約 1,929,723 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3146.html
前ページ次ページヘルミーナとルイズ あのときから数えて、三度目の冬が訪れていた。 ルイズとヘルミーナはろくに人の手も入っていない、岩がごろごろと転がっている山道を登っていた。 日はまだ高い。この調子なら目的を果たすのに多少手間取ったとしても、今晩はテントの中で落ち着いて休むことができるだろう。 今更堅い床では眠れないなどというやわな神経は、両者とも持ち合わせていなかった。 「それでルイズ、道は大丈夫なんでしょうね。こんな物騒なところは用事が済んだらさっさとおいとましたいところなんだけど」 そう言ったのはヘルミーナ。 彼女は今年で二十三になるそうだが、現れたときの姿とあまり変わっていない。相変わらずの美しさと妖しさで周囲を惹きつけてやまない。 「そう願いたいわね。私だってこんなところまで来たのは初めてだもの、確証なんて持てやしないわ」 そう答えたのは手に地図を持って、ヘルミーナに先行していた桃色の髪の女性。 ――ルイズだった。 あれからだいぶ背も伸びた。ヘルミーナと出会った頃は彼女の方が十サントほど高かったのだが、今ではほぼ同じ身長になっている。 やせっぽちだった体型も、女性的な丸みを帯びたものへと変わっていた。 胸だけは水準以下であるが、ほっそりとした体つきとのバランスが美しく、それは十分に男を惑わせ得るものとなっていた。 だが、何よりの変化は、その目であろう。 もとよりつり目がちだった目は一段とその鋭さを増し、かなりキツイ雰囲気を放っている。 見たものを震え上がらせるような冷酷な目は、以前のルイズにはないものだった。 二人とも旅装を纏っているが、それが野暮ったい印象は与えない。 一般的に動き回るに向いていないメイジや僧侶用のローブを大胆に改造した着こなしは、それだけでセンスの良を感じさせる。 色はヘルミーナは紫を基調として、ルイズは黒。それぞれ二人のイメージと相まって、彼女たちの魅力を最大限に引き出していた。 「巣立ちを迎えていない火竜の幼体、本当に見つかるのかしら」 「こんな眉唾な情報を見つけてきたのはあなたじゃない。でも、もしも本当なら幼体の『竜の舌』、とても貴重だわ」 この二人、一般的なメイジとは違う、少々特殊な存在であった。 曰く、この世界でたった二人の『錬金術師』。 錬金術の練金は土魔法『練金』を意味するものではない。 素材を調合し、全く違う効果を持つ様々な薬やアイテムを作り出す研究者の総称、それが錬金術師である。 それがヘルミーナが召喚された翌日に、ルイズに語って聞かせたことだった。 そして今、彼女たちは旅の空の下にいる。 二人が出会った翌日、ヘルミーナは自分が錬金術師であること、材料の収集中に魔物に襲われ、その先にあったゲートに飛び込んで難を逃れたこと、そして自分は親代わりであった先生を捜して旅をしていたことをルイズに話した。 一方、ルイズはここがハルケギニアという世界であること、ヘルミーナは異世界から来たかもしれないということ、この世界に錬金術というものがないことを伝えた。 この頃になるとルイズも本来の冷静さを取り戻し、お互いに必要な情報の交換が行うことができた。 特に、お互いの関心事については念入りに話し合った。 ルイズにとっては、錬金術のその技。人工生命や死者蘇生、聞いたこともないような途方もない錬金術の奥義の数々。 ヘルミーナにとっては、異世界の存在とそれに付随する様々な未知なる事柄、そしてルイズが喪ったという少年の話。 そうしてお互いの関心事が分かったとき、ルイズはヘルミーナに申し入れたのだ。 『自分に錬金術を教えて欲しい』と。 ルイズのこの申し出をヘルミーナはしばし検討し、結果として承諾した。 そこにどの様な思惑があったのか、神ならざるルイズには分からなかったが、確かなことは自分が一筋の光明をつかんだという事実であった。 ヘルミーナは自分が元の世界へ戻るまでの間、ルイズに錬金術を教える、その代わりに自分が戻るための手助けをして欲しいと言った。 ルイズは一も二もなくこれを快諾し、この世界で最初の『錬金術師の弟子』となった。 そしてその日の夜、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールは学院から失踪した。 あれから三年、ルイズは一度もトリステイン魔法学院を訪れていない。当然ヴァリエール公爵家にも。 今、ここにいるのはただのルイズ。 貴族の名誉も、家族も、友人も、何もかもを捨て去った、ただのルイズであった。 「毎度思うんだけど、空飛ぶ箒ってこういったところでも使えれば便利じゃないかしら」 「仕方がないわ、あれはそういうものだもの。大ざっぱな移動はできてもこういうところを飛ぶのは向いていないわ」 ルイズの軽口にヘルミーナが相づちをうつ。 深い意味はない、毎度の愚痴と切り返しの応酬だ。 ルイズとヘルミーナは弟子と師匠、召喚者と被召喚者という関係にありながらお互い対等の立場をとっていた。 お互いが教師であり生徒、そんな二人は主人と使い魔の証である使い魔の契約、すなわちコントラクト・サーヴァントも済ませていなかった。 ルイズにとって使い魔とは生涯あの少年ただ一人であったし、ヘルミーナ自身も使い魔という立場を望まなかったからだ。 空飛ぶ箒の調合材料である風石の品質、その調合に使われる中和剤の元となるラグドリアン湖の水についてお互いに意見する。 いつも通りの大して実りもない雑談をしばし続けたあと、二人は目的地周辺に到着した。 「情報によればこの辺のはずね。ルイズ、準備は良い?」 「氷属性のブリッツスタッフでしょ。分かってるわ」 ルイズが背負った革袋から強烈な冷気を放つ杖を取り出すと、ヘルミーナも同様にそれを取り出して手に持った。 「標的はあくまで幼体だけ。もしも成体に見つかったら一目散に逃げる。良いわね」 「幼体を見つけたら二人でブリッツスタッフを使ってブレスを使われる前に倒す。手順は覚えてる、大丈夫よ」 彼女たち二人の目的は竜の舌、それも幼竜のそれだ。 竜の舌は錬金術の素材としても大変貴重なものであるが、その中でも幼竜のものとなるとその価値は跳ね上がる。 幼い竜は常にその周囲を成竜たちに囲まれて生活している。 単独で行動する成竜を相手にするよりも、幼竜を相手にする方がよほど骨が折れるのだ。 なぜそのような明らかに危険過ぎる幼竜を、女二人で探しているのか? それは今ルイズが手にしている一枚の紙切れに原因があった。 多数の火竜が生息する火竜山脈、彼女たちはそこへ鉱石の採集が目的でやってきた。 準備を整えるために立ち寄った麓の町に一泊したときのこと、彼女たちは酒場で気になる言葉を耳にした。 それは「火竜山脈の一角で、親とはぐれた幼竜を見かけた」というものであった。 普段ならそんな与太話、酔っぱらいの戯言と聞き流すところだったが、それが火竜山脈近郊で幼竜となると話は別だ。 ヘルミーナとルイズはそれを喋っていた傭兵風の男に近づいて、酒を奢り、しなだれかかり、女の武器を使って詳しい話を聞き出した。 商隊の護衛だという男は、昨日まで火竜山脈の一部を通る護衛の仕事についていたらしい。 多数の火竜が生息する火竜山脈は、ハルケギニアでもトップクラスに危険な一帯であることは間違いないが、山脈のどこへ行っても竜と遭遇するというわけでもない。 竜たちの生活圏の外ならば、その危険度は大幅にダウンする。 無論、群からはぐれた竜が出現する可能性も完全には否定できない、 そういうわけで、彼は竜のテリトリーの外を横断する商隊の護衛任務を引き受けていたらしい。 危険は大きいがその分報酬も大きい、運悪くドラゴンに遭遇しなければしばらく遊んで暮らせる。 そんなことを心の支えにしながら、怯えつつもきちんと護衛の仕事を果たしていた彼は、もうすぐ山脈が終わろうかというところでそれと遭遇したらしい。 まだ翼で飛ぶこともできないよう、幼い竜の子供。 幼竜の周囲に親竜たちがいる。 子育てに神経質になっている成竜たちは非常に好戦的である。 危険きわまりない幼竜と遭遇してしまった彼は、正直なところ死を覚悟した。 けれど、不思議なことに幼竜の周辺には他の竜の姿はなく、商隊が竜を刺激しないように息を殺して歩を進める間も、結局何も現れなかった。 そうして、商隊と男は無事に街へと到着したというのが話の顛末であった。 しきりにルイズのお尻を触ろうとする男をあしらいながら聞き出したのは、なかなかに貴重な情報であった。 最後に男に地図を見せて場所を確認してから、彼女たちは酒場をあとにした。 そして今ルイズが手にしている紙切れこそ、男が幼竜と遭遇したという場所が記された地図であった。 「まだこの辺に居てくれると嬉しいわね」 「ハルケギニアの竜の生態は分からないけれど、目撃されてからまだ三日。この周辺に居ると考えるのが妥当でしょうね」 その『周辺』とやらがどの程度の範囲なのか分からないから困るのだとルイズは嘆息した。 冬とはいえ、火竜山脈は暑い。 山頂付近の蒸し風呂じみた暑さではないにしろ、二人が今いる場所も十分に暖かかった。 加えて、街から山の入り口までは空飛ぶ箒で飛んできたものの、そこからは徒歩。 火竜の幼体がその場所を離れてしまう可能性を考えて、二人は割と強行軍でここまで上ってきている。 ヘルミーナもルイズも、弱音は吐かないものの、美しい顔を流れる汗は正直であった。 「……少し探して駄目なら、一度休憩にしない?」 「……賛成ね。ドラゴンも、もっとじめじめして空気が淀んでる地下に住めばいいのに」 そろそろ付き合いも長くなってきたこの師匠の変な趣味には口出しせず、ルイズはあたりを見渡して休憩ができそうな場所を探した。 ルイズの視界の端を、ちらりと動く何かの影が横切った。 「! ヘルミーナ! あそこ!」 胸元を手で扇いでいるヘルミーナを余所にルイズが指さしたその先、小高く積み上げられた岩の上、そこには赤い獣の姿があった。 大きさは牛ほどもあるだろうか。赤い鱗に覆われ、背中には折りたたまれた翼がある。 間違いない。ハルケギニア原産の火竜種の幼体であった。 ルイズが気づくと同時、幼竜もルイズたちを確認したのか、威嚇の唸りをあげた。 発見したのはルイズ、だが先に反応したのはヘルミーナ。 「ブリッツスタッフ!」 ヘルミーナが手にした杖の先端を幼竜へと向けると、そこから一直線に強烈な冷気が迸った。 同時、幼竜の喉の奥がオレンジに輝き、恐怖と共に語られる火竜の象徴、ファイアブレスが放たれた。 幼くともドラゴンはドラゴン、そのブレスはヘルミーナのブリッツスタッフの冷気を相殺せしめる程の威力があった。 しかも、その余波は二人の肌を軽い熱波をもって炙っていった。 相殺どころか、押し負けている。 熱気と冷気がぶつかり合い、その余波で発生した水蒸気、それによってルイズたちの周囲はまるで霧にでも包まれたかのようになっていた。 「ヘルミーナ! 杖!」 そう言ってルイズは手持ちのブリッツスタッフをヘルミーナに放り投げた。 ブリッツスタッフはその性質上、使えば使うほどに充填された魔力を消費していくマジックアイテムである。 つまり、追撃には初撃以上の攻撃力は望めない。 その最初の一撃がブレスを押し返せないと分かった以上、彼女たちが考えていたブリッツスタッフを使って、遠くから力任せに押し切るという作戦は使えなくなったのである。 真っ白の視界の中、ドラゴンがいた方向へと一直線に駆けるルイズ。 懐から小さな杖とピルケースを取り出し、器用に片手でケースの中身を口に運ぶ。 口に含んだ錠剤を奥歯で噛み砕き嚥下して、次に呪文を唱え始める。 薬の助けを借り、意識と肉体とを切り離す。意識は呪文に集中し、体はただ最初に決めた通りに前へ向かって走るだけ。 そうして彼女は走りながら、見事呪文を完成させた。 霧が薄れ、再び視界が戻ったとき、幼い竜の目にはナイフを片手に持った女が自分へ向かって走ってきているのが映っていた。 このとき、幼い竜は飢えていた。数日前に親竜とはぐれて以来、常に空腹だった。 しばらく前に餌になりそうなものを見かけたが、それは数が多く体が大きく、諦めざる得なかった。 今回見つけた餌はそのときのものと同じ形をしていたが、先のやつよりも小さく、何より柔らかくて美味そうだった。 目の前の餌を食べる。捕食者の頭は、その原始的な欲求を満たすことでいっぱいになっていた。 幼竜の顎が開く。今ぞ高熱のブレスが吐き出されるという段となっても、駆けるルイズに怯みは感じられない。 だが、ドラゴンにしても躊躇いはない。 真っ直ぐに岩場を上ってくるルイズに向かって、灼熱のファイアブレスが浴びせかけられた。 これで終わり、一巻の終わり。 人の身でドラゴンのブレスの直撃を受けて、無事で済む道理などありはしない。 だが、次の瞬間獲物を確認しようとのそりと動いた幼竜を襲ったのは、腕に走る焼け付きような鋭い痛みだった。 「ギッ!」 突然襲った未知の感覚。それは不快で、ひどく幼竜を苛立たせるものだった。 「ギャギャッ!」 体中を使って痛みと怒りを露わにする。 そうしてじたばたと手足を振り回す幼竜から、素早く飛び退いた影一つ。 五体満足で、火傷一つ負っていないルイズの姿。 その手には赤い血を滴らせた、一振りのナイフ。 しくじった。 折角のイリュージョンの魔法が成功したというのに、肝心のナイフは幼竜の腕に傷を負わせることしかできなかった。 正面に投影した幻を囮に使い、自身は側面から奇襲を仕掛ける。そして首尾良く接近したならば必殺の一撃でもって絶命させる。 これがルイズの計画であったのだが、詰めが甘かったとしか言いようがない。 幼竜は未だ健在であるし、そのどう猛さは手負いになったことで、ますます手がつられなくなってしまった。 本来ならこれは一時退却して体勢を立て直すのが定石。だが、それを決行するにはルイズはブレスの射程範囲内部に、深く入り込み過ぎてしまっていた。 引けば丸焼き良くて生焼け、ならば攻めるか? これもまた上手い方法とは考えにくい。 今のルイズの位置は引くには近過ぎるが、攻めるには遠過ぎる。 ならばどちらがマシか? 頭がその回答を導き出す前に、ルイズの体は前へと飛び出した。 弾丸のような俊敏さをもって飛び出したルイズを見て、竜は大きく口を開けた。 喉の奥では既に赤い焔が灯されている、あとはその塊を怒りに任せて吐き出すだけ。 あるいは、幼竜が冷静であったならば、また違った行動に出ていたかもしれない。 自分に躊躇いなく近寄ってくることや、これだけ火を吐いても未だ食事にありつけないでいることで、危険を察知して逃げ出していたかもしれない。 だからそれはある意味では不幸中の幸い、ルイズの功績だったかもしれない。 とにかく、竜は怒っていた。 怒っていたのである。 幼竜の口から、炎の吐息が放たれた。 正面から飛び込んでいったルイズの目の前が、美しいオレンジの光で埋め尽くされる。 それはとても綺麗で、あの夜に、石塀の上から見下ろした闇によく似ていた。 ルイズの耳元で、誰かが囁いた。 ただのルイズになって以来、何度も耳にした甘い誘惑。 (これでサイトのところに行けるのよ) サイト、その名前を思い浮かべただけでルイズの心がキリキリと痛みを感じた。 自分を残してどこかへ行ってしまったあの少年、誰かが書いた悪魔のシナリオの向こう側に消えてしまった大好きだった彼。 そのサイトに逢える、また逢える。 それを思うだけでルイズの体は力を失ってへたり込みそうになってしまう。 「ブリッツスタッフ!」 彼女を幻想から連れ戻したのは相棒の鋭い叫び声だった。 目前に迫った赤い瀑布に、白色の寒波が叩きつけられる。 瞬く間に周囲はもうもうと水蒸気が立ちこめ、視界を奪った。 いつの間にか幼竜とルイズの延長上へとその位置を移動させていたヘルミーナが、ブリッツスタッフに込められた冷気の魔力を解放し、ルイズの背中越しにそれを放ったのだった。 甘美なる誘惑に屈しかけた精神が、強引に現実へと引き戻される。 意識が飛びかけていたそのときも、ルイズの両足はきちんと目標地点へ向けて動いてくれていた。 ルイズが気がついたとき、そこは既に竜の眼前。手を伸ばせば触れられる距離だった。 驚いた幼竜が再びその口を開けてブレスを吐きかけようとする。 だが、四度目のブレスが放たれるより早く、ルイズの手中にある白銀がきらめき、鱗ごとその喉元を真横に切り裂いていた。 ファイアドラゴンの幼子が横たわっている。 その喉元からは赤い血が噴水のように勢いよく噴き出して、周囲を赤く染めていた。 「お見事な手並みだわ」 返り血を浴びるルイズの背後から手を叩く音がする。 ルイズが振り返るとヘルミーナが小さく拍手しながら岩山を上ってきているところだった。 「うつろふ腕輪はあなたに渡しておいて正解だったわね」 非力なルイズが、幼いとはいえ竜の鱗の防御を貫けた要因、ルイズの右手にはめられた腕輪を見ながらヘルミーナが言った。 うつろふ腕輪、人間の力を引き出すことができる腕輪。 しかもルイズが手につているそれはヘルミーナの特別製。武器を使った直接攻撃でなら、ドラゴンの鱗も切り裂けるかもしれないと、以前彼女が笑って話していたものだったのだが、本当に切り裂けたのは驚きであった。 「さて、仕上げね」 幼竜相手とはいえ、竜殺しを成し遂げたという感慨もなく、無表情のままのルイズが倒れた獲物に向き直った。 喉と口から血を溢れさせる幼竜、その口からはヒューヒューと風が抜けるような音が漏れている。 そのどう猛さとはアンバランスなつぶらな瞳が涙に濡れて、鮮血にまみれたルイズを見上げていた。 ルイズはそんな竜の姿を見ても眉一つ動かさずにその場に片膝をつく。 ついた左の膝を竜の下顎に、そして右足の裏を上あごへと当てて、足に力を込めてその口をこじ開けた。 そして、血の海になった口内に目的のものを見つけるとルイズはそれを素早くつかみ、根本からナイフを使って刈り取った。 直後激しく痙攣する幼竜から、ルイズは転がるようにして距離を離すと、ゆっくりと立ち上がった。 その左手には。血まみれの竜の舌。 「終わったわ」 「そう、それじゃ時間も早いし戻りましょうか」 二人は特にそれ以上この件に関して話をすることもなく、先ほど上ってきた山道を下山し始めたのだった。 そのあとには、哀れな竜の骸が一つ。 前ページ次ページヘルミーナとルイズ
https://w.atwiki.jp/th-gotouchi/pages/181.html
ルイズのページ(暫定) 二つ名 魔界人、Demon 出演作品 『怪綺談』2面ボス 使用スペルカード 元ネタっぽいエピソードとか セーラー服 旅行 魔界人 糸目 候補地 大阪府 (足の神様、服部天神宮から、観光の連想より) ご当地絵 ランダム画像表示テスト実施中 (ランダムにしつつ画像サイズ揃える方法募集中) random_imgエラー:存在する画像ファイルを指定してください。 名前 コメント すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1818.html
前ページ仕切るの?ルイズさん 数日後、生徒会結成の許可が下りて正式に認められたトリステイン魔法学院生徒会。 生徒会室は以前あった古い物置を改装した小さな部屋である。 「ここが私達の場所なのね……」 「部屋の手配も改装も全部学院長がやってくれたわ。学院長さまさまね。」 トリステインには桜の木というのはもちろん無いのだがいっそうと生い茂る若葉が春を感じさせた。 「春ね……」 ルイズが春の季節を感じていると、「ルイズ。あんた今日はスカートを履き忘れてないでしょうね? 昨日も一昨日も履き忘れてたわよ。大丈夫?」 「大丈夫よ! 私は日々(胸が)進化し続ける女なのよ!今日はスカートを忘れないようにしっかり確認して……」 そしてルイズはかばんの中から誇らしげに何かを取り出した。 「ちゃんとかばんの中に入れてきたんだもん!」 「ちゃんと履いてこいやボケェェェェェっ!!!」 すぱーん キュルケからハリセンの突っ込みが飛ぶ。 ちなみにハリセンは「お前にぴったりだから」という理由でモロヤマから貰った物らしい。 「はぁ……とりあえずこのことはさっぱり忘れてあげるから仕切りなおして次にいきましょう……」 「ねぇ、キュルケ見て見てー」 「ったく、何なのよそれは……」 「水戸黄門!」 「いいから、早く履きなさいよ! っていうか水戸黄門って何なのよ!わけわかんないわよ!」 「昨日モロヤマが見せてくれたジダイゲキって物らしいのよ。個人的には入浴シーンが一番好きだわ。」 「やあ、わしも入浴シーンは好きじゃぞ。それにしてもあのかげろうお銀は本当にうつくs…」 「ややこしくなるからお前は来るなーーー!!!」 「ひでぶっ」 ルイズの回し蹴りを食らったのは学院長のオールド・オスマンであった。 蹴り倒された表情が妙に嬉しそうだったので、生徒会メンバーはこの前の秘密が事実であると確信した。 「新入生お悩み相談所?」 「そう!右も左もわからない新一年生の不安を少しでも除いてあげようと思ってね。」 キュルケの質問にはきちんと答え 「でも魔法の事だったら一年生とどっこいどっこいっていうかむしろそれい…… あだだだだ!!!割れる割れる割れるぅぅぅ!!!!」 余計な事を言ったギーシュには制裁を加えた。 「というわけで明日から始めるわよ!新入生お悩み相談所!略して『新おじょう』!」 「ちょっとまって。『う』はどっからもってきたの?」 「……屋根裏から」 「タバサ!あんたも余計な事は言わないの!」 翌日― 「さぁて、記念すべき最初の悩めるバカ犬たちは?」 「ハァハァハァハァハァh」 「…オールド・オスマンです。」 「なんで学院長が来てるのよ! …まあ最初の相談だから軽い練習のつもりで。で、お悩みはなんでしょうか、オールド・オスマン?」 「実は君たち女生徒達の意見を聞きたくて……」 「うんうん。」 「おっぱいが大きいのってやっぱり女性にとってはうれしいものなのかな?かな?」 「………」 「…………」 「…………」 「……あれ? じゃあわしはこれd 「ちょっとマテや。まだ悩みの答えを言ってないでしょうが。」 「…イッペン、死ンデミル?」 蒼白とした彼女達の目からはかつてないほどの怒りが見て取れた。 「おっぱいなんてな、おっぱいなんてなぁ……」 「「ちっちゃくてよかった事なんて何一つないんだからああああああ!!!!!」」 ちゅどーん×3 「…この壊れた壁の修理は学院長持ちなのか?」 「あったりまえじゃないのよ。さ、次の相談に行きましょ。」 「……ところでさっきのタバサの台詞って何?」 「ああ、さっきタバサが見てたアニメで女の子がそんな台詞を言ってたらしいよ。」 当のタバサは嬉しそうに杖をくるくる回していた。 最初の相談者は風上のマリコルヌ(風邪っぴきと言ったら突っ込まれた)である。 普段はルイズの事を魔法が使えない「ゼロのルイズ」と言ってからかっているのだが 「クラスのみんながボクの事をデブって言っていじめるんです。なぜなのでしょうか?」 「……まあ、なんていうかその……とりあえずがんばれ!」 ルイズは生徒会長になって適当なことを言って励ますスキルを覚えた。 「多少は予想してたけど、全然まともな相談がないわよねえ……」 「『家族以外に女の子と話す機会がない』『上の部屋から水漏れがする』 『あなたの胸を大きくしてあげたい』……本当にろくな相談がねえな。」 「…類は友を呼ぶ」 「何それ?」 「…さっきモロヤマが教えてくれた。」 「ああ、そうなの。」 それがどんな意味なのかも聞く気になれずルイズは思わず溜息をついた。 「何かこう…甘酸っぱい感じの相談とかってないのかしらねえ……」 「いや、新学期始まって間もないこの時期にそんな相談あるわけないと思うんだけど……」 「あの……私、メイドをやっているシエスタと申します。 ここって恋愛相談にも乗っていただけるのでしょうか?」 「「「「それらしい娘キターーーーーーっ!!!」」」」 その娘はメイドだった。そして妙におっぱいがでかい。 「なんでも聞いて! おっぱいがでかいのは妙にムカつくけど。」 「そんな事でムカつくなよ。」 「実は……昨日の夜ある男の人にその……告白されたんです。」 シエスタは顔を赤らめながらもどこか嬉しそうに話す。 「それでその場でエッチしちゃったんですけど、あの人はその時危険日の私に何回も何回もなk」 「ストーップ! ストーップ! あんたの乳は18禁なのに心も18禁になっちゃだめなんだから!」 わけのわからないことを言っているルイズ。顔はシエスタに負けず劣らずまっかっかだ。 「そんな上級者の悩みなんて知らないわよ! あんたなんかビッチ王国のビッチ姫のビッチメイドになっちゃえばいいんだから!ヴァーカヴァーカ! 帰れ帰れ!!」 「きゃあああああ!」 ルイズはあっというまにシエスタを追い返した。 だが、これがきっかけで事態が急展開していくとは… 「……その時誰も思いもしなかったのです。」 「そこ!妙なナレーション入れないでよ!」 前ページ仕切るの?ルイズさん
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/873.html
戻る マジシャン ザ ルイズ 進む マジシャン ザ ルイズ (11)力の解放 「どうしたのかしら、お互い動きが鈍くなったわよ」 「膠着状態」 タバサが説明するには、実力高い者同士の魔法戦において、お互いが決定打を欠いた状態になると… このようにお互いが最低限の攻撃だけを行い、相手の出方を待つ膠着戦に陥りやすいのだという。 「へーって、じゃあ、私達が援護すればおじさまの勝ちってことじゃない!」 「…無理、再生するだけ」 「えー、じゃあさ、何か考えましょうよっ!」 「何かって何よキュルケ、何かいい考えでもあるの?」 「そりゃあ……じゃあ!今から王都に戻って騎士団を呼んきましょう!」 「………」 「あんたねぇ、もうちょっと頭使いなさいよ、せめていい武器を持ってきてあげるとか」 「そんなもの、あったら直ぐに渡してるに決まってるじゃ………」 「………」 「あ………」 三人の視線の先、そこにはキュルケに抱えられた、『禁断の剣』が納められた箱があった。 「!?」 影、飛竜の羽音、強風の降臨。 ルイズ達がウルザの背後に降下してくる、飛び降りる三人。 「ミス・ルイズ!先ほど私は安全な場所に退避していていなさいと―――!」 ルイズ、自信の笑み。会心の出来の課題を提出する生徒の顔つき。 「ミスタ・ウルザ!助けに来たわ!この剣を使ってあのゴーレムをやっつけるのよ!」 その手には、不思議な形状をした剣が握られている。 握りの先、途中から二つに枝分かれしている短剣のようなもの。 「君は何を言って……待ちたまえ、ミス・ルイズ、君が握っているそれは何だね」 「これが『禁断の剣』よっ!世界の均衡を壊すほどの剣!この剣があれば、あんなゴーレムなんてすぐにやっつけられるわっ!」 それを両手で握り締めたルイズが、ゴームレを睨み、大きく振り上げる。 「『禁断の剣』よ!目の前の敵を打ち払い給え!……たああっ!」 勢いよく振り下ろすルイズ。 閃光、爆発、倒壊、それ等、状況を打開する事態、一切何も起こらず。 「………えいっ!ええいっ!どうして何も起こらないのよ!『禁断の剣』!力を発揮しなさい!」 うんともすんとも返さない。 「―――フフフフ、……ハハハ!………これは驚いたっ!ハハハハッ!」 場違いな笑い声。 デルフリンガー、シュペー卿の魔法剣を地面に突き刺し、右手で顔を抑えたウルザが、心の底から愉快そうに笑い始める。 突然の展開についてゆけず、呆気に取られるルイズ、キュルケ。 「ミス・ルイズ、それを、貸したまえ、それはそう使うものではない。 いや、それは正しくは剣などではない、しかし、正しく世界の均衡を危うくする力だ」 「ミ、ミスタ・ウルザ?」 理解出来ていない顔のルイズから、剣を受け取る。 そのままそれを、天に差し出す供物のように、高々と掲げる。左手で輝くガンダールヴのルーン。 「これは……こうするのだ!」 マナを用い、『禁断の剣』と自身の間にリンクを組む。 そしてそのリンクを、この場のでウルザ自身と結びついているもう一つの『それ』へと結びつける。 接触、接続、成功。 『禁断の剣』が、ウルザ自身のマナを注がれ、その力を正しく発揮し始める。 まず『禁断の剣』から光の紐のようなものが現れ、今もゴーレムと戦い続けている鉄の獣へと伸びていく。 ウルザが手を離す。すると、それは結びつく片方に引き寄せられるように一直線に鉄の獣に向かって飛んでゆく。 飛んできたそれを、忠犬が主人から投げられたものをキャッチするように、獣は器用に口で受け止めた。 『禁断の剣』を咥える獣、対峙する土くれの巨人。 構図は変わったが、形勢に変化なし。 「あ、あのミスタ・ウルザ?一体何を?」 「――――――」 再び、土のゴーレムと鉄の獣との戦いが始まる。 果敢に飛び掛る獣、挑戦者を打ち払うゴーレム、先ほどまでの焼き直し。 しかし、ウルザの目には、先ほどまでとの違いが、徐々に大きくなっていくのが見える。 その変化に、最初に気付いたのはキュルケであった。 「おじさま!『禁断の剣』が―――」 続いて、ルイズもその異変を察知する。 「何あれ?光ってる、の…?」 「………あの獣が攻撃するたび、光が強くなってる」 獣がゴーレムを攻撃する度に、徐々にだが確実に光を強めていく『禁断の剣』。 「見ていたまえ、これこそ、君達が『禁断の剣』と呼ぶものの力だ」 生徒に数式の解法を教える教師のような顔――ウルザ。 結びつくマナのリンクを経由し、全てを終わらせるべく、指示を送る。 唐突なる均衡の崩壊。 『禁断の剣』が一際大きな光を放つ、その中からが輝くものが多数飛び出す。 瞬間、解き放たれた光がゴーレムへと吸い込まれていくようにして消滅。 変化。 巨大な土くれのゴーレムの姿がその大きさを変容させていく。 小さく、小さく、小さく、小さく、小さく……。 30メイル、20メイル、10メイル、5メイル、3メイル、そして……消滅。 一つの戦いの、あっけない幕切れ。 一方、敵対者の消滅を見届けた勇敢な獣。 彼もまた、その使命を果たし、力尽きその動きを停止したのであった。 「う、嘘みたい!あの巨大なゴーレムが、どんどん小さくなって!最後は消えちゃうなんて!凄いわ『禁断の剣』!」 「―――ミス・ルイズあれは、」 「皆さん、お疲れ様でした」 強大な敵に勝利した実感、お互いが無事であった安堵感、そして自分達がやり遂げたという達成感に湧くルイズ達。 そんな彼女達に声をかけたのは、森の影から現れたロング・ビルであった。 「ミス・ロングビル!ご無事でしたか!」 「これで全員無事ってことね!『禁断の剣』も取り返したことですし、帰りましょう!」 「……フーケ」 タバサの的確かつ、鋭い指摘。 「おっとっと、そういえばそうね」 「そうよ!フーケはどこ!?きっとこの近くにいる筈だわ!」 「きっと、何処かに隠れているんだわ。そう遠くないはずよ」 「そうね、探しましょ」 ルイズ達が手分けしてフーケを探す為の算段の相談している中、ロングビルがゴーレムと獣との戦いの痕、残骸が残るのみとなったそこへ向かうことを誰も気にしない。 ロングビル、学院の長、オールド・オスマンの秘書である彼女が、奪われた秘宝を回収することに問題など抱くはずも無い。 「ミスタ・ウルザ、お疲れ様でした」 そして、彼女は残骸の中から『禁断の剣』を見つけ出して、ひょいと持ち上げる。 「皆さん、もうよろしいですわよ」 『禁断の剣』を手にした、ロングビルに、ルイズ達の視線が集まる。 「あなた方の役目はここで終わりです。ご苦労様でした。 『禁断の剣』の使い方も分かりましたし、もう必要ありません」 高らかなる勝利宣言。 「え!?ミス・ロングビル!?」 「どういうことなの!?」 応えるロングビル、その口元が妖しく歪む。 「生徒の質問には、答えなくてはなりませんね。 さっきのゴーレムを操っていたのは私。加えて、トリステインの城下町にメイジの盗賊も、学院の宝物庫に忍び込んだのも私。 全て、私のしたこと、これが正解です」 「なるほど、つまり君が…『土くれのフーケ』だったのだね、ミス・ロングビル」 「ええ、その通りですわ、ミスタ・ウルザ。 おっと、動かないで頂戴。私はこの『禁断の剣』でいつでもあなた達を消すことが出来るのよ。 …わかったなら、全員、武器を遠くに捨てなさい」 先ほど、自分達の窮地を救った学院の秘宝、それが今、フーケの手の中にある。 先ほどの衝撃的な結末を見ているルイズ達は、フーケの指示に従い、武装を解除するほか無かった。 生徒三人は杖を捨て、ウルザは剣も捨てる。 「ありがとう、助かったわ。 ふふふ、折角『剣』を奪ったのに、どうしても使い方が分からなかったの。 だから、実際に使わせてみて、使い方を知ろうと考えたのよ。 そうしたら、やっぱり正解だったみたいね。特にミスタ・ウルザには感謝しても感謝しきれないわ。 けれど……あなた達はもう用済みよっ!消えなさいっ!」 フーケが魔力を剣に込め、目の前の邪魔者たちを消滅させるよう、思念を送る。 「………っ!!!」 ルイズ達にとっては幸いにも、フーケにとっては不幸にも、何の変化も訪れなかった。 「…なぜ!?どうして魔法が発動しないのよ!?」 「フーケ。それは魔力を用い『装備』した上で力を溜めねばならない、能力を行使し、力を使い果たしたばかりのそれは、ただの置物に過ぎんよ」 ただ一人、結末が分かっていたように、応えてウルザ。 「それはそもそも、こちらの世界の『禁断の剣』などではない。」 ウルザがゆっくりと手を掲げる。 「解呪/Disenchant」 フーケの手にあったものが、ひび割れ、砕け、かつて『禁断の剣』であったものへと姿を変え、地面へ落ちていく。 「…それは、『神河』と呼ばれる世界の武器だ」 「な、なんてことを……」 手から零れ落ちていく残骸を呆然と見つめることしか出来ないフーケ。 「名を『梅澤の十手』という」 ―――梅澤の十手 ハルケギニアともドミナリアとも違う、神河と呼ばれる異世界。 そこで梅澤俊郎という男が、銀と鋼と魔力を用いて作ったとされる武具。 梅澤の十手は三つの力を持つ。 一つ、強化。二つ、弱体化。三つ、癒し。 その強大なる力は「神河」における神同士の争い、 「夜陰明神」と「生網明神」の戦いの行方を左右したほどであったと言われている。 これこそが、一説では、梅澤の十手が神河最高の伝説の至宝であるとされる所以である。 強すぎる力は、更なる力の介入を招く結果となる。 ―――ウルザ 戻る マジシャン ザ ルイズ 進む
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8218.html
前ページ次ページBRAVEMAGEルイズ伝 第一章~旅立ち~ その4 登場!宿敵(?)ギーシュ 荒れ果てた教室、煤けたピンクブロンド。 ミセス・シュヴルーズから“錬金”をするように指示されたルイズが起こした惨状である。 ムサシと手分けして教室を片付けているが、その表情は暗い。 主が塞ぎ込んでいるのを見たムサシは、そのあまりに沈んだ様子を見て気を効かせ声をかける。 「なあルイズ。一度や二度失敗したくらいで、クヨクヨすんな」 「……何よ」 「魔法だってたくさん修行すりゃそのうちできるようになるはずさ」 「ッ、あんたみたいな子供に、何がわかるのよ!」 ルイズが奥歯をギリリ、と噛み締める。 持っていた箒を足下に叩きつけた。 あまりの剣幕に驚くムサシは、きょとんとした眼でルイズを見つめる。 「そりゃおいら魔法のことはてんで知らねえけどよ。 学校で皆がやってることなら、なんべんも修行して─」 「……勉強なら誰よりやってる、練習だって何回もしてる! 練習でいつも傷だらけ、血だって流したわ!なのに全ッ然成功しないの!!」 溢れんばかりの涙を瞳に溜めて、ルイズは怒鳴った。 荒い息を抑えようともせず、尚も続ける。 「何をしても爆発!使える魔法なし!成功率ゼロ!だから“ゼロ”のルイズ!」 「……」 「それでやっと使い魔召喚が成功したと思ったら、あんた、みたいな、子供、だしっ……」 いつしかルイズの眼からぼろぼろと大粒の涙がこぼれ出す。 誰にも言えない、そんな感情をルイズは涙といっしょに零してしまったのだ。 もう、嫌だった。 全身の力ががくり、と抜ける。 「もう……いいわよ……どうせ、私は死ぬまでずっと、ゼロのまま……」 「何言ってんだ、皆にあのまま言われっぱなしでいいのかよ、ルイズ!」 「……もう、ダメよ私なんて……!!……運命には、逆らえないわ」 「─そんな運命なんて、クソくらえだっ!!!」 力なくへたりこむルイズの言葉を、今まで黙っていたムサシが遮る。 顔を上げると、そこには眉を釣り上げるムサシの顔があった。 「おいらが、なんとかしてやる」 ムサシは、刃を抱いて生きる兵法者だ。 大人でもまして色男でも無い、女性の気持ちなど理解できようもない。 出てきた言葉は、少々強引で不恰好だった。 「……チビのあんたに……何が、できるのよ! どうせ……皆といっしょに、私が失敗するたび……影で嘲笑う、そうに決まってる!」 「がんばる奴を、どうして笑わなきゃなんねえんだ!!」 半ば怒声に近いムサシの声が再び教室に響く。 しかしムサシの強い言葉に、ルイズはどこか心が落ち着いき、涙が引っ込んだ。 ぐしぐしと顔をこする主人に向き直り、とりあえずムサシはその場にあぐらをかく。 そうして、持っていた箒をぶんっ、と振りおろす。 「いいかルイズ」 「……何?」 ぴた、とこちらに向けられた箒にルイズは何と言えばいいか、威圧されて押し黙った。 膝を抱えて、目線を合わせるように座り込む。 いつのまにか、ルイズはムサシの目を見て話すようになっていた。 「おいらに技を教えてくれたヤツの一人に、ニックって騎士がいたんだ」 「?」 「そいつは、来る日も来る日も薪割りしてやっと騎士になった。騎士になってからも、薪割りばっかりしてた」 「……薪割りが何だっていうのよ」 「毎日してた薪割りが、ニックに“技”を編み出させたんだ」 「……技?」 言うと、ムサシはおもむろに立ち上がりルイズに歩み寄る。 叩きつけられた足下の箒を手に取り、両手に一本ずつ握りしめた。 “二天一流” ムサシの編み出した極意、俗に言う二刀流の構えであった。 その構えをとったムサシに、ルイズは言い知れぬ気迫を感じる。 虚空に向けて剣をゆらり、と動かす。 その刹那、右手で一閃、二閃と箒が唸った。 傍らのルイズに、その勢いがビリリと伝わる。 「……せいっ!」 そして、左手の一撃。 目の前の薪を、ささくれ一つ残さず完膚無きまでに両断するまでに極められた剣。 曰く、薪割りダイナマイト。 ルイズの髪が勢いでふわりと巻い上がった。 その余りの剣気に、いつしか悲しみはどこかに吹っ飛んでしまっていた。 「薪割りが、この技を生み出させた」 「……あ、う、うん」 「その騎士も、おいらも毎日剣を振ってる。ルイズは振るのをやめるのか?」 ムサシの言葉に、ルイズはハッとする。 自分が成してきた努力を、少年はその手に振るう剣に例えて肯定している。 ルイズに精一杯の激励を贈っているのだと。 「おいらは剣しか知らないし、魔法はどうだかわからねえけどさ。 毎日修行して、ルイズもおいらと一緒にもっと、強くなろうぜ!」 「……ムサシ」 ずっと、そういう言葉を求めていたのかもしれない。 自分の努力を家族以外にこうして面と向かって肯定してくれる人がいる。 一緒に。 その言葉を投げかけ、側に居てくれる。 それだけで、ルイズの胸がじんわり温かくなった。 目頭もまた、かっと熱くなる。 「……あ、あんた、私より、ち、小さいくせに、生意気言ってんじゃないの!」 「顔くらい拭けよ、眼真っ赤じゃねえか」 「うるさーい!……ほら片付ける!」 ムサシの顔を見ていられなくてごしごしと顔をこする。 空気の読めない奴ねとぶつくさ言うも、その顔はどこか嬉しそうだった。 「何だよまったく、おてんばめ。やっぱ姫みてえだ」 ぶつくさ言いながらもせっせと一所懸命片付けるムサシ。 自分の部屋もフィギュアで散らかさないし、歳の割にはマメなのだ。 「……あ、あと……みっともない所を見せたわね……忘れなさい!今のは!」 「気にすんなって、生きてりゃいろいろあるさ」 「……あんたって。子供とは思えないこと言うわね、ホント」 目の前の少年が急に自分の姉達と同年代ほどにも思えて、ルイズは不思議な感覚を覚えた。 まったく、大人ぶっちゃってとぶつくさ言いながら教室の片付けを済ませて扉を閉める。 時間を見ると、急いで食堂へと向かった。 「……子供とは思えない、か」 教室を二人で整えるころには、昼休み開始の時間になっていた。 ムサシはルイズの後に続くようにして食堂へ向かった。 今朝と同じく賑わう食堂には大勢の生徒が既に着いている。 「じゃ、おいらはちょっとメシ食ってくらあ」 「え、ちょっと。あんたどこ行くつもりよ」 「料理人のおっさんと仲良くなったんだー!」 嬉しそうな顔をして厨房へ駆けていくムサシに、ルイズは声をかけられなかった。 よくよく考えてみれば使い魔の単独行動を許してしまった。 「……大人っぽいと思ったらこういうところが子供なんだから!勝手ばっかり!もー!」 先程の功もあるとは言え、主従関係をはっきりさせておかねばならないだろう。 ルイズは話を聞かない使い魔に地団駄を踏んだ。 「……せっかく分けてあげようと思ったのに……」 ムサシも罪な男である。 「うめえ、やっぱりシエスタが作った握り飯は最高だぜ!」 「ふふ、そう言ってくれるとうれしいな」 「まったくだ!明日からのメニューに追加するしかねえな!ガッハッハ!!」 むしゃむしゃと最高水準純白のお米を貪るムサシ。 シエスタが振る舞ったおにぎりで厨房は一大米ブームとなった。 そして、翌日からの食卓に並んだ白い塊に、生徒たちは大熱狂。 後の米騒動である。 「ごちそうさん!……さてと、タダ飯食らいじゃおいらの気がすまねえ!何か手伝える事はないかい?」 「そんな、いいのよムサシくん」 「おおよ!子供が気を使うもんじゃないぜ!」 豪快に笑うマルトーだが、ムサシは首を横に振る。 「いや、男として、武士として!恩を貰いっぱなしってのは沽券に関わるぜ!」 「まったく、ご主人様以外に餌付けされて……あれでも使い魔かしら」 ぷりぷり怒りながら食事を済ませるルイズ。 近くで座っていたマリコルヌが豚の姿焼きをかすめ取られて泣いていた。 「……?何か騒がしいわね」 ルイズが辺りを見回すとなにやら騒々しい。 人混みの中心に向かう。 そこに居たのは、泣きそうなメイドとキザったらしい同級生。 そして彼女の使い魔だった。 「子供のやったこととは言え、許しておけることではないよ!君! 二人のレディの名誉が、傷ついたんだ!」 「申し訳ありません!」 「シエスタ!謝ることないぜ!」 もう人ごみを掻き分けて行く途中で頭が痛くなった。 あの生意気極まりない使い魔は一日一度はルイズの頭痛のタネになる決まりでもあるのか。 ムサシとギーシュは、真っ向から睨み合いをしていた。 事の顛末はこうだ。 ムサシは昼食を済ませた後、忙しい中食事を用意してくれた恩としてデザートを配膳する手伝いをしていた。 そこでシエスタと言うメイドと一緒に食堂をうろつく途中、ムサシが香水のビンを拾い上げたのだという。 落とし主はギーシュ。 親切心から拾い上げたそれを、彼は突っぱねたのだと言う。 しかしその事が切っ掛けにギーシュの浮気が発覚。 下級生のケティと、同級生のモンモランシー二人の女子が登場。 ギーシュの両頬には真っ赤な椛が刻まれたらしい。 そしてその理不尽な怒りの矛先は、平民の小僧の分際でお節介にも落としたビンを拾った─ 「君のせいだよ!?謝ったって許されることじゃあない!」 「はっ!おいらに謝るつもりはねえぜ!女にだらしねえお前が悪いんじゃあねえか!」 「その小僧の言うとおりだギーシュ!」 「お前が悪い!」 あたりはどっと笑いで包まれた。 ギーシュの頬が熱いのは、殴られただけが理由では無い。 「く!君、年長者ならしっかりと子供のやることに眼を……」 「まちな!また女に手を出すつもりか?シエスタは関係ないぜ!」 「ムサシくん、だめ!貴族にそんな言葉を─」 群がった生徒達はもう膝を叩いて笑う者までいた。 この鼻持ちならない子供、何者─ と、ほんの少しの冷静さを取り戻し考え、そしてギーシュは薄く笑った。 ムサシの片眉が釣り上がる。 「思い出したよ……あの"ゼロ"の召喚した、の物乞いか」 「なんだって?」 「いやなに、確かにこちらもゼロのルイズ"ごとき"の使い魔にカッとなるなんて……恥ずべきかもしれないね。 なにせあの主人だ、使い魔への躾もまともにできるわけがない。取り合うほうが愚かだったということさ。 もっとも、魔法一つ使えない"貴族の恥"にはピッタリの使い魔なのかもしれないがね」 ルイズは自分にまで悪口が飛び火し始めたのを見て、顔を顰める。 本人がいるとは露知らずなギーシュのその罵詈雑言、いつもよりもことさら辛辣だ。 しかしその言葉に、ルイズは怒りよりも悲しみが先立った。 言うとおりなのかもしれない。 先程までの自分も言っていたように─ (私は死ぬまでずっと、ゼロのまま) しかし、その考えをやはり打ち砕くのは彼女の小さき使い魔だった。 「ふざけんなっ!!」 「……何だね?」 ムサシは激昂した。 貴族がどうのではない、ムサシは感情を抑えきれなかった。 目の前の男は、自分と共に修行をし、変わりたいと願うルイズを愚弄したのだ。 「あいつが貴族の恥だって!?冗談じゃねえ、おいらから見りゃ、立派な貴族ってのはルイズのほうさ!!」 「ほう、君が貴族を語るのか!?面白い!せいぜい主人の肩を持つがいい!」 ムサシが思い浮かべたのは自分を召喚した二人……姫、そしてルイズ。 そのどちらであれ、高潔な魂を汚す事は許されないと、その想いがムサシに行動させた。 「あいつはお前なんかよりずっと真剣に貴族をやってらい!馬鹿にするっていうなら、許さねえ!!」 自分のことで真剣に怒っている。 そんなムサシを見て、ルイズは居ても立ってもいられない。 「ムサシ、やめなさい!」 「ルイズ!」 「……だいたい聞いてたから。馬鹿にされるなんて、いつものことだから……いいから。 ……だから、ギーシュに謝んなさい、怪我するだけよ」 ルイズは静かに言い放つ。 確かに悔しかった、唇をぎゅっと噛み締める。 だが、この優しくて、まっすぐな使い魔を、今は傷つけたくなかった。 ドットとは言えメイジのギーシュに眼をつけられては、どうなるか。 自分一人傷つけばいいと、ルイズは悲しみを堪えてムサシを制した。 その顔を見て、囃し立てていた連中も、ギーシュでさえも押し黙る。 もっとも、ギーシュはここまで来た手前今更引き下がりそうもなかったが。 しかし、ムサシはルイズの制する手を、ゆっくりと払う。 「うっせえ!!決闘だ!!ルイズに謝れ!!」 前ページ次ページBRAVEMAGEルイズ伝
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7750.html
前ページ次ページBRAVEMAGEルイズ伝 第一章~旅立ち~ その2 月下の魔法学院 「こいつはすごいや、本当に違う世界なんだな」 初めてヤクイニックに召喚されたときのことを思い出しつつ、ムサシは独り言ちた。 空にぽっかり浮かぶ双月は、らせんの塔へ向かう途中に見た明け方の満月を呼び起こさせる。 自分の胸が疼くのを、僅かに感じた。 「二つのお月様が綺麗だぜ」 「何やってるのムサシ、こっちが私の部屋よ」 「ああ、広いなーここは。お城みてえだぜ」 「お城?あんた……まさか……」 「ん?」 「王宮に盗みにでも入ったことあるの?」 「なっ……誰がドロボーだって!?とんだ濡れ衣だぜっ!」 いつぞやの鐘ドロボーのような扱いをされるのはゴメンだった。 ムサシは遺跡のお宝や英雄として使う権利のある伝説の武具しか頂戴した覚えは無い。 「ウソおっしゃい、あんたみたいなナリの子供がお城に縁があるわけないでしょうよ」 「人を見た目で判断してもらっちゃ困るぜっ!おいらは城住まいだいっ!」 「はぁ!?」 いよいよもってルイズはこの使い魔がわからなくなってきた。 無礼な物言い、粗末な身なり。 かと思えば城に住んでたと言い出す始末。 子供のことだ、嘘をつくのは不思議ではない。 しかし決定的にムサシについての情報が足りない今、信憑性はともあれ詳しく話を聞く必要があった。 「……ともかく、あんたにはいろいろと聞きたいことがあるわ、ほら入って」 一日の終わり、部屋に入る瞬間は多少なりとも開放感に包まれるものだが、今日はここからが本番だ。 そういえば男性を部屋に入れるのは初めてかもしれない、ルイズはふとそう思った。 「ムサシ、あんたは何者なの?」 「何者……って言われてもなあ」 「あんた、『また召喚』って……あのとき言ってたわよね。それが気になってるのよ」 「ああ、そのことか」 ムサシは己の長いというべきか、短いというべきか、おかしな経緯の半生を語った。 ヤクイニックなる王国の姫が行った英雄召喚の儀式によって、自分の生まれた世界から召喚されたこと。 その召喚のショックで、自分の過去に関する記憶はほとんど消えてしまったこと。 過去の英雄、武蔵が魔人を封印するために使ったという光の剣を手に、王国の危機を救ったこと。 「おいらは役目を終わらして帰る途中に、ここに喚ばれたんだ」 「……子供の好きそうなお伽話ね」 「疑ってんのかっ?」 ルイズが頭を抱える。 今の話が作り話だと言われればまあ、納得できないこともない。 10歳そこらの子供だ、夢いっぱいの年頃だろう。 作ろうと思えばいくらでも作れる。 だが、今は判断材料が無い。 「あんたが別の世界から来たって言うなら、証拠とか無いの?」 「なんだよ、疑り深いなあ……ほら、これ見てみろよ」 「……このラクガキがどうしたってのよ」 「あ!おいっ!」 ルイズが手渡された紙切れをぞんざいに放ろうとしたので慌てて制す。 他人には無価値に見える化かもしれないが、これは大切な友達から託されたメモなのだ。 「な、なによ」 「……こいつはおいらの友達が命がけで手に入れた、大事なもんなんだ!乱暴にすんな」 なによ、そんならそうと言いなさいとぶつくさ漏らしながらルイズがもう一度覗き込む。 が、やっぱり妙ちくりんな図形の集合体にしか見えない。 「……やっぱりラクガキじゃない」 「読めないだろ?こいつは、おいらが前にいた世界の文字だ」 「適当言ってんじゃないわよ、あんたがデタラメ書いてるかもしれないじゃない」 「なら、こいつでどうだい」 もう一つ、こちらも古びた紙を見せられる。 今度は図のように文字が規則正しく並んでいる。 文字自体は先程同様さっぱりわからなかったが、ルイズはこの並び方にどこか近視感を抱いた。 「……暦?」 「おお、カンがいいな。こいつはカレンダーって言う日にちと曜日を図にした表だ」 「……今度もラクガキ……にしちゃ綺麗ね」 日数はほぼ同じといったところだが、曜日が一つ少ない。 むろん曜日を一つ数え損ねた子供の贋作とも思われた。 しかし、製紙技術、印刷技術共にここハルケギニアでは類を見ないほどに整っている。 子供のラクガキで片付けるには、できすぎだった。 「うーん。ま、わかったわよ、あんたは違う世界の……」 「やっとわかってくれたか」 「……お城に住み込みの小間使い」 「おい!」 「だってあんた子供じゃないの。国の危機を救うとか、伝説の剣豪だとか。誇張も甚だしいわよ」 「ほんっとーに疑り深いなお前……」 「口を慎みなさい。どっちみち私はご主人様、あんたは使い魔。 異世界だろうが伝説の剣豪?英雄?だろうが、これは変えられない現実なのよ」 一度引き受けると言ってしまったムサシはぐうの音も出ない。 思えば英雄召喚のときも、こんなふうに理不尽きわまりない冒険のはじまりだったことを思い出す。 いきなりおかしな世界に召喚され、いきなりモミアゲと身長にケチをつけられた。 加えて自分にとって縁もゆかりもまるで無いお国のために、単身命を張ってル・コアール帝国と戦うハメになってしまう。 その上使命を果たさねば帰還は許されない、断ることは許されない言わばこれは脅迫じみた懇願だった。 今回の状況もまた、それに近い。 やっと自分が元いた世界に帰れる、と思った直後に半永久的奴隷として身柄を拘束されるという始末。 今回はもとより帰れない、そしてなにより逃げることもできたのに引き受けてしまった。 ムサシは自嘲めいた笑いを浮かべて思う、自分はとことん安請け合いだなと。 だが、ムサシは英雄召喚同様、腹が立たなかった。実のところ、この状況ですら楽しんでいる。 自分がどうしようもなく愛する「決闘」が、また待っていると体全体が感じている。 新天地には敵がいる。まだ見ぬ強者が待っていると、武者震いがムサシをワクワクでいっぱいにする。 帰れる帰れないは、後回しだ。 もともと、帰れないと言われてハイそうですかという気は毛頭ない。 気ままな冒険はきっと帰還への旅路も兼ねていると、ムサシのカンがそう告げるのだった。 使い魔、という肩書きは少々うっとおしいものの、じき慣れるだろう。 重荷なら何度も背負ってきた。 それにこの世界の最初の知り合いであるルイズという人間は、幼さを感じさせてならない。 アミヤクイ村のテムとミントにも穏やかに接する、ムサシは世話焼きなのであった。 「ったく、しょーがねーなあ。使い魔ってのは何したらいいんだ」 やる気になったと見えてルイズはやっとムサシが自分の立場を理解したかと大いに薄っぺたな胸を張った。 実際はムサシが『面倒見てやってやるか』という思いであるのだが。 記憶が無いとは言え、その実年齢は一回り二回り上なムサシに偉ぶる少女というのは少々面白い光景である。 「えっとね、まず第一に使い魔は主人の目、耳となること。感覚を共有するってやつね」 「へえ、そんなことができるのかルイズは」 「ううん、何も見えない」 「ダメじゃねえか」 「うるさい!次に主人の望む……秘薬の材料、植物とか、苔とか……集めてこれる?」 「ああ、そんならいっぺんやったことがあるぜ」 ムサシが思い出したのは、ヴァンビになってしまうテムくんを救うためにまぼろしの花を回収したこと。 いやしの水もふたご山から汲んできたなあ、と遠き地の情景に思いを馳せた。 「でもおいらこっちの植物とかなんてまるきり知らないなあ」 「ああもう使えないわねえ……これが大事なんだけど、使い魔は主人を守るものなの」 「なんだ、それならムサシさまの得意技だぜっ!」 ルイズは自分より頭一つ分低いムサシの顔を見下ろして、首を横にふった。 そして溜息。 「はいはい頼もしいですこと伝説の剣豪様……」 「あっ!信じてねえなっ?」 「はぁ~ぁ……あんたみたいなチビには最初から期待なんかしてないわよ」 「ちくしょー、バカにしやがる……」 「いいから、とりあえずあんたの仕事は洗濯、掃除、身の回りの世話。そんくらいできるでしょ」 ムサシもまた溜息をついて後ろを向き、座り込む。情けないことこの上無かった。 まあ子供の姿で信用されないのは仕方ない、英雄召喚のときも最初はそうだった。 前の城暮らしよりは厳しいとは言え、寝床があるだけでもよしとしよう。 しかしながらこの状況、冒険とは程遠く感じられた。 ムサシの行動理念の8割以上を占める『決闘』が見いだせない生活が続きそうである。 それはひどく退屈なものだった。 抵抗としてジト目でルイズを見るもむこうはあくびをするだけである。 「ふぁあ……眠くなっちゃった、他にもあるけど、細かいことは明日話すわ」 「ああ、そんじゃおやすみ」 「ん」 ルイズがムサシの目も気にせずに薄いネグリジェにさっさと着替える。 少年に退行したムサシにそう羞恥や情欲といった感情は湧かないのだが。 日本男児として、はしたねえなあ、と思ってしまう。 「そういやおいらもこの部屋で寝ていいのか」 「まあね、それで寝床なら……」 「よし、おいらもさっさと寝るぜっ」 使い魔用にと用意していた藁束を指差そうとするルイズ。 しかしムサシは自分の荷物からごそごそと何か取り出すと広げた。 「なによそれ」 「こいつは『伝説のねぶくろ』だぜ! 「伝説?ねぶくろにどんな伝説があんのよ」 「ああ、肌触りといいあったかさといい最高だぜ」 「そ、そんなに?」 「そこいらのベッドより、ぐっすり眠れるぜ!」 ルイズはなんだか羨ましくなってきた。 自分のふかふかのベッドも、肌触りのいいシーツも、少し霞んで見えてしまう。 そんな魅力が伝説という響きに詰まっている。 「つ、使い魔がそんなに上等なモノに寝るなんて生意気よ!ちょーっとご主人様にそれを貸しなさ」 「そんじゃ、おやすみっ!」 「あ、待っ」 とたんに高いびきをかきだすムサシ。早すぎる。 使われること無い藁束が無性に邪魔に思えて、もそもそ起きて片付け始めるルイズ。 終わってからなんで自分がやってるのかと、眠るムサシの頭を腹いせにすぱーんと叩くのであった。 起きなかったけど。 前ページ次ページBRAVEMAGEルイズ伝
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4641.html
前ページ次ページルイズの魔龍伝 2.異世界の夜に 「普通だったらこの世界に存在する幻獣その他もろもろを呼び出すの。 あんたみたいな良く分からないのが出てくるなんてトリステイン魔法学院始まって初めての事だわ。」 「しかし驚いたな、俺のような姿をした者は本当にいないのか…」 「むしろアンタみたいなゴーレム、どこから出てきたのか私が知りたいぐらいよ」 ルイズの自室、高級そうな調度品が所々に置いてあり貴族のいる部屋、というのが何となく伺える。 ベットに腰掛けるルイズの目の前にはどっしり胡坐をかいて腕組みをしているゼロガンダムの姿があった。 窓から差す午後の日差しも沈みかけて鮮やかなオレンジに色になっている、そんな時間の事である。 「それはいいが…俺の事はゼロと呼んで欲しいのだが…どうしても駄目なのか?」 「絶対にいや」 「ゼロのルイズと呼ばれてるのに何か関係あるのか」 「うるさい!次に同じ質問したら壊すわよ!」 「…ふぅ」 これで二回目の問いかけであったがやはりルイズはむっとした顔で聞き入れてくれなかった。 サモン・サーヴァントはこの日の授業の最後の科目であり 終了後は使い魔との交流という事でルイズのクラスは他より早く放課になっていた。 なのでルイズもゼロを連れて部屋へ戻って使い魔についての説明をしていたのである。 「材料の調達は地理を知るのにいいし、必要なものは君が教えてくれればいいからな」 「うん」 「守る…これも仕方が無い、この世界を知るためにしばらくここに身を置く以上勤めは最低限は果たそう」 「うんうん」 「だが、何で俺が掃除雑用下着の洗濯までせねばならんのだ!」 「だって使い魔の勤めだもの」 軽く怒っているゼロにしれっと言い放つルイズ。 「断る」 「義務」 「…埒が空かんな。仕方が無い、話を変えて俺の事も少し話そう。」 「じゃあ聞かせてもらうわよガンダム」 掃除雑用下着の洗濯を巡る攻防に終わりが付かないと判断したゼロは話題を換え 自分の事について話す事にした。これで理解してもらえば下着の洗濯だけは 避けられるかもしれない、そう信じていた。 「俺の名前は…まぁ知っているか、これでもユニオン族というれっきとした種族の一つだ。」 「しゅ、種族ぅ!?アンタってゴーレムじゃなかったの!?」 「…召喚された時も俺はゴーレムじゃないと言ったぞ」 「だってアンタみたいな種族なんて聞いた事無いわよ。 どこかの高名なメイジが作った自意識があるゴーレムか何かかと思ったわ。」 「それで、俺はこの世界とは別の世界であるスダ・ドアカからやってきたって訳さ。」 ルイズの顔が一気に胡散臭いものを見ている顔になる。 「異世界?全然信じらんない」 「君が信じようが信じまいが俺はスダ・ドアカという世界から来た、それだけだ。」 「…一応そういうことにしておくわ、ゴーレムさん」 下着洗いを回避しようとするならば多少の事は我慢する必要があった、ゴーレム扱いもやむなし。 そう思いつつゼロはルイズの言葉を流しつつ更に説明を続ける。 「あと俺はまぁ…騎士だ、己の剣の冴えで戦う者。流石に騎士ぐらいはこの世界に存在するだろう」 「それならいるわね、あんた自身は魔法とかは使えないの?」 「無縁だな、とりあえず君を守るという事なら出来る実力ならあるさ。」 「ふーん 本当はかなりの事が出来るのだが正直に話した所で絵空事に取られるだけだろうと考え ゼロはとりあえず騎士、という事にした。 あまり力はひけらかさない方が良い、力とは良くも悪くも人を変えてしまうものだという 考えもあっての事ではあるのだが。 「(ゴーレムかと思ったら良く分からないし魔法は使えないっていうし…)」 そっけない受け答えをしながらも内心ルイズは落胆していた。 自分の望んでいた使い魔のイメージとはまるでかけ離れていたのもあるが 金のような鎧に妙なと見た目で、しかもゴーレムにしては 身長がルイズよりやや大きいぐらいの小ぶりな大きさ。 「(…夢と違うじゃないのよ)」 あの夢はなんだったのか、自分を乗せて雄大に飛ぶあの黒い龍はどこへ? 彼女の疑問は尽きなかった。 「という事で下着の洗濯はやってもらうから」 「なぬっ!」 結局ルイズはゼロに下着洗いを命じたのであった。 「…これは何だ?」 「何ってあんたの食事よ」 日もとっぷり落ちて夕餉の時間、大きいテーブルが三つ並び荘厳な飾り付けが施された 『アルヴィーズの食堂』に通されたゼロが目にしたものは 床に置かれた皿と、申し訳程度に小さな肉片が浮かんだ琥珀色のスープ、そしてその皿の隅っこに ちょこんと置かれた小さいパン二切れであった。 「俺の席はどこだ?」 「何言ってるのよ、あんたは使い魔だから床で食べるの」 「…」 「本当は使い魔なら外で食べるんだからね、それだけでもありがたいと思いなさい。 っていうか物を食べるゴーレムなんて初めて見るわよ」 呆れ顔になってるゼロの心境を察してか止めを刺すつもりなのか ルイズの容赦ない一言が炸裂する。 「…」 「ちょ、ちょっとどこ行くのよ!」 「使い魔は使い魔らしく、俺も外で食べる事にするよ」 そう言ってゼロはスープとパンの乗った皿を持つと食堂を後にしてしまった。 当然後に残されたルイズは憤慨していた。 「なっ、なんなのよアイツ!次からは床じゃなくて外に用意してもらうようにしてやるから!」 「大きい月が二つ…か、俺も随分遠い世界に来てしまったもんだな…」 校舎の外、多数の生徒の使い魔が集まりそれぞれのエサを食べている中 どっしり座ったゼロは月を眺めながらパンをかじりスープをすすっていた。 この世界における自分の待遇とスダ・ドアカ界には無い宙に浮かぶ二つの月が 自分が異世界にいるという事をより実感させてくれる。 「文句は言えんが…腹に据えかねるものが…っと、もう空か」 あっという間に食べてしまい目の前には何も無い皿しか残っていなかった。 物足りなさを感じつつも戻ろうとした時、自分のマントに何か違和感を感じたゼロ。 振り返ると尾に炎を灯た真っ赤で、結構大きなトカゲが彼のマントを引っ張っていたのである。 「きゅるきゅる…」 「中々立派な火竜だな、こっちでいうとサザビードラゴンかそのあたりか?」 そのトカゲは自分の足元にあった何かの生肉を加えてこっちに差し出してくる。 「…もしかして俺にくれると?」 「きゅる」 「いいよ俺は。その気持ちだけ有り難く受け取っておくさ」 大トカゲの頭を撫でたゼロを見てたいた他の使い魔達も自分が食べていた餌を運んで来た。 何かの生肉をはじめとして草や虫、ミミズなど野性味溢れる餌がゼロの前に積まれてゆく。 「いや、俺が足りないなとは思ったけど別にそこまでは欲しくないぞ!いいから!お前たちで食え!」 ゼロは皿を手に取ると熱烈的な使い魔達から逃れるように再び食堂へと戻っていった。 その時、右手のルーンがぼんやり光を放っていたのにはゼロ自身も気づいてはいなかった 「(ちょ~っと調子が狂ったけど一日の最後こそは きっちりと主従関係を叩き込んで締めないとね!)」 一日も終わり就寝の時間、ルイズは決意を固めながらゼロと自室まで歩いていた。 「さて、寝る場所だけどあんたはここね!こーこ!」 「床か?」 「そう、使い魔だから当っ然床!これ以上ない位床よ!」 ドアを開けた途端から高圧的な態度で床を指差しゼロに話すルイズ。 