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前ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百六十四話「穏やかなるバオーン」 催眠怪獣バオーン 登場 ド・オルニエールに出現した怪獣バオーンの特殊能力によって一辺に眠らされてしまった ルイズたちであったが、幸いなことにその間誰かに危害を及ばされることはなく、数時間後には 無事に目を覚ましたのだった。 そして今はオルニエールの領民の一人である老人の家で、詳しい事情を伺っていた。 「はぁ、あの怪獣バオーンがこの土地に現れたのは、一か月ほど前になるでしょうか」 老人は、王都に近いだけあってなまりのない、綺麗な言葉遣いであった。 「バオーン?」 「怪獣でも名前がないとかわいそうなので、わしらで名づけました。バオーンと鳴きますので」 「まぁ名前は何でもいい。それより、一か月も前から現れてたと?」 ギーシュが話の先を促す。 「左様です。いきなりドーン! と大きな音がしたので皆で何事かと見に行けば、畑の真ん中に バオーンが逆さまになっておったのです。きっと、空から落っこちてきたのでしょうなぁ」 ということは、バオーンは恐らく宇宙怪獣だ。 「わしらも初めは驚きましたし、怖がりもしましたが、バオーンはちっとも暴れたりなどしない 大人しい奴なので、今では皆すっかりと慣れました」 「慣れましたって……あいつの鳴き声を聞くと眠ってしまうのだろう? 迷惑とは思わないのか」 呆れ返るギーシュ。どうやらバオーンの鳴き声には催眠効果のある音波が含まれている ようで、それで領民たちも自分たちも瞬時に眠らされてしまったみたいである。 にも関わらず、老人はほんわかとしている。 「まぁ今のド・オルニエールはあくせくと働く者はいませんので。特に問題は起きておりません」 「のんきなものねぇ……」 ルイズたちはすっかりと呆れ果てた。 老人から事情を聞いたところで、皆でバオーンについての相談を開始する。 「で、あの怪獣、バオーンをどうするかなんだけど」 一番に意見を出したのはマリコルヌであった。 「ぶっちゃけ、ほっといてもいいんじゃないかな。別段これといって被害が出てる訳じゃ ないんだろ? 相手は曲がりなりにも巨大怪獣なんだし、下手に刺激したら余計な被害が 出てしまうかもしれないじゃないか。それだったらいっそ……」 「冗談じゃないわよ!」 しかしルイズが強く反対。 「仮にもここは、姫さまから下賜されたわたしたちの暮らすこととなる土地なのよ! そこに鳴くだけで人を眠らすような奴がいたら、迷惑極まりないわ!」 「ですねぇ……。わたしも、家事の最中に昏睡させられたらたまったものではありませんし……」 ルイズに続いてシエスタもそう意見した。次いで才人が指摘する。 「それにここはトリスタニアからそう離れてないだろ? もしもバオーンが王都の方に 行っちゃうったら、大惨事は間違いないぜ」 「それもそうか……」 うなるオンディーヌ。トリスタニアはのどかなこことは違って、昼も夜もあくせくと 働く人たちで賑わっている。そこにバオーンが迷い込んでひと鳴きでもしてしまえば、 大事故は必至だろう。 バオーンを今のままにはしておけないということで決定し、話し合いは次の段階に 移行する。喧々諤々と意見を交わすオンディーヌ。 「じゃあ、あの怪獣はやっつけるか……」 「それはかわいそうだよ。あいつ自体には何の悪気もないんだろ?」 「元いた場所に帰すのが一番いいだろうな」 「けど、あんなでかいのを人間の力で空に送り返すなんて無理だろ」 「ここはウルティメイトフォースゼロを呼ぼう。彼らなら簡単のはずだ」 「でもあいつ、鳴くだけで眠らせてくるんだろ? 近づくだけでも難しいぞ」 「ゼロたちが対処しやすいように、あいつが鳴き声を出せないように俺たちがしないと いけないな」 話が纏まってきたところで、ギーシュがふと辺りを見回した。 「ところで、レイナールはどこに行ったんだ? さっきからずっと姿が見えないが」 「ただいま」 噂をしたところで、レイナールがルイズたちのいる民家へと入ってきた。キュルケを伴って。 「キュルケ! レイナール、一体どこまで行ってたんだ?」 「一旦学院まで馬を飛ばしてたんだ。オールド・オスマンからこれを借りにね」 レイナールが皆に配ったのは、耳栓。それに才人は見覚えがあった。 「あれ、これってもしかして、ウェザリーさんの魔法の対抗に使った奴じゃ……」 懐かしさを覚える才人たち。ウェザリーの音を介した催眠魔法の対策として、この風魔法の 掛かった耳栓を使用したのだ。 「その通り。催眠音波をさえぎる奴だよ。怪獣の能力を聞いた時に、ピンと思いついたんだ」 「さすがだなレイナール! これであいつの鳴き声も怖くないぞ!」 ギーシュたちは嬉々として耳栓を嵌めていく。その間にキュルケはルイズに話しかけた。 「ルイズ、あんたたちってよくよく怪獣に縁があるのね」 「ほっときなさいよ。ていうか何であんたがついてきてるのよ」 「だってジャンがアクイレイアからさっぱり帰ってこないから、待ちくたびれちゃって。また 面白そうなことしてるみたいだから、様子を見に来たのよ」 「相変わらず野次馬根性丸出しねぇ……」 呆れてため息を吐くルイズ。そんな彼女にキュルケはそっと尋ねかける。 「ところであんたとルイズ、この土地に居を構えるつもりなんですって? 卒業したら結婚する つもりかしら?」 と言われて、ルイズはボッ! と火がついたように赤くなった。 「そ、そういう訳じゃないわよ! 単に今までの延長、それだけのことなんだから」 とのたまうルイズだが、今度はキュルケが呆れ顔。 「結婚もしないで、一緒に暮らすの? そりゃあんたとサイトは主と使い魔の関係だけど、 他の人からしたらそんなのどうでもいいことだわ。きっと、悪い評判が立つわよ。お互いに」 「そ、そんなの関係ないわ! 気にしないもの」 「そんな簡単に済む話かしらねぇ。あんた、公爵家でしょ。色んなしがらみがついて回る はずよ。きっとすぐにその辺を思い知るでしょうね……」 「何よそれ、どういう意味……」 ルイズが聞き返そうとしたところで、ギーシュたちが作戦を練るのを終えた。 「よし、これで行こう! 日暮れまでもうあまり時間がない。どうにか今日中に済ませて しまおう」 外に出たオンディーヌは力を合わせて土魔法を掛け合い、巨大な土のマスクを作成。 それに『錬金』を掛け、青銅へと変える。そのサイズは、ちょうどバオーンの口を覆える ほどであった。 「よし、これでいいだろう。こいつをレピテーションでバオーンの口に被せてふさぐ。 そうするとバオーンは鳴き声を出せなくなる、という寸法だ」 「なるほどね。あんたたちにしちゃよく考えたじゃない」 皮肉げながら称賛するルイズ。見たところバオーンには他に特殊能力はないようだし、 鳴き声さえ出せなくしてしまえば、もう何の問題もなくなるはずだ。 「いつも活躍してるのはサイトだがね、ぼくたちだって日々を寝て過ごしてる訳じゃ ないんだよ。ここらで名誉挽回さ」 胸を張るギーシュ。そこにちょうどよく、バオーンがのっしのっしと歩いてやってきた。 「おッ、いいタイミングだ。では諸君、作戦開始だ! まずは向こうの気を引きつけて、 十分な距離まで近づかせて……」 ギーシュがテキパキと指揮を取る一方で、バオーンの視線がこちらに向けられた。 「バオ?」 しばらくはボーッ、と眠そうな目でいたバオーンだが……その目つきが、急激な変化を 起こす。 「バオッ!?」 バオーンの瞳が爛々と輝いたかと思うと……のっそりとしていた足取りが激しくなり、 猛烈な勢いでルイズたちの方へと走ってきた! 「バオ――――!」 「えぇーッ!?」 当然仰天する一同。そして慌てて散り散りとなってバオーンから逃れていく。 「う、うわーッ!」 「危ない! 逃げろぉ―――――ッ!」 ギーシュと並んで走るルイズは、バオーンの突然の変化に目を丸くしていた。 「どうなってんのよ!? 少しも暴れたりはしないんじゃなかったの!? 話と全然違う じゃないのよ!」 「そんなことぼくに言われても困るよ! ともかくこれじゃ、マスクを被せるどころじゃ ない……!」 「バオ――――!」 耳栓のお陰でバオーンが鳴いても眠らされることはないが、怪獣はその巨体だけでも 人間には十分すぎる凶器。走ってくる怪獣からは必死に逃げるしかない。 しかしよく見てみると、バオーンは無闇にルイズたちを追いかけ回している訳ではなかった。 「ちょっと!? 何でアタシばっかり追いかけてくるのぉー!?」 バオーンはキュルケにのみ狙いをつけて、彼女一人を追いかけているのだった。 「い、いやぁーッ! 助けてジャ―――ン!!」 「キュルケが危ないわ! 早く何とかしなさいよギーシュ!」 慌てふためいたルイズが手近なギーシュの襟首を掴んだが、 「い、いや……暴れる怪獣を止めるなんてぼくたちには……」 「ちょっとちょっとぉ! さっき名誉挽回とか言ってたじゃない!」 「出来ることと出来ないことがあるよッ!」 ギャアギャア言い争うルイズとギーシュ。それをよそに、才人はこそっと木陰に身を 隠してウルトラゼロアイを装着する。 「デュワッ!」 才人はたちどころにウルトラマンゼロに変身し、一気に飛び出してバオーンとキュルケの 間に着地した。 「バオッ!?」 上から降ってきて立ちふさがったゼロにバオーンは驚いて急停止する。オンディーヌは ゼロの姿を見上げて歓声を飛ばした。 「おおッ、ウルトラマンゼロが来てくれた!」 「ゼロー! キュルケを助けてやってくれー!」 「結局人任せなんだから……」 ルイズのため息。 「シェアッ!」 一方でゼロは、バオーンを取り押さえて宇宙に帰すために怪力形態のストロングコロナゼロに 変身した。 『よぉっし! こいつで宇宙までひとっ飛びと行くぜ!』 意気込むゼロであったが、しかし。 バオーンはゼロの立ち姿をしげしげと観察していたのだが……ストロングコロナゼロに なった途端に、その目つきがキュルケに向けられたのと同じになる。 「バオ――――!」 そしてゼロに向かって思い切りダイブしてきた! 『うおッ!?』 驚いて咄嗟にかわすゼロ。バオーンは勢いのままに地面に突っ伏したが、すぐに起き 上がって今度はゼロを執拗に追いかけ回す。 「あいつ、ゼロに襲い掛かってるぞ!」 「やっぱり凶暴な奴じゃないか!」 「頑張れゼロー!」 オンディーヌは声をそろえてゼロの応援をするが、そんな中でシエスタは一人だけ、首を ひねりながらバオーンの様子を観察していた。 「あの怪獣……もしかして……」 驚きのあまりしばらくバオーンから逃げていたゼロだが、気を取り直してバオーンに向き直る。 『こいつ、大人しくしやがれ!』 超怪力でバオーンを押さえつけるゼロ。しかし力ずくで取り押さえられるバオーンが、大きく 口を開いた。 「ああッまずい!」 「バオ――――――――ン!」 バオーンが大声で鳴き声を発すると、途端にゼロの身体がふらつく。 「ウゥッ……」 そしてたちまちの内に昏倒してしまった。バオーンの催眠音波は、ゼロにも効果があるほど 強力なものなのだった。 「バオ?」 バオーンは仰向けに倒れたゼロの身体をつんつんと指でつつく。 「やめなさい! ゼロから離れなさいよッ!」 ルイズはゼロを援護するために、杖を手に取ってバオーンに向けようとするが……そこに シエスタが息せき切って走ってきた。 「ミス・ヴァリエール! 少しお待ち下さい!」 「どうしたのシエスタ!?」 シエスタはバオーンを見やりながら、こう言った。 「バオーンは……もしかして、赤い色が好きなのではないでしょうか?」 「へ?」 突拍子もない発言に、ルイズとギーシュは唖然。 「ほら、よくご覧になって下さい。バオーンには、ゼロを傷つけようとする様子がありませんわ。 きっと、遊んでほしいだけなのですよ」 「あッ、確かに……」 シエスタの言う通り、よく見れば、バオーンはゆさゆさとゼロの身体を揺さぶっている。 本当に危害を及ぼすつもりならば、今の内に激しく攻撃しているはずだ。 「わたしの幼い弟たちも、遊んでもらいたい時には無邪気に飛びかかってきます。その時の 様子と似ているので……」 「でも、赤い色が好きってのは?」 「バオーンがああなったのは、ゼロが姿を変えてからです。ミス・ツェルプストーは……」 キュルケは己の長い髪の毛をじっと見つめた。ツェルプストー家の特徴である、燃える ような赤毛。 「ああ、なるほどね」 「ド・オルニエールには赤い色がありませんから、今まではあんな風になったことがないのでしょう」 「そういうことか」 シエスタの話は筋が通る。ルイズたちは納得のいった風にうなずいた。 その内にゼロがハッと目を覚まし、じゃれついているバオーンをむんずと掴んで投げ飛ばした。 『こんにゃろうッ!』 「バオ――――!」 怒りながら起き上がったゼロに向けて、ルイズが叫ぶ。 「ゼロ、落ち着いて! バオーンは赤い色に興奮するだけなのよ!」 『! そうなのか……だったら!』 訳を知ったゼロはストロングコロナから、ルナミラクルゼロにチェンジ。身体の色が 青になったことで、バオーンは落ち着きを取り戻す。 「バオ?」 そしてゼロは光の球を作り出すと、それを赤く変色させて風船に変えた。 「バオッ!」 バオーンの視線は赤い風船に釘づけとなった。ゼロが風船を宙に飛ばすと、バオーンが 風船に向かってジャンプする。 「バオ――――!」 「シュッ!」 その瞬間、ゼロが両手より光線を発してバオーンの身体を空中でキャッチした。そのまま 念力によってバオーンを運びながら飛び上がり、宇宙に向かって上昇していく。 オンディーヌはバオーンを宇宙へ連れていくゼロに向かって大きく手を振った。 「ありがとう、ウルトラマンゼロ!」 領民たちもド・オルニエールから去っていくバオーンを見上げて、手を振る。 「おーい! また来いよー!」 「また来いですって!? 冗談じゃないわよ!」 誰かが言ったひと言を聞き咎めたルイズが怒鳴ったのを、シエスタがまぁまぁとなだめていた。 こうしてバオーンは無事に宇宙へと帰され、ド・オルニエールから怪獣はいなくなった。 ギーシュたちは結局アテにしていた収入がないことにがっかりしていたが、ルイズたちは 安心してド・オルニエールに暮らせるようになったのであった。 ボロボロの屋敷は業者に頼んで修繕してもらうこととなり、ルイズと才人は平日を魔法 学院で過ごし、週末にはここにやってきて屋敷の掃除をしたり領民たちと交流したりする 生活をするようになった。 領民は老人ばかりだが、バオーンを平然と受け入れていたことから分かるように、皆気さくで 性根のいい人ばかりであった。才人たちは彼らとすぐに打ち解け、とても良好な関係を築いた のであった。 そんな風に、ド・オルニエールでは今までの喧騒を忘れさせてくれるような、穏やかな 時間を過ごせるものと思っていたのだが……新しい波乱は、予期せぬ方向からやってきた。 才人が経験する、魔法学院の二度目の夏休みが来た頃には、屋敷は十分な生活が出来る 分には修繕が出来ていた。才人とルイズは、夏休みの間はこの屋敷で暮らすことを決定した。 それは良かったのだが、一週間が経過した頃に、その屋敷にとんでもない客が来たことを、 お手伝いとして迎えたヘレン婆さんがルイズたちに知らせに来た。 「旦那さま、大変でございます。大変でございます」 「ヘレンさん、どうしたの」 「お客さまでございます」 いつもはのんびりとしているヘレンがおろおろしているので、才人たちは目を丸くした。 一体どんな客なのか。 「それが、何とも怖い若奥様でございまして……。どこぞの名のあるお方の奥方とお見受け しましたが、これがまぁ、怖いの何の。眉間に皺を寄せて、このわたくしをじろりと! まさにじろりとにらんだのでございますよ!」 「怖い若奥様?」 「はい。ええと、お顔立ちはルイズさまによく似ております」 「……髪は?」 「見事な金髪で」 その特徴が当てはまる人物を、ルイズたちはただ一人だけ知っていた。ルイズの顔がさっと 青くなる。 「ヘレンさん、あの方は独身よ。名のあるお方の奥方なんて、冗談でも言わないことね。 耳をちょんぎられるわよ」 ルイズの忠告にヘレンは震えながら聖具の形に印を切った。 ルイズと才人が応接間でその人物を迎えると――ルイズの姉、エレオノールは一番に ルイズの頬をぎゅうッ! とつねり上げた。 「ちび! ちびルイズ!」 「いだい~!」 「あなたはもう、また勝手なことをして! 聞いたわよ! け、けけ……結婚前の男と女が 一緒に暮らすなんて! そんなのわたし、絶対に認めませんからね!」 エレオノールはルイズと才人の同居に関して、反対をしに来たのであった。 前ページウルトラマンゼロの使い魔
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唯「ずっと一緒」 唯「憂・・・心配しないでね」※唯「ずっと一緒」の3年後の話。 澪「唯の5周忌か・・・」 唯「あれ?私は・・・」 唯「ある休みの日」 唯憂「この夏の思い出」 律「お前を放っておけないんだよ」唯「・・・」 梓「唯先輩の消失」※ハルヒの消失の世界観を元に作りました。 唯「一人忘れてるような・・・」 唯「突撃!となりのあずにゃん」 唯「見せたかった景色」 唯「HTTの危機」 唯「ささいなことで」 律「ささいなことで」 ※ここにあるSSの感想は下のコメント欄にてお願いします。 素晴らしい限りです! まだ二作しか読んでませんがどちらも素敵なSSでした! -- マリオさま (2013-01-11 12 53 04) 名前 コメント
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前ページ次ページ“微熱”の使い魔 部屋に差し込む朝日を受けて、エリーはゆっくりと意識を覚醒させる。 今日は、コンテストの発表があったっけ。 飛翔亭には新しい依頼が入っているだろうか。 近くの森に行こうかな? そうだ、ミルカッセさんを誘おうか。 半分寝ぼけた頭で考えながら身を起こそうとすると、いきなり胸に何かを押しつけられた。 ――ええ? なに!? ぼよんとした柔らかい感触。それに、何かいいにおいがする。 エリーはベッドの中、褐色の肌をした美女に抱きしめられていた。 その胸に顔がうずまっている。 「わひゃあああ!!?」 思わず悲鳴を上げて、エリーはベッドから転がり落ちた。 腰を打つ。かなり痛い。ついでに、ショックのせいか腰も抜けてしまったようだ。 「何よ、朝っぱら……」 美女は身を起こしながら、ふわあ、とあくびをする。 「エリー、そんなところ何してるの?」 「いえ、あはははは……」 美女、いや、キュルケに声をかけられて、エリーは自分の状況を思い出した。 遠い異国にやってきてしまったという事実を。 身支度をして部屋を出ると、となりの部屋から、桃色の髪をした女の子が出てきた。 いろんな意味でキュルケとは対照的な少女だ。 特に胸とか。 エリーとて体つきは華奢であり、お世辞にも色っぽいとは言えないが、ルイズに比べればまだ女らしい体つきと言えた。 後ろには黒髪をした少年がいる。 二人とも何かぶすっとした表情をしていた。 「おはよう、ルイズ」 「おはよう、キュルケ」 キュルケが挨拶をすると、ルイズと呼ばれた少女はぶすっとした顔のまま、挨拶をする。 男の子は、キュルケに、というよりキュルケの胸に見蕩れているようだった。 無理もないが、傍目から見てかっこいいものではない。 「あなたの使い魔って、それ?」 キュルケは少年を見て、ニヤリと挑発するように笑う。 「ふん! 悪かったわね! でも、あんたの使い魔だって人間じゃないの!」 ルイズはエリーを睨んで、ふんとそっぽを向いた。 「そりゃあね? でも、これはこれでいいんじゃないかしら。火竜山脈のサラマンダーとか召喚できれば、それはそれで素敵だけど……こんな可愛い女の子を召喚できたっていうのも素敵だと思わない?」 そう言って、キュルケはぐいとエリーを抱き寄せた。 「あ、あんた、男好きかと思ってたけど…………そういう趣味だったの!?」 キュルケの発言にルイズは後ずさり、黒髪の少年も仰天した様子だ。 エリーも目を白黒させて、 「あの、気持ちは嬉しいけど、私、そういう趣味はちょっと……」 「あははは。あたしだってないわよ。それはそうと、せっかく同じ人間を召喚しちゃったんだから、使い魔同士で親交を深める……ってのはどう?」 キュルケは笑って、軽くエリーの肩を押した。 エリーは少しとまどいながらも、黒髪の少年を見る。 黒い髪をした人間というのは何人か知っているが、その顔立ちはエリーの知るどの人種とも似てはいなかった。 強いて言うなら、王室騎士隊隊長であり、剣聖といわれた男、エンデルクが近いかもしれない。 だが、目の前の男の子は、何と言うかいかにも普通の少年で、英雄と謳われたエンデルクとはまるで違う。 しかし、その普通さがかえってエリーの緊張をほどいた。 「私、エルフィール・トラウム。エリーでいいよ」 ゆっくりと微笑み、握手のために手を差し出す。 「あ、俺は平賀才人」 少年も手を差し出し、二人は握手を交わした。 その途端に、ルイズは目を怒らせて、強引に二人の手を引き剥がした。 「ちょっと! ツェルプストーの使い魔なんかと握手するんじゃないの!!」 「何すんだよ!?」 ヒラガ・サイトなる少年は抗議するが、ルイズはそれを聞こうともしない。 「家名も一緒に名乗ってたけど……その子、貴族なの?」 「違うわ。エリーの生まれたシグザールでは、平民にも家名があるのよ」 「――何よ、そっちも平民じゃない。それにシグザール? どこの田舎だか知らないけど、聞いたこともないわね」 ルイズはちょっと安心したような顔で、ふふんと笑った。 「そんな田舎者の小娘、何か役に立つってのいうの? せいぜいメイドの代わりさせるくらいじゃない!」 ――こ、小娘って……。 ルイズの言い草に、エリーは嫌な汗をかく。 確かに小娘には違いない。しかし、目の前の自分と同年齢、下手すれば下かもしれない相手には言われたくない。 エリーは気を落ちつけながら、サイトに話しかける。 「ええと……。私、シグザールって国からきたんだけど。君は?」 「俺は、日本の東京から……」 「ニッポンノトウキョウ?」 「やっぱり、知らないよな……」 「うん、ごめん」 「いや、ここじゃ知ってるほうがおかしいんだろ。何てたって、ファンタジーだもん」 自嘲的な笑いをあげる才人に、エリーは首をかしげるばかりだった。 「このバカ犬! ツェルプストーの使い魔なんかと仲良くするなって言ってるでしょう!? ああ~~!! 朝から気分悪い!!!」 「いで、いでえ!! 何すんだ、離せよ!? ちぎれ、耳がちぎれる!!」 ルイズはキッとエリーと才人を睨みつけ、その耳を引っ張って歩き出した。 そして、もう一度キュルケを振り返って、ふん!とそっぽをむくと、才人の耳を引っ張ったままいってしまった。 「……なんか、すごい人だなあ(いろんな意味で)」 エリーはまるで嵐でも見送るような目で、ぼそりとつぶやいていた。 「だから楽しいんだけどねえ」 びっくりしているエリーとは対照的に、キュルケは本当に楽しそうに、ころころと笑う。 その様子は、何だか、ちっちゃな子供を、妹をからかっている喜んでいる姉のようだった。 ――本当は、仲良いのかな? 「あの桃色へアーはルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。二つ名は、ゼロのルイズよ」 ここハルケギニア大陸のメイジたちが、あだ名のような“二つ名”を持つことは昨夜聞かされている。 キュルケは火の属性、そして恋多きその気質からのものなのだろう。 「ええと、お友達ですよね?」 「? あたしとルイズが? ……あっはっはっはは! そうね、そんなようなものかしら。いえ、そうね。確かに友達よ。心の友とも書いて心友ってとこね」 エリーが問うと、キュルケは何かつぼをつかれたように大笑いを始める。 そんなようなもの? 何か曖昧な表現だった。 どうも言葉通りの関係というわけでもないらしい。 ――ライバルって、ところかな? エリーは、自分の師であるイングリドと、友人、いや親友とも言えるアイゼルの師ヘルミーナのことを思い出した。 自分とアイゼルもライバルといえば、ライバルだ。 しかし、それを言うならノルディスも、他の生徒たちもみんなライバルである。 イングリドとヘルミーナの場合は、もっと激しく、凄まじい関係だ。 それこそ、宿敵同士とも言えるような関係ではないだろうか。 さらに言うなら、両者の立場は互角の関係、互角の実力だった。 でも、キュルケとルイズの関係は、今見た感じでは、どうにもキュルケのほうが一枚も二枚も上をいっているように見えた。 多分、精神的な余裕はもちろん、魔法の実力においてもそうなのだろう。 「さてと、それじゃ朝のお食事にいきましょうか。ついてきて」 キュルケは見る者を魅了するような優雅な動作で振り返り、エリーに言った。 「あの、本当にここで?」 アルヴィーズの食堂を見まわしながら、エリーはどぎまぎとした顔で言った。 その様子を見て、キュルケは苦笑する。 いかにも田舎からやってきました、と言わんばかりの態度である。 エリーとて、シグザールの王都であるザールブルグで一年暮らしているが、それでもこんな豪奢な場所など縁がなかった。 アカデミーの他の生徒たちと違い、参考書や調合器具、それに生活費は自分で工面しなければならないエリーにとって、豪華な場所で豪華な食事など夢にさえ出てこない代物だった。 もっとも、アカデミーの生徒がほとんどが中流家庭の子供なので、大抵エリーと同じくこんな場所に縁はなかったが。 「あの、私やっぱり違うところで……。場違いだし……」 すっかり萎縮してしまったエリーはすがるような目でキュルケに言った。 しかし、キュルケはチッチッチッと指を振った。 「誰にだって、初めてはあるわ。こういう場所で色々見聞きするのも、勉強ってやつじゃないかしら? 将来役に立つかもしれないでしょ?」 「でも、私は貴族じゃないし……」 「あら? もしかしたら、なるかもしれないじゃない」 少しうつむくエリーに、キュルケはにこりとしてその肩を叩く。 「あなたの国では、平民でもお金を持ってれば、貴族になれるんでしょう?」 「そうですけど……」 確かに、シグザールでは財を成して貴族の身分を得た人間はそれなりにいる。 アカデミーの卒業生でも、錬金術を用いて財産を築き、貴族となった者もいると聞いていた。 ただし、アカデミーではそういった姿勢をあまりよく思ってはいないようだ。 錬金術の根本は真理の探究にあり、宝石や薬を生み出すのはあくまでもその過程にしかすぎないのだから。 といっても、そういった卒業生による援助もかなりのものであるらしく、あまり表立って否定はできないらしい。 「でも、別に私は貴族になる気は……」 「はいはい、いいからいいから」 キュルケはちょっと強引にエリーを席につかせた。 ――まいったなあ……。 エリーはため息をついた。 周囲からチラチラと視線を感じる。 エリー自身はそれほど目立つような少女ではないが、その服装は別だった。 アカデミーにおいては特に変わっているわけでもないオレンジの服だが、この魔法学院においてはものすごく目立つ。 あれは誰だ? どこのメイジだ? 何でキュルケと一緒にいるんだ? そんな声がかすかに聞こえてくる。 エリーがそんな居心地の悪さを覚えている時だった。 「おはよう、タバサ」 キュルケの明るい声に顔を上げると、眼鏡をかけた小柄な少女がそばに立っていた。 ――あ、この子は……。 確か昨日青いドラゴンを召喚していた少女だ。 青い髪と、召喚した使い魔のインパクトのおかげかよく覚えている。 「おはよう」 タバサは一見無愛想とさえ感じる返事をキュルケに返すと、じっとエリーを見つめてきた。 「あ、あの……?」 「この子はタバサ。あたしの友達よ」 タバサの視線にひるむエリーに、キュルケはくすっと笑って紹介をする。 「あ、はじめまして……。私はエルフィール・トラウムです」 何だか、不思議な感じの子だな。そう思いながら、エリーは自己紹介をした。 「タバサ。よろしく」 タバサは実に簡潔な自己紹介をした後、ずいとエリーに近づいた。 「あ、あの……?」 「あなた、昨日本をたくさん持っていた」 「う、うん……」 本。召喚する時に一緒に持ってきてしまった参考書のことだろう。 「良かったら、読ませてほしい」 「え、いいけど……」 「でもタバサ、あの本あたしたちは読めないわよ? 遠い遠い外国の言葉で書かれてるもの」 キュルケがそう言うと、タバサは少しの間黙りこんだ。 やがて、ごそごそと一冊の本を取り出して、エリーに手渡す。 「読んでみて」 エリーは言われるままに本を開いてみたが、まるで読めなかった。文字の構造や形は似通ったものがないではなかったが、基本としてシグザールのそれとは異なる文字である。 「……読めない」 「言葉はわかるのに、文字が読めないっても変よねえ……。言葉がわかるのは多分サモン・サーヴァントの影響なんだろうけど。どうせなら文字も読めるようになってればよかったのにね」 そう言って、キュルケは肩をすくめた。 「じゃあ、教え合う」 タバサが言った。 「ええ?」 「あなたはあの本の、あなたの国の言葉をわたしに教える。わたしはハルケギニアの言葉をあなたに教える」 「うん、いいよ。でも……あの本、錬金術の参考書だから、あまり面白くないかも」 「この世に面白くない本などない」 「そ、そうかな……」 きっぱりと言い切るタバサに、エリーは苦笑するしかなかった。 そして改めてテーブルに並べられた料理を見て、笑みは引きつったものになる。 ――こんなに食べられないよ……。でも、残したらもったないし……。 エリーは決して小食ではない。むしろ健啖家といえるほうだ。 ただし、それはあくまでも一般人レベル、ハルケギニア風に言えば平民レベルの食事での話。 鳥のローストや魚の形のパイといった無駄に豪華は食事は、見ているだけでも胃がびっくりしそうだった。 だからキュルケやタバサが食事を始めてからも、すぐに料理に手をつけられなかった。 ――どうしよう……。……んん? あれは……。 途方に暮れていると、少しばかり離れた、ある場所へ目がとまった。 そこではあのヒラガ・サイトとかいう少年が床に座り込んでパンをかじっているのが見えた。 「ああ、美味い! 本当に美味い! 泣けそうだ!!」 がしがしと硬いパンをかじりながら、才人はやけくそでつぶやいていた。 いきなりわけのわからん世界にやってきたかと思ったら、使い魔だか奴隷だかで問答無用に服従をせまられる。 主とやらが可愛い女の子なんでこれはこれでラッキー♪かと思ったら、そいつがとんでもねーツンツン娘で。 豪華な食事の並ぶ食堂にきて喜んだかと思ったら、他の連中がご馳走をぱくついている横で、自分は残飯みたいなものを食わされている。 やけにならなければ、本当にやっていられない。 ――何が使い魔は外、だよ。そりゃ動物なら、仕方ないだろうけど。俺は人間だっつーの!! 心の中で叫ぶ中、才人はあのエルフィールという少女を思い出した。 キュルケとかいうおっぱい星人の使い魔だとかいう少女。 あの子も、こんな扱いを受けてるんだろうか? そんなことを思いながら、ふと視線を上げると、 ――あれ? 離れた席から、自分を見ている者がいる。 オレンジ色の、ここの生徒たちとは明らかに違う系統の服を着た女の子。 その横には、あのおっぱい星人、もといキュルケが。 ――ええと。 使い魔は外じゃなかったのか? それがルイズ様の“特別なはからい”とやらで、床なんじゃなかったのか? でも、あっちの使い魔さんは何か普通に、一緒の食事してるみたいなんですけれども? このへんどーなんですか、ルイズ様? 才人が内心でルイズにツッコミを入れていると、エリーはそっと才人にむかって手招きをしてきた。 ちらりとルイズの様子をうかがってから、才人は気づかれないようそーっとエリーのほうへと移動していく。 「あの、良かったら一緒に食べない?」 エリーは少し緊張したように才人に言った。 マジですか!? 願ってもない提案に、才人は歓喜で身を震わせた。 「もちろんOK!! っちゅうか……いいの? マジで?」 「うん。私、こんなにたくさん食べられないし、残したらコックさんにも悪いし……」 「だよな!? 出された料理は作ってくれたコックさんに感謝して、残さず美味しく、だよな!」 才人は壊れたような笑顔を浮かべながら、すすめられるままエリーの隣に座る。 捨てる神あれば拾う神あり。 才人は料理とともに、そんな言葉を噛み締めていた。 さっきまではとんでもねー状況だなあと半ば悲嘆しつつあったが、救いの手は意外なところから差し伸べられた。 救われた! まさに才人はそんな気分だった。 「本当にお腹すいてたんだねえ……」 目に涙を浮かべながら料理を口に運ぶ才人を見て、エリーは同情するようにつぶやく。 そんな様子を、キュルケは楽しげに見ていた。 エリーのルイズの使い魔も一緒に食事をしていいかと聞かれ、最初は驚いた。 だが、エリーが異国の人間であり、かつ平民の少女であることを思い出すと、それも消えた。 別にいけないという理由は思いつかず、この後のルイズの反応を予想すると非常に面白かったので、むしろ喜んでOKした。 ルイズのほうを見ると、このことに気づいたらしいルイズはものすごい形相でこちらを睨んでいる。 まったく面白すぎる反応だ。 軽く手を振ってやると、ルイズは今にも爆発しそうな顔で、顔を真っ赤にさせていた。 エリーはそれに気づくこともなく、同じ平民が一緒にいるのが心強いのか、安心して料理を食べ始めていた。 タバサは終始我関せずという態度である。これはいつものことだが。 やっぱり、この子がきてくれて良かった。 キュルケは改めてそう思いながら、ワインを口にした。 前ページ次ページ“微熱”の使い魔
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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第14話 剣の誇り (前編) 奇怪宇宙人ツルク星人 登場! 「ウルトラ・ターッチ!!」 ルイズと才人のリングが合わさり、ウルトラマンAがトリスタニアの街に降り立つ。 メカギラスの襲来から一夜明けたこの日、トリスタニアは新たな脅威に晒されていた。 石造りの建物がバターのように切り裂かれ、崩れ落ちた瓦礫を巨大な足が踏みにじる。 それは、緑色の肌と爬虫類のような顔を持ち、両腕に巨大な刀をつけた怪物。 その名はツルク星人、かつて地球で数多くの人間を惨殺し、ウルトラマンレオを苦しめた凶悪な宇宙人だ。 「タアッ!!」 エースは構えをとり、ツルク星人を見据える。だが、いきなり攻撃を仕掛けることはしない。なぜなら、星人の 両腕に取り付けられた刀は、例え鉄でも軽々切り裂く恐るべき武器で、直撃されたらウルトラマンでも危ないからだ。 しかし、両者の均衡は、両手の刀を振りかざして猛然と襲い掛かってきた星人によって破られた。 「シャッ!!」 エースは宙に飛び、太陽を背にしてツルク星人に空中から攻撃を仕掛ける。星人は、慌てて空へ跳んだエースの 姿を追うが、真っ白な太陽の光がその視界を真っ黒に染め上げた。 「デャッ!!」 必殺キックが星人の顔面に直撃! ふらつく星人にエースは機を逃さずにパンチやキックを打ち込む。 だが、視力の戻った星人は猛然と両腕の刀で反撃に出てきた。 30メイルはあろうかという巨大な刃がエースに向かって振り下ろされ、間一髪エースは後ろへ飛びのいてかわしたが、 星人は蟷螂のように2本の刀を振ってエースを追い詰め、空気を切り裂く音が鳴る度に、建物が切り裂かれて 崩れ落ちていく。 こんなとき、格闘能力に優れたレオならば、星人の刀を受け止めて反撃をおこなえるが、残念ながらエースに そこまでの格闘センスはない。ただし、エースにもレオにはない武器がある。 そして、完全に調子に乗った星人は、一気にエースを仕留めるべく、両手の刀を同時に振りかざしてエースに 飛び掛ったが、実はこれこそエースの狙いであった。 闘牛のように突進してくる星人に、エースは両手をつき合わせて向けると、その手の先から真赤に燃える 灼熱の火炎がほとばしる!! 『エースファイヤー!!』 火炎は星人の顔面を直撃、突進の勢いでかわすこともできずに見事カウンターの形で命中したそれは、 トカゲのような星人の皮膚の表面を瞬時に気化させて、爆発まで引き起こさせた。 煙が晴れたとき、星人は顔面を黒こげにして両手で傷口を押さえ、反撃も忘れて金切り声をあげてもだえていた。 「テェーイ!!」 エースは、顔面に大火傷を負って戦意を失った星人に怒涛の攻撃を炸裂させる。 チョップ、パンチ、キックが星人のボディに次々と吸い込まれ、その体力を削ぎ取っていく。 「ダァァッ!!」 とどめに、エースは星人の右腕の刀の峰の部分を掴み、思い切り放り投げた。 瞬間、地響きを立てて星人は大地に叩きつけられる。そして、フラフラになりながらも立ち上がってきた星人に、 エースは体を左に大きくひねり、その両腕をL字に組んだ。 『メタリウム光線!!』 赤、黄、青に輝く美しい光線が放たれる。だが、なんということか、星人はメタリウム光線が放たれるよりも 一瞬だけ早く、残った力で宙へ飛び上がり、光線をかわしたかと思うとそのまま煙のように消えてしまったのだ。 (しまった! 逃げられた) まだ星人に逃げを打つ余裕があったことを読み違えたエースは、星人の消えた空を見上げたが、すでに 星人の姿はどこにもなかった。残ったのは、青い空と、廃墟となった街を駆け抜ける静かな風のみだった。 「……ショワッチ!!」 確かに深手は負わせた。だが星人はまだ死んではいない、飛び立ったエースの胸中には一抹の不安がよぎっていた。 「この犬ーっ!! あんたのせいで奴に逃げられちゃったじゃないのよー!!」 「えーっ!? なんで俺!?」 変身を解いた後、才人はなぜか激怒しているルイズの理不尽な怒りを一身に受けていた。 「普段役に立たないんだから、こういうときくらいきちんとサポートしてなさいよ。この、この!!」 「そう言われても、まさかあそこで逃げられるとは思ってもみなかったし。それに、俺普段からけっこう役に立ってるんじゃないか?」 腹が立って反論してみた才人だったが、これがまずかった。 「なあに、あんたご主人様に反抗する気? そう、昨日はあれだけ頑張ったってのに、あの事なかれ主義の 鳥の骨のおかげで姫様にまで心労をかけてしまって、これで勝てばお心も晴れると思ったのに、後一歩ってところで」 それで才人にもルイズの不機嫌の合点がいった。要は姫様命のルイズのマザリーニへの不満の八つ当たりだ。 鞭を振り上げるルイズに、こういうときどんな弁明をしても逆効果だと学習してきた才人はとっさに話題を変えた。 「ちょ、それよりも、逃げた星人のことが問題だろ」 すると、どうにか効果があったようで、ルイズは鞭を下ろすと少し考えて言った。 「ち、まあ、そうだけど……たいして強い奴じゃなかったじゃない。また来ても別に怖くないわ」 確かに、ツルク星人は両腕の刀を除けばたいした武器は持っていない。かつて宇宙パトロール隊MACは これに苦戦し、ウルトラマンレオも一度は敗退したが、当時のレオは地球に来たばかりで、それまでの ウルトラ兄弟と比べて格段に技量が劣っていたころだったし、MACも結成されたばかりで、実戦は マグマ星人と双子怪獣のみというあたりだったから仕方が無い。 ただし、才人が言おうとしているのはそういうことではなかった。 「あいつがヤプールの息がかかっているのはまず間違いない。けど、前回のメカギラスといい、なんで超獣じゃなくて 宇宙人を送り込んできたかってのが問題なんだ。大して強くもないやつを」 「? ……そりゃあ、超獣がいなかったからじゃないの?」 適当に言った答えだったが、意外にもそれは才人の考えを射抜いていた。 「実は俺もそう思う。ここに来る前に、ロングビルさんに話を聞く機会があったんだけど、ヤプールに 洗脳される直前に「今エースを倒せるほどの超獣を作り出せるほど余裕が無い」って言ってたそうだ。 多分、まだヤプールは次々超獣を作り出せるほど復活してないんじゃないかな」 「だから、手下の宇宙人を使ってるってこと?」 才人はうなづいた。 ヤプールは超獣だけでなく、多数の宇宙人をも配下にしていることは知られている。アンチラ星人、ギロン人 メトロン星人Jrなどである。近年ではテンペラー、ザラブ、ガッツ、ナックルの4大宇宙人を操って神戸の街を 破壊し、ウルトラ兄弟と激戦を繰り広げたのはまだ記憶に新しい。しかもこの場合は本人達も自覚せぬうちに 精神を支配され、操り人形にされていたというのだから恐ろしい。 また、そうでなくてもバム星人のように侵略の分け前を狙ってヤプールにつく宇宙人も大勢出てくることだろう。 だがルイズはまだことの深刻さを理解してはいないようだった。 「別にけっこうなことじゃないの? 超獣なら苦労もするけど、あんなやつしかいないならエースなら楽勝でしょ」 「そりゃ巨大化したならな、けど宇宙人は頭がいいから……」 「あーっ! もういいわよ。どっちみちまた出たならやっつければいいだけでしょ。それよりもうすぐ学院に帰る馬車の 時間よ。昨日のことはしょうがなかったけど、これ以上サボるわけにはいかないからね」 そうだ、ルイズはあくまで学生で、授業を受けなければならないという義務がある。そして、本来そちらが 怪獣退治より優先されるべきことなので、才人も強くは言えなかったが、どうしても逃げたツルク星人のことが 気になって、もう一度だけ頼んでみた。 「なあ、もう1日この街にとどまれないか?」 「だめよ、さっさと帰らないと授業についていけなくなるわ。あんたわたしを留年生にするつもり? 心配しなくても、 あれだけ深手を負わせたんだから当分出てこないわよ。出てきたらそのときは学院にも連絡が来るから、飛んで いけばいいでしょ。さっさと行くわよ」 残念ながらにべもなかった。 しかし、ツルク星人の行動パターンから、どうしても心のなかから不安が消えることはなかった。 そして、才人にはどうしても気になることがもうひとつあった。それは地球で2006年から2007年に異常に怪獣や 宇宙人が頻繁に襲来してきた時期、それが実はヤプールが特殊な時空波を使って呼び寄せていたためであり。 もし、ハルケギニアでも同じことをされたら…… その後、魔法学院に帰ったルイズ達は午後からの授業に出席し、その間才人はルイズの部屋の掃除や、 街であったことのオスマン学院長への報告、その後は食堂の手伝いをしてシエスタ達と夕食を食べて夜を迎えた。 「ふわぁぁ……じゃ、明日またちゃんと起こしなさいよね」 「ああ、お休み、ルイズ」 部屋の明かりが消え、ルイズはベッドで、才人はわら束でそれぞれ横になった。 それから数分後、ルイズが寝息を立て始めたのを確認すると、才人は静かに起きだして出かける支度を整えると、 部屋を抜け出してオスマンに会って事情を説明し、ロングビルに馬を一頭貸してもらうように話をつけた。 厩舎は、さすがに深夜のため静まり返っていたが、なぜかそこで見慣れたメイド服を見つけてしまった。 「シエスタ?」 「あっ、サイトさん! ど、どうしてこんなところに!?」 「それはこっちの台詞だよ。女の子がひとりでこんな人気の無い場所にいたら危ないだろ」 「い、いえわたしは同僚が急病で、代わりに厩舎の見回りに来てたんですが、サイトさんこそなんでこんなところに?」 どうやら、鉢合わせしたのは本当に偶然だったらしい。だが、これもなにかのめぐり合わせと、才人は 部屋に残したままのルイズのことを頼むことにした。 「そうだ、ちょうどいいや。ちょっと街まで行くから馬を一頭借りていくよ。学院長にはもう話を通してあるし、 何も無ければ朝には帰ってくる。けど、もし戻れなかったときはルイズによろしく言っといてくれ」 「えっ、どういうことですか!?」 「ちょっと気になることがあってな。あいつに授業サボらせるわけにはいかないから俺一人で行ってくる。 洗濯がどうとか言うと思うが、悪いけど適当に相手してやってくれ」 そう言うと、才人はロングビルに比較的大人しくて扱いやすいと言われた馬にまたがると、不慣れな手つき ながら手綱を握った。 「じゃあシエスタ、頼めるかな?」 「わかりました。事情はわかりませんが、何かお考えがあってのことですね。ミス・ヴァリエールのお世話は お任せください。けど、早く帰ってきてくださいね」 心配そうに見つめているシエスタに、才人は出来る限りの笑顔を向けると、ルイズの見よう見まねで馬に 鞭を入れて、夜の街道へと走り出した。 一方そのころ、トリスタニアの街では、深夜だというのに街中をたいまつやランタンを持った兵士が行きかい、 まるで昼間のように騒々しい体をなしていた。 「おい、そっちにいたか?」 「いや、こっちはいない」 「おい!! 5番街のほうでまた二人やられてるぞ」 「なに!? くそっ、これでもう15人目だ、いったいどうなってやがるんだ」 街中を右往左往する彼らの中を不吉な情報が飛び交っていく。 事の発端はこの2時間ほど前、酒場から自分の屋敷に帰ろうとしていた、ある中級貴族が突然襲撃 されたことから始まった。 襲撃者は、いきなり彼らの眼前に現れると、先導していた従者を斬り殺し、一行に襲い掛かってきた。 もちろん、その貴族は酔いを醒まし、即座に『エア・ハンマー』の魔法で迎え撃ったが、なんとそいつは ジャンプして空気の塊を飛び越すと、そのまま目にも止まらぬ速さで次の呪文を唱えている貴族を鋭い 刃物で胴から真っ二つにしてしまった。 残った使用人達は、主人が殺されるや、蜘蛛の子を散らすようにバラバラになって逃げ出した。そのうちの 一人が衛士隊の屯所に駆け込み、事を話すとただちに詰めていた20人ほどの衛士が現場に急行したが、 すでに犯人の姿は無く、無残な遺体を目の当たりにして、彼らは口を覆った。 だが、この夜の悪夢はまだ始まったばかりであった。 引き上げようとする彼らの元へ駆けて来た伝令が、2リーグほど離れた場所での同様の事件を報告してきた のを皮切りに、街のいたるところで貴族、商人、見回りから物乞いにいたるまで次々と殺人が起きていること が明らかとなり、衛士隊はこれが自分達の職務を超えていることを知って、王宮に救援を求めるとともに、 非番の者も召集してのトリスタニア全域の一斉封鎖を開始した。 しかし、千人近くを動員しての捜索にも関わらずに、犯人の行方はようとして知れなかった。 唯一、目撃者の証言によれば、悪魔のような風体をした亜人で、両腕に巨大な刀をつけていて、猿のように 身軽であることがわかっているくらいだった。 「おい、裏通りでまた一人殺されてる!」 「ちきしょう、いったいどこに隠れてやがるんだ」 彼らの必死の捜索も虚しく、犠牲者の数は増え続け、遂に首都全域に戒厳令が敷かれるにいたった。 「こちら、王立魔法衛士隊です。現在トリスタニア全域に戒厳令が公布されました。市民の皆さんは許可が あるまで決して屋外に出ないでください。外出している人は、すみやかに最寄の建物に入ってください。 こちらは王立魔法衛士隊です。非常事態により、現在トリスタニア全域に戒厳令が敷かれています……」 上空からヒポグリフやグリフォンに乗った騎士達が、鐘を鳴らしながら市民に呼びかけていた。 混乱を避けるために、正体不明の殺人鬼が徘徊していることは伏せられていたが、慌しく駆け回る兵士達の 姿を見たら、いやがうえでも住民の不安はつのる。もたもたしている時間は無かった。 だが、それから1時間後に、必死の捜索が実り、遂に街道近くの馬車駅で怪人を捕捉することに成功した。 「屋根の上だ、取り囲んで退路を塞げ!!」 「照明だ、奴を照らし出せ!!」 兵士達が駅の周りを取り囲み、魔法衛士隊が空中から目を光らせる。 そして、火系統のメイジが放った魔法の明かりがそいつを照らし出したとき、とうとう怪人はその禍々しい姿を 人々の前に現した。 歪んだ鉄のマスクのような顔と赤く爛々と光る大きな目、しかもその顔の半分はどす黒く焼け爛れていて 醜悪さを増し、さらに黒々とした体表と手の先にだけ毛を生やし、両手の先を死神の鎌のような巨大な刀にした 姿はまさに悪魔と言うにふさわしかった。 「あ、亜人?」 「いや、悪魔、ありゃ悪魔だ!!」 兵士達の間に動揺が走る。その隙を怪人は見逃さなかった。 「跳んだ!?」 壊れた弦楽器のようなこすれた声をあげ、怪人は屋根の上から人間の5倍以上はある跳躍を見せ、眼下の 兵士達に襲い掛かった。 たちまち逃げる間もなくふたりの不幸な兵士が鎧ごと胴体を真っ二つにされて息絶える。もちろん、怪人の 攻撃はそれで終わりはしない。 「む、向かい撃て!!」 隊長の叫びで、恐怖に支配されかかっていた兵士達は、それから逃れようと叫び声をあげて怪人に 斬りかかっていくが、その勇敢だが無謀な行為はすべて彼らの死であがなわれた。 「平民共、どけ!!」 あまりにも一方的な展開に、魔法衛士隊が高度を下げて参戦してきた。別に平民を助けようとか思ったわけ ではなく、兵士達がやられている間何をしていたのかと後で叱責されるのを避けるためだったが、結果的に 兵士達は逃げ延びる時間を得ることができた。 「エア・カッター!!」「フレイム・ボール!!」 魔法衛士隊は高度20メイルほどから攻撃を開始した。それ以上高くては闇夜で狙いを定められず、低くては 反撃を受ける恐れがあるための絶妙な位置加減だったが、怪人の身体能力は彼らの予測を大きく上回っていた。 怪人は、放たれた魔法を俊敏な動作ですべて避けきると、そのままジャンプして両腕の刀を二閃させ、 ヒボグリフとその主人を兵士達同様に切り裂いてしまった。 「そんな馬鹿な、あいつは本物の悪魔か!?」 王国最精鋭の魔法衛士隊ですら軽々と餌食にしてしまった怪人に、否応も無く兵士達の恐怖心はつのる。 残った魔法衛士隊は仲間のあっけないやられ様に怒りを覚えたが、同時に未知の敵への恐怖心も強く、 高度を上げて逃げてしまい、地上の兵士達は再び死神の鎌の前に差し出された。 「うわあっ、た、助けてくれえ!!」 すでに兵士達は逃げ惑う羊の群れでしかなかった。 怪人は、まるで狩りを楽しむかのように彼らの背後に迫っていく。 だがそのとき、怪人の足元に突然多数の銃弾が殺到して火花を散らせ、怪人の動きが止まった。 「王女殿下直属銃士隊、参る」 それは、王宮から急行してきたアニエス率いる銃士隊の放った援護射撃だった。 「第2射、撃て!!」 副長ミシェルの命令で後列に構えていた隊員達が銃を放つ。彼女達の装備している銃は前込め式の単発銃 なので連射するためには射手が複数いるか、あらかじめ銃を複数持っているしかないからだ。 だが、怪人は立ったままほとんどの弾丸をその身に受けたにもかかわらず、平然としていた。 「銃が効かんか、なら切り倒すまでだ、かかれ!!」 副長の命令で銃士隊は全員抜刀して怪人を包囲しにかかった。 銃士隊は、王女の直属警護部隊に抜擢されるだけあって、接近戦では一人で一般兵士の5人分に相当する 強さを見せるとも言われ、さらに集団戦法を用いれば無類のチームワークで凶暴な亜人とも渡り合うこともできる。 今回の戦法は、かつて辺境の村を襲ったオーク鬼を包囲し、集中攻撃で仕留めたときの布陣であったが…… 「やれ!!」 合図とともに二人の銃士隊員が同時に斬りかかる、しかし怪人はそれより早く動いて一人を切り伏せると、 返す刀でもう一人に襲い掛かり、とっさにその隊員が盾にしようとした剣ごと彼女を切り裂いてしまった。 「ミーナ、シオン!! おのれっ!!」 仲間を殺され、怒る隊員達の声が夜空に響く。だが、怪人はまるで殺しを楽しむかのように刀をゆらゆらと 降って余裕を見せてきた。 「なめおって、こうなれば一斉攻撃だ。全員かかれ!!」 ミシェルの声とともに隊員達は一斉に剣を振りかぶる。 だが、彼女が指揮を執っていることに気づいた怪人は隊員達が動くより早く、刃を彼女に向けて飛び掛ってきた。 「くっ!?」 とっさに剣を抜いて受け止めようとしたが、一刀で剣の刃を根元から切り落とされて、丸腰にされてしまった。 そしてその悪魔の刃が次に彼女の首を狙った、そのとき。 「待てーっ!!」 馬の蹄の音とともにやってきた叫び声が彼女達の動きを止め、怪人もそちらに注意を向けた。 「あいつは!?」 彼女達はその声と姿に覚えがあった。 「ツルク星人ーっ!!」 そう、2時間前に学院を出発した才人がようやくトリスタニアに駆けつけてきたのだ。 彼は、駅で暴れているのがツルク星人だと知ると、すぐさま馬を駆けさせ戦いに割り込んだ。 等身大ではすさまじく素早いツルク星人にはガッツブラスターは通用しない。彼はデルフリンガーを引き抜くと 馬から飛び降りた。すると、左手のガンダールヴのルーンが輝き、彼に銃士隊さえ超える俊敏さが備わり、 そのまま勢いのままに上段から思い切り振り下ろした。 「くっ!」 だがやはり正面からの攻撃では星人に避けられてしまった。さらに、体勢を立て直そうとしたところに 星人が右腕の剣を振り下ろしてくる。彼はなんとかそれを受け止めたが。 「相棒、伏せろ!!」 「!?」 デルフの声に従い、才人はとっさに身をかがめた。直後、彼の首のあった空間を星人の左手の刃が 風を斬りながら通り抜けていった。 「次は左だ!! かわせ!!」 息つく間もなく星人の攻撃は続く、才人はデルフの指示に従って、嵐のような星人の連続攻撃を しのぐ。自称伝説の剣であるデルフリンガーはなんとか星人の刀との打ち合いに耐えていたが、 ガンダールヴで強化された才人の動体視力を持ってしても、星人の2本の刀の攻撃は見切りきれずに、 どんどん追い詰められていった。 「うわあっ!?」 「相棒!!」 ついに才人は星人の剣撃に耐えられず、デルフリンガーごと吹っ飛ばされてしまった。 地面に倒れこむ才人にとどめを刺そうと星人の剣が迫る。