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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第七話 ハルケギニア大陥没! (後編) 暗黒星人 シャプレー星人 核怪獣 ギラドラス 登場! エレオノールのキャンプで、一行はささやかなもてなしを受けていた。 「まさか、こんなところまで私のためなんかに来てくれるとは思わなかったわ。さあさ、なんにもないところだけどくつろいでちょうだい」 「あ、はいどうもです」 才人やギーシュがなかば唖然とした顔をして、まだ熱い紅茶を音を立ててすする。ほこりっぽい空気の中に芳醇な香りが流れ、 一行が、出された茶菓子に口をつけると、甘く気品のある味が口内に広がった。 それは、まるで昼下がりの貴族の休日のような優雅な雰囲気……だが、一行は誰一人としてそれを楽しむでもなく、拍子抜けしたように テントを囲んでいた。 いや、実際かなり拍子抜けしていた。まるごと地面の底に沈んでしまった火竜山脈に登ったという、エレオノールらしき女性の安否を 確かめるためにやってきたのだが、実際ほとんど岩石砂漠になってしまったここにいたのでは、いくら彼女が優秀なメイジでも無事で いるのは難しかろうとある程度覚悟をしていた。 それなのに、いざ苦労して見つけ出してみると、エレオノールはまったくの無傷であった。しかも、機嫌がいいのか妙に態度が優しくて、 いつもの男勝りで厳しい姿を見慣れていたギーシュたちは、小声でヒソヒソと話し合っていた。 「おい、ミス・エレオノールどうしたんだ? やっぱり岩で頭でも打ったのかね」 「うーん、学院に最初にやってきたときはあんなもんだったが、結局素を隠せなかったしなあ。もしかして、ついに婚約が決まったとか」 「いや、百歩譲ってもソレはないと思うが」 失礼を通り越して叩き殺されても文句を言えないようなことをギーシュたちはささやきあっていたが、ある意味では無理からぬ話である。 エレオノールの猫かむり、というか貴族が対外的に態度を使い分けるのは当然のことだとしても、なぜそれを今さら自分たちに見せる 必要があるのだろうか? エレオノールと仲がいいルクシャナなどは露骨に不快な顔をしている。からかっているのか? しかし怖くて 誰も言い出せなかったところで、妹のルイズが思い切って言い出した。 「お姉さま、もてなしはこれくらいでいいですから教えてくださいませんか? なぜこんなところにいらしていたんですか? お姉さまほどの 人物が、単なる地質調査のためなんかに派遣されるわけがないでしょう」 皆は心中でルイズに礼を言った。この異様な空気から逃れられるのはなによりありがたい。 エレオノールは、紅茶のカップを置くとおもむろに話し始めた。 「みんな、ここ最近ハルケギニアの各地で起こっている異変を知っているかしら?」 「異変、ですか? まさか、ここ以外でも!」 「そうよ。今、ここだけじゃなくトリステインを含むあちこちで異常な地震や陥没が頻発しているの。最初は辺境の山岳地帯や、 無人の森林地帯が一夜にして消えてなくなって、鈍い領主はそれでも気に止めてなかったんだけど、とうとう村や城まで沈み始めて 慌ててアカデミーに調査依頼が来たというわけなの」 そうだったのか……一行は、知らないところですでにそんな大事件が起こっていたのかと、のんきに旅行気分で東方号に乗ってる 場合じゃなかったと思った。思い出してみれば、東方号がトリステインを出発する時にエレオノールがいなかったのは、このためであったのか。 つまり、火竜山脈にやってきたのも偶然ではないのかと尋ねると、エレオノールは首を縦に振った。 「無闇に発表するとパニックが起こるから王政府の意思で伏せられているけど、今、魔法アカデミーの総力をあげて原因究明が おこなわれているわ。国外にも多くの学者やメイジが派遣されて、私は火竜山脈担当だったというわけ。まさか、調査中に自分が 被害に会うとは思わなかったけどね」 「それは、大変でございましたね。それで、山が沈む原因は解明できたのですか?」 核心への質問がおこなわれると、エレオノールは一呼吸をおいて指で足元を指して言った。 「ええ、一応の仮説は立てていたけど、ここに来て確信が持てたわ。原因は、地下深くに埋蔵されている風石が一気に消失 したことによる地盤沈下よ」 「風石ですって!? ですが、火竜山脈にはそれほど規模の大きい風石鉱山はないのが常識ではなかったですか?」 「人間が通常に採掘できる鉱脈はごく浅いところだけよ。知られていないけど、さらに地下数百メイル下には膨大な量の鉱脈が 眠っているわ。それこそ、ハルケギニアの地面を埋め尽くすくらいにね」 まさか……と、ルイズは足元を見た。そんなこと、どんな授業でも習わなかったが、それが本当だとすれば、自分たちの住んでいる ハルケギニアは巨大な風石の海の上に浮いている浮き島のようなものだということになる。地下水の汲み上げすぎでも、時には 地上が歪むほどの地盤沈下をもたらすことがあるんだから、それほどの鉱脈が消失したとしたら。 「つまり、地下の風石がなくなったから、上の岩盤も支えを失って……」 「そう、まずは重量のある山岳地帯が陥没を始めたという事よ。 一行は呆然として、ふだんなにげなく踏みしめている地面を見つめた。よく見ると、石や砂に混ざって風石の欠片がキラキラと 光っている。それこそ説明されるまでもなく、この山脈の地底にあった大量の風石の残骸に違いなかった。 そして恐ろしい真相は、さらに恐ろしい未来図を連想させた。 「ちょ! その風石の鉱脈はハルケギニア全体に広がっていると言いましたよね。じゃ、いずれは」 「ええ、遠くない将来に……ハルケギニアは丸ごと陥没して、地の底に沈んでしまうでしょうね」 音のない激震が全員の中を駆け巡った。ハルケギニアが沈む? そんなバカなと否定したいが、今日自分たちがその目で 見てきた事実がそれを動かしようもなく肯定していた。火竜山脈が平地と化してしまうような変動が人里を襲ったとしたら、 そこにあるのはもはや災害というレベルではすまされない。 ハルケギニアが沈む。つまり、自分たちの故郷トリステインにあるトリスタニアの街並みも、魔法学院やひとりひとりの家々も 何もかも残さず大地に飲み込まれて消滅する。むろん、ガリアやゲルマニアも同じように壊滅し、アルビオンを除いてハルケギニアは 人の存在した痕跡すらない岩石ばかりの荒野と化してしまうのだ。 ルイズはここにティファニアを連れてこないでよかったと思った。こんなとんでもない話を聞かせたら、あの子なら卒倒していたかも しれない。というよりも、こんな事実が公になったらハルケギニアは破滅的なパニックに包まれてしまうに違いない。 だが、なぜその風石の鉱脈が消失したかと尋ねると、エレオノールは「それは私にもまだわからないのよ」と、言葉を濁した。 けれども、才人はここで事件のピースが組みあがっていくのを感じた。 「そうか、町の子供たちが見かけたギラ、いや怪獣は地下の風石鉱脈を食べていたんだ」 「なんですって! 今、なんと言ったの」 才人はエレオノールに、怪獣が地下に潜るのが目撃されていたことを伝えた。すると、エレオノールは明らかに動揺した 様子を見せて言った。 「そ、そう、怪獣を見た人がねえ。でも、子供が見た事だっていうし、見間違いじゃないの?」 「何人もが目撃してますし、その後に恐ろしい叫び声を聞いたという話もありました。なにより、こんなとんでもない事件を 引き起こせるのは怪獣でもなければ無理だと思います」 才人はぴしゃりと言ってのけた。ほかの面々も、これまでに何度も怪獣の起こす怪事件と向き合ってきただけに、才人の 言うことが妥当だろうとうなづいている。 「そ、そう……」 なのに、同等の経験を持つはずのエレオノールだけが納得していない様子で、才人ら一部はどことなく違和感を感じた。 アカデミーでデスクワークをしているうちに勘が鈍ったのか? いや、男性がついていけないくらいに何事にも積極的な エレオノールに限ってそれはない。ならば、なにが……? どことなく居心地の悪い沈黙が場を包んだ。喉に魚の骨が刺さったままのような、吐き出したいけどできない不快な感触。 しかしルイズはそんな悪い空気を吹き払うように陽気な様子で言った。 「もうみんな、なにをそんなに疑った顔をしてるの? エレオノール姉さまはトリステイン一高名な学者でわたしの自慢の 姉さまなのよ。変な目で見たりしたら、このわたしが許さないんだから」 「お、おいルイズ?」 これには才人たち、ほとんどの者が面食らった。エレオノールもだが、ルイズも変になったのか? が、ルイズが凄い目で 睨んでくるため言い出すことができないでいると、エレオノールがルイズに話しかけた。 「まあルイズ、あなたはなんて素晴らしい妹なのかしら。私はあなたを誇りに思うわ!」 「妹が姉の誇りを守るのは当然のことですわ。それよりも、わたしたちもお手伝いいたします。これだけの人数がいるのですわ、 お姉さまの下で手分けして捜せば、たとえ相手が地の底に潜んでいても兆候は見つけられるでしょう。相手も、いずれは 地上に出てこなければいけなくなるでしょうから、正体を見極めて通報すれば軍が討伐隊を出してくれますわ」 「そ、そうね。さすがは私の妹だわ。そうしましょう」 「はい、お姉さま。あら、しゃべったら喉が渇いてしまいました。すみませんが、お茶をもう一杯いただけませんか?」 「ええ、もちろんいいわよ」 エレオノールがティーポッドを持ち、ルイズのカップに紅茶を注いだ。湯気があがり、カップに口をつけたルイズの顔が 白く隠れる。その湯気の影から、薄く開いたとび色の瞳が才人に向けられて、彼ははっとした。 そうか、なるほどルイズそういうことか。ついていけずに呆然としている一行の中で唯一才人だけがなにかを理解した目で、 それを悟られないように伏せていた。他の者は、多かれ少なかれ何かを腹の内に持っていても、はばかってそれを口にすることを ためらって、じっとルイズたちの動向を見守っていた。 結果、一行は数人ずつに分かれて火竜山脈跡を探索することになった。 「よし、各員散って周辺の探索に当たれ。ただし、三時間後に何もなくてもここに戻っていろ。暗くなる前に山を下りないと危ない」 「なにかを見つけた場合の合図はどうしますか?」 「信号用の煙玉を各自持ってるだろう? 扱いは火をつけるだけの簡単な奴だからこれを使えばいい。では、全員散れ!」 ミシェルの号令で、一行はそれぞれバラバラの方向へとクモの子を散らすように飛び出していった。 編成は、基本は銃士隊と水精霊騎士隊がひとりずつ組んで、どの組にも必ずメイジが一人はいるようになっていた。ただし、 才人とルイズは例外で、エレオノールと組んで三人で探索に出ることになった。 散り散りになって岩の荒野の底に潜む怪獣を求めていく戦士たち。先日の金属生命体のときと違い、仲間も武器もない 追い詰められた状態ながらも、自分たちの故郷がこの荒野と同じになるかという瀬戸際なのだ。手段が限られていても 気合の入りようが違う。 「くっそお、人の足の下でこそこそしてるシロアリ野郎め。頭を出したらぶっ叩いてやる」 ハルケギニアの屋台骨をこれ以上食い荒らされてはたまったものではない。しかし、相手がそれほど深い地底を自由に 動けるというのなら先住魔法でも探知はまず不可能で、砂漠で蟻の巣を探すような無謀な行為でしかないと誰もが思うだろう。 しかも、彼らにはそれとは別に心の内に引っかかっていることがあった。 ”まさか、まさかだが、あの人はひょっとしたら……? 万一そうだとしたら、自分たちはとんでもないミスを犯したのではないだろうか” 誰もが胸の奥から鳴り響いてくる警鐘に、多かれ少なかれ悩まされていた。しかし、思ってはいても口に出せない事柄というものは 存在する。裸の王様がいい例ではあるが、言い出しそこねたという後悔の念は時間が過ぎていくにつれて強くなっていった。 火竜山脈跡は平坦になったとはいえ、家ほどもある岩石がゴロゴロしていて、少し離れると別の組の姿はすぐに見えなくなった。 岩の間には風が流れて反響しあい、声を出しても遠くに響く前にかき消されてしまう。これでは、もしなにか起きたとしても誰にも 気づかれないのではないだろうか? 本能的にそんな不安が胸中をよぎり、ミシェルと同行していたルクシャナがぽつりと言った。 「ねえ、あなた。わたしたち、こんなことしてていいのかしらね?」 「どういう意味だ?」 「とぼけないでよ。あなただって当に感ずいてるんでしょう? わたしだって、言えるものならさっき言い出したかったんだけど、 確証もなしにそんなことを言ったら不和と疑心暗鬼を招くことくらいわたしだって承知してるわ。なにより、言い出して外れてたとき、 大恥をかくのはわたしなのよ!」 一気にまくしたてたルクシャナの顔には、不満といらだちが満ち溢れていた。学者の彼女にとって、言いたいことを飲み込まなくては ならない我慢がどれだけ耐え難いものかは、短からず彼女と付き合ってきたミシェルには十分理解できた。 「気持ちはわかる。わたしとて、途中から少なからぬ疑惑を抱いてはいた。しかし、確たる証拠もなしに友人を侮辱するような 真似はできない。あるいは、それを計算していたとしたら相当悪質ではあるな」 「わかってる割には落ち着いてるじゃない。もしかしたら、袋のネズミにされてるのはこっちかもしれないのよ? よくまあ 平然とした顔でいられるわね。ほんとにわかってるの? 今、一番危ないのは、あんたの惚れた男なのよ」 「恥ずかしいことを大声で言うな。わかっているさ、そしてわたしやお前にわかっていることなら、大方あのふたりもとっくに わかっているはずだ。必ずやってくれるさ、あいつらならな」 ミシェルはそれで話を打ち切った。ルクシャナは呆れた顔で、「あんなとぼけた顔のぼうやのどこがいいのかしらねえ? まあアリィーもそんなに差があるわけじゃないかな」と、あきらめたようにつぶやいていた。 彼女たちの胸中を悩ます不安要素。それは放置すれば、ガン細胞のように取り返しのつかないことになるのは わかっていたが、誰にも手術に踏み切る物的証拠がなかった。 ただし、一方でそうは思っていない者たちもいた。エレオノールに着いていった、才人とルイズのふたりがそれである。 三人は、ほかの一行と分かれた後で、特に当てもなく前へ進んでいた。ギラドラスがどこに出現するかは予知できないので、 エレオノールの土メイジとしての直感と、目と耳だけが頼りのあてずっぽうである。と、表向きはなっていた。 歩くこと数十分、もう他の組とは大きく距離を離れ、なにかがあったとしても他の組が駆けつけてくるには十分以上は かかってしまうであろう。そこを、エレオノールを先頭に三人は歩いていたが、ふいにルイズが話し掛けた。 「ねえ、エレオノールおねえさま、どうしてさっきから黙ってらっしゃるんですか? いつもなら、貴族としてのありさまがどうとか、 歩きながらでもお説教なさるくせに」 「そ、それは、あなたも立ち振る舞いが優雅になってきたから必要ないと思ったからよ。う、うん! 立派になったわね」 明らかに動揺していた。ルイズは、口だけは「ありがとうございます。お姉さまにお褒めいただけるなんてうれしいですわ」 などと陽気に言っているが、目だけはまったく笑っていなかった。 「ところで、この間のお手紙に書いてあった、新しいご婚約者の方とはうまくいってますの?」 「え、ええ! それはもちろんよ。待っててね、結婚式には必ず招待するからね」 にこやかにエレオノールは言い、ルイズと才人は笑い返した。 しかしこの瞬間、ふたりは最後の決意を固めていた。エレオノールの視線が外れると、ふたりは目配せしあって懐に手を入れた。 やがて、もうしばらく進むと、ひときわ大きな岩が壁のように聳え立っている場所に出た。 「これはまた、でかい岩だな」 高さはざっと十メートルほど、それが垂直にそびえ立っていて、少しくらい運動ができる程度で乗り越えられるものではなかった。 魔法が使えれば楽に飛び越えられるが、虚無一辺倒でコモンマジックも十全に扱えないルイズにはフライも使えないし、 テレポートをこんなことのために乱用するのはもったいなさすぎた。 すると、エレオノールが岩の上にひらりと飛び乗った。 「あなたたちは飛べないのよね。さあ、引っ張り上げてあげるからロープを掴みなさい」 岩の上から下ろされたロープが才人とルイズの前でゆらゆらと揺れる。その頂上ではエレオノールがにこやかな顔をしながら 二人がロープを掴むのを待っていた。 しかし、ふたりはどちらもロープに手を伸ばすことはせずにエレオノールを見上げると、ルイズは強い口調で言い放った。 「そして、引き上げかけたところでロープを離せば、まずは邪魔者ふたりを始末できるというわけかしら? ニセモノさん!」 「なっ、なに!」 エレオノールの顔が驚愕に歪んだ。そしてふたりは追い討ちをかけるように言い放つ。 「バーカ、とっくの昔にバレてるんだよ。まんまと騙せてると思って、演技してるお前の姿はお笑いだったぜ!」 「エレオノールおねえさまに婚約者なんてできるわけないのよ。ボロが出るのを恐れて話を合わせたのが運のつきだったわね」 「おっ、おのれえっ。騙したなあっ!」 逆上した顔だけは本物にそっくりだなとルイズは笑った。が、猿芝居に付き合ってやるのもここまでだ。 「さあ、とっとと正体を現したらどう? 地下の怪獣を操ってるのもあんたなんでしょう!」 「人間の分際で、バカにしやがって! いいだろう。こんな窮屈な姿はこれまでだ!」 そう吐き捨てると、エレオノールのニセモノは懐から銀色をした金属製のプレートのようなものを取り出して左胸に当てた。 瞬間、白煙が足元から吹き上がって姿を隠す。そして煙の中から全身が金と銀色の怪人が現れた。 「俺様は、暗黒星雲の使者、シャプレー星人だ!」 ついに本性を表したニセエレオノール。その正体は、本物とは似ても似つかない銀のマスクののっぺらぼうであった。 暗黒星人シャプレー星人。その記録は才人の知るドキュメントUGにもあり、当時は地質学者の助手に化けて暗躍し、 地球のウルトニウムを強奪しようとしていた、宇宙の姑息なこそ泥だ。 「やっぱりお前だったかシャプレー星人! ハルケギニア中の風石を奪ってどうするつもりだ!」 才人が怒鳴ると、シャプレー星人は肩を揺らしながら答えた。 「フハハハハ! 貴様ら人間どもはそんなこともわからんのか。貴様らが風石と呼ぶ、この鉱石は宇宙でも極めて珍しいくらいに、 反重力エネルギーを大量に蓄積した代物だ。人間どもはおろかにも、これほどの資源を風船のようにしか使えておらんが、 効率よく加工精錬すれば強大なエネルギー資源になりうるのだ。それこそ、兵器利用のために欲しがる宇宙人はいくらでもいるわ!」 「風石を、侵略兵器に悪用しようっていうのか。ゆるさねぇ! それもヤプールの差し金か?」 「フン! ヤプールはいまごろボロボロになった自分の戦力のことで手一杯だろうよ。俺は最初から、あんなやつの下っ端で 働くなんてまっぴらだったんだ。風石をいただくだけいただいて残りカスになったら、こーんな最低な星にはなんの未練もないわ」 なるほど、つまりヤプールの支配力が衰えた隙を狙って動き出した雇われ星人ということかと才人は察した。ヤプールは、 独自の配下として複数の宇宙人を従えているが、それだけでは限りがあるので、直接的に隷属させてはいないがかなりの 宇宙人に声をかけ、誘惑して利用しているのは前からわかっていた。 しかし、いったんヤプールの支配が弱まってしまえば、無法者たちは一気に好き勝手に暴れだす。 「どうりで、前に地球に現れた奴に比べたら頭が悪いと思ったぜ」 「なに!? そうか、お前がヤプールの言っていた地球から来た小僧か。これはちょうどいい、一番の邪魔者がのこのこ自分から やってきてくれるとはな。まずはお前から血祭りにあげてやる」 開き直ったかと才人は思った。やはり同族の宇宙人といえども、性格はメフィラス星人の例にもあるとおり差はあるようだ。 地球に現れた個体は計算高く、偶然が味方してくれなければ正体を突き止めることすら難しかったくらい周到に暗躍していたが、 こいつはヤプールの口車に乗るだけあって浅慮で詰めの甘いところが目立った。 こんなやつがエレオノールお姉さまに化けてたなんて。決して仲がいいとは言える姉ではなくとも、ルイズも忌々しそうに言った。 「ハイエナのくせに偉そうにしてくれるじゃない。よくもエレオノールお姉さまの顔を騙ってくれたわね。本物のお姉さまはどうしたの?」 「別にどうもしないさ。トリステインで、学者どもが飛び回っているといったろう? あれは嘘でもなんでもない。当然、本物も 毎日のようにあちらこちらを飛び回ってどこにいるかわからん。つまり、同じ人間がふたりいても、まず気づかれはしないということさ」 「お姉さまの多忙さを利用したってわけね。確かに、それなら本物が忙しく飛び回ってくれてたほうがニセモノも大手を振って 歩き回れるわけ。なるほど、本物のエレオノールお姉さまが聞いたら激怒するでしょうけど、そうやって人々の目を欺きながら 自由に怪獣を操っていたのね。ハルケギニアから盗み出した風石は返してもらうわよ!」 するとシャプレー星人は愉快そうに笑った。 