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エリンディルという大陸がある。 その大陸には、巨大な雲が降りて来たかのような霧に包まれた森があった。国の一つや二つを足してもなお森の広さに届かないほどの広大な森。 エリンディルの人々はその森を称して霧の森、と呼んでいる。 千年の昔から霧が晴れた事のないその森は、霧だけではなく雨もよく降りしきる。今日もまた、霧雨が止む気配もなく森を濡らす。夜も明けようとしているのに、太陽の光は今日も霧と雲に遮られてろくに森に届きはしなかった。 霧の森の外れの大きな木の下。 そこにあるのはつい先程盛られたばかりとおぼしき土の山。その頂に立てられたガーゴイルを模したような人形のようなオブジェが、寂しく霧雨を浴びていた。 その土の山はさして大きくない。人一人が入るだけの穴を掘り、その中に人を埋めて再び土を被せた程度の大きさ。 ――つまりは、即席の墓である。 この中に眠っている一人の男は、人間ではない。正確に言えば人工生命。自然ならざる方法で生み出された者達の部品を組み合わせて作り出された、人ならざる者。 けれどその心は……誰よりも人間臭く、人間らしかった。 だが最早その肉体に心はなく、魂も宿ってはいない。 土の下の肉体には無数の刀傷が刻まれ、纏っていた衣服も切り裂かれ血塗れになり、その残骸だけが彼の遺体を包むのみだった。 彼の仲間だった者達は、既にこの場を去った。 彼を含めた四人の旅人達は、戦いの旅を続けていた。 幾度もの戦いを潜り抜け、軽口を叩き合い、笑い合っていた仲間は……ほんの僅かな時の壁に遮られ、彼を助ける事が出来なかった。 少女は呆然と泣き、青年は属していた組織を離れ、女は沸き上がる激情を噛み殺して無言を貫いた。彼の育ての親とも言える幼女は、むせび泣いた。 だが彼は、何の感情も表す事は出来なかった。 死んでしまったからだ。 仲間達は最後まで、墓の前を離れることを躊躇った。このまま去ってしまえば、これまで共に旅してきた仲間と永遠の別れをしなければならなくなるのだから。 現実を受け入れたくなかった、と言った方が正しいのかもしれない。その日の昼には共に昼食を取り、昼寝をし、川で水遊びをし、下らない冗談でただ笑い合っていた仲間が、今は見るも無残な亡骸と成り果てて二度とかつてのような時間を過ごせなくなったのだから。 けれど、旅を止める訳には行かなかった。 だから仲間達は、後ろ髪を引かれながら彼の許から去った。 ――再び、静寂が訪れる。霧雨ばかりが降り注ぐ静寂のみが。 そんな時だった。 不意に厚い雲が割れ、その狭間から鮮やかな金色の陽光が霧を照らしていく。 空を覆う雲からすればそれは王の間に敷かれた絨毯に針を刺したほどの、僅かな狭間。だが。その狭間から漏れる光は、彼が眠る土の山を煌々と照らし出すには、十分な量を持っていた。 土の山に降り注いでいた霧雨は、そこの空間だけ切り取ったかのように降るのを止め、広大な森を千年の間包み込んでいた霧は、その場だけ完全に消え失せてしまった。 周囲の森は以前寒々とした空気を漂わせている。だが、そこだけは。 まるで春の木漏れ日を思わせる、暖かな心地よい空気ばかりが流れていた。 ――ふと、そこに一人の少女が立っていた。 背丈は小さい。だが地面に付くほど長い柔らかな白髪からは、金の光が発せられている。 その姿を見る者がいたならば、彼女の身体を通した向こうにうっすらと森が見える。 彼女は肉体を持っていないらしかった。見る者が見ればそれは幽霊か精霊か、と判別することが出来ただろう。しかし完全に彼女の正体を知る者は、おそらくはいない。 彼女は、金の瞳を土の山に向け。憂いの色を、そっと瞳に浮かばせた。 「……貴方は、ここで死ぬべきではなかったのかもしれない」 誰が聞くわけでもない独白を、静かに紡いでいく。 「けれど運命は、貴方に死を与えた。それは避けられたかもしれない運命。でも今、ここに厳然と存在してしまった運命。それを覆す事は――もう、出来ない」 淡々と紡がれる言葉。けれど痛々しいほど悲しみを含んだ、言葉。 「貴方の愛した仲間達との旅は終わってしまった。――けれど」 少女は、そっと両手を土山に翳す。 「貴方を必要としている人は、存在している」 両手から現れるのは、淡く緑色に輝く鏡のような、“何か”。それは地面と垂直に立っていた。 「貴方が生きるべきだった運命とは少し異なってしまうけれど」 緑の鏡のような“何か”に吸い寄せられるように、土の中から男の亡骸が浮き上がってくる。浮き上がる亡骸は、“何か”……いや、少女に近付いていけば、徐々に男の体から傷が消え、衣服の残骸だった物も段々と形を取り戻していく。 「貴方には、もう一人。支えてあげてほしい女の子がいるの」 やがて、鏡の前に彼が浮かんで止まった時には、彼は生前の姿を完全に取り戻していた。 「――再び、生きて」 彼女の囁きと共に、彼の身体は“何か”に吸い寄せられ。エリンディルから消え去った。 時間にして、僅か。雲を割った狭間が、風に吹かれた雲に再び遮られる程の時間。 そこは何事もなかったかのように、先程までの光景を取り戻し、盛り土はなおも変わらず盛られたばかりの姿を取り戻していた。 その盛り土の中に男はいない。 その盛り土の前に少女もいない。 運命の悪戯によって仲間と分かたれた男は、エリンディルを去った。 ダイナストカバル極東支部長、トラン=セプターの旅は終わりを告げた。 けれどそれは全ての終わりではない。 新たなる冒険の始まり、だった。 そして彼は、目覚める。 草むらに倒れ付している自分を見下ろす、かつての旅の仲間だった少女と似たような背丈の美少女……だが、纏う雰囲気は決定的に違う。 「あんた、誰?」 トラン=セプター。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 運命の大精霊アリアンロッドの、導きであった。
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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第二話 黒衣の悪魔 宇宙同化獣ガディバ 登場! ルイズと才人がウルトラマンAの力を得て、異次元人ヤプールの尖兵たる、ミサイル超獣ベロクロンを倒してから2日が過ぎた。 2人を含む魔法学院の関係者達は、平時には通常通り学業に専念するようにとの指示が出、破壊された街も、勝利に喜ぶ民達によって、急ピッチで復興されていっていた。 が、当の二人はといえば、ウルトラマンの宿命として正体を明かすわけにもいかずに、結局は『ゼロのルイズ』と『犬のサイト』の元の鞘に納まってしまっていた。 「はぁ、俺本当にウルトラマンになれたのかなあ?」 例によって水場で洗濯物の山と格闘しながら才人はぐちっていた。 彼としては、子供のころからTVや本のドキュメンタリーや記録映像で見た科学特捜隊やウルトラ警備隊の隊員達のように、颯爽と怪獣と戦うのにあこがれていただけに、相も変らぬ使い魔生活にいまいち実感が湧かないのである。 だが、地球を守ってきた歴代のウルトラマン達にも人間としての生活はあった。 才人と一体化しているAだって、北斗聖司と呼ばれていたころにはアパートに一人暮らししていたころもあったし、当然衣食住は自分で管理していた。 さらに中には血反吐を吐くような猛特訓をこなしたり、教師やボクサーを兼業したウルトラマンもいたが、さすがに才人にそれを求めるのは無茶であろう。 「いつも大変ですね才人さん」 振り向くと、黒髪の愛らしいメイドの娘が洗濯籠を持って立っていた。 「ああ、シエスタ、君も洗濯かい?」 「はい、私はそんなに多くないので、お手伝いしますよ」 才人は喜んでと言うと、さっきまでの憂鬱はどこへやらで、うきうきと洗濯にはげみはじめた。 そのはげみぶりはアクセルがかかりすぎたようで、たいした量を持ってこなかったはずのシエスタの分が終わる前に自分の分が終わってしまった。 仕方が無いから逆にシエスタの分を手伝うことにしたが、それでも彼はうれしそうだった。 「平和ですねえ」 「え?」 「つい2日前くらいには、トリステイン中この世の終わりかもって雰囲気だったじゃないですか。けど、今私達はこうして安心して洗濯をしていられる。平和って本当にいいものですね」 「……ああ、本当に平和っていいもんだな」 才人は幸せそうに笑うシエスタの顔を見て、「ああ、俺がこの笑顔を守ったんだな」とようやく実感した。 虚栄や見返りではない、ウルトラマンや歴代の防衛チームが命を賭けて守ろうとしたものの一端が、少しずつ才人にも芽生えつつあった。 「それもこれも、ウルトラマンAさんのおかげですね」 「ああ、ウルトラマンAのおかげ……あれ? なんでシエスタがウルトラマンAのこと知ってるの!?」 才人は、まさか正体がばれたのではと、内心冷や汗をかきながらシエスタに問いかけた。 「いやですね。才人さんとミス・ヴァリエールがそこかしこでウルトラマンAウルトラマンAって話し合っているじゃないですか、その名前、もう軍のほうで決まったんじゃないんですか? もう学院中の人がその話題でもちきりですよ」 そう言われて才人ははっとした。 そういえば最初の変身の後から今まで、やれ魔法を使わずにどうやったらあんなことができるのとか、あんたのとこにはあんな強いのがいっぱいいるのとか、 いろいろ場所を選ばず、控えめに言っても議論を交わすといったことをしていた気がする。 (噂千里を走るとは、昔の人はうまいことを言ったものだ) 彼はとりあえず正体がばれていなかったことにほっとしながら、ウルトラマンAにこの国の人が変な名前をつけなかったことにもほっとした。 「でも本当にウルトラマンAは私達の恩人です。街でも、いわく、王家が隠していた伝説の幻獣、いわくはるか東方の聖地よりやってきた正義の使者、はては始祖ブリメルの化身などなどすごい話題になってますよ」 街でもなの!? 才人はつくづく自分の軽率さを呪いたくなった。 これからはウルトラマンの話題はルイズとふたりだけの時にしようと、心に誓った。 シエスタは、妙に顔色が悪くなった才人を不思議に思いながらも、そんな才人さんもすてき、などと蓼食う虫も好き好きなことを考えていた。 そして、全部の洗濯物を洗い終わって洗濯籠を抱えあげたとき、当のルイズが現れた。 「ん? ルイズどうした、洗濯なら今日はこのとおり何事も無く終わったぜ」 「あ、そう。今日はおしおきの新バージョンを用意していたのに残念ね。って、違う違う、あんた忘れたの? 今日は虚無の曜日でしょうが」 「……ああ、そうか悪い悪い、すっかり忘れてたよ」 「ったく、記憶力の無い鳥頭なんだから、暗くなる前に帰るから急ぐわよ」 「了解っと、しまった、洗濯物が」 「サイトさん。私がやっておきますから急いでください」 「サンキュー、おみやげ買ってくるから待っててくれよ。おーい、待てよルイズ!!」 ルイズを追って才人の後姿が遠ざかっていく。 シエスタはふたり分になった洗濯物をよいしょと持ち上げると、その平和の重みをかみしめながら歩いていった。 一方そのころ、トリステインの王宮においても、先日の事後処理がようやく一段落付いて、国の重要人物を集めた会議が開かれようとしていた。 「やれやれ、こうも会議会議じゃ老骨にはこたえるのお」 その席の一角にオブザーバーとして招かれていた魔法学院のオスマン学院長がいた。 彼がいるのは防衛軍に少なからぬ数の生徒が志願兵としていることからであったが、貴族同士の会議に口を出すほどの権限は無い。 「皆さん、我々が半月前に現れた未知の侵略者、ヤプールの脅威にさらされているのはもはやハルケギニア全土に知れ渡った事実であります。 けれども我々は、総力を結集して対ヤプール軍を組織し、この脅威に対抗しようとしています。しかし、今回は新たに浮上した重要な案件について話し合うべく、集まっていただいた次第です」 枢機卿マザリーニが、会議の口火を切った。 ヤプールに次ぐ新たな課題、すなわち銀色の巨人、ウルトラマンAのことについてだ。 その正体については誰もはっきりとした答えを言えた者はいなかったが、その人知を超えた力については大いに彼らの興味を引いていた。 あの超獣ベロクロンでさえトリステインの誇っていた軍を敵ともせず、いかなる魔法攻撃にもびくともしなかったのに、あの巨人はその攻撃を易々と跳ね返し、その腕から放たれた光はその巨体を粉々に粉砕してしまった。 だが、議論すべき要点はそこでは無かった。 「こほん、皆さん。その問題はそのあたりでよろしいでしょう。結論として、我々では到底及ばない強大な力を有していることははっきりしています。肝心な問題は、あれが我々の敵か味方か、ということです」 枢機卿がそう宣言した瞬間、場の空気が変わった。 だが。 「無駄なことじゃのう」 と、水をかけたのは他ならぬオスマンだった。 「なんですと、オスマン殿、それはどういう意味ですかな?」 「敵なら我々はとっくに滅ぼされていますよ。それに、あの巨人、ウルトラマンAは我々を守るように現れたし、街にも民にも被害は与えずに飛び去った。第一、仮に敵だとして、超獣以上の力を持つ相手に打つ手などあるのですか?」 言われて見ればそのとおりである。 喧々轟々の議論を予想していたマザリーニにとっては意表を突かれた形だが、周りの貴族達も効果的な反論などはできずに、せいぜいオスマンの無礼を非難する程度であった。 もっともそれも、オスマンがあっさりと非礼を詫びたために貴族達もそれ以上の言及はできなかった。 「おほん、ではこれにて会議を終了いたします。方々にはそれぞれの領地の軍属の精鋭を防衛軍に派遣なさいますよう。 今のままの寄せ集めでは所詮急場しのぎですし、ヤプールが優先して狙うとしたら、ここしか無いでしょうからな」 会議は時間をかけた割には、わら半紙数枚分の密度の内容で終わった。 ただ、この会議からウルトラマンAの名が急激にトリステイン全体からハルケギニア全体へと広まっていくことになったことについては、意味があったと言えよう。 さて、ウルトラマンAのことで国が揺れているとは露知らず、当のルイズと才人は今、虚無の休日を利用して久しぶりに街に繰り出してきていた。 「相変わらず人が多いな。復興が順調だって証拠だ」 「当たり前よ。トリステインの人間はそうそう簡単に国を捨てるほど軟弱じゃないわ、むしろ復興のための資材を運ぶために普段より多いくらい。何度も言うようだけどスリには気をつけなさい」 「はいはい、ところで目的の武器屋はこの先だったよな。このあたりは被害が少なかったから無事だとは思うけど、開いてりゃいいな」 ふたりは路地裏へと入っていった。 目的はベロクロンの騒ぎのせいで買いそびれてお預けになっていた才人の剣の購入、そして目的の店は幸いにも以前と変わらない形でそこにあった。 「おや、これはこの間の貴族の旦那、お久しぶりでやんすね」 店の主人も以前と変わらなくそこにいた。 「失礼するわね。この店、もしかしたら踏み潰されてるんじゃないかと思ったけど、なかなかしぶとい様子ね」 「あっさり死ぬような奴はこの世界じゃやっていけませんやな。そいで、前回は顔見せしたとこで超獣のやろうが出てきてお流れになりましたけど、武器をご所望で?」 「私じゃないわ、使い魔よ」 ルイズはかたわらで物珍しげに武器を眺めている才人をあごで指した。 「へえ、最近は貴族の方々も下僕に武器を持たせるのがはやっておりましてね。毎度ありがたいこってす」 「貴族が武器を? そういえば以前来たときに比べて武器の数が減ってるわね。やっぱりヤプールのせい?」 「それもあります。今、国では壊滅した軍の再建のために武器の類が飛ぶように売れとりましてね。まあ、あまり役に立つとも思えませんが」 主人の言葉にルイズは少々不愉快になったが、言葉にすることはできなかった。 確かに、剣や槍を何万本揃えたところで、あの小山のような超獣に勝てるとは到底思えない。 「ですが、理由はもうひとつありましてね。最近このトリステインの城下町を盗賊が荒らしてまして」 「盗賊?」 「へえ、名前は『土くれ』のフーケって言いまして、貴族を専門にお宝を盗みまくる怪盗でしてね。あの超獣騒ぎで大人しくなるかもと思われたんですが、 むしろ騒ぎに乗じて派手に動くようになりましてね。貴族達も対抗しようにもヤプールのおかげでそれどころじゃないってんで、実質やりたい放題ですな」 「国が大変な時期だってのに、皆の足を引っ張るなんてひどい奴がいたものね」 ルイズは、国のために貴族も平民も必死になっている時に、そんなことをする奴が同じ国の中にいることに憤りを覚えた。 「まあまあ、それで貴族達も自衛のためにこうして武器を下僕にまで与えて身を守っているってことです」 主人は「ま、役に立ったという話はとんと聞きませんが」という一言を我慢して飲み込んだ。 そのとき、武器を物色していた才人が一本の長剣を持ってきた。 「サイト、気に入ったのでもあった?」 「ああ、おじさん、この剣はどうかな?」 才人はその剣を主人に見せたが、主人はだめだだめだというふうに首を横に振った。 「坊主、それはやめとけ、そいつは見た目切れそうに見えるが実際は重さと力を利用して敵を叩き潰す、いわばこん棒に近い武器だ、お前さんの細腕じゃ扱いこなすのは無理だ」 それは決して親切心からではなく、後で貴族にクレームをつけられることを恐れての忠告であったが真実であった。 才人はがっかりした様子でその剣を元に戻した。 「ちぇっ、なかなかかっこよさそうだったのに、残念だなあ」 実は、才人は特に考えた訳ではなく、その剣が少し日本刀に似ていたから手に取っただけであった。 だが、そのとき突然かたわらのガラクタの山の中から、調子のはずれた声がした。 「生言ってんじゃねーよ、坊主。おめーは自分の体格も理解してねーのか、そんなんじゃ武器を持っても即あの世行きがオチだ、そっちのガキんちょを連れてとっとと帰りな」 「なんだと!」 「誰がガキんちょですってぇ!!」 ふたりは悪口が飛んできた方向を見たが、そこには2足3文でしか売れないような数打ちのぼろ刀が並んでいるだけで人影は無かった。 「どこを見てるんだ。ここだここだ、目の前だよ」 なんとぼろ刀に混ざっていた一本のこれまた錆と汚れだらけの長剣が、カタカタとつばを鳴らしながらしゃべっている。 「これって、インテリジェンスソード? こんなところにあるなんて」 「なんだい、それ?」 「一言で言うと魔法で意思を持たせられた剣のことよ。でもそんなにありふれた物じゃなくて、私も見るのは初めてよ」 驚いているルイズをよそに、才人は好奇心のおもむくままに、そのしゃべる剣を手に取った。 「へえ、見た目は普通の剣と変わらないな。お前、名はなんつうんだ?」 「けっ、人に聞くときは自分から名乗るものだ……ん、まさか……おでれーた、お前『使い手』か」 「『使い手』?」 「なんだ、そんなことも知らねえのか。まあいい、これも何かの縁か、俺の名はデルフリンガー、お前はなんていう?」 「平賀才人、よろしくなデルフリンガー。ルイズ、俺こいつにするよ」 才人の意思決定にルイズは露骨に嫌そうな顔をした。 ぼろい、汚い、切れそうに無い、おまけにうるさいとルイズとしては気に入る要素が無かったからだが、結局は才人の。 「でもしゃべる剣なんて珍しいだろ」 の、一言でやむなく承諾した。 「感謝しなさいよ。使い魔のわがままを聞いてあげる主人なんて、普通いないんですからね」 それ以前に主人にわがままを言う使い魔自体が普通いないが。 「感謝してるよ。お前もそうだろデルフリンガー?」 「デルフでいいぜ、よろしくな譲ちゃん」 「譲ちゃんじゃないわよ! たかが私の使い魔の、そのまた下の剣の分際でなれなれしく呼ばないで、下僕らしくルイズ様とお呼びなさい!」 「へーへー、分かったよ譲ちゃん。ん? そういえばお前ら、さっきから妙に思ってたが変わった気配を放ってるな」 「えっ!?」 