約 949,721 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6358.html
前ページ次ページ雪と雪風_始祖と神 「……はははっ、こりゃまた傑作だ。人形の使い魔に、これまた人形が召喚されるとはね」 と、プティ・トロワに高笑いを響かせるのは、ガリア王女イザベラ、タバサの従妹である。 「まさかアルビオンから生きて帰ってくるとは思わなかったけど、そういうわけかい。 使い魔、あんたの実力は、これと同じガーゴイルで観察させてもらったよ」 イザベラは、蛾を象った魔法人形を弄んでいる。 「それで、ウェールズは生きてるんだろうね? 報告しな」 「――ウェールズ王太子はトリステインに亡命。既に王宮に到着しているはず」 「そうかい。――父上も何を考えて、亡びる国に無駄な手出しをしたのかわからないけど、まあいい。 今日のあたしは機嫌がいいんだ。下がりな。次の任務があるまで、学校でお勉強でもしてるんだね」 嫌がらせの一つもなしに開放されたことを怪訝に思いつつ、タバサは王宮を後にする。 しかし、すぐにある一線に思い至った。長門有希の行為は、ガリアから監視されていた、ということは――。 「ユキ、時間がない」 「どうしたの」 「母様が危ない。あなたの力は、全て観察されていた。ジョゼフは、あなたが母様を治せることを知っている」 + + + いっぽう、王の暮らすグラン・トロワでは、ガリア王ジョゼフとその使い魔、 そしてフードを被った男――エルフである――が、リュティスの町中を馬で駆け抜けるタバサの狼狽振りを、遠見の鏡で眺めていた。 「――ほう、気付いたか。もう少し泳がせておくつもりだったが、有能過ぎる使い魔を持ったことが運のつきだったな、シャルロット。 しかしミューズ、おまえは構わぬのか。あの使い魔をリュティスに引き止めることもできたのだぞ。知人なのだろう?」 「だから、そのミューズって、石鹸みたいな呼び方やめなさいよ」 ジョゼフが女神の名で呼ぶ使い魔、ミョズニトニルンは不機嫌そうに答える。 ガリア王とエルフの青年、長身の二人に挟まれ、子供のようにも見える彼女は、 長門有希と同じ制服に身を包み、頭には黄色いリボンを結んでいる。 「そうね……。有希は仲間だった。けど、裏切ったの、あたしを。信じてたのに――。 それに、魔法使いだってことを隠してたなんて。 ……そうね、本当はどうすればいいのか、あたしは分かってないのかも――」 「ふふ、構わん。裏切り……か。おれも、ミューズのように悲しむことができるようになりたいものだよ」 「お話のところすまないが――」 「おお、ビダーシャル。うむ、行ってくれ。頼むぞ」 顔も向けず言い放つジョゼフに対し、エルフの男は表情一つ変えずに従う。 彼が何かを呟いたかと思うと、つむじ風が舞い、エルフの姿をかき消した。 「なに? 今の。これも魔法?」 「先住魔法、らしいな」 「へぇっ。いろんな魔法使いがいるのね、この夢の中には」 「メイジではなくエルフではあるが。――夢、か。そうかもしれん、この世界は」 「……でも、魔法使いがいても宇宙人にも、未来人にも会えないのよね。 魔法使いだって超能力者と似たようなものだけど、いざ会ってみると――」 ミョズニトニルンの少女は椅子に背を預け、小さく呟いた。 + + + トリステインとの国境に位置する領地まで、最短距離の街道でも馬で四日。 その道のりを、タバサと長門は三日で走破した。 二人は、オルレアン公の屋敷へと続く最後の坂道を、満身創痍の状態で駆け上がる。 「だいじょうぶ、ユキ?」 「わたしの肉体には有機生命体の疲労の概念がない。それより、あなた。この一週間、無理のし通しで、もう限界」 「……もうすぐ、屋敷に着く」 視界が開け、国境のラドグリアン湖を望む丘の上、白亜の城へと馬が横付けされた。しかし、 「遅かった……」 木の無垢の扉は斧で破られ、当然の事ながら執事の出迎えはない。 そして中へ入ると、略奪とまではいかなくとも、壁にかけられた絵や家具、調度品の全てが持ち去られ、 がらんとした室内にはただ、開け放たれた窓から風だけが吹き込んでいた。 「母様!」 わずかな希望を込めて、タバサは母の寝室の戸を開け放つ。 だが彼女の予感した通り、湖を望む大きな窓の前に、母の姿はない。その場にへたり込むタバサ。 しかし長門は、そんな主人の様子ではなく、部屋の隅を見やっていた。 「誰?」 すると、光にかき消されていた男が、二人の眼前に姿を現す。長い耳が、彼がエルフであることを表していた。 「精霊がわが身を隠していたはずだが……。同胞か?」 「ちがう」 長門は平坦に問う。 「あなたの周りには情報操作の跡がある。なぜ?」 「情報――?」 しかし、男は答えることを止める。タバサが男に飛び掛ったのだ。 「お母様を!」 タバサの杖に光が集まり、氷の矢を作り出す。 それは、トライアングルのタバサには本来不可能なほど巨大な――。タバサの心の震えが、彼女をスクエアに覚醒させていた。 しかし、 「タバサ――! だめ――」 「地の精霊よ――」 長門が叫ぶのが早いか、男の目の前に土が集まると、そこに透明な壁を作り出した。タバサのウィンディ・アイシクルはあえなく砕け散る。 「土を珪素に変えた?」 長門は相手の情報操作能力に舌を打つ。 そして壁は土に戻るとタバサの四肢に絡みつく。土は杖を飲み込み、彼女の体を振り回すと、屋敷の壁へと放り投げた。 「……命までは取らぬ。しかし、これも契約のこと、われに同行願おう――。 む――、なおも抵抗するか。……争いは好まぬ、わが同胞に近きものよ」 男、ビダーシャルは、長門有希へと向き直った。 長門は半身に構え、杖をビダーシャルへと指し向けている。 「……争いを望むか。愚かな」 長門は高速言語を詠唱する。しかし――、 「情報の操作が――、接続が切断されている?」 長門有希の試みたいかなる情報操作も、その対象にたどり着く前に、手応えもなくかき消される。 まるで、座ろうとした瞬間、椅子を後ろに引かれるがごとく。彼女でさえも驚愕の表情をわずかに浮かべざるを得ない。 「これは……。精霊を侵食しようとする者など! この悪魔め!」 ビダーシャルもまた、長門有希の行動に困惑していた。精霊との契約によって物の理を改変するのではなく、 精霊の領域を力で支配する。エルフにとって長門有希は侵略者、まさに悪魔として捉えられたのである。 宇宙人とエルフの間で、目に見えない情報、そして精霊の引き込み合いが続く。 しかし突如としてビダーシャルが動いた。 ビダーシャルは床を蹴ると、長門有希との物理的距離を詰める。それに呼応し、長門は空中に舞う。 すると二人の間に、銀の刃が飛んだ。 情報操作のせめぎ合いに全能力を傾けている長門には、物理攻撃を放つ余裕も、 そして、そうするための物理的媒体もない。刃――エルフが砂漠の生活に用いるナイフは、 長門有希の心臓を、正確に刺し貫いた。それと同時に、ナイフを伝い、長門有希を構成する肉体へと、精霊の情報が流れ込む。 長門もまた、床へと倒れ臥した。もはや彼女には、流れ込む情報、精霊の力を無理に押さえ込むことしかできない。 ビダーシャルは長門有希に近寄り、ナイフを引き抜こうとする。 「わが生活の道具を、このようにして血に染めるとは――」 だが、ナイフを掴むという行動は、ビダーシャルにとって安易なものでありすぎた。 彼がナイフを掴んだ瞬間、長門とビダーシャルの間に、物理的接触を介した情報連結が行われる。 その兆候を覚えた瞬間、すでに長門有希の情報操作は、ビダーシャルの周りの精霊を手中に収めていた。 ビダーシャルはナイフを抜くと、身を翻し、逃げ出すようにして窓を破って屋敷から飛び出した。 「この屋敷の周囲の精霊を取り込んだ――か。悪魔め――。精霊を支配下に置かれては、近付くこともできぬ」 ビダーシャルは、湖を囲む森へと消える。 だが長門有希もまた、ビダーシャルのいう精霊によって、自身の情報を侵食されていた。 ナイフによる肉体の物理的損傷こそ塞がれてはいるが、 細菌のように長門有希の体へ侵入しようとする精霊、情報操作とのせめぎ合いに、彼女は身を起こすことができない。 ――先に立ち上がったのはタバサであった。 全身を強く打ち、気を失ってはいたものの、朦朧とした意識の中で使い魔を抱き起こす。 一言も発さず、フライによって屋敷を出ると、屋敷の前に残されていた馬のうち一頭に跨り、全速力で屋敷を離れた。 ほとんど眠ったような状態のまま、裏街道を昼夜の別なく進む。国境の関所を回避するなど、 北花壇騎士のタバサにとっては、眠っていてもこなせるほどに造作もないことである。 トリステインへ入ったのが、屋敷を出た日の夕刻、そしてトリステイン魔法学院へたどり着いたのは、翌々日の正午であった。 魔法学院の厩舎へ馬を預けると、二人はその藁の上に、並んで倒れ臥した。 + + + タバサが目を覚ますと、そこは魔法学院の救護室であった。そして傍らには、長門有希が本も読まずに座っている。 「ユキ……、あなたは?」 「あなたの領地から離れることで、情報操作――あの男のいう精霊による侵食から逃れられた。 あの男の情報操作は座標に依存しているよう。……礼を言う。あなたがわたしを助けた」 「いい。巻き込んだのはわたし」 「……ありがとう」 すると、二人の声に気が付いたように、ドアが勢いよく開け放たれる。 「タバサ! 気が付いたの?」 部屋に飛び込んできたのはもちろんキュルケである。そして才人、ギーシュもいる。 「よかった……。あなた、三日三晩眠り続けてたのよ。 打ち身だけで命に別状はないって言われてたけど、それでももうダメなんじゃないかって――」 キュルケは、上半身だけ起こしたタバサを抱き締めた。 「本当に、なんともなくてよかったよ。タバサだって、ルイズの友達だもんな」 才人も頬を緩める。 「友達?」 タバサが問う。 「ああ。俺たちを追いかけて、あんな危ない場所にまで来るなんて、友達じゃなかったらなんだっていうんだ。 それに、ルイズもタバサもキュルケの友達なら、ルイズとタバサは友達だよ」 才人は寂しげに言う。 「あら、誰がルイズの友達だったかしら?」 キュルケもまた、寂しく笑った。 タバサは友を騙した罪の重さを心に刻む。しかし、キュルケの胸から面を上げると、 友に託した、いや、押し付けたと言っていい、任務のその後を問いかけた。 「――ところで、ウェールズ王太子は?」 「ああ、そのことだが、まずいことになったよ」 とギーシュ。 「やっぱり――」 と呟いたタバサの声は、長門以外には聞こえない。ギーシュは言葉を続ける。 「姫様にはこれ以上なく感激していただけたけれども、その後に父――軍の元帥なんだが――に呼び出されて、 こっぴどくなんてものじゃない、怒られたよ。なんてことをしてくれたんだ、ってね。 確かにその通り、アルビオンの新政府はすぐにでも、トリステインに侵攻してくるだろうって、もっぱらの噂さ。 ああ――、僕は姫に殉じようとするあまり、亡国への道に加担してしまったのか……」 「ギーシュはそう言うけどさ、俺とタバサ、それに長門さんのやったことは正しいと思うよ。 ルイズだってそうしたはずだ。そうさ、ルイズだって――」 ルイズのことを思う余り、才人はそれ以上言葉を紡ぐことができない。そしてタバサもまた――。 + + + その日の午後、長門有希は、自室に移り身を休めるタバサを残し、一人広場で本を広げていた。 しかし、ページは殆ど繰られることがない。そんな彼女に、近付く者がいた。 「や、やあ。長門さん」 「平賀才人?」 「ああ。ちょっと、話があるんだけど、いいかな」 「……ここでいい?」 「――うーん、聞かれると、まずいかなあ、やっぱり」 「ならば場所を移すべき。わたしの部屋はタバサが眠っている。あなたの部屋は?」 「俺の部屋? 使用人の部屋だし、狭くてもいいなら。 だけどもしルイズが、自分以外の女の子を部屋に連れ込んだって知ったら……」 「ルイズは連れ込んだの?」 「へっ? い、いやなんでもない。口が滑った」 才人はにやっと口を開ける。 「作り笑い」 「……ああ。やっぱり、笑えなんかしないさ、こんなときに」 うつむく才人と、普段にも増して無口な長門。二人は塔へと並んで向かった。 + + + しかし塔の入り口で、二人は唐突に呼び止められる。 「サイトさん!」 振り返るとそこには、草木で染められたロングスカートに身を包んだ黒髪にそばかすの娘が、トランクを抱えて立っている。 「や、やあシエスタ。久しぶり」 「あれ、そちらの方は――。今日はミス・ヴァリエールとご一緒じゃないんですか?」 「……ああ。いろいろあってな。ルイズはいま学院にいないんだ……」 「そうなんですか。浮気はいけませんよ、サイトさん」 「そ、そんなんじゃないって。ところでどうしたんだい、いきなり呼び止めて」 「ええ――。それがわたし、休暇を貰って、今から田舎に帰るんです」 「そりゃまたどうして」 「アルビオンが攻めてくるって噂ですよね。だから、田舎のほうが安全だろうって、コックのマルトーさんが――」 「この学院だって、これで結構安全だとは思うけどなあ。そりゃ、泥棒に入られたりはしたけれど」 「うーん、でも、大丈夫ですよ。ただの田舎ですもの、盗るものなんてなんにもないですから。 そうだ、今度遊びに来ませんか? 馬でしたら半日もかかりませんから。タルブっていう、ワインがおいしい村なんですよ」 「……ああ。考えとくよ」 「つれないですねー。もう、おこっちゃいますよ! ぷんぷん!」 才人が苦笑いを浮かべるのを見つつ、シエスタは笑顔で去っていった。 彼女が荷馬車に乗り込むのを確認するまで、才人は視線を外さない。 「……じゃ、行こうか」 「あれは、誰?」 「ん……、メイドのシエスタ。友達だよ」 「あなたは――、浮気者?」 「ち、違うって」 「浮気はやめたほうがいい。不幸」 不幸、という言葉に、長門はいつになく語調を強める。 「わかってるさ。今の俺は、ルイズを助けることしか考えちゃいないよ。――もしかして長門さん、浮気されたことある?」 「何を言っているの?」 その言葉に、長門有希の目の色が変わった。長門は才人に向けて杖を構える。 「じ、冗談だって。ほ、ほら、早く行こうぜ。シエスタならまだいいけど、二人でいるところをギーシュに捕まったら、なんて言われるか」 長門を後ろから押すようにして、二人は女子寮塔の階段を上る。 + + + 寮塔の一角、ルイズやキュルケ、タバサの部屋と同じフロア、日の当たらない側に位置するのが才人の部屋である。 本来ならばメイドが雑務を行うために設けられたものではあったが、ベッドと机が運び込まれ、一応の体裁は整えられていた。 「……それで、話なんだが」 椅子には長門が腰掛け、才人はベッドに座り話を切り出す。 「アルビオンが攻めてきたら、俺は戦場に行こうと思う」 「なぜ?」 「ルイズほどのメイジだ。わざわざ誘拐するなら、何かの目的があるはずだろ? なら、戦争に連れて来るんじゃないかって」 「それで、どうするの?」 「助け出す。それ以外にないさ。それで、お願いがあるんだ。 ……頼む! 同郷のよしみだ。どうか俺がルイズを助け出すのを、手伝ってくれないか!」 才人はベッドから降りると、長門有希へ土下座した。 「あなたの言ったことは、無計画で無謀」 「分かってる。だけど、ルイズが来るとしたら、そこしかないじゃないか」 「――ただ、わたしたちも、戦場へ向かうつもりでいた」 「……へ? なんで?」 「あなたと同じ。彼女を発見できるとすれば、確立が一番高いのはそこ」 「でも、わたし"たち"って言ったよな。長門さんだけじゃなくて、タバサも行くってことか?」 「わたしたちがアルビオンに向かうとき、キュルケに頼まれた。ルイズをよろしく、と。 なのに、わたしたちも彼女を守ることができなかった。だから」 「……そうか。わかった。頼むよ、長門さん。それに、タバサにもよろしく」 「ええ」 + + + 「……それで、どうする? もう少しゆっくりしていくか?」 一通りの話を終えると、才人は椅子に身を預ける。 「帰る。そろそろタバサも起きているはず」 「そうか。じゃあ、頑張ろうな。絶対にルイズを助け出すんだ」 長門は深く頷いた。そして、扉に手をかけようとしたのであるが、 ふと足元を見ると、埃を被ったノートパソコンが壁に立てかけられていることに気が付いた。 「これは?」 「ああ、俺のパソコン。電池切れで動かないけどな」 「……見せてもらって、いい?」 「え? いいけど――」 長門有希はテーブルにノートパソコンを開くと、杖を向け、高速言語を詠唱した。 そして、電源ボタンを押す。すると、電源が投入されたことを表すLEDが点灯する。 「あれ、……動いて、る? どうして」 「バッテリーを錬金した」 もちろん実際には、魔法ではなく情報操作であることは言うまでもない。 「そうか、流石だな……」 「触っても、いい?」 「ああ、いいけど、あんまりフォルダの中は見ないでくれ」 「了解した」 長門有希は黒い画面を立ち上げると、目にも止まらぬ速さでキーボードを叩く。 次々とウィンドウが出ては消え、描画の追いつかない画面が点滅した。 「あのー、長門さん? 何をされているので?」 「このコンピューターを通じて、ハルケギニアに張り巡らされた情報網へのアクセスを試みている」 「そ、そうか」 才人には、彼女がなにをしているのか、全く理解できない。 なにせ、パソコンにはケーブル一つ繋がってはいないのだから、 何らかのネットワークに接続していること自体、あり得ないことなのである。 しかし、長門有希が力強くエンターキーを押し、画面の表示を見つつ発した言葉には、才人も思わず目をみはった。 「わかった」 「なにが?」 「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、今、アルビオン空中大陸とトリステイン王国の間の海上に存在する」 「海の上? ――ってことは!」 「そう。船の中。彼女は、トリステインに侵攻するアルビオン軍に同行している」 「そうか! 待ってろよ、ルイズ! すぐに助けてやるからな!」 気持ちを高ぶらせる才人を尻目に、長門はノートパソコンを閉じ、タバサの部屋へと戻っていった。 今まさにアルビオン軍がトリステインに向かっているという事実に才人が思い至るのは、長門が部屋を出た後であった。 「おきてる?」 長門はタバサに問う。 「おかえり」 「――アルビオン軍がトリステインに向かっている。ルイズを、助けに行く?」 タバサは首を縦に振る。 「わたしたちにも、責任の一端がある」 「了解した」 「……わたしは母を助けられなかった。ならばせめて、友人を――」 タバサは母を思い、そして、友を思った。 それは彼女にとって初めての、自身の宿命から離れた、生きるための目的である。 前ページ次ページ雪と雪風_始祖と神
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9404.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百三十七話「四冊目『THE FINAL BATTLE』(その1)」 スペースリセッター グローカーボーン 登場 『古き本』も遂に三冊、半分を完結させることに成功した。するとそれまでずっと眠り続 けていたルイズが目を覚ました! 喜びに沸く才人たちであったが、現実はそう甘くはなかった。 目覚めたルイズは、全ての記憶を失っていたのだ。自分の名前すら思い出せないありさま。 ぬか喜びだったことが分かり、才人たちは思わず落胆してしまった。 やはり、『古き本』の攻略は最後まで進めなければならないようだ。 三冊目攻略の翌朝、ルイズの看護を担っているシエスタが、ルイズのいるゲストルームに入室する。 「おはようございます、ミス・ヴァリエール。お加減は如何ですか?」 ルイズは既に起床していた。ベッドの上で上体を起こしている彼女は、シエスタの顔を 見返すと清楚に微笑んだ。 「シエスタさん、おはようございます」 「おはよう……ございます……!?」 ルイズの口からそんな言葉が出てくることに激しい違和感に襲われるシエスタ。本来の彼女は、 平民のシエスタに絶対に敬語を使ったりはしない。 「はぁ……ほんとに記憶の一切を失っちゃったんですね、ミス・ヴァリエール……」 「……ごめんなさい……」 ため息を吐いたシエスタに、ルイズは悲しげに眉をひそめて謝罪した。 「えッ?」 「どうやら、わたしが記憶を失っていることで、みんなを悲しませているようですね。さっき サイト……さん、だったかしら。彼も、どこか落ち込んでいられたようでした」 ルイズはルイズなりに、自身の状況を憂いているようだ。 「それでも、みんな笑顔を見せてくれる。それが、とっても悲しいの……。わたしを心配 してくれた人たちのことを、何も覚えていないなんて……」 「ミス・ヴァリエール……」 悲しむルイズの様子に胸を打たれたシエスタは、懸命に彼女を励ました。 「大丈夫ですよ! 必ず、サイトさんがミス・ヴァリエールの記憶を取り戻してくれます!」 そうして看護を行うシエスタは、密かにジャンボットにルイズのことを尋ねかけた。 「ジャンボットさん、ミス・ヴァリエールの記憶を他の手段で戻すことは出来ないんでしょうか?」 ルイズの脳を分析したジャンボットが回答する。 『難しいな……。記憶中枢が不自然に失活している。無理に回復させようとしたら、余計に 悪化させてしまうことだろう。最悪、一生障害が残る身体になってしまうかもしれない。 やはり、原因たる『古き本』をどうにかしなければならないだろう』 「そうですか……」 ジャンボットたちの力でもどうにもならないことを知って落ち込むシエスタ。彼女は同時に、 才人が残り三冊分も危険な戦いをしなければならないことに胸を痛めていた。 「……ところで、問題のサイトさんはどこに行かれたのでしょうか?」 『リーヴルのところへ行ったようだな』 才人は本件に対して、重要な鍵を握っているだろうリーヴルに直接話を聞きに行っていた。 リーヴルはおっとりした雰囲気に反して用心深いようで、何かを隠していることは確実なのだが それが何なのかは、タバサの調査でも解き明かすことが出来ないでいた。それ故、本人から 探り出そうと突撃したのだった。 しかし真正面から「何を隠しているんだ?」と問うたところで正直に答えるはずがない。 そこで才人は若干遠回しに攻めてみた。 「リーヴル、あんたは俺たちに随分協力的だよな。何日も図書館の部屋を貸してくれたり……」 「当図書館で起きた問題ならば、司書の私に責任がありますから」 「そうかもしれないけど……実は、リーヴルにも何か得することがあったりするのか? だからやたら親身になってくれるんじゃないかなって」 と聞くと、リーヴルはこんなことを話し始めた。 「……少し、私の話を聞いていただけませんか? ちょうど相手が欲しかったんです」 「え? 話って……?」 リーヴルは、昔話のような形式で話を語った。それは、小さな王国の民を愛する女王が、 可愛がっていた娘の患った重い病を治すために、悪魔と契約したという内容だった。 悪魔は女王の娘の病を治す見返りとして、女王の大切にしていたものを要求した。そして娘が 回復すると同時に……王国中が炎に巻かれ、悪魔の契約によって国民全員、果ては世界中の国々が 滅んでしまった。 その様子を見た女王は、娘に告げた。「あなたの病気が治って本当によかった」と……。 「……嫌な話だな。作り話にしたって、その女王様はわがまま過ぎるだろ」 聞き終えた才人は率直な感想を述べた。するとリーヴルが反論する。 「そうでしょうか? 悪魔以外に娘の病気を治せる者はいなかったんですよ? 娘が治るなら、 どんな代償だって……」 「でも、罪のない人たちを巻き込むのは間違ってるって」 「他人は他人。大事な人と世界……天秤に掛けるまでもなく、どちらが重いかは明白じゃないですか。 大事な人がいなければ、世界なんて何の意味も……」 そう語るリーヴルに、才人は返した。 「いや……俺は大事な人だけがいればいいなんて、それが正しいなんて思えない」 「……?」 「その女王様の話だってさ、世界に娘と二人だけしかいなくなって、それからどうやって 生きていくんだ? 多分、すぐ不幸になるさ。俺の経験から言うと、現実の世界ってそんな 甘いものじゃあないからな。それじゃあ、娘を治した意味なんてないじゃないか」 「……それはそうかもしれませんが……」 才人の指摘に戸惑うリーヴルに、才人は続けて語る。 「それにさ……大事な人、大事なものって言うのは、案外その辺りにたくさん転がってるものだよ。 俺は今シュヴァリエの称号を持ってるけど、それは今助けようとしてるルイズがいただけで得られる ものじゃなかった。シエスタやタバサ、魔法学院で出来た友達や先生の教え、他にも行く先々で 出会った人たちが俺に教えてくれたものがなければ、今の俺は確実になかったし、どっかで野垂れ 死んでたかもしれない。だから俺は、一人を助けられたらそれでいいなんてのは間違いで、みんなを 助ける! それが正しいことだと思う」 ハルケギニアに召喚される以前の才人ならば、リーヴルの言うことにある程度は納得した かもしれない。だが今は違う。多くの出会いと経験を積み重ねて、成長した才人はもっと 大きな視点から物を考えられるようになったのだ。 才人の意見を受けたリーヴルは、しかし彼に問い返す。 「みんなを助ける、と言いますが、あなたにはそれが簡単に出来るのですか? たとえば 先ほどの話ならば、悪魔にすがる以外に方法などありません。それとも、娘を見捨てろとでも?」 それに才人ははっきりと答えた。 「もちろん、簡単に出来ることじゃないだろうさ。失敗してしまうかもしれない。……だけど、 俺だったら最後まであきらめないし、妥協しない! どんなに苦しくたって、みんな助かる道を 最後まで探し続けるぜ!」 「……」 才人の言葉を聞いて、リーヴルはうつむいて何かを考え込んでいたが、やがてすっくと立ち上がった。 「少し、話し込んでしまったようですね……。本日の本の旅の時間です。準備は整っていますので、 あなたもご用意を」 「あ、ああ」 背を向けて立ち去っていくリーヴルを見送って、才人はゼロに呼びかけた。 「ゼロ、さっきのリーヴル話には何か意味があったのかな」 『わざわざあんな話をしたってからには、伝えたいものがあったんじゃないかとは思うな』 「じゃあ、さっきの話の中に真実が……もしかして、リーヴルは誰かを人質にされて俺たちを 本の世界に送ってるのかな?」 『そんな単純な話でもないと思うがな……。何にせよ、全ての本を完結させることについての リーヴルのメリットが分からないことには、何の断定も出来ないぜ』 話し合った二人は、それでも念のため、リーヴルの周囲に誰か消えた人がいないかということを タバサに調べてもらおうということを決定した。 そうして四冊目の本を選ぶ場面となった。 「それでは始めましょう。サイトさん、本を選んで下さい」 残るは三冊。それぞれを見比べながら、才人はゼロと相談する。 『ゼロ、次はどれがいいかな』 『次は……なるべく知ってる奴が主役の本を片づけていこう。ってことでその本だ』 ゼロが指定したのは、青い表紙の本であった。 「この本ですね、分かりました。では、良い旅を……」 『古き本』の攻略も折り返し地点。才人とゼロは四冊目の世界へと入っていった……。 ‐THE FINAL BATTLE‐ 宇宙の悪魔サンドロスが撃退されてから数年、壊滅してしまった遊星ジュランの復興とともに、 怪獣と人間の共生する世界のモデルを築く『ネオユートピア計画』の始動の時が近づいていた。 その第一歩として怪獣をジュランへ輸送する大型ロケット『コスモ・ノア』が建造され、その パイロットには春野ムサシが選ばれた。