約 1,225,103 件
https://w.atwiki.jp/stairs-okai/pages/21.html
明日も早いからもう一眠りしようか、と舞美ちゃんに言われて、一緒のふとんに入り込んだ。 さっきまでぐっすりだったからまだあんまり眠くはなかったけれど、すぐ近くに大好きな人のぬくもりがあるのは心地良かった。 「おねえちゃん。」 「ん~・・・」 呼んでみたけれど、舞美ちゃんはもうすでに寝付いてしまったみたいだ。 きっとすごく疲れてたんだろうな。全然関係ないのに私たちのゴタゴタに巻き込まれて。 もう一眠りなんて言ってるけど、舞美ちゃんはさっき寝ていなかったと思う。 私が目を覚ました時に寂しくないように、ずっと起きててくれてたんだ。 「ごめんなさい、おねえちゃん。」 私はこんなに子供で聞き分けがないのに、舞美ちゃんはそのことを咎めない。 その優しさが、今はどうしようもなく苦しかった。柔らかい棘で、心をつつかれているような気分だった。 朝になれば、もう少し落着いて考え事ができるかもしれない。 舞美ちゃんの匂いに包まれて眠ろうと思ったけれど、目を閉じればさっき夢の中で会えた千聖を思い出してしまう。虚しさが胸をよぎる。 「千聖に会いたい。」 何度つぶやいたかもうわからないけれど、また自然に唇から零れ落ちた。 がさつでお調子者で子供っぽかったけれど、誰よりも優しかった千聖。 どれだけ無神経な振る舞いをしても、勝手なことを言っても、千聖は私を見捨てないでいてくれたのに。 前の千聖に会って、ごめんねを言いたい。 顔中ふにゃふにゃにして、「舞ちゃんもういいよぉ」って笑ってほしい。 もう二度と、元気な千聖に会えなくなるなんていやだ。 「会いたい。」 私はピーピー子供みたいに泣くのは嫌だ。 キュートはみんな結構泣き虫だけど、自分だけは違うって思っていた。 でも、千聖のこととなると別問題だ。 なっきーの前で泣いて、舞美ちゃんの前で泣いて、「あの千聖」の前でも大泣きした。 今もすでに涙腺が決壊しそうになっている。 「ちさと・・・・・」 「舞。」 その時、私の肩に大きな手が触れた。 カッと目を見開いた舞美ちゃんがそこにいた。 「ひぇ・・・」 情けない声が出た。 「・・・・・」 私の名前を一度呼んだきり、舞美ちゃんは微動だにしない。 舞美ちゃんは喜怒哀楽のでやすいタイプだから、顔を見れば大体機嫌がわかった。 なのに今私を凝視するその顔からは、何も読み取れなかった。 美人の無表情って、すごく怖いかもしれない。 5分、10分、空気が凍りついたまま、時間がすぎていく。 「よし。」 何がよしなんだかわからないけど、舞美ちゃんはおもむろに立ち上がって、部屋を出て行った。 しばらくすると、何が言い争うような声が聞こえてきた。 “でも今じゃなきゃ” “こんな時間に非常識だろ” 何の話をしているんだろう。耳を欹てていると、勢いよくドアを開かれた。 舞美ちゃんの目が異様にキラキラしている。 「舞、行こう。」 「え、ちょっと待って。行こうって、どこに?」 舞美ちゃんに強引にTシャツを剥ぎ取られ、着替えさせられる。 そして、信じられないことを言われた。 「今から、ちっさーの家に行こう。」 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
https://w.atwiki.jp/chisato_ojosama/pages/109.html
前へ ほんの小さな違和感でも、それが積もり積もれば大きなものになる。 「うーん。」 私は梨沙子たちと楽しげにおしゃべりしている千聖を見て、首をひねっていた。 何が変というわけでもないけれど、どことなく普段の千聖と違う気がする。 いつもよりちょっとオーバーアクションだったり、全体的に演技っぽさを感じる。 しばらく会ってなかったから、千聖のテンションについていけてないだけかもしれないし 中学生なんて日々変わっていく時期だから、特別気にすることじゃないのかもしれないんだけれど。 例えば、髪をはらうような仕草とか。 例えば、お菓子をほおばる仕草とか。 そんなどうでもいいような所作が、前よりも優雅になっているような気がした。 お年頃だし、好きな男の子でもできておしとやかにふるまってるだけかもしれない。 多分、単なる気にしすぎなんだと思う。 そうでなくても、何だか今日はおかしな日だ。 いつものももと千奈美の小学生レベルの争いがなかなか収まらなかったり、梨沙子がいきなりおなかを痛めたり、かと思ったら満面の笑顔で医務室から戻ってきたり。 「なんだろうなー」 私は普段あんまり細かいことは気にしない性格だから、その分たまにこうやって気にかかることがあると、ずっとそればかりを考えてしまう。 せっかくこうしてキュートと交流する場が設けられているというのに、私は誰ともおしゃべりしないで、その辺においてあったポテチを食べながら何となくみんなを眺めていた。 「えー、でもそれは千聖がぁ」 「あっごめん!この話ちっさーは関係なかった!アッハッハ」 「そうだ、あの時千聖が言ってたって・・・」 「え!まあまあそれよりさーキュフフ」 こうして黙っていると、みんなの会話がよく聞こえる。 あちらこちらに散らばってるキュートのメンバーは、会話に千聖の名前が出てくると、すごい勢いで話を変えている。 千聖イジメ?と一瞬思ったけれど、キュートに限ってそれはないな。 どっちかというと、私たちから何か隠すことで千聖を守ろうとしているような雰囲気。 気になるなら直接千聖と話せばいいんだけど、今日は中2トリオがやけにべったりしていて邪魔しちゃいけない感じだ。 私だって千聖とはかなり仲のいい部類に入るはずなのに、今日はまだ「おはよー」ぐらいしか話していない。 もうちょっとしたら、ちょっと強引にでも中2トリオにお邪魔させていただこうかな。 