「ハハハ! 残念だったなあ。すでに地下の風石の半分以上はこの星の外に運び出しているのだ。いまごろ気づいたところで 取り返せやしないんだよ。ざまあみろ!」 「なんですって! それじゃあ、ハルケギニアの地殻は!」 「今のところはかろうじて安定しているが、それも時間の問題だな。あと少し採掘すれば、地殻は一気に崩壊し、少なくとも 大陸全土がこの山のように沈んでしまうのは間違いないなあ」 才人とルイズは戦慄した。ハルケギニアが根こそぎ地の底へと沈んでしまう? 絶対に、これ以上の採掘は阻止しなくてはならない。 ルイズは杖をシャプレー星人に向けて言い放った。 「エレオノールお姉さまを侮辱してくれた報いは妹の私がくれてやるわ。悪いけど、優しくしてもらえると思わないでね」 「チィ、まさか妹がやってくるとは想定外だったぜ。しかし、俺の変身は完璧だったはず、どこで気づいた?」 「ふっ、確かに姿だけは完璧だったわ。でもね、あんたは内面のリサーチが足りてないのよ。おしとやかなエレオノール お姉さまなんて菜食主義のドラゴンみたいなものよ。そして、あんたは決定的なミスを犯したわ。それは……」 そこでルイズは一呼吸起き、思いっきり胸をそらして得意げに言った。 「本物のエレオノールお姉さまはねぇ、絶対わたしにお茶なんか出してくれないのよ! あっはっはっはっは! ん? サイト、 なんでコケてんのよ?」 「虐待されとることを自慢すな、アホッ!」 まさにあの姉にしてこの妹ありだった。神経の太さは並ではないと、才人はずっコケながらほとほと思うのである。 よりにもよってエレオノールに化けたのが本当に運のつき、この規格外れの姉妹にそう簡単に入り込めるはずがない。 シャプレー星人は唖然とし、次いで激怒して叫んだ。 「貴様ふざけやがって! 覚悟しろ!」 「覚悟するのはあんたのほうよ! あんたを倒して大陥没を止める」 「ここで死ぬ貴様らには無理だ!」 シャプレー星人は光線銃を取り出して、才人たちも迎え撃つべく武器をとる。 交差するシャプレーガンとガッツブラスターの光弾。しかし双方とも発射と同時にその場を飛びのき、外れた弾が岩に 当たって火花を散らした。 「外れた!?」 「避けおったか、しゃらくさい!」 どちらも銃撃を連射するが、十メートルもある岩盤の上と下なので当たりずらい。だが、ならば互角かといえば、才人の ほうはエネルギーの関係で実弾練習がほとんどできなかっただけ分が悪い。 しかも、シャプレー星人は光線銃だけでなく、草食昆虫のような口を開いて、そこからも光弾を放ってきたのだ。 「ちくしょう! 手数が違いすぎる」 雨あられと降り注ぐ光弾に、才人は避けるだけで精一杯だった。シャプレー星人はさらに調子に乗り、池のカエルに 石を投げるように銃撃を加えた。 「ウワッハッハッハ、逃げろ逃げろ、虫けらめ! ヌ? ヌワァッ!」 突如、爆発が起こってシャプレー星人を吹き飛ばした。半身を焦がした星人の目に映ったのは、杖の先をまっすぐに 向けて睨みつけてくるルイズだった。 「サイトにばかり気をとられてるからよ。まだエクスプロージョンを撃てるほど回復してないけど、あんたに町や村を 壊された人たちの痛みを少しは知りなさい」 不完全版エクスプロージョンの威力は必殺とはいかなかったが、不意をつくには十分だった。なにせ、なにもない ところが突然爆発するのだから回避は大変難しい。シャプレー星人は、この星のメイジが使う魔法は系統はどうあれ、 おおむね飛んでくるものとばかり思い込んでいたから、銃を持っている才人を先に狙ってルイズを後回しにと判断したのが 見事に裏目に出た。 才人も体勢を立て直して、ガッツブラスターからエネルギー切れのパックを取り出して新品を装填した。 「ナイスだぜルイズ! よーし、あいつの弱点は目だ。目を狙え」 「目ってどこよ!?」 とのやり取りがありながらも、星人の鎧を着込んでいるような体はよく打撃に耐えた。しかし、体は耐えられても ダメージを受けたシャプレー星人は逃げられない。 「お、おのれぇ。ならば、また貴様の姉の姿になってやる。これで攻撃できまい」 「あんたバカぁ? むしろ日ごろの恨み!」 ニセモノだとわかっているから、遠慮会釈のない爆裂の嵐が吹き荒れる。そのときのルイズの気持ちよさそうな顔ときたら、 いったいどれだけ恨みつらみが重なってるんだよと才人が心配するほどであった。 変身を維持できなくなってボロボロのシャプレー星人に、才人は介錯とばかりに銃口を向けた。 「これでとどめだ!」 「まっ、待て。お前の、影を見……」 「その手品は種が割れてんだよ! くたばりやがれ!」 悪あがきも通じず、銃撃と爆発が同時に叩き込まれた。その複合攻撃の威力には、さしものシャプレー星人の頑丈な体も 耐えられず、星人は炎上しながら岸壁を墜落していった。 「くっそぉぉーっ! 俺がこんなやつらに。ギラドラース! 俺の恨みぉぉぉ!」 地面にぶつかり、シャプレー星人は四散した。 だが、星人の断末魔と共に大地が激震し、地底から凶暴な叫び声が響いてくる。 「出てきやがるぞ。あとは、こいつさえ倒せばハルケギニアは沈まずに助かる! ルイズ」 「ええ、仕上げにいきましょう」 「ウルトラ・ターッチ!!」 岩の嵐を吹き飛ばし、ウルトラマンAが大地に降り立った。 続いて、猛烈な地震を伴いながら、赤く輝く角を振りかざして核怪獣ギラドラスが地底から現れた。 来たな! エースは前方百メートルほどに出現したギラドラスへ向かって構えをとった。四足獣型の体格でありながら 前足のない独特のスタイル。黒色のヤスリのようなザラザラした肌、背中にも明滅する赤い結晶体。間違いなく奴だ。 睨みあうエースとギラドラス。両者の巨体とギラドラスの叫び声が、遠方にいる仲間たちも呼んだ。 「ウルトラマンだ! 怪獣と戦ってるぞ」 「あっちはサイトたちが行った方向じゃないか。よし、助けにいこう」 全員がいっせいに同じ方向へと急いだ。全部のペアにメイジが含まれているので、フライの魔法を使って飛ぶ速さは 岩だらけの中を走るより断然速い。 しかし、彼らが才人たちのもとへ急ごうと飛び立って間もなく、ギラドラスが空に向かって大きく吼えた。次いで角と 背中の結晶体が強く発光すると、突如として暴風が吹き荒れて、降るはずのない雪が猛烈な吹雪となって荒れ狂いはじめた。 「うわあっ! なんだ急に天気が!」 「吹き飛ばされる! みんな、下りて岩陰に避難するんだ」 ブリザードが周囲を覆い、エースとギラドラス以外は身動きがとれない状況になってしまった。 この異常気象、もちろん自然のものではない。才人はすでに、ギラドラスの仕業に気づいていた。 〔あいつは天候を自由に操る能力があるんだ。くそ、あんなのをほっておいたら沈まなくてもハルケギニアはめちゃめちゃに されてしまうぞ!〕 聞きしに勝る強烈さ、ギラドラスは地底に潜れば地震に陥没、地上に出てくれば大嵐を引き起こす、災害の塊のような 奴なのだ。こんなぶっそうな怪獣をほっておいたら、寒波、豪雪、干ばつ、台風、人間の住める世界ではなくなる。なんとしても、 こいつはここで倒さなくてはいけない。 「シュワッ!」 吹雪の中で、エースはギラドラスに挑みかかっていく。キックがギラドラスのあごを打ち、噛み付いてきたところをかわして 脳天にチョップからの連続攻撃を当てていく。 〔こないだのときと違って、体力はいっぱいよ。ぜったい負けやしないんだから〕 〔だけど、この寒さじゃ長くはもたないぞ。それに、下のみんなが凍死しちまう!〕 〔ええ、不利になる前に一気に決めたほうがよさそうね〕 ウルトラ戦士は強靭な肉体を持つが寒さには弱い。猛吹雪の中、太陽光もさえぎられたここは最悪のフィールドだといえる。 過去、エースも雪男超獣フブギララや雪だるま超獣スノギランとの戦いでは寒さに苦しめられている。いくらエネルギー満タンの 状態でも、長期戦には耐えられないのはエースも当然承知していた。 〔悪いが、一気に勝負を決めさせてもらうぞ!〕 苦い経験を何回も繰り返すつもりはない。エースはギラドラスの背中に馬乗りになり、パンチを連打してダメージを蓄積させていった。 が、ギラドラスも黙ってやられるつもりはむろんない。太く長い尻尾を振るってエースを振り落とし、雄たけびをあげて頭から 体当たりを仕掛けてきた。 「ヘヤアッ!」 エースはギラドラスの突進に対して、とっさに敵の頭の角を掴むと、突進の勢いをそのまま利用して投げを打った。 巨体が一瞬浮き上がり、次の瞬間ギラドラスは背中から雪をかむった岩の中に叩きつけられる。 〔どうだっ!〕 こいつは効いたはずだ。才人も混じって受けた水精霊騎士隊の格闘訓練での、銃士隊員のひとりから投げ技を 受けたときには、呼吸ができなくなって本当に死ぬかと思った。ルイズも昔、いたずらしたおしおきでカリーヌに竜巻で空に 舞い上げられて落とされた痛みが、寒気といっしょに蘇ってきた。 案の定、ギラドラスは大きなダメージを受けてもだえている。しかし、なおも角を光らせて天候を荒れ狂わせて攻めてきた。 吹雪がさらに強烈になり、エースの体が霜に染まって凍りつき始めた。 〔ぐううっ! なんて寒さだ〕 すでに気温は氷点下数十度と下がっているだろう。それに加えて台風並の強風が、あらゆるものから熱を奪っていく。 エースはまだ耐えられる。しかし、ろくな防寒装備もない下の人間たちはとても耐えられない。 「ギ、ギーシュ、ま、まぶたが凍って開か、な……」 「レイナール! 目を開けろ。寝たら死ぬぞぉ!」 「ミ、ミス・ルクシャナ、もっと風を防げないのか?」 「無茶言わないでよ副長さん! わたしたちだって必死にやってるのよ。今、この大気の防壁の外に出たら、あっという間に 氷の彫像になっちゃうわよ」 もうほとんどの者が手足の感覚がなかった。あと数分もすれば凍傷が始まって、やがては低体温症で死にいたる。 もはや、一刻の猶予もない! エースは自身も白く染まっていく身に残った力を振り絞り、ギラドラスへ最後の攻撃を仕掛けていった。 「ヌオオオオォォォォッ!!」 体当たりと噛み付きを仕掛けてくるギラドラスの攻撃をいなし、首元に一撃を加えて動きを止める。 〔いまだ!〕 チャンスはこの一瞬! エースはギラドラスの腹の下から巨体を持ち上げる。高々と頭上に掲げ、全力で空へと投げ捨てた。 「テヤァァァッ!」 放り投げられ、空高く昇っていくギラドラス。エースはありったけのエネルギーを光に変えて、L字に組んだ腕から解き放った。 『メタリウム光線!』 光芒が直撃し、膨大な熱量はギラドラスの肉体そのものをも蒸発させ、瞬時に千の破片へと爆砕させた。 閃光と、それに続いて真っ赤な炎が天を焦がす。爆音にギラドラスの断末魔が混じっていたか、それもわからないほどの 衝撃波が大地をなでて積雪を吹き飛ばしていくと、次の瞬間、空一面を青い幻想的な輝きが覆った。 「おおっ」 「すごい、きれい……」 空一面に、星のように小さな無数の光が舞っていた。皆は、寒さに凍えていたことも忘れてその光景に心を奪われた。 青と銀色のコントラストはどこまでも美しく透き通っていて、まるでオーロラを砕いて散りばめたようである。 いったい、この空を覆う星雲のような輝きはなんなのか? エースにもわからないが、邪悪な気は感じないので見つめていると、 ルクシャナがはっとしたように叫んだ。 「これ、風石だわ! 風石のかけらなのよ!」 そう、ギラドラスが体内に蓄えていた大量の風石が、爆発のショックで細かな破片となって飛散したのが、この光景の正体だった。 風石は精霊の力が形となったといわれているだけあって、いつまでも舞い降りてくることなく空にあり続け、やがて自然界の 秩序を守る精霊の意思を受け継いでいるかのように次なる奇跡を起こした。ギラドラスの巻き起こした嵐の雲に、風石の破片雲が 接触すると、まるで悪の力を相殺するかのように黒雲を消し去ってしまったのである。 「おお! 嵐がやんでいくぜ」 「あったかくなってきたわ。これで凍死しないですむわよ。やったあ!」 天候が急速に回復していき、皆から喜びの声があふれた。いまだ空は虫の群れに覆われており、本物の空は見えないが 一応の平穏が戻った。 風石の見せてくれた神秘の力。しかしこれも、元を辿ればハルケギニアの自然が長い年月をかけて作り出したものなのだ。 決して宇宙人のいいようにされていいものではない。資源を欲にまかせて掘り返し続けて、大地を枯らせてしまった後には 何も残りはしないのだ。 シャプレー星人の邪悪な陰謀は打ち砕かれた。エースは空へと飛び立ち、風と共に戦いは終結を告げる。 「ショワッチ!」 これで、ハルケギニアの土地がこれ以上沈降することはないはずだ。火竜山脈はもう元には戻らないが、ギリギリ被害を 最小限に抑えられたと思っていいだろう。 才人とルイズは皆と合流すると、事の顛末をまとめて報告した。 「なるほど、やっぱりあのミス・エレオノールはニセモノだったのか。しかし、我々も怪しいとは思ったが、あまりにも怪しすぎて 手を出せなかった。まんまと罠にはめるとは、さすがだなルイズは」 「うふふ、まあねえ」 ほめられて、鼻高々なルイズであった。才人は、まあ少し呆れながらも、今回はルイズの功績が大だったので、文句も 言わずに見守っている。 「まったく、褒められるとすーぐ頭に乗るんだからなあ。けど、今回はルイズを敵に回すと恐ろしいってのがよくわかったよ。 シャプレー星人も化けた相手が悪かったとはいえ、ちょっと同情するぜ」 「聞こえてるわよサイト。でもま、今日は気分がいいから大目にみてあげるわ。でも、ヤプールが眠っていても安心できる わけじゃないってのもわかったわね」 「ああ、これから先もなにが起こるか、油断は禁物だな」 ヤプールの統率を離れて勝手に動く宇宙人もいる。災いの芽は、どこに隠れているかわからない。 そう、地球に勝るとも劣らない美しいこの星は、常に狙われているのだ。 いかなる理由があろうとも、侵略は絶対に許されない。しかし、平和は黙っていても守れるものではない。強い意志で、 痛みに耐えてでも悪と戦いぬいてやっと維持できる危うく儚いものだということを忘れたとき、人々の幸せは簡単に 踏みにじられてしまう。 今回の事件は、そのことを思い出すいい機会だった。なにせ、誰もあって当たり前と思っていた地面をなくそうとしていた 敵まで現れたのだ。侵略者は、人間のありとあらゆる油断をついて攻めてくる。絶対に安全なんてものはないんだということを、 みんながあらためて思い知った。 そして、今この世界は何者かの手によって闇に閉ざされ、滅びの道を歩んでいる。ハルケギニアに住む者として、 この脅威を見過ごすことは断じてできない。 「さあ、これでこの事件は片付いたわ。町に帰りましょう、きっとテファが心配してるわよ」 「おおーっ!」 思わぬ足止めを食ったが、もう大丈夫だ。町の人たちも、早く帰って安心させてあげないといけない。 一行は、意気揚々と町への帰路についた。 が、彼らの心はすでにここにはない。前途をふさいでいた難題が解消した今、行くべき道はひとつしかないのだ。 「今日はゆっくり休んで、明日には国境を越えましょう。幸い、山越えはしないですむみたいだしね」 異変の元凶がある南の地。そこになにが待ち受けているとしても、引き返すという選択肢は誰の心にもない。 目指すロマリアは、もはや目前へと迫っている。 そこで待つ運命の指針は、まだ正義にも悪にも、振れることを決めかねているようであった。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
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前ページ雪と雪風_始祖と神 長門有希という存在は、もはやハルケギニアにない。 意識を取り戻すと、彼女は椅子に座り、アーハンブラ城とよく似た、灰色の空間に一人佇んでいる。 「閉鎖空間……」 そう言葉を漏らすのが早いか、どこからかミョズニトニルン、いや、ただの涼宮ハルヒが現れる。 「おはよう、有希。やっとあなたと、二人で話ができるわね」 「――わたしに何の用?」 「とぼけないで。あたしが話したいことは分かるでしょう?」 言葉の陰に棘を見せるハルヒに対し、長門は淡々と受け答える。 それは彼女なりの決意表明。神と観測者ではなく、一対一の人間として、彼女と勝負する態度であった。 「わたしは、わたしのしたい行動をとっただけ」 「有希は、説明しないとわたしの気持ちが分からなかったのかしら?」 「あなたが彼に恋愛感情を抱いていることは理解している。そのこととわたしの感情は、別問題」 「……あたしの気持ちに気付いていて、それで横取りしようと思ったの?」 「あなたの言葉に従えばそうなる」 「悪いことだって思わなかった?」 「あなたは彼と交際関係にない」 「それはそうだけど――」 「あなたとわたしは対等。ともに、彼に恋慕の情を抱いているだけ」 「対等……?」 「そう」 「でも、わたしは団長で、あなたは団員――」 長門有希の眉がぴくりと動く。 「団長と、団員。その言葉を引き出したかった」 「なによ、いきなり」 「あなたはわたしを団員と定義づけた。つまりそれが、あなたの他人に対する認識。自己を中心に置いている」 「そ、そんなことないわ。ただあたしは、団員の幸せを願って……」 「違わない。そもそも世界の中心に自身を置くのは、有機生命体として当然の行動」 「なにが言いたいの?」 「わたしにも、あなたと同様、わたしの幸せを掴み取る権利がある」 しかし涼宮ハルヒは一笑に付し、話を打ち切りにかかった。 「なにを言い出すかと思えば……。話にならないわ。それなら有希が勝手にやればいいじゃない。 終わりよ、終わり。もっと面白い話ができるかと思ったわ。無駄な夢を見ちゃった」 「――まだ終わらない。あなたがわたしの言葉を不安に思えば思うほど、この空間はいっそう強固になる」 事実、アーハンブラ宮殿を模した閉鎖空間は、いっこうに消えようとはしない。 「あなたは、自分の思い通りにならないのがそんなに嫌?」 「誰しもそうよ」 「……あなたは幸運。世界が希望通りに動いている」 「そのために行動しているわ」 「違う。自分に都合の悪い世界を、勝手に切り捨てているだけ」 「そんなこと……」 「事実」 おそらく涼宮ハルヒ自身、周囲の環境にうっすらと違和感を感じてはいたのであろう。 長門有希の言葉は、深々と彼女の心をえぐる。 「あたしはそんな勝手な人間じゃないわ。だいたい、有希の言うことが本当だとしても、切り捨てて何が悪いの?」 「ならばあなたは、どうして切り捨てるの?」 質問に対して質問で返す、詭弁である。しかし涼宮ハルヒには、そのことに気付く心的余裕もない。 「それは……」 「不安だから」 「不安?」 「自分と関係のないところで世界が回るという不安」 「そりゃあ誰しも感じるでしょうね、そんな感情」 「あなたは感じていない。ただ逃げているだけ」 「――有希、どれだけあたしを馬鹿にしたら気が済むの?」 「その言葉も不安から逃げるためのもの」 「じゃあ、どうすればいいってのよ!?」 「不安を自分の中に抱え込めばいい」 「無理よ」 「皆がやっていること」 「潰されちゃう」 「潰される程度の人間というだけ」 「不安が的中したら?」 「抱え込む」 涼宮ハルヒは黙り込む。 「そう、あなたは声を出すこともできない。わたしの言葉が真実だから」 「それが生きること。感情を持つこと。そして、社会を持つこと」 「社会?」 「二人では社会と呼べない。あなたと、彼と、わたし。社会になった」 「……はっきり言って、あのときの有希の行動は許せない。 そんな感情を抱いて、有希と関わっていけると思う?」 「その感情も抱え込めばいい。それに――」 「それに?」 「あなたは今、自己の正直な感情を吐露した。わたしはあなたが嫌い――、 そんなこと、簡単に言えることではない。もうあなたは団長ではない。わたしは団員ではない。 初めて、対等の関係を持った」 「でもあたしは有希が嫌いなのよ?」 その一言に、長門有希――彼女の中の、人間の長門有希が、涼宮ハルヒに笑いかけた。 「あなたがわたしを憎めるはずがない。――なぜならあなたは、涼宮ハルヒだから」 「トートロジー?」 「違う。涼宮ハルヒは涼宮ハルヒ。あなたを信じる」 「信じる? あたしは有希を信じられないわ」 「構わない。少しづつ信じて」 「甘いわね……。でもいいわ。対等……ね。 対等ならば、あたしは全力で、有希に勝とうとするわよ。それでいいの?」 「構わない。わたしも同じことをするだけ」 「そう。分かった。受けて立とうじゃない。有希、渡さないわ」 + + + + + + 図書館の前には、半年前と同じように、三人が立ち尽くしていた。 涼宮ハルヒは無言で本を拾い集めると、一人立ち去る。 と、振り返り、二人のいる場所へ叫ぶ。 「有希! 今日は貸してあげる! でも、明日からは負けないわよ!」 長門有希は男の手を引き、図書館の中へ入っていく。 「なあ長門、こりゃ流石にまずいんじゃないか?」 「構わない。今日はあたしの勝ち」 + + + あくる日部室で、男が長門に尋ねる。 「――あのときの行動について、俺は何も言わない。 でも、教えてくれ。ハルヒは長門を笑って許したよな? いったいあいつに、何をしたんだ?」 「人は誰しも、心に閉鎖空間のようなものを抱えて生きている。 