どんな苦難にも夢をあきらめなかった青年の奇跡が、 実現しようとしているのだ……。 しかし、宇宙開発センター上空に突然謎の円盤が出現。円盤から投下された巨大ロボットが、 コスモ・ノアを狙う! それを阻止したのは、ムサシとともに数々の脅威に立ち向かった英雄、 ウルトラマンコスモス! コスモスはロボットを破壊するものの、円盤からは次々にロボットが 現れる。コスモスの窮地にムサシは今一度彼と一体となり、ロボットの機能を停止させた。 これで当面の危機は凌げたように思われたが……そこに現れたのは、サンドロスとの戦いの時に コスモスを助けてくれたウルトラマン、ジャスティス。しかもジャスティスはロボットを再起動 させたばかりか、コスモスに攻撃してきたのだ! 赤いモノアイのロボット、グローカーボーン二体を張り倒したコスモス・エクリプスモードに、 ジャスティスは右拳からの光線、ジャスティススマッシュで攻撃する。 『ジャスティス、何故だ!?』 ムサシの問いにジャスティスは、駆けてきての蹴打で答えた。 「デアッ!」 かわしたコスモスにジャスティスは容赦なく蹴りを打ち続ける。何かの間違いではなく、 ジャスティスは明白にコスモスに対する攻撃意思を持っている! 『待て!』 訳が分からず制止を掛けるムサシに構わず、ジャスティスはコスモスの首を鷲掴みにして締め上げる。 「ウゥッ!」 『どうして……ウルトラマン同士が戦うんだ……!』 混乱するムサシ。ジャスティスはやはり何も言わないまま、コスモスをひねり投げた。 「デアァッ!」 「ウアッ……!」 反撃せず無抵抗のままのコスモスに対して、ジャスティスは容赦なく打撃を浴びせ続ける。 その末にコスモスを力の限り蹴り倒す。 「デェアッ!」 「ムサシーッ!」 コスモスが倒れると、ムサシのチームEYES時代の先輩であり、新生チームEYESのキャップに 就任したフブキが絶叫した。本来ムサシに個人的に会いに来ただけであり、非武装の今では コスモスを助けることは出来ない。 「ゼアッ!」 よろよろと起き上がるコスモスに、ジャスティスは再びジャスティススマッシュを食らわせた。 その攻め手に慈悲はない。 「グアァッ!」 「ムサシ! コスモス立てー!」 一方的にやられ、カラータイマーが赤く点滅するコスモスを、フブキが駆けていきながら 懸命に応援する。 「ジュッ……!」 「立て! コスモス! ムサシー!」 コスモスがやられている間に、グローカーボーンが起き上がって、両腕に備わったビームガンから コスモ・ノアに向けて光弾を発射した! 『やめろぉッ!』 叫ぶムサシ。コスモ・ノアが危ない! ――その時、空の彼方からひと筋の流星が高速で迫ってきて、コスモ・ノアの前に降り立った! 「あれは……!?」 「セェアッ!」 驚愕するフブキ。コスモ・ノアの盾となって、光弾を弾き飛ばしたのは、三人目のウルトラマン…… ウルトラマンゼロだ! 「ジュッ!?」 ゼロの登場に、コスモスも、ジャスティスも目を見張った。 「あのウルトラマンは……味方なのか、敵なのか……?」 訝しむフブキ。彼はジャスティスの行いで、それが分からなくなっていた。 「セアァッ!」 そんな彼の思考とは裏腹に、ゼロは瞬時にグローカーボーンに詰め寄って、鉄拳を浴びせて 片方を殴り倒した。 「キ――――――――ッ!」 ゼロを敵と認識したもう片方のグローカーボーンが即座に光弾を放ったが、ゼロはバク転で かわしながら接近し、後ろ回し蹴りで横転させた。 「ジュアッ!」 グローカーボーンと戦うゼロにもジャスティスは攻撃を仕掛けようとしたが、そこにコスモスが 飛びかかり、羽交い絞めにして阻止した。 「セェェェアッ!」 コスモスがジャスティスを食い止めている間に、ゼロはグローカーボーン一体をゼロスラッガー アタックで切り刻んで爆破し、二体目にはワイドゼロショットを撃ち込んで破壊した。 だがいくらグローカーボーンを破壊しても、大元の円盤、グローカーマザーから新たな機体が 送り出されようとしている。 『させるかよッ!』 するとゼロはストロングコロナゼロに変身して、上空のグローカーマザーに対してガルネイト バスターを放った! 『ガルネイトバスタぁぁぁ―――――ッ!』 灼熱の光線が直撃し、その猛烈な勢いによってグローカーマザーを押し上げ、大気圏外まで 追放した。 『ちッ、破壊は出来なかったか。頑丈だな……』 ゼロが舌打ちしていると、ジャスティスがコスモスを振り払ってジャスティススマッシュを 撃ってきた。 「デアッ!」 「! ハッ!」 すぐに気がついたゼロは光線を腕で弾く。そのままジャスティスとにらみ合っていると、 ジャスティスが、『聞き慣れた声で』問うてきた。 『お前は何者だ。何故お前も人間に味方するのだ』 「ッ!」 一瞬動きが固まったゼロだったが、気を取り直して、背にしているコスモ・ノアを一瞥 しながら答える。 『あれは地球人たちの夢の砦だ。そいつを壊していい道理がある訳ねぇ』 と告げると、ジャスティスはやや感情を乱したように言い放った。 『夢だと……お前もそんな曖昧なものを、宇宙正義よりも優先するというのかッ!』 ジャスティスがゼロへ駆けてきて殴り掛かってくるが、ゼロはその拳を俊敏にさばく。 『夢を奪うことが、正義なものかよッ!』 言い返しながら肩をぶつけてジャスティスの体勢を崩し、掌底を入れて突き飛ばした。 それでもジャスティスはゼロとの距離を詰めて打撃を振るってくる。 『奪う? 地球人こそがいずれ、略奪者となるのだ! それを未然に阻止することこそが正義だッ!』 荒々しい語気とともに放たれるパンチ、キックの連打。しかしゼロはそれら全てを受け流した。 『どんな事情があるか知らねぇが、まるで説得力がねぇな!』 『何!?』 『お前の拳がどうして俺に当たらないか分かるか? 感情的になりすぎてがむしゃらだからだ! 技はそのままお前の心の状態を表してるぜ』 ゼロの指摘を受け、心に刺さるものがあったかジャスティスが一瞬たじろいだ。 『何かの後ろめたさを強引に振り切ろうって感じの拳だ。そんな半端な拳は、俺には通用しねぇ。 コスモスだって、その気だったら今のお前なんか敵じゃなかっただろうぜ』 『……知った風な口を……!』 ゼロの言葉に何を感じたか、怒りを見せたジャスティスが光線を繰り出そうと構え、ゼロも 身構える。 だが二人の争いに、ムサシの叫び声が割り込んだ。 『やめてくれ! ウルトラマン同士で争い続けて、何になるんだ!? 話せば分かり合えるはずだッ!』 『……!』 それにより、ジャスティスは構えた腕を下ろした。ゼロもまた、これ以上戦おうとはせずに 構えを解く。 そしてジャスティスとゼロが同時に変身を解除し、光に包まれて縮んでいった。少し遅れて コスモスも、ムサシの身体に変わっていく。 「うッ……!」 「コスモス! 大丈夫ですか!?」 ジャスティスからもらったダメージが響いて倒れているムサシの元に才人が駆け寄ってきて、 彼に手を貸して助け起こした。 「君は……さっきのウルトラマンか……」 才人に肩を貸されたムサシが問いかけた。 「君は何者なんだ……? あの赤い姿からは、コスモスの光が感じられた……。どうして君が コスモスの光を持っている?」 「……」 才人は無言のまま答えなかった。ストロングコロナはダイナとコスモスから分け与えられた 光によって生まれた形態だが、この世界のコスモスにはあずかり知らぬこと。だがそれをどう 説明したらよいものか。 才人が黙っていたら、フブキが二人の元へと駆けつけてきた。 「ムサシ! 大丈夫だったか!?」 「フブキさん……」 「……そこの子供が、三人目のウルトラマンか……」 フブキは見ず知らずの才人を一瞬警戒したが、すぐにそれを解く。 「何者かは知らないが、ムサシとコスモスを助けてくれてありがとう」 「いえ……」 フブキが話していると……四人目の人物がコツコツと足音を響かせて現れた。 「コスモス、そしてもう一人のウルトラマンよ。お前たちがどうあがいたところで、デラシオンの 決定は覆らない」 「!」 振り返った才人の顔が、苦渋に歪んだ。 新たに現れた人物……状況的に、ジャスティスの変身者は……ルイズの姿形となっているのだ。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4488.html
前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第二話 黒衣の悪魔 宇宙同化獣ガディバ 登場! ルイズと才人がウルトラマンAの力を得て、異次元人ヤプールの尖兵たる、ミサイル超獣ベロクロンを倒してから2日が過ぎた。 2人を含む魔法学院の関係者達は、平時には通常通り学業に専念するようにとの指示が出、破壊された街も、勝利に喜ぶ民達によって、急ピッチで復興されていっていた。 が、当の二人はといえば、ウルトラマンの宿命として正体を明かすわけにもいかずに、結局は『ゼロのルイズ』と『犬のサイト』の元の鞘に納まってしまっていた。 「はぁ、俺本当にウルトラマンになれたのかなあ?」 例によって水場で洗濯物の山と格闘しながら才人はぐちっていた。 彼としては、子供のころからTVや本のドキュメンタリーや記録映像で見た科学特捜隊やウルトラ警備隊の隊員達のように、颯爽と怪獣と戦うのにあこがれていただけに、相も変らぬ使い魔生活にいまいち実感が湧かないのである。 だが、地球を守ってきた歴代のウルトラマン達にも人間としての生活はあった。 才人と一体化しているAだって、北斗聖司と呼ばれていたころにはアパートに一人暮らししていたころもあったし、当然衣食住は自分で管理していた。 さらに中には血反吐を吐くような猛特訓をこなしたり、教師やボクサーを兼業したウルトラマンもいたが、さすがに才人にそれを求めるのは無茶であろう。 「いつも大変ですね才人さん」 振り向くと、黒髪の愛らしいメイドの娘が洗濯籠を持って立っていた。 「ああ、シエスタ、君も洗濯かい?」 「はい、私はそんなに多くないので、お手伝いしますよ」 才人は喜んでと言うと、さっきまでの憂鬱はどこへやらで、うきうきと洗濯にはげみはじめた。 そのはげみぶりはアクセルがかかりすぎたようで、たいした量を持ってこなかったはずのシエスタの分が終わる前に自分の分が終わってしまった。 仕方が無いから逆にシエスタの分を手伝うことにしたが、それでも彼はうれしそうだった。 「平和ですねえ」 「え?」 「つい2日前くらいには、トリステイン中この世の終わりかもって雰囲気だったじゃないですか。けど、今私達はこうして安心して洗濯をしていられる。平和って本当にいいものですね」 「……ああ、本当に平和っていいもんだな」 才人は幸せそうに笑うシエスタの顔を見て、「ああ、俺がこの笑顔を守ったんだな」とようやく実感した。 虚栄や見返りではない、ウルトラマンや歴代の防衛チームが命を賭けて守ろうとしたものの一端が、少しずつ才人にも芽生えつつあった。 「それもこれも、ウルトラマンAさんのおかげですね」 「ああ、ウルトラマンAのおかげ……あれ? なんでシエスタがウルトラマンAのこと知ってるの!?」 才人は、まさか正体がばれたのではと、内心冷や汗をかきながらシエスタに問いかけた。 「いやですね。才人さんとミス・ヴァリエールがそこかしこでウルトラマンAウルトラマンAって話し合っているじゃないですか、その名前、もう軍のほうで決まったんじゃないんですか? もう学院中の人がその話題でもちきりですよ」 そう言われて才人ははっとした。 そういえば最初の変身の後から今まで、やれ魔法を使わずにどうやったらあんなことができるのとか、あんたのとこにはあんな強いのがいっぱいいるのとか、 いろいろ場所を選ばず、控えめに言っても議論を交わすといったことをしていた気がする。 (噂千里を走るとは、昔の人はうまいことを言ったものだ) 彼はとりあえず正体がばれていなかったことにほっとしながら、ウルトラマンAにこの国の人が変な名前をつけなかったことにもほっとした。 「でも本当にウルトラマンAは私達の恩人です。街でも、いわく、王家が隠していた伝説の幻獣、いわくはるか東方の聖地よりやってきた正義の使者、はては始祖ブリメルの化身などなどすごい話題になってますよ」 街でもなの!? 才人はつくづく自分の軽率さを呪いたくなった。 これからはウルトラマンの話題はルイズとふたりだけの時にしようと、心に誓った。 シエスタは、妙に顔色が悪くなった才人を不思議に思いながらも、そんな才人さんもすてき、などと蓼食う虫も好き好きなことを考えていた。 そして、全部の洗濯物を洗い終わって洗濯籠を抱えあげたとき、当のルイズが現れた。 「ん? ルイズどうした、洗濯なら今日はこのとおり何事も無く終わったぜ」 「あ、そう。今日はおしおきの新バージョンを用意していたのに残念ね。って、違う違う、あんた忘れたの? 今日は虚無の曜日でしょうが」 「……ああ、そうか悪い悪い、すっかり忘れてたよ」 「ったく、記憶力の無い鳥頭なんだから、暗くなる前に帰るから急ぐわよ」 「了解っと、しまった、洗濯物が」 「サイトさん。私がやっておきますから急いでください」 「サンキュー、おみやげ買ってくるから待っててくれよ。おーい、待てよルイズ!!」 ルイズを追って才人の後姿が遠ざかっていく。 シエスタはふたり分になった洗濯物をよいしょと持ち上げると、その平和の重みをかみしめながら歩いていった。 一方そのころ、トリステインの王宮においても、先日の事後処理がようやく一段落付いて、国の重要人物を集めた会議が開かれようとしていた。 「やれやれ、こうも会議会議じゃ老骨にはこたえるのお」 その席の一角にオブザーバーとして招かれていた魔法学院のオスマン学院長がいた。 彼がいるのは防衛軍に少なからぬ数の生徒が志願兵としていることからであったが、貴族同士の会議に口を出すほどの権限は無い。 「皆さん、我々が半月前に現れた未知の侵略者、ヤプールの脅威にさらされているのはもはやハルケギニア全土に知れ渡った事実であります。 けれども我々は、総力を結集して対ヤプール軍を組織し、この脅威に対抗しようとしています。しかし、今回は新たに浮上した重要な案件について話し合うべく、集まっていただいた次第です」 枢機卿マザリーニが、会議の口火を切った。 ヤプールに次ぐ新たな課題、すなわち銀色の巨人、ウルトラマンAのことについてだ。 その正体については誰もはっきりとした答えを言えた者はいなかったが、その人知を超えた力については大いに彼らの興味を引いていた。 あの超獣ベロクロンでさえトリステインの誇っていた軍を敵ともせず、いかなる魔法攻撃にもびくともしなかったのに、あの巨人はその攻撃を易々と跳ね返し、その腕から放たれた光はその巨体を粉々に粉砕してしまった。 だが、議論すべき要点はそこでは無かった。 「こほん、皆さん。その問題はそのあたりでよろしいでしょう。結論として、我々では到底及ばない強大な力を有していることははっきりしています。肝心な問題は、あれが我々の敵か味方か、ということです」 枢機卿がそう宣言した瞬間、場の空気が変わった。 だが。 「無駄なことじゃのう」 と、水をかけたのは他ならぬオスマンだった。 「なんですと、オスマン殿、それはどういう意味ですかな?」 「敵なら我々はとっくに滅ぼされていますよ。それに、あの巨人、ウルトラマンAは我々を守るように現れたし、街にも民にも被害は与えずに飛び去った。第一、仮に敵だとして、超獣以上の力を持つ相手に打つ手などあるのですか?」 言われて見ればそのとおりである。 喧々轟々の議論を予想していたマザリーニにとっては意表を突かれた形だが、周りの貴族達も効果的な反論などはできずに、せいぜいオスマンの無礼を非難する程度であった。 もっともそれも、オスマンがあっさりと非礼を詫びたために貴族達もそれ以上の言及はできなかった。 「おほん、ではこれにて会議を終了いたします。方々にはそれぞれの領地の軍属の精鋭を防衛軍に派遣なさいますよう。 今のままの寄せ集めでは所詮急場しのぎですし、ヤプールが優先して狙うとしたら、ここしか無いでしょうからな」 会議は時間をかけた割には、わら半紙数枚分の密度の内容で終わった。 ただ、この会議からウルトラマンAの名が急激にトリステイン全体からハルケギニア全体へと広まっていくことになったことについては、意味があったと言えよう。 さて、ウルトラマンAのことで国が揺れているとは露知らず、当のルイズと才人は今、虚無の休日を利用して久しぶりに街に繰り出してきていた。 「相変わらず人が多いな。復興が順調だって証拠だ」 「当たり前よ。トリステインの人間はそうそう簡単に国を捨てるほど軟弱じゃないわ、むしろ復興のための資材を運ぶために普段より多いくらい。何度も言うようだけどスリには気をつけなさい」 「はいはい、ところで目的の武器屋はこの先だったよな。このあたりは被害が少なかったから無事だとは思うけど、開いてりゃいいな」 ふたりは路地裏へと入っていった。 目的はベロクロンの騒ぎのせいで買いそびれてお預けになっていた才人の剣の購入、そして目的の店は幸いにも以前と変わらない形でそこにあった。 「おや、これはこの間の貴族の旦那、お久しぶりでやんすね」 店の主人も以前と変わらなくそこにいた。 「失礼するわね。この店、もしかしたら踏み潰されてるんじゃないかと思ったけど、なかなかしぶとい様子ね」 「あっさり死ぬような奴はこの世界じゃやっていけませんやな。そいで、前回は顔見せしたとこで超獣のやろうが出てきてお流れになりましたけど、武器をご所望で?」 「私じゃないわ、使い魔よ」 ルイズはかたわらで物珍しげに武器を眺めている才人をあごで指した。 「へえ、最近は貴族の方々も下僕に武器を持たせるのがはやっておりましてね。毎度ありがたいこってす」 「貴族が武器を? そういえば以前来たときに比べて武器の数が減ってるわね。やっぱりヤプールのせい?」 「それもあります。今、国では壊滅した軍の再建のために武器の類が飛ぶように売れとりましてね。まあ、あまり役に立つとも思えませんが」 主人の言葉にルイズは少々不愉快になったが、言葉にすることはできなかった。 確かに、剣や槍を何万本揃えたところで、あの小山のような超獣に勝てるとは到底思えない。 「ですが、理由はもうひとつありましてね。最近このトリステインの城下町を盗賊が荒らしてまして」 「盗賊?」 「へえ、名前は『土くれ』のフーケって言いまして、貴族を専門にお宝を盗みまくる怪盗でしてね。あの超獣騒ぎで大人しくなるかもと思われたんですが、 むしろ騒ぎに乗じて派手に動くようになりましてね。貴族達も対抗しようにもヤプールのおかげでそれどころじゃないってんで、実質やりたい放題ですな」 「国が大変な時期だってのに、皆の足を引っ張るなんてひどい奴がいたものね」 ルイズは、国のために貴族も平民も必死になっている時に、そんなことをする奴が同じ国の中にいることに憤りを覚えた。 「まあまあ、それで貴族達も自衛のためにこうして武器を下僕にまで与えて身を守っているってことです」 主人は「ま、役に立ったという話はとんと聞きませんが」という一言を我慢して飲み込んだ。 そのとき、武器を物色していた才人が一本の長剣を持ってきた。 「サイト、気に入ったのでもあった?」 「ああ、おじさん、この剣はどうかな?」 才人はその剣を主人に見せたが、主人はだめだだめだというふうに首を横に振った。 「坊主、それはやめとけ、そいつは見た目切れそうに見えるが実際は重さと力を利用して敵を叩き潰す、いわばこん棒に近い武器だ、お前さんの細腕じゃ扱いこなすのは無理だ」 それは決して親切心からではなく、後で貴族にクレームをつけられることを恐れての忠告であったが真実であった。 才人はがっかりした様子でその剣を元に戻した。 「ちぇっ、なかなかかっこよさそうだったのに、残念だなあ」 実は、才人は特に考えた訳ではなく、その剣が少し日本刀に似ていたから手に取っただけであった。 だが、そのとき突然かたわらのガラクタの山の中から、調子のはずれた声がした。 「生言ってんじゃねーよ、坊主。おめーは自分の体格も理解してねーのか、そんなんじゃ武器を持っても即あの世行きがオチだ、そっちのガキんちょを連れてとっとと帰りな」 「なんだと!」 「誰がガキんちょですってぇ!!」 ふたりは悪口が飛んできた方向を見たが、そこには2足3文でしか売れないような数打ちのぼろ刀が並んでいるだけで人影は無かった。 「どこを見てるんだ。ここだここだ、目の前だよ」 なんとぼろ刀に混ざっていた一本のこれまた錆と汚れだらけの長剣が、カタカタとつばを鳴らしながらしゃべっている。 「これって、インテリジェンスソード? こんなところにあるなんて」 「なんだい、それ?」 「一言で言うと魔法で意思を持たせられた剣のことよ。でもそんなにありふれた物じゃなくて、私も見るのは初めてよ」 驚いているルイズをよそに、才人は好奇心のおもむくままに、そのしゃべる剣を手に取った。 「へえ、見た目は普通の剣と変わらないな。お前、名はなんつうんだ?」 「けっ、人に聞くときは自分から名乗るものだ……ん、まさか……おでれーた、お前『使い手』か」 「『使い手』?」 「なんだ、そんなことも知らねえのか。まあいい、これも何かの縁か、俺の名はデルフリンガー、お前はなんていう?」 「平賀才人、よろしくなデルフリンガー。ルイズ、俺こいつにするよ」 才人の意思決定にルイズは露骨に嫌そうな顔をした。 ぼろい、汚い、切れそうに無い、おまけにうるさいとルイズとしては気に入る要素が無かったからだが、結局は才人の。 「でもしゃべる剣なんて珍しいだろ」 の、一言でやむなく承諾した。 「感謝しなさいよ。使い魔のわがままを聞いてあげる主人なんて、普通いないんですからね」 それ以前に主人にわがままを言う使い魔自体が普通いないが。 「感謝してるよ。お前もそうだろデルフリンガー?」 「デルフでいいぜ、よろしくな譲ちゃん」 「譲ちゃんじゃないわよ! たかが私の使い魔の、そのまた下の剣の分際でなれなれしく呼ばないで、下僕らしくルイズ様とお呼びなさい!」 「へーへー、分かったよ譲ちゃん。ん? そういえばお前ら、さっきから妙に思ってたが変わった気配を放ってるな」 「えっ!?」 デルフの思わぬ言葉にルイズと才人は思わず固まってしまった。 「なんつーか、長年人を見続けてると気配を読むのがうまくなってな。なんというか、ふたりだけなのに3人に思えるような、それでいてふたりでひとりのような」 「なな、なに言ってるんだよ、そんなことあるわけ無いだろう!」 「そ、そうよ。何言ってるんだか、ずっとガラクタといっしょに居たからボケたんじゃないの!」 ふたりは慌ててそれを否定したが、冷や汗を流して言葉を震わせて言っても説得力がない。 「ま、そういうことにしといてやるよ」 デルフに顔があったらニヤリと笑ったに違いないだろう。 才人は、この新しくできた奇妙に鋭い同居人を選んでしまったことを少々後悔しはじめて、さらにそれ以上の殺気を送ってくるルイズに、今晩はメシ抜きかなあと思わざるを得なかった。 しかし、ヤプールの魔手は平和を取り戻そうとしている人々の願いとは裏腹に、闇の中から静かに動き始めていたのである。 その夜、月も天頂から傾きだすほどの深夜、とある貴族の屋敷から音も無く現れる人影があった。 長身で細身のようだが、黒いローブを頭からすっぽりとかぶって容姿は分からない。 だが、石畳の上をまったく音も立てずに歩む様は、それが常人ではありえないということを暗に語っていた。 「まったく、ちょろいもんだよ。貴族なんてのはどいつもこいつも、兵隊の数こそアホみたいに揃えてるくせに配置も甘いし居眠りしてる奴もいる。警戒してるつもりなんだろうけど、芸が無いったらないね」 そいつは少しだけ振り返ると、今出てきた貴族の屋敷を見てせせら笑った。 見上げた姿に、わずかに風が吹いてローブの下の顔が月明かりに晒される。なんとそれの正体は女性であった。 年のころは20から30、緑色の髪がわずかにこぼれて美しいが、整った顔には凄絶さが漂っている。 彼女こそが土くれのフーケ、トリステインを騒がせている怪盗その人である。 「まあ、この国のレベルも貴族の体たらくがこれじゃたいしたことは無いね。けど、まだ済まさないよ、忌々しい貴族ども……」 フーケはその腕の中に、今奪ってきたばかりの宝石類を握り締めながら、憎しみを込めた眼差しを貴族の屋敷に向けていた。 と、そのとき。 「復讐したいかね?」 「!! 誰だ」 突然背後からした声に、フーケはとっさにメイジの武器である杖を抜いて身構えた。 「ふふふ」 そこに立っていたのは、コートからマント、帽子にいたるまですべて黒尽くめで身を固めた一人の男だった。 年齢は壮齢と老齢の中間あたり、わずかにしわの刻まれた顔を歪めているが、目はまるで笑っていない。 (そんな、この私がまったく気配を感じられなかった!?) 自身も相当な場数を踏み、熟練の傭兵やメイジ相手にも渡り合えるだけの実力はあるはずだ、だがこの男が現れるのはまったく予期できなかった。 「何者かと聞いているんだ!?」 フーケは胸の動揺を抑えながらも、つとめて冷静に男に問いかけた。 「なに、怪しい者じゃ無い。ただ、君の願いをかなえてあげようと思って来たんだ」 「願い、だって?」 「そう、君は憎いのだろう? 貴族が、君からすべてを奪っていった者達が、だからこんなことをしている……だが、こんなものでいいのかい?」 「なに?」 「いくら秘宝を盗んだところで貴族からしてみれば微々たるもの、時が経てば埋め合わせされてしまう。それよりも、もっと深く、もっと血の凍るような恐怖を奴らに与えてやりたいとは思わないかね?」 「殺人鬼にでもなれって言うのか、寝言は寝て言いな!!」 男の言い口に怒りを覚えたフーケはすばやく呪文を唱え、杖を振るった。 たちまち男の周辺の地面が盛り上がって腕の形を取り、男をむんずとわしづかみにする。 「おやおや……」 「あたしはあんたみたいなのと関わってる暇は無いんだよ。死にな!!」 フーケが力を込めると土くれの腕が男を締め上げる。普通ならこれですぐさま圧死してしまうはずであった。 しかし。 「まったく、気の強いお嬢さんだ」 「ば、馬鹿な!?」 なんと男は鉄柱でさえ握りつぶしてしまうほどの圧力を込められながらも笑っていた。 そして、男が軽く腕に力を込めると、土くれの腕は内圧から粉々に砕け散った。 「くっ、化け物め!!」 フーケはとっさに目の前の地面に魔法をかけて砂埃を発生させ、そのまま踵を返して走り出した。 悟ったからだ、この男は普通じゃない、このままでは危険だと本能が警鐘を鳴らしていた。 だが、走り出そうとしたフーケは10歩も走らぬうちに立ち止まってしまった。 「な、なんだ、ここはどこだ!?」 なんと周囲の風景が一瞬のうちに変わっていた。赤や青の毒々しい空間が回りを包み、今まで居たはずの町並みも貴族の屋敷も何も見えない。 「無駄だよ。ここはもう私の世界だ、どこにも逃げ道などはありはしない」 「なにっ、ぐわっ!?」 振り向く間もなくフーケは男に首筋を捕まれて宙へ持ち上げられた。フーケは振りほどこうとしたが男の手はびくともしない。 (なんて力……いや、それよりなんだこいつの手の冷たさは!? まるで体の熱が全部持っていかれるみたいだ……) 「やれやれ、大人しくしていれば手荒なことはしなくてもよいのに。言っただろう、私は君の味方だ、もっとも私の場合は貴族だけではなくて、人間という種そのものが嫌いだがね」 (やっぱり、こいつ人間じゃない!?) 抵抗する力を失っていきながら、フーケははっきりと恐怖を感じ始めていた。 だが、それでも残った勇気を振り絞って彼女は言った。 「な、何者だ、お前は?」 「おや、そういえばまだ名乗っていなかったね。失礼、私の名はヤプール、いずれこの世界を破壊する者だ」 「ヤ、ヤプールだと!?」 フーケもその名を知らないわけが無い。