デルフの思わぬ言葉にルイズと才人は思わず固まってしまった。 「なんつーか、長年人を見続けてると気配を読むのがうまくなってな。なんというか、ふたりだけなのに3人に思えるような、それでいてふたりでひとりのような」 「なな、なに言ってるんだよ、そんなことあるわけ無いだろう!」 「そ、そうよ。何言ってるんだか、ずっとガラクタといっしょに居たからボケたんじゃないの!」 ふたりは慌ててそれを否定したが、冷や汗を流して言葉を震わせて言っても説得力がない。 「ま、そういうことにしといてやるよ」 デルフに顔があったらニヤリと笑ったに違いないだろう。 才人は、この新しくできた奇妙に鋭い同居人を選んでしまったことを少々後悔しはじめて、さらにそれ以上の殺気を送ってくるルイズに、今晩はメシ抜きかなあと思わざるを得なかった。 しかし、ヤプールの魔手は平和を取り戻そうとしている人々の願いとは裏腹に、闇の中から静かに動き始めていたのである。 その夜、月も天頂から傾きだすほどの深夜、とある貴族の屋敷から音も無く現れる人影があった。 長身で細身のようだが、黒いローブを頭からすっぽりとかぶって容姿は分からない。 だが、石畳の上をまったく音も立てずに歩む様は、それが常人ではありえないということを暗に語っていた。 「まったく、ちょろいもんだよ。貴族なんてのはどいつもこいつも、兵隊の数こそアホみたいに揃えてるくせに配置も甘いし居眠りしてる奴もいる。警戒してるつもりなんだろうけど、芸が無いったらないね」 そいつは少しだけ振り返ると、今出てきた貴族の屋敷を見てせせら笑った。 見上げた姿に、わずかに風が吹いてローブの下の顔が月明かりに晒される。なんとそれの正体は女性であった。 年のころは20から30、緑色の髪がわずかにこぼれて美しいが、整った顔には凄絶さが漂っている。 彼女こそが土くれのフーケ、トリステインを騒がせている怪盗その人である。 「まあ、この国のレベルも貴族の体たらくがこれじゃたいしたことは無いね。けど、まだ済まさないよ、忌々しい貴族ども……」 フーケはその腕の中に、今奪ってきたばかりの宝石類を握り締めながら、憎しみを込めた眼差しを貴族の屋敷に向けていた。 と、そのとき。 「復讐したいかね?」 「!! 誰だ」 突然背後からした声に、フーケはとっさにメイジの武器である杖を抜いて身構えた。 「ふふふ」 そこに立っていたのは、コートからマント、帽子にいたるまですべて黒尽くめで身を固めた一人の男だった。 年齢は壮齢と老齢の中間あたり、わずかにしわの刻まれた顔を歪めているが、目はまるで笑っていない。 (そんな、この私がまったく気配を感じられなかった!?) 自身も相当な場数を踏み、熟練の傭兵やメイジ相手にも渡り合えるだけの実力はあるはずだ、だがこの男が現れるのはまったく予期できなかった。 「何者かと聞いているんだ!?」 フーケは胸の動揺を抑えながらも、つとめて冷静に男に問いかけた。 「なに、怪しい者じゃ無い。ただ、君の願いをかなえてあげようと思って来たんだ」 「願い、だって?」 「そう、君は憎いのだろう? 貴族が、君からすべてを奪っていった者達が、だからこんなことをしている……だが、こんなものでいいのかい?」 「なに?」 「いくら秘宝を盗んだところで貴族からしてみれば微々たるもの、時が経てば埋め合わせされてしまう。それよりも、もっと深く、もっと血の凍るような恐怖を奴らに与えてやりたいとは思わないかね?」 「殺人鬼にでもなれって言うのか、寝言は寝て言いな!!」 男の言い口に怒りを覚えたフーケはすばやく呪文を唱え、杖を振るった。 たちまち男の周辺の地面が盛り上がって腕の形を取り、男をむんずとわしづかみにする。 「おやおや……」 「あたしはあんたみたいなのと関わってる暇は無いんだよ。死にな!!」 フーケが力を込めると土くれの腕が男を締め上げる。普通ならこれですぐさま圧死してしまうはずであった。 しかし。 「まったく、気の強いお嬢さんだ」 「ば、馬鹿な!?」 なんと男は鉄柱でさえ握りつぶしてしまうほどの圧力を込められながらも笑っていた。 そして、男が軽く腕に力を込めると、土くれの腕は内圧から粉々に砕け散った。 「くっ、化け物め!!」 フーケはとっさに目の前の地面に魔法をかけて砂埃を発生させ、そのまま踵を返して走り出した。 悟ったからだ、この男は普通じゃない、このままでは危険だと本能が警鐘を鳴らしていた。 だが、走り出そうとしたフーケは10歩も走らぬうちに立ち止まってしまった。 「な、なんだ、ここはどこだ!?」 なんと周囲の風景が一瞬のうちに変わっていた。赤や青の毒々しい空間が回りを包み、今まで居たはずの町並みも貴族の屋敷も何も見えない。 「無駄だよ。ここはもう私の世界だ、どこにも逃げ道などはありはしない」 「なにっ、ぐわっ!?」 振り向く間もなくフーケは男に首筋を捕まれて宙へ持ち上げられた。フーケは振りほどこうとしたが男の手はびくともしない。 (なんて力……いや、それよりなんだこいつの手の冷たさは!? まるで体の熱が全部持っていかれるみたいだ……) 「やれやれ、大人しくしていれば手荒なことはしなくてもよいのに。言っただろう、私は君の味方だ、もっとも私の場合は貴族だけではなくて、人間という種そのものが嫌いだがね」 (やっぱり、こいつ人間じゃない!?) 抵抗する力を失っていきながら、フーケははっきりと恐怖を感じ始めていた。 だが、それでも残った勇気を振り絞って彼女は言った。 「な、何者だ、お前は?」 「おや、そういえばまだ名乗っていなかったね。失礼、私の名はヤプール、いずれこの世界を破壊する者だ」 「ヤ、ヤプールだと!?」 フーケもその名を知らないわけが無い。突然現れてトリステインを壊滅寸前に追いやった侵略者。 彼女はその様子を他人事、むしろいい気味だと思って見ていたのだが、なぜそいつが自分のところへ来るのだ。 「そう、我々はこの世界を見つけて手に入れることにした。ベロクロンは君達の国を難なく滅ぼせるはずだったのだが、あいにくこの世界にも邪魔者がいてね」 「邪魔者だと? それって」 フーケの脳裏に、あのウルトラマンAと呼ばれている銀色の巨人の姿が浮かび上がった。 「そう、ウルトラマンA、我々の不倶戴天の敵さ。奴を倒さなければ我々はこのちっぽけな国さえも奪うことはできない。だがあいにく今我々にはAを倒せるほどの超獣を作り出せるほど余裕が無くてね。そこで君に協力してほしいのさ」 「協力? ふざけるんじゃないよ!!」 「だから代わりに君の願いも叶えてあげようというのさ。なに、君はこれまでどおり怪盗をしていればいい。君には新しい力と、強い味方をつけてあげよう」 ヤプールがそう言うと、その手のひらに小さな光と、続いて黒い霧のようなものが吹き出して、黒い蛇のような形をとった。 小さな光はフーケの肩に止まり、黒い蛇はフーケの首筋に巻きついてうれしそうに首を揺らしている。 「ふっふっふっ、そうか、そいつの心の闇は気に入ったか」 「な、何をする気だ?」 フーケは恐怖に怯えながらもかろうじてそう言ったが、ヤプールはおぞましげな笑いを浮かべると冷酷に黒い蛇に命令した。 「さあ、乗り移れ、ガディバ」 「ひっ!! やっ、やめろぉーーっ!! わぁぁぁーーっ!!」 異次元空間にフーケの絶叫とヤプールの哄笑が響いた。しかし、誰もそれを聞いていた者はいない。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
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7.灼眼のルイズ (ルイズ) 女 髪が短くボーイッシュな外見。性格も少し威圧的であるが、精神的には弱い。打たれ弱く、状況に混乱することも多々ある。 外見や性格の割には運動神経が乏しいため、自分の中で葛藤を抱えている部分も見られる。 自信をなかなか持てず、ひとりという環境が苦手なため、必ず誰かに頼ろうとする。その部分が他人にとっては迷惑、鬱陶しがられることもしばしば。言われたことは出来る、だが自分からするのは苦手。人に暴力を振るうのは平気だが、傷を負わせるレベルまで行くと強い罪悪感に襲われる。 頭はそれなりに働く方で、臨機応変な判断が出来る(ただしそれを行う実行力はあまりない) 武器の扱いに関しては出来ない方だと言える。 過去にいろんなことから逃げてきたのか、何事からも逃げだそうとする姿勢がときどき見られる。
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目次 【時事】ニュースルイズ・フロイス 【参考】ブックマーク 関連項目 タグ 最終更新日時 【時事】 ニュース ルイズ・フロイス gnewプラグインエラー「ルイズ・フロイス」は見つからないか、接続エラーです。 【参考】 ブックマーク サイト名 関連度 備考 ピクシブ百科事典 ★★ 関連項目 項目名 関連度 備考 参考/織田信奈の野望 ★★★★ 登場作品 参考/佐藤利奈 ★★★ キャスト タグ キャラクター 最終更新日時 2013-12-14 冒頭へ
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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第四十六話 揺るがぬ意志との戦い 深海怪獣 ピーター 登場 照りつける日差しはトリステインでの真夏が小春に思えるほど暑く、全身から吹き出す汗は常時水筒の水を喉に欲しさせる。 道なき道は、一歩ごとに足を飲み込もうとし、歩くだけでも相当な体力を必要とする。 話に聞き、頭で想像していたよりもはるかに厳しい砂漠の旅が、弱音を吐く気力さえ一行から失わさせた。 だが、気力を振り絞ってひとつ、またひとつと砂丘を越え、ひときわ大きな砂の長城を一行は制した。その瞬間、先頭を 歩いていた才人の眼前に、ついに待ち望んでいた目的地が姿を現した。 「見えたぜ! あれがアーハンブラ城か、砂漠に浮かぶ島ってとこだな」 一週間の旅路を経て、ルイズたち一行はついに目的地であるアーハンブラへ到着した。 それまでの緑にあふれた世界から一転して、砂にあふれた乾いた世界。初めて見る砂漠を踏破して、とうとうティファニアが 囚われている古代の要塞へと、一行はやってきた。 「ここがガリアの最東端……人間の世界の終わりってわけね」 砂漠に孤高に立つ古びた小城を間近まで来て仰ぎ見て、ルイズは感慨深げにつぶやいた。 昔話や学校の歴史の授業で、過去幾百回と繰り返し聞かされた人間とエルフとの戦い。それが、ここでおこなわれてきたかと 思うと、散っていった幾万もの霊魂がさまよっているような、薄ら寒い錯覚すら覚える。 しかし、それとは別の悪寒を、ルイズたちはふもとの町から城へあがる道を歩きながら感じた。 「誰もいなかったわね。やっぱり、町全体が無人になってるのね」 どこまで行っても子供ひとり出てこないほど静まりかえった町が、これからティファニアを助けに行くのだという一行の心中に 水を差した。しかも、どの家も元々人がいないのではなく、きちんと戸締りされていた。つまり、少し前まで人間がいたという 生活観が残っていることが、よりいっそうの不気味さをかもし出している。 彼らは、ジョゼフの命によってアーハンブラから住人が強制退去させられたことを直前の宿場町で聞いてはいた。しかし いざ沈黙で覆われた町に迎えられてみると、嵐の前の静けさのような、待ち構えられているかのような圧迫感が伝わってくる。 そんな暗い雰囲気を敏感に察して、ルクシャナがやれやれと首を振った。 「あなたたち、そんなんじゃあ叔父さまに会ってもぜったいかなわないわよ。もっとシャキッとしてもらわないと、せっかく 連れてきた貴重な研究材料があっさり死んじゃったら、私の苦労が台無しになるんだからね」 自分が連れてきたくせに、まるで他人事のようにいうルクシャナにさすがに才人たちもカチンとくる。しかし、一週間の旅路で 彼女が研究第一で、その他は自分も含めて優先度ががくんと落ちることを知っていたたため、顔に出しても口には出さない。 その代わりに、エレオノールが別のことを尋ねた。 「ねえあなた、今日までもう何度も聞いたけど、あなたの叔父、ビダーシャルってエルフはそんなに強いの?」 「強いわよ。私たちエルフの行使手の中でも叔父さまほどの人はそういないわ。人間のメイジだったら、スクウェアクラスでも 素手で勝てるくらい。魔法を使えない兵士なら、四~五百人は軽く片付けられるでしょうね」 平然と話すルクシャナに、エレオノールは知っていたとはいえ、おもわずつばを飲み込んだ。 旅の途中で、一行はルクシャナから先住魔法を見せてもらっていた。彼女はたいした用もないのに精霊の力を行使するのは 冒涜だと言ったけれど、知識では知っていても、実際に見たことがあるものはいなかったから当然の備えである。が、いざ 目の当たりにしてみると、その威力は想像をはるかに超えていた。 ルクシャナが命じるとおりに森の木々が動き、鋭い槍や鞭に変形した。「風よ」と簡単に命じるだけで、タバサやエレオノールの 唱えた攻撃魔法が軽くはじきかえされてしまった。土も岩も水も、同様にルクシャナの言うとおりに動いて武器となった。実際、 学院のルイズの部屋で正体を明かしたとき、もしも交渉が決裂して戦闘になっていたら、石の精霊に塔を自壊させて全員を 生き埋めにするつもりだったらしく、一同はぞっとしたものである。しかも、ルクシャナ自身は戦士ではなく、行使手としては弱いというのである。 そんな相手とこれから戦わねばならないのかと、才人はうんざりした。 「なんとか、話し合いでティファニアを返してもらえないかなあ……?」 「叔父さまの性格からして、まあ無理でしょうね」 「そんなに気難しい人なのかよ?」 「よく言えば真面目、悪く言えば頑固者ってところかしらね。でも、保身しか考えてない評議会のおじいさんたちや、 決まりきったことしか研究してない学者たちよりはずっと物分りがいいほうよ。そこのところは、蛮人の世界とたいした違いは ないと思うわ」 ちらりと視線を向けられたエレオノールは、思い当たる節が多々あるので閉口した。 「ともかく、人格的には尊敬できる人よ。ただ、使命を果たすためなら自分の筋を曲げることもいとわない責任感の強い人だから、 正直言って説得は難しいと思うわ」 「やっぱりなあ……せめて、タバサとキュルケがいてくれたら心強かったんだけど。お母さんが急病じゃ仕方ねえもんな」 才人は、ため息をひとつついて西の空を望んだ。 タバサとキュルケが昨晩に一行から離脱したことは、ロングビルの口からタバサの母親が急病で倒れたという知らせが伝書 フクロウで来て、二人はそのためにシルフィードで帰ったというふうに説明されていた。これに、才人やルイズは土壇場で貴重な 戦力が離れることをもちろん惜しんだけれど、すぐにお母さんの命には代えられないなとあきらめたのだった。 こちらに残った戦力は、才人とルイズ、エレオノールとロングビル。なお、ロングビルの昨夜の負傷は自力で手当てをして、 後は代えの服で傷口を隠してごまかしている。ルクシャナは叔父と戦うわけにはいかないだろうから、実質のところは素人に 毛が生えた程度の剣士と、爆発しか使えない虚無の担い手、戦闘は専門外のメイジと、魔法の使えなくなった盗賊…… 他人が見たら、これでエルフに勝負を挑もうとするなど狂気のさた以外の何者でもないだろう。 だが、才人たちに引き返そうとする気持ちはさらさらない。自分たちの目的はエルフを倒しに来たのではなく、ティファニアを 救出しに来たのだ。その意味を履き違えるなと、才人とルイズは自らに言い聞かせる。 やがて丘の上の城門に一行はたどりついた。巨大な鉄製の門は固く閉ざされていて、まるで動く気配もなかったが、 ルクシャナが前に立っただけで開門した。どうやら、ルクシャナが到着したら開くようにビダーシャルが門の精霊と契約していたらしい。 城門をくぐると、突然それまでの砂漠の熱気が消えて、秋口のような涼しげな空気が一行を包んだ。 「うわっ? なんだ、急に涼しくなったぞ」 「ああ、叔父様がこの周辺の大気の精霊と契約して、気温を下げてるんでしょう。わたしも自分の家の周りにこれをやってるけど、 城ひとつを覆わせるなんてさすが叔父様ね」 軽く言うルクシャナに、一行は例外なくぞっとした。いくら小さいとはいえ、城ひとつを覆う大気を自在に操るとは。同じことを 人間の風のメイジで再現しようとしたら、いったいどれだけの人数が必要になるか想像もつかない。 「たいしたものね……」 「あら、このくらいで驚いてたらとても叔父様の相手はできないわよ。それに、契約がなされてるってことは、ここに間違いなく 叔父様がいるってこと。覚悟しておくことね」 ごくりとつばを飲み込む音が誰からともなく流れた。 城内はルイズたちが想像したものを裏切り、古城とは思えないほど美しく整えられていた。だがやはり、人の気配は皆無で、 その生活感のない無機質さが才人たちをいっそう警戒させた。 兵士たちの詰め所を素通りし、廊下をしばらく進むと中庭に出た。そこは、砂漠の中だとは思えないような、水をたたえた オアシスになっていて、乾燥した世界に慣れていた才人たちの目を癒した。しかし、彼らの目を本当にひきつけたのはそこでは なかった。池のほとりの芝生の上で、憂えげに空を見上げている金色の妖精……その姿が蜃気楼でないとわかったとき、 誰よりも早くロングビルがその名を叫んでいた。 「テファ!」 「えっ? えっ!? あ、マ、マチルダ姉さん!?」 戸惑いながらもティファニアがロングビルの本名を答えたとき、真っ先にロングビルが駆け出し、一歩遅れて才人たちも続いた。 駆け寄ってきたロングビルとティファニアは熱い抱擁を交わしあい、互いに本物であることを確認しあう。ほんの数秒しか経って いないというのに、ロングビルの顔はすでに涙でぐっしょりと濡れていた。 「本当に、本物のマチルダ姉さんなのね。いったい、どうやってここまで来たの?」 「まあいろいろあってね。話せば長くなるけど、みんなで助けにきたんだよ」 ティファニアはロングビルの肩越しに、才人とルイズの顔を見つけて表情を輝かせた。 「サイト、ルイズさんも、あなたたちも来てくれたんですね!」 「ああ、もちろんさ。用があって今はいないけど、キュルケとタバサも来てたぜ」 「ウェストウッドの子供たちも無事よ。今はトリステインで預かってもらってて、元気で待ってるわ」 子供たちの安否が知れたことで、ティファニアに心からの安堵の笑みが浮かんだ。こんな状況にあっても、一番に子供たちの ことを考え続けているとは、やはりティファニアは優しいなと才人は思う。それに、一番ティファニアの心配をしていたはずの ロングビルも、外聞など眼中になく彼女の無事を確かめていた。 「ともかくテファ、怪我とかしてない? なにもされてない?」 「うん。大丈夫、ここではなにも不自由しない暮らしができてたから元気よ」 「でも、ひとりで寂しかったでしょ。いじめられたりしてない?」 「平気、最初は一人だったけど、ここでもお友達ができたから」 そう言ってティファニアが手を数回叩くと、池の中から小さなトカゲのような生き物が顔を出した。だがそれは、水面から地上に あがってきたとたんに子馬ほどの大きさの、カメレオンに似た生き物に変わって皆を驚かせた。 「うわっ! な、なんだいこいつは!?」 「やめてマチルダ姉さん! この子は暴れたりしないから」 驚いてナイフを取り出したロングビルを、ティファニアは慌てて止めた。確かにその生き物は暴れるでもなく、むしろぼぉっとした 様子でティファニアの後ろで四つんばいで止まっている。しかしルクシャナは珍しい生き物ねと興味深げに眺めているが、 カエルが苦手なルイズは、爬虫類系の容姿をしているそれにおびえて才人の後ろに隠れてしまって、エレオノールも気味悪がっている。 