そのとき!! 「でやぁぁっ!!」 突然飛んできた一本の剣が、いままさに才人に向かって剣を振り下ろそうとしていた星人の顔の 中央に突き刺さった。 その剣は、星人の頑強な皮膚に阻まれてほんの数サントしか刺さっていなかったが、それでも 星人は顔面を押さえて苦悶し、金切り声をあげると、夜の闇の中へと跳躍して姿を消した。 「や、やった……」 「隊長……」 その剣はアニエスが投げたものだった。彼女は星人の気配が完全に無くなったのを確認すると、 隊員達に負傷者の収容をするように命じて、才人とミシェルに向かい合った。 「また会ったな、少年。確か、ヴァリエール公爵嬢の使い魔だったか、先日はお前のおかげで大変 世話になったな」 「あ、その節はどうも」 どうやら、ルイズの爆発に巻き込まれて城の床で一晩越せさせられたのを根に持たれていたらしい。 しかし、嫌味はそのくらいにしてすぐさま本題に入ってきた。 「さて、お前はさっきあの怪物のことを"ツルクセイジン"とか呼んでいたな。しかも、ヴァリエール嬢は 魔法学院に帰ったというのに、使い魔のお前だけがこんな時間にこんな場所になぜいる? お前は 何を知っているんだ」 有無を言わせぬ強い口調と、嘘を許さぬ鋭い眼光でアニエスは才人に迫った。 才人は、ごまかしきれないと思い、知っていることを話すことにした。 「あいつはツルク星人、昨日城を襲ったバム星人と同じく、昔俺の国を荒らした奴の仲間で、多分 ヤプールの手下さ。昼間エースに深手を負わされたから、もしかして仕返しに来るんじゃないかと 思って来てみれば案の定だったよ」 「昼間エースに? あの怪獣のことか、だが奴はあれとは姿形がまったく違うぞ」 「ツルク星人は巨大化時と等身大時では姿がまったく違うんだよ。ただ、両腕の鋭い刀と、昼間の 戦いでエースの火炎でつけられた顔面の火傷の跡はそのままだったろ」 怪訝な表情をするアニエスに才人は、ツルク星人の特徴を説明していった。等身大と巨大化時で 姿がまったく違う星人には、他にカーリー星人、バイブ星人、ノースサタンなどがいて、どいつも 等身大時は並外れた格闘能力を誇る、おそらくは状況に合わせた星人なりのタイプチェンジなの だろうが、ツルク星人はその中でも特に凶悪で残忍な部類に入る。 「なるほど、わかった。しかし、ウルトラマンさえ取り逃した相手を、たった一人で止めようとは、 剣術に優れているのは分かるが、自惚れているのではないか?」 するとデルフが鞘から出てきて、カタカタとつばを鳴らしながらアニエス達に言った。 「確かにそうかもな。だがな、さっき相棒が飛び込まなかったら、そっちの副長どのは間違いなく 殺されていた、いやあ、そのまま全滅していただろうな」 「なに、貴様!!」 「よせミシェル、少し頭を冷やせ。それで、講釈はもうそれで十分だ。あと聞きたいことはひとつ、 奴の仲間は昔貴様の国で暴れていたと言ったが、そのときはどうやって倒されたんだ?」 さすが、現実的な思考をしているなと才人は感心した。あれだけの力の差を見せ付けられながら、 もう次に勝つ手段を模索しているとは。 「ああ、以前はウルトラマンレオ、エースの仲間だけど、彼が戦ってくれたんだが、最初の戦いでは 残念ながら星人に負けてしまったんだ」 「ウルトラマンが、負けた!?」 「ウルトラマンだって、別に神じゃない。あんたらもさっき見ただろう、奴は剣の一撃目をかわしても、 受けても、もう一本の刀で二段攻撃を狙ってくる。それをかいくぐって星人本体を狙うのは並大抵の ことじゃない」 「だが、最初の戦いということは、彼は次の戦いで奴に勝ったのだろう。言え、星人の二段攻撃を 破り、奴を倒したその戦法を」 才人は少し逡巡したが、やがて一言だけ口にした。 「三段攻撃だ」 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第七話 ハルケギニア大陥没! (後編) 暗黒星人 シャプレー星人 核怪獣 ギラドラス 登場! エレオノールのキャンプで、一行はささやかなもてなしを受けていた。 「まさか、こんなところまで私のためなんかに来てくれるとは思わなかったわ。さあさ、なんにもないところだけどくつろいでちょうだい」 「あ、はいどうもです」 才人やギーシュがなかば唖然とした顔をして、まだ熱い紅茶を音を立ててすする。ほこりっぽい空気の中に芳醇な香りが流れ、 一行が、出された茶菓子に口をつけると、甘く気品のある味が口内に広がった。 それは、まるで昼下がりの貴族の休日のような優雅な雰囲気……だが、一行は誰一人としてそれを楽しむでもなく、拍子抜けしたように テントを囲んでいた。 いや、実際かなり拍子抜けしていた。まるごと地面の底に沈んでしまった火竜山脈に登ったという、エレオノールらしき女性の安否を 確かめるためにやってきたのだが、実際ほとんど岩石砂漠になってしまったここにいたのでは、いくら彼女が優秀なメイジでも無事で いるのは難しかろうとある程度覚悟をしていた。 それなのに、いざ苦労して見つけ出してみると、エレオノールはまったくの無傷であった。しかも、機嫌がいいのか妙に態度が優しくて、 いつもの男勝りで厳しい姿を見慣れていたギーシュたちは、小声でヒソヒソと話し合っていた。 「おい、ミス・エレオノールどうしたんだ? やっぱり岩で頭でも打ったのかね」 「うーん、学院に最初にやってきたときはあんなもんだったが、結局素を隠せなかったしなあ。もしかして、ついに婚約が決まったとか」 「いや、百歩譲ってもソレはないと思うが」 失礼を通り越して叩き殺されても文句を言えないようなことをギーシュたちはささやきあっていたが、ある意味では無理からぬ話である。 エレオノールの猫かむり、というか貴族が対外的に態度を使い分けるのは当然のことだとしても、なぜそれを今さら自分たちに見せる 必要があるのだろうか? エレオノールと仲がいいルクシャナなどは露骨に不快な顔をしている。からかっているのか? しかし怖くて 誰も言い出せなかったところで、妹のルイズが思い切って言い出した。 「お姉さま、もてなしはこれくらいでいいですから教えてくださいませんか? なぜこんなところにいらしていたんですか? お姉さまほどの 人物が、単なる地質調査のためなんかに派遣されるわけがないでしょう」 皆は心中でルイズに礼を言った。この異様な空気から逃れられるのはなによりありがたい。 エレオノールは、紅茶のカップを置くとおもむろに話し始めた。 「みんな、ここ最近ハルケギニアの各地で起こっている異変を知っているかしら?」 「異変、ですか? まさか、ここ以外でも!」 「そうよ。今、ここだけじゃなくトリステインを含むあちこちで異常な地震や陥没が頻発しているの。最初は辺境の山岳地帯や、 無人の森林地帯が一夜にして消えてなくなって、鈍い領主はそれでも気に止めてなかったんだけど、とうとう村や城まで沈み始めて 慌ててアカデミーに調査依頼が来たというわけなの」 そうだったのか……一行は、知らないところですでにそんな大事件が起こっていたのかと、のんきに旅行気分で東方号に乗ってる 場合じゃなかったと思った。思い出してみれば、東方号がトリステインを出発する時にエレオノールがいなかったのは、このためであったのか。 つまり、火竜山脈にやってきたのも偶然ではないのかと尋ねると、エレオノールは首を縦に振った。 「無闇に発表するとパニックが起こるから王政府の意思で伏せられているけど、今、魔法アカデミーの総力をあげて原因究明が おこなわれているわ。国外にも多くの学者やメイジが派遣されて、私は火竜山脈担当だったというわけ。まさか、調査中に自分が 被害に会うとは思わなかったけどね」 「それは、大変でございましたね。それで、山が沈む原因は解明できたのですか?」 核心への質問がおこなわれると、エレオノールは一呼吸をおいて指で足元を指して言った。 「ええ、一応の仮説は立てていたけど、ここに来て確信が持てたわ。原因は、地下深くに埋蔵されている風石が一気に消失 したことによる地盤沈下よ」 「風石ですって!? ですが、火竜山脈にはそれほど規模の大きい風石鉱山はないのが常識ではなかったですか?」 「人間が通常に採掘できる鉱脈はごく浅いところだけよ。知られていないけど、さらに地下数百メイル下には膨大な量の鉱脈が 眠っているわ。それこそ、ハルケギニアの地面を埋め尽くすくらいにね」 まさか……と、ルイズは足元を見た。そんなこと、どんな授業でも習わなかったが、それが本当だとすれば、自分たちの住んでいる ハルケギニアは巨大な風石の海の上に浮いている浮き島のようなものだということになる。地下水の汲み上げすぎでも、時には 地上が歪むほどの地盤沈下をもたらすことがあるんだから、それほどの鉱脈が消失したとしたら。 「つまり、地下の風石がなくなったから、上の岩盤も支えを失って……」 「そう、まずは重量のある山岳地帯が陥没を始めたという事よ。 一行は呆然として、ふだんなにげなく踏みしめている地面を見つめた。よく見ると、石や砂に混ざって風石の欠片がキラキラと 光っている。それこそ説明されるまでもなく、この山脈の地底にあった大量の風石の残骸に違いなかった。 そして恐ろしい真相は、さらに恐ろしい未来図を連想させた。 「ちょ! その風石の鉱脈はハルケギニア全体に広がっていると言いましたよね。じゃ、いずれは」 「ええ、遠くない将来に……ハルケギニアは丸ごと陥没して、地の底に沈んでしまうでしょうね」 音のない激震が全員の中を駆け巡った。ハルケギニアが沈む? そんなバカなと否定したいが、今日自分たちがその目で 見てきた事実がそれを動かしようもなく肯定していた。火竜山脈が平地と化してしまうような変動が人里を襲ったとしたら、 そこにあるのはもはや災害というレベルではすまされない。 ハルケギニアが沈む。つまり、自分たちの故郷トリステインにあるトリスタニアの街並みも、魔法学院やひとりひとりの家々も 何もかも残さず大地に飲み込まれて消滅する。むろん、ガリアやゲルマニアも同じように壊滅し、アルビオンを除いてハルケギニアは 人の存在した痕跡すらない岩石ばかりの荒野と化してしまうのだ。 ルイズはここにティファニアを連れてこないでよかったと思った。こんなとんでもない話を聞かせたら、あの子なら卒倒していたかも しれない。というよりも、こんな事実が公になったらハルケギニアは破滅的なパニックに包まれてしまうに違いない。 だが、なぜその風石の鉱脈が消失したかと尋ねると、エレオノールは「それは私にもまだわからないのよ」と、言葉を濁した。 けれども、才人はここで事件のピースが組みあがっていくのを感じた。 「そうか、町の子供たちが見かけたギラ、いや怪獣は地下の風石鉱脈を食べていたんだ」 「なんですって! 今、なんと言ったの」 才人はエレオノールに、怪獣が地下に潜るのが目撃されていたことを伝えた。すると、エレオノールは明らかに動揺した 様子を見せて言った。 「そ、そう、怪獣を見た人がねえ。でも、子供が見た事だっていうし、見間違いじゃないの?」 「何人もが目撃してますし、その後に恐ろしい叫び声を聞いたという話もありました。なにより、こんなとんでもない事件を 引き起こせるのは怪獣でもなければ無理だと思います」 才人はぴしゃりと言ってのけた。ほかの面々も、これまでに何度も怪獣の起こす怪事件と向き合ってきただけに、才人の 言うことが妥当だろうとうなづいている。 「そ、そう……」 なのに、同等の経験を持つはずのエレオノールだけが納得していない様子で、才人ら一部はどことなく違和感を感じた。 アカデミーでデスクワークをしているうちに勘が鈍ったのか? いや、男性がついていけないくらいに何事にも積極的な エレオノールに限ってそれはない。ならば、なにが……? どことなく居心地の悪い沈黙が場を包んだ。喉に魚の骨が刺さったままのような、吐き出したいけどできない不快な感触。 しかしルイズはそんな悪い空気を吹き払うように陽気な様子で言った。 「もうみんな、なにをそんなに疑った顔をしてるの? エレオノール姉さまはトリステイン一高名な学者でわたしの自慢の 姉さまなのよ。変な目で見たりしたら、このわたしが許さないんだから」 「お、おいルイズ?」 これには才人たち、ほとんどの者が面食らった。エレオノールもだが、ルイズも変になったのか? が、ルイズが凄い目で 睨んでくるため言い出すことができないでいると、エレオノールがルイズに話しかけた。 「まあルイズ、あなたはなんて素晴らしい妹なのかしら。私はあなたを誇りに思うわ!」 「妹が姉の誇りを守るのは当然のことですわ。それよりも、わたしたちもお手伝いいたします。これだけの人数がいるのですわ、 お姉さまの下で手分けして捜せば、たとえ相手が地の底に潜んでいても兆候は見つけられるでしょう。相手も、いずれは 地上に出てこなければいけなくなるでしょうから、正体を見極めて通報すれば軍が討伐隊を出してくれますわ」 「そ、そうね。さすがは私の妹だわ。そうしましょう」 「はい、お姉さま。あら、しゃべったら喉が渇いてしまいました。すみませんが、お茶をもう一杯いただけませんか?」 「ええ、もちろんいいわよ」 エレオノールがティーポッドを持ち、ルイズのカップに紅茶を注いだ。湯気があがり、カップに口をつけたルイズの顔が 白く隠れる。その湯気の影から、薄く開いたとび色の瞳が才人に向けられて、彼ははっとした。 そうか、なるほどルイズそういうことか。ついていけずに呆然としている一行の中で唯一才人だけがなにかを理解した目で、 それを悟られないように伏せていた。他の者は、多かれ少なかれ何かを腹の内に持っていても、はばかってそれを口にすることを ためらって、じっとルイズたちの動向を見守っていた。 結果、一行は数人ずつに分かれて火竜山脈跡を探索することになった。 「よし、各員散って周辺の探索に当たれ。ただし、三時間後に何もなくてもここに戻っていろ。暗くなる前に山を下りないと危ない」 「なにかを見つけた場合の合図はどうしますか?」 「信号用の煙玉を各自持ってるだろう? 扱いは火をつけるだけの簡単な奴だからこれを使えばいい。では、全員散れ!」 ミシェルの号令で、一行はそれぞれバラバラの方向へとクモの子を散らすように飛び出していった。 編成は、基本は銃士隊と水精霊騎士隊がひとりずつ組んで、どの組にも必ずメイジが一人はいるようになっていた。ただし、 才人とルイズは例外で、エレオノールと組んで三人で探索に出ることになった。 散り散りになって岩の荒野の底に潜む怪獣を求めていく戦士たち。先日の金属生命体のときと違い、仲間も武器もない 追い詰められた状態ながらも、自分たちの故郷がこの荒野と同じになるかという瀬戸際なのだ。手段が限られていても 気合の入りようが違う。 「くっそお、人の足の下でこそこそしてるシロアリ野郎め。頭を出したらぶっ叩いてやる」 ハルケギニアの屋台骨をこれ以上食い荒らされてはたまったものではない。しかし、相手がそれほど深い地底を自由に 動けるというのなら先住魔法でも探知はまず不可能で、砂漠で蟻の巣を探すような無謀な行為でしかないと誰もが思うだろう。 しかも、彼らにはそれとは別に心の内に引っかかっていることがあった。 ”まさか、まさかだが、あの人はひょっとしたら……? 万一そうだとしたら、自分たちはとんでもないミスを犯したのではないだろうか” 誰もが胸の奥から鳴り響いてくる警鐘に、多かれ少なかれ悩まされていた。しかし、思ってはいても口に出せない事柄というものは 存在する。裸の王様がいい例ではあるが、言い出しそこねたという後悔の念は時間が過ぎていくにつれて強くなっていった。 火竜山脈跡は平坦になったとはいえ、家ほどもある岩石がゴロゴロしていて、少し離れると別の組の姿はすぐに見えなくなった。 岩の間には風が流れて反響しあい、声を出しても遠くに響く前にかき消されてしまう。これでは、もしなにか起きたとしても誰にも 気づかれないのではないだろうか? 本能的にそんな不安が胸中をよぎり、ミシェルと同行していたルクシャナがぽつりと言った。 「ねえ、あなた。わたしたち、こんなことしてていいのかしらね?」 「どういう意味だ?」 「とぼけないでよ。あなただって当に感ずいてるんでしょう? わたしだって、言えるものならさっき言い出したかったんだけど、 確証もなしにそんなことを言ったら不和と疑心暗鬼を招くことくらいわたしだって承知してるわ。なにより、言い出して外れてたとき、 大恥をかくのはわたしなのよ!」 一気にまくしたてたルクシャナの顔には、不満といらだちが満ち溢れていた。学者の彼女にとって、言いたいことを飲み込まなくては ならない我慢がどれだけ耐え難いものかは、短からず彼女と付き合ってきたミシェルには十分理解できた。 「気持ちはわかる。わたしとて、途中から少なからぬ疑惑を抱いてはいた。しかし、確たる証拠もなしに友人を侮辱するような 真似はできない。あるいは、それを計算していたとしたら相当悪質ではあるな」 「わかってる割には落ち着いてるじゃない。もしかしたら、袋のネズミにされてるのはこっちかもしれないのよ? よくまあ 平然とした顔でいられるわね。ほんとにわかってるの? 今、一番危ないのは、あんたの惚れた男なのよ」 「恥ずかしいことを大声で言うな。わかっているさ、そしてわたしやお前にわかっていることなら、大方あのふたりもとっくに わかっているはずだ。必ずやってくれるさ、あいつらならな」 ミシェルはそれで話を打ち切った。ルクシャナは呆れた顔で、「あんなとぼけた顔のぼうやのどこがいいのかしらねえ? まあアリィーもそんなに差があるわけじゃないかな」と、あきらめたようにつぶやいていた。 彼女たちの胸中を悩ます不安要素。それは放置すれば、ガン細胞のように取り返しのつかないことになるのは わかっていたが、誰にも手術に踏み切る物的証拠がなかった。 ただし、一方でそうは思っていない者たちもいた。エレオノールに着いていった、才人とルイズのふたりがそれである。 三人は、ほかの一行と分かれた後で、特に当てもなく前へ進んでいた。ギラドラスがどこに出現するかは予知できないので、 エレオノールの土メイジとしての直感と、目と耳だけが頼りのあてずっぽうである。と、表向きはなっていた。 歩くこと数十分、もう他の組とは大きく距離を離れ、なにかがあったとしても他の組が駆けつけてくるには十分以上は かかってしまうであろう。そこを、エレオノールを先頭に三人は歩いていたが、ふいにルイズが話し掛けた。 「ねえ、エレオノールおねえさま、どうしてさっきから黙ってらっしゃるんですか? いつもなら、貴族としてのありさまがどうとか、 歩きながらでもお説教なさるくせに」 「そ、それは、あなたも立ち振る舞いが優雅になってきたから必要ないと思ったからよ。う、うん! 立派になったわね」 明らかに動揺していた。ルイズは、口だけは「ありがとうございます。お姉さまにお褒めいただけるなんてうれしいですわ」 などと陽気に言っているが、目だけはまったく笑っていなかった。 「ところで、この間のお手紙に書いてあった、新しいご婚約者の方とはうまくいってますの?」 「え、ええ! それはもちろんよ。待っててね、結婚式には必ず招待するからね」 にこやかにエレオノールは言い、ルイズと才人は笑い返した。 しかしこの瞬間、ふたりは最後の決意を固めていた。エレオノールの視線が外れると、ふたりは目配せしあって懐に手を入れた。 やがて、もうしばらく進むと、ひときわ大きな岩が壁のように聳え立っている場所に出た。 「これはまた、でかい岩だな」 高さはざっと十メートルほど、それが垂直にそびえ立っていて、少しくらい運動ができる程度で乗り越えられるものではなかった。 魔法が使えれば楽に飛び越えられるが、虚無一辺倒でコモンマジックも十全に扱えないルイズにはフライも使えないし、 テレポートをこんなことのために乱用するのはもったいなさすぎた。 すると、エレオノールが岩の上にひらりと飛び乗った。 「あなたたちは飛べないのよね。さあ、引っ張り上げてあげるからロープを掴みなさい」 岩の上から下ろされたロープが才人とルイズの前でゆらゆらと揺れる。その頂上ではエレオノールがにこやかな顔をしながら 二人がロープを掴むのを待っていた。 しかし、ふたりはどちらもロープに手を伸ばすことはせずにエレオノールを見上げると、ルイズは強い口調で言い放った。 「そして、引き上げかけたところでロープを離せば、まずは邪魔者ふたりを始末できるというわけかしら? ニセモノさん!」 「なっ、なに!」 エレオノールの顔が驚愕に歪んだ。そしてふたりは追い討ちをかけるように言い放つ。 「バーカ、とっくの昔にバレてるんだよ。まんまと騙せてると思って、演技してるお前の姿はお笑いだったぜ!」 「エレオノールおねえさまに婚約者なんてできるわけないのよ。ボロが出るのを恐れて話を合わせたのが運のつきだったわね」 「おっ、おのれえっ。騙したなあっ!」 逆上した顔だけは本物にそっくりだなとルイズは笑った。が、猿芝居に付き合ってやるのもここまでだ。 「さあ、とっとと正体を現したらどう? 地下の怪獣を操ってるのもあんたなんでしょう!」 「人間の分際で、バカにしやがって! いいだろう。こんな窮屈な姿はこれまでだ!」 そう吐き捨てると、エレオノールのニセモノは懐から銀色をした金属製のプレートのようなものを取り出して左胸に当てた。 瞬間、白煙が足元から吹き上がって姿を隠す。そして煙の中から全身が金と銀色の怪人が現れた。 「俺様は、暗黒星雲の使者、シャプレー星人だ!」 ついに本性を表したニセエレオノール。その正体は、本物とは似ても似つかない銀のマスクののっぺらぼうであった。 暗黒星人シャプレー星人。その記録は才人の知るドキュメントUGにもあり、当時は地質学者の助手に化けて暗躍し、 地球のウルトニウムを強奪しようとしていた、宇宙の姑息なこそ泥だ。 「やっぱりお前だったかシャプレー星人! ハルケギニア中の風石を奪ってどうするつもりだ!」 才人が怒鳴ると、シャプレー星人は肩を揺らしながら答えた。 「フハハハハ! 貴様ら人間どもはそんなこともわからんのか。貴様らが風石と呼ぶ、この鉱石は宇宙でも極めて珍しいくらいに、 反重力エネルギーを大量に蓄積した代物だ。人間どもはおろかにも、これほどの資源を風船のようにしか使えておらんが、 効率よく加工精錬すれば強大なエネルギー資源になりうるのだ。それこそ、兵器利用のために欲しがる宇宙人はいくらでもいるわ!」 「風石を、侵略兵器に悪用しようっていうのか。ゆるさねぇ! それもヤプールの差し金か?」 「フン! ヤプールはいまごろボロボロになった自分の戦力のことで手一杯だろうよ。俺は最初から、あんなやつの下っ端で 働くなんてまっぴらだったんだ。風石をいただくだけいただいて残りカスになったら、こーんな最低な星にはなんの未練もないわ」 なるほど、つまりヤプールの支配力が衰えた隙を狙って動き出した雇われ星人ということかと才人は察した。ヤプールは、 独自の配下として複数の宇宙人を従えているが、それだけでは限りがあるので、直接的に隷属させてはいないがかなりの 宇宙人に声をかけ、誘惑して利用しているのは前からわかっていた。 しかし、いったんヤプールの支配が弱まってしまえば、無法者たちは一気に好き勝手に暴れだす。 「どうりで、前に地球に現れた奴に比べたら頭が悪いと思ったぜ」 「なに!? そうか、お前がヤプールの言っていた地球から来た小僧か。これはちょうどいい、一番の邪魔者がのこのこ自分から やってきてくれるとはな。まずはお前から血祭りにあげてやる」 開き直ったかと才人は思った。やはり同族の宇宙人といえども、性格はメフィラス星人の例にもあるとおり差はあるようだ。 地球に現れた個体は計算高く、偶然が味方してくれなければ正体を突き止めることすら難しかったくらい周到に暗躍していたが、 こいつはヤプールの口車に乗るだけあって浅慮で詰めの甘いところが目立った。 こんなやつがエレオノールお姉さまに化けてたなんて。決して仲がいいとは言える姉ではなくとも、ルイズも忌々しそうに言った。 「ハイエナのくせに偉そうにしてくれるじゃない。よくもエレオノールお姉さまの顔を騙ってくれたわね。本物のお姉さまはどうしたの?」 「別にどうもしないさ。トリステインで、学者どもが飛び回っているといったろう? あれは嘘でもなんでもない。当然、本物も 毎日のようにあちらこちらを飛び回ってどこにいるかわからん。つまり、同じ人間がふたりいても、まず気づかれはしないということさ」 「お姉さまの多忙さを利用したってわけね。確かに、それなら本物が忙しく飛び回ってくれてたほうがニセモノも大手を振って 歩き回れるわけ。なるほど、本物のエレオノールお姉さまが聞いたら激怒するでしょうけど、そうやって人々の目を欺きながら 自由に怪獣を操っていたのね。ハルケギニアから盗み出した風石は返してもらうわよ!」 するとシャプレー星人は愉快そうに笑った。 「ハハハ! 残念だったなあ。すでに地下の風石の半分以上はこの星の外に運び出しているのだ。いまごろ気づいたところで 取り返せやしないんだよ。ざまあみろ!」 「なんですって! それじゃあ、ハルケギニアの地殻は!」 「今のところはかろうじて安定しているが、それも時間の問題だな。あと少し採掘すれば、地殻は一気に崩壊し、少なくとも 大陸全土がこの山のように沈んでしまうのは間違いないなあ」 才人とルイズは戦慄した。ハルケギニアが根こそぎ地の底へと沈んでしまう? 絶対に、これ以上の採掘は阻止しなくてはならない。 ルイズは杖をシャプレー星人に向けて言い放った。 「エレオノールお姉さまを侮辱してくれた報いは妹の私がくれてやるわ。悪いけど、優しくしてもらえると思わないでね」 「チィ、まさか妹がやってくるとは想定外だったぜ。しかし、俺の変身は完璧だったはず、どこで気づいた?」 「ふっ、確かに姿だけは完璧だったわ。でもね、あんたは内面のリサーチが足りてないのよ。おしとやかなエレオノール お姉さまなんて菜食主義のドラゴンみたいなものよ。そして、あんたは決定的なミスを犯したわ。それは……」 そこでルイズは一呼吸起き、思いっきり胸をそらして得意げに言った。 「本物のエレオノールお姉さまはねぇ、絶対わたしにお茶なんか出してくれないのよ! あっはっはっはっは! ん? サイト、 なんでコケてんのよ?」 「虐待されとることを自慢すな、アホッ!」 まさにあの姉にしてこの妹ありだった。神経の太さは並ではないと、才人はずっコケながらほとほと思うのである。 よりにもよってエレオノールに化けたのが本当に運のつき、この規格外れの姉妹にそう簡単に入り込めるはずがない。 シャプレー星人は唖然とし、次いで激怒して叫んだ。 「貴様ふざけやがって! 覚悟しろ!」 「覚悟するのはあんたのほうよ! あんたを倒して大陥没を止める」 「ここで死ぬ貴様らには無理だ!」 シャプレー星人は光線銃を取り出して、才人たちも迎え撃つべく武器をとる。 交差するシャプレーガンとガッツブラスターの光弾。しかし双方とも発射と同時にその場を飛びのき、外れた弾が岩に 当たって火花を散らした。 「外れた!?」 「避けおったか、しゃらくさい!」 どちらも銃撃を連射するが、十メートルもある岩盤の上と下なので当たりずらい。だが、ならば互角かといえば、才人の ほうはエネルギーの関係で実弾練習がほとんどできなかっただけ分が悪い。 しかも、シャプレー星人は光線銃だけでなく、草食昆虫のような口を開いて、そこからも光弾を放ってきたのだ。 「ちくしょう! 手数が違いすぎる」 雨あられと降り注ぐ光弾に、才人は避けるだけで精一杯だった。シャプレー星人はさらに調子に乗り、池のカエルに 石を投げるように銃撃を加えた。 「ウワッハッハッハ、逃げろ逃げろ、虫けらめ! ヌ? ヌワァッ!」 突如、爆発が起こってシャプレー星人を吹き飛ばした。半身を焦がした星人の目に映ったのは、杖の先をまっすぐに 向けて睨みつけてくるルイズだった。 「サイトにばかり気をとられてるからよ。まだエクスプロージョンを撃てるほど回復してないけど、あんたに町や村を 壊された人たちの痛みを少しは知りなさい」 不完全版エクスプロージョンの威力は必殺とはいかなかったが、不意をつくには十分だった。なにせ、なにもない ところが突然爆発するのだから回避は大変難しい。シャプレー星人は、この星のメイジが使う魔法は系統はどうあれ、 おおむね飛んでくるものとばかり思い込んでいたから、銃を持っている才人を先に狙ってルイズを後回しにと判断したのが 見事に裏目に出た。 才人も体勢を立て直して、ガッツブラスターからエネルギー切れのパックを取り出して新品を装填した。 「ナイスだぜルイズ! よーし、あいつの弱点は目だ。目を狙え」 「目ってどこよ!?」 とのやり取りがありながらも、星人の鎧を着込んでいるような体はよく打撃に耐えた。しかし、体は耐えられても ダメージを受けたシャプレー星人は逃げられない。 「お、おのれぇ。ならば、また貴様の姉の姿になってやる。これで攻撃できまい」 「あんたバカぁ? むしろ日ごろの恨み!」 ニセモノだとわかっているから、遠慮会釈のない爆裂の嵐が吹き荒れる。そのときのルイズの気持ちよさそうな顔ときたら、 いったいどれだけ恨みつらみが重なってるんだよと才人が心配するほどであった。 変身を維持できなくなってボロボロのシャプレー星人に、才人は介錯とばかりに銃口を向けた。 「これでとどめだ!」 「まっ、待て。お前の、影を見……」 「その手品は種が割れてんだよ! くたばりやがれ!」 悪あがきも通じず、銃撃と爆発が同時に叩き込まれた。その複合攻撃の威力には、さしものシャプレー星人の頑丈な体も 耐えられず、星人は炎上しながら岸壁を墜落していった。 「くっそぉぉーっ! 俺がこんなやつらに。ギラドラース! 俺の恨みぉぉぉ!」 地面にぶつかり、シャプレー星人は四散した。 だが、星人の断末魔と共に大地が激震し、地底から凶暴な叫び声が響いてくる。 「出てきやがるぞ。あとは、こいつさえ倒せばハルケギニアは沈まずに助かる! ルイズ」 「ええ、仕上げにいきましょう」 「ウルトラ・ターッチ!!」 岩の嵐を吹き飛ばし、ウルトラマンAが大地に降り立った。 続いて、猛烈な地震を伴いながら、赤く輝く角を振りかざして核怪獣ギラドラスが地底から現れた。 来たな! エースは前方百メートルほどに出現したギラドラスへ向かって構えをとった。四足獣型の体格でありながら 前足のない独特のスタイル。黒色のヤスリのようなザラザラした肌、背中にも明滅する赤い結晶体。間違いなく奴だ。 睨みあうエースとギラドラス。両者の巨体とギラドラスの叫び声が、遠方にいる仲間たちも呼んだ。 「ウルトラマンだ! 怪獣と戦ってるぞ」 「あっちはサイトたちが行った方向じゃないか。よし、助けにいこう」 全員がいっせいに同じ方向へと急いだ。全部のペアにメイジが含まれているので、フライの魔法を使って飛ぶ速さは 岩だらけの中を走るより断然速い。 しかし、彼らが才人たちのもとへ急ごうと飛び立って間もなく、ギラドラスが空に向かって大きく吼えた。次いで角と 背中の結晶体が強く発光すると、突如として暴風が吹き荒れて、降るはずのない雪が猛烈な吹雪となって荒れ狂いはじめた。 「うわあっ! なんだ急に天気が!」 「吹き飛ばされる! みんな、下りて岩陰に避難するんだ」 ブリザードが周囲を覆い、エースとギラドラス以外は身動きがとれない状況になってしまった。 この異常気象、もちろん自然のものではない。才人はすでに、ギラドラスの仕業に気づいていた。 〔あいつは天候を自由に操る能力があるんだ。くそ、あんなのをほっておいたら沈まなくてもハルケギニアはめちゃめちゃに されてしまうぞ!〕 聞きしに勝る強烈さ、ギラドラスは地底に潜れば地震に陥没、地上に出てくれば大嵐を引き起こす、災害の塊のような 奴なのだ。こんなぶっそうな怪獣をほっておいたら、寒波、豪雪、干ばつ、台風、人間の住める世界ではなくなる。なんとしても、 こいつはここで倒さなくてはいけない。 「シュワッ!」 吹雪の中で、エースはギラドラスに挑みかかっていく。キックがギラドラスのあごを打ち、噛み付いてきたところをかわして 脳天にチョップからの連続攻撃を当てていく。 〔こないだのときと違って、体力はいっぱいよ。ぜったい負けやしないんだから〕 〔だけど、この寒さじゃ長くはもたないぞ。それに、下のみんなが凍死しちまう!〕 〔ええ、不利になる前に一気に決めたほうがよさそうね〕 ウルトラ戦士は強靭な肉体を持つが寒さには弱い。猛吹雪の中、太陽光もさえぎられたここは最悪のフィールドだといえる。 過去、エースも雪男超獣フブギララや雪だるま超獣スノギランとの戦いでは寒さに苦しめられている。いくらエネルギー満タンの 状態でも、長期戦には耐えられないのはエースも当然承知していた。 〔悪いが、一気に勝負を決めさせてもらうぞ!〕 苦い経験を何回も繰り返すつもりはない。エースはギラドラスの背中に馬乗りになり、パンチを連打してダメージを蓄積させていった。 が、ギラドラスも黙ってやられるつもりはむろんない。太く長い尻尾を振るってエースを振り落とし、雄たけびをあげて頭から 体当たりを仕掛けてきた。 「ヘヤアッ!」 エースはギラドラスの突進に対して、とっさに敵の頭の角を掴むと、突進の勢いをそのまま利用して投げを打った。 巨体が一瞬浮き上がり、次の瞬間ギラドラスは背中から雪をかむった岩の中に叩きつけられる。 〔どうだっ!〕 こいつは効いたはずだ。才人も混じって受けた水精霊騎士隊の格闘訓練での、銃士隊員のひとりから投げ技を 受けたときには、呼吸ができなくなって本当に死ぬかと思った。ルイズも昔、いたずらしたおしおきでカリーヌに竜巻で空に 舞い上げられて落とされた痛みが、寒気といっしょに蘇ってきた。 案の定、ギラドラスは大きなダメージを受けてもだえている。しかし、なおも角を光らせて天候を荒れ狂わせて攻めてきた。 吹雪がさらに強烈になり、エースの体が霜に染まって凍りつき始めた。 〔ぐううっ! なんて寒さだ〕 すでに気温は氷点下数十度と下がっているだろう。それに加えて台風並の強風が、あらゆるものから熱を奪っていく。 エースはまだ耐えられる。しかし、ろくな防寒装備もない下の人間たちはとても耐えられない。 「ギ、ギーシュ、ま、まぶたが凍って開か、な……」 「レイナール! 目を開けろ。寝たら死ぬぞぉ!」 「ミ、ミス・ルクシャナ、もっと風を防げないのか?」 「無茶言わないでよ副長さん! わたしたちだって必死にやってるのよ。今、この大気の防壁の外に出たら、あっという間に 氷の彫像になっちゃうわよ」 もうほとんどの者が手足の感覚がなかった。あと数分もすれば凍傷が始まって、やがては低体温症で死にいたる。 もはや、一刻の猶予もない! エースは自身も白く染まっていく身に残った力を振り絞り、ギラドラスへ最後の攻撃を仕掛けていった。 「ヌオオオオォォォォッ!!」 体当たりと噛み付きを仕掛けてくるギラドラスの攻撃をいなし、首元に一撃を加えて動きを止める。 〔いまだ!〕 チャンスはこの一瞬! エースはギラドラスの腹の下から巨体を持ち上げる。高々と頭上に掲げ、全力で空へと投げ捨てた。 「テヤァァァッ!」 放り投げられ、空高く昇っていくギラドラス。エースはありったけのエネルギーを光に変えて、L字に組んだ腕から解き放った。 『メタリウム光線!』 光芒が直撃し、膨大な熱量はギラドラスの肉体そのものをも蒸発させ、瞬時に千の破片へと爆砕させた。 閃光と、それに続いて真っ赤な炎が天を焦がす。爆音にギラドラスの断末魔が混じっていたか、それもわからないほどの 衝撃波が大地をなでて積雪を吹き飛ばしていくと、次の瞬間、空一面を青い幻想的な輝きが覆った。 「おおっ」 「すごい、きれい……」 空一面に、星のように小さな無数の光が舞っていた。皆は、寒さに凍えていたことも忘れてその光景に心を奪われた。 青と銀色のコントラストはどこまでも美しく透き通っていて、まるでオーロラを砕いて散りばめたようである。 いったい、この空を覆う星雲のような輝きはなんなのか? エースにもわからないが、邪悪な気は感じないので見つめていると、 ルクシャナがはっとしたように叫んだ。 「これ、風石だわ! 風石のかけらなのよ!」 そう、ギラドラスが体内に蓄えていた大量の風石が、爆発のショックで細かな破片となって飛散したのが、この光景の正体だった。 風石は精霊の力が形となったといわれているだけあって、いつまでも舞い降りてくることなく空にあり続け、やがて自然界の 秩序を守る精霊の意思を受け継いでいるかのように次なる奇跡を起こした。ギラドラスの巻き起こした嵐の雲に、風石の破片雲が 接触すると、まるで悪の力を相殺するかのように黒雲を消し去ってしまったのである。 「おお! 嵐がやんでいくぜ」 「あったかくなってきたわ。これで凍死しないですむわよ。やったあ!」 天候が急速に回復していき、皆から喜びの声があふれた。いまだ空は虫の群れに覆われており、本物の空は見えないが 一応の平穏が戻った。 風石の見せてくれた神秘の力。しかしこれも、元を辿ればハルケギニアの自然が長い年月をかけて作り出したものなのだ。 決して宇宙人のいいようにされていいものではない。資源を欲にまかせて掘り返し続けて、大地を枯らせてしまった後には 何も残りはしないのだ。 シャプレー星人の邪悪な陰謀は打ち砕かれた。エースは空へと飛び立ち、風と共に戦いは終結を告げる。 「ショワッチ!」 これで、ハルケギニアの土地がこれ以上沈降することはないはずだ。火竜山脈はもう元には戻らないが、ギリギリ被害を 最小限に抑えられたと思っていいだろう。 才人とルイズは皆と合流すると、事の顛末をまとめて報告した。 「なるほど、やっぱりあのミス・エレオノールはニセモノだったのか。しかし、我々も怪しいとは思ったが、あまりにも怪しすぎて 手を出せなかった。まんまと罠にはめるとは、さすがだなルイズは」 「うふふ、まあねえ」 ほめられて、鼻高々なルイズであった。才人は、まあ少し呆れながらも、今回はルイズの功績が大だったので、文句も 言わずに見守っている。 「まったく、褒められるとすーぐ頭に乗るんだからなあ。けど、今回はルイズを敵に回すと恐ろしいってのがよくわかったよ。 シャプレー星人も化けた相手が悪かったとはいえ、ちょっと同情するぜ」 「聞こえてるわよサイト。でもま、今日は気分がいいから大目にみてあげるわ。でも、ヤプールが眠っていても安心できる わけじゃないってのもわかったわね」 「ああ、これから先もなにが起こるか、油断は禁物だな」 ヤプールの統率を離れて勝手に動く宇宙人もいる。災いの芽は、どこに隠れているかわからない。 そう、地球に勝るとも劣らない美しいこの星は、常に狙われているのだ。 いかなる理由があろうとも、侵略は絶対に許されない。しかし、平和は黙っていても守れるものではない。強い意志で、 痛みに耐えてでも悪と戦いぬいてやっと維持できる危うく儚いものだということを忘れたとき、人々の幸せは簡単に 踏みにじられてしまう。 今回の事件は、そのことを思い出すいい機会だった。なにせ、誰もあって当たり前と思っていた地面をなくそうとしていた 敵まで現れたのだ。侵略者は、人間のありとあらゆる油断をついて攻めてくる。絶対に安全なんてものはないんだということを、 みんながあらためて思い知った。 そして、今この世界は何者かの手によって闇に閉ざされ、滅びの道を歩んでいる。ハルケギニアに住む者として、 この脅威を見過ごすことは断じてできない。 「さあ、これでこの事件は片付いたわ。町に帰りましょう、きっとテファが心配してるわよ」 「おおーっ!」 思わぬ足止めを食ったが、もう大丈夫だ。町の人たちも、早く帰って安心させてあげないといけない。 一行は、意気揚々と町への帰路についた。 が、彼らの心はすでにここにはない。前途をふさいでいた難題が解消した今、行くべき道はひとつしかないのだ。 「今日はゆっくり休んで、明日には国境を越えましょう。幸い、山越えはしないですむみたいだしね」 異変の元凶がある南の地。そこになにが待ち受けているとしても、引き返すという選択肢は誰の心にもない。 目指すロマリアは、もはや目前へと迫っている。 そこで待つ運命の指針は、まだ正義にも悪にも、振れることを決めかねているようであった。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
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「土くれのフーケ?彼女が?」 ウェールズが唖然とした表情のまま、ルイズに問いかける。 マチルダが土くれのフーケだという事実は、あまりにも予想外だったのか、アンリエッタもウェールズと同じようにきょとんとした表情で固まっている。 「どこから話そうかしら…そうね、私が『死んだ』時のことから話しましょうか」 ルイズは、呆然としている二人に、土くれのフーケとの馴れ初めを話し出した。 吸血鬼になったルイズが、魔法学院を自主退学しようとした日は、奇しくもアンリエッタが魔法学院に立ち寄った日だった。 ロングビルとしてオールド・オスマンの秘書をしていたフーケは、アンリエッタが来る日に宝物庫の警備が手薄になると気づき、ゴーレムを用いて物理的に宝物庫を破壊しようとしていた。 宝物庫にはヒビが入っており、そこを土に練金してしまおうと思ったが、固定化を崩すことができなかった。 そのためゴーレムを用いて物理的に宝物庫の壁を破壊した。 フーケは、集まってくる衛兵の目を誤魔化すためゴーレムを囮として走らせ、その隙に反対方面に逃げようとした。 その時偶然、馬車に乗って立ち去ろうとするルイズが、フーケの姿を目撃しており、すぐさま追跡を開始した。 人間よりはるかに鋭敏な吸血鬼の五感を用いて、ルイズはフーケを追跡し、隠れ家を発見した。 そしてルイズはフーケと戦った、土くれのフーケがロングビルだったのには驚いたが、それ以上にルイズの心を支配したのは『喜び』だった。 情報収集のための手駒を欲していたルイズは、フーケをやんわりと説得し、協力を約束してもらった。 「ちょっと待ちなよ、どこが説得だよ、あの時アタシ本気で怖かったんだからね」 ルイズの説明を聞いていたマチルダが口を挟む、それを聞いてルイズはすこしむっとした顔で言い返す。 「何よ、あなた無抵抗な私を鉄で押しつぶすわ火で焼くわ、殺そうとしてたじゃない。私はぜんぜん手出ししてないわよ」 「よく言うわ、あんな殺気ぷんぷんさせて見つめられたら誰だって身を守るために攻撃するわよ」 「そう?」 ウェールズは「ははは…」と力なく笑った、苦笑と言った方がいいかもしれない。 アンリエッタを見ると、彼女もウェールズと同じように驚いていた。 ワルドは既にフーケのことを知っているので驚きはしなかったが、ルイズが楽しそうに喋っているのを見て、ほんの少しだけ嬉しそうにはにかんでいた。 「コホン……ルイズは私のこと騙してらしたのね。ずるいわ、もう」 アンリエッタがぷいと横を向いて拗ねてしまったが、どこかかわいらしい。 フーケのことを黙っていたのが気に入らないのか、演技がかった仕草で顔を逸らしている。 ルイズは「ごめんね」と言ってアンリエッタの手を取った。 「ごめんなさいね、アン。クックベリーパイの食べ方なんて、そんな細かいクセまで覚えていてくれて、私は嬉しかったわ…でもフーケの事まで言って良いのか、その時はまだ判断できなかったの」 アンリエッタはルイズの謝罪を聞いて、ふぅとため息をつき、一呼吸置いてから呟いた。 「仕方ありませんわね。土くれのフーケと言えばトリステインを騒がせた大盗賊ですもの。それにあの時の私は単なるお飾りでした…フーケのことを黙っていたのは、むしろ英断だったかもしれません」 ふとマチルダの表情を伺うと、アンリエッタを値踏みするような目で見つめていた。 一瞬だけ視線が交差すると、マチルダはふぅとため息をついてルイズに視線を移した。 「ルイズ。そろそろちゃんと説明してくれないかい。アタシをこの二人に紹介して何をしようってのさ」 「そうね、じゃあ説明をするけど…その前に仕掛けをしておかないとね」 ルイズが腕を前に出すと、腕に仕込んだ杖が筋肉によって押し出され、手のひらに三分の一ほど露出した。 それを握りしめ、静かにルーンを唱えていく、詠唱時間の長さからそれが『虚無』のルーンであることが予想できた。 ルイズは、屋根裏部屋の窓際に移動し、部屋の入り口である小さめの扉に向かって杖を向けた。 周囲から霧のようなモノが集まり、ぐにゃりと景色が歪むと、ルイズは杖を腕の中に収納してため息をついた。 「フーーっ……『イリュージョン』を使ったわ。衛兵が来ても音が漏れなければ大丈夫よ。無人の部屋に見えるわ」 そう言ってルイズは部屋床に座り込む、額にはうっすらと汗が浮かんでいた。 「ルイズ、大丈夫?疲れたならベッドで横になった方が…」 アンリエッタがルイズの身を案じてくれたが、ルイズは首を横に振った。 「これぐらい大丈夫よ。ちょっと疲れただけ。気にしないで。……それじゃあマチルダを引き込んだ理由を、王子様から説明して頂こうかしら」 ウェールズはこくりと頷いてから、マチルダの方に向き直った。 「ミス・マチルダ。アルビオンから亡命・疎開した者は、確認されているだけでも二千人。そのうち540人が既に死亡している」 マチルダの眉がピクリと動いた。 「君を襲ったのは、私の部下達だ……だが彼らはニューカッスルと運命を共にし、僕を逃がすために皆死んでいったはずだ。生きているはずがない」 ウェールズの視線が、ワルドに移る。 「ラ・ロシェールで君を襲った連中の顔を、彼にも確認してもらったよ」 マチルダもワルドの顔を見る、偶然ワルドが通りかからなければ、今頃自分は死んでいた。 ワルドはちらりとマチルダに視線を移すと、おもむろに口を開いた。 「僕はニューカッスル城で、クロムウェルが死者を蘇らせるのを目の当たりにした。あの時生き返った近衛兵と同じ顔をしていたんだ。クロムウェルはアルビオンの衛士を操り人形にし、脱走者狩り、亡命者狩りをしている。 リッシュモンの元に出入りしている商人は、レジスタンスにも接触しているとアニエスから報告があった。それ以外のカネの流れを見ても、リッシュモンがアルビオンと繋がっているのは間違いない。」 「リッシュモンね…そいつ、ヘドが出るわ」 マチルダが呟く、その言葉はこの場にいる一同の思いを代弁していた。 ルイズが膝に手を置き、ゆっくりと立ち上がる。 首を左右に振るとゴキゴキと骨の鳴る音がした。 「ここからが大事なところよ。逃げ延びた者の話によると、レコン・キスタはレジスタンス狩りと称して、都市部だけでなく農村部にも捜索の手を伸ばしたと言っていたわ」 「……!」 マチルダの目が強く見開かれる。 ティファニアが危ない…そう思うと、居ても立っても居られなくなる。 マチルダはルイズに向き直ると、内心の焦りを隠そうともせず、強く言い放った。 「まどろっこしいね、アタシに何をして欲しいのか、見返りは何なのかとっとと言っておくれよ!」 ルイズは笑みを見せることなく、こくりと頷いた。 「ワルド共に街に出て、リッシュモン狩りを手伝って貰いたいの。これが私からの要求よ」 「見返りは?」 「リッシュモン狩りが終わり次第、私とワルドは『虚無』の魔法を駆使してアルビオンに潜入する予定なんだけど……そこに、貴方を追加してあげる」 「アタシをアルビオンに連れて行ってくれるのかい?アルビオンに到着した後は、アタシは何をすればいいのさ」 「ティファニアを守ってあげて」 「…それなら、言われるまでもないよ」 「交渉成立ね」 「何が交渉よ、はじめからアタシをハメる気じゃないか…」 「ごめんね…貴方の家族を引き合に出したら、確かにフェアじゃないわよね」 「フン…ああ、そうだそうだ、折角だから今ココで質問させて貰おうかね」 マチルダは、ウェールズとアンリエッタを睨み付けた。 とうの昔に貴族の立場を追われた身だが、心の何処かで『無礼だ』と自分に言い聞かせている気もする。 「ティファニアの身の安全は、保証して貰えるんだろうね? でなければ…今度こそアンタを殺す」 殺気を隠さずに話すと、いつになく低い声が出てしまう。 マチルダは本気で、ウェールズに殺意を向けていた。 「始祖ブリミルに誓って。そして彼女の従兄妹として、約束する」 ウェールズはマチルダの殺意に怯えることもなく、力強く頷く。 「私も約束いたしますわ、ミス・ティファニアは私にとって従姉妹にあたります。彼女が日の目を望むのならそれを、望まぬのならそのままに彼女を守りましょう」 二人の言葉を聞いたマチルダは、身をかがめ、恭しく跪いた。 小一時間後、ワルドの遍在とアニエスは、リッシュモンの家の近くで身を隠し、機会をうかがっていた。 アニエスは馬に乗ったままじっとリッシュモンの邸宅を見張っており、ワルドはその傍らに立っている。 アニエスに背負われているデルフリンガーも、こんな時に無駄話をするほど野暮ではない。 体の冷えを感じた頃、リッシュモンの屋敷に動きがあった、静かに扉が開かれると、年若い小姓が顔を出していた。 年の頃は十二、三歳ほどだろうか、頬の赤い少年がカンテラを掲げて、恐る恐る周囲を見渡している。 辺りに人の気配がないと思ったのか、小姓は門の中に姿を消し、すぐに馬を引いて姿を現した。 小姓は馬に飛び乗ると、カンテラを持ったまま馬を走らせ、繁華街の方角へと走り出した。 アニエスはそれを見て、薄い笑みを浮かべると、小姓の持つカンテラの明かりを目指して追跡を開始した。 ワルドはアニエスの馬に飛び乗ると、自身とアニエスに『レビテーション』をかけ、馬の負担を減らした。 小姓はかなり急いでいるようで、後ろからでも必死に馬に掴まっているのが解る、アニエスは気取られぬ程度に距離を保ち、ひたすら小姓を尾行していった。 しばらくすると小姓の乗る馬は高級住宅街を抜け、繁華街へと入っていった、繁華街と言ってもその奥にはいかがわしい店もある、いくら急いでいるとはいえ、リッシュモンの小姓が繁華街の裏通りに入っていくのは怪しすぎた。 途中、女王を捜索する兵士達や、夜を楽しむ酔っ払いの脇をすり抜けて、目的の場所にたどり着いた。 アニエスは少し前から馬を下り、ワルドの『サイレント』で足音を消しながら小姓を追いかけている、裏路地をいくつか曲がったところでアニエスは、小姓がある宿屋に入る瞬間を目撃した。 「小姓はメッセンジャーだ、あれが出て行ったら中に入ってくれ」 「わかった」 アニエスはワルドに指示すると、宿屋に入り小姓の後を追った。 ワルドは宿屋の前を通り過ぎ、別の角度から入り口を見張る。 魔法衛士であったワルドは剣状の杖を愛用していたが、剣状の杖は目立つので今は所持していない、義手に仕込んだ杖を取り出して、右手で杖の重さを確かめつつ待つこと五分。 ワルドは、宿屋から小姓が出てくるのを見届けると、ルーンを唱えて義手を外した。 その間に小姓は馬に跨って、夜の街へと消えていく。 それを見送りながら、ワルドは外した義手を鞄の中に入れると、ローブを脱ぎ捨てて腕を露出させた。 レビテーションの応用で頭に布を巻き付けると、そのままゆっくりと宿屋の中に入っていった。 隻腕の傭兵など珍しくない、ワルドが宿屋に入ると、店の者はワルドを一瞥しただけで、特に興味も示さなかった。 ちらりと二階に続く階段を見ると、階段からアニエスがワルドに視線を向けていた。 ワルドとアニエスが二階へと移ると、アニエスは小声で客室の番号を呟いた。 「203…そこに間者がいる。合図をしたら扉を吹き飛ばしてくれないか、時間をかけて鍵を開けていたら逃げられてしまうからな」 「扉を吹き飛ばすのは簡単だが、証拠まで吹き飛ぶぞ」 「そのときは自白させる」 ワルドはアニエスの言葉を聞き、にやりと笑みを浮かべた。 腰に差した杖を握りしめると、短く一言『エア・ハンマー』のルーンを口ずさむ。 瞬間、木製のドアが粉々に砕け散った。 間髪いれず、剣を引き抜いたアニエスが中に飛び込む、中では商人風の男が、驚いた顔でベッドから立ち上がり杖を握りしめていた。 男は部屋に飛び込んできたアニエスにも動じることなく、素早く杖を突きつけルーンをつぶやいた、それによってアニエスの体が空気の固まりに吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。 商人風の男がアニエスにとどめの呪文を打ち込もうとしたとき、不意に自分の腕が視界から消えた。 ワルドの『エア・ハンマー』が、商人風の男の、杖を持つ手に直撃したのだ。 男はあらぬ方向に曲がった手を見て、ほんの一瞬呆気にとられたが、すぐさま逆の手で床に落ちた杖を拾おうとした。 だが、立ち上がったアニエスが、杖を取ろうとした男の腕を剣で貫いた。 「うがあっ!?」 そのまま床に転がった杖を蹴飛ばすと、アニエスは捕縛用の縄を掴んで男を捕縛する。 商人のようななりをしている中年の男だが、目には戦士のような眼光が宿りぎらついている、それなりの実力を持った貴族なのかもしれない。 「動くな!」 アニエスが男を捕縛して猿ぐつわを噛ませたところで、何人かの宿の者や客が集まって、部屋を覗き込もうとしていた。 「手配中のこそ泥を捕縛した。見せ物ではないぞ」 そうワルドが呟くと、宿の者はとばっちりを恐れて、顔を引っ込めた。 リッシュモンからの手紙を見つけると、アニエスはその内容を確かめ笑みを浮かべた。 他にも机の中や、男の服の中、ベッドの下などを洗いざらい確かめていくと、いくつもの書類や手紙が見つかった。 アニエスはそれらを纏めると、内容を確かめるため、一枚ずつゆっくりと読み始めた。 「なるほど、この男か」 商人風の男を見て、ワルドが呟く。 「知っているのか?」 アニエスがワルドに問うと、ワルドは鞄から取り出した義手を装着しつつ答える。 「いや、見たことはない。僕に接触したアルビオンの間諜とは別の奴だ」 「そいつは?」 「一昨日始末したよ」 事も無げに言うワルドに、アニエスは「ほう」と簡単の声を漏らす。 