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「千聖、大丈夫・・・?」 「ぅー・・・」 犬の子供みたいに小さく丸まって、千聖は体をピクピクさせたまま何も言わない。 焦らされまくると結構体の負担が大きいのはわかっていたけど、ついついいじめてしまった。可愛かったなぁ・・・“いじわるしないで”、だっけ・・・ 明るい方の千聖には日頃いじられっぱなしだから、これはちょっとした反撃のネタができたかも。なんてひそかにほくそえんでいたら、千聖はイモムシみたいにズリズリとベッドを這って、ムクッと起き上がった。 気力の問題もあるのか、お嬢様より回復が早いみたいだ。余韻でピクンと跳ねるお尻をニヤニヤしながら見ていたら、枕を投げつけられた。 「・・・わざとでしょ」 「何が?」 「えりか最悪・・・」 唇を尖らせて睨んできても、真っ赤なほっぺたと潤んだ目じゃ全然怖くない。怒っているというより、予想以上に恥ずかしい目に合わされたのが納得いかないみたいで、相変わらず「ヘンタイ」と口の中でモゴモゴフガフガ文句をたれている。 「いいじゃん、そんなこと言ってるけど気持ちよかったんでしょ?」 「何それ」 千聖は眉をしかめてうつむいた。 「え・・ちょっと」 「最低・・・ひどい・・・バカ・・」 そのまま、顔を覆ってヒックヒックとしゃくり上げる。さっき投げつけてきた枕をギュッと抱きしめて、千聖は声も出さずにうずくまっていた。 「ごめん、千聖・・・」 もう、何で私はこうも調子に乗りやすいんだろう。千聖は案外、こういうことに関してはデリケートで乙女なんだってつい忘れてしまっていた。 「泣かないでよー・・・ウチが悪かったから、ね?」 人の涙はすぐに伝染してしまう。私は情けない顔でべそをかきながら、枕に顔を押し付けている千聖の頭を撫でた。すると、ゆっくり千聖の顔が上がってきた。 「・・・え?」 ――あれ、泣いてない。 ていうか、笑ってる。 「うぇへへへへ」 「え・・・ちょ、待って」 「覚悟しろ、えりかー!」 千聖はいきなりベッドの上に仁王立ちになって、バランスを崩しかけた私の懐に飛び込んできた。 「わあっ!ちょっと!卑怯者!」 小柄とはいえ、千聖の身体能力は私とは比べ物にならない。あっというまにマウントポジションを取られる。 「えりかがヘンタイなのが悪いんだよ。グフフ」 「ち、ちしゃとぉ・・」 千聖の子犬みたいな愛くるしい顔が、舞ちゃんと2人でイタズラを思いついた時のあの顔に変化していくのを、なすすべもなく下から見守ることしかできない。 「ホントにさー、ヒドイよね。舞ちゃんだって、もうちょっと優しくしてくれたよ?」 「・・・やっぱり、こういうこと舞ちゃんともやってたんだ」 「違うよ、無理やり1回やられたんだもん!」 千聖は私の胸を乱暴に掴むと、お餅でもこねるような手つきで、グニグニと力を込めてくる。 「痛い痛い痛い!」 「あれ?嘘、痛い?ごめんごめん。乱暴にしちゃだめなんだ」 ちょっと考え込むような顔をする千聖。丸っこい指が一旦離れたかと思うと、今度は上半身を倒して、ギューッと抱きついてきた。 「ムフフフ・・・」 「んーっ」 さっきやってたみたいに、胸と胸がくっつく。あ、ちょっとこれはヤバイ・・・。まだ硬いままの千聖のと私の先端が押し合って、ムズムズするような変な感覚がせりあがってくる。 「どう?」 「へ、へー・・・千聖よっぽどこれが気持ちよかったんだ。」 それでも、一応年上の意地というものがある。何とか優位に立とうとしてからかうと、千聖は「違うし!」と顔を真っ赤にして、あわてて体を起こした。 「ふっふっふ、ごまかしたって私には・・・・・っ!?ちょっと、何やってンの!痛いって!」 今度は、下半身にビリッとおかしな感覚を覚えた。千聖が、私のだいじなとこに指を突っ込もうとしている。 「だって、さっきえりかちゃんもやってたじゃん!ちょっとぐらい我慢しなさいよね!」 なぜかオカマ口調でキレられて怯んでいると、千聖はそのまま私の上から降りて、足の間に回った。そして、ガッと押し開かれる。 「無理無理無理無理!千聖!やめてお願い!」 「・・・へー・・・・」 「へーじゃない!じろじろ見るんじゃありません!ねーもう、本当に・・・んんっ」 さっきとはうってかわって優しい手つき。千聖の手が、表面をゆっくりなぞる。 「こうすればいいのか、何となくわかった」 「あン、ちょっと・・・」 逃れようにも、下半身はガッチリホールドされているから、上体を虫みたいにぐねぐね動かす事しかできない。 「いっつも千聖ばっかりしてもらうんじゃ、納得できない。ってお嬢様状態の時にも思ってたはず。そういうの何となくわかるし。何だっけ・・・ふぇらじゃない?だっけ」 「違うよ!フェアじゃない、だから!そんな危険な噛みかたしないでちょうだい!」 「そんなのどっちでもいいよ。さぁ続き続きー♪」 話題を若干ずらそうとしても、千聖は全く意に介さず、再び指を動かし始めた。 「あ・・・あ・・・・」 「・・・」 急に、何も言わなくなった。千聖は本気で集中している時は、全く回りが見えなくなって、口を利くことすら忘れてしまう。その素晴らしい集中力をこんなことに使うなんて、どう考えてももったいない!間違ってる! 「やめ・・・ひいぃ」 実はこういう才能があったのか、千聖は絶妙な力加減で、私の弱いところをピンポイントで触ってくる。しかもエロ顔というより、伝統工芸職人のようなストイックな表情で黙々と。 手マ○職人岡井千聖、という誰にも披露できないギャグを思いついたけれど、まさか口に出すわけにはいかない。何と言っても、女の子の大事なところをガッチリ人質に捕られてるんだから、うかつなことは言わぬが花。 「千聖、ごめ・・・えりが、悪かったから・・・もうダメ!」 目の前がチカチカ点滅し始めた。これはヤバい。何とか制止しようと大声を出すと、やっと千聖は顔を上げた。無表情に近かった顔が、チェシャ猫のようにニィーッと笑いを深める。 「ちゃんと見届けるからね。えりかの・・・・グフフ」 「ションナ・・・アッー!!!」 その機械のごとく正確な手つきで、私はそれからすぐに、天国へと連れて行かれることとなった。まさか、千聖にここまでされるとは・・・・。快感半分orz半分でベッドに倒れこむ。が、しかし 「・・・千聖?もう、いいよ・・・もうウチ十分天国・・」 「・・・・」 「ちょっと、ねえ!」 千聖はいっこうに手を止める気配がない。また真顔で、大分ヒドイ状態になっているであろう私のソコに打撃を与えてくる。 「だって、さっきえりか、千聖に何度もこういうことしたでしょ」 違う!だってあれはただ単に焦らしただけであって・・・でも、今のピンクに染まった脳みそで、千聖にそれを説明するのは不可能なことのようだ。ますます体から力が抜けていく。 そういえば、佐紀の家で見た(以下略)で、女性は達し続けると、途中からはもはや快感じゃなくて苦しみになっていくって言ってた気がする。もしこのまま、千聖が延々と手を止めてくれなかったら・・・! 「千聖!」 視線がぶつかる。三日月の形の目がますます眇められて、年齢に合わない妖しい表情へと変化していく。 「何か、面白いね。えりか可愛い」 「あっ・・あ・・・!ちさ・・・!」 「うぇへへへへ」 その手は一向に止まらない。無邪気に笑う顔は、天使のようでもあり、悪魔のようにも見えた。 前へ TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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「おお・・・」 これは、どうしたものか。 私は直感に頼ると、いつもろくなことがない。 学校のテストでも、○×問題を勘でやったら、全問不正解だったことがある。 ということは、だ。 今私がこうすべき!と思っているのは、ちっさーを連れて3人のところへ行くところだ。 だからその裏をかいて、2人でここに残るのがいいのかな? いや、待って。でもその裏の裏の裏の裏の 「・・・舞美さん」 「裏っ!・・・・ごめん、何でもない。」 ちっさーはやっと喋ってくれたけれど、私の首に顔を押し付けてるから、どんな顔をしているのかわからない。 