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あのこたちのいないそら【登録タグ あ オカメP 初音ミク 曲 目白皐月】 作詞:目白皐月 作曲:オカメP 編曲:オカメP 唄:初音ミク 曲紹介 オカメP の64作目。 この世から絶滅してしまった、リョコウバトをモチーフにした楽曲。 この歌詞を、書くきっかけになった本を書いたロバート・シルヴァーバーグ氏に捧げます。(作詞者コメ転載) 歌詞を 目白皐月氏 が、イラストを 酸素氏 が手掛ける。 歌詞 昔々空を埋め尽くすほど たくさんのリョコウバトが飛んでいました リョコウバトは群れとなり旅をする 広大な大陸の森から森へと 一斉に飛べば空は暗く変わる あんなにいたのにもうどこにもいない 大陸にやってきた人たちが 次々と鳥たちを狩って行った 瞬く間に鳩の群れは減って行き 空が暗くなることもなくなっていく それを気にした人はごくごくわずか どうせどこかにたくさんいるだろうと 愚かな人たちは知らなかった 一年に一つしか卵を産まないということ ようやく人はおかしいと気づいたよ けれどももう手の施しようなんてない 空からリョコウバトは姿を消した 籠で生まれた一羽だけを残して 籠のなかあの子は問いかけてた どうしてわたしは一人きりなのと 最後の一羽はずっと籠のなかで 仲間と飛ぶこと知らずに死にました もしも鳥にも楽園があるのなら あの子を他の子たちと飛ばせてあげて 誰にも邪魔されない広い空 全部全部あの子たちだけのものにしてあげて コメント 追加おつ! -- 名無しさん (2014-03-21 07 08 12) ロバート・シルヴァーグって誰? とりえずこの曲好きです。 -- 紅 (2014-08-06 21 05 22) 名前 コメント
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俺はしがないサラリーマン「小次郎」 昔のあだ名はラーメンマンだった程のラーメン好きだ 今日は、近所に出来た新しいラーメン屋にでも行こうと思う。 そこにある、「雪降りラーメン」というものは絶品らしい。 それが俺の目当てなのである。 よし、店の前まで来たぞ……それはいいものの 行列が出来ている 流石だな… 全員「雪降りラーメン」目当てと見た。 しかし、長いな行列だな… あと二時間は待たなければならないのではなかろうか。 …能力(チカラ)を使うしかないか… 邪気眼がうずくぜ 「行くぞ!」 俺は大きな声でこう言った。 並んでる人達がこちらを見る。 やや恥ずかしいのである。 「開眼!!」 俺の第三の眼が光を放ちながら開かれる…! そして俺はこう念じた 『時よ止まれ』 すると、行列に並んでいる人達は一斉に家に帰っていった。 ミッションコンプリートだ 俺は店に入ってから驚きを隠せなかった。 予期せぬ事態を目の当たりにしたのである。 「な…に…!?」 店には店員が一人しかいないのである。 「いらっしゃいませー!お一人様ですか?」 すごい快活な人だ。 「は、はい。…なぜ一人なのですか?」 俺は思わず聞いてしまった。 「うちは個人経営なんですよー」 「なるほど」 じゃあ、一人であの行列を毎日相手にしていたということか…!? なんという… 「えーと…。ご注文は何になさいますか?」 そうだ。 そんなことはどうでもいい。 俺の今日の目的は… 「どしゃぶりラーメン一つ」 「は?」 「あ、雪降りラーメンでした」 危ない危ない 肝心な所でミスしちゃったよ。 …でも、これでやっと食べれるのかぁ… ジュルリと、よだれが落ちそうになった。 というか落ちた。 ん、なんだ? 丼をもって店員がこちらに向かってくる。 まだ3分も経ってないぞ? 何か不都合なことでもあったんだな。 そうだそうだ。 もし出来てたら大声で「はやっ!!」って言ってやろう 「お待たせしましたー」 「はやっ!!」 こ、これが… 「雪降りラーメン」… 真っ白だ… ドロドロの白い液体が麺の上に乗っている。 そしてこの鼻をつく匂い… イカのような匂いだ… …って 「これラーメンじゃなくてザーメンやないか−−−い!」 〜完〜 名前 コメント
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天使のいない12月 【てんしのいないじゅうにがつ】 ジャンル AVG 対応機種 Windows 98/Me/2000/XP 発売・開発元 Leaf 発売日 2003年9月26日 定価 8,800円(税別) レーティング アダルトゲーム 判定 賛否両論 ポイント 体の関係から始まるメインヒロイン終始重苦しい雰囲気が漂う余りの作風に評価は真っ二つ Leaf/AQUAPLUS作品 概要 ストーリー 主要登場人物 本作品の特徴 評価点 賛否両論点 問題点 総評 余談 願ったのは束の間の安らぎー ーーー叶ったのは永遠という贖罪 概要 『雫』『To Heart』等、数々の名作を手掛けたLeafから発売された アドベンチャー(一部ビジュアルノベル)ゲーム。 通常のAVGタイプの画面下部ウインドウと独白シーンでは、ビジュアルノベル形式の ハイブリッドを採用している画期的な作品。 東京開発室では初となる暗く、退廃的な作風となっており 20年近く経った現在でも評価は賛否両論に分かれてしまっている。 ストーリー 人間関係は軽く薄く小さくがモットーであり、 なにごとにもいい加減で投げ遣りな生活を送って いる主人公。 特にやかましい妹がいるせいもあって、女は面倒だと思っている。 そんな主人公と違い、友人は女の子との恋愛に時間を費やし、 肉体関係になることに至上の価値を求めているので、主人公に恋愛を勧めるのだが、 まるで聞く耳を持たない。 ところが、ある女の子とのささいな言い争いから、 なりゆきと興味本位でその場限りの関係を持ってしまう。 (※公式サイトより抜粋) 主要登場人物 + クリックで開閉 木田時紀(きだ ときのり)※デフォルトネーム 本作品の主人公(名前は変更可能)。家族は共働きの両親と年子の妹の4人構成。無気力かつ厭世的で、学校の屋上でタバコを吹かすのが日課。一方で、透子が拾ってきた子犬の面倒を見るなど優しい一面もある。妹の恵美梨に頼まれ、彼女が家事一切を引き受ける代わりに、人気のクリスマスケーキを確保するためケーキ屋のアルバイトを始める。 栗原透子(くりはら とうこ) 主人公のクラスメイト。 常に幼なじみでクラス委員のしのぶに引っ付いて行動している。 自分にまるで自信がなく、人の顔色ばかりうかがっている。 それでも誰かに必要とされたい、自分でも大丈夫なんだという想いがあり、なりゆきでしてしまった主人公との肉体関係に拠り所を求めてしまう。 榊しのぶ(さかき しのぶ) 透子の幼なじみでクラスメイト。 そしてクラス委員。 優等生であり責任感が強いことから、クラスメイトから頼られることが多い。 麻生明日菜(あそう あすな) 仏文科在学の女子大生。 主人公のバイトしているケーキ屋の先輩にあたる。 大人の女性として常に余裕のある姿勢を崩さないが、言動の多くはお茶目で小悪魔的。 須磨寺雪緒(すまでら ゆきお) 主人公と同じ学校に通う二年生。ケーキ屋のバイト店員。 上品で礼儀正しく、なにごとにも落ち着いている。 葉月真帆(はづき まほ) 主人公と同じ学校に通う一年生。 ラクロス部部員。主人公の友人の彼女。 性格は明るく元気。いささか落ち着きは足らない。 主人公のみWikipedia、ヒロインは公式サイトより抜粋 本作品の特徴 冬を特徴とした学園物であり、ヒロインの特徴やゲームの雰囲気こそ普通のアダルトゲームと大差ないように見えるのだがその実内面は今現在としても余り類を見ない作品となっており ヒロイン全体が(アダルトゲームのヒロインとしては)何かしらのマイナスな問題点を抱えている。 また、現実的な世界を表現したいという開発陣の要望の元、ヒロイン全体の髪色は黒を基調とした色になっている。 当時としても異質な作風であったためか、結果として今作の作風を引き継いだ後継作は発売されなかった。 今作のテーマは心と心の繋がり、どのルートでも体と体にはなるものの、凡そ普通のアダルトゲームとは似ても似つかわしくない展開で話が進んでいき、ヒロインの一人はまさかのHシーン無しでトゥルーエンドを迎える事が出来るという本作の特異性を表したような関係となっている。 評価点 システム 基本的にはオーソドックスなADV形式の為、ヒロインの心情や現在どのような状況なのかを視覚的に理解しやすいものとなっている。それに加えて、ビジュアルノベル形式も採用しているため、アダルトゲームにありがちな主人公の心理描写が足りていない、等の問題点は解決されている。 本作自体が難解なテーマをメインに捉えている事もあり、このハイブリッドシステム自体類を見ないものの為、この点は今現在に至っても高く評価されている。 グラフィック みつみ美里氏による可愛らしいCGは非常に評価が高い。流石に、今現在の美少女イラストには劣るものの当時一時代を築いた氏の作風は 今の時代にでも通用し、その可愛らしい作風と冬を題材にしつつも夕暮れの持つ薄暗さを全体的に引き出している背景は上品かつ独特な雰囲気へと調和する事に成功している。 音楽 Leafが作成していることもあり、全体的なクオリティは高い。OPからEDは勿論の事、作中で使われているBGMはピアノやギターをメインに使われていて全体的に物悲しく、上記の作風と合わせてプレイヤーをより感傷的に、憂鬱気味にさせてくれる。特に、作中で使用されているとあるギターの曲は須磨寺雪緒が弾いている曲という設定があるものの 作中の雰囲気を壊すことなく、ヒロインの魅力へと昇華させている。 声優関連のおまけ要素 全キャラの攻略が完了した後にヒロインの声優の本作の感想などを音声で録音したものがあり、他作品にはあまりない要素である。 賛否両論点 キャラクター描写 本作品の特徴でも捉えたが、今の視点で見ても余りにも個性的なキャラクター描写となっている。 + その描写について(ネタバレのため要注意!!) 栗原透子 メインヒロインに当る彼女だが、上でも述べた通り共通ルートで彼女とは肉体関係を結ぶことになる。 イラストでは伝わり辛いものの、作中では美人ではないらしく、本当に愛情はない…所謂交換条件として彼女が体を提示して主人公がそれを承諾した、という体で話が進んでいく。それ以外にも頭が悪く、要領も悪く、それもあってしのぶに過保護気味に囲われており、軽い自殺願望のようなものまで抱いている。 榊しのぶ 上の栗原透子を過保護気味に囲っている優等生であるが、本質は彼女自身が透子の弱さに依存しているという事がしのぶルートで明かされる。 彼女のルートは透子ルートから派生するものの、作中で彼女たちの性行為を見てしまいそれに感じてしまった自分を赦したい。しのぶのルートは一言で言えばカウンセリング、と表すことが出来る。 彼女のルートではリスカをしたり本物の自殺を匂わせたり、恐らく本作品で最も病的なヒロインともいえる。