こんな風に遠慮するのは私らしくない。 いつもみたいに堂々と入っていったらいいんだ。 ・・・それにしてもこの変な雰囲気、千聖と仲良しなももはどう思ってるんだろう。 「あれ?いない」 舞美ちゃんあたりとおしゃべりしてるのかと思ってたけれど、どうやらまだこっちに着てないみたいだ。 今日変だったからな・・・一人になりたいのかな。 ももは全部自己完結しちゃうから、いまだに本心がよくわからない。 もっともっと頼ってくれればいいのに。本当は千奈美だってそれが寂しくて突っかかってるのに。 おせっかいかもしれないけれど、どこかに一人ぼっちでいるより、みんなの輪の中にいたほうがいいと思う。 そうすればいつでもももの必要なときに手を差し伸べることができるし、みんなももが思ってるほど冷たいわけじゃないのにな。 盛り上がってるところに水を差すのも悪い。私は黙ってももを探しにいくことにした。 「茉麻?どっかいくの?」 「ちょっとトイレー。」 適当にごまかして席をはずそうとしたら、熊井ちゃんが「私も行くー」とのんびりした口調でついてきた。 「いいの?」 「うん。」 主語も何もないけれど、私たちは大体これで通じる。 「でも、トイレは行かないよ。」 「じゃあ、もも?それとも千聖?」 ・・・・熊井ちゃんはエスパーか。 まったくかみ合ってない答えを返してきたようで、私の心を占めているものをいきなり2つとも当ててしまった。 「茉麻は優しいね。ちゃんと周りが見えてるし。私しばらく気づかなかったよ、ももいなかったの。ははは」 全然悪びれない言い方に、思わずつられて笑ってしまった。 「じゃあ熊井ちゃん、さっき千聖って言ってたのは何のこと?」 「あー。何だろう。何か別の星の人になっちゃった。千聖は私と同じかと思ってたのに。」 んん? 次へ TOP
https://w.atwiki.jp/chisato_ojosama/pages/128.html
前へ それから千聖は、私を連れて順番にみんなのところをまわった。 「千聖ぉ~」 「さっきは、心配してくださったのにごめんなさいね、早貴さん。茉麻さんと友理奈さんも。」 駆け寄って来たダチョウ倶楽部…じゃなくてネプチューン…じゃなくてくまぁず+なっきぃに、深々とお辞儀をする千聖。 「いいよそんなの。お帰り、二人とも。キュフフ」 なっきぃはいつもどおり、明るい声で笑ってくれた。 「また友理奈さんって言ってるー。ウチも千聖さんて呼ぼうかな。」 「まあ、嬉しいわ。」 不思議ちゃん同士の、新しい友情が芽生えたみたいだった。 妙にポワポワした会話に、なっきぃたちと目を合わせて笑ってしまった。 「…千聖。」 茉麻が千聖の肩を抱く。 「キャラ変わって大変なこともあると思うけど、まぁはいつでも千聖のこと抱き締めてあげるから。一人で抱え込んだらダメだよ。」 「茉麻さん…」 千聖を慈しむように見つめるその顔は本当のお母さんみたいに優しくてたくましかった。 「わたしはベリキューみんなの茉麻ママなんだからね。聞いてる?舞ちゃんにも言ってるんだよ!」 「「は、はい!」」 思わず千聖と声を合わせて返事をすると、茉麻は満足そうに笑った。 「あっ、そうだ千聖…さん、何かね、お嬢様の手助けができるような説明書とかないかな?」 「説明書?」 「ウチなんかそういうのあると安心するからさあ、何でもいいの。千聖の手引書とか、千聖マニュアルとか…あれ、ウチなんか変なこと言ったかな?おーい…」 熊井ちゃんは、超能力でもあるのか。 岡井千聖マニュアルを持ってコピー機へ走るくまぁずを見送って、次はソファでくつろいでる三人のところへ向かった。 「あー!やっと来た!おー嬢様ー!」 「きゃん!」 よっぽど待ちくたびれていたのか、千奈美は千聖の腕を掴むと、自分の横に据え置いた。 「千聖ぉーみずくさいなあ。ちぃに相談すれば一発で全部解決したのに。これからはもっと頼ってよね。ベリーズで千聖が頼れる相手は桃だけじゃないもんにー!」 「ちょっとそうやってまた変なこと吹き込んでさー!いい、千聖?徳さんはアテにならないんだから。やっぱり千聖のお姉ちゃんはわ・た・し!」 「ウザッ・・・今日からはウチがお姉ちゃんだよ千聖!」 「ももだよ!」 「ウチだってば!」 「あ・・・あのぉ~お二人ともぉ~・・・」 桃ちゃんと千奈美は千聖を両側からひっぱり合う。 こないだ国語の授業で習った、大岡裁きというやつを思い出した。 でもこの二人じゃ、千聖が二つに分裂するまでひっぱり合いそう・・・ そんなことを考えていると、 「舞。」 舞美ちゃんが私の横に腰を下ろした。 「心配かけてごめんね、お姉ちゃん。」 「何言ってんの。舞は戻ってきてくれたじゃないか。がんばったね、本当に。舞はキュートの・・・・私の誇りだよ。」 私の頭を力強い手がクシャッと撫でる。 舞美ちゃんは、いつも私を見守ってくれた。 私が千聖を傷つけてしまった時も、 独りよがりな思いでみんなとぶつかった時も、 舞美ちゃんは私を見捨てないでくれた。 「お姉ちゃん。」 「まだ、そう呼んでくれるの?私、舞にも千聖にも何もしてあげられなかったのに。」 「そんなこと言わないでよ、お姉ちゃん。私たちが仲直りできたのは、舞美ちゃんたちのおかげなんだからね。」 「あーっ舞舞美がイチャイチャしてる!」 ちぃにからかわれて、私たちはパッと体を離した。 「まあまあ、私たちのことは気にしないで!さあ、ちさまいは次行ってきな!」 照れた全力リーダーが、桃ちゃんとちぃから千聖をもぎとって、私の方へぶん投げた。 「ちょっとー!まだしゃべってたのにぃ!」 桃ちゃんたちのぶーたれる声を背に、私たちは次の目的地に向かった。 次へ TOP
https://w.atwiki.jp/stairs-okai/pages/68.html