「ちっさー、顔見せて?」 体を離そうとしたのに、ちっさーはイヤイヤと首を振ってしがみついてくる。 「舞美さん・・・、私、最低な人間です。もう消えてしまいたい。私のせいで、栞菜が傷ついてしまいました。」 「ちっさー。」 それはたった14歳のちっさーが言うには、あまりにも重い言葉だった。 「・・・ちょっと待ってて。」 もう直感がどうとか言ってる場合じゃない。 ちっさーのために、今一番いいと思えることをしてあげるしかない。 “先に帰ってて。私がちっさーのそばにいるから。舞のことはなんとかなる!” ちっさーをしっかり抱きしめたまま、私は親指が攣りそうになりながら10秒ぐらいでメールを打って携帯を放り投げた。 リーダーなのに、何て投げやりな返事なんだろう。 でも私はたくさんのことを同時に処理できるタイプじゃないから、舞がどの程度荒れてるかしらないけれど、その件はなっきぃ愛理にまかせることにした。 私がすべきことは、たった一人で私を待っていてくれたちっさーの側にいることに違いない。 「ちっさー、消えたいなんて言わないで。大丈夫だよ、栞菜はえりと一緒にいるから。落ち着いたら仲直りすればいいじゃないか。」 「無理です。私、絶対に言ってはいけないことを栞菜に言いました。」 「何て言ったの?」 ためらって黙りこんだちっさーの顔を、少し強引に私の肩から引き離した。 少し乱暴すぎたかもしれない。ちっさーは怯えた顔で私の様子を伺っている。 質問を変えてみることにした。 「ちっさーは、栞菜のこと嫌いになっちゃった?」 「いいえ!私は栞菜のこと大好きです。・・・栞菜は悪くありません。私が全部悪いんです。」 あまりにも必死な表情。 ちっさーは、ただ自分を責めているだけじゃなく、何かを隠そうとしているみたいだった。 鈍い、鈍いといわれている私でも、その痛いほどけなげな様子に違和感を感じるほどだ。 「・・・ちっさー。目を逸らさないで。こんなこと言って不謹慎かもしれないけど、私はちっさーが私のこと待っててくれて嬉しかったよ。こんなに頼りないリーダーでも、頼ってくれるんだって。 だから、ちっさーの心の中にあるものを全部ぶつけてほしい。絶対、受け止めるから。」 揺れるちっさーの目線を私に向かせたくて、ほっぺたを包み込んで顔を近づける。 「・・・・・・・・絶対に、栞菜を、責めないでいただけますか?」 しばらく見つめあった後、ちっさーがポツリと呟いた。 「わかった。」 ちっさーは言葉を選ぶようにゆっくりと、今日までに栞菜とちっさーの間にあったことを話してくれた。 それはとても重くて、切なくて、痛い出来事だった。 ちっさーは栞菜を悪者にしたくなくて、栞菜に言われていた言葉を、誰にも言わずに自分の心にとどめていたんだ。 舞ちゃんは無条件でちっさーの味方について、下手をすれば栞菜を憎んでしまうかもしれない。 なっきぃは優しいから、どっちの思いも受け入れようとして、当人達より傷ついてしまうかもしれない。 仲良し三人組のなかで、愛理を板ばさみにして苦しめたくない。 だから、私一人に打ち明けることで、栞菜へのダメージを最小限にとどめたかったんだろう。 「バカちっさー。もっと早く言ってくれたら、いくらでも相談に乗ったのに。・・・・ううん、バカは私だね。ちゃんと気づいてあげられなくてごめん。」 私がもっとしっかりしていたなら、2人のおかしな状態に気づいていたなら、ちっさーは栞菜に思ってもいない言葉をぶつけることはなかったはず。 メンバーの様子に気づけないくせに、リーダーだなんて自分で言うのも恥ずかしい。 「・・・舞美さん、そんなことをおっしゃらないで。私が全部悪いんです。」 「ちっさー・・・。」 情けないけれど、私は自己嫌悪のあまり、それ以上ちっさーに何の言葉をかけてあげることもできなくなってしまった。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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アハハッ ウフフッ ギギギッ 楽しげに高級ジュエリーをショーウィンドウ越しに覗く2人を、阿修羅怒りの面で歯軋りしながら電柱の陰から覗く舞様。 「・・・中華街、行くって行ってたのに。さっさと移動しなさいよね。買いもしない首輪だの耳輪だのずっと見てて楽しいわけ?全く、女の買い物はこれだから」 「いやいや、舞ちゃんも女の子・・・・あっ、移動するみたいだよ!今度はバッグのお店入っちゃった。」 「もー!!」 舞ちゃんはバンバン足を踏み鳴らして、不愉快そうにため息をついた。 カフェを出た二人は、舞ちゃんの予言(?)どおりに中華街のほうへ行くと思いきや、立ち並ぶ雑貨屋さんや洋服屋さんを散策し始めた。 前にショッピングモールでデートした時に思ったけれど、千聖の買い物時間はそれほど長くない。結構パッパッと決めてしまう。 だけど、えりかちゃんはファッションに関してはじっくり慎重に見定めるタイプだから、当然千聖もそのペースに合わせる。そうして時間がどんどん経っていくにつれ、舞ちゃんの眉間の皺も深くなっていく。 私は結構、人の流れとか見ながらボーッとするのが好きなほうだから、別に苦じゃないけど・・・隣で舞ちゃん周辺の空気がどんどん澱んでいくのが恐ろしい。 「あれって、やっぱりおそろいのもの探してるのかな・・・。」 千聖とえりかちゃんは今度はかばん屋さんに入って、カラフルなディスプレイを熱心に見ながら、いろんな色のキーホルダーとか革のストラップを手にとって話し込んでいる。 「舞、千聖と2人だけのおそろいの物とか持ってないんだけど。・・・負けた気分。」 「あれは旅行の記念っていうか、お土産みたいなものじゃない?」 「そうかなあ・・・」 普段は強気なわりに、舞ちゃんは急にしおらしくなったりするのがかわいいと思う。 「千聖の性格からして、おそろいを持つこと自体にそんなにこだわりはないと思うよ。なっきぃとだって、おそろいのストラップつけてたじゃん。あれはよかったの?」 「だって、なっきぃはちーに優しいし変なことしないし。いや、でもあのデスメールではおなっき・・・」 「デス?」 「ううん、こっちの話。愛理、ありがとうね。・・・ね、舞達も何か見に行かない?」 「いいの?」 「舞のちーセンサーによると、まだ当分2人はこのあたりでうろうろするはずだから。」 千聖センサー・・・そりゃ頼もしい。 「ね、行こ?こっそりだよ。」 「ケッケッケ、こっそりね。」 抜き足差し足なんてしたって全然意味ないのに、変にテンションの上がった私たちは、背中を丸めてスパイのようにその場を立ち去った。 「ところで舞ちゃん、どうして今日の2人の同行を把握してるの?舞ちゃんの千聖センサーが優秀だからって、具体的にわかりすぎじゃない?」 「あーうん・・・実は、なっきぃに密偵を頼んだの。ちーは舞がこの旅行に反対してるの知ってるし、えりかちゃんも教えてくれなそうだから、なっきぃにね」 なっきぃかぁ。確かに、千聖と仲良しななっきぃなら、日程について聞き出すことぐらいできるだろうけど・・・ 「もちろん直接聞いたら怪しいから、さりげなく横にいて会話から推測してもらったんだけどね」 「えー・・そうなの?」 何か、不思議な感じ。なっきぃの性格を考えたら、密偵なんかしないで、直接千聖かえりかちゃんにストレートに聞きそうなのに。 「なっきぃは、しばらく舞からのお願いは断れないから。探る方法も、舞がお願いしたとおりにやってもらうんだ」 「断れないって、どうして?」 「どうしても。ふっふっふ」 「・・・」 さっき舞ちゃんが言いかけた、デスメールというなぞの単語が脳裏をよぎる。・・・舞ちゃん、やっぱり恐ろしい子! * 「いいの、千聖?」 「え?」 目を上げると、えりかさんが少し顔を近づけてきていた。胸がトクンと音を立てる。 「舞ちゃんたち、追いかける?」 「あ・・・」 いつのまにか、店外の柱の陰にいたはずの舞さんと愛理は姿を消していた。 何色も種類のある、動物の形のキーホルダーを夢中で選んでいたから、気がつかなかったみたいだ。 「やっぱり、カフェでお見かけしたときに声をお掛けした方がよかったかしら。」 