「さて…親ネズミと落ち合う場所は…」 アニエスはいくつもの書類の中から、一枚の紙を見つけた。 それは建物の見取り図のようであり、いくつかの場所に印がついている、座席数から見て城下町の劇場に間違いはないだろう。 「貴様らは劇場で接触していたのだな? そしてこちらの手紙には『明日例の場所で』と書かれている…ならば例の場所とは、この見取り図の劇場に間違いないか?」 アニエスの問いにも、男は答えない。じっと黙ってアニエスから目をそらしている。 「答えぬのか。ふん、貴族の誇りとでも言うのか」 アニエスは冷たい笑みを浮かべると、床に突き刺した剣を抜いた。 そのまま男の足の甲に剣を突きたて、床に縫いつける、すると猿轡を噛まされた男がうめき声を上げ、体を硬直させて悶絶した。 そして、男の額に拳銃を突きつけ、静かに言い放つ。 「二つ数えるうちに選べ…生か、誇りか」 商人風の男は、額に汗を浮かべて狼狽えた。 ガチッ、という音が響き、撃鉄が起こされる。 ワルドはその様子を見て、何か思うところがあった。 『石仮面』の正体がルイズだと知らず、全力を以て石仮面を殺そうとした、あの時の自分とよく似ている。 石仮面を殺すことこそが自分の存在意義だと思いこんでいたあの時と、とてもよく似ている。 アニエスは、リッシュモンと、ダングルテールの虐殺に関わったすべての人間を殺すために、生きているつもりなのだろう。 だからこそアニエスは、復讐のためならどこまでも残酷になれる。 涙を流しながら、アニエスの尋問に答える商人風の男を見て、ワルドはやれやれと首を振った。 そして夜は明け、昼が近づく。 サン・レミの聖堂が鐘をうち、十一時を告げると、申し合わせたようにトリスタニアの劇場前に馬車が止まった。 馬車から降りた男は、タニアリージュ・ロワイヤル座を見上げた、リッシュモンである。 御者台に座った小姓が駆け下りて、リッシュモンの持つ鞄を持とうとしたが、リッシュモンがそれを制止した。 「よい。馬車で待っておれ」 小姓は一礼して御者台に戻った、リッシュモンはそのまま劇場の中へ入っていき、切符売りの姿を見た。 切符売りはリッシュモンの姿を認めると一礼し、そのままリッシュモンを中へと通してしまう。 高等法院長の彼にとって、芝居の検閲も職務の一つなので、彼の姿を知らぬ者は劇場にいないのだった。 中にはいると、客席は若い女の客ばかりだったが、席はほとんど空いている。 開演当初それなりの人気があった演目だが、役者の演技がひどいため評者に酷評され、その結果客足が遠のいたらしい。 リッシュモンは彼専用の座席に腰掛け、じっと幕が開くのを待った。 続いて劇場の前にやってきたのは、アニエスと、ワルドの遍在だった。 劇場の前でしばらく待っていると、二人の前にもう一人のワルドと、ウェールズ、そしてアンリエッタが姿を現した。 アンリエッタとウェールズは平民の服を着ていたが、その気品は見間違えようもない。 その姿を確認すると、ワルドの遍在はポン!と音を立てて煙のように消えてしまった。 アニエスとワルドは、アンリエッタの前で、地面に膝をついた。 「用意万端、整いましてございます」 アニエスが呟くと、アンリエッタがにこりと笑顔を見せた。 「ありがとうございます。あなたはほんとに、よくしてくださいました。そして子爵も…よくつとめて下さいましたね」 アンリエッタは、アニエスとワルドを労った。 辺りに気をつけていたウェールズが、遠くにグリフォンとマンティコアの姿を確認した。 獅子の頭に蛇の尾を持つ幻獣にまたがった、魔法衛士隊の隊長は、劇場の前に居た者達を見つめて目を丸くした。 「なんと!これはどうしたことだアニエス殿!貴殿の報告により飛んで参ってみれば、陛下までおられるではないか!」 苦労性の隊長は慌てた様子でマンティコアから降り、アンリエッタの元に駆け寄った。 「陛下! 心配しましたぞ! どこにおられたのです! 我ら一晩中……」 声を張り上げる隊長に向けて、アンリエッタは口を塞ぐジェスチャーをした。 口を閉じた隊長の前で、アンリエッタはフードを深く被り、必要最低限の声で呟いた。 「心配をかけて申し訳ありません。それより隊長殿に命令です。貴下の隊でこのタニアリージュ・ロワイヤル座を包囲して下さい。蟻一匹漏らさぬようにです」 隊長は一瞬、怪訝な顔をしたが、アンリエッタが姿を隠さねばならぬほどの重大な事件であると悟り、すぐに頭を下げた。 「御意」 「尚、事情はそちらのワルド子爵がご存じです。子爵、隊長殿に説明をした後、『彼女』に合流しなさい」 「御意に」 「な、子爵殿…!?」 ワルド子爵と聞いて、隊長は目を丸くした。 魔法衛士隊の中では、彼はトリステインを裏切ったなどと噂されているのだ。 事実、彼はトリステインを裏切り同胞を手にかけていたし、その事実も報告されている。 そんな彼が陛下の元でアニエスと行動を共にしていた……隊長は驚きと疑いのあまり、ワルドの顔をまじまじとのぞき込んでしまった。 「それでは、わたくしは参ります」 アンリエッタは、ウェールズと共に劇場へと消えた。 アニエスは別の密命があるのか、馬にまたがりどこかへ駆けていく。 隊長とワルドは立ち上がると、部下に劇場を包囲するよう命令を下した。 「…ワルド子爵、その、説明をして頂けるか?」 「長くなるぞ。まあ細かいところは後にしよう……さてどこから話そうか」 マンティコア隊隊長の問いに、ワルドは笑顔で答えた。 劇場の中で、幕があがり、芝居が始まる。 女向けの芝居なので、観客は若い女性ばかり。 役者たちが悲しき恋の物語を演ると、それに合わせてきゃあきゃあと黄色い歓声が上がる。 リッシュモンは眉をひそめていた、役者の演技が悪いからではない、若い女どもの声援が耳障りなわけでもない、約束した時刻になったのに待ち人が来ないのだ。 リッシュモンは、女王の失踪について、さまざまな考えを巡らしていた。 アルビオンからの間者が自分に何の報告もせず女王を誘拐したとは思えない。 トリスタニアにアルビオン以外の、第三の勢力があるのか、それとも単に自分を通さず行ったアルビオンの工作なのか……。 「面倒なことだな」 リッシュモンは、小声で呟いた。 そのとき、自分のすぐ隣に客が腰掛けた。アルビオンの間者だろうかと思ったが、そうではない、深くフードを被った女性がそこに座っていた。 その隣にも男が座っていた、どうやら二人組らしい。 リッシュモンは、小声で隣に座った二人組にたしなめる。 「失礼。連れが参りますので、よそにお座りください」 しかし、二人組は立ち上がろうとしない、リッシュモンは苦々しげな顔で横を向き、再度口を開いた。 「聞こえませんでしたかな? マドモワゼル」 「観劇のお供をさせてくださいまし。リッシュモン殿」 フードの中から覗く顔を見て、リッシュモンは目を丸くした。失踪したはずのアンリエッタがそこに居たのだ。 「せっかくの演劇です、相伴させて頂きましょう」 更にその隣に座る男は、よくよく見てみれば、ウェールズ・テューダーである。 アンリエッタは、舞台を見つめたまま、リッシュモンに問いかけた。 「これは女が見る芝居ですわ。ごらんになって楽しいかしら?」 リッシュモンは内心の焦りをおくびにも出さず、落ちつきはらった態度で、深く座席に腰掛けた。 「芝居に目を通すのは私の仕事です。そんなことより陛下、そして殿下…。お隠れになったと噂がありましたが。ご無事でなによりでございます」 「劇場で落ち合うとは、考えたものですわね。あなたは高等法院長ですし。芝居の検閲も職務のうち。あなたが劇場にいるのを不審がる人などおりませんでしたわ」 アンリエッタの言葉に、ウェールズが続く。 「今までは、ね」 リッシュモンの目つきが、ほんの少しだけ厳しいものに変わった。 「さようでございますかな。それにしても、私の何をお疑いで?私が、愛人とここで密会しているとでも?」 リッシュモンが笑う。しかし、アンリエッタは笑わず、まるで狩人のように目を細めた。 ウェールズは腰に差した杖を握りしめ、いつでも魔法が発動できるように心を落ち着けていく。 「お連れのかたをお待ちになっても無駄ですわ。切符をあらためさせていただきましたの」 そう言って、手に持ったメモを取り出す、それはリッシュモンが小姓に持たせた手紙だった。 「この切符、劇場ではなく牢獄の切符のようだね。この切符を受け取った商人は今頃チェルノボーグの監獄だよ」 ウェールズが皮肉たっぷりに言い放った。 「ほほう!なるほど、お姿をお隠しになられたのはそのためですか。私をいぶりだすための作戦だったというわけですな!」 「そのとおりです。高等法院長」 「私は陛下の手のひらの上で踊らされたというわけか!」 リッシュモンの口調が強くなると同時に、劇場の声が一斉に止んだ。 「まったく……、小娘がいきがりおって……。誰《だれ》を逮捕するだって?」 「なんですって?」 「私にワナを仕掛けるなど、百年早い。そう言ってるだけですよ」 気がつくと、今まで芝居を演じていた役者たち、男女六名ほどが、上着やズボンに隠していた杖を引き抜いていた。 アンリエッタとウェールズの二人に杖を向けると、若い女の客たちは、突然のことに驚き、わめき始めた。 役者の一人が観客に向かって叫ぶ。 「静かにしろ!顔を伏せていれば、殺しはしない」 劇場の中で風が舞う、メイジが脅しをかけるために風を作り出したのだ。 それに驚いたのか、観客は萎縮し、そのまま身を伏せてしまった。 だが、そんな状況にあっても、アンリエッタは毅然とした態度を崩さないで、リッシュモンに言い聞かせるように言葉を放つ。 「……信じたくはなかった。あなたが、王国の権威と品位を守るべき高等法院長が、かような売国の陰謀に荷担しているとは……」 「陛下は私にとって、未だなにも知らぬ少女なのです」 「貴方は、私が幼い頃より、わたくしを可愛がってくれたではありませんか、わたくしを敵に売る手引きをしたのは、私を未だに少女だと思っているからでしょう」 「その通り。貴方は無垢な、いや無知な、少女。それを王座に抱くぐらいなら、アルビオンに支配されたほうが、まだマシというものですな」 ウェールズは内心は怒りに燃えているが、多数のメイジに囲まれたこの状況では何もできなかった。 「私を可愛がってくれた貴方は、偽りだったのですか?」 「主君の娘に愛想を売らぬ家臣などおりますまい」 アンリエッタは、自分の信じるべき家臣がまた一人減ってしまったのかと、悲しみに目を閉じた。 信じていた人間に裏切られるのは辛いが、裏切られたわけではない、この男は出世のために自分を騙していたのだ……と自分に言い聞かせた。 この作戦を発案したアニエスと、それを実行に移す決意をしたウェールズがいなければ、自分はリッシュモンの正体に気付かぬまま過ごしていただろう。 リッシュモンの言うとおり、自分は子供なのかもしれない。 でも、もう子供ではいられない……アンリエッタは毅然とした口調で、リッシュモンに告げた。 「あなたを、女王の名において罷免します、高等法院長。おとなしく、逮捕されなさい」 「ははは!野暮を申されるな。これだけのメイジに囲まれて、逮捕されるのは貴方がたでしょう。陛下だけでなく殿下の命もこの手に握れるとは、いやはや私の日頃の行いはよほど良いと見える」 「外はもう、魔法衛士隊が包囲しておりますわ。さあ、貴族らしいいさぎよさを見せて、杖を渡してください」 「まったく……、小娘がいきがりおって……。かまわん、痛めつけてやれ」 リッシュモンがそう言うと、次の瞬間、ドォン!と、何十丁もの拳銃の音が轟いた。 音響を考慮された劇場の中で、まるで雷鳴のようにも聞こえ、皆の鼓膜を叩く。 拳銃の黒煙が晴れると、役者に扮したメイジたちが、舞台の上で無惨な姿をさらしていた。 体中にいくつもの弾を食らい、呪文を唱える間もなく撃ち殺されているのだ。 リッシュモンの顔色が変わる、余裕の笑みは消えており、目を丸くして客席を見ていた。 客席に座っていた女性達は、実は皆銃士隊の隊員たちだった。 銃士隊は、全員が若い平民女性で構成されているため、リッシュモンにも、役者達にもその正体が見抜けなかった。 ウェールズが立ち上がると、アンリエッタに杖を手に持つよう促す。 そしてリッシュモンに冷たい声で言いはなった。 「リッシュモン殿。 銃声は、終劇のカーテンコールだ」 リッシュモンは、ふらふらと立ち上がると、高らかに笑った。 銃士たちがいっせいに短剣を引き抜き、ウェールズが杖を向ける。 気がふれたかと思えるほどの高笑いを続けながら、リッシュモンはゆっくりと舞台に上る。 その周りを銃士隊が取り囲み、剣を向けていた。何か怪しい動きを見せれば、即座に串刺しにする態勢だった。 「往生際が悪いですよ! リッシュモン!」 アンリエッタが叫ぶ、だがリッシュモンは笑みを崩さない。 「ははは…まったく、ご成長を嬉しく思いますぞ、陛下! 陛下は実に立派な脚本家になれますなぁ!この私をこれほど感動させる大芝居……くくくく」 リッシュモンは大げさなな身振りで両手を開くと、周りを囲む銃士隊を見つめた。 「さて陛下……陛下が生まれる前からお仕えしている、私からの、最後の助言です」 「おっしゃい」 「昔からそうでございましたが、陛下は……」 リッシュモンは舞台の一角に立つと、足で、どん!と床を叩いた。 ウェールズが即座に『エア・カッター』を唱えようとしたが、それよりも早くリッシュモンの足下が落とし穴のように開かれた。 「詰めが甘い!」 リッシュモンはそう言い残すと、身をかがめてまっすぐに落ちていった。 銃士隊が駆け寄り落とし穴の中を見ようとするが、即座に床が閉じてしまい、押しても引いても開かない。 「銃士隊!離れろ!」 ウェールズがそう叫び、エア・ハンマーを床に打ち込む。 ドン!と音がして床板が弾けたが、床板の下から出てきたのは頑丈そうな鉄板であった。 ガーゴイルか、ゴーレムか、何らかの強固な魔法技術で作られた仕掛けのようだ。 「出口と思わしき場所を捜索!急いで!」 アンリエッタはそう叫ぶと、悔しさに唇をかみしめた。 リッシュモンが逃げた穴はいざという時の脱出路であり、リッシュモンの屋敷まで地下通路で一直線に繋がっている。 屋敷まで戻れれば何とでもなる、集めた金を持ち、アルビオンから送られてくる間者に協力を求めれば、アルビオンで再起も可能だ。 リッシュモンは杖の先に魔法の明かりを灯しつつ、亡命計画を反芻していた。 「しかしあの姫にも、王子にも困ったものよ」 リッシュモンは亡命した後のことを考えて、顔を醜く歪めた。 クロムウェルに願い出て、一個連隊預けてもらおう。 そして今度は、アンリエッタを捕まえて、ウェールズに見せつけるように辱めてから殺してやる。 そんな想像をしながら、地下通路を歩いていると、あるはずのない人影が見えた。 リッシュモンは思わず後ずさり、人影に向かって杖を向け身構える。 「おやおやリッシュモン殿。変わった帰り道をお使いですな」 暗闇の中から姿を現したのはアニエスだった、薄い笑みを浮かべてリッシュモンを見据えている。 「貴様か…」 リッシュモンは笑みを見せて答えた。 この秘密の通路を知っているのは痛いが、メイジではない、ただの剣士ごときに待ち伏せされても何のことはない。 リッシュモンは他のメイジ同様、剣士というものを軽く見ていた。 「ふん、どけ。貴様と遊んでいる暇はない。この場で殺してやってもよいがな」 リッシュモンの言葉に、アニエスは銃を抜いた。 「…私はすでに呪文を唱えている。あとはお前に向かって解放するだけだ。二十メイルも離れれば銃弾など当たらぬ。命を捨ててまでアンリエッタに忠誠を誓うか?そんな義理など、平民の貴様にはあるまい」 「陛下への忠誠ではない」 アニエスが殺意を含んだ声で答えた。 「なに?」 「…ダングルテール」 アニエスの言わんとしていることに気付き、リッシュモンは笑った。 リッシュモンの屋敷を去るとき、わざわざダングルテールの事をアニエスが問いかけていたが、その理由がわかったのだ。 「なるほど、貴様はあの村の生き残りか!」 「貴様に罪を着せられ、なんの咎もなかった、わが故郷は滅んだ」 アニエスは、唇をかみしめ、腹の底から絞り出すような声で言いはなった。 「貴様は、わが故郷が『新教徒』というだけで反乱をでっちあげ、焼き尽くした。その見返りにロマリアの宗教庁からいくらもらった?」 リッシュモンは、にやりと唇をつりあげ、笑った。 「金額など聞いてどうする、教えてやりたいが、賄賂の額などいちいち覚えておらぬわ。聞いたところで貴様の気など晴れまい?」 「浅ましい奴だ。金しか信じておらぬのか。”元”高等法院長」 「ハハハ!おまえが信じる神と。私愛するカネと、いかほどの違いがある?……ああ、卑しい身分の信じる神など、貴族の愛するカネと比べれば塵芥にも等しいわな」 すぅ、とアニエスの頭が冷めていった、怒りで熱くなるのではなく、怒りが体から温度という感覚を失わせている。 これ程の怒りがかつてあっただろうかと、アニエスは思った。 「殺してやる」 「お前ごときに貴族の技を使うのは勿体ない、が、これも運命かね」 リッシュモンは短くつぶやき、呪文を解放させると、杖の先端から巨大な火の玉が出現してアニエスに向かって飛んでいった。 リッシュモンは、アニエスが苦し紛れに拳銃を撃つかと思ったが、アニエスは拳銃を捨ててマントを翻した。 バシュウ!と音がしてマントが燃える、アニエスは水袋を仕込んだマントで炎を受け止めたのだ。 だが火の勢いは弱くなるだけで、消えたわけではない、残った火球がアニエスの体にぶつかり、身に纏った鎖帷子を熱く焼いた。 「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおああああああああああッ!」 しかしアニエスは倒れない。 体が焼け付く痛みと恐怖を乗り越え、剣を抜き放ちリッシュモンに向かって突進した。 自分が絶対優勢だと信じて疑わなかったリッシュモンは、思いがけない反撃に慌て、次の呪文を放った。 風の刃がアニエスを襲う、鎖帷子と板金で作られた鎧が致命傷を防いでいるが、体に無数の切り傷を負ってしまう。 更に次の魔法をリッシュモンが唱えようとした瞬間、アニエスはリッシュモンの懐に飛び込み、リッシュモンの体ごと地面に転んだ。 「うお……げぷっ」 リッシュモンの口からは、呪文ではなく、赤い血が溢れた。 アニエスの剣がリッシュモンの体を貫通し、柄まで深くめり込んでいたのだ。 「貴様は、剣や銃など、おもちゃだと抜かしたなっ……これは、これは武器だ、我等が貴様ら貴族に一矢報いんと、磨き続けた牙だ、このまま、死ね…! アニエスは全身に火傷と切り傷を負い、気絶しそうな痛みの中で、剣をねじり込んだ。 ごぼごぼと、リッシュモンが大量の血を吐き、手に持った杖が地面へと落ちるた。 バシュゥ!と音が鳴って、リッシュモンの姿が、木目の浮かぶ人形に変わる。 「!?」 アニエスが驚くと、アニエスの体に空気の固まりが衝突した、アニエスは地下通路の壁に叩きつけられてしまったが、辛うじて頭を打ち付けずに済んだ。 だが、あまりの衝撃に呼吸が乱れ、声が出せない。 通路の奥に目をやると、そこには、無傷のリッシュモンが杖を翳していた。 「ふん、アルビオンを脱出した『騎士』が平民のフリをしていると聞いたが…どうやら貴様ではないようだな」 リッシュモンはそう言って、人形の胸に突き立ったアニエスの剣を引き抜く。 「詰めが甘い、主君に似て貴様も詰めが甘いな、これは『木のスキルニル』という魔法人形だ。血を垂らせばメイジでも平民でもまったく同じ姿を取り、身代わりになってくれるのだよ、言うなれば魔法で動く影武者だ」 そう言うと、リッシュモンはアニエスに近づき、眼球の寸前で剣をちらつかせた。 「目か?鼻か?耳か?お前の牙でお前を削いでやりたいところだが、時間もない。スキルニルを倒した手並みに敬意を表し、心臓を突いてやろう」 「……が………貴様ァ……!」 アニエスがリッシュモンを睨んだ、だがリッシュモンはそれに笑みを返すほど、余裕の態度を見せている。 「新教の神とやらに”なぜ助けてくれないのか”と恨み言でも言うがいい」 リッシュモンは、ゆっくりと剣を振り上げ…… 瞬間、土煙が舞った。 慌ててリッシュモンが剣を突き刺そうとするが、なぜか剣が動かない。 リッシュモンは、すぐさま剣から手を離し、後ろに飛び退きつつルーンを詠唱した。 先ほどより一回りも二回りも大きい火球が杖の先端に現れ、土煙に向かって放たれる。 だが、その火球は、土煙の中からゆらりと姿を現した、片刃の大剣に飲み込まれ消滅してしまった。 「な、なん……」 リッシュモンが狼狽え、更に後ずさる。 轟々と音がして土煙が消えていく、よく見ると、天井に穴が開き、そこから土煙が逃げていた。 土煙が貼れると、一組の男女がリッシュモンの前に立ちはだかっていた。 一人は茶色の髪の毛を靡かせた少女で、不釣り合いなほど大きな剣を持っている。 もう一人はリッシュモンのよく知る男、元魔法衛士隊グリフォン隊隊長の、ワルド子爵であった。 「アニエス、生きてる?」『よう、大丈夫かねーちゃん』 「………?」 やっと呼吸が落ち着いてきたアニエスは、激痛に絶えながらルイズの顔を見上げた。 よく見ると、ルイズの降りてきた穴の向こうで、マチルダが地下通路をのぞき込んでいる。 「ばかな!土のトライアングルでもこの通路は破れんはずだ!」 リッシュモンが狼狽えて声を荒げたが、ルイズはそれを聞いて笑みを浮かべ、上を見上げた。 「トライアングルじゃ無理みたいだけど、ホント?」 「こりゃ手抜き工事だね。トライアングルがライン程度の仕事しかしてなかったんじゃないかい?」 ルイズが問いかけると、穴の上からマチルダが答えた。 「ま、深さだけはそれなりだと認めてやるけどね」 マチルダはそう言って腕を組んだ、地下通路は二十メイル以上深くにあり、土くれのフーケと呼ばれたマチルダでも探すのは困難だった。 だがひとたび探り当てれば、そこまで練金で穴を掘ることぐらい容易い。 「裏切り者のワルド子爵までご一緒とはな、驚かされる」 「裏切り者か、お互い様だな」 ワルドが氷のような笑みを浮かべて答えると、リッシュモンは恐ろしさのあまり体を震わせた。 ルイズが上を見上げて、マチルダに呟く。 「アニエスの怪我が酷いわ、水のメイジを呼んで」 「アタシが呼ぶのかい?」 「メイジじゃなくて銃士隊の隊員に言えばいいでしょ」 「わかったよ」 マチルダの姿が見えなくなると、ルイズは改めてリッシュモンを見た。 リッシュモンもまた、ルイズを見ている。 「…その剣…まさか貴様が『騎士』か」 「答える義理はないわね」 ルイズが両手を左右に広げ、わざとらしいジェスチャーをすると、リッシュモンが杖を向けてルーンを唱えた。 ルイズの持つ剣は、魔法を吸収するマジックアイテムだと考えたリッシュモンは、その長さを見て地下通路で振り回すには大きすぎると判断した。 もう一度スキルニルを使えば逃げ切れるかも知れない、そう考えて牽制のために魔法を放ったのだが、それよりも早くルイズが一瞬で間合いを詰めた。 次の瞬間、地下通路の壁ごとリッシュモンの腕を斬り飛ばした。 ぼてっ、と腕の落ちる音を聞いて、リッシュモンが悲鳴を上げる。 「……ああ あああああああああああああうわああああああああああああああ!!」 「次は僕の番だな」 ワルドがそう呟くと、レビテーションを唱えてリッシュモンの体を浮かせた。 ゆっくりとリッシュモンの側に近寄ると、ワルドは小声で囁く。 「リッシュモン、僕の母の味はどうだった?」 「ひぃ、ひいい……」 「リッシュモン、僕の母の味はどうだった?」 「ああ、あああうううう」 「リッシュモン、僕の母の味はどうだった?」 「ひっ……ああ、あの、何のことだ」 「リッシュモン、僕の母の味はどうだった?」 ワルドはリッシュモンから視線を外さず問いつめていく、リッシュモンは全てバレていると思い、観念したのか、震える声でこう答えた。 「か、彼女は、とても聡明で、わ、私は彼女を気に入っていた」 「リッシュモン、僕はそんなことを聞いているんじゃない、おまえは僕の母を抱いたんだろう?どうだった?」 「とても、そうだ、とても美しかった、はは、はははは…」 「なら未練はないな」 脂汗を浮かべ、渇いた笑いを出したリッシュモンだったが、不意に『レビテーション』が解かれて背中から地面に落ちた。 うぐ、とうめき声を上げ、無防備になったリッシュモンの股間を、ワルドは勢いよく踏みつぶした。 「 ひ 」 ぶつっ、と何かが潰れた音が、地下通路に響いた。 「悪趣味な問いをするわね」 ルイズがそう呟くと、ワルドは苦笑して答える。 「自分でもそう思うよ」 ワルドは、アニエスの剣を拾い上げると、アニエスの腕を掴んで立ち上がらせた。 「うっ…」 アニエスは、体を走る痛みに耐えようとしているが、こらえきれずに声を上げてしまう。 「僕は両親を殺されたが…君は故郷ごと滅ぼされたそうだな。止めは君が刺すんだ…君にはその権利がある」 そう言って、ワルドがアニエスに剣を手渡すと、アニエスはワルドの手を振り払い、剣を杖代わりにしてゆっくりとリッシュモンに近づいていった。 口を開き、ヨダレを垂らして硬直しているリッシュモンに近寄ると、アニエスは剣を胸に突き立て、ゆっくりと力強く差し込んでいく。 リッシュモンは体をよじらせて、逃げようともがくが、既に剣は心臓を貫いている。 「ごぼっ、ごあ、あぶっ」 今度こそ本物のリッシュモンが、血を吐き出して悶え苦しみ、体を震わせた。 しばらくすると、白目を剥いて背を逸らし、リッシュモンは息絶えた。 「…ハァッ……ハァ…」 アニエスは息を荒げ、リッシュモンの亡骸を見つめた。 あっけない。 何の達成感も、なんの感動もない。 ただ、虚しいだけだった。 アニエスは、虚脱感に襲われると同時に、その意識を手放した。 To Be Continued→ 戻る 目次へ