ただ、才人は常時肌身離さないGUYSメモリーディスプレイを取り出して、その生き物の正体を探っていた。 「アウト・オブ・ドキュメントに記録が一件。やっぱり、深海怪獣ピーターの仲間か」 エレオノールとかに見つかると後々うるさいので、スイッチを切ってさっさとしまった才人はルイズにこいつは危険はないと告げた。 深海怪獣ピーター……正確には怪獣ではなく、学名をアリゲトータスという太平洋の深海に生息する普通の生物である。 水陸両性で、性質はおとなしく、他者に危害を加えるようなことはない。だが、本来の体調はわずか二十センチくらいと普通の トカゲ程度の大きさしかないのだが、体内にある特殊なリンパ液の作用によって、周辺の温度変化に反応して一瞬にして 大きさを変える能力を持っているのだ。 まれに漁師や釣り人に釣り上げられることがあり、現在はそのまま海中に帰すことが義務付けられている。凶暴性は ないのだが、あまりに高熱にさらされると最大体長三十メートルにも巨大化してしまうことがあり、過去にペットとされて いたものが、山火事の影響で巨大化してしまった例が重く見られているのだ。 才人はピーターの下あごあたりを軽くなでてみた。すると、気持ちよがっているのかは不明だが、喉を鳴らすように鳴いたので 才人はおかしそうに笑った。 「これがテファの新しい友達か。ふーん、よく見るとけっこうかわいい顔してるじゃん」 「サ、サイトよしなさいよ。噛み付かれるわよ」 「だいじょぶだって。ティファニアのお墨付きだよ。それに、おれもこれを見るのははじめてなんでな。興味あるんだ」 実は才人もピーター……アリゲトータスのことはよく知らないのだ。その性質ゆえに、動物園でもこれを飼うことは厳禁で、 一般人が実物を見ることはほとんどない。しかし、普通海中深くにいるはずのこいつがなんでこんなところに? 首をかしげると、 池の水が底からとめどなく湧き出ているのが見えて、はたと思いついた。 「そっか、地下の水脈がどこかで海までつながってるのか。それで、迷い込んだこいつがここまで来たってことか」 知ってしまえばたいしたことではなかった。砂漠は表面は乾燥しきっていても、その地下には地底の海ともいうべき巨大な 水源を抱えている。それが場所によっては地上に吹き出してオアシスとなり、砂漠に生きる人々の生命の源となっている。 もしこれがなければ、いくらエルフとて砂漠に住むことは不可能だっただろう。 しかし、ひとときピーターをなでる平穏な時間が流れたのも、危険の中のほんのわずかな休息時間にしか過ぎない。 そのことを、ティファニアと会えて喜びに沸いていた彼らは忘れていた。 「お前たち、そこでなにをしている」 突然響いてきた、高く、澄んだ男性の声が一行に現状を思い出させた。一部をのぞいていっせいに身構える。 しくじった。ティファニアを見つけた時点でさっさと連れて逃げればよかったと思っても、後の祭りは変えられない。 いや、仮にそんなことをしていたとしても、すぐに捕まって同じことだっただろう。姑息な手など通じないだけの、穏やかな 声色の中に隠された巨大な威圧感を感じて、才人は無意識に乾いた唇をなめた。 対して、相手……近づいてくるにつれてエルフだとわかった男は、まるで戦うそぶりなど見せずに無防備に歩いてくる。 が、彼……ビダーシャルは、ティファニアを囲んでいる人間たちの中に見知った顔を見つけると、深くため息をついた。 「私はエルフのビダーシャル。招かざる客たちよ。お前たちに告ぐ……と、言おうと思ったのだが、ルクシャナ……お前の仕業か。 これはどういうことか説明してもらおうか?」 「あら、説明させてくださるんですの? そりゃあもう、私も蛮人世界でけっこう苦労したんですよ。何度か命の危機にも会いましたし、 でもそのおかげで、ラッキーな発見もありましたの」 厳しい口調で問いかけてくるビダーシャルにも、少しも悪びれた様子もなくルクシャナはこれまでのことをこまごまと説明した。 やはり、虚無の担い手を薬にかけるのは絶対反対で、しょうがないので力づくでやめさせようと思った。でも自分だけでは どうしようもないので、たまたま彼女の知り合いを見つけたのでけしかけたと平然と言う。これは弁明というよりも、自慢の論文を 壇上で聴衆に発表しているに近い。そのふてぶてしさを超えた不遜さに、才人たちさえ呆れたが、当然ビダーシャルは怒った。 「ルクシャナ! 研究熱心なのはけっこうだが、度を超して人に迷惑をかけるなと言ってあるだろう。第一、蛮人の戦士を幾人か 連れてきたところで、私に勝てると思っているのか?」 「ええ、ですから悪魔の末裔を連れてきたんですの」 「なに?」 ビダーシャルの顔から怒りが消えて、困惑の色が浮かんだ。そしてルクシャナはルイズに対して、「出番よ」とでもいう風にうながす。 ルイズはルクシャナの一歩前まで歩み出し、貴族の流儀を守った礼をして名乗った。 「わたしはトリステイン王国の貴族、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールです。エルフの国の使者、 ビダーシャル卿、あなた方の探している虚無の担い手の一人は、このわたしです」 毅然と名乗りきったルイズには、エルフに対しての恐れはない。覚悟ならとっくにすませていたし、なによりも後ろに才人が いて守ってくれているという安心感が、強く彼女を支えていた。 一方のビダーシャルは、さすがに一瞬動揺した様子を見せたが、すぐさま鋭い目つきに戻るとルイズに問いかけた。 「お前が、悪魔の力の担い手だと?」 「ええ、始祖ブリミルが残した失われた系統……わたしもつい先日まで幻だと思っていましたが、始祖の残した秘宝のひとつ、 始祖の祈祷書がわたしにすべてを教えてくれました」 ルイズはビダーシャルの問いに、明白に、堂々と答えた。それはルイズの中に眠る血の力か、それともルイズ自身が持つ強い 意思のなせる業か。このときだけは、人並みより小柄なルイズが長身のビダーシャルを見下ろしているような錯覚を才人たちは感じた。 「信じる信じないはあなたの自由です。ですが、ひとつだけ誓って、わたしたちはあなたと戦いに来たわけではありません。 わたしたちは理不尽にさらわれた友を救うためだけに来たんです。願わくば、話し合いに応じられたく思います」 ビダーシャルは瞑目した。即答を避けたのは、ルイズの言葉を否定したからではなく、事の唐突さと重大さが彼の判断力の 処理限界をすら軽く上回っていたからだ。ティファニアなどは、「えっえっ? ルイズさんが、えっ?」と、困惑しきって、「ごめん テファ、話はあとでするから」と、才人になだめられている。彼はそれよりははるかにましなほうではあったけれど、それでも 彼自身が一番論理的かと認めえる答えをはじき出すまでには数秒をようした。 「いいだろう。ルクシャナが連れてきたのだ、ただの蛮人ではあるまい。我々エルフも戦いは好まない。話を聞こう」 「感謝します」 ビダーシャルが紳士的な対応を見せたことで、ルイズたちも肩の力を半分は抜くことができた。一応の覚悟はしてきて あったとはいっても、やはりエルフといきなり戦わずにすんだというのはほっとする。だがその喜びにも、すぐに冷水がかけられた。 「ただし、まず断っておくが、私はシャイターンの末裔を逃がすつもりはない。お前も、悪魔の力を宿しているというのであれば 同じだ。この城から帰すわけにはいかない」 冷たい目で断言したビダーシャルに、才人はデルフリンガーを向け、ロングビルはナイフを取り出す。しかし彼らの前に、 意外にもエレオノールが立ちはだかった。 「やめておきなさいよ。まともに戦ったところでどうせ勝ち目なんかないし、せっかく向こうがまずは話を聞こうって言って るんだから、ぶち壊しにしないでよ」 「でも、この野郎はおれたちを帰さないって言ってるんだぜ!?」 「それはまた後で考えましょう。どのみち、最初からそうなることは覚悟のうえだったんだし。それよりも、人間とエルフ、どっちが 野蛮な生き物なんだかあんたたちが証明してみる?」 その一言が、今にも攻撃をかけようとしていた二人の気持ちを落ち着かせた。 様子を見ていたルクシャナも、いきなり戦闘に突入しなかったことでほっとした様子を見せている。 「ま、結論がどうなるにせよ、議論を尽くすのは無駄じゃないからね。さすが先輩、うまくまとめてくれました」 目配せしあった二人には同じ目論見があった。すなわち、ルイズとビダーシャルに会話させることで、謎のベールに覆い 隠されている虚無の実情を探ることである。なにしろ六千年も前のことであるので、人間とエルフのどちらにも断片的な 記録しか残っていない。ルイズたちはすでにルクシャナから、聞けることは根掘り葉掘り聞き出しているものの、虚無に関しては エルフの間でも重要な機密らしく、ルクシャナもほとんど知らなかった。そのためにビダーシャルとどうしても話す必要があったのだ。 そうして、まずルイズは前置きとして、ルクシャナからなぜビダーシャルたちがこの地にやってきたのかなどは聞いていると告げた。 「あなた方の土地でも、すでに怪獣の出現や、異常な現象が起こっているそうですね」 「そうだ、それを確かめ、変調をきたしているこの地の精霊を鎮める。そうしてサハラへの影響を事前に食い止めるのが一つ目の 任務。もうひとつが、お前たちシャイターンの末裔が揃うのを阻止することにある」 ここまではお互いに確認のようなものだった。本題は、ここからである。 「そのシャイターン……あなた方は悪魔と呼ぶ虚無の力、かつて大厄災とやらをもたらしたそうですが、それはいったいなんだったのですか?」 ルイズの質問に、ビダーシャルはジョゼフやティファニアに語ったとおりのことを説明した。エルフの半数が死滅したというほどの 恐るべき大災厄……ただし、その実情はビダーシャルすら知らないということが、少なからずエレオノールたちを落胆させた。 「お前たちの期待に添えなくてすまないな。だが、それではこちらからも質問させてもらおうか。お前が、本当にシャイターンの 末裔というのならば、悪魔の力に目覚めたいきさつを聞かせてくれ」 「ええ、数週間前のことよ……」 了承したルイズは、ビダーシャルにはじめて虚無の魔法を使ったあの日のことを話した。怪獣ゾンバイユの襲来、始祖の 祈祷書と風のルビーの共鳴、現れた古代文字、そこから発現した魔法『エクスプロージョン』の威力など。そして、自分が虚無に 目覚めたその事件が、すべてガリア王ジョゼフが虚無の担い手を探し出すために起こした事実も、包み隠さず語った。 「なんだと!? あの男が、自ら悪魔の力を……」 この事実はビダーシャルにとってもショックに違いなかった。嘘でない証拠に、トリステインで起きたことはすべて事実だと ルクシャナも証言している。彼としては、虚無の発現を防ぐために、わざわざ大きなリスクを背負って交渉を成立させた男が、 陰では虚無の目覚めを早めていたと知って穏やかでいられるはずもない。 が、ルイズたちとしては、まだビダーシャルに聞きたいことはある。その機を逃してはならないと、ルイズは矢継ぎ早に質問をぶつけた。 「もうひとつ聞きたいことがあります。ジョゼフは、わたしを虚無と見極めるときと、ウェストウッド村でティファニアをさらうときの どちらも怪獣を囮として使いました。人間が怪獣を使うなんて、普通じゃ絶対不可能なのに、ジョゼフはいったいどうやって怪獣を 使役する術を手に入れたかご存知ですか?」 「いや……それも初耳だ。しかし、奴には奇怪な様相の側近が何人か存在していた。なかでも、一人は明らかに人間ではない、 感じたこともない不気味な気配を放っていたのを覚えている」 「一人は間違いなくシェフィールドね。つまり、ジョゼフが怪獣を操っているんじゃなくて、ジョゼフの側近の何者かが怪獣を操る 方法を持っているということになるわけね」 ルイズは才人と目を合わせて意見を交換した。その、明らかに人間ではないというやつ。確証はないけれど、人間の能力を はるかに超えた相手、宇宙人だと考えれば可能性は高い。しかし、エルフに加えて宇宙人まで配下に加えているとすれば、 ジョゼフとはいったい何者であるのか? その疑問に、ビダーシャルは苦々しく答えた。 「わからぬ。私が言うのもなんだが、ジョゼフ……あの男は蛮人の中でも別格といっていい。やつなら、なにをしでかしたとしても、 私は驚きこそしても疑問には思わないだろう」 「無能王と呼ばれている。そんな男が、ですか?」 「無能王か……それは相当な偏見と誤解の産物だな。やつの頭の中身は、私からしても底が見えない。それは状況証拠だけを 見ても、お前たちにも充分わかるはずだが?」 「ええ……」 言われなくとも、それは十分に承知している。これまでのシェフィールドの手口の大掛かりさと合わせた狡猾さ、それをまったく 外部に知られずにおこなうなど凡人のなせる業ではない。 「我も当初は蛮人どもの評を参考に、やつに接触を試みた。しかしそれが大変な誤りだと気づいたときには遅かった。こちらの 弱みに付け込んで、あらかじめ用意していた交換条件の何倍もを提供させられるはめになってしまったのだ」 「まあ叔父様、そこまでなめられておいでなのに、よく生真面目に家来をやっていられるわね」 ルクシャナが呆れたように言うと、ビダーシャルはやや疲れた笑みをこぼした。だが、それはあくまで表面的なものだ。 ビダーシャルはジョゼフに対して知性以外の脅威を感じていたことを語った。 「確かにな。私もそう思う……が、どうにも抗えぬ妙な迫力を持った男でな。ともかく、直接会った者でなければ、奴の魔物じみた 得体の知れなさはわかるまい」 ティファニアを預けてきたときも、今思えば疑ってしかりだったとビダーシャルは思うが、そうはできなかっただろうなとも思うのだ。 確かに虚無について調べてくれと頼みはしたけれど、その本人を見つけてくるとは想像していなかった。いったいどうやって 見つけてきたのかと尋ねても、ジョゼフはロマリアの研究資料を拝借してなどと適当にはぐらかしてしまった。本当なら、もっと 食い下がって疑うべきだったのに。 「叔父様、もうこの際ジョゼフとは縁を切ったほうがいいんじゃありませんの?」 「しかし、そうすると我らがこの地に干渉する糸口を失ってしまう。それはできない」 危険な匂いを感じ取ったルクシャナが警告しても、使命を重んじるビダーシャルは受け入れようとはしなかった。しかし、 ルクシャナはやれやれと呆れたしぐさを大仰にとり、あらためて叔父に忠告した。 「叔父様、それでしたらもうこの場でほとんど解決できるんじゃありませんの? ここにはこのとおり、悪魔の末裔が二人も いるんですよ。私たちが恐れているのは揃った悪魔の力がシャイターンの門に到達することでしょう。そのうち半分をこっちに 取り込めば安心なんじゃありませんか?」 「なっ!?」 ルクシャナの言葉は乱暴ながら確信をついていた。人間よりはるかに強大な武力を誇るエルフにとって、警戒すべきは虚無の 力ただひとつと極論してしまってもいい。ただの人間の軍勢が攻め込んできても、撃退することが可能なのはこれまでの歴史が証明している。 だが、そのためには彼らが悪魔と呼ぶものたちと正面から向かい合わねばならない。ルイズは、今こそビダーシャルに自身の本心を伝えた。 「ビダーシャル卿。わたしや、このティファニアはエルフの世界に攻め込もうなどとは微塵も思ってはおりません。伝説がどうあれ、 それがわたしの意志です。それに、もしも残りの二人の虚無の担い手が悪意を抱くようであれば、わたしたちが全力をもって 阻止します。ですから、どうかわたしたちを信じて彼女を返してはくれないでしょうか」 ルイズの言葉には、うそ偽りのない熱意のみが込められていた。これで、なおルイズを疑うとすれば、それは人間の良心を 最初から信じていないものだけだろう。ビダーシャルは直立姿勢のまま瞑目し……やがて、ゆっくりと目を開いてルイズを見た。 「残念だが、それはできない。今はその気がなくとも、人間というものは心変わりするものだ。未来の危険を放置するわけにはいかない」 「くっ……未来の危険などを問題にするのであれば、それこそきりがないではないですか! 虚無といってもしょせん人が使う力、 六千年前と同じ結果が出るとは限らないではないですか」 「そんな危険な賭けに一族をさらすことはできない。我らにとって、シャイターンの門を守るということは、もはや伝統という 生易しいものではなく、”義務”なのだ」 かたくななビダーシャルの態度に、ルイズはこのわからずやめと顔をしかめさせた。ここまで話ができて、ジョゼフへの信頼が 薄らいでいる今なら説得できるのではないかという淡い期待は裏切られた。ルクシャナの言ったとおり、これはまた大変な 頑固者らしい。使命感が強すぎて、まったくとりつくしまがない。 「ミス・ヴァリエール、残念だけど交渉は決裂のようね。こうなったら、もう力にうったえるしかないわ」 ロングビルが落胆するルイズを慰め、戦うようにと促す。見ると才人も戦闘態勢に入っており、ビダーシャルも迎え撃つ気配を示している。 「来るがいい、悪魔の末裔よ。お前が完全に力に目覚める前に、ここで食い止める」 戦うしかないのか……ティファニアを救い、ここから皆で帰るにはもうそれしかないのか。 だが、杖を握りながらもルイズは納得できなかった。以前、始祖の祈祷書が見せてくれたビジョンの中では、人間とエルフは ともに手を携えていた。なのに、その子孫である自分たちは血を流そうとしている。これでいいはずはない。なにか、なにかまだ 方法はないのか? ビダーシャルを納得させ、無益な戦いを避ける方法が! そのときだった。ルイズの指にはめられた水のルビーが輝きだし、同時にルイズが肌身離さず持ち歩いている始祖の祈祷書が光を発しだしたのだ。 「こ、これはいったい!?」 突如あふれ出した神秘的な光に、才人だけでなく、エレオノールやロングビルも目を覆って立ち尽くす。 ビダーシャルとルクシャナも、目が見えなくては精霊に命ずることはできず、ティファニアもわけもわからずうずくまる。 その中で、ルイズだけは妙に落ち着いた様子で祈祷書を開いていた。 「始祖ブリミル……そう、あなたもこんな戦いは望んでいないんですね」 祈祷書を自分の体の一部であるように開き、ルイズは物言わぬ本に残されたブリミルの声を聞いていた。 これまで、どんなに新しいページを開こうとしても応えることのなかった祈祷書が応えた。まるで、ルイズが真に必要とする ときまでじっと待っていたように……ルイズが心から欲しているものを与えようとするように。 虚無の魔法……『記録(リコード)』……それを使って始祖の祈祷書に残されたブリミルの記憶を皆に伝えるのだ! 「お願い、始祖の祈祷書! わたしたちをもう一度、あの時代に連れて行って!」 光が爆発し、人間もエルフも関係なくすべてを飲み込む。 そして、光が消え去って祈祷書がただの古ぼけた本に戻ったとき、ルイズの望んだすべては終わっていた。 「まさか……あれが、六千年前のハルケギニア……」 力を失い、芝生の上にへたり込んだエレオノールの声が短く流れた。ルイズの声に応えた始祖の祈祷書は、以前二人に 見せた六千年前のビジョンを、この場にいた全員の脳に叩き込んだのだった。 想像を絶する、破滅と殺戮の戦争の歴史……かろうじて立っているのはルイズと才人だけだ。ロングビルやティファニアも、 白昼夢を見ていたように呆然としている。 だが、もっとも衝撃が大きかったのはエルフの二人であった。これまで漠然とした伝承でしか知ることのできなかった、 大厄災の光景。それを直接目の当たりにしたこと、そしてなによりも、エルフのあいだでは悪魔として伝えられているブリミルが、 エルフとともに戦っていたということが、彼らの信じてきた"常識"に大きな揺さぶりをかけたのだ。 「あれが……大厄災」 いつも人をバカにしたような態度をとっているルクシャナも、許容量を超える衝撃に腰を抜かしていた。人間とエルフの 小競り合いなど比較にもならない、全世界規模の最終戦争。