「いやー、あの時は掛けなくて良かったと思うよ。多分」 「そうですか・・・」 舞さんの姿を見つけたときは、少しだけヒヤッとした。 “えりかちゃんと旅行に行くのやめて”舞さんの言葉がふと脳裏をよぎったから。“千聖のためにならない”とも言っていた。 まさか、止めに・・・?だけど、えりかさんが「大丈夫。」と手を握ってくれたから、そのまま気づかない振りを続けた。 舞さんは、私のことを好きと言ってくれた(でも同時にとてもひどい行為を・・・)。今は元通り、仲良しなちさまいコンビに戻ることができたけれど、私は結局何も答えられないままだった。 このまま、いつまでもなあなあにしておくことはできない。でも、どうしたらいいのかわからなかった。だって私は・・・ 「千聖、買うの決めた?」 「ええ、これを・・」 「いいね。それなら色も結構種類あるし、値段もちょうどいいね。割り勘で大丈夫?」 「もちろんです」 えりかさんの手が、商品を持つ私の手ごと優しくつつんだ。 「旅行のおみやげって、こんな近場でおかしいかな?」 「でも、皆さんに差し上げたいのでしょう?」 「うん。急にお揃いのものとか増やしたくなっちゃって。・・・ね、それ買ったら、中華街の前にちょっと行きたい所があるんだけど。近くだから、付き合ってくれる?」 「ええ。もちろん」 ピンク、黄色、オレンジ、緑、青、紫。いろんな動物の形の皮のキーホルダー。今日のお土産に、キュートのみんなに私たちからのプレゼント。 「千聖と舞美は犬なんだね。イメージどおり。舞ちゃんは猫?わかるわかる!」 「ウフフ、そんなに意識して選んだわけではないんですけれど・・・」 両手をお皿みたいにしてキーホルダーをレジへ運ぶ私の肩を、舞美さんがいつもするように、えりかさんは優しく抱いてくれた。 「エアコン、効いてるね。寒くない?肩が冷たくなってるみたいだけど」 「ありがとうございます、大丈夫です」 今日のえりかさんは、何故か私の体によく触れる。普段はどちらかと言えば、適度な距離感を持つ方なのに。柔らかくて滑らかな手の感触に胸が高鳴る。 (思い出づくり・・・?) ふと、考えないようにしていた言葉が心を通り抜ける。・・・やめよう。せっかく誘ってくださったのに。 「千聖?」 「あ・・・ごめんなさい、お待たせして。今、包んでいただいてるので、店内で待ちましょう」 「そか。じゃあ、バッグの方行かない?気になるのがあるんだ」 「ええ。そうしましょう」 今度は腰に手が回って、触られるとムズムズするウエストの辺りをつつかれた。 「きゃんっ!」 「ムフフ」 「・・・もう、えりかさんたら」 いたずらっ子みたいに笑う表情は、えりかさんの大人っぽい顔立ちと対照的で、つい見とれてしまう。 「あ・・・やっぱりパスケースも見たいな。行くよ、千聖。」 「はい。」 いつも優しいえりかさんが、少し強引に、当たり前みたいに私の手を引いてくれるのが嬉しい。 熱心に小物に見入るえりかさんの綺麗な横顔を、すぐ傍でジーッと見つめることができて、幸せだった。 前へ TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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「あっ・・ん」 柔らかい肌が私の体とくっついて、蕩けちゃいそうなほど熱さを感じる。 「舞さん・・・」 「舞って呼んでよ」 「ん・・・舞・・・」 私は千聖の唇と自分のを合わせて、そっと舌を差し入れた。 ぬるくて、湿っていて、頭がくらくらする。 「千聖は舞のなんだからね」 キスしたままそうささやくと、千聖はウフフと小さい声で笑う。その振動が直接舌に響いて、幸せだな、と思った。 「ぅあっ・・・」 ゆっくりと、千聖のおっきい胸に、指をめりこませる。一瞬だけ体がこわばるけど、少し強く腕を掴めば、千聖は大人しくなる。 「ね、舞のこと好き?」 「ええ・・・」 「違う、ちゃんと言って」 はずかしがって目を逸らさないように、胸をもっと強く掴んで、空いてるほうの手であごを押さえる。 千聖は子犬みたいな声でキュンと喉を鳴らした。 「舞のこと、好き?」 お嬢様の時の千聖の目は、ふだんのバカちしゃとの時よりもうるうるしてて、なんていうか、宝石がはめ込まれているみたい。 「早く、答えて」 私は千聖を倒して、おなかに馬乗りになった。千聖の息が詰まるのを、自分の下半身で直接感じる。 「ねえ、重い?」 必死にこくこくうなずくのを見ていると、心が満たされる。私今、すごい顔で笑ってるんだろうな。 「舞・・・まい・・・」 柔らかい髪。あどけなくてどこか色っぽい不思議な顔立ち。耳に残る独特の声色。胸はおっきいのに、他のとこは子供っぽいアンバランスな体つき。全部が綺麗で、全部が愛しい。 なのに、綺麗なものって、大事にしたいと思う反面、めちゃめちゃに踏みにじってやりたくもなる。こんなに大好きなのに、不思議な感情。 「言って、千聖。舞のことが好きだって」 「ま・・・い」 「言わないと、一生ここから出してあげない。舞のペットだね」 そんなのもいいかもね、と笑うと、千聖は困った顔して首を横に振った。 「ちー、舞だけを見て。他の人と仲良くしちゃダメ。舞が誰かと仲良くしてても、ちーは舞のことしか見ちゃダメ。わかった?」 千聖の目じりをすべる涙を、唇で掬う。温かくて、ほんのりしょっぱい味がした。 「大好き、千聖。誰にも渡さない。千聖は?」 「わ・・・わたしは、舞の、ことが・・・・」 * 「省略されました・・・・全てを読むにはわっふるわっふると唱えてくだ」 「いやですっ!」 なっちゃんは瀕死のカエルみたいな声で拒絶すると、バタッと床に倒れこんだ。 「ちょっとー、ノリ悪いなぁ」 「舞ちゃあん、もうやめようよぉ・・・」 「やーだよっ。舞がこんなんなったの、なっちゃんのせいなんだから」 私は千聖や愛理たちには見えないように、なっちゃんにむかってイーッと憎たらしい顔をして見せた。 なっちゃんには、いつぞやのエロDVDで、私のS心を開花させた責任がある。このぐらいのヨタ話には付き合ってもらって当然。 「ちなみにこれ、第150章まであるから。今は第3章79ページ目」 「ギュフゥ・・・」 去年のゲキハロの頃以来、私は千聖と“そういうこと”はまったくしていない。ま、だからぶっちゃけ欲求不満なんです。目の前においしそうな果物がチラついてるのに食べられない気持ち、わかりましゅか!!!!??? 「舞ちゃん・・・いちおう聞くけど、千聖にさぁ」 なっちゃんはあの時私が千聖にしたことを知っている。何か、何となく気づいちゃったらしい。さすがおなっきぃ。それで、もう一度同じことをするのを恐れていて、私のこういうアイタタタな妄想に耳を傾けてくれるんだろうけど。 「まあまあ、心配しないでよ。こうやってなっきぃが舞の話を聞いてくれる限り、千聖とはフツウの接触しかしないし」 「うー・・・」 しっかり者のなっちゃんに、こんな困った顔させちゃってるのは妙に気分がいい。やっぱり私って、確実にアレでソレなんだろうな・・・。 「それに、なっちゃんだって人のこと言えないんだからね。なんてったってみぃたんニーやらみやニーやら」 「そりは言っちゃらめえええ」 「ま、そんなわけで今後も頼みますよ。次回タイトルは“青春の光と影―舞の青いレモン、千聖の赤い果実”」 「昭和かよ」 なっちゃんをからかう自分のおしりに、悪魔の尻尾が生えているような気がした。そんなダンスレッスンの休憩中の一幕でした。どっとはらい。 前へ TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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調理と後片付けが終わって盛り付けが始まったころ、キャッキャと無邪気にはしゃぎながら千聖となっきぃが戻ってきた。 「ほぉら、行っておいでよお姉ちゃん!千聖となっきぃに突撃インタビューだ!しっかりおやりなさいよ!」 栞菜、お見合いおばちゃんじゃないんだから。 私はハンディカメラを持って、二人に近づく。 「お疲れ様ー。いいにおい。何作ってたんですかー?」 「キュフフ、バターと、パンも焼いたよ!出来立て~。」 なっきぃの抱える籠の中には、小さな丸いパンと瓶詰めのバター。ふわふわといい匂いが漂ってくる。 「あら、おいしそうですこと!」 「えりこちゃんあとでいっぱい食べてね。」 あぁ、あのことさえバレなければ、私となっきぃはこうやって普通の会話も楽しめるのに。 和やかに会話しながらも、何だか居心地が悪いのは否定できない。 いつもより目力が強いなっきぃ。その微妙に笑ってない目は「千聖に変なこと聞いたら丸パン突っ込んでやるキ゛ュフー」とサインを送ってきているようだった。 「・・・じゃあー次は、千聖ー。作ったもの見せてください。」 カメラを千聖に向ける。 「はいえっと、私は、あっていうかなっきぃと私は、パンとバターのほかに、このアイスを作りました!」 千聖は前の千聖のテンションで喋り始める。すごいなあ。ちゃんとお嬢様は封印されて、ファンの人にはいつもの千聖にしか見えないんじゃないかと思った。 ふと、私の心に悪魔が降りてきた。 この、前のキャラの千聖とエロいことしたら、どんな感じなんだろう。 いつも元気で明るい千聖が、私に組み敷かれて「やっやだっえりかちゃん・・・恥ずかしいよ」とか言って目を伏せたりしてハァ━━━ リl|*´∀`l|━━━━ン!! 「えりかちゃん?聞いてる?」 「うへへぇ?あ、ごめん。」 「ウケるぅ!今ちょーヤバイ顔してた。みなさーん、えりかちゃんは千聖の話聞かないで何かニヤニヤしてます!ねえ何考えてたんですかー?」 千聖はク゛フク゛フ笑いながら、カメラの向きを私の顔の方に変えてくる。 「ちょっ下から撮らないで!せめて可愛く撮って!」 イタズラ好きは相変わらずのようで、演技じゃなく、心底楽しそうな顔をしている。なっきぃの手助けもあって、私のアホづらはあえなくカメラに収められてしまった。どうかカットされますように! 「だからね、千聖となっきぃはアイスを作ったんです!はいこれ!」 千聖は大きなアルミの容器を抱えていて、中にはカスタード色のアイスが詰まっていた。 「さっきなっきぃとえりかちゃんと舞ちゃんが絞った牛乳で、作りました!」 「結構体力使うんだよね、アイス作り。」 「でも楽しかったね。味見したらおいしかったし。」 「だねーキュフフフ」 そんな可愛い2人の楽しそうな空気は、私の一言で凍り付いてしまった。 「じゃあデザートは、なっきぃと千聖の新鮮な乳で作ったアイスだね!」 シーン ? あっ! 「ち、違う今の!いい間違えただけ!つまり、千聖が私や舞ちゃんの乳を絞っ・・・じゃなくて、じゃなくて」 「うっ・・・・うめだああああああ」 「ひえええ」 私には悪霊が取り付いてるのか。今この状況で、なっきぃ相手にこんなヤバい間違いはありえない。 「待ちなさいっえりこちゃん!」 パン籠を抱えたなっきぃが、必死に逃げる私を追いかけてくる。いつもならもう追いつかれて八つ裂きコースだけれど、真面目ななっきぃは食べ物をこぼさないように気をつけているから、なかなか距離が縮まらない。 私は運動オンチなりに頑張って、どうにか舞美の後ろに逃げ込んだ。 「リ、リーダー・・・お助け・・・・」 「えりどうしたの?面白いねーえりも走ることとかあるんだーとかいってw」 間もなく到着したなっきぃが、アドレナリン全開の状態で私に笑いかけてきた。 「キュフフ、えりこちゃん。そのビデオ、まだ録画状態なの知ってる?」 「あっ!」 なっきぃはすばやく私の手からビデオカメラを奪うと「キューフッフッフ」と高笑いした。 「今の映像、なるべくカットしないで使ってくださいってスタッフさんに直談判してくるケロ。行こう、千聖。」 「エッチなことばッか考えてるからだよーク゛フフ。」 千聖め、さりげなく本音を混ぜてきたな! かくして私はDVDマガジン販売までの間、どこまで問題の映像が使われているのか、ヒヤヒヤしながら過ごすこととなったのだった。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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「あれっちっさーは?」 結局千聖を残して先に外へ出た私を見て、舞美が首をかしげた。 「うん、後で来るって。」 「そっか。じゃあ、今適当に円になってやってるからどっか入って?」 「うん・・・」 結果的に千聖を傷つけることになってしまって、私はものすごく落ち込んでいた。だから気が入らず、あんまり考えもせずに、一番近くの輪の切れ目にお邪魔してみた。 「えりこちゃん。」 「うぅっわ!」 しまった。すぐ右側になっきぃがいて、にっこり笑っている。 いつもはリスやネズミみたいで可愛いその笑顔が、今日はホラーがかっている。怖い。 「キュフフ、そんなに警戒しないでよぅ。この位置関係じゃ、えりこちゃんになっきぃスマッシュくらわすことはできないでしょ?」 なっきぃは飛んでくるシャトルを器用に返しながら、淡々とした口調で語りかけてくる。 「・・・私はね、えりこちゃん。」 「は、はい。」 「千聖に悲しい顔をさせたくないわけ。えりこちゃんは遊びのつもりで千聖にいろいろしてるのかもしれないけれど、えりこちゃんは千聖の未来を破壊してるかもしれないんだよ。」 「破壊って、」 「だってそうでしょ。今の千聖はまだ赤ちゃんみたいなものなんだよ。その透明で綺麗な心に、えりかちゃんが勝手に変な色をつけたら、千聖は、千聖は・・・」 いつのまにかなっきぃはポロポロと涙をこぼしていた。泣き虫なっきぃの通り名はだてじゃない。 「ど、ど、どうしたの!なっきぃ?羽根でも目に入った?」 あわてて駆け寄ってくるメンバー。誰もさっきの会話を聞いていなかったみたいで、私に事情を聞いてくる人はいない。 「・・・ん、ごめん。大丈夫。ちょっと目洗ってくるから。」 なっきぃは男らしくぐぃっと涙を拭うと、一人で水道の方へ走っていった。 「どうしたんだろうねー。」 「おなかでも痛くなっちゃったかな?」 なっきぃの体調を案じるみんなの会話に、私は入ることが出来なかった。 私は、千聖をおもちゃにしていたのか。そんなつもりはなかったけれど、少なくともなっきぃにはそういう風に解釈されてしまった。 基本的に先のことは考えない性格の私は、今この瞬間、千聖と私が気持ちよくて楽しいならそれでいいと思っていた。誰に迷惑をかけているわけでもないし、私がしていることはそんなにたいしたことじゃない・・・・はず。 それでもさすがに今のなっきぃの言葉は重くて、私もさらに気持ちが落ちてきてしまった。 「えりかちゃん、千聖遅いね。もうそろそろ集合時間なのに。」 いつのまにか栞菜が私の横に移動してきていた。 「あ・・・うん。ウチ迎えに行って来る。」 「あっ、そうだ、えりかちゃん。いつでもいいんだけど、今日ちょっと話があるんだ。」 「ウチと?・・・うん、時間あったらね。」 上の空なまま、栞菜をあしらってしまったけれど、私はふと栞菜がなっきぃと同じ部屋だったことを思い出した。あと、舞美も。 まさか、なっきぃから二人に話が?・・・いや、なっきぃはまだ不確定なことを勝手に他人に喋ったりするタイプじゃない。口が固いからこそ、ああやって一人で重く受け止めてしまうんだろう。 まあ、どちらにしても後でわかるか・・・ 私は急ぎ足でコテージに戻った。 「千聖?」 玄関で名前を呼んでみても、返事がない。ベッドにも、椅子にも姿がない。 「千聖、どこ?」 靴を脱いでベッドの淵に回りこむと、膝を抱え込んだ千聖がちっちゃくうずくまっていた。 「千・・・」 覗き込んだ千聖の顔は、あの虚ろな表情になっていた。 何も映さない、一人ぼっちの世界に入ってしまったときの顔。 どうしよう、私があんな放り出し方をしたから辛くなっちゃったんだ。物みたいに扱われて、それで「寂しい」なんて言ったんだ。 「ごめん、千聖。私が無神経だった。戻ってきて。」 いつもならゆっくり時間をかけて体に触れて千聖の心を取り戻すのだけれど、今はそこまでしていられない。 髪を撫でて、ほっぺたを寄せて、私の体温をわける。 「・・・・えりか、さん・・・・?」 いつもよりさらに悪いかつぜつで、千聖が私の名前を零す。あと一息かもしれないけど、もうタイムリミット。 私は千聖の顎を指で救って、顔を上げさせた。 少し茶味がかったその瞳を見ないように目を閉じて、ほんの一瞬だけ、唇と唇をくっつける。 本当に触れるだけだったから、唇の感触なんて全然わからなかった。ほっぺにキスするのと同じようなもの。 でも、 ああ、これだけはやっちゃいけないって決めてたのに・・・ 顔を離すと、みるみるうちに千聖の瞳に光が戻る。 「・・・あの、今」 「特別だからね。もうしないから。梅さんキスするの嫌いなんだよ。それより、早く行こう。もう時間だから。」 「・・・・・・はい。」 おずおずと差し出してきた手を取って、玄関へ向かう。 千聖の顔がほんのり色づいて、はにかんで微笑むのが視界の端に映る。私はますます、自分のしていることが正しいのか間違ってるのかわからなくなってしまった。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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――ザクッ ザクッ ザクッ 硬いものを削り取る鈍い音とともに、私の顔に冷たい飛沫が襲い掛かってくる。 「舞ちゃぁん・・・」 情けない声で一応抗議を試みるも、彼女の顔は、正面にいる私の方に向けられることはなかった。 午後2時。横浜にある瀟洒なカフェの端っこの席で、舞ちゃんはさっきから延々とイチゴカキ氷の頂点にスプーンを突き刺し続けている。無表情で。 完全に右側を向いたままになっている舞ちゃんの視線の先には、えりかちゃんと千聖。すっごく楽しそうに、メニューを見ながらにこにこしていて、ラブラブだ。いいですなぁ。 “今日えりかちゃんとちーがお泊りでデートするから、尾行する。協力して” 数時間前、舞ちゃんからこんなメールが来た。 今日はオフで、予定は特になかった。なんとなくダラダラしたい気分ではなかったから、私は舞ちゃんからのそのお誘いに、悩むことなく乗らせてもらった。・・・のはよかったんだけど。 一体どうやって聞き出したのか、舞ちゃんは待ち合わせの駅で私と合流すると、まっすぐに今いるこのカフェへ足を運んだ。そして、しばらくすると、本当に千聖とえりかちゃんが現れた、というわけだ。 舞ちゃん、恐ろしい子!数日前にテレビで見た、知人の持ち物に盗聴器をしかけてどうのこうのという恐ろしい事件を思い出したけれど、それ以上は考えないほうがいいような気がして、私は記憶にふたをした。 ――ちなみに、今の今まで、今日の私たちはろくに会話もしていない。だって舞ちゃん、何か怖いんだもん。 「すみませーん、このトロピカルフラッペを・・・」 「トッ、トロピ・・・!」 えりかちゃんのオーダーを聞いた舞ちゃんは、元々大きすぎるぐらいパッチリな目をカッと見開いて、イチゴ味の氷に、さっきよりも強い攻撃をお見舞いした。塊が、私の鼻の頭に直撃する。 「ケッケッケ」 「・・・何で笑ってんの」 「いやぁ~トロピカル何とかって、カップルで食べる用の大きいやつだったなぁって思って。本当仲いいね、えりかちゃんと千聖って。そう思わないかい?舞ちゃぁん」 さっきから顔をイチゴまみれにされてるんだから、これぐらいのイジワルは許してもらいたいなあ。 「別に舞は・・・・あっ、ごめん。めっちゃ愛理の顔飛んでんじゃん。舞のカキ氷。」 やっと私の方に向き直ってくれた舞ちゃんは、拭いきれていなかった赤いシロップをおしぼりで取ってくれた。少し落ち着きを取り戻したのか、照れくさそうに笑う。 「あんな大きいの頼んだら、どうせえりかちゃん途中で食べるのやめちゃうよ。ウチおなかいっぱいだよーとかいって。そしたら千聖は一人でわしわし食べちゃうんだよ。おなか冷えちゃっても知らないんだから。」 「千聖、残った食べ物とかすっごい食べたがるもんねぇ」 「またぷくぷくしてきたら大福って呼んでやる。」 本当は、2人がひとつのものを食べてるっていうのが気にいらなすぎるだけなんだろうけど。舞ちゃんは大抵のことはちゃんと分別がつくし我慢もできるのに、千聖が絡むと本当に見境がなくなってしまう。 みんなは結構そういう舞ちゃんを心配するけれど、私は正直面白がってしまっているところもある。嫉妬、いいじゃない。これぞ青春!って感じじゃないか。とかいってw ケッケッケ 「・・・・ごめんね、今日」 「えっ」 私がそんなことをとりとめなく考えていると、急に舞ちゃんが腕を突っついてきた。 「ごめんって、何が?」 「こんなことに付き合わせちゃって。何か、一人じゃ冷静でいられない気がしたから、つい。」 「そんなの別にいいよ。私が好きでついてきたんだから。私も、あの2人がどうするのか気になってるし・・・」 ――まぁ、正直私は舞ちゃんに協力しているつもりはないし、かといってえりかちゃんと千聖のことを応援しているわけでもない。 もちろん、えりかさんえりかさん言ってる千聖のことを、自分の方に振り向かせたいと思っているわけでもないけど。 私自身が千聖に対して抱いている感情は、難しくてまだよくわからない。何と言っても2回ほどそういうアレをアレしてしまった仲だから、普通の関係じゃないことは確かだけれど・・・。 もうすぐえりかちゃんは、キュートを卒業する。そのことは、もうずっとずっと前に告げられていたら、寂しいけれど動揺はしていない。もうその時期は過ぎた。 でも、千聖は・・えりかちゃんは、今、何を考えているんだろう。キュートを離れてからはどうするつもりなんだろう。そして、私は残された千聖にどう接するべきなんだろう。 お嬢様の時の千聖は、何でも抱え込んでしまうところがある。えりかちゃんの卒業が近づいている今だって、一見何にも変わっていないような顔をしているけど、その胸のうちにある本当の気持ちなんて、実際のところわからない。 だから、今後の自分の身の振り方を考えるためにも、今日の2人の行動を追跡するのは有効かもしれないと思って、こうして尾行に参加させてもらったわけで。 私にとっては、誰と誰がくっつくとかそういう話じゃなくて、千聖が一番傷つかないで笑っていられることが重要なのだと思う。 千聖が幸せならそれでいい。その幸せを運んでくれるのがえりかちゃんなのか、舞ちゃんなのか、はたまた違う誰かなのか、しっかり見極めたい。 「カキ氷、溶けちゃうよ、舞ちゃん」 「うん。・・・エヘヘ」 ズタズタになったかき氷が、やっと本来の目的どおりに舞ちゃんのお口に運ばれていくのを確認して、私も放置気味だったシフォンケーキにフォークを入れた。 「あっ、これおいふぃ。ふわふわだー」 「本当?舞のあげるから一口ちょーだい」 「どーぞどーぞ!」 お互いいろいろ考えていることは違うんだろうけれど、とりあえず甘いものを堪能して、不穏な空気は回避できそうだった。・・・できそうだったんだけれど。 「お待たせいたしましたー。トロピカルフラッペでございます」 「「すっごーい!!」」 「ん?」 少し離れた席から湧き上がる歓声に、横目で視線を送ると、ちょうど噂のトロピカルなんとかが2人のテーブルに運ばれるところだった。 大盛りの氷を彩る、虹みたいにカラフルなシロップ。てっぺんには純白のアイスクリーム。それらを引き立てるように、側面にはマンゴーとかパイナップルとかバナナとか、南国情緒ただようフルーツがたくさん盛り付けられている。 これは、甘いもの大好きなえりかちゃんと千聖にはたまらない一品だろう。 「いいねー、あれ!おいしそう」 見てる私まで、関係ないのにテンションがあがってしまう。 「えー、こんなに食べれるかなぁ。千聖氷頑張ってね!ウチはフルーツとアイス担当になるからぁ」 「まあ、ずるいわえりかさんったら。ウフフ」 千聖がえりかちゃんをデコピンする真似をして、えりかちゃんは「ヤラレター!」なんてわざとらしくのけぞる。80年代か。2人はふざけながらさっそく氷の壁面を崩して、「おいしー!」と笑いあっている。 「ふ、ふふ・・・ふふふ」 「ま、舞ちゃん落ち着いて」 「ふざけんな」の「ふ」なのか、はたまた怒りのあまり笑い出したのか。舞ちゃんの小刻みに震える手で削られた氷が、また私に攻撃をしかけてきた。 「千聖、バナナ食べる?はい、あーんして」 「あーん。・・・おいしい。えりかさんも、あーん」 「やーだ、はずかしいよ」 「もう、千聖のも食べてください?ウフフ」 馬鹿か、貴様ら。何で煽るんだYO!舞ちゃんの大きな目は比喩じゃなくこぼれ落ちそうで、可愛らしい蕾のような唇からは「ちーがえりかちゃんのバナナを食べる・・・えりかちゃんがちーのマンゴーを食べる・・・」と深読みしてはいけない言葉が念仏のようにあふれている。 「で、出ようか舞ちゃん!」 隣のカップルのドン引きな視線に耐え切れず、私は半ば引きずるように、舞ちゃんの手を掴んでレジに向かった。幸い、トロピカルなんとかに夢中の二人はこちらには気づいていないみたいだ。 「マンゴー・・・バナナ・・・」 「・・・とりあえず、出てくるまで近くで待とうよ。そこ、ベンチあるし。」 「・・・次は、中華街だから」 「え?」 ふらつく舞ちゃんを支えるようにして、通りのベンチに移動すると、舞ちゃんは据わった目で私を見た。 「次、中華街に行くから。あの2人」 「え、どうして知ってr」 「つ ぎ は 中 華 街 だ か ら」 「・・・・・・・・はい。」 私の背中を、ひんやりした汗が一筋流れ落ちた。 TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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「千聖?おーい・・・」 私の腕にしがみついていた千聖は、力を失ってぐったりともたれかかってきた。 千聖の好きな観覧車の眩い電飾が、小麦色の肌を照らしている。瞳は閉じられたまま、軽く体を揺すっても反応しない。 ――やりすぎちゃったかな・・・ 今日の私は少し変だった。 日中デートを楽しんでいた時から、何だかよくわからないけれどずっとムラムラしていた。 キラキラグロスでおめかしした唇とか、上目でまっすぐに見つめてくる子犬みたいな目とか、・・・服をボイーンと押し上げてるお胸、とか。 山手通りからの帰り道、舞ちゃんと愛理に呼び止められなかったら、私はもしかしてどこかのトイレに千聖を連れ込んで、軽く1回戦を行っていたかもしれない。 正直、どこから私達のデートコースが割れたのかとても気になるけど、そういう意味ではあそこで合流したのは正解だったのかもしれない。 ただ、問題はその後。 舞ちゃんは観覧車の中で千聖にぶちゅっとキスをかまし、(消したら呪われそうなので写真はデジカメに残ってる・・・)私を煽った。 舞ちゃんの千聖に対する気持ちは知っていた。二人で旅行に行くと行って先に挑発したのは私。にもかかわらず、こういう事態は予測できなかった。舞ちゃん・・・いえ、舞様を見くびっていた。 ただ、いつものヘタレえりかと決定的に違っていたのは・・・この事件が私の嫉妬心を呼び起こしたこと。心が折れて、このまま何もせずにホテルで朝を迎えることも、自分の性格ならありえることだったのに。 千聖を渡したくない。自分だけのものにしたい。 今頃、こんな気持ちを覚えるなんて。ずっとずっと、千聖の思いから逃げて、体だけ繋ぎ止めて苦しめてきたのに。そして、私はもう、ずっとそばにいることはできなくなってしまうのに。 それでも、千聖が私をまだ必要としてくれるなら。私は今からでもその思いを受け止めるだけ受け止めたい。 そんな決意の後、私はむさぼるように何度も千聖の小さな唇を奪った。“千聖は舞のもの”そのおきまりの言葉にすら、嫉妬を覚えた。 何かに操られるみたいに、言葉で千聖を恥ずかしがらせて、初めて指を千聖の体に繋げた。私の千聖だ、って今更主張したくなって、持て余した思いをぶつけてしまった。 「千聖・・・」 どうしよう、本当に愛しくてたまらない。 強く抱きしめて、千聖の匂いを感じるだけで、涙がこぼれそうになる。もっともっと触りたい。夜景の綺麗なホテルで、2人っきりで、我慢なんてできそうになかった。 「・・・んん」 そんな私の気持ちを感じ取ってくれたのか、私にもたれかかるようにぐったりしていた千聖が、私の腕の中でもそもそと身を捩った。 「えり、か、さん」 「起きた?・・・ごめんね。ひどくしちゃった」 「いえ、あの・・・・大丈夫、れす」 舌たらずに答えた後、千聖はおそるおそるといった感じに、お湯の中へ目線を落とした。 「もう抜いたから、大丈夫」 こういうダイレクトな言い方は、きっと千聖を恥ずかしがらせる。案の定、耳まで真っ赤にした千聖は「あ、そんな、私・・・」とフガフガ口ごもって抱きついてきた。 「さっきの千聖、ぴくんぴくんしてて可愛かった。もっとちっさー食べたーい!とかいってw」 「もう・・・今日のえりかさんは意地悪だわ」 抗議の声もどこか甘く響いて、また私達は自然に唇を寄せていた。 「・・・ベッド、行こう」 「ええ。」 いつぞやのコテージの時みたいに、舞美が降りてきてくれれば、かっこよくお姫様抱っこでもしてあげられたのに。残念ながらノーマル仕様の私じゃ、肩を抱いてあげることぐらいしかできなそうだ。 洗面所に戻って、千聖の髪にドライヤーを当てる。 ふにゃっと柔らかいくせっ毛に、私の愛用のトリートメントが馴染んでいく。 「ちょっと髪傷んじゃってるみたいだから、えりかスペシャルトリートメントね。」 「ウフフ。覚えれば私も出来るかしら?お風呂上がりに明日菜や弟がジャレてくると、どうしてもドライヤーがおろそかになってしまって・・・」 「千聖ったら、乙女になっちゃって。前の千聖だったら、こういうの全然気にしなかったのに。」 モデルを目指すと決めたときから、私はもともと関心の強かった美容について、さらに追求するようになっていた。 メンバーからスキンケアやヘアケアについて聞かれることも増え、千聖にスキンケアやヘアケアについてレクチャーすることも今まで何度かあった。 今だって、とりたててスケベなことをしてるわけじゃなく、単にヘアケアのコツを教えているだけのつもりだった。それなのに、なぜかまたムズムズした感情が湧き上がってくるのを感じた。 おそろいで着ている備え付けのバスローブは、千聖には腕も胸元もぶかぶかで、小麦色の肌がそこかしこからチラチラ覗いている。ドライヤーをかけつつ、その適度にぷっくりした肌についつい見惚れてしまう。 そもそも、大人っぽいバスローブは千聖にはあんまり似合っていない。キャラじゃないっていうのもあるし、何と言ってもまだ中学生だ。無理をして大人と同じ格好をしていることが、やけに淫靡なことのように感じられる。 「・・・できたよ、千聖。家でやるときはちゃんとタオルドライして、トリートメント付けるのも忘れちゃダメだよ。」 「はい、ありがとうございます」 胸が熱くなるのを止められないまま、何とか平静を装う。 ドライヤーを止めて、天使のリングがわかるように髪をパラパラと摘んで見せると、千聖は嬉しそうに笑ってくれた。 「ちさと」 「え?」 喉に貼りついたような、妙に乾いた声が出る。 私は後ろから千聖を抱きしめて、緩い襟ぐりに手を差し入れた。 「あっ」 逃げようとする肩を捕まえて、そのまま鏡の前の椅子に座らせる。さっきの行為の余韻で変化したままの胸の先に触れると、千聖は身をよじった。 「や・・・」 「千聖、鏡見て。」 無言で首を横に振るくせに、千聖はこっそり視線を鏡に向けている。私も鏡越しに、妙に真面目な顔で千聖の胸を弄る自分と目が合う。当たり前だけど、こういうことをしている自分たちを客観的に見た事がなかったなかったから、少し興奮した。 「千聖、ウチの香水の匂い好きって言ってたよね?一緒の匂いになろう」 ポーチの中から、小さなアルミの缶を取り出す。リップクリームやワセリンみたいな質感のそれを指でなぞると、千聖の胸の谷間に摺りこんだ。 「んぅ・・」 暖かくて弾力のあるその場所から、自分と同じ匂いが立ちこめる。所有物、なんて言うつもりはないけれど、千聖がほっぺたを紅潮させて、「えりかさんとおなじ・・・」とはにかんで笑ってくれたのが嬉しかった。 もう少し塗り広げようと、腰の紐を緩める。想像以上にバスローブは小柄な千聖には大きかったようで、一気に上半身がほとんど露になる。あわてて体を隠そうとする手を握りこんで、唇を合わせる。 しかし・・・なんていうか、女の子同士のエッチって、もっと可愛くてスマートなものかと思ってた。佐紀の家で見たレズものAV(・・・)は可憐な感じがしたのに、今鏡に映ってる私は、髪はバサバサ目はギラギラで、自分でいうのも虚しいけど、必死すぎ。 「えりか、さん」 眉を寄せた千聖と、視線がぶつかる。目にうっすら涙をためていて、これはちょっといきすぎたかと思って、体を離そうとした。 「ごめん、やりすぎ?」 だけど、千聖の手は私の指を離さなかった。乱れて落ちたバスローブの下から、褐色の肌が全部現れて、私の首に手を回す。 「ベッドに・・・」 子犬のような黒く濡れた瞳が、獰猛な動物みたいに、ギラッと鈍い光を放つ。 前の明るい千聖が、コンサートや舞台で本気の興奮状態に陥ったときに見せるのと同じ表情。魅力的だと言われている笑顔と同じぐらい、私の心を惹き付ける、精悍な顔。 「えりかさん、ベッドに連れて行って・・・」 完全に裸になってしまっているのも厭わず、耳元で千聖は妖しくささやきかける。高めの体温と、熱く篭った吐息に背中が強張る。 部屋からバスルームに来た時と同じように、また唇を重ねながらベッドに向かう。 くっつけては離れて、また合わせて。真っ白なシーツの上に倒れこんでも、まだキスは続いた。 ――♪♪♪ その時、ベッドサイドの千聖のバッグから、電子音が鳴った。 千聖はわりとめんどくさがりだから、おおまかにしか着信音をわけない。友達、仕事、家族、ぐらいだと言っていた。だから、これが誰からなのかは千聖にもわからないはず。 千聖が好きだと言っているアーティストの曲が、私たちの間を通り抜けるように流れ続ける。 「出ないの?」 「だって・・・」 急に現実に戻されたからか、千聖はきょとんと困った顔で私を見つめた。 着信音は止まない。私はキスの続きをしようとしない。千聖はあきらめたようにもたもたと体を起こして、バッグを探った。 前へ TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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「な、ななななっきぃ何いってんの」 テンパる私の手を掴んで、なっきぃは近くのビルの陰に体を隠した。そのままカバンをごそごそ探って、1枚のDVDを取り出す。 「これ・・・」 「これ?」 渡されたDVDのパッケージを見ると、綺麗な女の人が制服を着てにっこり笑っている。・・・が、しかし、タイトルは 「女子校生超特急痴漢電車でイ」 「ギャー!」 声に出して読み上げかけたところで、鼻息も荒いなっきぃに口を押さえられる。 「もがもが・・・なっきぃ、何これ!?何でこんなの持ってるわけ?」 「ち、違うの!な、なっきぃもよくわかんないんだよぅ!」 なっきぃはもう顔面蒼白といった感じで、くりんくりんのおめめに涙がいっぱい溜まっている。 ふと思いついてパッケージを裏返してみる。一瞬でよく見えなかったけど、裸の女の人がキモイ男に何かされてる風だった。 「おえっ」 すぐにまたひっくり返して、なっきぃの胸にDVDを押し付けた。 「・・・・買ったの?」 「ま、まさか!違うよぅ!」 なっきぃは両手をぶんぶん振って否定する。 「とりあえず、落ち着こう。」 私はそこから程近い小さな公園まで、なっきぃを連れて歩いていった。ベンチに腰掛けて、水筒の麦茶を差し出す。 「ありがとう。」 こく、こくと音を立てて、なっきぃの白い喉が動く。一息ついたあと、なっきぃはやっと少し落ち着いたのか、あいまいに笑った。 「あれね、あの、DVD。・・・なんか、知らないうちに机の中にあって。」 なっきぃの話を要約すると、こういうことらしい。 最近、なっきぃの高校のクラスで、誰が持ってきたかわからないエッチな本とかDVDが、授業中に回ってくることがあった。 友達は結構興味津々だったみたいだけど、なっきぃはそういうのは見たくないから、「私には回さないで!」とはっきり言っていた。なのに、放課後引き出しを覗いたら、見事にこのエロDVDが入れられていた、と。 「ゴミ箱に捨てちゃえばよかったのに。」 「でも・・・一瞬でも持ち歩いてるの見られたらどうしようって思って。とっさにカバンに突っ込んで持って帰っちゃった。」 なるほど、変なトコ生真面目ななっきぃらしい。私だったら、犯人とおぼしき人につき返すか、友達みんなに見せて笑ってやるところだ。 「・・・で、何でそこから舞がエッチなビデオ見たことがあるかって話になるの?」 つながってるようでつながっていない、なっきぃの話。続きを催促すると、なっきぃは真っ赤な顔でまたぼそぼそしゃべりだした。 「本当は、すぐに処分しようと思ったのね。コンビニとか駅のゴミ箱なら、絶対ばれないだろうし。でも・・・何か・・・」 「何か?」 「何か、1回ぐらい、見てみたいかなって・・・」 ――ほほう。なるほど? 「そ、それで、舞ちゃんは大人っぽいし、お姉ちゃんいるし、こういうのちょっとだけなら見たことあるのかな?って思ったの。もしあったら、な、ななっきぃが見るのに付き合ってくれないかなあなんて思ったり・・・。 だって、みぃたんは乙女だから見せちゃだめでしょ。愛理も何かだめ。えりかちゃんは生々しいからだめ。千聖はこういうの本当だめだと思う。お嬢様にしても、明るいほうにしても。」 「うーん。」 言ってることはわかるけど、だからって、たかだか中2の私に、いきなり痴漢電車はキツいんじゃなかろうか。なっきぃは時々判断がおかしくなることがある。でも、 「・・・・一緒に見ても、いいよ。」 私は視線を外しながらそう答えた。 「えっ!本当に!でもまだ舞ちゃんには早いんじゃないかなあ!」 どっちやねん。 「・・・舞、そんなすごいのは見たことないけど、お姉ちゃんの買ってる雑誌についてたDVDなら見たことある。」 それは「☆初めてのパーフェクトHOW TO エッチ☆」とかいう脱力しちゃいそうなタイトルの、しょぼいアニメーションのDVDだった。保健体育の授業で見るようなのを、もう少しだけ過激にしたような。とはいえもちろんそこは、男を舞、女を千聖に置き換えて(以下自主規制)。 「でもなっきぃ、痴漢モノとかどうなの?途中で怒ったりしない?」 「・・・こういうのは、現実とは違うと思うから。どうしても無理だったらやめる。」 そんなわけで、私は急遽なっきぃのおうちにお呼ばれすることになった。 部屋に通されて、おしゃべりもそこそこに「ま・・・舞ちゃん、いくよ。」となっきぃがものすごく緊張した面持ちでDVDを取り出した。 ウイーン 機械の音が、静かな部屋に反響する。 私の手を握り締める、なっきぃの手が妙に汗ばんでいた。 約1時間後。 「・・・終わったみたいだよ、なっきぃ」 声をかけると、なっきぃがヒッと息を呑んだ。気まずそうに私の顔を覗き込んだ後、無言でDVDをデッキから取り出した。 私の感想。 キモイ。グロい。女優さんがうるさい。男もうるさい。ストーリーがおかしい。 隣のなっきぃが明らかに緊張しまくっていたせいか、妙に冷静に見ることができたかもしれない。 ていうか痴漢モノとかどうなの。犯罪じゃん。って思ってたけど、いろいろあって最後に痴漢と両思いになってハッピーエンドとか、とにかくありえなすぎてむしろ笑いがこみあげてきた。 肝心のエロシーンよりも、女優さんがパッケージほど若くなかったとか、「ぐへへ、ここは痴漢専用車両だぜ」という痴漢の台詞に噴き出しそうになったり、どっちかというとそういうくだらないことに気をとられてしまった。 「ま・・舞ちゃん。」 「ん?」 でもなっきぃはそうでもなったみたいで、熱いため息をつきながら、すごく潤んだ瞳を私に向けてきた。同性だけど、ちょっとドキッとした。 「ど、どうだった?」 間が持たなくなって、とりあえずそう聞いてみる。 「な・・・何か、よくわかんない、けど。想像してたのとは、違ったかも。」 「そうだね、舞もそう思う。」 「オ、オチもおかしかったし。キュフフ」 「だよねーあはは。」 「・・・・」 「・・・・」 沈黙。 別に、嘘の感想を言ったわけじゃないけど・・・お互いに、思ってることを上手く言えてないから、妙にぽわーっとした変な会話になっている。 「あ・・・、じゃ、じゃあ舞そろそろ帰るね。また明日!」 「あ、え、と、うん。ご、ごめんね何か。キュフフ・・」 何かきまずい雰囲気のまま、とりあえずその場はお別れすることにした。 