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前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百二十九話「一冊目『甦れ!ウルトラマン』(その2)」 変身怪人ゼットン星人 恐怖の怪獣軍団 友好珍獣ピグモン 登場 未完のまま筆が途絶え、自身の完結を求めて魔力を得た『古き本』の中に精神を囚われたルイズ。 才人は彼女を救うべく、リーヴルの力を借りて本の世界へと旅立った。――そこは初代ウルトラマンが、 ゼットンに敗れた後も地球に残り続けたifの世界。そこではウルトラマンことハヤタが敗戦のトラウマ から不調になり、失意にどん底に陥っていた。才人とゼロは、ウルトラマンを立ち上がらせてこの本の 世界を完結に導くことが出来るのだろうか。 野山を覆う緑の山林の中で、この本の主人公であり本来の『ウルトラマン』であるハヤタと、 現実世界から闖入者たるイレギュラーの『ウルトラマン』のゼロと才人が向かい合った。まずは ハヤタの方が先に口を開く。 「君が……さっきのウルトラマンだね?」 才人はうなずいて答える。 「ええ。平賀才人……ウルトラマンゼロと言います。はじめまして、ハヤタさん」 この本の中では、ハヤタことウルトラマンはゼロのことを存じていないようだ。それも無理の ないことかもしれない。本がいつ頃執筆されたかは知らないが、地球ではゼロの存在はかなり 最近になってから、惑星ボリスとハマー、怪獣墓場から生還したZAPクルーの報告によって知られた もの。それ以前に書かれたのならば、たとえ『ウルトラマン』でもゼロのことを認知するのは 不可能。本の世界は、本来は作者の情報がその全てなのだ。 さて才人が肯定すると、ハヤタは自嘲するように苦笑を浮かべた。 「そうか……。最近科特隊に活躍を奪われがちだったところに、僕以外のウルトラマンが 現れたなら、ますます僕はお払い箱だな」 才人はそのひと言に若干慌てる。 「お払い箱だなんてこと……! 『この』地球を守ってきたのはあなたじゃないですか」 「そんなことは関係ないさ……。どんな実績を打ち立ててこようとも、現在に怪獣に勝てず、 地球を守れない弱いヒーローなんて誰からも求められないよ。これを機に、僕は引退する べきなのかもしれない」 かなり弱々しいことを吐くハヤタ。昨今のスランプがよほど精神に応えているようである。 すると才人は、語気をやや強めてハヤタに告げた。 「そんな情けないこと、言わないで下さいッ!」 「え……」 ハヤタの顔をまっすぐ見据え、熱意を込めて説く。 「あなたは地球に現れた、最初のスーパーヒーローだ。世界中の子供たちは、みんなあなたの 勇敢に戦う姿に勇気をもらい、憧れた。俺もその一人です。あなたの存在はたくさんの人に 夢を与えた……いや、与えてるんだ。あなたは不朽のヒーローなんです!」 この応援のメッセージは、本を完結させるためだけのものではない。才人は本当に、地球を 何度も救ってきたウルトラ戦士の歴史の始まりとなった最初のウルトラマンに、強い憧れの心を 抱いて育った。だからたとえ本の登場人物でも、そのウルトラマンが弱っているのを放っておく ことは出来ないのだ。 「ヒーローに、別の誰かがいるから必要ないなんてことはありません。今は落ち込んでても、 あなたは偉大な戦士なんだ。どうかもう一度立ち上がって、今までのように俺たちに夢と希望を 与えて下さい!」 「平賀君……」 果たして才人の気持ちは、ハヤタの心を動かすことが出来たのか。 その答えが出る前に、ハヤタの流星バッジが着信を知らせた。ハヤタはすぐにアンテナを伸ばした。 「すまない。こちらハヤタ!」 『ハヤタ、今どこにいる! たった今防衛隊から、謎の円盤群が日本上空に侵入したとの 連絡とともに出動要請が入った。直ちに迎撃するぞ! すぐにビートルまで戻れ!』 「了解!」 ムラマツに応答してアンテナを戻したハヤタが、才人に向き直る。 「悪いが、僕は行かなくてはいけない。話はまた後にしてくれ」 「分かりました。どうか、頑張って下さい!」 才人の呼びかけに、ハヤタは迷いを顔に浮かべながらも、科特隊式の敬礼で応じて走り 去っていった。 それから才人は、ゼロの千里眼によって科特隊に先んじて件の円盤群の光景をキャッチした。 『……こいつはゼットン星人の円盤だ!』 「ゼットン星人って言うと、あのゼットンを最初にもたらした……!」 現在の地球において、ゼットンの名を知らぬ者などいないだろう。当時無敵と思われた ウルトラマンを完敗せしめ、世界中の人間に衝撃を与えた恐るべき宇宙恐竜。色んな教科書に その名前が載っている、世界一有名な怪獣だ。 そのゼットンを最初に侵略兵器として地球に連れてきたのが、『ゼットン』という言葉が 出身星の名前にまでなっているゼットン星人だ。 『ゼットン星人はもう一つ、変身能力による破壊工作が得意だ』 「破壊工作……科特隊が円盤迎撃に出たのなら、基地はがら空きだよな」 『ああ。嫌な予感がするぜ。俺たちは基地の方に向かおう!』 「よっしゃ!」 ゼロと相談し、才人は科特隊基地へ向かって駆け出した。 ルイズを通信士として基地に残し、科特隊自慢の万能戦闘機、ジェットビートル二機で 出撃したハヤタたちは、ゼットン星人の円盤群と会敵していた。 「おいでなすったなぁ。円盤発見!」 『直ちに攻撃開始!』 ムラマツの指示により、ジェットビートルは光線を発射して円盤に攻撃を加える。 だが光線は円盤をすり抜けてしまう! 「どうなってやがるんだ!?」 何度攻撃しても結果は同じ。ハヤタはこの円盤のカラクリを見抜いた。 「キャップ、あの円盤は何者かの罠です。多分、立体映像なんです!」 「おい、それじゃ本部は!」 ビートルは本部の危機を察し、慌てて引き返していった。 才人が科特隊の基地にたどり着いた時、上の階に行くほど幅が広がっていく独特な建築の ビルの窓の一つから、黒い煙が立ち上るのを目にすることになった。恐らく作戦室だ。 『まずい! ひと足遅かったか!』 「ルイズは無事なのか!? くそッ!」 ルイズが犠牲になってしまったら最悪だ。才人は全速力で基地に入り込み、階段を駆け上がって 作戦室にたどり着いた。 そこでは科学者の男性が、光線銃を用いて科特隊本部のコンピューターを破壊していた。 その足元には、倒れているルイズの姿。 「ルイズッ! こんのやろぉーッ!」 煙に巻かれる作戦室の中、激昂した才人が踏み込んで、男を殴り飛ばした。男は突然の 攻撃に驚いたか、すぐに作戦室を抜け出して逃げていく。 才人は先にルイズを介抱して、無事を確認する。 「ルイズ、無事か! ……よかった、息はしてる」 「う、うぅん……」 才人に抱き起こされたルイズの意識が戻った。 「大丈夫か?」 「大丈夫かって……あなたは誰なの!? ここは科特隊本部よ、子供がどうやって入ったの?」 お前も子供だろ、と言いかけた才人だが、今のルイズはフジ隊員の役になり切っているのだ。 そんなことを言ってもしょうがない。 「えーっと……俺は風来坊さ。科特隊の危機を察知して、助けに来たんだ」 「風来坊? 助けてくれたのはありがたいけれど、冗談言ってないで避難しなさい。ここは危ないわ」 ルイズが自力で立つと、ちょうど本部に帰投したハヤタたちが駆け込んできた。 「フジ隊員、どこだ!? ……ややッ、君は誰だ!?」 「君はさっきの……!」 イデたちは見慣れぬ才人の姿に面食らっていた。ルイズは彼らに告げる。 「この子は誰だか知らないけれど、わたしを助けてくれたの。それより、犯人は岩本博士よ!」 「そうだった、捕まえないと!」 「お、おい君ぃ! 一体何なんだ!?」 才人が逃げた男を捜しに飛び出していく。その背中を追いかけていくアラシたち。 男は科特隊基地から外に逃げ出したところだった。それを発見した才人が速度を上げ、 距離を縮めて飛びかかる。 「待てぇー! とおッ!」 タックルした才人に足を掴まれ、男は前のめりに倒れた。 「この野郎、正体を見せろ!」 才人の要求に応じるように、男はケムール人に酷似した真の顔を晒して立ち上がった。 これがゼットン星人だ。 この時にハヤタ、ムラマツ、アラシが才人に追いついてきた。 「はぁッ!? 君、危ない!」 ムラマツとアラシがゼットン星人から才人をかばい、ハヤタがマルス133をゼットン星人の 顔面に向けて発射。 「グ……グオオ……!」 その一撃により、ゼットン星人はもがき苦しみながら消滅していった。 しかし今際の断末魔が、怪獣軍団総攻撃の合図だった! 「ピッギャ――ゴオオオウ!」 東京奥多摩の丘陵を突き破り、レッドキングが出現! 驚き逃げ惑う人々に狙いをつけ、 襲い掛かり始める。 「ゲエエゴオオオオオオウ!」 「ギャアアオオオォォウ!」 「ゲエエオオオオオオ!」 それに続いて有翼怪獣チャンドラー、地底怪獣マグラー、冷凍怪獣ギガスまで出現した。 怪獣たちはレッドキングが総大将となり、人間に牙を剥く! 怪獣出現の報を受けたムラマツは、部下たちに命令を発する。 「出動準備! 直ちにビートルで現場に向かうぞ!」 「しかしキャップ、この子はどうします?」 イデが才人を一瞥して尋ねた。 「今は怪獣撃滅の方が最優先だ。すぐに発進だ!」 「了解!」 ムラマツ、アラシ、イデの順にビートルへ向けて駆けていく科特隊。ハヤタだけは複雑な 眼差しを才人に注いでいたが、前を向いてムラマツたちの後に続いていった。 彼らを見送った才人は、颯爽とウルトラゼロアイを取り出す。 「行くぜ、ゼロ!」 『ああ! ウルトラマンが再起するまで、俺たちが物語を支えなくっちゃな!』 戦意を燃やしながら、才人がゼロアイを装着。 「デュワッ!」 輝く光と化して、ビートルより早く奥多摩の怪獣が暴れる現場へと飛んでいった。 「ピッギャ――ゴオオオウ!」 奥多摩では、レッドキングが逃げ遅れた人たちを今にも叩き潰しそうになっていた。 「うわああああッ!」 彼らの命が危機に晒されているところに、ウルトラマンゼロが到着! 『てぇぇぇぇいッ!』 上空からの急降下キックがレッドキングに入り、大きく蹴り飛ばした。それにより逃げ遅れた 人たちは間一髪で助かり、避難に成功する。 「ピッギャ――ゴオオオウ!」 レッドキングの前にチャンドラー、マグラー、ギガスが集まり、登場したゼロと対峙して威嚇する。 『来い、怪獣ども! このウルトラマンゼロが相手になってやるぜ!』 「ゲエエゴオオオオオオウ!」 「ギャアアオオオォォウ!」 「ゲエエオオオオオオ!」 ゼロの挑発に応じるように、チャンドラーたちが一斉にゼロに押し寄せてきた。 『はぁッ!』 対するゼロはまずチャンドラーの突進をいなし、マグラーの頭部にキックを一発入れて ひるませ、殴り掛かってくるギガスの腕を捕らえてウルトラ投げを決めた。 「ゲエエオオオオオオ!」 「ピッギャ――ゴオオオウ!」 投げ飛ばされたギガスに代わってレッドキングがパンチを打ち込んできたが、ゼロは紙一重で かわし、反撃の掌底で突き飛ばした。 「ギャアアオオオォォウ!」 そこにマグラーも跳びかかってくるも、すかさず反応したゼロがひらりと身を翻したことで 丘陵に激突した。 四体もの怪獣相手に敢然と戦うゼロは、頭部のゼロスラッガーを取り外して両手に握る。 『一気に決めてやるぜ!』 そして突っ込んできたチャンドラーにこちらから踏み込んでいき、刃を閃かせる。 「セェェアッ!」 逆手持ちのスラッガーの一閃が、チャンドラーの片翼をばっさりと切り落とした。 「ゲエエゴオオオオオオウ!!」 『だぁぁッ!』 それで留まらず、振り返りざまにゼロスラッガーアタックが叩き込まれた。ズタズタに 切り裂かれたチャンドラーは瞬時に爆散。 「ギャアアオオオォォウ!」 「ゲエエオオオオオオ!」 一瞬でチャンドラーを撃破したゼロに、マグラーとギガスは動揺して後ずさった。 『さぁて、次はどいつだ!』 スラッガーを頭部に戻して残る怪獣たちに向き直ったゼロだったが、 『……ぐあッ!?』 その肩に突然電気ショックが走った。予想外のダメージにゼロもふらつく。 『くッ、今のは……!』 振り向くと、その方向の空間からヌゥッと新たな怪獣の姿が出現した。 「ゲエエゴオオオオオオウ!」 透明怪獣ネロンガだ! 今のはネロンガの角から放たれた電撃であった。 『くッ、新手か……!』 うめくゼロだったが、新たな怪獣の出現はネロンガで終わりではなかった。 「グウウウウウウ……!」 「ウアァァァッ!」 丘陵の影から怪奇植物グリーンモンス、海獣ゲスラが出現! 「ミ――――イ! ミ――――イ!」 「カァァァァコォォォォォ……!」 更にミイラ怪獣ドドンゴ、毒ガス怪獣ケムラーも地中から出現した! 『五体も増えやがった!』 『ホントに怪獣軍団じゃねぇか!』 一気に八対一となり、さしものゼロも動揺を禁じ得なかった。 しかし怪獣が現れているのはこの場所だけではなかった! 「ガアアアアアアアア!」 雪山には伝説怪獣ウーが出現! 「ギャオオオオオオオオ!」 大阪には古代怪獣ゴモラ! 「ピャ――――――オ!」 国道上には高原竜ヒドラ! 「ギャアアアアアアアア――――――!」 山岳部には灼熱怪獣ザンボラー! 「パアアアアアアアア!」 市街地には吸血植物ケロニア! 「キュ――――――ウ!」 「グアアアアッ!」 更に石油コンビナートを油獣ペスター、沿岸を汐吹き怪獣ガマクジラが襲っていた! 日本中を襲う怪獣軍団。だがゼロも大勢の怪獣を前に苦戦しており、とても現地に駆けつける ことは出来なかった。 「グウウウウウウ……!」 グリーンモンスは花弁の中央からガスを噴出。それは強力な麻酔ガスであり、ゼロの身体をも 痺れさせ苦しめる。 『うッ、ぐッ……!?』 「ウアァァァッ!」 更にゲスラが体当たりしてきて、その背中に生える毒針がゼロに刺さった。 『ぐわぁぁぁッ!』 「カァァァァコォォォォォ……!」 その上ケムラーが口から亜硫酸ガスを大量に噴出した。 『うッ、ぐううぅぅぅぅ……!』 ケムラーの亜硫酸ガスは凄まじい毒性だ。ただでさえ毒を食らい続けているゼロの身体を 破壊していく。カラータイマーがけたたましく鳴り、ゼロの大ピンチを表した。 『こ、こいつはやべぇぜ……!』 しかし怪獣たちの猛攻に追いつめられているところに、ジェットビートルが駆けつけた。 「あのウルトラマンが危ないわ!」 「攻撃開始!」 科特隊はビートルからロケット弾を発射し、怪獣たちを上空から狙い撃ち。ゼロへの攻撃を 妨害して援護する。 「ピッギャ――ゴオオオウ!」 「ミ――――イ! ミ――――イ!」 だがビートルもドドンゴの目から放たれる怪光線に狙われ、危機に陥る。やはりあまりの 数の差に、ゼロたちは苦しい状況が続く。 「ホアーッ! ホアホアーッ!」 その時、地上に小型の赤い怪獣が現れて、ピョンピョン飛び跳ねることで巨大怪獣たちの 注意を引きつけた。あれはピグモンだ! 『ピグモン! あいつ、まさか俺たちを助けようと……!』 驚くゼロ。だがあれではピグモンの方が危うい。 緊急着陸したビートルから飛び出したハヤタとイデが、ピグモンへと急いで走っていく。 「ピグモーン!」 「大丈夫かー!」 しかしハヤタたちが駆けつける前に、ドドンゴがピグモンを狙って怪光線を放ってしまった! 「ミ――――イ! ミ――――イ!」 怪光線は崖を砕き、発生した岩雪崩がピグモンの頭上に降りかかる。 「ホアーッ!?」 『!!』 ゼロの身体が青く輝く。 岩雪崩がピグモンに襲い掛かり、ピグモンは岩石の下敷きになってしまった。 「ホアーッ!」 「ピグモーンッ!」 「ピグモンッ!」 ピグモンの元までたどり着いたハヤタが岩の下から引きずり出したが、ピグモンはそのまぶたを ゆっくりと閉ざしていった……。 「ピグモーン!!」 「くッ……! ちくしょうッ!」 激昂したイデがスーパーガン片手に怪獣軍団へ立ち向かっていく。 一方でハヤタは、ベーターカプセルをその手に強く握り締めていた。 「俺は一体、何を……!」 ハヤタは己の迷いがピグモンの犠牲を招いてしまったことに、激しい後悔を抱いていた。 そして才人の言葉にも背中を押され、遂に迷いを抱えていたその目に力が戻った! 「おおおッ!」 駆け出したハヤタがベーターカプセルを掲げ、スイッチを押した! 百万ワットの輝きが焚かれ、ハヤタは巨躯の超人へと姿を変えたのだ。 「ヘアッ!」 宙を自在に飛び回りながら怪獣たちを牽制する銀色の流星を見やり、才人が歓喜の声を発した。 『立ち上がってくれたのか……! ウルトラマン!!』 そう、暴虐なる怪獣軍団の中央に降り立ち、倒れているゼロを守るように大きく胸を張ったのは、 失意の淵から甦った我らがヒーロー、ウルトラマン! 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
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前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百四十話「五冊目『ウルトラCLIMAX』(その1)」 機械獣スカウトバーサーク 機械人形オートマトン 古代怪鳥レギーラ 超音速怪獣ヘイレン 登場 ルイズの記憶を取り戻すために、本の旅を続行する才人とゼロ。四冊目はコスモスペースの 歴史を元にした本であり、地球に訪れた最大の危機にゼロはウルトラマンコスモスとともに 立ち向かった。宇宙正義に則って地球のリセットを行おうとするデラシオンのリセッター ロボット軍団に、ムサシとコスモスが関わった人間と怪獣たち、そして真の正義に目覚めた ウルトラマンジャスティスと懸命に戦い続け、遂にはデラシオンの心を動かし地球を守り抜く という奇跡を達成したのであった。 だが本はまだ後二冊残っている。五冊目の本の旅を開始する直前、才人はルイズの診察を 行ったジャンボットと話をしていた。 「ジャンボット、ルイズの容態はどうだった?」 才人はシエスタのブレスレット越しに、ジャンボットに問いかけた。ジャンボットは 残念そうに答える。 『可もなく、不可もなくと言ったところだな。悪化する様子はないのは幸いだが、かと言って 依然として記憶中枢が快方に向かう兆しも見られなかった』 「そっか……」 やや落胆してため息を吐く才人。 「本は残り二冊まで来たのに、記憶は全然戻らないままか。やっぱり全部終わらせないことには、 ルイズは完全には治らないのかな」 『……そのことで、少し話がある』 ジャンボットは少しだけ重いトーンとなって告げた。 「どうしたんだ、急に?」 『リーヴルの説明では、ルイズは己の力を本に吸収されてああなったということだったが、 私はそれに違和感を覚えている』 ジャンボットの言葉に才人は面食らった。 「……具体的には、どういうことだ?」 『メイジの力は個人の脳の作用に由来しているのが分析の結果分かっているのだが、それは 記憶中枢とは直接関係していない。だから仮に魔力を奪われる……脳に干渉されることが あっても、記憶だけ失って他の脳機能は平常通り、というのはいささか奇妙だ。他の障害…… たとえば、感覚や運動機能の異常等を併発していてもおかしくはないのに』 とのジャンボットの説明を受けて、才人は腕を組んで頭をひねった。 「あー、それはつまり、何て言うか……今の状況は自然じゃない、ってこと?」 『簡潔に言えばそうなるな。自然に今の状態になったと言うよりは、何か恣意的なものが 働いた、というように思える』 ジャンボットに続いてシエスタが意見する。 「わたしは平民ですから、魔力のことなんて全然分からないですけど……一冊の本を完結するごとに ミス・ヴァリエールの魔力が戻ってるのなら、段階的に回復していくものじゃないでしょうか? わたしも、ミス・ヴァリエールの病状はちょっと不自然じゃないかって思います」 「そうか……。じゃあやっぱり、リーヴルが何かしてるのかな?」 『いや。ここに来てから絶えず彼女の行動をつぶさに監視しているが、怪しい動きは一度も 見られなかった。少なくとも、彼女自身が何かをしているという訳ではなさそうだ』 ここまでの話を纏めて、ゼロが声を発する。 『ってことはやっぱ、リーヴルの後ろには正体不明の誰かがいるって線が濃厚だな。そいつの 力のせいで、ルイズはすんなり治らないのかもしれねぇ』 才人はゼロに聞き返す。 「でも、その誰かっていうのは何者なんだ? タバサも探ってくれてるが、未だ尻尾も掴めてない」 タバサは昨日のリーヴルとの会話で、誰かを人質にされているのではないかと推測した 才人の頼みでリーヴルの周囲も洗ったが、特に誰かいなくなったという事実はなかった。 ではどうしてあんな話をし出したのか……皆目見当がつかなかった。 『確かに……。だが俺は、そもそもの最初の図書館に出るって言ってた幽霊がヒントなんじゃ ねぇかって考えてる』 「幽霊が?」 『まぁ勘だが、リーヴルは完全にデタラメを言ってたんじゃないと思うぜ。たとえば…… 実体を持たない存在っていう意味だとか』 「実体を持たない存在か……」 才人は夢の中に存在していた怪獣やガンQ、ビゾームなどを思い出した。 『はっきりとした実体を持たない生き物ってのも、広い宇宙にはいくつか存在してる。だが いくつかはいるから、それだけじゃ絞り切るのは難しいな……』 『そもそも、我々が知っているものとは限らない。そうだったら、事前知識は役には立たないぞ』 ジャンボットもそう言った。 結局今回の相談ではこれ以上の成果は出ず、五冊目の本の攻略を行う時間となった。 いつものように魔法の支度をしたリーヴルが、才人に尋ねかける。 「準備はよろしいですか?」 「ああ……」 才人はリーヴルの様子を観察するが、例によって淡々としているばかりで、その挙動から 考えを読むことは出来なかった。本当に彼女は何かを隠しているのか、背後に別の誰かが いるのか……今の才人では見通せなかった。 今の彼に出来ることは、五冊目の本を選ぶことだ。 『いよいよ後二冊だ……。次に攻略する本より、最後に回すのをどっちにするかって選択になるな』 ゼロは少し考えてから、結論を出した。 『右の奴は、少し込み入った内容になりそうだ。そっちを最後にしよう』 『よし。じゃあ、五冊目はこいつだな』 本の選択をして、いざ旅立とうとする。 しかしその直前、ルイズが才人の元に駆け込んできた。 「あ、あの!」 「ルイズ! 寝てなくていいのか!?」 「せめて、見送らせてほしいと思って……。どうか、無事に戻ってきて下さい」 必死な表情で頼んでくるルイズ。自分のために才人が危険な旅を続けていることに後ろめたさを 覚えているのだろう。 才人はそんな彼女を元気づけるために、力強く返答した。 「任せとけって! 絶対、元のお前に戻してやるからな!」 そして才人とゼロは、五冊目の本の世界に向かっていった……。 ‐ウルトラCLIMAX‐ ある晩、街を突如どこからともなく出現した奇怪な外見の巨大ロボットが襲った! ロボットは強固な装甲でDASHの攻撃を物ともせず暴れ、ダッシュバードを両肩からの 光線で返り討ちする。しかし墜落しかかるダッシュバードを、トウマ・カイトが変身した 赤き巨人が受け止めて救う。 「シュアッ!」 彼は異常気象により怪獣が連続して出現するようになってしまった地球に降り立ち、カイトと ともに数々の敵を打ち倒してきた光の戦士、ウルトラマンマックスだ! マックスはロボットと激しく戦い、最後にはギャラクシーカノンの一撃によって見事粉砕し、 街には平和な夜が戻った。 ……しかし巨大ロボットの正体は、戦った相手の能力を全て解析してどこかへと送信する 斥候、スカウトバーサークだった。本当の事件発生の前触れでしかなかったのだ。 そしてマックスがスカウトバーサークと戦った一部始終を、いつの間にか街中に現れていた 三面の不気味な人形、オートマトンが声もなく見つめていたのだった……。 そしてオートマトンはある日突然、一斉に口を開いてしゃべり出した。 『地上の人間たちに宣告する。今すぐ地球を汚す戦争を取りやめよ。化石燃料を燃焼させる 開発をやめよ。地球人類が、地球大気を汚すことでしか文明を築けないのなら、文明を捨てて 退化せよ。今から三十時間以内に、地上の人類が全ての経済活動をやめねば、我々デロスは バーサークシステムを起動し、全世界のDASH基地を破壊する』 オートマトンは世界中の至るところに出現していた。何者が、いつ、誰にも気づかれることなく 世界中に設置していったのだ? デロスの正体とは何か? バーサークシステムとやらが起動したら、 本当に全てのDASH基地が破壊されてしまうのか? デロスは、それほどの力を有しているというのか……? まだ何も分からないが、カイトは直感で今までの敵とは訳が違う相手であることを感じ取っていた。 地球人類は今まさに、最大のクライマックスを迎えようとしているのだ。 「……この世界でも、大変なことが起きようとしてるみたいだな」 本の中の世界にやってきた才人は、混乱に襲われて右往左往している街の人間たちの様子を 高台の上から観察しながら、ゼロに呼びかけた。 「デロスって何者なんだろう。また侵略宇宙人の類かな。それとも、ノンマルトやデラシオンの ような……」 『……それに関してはまだ何とも言えねぇ』 才人の問いかけに答えたゼロは、意識を足下に向ける。 『だが一つだけ確かなのは……居場所は頭上や地上のどこかじゃないってことだ』 謎の気配は足下……その更に深くの座標から感じられるのだった。 オートマトンの宣告から一時間後、ベースポセイドンが真下からの攻撃によって破壊された! しかし職員は、三十分前の攻撃予告を受けて脱出していたため全員無事であった。 更にヨシナガ博士がオートマトンを解析したことで、機械部分に地下八千メートルにしか 存在しない元素119が使用されていることが判明した。デロスとは地底人だったのだ! 更にデロスが地表とマントルの境目、モホロビチッチ不連続面の空洞に住んでいる種族だと いうことが突き止められ、カイトとミズキ両隊員が地上人代表として交渉の任に就き、地底へ 潜行することが決定された。……が、先走った某国の軍が地底貫通ミサイルを使用し、デロスへの 先制攻撃を強行しようとした! DASHはその凶行を止めようとしたが、それより早く、空を飛ぶ二体の怪獣が地底貫通 ミサイル基地を襲撃した……! 『キィ――――――イ!』 『グワァ―――ッ! キイィッ!』 ベースタイタンのメインモニターに映されたミサイル基地を、二体の羽を持つ怪獣が空から 降り立って襲撃。一体は明らかに普通の鳥とは全く違う肉体構造の怪鳥。もう一体は全身が 甲冑で覆われたような怪鳥だ。これを見たコバが叫ぶ。 「こいつら、前に出てきた怪獣だ! 確かレギーラとヘイレン……!」 「でもどうして今頃!? それに狙ったようにミサイル基地を襲うなんて……」 理解が出来ないミズキをよそに、古代怪鳥レギーラと超音速怪獣ヘイレンはビームを発射して 地底貫通ミサイルを片っ端から破壊していった。ヒジカタ隊長が思わず腰を浮かす。 「どうしてミサイルを率先して破壊するんだ!?」 その訳を、アンドロイドのエリー――の役に当てはめられたルイズが分析した。 「怪獣は、デロスによってコントロールされている可能性が78%」 「missile攻撃に対するcounterで送り込まれてきたってこと?」 ショーンが聞き返している中でもレギーラとヘイレンは攻撃を続けて、ミサイルを破壊し尽くした。 『キィ――――――イ!』 『グワァ―――ッ! キイィッ!』 しかし怪獣たちの暴力はそれで止まらず、周囲の人間にも襲いかかろうとする! 思わず 叫ぶカイト。 「大変だッ!」 「でも、今から飛んでいっても間に合わない……!」 ミズキが歯噛みした時、ココが電子音を発して何かをルイズに伝える。 「ミサイル基地上空より新たな生命反応」 「また怪獣のお出ましか!?」 コバの言葉を否定するルイズ。 「いいえ。反応のパターンは、ウルトラマンマックスと近似しています」 「マックスと近似って……まさか!?」 驚愕するDASH隊員たちの見つめるモニターの中で、怪獣たちの面前に青と赤の巨人が 着地して牽制する姿が映された。 