突然現れてトリステインを壊滅寸前に追いやった侵略者。 彼女はその様子を他人事、むしろいい気味だと思って見ていたのだが、なぜそいつが自分のところへ来るのだ。 「そう、我々はこの世界を見つけて手に入れることにした。ベロクロンは君達の国を難なく滅ぼせるはずだったのだが、あいにくこの世界にも邪魔者がいてね」 「邪魔者だと? それって」 フーケの脳裏に、あのウルトラマンAと呼ばれている銀色の巨人の姿が浮かび上がった。 「そう、ウルトラマンA、我々の不倶戴天の敵さ。奴を倒さなければ我々はこのちっぽけな国さえも奪うことはできない。だがあいにく今我々にはAを倒せるほどの超獣を作り出せるほど余裕が無くてね。そこで君に協力してほしいのさ」 「協力? ふざけるんじゃないよ!!」 「だから代わりに君の願いも叶えてあげようというのさ。なに、君はこれまでどおり怪盗をしていればいい。君には新しい力と、強い味方をつけてあげよう」 ヤプールがそう言うと、その手のひらに小さな光と、続いて黒い霧のようなものが吹き出して、黒い蛇のような形をとった。 小さな光はフーケの肩に止まり、黒い蛇はフーケの首筋に巻きついてうれしそうに首を揺らしている。 「ふっふっふっ、そうか、そいつの心の闇は気に入ったか」 「な、何をする気だ?」 フーケは恐怖に怯えながらもかろうじてそう言ったが、ヤプールはおぞましげな笑いを浮かべると冷酷に黒い蛇に命令した。 「さあ、乗り移れ、ガディバ」 「ひっ!! やっ、やめろぉーーっ!! わぁぁぁーーっ!!」 異次元空間にフーケの絶叫とヤプールの哄笑が響いた。しかし、誰もそれを聞いていた者はいない。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9332.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百三話「ゼロ最大のピンチ!変身!ウルトラマン80」 暗殺宇宙人ナックル星人グレイ 夢幻魔獣インキュラス 夢幻神獣魔デウス 超怪獣スーパーグランドキング 登場 さらわれた才人を救い出すため、リシュの支配する夢の世界への侵入を行ったルイズ。 リシュの力は想像以上に強大であったが、デルフリンガーや夢のクラスメイトたちの激励により 奮起したルイズは、遂にリシュの力を覆して才人の心を取り戻すことに成功した。しかしそこで 知ったのは、リシュの悲しい身の上だった。このままリシュを封印して終わりでいいのか……。 悩むルイズたちであったが、事態は風雲急を告げる。リシュに協力していたナックル星人が 本性を現し、インキュラスを使ってリシュを捕らえたのだ。ナックル星人の目的とは、彼女の力を 利用して最強最悪の怪獣軍団を作り出すことだった! 現れた魔デウスの能力により、その時は 刻一刻と迫る。だがリシュを人質に取られた才人は変身することが出来ない。ゼロ最大のピンチ! その時に立ち上がったのは、夢の世界での彼らの担任、『矢的猛』。しかしてその正体は、 才人の願望をリシュが知らず知らずの内に叶えたことで、宇宙を越えて夢の世界に巻き込まれた 矢的猛=ウルトラマン80本人であった! 80はリシュを救うために立ち上がる! 「シュワッ!」 ナックル星人の不意を突いて変身を遂げたウルトラマン80は、唖然として立ち尽くしている インキュラスに素早く接近。リシュを掴む腕の手首に鋭いチョップを振り下ろした。 「グウウウウ……!」 突然の攻撃にインキュラスは耐えられず悶絶。その隙を突いて、80はリシュを奪い返して 飛びすさり、才人たちの元へリシュを下ろした。 「あッ……」 「リシュ!」 才人らはすぐさまリシュの周りを取り囲んで、彼女を保護。危ないところを救い出された リシュは呆然と80の顔を見上げる。80は優しい雰囲気で彼女にうなずき返した。 「グウウウウ……!」 その時、インキュラスが背後から80に襲いかかる! 「ヤマト先生、危ない!」 思わず叫ぶリシュだが、そうするまでもなく80はインキュラスの攻撃を察していた。 相手が間合いに入ってきた瞬間に後ろ蹴りを浴びせ、返り討ちにする。 それから80は校舎から離れ、リシュたちが戦いに巻き込まれない距離を取った。 『な、何てことなのぉ~! まさかこの夢の世界に、他のウルトラマンがいただなんてぇ~!』 ナックル星人は80という全くのイレギュラーによって己の計算が丸々打ち崩されたことに 頭を抱える。そこに才人はゼロアイ・ガンモードを突きつけた。 「降参して怪獣を退かせろ! もうお前の陰謀は終わりだッ!」 投降を命ずるが、ナックル星人は往生際が悪かった。 『なめるんじゃないわよ、小僧! 戦わずして諦めたら、ナックル星人の名が廃るわ!』 「ああそうかい! じゃ、覚悟はいいんだな!?」 才人はナックル星人の足元に光弾を撃ち込んで牽制。 『キャアァッ! あ、危ないッ! あッ、いやぁぁんッ!』 気色悪い悲鳴を上げて逃げ回るナックル星人だが、背後のフェンスに気づかずに後ずさろうとして、 勢いのままフェンスを乗り越えてしまった。 『あぁッ!? あぁぁぁぁ~れぇぇぇぇぇぇぇぇ~!!』 ナックル星人はそのまま屋上から真っ逆さまに転落していった。才人は銃撃の手を止める。 主人のナックル星人の姿が消えても、インキュラスは戦いの手を止めない。鈍器のように 太い腕を振り上げ、80に格闘戦を挑む。インキュラスは人型に近い体型もあって、格闘戦を 得意とする強力な怪獣だ。 だが、80はバッバッと風を切る音が発せられるほどの速い身のこなしにより、インキュラスの反撃を 許さずに叩きのめしていく。水平チョップが相手の側頭を打ち、すくい投げで百八十度ひっくり返して 地面に叩きつけ、おまけに後ろ回し蹴りがインキュラスを大きく吹っ飛ばした。 「グウウウウ……!」 インキュラスはきりもみ回転しながら激しく転倒。80のあまりの攻撃スピードに、まるで ついていくことが出来なかった。 普段は柔和な物腰の80だが、その胸の内には熱く燃える闘志と勇気がたぎっている。いざ戦いに なると、彼は背にしているものを守り抜く凄腕の戦士となるのだ! 「す、すごい実力……!」 「いいぞー! 先せーい!!」 ルイズとリシュは80の強さに目を見張って驚き、80の教え子たちは口をそろえて歓声を上げた。 このままインキュラスを完封するものかと思われたが、しかし、そう上手くは戦いは運ばなかった。 それまで沈黙を守っていた魔デウスだが、80を外敵と見なしたのか、卵型の姿からブーメラン状の 形態に変身し、ぐるぐる回転しながら80へ体当たりをしていく。 その飛行速度は、80のスピードにも迫るほどであった! 「ウッ!」 強烈な体当たりを真正面から食らい、さしもの80も弾き飛ばされる。 「あぁッ! 矢的先生!」 色めく教え子たち。それでも80はすぐに立ち上がり、まっすぐ伸ばした両腕を飛行する 魔デウスに向け、螺旋状のレーザーを発射した。ウルトラスパイラルビーム! しかし魔デウスはスパイラルビームを身体全体で吸収し、ダメージを受けない。それどころか エネルギー光線として80に撃ち返した! 「ウワァッ!」 自身の攻撃の威力をそのまま反射され、80もたまらず地面に投げ出された。伝説の怪獣とまで 呼ばれるほどはあり、魔デウスの能力は恐ろしいものであった。 「グウウウウ……!」 更に80にボコボコにされていたインキュラスが戦闘に復帰。怪しいオーロラのカーテンを放つと、 起き上がった80をその中に閉じ込めてしまう。 脱出を図る80だが、オーロラの檻は触れるだけで80にダメージを与え、破ることが出来ない! 「ウゥッ!」 「80が危ないわ! サイト!」 「おっしゃ!」 二大怪獣によって窮地に陥る80の加勢に入ろうと、才人は勇んでゼロアイを装着しようとする。 しかし、それを80の教え子たちに止められた。 「いや、先生はまだ大丈夫さ。俺たちの先生は、あれしきのことでへこたれたりはしないんだ!」 「えッ?」 才人らが目を丸くして振り返ると、教え子たちは80を見上げる瞳を輝かせながら口々に言う。 「先生はとても強かった! その戦う背中はいつだって、僕たちに愛と勇気を教えてくれた!」 「誰かを守るために戦う先生は、負けたことなんか一度もなかった!」 「勇敢に戦う姿で、不登校児だった僕の心を開いた!」 「俺の失恋の悲しみの塊を晴らしてくれた!」 「ある時は親子怪獣のために、自ら悪役を買って出る優しさも見せた!」 「自分が宇宙人だと現実逃避してた僕の弱さを正してくれた!」 「悪気のない騒音怪獣を倒さずに宇宙に帰してあげたりな!」 「あたしたちみんな、先生から大事なものをいっぱい学んだのよ!」 博士、落語、塚本、中野、スーパー、大島、岡島、ファッションが語り、集った教え子全員で 80を応援する。 「先せーい! がんばれー!!」 果たして80の愛した彼らの声は、80自身の何にも代えがたい力となったのだ! 80は背筋を伸ばして持ち直し、左腕を天高く、右腕を真横に伸ばしたL字のポーズを取る。 これは80が彼の超能力を発揮する際に取る体勢であり、逆転のポーズなのだ。 80はそのまま一回転すると同時に、腕から次元エネルギーを照射。それがインキュラスの 放ったオーロラの檻を消滅させる! 「グウウウウ……!?」 自身の力が破られたことに動揺するインキュラス。80はそこに伸ばした手先からの光線、 ウルトラショットを撃ち込む。 「グウウウウ……!」 ウルトラショットが頭頂部に命中し、インキュラスはたまらずに倒れ込み、昏倒。その間に80は 魔デウスの方を相手取る。しかし魔デウスには光線技が全く通用しない。ウルトラ戦士の大きな長所を 丸々一つ潰す脅威の能力を持つ敵に、80はどう戦うつもりなのか。 すると80はその場でバク転したかと思うと、空中で膝を抱えて丸まった体勢で高速回転。 そしてボールのようになった状態で飛び回り、魔デウスに肉薄していった! これぞ秘技、ダイナマイトボール作戦! 「うわぁッ!」 まさかそうするとは思わなかったルイズたちは、驚嘆の声を発した。 回転しながら空中を縦横無尽に飛び回る80と、魔デウスが何度も衝突。その結果は、魔デウスが ぐらついてスピードを落とす形となった。 「タァーッ!」 この絶好のチャンスを逃す80ではない。ダイナマイトボールを解くと更に一回転して、 片足の先にエネルギーを集中した飛び蹴りを仕掛ける! 必殺、ムーンサルトキック! 80の一撃をもらった魔デウスは、卵型の状態に戻って林の真ん中に墜落したのであった。 「やったぁーッ!」 80の教え子たちが沸き立つ。着地した80は、ちょうど起き上がったインキュラスの方へと振り返る。 「グウウウウ……!」 インキュラスは最早自棄になって80へ遮二無二突撃していくが、80は再びL字のポーズを取ると、 ワイドゼロショットのように腕を組み直して必殺光線を放った! 80の十八番、サクシウム光線だ! 「グウウウウ……!!」 サクシウム光線の直撃を受けてもがき苦しむインキュラスの全身から、フラッシュが焚かれる。 その直後に跡形もなく爆散! 「勝った! 80の勝利だわ!」 「わぁぁぁぁぁ―――――――――! 先せぇぇいッ!!」 見事な80の大勝利。はしゃぐルイズに安堵する才人。教え子たちは、今は大人の姿になっているが、 この瞬間はありし日の……80の地球滞在時の活躍を見守り、応援していた子供時代のように喝采を 上げたのだった。 「ヤマト先生……!」 リシュもまた、80の勝利に映える立ち姿をほれぼれと見上げた。 ――しかし、勝利の喜びに水を差す笑い声がどこからか発せられる。 『オ―――――ホッホッホッホッホッ!』 「! この声、ナックル星人! どこだッ!」 ナックル星人の笑い声だと気づいた才人が周囲を見回した。 「あッ! あそこ! あの卵怪獣のところよ!」 ルイズが指し示した先、墜落した魔デウスの上に、ナックル星人は浮遊していた。ジュリ扇を はためかせて、才人たちや80に言い放つ。 『ものの見事にやってくれたわねぇ、あんたたち。お陰で大分作戦が狂ったわ。けど残念! この魔デウスを呼び出した時点で、最低限の部分はクリアしたのよ!』 「何だって!?」 驚きの声を上げ、身体を強張らせる才人たち、そして80。 『サキュバスの小娘の能力がないからには、魔デウスの力の全ては制御し切れなくなったけれど…… こうすることで、アタシは最強の力を手に入れるわぁッ!』 ナックル星人の全身が不気味なオーラに包まれたかと思うと……一直線に魔デウスへと飛び込んだ! 『はぁぁぁぁぁぁ――――――――――ッ!』 「な、何を!?」 ナックル星人が魔デウスの表面に吸い込まれていった。そして……魔デウスが突然、本物の 卵よろしくバックリと二つに割れた! その中から、巨人のウルトラマン80をも超越する大型怪獣が地響きを立てて出現する! 「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」 鋭く凶悪な目つきと面構え。両手は巨大なクローとなっていて、シャベルのようにも見える。 背には内に反った突起がいくつも並ぶ。生物ではあるが同時に機械のようにも見える巨躯。 それから発せられる咆哮は大気を揺るがし、才人たちの肌をビリビリと震わせた。 「あ、あいつは……!」 「すさまじいプレッシャー……!」 ルイズは怪獣の全身から放たれる威圧感だけで、新たな怪獣が普通のとはひと味もふた味も 異なる恐ろしいものだと感じ取った。 怪獣の内部に満ちた闇の空間に、精神体と化したナックル星人が宿り、高笑いを上げた。 『オホホホホホホホ! これぞかつて闇の宇宙の帝王が生み出し、ウルトラ兄弟を追いつめるほどの 力を見せつけた超怪獣グランドキング! それを更にパワーアップさせたものよぉ! このグランドキングと アタシは一体となった! 怪獣軍団がなくとも、この超パワーがあれば世界を滅ぼすには十分! そして 現実世界へと繰り出し、世界を征服してやるわぁーッ!!』 ナックル星人の恐ろしい野望。スーパーグランドキングとでも呼ぶべき怪獣の姿となり、 ハルケギニアを滅ぼそうというのだ! あんな大怪獣が現実世界に出てしまえば、未曽有の 大被害は免れないだろう。 「そんなことさせるもんか!」 『才人、いよいよ俺たちも行くぜッ!』 あれほどの敵を、80一人には任せていられない。才人は変身の姿勢を見せるが、その前に ルイズに呼びかけた。 「ルイズ、デルフを俺に!」 「ええ!」 携帯端末の姿を才人へ渡すルイズ。今はこんなナリでも、ともにあれば変わることがきっとある。 「よし、行くぞ! デュワッ!」 そして才人はゼロアイを装着し、ウルトラマンゼロへと変身を遂げた! 80の隣、グランドキングの 正面に降り立つゼロ! 『待たせたな。テメェの野望はこのウルトラマンゼロが許さねぇぜ、ナックル星人!』 『誰も待ってなんかないわよッ! お邪魔虫め!』 ナックル星人が文句を放ったが、ゼロはお構いなしだ。 『よろしく頼むぜ、80先輩! 一緒にハルケギニアと、俺たちの後ろにいるみんなを守ろうぜ!』 『ああ! ともに戦おう、ゼロ!』 並び立ったゼロと80、二人の勇者。彼らは呼吸を合わせ、強大な悪へ敢然と立ち向かっていく! 『でぇりゃあああぁぁぁぁぁぁぁッ!』 二人のウルトラマンがグランドキングに肉薄し、ウルトラパンチを浴びせる! 『やったわねぇ、ちょこざいな! けど、グランドキングにちょっとやそっとの攻撃は通用しないわよぉッ!』 「グワアアアァァァァァァァァ!!」 だがゼロと80の、二人の一流戦士の攻撃を受けて、グランドキングにさしたるダメージはなかった。 そのあまりもの巨体は、防御力も相応するものなのだ! グランドキングは逆にクローでゼロたちを殴り飛ばした。 「ウッ!」 『うおぉぉッ!』 どうにか踏みとどまったゼロと80は、打撃は効果が薄いと見て、相手の両腕に飛びつき 抑え込もうとする。 『おおおおおおおおおッ!』 ゼロたちは超怪力を振るってグランドキングを押していき、校舎から引き離していく。が、 『ええいッ! 鬱陶しい!』 グランドキングが腕を振り回すと、二人とも軽々と弾き飛ばされた。 「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」 「ウワァッ!」 『ぐぅッ!』 人間をはるかに超越した力を持っているはずのウルトラマンを、まるで子供扱いだ! ルイズたちはグランドキングの恐るべき戦闘力を実感した。 『何の、まだまだ! こいつでどうだぁぁぁッ!』 ゼロのワイドゼロショット、80のサクシウム光線が同時に発射され、グランドキングに クリーンヒット! 激しい爆発が起こる! 「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」 ……しかし、必殺光線同時撃ちでも、グランドキングに効いている様子はなかった! 『何だと!?』 目を見張るゼロ。大怪獣であることは分かっていたが、まさか合体光線が全然通用しないとは。 かつてグランドキングと交戦したゾフィーからタロウまでのウルトラ六兄弟が大苦戦を強いられたと いう話もうなずけるというものだ。 『オーホホホホホホホホッ! 無駄よ、無駄ぁッ! 最早アタシの力はあんたたちウルトラ戦士も 凌駕したわ! あんたたちはもう、グランドキングに叩き潰されるだけの存在と化したのよッ!』 圧倒的な武力を背景に、いい気になって勝ち誇るナックル星人。追いつめられるゼロたちの様子に、 ルイズもリシュも、80の教え子たちでさえ不安の表情となる。 だが、こんな脅しには、今のゼロは屈したりなどしなかった。 『そいつはどうかな!』 『何ですってぇ!?』 『確かにそいつは強えぇぜ。とんでもねぇ闇のパワーだ。けどな……俺たちにはもっと素晴らしい 光のパワーがある! それはお前の一人きりの孤独な力とは違う……心と心の絆の力だ!!』 そう言って、ゼロは己の内の才人に呼びかけた。 『そうだろう、才人!』 『ああ! 数え切れない苦難を乗り越えてつないだ俺たちの絆の光、見せてやろうぜ!』 『相棒たち、俺もいるぜ! 俺はお前たちの剣! 力になるなら俺の他にいるもんかい!』 ゼロと才人とデルフリンガー、三人の心が一体となって、闇を打ち払う光となる! 『よぉし! 見せてやるぜ、ナックル星人! 俺たちの光を! たくさんの人の希望が形となった…… この奇跡の鎧をッ!』 ゼロが左腕を掲げると、ウルティメイトブレスレットが激しく発光! そして拡大していき、 鎧となってゼロの身体を包んだ! ウルティメイトイージスの完成! しかも今回は、それだけに留まらない! 『おッ、今度は剣だけじゃなく鎧にまで俺は宿ってんのかい。へへッ、それも悪かねえな!』 イージスからデルフリンガーの声が発せられた。そう、ゼロツインソードの時のように、 デルフリンガーの意識をイージスに宿らせてより力を上げた、ウルティメイトイージスDSと したのであった! 才人が大きな試練を乗り越え、心の光が以前よりも一層強まったことで、 この新たなるステージへと到達したのである。 『ナックル星人! テメェの悪事なんざ、二万年早いってことを俺たちが教えてやるぜぇッ!』 三人の心を一つにしたウルティメイトゼロが、巨大な闇の力を迎え撃つ! 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4842.html
前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 8話 ダイナミック・ヒーロー! 宇宙有翼怪獣アリゲラ ウルトラマンダイナ 登場!! 西暦2017年代 地球最大の危機、邪神ガタノゾーアの危機を乗り越えた人類は、その夢見る心のままに大宇宙へと歩を進めるネオ・フロンティア時代を迎えていた。 だが、突如宇宙から人類を狙う謎の敵、スフィアが地球に来襲、地球平和連合TPCはチーム・スーパーGUTSでこれに対抗した。 彼らは、人類の前に姿を現したティガに続く二人目の光の巨人とともに、地球の平和を守り抜いていった。 しかし、遂に姿を現した究極の敵、暗黒惑星グランスフィアの前に冥王星をはじめとする太陽系の惑星は次々と飲み込まれていく。 これに対し、スーパーGUTSは封印された兵器、ネオマキシマ砲での最終決戦を挑む。 そして、彼らは勝利した。ただし、その代償として光の巨人はグランスフィアの生み出したブラックホールの中へと消え、消息を絶った。 だが、彼は死んではいなかったのだ!! 「光の……巨人」 誰も知らない深い森の奥で、真紅の巨大な飛竜の前に銀色の体に金色と赤と青をあしらった巨人が立ちふさがっていた。 その名はダイナ、かつて異世界の平和を守りぬいた二人目の光の巨人。 「デュワッ!!」 ダイナは森の中に立ち、甲高いうなり声を上げてくる怪獣に構えをとった。 その怪獣はゴツゴツと角ばったワイバーンのような体から生えた、まるで鉈のような翼を広げ、背中のジェット噴射口から炎を吹き出して飛び立った。 怪獣の名はアリゲラ、異世界で時空波に導かれてウルトラマンメビウスと戦った宇宙怪獣の同族。 「シャッ!!」 ダイナも跳んだ。向かってくるアリゲラに右足を向けてのジャンプキックだ。 激突! アリゲラの右肩から火花が飛び、その巨体が森の中に滑り込んでいく。 「おおっ!!」 地上からその様子を眺めていたオスマンは、アリゲラが倒れたのを見て思わず歓声を上げた。 だが、アリゲラは倒れたままその尾の先をダイナに向けると、そこから真っ赤な火炎弾を放った。 「危ない!!」 「シュワッ!!」 思わず叫んだオスマンの目の前でダイナは両手をまるで押し出すように前方にかざすと、そこに薄く輝く光の幕が現れた。 『ウルトラバリヤー!!』 火炎弾はバリヤーに当たると粉々に砕け散った。 オスマンはその光景を唖然として眺めていた。ファイヤーボールにしたら1000発分には匹敵しよう火炎弾を巨人は軽々跳ね返したのだ。 しかし、驚くのはまだ早かった。 ダイナが両手を十字に組むと、その右手からまばゆい光の束がほとばしる。 『ソルジェント光線!!』 輝く光の奔流がアリゲラを襲い、右肩から胴体までの外骨格を爆砕した。 アリゲラはガラスを引っ掻くような鳴き声をあげて苦しんだ。しかし強靭な生命力を発揮してまだ戦意を失っていない。噴煙の中から炎を吹き上げて、空へと飛び上がっていく。 「ヘヤッ!!」 ダイナは2発目のソルジェント光線を放つが、マッハで飛ぶアリゲラには当たらない。 アリゲラはそのまま急降下するとダイナに体当たりを仕掛けてきた。 「グワァッ!!」 超音速の体当たりにはさしものダイナも持ちこたえきれずに吹っ飛ばされてしまった。 アリゲラはその後Uターンして、起き上がったダイナの背中へと再び激突した。 「グワァァ!」 地響きを立てて地面に崩れ落ちるダイナ、そのときダイナの胸のカラータイマーが赤く点滅し始めた。 「頑張れ!」 オスマンは固く拳を握り締めて名も知らぬ巨人の苦境を見守っていた。 そしてダイナはその声が届いたのか、ひざを突きながらもゆっくりと立ち上がった。 アリゲラはよろめくダイナに安心したのか今度は真正面から突っ込んでくる。マッハ3、いや4、ものすごいスピードだ!! 「デヤッ!!」 だがダイナはまっすぐアリゲラに立ち向かう。 「危ない、避けるんだ!」 このまま直撃されたら今度こそ危ない。しかしダイナはまったく避けようとはしない。 正対するアリゲラとダイナ、もう両者とも避ける隙はない。 そのときだった。ダイナの額が眩く輝いたかと思うと、その身が一瞬にして燃えるような真紅に包まれた。 『ウルトラマンダイナ・ストロングタイプ!!』 赤いダイナはアリゲラの突進を正面からがっちりと受け止めた。 「ヌォォォッ!!」 突進の勢いで大地をガリガリと削りながらもダイナはアリゲラを離さない。そして100メイルほどすべったところでアリゲラの突進は完全に止まった。 さらにダイナはアリゲラの首根っこを掴んで、その巨体をハンマー投げの様に振り回した。 『バルカンスウィング!!』 回る回る、アリゲラの巨体がまるでプロペラのようだ。さらに、1万1千tの体重がもたらす遠心力によってアリゲラの体は千切れんばかりのGに襲われる。 そして思うさまにぶん回した後、ダイナはアリゲラの体を大地に思いっきり放り投げた。 「ダァァッ!!」 地響きとともに7、80本の木をへし折ってアリゲラは大地に叩きつけられる。 さらにダイナはフラフラと起き上がったアリゲラに強烈なストレートパンチをお見舞、残った左肩の砲口も叩き潰される。 「赤い巨人は、力の戦士……」 今のダイナの前には強固な外骨格も何の役にも立たず、もはやアリゲラには武器も戦意も残ってはいない。 そして、ついに敵わぬと悟ったアリゲラは、残った力を振り絞って空へと飛び上がった。 「デヤッ!!」 逃げるアリゲラを見据えながら、ダイナは胸の前で拳を突合せた。 するとダイナのカラータイマーを中心にエネルギーが集まって巨大な火球と化していく。 「ダァァァッ、シュワッ!!」 ダイナの半身を覆い尽くすほどに火球は巨大化した、そしてダイナはそれをアリゲラに向けて一気に押し出す。 『ガルネイトボンバー!!』 火球はアリゲラに向けて一直線に飛び、飛ぶのがやっとのアリゲラにはそれを避ける力はもはやない。 直撃、開放されたエネルギーの奔流がアリゲラを焼き尽くす。一瞬後、アリゲラは断末魔の遠吠えを残し、大爆発を起こして粉微塵に吹き飛んだ。 「やった!」 「シュワッ!」 オスマンとダイナは、共にガッツポーズを決めた。 そしてダイナは腕を下ろすと仁王立ちのポーズをとった。 「ダッ!!」 ダイナの体が一瞬輝いたと思うと、その体が光の粒子へと変わって小さくなっていき、やがて元の人間の姿へと戻っていった。 「じいさん、無事だったか」 彼は駆け戻ってくるなり、先程までの戦いがうそのようなまばゆい笑顔でそう言った。 「あ、大丈夫じゃとも、それよりおぬしこそ大丈夫なのか? あれだけやられたのに」 そのあまりにまっすぐな瞳にオスマンも警戒心を解かれて問い返した。 「え、ああ見られちまってたか。まあ、この世界ならいいか……なんてことはないよ、いつものことさ」 「いつものことって! おぬしはいつもあんな化け物と戦っておるのか!? 君はいったい何者なんじゃ?」 すると彼はニッと笑って。 「いや、名乗るほどの者じゃないさ……って、一度言ってみたかったんだよねー。俺はアスカ、スーパーGUTSのアスカ・シンさ。あー、と、言ってもわからねえか……」 「スーパー……ガッツ? いや、ともかく君はアスカ君というのだね。わしはオスマンという。あの巨人の姿は……いやいや、そんなことはよいか、ともかく君はわしの命の恩人じゃ、本当にありがとう」 「いいってことよ。それに、ウルトラマンダイナのことは正直俺もよくは知らねんだ。それよりも、またあんなのが来る前に、急いで帰ったほうがいいぜ」 見ると、そろそろ日の光が赤みを帯びてくるような時刻だ。 「ああ、本当にありがとう。それで、よかったらわしのうちに来てはもらえんかね? せめてもの礼がしたいんじゃ」 だが、アスカは残念そうな顔をして首を横に振った。 「悪いけど、俺も急いで国に帰らないといけないんだ。仲間が待ってるからな」 「国にって、とても遠いのじゃろう、あてはあるのか?」 「正直あんま自信はない。ただ、必ず帰るって約束したんだ。俺は約束は絶対破らない。だから、俺はずっと前に進み続ける」 そう言って、空の果てにあるという彼の故郷を見つめるその視線には一点の迷いも無かった。 「わかった。そういうことなら止めはせん。旅の無事を祈ってるよ」 「ああ、じいさんも元気でな」 オスマンは名残惜しさを振り切って別れようとした。だがそのとき自分の杖がどこかに行ってしまっていたのに気がついた。 「しまった、わしの杖……弱ったのう、あれがないと」 メイジの使える魔法はとても便利だが、反面杖が無いとその一切が使えないという欠点もある。 多分戦いのさなかに怪獣の巻き起こした突風で飛ばされたのだろうが、この深い森の中を探すのはちと困難だった。 「なんだ、うっかりしてるなあ。この森を丸腰で帰るのは厳しいぜ……しょうがない、これ持っていけよ」 アスカはそう言って腰の銃をオスマンに差し出した。 「い、いかんいかん、そんなもの受け取るわけには、それに君はどうするのだね?」 「俺は平気さ。そいつの使い方はこっちの銃とたいして変わらないからわかるよな。まだエネルギーは十分残ってるはずだ。じゃあ、元気でなじいさん!」 「あ、待ってくれ! 君はいったいどこへ行くつもりじゃ!」 「さあな、けどまたいつか会おうぜ!」 アスカは大きく手を振りながら、森の奥へと消えていった。 「アスカ……ウルトラマンダイナ……」 オスマンは、その手に残った銃を握り締めながら、彼の去っていった森の奥をいつまでも見つめていた。 そして現代、昔話を語り終えたオスマンは、椅子に座りなおすと才人とルイズに視線を戻した。 「それが、30年前にわしが体験したことの全てじゃ。あんなまっすぐな目をした若者をわしはこれまで見たことはない。 その後わしはこの銃で身を守りながらなんとか学院へ帰ってきた。 銃はそのときもまだ使えたが、下手な魔法よりはるかに危険なために『破壊の光』と名づけて封印したんじゃ」 「エース以前にも、ウルトラマンがハルケギニアに来ていたのか」 (だけど、ダイナなんて名前のウルトラマンは聞いたことないぞ。エース、あなたは知ってますか?) 才人は、自らのなかに眠っているエースへ向けて呼びかけた。 普段エースはふたりの傷の治療もあって、ふたりの心の奥深くでじっとしているが、ふたりが同時に強く願えば答えてくれる。 (いや、私も聞いたことがない。しかし、学院長の話を聞く限りでは彼もまた異世界から来たのは間違いない) (どういうことよサイト、ウルトラマンはあなたの世界の戦士なんじゃなかったの?) ルイズもエースごしにテレパシーで才人に聞き返してきた。エースが表に出てきているときだけの特典だ。 (そう言われてもなあ。ダイナってウルトラマンもそうだが、スーパーガッツなんてチームも聞いたことがない……) (なによそれ、あんたがわかんなきゃわたしが分かるわけないでしょうが、この犬) そう言われても分からないものは分からない。才人が困っているとエースが助け舟を出してくれた。 (考えられる可能性としたら、パラレルワールドというやつだろうな) (パラレルワールド?) (このハルケギニアと地球、ヤプールの異次元世界があるように、ほかにも私たち光の国の住人とは違う、 ウルトラマンのいる世界があるのかもしれない。もしかしたらハルケギニアはそうした世界の境界が薄い世界なのかも) それはかつてのTAC隊員北斗星司としての経験と知識から導かれた仮説だった。 単純に異次元世界とは言っても、ヤプールの異次元世界のほかにも、四次元怪獣ブルトンや異次元宇宙人イカルス星人の異次元はそれぞれまったく別のものだ。 (と、いうことは、あなたやそのダイナ以外にもウルトラマンが現れる可能性があるってこと?) (可能性はあるだろうな) (おお! ウルトラ兄弟以外のウルトラマン!? そりゃ燃えるぜ!) (なに喜んでるのよ、このバカ犬!) と、テレパシーで話し合っているが一応表面上は静かなものだ。 「それで、そのアスカって人はその後どうしたかわかりますか?」 才人はとりあえずオスマンにそう聞いてみた。 「うむ……わしもその後これを返そうと四方手を尽くして探してみたのじゃが、とうとう見つけることができなかった。 あれほどの力を持つのじゃから、もしものことはないと思うが、おそらくは彼の国へと帰ったのじゃとわしは思う」 「そうですか、これでなんとか元の世界への手がかりが見つかるかと思ったのですが」 地球への手がかりが見つかるかと思っていた才人はがっくりと肩を落とした。 もしハルケギニアがどこかの星ならウルトラマンAなら飛んで帰ることは簡単だが、星空にはエースの知っている星は地球とM78星雲を含めてひとつも無かった。 ダイナがどういう世界から来たのかは分からないが、帰れたにせよ帰れなかったにせよ、もうこの星にはいないだろう。 するとオスマンは、何かを考え込むような仕草を一瞬見せた後、才人の目を見据えて驚くべきことを言った。 「君は、ミス・ヴァリエールの召喚でここへ来たのだったね。すると君もまた異世界の住人なのだろう、ウルトラマンA」 「え!?」 「え、い、サイトがエース、な、なんてそんなわけないじゃないですか!」 突然のオスマンの指摘にふたりは驚いた。しかし才人はまだしもルイズはごまかしが下手すぎる。 「やはりの、エースが現れて消えるまで、ずっと君達ふたりだけがいないままで、エースが消えたとたんに戻ってきた」 もはやごまかしようも無かった。 才人とルイズは仕方ないと自分達とエースの関係を簡単に説明した。 「なるほど、君達そのものがウルトラマンなのではなく、その体を貸しているだけというわけか」 「あの、学院長、このことは」 「わかっておる。誰にも言いはしない、かつてダイナに救われたようにエースはわしの恩人じゃ」 オスマンはにっこりと笑って見せ、才人とルイズもほっと胸をなでおろした。 それを見たオスマンは、一回咳払いをして呼吸を整えると、また才人に向かって話しかけた。 「それから、もうひとつ伝えておくことがある。サイト君、君の左手のルーンについてじゃ」 「俺の?」 「うむ、それはガンダールヴ、伝説の使い魔のルーンじゃ。伝承ではあらゆる『武器』を使いこなしたと言われている。君にも心当たりがあるのではないか?」 「ええ、まあ……」 才人は、その質問には適当にお茶を濁しておいた。 ギーシュとの決闘からホタルンガに斬りかかったときまで心当たりは大有りだったが、それよりもやはりこのルーンがエースにも影響を与えたのだということを、改めて確信していた。 (たかが使い魔のルーンがウルトラマンに影響を与えるとは、まあプラスなんだから別に悪くは無いか) 疑問はまだ残っていたが、元々ひとつのことをいつまでも深刻に考える性質ではなかったので、才人はガンダールヴのことを「まあいいか」で済ませた。 「ともかく、その『破壊の光』はここではとても危険なものです。二度と盗まれないように厳重に保管してください」 この世界に来てからいくつかの攻撃魔法を見てきたが、単純な破壊力だけでなく、射程、使いやすさ、奇襲性など汎用性で 『破壊の光』は完全にそれらを上回っている。悪用されたとしたらトライアングルクラスとやらでもまず止められまい。 そのことを承知している才人は、オスマンに強く訴えた。しかしオスマンの返答はまったく予想外なものだった。 「いや、この武器はサイト君、君が持つべきだろう」 「えっ!? な、なんですって」 30年間守ってきた恩人の宝を譲る。信じられないオスマンの言葉に才人は仰天し、ルイズはまっこうから反対した。 「オールド・オスマン! この犬! い、いや使い魔に学院の秘宝をなんて!」 「ミス・ヴァリエール、わしではこれは扱いきれん。しかしウルトラマンであり、ガンダールヴである彼ならこれを正しく使ってくれるじゃろう。 受け取ってくれサイト君、そしてミス・ヴァリエールととともに、ハルケギニアを守ってほしい」 最後にオスマンは深々と頭を下げた。 ルイズは、こんなのに頭を下げる必要はないですと慌てているが、才人はオスマンの態度が真剣であることを感じて、無言で『破壊の光』を手に取った。 すると、彼の左手のルーンが光り、『破壊の光』の使い方やその他の細やかな情報が頭の中に流れ込んできた。 「ガッツブラスター……」 「おお、それがそれの本当の名前なのか。どうか、大切に使ってやってほしい。一応わしが固定化の魔法で保護してあるから元より頑丈だろうし、下手な手入れもいらんじゃろうが、ただし一つだけ……」 「わかってます。おおっぴらに使ったりはしませんよ」 学院の秘宝を一平民が持ち歩いてると知れたらいろいろとまずいだろう。それを察した才人はそう言ってオスマンを安心させたが、実はそれだけではなかった。 本当のところ、ガッツブラスターにはもうあまりエネルギーが残っていなかったのだ。20発以上は撃てるだろうが、これからのことを考えると余裕のある数字ではない。 その不安が顔に出ていたのか、オスマンは少し強い調子で才人に言った。 「不安なのじゃな。無理もない、じゃが、ウルトラマンダイナはたった一人でもあきらめずに常に明るく前に進もうと頑張っておった。君もウルトラマンなのじゃろ、ならもっと心を強く持ちなさい。そうすれば、彼のように必ず道は開ける」 「……わかりました。よーし、ヤプールなんか俺が八つにたたんでやるぜ!」 才人はウルトラマンとしての重圧を感じていたが、すでに2匹超獣を倒していることだしなんとかなるだろうと、もちまえの気楽さを発揮して答えた。 「そうか、申し訳ないがよろしく頼む……この部屋にはいつでも入れるようにミス・ロングビルに話をつけておこう。何か困ったことがあったら遠慮なく来たまえ」 「はい。では、この辺で失礼します」 「うむ、ヤプールはまたいつ攻めてくるかわからん。今夜はゆっくり休みたまえ……ああそうだ、サイトくん、 実は1週間後にここで『フリッグの舞踏会』というものが執り行われるんじゃ。本当ならもっと前にやるはずじゃったのだが、 ベロクロンの襲撃のせいで延期になっておったんじゃ。君もメインで参加できるよう取り計らっておこう。楽しみにしていたまえ」 『フリッグの舞踏会』とはこの魔法学院の行事のひとつで、娯楽の少ない学院では大勢の生徒が楽しみにしている食べて踊れるお祭り騒ぎだ。 しかし普通の学生であった才人はあまり興味はないようだったが、それを察したオスマンは才人の耳元でぼそっとささやいた。 「学院中の女子生徒が着飾って踊りを楽しむぞ、もちろん手を取り合ってな」 「ぜひ参加させていただきます」 「聞こえてるのよ、この馬鹿犬!!」 その後、ルイズと才人は学院長室をあとにした。 すでに夜もふけて廊下も静かなもので、ふたりの足音だけが響いていた。 「やれやれ、おーいて」 「学院長の手前、蹴り一発で許してやったんだからむしろ感謝しなさい。ったく、この色ボケ犬!」 ルイズはカッカッと怒っている。 才人は、相変わらずのルイズの態度に辟易していたが、やがて思い出したようにルイズの肩を叩いた。 「なによ?」 「あとで言うことがあるって、言ってあっただろう?」 ルイズの顔が固くこわばった。 あのときの無茶は、正直どんな弁明をしても正当化できようはずもない。身構えるルイズに才人はやがて口を開いた。 「今度は俺も連れてけ」 「は?」 「お前が俺の言うことなんか聞く気がないのはわかってる。だったら次からは俺も連れてけ、多少はお前より頑丈なんだから盾くらいにはなってやる、俺はお前の使い魔なんだろ?」 「……」 あまりに意外な言葉にルイズは絶句していた。 ウルトラマンは決してひとりで戦っているわけではない、信じられる仲間たちがいるからこそどんな強敵とも戦い抜いてこれたのだ。 しかし、他人を信じようとしないルイズでは、先のように命の投げ捨てに行くようなものだ。 頑ななルイズにそのことを説いても聞き入れはしまいと分かっている才人は、あえてそういう言い方をしたのだった。 (ダイナも、仲間の元へ帰ろうとしていた。ウルトラマンがなんで強いか、いつかこいつもわかってくれる……かもしれないな) 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7527.html
前ページ次ページTALES OF ZERO 才人がアセリアに召還された翌日、彼の姿は近くの川にあった 村の洗濯場で、悪戦苦闘しながら洗濯を行っている 「ほらほら、もっとしっかり・・・丁寧にやらないと駄目だよ!!」 「は、はい!!」 村のおばさん達に指導されながら、洗濯板を使って洗濯物を洗う この世界に洗濯機という便利なものがないので、こうして洗濯物を洗わなければならない 文明の利器は偉大なんだなぁ…と、その有難さを実感していた 「それにしてもあんた災難だねぇ・・・クラース先生の召還術に呼ばれたんだって?」 いつの間にか召還の事は村全体に広まっていたらしく、才人の事は知られていた その為、最初にミラルドに紹介して貰った時にすんなりと受け入れられた 「ええ、まあ・・・取り敢えず、帰る目処が立つまで皆さんのお世話になります。」 「あの人は悪い人じゃないんだけどねぇ・・・もう少し、考えてやってほしいねぇ。」 「ああ、この前なんてオーガなんか呼び出したから、もう大変だったしねぇ。」 クラースの話から始まるおばちゃん会議・・・こういうのは、何処の世界でも変わらないらしい その会話の嵐の中に入り込めない才人は、しっかりと洗濯物を洗っていく 「まあ、クラースさんは世界を救った勇者だからねぇ・・・多少の事は目を瞑ってあげないと。」 「世界を救った? クラースさんが?」 クラースさんが世界を救った…その言葉に、才人は驚きの声をあげる 「おや、アンタクラースさんの事知らないのかい?」 俺をこの世界に召還した、変な格好のおっさん・・・それくらいの認知だった 才人が頷くと、おばさんは信じられないといった顔をする 「あんた、本当にあの魔王ダオスを倒したこの村の英雄の事を知らないのかい?」 「魔王ダオス? 魔王なんていたんですか!?」 更に魔王まで…やはり、此処はファンタジーの世界なんだなぁ 「魔王も知らないなんて、余程遠い所から来たんだね・・・良いかい、3年前にね・・・。」 何も知らない才人に、おばさんの一人が3年前の出来事…魔王ダオスについて語りだした 魔王ダオス・・・その男は突如として、この世界に姿を現した 彼は東の大国ミッドガルズに、強力な魔物・魔族によるモンスター軍を率いて戦いを挑んだ 彼と、彼のモンスター軍によって幾つもの村や町が破壊され、多くの人命が奪われた 二年に渡る戦いの末、ダオスは4人の勇者達によって倒される そのダオス討伐の立役者の一人が、召還術士クラース・F・レスターなのである 「…という事で、今世界が平和なのもクラース先生のお陰なんだよ。」 「(へぇ、あの人そんなに凄い人だったのか・・・只の入れ墨したおっさんじゃなかったんだな。)」 人は見た目に寄らないと言うが、まさにその言葉はクラースに当てはまると思った 話が終わってしばらくした後、洗濯物を洗い終えた才人は、それを干す 干された洗濯物は風に揺られ、これで朝の洗濯は終わった 「これで終わりっと…ありがとうございます。」 「解らない事があったら何だって聞きな、教えてあげるからさ。」 「はい。」 異邦人だというのに、クラース達だけでなく村の人達も優しく接してくれる 此処の暮らしも悪くないなと思いつつ、才人はクラースの家へと戻っていった 「この本は右側の本棚…こっちの本は奥から二番目の棚に入れて」 「はい。」 洗濯物が終わって朝食を取った後、今度は掃除を始める事になった ミラルドによって分けられた本を、指定された本棚に片付けていくという作業である その全てが魔術や召還術に関するもので、クラースが出しっぱなしにしたものだ 「でも、本当にこの世界には魔法とかあるんですね…凄いな。」 自分が今持っている魔術書を見ながら、才人は感嘆の声を漏らした 試しに本を開いてみるが、見た事のない文字で書かれていたので読めなかった 「(全然読めないな…そう言えば、何で字は読めないのに言葉は通じるんだろ?)」 字がこうなら、言葉だって違うはずなのに、何故かクラース達とは会話が出来る 理由を考えてみるが……思いつかない 「(まあ、別に良いか…普通に言葉が通じるなら、それで良いし。)」 深く考えるのを止めると、持っていた魔術書を閉じて本棚へと押し込む 「魔法がない…貴方の世界には、魔術は存在しないのね。」 「あ、はい…魔法なんて、俺の世界じゃ空想の中の産物でしかないんで。」 本の片付けを続けながら、才人は自分の世界の事を話す 此処とは違う別の世界の事に、ミラルドは興味深そうに耳を傾ける ある程度話をした所で、ふと才人はある疑問を抱いた 「そういえば…何でクラースさんも、ミラルドさんも異世界の事に理解が深いんですか?」 普通、異世界から来たなんて思いつかないだろう あっさりと受け入れられたので、あまり深く考えてなかったが 「ああ、それはクラースも時々未来に行ったり、異世界にいったりするからよ。」 「へぇ、そうなんだ、成る程納得……ってええ!?」 あやうく流してしまう所だったが、才人は驚きの声をあげる ついでに、持っていた百科事典を落としてしまい、その角が足にぶつかった 「っ…いってぇ!!!」 重みのある百科辞典の強烈な一撃を受け、思わず叫び声をあげる あらあら、大丈夫…とミラルドはクスクスと笑いながら才人が落とした辞典を拾い上げた 「そうね…確かダオスを追いかけて未来に行ったり、子孫に呼ばれて未来に行ったり、別世界の危機だからって異世界に行ったり…。」 痛みのあまり蹲る才人に代わって辞典を元ある場所に返しながら、件の事を話す 「他にも、色んな理由で時間や世界を越えたりしたかしらね。」 「さ、流石英雄…そんな事も造作もないって感じですね。」 やはり、世界を救った英雄は伊達ではないらしい・・・足をさすりながら才人はそう思った 因みに、他にも異世界でクイズを出しに行ったり、闘技場で仲間の応援をしたりもしている 「でも、それだったら俺を元の世界に返す方法なんて、すぐ見つかりますよね?」 「どうかしら…クラースは難しいかもって言ってたから。」 期待とは裏腹の言葉に、ガクッと頭を下げる…そう上手くはいかないらしい 「そうですか…もし返る方法が見つからなかったら俺、一生此処で暮らさなきゃいけないのかなぁ?」 そこから段々と落ち込んでいく才人…今の彼には、先が真っ暗だった 此処の暮らしは悪くないとは先ほど思ったが、やはり自分の世界に帰りたいのだ 「……。」 どんどん落ち込んでいく才人を見かねたミラルドは、彼の傍にしゃがみ込んだ 才人が顔を上げるのと同時に、その体を優しく抱きしめる 「み、ミラルドさん!?」 突然の抱擁に驚く才人だが、ミラルドはそのまま優しく彼の頭を撫でる 「そう落ち込まないの…きっとクラースが帰る方法を見つけるだろうから、それを信じなさい。」 ね、と優しく才人を励ます その温かく、優しい抱擁に才人は自分の中で何かが温かくなっていくのを感じた やがてミラルドが離れると、才人はゆっくりと立ち上がった…もう、足の痛みは引いている 「解りました…俺にどうこう出来る問題じゃないし、それしかないですもんね。」 「そうそう、その調子…じゃあ、片付けの続きをしましょうか。これとこれを、奥の本棚に入れてきて。」 彼女から新たに本を渡された才人は、片付けを再開した 「才人君、これを君に渡しておこう。」 才人が召還されてから三日後、珍しくクラースが研究室から姿を現した 手には、鞘に入った長剣が握られている 「何ですか、それ…剣?」 「ロングソード…私達の世界では一般的な剣だ、これを護身用に使うといい。」 クラースは剣を差し出し、才人はそれを受け取る 剣の重みに思わず落としそうになるが、何とか剣を持ちなおす 「剣って…俺、剣なんて使えませんよ?」 「この世界には、魔物が存在している…万が一の為に備えておいた方が良いだろう。」 ダオスがいなくなって平和になったとはいえ、魔物による被害が無くなったわけではない 時折、人里にやってきて害を与える魔物も少なくないのだ 「そ、そうですか…じゃあ。」 才人は試しに剣を抜いてみた…その名に相応しい、長い剣だった かなり使い込まれており、初めてなのに意外と手に馴染んでいる 「これ…かなり使い込んでますね。」 「ああ、私の仲間の剣士が使っていた剣だ…これぐらいしかなかったんでね。」 「ふーん……よっ、おっとっと。」 才人は構えようと剣を振り上げた…が、思ったより重い その重さに耐え切れず、体をふらつかせてしまい、剣を下ろした 「ちょっと…俺には無理みたいです、剣を使うなんて。」 「そうか…年季が入っている剣なら、君でも使いこなせると思ったんだが。」 才人はロングソードを鞘に戻すと、近くの壁に立てかける 「まあ、暇な時に剣の稽古でもすると良い…備えあれば、憂いなしと言うからな。」 出来れば、使うような事にならないと良いんだけど… そう願う才人だが、ふとこの剣の持ち主だった人物に興味を持った 「ねぇ、クラースさん…この剣の持ち主って、クラースさんと一緒に魔王を倒した人なんですよね?」 「ん…ああ、そうだ…クレス・アルベイン、我々の前に立ち、剣と盾となって戦った、勇敢な青年だ。」 赤いマントと鉢巻、鎧を纏ったアルベイン流剣術の使い手… もう会う事のない彼の後姿が、クラースの脳裏に思い浮かぶ 「(しかし、意外とクレス達とは何度も再会してるがなぁ。)」 英雄となった為の因果か、もう会えない筈なのに何度も共に戦った 出来れば、また会う事になるような事態が起こらなければ良いのだが… 「へぇ、悪の魔王を倒した英雄が使っていた剣かぁ。」 そんな時、才人の何気ない言葉を聞き、今度はダオスの事を思い出した 誰にも理解されず、ただ一人時を越えて戦い続けてきた男の事を… 「魔王ダオス、か……あいつは、ダオスは悪などではないさ。」 「えっ・・・。」 それを考えていたからか、クラースはダオスが悪である事を否定する 「あいつにも守るべきものがあった…ただ、その為に戦っただけだ。」 だからと言って、やった事が許されるわけでもないがな…と、クラースは付け加える そう、あいつにも守るものが…守りたい世界があったのだ、その為に奴は…… そして本棚から本を数冊取り出すと、研究室の方へと足を運ぶ 「魔王にも守るべきものがあったって…どういう事ですか?」 何も知らない才人が尋ねると、クラースは一呼吸置いて振り返る 「そうだな…この世に悪があるとすれば、それは人の心…という事さ。」 そう言い残し、クラースは再び研究室へと戻っていった 「・・・・・・どういう事?」 クラースの言った事がよく解らない才人・・・彼がその言葉の意味を知るのは、まだ先の事である 「やっほー、遊びに来たよ~~~♪」 召還から一週間後、この日はクラースの家に客が訪ねてきた 床を磨いていた才人が見ると、客はピンクのポニーテールをした、元気のいい少女である 背中には、何やら色々と入った風呂敷を担いでいる 「あら、アーチェ…いらっしゃい。」 「ミラルドさん、こんにちは…クラースいる?」 「ええ、クラースなら下の研究室の方に……。」 ミラルドが彼女を招き入れる…アーチェと呼ばれた少女は、ミラルドと挨拶を交わした 少しばかりの会話が終わった後、今度はきょろきょろと辺りを見回している そして才人を見つけると、此方に歩み寄ってきた 「ふーん、あんたが平賀才人君? クラースが召還術で召還しちゃったって子は?」 「えっ・・・まあ、そうだけど・・・君は?」 「あたし? あたしはアーチェ・クライン、魔女っ子アーチェちゃんよ♪」 そう言ってウィンクするアーチェ…魔女っ子って何? そんな事を考えていると、奥からクラースが現れた 「やっと来たか、アーチェ…私は早く来るように言った筈だが?」 「良いじゃん、良いじゃん、こっちも色々準備とかあったんだし。」 そう言ってテーブルに風呂敷を置くと、紐を解いて中身の物を取り出した 中には、本やら宝石やら聖水やらが色々ある 「取りあえず、ルーングロムさんに頼んで色々貰ってきたけど…何とかなりそう?」 「ふむ…そうだな、今後の研究次第だな。」 アーチェの中にあった本を捲りながら、クラースはそう答える 「大丈夫だって、あたしも手伝うからさ。」 「…そうだな、アーチェのハーフエルフとしての知識や発想は参考になるからな。」 本を閉じて、笑みを浮かべるクラース…どうやら、希望を見出せたようだ 二人が会話を交わす中、才人がミラルドに尋ねる 「ミラルドさん、あの人もクラースさんの仲間だった人なんですか?」 「そうよ、アーチェは村の北東にあるローンヴァレイに住んでいるハーフエルフなの。」 よくファンタジーものに登場するエルフが、このアセリアには存在する また、この世界ではそのエルフの血を引く者のみが魔術を使える 「エルフの血を引いてるって事は…やっぱり長寿だったりするんですか?」 「そうね、数百年・・・あるいは数千年ぐらいって言われてるわね。」 「ほ、本当に…凄いなぁ。」 流石、ファンタジー世界…もう、なんでもありな気さえ感じてくる 此処に来てからというもの、才人はこうした感嘆の声を何度も漏らしていた そういう話を聞くと、彼女への見方も変わってくる感じがした 「だったら…あんな姿でも実は百歳を越えたおばあちゃんだったりして…。」 ぼそっと言ったつもりが、アーチェには聞こえたらしい 彼女が何かを小言で言うと、突然才人の頭にアーチェの雷が落ちた 「みぎゃああああああああ!!!!!!!!」 才人の悲鳴が木霊する…雷が落ちたといっても、それは比喩表現ではない 彼女が唱えた魔術…ライトニングが才人を感電させたのだ 一応、威力は弱めていたのだが、それなりに痛かった 「あたしはこれでも19歳よ、おばあちゃんなんて言うのは百年早いわよ!!!」 真っ黒焦げになってしまった才人に、アーチェのお叱りが飛ぶ 「大丈夫か、才人君…だが、口は災いの元という事を実感できただろう。」 「そうよ、女性に年齢の事を言うのは禁句なのよ。」 そんな才人に、クラースとミラルドは注意を施す…ちょっと遅すぎたが 「イテテ…解りました、でも……。」 起き上がった才人は、アーチェを見る…自称19歳のハーフエルフの少女 その彼女の貧相な胸を見て、彼はまたもや一言多い失言を吐いた 「………歳の割には、胸は平原だよなぁ。」 クラース邸に、再びライトニングの閃光と、才人の悲鳴が木霊した ああ、胸の事も禁句なんだな…と、後で目覚めた才人はそう思った 召還から半月後…半月も経って、才人も少しは此処の暮らしに慣れてきた 今日も朝から洗濯、掃除、買い物とこの家でやる事をこなす 「今日で半月か…本当、早く帰れると良いよなぁ。」 アーチェやクラースの知人達の協力もあって作業は進んでいるが、それでもまだ時間は掛かるらしい でも、着実に成果は出てきているそうなので、期待しても良いとの事だそうだ 早く帰れる事を願いながら買ってきた食材をテーブルの上に置くと、アーチェが奥から姿を現した 「ふぅ、疲れたから休憩、休憩っと……あっ、才人君じゃん。」 「あ、アーチェ…さん。」 思わず後ずさる才人…自業自得とは言え、初対面時の事がまだ尾を引いているようだ 「何よぉ、思いっきり警戒しちゃって…あー、疲れたから喉渇いちゃったなぁ。」 「えっ…あ、はい、何か飲み物持ってきますね。」 この前の一件以来、才人はアーチェに頭が上がらなくなってしまっていた それに、自分の送還の手伝いをしてくれる事も理由にあり、すぐに台所へと走っていく 解ればよろしい、とうんうん頷くアーチェの目にテーブルの上にある食材が止まった 「あっ、食材買ってきてたんだ。」 そう言って、アーチェは才人が買ってきた食材を眺める…女の子だけあって、料理とかが好きなのだ その間に才人が戻ってきて、コップに入れたミルクをアーチェに差し出す アーチェはその一杯を一気飲みすると、何か思いついたようにぱあっと表情が明るくなった 「よーし、折角だからこのアーチェ様がビックリする程美味しい料理をご馳走してあげるわね♪」 アーチェが料理をする…それを聞けば、彼女の腕前を知る者は誰もが止めるだろう だが、クラースは地下の研究室、ミラルドは村の会合に出ていて今はいない そして、本人としては才人との親睦を深めるつもりなだけなので、余計性質が悪い 「えっ…そんな、悪いですよ。」 「いいの、いいの♪あんたはそこで座って待ってなさい。」 