かつてエルフの半分を死滅させたという伝承をすら超える、 世界を焼き尽くした大戦。そして、その戦火の中を戦い続けたブリミルと、その仲間たち。 やがて、ショックからいち早く立ち直ったルクシャナは、隠し切れない興奮とともにビダーシャルに詰め寄った。 「叔父様、見ましたよね! あれ、あれって!」 「あ、ああ……」 「あれが悪魔、シャイターン本人なんですね! それに、いっしょにいたあのエルフ、光る左手を持ってましたよね! もしかして あれが大厄災のときに私たちを救ったという、聖者アヌビスなのでは!? もしそうなら、学会がひっくり返るほどの大発見になりますよ!」 好奇心の塊のようなルクシャナにとっては、たとえ自分の常識を根本から打ち砕くような出来事でも喜びの対象となるようであった。 しかし、ひたすら愚直にエルフとして生きてきたビダーシャルにとっては、それは受け入れるにはあまりにも異質で大きすぎた。 あのビジョンの歴史が真実であるならば、エルフと人間という、過去幾たびとなく争い続けてきた二つの種族のいがみ合う理由はなくなる。 そのとき、迷うビダーシャルにルイズが呼びかけた。 「ビダーシャル卿、信じられない気持ちはわかります。わたしもはじめ見たときはそうでした。でも、人間とエルフは手を 取り合うこともできていたんです。それだけじゃありません。翼人に、獣人、今は他の種族と交流を絶っている多くの種族が 共に生きることができていたことがあったんです。過去にできていたことが、今はできないなんてことはないはずです。その 可能性を信じてくれませんか?」 「しかし……あの映像が真実であったという証拠はない」 「いえ、あなたほどの使い手なら、あれが作り物であるのか違うのかわかるはずです」 断言するルイズにビダーシャルは口ごもった。自然と口をついて出てしまった否定の言葉だったが、ビジョンはぬぐいきれない 現実感を彼に突きつけていた。あの質感や熱は幻覚で再現できるものではない。ならば、やはり…… 「残念だが、認めざるを得ないようだな。あの光景は太古の現実……そして、お前が悪魔の末裔であることも」 「あなたがわたしをどう呼ぼうと自由です。でも、悪魔だろうと心はあります。意志はあります。何度でも言います。わたしたちは 誰一人としてあなたと、エルフと争うつもりはありません。だから、ティファニアを返してください。お願いします!」 ぐっとルイズは小さな頭を体の半分まで下げた。その姿に、エレオノールはあのプライドの高いルイズがエルフに頭を 下げるなどと驚き、ビダーシャルも、ここまでの魔法を見せながらなお戦おうとしないルイズに心を揺さぶられた。だがそれでも、 ビダーシャルの答えは苦渋に満ちながらも変わらなかった。 「……何度言われようと、私の答えは変わらない。シャイターンの復活を……」 「いいかげんにしなさいよ!」 ビダーシャルの言葉が終わらないうちに、猛烈な怒声でそれをさえぎったのはエレオノールだった。彼女はとまどうルイズを 押しのけると、ビダーシャルを指差して怒鳴った。 「さっきから黙って聞いてたらなんなのよあなたは! これだけの証拠を突きつけられて、あまつさえ自分の半分も生きて ないような子供に頭を下げさせておきながらその態度。あんたのその澄んだ目や長い耳は飾りなの? あんたは自分の目で 見て、自分の耳で聞いたことすら信じられないわけ!?」 「貴様になにがわかるというのだ! 過去いくたびの蛮人との戦乱で同胞を失ってきたのは我らも同じだ。シャイターンの門を 守るために散っていった大勢の先人たちの意志を、私が裏切るわけにはいかぬ」 ビダーシャルは、譲れないものがあるのはお前たちだけではないとはじめて怒鳴り返した。 しかしエレオノールは、そんな彼を見据えるとはっきりと言い放った。 「違うわ。あなたはただ、楽な道を選ぼうとしているだけよ」 「なに……っ!?」 「先祖から代々受け継いできたしきたり。そりゃ確かに大事でしょうよ。でもね、”従う”なんてこと誰にだってできるのよ。 自分じゃなにも考える必要はないからね。本当に難しいのは、自分で考えて決めるってこと。それが”生きる”ってことじゃないの?」 エレオノールは心の中で、ほんの少し前までは私もあんたと同じだったんだけどねとつぶやいた。ヴァリエールと ツェルプストー、対立して当たり前だとずっと思っていた自分の中の常識に、正面きってひびを入れてくれた妹と、生意気な 赤毛の小娘がいなければ。 彼女は整った顔をゆがめて立ち尽くしているビダーシャルに、最後の一言をたたきつけた。 「ここにいる者は、誰一人として強制されてきた者はいないわ。皆、自分の意志でここに立ってる。虚無だとか世界だとか 関係なく、この子たちは友達を助けるために、私は妹を守るために覚悟を決めてね。なのに、その相手がこんな優柔不断男 だとはがっかりだわ」 過去何十人もの婚約者候補の男の心をへし折ってきたエレオノールの暴言が、容赦なくビダーシャルの心に突き刺さった。 ルイズはもう一度争うつもりはないと告げ、才人もルイズの心意気に打たれてティファニアを帰してくれと頼む。 使命と、歴史の真実のはざまでビダーシャルは迷った。一族の義務を守るか、それともあくまで戦うつもりはないとする 目の前の少女を信じるか。そのとき、葛藤する彼にルクシャナが言った。 「叔父さま、結論を容易に出せるものではないのはわかります。でしたら、私が彼らのそばについて常時監視するということで どうでしょうか? もし、彼らが私たちに害あるものでなければそれでよし。もし不穏な行動があれば即伝えますし、私が 害されればそれでもう結論となるでしょう。どうです?」 「いや、しかしそれでは君が」 「研究のためにこの身が滅ぶなら、むしろ本望ですわ。それに、どっちみちジョゼフとは手を切るんでしょ。こっちのほうが手が かからなくて確実ですって」 それで使命にもある程度報いることもできるでしょうと、言外にルクシャナは言っていた。確かに……妥協案としてはかなり 乱暴ではあるけれど、ビダーシャルとて虚無の担い手相手に確実に勝てるという自信があるわけではない。なにより、人の 心を薬で奪うということに、彼の良心も痛んでいた。 迷った末、彼はついに決断した。 「わかった。ルクシャナ、君にまかせよう」 その瞬間、緊迫感に包まれていた場が、一転して歓喜の渦に変化した。 「やった! テファ、これで帰れるぜ」 「サイトさん……よかった。誰も傷つかないで、本当によかった……あ」 「ちょ、テファ! しっかりして」 安堵して倒れ掛かるティファニアを、才人とルイズが支えた。 「信じられない。ほんとに、エルフと和解できるなんて」 ロングビルも、最悪のときには刺し違えてもティファニアを逃がそうと覚悟していただけに、気が抜けてどっと疲れがきた。 が、誰よりも解放された思いを味わっていたのはビダーシャルであった。悪魔の末裔を相手にしていたつもりだったのに、 その相手は目の前で、今は小さな子供のようにはしゃいでいる。あれが本当に悪魔なのか? むしろ悪魔なのは…… 物思いにふけるビダーシャル、そこへいつの間にやってきたのかルイズが現れて言った。 「ありがとうございます。ビダーシャル卿」 「礼を言われる筋はない。それに、勘違いするな。我らとお前たちが敵であることに変わりはない」 「でも、人間の世界にはこんな言葉もありますよ。昨日の敵は今日の友って」 なにげなく、ルイズは右手を差し出した。ビダーシャルは一瞬意味をはかりかねたが、すぐにルイズがなにを求めているのかを悟った。 もしも、これが成立したらエルフと人間の両方にとって浅からぬ意味を持つ出来事となるだろう。彼はその引き金を自らの意思で 引くべきかを考えた。 だが、そのとき。 「見たぞ、裏切りものめ」 突如、不気味な声がして一行はいっせいに振り返った。そこには、全身を黒いローブで包んだ男が立っていて、その姿を 見たビダーシャルは忌々しげに言った。 「貴様は、あの女がよこしてきた使用人の……ただの使用人ではないと思っていたが、やはり監視だったか」 「ふふふ……協定は破棄なのだろう。ならば、この城から全員生きて帰すわけにはいかぬ。覚悟するがいい、もはやこの城は 私の体の一部も同然だ。見よ! そして今度こそ、サヨナラ・人類……」 男はローブを脱ぎ捨て、不気味な怪人の正体を現す。その瞬間、アーハンブラ城全体が激しく揺れ動きだし、地下から 巨大な柱のような物体が無数に空を目指して生え出した。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
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前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百三話「ゼロ最大のピンチ!変身!ウルトラマン80」 暗殺宇宙人ナックル星人グレイ 夢幻魔獣インキュラス 夢幻神獣魔デウス 超怪獣スーパーグランドキング 登場 さらわれた才人を救い出すため、リシュの支配する夢の世界への侵入を行ったルイズ。 リシュの力は想像以上に強大であったが、デルフリンガーや夢のクラスメイトたちの激励により 奮起したルイズは、遂にリシュの力を覆して才人の心を取り戻すことに成功した。しかしそこで 知ったのは、リシュの悲しい身の上だった。このままリシュを封印して終わりでいいのか……。 悩むルイズたちであったが、事態は風雲急を告げる。リシュに協力していたナックル星人が 本性を現し、インキュラスを使ってリシュを捕らえたのだ。ナックル星人の目的とは、彼女の力を 利用して最強最悪の怪獣軍団を作り出すことだった! 現れた魔デウスの能力により、その時は 刻一刻と迫る。だがリシュを人質に取られた才人は変身することが出来ない。ゼロ最大のピンチ! その時に立ち上がったのは、夢の世界での彼らの担任、『矢的猛』。しかしてその正体は、 才人の願望をリシュが知らず知らずの内に叶えたことで、宇宙を越えて夢の世界に巻き込まれた 矢的猛=ウルトラマン80本人であった! 80はリシュを救うために立ち上がる! 「シュワッ!」 ナックル星人の不意を突いて変身を遂げたウルトラマン80は、唖然として立ち尽くしている インキュラスに素早く接近。リシュを掴む腕の手首に鋭いチョップを振り下ろした。 「グウウウウ……!」 突然の攻撃にインキュラスは耐えられず悶絶。その隙を突いて、80はリシュを奪い返して 飛びすさり、才人たちの元へリシュを下ろした。 「あッ……」 「リシュ!」 才人らはすぐさまリシュの周りを取り囲んで、彼女を保護。危ないところを救い出された リシュは呆然と80の顔を見上げる。80は優しい雰囲気で彼女にうなずき返した。 「グウウウウ……!」 その時、インキュラスが背後から80に襲いかかる! 「ヤマト先生、危ない!」 思わず叫ぶリシュだが、そうするまでもなく80はインキュラスの攻撃を察していた。 相手が間合いに入ってきた瞬間に後ろ蹴りを浴びせ、返り討ちにする。 それから80は校舎から離れ、リシュたちが戦いに巻き込まれない距離を取った。 『な、何てことなのぉ~! まさかこの夢の世界に、他のウルトラマンがいただなんてぇ~!』 ナックル星人は80という全くのイレギュラーによって己の計算が丸々打ち崩されたことに 頭を抱える。そこに才人はゼロアイ・ガンモードを突きつけた。 「降参して怪獣を退かせろ! もうお前の陰謀は終わりだッ!」 投降を命ずるが、ナックル星人は往生際が悪かった。 『なめるんじゃないわよ、小僧! 戦わずして諦めたら、ナックル星人の名が廃るわ!』 「ああそうかい! じゃ、覚悟はいいんだな!?」 才人はナックル星人の足元に光弾を撃ち込んで牽制。 『キャアァッ! あ、危ないッ! あッ、いやぁぁんッ!』 気色悪い悲鳴を上げて逃げ回るナックル星人だが、背後のフェンスに気づかずに後ずさろうとして、 勢いのままフェンスを乗り越えてしまった。 『あぁッ!? あぁぁぁぁ~れぇぇぇぇぇぇぇぇ~!!』 ナックル星人はそのまま屋上から真っ逆さまに転落していった。才人は銃撃の手を止める。 主人のナックル星人の姿が消えても、インキュラスは戦いの手を止めない。鈍器のように 太い腕を振り上げ、80に格闘戦を挑む。インキュラスは人型に近い体型もあって、格闘戦を 得意とする強力な怪獣だ。 だが、80はバッバッと風を切る音が発せられるほどの速い身のこなしにより、インキュラスの反撃を 許さずに叩きのめしていく。水平チョップが相手の側頭を打ち、すくい投げで百八十度ひっくり返して 地面に叩きつけ、おまけに後ろ回し蹴りがインキュラスを大きく吹っ飛ばした。 「グウウウウ……!」 インキュラスはきりもみ回転しながら激しく転倒。80のあまりの攻撃スピードに、まるで ついていくことが出来なかった。 普段は柔和な物腰の80だが、その胸の内には熱く燃える闘志と勇気がたぎっている。いざ戦いに なると、彼は背にしているものを守り抜く凄腕の戦士となるのだ! 「す、すごい実力……!」 「いいぞー! 先せーい!!」 ルイズとリシュは80の強さに目を見張って驚き、80の教え子たちは口をそろえて歓声を上げた。 このままインキュラスを完封するものかと思われたが、しかし、そう上手くは戦いは運ばなかった。 それまで沈黙を守っていた魔デウスだが、80を外敵と見なしたのか、卵型の姿からブーメラン状の 形態に変身し、ぐるぐる回転しながら80へ体当たりをしていく。 その飛行速度は、80のスピードにも迫るほどであった! 「ウッ!」 強烈な体当たりを真正面から食らい、さしもの80も弾き飛ばされる。 「あぁッ! 矢的先生!」 色めく教え子たち。それでも80はすぐに立ち上がり、まっすぐ伸ばした両腕を飛行する 魔デウスに向け、螺旋状のレーザーを発射した。ウルトラスパイラルビーム! しかし魔デウスはスパイラルビームを身体全体で吸収し、ダメージを受けない。それどころか エネルギー光線として80に撃ち返した! 「ウワァッ!」 自身の攻撃の威力をそのまま反射され、80もたまらず地面に投げ出された。伝説の怪獣とまで 呼ばれるほどはあり、魔デウスの能力は恐ろしいものであった。 「グウウウウ……!」 更に80にボコボコにされていたインキュラスが戦闘に復帰。怪しいオーロラのカーテンを放つと、 起き上がった80をその中に閉じ込めてしまう。 脱出を図る80だが、オーロラの檻は触れるだけで80にダメージを与え、破ることが出来ない! 「ウゥッ!」 「80が危ないわ! サイト!」 「おっしゃ!」 二大怪獣によって窮地に陥る80の加勢に入ろうと、才人は勇んでゼロアイを装着しようとする。 しかし、それを80の教え子たちに止められた。 「いや、先生はまだ大丈夫さ。俺たちの先生は、あれしきのことでへこたれたりはしないんだ!」 「えッ?」 才人らが目を丸くして振り返ると、教え子たちは80を見上げる瞳を輝かせながら口々に言う。 「先生はとても強かった! その戦う背中はいつだって、僕たちに愛と勇気を教えてくれた!」 「誰かを守るために戦う先生は、負けたことなんか一度もなかった!」 「勇敢に戦う姿で、不登校児だった僕の心を開いた!」 「俺の失恋の悲しみの塊を晴らしてくれた!」 「ある時は親子怪獣のために、自ら悪役を買って出る優しさも見せた!」 「自分が宇宙人だと現実逃避してた僕の弱さを正してくれた!」 「悪気のない騒音怪獣を倒さずに宇宙に帰してあげたりな!」 「あたしたちみんな、先生から大事なものをいっぱい学んだのよ!」 博士、落語、塚本、中野、スーパー、大島、岡島、ファッションが語り、集った教え子全員で 80を応援する。 「先せーい! がんばれー!!」 果たして80の愛した彼らの声は、80自身の何にも代えがたい力となったのだ! 80は背筋を伸ばして持ち直し、左腕を天高く、右腕を真横に伸ばしたL字のポーズを取る。 これは80が彼の超能力を発揮する際に取る体勢であり、逆転のポーズなのだ。 80はそのまま一回転すると同時に、腕から次元エネルギーを照射。それがインキュラスの 放ったオーロラの檻を消滅させる! 「グウウウウ……!?」 自身の力が破られたことに動揺するインキュラス。80はそこに伸ばした手先からの光線、 ウルトラショットを撃ち込む。 「グウウウウ……!」 ウルトラショットが頭頂部に命中し、インキュラスはたまらずに倒れ込み、昏倒。その間に80は 魔デウスの方を相手取る。しかし魔デウスには光線技が全く通用しない。ウルトラ戦士の大きな長所を 丸々一つ潰す脅威の能力を持つ敵に、80はどう戦うつもりなのか。 すると80はその場でバク転したかと思うと、空中で膝を抱えて丸まった体勢で高速回転。 そしてボールのようになった状態で飛び回り、魔デウスに肉薄していった! これぞ秘技、ダイナマイトボール作戦! 「うわぁッ!」 まさかそうするとは思わなかったルイズたちは、驚嘆の声を発した。 回転しながら空中を縦横無尽に飛び回る80と、魔デウスが何度も衝突。その結果は、魔デウスが ぐらついてスピードを落とす形となった。 「タァーッ!」 この絶好のチャンスを逃す80ではない。ダイナマイトボールを解くと更に一回転して、 片足の先にエネルギーを集中した飛び蹴りを仕掛ける! 必殺、ムーンサルトキック! 80の一撃をもらった魔デウスは、卵型の状態に戻って林の真ん中に墜落したのであった。 「やったぁーッ!」 80の教え子たちが沸き立つ。着地した80は、ちょうど起き上がったインキュラスの方へと振り返る。 「グウウウウ……!」 インキュラスは最早自棄になって80へ遮二無二突撃していくが、80は再びL字のポーズを取ると、 ワイドゼロショットのように腕を組み直して必殺光線を放った! 80の十八番、サクシウム光線だ! 「グウウウウ……!!」 サクシウム光線の直撃を受けてもがき苦しむインキュラスの全身から、フラッシュが焚かれる。 その直後に跡形もなく爆散! 「勝った! 80の勝利だわ!」 「わぁぁぁぁぁ―――――――――! 先せぇぇいッ!!」 見事な80の大勝利。はしゃぐルイズに安堵する才人。教え子たちは、今は大人の姿になっているが、 この瞬間はありし日の……80の地球滞在時の活躍を見守り、応援していた子供時代のように喝采を 上げたのだった。 「ヤマト先生……!」 リシュもまた、80の勝利に映える立ち姿をほれぼれと見上げた。 ――しかし、勝利の喜びに水を差す笑い声がどこからか発せられる。 『オ―――――ホッホッホッホッホッ!』 「! この声、ナックル星人! どこだッ!」 ナックル星人の笑い声だと気づいた才人が周囲を見回した。 「あッ! あそこ! あの卵怪獣のところよ!」 ルイズが指し示した先、墜落した魔デウスの上に、ナックル星人は浮遊していた。ジュリ扇を はためかせて、才人たちや80に言い放つ。 『ものの見事にやってくれたわねぇ、あんたたち。お陰で大分作戦が狂ったわ。けど残念! この魔デウスを呼び出した時点で、最低限の部分はクリアしたのよ!』 「何だって!?」 驚きの声を上げ、身体を強張らせる才人たち、そして80。 『サキュバスの小娘の能力がないからには、魔デウスの力の全ては制御し切れなくなったけれど…… こうすることで、アタシは最強の力を手に入れるわぁッ!』 ナックル星人の全身が不気味なオーラに包まれたかと思うと……一直線に魔デウスへと飛び込んだ! 『はぁぁぁぁぁぁ――――――――――ッ!』 「な、何を!?」 ナックル星人が魔デウスの表面に吸い込まれていった。そして……魔デウスが突然、本物の 卵よろしくバックリと二つに割れた! その中から、巨人のウルトラマン80をも超越する大型怪獣が地響きを立てて出現する! 「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」 鋭く凶悪な目つきと面構え。両手は巨大なクローとなっていて、シャベルのようにも見える。 