誰であろう、ウルトラマンゼロである! 「新しい、ウルトラマン……!?」 「この状況で……!?」 カイトたちは驚きで口がふさがらなかった。 「セェアッ!」 人命を守るために駆けつけたゼロは一気に怪獣たちの間に切り込んでいき、ジャンプキックで レギーラとヘイレンを左右に薙ぎ倒した。 「キィ――――――イ!」 いち早く起き上がったレギーラが胸の二つの孔から大型フックを出し、跳びはねながら ゼロへと肉薄していく。フックをガチガチ鳴らして、ゼロを捕らえようとする。 「デアッ!」 だがゼロはフックをはっしと受け止めて、腕力を振り絞ってフックを引っこ抜いた! 「キィ――――――イ!」 武器をもぎ取られて後ずさるレギーラだが、すぐに大きく羽ばたいて突風を巻き起こし始める。 「グッ!」 建物もバラバラに吹き飛ばす風速にゼロは体勢を崩すが、どうにか踏みとどまった。が、 そこにヘイレンが素早い挙動で体当たりしてくる。 「ウアッ!」 さすがにかわすことは出来ず、はね飛ばされるゼロ。更にレギーラが胸の孔から拘束光線を 発射し、ゼロの身体に巻きつけて自由を奪った。 「ウッ……!」 「キィ――――――イ!」 「キイィッ! グワァ―――ッ!」 動けなくなったゼロに、レギーラとヘイレンはすかさず光線を撃ち込んでなぶる。合体攻撃に 苦しめられるゼロ。 「シェアッ!」 しかしウルトラ念力によってゼロスラッガーを自動で飛ばし、己に巻きついた拘束光線を 切断して自由を取り戻した。そして迫ってきた光線を打ち払って、スラッガーで反撃する。 「キィ――――――イ!」 「グワァ―――ッ! キイィッ!」 胴体を斬りつけられてひるむレギーラとヘイレン。その隙を突いて、ゼロは左腕を真横に伸ばした。 「シェアァッ!」 精神を集中し、放つ必殺のワイドゼロショット! 「キィ――――――イ!!」 レギーラは一撃で爆散せしめたが、ヘイレンは命中する寸前に飛び上がって回避した。 「トアッ!」 上空高くに飛翔したヘイレンを追って、自身も飛び上がるゼロ。しかしヘイレンは超音速怪獣と 呼ばれるだけはあり、音速をはるかに超える速度で縦横無尽に飛び回り、ゼロを翻弄する。 「グワァ―――ッ! キイィッ!」 「ウオアッ!」 背後から猛然と突っ込んでくるヘイレン。ギリギリでかわすゼロだが、猛スピードで飛ぶ ヘイレンからは強烈なソニックブームが発生しており、それを食らって弾き飛ばされる。 エネルギーが残り少なくなってきたのをカラータイマーが報せる。 空はヘイレンの領域だ。さしものゼロも苦しいか? 『何の! 負けねぇぜッ!』 ここでゼロはルナミラクルゼロに変身。超能力による加速によってヘイレンと同等の速度を出し、 ヘイレンに追いつくことに成功する。 「グワァ―――ッ!?」 「ハァッ!」 今度は逆にこちらがヘイレンの周囲を巧みに飛び交うことにより、ヘイレンを追い込んでいく。 そして機を見計らい、ゼロスラッガーを再度飛ばした。 『ミラクルゼロスラッガー!』 超能力によって増殖させたスラッガーにより、ヘイレンを滅多切りにする。 「グワァ―――ッ!! キイィッ!!」 それが決め手となり、ヘイレンは空中で爆発四散した。それを見届けたゼロが停止。 「シェアッ!」 そうして方向を転換し、海を越えて日本列島――東京湾に設立しているベースタイタンの 方角へ向かって飛び去っていった。 光となったゼロは、ベースタイタン付近の人気のない場所へと降り立った。才人の姿に 戻って着地すると、そこに走ってくる人影が。 「おーい! そこの君!」 トウマ・カイトだ。才人は振り向いて、カイトの顔を確かめる。カイトも才人の手前で 立ち止まって、真剣な面持ちで尋ねてきた。 「君が、さっきのウルトラマンだね?」 「ええ。ウルトラマンゼロ……平賀才人です。あなたがウルトラマンマックス、トウマ・ カイト隊員ですね」 互いの素性を確認し合うと、カイトが才人に質問を重ねた。 「君は、どうして今のこの星にやってきたんだ?」 「……そのことで、マックスとして地球を守ってきたあなたにお話しがあります、カイト隊員」 才人は険しい表情で切り出した。 「地中深くから、地上の人間に向かって警告と宣戦を布告してきてるもう一つの地球人の種族に 関することです」 その才人の言葉に、カイトもまた厳しい顔つきとなって生唾を呑み込んだ……。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第48話 一発必中!正義の一閃悪を撃て 狼男 ウルフ星人 登場! 怪獣ザラガスの撃破を得て、トリスタニアは歓喜の渦に包まれていた。 『トリスタニアを襲った怪獣、王立防衛軍の手によって撃破せり!』 戦いを見守っていた人の口から口へ、噂はあっという間に街の隅々にまで伝染し、怪獣の脅威に怯えていた 人々は、興奮のままに勝利の美酒に酔いしれていた。 「なあ、あのすげえ炎見たかよ。なんでも魔法アカデミーが開発した新兵器らしいぜ」 「ああ、なんと魔法衛士隊のグリフォン隊が、危険を承知で怪獣の体に直接取り付けたらしい」 「それでよ。そのグリフォン隊に同乗していた、アカデミーのエレオノール・ド・ラ・ヴァリエール女史がさ、 見たけどこれがまたすげえべっぴんでな」 「だったら、隊長のワルド子爵ってのもたいした美男子なんだろ、んったくうちのかかあが見惚れちまって 困ったもんだ」 平民の間にも、エレオノールとワルドの名はすでに知れ渡っていた。これは、この機に乗じて貴族の威信を 回復しようと考えたマザリーニ枢機卿が独自に行動して噂を流させたのである。 「貴族なんて口ばかりの愚図ばかりと思ってたけど、ちったあやるものだな。うちの子なんか、大きくなったら グリフォンに乗って戦うなんて言い出して、平民じゃ魔法衛士にゃなれないっての」 「いいや、なんでも軍では平民を集めた幻獣の部隊も企画しているらしい。他にも、軍で手柄を立てたものは 貴族に取り立てたり、学のあるものに官職を与えてくれたりもするらしい」 「おいおい、そりゃいくらなんでも冗談だろ。トリステインじゃ法律で、平民は官職についたり領地を持つのを 禁じてるじゃないか」 「その法律が変るそうだ。なにより平民出身の銃士隊って例があるじゃないか、姫殿下はあれをもっと拡大 なさるらしい。文句を言う貴族どもも、今じゃすっかり数を減らしたし、なにより姫様に圧倒的な支持がある」 マザリーニの流言操作はさらなる方面でも効果を生んだ。彼が流させた噂はひとつではなく、アンリエッタが 考えている改革のいくつかの草案も混じっていたのだ。案の定、それは明るいニュースに明るいニュースが 重なることで、人心をよい方向へと促していく。マザリーニは普段あまり表には出てこないが、こういう アンリエッタの考えの及ばない影の仕事で改革を支えていた。 「そりゃすごい、俺も軍に志願してみるかな……」 「お前じゃ無理だろ。それよりも、あの怪獣の死骸、見に行ってみないか?」 「よし、じゃあ行くか」 黒こげとなったザラガスの死骸は、今やトリステインの名物になりかけ、大勢の人目を集めている。 とはいえ、生物の死骸はいずれ腐るので近々排除されるだろう。しかし今は、これを利用して初めて防衛軍が 怪獣を倒したことがここぞとばかりに喧伝され、これまでに失った威信を一気に取り戻そうとしていた。 一方、王宮では一躍英雄となったワルドとエレオノールが、アンリエッタ姫から直々にお褒めの言葉をいただいていた。 「ワルド子爵、お見事な活躍でした。あなたの活躍は、この国の歴史に深く刻まれ、語り継がれていくことでしょう」 「もったいないお言葉です。姫殿下」 アンリエッタの祝福の言葉に、ワルドは後ろに控えたグリフォン隊の隊員たちと共に恭しく跪いて頭を垂れた。 「ミス・エレオノール、今回は貴女方アカデミーの協力があってこその勝利でした。しかも学者の身をおしての 前線参加、その勇気と功績はすばらしいものでした。あれほどの兵器をもう一度作れないのは惜しいですが、 その知力をこれからもトリステインのためにお役に立てていただけますか」 「姫殿下のお心のままに、微力を尽くさせていただきます」 ワルドと並んでエレオノールも、救国の英雄の一員として栄誉を受けていた。なにせ、やっと掴んだ勝利である、 王国としては国家の求心力を回復するためにも、この機会を最大限に活かさなければならないために、多少 大げさにでもこのことを宣伝しなければならない、その点この二人は絶好の広告塔で、これから姫とともに パレードやパーティに出席することになる。才人などだったら嫌がるだろうが、貴族にとっては名誉なことなので、 今日一日注目の的となるだろう。 ようは国威発言と戦意高揚のために利用されるということで、傍目にはあまりきれいに見えないが、戦争に 強いのは大体こんな国である。ろくでもない話でしかないが、悪に対抗するためには善だけではだめである。 そうなると、こちらも悪に染まることになると背反することになるのだが、この人間世界というもの自体が神の 世界には程遠い欠陥機械であるのだから、例え歯のかけた歯車や、濁った潤滑油でも止まらせないためには 使わなくてはならないのだ。 「ワルド子爵、数日後にはアルビオンに使者として旅立つあなたが、このような戦果をあげえたとなれば、 よい土産話になるでしょう。あなたのような貴族の鏡のような方を得られることは、わたくしにとってこの上ない 誇りですわ」 「私は殿下のいやしい僕にしかすぎません」 あらためて恭しく跪いてワルドは礼を返した。しかし、人に見られないように下げたその口元が、なぜか うれしさとは別の形で歪んでいたのを、隣にいたエレオノールはちらりと横目で見て、姫様から祝福されている というのに、何を不謹慎な顔をしているのだと不審に思っていた。 ただ、今回多少ワルドを見直したのも確かである。やってみてわかったことだが、あの火石を正確に風石の 防壁と釣り合いが取れるタイミングで起爆させるには、母の言ったとおり自分くらいに魔力の微調整が 利くメイジでなければならなかった。もし、ワルドやその他の騎士に任せたらトリスタニアごと消し飛んで いたかもしれない。まぁ、自分も火石の火力を読み損なって、エースに怪獣を上空に投げ飛ばしてもらわなかったら 半径200メイル四方が吹き飛んでいただけに大きなことは言えないが、一応、怪獣の元まできちんと運んで もらったことには感謝している。 とはいえ、実はワルドにはほかに選択肢がなかったとも言える。風の系統の上級スペルには、空気の 塊で自分の分身を作って遠隔操作するものもあるのだが、最初の作戦の打ち合わせのときにワルドは それを使って陽動しながら安全に爆弾を運ぼうと言って、起爆はエレオノールがやるのに、自分は女性に 危険な仕事をさせて安全なところにいる気かと、即座に却下。ならばエレオノールは自分が運ぶから 陽動に分身を当てようと言って、部下に身を張らせて隊長が分身にやらす気かとこちらも却下、くだらない ことに精神力を浪費するよりエレオノールの護衛に全力を尽くせ、死に急ぐのも愚かだが、わが身の安全を 第一に考えるような指揮官の下で、自殺志願者と自己陶酔家以外の誰が命がけで戦うものか、そんな 部下しかいないから弱いんだと、『烈風』直々にこってり絞られていたのだった。 けれど、ワルドの態度を不愉快に思っても、今は姫様のお話の最中である。余計な方向に行きかけていた 思考をすぐさま元に戻して、エレオノールはアンリエッタの話に耳を傾けた。 「さて、お二人とも顔を上げてください。あなた方は大変な栄誉をあげましたが、形あるものでの報酬も必要 ですわね。まずはミス・エレオノール、アカデミーの研究費用を、年間500エキューの増額が認められました。 わずかですが、助けになれば幸いです」 「感謝の極み……1ドニエたりとも無駄にはいたしませぬ」 研究機関であるアカデミーには、研究費用の増額は素人が余計な援助をする以上に助けになるだろう。 施設、研究材料、資料、その時々に応じて増やすことができる。 「また、ワルド子爵、あなたにも特別に便宜を図らせていただきました」 「わたくしごときのために、もったいないことです。それで、いかように?」 あくまで紳士的に礼を尽くすワルドにアンリエッタもにこやかに笑い、軽く手を二回叩くと、玉座の後ろの カーテンの陰から、肩に小さな文鳥を乗せた麗人が姿を現した。 「賞品は、わたくしです」 「……は?」 公爵夫人の唐突な言葉に、ワルドだけでなくエレオノールやグリフォン隊の隊員たちも、その意味を量りかねて 数秒間自失の海を泳いだ。しかし、特に頭の回転の速い二人、当然ワルドとエレオノールが理解という岸辺に たどり着いたときの反応はそれぞれ異なっていた。前者は驚愕と底知れない恐怖、後者は歓喜と愉悦に。 「喜んでください。貴方方の素質を見込んで、この『烈風』カリン殿が、専属の教官となってくださることを 承知してくださいました。かつてトリステイン最強とうたわれたお方の指導を受けて、より素晴らしい部隊に 生まれ変わったグリフォン隊の姿を、わたくしは期待しています」 「姫殿下のたっての頼みで、お前たちを鍛えてやることになった。今回は勝ったが、魔法衛士隊の練度が いちじるしく低いのが確認できた。とりあえず一ヶ月間、そのたるんだ根性を叩きなおしてやるからそう思え!」 もうそのときに、ワルドを含めてグリフォン隊で勝利の高揚感を残している者は誰一人存在しなかった。 かつて最強とうたわれた30年前のマンティコア隊、しかしその訓練は苛烈で"実戦では誰も死なないが、 訓練で皆殺しにされる"とさえ言われた恐ろしさで、新入隊員の100人のうち99人が三日で脱落すると 恐れられていた。なにせ、隊員たる最低の条件が"隊長の使い魔ノワールについていける"であるから その厳しさがわかるだろう。現在のマンティコア隊の隊長、ド・ゼッサール卿がその当時の隊員の一人だが、 「当時は一日に半分が脱走した。翌日には片手で数えられるほどになっていた。三日後にあの方の目の前に いるのは私一人になっていた。今、私はあの方のいた地位を預かっているが、同じことはとてもできない、 なぜかって? 私は人を生きたまま殺すなどという器用なことはできないからな」と、苦笑混じりに語っている。 ただし、彼はベロクロン戦でほぼ壊滅した3つの魔法衛士隊のうちの数少ない生き残りとなり、今はその 再建に努力しているから、彼が『100人のうちの一人』になれた成果は老いてなお活かされているのだろう。 「こ、光栄でございます……」 全身からこれ以上ないくらいに汗を噴き出しながら、乾ききった喉からやっとのことでワルドは言葉を 搾り出した。あの『烈風』のしごきの恐ろしさは、幼い頃から間近で見てきた彼が一番よく知っている。 しかも、今は代員はいないから脱落は許されないだろう。 エレオノールは、そんな血の気を失いきって死人のように見えるワルドを横目で見て、「あの弱虫ジャンが どこまで耐えられるかな?」と、意地の悪い愉悦に笑いをこらえるのを苦労していた。 だがそれにしても、お母様が本気で戦うのは初めて見たが、子供の頃お父様から聞かされたお母様の話は 本当だった。それまでエレオノールは『烈風』の伝説を、かなり誇張されたものだと思っていたのだが、それは 誇張でもなんでもなく、単なる事実であった。それはよいのだが、お母様は現役を退いてから30年も過ぎた というのにこの強さ、もしそのまま現役に居続けたとしたらどれほどの伝説を増やしたのか、結婚を期にと とは言っているが、自分なら結婚しても引退などしない、いったい30年前に何があったのかと、彼女は 自らの母の知られざる過去に思いをはせた。 そんな騒ぎも日が暮れて沈静化し、才人とルイズも妖精亭の2階で借りた部屋で休みをとっていた。 「やれやれ……今日も大変な一日だったな」 ベッドの上に並んで腰を下ろして、才人がやっと休めると息をついた。怪獣が倒され、近隣の町々から 集められてきた医者や、姫殿下の命で民衆の治療に駆り出された水系のメイジたちによる診療も一気に進み、 二人も治療を受けることができた。もっとも、エースのおかげで回復は常人を超えているのだが、一応人に 見せるときのために目にはまだ包帯をしている。 ともあれ、明日からはまた気楽な旅行の続きだ。明日に備えて早めに寝るかと、才人がベッドに横になろうかと 思ったとき、ぽつりとルイズが話しかけてきた。 「ねえサイト、最近あたし、少し思うことがあるの」 「ん?」 藪から棒にと思ったが、ルイズの真剣な口調は才人の眠気を一時的にも払う作用があった。 「それで、なんだよ」 「ウルトラマンAのことよ」 「えっ?」 「正確には、エースも含めてこの国と世界、そして、あたしたちのことよ。思えば、この数ヶ月でハルケギニアは 大きく変わった、いえ変りつつあるわ。ヤプールの侵攻と、その影響で目覚めた怪獣達によってね」 変った、か。そういえばルイズに召喚されたときと今では、この世界の印象が違って見える気がしなくもない。 端的に表現すれば、あのときに比べてこの世界は大きく動いている。一般レベルで言えばあまり変化は 見られないだろうが、世界は新たに、そして強引に流入してきた新たな概念、危機、存在によって、まるで 人体が侵入してきたウィルスに抗体を作ろうとしているかのように変動している。平民部隊である銃士隊の 設立、アンリエッタの数々の改革がそれに当たるだろう。 「そんな中で、あたしの存在はなんなのかって……これまであたしは魔法が使えない、"ゼロ"としてさげすまれ、 魔法が使えるようになることが最大の望みだったけど、超獣の前にはあたしが欲し続けた魔法もまるで無力だった」 ルイズの独白を、才人は黙って聞いていた。返事はしない、まだそれを求められてはいない。 「笑っちゃうでしょ、死ぬほど欲しがっていた宝石が、実はガラス玉だと知ったときの気分は……けれど、代わりに 比較にならないほど強大な力を手に入れた。いえ、貸してもらった」 自嘲を言葉のうちに混ぜ、ルイズの独白は続く。 「それからは、しばらくは自分がゼロだっていうことを忘れることができた。いいえ、魔法なんて無力なものだって、 自分をごまかしていたのかも……けれど、ウルトラマンの力で負けて、魔法の力が敵を倒した。わたしは本当は 何もできないゼロのままじゃないかって、何にも変れてない、借り物の力で自惚れて、たまたまあのとき 選ばれただけで、力のないわたしは無価値なゼロなんじゃないかって……急にそう思ったのよ」 そういうことか、才人はルイズの悩みを理解した。最初この世界に来たとき、魔法を使えることが絶対の価値観と されるこの世界で魔法の使えないルイズは、大勢から蔑まれていた。そのときの劣等感と孤独感が、敗北で 一気に噴き出してきたのだろう。 力の無い苦悩か……才人の脳裏に、テレビや映画、漫画や小説で見た、かつて地球を守るために戦った大勢の 人々と、彼らを助けてくれたウルトラマンたちの長い戦いの記憶が蘇ってくる。国語の教科書やドラマのように 気の利いた台詞は言えないかもしれないが、ここで黙っていては男の名折れだ。十数秒の沈黙の後、自分なりの 答えを出した才人は、黙って自分の反応を待っているルイズに話しかけた。 「なあルイズ、お前ロングビルさん好きか?」 「は? あんた何言ってるの、ここのオカマ気にあてられておかしくなっちゃった?」 「誰がそんな方面の話してるよ、人間として好きかと聞いてるんだ?」 「え……そりゃあ、最初は信用できなかったけど、今じゃ改心して真面目に働いてるみたいだし、それなりには」 「じゃあ、土くれのフーケは好きか、嫌いか?」 「嫌いに決まってるじゃない。貴族の名誉を散々貶めてくれた盗賊よ、途中からヤプールに操られてたとしても、 許せないわ」 「けど、フーケは土くれと恐れられたすごいメイジだったけど、今のロングビルさんは魔法が使えない。同じ人なのに どうして片方好きで、片方嫌いなんだ?」 「そ、そりゃあ……」 ルイズが口ごもると、才人は口調に笑いを込めて続けた。 「そんなもんだよ"力"なんてさ、すげえ奴はすげえと思うけど、スクウェアメイジの盗賊なんてお前もなりたいとは 思わないだろ。もしもだけど、お前がトライアングルやスクウェアを鼻にかけて、平民をいじめて楽しむような連中と 同類だったら、メシが喰えなくてもとっくにおれはお前のところから出て行ったね」 「なによ、使い魔かご主人様を見捨てたって言うの?」 「おれは人間だからな。それに、おれは小さい頃からウルトラマンが好きだった。マン、セブン、ジャック、エース、 タロウ、レオ、80、メビウス……ほんとにかっこよかったし憧れた。けど、それはかっこよさや強さだけじゃない。 ウルトラマンより強い怪獣や宇宙人なんていっぱいいた。けど、そいつらよりおれはウルトラマンが大好きだった。 ウルトラマンは力を誇示しない、けど誰もがウルトラマンを知っている。それは常に誰かのために、傷ついても あきらめずに全力で立ち向かっていくから、みんなの心に響いたんだ」 ウルトラ兄弟は、地球のためにその身を投げ出して戦ってくれた。いつの時代も、その心に報いようとする人々が 人類を成長させてきた。 「力は、扱う人の心しだいだって、そう言いたいの?」 「そうとってもらってもいいよ。ただ、ロングビルさんも言ってたろ、魔法の使える盗賊と使えない賢人のどっちが いいかってさ、悪事に使うようなら力なんか無いほうがいい」 「けど、わたしは力を持って姫様やトリステインのために尽くしたいの」 「それは、お前しだいだからおれのどうこう言うことじゃない。ただ、こないだお姫様がお前のことを覚えていたのは、 魔法の有無とは関係ないと思うけどね」 まあ、俺もウルトラ兄弟の記録や、少し前まで連日放送されていたメビウスの活躍を見続けていなければ こんな考えは持てなかったかもと思いながら、才人は考え込むルイズにそれ以上の自論を吐くのはやめておいた。 自分では正しく思えても、それを他人に押し付けるのは傲慢というものだ。ヒントや手助けはあってもいいが、 最終的な答えは自分自身で出さなければ、それを信じることはできないだろう。 「ま、別に期限がある問題じゃない、のんびり考えればいいさ」 ルイズに聞こえないように、口の中だけで才人はつぶやいた。えらそうなことを言いはしたが、元々テストで 100点を狙うより赤点を回避するほうに脳みそを使うタイプである。ルイズが変な方向に行こうとするなら 止めはしようと思うが、どう考えてどう行動するかにいちいち文句をつける気はない。 けれど、二人がそうしてそれぞれの考えをぶつけていると、耳に学院でも聞きなれた軽快な足音が近づいてくる のが聞こえた。 「サイトさん、ミス・ヴァリエール、お夜食いかがですか?」 どうやらシエスタがスープか何かを持ってきてくれたようだった。 「ありがとう……けど、見えないんじゃちょっと食べづらいかな」 話すのを中断してスプーンを手探りでとったが、才人はちょっと困ってしまった。 完全に目隠しされた状態でスープは難しい。せめてパンとか手づかみできるものだったらありがたかったのだが、 慣れない状態では火傷しかねない。ルイズなどは「使えないメイドね」と怒っているが、シエスタは思いもかけない ことを言った。 「はい、わかってますけどあえてスープにしてもらったんです」 「へ? んじゃあ……」 なんでわざわざ食べにくいものを持ってくる? と二人が疑問に思ったとき、彼女のかぐわしい香りが才人の 隣に来て。 「はい、あーんしてください」 「えっ!?」 と、永遠のパターン。なお、その0コンマ1秒後。 「ふざけるなーっ!!」 「うぉーっ!! あっちーっ!!」 ルイズのアッパーカットが才人のあごにクリーンヒット、熱々のスープを巻き込んで才人は天井まで 吹っ飛ばされると、そのまま頭から床に突っ込んだ。 「まあ! ミス・ヴァリエール、いきなり何をするんですか!」 シエスタが火傷しそうな才人に駆け寄って、冷たいお絞りで拭こうとするのを、ルイズはすっくと立ち上がって 見下ろし、いや、見えないのだが、見えているように真正面に立って怒鳴った。 「これはこっちの台詞よ! ちょっと気を緩めると人の使い魔を誘惑しようとして……あんたも、こんなのにデレッと してんじゃないわよ!」 「お……おれはまだ何もしてないだろ。つうか、見えないのによく殴れるなお前」 「勘よ、勘!!」 心眼でもあるのかお前は、今のルイズならネロンガだろうがバイブ星人だろうが見つけられそうだ。 そんな様子を、スカロンとジェシカの親子はドアの影からじっと見ていたが、あの元気なら大丈夫そうねと 安心していた。それにしても、シエスタはせっかく男を魅了するいい方法を教えてやったのに、タイミングが悪い。 多分見せ付けたかったのだろうが、ああいうことは相手が一人のときにやって、邪魔されずに心を奪うべきなのだ。 そして、そんな騒々しくも平和な時間はあっというまに過ぎ、翌朝旅立ちの時は来た。 「んじゃあ、また来るよ」 スカロンとジェシカたちに店の外まで見送られて、一行は名残惜しいが世話になった妖精亭を後にした。 「気をつけてね。また来たらサービスしてあげるよ。サイトくん、今度はシエスタとデートかな?」 「いっ!?」 突然デートなどと言われて慌てる才人にシエスタが後ろから抱きつき、頭をルイズが押さえつける。 「サイトさーん、帰ってきたら今度は二人で来ましょうね。わたしが腕によりをかけてお料理しちゃいますから!」 「ちょっとメイド! サイトはあたしの使い魔なの、あたしに許可なく連れ歩かせないわよ」 また例によってである。ジェシカはそんな三角関係を見てカラカラと笑った。 「じゃあさ、今度来たら二人ともうちの仕事着でサイトくんに接待対決でもやる? きっと二人ともよく似合うと 思うよ」 「ええっ!?」 「望むところです!」 ジェシカのなかば本気のからかいを真に受けた二人がわかりやすい反応をするのを見て、一行はさらに おかしそうに笑った。なお、才人はこの店のきわどい衣装を着たルイズとシエスタがおれのために……と、 不埒のことを考えて顔をにやけさせたためにルイズに蹴り飛ばされていた。 「さて、二人ともサイトくんをいじめるのはその辺にしておきなさい。ここにはまた帰りにみんなで寄らせてもらいましょう」 やっとロングビルに仲裁されて、ルイズとシエスタはようやく悶絶している才人から離れた。ジェシカはそんな 才人を見て、もてる男はつらいねえと人事のように言っているが、才人には聞こえていない。 しかし、二人は忘れていたが、才人の女難の相はこんなものではない。 「もーダーリンったら乱暴な人にからまれてかわいそう。この微熱が慰めて、あ・げ・る」 「あーキュルケおねえちゃんずるーい、サイトおにいちゃんは将来アイがお嫁さんになってあげるんだもんね!」 と、学院一のナイスバディの持ち主と、10歳にも満たない幼女に抱きつかれて、才人は意識を回復できない ままに、またルイズに頭を踏みつけられて自分の状況を知ることもできずに死線をさまよう。 ただ、ルイズが怒っているのにこっちは平然としているシエスタを見て、ジェシカが不思議そうに言った。 「あらシエスタ、あなたは怒らないの?」 「あの二人はいいんです。ミス・ツェルプストーはミス・ヴァリエールをからかって楽しんでるだけですし、アイちゃんは お兄さんのことが好きってことですから」 なるほど、こういう点ではシエスタのほうが多少経験値があるようだ。 けれど、油断していたら思いもよらない相手に足元をすくわれることにもなりかねない。さて、誰が勝つことやら。 のんびりと我関せずと見ているタバサだけが、蚊帳の外から嵐を見ていた。 と、そのとき屋根裏部屋のほうからルイズの爆発にも劣らない爆発音がして、窓から煙といっしょにドル、ウド、 カマの三人組が顔を出した。 「ごほっ! ごほっ! あーっ、コが、ごほっ! おンがぁ!」 「げほっ! だから無理だって言ったのに、ここはもうダイ、げほっ! もいないんだし平和に過ごしましょうよ」 「がほがほ……あー、サイトくーん、もう行っちゃうのぉ、お姉さんざんねーん、また来てねーっ!!」 その野太いオカマの声で、才人の意識は一気に目覚めた。 「はっ、お、おいお前ら、さっさと行こうぜ!!」 「あっ、ちょっと、サイト待ちなさいよ!! まだ話は済んでないんだから!!」 慌てて駆け出した才人を追ってルイズも走り出し、一行も苦笑しながら後を追う。 「やれやれ、じゃあ失礼します。お世話になりました」 「どういたしまして、これからも『魅惑の妖精亭』をごひいきに」 スカロンとジェシカ、そして店員の女の子たちの笑顔に見送られ、一行は元気よくトリスタニアを後にした。 後半部へ続く。 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
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前ページ次ページ風の使い魔 空は快晴、風は無風。屋外での実習には絶好の日和。 この良き日に、サモン・サーヴァントは取り行われた。自らが今後の人生を共にするパートナー、使い魔を召喚する儀式である。 その日、誰もが彼女の成功を疑わず、彼女自身もそれは同じだった。遠巻きに教師と他の生徒が見守る中、彼女は高々と杖を掲げる。 詠唱、続いて閃光。瞬間、ふわりと優しい風が頬を撫でた。止んでいた風が再び吹き始めた。 まるで風達が"それ"の来訪を歓迎しているような――不思議とそんな錯覚を受けた。 閃光に目を細めて数秒、何かが落ちる音がした。そよ風が土煙を運び去った直後、どよめきが場を支配した。 現れた"それ"に生徒も教師も、彼女自身も、誰もが一様に言葉を失う。召喚されたモノの前で立ち尽くすのは、 誰もが失敗を予想していた『ゼロのルイズ』こと、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールではない。 同学年の中でもエリート中のエリートであり、成績優秀な彼女が、まさかこんな謎のモノを召喚するとは思いもよらなかっただろう。 「おい、なんなんだ……あの物凄い顔の生き物は……」 誰かが言った。彼を皮切りに次々と、声を潜めて生徒達が囁き合う。 彼らもルイズならば堂々と笑えたが、なまじ秀才の彼女なだけに、囃したてるのもはばかられたのだ。 様々な憶測が飛び交うが、概ね意見は一致しているらしい。 「カエルだろ、どっから見ても」 「カエルが服着てるかよ」 「亜人じゃないかしら?」 「顔以外は全部人間だけど……」 「いやいや、まさかそんなはずは」 「あのベロはどう説明するんだよ」 「カエル顔で、異常に目がでかくて、舌が長い人間だっているかもしれないだろ」 「いねーよ」 「人間の子供よ、きっと……たぶん……もしかして」 「こやつめ、ハハハ」 「もうカエルでいいよ」 「カエルの何が悪いってのよ」 などと、外野は口々に勝手な陰口を叩いている。だが、それすらも彼女の耳には届いていなかった。 別にショックで何も聞こえなかった――わけではない。目の前に横たわっている子供が、地の底から轟くような大いびきを掻いていたからだ。 やがて担当の教師、ミスタ・コルベールがあたふたと生徒の塊を割って歩み出る。コルベールは、禿げ上がった頭に玉の汗を浮かべていた。 困惑も露わに近付くそれは、顔以外は普通の少年。オレンジのシャツ、深緑の半ズボンと、同色の鍔付きの帽子を前後逆に被っている。 見慣れない服装だ、異国人の可能性もある。首から上は見慣れないどころか、四十年余りの生涯で一度も見たことがないほど奇妙な顔だったが。 コルベールは、おもむろにディテクトマジックを唱えた。するまでもなく、結果はある程度予測できていた。 案の定、数秒の思案の後立ち上がった彼は、 「残念ですが間違いありませんね……この少年はただの人間です。魔力も無い、ただの平民……」 首を振りながら呟き、無言の視線で儀式の続行を促した。 「カエル人間!? あの娘……とんでもないものを召喚したわね……!」 囁き合う生徒達の塊から離れて、ルイズは戦慄した。 ルイズにとっては、平民であることよりもある意味では重要事項。なんせカエルは大の苦手、 似た顔の人間であっても駄目だ。自分の召喚する使い魔は、カエル以外である事を願うばかりだった。 さて、彼女には悪いが、内心ルイズはほっとしてもいた。ゼロだなんだと馬鹿にされていたが、 あれの後なら何を召喚しても大丈夫。どんなものでも、あれよりかはマシ。格上の使い魔ならなお良し。 そこまで考えて、自らの志の低さ、卑屈さに嫌気が差して首を振る。こんなことでは駄目だ、と。 そんな惰弱な考えは、ルイズの背丈より数倍高いプライドが許さなかった。 「そうよ、わたしは上手くやってみせるわ……!」 ルイズは迫る順番に、決意も新たに一人拳を固めた。 珍妙な使い魔を前にしても、少女はいつもと変わらぬ鉄面皮。だが、一サントにも満たないほどだが、 ハの字に下がった柳眉。ごく僅かに落ちた肩。ささやかながらも確かな変化。しかし、よくよく注視しなければ気付かないだろう。 唯一、少女の数少ない友人を自負するキュルケだけは、彼女のポーカーフェイスに隠された落胆を察していた。 あら……珍しくへこんでるわ、この娘。でもまぁ、無理もないわね。てっきり風竜かグリフォンでも召喚するかと思ったんだけど…… キュルケは呆れ混じりに彼女の顔を見て溜息を一つ。そう、なんだかんだいって、彼女は感情表現が下手、不器用なだけなのだ。 おそらく、無表情の裏に相当鬱屈した事情を抱えていることは想像に難くない。頑なに殻を作り上げるしかなかったのだろう。 尤も、想像の域は出ないし、彼女が何も言わないので、敢えて聞きはしなかったが。 ふと、キュルケの目が少年の腕に留まった。顔のインパクトが濃過ぎて誰も気に留めていないようだが、 少年は大きな籠を手に引っ掛けていた。彼の持ち物だろう。 一応人間みたいだけど……あの籠の野菜はなんなのかしら? 鮮やかな緑の皮に包まれている棒状の野菜。隙間から覗いた黄色い果実は、一粒一粒が丸々と太り、艶めいている。 四本だけ入った籠を、少年は大事そうに抱き直した。 少女の名はタバサ。二つ名を『雪風』のタバサ。 キュルケの読みは見事に的中。タバサは実際、落胆していた。 周囲の嘲笑も、好奇の視線もどうでもいい。使い魔だって別段、高望みをしたつもりはない。 ただ任務の為に、自分の目的の為に、役に立ち、頼れる使い魔が欲しかっただけなのに。 足元に転がっているのは、顔を除けば、明らかに年下の少年。足手纏いになりこそすれ、とても役立ちそうになかった。 起こそうと思い揺すってみても、まったく起きようとしなかった。 やり直させてくれと言ったところで、取りあってはもらえないだろう。神聖な儀式、やり直しが利く性質のものでもない。 こほん、とコルベールが咳払いをして言う。 「コントラクト・サーヴァントを」 遠巻きに眺めていた外野も今は沈黙。全員がタバサを見守っている。 仕方ない、このまま契約してしまおう。腹を括ったタバサは片膝を付き、格式張った呪文を唱えた。 次に、相も変わらずいびきを掻いて眠っている少年に、ゆっくりと顔を近づけていく。 なんだろう……この物凄い顔の生き物…… 見れば見るほど変な顔である。男というよりペットにキスするようで、別段何も感じなかった。 タバサが舌の付け根に口づけると、少年のいびきが止まる。全ての音が消え、 微かに風が草を揺らす音だけが残った。そして――。 「あちちちちち!!」 右足の甲を押さえて、少年がじたばたともんどりを打つ。なるほど、ルーンの位置はそこか。 タバサはしゃがんだ姿勢のまま、しばらくその様子を眺めていた。 やがて少年はひとしきり暴れると、動きを止め、ピクリとも動かなくなった。 まさかまだ寝足りないのか――タバサがどうしたものかと思案していると、少年は突如、むくっと起き上がる。 やはり舌をベロンと垂らし、魚のようにまんまるの目からは一切の感情は読み取れない。 周囲を見回した少年は大欠伸をし、一番近くにいたタバサに焦点を合わせ第一声。 「腹減った」 風の使い魔 第一章「輝きは君の中に」1-1 なんとなく徒労を予感しつつも、タバサは少年に使い魔のなんたるかを掻い摘んで説いた。 どうやらこの少年、魔法も貴族も無いような国から来たらしい。その為、 ここが何処かから説明しなければならなかったのだが、話を聞いているのかいないのか、終始首を傾げていた。 たぶん、話の半分も理解していないだろう。実際彼は三分の一も理解していなかったのだが。 「つまりおめぇが俺を呼んだ。そんで俺に助けてもらえねぇと困るってことか?」 「そう、お願い」 何を助けるのか、ちゃんと理解しているのかは甚だ怪しいものだが、取りあえず、使い魔になってくれないと困るという点は分かっているようだ。 「そういうことならいいぞ。まぁ婆ちゃんも最近は元気そうだし、畑はポチや村のみんなが面倒見てくれてるだろ」 意外なことに二つ返事だった。使い魔は最初から主人に好意的だというが人間も同じなのだろうか。 「私はタバサ。あなたは?」 「俺は風助ってんだ」 「よろしく」 形だけの挨拶を交わして、タバサは風助から離れた。風助はその場で座り込んだままだ。 これと信頼関係を築けといわれても、どうすればいいのやら。決して顔には出さないが、始まりから暗礁に乗り上げた気分だった。 「話はつきましたか?」 と、尋ねるコルベールに無言で頷く。 「では、最後は……ミス・ヴァリエール!」 「は、はい!」 ルイズが緊張の面持ちで進み出る。その顔にはタバサの召喚前に比べ、確かな自信が宿っていた。 杖を掲げ、ささやかな胸を張り、祈るようにルイズは唱える。 「宇宙の果てのどこかにいる私の僕よ……」 その後、ルイズも平民の少年を召喚したが、特に誰も驚きはしなかった。むしろ、 「良かった……普通の人間で……」 と、胸を撫で下ろしたくらいだった。それほどまでに風助の衝撃は尾を引いていた。 ともあれ、こうして使い魔召喚の儀は無事? に終了。生徒達は学院に帰る為、次々に『フライ』の魔法で空に舞う。 「おー、すげぇなぁ。藍眺みてぇだ」 悠々と空を飛ぶメイジ達に、風助は最も親しい友達の一人を重ねた。 感嘆の声を漏らしている風助にも取りあわず、空に浮かんだタバサは風助にもレビテーションを掛けた。 ふわりと風助の身体が地面から浮きあがる。 タバサは風助の手を握った。初めての空中浮遊。パニックになったり、 バランスを崩して事故を起こしては面倒だったからだが――結論から言うと、その必要はまったく無かった。 「おおっ!? ふは、はははっ。おもしれーな、これ」 それは風を掴むとでもいうのだろうか。レビテーションを掛けて浮き上がった風助は初めてにも関わらず、 下手なメイジよりも上手くバランスを取って、宙を泳いだり、くるくると回ったりしている。 そのはしゃぎっぷりは、他の生徒の視線も集めていた。 「遊ばないで」 ぴしゃりと注意した。普通のつもりだったが、声に苛立ちが篭ってしまったことは否定できない。 若干棘のある言葉にも、風助は気を悪くした様子は無い、たぶん。ただ感情の分かり辛い顔を傾げて聞いてきた。 「ひょっとして急いでんのか?」 「少し」 本当はそうでもない。が、これ以上遊ばれても困るし、その方が都合がいいと判断した。 相手は子供、もっと積極的に接した方がいいのだろうか。しかし子供の躾など、どう考えても苦手な分野。 できないことはないだろうが、得意不得意ではない。やりたくなかった。 「それなら走った方がはえーぞ。どっちに行くんだ?」 まさか、最初はそう思った。思ったが、つい今しがた接し方を考えたばかりである。取りあえず好きにさせてみようと、 タバサは無言で進行方向を指差し、言う通りに術を解いて地面に下ろす。 「んじゃ、先に行ってっぞ」 言うなり風助は走り出した。短い手足を機敏に動かして、まるでネズミのよう。だが、すぐに馬にも迫る速度まで加速した。 まさに風の如き速さだが、遠目にも無理や息切れの様子は見られない。 タバサは目を見張ったが、呼び止める間も無く、風助は一人遠ざかっていく。そして、 「あっ……」 という間に小さくなってしまった。 「頭はあんまり良くなさそうね……」 タバサのほんの僅か険しくなった顔に、キュルケは思わず苦笑いを禁じ得なかった。 ともかく掴みどころのない使い魔に、大いに戸惑っている。彼女が初めて見せる生の表情。 これは面白くなりそうだ――そう感じずにはいられないというもの。 幸い、学院は近くだし、周囲は見通しも良い。草原は見渡す限り青々と広がり、大きな建物は学院のみ。 まっすぐ進むだけなら、まさか迷うこともあるまい。そう思って数分後、タバサが学院に戻っても使い魔の姿はどこにもなかった。 「あれ? そういやどこ行きゃいいんだ?」 果てしなく広がる草原で、風助は立ち止った。こんなに風の心地いい草原は久し振りだったので、少しはしゃぎ過ぎてしまった。 足がかつてないほど軽やかに動いたせいもある。 「えーっと……あそこに行きゃいいんだっけ」 本人は真っ直ぐ走っていたつもりだった。それがどういうわけか、ほぼ直角に曲がり、現在学院は背後に見えている。 何故、目標に真っ直ぐ走っていてこうなるのか、 「ま、いいか」 深く考えず、改めて学院に向けて歩きだす風助。暫く歩いていると、遠くに二人並んで歩いている人間を見つける。 一人は、タバサや大多数の者と同じ服装の少女。もう一人は、比較的見慣れた服装の少年だった。 「よー」 「ひっ! タバサのカエル人間!?」 召喚した使い魔――平賀才人と一緒に、学院へとぼとぼ歩いていたルイズは、声を掛けられるなり才人の背中に隠れた。 ルイズにパーカーの袖を掴まれた才人は、自分の後ろにこそこそ隠れる主を訝しげに見つめる。 「お前、何やってんの?」 「ううううるさいわね!」 才人からすれば、何をそんなに怯えることがあるのか不思議でならない。確かに目の前の少年は奇妙な顔をしているが、 散々他の使い魔に驚いた後なので今更驚きはしなかった。何より自分の置かれている、この状況が一番奇妙だ。 「おめぇらあそこに帰るんだろ? 一緒に連れてってくんねぇかな?」 「ああ、別にいいけど……」 「ちょっと!? なんであんたが答えてんのよ!」 「なんだよ、どうせ同じ所に帰るんならいいじゃねぇか」 「う、それは……そうだけど……」 弱点を知られたくない、これ以上情けない自分も見せたくなかったルイズは、 「分かったわよ! 好きにすれば!」 そう言い捨てると、早歩きで風助から離れる。才人と風助は顔を見合わせると、揃って首を傾げた。 才人は改めて風助の服装に注目した。マントやローブでなく、普通のシャツと膝丈のズボン。 被っているのは野球帽だし、靴はどう見てもスニーカーだ。 もしや、彼も同じ世界から召喚されたのだろうか? 才人はその場で追求しようとしたが、 「何やってるのよ! さっさと来なさい、この愚図犬!!」 前を歩くルイズがうるさいので、深く追及はしなかった。 同類相憐れむ。才人は隣を歩く風助を見下ろし、わざとらしく肩を竦めてみせた。 「そんじゃ行こうぜ」 「おー」 この状況に順応しているのか、それとも何も考えていないのか。風助は笑顔で右手を突き上げた。 その夜、タバサに付いて風助は食堂に入った。床で食べるのは苦でもなんでもなかった。元々気にする性格でも生活でもない。 何より風助の関心は食堂に入った瞬間から、食事のみに向けられていた。 風助に出した食事は、貴族の物には幾分劣るものの、そこそこの量と質はあった。少なくとも、固いパンと薄いスープだけ、 というようなことは断じてない。 それなのに風助ときたら、それをほとんど一口で平らげると、開口一番、 「足んねぇ」 「我慢」 タバサも、一秒と間を置かず答えた。 なんとなく予想はしていたのだ。だが甘やかせば限が無い、自分だって皆と同じ量なのだから。 「部屋に戻る。時間までは好きにしてていいから」 言いながら、タバサは席を立った。既に寮での基本的な生活は説明してある。果たして理解しているかは、やはり謎だったが。 そして、食堂に一人取り残される風助。満腹にはほど遠いが、動けないほど空腹でもない。 「さて……どうすっかな」 考えてみれば、ここはまったく知らない国の知らない場所。腹ごなしでもないが、探検するのも面白そうだ。そう思った風助は食堂を出て、ふらふら敷地内をぶらつく。 目的もなく彷徨っていると、寮の中庭に出た。ずらりと並んだ部屋の窓のほとんどに明かりが灯っている。 その明りに照らされて、見た顔が木にもたれて座っているのが見えた。 「よー、なにやってんだ、おめぇ」 「ああ、お前か……」 座っていたのは、ルイズの使い魔、才人。彼は風助を一瞥すると、あからさまに不機嫌な顔で答えた。 「ちくしょう、あいつに口答えしたら部屋追い出されちまった。掃除に洗濯、なんでも俺に押し付けるんだぜ?」 「そんなに嫌なら、やんなきゃいいんじゃねぇのか?」 風助は才人と同じ木にもたれながら、事もなげに言った。 風助の言うことも当然といえば当然。しかし同意を期待していた才人は、ふて腐れて横になった。 「そう簡単に行くかよ。この世界に知り合いも友達もいねーんだ。追い出されたら行くところもねぇ。お前だってそうだろ?」 「まーな」 「お前はどうなんだよ。嫌になんねぇのか? そもそも何で使い魔なんてあっさり引き受けたんだ?」 「俺は別に嫌じゃねぇぞ。引き受けたのは……わかんね。たぶん、そうだなぁ……あいつに助けてくれって言われたからだぞ」 それは風助自身にも形容し難い、不確かで曖昧な、直感とも言える何か。当然伝わるはずもなく、才人はその言葉を額面通りに受け取った。 「お人よしなんだな、お前」 「そうか?」 「お前の……タバサ、だっけ? あの娘は当たりだよ」 「おめぇはハズレなのか?」 逆に風助に質問され、困り顔で唸り出す才人。自分で言っておいてなんだが、彼女をハズレだと言い切ることには一抹の抵抗を覚えた。 或いは、この世界の貴族とはああいうもので、誰でも大差は無いのかもしれない。数十秒唸って考えてみたが、やはり、 「ハズレ……なんだろうなぁ。ああ……腹減った。晩飯も食ってねぇってのに」 「なんだ、おめぇ腹減ってんのか。んじゃちょっと待ってろ」 「あ、おい!」 才人のぼやきを耳にした風助は立ち上がり、寮に入っていく。突然のことに、才人はただ見送るしかなかった。 およそ十分後、風助は手に何か持って帰ってきた。 「わりぃ、迷ってて遅くなっちまった。ほら、これ食え」 才人が手渡されたのは、緑の皮に包まれたトウモロコシ。一応洗ってはあるが、生だった。 「これ……トウモロコシじゃねーか。へー、この世界にもあるんだなぁ」 手に取ってしげしげと眺める。やはり、自分の知るトウモロコシと寸分違わないものだ。 「連れてってくれたお礼だぞ」 「連れて来たのは俺じゃなくてルイズだけどな」 「いいから食え。うめぇぞ。死ぬほど」 死ぬほどかよ、と苦笑する才人。風助は頭の後ろで手を組み、どこか得意気な様子で才人が食べるのを待っている。 魚のような目は変わらないが、うずうずしているのが見て取れた。 促されるままに齧りつくと、生なのに小気味良い歯応え、甘い汁が口の中に溢れる。一口ごとに、空だった胃袋が満たされていくのを感じた。 「俺のお師さんの畑で、俺が作ったんだ」 「ああ、すげー旨いよ。でも、お前なんでこんなの持ってたんだ?」 「んー、俺の十一人の友達はな、毎年お師さんのトウモロコシ食うのを楽しみにしてたんだ」 その時才人には、語る風助が、ふと遠い目をしたように見えた。 「だからお師さんが死んじまった後は、俺が畑を受け継いで、みんなに配りに行ってんだぞ」 「え? そんな大事な物だったのか……じゃあ俺が食ってよかったのか?」 と言っても、もう半分以上食べてしまったが。 「気にすんな、ちょうど全員に配って済んだ余りだ。それに……」 風助はにっこりと笑う。変な顔だと思ったが、なかなかどうして、笑うと愛嬌のある顔だ。 満面の笑みの風助に、才人はそんな感想を抱いた。 「おめぇも、もう友達だぞ」 その言葉で、才人の胸にぐっと熱いものが込み上げた。何か言おうと思っても、上手く言葉が出てこない。結局、 「そっか……ありがとな」 言えたのは一言だけだった。 いきなりこんな異世界に飛ばされ、主人と名乗る少女は横暴。ちょっと反抗すれば部屋を叩き出され、 かと言って他に行く当ても無く、知り合いもいない。これでも、多少心細くはあったのだ。 一人ホームシックになっていたところへ似たような身の上の少年が現れ、友達と呼ばれた。 それが無性に嬉しくて、涙が滲みそうになった。 才人は照れ臭さから鼻を啜り、顔を背けて目元を拭う。そして風助に右手を差し出した。 「そういや、名前も聞いてなかったっけ。俺は才人、平賀才人だ。よろしくな」 「おー、俺は風助ってんだ。よろしくな」 握り返す手は自分のものよりずっと小さく、しかし温かだった。 その後、風助はポケットから小さなハーモニカを取り出した。口に当て、ゆっくりと空気を吹き込むと、そこに音が生まれた。 カエルの口から奏でられるのは、美しくも優しい旋律。どこか懐かしい音色に、才人は目を閉じる。 そうやって感じる夜風は涼やかで、元の世界と何ら変わりなかった。 メロディーは風に乗り、閉じられていた部屋の窓が一つ、また一つと開き、生徒達が顔を覗かせる。中には、 扇情的な寝間着姿を惜しげもなく晒すキュルケの姿もあったが、この時ばかりは男子生徒の視線も彼女には向かわない。 時間にすれば五分にも満たなかったが、誰一人声を発する者もなく、寮のほとんどが風助の演奏に耳を傾けていた。 だが、その中に彼らの主人である二人の少女はいない。ルイズはいつまで経っても帰らない才人を探し歩き、 タバサは外の音を遮断して読書に耽っていた。 二人の少女はこの夜の出来事を知らず、二人の使い魔もまた、それを知ることは無かった。 この日、ほとんどの人間がハズレを引いたと考えていた。周囲の生徒も、タバサ自身も。 ルイズは、自分の使い魔はまだましだったと思うことにした。 キュルケは面白そうな使い魔だと思っていたが、それだけだった。 才人にとっては、異世界で出来た初めての友人だった。 ちなみに、召喚された当人は何も考えていなかった。 誰もが、夢にも思わなかっただろう。彼がタバサを様々な軛から解き放つ風となることも。 彼がまさしく雪風に相応しい……風竜と同じく、或いはそれ以上に風に愛されし存在であることも。 この時点ではまだ、誰も――。 前ページ次ページ風の使い魔
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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第79話 シュレディンガーの猫 時空怪獣 エアロヴァイパー 宇宙戦闘獣 コッヴ 宇宙雷獣 パズズ ウルトラマンメビウス ウルトラマンガイア 登場! アルビオン王国の首都、ロンディニウムを目指す最中、才人とルイズたちは 時空怪獣エアロヴァイパーに襲われて、その時空転移によって仲間たちと 引き離されたあげく、見たこともない世界に飛ばされてしまった。 二人は、飛ばされた先の世界の空中空母エリアルベースの中で途方に くれていたが、偶然にも彼らに興味を持った高山我夢という青年に救われて、 元の世界に帰る方法があると言う彼の助けに、元の世界に戻る希望を見出していた。 現在の、この世界での時間はおよそ七時一五分、元に来た時間は一五時過ぎ、 またタイムスリップが起きるかどうかは不確定だが、ハルケギニアへと 続いている時空の歪みはその時間にしかなく、それまで待っていては この基地ごとエアロヴァイパーの攻撃を受けてしまうので、なんとしてでも 自力で戻る必要があった。 ただし、彼らにとってはまったく偶然にしか思えないようなこの出会いが、 これからのいくつかのパラレルワールドの歴史において、非常に大きな重要度を 持っていたのを、この時点ではどちらも知るよしはなかった。 そんななかで、二人は我夢の自室で身を隠しながら、彼が準備をしている間、 お互いの世界のことについて話していたが、我夢の口から語られるこの世界の 事実は、二人を何度も驚愕させた。 「この世界は、常に狙われ続けています」 そう、ここは地球であることは間違いないが、この世界もまたほかの様々な 世界同様に、平和を脅かされていた。 時代は二〇世紀末、突如として宇宙から送り込まれてくる、それまでの 地球人類の常識を超えた地球外生体兵器群、それらに対抗するために 人類は秘密裏に地球防衛連合GUARDと、その特捜チームXIGを組織し、 巨大空中空母エリアルベースを建造し、その攻撃と戦い続けていた。 そしてその、地球を狙っているという正体不明の敵とは。 「根源的、破滅招来体……」 「そう、それも仮称に過ぎないし、出現先や目的もはっきりとしない。 ただその存在だけは想定された、そんな敵さ」 キーボードを操作しながらぽつりぽつりと語る我夢の言葉には、これまで 何度も死地を潜り抜けてきた重みが備わっていて、二人はそれが誇張や 虚構などではないことを知った。 それにしても、仮称とはいえなんと不気味な名前であろうか、人類に 対しては攻撃を仕掛けるものの、反面具体的な意思は示さずに、 常に正体は厚いヴェールに隠され続けているということが、形のない ものに対する原始的な恐怖を呼び起こしてくる。 「もしかして、おれたちがこっちに来てしまったのも、その破滅招来体の 陰謀なのかな」 「それはわからない。なにせ、これまでに起きた事件でも、破滅招来体と 関係があるのかないのか、あいまいで終わったものも多いからね」 その点でいえば、正体が知れている分ヤプールのほうがやりやすいだろう。 もちろん、脅威の度合いでいえば甲乙つけがたいが、こういう類の 敵は関係ないことまで、もしかしたらこれも、と思わせる分だけ性質が悪い。 「けれど、これはあくまで僕たちの世界のことであって、君たちには 関わりがないし、なるべきじゃない問題さ」 「けど……」 「この世界のことは、この世界のことで解決するさ。それよりも、君たちは 君たちで、元の世界でやらなきゃいけないことがあるんじゃないかい?」 だから、君たちを元の世界に戻すのは、余計な人を巻き込みたくない からでもあるんだと前置きすると、我夢はそういえば君たちの来た世界は どんなところなのかと、興味深そうにたずねてきた。 二人は、今度は才人の世界でメビウスがエンペラ星人を倒したとき までや、ハルケギニアでのこれまでの戦いのことなどをざっと語り、 我夢の反応を待った。 「異次元人に宇宙人、怪獣……パラレルワールドでも、やっぱり宇宙の 平和は脅かされているのか」 振り返らずにつぶやいた我夢の声は明るくはなかったが、同時に 絶望もしていないようだった。 「あの、高山さん……」 「けど、どの世界でも平和を守るために戦っている人はいる。それだけで 充分安心したよ」 「えっ?」 「はは、それよりも、君たちの世界のこと、もっといろんなことを教えてくれないかな?」 我夢は、怪獣などの殺伐とした話はもういいから、それらの話とは別に、 才人の地球やハルケギニアの普通のことについて聞きたいと無邪気な興味を 見せてきて、二人は才人の学生生活の頃や魔法学院のことなどを話した。 「へえ、なかなか面白そうな世界だね。できるのなら、一度行ってみたいな」 「そうですか?」 「そりゃ興味深いよ、異なる発展を遂げた文明はそれだけでも人間の 可能性の豊かさを見せてくれる。進化の可能性は、まだまだ無限大にあるってね」 才人の地球と、この世界とはあまり差はないように思われたが、それでも メテオール技術などには深い興味を抱き、可能なら留学してみたいと我夢が 言うのに、才人は目をぱちくりさせていた。 また、二人の話や、この基地の規模に圧倒されてほとんど自分からは しゃべれていなかったルイズからも、我夢は熱心にハルケギニアの 話を聞いていたが、ルイズはしゃべるたびにどことなくつらそうな顔をして、 やがて言葉を止めて我夢に尋ねた。 「あの、ミスタ・タカヤマ」 「ああ、呼び捨てでいいよ。なんだい?」 一応相手が年長者で、自分が招かれざる客であることを自覚しているので 敬語で遠慮がちに話すルイズに、才人も何かなと耳を傾けると、彼女は つらそうに口を開いた。 「あの、正直に言ってほしいんです。