当然Hシーンもハッピー等ではなく、実用性皆無としか言えない仕上がりとなっている。 麻生明日菜 キャラクター紹介ではよくある先輩としか言えないものの、明日菜のルートではそれ自体が作り上げた嘘、だという事が提示させられる。 家庭環境は良いとは言えず、バイト先の家に入り浸っていたものの子供が生まれてからは寄り付かなくなり、寂しさを援助交際で紛らわせるもののそれでも望むものは与えられず、理想の人間を演じて奪う側になったという事が説明される。 性格は悪いと言えるものの、彼女の境遇を考えると致し方ない点もある。 葉月真帆 主人公の親友(霜村功)の彼女であり、上で述べたHシーン無しでトゥルーを迎えることが出来るのは真帆の事。 体を求める功と心の繋がりを求めたい真帆との間に入っていくうちにお互いに惹かれていくといった展開になる。 本作品では恐らく、最も普通のヒロインである。 須磨寺雪緒 今尚一部で話題に上がるヒロインであり、本作というゲームを最も表している人物。 外面だけは良いものの、内面は電波ヒロインと言って差し支えない程に壊れており彼女が自殺未遂する所を見てしまった所から彼女のルートに入ることになる。 主人公も死にたい、と言っていたものの規格外の人物に出会ったことにより、彼までが壊れていくようになる。物語後半、飼い犬が死んだことにより人を遠ざけるようになったという、過去が明かされる。 シナリオ 上のキャラクター描写と密接に関わりあっているため、未読の方は上記一読の事。 + 今尚賛否分かれるシナリオ(ネタバレのため要注意!!) ほぼ全てのルートで心と体の繋がり、という点を密接に表現している。全体的に体の関係は早いものの、関係を結んだからこそお互いが好きか?というテーマでどのルートも話が展開されていく。 アダルトゲームでしか表現できないシナリオ、と言ってもよくその点も踏まえて他に類を見ない為に評価が真っ二つに割れている。 詳しくは各ルートに細かく記載させて頂く。 栗原透子ルート 体の関係からお互いを本気で好きになる、という所謂王道展開。 本作のED中では珍しく希望に溢れており、それでいてテーマをブレる事無く伝えているために全てのルートの中で最も万人受けするルート。 彼女自身も主人公と出会ったことにより、前向きに変わっていき唯一しのぶの過保護染みた境遇から彼女の意思で脱することになる。 なお、唯一透子だけどのルートでも密接に関わることになり、他のルートでは酷い終わり方を迎えているものの、その点についてはそれぞれのルートで記載する事とする。 榊しのぶルート 上記の透子ルートから分岐(共通ではなく、恋人に近い状態になった状態から分岐する)する事によりしのぶルートに入ることになる。 キャラ描写で軽く触れたものの、しのぶルートは凡そ鬱展開と言っていい内容で展開されていきお互いの間に恋愛感情と言ったものは最後まで芽生えることはない。 主人公は透子が好きなものの言い訳しようがない程に彼女に構うことになり、しのぶはしのぶで透子を汚した主人公を嫌っているものの、犯して貰う事で罪を償うといった形で展開されていく。 結果として透子にバレてしまい、破局。ただ、お互いに透子が好きという気持ちは変わらず、共依存のような形で終わることになる。透子は友人二人を無くし、主人公たち二人も救いはない…本作が鬱ゲーと呼ばれる所以は恐らく、このルートにあるといっても差し支えない。 麻生明日菜ルート 前半は所謂王道展開のようなものの、後半から一転するルート。このルートは本物の好きとは何か、というようなテーマで話が展開されていく。 主人公が好きだったものは演じていた明日菜でどうすれば彼女を救えるか悪戦苦闘する事になる。最後は本当の自分を愛してくれるようになりハッピーエンド…ではなく、結局主人公は正解を見つけられず、明日菜側も欲しいものは与えられなかったという形で終わる。 体は好きだが心までは愛せない…他のルートとは違い、主人公と透子の関係をそのまま裏返したような話。このルートの透子は明日菜の代わりとしてしか見ない主人公に愛想を尽かして終わるという、唯一主人公に反旗を翻すルート。 葉月真帆ルート 序盤はお互いの仲介をするものの、いずれ真帆と功の心が完全に離れてしまい、真帆は主人公と一緒にいる事にするルート。 所謂寝取りなものの、そんな単純な話ではなく、好きだからこそHをしなくてはならないか?というのがこのルートのテーマである。このルートでは主に主人公と真帆、主人公と透子、の二つの関係が主軸に話が展開されていく。 最終的に主人公は本当に好きだからこそ、透子と別れる選択肢をしたものの…主人公と真帆の間には本物の恋愛感情は沸かず、お互いに本気で好きな人と分かりあう事をしなかった、という示唆が最後にされる。 透子も含めた四人は最後まで最も大切な人に心が届かない、切ない関係で話は終了する。 須磨寺雪緒ルート 上で述べたように序盤から死の臭気に触れてしまい、段々と主人公の心が壊れてしまい最後に飛び降りといった形で話が終了する。今尚語られるだけあり、上記のルートと比較しても特筆する程に異質な雰囲気で話が展開される。 終盤、犬が亡くなった事により人と親密な関係になる事を恐れていた、と知った主人公は自分にも重なると考え、生きてても地獄という事で飛び降りを決意する。 常に死、という考えだけが通じ合ったものの、最後の最後でお互いの心を理解し、奇跡的に助かり今後は何があっても生きていこう、と決意するEND。 全てのルートの中で雰囲気、BGM、主人公の厭世的な考えが調和して、異常な雰囲気を保ち続けるもののどこか美しく、儚さを終始漂わせることに成功している。 透子は主人公に強姦のような事をされ、閉じこもってしまうもののまだ救いはある終わり方である。 このように、全てのルートにおいて一筋縄で行くシナリオは存在せず、ほぼどれにおいても哲学のような難しいテーマをメインに据えている。 上記の内容を人の弱さに踏み込んだ傑作、と評価する人もいれば学生の下らない悩み、と一掃して凡作と表現する人もおり、評価はまちまちである。 また、上記のシナリオを評価する人の中にも、このようにヒロイン全てがダウナー系は重すぎる、と捉える人も存在し、今作の賛否両論は人によって線引きが難しいとも言うことができる。 更に付け加えると、どのルートも全て打ち切りともとれる、明確な答えは明示されてないままに話は終了しこちらはそのような意図として作られている(*1)ものの、全体的に短いという点もありせめてトゥルー位は綺麗な終わり方をしてほしかった、という声もある。 問題点 プレイ時間の短さ 全体的に共通ルートは三時間もあれば読み終わってしまうし、個人ルートは2時間…早い人では1時間程度で読み終わってしまう程度である。12月のひと時をテーマとしているとは言え、流石にフルプライスでこれは短すぎると言っても良い。 実用性の薄さ 体の関係から基本的に始まるので、Hシーンはあるものの相思相愛といったシーンはあまり存在しない。 特にしのぶ、真帆はきちんとしたHシーンは存在しなく、どちらかというと現実逃避の為の行為なのでこのヒロインを気に入った人からすれば肩透かしを食らった気分になる。作中のCGのクオリティは決して低くはないのだが、だからこそ余計に惜しまれる。 分かり辛い選択肢 基本的に分岐は分かり辛く、主人公の独特な思考も相まって選択肢は難解とも言える。 好感度のようなものではなく、様々な選択肢から正解のルートを引き当てていくのだが時にはどう見ても間違いの選択肢を選ばないとそのキャラのルートに入ることはできない。 総評 心と心の繋がり、というアダルトゲームでしか表現できないテーマを極限まで掘り下げた意欲作。 キャッチコピーに偽りなく、ハッピーエンドとは言い難いし鬱々とした終わり方をするルートもあるものの、その普遍的なテーマは今の時代でも決して見劣りはしない。 全体的に短く、レビューも真っ二つなもののそれを踏まえてなお他に類似性を見ないシナリオは刺さる人からすればこれ以上溜らない程の良作に化ける可能性を秘めている。 以下の理由から、簡単に手出しできるものと言えなくなっていくものの、運良く機会ができたのであれば是非プレイしてこの目でその衝撃を感じ取って頂きたい。 余談 プレミア化 一時期DL販売がされており、価格は下落したものの、2022年現在DL販売が停止(*2)されており、再び価格が高騰してしまっている。 以前から値上がりしていたこともあり、移植やアニメを望む声は多いのだが内容的にどうしても性行為がないと成り立たない作品の為、嘗て社内で声があがったものの却下された。今現在はそれに加えてLeafがPCゲームから撤退している事もあり、今後の再販等も絶望的とされている。
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元スレURL 水ゴリだけがいない街 概要 皆の記憶から存在そのものが消えてしまった果南 ただ一人彼女を覚えている花丸は世界に抗う タグ ^国木田花丸 ^松浦果南 ^Aqours ^ミステリ ^かなまる 名前 コメント
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幕間 エルマさんのいない水曜日 36 :熊はひばりに恋をした[sage]:2011/09/03(土) 16 19 15.66 ID VSw892kw0 幕間 エルマさんのいない水曜日 俺「つまり、エントロピーっていうのは、化学変化の方向を調べるのにとても有用な値であって……」 エイラ「え~……訳分かんねぇヨ…。」 ニパ「俺さん、もうちょっと分かりやすく説明して…。」 俺「あ、ああスマン…。エントロピーっていうものは系の乱雑さを表す値だ。」 ニパ「え……………え…?」 エイラ「ああもう…エルマ先輩だったらもっと上手く説明してくれるのに…。」 ニパ「俺さん教え方下手…。」 俺「うぐっ……。」 エイラ「エルマ先輩を出セ、エルマ先輩を!」 俺「し、仕方ないだろうがっ! レイヴォネン少佐は用事でヘルシンキに行かれているんだから!」 ニパ「でも俺さんの説明じゃ全然分からないし…。」 エイラ「しょうがないから今日の教練は中止ダナ。」 俺「ま、待てって! う~ん………あっそうだ。」 ニパ「どうしたの?」 37 :熊はひばりに恋をした[sage]:2011/09/03(土) 16 20 20.95 ID VSw892kw0 俺「ウィンド。」 ハンナ「はい?」 俺「お前、熱力学は大体習ってたよな? ちょっと教鞭取ってみろ。」 ハンナ「え?」 ハンナ「孤立系の自発変化において、エントロピー変化⊿Sは0より大きい…つまり、エントロピーは増加します。 このことから、系のエントロピーを測定することで、孤立系でのある変化が自発変化であるかを調べることが出来ます。」 ニパ「ふむふむ。」 エイラ「なるほど、そういうものなのカ。」 俺「うん、今日はこれくらいにしておこう。お疲れ、ウィンド。」 ハンナ「ふぅ……人に何かを教えるのって、思ったよりも難しいですね。」 エイラ「でも、俺より断然上手かったゾ!」 ニパ「上手かった!」 ハンナ「ありがと。」