだ。お前のおかげで、今のわたしには家族がいる、仲間がいる、 生きる目的も楽しみもある。そしてなにより、惚れたお前がいる。人を愛することを知れて、わたしはとても幸せなんだ」 そのミシェルの言葉を聞いて、才人よりむしろ隣にいたティファニアのほうが赤面した。 「わっ! ミ、ミシェルさん、そんなはっきり、あ、愛してるだなんて」 「ん? はは、聞かれてたな。それはもちろん、わたしだって面と向かって言うのは恥ずかしいさ。でも、思いは言葉に しなきゃ伝わらないって、部下たちが言うんでな。ティファニア、お前もいつか心から愛せる人ができたときに、きっと わかるようになるさ。もっとも、楽な道ではないけれどもな、サイト」 「えっと、ごめんなさい。おれ、まだそっちのほうの気持ちにも、整理がついてなくて……」 青ざめたり赤面したり、この日の才人の顔色は信号機のようだった。けれど、ミシェルはそんな才人のことなど 百も承知とばかりに軽く笑う。 「情けないやつめ。人が恥ずかしいのを我慢して告白しておいてそれだ。とはいえ、横恋慕するわたしも悪いんだが、 もう自分の気持ちにうそはつきたくないんでな。サイト、何度でも言うが、わたしはお前を愛してる。サイトが望むなら、 わたしの持っているすべてをくれてやる。それに、今のわたしには夢がある」 「夢?」 「ああ、サイト、この戦いが終わったら、わたしはお前の生まれた国に行ってみたい。お前みたいな奴が育った国へ行って、 見て、聞いて、学んで、もっと広く大きくものを守れる人間になりたい。今のわたしの力なんてないも同然だ。私は強くなる。 サイト、お前には夢はないのか?」 それを聞いて、才人ははっとした。 ”夢? そうだ、おれの夢は” 思い出した。それに気がついたとき、今まで死んでいた才人の目にわずかながら光が戻った。 おれにも夢があった。おれが戦ってきたのは、夢をかなえるためでもあったはずだ。 そして、才人の表情の変化を敏感に感じ取ったミシェルは、安心したように才人に微笑んだ。 「なにかに気づいたようだな。さて、長話になってしまったな。怪我人はもう少し寝るとするよ。サイト、そい寝してくれるか?」 「いいっ!?」 「ははっ、冗談だよ。お前に、そんな度胸があるわけないもんな。ささ、根性なしは出てけ出てけ、私は寝る」 「あはは、はーい」 ここでギーシュとかだったら躊躇なく「喜んで!」とか言ってベッドに飛び込んでくるだろうが、残念ながら日本育ちの 才人はそこまで強引にはできなかった。いや、シチュエーションさえ許せば健康な青少年らしくしていたかもしれないが、 さすがに怪我人を押し倒す気にはなれなかったのだろう。 才人はティファニアを連れて立ち去ろうとした。いいかげん、恥ずかしさが限度にきている上に、ルクシャナに起きられて 事の顛末を皆にしゃべられたらやっかいなことになる。特にルイズになに言われるかわかったものじゃない。 ドアを開けてティファニアを先に出し、自分も続いてくぐる。だが、扉を閉めようとしたときに、ミシェルの自分に当てた 声が届いてきた。 「サイト……ありがとう」 才人は一瞬扉を閉める手を止めて、音を立てないように静かに閉めた。 聖マルコー号の船内は、手すきの船員はすべて教皇陛下の仕事で甲板に上がっているのか意外に静かで、ふたりは コツコツと足音を響かせて歩いていく。 「ふふ、なんだかサイトさん、少し楽しそう」 「そうか? どっちかっていうと、恥ずかしいとこを見られて顔から火が出そうなんだがな」 とはいうものの、才人の表情が和らいでいるのをティファニアはしっかりと見ていた。 ミシェルと話す前はしかめっ面だったのが、いまではどこか幸せそうにほおが緩んでいる。それがどうしてなのか、 多分、ミシェルが才人の忘れかけていた、戦う理由のはじまりを思い出すヒントを与えてくれたからだろう。 キリエルに言われた、多くの人々を救うことが正しいのかどうかの答えはまだ見つけられていない。だが、自分の 中には正義感や使命感より先に、どうして戦い始めたのか、どうして戦ってこれたのか、戦い続ける中でいつの間にか 忘れていたこと、勇気の原動力となっていたものがあった。 それが、夢。才人には、かなえたい大きな夢があった。 ”おれは小さい頃からウルトラマンにあこがれていた。ウルトラマンみたいに強く、かっこよくなりたいとずっと願ってた。 そうだよ、おれはウルトラマンになるためにこれまでがんばってきたんだ。みんなを守れる、本物のヒーローになるために。 そのために戦ってきた。GUYSに入るために勉強もしてきた。それがおれの原点であり、変わらぬ目標だったはずだ” そのことを思い出し、はじまりの気持ちに立ち返ったとき、心を覆っていた暗雲の一角から光が見えていた。 考えてみれば、いつからこんな小難しいことを考えるようになったんだろうか。最初のころの自分は、もっと単純に、 悪く言えば考えないで戦っていたはずだ。ただ、それが正しいことであると信じて。