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前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百五十九話「破滅降臨」 破滅魔虫ドビシ 破滅魔虫カイザードビシ 登場 ガリア王国の首都リュティスは、聖戦の開始以来ずっと、大混乱の坩堝に陥っていた。 街には南部諸侯の離反によって、その土地から逃げてきた現王派の貴族や難民が溢れ返り、 それがなくとも国民はロマリア宗教庁より“聖敵”にされてしまったことで震え上がり、 連日寺院に救いを求める始末であった。華の都と呼ばれたリュティスは、たったの一週間で 終末がひと足先に訪れたかのようになってしまったのだ。 王軍もまた、反乱を起こした東薔薇騎士団の壊滅から来るジョゼフへの恐怖心と外国軍への 嫌悪感からほとんどがジョゼフに従っていたが、その士気は最低であった。しかも本日未明に もたらされた、カルカソンヌに展開していた最前線の部隊が怪獣に操られ、その末に全員が 捕虜となって文字通り全滅したという報せによって、これ以上下がらないと思われていた士気が どん底になっていた。――ジョゼフは何も言わないが、怪獣が彼の仕業なのはどう見ても明らか。 つまり、かの王は自分たちですら捨て駒としか思っていないのだ。彼らが今もガリア王軍であり 続けるのは、最早何をしても自分たちの破滅は変わらないのだから、せめて最後まで王家への 忠義と誇りは捨てなかったという体裁は保ちたいという絶望的な願いだけが理由であった。 常識家でただの善人だった宮廷貴族だけは、祖国をどうにか立て直そうと躍起になって いたのだが、そんな彼らでも、東薔薇騎士団の反乱の際に崩壊したヴェルサルテイル宮殿の 一角……美しかった青い壁が今やただの瓦礫の山であるグラン・トロワの無惨な姿を見る度に、 自分たちの仕事が無駄になることを認識していた。 ハルケギニア一の大国、ガリア王国をほんの一週間でこれほどの惨状に変えた張本人である ジョゼフは、仮の宿舎とした迎賓館――語頭に「元」がつくのも遠い未来ではないだろう――で、 運び込んだベッドの上から古ぼけたチェストを見つめていた。それは中が見た目より広くされて いるマジックアイテムであり、幼き頃にはシャルルとかくれんぼに興じていた懐かしい思い出の 品である。 当時のことを思い返しながら、ジョゼフは独りごちる。 「一度でいいから、お前の悔しそうな顔が見たかったよ。そうすれば、こんな馬鹿騒ぎに ならずに済んだのになぁ。見ろ、お前の愛したグラン・トロワはもう、なくなってしまった。 お前が好きだったリュティスは、今や地獄の釜のようだ。まぁ、おれがやったんだけどな。 それでも、おれの感情は震えぬのだ。あっけなく国の半分が裏切ってくれたし、残った奴らも 事実上捨ててやったが、何の感慨も持てん。実際『どうでもいい』以外の感情が持てぬのだよ」 ジョゼフはため息を吐いた。 「何だか面倒になってしまったよ。街を一つずつ、国を一つずつ潰していけば、その内に 泣けるだろうと思っていたが……まだるっこしいから、纏めて灰にしてやろうと思う。 もちろん、このガリアを含めてな。だからあの世で王国を築いてくれ。シャルル……」 そこまでつぶやいた時、ドアが弾かれるようにして開かれた。 「父上!」 顔面蒼白で、大股でつかつかと歩いてきたのは、娘であり、王女であるイザベラだった。 王族ゆかりの長い青髪をなびかせながら、父王に向かって問うた。 「一体、何があったというのですか? ロマリアといきなり戦争になったと聞いて、旅行先の アルビオンから飛んで帰ってきてみれば、市内は大騒ぎ! おまけに国の半分が寝返ったという 話ではありませぬか!」 「それがどうした?」 ジョゼフはうるさそうに、たったひと言で返した。 「……“それがどうした”ですって? わたしには、父上のお考えが理解できませぬ! ハルケギニア中を敵に回しているのですよ!? 王国がなくなるのですよ!?」」 「だから、“それがどうした”と言っているのだ。おれにとっては、誰が敵に回ろうと、何が なくなろうとも、どうでもよいことなのだ」 冷たく突き放したジョゼフに、イザベラはわなわな小刻みに震えた。父に、恐怖を感じているのだ。 ジョゼフはそんなイザベラに、冷めた視線を返していた。ジョゼフは己の娘でさえ、愛した ことは一度もなかったのだ。それどころか、魔法の才に恵まれない彼女に昔の自分の面影を見て、 嫌悪感すら抱いていた。彼女が何かわがままを言う度にそれを叶えてきたが、それは鬱陶しい イザベラの声をさっさと黙らせたいからだけでしかなかった。成長してからもイザベラはその辺の 愚昧な人間と変わりなく、彼女に対して何の評価もしていなかった。 だがしかし、次の瞬間、イザベラは彼の抱いている人物像に反する行動に打って出た。 「父上……どうかお考え直し下さいッ!」 彼女は恐怖心を振り切り、必死な声音でジョゼフに改心を求めてきたのだ。 「何?」 「もう遅すぎるのかもしれませんが……何か変えられるものがあるやもしれませぬ! せめて、 この国の民の命だけは助かるよう便宜を図って下さい! 彼らには何の罪もないではありませぬか!」 その声音には、保身や計算の色はなかった。王になってから散々聞いてきたので、それくらいは 分かる。だからこそジョゼフには信じられなかった。あのわがまま娘が、このようなことを口走るとは。 「……意外な言葉だな。誰からの受け売りだ?」 「ある者より教わりました。間違いは、生きていれば正せると。……わたしは、己というものを 省みたことがありませんでした。そのこと自体、どうとも思っていませんでした。ですが…… その者より教わって以来、そんな自分を変えたいと思うようになったのです」 胸の辺りをギュッと握り締めるイザベラ。その懐には、アスカが置いていったエンブレムの パッチがあった。 「そして父上にも、どうか過ちを正していただきたいのです! このままではどう考えても、 誰もが破滅する結末しか待っていません。それが正しいことのはずがありませぬ! どうかッ! どうか父上、お考え直しを……!」 イザベラの強い訴えを一身に受け……ジョゼフは声を張りながら大笑いした。 「ワッハッハッハッ! ワッハッハッハッハッ!」 「ち、父上?」 「いやはや、おれは本当に人を見る目がないな。お前がそんなに立派な台詞を言う人間に なっていたとは。今の今まで、全く知らなかった。実に驚かされたよ」 ジョゼフの言葉に、イザベラは一瞬表情が輝いた。 「父上、では……!」 だが、ジョゼフから向けられたのは杖の先端だった。 「え……?」 「だが、それもやはりどうでもよいことだ。おれは何も変えるつもりはない。お前が『正しい』と 思うことをしたいのなら、今すぐにここから出ていくことだな。さもなければ、出来ない身体に なるかもしれんぞ」 イザベラは再び、ガチガチと震え出した。先ほどよりも深い恐怖を、ジョゼフに感じている。 「とっとと去れ。身内を殺めるのはもうやった。同じことを二度やるのは下らんことだ。 だから見逃してやる。従わないのなら……いい加減鬱陶しいので、黙らさなければならんな」 ジョゼフが自分を見逃す理由は、その言葉以外にないのは明白だった。結局、彼は自分の ことをこれっぽっちも愛してはくれなかったのだ。 イザベラはそれがとても苦しく、悔しく、そして悲しかった。感情とともに溢れ出た涙と ともに、この寝室から飛び出していった。 次いで現れたのは、ミョズニトニルン。彼女は集めた情報をジョゼフに報告する。 「死体の見つからなかったカステルモールの件ですが……。どうやら生きているようです。 カルカソンヌで捕虜となった王軍に紛れているとのこと」 「そうか」 「シャルロットさまと接触するやもしれませぬ。何らかの手を打たれた方が……」 「それには及ばぬ」 ジョゼフは首を振った。 「どうしてですか?」 「希望の中でこそ、絶望はより深く輝く。奴らは『おれを倒せるかもしれぬ』という希望を 抱いたまま、ただの塵に還るのだ。そんな深い絶望など、そうそう味わえるものではない。 羨ましいことだ」 最後のひと言は、紛れもないジョゼフの本音であった。 昨晩の事件によって、ロマリア軍はリネン川を渡り、がら空きとなった対岸へと歩を進めた。 しかしそこで進軍は一旦ストップとなった。捕虜の人数把握や整理などの処理に時間が必要 だったからだ。街の半分に陣を張っていた軍団を纏めて捕虜にするなど異例のこと。そのため ロマリア軍も忙殺されているのだ。 しかし進軍の停滞も、持って一日というところだろう。明日にはリュティスへ向けて進撃を 再開してしまうはずだ。リュティスはカルカソンヌの比ではない数の兵が守っているので、 さすがにすぐ激突とはならないだろうが……それでも本格的な戦闘はもう秒読み寸前という ところまで迫っている。それまでにアンリエッタが間に合わなかったらアウトだ。 そんな風にやきもきしているルイズは……才人がラン=ゼロに何か怪しげな特訓をつけられて いるのを目撃した。 「まだだ! まだお前には集中力が足りねぇ! 極限まで精神を研ぎ澄ませッ!」 「おうッ!」 傍から見たら昨日と同じ剣の稽古なのだが……才人の方は何と目隠しをしているのだ。 視界をふさいだ状態で剣を振るうなど、奇行としか言いようがない。 「サイト……あんた何やってんの?」 「その声、ルイズか?」 才人たちは一旦手を止め、才人は目隠しを取ってルイズに向き直った。 「特訓さ」 「それは見たら分かるけど、あんた何で目隠しなんかしてるのよ。いくら何でもそれは危ないでしょ」 「いや、それが必要なんだよ」 とゼロは証言する。 「目隠しが必要?」 「ジョゼフを討ち取るためにな。特に、今はこんな状況になっちまっただろ? だから最悪 今日中にこの特訓を完成させなきゃならねぇんだ。悪いが邪魔してくれるなよ」 「まぁそれはいいけど……昨日は目隠しなんかしてなかったじゃないの。どうしてまたそんな ことを……。昨晩に何かあったの?」 と聞かれて、才人たちはギクリとした。昨夜はタバサと密談していた。そこでカステルモール からの手紙からジョゼフが正体不明の魔法を扱うことを知り、その対策をゼロと話し合ったのだが……。 喧嘩をすることもあるが、才人は仲間であるルイズを信頼している。しかし、ロマリアの 手の者がどこでどうやって盗み聞きしているか分かったものではない。ガリアの者からタバサに 王として名乗り出てほしいと言われているなんて内容、ロマリアは諸手を挙げて喜ぶだろう。 そんなことはさせられない。 だから才人たちは内心ルイズに謝りながら、ごまかすことにした。 「その、何て言うか……これはとっておきの秘策なんだ。決まればジョゼフの野郎はおったまげる こと間違いなしの」 「ああそうだ。念には念を入れてな」 「そうなんだ……」 ルイズは訝しみながらも、才人たちの引きつった顔から何かを察してくれたのだろう。 それ以上追及はしなかった。 「それだったらいいわ。特訓頑張ってね。じゃあわたしはこれで」 当たり障りのないことを言ってルイズはこの場から離れていった。後に残された二人は ふぅと息をつく。 「……それにしても、本当に俺がジョゼフを倒さなくちゃいけないって状況になってきてるな。 姫さまは明日には来てくれるかな……」 「信じるしかねぇな。この心配が杞憂になってくれるのが、一番いいんだけどな……」 と言い合う才人とゼロ。もしアンリエッタが間に合わなかったら、才人がジョゼフの元に 乗り込んで召し捕らなくてはならない。ジョゼフさえ倒せば、ガリア軍に抗戦の意志はあるまい。 戦争を止めるには、とにもかくにもジョゼフ打倒が必要なのだ。 その日の夜……才人から王への即位を止められていたタバサだったが、シルフィードと ハネジローが寝静まった頃に、才人がこっそりと部屋にやってきたのであった。 タバサは驚くとともに、こんな夜更けに才人が一人で自分の元を訪れたという事実に少し 緊張を覚えながら、彼を中に招き入れた。 才人は一番に、こう言った。 「昨日の夜の話……俺、真面目に考えたんだ」 「……え?」 「ほら、タバサが王さまになるって奴」 「それが?」 「やっぱり、正当な王位継承者として、タバサは即位を宣言すべきだ」 昨日とは正反対の言葉に、タバサは顔を曇らせた。 「ロマリアに説得されたの?」 「違う。自分で考えたんだ。どうすれば、この戦は早く終わるのかなって。やっぱり…… これが一番だと思う」 そう才人は語る。 「ロマリア軍が遂に川を渡っちまっただろう? それで、ガリア軍の総攻撃も始まるらしいんだ。 そうなったら、ほんとに地獄のような戦になっちまう。姫さまの帰りを待っている暇はもうないんだ。 だからタバサ……どうか頼む。みんなを救うために」 と説得する才人に、タバサは……。 「……誰?」 「え?」 「あなたは、誰?」 疑問で答えた。手を伸ばし、杖を手に取る。 「な、何言ってるんだよ。俺が誰かなんて……どうしてそんな変なこと聞くんだ?」 顔が引きつりながらも聞き返す才人に、タバサは言い放った。 「あの人だったなら……仲間のことを信じない選択は取らない」 アンリエッタも才人の大事な仲間だ。彼女が待っていてほしい、と言ったならば、才人は ギリギリまで待ち続ける。仲間を信頼しているから、絶対にそうするはずだ。 それが、ゼロたち仲間とともに戦い、成長してきた才人という人物だと、彼を熱く見守って いたタバサには分かるのだ。 「そ、それは、俺にも事情が……」 もごもごと言い訳する『才人』に、タバサは決定打となるひと言を投げかけた。 「ゼロの声を聞かせて」 その途端、『才人』は身を翻して逃げ出そうとした。タバサはその背中にディテクト・ マジックを掛けた。やはり魔法の反応があったので、氷の矢を背に放った。 みるみる内に『才人』の身体はしぼんで小さくなっていき……いつかの任務で自分も 使ったことのあるスキルニルの正体を晒した。血を吸わせた対象の姿に成り切る魔法人形だ。 ロマリアの手の者が、密かに才人の血液を手に入れ、自分を利用するために差し向けて きたのだ……と分析したタバサは、拾い上げた人形を握り潰した。その瞳には、強い怒りが 燃えていた。 「しまったなぁ……。失敗してしまったか」 才人に化けさせたスキルニルがいつまで経っても戻ってこないことで、事の次第を把握した ジュリオはやれやれと頭を振っていた。 「恋は盲目と言うから、あの聡い彼女も騙せると踏んだんだが……ぼくとしたことが読み 違えてしまったな。聖下に何と申し開きをしたらいいか……」 うーん、と腕を組んでうなるジュリオだったが、すぐにその腕を解いた。 「でもまぁ、最終的に彼女が王位に就けばそれでいいんだ。そうすれば後は何とかなる。 幸い軍は渡河に成功してるし、後はどんな形でも、ジョゼフ王を王座からどかすだけだな……」 と算段を立てるジュリオ。聖地奪還のためにあらゆる手を投げ打つ彼らは、一度のミスで その陰謀に歯止めを掛けるようなことはしないのだ。 翌日、タバサはロマリアに聞かれることを承知で、昨夜のことを才人とルイズに知らせた。 どうせこれを仕組んだのもロマリアなのだから、聞かれたところで構いやしない。 「何だって!? 俺の偽者を、あいつらが……!?」 スキルニルの仕組みを聞いた才人は、ジュリオのフクロウが自分の頬をかすめたことを 思い出した。 「あの時だな……! くっそ! 分かっちゃいたが、あいつらほんとに手段を問わねぇな……! 油断も隙もねぇ……!」 「ほんとなのね!」 「パムー!」 才人も憤慨していたが、シルフィードとハネジローはそれ以上にカンカンであった。 「おねえさまにこんな汚い手を使って! 絶対に許せないのね!」 「確かに、ロマリアのやり口は本当に卑劣極まりないものだけど……」 ルイズも怒りを覚えながら、タバサのことをじっとにらんだ。 「どうしてロマリアは、才人の姿ならあんたが言うことを聞くと思ったのかしら」 タバサはサッと顔をそらした。ルイズが追及するより早く、タバサは話題をそらした。 「今は、このことはもういい。それより、これからどうするか」 「それだったら、遂に朗報が来たんだよ!」 才人がウキウキしながら言った。 「今朝方に、姫さまがガリアに到着したって報せが届いたんだ。なぁルイズ?」 「ええ。きっと今頃はジョゼフのところに面通りをしてるでしょうね。後は姫さまの交渉が 上手く行くのを祈るばかり……」 とルイズが言った矢先に、窓から差し込んでくる日差しが急に途切れ、部屋の中がやおら 暗くなった。 「ん? 急に暗くなったな。もう夜か?」 そんなまさかな、と才人が自分に突っ込みながら窓の外を覗き込んで、すぐに顔をしかめた。 「何だ、この空模様……。こんな曇り空、見たことないぞ……」 見渡す限りの空が、厚い雲に閉ざされているのだ。急に夜が来たかのように暗くなったのも そのせいだ。しかしあの曇り空は、何かが変だ……。 ルイズたちも奇妙に空を見上げていると、ゼロが叫んだ。 『あれは雲じゃねぇッ!』 「え?」 『あれは……怪獣の群れだッ!』 「!?」 ギョッとする才人たち。才人がゼロの力を借りて遠視すると……雲に見えたものが、体長 六十サントほどもある虫型の怪獣の集まりであることが分かった。 「ほ、本当だ! けどあの量……一体何万、いや何億匹いるんだよ!?」 才人は戦慄していた。普通の虫よりもずっと大きいとはいえ、一匹一匹は一メイルにも 満たないサイズ。それが、広大な空を埋め尽くしているのだ! しかも虫の群れの各部が変形して、虫の塊がいくつも地上へと降ってくる。その塊は形を 変えていき……一つ目の異形の巨大怪獣となってカルカソンヌの中に侵入してきた! 「グギャアーッ! グギャアーッ!」 虫型怪獣の名前はドビシ。それらが融合して巨大怪獣と化したものは、カイザードビシという! カイザードビシの群れの光景に、才人たちはアンリエッタの交渉がどのような結果になったのかを 自ずと察した。 「ジョゼフの野郎……とうとうやりやがったなッ!」 ゼロが懸念した通りに、才人がジョゼフを討ち取らなくてはならない状況となってしまったのだ。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
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前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百三十一話「二冊目『わたしは地球人』(その1)」 蛸怪獣ガイロス 恐竜 地球原人ノンマルト 登場 トリステイン王立図書館にあった六冊の『古き本』に精神力を奪われ、目覚めなくなって しまったルイズ。才人はルイズを救うために、司書リーヴルの力を借りて本の世界の攻略を 始める。そして一冊目の『甦れ!ウルトラマン』を激闘の末に、完結に導くことに成功したが、 残念ながらルイズに変化は見られなかった。 それから一夜明け、才人は二冊目の攻略に臨む。 「……シエスタ、ルイズの様子はどうかな」 ルイズを寝かせている図書館の控え室で、才人は昨日からルイズの看護に加わったシエスタに、 ルイズの容態を尋ねた。が、シエスタは残念そうに首を振った。 「昨日から、同じままです。悪くなる気配もなければ、目を覚ます気配もありません」 「そうか……。やっぱり、残る本の世界を完結させて、ルイズの精神力を取り戻す以外に 方法はないってことか」 つぶやいた才人が依然変わらぬルイズの寝顔に目を落とし、改めて誓った。 「ルイズ、待っててくれ。必ず、お前を本の世界から助け出してやるからな」 それから待機済みのリーヴルの方に振り返る。彼女は才人に告げる。 「こちらの準備は完了してます。次に入る本をお選び下さい」 テーブルに並べられている五冊の『古き本』。才人はそれらを手に取りながら、心の中で ゼロと相談する。 『ゼロ、次はどの本にする? 結局は、全部に入らなきゃいけないんだろうけど……』 『……次は、その左端の奴にしてくれ』 ゼロが指示した本を手に取る才人。 『これか? この本は……ウルトラセブンが主役……!』 『次は親父の物語を完結させたい。やってくれるよな?』 『ああ、もちろんだ』 相談が終わり、才人は手に取った本をリーヴルに差し出した。 「次はこいつにするよ」 「お決まりですね。では、そこに立って下さい」 これから二冊目の本の旅に出ようとする才人に、シエスタたち仲間が応援の言葉を向けた。 「サイトさん、どうかお気をつけて!」 「俺がいなくとも、しっかりやんな! 油断すんなよ!」 「がんばってなのねー!」 「パムー!」 ただ一人、タバサだけは目だけをリーヴルに向け、一挙手一投足を観察していた。彼女は 昨日のミラーたちとの話し合いの通り、行動に不審なところの多いリーヴルを、密かに監視 しているのだった。 だが今のところ、リーヴルに怪しいところは見られなかった。 「では、どうぞ良い旅を……」 昨日と同じようにリーヴルが才人に魔法を掛け、才人は本の中に入っていった……。 ‐わたしは地球人- 中国奥地の砂漠地帯。断崖絶壁と、その崖に彫り込まれた巨大な仏像に囲まれた地に、 中国軍の一部隊が到着した。彼らはこの地の地下に発見された、謎の遺跡の調査にやって 来たのだ。 地下に潜った部隊を迎えたのは、仏のような壁画や石像で構成された遺跡。だがこのような 遺跡は、ありえないはずだ。何故なら、 『殷の文明より古い……』 『この地層から言うと、一万五千年以上前……』 『そんな古い時代に……考えられない……』 一万五千年前というと、仏教伝来どころか稲作すら始まっていない。そのような時代に こんな高度な遺跡が築かれていたということを、こうして実際に目にしなければ誰が信じる だろうか。 兵士たちが呆気にとられていると、突然の地震が発生し、遺跡の天井から礫岩がこぼれ落ちてきた。 身の危険を感じた兵士たちは後ずさると、震動によって遺跡の壁の一部が崩れて穴が開いた。遺跡が その奥に続いているのだ。 調査隊はその穴を潜っていくと……そこは部屋のようになっており、内部には恐竜型の 怪物が刻まれた石板と、謎の紋様が刻まれた棺らしきものだけが置いてあった。 これら出土品――オーパーツは、ウルトラ警備隊が護送することが、地球防衛軍上層部により 決定された。 1999年。三十年余りもの時を隔てて、地球防衛軍は、その有り様を全く変えてしまった。 カジ参謀の主導する、かつてのR1号計画を拡張した、地球への侵略者になり得る宇宙人の 生息する星に先制攻撃を仕掛けて破壊することを目的とした「フレンドシップ計画」を掲げ、 宇宙に対して牙を剥くようになったのだ。計画反対派のフルハシ参謀が死去してからは、 その傾向は強まる一方。 ――ウルトラセブンは、かつての地球が外宇宙からの侵略者の脅威に晒され、滅亡の危機に あったがために、無力だが美しい心を持つ地球人に代わって侵略者と戦っていた。だが今の 地球は、強大な力を背景に他の星を脅迫している。少しでも間違えれば、地球の方が侵略者に なってしまうような状況になっていた。……今の地球を守護することが、宇宙正義足りえるのか…… 心に迷いを抱えながらも、セブンはそれを振り切るように怪獣、宇宙人と戦い続けていた。 そんな中での、オーパーツとはいえ単なる出土品を護送し、防衛軍のトップシークレット 「オメガファイル」として封印するという不可解な任務。訝しむセブン=カザモリの周囲には 謎の女が出没し、「オメガファイルを暴き、地球人の真実を確かめろ」と囁く。女に導かれる ようにオメガファイルに接近したカザモリだが、カジ参謀に発見され、拘束された末にウルトラ 警備隊の任から外されてしまった。 頑なに隠されるオメガファイルの正体とは何なのか……。それが封印されている防衛軍の 秘密施設に、怪獣が迫り出した。 「ギャアアオウ!」 秘密施設に最も近い海岸から上陸し、まっすぐ施設に向かっているのは、八本の足と身体中に 吸盤を持った怪獣。頭頂部にある二つの眼が黄色く爛々と光る。蛸怪獣ガイロスである。 また陸を横切るガイロスの近くの土中から土煙が勢いよく噴出し、また別の怪獣が地表を 突き破って出現した。 「グイイィィィィィ!」 体長こそガイロスと同等であるが、見た目はずばり恐竜そのもの。これはメトロン星人が 二度目の地球侵略をたくらんだ際に、恐竜を生体改造して怪獣化したものである。 「ギャアアオウ!」 「グイイィィィィィ!」 ガイロスと恐竜。この二体の怪獣が森の中を練り歩いていく様を、カザモリと『サトミ』が 見上げた。 「例のオーパーツが運び込まれた施設のある方向に向かってるわ! これって偶然なのかしら……?」 「……」 カザモリは懐に入れているウルトラアイに手を添えたが、側には『サトミ』がいる。彼女の前で 変身することは出来ない。 そうでなくとも、今セブンに変身して戦うことが出来るのか……自分がどうすべきか決めかねる ところがあった。 (偶然ではない。あの怪獣たちは、確実にオーパーツに引き寄せられている。だが何故怪獣が 古代遺跡の出土品を狙う? 防衛軍がひた隠しにすることと言い、あれは何だというのだ……) 考え込んでいると、『サトミ』が不意に大きな声を発した。 「あッ! ウルトラセブンだわ!」 「えッ!?」 そんな馬鹿な、とカザモリが顔を上げた。 その視線の先、ガイロスと恐竜の進行先に、青と赤の巨人――ウルトラマンゼロが巨大化して 現れた。怪獣たちは驚いて一瞬足を止める。 「セェアッ!」 ゼロは登場直後に前に飛び出し、ガイロスと恐竜に全身でぶつかっていく。ゼロを警戒していた 怪獣二体も、ゼロの行動を受けて腕を振り上げ迎え撃つ。 怪獣たちと戦闘を開始したゼロを見上げ、『サトミ』は怪訝に目を細めた。 「……いえ、セブンじゃない。別の巨人だわ! どことなく似てるけど……」 「……」 カザモリもまた、ゼロを見つめて神妙な顔つきになる。 「シャアッ!」 一方のゼロは二体の怪獣の間に割り込み、巧みな宇宙空手の技で数のハンデを物ともせずに 善戦していた。触手を振り回すガイロスの胴体の中心に掌底を打ち込んで突き飛ばし、その隙に 恐竜の首を抱え込んでひねり投げる。 「ギャアアオウ!」 「グイイィィィィィ!」 ガイロスも恐竜も必死にゼロに抗戦するが、この二体は肉弾しか攻撃手段がなく、特別破壊力に 優れている訳でもない。そんな怪獣は、二体がかりでも宇宙空手の達人のゼロの敵ではないのだった。 「ハァッ!」 怪獣両方に打撃を連発して弱らせたところで、ゼロはとどめの攻撃に移る。 まずはゼロスラッガーを投擲し、ガイロスの六本の触手を根本から切断。 「ギャアアオウ……!!」 腕となる部分を失ったガイロスは仰向けに倒れ、そのまま動かなくなった。 「セアッ!」 ゼロは振り返りざまに、恐竜にエメリウムスラッシュを撃ち込んだ。 「グイイィィィィィ!」 恐竜はレーザー攻撃で爆破炎上を起こし、ガイロスと同じく絶命したのだった。 「シェアッ!」 あっという間に怪獣たちを撃破したゼロは、流れ星のような速さで空に飛び上がってこの場から 去っていった。それを見届けた『サトミ』がポツリとつぶやく。 「行ってしまったわ……。あの巨人は何者だったのかしら? やっぱり、セブンと同じように この地球の守護者なのかしら」 一方のカザモリ=セブンは、突如として現れた怪獣のことを気に掛けていた。 (これで終わりだとは思えない。オーパーツへまっすぐ向かう怪獣たちの行動……それに、 奴らは一度私と戦い、倒されたものたちだ。それがどうして復活したのか……。しかも片方は、 あのノンマルトと関係があった怪獣のはずだ。……もしそうならば、私の周りに現れたあの 女性は、まさか……) それから――ゼロのことも、次のように考えた。 (……あの戦士は、M78星雲人なのか? 何者なんだ……) ガイロスと恐竜を倒し、森の中で変身を解除した才人は、ゼロに話しかけた。 「この本の世界には、一冊目のウルトラマンみたいに、セブンしかウルトラ戦士がいないみたいだな」 ウルトラセブンは、今となっては初代ウルトラマンと同じM78星雲人であるということが 周知の事実となっているが、地球に姿を現したばかりの頃は、ウルトラマンとは大分異なる 容姿であったために同種族だとは思われていなかった。