栞菜と喧嘩をした。 新曲の振りつけレッスン中に、悪ふざけを仕掛けてきたから注意をした。 自分で思ったよりもキツい口調になってしまったから、栞菜はかなりシュンとしてしまった。 謝った方がいいのかと一瞬思ったけれど、私は別におかしなことを言ったわけではないから黙っていた。 すると、口を尖らせて「なっきーはちょっと頭が固いよ・・・」なんて呟いた。 私はこういうのを聞かない振りができない性格だ。 「ちょっと待って。今は真面目にやらなきゃいけない時でしょ?真剣にやろうって言って何が悪いの?」 「だからそれはわかったって。でもさぁ」 「でもじゃないじゃん。」 「まぁまぁ、もう栞菜も反省してるし、いいじゃないか。ね?」 舞美ちゃんが体ごと割って入ってきた。 あーあ。いつもこのパターンだ。私はレッスン中の態度のことで、しばしば栞菜とぶつかる。 栞菜のことは好きだ。だけど、私はけじめをつけるところはちゃんとしておきたかった。 だから毎回のように注意をするのだけれど、必ず舞美ちゃんが喧嘩両成敗のようにまとめてしまう。 「わかった。真面目にやろうとする私が悪いんだね。ごめんね。」 「なっきー誰もそんなこと」 「いい。時間もったいないから続きしよう。」 強引にさえぎると、誰も何にも言えなくなって、変な空気のままレッスンが再開になった。 ・・・どうしてこうなってしまうんだろう。 めぐが脱退してから、私はキュートの中間年齢として、かなり神経を張ってやってきた。 舞美ちゃんやえりかちゃんに年下組の状況をまめに報告して、年下組にはダメなことはダメと注意して、エッグから途中加入で不安そうだった栞菜には同い年としていろんな相談にのって。 でもいつしか私の行動は空回りになっていたみたいで、 「なっきーは頑張りすぎだよ。」 「もっと肩の力抜いていこうよ。」 なんて諭されるようになってしまっていた。 ひそかにため息をもらしながらチラッと横を見ると、千聖が真剣な顔で振りのチェックをしていた。 ・・・前の千聖にはよく怒ったっけな。今はまったく手のかからない子になったけど。 舞ちゃんの気持ちを聞いたせいだろうか。何だか無性に昔の千聖に会いたくなってしまった。 千聖はお調子に乗りやすい子で、ふざけだすと止まらなくなってしまうところがあった。 私はそれじゃダメだと思い、気になればビシッと言うようにしていた。 怒られると千聖はシュンとなってしまうけれど、気まずくなってしまうということはなく、今ははしゃいでいいという時間になれば、グフフッて笑いながら私のところにも遊びに来てくれた。 だから私も、千聖には遠慮なく思ったことを言えたし、千聖もそれを受け止めてくれていた。 一番の仲良しじゃないけれどそれなりにいい関係だった。人によって態度を変えない千聖が好きだった。 今の千聖が嫌いなわけじゃない。すごく優しくていい子だと思う。 レッスンも真剣に受けているし、誰にでも同じように素直なところは前と変わっていない。 でも彼女は千聖であって千聖でない。 私は年上だから舞ちゃんのようにあからさまなことはしなかったけれど、寂しかった。 キュートの中で私の気持ちを正面からうけとめてくれる子がいなくなってしまったから。 キュートのメンバーのことは大好きだ。家族のように温かい。 でも私はもっともっとキュートで上を狙っていきたいし、お互いをライバルと思う気持ちを忘れてはいけないとも思う。 私が悪者になってキュートが良くなるならそれでもいい。 多分そういう押し付けがましい考え方がだめなんだろうけど。 「じゃあ、今日はここまで。お疲れ様!」 振り付けの先生の声で、私の心は現実に戻った。 ダメだ。今日はまったく身が入っていない。 「なっきー帰らないの?」 鏡に向かっておさらいを始めた私に、舞美ちゃんが声をかけてくる。 「もうちょっとやってく。」 「そっか。」 何か言いたそうな顔をしながらも、舞美ちゃんはえりかちゃんと一緒にスタジオを出ていく。 栞菜は愛理と一緒にこっちを見てコソッと何か言っているみたいだ。 二人の表情からして別に悪口ではないんだろうけど、言いたいことははっきり言ったらいいんだ。私は見えないふりをしてダンスに没頭した。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
https://w.atwiki.jp/stairs-okai/pages/49.html
「あっ・・・ぶなかったねー!ももと梨沙子にバレるとこだった!」 「本当ね。皆さんのおかげで、2人とも気づかないでくれたみたいだわ。」 あっはっは 何言ってんだうちのリーダーとお嬢様は。どう考えても千聖がおかしいのはバレバレだったじゃないですか。 メンバー全員、なんとも言えない微妙な表情で、あいまいに笑っている。 まあ、ももちゃんはおそらく黙っていてくれるだろう。頭のいい彼女のことだ。妹のように大切な千聖をわざわざ苦しめるようなことはしないと思う。 あの態度だと梨沙子にも口止めしてくれそうだし、ベリーズ全員に千聖の今の状態を知られることはなさそうだ。 「えりかちゃん。」 ニコニコ笑いあう舞美と千聖をぼんやり眺めていたら、隣になっきぃが腰を下ろしてきた。 「まあ、よくわからないけど上手くいってよかったね。」 「・・・ねえ、何かえりかちゃん冷たい。千聖の件に関して。」 なっきぃはちょっと拗ねたような顔で、私を見上げてきた。 「私は千聖と舞ちゃんの揉め事を悪化させちゃったからさ、逆に気にしすぎてるのかもしれないけど。 でもえりかちゃんだって、千聖とはずっと仲良かったじゃない。その割りに、千聖がお嬢様になってからあんまり関わろうとしてない。最低限の協力だけしてるって感じ。」 あー。 なっきぃはこういうところがなかなか鋭い。 お嬢様化を目の当たりにした当初は、千聖の仕草や言動態度全てがおかしくて、毎日笑いをこらえるのが辛いほどだった。 