あたしがやったのは、涼宮ハルヒの創造されては消える閉鎖空間を、安定したものにしただけ」 世界に飛び交うどんな情報の断片を集めても、平賀才人なる日本人の情報にたどり着くことはできなかった。 ならば、ハルケギニアは涼宮ハルヒの生み出した閉鎖空間に過ぎなかったのだろうか。 そうであるとも、そうでないともいえる。 現に長門有希の制服のスカートには、今も主人に貰った杖が差されたままである。 少なくとも現在において、空間は存続している。 あの空間が情報統合思念体によって観測されないであろうか。 そうすれば、ハルケギニアが涼宮ハルヒの想像下ではない、独立した空間であることの証明になる。 主人、いや、友の生きる世界が末永く続き、そして願わくは、彼女に再び会えんことを――。 + + + + + + タバサが幽閉されて一週間。ビダーシャルの調合する薬が完成するのは時間の問題であった。 心残りは、正気を取り戻した母と別々に閉じ込められ、ほとんど会話を交わさぬままに終わったことであった。 いや、もし二人ともに正気を失えば、逆に同じ世界に生きられるかもしれない。 そんな残酷な想像を巡らせていると、窓の外から、 魔法の発する光が飛び込んでくる。タバサは三人の姫と同じように、窓から外を見下ろした。 エルフ、ビダーシャルの先住魔法は、ルイズの虚無の魔法「ディスペル」に敗れ去った。 先陣を切ってタバサの幽閉された部屋に飛び込んできたのは才人である。 「タバサ、無事か!?」 部屋の片隅に座り込むタバサに、月明かりに照らされた才人が手を伸ばす。 タバサが姫ならば、彼は王子。その手を取る以外の選択肢は存在しない。 「わたしは知識の姫にはならない。シャルロットでも、北花壇騎士でもなく――」 母は正気を保ち続けていた。 それが長門有希の情報操作によるものかは分からない。 ルイズの系統魔法が消失している以上、母の心が元に戻ってもおかしくはないのだ。 もしかすると、敗れたエルフの仕業である可能性もある。 だがタバサは、それが自身の使い魔のおかげであることを信じずにはいられないのだ。 馬車は、北花壇騎士として通い慣れた抜け道を通り、一路、トリステイン魔法学院に向かった。 + + + 魔法学院は何事もなかったかのようにタバサを迎え入れた。 一部の生徒から、彼女の長期欠席が許されたことへの不満の声も上がったが、 旅の間にスクエアクラスに成長したタバサが後に実力を見せ付けると、そのような声も止んだという。 タバサが自室に戻ると、うっすらと埃が積もっただけで、開かれたままの本一つ、触られてはいない。 一人で暮らすには広すぎる部屋。使い魔が彼女に残したのは、異世界の膨大な知識の断片。 しかし彼女を偲ぶものは、違う言語で書かれた本一冊だけだった。 おそらく長門有希が翻訳して読み聞かせた一冊だろう。 タバサはその本を手に取ると、読めもしないページをぱらぱらとめくった。 自分は、かけがえのない母と引き換えに、かけがえのない友を失ったのだ。 ベッドに倒れこみ、空虚な感覚に浸る。 あと少しで涙が流れ出そうというとき――、アンロックの魔法で友人が押し入ってきた。 「アンロックは校則違反……」 言うまでもなく、犯人はキュルケである。 「今日くらいいいじゃない。せっかくあなたが帰ってきたのだもの。 ユキは、元の世界に帰ったんでしょう? 元気にやってるかしらね……」 後から入ってきたメイドのシエスタが、テーブルにワイングラスと瓶を並べる。 「ミス・ナガトは帰ってこなかったのですね――。サイトさんとミス・ナガトはタルブの英雄なのに――。残念です」 そして既に酔っ払った様子の才人とギーシュ。ギーシュを介抱するモンモランシー。 「ったく、貴族ってのは、どうして何かにつけて酒を飲みたがるんだか」 「サイトぉう、きみは貴族を侮辱したなぁ!? 決闘だあぁぁぁ……」 「ギーシュ、飲んでるんだから無理しないで……。なんでわたし、ここにいるの……?」 ルイズはルイズで、才人に呆れつつ、自分もグラスを取ると、一気に飲み干した。 「もう、男ってどうしてこうなのかしら――」 「まあいいじゃない」 「わたしの男性観はキュルケと違うのよ」 「ルイズもキュルケも、なんでタバサの部屋に来たのか忘れてるんじゃないのか?」 「サイトの言う通り。ルイズも酔っ払うにはまだ早いわよ。ほら、みんな、並んで、並んで」 タバサの部屋にやってきた、事の次第を知る全員がタバサに向き直る。 そして――、 「おかえり、タバサ!」 皆が声を合わせた。 タバサは呆気に取られた様子で、口を小さく開く。 だが、皆の行動の意味に気付き、シャルロットでも北花壇騎士でもなく、タバサとして涙を流した。 「……ありがとう」 タバサは初めて、満面の笑みを浮かべた。 「おお、盛り上がっとるようじゃのう」 「学院長、どうしてここに!?」 喜びに満ちた空気の中、オールド・オスマンまでもが駆けつける。 「タバサ、学院長は……」 「大丈夫。知ってる」 オスマンはタバサの正体も、そして漠然とながら長門の正体をも知っている。 だからこそ、この場にやって来たのだろう。 「ありがとうございます、学院長」 礼を述べるキュルケ。 「うむ、生徒の復学とは、まことに喜ばしいことじゃ。ところで、ミス・タバサに渡したいものがあるのじゃが」 確かにオスマンは書物を抱えている。 「何かしら、サイト」 「見たまんま、本だろ。タバサは本が好きだからな」 「ガリア王国シャルロット姫殿下。トリステイン魔法学院学院長オスマンより、この品をもって、お祝い申し上げます」 オスマンはタバサに対し跪くと、両手で書物を差し出した。 「オールド・オスマン。いったいこれは、なんなんです?」 「おお、これはじゃなあ……」 「半年分の宿題じゃよ」 「……はははっ、そうきたかぁ!」 才人を皮切りに、部屋中が笑い声に包まれる。 タバサもまた、複雑そうな面持ちで笑い声を上げる。彼女が初めて覚えた苦笑いであった。 「ごめん、ちょっと気分が……」 しかし笑いすぎたのか、才人は窓から身を乗り出すと、外に向かって嘔吐し始めた。 「サイト、大丈夫?」 すかさずルイズが駆け寄り背中をさする。 「こりゃ大変だ、早くこのグラスをサイトに」 「それはワインよ!」 「殴ることないじゃないか、モンモランシー……」 ギーシュの相手をしているモンモランシーの他に、水系統を持つメイジは自分しかいない。 すかさずタバサは空のグラスに魔法で水を満たし、才人に差し出した。 「……ありがとう、タバサ」 一気に飲み干し、グラスをタバサに手渡す。 その、才人が振り向いた一瞬を、タバサは見逃さなかった。 それは、単に才人の気分がすぐれなかっただけなのだろう、 それでも、虚ろな目とかすれた声が、確かに彼を、憂いの混じった王子のように見せたのである。 タバサは未だ、恋を理解してはいない。 それでも、恋を描いた寓話をいくつも読んではいた。 今抱いた感情こそが、恋ではないだろうか。 そして、長門有希の話した、恋に落ちた者が取る行動。 平賀才人と接近している今しかチャンスはない。 タバサはおもむろに腕を絡め、彼に寄りかかる。 「ぴと」 本質は擬音であった。友の残した知識。 恋した者が取るべき行動。それが、この一言に集約されていた。 部屋にいる全員の視線が突き刺さる。 「タ、タバサ? なにをしているのかしら……?」 問い詰めるルイズ。しかし返事はなく、ただタバサは、才人に寄り添うだけである。 「なあタバサ、ルイズも見てるしまずいって……」 だが言葉と裏腹に、才人の視線は宙を泳いでいる。 「そう……。そうなのねサイト。メイドだけに飽き足らず、タバサまで……。 わたしやキュルケの友情に付け込んで、自分の色欲を満たそうとするなんて――」 「ま、待て、ルイズ、それは誤解だ!」 才人が言い終わるが早いか、ルイズの爆発呪文が炸裂する。 「今までのわたしが甘すぎたみたいね……。 犬みたいな使い魔には、やっぱり躾が必要よ。サイト、明日からは――、って、いない!?」 才人とタバサの姿はそこにない。 開け放たれた窓から身を乗り出すと、才人を抱えたタバサがフライで去っていくのが見えた。 「ま、待ちなさい! サイトをどこに連れて行く気!?」 飛び降りようとするルイズを、キュルケが後ろから羽交い絞めにする。 「ルイズ、早まらないで! 今のあなたは飛べないのよ!」 「もうっ! 虚無なんかいらないから、サイトを返して!」 「やっぱりまずいって。だいたい、俺にはルイズが……」 「構わない」 「いや、タバサの気持ちは嬉しいけど」 「略奪愛」 「はい?」 「成就しないかもしれない恋、それも恋。あなたをルイズだけのものにはさせない」 そう、結局タバサも長門有希も、ハルヒやルイズといった、神や始祖にとっては脇役に過ぎなかった。 だからといって、脇役が幸せを求めて何が悪いのだろうか。 物語の主役は、傍から見て主役に見えるというだけである。 一人一人、長門の世界やタバサの世界を生きる人間にとって、 主役とは結局、意識の主体、自分自身にほかならない。 我思うゆえに我あり、自意識の幸せを考えずして何になろう。 タバサの行動は、すなわちルイズに対する宣戦布告であった。 神の怒りは棚上げされた。 始祖の怒りはこれからが本番である。 雪と雪風_始祖と神 おしまい 前ページ雪と雪風_始祖と神
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学院の教室。一施設の設備としては広大な部類に入る。 そのまま教室に入ると一斉に視線を浴びる2人。 不思議に思い考え込む霧亥。周りをにらみ返すルイズ。 しばらくすると霧亥の興味は、見たことの無い生物に向けられる事になった。 中年の女性が教室に入ってくる。挨拶もそこそこに、彼女は使い魔について思うことを幾つか口にした。 その段になってまたルイズとクラスメートの諍いが起こる。近くの男によれば定番のやりとりらしい。 騒ぎが静まれば、今度はシュヴルーズ(中年の女性の名前だ)が魔法について講義を始めた。 霧亥にとってそれは幻想的な光景だった。もちろん余りに現実離れした、という意味で。 なにせこれだけの人間が一堂に会して、それなりに真面目に『魔法』なんてものについて語る。 ネットスフィアが混沌に沈む前までは残っていた、ありふれていた、現実だった筈の光景。 懐かしい、と思う自分がいることに気づいたのは、ルイズが壇上に立って現実を再認識した時だった。 「ミス・ヴァリエール。練金したい金属を、強く心に思い浮かべるのです」 「はい先生。私、やります」 力場が不確定要素により変化して不純物の塊を置換。次に、別のエネルギーが空間と対象の物体に干渉する。 それを認識してから0.5秒後に霧亥は空を飛んでいた。つまりルイズが魔法を行使して、石を机ごと吹き飛ばしたのだ。 「先生が倒れているぞ!」 「だからゼロのルイズに魔法を使わせるなって!」 「メチャクチャだ…誰か手を貸してくれ!」 さながらセーフガードに襲撃された集落を眺めているかのようであった。 その辺の地面に転がっている石を持ち上げれば、似たような状況を昆虫に見ることが出来るかもしれない。 つまり、パニックだ。 霧亥は『魔法』の存在を疑うことはしなかった。要するに理解できない未知の技術だろう、と納得していた。 しかしそんな中でルイズには心理的動揺が見られないこと、本人のダメージが少ない事に対しては驚かされていた。 いくつか理屈をもっともらしい分析で飾り付ければ、確かに彼女の状況を説明することは出来るだろう。 だけどそんなことを誰もしなかった。当の彼女自身でさえ、そんな理屈は必要としていなかった。 彼女の魔法は常に失敗するのだ、と誰かがぼやく。彼女もそれを認め、少し失敗したわ、と呟いた。 別室で老人が美女に蹴り飛ばされている頃、霧亥とルイズは2人で黙々と瓦礫の片付けを続けていた。 幸いにも生命活動を停止した生物はいなかった。ただ、ほんの少しの失敗で盛大に部屋が壊れただけである。 「私、魔法が成功しないのよ。だからゼロって呼ばれてるの」 「そうか」 それ以上、霧亥は何も言わず、ただ黙々と作業は続く。 霧亥は超構造体に無数に存在した建設者のことを思い出していた。 あとは作業が終了するまでの時間を概算し、タスクを解決するだけ。 ルイズも手伝ってくれているので、少しは早く終わるだろうか。 「ねえ、霧亥の世界に魔法は無かったの?」 「お前たちのような技術は無い」 「じゃあどうやって暮らしているの?」 「場所によって違う」 「…そう」 無事な机は元の位置に戻され、戻しようの無いほど壊れた机は適当に部屋の隅へ放り投げられる。 割れたガラス片はずた袋の中に纏められ、新しい窓を運び込む。煤で汚れた卓上を拭いて、元の位置に戻す。 所要時間89分。タスク完了。 「私、やっぱりダメなのかしら。満足に『錬金』もできないなんて」 ガゴン、と最後の机が元に戻る音がした。霧亥は手を止めて、こう答える。 「魔法そのものが使えないわけじゃない」 「私だって努力したわ!だけど何をやっても魔法使いらしいことは何一つできないのよ!」 「俺を転送したのは魔法じゃないのか」 「信じられないかもしれないけど、あんたが最初の成功だったのよ?次はコントラクト・サーヴァント。やった、と思った…」 そこまで言ったルイズの瞳から涙が流れていた。 「変わったと思ったのに!やっと魔法が使えるようになったと思ったのに!結果はこれ?どうしてなのよ!」 煤だらけのボロ布が空しく地面に叩きつけられた。 霧亥はそれを拾い上げ、ルイズを真っ直ぐに見つめて言う。 「お前は一瞬だが魔法に成功していた」 「……失敗してたのはわかってる、わ。嘘なんて、つかないで。そう、わかってるの…もういい…」 「練金の直後、別のエネルギーが流れ込んでいた」 「だって……詠唱は完璧、だったのよ……」 嗚咽が言葉を途切れ途切れにするのを聞きながら、霧亥は自分の理解できる事象に置き換えて説明を試みる。 「聞け。さっき見た限り『練金』というのを、机の交換を行うようなものと考えろ」 廃棄された机を掴み新しい机の前に立つ。ルイズは話を聞くつもりらしく黙った。 「これを交換するのが『錬金』だ。だが、さっきのお前の『錬金』は…」 机の間に立ち、両方を突き飛ばした。 「今の俺みたいに別の何かが邪魔をしている。だから吹き飛んだんだ」 机を元の位置に戻した霧亥を、ルイズは呆けたような表情で見つめていた。 そして彼女の内臓が空腹を主張したことで正気に戻った。ほんのりと頬に朱がさしている。 「……い、行くわよ」 「わかった」 不安定なドライバで動くハードウェアのような彼女に頷くと、霧亥も食堂に向かって歩き出した。 ほんの1歩だけ彼女が距離を縮めた事には特に気づかずに…。
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前ページ次ページ“微熱”の使い魔 部屋に差し込む朝日を受けて、エリーはゆっくりと意識を覚醒させる。 今日は、コンテストの発表があったっけ。 飛翔亭には新しい依頼が入っているだろうか。 近くの森に行こうかな? そうだ、ミルカッセさんを誘おうか。 半分寝ぼけた頭で考えながら身を起こそうとすると、いきなり胸に何かを押しつけられた。 ――ええ? なに!? ぼよんとした柔らかい感触。それに、何かいいにおいがする。 エリーはベッドの中、褐色の肌をした美女に抱きしめられていた。 その胸に顔がうずまっている。 「わひゃあああ!!?」 思わず悲鳴を上げて、エリーはベッドから転がり落ちた。 腰を打つ。かなり痛い。ついでに、ショックのせいか腰も抜けてしまったようだ。 「何よ、朝っぱら……」 美女は身を起こしながら、ふわあ、とあくびをする。 「エリー、そんなところ何してるの?」 「いえ、あはははは……」 美女、いや、キュルケに声をかけられて、エリーは自分の状況を思い出した。 遠い異国にやってきてしまったという事実を。 身支度をして部屋を出ると、となりの部屋から、桃色の髪をした女の子が出てきた。 いろんな意味でキュルケとは対照的な少女だ。 特に胸とか。 エリーとて体つきは華奢であり、お世辞にも色っぽいとは言えないが、ルイズに比べればまだ女らしい体つきと言えた。 後ろには黒髪をした少年がいる。 二人とも何かぶすっとした表情をしていた。 「おはよう、ルイズ」 「おはよう、キュルケ」 キュルケが挨拶をすると、ルイズと呼ばれた少女はぶすっとした顔のまま、挨拶をする。 男の子は、キュルケに、というよりキュルケの胸に見蕩れているようだった。 無理もないが、傍目から見てかっこいいものではない。 「あなたの使い魔って、それ?」 キュルケは少年を見て、ニヤリと挑発するように笑う。 「ふん! 悪かったわね! でも、あんたの使い魔だって人間じゃないの!」 ルイズはエリーを睨んで、ふんとそっぽを向いた。 「そりゃあね? でも、これはこれでいいんじゃないかしら。火竜山脈のサラマンダーとか召喚できれば、それはそれで素敵だけど……こんな可愛い女の子を召喚できたっていうのも素敵だと思わない?」 そう言って、キュルケはぐいとエリーを抱き寄せた。 「あ、あんた、男好きかと思ってたけど…………そういう趣味だったの!?」 キュルケの発言にルイズは後ずさり、黒髪の少年も仰天した様子だ。 エリーも目を白黒させて、 「あの、気持ちは嬉しいけど、私、そういう趣味はちょっと……」 「あははは。あたしだってないわよ。それはそうと、せっかく同じ人間を召喚しちゃったんだから、使い魔同士で親交を深める……ってのはどう?」 キュルケは笑って、軽くエリーの肩を押した。 エリーは少しとまどいながらも、黒髪の少年を見る。 黒い髪をした人間というのは何人か知っているが、その顔立ちはエリーの知るどの人種とも似てはいなかった。 強いて言うなら、王室騎士隊隊長であり、剣聖といわれた男、エンデルクが近いかもしれない。 だが、目の前の男の子は、何と言うかいかにも普通の少年で、英雄と謳われたエンデルクとはまるで違う。 しかし、その普通さがかえってエリーの緊張をほどいた。 「私、エルフィール・トラウム。エリーでいいよ」 ゆっくりと微笑み、握手のために手を差し出す。 「あ、俺は平賀才人」 少年も手を差し出し、二人は握手を交わした。 その途端に、ルイズは目を怒らせて、強引に二人の手を引き剥がした。 「ちょっと! ツェルプストーの使い魔なんかと握手するんじゃないの!!」 「何すんだよ!?」 ヒラガ・サイトなる少年は抗議するが、ルイズはそれを聞こうともしない。 「家名も一緒に名乗ってたけど……その子、貴族なの?」 「違うわ。エリーの生まれたシグザールでは、平民にも家名があるのよ」 「――何よ、そっちも平民じゃない。それにシグザール? どこの田舎だか知らないけど、聞いたこともないわね」 ルイズはちょっと安心したような顔で、ふふんと笑った。 「そんな田舎者の小娘、何か役に立つってのいうの? せいぜいメイドの代わりさせるくらいじゃない!」 ――こ、小娘って……。 ルイズの言い草に、エリーは嫌な汗をかく。 確かに小娘には違いない。しかし、目の前の自分と同年齢、下手すれば下かもしれない相手には言われたくない。 エリーは気を落ちつけながら、サイトに話しかける。 「ええと……。私、シグザールって国からきたんだけど。君は?」 「俺は、日本の東京から……」 「ニッポンノトウキョウ?」 「やっぱり、知らないよな……」 「うん、ごめん」 「いや、ここじゃ知ってるほうがおかしいんだろ。何てたって、ファンタジーだもん」 自嘲的な笑いをあげる才人に、エリーは首をかしげるばかりだった。 「このバカ犬! ツェルプストーの使い魔なんかと仲良くするなって言ってるでしょう!? ああ~~!! 朝から気分悪い!!!」 「いで、いでえ!! 何すんだ、離せよ!? ちぎれ、耳がちぎれる!!」 ルイズはキッとエリーと才人を睨みつけ、その耳を引っ張って歩き出した。 そして、もう一度キュルケを振り返って、ふん!とそっぽをむくと、才人の耳を引っ張ったままいってしまった。 「……なんか、すごい人だなあ(いろんな意味で)」 エリーはまるで嵐でも見送るような目で、ぼそりとつぶやいていた。 「だから楽しいんだけどねえ」 びっくりしているエリーとは対照的に、キュルケは本当に楽しそうに、ころころと笑う。 その様子は、何だか、ちっちゃな子供を、妹をからかっている喜んでいる姉のようだった。 ――本当は、仲良いのかな? 「あの桃色へアーはルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。二つ名は、ゼロのルイズよ」 ここハルケギニア大陸のメイジたちが、あだ名のような“二つ名”を持つことは昨夜聞かされている。 キュルケは火の属性、そして恋多きその気質からのものなのだろう。 「ええと、お友達ですよね?」 「? あたしとルイズが? ……あっはっはっはは! そうね、そんなようなものかしら。いえ、そうね。確かに友達よ。心の友とも書いて心友ってとこね」 エリーが問うと、キュルケは何かつぼをつかれたように大笑いを始める。 そんなようなもの? 何か曖昧な表現だった。 どうも言葉通りの関係というわけでもないらしい。 ――ライバルって、ところかな? エリーは、自分の師であるイングリドと、友人、いや親友とも言えるアイゼルの師ヘルミーナのことを思い出した。 