背には内に反った突起がいくつも並ぶ。生物ではあるが同時に機械のようにも見える巨躯。 それから発せられる咆哮は大気を揺るがし、才人たちの肌をビリビリと震わせた。 「あ、あいつは……!」 「すさまじいプレッシャー……!」 ルイズは怪獣の全身から放たれる威圧感だけで、新たな怪獣が普通のとはひと味もふた味も 異なる恐ろしいものだと感じ取った。 怪獣の内部に満ちた闇の空間に、精神体と化したナックル星人が宿り、高笑いを上げた。 『オホホホホホホホ! これぞかつて闇の宇宙の帝王が生み出し、ウルトラ兄弟を追いつめるほどの 力を見せつけた超怪獣グランドキング! それを更にパワーアップさせたものよぉ! このグランドキングと アタシは一体となった! 怪獣軍団がなくとも、この超パワーがあれば世界を滅ぼすには十分! そして 現実世界へと繰り出し、世界を征服してやるわぁーッ!!』 ナックル星人の恐ろしい野望。スーパーグランドキングとでも呼ぶべき怪獣の姿となり、 ハルケギニアを滅ぼそうというのだ! あんな大怪獣が現実世界に出てしまえば、未曽有の 大被害は免れないだろう。 「そんなことさせるもんか!」 『才人、いよいよ俺たちも行くぜッ!』 あれほどの敵を、80一人には任せていられない。才人は変身の姿勢を見せるが、その前に ルイズに呼びかけた。 「ルイズ、デルフを俺に!」 「ええ!」 携帯端末の姿を才人へ渡すルイズ。今はこんなナリでも、ともにあれば変わることがきっとある。 「よし、行くぞ! デュワッ!」 そして才人はゼロアイを装着し、ウルトラマンゼロへと変身を遂げた! 80の隣、グランドキングの 正面に降り立つゼロ! 『待たせたな。テメェの野望はこのウルトラマンゼロが許さねぇぜ、ナックル星人!』 『誰も待ってなんかないわよッ! お邪魔虫め!』 ナックル星人が文句を放ったが、ゼロはお構いなしだ。 『よろしく頼むぜ、80先輩! 一緒にハルケギニアと、俺たちの後ろにいるみんなを守ろうぜ!』 『ああ! ともに戦おう、ゼロ!』 並び立ったゼロと80、二人の勇者。彼らは呼吸を合わせ、強大な悪へ敢然と立ち向かっていく! 『でぇりゃあああぁぁぁぁぁぁぁッ!』 二人のウルトラマンがグランドキングに肉薄し、ウルトラパンチを浴びせる! 『やったわねぇ、ちょこざいな! けど、グランドキングにちょっとやそっとの攻撃は通用しないわよぉッ!』 「グワアアアァァァァァァァァ!!」 だがゼロと80の、二人の一流戦士の攻撃を受けて、グランドキングにさしたるダメージはなかった。 そのあまりもの巨体は、防御力も相応するものなのだ! グランドキングは逆にクローでゼロたちを殴り飛ばした。 「ウッ!」 『うおぉぉッ!』 どうにか踏みとどまったゼロと80は、打撃は効果が薄いと見て、相手の両腕に飛びつき 抑え込もうとする。 『おおおおおおおおおッ!』 ゼロたちは超怪力を振るってグランドキングを押していき、校舎から引き離していく。が、 『ええいッ! 鬱陶しい!』 グランドキングが腕を振り回すと、二人とも軽々と弾き飛ばされた。 「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」 「ウワァッ!」 『ぐぅッ!』 人間をはるかに超越した力を持っているはずのウルトラマンを、まるで子供扱いだ! ルイズたちはグランドキングの恐るべき戦闘力を実感した。 『何の、まだまだ! こいつでどうだぁぁぁッ!』 ゼロのワイドゼロショット、80のサクシウム光線が同時に発射され、グランドキングに クリーンヒット! 激しい爆発が起こる! 「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」 ……しかし、必殺光線同時撃ちでも、グランドキングに効いている様子はなかった! 『何だと!?』 目を見張るゼロ。大怪獣であることは分かっていたが、まさか合体光線が全然通用しないとは。 かつてグランドキングと交戦したゾフィーからタロウまでのウルトラ六兄弟が大苦戦を強いられたと いう話もうなずけるというものだ。 『オーホホホホホホホホッ! 無駄よ、無駄ぁッ! 最早アタシの力はあんたたちウルトラ戦士も 凌駕したわ! あんたたちはもう、グランドキングに叩き潰されるだけの存在と化したのよッ!』 圧倒的な武力を背景に、いい気になって勝ち誇るナックル星人。追いつめられるゼロたちの様子に、 ルイズもリシュも、80の教え子たちでさえ不安の表情となる。 だが、こんな脅しには、今のゼロは屈したりなどしなかった。 『そいつはどうかな!』 『何ですってぇ!?』 『確かにそいつは強えぇぜ。とんでもねぇ闇のパワーだ。けどな……俺たちにはもっと素晴らしい 光のパワーがある! それはお前の一人きりの孤独な力とは違う……心と心の絆の力だ!!』 そう言って、ゼロは己の内の才人に呼びかけた。 『そうだろう、才人!』 『ああ! 数え切れない苦難を乗り越えてつないだ俺たちの絆の光、見せてやろうぜ!』 『相棒たち、俺もいるぜ! 俺はお前たちの剣! 力になるなら俺の他にいるもんかい!』 ゼロと才人とデルフリンガー、三人の心が一体となって、闇を打ち払う光となる! 『よぉし! 見せてやるぜ、ナックル星人! 俺たちの光を! たくさんの人の希望が形となった…… この奇跡の鎧をッ!』 ゼロが左腕を掲げると、ウルティメイトブレスレットが激しく発光! そして拡大していき、 鎧となってゼロの身体を包んだ! ウルティメイトイージスの完成! しかも今回は、それだけに留まらない! 『おッ、今度は剣だけじゃなく鎧にまで俺は宿ってんのかい。へへッ、それも悪かねえな!』 イージスからデルフリンガーの声が発せられた。そう、ゼロツインソードの時のように、 デルフリンガーの意識をイージスに宿らせてより力を上げた、ウルティメイトイージスDSと したのであった! 才人が大きな試練を乗り越え、心の光が以前よりも一層強まったことで、 この新たなるステージへと到達したのである。 『ナックル星人! テメェの悪事なんざ、二万年早いってことを俺たちが教えてやるぜぇッ!』 三人の心を一つにしたウルティメイトゼロが、巨大な闇の力を迎え撃つ! 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
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前ページ雪と雪風_始祖と神 長門有希という存在は、もはやハルケギニアにない。 意識を取り戻すと、彼女は椅子に座り、アーハンブラ城とよく似た、灰色の空間に一人佇んでいる。 「閉鎖空間……」 そう言葉を漏らすのが早いか、どこからかミョズニトニルン、いや、ただの涼宮ハルヒが現れる。 「おはよう、有希。やっとあなたと、二人で話ができるわね」 「――わたしに何の用?」 「とぼけないで。あたしが話したいことは分かるでしょう?」 言葉の陰に棘を見せるハルヒに対し、長門は淡々と受け答える。 それは彼女なりの決意表明。神と観測者ではなく、一対一の人間として、彼女と勝負する態度であった。 「わたしは、わたしのしたい行動をとっただけ」 「有希は、説明しないとわたしの気持ちが分からなかったのかしら?」 「あなたが彼に恋愛感情を抱いていることは理解している。そのこととわたしの感情は、別問題」 「……あたしの気持ちに気付いていて、それで横取りしようと思ったの?」 「あなたの言葉に従えばそうなる」 「悪いことだって思わなかった?」 「あなたは彼と交際関係にない」 「それはそうだけど――」 「あなたとわたしは対等。ともに、彼に恋慕の情を抱いているだけ」 「対等……?」 「そう」 「でも、わたしは団長で、あなたは団員――」 長門有希の眉がぴくりと動く。 「団長と、団員。その言葉を引き出したかった」 「なによ、いきなり」 「あなたはわたしを団員と定義づけた。つまりそれが、あなたの他人に対する認識。自己を中心に置いている」 「そ、そんなことないわ。ただあたしは、団員の幸せを願って……」 「違わない。そもそも世界の中心に自身を置くのは、有機生命体として当然の行動」 「なにが言いたいの?」 「わたしにも、あなたと同様、わたしの幸せを掴み取る権利がある」 しかし涼宮ハルヒは一笑に付し、話を打ち切りにかかった。 「なにを言い出すかと思えば……。話にならないわ。それなら有希が勝手にやればいいじゃない。 終わりよ、終わり。もっと面白い話ができるかと思ったわ。無駄な夢を見ちゃった」 「――まだ終わらない。あなたがわたしの言葉を不安に思えば思うほど、この空間はいっそう強固になる」 事実、アーハンブラ宮殿を模した閉鎖空間は、いっこうに消えようとはしない。 「あなたは、自分の思い通りにならないのがそんなに嫌?」 「誰しもそうよ」 「……あなたは幸運。世界が希望通りに動いている」 「そのために行動しているわ」 「違う。自分に都合の悪い世界を、勝手に切り捨てているだけ」 「そんなこと……」 「事実」 おそらく涼宮ハルヒ自身、周囲の環境にうっすらと違和感を感じてはいたのであろう。 長門有希の言葉は、深々と彼女の心をえぐる。 「あたしはそんな勝手な人間じゃないわ。だいたい、有希の言うことが本当だとしても、切り捨てて何が悪いの?」 「ならばあなたは、どうして切り捨てるの?」 質問に対して質問で返す、詭弁である。しかし涼宮ハルヒには、そのことに気付く心的余裕もない。 「それは……」 「不安だから」 「不安?」 「自分と関係のないところで世界が回るという不安」 「そりゃあ誰しも感じるでしょうね、そんな感情」 「あなたは感じていない。ただ逃げているだけ」 「――有希、どれだけあたしを馬鹿にしたら気が済むの?」 「その言葉も不安から逃げるためのもの」 「じゃあ、どうすればいいってのよ!?」 「不安を自分の中に抱え込めばいい」 「無理よ」 「皆がやっていること」 「潰されちゃう」 「潰される程度の人間というだけ」 「不安が的中したら?」 「抱え込む」 涼宮ハルヒは黙り込む。 「そう、あなたは声を出すこともできない。わたしの言葉が真実だから」 「それが生きること。感情を持つこと。そして、社会を持つこと」 「社会?」 「二人では社会と呼べない。あなたと、彼と、わたし。社会になった」 「……はっきり言って、あのときの有希の行動は許せない。 そんな感情を抱いて、有希と関わっていけると思う?」 「その感情も抱え込めばいい。それに――」 「それに?」 「あなたは今、自己の正直な感情を吐露した。わたしはあなたが嫌い――、 そんなこと、簡単に言えることではない。もうあなたは団長ではない。わたしは団員ではない。 初めて、対等の関係を持った」 「でもあたしは有希が嫌いなのよ?」 その一言に、長門有希――彼女の中の、人間の長門有希が、涼宮ハルヒに笑いかけた。 「あなたがわたしを憎めるはずがない。――なぜならあなたは、涼宮ハルヒだから」 「トートロジー?」 「違う。涼宮ハルヒは涼宮ハルヒ。あなたを信じる」 「信じる? あたしは有希を信じられないわ」 「構わない。少しづつ信じて」 「甘いわね……。でもいいわ。対等……ね。 対等ならば、あたしは全力で、有希に勝とうとするわよ。それでいいの?」 「構わない。わたしも同じことをするだけ」 「そう。分かった。受けて立とうじゃない。有希、渡さないわ」 + + + + + + 図書館の前には、半年前と同じように、三人が立ち尽くしていた。 涼宮ハルヒは無言で本を拾い集めると、一人立ち去る。 と、振り返り、二人のいる場所へ叫ぶ。 「有希! 今日は貸してあげる! でも、明日からは負けないわよ!」 長門有希は男の手を引き、図書館の中へ入っていく。 「なあ長門、こりゃ流石にまずいんじゃないか?」 「構わない。今日はあたしの勝ち」 + + + あくる日部室で、男が長門に尋ねる。 「――あのときの行動について、俺は何も言わない。 でも、教えてくれ。ハルヒは長門を笑って許したよな? いったいあいつに、何をしたんだ?」 「人は誰しも、心に閉鎖空間のようなものを抱えて生きている。 あたしがやったのは、涼宮ハルヒの創造されては消える閉鎖空間を、安定したものにしただけ」 世界に飛び交うどんな情報の断片を集めても、平賀才人なる日本人の情報にたどり着くことはできなかった。 ならば、ハルケギニアは涼宮ハルヒの生み出した閉鎖空間に過ぎなかったのだろうか。 そうであるとも、そうでないともいえる。 現に長門有希の制服のスカートには、今も主人に貰った杖が差されたままである。 少なくとも現在において、空間は存続している。 あの空間が情報統合思念体によって観測されないであろうか。 そうすれば、ハルケギニアが涼宮ハルヒの想像下ではない、独立した空間であることの証明になる。 主人、いや、友の生きる世界が末永く続き、そして願わくは、彼女に再び会えんことを――。 + + + + + + タバサが幽閉されて一週間。ビダーシャルの調合する薬が完成するのは時間の問題であった。 心残りは、正気を取り戻した母と別々に閉じ込められ、ほとんど会話を交わさぬままに終わったことであった。 いや、もし二人ともに正気を失えば、逆に同じ世界に生きられるかもしれない。 そんな残酷な想像を巡らせていると、窓の外から、 魔法の発する光が飛び込んでくる。タバサは三人の姫と同じように、窓から外を見下ろした。 エルフ、ビダーシャルの先住魔法は、ルイズの虚無の魔法「ディスペル」に敗れ去った。 先陣を切ってタバサの幽閉された部屋に飛び込んできたのは才人である。 「タバサ、無事か!?」 部屋の片隅に座り込むタバサに、月明かりに照らされた才人が手を伸ばす。 タバサが姫ならば、彼は王子。その手を取る以外の選択肢は存在しない。 「わたしは知識の姫にはならない。シャルロットでも、北花壇騎士でもなく――」 母は正気を保ち続けていた。 それが長門有希の情報操作によるものかは分からない。 ルイズの系統魔法が消失している以上、母の心が元に戻ってもおかしくはないのだ。 もしかすると、敗れたエルフの仕業である可能性もある。 だがタバサは、それが自身の使い魔のおかげであることを信じずにはいられないのだ。 馬車は、北花壇騎士として通い慣れた抜け道を通り、一路、トリステイン魔法学院に向かった。 + + + 魔法学院は何事もなかったかのようにタバサを迎え入れた。 一部の生徒から、彼女の長期欠席が許されたことへの不満の声も上がったが、 旅の間にスクエアクラスに成長したタバサが後に実力を見せ付けると、そのような声も止んだという。 タバサが自室に戻ると、うっすらと埃が積もっただけで、開かれたままの本一つ、触られてはいない。 一人で暮らすには広すぎる部屋。使い魔が彼女に残したのは、異世界の膨大な知識の断片。 しかし彼女を偲ぶものは、違う言語で書かれた本一冊だけだった。 おそらく長門有希が翻訳して読み聞かせた一冊だろう。 タバサはその本を手に取ると、読めもしないページをぱらぱらとめくった。 自分は、かけがえのない母と引き換えに、かけがえのない友を失ったのだ。 ベッドに倒れこみ、空虚な感覚に浸る。 あと少しで涙が流れ出そうというとき――、アンロックの魔法で友人が押し入ってきた。 「アンロックは校則違反……」 言うまでもなく、犯人はキュルケである。 「今日くらいいいじゃない。せっかくあなたが帰ってきたのだもの。 ユキは、元の世界に帰ったんでしょう? 元気にやってるかしらね……」 後から入ってきたメイドのシエスタが、テーブルにワイングラスと瓶を並べる。 「ミス・ナガトは帰ってこなかったのですね――。サイトさんとミス・ナガトはタルブの英雄なのに――。残念です」 そして既に酔っ払った様子の才人とギーシュ。ギーシュを介抱するモンモランシー。 「ったく、貴族ってのは、どうして何かにつけて酒を飲みたがるんだか」 「サイトぉう、きみは貴族を侮辱したなぁ!? 決闘だあぁぁぁ……」 「ギーシュ、飲んでるんだから無理しないで……。なんでわたし、ここにいるの……?」 ルイズはルイズで、才人に呆れつつ、自分もグラスを取ると、一気に飲み干した。 「もう、男ってどうしてこうなのかしら――」 「まあいいじゃない」 「わたしの男性観はキュルケと違うのよ」 「ルイズもキュルケも、なんでタバサの部屋に来たのか忘れてるんじゃないのか?」 「サイトの言う通り。ルイズも酔っ払うにはまだ早いわよ。ほら、みんな、並んで、並んで」 タバサの部屋にやってきた、事の次第を知る全員がタバサに向き直る。 そして――、 「おかえり、タバサ!」 皆が声を合わせた。 タバサは呆気に取られた様子で、口を小さく開く。 だが、皆の行動の意味に気付き、シャルロットでも北花壇騎士でもなく、タバサとして涙を流した。 「……ありがとう」 タバサは初めて、満面の笑みを浮かべた。 「おお、盛り上がっとるようじゃのう」 「学院長、どうしてここに!?」 喜びに満ちた空気の中、オールド・オスマンまでもが駆けつける。 「タバサ、学院長は……」 「大丈夫。知ってる」 オスマンはタバサの正体も、そして漠然とながら長門の正体をも知っている。 だからこそ、この場にやって来たのだろう。 「ありがとうございます、学院長」 礼を述べるキュルケ。 「うむ、生徒の復学とは、まことに喜ばしいことじゃ。ところで、ミス・タバサに渡したいものがあるのじゃが」 確かにオスマンは書物を抱えている。 「何かしら、サイト」 「見たまんま、本だろ。タバサは本が好きだからな」 「ガリア王国シャルロット姫殿下。トリステイン魔法学院学院長オスマンより、この品をもって、お祝い申し上げます」 オスマンはタバサに対し跪くと、両手で書物を差し出した。 「オールド・オスマン。いったいこれは、なんなんです?」 「おお、これはじゃなあ……」 「半年分の宿題じゃよ」 「……はははっ、そうきたかぁ!」 才人を皮切りに、部屋中が笑い声に包まれる。 タバサもまた、複雑そうな面持ちで笑い声を上げる。彼女が初めて覚えた苦笑いであった。 「ごめん、ちょっと気分が……」 しかし笑いすぎたのか、才人は窓から身を乗り出すと、外に向かって嘔吐し始めた。 「サイト、大丈夫?」 すかさずルイズが駆け寄り背中をさする。 「こりゃ大変だ、早くこのグラスをサイトに」 「それはワインよ!」 「殴ることないじゃないか、モンモランシー……」 ギーシュの相手をしているモンモランシーの他に、水系統を持つメイジは自分しかいない。 すかさずタバサは空のグラスに魔法で水を満たし、才人に差し出した。 「……ありがとう、タバサ」 一気に飲み干し、グラスをタバサに手渡す。 その、才人が振り向いた一瞬を、タバサは見逃さなかった。 それは、単に才人の気分がすぐれなかっただけなのだろう、 それでも、虚ろな目とかすれた声が、確かに彼を、憂いの混じった王子のように見せたのである。 タバサは未だ、恋を理解してはいない。 それでも、恋を描いた寓話をいくつも読んではいた。 今抱いた感情こそが、恋ではないだろうか。 そして、長門有希の話した、恋に落ちた者が取る行動。 平賀才人と接近している今しかチャンスはない。 タバサはおもむろに腕を絡め、彼に寄りかかる。 「ぴと」 本質は擬音であった。友の残した知識。 恋した者が取るべき行動。それが、この一言に集約されていた。 部屋にいる全員の視線が突き刺さる。 「タ、タバサ? なにをしているのかしら……?」 問い詰めるルイズ。しかし返事はなく、ただタバサは、才人に寄り添うだけである。 「なあタバサ、ルイズも見てるしまずいって……」 だが言葉と裏腹に、才人の視線は宙を泳いでいる。 「そう……。そうなのねサイト。メイドだけに飽き足らず、タバサまで……。 わたしやキュルケの友情に付け込んで、自分の色欲を満たそうとするなんて――」 「ま、待て、ルイズ、それは誤解だ!」 才人が言い終わるが早いか、ルイズの爆発呪文が炸裂する。 「今までのわたしが甘すぎたみたいね……。 犬みたいな使い魔には、やっぱり躾が必要よ。サイト、明日からは――、って、いない!?」 才人とタバサの姿はそこにない。 開け放たれた窓から身を乗り出すと、才人を抱えたタバサがフライで去っていくのが見えた。 「ま、待ちなさい! サイトをどこに連れて行く気!?」 飛び降りようとするルイズを、キュルケが後ろから羽交い絞めにする。 「ルイズ、早まらないで! 今のあなたは飛べないのよ!」 「もうっ! 虚無なんかいらないから、サイトを返して!」 「やっぱりまずいって。だいたい、俺にはルイズが……」 「構わない」 「いや、タバサの気持ちは嬉しいけど」 「略奪愛」 「はい?」 「成就しないかもしれない恋、それも恋。あなたをルイズだけのものにはさせない」 そう、結局タバサも長門有希も、ハルヒやルイズといった、神や始祖にとっては脇役に過ぎなかった。 だからといって、脇役が幸せを求めて何が悪いのだろうか。 物語の主役は、傍から見て主役に見えるというだけである。 一人一人、長門の世界やタバサの世界を生きる人間にとって、 主役とは結局、意識の主体、自分自身にほかならない。 我思うゆえに我あり、自意識の幸せを考えずして何になろう。 タバサの行動は、すなわちルイズに対する宣戦布告であった。 神の怒りは棚上げされた。 始祖の怒りはこれからが本番である。 雪と雪風_始祖と神 おしまい 前ページ雪と雪風_始祖と神