まあ面白いし、こんな千聖もありっちゃありだよね、ぐらいにしか考えなかった。 だけど。 ある日、デジカメのデータを整理していた時、私の隣で千聖が笑っている写真に目が止まった。 いつ撮ったのかも忘れてしまったぐらい何気ない1枚だったけれど、2人ともぶっさいくなほど顔をクシャクシャにして笑っている。 「うーわ。ひどい顔。」 つられて笑った後、これはいらないかなと削除ボタンに手をかけた時、ふと「もう千聖とこういう顔で笑いあうことはないのかもしれない」と思った。 鳥肌が立った。 仮に元に戻らなくても、お嬢様千聖とならうまくやっていける気がしていたけれど、もしかしてそれはかなり甘い考えなんじゃないのか。 あの千聖は、その千聖とは違うんだよ、えりか。 作業を中断して、ベッドにダイビングする。ゴロゴロ寝返りを打ちながら、これまで千聖とすごしたたわいもない時間を、頭に思い浮かべた。 例えば楽屋で2人っきりで昨日見たドラマの話をしたり、 待ち時間に2人並んでボーッと空を眺めたり、 同じ歌を同時に歌い出して大笑いしたり、 そんなとりたてて大事でもないような、なんてことないエピソードが次々とよみがえってくる。 お嬢様の千聖も、きっとこういう何気ない時間を私とすごしてくれるとは思う。 でも、もうあの私たち2人だけの独特のノリではないんだろうな。 そう思うと、じわじわと寂しさがこみ上げてきた。 「め~ぐる~季節~・・・愛はときに~・・・」 無意識にこの歌が唇をついて出た。 「・・・なくしそうに~・・・なったときに・・・・はじめて気づ・・・ウゥッちさとぉ~」 いや、別に千聖に恋してるわけじゃないんだけれど。 歌詞のほんの一部分に心が揺れて、情けないことに涙が出てきた。 ちょうど女の子の日まっ最中で情緒不安定だったこともあり、心配したお姉ちゃんがお茶を持ってきてくれるまでわんわん泣いてしまった。 そう。これが原因で、私は可愛くて大好きだったこの曲を聴くと、今でもちょっと切ない気持ちになる。 「ちょっと、話聞いてるー?」 「ん!ああ、ごめんね。何か考え込んでた。・・・別に冷たくなんてしてないよ。心配しないで。」 なっきぃの肩に手を置いて、いきおいよく立ち上がる。 「もーえりかちゃん・・・もうちょっとなっきぃのこと頼ってよぅ。」 なっきぃのぼやきは聞こえなかったふりをして、メイクの準備を始めることにした。 ごめんね。 まだこの気持ちは、誰にも触れられたくない。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
https://w.atwiki.jp/chisato_ojosama/pages/127.html
前へ 「だから!おっとりして上品になっただけで、基本的な性格はそんなに変わってないんだってば!」 「それじゃよくわかんないってばー。じゃあさ、好きな食べ物とか変わったの?あと何だろう好きな・・・好きな・・・Tシャツ?」 「ええ!?」 「熊井ちゃん、それどうでもよくない?」 「本当だよ!思いつかないなら無理矢理質問しないでよ!」 「なんだーなかさきちゃんのケチ!」 「意味わかんないよ!」 「なっきぃ、それはまあいいとして、この事って他に誰が知ってるの?キュートのマネージャーさんは?スタッフさんは?ていうか、千聖の家族は?」 「あと犬!千聖んちの犬は知ってるの?パインと・・・リップスティックだっけ。リップスティックってすごくない?名前。面白いよねーあはははは」 「熊井ちゃん犬は今いいから。でさ!なっきぃ」 「もう!また顔近い近い!大きい二人で責めないでよぅ!」 ドアを少し開けてすぐに聞こえたのは、なっきーのキャンキャン小型犬ボイスだった。 そこに熊井ちゃんのくまくまボイスと、茉麻の突っ込みが重なる。もはやトリオ漫才だ。 「ていうかね舞美、よくわからないんだけど。そもそも千聖は、どうしてお嬢様キャラになったの?記憶は?前とは別人?」 「えっえっ・・・・ちょまって。ごめんなんか私混乱して・・・別人、じゃないと思うけど」 「やっばいウケるんだけど。千聖お嬢様ー☆とか呼んだ方がいいのかな。ていうかやっぱり私のこと千奈美さんって言ってきたりすんの?千聖が!あの!千聖が!超ー面白くない?桃も桃子さんって言われたんでしょ?マジウケるわー」 「・・・徳さんテンション高すぎ。」 どうやら千奈美だけはこの状況を楽しんでいるみたいだ。何をそんなにはしゃいでいるのかわからないけれど、困った顔で固まっている舞美ちゃんを放って、今日は険悪状態だったはずのももちゃんにまで話しかけている。 「あー・・・それでね、別に接し方は前と同じで大丈夫だよ。ウチも最初どうしようかと思ったけど。」 「了解ー。でもびっくりだね。そんなこと本当にあるんだ。大丈夫かな、上手く接していけるか心配かも。」 「わからないことは、千聖本人にも聞いてみるね。ベリーズが何でも協力するから。」 えりかちゃんにみやにキャプテン。こちらは比較的落ち着いて、しっかり話をしている。 愛理と栞菜はまだク゛スク゛ス泣いている梨沙子を励ましているみたいだし、どうやらえりかちゃんたちのグループが一番頼りになりそうだった。 個人的にまだ気まずさが残っていることもあって、まずはこの3人に話しかけてみようと思った。 でも 「えりか・・・」 「あーーー来たー!ちょっとー遅いよー!」 部屋に踏み込んだ瞬間、千奈美が飛びついてきた。 「みんな心配したんだよー舞ちゃん。ほら、入って!お・嬢・様も!」 「・・・ごめんね。」 テンションMAXに見えても、やっぱり千奈美は年上なだけあって、ちゃんと私のことまで気遣ってくれた。 「おかえり、舞。ちっさー。」 「よかったー!舞ちゃん千聖と会えたんだね。」 私が戻ってきたことで皆が凍りついたらどうしようかと思ったけど、千奈美が勢いをつけてくれたおかげで、ごく自然に輪の中に加わることができた。 