わたしの話は、そんなに面白いですか」 「面白いよ、魔法が実在している世界なんて、すごくわくわくする」 「ええ、けどそれはおもしろおかしそうだから、そう思ってるんじゃないですか、 わたしは、あなたたちの話の百分の一も理解できないけど、この基地だけでも わたしなんかには想像もできない技術で作られているってことくらいは わかるわ、だから……」 ルイズはそこで言葉を詰まらせたが、言いたいことは我夢にも才人にも 理解できた。彼女は、これまで才人に言葉ごしに聞いていただけであった 科学技術、それも才人から見てさえ超科学とさえいえるエリアルベースの それを目の当たりにしてしまって、いわば黒船来航のときの日本人のように ハルケギニアにコンプレックスを抱いてしまったのだ。 才人は、そういえば自分のいた地球にも、科学技術の進んだ星に あこがれて、宇宙人にそそのかされるままに実際に地球から立ち去って いった人がいたということを思い出して、その気持ちは少しだけだが わかったが、慰める言葉は浮かんでこなかった。 だが、我夢は穏やかだがまじめな表情をすると、ルイズの目を 正面から見据えて語った。 「ルイズくん、君の言いたいことはわかる。けど、それは間違いだ。 進んだ技術を人から取り入れることは決して間違いではないけど、 それで劣等感を持っちゃいけない。ほかと違うということに、上下なんて ないんだ。ようく、君の故郷のことを思い出してごらん、君の世界は そんな恥ずかしいところなのかい」 「……」 「じゃあ、もう一つ聞くけど、君は自分の生まれ育った世界が、 侵略者に征服されるのを、黙って見てられるかい?」 「それは、そんなことできないわ! 断固として戦うし、これまでもそうしてきたのよ!」 「だろう、それはつまり、君は自分の世界が好きだってことだろ、 ちょっと見れば隣の家の芝生はきれいに見えるものだけど、やっぱり 自分の家ほどやすらぐところはないし、一度失ってしまえばほかに探しても どこにもないんだ。だから、自分の世界が劣っているなんて思わないで、 大切に、大事にしていってほしいな」 「うん……」 深い知性の光を宿した目で見つめられて、ルイズは難しいことながら、 我夢の言葉には嘘はなく、言いたいことがなんとなくだがわかったような気がした。 これは地球の歴史上の事実だが、明治初期西洋文化を取り入れていた ころの日本は、脱亜入欧を掲げてひたすら西洋文明を取り入れていた 反動で、江戸時代までの日本文化が間違ったものだと誤解してしまい、 芸術的、歴史的に貴重な浮世絵などが破壊されたり海外に流出 してしまったりして、後年二束三文で売り飛ばされて海外で保管されていた ものが高い評価を受けているという、なんとも皮肉なことが起こっているのである。 それに才人も、ハルケギニアが地球に劣った世界などとは、今では まったく思っていなかった。 「そうだなあ、確かに最初のころはコンビニもネットもない世界でどうしようかと 思ったけど、空気はうまいし、平民も貴族も話してみればいい奴は多い、 第一雑用さえしてればあとはのんびりできる。あ、こりゃおれだけか」 使い魔には学校も試験もなんにもない、とまではいわないし、決して地球に 勝っているとまでは思わないが、ハルケギニアのルールさえ飲み込んでしまえば、 あとはちょっとした知恵と根性があれば充分に生きていくことができると 才人は思った。第一、実例として佐々木隊員やアスカ・シンなどは ハルケギニアに立派に適応していたではないか。 けれどルイズは、それでも今一つ納得しきっていないようであったが、 ならばと我夢は駄目押しの質問をぶつけた。 「どうしてもそう思うんだったら、こっちの世界に住んでみるかい?」 「え、そんな冗談じゃないわよ、あたしは……」 「それが答えさ」 「あ……」 我夢の完全勝利であった。 まったくもって、才人もルイズも、自分たちとほんの三、四歳くらいしか 違わないのに、知力でも、そして人生観でも「かなわないなあ」と、 我夢をすごく思うのと同時に、自分たちがまだまだ子供なんだなと痛感した。 やがて我夢はなにが映っているのか、二人から見てさっぱりわからない パソコンの画面に向かっていくつかの入力をしているようであったが、 最後に軽くEnterキーをはじくと、椅子から立ち上がった。 「さて、じゃあ行こうか」 「え、どこへ?」 「格納庫だよ、必要なものはそこに置いてあるから、ここじゃあ無理なんだ、 それに、君たちがここに落ちてきたのも格納庫だから、その時空の歪みが 残っていたら、元の時間に戻りやすいからね」 「じ、じゃあ今までやってたのは?」 「ん、ああ、エリアルベースの警備システムに侵入して、ちょっとした細工をね、 また映されたら面倒だから、君たちが映らないようにしておいたよ」 才人は完璧に絶句した。これほどの基地のコンピュータとなったら、 どれほど厳しいセキュリティがあるか想像もつかないというのに、 まるで隣に遊びに行くように簡単にやってしまうとは、GUYSでも彼ほどの 人間はまずいないだろう。 「我夢さん、あなたいったい何者なんですか?」 「ただのXIGの一隊員さ、それよりも、この仕掛けは一〇分しか持たないし、 ベース内が朝食時で人がいなくなるのは今しかないから、さあ急ごう」 せかされて、とにかく二人は我夢について部屋から出ていった。 彼らは、我夢がこのエリアルベースを空中に浮かせているシステム、 『リパルサー・リフト』の理論を確立し、XIGの誕生に大きく貢献した 天才であるとは知らない。 そして、一時的に人のいなくなった通路を小走りで駆け抜けて、 我夢に連れられた二人は格納庫の一角に定置してあった、側面に縦に大きな 円盤のついた大きな機械のそばにやってきた。 「我夢さん、これは?」 「時空移動メカ、『アドベンチャー』二号機、これを使って君たちを元の時空に帰す」 「じ、時空移動メカ!? すげえ」 すごいなどというものではなく、時空移動装置など才人の世界の地球ですら 夢物語にすぎない。それでも、二人にとっての希望の象徴がそこにあった。 だが、近くによってよく見ると、才人は愕然とした。 「が、我夢さん、これって!」 「うん、未完成なんだ」 なんと、アドベンチャーはぱっと見ではできあがっていたが、内装はほとんど まだがらんどうで、とてもではないが飛べるようには見えなかったのだ。 「ちょっと前に一号機を壊しちゃってね。改良型を作ってるんだけど、おかげで すっかり計画が縮小されちゃって、僕が一人で組み立ててるんだ」 思い出にひたるように語る我夢に、二人とも完全に唖然となった。 こんな未完成品でどうしろというのか、元の世界に帰してくれると いうのは嘘だったのか? しかし我夢は胴体の下に潜り込むと、機械部分を空けてドライバーで 部品を外し始めた。 「この機体はまだ飛べないけど、行って帰ることを考えないならメインのシステム だけを取り外して使えば充分だよ」 「なるほど……あ、でも行って帰ることを考えないっていうなら、おれたちが それを持って行ったら、我夢さんが困るんじゃあ」 「いいさ、機械はまた作ればいいけど、君たちには今これが必要なんだ」 なんのためらいもない我夢に、二人は頼りっぱなしなことを情けなく思ったが、 我夢は気にした様子どころか、むしろありがたそうに二人に笑いかけた。 「いや、礼を言うのは僕のほうさ、君たちのおかげで、これから起こる 事態をあらかじめ知ることができた」 そう、才人たちはさきほどの話の中で、このエリアルベースが 六、七時間後に壊滅するということも伝えていたのだ。むろん、 それで我夢がショックを受けるのではと思ったが、意外にも我夢は あまり気にした様子もなかったので、ルイズは思い切って聞いてみた。 「あの、ガムさん? あなた、怖くないんですか? 目の前に最後が 迫ってるってのに」 「最後になんてならないさ、僕がいるからね」 手を機械油で汚しながら、ドライバーやメガネレンチを使う我夢は 落ち着いた様子で、もうそうなることはないと自信を持って答えた。 「だけど、現にわたしたちの見た未来では……」 二人の脳裏に、墜落して残骸となったエリアルベースの無残な 姿が蘇ってくる。いったいどうしたのかは詳しいことまではわからないが、 あの未来ではおそらくこの基地の人間は全員……なのにどうして そんなに落ち着いていられるのかと二人が問うと、パーツを外して 出てきた我夢は、作業テーブルの上に置いてあった計量用の ビーカーを手に取って。 「才人くん、シュレディンガーの猫って知ってるかい?」 才人が首を振ると、我夢はビーカーを手の中で回しながら、ゆっくりと 説明を始めた。 「量子力学では、有名な理論の一つだけどね。簡単に言えば、 密閉された箱の中に一匹の猫と、毒エサを入れて一時間ほど 放置しておいたら、一時間後に猫は毒を食べて死んでいるか、 それとも食べずに生き残っているか、空けてみるまではわからない。 つまり、確率論的には、箱の中では猫は死んでいるし、同時に 生きているとも言える。けど、現実にたどりつく未来は一つだ」 一句一句、確認するように語った我夢は、二人がとりあえずそうした、 猫が死んでいて、かつ生きているといったパラドックスがあるということを どうにか理解したのを、理知的にうなずくルイズと頭髪をかき回しながら しぶい顔をしている才人を見て確認すると、ビーカーを目の前で かざして見せた。 「じゃあ、このビーカーだけど、これを床に落としたらどうなると思う?」 二人は、もろそうなビーカーと、ゴムが敷かれた床を見比べて、 それぞれの答えを出した。 「割れる」 「割れない」 「そう、つまりこのビーカーの未来は、割れていて、かつ割れていないという、 落としてみないとわからない不確定なことになる。だけど……」 我夢はビーカーを握っていた手を離した。すると、ビーカーは重力に 引かれて9.8m/sで加速していき、二人の視線は急速に距離を 縮めていくビーカーと床に集中して…… 「んなっ!」 「ええっ!?」 二人の期待は、右斜め上の方向で裏切られた。 ビーカーは床の寸前で我夢に掴みあげられて、そのまま持ち上げられると 無事な姿を見られたのだ。 「割れなかったろ」 「そ、そりゃ割れるはずないでしょうが!」 「ずるい、そんなのないわよ」 得意げに言う我夢に、才人もルイズもそんなの反則だと口々に抗議する のだが、我夢は二人に言うだけ言わせると、真面目な表情で語った。 「そう、割れるはずがないよね。けど、そのままだったらこのビーカーの未来は 1/2の確率で運命にゆだねられていたけど、僕の手という意思が加わる ことによって、割れない方向に定まったんだ」 「あっ……」 そこで二人は我夢の言おうとしていることを理解した。 「つまり、未来は意思によって変えられる。そういうことですね?」 「ああ、決まった未来なんてあるはずがない。この時間軸は、間違いなく 君たちの来たエリアルベース崩壊の時間軸には流れなくなる。いいや、 僕がきっとそうしてみせる」 我夢の声に、その意思を確かに感じた二人は、これ以上のおせっかいは 不要だと悟った。 「わかりました。けど、時空怪獣は手ごわい相手です。気をつけてください」 「頑張るよ。さて、あまり時間がない。こっちに来てくれ」 我夢は取り外した一抱えほどある時空移動システムにバッテリーをつなぐと、 機能の微調整をしてスイッチを入れた。すると、システムが格納庫に残っていた わずかな時空の歪みを検知して、一角の空間が渦巻くように歪んでいく。 我夢の説明によれば、歪みが最大になったときに近くのものもまとめて ジャンプするとのことだったので、二人は時空移動装置の前に立って そのときを待ちながら、我夢に最後の別れを告げた。 「あの我夢さん、本当にいろいろとありがとうございました!」 「あ、ありがとう、このご恩は忘れませんわ!」 「いいよ、むしろお礼を言うのは僕のほうさ。無事に帰れたら、君たちも頑張れよ」 手を振って見送りながら、我夢は二人の姿が時空のかなたに消えていくまで、 見つめていた。 なのだが、ここで我夢にも思いがけないアクシデントが起こった。 才人たちと会っていたために、我夢は気づいていなかったもう一組の 異世界からの闖入者が、またもや見つかって追いかけられてきたのだ。 「北田、そっちに行ったぞ! 逃がすな」 「くそっ、つかまってたまるかよ」 よく知った声と、聞きなれない声が、偶然であるのかこっちのほうに 近づいてくる。まずいことに、時空の渦はまだ残っていて、うかつに 近づけば吸い込まれてしまうかもしれない。 「まずい、こっちに来ないでください!」 我夢は慌てて、やってきたGUYSの三人に向かって叫んだが、 向こうも追われれば逃げるというふうに全速力で来たために、 もろに時空の渦に突っ込んでしまった。 最初に飛び込んだリュウと、続いてテッペイが思わぬおこぼれに 預かって彼らも来た時間へ戻っていく。けれどミライだけは時空間の 手前で立ち止まって、我夢と視線を合わせていた。 「君は……」 「あなたは、あのときの……」 我夢は、会ったことのないはずのミライの姿に、なぜか不思議な 懐かしさを感じたが、時空間の入り口が閉じかけているのを見ると、 反射的にそれを指差していた。 「急いで!」 「はい、ありがとうございます」 律儀に礼を言ってミライの姿も時空間に消えていき、一瞬後に 入り口は時空移動システムもろとも、この世界から完全に消滅した。 「行っちゃったか」 元の時間軸に戻れたかどうかは我夢にも確かめようもなかったが、 なぜか彼らであれば、どんな困難が待っていようとも乗り切っていくことが できるだろうと、根拠はないが不思議な確信があった。 「おい我夢、今ここに来た奴ら、どこに行った?」 振り返ると、そこには彼の仲間たちが息を切らせた様子で立っていた。 「どうしたんです? チーム・ライトニングにチーム・ハーキュリーズがおそろいで」 「ここに来た不審者だよ。追い詰めたと思ったのに、お前隠してないだろうな?」 「まさか、僕はアドベンチャーをいじってただけです。おかしいと思うなら、 どこでも探してみてください」 もう、なにをしようと彼らが見つかることはありっこないので、余裕たっぷりの 我夢の態度に、皆しぶしぶながら納得して去っていった。 そして、時間はA.M8:00、エリアルベースに警報が鳴り響く。 ”エリアルベース近辺の空間にエネルギー体の反応をキャッチ、 チーム・ファルコン、ファイターEX、スタンバイ” 「来たな、歴史を思うとおりにはさせないぞ、エリアルベースは必ず守る」 決意を新たに、我夢は自分の専用機であるファイターEX機に向けて走り出した。 そして我夢の思いを受けて、才人とルイズも渦巻く時空の波を超えて、 ようやく三次元空間へと復帰していた。 「ここは、元の時間か?」 周りの景色は格納庫のものから、元来た荒廃した廃墟と、裂けた外壁から 見える荒涼とした砂漠のものとなっていた。我夢の作り出したアドベンチャーの 時空移動システムは見事に時空を超えて二人を送り返してくれたのだ。 「すげえな! ほんとに戻ってきたんだ」 万歳三唱しかねない勢いで、才人は我夢は本当に天才なんだなと 素直に賞賛と尊敬を表した。ただし、過信だけは禁物と念のために 懐中時計を覗き込んでいたルイズは、重くぽつりとつぶやいた。 「喜ぶのは早いみたいよ。これを見なさい」 「え、これは!?」 「そう、13:34、元の時間より二時間ほど前だわ」 じゃあ、失敗したのかと才人の心に焦りが浮かんだときだった。 二人の耳に、引き裂くようなあの鳴き声が聞こえてきて、とっさに外壁の穴から 飛び出して空を見上げたとき、そこにはあの黒雲のような時空間への 入り口が開き、そして。 「あれは!」 エアロヴァイパーがそこから現れて、このエリアルベースの残骸へと まっさかさまに急降下してきた。 「時空怪獣……そうか、あいつが時空を歪めていたから元の時間に戻り 切れなかったんだ」 「それよりも、あいつがまだ生きてるってことは、やはり未来は……」 変えられなかったのか? 我夢や、エリアルベースの人々のことを思い浮かべて二人はぞっとした。 「未来は変えられるって、やっぱり無理だったのかよ」 どうせ戻れないのならば、無理にでも残って戦っていればよかった。 そうすればわずかでも犠牲を減らせたかもしれない。しかし、苦悩する 才人を叱り付けるようにルイズが言った。 「サイト、悔しがってる場合じゃないわよ。あいつを倒さない限り、わたしたちも この世界に閉じ込められたまま、それじゃわたしたちの世界も守れないわ」 見上げた彼女の目には、過去を悔やむ気持ちはなく、がむしゃらでも ひたすら前へ進む意思が宿っていた。 「行くわよ、意思が未来を決めるって、彼も言っていたでしょう。人の知らない ところで決められた運命やなんだで、わたしの未来を指図されるなんて 冗談じゃないわ」 その目は何度も見てきたルイズならではの、彼女の人生そのものと いえる光を宿した目だった。彼女は才人と会う前から、いくら魔法を使えない 無能・ゼロとさげすまれてもいつかは使えるようになるとあきらめず、 結果として才人を呼び出し、出会って以後も人が止めるのも聞かずに ベロクロンやホタルンガ、メカギラスにも単身向かっていったりと、 後先考えずどんな結果が待っていようと負けず嫌いに立ち向かっていった。 言い換えれば、売られたけんかは買わねば気がすまないやっかいな 性格だともいえるが、周りに流されずに、良いことも悪いこともすべて 自分で選択してきた生き様は、現代日本で普通の高校生として テストや進学に流され続けてきた彼にはとてもまぶしく、そしてその がむしゃらなまでに誇り高さを貫くところが好きだった。 「そうだな、こうなったら弔い合戦だ!」 我夢のためにも、元の世界に戻るためにもここで気落ちしている わけにはいかない。第一下手に落ち込むとルイズにきつい気付け薬を プレゼントされてしまうので、その点は断じて避けたい。 だが、そうして二人がエアロヴァイパーを見上げたとき、突然エースが 心の中から話しかけてきた。 (待て、この世界の歴史はまだ定まっていない) 「え? どういうことよ、もうここは……」 (いや、私にはわかる……この世界を守る者は、まだ滅んでいない、見ろ!) その瞬間、舞い降りてくるエアロヴァイパーを迎え撃つかのように、 空へと舞い上がっていく四機の翼が轟音とともに、彼らの視界に飛び込んできた。 「あれは、ファイター! ということは、我夢さんもあれに」 そう、それはXIGの主力戦闘機XIGファイターSSとファイターSGの三機と、 我夢専用のファイターEXの雄姿、証拠はないが、不思議な直感によって 二人は飛び上がっていく編隊に我夢がいると確信し、見事にそれは的中していた。 あの後、二人を見送った後の我夢はエリアルベース近辺に現れたエネルギー体に 潜んでいたエアロヴァイパーと戦うために、自らファイターEX機で参戦していき、 才人たちと同じように崩壊したエリアルベースの未来で、様々な形をとった 未来と対面していったが、最後にこの時間帯で決着をつけるために現れた エアロヴァイパーを迎え撃ち、未来を変えるために飛び立ったのだ。 「頑張れーっ! いけー!」 「撃ち落しちゃいなさーい!」 本当に、我夢がいるという確証はないのに、二人は疑いもなく声援を送った。 だが、いったいそこまで根拠のない確信を持たせ、それが的中した理由は なんなのだろうか? それは、二人ではなく、二人と同化しているエース、 北斗星司の記憶にあった。 ”オッス! あれ? 僕ら一番最後?” どこかのレストランで、ハヤタや郷たち兄弟といっしょに、先にやってきていた 我夢たちと仲良く話すビジョンが、一瞬エースの脳裏に浮かんだ。 (なぜだろう、俺はあの我夢という青年にどこかで会った気がする。しかも、 ずいぶん親しくしていたような) そんなことはないはずなのに、記憶のどこかからとても親しげな感情が 浮かんでくる。そしておぼろげに見える自分以外のウルトラマンたちの影、 共に超巨大な怪獣に立ち向かう、見慣れたセブンやジャック兄さんたちと メビウス……そして…… エース・北斗は、これが我夢の言った、別の世界の自分との記憶のリンク なのかと思い戸惑い、同時に、この時間帯のエリアルベースの反対側に 飛ばされてきた、その答えを唯一知るメビウス・ミライは、数奇なめぐり合わせに 運命の皮肉を感じていた。 「また会いましたね、別の世界の兄弟たち……」 運命の糸が絡み合い、数々の思いが交差するこの時空間の中で、 思いの答えを見つける暇もないままで戦いは始まっていく。 急降下するエアロヴァイパーと、同じ角度で上昇していくファイターチーム、 先手をとったのはファイターチームで、三機連携のとれたレーザービームが 赤い光となってエアロヴァイパーに吸い込まれていく。だが、命中直前に エアロヴァイパーの角が光ると、奴の姿が掻き消えてレーザーは何もない 空間をむなしく通りすぎていった。 「タイムワープだ!」 才人、ミライ、そして機上の我夢が同時に叫んだとおり、奴は時間移動 能力を戦闘に利用し、攻撃が当たる直前に過去か未来に退避してしまい、 こちらから見たら瞬間移動したかのようにファイターEX機の頭上に出現すると、 口から吐く火球弾でEX機を被弾、戦線離脱させてしまった。 「我夢さん!」 薄く煙を吐きながら降下していくEXを見送りながら、彼の仲間の 三機のファイターはなおもエアロヴァイパーへと攻撃を仕掛けていく、 その空中機動はもとより怪獣に真正面から向かっていく恐ろしい ばかりの闘志は、ミライと共に戦いを見守っていたリュウをも感嘆と させたほどだが、まるで避ける気配すらなく正面から突撃していく 姿には、闘志以上のものを感じさせた。 「まさか、体当たりするつもりか!?」 確かに、レーザーでもさして効果のないエアロヴァイパーを 倒すならば航空機のありったけの弾薬と燃料とともに、自らを巨大な ミサイルに変えての特攻しかないかもしれないが、それでは搭乗者は 確実に生きては帰れない。 「だめだ!」 いくら勝つためとはいえ、それはやってはいけないことだ。才人たちも ミライたちもやめるんだと絶叫するが、エアロヴァイパーとファイターの 距離は近づき、もはや地上からでは何をやっても間に合わない。 だが、あわや衝突かと思われたとき、突如すべての天空を照らさん ほどの紅い光が両者のあいだにきらめいた! 「この……光は」 まばゆい光に照らされながらも、二人はそれをまぶしいとは思わずに、 むしろ春の陽光にも似た暖かなものと、この光の色に確かな懐かしさを 感じていた。 「我夢さん……?」 さらに、満ちた光はCREW GUYSのメンバーたちも照らし出す。 「ミライ、また新しい敵か!?」 「いいえ、あれは味方ですよ」 光に戸惑うリュウとテッペイに、ミライは穏やかに答えた。 そうだ、あの光は敵ではない。起源は違えど、それはM78星雲の 光の国の戦士たちと同じ正義の光! そして光の中から現れた、赤き地球の申し子、その名は! 「ウルトラマンガイア!!」 エースとメビウスの記憶から蘇って、才人とルイズ、ミライの口から 飛び出した名を持つ彼こそ、ティガやダイナと同じく異世界の地球を 守り抜いてきた、光を受け継ぐ勇者の一人。 「かっ……こいい!」 才人ははじめて見るウルトラマンの姿に、まるで子供の頃に戻ったかのように 心の底から湧き出た感情をそのまま叫んだ。宙に浮かんで怪獣を睨みつけている ウルトラマンガイアの姿は、ウルトラ兄弟との誰とも違うが、その勇壮かつ 守るべきもののために戦う闘志を漂わせた姿は、紛れもなく彼が幼い頃から 憧れ続けてきたウルトラマンそのものだった。 (そうか、なんとなく感じていた既視感の原因はこれだったのか) ガイアの姿を見た瞬間、エース・北斗の脳裏にもメビウスと同じビジョンが 生まれていた。我夢の語った、別の世界の自分との精神のリンク、 並行宇宙でガイアとともに戦ったもう一人のエースの記憶が、こうして 再び彼らを引き合わせてくれたのだ。 だが、ガイアの戦いの開始を見届ける前に、再び時空の歪みが彼らを襲った。 「くそっ、こんなときに」 ガイアとエアロヴァイパーが激突しようとしている風景が歪みの中へと 消えていくのを、彼らは無念の思いで耐えるしかできず、お互いがすぐ近くに いたのにも関わらず、才人たちとミライたちは別々の時空の支流へと 流されていった。 しかし、時空間が歪曲を続けて、今度はいったいいつの時間かと覚悟して 飛び出してみると、そこは見慣れたあの街の風景だったのだ。 「ここは!」 「トリスタニア……」 なんと、夜の帳に包まれてはいるが、そこは皆と共に旅立ってきた トリスタニアの街そのもの、いや、街並みは確かにトリスタニアでは あるが、建物はあちこち崩れ落ちて一軒の明かりもなく、高台に 見えるトリステイン王宮も半壊して、月の光に不気味に照らされる その下に生きた人間の姿はどこにもない、街全体が完全な廃墟と 化していたのである。 「どういうことだ!? なんでトリスタニアが滅んでるんだよ」 「これは……まさか!」 無音の地獄と化した街は、二人に何も応えなかったが、ルイズの持っていた 懐中時計の日付がすべてを教えてくれた。そこには、信じられない数字が 示されていたのだ。 「ウィンの月の二十一日……ここは、四ヶ月後の未来よ! しかも、この徹底した 街の破壊ぶりは戦争によるものとしか考えられない。ということは、ここは アルビオンを止められずに、すべてが終わってしまった未来」 「じゃあ、おれたちはこのまま戻れないっていうのかよ!」 「いいえ、運命は自分の意思で切り開くもの……こんな未来を見せて、 わたしたちの心を折ろうとしたって無駄よ、出てきなさい!」 ルイズが空に向かって怒鳴った瞬間、空が歪んで出現したワームホールから 巨大な青い岩のような物体が、廃墟の中へと降下してきた。 「どうもおかしいと思ってたけど、これで合点がいったわ」 「どういうことだ?」 「わたしたちは見られていたのよ。この未来へ続く道を妨害されたくない 何者かによってね。けれど失敗したわね、こんな姑息な方法で心を 折れるほど、わたしはあきらめが悪くない」 見えざる何者かに向かって叫んだルイズの声に呼応したかのように、 地上に降り立った岩塊にひびが入り、それがはじけるとともに内部から 巨大な頭部と鎌になった両腕を持つ二足歩行型の怪獣が出現した。 「怪獣……そうか、これでおれたちばかりが狙われ続けた訳もわかった」 「ええ、敵の目的は最初からわたしたち、ウルトラマンだったのよ!」 現れた怪獣、宇宙戦闘獣コッヴは地を踏み鳴らし、長い尾を振り回しながら 二人をめがけてまっすぐに進んでくる。その振動が近づいてくるたびに、 二人はこれが現実であることと、この戦いが仕組まれたものであるのならば、 その邪悪な意図を打ち砕くにはどうすればよいのかを、冷静に判断していた。 「サイト、やることはわかるわよね?」 「ああ、時空怪獣はウルトマンガイアが必ず倒す。おれたちはこいつを ぶっ倒して、元の時代へ帰って、歴史を変える」 「正解、じゃあ、わたしたちをなめてくれたことを、そろそろ後悔してもらいましょうか」 喧嘩を売ってくる相手に対して、ルイズは自らそれ相応の態度で報いなかった ことはこれまで一度もなかった。圧力にせよ、脅迫にせよ、理不尽なる 服従を求めるものに彼女の誇りが屈することは決してない。今度もその 例外ではなく、彼女は、彼女の誇りと志を共に背負ってくれる頼もしい パートナーに手を差し伸べた。 「ウルトラ・ターッチ!」 光芒輝き、廃墟の街を踏み砕いてウルトラマンAが降り立つ。 さらに、ミライたちGUYSもまた別の時空、かつてエンペラ星人と 戦ったときのような、闇に覆われて廃墟と化した東京の中で、 羊のような巨大な角を持った怪獣と対峙していた。 「リュウさん、行きます!」 「ミライ」 「今わかりました。ジョージさんたちの乗った飛行機が狙われたのも、 全部は僕をおびき寄せるための罠だったんです」 「罠だって?」 「ええ、おそらくはこの未来をもたらしたい者が、邪魔となる存在である 僕らウルトラマンをおびき出して抹殺するための罠です」 ミライもまたルイズと同様に、その直感によって、この事件の裏側には明らかな 悪意を持った何者かの意思が潜んでいることに気がついていた。 「じゃあ、これはヤプールが仕組んだことなのか」 「それはわかりません。ですが、これが挑戦だというのなら、受けるまでです。 地球を、こんな姿にしちゃいけない」 ミライはリュウとテッペイに向けて強く決意をあらわにすると、怪獣へ 向かって数歩歩みだして、左手を胸の前にかざした。すると、ミライの 左腕にウルトラの父から与えられた神秘のアイテム、メビウスブレスが 現れて、ミライが右手を添えて中央のクリスタルサークルを勢いよく 回転させると、ブレスから金色の粉のような光がほとばしり、 空へ向かって高く振り上げると同時に叫んだ。 「メビウース!」 ミライの姿が金色に輝くメビウスリングの中で、ウルトラマンメビウスへと 変わって、怪獣の前へとその勇姿を現し、すばやく構えをとる。 今、三つの時空間で三人のウルトラマンの戦いが始まろうとしていた。 ウルトラマンガイア 対 時空怪獣エアロヴァイパー ウルトラマンA 対 宇宙戦闘獣コッヴ ウルトラマンメビウス 対 宇宙雷獣パズズ それぞれの未来を強き意志によって掴み取るべく、ウルトラマンたちは立ち向かう。 だがそのころ、アルビオンから遥かに離れたハルケギニアの一角で、誰も 知らないはずのこの戦いを冷ややかに見守る目があった。 「どうやら、計画も最終段階みたいですね。さて、うまくいきますかね?」 「どうでしょう、破滅の未来のビジョンを見せてあげればおとなしく滅びを 受け入れていただけるかもと思ったのですが、皆様なかなか心がお強い。 ですが、案ずることはありません。これはまだ、始まりにすぎないのですから」 大きな宮殿のような建物の中で、澄んだ少年の声と、穏やかで優しげながら 機械的で冷たい男性の声が、誰もいない聖堂の一室の中に短く響く。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 8話 ダイナミック・ヒーロー! 宇宙有翼怪獣アリゲラ ウルトラマンダイナ 登場!! 西暦2017年代 地球最大の危機、邪神ガタノゾーアの危機を乗り越えた人類は、その夢見る心のままに大宇宙へと歩を進めるネオ・フロンティア時代を迎えていた。 だが、突如宇宙から人類を狙う謎の敵、スフィアが地球に来襲、地球平和連合TPCはチーム・スーパーGUTSでこれに対抗した。 彼らは、人類の前に姿を現したティガに続く二人目の光の巨人とともに、地球の平和を守り抜いていった。 しかし、遂に姿を現した究極の敵、暗黒惑星グランスフィアの前に冥王星をはじめとする太陽系の惑星は次々と飲み込まれていく。 これに対し、スーパーGUTSは封印された兵器、ネオマキシマ砲での最終決戦を挑む。 そして、彼らは勝利した。ただし、その代償として光の巨人はグランスフィアの生み出したブラックホールの中へと消え、消息を絶った。 だが、彼は死んではいなかったのだ!! 「光の……巨人」 誰も知らない深い森の奥で、真紅の巨大な飛竜の前に銀色の体に金色と赤と青をあしらった巨人が立ちふさがっていた。 その名はダイナ、かつて異世界の平和を守りぬいた二人目の光の巨人。 「デュワッ!!」 ダイナは森の中に立ち、甲高いうなり声を上げてくる怪獣に構えをとった。 その怪獣はゴツゴツと角ばったワイバーンのような体から生えた、まるで鉈のような翼を広げ、背中のジェット噴射口から炎を吹き出して飛び立った。 怪獣の名はアリゲラ、異世界で時空波に導かれてウルトラマンメビウスと戦った宇宙怪獣の同族。 「シャッ!!」 ダイナも跳んだ。向かってくるアリゲラに右足を向けてのジャンプキックだ。 激突! アリゲラの右肩から火花が飛び、その巨体が森の中に滑り込んでいく。 「おおっ!!」 地上からその様子を眺めていたオスマンは、アリゲラが倒れたのを見て思わず歓声を上げた。 だが、アリゲラは倒れたままその尾の先をダイナに向けると、そこから真っ赤な火炎弾を放った。 「危ない!!」 「シュワッ!!」 思わず叫んだオスマンの目の前でダイナは両手をまるで押し出すように前方にかざすと、そこに薄く輝く光の幕が現れた。 『ウルトラバリヤー!!』 火炎弾はバリヤーに当たると粉々に砕け散った。 オスマンはその光景を唖然として眺めていた。ファイヤーボールにしたら1000発分には匹敵しよう火炎弾を巨人は軽々跳ね返したのだ。 しかし、驚くのはまだ早かった。 ダイナが両手を十字に組むと、その右手からまばゆい光の束がほとばしる。 『ソルジェント光線!!』 輝く光の奔流がアリゲラを襲い、右肩から胴体までの外骨格を爆砕した。 アリゲラはガラスを引っ掻くような鳴き声をあげて苦しんだ。しかし強靭な生命力を発揮してまだ戦意を失っていない。噴煙の中から炎を吹き上げて、空へと飛び上がっていく。 「ヘヤッ!!」 ダイナは2発目のソルジェント光線を放つが、マッハで飛ぶアリゲラには当たらない。 アリゲラはそのまま急降下するとダイナに体当たりを仕掛けてきた。 「グワァッ!!」 超音速の体当たりにはさしものダイナも持ちこたえきれずに吹っ飛ばされてしまった。 アリゲラはその後Uターンして、起き上がったダイナの背中へと再び激突した。 「グワァァ!」 地響きを立てて地面に崩れ落ちるダイナ、そのときダイナの胸のカラータイマーが赤く点滅し始めた。 「頑張れ!」 オスマンは固く拳を握り締めて名も知らぬ巨人の苦境を見守っていた。 そしてダイナはその声が届いたのか、ひざを突きながらもゆっくりと立ち上がった。 アリゲラはよろめくダイナに安心したのか今度は真正面から突っ込んでくる。マッハ3、いや4、ものすごいスピードだ!! 「デヤッ!!」 だがダイナはまっすぐアリゲラに立ち向かう。 「危ない、避けるんだ!」 このまま直撃されたら今度こそ危ない。しかしダイナはまったく避けようとはしない。 正対するアリゲラとダイナ、もう両者とも避ける隙はない。 そのときだった。ダイナの額が眩く輝いたかと思うと、その身が一瞬にして燃えるような真紅に包まれた。 『ウルトラマンダイナ・ストロングタイプ!!』 赤いダイナはアリゲラの突進を正面からがっちりと受け止めた。 「ヌォォォッ!!」 突進の勢いで大地をガリガリと削りながらもダイナはアリゲラを離さない。そして100メイルほどすべったところでアリゲラの突進は完全に止まった。 さらにダイナはアリゲラの首根っこを掴んで、その巨体をハンマー投げの様に振り回した。 『バルカンスウィング!!』 回る回る、アリゲラの巨体がまるでプロペラのようだ。さらに、1万1千tの体重がもたらす遠心力によってアリゲラの体は千切れんばかりのGに襲われる。 そして思うさまにぶん回した後、ダイナはアリゲラの体を大地に思いっきり放り投げた。 「ダァァッ!!」 地響きとともに7、80本の木をへし折ってアリゲラは大地に叩きつけられる。 さらにダイナはフラフラと起き上がったアリゲラに強烈なストレートパンチをお見舞、残った左肩の砲口も叩き潰される。 「赤い巨人は、力の戦士……」 今のダイナの前には強固な外骨格も何の役にも立たず、もはやアリゲラには武器も戦意も残ってはいない。 そして、ついに敵わぬと悟ったアリゲラは、残った力を振り絞って空へと飛び上がった。 「デヤッ!!」 逃げるアリゲラを見据えながら、ダイナは胸の前で拳を突合せた。 するとダイナのカラータイマーを中心にエネルギーが集まって巨大な火球と化していく。 「ダァァァッ、シュワッ!!」 ダイナの半身を覆い尽くすほどに火球は巨大化した、そしてダイナはそれをアリゲラに向けて一気に押し出す。 『ガルネイトボンバー!!』 火球はアリゲラに向けて一直線に飛び、飛ぶのがやっとのアリゲラにはそれを避ける力はもはやない。 直撃、開放されたエネルギーの奔流がアリゲラを焼き尽くす。一瞬後、アリゲラは断末魔の遠吠えを残し、大爆発を起こして粉微塵に吹き飛んだ。 「やった!」 「シュワッ!」 オスマンとダイナは、共にガッツポーズを決めた。 そしてダイナは腕を下ろすと仁王立ちのポーズをとった。 「ダッ!!」 ダイナの体が一瞬輝いたと思うと、その体が光の粒子へと変わって小さくなっていき、やがて元の人間の姿へと戻っていった。 「じいさん、無事だったか」 彼は駆け戻ってくるなり、先程までの戦いがうそのようなまばゆい笑顔でそう言った。 「あ、大丈夫じゃとも、それよりおぬしこそ大丈夫なのか? あれだけやられたのに」 そのあまりにまっすぐな瞳にオスマンも警戒心を解かれて問い返した。 「え、ああ見られちまってたか。まあ、この世界ならいいか……なんてことはないよ、いつものことさ」 「いつものことって! おぬしはいつもあんな化け物と戦っておるのか!? 君はいったい何者なんじゃ?」 すると彼はニッと笑って。 「いや、名乗るほどの者じゃないさ……って、一度言ってみたかったんだよねー。俺はアスカ、スーパーGUTSのアスカ・シンさ。あー、と、言ってもわからねえか……」 「スーパー……ガッツ? いや、ともかく君はアスカ君というのだね。わしはオスマンという。あの巨人の姿は……いやいや、そんなことはよいか、ともかく君はわしの命の恩人じゃ、本当にありがとう」 「いいってことよ。それに、ウルトラマンダイナのことは正直俺もよくは知らねんだ。それよりも、またあんなのが来る前に、急いで帰ったほうがいいぜ」 見ると、そろそろ日の光が赤みを帯びてくるような時刻だ。 「ああ、本当にありがとう。それで、よかったらわしのうちに来てはもらえんかね? せめてもの礼がしたいんじゃ」 だが、アスカは残念そうな顔をして首を横に振った。 「悪いけど、俺も急いで国に帰らないといけないんだ。仲間が待ってるからな」 「国にって、とても遠いのじゃろう、あてはあるのか?」 「正直あんま自信はない。ただ、必ず帰るって約束したんだ。俺は約束は絶対破らない。だから、俺はずっと前に進み続ける」 そう言って、空の果てにあるという彼の故郷を見つめるその視線には一点の迷いも無かった。 「わかった。そういうことなら止めはせん。旅の無事を祈ってるよ」 「ああ、じいさんも元気でな」 オスマンは名残惜しさを振り切って別れようとした。だがそのとき自分の杖がどこかに行ってしまっていたのに気がついた。 「しまった、わしの杖……弱ったのう、あれがないと」 メイジの使える魔法はとても便利だが、反面杖が無いとその一切が使えないという欠点もある。 多分戦いのさなかに怪獣の巻き起こした突風で飛ばされたのだろうが、この深い森の中を探すのはちと困難だった。 「なんだ、うっかりしてるなあ。この森を丸腰で帰るのは厳しいぜ……しょうがない、これ持っていけよ」 アスカはそう言って腰の銃をオスマンに差し出した。 「い、いかんいかん、そんなもの受け取るわけには、それに君はどうするのだね?」 「俺は平気さ。そいつの使い方はこっちの銃とたいして変わらないからわかるよな。まだエネルギーは十分残ってるはずだ。じゃあ、元気でなじいさん!」 「あ、待ってくれ! 君はいったいどこへ行くつもりじゃ!」 「さあな、けどまたいつか会おうぜ!」 アスカは大きく手を振りながら、森の奥へと消えていった。 「アスカ……ウルトラマンダイナ……」 オスマンは、その手に残った銃を握り締めながら、彼の去っていった森の奥をいつまでも見つめていた。 そして現代、昔話を語り終えたオスマンは、椅子に座りなおすと才人とルイズに視線を戻した。 「それが、30年前にわしが体験したことの全てじゃ。あんなまっすぐな目をした若者をわしはこれまで見たことはない。 その後わしはこの銃で身を守りながらなんとか学院へ帰ってきた。 銃はそのときもまだ使えたが、下手な魔法よりはるかに危険なために『破壊の光』と名づけて封印したんじゃ」 「エース以前にも、ウルトラマンがハルケギニアに来ていたのか」 (だけど、ダイナなんて名前のウルトラマンは聞いたことないぞ。エース、あなたは知ってますか?) 才人は、自らのなかに眠っているエースへ向けて呼びかけた。 普段エースはふたりの傷の治療もあって、ふたりの心の奥深くでじっとしているが、ふたりが同時に強く願えば答えてくれる。 (いや、私も聞いたことがない。しかし、学院長の話を聞く限りでは彼もまた異世界から来たのは間違いない) (どういうことよサイト、ウルトラマンはあなたの世界の戦士なんじゃなかったの?) ルイズもエースごしにテレパシーで才人に聞き返してきた。エースが表に出てきているときだけの特典だ。 (そう言われてもなあ。ダイナってウルトラマンもそうだが、スーパーガッツなんてチームも聞いたことがない……) (なによそれ、あんたがわかんなきゃわたしが分かるわけないでしょうが、この犬) そう言われても分からないものは分からない。才人が困っているとエースが助け舟を出してくれた。 (考えられる可能性としたら、パラレルワールドというやつだろうな) (パラレルワールド?) (このハルケギニアと地球、ヤプールの異次元世界があるように、ほかにも私たち光の国の住人とは違う、 ウルトラマンのいる世界があるのかもしれない。もしかしたらハルケギニアはそうした世界の境界が薄い世界なのかも) それはかつてのTAC隊員北斗星司としての経験と知識から導かれた仮説だった。 単純に異次元世界とは言っても、ヤプールの異次元世界のほかにも、四次元怪獣ブルトンや異次元宇宙人イカルス星人の異次元はそれぞれまったく別のものだ。 (と、いうことは、あなたやそのダイナ以外にもウルトラマンが現れる可能性があるってこと?) (可能性はあるだろうな) (おお! ウルトラ兄弟以外のウルトラマン!? そりゃ燃えるぜ!) (なに喜んでるのよ、このバカ犬!) と、テレパシーで話し合っているが一応表面上は静かなものだ。 「それで、そのアスカって人はその後どうしたかわかりますか?」 才人はとりあえずオスマンにそう聞いてみた。 「うむ……わしもその後これを返そうと四方手を尽くして探してみたのじゃが、とうとう見つけることができなかった。 あれほどの力を持つのじゃから、もしものことはないと思うが、おそらくは彼の国へと帰ったのじゃとわしは思う」 「そうですか、これでなんとか元の世界への手がかりが見つかるかと思ったのですが」 地球への手がかりが見つかるかと思っていた才人はがっくりと肩を落とした。 もしハルケギニアがどこかの星ならウルトラマンAなら飛んで帰ることは簡単だが、星空にはエースの知っている星は地球とM78星雲を含めてひとつも無かった。 ダイナがどういう世界から来たのかは分からないが、帰れたにせよ帰れなかったにせよ、もうこの星にはいないだろう。 するとオスマンは、何かを考え込むような仕草を一瞬見せた後、才人の目を見据えて驚くべきことを言った。 「君は、ミス・ヴァリエールの召喚でここへ来たのだったね。すると君もまた異世界の住人なのだろう、ウルトラマンA」 「え!?」 「え、い、サイトがエース、な、なんてそんなわけないじゃないですか!」 突然のオスマンの指摘にふたりは驚いた。しかし才人はまだしもルイズはごまかしが下手すぎる。 「やはりの、エースが現れて消えるまで、ずっと君達ふたりだけがいないままで、エースが消えたとたんに戻ってきた」 もはやごまかしようも無かった。 才人とルイズは仕方ないと自分達とエースの関係を簡単に説明した。 「なるほど、君達そのものがウルトラマンなのではなく、その体を貸しているだけというわけか」 「あの、学院長、このことは」 「わかっておる。誰にも言いはしない、かつてダイナに救われたようにエースはわしの恩人じゃ」 オスマンはにっこりと笑って見せ、才人とルイズもほっと胸をなでおろした。 それを見たオスマンは、一回咳払いをして呼吸を整えると、また才人に向かって話しかけた。 「それから、もうひとつ伝えておくことがある。サイト君、君の左手のルーンについてじゃ」 「俺の?」 「うむ、それはガンダールヴ、伝説の使い魔のルーンじゃ。伝承ではあらゆる『武器』を使いこなしたと言われている。君にも心当たりがあるのではないか?」 「ええ、まあ……」 才人は、その質問には適当にお茶を濁しておいた。 ギーシュとの決闘からホタルンガに斬りかかったときまで心当たりは大有りだったが、それよりもやはりこのルーンがエースにも影響を与えたのだということを、改めて確信していた。 (たかが使い魔のルーンがウルトラマンに影響を与えるとは、まあプラスなんだから別に悪くは無いか) 疑問はまだ残っていたが、元々ひとつのことをいつまでも深刻に考える性質ではなかったので、才人はガンダールヴのことを「まあいいか」で済ませた。 「ともかく、その『破壊の光』はここではとても危険なものです。二度と盗まれないように厳重に保管してください」 この世界に来てからいくつかの攻撃魔法を見てきたが、単純な破壊力だけでなく、射程、使いやすさ、奇襲性など汎用性で 『破壊の光』は完全にそれらを上回っている。悪用されたとしたらトライアングルクラスとやらでもまず止められまい。 そのことを承知している才人は、オスマンに強く訴えた。しかしオスマンの返答はまったく予想外なものだった。 「いや、この武器はサイト君、君が持つべきだろう」 「えっ!? な、なんですって」 30年間守ってきた恩人の宝を譲る。信じられないオスマンの言葉に才人は仰天し、ルイズはまっこうから反対した。 「オールド・オスマン! この犬! い、いや使い魔に学院の秘宝をなんて!」 「ミス・ヴァリエール、わしではこれは扱いきれん。しかしウルトラマンであり、ガンダールヴである彼ならこれを正しく使ってくれるじゃろう。 受け取ってくれサイト君、そしてミス・ヴァリエールととともに、ハルケギニアを守ってほしい」 最後にオスマンは深々と頭を下げた。 ルイズは、こんなのに頭を下げる必要はないですと慌てているが、才人はオスマンの態度が真剣であることを感じて、無言で『破壊の光』を手に取った。 すると、彼の左手のルーンが光り、『破壊の光』の使い方やその他の細やかな情報が頭の中に流れ込んできた。 「ガッツブラスター……」 「おお、それがそれの本当の名前なのか。どうか、大切に使ってやってほしい。一応わしが固定化の魔法で保護してあるから元より頑丈だろうし、下手な手入れもいらんじゃろうが、ただし一つだけ……」 「わかってます。おおっぴらに使ったりはしませんよ」 学院の秘宝を一平民が持ち歩いてると知れたらいろいろとまずいだろう。それを察した才人はそう言ってオスマンを安心させたが、実はそれだけではなかった。 本当のところ、ガッツブラスターにはもうあまりエネルギーが残っていなかったのだ。20発以上は撃てるだろうが、これからのことを考えると余裕のある数字ではない。 その不安が顔に出ていたのか、オスマンは少し強い調子で才人に言った。 「不安なのじゃな。無理もない、じゃが、ウルトラマンダイナはたった一人でもあきらめずに常に明るく前に進もうと頑張っておった。君もウルトラマンなのじゃろ、ならもっと心を強く持ちなさい。そうすれば、彼のように必ず道は開ける」 「……わかりました。よーし、ヤプールなんか俺が八つにたたんでやるぜ!」 才人はウルトラマンとしての重圧を感じていたが、すでに2匹超獣を倒していることだしなんとかなるだろうと、もちまえの気楽さを発揮して答えた。 「そうか、申し訳ないがよろしく頼む……この部屋にはいつでも入れるようにミス・ロングビルに話をつけておこう。何か困ったことがあったら遠慮なく来たまえ」 「はい。では、この辺で失礼します」 「うむ、ヤプールはまたいつ攻めてくるかわからん。今夜はゆっくり休みたまえ……ああそうだ、サイトくん、 実は1週間後にここで『フリッグの舞踏会』というものが執り行われるんじゃ。本当ならもっと前にやるはずじゃったのだが、 ベロクロンの襲撃のせいで延期になっておったんじゃ。君もメインで参加できるよう取り計らっておこう。楽しみにしていたまえ」 『フリッグの舞踏会』とはこの魔法学院の行事のひとつで、娯楽の少ない学院では大勢の生徒が楽しみにしている食べて踊れるお祭り騒ぎだ。 しかし普通の学生であった才人はあまり興味はないようだったが、それを察したオスマンは才人の耳元でぼそっとささやいた。 「学院中の女子生徒が着飾って踊りを楽しむぞ、もちろん手を取り合ってな」 「ぜひ参加させていただきます」 「聞こえてるのよ、この馬鹿犬!!」 その後、ルイズと才人は学院長室をあとにした。 すでに夜もふけて廊下も静かなもので、ふたりの足音だけが響いていた。 「やれやれ、おーいて」 「学院長の手前、蹴り一発で許してやったんだからむしろ感謝しなさい。ったく、この色ボケ犬!」 ルイズはカッカッと怒っている。 才人は、相変わらずのルイズの態度に辟易していたが、やがて思い出したようにルイズの肩を叩いた。 「なによ?」 「あとで言うことがあるって、言ってあっただろう?」 ルイズの顔が固くこわばった。 あのときの無茶は、正直どんな弁明をしても正当化できようはずもない。身構えるルイズに才人はやがて口を開いた。 「今度は俺も連れてけ」 「は?」 「お前が俺の言うことなんか聞く気がないのはわかってる。だったら次からは俺も連れてけ、多少はお前より頑丈なんだから盾くらいにはなってやる、俺はお前の使い魔なんだろ?」 「……」 あまりに意外な言葉にルイズは絶句していた。 ウルトラマンは決してひとりで戦っているわけではない、信じられる仲間たちがいるからこそどんな強敵とも戦い抜いてこれたのだ。 しかし、他人を信じようとしないルイズでは、先のように命の投げ捨てに行くようなものだ。 頑ななルイズにそのことを説いても聞き入れはしまいと分かっている才人は、あえてそういう言い方をしたのだった。 (ダイナも、仲間の元へ帰ろうとしていた。ウルトラマンがなんで強いか、いつかこいつもわかってくれる……かもしれないな) 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第72話 天然物にご用心 変身怪人 ピット星人 宇宙怪獣 エレキング 登場! 「さあさ、皆さんこんにちは。すっかりおなじみの悪い宇宙人さんでございます」 「んん? もういい加減にしろ、お前の顔は見飽きたですって。おやおや、ひどいですねえ」 「そりゃ私は出しゃばりものですよ。それに、本当ならあなた方は今頃はヤプールをやっつけようとがんばってるはずだったんですものねえ」 「まま、そう怒らないでください。しょせん私は舞台の飛び入りです。クライマックスまで居座るつもりはありません。第一、私の目的の半分は達成されてますしね」 「ですが、思ったよりも苦労が多かったのも事実ですね。まったく、この世界の人たちは我が強いです」 「それと、度々私にちょっかいを出してくる誰かさん。ようやく正体が掴めてきましたよ。なにを企んでいるのか……そろそろ、あなた方も知りたいと思いませんか? フフ」 「きっとお楽しみいただけると思いますよ。いろいろな意味で、ね」 宇宙人の前置きが終わり、舞台は再びハルケギニアに戻る。 次の事件が起きるのは東か西か。起きる事件は悲劇か、それとも喜劇か。 ある晴れた日の昼下がり、魔法学院は久々の三連休のその初日、才人たちは見渡す限りの畑の中にいた。 「ひゃあ、こりゃまた広いとこだな。トリスタニアの近くにこんないいとこがあるなんて知らなかったぜ!」 「はい旦那様、こちらは狭いながらも農耕が盛んでして、よい作物が取れるのです。このド・オルニエールによくおいでくださいました。歓迎いたします」 才人とルイズ、そしてギーシュら水精霊騎士隊の面々は、ふくよかな土地の農夫に案内されて農道を歩いていた。 ここはトリステインの地方のひとつ、ド・オルニエール。トリスタニアから西に馬で一時間ほどにある、豊かな農地を持つ土地である。道を歩く一行は、一様に豊かな土地が見せる豊饒な緑の光景に見惚れて顔をきょろきょろとさせていた。 しかし、騎士隊である彼らがなぜ農地に来ているのだろうか? 事の起こりは、この数日前にアンリエッタ女王からの勅命が下ったからである。 魔法学院にやってきた王宮からの使いは、水精霊騎士隊の一同を集めるとこう言い渡した。 「本日より三日後、ド・オルニエール地方にて農園開拓のための事業が始まる。諸君らはそこに赴き、その手伝いをしてもらいたい」 この命令に、ギーシュたちは一様に首をひねった。 「開墾ですか? ですが、なんでまたぼくたちが?」 当然である。自分たちは農業にはなんの知識もない、ただの学生なのだ。そういう事業を始めるならば、それ専門の貴族を遣わせばいいだけだ。 すると使いの役人は、話は最後まで聞けというふうに答えた。 「なにも君たちに土を掘り返したり用水路を作れと言っているわけではない。順を追って話すが、最近我がトリステインとアルビオンの間の交易はさらに活発になってきておってな。アルビオンでの我が国産のワインの需要が高まってきており、そこで枢機卿の計画で、ワイン用のぶどう農園を増やすことになったのだ」 「はあ」 「土地はド・オルニエールに決まり、すでにタルブ村から苗木の取り寄せと職人の手配もすんでいる。しかし、どうせワインの増産をするのなら他国への輸出もさらに増やそうということになり、ゲルマニアから交渉のための大使を呼んでいる。諸君には、そのもてなしを頼みたいということだ」 「あの、もっと話がわからなくなったのですが。そんな大役ならば、ぼくらのような学生ではなく、それこそ大臣の方々が引き受けるべきかと存じますが」 「そんなことは知らん。とにかく、女王陛下がお前たちにぜひに頼みたいとのたってのご命令なのだ。貴族たるもの、これを名誉と思わずにどうする!」 「はっ、ははっ! 我ら水精霊騎士隊一同、喜んで仰せつかると女王陛下にお伝えくださいませ」 こうして、よくわからないままに彼らはド・オルニエールに出向くことになったのである。 しかし、ド・オルニエールというのはどういう土地なのだろう? 調べてみると、年に一万二千エキューほどの収益がある、そこそこいい土地であるということだった。そこで同盟国の大使を迎えるなら、なるほど名誉な仕事には違いない。ギーシュたちは大役を与えてくれた女王陛下に感謝し、周りに自慢しまくったのは言うまでもない。 そして、ゲルマニアの大使がやってくるという日、彼らはド・オルニエールにやってきた。もちろん、せっかくの休みで暇なのだからということで才人やルイズ、キュルケやモンモランシーらのいつもの面々もついてきて、ぞろぞろと歩く姿はまるで大名行列のようであった。 しかし、大名行列はド・オルニエールにつくと一転してピクニックの集団に早変わりした。そこは想像していたよりもはるかに肥沃で豊かな土地だったからだ。 「貴族の旦那様方、こちらは今年うちでとれた野菜でございます。よければお召し上がりくださいませ」 「いやいや、うちの畑でとれた果物はとても甘く出来上がっております。こちらをお先にどうぞ」 「それでしたらうちの牧場の牛からとれた新鮮なミルクはどうでやすか。チーズもヨーグルトもありますぜ」 と、こういうふうに住民たちから予想外の大歓迎を受けたのである。 もちろんギーシュたちは面食らった。子供とはいえ貴族が複数でやってきたら平民が歓迎するのは珍しくないことだが、ここまで熱烈な歓迎が来るとは思っていなかったのだ。 「ちょ、ちょっと待ってくれたまえ君たち。気持ちはうれしいが、我々は女王陛下から大事な任務を預かった身であるからして!」 必死にとりなして落ち着いてもらうと、平民たちもようやく貴族に対する無礼を働いたことを自覚して謝罪した。 「申し訳ありません旦那様方。今年は過去にない豊作でして、うれしさのあまりつい我を忘れてしまっておりました」 「いや、わかってくれればいいんだよ。豊作なら、それはとてもいいことだ。女王陛下もお喜びになられることだろう。ところで、この土地の領主殿の館へ案内してほしいんだが」 「旦那様、ご存じないのですか? このド・オルニエールは十年ほど前に先代のご領主様がお亡くなりになられた後、お世継ぎもおらずに国に召し上げられたのでございます」 そう聞いてギーシュたちは顔を見合わせた。豊かな土地なら領主がいると思い込んで、そこまで下調べしてこなかったうかつさを悔やんだがもう遅い。 「と、となると……今、この土地は国の代官が治めているのかね?」 「いいえ、つい昨年までこのド・オルニエールはお国からもほったらかしにされておりました。お役人様も年に数度の年貢の取り立てと調査くらいでしか訪れてはおりません。そういえば、近々こちらへ外国のお偉いさまがいらっしゃると沙汰があったのですが、旦那様方ですかな?」 「あ、いいや。僕たちは、そのお偉いさんをもてなすために来たんだ。だけど弱ったな。泊まってもらうところもないんじゃ無礼になってしまうぞ」 ギーシュはレイナールたちと顔を見合わせた。下調べをしてこなかったことを本格的に後悔し始めたがもう遅い。貴賓をもてなすのに、まさか農家を使うわけにはいかない。 すると、ひとりの老農夫がにこやかに言った。 「それなら心配ございません。お屋敷は今、学者の先生が二人住まわれています。とてもおきれいで気さくな方々なので、すぐにお屋敷を貸してくださるでしょう」 それでギーシュたちはほっとした。人が住んでいるなら清掃もされているだろうから問題ない。後は交渉次第だが、こちらは女王陛下の命で来ているのだ。それに、女性で美人らしいと聞いては会わないわけにはいかない! その農夫に道案内を頼んで、ギーシュたちはド・オルニエールを再び歩き始めた。 安心したせいか足取りも軽く、いい陽気なのも相まって一行の目は自然に道行く先の景色に吸い込まれていった。見ると、道の右にも左にも豊かな農地や牧草地が広がっていて、楽園のようなその光景にキュルケやモンモランシーも感嘆したように見惚れていた。 「すごい活気のある農園ね。わたしの実家の領地にも、ここまで豊かな土地はなかったと思うわ」 「ええ、キュルケがそう言うならトリステインの他にもこんなところはないでしょうね。けど、これほど豊かな土地に、これまで代官も立てられずにほったらかしにされてたってのはおかしいわね」 モンモランシーがそうつぶやくと、農夫が笑いながら答えた。 「いいえ、ド・オルニエールがここまで栄えられるようになったのは、実はつい最近のことなのですよ。昨年までは、こちらは荒れに荒れ放題で、土地から出ていくこともできない老人たちがわずかなぶどうを栽培してやっと生計を立てているような貧しい土地でした。けれど、学者の先生方がこちらにいらしてから、土地が肥えて作物が山のように取れだし、出稼ぎに行っていた若い者たちも帰ってきてくれましたのです」 しみじみと農夫は語ったが、以前に自分の実家が土地開発で失敗した経験のあるモンモランシーは驚いた。 「これだけの土地をたった一年で作り直したって言うの? その学者の先生って人たち、いったいどんな魔法を使ったのよ」 「水だそうです。こちらは、山の向こうに小さな湖がありまして、そこから水を引いているのですが、なにやらそちらでなさっているようなのです。わたくしどもは難しいことはわからないのですが、水がとても肥えるようになり、それを撒くだけで痩せていた土地もみるみる生き返っていったのです」 「水、ねえ。わたしも水のメイジだけど、そんなに水を肥やす魔法なんて聞いたことないわ。話を聞けたらモンモランシ家の再興に役立てられるかも」 なにげなくギーシュについてきたが、これは儲けものかとモンモランシーは思った。 キュルケはといえば、道行く農夫にわけてもらったオレンジの皮をむいて口に放り込んでいる。確かによく肥えているだけあって味も豊潤だ。 なるほど、これだけ豊かな土地ならば女王陛下が目をつけたのもわかる。ワインに限らず、ここで採れる農作物を輸出できれば、まだまだ貧乏国であるトリステインにとって良い収入となるだろう。 が、それにしても解せない。ギーシュも言った通り、そんな大事な交渉をおこなうための役割ならばトリステインの重鎮の誰かが出るのが当然で、なんの経験もない学生の私的な集まりが選ばれるなんて常識では考えられない。 「これは何かあるわね」 キュルケはほくそ笑んだ。あの女王様、見かけによらず腹黒いところがあるが、今度はなにを企んでいるのだろうか。暇つぶしについてきたが、おもしろくなりそうだ。 ギーシュたちはといえば、土地の人たちにちやほやされて調子に乗っているのか、事態の重大さに頭が回っていないようだ。 「ほらサイト聞いたかい? 女の子たちが、あの有名なグラモン家のギーシュ様ですかと言っていたぞ! いやあ、いつの間にかぼくも有名になっていたんだなあ」 「それって女癖の悪さで笑いものにされてるから有名なんじゃないのか?」 軽口を叩き合いながら歩く男子の顔は皆明るい。一方でルイズは男子の会話に混ざっていくことができず、グループから一歩下がってリンゴをかじっていた。 「なによ調子に乗っちゃって。ゲルマニアの大使に無礼があって国際問題になっちゃったら女王陛下の責任になるのに、もう」 親友であるアンリエッタが問題に巻き込まれることを思うとルイズの胸は痛かった。しかし、アンリエッタの采配の意味がわからないのはルイズも同じだ。 ああもう、姫様は昔から突拍子もない思い付きをしては周りを困らせるんですから。あなたはもう女王なのですよ。 ルイズはいたずら好きなアンリエッタの顔を思い出して、どうにも悪い予感が抑えられずに頭を抱えた。もうどうにでもなーれ! と、お手上げの意味を込めて万歳をするその手で、ウルトラリングがキラキラと輝いていた。 しかし、そうして歩いていく一行を、離れた場所から監視している目があった。 「んんー、また大勢来たねー」 「ち、あと少しだというのに、これというのもお前が人間どもと余計な馴れ合いを続けるからいらない噂が立つのよ!」 「えー、だってここの人間たちはいい人ばかりじゃない。私だって”ぷらいべーと”はほしいんだもん」 「お前という奴は……!」 気の抜けた声と甲高い声が話し合っている。甲高い声のほうは気の抜けた声のほうを、なにやら叱責しているようだが、気の抜けたほうはあまり気にした様子がない。 二人はしばらく言い争っていたが、ふと気の抜けたほうがルイズを指さして言った。 「んー? あれ、待って、あの小娘……手配にあった子じゃない……?」 「へえ、こんなところに来るなんてね。ようし、あれもそろそろ出来上がるし、やってしまいましょうか」 「ま、待ってよ。まだ一匹しかいないのに、戦わせるなんて無理だよ。それに、あの小娘はかなりやっかいなメイジだって噂だよ。やめておこうよ」 「何言ってるの! ウルトラマンの一人を倒したとなれば私たちにも箔がつくのよ。うふふ、運が向いてきたじゃないの。やりようはあるわ、私たちの伝統の方法でね」 不気味な声が響き、監視する目はどこかへと去っていった。 そうしてしばらく歩き、鬱蒼とした森の中に目的の屋敷は建っていた。 「ほほう、これはなかなか立派な屋敷じゃないかい」 一番乗りしたギムリが入り口から入ったホールを見渡して言った。 十年前に領主が亡くなって、去年までは放置されていたそうだが、今ではきちんと清掃されて立派な貴族の館の様相を取り戻していた。 ホールに入った一行は、まずは館の主に用件を伝えるために呼び鈴を鳴らした。涼やかな音が響き、やがて屋敷の二階からすたすたと眼鏡をかけた学者風の若い女性が二人現れた。 「こんにちはー、わたくし共に何かご用事でしょうか?」 二人のうちで、少し胸の小さいほうの女が尋ねてきた。それでもルイズよりはよほど大きいのだが、それよりも二人ともなかなかの美人で水精霊騎士隊の少年たちは思わず見とれてしまった。 「ハッ! し、失礼します。実はこちらでお願いしたいことがありまして……」 我に返ったギーシュが用件を説明すると、女たちはうなづいてにこやかに答えた。 「そういうことですかー。わかりましたー、私たちは勝手にこちらに住まわせてもらっている身ですぅ。普通なら立ち退きを命ぜられるところを、ご恩情に感謝しますー。どうぞ、ご自由にこちらを使ってくださいねー」 「い、いいえ、お礼を言うのはこちらのほうです! あなた方がいなければ我々は空き家を使うことになってました。できるだけご迷惑はかけませんので少しの間よろしくお願いします」 不法占拠を素直に詫びて屋敷を明け渡してくれた二人の学者に、ギーシュたちは思わず下手に出てしまった。その後ろではモンモランシーが固まった笑顔を浮かべている。 すると、二人の学者はルイズたちに向けて優雅に会釈してみせた。その仕草は上流貴族のルイズから見ても二人の教養の高さが伺え、ましてギーシュたちは女神を見たように見惚れている。 けれど才人たちも、地元の人たちから聞いていた通りのいい人たちだなと好感を持った。特にルイズは、同じ学者でもエレオノール姉さまとは偉い違いねと、本人に聞かれたら雷が落ちるであろうことを考えていた。 ともあれ、これでゲルマニアの大使を歓迎する場所はできた。後は準備を整えるだけとなって、一行はそれぞれ手分けして当たることにした。 「では諸君、確認だ。大使殿は今日の夜間にこちらに到着される予定である。屋敷の飾りつけとお部屋の用意だが、そちらはレイナールが指揮して、ギムリたちは近所を回って料理の手配をしてくれ。ぼくは大使殿に渡す資料を学者の先生方といっしょに用意しておく」 こうして、水精霊騎士隊は大きく三班に分かれて準備に当たることになった。しかし、もし学者の先生方がこの屋敷を整理してくれてなかったら、これらのことを一日で全部やらなければならなかったわけだから、まったく考えなしの行き当たりばったりもはなはだしい。キュルケやモンモランシーは歓迎の用意を手伝いながらも改めてギーシュたちに呆れるとともに、アンリエッタの采配に疑問を持った。 アンリエッタはギーシュたちのことをちゃんと知っている。あのバム星人によるトリステイン王宮炎上のときの活躍から、さまざまな方面で頭角を見せてきた。が、それらを考慮しても今回のことはやっぱり納得できない。ゲルマニアは実利を優先する、悪く言えば物欲主義の国だ。学生だけの出迎えなど、なめられていると思って怒らせたら何を要求してくることか。 モンモランシーは、いくらゲルマニアでも学生の無礼くらいは許してくれるんじゃない? と、考えていたが、キュルケの「わたしの母国よ」の一言で考えを改めた。軽い気持ちでついてきたが、キュルケと話していると事の重大さがわかってきて胃が痛くなってくるのを感じてきた。見ると、水精霊騎士隊の面々は大任の興奮に早くも酔っているようで、いっぱしの貴族めいて礼儀作法の注意などをしあっている。 「ほんっとにお気楽なんだから。あれ? そういえばサイトとルイズは?」 「ああ、二階でギーシュたちといっしょにド・オルニエールの資料をまとめてるみたいよ。サイトはその荷物持ちみたいね」 まあ、才人は見栄えには無頓着だし適任だろう。キュルケとモンモランシーは、ともすればサボりがちになる男子にはっぱをかけながら、歓迎式典の準備を続けた。 さて、その才人たちは二階にある図書室で、学者の先生方の研究資料を貸してもらいながらド・オルニエールの資料を作っていた。 「そんなに広くない領地だけど、採れる作物や土壌の性質とか、まとめだしたらすごい量になるわね。あいつら、もしわたしたちがついてこなかったどうするつもりだったのかしら」 ルイズは科目のレポートを出す感覚で資料をまとめていた。ギーシュたちと違って、きちんと授業は受けているほうなのでこういうことは得意だ。 けれど、ルイズひとりでは到底間に合う量ではないため、ほとんどは学者の先生方に頼ってしまっていた。資料を引っ掻き回すしか能がないギーシュたちははっきり言って全然役に立っていない。 「うわあぁぁぁっ!」 「ちょっと! そこのあなた。せっかく私たちがまとめた資料を崩さないでよ!」 「ど、どうもすみません!」 資料を持ってこけた水精霊騎士隊の少年が、学者のひとりに怒鳴られていた。 ふたりの学者のうち、さきほど交渉した胸の小さなほうはおっとりとして温厚だったが、もうひとりの胸の大きなほうは優しそうに見えて意外とかんしゃく持ちだった。もっとも、少年たちの中には「叱られるのが快感」みたいなのもいるから、何をいわんやであるが。 しかし、見ていると妙な二人だとルイズは思った。性格と身なりこそ差があれど、よく見れば二人とも同じ顔をしているのである。双子かと思って聞いてみたが、そうでもないらしい。 いや、そんなことはどうでもいい。ルイズが気に入らないのは、あの二人の女がやたらと才人に色目を使うことであった。 「ねえ、坊やって珍しい髪の色してるのね。どこから来たの? お姉さんに教えてくれない?」 「あ、あのぉ、顔が近いです。そ、それに胸も……」 「ぼく~。こっちきて手伝って~。これ、私じゃおもーいー」 「は、はい! って、お姉さん、荷物で服がはだけて、む、胸が」 才人が女に寄られるのは今に始まったことではないが、だからといってルイズの気分がよかろうはずがない。横目で見ながら我慢してはいても、目元がピクピクと動いて殺気を撒き散らしている。 不愉快だ。すごく不愉快だ。サ、サササ、サイトったら、あとで鞭打ち百叩きね。いえ、最近わたしったら少し優しくなりすぎたわね。千回、万回叩いて、誰がご主人様か思い出させてあげるわ。 ルイズの頭の中で才人の処刑用フルコースのメニューが目まぐるしく変わっていく。ルイズの想像の中で才人はバードンに追い回されるケムジラのように悲惨な目に会いまくっていた。 しかし、ルイズにそんな残酷な未来を設定されているとはつゆ知らず、才人は才人で綺麗なお姉さんふたりにちやほやされて困り果てていた。 「ねえ、坊や。私、自分の知らないものを見ると我慢ができないの。坊やのこと、教えてくれないかしら」 胸の大きな女が才人にすり寄る。才人は、いつもなら大歓迎だがとにかくルイズの手前、必死に理性を総動員して話を逸らそうと試みた。 「お、おれはその前にお姉さんたちのことを知りたいな! ここで何を研究しているんですか?」 「んー? そんなこといいじゃない。っと! あ、あなた」 「あーっ! 僕ったら、私たちのこと知りたいのー? いーよいーよ、私たちはねー。ここのきれいな湖でよーしょくの実験をしにはるばる来たんだー」 胸の小さなほうの女が胸の大きな女を押しのけて、間延びした声で自慢げに話し始めた。どうやら、研究のことを聞かれるのがうれしいらしい。胸の大きい女が止めるのも聞かず、才人はこれ幸いと話をそっちに振った。 「よーしょくって、生け簀で魚を育てる、あの養殖のことですか?」 「そーそー、ここは水がきれいでねー。よーしょくじょーとして最適? なんだよー。むこーに湖があるんだけどー。そこでいろいろ実験してるんだー」 得意げに、胸の小さな女は自分たちの研究を自慢した。 聞くところによると、彼女たちはド・オルニエールにある湖で養殖の研究をしており、その副産物で肥えた湖の水が農地に流れ込むことで近年の爆発的な豊作につながっているようだ。 なるほど、このド・オルニエールに関する大量の資料はそのためか。仮にも学者を姉に持つルイズは納得した。水産をおこなうなら、その土地に関する入念な研究も必要だ。学者は自分の専門分野にだけ詳しければいいというものではないのだ。 それだけに胸の小さい女は、よほど自分の研究を話すのが楽しいらしく、胸の大きいほうの女が「ちょっと、よしなさいよ」と止めるのも聞かずに垂れ目を笑わせながら話し続けている。 「わたしねー、小さいころから生き物を育てるのが好きだったんだー。それでこの仕事はじめたんだけどー、生き物っていいよねー、すくすく育っていくのを見てるといつまで経っても飽きないもん」 すると、胸の小さい女と才人の間にギーシュが目を輝かせて割り込んできた。 「わかります、美しいお姉さま。ぼくも昔、領地でグリフォンを飼っていましたが可愛くてしょうがなかったです。ぼくたち、気が合いそうですね」 「えー、君もそうなんだー。この「ど・おるにえーる」の人たちもねー、野菜とか果物とか育てるのか好きみたいでー、作物をおすそ分けしてくれるいい人ばっかりなんだよー。私は別に好きなことやってるだけなんだけどねー」 「素晴らしいことです。ぼくも薔薇を愛でるだけじゃなくて、自分で薔薇の栽培をしてみるのもいいかもしれませんね。ところで、お姉さまはどんなものを育ててるんですか?」 「ん? エレキ……」 そのとき、胸の大きい女が「わーっ! わーっ! わーっ!」と叫びながら胸の小さい女の襟元を掴んで言った。 「ちょっとあなた! あのことは秘密でしょう! なに考えてるのよ!」 「あ、ごめーん」 なにやらよくわからないが内輪の喧嘩らしい。才人やルイズたちはきょとんとして見ていたが、胸の大きい女は振り向くと、よく通る声で言った。 「言い忘れてたけど、向こうの湖には絶対行っちゃだめだからね。わかった!」 「え? なんで」 「なんででもよ!」 すごい剣幕で命令するので、思わず才人たちも「は、はい」と答えるしかなかった。 唯一、ルイズだけが「なんなの、この女たち?」と怪しげな視線で見つめている。落ち着いて考えてみれば、学者だというがいったいどこの学者なのだ? 少なくともトリステインの学者ではなさそうだが、なら……? だがそのとき、才人が思い出したようにつぶやいた。 「あれ? 湖といえば、さっきギムリたちが釣りができるかもしれないから寄ってみようって言ってたけど」 「なんですって! まったく、これだから男ってのは」 胸の大きな女は、そう言って飛び出していこうとしたが、その前に胸の小さな女が部屋のドアを開けていた。 「んー、ちょっと注意してくるねー」 「え? あ、ちょっと!」 止める間もなく、胸の小さい女は出ていってしまった。 そしてざっと一分後。 「注意してきたよー」 と、帰ってきた。 「えっ!? もう!? 話に聞いた湖まで、たっぷり一リーグはあるはずなのにどうやって!」 「え? 走って」 走って? 今度は才人も含めた一同全員が面食らってしまった。 一リーグを走って一分で往復する? 冗談でないとしたら、そんなこと人間には絶対にできっこない。そう、人間ならば。 ルイズが厳しい目をして席を立ち、才人もそっとデルフリンガーに手をやる。 しかし、話を聞いていなかったのか、ギーシュがきざったらしく薔薇を捧げながら言ったのだ。 「ミス、どうもぼくの仲間がご迷惑をかけてすみません。お詫びに、あなたたちの美しさにはとても及びませんが、これをどうぞ」 すぐ下の階にモンモランシーがいるのにいい度胸だと才人は思ったが、呆れている場合ではない。そりゃ確かに美人だから気持ちはわからなくはないけどさ。 才人もギーシュと目くそ鼻くそではあったが、それでもウルトラマンとしての勘で怪しさには気づいていた。なおルイズは女の勘というか野獣の勘と言うべきか。 だが……このバカ、空気読めと思いながらも才人たちは手を出せなかった。女たちとギーシュの距離が近すぎる。しかし……。 「わあ、綺麗なお花。ぼくー、ありがとー。優しいんだねー」 「いえいえ、美しいレディにはこれくらい当然のことですよ」 胸の小さい女はギーシュから薔薇の造花をうれしそうに受け取ると、そのまま花瓶に差しに行こうとして造花だと気づいて笑って頭をかいた。 「あららー、私ったらドジねー。けど、まーいーかー。ふふ」 そう言うと、彼女は子供のような笑みを見せて花瓶に造花を差した。その笑みは例えるならティファニアのように本当に無邪気で、警戒し始めていた才人とルイズも一瞬気を緩めてしまったほどであった。 ギーシュに釣られて、水精霊騎士隊の他の少年たちも口々に仕事を忘れて口説き始めた。 「ミス、よければぼくとお茶でもいかがですか?」 「いえいえ、美味しいお菓子をいただいてきてるんです。いただきながら僕と詩を語り合いませんか」 「あらあらー、そんなにいただいたら私子豚ちゃんになっちゃうよー」 まるでおやつ時の子供たちのような、なんの他意もない和気あいあいな空気であった。 才人とルイズはギーシュたちのお気楽さに呆れたが、それよりもポリポリと菓子をかじりながら笑う女を見て、得体は知れないが、この女は悪い奴じゃないんじゃないかと思った。 しかし、もう一人の胸の大きい女は違った。皆の注目が胸の小さい女に向いた隙に、いつの間にか才人に近づいてきていたのだ。 「君」 「えっ? わぷっ!?」 後ろから声をかけられて振り向いた瞬間、才人の視界は真っ暗になり、顔全体が温かくて柔らかいものに包まれた。 なんだなんだ! 才人の頭が混乱する。そしてそれが、女が自分の胸を押し付けてきたのだと悟った瞬間、才人の頭は完全に真っ白になった。 「!!??」 「いまだ、いただくよ!」 才人の思考力がゼロになった瞬間、女は素早く才人の手をとった。そしてそのまま才人の指にはまっているウルトラリングを抜き取ってしまったのだ。 「やった!」 「しまっ! 返せ!」 才人が我に返ったときには、すでにウルトラリングは女の手に渡ってしまっていた。 「ははは、はじめからこうしておけばよかったよ。あばよ」 女は笑いながら踵を返した。 才人は背筋がぞっとした。やられた、こいつは最初からこれが狙いだったんだ。奪い返そうと手を伸ばすが届かない。追いかけようとしても、初動が遅れてしまったために足が言うことを聞かない。 だめだ、逃げられる。命の次に大切なウルトラリングが! 才人は自分のうかつさを、離れつつある女の背中を見送りながら呪った。だが、その瞬間だった。 「エクスプロージョン!」 無の空間から爆発が起こり、女とついでに才人もぶっ飛ばした。 「うぎゃっ!」 爆発で壁に叩きつけられ、踏まれたカエルのような悲鳴をあげる才人。もちろん胸の大きい女も無事ではなく、床に投げ出されて、その手からウルトラリングが零れ落ちてコロコロと転がった。 「くっ、まさか仲間ごと。ちいっ!」 胸の大きい女は起き上がると、転がってゆくウルトラリングを拾い上げようと駆けだした。一歩で馬のような俊足を発揮し、とても人間とは思えないスピードでウルトラリングに迫る。 才人はまだ起き上がれない。ギーシュたちも事態についていけずに呆然としていて役に立たない。 しかし、そんな目にも止まらない速さも、本当の目にも映らない速さには勝てなかった。女がウルトラリングを掴み上げようとした刹那、リングは瞬時に割り込んだルイズの手に渡っていたのだ。 「なにっ!?」 「『テレポート』よ。サイトを狙いすぎて、わたしを無視してくれたのが敗因だったわね。伝説の虚無の系統をなめないでよ。そして、どこの誰かは知らないけど、あんたは敵だってはっきりわかったわ!」 ルイズの放った二発目のエクスプロージョンが胸の大きい女を襲う。しかし女も今度は直撃を避けて距離を取り、憎々し気にこちらを睨みつけてきた。 「くそっ、あと少しだったのに。こうなったら、お前も来い!」 「えっ? えぇぇーっ!」 胸の大きい女は胸の小さい女の手を掴むと、そのまま無理矢理引っ張って部屋の窓ガラスを割って飛び出してしまった。 まさか! ここは二階だぞ!? だが窓に駆け寄って外を見た才人やギーシュたちは信じられないものを見た。なんと、胸の大きい女が胸の小さい女を引きづったままで、馬よりはるかに速いスピードで駆けていくではないか。 「な、なんなんだい彼女は!?」 「バカ! どう見たって人間じゃないでしょ。追うのよ!」 ルイズが役に立たない男たちの尻を蹴っ飛ばして才人やギーシュたちも慌てて外に飛び出した。騒ぎを聞きつけて、一階にいたキュルケたちもいっしょについてくる。 あっちだ。女たちの姿はすでに見えないが、一本道なので間違う心配はない。先頭を走るのはカッカしているルイズ。そして才人も爆発で痛む体を引きずりながらルイズと並んで走った。 「いてて、悪いルイズ。お前がいなかったらリングを奪われてるとこだったぜ」 「バカ! 油断してるからよ。し、しかも、む、むむむ、わたし以外の女の胸ににににに!」 「わ、悪かった悪かったって! 謝るからその話は後にしてくれ。それより、よくお前あのタイミングで反応できたな」 「フン! わたし以上にあんたを見てるやつが他にいるわけないでしょ。ほら、今度はなくすんじゃないわよ」 才人はルイズからウルトラリングを受け取った。危ないところだった。これをなくそうものなら北斗さんに顔向けできないところだった。あの女、絶対に許さない。 女たちの向かったのは湖の方角だ。さっき湖に行くなとあれだけ言っていたのだから必ずなにかあるだろう。一行は確信めいた予感を覚えながら走った。 そして、湖のほとりに二人の女は待っていた。 「遅かったね。待ちくたびれたよ」 胸の大きな女が言った。一リーグもの距離を走ってきたというのに息も切らしていない。その横では、胸の小さい女がおどおどしながら立っている。 ここまで来るとギーシュたちも、この女たちがただ者ではないということがわかり、一様に戸惑った様子を見せている。すると、ルイズが一番に啖呵を切って叫んだ。 「あんたたち何者なの? このド・オルニエールで何を企んでるのか今すぐ吐きなさい! でないとここで吹き飛ばすわよ」 機嫌が悪いこともあり、ルイズの杖が危険な音を立ててスパークする。才人は、こういうときのルイズほど危険な生物は宇宙にいないとわかっているので、爆発で焦げた体を小さくしている。 ルイズはいまにも有無を言わさず女たちをエクスプロージョンで吹き飛ばさん勢いだ。すると、さすがに見かねたのかギーシュがルイズの前に割り込んできた。 「ま、待ちたまえルイズ。まずは彼女たちの言い分も聞こうじゃないか。あんな美しいレディたちに、何か事情があるんじゃないか」 しかし、胸の大きい女はギーシュのその言葉に大笑いした。 「美しい? やはり男は愚かだね。なら、見せてあげようじゃないか」 そう言うと、女たちは手を頭の上に並べ、スライドするように下した。すると、女たちの姿は昆虫のような頭を持つ宇宙人のものに変わっていたのだった。 「う、ううわわわっ!」 「そうか、ピット星人だったのか!」 かつてウルトラセブンの活躍していた時代に地球に来た侵略者。変身怪人との異名を持つとおり、高い変身能力を持っていたと聞いているが、まさにそのとおりだ。 美女が一瞬にして恐ろしい宇宙人の姿に変わり、ギーシュたち水精霊騎士隊の少年たちは愕然としている。さっきまで口説こうとしていた奴の中には口から泡を吐いているのまでいた。 もちろん、騙したのか! と少年たちから口々に非難が飛ぶ。しかし、胸の大きい女であったピット星人Aは、悪びれもせずに言い返した。 「アハハ、悔しいか。だが、お前たちの弱点は我々の先人が調査済みなのだ。お前たち人間の男は、可愛い女の子に弱い、とな。ハハハ!」 「……」 グゥの音も出ない男どもを女子の冷たい視線が刺していく。確かに、古今東西全宇宙共通の真理であるのだが、こうはっきり言われるとやっぱり辛い。 しかし、情けない男たちに代わってルイズが再びたんかを切った。 「フン、けど正体がバレたら何もかも終わりね。さあ、おとなしくハルケギニアを出て行くか、それともここでやっつけられるか好きなほうを選びなさい」 「フッ、そうはいかないわ。死ぬのはお前たちのほうよ。さあ、出てきなさいエレキング! エレキング!」 ピット星人Aが叫ぶと、湖に大きな気泡が立ち上った。あれはなんだ? まさか、そのまさかしかない。 立ち上る水柱。その中から全身白色で稲妻のような縞模様を持ち、頭部に目の代わりに三日月形の回転する角を持つ怪獣が現れた。その名はもちろん! 「エレキング! エレキングだ!」 才人が喜色の混じった声で叫んだ。 そう、宇宙怪獣エレキング。ピット星人といえばこいつを忘れてはいけない。ウルトラセブンが初めて戦った宇宙怪獣で、宇宙怪獣といえばこいつと言えるくらいの代表格だ。 エレキングは電子音のような鳴き声とともに湖水をかき分けながら向かってくる。ピット星人Aは勝ち誇るように告げてきた。 「ウフフ、私たちの目的はなにかと聞いたわよね。私たちは、この星の豊かな水を使ってエレキングの養殖をおこなっていたのさ。たっぷりの栄養で育ったエレキングの軍団が完成すれば、もはやヤプールも恐れることはないわ。そして、湖の秘密を知ったお前たちは生かして帰さないわ!」 ピット星人Aの命令で、エレキングは湖水を揺るがして向かってくる。しかし、勝ち誇るピット星人Aとは裏腹に、胸の小さい女だったピット星人Bは震えながら言った。 「ね、ねーえやめようよー。あの子、昨日やっと育ったばっかりで戦い方なんて何も教えてないんだよ。戦わせるなんて無茶だよ」 「うるさい! もうこうなったら戦わせる以外に何があるのよ。だいたい、普通に育ててれば今ごろは何十匹ものエレキングが育っていたはずなのに、お前が手間にこだわるから一匹しか間に合わなかったのよ!」 「で、でも戦わせるためだけに育てるなんてかわいそうだよー。あの子たちだって生きてるんだよ」 「ええいうるさいわ! もういいわ。お前のエレキングブリーダーの腕を見込んで連れてきたけど、これからは私ひとりでやるわ。あんたはもう用済みよ、やれエレキング!」 ピット星人Aがピット星人Bを突き飛ばすと、エレキングはチャック状になっている口から三日月形の放電光線を放った。放電光線はピット星人Bの至近で炸裂し、爆発を起こしてピット星人Bは吹き飛ばされてしまった。 「きゃあーっ」 ピット星人Bは悲鳴をあげて地面に投げ出された。 なんてことを、仲間だっていうのに。見守っていた水精霊騎士隊やキュルケたちは、ピット星人Aの非情な態度に激しい憤りを覚えた。 しかし、エレキングは容赦なく向かってくる。そしてエレキングが今まさに上陸しようとした、その時だった。 「ウルトラ・ターッチ!」 リングのきらめきが重なり、閃光と共に空からウルトラマンAが降り立つ。 エレキングの出現のどさくさで変身のチャンスができた。エースは背中にギーシュたちの声援を受けながらエレキングを見据える。 はずなのだが……今回、才人は妙なテンションになっていた。 〔うおおっ、エレキングだ。本物のエレキングだぜ〕 〔ちょっとサイト、変な興奮してないで集中しなさい〕 〔だってさ、エレキング、ポインター、ちゃぶ台は三種の神器なんだぜ〕 〔なにをわけのわかんないこと言ってるのよ!〕 久しぶりに趣味全開の才人にルイズが激しくツッコミを入れる。 エースは、さすが兄さんは人気あるなあと感心しつつも、角のアンテナを激しく回転させながら威嚇してくるエレキングに対峙した。 エレキングは宇宙怪獣らしく多彩な能力を持った怪獣だ。目は持たないがクルクルと回転する角がレーダーの役割を果たし、名前の通り体内には強力な電気エネルギーを溜めこんでいる。前に見たことのあるGUYSのリムエレキングでさえ人間を気絶させるほどの電撃を放てるのだ。 油断は禁物。エースは頭から突っ込んで来るエレキングに正面から向かって受け止め、その頭に膝蹴りをお見舞いした。 「テェイッ!」 まずは一撃。顔面に攻撃を受けたエレキングはのけぞってよろけ、しかしなお腕を振り回しながら突っ込んで来る。 ようし、そっちがその気なら受けて立ってやる。エースはエレキングに正面からすもうをとるようにして組み合った。 「ムウンッ!」 「ウルトラマンエースがんばれーっ!」 「エレキング、ウルトラマンエースを倒すのよ! 必ず倒すのよ!」 組み合って力を入れ合うエースとエレキングに、ギーシュたちとピット星人Aの声援が飛ぶ。 両者の組み合いは互角。さすが念入りに育てられたというだけあってパワーもなかなかのものだ。しかしエースもすもうは得意だ。力任せに押し込んで来るエレキングに対して、エースは重心を巧みに動かして投げ飛ばした。 「テェーイ!」 エースの上手投げが見事炸裂し、エレキングは背中から地面に叩きつけられた。 やった! エースが一本取ったことで歓声があがり、突き上げた無数のこぶしが天を突く。 すもうならばこれで勝負あり。しかし、エレキングは起き上がるとエースに向かって放電光線を連射してきた。 「ヘヤッ!」 エースが身をかわした先で放電光線が森に落ちて火柱を上げる。エレキングは怒ってさらに放電光線を連発してくるが、どうにも狙いが甘くエースには当たらない。どうやら戦闘訓練をまったく受けていないというのは本当らしい。 放電光線をかわしつつ、エースはジャンプしてエレキングの後ろへと跳んだ。 「トォーッ!」 空中で一回転し、エレキングの後ろに着地したエースはエレキングの尻尾を掴んで振り回した。セブンもやったジャイアントスイング戦法だ。 一回、二回、三回、四回とエースを中心にしてエレキングの巨体が振り回される。投げ技はエースも大の得意で、同じ攻撃をコオクスに対して使って瀕死に追い込んだことがある。 『ウルトラスウィング!』 遠心力でフラフラになったエレキングはエースの手から放たれると、そのまま重力の女神の手に導かれて固い地面の抱擁を受けた。 これはかなり痛い! エレキングは起き上がってきたものの、白い体は土に汚れて薄黄色に染まり、角も片本折れてしまっている。 すでにエースとの実力の差は歴然であった。エレキングも決して弱いわけではないが、強さを活かすための戦い方がまったくわかっておらず、単に野生の本能にまかせただけの戦い方ではエースの戦闘経験には到底及ばない。 しかし、敗色が濃厚になってもピット星人Aはまだあきらめていなかった。 「まだよ、戦いなさいエレキング! お前を育てるためにどれだけかかったと思っているの、このウスノロ!」 ヒステリーを起こしたピット星人Aが叫ぶ。すでに勝敗は明白だが、彼女はどうしてもそれを認めたくないようだ。 しかし、それでもエレキングにとってピット星人の命令は絶対だ。戦い方は下手だとはいっても、小さく見える腕は意外にもパワーがあるし、長い首をこん棒のように振り回す攻撃は単純ながら強力だ。 なおも戦おうとするエレキング。ひどいことをすると、才人とルイズはピット星人Aのやり口に憤りを覚えたがエレキングは止まらない。エースはエレキングを長く苦しませることのないように、両腕を高く上げてエネルギーを溜め、下した腕を水平に開くと、両腕と額と体から四枚の光のカッターをエレキングに向けて発射した! 『マルチ・ギロチン!』 光のカッターはエレキングに殺到し、一瞬のうちに尻尾、腕、そして首を跳ね飛ばした。 今度こそ本当に勝負あり。五体を切り刻まれ、ぐらりと血を流しながら崩れ落ちるエレキング。その遺骸はやがて体内の電気エネルギーの発散によるものか、傷口から火を噴いたかと思うと爆発して四散した。 「いやったぁっ!」 ギーシュたちから歓声があがる。 そして、残るはピット星人Aだ。だがピット星人Aはエレキングが敗北したのを見ると、そのまま踵を返して逃げ出そうと走り出した。 「ひっ、ひいぃぃぃーっ!」 マッハ5にもなるというピット星人の脚力全開で逃げ出すピット星人A。しかし、その背に向かってエースは両手を伸ばして速射光線を発射した。 『ハンドビーム!』 森の一角で爆発が起こり、ピット星人Aの姿は爆発の中に消えた。 戦いは終わり、エースはエレキングの放電光線で起きた火災を消火フォッグで消し止めると、ギーシュやキュルケたちに見送られながら飛び立った。 しかし、こんな場所にも侵略者が人知れず入り込んでいるという事実はどうだろうか? ルイズはエースの視点でド・オルニエールを見下ろしながら、女王陛下の御心をまた騒がせてしまうのねと静かな怒りを感じていた。 戦いは終わった。短く、見方によればあっけなく。 しかし、もしピット星人Aの言っていたようにエレキングの養殖が完了していたらエースひとりではどうにもならなかったかもしれない。 その功績は誰にあるのか……エレキング打倒後、湖のほとりではもうひとつの決着がつけられようとしていた。 「そっか……もう全部、終わっちゃったんだねー」 沈んだ声で、ピット星人Bがつぶやいた。彼女は縄で縛りあげられ、水精霊騎士隊に囲まれている。 エレキングの攻撃でピット星人Bは吹き飛ばされた。しかし、戦闘終了後に気絶はしているが命に別状はないことを確認され、尋問のために捕縛された。 そして意識を取り戻した彼女はすべてを理解して、大人しくルイズやキュルケを相手に尋問に答えた。 もっとも、得られた情報はたいしたものではなかった。自分はエレキングの養殖の手腕を買われてピット星人Aに連れてこられたが、それ以外のことはほとんど何も知らされていなかったという。侵略についても興味はなく、ただエレキングを育ててることが楽しかっただけだという。 しかし、侵略の片棒を担いでいたことは事実だ。処分をどうするかについて、家柄の関係からルイズが選ばれかけたが、ルイズはぴしゃりとこう言った。 「このド・オルニエールの責任者はギーシュ、あなたでしょ。あなたが判断して決断するのよ、それが隊長ってものでしょう」 正論だった。しかし、まだ若いギーシュに重大な決断ができるのだろうか? レイナールは、みんなで相談して決めようと提案してくれたが、ギーシュは自分のシンボルでもある薔薇の杖をじっと見つめると、きっと目つきだけは鋭く締めて縛られたままのピット星人Bの前に立った。 「遠い国からいらしたレディ、お待たせしました。これから、このトリステインの貴族として、あなたに裁きを下します」 「わかったわー。煮るなり焼くなり好きにしてー」 観念した様子でピット星人Bは答えた。手塩にかけて育てたエレキングが倒されたことで意気消沈しているのが伝わってくる。 ギーシュは杖を振るとワルキューレを一体作り出し、ピット星人Bに槍先を向けさせると、彼女を捕らえている縄を切断させた。 「えっ?」 突然自由にされたことで、ピット星人Bは唖然としてギーシュを見た。もちろん水精霊騎士隊の面々も驚いた様子でギーシュを見るが、ギーシュは皆の口出しを静止すると迷わずに告げた。 「ミス、あなたに悪意がなかったということを認めます。このまま黙ってトリステインから退去してくださるなら、今回は不問にいたしたいと思いますが、どうしますか?」 「……いいの? ここで私を逃がせば次はもっと強い怪獣を連れてきて、あなたたちを皆殺しにしちゃうかもよー?」 ピット星人Bの言うとおりであった。しかしギーシュは、フッとキザな笑いを浮かべて言った。 「レディの嘘に騙されるなら、グラモン家の男子にとって最っ高の栄誉です! なにより、ぼくはあなたというレディに心を惹かれました。たとえ生まれた種は違えども、言葉を交わしたときにぼくはあなたからレディのオーラを感じ取りました。レディに向ける杖をぼくは持ちません。ですが、我らの女王陛下のトリステインにあだなす者であればぼくは誰とでも戦うでしょう。ですからお願いです。ぼくに、あなたの美しい顔を傷つけさせないでくださいませ」 以上の歯の浮くような台詞をギーシュは一息にしゃべりきった。 もちろん、ぽかんとした顔の数々がギーシュを囲んでいる。それはピット星人Bも同じで、言うまでもないが今の彼女はピット星人としての素顔をさらした姿でいる。人間の美的感覚とは大きくかけ離れた姿なのに、それなのになお”美しい”と表現してくるとは夢にも思っていなかった。 「プッ、あなた、変わってるねー」 「真のジェントルマンは常識にとらわれないものなのですよ」 なおキザな台詞を吐くギーシュに、その場の緊張も緩んできた。そしてピット星人Bは、逃げるそぶりなくギーシュに言った。 「わかったわー、侵略は、あなたみたいなジェントルマンがいない時代になってからにしてあげるー」 「それは無理ですよ。僕と僕の一族がいる限り、トリステインからジェントルマンが消え去ることはありません」 あくまでもキザにかっこつけるギーシュ。彼は水精霊騎士隊の皆を振り返ると、はっきりと告げた。 「みんな、これが水精霊騎士隊としてのぼくの決断だ。ぼくは断じてレディを傷つけることはできない。この決定に不服がある者は、いますぐに辞めていってもらいたい」 しかし、苦笑する者はいても異論を挟もうとする者はいなかった。代表して、レイナールがギーシュに言う。 「わかってるよ、君がそういうやつだってことは。ぼくらだって、人間じゃないとはいえ無抵抗な女性を痛めつけるのは本意じゃないさ」 見ると、仲間たちは皆が同感だというふうにうなづいている。才人も、ギーシュもやるなというふうに笑っていて、ルイズやモンモランシーやキュルケは、甘いなというふうに呆れているもののあえて止める様子もない。 包囲は解かれ、ピット星人Bは最後にもう一度ギーシュを振り返った。 「私たちの星には、この星を侵略するのは二万年早かったって伝えておくわー。元気でね……可愛いジェントルマンさん」 すっとギーシュの横に並んだピット星人Bは、かがむとギーシュの頬にチュッとキスをしていった。おおっ、と周りから声が響き、ギーシュの顔がほんのり紅に染まる。 えっ? なんだいこの気持ちは? 人間から見たら怪物にしか見えない顔なのに、このドキドキは一体? ぼくはそんな初心じゃないはずなのに……そうか、これが見た目とは関係ない大人の魅力というものなんだな。 少しだけ大人の階段を上ったギーシュの背中を、嫉妬深く睨みつけるモンモランシーの視線が刺す。と、そのときふと才人が気が付いたように言った。 「ん? ちょっと待ってくれ。ここをあんたたちが捨てていくってことは、湖が元に戻って、ド・オルニエールも元のやせた土地に戻っちまうんじゃないか?」 「あーそれならねー。何十年かはここで養殖やるつもりだったからしばらくは変わらないよー。そのあいだに土地をちゃんといじっておけば大丈夫じゃなーい」 才人はほっと安心した。それなら、ド・オルニエールは再び過疎化に悩む心配はない。いずれ影響がなくなるにしても、人間がウルトラマンに頼りっきりではいけないように、宇宙人の置き土産に頼りきりではいけない。その先はこの土地の人間の責任だ。 そして、ピット星人Bは見送るギーシュたちを振り返り、バイバイと手を振ると森の中へ消えていった。 「おおっ、円盤だ」 森の中から角ばった形の宇宙船が飛び上がり、空のかなたへと消えていく。ヤプールにこちらに連れてこられた宇宙人は、なんらかの方法で帰る方法を持っているらしいので彼女も元の宇宙へと帰ったのだろう。 一件落着。彼女が人間であったら本気で交際を申し込んだんだけどなあと、少年たちの惜しむ瞳がいつまでも空のかなたを見送っていた。 いつの間にか日が傾いて夕方となり、赤い光が美しくド・オルニエールの自然を照らしている。今日もまた、平和が守られたのだ。 しかし、何か忘れていないだろうか。 「そういえばあんたたち、お出迎えの準備はいいの?」 「あっ」 一番肝心なことを忘れていたことに、一瞬にして水精霊騎士隊全員の顔が真っ青になった。 「やばい! もう日が暮れる。い、急がないと」 「間に合うわけないだろ! ああ、もうお終いだぁ!」 時間は無情に過ぎていき、やがて歓迎の用意がまったくできないまま、ゲルマニア大使の馬車がやってきたという報告が入ってきた。 日が暮れた中、屋敷の前にゲルマニア国旗を掲げた豪奢な馬車が止まる。ギーシュたちは屋敷の前に整列して出迎えるが、内心は全員まとめて震えあがっているのは言うまでもない。 「ああ、もうダメだ。女王陛下のお顔に泥を塗ってゲルマニアと国際問題になってグラモン家は取り潰しだぁ。父上母上ご先祖様、この不出来なギーシュをお許しください!」 「ギーシュ、お前だけの責任じゃない。おれたち全員で土下座しよう! 女王陛下に責が及ぶことだけは避けなきゃいけない。そうだろ!」 完全にこの世の終わりといった感じで、ギーシュやギムリたちは慰め合いながら絶望していた。 この危機においても、誰も逃げ出したりギーシュに責任を押し付けようとしたりしていないあたり立派と言えるが、そんなことくらいでは慰めにもならない。かろうじて間に合ったのは夕食の支度くらいで、貴賓をもてなすレベルには全然達していなかった。 もう最悪の事態しか想像に浮かんでこない。そんな水精霊騎士隊をルイズとキュルケは仕方なさそうに見ていた。 「ほんっとにこいつらはダメね。仕方ないわ、ヴァリエール家の名前に傷がつくかもしれないけど、女王陛下に火の粉が飛ばないようにするにはわたしが出るしかないわね」 「ルイズ、あなたじゃむしろケンカになるだけじゃないの? ゲルマニアならツェルプストーの顔がきくからわたしにまかせておきなさい。さて、後は誰が来るかだけど……」 馬車から従者がまず降りてきて、主人が降りてくるための準備を整えた。 次に降りてくるのはいよいよ本命のゲルマニアの大使殿だ。 いったいどんな人なのだ? 一同は固唾を飲んで大使が現れるのを待った。 大使というからには上級の貴族に違いない。ひげを生やした老紳士か、厳格な壮年の偉丈夫か、それとも眼光鋭い商人上がりの大臣か……。 だが、現れた人は彼らのいずれの想像とも異なっていた。それは厳格や老獪といった表現からはほど遠い、天使とさえ呼んでいい美しい令嬢だったのである。 「あら? ギーシュ……さま?」 「あ、ああ、あなたは!」 ギーシュと、そしてモンモランシーは驚愕の表情で、その淡いブロンドの髪を持つ閉じた瞳の令嬢を見つめた。 思いもかけない再会。水精霊騎士隊の一同があまりの美貌の前に見惚れる中で、ギーシュはなぜアンリエッタ女王が自分を接待役に選んだのかをようやく理解した。 それからひとしきり騒動が起こり、やがて夜も更けていく。 しかし、誰もが寝静まる時間にあって、猛烈な殺気を振りまく者が湖にあった。 「フ、フフフフ、馬鹿な連中め。私があれで死んだと思っているだろう! そうはいくものか、私はここまでだけど、お前たちは絶対に道連れにしてやる! さあ出てきな、エレキングよ!」 なんとピット星人Aは、あのときエースの攻撃を受けて死んだと思われたが傷を負いながらも生き延びていたのだ。そして湖に水柱が上がり、その中から新たなエレキングが現れた。 月光に照らされて上陸してくるエレキング。しかし、その姿は昼間にエースと戦ったものとは大きく違い、皮膚は黄ばんで張りがなく、角もだらりと垂れ下がって回転していない。見るからに、まともな状態ではなかった。 「ハ、ハハ、みっともない姿だねえ。けど、寝込みを襲うならこれでも十分さ。さあ行け! 連中を屋敷ごと叩き潰してしまえ!」 ピット星人Aの命令を受けてエレキングが動き出す。いくら不完全体とはいえ、完全に寝行っているところを襲われたらウルトラマンでもお終いだ。 しかし、勝ち誇ろうとするピット星人Aに、突然冷笑が降りかかった。 「残念ですがそうはいきませんよ。あなたにはここで退場していただきます」 「っ!? だ、誰だ!」 慌てて辺りを見回すピット星人Aは、空に浮かんで自分を見下ろしている、あの宇宙人の姿を見つけた。 いつの間に!? と、動揺するピット星人A。しかし、宇宙人はピット星人Aを見下ろしたまま冷たく告げた。 「困るんですよ、あなたみたいな脇役にいつまでも舞台で好き勝手やられたら主演の出番が減ってしまうでしょう。ゲストは一話で潔く退場するものです。こういうふうにね」 宇宙人が手を振ると、彼のそばに巨大な黒い影が現れた。 どこから現れた? テレポートか? ピット星人Aがさらにうろたえる前で、巨大な影は月光に照らされてその全容を表した。 「あ、あれは……!」 恐怖がピット星人Aの全身を駆け巡る。勝てない、勝てるわけがない。 だがピット星人Aが逃げ出す間もなく、巨大な影から恐ろしい攻撃が放たれ、エレキングはただの一撃で粉々に粉砕されてしまったのだ。 「う、うわぁぁぁーっ!」 エレキングの破片が降り注ぐ中をピット星人Aは無我夢中で逃げた。 もはや復讐もなにもあったものではない。しかし、逃げるピット星人Aの前に一人の人影が現れた。 「っ! どけぇっ!」 それが彼女の最期の言葉となった。彼女の前の人影から撃鉄を起こす音が聞こえたかと思った瞬間、無数の銃声とともにピット星人Aの体は粉々になるほどの弾雨に包まれていたのだ。 血風と化したピット星人Aが消え去り、エレキングの爆発で起きた粉塵も風に流された後、宇宙人は銃声の主のもとへと降りてきた。 「やっと会えましたね。探しましたよ。ここ最近、私のやることにちょっかいを出してくれていたのはあなたですね?」 月光の下で二人の宇宙人が対峙する。この出会いがハルケギニアにもたらすのは混乱か破壊か。 エレキングの爆発も、轟く銃声も風に弱められ、疲れ切って眠りに沈む人間たちを目覚めさせるには及ばない。 才人もルイズも、倒すべき敵がすぐそばにいることに気づかず、朝まで安眠を貪り続けていた。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
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autolink ZM/W03-065 カード名:ウェディングドレスのルイズ カテゴリ:キャラクター 色:赤 レベル:1 コスト:1 トリガー:1 パワー:5000 ソウル:1 特徴:《魔法》?・《虚無》? 【自】[①]このカードがアタックした時、クライマックス置場に「ご褒美」があるなら、あなたはコストを払ってよい。そうしたら、自分の控え室のキャラを1枚選び、手札に戻す。 【自】アンコール[手札のキャラを1枚控え室に置く](このカードが舞台から控え室に置かれた時、あなたはコストを払ってよい。そうしたら、このカードがいた枠にレストして置く) …主人と使い魔ってだけじゃなくてもっと確かな絆が欲しいの レアリティ:C illust.ヤマグチノボル・メディアファクトリー/ゼロの使い魔製作委員会 ゼロの使い魔版ゴキゲンな由夢。 ただし、こちらの方は対応CXが回収トリガーであり、レアリティもCで断然入手し易いとかなり便利になっている。 手札アンコール+CXシナジーによる回収の便利さは直枝 理樹等でも証明済み。 また基本サイズもそこそこあり、「ルイズ」?ネームに関するサポートもあるので、アンコール持ち中堅キャラとして単独でもそれなりに戦えるスペックを持つ。 更にサイト&デルフリンガーによりサイズアップが可能であり、そちらのカードも0コストで場に出せたりカウンターに使ったりできる為、バトルに関してはこれまでのレベル1回収系能力持ちの中でも強い方と言える。 ・対応クライマックス カード名 トリガー ご褒美 扉 ・関連カード カード名 レベル/コスト スペック 色 備考 サイト&デルフリンガー 1/0 1000/1/0 赤 ・関連ページ 「ルイズ」?
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前ページ次ページ雪と雪風_始祖と神 「――あなたが仕事を成したら、おそらくわたしはこの世界から消える」 そう長門有希が切り出したのは、アーハンブラ城を望む街の湿った裏道であった。 ルイズや才人、そして誰にも代えがたい親友であるキュルケにさえも切り出さず、 タバサがトリステイン魔法学院を静かに去ってから、既に半年が過ぎようとしていた。 「ミョズニトニルン、この空間を作り出した人間は、 変化のないハルケギニアに、既に閉塞感を感じ始めている。 ガリア王に与えられた任務を失敗し、最後に残った存在理由、それがわたし。 あなたの母を取り戻せば、それはミョズニトニルンの敗北。 そして、わたしたちが負ければ、ミョズニトニルンの自意識は満たされる。わたしがあなたといられるのは、あとわずか」 普段通りの淡々とした口調で語る長門有希の背中を、月明かりが照らす。タバサはわずかに、長門有希を見やった。 しばしの沈黙の後、タバサが問う。 「ならば、……教えて。本当はなぜ、あなたが、ここにいるのか」 + + + 「わたしに僅かなエラーが発生し始めたのは、あなたと出会う半年前」 「――わたしは人間ではない。それはあなたに話した通り。 だから、有機生命体の感情の概念が、わたしに発生する筈などなかった。 でも、彼との対話を少しづつ重ねるうち、わたしを構成する有機体に、 与えられた機能を超えた部分――あなたたちの言語に翻訳すると、魂……のようなものが芽生え始めた」 「本来、わたしは与えられた命令を遂行するだけの存在に過ぎない。あなたと同じ」 「変化に気付いたのは、行動の可否の判断を、彼に委ねられたときだった」 「微小な変化。まずわたしは、それが"嬉しい"ということに気付いた」 「彼を助けること、それが彼にとっても嬉しく、わたしにとっても嬉しいという仮説を持った。 でも、すぐにそれは否定した。有機生命体が可視化した言語情報――本に創作された意識たちは、それを打算と呼んだから」 「でも」 「わたしがそのことに気付くまでの短い間に、彼に何かをしなくても、 彼のイメージを"魂"の中に認識するよう、わたしが作り変えられたことに気が付いた」 「そして、そのことを自覚してはじめて、彼のために行動すると、嬉しさだけではない、安堵感を生じるようになった」 「それは、"嬉しい"とは違うの?」 初めてタバサが問いかける。 「ちがう。わたしはそれを、"恋"と判断した。――ただし、あくまでもそれは萌芽。原初的なもの」 「恋?」 「そう。本に書かれた心理の変化のうち、わたしに新たに生じた事象は、"恋"に相当すると思われる」 「恋をしたあなたは、どうしたの」 「……何も、できなかった」 「なぜ」 「わたしが恋をした相手に、神――つまり、ミョズニトニルンもまた、恋愛感情を抱いていた。 ――わたしには、どうすることもできない。わたしが彼と結ばれることは、彼女の望まないこと」 「それでも」 「わたしは彼を忘れられなかった。だから、わたしは自身の望むように、世界を作り変えようとした――」 「世界を?」 「そう。あなたに見せたわたしの能力に似たもの」 タバサの脳裏に叔父の姿が過ぎる。彼もまた、世界を望む人間。 長門有希もまた、彼女にとって都合のよい世界を望むというのだろうか? タバサは彼女がそのような人間であることを信じたくないし、考えたくもない。 幸い、長門の独白は続いた。 「世界を変革することは簡単。でもその前に――」 「わたしにできる、精一杯のことを、彼にすることにした」 「精一杯のこと?」 長門有希は答えない。だが、彼女はタバサに視線を合わせようとしない様子から、 それ以上を話したくない様子がありありと読み取れた。 恥じらいの感情、彼女が初めて見せた表情にタバサは驚く。 タバサもそれ以上求めない。タバサ自身、自己を隠すことを友人に許されているのだ。 使い魔とはいえ、タバサも他人の秘密は最大限尊重しようと心得ている。 「精一杯のこと……。つまり――"ぴと"」 しかし長門は、自身の行動について説明する一言を搾り出した。 それは彼女にとって最大限の譲歩であった。 もう一つの決定的行動について、長門が口にすることはなかった。 「ぴと?」 タバサが問う。 「そう、"ぴと"。それが、わたしの行動。――でも、その行動もミョズニトニルンに察知されていた。 そのことで、彼女の持つ能力によって、わたしは元の世界からこのハルケギニアに閉じ込められた」 長門有希は口をつぐむ。 + + + 代わって、タバサが語る。 「――ユキ、わたしはあなたを誤解していた。 あなたをわたしと同じ、心に壁を築いた人間だと認識していた。 でも、それは違う。ユキは本物の感情を持っている」 「それに――、恋と言う感情がわたしには分からない。 わたしには、そんな感情を抱く相手がいない。これからも、ずっと――」 「違う」 長門有希が再び言葉を発する。 「あなたは本物の有機生命体。全くのゼロから感情が発生したわたしとは違う。 あなたがこれまでに得た全ての感情、それが恋に繋がる。書物だけではない、全ての経験」 「全て?」 「そう」 「――ユキの感じた嬉しさと安堵感。わたしも感じられる?」 「可能。できないはずがない」 「ありがとう、ユキ」 タバサは立ち上がり、アーハンブラ城を見上げる。 「わたしはシャルロットになる。そして、いつかわたしも――」 + + + + + + アーハンブラ城に接近すること、それ自体は難しいことではない。 幾何学模様に彩られた、エルフの築いた城塞は、ガリア王家の所有ではあるものの、 ほんの数ヶ月前までは荒れるに任され、城内は浮浪者の住処に成り果てていたのである。 タバサの母がアーハンブラ城に幽閉されているという情報を掴んだきっかけも、 廃墟であったこの城が、にわかに整備され始めたという噂であった。 かといって、王弟の妃という貴人に見合う警備体制が敷かれているわけでもなく、 明かりの灯った一角のほかには、変わらず住人が我が物顔で闊歩していた。 「こんどはわたしの番。この城には伝説がある」 突入を前にして、歩みを止めると、今度はタバサがおもむろに語り出した。 「伝説?」 「そう。三人の姫の話」 + + + ――エルフがこの一帯を支配していた頃の話。 この城には、三人の姫が閉じ込められていた。 閉じ込めたのはエルフの王。王は娘を恋から守りたかった。 彼は、恋が三人の娘を連れ去るという、占い師の言葉を信じていた。 そして三人の姫は、恋以外の全てを知って育った。 でも、ついに姫たちは恋を知ってしまった。 三人の姫が城から街を見下ろしていると、窓の下に三人の着飾った男が通りがかった。 男達は人間だった。 人間とエルフが互いを憎んでいなかった頃、互いの領域を行き来するのは普通のことだったらしい。 男達が窓の下で休息を取ったのは偶然だった。 男の一人は弁当を早く食べ終わると、楽器を取り出し、歌いはじめた。 男が歌ったのは、他愛のない恋の歌だった。 恋を歌った詩の一つも見たことがなかった三人の姫にとって、それは初めて知る感情だった。 三人の姫は、男達が去るのを見ていることしかできなかった。 でも、男達は次の日も、同じ場所で昼食を取った。 三人の姫は、今度は見ているだけではなかった。 最初に長女が、次に次女が、最後に三女が、男の歌っていた歌を、窓から男達に向けて歌い出した。 男達はすぐ歌声に気付き、城を見上げた。 やがて三人の姫のもとへ、手紙を掴んだ梟が飛んできた。梟は、男の一人の使い魔だった。 こうして三人の姫と、三人の男が出会った。 手紙を交わすうち、三人の男はそれぞれ王子で、遊学のためにエルフの領域を訪れていることが分かった。 一人はガリアの王子で土メイジ、使い魔は熊。 一人はアルビオンの王子で火メイジ、使い魔は火竜。 一人はトリステインの王子で風メイジ、使い魔は梟。 ガリアの王子は得意の錬金で姫に髪飾りを贈った。 二人は宝石の美に、一人だけが彼が錬金した彫刻の技術と知識に魅せられた。 二人は魔法の知識について手紙を交わし語り合った。彼は、知識を愛する姫と恋に落ちた。 アルビオンの王子は、三人の姫に少しでも近づこうと、城壁を登った。 使い魔の火竜で近づくのは、目立ちすぎて不可能だった。 彼は三度挑戦し、三度目に姫の元へ達した。 二人の姫は彼を無謀と罵り、一人だけが彼の勇気を称えた。 彼は、勇気を愛する姫と恋に落ちた。 トリステインの王子は使い魔の梟と視界を共有し、三人の姫を見た。 彼は、使い魔が手紙を渡したときから、最も美しい姫に恋していた。 彼がこの世で最も美しい手紙を書くと、美しい姫はそれ以上に美しい手紙を書いた。 彼は、美を愛する姫と恋に落ちた。 三人の王子がこの街を去る前日になった。 その晩、ガリアの王子がゴーレムを作り、三人の王子を窓辺に届けた。 三人の王子が三人の姫に結婚を申し込むと、 勇気を愛する姫と、美を愛する姫は、ゴーレムの掌に乗り移った。 一人だけ、知識を愛する姫だけが躊躇していた。 彼女は知識に囚われるばかりに、行動を起こすことができずにいた。 ついにエルフ達がゴーレムに気付き、ゴーレムは精霊の力で土塊に戻った。 間一髪、アルビオンの王子の使い魔、火竜が三人の王子と二人の姫を助け、 人間の領域へと飛び去っていった。 一人、知識を愛する姫だけが、アーハンブラ城に取り残された。 アルビオンの王子は勇気を愛する姫を、トリステインの王子は美を愛する姫を妃とした。 エルフの王は、占い師の予言通りになったことを悲しみ、 一人残った知識を愛する姫を、この城の外にある塔に閉じ込めた―― + + + 「初めて耳にする」 長門有希の正直な感想である。 「当然。この伝説は、ハルケギニア中でも最も危険な異端に属する。 もしこの伝説が事実ならば、王家にエルフの血が流れていることになる。 それでなくとも、ハルケギニア中が恐れるエルフと、交流のあった時代があったこと自体 ロマリアの教皇庁が全力で隠している事実」 「――知識を愛する姫はどうなったの?」 長門がタバサに問う。 「わからない。ガリアの王子と手紙を交わし続けたとも、 悲嘆に暮れて若くして死んだとも言われている。恋を知った彼女は、不幸だったかもしれない。――だけど」 「だけど?」 「わたしは恋を知ることを恐れない。 だから、ユキ、あなたも恐れないで。 ミョズニトニルンは、あなたと同じひとを愛しているかもしれない。 でも、あなたの感情とミョズニトニルンの感情に優劣を付けることなんてできない」 長門は小さく頷いた。 「――どんな王も占い師にも、わたしは縛られない」 長門有希の高速詠唱によって、灯りのついた部屋まで一直線に、通路が構成される。 + + + 二人が部屋に姿を現すと、ベッドに身を起こす人影から花瓶を投げつけられる。 「シャルロットを連れ去りに来たのでしょう!? 去りなさい、無礼者!」 しかし、タバサは母の前に跪き、 「シャルロット、母様の元へ、今、戻りました。悪夢はこれで終わりです。――ユキ、お願い……」 長門有希は掌をタバサの母に向け、高速詠唱を開始する。 しかし、今回ばかりは様子が異なった。 これまで一瞬で終わった詠唱が、普段より明らかに長く続いていることがタバサにも分かった。 その間もタバサの母は狂乱し、言語にならない奇声を上げている。 長門は一旦、詠唱を中断せざるを得ない。 「やっぱり――」 「もう少しだった。エルフによる情報操作とのせめぎ合い。 わたしには少しづつ押し切っていくことしかできない」 「母様をここから連れ出してからでもいい」 「――次はできる。もう一度、やらせて」 「わかった。お願い」 再び、長門有希の高速言語が母へ向かう。 輪を掛けて長い詠唱。 やはりエルフの先住魔法には、使い魔の情報操作でも対抗できないのか。 エルフに対し成す術もなかった、オルレアン公領の光景が脳裏を過ぎり、自然、タバサの手に汗が滲む。 しかしだんだんと、取り乱していたタバサの母の様子に変化が現れる。 奇声が止まり、目の焦点がだんだんと二人に合わされる。 そして長門が詠唱を止めたとき、母は、二人のことを静かに見据えていた。 「シャルロット――?」 「母様?」 タバサはベッドの母の胸に飛び込むと、涙を流し、心の全てを吐き出した。 それは、彼女の孤独そのものである。 長門有希は、情報操作によって部屋をハルケギニアから隔離し、自身はその狭間に姿を隠した。 本来ならば一刻も早く脱出しなければならないところだが、いかにエルフとはいえ、 空間全体を情報制御下に置けば、進入できまい。 やがてタバサは泣きつかれてか、母と寄り添って寝息を立て始めた。 この空間から出るまで、しばらく時間がかかりそうだ。 長門は気付かず微笑する。 しかし、その甘さが命取りであった。 自身の体を包み込もうとしている倦怠感、眠気のような感覚に気付く。そのときにはもう遅い。 それはまさに、彼女の体を侵食する、情報操作に他ならなかった。 タバサと母が眠りに落ちたのも同じ理由であろう。 エルフによる情報操作。 まさか、絶対の自信を持っていた空間の制御に、こうも簡単に介入されるとは。 誤算は、この空間が情報統合思念体の観測下とは物理法則の異なる、隔離された空間であることであった。 彼らにとって、ハルケギニア全体はホーム、利はエルフにある。 タバサと長門有希は、まんまとあのエルフに捕らえられたのだ。 薄れゆく意識の中、かろうじて長門は魔法学院に情報を飛ばす――。 + + + 二人のいない間に、トリステイン魔法学院も戦時体制に突入していた。 ルイズやキュルケたちも、従軍しないとはいえ、学院に派遣された軍人による教練を受けている。 その中に混じって剣の稽古を受けていた平賀才人が自室に戻ると、 机に置かれたノートパソコンの電源が入っている。 彼がパソコンの蓋を開けると、モニタは真っ黒のまま、白い文字だけが表示されていた。 YUKI.N みえてる? 「なんだこれ――、長門さん!?」 しばし呆けたあと、記された名前に気付き、キーボードを滑らせた。 『ああ』 YUKI.N わたしたちの負け。わたしにはもう、タバサを助けることはできない 『なんだって?』 YUKI.N わたしという個体は、もうすぐこの空間から消失する 『消える?』 YUKI.N 一方的な願いだと思っている。タバサを助けて。アルハンブラにいる 『長門さんはどうなるんだよ』 YUKI.N 元の世界に戻るか、完全に消失するか、どちらか 『そんな――』 YUKI.N わたしが消えたら、わたしがこの空間に及ぼした影響の大半が消える。ルイズをよろしく 『ルイズがどうなるんだ』 しかし返答はない。 「長門さん!?」 才人は思わずノートパソコンのディスプレイを叩く。 すると、思い出したように新たな文字が現れ、そしてパソコンの電源が切れた。 YUKI.N 虚無 「長門さん! ちくしょう、いったいどうしたっていうんだよ!?」 思わずパソコンに向かって叫ぶ才人。 だが、その大声は、部屋の外から聞こえた爆発音に掻き消された。 才人が廊下に出ると、ルイズの部屋の扉が吹き飛んでいる。 「ルイズ!? 大丈夫か? なにがあったんだ!」 煙が晴れると、木やガラスの破片が散乱する部屋の真ん中に、ルイズがへたり込んでいる。 「サイト……。わたし、またゼロになっちゃった……」 才人はルイズの爆発魔法を直接目にしたことはない。 それでも彼女の口から、才人と出会う直前まで、どんな魔法でも爆発する「ゼロ」だったということは聞き知っていた。 おそらくこの爆発が、彼女をゼロと呼ばせた魔法なのだろう。 そして、そのとき才人の頭を過ぎったのは、同じくルイズから聞かされていた、 彼女がアンドバリの指輪によって洗脳されていた間の体験。 そして、ルイズが本物の虚無であったという、長門有希の言葉である。 ルイズは確かに、虚無の魔法を唱えさせられたと話していた。 そして長門有希も、ルイズの虚無の力を証言していた。 最後の一押しは、今、もう一度伝えられた「虚無」。 あまりに話ができすぎている。 「ルイズ」 才人はルイズの前に座り込み、彼女と目線を合わせる。 「ゼロなんかじゃない。ルイズは本当の系統に目覚めたんだ」 「ありがとう、サイト。でも、慰めなんかいらないわ」 「慰めなんかじゃない。ルイズ、前に虚無の魔法について話したよな?」 「え、ええ」 「試しにそれを唱えてくれ。部屋が吹っ飛ばないくらいのを」 「まさかわたしが虚無だっていうの? 出任せにも程があるわ」 「俺が今までに、ルイズに嘘をついたことがあったか?」 「ええ、あったわ。あのメイドとイチャイチャして――」 「それは悪かったと思う。でも、ルイズを思う俺の気持ちは本物だ。 ――俺が本当にルイズを好きになる前、ルイズを尊敬していたのは、 ルイズが本物の貴族でメイジだったからなんだ。 今一度でいい、俺に初心を思い出させて、 ルイズ以外の女の子を忘れさせるために、ルイズの魔法を見せてくれないか?」 「……なによ、芝居がかって気持ち悪い。でもいいわ、一度だけよ。爆発するでしょうから離れてて」 ルイズが唱え始めたルーンは、虚無の魔法、イリュージョンのものだった。 単語の一つ一つが才人に心地よさを覚えさせ、ガンダールヴのルーンが光り輝く。 ルイズもまた、以前エクスプロージョンを唱えようとしたときとは違う、 体の中にある力の流れが、一方向に放出されるような感覚を覚える。 ルイズが詠唱を完成させると、二人の間には、光とともに人間の像が現れる。 それは、白銀の鎧に身を包み、デルフリンガーを構えた姿の平賀才人であった。 「わ、わたしったら、なにあんたのこと思い浮かべてるのよ! えいっ、えいっ、消えて!」 ルイズの言葉に従い、虚無の虚像は音もなく消える。 「ルイズ……、今の俺、なんか表情が……。お前の頭の中じゃ、俺ってあんな風に見られてたのか」 「な、なんにも聞こえないわ。今のは事故よ、事故」 顔を赤らめ下を向くルイズ。 しかし才人は、そんな彼女を優しく抱きしめた。 「でも、ありがとう。何も言われてないのに、使い魔の姿を思い浮かべるなんて、そうそうできやしないぜ」 「恥ずかしいからそれ以上言わないで――」 「それに、虚無の魔法が使えたじゃないか。ルイズはゼロなんかじゃない。 四系統を使いこなす天才でもない。伝説――だったんだ」 「――わたしが、虚無」 「ああ。……だけど、どうなっちゃうんだろうな、俺たち。伝説だぜ――?」 前ページ次ページ雪と雪風_始祖と神
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前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百四十七話「決闘!ウルトラマンゼロ対悪のウルトラ戦士」 ウルトラダークキラー 悪のウルトラ戦士軍団 登場 六冊の本の旅を終えた才人とゼロだったが、ルイズの記憶は元に戻らなかった。更にはルイズが ダンプリメなる謎の人物に、本の中にさらわれてしまった! 才人たちはダンプリメの正体を、 ガラQに説得されたリーヴルから知らされる。ダンプリメは長い年月を経て本に宿った魔力が成長して 誕生した存在であり、人間に関心を持った末に莫大な魔力を秘めているルイズを自分のものにしようと、 リーヴルを脅して今回の事件を仕組んだのであった! そんなことを許せる才人ではない。彼は リーヴルの手を借りて、ダンプリメが待ち受ける七冊目の世界へと突入していった……! 「うッ……ここは……」 才人がうっすら目を開けると、そこはもう図書館ではない別の場所であった。本の中の 世界に入ったに違いない。 しかし七冊目の本の世界は、これまでの六冊の世界とは大きく異なっていた。それまでの 本の世界は、様々な宇宙の地球の光景そのままの街や自然で彩られた景観が広がっていたのに、 この世界は360度見渡す限り薄暗い荒野が続いていて、石ころとほこりしかないようであった。 「随分殺風景だな……。至るところに何もないぜ」 「それはそうさ。この本の物語はまだ一文字たりとも書かれていない。だからこの世界には まだ何もないのさ」 才人の独白に対して、背後から返答があった。才人は即座にデルフリンガーを抜いて振り向いた。 「ダンプリメ!」 果たしてそこにいたのはダンプリメ。才人のことを警戒しているのか、デルフリンガーの刃が 届かない高さで浮遊している。 「物語はこれから綴られるんだ。ウルトラマンゼロ……君たちが敗北し、ボクとルイズの永遠の 本の王国が築かれるハッピーエンドの物語がね」 ダンプリメはすました態度でこちらを見下ろしながら、そんなことを言い放つ。対して才人は、 デルフリンガーの切っ先をダンプリメに向けて言い返した。 「残念だったな。これから書かれるのは、俺たちがルイズを救出して現実世界に帰るハッピー エンドの物語だ!」 早速ダンプリメに斬りかかっていこうと身構える才人だが、それを察知したダンプリメは 才人から距離を取りつつ告げた。 「まぁ落ち着きなよ。そう勝負を急がずに、前書きでも楽しんでいったらどうだい? たとえば、 ボクがどうして六冊もの本の世界を君たちにさせたのか」 「何?」 自在に宙を舞うダンプリメが逃げに徹していると、才人も狙うのが難しい。相手の動きを 常に警戒しながら、ダンプリメの発言を気に掛ける。 「ルイズを手に入れる上で最大の障害である君たちを排除するため……おおまかに言って しまえばそういうことだけど、それは旅のどこかで本の怪獣たちに倒されればいいな、 なんて希望的観測じゃないんだよ。ボクも、そんな不確実な方法に頼るほど馬鹿じゃない」 「じゃあ何のためって言うんだ」 才人が聞き返すと、ダンプリメは自分でも言っていたように、遠回りな説明を始める。 「ところでボクは本から生まれた存在なだけに、その知識量はこの世界の誰の追随も許さない ものと自負している。何せ、トリステインの図書館の蔵書数がそのままボクの知識だからね。 それは世界の全てを知っているということに等しい。それこそあらゆることをボクは知っているし 実際に行うことも出来る……剣術も間合いの取り方だって達人のレベルさ」 いつの間にか、ダンプリメが剣を手に才人の背後にいた! 間一髪察知した才人は振り向きざまに、 相手の斬撃をデルフリンガーで弾く。 「図に乗るな! いくら本の内容を全部知ってるからって、世界の全てを知った気でいるのは 自惚れだぜ!」 「そうだね。逆に言えば、本に書かれてないことをボクは知らない。そう、君の中の光の戦士、 ウルトラマンゼロ。それなんかがいい例だ」 単なる余興だったのか、剣を弾かれても平然としているダンプリメは、才人の胸の内を指差した。 「ハルケギニアの外の世界からやって来て、超常的な力であらゆる敵を粉砕する無敵の戦士。 その力の前では、どこまで行っても本の世界から外に出ることは出来ないボクは呆気なく 粉砕されてしまうだろう。そう考えたボクは、リーヴルを通じてある策を実行した。無敵の ウルトラマンゼロを『本の中の登場人物』にしてしまうというね」 「何!?」 ここまでの説明で才人も、ダンプリメの狙いが薄々分かってきた。 「本の中に引き込んでしまえば、ボクは相手の能力を分析することが出来る。六冊分もの 旅をさせて、既にウルトラマンゼロの力は隅々まで把握してるよ。……だけど、狙いは それだけじゃあないんだ」 「まだあるってのか!」 「旅の中で、君たちは度々その本の世界には本来存在しない怪獣と戦っただろう。あれらは ボクの介入で出現したんだ。何でそんなことが出来たのかって? それはこの『古き本』の 力によるものさ!」 ダンプリメが自慢げに取り出して見せつけたのは一冊の本。それは……。 「怪獣図鑑!?」 どこで出版されたものか、古今東西の様々な怪獣の情報が記載されている図鑑であった。 そんなものまでトリステインに流れ着いていたのか。 「それだけじゃない。本の中の存在も生きてるんだよ。本の中の怪獣が君たちに倒されるごとに 生じた怨念のエネルギーも、ボクは集めてたんだ。そういうこともボクは出来るんだよ」 それは黒い影法師の力か。ダンプリメはそんな能力まで学習していたのだ。 そしてダンプリメの周囲に、六つの禍々しく青白い人魂が出現する。 「……それが真の狙いかよ!」 「さぁ、機は熟した。ウルトラマンゼロへの怨念が一つになり、今こそ誕生せよ! ゼロを 上回る最強の戦士よッ!」 ダンプリメの命令により人魂が一つになり、マイナスエネルギーも相乗効果によって膨れ上がる。 そして人魂が巨大化して戦士の形になっていった! 「あ、あれは……!」 新たに生まれた、邪悪な力をたぎらせる巨人の戦士を見上げて、才人は思わずおののいた。 あまりにもおぞましいオーラを湛えた異形の姿だが、胸の中心に発光体を持つその特徴は、 明らかにウルトラ戦士を模していた。頭部には四本ものウルトラホーン、腕にはスラッガーが 生えていて、様々なウルトラ戦士の特徴を有しているようである。 「目には目を。歯には歯を。古い言葉だが、ウルトラマンを葬るのにも闇のウルトラマンが 最もふさわしいだろう。君たちウルトラ戦士を抹殺する闇の戦士……ウルトラダークキラー とでも呼ぼうかな」 「馬鹿な真似はよせ! 闇の力ってのは、手を出したら取り返しがつかないことになるぞッ! 今ならまだ間に合う!」 警告を飛ばす才人だが、ダンプリメは取り合わず冷笑を浮かべるだけだった。 「おやおや、ウルトラダークキラーを前にして臆病風に吹かれちゃったかな? 君が勇士と いうのは、ボクの買い被りだったかな」 「……どんなことになっても知らねぇぞッ!」 才人はやむなくウルトラゼロアイを装着して変身を行う。 「デュワッ!」 才人の身体が光り輝き、この暗い世界を照らそうとするかのように閃光を発するウルトラマン ゼロが立ち上がった。 「ふふ、いよいよ最後の決戦の始まりだ。さぁウルトラダークキラーよ、恨み重なるウルトラマン ゼロをその手で闇に還すがいい!」 ダンプリメの命令によって、ウルトラダークキラーが低いうなり声を発しながら腕のスラッガーで ゼロに斬りかかってきた! 「セアッ!」 こちらもゼロスラッガーを手にして対抗するゼロだが、ダークキラーの膂力は尋常ではなく、 押し飛ばされて後ろに滑った。 『くそッ、とんでもねぇパワーだな……!』 ダークキラーは倒した本の怪獣全ての怨念の結集体というだけあり、力が途轍もないレベル だということが一度の衝突だけでゼロには感じられた。 『こいつは全力で行かねぇと駄目なようだな! デルフ!』 そこでゼロはゼロスラッガーとデルフリンガーを一つにして、ゼロツインソードDSを作り出した。 本の世界では一度も使用していないこれならば、ダンプリメも対策はしていまい。 『こりゃまた歯ごたえのありそうな奴じゃねぇか。相棒、遠慮はいらねぇ。かっ飛ばしな!』 『もちろんだぜ! はぁぁぁぁぁッ!』 ゼロはツインソードを両手に握り締めて、一気呵成にダークキラーへと斬りかかっていった。 ゼロツインソードとダークキラーのスラッガーが激しく火花を散らしながら交差する。 ダークキラーはその内にゼロを突き飛ばすと、スラッガーを腕から切り離して飛ばしゼロへ 攻撃してきた。 「セェェアッ!」 ゼロは一回転して迫るスラッガーをツインソードで弾き返す。スラッガーがダークキラーの 腕に戻った。 『なかなかやるじゃねぇか……』 一旦体勢を整えて、ひと言つぶやくゼロ。ダークキラーの戦闘力はかなりのもので、 ゼロツインソードを武器にしてもやや押されるほどであった。しかし、ゼロは決して戦いを あきらめたりはしない。どんな相手だろうとも最後まで立ち向かい、勝利をもぎ取る覚悟だ。 だが、この時にダンプリメが次のように言い放った。 「そっちもさすがにやるものだね。このダークキラーに食い下がるなんて。……だけど、 ボクはより確実に君を倒す手段を用意してるんだよ」 『何!?』 「さぁ、ここからが本番だッ!」 パチンと指を鳴らすダンプリメ。それを合図にしてダークキラーの身体から怨念のパワーが 次々と切り離されて飛び散り、それぞれ実体と化してゼロを取り囲む。 それらは全て、ダークキラーと同じように暗黒のウルトラ戦士の形を成した! 『な、何だと……!?』 カオスロイドU、カオスロイドS、カオスロイドT、ダークキラーゾフィー、ダークキラージャック、 ダークキラーエース、ウルトラマンシャドー、イーヴィルティガ、ゼルガノイド、カオスウルトラマン、 カオスウルトラマンカラミティ、ダークメフィスト……ウルトラダークキラーも含めたら何と十三人にも 及ぶ悪のウルトラ戦士軍団! ゼロはすっかり囲まれてしまった! 『おいおいおい……こいつぁ絶体絶命って奴じゃねえか?』 口調はおちゃらけているようだが、その実かなり本気でデルフリンガーが言った。 「行くがいい、ボクの暗黒の軍勢よ! 恨み重なるウルトラマンゼロを葬り去れッ!」 ダンプリメの号令により、悪のウルトラ戦士たちが一斉にゼロへと襲いかかる! ゼロは ツインソードを握り直して身構える。 『くぅッ!?』 カオスロイドやダークキラーたちが飛びかかってくるのを必死でかわし、ツインソードを振り抜いて ウルトラマンシャドーやゼルガノイドを牽制するゼロ。だが悪のウルトラ戦士は入れ替わり立ち代わりで 攻撃してくるので、反撃の糸口を掴むことが出来ない。 そうして手をこまねいている内に、カオスロイドSのスラッガー、ウルトラマンシャドーの メリケンパンチにツインソードが弾き飛ばされてしまった。 『し、しまった!』 回収しようにも、カオスウルトラマンたちやダークメフィストが立ちはだかって妨害してきた。 立ち往生するゼロをイーヴィルティガ、ゼルガノイドが光線で狙い撃ってくる。 『うおぉッ!』 懸命に回避するゼロだったが、十三人もの数から狙われてそうそう逃げ切れるものではない。 ウルトラダークキラーを始めとした悪のウルトラ戦士たちの光線の集中砲火を食らい、大きく 吹っ飛ばされた。 『ぐはあぁぁぁッ!』 悪のウルトラ戦士はどれも本当のウルトラ戦士に迫るほどの恐るべき戦闘能力を持っている。 しかもゼロがたった一人なのに対し、二桁に及ぶ人数だ。多勢に無勢とはこのことで、ゼロはもう なす術なくリンチにされている状態であった。 完全に追いつめられているゼロのありさまに、ダンプリメが愉快そうに高笑いした。 「ははは……! 実質一人で乗り込んでくるからこんなことになるのさ。仲間を危険な罠から 守りたかったのかもしれないけど、一緒に本の世界の中に入る方が正解だったのさ」 今もなお袋叩きにされているゼロを見やりつつ、勝ち誇って語るダンプリメ。 「君はこれまで、一人の力だけで勝ってきた訳じゃないようだね。仲間の助けを受けることも あった。……だけど、この本の世界では君の仲間なんてどこにもいない。君は独りなのさ、 ヒラガ・サイト……ウルトラマンゼロッ!」 最早エネルギーもごくわずかで、息も絶え絶えの状態のゼロにウルトラダークキラーが カラータイマーからの光線でとどめを刺そうとする……! その時であった。 「それは違うわ!」 突然、ダンプリメのものではない甲高い声……才人たちにとって非常に慣れ親しんだ声音が 響き渡り、ダークキラーがどこからともなく発生した爆発を受けてよろめいた。 恐るべき暗黒の戦士のウルトラダークキラーの体勢を崩すほどの爆撃……それも才人たちは よく覚えがあった。 『ま、まさか……!』 ゼロが振り向くと、その視線の先に……桃色のウェーブが掛かった髪の少女が腰に手を当て、 無い胸を張っているではないか! 『ルイズッ!!』 才人は歓喜や驚愕、疑問など様々な感情が入り混じった叫び声を発した。また驚き、動揺 しているのはダンプリメも同じだった。 「そ、そんな馬鹿な! ルイズの意識は確かに眠らせていたはず……それがどうしてこの場に いるんだ!?」 ルイズはダンプリメの疑問の声が聞こえなかったかのように、ゼロに向かって叫んだ。 「ゼロ、しゃんとしなさい! あなたは独りなんかじゃない。……本の世界でも、あなたは たくさんの人を助けて、絆を紡いでいったんでしょう? わたし、覚えてるわよ!」 そして空の一角を指し示す。 「ほら、みんなが駆けつけてくれたわよ!」 ルイズの指差した方向から、ロケット弾や光弾が雨あられと飛んできて、ゼロに光線を 発射しようとしていたカオスロイドU、S、カオスウルトラマン、カラミティの動きを阻止した。 『あれは……!』 ゼロの目に、この場に猛然と駆けつけてくるいくつもの航空機の機影が映った。 ジェットビートル、ウルトラホーク、テックライガー、ダッシュバード! どれも各本の世界で 共闘した防衛チームの航空マシンだ! 「何だって……!?」 またまた絶句するダンプリメ。だがそれだけではなかった。 「彼らだけじゃないわ。ほら見て! みんなやって来たわよ!」 各種航空機の編隊に続いて飛んでくるのは……あれはウルトラマン! ウルトラセブン! ゾフィー! ジャック! エース! タロウ! コスモスにジャスティス! マックス! ティガにダイナにガイアも! 計十二人ものウルトラ戦士がマッハの速度で飛んできて、 ゼロを守るようにその前に着地してずらりと並んだ。さすがの悪のウルトラ戦士たちも、 この事態にはどよめいてひるんでいる。 『み、みんな……!』 声を絞り出す才人。最早言うまでもないだろう。彼らは六冊の本の世界の旅の中、才人と ゼロが出会い、助け、助けられた者たちである。 才人は最後の旅の終わり際にティガ=ダイゴが言っていた言葉を思い出した。「この恩は 必ず返す」……その約束を果たしに来てくれたのだ! 『みんな、本の世界の枠を超えて、助けに来てくれたのか……!』 強く胸を打たれるゼロ。彼はコスモスとジャスティスからエネルギーを分け与えてもらって、 力がよみがえった。 そしてルイズが救援のウルトラ戦士たちに告げるように、高々と宣言した。 「さぁ、行きましょう! このウルトラマンゼロの物語をハッピーエンドにするために!!」 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