ニコッ 38 :熊はひばりに恋をした[sage]:2011/09/03(土) 16 22 05.19 ID VSw892kw0 俺「お前らなぁ…。でも、初めてであれだけ出来たら上等だ。やっぱりお前はこういうの向いてんのかもな。」 エイラ「ハッセは面倒見イイよナ。姿は似ているのに、ニパとは大違いダナ。」イヒヒ ニパ「ムムム…。」 俺「お前らはそろそろ新人の世話をしないといけなくなるだろうからな。ウィンドと……そこでカードを弄っているニッシネン。」 ラウラ「えっ……ああ。」 俺「お前なぁ……もう習ったことだから退屈なのは分かるけど、教練中に遊ぶのはやめろよ…。」 ラウラ「いや…あんまり俺さんの話が退屈すぎてな。」 俺「相変わらずお前は思ったことをハッキリと……」 エイラ「なー…俺ってハッセとラプラに妙に甘くないカ?」 ニパ「今だって私達だったら思いっきり怒鳴りつけてるのに…。」 俺「俺にコイツらを怒鳴りつけることなんて出来ないよ。正直、お前らも俺よりもコイツらの言う事を信じろよ?」 ラウラ「俺さん、いくらなんでもそんなことは…」 俺「謙遜すんな。お前らは俺よりも技術も才能もある。経験だって充分。人としての器の大きさも俺なんかとは段違いだ。 もう立派なエースで、立派な先輩ウィッチだよ。」 ハンナ「そう…なんですかね?」 俺「うん、そうだよ。もう充分人の上に立てる人間だ。」 39 :熊はひばりに恋をした[sage]:2011/09/03(土) 16 25 47.12 ID VSw892kw0 ラウラ「人の上に立つ……か。実感が湧かないな。」 俺「だろ? 今回のこのL中隊のお前らにとっての存在意義はそれなんだよ。 人の上に立つっていうことを、レイヴォネン少佐を見て学ぶ。上層部の狙いはそれなんだろうよ。」 ラウラ「レイヴォネン少佐と……俺さんだろ?」 俺「俺は人の上に立てるような人間じゃない。せいぜい偉ぶってまだ芽が出ていない種を焚きつけてやることくらいしか出来ないよ。」 ラウラ「そんなことはないと思うが…。」 ハンナ「俺曹長だって、この隊をエルマ隊長とは別の形で引っ張ってくれていますよ。」ニコッ 俺「そうか……そう言ってもらえると素直にうれしいな。」 ラウラ「私も……俺さんやエルマ隊長みたいに………ならないといけないのか。」 俺「んにゃ。誰かみたいになる必要はないんだよ。レイヴォネン少佐にはレイヴォネン少佐の、俺には俺の、お前らにはお前らのやり方で人を引っ張っていけばいい。 お前らがそれを見つけられるようにするのが、俺とレイヴォネン少佐の仕事だよ。」 ハンナ「私にあったやり方かぁ…。」 おわり
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【倉本 優華】 高2の女の子。 春に屋上から飛び降りる。 性格は明るく、運動も勉強もそこそこできるクラスの人気者だった。 運動・・・そこそこ 勉強・・・努力家だけど30番台ほど。 趣味 歌っていること。かなり上手い。 作詞作曲。 好きな物 青い花 嫌いなもの 血(見るだけで気絶しかける。) 【永沢 木乃香】 中2の女の子。 真也の妹。 二年前、事件の後心を閉ざす。 その後、再び心を開くのだが、時折何も感じなくなる。 真也のいない二年の間は、親戚もあまりいないので、霧島家にいる。(現在も居候中) 頑張るけど、失敗ばっかりで、良く真也にフォローされていた。 勉強・・・頑張ってます。 運動・・・運チ(ぁ 趣味 料理(沙紀曰くそこそこできるらしいが・・・。) 好きな物 苺 嫌いなもの 時折ショック状態になるので、その引き金になりそうなものは極力遠ざけている。 【永沢 真也】 高2. 過去の事件の後失踪。 話はその2年後の話である。 彼は片手に拳銃を持って帰ってくる。 失踪中スカウトされた組織で生活費を稼いでいる。 二年間スパイのような仕事をし、現在は二年の長期休暇に近い待機状態。 少し暗めの性格で、勉強もスポーツもできて、良く妹と優華の勉強を教えていたりした。 ちなみに部活はやっていない。 愛銃はベレッタ。 運動・・・前述のとおり、強いて言うなら短距離が苦手と言うか。 勉強・・・それなりにできる。が、社会は危うい。 趣味 読書(黒いブックカバーをつけてるのでどういうジャンルか不明) 楽器の演奏(フルート) 好きな物 空を見てると落ち着くらしい。 嫌いなもの 屋上(過去を思い出すらしい。) 【上司】 真也の上司らしき人物。 電話越しでしか知らないのに、まるでその場にいるかのように錯覚してしまう。 ちなみにタバコとコルト・アナコンダが手元にあれば常に上機嫌。 【霧島 沙紀】 木乃香の友人。 ある事実を知っていて、 更に真也に恨みを持っている。 真也がいない間、木乃香をずっと励まし続けていた。 そして神社の武装巫女で、小太刀と無音式手中射撃術 (裏世界では、隠射(いんしゃ)と呼ばれる、)を使い、裏世界からご神体を守っている。 【広瀬 裕】 失踪前の真也の友人。 帰ってきた後も、真也を支え続けた。 かなり明るい性格。 現時点でこれぐらい。
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【妄想属性】未来 【作品名】いずれ現れる、史上最強の妄想キャラクター 【名前】未来の最強 【強さ】 未来の最強とは、未来の最強妄想キャラクター議論スレにおける、暫定一位のキャラクターである。(この強さを未来の最強とする) 当然、過去の強さは未来の最強より弱い。 「~為のあらゆる全てが書いてある」といったものがある(以下書いてある系と省略)。 これは例えば「~為」の部分が「勝利する為」であるとすると、勝利する為のテンプレが既に存在している。 つまり相手に勝てるようなテンプレがあるという強さである。 書いてある系は一見最強と言える様な強さを持っているが、その質、量、表現方法、テンプレ優先度等に関係なく、未来の最強からすれば過去の強さに過ぎない。 書いてある系は過去の強さである為、それより未来に現れた「表現不可能な程強い」「参戦不可能な程強い」「理解不可能な程強い」「妄想不可能な程強い」といったものより弱いとされ敗北している。 未来の最強はそれらの強さより当然強く、それらより弱い程度の強さが未来の最強より弱いのは明らかである。 先ほど例に挙げた「表現不可能な程強い」「参戦不可能な程強い」「理解不可能な程強い」「妄想不可能な程強い」といったものについても、それらが未来の最強からすれば過去の強さである事は変わらない。 この様な強さは現在の最強妄想キャラクター議論スレでは所謂「最上層」に分類される程強いが、それらよりも未来の強さにはそれらより強いものがいくらでもある事は明らかであり、未来の最強より弱い。 何が不可能であっても可能であっても、何が不要であっても必要であっても、何であっても、その他どれだけ強くても、それらの間でどれだけ強弱や優劣を付けたとしても、現在投稿されている時点でそれは過去の強さであり、未来の最強より弱い。 「書いてある系の質、量、表現方法、テンプレ優先度等が如何なるものでも〇〇である、(+××も○○である、)こちらは○○でない程強く○○より強い」といった強さもあるが、こういったものも未来の最強からすれば過去の強さに過ぎず、未来の最強より弱い。 また、このテンプレ以外について、あるものが未来の強さを持つと明記されていない限り未来の強さは持っておらず、未来の最強より弱い。(勿論、上で挙げた「~が(具体的に)書いてある」といったものは過去の強さである) このテンプレ以外においてあるものが未来の強さであるとされても、それが未来の最強かは分からないので過去の強さであり、未来の最強より弱い。 このテンプレ以外においてあるものが未来の最強であるとされても、それがこのテンプレの未来の最強と同じかは分からないので未来の最強ではなく、未来の最強より弱い。 未来の最強からすれば、過去の強さの詳細やテンプレ、強さが如何なるものでもそれは過去であり意味がないものと同じである。 未来の最強は未来の強さを持つとされるが、現在の最強妄想キャラクター議論スレに参戦する。 その事実から、未来の最強は過去の強さであると主張するかもしれない。 だがその主張が正しいのはこのテンプレ上の未来の最強の強さであり、本来の未来の最強の強さはテンプレや考察人の納得、理解とは関係なく正しく、効果を発揮する。 また、その他どれだけ未来の最強が未来の最強でないとされても、それらは結局このテンプレ上の未来の最強の強さであり、本来の強さとは関係なく、本来の強さはこのテンプレの全ての事を踏まえた上で未来の最強である。 当然、現在の最強妄想キャラクター議論スレでも未来の最強の強さを発揮する事ができる。 【備考1】 強さとは、どれだけ勝利を得る事ができるかという事であり、より強ければより勝利を得る事ができるが、より弱ければより勝利を得る事ができない。(勿論、考察・参戦不能にならない範囲である) 強さを持っていないとされているものでも、ランクインできる、或いはしているのならそれは強さによるものである。(勿論、考察・参戦不能にならない範囲である) そして、勝利とは、ランクイン位置を決定するあらゆる全ての考察、比較、対照において、より上位に入る上で良い結果を得る事である。(勿論、考察・参戦不能にならない範囲である) 【備考2】 このテンプレにある全ては、未来の最強が考察・参戦不能にならない範囲で効果を発揮する。 【長所】いずれ現れる、史上最強の妄想キャラクター 【短所】考察不能になるかもしれない 0504◆rrvPPkQ0sA 2023/06/15(木) 21 13 20.43ID DQS+/2D0 未来の最強考察 いずれ生まれる最強問題を解決できていないように思える。 未来とは漠然としすぎて1秒後の未来のことかもしれないので、現在のキャラのテンプレを無意味といえるほど圧倒できるのか自明ではない。 テンプレ内で名指しされている強さよりは強いかもしれないが、備考1の記述が微妙。 強さをより(多くの)勝利を得ることができることで定義すると、Aより強いBはAより勝ち星が多いだけであってAに勝てるかはわからない。 さらに勝利の定義をあらゆる全ての考察において良い結果を得る事にしているため、Aより強いBがより(多くの)勝利を得るとはどういう意味か理解できなくなる。 具体的にどのキャラに勝利できるのかわからないので、考察不能。