自分とアイゼルもライバルといえば、ライバルだ。 しかし、それを言うならノルディスも、他の生徒たちもみんなライバルである。 イングリドとヘルミーナの場合は、もっと激しく、凄まじい関係だ。 それこそ、宿敵同士とも言えるような関係ではないだろうか。 さらに言うなら、両者の立場は互角の関係、互角の実力だった。 でも、キュルケとルイズの関係は、今見た感じでは、どうにもキュルケのほうが一枚も二枚も上をいっているように見えた。 多分、精神的な余裕はもちろん、魔法の実力においてもそうなのだろう。 「さてと、それじゃ朝のお食事にいきましょうか。ついてきて」 キュルケは見る者を魅了するような優雅な動作で振り返り、エリーに言った。 「あの、本当にここで?」 アルヴィーズの食堂を見まわしながら、エリーはどぎまぎとした顔で言った。 その様子を見て、キュルケは苦笑する。 いかにも田舎からやってきました、と言わんばかりの態度である。 エリーとて、シグザールの王都であるザールブルグで一年暮らしているが、それでもこんな豪奢な場所など縁がなかった。 アカデミーの他の生徒たちと違い、参考書や調合器具、それに生活費は自分で工面しなければならないエリーにとって、豪華な場所で豪華な食事など夢にさえ出てこない代物だった。 もっとも、アカデミーの生徒がほとんどが中流家庭の子供なので、大抵エリーと同じくこんな場所に縁はなかったが。 「あの、私やっぱり違うところで……。場違いだし……」 すっかり萎縮してしまったエリーはすがるような目でキュルケに言った。 しかし、キュルケはチッチッチッと指を振った。 「誰にだって、初めてはあるわ。こういう場所で色々見聞きするのも、勉強ってやつじゃないかしら? 将来役に立つかもしれないでしょ?」 「でも、私は貴族じゃないし……」 「あら? もしかしたら、なるかもしれないじゃない」 少しうつむくエリーに、キュルケはにこりとしてその肩を叩く。 「あなたの国では、平民でもお金を持ってれば、貴族になれるんでしょう?」 「そうですけど……」 確かに、シグザールでは財を成して貴族の身分を得た人間はそれなりにいる。 アカデミーの卒業生でも、錬金術を用いて財産を築き、貴族となった者もいると聞いていた。 ただし、アカデミーではそういった姿勢をあまりよく思ってはいないようだ。 錬金術の根本は真理の探究にあり、宝石や薬を生み出すのはあくまでもその過程にしかすぎないのだから。 といっても、そういった卒業生による援助もかなりのものであるらしく、あまり表立って否定はできないらしい。 「でも、別に私は貴族になる気は……」 「はいはい、いいからいいから」 キュルケはちょっと強引にエリーを席につかせた。 ――まいったなあ……。 エリーはため息をついた。 周囲からチラチラと視線を感じる。 エリー自身はそれほど目立つような少女ではないが、その服装は別だった。 アカデミーにおいては特に変わっているわけでもないオレンジの服だが、この魔法学院においてはものすごく目立つ。 あれは誰だ? どこのメイジだ? 何でキュルケと一緒にいるんだ? そんな声がかすかに聞こえてくる。 エリーがそんな居心地の悪さを覚えている時だった。 「おはよう、タバサ」 キュルケの明るい声に顔を上げると、眼鏡をかけた小柄な少女がそばに立っていた。 ――あ、この子は……。 確か昨日青いドラゴンを召喚していた少女だ。 青い髪と、召喚した使い魔のインパクトのおかげかよく覚えている。 「おはよう」 タバサは一見無愛想とさえ感じる返事をキュルケに返すと、じっとエリーを見つめてきた。 「あ、あの……?」 「この子はタバサ。あたしの友達よ」 タバサの視線にひるむエリーに、キュルケはくすっと笑って紹介をする。 「あ、はじめまして……。私はエルフィール・トラウムです」 何だか、不思議な感じの子だな。そう思いながら、エリーは自己紹介をした。 「タバサ。よろしく」 タバサは実に簡潔な自己紹介をした後、ずいとエリーに近づいた。 「あ、あの……?」 「あなた、昨日本をたくさん持っていた」 「う、うん……」 本。召喚する時に一緒に持ってきてしまった参考書のことだろう。 「良かったら、読ませてほしい」 「え、いいけど……」 「でもタバサ、あの本あたしたちは読めないわよ? 遠い遠い外国の言葉で書かれてるもの」 キュルケがそう言うと、タバサは少しの間黙りこんだ。 やがて、ごそごそと一冊の本を取り出して、エリーに手渡す。 「読んでみて」 エリーは言われるままに本を開いてみたが、まるで読めなかった。文字の構造や形は似通ったものがないではなかったが、基本としてシグザールのそれとは異なる文字である。 「……読めない」 「言葉はわかるのに、文字が読めないっても変よねえ……。言葉がわかるのは多分サモン・サーヴァントの影響なんだろうけど。どうせなら文字も読めるようになってればよかったのにね」 そう言って、キュルケは肩をすくめた。 「じゃあ、教え合う」 タバサが言った。 「ええ?」 「あなたはあの本の、あなたの国の言葉をわたしに教える。わたしはハルケギニアの言葉をあなたに教える」 「うん、いいよ。でも……あの本、錬金術の参考書だから、あまり面白くないかも」 「この世に面白くない本などない」 「そ、そうかな……」 きっぱりと言い切るタバサに、エリーは苦笑するしかなかった。 そして改めてテーブルに並べられた料理を見て、笑みは引きつったものになる。 ――こんなに食べられないよ……。でも、残したらもったないし……。 エリーは決して小食ではない。むしろ健啖家といえるほうだ。 ただし、それはあくまでも一般人レベル、ハルケギニア風に言えば平民レベルの食事での話。 鳥のローストや魚の形のパイといった無駄に豪華は食事は、見ているだけでも胃がびっくりしそうだった。 だからキュルケやタバサが食事を始めてからも、すぐに料理に手をつけられなかった。 ――どうしよう……。……んん? あれは……。 途方に暮れていると、少しばかり離れた、ある場所へ目がとまった。 そこではあのヒラガ・サイトとかいう少年が床に座り込んでパンをかじっているのが見えた。 「ああ、美味い! 本当に美味い! 泣けそうだ!!」 がしがしと硬いパンをかじりながら、才人はやけくそでつぶやいていた。 いきなりわけのわからん世界にやってきたかと思ったら、使い魔だか奴隷だかで問答無用に服従をせまられる。 主とやらが可愛い女の子なんでこれはこれでラッキー♪かと思ったら、そいつがとんでもねーツンツン娘で。 豪華な食事の並ぶ食堂にきて喜んだかと思ったら、他の連中がご馳走をぱくついている横で、自分は残飯みたいなものを食わされている。 やけにならなければ、本当にやっていられない。 ――何が使い魔は外、だよ。そりゃ動物なら、仕方ないだろうけど。俺は人間だっつーの!! 心の中で叫ぶ中、才人はあのエルフィールという少女を思い出した。 キュルケとかいうおっぱい星人の使い魔だとかいう少女。 あの子も、こんな扱いを受けてるんだろうか? そんなことを思いながら、ふと視線を上げると、 ――あれ? 離れた席から、自分を見ている者がいる。 オレンジ色の、ここの生徒たちとは明らかに違う系統の服を着た女の子。 その横には、あのおっぱい星人、もといキュルケが。 ――ええと。 使い魔は外じゃなかったのか? それがルイズ様の“特別なはからい”とやらで、床なんじゃなかったのか? でも、あっちの使い魔さんは何か普通に、一緒の食事してるみたいなんですけれども? このへんどーなんですか、ルイズ様? 才人が内心でルイズにツッコミを入れていると、エリーはそっと才人にむかって手招きをしてきた。 ちらりとルイズの様子をうかがってから、才人は気づかれないようそーっとエリーのほうへと移動していく。 「あの、良かったら一緒に食べない?」 エリーは少し緊張したように才人に言った。 マジですか!? 願ってもない提案に、才人は歓喜で身を震わせた。 「もちろんOK!! っちゅうか……いいの? マジで?」 「うん。私、こんなにたくさん食べられないし、残したらコックさんにも悪いし……」 「だよな!? 出された料理は作ってくれたコックさんに感謝して、残さず美味しく、だよな!」 才人は壊れたような笑顔を浮かべながら、すすめられるままエリーの隣に座る。 捨てる神あれば拾う神あり。 才人は料理とともに、そんな言葉を噛み締めていた。 さっきまではとんでもねー状況だなあと半ば悲嘆しつつあったが、救いの手は意外なところから差し伸べられた。 救われた! まさに才人はそんな気分だった。 「本当にお腹すいてたんだねえ……」 目に涙を浮かべながら料理を口に運ぶ才人を見て、エリーは同情するようにつぶやく。 そんな様子を、キュルケは楽しげに見ていた。 エリーのルイズの使い魔も一緒に食事をしていいかと聞かれ、最初は驚いた。 だが、エリーが異国の人間であり、かつ平民の少女であることを思い出すと、それも消えた。 別にいけないという理由は思いつかず、この後のルイズの反応を予想すると非常に面白かったので、むしろ喜んでOKした。 ルイズのほうを見ると、このことに気づいたらしいルイズはものすごい形相でこちらを睨んでいる。 まったく面白すぎる反応だ。 軽く手を振ってやると、ルイズは今にも爆発しそうな顔で、顔を真っ赤にさせていた。 エリーはそれに気づくこともなく、同じ平民が一緒にいるのが心強いのか、安心して料理を食べ始めていた。 タバサは終始我関せずという態度である。これはいつものことだが。 やっぱり、この子がきてくれて良かった。 キュルケは改めてそう思いながら、ワインを口にした。 前ページ次ページ“微熱”の使い魔
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-‐ '´ ̄ ̄`ヽ、 / \ 「よくぞわしをたおした。だが愛国心あるかぎり国もまたある。 |l l /〃 ヽ ヽ} | 、. ヽ わしにはみえるのだ そのときにはおまえは年老いて \. ljハ トkハ 从斗j │ ', パサパサのレモンケーキはたべられまい。 \ l∧}● V ● ! |、 ハ わはははは・・・。ぐふっ!」. \ ハ.ノ⊃ 、_,、_, ⊂⊃ .|ノ ヽ \ /⌒ヽ_.リ人 ゝ._) ./". /⌒i ヽ ヽ \ //" >,、 __ イ{. ヘ /! } }. / \ ( Y Y .!| `´/ヘ { { ヽ/ノ ) ∨ ノ. ヾ..ノ. \\丶、 中央党派閥【ルイズ】
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前ページ次ページもう一人の『左手』 「逃げろ?」 ルイズが、きょとんとした表情で、V3が言った言葉を鸚鵡返しに聞き返す。 当然、その言葉に従うための復唱ではない。 言われた言葉の内容を、さらに確認し直すための質問である。 ルイズだけではない。 残りの二人も、その瞬間、何を言われたのか分からない顔をし、そしてキュルケが口を尖らせた。 「なに言ってるのよ、あんた? さっきまでフーケの小屋に着いてからの段取りを、散々話し合って――」 「それは中止だ」 「ちゅっ、中止って、――分かるように言いなさいよっ!!」 そう言われて、V3は、彼女たち三人に向き直るが、無論、少女たちに、その赤い仮面の下にある表情は伝わらない。 ここは地上数十mの上空にある、風竜の背の上。 ハリケーンを乗り捨てたV3は、タバサに頼み、シルフィードの背に同乗させて貰うと、早速、空を移動しながら、作戦会議を開いた。 いかに『土くれのフーケ』が、優れたメイジであっても、複数の巨大ゴーレムを同時に錬成し、操作することは困難だ。しかも、彼女は今宵、V3を相手に大立ち回りを演じたばかりなのだ。それほどの魔力が残っているとは、とても思えない。 ならば、ギーシュのように、小型のゴーレムを錬成して、集団行動を取られたら――いや、それはあり得ない。少なくとも、等身大のゴーレムでは、束になってもV3の相手にはならない。それくらいは理解しているはずだからだ。 ならば、女に出来る事は、もはや限られてくる。 そう思って仮説を立て、役割を決め、結論を出した。 ――まさに、その時だった。 V3ホッパーは、今もなお、リアルタイムでフーケの山小屋を監視している。 そして、その映像を受信した瞬間、V3は、これまでの“軍議”が、この一瞬で、完璧に意味を為さなくなった事を知ったのだ。 体内に核爆弾を内蔵した、デストロンの自爆テロ怪人――カメバズーカ。 いま“現場”で何が起こっているのか、それを説明する時間は無い。 だいたい、何故あの場にカメバズーカがいるのかも、V3には分からない。 だが、分かる事はある。 カメバズーカが自爆すれば、山小屋から半径数十kmの範囲で、全てが吹き飛ぶという事だ。 才人とフーケは、物凄いスピードで、怪人から逃亡中であり、今すぐにでも、彼ら二人を回収し、全速力で避難しない限り、まず全員助からない。 だが、――繰り返すようだが、それを理解して、納得してもらう時間は無い。 向かい風に吹き飛ばされないように、竜の鱗にしがみ付きながら、こっちを窺っている三人娘に、そこまで大人の洞察力を期待するのは、どだい無理な話だ。 ましてや、この“子供たち”は、未だにこの自分――V3の能力を疑っているのだから。 そう思った瞬間、タバサという名の少女が、口を開いた。 「何かあった?」 「ミス・タバサ、だったか」 「なに?」 「このドラゴンの背には、あと何人、人を乗せられる?」 「二人までなら。でもその分、速度は遅くなる」 ふたり――と聞いた瞬間に、V3は、この寡黙な少女が、自分の考えを、ほぼ予測している事を理解し、思わず仮面の下の口元をほころばせた。 タバサの言う二人は、確実に、才人とフーケを指している。そうでなければ、この状況で、敢えて『二人』という人数を口に出すはずが無い。 何が起こったのかは知るまいが、何かが起こった、という事を察してくれるだけで、V3にとっては充分だったからだ。 騒がしい他の二人とは違う。このタバサという少女は、おそろしく冷静だ。 その幼い外見に似合わず、おそらく、相当の場数を踏んでいるのだろう。 自分たちを、ひたすら放置して話を進めるV3とタバサに、キュルケは再び、口を尖らせようとしたが、 「――サイトっ!!」 そう、下を見て叫ぶルイズの声に、遮られる。 「えっ!?」 あわててシルフィードの背から、下を覗くキュルケ。 ――なるほど、確かに、ルイズの使い魔と思しき少年が、腰を抜かしたらしい女性を抱えて、脱兎のごとく駆けてくる。 (でも、――あれって、たしかミス・ロングビル……?) ミス・ロングビルこそが『土くれのフーケ』その人ではなかったのか? カザミやコルベールが、学院長相手にそういう話をしていたはずだが、ならば何故、あの少年は、自分を人質にして攫った女を連れている……? (フーケから、ではなく、フーケとともに逃げている。――何から……?) 「タバサ!! 早くサイトを、サイトを助けてっ!!」 ルイズが叫ぶ。 あなたに言われるまでもない。――そういう表情こそしていなかったが、ルイズが、金切り声を上げるよりも早く、タバサはシルフィードに急降下の指示を出していた。 ふわり。 ほとんど体重を感じさせない優雅さで、風竜が、才人の眼前に舞い降りる。 突然目の前に現れた怪獣に、才人もさすがにギョッとするが、 「サイトぉっ!!」 耳元にイキナリ飛び込んできた悲鳴のような呼び声に、瞬時に胸を落ち着かせた。 暇さえあれば怒鳴りあい、四六時中喧嘩ばかりしていたはずなのに、こんな危機的状況で聞ける事に、妙な嬉しさや懐かしささえ覚えてしまう、その声。 「ルイズ……おれを助けにきてくれたのか……!」 が、次の瞬間、 「平賀、乗れっ!! 一刻も早くここから離れるんだっ!!」 そう言って、自分と、脇に抱えたフーケを、風竜の背に放り投げた男の声。 人間を、まるでヌイグルミのように軽々と扱う、人ならぬパワー。 赤い仮面の異形の男――仮面ライダーV3。 その瞬間、才人は自分たちを取り巻く、信じがたいほどの危機的状況を思い出していた。 「かっ、風見さんっ!! かっ、怪人が――デストロンの改造人間が!!」 「あぶないっ!!」 全体重、そして背に乗った5人の体重をプラスし、その時のシルフィードの体重は、数トンはあったであろう。それを軽々と突き飛ばしたのは、V3であればこそだ。 だが、シルフィードを突き飛ばしたために、さっきまで“彼女”が居た着弾地点に、丁度V3が立つ事になり、その結果、まともに彼は喰らってしまった。 一人の少年、三人の魔法少女、そして一人の女盗賊を、ドラゴンの幼生ごと木っ端微塵にするはずだった、カメバズーカの直撃弾を。 「きゃあああああっ!!」 深夜に響くキュルケの悲鳴は、ドラゴンごと突き飛ばされた事に対するものか、それとも、その後に続いた、謎の大爆発に対してか。――しかし、その叫びも、月下に響く地獄のうめき声を前に、跡形も無く消し去られた。 「ズゥゥゥゥゥカァァァァァッ!!」 「――な……なに……あれ……!?」 ルイズが、思わず呟く。 煌煌と輝く月光の下、ゆっくりと――だが、一歩一歩踏みしめるような足取りで、こちらに近付いてくる、一匹の“ばけもの”。 一同は、凍り付いていた。 このハルケギニアには、確かに人ならぬ身でありながら、人を凌ぐ力を持つ存在がいる。 エルフを頂点とした亜人たち。 韻獣と呼ばれる神獣、霊獣、幻獣ども。 だが、この怪物は、そのいずれでもない。 見た者の心胆を瞬時に寒からしめる、凄まじい妖気。まるで伝説のエルダードラゴンの咆哮を聞かされたようだ。 冷静無比なタバサでさえ、自らを襲う激しい恐怖に、抗う事も出来ない。他の女たちの精神状態など、もはや言うを待たない。 その中で、才人だけが、唯一マシと言える心の平衡を保っていた。 それゆえに、彼は周囲を見回し、――目撃してしまう。 カメバズーカの直撃弾を喰らって、ボロキレのように大地に横たわる男の姿を。 この場にいる六人目となるはずの人物。 あの怪物と戦うことの出来る、唯一の存在。 (かっ……風見さん……っっ!!) 仮面ライダーV3――風見志郎。 しかし、いかに直撃弾とはいえ、並みの榴弾砲くらいなら、仮面ライダーが一撃で立てなくなるほどの傷を負うなど、少し考えにくい。 ――だが、 (あの時、風見さんは、……おれを助けようとして、ゴーレムに蹴り飛ばされていた……) そのダメージなのか。 そう思った瞬間に、奥歯が鳴った。 「おれのせいだ……!!」 未だナタを握りっぱなしだった、才人の左手のルーンが、激しく輝いた。 「まてえっ!!」 少年は立ち上がった。 「これ以上、みんなに手は出させねえ」 自分自身に対する、どうしようもない無力感。その無力感に対する怒りが、恐怖を凌駕していた。 その手に携えるは、とうてい切れ味鋭いとは言いがたい、赤錆びたナタ。 「サイト……!?」 直撃弾を回避したとはいえ、衝撃波をもろに喰らって、眼を回しているシルフィード。 そして、そんなドラゴンの背から放り出され、恐怖に声を上げることさえ出来ない女性たち。 そんな彼女たちを庇うように、才人はナタを構えた。 彼曰く、無理やり召喚され、臣従を誓う義理さえないはずの主のために、見るからに頼りなげなナタ一本で、悪夢のような“ばけもの”相手に立ち向かわんとする、この少年。 ルイズには、自分の目が信じられなかった。 才人は、風見とは違う。 自らの肉体に、絶対的なパワーを宿す改造人間ではない。 ――魔法すら使えない、ただの『平民』なのだ。 「うわぁぁぁぁぁあああああっ!!」 何かが、口を突いて、少年の中から吐き出されていた。 それは、あえて退路を絶たれた、手負いの獣の絶望だったかも知れない。 だが、叫んだ瞬間に、才人の身体は動いていた。 眼前の“ばけもの”に、せめて一矢報いるために。 こんな薪割り包丁一本で、“怪人”と戦えるなどと、彼も正気で思ってはいない。だが、もはや才人の脳髄は、完全に思考を放棄していた。 「サイトぉぉっ、止めなさい、逃げてぇぇぇぇっ!!」 もはやルイズの声も、彼の耳には届かない。 ガンダールヴのルーンが、彼の身体能力を向上させ、その一撃に、更なる力を付与する。 赤錆びたナタが、鉄兜ごしに頭蓋すら叩き割る威力を持って、いま、怪人の脳天に振り下ろされた!! 「!!」 その瞬間、才人の目は捉えていた。 亀の頭部が、瞬時に甲羅の中に引っ込み、その一撃を甲羅で防御するように、カメバズーカが少しばかり、うつむいたのを。 鉄骨が砕け散るような、耳障りな金属音が、闇に響いた。 才人の手に握られたナタは……文字通り、木っ端微塵に砕け散っていた。 赤錆びた、薪割り用のナタでは、ルーンによって増幅された才人の腕力と、戦車装甲のごとき甲羅の硬度に、とても耐えられなかったのだ。 カメバズーカの手が、するすると伸び、才人の右手を捕らえる。 「ぐっ!?」 捻り上げられ、柄だけになったナタが、才人の手からこぼれ落ちた。 頭部を甲羅に引っ込めたままなのに、何もかも見えているように、動きに無駄が無い。 それだけではない。 この手首を鉄環で締め付けられたような、このパワー! 改造人間だから当然とも言えるが、才人は全身に電流を流されたような激痛を前に、息すら出来なくなってしまう。 