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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 8話 ダイナミック・ヒーロー! 宇宙有翼怪獣アリゲラ ウルトラマンダイナ 登場!! 西暦2017年代 地球最大の危機、邪神ガタノゾーアの危機を乗り越えた人類は、その夢見る心のままに大宇宙へと歩を進めるネオ・フロンティア時代を迎えていた。 だが、突如宇宙から人類を狙う謎の敵、スフィアが地球に来襲、地球平和連合TPCはチーム・スーパーGUTSでこれに対抗した。 彼らは、人類の前に姿を現したティガに続く二人目の光の巨人とともに、地球の平和を守り抜いていった。 しかし、遂に姿を現した究極の敵、暗黒惑星グランスフィアの前に冥王星をはじめとする太陽系の惑星は次々と飲み込まれていく。 これに対し、スーパーGUTSは封印された兵器、ネオマキシマ砲での最終決戦を挑む。 そして、彼らは勝利した。ただし、その代償として光の巨人はグランスフィアの生み出したブラックホールの中へと消え、消息を絶った。 だが、彼は死んではいなかったのだ!! 「光の……巨人」 誰も知らない深い森の奥で、真紅の巨大な飛竜の前に銀色の体に金色と赤と青をあしらった巨人が立ちふさがっていた。 その名はダイナ、かつて異世界の平和を守りぬいた二人目の光の巨人。 「デュワッ!!」 ダイナは森の中に立ち、甲高いうなり声を上げてくる怪獣に構えをとった。 その怪獣はゴツゴツと角ばったワイバーンのような体から生えた、まるで鉈のような翼を広げ、背中のジェット噴射口から炎を吹き出して飛び立った。 怪獣の名はアリゲラ、異世界で時空波に導かれてウルトラマンメビウスと戦った宇宙怪獣の同族。 「シャッ!!」 ダイナも跳んだ。向かってくるアリゲラに右足を向けてのジャンプキックだ。 激突! アリゲラの右肩から火花が飛び、その巨体が森の中に滑り込んでいく。 「おおっ!!」 地上からその様子を眺めていたオスマンは、アリゲラが倒れたのを見て思わず歓声を上げた。 だが、アリゲラは倒れたままその尾の先をダイナに向けると、そこから真っ赤な火炎弾を放った。 「危ない!!」 「シュワッ!!」 思わず叫んだオスマンの目の前でダイナは両手をまるで押し出すように前方にかざすと、そこに薄く輝く光の幕が現れた。 『ウルトラバリヤー!!』 火炎弾はバリヤーに当たると粉々に砕け散った。 オスマンはその光景を唖然として眺めていた。ファイヤーボールにしたら1000発分には匹敵しよう火炎弾を巨人は軽々跳ね返したのだ。 しかし、驚くのはまだ早かった。 ダイナが両手を十字に組むと、その右手からまばゆい光の束がほとばしる。 『ソルジェント光線!!』 輝く光の奔流がアリゲラを襲い、右肩から胴体までの外骨格を爆砕した。 アリゲラはガラスを引っ掻くような鳴き声をあげて苦しんだ。しかし強靭な生命力を発揮してまだ戦意を失っていない。噴煙の中から炎を吹き上げて、空へと飛び上がっていく。 「ヘヤッ!!」 ダイナは2発目のソルジェント光線を放つが、マッハで飛ぶアリゲラには当たらない。 アリゲラはそのまま急降下するとダイナに体当たりを仕掛けてきた。 「グワァッ!!」 超音速の体当たりにはさしものダイナも持ちこたえきれずに吹っ飛ばされてしまった。 アリゲラはその後Uターンして、起き上がったダイナの背中へと再び激突した。 「グワァァ!」 地響きを立てて地面に崩れ落ちるダイナ、そのときダイナの胸のカラータイマーが赤く点滅し始めた。 「頑張れ!」 オスマンは固く拳を握り締めて名も知らぬ巨人の苦境を見守っていた。 そしてダイナはその声が届いたのか、ひざを突きながらもゆっくりと立ち上がった。 アリゲラはよろめくダイナに安心したのか今度は真正面から突っ込んでくる。マッハ3、いや4、ものすごいスピードだ!! 「デヤッ!!」 だがダイナはまっすぐアリゲラに立ち向かう。 「危ない、避けるんだ!」 このまま直撃されたら今度こそ危ない。しかしダイナはまったく避けようとはしない。 正対するアリゲラとダイナ、もう両者とも避ける隙はない。 そのときだった。ダイナの額が眩く輝いたかと思うと、その身が一瞬にして燃えるような真紅に包まれた。 『ウルトラマンダイナ・ストロングタイプ!!』 赤いダイナはアリゲラの突進を正面からがっちりと受け止めた。 「ヌォォォッ!!」 突進の勢いで大地をガリガリと削りながらもダイナはアリゲラを離さない。そして100メイルほどすべったところでアリゲラの突進は完全に止まった。 さらにダイナはアリゲラの首根っこを掴んで、その巨体をハンマー投げの様に振り回した。 『バルカンスウィング!!』 回る回る、アリゲラの巨体がまるでプロペラのようだ。さらに、1万1千tの体重がもたらす遠心力によってアリゲラの体は千切れんばかりのGに襲われる。 そして思うさまにぶん回した後、ダイナはアリゲラの体を大地に思いっきり放り投げた。 「ダァァッ!!」 地響きとともに7、80本の木をへし折ってアリゲラは大地に叩きつけられる。 さらにダイナはフラフラと起き上がったアリゲラに強烈なストレートパンチをお見舞、残った左肩の砲口も叩き潰される。 「赤い巨人は、力の戦士……」 今のダイナの前には強固な外骨格も何の役にも立たず、もはやアリゲラには武器も戦意も残ってはいない。 そして、ついに敵わぬと悟ったアリゲラは、残った力を振り絞って空へと飛び上がった。 「デヤッ!!」 逃げるアリゲラを見据えながら、ダイナは胸の前で拳を突合せた。 するとダイナのカラータイマーを中心にエネルギーが集まって巨大な火球と化していく。 「ダァァァッ、シュワッ!!」 ダイナの半身を覆い尽くすほどに火球は巨大化した、そしてダイナはそれをアリゲラに向けて一気に押し出す。 『ガルネイトボンバー!!』 火球はアリゲラに向けて一直線に飛び、飛ぶのがやっとのアリゲラにはそれを避ける力はもはやない。 直撃、開放されたエネルギーの奔流がアリゲラを焼き尽くす。一瞬後、アリゲラは断末魔の遠吠えを残し、大爆発を起こして粉微塵に吹き飛んだ。 「やった!」 「シュワッ!」 オスマンとダイナは、共にガッツポーズを決めた。 そしてダイナは腕を下ろすと仁王立ちのポーズをとった。 「ダッ!!」 ダイナの体が一瞬輝いたと思うと、その体が光の粒子へと変わって小さくなっていき、やがて元の人間の姿へと戻っていった。 「じいさん、無事だったか」 彼は駆け戻ってくるなり、先程までの戦いがうそのようなまばゆい笑顔でそう言った。 「あ、大丈夫じゃとも、それよりおぬしこそ大丈夫なのか? あれだけやられたのに」 そのあまりにまっすぐな瞳にオスマンも警戒心を解かれて問い返した。 「え、ああ見られちまってたか。まあ、この世界ならいいか……なんてことはないよ、いつものことさ」 「いつものことって! おぬしはいつもあんな化け物と戦っておるのか!? 君はいったい何者なんじゃ?」 すると彼はニッと笑って。 「いや、名乗るほどの者じゃないさ……って、一度言ってみたかったんだよねー。俺はアスカ、スーパーGUTSのアスカ・シンさ。あー、と、言ってもわからねえか……」 「スーパー……ガッツ? いや、ともかく君はアスカ君というのだね。わしはオスマンという。あの巨人の姿は……いやいや、そんなことはよいか、ともかく君はわしの命の恩人じゃ、本当にありがとう」 「いいってことよ。それに、ウルトラマンダイナのことは正直俺もよくは知らねんだ。それよりも、またあんなのが来る前に、急いで帰ったほうがいいぜ」 見ると、そろそろ日の光が赤みを帯びてくるような時刻だ。 「ああ、本当にありがとう。それで、よかったらわしのうちに来てはもらえんかね? せめてもの礼がしたいんじゃ」 だが、アスカは残念そうな顔をして首を横に振った。 「悪いけど、俺も急いで国に帰らないといけないんだ。仲間が待ってるからな」 「国にって、とても遠いのじゃろう、あてはあるのか?」 「正直あんま自信はない。ただ、必ず帰るって約束したんだ。俺は約束は絶対破らない。だから、俺はずっと前に進み続ける」 そう言って、空の果てにあるという彼の故郷を見つめるその視線には一点の迷いも無かった。 「わかった。そういうことなら止めはせん。旅の無事を祈ってるよ」 「ああ、じいさんも元気でな」 オスマンは名残惜しさを振り切って別れようとした。だがそのとき自分の杖がどこかに行ってしまっていたのに気がついた。 「しまった、わしの杖……弱ったのう、あれがないと」 メイジの使える魔法はとても便利だが、反面杖が無いとその一切が使えないという欠点もある。 多分戦いのさなかに怪獣の巻き起こした突風で飛ばされたのだろうが、この深い森の中を探すのはちと困難だった。 「なんだ、うっかりしてるなあ。この森を丸腰で帰るのは厳しいぜ……しょうがない、これ持っていけよ」 アスカはそう言って腰の銃をオスマンに差し出した。 「い、いかんいかん、そんなもの受け取るわけには、それに君はどうするのだね?」 「俺は平気さ。そいつの使い方はこっちの銃とたいして変わらないからわかるよな。まだエネルギーは十分残ってるはずだ。じゃあ、元気でなじいさん!」 「あ、待ってくれ! 君はいったいどこへ行くつもりじゃ!」 「さあな、けどまたいつか会おうぜ!」 アスカは大きく手を振りながら、森の奥へと消えていった。 「アスカ……ウルトラマンダイナ……」 オスマンは、その手に残った銃を握り締めながら、彼の去っていった森の奥をいつまでも見つめていた。 そして現代、昔話を語り終えたオスマンは、椅子に座りなおすと才人とルイズに視線を戻した。 「それが、30年前にわしが体験したことの全てじゃ。あんなまっすぐな目をした若者をわしはこれまで見たことはない。 その後わしはこの銃で身を守りながらなんとか学院へ帰ってきた。 銃はそのときもまだ使えたが、下手な魔法よりはるかに危険なために『破壊の光』と名づけて封印したんじゃ」 「エース以前にも、ウルトラマンがハルケギニアに来ていたのか」 (だけど、ダイナなんて名前のウルトラマンは聞いたことないぞ。エース、あなたは知ってますか?) 才人は、自らのなかに眠っているエースへ向けて呼びかけた。 普段エースはふたりの傷の治療もあって、ふたりの心の奥深くでじっとしているが、ふたりが同時に強く願えば答えてくれる。 (いや、私も聞いたことがない。しかし、学院長の話を聞く限りでは彼もまた異世界から来たのは間違いない) (どういうことよサイト、ウルトラマンはあなたの世界の戦士なんじゃなかったの?) ルイズもエースごしにテレパシーで才人に聞き返してきた。エースが表に出てきているときだけの特典だ。 (そう言われてもなあ。ダイナってウルトラマンもそうだが、スーパーガッツなんてチームも聞いたことがない……) (なによそれ、あんたがわかんなきゃわたしが分かるわけないでしょうが、この犬) そう言われても分からないものは分からない。才人が困っているとエースが助け舟を出してくれた。 (考えられる可能性としたら、パラレルワールドというやつだろうな) (パラレルワールド?) (このハルケギニアと地球、ヤプールの異次元世界があるように、ほかにも私たち光の国の住人とは違う、 ウルトラマンのいる世界があるのかもしれない。もしかしたらハルケギニアはそうした世界の境界が薄い世界なのかも) それはかつてのTAC隊員北斗星司としての経験と知識から導かれた仮説だった。 単純に異次元世界とは言っても、ヤプールの異次元世界のほかにも、四次元怪獣ブルトンや異次元宇宙人イカルス星人の異次元はそれぞれまったく別のものだ。 (と、いうことは、あなたやそのダイナ以外にもウルトラマンが現れる可能性があるってこと?) (可能性はあるだろうな) (おお! ウルトラ兄弟以外のウルトラマン!? そりゃ燃えるぜ!) (なに喜んでるのよ、このバカ犬!) と、テレパシーで話し合っているが一応表面上は静かなものだ。 「それで、そのアスカって人はその後どうしたかわかりますか?」 才人はとりあえずオスマンにそう聞いてみた。 「うむ……わしもその後これを返そうと四方手を尽くして探してみたのじゃが、とうとう見つけることができなかった。 あれほどの力を持つのじゃから、もしものことはないと思うが、おそらくは彼の国へと帰ったのじゃとわしは思う」 「そうですか、これでなんとか元の世界への手がかりが見つかるかと思ったのですが」 地球への手がかりが見つかるかと思っていた才人はがっくりと肩を落とした。 もしハルケギニアがどこかの星ならウルトラマンAなら飛んで帰ることは簡単だが、星空にはエースの知っている星は地球とM78星雲を含めてひとつも無かった。 ダイナがどういう世界から来たのかは分からないが、帰れたにせよ帰れなかったにせよ、もうこの星にはいないだろう。 するとオスマンは、何かを考え込むような仕草を一瞬見せた後、才人の目を見据えて驚くべきことを言った。 「君は、ミス・ヴァリエールの召喚でここへ来たのだったね。すると君もまた異世界の住人なのだろう、ウルトラマンA」 「え!?」 「え、い、サイトがエース、な、なんてそんなわけないじゃないですか!」 突然のオスマンの指摘にふたりは驚いた。しかし才人はまだしもルイズはごまかしが下手すぎる。 「やはりの、エースが現れて消えるまで、ずっと君達ふたりだけがいないままで、エースが消えたとたんに戻ってきた」 もはやごまかしようも無かった。 才人とルイズは仕方ないと自分達とエースの関係を簡単に説明した。 「なるほど、君達そのものがウルトラマンなのではなく、その体を貸しているだけというわけか」 「あの、学院長、このことは」 「わかっておる。誰にも言いはしない、かつてダイナに救われたようにエースはわしの恩人じゃ」 オスマンはにっこりと笑って見せ、才人とルイズもほっと胸をなでおろした。 それを見たオスマンは、一回咳払いをして呼吸を整えると、また才人に向かって話しかけた。 「それから、もうひとつ伝えておくことがある。サイト君、君の左手のルーンについてじゃ」 「俺の?」 「うむ、それはガンダールヴ、伝説の使い魔のルーンじゃ。伝承ではあらゆる『武器』を使いこなしたと言われている。君にも心当たりがあるのではないか?」 「ええ、まあ……」 才人は、その質問には適当にお茶を濁しておいた。 ギーシュとの決闘からホタルンガに斬りかかったときまで心当たりは大有りだったが、それよりもやはりこのルーンがエースにも影響を与えたのだということを、改めて確信していた。 (たかが使い魔のルーンがウルトラマンに影響を与えるとは、まあプラスなんだから別に悪くは無いか) 疑問はまだ残っていたが、元々ひとつのことをいつまでも深刻に考える性質ではなかったので、才人はガンダールヴのことを「まあいいか」で済ませた。 「ともかく、その『破壊の光』はここではとても危険なものです。二度と盗まれないように厳重に保管してください」 この世界に来てからいくつかの攻撃魔法を見てきたが、単純な破壊力だけでなく、射程、使いやすさ、奇襲性など汎用性で 『破壊の光』は完全にそれらを上回っている。悪用されたとしたらトライアングルクラスとやらでもまず止められまい。 そのことを承知している才人は、オスマンに強く訴えた。しかしオスマンの返答はまったく予想外なものだった。 「いや、この武器はサイト君、君が持つべきだろう」 「えっ!? な、なんですって」 30年間守ってきた恩人の宝を譲る。信じられないオスマンの言葉に才人は仰天し、ルイズはまっこうから反対した。 「オールド・オスマン! この犬! い、いや使い魔に学院の秘宝をなんて!」 「ミス・ヴァリエール、わしではこれは扱いきれん。しかしウルトラマンであり、ガンダールヴである彼ならこれを正しく使ってくれるじゃろう。 受け取ってくれサイト君、そしてミス・ヴァリエールととともに、ハルケギニアを守ってほしい」 最後にオスマンは深々と頭を下げた。 ルイズは、こんなのに頭を下げる必要はないですと慌てているが、才人はオスマンの態度が真剣であることを感じて、無言で『破壊の光』を手に取った。 すると、彼の左手のルーンが光り、『破壊の光』の使い方やその他の細やかな情報が頭の中に流れ込んできた。 「ガッツブラスター……」 「おお、それがそれの本当の名前なのか。どうか、大切に使ってやってほしい。一応わしが固定化の魔法で保護してあるから元より頑丈だろうし、下手な手入れもいらんじゃろうが、ただし一つだけ……」 「わかってます。おおっぴらに使ったりはしませんよ」 学院の秘宝を一平民が持ち歩いてると知れたらいろいろとまずいだろう。それを察した才人はそう言ってオスマンを安心させたが、実はそれだけではなかった。 本当のところ、ガッツブラスターにはもうあまりエネルギーが残っていなかったのだ。20発以上は撃てるだろうが、これからのことを考えると余裕のある数字ではない。 その不安が顔に出ていたのか、オスマンは少し強い調子で才人に言った。 「不安なのじゃな。無理もない、じゃが、ウルトラマンダイナはたった一人でもあきらめずに常に明るく前に進もうと頑張っておった。君もウルトラマンなのじゃろ、ならもっと心を強く持ちなさい。そうすれば、彼のように必ず道は開ける」 「……わかりました。よーし、ヤプールなんか俺が八つにたたんでやるぜ!」 才人はウルトラマンとしての重圧を感じていたが、すでに2匹超獣を倒していることだしなんとかなるだろうと、もちまえの気楽さを発揮して答えた。 「そうか、申し訳ないがよろしく頼む……この部屋にはいつでも入れるようにミス・ロングビルに話をつけておこう。何か困ったことがあったら遠慮なく来たまえ」 「はい。では、この辺で失礼します」 「うむ、ヤプールはまたいつ攻めてくるかわからん。今夜はゆっくり休みたまえ……ああそうだ、サイトくん、 実は1週間後にここで『フリッグの舞踏会』というものが執り行われるんじゃ。本当ならもっと前にやるはずじゃったのだが、 ベロクロンの襲撃のせいで延期になっておったんじゃ。君もメインで参加できるよう取り計らっておこう。楽しみにしていたまえ」 『フリッグの舞踏会』とはこの魔法学院の行事のひとつで、娯楽の少ない学院では大勢の生徒が楽しみにしている食べて踊れるお祭り騒ぎだ。 しかし普通の学生であった才人はあまり興味はないようだったが、それを察したオスマンは才人の耳元でぼそっとささやいた。 「学院中の女子生徒が着飾って踊りを楽しむぞ、もちろん手を取り合ってな」 「ぜひ参加させていただきます」 「聞こえてるのよ、この馬鹿犬!!」 その後、ルイズと才人は学院長室をあとにした。 すでに夜もふけて廊下も静かなもので、ふたりの足音だけが響いていた。 「やれやれ、おーいて」 「学院長の手前、蹴り一発で許してやったんだからむしろ感謝しなさい。ったく、この色ボケ犬!」 ルイズはカッカッと怒っている。 才人は、相変わらずのルイズの態度に辟易していたが、やがて思い出したようにルイズの肩を叩いた。 「なによ?」 「あとで言うことがあるって、言ってあっただろう?」 ルイズの顔が固くこわばった。 あのときの無茶は、正直どんな弁明をしても正当化できようはずもない。身構えるルイズに才人はやがて口を開いた。 「今度は俺も連れてけ」 「は?」 「お前が俺の言うことなんか聞く気がないのはわかってる。だったら次からは俺も連れてけ、多少はお前より頑丈なんだから盾くらいにはなってやる、俺はお前の使い魔なんだろ?」 「……」 あまりに意外な言葉にルイズは絶句していた。 ウルトラマンは決してひとりで戦っているわけではない、信じられる仲間たちがいるからこそどんな強敵とも戦い抜いてこれたのだ。 しかし、他人を信じようとしないルイズでは、先のように命の投げ捨てに行くようなものだ。 頑ななルイズにそのことを説いても聞き入れはしまいと分かっている才人は、あえてそういう言い方をしたのだった。 (ダイナも、仲間の元へ帰ろうとしていた。ウルトラマンがなんで強いか、いつかこいつもわかってくれる……かもしれないな) 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
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前ページ次ページもう一人の『左手』 「カザミ……本当なの? サイトが生きてるって……信じていいのねっ!?」 先程まで悪鬼のような形相で、風見の腹筋にグーパンチを打ち込んでいたルイズが、いきなりふにゃっと歓喜に緩んだ。――この使い魔は、愛想こそ無いが、嘘はつかないという事を知っていたからだ。 「ああ。いま奴は、この学校から南南西の方角に約5kmのポイントを馬車で移動中だ。目的地がどこかまでは、分からんがな」 「5……“きろ”?」 「ああ、こっちの言い方だと5“リーグ”と言った方がいいのか」 「サイトは?」 「ロープで縛られて、荷台に転がされている。……無事だよ。呼吸も顔色も変化は無い」 「でっ、でも、何で分かるのよ、そんな事まで……!? まるで、見てきたような言い方じゃない!?」 風見の正体を知らないキュルケが、ルイズやコルベールを振り返る。 コルベールは思わず、その視線を躱したが、彼やオスマンほどに『カイゾーニンゲン』の詳細を理解していないルイズは、キュルケの視線を受けて風見を見上げた。 その眼差しに、説明しろという意思を込めて。そして、キュルケに説明するふりをしながら、わたしにも理解できるように言いなさい、という意思も込めて。 風見は溜め息をついた。 「コルベール先生、アンタにいつか話した、V3ホッパーの話を覚えているか?」 「ああ……確か、私の記憶が間違ってなければ……上空高く打ち上げて、そこから“敵”の位置やアジトやらを探るための『目』だとか?」 「そうだ。つまり……この世界流に言えば、俺の“使い魔”のようなものだ。それが今、この学校の遥か上空から、女を見張っている」 「使い魔ぁ!?」 キュルケとルイズは、その単語に驚いて、目を見合わせる。 「カザミ、あなたってメイジだったのっ!?」 「ちょっと待ちなさいよっ! あんた言ってたじゃないのっ! 魔法の無い国から来たって!?」 「だから言ったろう、『のようなものだ』と。俺はメイジじゃないし貴族でもない。だが、俺の意思で自在に操作できる“物体”を持っていることは、間違いない。――それを便宜上“使い魔”と呼んだだけだ」 ルイズは納得のいかないという顔をし続ける。 キュルケは、全く以って意味が分からないという表情を崩さない。 「まあいい。君がそういう“しもべ”を所持している事は聞いておった」 オスマンがその一言で、なおも説明を要求する気配が濃厚な、二人の少女を抑える。 「それで、カザミ君、――君は一体、どうしたいのかね?」 「馬を一頭、お貸し願いたい」 風見の視線が、さらに硬くなった。 オスマンは、風見とゴーレムとの戦闘模様を目撃してはいない。 だが、それでも、この老人には分かる。 コルベールが言うように、眼前の青年が、その毅然とした表情の裏に、どれほどの苦痛を封じ込めているのかも。 馬を一頭、ということは……それほどの全身の悲鳴をこらえながら、なおも独りで行く気だというのか……!! 「死ぬ気か……カザミ君?」 「まさか」 「ならば、――少々メイジを甘く見過ぎてはおらんかの?」 風見は答えない。 もっとも、その質問に答えるには、風見にとっては、対メイジの戦闘経験が、余りにも少なすぎるせいもあるのだが……。 「悪いが……君の申し出は、断らせてもらうしかないようじゃ」 オスマンは言った。 「悪く思わんでくれよ。君を行かせて、結局人質の少年もろとも死なせるような事になれば、わしは――」 そう言って、オスマンはルイズをちらりと見ると、 「わしは、ミス・ヴァリエールから、使い魔を全て取り上げてしまう事になるでな」 「……そう、か」 風見はうつむいた。 あるいは、この老人ならばとも思ったが、……やはり、予想は覆らなかった。 (どうする……!?) いまの体調では、おそらく変身したとしても、フルパワーの6割ほどしか動けまい。 いや、それは問題ではない。 おそらく困難なのは、戦うことではなく、殺さぬように手加減する事だ。 全身を、絶え間ない電流のような激痛が走っている。 だが、それでも、まだ状態はマシだというしかない。 おそらく、ルーンが刻まれる前だったら、この改造強化された身体でさえ、立てるようになるまで二日はかかっただろう。――あのゴーレムの蹴りは、それほどのダメージだったのだ。 それはいい。動けるならば、それに越した事は無い。 だが、痛覚を中途半端に遮断されたおかげで、ボディの状態が正確に把握しづらい。それが困る。 この体調で、山道を駆ける馬車を追うのは、かなり厳しい。 だが、……どのみち、休養を取る気など無い。 女の顔と嘲笑、そして才人の失神した姿が頭にこびりついて、とても寝てなどいられない。 ならば、するべき事は決まっている。 「では――失礼する」 「待ちたまえ」 オスマンが、行こうとする風見を呼び止める。 「念のために訊くが……これからどうするつもりかね?」 知れた事、と言わんばかりの表情で、風見はオスマンに目を向ける 。 「馬が使えなければ、二本の足を使うまでだ」 そう言って、振り返ろうとした瞬間だった。――“それ”が視界に入ったのは。 「カザミ君、君の気持ちも分かる。分かるが、もう少し落ち着いたらどうじゃ」 「カザミさん、いまの体調で、フーケのゴーレムと戦えると、君も本気で思っているわけじゃないだろう?」 「何カッコつけてるのよカザミっ!! 怪我人のあんた一人で行かせたら、御主人様が笑われちゃうでしょっ!!」 「――って、ルイズ、あんた行く気なのっ!?」 風見の周囲で、老人・中年・少女二人の、四つの声が錯綜する。 しかし、いま彼の耳には、そのいずれの声も届いてはいなかった。 「カザミ……君……!?」 オスマンが最初に、彼の異変に気付いた。 風見の見開かれた目が、宝物庫の一角に向けられ、全く微動だにしていないことに。 「……どうしたんじゃ?」 そのオスマンの問いには答えず、風見の脚は、引き寄せられるように、“それ”に向かって踏み出していた。 一歩、また一歩、……まるで夢遊病のようなおぼつかない足取りは、決して、彼の身体に残留した深いダメージのせいだけではない。 そして、とうとう風見は、“それ”に触れた。 ルーンが輝くのが分かる。 たしかにコイツは、ある意味『兵器』だ。あらゆる武器を使いこなすと言われた、このルーンなら、“これ”を『武器』の延長線上にある存在と認知しても、何ら不思議ではない。 そして、輝くルーンから流入してくる圧倒的な情報は、“それ”がまだ『生きている』ことを教える。 「Mr.オスマン……確かここは、マジックアイテムとやらの保管所だったな」 「ああ、そうじゃが……」 「ならば、何故こんなものがここにある?」 「“こんなもの”とは、それか? その『黒金の馬』の事かね?」 . 「くろがねの……うま……」 コルベールが、思わず口を差し挟む。 「カザミさん、それは、かつてロマリアから送られた、『場違いな工芸品』と呼ばれる存在の一つだよ。いつ、誰が、どこで、何のために作ったのかサッパリ分からない。構造を調べようにも分解すら出来ない」 「……」 「君が何故その物体に、そんな表情を向けるのか分からないが……一体どうしたんだね?」 風見は答えなかった。 ただ、全身から込み上げる震えを、ガマンできなかった。 もはや、指先から爪先まで駆け巡る痛みすら、気にならない。それほど有り得ない事だったのだ。――こんなところで、こんな異世界で、自分の分身にめぐり合おうとは!! 「『黒金の馬』、か……。上手いネーミングをつけたものだな、全く……」 「君は、知っておるのか、まさか、それを……!?」 滅多に動じぬオスマンが、信じられないものを見る目で、風見を見る。 「ああ、知っている」 風見は、さっきまでの苦渋の表情が嘘のような、むしろ誇らしげな顔で答えた。 「コイツの名はハリケーン。俺の相棒だ」 「あいぼう……?」 「はりけーん……?」 4人はぽかんとなった。 相棒とは、我ながら上手く言ったものだな。 風見は、心中苦笑する。 たしかに――相棒だ。仮面ライダーが“ライダー”と呼称される由縁。 このマシンを、まさに分身のごとく自由自在に、あらゆる場所で乗りこなす。 そのライディングテクニックがあればこそ、俺たちは“仮面ライダー”なのだ。 「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ……あんた何言ってんの? これは王宮から魔法学院に預けられたマジックアイテムなのよ。まさか、わたしたちが知らないと思って、デタラメ並べてネコババしようなんて――」 「ハリケーンっ!!」 風見が、ルイズの声を遮るように叫んだ。 ――ドルン!! ドルンドルン!! 風見の一喝と同時にそのマシン……ハリケーンのエンジンに火が入る。 オスマン、コルベール、ルイズ、キュルケの4人は……もはや声もない。 彼は、そうするのが当然である、と言わんばかりの自然さで、ハリケーンに跨った。 変わらない。 たとえ、世界が入れ替わっても、コイツの乗り心地だけは変わらない。 「Mr.オスマン、馬はもう要らなくなった。代わりにコイツを返して貰う」 「返してもらうって……こいつはたまげたわい……!!」 「学院長」 呆気にとられるオスマンに、ルイズが駆け寄る。 「カザミを行かせてあげてください。いま、サイトを救えるのは、彼だけなんです! お願いします!!」 「ルイズ!?」 「ミス・ヴァリエール!?」 キュルケとコルベールが、驚きの声を上げる。 この少女は、自分の使い魔が、どういうコンディションか聞いていなかったのか? 「確かにカザミは、無愛想だし、目付き悪いし、言うこと聞かないし、いま大怪我してるかも知れないけど、それでも、こいつが」 そこでルイズは、一度言葉を切り、 「――いえ、わたしたちが行かなきゃ始まらないんです! カザミが危なくなったら、わたしが助けます! だから、行かせてください、お願いしますっ!!」 オスマンの深い目が、必死になってそう訴える少女を見つめる。 「……その言葉の結果が、いかなる結末を迎える事になっても、誰も責任は取れんのじゃぞ、ミス・ヴァリエール。それでも良いのじゃな?」 その問いに、ルイズは答える言葉を持たない。――だが、ルイズはもう、うつむかなかった。 彼女には分かっていた。自分がこのまま、何も為さず、まんじりと座して夜明けを待つことなど、到底出来そうもないことを。 「仕方ない、かの……」 オスマンが、何かを諦めたかのように、何かを吹っ切ったかのように、微笑んだ。 「――あっ、ありがとうございますっ!!」 そうだ、それでいいんだ。 何を迷っていたんだろう。 使い魔を助けるのは主の勤め! わたしがサイトを助けてあげなくて、一体誰が、あのばか犬を救い出せるっていうのよっ!! その思いは、悲壮感に沈みこんでいたルイズの心を、鎖から解き放つカンフルとなった。 「さあ、行くわよカザミ、準備はいい!?」 「ちょっ、ちょっと待ちなさいルイズ!」 キュルケが、ハリケーンのタンデムシートに座ろうとするルイズを引き止める。 「宜しいんですか学院長!?――いや、カザミの体調じゃなくて、あの『黒金の馬』のことですわ!!」 さすがのキュルケも、うろたえた声を出す。 「あたしはゲルマニアからの留学生ですが、失礼ですけど、いま学院長がなさった決断が、トリステインにとって、取り返しのつかない事態を招きかねないのは分かりますわ!!」 「取り返しのつかない事態?」 「あの『黒金の馬』は、確か、ロマリアから送られた国宝なんでしょう!? それを平民に勝手に与えてしまうなんて、……下手したら外交問題ですわよっ!!」 そう、確かにキュルケの言う事は正しい。だが、オスマンは深沈たる眼差しでかぶりを振った 「『勝手に与えた』と言うならば、そもそもあれは、我々が“勝手に”所有権を主張し、使い方さえ理解できず、ついには“勝手に”蔵に放置するしか出来なかった代物じゃぞ?」 「しっ、しかし!!」 オスマンは、なだめるようにキュルケに言う。 「ミス・ツェルプストー、あの『馬』のいななきを聞きたまえ。まるで喜んどるようじゃないか? 久しぶりに主に出会うて、喜び勇んどるようじゃないか?」 「学院長……」 「『黒金の馬』はフーケに盗られて、永久に失われたことにしておこう。ここにあるのは、彼の愛馬『ハリケーン』じゃ。よいな?」 そう言って、オスマンは、キュルケを見、ルイズとコルベールを見、そして、風見を見た。 「Mr.オスマン……済まない」 「やれやれ、若い者にはかなわんの」 老人のその目は、笑っているように見えた。 その老熟と寛容を併せ持った眼差しは、風見の知るある人物にそっくりであった。 「ありがとう。――おやっさん」 風見は、そう照れ臭げに呟くと、そのままハリケーンのアクセルを吹かし、壁の穴から闇の中に飛び出していった。 一緒について行く気満々だったルイズを取り残して。 「こら~~!! 何で御主人様を置いて行くのよ、ばかばかばか~~~!!」 「目が覚めたかい? 坊や」 風の冷たさで、才人が意識を取り戻した瞬間、つやっぽい女性の声が聞こえた。 「ここは……?」 体を起こそうとした途端、“床”がガタンと地震のような振動を起こした。肩が捻り上げられるような衝撃が才人を襲う。 「いででっ!!」 その時になって、ようやく才人は、自分が後ろ手に縛り上げられている事、また、“床”だと思っていたのが、荷馬車の荷台だという事、さらには、馬車が走っているのが、石ころだらけの暗い林道である事に気付いた。 そして、御者席に座り、その馬車を猛烈なスピードで走らせる女性……! 「あんた、一体何者なんだ……!?」 女は、御者台からちらりと振り返ると、フードを取った。 「そういや、お互い自己紹介がまだだったねえ」 「あんた、……ミス・ロングビル、じゃない……のか?」 すでに捨てたはずの名で呼ばれ、女はくくくっ、と笑った。 「わたしの名は『土くれ』のフーケ。ロングビルってのは、むかし近所に住んでた行き遅れのオバサンから借りた名前さ。よろしくね――ガンダールヴ」 「ガン、ダム……?」 「おや、まだコルベールやオスマンのエロジジイから、何も聞いてないのかい?」 「おれはヒラガサイトだっ! そんなモビルスーツみたいな名前じゃ――ぐむっ!?」 才人はだんご虫のように、いきなりうずくまり、丸くなった。 「くくくっ ――舌噛んじまったかい? 山道の馬車は揺れるからねえ」 むかついた。 この女が、自分をゴーレムで握り殺しかけたという事以上に、自分について自分以上に何か知っているらしいという態度が、才人には非常に気に食わなかった。 だが――、 「安心しな、そんなに怯えなくても殺しやしないよ」 そう言われた瞬間に、恐ろしいほどの恐怖が背筋に這い登ってきた。 そうだ、おれは、――この女の顔を、はっきり見てる。 普通、こういう場合って、くっ、くっ、くっ、……口封じに……!! 「きえええええぇぇぇぇっっっ!!!」 悲鳴にもならない悲鳴が、才人の口から迸った。 そして、自分がどういう体勢なのかも省みず、馬車から飛び降りて脱出を図ろうとしたが……、 「えっ、えっ、ええ~~~!!?」 後ろ手に縛られたロープが、なんと馬車の荷台に結びつけられていたらしい。両肩が脱臼せんばかりの激痛が走った。そして、そのまま荷台に置いてあった、細長い木箱に、いやというほど脳天をぶつける。 才人は、再び失神した。 「まったく、……あんた馬鹿じゃないの?」 再び意識が戻った時、才人は山小屋の中で、床に転がされていた。 それをフーケが呆れたような顔をして、見下ろしている。 「感謝して欲しいもんだわね、命を救ってあげたんだから」 「へ?」 その言い草の、あまりの意外さに、才人はキョトンとなった。 「分からないのかい? もしアンタ、あのまま馬車から飛び降りてたら、受身も取れずに、石に頭ぶつけて死んでたよ」 才人はそう言われて、――馬車の荷台から見た、街灯一本ない暗闇の眺めや、5秒に1度は、石を踏んでゴツンゴツンに揺れていたデコボコの山道を思い出し、ぞっとした。 「あんたみたいな向こう見ずなガキが、ガンダールヴなんて……信じられないよ、まったく」 そう言いながらフーケは、背中に回された才人の両手のロープを解き、 「ホラ、食いな」 と、パンを差し出す。 「え?」 「いらないのかい?」 「え、あ、いや、――ありがとう」 そのパンは、半ば硬くなっており、ろくに味もしなかったが、それでも才人は、貪るように食い尽くした。思い返せば、彼は夕飯を食べていなかった。 例の『使い魔品評会』の出場問題で、ルイズを怒らせて、抜かれてしまったのだ。 しかし……。 「あの――?」 「なんだい」 「わざわざロープを解いたのは、おれにこのパンをくれるため、なのか?」 そう、おずおずと訊く才人に、フーケはフンと鼻を鳴らして、 「当たり前だろ? それともあんた、犬食いがしたかったのかい?」 と言った。 才人は数瞬、あっけにとられたが、――どうやら、メイジである彼女は、現役高校生の腕力による逆襲など、全く歯牙にもかけていないらしいと、ようやく理解した。 「さて、それじゃあ、本題に入ろうかね」 目の前に置かれたのは、1,5mほどの細長い木箱。 「アンタは、自分が“ガンダールヴ”だという事実を、まだ認識していないらしいけど……少し試させてもらうよ」 そういうと、『練金』で小さなナイフを錬成し、才人の傍らの床に投げ刺した。 「抜きな。左手の甲のルーンが見えるようにしながらね」 才人は未だに何の事か分からない。 しかし、こんなナイフ一本で、巨大ゴーレムを自在に錬成し、操作する女に逆らう気は起きない。 そして、ナイフを――言われた通り左手の甲を見せながら――抜いた瞬間、ルーンが煌煌と輝いた。 「なっ!?」 いや、それだけではない。 ルーンが輝いた瞬間に、いまだ残る両肩の痛みが消え、体が軽くなった……!? ――パチン!! フーケが指を弾いた瞬間、ナイフがいきなり土に変化した。 彼女が『練金』を解いたようだ。 まるで理科の授業で、物質の腐食と風化の超早送りVTRをみせられたようだった。 「そのルーン……やっぱり本物だったか……わたしは盗賊の神様に感謝すべきだねえ」 涎をたらさんばかりの笑顔を見せ、 「まさか、どうやって身柄を抑えようか悩んでいた、当の本人が、自分から飛び込んできてくれるなんてねえ……」 「なあ、ちょっと待ってくれよ、説明してくれよ。おれ、あんたが何を言ってるのか全然分からないんだよ」 さっきの怪現象はなんだったんだ!? そういや、ギーシュとかいうキザ野郎と決闘した時も、剣を握った瞬間に、体から痛みが抜けた。いや、それだけじゃない。その剣で、等身大の金属人形を、真っ二つにした……このおれが……!? 今まで知らなかった自分自身の情報を突きつけられ、才人は狼狽する。 そして、フーケは言い放つ。 「もう分かってるんだろ? あんたはあらゆる『武器』を使いこなす。――あんた自身の力じゃない、全部そのルーンの力さ。伝説の使い魔“ガンダールヴ”のルーンのね」 ――伝説の、使い魔……? なんだそりゃ……!!? 「さあ、説明は以上だ。その木箱を開けて、『破壊の杖』の使い方を教えてもらおうか? そいつが魔力に反応するタイプの、単なるマジックアイテムじゃないっていうのは、ディティクト・マジックでもう分かってるんだ」 「教えるって、……おれが?」 「分かった事を素直に全部言ってくれれば、――無事、魔法学院まで送ってやるよ」 つまり、期待通りの情報を言えなければ、命は無い。 そういう事か……!? 殺すのか、殺すのか、おれを、殺すのか、おれは、殺されるのか!? もう、否も応もなかった。 才人は、眼前の木箱を引っくり返し、夢中で、蓋とおぼしき板を引っぺがした。 中に入っていたのは、長さ1・2m程度の……。 これって、あの、たしか、――ガンダムで、ザクとかドムが使ってた、アレ? でも、たしか『杖』って……。これ、杖でも何でもねえじゃん。 おそるおそるフーケを見上げる。 「なにグズグズしてるんだいっ!! さっさとしなっ!!」 その一喝に、才人は反射的にその“物体”をつかむ。 ルーンが光る。 その瞬間に、この“物体”に関する、おびただしいデータが彼の脳内に流入してきた。 「ひいいいいいぃぃぃっっっ!!!」 「なっ、なんだいっ! どうしたんだいっ!?」 目を見開いて、発狂したように取り乱す才人。まるで、白昼に幽霊でも見たような絶叫をあげ、山小屋の隅まで転がって、がたがた震える。 フーケは、何が起こったのか分からず、目をぱちくりさせた。いくら何でも、この反応は予想の斜め上を行き過ぎている。それともまさか、呪いのアイテムなのか!? 「おいっ! 坊やっ!! 答えるんだ、アレは一体、何だったんだよっ!!?」 「――かっ、かかかか……」 「か?」 「かめ……ばずーか……!!」 哀れなる『土くれ』のフーケは、……その才人の言葉の正確な意味を、知らなかった。 前ページ次ページもう一人の『左手』