アーチェは買ってきた食材を幾つか持って台所へと向かっていった まあ、断るのも悪いか…と、才人はそれ以上何も言わずに椅子に腰掛けて出来るのを待つ事にする そして、待つ事1時間…… 「じゃーん、これがアーチェさん特性フルコースだよ♪」 テーブルには、色とりどりのアーチェの料理が並んでいた 『見た目は』美味しそうな料理に、思わず才人は顔を綻ばす 「すっげぇ……こんなに沢山、本当に食べて良いんですか?」 「どうぞ、どうぞ、いっぱい食べてあたしのミリキに惚れ惚れしちゃいなさい。」 アーチェに勧められ、才人はテーブルに並ぶ料理達をもう一度見つめる 最初は何だかんだあったが、この人優しいんだな… 頂きます、と才人はそう言って持ったスプーンでアーチェの料理をすくい、口へと運んだ 『地獄』が始まるとも知らずに…… ・・・・・・・・・・・・ 「ミラルド、アーチェと才人君はどうしたんだ?」 その後…研究室に戻ってこないアーチェを呼びに、クラースがやってきた 既に戻ってきていたミラルドは、そんなクラースに無言で指を刺す…その先には 「ちょっとぉ、悪かったって言ってんだから、出てきなさいよぉ!!」 「ハーフエルフ怖い、ハーフエルフ怖い、ハーフエルフ怖い………。」 ドアを叩いて呼びかけるアーチェ…その向こうで、恐怖に震えながら呟き続ける才人 何度呼びかけても、才人が部屋から出てくる事はなかった 「うーん、何が悪かったのかなぁ…やっぱ、隠し味にローパーの肉汁を使ったのが悪いのかなぁ?」 美味しくなるって聞いたのに…と、アーチェは頭を悩ませる クラースはその様子を見て、一発で何があったのか理解できた 「成る程、納得した……彼も災難だったな、アーチェの××料理人の腕前の犠牲になるとは。」 3年経っても、彼女の腕前は成長していない…一体何時になったら上手くなるのやら この日、才人の頭にハーフエルフ=凶悪(色んな意味で)という図式が完成する 彼は後に巨乳ハーフエルフと出会うまで、このトラウマを拭えないのであった 才人がアセリアに召還され、もう一ヶ月が経とうとしていた この一ヶ月間、才人は色々な事を体験した クラースが使うという召喚術を、この目で見たり アーチェの箒に乗せてもらって空を飛んだりもした…二、三度落ちかけたりもしたが 色々な事があったが、別れの時もまた近づいていた ・・・・・・・・・・・・・・・ 「・・・・・・。」 地下の研究室では、クラースが送還術用の新たな魔方陣を描いていた 後ろでは、頭の後ろで両手を組みながらアーチェが見守っている 「クラース、大丈夫?」 「声を掛けるな、集中できん。」 クラースは間違えないように、精神を集中させて作業を続ける 特殊な術具を使い、術式を描いての送還術…少しでも間違えば、この術は失敗する 最後の一文字を描き、遂に送還術用の魔方陣が完成した 「完成だ…おそらくこれで彼の住んでいた世界と繋がる筈…アーチェ、才人君を連れてきてくれ。」 言われたとおりアーチェは上に上がり、数分後には才人とミラルドを連れて戻ってきた 「クラースさん、元の世界に返れるって本当ですか!?」 アーチェから話を聞き、帰れるかもという期待から才人は興奮している 「ああ、これが上手く発動したらだがな……見ててくれ。」 興奮する才人を落ち着かせ、クラースは送還術の詠唱を始める 召還術の時と同じように、魔方陣が輝きだす 「我が名は、クラース・F・レスター…指輪の盟約を解き放ち、彼の者をあるべき場所へと送還する。」 精神を集中させ、ゆっくりと詠唱を続ける 周りの術具が詠唱に呼応し、中央の空間に作用し始める 目の前で、光が集まり始め、ゆっくりと大きくなっていく 「何か、凄い…何て言うんだろ、言葉に出来ないな。」 「そりゃあ、このアーチェ様とクラースが考えて完成させたんだもの、凄いのは当然じゃん。」 「二人とも、静かに…。」 ミラルドに注意され、アーチェと才人はそれ以上何も言わずにクラースを見守る事にした 集中して詠唱するクラースにこの会話は聞こえておらず、彼は儀式を続ける やがて、詠唱を終えると、軽く腕を振るって最後の言葉を告げる 「次元の扉よ、開け…彼の者の住む世界へ」 儀式が完了したと同時に、目の前の光が強く輝き…次元の扉が開かれた 大人一人分の大きさになった光の扉が、魔方陣の中央に現れる その先には、才人の良く知る光景が広がっていた 「才人君…この光景に見覚えがあるか?」 クラースが確認をとるが、才人はゆっくりと光の扉に近づく 食入るように目の前の光景を見る…そこには、巨大な高層ビルが並び、車が道路を行き来している 「はい、間違いないです…これは俺の世界…東京の街です!!」 繋がった…アセリアと、地球が 俺、家に帰れるんだ…才人の顔から笑顔がこぼれた 「ふーん…これが、才人君の世界か。」 ゲートから見える光景を見ながら、アーチェはそう呟いた 今この場にいるのはクラースとアーチェの二人…才人とミラルドの姿はない 彼は今、上に行って帰る準備を行っている 「これってさ、トールで見た地下都市に似てない?」 「そうだな…才人君の話によると、超古代文明並みに科学が発展しているらしいからな。」 かつて自分達が立ち寄った超古代文明都市トール…廃墟となったあの都市の光景が頭をよぎる だが、目の前に見える都市郡は、トールとは違って活気に満ち溢れていた 「結構面白そうな所だよね…ねえ、あたし達も才人君の世界に行ってみない?」 「駄目だ、このゲートは一方通行だからな…向こうに行ったら、戻ってこられなくなるぞ。」 「ちぇ、つまんないの。」 不満たらたらの表情でアーチェがそう言うと、丁度才人とミラルドが戻ってきた 元々手荷物が少なかった為、手早く帰る準備が出来たようだ 「来たか…帰る仕度は済んだか?」 「はい、大丈夫です…でも、これでクラースさん達ともお別れか……。」 何だかんだで、此処で一ヶ月過ごした事は新鮮で、とても楽しかった この門をくぐったら、二度とアセリアには来れない…クラース達とももう会えなくなる 今生の別れだと思うと、自然と才人の瞳から涙が流れる 「ほらほら、帰れるんだから泣かないの、男の子でしょ!!」 「そうよ、ご家族の方だって心配しているでしょうし…はい、これ。」 アーチェが才人を慰め、ミラルドは包みに入ったアップルパイを差し出した これは今日のおやつだったのだが、せめてものこの世界の思い出の品として才人に渡す 「ぐすっ、ありがとございます…俺この世界に来た事、皆さんの事、絶対忘れません。」 「ああ、別れは終わりではない…永久に想う事こそ、共にあると言う事なんだ。」 かつて、共に戦った仲間がその母から聞いたという言葉を、クラースは語る 才人は涙を拭うと、開かれた地球へのゲートへと歩んでいく ゲートをくぐる前に、もう一度クラース達の方を振り返る 「さようなら、ミラルドさん、アーチェさん…クラースさん。」 「さようなら、才人君……あら?」 最後の別れの言葉が告げられた…その時、ゲートの異変に先に気付いたのはミラルドだった 全員が反射的にゲートの方に視線を向けると、ゲートの先にある東京の風景が歪み始め…消えた 変わりに、ゲートの光が別のものへと変わっていく 「えっ…な、何、一体何が…」 近くにいた才人は異変から離れようとしたが、手がゲートに触れてしまう すると、まるで獲物を捕まえた獣のように、ゲートが才人を引き擦り込み始める 「わわっ、抜けない…た、助けて!?」 「才人君!!!」 どんどんゲートに引き擦り込まれる才人を、近くにいたクラースが助けようとその手をつかむ だが、彼の力でも才人を引き摺り出す事は出来ず、逆に飲み込まれていく 「クラース!!」 「来るな、お前達も飲み込まれるぞ!!!」 助けようとするアーチェとミラルドを、クラースが静止する だが、その直後に二人の体はゲートに飲み込んでいき… 「うわああああああああああああ!!!!!!」 才人の悲鳴を残しながら二人の体はゲートの向こうへと消え、それと同時にゲートも消滅する 周りの術具も壊れ、魔方陣にも亀裂が入って、送還術は使用不能になった 「嘘…消えちゃった……。」 「クラース、才人君!!!!」 残されたアーチェは呆然となり、ミラルドが叫ぶが、二人はその声に答える事は出来なかった。 この日、クラースと才人はアセリアから姿を消した クラースと才人が消えた少し前…魔法が世の理を成す世界、ハルケギニアのトリステイン王国… 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。」 トリステイン魔法学院のある広場にて、少女の声が聞こえる 召還の儀式から翌日…ルイズは再びサモン・サーヴァントを行っていた 杖を構え、使い魔を召還する為に呪文を唱える 「五つの力を司るペンタゴン、我の運命に従いし『使い魔』を召還せよ!!!」 詠唱が完成したと同時に爆発が起こる…だが、そこには使い魔の姿はない 「また失敗ですね、ミス・ヴァリエール」 付き添いで彼女の成功を見守っていたコルベールの顔も、深刻な表情となる 昨日の失敗から、今日へと召還を変更したものの、先程から失敗ばかりである 「はぁ、はぁ、はぁ……何で、何で成功しないのよ!!」 爆発が起こった場所に向かって、ルイズは叫ぶ 放課後から始めたこの儀式によって時間は掛かりすぎ、辺りも暗くなってきた コルベールとしては、流石にこれ以上は召還の儀式を延長するわけにはいかなかった 「ミス・ヴァリエール、昨日に引き続きこの調子であれば、残念ながら留年という事になるしか…。」 この学院の生徒が2年生に上級する条件が、この使い魔召喚である 呼び出された使い魔の属性によって、今後生徒が学ぶ系統を特定する為だ その為、使い魔を召喚できないルイズは留年するしかない 「そ、そんな…ミスタ・コルベール、もう一度…もう一度させてください。」 必死に食い下がるルイズ…留年にだけはなりたくない そんな事になれば皆の笑い者だし、何より家族に合わせる顔がない 「ですが、もう既に何度もやって駄目でしたから…今年は運が悪かったという事で…。」 「お願いします、先生…もう一度…でないと、私…私!!」 ゼロのルイズだって認める事になってしまう…そう言おうとしたが、声には出せなかった 彼女の瞳からは涙が溢れ、悲しみと悔しさからこれ以上の声が出なかっただからだ 「ミス・ヴァリエール……。」 コルベールはルイズの悲痛な訴えに、しばらく黙った後…… 「…では、次が最後のチャンスです…これに失敗すれば貴方は留年です、良いですね。」 昨日と同じように、最後のチャンスをルイズに与えた…正真正銘、最後のチャンスである 「は、はい!!!」 何とか最後のチャンスを手に入れ、ルイズは袖で涙を拭うと、もう一度杖を構える 次が失敗すれば、自分は終わりだ…出来る限り精神を集中させる そして、使い魔召喚の詠唱を開始する 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。」 唱える呪文一つ一つに、力を込める 「五つの力を司るペンタゴン、我の運命に従いし『使い魔』を……。」 そして、一呼吸置き…目を見開きながら、最後の呪文を唱えた 「召還せよ!!!」 その最後の一声が辺りに響いた時…奇跡は起こった 彼女の目の前で、光が輝いていたのである 「これは……。」 コルベールが驚きの言葉を漏らす サモン・サーヴァントの時に現れるゲートが、彼女の目の前に現れたのだ あれだけの回数を失敗したので、この成功に驚きを隠せなかった 「……嘘、成功した!?」 当の本人であるルイズもまた、驚きのあまり成功した事にすこし経ってから気付く 最後の最後でサモン・サーヴァントが成功した…が、これで終わりというわけではない 次は、このゲート先にいるであろう幻獣が此方に来なければならない そして、その幻獣と『契約』を交わす事で、初めて使い魔召喚の儀式は完了するのだ 「(お願い、早くこっちに来て…そして、私と契約して。)」 「…………ぁぁぁぁぁぁぁぁ」 誰も見た事がないような使い魔が来る事を願うルイズ…すると、ゲートから何かが聞こえてきた もしや、幻獣の雄たけびか…思わず胸が弾むのだが… 「うわああああああああああ!!!!!!!!」 だが、それがはっきりと聞こえてき始めてくると、人間の男の悲鳴のようにも思えた 一体何が…その直後、ゲートの中から悲鳴と共に何かが飛び出してきた 「うわっ!?」「ぐえっ!?」 出てきたのは、二人組の男…クラースと才人だった ゲートに飲み込まれた際に絡み合った二人は、突然出口に出た事で派手に草むらに倒れる しかも、クラースが思いっきり才人の上に倒れたので、思わず才人はカエルを潰したような声をあげる 「へっ……」 目の前の光景に、一瞬何が起こったのか解らなかったルイズ コルベールも、人間が二人も出てきた事から、驚いて目を丸くしている 「んん…どうやら、出口に出たようだな…此処は一体…。」 「ううっ……く、クラースさん、重い…。」 「ん…おお、すまんすまん…すぐにどこうか。」 そんな二人に気付かず、才人とクラースは何とか立ち上がると、身に付いた土を叩き落とす 「イテテ、あー気持ち悪かった……それにしても何処なんだ、此処?」 「どうやら、ゲートから見えたトーキョーとは違うようだが…。」 此処は一体何処なのか…それを探ろうと、辺りを見回そうとする その間、ようやく自分が人間を召喚した事に気付いたルイズは、首を振って気を確かに持った そして、自分に気付いていない二人に向かって「ねえ、ちょっと!!」と声をかける 「「ん?」」 二人はようやくルイズの存在に気付き、声の主と目を合わせた すこしの間が空く…やがて、ルイズは今思っている疑問を二人に投げかけた 「あんた達……誰?」 自身の鳶色の目で、二人を捕らえながら…… その一言が、これから始まる壮大な物語の幕開けになろうとは、誰も知る由もなかった… 前ページ次ページTALES OF ZERO
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9048.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第十五話「ひきょうもの!シエスタは泣いた(後編)」 冷凍怪人ブラック星人 雪女怪獣スノーゴン ねこ舌星人グロスト 登場 「ま、また宇宙人! しかも今度は、貴族の屋敷の中に潜り込んでるなんて!」 執事風の老人から正体を現したブラック星人に、ルイズたちは驚愕を禁じえなかった。 まさかトリステインの貴族社会の中に、既に侵略者が潜り込んでいたとは。 『ちぃッ! よもや、こんなことで正体がバレてしまうとは!』 毒づくブラック星人に、ウルトラゼロアイの銃口を突きつけたままの才人が、反対の手で 通信端末からブラック星人のデータを引き出してから詰問する。 「お前もザラブ星人の言ってた、宇宙人連合って奴の一員か!? 貴族のお屋敷に入り込んで、何が狙いだ!」 その問いかけにブラック星人は、正体を暴かれて開き直っているのか、包み隠さず回答する。 『如何にも、私も宇宙人連合の一人だ。しかし私はわざわざウルトラマンゼロに挑んで散っていった 脳の足りん馬鹿どもと違って、独自に動いてるのさ。侵略の足掛かりとする前線基地用の奴隷を 確保することを目的にな!』 「奴隷ですって!?」 ブラック星人の吐いた言葉にルイズなどが身を強張らせ、才人はやはりと胸中で舌打ちした。 ブラック星人はかつて地球侵略を狙った敵性宇宙人の一つで、土星に前線基地を築くという 大掛かりな前準備を行っていた。しかし基地の労働力が足りなくなったために、観光地に遊びに来た 地球人の若いカップルを誘拐して、奴隷にする子供を産ませるという計画を立てたのだ。 今回も似た事情で、今度はハルケギニアの民を奴隷にしようとしていたのだろう。そのために このモット家に使用人として潜り込んで、裏から操っていたに違いない。 『この家の主人は、実に役に立ったぞ。何せ、無理矢理に女どもを連れてきても誰も怪しまんし、 止められんかったからな。女を獲り放題だったわ! グワハハハハハハ!』 何とも下卑た高笑いを上げるブラック星人に、ルイズを始めとした女性陣は強い不快感を表す。 「最低ね! 女の敵だわ!」 「全くね。これ以上女性を家畜みたいにされてたまるもんですか!」 ルイズやキュルケの怒気をその身に受けても、ブラック星人は平然としている。 『ふんッ! 奴隷にしか使えんような下等種族がほざくな! よもやこんなことで我が正体が 露呈するとは想定外だったが、知られたからには貴様ら全員帰す訳にはいかん! 貴様らも捕獲して、 奴隷を産ませる母体にしてくれるわッ!』 ブラック星人が腕を上げると、モット伯を始めとして、屋敷の兵士たちがルイズたちを 取り囲んで武器を向けてきた。モット伯に突き飛ばされたシエスタは慌てて才人の下へ駆け寄る。 「サ、サイトさんッ!」 「くッ……!」 シエスタをかばう才人やルイズは、モット伯の軍団を前にしてひるんだ。彼らは操られているだけなので、 倒す訳にはいかない。しかし既に完全に取り囲まれ、逃げ場はどこにもない。一体どうすればいいのか……。 と考えていたら、 「『ファイアー・ボール』!」 「『ウィンド・ブレイク』」 キュルケとタバサが火炎と風で兵士たちをバッタバッタと薙ぎ倒し出した。それにルイズは 思わず肩を落として、すぐさま抗議する。 「ち、ちょっと何やってるのよ! その人たちは操られてるだけなのよ!?」 するとキュルケはこう反論してきた。 「でも、自分の命には代えられないでしょ。それにモット伯は元から似たようなことして 女性を何人も悲しませてたそうだし、つき従ってた兵士たちも共犯みたいなものだわ。 ちょっとくらい痛めつけても、自業自得ってもんよ」 「いや、だからって……」 「うるさいこと言いっこなしよ。ちゃんと手加減はしてるからさ」 「結構派手に吹っ飛ばしてるように見えるんだけど……?」 ルイズのツッコミはさておき、さすがは魔法学院でも指折りの実力者のコンビ。瞬く間に兵士を全滅させて、 甕の水を操って攻撃してこようとしていたモット伯も、キュルケの炎に軽くあぶられるだけで卒倒し、無力化した。 「なーんだ、丸で見かけ倒しだったわね」 『お、おのれ……よりによって、弱点の熱を操る奴がいようとは……』 「? 今何か重要なことを……」 タバサが向き直ると、ブラック星人は己の失言に気づいて慌てて口をつぐんだ。 『ふ、ふんッ! 今のは軽いお遊びに過ぎんわ。こいつさえいれば、貴様らを纏めて氷漬けに することなど容易いことだからな!』 ブラック星人の言葉とともに、彼につき従っている和装の女性が前に出た。 『やれ、スノーゴン! 奴らをカチンカチンにしてしまえぃッ!』 そして命令によって、口を開くとそこから吹雪と見紛うほどの冷凍ガスを噴出し始めた! 「きゃあああああ!? な、何! あの人、人間じゃないの!?」 「こ、これはたまらないわ! 外に逃げましょう!」 冷凍ガスの勢いはすさまじく、キュルケの炎すら押し返し、あっという間にエントランスホールを極寒地獄に塗り替えた。 『馬鹿め! 易々と逃がすものか!』 すぐに扉から外へ避難しようとするルイズたちだが、スノーゴンと呼ばれた女性が追ってくる。 しかしその足を才人が撃ち、文字通り足止めする。 「みんな! ここは俺が食い止める! 早く逃げるんだ!」 「そ、そんな!? サイトさんだけ残して逃げることなんて出来ません!」 シエスタは才人の指示に応じられずに立ち止まるが、ルイズがその手を取って引っ張る。 「今はサイトを信じて! ここに残ってたら、確実に助からないわよ!」 「でもッ!」 「も、もう限界よ! ダーリンの心意気を無駄にしないためにも、早く逃げるのよ!」 キュルケもシエスタの腕を掴み、二人掛かりで引きずっていった。そしてタバサが『レビテーション』で 気を失ったモット伯たちを連れて脱出すると、ブラック星人が一人残った才人に呼びかける。 『やはりお前が最後に残ったな、ウルトラマンゼロ! 我々を倒して奴らを救おうというつもりだろうが、 そうはいかんぞ! 返り討ちにしてくれるわ! こちらにはその準備がある!』 「へッ……どうかな? ゼロなら、お前らの用意なんて簡単に破ってくれるぜ」 才人はウルトラゼロアイを開き、変身の構えを取った。 『それが出来るかどうか、試してやろうじゃないか! スノーゴン、真の姿となるのだぁッ!』 「望むところだ! デュワッ!」 ブラック星人の命令で、女性の身体が巨大化、変身していくのと同時に、才人もゼロアイを装着した! 「だから! 戻っちゃダメだって! 危険すぎるわ!」 「放して下さい! サイトさんが死んじゃうッ!」 屋敷の外では、無理矢理連れ出されたシエスタが抵抗するのを、ルイズとキュルケが必死に押しとどめていた。 「もう! 貴族の言うことが聞けないっていうの!?」 「今は貴族とか平民とか関係ありません! サイトさんを助けなくちゃ!」 ルイズの言いつけにも、頭に血の上っている今のシエスタには通用しなかった。ほとほと手を焼いていると、 問題の屋敷が彼女たちの目の前で、内側から爆発したかのように砕け散った。 「な、何!?」 「パオオオオ! パオオオオ!」 そして半壊した屋敷の中から、一本角を生やした狼の首にシロクマの胴体を合わせたような 巨大怪獣が出現した。ルイズはこの怪獣に見覚えがあった。以前にゼロにウルトラの星の歴史を 見せてもらった際に、ビジョンの怪獣軍団に混ざっていた一体……。 「デュワッ!」 「あッ! ウルトラマンゼロだわ!」 ルイズたちの眼前に現れた怪獣の正面に、ウルトラマンゼロが降り立つ。すると、どこからか ブラック星人の高笑いがする。 『グワッハッハッ! これがスノーゴンの本来の姿だ! 今から貴様らには、スノーゴンが ウルトラマンゼロをバラバラに処刑するところを見せつけてやるわ!』 「あッ! あんなところに!」 キュルケが指差した先、スノーゴンの背後で、ブラック星人はこちらに向けて叫んでいた。 ルイズは豪語するブラック星人に叫び返す。 「そんなことあるはずがないわ! そんな怪獣一体、ゼロの敵じゃないわよ!」 『そいつはどうかな!? 今に見せてくれるわ! スノーゴン、ウルトラマンゼロを仕留めるのだぁッ!』 「パオオオオ! パオオオオ!」 ブラック星人の命令で、スノーゴンが攻撃を開始する。両手の平を合わせると、その間と口から 先ほどと同等の冷凍ガスを噴射し出した。 『うおッ!?』 そのガスを浴びせられたゼロは、腕で顔面をかばいつつ苦しみ出す。相当ダメージを受けている様子に、 ルイズは衝撃を受けた。 「ど、どうしたのゼロ? あれくらいの攻撃で……」 困惑していると、ブラック星人が理由を説明し出した。 『グハハハハハ! ウルトラ戦士の故郷、光の国には冬がない! だから寒さに耐性がない! つまり冷気がウルトラ戦士の弱点なのだぁッ!』 「そ、そんな弱点があったなんて……!」 無敵の戦士に思われるウルトラマンゼロの意外な弱点を初めて知り、ルイズのみならず キュルケやタバサも驚きを禁じ得なかった。 『そのまま氷漬けにしてやれ! スノーゴンッ!』 「パオオオオ!」 スノーゴンが冷凍ガスの勢いをますます強める。だが、 『くッ……セアッ!』 「パオオオオ!?」 気合いを発揮したゼロがエメリウムスラッシュを放ち、スノーゴンの口の中に命中させた。 それにより、冷凍ガスが途切れる。 『何!?』 『へッ……確かにウルトラ戦士の弱点は寒さだ。けどこの程度の寒さで、この俺に勝ったつもりに なるんじゃねぇぜッ! だぁッ!』 ゼロが掛け声とともに熱を放出し、身体に付着した霜を溶かした。これにルイズたちはほっと安堵の息を吐く。 『今度はこっちの番だ! 覚悟しな、ブラック星人!』 スノーゴンがまだもがいている隙に、ゼロが攻勢に出ようと一歩踏み出す。 だがその瞬間、背後から冷凍ガスを浴びせられた! 『ぐあッ!? 何ぃ!?』 「え!? どこから攻撃が……!」 たった今の冷凍ガスは、正面のスノーゴンからのものでは当然ない。ゼロとルイズたちが振り向くと、そこには、 「ギイイイイイイイイ!」 青い鳥人間に似た奇怪な形をした氷像のような、ゼロたちと同等の身長の怪物がいつの間にか現れ、 右腕から冷凍ガスを噴き出していた。 「て、敵はまだいたの!?」 新手の出現に驚愕するルイズたち。それとは対照的に、ブラック星人が哄笑する。 『グワッハッハッハッハッハッ! 準備があると言っただろう! そいつはグロスト星系JA52番星の宇宙人、 通称グロスト! 計画を遂行する上で、侵略した領土を山分けする条件で手を組んでいたのだ!』 怪物の正体は、かつてウルトラマンタロウと相まみえた侵略者グロスト。冷凍ガスが武器の他にも、 催眠光波で人間を操る能力を持つ。ルイズたちは知らないが、モット伯を洗脳して手駒にしていたのは、 このグロストだったのだ。屋敷と同化して身を隠していたのだが、本来の姿を現してスノーゴンに 加勢してきたのだった。 「ギイイイイイイイイ!」 『うおおぉぉッ! くッ、こいつはやべぇ……!』 グロストの冷凍ガスもすさまじく、スノーゴンと同等か下手したらそれ以上だった。 更には背後から攻撃されていることもあり、さしものゼロも耐え難かった。 「パオオオオ! パオオオオ!」 しかもまだ戦況は悪化する。スノーゴンが持ち直し、攻撃を再開し出したのだ。前後から 冷凍ガスの挟み撃ちにされ、ゼロは大幅に苦しめられる。 『うおああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!』 「ゼロッ!!」 身体を抱えるゼロのカラータイマーが赤く点滅し出す。彼の危機に焦ったルイズは、ブラック星人を罵る。 「卑怯者! 男なら正々堂々と、自分の力で勝負しなさいよ!」 だが挑発をされても、ブラック星人は平然と厚顔でいる。 『何とでも言えぃ! たとえ自ら手を汚さずとも、何人で掛かろうとも、勝利こそが全てだッ! 手段など選んで敗北する奴など、愚かでしかないのだぁッ!』 そう豪語した瞬間に、ゼロを追い詰めているグロストに楔形の光弾が連続ヒットして、 冷凍ガスを途切れさせられた。 「ギイイイイイイイイ!」 『な、何事だ!?』 ブラック星人やルイズたちが驚いていると、半壊した屋敷の陰から、銀と緑色の巨人がおもむろに登場した。 『では、こちらも二人になっても文句はありませんね?』 「ミラーナイト!!」 ルイズが感激して名前を呼ぶ。緑色の巨人は、アルビオンで絶体絶命のゼロを救った ウルティメイトフォースゼロの一員、ミラーナイトであった。ゼロのピンチを察知して、 屋敷のステンドグラスを通ってここにやってきたのだ。 『な、何ぃ!? ウルトラマンゼロに仲間がいたのか……!』 一方、ブラック星人はハルケギニアに降り立ったばかりのミラーナイトのことはまだ知らなかったようで、 ショックを受けていた。スノーゴンとグロストも動揺して攻撃の手を止めている間に、ミラーナイトは ゼロと背中合わせになる。 『ゼロ、あの宇宙人の方は引き受けました。あなたは怪獣の方をお願いします』 『ああ……また助けられたな、ミラーナイト』 『当然のことじゃないですか。それより、来ますよ!』 ミラーナイトとゼロが言葉を交わしている間に、スノーゴンとグロストが再度襲い掛かり始める。 「パオオオオ! パオオオオ!」 「ギイイイイイイイイ!」 『ふ、ふんッ! まだ数が同じになっただけだ! スノーゴン! グロスト! お前たちの恐ろしさを 見せつけてやれぇッ!』 スノーゴンは再び両手と口から冷凍ガスを噴射する。するとゼロは、下手に逃げようとせず、 前に飛び出して自分から冷凍ガスへ突っ込んでいった。 『だぁッ!』 それによって無理矢理ガスを突破し、スノーゴンの懐に入ることに成功する。そして胸部に横拳を叩き込んで、 ガスの噴出を止めさせた。 「パオオオオ!」 『うらッ!』 