帰りの電車に揺られながら、私はぼんやりとさっきのエロDVDのことを考えていた。 なっきぃ、ああいうの絶対怒ると思ったんだけどな。あんまりありえなすぎて、そんな感情も沸きあがらなかったのかなあ。 だって、あんな・・・・あれ?あれ? さっきまでは笑いの対象にすらなっていたその内容を思い起こすたび、頭にピンクのもやもやがかかってきた。 吊り革に手を縛られて、変なことされてあんあん言ってる女優さんの顔が、千聖に変換されてしまう。 “舞さん、やめて。アンアン” 「なああ!」 その妄想を断ち切るために、私は大声をだして座席から立ち上がった。周りの人が何事かと視線を集めてくる。 恥ずかしい。まだ降りる駅は先だけど、とりあえずドアが開いたところでホームに下りた。 だめだ、それはだめだよ舞。千聖でそんなこと考えたら・・・ 「ていうか私、痴漢目線かよ・・・・」 いろんな意味でぐったりして、私は人気のないベンチにもたれて天を仰いだ。 前へ TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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「やだって言ってんじゃん!」 さすがに千聖は私の手を払った。でも、こういう時の私は結構しつこい。あきらめずにもう一度胸に触ってギュッと力を入れてみると、千聖は唇を歪めて顔を逸らした。 私の手に添えられた手は、どうしたらいいのかわからないみたいに中途半端な力が入っている。そんなことぐらいじゃ、私の暴走は止まらないって、知っているくせに。 そのまま無言で胸を揉んでみる。クラスの男子がグラビアアイドルの胸の話とかで盛り上がってるのを、友達とバッカじゃないのって笑っていたけど、正直今ならその気持ちは少しわかる。柔らかい感触を求めて、手が止まらない。 「千聖・・・」 だけど、千聖は話しかけても反応してくれない。 あのエッチなDVDに出てくる人はこういう行為だけであんあん言って悶えてたけど、千聖はギュッと歯を食いしばって、固く目を閉じてるだけだった。 「気持ちいい?」 そこで、耳に息を吹きかけながら聞いてみる。これは不意打ちだったみたいで、千聖ののどがヒッと鳴った。 たしか、耳が弱いとか、腰が弱いとかえりかちゃんが言ってたっけ。恋敵にそんなことを教えられるのは悔しいけど、私はそれに倣って、耳たぶを甘噛みしてみた。 「やっ・・・!」 予想以上に大きい声。私の方がびっくりしてしまって、ちょっと顔を離す。正面に向き直った千聖と無言で見つめあう。 「な・・・何がしたいの、舞ちゃん。もうやめよう。おかしいよ、こんなの。ね、舞ちゃん?」 千聖はこの期に及んで、まだお姉ちゃんぶって私を説得しようとする。長い付き合いなんだから、わかってるはずなのに。そんなことされたら、私は余計に意地を張ってしまう性格だってことぐらい。 「大丈夫だから。」 私は千聖のスカートを捲り上げて、下着に手をかけた。 「は?大丈夫って、何・・・うわっ待って!それはやだ!本当に!待ってってば!」 ほとんど悲鳴に近い声。私は慌てて千聖の口を押さえた。千聖の表情が、困惑から怯えに変わっていく。ここにきて、やっと私が何をしようとしているのか具体的にわかったみたいだ。 「無理だって・・できないよ、無理だよ」 くぐもった声が、手のひらを通して伝わる。もう私に年上っぽく説得することもできないほど、混乱している千聖はかわいいと思う。だから、もう少し揺さぶりをかけてみることにした。・・・まったく、我ながら何て性格だ。 「・・・千聖、舞のこと嫌い?」 「え・・・」 「舞のこと嫌いじゃないなら、こういうのしたっていいでしょ?」 私はまた千聖にキスをした。口がポカンと開いていたから、今度は舌先がぶつかった。ぬるっとして柔らかくて、ぞっとするような快感を覚える。 「お願い、千聖。痛いことはしないから。少しだけ舞の・・・舞だけの千聖になってよ」 「舞ちゃん・・・」 千聖の目は黒目がとっても大きくて潤んでいて、わんちゃんみたいだと思う。優しく守ってあげたいような、めちゃくちゃに苛めてやりたくなるような、難しい気持ちが湧き上がってくる。 私は千聖の隣に横たわった。体の下で、手錠で繋いだ手が音を立てる。 「千聖、大好き」 そう言って、少し強引に足の間に手を差し入れる。千聖が力を入れる前に、指をソコにぴったりくっつけた。体のどの部分よりもあったかくて、胸とはまた違う柔らかい感触。自分にも同じのがついてるはずなのに、未知のものに触れるような緊張感を覚える。 「やだ、お願いだから、舞ちゃん」 「いいから」 “ちっさーって、舞ちゃんにはホント甘いよね。” 昔、栞菜がそんなふうに言ってたことを思い出す。その通りだと思う。私は、千聖が私のお願いごとに弱くて、強引に迫れば大抵言うことを聞いてくれることを経験上わかっていた。だから今、きっと、こんなひどいことを。 「ぁ・・・」 弱いってわかった耳を舌で弄びながら、あてがった指をゆっくり動かす。噛み締められた唇から、言葉にならないような声が溢れた。 「やだ、ち・・・ちさと、は、おもちゃじゃない・・・」 途切れ途切れな哀願の言葉も、私の行動を抑えることはできなかった。 「知ってる。」 「うそ・・やっ・・・だ・・・ひどい、舞ちゃん・・」 私は一旦手を止めて、千聖に顔を近づけた。 「だって、舞は千聖のことが好きなんだもん。一番好きなんだから、しょうがないでしょ」 「舞ちゃん・・・」 「そんなのずっと前から気づいてたくせに。いっつもはぐらかすんだもん、ずるいよ。」 今とっている行動はサイアクだけど、少なくとも私は自分に嘘をつくようなことはしていない。だから、千聖の顔をまっすぐ見つめ続けた。だけど千聖の瞳はこぼれそうな程揺れていて、私を捉え切れずにまたうつむいた。 「ねえ、千聖。続き、してもいい?好きなの、千聖のことが。だから、いいでしょ?」 「もっ・・何でそんな、勝手にさぁ・・・」 「千聖。」 「・・・わかったから、もう。いいから、早く」 千聖はそれっきりもう何も言わずに、抵抗もしないで、シーツに顔を押し付けた。 あきらめて、私の思うとおりにすると決めたらしい。 再び、私はそこをさすった。さっきよりも指に力を入れる。 「ぅ・・・」 荒い息。漏れる声。千聖が少し体をよじるたびに、髪の匂いが鼻をくすぐって心地いい。 やっとわかった。 私はきっと、ただ単に千聖とエッチをしたかったってわけじゃないんだ。 こんな風に千聖の自由を奪って、怖がらせて、プライドを傷つけるようなことをしても、それでも千聖は私を赦して、受け止めてくれるっていう確証がほしかったんだ。 ただ側にいられればよかった、純粋に好きだっていう気持ちだけだった頃には戻れない。その先を知ってしまったら、もうそれを求めずにはいられない。だから、せめて今だけは、私に囚われていて欲しい。 きっと、みんな驚くだろう。子供なコンビだと思っていた“ちさまい”が、こんな関係になっていたなんて。 だから今日のことは、誰にも言わない。恋敵のえりかちゃんにも。千聖もきっとそうするだろう。何だか罪を共有するみたいで少し嬉しい。私の気持ちを代弁するように、手錠がカチャッと音を立てた。 「ぁ・・・ま、い、ちゃっ」 千聖の足がビクッと跳ねる。恋人つなぎのままの手に、力が篭る。無意識に、ソコに添えられた私の手は動きを早めていた。 「だめ・・・もぅ」 「いいよ、千聖」 「あ・・・っ・・・・!」 2度、3度、千聖の体が跳ねて、急激に力が抜けていった。息を詰めていた唇から、言葉にならないような声が溢れる。 「千聖・・・」 あの日コテージで見た、“あれ”とたぶん同じ。千聖は力なく横たわって、虚ろな目でぐったりしている。 まだ私自身は知らないその感覚を、千聖の体に刻み付けてしまった。私の、手で。 そう思うと、自分がどうこうしてもらったわけでもないのに、私は満たされた気持ちを覚えた。お気に入りのぬいぐるみを抱きかかえる小さい子みたいに、ギュッと力をこめて、千聖を抱いた。 前へ TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -