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「たっだいま~」 今どき、どこの家の玄関だって鳴りはしないだろう耳障りな音を立て、千聖の家の玄関は開いた。 玄関が開くと、既に妹たちが兄の帰りを待ちわびたかのように横に一列に並んで立っていた。 「おかえり」 「今日はたんと買い物してきたからね。夕ご飯は楽しみにしててよ」 「うん。買い物袋は私が持つね」 一番上の妹の明日菜が袋を受けろうと手をさしのばしてくる。 自分と年が二つしか離れていないのに子供とは思えないしっかり者で、家では一番の働き者だ。 千聖がいない時は、この家のいわば大黒柱は明日菜になる。 それだけに、小さな頃は細腕だった明日菜も以前よりもがっしりとした印象がある。 袋を受け取った腕をみて、心の中で『苦労をかけてごめんな』と謝る。 家の奥に消えていく明日菜の背中を見送っていると、 「お兄ちゃん、商売道具はオイラが持つよ」 今度は肩にかけている靴磨き道具の入った袋を持とうと、弟が手を伸ばしてくる。 にっこりと笑い、欠けた前歯を覗かせて、弟は千聖からふんだくるように鞄を持ち去って行った。 特に重いものが入っているわけではないが、まだ幼い弟には重いので鞄が床を引きずられている。 鞄には何か所か不自然にアップリケが張られているのだが、その原因は言うまでもなく弟が作ったものだ。 だけど、千聖はそれを咎めることはしない。 弟が兄の手伝いをしたいと思ってくれるだけで、嬉しいのだ。 しーんと静まり返った玄関に取り残され、千聖は完全にダンを紹介するタイミングを逃してしまったことに気づいた。 いきなりダンを紹介したかったのだが、それでは驚かせてしまうと思い、千聖は玄関前にダンを待機させていた。 ダンは相当優秀な犬のようで、物は試しとやってみた『待て』という指示をすんなりと聞いてくれた。 ここは『待て』を解除して呼び出そうか、そう思っていた時、自分の足元で「クゥーン」と鳴き声がした。 さすがにずっと『待て』の状態は厳しかったか、足元に目線を映すとつぶらな瞳でダンが千聖を見上げていた。 「ちしゃ、いにゅ。ちしゃ、いにゅ。ちしゃ、いにゅ」 パチパチを手を叩き、大人しくしていた一番下の妹が嬉しそうにはしゃいでいる。 一歳の赤ん坊でも犬が可愛いと感じるのか、ハイハイをして進んでくる。 「危ないって。落ちたら怪我しちゃうだろう。ダメだよ、メッ!!」 「ちしゃ、いにゅ。ちしゃ、いにゅ。ちしゃ、いにゅ」 「はいはい、わかったって。後でちゃんと紹介してあげるから。よしよし」 妹を抱きかかえ、靴を脱いで家に上がって中に進む千聖。 足元には、すっかりなついたダンが千聖の歩幅にあわせてテクテクと歩いている。 そんなダンを見ていると、犬が大好きな千聖は顔がほころばずにはいられなかった。 「可愛い奴め。えへへへ」 「クゥーン ’w’) 」 ここまできてしまえば、もうそのまま妹たちにみせるしかないと判断した千聖は、威勢良くドアを開け放った。 「ジャーン!! 聞いて驚けよ。今日からうちの新しい家族の紹介だ。仔犬のダンです」 「クゥーン ’w’) 」 「え、えぇぇ~犬がうちにいるよ。お兄ちゃんが連れてきたの? か、かわぃぃ」 一瞬驚きに満ちた表情をしていた明日菜も、犬好きの岡井家の血が騒ぐのかすぐにダンを抱きしめにきた。 弟もダンの登場に大喜びで、その場で飛び跳ねてダンの仲間入りを歓迎している。 「よかったな、ダン。これでお前も今日からうちの家族だぞ」 ダンの小さな頭をくしゃくしゃに撫でてやり、千聖は新しい家族を迎え入れた。 ダンが仲間入りを果たしてから数日、千聖はいつも通りにガード下に靴磨きをしにやってきていた。 今日からダンがいてくれるから、今までと違って寂しくお客さんが寄ってくれるのを待たなくてもすむのがとても心強い。 ダンは千聖の前を人が通るたび、物悲しそうな声で「クゥーン ’w’)」と鳴くので呼び込み役になっている。 毎日、千聖の前を通っても素通りしていたお客さんまでもがダンが鳴くたびに反応を示してくれる。 「君って犬と一緒にいたかな? 前に見た時は君だけだったと思うけど」 「あっ、気づいちゃいました。そうなんです。最近飼い始めたんですよ。ダンって言ってとてもお利口なんです」 「ふぅ~ん。可愛い上にお利口とあっちゃ主人としたら最高の犬じゃないか」 ダンが褒められると、自分が褒められているようで千聖は誇らしげな気持ちになる。 そういうときは、靴を磨く手にも自然と力が入り、お客さんからも綺麗になったと評判がいい。 だから今もお客さんの靴が太陽の光を反射してピカピカに輝いている。 「ありがとう。おつりはいいよ。ダンの餌を買う資金にでもしてよ。それじゃあ」 「え、あ、ありがとうございました。またお願いします」 小銭をじゃらじゃらと言わせていたほんの数日前と違い、今は自分の知らないおじさんの顔が印刷された紙がいっぱいある。 缶に貯まったお金をみつめ、千聖は世界一のお金持ちになったと錯覚するほど、気持ちは舞い上がっていた。 それだけに突然いなくなったダンのことになど気づいてもおらず、戻ってきたときにダンが口からぶら下げた子供サイズの小さな靴には驚かされた。 「ダン、今までどこ行ってたんだよ。っていうか、お前の口にある物は何だ?」 手にとってみると、間違いなくそれが子供用の靴だということがはっきりわかった。 それも自分が磨く必要がない新品同様の靴であり、どんなにお札を持っていたとしても千聖には買えない物でもあることもわかった。 「全く悪戯っこだな、誰に似たんだよ。持ち主に返さないといけないぞ。どこにいるんだろう・・・」 持ち主が今頃困っていないかなと心配して通りを行き交う人をみていると、背後から声がかけられた。 「そこのチビスケ。お前が持っているのは舞の靴でしゅ。返せ」 「うぉ~び、び、びっくりしたぁ~。って、あんた誰?」 千聖が背後に振り向いてみれば、そこには如何にも気の強そうな目をした可愛い女の子がいた。 ←前のページ 次のページ→
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十三日目。 トンッ。 目の前に置かれた夕食を見て、私は夕食を置いた張本人を見る事なく溜め息を吐きました。 中華スープとれんげが置かれた時点でもう分かり切っているもの……。 「……………」 「……………」 「め…村上さん」 「何でしょうか? 千聖お嬢様」 「今日はどちらの名産品なの?」 「今日は『神奈川のチャーハン』です。お下げしますか?」 「……いいえ、食べるわ。味付けに使用した調味料はご存知?」 「塩、胡椒、醤油、あとは……(やばい! 一昨日以上にやばい!)」 「あら? どうかした?」 「…11種類の調味料を使用したジャングルな味付け……みたいですよ」 め…村上さんの対応を軽く流しながら私は『神奈川のチャーハン』を頂く事にしました。 香りだけで体が食べる事を拒否しそうになってるのは気のせいかしら? (何故かしら? 一瞬、得意げな佐紀さんの顔が浮かんだ様な気が……) 川´・_・リ<えっ? 食べれますよ。私は美味しいと思いますけど 前へ TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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「お嬢様、現代文の教科書はお入れになりました?」 「え?あ・・・忘れていたわ。ありがとう、栞菜」 お風呂あがり、まだほっぺが上気しているお嬢様が、私ににっこり微笑みかけてきた。 ハァーン! 午後22時15分。 就寝前、お嬢様の明日の準備を手伝いながら、私は幸せ気分に浸っていた。 もうかなり長い事、添い寝係をさせてもらっているけど・・・毎日こぉんなかわゆいお嬢様をクンカクンカしながら眠りにつけるなんて、最高の役職だと思います、マジで! 「・・・栞菜、ヨダレが出ていてよ」 お嬢様は少し眉をしかめて、私から体を遠ざけた。毎度の事だから、私の考えてることなんてお見通しなんだろう。 調子に乗って肩を抱いたり、耳に息を吹きかけたり、それどころかおpp(ryなど、前科多数なわけで。 だから、本日は少し趣向を変えてみることにした。 「失礼しました、お嬢様。準備が整いましたら、お声をかけてください」 「え?ええ・・・」 あえていつもみたいにベタベタせず、爽やかに微笑んでスッと立ち上がる。そのまま、ふかふかソファに腰掛けて、読みかけの文庫本を開いた。 お嬢様は時間割を確認しつつ、訝しげな表情のまま私を横目で伺っているみたいだ。 ――いかん、全然本に集中できないかんな。 617 名前:名無し募集中。。。[] 投稿日:2010/04/15(木) 17 27 27.26 0 「あ・・あの、栞菜?」 「はい、なんでしょう?」 お屋敷の執事さん(メイドさんじゃないところがポイントだかんな!)のあの所作を参考に、にっこり笑って立ち上がると、お嬢様は若干後ずさりした。 「あの・・・?どうなさったのかしら?」 「・・・もうしわけございません、何か不手際がありましたでしょうか」 「あ、そ、そうではないのよ。でも・・いつもの栞菜と違うみたい」 ――ああ、静まれ俺の野性!! 今すぐギューッしたい気持ちに笑顔で蓋をして、「そんなことはありませんよ」と言葉を返す。 「お嬢様、もう明日の準備はお済みですか?それでは、就寝いたしましょう」 「ええ・・・」 前を横切る私を、お嬢様の視線が追いかける。何か罠があるんじゃないかって、顔に書いてあるのがまるわかりだかんな。 「どうぞ、布団にお入りください」 お嬢様側の布団をペロリとめくり上げると、私を凝視したまま、小さな体がおそるおそるそこに収まる。 続いて隣に潜り込んだら、一瞬ビクッと緊張したものの、スキンシップを図ろうとしない私に困惑しているみたいだった。 「では、電気を消しますね。おやすみなさい、お嬢様」 「あ・・・お、おやすみなさい、栞菜」 618 名前:名無し募集中。。。[] 投稿日:2010/04/15(木) 17 28 22.12 0 薄暗くなった部屋の、お隣のベッドで、お嬢様が何度も寝返りを打ってもぞもぞしているのが気配でわかった。 大量のマクラのバリケードで表情は見えないけれど、寝息が聞こえてこないから、確実に目を開けて私を警戒している。 「・・・栞菜」 「・・・」 だから、あえて私は眠ってるふりをしてみせた。 「ねえ、寝てしまったの・・・?」 「・・・」 むくりと起き上がる気配。目を閉じて狸寝入りを続行していると、お嬢様の手が私の腕に触れた。 「・・・どうなさったの?今日の栞菜は、何だか栞菜じゃないみたいだわ。 私、いつもの栞菜のほうが好きよ・・・・」 「・・・・はい、録音完了♪グヒョヒョヒョヒョ」 私はパチッと目を開けて、私の顔を覗き込んでいたお嬢様の柔らかほっぺを両手でぷにっとつまんだ。 「え・・・・・・なっ!何でそa-0ekあ$ぅ4」“じ3;‘@フガフガフガフガ!!!」 一瞬間をおいて、お嬢様はベッドの縁ギリギリまで器用にピョーンと後退した。 にやにや笑っている私の顔で、自分がからかわれたということに気がついたみたいだ。 619 名前:名無し募集中。。。[] 投稿日:2010/04/15(木) 17 29 46.76 0 薄明かりの中でも、小麦色のほっぺが紅潮していくのがよくわかる。 「ひどいわ、栞菜ったら!千聖をからかったのね!」 「ぶっ」 力いっぱいの顔面マクラ。最高だかんな! 「さっき録音したと言っていたでしょう?早く消しなさい、命令よ!」 「無理だぜ、千聖。さっきの千聖の告白は永久に消えないさ。しっかり録音(きざ)みこまれちまったからな・・・アタイのここ(心)に・・・」 「何を意味のわからないことを言っているの!千聖は怒って・・・もう、何をするの、やめなさい、命令よ!栞菜!どうして抱きつくの!」 思わぬ愛の言葉(?)に舞い上がった私は、いつもどおりお嬢様に飛び掛って、双方ぐったりするまで存分にプロレスを楽しむことになったのだった。 翌日、食堂で鉢合わせた舞様に「あんなのは告白のうちに入らないでしゅから。ケッ!」と威嚇されたのはまた別の話。 ――何で知っていらっしゃるんでしょう、舞様・・・・・。 TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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パシャ パシャ パシャ パシャ パシャ パシャ…… 慌ただしい朝の時間。私は学校へ行く準備に追われていました。 えっ? 後何分あるのですかって? 一時間以上はあるわね。 パシャ パシャ パシャ パシャ パシャ パシャ…… それにしても驚いたわ。突然お見えになるんですもの。でも嬉しいわ。 近い将来、私の本当の家族になって下さる方だから。 パシャ パシャ パシャ パシャ パシャ パシャ…… だってどんなに望んだって寮の皆さんが本当の家族になって下さる事はないのだもの。 っていけないわ。私の悪い癖。ついつい無い物ねだりをしてしまう。 顔を上げて鏡の前で微笑んでみる。 「今日も楽しく過ごせます様に」 リ*・一・リ<家族の愛に飢えているの保全ですわ。グフッ。 前へ TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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十日目 裏側 トンッ。 テーブルに置かれた一皿の炒飯。 須藤茉麻作。調味料に塩、胡椒、コンソメ、愛情を使用した『東京のチャーハン』 「せ~~の」 「「「「「「いただきま~~す!!」」」」」」 小皿に各自で小分けして一斉に口へと炒飯を運んだ。 「こ、これはっ!?」 「お、美味しい。そしてあの言葉しか出てこない!」 「どうする? みんなで一斉に言う?」 「言おう言おうっ!」 「じゃあ、いくよ。せ~~の」 「「「「「「ママーーッ!!」」」」」」 隠し味の愛情から母性を感じ「ママ」と叫ばずにはいられなかった六人だった。 「「「「「「ごちそうさまでした~~!!」」」」」」 「お粗末様でした」 十日目。『東京のチャーハン』 総合評価……10点中9点(持点一人2点) 从o゚ー゚从<もっと食え! …とゆいたい 川;´・_・リル; ’ー’リ从;´∇`从ノノl;∂_∂ ル川;^∇^)||州;‘ -‘リ<お、お腹一杯です… 前へ TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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前へ もぉ軍団御用達のカフェ。 今日もいつものように角のテーブルを確保する。 いつもこの時間に席を取っておくように熊井ちゃんに言われている。 それが僕の役目なのだそうだ(当たり前のようにそう指示された)。 だが、こうやって毎回テーブルを押さえておいても、結局もぉ軍団の人は誰もやってこないということもある。 というかむしろ、いくら待ってても誰も来ないという日の方がずっと多い。 最初は、人に席を取らせておいて誰も来ないとはなんて軍団だ! と憤ったりもしたけれど。 熊井ちゃん曰く、そういうものなんだそうだ(全く悪びれることなくそう言われた)。 だが、それにも慣れた。 もぉ軍団の人たちが来ない日、僕はそれなりにこのカフェで有意義な時間を過ごしているのだ。 学校帰りにこのカフェで過ごすこの時間は、今では僕の生活パターンの中で結構楽しみな時間になっている。 評判の美味しいカフェラテを飲みながら、落ち着いて読書をしたり勉強をしたりすることのできるこの時間。 ひょっとしたら、むしろ軍団の人たちが来ない方が素敵な時間の過ごし方が出来ているのではないかとry 時間が経っても熊井ちゃんたちはやって来なかった。 今日も誰も来ないみたいだな。よしよし、落ち着いて読書できる。 よけいな邪魔も入らず優雅な時間を過ごすことが出来そうだ。 そう思ってくつろいでいたら、今日は珍しく軍団の人がやってきた。 ドアを開けて入ってきた小柄なその人は、店内を一瞥すると迷わず僕の取っていたテーブルに歩いてきた。 やってきたのは、なんと軍団長様じゃないですか。 いつも来る人といえば熊井ちゃんばかりだったので、桃子さん一人で来るのは初めてだ。 そういえば、もぉ軍団の人たちって言っても軍団の人が勢揃いしたことって無いんだな。 梨沙子ちゃん。彼女が全然来ないから。 いちばん彼女に来て欲しいのになあ。というか、来て欲しいと僕が積極的に思ってるのは彼女だけry それに比べて熊井ちゃんのよく来ること。よっぽどヒマなんだろうな。 閑話休題。 やって来たのは、桃子さんだった。 「よっ!少年」 僕の前に座ると、ココアを注文した桃子さん。 「桃子さん、おひとりなんですか?」 「うん、大学の帰りだから」 「大学の? ひょっとして合格発表・・・」 合格発表のその帰り? 暗い顔をしてるわけじゃないから、いい結果だったんだろうけど、何となくストレートに聞きづらい。 そんなことを脳裏に思い浮かべながら緊張気味に言いかけた僕に、桃子さんは噴き出しそうになりながら答えてくれた。 「あはは、違うよ。わたしは推薦入学だから。学園の系列大学のね、今日はガイダンスだったんだ」 あの学園の系列大学に推薦で進学なんて、薄々感じていたけど桃子さんって本当に優秀なんだ。 「春から大学生なんですね。おめでとうございます!!」 「ありがと」 見事大学生になれるっていうのに、桃子さんは飄々としてるなあ。 桃子さんのその雰囲気からは、“大学とは、入ることが目的なのではない。入ってから何をするかが大事なんだ”って感じが漂っている。 かっこいいなあ。急に桃子さんが大人っぽく見えた。 桃子さん、大学生かあ。 大学か。 僕もそろそろ進路のことも考えないといけないのかなあ。 「桃子さんは大学では何を専攻なさるんですか」 「教職課程を取るつもり。教育学部だからね。小学校の先生になりたいなと思ってぇ」 桃子さんが学校の先生・・・ ただでさえ少子化が問題になってるのに、日本の未来は大丈夫なんだろうか・・・ なんて一瞬思ってしまったけれど、決してそれを顔には出さなかった。 未来の日本というテーマに思いをめぐらせていた僕。 桃子さんの言葉で我に返った。 「少年、なに読んでるの?」 僕の読んでいた本に桃子さんが興味を示されたようです。 「これですか。“こころ”です」 「なーんだ、真面目な本だったか。つまんないの。ふーん、夏目漱石なんて読むんだ」 「日本文学の名作はひととおり読んでおこうと思って。勉強にもなるし」 「意外と勉強熱心なんだね。そっちの本はなに?」 桃子さんがテーブルに積んである文庫本を手にとって表紙を一瞥する。 「舞姫、ねえ・・・」 桃子さんの顔が苦笑いになる。何がおかしいんだろう。 「少年、これ題名だけでこの本を選んだでしょ」 「えっ? なんで分かったんですか?」 「そりゃ、わかるっつーの」 少年が期待しているような物語じゃないと思うけど、なんて桃子さんはつぶやきながら更に文庫本を手に取った。 「こっちは何? 源氏物語? 古典も読んでるんだ」 「何か参考になるかなと思って。千年も前の話ですけどね」 「参考にするって、何を?」 「光源氏の、、、いや、別に何でもないです」 源氏物語を読んでそのストーリー(次々と現れる美女!)を参考に妄想するのに最近ちょっとハマってるのは内緒。 そんな僕をニヤニヤとした顔で見る桃子さん。全てを見透かしているようなその眼差し。 舞ちゃんや栞菜ちゃんとはまた違う、桃子さんのやり方で心の底まで読み取られそう。 何て言うか桃子さん、この人はまあ何ともカンの鋭い人だな、って感じがするもん。 「いやその、今度映画化されるんで面白そうだから見に行こうと思ってるんです。その前に原作もしっかり読んでおこうかなあと」 「源氏物語、映画化するんだ」 「えぇ、キャストが何とも豪華なんですよ。これは絶対見に行きたいなと」 「映画見るの好きなの?」 「はい、映画見るのは大好きです。初めてのデートではまず映画を一緒に見に行こうと決めt 「そっか、源氏物語ね。チェックしておくよウフフフ」 ちょっと・・・最後まで言わせてください。僕の舞ちゃんとの初デート大作戦を最後まd 「この文庫本の表紙が光源氏役の人?」 「そうです。カッコイイですよねー、この役者さん」 「そっかぁ。こういう男性が好みなんだ、少年は」 好みって・・・ちょっと使う言葉がおかしくないですか? 「くまいちょーの言ってた通りだねウフフフ」 ?? なんだろ?また熊井ちゃんが何か変なこと言ってたのか。 もういちいち気にしていたらキリがないから、彼女が何て言ったのかは気にしないけどさ。 「そっか。少年そんなに映画好きなら、じゃあ今度もぉ軍団でも映画見に行くけど一緒に行く? ホラー映画だけど」 「いや・・その・・・みなさんの邪魔をしたら悪いので遠慮しておきますね」 「なんでさー? 遠慮なんかしなくていいのに」 女の子と映画を見に行くのって僕の夢なんです。きっといつかは舞ちゃんと・・・ それなのに、初めて映画を一緒に見に行くその相手がもぉ軍団の人達って。何かトラウマになる出来事でも起きたらどうしてくれるんだ。 「わかった! ホラー映画、苦手なんでしょ」 「違いますよ(本当はそれも図星なんだけど)。ホラーならゾン○デオは見に行こうと思ってますけど。これもキャストが魅力的だから。みなさんは何を見に行くんですか?」 「王様○ーム。面白そうでしょ。ゴメ○ナサイも見たかったんだけど」 カバンから映画のパンフレットを取り出して見せてくれる桃子さん。 このタイトル聞いたことある。携帯小説で有名なやつか。 あんまり興味なかったんだけど、パンフレットを見たら主演の子がとてもかわいい。あ、このメガネの子もいいなあ。 この手の映画は出演している役者さん目当てで見に行っても面白いのかも。 カワイイ子がたくさん出てるみたいだし、見に行ってみようかな。 でも、見に行くなら一人で見に行こうっと。 ホラー映画見てビビってるところをもぉ軍団の人達に見られたら確実に笑いものにされるだろうから。 そう、一緒に見に行ったら、桃子さんにはビビってるのを見抜かれて、さんざんからかわれるだろう。そして熊井ちゃんからはトドメの一撃をry そんな展開になるのがはっきりと目に見えるよ。 次へ TOP