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梅雨を経て、樹木にかかる衣もその色を変え道行く人が夏の到来をしばしば感じられるようになったころ。 暦の上では夏至を少し過ぎ、七月に入ったばかりである。肌にかかる日差しはいまだにその輝きを極致にまで高めてはおらず、時折鉛色の雲と制空権を争っていた。 ――――ただ、心地よい風は確実に空の上から、地上にゆっくりと降りていた。ふと外に耳を向ければ、昨今の気象の移り変わりによって気の早くなったセミが鳴いている。 本来まだ土の中にいる伴侶たちは、その声を聞きいっそ滑稽に思っている事だろうか、それとも自らも早く外に出なければいけないと成長を推し進めているのだろうか。 ともかく、彼らは――――宮永咲と、須賀京太郎はその声を部室の外にあるバルコニーのような場所で聞いていた。互いに互いを凝視し、その顔は二人とも真剣そのもの。 余人の入れる隙間など、どこにも無い。 ――――清澄高校、麻雀部。部員のほとんどが女子であるその部にも、今新たな風が吹き始めている。 先日の県予選を乗り越えた戦士たちは、新たに修行を始めるもの、休息をとるもの。 そして――――何かの計画を練るもの、まさにこの二人がそれであった。 ごそごそとポケットをまさぐり、京太郎の制服からメモ帳のような紙が出てくる。 ところどころに走り書きのあるそれを彼はこっそりと咲に渡す。――――小さく、機密と書かれていた。 京太郎は、再び周りに気を配りながら、口を開く。 「――――というわけで、だ。……咲。七夕に遊びに行くぞ」 「う……うん!」 力強く頷く彼女の顔を、薄い影が横切った。二人を見下ろすパラソルの端が、風で少し靡いたのだ。彼らはテーブルを挟むようにして、日差しからその身をパラソルで守られている。 逆に言えば、それが無ければ日一日と強くなっていく日差しから身を守るものは何もないが、ともかくそのバルコニーの隅で、周りに聞こえないように神経を尖らせながらしかし咲には柔らかな口調で京太郎は言った。 傍から見れば年相応のカップルがよくやっている事、やましい事は何もしてはいないが、県予選を勝ち抜いたという事実は、即ち全国区への強敵を相手にするということと同義である。 この時になって二人が付き合っていると明かすというのは時期的に非常にまずい、周りの雰囲気に沿わず浮かれているとみなされるからだ。 そしてさらにまずい事に、咲はこの部の中でも切り札となる存在だ。 例え浮かれていると見なされなくとも、何らかの形で彼女の集中を遮ってしまうのは部の総意としてまずい――――結局これは許されないのではないかとの後ろめたさから、いまだに彼は人に言えずにいた。 勿論、咲もそれは同様である。親友の原村和にさえ、それを話すことはできなかった。二人は、いわば二重の罪悪感に苦しんでいたともいえる。 ただし、県大会の後に場所をセッティングしてくれた部長には、どうあがいても「何も無かった」という嘘はつけない ――――というよりついても無駄だというほうが正確だろうか、下手に言い訳をしなくとも何をされるか分からないのに、もしそこで下手に言い訳をすれば、咲と二人で白刃の上を裸足で歩くような危険を払わねばならない。 それならば、最初に言っておいてから堅く口止めをしておくのがよいだろうと彼は考えた。部長自身は先刻の理由から、部室内の雰囲気が悪くならないように配慮をして話さないでいてくれるといったが、少々気が揉むと言うか……。 ――――いや、本当のことを言おう、部長の口の軽さは信用できない、その内に……。 「ねえ、奥さん。知っている? 須賀君と宮永さんって付き合っているのよ」 というノリで話すとも限らない、この場合の奥さんが誰でも、こちらにとっては何もかわりはない。部長は何故か自分が知っていて人が知らないような事を嬉々として話す癖がある。 心の奥底で優越感でも感じているのであろうか? いや、何もそんなに難しく考える必要は無い。おそらくは、井戸端会議と同じようなものだろう。 あの部長には、咲の三割いや一割でよいから、もう少し口を堅くしてほしいものだと。 そこまで考えて、はたとそれを閉じた。彼は人のマイナス面しか考えられない自身を辟易したのだ。 ――――何もそんな邪推をせずに、人の好意は素直に受け取って置けばよいのに。京太郎、お前はそんなに度量の狭い男だったのか? 「……くすっ」 ふとどこからか聞こえた女性の声、その声のするほうを二人が向くと部長が意地悪い笑いを表情に現していた。 既に半分疑心暗鬼になっている京太郎は、それがこちらに向けたものなのか、それとも卓に向けたものなのか分からない。 ともかく、いよいよ肝を冷やした京太郎は、いろいろな感情をこめて咲に視線を戻す。だが、彼の頬と背中には既に嫌な汗が数筋流れ始めていた。 「ごめんな……咲」 咲は京太郎がそんな事を考えていたとは知る由も無い、故に今口をついた「ごめんな」――――を考えうる最悪の意味に捉えてしまう。 おもちゃを取り上げられた子供のような顔を一瞬京太郎に向けたが、彼は首を横に振る。 「お前は俺より背負っているものが多すぎるんだ、俺がその一つでも変わってやれたら」 「あ……そっち?」 「? そっち以外に何がある」 「あ……あはは、てっきり」 てっきり、デートも関係も中断されるのかと思ったなどとは、いえない咲である。 彼女の顔に、朱が注がれる。自覚したそれを隠すように、暑そうなそぶりをした。はたして心配になった京太郎はすぐに彼女と共に部室に戻った。 彼には、暑さで顔が赤くなったとしか考えられないはずだ。 咲は部屋に入った後に、先ほどの京太郎に習うようにして、ちらりと卓で打っている四人の方を見た。 現在一位は部長で、ついで原村、優希とその後を追っている。主に餌となっているのは染め手を主にして捨て牌が限られてくるまこだ。 三人が三人、まこの待っている牌にあたりをつけ、暗刻や順子でそれをとめていた。 「ぐぬぬぬぬ……」 先ほどからそんな音と共に、彼女は湯気を発している。 この順位では降りるという選択肢は避けたいが、それゆえに原村から絞り殺されやすい。 咲は、同じような光景を県大会大将戦で見たことがあるのを思い出す。現在は、東三局らしい。 「いっその事、染め手……止めたら?」 部長が、ニヤニヤと言い放つ。染谷はさらに苦い顔をして見せる。 「――――言ってんさい」 「あ、染谷先輩、それロンだじょ。……えーと、12000だじょ!」 「――――ぬがああああ! もうやめじゃ! もう駄目じゃ! やってられんわ!」 ついにハコになった彼女は、一度抜ける。 冷却のために飲み物を買いに部室から出て行った彼女を三人は横目で見たが、すぐにこちらにそれを向ける。 そのタイミングが同時というしか無かったので、驚いた咲は短い悲鳴を上げて京太郎の陰に隠れるように、それから逃れようとした。 ――――が無情というほかない、当然のように咲に代わりが求められた。とはいえ、咲としては今京太郎と計画を育てる時間のほうが大切だ。 ようやく待ち合わせ場所と、時間を決めたところでそんな事を言われてもというのが彼女の心の中にある異論。……とはいえ、部長に態度が不真面目だといわれても困る。 仕方なく咲は卓につこうとする。 ――――京ちゃ~……ん。 去り際の彼女の眼がそういっている気がしたので、京太郎は彼女の左手を掴み――――行くな、と目配せをした。 「ああ、犬は弱いから駄目だじょ」 「ぐっ……」 とはいえ彼の部室内での地位は低い、咲を止めようとしていた京太郎に、言葉の槍がつき刺さった。一瞬ひるんだ彼ではあったが、再び建て直し口を開こうとする。 「ごめんね須賀君、今は全国に向けての調整なの」 ――――が、機先を制される。彼にとって、これは非常に効いた言葉であった。 部長の持っている情報量、タイミング、笑顔、言動とどれをとっても抗える気がしなかった京太郎がついにフリーズしたのを見て、咲は仕方なく席に着いた。 「お願いします」 「負けないじぇ!」 「ふふふ……」 三者三様に咲に挨拶を述べる、咲は一つこくりと頷いた後に、サイコロを振った。 集中せねばならないと考えつつも、咲の頭の中は既にそんな事ができる状態ではない。 早く彼との会話に花を咲かせたい一心で、故に本気など出せるわけが無い。 配牌時の癖の違いからそれに気がつくもの、最初から知っている二人の関係を頼りになんとなく察しているもの、特に興味も無く何も考えていないもの。 しかしそれらの視線は一様に咲の残した結果にそそがれることとなった。 結論から言えば、咲の順位は三位。当然、それだけを見ればたいしたことではない。 しかしながら、彼女の点数は最初の持ち点に300を足したもの――――±0だった。すぐに、原村が立ち上がって、咲に怒りを向ける。 「宮永さん!」 しかし、その後に続く言葉が出てこない。逆に、咲の弁護をするのはこれ以上なく簡単な事だとだれであろう検事の娘である原村は考えた。 ――――例えば、退部をしてくださいと言っても、全国戦が近づいている今になってそれが通るわけがない、人数の問題だ。 また、私との約束を破ったのですかといっても、今の咲はどこか意識が遠くに飛んでいるような印象を受ける、万が一彼女が何かの病気だったとしたら、それに追い討ちをかけた自らに対する評価が一気に下落するだろう。 知己を得る難しさを分かっている彼女に、今ここで踏み込む勇気は存在しない。 そんな腹のうちを見せることなく、原村は微笑を咲に返した。一瞬の間に対極の感情を揺らした原村を咲は見たが、よくも悪くも深くは考えずに視線をずらす他にする事はなかった。 逆にそんな咲を見て、それほどに重症なのだと、ずれた考えを原村はする。 「――――今回は私の勝ちですね」 あえて原村はそう付け加えたが、よくよく咲を見ると先ほどまで自分を見ていた視線はあらぬ方向を向いている、それを追うようにつつ、と顔を動かすとなにやら赤いものが二つ目の端に映った。 それに呼応するかのように、ひょこりという擬音をつれて長い金髪をした女の子が姿を現した。 ランドセルを背負っていても特に違和感はない風貌をしているが、誰であろう全国区の魑魅魍魎の一人である、天江衣だ。 ――――どうやら、ほかの龍紋渕メンバーはいないらしく、ここに来たのは彼女の気まぐれらしい。 「ノノカはいるかー?」 「え? ええ……」 あまりの事に一瞬面を食らった彼女らではあったが、衣は気にせずに挨拶を続ける。 口調や声色は嬉々とした女性……女子のそれで、そこに魔物の影は見る影も無い。 だが……それは、紛れもなく魔物なのだと、そこに居る者はみな覚えていた。 「咲! 衣だぞ! 恙ないか?」 「う、うん。こんにちは……」 その衣も、ついに咲の点数を見る。同時に、首をかしげた。金の長い髪が衣の顔を罰の悪そうな態度で横切っていく。 だがそれには眼を向けることなく、衣は咲の顔をまじまじと見た。 「――――どうかしたのか?」 「……なんでもないよ?」 なんでもないわけが無い、衣は何かの病であるのかと聞いたが、咲の返事は濁りに浸したものばかりで妙にすっきりしない。衣の記憶には、他人がこのような態度になった前例が無い。 よって何をどうすればよいのかもまったく分からないのだが、仮にも年上としてのプライドがある。 必死で、何か自身にできる事はないかと考え始めた。 「食事はちゃんとしているか?」 「うん」 「睡眠はよくとっているのか?」 「うん」 「お通じは滞りないか?」 「………ない」 「では何だ? 奇怪千万――――衣はどうしたらいい?」 別にどうもしないでほしいというのが本音だが、そんな事をこの輝いた目に言うわけにはいかない。 当然、返答に窮する咲に衣はさらに追い討ちをかける。 「そうだ! 咲! 衣のうちに来い! 透華たちがきっとどうにかしてくれる!」 「え……? ええっ……!」 言葉が終わるやいなや、衣は咲の手を掴んで引き寄せた。咲よりも衣のほうが背が低い、その低いほうに流れる力が、咲の体をつんのめらせる。 一度どころか三度転びそうになったが、横から伸びていた手がそれをことごとく支える。――――男の手だ。 「ちょ、ちょっと待て!」 京太郎が、急いで衣の手を止める。力だけに着目し、小学生にしか見えない女子と成長期真っ只中である体格のよい男子と比べれば結果は火を見るより明らかなのだが、ここで天江の内なる魔物が首を擡げた。 京太郎の命運が尽きるとは言わないが、それに大きな皹が入ったことは確かである。 「有象無象が邪魔をするか……それともお前は衣の莫逆の友となるのか?」 「―――――」 彼女の眼に強い光が生まれた、その威圧から逃げるようにして窓を見れば、いまだ日は空の高い位置に光をともして制空権を誇示している。夜は、まだ遠いはず。 ――――なのにこの女子から出る威圧は、既に尋常なものではない。 閉じた口の奥で、歯のカチカチとなる音が京太郎の骨に響いていたなど、誰が知りえようか。 答えが喉か胸か腹かに突っかかっていると見るや、衣は京太郎を鼻で笑い、背を向ける。 「行くぞ、咲」 「――――京ちゃん!」 衣は京太郎を一瞥する事も無く、そのまま連れ去っていった。彼が咲を掴んでいた手はとうに空中に放り出され、かかる力が減少すると共にゆっくりと降りていく。それが足に触れた時には、既に彼女らの姿は影も形も無く、ただ遠くで車の走り去る音が耳に喪失感を残していた。 時計の進む音だけが響く中、しばらくは誰も言葉を発せなかった。 それでも、数刻後に口を開く者はいる。――――部長である、久だ。 「ねえ、知っている?」 聞きなれたその枕詞に、京太郎は頭をうなだれた。 ――――今この状況で、何を暢気な……。そう思わずにはいられない、同時に自分の無力さという名の苦い思いが全身に回っていく。 「江という字には川という意味もあるらしいわよ、だから天江っていうあの子は天の川の化身なのかもしれないわね」 つまり、少しの差異はあれど、その光景は紛れも無くある逸話――――咲と言う織姫が、京太郎という彦星と、天江と言う天の川に遮られて引き離されたことを示していると、部長久は言っているのだ。 後に考えてみれば、勘の鋭い輩がその意を汲み取りここで何らかの動きがあっておかしくはなかったのだが、誰も動かなかったのは激流に混じった一筋の幸運というほかない。 とはいえ、周りも多かれ少なかれ動揺と放心をごちゃ混ぜにしたような状態なので、何か言っても気がつかないだろう。 ――――部長は、一人苦笑いを呈した。 「あ、あのっ……私全国への調整を……」 「衣もとーかもいるだろう、強者に事欠く事はない故、安心するがいい!」 確かにその通りだと思いながら、それでも衣を迎えに来た車の中で、咲は抗っていた。 とはいえ、県大会決勝戦のあの時とは違う、麻雀の腕ならば咲にも自信があるが、話術ではこの支配。 この運命を乗り切れそうには無い。あれこれと話していくうちについに車は太陽の眼から逃れた、――――夜が来たのだ。 月は三日月、ただ雲がそれにかかっているために眼にはぼんやりとした光としか判別できない。それでも、夜を支配するべき存在であった事は確かだった。 隣にいた衣の雰囲気が、少しずつあの日に戻っていくのを感じられたからだ。 「咲、一段落着いたら、また麻雀を打とう」 「…………」 その言葉には答えられず、思考は空へと漂わせる。眼に浮かぶのは、あの人の笑顔。口から漏れるのは、消え入りそうな溜息。 どうしてこうなってしまったのか? ――――車は、やがて大きな屋敷の中へと入る。 駐車場へととまり、衣は咲を連れて降りた。それを待っていたというように、数人の執事やメイドが列を成して、いっせいに頭を下げる。 「お帰りなさいませ、衣様」 その中には、龍紋渕四天王の姿もあり、既にこちらに気がついているようだ。下げた頭からでも分かるほどに訝しげな表情と雰囲気とを向けているとあって、咲は少々居心地が悪くなった。 「咲に部屋と着替えを」 そんな彼女の気を紛らわせようと、衣は彼女を部屋に押し込む。彼女に言われるままに制服をクローゼットの中にしまった咲は、一人用とは到底思えないような大きさのベッドに腰を置く。 どうやら衣は、寝相が悪いらしく一人用のベッドでは転げ落ちてしまうそうだ。 やがて、少し時間がたった後に、部屋に龍紋渕のメンバーがぞろぞろと入ってきた。 入ってきたのも口を開くのも、先頭は龍紋渕透華だ。 「――――衣、いったい何をしてやがりましたの?」 「とーか、大変なんだ。咲の病状が分からない」 答えのようで答えではない、その逆問いに透華の眉間にまた一つ新たな地層が生成された。 ――――ああ、いよいよ大事になってきたと、咲は感じていた。 しかし、この状況で自分が何をすればよいのか、まだ彼女自身つかめていない。 何しろ、彼女の予想をことごとく超えたところにある現実。それをまだ彼女自身一部受容できていないのだ。 「貴方、いったい何を……」 「あ……あの……」 それでもなんとか、咲は透華にこちらに来るように促す。仮にもお嬢様である自分が動かされるとあって彼女は少しむっとしたが、それでもしぶしぶと咲の近くに来る。 そしてここまでのいきさつを掻い摘んで説明した。 しかし、大切なところ――――自分と京太郎の関係については恥ずかしいからいわないのは彼女の中で当然として、 それに繋がりそうな所も大きく省略してしまったために、 結局龍紋渕メンバーの中では、咲の何らかの病気を衣が見かねてここにつれてきた ――――という事になってしまっている。 「なるほど、確かに仮にも私たちに勝った高校がそこらの……」 「『仮にも』だって、とーかは意地っ張りだね」 「う、うるさいですわっ! はじめ! 貴方も原因か解決法を考えなさい!」 リボンを頭につけ、なぜか女性の声とは程遠いだみ声で話す彼女に違和感の塊を見つけたが、それについて考える前に咲はふと、耳の中に短い笑い声が入ってきた気がした。 きょろきょろと首を振ると、小さいパソコンを持ちながら椅子に掛け、そのレンズの奥から黒を称えた瞳にこちらを映している髪の長い女性と眼が合う。 ぱたりとパソコンを閉じた彼女は、右手と共にそれを膝の上に置いた。 モナリザを思わせる佇まいをかもし出しているその女性は、しかしその中に得体の知れない色を隠し持っている。 ――――部長とは違う、天江とも誰とも重ならない底の知れない笑顔がそこにはあった。そしてその彼女が、ポツリと言い放つ。 「赤面、溜息、上の空……恋わずらい……」 どきりと、咲の心臓が一度大きく鳴り響いた。表面上は平静を繕っているが、既に龍紋渕メンバーには通じはしない。 彼女らも咲の反応で、それがすぐに真実と悟る。 咲はさらに動悸をまして、ついに顔を両手で覆ってしまう。その光景からもはや咲からは何も出ないと悟った彼女らは、一様に視線を移した。 「……恋わずらいですって?」 「……そう。宮永さんのポケットから、こんな紙を見つけた。……読ませてもらった結果、何者にも簡単に全てが解ける」 機密と書かれたその紙片を見るなり、咲はポケットをまさぐる――――だが、今彼女が着ている服は衣から借りた龍紋渕家のものだ、既に制服は手の届かないところにある。 ――――返して。そう言おうともしたが、音が出るどころか、むしろ彼女の意思に反して息を短く吸ってしまっている。羞恥の極限にいた彼女の背中を、一がさすってあげた。 「服といえば……この紙にある計画には足りないものがいくつかある……例えばこれを見る限り彼女たちは七夕に開催されるお祭りに行くみたい、 でも宮永さんの家のクローゼットの中にはそんな服はない。たいていが女の子らしい洋服……」 「――――なるほどね、ともきーは浴衣をどうにかさせたいって事みたい」 やはり喉を痛めているとしか思えないはじめの補足を聞きながら咲は考える、いったいこの女性は何者か。 部長やその他の噂から情報のエキスパートとは言われていることは知っている――――知ってはいるが、他人の家のクローゼットの中身まで網羅しているとは、既に一般人の力の及ぶところではない。 ここまで人間離れした情報収集力を目の当たりにすると、自分の疑問にこの女性が全て答えられるような錯覚を覚える。 「……?」 透華と向き合っていた沢村智紀が再び、意味ありげな笑顔を向けて、咲のほうに視線を移す。 彼女の驚いたような色と、恥ずかしさに悶えた色がありありと見える顔を見て、一度メガネの位置を直した。 「衣の、遊び相手をしてくれたら……透華がお給料で浴衣を買ってくれる……」 「ちょ、ちょっと! 私はまだここで働いてもらうとは、……いっておりませんわ!」 智紀は、嘆息を漏らした。しかしそれをしたのは、何も彼女だけではない。 ――――嫌な話の流れだな、智紀がこの場の空気を支配してやがる。一体なんだってんだ? と、先ほどまで部屋の中にいたが、口は物を食べる事に使っていた背の高い女性――――井上純が香ばしい匂いと共に言葉を吐く。 「なあ、さっきから思っていたんだけどさ。何でお前はそこまで清澄に肩入れするんだ?」 その核心をついた疑問に対して、智紀は少しばかり考える――――が、特に疑問に対しての答えを考えているようには見えない。ますます井上は訝った。 「…………」 「? どうした?」 「純……おとといの事、覚えている?」 純が、戦慄する。背筋が真一文字に伸びたかと思うと、一言詫びを入れそのまま頭をたれて以後何も話さなくなった。 勿論透華も追求はするが、そのたびに智紀に彼女自身の過去を話しかけられて口をつぐむ。 恥をいくつも見せものにされたうえにその傷に塩を塗られたとあって、ついに目立ちたがりの口が、力なく閉められた。 「ともきー……」 見かねたはじめ、特に握られる過去もない衣は話の流れを変えようとする、しかし智紀は透華に詰め寄り咲を働かせるよう促した。 「こ……ここで働かせてください!」 どこぞのアニメ映画のように、咲は声を張り上げた。衣のねだるような視線も突き刺さり、顔を大きくひくつかせた後に、透華はついに折れる。 「わ……分かりましたわ……」 言質と言う鬼の首。否、龍の珠をとったかのように智紀は薄い笑顔を咲に向けた。 だが、咲にもなぜ彼女がここまで良くしてくれるのかがよく分からない。 自分に何か頼みたい事でもあるのだろうか? それならば何故ここでそれを言わないのか? 疑問が新たな疑問を生み出し、彼女は自問の鎖にとらわれる。 「…………」 「衣? どうかなさいましたの?」 「恋わずらい……ということはやっぱり相手がいるということだよね」 「え? それは、まあ……そうですわね?」 咲は、こくりと頷く。 「智紀、一体その相手は誰だ。まさか、まさか――――」 名前で言っても分からないと思った智紀は、京太郎を形容すると共に、簡潔にまとめる。 「……衣が、今日麻雀部室内で脅かした男の子」 「!」 やはり、という顔を衣はした。 ――――何故それを知っている、あの女性に対して何回それを思ったかは知れない。だがこれは、さすがに耳が早すぎる。 何故に、何故にそこにいたかのように詳細に説明ができるのか。咲はそこまで考えると、以後彼女に関しては何にも驚かなくなった。 というより、諦めたというのが正しいだろう。 「…………」 「衣?」 咲の視線も興味も、智紀から衣に移る。――――彼女は、今何を考えているのであろうか。暗い面持ちでうなだれているその頭が、妙に寂しさを誘う。 もしや、彼女は今――――。 「すまない、咲。衣は大切な人と別れさせられる悲しみを知っている、知っているはずなのに、お前たちを引き裂いてしまった。 懇ろであった仲を引き裂くのは、……好ましくはない」 最後の二言は、消え入りそうなものであった。 「……うん」 「とーか、頼む。咲に、浴衣を買ってはくれないだろうか」 「まあ……そこまで言うのでしたら、安物でよいなら買ってあげないこともないですわ」 衣の顔に、春風が吹いた。暖かい笑顔を満面に散らしたその玉女は、再び天真爛漫な性格へと戻る。 「うむ、爾今は咲の為に全力を尽くすとしようぞ」 「じゃあ、勤務体系を決める前に、貴方の家に電話を入れてきなさい」 透華の言葉と共に、放り投げられた携帯で、咲はうちへと電話を入れた。友達のうちに泊まるというと、父親は心配そうな声で了承を伝える。 「京太郎君の家にいるのか?」 奥手とはいえ、咲も高校生である。年頃の男の家に泊まるというのがどのような意味を持つのか分からないわけがあるまい。 故に、彼女の顔に紅潮が満ち、声に少々の上ずりが見え始めた。そこに、父親は三度突っかかる。 「まさか、京太郎君じゃない男の家か? ……いかんな、浮ついた気持ちには感心できんぞ」 親にも、自分たちが付き合っている事は話していない。なのに今ここでそれに触れられるとは、咲自身思いもしなかった。 さすがに親をなめていたかと思いつつも、そういえば中学のころから父は京太郎に目を掛けていた気がすると、一人で納得をする。 「咲? 京太郎君と付き合っている事は知っているんだ、お前の彼を見る目や語る口調が、妙に色気を帯びてきたからな。 ――――しかし、その気持ちを裏切り不義を働くのは親として……」 「ち、違うよ男の子じゃあない! ……ちょっと待って、今かわるから」 ――――とはいえ、さて誰に代わればよいものか。 井上純と国広一は、名前だけ見れば男の子に間違えられそうだ。 純のほうは声が女性にしては低く、一に関しては風邪で喉が少しつぶれている。 透華が言うには、「あんな露出度の高い私服を着ていれば、体が冷えるのは当たり前ですわ!」との事だが、 はたして今の父親に少しでも男の疑念を植えつけてしまったら、すぐに帰って来いとでも言うに決まっている。 となれば、ここでもっともまともそうな一という安全牌が消えてしまう事になる。 「じゃあ、龍紋渕透……」 できるだけ智紀には渡したくないと、なんとなくだが感じる咲は、そのまま手渡そうとする。しかしそれを、衣がひったくった。 「もしもし? 咲? 咲~?」 「あ……あの……」 衣は、電話を受ける事に、慣れてはいない。 しかも、彼女自身久しぶりに触れる父親という存在に対し、はるか昔に失った彼女の中の偶像が頭を擡げ、声が喉で止まってしまう。 「衣……衣は…」 「え? 子供?」 「子供じゃない! 衣だ! 衣は咲より年上なんだぞ!」 ぷん! という擬音が間違いなく全員に見えていたことだろう。 だがその声と共に、衣のせき止められたものも一気に吹き出てきた。 先ほどの態度を裏返し、はにかんだ顔を恥ずかしそうに浮かべている。 「おや、咲の友達かな?」 「うむ! 莫逆の友だ!」 「本当に女の子だったんだねー」 見る見るうちに会話の中から芽が出て、やがて大輪を咲かす。 衣が咲の父親と話があうとは咲自身も意外に思っていたが、既に衣はあの怪物の天江ではなく単なる甘えっ子と化しているため、咲もそうそう無粋な口を出せない。 時たま難解な言葉も混じっていたが、辞書兼翻訳係の智紀がそれを咲にそつなく説明する。 父にはその意を伝える事ができないが、咲が本を読み始めたのは父親の影響だ、故に彼にも衣の言葉が分かっているに違いない。 「――――そうか、これからも咲と仲良くしてくれるとありがたいな」 「うん、任せて!」 「じゃあ、他の皆に挨拶できないが、よろしく言っておいてくれるかい?」 「わかった!」 そこで、電話を切る。智紀と透華がそれぞれに含みのある表情を天井に向けた。 互いに電話を取りたかったという気持ちと、衣が笑顔になってよかったという気持ちが混在し、はたしてもう一人のそれらを確認すると、顔を見合わせてすぐに破顔した。 メンバーがそれぞれの部屋に戻った後咲は、衣と共に、自分の部屋のそれとは違う、なれていないベッドの柔らかさに興奮しながらも、次第にその眠気に負けてやがて意識を手放した。 夢の中、峻厳な山の空気を身に纏い凛と咲き誇る白い花畑の真ん中で、京太郎と咲は笑顔で涙を流しながら手をつないで歌いあう。 涙のしずくが、やがて花畑を青白い光で包んでいった。不思議と悲しくは無かったが、何故か涙は止まらなかった。 次の日から、咲の生活スケジュールに大きな変化が起こった。 学校が終わるとすぐに、どこからか駆けつけた衣につれられて何処かへと消えていく。 携帯に電話をしてもメールをしても沙汰はなく、部室から大きな光が一つ消えてしまったかのような温度差が、彼らを襲う。 「――――見事に腐っているわね」 「キノコとか生えそうだじぇ」 「…………一人ならまだしものー、二人じゃからのー」 卓にいる、最後の一人を視界に映した。京太郎とは別のベクトルに、原村和も沈んでいる。 先ほどから彼女は、フリテンはおろか少牌もしている。完全にのどっちとしての力は影を潜めており、闇から抜け出せない。 ――――ふふ、神話の牽牛……彦星も今の須賀君と同じような感じで腐っていたのかしらね? まったく、仕事をしなかったから別れさせたのに、彼の今の様子からすると、これじゃあ彦星も働くどころか一年間腐っているに違いないわ。 とはいえ、ここで腐ってもらっても困るのもまた事実。 ここは心を鬼にして、ガツンと言わないといけないと、どこからが受信した責任感がそうさせる。 「須賀君ー? 腐るのはいいけど掃除が大変だから、どこか他の場所でやってくれないかしらー? 正直邪魔よー?」 「――――鬼じゃの」 「……鬼だじぇ」 「…………」 「須賀君?」 「……わかりました」 反論する事もなく、彼は暗い部室の隅から眼に刺さる光の下へと出て行く。 京太郎は部室のバルコニーから、やがて太陽を仰いだ。耳に、波の音が聞こえてきたのは彼の気のせいではない。 心に漣が立ち、心自体をまるで砂浜を浚うかのようにサラサラと削っていく。京太郎は、荒れていた。 「嫌味なほどに強い日差しだな……こっちはこんなに暗く沈んでいるっつうのに」 ――――咲は今、何をしているのだろうか。七夕は、すぐそこまで迫っている。 もしかしたら、自分たちの仲はあのときに終わってしまったのだろうか? 七夕には、彼女は来ないのではなかろうか? 「咲……咲ぃ……」 ――――だが、心の中に何度疑心暗鬼が広がろうと、そのたびに彼はそれを抑え、彼女を信じた。 彼が貫き通したそこに、今回の一件の成功の要が存在した事や、そもそも彼がこんな悲壮と戦っている事など、彼女はまだ知る由もない。 ただし織姫のほうも、彦星とはなれて辛い思いをしているという事は間違いないのだ。 ただ、織姫のほうは彦星と違って働いているだけの事――――文字通り、龍紋渕邸宅にて咲は誠心誠意働いていた。 携帯を取り上げられ、満足に京太郎と話ができない事を心の中で嘆きながらも、幾筋の支流が本流に流れるようにその努力の全てが七夕にむけて収束を進めていた。 その川が流れ着くのはどの海か、知る者はいない。 さて、彼が少しだけ身に溜まる鬱憤を沈め、再び立ち上がったその時に咲からのメールが来た事は、果たして僥倖というべきか? ――――京ちゃん、ごめんね。 そんなタイトルに、京太郎は鉄槌を食らったような衝撃を受ける。 奇しくも先日京太郎自信がその台詞を放ったとき、咲がどう受け取ったかを今ここで知る事となるのだが、彼の驚きはことさら尋常ではない。 「どういうことだよ!」 ――――京ちゃん、ごめんね。私も連絡を取ろうと思ったんだけれど、天江衣がいると、電子機器が高い確率で破壊されるって沢村智紀さんが……。 結局龍紋渕透華さんにとられちゃって、だからこのメールは私が伝えたものをそのまま送ってもらっているんだ。 そっちの事は沢村さんに聞いてよく分かっているから安心してね。京ちゃん、元気出して! 「……はあ、よかった……」 咲が直接打ってくれたものではないのだと、少しばかり京太郎は落ち込んでしまったのだが、それでも逆にそれほどまでに自分を思ってくれていたのだと、やがて奮起をした。 メールの後半にはつらつらと、今の咲自身の境遇や七夕の計画について少しの補足がかかれてあった。 彼女のそれは自らが考案したものの穴を見事に埋め、懸念していた事柄もなくなっている。 「予想される人数密度……なるほど、そんな場所があるなら待ち合わせはそこだな。 おおー、湿度や温度ばかりか……七月七日は――――晴れか。天気まで断言するとは……やるじゃないか」 とはいえ、自身の知る咲は自分と離れてあわただしいであろうこのときにこんな情報を集める事はもとより、これほど論理的に考えられるわけがない ――――明らかに咲以外の意思が入っている。 「とはいえ……敵では無さそうだな」 京太郎は溜息と共に魂の一部をも口から吐く、全身の力の抜けた彼を、やさしく後ろから風が抱きしめた。 熱を持った体を心地よく吹き抜けるそれは、彼女の温もりとどこか似たものがあり、肩に入っていた力が散ずるのを彼は感じた。 それと共に、頭は少しずつさえてくる。 「……敵って何だよ?」 眼を閉じて考えても、間違いなく裏でこの糸を引いているのは龍紋渕の何某かだと結論付ける事ができる。 ――――しかし、今龍紋渕がこのようにして何か得でもあるだろうか? せいぜい咲の心を乱して自分たちを早々に敗退させるしか、こちらにとって不利益なものは考えられない。 しかしそれでは、龍紋渕の格も落ちる。ただでさえ無名の学校に負けたと大々的に言われているのに、その無名が早々に敗退すれば龍紋渕部長のあの目立ちたがりの負けず嫌いが我慢できるはずがない。 さらに考えを深くしてみるものの、それ以外は皆自らにとって益あって害はない。しかし、敵は益をもたらすものではない。 極論で言えば、敵など今は存在しない。あの口の軽い部長でさえ、味方という側面が必ずどこかにある。 ただ――――今は何とか黙っていてくれているが、爆弾を懐にしまっているようなものだ。火力さえ間違わなければ大丈夫だが……。 「――――ふむ」 京太郎は、文面をさらに下に移動させる。そこにはいくつかの添付ファイルが置かれていた。その下にさらにひっそりと一文が書かれている。 ――――これを差し上げます、ですからどうかこの文面の通りに清澄の部長に進言をお願いいたします。 文面には人の性が少なからず出るという話を、いつかどこかで聞いたことはあるが、そんなものは眉唾物だと思っていた京太郎にとって、その閃きはまさしく符合が弾けるといった言葉がこの上なく似合うものだった。 「――――あの、メガネの女か!」 京太郎の知る龍紋渕は五人、長身は女性としての恥じらいよりは漢と言う言葉が似合う気概気質であるし、金髪二人は片や高飛車、片や絶滅危惧的な言葉を多用する。 ともかくどちらも己がベクトルを突き進んでいるためこんな文は書きそうにない、残りは二人。 勿論、龍紋渕メンバー以外の人物が書いたという可能性もないわけではないが、逆に他校の情勢にここまで詳しく入り込んでいる執事やメイドと言うのも現実的では無さそうだ。 この文には少し物腰のかたい、感情をあまり表に出さないような一種の無機質さが漂っている。二人のうちどちらがそうだったかと県予選を思い出すと、明らかに沢村智紀のほうを彼自身の頭が推していた。 「まさかハギヨシさん…………じゃねえなこりゃ」 京太郎がそういったのには、勿論理由がある。添付ファイルには写真――――その一枚は咲のメイド姿、そしてもう一つの写真は、咲の口に出すのもはばかれるような恥ずかしい写真だったのである。 とはいえ実際には咲が入浴前にバスタオルをはだけさせて巻いている写真だったのだが、彼が言うのもはばかられると言う点ではあっているだろう。 ともかくそんな写真が男の手でとられたはずはない。それなりに安心できる女性が周りにいたのだろう。 そこで、龍紋渕の待遇についても少しだけ安心ができる。 「でもこんな写真を取られたって事は、逆に安心しすぎもちょっと怖いんだけどな」 さて、京太郎が最後の文面を見てみると。――――大きな謎が一つ解けた。 「なるほど、これほどまでに俺たちの協力してくれる理由がこれか。確かに咲を介すればこれはそれなりに力を持つようになる、しかし咲は今向こうにいる。 ……だから、パイプ役に俺が選ばれたのか」 ここで、文面の通りにしなければ一体どうなるのか? わざわざ危険を呼び込む事もないだろうと、京太郎は考えるまでもなく再び部室の中へと入る。 いつの間にか打ち終わっていた面子は、仮眠を取ったり、腐っていたり、飲み物を買いに行っていたりしていた。 ――――そこで、はっきり意識のあるものは、彼を除けば部長しかいない。ちょうどいいと、京太郎は話を切り出した。 「……ごめんなさい」 「――――へっ?」 七月六日、京太郎とのデートはもはや明日に迫っている。その時にこんな言葉を沢村智紀より聞かされるなど、咲には意想外のことだった。 「え……っと?」 「本当は二日も拘束する気はなかったのだけれど……」 「――――ああ」 どうやら、あなたの須賀君も清澄の部長に首尾よく手を回したようだし、これで私の役目も終わりと彼女はその後に続けた。 咲としては部長云々よりも、「あなたの須賀君」という部分に反応してしまう。 「貴方たちのおかげで――――清澄、風越、鶴賀、龍紋渕の四校合同合宿は、これでまず間違いなく実現されるでしょう」 「うん、でもそしたら京ちゃんはさすがにいけないよね」 そこが、今回のもっとも大切な部分であったといわざるを得ない。京太郎がもしも自らを優先させて部長に話さねば、そこですべてが水泡に帰していた。 京太郎個人的には、言わずとも特に損はない、むしろ言えばそれだけ咲といられる時間が短くなる。 京太郎が話した理由、それは自らよりも咲を優先させた事と、それでも四校合同合宿は実り多いものになるだろうと考えたため。 現在清澄は全員が全霊をかけて強化に徹しているだろうから、余裕のない今このような計画を立てられるものではない、もし立てても破綻が多いものになるであろうし、それに導かれた後には眼も当てられない結果となるのは必然である。 それならば、こちらが計画を立てて他校に手を回しておけば、清澄は何も考えなくても良い。 しかしその意をこちらが残る二校に伝えても、あちらにしてみれば一回しか戦っていない上に、繋がりなどほとんど皆無な他校が作った何の目的かもしれないものに乗るわけがない。 だが逆に清澄から誘われれば行く所もあるだろうと考えられる。何しろ清澄には今県大会を制した代表と言う肩書きがあり、敦賀は引退をしているとしても、部員の多い風越は二軍でも行きたいと望む者が多いはず。 質は数で何とか埋められるはずと考えたのだ。 それ故に、信用できる人間のアプローチが必要だったのだ。 ようは、咲と京太郎は手形代わりである。その事も併せて智紀は頭を下げたい気になったが、咲が手を振ったのでそのままでいるしかない。 「でも、どうして私に? 清澄にはほかに部員がいるのに……」 「貴方が一番……衣に大きな影響を与えてくれた。衣も、一番貴方と居ることを望んでいたの。 四校合宿も、龍紋渕を鍛えるという目的のほか、衣が楽しく麻雀を打てる場を一つでも多く作るために立ち上げるもの。 彼女の心の模様が冬から春になった今、衣は大きな変革を迎えている。さなぎが蝶になるように、衣の外も内も徐々に進化を遂げている。私は……私も衣の友達だから、何かをしてあげたくて」 その熱意は、咲自身感じている。本当の友情という物があるのならば、その一端を間違いなく彼女は宿している。 それを悟ると同時に、この女性に対する見方が大きく変わった。無機質な性格だと思われがちだが、実はとても情に厚い人なのだ。 「咲ー! どこにいるー?」 そんなことを考えているうちに、衣が咲を呼びにきた。どうやら、明日の舞台に来て行く晴れ着を合わせたいとの事だ。既に、いろいろと取り寄せたらしい。 これ以上待たせると透華が怒るというので、衣は走ってやってきたらしい。 「――――じゃあ、行ってくるね」 「ええ、行ってらっしゃい」 智紀は、とても安らかさを秘めた笑顔で見送った。それは彼女が、初めて他校の者に見せた顔でもあった。 衣も、その光景に驚きを隠せないでいる。自らが最初にあの顔を見たのは何時だったかとも思いをはせた。 しかしやがて、自らのすべきことを思い出したのだろう。咲の手を引いて別室へと連れて行った。残された智紀はパソコンを開いて、溜息をつく。 ――――ただキーをたたく音が、暖色の壁に吸い込まれていった。 七月七日――――そう、七夕である。 祭りの開催所の近くにある目立つ場所、しかし人のあまり集まらない場所はどこかという問いに、かの沢村智紀の答えは満点に近いものであった。 事実、咲がついたころには、人が数えるほどしか居なかったのである。邂逅を果たすには、十分すぎる環境だった。 「うーん……」 咲は、口を尖がらせて細く伸びた影を見た。着付け等の準備で遅くなるかとすら思ったが、逆に早く来過ぎてしまったのだ。 具体的にはまだ、待ち合わせの時間まで30分は残っている。 夕日の沈むさまをゆっくりと眺めながら、胸に手を置いて自らの心臓からだんだんと強く、そして徐々に早くそして何よりも心地よく放たれる命の音をゆっくりと聞いていた。安らかなる気持ちではあったが、それは同量の不安に裏打ちされて起きるものでもあった。 咲は腕時計をしない、特に時間を気にした事などないからだ。携帯も同じ、話す相手もいないから。 京太郎とは、学校でいつでも話せるしそれはほかの友達も同じだ。 そもそも他の女子たちが携帯を持ち始め化粧をして男子の話をする年代になっても、咲は本に没頭をし、京太郎と良く話していた。 つまり満たされていた故に、それらを必要としなかったのだ。――――少なくとも、今までは。 咲は、時計を探した。自分が時計をしない事を沢村智紀は知っているはずだ。それでここを選んだという事はどこかに時計があるという可能性が非常に高い。 果たしてすぐに時計台を見つけ、咲はその周辺を歩きながら待っていた。 太陽は沈みやがて短針が咲を、長針が天を指し示す。――――だが、彼の姿はまだ見えない。 首を振りながら、自分の知っている彼の背格好を探すが、その実像も影もなくただ目に映るのは自分の肌と温度の違う空気だけ。 空から赤色の残滓が去っていくと共に、不安がその色を影と共に大きくそして濃くしていく。 「おーい? ……咲ー?」 遠くから、風に乗せられて声が耳に届く。そのそよ風が――――むしろそよ風だからこそか、黒い不安を霧が晴れるように簡単に消していく。 「京ちゃん」 後ろを、期待と共に振り向く。京太郎と眼が合った瞬間に、ドサっと何かが落ちるような音がした。彼の右腕にぶら下がっていたビニール袋が地に落ちたのだ。 「さ……咲……――――だよな?」 「う、うん。……変か……な?」 京太郎は首を横に振る、綺麗だよと咲の顔をまっすぐに見つめながら何度も何度も繰り返した。 咲の顔にうっすらと紅がさす。パタパタと咲は京太郎のそばへとかけていき、彼はそれを抱きとめる。 「行こうか」 「……はい、京太郎」 いつもとは違って、「うん」とは言わない。日ごろとは違った面を彼に見てほしいからこその返事だが、そこに何らかの意図があるなど京太郎はおそらく考えないだろう。 並んで歩き始めた咲の目に、ふと悪戯心が生まれた。 「ねえ、京……ちゃん」 「んー?」 「今私って、どういう格好をしているの?」 「え……えー……そりゃあ……」 こういえば、彼は自分を形容するためにまじまじと見ざるをえなくなる。 自らの持つ生来の気質は目立ちたいという感情からは無縁のものだと考えていたが、なるほど見られるという行為にも理解が深まった気がする。 見られるとは、自らの存在を相手に認めさせる事なのだと、龍紋渕のあの目立ちたがりの行動の裏には、きっと今の自分と似た様な感情があるに違いない。 「あー、……そうだな。まず――――」 あまり深い答えを期待してはいなかったのだが、意外にも彼はそれなりに深い答えを残してくれた。 「深い藍の地に白い花がちりばめられた着物に、夕日のような様相を持つ朱色の帯。 顔には白粉と、紅を少々。………ふむ、この匂いは柑橘系だな。香水も使っているんだろ? 髪型は……エクステでもつけたのか、簪できれいにまとめられていて ……そうだな、俺はそっちも好みかもしれない。……ああ、着物の美しさに着られてない。お前のほうが……うん、ああ……」 ――――できる限り冷静を装っているが、彼自身の心はこれ以上ないほどに高まっていた。 幼馴染ではなく、一人の女として彼女を見たのは、もしかしたらこれが最初だったかもしれない。 ――――正直、女という生き物をなめていた。そんなことを考えるまでにだ。 「…………」 彼は、自身の格好を見た。自分は咲につりあっているのだろうか? そう、自問せずにはいられない。 自らも持っていた浴衣をよく着こなしていると思うが、色は質素なものでしかも彼女のそれと比べると値段だの何だので確実に見劣りをしているだろうと、そう考える。 しかし自らにその差を埋める価値はない――――というよりも、自らのほうが咲より価値が高いなどとはどうしても考えられない。 釣り合っているか釣り合っていないかなど彼女が気にしないのはわかってはいるが、男にはプライドという長きに渡って共に生きていかねばならぬものもある。 「うおおおおおおおおお!」 「きょ、京ちゃん?」 咆哮のあと、力強く彼女の手を握って、ゆっくりと京太郎が咲を先導した。 草履が地をこする音が一定に響く中、それをかき消すかのようにいろいろな色の声が、祭りの会場に近づくたびに強く二人を引き寄せる。 心臓の鼓動が彼らの足音と重なり始めた所で、二人は祭りの会場に着いた。既に人が己自身を使って熱気を混ぜていた。 喧騒の中に、ぼんやりと灯る提灯が、それらを見守るかのようにゆらゆらとゆれている。 提灯の上、空を見やれば葉の影に覆われて星が瞬いているのかどうかが分からないが、そもそも周りのほうに眼が行くものばかりで空を見るものは少ない。 空が見えなくても別に困りはしない、それでも天の川が見られるかと二人は心の底で願い続けた。 しかしながら木がどいてくれないので、二人は再び視線を互いの顔に移動させる。 ――――二人の空気と、周りの空気の温度が違う。 言葉は発さずとも、互いにほとんど同時にそれを考えた。 例えるならば、この熱気をかもしだしている祭りの風景画の中に、自分たち二人だけが意思を持って入り込んだような。 外から見ている感覚と、中に入って一部になっているような感覚が混在している。 名状しがたきその感覚に、二人は心を強く結んで、離れないようにした。 迷子という意味ではなく、離れれば二度と戻れないような気がしたのだ。 「咲……」 「なあに?」 「いや……なんでもない」 話したいことはたくさんあった、だがその一つすら、なぜか今は思い出せない。 魂魄が薄く剥離しているような、違和感。自らの体の中で、自らが自らと争っている。 咲が、むずむずと体をよじってポツリと言い放つ。 「京ちゃん」 「何だ?」 「……チョコバナナでも食べない?」 「――――は? あ……あははははは!」 そうか、違うんだ。この空気に威圧や圧倒をされるんじゃない、この空気と一つになって楽しむべきなんだ。 そうだ、忘れたのか。――――敵なんていない事を。 「俺……」 「?」 「アンズあめを食いたい」 「――――りんごじゃなく?」 「りんごは邪道だ」 「なにそれ」 ふと、京太郎の左手に重みが戻ってくる。彼自らが咲と共に楽しむために買ってきたそれが、遠慮しがちにだが自己主張をしていた。 だが、それを使うのはまだ早い。もっと、この逢瀬を楽しんでからでもよいではないか。 一通り、彼らは音と光を潜り抜けて境内が見えるところに来る。 「京ちゃん、ちょっとお参りしていかない?」 「ああ」 「ここは、……ここは、縁結びの神様が祭られているんだって」 ――――沢村智紀がそういっていたと、おそらく後に続いて来るとおもっていたが、意外にも出てこない。 それ即ち咲が自分で調べた事なのだろうという考えに、京太郎は繋げる。 「じゃあ、行ってくるか」 「うん」 「俺たちの出会いというすばらしい過去を、感謝しに」 「私たちのこれからが。未来が、よりよい物になるように――――」 バケツに、水の入る音がする。 周りに木こそないが、草と石を村にしている虫が高い声で鳴くその中で、二つの影がゆっくりと呼吸していた。 かたや背の高いほうのそばには、ビニール袋とその中身が、自ら最も美しく輝けるその時を待っている。 今、柔らかな手がその一つをとる。黒の中ではあまり意味が無いといえばそうだが、その棒は握り手が鮮やかな七色に染められており、虹を閉じ込めたかのようだ。 「京ちゃん」 「ああ、ちょっと待っていな……ライター……どこに落とした?」 地を手探りで探す彼とは対照的に、咲の目は天へと向いていた。真珠を砕いて流したようなやさしい輝きを空は放ち、雲は一つもない。それは、咲の心を反映しているかのようであり、地を照らす唯一の光でもあった。 「――――あった」 火をともすと同時に、咲の口からあっという声が出た。 棒の先から白みがかった淡い緑色の光が迸ったからだ。 咲はそれを斜め上に向け、京太郎に見せるようにしてゆっくりと振り回す。 「花火を持つと、どうしてそう振り回したくなるんだろうな」 京太郎も、自らの持つそれに火をつけた。彼の持つそれを地に下ろすと、螺旋を描いて走り回っていく。 京太郎も咲も、明るい笑いを空に飛ばしていった。 しばらくそこは優しげな炎に包まれて、夜のしじまに切なくその光を溶かしていく。 やがて一本、また一本と燃え尽きていく中、最後に咲が手に取ったのは線香花火。 京太郎にそれを渡すと、先ほどまでの雰囲気が嘘のように、しん、とした世界を作り始める。 「……つけるぞ」 「……ええ」 暖かな火が、微かにパチパチと音を立てる。二人の呼吸と同じように小さいそれを愛しげに見て、咲が漏らした。 「私……空に咲く大輪のような花火も好きだけど、線香花火みたいにひっそりするのも好き……」 「――――そうだ、な。こっちはこっちで趣深いよ」 「ねえ、京ちゃん。さっきから気になっているんだけど、いつからそんな趣深いとか言葉を話すようになったの?」 「これでも、お前やお前の見ている世界に少しでも近づきたいとおもって、本は読んでいるんだ。その影響だろうな」 「えっ……」 ――――初耳であった、そしてとてもうれしい事であった。同時に線香花火の光に照らされて、咲の頬に体温を持った水が流れていくのを京太郎はしっかりと確認した。 京太郎はその光景に驚愕こそすれ、涙を拭いてやるという考えは出なかった。 「咲……」 「あ、あははは……煙が眼に入っちゃった」 「そうか……俺もだ」 確かに考えは出なかったが、幾ら盆暗と言えどもさすがにその意を汲み損ねる彼ではない。 すぐに苦い顔をして、そのままそらした。咲も京太郎の顔が赤くなっている事を気がつくのに少しかかったが、やがて愛おしさがこみ上げてきて、彼の近くに腰を下ろし、頭を彼に寄りかからせる。 「線香花火って、彼岸花のようだけど縁起が悪いものには思えないんだ……」 「――――確かにな、縁起の悪いものを逆さにしたような形だから、むしろいいものではないかとも思うときがある」 花火は名の通り華に似ている、しかし同時にそれは人生にも似ていると咲は言う。打ち上げ花火のような、大きくはじける人生よりもこうして仄かに輝いていく人生が自分にはあっていると言った。 口調に、どことなく悲しさが見える。 「自分を卑下するなよ」 「うん、でもね――――地味だ地味だといわれ続けても、それを変えられない自分も嫌だったんだ」 「でも、俺は好きだ。お前の全てが……」 「嫌だった、嫌だったけれども私、だんだんと自分を好きになっていったんだよ。――――京ちゃんのおかげで!」 京太郎の言葉をさえぎり、満面に朱を注ぎながら咲は言う。 京太郎が麻雀部に連れてきてくれなかったら、今自分はどうなっているだろうか。この線香花火も、嫌いなままだったかもしれない。 「線香花火もさ、こうやってくっ付ければそれなりに……あれ」 何かを思いついた京太郎が線香花火の先同士をくっつけた瞬間に、咲が体をよじり花火の先は落ちてしまう。 それでも京太郎は諦めずに新しい花火に火をつけて、今度は動かないように彼女の肩を抱いてゆっくりと近づける。 すると二つの珠は大きな一つの珠となり、先ほどよりもまばゆい光を放ちはじめる。 「動くなよ?」 ――――動けないよ! と口には出せないが、京太郎の体温、肉質、力、それらを全てを全身で感じている彼女に他の事を考えるという余裕は無い。 風が止み、虫の声も消えた。時がそこから去ったような感覚の中で、それでも現実なのだと知らせる花火の音が、光が消えた。 ――――しばらくの間、二人すらも動かなかった。 「見てみろ、咲」 京太郎が指し示す先には、一つの珠で繋がった二股の棒があった。 こんなことはめったに無い、京太郎の執念がなした業だといわざるを得ない。 「線香花火が落ちるさまは、まるで彼岸花の種が地に落ちて時代を超え、次代へと繋がるような、そんな気がしないか?」 「京ちゃん……彼岸花は球根だよ?」 「――――マジで?」 「うん」 「……かっこわりーな! 畜生、せっかくいいこと考え付いたのに!」 頭を抱えた京太郎を、朗らかに笑う。だが、確かにそれでもいいかもしれない。 潔く何も残さず散るよりも、時代へ脈々と続くものを残すのもいいかもしれない。 「なあ……咲――――一緒に住まないか」 二股の片方を握りながら、ポツリと京太郎がいいはなつ。 「え?」 「一緒に、………住まないか?」 それは、同棲という事でいいのだろうか。それを聞く前に、京太郎は続ける。 「あと二年すれば、俺も十八になる。――――結婚できる年になる、俺はお前以外と添い遂げるつもりは……なんだ……その……」 ぷらぷらとゆれる二股の片方が、咲に握ってほしそうな表情を向けていた。 それを、躊躇無く掴んだ咲は、面食らった京太郎に一度口付けをし、深呼吸を一度する。 「私も、貴方以外には考えられない。京ちゃん……いいえ京太郎、私は……」 「ありがとう、でも……何も……今は言わなくて良い。――――そうだろ?」 「うん、そうだね……」 言葉は交わさずとも、二人の間に何か暖かいものが流れ始める。 それを二人は絆ともいい、また愛とも言うのだろうと確信していた。 天の川が、二人を祝福しているようであった。 今夜、綺麗に二つの支流が一本の本流へと合流をし、やがて一つの海へと流れ着いた。 海は名の通り次の時代を生み出し、連綿と命を続けていく――――。
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ハーレムシャフル
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概要 【小説ドラゴンクエスト】で用いられる主人公の名前。 ⅣとⅥを除いて、同時期に発売された「CDシアター・ドラゴンクエスト」にも共通して用いられる。 公式の「アルス」を採用したⅦを除き、恐らくは作者である高屋敷、久美両氏の独断で名づけられたものと思われる。 小説を語るとき以外は滅多に使われないこれらの名前だが、Ⅴの「リュカ」だけは何故か妙に定着しており、 二次創作や普通の話題の中でもしばしばこの名で呼ばれることがある。 ただし、小説・CDシアターの設定に好き嫌いがあったり、相手が知らない可能性もあったりすので、話題に出す場合は注意して使うのが無難。 小説・CDシアターの主人公名一覧 作品 主人公名 備考 DQⅠ アレフ DQⅡ アレン 王子:コナン王女:セリア(小説)/ナナ(CD)王子の妹:マリナ(小説) DQⅢ アレル ※小説・CDとも仲間がおり、名前も付いている(共通ではない)。戦士:クリス(♀・小説)/ステラ(♀・CD)僧侶:モハレ(♂・小説)/ライド(♂・CD)魔法使い:リザ(♀・小説)/マリス(♀・CD)武闘家:カーン(♂・小説)商人:サバロ(♂・小説)/ダムス(♂・CD)遊び人:ロザン(♂・小説)※小説版のメインパーティはアレル、クリス、モハレ、リザ DQⅣ ユーリル(小説)レイ(CD) ※小説版では、トルネコの息子の名は「ポポロ」ではなく「リトル」 DQⅤ リュカ 男の子:ティミー女の子:ポピーキラーパンサー:プックル※結婚相手はビアンカ DQⅥ イザorイーザ(小説)ウィル(CD) ※小説版の主人公の実妹の名は「セーラ」 DQⅦ アルス ※これのみデフォ名と共通 ※特記なき場合は小説・CD共通の設定。 ※ⅢおよびⅣの主人公の性別は男。 ※ⅦのCDシアターと、Ⅷ以降の作品の小説・CDシアターは制作されていない。 関連項目 【デフォルトネーム】