この世界は、その当時の説を採用した ような、地球を守る戦士がウルトラセブンのみという歴史で成り立っているようだ。地球の 防衛隊も、セブンとともに活躍していたウルトラ警備隊が現在に至るまで存続しているという 設定のようである。 「……でも、一冊目とは違って何だか重苦しい雰囲気の世界だな……」 才人はそのことを考え、眉間に皺を寄せた。一冊目の科学特捜隊は、ハヤタがスランプに 陥っていた以外は終始明るく和やかな雰囲気であったが、この世界の地球防衛軍は正反対に ひどくきな臭い様子である。「フレンドシップ」とは名ばかりの、行き過ぎた地球防衛政策を 推し進め、またそれが何なのかは知らないが、ある事象を頑なに隠そうとし、非人道的な手段に まで手を染めている。人間の負の面が前面に出てしまっているような世界だ。おまけに、主人公 カザモリの周りには怪しい女の姿が見え隠れしている。こんな物語を無事に完結に導くのは、 一冊目よりもずっと困難かもしれない。 『ああ、そうだな……』 そんな才人の呼びかけに、ゼロはどこか気のない返事で応じた。 彼は、「自分の父親ではない」ウルトラセブンのことを考えていたのであった。 怪獣たちが倒された後、カザモリは『サトミ』に連れられて北海道に向かった。そこには、 ヴァルキューレ星人事件の際に殉職したフルハシの墓があるのだ。 カザモリ……ダンは、フルハシの墓に向かって、今の自分の抱える悩みを吐露したのだった。 「私があなたと出会った時代、地球人は今のような強い力を持っていなかった。もっと美しい 心を持っていた! 地球人は変わってしまったのか……それとも……」 「いいえ。地球人は変わっていないわ、ウルトラセブン」 ダンの前に、またしても例の女が現れた。女はダンに、今の地球人の姿こそが地球人の 本性であること、自分たちは今「地球人」を名乗る者たちに追いやられた地球の先住民で あることを訴えた。その証拠は、防衛軍が隠している例のオーパーツ……。 女がそこまで語ったところで、ウルトラ警備隊が現場に駆けつけた。カザモリが一度拘束 された際に調べられた脳波から、現在のカザモリはダンが姿を借りている姿、つまり宇宙人で あることが発覚してしまったのだ。そしてウルトラ警備隊は、カジ参謀の命令で、カザモリを 拿捕するためにやって来たのだ……。 「動かないで!」 墓地でカザモリは、『サトミ』――一冊目のフジと同じようにその役になり切っている ルイズに、ウルトラガンを突きつけられた。 「カザモリ君が、異星人だったなんて……」 カザモリの背後からはシマとミズノも現れ、カザモリは退路を塞がれる。 「いつから……いつからカザモリ君に入れ替わったの!?」 「待ってくれ! 君は誤解している!」 「近づかないで!」 ルイズに歩み寄っていくカザモリを、ルイズは恫喝した。 「これ以上近づくと、撃つわ。脅しじゃないわ!」 ルイズの指が、ウルトラガンの引き金に掛けられる――。 その時に、才人が林の中から飛び出して、カザモリの盾となった! 「やめろッ!」 「!? あ、あなた誰!?」 突然のことに動揺するルイズたち。それはカザモリも同じだった。 才人はその隙を突いて、ゼロアイ・ガンモードの光弾でルイズたちの手に持つウルトラガンを 弾き落とした。 「きゃッ!」 「な、何をするんだ!」 「テメェ、侵略者の仲間か!?」 血気に逸ったシマが才人に殴りかかっていくが、才人の素早い当て身を腹にもらって返り討ちに された。 「うごッ……!?」 「この人に、手出しはさせないッ!」 才人の鬼気迫る叫びに、ルイズとミズノは思わずひるんだ。 ルイズたちが立ちすくんでいる間に、才人はカザモリの手を取って引っ張っていく。 「さぁ、こっちに!」 「あッ! き、君!」 ウルトラ警備隊からカザモリを連れて逃げる才人。追ってくる彼らをまいたところで、 カザモリは才人と向き合った。 「君は……怪獣と戦った、あの戦士なのか?」 「……」 「どうして僕を助けたんだ?」 カザモリの問いに、『才人』は答えた。 「理由は、「あなた」には分かりませんよ……」 「……?」 今の『才人』は――ゼロであった。カザモリ=セブンの危機に、才人と交代して助けたのだ。 だが自分が、あなたの息子である、ということは話すことが出来なかった。何故ならば、 この本の世界ではセブンに『ウルトラマンゼロ』という息子がいるという『設定』はないからだ。 「ともかく、助けてくれたことはありがとう。でも……僕は行かなくちゃ」 カザモリが踵を返して、ウルトラ警備隊のところに戻ろうとするのを呼び止めるゼロ。 「待って下さい! 駄目です、危険ですッ!」 「いや、このまま逃げ続けることは、自分が侵略者だと言ってるようなものだ。僕は自分の潔白を、 この身を以て証明しなければ」 と言うカザモリを、ゼロは説得しようとする。 「潔白を証明したとしても……あなたがウルトラセブンだということが知られても! オメガファイルに 近づいたというだけで、今の防衛軍はあなたを殺すかもしれないんですよッ!」 「……!」 その言葉には、カザモリも流石に足を止めたが……。 「……僕は、自分が守ってきた地球人を、信じる……!」 そう言い残して、再び歩み去っていった。ゼロも、今の言葉を聞いてしまっては、これ以上 カザモリを止めることは出来なかった。 「……」 取り残されたゼロの背後に、例の女がどこからともなく出現した。 「お前は何者だ。何故我々の邪魔をする」 振り返ったゼロは、女に言い返した。 「それはこっちの台詞だ。あんたこそ何者だ? どうしてあの人を、オメガファイルに近づけようと するんだ。怪獣を操ってたのはあんたか? だとしたら、怪獣を使ってまで暴こうとするオメガファイルの 正体は、何だ!」 問い返された女は、ゼロに端的に回答した。 「我々は、真の地球人。一万年以上も前に、今地球人を名乗る者たちによって追放された。 オメガファイルの中身は、その証拠だ」 「!! ノンマルト……!」 ノンマルト。それは1968年、一時地球防衛軍を騒然とさせた謎の集団が名乗った名前である。 海底に居を構え、人間の海底開発の全面中止を訴えて地上を攻撃してきたのだが……彼らは、 元々地球に栄えていた種族は自分たちであり、今の地球人は後からやって来て自分たちに成り 代わった種族だと主張したのである。 その言葉が真実であったか否かは、本来のM78ワールドの歴史では、ノンマルトが二度と 姿を現すことがなかった故に不明のままで終わった。しかしこの世界では……それが『真実』 として取り扱われているのかもしれない。 「このことが白日の下に晒されれば、今の地球人はこの星を出ていかなければならなくなる。 それ故に、防衛軍はあの棺をオメガファイルとして封印しているのだ」 女――目の前にいるノンマルトもまた、そのように主張した。そしてそれは筋が通っている。 ノンマルトの語ることが全て真実ならば、今の人間は全て、この地球に暮らす権利を全宇宙文明 から認められなくなるのだ。 「……」 ゼロは一切の言葉をなくす。するとノンマルトは畳みかけるように告げた。 「お前が何者かは知らないが、軽率な行動は慎むべきだ。たとえ誰であろうと、侵略者に 加担したならば、お前もまた全宇宙から罪人として扱われ、居場所を失うのだ」 そう言い残して女はいずこかへと去っていく。ゼロはその場に立ち尽くしたまま。 才人は彼に呼びかけた。 『……とんでもない物語の中に来ちまったな。俺たち、これからどうしたらいいと思う? ゼロ……』 「……」 ゼロは才人の問いかけに、無言のまま何も返さなかった……。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第三話 見よ! 双月夜の大変身 土塊怪獣アングロス 登場! ルイズ達が学院に戻ってきて4日が過ぎた。 このころになると、さすがにヤプールやウルトラマンAの話題も下火になりだし、人々は元の生活を取り戻しつつあった。 その日、昼食を終えたルイズは才人をともなって教室への廊下を歩いていた。 もっとも、この日は少々不本意な同行者もいたが。 「だからさぁ、なんと防衛軍じゃこのあたしを一個小隊の戦闘隊長にしてくれるんだってさ!! ゲルマニア出身のあたしをだよ? やっぱベロクロンのやつに一発食らわせてやったのがよかったのかなあ、それとも、そこまでしなきゃなんないほど人材が枯渇してるってことかしらね」 まずは赤髪がまぶしい『微熱』のキュルケ。 「……前者が2割、後者が8割」 もうひとりは正反対にブルーのショートヘアが涼しげな『雪風』のタバサ。 ふたりとも、平たく言えば腐れ縁の仲だ。 ルイズはあまり付き合いたくはないのだが、目的地が同じなのでしぶしぶ話を聞き流しながら歩いていた。 ちなみに才人は「しゃべるな!!」と命令されているために、話したくてうずうずしているのを我慢している。破ったらグドン張りの残酷鞭ラッシュの刑。 と、そのとき曲がり角でばったりシエスタと出くわして、途中まで道筋がいっしょということで5人で談話しながら歩くことになった。 キュルケとタバサでは話に乗れないルイズも、シエスタが相手なら多少は話ができる。というかシエスタが才人に話しかけるのを絶対阻止したいようだ。 「ところで皆さん、『土くれ』のフーケの話、ご存知ですか?」 「フーケ? まあ名前だけはね。貴族を専門に盗む凄腕のメイジらしいとか、けどまだ正体は知られていないんでしょう」 シエスタが突然振った話にルイズ達4人は怪訝な顔をした。街ではけっこう騒がれているらしいが、彼女達にとってはこれまで他人事だったからだ。 「ええ、ですが最近そのフーケが変わってしまったらしいんです」 「変わった?」 「はい、何でもこれまでは盗みを働いても貴族や家の者には無用な危害は加えなかったらしいんですが、この間入られた2件のお屋敷では秘宝を盗まれただけではなく、 家の者全員、主人からメイド、赤ん坊にいたるまで皆殺しにされていたそうです」 その話を聞いて、ルイズ達は惨状を想像して思わず口を押さえた。 「……突然の豹変……フーケの名を語った模倣犯の可能性もある……」 唯一タバサだけが冷静に客観的に見た推理を言ったが。 「いえ、現場に残されていたフーケの書置きはこれまでのフーケのものとまったく同じだそうです。それに宝物庫を破った錬金の手口も同じです。 こんなことができるのはふたりといませんよ」 「確かにね、そりゃフーケ本人が突然変わったとしか考えられないか。けど、盗むだけならともかく皆殺しとなると屋敷の人間全部相手にしたってことでしょ。 フーケはトライアングルクラスらしいとは聞いてるけど強すぎない?」 キュルケもトライアングルクラスのメイジだけに、トライアングルクラスがどの程度の強さというのは知っている。たとえ自分がやってみても返り討ちが落ちだろう。 だが、シエスタの口から返って来たのは彼女達の想像をはるかに超えるほど凄絶なものだった。 「はい、確かに強さはもはやスクウェアクラスと言っても過言ではないようです。ですが、これは私も申し上げにくいのですが、襲われた家の人たちは、全員皮も肉も無くなって白骨、つまり骨だけにされていたそうです」 「ほ、骨だけぇ!?」 「はい、まるで何かに食い尽くされたかのように……そのあまりに残虐な惨状に、今では平民達もフーケを恐れています。ミス・ヴァリエールも高名な家柄ですし、私心配で……」 「……あなた」 シエスタがわざわざフーケのことを教えてくれたのはそのためだったのだ。 ルイズは、私の家にはたとえスクウェアクラスが乗り込んできても大丈夫な備えがある、余計な心配だとシエスタに言った。 高慢な物言いだが、そこにはプライドの高いルイズなりの謝意と、シエスタを安心させようという優しさが隠されていた。 「そうですか、そうですね、いくらフーケが無謀でもヴァリエール家に手を出そうとは思わないですよね。出すぎたことを言いました。では、私はここで失礼いたします」 シエスタは頭を一回下げると立ち去っていった。ルイズは顔だけ不愉快そうに見送っていたが、不安は彼女の心にも一抹の影となって残っていた。 と、そのとき。 「貴方達、もうすぐ授業が始まるわよ。急ぎなさい」 「はい!! あ、ミス・ロングビル」 そこにいたのは学院長オスマンの秘書のミス・ロングビルだった。 緑色の髪に眼鏡が知的な印象を与える人で、仕事振りもよく学院内での評判も高い。 学院に来たのはベロクロンが現れる少し前だったそうだが、ベロクロンの学院襲撃の後も職を辞さずに続けていて、今ではルイズ達にもすっかりなじみの顔になっている。 「どうもすいません、急ぎます」 「よろしい。けど廊下は走らないようにね」 「はい……あれ、ミス・ロングビル、その虫かご、蛍ですか?」 ルイズはロングビルが片手に小さな虫かごを持っているのに気がついた。中には一匹の黒い虫、季節外れの蛍だった。 「ああ、これ? 知人にもらって部屋で飼ってるのよ。飼ってみるとなかなか可愛くてね。よくエサを食べてすくすく成長するの」 ロングビルは蛍を見てうれしそうに笑っていた。 「おっと、それどころじゃないでしょ。遅刻するわよ」 「あっ、はーい!!」 ルイズ達は回れ右をすると駆け足で教室へ向かっていった。 「なあ、ルイズ」 「なに、しゃべるなって言ったでしょ」 教室で席についたルイズに才人は小声で語りかけた。まだ教師は来ておらず、周りの生徒も私語に夢中で誰も聞いてはいない。 才人は周りを確認すると、ルイズの命令を無視してささやきかけた。 「さっきのシエスタの話、どう思う?」 「どうって、フーケのこと? たかが盗賊ひとりがなんだっていうの」 ルイズは才人の仕置き用の鞭に手をかけたが、気づかない才人はさらに続けた。 「おかしいと思わないか?」 「おかしい?」 「盗賊が突然強盗に豹変するっていうのはそう珍しい話じゃない。けど、手口が異常すぎる。死体を白骨にするなんて普通の人間には不可能だろ」 「……まあ、そりゃ確かにね。けど、それがなんだって言うの? はっきり言いなさいよ」 「ヤプールが絡んでるんじゃないか、そう思うんだ」 才人の言葉を聞いてルイズは「はぁ?」とでも言うような顔をした。 「何言ってるのよ。あんなでっかい超獣を操れる奴が、なんでたかが盗賊ひとり使ってちまちま強盗働きしなきゃならないの。普通に街で暴れさせればいい話じゃない」 「俺も確証はねえよ。ただ、昔ヤプールが暗躍してたころは、超獣が現れる前に人間技じゃ不可能な奇怪な事件がよく起こっていたらしいんだ。 それに、超獣には人間を食べてエネルギーを蓄える奴が何匹もいたそうだから、もしもと思ってな」 才人の脳裏には、昔怪獣図鑑で見たサボテンダーやアリブンタといった超獣の姿が浮かんでいた。 超獣に限らずとも、ケロニア、サドラ、コスモリキッド、サタンモア、タブラなど人間を主食とする怪獣は数多い。嫌な話だが怪獣から見て人間は適当な栄養源に見えるようだ。 「じゃあ、一連の事件はヤプールが超獣を育てるために人間を襲わせてたって言うの。けど、なんでわざわざフーケを使って?」 「ヤプールは人間の心の暗い部分につけこむことが得意なんだ。フーケみたいな盗賊が狙われたとしても不思議じゃない」 「それじゃあ、近いうちにまた超獣が現れるかもしれないってこと? でも、その前に叩くとしてもフーケは神出鬼没の怪盗よ、捕らえられっこないわ」 「フーケは貴族のところから秘宝を盗むところは変わっていない。ここらでフーケが狙いそうな貴重な魔法道具を持っているようなところはないか?」 才人の問いにルイズはやれやれと、指で下を指しながら答えた。 「……ここ、魔法学院ね。自慢じゃないけど、ここの宝物庫には並の貴族なんか及びも付かないほどの貴重品が眠ってるわ。 けどね、宝物庫にはスクウェアクラスのメイジが固定化の魔法をかけて保護してるし、教師から生徒までそれこそピンからキリまでメイジがいるわ。 いくらフーケでも、そんなオーク鬼の巣に飛び込むような無謀な真似をするかしら?」 ルイズは、そんなことは川が下から上へと流れるようなものだというふうに笑った。 だが、才人は納得していなかった。 「今までのフーケならそうかもしれない。だが、もしフーケがヤプールに操られてるとしたら、奴には超獣がついてるかもしれない。そして、ヤプールの目的が超獣を育てることだとしたら学院は絶好の餌場かもしれない」 ルイズは、学院が超獣の餌場という言葉に背筋にぞっとするものを覚えたが、教師が教室に入ってきたことで頭を授業の方に切り替えることにした。 「私は考えすぎだと思うけどね。とにかく確証が無い以上深入りはやめときなさい……ああ、それと」 「なんだ?」 「しゃべるなって命令、破ったわね。あんた夕飯抜き」 ルイズは抗議しようとする才人の目の前に鞭をちらつかせて黙らせると、教師の話に耳を傾けはじめた。 しかし、悪い予感というものの的中率は往々にしてよく当たり、多くの場合予感よりさらに悪くなるものであるらしかった。 その晩、眠っていたルイズは大気を揺り動かすような衝撃で目を覚まし、窓の外に宝物庫の塔を攻撃する巨大な土のゴーレムを見た。 全長およそ30メイル、さすがに超獣には劣るがそれでも生身の人間からは圧倒的な威圧感があった。 「サイト、行くわよ!!」 「お前、あんなのに向かっていく気か? それよりも先生たちに連絡したほうが……って、おい、聞いちゃいねえな」 ルイズはすばやく着替えると部屋を飛び出した。才人もデルフリンガーを背負って後を追う。 そのとき、隣の部屋のドアが開いて、まばゆい赤毛とサラマンダーが飛び出してきた。 「あらぁ、ルイズ、あんたも行く気なの? ゼロのあんたじゃあれの相手は無理よ。あたしらに任せて下がってなさい」 「ツェルプストー、言うに事欠いてわたしに下がってなさいですって? 貴族が盗賊風情に逃げ隠れするなんて恥辱を超えて死んだようなもの、あれはわたしが倒すからあんたこそ下がってなさい」 「ふーん、そう言われちゃあこっちも下がるわけにはいかなくなったわね。じゃあ、競争といきましょうか」 「臨むところよ!!」 売り言葉に買い言葉、キュルケの挑発はルイズは簡単に乗ってしまった。 「じゃあ、お先にね」 キュルケはそう言うと、突然窓から飛び降りた。 フライで先回りする気か、と思ったのもつかの間、下にはいつの間にかタバサとシルフィードが来ていてキュルケを乗せて飛んでいってしまった。 「すげーチームワーク、以心伝心ってのはあーいうのを言うんだろうな」 「うぬぬ、キュルケだけじゃなくタバサまで、抜け駆けは許さないわよぉ」 怒ってみても飛べないルイズは階段を駆け下りるしかない。ルイズはせめてキュルケにだけは捕まるなとフーケに本末転倒なエールを送っていた。 さて、シルフィードで一足先にゴーレムの元へとたどり着いたキュルケとタバサは、ゴーレムの肩にたたずむ黒衣の人影を見つけていた。 「あれがフーケで間違い無いわね。顔は見えないけど、さてどうしてやろうかしら」 キュルケは杖を取り出して攻撃魔法の準備にかかっている。 タバサもいつでも戦闘態勢に入れるが、相手は全長30メイルのゴーレム、まぐれでも一発喰らったら即あの世行きだけに下手な手は打てない。 「宝物庫を破壊してお宝を頂戴する腹みたいね。今のところ固定化が効いてるみたいだけど、いつまで持つか」 「……時間が無い。ゴーレムの真上に出るから、おもいっきり撃ちおろして……」 「なるほど、真上には攻撃もしずらいからね。さすが冴えてる。んじゃ善は急げといきますか!」 タバサの案に納得したキュルケはすぐに魔法の詠唱を始めた。 シルフィードはゴーレムの真上、腕を振り上げても届かない高度に遷移する。 「『ファイヤーボール!!』」 火炎弾が90度の角度でまっ逆さまにフーケに向かって落下する。 「燃えちまえ!!」 フーケは避けるそぶりさえ見せない。 だが、フーケは命中直前片手を振り上げ、そこから小さな光が現れたかと思うと火炎弾は何かに衝突したかのように散り散りになってしまった。 防御魔法? それとも魔法道具か? だがそんなものを使うそぶりは見せなかったはずだ。 キュルケとタバサは一瞬我を忘れて、シルフィードに退避の命令を出すのが遅れてしまった。 「岩よ……」 フーケがつぶやくとゴーレムの体から無数の岩石の弾丸が発射された。 「きゅいーーっ!!」 ふいを突かれたシルフィードは避けることができずに、もろに岩石弾を食らって撃ち落されてしまった。 「く、やられた……けど、まだよ!!」 「……大丈夫、傷は浅い」 シルフィードの影で直撃を免れたふたりはシルフィードをかばいつつ戦闘態勢をとる。 だが、そのときふたりの目の前に小さな光の点が現れて、緑色の光を発したかと思うと、突然ふたりの体が動かなくなってしまった。 「な、これ、なんなの? 体が動かない……」 「……今まで襲われた貴族たちは、みんなこれにやられたのね……」 杖を振るうことができなければ魔法で防御することもできない、ふたりは自分達が罠にはまってしまったことを悟った。 フーケのゴーレムが宝物庫への攻撃を一時中断して巨大な腕を振り上げる。 そこには明確な殺意があった。 「く、ちくしょう、動け、動けよあたしの体!!」 「……不覚……」 ゴーレムの拳が近づいてくる。 死ぬ前は時間の流れが遅くなるというが、いやに土くれの拳が近づいてくるのが遅く見えた。 「キュルケ!! タバサ!!」 ようやく寮から飛び出してきたルイズと才人は、今まさに潰されようとしているふたりの姿を見た。 体中の血が熱くなる、あの拳を絶対に振り下ろさせてはいけない。 そのとき、ふたりの意思に呼応するかのように、ウルトラリングが光を放った。 「ルイズ!!」 「サイト!!」 強い思いが叫びとなり、強い叫びが光を呼ぶ!! 「「ウルトラ・ターッチ!!」」 合体変身、ウルトラマンA登場!! 「テェーイ!!」 強烈なエースの体当たりが炸裂!! 4万5千tの質量にフーケのゴーレムは学院の外壁まで吹き飛んだ。 「デュワッ!!」 立ち上がったエースはゴーレムへ向けて構えをとる。 「ウルトラマンA!! 来てくれたんだ!!」 「……わたしたちを、助けてくれた……」 キュルケとタバサは死地から脱した開放感から、思い切り抱き合って喜んだ。どうやらフーケが吹き飛ばされたことで金縛りも解けたらしい。 エースはふたりに向かって「逃げろ」と言うようにふたりを一瞥して後ろを指し示した。 「わ、わかったわ。タバサ、シルフィードは?」 「翼をやられた……飛ぶのは無理だけど、走るのはなんとかなる。レビテーションで手伝って」 「お安いごよう。痛むだろうけどもう少し頑張ってね……エース!! 頼んだわよ!!」 ふたりはシルフィードを支えながら、後ろでかまえるエースにエールを送った。 (ツェルプストーに頼むわよって言われてもね。まあ、わたしが言われたわけじゃないんだしいいか) (キュルケにタバサ、間に合ってよかった。フーケめ、許さないぞ!!) (落ち着け、まだ奴は倒したわけじゃない。なにか不気味なものを感じる。気をつけろ) エースの心の中で3人にしか聞こえない会話がささやかれる。 やがて、粉塵の中からゴーレムがフーケを乗せてゆっくりと立ち上がってきた。 フーケはウルトラマンAを目の前にしながら、ゴーレムの肩で身じろぎもしない。 (こいつ……やはり) そのとき、フーケが杖を頭上から一直線に振り下ろした。 すると、フーケのゴーレムが音を立てて形を変え始めた。 人型だったものが四足歩行になり、さらに周辺の土くれを吸収して巨大化していく。 (これは、まさか!?) 才人の脳裏に、以前ウルトラマンメビウスと戦った、ある怪獣の姿が浮かび、眼前の土くれはまさにそのとおりの姿へと変貌していった。 モグラのような姿と鋭いドリルを持った鼻、鋭い角に赤く凶悪な目つき。 土塊怪獣アングロス。 (やっぱり、フーケにはヤプールがからんでいたんだ!!) この世界の人間がアングロスの存在を知るわけが無い。 そしてアングロスは本来サイコキノ星人が超能力で土くれから生み出した怪獣、理屈ではフーケのゴーレムと同じものだ、ヤプールがそれを再現させたとしてもおかしくはない。 (気をつけろエース、そいつはメビウスもやられそうになったほど強力な怪獣だ!!) (わかった! 行くぞ!) アングロスは叫び声を上げ、ドリル鼻を振りかざして猪のように突進してきた。 エースは飛び掛ってくるアングロスを受け止めて、地面に叩きつける。 「イヤーッ!!」 土くれでできたアングロスの角が折れ、背中が歪む。 だがアングロスが起き上がると、壊れた体のパーツが体から生えてきてあっという間に元通りになってしまった。 「ヘヤッ?」 (無駄だ、アングロスは泥人形といっしょだ、いくら攻撃しても効果はない。フーケを捕まえて術を解かせなければだめだ!!) アングロスとの戦闘経験の無いエースに才人がアドバイスを飛ばす。 (フーケは……あっ、あそこよ!!) エースの目で周りを見渡したルイズが外壁の一角を指した。フーケはそこに悠々とたたずんで戦いを見守っている。 (エース、捕まえるんだ!!) (よし!!) エースはフーケを捕らえようと手を伸ばす。だがその間に当然のようにアングロスが立ちはだかった。 ドリル鼻を振りかざして突進してくるアングロスをエースはなんとか組み伏せようとする。しかしアングロスの力は強く、エースのほうが振り飛ばされそうになってしまう。 なんとか距離をとったエースは、このままではフーケを捕らえられないと思った。 (だめだ、どうにか一時的にでも怪獣の動きを封じなくてはフーケに近寄ることはできない) エースは光線技を使ってアングロスを吹き飛ばそうと考えたが。 (だめよ!! あなたの力で、もしはずしたら学院が吹き飛んじゃうわ) ルイズの言うとおり、メタリウム光線どころかパンチレーザー程度の技でも学院を木っ端微塵にするには有り余るほどのパワーがある。 しかし、エースの得意技は光線技だけではない。 (ならば、これだ!!) エースは右手を高く掲げ、念を集中させる。 無から有を生み出すウルトラ念力の力を見よ。 『エースブレード!!』 エースの手の中に念力で生み出された長刀が握られる。 「テヤァァッ!!」 横一線、エースブレードを振りかざし、アングロスへ突進をかけていくエース。 アングロスもドリル鼻を振りかざして向かってくるが、エースよりは格段に遅い。 このままいけばアングロスは胴体を真っ二つにされ、身動きを封じられるはずであった。 だが、エースブレードを斬りつけようとした瞬間、エースの体に奇妙な感覚が沸き起こった。 (なんだ、これは!? 体が急に軽く、いや軽すぎる!! 勢いが、止まらない!?) 突如体が羽のようになってしまったかのような感覚に、エースの太刀筋が狂ってしまった。 エースブレードはアングロスの左前足を切り捨てるにとどまり、バランスを崩されたアングロスは宝物庫に直撃、 宝物庫は固定化のおかげで倒壊を免れたが、鋭いドリル鼻の貫通を許してしまった。 (しまった!?) エースはなんとか体勢を立て直す。 不思議な感覚はエースブレードが無くなった瞬間に消えていたが、アングロスは鼻を引き抜くと切られた足を再生し、再びエースに向かってきた。 『フラッシュハンド!!』 エースの両手がスパークする高エネルギーに包まれる。 威力を増したエースの攻撃はアングロスの体を打ち砕いていく。 だが、そのときエースも、ルイズと才人も完全にフーケのことを忘却してしまった。 突然アングロスの体がはじけ、粉塵が周囲に立ち込める。 (しまった、何も見えない!?) 視界がまったく利かない、いくらエースでもこれでは戦いようがなかったが。 『透視光線!!』 エースの眼から放たれた光が砂煙の闇を吹き払う。 しかし、すでにアングロスは陰も形も無く、フーケの姿もどこにも見えない。 (逃げられたか……) エースはかまえを解いて周りを見渡した。 (ああっ!!) (どうしたルイズ!?) 驚くルイズの目の先にあったもの、それは宝物庫の壁に刻まれた『破壊の光、確かに徴収いたしました。土くれのフーケ』という書置きであった。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
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前ページ次ページ鷲と虚無 才人はいったい何故学院長が二人を呼び出したのかを考えていた。 二人が何か問題を起こして呼び出された、という事が最初に頭に浮かんだがプッロに関してはここ二日は一緒にいたため、それは有り得ないだろうと思った。 ウォレヌスについては解らないが、彼がそのような事をしでかすとは考えにくい。 ルイズも同じ事を考えていたのか、同じ疑問を投げかけてきた。 「ねえ、なんであいつらが呼び出されたのか知ってる?」 「いや、全然解らん」 「プッロが何かやらかしたとか?」 「昨日と今日はあの人とずっと一緒だったけど、問題になるような事は何もしてなかったぞ」 「じゃあいったい何なのかしら……」 ルイズは困惑の表情を浮かべていたが、すぐに机に向き直って勉強を再開した。 ルイズに声をかけたら邪魔になるだろうし、特にする事も無いので才人はごろんと床に仰向けに寝転がった。 最初は二人が呼び出された理由を考えようとしたが、答えが出る筈も無い。 そしてその内に召喚されてからの出来事が脳裏に浮かんできた。 考えるともう召喚されてから、その内の半分は意識が無かったとはいえ、六日程が経つことになる。 そう思うと父と母の事が気になった。今頃は大騒ぎしているはずだ。 息子が壊れたパソコンを受け取りに出て行ったきり一週間近くも戻ってきてないのだから。 彼らからすれば自分は突然、何の痕跡も残さずに蒸発したのだ。 ファンタジーな異世界にいるなんて想像すらしていないだろう。 というよりもする方がおかしい。とっくに警察に通報しているのだろうが、見つかる筈は無い。 才人はその事を考えて胸がチクリと痛んだ。いったいどれだけ心配をかけてるんだろう、と。 もしあの時変な好奇心を出さずに、あの鏡をよけてさっさと家に帰っていればこんな事にはならなかったのだろう。 今更後悔しても意味は無いが、出来る事なら可能な限り早く家に戻って父と母を安心させたかった。 だがそればかりはどうしようもない。もどかしいが学院長達が日本へ戻れる方法を見つけてくれるのを期待するしかないのだ。 家族といえば、ウォレヌス達にも家族はいるのだろうかと才人は思った。 思い出して見れば、確かウォレヌスは妻と娘がいると言っていた筈だ。 だが彼は遠く離れた場所に戦争に行っていた。 だから彼が蒸発した事を家族が知るのはもっと先の話になるに違いない。 プッロの方はどうだろう。正直に言って、あの男が家族を持っている様子を想像できなかった。 多分一人身だろうと想像した。だがそれでも両親や親戚がいる筈だ。 蒸発するのもそうだが、戦争に行く事ほど家族を不安にさせる事はないだろう。 彼らは召喚される前からもずっと家族に心配をかけていた事になる。 考えて見れば自分は彼らがなぜ戦争に行って、誰と戦っているのか殆ど知らない。 (徴兵とかされたんならともかく、そうじゃないんならなんであの人達は戦争に行ったんだろう) 才人は疑念を抱いたが、ただでさえ戦争自体が遠い世界の話だ。 しかも彼らの価値観の多くが自分のそれとはかなり違っているのはもう何度も体感している。 一人で考えるだけで答えを得るのは不可能だった。 (ルイズの方はどうなのかな) そこで才人は感心をルイズの方に向けた。記憶が確かなら彼女は公爵の娘だった筈だ。 公爵がかなり偉い人なのは才人にもわかる。 こんな金持ちしかこれなさそうな学校に子供を通わせてる事から考えても、相当に裕福なのは間違い無さそうだ。 そして何より彼女は家族と引き離されてはいない。 学校の寮に住んでるとはいえ、会おうと思えばすぐに家に帰れるのだろう。 もっとも、それを考えても彼女を恨めしく思うつもりにはなれなかった。 自分が今こんな場所にいる原因は彼女にあるが、別に狙ってそうしたわけでも悪意があったわけでもない。 それに彼女が今おかれてる状況を考える彼女が恵まれてるとはとても言えないだろう。 (まあ、少しは申し訳無さそうな素振りを見せてもいいかもしれないけどな) しばらく経ってから二人がもどってきた。 何かがあったのは彼らの意外そうな、そして少し落胆したかのような表情を見てすぐに判った。 才人は「お帰りなさい」と声をかけたが、ウォレヌスは「……ああ」と投げやりに答えるとドサッ、と床に座り込んでため息をついた。 いったいどうしたんだろう、と才人は不思議に思った。 「あのう、向こうで何があったんですか?」 才人がプッロにそう聞くと、彼は困ったように口を開いた。 「それが……なんと言えばいいのか、どうも変な事になった」 そう言うとプッロも疲れたように床に座った。 そこにルイズが口を挟む。 「変な事?そもそも一体なんの用事だったわけ?」 ウォレヌスは一瞬戸惑うそぶりを見せたが、とつとつと話し始めた。 「……お前が我々を召喚した日の話だ。学院長が我々に“ここで仕事を提供する代わりに、我々の国や世界について教えて欲しい”と言ったのを覚えているか?」 そう言われて才人の記憶が蘇った。 ここ数日のゴタゴタですっかり頭の中から抜け落ちていたが、確かに彼はそのような事を言っていた。 「そういえばそうでしたね。忘れてましたけど」 「まあ忘れてたのは俺達もなんだがな。それがあのジジイが俺達を呼んだ理由だ。そして色々と聞かれたんだよ、俺たちの国についてな」 それでなぜ二人が呼ばれたのかは解った。だが二人が浮かない顔をしている理由がまだ解らない。 ウォレヌスの言う“変な事”に関係しているのだろうが、呼ばれた訳からしても落ち込む様な話しでは無いはずだ。 「それで変な事っていうのはなんだったんですか?」 「順を追って説明する。まず最初にローマやその周辺、要するにヨーロッパ大陸の地理について聞かれた。文化やら制度を知る前に地理を先に知っているほうが想像しやすいというんでな。 それに答えている途中にガリアという名前を口にしたら彼らがかなり驚く様子を見せた。それでどうしたのか聞くと、ここにも全く同じ名前の国があるという」 全く同じ名前の国?と才人が思うのとほぼ同時に、ルイズがガタッ、と椅子から立ち上がった。 「あるらしいも何も、ガリアはハルケギニア最大の王国よ!じゃあなに、あんた達の世界にもガリアって国があるわけ?」 彼女にとっても思ってもみない事だったのか、その声には驚愕が含まれていた。 「ああ。国というよりは地域の名前だがな。それでお前が隣室の娘――キュルケといったか?――がゲルマニア出身だと言っていた事を思い出した。お前には言わなかったんだが、実はローマの北にもゲルマニアという地域がある」 才人は初日の朝にルイズが忌々しげにキュルケについて話していた事や、その後ウォレヌス達がゲルマニアについて言っていたのを思い出した。 あの時もただの偶然だとは思えなかったが、これではっきりとした。 地域の名前が二つも一致するのは単なる偶然では済まされない筈だ。 ルイズも同じ考えなのか、眉間に皺を寄せて「それは……奇妙な話ね。一箇所ならまだ偶然ですむかもしれないけど……」と呟いた。 「私もそれが気になってな、彼らにハルケギニアの地図を見せて貰うように頼んだ。すると驚くべき事に私が以前見たヨーロッパ大陸の地図とそっくりだった」 才人は思わず「それ、本当ですか!」と声を上げてしまった。 だがそうするのも無理は無いだろう。 地名だけでなく地形までが同じならこれは間違いなく偶然ではない。何らかの意味がある筈だ。 「そうなんだよ。ハルケギニアと俺達の故郷の地形とか地名はかなり似てるんだ」 「細部は多少異なるがな。だがここにもロマリアという名だがイタリア半島があり、“こちらのガリア”は“我々のガリア”と同じ場所に存在し、ゲルマニアも然り。 トリステインは位置的に“我々のガリア”のベルガエという場所にあたる。ここの北にあるアルビオンという島も、同じ場所に存在している」 「ただ名前は違うがね。俺たちの故郷じゃアルビオンはブリタンニアっていう名前だった」 「それがなプッロ、実はそうでもない。お前は覚えてないだろうが、原住民どもはブリタンニアをアルビオンと呼んでいた。つまり名前も同じだ。明確に違っているのはアフリカやエジプトが存在せず、小アジアに該当する地域から先が巨大な砂漠になっていた所ぐらいだな」 ルイズは腕を組んで首をかしげた。 これが何を意味するのか考え込んでるようだったが、答えはでないようだ。 「正直、なんていえばいいのか解らないわ。どういう事かしら……」 ウォレヌスも同じなのか、首を振った。 「それは私にも解らん。ただの偶然じゃないのは間違いないだろうがな……学院長らも頭を抱えていた」 そこにプッロが最後に一つ、付け加えた。 「つっても国に関しちゃ同じなのは名前だけで、中身は別物みたいだがね。こっちのガリアは一つの王国らしいが、俺達の方のガリアは何十っていう部族がバラバラに住んでる地域の名前だ。 そしてこっちのゲルマニアは技術が進んでるらしいが、俺達の方のゲルマニアは野獣みたいな連中が住む森林に覆われた未開地。そして当たり前だがここにローマは存在していない」 プッロの言う事が本当ならさすがに何から何までが同じという事ではないらしい。 アフリカが存在しないというのも気になる。 それでもここまで古代ヨーロッパと共通点があるのなら偶然ではない筈だ。 だが偶然ではないとすればいったいどういう事なのか。 才人は考え込んだ。そもそもここは何なのだ? ハルケギニアが地球ではない、いわゆる異世界なのは間違いない。だが異世界とは具体的に何を意味するのか。 才人が知る限り、漫画やアニメなどに出てくる異世界にはだいたい三つのパターンがある。 一つ目は異星。そうだとすればここは地球から何千何万光年も離れた惑星で、ルイズ達は宇宙人。そして自分は召喚の魔法によってそこへ瞬間移動した事になる。 二つ目は並行世界の地球。そうならこの星はパワレルワールドの地球で、ハルケギニアはその平行世界のヨーロッパだ。ここがヨーロッパと同じ地形や知名で、なおかつアフリカが存在しないのはそれが理由かもしれない。 三つ目は異次元世界。だがこれは一つ目とそれ程変わらないだろう。 とはいえ答えを知る術はないし、知った所で日本に帰る事は出来ないだろう――とそこまで考えた時、ウォレヌスが残念そうに才人に語りかけてきた。 「そしてもう一つ解ったのが、歩いて帰る事は不可能だという事が解ったわけだ。君にとっても残念な話だろうが……」 いきなり何を言い出すんだ、と才人は首をかしげた。 「歩くって……どういうことですか?」 一体どうすれば歩いて帰れるという発想が浮かぶのかさっぱり解らない。 異世界からどうやって地球に歩いて戻れるというのだろう。 だがウォレヌスはさも当たり前の事であるかのように答えた。 「最悪の場合、つまりどうやっても帰る方法が見つからない時は何年もかかるが、ずっと西に歩いて帰るという手があるだろう?だがハルケギニアの地図を見る限り西には巨大な海しか存在しない……ヨーロッパと同じくな。徒歩で渡るのは不可能だ」 それを聞いてルイズは目を細めたが、それはウォレヌスの考えが荒唐無稽と考えたからではないようだ。 「あんた達そんな無茶な事考えてたの?仮にハルケギニアとローマが繋がってたとしてもいったい何千リーグあると思ってるのよ。大体仮にも主人を勝手におっぽり出すなんて私が許さないわ」 「最後の手段って奴だよ。元々余程の事が無い限りはするつもりもなかったんだから目くじらたてんな」 「巨船を作って大海を西に渡り、セリカにたどり着いた後はパルティア経由でローマに帰る、のは……流石に馬鹿げているな。 そんな長距離を補給なしに航海できる船がある筈がない。それにしてもオケアヌスの真ん中にこのような大陸が存在していたとはな……想像もしていなかった」 距離以前の問題だという事が理解できないんだろうか、と才人は思った。 仮にここが同じ宇宙に存在する異星だとしても、下手をすれば何万光年も離れているだろうに。 話をまとめると、どうも彼らはハルケギニアがあくまで地球にある大陸の一つだと思っているようだ。 ルイズは逆に日本やヨーロッパがそうだと思っているのだろう。 これでなぜ彼らが戻ってきた時に落胆していたのかが解った。 大変な苦難と時間をともなっただろうとはいえ、いよいよという時は帰る方法があると彼らは思っていたのだ。 その最後の保険が潰されたのだから少しは落ち込むだろう。これで自分達の力ではどうやっても故郷に帰れないと解ったのだから。 だがここが地球じゃない事ははっきりさせた方がいいだろうと才人は感じた。 そうしなければいつか海を渡ろうとしてとんでもなく馬鹿げた事をやるかもしれない。 「海を渡ったって意味なんてありませんよ。壮大な時間の無駄になります。海の向こうにあなた達の故郷は存在しないんですから」 才人がそう言うと、プッロがきょとんとした顔になった。 「どういう意味だよそりゃ」 「ここが異世界だからですよ!」 「そりゃ知ってるよ。当たり前だろそんな事は」 どうも彼らは“異世界”という言葉をあくまで地球上の別の大陸を指すものとして使っているようだ。 「俺の言う異世界ってのは、ここが地球じゃないって事です。ここが並行世界なのか別の星なのか異次元なのかは知りませんが、ここはどう考えたって地球じゃない」 才人がそう言い終えると十秒ほどの間、沈黙が場を包んだ。 ウォレヌスもプッロもルイズもジッと才人を見つめていた。 「……あんたが今言った事で理解できた物が一つも無いんだけど。地球じゃない?地球じゃないんならここはどこだって言うのよ」 「へいこうせかい?べつのほし?一体何の事だよそりゃ」 ウォレヌスは何も言わなかったが、理解出来なかったのを示すように眉間にしわを寄せていた。 才人はしまった、と感じた。SFの類を全く知らない人間にこんな事を言っても理解できる筈がない。 そして当たり前だが古代にSFなんて物は存在しない。それはハルケギニアも同じだろう。 一体どうしよう、と才人が言葉につまっていると、プッロが奇怪な事を言い出した。 「別の星って言ったよな?星ってのは何千マイルも離れた場所にある、天球の光が漏れてくる穴の事だろ。なんでそれが“ここ”になるんだよ」 あまりにも荒唐無稽なプッロの発言に才人は戸惑った。 明らかにガリレオ以前の天文知識しかない彼らにどうやって説明した物か。 そもそも才人自身、大して宇宙について詳しいわけではない。 彼の知識はSF物のアニメやらテレビの教育番組やら真面目に読んだ事のない教科書やらで構成された断片的な物に過ぎないのだ。 それでも星が天球とやらに開いた穴ではなく、太陽のようなものである事は解っている。 なんとか解りやすく説明しようと、才人は頭を絞った。 「星は穴なんかじゃありませんよ。え~と……簡単に言えば巨大な火の球です。太陽みたいな」 プッロは呆けたように頬を掻くと、「……そうなんですか?あんたが前に言った事と違ってるようですが」と確認するようにウォレヌスに尋ねた。 ウォレヌスはすぐに首を横に振った。 「聞いた事もないな。だいたい太陽が無数にあるのならアポロやヤヌスも無数に存在するのか?そんな滅茶苦茶な」 アポロやヤヌスがローマの神々の一つなのは才人も知っていた。 アポロは確か太陽の神だから、その事について話しているのだろうか? だがそんな事を言われても才人には説明の仕様がない。 そして後を追うようにルイズが痛い所をついてきた。 「ヤヌスやアポロがなんなのかは知らないけど、私も同感よ。あんたのいう事には証拠が何一つ無いじゃない。いきなりそんな事を信じろって言われても無理ね。何か証拠はあるの?星がデカい火の玉だっていう」 それを言われると辛かった。単に常識として知っているだけで、星が実際になんなのかを証明する手段は何一つ持ち合わせていない。 だがどちらにしてもこれは重要な点ではない。自分が言いたいのはここが地球に似た惑星がかもしれない、という事だ。 「正直な話、その事は重要じゃありません。俺が言いたいのは宇宙のどこかに地球と同じような星があるかもしれない、そしてそこがここかもしれないって事です」 再び場に沈黙が訪れた。 それを見て才人はどんよりとした気分になった。まるで自分がとんでもなくおかしな事を言っているかのように感じられる。 実際におかしな事を言っているのは彼らの筈なのに。 やがてゆっくりと、だがはっきりとウォレヌスが首を振った。 「そんな馬鹿げた事がありえるか。地球は一つだ。この世界にこれ以外の地球があるはずが無い」 「地球が二つあるって話じゃありません。地球とは別の似たような星、って事です」 今度はルイズが呆れたように言った。 「なんていうのか……ずいぶんと突飛な発想を持ってるのねあんた。つまり宇宙のどこかに地球に似た別の地球が浮かんでいて、あんた達はそこから召喚されてきたって言いたいの?」 知ってか知らずか、彼女は才人が言いたい事をはっきりと表現してくれた。 才人は強く頷いた。 「ああ、まさにその通りだ。判りやすくまとめてくれたな」 才人がそう言い切ると共に、三人は今度は狐につままれたような顔になった。 (俺ってそんなにおかしい事を言ってるのか?) なぜ三人ともここまで異星の存在を信じようとしないのかが才人には理解できない。 確かに証明は出来ないが、可能性として受け入れる位はしてくれてもいい筈だ。 「……おい、さっき言ってたヘイコウ世界ってのはなんなんだ。これより更にぶっ飛んだ話なのか?」 そう言ったプッロの顔は疑いに覆われている。 “ぶっ飛んだ話”という言葉からも彼が才人の話を全く信じていないのは明らかだった。 そして並行世界はこれよりもずっと説明するのが難しい。 彼らにはたして理解できるのか、と才人は悩んだ。 「平行世界ってのは……え~と、一つの世界から分岐してそれに並行して存在する別の世界の事です。パラレルワールドとも言います」 一応解りやすく言ったつもりだが、それでもプッロにはさっぱりだったらしい。 「まるで意味が解らねえよ。分岐ってどういう事だ?並行して存在だぁ?」 「え~と、そうですね――」 そう言いながらも才人は解りやすい例を考えようとした。 「そうだ、例えばプッロさんのお祖父さんが子供の頃に運悪く病気にかかって死んだとします。そうすれば当然プッロさんは今存在していませんよね?」 「まあそりゃそうだな。っていうか勝手に俺を殺すな」 「仮定の話です。つまりなんらかの理由により、プッロさんのお祖父さんが子供の頃に死んだ世界と病気にかからなかった世界が二つあると考えてみて下さい」 相変わらず皆は顔に疑問符を浮かべている。 「世界が二つできた、というのはどういう意味だ?さっぱり理解できない」 次はウォレヌスが聞いてきた。才人は精一杯解りやすいように説明しようとした。 「だから分裂したんですよ、世界が。一つの世界ではプッロさんは存在していますが、もう一つの世界では存在していない。 別の例で言えば俺が召喚された時の事です。もしあの時、俺があの鏡を潜らなかったなら当然俺はここに存在していない。平行世界っていうのはそういう“もしも”の世界なんですよ」 「……それでその世界ってのはどこにあるのよ?」 ルイズがジト目で尋ねてくる。 「別の時間軸だ。だから俺達には決して見る事も行く事も出来ない。でも確実に存在する。そんな世界だ」 そう答えながらも才人は自分で自分の言っている事が怪しく思えてきた。 元々が漫画やアニメの受け売りだ。科学的にこれが正しいのかどうかは全く解らない。 そもそも科学的に並行世界なんて物が本当に存在するのかどうかさえ知らないのだ。 そしてプッロ達は妙に痛い所をついてくる。かえってこういう事を全く知らないからかもしれない。 「別の時間軸だの世界が分裂するってのも訳がわからんし、だいたい見る事が出来ないんならなんでそんなのがあるって解るんだ?」 確かにもっともな疑問だが、才人にはっきりとした答えは無い。 「俺は可能性の話をしてるんです。つまり、ハルケギニアは地球の平行世界かもしれない。もしそうなら地形がヨーロッパそっくりなのも説明できます。もちろん分裂したのはあなたの祖父の時代どころかそれより遥か前でしょうが」 そう言った後も三人は釈然としない表情のままだった。 無理も無い事かもしれないが、こちらの言う事を信じる信じていない以前に概念その物が理解できていないように見える。 それにしても、もどかしい。はっきり言えばここが並行世界なのか異星なのかどうかは問題ではない。 才人が言いたいのは“ここが地球ではない”という事だ。 そしてそれが正しいのは100%解っているのに彼らには中々理解して貰えない。 そして挙句にプッロはこんな事を言い出した。 「なあ坊主、はっきり言っていいか?お前さんの話はイカれてるぜ」 絶対に正しいと信じている事をイカれているといわれて、才人は少し不快になった。 思わず声を荒げる。 「イカれてるって、なんでですか!?」 「だってありえんだろ、そんな事は。別の星だのヘイコウ世界だの、滅茶苦茶にも程がある」 そして才人が何かを言い返せる前にルイズが割って入った。 「そもそもここが地球じゃない、と考える根拠はなんなの?なにかある筈でしょ?それを言って見なさい」 根拠と言われても、そんな物は決まりきっている。 「……そりゃこんな場所は地球に無いからだよ。ハルケギニアなんて召喚されるまでは聞いた事も無かった」 そこにウォレヌスが切り返してきた。 「そう言い切れるのはなぜだ?私だってこんな場所が存在するなど夢にも思っていなかったが、現にこうして存在するじゃないか」 あまりの話の通じ辛さに才人は苛立ちを覚えてきた。 それを何とか飲み込み、才人は答えを紡いだ。 「いいですか、俺の国じゃ地球にある全ての場所は隅々まで知られてるんです、詳細に。それなのにハルケギニアなんて場所はどこにも存在しないんですよ……!」 「単に君達がそう思ってるだけじゃないのか?我々も世界がどのような姿をしているかは知っているつもりだった。ヨーロッパ、アジアとアフリカの三大陸が存在し、その周りは大海オケアヌスで覆われているとな。それがどうだったかは見ての通りだ」 才人は唸った。まさかここまで理解されないとは思ってもみなかった。 とにかく、彼らを納得させるには何か証拠が必要だ。 ここが地球でない事の証拠。余りにも常識的でありすぎてかえって頭に浮かんでこない。 何か無いか、と考えていると才人は窓から差し込んでくる月の光に気付いた。 そう、月だ。ここには月が二つある。それこそここが地球じゃないという確かな証拠ではないか。 月だけではない。夜空を見れば解る。ここが地球でないのなら星座なども違う筈だ。 「そうだ、お二人とも疑問に思った事は無いんですか?ここにはバカでかい月が二つもあるって!」 「ん、ああ。まあそれは確かに不思議に思った。というか不吉だったな」 「そういえば最初の日は騒いでたわね、月が二つもある!って」 才人は決め手だといわんばかりに一気にまくし立てた。 「それが証拠ですよ!ここが地球なら月は一つしか無いはずでしょ?月だけじゃない、ここが地球じゃないんなら星座とかも全部違うかもしれません」 だが、この決め手も彼らを納得させるには至らなかった。 「……場所が違えば月の大きさや数も変わるのかもしれん。月や太陽は神域だからな。死すべき定めの人間には理解できん事があっても不思議じゃない。はっきりとした証拠とはいえないな」 才人は深くため息をついた。どうにも彼らは納得しそうにない。 神々という便利な道具がある以上、自分が思いつきそうな証拠では彼らを説得するのは難しそうだ。 才人がそう悶々としていると、プッロが彼をジロジロと見つめながら話しかけた。 「なあ坊主、これはお前が全部自分の頭で考えた事なのか?それともお前の国じゃ普通に信じられてる事なのか?」 「……普通かどうかはしりませんけど、俺が考えた事じゃないですよ。今までに読んだ本とかに載ってた事です」 才人がぶっきらぼうに答えると、プッロは感心と呆れが入り混じったような声で言った。 「なんというかまあ、お前さんの国じゃあかなり突拍子もない話があるんだな。外人の連中に奇妙な考えや風習があるってのは今までに身を持って体験したが、お前が言った事はその中でも一番ぶっ飛んでる」 突拍子もない事を言ってるのはあんたらだよ、と才人は言い返しそうになったがそこはこらえた。 これ以上は何を言っても水掛け論にしかならないと悟ったからだ。 それを察したのか、ウォレヌスが話を切り上げたいかのように言った。 「結局は君の言う事のどれかが正しいとしても、帰る方法が無いというのには変わりないんだろう?」 「ええ、まあ。そうなりますね」 「じゃあこれで止めておこう。今の時点ではなぜここと我々の世界がそっくりなのかは解らない。それが結論だ」 プッロ達も頷く。 「同意ですね。これ以上は疲れるだけだ」 「私ももういいわ。あんたの話を聞いてたら頭が少し変になりそうだし」 この話はそれで終わりになった。 ここと古代ヨーロッパの奇妙な類似については結局答えは何も出なかったが、それはまだいい。 極端な話、仮にその謎が解けなくとも故郷に帰る事ができればそれでも構わない。 それよりもここが地球ではないと二人に理解させる事が出来なかったのが、才人には少し不安に思えた。 杞憂かもしれないが、その内故郷に帰ろうとして彼らが何かとてつもなく無駄な事をしそうな気がしてならない。 特にプッロなら竜か何かを強奪して海を渡ろうとする位の事はしてもおかしくない気がする。 とはいえあくまでも最後の手段だと言っていたわけだから、今の所は心配しなくてもいいだろう。 それに彼の性格からすれば多分、ギーシュとの件で片がつくまで帰ろうとはしない筈だ。 だが長い目で見れば、ここが真の意味で異世界だという事を彼らに解らせた方がいい。 それまでになんとかうまく説明出来る方法を考えなきゃな、と才人は思った。 前ページ次ページ鷲と虚無