だが、それでも才人は諦めない。 いまだ戦意を失わない目で、眼前の怪人を睨みつけた。 「ズ~~カ~~、大したもんだぜ小僧。まさか、こんなチャチなエモノ片手に、俺様に向かってくる人間がいるなんてなぁ。――しかも」 その時才人は気付いた。 甲羅の穴から、妖光を放つ二つの目が、自分を睨み据えているのを。 ずずっ、ずずずず~~~。 粘着質な音を立てて、亀の頭部が、甲羅からゆっくりとせり出されてくる。 吐き気さえ催させる眺めであったが、――それでも才人は、カメバズーカの眼光をはね退けた。 「――こぉんな状況でまだ、そんな目ができるなんてなぁ」 ごきり。 怪人に握り締められた右手首の骨が、聞こえよがしな悲鳴をあげる。 (っっっ!!) 「いま謝れば、命だけは助けてやるぜぇ」 亀裂のような笑みを浮かべながら、カメバズーカが笑う。 だが、才人は唇を噛みしめて、呻き声すら上げなかった。 いや、たとえ、この場で八つ裂きにされたとしても、悲鳴一つ上げる気は無かった。 声を上げれば、必死になって自分を奮い立たせている最後の意志が、砂のように崩れ落ちてしまいそうだったから。 また、力を振るう事に喜びを覚えている、このカメ野郎の目が、いつかのギーシュと同じ、とても傲慢な光を帯びているように見えたから。そして、その目の色は、才人自身がこの世で一番嫌う感情の光だったから。 「お前に謝るくらいなら……死んだるわい……!!」 才人は、いまだ自由な左手で、眼前の敵を殴りつける。 右手を万力のような握力で締め付けられ、捻り上げられ、とうていパンチに力がこもるような体勢ではなかったが、それでも構わない。 いうなればこれは、彼の最後の意地であった。 その時だった。 数発目かの才人の拳が、カメバズーカに触れた途端、左手のルーンが再び光を放った。 (これは……!?) あの時と同じだった。 カメバズーカの正体を知らず、フーケに命令されて『破壊の杖』を触った時。 その時と同じ、圧倒的なまでの情報が、才人の脳に流れ込んできたのだ。 生きながら、『兵器』と呼ばれるに恥じない肉体に改造された男。その男の情報が。 「俺の息子も、お前くらいホネがあれば、一安心なんだがなぁ」 そう呟いたカメバズーカから溢れ出してきた“情報”は、記憶。 まだ彼が、デストロンに誘拐される以前―― 一人の普通な、どこにでもいる健康な父親だった頃の、人間の記憶……。 「平田……拓馬……?」 カメバズーカの瞳が、ふっと翳った。 「小僧……お前、なんでその名前を……!?」 「サイトぉぉ、逃げてぇぇぇ!!」 その時だった。 ルイズの悲鳴のような叫びが鳴り響くと同時に、カメバズーカの背後の地面が、突如、大爆発を起こしたのだ。 彼女が気力を込めて振り出した『ファイヤーボール』の結果だった。 「ぐおっ!?」 カメバズーカは、才人ともつれるようにして、前方へと吹き飛ばされる。 さすがに、背後から爆風を喰らった程度では、彼の甲羅はびくともしない。 だが、口に入った土を吐き出しながら、顔を上げた瞬間、カメバズーカは見てしまった。 かつて自分を、地獄に叩き送った者たちの片割れを。 よろめきながらも立ち上がり、その射るような視線を自分に向けてきた、その男。 ――誰が忘れる事が出来るだろう。その赤い仮面を。 「そこまでだ……カメバズーカ……!!」 その瞬間、カメバズーカの思考は消えた。 あるのはただ、圧倒的なまでの破壊衝動――そして、歓喜。 なぜ奴がここにいるのかは分からない。 だが、奴はここにいる! 自分を殺し、存在意義であった『東京都破壊計画』を失敗させた、憎むべき“敵”の姿が、ここにある!! 「仮面ラァァァァイダァァァァV3ィィィィッッッ!!」 後方からの爆風に煽られてなお離さなかった才人を、まるで人形のように放り出すと、カメバズーカは、その名に似合わぬ、弾丸のようなスピードで、V3に襲い掛かった。 前ページ次ページもう一人の『左手』
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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第86話 暗黒の意思 変身超獣 ブロッケン 登場! どんなに長い夜であろうと、明けない夜はない。たとえ、その夜明けが望まれない ものであったとしても。 長いようで短くもあった内乱を続けたアルビオン王国にとって、王党派と反乱勢の その正真正銘の最終決戦となった、ある夏の日の戦いは、ごくごく平凡な形で始まった。 王党派は夜明け前に全員起こしがかかり、内臓に負担がかからない糧食をとった後に、 北の空へと向かって待機し、太陽が昇ったその数時間後に目的のものは現れた。 「北北西、距離二万、敵艦隊を確認! 戦艦一、護衛艦三」 王党派の拠点の城の最上階の見張り台の兵士の叫びとともに、王党派は全軍 戦闘配備をとり、全戦力を敵旗艦レキシントン号を撃沈するためだけに備える。 その様子を、ウェールズとアンリエッタは城のテラスから見下ろしていたが、 やがて肉眼でも敵艦隊が見えてくると、自然とそちらを見上げていた。 「やはり正面から来ましたわね」 「ああ、奴らにはもう小細工をする余裕もないし、風石や弾薬の余裕もないだろう。 戦略的に、今さら撤退しても戦力の回復は不可能だし、もうレコン・キスタが 逆転に望みをかけられる手段は一つしかない」 「わたくしたちを、殺すことですわね」 もしここで王党派の旗手であるウェールズを失えば、王党派は再起不能の打撃を 受ける。けれども、敵の大将をとれば大逆転という軍事的な冒険に出て成功した 例は少なく、地球の例を取ってみても大阪冬の陣で徳川家康に肉薄した 真田幸村も、その壮絶な戦いぶりが伝説とはなったが、結局は力尽きて全滅している。 ただし、その逆もないとは言い切れず、だからこそ敵は死に物狂いになって攻撃を 仕掛けてくるだろうが、これを撃退してこそやっと平和がこの大陸にやってくる。 また、無言でうなずいて、接近してくるレキシントンを見つめ、来るべき時を 待ち受けているウェールズとは別個に、アンリエッタはおそらくはやってくるであろう 悪魔の襲撃を見落とすことのないよう、神経を集中して空を見やっていた。 ”ヤプール、今もこの空のどこかから見ているのでしょう。お前たちの企みは わかっています。どこからでもかかってきなさい。このアルビオンを、トリスタニアの 惨劇の二の舞にはさせません” 何の正統な理由もなく、破壊し、服従させることだけが目的の侵略者・ヤプール。 あの燃え盛る街と、何の罪もないのに焼け出され、断末魔の悲鳴をあげて 死んでいく人々の姿は忘れることはできない。アンリエッタは、このアルビオンをも 同じ目に合わせようと企んでいるのなら、全力を持って阻止すると心に誓った。 その後ろには、護衛としてカリーヌとアニエスが油断なく直立不動で構え、 レコン・キスタの事情に詳しいミシェルは準参謀で、ルイズたち一行は、護衛兼、 ヤプールの攻勢が始まった場合に対応するためにつばを飲んで待っていた。 「敵、距離一万! 竜騎士等は見受けられません」 レキシントンにはドラゴンをはじめとした、幻獣を搭載する母艦機能もあった はずだが、戦闘空域に達しようとしている今でもそれらが飛び立つ気配はなく、 やはり昨日の戦いで消耗した分の補充が、もう不可能なのだということが 察せられた。 「これなら、案外早くけりがつくんじゃない?」 「甘いわね。制空権をなくしているとはいっても、レキシントンはアルビオン 最強の戦艦であることには変わりないわ。それに、敵も今回は窮鼠と化してる。 一隻だけだからこそ、逆にあなどれないわ」 敵の残存戦力が少ないからと、楽観ムードを漂わせているルイズをキュルケが たしなめている間にも、レキシントンは巨体ゆえに一見したら止まっているのでは ないかと思えるが、しかし確実に接近してきて、その距離が二〇〇〇になった ところで戦闘開始の号砲は鳴った。 「対空砲、撃ち方はじめ!」 先日の戦いで、一門だけ生き残ったゲルマニア製の長射程砲が火を噴き、 レキシントンからやや離れた空間で砲弾を炸裂させると、レキシントンは 照準を外そうと右に転舵しながら、左舷の大砲を城の前で陣を張って待ち受ける 王党派軍に向けてくる。 もはや、戦闘回避は不可能、ここにアルビオン内乱の最終決戦、第三次 サウスゴータ攻防戦の幕は切って落とされた。 「竜騎士隊、突撃せよ!」 「各部隊は散開し、それぞれの判断に従って対空攻撃をおこなえ!」 「敵弾、来ます!」 「東側陣営に着弾、バレーナ小隊、指揮官戦死!」 「衛生兵は、ただちに負傷者を後送せよ。全部隊、全兵器使用自由、集中攻撃をかけろ」 矢継ぎ早に命令や報告が乱れ飛び、戦場はたちまち両軍の砲弾や魔法が交差し、 落とそうとする王党派と、落とされまいと必死で前進を続けるレキシントンが攻防を 繰り広げる姿は、遠くから見れば大変に勇壮に見えただろう。 その戦闘の様子を、ルイズたちは遠見の魔法でその場所にいるように眺めていたが、 先日の戦いとは違って、間近で見る凄惨な人間の殺し合いは、ルイズたちの想像を はるかに超えていた。 「母さん、母さん……」 「腕……俺の腕はどこへ行った」 「兄さん、首、あれ? 首から下は……」 ほんのわずかな時間で、死への門をくぐるもの、体の一部を失って捜し求めるもの、 発狂して幽鬼のように戦場をうろつくものが続出し、それは戦場を武勲を立てる場だと 考えていたルイズに、耳を塞ぎ、目を閉じてもなお嘔吐をもたらすほどの凄惨さを 叩きつけていた。 「ルイズ……」 アンリエッタも、目を逸らしたいのを我慢して必死に自分の命令で死地に赴いた 人々を見つめる。カリーヌやアニエスは何も言わずに、唯一変わらないタバサを 例外にして、才人やキュルケですら、目の前に見せ付けられる現実には顔を 青ざめさせていた。 「なんなんだよこれは、こんなもの、まともじゃねえ」 才人も、ウルトラマンAとともに数々の怪獣や宇宙人と戦い抜いてきたが、 それらには平和を守るための使命と誇りがあり、戦う先にある平和を望むことが できたのだが、目の前のものは、そうした『戦闘』ではなく、人間と人間が 身勝手な理由で無関係な人々を代わりに戦わせる最悪の愚行、『戦争』であった。 『戦闘』と『戦争』は、似ているようでまったく違う。ウルトラマンと怪獣、侵略者の 戦いには、平和を守る使命、破壊本能、支配欲、生存のためと両者ともに、 もしくは片方だけでもそれぞれちゃんと理由をもっているし、レッドキングと チャンドラーの縄張り争いにさえ、きちんとした戦う理由があり、そのために自ら血を 流しているから、そこには戦う者の美しさがある。 ただし、そこに『国』という枠が入ると戦いはその質を大きく変える。 意思と意思のぶつかり合いであった『戦闘』は『戦争』へと変わり、この戦いでも 一部の忠誠心あふれた貴族を除いては、ほとんどの者が徴兵され、扇動されて 戦っているので、ひとたび心が折れれば、そこには醜悪な本能の露呈しか残らず、 筆舌しがたい苦悶と絶望の場となる。まさに、人間の生み出す中でこれほどの 愚行はほかにない。そんな中で、わずかな慰めがあるとすれば、ウェールズや アンリエッタがそうしたことを理解しており、自らの身を敵の囮として、戦いを ほんのわずかでも早く終わらせるように勤めていることだろう。 そのわずかな一端にルイズたちは触れ、一刻もはやく終わってほしいと心から願った。 しかし、ルイズたちが良心から人々の苦悶に必死に耐えている間にも、 絶望と悲嘆の声を望むものは、さらなる混沌の種をこの戦場にばらまいた。 それは、戦闘開始から一時間ほど後に、両軍の戦闘が硬直状態になったときであった。 「っ? 地震か!?」 突然城の床が大きく揺れ動いたかと思うと、次いで慌てて駆け込んできた伝令の 兵士によってもたらされた報告が、戦場が最初の変化を遂げたことを告げた。 「ほ、報告します! 突然一階に所属不明のメイジが侵入してきて暴れております。 現在近衛師団が応戦していますが、どうやらスクウェアクラスらしく、こちらのメイジや 兵では太刀打ちできません。至急応援を願います」 「なに!? レコン・キスタにまだそんな戦力があったのか。まさか、レキシントンは囮で、 その隙に我らを襲うのが狙いか」 ウェールズは想定外の事態に驚いたが、ルイズたちはすでにその相手について 想像がついていた。 「ワルドか……」 遠見の魔法で確認して、間違いがないことがわかると、奴に手傷を負わされた ミシェルや、形だけとはいえ婚約者であったルイズの顔に憎憎しげな色が浮かんだ。 アンリエッタや仮面の下のカリーヌも、表情は変えないが心境は同じようなものだ。 「また性懲りもなくやってきたのね。けど、あいつは昨日『烈風』に瀕死の重傷を 負わされたんじゃあ?」 「ヤプールなら、人間の体を一晩で治すなんて簡単だろうぜ。にしても、あの野郎、 ひどいことしてやがる!」 超獣を次々と作り出し、かつては死者を蘇らせることまでやってのけたヤプール にとって、人間の命などはとるに足りないものなのに違いない。 ワルドは、無差別にあらゆる魔法を撃って、食い止めようとしている兵士たちを 蹴散らすだけではなく、抵抗できない者には風を、逃げ出そうとする者には雷を与えて、 死と破壊を振りまいている。むろん、王党派のメイジも食い止めようとしているようだが、 スクウェアクラスの魔力をさらに増大させているワルドには歯が立たない。しかも その力は、己の欲のために悪魔に魂を売った結果で、裏切り者、卑怯者、あらゆる 悪罵を投げつけてなお余りある。 「ほんの少しでも、あいつに気を許していた自分が腹立たしいわ」 「ああ、見れば見るほどムカつく顔してやがる。だが、よほどワルドの体が 気に入ったんだな。もしかしたら、今ならワルドの体のまま倒すことができる かもしれない」 ウルトラマンとて、同化した人間や、人間に変身した状態で殺されたら ひとたまりもない以上、ワルドの体のままでなら人間の力でも倒せるかもしれない。 才人の言葉でそれを確信したルイズは、すぐに杖を上げていた。 「わたしが行きます!」 「ルイズ!?」 「今、動ける余裕のある戦力はわたしたちしかいません。それに、あいつだけは わたしのこの手で引導を渡してやらねば気がすみません!」 幼い頃から優しくしてくれたのは、いずれ利用するためだったと知ったときに、 ルイズのワルドに対する感情は、すべて黒く塗り替えられていた。怒りと悲しみが 渦巻いて、今にも爆発しそうなほどに膨れ上がっていく。しかしそれを聞いて、 アンリエッタは確かに予備戦力として残しておいたが、あの『烈風』でさえ てこずった相手に本当にぶつけていいのかと、この場になって急に迷いが生じた。 「しかし、相手はただでさえスクウェアメイジ、あなたの力では」 本来ならアンリエッタはカリーヌに出てもらおうと思ったのだが、残念ながら 昨日の戦いでカリーヌの精神力は空になってしまっていて、一晩の休養では 回復しきれず、並のトライアングルメイジ程度の力にまで落ち込んでしまっていた。 もっとも、使い魔とともに戦えばまた別だが、城の中でラルゲユウスを 暴れさせるわけにはいかない。 いや、それ以前に、アンリエッタはルイズたちを予備兵力にしたのは冷静に 判断した結果だと自分では思っていたが、ひょっとしたらルイズに目の前で 死なれたくはないというわがままを、無意識にしてしまったのではないかと 湧き上がってきた焦燥感の中で、自己嫌悪に陥りかけていた。しかし、アンリエッタの 意思とは裏腹に、ルイズはまぎれもなくカリーヌの娘であった。 「戦いはメイジのクラスだけで決まるものではありません。わたしには、 わたしにしかない武器、たとえワルドとともに自爆してでも主人のためにつくす、 最強の使い魔がついていますわ!」 「ちょっと待て、それっておれのことか?」 怒りのボルテージを上げて首根っこを掴んでくるルイズが、なにやら非常に ぶっそうなことを言っているのに、才人はだめもとでツッコミを入れてみたが、 返ってきたのはやはりの答えだった。 「命をかけて主人を守るのが使い魔の仕事でしょ。あたしがあのバカに 一発入れるまで、何が何でもわたしを死守しなさい。なんのためにあんたを 食べさせてると思ってるの?」 「それを言われるとなーんも言えんなあ」 自爆しても復活できるのはタロウとメビウスだけだぞと思いつつも、 才人はルイズの性格上、受けた恨みは必ず晴らすとわかっているので、 あきらめも早く、背中のデルフに合図をして、かくなる上はルイズを守って あのいけすかない中年をぶっ飛ばすかと覚悟を決めた。 「というわけで姫さま、ちょっと行ってぶっとばしてまいります」 「で、ですけれど!?」 「心配いりませんわよ姫さま。わたしたちも行きますから」 そういつもどおりの口調で割って入ったキュルケとタバサに、ルイズは 今回は意外な顔はしなかったが、ワルドとの因縁は自分の問題だと首を振った。 「あんたたちには関係ないわ、ここで姫さまたちを守っていて」 するとキュルケは軽くため息をつくと、呆れたように言った。 「はーあ。あんた、たった二人であいつに勝てるつもり? それに、関係に ついて言うんだったら、あたしもあいつには、ダンケルク号でいらない苦労を させられた恨みもあるしね。あ、それとも、デートの邪魔されるのはいやだった?」 「なっ、こ、こんなときに何言い出すのよ!」 そう言われてしまっては、来るなと言えるわけもなかったが、ルイズはいつの間にか キュルケもタバサも隣にいるのが当たり前にものを考えるようになっていた自分に 気づいて、別の意味で赤面した。けれど、キュルケはそんなルイズの気負いなどは 気づいていないと言わんばかりに、彼女の肩を叩いた。 「それにルイズ、ここでアルビオンやトリステインが万一レコン・キスタの手に 落ちるようなことがあれば、次はゲルマニアやガリアが戦場になることを 忘れたの? わたしたちの働きに、世界の命運がかかっているのなら、 こんな燃えることはないわ。それに、なんにせよ乗り込んだ船を途中で 見捨てるのは心苦しいしね」 キュルケに合わせてタバサもうなずき、話は決まると、一行はアンリエッタと ウェールズの護衛をアニエスたちに任せて、階下への階段を駆け下りて行った。 「ご武運を……いえ、始祖ブリミルよ。どうかあの人たちをお守りください」 大勢の人々に、自分の命令で殺し合いをさせているのに、親友の無事を 祈るのは偽善かもしれないと思いつつも、アンリエッタは心から願った。 『烈風』やアニエスは何も言わずに、彼らと共に戦えないことをふがいなく 思っているミシェルとともに若者たちを見送り、窓外には、被害を受けながらも まだ戦う六万強の兵と、その上にはレコン・キスタの怨念が宿ったように 砲撃を続けるレキシントンの姿があった。 そのころ、すでにこの城に侵入したワルドは一階、二階の防衛線を突破して、 アンリエッタたちのいる四階へと続く、三階の大ホールに到達し、そこで必死の 防衛線を引く兵士たちを、まるで人体をむしばむウィルスのように圧倒しながら 進んでいたが、そこへやってきた桃色の髪の少女を先頭にした一団が、一錠の薬となった。 「そこまでよ! それ以上の暴虐はわたしたちが許さないわ」 「ほう、また来たな、愚かな人間どもよ!」 ワルドの前に立ちふさがったルイズたちにワルドの発した第一声は、そこに いるのがもはやワルドではなく、ワルドの形をした何者かであることを確信させた。 「久しぶりねワルドさま、わたしのことを覚えていらっしゃるかしら?」 「なに……いや、この男の記憶に反応があるな。ルイズ・フランソワーズ、この男の 婚約者か。ふふふ、また会ったね、僕のルイズ、とでも言っておこうか?」 ルイズの眉に、あからさまに不快な震えが走った。 「あいにくと、婚約は正式に破棄しました。本日まいりましたのは、今日までの 負債を利子つきでお返しするためですわ」 「ほお、だがこの男の記憶では、お前の力はいまだ目覚めてはいないのだろう。 そんな不完全な力で、勝てると思っているのか?」 そのとき、悠然と余裕を示すワルドの言葉が、怒りと不快感に満ちていた ルイズの心に一筋の理性の光を差し込ませた。 「目覚めては……? どういうことよ」 「ふふふ、どうやらこの男は貴様を利用して、かなり大それたことを考えていた らしいな。大方、ともに世界を手に入れようなどとでも言って、そそのかす つもりだったのだろうが、愚かなことだ」 「わたしの力で、世界を……?」 困惑が、ルイズの心臓に下手なダンスを躍らせた。目覚めていない力? 世界を手に入れる? 初歩のコモンマジックすら使えずに『ゼロ』の忌み名 しかない自分に、ワルドはいったい何をさせるつもりだったのだ? ただの 妄想、あるいはワルドに乗り移ったものの口からでまかせか? しかし、 それほどまでしてほしいものがあったから、ワルドは十年以上に渡って 念入りにヴァリエール家に取り入ってきたのではないか? いったい、 自分にはなにがあるというのだ? 「落ち着けルイズ、あいつの口車に乗せられるんじゃねえよ」 「はっ!?」 自分を見失いかけたルイズを現実に引き戻したのは、またしても才人の、 自分にとって唯一間違いなく存在する頼もしい使い魔の声であった。 「こんな奴の言うことなんか気にすんな。なんのためにここに来たのか 忘れたのかよ? お前はおれが守るから、あの中年に一発くれてやれ」 「そうね、わたしとしたことがうっかりしてたわ。わたしのやるべきことは……」 すっと、まっすぐに杖の先をワルドに向けると、奴はさらに愉快そうに笑った。 「いいのか? この人間の体を壊せば、貴様の力の秘密はわからなく なるかもしれんぞ?」 「わたしを見くびらないでほしいわね。自分のことは自分でなんとかするわ。 それに、お前はもう人間じゃない!」 杖を振るい、ワルドの至近に『錬金』の失敗で爆発を起こさせたのをゴングに、 キュルケとタバサが左右に展開して、ルイズはワルドの正面から、才人に 守られながら戦いが始まった。 「いくわよタバサ!」 左右からワルドを挟みこみ、息の合った二人のファイヤーボールと ウェンディ・アイシクルが同時に襲い掛かる。 「こざかしい!」 しかしワルドは『エア・シールド』でそれを無効にすると、高笑いしながら ルイズと才人に向かって『ライトニング・クラウド』を放ってきた。 「死ねぃ!」 雷撃は、至近の床を掘り返しながら一直線に二人に向かい、二人の すぐそばの柱で爆発して二メイルばかり吹き飛ばした。 「って、おいそれ反則だろ!」 才人は石や氷とかの類だったらはじきとばす自信はあったが、さすがに 雷を跳ね返すのは無理だった。しかし、さっきのかっこいい台詞はどこへやらで、 「や、やっぱりやめときゃよかったかな!?」 と、うろたえた才人に手の中のデルフリンガーが叫ぶように語り掛けた。 「心配すんな相棒、おれをあいつの魔法に向けろ!」 「なにっ!?」 「説明してる時間はねえ! また来るぞ!」 「っ! ええい、ちくしょう!」 また襲ってくるライトニング・クラウドの雷を前に、避ければルイズに直撃する 状態で、才人はせめて避雷針になればとデルフリンガーを前に突き出した。 すると、それまで赤錆が浮いていて一〇〇エキューで叩き売られていた デルフリンガーの刀身が輝きだし、なんと雷撃を引き寄せるようにして全部 吸い込んでしまったではないか。 「わっはっはっはぁ! どうだ、見たか相棒! これがおれっちの能力よ。 いやあ、ずいぶん長く使ってなかったから完璧に忘れてたわ。それに、 見てみろこの俺さまの美しい姿をよ」 「お前、こいつは!?」 才人とルイズは、輝きが収まった後のデルフを見て二度びっくりした。 赤さびた二束三文の安物はそこにはなく、今にも油がしたたってきそうな 見事な波紋を浮かべた、白銀の長刀が輝いていたのだ。 「これがおれっちの本当の姿さ。もう何百年前になるか、あんまりおもしれえことも ないし、ろくな使い手も現れねえんで飽き飽きして、自分で姿を変えてたんだった」 「てめえ! そういう重要なことをなんでさっさと言わねえんだよ」 「だぁーから、忘れてたって言ったろ。俺はお前らと違って寿命がねえからな。 何百年も思い出さなきゃ、そりゃ忘れるさ」 「だからって、そんなすごい機能あるって知ってたら、これまでにも別な作戦の 立てようもあったのによお」 「いや、それについてはほんと悪かったわ。だが、けちな魔法なら俺さまが みーんな吸い込んでやるから安心して戦え」 「んったく! 後で覚えてろよお前!」 自分の剣と口げんかしていたアホな時間のうちにも、才人はさらに撃ちかけ られてきた『エア・ニードル』や『ウィンド・ブレイク』をデルフリンガーで吸収、 あるいははじき返した。とにかく、なんでそんな機能があるのかとか聞きたい ことは山ほどあるが、今はバルンガみたいなその能力を役立たせてもらおう。 「どうだワルド、お前の攻撃は通用しないぞ」 「ちょこざいな、手加減してやっていれば調子に乗りおって」 挑発に乗ったワルドは魔法の威力を上げて才人を攻め立てるが、デルフは つばを激しく鳴らして大笑いしながら、それさえも飲み込んでいく。 「マジですげえなデルフ。よぉし、みんな、一気にいこうぜ!」 「わかったわ!」 勝機が見えたなら一気にたたみかけるしかない。正面から才人と彼に 守られたルイズ、両側面からキュルケとタバサが同時攻撃をかける。 「こざかしいわ!」 しかしワルドも自らの周りに空気の防壁を張って守りを固め、さらにその 内側から攻撃をかけてくる。これではデルフリンガーでもやすやすとは突破 することができない。 「さすが、スクウェアクラスは伊達じゃないわね」 「それだけの力、正義のために使ってくれればな」 一旦引いて態勢を立て直したルイズたちは、あらためて容易ならざる相手 だということに気合を入れなおした。しかし、彼らは知らないことではあったが、 ワルドの魔法のなかでもっとも恐れるべきものである『偏在』だけは、先の カリーヌ戦のときとは違ってワルドの精神を何者かが完全に乗っ取っているため、 分身体にまでは影響をおよぼすことができないためにコントロールすることができず、 パワーアップしているとはいえ一人だけを相手にすればいいのは非常な幸運といえたのだ。 トライアングルクラスの炎と雪風、伝説の使い魔の攻防かねそろった剣技、 そして失敗魔法と揶揄されながらも、逆に誰一人真似できない攻撃力を 持つ爆発が、邪悪な風に立ち向かう。 だが、四人の攻撃によって劣勢に近い状態に追い込まれながらも、ワルドの 顔から人を馬鹿にした笑みが失われることがなかった意味を、誰も気づくことは できなかった。そこに、恐るべき企みが秘められているとも知らずに。 それから十数分、さらに数十分。 戦闘はワルドとのもの以外にも遠慮なく進行し、王党派軍とレコン・キスタ 艦隊は激しく砲火を散らし、地上の迎撃部隊にも少なからぬ被害を出したが、 レキシントンの護衛についていた護衛艦は全て撃沈し、ただ一隻だけ残り、 他の戦艦とは段違いの耐久力を見せる旗艦レキシントンも、数百門あった 砲門の半数を破壊され、いまや軍隊蟻に取り付かれた猛虎のように、 巨体をもてあましながら、王党派の竜騎士や、対空砲火、遠距離攻撃の 魔法などを受け続けていた。 「敵旗艦はすでに中破、もうこちらにたどり着く余裕はないでしょう。撃沈は、 時間の問題と思われます」 報告を持ってきた兵士の朗報にも、アンリエッタやウェールズは快哉を あげたりはしなかった。戦術的に見れば、いかな大型戦艦とはいっても 七万の大軍には勝てないのは最初からわかっていたことだ。 あの、威容を誇った巨大戦艦も、やはり一隻では圧倒的多数を覆すことは 不可能で、落城寸前の城郭のように全身から炎を吹き上げて、それでも 残った砲門で散発的に攻撃を仕掛けてきているが、それも最後の悪あがきに 近く、もうどんなことをしても逆転は不可能であろう。 だが、すでに勝負の見えた戦いはともかく、アンリエッタはなおもワルドを 相手に戦いを続けるルイズたちの安否を思う心が、重く強くのしかかっていた。 「やっぱり、ワルドは強かったのね。わたしは、あなたたちを行かせるべきでは なかったのかもしれない。けれど……」 義務と私情のはざまで若いアンリエッタは揺れ、この城の中で、今でも足元に 伝わってくる振動に知らされて、遠見の鏡の中で激しく魔法の火花を散らせて、 若い命を危険にさらしている四対一の激闘を見守った。 「ルイズ、頑張って……」 せめて、無事を祈るだけはと、その小さな声は、アンリエッタの口の中だけで つぶやかれ、隣にいたウェールズにも聞こえることはなかった。 だが、古ぼけた城に染み付いた苔のような薄暗い柱の陰から、まるで 地の底から響いてくるような、低く小さいのに、直接頭の中に共鳴する 暗く陰鬱な声が、その場にいた全員の耳に届いてきた。 「ふふふ……ずいぶんな偽善ですな、姫様?」 「!? 誰だ!」 とっさに振り向き、剣を、杖を向けた護衛と王族の視線の先には、 誰もいない部屋の隅の暗がりがあった。しかし、その陽光を嫌うような 湿った影の中から、影よりも濃い黒い服とマントをまとい、同じく漆黒の 帽子で顔の半分を隠した老人が、染み出るように歩みだしてきたのだ。 「ふっふっふふふ……」 「貴様、何者だ? どうやってここに入ってきた?」 並の者ならそれだけで腰を抜かすほどのカリーヌの殺気を浴びせ かれられながらも、平然として薄ら笑いを続ける老人が帽子のつばを あげて顔を見せたとき、アンリエッタはおろかカリーヌさえ背筋に寒気を覚え、 アニエスとミシェルはその恐怖に震えた。 「き、貴様は……」 「ふふふ、そちらの二人とは二度目と……久しぶりですな、ウェールズ王子?」 「なにっ!? 馬鹿を言え、私は貴様など知らないぞ」 突然話しかけられてとまどうウェールズに、老人は不気味な笑い顔を見せると さらにせせら笑うように続けた。 「おやおや、記憶を失っているとはいえ薄情な……あなたに、この国を取り戻す 力を与えてあげたのは、私ではないですか」 「な、なんだと?」 「姫様、王子、おさがりください。こいつは、こいつは……」 顔面を蒼白にして剣をかまえるアニエスと、傷をおして杖を向けるミシェルを なめるように見渡しながら、薄ら笑いを消さない老人の視線が自分を向いたとき、 アンリエッタは魂が吸い取られるような錯覚を覚えながらも、必死に気力を 振り絞って、無礼な闖入者に宣告した。 「何者かは知りませんが、ここにいるのはトリステインの王女と、アルビオンの 皇太子と知っての狼藉ですか。名乗りなさい、あなたは、何者ですか!?」 二つの国の誇りと名誉を背負い、強く言い放ったアンリエッタの言葉が 響いたとき、場は一瞬光が差したように思われたが、その言葉を受けた 老人が含み笑いをしながら、ああそういえば自己紹介がまだだったなと つぶやき、両手を奇術師のように広げて口を開くと、そこは死の恐怖が 支配する暗黒の空間に変貌した。 「異次元人、ヤプール」 最初の一瞬は、誰も動けなかった。 次の一瞬は、その言葉を理解して、恐怖が全身を駆け巡った。 だがその次の瞬間には、たった一人、誰よりも速く己の職責を思い出した カリーヌの放った魔法がヤプールに襲い掛かっていた。 『ライトニング・クラウド!』 威力が衰えているとはいえ、巨像をも一撃で炭にする雷撃が巨人の手のひらの ように老人を包み込み、雷光の檻が包み込んで焼き尽くそうと迫った。しかし…… 「だめだ! そいつに攻撃は」 アニエスの脳裏に、かつて超獣ドラゴリーが現れたときの記憶が閃光のように 蘇ってきたが、叫んだときにはもう遅かった。雷撃は、ヤプールの手前で曲がって、 奴の後ろや天井、床の石畳を粉砕するだけで、その笑いを止めることはできなかったのだ。 「なにっ……」 「やはり……」 あのときと同じだ。奴は何らかの方法で攻撃を無力化している。しかし、まさか 今のでもスクウェアに近い威力があったライトニング・クラウドでさえ、身じろぎも せずに跳ね返してしまうとは。 「無駄なことはやめるといい。私の周りの空間は歪曲し、いかなる攻撃も通す ことはない。猿の頭でも、多少は理解できるだろう」 「貴様……」 異次元人であるヤプールにとって、この程度の空間操作はお手の物だった。 隠す気もない侮蔑の言葉とともに、ヤプールは打つ手が無くなって歯を 食いしばっているカリーヌやアニエスたちを楽しそうに眺めると、わざとらしく帽子を かぶりなおして、アンリエッタとウェールズに向き直った。 「ふふ、さて、うるさい者たちも静かになったところで、直接話をするのは トリスタニアの時以来、およそ半年ぶりかな。王女様」 その言葉に、アンリエッタのまぶたの裏に、ベロクロンによって焼き尽くされた トリスタニアの街と、鼓膜には勝ち誇った声で降伏と奴隷化を勧告してきた ヤプールの声がありありと蘇ってきた。 「あのときのトリスタニア……お前が、お前があの惨劇を作り出したというのですか!?」 「そのとおり、あのときはずいぶんと楽しませてもらったものだ。そうそう……それに、 ウェールズ殿、あなたにも長い間楽しませていただいた。本日は、せめてお礼を 一言ぐらいはと思って参上した次第」 「な、なにを言っているのだ?」 とまどうウェールズに、ヤプールは口元を大きく歪めて笑いかけた。 「聞きたいのかね? よろしければ説明してあげようか」 「耳を傾けてはなりません、ウェールズさま!」 ここで真実を暴かれたら、ウェールズの心は壊れてしまうかもしれないと 恐れたアンリエッタは、ヤプールの言葉をさえぎると、怒りと、義務感で 心の底から引き出してきた勇気を、そのままヤプールに叩き付けた。 「あなたの、あなたのせいで、トリステインもアルビオンも、国も街も、大勢の 人々の命が犠牲に。もうこれ以上の茶番はたくさんです。答えなさい! お前はいったい何者なのです。なぜこんなむごいことを続けるのですか!?」 「ふっ、それがお前たち人間の望んだことだからだよ」 「なっ!?」 「ふふ、我々ヤプールは、生物であって生物ではない。貴様たち人間の 心から生まれる、怒り、憎しみ、悲しみ、嫉妬、嫌悪、そういった邪悪な 思念、マイナスエネルギーが異次元の歪みにたまり、生まれたのが我々だ」 「わたしたち人間の、心から?」 そのとき、さっきの一撃で壁が崩れ、部屋に差し込んできた陽光が老人の 体を照らすと、その影は人間ではなく、全身にとげのようなものを生やした ヤプール本来のシルエットとなって、壁に映し出された。 「我らは暗黒より生まれ、全てを闇に返すもの。自分以外の全てのものの、 屈服と支配を望むのは、お前たちの持つ本能だろう? 見てみるがいい、 あの人間どもの醜態を、同族同士で意味のない殺し合いを延々と続ける。 なんとも楽しい見世物だ」 誰も、反論の余地がなかった。目の前でおこなわれている戦争と、ヤプールの 侵略攻撃のどこが違うと問われて、はっきりと自分を擁護できるほどきれいな 戦いでは、これはない。 「それではお前が、この戦争を画策して、この国に内乱をおこさせたというのか?」 怒気を交えて叫ぶウェールズに、ヤプールはつまらなさそうにかぶりを振った。 「それは違う。我らは人間同士のつまらぬ争いなどをいちいち作り出しはせん。 教えてやろう。この戦争を裏で操る者は我らの他にもいて、我らはそれを 多少利用したに過ぎない、我らの目的は、別にある」 「目的……?」 見ると、これまで人を馬鹿にした笑いを浮かべていたヤプールの顔が、 目つきを鋭く尖らせて、刺す様なオーラを発していることで、奴が遊びを やめて本気になったことがわかり、アンリエッタたちも、これまで天災のように 訳もわからず攻撃を仕掛けてくるヤプールの目的、それが明かされるとなって、 一様に息を呑んだ。そして。 「復讐……」 一瞬、何を言われたのか、誰もが理解できなかった。 「今から数十年前、我らはこの世界と同じように、ある世界の侵略をもくろんだ。 見るがいい……」 すると、部屋の風景が揺らぐように変わり、そこに初めてヤプールが地球への 攻撃をおこなった、ベロクロンの東京攻撃のシーンがホログラフのように 映し出された。 「これはっ!?」 東京の街の風景は、それだけでそこがハルケギニアとはまったく違う世界の ものであることを知らされたが、それよりも傍若無人に暴れまわるベロクロンの姿は、 まさに半年前のトリスタニアを髣髴とされて、蘇ってくる怒りが心に立ち込めた。 だが、トリスタニアと同じように好き放題に暴れるベロクロンの暴虐は、長くは 続かなかった。その前に立ちふさがった者こそ。 「ウルトラマン……エース」 そう、それが今なお続くヤプールとウルトラマンAとの、長い戦いの幕開けで あったのだ。 ベロクロンが倒された後は、場面はめまぐるしく変わり、数々の超獣と エースとの戦いが続き、やがて場面は両者が直接対決した異次元での 巨大ヤプール戦となったが、自ら挑んだ戦いでも最後はエースの勝利で終わった。 「地球の支配をもくろんだ我らの計画は、奴の手によって防がれてしまった。 だが、たとえ死しても我らの怨念は消えることはない」 復活したベロクロン2世、ジャンボキングとの最終決戦などが映し出され、 さらに復活してウルトラマンタロウと戦ったとき、Uキラーザウルスとなって メビウスをはじめとするウルトラ兄弟と戦ったときの光景が、彼女たちを圧倒した。 「我らは、我らを滅ぼしたウルトラ兄弟や人間どもが憎い。だから我らは、 この世界で力を蓄え、一挙に地球を滅ぼそうと考えたが、またしても 奴は我らの前に立ちふさがった。心底忌々しい、奴らウルトラ兄弟、 特にエースへの復讐に比べたら、こんな世界のことなど枝葉にすぎんわ!」 「あなたたちは……本物の悪魔ですね」 これまでの、この世界で失われた命、撒き散らされた悲しみがすべて逆恨みの 生んだ代物だということを理解したとき、彼女たちの心には、怒りをも超えた 何かが生まれつつあった。 「これではっきりしました。今までわたしは、なんのために戦うのかわかりません でしたけれど、あなたたちのような悪魔に、この世界を好きにはさせません!」 それは、アンリエッタからヤプールへの宣戦布告であった。それを受けて、 ヤプールの邪気に圧倒されていたウェールズや、アニエスとミシェル、 そしてその言葉を待っていたカリーヌは、いっせいに武器を向けた。 「アルビオンの民に代わって、私が貴様を倒す」 「覚悟しろ、今度こそ生きて帰れると思うな!」 トライアングル以上のメイジが四人、いかな強力な防御を持っているとはいえ、 これに耐えられるわけはないと思われた。しかし、ヤプールが不敵な笑みを 浮かべながら手を上げた瞬間、彼らの目の前の床が破裂するように下から 吹き飛んで、そこから竜巻に巻き上げられた木の葉のように、才人やルイズたちが 吹き上げられてきた。 「げほっ、うぅ、いったぁ……」 「ルイズ、大丈夫!?」 床に打ち付けられて咳き込んでいるルイズたちに、アンリエッタは駆け寄ると 水魔法で傷を癒していった。幸い、誰も軽傷ですんでいるようだが、なにがあったのかと 問いかけられると、才人が起き上がって剣を構えなおした。 「あの野郎、あの狭い中で『カッター・トルネード』なんか使いやがったら、天井が 抜けるに決まってるだろ。むちゃくちゃしやがって」 つまり、密閉された閉鎖空間で大規模な空気の対流を作り出してしまったために、 全員が飲み込まれて上層階にまで飛ばされたということらしい。しかし、床に 空いた大穴から、遅れてワルドが浮遊するように上がってきて、老人のそばに 着地すると、楽しそうなヤプールの声が響いた。 「ふっ、どうやら役者がそろったようだな」 「お、お前は!? ヤプール!」 「なっ、なんでこんなところに!」 才人とルイズにとってはドラゴリー戦、キュルケとタバサにはホタルンガ戦以来と なる悪魔との思いもよらぬ再会が、四人の背筋を凍らせた。 「お前たちとも、前に会ったな。事あるごとに、よくも我々の作戦の邪魔をしてくれたな。 だが、それもここまでだ。邪魔者がそろった今こそ、まとめて消えてもらおうか」 「そうか! だからこのタイミングで」 「ふははは、貴様らがこの世から消えればこの世界はさらなる混乱に陥るだろう。 そこから生まれるマイナスエネルギーを得て、我らはさらに強大となる。絶望して 死ぬがいい。さあ、巨大化せよ。変身超獣ブロッケン!!」 とっさに、カリーヌやタバサが魔法を放ったが、それもすべてはじかれて、ヤプールの 死刑宣告同然の命令が下ると同時に、手袋を脱ぎ去ったワルドの手のひらの目が 緑色に輝いたかと思うと、体が白色の光に覆われて、見る見るうちに膨れ上がって 部屋の中に満ち始めたのだ。 「いけない! 押しつぶされるわよ」 あっという間に部屋中に満ちていった光から、一同は窓から逃れようとしたが、 光が膨張する速度は予想よりずっと早く、窓のすきまもふさがれて、部屋の隅へと 追い込まれていった。 「お母様、ノワールは!?」 「だめだ、ここで大きくしたら私たちも押しつぶされる」 「いやぁぁっ!」 ヤプールの哄笑が響き渡る中で、部屋の隅に追い詰められたアンリエッタたちは 死を覚悟して、思わず目を閉じた。 だが、膨張する光が床と天井を押しのけて、彼女たちの寄りかかる壁に のしかかろうとしたとき、才人とルイズは皆を守るようにして手をつなぎ、刹那、 古城は降りかかった重量に耐えられずに、轟音を立てて崩壊した。 そして、その瓦礫の中から姿を現す異形の影…… 「ち、超獣だぁーっ!!」 王党派とレコン・キスタを問わずにあがった悲鳴、そこに現れた四本足の ケンタウロスのような姿と鰐のような頭を持った超獣こそ、ワルドに乗り移っていた 者の正体、その名も変身超獣ブロッケンだった。 だが、悪の手が無慈悲に命を奪おうとするとき、それを阻もうとする光の意思も現れる。 あの瞬間、死を覚悟して意識を手放しかけたアンリエッタは、いつまで経っても 痛みも冷たさも襲ってこないことから、ゆっくりと目を開けてみると、自分が不思議な 温かさを持つ銀色の光に包まれているのに気づいた。 「ん……こ、ここは、天国?」 けれども、ゆっくりと手を動かしてみると、自分はまだ死んではいないようで、しかも 周りを見渡せば、そこにはウェールズもカリーヌも、キュルケ、タバサ、アニエスも ミシェルもいて、皆目を覚ますと、不思議と自然に上を見上げて、そこにある希望を見つけた。 「あっ……」 「ウルトラマン……」 「エース!」 そこは、エースの手のひらの上で、彼女たちは城が崩壊する寸前に、エースによって 救い出されていたのだった。 (間に合ってよかった……) 手のひらに乗る小鳥のように、全員が無事に微笑んでいるのを見届けると、ルイズと 才人はほっと胸をなでおろし、そして地面にひざを突いて皆を下ろしたエースは、 城の瓦礫を押しのけながら前進を始めた超獣に向かい合う。 「ヘヤァッ!」 しかし、エースによって全員が助け出されたというのに、ヤプールは異次元空間から 狂喜した叫びをあげていた。 「ふっふっふっ、とうとう現れたなウルトラマンA! さあ、復讐の時だブロッケン!」 崩れ行く城に、鰐と宇宙怪獣の合成超獣と、ヤプールの高笑いがこだました。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第14話 剣の誇り (前編) 奇怪宇宙人ツルク星人 登場! 「ウルトラ・ターッチ!!」 ルイズと才人のリングが合わさり、ウルトラマンAがトリスタニアの街に降り立つ。 メカギラスの襲来から一夜明けたこの日、トリスタニアは新たな脅威に晒されていた。 石造りの建物がバターのように切り裂かれ、崩れ落ちた瓦礫を巨大な足が踏みにじる。 それは、緑色の肌と爬虫類のような顔を持ち、両腕に巨大な刀をつけた怪物。 その名はツルク星人、かつて地球で数多くの人間を惨殺し、ウルトラマンレオを苦しめた凶悪な宇宙人だ。 「タアッ!!」 エースは構えをとり、ツルク星人を見据える。だが、いきなり攻撃を仕掛けることはしない。なぜなら、星人の 両腕に取り付けられた刀は、例え鉄でも軽々切り裂く恐るべき武器で、直撃されたらウルトラマンでも危ないからだ。 しかし、両者の均衡は、両手の刀を振りかざして猛然と襲い掛かってきた星人によって破られた。 「シャッ!!」 エースは宙に飛び、太陽を背にしてツルク星人に空中から攻撃を仕掛ける。星人は、慌てて空へ跳んだエースの 姿を追うが、真っ白な太陽の光がその視界を真っ黒に染め上げた。 「デャッ!!」 必殺キックが星人の顔面に直撃! ふらつく星人にエースは機を逃さずにパンチやキックを打ち込む。 だが、視力の戻った星人は猛然と両腕の刀で反撃に出てきた。 30メイルはあろうかという巨大な刃がエースに向かって振り下ろされ、間一髪エースは後ろへ飛びのいてかわしたが、 星人は蟷螂のように2本の刀を振ってエースを追い詰め、空気を切り裂く音が鳴る度に、建物が切り裂かれて 崩れ落ちていく。 こんなとき、格闘能力に優れたレオならば、星人の刀を受け止めて反撃をおこなえるが、残念ながらエースに そこまでの格闘センスはない。ただし、エースにもレオにはない武器がある。 そして、完全に調子に乗った星人は、一気にエースを仕留めるべく、両手の刀を同時に振りかざしてエースに 飛び掛ったが、実はこれこそエースの狙いであった。 闘牛のように突進してくる星人に、エースは両手をつき合わせて向けると、その手の先から真赤に燃える 灼熱の火炎がほとばしる!! 『エースファイヤー!!』 火炎は星人の顔面を直撃、突進の勢いでかわすこともできずに見事カウンターの形で命中したそれは、 トカゲのような星人の皮膚の表面を瞬時に気化させて、爆発まで引き起こさせた。 煙が晴れたとき、星人は顔面を黒こげにして両手で傷口を押さえ、反撃も忘れて金切り声をあげてもだえていた。 「テェーイ!!」 エースは、顔面に大火傷を負って戦意を失った星人に怒涛の攻撃を炸裂させる。 チョップ、パンチ、キックが星人のボディに次々と吸い込まれ、その体力を削ぎ取っていく。 「ダァァッ!!」 とどめに、エースは星人の右腕の刀の峰の部分を掴み、思い切り放り投げた。 瞬間、地響きを立てて星人は大地に叩きつけられる。そして、フラフラになりながらも立ち上がってきた星人に、 エースは体を左に大きくひねり、その両腕をL字に組んだ。 『メタリウム光線!!』 赤、黄、青に輝く美しい光線が放たれる。だが、なんということか、星人はメタリウム光線が放たれるよりも 一瞬だけ早く、残った力で宙へ飛び上がり、光線をかわしたかと思うとそのまま煙のように消えてしまったのだ。 (しまった! 逃げられた) まだ星人に逃げを打つ余裕があったことを読み違えたエースは、星人の消えた空を見上げたが、すでに 星人の姿はどこにもなかった。残ったのは、青い空と、廃墟となった街を駆け抜ける静かな風のみだった。 「……ショワッチ!!」 確かに深手は負わせた。だが星人はまだ死んではいない、飛び立ったエースの胸中には一抹の不安がよぎっていた。 「この犬ーっ!! あんたのせいで奴に逃げられちゃったじゃないのよー!!」 「えーっ!? なんで俺!?」 変身を解いた後、才人はなぜか激怒しているルイズの理不尽な怒りを一身に受けていた。 「普段役に立たないんだから、こういうときくらいきちんとサポートしてなさいよ。この、この!!」 「そう言われても、まさかあそこで逃げられるとは思ってもみなかったし。それに、俺普段からけっこう役に立ってるんじゃないか?」 腹が立って反論してみた才人だったが、これがまずかった。 「なあに、あんたご主人様に反抗する気? そう、昨日はあれだけ頑張ったってのに、あの事なかれ主義の 鳥の骨のおかげで姫様にまで心労をかけてしまって、これで勝てばお心も晴れると思ったのに、後一歩ってところで」 それで才人にもルイズの不機嫌の合点がいった。要は姫様命のルイズのマザリーニへの不満の八つ当たりだ。 鞭を振り上げるルイズに、こういうときどんな弁明をしても逆効果だと学習してきた才人はとっさに話題を変えた。 「ちょ、それよりも、逃げた星人のことが問題だろ」 すると、どうにか効果があったようで、ルイズは鞭を下ろすと少し考えて言った。 「ち、まあ、そうだけど……たいして強い奴じゃなかったじゃない。また来ても別に怖くないわ」 確かに、ツルク星人は両腕の刀を除けばたいした武器は持っていない。かつて宇宙パトロール隊MACは これに苦戦し、ウルトラマンレオも一度は敗退したが、当時のレオは地球に来たばかりで、それまでの ウルトラ兄弟と比べて格段に技量が劣っていたころだったし、MACも結成されたばかりで、実戦は マグマ星人と双子怪獣のみというあたりだったから仕方が無い。 ただし、才人が言おうとしているのはそういうことではなかった。 「あいつがヤプールの息がかかっているのはまず間違いない。けど、前回のメカギラスといい、なんで超獣じゃなくて 宇宙人を送り込んできたかってのが問題なんだ。大して強くもないやつを」 「? ……そりゃあ、超獣がいなかったからじゃないの?」 適当に言った答えだったが、意外にもそれは才人の考えを射抜いていた。 「実は俺もそう思う。ここに来る前に、ロングビルさんに話を聞く機会があったんだけど、ヤプールに 洗脳される直前に「今エースを倒せるほどの超獣を作り出せるほど余裕が無い」って言ってたそうだ。 多分、まだヤプールは次々超獣を作り出せるほど復活してないんじゃないかな」 「だから、手下の宇宙人を使ってるってこと?」 才人はうなづいた。 ヤプールは超獣だけでなく、多数の宇宙人をも配下にしていることは知られている。アンチラ星人、ギロン人 メトロン星人Jrなどである。近年ではテンペラー、ザラブ、ガッツ、ナックルの4大宇宙人を操って神戸の街を 破壊し、ウルトラ兄弟と激戦を繰り広げたのはまだ記憶に新しい。しかもこの場合は本人達も自覚せぬうちに 精神を支配され、操り人形にされていたというのだから恐ろしい。 また、そうでなくてもバム星人のように侵略の分け前を狙ってヤプールにつく宇宙人も大勢出てくることだろう。 だがルイズはまだことの深刻さを理解してはいないようだった。 「別にけっこうなことじゃないの? 超獣なら苦労もするけど、あんなやつしかいないならエースなら楽勝でしょ」 「そりゃ巨大化したならな、けど宇宙人は頭がいいから……」 「あーっ! もういいわよ。どっちみちまた出たならやっつければいいだけでしょ。それよりもうすぐ学院に帰る馬車の 時間よ。昨日のことはしょうがなかったけど、これ以上サボるわけにはいかないからね」 そうだ、ルイズはあくまで学生で、授業を受けなければならないという義務がある。そして、本来そちらが 怪獣退治より優先されるべきことなので、才人も強くは言えなかったが、どうしても逃げたツルク星人のことが 気になって、もう一度だけ頼んでみた。 「なあ、もう1日この街にとどまれないか?」 「だめよ、さっさと帰らないと授業についていけなくなるわ。あんたわたしを留年生にするつもり? 心配しなくても、 あれだけ深手を負わせたんだから当分出てこないわよ。出てきたらそのときは学院にも連絡が来るから、飛んで いけばいいでしょ。さっさと行くわよ」 残念ながらにべもなかった。 しかし、ツルク星人の行動パターンから、どうしても心のなかから不安が消えることはなかった。 そして、才人にはどうしても気になることがもうひとつあった。それは地球で2006年から2007年に異常に怪獣や 宇宙人が頻繁に襲来してきた時期、それが実はヤプールが特殊な時空波を使って呼び寄せていたためであり。 もし、ハルケギニアでも同じことをされたら…… その後、魔法学院に帰ったルイズ達は午後からの授業に出席し、その間才人はルイズの部屋の掃除や、 街であったことのオスマン学院長への報告、その後は食堂の手伝いをしてシエスタ達と夕食を食べて夜を迎えた。 「ふわぁぁ……じゃ、明日またちゃんと起こしなさいよね」 「ああ、お休み、ルイズ」 部屋の明かりが消え、ルイズはベッドで、才人はわら束でそれぞれ横になった。 それから数分後、ルイズが寝息を立て始めたのを確認すると、才人は静かに起きだして出かける支度を整えると、 部屋を抜け出してオスマンに会って事情を説明し、ロングビルに馬を一頭貸してもらうように話をつけた。 厩舎は、さすがに深夜のため静まり返っていたが、なぜかそこで見慣れたメイド服を見つけてしまった。 「シエスタ?」 「あっ、サイトさん! ど、どうしてこんなところに!?」 「それはこっちの台詞だよ。女の子がひとりでこんな人気の無い場所にいたら危ないだろ」 「い、いえわたしは同僚が急病で、代わりに厩舎の見回りに来てたんですが、サイトさんこそなんでこんなところに?」 どうやら、鉢合わせしたのは本当に偶然だったらしい。だが、これもなにかのめぐり合わせと、才人は 部屋に残したままのルイズのことを頼むことにした。 「そうだ、ちょうどいいや。ちょっと街まで行くから馬を一頭借りていくよ。学院長にはもう話を通してあるし、 何も無ければ朝には帰ってくる。けど、もし戻れなかったときはルイズによろしく言っといてくれ」 「えっ、どういうことですか!?」 「ちょっと気になることがあってな。あいつに授業サボらせるわけにはいかないから俺一人で行ってくる。 洗濯がどうとか言うと思うが、悪いけど適当に相手してやってくれ」 そう言うと、才人はロングビルに比較的大人しくて扱いやすいと言われた馬にまたがると、不慣れな手つき ながら手綱を握った。 「じゃあシエスタ、頼めるかな?」 「わかりました。事情はわかりませんが、何かお考えがあってのことですね。ミス・ヴァリエールのお世話は お任せください。けど、早く帰ってきてくださいね」 心配そうに見つめているシエスタに、才人は出来る限りの笑顔を向けると、ルイズの見よう見まねで馬に 鞭を入れて、夜の街道へと走り出した。 一方そのころ、トリスタニアの街では、深夜だというのに街中をたいまつやランタンを持った兵士が行きかい、 まるで昼間のように騒々しい体をなしていた。 「おい、そっちにいたか?」 「いや、こっちはいない」 「おい!! 5番街のほうでまた二人やられてるぞ」 「なに!? くそっ、これでもう15人目だ、いったいどうなってやがるんだ」 街中を右往左往する彼らの中を不吉な情報が飛び交っていく。 事の発端はこの2時間ほど前、酒場から自分の屋敷に帰ろうとしていた、ある中級貴族が突然襲撃 されたことから始まった。 襲撃者は、いきなり彼らの眼前に現れると、先導していた従者を斬り殺し、一行に襲い掛かってきた。 もちろん、その貴族は酔いを醒まし、即座に『エア・ハンマー』の魔法で迎え撃ったが、なんとそいつは ジャンプして空気の塊を飛び越すと、そのまま目にも止まらぬ速さで次の呪文を唱えている貴族を鋭い 刃物で胴から真っ二つにしてしまった。 残った使用人達は、主人が殺されるや、蜘蛛の子を散らすようにバラバラになって逃げ出した。そのうちの 一人が衛士隊の屯所に駆け込み、事を話すとただちに詰めていた20人ほどの衛士が現場に急行したが、 すでに犯人の姿は無く、無残な遺体を目の当たりにして、彼らは口を覆った。 だが、この夜の悪夢はまだ始まったばかりであった。 引き上げようとする彼らの元へ駆けて来た伝令が、2リーグほど離れた場所での同様の事件を報告してきた のを皮切りに、街のいたるところで貴族、商人、見回りから物乞いにいたるまで次々と殺人が起きていること が明らかとなり、衛士隊はこれが自分達の職務を超えていることを知って、王宮に救援を求めるとともに、 非番の者も召集してのトリスタニア全域の一斉封鎖を開始した。 しかし、千人近くを動員しての捜索にも関わらずに、犯人の行方はようとして知れなかった。 唯一、目撃者の証言によれば、悪魔のような風体をした亜人で、両腕に巨大な刀をつけていて、猿のように 身軽であることがわかっているくらいだった。 「おい、裏通りでまた一人殺されてる!」 「ちきしょう、いったいどこに隠れてやがるんだ」 彼らの必死の捜索も虚しく、犠牲者の数は増え続け、遂に首都全域に戒厳令が敷かれるにいたった。 「こちら、王立魔法衛士隊です。現在トリスタニア全域に戒厳令が公布されました。市民の皆さんは許可が あるまで決して屋外に出ないでください。外出している人は、すみやかに最寄の建物に入ってください。 こちらは王立魔法衛士隊です。非常事態により、現在トリスタニア全域に戒厳令が敷かれています……」 上空からヒポグリフやグリフォンに乗った騎士達が、鐘を鳴らしながら市民に呼びかけていた。 混乱を避けるために、正体不明の殺人鬼が徘徊していることは伏せられていたが、慌しく駆け回る兵士達の 姿を見たら、いやがうえでも住民の不安はつのる。もたもたしている時間は無かった。 だが、それから1時間後に、必死の捜索が実り、遂に街道近くの馬車駅で怪人を捕捉することに成功した。 「屋根の上だ、取り囲んで退路を塞げ!!」 「照明だ、奴を照らし出せ!!」 兵士達が駅の周りを取り囲み、魔法衛士隊が空中から目を光らせる。 そして、火系統のメイジが放った魔法の明かりがそいつを照らし出したとき、とうとう怪人はその禍々しい姿を 人々の前に現した。 歪んだ鉄のマスクのような顔と赤く爛々と光る大きな目、しかもその顔の半分はどす黒く焼け爛れていて 醜悪さを増し、さらに黒々とした体表と手の先にだけ毛を生やし、両手の先を死神の鎌のような巨大な刀にした 姿はまさに悪魔と言うにふさわしかった。 「あ、亜人?」 「いや、悪魔、ありゃ悪魔だ!!」 兵士達の間に動揺が走る。その隙を怪人は見逃さなかった。 「跳んだ!?」 壊れた弦楽器のようなこすれた声をあげ、怪人は屋根の上から人間の5倍以上はある跳躍を見せ、眼下の 兵士達に襲い掛かった。 たちまち逃げる間もなくふたりの不幸な兵士が鎧ごと胴体を真っ二つにされて息絶える。もちろん、怪人の 攻撃はそれで終わりはしない。 「む、向かい撃て!!」 隊長の叫びで、恐怖に支配されかかっていた兵士達は、それから逃れようと叫び声をあげて怪人に 斬りかかっていくが、その勇敢だが無謀な行為はすべて彼らの死であがなわれた。 「平民共、どけ!!」 あまりにも一方的な展開に、魔法衛士隊が高度を下げて参戦してきた。別に平民を助けようとか思ったわけ ではなく、兵士達がやられている間何をしていたのかと後で叱責されるのを避けるためだったが、結果的に 兵士達は逃げ延びる時間を得ることができた。 「エア・カッター!!」「フレイム・ボール!!」 魔法衛士隊は高度20メイルほどから攻撃を開始した。それ以上高くては闇夜で狙いを定められず、低くては 反撃を受ける恐れがあるための絶妙な位置加減だったが、怪人の身体能力は彼らの予測を大きく上回っていた。 怪人は、放たれた魔法を俊敏な動作ですべて避けきると、そのままジャンプして両腕の刀を二閃させ、 ヒボグリフとその主人を兵士達同様に切り裂いてしまった。 「そんな馬鹿な、あいつは本物の悪魔か!?」 王国最精鋭の魔法衛士隊ですら軽々と餌食にしてしまった怪人に、否応も無く兵士達の恐怖心はつのる。 残った魔法衛士隊は仲間のあっけないやられ様に怒りを覚えたが、同時に未知の敵への恐怖心も強く、 高度を上げて逃げてしまい、地上の兵士達は再び死神の鎌の前に差し出された。 「うわあっ、た、助けてくれえ!!」 すでに兵士達は逃げ惑う羊の群れでしかなかった。 怪人は、まるで狩りを楽しむかのように彼らの背後に迫っていく。 だがそのとき、怪人の足元に突然多数の銃弾が殺到して火花を散らせ、怪人の動きが止まった。 「王女殿下直属銃士隊、参る」 それは、王宮から急行してきたアニエス率いる銃士隊の放った援護射撃だった。 「第2射、撃て!!」 副長ミシェルの命令で後列に構えていた隊員達が銃を放つ。彼女達の装備している銃は前込め式の単発銃 なので連射するためには射手が複数いるか、あらかじめ銃を複数持っているしかないからだ。 だが、怪人は立ったままほとんどの弾丸をその身に受けたにもかかわらず、平然としていた。 「銃が効かんか、なら切り倒すまでだ、かかれ!!」 副長の命令で銃士隊は全員抜刀して怪人を包囲しにかかった。 銃士隊は、王女の直属警護部隊に抜擢されるだけあって、接近戦では一人で一般兵士の5人分に相当する 強さを見せるとも言われ、さらに集団戦法を用いれば無類のチームワークで凶暴な亜人とも渡り合うこともできる。 今回の戦法は、かつて辺境の村を襲ったオーク鬼を包囲し、集中攻撃で仕留めたときの布陣であったが…… 「やれ!!」 合図とともに二人の銃士隊員が同時に斬りかかる、しかし怪人はそれより早く動いて一人を切り伏せると、 返す刀でもう一人に襲い掛かり、とっさにその隊員が盾にしようとした剣ごと彼女を切り裂いてしまった。 「ミーナ、シオン!! おのれっ!!」 仲間を殺され、怒る隊員達の声が夜空に響く。だが、怪人はまるで殺しを楽しむかのように刀をゆらゆらと 降って余裕を見せてきた。 「なめおって、こうなれば一斉攻撃だ。全員かかれ!!」 ミシェルの声とともに隊員達は一斉に剣を振りかぶる。 だが、彼女が指揮を執っていることに気づいた怪人は隊員達が動くより早く、刃を彼女に向けて飛び掛ってきた。 「くっ!?」 とっさに剣を抜いて受け止めようとしたが、一刀で剣の刃を根元から切り落とされて、丸腰にされてしまった。 そしてその悪魔の刃が次に彼女の首を狙った、そのとき。 「待てーっ!!」 馬の蹄の音とともにやってきた叫び声が彼女達の動きを止め、怪人もそちらに注意を向けた。 「あいつは!?」 彼女達はその声と姿に覚えがあった。 「ツルク星人ーっ!!」 そう、2時間前に学院を出発した才人がようやくトリスタニアに駆けつけてきたのだ。 彼は、駅で暴れているのがツルク星人だと知ると、すぐさま馬を駆けさせ戦いに割り込んだ。 等身大ではすさまじく素早いツルク星人にはガッツブラスターは通用しない。彼はデルフリンガーを引き抜くと 馬から飛び降りた。すると、左手のガンダールヴのルーンが輝き、彼に銃士隊さえ超える俊敏さが備わり、 そのまま勢いのままに上段から思い切り振り下ろした。 「くっ!」 だがやはり正面からの攻撃では星人に避けられてしまった。さらに、体勢を立て直そうとしたところに 星人が右腕の剣を振り下ろしてくる。彼はなんとかそれを受け止めたが。 「相棒、伏せろ!!」 「!?」 デルフの声に従い、才人はとっさに身をかがめた。直後、彼の首のあった空間を星人の左手の刃が 風を斬りながら通り抜けていった。 「次は左だ!! かわせ!!」 息つく間もなく星人の攻撃は続く、才人はデルフの指示に従って、嵐のような星人の連続攻撃を しのぐ。自称伝説の剣であるデルフリンガーはなんとか星人の刀との打ち合いに耐えていたが、 ガンダールヴで強化された才人の動体視力を持ってしても、星人の2本の刀の攻撃は見切りきれずに、 どんどん追い詰められていった。 「うわあっ!?」 「相棒!!」 ついに才人は星人の剣撃に耐えられず、デルフリンガーごと吹っ飛ばされてしまった。 地面に倒れこむ才人にとどめを刺そうと星人の剣が迫る。そのとき!! 「でやぁぁっ!!」 突然飛んできた一本の剣が、いままさに才人に向かって剣を振り下ろそうとしていた星人の顔の 中央に突き刺さった。 その剣は、星人の頑強な皮膚に阻まれてほんの数サントしか刺さっていなかったが、それでも 星人は顔面を押さえて苦悶し、金切り声をあげると、夜の闇の中へと跳躍して姿を消した。 「や、やった……」 「隊長……」 その剣はアニエスが投げたものだった。彼女は星人の気配が完全に無くなったのを確認すると、 隊員達に負傷者の収容をするように命じて、才人とミシェルに向かい合った。 「また会ったな、少年。確か、ヴァリエール公爵嬢の使い魔だったか、先日はお前のおかげで大変 世話になったな」 「あ、その節はどうも」 どうやら、ルイズの爆発に巻き込まれて城の床で一晩越せさせられたのを根に持たれていたらしい。 しかし、嫌味はそのくらいにしてすぐさま本題に入ってきた。 「さて、お前はさっきあの怪物のことを"ツルクセイジン"とか呼んでいたな。しかも、ヴァリエール嬢は 魔法学院に帰ったというのに、使い魔のお前だけがこんな時間にこんな場所になぜいる? お前は 何を知っているんだ」 有無を言わせぬ強い口調と、嘘を許さぬ鋭い眼光でアニエスは才人に迫った。 才人は、ごまかしきれないと思い、知っていることを話すことにした。 「あいつはツルク星人、昨日城を襲ったバム星人と同じく、昔俺の国を荒らした奴の仲間で、多分 ヤプールの手下さ。昼間エースに深手を負わされたから、もしかして仕返しに来るんじゃないかと 思って来てみれば案の定だったよ」 「昼間エースに? あの怪獣のことか、だが奴はあれとは姿形がまったく違うぞ」 「ツルク星人は巨大化時と等身大時では姿がまったく違うんだよ。ただ、両腕の鋭い刀と、昼間の 戦いでエースの火炎でつけられた顔面の火傷の跡はそのままだったろ」 怪訝な表情をするアニエスに才人は、ツルク星人の特徴を説明していった。等身大と巨大化時で 姿がまったく違う星人には、他にカーリー星人、バイブ星人、ノースサタンなどがいて、どいつも 等身大時は並外れた格闘能力を誇る、おそらくは状況に合わせた星人なりのタイプチェンジなの だろうが、ツルク星人はその中でも特に凶悪で残忍な部類に入る。 「なるほど、わかった。しかし、ウルトラマンさえ取り逃した相手を、たった一人で止めようとは、 剣術に優れているのは分かるが、自惚れているのではないか?」 するとデルフが鞘から出てきて、カタカタとつばを鳴らしながらアニエス達に言った。 「確かにそうかもな。だがな、さっき相棒が飛び込まなかったら、そっちの副長どのは間違いなく 殺されていた、いやあ、そのまま全滅していただろうな」 「なに、貴様!!」 「よせミシェル、少し頭を冷やせ。それで、講釈はもうそれで十分だ。あと聞きたいことはひとつ、 奴の仲間は昔貴様の国で暴れていたと言ったが、そのときはどうやって倒されたんだ?」 さすが、現実的な思考をしているなと才人は感心した。あれだけの力の差を見せ付けられながら、 もう次に勝つ手段を模索しているとは。 「ああ、以前はウルトラマンレオ、エースの仲間だけど、彼が戦ってくれたんだが、最初の戦いでは 残念ながら星人に負けてしまったんだ」 「ウルトラマンが、負けた!?」 「ウルトラマンだって、別に神じゃない。あんたらもさっき見ただろう、奴は剣の一撃目をかわしても、 受けても、もう一本の刀で二段攻撃を狙ってくる。それをかいくぐって星人本体を狙うのは並大抵の ことじゃない」 「だが、最初の戦いということは、彼は次の戦いで奴に勝ったのだろう。言え、星人の二段攻撃を 破り、奴を倒したその戦法を」 才人は少し逡巡したが、やがて一言だけ口にした。 「三段攻撃だ」 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
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7.灼眼のルイズ (ルイズ) 女 髪が短くボーイッシュな外見。性格も少し威圧的であるが、精神的には弱い。打たれ弱く、状況に混乱することも多々ある。 外見や性格の割には運動神経が乏しいため、自分の中で葛藤を抱えている部分も見られる。 自信をなかなか持てず、ひとりという環境が苦手なため、必ず誰かに頼ろうとする。その部分が他人にとっては迷惑、鬱陶しがられることもしばしば。言われたことは出来る、だが自分からするのは苦手。人に暴力を振るうのは平気だが、傷を負わせるレベルまで行くと強い罪悪感に襲われる。 頭はそれなりに働く方で、臨機応変な判断が出来る(ただしそれを行う実行力はあまりない) 武器の扱いに関しては出来ない方だと言える。 過去にいろんなことから逃げてきたのか、何事からも逃げだそうとする姿勢がときどき見られる。
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前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百三十七話「四冊目『THE FINAL BATTLE』(その1)」 スペースリセッター グローカーボーン 登場 『古き本』も遂に三冊、半分を完結させることに成功した。するとそれまでずっと眠り続 けていたルイズが目を覚ました! 喜びに沸く才人たちであったが、現実はそう甘くはなかった。 目覚めたルイズは、全ての記憶を失っていたのだ。自分の名前すら思い出せないありさま。 ぬか喜びだったことが分かり、才人たちは思わず落胆してしまった。 やはり、『古き本』の攻略は最後まで進めなければならないようだ。 三冊目攻略の翌朝、ルイズの看護を担っているシエスタが、ルイズのいるゲストルームに入室する。 「おはようございます、ミス・ヴァリエール。お加減は如何ですか?」 ルイズは既に起床していた。ベッドの上で上体を起こしている彼女は、シエスタの顔を 見返すと清楚に微笑んだ。 「シエスタさん、おはようございます」 「おはよう……ございます……!?」 ルイズの口からそんな言葉が出てくることに激しい違和感に襲われるシエスタ。本来の彼女は、 平民のシエスタに絶対に敬語を使ったりはしない。 「はぁ……ほんとに記憶の一切を失っちゃったんですね、ミス・ヴァリエール……」 「……ごめんなさい……」 ため息を吐いたシエスタに、ルイズは悲しげに眉をひそめて謝罪した。 「えッ?」 「どうやら、わたしが記憶を失っていることで、みんなを悲しませているようですね。さっき サイト……さん、だったかしら。彼も、どこか落ち込んでいられたようでした」 ルイズはルイズなりに、自身の状況を憂いているようだ。 「それでも、みんな笑顔を見せてくれる。それが、とっても悲しいの……。わたしを心配 してくれた人たちのことを、何も覚えていないなんて……」 「ミス・ヴァリエール……」 悲しむルイズの様子に胸を打たれたシエスタは、懸命に彼女を励ました。 「大丈夫ですよ! 必ず、サイトさんがミス・ヴァリエールの記憶を取り戻してくれます!」 そうして看護を行うシエスタは、密かにジャンボットにルイズのことを尋ねかけた。 「ジャンボットさん、ミス・ヴァリエールの記憶を他の手段で戻すことは出来ないんでしょうか?」 ルイズの脳を分析したジャンボットが回答する。 『難しいな……。記憶中枢が不自然に失活している。無理に回復させようとしたら、余計に 悪化させてしまうことだろう。最悪、一生障害が残る身体になってしまうかもしれない。 やはり、原因たる『古き本』をどうにかしなければならないだろう』 「そうですか……」 ジャンボットたちの力でもどうにもならないことを知って落ち込むシエスタ。彼女は同時に、 才人が残り三冊分も危険な戦いをしなければならないことに胸を痛めていた。 「……ところで、問題のサイトさんはどこに行かれたのでしょうか?」 『リーヴルのところへ行ったようだな』 才人は本件に対して、重要な鍵を握っているだろうリーヴルに直接話を聞きに行っていた。 リーヴルはおっとりした雰囲気に反して用心深いようで、何かを隠していることは確実なのだが それが何なのかは、タバサの調査でも解き明かすことが出来ないでいた。それ故、本人から 探り出そうと突撃したのだった。 しかし真正面から「何を隠しているんだ?」と問うたところで正直に答えるはずがない。 そこで才人は若干遠回しに攻めてみた。 「リーヴル、あんたは俺たちに随分協力的だよな。何日も図書館の部屋を貸してくれたり……」 「当図書館で起きた問題ならば、司書の私に責任がありますから」 「そうかもしれないけど……実は、リーヴルにも何か得することがあったりするのか? だからやたら親身になってくれるんじゃないかなって」 と聞くと、リーヴルはこんなことを話し始めた。 「……少し、私の話を聞いていただけませんか? ちょうど相手が欲しかったんです」 「え? 話って……?」 リーヴルは、昔話のような形式で話を語った。それは、小さな王国の民を愛する女王が、 可愛がっていた娘の患った重い病を治すために、悪魔と契約したという内容だった。 悪魔は女王の娘の病を治す見返りとして、女王の大切にしていたものを要求した。そして娘が 回復すると同時に……王国中が炎に巻かれ、悪魔の契約によって国民全員、果ては世界中の国々が 滅んでしまった。 その様子を見た女王は、娘に告げた。「あなたの病気が治って本当によかった」と……。 「……嫌な話だな。作り話にしたって、その女王様はわがまま過ぎるだろ」 聞き終えた才人は率直な感想を述べた。するとリーヴルが反論する。 「そうでしょうか? 悪魔以外に娘の病気を治せる者はいなかったんですよ? 娘が治るなら、 どんな代償だって……」 「でも、罪のない人たちを巻き込むのは間違ってるって」 「他人は他人。大事な人と世界……天秤に掛けるまでもなく、どちらが重いかは明白じゃないですか。 大事な人がいなければ、世界なんて何の意味も……」 そう語るリーヴルに、才人は返した。 「いや……俺は大事な人だけがいればいいなんて、それが正しいなんて思えない」 「……?」 「その女王様の話だってさ、世界に娘と二人だけしかいなくなって、それからどうやって 生きていくんだ? 多分、すぐ不幸になるさ。俺の経験から言うと、現実の世界ってそんな 甘いものじゃあないからな。それじゃあ、娘を治した意味なんてないじゃないか」 「……それはそうかもしれませんが……」 才人の指摘に戸惑うリーヴルに、才人は続けて語る。 「それにさ……大事な人、大事なものって言うのは、案外その辺りにたくさん転がってるものだよ。 俺は今シュヴァリエの称号を持ってるけど、それは今助けようとしてるルイズがいただけで得られる ものじゃなかった。シエスタやタバサ、魔法学院で出来た友達や先生の教え、他にも行く先々で 出会った人たちが俺に教えてくれたものがなければ、今の俺は確実になかったし、どっかで野垂れ 死んでたかもしれない。だから俺は、一人を助けられたらそれでいいなんてのは間違いで、みんなを 助ける! それが正しいことだと思う」 ハルケギニアに召喚される以前の才人ならば、リーヴルの言うことにある程度は納得した かもしれない。だが今は違う。多くの出会いと経験を積み重ねて、成長した才人はもっと 大きな視点から物を考えられるようになったのだ。 才人の意見を受けたリーヴルは、しかし彼に問い返す。 「みんなを助ける、と言いますが、あなたにはそれが簡単に出来るのですか? たとえば 先ほどの話ならば、悪魔にすがる以外に方法などありません。それとも、娘を見捨てろとでも?」 それに才人ははっきりと答えた。 「もちろん、簡単に出来ることじゃないだろうさ。失敗してしまうかもしれない。……だけど、 俺だったら最後まであきらめないし、妥協しない! どんなに苦しくたって、みんな助かる道を 最後まで探し続けるぜ!」 「……」 才人の言葉を聞いて、リーヴルはうつむいて何かを考え込んでいたが、やがてすっくと立ち上がった。 「少し、話し込んでしまったようですね……。本日の本の旅の時間です。準備は整っていますので、 あなたもご用意を」 「あ、ああ」 背を向けて立ち去っていくリーヴルを見送って、才人はゼロに呼びかけた。 「ゼロ、さっきのリーヴル話には何か意味があったのかな」 『わざわざあんな話をしたってからには、伝えたいものがあったんじゃないかとは思うな』 「じゃあ、さっきの話の中に真実が……もしかして、リーヴルは誰かを人質にされて俺たちを 本の世界に送ってるのかな?」 『そんな単純な話でもないと思うがな……。何にせよ、全ての本を完結させることについての リーヴルのメリットが分からないことには、何の断定も出来ないぜ』 話し合った二人は、それでも念のため、リーヴルの周囲に誰か消えた人がいないかということを タバサに調べてもらおうということを決定した。 そうして四冊目の本を選ぶ場面となった。 「それでは始めましょう。サイトさん、本を選んで下さい」 残るは三冊。それぞれを見比べながら、才人はゼロと相談する。 『ゼロ、次はどれがいいかな』 『次は……なるべく知ってる奴が主役の本を片づけていこう。ってことでその本だ』 ゼロが指定したのは、青い表紙の本であった。 「この本ですね、分かりました。では、良い旅を……」 『古き本』の攻略も折り返し地点。才人とゼロは四冊目の世界へと入っていった……。 ‐THE FINAL BATTLE‐ 宇宙の悪魔サンドロスが撃退されてから数年、壊滅してしまった遊星ジュランの復興とともに、 怪獣と人間の共生する世界のモデルを築く『ネオユートピア計画』の始動の時が近づいていた。 その第一歩として怪獣をジュランへ輸送する大型ロケット『コスモ・ノア』が建造され、その パイロットには春野ムサシが選ばれた。どんな苦難にも夢をあきらめなかった青年の奇跡が、 実現しようとしているのだ……。 しかし、宇宙開発センター上空に突然謎の円盤が出現。円盤から投下された巨大ロボットが、 コスモ・ノアを狙う! それを阻止したのは、ムサシとともに数々の脅威に立ち向かった英雄、 ウルトラマンコスモス! コスモスはロボットを破壊するものの、円盤からは次々にロボットが 現れる。コスモスの窮地にムサシは今一度彼と一体となり、ロボットの機能を停止させた。 これで当面の危機は凌げたように思われたが……そこに現れたのは、サンドロスとの戦いの時に コスモスを助けてくれたウルトラマン、ジャスティス。しかもジャスティスはロボットを再起動 させたばかりか、コスモスに攻撃してきたのだ! 赤いモノアイのロボット、グローカーボーン二体を張り倒したコスモス・エクリプスモードに、 ジャスティスは右拳からの光線、ジャスティススマッシュで攻撃する。 『ジャスティス、何故だ!?』 ムサシの問いにジャスティスは、駆けてきての蹴打で答えた。 「デアッ!」 かわしたコスモスにジャスティスは容赦なく蹴りを打ち続ける。何かの間違いではなく、 ジャスティスは明白にコスモスに対する攻撃意思を持っている! 『待て!』 訳が分からず制止を掛けるムサシに構わず、ジャスティスはコスモスの首を鷲掴みにして締め上げる。 「ウゥッ!」 『どうして……ウルトラマン同士が戦うんだ……!』 混乱するムサシ。ジャスティスはやはり何も言わないまま、コスモスをひねり投げた。 「デアァッ!」 「ウアッ……!」 反撃せず無抵抗のままのコスモスに対して、ジャスティスは容赦なく打撃を浴びせ続ける。 その末にコスモスを力の限り蹴り倒す。 「デェアッ!」 「ムサシーッ!」 コスモスが倒れると、ムサシのチームEYES時代の先輩であり、新生チームEYESのキャップに 就任したフブキが絶叫した。本来ムサシに個人的に会いに来ただけであり、非武装の今では コスモスを助けることは出来ない。 「ゼアッ!」 よろよろと起き上がるコスモスに、ジャスティスは再びジャスティススマッシュを食らわせた。 その攻め手に慈悲はない。 「グアァッ!」 「ムサシ! コスモス立てー!」 一方的にやられ、カラータイマーが赤く点滅するコスモスを、フブキが駆けていきながら 懸命に応援する。 「ジュッ……!」 「立て! コスモス! ムサシー!」 コスモスがやられている間に、グローカーボーンが起き上がって、両腕に備わったビームガンから コスモ・ノアに向けて光弾を発射した! 『やめろぉッ!』 叫ぶムサシ。コスモ・ノアが危ない! ――その時、空の彼方からひと筋の流星が高速で迫ってきて、コスモ・ノアの前に降り立った! 「あれは……!?」 「セェアッ!」 驚愕するフブキ。コスモ・ノアの盾となって、光弾を弾き飛ばしたのは、三人目のウルトラマン…… ウルトラマンゼロだ! 「ジュッ!?」 ゼロの登場に、コスモスも、ジャスティスも目を見張った。 「あのウルトラマンは……味方なのか、敵なのか……?」 訝しむフブキ。彼はジャスティスの行いで、それが分からなくなっていた。 「セアァッ!」 そんな彼の思考とは裏腹に、ゼロは瞬時にグローカーボーンに詰め寄って、鉄拳を浴びせて 片方を殴り倒した。 「キ――――――――ッ!」 ゼロを敵と認識したもう片方のグローカーボーンが即座に光弾を放ったが、ゼロはバク転で かわしながら接近し、後ろ回し蹴りで横転させた。 「ジュアッ!」 グローカーボーンと戦うゼロにもジャスティスは攻撃を仕掛けようとしたが、そこにコスモスが 飛びかかり、羽交い絞めにして阻止した。 「セェェェアッ!」 コスモスがジャスティスを食い止めている間に、ゼロはグローカーボーン一体をゼロスラッガー アタックで切り刻んで爆破し、二体目にはワイドゼロショットを撃ち込んで破壊した。 だがいくらグローカーボーンを破壊しても、大元の円盤、グローカーマザーから新たな機体が 送り出されようとしている。 『させるかよッ!』 するとゼロはストロングコロナゼロに変身して、上空のグローカーマザーに対してガルネイト バスターを放った! 『ガルネイトバスタぁぁぁ―――――ッ!』 灼熱の光線が直撃し、その猛烈な勢いによってグローカーマザーを押し上げ、大気圏外まで 追放した。 『ちッ、破壊は出来なかったか。頑丈だな……』 ゼロが舌打ちしていると、ジャスティスがコスモスを振り払ってジャスティススマッシュを 撃ってきた。 「デアッ!」 「! ハッ!」 すぐに気がついたゼロは光線を腕で弾く。そのままジャスティスとにらみ合っていると、 ジャスティスが、『聞き慣れた声で』問うてきた。 『お前は何者だ。何故お前も人間に味方するのだ』 「ッ!」 一瞬動きが固まったゼロだったが、気を取り直して、背にしているコスモ・ノアを一瞥 しながら答える。 『あれは地球人たちの夢の砦だ。そいつを壊していい道理がある訳ねぇ』 と告げると、ジャスティスはやや感情を乱したように言い放った。 『夢だと……お前もそんな曖昧なものを、宇宙正義よりも優先するというのかッ!』 ジャスティスがゼロへ駆けてきて殴り掛かってくるが、ゼロはその拳を俊敏にさばく。 『夢を奪うことが、正義なものかよッ!』 言い返しながら肩をぶつけてジャスティスの体勢を崩し、掌底を入れて突き飛ばした。 それでもジャスティスはゼロとの距離を詰めて打撃を振るってくる。 『奪う? 地球人こそがいずれ、略奪者となるのだ! それを未然に阻止することこそが正義だッ!』 荒々しい語気とともに放たれるパンチ、キックの連打。しかしゼロはそれら全てを受け流した。 『どんな事情があるか知らねぇが、まるで説得力がねぇな!』 『何!?』 『お前の拳がどうして俺に当たらないか分かるか? 感情的になりすぎてがむしゃらだからだ! 技はそのままお前の心の状態を表してるぜ』 ゼロの指摘を受け、心に刺さるものがあったかジャスティスが一瞬たじろいだ。 『何かの後ろめたさを強引に振り切ろうって感じの拳だ。そんな半端な拳は、俺には通用しねぇ。 コスモスだって、その気だったら今のお前なんか敵じゃなかっただろうぜ』 『……知った風な口を……!』 ゼロの言葉に何を感じたか、怒りを見せたジャスティスが光線を繰り出そうと構え、ゼロも 身構える。 だが二人の争いに、ムサシの叫び声が割り込んだ。 『やめてくれ! ウルトラマン同士で争い続けて、何になるんだ!? 話せば分かり合えるはずだッ!』 『……!』 それにより、ジャスティスは構えた腕を下ろした。ゼロもまた、これ以上戦おうとはせずに 構えを解く。 そしてジャスティスとゼロが同時に変身を解除し、光に包まれて縮んでいった。少し遅れて コスモスも、ムサシの身体に変わっていく。 「うッ……!」 「コスモス! 大丈夫ですか!?」 ジャスティスからもらったダメージが響いて倒れているムサシの元に才人が駆け寄ってきて、 彼に手を貸して助け起こした。 「君は……さっきのウルトラマンか……」 才人に肩を貸されたムサシが問いかけた。 「君は何者なんだ……? あの赤い姿からは、コスモスの光が感じられた……。どうして君が コスモスの光を持っている?」 「……」 才人は無言のまま答えなかった。ストロングコロナはダイナとコスモスから分け与えられた 光によって生まれた形態だが、この世界のコスモスにはあずかり知らぬこと。だがそれをどう 説明したらよいものか。 才人が黙っていたら、フブキが二人の元へと駆けつけてきた。 「ムサシ! 大丈夫だったか!?」 「フブキさん……」 「……そこの子供が、三人目のウルトラマンか……」 フブキは見ず知らずの才人を一瞬警戒したが、すぐにそれを解く。 「何者かは知らないが、ムサシとコスモスを助けてくれてありがとう」 「いえ……」 フブキが話していると……四人目の人物がコツコツと足音を響かせて現れた。 「コスモス、そしてもう一人のウルトラマンよ。お前たちがどうあがいたところで、デラシオンの 決定は覆らない」 「!」 振り返った才人の顔が、苦渋に歪んだ。 新たに現れた人物……状況的に、ジャスティスの変身者は……ルイズの姿形となっているのだ。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