「(いくらなんでもこれなら私の立場が上だって気づいて…)」 「そうか、すまないが鎧を置かせて欲しい」 「え?えああそそっ、そうね、そこのクローゼットの隣に置けばいいんじゃないかしら?」 「悪いな」 今まで流浪の身であったゼロにとっては野宿は当たり前、ましてや敵の気配も無いここなら どこであろうと問題なく眠りに就けるのであった。 ルイズの企みはあっけなく幕引き。目の前で鎧を脱いで指定した場所に置くゼロの横で 同じく服を脱いでそこら辺に投げるルイズ。 「ルイズ」 「何よ、ご主人様と呼びなさいって言ってるでしょうガンダム」 「女の子なら多少は恥じらいを持った方がいいぞ」 「使い魔、しかも人間じゃない奴に見られても別に何とも思わないわよ!」 そういってさっさとネグリジェに着替えた彼女はすばやく布団に潜り込んで指を鳴らすと 部屋を灯していたランプも消えてしまった。月の明かりだけが部屋に蒼く差し込む。 「使い魔の説明の時にも言ったけどそれ、明日洗っといてね」 先ほど脱いだ下着を投げ口早に言うとそれっきり彼女は一言も喋らなくなった。 「(やれやれ、とんだじゃじゃ馬娘だ)」 ゼロは脱いだ鎧にかかっていた自身のマントをひったくり、それに丸まって床に横になった。 「(ユニオン族のいない異世界…か)」 心に去来するのはかつての戦いの記憶。 強大な力を持った遺跡、ドゥームハイロウの力によりユニオン族が抹消され 幻魔皇帝がザンスカール族を率い人間を統制支配する悪しき世界。 生き残った唯一人のユニオン族であるゼロは受け継がれた雷の技と 一族に伝わる神の獣、龍機ドラグーンを用いこれに挑んだ。 雷の奥義にて召喚された城は巨人となりて幻魔皇帝と戦い、抹消されたはずの仲間も 精神のみの状態で現世に舞い戻り自身に力を与えた。 集う力はついに幻魔皇帝を討ち破り、消えたユニオン族をこの世に再び戻し平和を取り戻した…。 「(雷龍剣よ、俺はこの世界でどうすればいい?)」 かつての戦いが思い浮かんでは消えていき、その意識も眠りの中にゆっくりと落ちていった。 彼の、長い一日はこうして終わりを告げたのである。 前ページ次ページルイズの魔龍伝
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6827.html
注)本SSは『HELLSINGのキャラがルイズに召喚されました』スレに掲載された作品です。 「HELLSING」のヤン・バレンタインを召喚 ルイズとヤンの人情紙吹雪-01 ルイズとヤンの人情紙吹雪-02 ルイズとヤンの人情紙吹雪-03 ルイズとヤンの人情紙吹雪-04 ルイズとヤンの人情紙吹雪-05 ルイズとヤンの人情紙吹雪-06 ルイズとヤンの人情紙吹雪-07 ルイズとヤンの人情紙吹雪-08 ルイズとヤンの人情紙吹雪-09 ルイズとヤンの人情紙吹雪-10
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8488.html
前ページBRAVEMAGEルイズ伝 第一章~旅立ち~ その8 登場!土くれのフーケ 魔法学院には斜陽が差し、赤い景色が広がっていた。 一行は、ちょうどルイズの部屋の窓から見える光景、広い裏庭にてムサシを囲んでいる。 「なあ相棒ぉ、俺っちどうしてこんな状況になってんの?」 「わりい、おいらもデルフの力が本当なのか気になるからさ。よろしく頼むゼ、タバサ」 「了解した」 新たな使い手の元に渡った、魔剣デルフリンガー。 今、彼は剣としての初仕事をしようとしている。 「タバサー、有り得ないだろうけれど外さないでよ?どこかの誰かさんじゃ無いんだから」 「ツェルプストー、それは一体誰のことを言っているのかしらぁあ…?」 「あら、そのちっぽけな胸にお尋ねしたらどう?心当たりがおありなんじゃないの」 外野で一悶着起きている最中だが、その初仕事がタバサの手によって成された。 最初の仕事…それは『的』である。 **** 「はぁい、ルイズ。使い魔とおでかけしてたようね?」 「げ、ツェルプストー」 「げ、って何よはしたない」 買い物から学院に帰ってきた二人を出迎えたのは、ルイズの級友二人であった。 会うなり小競り合いを続けている様を見て、やっぱり日常茶飯事だなとムサシは苦笑する。 と、タバサの使い魔であるドラゴンが、顔を摺り寄せてきた。 「きゅいきゅいっ」 「おう、ただいま!悪いけど、今日は何も持ってねえぜ?」 「……今日、は?」 「?ひょっとしてこいつのご主人様かい? この間、おいらの飯を分けてやってたんだけど……」 「……」 無言で竜に手招きし、自分の使い魔になにやら耳打ちする。 ややあって騒ぎ立てた風韻竜の頭を大ぶりの杖で小突いた。 ムサシは苦笑した、他人に餌付けされるなということであろうか。 「おいらから何かやるのは、マズかったかな?」 「別にいい、ねだったのはこちらの方。迷惑だったのなら謝る」 「気にしないでいいぜ」 王国にはおしゃべりが多かったこともあり、口数の少ないタイプと付き合う経験が無いムサシ。 しかしコミュニケーションが取れないほどでは無いようなので一安心する。 ルイズの級友に迷惑をかければ、しっぺ返しは必ず来ると予想できたからだ。 主にゲンコツや平手で。 「それにおいらも、こいつといるのは楽しかったからな。ええっと……」 「タバサ。使い魔がシルフィード」 「そっか、おいらはムサシだ、よろしくな」 手短に自己紹介を済ませたタバサの視線に、ムサシは頭上に?を浮かべた。 なにやら剣を見る自分のように、値踏みをしているような……そんな雰囲気を感じたからだ。 「こ、コホン…それより、ムサシくん聞きたいんだけど」 「おいらか?」 と、ここで突然キュルケに指名され、己の顔を指さすムサシ。 そうよ、とキュルケがウインクを飛ばして応える。 「ねえ、何を買ってきたのか見せてくれない?私とても興味があるわ」 背の小さいムサシに視線を合わせるため、キュルケはしゃがみ込む。 170サントを越える身長のキュルケが屈めば、ムサシとはちょうど頭の高さが一致する。 おまけに胸元とスカートの裾が危険なことになっている、ルイズはムッとした。 「それならちょうどよかったゼ」 「おう相棒、早速出番かい」 そう言うと、鞘から背中の剣を抜く。 変わらず涼しい態度のムサシに、ルイズは何故かしたり顔だった。 「こいつのことルイズにも説明するところだったんだ」 「一体、このボロがどうすごいって言うの?とても信じられないけど」 一行は剣を持つムサシを囲んでいた。 彼のゴーグルの力が如何にも信じ難いルイズや、不思議な装備の数々に興味を抱くタバサはどこか神妙だ。 「私は信じるわよムサシく~ん。ね、早く教えて?」 キュルケの猫なで声が聞こえた途端にルイズの口角がひくついた。 彼女だけはいつもとペースが変わらないようである。 言い合いがまた始まりそうな気配をなんとなく察し、さっさと準備に入る。 待ってましたとばかリに滾る剣を鞘から引きぬき、ムサシは抜身のデルフリンガーを掲げた。 「待ってたぜ相棒、俺っちやる気マンマンってなもんよ」 「わりいな、まだ何を斬るってわけでもねえんだ」 「何ぃ?そらねえぜ、やり場のないこの気持ちをどこに向ければ良いのよ」 「多弁」 「おしゃべりな剣ねえ……」 タバサとルイズが剣のトークに難色を示す。 しかしムサシは気にしていない様子でゴーグルをかけ、この剣の秘密を読み解き始める。 「この剣は『ガンダールヴ』ってぇ奴の使ってた剣で、このサビは仮の姿らしいぜ」 「『ガンダールヴ』?……って、あの?」 「始祖ブリミルが従えたと言われる、伝説の使い魔のひとり」 今しがた自分で口にしたタバサも含め、その場にいた一同は息を飲む。 ガンダールヴ、が何者なのか知らない者はここにはいない。 皆名前くらいは知っている。 それほどの伝説的存在の使っていた剣が目の前にあると言う。 「おおそれだ!さっき言いかけたのはそれ、『使い手』ってなぁそのことよ」 「『使い手』?ムサシ君がそれだっていうの?」 「おうよ色っぺえ娘っ子」 武器屋で出会ったムサシを、デルフは確かに『使い手』と呼んだ。 傍にいたルイズもまた気にかかっていた言葉ではあるが、まさかそれがブリミルの使い魔とつながるとは思いもよらなかった。 「俺っちの前の『使い手』がガンダールヴ、二番目の『使い手』が今の相棒ってこった」 「おいらが、その『がんだーるぶ』と同じだってのか?」 「本当だったらすごいことよムサシ君、やっぱり私の眼に狂いは無かったわ!」 キュルケに抱きすくめられ、降ろしてくれよとムサシは足をばたつかせる。 そんな様子すら気にかからないほどルイズは考えに没頭していた。 ガンダールヴの剣、確かに伝説に名を馳せる剣である。 その剣に認められた自分の使い魔、ムサシ。 だとすると彼もまた『ガンダールヴ』なのだろうか? しかし目の前のムサシ、そしてデルフリンガーの人物像と今まで自分が読み聞いた伝説を照らし合わせる。 そして頷いた。 なんというか…… 「あんたらどっちも伝説ってガラじゃないわねぇ……」 「そりゃねえゼ」 「ひでえなあ娘っ子」 疑心まるだしのジト眼で見られ一人と一振りはがっくりうなだれた。片方は剣なのでよくわからないが。 すると、今まで静観していたタバサが不意に疑問を挙げる。 「ガンダールヴの持つ剣ならば、単なるインテリジェンス・ソードでは無いはず」 タバサの疑問は、当然と言えた。 伝説級の武器であり、マジックアイテムであると言えるデルフリンガー。 何も特殊な能力が無い、とは考え難い。 「何か、魔法がかけられている?」 「お、鋭えところをつくね、眼鏡の娘っ子。俺っちもうろ覚えだが……ええっと……」 「こいつには『魔法を吸い込んじまう力』があるみてえだぜ?」 すっかり自分の能力を記憶の彼方に封じてしまったデルフの代わりに、ムサシが説明する。 この能力ならば、なるほどガンダールヴが『神の盾』の異名を持つ所以にもなろう。 三人の少女はようやくデルフリンガーの正体に納得が行き始める。 すると、ここでキュルケが意地悪そうな笑みを浮かべた。 「ねえ、ルイズ。本当に魔法を吸収するか見せてくれない?」 「え」 「ムサシ君を疑うわけじゃないけどぉ~……やっぱりこの眼で見たいじゃない?それとも魔法の調子でも悪いの?」 明らかなキュルケの挑発的な態度ではあるが、あっさりとルイズは乗せられる。 耳まで真っ赤にして、やってやろうじゃないの!と肩を怒らせムサシの持つデルフリンガーの前に進み出た。 「ファイアーボール!」 吹き飛んだ。 そりゃあもう見事に吹き飛んだ。 ただし、吹き飛んだのはムサシでもデルフでも無く、その後ろ。 はるか上、学院の壁であった。 『固定化』の呪文がかかっている筈の壁に大きなヒビが入っている。 驚愕の表情で硬直したルイズに対し、キュルケは遅れて大笑いした。 「ルイズ、目でも悪くしたの?あんなところが吹き飛んだわ」 「ううううう、うるさぁーい!ちょっとズレただけよ!!」 もはや何度目になるか解らない口論が始まったがもはや慣れっこである。 当初の目的であったデルフの能力確認だが、言い出したタバサが魔法を使うとのことで決着はついた。 話はここで冒頭に戻る。 いよいよということで、言い争いも中断したキュルケとルイズも固唾を飲み、見守った。 ムサシがデルフリンガーを構え、距離を取る。 杖を向けてからふと、考えついたような顔をしてムサシのほうを向いた。 「風系統の魔法では確認が難しい」 「そっか、見える魔法で頼むぜ」 「わかった、威力を絞った『ウィンディ・アイシクル』を使う」 『氷の矢』ウィンディ・アイシクルはタバサの得意とする呪文である。 トライアングルスペルではあるが、威力を控えるという調節も容易であった。 「おーいデルフー、いくぜー!」 「うおー!俺っちこういう視線が集まる状態苦手なの!緊張して背中痒くなってきた~っ!」 「どこが背中なんだ?」 騒ぎ立てる剣自身をよそに、表情一つ変えずタバサによる氷の矢が放たれた。 「ホントに消滅しちゃったわね」 「嘘みたい……ホラ吹きのボロ剣どころか、伝説の剣よ!伝説の剣!」 俄に浮き足立つルイズ。 デルフリンガーの言うことに、偽りは無かった。 放たれた矢は、吸い込まれるように消えてしまったのだ。 思わぬ形で知った事実にすっかり舞い上がっているのだろう、ルイズは勢い良くジャンプして喜んだ。 「あー、効かねえって解っててもこちとらビビんのよやっぱ。まだ胸ドキドキしてら」 「どのへんが胸なんだ」 だがその伝説の剣と、伝説の使い魔は変わらずこの調子である。 例え事実であろうと、伝説の一端を担う者たちと誰が信じようか。 これでは漫才コンビのチビと一振りである。 ルイズは熱くなっていた自分がとたんに虚しくなり、小さな肩をすくめた。 「伝説って所詮…過去よね」 「あ、それひでえな娘っ子」 一同は脱力した笑いを漏らした(タバサを除いて) 夕日も傾き、そろそろ夜が近い。 各々が空腹を満たし、夜を穏やかに過ごし、明日へ備えて床に就く。 そう思っていた、矢先のことであった。 「あら……」 「雲?」 一行の周囲に、影が差す。 日は沈みつつあるが、まだ夜の闇が訪れるには早かった。 それに、ルイズは感じていた。 この寒気は何だろう。 まるで何か危機が迫っているような。 「違う、これは……」 「ゴーレム!?」 タバサがいち早く気付き、キュルケも次いで驚いた。 のそりと姿を表し夕日を遮ったのは、全長30メイルはあろうかというゴーレム。 それが足踏みで大地を揺らしつつ、こちらに近づいてくるではないか。 キュルケが悲鳴を上げて逃げ出したのを皮切りに、ムサシとルイズも後に続いた。 「何よあれ!?」 「まさかあれって噂になってる……」 「!貴族相手にドロボーしてる奴か」 「『土くれのフーケ』、確かに手口は同じ。これほどのゴーレムを使う賊は他にいない」 タバサが落ち着いた様子シルフィードを呼び寄せた。 ゴーレムは裏庭にいる自分たちなど構いもせずに真っ直ぐ宝物庫へと向かっている。 逃げるなら今だった。 しかしシルフィードに乗り込もうとしたのはキュルケとタバサのみ。 二人はUターンすると、そのまま走りだした。 「ムサシくん!」 「逃げろ、みんなっ!」 先んじて振り返ったのはムサシだった。 ゴーレムの足元まで舞い戻り、デルフリンガーを勢いづけて抜刀する。 「デルフ!待たせたな!」 「おうよ、ついに出番か!?」 「でやあぁーっ!」 宝物庫に拳を叩きつけ続けるゴーレムの脚を、据え物斬りの要領で断つ。 一本の線が刻まれたと思うと、そこから上は斜めにずり落ちた。 切断された膝から下はぼろぼろともとの土になりゴーレムのバランスは崩れる。 「やったゼ!」 「いや、まだだ相棒!」 無くなった部分を埋めるように、足元から土が盛り上がり纏わり付く。 やがてムサシに斬られる前と同じ状態にすっかり戻ってしまった。 上を見上げると、黒いローブの人影が肩に立っている。 どうやらあれがゴーレムの主らしい。 「くそ、これじゃキリがねえな」 「どきなさいムサシ!ファイアーボールっ!」 遅れて駆けつけたルイズが早速呪文を唱えるが、いつもの通りの爆発が起きる。 教室や舎の壁を壊すことはできても、今回ばかりはゴーレムの表面が弾けてそれで終わりだった。 後から後から補充され、まるで通用していない。 「ルイズ、お前の魔法は効かねえ!危ねえから離れてな!」 危なっかしい主人を守るため、ムサシは真雷光丸を抜いた。 そしてデルフと共に逆手に構えて、ゴーレムの脚へと飛びつく。 両の剣を交互に突き刺し、巨大な身体を崖に見立てて登っているのだ。 これぞ伝説の武具『ベンケイブレス』の力である。 「何よ……!?私が足手まといだって言うの!!」 ルイズの頭に血が上った。 実のところ、彼女はかなり焦っていた。 先程からフーケのゴーレムが殴りつけているのは、自分が爆破した壁。 すでにヒビが入っていたからこそ、今こうして砕かれているのではないだろうか。 ルイズは、責任感と、意地と、劣等感が綯交ぜになった気持ちが抑えられない。 「私が賊を捕まえてやるんだから……!!あんたみたいなチビに遅れは取らないわ!」 ルイズは、忠告を一切聞かぬまま爆破ばかりの呪文を続けた。 持ち前のプライドの高さは、彼女に逃走という選択を捨てさせた。 あるいは、勇敢な使い魔に対する嫉妬だったのかもしれない。 「あいつだな……おい!観念しな、ドロボー!」 ようやく巨大な身体を登り終えたころには、フーケの仕事は済んでしまっていた。 盗み出した品が入っているだろう箱を抱え、目深に被ったフードから人相は伺えない。 ただひとつ見えたのは、三日月のように笑う口元だけであった。 「年貢の納め時ってヤツだぜ!」 したり顔の盗賊に飛びかかろうとしたその瞬間、ムサシはふわりと自分の身体が浮くのを感じた。 いや、浮いたのでは無い。落ちたのだ。 フーケがムサシが乗っていた部分のみを、風化させた。 「うわっ…!」 この高さから落ちてはひとたまりも無い、とムサシは雷光丸をゴーレムに突き刺した。 なんとか落下も半ばでぶら下がることに成功するが、すでに仕事を終えたらしいフーケはゴーレムを歩かせた。 ゆらゆらと揺れ、しがみつくので精一杯だ。 「くっ……」 「ファイアーボール!!」 ルイズの一際大きな爆発がゴーレムのバランスを崩した、フーケも驚いたのか肩口にしがみついている。 だがその拍子に、ムサシの身体を支える雷光丸が、抜け落ちてしまった。 「うわあっ!」 「ムサシッ!!」 かなりの高さから落下したムサシは、裏庭の草地に叩きつけられた。 主であるルイズは、思わずゴーレムから目をそらして、使い魔の元に駆け寄る。 「ムサシ、やだ、ちょっと…」 「!!危ねえっ」 近づいたルイズを、ムサシは身体ごとぶつかるように突き飛ばした。 人がせっかく心配してあげたのに、だのご主人様に向かって、などといった非難が口をついて出る間もなく。 ムサシがゴーレムが足の下敷きになった。 「え?」 何が起きたのか少しの間、理解できなかった。 そして気づいたとき、ルイズの顔が色を失う。 自分の魔法がムサシを落とし、ゴーレムをよろめかせたのだ、と。 「むっ……」 口が強張り、舌がつっかえて喉が引っかかる。 絞り出せた叫びは目の前で土に埋まった使い魔の名のみだった。 「ムサシぃぃぃぃぃッ!」 **** フーケは目的を終えたからか、さっさと逃げてしまったようだ。 執拗に追おうとしていたルイズは消沈し蹲り、キュルケが先程から声を掛けているというのに反応を見せない。 そこに、シルフィードに乗って追跡していたタバサが戻ってきた。 「途中まで追跡できたけれども、見失った」 「ああ、ありがとタバサ。ってそれよりこの子なんとかしてよ」 見ればルイズの周りの草がすっかり抜かれている。 ぶちぶちと千切っては捨て、千切っては捨て、よほど先程のショックが強かったようだ。 「ね、ルイズ、あのね……」 「うるさい!うるさいわね!放っておいてよ!」 それまで項垂れたままのルイズがキッと睨みを聞かせ、弾かれたように金切り声を上げた。 目には一杯涙が溜まってはいるが、器用にも一粒たりとも零さずにいる。 これは最後の意地だろう。 「あ、あいつ、ホント勝手なんだから、私の言うこと、聞きもしないで、わたしの、わたしの」 呼吸を荒らげて、肩を震わせ、辿々しい言葉を吐き出す。 キュルケもタバサも何も応えずにいた、そうするうちにやがてルイズの声も勢いを失っていく。 「……わたしを庇って……わたしのせいで、あいつ」 「気にすんなよルイズ」 間の抜けた慰めの声なんて、一番求めていなかった。 空気の読めないのんき者に、ルイズの頭がカッと熱くなる。 「バカ!私はあんたみたいに気楽に……」 ルイズがはた、と気づいた。 この場に置いて存在しないはずの少年の声が聞こえた。 何故だろう、頭の中はぐるぐると回って考えがまとまらない。 そこには泥まみれのムサシがぺっぺっ、と土を吐き出しながらも無事でいた。 「あ、あ、あ」 「だから、さっきから喋りかけてたのに」 「…娘っ子ぉ、俺っち汚れちまったよ。なんか拭くもんある?」 「水の魔法で洗い流したほうがいい」 「あ、俺っち無効化しちゃうから駄目だわ、井戸どこ井戸」 皆、取り留めもないような話をしつつ、何か居たたまれなさそうにルイズを見ていた。 というか何故だろう、何でだろう。 ルイズは当然の疑問を口にする。 「なんで生きてるのよあんたーーー!!」 「『スチールボディ』ゲット・インだぜ!」 ゴーレムにぶら下がったあの一瞬、雷光丸でフーケのゴーレムから能力を吸収したのだ。 ゲット・インでエネルギーを吸収した物体は通常消滅する。 しかしストンプゴーレム、キングマンイーターのように内包するエネルギーが膨大なものは消滅に至らない。 今回もそのケースのようだった。 ちなみに、吸収した能力は短時間ではあるが、自らの肉体に鋼鉄の如き硬さをもたらすもの。 そのお陰で落下しても、踏み潰されても軽症で済んだ、まさに危機一髪という所だったわけだ。 ギリギリの所で果たした生還劇にも関わらず、ルイズは激怒した。 だがその実、ひどく安心させられて涙を隠すのに必死だっただけのようだ。 「ようし気をとりなおして……逃さねえぜ、土くれのドロボー!」 一方ムサシは泥まみれになり傷つきながらも、この場でたった一人わくわくしていた。 ようやく、求めるものにありつけそうだ、と。 前ページBRAVEMAGEルイズ伝
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2431.html
前ページ次ページルイズと無重力巫女さん 「ふぅむ…つまり君はミス・ヴァリエールが召喚したのは伝説の『ガンダールヴ』だと言いたいのかな?」 双月が濃くなり始める時間に学院長のオールド・オスマンはコルベールとある話し合いをしていた。 「はい。何回も何回も調べ直しましたが、あれは間違いなくガンダールヴのルーンです!」 興奮したコルベールがつまりそうな早口で言った。 『ガンダールヴ』とは…伝説の系統である『虚無』の使い魔で、ありとあらゆる兵器や武器を使いこなせるという。 コルベールや長寿のオールド・オスマンでさえ見たこともない伝説の使い魔が召喚されたのだ。 探求心豊富なコルベールが興奮するのは仕方がない。 「まぁまぁ落ち着きたまえミスタ・コルベール。興奮するのは仕方がないがちと声が大きすぎるぞ?」 オールド・オスマンは人差し指で口を押さえてコルベールに静かにするように合図をした。 「とりあえずしばらくは様子見じゃ。どこに耳や目があるかわかんからのう…。」 そう言うとコルベールはハイ、と返事をし。軽く頭を下げて退室した。 彼が退室した後、オールドオスマンは口にくわえていたパイプを机の引き出しの中に入れると右手を地面に置き、足下にいたハツカネズミを手の上に乗せた。 「ふぅむ、今日はこんな時間にまで起きておいて良かったのかも知れんのぉ。」 そういってオスマンはハツカネズミを机の上に置くと軽く頭を撫でた。 「モートソグニル、今日はどうじゃったか?……ふむ、今日のミス・ロングビルは白だったか…いやはや。見るのをすっかり忘れるところじゃったわい。」 そう言ってオスマンは仕事をこなしてきた自らの使い魔にナッツを五つ食べさせた後、寝巻きに着替えて寝ることにした。 ルイズは夕食を食べた後ネグリジェに着替え、霊夢には予備に持ってきていた少々大きめのパジャマを貸してあげた。 一緒にベッドに寝るかとルイズは聞いてヒラヒラが多く付いたパジャマを着終わった霊夢はそれに甘えることにした。 「寝床なら明後日くらいにはなんとかするわ。それじゃあ先におやすみ…。」 そういってルイズはベッドにダイブして目を瞑ろうと思ったがふと目を開けて椅子に座って紅茶を飲んでいる霊夢の方に顔を向けた。 「そういえばアンタは使い魔として扱われるのがいやなんでしょう?だったらどういう風に接すればいいのかしら?」 それを聞いた霊夢はティーカップを机に置くと少し頭をウンウン捻った後に言った。 「そうね…じゃあとりあえず゛同居人゛とかそんな感じでお願いしようかしら」 その言葉を聞いたルイズは同居人ねぇ…、と言って目を瞑った後すぐに寝息が聞こえてきた。余程疲れ切っていたのであろう。 その数分後に霊夢もポットの中に入っていた紅茶を全て飲み終えたので寝ることにした。 「……さい、ルイズ。」 安眠していたルイズは目の前から聞こえてきた声と手で体を揺すぶられる感覚で目を開けた。 「いつまで寝てるのよ。もうすぐ朝食の時間でしょ?」 その言葉遣いにルイズはエレオノール姉さんかと思ったがそれはルイズが召喚した少女、霊夢だった。 既に袖が別離している紅白服(本人が言うには動きやすさを重視した為らしい)を着ていた。 「あぁ、そぉだったわねぇ…。ふぁぁぁ…」 ルイズはまだまだ寝たいという体に鞭打ち、大きなあくびをしてベッドから飛び降りた。 目を擦ってベッドの横に置かれた椅子を見てみると椅子の上に綺麗に洗濯されて畳まれた制服が置いてあった。 恐らく霊夢が朝イチにやってくれたのだろう。その霊夢はというと鏡を見ながら頭につけてるリボンを整えている。 ルイズは霊夢に自分の服を着せようと思ったが彼女は『使い魔』ではなく『同居人』なので、自分で着ることにした。 ルイズの着替えが終わり、丁度リボンを整え直した霊夢と一緒に部屋を出ると隣の部屋のドアが開いた。 その部屋の中から出てきたのは『微熱』の二つ名をもつキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーであった。 「あらおはようルイズ。夕食の時に食堂にはいなかったけどちゃんと夕食は食べたのかしら?」 キュルケはルイズを小馬鹿にするような目で話しかけてきた。 「大丈夫よキュルケ、夕食は部屋で食べたから。」 ルイズはキュルケの小馬鹿にするような目と言葉に耐えて返事をした。 そのあとキュルケはそう、と言って霊夢の顔を見た。 「何よ?何か私の顔に付いてるの?」 負けじと霊夢もジト目でキュルケの顔を睨む。 目には目をの要領で睨んできた霊夢に、キュルケは年下の人間に諭すかのような感じでこう言った 「いやね、こんなかわいい顔なのになんか目が冷たいなーって思っただけよ。」 キュルケの言葉に霊夢は顔を顰め、一言。 「余計なお世話よ。」 その言葉を聞いたキュルケは途端に腹を抱えて笑い出した。 「あははははは!『ゼロ』のルイズと無愛想な『使い魔』!なんかいけるわねこれ!」 キュルケの『使い魔』という言葉に反応した霊夢は人差し指でキュルケの鼻先をつついた。 「勘違いしないで頂戴。私はルイズの『使い魔』じゃないわ。『同居人』よ。」 「……同居人?」 ムスッとした表情を浮かべる霊夢の言葉にキュルケは顔を怪訝にすると彼女の後ろから火を吐くトカゲ、サラマンダーがヒョコッと出てきた。 「確かそれ、アンタの呼び出した使い魔…だっけ?」 ルイズが欲しそうな目でそのサラマンダーを見つめる。 「そうよ、名前はフレイム。これはきっと火竜山脈のサラマンダーに違いないわ。」 キュルケはフレイムの頭を2、3回撫でた後、ルイズと霊夢に手を振ってフレイムと一緒に食堂へと向かっていった。 「フン、なによキュルケのやつ…自慢しちゃって!」 しばらくして、ルイズはキュルケの態度を思い出し、内心の苛立ちを露わにしていた。 霊夢はと言うと、そんなルイズを後ろから冷たい目で見つめていた。 「あんなトカゲの何処がいいの?ただ体が赤くて火を吹くだけじゃないの」 「一応教えとくわ…召喚した使い魔はね、そのメイジの器量と強さを表してるらしいのよ。いわばそのメイジの強さ…魔力…そして才能!!」 そこまで喋ったとき、ルイズの足が止まりその場で悔しそうにギリギリと握り拳を作った。 霊夢はそれを聞きながらも足を止めずそのままツカツカとルイズの前まで来ると、彼女の目の前でこう言った。 「ならアンタの方が強いんじゃないの?」 ルイズがその時見た霊夢の顔は、どこか無愛想漂うがその中に小さな微笑みも混じっていた。気のせいだと思うが。 その言葉を言った当の本人はツカツカと食堂へ向かって歩き出し、ルイズは首を傾げながらもその後を付いていった。 「さぁついたわ、ここがアルヴィーズの食堂よ。」 ルイズはそういって食堂の方を指さした。 そこは正に大聖堂と言って良いほどの大きさで、大きな入り口から多数の生徒が中に入ってゆく。 「ここには有名なシェフ達が働いているからいつもバランスと栄養が整っている食事が取れるの。」 「……なんか食堂にしてはでかすぎない?」 霊夢は頭を上げ食堂を見上げながら言った。 太陽が後ろでサンサンと光っているため誰も言わなければ何処かの大聖堂と間違えてしまうくらいに立派である。 ルイズは霊夢の言葉など無視してさらに説明を続けていた。 「………その外装にさることながら中もすごく、料理人は全て超一流よ!!!」 食堂の入り口で熱弁をふるうルイズに視線を戻した霊夢を含めそれを聞いていた数人の生徒は拍手を送った。 「ねぇギーシュ、あれは何かしら?」 「おおかた、ゼロのルイズが自身の使い魔に熱弁を振るってんだろ?気にするなよ。」 食堂の内部は思ったより大きく、数百人の生徒達が椅子に座って雑談をしている。 そして長いテーブルの上には純白のテーブルクロスがしかれ、その上には綺麗に彩られた料理が置かれている。 ルイズは真ん中のテーブルに行き、椅子を自分で引くと座った。 その後をついてきた霊夢はルイズの足下に置かれている野菜と鶏肉が均等に入ったスープと、湯気を立てているパンと空のティーカップがあることに気づいた。 「料理の方は結構良くしたけど…流石にテーブルの上では食べる事は許されないから床で食べてくれない?」 「まぁ別に良いわよ。元の世界でも椅子に座って食べるとかそんなのはあまり無かったから。」 霊夢は別段何も感じられない瞳でルイズの顔を一瞥してから床に座った。 『………大なる始祖ブリミルと女王陛下よ、今朝もささやかな糧を我に与えたもうたことに感謝致します。』 (食堂の中も結構凄いけど、食事の味も結構良いわねぇ…) 霊夢は生徒達が呟く祈りをBGMにして一足先に朝食を頂いていた。 生徒達の祈りが終わった後、奥の厨房からメイドが二、三人ティーポットを持ってやってきた。 どうやら生徒達に紅茶を入れているらしい、トクトクトク…という音が食堂のアチコチから聞こえてくる。 やがて一人のメイドがルイズの所にまでやってきて紅茶を入れると地面に座って朝食を食べている霊夢と目が合った。 最初メイドは霊夢を見て不思議そうな顔をしたが何か思い出したのかすぐに笑顔を振りまいた。 「あ、おはようございます。あなたも紅茶が欲しいんですか?」 「うん、入れてくれる?」 そう言って霊夢は空のティーカップをメイドに渡すとメイドは慣れた手つきで紅茶を入れ、紅茶が入ったティーカップを霊夢に渡した。 紅茶は綺麗な色をしており、見ただけで満足してしまう。一口飲んでみたらこれがまた美味しい。 「ありがとう。あなたの入れた紅茶、とってもおいしかったわ。」 メイドは礼をすると隣の生徒のティーカップにお茶を入れていった。 朝食が終わり、霊夢とルイズはとある広場に来ていた。 広場には二年生になったばかりの生徒達と使い魔がおり、今日は召喚した使い魔とコミュニケーションを取る日である。 「いつもなら午前の授業があるんだけどね、今日は使い魔との交流会があるから潰れたのよ。」 「ふーん…」 霊夢は素っ気なく返事をすると紅茶を飲みながら辺りを見回した。 周りは全て哺乳類や爬虫類、鳥類だらけで、その中には目玉の化け物やドラゴン等がいた。 (妖怪…?はたまた悪魔か何かかしら?なんかよくわからないのがいるわね。) 自分やあの目玉と竜以外は蛇や蛙、フクロウといったよく見かける生物がいたがなぜか一匹だけ違和感のある生物が視界に入った。 「………モグラよね?」 霊夢は自身の視線の先にある巨大なモグラを見て思わず呟いてしまった。 それを聞いたルイズは霊夢の視線を追い、そのモグラを見た。 「え?ああ、あれはギーシュの使い魔よ。」 「ギーシュ?誰よそれ。」 「ほら、あのモグラの近くにいる派手な服装の。」 大きさが小熊くらいあるモグラの主人と思われるギーシュは薔薇の造花を片手に持ち、金髪ロールの女子生徒と話しをしていた。 「どうだいモンモランシー、僕の使い魔ヴェルダンデはなかなか可愛いだろう。」 ギーシュはヴェルダンデの頭を膝に乗せて頭を撫でながら言った。 「かわいいけど…今度からわたしと一緒にいるときは出さないでね。」 金髪ロールのモンモランシーは少し引いているような感じでギーシュに言った。 当然である、あんなでかいモグラをかわいいとか言ってる人は普通の人が見れば相当引く。 愛嬌はあるが体の大きさがそれをはね除けていた。普通のモグラサイズだったら万人受けしていただろう。 その後、トイレだからとルイズが席を立って数分後… なにやらギーシュの方から騒がしい声が、霊夢の耳に入ってきた。 「ギーシュ様、はっきりしてくださいよ!!どうして嘘などつくのですか!」 「待ってくれよ、君たちの名誉のために…」 「そんなのはどうでも良いのよ!今大事なのは一年生に手を出していたのかしていないかの事よ!!」 振り返ってみるとギーシュはモンモランシーと茶色のマントを着た女の子に何か言い詰められている。 「僕は二股なんかしていないよケティ、モンモランシー。薔薇は女の子を泣かせないからね。」 「ギーシュ様!それ答えになってません!」 (自分を薔薇と思ってるのかしら…。) 霊夢は聞こえてくるギーシュの言葉に呆れているとふとギーシュの懐から十枚を紐で一束にまとめた手紙が落ちた。 それを見たモンモランシーがその手紙をギーシュよりも早く手に取ると顔を真っ赤にしながらも満面の笑みを出した。 「…ギーシュぅ?この手紙全てに一年や二年なんかの女子生徒の名前が書いてるんだけどこれってイッタイどういう事かしらぁ?」 「そ、そんなまさか…酷いですギーシュ様!!二股では飽きたらず十股していたなんて。」 「え、あ、あのぉ…だからこれは…。」 「「このウソツキ!!乙女の敵!!!」」 ギーシュが言い終わる前に二人の平手打ちが炸裂してギーシュは空中で綺麗に4回転し、地に伏した。 二人の少女が怒りながら広場から姿を消すと他の生徒達がドッと爆笑した。 「ギーシュ!おまえ見事に振られちまったな!?」 太った少年がギーシュに向かって言うとギーシュは立ち上がり服に付いたホコリを払うと一回転した。 「はは、僕にとってはもう慣れっこさ!」 このギーシュという男、たいそうな女たらしであった。ちなみに過去の最高記録は十五股である。 その光景を見ていたルイズは生徒達と同じく笑っていたが霊夢は立ち上がるとギーシュに近づいていった。 そしてギーシュの傍によるとポンポンと肩を叩いた。 「ん?誰だい君は……あぁ確かルイズに召喚されていた娘か。何の用だい?もしかして僕と付き合いたいのか?」 「何勘違いしてるのよ。私はアンタの恋愛運でもあげてやろうと思って来たのよ。」 実際ギーシュは恋愛運が良いとはお世辞にも言えない。むしろ逆に恋愛関係の災難にあう確率が多い。 先ほどの光景を見た霊夢は気まぐれに、たまには巫女らしく御祓いしてやってもいいだろうと思ったのだ。 「僕の恋愛運を?それは有り難い、ならば早速…ん?」 ギーシュは突自目の前に出された霊夢の手に不思議そうな顔をした。 「この手は一体何だい?」 「賽銭よ、あんたの運をあげるんだからアンタもそれ相応の何かを出しなさい。」 ギーシュは頭に?を浮かべて顔を傾げる 「賽銭…何それ?」 彼の反応も当然である、何せこの大陸には賽銭を入れる賽銭箱はおろか、神社すらないのだから。 「知らないの?御祓いをする人にお金などを出して運勢を占ったり祈祷などをしてもらうことよ。」 「金」という言葉を聞いたギーシュは明らかに不機嫌な顔で霊夢を睨んだ。 「それはつまり…恋愛運を上げてやるからお金をくれという意味かい?」 「そうだけど?でもそんな言い方はしてないわよ。」 その言葉を聞いたギーシュは数歩退くと薔薇の造花を霊夢に向けた。 「このトリステイン貴族にタダで金品を要求するとは…なんたる無礼、即刻僕に謝罪したまえ。」 いきなり大声で叫んだギーシュに霊夢は少し驚きながらも答えた。 「貴族だか平民だかなんだか知らないけど要は…―――ってイタ!」 喋っている最中にいつの間にか彼女の後ろにいたルイズに頭を叩かれ、霊夢は頭を押さえた。 「あんた私がいない間に何してんのよ!?さっさと謝りなさい!」 「貴族がなによ?あいつも魔法を使わないとただの人間でしょ?それに二股してた方が悪いし。」 霊夢はこの世界で貴族という存在がどれ程高位なものとも知らず。ギーシュを馬鹿にするような目で見ている。 「…………どうやら魔法の才能が無い『ゼロ』のルイズに召喚された君は、貴族に対する接待の仕方を知らないようだね。」 ギーシュがそんなことを言った直後、霊夢の左手が闇夜でしか認識できないくらいの薄さで光った後、霊夢が目を鋭くしてギーシュにこういった。 「…………お生憎様、私はあんたみたいな『孤立無援な女の敵』に持ち合わせる態度はないわ。」 惜しげもなく出たその言葉は、ギーシュを激昂させるのには十分な代物であった。 「!?………君に決闘を申し込む!」 完璧に吹っ切れたギーシュは高らかに宣言した。 「別にいいわよ。ティータイムの後には丁度良いわ。」 「ヴェストリの広場で待っているよ!」 ギーシュはそう言うとマントを翻し颯爽と去っていった。 その後霊夢はハッとするとふと左手の甲を見ようとしたがルイズが後ろから激しく肩を揺すった。 「あんたなんて事したのよ!?貴族に決闘を申し込まれるなんて…!」 「わわわわわ……あんた馬鹿にされてたのによく怒らないわね…というか目がまわるぅ~…」 「あんたもしかして私のために……あんなのいいのよ!貴族はあんなことで怒るなってお母様に言われたのよ!」 必死な顔で霊夢をみているルイズは尚も肩を揺する。 とりあえず霊夢はルイズの手を肩から外すと、太っている少年に声を掛けた。 「はぁはぁ………ねぇ、ヴェストリ広場って何処かしら?」 「こっちだ、着いてこい。」 ルイズはほほえんでいる太った少年、マリコルヌに着いていこうとした霊夢の手を引っ張った。 霊夢が苛立ってルイズの方に顔を向けた。ルイズの顔にはうっすらと恐怖の色がにじみ出ていた。 「ねぇ、お願いだからやめて!グラモン家を怒らせたらただじゃすまないわよ!?下手に勝ってしまったら何をされるか…」 霊夢は静かにルイズの手を振り払い少し先にいるマリコルヌの後を着いていった。 「もう………バカァ!!」 ルイズの叫びは、空しくも霊夢の耳に届くことはなかった。 前ページ次ページルイズと無重力巫女さん