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前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百三十七話「四冊目『THE FINAL BATTLE』(その1)」 スペースリセッター グローカーボーン 登場 『古き本』も遂に三冊、半分を完結させることに成功した。するとそれまでずっと眠り続 けていたルイズが目を覚ました! 喜びに沸く才人たちであったが、現実はそう甘くはなかった。 目覚めたルイズは、全ての記憶を失っていたのだ。自分の名前すら思い出せないありさま。 ぬか喜びだったことが分かり、才人たちは思わず落胆してしまった。 やはり、『古き本』の攻略は最後まで進めなければならないようだ。 三冊目攻略の翌朝、ルイズの看護を担っているシエスタが、ルイズのいるゲストルームに入室する。 「おはようございます、ミス・ヴァリエール。お加減は如何ですか?」 ルイズは既に起床していた。ベッドの上で上体を起こしている彼女は、シエスタの顔を 見返すと清楚に微笑んだ。 「シエスタさん、おはようございます」 「おはよう……ございます……!?」 ルイズの口からそんな言葉が出てくることに激しい違和感に襲われるシエスタ。本来の彼女は、 平民のシエスタに絶対に敬語を使ったりはしない。 「はぁ……ほんとに記憶の一切を失っちゃったんですね、ミス・ヴァリエール……」 「……ごめんなさい……」 ため息を吐いたシエスタに、ルイズは悲しげに眉をひそめて謝罪した。 「えッ?」 「どうやら、わたしが記憶を失っていることで、みんなを悲しませているようですね。さっき サイト……さん、だったかしら。彼も、どこか落ち込んでいられたようでした」 ルイズはルイズなりに、自身の状況を憂いているようだ。 「それでも、みんな笑顔を見せてくれる。それが、とっても悲しいの……。わたしを心配 してくれた人たちのことを、何も覚えていないなんて……」 「ミス・ヴァリエール……」 悲しむルイズの様子に胸を打たれたシエスタは、懸命に彼女を励ました。 「大丈夫ですよ! 必ず、サイトさんがミス・ヴァリエールの記憶を取り戻してくれます!」 そうして看護を行うシエスタは、密かにジャンボットにルイズのことを尋ねかけた。 「ジャンボットさん、ミス・ヴァリエールの記憶を他の手段で戻すことは出来ないんでしょうか?」 ルイズの脳を分析したジャンボットが回答する。 『難しいな……。記憶中枢が不自然に失活している。無理に回復させようとしたら、余計に 悪化させてしまうことだろう。最悪、一生障害が残る身体になってしまうかもしれない。 やはり、原因たる『古き本』をどうにかしなければならないだろう』 「そうですか……」 ジャンボットたちの力でもどうにもならないことを知って落ち込むシエスタ。彼女は同時に、 才人が残り三冊分も危険な戦いをしなければならないことに胸を痛めていた。 「……ところで、問題のサイトさんはどこに行かれたのでしょうか?」 『リーヴルのところへ行ったようだな』 才人は本件に対して、重要な鍵を握っているだろうリーヴルに直接話を聞きに行っていた。 リーヴルはおっとりした雰囲気に反して用心深いようで、何かを隠していることは確実なのだが それが何なのかは、タバサの調査でも解き明かすことが出来ないでいた。それ故、本人から 探り出そうと突撃したのだった。 しかし真正面から「何を隠しているんだ?」と問うたところで正直に答えるはずがない。 そこで才人は若干遠回しに攻めてみた。 「リーヴル、あんたは俺たちに随分協力的だよな。何日も図書館の部屋を貸してくれたり……」 「当図書館で起きた問題ならば、司書の私に責任がありますから」 「そうかもしれないけど……実は、リーヴルにも何か得することがあったりするのか? だからやたら親身になってくれるんじゃないかなって」 と聞くと、リーヴルはこんなことを話し始めた。 「……少し、私の話を聞いていただけませんか? ちょうど相手が欲しかったんです」 「え? 話って……?」 リーヴルは、昔話のような形式で話を語った。それは、小さな王国の民を愛する女王が、 可愛がっていた娘の患った重い病を治すために、悪魔と契約したという内容だった。 悪魔は女王の娘の病を治す見返りとして、女王の大切にしていたものを要求した。そして娘が 回復すると同時に……王国中が炎に巻かれ、悪魔の契約によって国民全員、果ては世界中の国々が 滅んでしまった。 その様子を見た女王は、娘に告げた。「あなたの病気が治って本当によかった」と……。 「……嫌な話だな。作り話にしたって、その女王様はわがまま過ぎるだろ」 聞き終えた才人は率直な感想を述べた。するとリーヴルが反論する。 「そうでしょうか? 悪魔以外に娘の病気を治せる者はいなかったんですよ? 娘が治るなら、 どんな代償だって……」 「でも、罪のない人たちを巻き込むのは間違ってるって」 「他人は他人。大事な人と世界……天秤に掛けるまでもなく、どちらが重いかは明白じゃないですか。 大事な人がいなければ、世界なんて何の意味も……」 そう語るリーヴルに、才人は返した。 「いや……俺は大事な人だけがいればいいなんて、それが正しいなんて思えない」 「……?」 「その女王様の話だってさ、世界に娘と二人だけしかいなくなって、それからどうやって 生きていくんだ? 多分、すぐ不幸になるさ。俺の経験から言うと、現実の世界ってそんな 甘いものじゃあないからな。それじゃあ、娘を治した意味なんてないじゃないか」 「……それはそうかもしれませんが……」 才人の指摘に戸惑うリーヴルに、才人は続けて語る。 「それにさ……大事な人、大事なものって言うのは、案外その辺りにたくさん転がってるものだよ。 俺は今シュヴァリエの称号を持ってるけど、それは今助けようとしてるルイズがいただけで得られる ものじゃなかった。シエスタやタバサ、魔法学院で出来た友達や先生の教え、他にも行く先々で 出会った人たちが俺に教えてくれたものがなければ、今の俺は確実になかったし、どっかで野垂れ 死んでたかもしれない。だから俺は、一人を助けられたらそれでいいなんてのは間違いで、みんなを 助ける! それが正しいことだと思う」 ハルケギニアに召喚される以前の才人ならば、リーヴルの言うことにある程度は納得した かもしれない。だが今は違う。多くの出会いと経験を積み重ねて、成長した才人はもっと 大きな視点から物を考えられるようになったのだ。 才人の意見を受けたリーヴルは、しかし彼に問い返す。 「みんなを助ける、と言いますが、あなたにはそれが簡単に出来るのですか? たとえば 先ほどの話ならば、悪魔にすがる以外に方法などありません。それとも、娘を見捨てろとでも?」 それに才人ははっきりと答えた。 「もちろん、簡単に出来ることじゃないだろうさ。失敗してしまうかもしれない。……だけど、 俺だったら最後まであきらめないし、妥協しない! どんなに苦しくたって、みんな助かる道を 最後まで探し続けるぜ!」 「……」 才人の言葉を聞いて、リーヴルはうつむいて何かを考え込んでいたが、やがてすっくと立ち上がった。 「少し、話し込んでしまったようですね……。本日の本の旅の時間です。準備は整っていますので、 あなたもご用意を」 「あ、ああ」 背を向けて立ち去っていくリーヴルを見送って、才人はゼロに呼びかけた。 「ゼロ、さっきのリーヴル話には何か意味があったのかな」 『わざわざあんな話をしたってからには、伝えたいものがあったんじゃないかとは思うな』 「じゃあ、さっきの話の中に真実が……もしかして、リーヴルは誰かを人質にされて俺たちを 本の世界に送ってるのかな?」 『そんな単純な話でもないと思うがな……。何にせよ、全ての本を完結させることについての リーヴルのメリットが分からないことには、何の断定も出来ないぜ』 話し合った二人は、それでも念のため、リーヴルの周囲に誰か消えた人がいないかということを タバサに調べてもらおうということを決定した。 そうして四冊目の本を選ぶ場面となった。 「それでは始めましょう。サイトさん、本を選んで下さい」 残るは三冊。それぞれを見比べながら、才人はゼロと相談する。 『ゼロ、次はどれがいいかな』 『次は……なるべく知ってる奴が主役の本を片づけていこう。ってことでその本だ』 ゼロが指定したのは、青い表紙の本であった。 「この本ですね、分かりました。では、良い旅を……」 『古き本』の攻略も折り返し地点。才人とゼロは四冊目の世界へと入っていった……。 ‐THE FINAL BATTLE‐ 宇宙の悪魔サンドロスが撃退されてから数年、壊滅してしまった遊星ジュランの復興とともに、 怪獣と人間の共生する世界のモデルを築く『ネオユートピア計画』の始動の時が近づいていた。 その第一歩として怪獣をジュランへ輸送する大型ロケット『コスモ・ノア』が建造され、その パイロットには春野ムサシが選ばれた。どんな苦難にも夢をあきらめなかった青年の奇跡が、 実現しようとしているのだ……。 しかし、宇宙開発センター上空に突然謎の円盤が出現。円盤から投下された巨大ロボットが、 コスモ・ノアを狙う! それを阻止したのは、ムサシとともに数々の脅威に立ち向かった英雄、 ウルトラマンコスモス! コスモスはロボットを破壊するものの、円盤からは次々にロボットが 現れる。コスモスの窮地にムサシは今一度彼と一体となり、ロボットの機能を停止させた。 これで当面の危機は凌げたように思われたが……そこに現れたのは、サンドロスとの戦いの時に コスモスを助けてくれたウルトラマン、ジャスティス。しかもジャスティスはロボットを再起動 させたばかりか、コスモスに攻撃してきたのだ! 赤いモノアイのロボット、グローカーボーン二体を張り倒したコスモス・エクリプスモードに、 ジャスティスは右拳からの光線、ジャスティススマッシュで攻撃する。 『ジャスティス、何故だ!?』 ムサシの問いにジャスティスは、駆けてきての蹴打で答えた。 「デアッ!」 かわしたコスモスにジャスティスは容赦なく蹴りを打ち続ける。何かの間違いではなく、 ジャスティスは明白にコスモスに対する攻撃意思を持っている! 『待て!』 訳が分からず制止を掛けるムサシに構わず、ジャスティスはコスモスの首を鷲掴みにして締め上げる。 「ウゥッ!」 『どうして……ウルトラマン同士が戦うんだ……!』 混乱するムサシ。ジャスティスはやはり何も言わないまま、コスモスをひねり投げた。 「デアァッ!」 「ウアッ……!」 反撃せず無抵抗のままのコスモスに対して、ジャスティスは容赦なく打撃を浴びせ続ける。 その末にコスモスを力の限り蹴り倒す。 「デェアッ!」 「ムサシーッ!」 コスモスが倒れると、ムサシのチームEYES時代の先輩であり、新生チームEYESのキャップに 就任したフブキが絶叫した。本来ムサシに個人的に会いに来ただけであり、非武装の今では コスモスを助けることは出来ない。 「ゼアッ!」 よろよろと起き上がるコスモスに、ジャスティスは再びジャスティススマッシュを食らわせた。 その攻め手に慈悲はない。 「グアァッ!」 「ムサシ! コスモス立てー!」 一方的にやられ、カラータイマーが赤く点滅するコスモスを、フブキが駆けていきながら 懸命に応援する。 「ジュッ……!」 「立て! コスモス! ムサシー!」 コスモスがやられている間に、グローカーボーンが起き上がって、両腕に備わったビームガンから コスモ・ノアに向けて光弾を発射した! 『やめろぉッ!』 叫ぶムサシ。コスモ・ノアが危ない! ――その時、空の彼方からひと筋の流星が高速で迫ってきて、コスモ・ノアの前に降り立った! 「あれは……!?」 「セェアッ!」 驚愕するフブキ。コスモ・ノアの盾となって、光弾を弾き飛ばしたのは、三人目のウルトラマン…… ウルトラマンゼロだ! 「ジュッ!?」 ゼロの登場に、コスモスも、ジャスティスも目を見張った。 「あのウルトラマンは……味方なのか、敵なのか……?」 訝しむフブキ。彼はジャスティスの行いで、それが分からなくなっていた。 「セアァッ!」 そんな彼の思考とは裏腹に、ゼロは瞬時にグローカーボーンに詰め寄って、鉄拳を浴びせて 片方を殴り倒した。 「キ――――――――ッ!」 ゼロを敵と認識したもう片方のグローカーボーンが即座に光弾を放ったが、ゼロはバク転で かわしながら接近し、後ろ回し蹴りで横転させた。 「ジュアッ!」 グローカーボーンと戦うゼロにもジャスティスは攻撃を仕掛けようとしたが、そこにコスモスが 飛びかかり、羽交い絞めにして阻止した。 「セェェェアッ!」 コスモスがジャスティスを食い止めている間に、ゼロはグローカーボーン一体をゼロスラッガー アタックで切り刻んで爆破し、二体目にはワイドゼロショットを撃ち込んで破壊した。 だがいくらグローカーボーンを破壊しても、大元の円盤、グローカーマザーから新たな機体が 送り出されようとしている。 『させるかよッ!』 するとゼロはストロングコロナゼロに変身して、上空のグローカーマザーに対してガルネイト バスターを放った! 『ガルネイトバスタぁぁぁ―――――ッ!』 灼熱の光線が直撃し、その猛烈な勢いによってグローカーマザーを押し上げ、大気圏外まで 追放した。 『ちッ、破壊は出来なかったか。頑丈だな……』 ゼロが舌打ちしていると、ジャスティスがコスモスを振り払ってジャスティススマッシュを 撃ってきた。 「デアッ!」 「! ハッ!」 すぐに気がついたゼロは光線を腕で弾く。そのままジャスティスとにらみ合っていると、 ジャスティスが、『聞き慣れた声で』問うてきた。 『お前は何者だ。何故お前も人間に味方するのだ』 「ッ!」 一瞬動きが固まったゼロだったが、気を取り直して、背にしているコスモ・ノアを一瞥 しながら答える。 『あれは地球人たちの夢の砦だ。そいつを壊していい道理がある訳ねぇ』 と告げると、ジャスティスはやや感情を乱したように言い放った。 『夢だと……お前もそんな曖昧なものを、宇宙正義よりも優先するというのかッ!』 ジャスティスがゼロへ駆けてきて殴り掛かってくるが、ゼロはその拳を俊敏にさばく。 『夢を奪うことが、正義なものかよッ!』 言い返しながら肩をぶつけてジャスティスの体勢を崩し、掌底を入れて突き飛ばした。 それでもジャスティスはゼロとの距離を詰めて打撃を振るってくる。 『奪う? 地球人こそがいずれ、略奪者となるのだ! それを未然に阻止することこそが正義だッ!』 荒々しい語気とともに放たれるパンチ、キックの連打。しかしゼロはそれら全てを受け流した。 『どんな事情があるか知らねぇが、まるで説得力がねぇな!』 『何!?』 『お前の拳がどうして俺に当たらないか分かるか? 感情的になりすぎてがむしゃらだからだ! 技はそのままお前の心の状態を表してるぜ』 ゼロの指摘を受け、心に刺さるものがあったかジャスティスが一瞬たじろいだ。 『何かの後ろめたさを強引に振り切ろうって感じの拳だ。そんな半端な拳は、俺には通用しねぇ。 コスモスだって、その気だったら今のお前なんか敵じゃなかっただろうぜ』 『……知った風な口を……!』 ゼロの言葉に何を感じたか、怒りを見せたジャスティスが光線を繰り出そうと構え、ゼロも 身構える。 だが二人の争いに、ムサシの叫び声が割り込んだ。 『やめてくれ! ウルトラマン同士で争い続けて、何になるんだ!? 話せば分かり合えるはずだッ!』 『……!』 それにより、ジャスティスは構えた腕を下ろした。ゼロもまた、これ以上戦おうとはせずに 構えを解く。 そしてジャスティスとゼロが同時に変身を解除し、光に包まれて縮んでいった。少し遅れて コスモスも、ムサシの身体に変わっていく。 「うッ……!」 「コスモス! 大丈夫ですか!?」 ジャスティスからもらったダメージが響いて倒れているムサシの元に才人が駆け寄ってきて、 彼に手を貸して助け起こした。 「君は……さっきのウルトラマンか……」 才人に肩を貸されたムサシが問いかけた。 「君は何者なんだ……? あの赤い姿からは、コスモスの光が感じられた……。どうして君が コスモスの光を持っている?」 「……」 才人は無言のまま答えなかった。ストロングコロナはダイナとコスモスから分け与えられた 光によって生まれた形態だが、この世界のコスモスにはあずかり知らぬこと。だがそれをどう 説明したらよいものか。 才人が黙っていたら、フブキが二人の元へと駆けつけてきた。 「ムサシ! 大丈夫だったか!?」 「フブキさん……」 「……そこの子供が、三人目のウルトラマンか……」 フブキは見ず知らずの才人を一瞬警戒したが、すぐにそれを解く。 「何者かは知らないが、ムサシとコスモスを助けてくれてありがとう」 「いえ……」 フブキが話していると……四人目の人物がコツコツと足音を響かせて現れた。 「コスモス、そしてもう一人のウルトラマンよ。お前たちがどうあがいたところで、デラシオンの 決定は覆らない」 「!」 振り返った才人の顔が、苦渋に歪んだ。 新たに現れた人物……状況的に、ジャスティスの変身者は……ルイズの姿形となっているのだ。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