「愛理。」 私は千聖と小指をつなげたまま、愛理のところまで歩いていった。 まずやらなければいけないこと、それは 「さっきは、ごめん。」 拒んでしまった愛理の手を、私からつなぎに行くことだった。 「舞ちゃん・・・ううん、こっちこそ。」 愛理は私の手を強く握り返してくれた。どこからともなく湧き上がる拍手。 ちょっと、いやかなり照れくさくて、2人で顔を見合わせて笑ってしまった。 愛理は千聖のことが大好きで、私も千聖が大好き。私は愛理のことが大好きで、愛理もきっと私のことを。 それさえわかっていれば、もう余計なことは何も言わなくても十分だった。 「あ・・・それ黄色い糸だね、千聖。舞ちゃんと千聖の糸でしょ。」 ちょっと赤い目のまま梨沙子がはにかんだ。 「ええ。梨沙子さんが教えてくれた魔法で、復活した糸なのよ。」 「えへへ・・・魔法かあ。へへっ。」 本当に、千聖は人を喜ばせるのが上手だ。 魔女ッ子志願の梨沙子には、とても嬉しい言葉のようだった。 次へ TOP
https://w.atwiki.jp/stairs-okai/pages/344.html
「な、な、そ、ど、なっ・・何それ・・!」 「いいリアクション。さすがおちんちん見せたいキャラ№1のなっきぃだね。」 「何って、見ればわかるでしょ」 「ザッツライ。ディスイズペニ」 「そ、そういうことを聞いてるんじゃない!だ、だ、だってそんなの今までついてなかったでしょ!?」 同じキュートのメンバーである舞美ちゃんやえりかちゃんとは、今まで数え切れないぐらい着替えを共にしている。一緒にお風呂に入ったことだってある。友理奈ちゃんだって、仕事が被ればそういうことはあった。 だから、こんな、乙女の秘密の花園にあるまじきブツが鎮座していらっしゃったら、絶対に気づいているはず。 万が一私が見落としていたとしても、千奈美ちゃんとか、明るい方の千聖とか、そのあたりが大騒ぎするに違いない。 「人は変わるんだよ、なっきぃ。」 「そう。パパもママも知らないうちに僕らはおちんちん付いたみたい。とかいってw」 「みみみぃたん!なんてはしたないことを!」 バカな・・・みぃたんは清純派だったはずなのに。キュートのみんながうっすーい下ネタで盛り上がってるとき、その意味すらわからずにあいまいに笑っているようなピュア乙女だったのに。ちんこか。ちんこがみぃたんを変えたのか。実にけしからん! 「なかさきちゃん、そんなことよりうちのおちんちんを見てくれ。こいつをどう思う?」 「ギュフー!やめろ近づけるな!」 私がみぃたんのアレに憤っているうちに、いつのまにか私の顔の横に移動してきていた友理奈ちゃんが、セクシーポーズで腰を突き出してきた。 「興味あるくせに。」 「な、ないよ。」 嘘、ホンマはある。私は横目で、初めてみるその物体をこっそり観察した。 へ、へー・・・なるほど、こういう風になっているんだ・・・。目を凝らすと、奥の方にはまだちゃんと女の子のアレがついている。男になったんじゃなくて、いわゆる、ふたなり?(ってアダルトサイトに載ってたケロ!)というやつなのか。 で、肝心の熊井ちゃんのブツだけど・・・・何か、グロい。食べたら死ぬキノコ図鑑とかに載ってそう。でも、何か思ってたより・・・ 「どう?」 「・・・・・小さい。」 とりあえず、率直な感想を言ってみる。すると友理奈ちゃんは「ヒーン!」とか言いながら、マトリックスみたいにのけぞった。勢いで、それのさきっぽが私のほっぺにペタッと当たる。 「ギャー!」 「なっきぃ、なんて恐ろしい子・・・!普通そんなこと、思っても言わないよ!」 「思ってたのかよ!」 「例えばの話だってばー」 そして、Belloは仲間割れを始めた。これで、「もういい!解散だ!」となってくれることを望んで、私はしばらくその言い争いが止むのをおとなしく待っていた・・・けれど。 「もー!それもこれも全部なかさきちゃんのせいなんだからねっ!」 熊井ちゃんはいきなり私に話を振ってきた。 「何で!私どう考えても被害者じゃん!」 「だって、大きいとか小さいとかおちんちんの悪口はいけないんだよ!!って弟が言ってたもん!」 見た目こんなに大人っぽいのに、子供みたいにびーびー泣きながら迫ってくる友理奈ちゃんが怖くて、私はつい「す、すいません」と謝罪してしまった。 「まぁまぁ、なっきぃは熊井ちゃんのを悪く言ったわけじゃないんだよね?ただ、自分で想像していたより、アソコっていうものが小さくて、ついそう言っちゃったんでしょ?」 「う・・・ん。」 フォロー上手なえりかちゃんの気遣いはうれしいけれど、こんなわけのわからない状況で、気を回すところが間違ってるような気が・・・。 えりかちゃんの言うとおり、別に友理奈ちゃんがどうこうっていうわけじゃない。 よくエッチな雑誌とかで“初体験は痛い”とか書いてあったり、ネットで見たエッチな体験の投稿サイト(18歳未満閲覧禁止ケロ!)にも、そういうような書き込みがあったから、アソコが裂けちゃうぐらいの物体を想像していた。 ちなみに、痴漢男のアレはモザイク処理が巧妙でよくわからなかった。 つまり、バナナを想像していたら、大きいしいたけ?ぐらいの大きさだったということ。単なる私の思い違いだった。 「ごめんね、友理奈ちゃん」 「・・・」 「ごめんってば。怒ってるの?」 友理奈ちゃんは鼻を真っ赤にして、恨めしげに私を見る。 「怒ってないよ。でも、うちの、そんなに小さくないってことわかってもらわなきゃって思って。」 「だから、それはぁ」 「これ、言っとくけど最高の状態じゃないから。まだまだ本気出したらこんなもんじゃないし。」 どこかで見た“ニートの言い訳”のような口ぶりに、キュフッと笑い声を漏らしてしまった。友理奈ちゃんの目つきがさらに鋭くなる。 「笑ったなー!わかった、じゃあ証拠見せる!ちょっと待ってて!」 そう言うと、友理奈ちゃんはクルッと後ろを向いて、「フンフフンフン♪」とくまくました鼻歌を歌いだした。時折、「ホゥ!」だの「フゥ!」だの変なシャウトが混じるのが気になる。 「じゃあ、なっきぃも準備しないとね。」 「準備・・・?ん、あ、みぃたン・・・くすぐったいよぉ」 また、顔にみぃたんの長い髪がかかる。私はこそばゆいのはどうもだめで、首を振って髪をどかそうとするけれど、みぃたんの長い指に、顔をやんわり包まれて身動きが取れなくなってしまった。 「みぃたん・・・」 みぃたんは、チュッチュッと私の唇を啄ばむ。その行為自体はすごくやさしいのに、思いっきり頭を固定されているから、息苦しい=気持ちいい。 「キュフ、ンフ・・・」 みぃたんはキスをしたまま、椅子の背もたれを倒して、また私を逆さづり寸前の状態に追いやる。・・・最高です! 「なっきぃ、アドレナリン全開だね。こっちもよくしてあげる。」 「ヒャッ!」 ふいに、足にピリッとした痛みが走った。でも、顎を固定されて上を向いているから、えりかちゃんの行動は見えない。 「えりこ・・・キュフゥ!」 歯を立てられてる・・・?いつぞや雅ちゃんに、乱暴に扱われたことを思い出して、ゾクッとした。それに、見えそうなのに見えないというのは、最初から目隠しとかされてるより興奮する。そのちょっぴり痛い感触は、足の指から踵、足首、すね・・とだんだん上に上がってきた。 「ンフ・・・ンン」 そして、その感触がついにひざの少し上の辺りに到達した頃、唐突に「オッケー!!」と友理奈ちゃんの明るい声が響いた。 「あ、本当だ。」 「よかったよかった」 余韻に浸る私とは対照的に、みぃたんもえりかちゃんもパッと体を離してしまった。なんてドライなの! だけど、そんな不満も、再び私の顔の前まで戻ってきた友理奈ちゃんの“アレ”を見た瞬間、すべて吹っ飛んでしまった。 「ひっ・・・・ひぃ・・・・!!」 「どう?これでもまだ、小さいと言うのか!」 とんでもない。私は青ざめて首を横に振った。 「な・・・なんっ・・・」 たとえて言うなら、アポロチョコから固定電話の受話器。柿の種からマジックバルーン。熊井ちゃんのアレは、超大変身を遂げていた。 「どどどどど」 「どうしてかって言いたいの?なかさきちゃん、保健の授業ちゃんと聞いてなかったの?これはね、ぼ」 「それは知ってる!そうじゃなくて、常識的に考えて大きくなりすぎでしょうが!」 無理だ。さっきのシイタケ状態ならともかく、こんなものをINしたら死ぬ。比喩じゃなく死ぬ。nkskならぬmtsk(股裂き)とか言ってwとか言ってる場合じゃない。私は熊井ちゃんから目を逸らして、「みぃたぁん・・・」とできる限り甘えた声を出してみた。 「どうしたの?」 「私、こんなところで死にたくないケロ・・・」 「えぇっ!死ぬなんて言わないで、なっきぃ。」 「そうだよ、ウチ死姦はちょっと・・・」 「Umelyは黙るケロ!」 三人は、うっすら涙を浮かべて懇願する私を見て、円になってひそひそ話を始めた。旗色が変わったかもしれない。 いたぶってくださるのはうれしいけど、さすがに生命の安全は保障してほしいものだ。何て考えていたら、 「なっきぃ、喜んで。今から特別ゲストを呼ぶからね。」 「・・・・え?」 前へ TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
https://w.atwiki.jp/stairs-okai/pages/113.html
“舞ちゃん、もうちょっと千聖のこと優しく扱ってあげたら。” 前にそう言っていたのはなっきぃだったっけ。それともえりかちゃんかな。 私は昔から、千聖をどこかに連れて行くとき、手首や肩を掴んで引っ張る癖があった。 千聖も特に何も言わなかったから、指摘されるまで気づかなかった。 あんまりお行儀のいい行動じゃないから控えるようにはしていたけれど、気をつけていないとついやってしまうみたいだ。 そう、今みたいに。 「舞・・・・さん」 千聖の苦しそうな声で、はっと我に返った。 顔をあげると、痛みに耐えるような表情の千聖と目が合う。 私は力いっぱい千聖の両腕を握り締めていたみたいだ。 「ごめん・・・」 謝って力は緩めるけれど、千聖の体から手を離すのは嫌だった。 触れたままの千聖の二の腕が、熱を持っているのが伝わる。 私の手もズキズキ痛んでいるぐらいだから、千聖はもっと痛かっただろう。 「舞ちゃん・・・ちっさー痛そうだよ。放してあげて。」 栞菜がそっと私の手に手を重ねる。 「もう、今のちっさーを受け入れようよ、舞ちゃん。 ちっさーはね、大好きな舞ちゃんが自分のせいで傷つくからって、キュートをやめようかって私に相談してきたんだよ。」 「栞菜、その話は」 「ううん、言わせて。・・・・・舞ちゃんは、そんなこと望んでないよね?でも、今のままじゃちっさーは舞ちゃんのためにいなくなっちゃうかもしれない。 私は嫌だよ。めぐがやめちゃって、ずっと7人で頑張ってきたのに。もう大好きな人がいなくなるのはやなの。舞ちゃんも、ちっさーも、みんなでずっと一緒にこれからも頑張っていきたいのに。」 最後の方はもう悲鳴のような声になっていたけど、栞菜は私から目を逸らさずに思いをぶつけてきた。 でも、私の耳にはその言葉が半分も入っては来なかった。もっと大きすぎる衝撃で、頭が真っ白になってしまっていたから。 千聖が、キュートを? 辞める? 私が責めたから? 「わ・・・・私は・・・・」 違う。 私はそんなことを望んでいたんじゃない。 でも、私のせいで、千聖は 「舞美、・・・・何がどうなってるの?千聖が辞めるって、どうして?お願い、ちゃんと説明して。」 背後でキャプテンの声が聞こえた瞬間、私の心は現実に戻った。 「千聖がやめることなんてない。」 自分のものとは思えない、低い声が口を飛び出した。 栞菜の手も千聖も振り解いて、ドアの方に向かって歩く。 「舞ちゃん!」 「・・・・しばらく一人にして。その間に、みんなに千聖のこと話して。」 不思議な感覚だった。体全部が心臓になったみたいにドクドクしているのに、頭は冷え切っている。 「・・・・・千聖がやめるぐらいなら、私がいなくなるから。」 吐き捨てるような口調でそう言い残して、早足で去っていく。 誰も追いかけてこない。たまたま目にした衣裳部屋に入って、隅っこで膝を抱えてうつむいた。 私は、何をやっていたんだろう。 まったく自覚のない涙が、ポツリと一滴膝に落ちた。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
https://w.atwiki.jp/stairs-okai/pages/45.html
全・然・納・得・いかないな。 「愛理?どうしたの」 「ううん。」 私の知らない間に、この数日間いろいろなことがあったみたいだ。 舞ちゃんと千聖が楽屋を出た後、舞美ちゃんを中心に当事者それぞれが話をしてくれた。 「・・・だからね、みんな。悪いのはなっきぃだから。舞ちゃんのことは責めないで。」 「なっきぃ。これはみんなが悪いんだ。舞が出してたサインを誰も拾ってあげられなかったから、あんなことになったの。 舞も本当に反省してる。まだいろいろ整理できてないことはあるみたいだけど、ちゃんと今の千聖と舞なりに向き合ってみるって。今2人はその話してるんだよ。」 要は、千聖にひどいこと言った舞ちゃんを許せってこと?反省してるからって? そんなに単純な話なのかなぁ。 今日の千聖の、尋常じゃない真っ青な顔と目の下の隈を見ていたら、千聖がどれだけこの件で傷ついて悩まされたのかおのずと伝わってくる。 私は頭を打って変わった千聖のことを、それまで以上に大切に、そして慈しむ気持ちで見守ってきていたつもりだ。 活発で天真爛漫な千聖も大好きだったけれど、柔らかく優美で儚い心をもった今の千聖には、ある種の同調と羨望の念を抱いた。だからいつでもそばにいて、千聖をなるべく痛みから遠ざけてあげるようにしていた。 舞ちゃんが前の千聖を恋しく思っていて、その気持ちがよくない方向に傾いていたのはわかっていた。 それでも私や栞菜が守っている限り、直接手出しはしてこないと思っていた。 油断していた。 舞ちゃんに問い詰められて、どんなに怖かっただろう。 自分のせいじゃないことを責められて、どんなに苦しかっただろう。 そのことを考えるだけで、私の中に黒く凝った感情が湧き上がってくる。 どうも、舞ちゃんをはいそうですかと簡単に許せないみたいだ。 最年少?私や千聖とたった1歳違うだけじゃないか。そんなの舞ちゃんの振る舞いを許す理由になんてならない。 たまには私が我を張らせてもらったっていいだろう。 「舞美ちゃん。悪いけど私は、舞ちゃんとは少し距離を置かせてもらうから。・・・今舞ちゃんが千聖に見せてる、千聖が前の千聖に戻るためのマニュアルっていうのにも私は何にも書かない。私は今のままの千聖がいい。」 「え、な、愛理?」 全く想定してない答えだったらしく、舞美ちゃんは口をぱくぱくさせている。 「・・・愛理がそういうなら、私も。」 栞菜がおずおずと手をあげて、腕を絡めてきた。 「昨日、ちっさーにキュートを辞めるべきかって相談されたの。」 「「「「えっ!」」」」 それは知らないよ、栞菜。そういう大事なことは早く言おう。 「今すぐに決めるわけじゃないっていうから、一応黙っていようと思ってたんだけど。でも、私も愛理と同じ。舞美ちゃんの言うことはわかるんだけど、まだ納得しきれない。 みんな、舞ちゃんに甘いよ。 それに・・・お嬢様ちっさー、すごく魅力的だし、無理に元に戻らなくてもいい気がする。」 さては様子見てたな、栞菜。コウモリめ。 でも私たちの気持ちは概ね一緒のようだから、ここは手を組ませてもらうことにした。 「というわけなので、私たちはこれまでどおり、お嬢様の千聖を支持します。仕事面でのキャラ作りのサポートはするけど、それ以上はしないから。」 「ちょ、ちょっと・・・えーどうしよう・・・」 「栞菜ぁ。愛理も、ワガママ言わないでよぅ。キュートのためじゃない。」 舞美ちゃんとなっきぃはかなり必死に舞ちゃんを擁護しているけど、えりかちゃんはさっきから何も言わない。 天然なようで重要なところは結構冷静なえりかちゃんのことだ。自分があんまり事態を把握していないことについては、必要以上に口を挟まないというスタンスなんだろう。 「これはワガママじゃないよ。キュートが団結するのはいいことだけど、皆が同じ意見を持たなきゃいけないなんて絶対間違ってる。よって、われわれはここに、お嬢様千聖を支持することを誓う!!」 カ゛チャ。 「・・・・・愛、理?」 ハイになった私が栞菜とともに椅子に上って高らかに宣言したのとほぼ同時に、舞ちゃんと千聖が楽屋に戻ってきた。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
https://w.atwiki.jp/stairs-okai/pages/20.html
雪の降る高原に、私は一人ぼっちでいた。一面真っ白で、何も見えない。 不安にかられて歩いていると、遠くの方から楽しそうな笑い声が近づいてきた。 「かまくら作ろう。」 「みんなで座れるソファを作ろう。」 「ソリで遊ぼうよ。」 なぜか懐かしい気持ちになる。キュートの皆だ。私は声のする方に向かって走り出す。 「舞美ちゃん。」 雪玉を栞菜にぶつけようとふざけている舞美ちゃんに声をかける。 振り向かない。 二度、三度と名前をよんでも、私のことなんか気が付かないみたいに誰も反応してくれなかった。 怖くなって舞美ちゃんに飛びつこうとしたけれど、私の体は舞美ちゃんをすり抜けた。雪の中にしりもちを付く。 「栞菜。えりかちゃん。ねえってば!」 とっさに投げた手元の雪さえ、誰にも届かずに地面に落ちた。 「楽しいね。」 「面白いね。」 「あっちでソリ競争やろうよ。」 またみんなが遠ざかっていく。 誰も私に気づいてくれない。私なんかいなくて当たり前のように、世界が循環していく。 嫌だ、舞はここだよ。誰か私を見つけて。ここにいるんだよ。 「舞ちゃん。」 ふりむくと、ベージュのハンチングを被った千聖が立っていた。 「舞ちゃん。遊ぼうよ。」 おそるおそる、差し出された手に触ってみる。 すり抜けない。暖かい千聖の手が、ぎゅっと握り返してくれた。 「舞ちゃん手冷たくなってるー」 千聖はうへへって楽しそうに笑っている。 よかった、千聖元に戻ったんだね。そして、ちゃんと舞のこと見つけてくれた。 誰も気づいてくれなくても、千聖だけは。 「皆のとこ行こう。一緒にソリ乗ろうよ。」 手を引っ張られて、転がりそうになりながら2人で走る。 「千聖。私、千聖にまだ謝ってない」 「なーに?聞こえないよぅ」 「うわっ」 千聖があんまり早く走るから、私はつまずいて転んでしまった。 手が離れる。千聖は気づいていないかのように、笑い声をあげながらみんなの輪の中に入っていく。 待って、やだよ。千聖、千聖!!」 「舞!大丈夫!?」 ? いきなり、舞美ちゃんのドアップが目の前にきた。 「舞、大丈夫?うなされてたけど」 何だ。夢か。千聖の手だと思って握っていたのは、舞美ちゃんの手だったのか。 「あれ、ここ・・・」 「ああ。タクシーの中でぐっすり寝てたから、とりあえず家にお泊りしてもらうことにしたんだ。舞のママには連絡してあるから、大丈夫。」 壁にかかっている時計を見ると、もうすぐ日付が変わるぐらいの時間だった。 よっぽど熟睡していたんだろうな。レッスンスタジオを出てからここにたどり着くまでのことが全く思い出せない。 「なっきーは?」 「家に帰ったよ。舞によろしくって。」 「ふぅん」 目が覚めてくると、今日一日にあったことが次々と頭をよぎっていく。 ダンスレッスン中に栞菜となっきーがケンカして、なっきーが居残り練習をするっていうから、ロビーで待っていた。 約束していたわけじゃないけど、千聖のことを話したかった。 なっきーは千聖のことを話せる、唯一の理解者だったから。ついさっきまでは。 しばらくたってもなっきーが階段を降りてこなかったから、様子を見にロッカーまでいくと、中で「あの千聖」が歌を歌っていた。 なっきーとの約束で、最近は挨拶ぐらいはするようにしてたけれど、やっぱりなるべく係わりを持ちたくなかった。 前の千聖と同じで、自分のパートと愛理のパートだけをずっと練習している。 何だよ。頭打っても愛理のことはちゃんとライバルだって覚えてるんだ。私が千聖にとってどんな存在だったのかも忘れちゃったくせに。 苛立つ気持ちを押さえて、廊下の端まで移動する。ちょうど入れ替わるようなタイミングで、なっきーがロッカーに入っていった。 しょうがない。もし2人が一緒に出てきたら、今日はあきらめて帰ろう。・・・話ぐらいは、聞いてもいいよね。 そう思ってドアの前まで行くと、千聖がなっきーに「私のライバルは愛理です」とかなんとか言っていた。 たよりない変なお嬢様キャラに変わっても、そういうことははっきりした口調で言えるんだね。むかつく。 そして、次になっきーが信じられないことを言った。 「千聖は変わってないね。前の千聖のままだね。」 その後のことは、あんまり覚えていない。 なっきーに文句を言ったような貴がする。 千聖を怒鳴りつけた気もする。 もしかして、暴力を振るったのかもしれない。 気がついたら、舞美ちゃんにすがりついて大泣きしていた。 こんなに泣いたのは初めてかもしれない。まだこめかみが痛い。 「舞、熱いココア入れたから、あっちで飲もう。」 こんな真夏に、Tシャツにハーフパンツでホットココアって。 「ありがとう。」 カップを受け取って、口をつける。 熱いけど、おいしかった。舞美ちゃんはかなりの天然だけど人の好みをよく記憶していて、 たまにこういう風にお茶を入れてくれることがあると、いつもそれぞれが一番おいしく飲めるように気を使ってくれる。 「おいしい?」 汗だくだくになりながら、舞美ちゃんが首をかしげる。 「うん。舞は砂糖少な目でミルクが多いのが好き。ちゃんと覚えていてくれたんだ。」 「そりゃあそうだよ、大好きなキュートのことですから。みんな特徴あって面白いから、なんか覚えちゃうんだよね。 愛理は味薄めでしょ、栞菜はココア粉大目にミルクたっぷり。ちっさーなんてココアも砂糖もミルクもがんがん入れて!とか言ってさ。・・・・あ、」 「・・・いいよ、別に。舞の勝手で今の千聖を受け入れられないだけなんだから、そんな風に気使わないで。」 心がかすっかすになっていたけど、まだ笑顔を作ることぐらいはできた。 「ねえ、舞。千聖のことなんだけど」 「今はその人の話したくない。」 「舞。・・・・ううん、そうか、それじゃ仕方ないね。違う話しよっか。あのさ、友達の話なんだけどね、最近。・・・」 舞美ちゃんの顔がちょっとだけ曇ったけれど、それを打ち消すように不自然に明るく振舞ってくれた。 「うそー。ありえないよ。」 「でも本当なんだって、私もびっくりしちゃってさあ」 “・・・バカじゃないの、周りの人傷つけて、あんた何で笑ってんの” 舞美ちゃんに調子を合わせて、楽しげに話す自分を、もう1人の自分が責めている声が聞こえた気がする。 会話が盛り上がれば盛り上がるほど、心には虚しさが降り積もっていった。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -