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三日目。 トンッ。 目の前に置かれた夕食を見て、私は夕食を置いた張本人を見る事なく溜め息を吐きました。 中華スープとれんげが置かれた時点でもう分かり切っているもの……。 「……………」 「……………」 「め…村上さん」 「何でしょうか? 千聖お嬢様」 「今日はどちらの名産品なの?」 「今日は『埼玉のチャーハン』です」 「昨日も埼玉県でしたけど?」 「今日は昨日の料理人と違う方が作ったと伺っています。お下げしますか?」 「……いいえ、食べるわ。ちなみに何チャーハンなのかしら?」 「人参をふんだんに使用した人参チャーハンです」 め…村上さんの対応を軽く流しながら私は『埼玉のチャーハン』を頂く事にしました。 鮮やかな橙色に彩った(埋め尽くした?)のは料理人さんの好みなのかしら? (何故かしら? 一瞬、みかん好きのなっきぃの顔が浮かんだ様な気が……) ノソ*▼o▼)<みかんに見立ててはいるけど、みかんは一切使用してないケロ 前へ TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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放課後、化学の先生にこってりしぼられてから、私は中等部の校舎に向かった。 もちろんお目当てはお嬢様だったのだけれど、どうも姿が見当たらない。 「あのー、千聖お嬢様は?」 近くにいた女の子のグループに声をかけると、なぜか「キャッ!」と悲鳴を上げられてしまった。 「え、何?」 私の顔を見て、ヒソヒソと何か話し込んでいる。なんだなんだ、気になるぞ。 「あ、だだ大丈夫です!あのなんでもないです!えと、千聖お嬢様なら、もうお帰りになったみたいですけど。 もしかしたら体調が悪かったのかもしれないです。何か、お昼明けの授業からずいぶん元気がないみたいでしたし。」 「そっか、めずらしいなあ。うん、それならいいや、ありがとう。それじゃあ・・」 「あの!わ、私たち、えりか様のファンなんです!あの、お話できて嬉しいです!えりかお姉さまって呼んでもいいですか!」 ビッターン! あまりのことに、私は腰を抜かして廊下にお尻をついた。え、えりかお姉さまて! 「大丈夫ですかお姉さま!」 「ちょ、え、な、何をいきなり!」 差し伸べられた手を取るのが恐ろしくて、私はまぬけな格好であとずさった。 「ご存知ないですか?えりか様は美人で聡明で凛々しいから、中等部にもいっぱいファンがいるんですよ。」 「いや、そんな、ファンとか」 実は心当たりは少しだけある。たまに靴箱に手紙が入っていたり(憧れてますというような内容)、誕生日に机の中にプレゼントが突っ込まれていたこともあった。 でもこんなにストレートに話しかけられたのは初めてだったから、かなり動揺してしまった。 「う、嬉しいけど・・・ウチはそんな、全然凛々しいタイプじゃないよ。それにすぐ泣くし、勉強もできる方じゃないし。」 「まあ、お姉さまったら奥ゆかしいんですね!」 困惑する私を無視して、彼女達は盛り上がっている。・・なんだろうな、好意を持ってくれるのは素直に嬉しいんだけれど、モヤモヤする。いくら憧れてくれても、私、そういう風には振舞えないよ。 お嬢様も学園で毎日こんな思いをしているのかな、なんてふと思った。 明るくて無邪気なもともとの性格を押さえ込んで、みんなが望んでいるお嬢様として生活するというのは、きっと辛いことなんだろう。 「お姉さま、またいらしてくださいね。」 手を振って見送ってくれる彼女たちのことを邪険にもできず、私は複雑な気持ちのままお嬢様のいない教室を後にした。 料理クラブに顔を出そうと思っていたけれど、今日は休んでお屋敷へ行くことにした。何となく千聖お嬢様のことが気になっていた。 「あれ・・・」 寮までの林道をのんびり歩いていると、前方のベンチに小さな人影を見つけた。 「・・千聖お嬢様?」 ほんの少し前で声をかけてみる。でも、お嬢様は私の呼びかけには反応しなかった。 「お嬢様?」 「・・・」 目の前まで来てもう一度名前を呼ぶ。それでもお嬢様は動かない。 私は怖くなって、お嬢様のほっぺたに触れた。・・冷たい。ずいぶん長い間、ここにいたのかもしれない。 いつもは小さい子みたいにくるくる表情の変わる瞳が、完全に焦点をなくしてしまっている。何の表情もないその顔を見ているのが辛くて、私はお嬢様をギュッと抱きしめた。 「・・・・・えりか、さん」 しばらくたってから、お嬢様はうわごとみたいに私の名前を呟いた。いつもだったら抱きしめられるのを嫌がるだろうに、無気力に私に身体を預けたままだった。 「お嬢様、お迎えの運転手さんはお呼びにならなかったんですか?1人で帰っては危ないですよ。」 「・・あぁ・・・そうだったわね。」 まるで夢の中にいるように、お嬢さまの口調には覇気がない。 「何かあったんですか?ウチでよければ話を聞かせてください。」 「・・・・いいえ、何も。あの、体調が悪くなってしまって・・・そう、だから、生徒会のお手伝いもいけなくて、ごめんなさい。」 全く抑揚のない喋り方。お嬢様は台本でも読んでいるみたいに淡々と言葉を漏らした。 何かをごまかしている風ではなかった。どちらかというと、起こった出来事のあまりの衝撃に、心がついていっていないような・・・ 「お嬢様、ここは寒いですから、一緒にお屋敷に帰りましょう。運転手さんにはウチから連絡します。」 「そう・・・ありがとう」 私はお嬢様の肩を抱いて、お屋敷に連絡をしながら歩き出した。 お屋敷まで5分もかからないはずの道のりが、とても長く感じられる。 お嬢様は時折足をもたつかせながらも、けなげに私と歩調を合わせてくれた。 いったい、何がお嬢様をこんな状態にしてしまったんだろう。こんなに近くにいるのに、私はお嬢様の心に触れることができない。 「もう、ここまでで大丈夫よ。ありがとう、えりかさん。」 「お嬢様・・・」 お嬢様は結局私の目を一度も見てくれないまま、お屋敷の中へ入っていってしまった。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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十ニ日目。 トンッ。 目の前に置かれた夕食を見て、私は夕食を置いた張本人を見る事なく溜め息を吐きました。 中華スープとれんげが置かれた時点でもう分かり切っているもの……。 「……………」 「……………」 「め…村上さん」 「何でしょうか? 千聖お嬢様」 「今日はどちらの名産品なの?」 「今日は『千葉のチャーハン』です。お下げしますか?」 「……いいえ、食べるわ。味付けに使用した調味料はご存知?」 「塩、胡椒、コンソメ、あとは……。これは言わないでもいいでしょうか」 「何かしら? 気になるわ」 「あとは~愛情をた~~っぷり入れたんですよ~♪ ……だそうです」 め…村上さんの対応を軽く流しながら私は『千葉のチャーハン』を頂く事にしました。 何だか寒気がするのは気のせいかしら? (何故かしら? 一瞬、出来ないフライパン返しを懸命にする桃子さんの顔が浮かんだ様な気が……) ル* ’ー’リ<違うんです~♪ 本当は出来るんですよ~♪ 前へ TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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カチ カチ カチ カチ カチ カチ…… 草木も眠る丑三つ時。私はまだ眠れずにいた。 薄明かりの中で作成されていく文章。えっ? 内容? 読む勇気、本当にある? カチ カチ カチ カチ カチ カチ…… 一文字、一文字、怨…じゃなくて思いを込めて。 実は休み時間中もルーズリーフに書いてたんだけど(授業中は絶対しない)、 やっぱりメール作成の方が落ち着くみたい。 カチ カチ カチ カチ カチ カチ…… 下書き保存をして携帯を閉じる。きっと明日もこの時間に打ち込んでるんだろうな。 自嘲気味に笑うと少し悲しくなった。 ノソ+▼o▼)<闇mailの保全ケロ TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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ニ日目。 トンッ。 目の前に置かれた夕食を見て、私は思わず夕食を置いた張本人を凝視してしまいました。 中華スープとれんげが置かれた時点で分かっているつもりだったのだけれども……。 「め…村上さん」 「何でしょうか? 千聖お嬢様」 「昨日の夕食も“チャーハン”だったのだけど今日もなのかしら?」 「ええ。名産品ですので」 「一応お聞きするわ。今日はどちらの名産品なの?」 「今日は『埼玉のチャーハン』です」 「埼玉県ってチャーハンで有名だったかしら?」 「私はその様に伺っていますがお下げしますか?」 「いいえ、食べるわ。ちなみに何チャーハンとかあるのかしら?」 「葱をふんだんに使用した葱チャーハンです」 め…村上さんの対応に戸惑いつつも私は『埼玉のチャーハン』を口に運びました。 少し塩辛い気がするのだけど料理人さんの好みなのかしら? (何故かしら? 一瞬、汗だくの舞美さんの顔が浮かんだ様な気が……) 从*▼ゥ▼从<ガーッと流し込んで食べても美味しいよ。とか言ってw 前へ TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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えりかさんから「ちょっとお嬢様にお話しがあります」と声をかけていただいたので、 夕飯の後にお部屋に来ていただくことにした。 最近は悩んでいらっしゃるのか、深刻な顔をされていることが多かったから それについてのお話しかもしれない。いつも相談をしている方の私にアドヴァイスが できるかわからないけど、わざわざ私に声をかけてくださったのだから しっかり聞いて差し上げないと。 ドアをノックする音に続いてえりかさんが入ってきた。 表情を見ると意外にすっきりした顔つきだったので悪いお話しではないかもしれない、 と少し安心した。 「それでえりかさん、どんなお話しなのかしら」 「最近将来のことを考える機会が多くてね、うちなりにやりたいことがはっきりしたから まずお嬢様にお知らせしておこうと思って」 「えりかさんも高3ですものね、それで卒業後はどうなさるの?」 「卒業後とは少し違うんだけどー」 「どういうことかしら」 「うちさー、ファッション関係の仕事に興味があって、そのことでね、 ちょっといいチャンスに恵まれたから秋から転校することにしたんだ。 卒業まで後わずかだけど、今すぐ決めないとこのチャンスは生かせないみたいだから 思い切って転校することにした。お嬢様とお別れするのは寂しいけど 転校してからも会う機会はあるだろうし・・・」 「えりかさん、何をおっしゃっているの? 転校ですって? 冗談でしょう?」 突然のことに頭がついていかず、えりかさんのお話しを遮ってしまう。 動揺している私とは対照的にえりかさんはしっかりした表情でお話しを続けられた。 「冗談じゃないよ、うちこれでも真剣に考えたんだ。秋には転校して目標に向かって 頑張ってみるよ」 「そんなえりかさん私のことがお嫌いになったの?」 「お嬢様違うよ、そうじゃないよ。お嬢様のことをうちが好きなのはこれまでも これからも変わらないよ。ただうちの目標をかなえるのに、ちょうどいい機会があって・・・」 「待ってちょうだい、えりかさんお待ちになって。 ご冗談でしょう? でも嘘なんだよっておっしゃるんでしょう?」 「さっきも言ったけど本気の話だよ。嘘なんかじゃないんだよ」 そんな・・・。 えりかさんが卒業よりも半年も前にここからいなくなるなんて考えられない。 私はまた同じことを口にしていた。 「でも嘘なんだよって続けるんでしょう?」 「嘘なんかじゃないよ」 「お願い、でも嘘なんだよっておっしゃって! だってそうじゃなかったら本当のお話しになってしまう!」 「だから本当の話なんだよ」 そんな・・・。私の頭は真っ白になった。 TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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十日目。 トンッ。 目の前に置かれた夕食を見て、私は夕食を置いた張本人を見る事なく溜め息を吐きました。 中華スープとれんげが置かれた時点でもう分かり切っているもの……。 「……………」 「……………」 「め…村上さん」 「何でしょうか? 千聖お嬢様」 「今日はどちらの名産品なの?」 「今日は『東京のチャーハン』です。お下げしますか?」 「……いいえ、食べるわ。味付けに使用した調味料はご存知?」 「塩、胡椒、コンソメ、あとは……。これは言わないでもいいでしょうか」 「何かしら? 気になるわ」 「愛情……と伺いました」 め…村上さんの対応を軽く流しながら私は『東京のチャーハン』を頂く事にしました。 愛情でも母親から愛情の様な気がするのは気のせいかしら。 (何故かしら? 一瞬、割烹着姿の須藤さんの顔が浮かんだ様な気が……) 从o゚ー゚从<じゃ、お嬢様。食べようか 前へ TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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「「……………」」 あまりの事に二人とも言葉が出なかった。それほどまでに強烈過ぎた。 と同時に身近にいるのは理想像なんだと思った。 「みや」 「ちぃ」 「……お金持ちって分からないね」 「……何人の生徒が現実を見るだろうね」 釘を刺されていたけれどネタを探してしまうのは記事を書く者の性でしょう。 と興味を抑えられずに近付いたのが運の尽きだった。 「ねぇ、部長は?」 「何か察知して帰ったみたい。記者の勘ってやつじゃない?」 私達はまだまだということか。 何度説明しても自分の記事を書いてほしいと駄々をこねる人を尻目に溜息を吐いた。 それにしても…… ノノl;∂_∂ ル<部長と口喧嘩したらどっちが勝つかなぁ? 从;´∇`从<話が噛み合わなくて喧嘩にならないと思うもんに~保全 前へ TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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前へ ホームルームのあと、今日は進路指導があった。 あらかじめ届け出ている志望をもとに、進路の方向性を具体的にある程度絞り込んでいくのだ。 もうそんな時期に来ているんだな。 進路指導を行うという今日の二者面談。 他の生徒の面談は順調に進んでいたようなのに、僕の面談だけは何故か異様に長かった。 長い進路指導の時間を終えると、僕は生徒会室へと向かった。 今日は生徒会の仕事があるのだ。 生徒会室のドアを開けると、そこには小春ちゃんがいた。 「進路指導、いま終わったの? 遅かったねー」 「うん。なんか、たっぷり説教されちゃったよ・・・」 「説教って、進路指導じゃなかったの? そんなに成績悪かったんだ」 まぁ、確かに僕はそっち方面でも先生から説教受けそうだけど、いま受けてきた説教はその事では無い。 「進路指導のはずだったのに、その前にお前には生活態度のことで聞きたいことがたくさんあるとか言われて」 「そうなんだー。それは長くなるはずだね」 小春ちゃんの顔が、わくわくとした楽しげな感じに変わってきた。 「最近遅刻はやたら多いし、生活がたるんでる証拠だって言われた。 応援団の上級生からも目を付けられてるようだし、あろうことか警察から電話はかかってくるし、どうなってるんだって。 まずそういう態度を改めて、学生の本分とは何かを真面目に考えろって言われた」 なんで、この僕がそんなことを言われるようになってしまったのだろう。 僕は、どっちかというと入学以来ずっと真面目な方のキャラクターだったはずだ。 先生の手を煩わせたりすることなど殆ど無い、ごくごく普通の善良な一般生徒だったはず。 そんな僕が、どうして生活態度を改めろなどと言われるようなことになっているのだろう。 生活態度が悪いなんて、去年の面談では一回も言われたことなんか無かったのに。 「1年の頃はこんなこと無かっただろ。何かあったのか?」 とか、先生から真顔で聞かれる始末。 心当たりは、あります。 ありますけど、言ってもしょうがないことは言ってもしょうがないことだ。 運命だと思って、あきらめて受け入れるしかないんだ。 「そんなこと言われたんだー。あははははは」 「笑い事じゃないよ、小春ちゃん」 「だってさー、面白すぎだよw 小説でも読んでるみたい。ある時期を境に謎のキャラ替え。あははは」 「キャラ替えって・・・僕はいつだって変わらず僕のままなのに」 「でもさ、先生からそんなこと言われるなんて、そんなのむしろ光栄でしょ? うちの学校はやったもん勝ちの校風なんだから」 「まぁ、そうなんだけど、言われるにしても内容が何と言うか僕的に不本意っていうか・・・」 「大体なんで僕は、こんなに校内のいろいろな人から目を付けられてるんだろう」 「いろいろな人って?」 「まず先生でしょ。それから応援団の人たち」 「応援団の人たちとも関わってるんだ」 「関わってるというか、マークされてるみたいなんだ。あの日以来ね」 そう、あの日。 熊井ちゃんがこの学校に乗り込んで来たあの日から、この学校での僕の立ち位置が変化したのだ。 「あの人たち礼儀作法にうるさくって。会ったら直立不動で挨拶しなきゃならないんだよ。 何で一般生徒の僕にまで・・・今までは全然関係無かったのに」 「あとは、親衛隊の人たち・・・」 「親衛隊?」 うん、そうだよ。小春ちゃん・・・ 「小春ちゃん、あの人たち、なんとかならないんですかね」 「なんとかって?」 「なんか、あの人たちからずっと見張られてる感じがするんだよね。怖くてしょうがないんだけど」 「会うと露骨に睨んでくる奴もいるし。でも、睨みつけてくるだけで直接は絡んできたりしないんだけどね」 久住小春親衛隊の連中、僕のことを恐れているんだな。 まぁ、硬派で知られるこの僕には、さすがの久住小春親衛隊の連中も手を出せないってことだ。 「ま、親衛隊といえど、この僕にケンカを売ろうなんて、そんな度胸のある奴はそうそういないだろうけどさ(キリッ」 実は、親衛隊の人達が僕に直接的に手を下したりしてこないのは、もちろん別の理由があるからなのだ。 その理由を、このときの僕は全く知らなかった。 それは、あの時僕と一緒にいた彼女のおかげだということ。 あの出来事のあと、泣く子も黙る久住小春親衛隊からもすっかり一目置かれる存在となっていた彼女。 そう、熊井ちゃんの存在こそが、彼らのブレーキになっているのだった。 親衛隊の人達から僕を守ってくれているのが熊井ちゃんだなんて。 それを知るのは、この後ずっと時間が経ってからのことになるのだが、今の僕はそんなこと全く知る由も無いのだった。 「そうなんだー。でもあの人たち、私にはすっごく親切にしてくれるんだよ」 「そりゃそうだよ。小春ちゃんのことを絶対神だと思ってるような人たちなんだから」 「まぁ、仲良くね。みんなで楽しくやろうよ」 それは僕ではなく、是非彼らに言ってあげて下さい。 小春ちゃんの言うことなら素直に聞くだろうから。 「そんな感じでさ。応援団に親衛隊。この人達のせいで僕の学校生活は毎日緊張の連続なんだよ」 自分の学校の中でぐらい、リラックスして過ごさせて欲しいんだよ。 ただでさえ、毎日毎日緊張から開放されない日々を送ってるんだから。 それもこれも原因は全てあれだ。 あの日この学校に殴りこんで来た熊井ちゃん、あの人が全ての元凶なのだ。 熊井ちゃん、本当に頼むよ。 なんで彼女は他校である僕の学校でそんな原因をつくってくれるんだ。 そして、何でこの僕がその影響をモロ被りすることになるんだ。 僕がため息をついていると、小春ちゃんが突然思いもかけないことを言い出した。 「その人達以外にも、不安材料はまだあるでしょ?」 「え?」 「ついこの前、うちの生徒会にあの学園の風紀委員長さんから直々に呼び出しがあってねー」 学園の風紀委員長さんって、それってなかさきちゃんのことじゃないか。 呼び出し? なーんか嫌な予感がするぞ。 「それでね、わたしが学園に行って話しを聞いてきたんだけど、うちの学校の生徒が学園の生徒につきまとったりしてて、とても迷惑してるんだって」 「そ、そんなことする人がいるんだ・・・」 「それでね、そういう風紀を乱す行為をする生徒を厳罰に処して欲しいっていう苦情だったんだけどね」 ニコニコ顔の小春ちゃんが顔を近づけてきた。 これすごく嬉しいんだけど、いま僕は小春ちゃんの言ったことに動揺を隠せず、それどころでは無かった。 「あははー、やっぱり心当たりがあるんだ!」 「学園の風紀委員長さんに名指しで苦情を入れられるなんて、そんなの初めてだよ。あはははは」 「名指し・・・なかさきちゃんが僕のことを名指しで・・・・」 「なかさきちゃんって、なっきぃのこと? そうやって呼ぶんだ」 「でも、そんな名前で呼ぶほどの仲なのに、なんでそんな苦情が来るようなことになってるのー?」 「僕にもよく分からないんだけど、いつのまにか事態が泥沼化してしまってて・・・ 本当に何故なんだろう」 本当に、どうして僕の学校生活はこんな風になってしまったのだろう。 校内を歩けば、応援団やら親衛隊だのといった余り関わりたくないような人達が僕のことをジロジロ見てくるし。 そして、ついに他の学校から名指しで苦情を入れられるようにまでなってしまった。 高校に入ったばかりのころ、僕の毎日はこんなでは無かった。 もっと落ち着いた、平凡だが平和な毎日を送っている、そんなごく普通の高校生だったはずだ。 それが、どうしてこうなった・・・ 「色々な人達から目を付けられたりして、ホントに楽しそうだねー」 明るく笑う小春ちゃん。 僕にとって笑い事じゃないんだよ、本当に、もう。 楽しくなんか無いから、全然。 次へ TOP
https://w.atwiki.jp/chisato_ojosama/pages/393.html
前へ 「さ、そろそろ次の場所に移動しよっか!お嬢様、お腹は空いてないですか?おやつありますよ」 「ウフフ、まだ大丈夫です。お昼ごはんをたっぷり食べたから」 「・・・それより、動物園出たらその被り物取ってよね」 キリンとレッサーパンダのヘアバンドを気に入ってしまった2人は、それぞれイメージにあった動物のやつを、みんなへのお土産に決めたみたいだった。(私は鹿の角のを買わされそうになったので全力で抵抗した) 動物園の次、最後は千聖のリクエストで、アイドルグッズのお店に行く事になっていた。 現在時刻は15時30分。ここからそのショップまでの移動時間、さらにショップから門限どおりに寮に戻る時間を合わせても、2時間近い時間の余裕がある。 動物園で帳尻を合わせたから、なっきぃの栞の時間はきっかり守っている計算になる。でも、考えてみたら、アイドルショップに2時間ってどうなの?そんなにやることなくない? 「ねえ、千聖。C-uteグッズ見るの30分ぐらいにして、服でも買いに行かない?ほら、近くにファッション専門のビルがあるから。ももちゃんがよく制服に合わせてるベストとかリボンとか売ってるお店も入ってるよ。」 「あら、そうなの?でも、ももちゃんの制服のようになるなら、あまり購買意欲はわかないわね。ウフフ」 「あ、お嬢様。でもそこのお店なら、えりも好きだって言ってましたよ。結構いろんなテイストの服売ってるみたいだし、必ずしも桃子みたいにはならないかと」 「えりかさんが?それなら安心ね」 ――ももちゃん、ご愁傷様。 「でも、舞。30分ではC-tueのグッズを十分に見る事は難しいと思うわ。私、通信販売で買い溜めてはいるけれど、まだまだ持っていないグッズがたくさんあるのよ」 そう、最近の千聖が時代劇の他にハマッているのが、このC-uteというグループ。その中でも丘井ちゃんというメンバーが超お気に入りらしい。 「だったら、お店の人に“丘井ちゃんに関係のあるグッズ全部ください”って言えばいいじゃん。で、自分が持ってるやつはそこから除けば」 「もう、舞ったら。私は、何も丘井さんの全てのグッズが欲しいというわけじゃないの。ちゃんと選んで、厳選したものを大事にしたいわ」 「・・・千聖って、お金持ちのくせに欲がないよね」 「あら、そうかしら?」 考えてみれば、千聖の部屋はかなり広いけど、そんなに物は置いていない。寮もお屋敷も、ゴテゴテしたいかにもお金かかってますって感じの内装じゃなくて、仕立てのいい調度品で落ち着いた雰囲気を出している。 お屋敷の外に出る機会がそうそうないっていうのもあるだろうけど、これだけ金銭感覚がしっかりしているなら、将来的に舞のところにお嫁に来ても(以下妄想)。 「舞、それなら、1時間ぐらいでどうかしら?残りの時間を、服を見る時間に当てるのは?」 「んー・・・まあいいか。でも、なるべく早くしてよね!おそろいの服とかアクセサリー買いたいし」 「いいねいいね!お嬢様と舞と私がおそろいの服かぁ」 ――お姉ちゃん、空気読んでおくれやす。 アイドルショップは駅から歩いて5分ぐらいの場所にあった。店内は結構広いけど、休日だけあって、かなり混雑している様子。少しすくのを待とうかという話になって、店内が見える位置にあるベンチに座った。 「すごい人気ですねー」 男の人ばっかりかと思ったら、親子連れや同年代の女の子たちもいたりする。姉妹ユニットのBerrys工房のグッズも扱っているらしく、どっちかにしなさい!なんて怒られて泣いてるちびっこもいる。 お店の外では、くじ引きかなんかで当たった写真を、自分の好きなメンバーのと交換してもらうための“臨時交換取引所”みたいなのまで即席で作られていた。・・・なんか、アイドルショップって、雰囲気が独特。 「こんなにたくさんお客さんがいて、丘井さんのグッズ、ゆっくり見れるかしら?私、何だか緊張してきたわ」 「えっ緊張ですって!そんなときはまかせてお嬢様!舞美の七つ道具、アメちゃん!どうぞ召し上がれ!バナナもありますよ」 「え、あの・・・むぐぐ??」 「ちょっと、ここ飲食禁止だから!」 お姉ちゃんは登山用リュックから取り出した食べ物を次々に千聖の口に押し込む。やめて!周りの人の目線が痛い! 黙って佇んでいれば、そこらへんのアイドルなんて勝負にならないほど美人でかっこいいお姉ちゃんなのに、服装込みでどう考えても不審者。さわやか笑顔が逆に怖い。 あぁ、何てもったいない!違うの、普段はもう少しまともだから!制服の時のお姉ちゃんを目の肥えたヲタさんたちに見せ付けてやりたい・・・! しばらくすると、お店の喧騒が少し収まってきた。依然人は多いものの、混雑の切れ間になったらしい。 「行こう」 「ええ、そうね」 舞美ちゃんの暴挙で、緊張も若干ほぐれたらしい。千聖はすっくと立ち上がると、一直線にお店の入り口へ足を進めた。 「ちょ、ちょっとぉ!勝手に行ったら・・・」 「ん?手つなぎたいの?しょうがないなあ、舞は甘えん坊将軍だ!とかいってw」 「違うよ、もう!千聖一人にしたら危ないじゃん!あんな男の人ばっかりのとこに・・・」 女子校育ちの私も舞美ちゃんも、決してこういう雰囲気に慣れてるわけじゃないけど、千聖は私たち以上に免疫がないはず。 入り口近くのモニターで、ライブDVDを見ながらめっちゃ激しく踊ってる人、どういうつもりか写真に話しかけている人、○○の方が○○より可愛い!みたいなケンカをしてる大の大人・・・なかなかカオスな光景だ。 「千聖は?こんな光景見たらショックで倒れちゃってるんじゃない?大丈夫なの?」 「ん?お嬢様ならあそこで・・・」 舞美ちゃんが指差す先には、丘井ちゃんの写真の前で、熱心にメモを取る千聖。ほしい写真を厳選している真っ最中で、勉強の時とかには絶対に見せないような集中力を発揮しているのが傍目にも伝わってくる。どうやら心配は無用のようだった。 「なんかさ、丘井ちゃんって、どことなくお嬢様に似てるよね。雰囲気が」 「確かに。丘井ちゃんの元気で明るいところが、千聖が“こうなりたい”って思う理想の女の子に近いんだってさ」 あんなに夢中になっちゃって、本当に好きなんだなあ。ま、相手は芸能人だし、この場合は別に嫉妬の対象にはならないんだけどね。 一通り写真を選び終えた様子の千聖は、背が小さいから譲ってもらえたのか、はたまた実力で勝ち取ったのか、今は最前列でうっとり丘井ちゃんの写真に見入っている。 っていうか、何か「お会いできて嬉しいわ」「ええ、もちろんです」とかいって楽しそうにおしゃべりしているみたい。写真と。か、会話ってあんた・・・さっきの一方的に話しかけてる人よりレベル高くね? 「あはは、お嬢様は大丈夫そうだねー。」 「いやいや、全然大丈夫じゃないじゃん!むしろ頭がダメな感じになってるじゃん!」 「まあまあ、細かいことはいいじゃないか!それより、舞はグッズ買わなくていいの?私、リーダーの写真ちょっと見たいなあ」 「んー・・・」 そう、巷で人気のC-ute、私たちも例に漏れず、それぞれごひいきのメンバーがいる。 千聖は明るくてムードメーカーな丘井ちゃんが好き。 お姉ちゃんは天然でさわやかなリーダーの麻衣美ちゃんが好き。 私も千聖ほど熱心じゃないけど、最年少で小悪魔っぽいキャラの麻衣麻衣がお気に入り。 もちろんなっきぃやえりかちゃん、栞菜に愛理も好きなメンバーがいて、結構寮で盛り上がったりすることもある(鬼軍曹は知らんけど、いかにも好きそうなキャラのメンバーがいるから多分・・・) 「ウフフ、千聖ね、今度舞台を鑑賞させていただくの。ええ、とても楽しみ」 千聖の楽しげなトークはまだ続いていた。 うわっ・・・我が愛しのハニーとはいえ、あいつマジキメぇ・・・。あれを放置するのも(逆の意味で)気が引けるけど、とりあえず周りに危害を加えることはないだろうし、よもやあんな覚醒状態の千聖に絡もうという勇者もいますまい。 さっきまで良識的な楚々としたお嬢様だったのに、大好きな丘井ちゃんグッズに囲まれるという非日常的な出来事は、千聖のテンションメーターをぶっちぎってしまったみたいだった。 「・・・お姉ちゃん、ちょっと別行動ね」 「ん?うん、わかった!」 まあ、せっかくめったに来れないアイドルショップに来たわけだし、私も麻衣ちゃんグッズを物色してみることにした。 へー・・・写真の他にも、文房具なんてあるんだ。タオルとかTシャツは、コンサートで使うのかな?たしかにこれは、厳選してグッズを買うとなると、30分じゃ無理だろうな・・・。 店内をぐるりと見渡すと、さっき踊ってる人がいた、C-uteのDVDの前に、人だかりができていた。コンサートのDVDでよく見る、掛け声つきで盛り上がっている。 何が起こっているのかは見えないけど、近くにいる人の話を盗み聞きしたところ、可愛い女の子達がノリノリで踊っているらしい。・・千聖といい、C-uteのマジヲタさんって元気だなぁ。 ***裏デートツアー*** 「ドタバタしててもラミラミラミラミ」 「メチャクチャしたいのラブ・ミー・ドゥ!!!」 ――あああ・・・やめてやめてやめて!お願いだからやめて! C-uteのオフィシャルショップ。ツアーDVDが流れるプロジェクターの下で、栞菜とめぐぅが激しくラミラミしている。アホか!何であえて目立つ行動取ってるんだYO! アイドルのお店になんか来たら、美少女大好きな栞菜がおかしくなるっていうのは十分想定できていた。 でもめぐぅもいるし、2人がかりで取り押さえれば・・・なんて考えていたら、めぐぅもハッスルハッスルしてしまった。そうだ、こいつは目立ちたがりやなんだった!すっかり忘れていた。 めぐぅも栞菜も身内びいきなしでかわゆいから、またたく間に店内のオタさんたちが集まって、軽いライブみたいな状態になった。めぐぅの無駄にキレのいいダンス、栞菜の「ええい、美少女はいねえのか!」という女王様ばりの恫喝に、会場(?)もヒートアップしていく。 おまけに、今日の私たちは不必要に目立つ格好をしている。色合い的に、ヲタTならぬヲタトレーナーで来訪した痛いファンのようにも見えるから、余計に手厚く迎えられてしまったみたいだ。 「ほら、えりも一緒に!わっきゃなぁい」 「「「ゼエエエエット!!!」」」 「ウチのことは放っておいてください・・・」 這う這うの体でその輪から抜け出すと、私はヨレヨレになりながら、柱の影に身を寄せた。 そこそこ広いお店でよかった。舞美も舞ちゃんもお嬢様も姿が見えないから、この動乱には気づいていないみたいだ。それぞれひいきのメンバーのグッズを見ているんだろう。 「この時間に、服買いに行きたいよぅ・・・」 もうお気に入りの埋めさんグッズは手に入れた。尾行以外の理由で、これ以上ここにいる理由は別にない。 ここ見た後はもう寮に帰る予定だったはずだし、ほんの5分だけでも!だめかな・・・? 「あら・・・?えりかさん・・・?」 甘い誘惑と戦っていると、急に目の前に見知った顔が現れた。 「わぁっ!お嬢様!」 「えり?」 「・・・と、舞美」 ショップの紙袋を手に提げた2人が、目をパチクリさせて私を見ている。バ・・・バレてもーた!レジにいたとは! 「あの・・・ごめんなさい!決して邪魔するつもりでは」 「・・・ウフフ。もう、えりかさんたら心配性なんだから。そのお洋服、動物園もお楽しみになったみたいね」 「えっ、えりも動物園にいたの?一人で?奇遇だねー!」 「いや、舞美・・・」 舞美はともかく、お嬢様は尾行されていたことに気がついたみたいだった。だけど特に怒っている様子もなく、「素敵なトレーナーね」なんてのほほん笑顔で私の傷をえぐってくる。 「うぅっ・・・お嬢様ぁ、実はかくかくしかじかで」 「まあ、そうだったの。災難だったのね。でも、大丈夫よ。後でめ・・・村上さんに染み抜きを頼みましょう。千聖のコートをお貸ししたいけれど、サイズが合わないかしら」 半ベソ状態の私を、お嬢様は優しく慰めてくれた。お姉ちゃんモードになると、とたんにしっかり者になるのが不思議なところだ。 そんなお嬢様につられたのか、目をらんらんとさせた舞美が力強く肩を叩いてきた。 「えり、安心して!私こんなこともあろうかと、ちゃんと着替え用意してきてるから!舞美の服貸してあげるっ」 「え、あると思ってたんかい」 「さ、こっちこっち!ずっとここにいたら舞にバレちゃうから。トイレで着替えよう!」 「ウフフ、いってらっしゃい。あせらなくて大丈夫よ」 あの、気持ちは嬉しいけれど、舞美のモサフリワンピはちょっとうわやめろ何をする! 栞菜たちにどう説明しよう、なんて場違いなことを考えながら、私は登山リュックを背負った舞美に引きずられて強制連行されていった。 次へ TOP