ウルトラマンなら、そうしてみんなを 助けてくれるはずだと信じて。 そして、ただ思い出すだけではなく、ミシェルの語った夢と共感することが勇気を与えてくれた。自分はひとりじゃない。 同じ目標を持っている仲間がいるということが、孤独だった才人の心になによりの希望を与えてくれたのだ。 「結局、おれみたいなバカがひとりで考えても無駄だってことか」 「はい?」 「いや、なんでもない。けど、考え事の半分は片付いたから心配しないでくれ」 やっぱり、悩みを胸の奥にしまい続けていてもろくなことはないということなのかと才人は思った。原点に帰るという 簡単なことなのに、それをひとりでは思い至らなかった。人はひとりでは生きていけない。だったら、おれもミシェルさんの 夢の手助けをしたいなと才人は思った。 地球に、日本に彼女を招待する。いつかそれを叶えてあげたい。宇宙はこんなに広いんだということを、ルイズのときのように 見せてあげたい。なんだ、自分にも新しい夢ができたじゃないか。 心には、もうひとつの迷いがまだ残っている。救えない人間を救おうとするのは正しいのか、その答えはまだ出ていないが 最後にミシェルのくれたありがとうの一言が、すべてとはいかないが心に絡み付いていたツタを切り払ってくれた。 「まったく、見舞いに行ったらいつのまにか自分がはげまされてるんだから、かなわないなあ」 「ミシェルさんって、いい人ですね」 ティファニアが微笑みながら言うと、才人も笑ってうなづいた。 「だろう、強いし優しいし、なにより胸はでかいし美人だしな」 「サイトさんは、ミシェルさんをお嫁さんにするつもりなんですか?」 「ぶっ! テ、テファ、せっかく人がオチつけてごまかそうとしてるのに、そんなにストレートに言われると困るなあ」 才人は、聞かれたくないなあと思っていたことをズバリと問われてまいってしまった。 弱りながら頭をかき、どう答えたものかと考える。おおまかなことはさっきまでにしゃべっていたとおりなのだが、 実際に将来結婚するかとなると難しい。 ルイズが好きなのは変わらない。しかし別にミシェルにひかれる心があるのも確かだ。 まったく我ながら情けなくも憎らしい。優柔不断な女の敵とそしられても文句は言えない。 だが、いつかは必ず決めなくてはいけない問題だ。そのことを思い、才人はこう答えた。 「おれも、いつまでもガキのままじゃいられないからな。誰も傷つけずに、みんなまとめて幸せにするなんて都合のいい ハッピーエンドを考えちゃいないさ。ルイズに消し炭にされるなり、ミシェルさんに首刈られるなり覚悟するさ。けれど、 もう少し時間がほしいんだ」 「そうですね。お父さんがしっかりしないと、生まれてくる赤ちゃんがかわいそうですもんね」 「ぶっ! テ、テファ、い、意外とキツいこと言うんだね」 「えっ? 結婚したら赤ちゃんを産むことになるんですから、ちゃんと準備してから結婚するのは当たり前じゃないんですか?」 きょとんとした表情で見つめてくるティファニアに、才人はやっぱり女性はあなどれないなと思った。浮世離れした 育ちをしてきたとはいえ、さすがはロングビルが育ての親をしてきただけはある。結婚後に対してシビアというか 現実的な考え方を持っている。 対して自分はどうか? 言われてみれば結婚後のことなどろくに考えていない。どう生活を立てていくとか一切ビジョンなし。 これでは、嫌な言葉だが結婚が人生の墓場となってしまう。ガキのままじゃいられないと言いつつ、立派過ぎるほどガキだった。 「うーん、おれの子供かあ……」 才人は想像してみた。ミシェルとの間に子ができたら、きっと利発でたくましい子で、ミシェルは厳しくも暖かく育てるだろう。 ルイズとの間に子ができたら、頭がよくて運動神経がよくて……だめだ、ルイズが子育てしている姿が想像できない。 いや、よく考えてみたら自分も子守りしたりおしめ代えたりしなきゃいけないのだ。 人生設計……こりゃあ、怪獣と戦うより難しいなと才人は思った。ただのサラリーマンだった父と、専業主婦の母は 実はとてもすごかったのだ。アホな息子でごめんなさいと、才人は心の中で両親に深々と頭を下げるのであった。 さて、どうも話がかなり未来のことにまで脱線していたようだ。 頭を抱えていた才人は、とりあえず将来の苦労のことは置いておいて、ティファニアを連れて自分に割り当てられた 個室に入った。 ここは、来賓の貴族用の個室になっていて、外に声が聞かれる心配はない。本来はルイズ用の部屋だが、 ルイズが医務室で眠ったままの今なら誰も来ることはないはずだ。 「よし、と。鍵も閉めたし、人の気配もねえよな。待たせてすまなかったなテファ、話ってのはなんだい?」 「実は、あの、教皇陛下のことなんですけど……」 ぼそぼそと、周りを気にしながら話すティファニアに、才人もやはりと思った。 もう一度、盗聴されてないか部屋を見渡す。魔法の使えない才人はディテクトマジックなど使えないが、本能的に 安全を確保しようという気が働くのは、才人自身もあの教皇に愉快ならざるものを感じていたからだ。 「テファ、大丈夫だ。あの教皇は、おれもいけすかないと思ってるんだ。まずいことだったら、絶対に誰にも言わないって 約束する。テファがそんな顔してたら、みんなすぐに気がつくぜ。誰かと話せば少しは楽になるって、さっき俺のを 見てたろ?」 才人はつとめて優しくティファニアに語りかけた。もしもここに外敵が現れたら、身を挺してでも守る覚悟だ。 ともかく、証拠を並べる以前に本能的にヴィットーリオとジュリオは気に入らない。言いがかりだとしても、危険な 感じのする人間にティファニアが脅えているのだから放っておくわけにはいかない。 すると、才人の真剣な態度を受け取ったのか、ティファニアは声を潜めながらも話し出した。 「実はわたし……小さい頃に一度、あの人に会ったことがあるんです」 「会ったことがって、教皇ヴィットーリオとか?」 「はい、でもただ会っただけじゃないんです。サイトさん、わたしの母のことをご存知ですよね?」 「テファのお母さん? 確か、サハラから来たエルフだったよね」 才人は記憶を辿って答えた。もうけっこう前のことになるが、ティファニアの母親のことについてはタルブで話を聞いたことがある。 目的はさだかでないが、アルビオンに向かって旅をしており、立ち寄ったタルブでのシエスタやルイズの母、それからこの世界に 迷い込んでしまった元GUYSの佐々木隊員をめぐる怪獣ギマイラとの戦い。そして、その果てに現れたウルトラマンダイナの 活躍など、思い浮かべるだけでも胸が熱くなる。 「はい、母の名前はシャジャル。ですがサハラの言葉の名前なので、旅の間は偽名としてティリーと名乗っていました。 三十年前にサハラからやってきて、いろいろな冒険をしたそうです。特にタルブ村であったことは、サイトさんたちもお聞きに なったとおりです」 「ああ、思い出した。それで、タルブ村での戦いの後で、アスカ・シンとアルビオンに旅立ったんだっけか。おれの知ってるのはそこまでだよ」 「話は、そのすぐ後……母がアスカさんとアルビオンに渡ってのことです。わたしが生まれるよりずっと前のこと、お母さんから 聞いたウルトラマンダイナの最後の戦いのことを、まずは聞いてください」 ティファニアは目を伏せ、とつとつと語り始めた。 時をさかのぼること三十年。まだ将来起こる世界の破滅など、誰も夢にも思わない時代。 しかし、一見平和に見えるこの時代においても、人々の知らないところで戦いが繰り広げられていた。 タルブ村の戦いで、宇宙からやってきた怪獣ギマイラを退けたアスカ・シンことウルトラマンダイナ。彼はあてのない旅の 途中で、ティファニアの母ティリーをアルビオンまで送り届けようとしていたが、アルビオン大陸に渡って少しした旅の中で 突如として恐るべき敵と相対しようとしていた。 「ア、アスカさん」 「へっ、心配するな。お前は、俺が必ず守ってやるからよ」 誰もいない深い森の中で、若いエルフの娘を防衛チーム・スーパーGUTSの制服を着た青年がかばっている。 その前に現れるのは、空から降り注いだ全長五十メートルを超えるのでは思えるような銀色の四本の柱。 やがて四本の柱は液体のように形を崩すと一体に固まり、銀色と金色の混ざった表皮を持ち、オレンジ色に輝く単眼を 持った異様な巨人の姿へと変わった。 「こいつは……なんだあ?」 唖然とする青年、アスカの見上げる前で、異形の巨人は二人を見下ろし、まるでこれから踏み潰す蟻を値踏みする 子供のようにいやらしく口元を歪めて笑ってみせた。 金属生命体アルギュロス。その悪意を隠そうともしない見下げた姿勢に、アスカはエルフの少女をかばいつつ告げた。 「ティリー、下がってろ。こいつは、俺がぶっ倒す」 「アスカさん。そんな、無茶です逃げましょう!」 「心配すんなっての。ところで、ここはアルビオンのどこあたりになるんだっけか?」 「えっ? 確か、サウスゴータ地方のウェストウッドというところのはず、ですが」 唐突にアスカに振られた問いに、エルフの少女ティリーが怪訝な顔を向ける。だがアスカは明るく笑うと、ぐっと親指を立てて言った。 「そうか、じゃあ目的のとこへはあと少しだな。もしも、俺になにかあっても、お前は迷わず進み続けろよ」 「えっ……アスカ、さん?」 困惑するティリーの前で、アスカはためらわずアルギュロスへ向かって歩を進めた。 そして立ち止まり、強い眼差しでアルギュロスを見上げると、その手に握った光のアイテム・リーフラッシャーを高く掲げて叫んだ。 「ダイナーッ!」 光がほとばしり、アルギュロスと対峙して銀色の力強い巨人が立ち上がる。 光の戦士ウルトラマンダイナ。アルビオン大陸を舞台として、その知られざる戦いが今語られようとしている。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