よろめいたスノーゴンに掴みかかるゼロだが、スノーゴンも手を伸ばし、両手と両手で掴み合いになる。 『ぐッ……ぐぅぅぅ……何つう馬鹿力だ……!』 「パオオオオ! パオオオオ!」 だがゼロの腕の方が、スノーゴンにひねられていく。スノーゴンは冷凍ガス攻撃も強力だが、 腕力も氷漬けにしたウルトラマンジャックの身体を素手でバラバラにするほど優れている。 遠距離でも、近距離でも強い、顔つきに似合わないほどのかなりの強敵怪獣なのだ。 「パオオオオ! パオオオオ!」 『うおおぉぉッ!』 やがてゼロはスノーゴンに突き飛ばされ、すぐに起き上がったものの三度冷凍ガスを浴びせられて 悶絶する羽目になった。 「ギイイイイイイイイ!」 『くぅッ!? ま、まるで嵐のような冷凍ガスを……!』 ミラーナイトの方も、グロスト相手に大苦戦を強いられていた。グロストの猛烈な勢いの冷凍ガスを前に、 得意の俊敏な動きを基にした撹乱戦法が取れずにいる。ディフェンスミラーで防御しようにも、何と鏡まで 凍ってしまって砕ける始末だった。 『ここにグレンがいれば……楽に勝負を進められたのでしょうが……』 極低温を武器にする敵に、仲間のグレンファイヤーに思いを馳せるミラーナイト。炎と熱の戦士である 彼ならば、今の敵たちに有利を取れたのだが、いないのだからどうしようもない。 ゼロもミラーナイトも苦戦しているのを見せられたルイズたちの内、キュルケが我慢ならずに 杖を手に取った。 「このままじゃまずいわ! 援護するわよ! タバサ、手伝って!」 タバサはうなずくが、ルイズが二人のことを案じて尋ねかける。 「で、出来るの?」 「敵は氷を武器にしてるわ。だったらあたしの炎が少しは役に立てるはずよ。タバサの協力があれば尚更だわ。 さぁタバサ、力を合わせるわよぉ!」 「分かった」 キュルケがグロストへ杖を向けると、先端から激しい火炎が噴射する。その炎は、タバサの起こす 旋風によりもっと勢いを増して、炎の竜巻になって巨大なグロストへ飛んでいく。 「ギイイイイイイイイ!」 するとどうだろうか。炎の竜巻を受けた途端、グロストの身体の突起が崩れ、溶けていくではないか。 「嘘!? すっごい効いてるわ!」 これには、攻撃を仕掛けたキュルケが驚かされた。せめて足止めになればという程度にしか 考えていなかったので、あの巨大生物の身体を破損させるほどに通じるとは思ってもいなかった。 というのも、理由がある。グロストは熱がほとんど存在しない超極寒の環境の星に生きる生命体であり、 体組織が氷に限りなく近い。そのため冷気攻撃は怪獣界の中でも強烈だが、熱と炎には丸っきり耐性を持たない。 何と焼き芋の熱でひるんだことがあるほどなのだ。それが、キュルケとタバサの作り出す炎の竜巻に 耐えられる訳がなかった。 「まッ、効くんだったらそれに越したことはないわ。このままガンガン攻めるわよ!」 勢いに乗ったキュルケとタバサは、そのまま炎の竜巻を食らわせ続ける。それにより、 高熱に晒されたグロストの身体は瞬く間にドロドロに溶けていき、冷凍ガスの勢いも 見る影がないほどに衰えた。 「ギイイイイイイイイ……!」 『! 今です! シルバークロス!』 それによって持ち直したミラーナイトは、すかさず必殺の十字の光刃を放った。シルバークロスは グロストの身体を四つに分断し、地面の上に転がす。その破片も、ミラーナイフで粉々に砕かれた。 『ありがとう、ゼロの友人たちよ。あなたたちのお陰で助かりました』 ミラーナイトは助けてくれたキュルケたちにガッツポーズを見せ、感謝の気持ちを表現した。 「きゃあ! あのミラーナイトっていう戦士、あたしたちにお礼を言ってるみたいよ!」 その気持ちはちゃんと伝わり、キュルケははしゃいで喜んだ。 「パオオオオ! パオオオオ!」 『うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』 だが喜んでばかりもいられなかった。スノーゴンと戦っていたゼロは、冷凍ガスに全身を覆われて その姿が見えなくなった。 「!? ゼロぉッ!!」 『グハハハハハ! グロストがあんな役立たずとは思わなかった! だがウルトラマンゼロの方は、 我がスノーゴンがカチンカチンに凍らせてやったぞ!』 ルイズが絶叫し、ブラック星人はもう勝ったものと思って豪語した。が、 『なーんてなッ!』 『何ッ!?』 するはずのないゼロの声が響き、驚愕させられる。そして冷凍ガスが晴れると、そこにあったのは、 『た、盾だとぉ!?』 青と赤、銀色のゼロのカラーで彩られた盾が宙に浮いていた。これはウルトラゼロランスと同じく、 ウルティメイトブレスレットの機能の一つ、あらゆる攻撃を遮るウルトラゼロディフェンダーである。 かつてのスノーゴンは、これの前身であるウルトラディフェンダーが決め手となって ウルトラマンジャックに敗れ去ったものだ。 しかし盾で身を守ったはずのゼロの姿がない。スノーゴンが左右を見回していると、頭上から呼び掛けられた。 『こっちだぜ!』 ゼロはスノーゴンの頭上で、ウルトラゼロキックを仕掛けるところであった。 『フィニィッシュッ!!』 「パオオオオ!!」 最早スノーゴンにかわす手立ても防ぐ手立てもなく、必殺の飛び蹴りをもろに食らった。 火達磨になったスノーゴンは弧を描いて飛んでいき、地面に激突したと同時に爆散した。 『な……あ……ひええぇぇぇぇぇ!』 グロストとスノーゴン、双方を倒されたブラック星人は、傲然とした態度をかなぐり捨てて 一目散に逃走しようとした。しかしゼロがこんな極悪非道な侵略者を見逃すはずがなかった。 「シャッ!」 『あぎゃああああ―――――――――――――!!』 緑色の光弾、ビームゼロスパイクの一撃を撃ち込まれ、ブラック星人はあえなく爆死した。 これでモット家に巣食っていた魔の手は一掃された。 「ジュワッ!」 「ハッ!」 敵がいなくなった以上、ゼロとミラーナイトがこれ以上留まる必要はない。彼らは空中に飛び上がると、 二人並んで空の彼方へ去っていった。 悪は去った。しかし、助かったというのにシエスタだけは、その場にしゃがみ込んでほろほろと涙を流していた。 「ああ、サイトさん……私のせいで、犠牲になって……ごめんなさい、ごめんなさい……」 どうやらシエスタは、才人が自分たちを逃がす際に死亡したものと思っているようだった。 そこにルイズが、おずおずと声を掛ける。 「あ、あのね? 泣くのは早いんじゃない? 何も、サイトが死んだと決まった訳じゃないんだから……」 というより、死んだはずがないのだ。だってたった今まで、そこで元気に戦っていたのだから。 だがそれを知る由もないシエスタの説得は無理だった。 「いいえ! あの状況で助かるはずがないじゃないですか! それこそ、奇跡でも起こらない限り……」 「おーい、みんなー!」 言葉の途中で、当の才人が屋敷の瓦礫を踏み越えて、ひょっこりと姿を現した。 「あッ、ダーリン! 無事だったのね! 信じてたわ!」 「不死身……」 「いやぁ、危ないところをゼロに助けられたんだ。今回ばかりは肝を冷やしたぜ。寒かっただけに。なーんて」 つまらない冗談を言っている才人の姿をまじまじと見たシエスタは、ポカーンと口が開いていた。 「そうだシエスタ! そっちこそ無事だったのか? モット伯、っていうか宇宙人たちに ひどいことされなかっただろうな?」 才人が呼びかけると、固まっていたシエスタは、いきなり才人に抱きついた。 「わぁぁぁッ!? シ、シエスタ!?」 「サイトさーん!! ご無事でよかったですぅぅぅぅぅ! 奇跡が、奇跡が起こったんですねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」 シエスタが抱きついたことに、ルイズは目を白黒させて、そして真っ赤になって怒り出した。 「こ、こらメイドぉッ! あんた何しちゃってるのよぉ! さっさとサイトから離れなさいよッ!」 「嫌ですッ! もう離しません! サイトさんをどこにもやったりしませんから!」 「な、何言ってるのあんた!? サイトッ! あんたこそ離れなさい! 早くしないと百回鞭打ちの刑だからね!!」 「そ、そんな理不尽な!!」 ルイズが怒鳴り散らし、才人が悲鳴を上げる構図を目にして、顔を見合わせたキュルケとタバサは 呆れて肩をすくめた。 とまぁ最後はドタバタしたものの、モット伯の件はこれで丸く収まった。後日判明することだが、 モット伯は操られていた時の記憶がおぼろながら残っており、それがトラウマになって 女性恐怖症の後遺症が残ったのだとか。まぁそのお陰で、彼の悪癖がなりを潜めたそうだから、 雨降って地固まるといったところか。 「ルイズ、本当にありがとうな。お陰でシエスタを救うことが出来たよ」 そして学院の寮に帰ると、才人はルイズに一連のことの礼を述べた。それにルイズは そっけない風に返答する。 「別にいいわよ。ご褒美代わりって言ったでしょ? それに、結局あんまり役には立てなかったし…… ほとんどキュルケやゼロたちが解決したようなもんだったしね……」 「そんなことないさ。お前が最初に協力してくれなかったら、あの屋敷に入ることも出来なかったかもしれないんだから」 悔しそうなルイズを励ますように告げる才人だが、それでもルイズの気持ちは軽くならなかった。 何故なら、自分のやったことは「他の者にも出来たこと」なのだから。 (たとえばキュルケでも、わたしのやった屋敷の中に通すことは出来たはずだわ。けど、 キュルケのやったことでわたしに出来たことはない。……キュルケとタバサ、あんなに 強力な魔法が使えていいな……どうしてわたしには、何の魔法も使えないんだろう……) 魔法の使えない自分と比べて他のメイジを嫉妬したことが何度もあるルイズだが、今回ばかりは、 純粋にキュルケたちの才能を羨ましがった。 その指に嵌められた『水のルビー』が、誰にも知られることなく、キラリと輝きを放った。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/ws_wiki/pages/602.html
autolink() ZM/W03-065 カード名:ウェディングドレスのルイズ カテゴリ:キャラクター 色:赤 レベル:1 コスト:1 トリガー:1 パワー:5000 ソウル:1 特徴:《魔法》?・《虚無》? 【自】[①]このカードがアタックした時、クライマックス置場に「ご褒美」があるなら、あなたはコストを払ってよい。そうしたら、自分の控え室のキャラを1枚選び、手札に戻す。 【自】アンコール[手札のキャラを1枚控え室に置く](このカードが舞台から控え室に置かれた時、あなたはコストを払ってよい。そうしたら、このカードがいた枠にレストして置く) …主人と使い魔ってだけじゃなくてもっと確かな絆が欲しいの レアリティ:C illust.ヤマグチノボル・メディアファクトリー/ゼロの使い魔製作委員会 ゼロの使い魔版ゴキゲンな由夢。 ただし、こちらの方は対応CXが回収トリガーであり、レアリティもCで断然入手し易いとかなり便利になっている。 手札アンコール+CXシナジーによる回収の便利さは直枝 理樹等でも証明済み。 また基本サイズもそこそこあり、「ルイズ」?ネームに関するサポートもあるので、アンコール持ち中堅キャラとして単独でもそれなりに戦えるスペックを持つ。 更にサイト&デルフリンガーによりサイズアップが可能であり、そちらのカードも0コストで場に出せたりカウンターに使ったりできる為、バトルに関してはこれまでのレベル1回収系能力持ちの中でも強い方と言える。 ・対応クライマックス カード名 トリガー ご褒美 扉 ・関連カード カード名 レベル/コスト スペック 色 備考 サイト&デルフリンガー 1/0 1000/1/0 赤 ・関連ページ 「ルイズ」?
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9481.html
前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第72話 天然物にご用心 変身怪人 ピット星人 宇宙怪獣 エレキング 登場! 「さあさ、皆さんこんにちは。すっかりおなじみの悪い宇宙人さんでございます」 「んん? もういい加減にしろ、お前の顔は見飽きたですって。おやおや、ひどいですねえ」 「そりゃ私は出しゃばりものですよ。それに、本当ならあなた方は今頃はヤプールをやっつけようとがんばってるはずだったんですものねえ」 「まま、そう怒らないでください。しょせん私は舞台の飛び入りです。クライマックスまで居座るつもりはありません。第一、私の目的の半分は達成されてますしね」 「ですが、思ったよりも苦労が多かったのも事実ですね。まったく、この世界の人たちは我が強いです」 「それと、度々私にちょっかいを出してくる誰かさん。ようやく正体が掴めてきましたよ。なにを企んでいるのか……そろそろ、あなた方も知りたいと思いませんか? フフ」 「きっとお楽しみいただけると思いますよ。いろいろな意味で、ね」 宇宙人の前置きが終わり、舞台は再びハルケギニアに戻る。 次の事件が起きるのは東か西か。起きる事件は悲劇か、それとも喜劇か。 ある晴れた日の昼下がり、魔法学院は久々の三連休のその初日、才人たちは見渡す限りの畑の中にいた。 「ひゃあ、こりゃまた広いとこだな。トリスタニアの近くにこんないいとこがあるなんて知らなかったぜ!」 「はい旦那様、こちらは狭いながらも農耕が盛んでして、よい作物が取れるのです。このド・オルニエールによくおいでくださいました。歓迎いたします」 才人とルイズ、そしてギーシュら水精霊騎士隊の面々は、ふくよかな土地の農夫に案内されて農道を歩いていた。 ここはトリステインの地方のひとつ、ド・オルニエール。トリスタニアから西に馬で一時間ほどにある、豊かな農地を持つ土地である。道を歩く一行は、一様に豊かな土地が見せる豊饒な緑の光景に見惚れて顔をきょろきょろとさせていた。 しかし、騎士隊である彼らがなぜ農地に来ているのだろうか? 事の起こりは、この数日前にアンリエッタ女王からの勅命が下ったからである。 魔法学院にやってきた王宮からの使いは、水精霊騎士隊の一同を集めるとこう言い渡した。 「本日より三日後、ド・オルニエール地方にて農園開拓のための事業が始まる。諸君らはそこに赴き、その手伝いをしてもらいたい」 この命令に、ギーシュたちは一様に首をひねった。 「開墾ですか? ですが、なんでまたぼくたちが?」 当然である。自分たちは農業にはなんの知識もない、ただの学生なのだ。そういう事業を始めるならば、それ専門の貴族を遣わせばいいだけだ。 すると使いの役人は、話は最後まで聞けというふうに答えた。 「なにも君たちに土を掘り返したり用水路を作れと言っているわけではない。順を追って話すが、最近我がトリステインとアルビオンの間の交易はさらに活発になってきておってな。アルビオンでの我が国産のワインの需要が高まってきており、そこで枢機卿の計画で、ワイン用のぶどう農園を増やすことになったのだ」 「はあ」 「土地はド・オルニエールに決まり、すでにタルブ村から苗木の取り寄せと職人の手配もすんでいる。しかし、どうせワインの増産をするのなら他国への輸出もさらに増やそうということになり、ゲルマニアから交渉のための大使を呼んでいる。諸君には、そのもてなしを頼みたいということだ」 「あの、もっと話がわからなくなったのですが。そんな大役ならば、ぼくらのような学生ではなく、それこそ大臣の方々が引き受けるべきかと存じますが」 「そんなことは知らん。とにかく、女王陛下がお前たちにぜひに頼みたいとのたってのご命令なのだ。貴族たるもの、これを名誉と思わずにどうする!」 「はっ、ははっ! 我ら水精霊騎士隊一同、喜んで仰せつかると女王陛下にお伝えくださいませ」 こうして、よくわからないままに彼らはド・オルニエールに出向くことになったのである。 しかし、ド・オルニエールというのはどういう土地なのだろう? 調べてみると、年に一万二千エキューほどの収益がある、そこそこいい土地であるということだった。そこで同盟国の大使を迎えるなら、なるほど名誉な仕事には違いない。ギーシュたちは大役を与えてくれた女王陛下に感謝し、周りに自慢しまくったのは言うまでもない。 そして、ゲルマニアの大使がやってくるという日、彼らはド・オルニエールにやってきた。もちろん、せっかくの休みで暇なのだからということで才人やルイズ、キュルケやモンモランシーらのいつもの面々もついてきて、ぞろぞろと歩く姿はまるで大名行列のようであった。 しかし、大名行列はド・オルニエールにつくと一転してピクニックの集団に早変わりした。そこは想像していたよりもはるかに肥沃で豊かな土地だったからだ。 「貴族の旦那様方、こちらは今年うちでとれた野菜でございます。よければお召し上がりくださいませ」 「いやいや、うちの畑でとれた果物はとても甘く出来上がっております。こちらをお先にどうぞ」 「それでしたらうちの牧場の牛からとれた新鮮なミルクはどうでやすか。チーズもヨーグルトもありますぜ」 と、こういうふうに住民たちから予想外の大歓迎を受けたのである。 もちろんギーシュたちは面食らった。子供とはいえ貴族が複数でやってきたら平民が歓迎するのは珍しくないことだが、ここまで熱烈な歓迎が来るとは思っていなかったのだ。 「ちょ、ちょっと待ってくれたまえ君たち。気持ちはうれしいが、我々は女王陛下から大事な任務を預かった身であるからして!」 必死にとりなして落ち着いてもらうと、平民たちもようやく貴族に対する無礼を働いたことを自覚して謝罪した。 「申し訳ありません旦那様方。今年は過去にない豊作でして、うれしさのあまりつい我を忘れてしまっておりました」 「いや、わかってくれればいいんだよ。豊作なら、それはとてもいいことだ。女王陛下もお喜びになられることだろう。ところで、この土地の領主殿の館へ案内してほしいんだが」 「旦那様、ご存じないのですか? このド・オルニエールは十年ほど前に先代のご領主様がお亡くなりになられた後、お世継ぎもおらずに国に召し上げられたのでございます」 そう聞いてギーシュたちは顔を見合わせた。豊かな土地なら領主がいると思い込んで、そこまで下調べしてこなかったうかつさを悔やんだがもう遅い。 「と、となると……今、この土地は国の代官が治めているのかね?」 「いいえ、つい昨年までこのド・オルニエールはお国からもほったらかしにされておりました。お役人様も年に数度の年貢の取り立てと調査くらいでしか訪れてはおりません。そういえば、近々こちらへ外国のお偉いさまがいらっしゃると沙汰があったのですが、旦那様方ですかな?」 「あ、いいや。僕たちは、そのお偉いさんをもてなすために来たんだ。だけど弱ったな。泊まってもらうところもないんじゃ無礼になってしまうぞ」 ギーシュはレイナールたちと顔を見合わせた。下調べをしてこなかったことを本格的に後悔し始めたがもう遅い。貴賓をもてなすのに、まさか農家を使うわけにはいかない。 すると、ひとりの老農夫がにこやかに言った。 「それなら心配ございません。お屋敷は今、学者の先生が二人住まわれています。とてもおきれいで気さくな方々なので、すぐにお屋敷を貸してくださるでしょう」 それでギーシュたちはほっとした。人が住んでいるなら清掃もされているだろうから問題ない。後は交渉次第だが、こちらは女王陛下の命で来ているのだ。それに、女性で美人らしいと聞いては会わないわけにはいかない! その農夫に道案内を頼んで、ギーシュたちはド・オルニエールを再び歩き始めた。 安心したせいか足取りも軽く、いい陽気なのも相まって一行の目は自然に道行く先の景色に吸い込まれていった。見ると、道の右にも左にも豊かな農地や牧草地が広がっていて、楽園のようなその光景にキュルケやモンモランシーも感嘆したように見惚れていた。 「すごい活気のある農園ね。わたしの実家の領地にも、ここまで豊かな土地はなかったと思うわ」 「ええ、キュルケがそう言うならトリステインの他にもこんなところはないでしょうね。けど、これほど豊かな土地に、これまで代官も立てられずにほったらかしにされてたってのはおかしいわね」 モンモランシーがそうつぶやくと、農夫が笑いながら答えた。 「いいえ、ド・オルニエールがここまで栄えられるようになったのは、実はつい最近のことなのですよ。昨年までは、こちらは荒れに荒れ放題で、土地から出ていくこともできない老人たちがわずかなぶどうを栽培してやっと生計を立てているような貧しい土地でした。けれど、学者の先生方がこちらにいらしてから、土地が肥えて作物が山のように取れだし、出稼ぎに行っていた若い者たちも帰ってきてくれましたのです」 しみじみと農夫は語ったが、以前に自分の実家が土地開発で失敗した経験のあるモンモランシーは驚いた。 「これだけの土地をたった一年で作り直したって言うの? その学者の先生って人たち、いったいどんな魔法を使ったのよ」 「水だそうです。こちらは、山の向こうに小さな湖がありまして、そこから水を引いているのですが、なにやらそちらでなさっているようなのです。わたくしどもは難しいことはわからないのですが、水がとても肥えるようになり、それを撒くだけで痩せていた土地もみるみる生き返っていったのです」 「水、ねえ。わたしも水のメイジだけど、そんなに水を肥やす魔法なんて聞いたことないわ。話を聞けたらモンモランシ家の再興に役立てられるかも」 なにげなくギーシュについてきたが、これは儲けものかとモンモランシーは思った。 キュルケはといえば、道行く農夫にわけてもらったオレンジの皮をむいて口に放り込んでいる。確かによく肥えているだけあって味も豊潤だ。 なるほど、これだけ豊かな土地ならば女王陛下が目をつけたのもわかる。ワインに限らず、ここで採れる農作物を輸出できれば、まだまだ貧乏国であるトリステインにとって良い収入となるだろう。 が、それにしても解せない。ギーシュも言った通り、そんな大事な交渉をおこなうための役割ならばトリステインの重鎮の誰かが出るのが当然で、なんの経験もない学生の私的な集まりが選ばれるなんて常識では考えられない。 「これは何かあるわね」 キュルケはほくそ笑んだ。あの女王様、見かけによらず腹黒いところがあるが、今度はなにを企んでいるのだろうか。暇つぶしについてきたが、おもしろくなりそうだ。 ギーシュたちはといえば、土地の人たちにちやほやされて調子に乗っているのか、事態の重大さに頭が回っていないようだ。 「ほらサイト聞いたかい? 女の子たちが、あの有名なグラモン家のギーシュ様ですかと言っていたぞ! いやあ、いつの間にかぼくも有名になっていたんだなあ」 「それって女癖の悪さで笑いものにされてるから有名なんじゃないのか?」 軽口を叩き合いながら歩く男子の顔は皆明るい。一方でルイズは男子の会話に混ざっていくことができず、グループから一歩下がってリンゴをかじっていた。 「なによ調子に乗っちゃって。ゲルマニアの大使に無礼があって国際問題になっちゃったら女王陛下の責任になるのに、もう」 親友であるアンリエッタが問題に巻き込まれることを思うとルイズの胸は痛かった。しかし、アンリエッタの采配の意味がわからないのはルイズも同じだ。 ああもう、姫様は昔から突拍子もない思い付きをしては周りを困らせるんですから。あなたはもう女王なのですよ。 ルイズはいたずら好きなアンリエッタの顔を思い出して、どうにも悪い予感が抑えられずに頭を抱えた。もうどうにでもなーれ! と、お手上げの意味を込めて万歳をするその手で、ウルトラリングがキラキラと輝いていた。 しかし、そうして歩いていく一行を、離れた場所から監視している目があった。 「んんー、また大勢来たねー」 「ち、あと少しだというのに、これというのもお前が人間どもと余計な馴れ合いを続けるからいらない噂が立つのよ!」 「えー、だってここの人間たちはいい人ばかりじゃない。私だって”ぷらいべーと”はほしいんだもん」 「お前という奴は……!」 気の抜けた声と甲高い声が話し合っている。甲高い声のほうは気の抜けた声のほうを、なにやら叱責しているようだが、気の抜けたほうはあまり気にした様子がない。 二人はしばらく言い争っていたが、ふと気の抜けたほうがルイズを指さして言った。 「んー? あれ、待って、あの小娘……手配にあった子じゃない……?」 「へえ、こんなところに来るなんてね。ようし、あれもそろそろ出来上がるし、やってしまいましょうか」 「ま、待ってよ。まだ一匹しかいないのに、戦わせるなんて無理だよ。それに、あの小娘はかなりやっかいなメイジだって噂だよ。やめておこうよ」 「何言ってるの! ウルトラマンの一人を倒したとなれば私たちにも箔がつくのよ。うふふ、運が向いてきたじゃないの。やりようはあるわ、私たちの伝統の方法でね」 不気味な声が響き、監視する目はどこかへと去っていった。 そうしてしばらく歩き、鬱蒼とした森の中に目的の屋敷は建っていた。 「ほほう、これはなかなか立派な屋敷じゃないかい」 一番乗りしたギムリが入り口から入ったホールを見渡して言った。 十年前に領主が亡くなって、去年までは放置されていたそうだが、今ではきちんと清掃されて立派な貴族の館の様相を取り戻していた。 ホールに入った一行は、まずは館の主に用件を伝えるために呼び鈴を鳴らした。涼やかな音が響き、やがて屋敷の二階からすたすたと眼鏡をかけた学者風の若い女性が二人現れた。 「こんにちはー、わたくし共に何かご用事でしょうか?」 二人のうちで、少し胸の小さいほうの女が尋ねてきた。それでもルイズよりはよほど大きいのだが、それよりも二人ともなかなかの美人で水精霊騎士隊の少年たちは思わず見とれてしまった。 「ハッ! し、失礼します。実はこちらでお願いしたいことがありまして……」 我に返ったギーシュが用件を説明すると、女たちはうなづいてにこやかに答えた。 「そういうことですかー。わかりましたー、私たちは勝手にこちらに住まわせてもらっている身ですぅ。普通なら立ち退きを命ぜられるところを、ご恩情に感謝しますー。どうぞ、ご自由にこちらを使ってくださいねー」 「い、いいえ、お礼を言うのはこちらのほうです! あなた方がいなければ我々は空き家を使うことになってました。できるだけご迷惑はかけませんので少しの間よろしくお願いします」 不法占拠を素直に詫びて屋敷を明け渡してくれた二人の学者に、ギーシュたちは思わず下手に出てしまった。その後ろではモンモランシーが固まった笑顔を浮かべている。 すると、二人の学者はルイズたちに向けて優雅に会釈してみせた。その仕草は上流貴族のルイズから見ても二人の教養の高さが伺え、ましてギーシュたちは女神を見たように見惚れている。 けれど才人たちも、地元の人たちから聞いていた通りのいい人たちだなと好感を持った。特にルイズは、同じ学者でもエレオノール姉さまとは偉い違いねと、本人に聞かれたら雷が落ちるであろうことを考えていた。 ともあれ、これでゲルマニアの大使を歓迎する場所はできた。後は準備を整えるだけとなって、一行はそれぞれ手分けして当たることにした。 「では諸君、確認だ。大使殿は今日の夜間にこちらに到着される予定である。屋敷の飾りつけとお部屋の用意だが、そちらはレイナールが指揮して、ギムリたちは近所を回って料理の手配をしてくれ。ぼくは大使殿に渡す資料を学者の先生方といっしょに用意しておく」 こうして、水精霊騎士隊は大きく三班に分かれて準備に当たることになった。しかし、もし学者の先生方がこの屋敷を整理してくれてなかったら、これらのことを一日で全部やらなければならなかったわけだから、まったく考えなしの行き当たりばったりもはなはだしい。キュルケやモンモランシーは歓迎の用意を手伝いながらも改めてギーシュたちに呆れるとともに、アンリエッタの采配に疑問を持った。 アンリエッタはギーシュたちのことをちゃんと知っている。あのバム星人によるトリステイン王宮炎上のときの活躍から、さまざまな方面で頭角を見せてきた。が、それらを考慮しても今回のことはやっぱり納得できない。ゲルマニアは実利を優先する、悪く言えば物欲主義の国だ。学生だけの出迎えなど、なめられていると思って怒らせたら何を要求してくることか。 モンモランシーは、いくらゲルマニアでも学生の無礼くらいは許してくれるんじゃない? と、考えていたが、キュルケの「わたしの母国よ」の一言で考えを改めた。軽い気持ちでついてきたが、キュルケと話していると事の重大さがわかってきて胃が痛くなってくるのを感じてきた。見ると、水精霊騎士隊の面々は大任の興奮に早くも酔っているようで、いっぱしの貴族めいて礼儀作法の注意などをしあっている。 「ほんっとにお気楽なんだから。あれ? そういえばサイトとルイズは?」 「ああ、二階でギーシュたちといっしょにド・オルニエールの資料をまとめてるみたいよ。サイトはその荷物持ちみたいね」 まあ、才人は見栄えには無頓着だし適任だろう。キュルケとモンモランシーは、ともすればサボりがちになる男子にはっぱをかけながら、歓迎式典の準備を続けた。 さて、その才人たちは二階にある図書室で、学者の先生方の研究資料を貸してもらいながらド・オルニエールの資料を作っていた。 「そんなに広くない領地だけど、採れる作物や土壌の性質とか、まとめだしたらすごい量になるわね。あいつら、もしわたしたちがついてこなかったどうするつもりだったのかしら」 ルイズは科目のレポートを出す感覚で資料をまとめていた。ギーシュたちと違って、きちんと授業は受けているほうなのでこういうことは得意だ。 けれど、ルイズひとりでは到底間に合う量ではないため、ほとんどは学者の先生方に頼ってしまっていた。資料を引っ掻き回すしか能がないギーシュたちははっきり言って全然役に立っていない。 「うわあぁぁぁっ!」 「ちょっと! そこのあなた。せっかく私たちがまとめた資料を崩さないでよ!」 「ど、どうもすみません!」 資料を持ってこけた水精霊騎士隊の少年が、学者のひとりに怒鳴られていた。 ふたりの学者のうち、さきほど交渉した胸の小さなほうはおっとりとして温厚だったが、もうひとりの胸の大きなほうは優しそうに見えて意外とかんしゃく持ちだった。もっとも、少年たちの中には「叱られるのが快感」みたいなのもいるから、何をいわんやであるが。 しかし、見ていると妙な二人だとルイズは思った。性格と身なりこそ差があれど、よく見れば二人とも同じ顔をしているのである。双子かと思って聞いてみたが、そうでもないらしい。 いや、そんなことはどうでもいい。ルイズが気に入らないのは、あの二人の女がやたらと才人に色目を使うことであった。 「ねえ、坊やって珍しい髪の色してるのね。どこから来たの? お姉さんに教えてくれない?」 「あ、あのぉ、顔が近いです。そ、それに胸も……」 「ぼく~。こっちきて手伝って~。これ、私じゃおもーいー」 「は、はい! って、お姉さん、荷物で服がはだけて、む、胸が」 才人が女に寄られるのは今に始まったことではないが、だからといってルイズの気分がよかろうはずがない。横目で見ながら我慢してはいても、目元がピクピクと動いて殺気を撒き散らしている。 不愉快だ。すごく不愉快だ。サ、サササ、サイトったら、あとで鞭打ち百叩きね。いえ、最近わたしったら少し優しくなりすぎたわね。千回、万回叩いて、誰がご主人様か思い出させてあげるわ。 ルイズの頭の中で才人の処刑用フルコースのメニューが目まぐるしく変わっていく。ルイズの想像の中で才人はバードンに追い回されるケムジラのように悲惨な目に会いまくっていた。 しかし、ルイズにそんな残酷な未来を設定されているとはつゆ知らず、才人は才人で綺麗なお姉さんふたりにちやほやされて困り果てていた。 「ねえ、坊や。私、自分の知らないものを見ると我慢ができないの。坊やのこと、教えてくれないかしら」 胸の大きな女が才人にすり寄る。才人は、いつもなら大歓迎だがとにかくルイズの手前、必死に理性を総動員して話を逸らそうと試みた。 「お、おれはその前にお姉さんたちのことを知りたいな! ここで何を研究しているんですか?」 「んー? そんなこといいじゃない。っと! あ、あなた」 「あーっ! 僕ったら、私たちのこと知りたいのー? いーよいーよ、私たちはねー。ここのきれいな湖でよーしょくの実験をしにはるばる来たんだー」 胸の小さなほうの女が胸の大きな女を押しのけて、間延びした声で自慢げに話し始めた。どうやら、研究のことを聞かれるのがうれしいらしい。胸の大きい女が止めるのも聞かず、才人はこれ幸いと話をそっちに振った。 「よーしょくって、生け簀で魚を育てる、あの養殖のことですか?」 「そーそー、ここは水がきれいでねー。よーしょくじょーとして最適? なんだよー。むこーに湖があるんだけどー。そこでいろいろ実験してるんだー」 得意げに、胸の小さな女は自分たちの研究を自慢した。 聞くところによると、彼女たちはド・オルニエールにある湖で養殖の研究をしており、その副産物で肥えた湖の水が農地に流れ込むことで近年の爆発的な豊作につながっているようだ。 なるほど、このド・オルニエールに関する大量の資料はそのためか。仮にも学者を姉に持つルイズは納得した。水産をおこなうなら、その土地に関する入念な研究も必要だ。学者は自分の専門分野にだけ詳しければいいというものではないのだ。 それだけに胸の小さい女は、よほど自分の研究を話すのが楽しいらしく、胸の大きいほうの女が「ちょっと、よしなさいよ」と止めるのも聞かずに垂れ目を笑わせながら話し続けている。 「わたしねー、小さいころから生き物を育てるのが好きだったんだー。それでこの仕事はじめたんだけどー、生き物っていいよねー、すくすく育っていくのを見てるといつまで経っても飽きないもん」 すると、胸の小さい女と才人の間にギーシュが目を輝かせて割り込んできた。 「わかります、美しいお姉さま。ぼくも昔、領地でグリフォンを飼っていましたが可愛くてしょうがなかったです。ぼくたち、気が合いそうですね」 「えー、君もそうなんだー。この「ど・おるにえーる」の人たちもねー、野菜とか果物とか育てるのか好きみたいでー、作物をおすそ分けしてくれるいい人ばっかりなんだよー。私は別に好きなことやってるだけなんだけどねー」 「素晴らしいことです。ぼくも薔薇を愛でるだけじゃなくて、自分で薔薇の栽培をしてみるのもいいかもしれませんね。ところで、お姉さまはどんなものを育ててるんですか?」 「ん? エレキ……」 そのとき、胸の大きい女が「わーっ! わーっ! わーっ!」と叫びながら胸の小さい女の襟元を掴んで言った。 「ちょっとあなた! あのことは秘密でしょう! なに考えてるのよ!」 「あ、ごめーん」 なにやらよくわからないが内輪の喧嘩らしい。才人やルイズたちはきょとんとして見ていたが、胸の大きい女は振り向くと、よく通る声で言った。 「言い忘れてたけど、向こうの湖には絶対行っちゃだめだからね。わかった!」 「え? なんで」 「なんででもよ!」 すごい剣幕で命令するので、思わず才人たちも「は、はい」と答えるしかなかった。 唯一、ルイズだけが「なんなの、この女たち?」と怪しげな視線で見つめている。落ち着いて考えてみれば、学者だというがいったいどこの学者なのだ? 少なくともトリステインの学者ではなさそうだが、なら……? だがそのとき、才人が思い出したようにつぶやいた。 「あれ? 湖といえば、さっきギムリたちが釣りができるかもしれないから寄ってみようって言ってたけど」 「なんですって! まったく、これだから男ってのは」 胸の大きな女は、そう言って飛び出していこうとしたが、その前に胸の小さな女が部屋のドアを開けていた。 「んー、ちょっと注意してくるねー」 「え? あ、ちょっと!」 止める間もなく、胸の小さい女は出ていってしまった。 そしてざっと一分後。 「注意してきたよー」 と、帰ってきた。 「えっ!? もう!? 話に聞いた湖まで、たっぷり一リーグはあるはずなのにどうやって!」 「え? 走って」 走って? 今度は才人も含めた一同全員が面食らってしまった。 一リーグを走って一分で往復する? 冗談でないとしたら、そんなこと人間には絶対にできっこない。そう、人間ならば。 ルイズが厳しい目をして席を立ち、才人もそっとデルフリンガーに手をやる。 しかし、話を聞いていなかったのか、ギーシュがきざったらしく薔薇を捧げながら言ったのだ。 「ミス、どうもぼくの仲間がご迷惑をかけてすみません。お詫びに、あなたたちの美しさにはとても及びませんが、これをどうぞ」 すぐ下の階にモンモランシーがいるのにいい度胸だと才人は思ったが、呆れている場合ではない。そりゃ確かに美人だから気持ちはわからなくはないけどさ。 才人もギーシュと目くそ鼻くそではあったが、それでもウルトラマンとしての勘で怪しさには気づいていた。なおルイズは女の勘というか野獣の勘と言うべきか。 だが……このバカ、空気読めと思いながらも才人たちは手を出せなかった。女たちとギーシュの距離が近すぎる。しかし……。 「わあ、綺麗なお花。ぼくー、ありがとー。優しいんだねー」 「いえいえ、美しいレディにはこれくらい当然のことですよ」 胸の小さい女はギーシュから薔薇の造花をうれしそうに受け取ると、そのまま花瓶に差しに行こうとして造花だと気づいて笑って頭をかいた。 「あららー、私ったらドジねー。けど、まーいーかー。ふふ」 そう言うと、彼女は子供のような笑みを見せて花瓶に造花を差した。その笑みは例えるならティファニアのように本当に無邪気で、警戒し始めていた才人とルイズも一瞬気を緩めてしまったほどであった。 ギーシュに釣られて、水精霊騎士隊の他の少年たちも口々に仕事を忘れて口説き始めた。 「ミス、よければぼくとお茶でもいかがですか?」 「いえいえ、美味しいお菓子をいただいてきてるんです。いただきながら僕と詩を語り合いませんか」 「あらあらー、そんなにいただいたら私子豚ちゃんになっちゃうよー」 まるでおやつ時の子供たちのような、なんの他意もない和気あいあいな空気であった。 才人とルイズはギーシュたちのお気楽さに呆れたが、それよりもポリポリと菓子をかじりながら笑う女を見て、得体は知れないが、この女は悪い奴じゃないんじゃないかと思った。 しかし、もう一人の胸の大きい女は違った。皆の注目が胸の小さい女に向いた隙に、いつの間にか才人に近づいてきていたのだ。 「君」 「えっ? わぷっ!?」 後ろから声をかけられて振り向いた瞬間、才人の視界は真っ暗になり、顔全体が温かくて柔らかいものに包まれた。 なんだなんだ! 才人の頭が混乱する。そしてそれが、女が自分の胸を押し付けてきたのだと悟った瞬間、才人の頭は完全に真っ白になった。 「!!??」 「いまだ、いただくよ!」 才人の思考力がゼロになった瞬間、女は素早く才人の手をとった。そしてそのまま才人の指にはまっているウルトラリングを抜き取ってしまったのだ。 「やった!」 「しまっ! 返せ!」 才人が我に返ったときには、すでにウルトラリングは女の手に渡ってしまっていた。 「ははは、はじめからこうしておけばよかったよ。あばよ」 女は笑いながら踵を返した。 才人は背筋がぞっとした。やられた、こいつは最初からこれが狙いだったんだ。奪い返そうと手を伸ばすが届かない。追いかけようとしても、初動が遅れてしまったために足が言うことを聞かない。 だめだ、逃げられる。命の次に大切なウルトラリングが! 才人は自分のうかつさを、離れつつある女の背中を見送りながら呪った。だが、その瞬間だった。 「エクスプロージョン!」 無の空間から爆発が起こり、女とついでに才人もぶっ飛ばした。 「うぎゃっ!」 爆発で壁に叩きつけられ、踏まれたカエルのような悲鳴をあげる才人。もちろん胸の大きい女も無事ではなく、床に投げ出されて、その手からウルトラリングが零れ落ちてコロコロと転がった。 「くっ、まさか仲間ごと。ちいっ!」 胸の大きい女は起き上がると、転がってゆくウルトラリングを拾い上げようと駆けだした。一歩で馬のような俊足を発揮し、とても人間とは思えないスピードでウルトラリングに迫る。 才人はまだ起き上がれない。ギーシュたちも事態についていけずに呆然としていて役に立たない。 しかし、そんな目にも止まらない速さも、本当の目にも映らない速さには勝てなかった。女がウルトラリングを掴み上げようとした刹那、リングは瞬時に割り込んだルイズの手に渡っていたのだ。 「なにっ!?」 「『テレポート』よ。サイトを狙いすぎて、わたしを無視してくれたのが敗因だったわね。伝説の虚無の系統をなめないでよ。そして、どこの誰かは知らないけど、あんたは敵だってはっきりわかったわ!」 ルイズの放った二発目のエクスプロージョンが胸の大きい女を襲う。しかし女も今度は直撃を避けて距離を取り、憎々し気にこちらを睨みつけてきた。 「くそっ、あと少しだったのに。こうなったら、お前も来い!」 「えっ? えぇぇーっ!」 胸の大きい女は胸の小さい女の手を掴むと、そのまま無理矢理引っ張って部屋の窓ガラスを割って飛び出してしまった。 まさか! ここは二階だぞ!? だが窓に駆け寄って外を見た才人やギーシュたちは信じられないものを見た。なんと、胸の大きい女が胸の小さい女を引きづったままで、馬よりはるかに速いスピードで駆けていくではないか。 「な、なんなんだい彼女は!?」 「バカ! どう見たって人間じゃないでしょ。追うのよ!」 ルイズが役に立たない男たちの尻を蹴っ飛ばして才人やギーシュたちも慌てて外に飛び出した。騒ぎを聞きつけて、一階にいたキュルケたちもいっしょについてくる。 あっちだ。女たちの姿はすでに見えないが、一本道なので間違う心配はない。先頭を走るのはカッカしているルイズ。そして才人も爆発で痛む体を引きずりながらルイズと並んで走った。 「いてて、悪いルイズ。お前がいなかったらリングを奪われてるとこだったぜ」 「バカ! 油断してるからよ。し、しかも、む、むむむ、わたし以外の女の胸ににににに!」 「わ、悪かった悪かったって! 謝るからその話は後にしてくれ。それより、よくお前あのタイミングで反応できたな」 「フン! わたし以上にあんたを見てるやつが他にいるわけないでしょ。ほら、今度はなくすんじゃないわよ」 才人はルイズからウルトラリングを受け取った。危ないところだった。これをなくそうものなら北斗さんに顔向けできないところだった。あの女、絶対に許さない。 女たちの向かったのは湖の方角だ。さっき湖に行くなとあれだけ言っていたのだから必ずなにかあるだろう。一行は確信めいた予感を覚えながら走った。 そして、湖のほとりに二人の女は待っていた。 「遅かったね。待ちくたびれたよ」 胸の大きな女が言った。一リーグもの距離を走ってきたというのに息も切らしていない。その横では、胸の小さい女がおどおどしながら立っている。 ここまで来るとギーシュたちも、この女たちがただ者ではないということがわかり、一様に戸惑った様子を見せている。すると、ルイズが一番に啖呵を切って叫んだ。 「あんたたち何者なの? このド・オルニエールで何を企んでるのか今すぐ吐きなさい! でないとここで吹き飛ばすわよ」 機嫌が悪いこともあり、ルイズの杖が危険な音を立ててスパークする。才人は、こういうときのルイズほど危険な生物は宇宙にいないとわかっているので、爆発で焦げた体を小さくしている。 ルイズはいまにも有無を言わさず女たちをエクスプロージョンで吹き飛ばさん勢いだ。すると、さすがに見かねたのかギーシュがルイズの前に割り込んできた。 「ま、待ちたまえルイズ。まずは彼女たちの言い分も聞こうじゃないか。あんな美しいレディたちに、何か事情があるんじゃないか」 しかし、胸の大きい女はギーシュのその言葉に大笑いした。 「美しい? やはり男は愚かだね。なら、見せてあげようじゃないか」 そう言うと、女たちは手を頭の上に並べ、スライドするように下した。すると、女たちの姿は昆虫のような頭を持つ宇宙人のものに変わっていたのだった。 「う、ううわわわっ!」 「そうか、ピット星人だったのか!」 かつてウルトラセブンの活躍していた時代に地球に来た侵略者。変身怪人との異名を持つとおり、高い変身能力を持っていたと聞いているが、まさにそのとおりだ。 美女が一瞬にして恐ろしい宇宙人の姿に変わり、ギーシュたち水精霊騎士隊の少年たちは愕然としている。さっきまで口説こうとしていた奴の中には口から泡を吐いているのまでいた。 もちろん、騙したのか! と少年たちから口々に非難が飛ぶ。しかし、胸の大きい女であったピット星人Aは、悪びれもせずに言い返した。 「アハハ、悔しいか。だが、お前たちの弱点は我々の先人が調査済みなのだ。お前たち人間の男は、可愛い女の子に弱い、とな。ハハハ!」 「……」 グゥの音も出ない男どもを女子の冷たい視線が刺していく。確かに、古今東西全宇宙共通の真理であるのだが、こうはっきり言われるとやっぱり辛い。 しかし、情けない男たちに代わってルイズが再びたんかを切った。 「フン、けど正体がバレたら何もかも終わりね。さあ、おとなしくハルケギニアを出て行くか、それともここでやっつけられるか好きなほうを選びなさい」 「フッ、そうはいかないわ。死ぬのはお前たちのほうよ。さあ、出てきなさいエレキング! エレキング!」 ピット星人Aが叫ぶと、湖に大きな気泡が立ち上った。あれはなんだ? まさか、そのまさかしかない。 立ち上る水柱。その中から全身白色で稲妻のような縞模様を持ち、頭部に目の代わりに三日月形の回転する角を持つ怪獣が現れた。その名はもちろん! 「エレキング! エレキングだ!」 才人が喜色の混じった声で叫んだ。 そう、宇宙怪獣エレキング。ピット星人といえばこいつを忘れてはいけない。ウルトラセブンが初めて戦った宇宙怪獣で、宇宙怪獣といえばこいつと言えるくらいの代表格だ。 エレキングは電子音のような鳴き声とともに湖水をかき分けながら向かってくる。ピット星人Aは勝ち誇るように告げてきた。 「ウフフ、私たちの目的はなにかと聞いたわよね。私たちは、この星の豊かな水を使ってエレキングの養殖をおこなっていたのさ。たっぷりの栄養で育ったエレキングの軍団が完成すれば、もはやヤプールも恐れることはないわ。そして、湖の秘密を知ったお前たちは生かして帰さないわ!」 ピット星人Aの命令で、エレキングは湖水を揺るがして向かってくる。しかし、勝ち誇るピット星人Aとは裏腹に、胸の小さい女だったピット星人Bは震えながら言った。 「ね、ねーえやめようよー。あの子、昨日やっと育ったばっかりで戦い方なんて何も教えてないんだよ。戦わせるなんて無茶だよ」 「うるさい! もうこうなったら戦わせる以外に何があるのよ。だいたい、普通に育ててれば今ごろは何十匹ものエレキングが育っていたはずなのに、お前が手間にこだわるから一匹しか間に合わなかったのよ!」 「で、でも戦わせるためだけに育てるなんてかわいそうだよー。あの子たちだって生きてるんだよ」 「ええいうるさいわ! もういいわ。お前のエレキングブリーダーの腕を見込んで連れてきたけど、これからは私ひとりでやるわ。あんたはもう用済みよ、やれエレキング!」 ピット星人Aがピット星人Bを突き飛ばすと、エレキングはチャック状になっている口から三日月形の放電光線を放った。放電光線はピット星人Bの至近で炸裂し、爆発を起こしてピット星人Bは吹き飛ばされてしまった。 「きゃあーっ」 ピット星人Bは悲鳴をあげて地面に投げ出された。 なんてことを、仲間だっていうのに。見守っていた水精霊騎士隊やキュルケたちは、ピット星人Aの非情な態度に激しい憤りを覚えた。 しかし、エレキングは容赦なく向かってくる。そしてエレキングが今まさに上陸しようとした、その時だった。 「ウルトラ・ターッチ!」 リングのきらめきが重なり、閃光と共に空からウルトラマンAが降り立つ。 エレキングの出現のどさくさで変身のチャンスができた。エースは背中にギーシュたちの声援を受けながらエレキングを見据える。 はずなのだが……今回、才人は妙なテンションになっていた。 〔うおおっ、エレキングだ。本物のエレキングだぜ〕 〔ちょっとサイト、変な興奮してないで集中しなさい〕 〔だってさ、エレキング、ポインター、ちゃぶ台は三種の神器なんだぜ〕 〔なにをわけのわかんないこと言ってるのよ!〕 久しぶりに趣味全開の才人にルイズが激しくツッコミを入れる。 エースは、さすが兄さんは人気あるなあと感心しつつも、角のアンテナを激しく回転させながら威嚇してくるエレキングに対峙した。 エレキングは宇宙怪獣らしく多彩な能力を持った怪獣だ。目は持たないがクルクルと回転する角がレーダーの役割を果たし、名前の通り体内には強力な電気エネルギーを溜めこんでいる。前に見たことのあるGUYSのリムエレキングでさえ人間を気絶させるほどの電撃を放てるのだ。 油断は禁物。エースは頭から突っ込んで来るエレキングに正面から向かって受け止め、その頭に膝蹴りをお見舞いした。 「テェイッ!」 まずは一撃。顔面に攻撃を受けたエレキングはのけぞってよろけ、しかしなお腕を振り回しながら突っ込んで来る。 ようし、そっちがその気なら受けて立ってやる。エースはエレキングに正面からすもうをとるようにして組み合った。 「ムウンッ!」 「ウルトラマンエースがんばれーっ!」 「エレキング、ウルトラマンエースを倒すのよ! 必ず倒すのよ!」 組み合って力を入れ合うエースとエレキングに、ギーシュたちとピット星人Aの声援が飛ぶ。 両者の組み合いは互角。さすが念入りに育てられたというだけあってパワーもなかなかのものだ。しかしエースもすもうは得意だ。力任せに押し込んで来るエレキングに対して、エースは重心を巧みに動かして投げ飛ばした。 「テェーイ!」 エースの上手投げが見事炸裂し、エレキングは背中から地面に叩きつけられた。 やった! エースが一本取ったことで歓声があがり、突き上げた無数のこぶしが天を突く。 すもうならばこれで勝負あり。しかし、エレキングは起き上がるとエースに向かって放電光線を連射してきた。 「ヘヤッ!」 エースが身をかわした先で放電光線が森に落ちて火柱を上げる。エレキングは怒ってさらに放電光線を連発してくるが、どうにも狙いが甘くエースには当たらない。どうやら戦闘訓練をまったく受けていないというのは本当らしい。 放電光線をかわしつつ、エースはジャンプしてエレキングの後ろへと跳んだ。 「トォーッ!」 空中で一回転し、エレキングの後ろに着地したエースはエレキングの尻尾を掴んで振り回した。セブンもやったジャイアントスイング戦法だ。 一回、二回、三回、四回とエースを中心にしてエレキングの巨体が振り回される。投げ技はエースも大の得意で、同じ攻撃をコオクスに対して使って瀕死に追い込んだことがある。 『ウルトラスウィング!』 遠心力でフラフラになったエレキングはエースの手から放たれると、そのまま重力の女神の手に導かれて固い地面の抱擁を受けた。 これはかなり痛い! エレキングは起き上がってきたものの、白い体は土に汚れて薄黄色に染まり、角も片本折れてしまっている。 すでにエースとの実力の差は歴然であった。エレキングも決して弱いわけではないが、強さを活かすための戦い方がまったくわかっておらず、単に野生の本能にまかせただけの戦い方ではエースの戦闘経験には到底及ばない。 しかし、敗色が濃厚になってもピット星人Aはまだあきらめていなかった。 「まだよ、戦いなさいエレキング! お前を育てるためにどれだけかかったと思っているの、このウスノロ!」 ヒステリーを起こしたピット星人Aが叫ぶ。すでに勝敗は明白だが、彼女はどうしてもそれを認めたくないようだ。 しかし、それでもエレキングにとってピット星人の命令は絶対だ。戦い方は下手だとはいっても、小さく見える腕は意外にもパワーがあるし、長い首をこん棒のように振り回す攻撃は単純ながら強力だ。 なおも戦おうとするエレキング。ひどいことをすると、才人とルイズはピット星人Aのやり口に憤りを覚えたがエレキングは止まらない。エースはエレキングを長く苦しませることのないように、両腕を高く上げてエネルギーを溜め、下した腕を水平に開くと、両腕と額と体から四枚の光のカッターをエレキングに向けて発射した! 『マルチ・ギロチン!』 光のカッターはエレキングに殺到し、一瞬のうちに尻尾、腕、そして首を跳ね飛ばした。 今度こそ本当に勝負あり。五体を切り刻まれ、ぐらりと血を流しながら崩れ落ちるエレキング。その遺骸はやがて体内の電気エネルギーの発散によるものか、傷口から火を噴いたかと思うと爆発して四散した。 「いやったぁっ!」 ギーシュたちから歓声があがる。 そして、残るはピット星人Aだ。だがピット星人Aはエレキングが敗北したのを見ると、そのまま踵を返して逃げ出そうと走り出した。 「ひっ、ひいぃぃぃーっ!」 マッハ5にもなるというピット星人の脚力全開で逃げ出すピット星人A。しかし、その背に向かってエースは両手を伸ばして速射光線を発射した。 『ハンドビーム!』 森の一角で爆発が起こり、ピット星人Aの姿は爆発の中に消えた。 戦いは終わり、エースはエレキングの放電光線で起きた火災を消火フォッグで消し止めると、ギーシュやキュルケたちに見送られながら飛び立った。 しかし、こんな場所にも侵略者が人知れず入り込んでいるという事実はどうだろうか? ルイズはエースの視点でド・オルニエールを見下ろしながら、女王陛下の御心をまた騒がせてしまうのねと静かな怒りを感じていた。 戦いは終わった。短く、見方によればあっけなく。 しかし、もしピット星人Aの言っていたようにエレキングの養殖が完了していたらエースひとりではどうにもならなかったかもしれない。 その功績は誰にあるのか……エレキング打倒後、湖のほとりではもうひとつの決着がつけられようとしていた。 「そっか……もう全部、終わっちゃったんだねー」 沈んだ声で、ピット星人Bがつぶやいた。彼女は縄で縛りあげられ、水精霊騎士隊に囲まれている。 エレキングの攻撃でピット星人Bは吹き飛ばされた。しかし、戦闘終了後に気絶はしているが命に別状はないことを確認され、尋問のために捕縛された。 そして意識を取り戻した彼女はすべてを理解して、大人しくルイズやキュルケを相手に尋問に答えた。 もっとも、得られた情報はたいしたものではなかった。自分はエレキングの養殖の手腕を買われてピット星人Aに連れてこられたが、それ以外のことはほとんど何も知らされていなかったという。侵略についても興味はなく、ただエレキングを育ててることが楽しかっただけだという。 しかし、侵略の片棒を担いでいたことは事実だ。処分をどうするかについて、家柄の関係からルイズが選ばれかけたが、ルイズはぴしゃりとこう言った。 「このド・オルニエールの責任者はギーシュ、あなたでしょ。あなたが判断して決断するのよ、それが隊長ってものでしょう」 正論だった。しかし、まだ若いギーシュに重大な決断ができるのだろうか? レイナールは、みんなで相談して決めようと提案してくれたが、ギーシュは自分のシンボルでもある薔薇の杖をじっと見つめると、きっと目つきだけは鋭く締めて縛られたままのピット星人Bの前に立った。 「遠い国からいらしたレディ、お待たせしました。これから、このトリステインの貴族として、あなたに裁きを下します」 「わかったわー。煮るなり焼くなり好きにしてー」 観念した様子でピット星人Bは答えた。手塩にかけて育てたエレキングが倒されたことで意気消沈しているのが伝わってくる。 ギーシュは杖を振るとワルキューレを一体作り出し、ピット星人Bに槍先を向けさせると、彼女を捕らえている縄を切断させた。 「えっ?」 突然自由にされたことで、ピット星人Bは唖然としてギーシュを見た。もちろん水精霊騎士隊の面々も驚いた様子でギーシュを見るが、ギーシュは皆の口出しを静止すると迷わずに告げた。 「ミス、あなたに悪意がなかったということを認めます。このまま黙ってトリステインから退去してくださるなら、今回は不問にいたしたいと思いますが、どうしますか?」 「……いいの? ここで私を逃がせば次はもっと強い怪獣を連れてきて、あなたたちを皆殺しにしちゃうかもよー?」 ピット星人Bの言うとおりであった。しかしギーシュは、フッとキザな笑いを浮かべて言った。 「レディの嘘に騙されるなら、グラモン家の男子にとって最っ高の栄誉です! なにより、ぼくはあなたというレディに心を惹かれました。たとえ生まれた種は違えども、言葉を交わしたときにぼくはあなたからレディのオーラを感じ取りました。レディに向ける杖をぼくは持ちません。ですが、我らの女王陛下のトリステインにあだなす者であればぼくは誰とでも戦うでしょう。ですからお願いです。ぼくに、あなたの美しい顔を傷つけさせないでくださいませ」 以上の歯の浮くような台詞をギーシュは一息にしゃべりきった。 もちろん、ぽかんとした顔の数々がギーシュを囲んでいる。それはピット星人Bも同じで、言うまでもないが今の彼女はピット星人としての素顔をさらした姿でいる。人間の美的感覚とは大きくかけ離れた姿なのに、それなのになお”美しい”と表現してくるとは夢にも思っていなかった。 「プッ、あなた、変わってるねー」 「真のジェントルマンは常識にとらわれないものなのですよ」 なおキザな台詞を吐くギーシュに、その場の緊張も緩んできた。そしてピット星人Bは、逃げるそぶりなくギーシュに言った。 「わかったわー、侵略は、あなたみたいなジェントルマンがいない時代になってからにしてあげるー」 「それは無理ですよ。僕と僕の一族がいる限り、トリステインからジェントルマンが消え去ることはありません」 あくまでもキザにかっこつけるギーシュ。彼は水精霊騎士隊の皆を振り返ると、はっきりと告げた。 「みんな、これが水精霊騎士隊としてのぼくの決断だ。ぼくは断じてレディを傷つけることはできない。この決定に不服がある者は、いますぐに辞めていってもらいたい」 しかし、苦笑する者はいても異論を挟もうとする者はいなかった。代表して、レイナールがギーシュに言う。 「わかってるよ、君がそういうやつだってことは。ぼくらだって、人間じゃないとはいえ無抵抗な女性を痛めつけるのは本意じゃないさ」 見ると、仲間たちは皆が同感だというふうにうなづいている。才人も、ギーシュもやるなというふうに笑っていて、ルイズやモンモランシーやキュルケは、甘いなというふうに呆れているもののあえて止める様子もない。 包囲は解かれ、ピット星人Bは最後にもう一度ギーシュを振り返った。 「私たちの星には、この星を侵略するのは二万年早かったって伝えておくわー。元気でね……可愛いジェントルマンさん」 すっとギーシュの横に並んだピット星人Bは、かがむとギーシュの頬にチュッとキスをしていった。おおっ、と周りから声が響き、ギーシュの顔がほんのり紅に染まる。 えっ? なんだいこの気持ちは? 人間から見たら怪物にしか見えない顔なのに、このドキドキは一体? ぼくはそんな初心じゃないはずなのに……そうか、これが見た目とは関係ない大人の魅力というものなんだな。 少しだけ大人の階段を上ったギーシュの背中を、嫉妬深く睨みつけるモンモランシーの視線が刺す。と、そのときふと才人が気が付いたように言った。 「ん? ちょっと待ってくれ。ここをあんたたちが捨てていくってことは、湖が元に戻って、ド・オルニエールも元のやせた土地に戻っちまうんじゃないか?」 「あーそれならねー。何十年かはここで養殖やるつもりだったからしばらくは変わらないよー。そのあいだに土地をちゃんといじっておけば大丈夫じゃなーい」 才人はほっと安心した。それなら、ド・オルニエールは再び過疎化に悩む心配はない。いずれ影響がなくなるにしても、人間がウルトラマンに頼りっきりではいけないように、宇宙人の置き土産に頼りきりではいけない。その先はこの土地の人間の責任だ。 そして、ピット星人Bは見送るギーシュたちを振り返り、バイバイと手を振ると森の中へ消えていった。 「おおっ、円盤だ」 森の中から角ばった形の宇宙船が飛び上がり、空のかなたへと消えていく。ヤプールにこちらに連れてこられた宇宙人は、なんらかの方法で帰る方法を持っているらしいので彼女も元の宇宙へと帰ったのだろう。 一件落着。彼女が人間であったら本気で交際を申し込んだんだけどなあと、少年たちの惜しむ瞳がいつまでも空のかなたを見送っていた。 いつの間にか日が傾いて夕方となり、赤い光が美しくド・オルニエールの自然を照らしている。今日もまた、平和が守られたのだ。 しかし、何か忘れていないだろうか。 「そういえばあんたたち、お出迎えの準備はいいの?」 「あっ」 一番肝心なことを忘れていたことに、一瞬にして水精霊騎士隊全員の顔が真っ青になった。 「やばい! もう日が暮れる。い、急がないと」 「間に合うわけないだろ! ああ、もうお終いだぁ!」 時間は無情に過ぎていき、やがて歓迎の用意がまったくできないまま、ゲルマニア大使の馬車がやってきたという報告が入ってきた。 日が暮れた中、屋敷の前にゲルマニア国旗を掲げた豪奢な馬車が止まる。ギーシュたちは屋敷の前に整列して出迎えるが、内心は全員まとめて震えあがっているのは言うまでもない。 「ああ、もうダメだ。女王陛下のお顔に泥を塗ってゲルマニアと国際問題になってグラモン家は取り潰しだぁ。父上母上ご先祖様、この不出来なギーシュをお許しください!」 「ギーシュ、お前だけの責任じゃない。おれたち全員で土下座しよう! 女王陛下に責が及ぶことだけは避けなきゃいけない。そうだろ!」 完全にこの世の終わりといった感じで、ギーシュやギムリたちは慰め合いながら絶望していた。 この危機においても、誰も逃げ出したりギーシュに責任を押し付けようとしたりしていないあたり立派と言えるが、そんなことくらいでは慰めにもならない。かろうじて間に合ったのは夕食の支度くらいで、貴賓をもてなすレベルには全然達していなかった。 もう最悪の事態しか想像に浮かんでこない。そんな水精霊騎士隊をルイズとキュルケは仕方なさそうに見ていた。 「ほんっとにこいつらはダメね。仕方ないわ、ヴァリエール家の名前に傷がつくかもしれないけど、女王陛下に火の粉が飛ばないようにするにはわたしが出るしかないわね」 「ルイズ、あなたじゃむしろケンカになるだけじゃないの? ゲルマニアならツェルプストーの顔がきくからわたしにまかせておきなさい。さて、後は誰が来るかだけど……」 馬車から従者がまず降りてきて、主人が降りてくるための準備を整えた。 次に降りてくるのはいよいよ本命のゲルマニアの大使殿だ。 いったいどんな人なのだ? 一同は固唾を飲んで大使が現れるのを待った。 大使というからには上級の貴族に違いない。ひげを生やした老紳士か、厳格な壮年の偉丈夫か、それとも眼光鋭い商人上がりの大臣か……。 だが、現れた人は彼らのいずれの想像とも異なっていた。それは厳格や老獪といった表現からはほど遠い、天使とさえ呼んでいい美しい令嬢だったのである。 「あら? ギーシュ……さま?」 「あ、ああ、あなたは!」 ギーシュと、そしてモンモランシーは驚愕の表情で、その淡いブロンドの髪を持つ閉じた瞳の令嬢を見つめた。 思いもかけない再会。水精霊騎士隊の一同があまりの美貌の前に見惚れる中で、ギーシュはなぜアンリエッタ女王が自分を接待役に選んだのかをようやく理解した。 それからひとしきり騒動が起こり、やがて夜も更けていく。 しかし、誰もが寝静まる時間にあって、猛烈な殺気を振りまく者が湖にあった。 「フ、フフフフ、馬鹿な連中め。私があれで死んだと思っているだろう! そうはいくものか、私はここまでだけど、お前たちは絶対に道連れにしてやる! さあ出てきな、エレキングよ!」 なんとピット星人Aは、あのときエースの攻撃を受けて死んだと思われたが傷を負いながらも生き延びていたのだ。そして湖に水柱が上がり、その中から新たなエレキングが現れた。 月光に照らされて上陸してくるエレキング。しかし、その姿は昼間にエースと戦ったものとは大きく違い、皮膚は黄ばんで張りがなく、角もだらりと垂れ下がって回転していない。見るからに、まともな状態ではなかった。 「ハ、ハハ、みっともない姿だねえ。けど、寝込みを襲うならこれでも十分さ。さあ行け! 連中を屋敷ごと叩き潰してしまえ!」 ピット星人Aの命令を受けてエレキングが動き出す。いくら不完全体とはいえ、完全に寝行っているところを襲われたらウルトラマンでもお終いだ。 しかし、勝ち誇ろうとするピット星人Aに、突然冷笑が降りかかった。 「残念ですがそうはいきませんよ。あなたにはここで退場していただきます」 「っ!? だ、誰だ!」 慌てて辺りを見回すピット星人Aは、空に浮かんで自分を見下ろしている、あの宇宙人の姿を見つけた。 いつの間に!? と、動揺するピット星人A。しかし、宇宙人はピット星人Aを見下ろしたまま冷たく告げた。 「困るんですよ、あなたみたいな脇役にいつまでも舞台で好き勝手やられたら主演の出番が減ってしまうでしょう。ゲストは一話で潔く退場するものです。こういうふうにね」 宇宙人が手を振ると、彼のそばに巨大な黒い影が現れた。 どこから現れた? テレポートか? ピット星人Aがさらにうろたえる前で、巨大な影は月光に照らされてその全容を表した。 「あ、あれは……!」 恐怖がピット星人Aの全身を駆け巡る。勝てない、勝てるわけがない。 だがピット星人Aが逃げ出す間もなく、巨大な影から恐ろしい攻撃が放たれ、エレキングはただの一撃で粉々に粉砕されてしまったのだ。 「う、うわぁぁぁーっ!」 エレキングの破片が降り注ぐ中をピット星人Aは無我夢中で逃げた。 もはや復讐もなにもあったものではない。しかし、逃げるピット星人Aの前に一人の人影が現れた。 「っ! どけぇっ!」 それが彼女の最期の言葉となった。彼女の前の人影から撃鉄を起こす音が聞こえたかと思った瞬間、無数の銃声とともにピット星人Aの体は粉々になるほどの弾雨に包まれていたのだ。 血風と化したピット星人Aが消え去り、エレキングの爆発で起きた粉塵も風に流された後、宇宙人は銃声の主のもとへと降りてきた。 「やっと会えましたね。探しましたよ。ここ最近、私のやることにちょっかいを出してくれていたのはあなたですね?」 月光の下で二人の宇宙人が対峙する。この出会いがハルケギニアにもたらすのは混乱か破壊か。 エレキングの爆発も、轟く銃声も風に弱められ、疲れ切って眠りに沈む人間たちを目覚めさせるには及ばない。 才人もルイズも、倒すべき敵がすぐそばにいることに気づかず、朝まで安眠を貪り続けていた。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1609.html
前ページ超1級歴史資料~ルイズの日記~ パンがなければ死神定食を食べれば良いじゃないbyルイズ そんなアホなセリフは誰が言った言葉であろう? どうやら私が言ったことになっているそうだ。 モチロン私はそんなコトいった覚えはない。似たようなことをしたような気はする。 おそらくは色々なものの裏工作にも原因があるだろう、『にも』に注意だ、とかグランパに言われた。 保守的な者はハルケギニアの文明レベルをぶっとばしてるBALLSを良くは思わないだろう。 それと、最近何気に大手柄を立てているヴァリエールを妬む者も多いだろう、とのこと。 そもそもキミ自身も悪いのだから自重したまえ。 少なくとも死神定食を出すことを前提に調理機械を送りつけるのはマズイだろう。死神定食なだけに。 私に粗末な食事を与えるしつけを失敗した事のうっぷんを、食うのに困っている人たちで晴らすんじゃありません。 怒られた。さすがは幼稚園に勤めていただけのことはある。 ん?今、私が怒られているのはそんなレベルでの話なのか? アルビオンの食糧事情を引っ掻き回した代償として、今年度のゴールデンラズベリー流行語大賞に選ばれるそうだ。 たぶん、このセリフはハルケギニア歴史に残るだろうな、とかグランパ言っちゃってるよおい。 そもそもすでに60億を超えてしまったBALLSを駆逐することは出来ないだろうから、最低でもBALLSを召喚してしまった者として君の名前は残るだろう。残っちゃうだろう。 マジ?億とかイッちゃってるの!?人知類よりも数多くね!? 次の日 ギーシュがルイズのゴールデンラズベリー流行語大賞受賞記念パーティーを開きやがった。空気嫁。 共犯はキュルケとタバサとマリコヌル。 ギーシュは無駄に仕切ってる。指揮技能99はもっと有効な事に使うべきだろうと思う。 モンモランシーがまだツンケンと当たってくる。だから何もないってば。 コルベール先生とシュヴルーズ先生は素直に喜んでくれた。素直すぎだ。私は穴があったら入りたい気分なのです。 出された料理はもちろん火中の死神定食。 匂いをかいだだけで、貴族たちの悲鳴が響いた。 使い魔たちはその前にこらたまらんと話しながら逃げていった。ああ、我が母校にも韻獣みたくしゃべれる奴らが増えてきたわね。 それにしても無駄に手が込んでいる嫌がらせだ。 食堂でなく、屋外パーティーの形をとったのはそのためだったのか。においが食堂にこもると困るからね。 当然ですが、ウケをとるために一口だけ食べてみたマリコヌルが卒倒したのを見て、ほとんどの貴族が遠巻きに眺めてみるだけでした。 会の当事者である私は熱心に奨められる。 ええい!貴族の散りざま見せてあげるわ!! なんとか耐え切った。伊達に爆発訓練で耐久力を上げてはいない。 タバサだけが死神定食を普通に食べてた。鉄の胃袋を持っておられるのを確認。 噂の死神定食を食ってみたくて荷担したのですか。アンタは。 お味は、なかなか、でも、はしばみ草には劣る、だそうである。 はしばみ草をかけて食うと風味が増すそうである。 夏期休業(里帰り) 夏休みなので、実家のヴァリエール家に里帰りすることになった。 エレオノール姉さま自ら学園に来て、私を実家に連れて行くとのたまわったのだ。 私もちい姉さまの顔を見たかったこともあって了承した。実家にも通信機を着ければ頻繁にちい姉さまとお話が出来るだろう。 と、いうわけで私たちは実家に出発した。 ヴァリエール壱号に乗って。 私とグランパだけでも飛ばすことぐらいは出来るのだ。戦闘には不安が付きまとうが。 おでれーたは水測席に安置した。剣知類なのに意外と耳がいいようだ。 家が国境を挟んで隣なので、里帰りするのに一緒に乗せて言ってほしいとキュルケがついてきた。おまけにタバサもついてきた。 たしかに片道3日が半日ですむのはいいわよね。 ヴァリエール壱号には使い魔も楽々入れるぐらいでかい入り口があった。RB用だそうだ。RBってなに? キュルケは物珍しそうにそこら中いじっていた。何故か残っていた甲板風呂にも入りに行っていた。 タバサは乗ってすぐに艦内の何処かへ行った。たぶん1階の書庫あたりに篭るつもりだろう。 使い魔たちはぶらぶらと縄張り探検。マーキングするんじゃないわよ。しないよってそのまま返された。サラマンダー知類はツッコミ体質のようだ。 エレオノール姉さまはツェルプストーと一緒とは……とぶつぶつ言っていたが、船に乗ると物珍しそうに艦内を歩き回っていた。さすがは私の姉だ順応性バツグンだ。 あ、姉さま飛行長席は危険だから座らないようにね。 経済巡航で5時間で実家に凱旋すると、さすがに騒ぎになっていた。 駐船場ないから止めて置けないわよ~~、とのこと。大丈夫、BALLS乗せて浮かしとけばキップは切られないから。 ヴァリエール壱号は風石で浮いてるわけでないので、いつまでも平然と浮き続けていられる。 燃料はBALLSが何とかしてくれてる謎動力だ。何とかなるだろう。 やっぱり実家にもBALLSたちはいた。そこら中動き回ってる。 あんたたち私が帰ったんだから、ズラッと並んでお辞儀をして歓迎するぐらいの芸は見せなさいよ。勝手気ままな奴らだ。 せっかくだからと、キュルケとタバサも歓待されていた。 道中でエレオノール姉さまからBALLS排斥論の詳しいことを聞いた。 他の貴族の家では、使用人の仕事がなくなってしまうので追い出すところもあるらしい。 いわゆる、機械がオラたちの仕事を奪うだぁ~~、という理由らしい。 職人は、便利になるのは良いが、職責を犯されるのは良い気持ちはしないそうだ。 また、得体の知れないものに自分たちの全てを託すという不安もあるとのことだ。 アカデミーとしては珍しいものをばしばし作ってくれるBALLSにはおおむね好意的らしい。 今の姉さまの研究課題はブリリアント梅鉢の育成方法だそうだ。 そんなわけで、賛否両論のBALLSだが、我がヴァリエール家では娘の使い魔の分身なので、追い出すわけにはいかなかったそうである。 つまりは心情的には追い出したいという否定派らしい。古い格式ある貴族だしね。 ただ、使用人の仕事をとらない、あたりさわりのない仕事をさせているらしい。 ちい姉さまはショッキングピンクのBALLSをペットに加えてかわいがっていた。その組み合わせはヤバイ。 ちい姉さまは、前に合った時よりは元気そうに見えた。 BALLSが色々としてくれてるらしい。 やはり順応してる。たぶんわたしよりも順応性たかいだろう。得体の知れない動物好きだし。 グランパとタバサがちい姉さまをくわえて固まって話している。 なんでも、ちい姉さまの病気が治せるらしい。 ちい姉さまの身体を元にして作った組織で、ダメになってる組織をダメじゃない組織と交換するんだとか くろーん培養という技術らしい。図解で説明されたが、要するに接ぎ木のようなものらしい。 アカデミーに勤めるエレオノール姉さまは、なかなかに有効な手だと言っていた。 普通他人の身体を移植すると拒絶反応が起こるが、本人の身体を育てて作ったものと取り替えるなら害は少ないだろうとのこと。 ただ、手術を実行するにはもう少し術者の医療の技能が育つのを待つ必要があるそうだ。 え?術者ってタバサなの?メイジなのに医者になるとか言ってる。どったのよアンタ。 元気になったらトリステイン魔法学園で学生生活したいと言っていた。 ちい姉さまに先輩と呼ばれるのは照れくさいだろうな。 次の日 お父様が会議から帰ってこられた。 せっかくなので、ヴァリエール壱号の甲板にお招きしてお茶会を開くことにする。 キュルケとタバサもおまけで一緒だ。 甲板には何故か甲板風呂が残ったままだった。普通のトリステイン軍艦に似た船の上に、何故かある立派なお風呂は違和感バリバリ。 気持ちよさそうに入っていたので、BALLSが気を使ってまた設置したようだ。気が利くんだか利かないんだか。 お父様はなんかシブイ顔でぷりぷり怒っておられる。先日の戦場乱入の件であろうか。 軍のお偉方には散々嫌味を言われたそうである。 あれだけの戦力があれば我がトリステイン艦隊も壊滅しなかった。いえ、実は壊滅してから必死こいて作ったんです。一晩もかかりました。 お父様さらにシブイ顔。なんで? シブイ顔の理由を更に聞かせてくれた。 なんでもヴァリエール家への縁談申し込み―――特に私への―――が急に増えたらしい。 いや、私婚約者いるから困ります。 どうやら、城壁を作ったり船を作ったり山を作ったりと、戦場や社会を引っ掻き回しすぎたので、 BALLSの有効性に気づいている貴族が増えてきてしまったらしい。 その並みいる貴族の中にはグラモン元帥の息子の名前もあった。それってギーシュの父親の息子だったわね。 へ?二人旅?あばんちゅーる?責任?お風呂?なんだか大きなことをやり遂げたやつれた顔で帰ってきた男? いやいやいやいやなんなんですかそれは? 貴族の噂話というのは恐ろしい………。 たぶんギーシュのやつれ顔は訓練のし過ぎと死神定食の食いすぎによるものだろう。 大きなやり遂げたこととはウェールズ様や姫様からお褒めの言葉を頂いたからだろう。王子が復権できれば相当な勲章がもらえるだろうしね。 とりあえず貴族の誇りを汚されぬため、お父様お母様の誤解を解いた。 ギーシュなんかはちょっとお断りだ。数時間単位でネタのレベルで気絶するのを真近で見せられては千年の恋も冷めるだろう。リアルで怖いわ。 エレオノール姉さま曰く、赤くなりながら否定してないから、マジで恋してないわね、とのこと。私をなんだと思っていやがる。 恋、か。私も恋ぐらいしてみたいな…………。 とりあえず一番親しい・・・といえる男友達がギーシュだけというのは改善したほうが良いだろう。 更に話は続いた。 ガリアの動向が怪しいらしい。 戦争準備でアルビオンとトリステインとゲルマニアの国力と経済が悪化する中、 一人戦争に口出しせず、BALLSから技術を巻き上げつつ富国強兵を目指しているらしい。 グランパ曰く、明らかに危険なオーバーテクノロジーは作らないように自重してはいるが、油断は許されないだろう、とのこと。あれで自重してたのか。 ガリアの無能王ジョゼフのフットワーカー、MZあるいはミューズという女がヤバイらしい。 その女に触れられただけで、そのBALLSからのリンクが途絶えたそうだ。 今、そのBALLSたちが何をしているかはわからないらしい。ただ操られるようにミューズの言うことを聞いているのは遠距離から確認できた。 洗脳されたBALLSたちは情報の城壁を作りあげ、今までのように敵の情報ダダ漏れということはできないらしい。 今はクロムウェルの個人秘書という形でレコン・キスタで暗躍中とのこと。 コレってやばくない? レコスタのバックにガリアがいようとは……。 無能王ジョゼフ、伝説の虚無のメイジジョゼフ、彼はゲーム感覚で今回の騒ぎを起こしている。グランパは断言した。 あのまま陰謀が進めば詰め将棋のように、アルビオンを落としトリステインを落とし、レコン・キスタを吸収合併し、ハルケギニアを統一していただろう。 だが、その楽しいが緊張感に欠けた楽勝ゲームを壊したモノがいる。 策略や謀略に対して情報戦をしかけ、裏をかかれる前に物量で押しつぶす物がいる。 虚無の復活という、自分と同等の存在、自分が敗北する可能性を作ってくれた者がいる。 ジョゼフはヌルプレイヤーからマゾプレイヤーにレベルアップしてしまったのだ。 ルイズ、キミと我々、BALLSの存在は、彼にとってのシバムラティックバランスなのだ。 お父様唖然。お母様毅然。ちい姉さまニコニコ。エレオノール姉さま卒倒。 キュルケはなるほどねーって顔してる。タバサはいつもどおり本を読……むふりして耳をすませている。 家族の楽しいお茶会が緊迫した空気に包まれました。 グランパ曰く、このガリアが裏にいるという情報はすでにウェールズ王子とマザリーニにはリークしている、と。 アン女王は不安定で発作的にどう動くか読めないし、ゲルマニアの皇帝はまだどちらに転ぶかわからないので保留しているそうだ。 ジョゼフはどう転ぼうともいずれ戦うことになった相手だ、とのこと。 最初から最後まで、家族はキミの味方だ、とのこと。 ジョゼフはゲームバランスを滅茶苦茶にして難易度を上げてくれたキミにゾッコンだ、とか止めてほしい。 なんか秘密にしてたことも色々とばらしてくれたみたいだが、虚無とか、BALLSの情報収集能力とか そもそもキュルケとタバサは虚無云々には薄々気づいていたらしい。 いくらやっても爆発しかしないってのはいい加減オカシイとおもうわよ。とのこと。 でも、伝説の虚無よりかは、100隻の船が突貫してくる方がリアルに怖いわよね。 とか、 グランパとは裏取引が成立している。 とか、 私の学友はなかなか驚かない。 その夜 BALLSたちにかき集めさせた無能王ジョゼフの情報を出させた。 無能なのは魔法の実技のみ。それでも魔法の座学の成績は私よりも下だったのか。勝ち点1。 それ以外はいたって普通の成績。つまりはあらゆる面で弟には大差をつけられていたそうだ。 そして王位を手に入れるために弟を謀殺してから、彼の道は変わってしまった。 残った王弟派を排斥するために、凄惨な権力闘争を繰り広げたらしい。 彼にとって不幸だったのは、彼を慕っていた弟をその手にかけてしまったこと。 そして、その後で虚無の素質に気づいてしまったことだ。 ジョゼフは主に机上の遊戯が得意だったそうだ。チェスとか軍人将棋とか。 私が魔法を使わずとも上達できる、乗馬が得意になったのと同じようなものだろう。 その頭の良さを生かしてか、政治家としてはかなり優秀で、どんどんとガリアの勢力を強めていっているらしい。 ただし、貴族や平民からは血も涙もないと評判は悪いらしい。 BALLSを使ったネットチェスではなんとかサイと名乗り、無敗伝説を作っているそうだ。 ああ、あのチェスの達人がガリアの王様だったとは知らなかった。 ナイトとビショップを抜いた大ハンデを付けられたのに完全敗北を喫した屈辱は今でも思い出せる。 アンパッサンやキャスリングを使われて負けるというのは印象深かった。 『余は強いだろう?次はこのように畳んでやろう』 とか舐めきった挑戦コメントされたのは、私の正体に気づかれていたから?負け点1。 ユーザーIDが00000000番なんてのは、製作者に一番近いキミの特権だからね、とのこと。 バレバレじゃないの。 ちょっとだけ、グランパには空き部屋に泊まってもらって、一人でベッドに寝っころがって考える。 私には、彼の歪み、妬み、嫉みが理解できた。 魔法の使えないメイジ。家柄だけがすぐれているメイジ。 優秀な兄弟。それでも自分を愛してくれる兄弟。 彼への風当たりは私よりも強かったのだろう。王族であるが故に。 何故こうなったのだろう、 たぶん、私にとってのグランパのような、味方がいなかったのがよくなかったことなのだろう。 少なくとも、無能王とは呼べない。それは私がゼロと呼ばれていたのと同じ悲しいことだからだ。 気をつけろよ、私も一歩間違えれば彼のようになっていたかもしれないのだ。 会議開始 夏休みを利用して、ついに戦争準備のための会議が始まった。 私とグランパも呼ばれている。 会議会場ではトリステイン軍のお偉方が勢ぞろいしていた。げ、お父様もいる。 とりあえずはトリステインだけの会議で、後日同盟国のものの到着を待って本格的な軍議開始らしい。 私は姫様にもったいぶった口ぶりで、BALLSのご主人様という紹介をされた。 あれ?虚無のメイジという紹介ぢゃなかったの? 飲む携帯に通信が入る。だってルイズはまだ虚無をおおっぴらに使ったことないじゃないの、とのこと。ごもっとも。 軍人たちへの反応は様々だ。納得顔の大将もいるし、苦虫を噛み潰してる中将もいる。敵意は向けないでください、怖いから。 侮られたり、ぜろぜろと馬鹿にされたりする反応はないようだ。この学園での扱いとの差はなんなんだろう? 答え:ハルケギニア1の軍船持ちだから。 なんでコイツはのほほんと落ちこぼれ学生をやっているんだろうか?普通レコン・キスタみたく革命起こすよね?とか、思われてたらしい。 いえ、革命はイヤです。クロムウェルのクグツっプリや姫様たちの気苦労を見たり聞いたりしてると、革命も簒奪も割に合わないと思いますもん。 ただの貴族、されども誇り高い貴族が一番です。 娘がイモ洗いみたいに船を大量に出すので、お父様も仕方なしに軍を出すそうだ。 むしろ出さざるを得ない。あんな裏事情を聞かされてしまっては。 たとえアルビオンをどうにかしたとしても、ガリアは私にターゲットを絞って襲ってくるだろう。 そもそも通商破壊攻撃でレコン・キスタが弱っている今こそが好機なのだ。 うまくすればトリステイン・ゲルマニア・アルビオンでガリアに対抗できる。 戦後の幕引きもうまくいくだろう。 しかし、まとまろうとした会議はしばし中断されることとなる。 女王陛下が誘拐されたのだ。 前ページ超1級歴史資料~ルイズの日記~