約 99,176 件
https://w.atwiki.jp/sasaki_ss/pages/817.html
橘京子がキョンと付き合いだして一ヶ月が経過した。 帰り道、坂を下りながら佐々木は静かにため息をつく。 空に刻まれた夕日はすでに落ち、地平線の彼方から僅かな光を漏れ出している。 夕暮れと夜の境目の中を、佐々木はキョンと肩を並べて歩く。 なんとも言えない時間帯だった。 そもそも、いつも藤原やその他の男友達と帰っていたキョンが、何ゆえ自分と肩を並べて歩いているのか。 簡潔に言ってしまうのなら、それは橘京子の我儘に他ならない。 まず、橘といつも一緒に佐々木が、キョンと二人で帰るべきだ、と主張して彼女と一 緒に帰るのを拒否した。 普段から自分のために時間を割いている橘に対して、二人の時間というものを作って やるべきだ、と佐々木は思ったのだ。帰り道まで拘束することはない、と。 これに真っ向から反対したのは、何を隠そう橘である。 理由はいくつか考えられるが、『佐々木団としての日常』が壊れることを恐れたのだろう、と佐々木は思っている。 気を回しすぎて逆に困惑させてしまったのかもしれない。 が、当時の自分はそこに気づいておらず、しかし、お互いに一歩も引かず、放課後の 教室で、さてどうしたものかと思案していると、ふらりとキョンがやってきて、なんだ まだいたのか、という顔をしてこう言った。 「佐々木も一緒に帰るか?」 こうしてこの問題は解決した。 それ以来、三人で帰ることが通例となっている。 それはまだ、二人が付き合ったばかりの頃の話。 だからこそ、困るのだ。 例えば、委員会で遅くなるから先に帰って下さい、というメールが来た日には。 二人っきり。 キョンと、二人っきりなのだ。 実に、困る。 具体的に何が困るのかは、まだ分らない。。 先頭を歩くキョンの背中を、ちらりと盗み見る。 ただの親友。 ただの、友達の恋人、だ。 だというのに。 はぁ、とため息。 橘という緩衝材がいないだけでこんなにも意識してしまうものなのだろうか。 「なあ、佐々木。どうしたんだ、いったい?」 突然の声にどきりとした。 視線の先には彼の困惑気味な顔があって、こちらを見つめていた。 どうやらため息が聞かれたらしい。あるいは、この重い雰囲気をなんとかしようとで も思ったのだろうか。 どちらにせよ、有難かった。にこやかに笑みを浮かべて、誤魔化す。 「いや、何でもないよ」 「そっか。なら、いいんだが」 それきり、天使でも通り過ぎたかのような静寂が満ちる。 橘京子がキョンと付き合いだして三ヶ月が経過した。 昼休み。夏服に変わりつつある日常の中、佐々木は無意識にキョンを見続ける。 すでに7月。初めのうちこそ茶化す者もいたが、二か月も経てば慣れるというもので 、キョンと橘が屋上か部室に連れ添う姿はすでに風景の一部と化している。 だから、誰も注意しないし、誰も注目しない。最近では野次すら飛ばず、それがごく 当たり前のような光景として、広まっている。 今でもそうだ。未だに絆創膏の消えない指で、可愛らしい包みに入った弁当箱をぶら 下げて、橘が教室のドアを開いても、クラスメイトたちはちょっとだけそちらを見たき りで、反応すらしない。 視線の先で、藤原と谷口と会話をしていたキョンが誰よりも早く橘に気づいた。 会話を中止し、謝罪のジェスチャー。雑音に支配された教室ではその会話は聞こえな いが、いつもの事として認識されているのだろう。キョンはやれやれとでも言いたげな 足取りで、教室の外に向かう。 が、佐々木にはわかる。あれは、とても嬉しがっている。 そのくらいわかる。 だって、塾が一緒だったんだから。 帰り道だって、一緒に帰ったんだから。 教室だって、一緒なんだから。 たまにだけど、一緒に昼食を食べたりするんだから。 人混みと混雑の先、いくつか言葉を交わして、キョンと橘の姿が、教室から消えた。 おそらくは屋上か部室に行ったのだろう。 弁当箱を取り出しながら、佐々木は静かに溜息をつく。 これは日常である。 誰も注意しないし野次も飛ばさないし茶化しもしない。 これは日常だ。 それなのに、自分はまだ、それを受け入れられない。 机に寝そべりながら、ただただ溜息をつきながら、段々と自分が壊れていくような、そんな錯覚に陥っている。 自分は何がしたいのだろう。 やることもなくて、放課後の部室に足を運んだ。 部室にはすでに長門さんがいつもの席で、いつもの格好のまま本を読んでいた。 その反対側、まるで鏡の映し身のように、九曜さんが同じポーズで同じ本をめくっている。 会釈を交わして、会長席に座る。周防九曜と長門有希にどのような確執があるのか佐 々木は知らない。 だが、決して仲がいいとはいえない。お互いに無口だし、ときどき、まるで睨み合っているかのような空気すら起こる。 が、仲が悪いとも言えないのが、彼女たちの不思議な所である。時々、長門さんの後 ろを、まるで雛鳥か何かのように歩く九曜さんの姿を見ることがある。 はじめのうちこそ何をしているのか不思議だったが、ある日、九曜さんが長門の真似 をしているのだと唐突に気づいた。 それは、親の真似をする子供のようだ、と佐々木は思う。 そして、長門有希はそれを理解している節があり、自分の真似をする九曜のために、 ワザと分かりやすく動いてみたり、アイサインで教えていたりする。本人は隠している つもりなのだろうけれど。 それは、とても微笑ましいものと佐々木は思うのだ。 だから、周防九曜が立ち上がり、団長席の横に座り込んだとき、とても驚いた。 「な、何かな?」 「―――彼―――の事―――」 視線を感じる。振り返らなくても分かる。自分の頭越しに、長門有希が、九曜を睨みつけている。 ビリビリとした殺気すら感じる。 「………否定する。まだ、時間的な余裕は――」 「今」 とても、はっきりとした声だった。 「今しか―――ない」 「……推奨しない。暴走の可能性は、」 「―――問題―――は―――」 そうして、九曜は顔を上げる。 「そこでは、ない」 黒髪の奥、彼女の小さな瞳にはっきりとした意思があった。 人形のように光を通さない瞳。自分というものが見えない言動。 まるで、人形のような人だな、と佐々木は思っていた。 そんなものと、糸の見えないマリオネットだと、そんな失礼な考えをしていたことを 、佐々木は心の底から詫びた。 血肉の通った人間の瞳が、そこにあるのだ。 長門有希は驚いたように九曜を見た。ここまで明確な意思表示に驚いているのは自分 だけではなかった。 そして長門は小さく首肯する。 周防九曜の視線が佐々木に戻る。 「あなた―――は―――」 そうして、少しだけ息を吸って、彼女は言った。 彼の事が好きなのでしょう、と。 「……えっ?」 その言葉はまるで魔法のように、深く深く、心臓へと突き刺さる。 どうして? 言葉が血管に溶け出す。顔が熱い。血液が熱い。いきなり夏風邪でも引いたのか。そ んな馬鹿な。いい加減現実を見ろ。何か月も無視してきたものが、鋼鉄の意思で防がれ ていた開けてはいけなかったパンドラの箱が、たった一言で開いてしまった。 まるで魔法のようだった。 脈動する血液が告げる。無意識で封じ込めていたものが自意識に変わり、それはよう やく理解できる感情として、佐々木の体を支配する。 どうしてそんな、当たり前で、単純で、分かりやすい結論を出せなかったのか。 私は、キョンのことが、好き、なんだ。 それは、好きという感情。 昔、切って捨てたものが、今、自己認識と共に動きだす。 どうして忘れていたのか。 こんな思いを昔にもしたはずなのに、どうして忘れていたのか。 まるで決壊したダムのよう。次々と記憶がよみがえり、その度に胸がチクチクと痛み だす。積み重なった記憶が剥がれ、まるで走馬灯のように、意識がゆっくりと過去へと戻っていく。 6月。 放課後、三人で帰るときに、ふと感じる二人の空間。まるで熟年した夫婦のような、初々しい、新婚のような。 5月。 まだ野次が飛んだ教室で、真っ赤になる橘と澄まし顔で教室を出ていくキョン。 そして、最古の記憶。 4月1日。入学式。 まだ着なれない制服と、舞い散る桜。 学校の裏手の、焼却炉のそば。 キョンを探して見つけたものは、重なり合う二人の―― それは初めて他人に敵意を抱いた日。 論理的思考回路が全て吹き飛んだ日だ。全身に流れるのは嫉妬という感情、佐々木と いう存在がただ感情のままに動こうとした日。 そうか、つまり、僕/私は、橘さんを―― 肩を叩かれた。振りかえる視線の先、見知らぬ女生徒と長門有希がいて、 そこで、目が覚めた。 頭痛がしていた。 いつの間にか夕方で、夕日が背中を見つめていた。 「あ、起こしちゃいました?」 顔を上げると橘がいた。読んでいた少女漫画をパタンと閉じて、本棚にしまう。 「おはようございます、佐々木さん。珍しいですね、部室で昼寝なんて」 「……ここは?」 そんな呟き声に橘は、もう、とワザとらしく眉を吊り上げた。 「お寝坊さんですよ。ここは部室です。今は、キョンさんを待っている最中ですよ」 「……ああ、そうだったね。思い出したよ」 確かに、その通りだった、ような、気がする。 「ねえ、長門さんと九曜さんは?」 「図書当番やるからおサボりだそうです。まあ、今日は朝比奈先輩も委員会ですし。 古泉さんや藤原さんはバイトだそうですので」 時計を見る。眠ってから一時間ほどしか経っていないらしい。 けれど。 ああ、だけど。 夢の中だろうが、現実だろうが。 あのとき感じたあの感情は、本物なのだ。 「ねえ、橘さん」 唇の端が歪む。今、自分は醜い顔をしているのかもしれない。 「はい、なんですか?」 「ひとつ、お願いがあるの。いいかしら?」 キョンが来るまであと、30分と言ったところか。 それまでに、伝えておかなければ。 「お、お願いですか! いいですよ、何でも聞いちゃいますよ」 「キョンのことなんだけど」 「はい。キョンさんがどうかしましたか?」 「ねえ、橘さん」 くすっと悪戯っぽく笑った。 「キョンを、私にくれない?」 にっこりと、橘が笑った。 「分かりました」 「……いいの?」 「私たち組織は、佐々木さんのために動いています。 佐々木さんのお願いなら、なんでも聞いちゃいますよ」 分かりやすい仮面だ、と佐々木は思う。 「えへへー、これでも佐々木支援隊のプロなんですよ。 いい世界のためになら、なんだってしちゃいます」 涙も零さなかったし、声だって震えていない。笑顔だって自然だ。 なのに、仮面だと分かる。分かってしまう。 それは、長い間一緒にいたから。 「ねえ、橘さん。本当に、いいのかしら?」 「いいです。佐々木さんになら譲ります。 だって、」 佐々木さんは神様ですから、と言われると思った。 違った。 「友達ですから。私が、最も信頼する人ですから。だから、いいです」 その言葉に、どれだけの魔法が掛かっていたのだろう。 ふう、と息をはいた。 立ちあがり、橘の正面に立つ。 静かに笑う橘を、そっと抱き締める。 「ねえ、橘さん。神様とか、組織とか、抜きにして、聞きたいの」 肩の後ろで、頷く感触。 佐々木は、静かに問いかける。 「彼のこと、好き?」 「……はいっ!」 「じゃあ、もう一度、聞くよ」 ぎゅっと力を込める。 「キョンを、私にくれない?」 沈黙は、数秒だけだったと思う。 あるいは、数分だったのかもしれない。 ただ、その僅かな空白がとても静謐なものであったのは確かだ。 「……いや、です」 嗚咽が聞こえる。 組織としての橘京子を突き破り、友人としての橘京子が、佐々木の腕の中で泣いている。 「キョンさん、は、意地悪で、けど、優しいです」 つっかえながら、涙で佐々木の肩を濡らしながら、橘京子が泣いている。 「だから、だから――!」 はっきりと、聞こえた。 「取っちゃ、嫌です」 「……うん、ごめんなさい。意地悪して」 放課後。刻む夕暮れ。 夕日に染まる影法師。 橘京子が泣いている。 ようやく、キョンがやってきた。戸締りを確認し、鍵を佐々木に渡す。 「では、佐々木さん。お先に失礼します」 「あれ、佐々木は帰らないのか?」 「今日から佐々木さんとは別ルートなのです」 「なんでまた?」 「鈍感ですね。素直に喜んでくださいよ。二人っきりの時間が増えたんですから」 「そういう事だよ。もう少し、女の子の気持ちというものを考えて発言した方がいい」 ストレートな二人の物言いに、キョンは言葉を返せない。 「まったく。そんなではいつか橘さんに愛想をつかされるよ」 「あ、それはないですから安心して下さい」 「……目の前でノロケられるのも嫌なものだね」 「……仲いいな、お前ら」 「それはもう。だって、友達だからね」 「はいです。阿吽の呼吸です」 ねー、とお互いに微笑む二人を見て、少しばかりこめかみを押さえる。 「まあ、仲がいいのは理解したけどな。……で、どういうことなんだ?」 また何か起きたのか、と言外に聞いているのだろう。 「特に深い意味はないんです。本当に佐々木さんが気を回してくれただけです」 絶対に教えるもんか、と橘は思う。 こちらのやりとりを見て、静かに微笑む佐々木さんは、それはそれは女の子の顔をしていらっしゃる。 それがとつもなく綺麗で、少しだけむっとした。 キョンの腕に抱きついて、べー、と舌を出してやる。 絶対に渡してなるもんか、と橘は思う。 微笑みが苦笑に変わる。部室に夕暮れが満ちる。 帰り道。刻む夕暮れ。 坂道に揺れる影法師が二つ、いつものように話をしていた。 いつものように軽口を叩いて。 ちょっとだけ、手なんか繋ぎながら。
https://w.atwiki.jp/sasaki_ss/pages/803.html
『もしもし佐々木、今晩暇か?』 「どうしたんだねキョン、まさか夜のデートのお誘いとでも言うつもりかい?くっくっ」 『あー、まあそんなとこだ』 「んなっ!!!!!!!」 ちょ、落ち着け私。はいしんこきゅー、すぅ、はぁ。よし、落ち着いた。 「い、一応だね、念のためにだが、理由を聞いてもいいかな?」 『明日は土曜で休みだから、今夜はSOS団でハルヒ命名双子座流星群一晩ぶっ通し観測会の予定だったのだが、 当のハルヒが熱出して、見舞いにいったその席で自分が参加出来ない観測会なんか中止って言いやがったんだ。 が、今回は何故か長門が異様に乗り気だったし、 俺は俺で機材や防寒具用意したりして完全にやる気モードに入ってたからハルヒ抜きでもやりたかったんだがな、』 長門さん、気持ちは分かるよ……この日の為にあれだけ議論したんだものね。 『古泉がそんな事したら間違いなく閉鎖空間が発生するでしょうとかなんとか言うからしぶしぶ諦めたんだ。 で、持って行き場の無くなったやる気をどうするか考えてたら、気が付いた時にはお前に電話してたって訳だ』 「なるほど。僕も週末はこれといって用事も無いから、喜んでお共させて頂こう」 橘さん達との観測会はキャンセル決定。 「ところで、何故キミはそれほど迄にやる気だったのかな? もしや星が流れてる最中に3回願い事を唱えられれば願いが叶うというアレの為かい?」 『挑戦しないとは言わんが、基本はまだ流れ星を見たことが無いから一度ちゃんと見てみたかったからだよ。 幸い天気予報でも今夜は快晴みたいだし、更に月の具合も…俺はよく分からんが古泉が丁度いいって言ってたからいいんだろう。 そんな訳で今夜が俺の流れ星デビューだって年甲斐も無く興奮してるんだ』 「くっくっ…そうかい、それは失礼な事を言ってしまったね。謝罪させてもらおう。 しかしキミが本気でやろうとしていたなら、それは無理だと言わざるを得ない所だったよ。仮に 『これなら金!金!金!の3回くらい言えそうだ、でも無粋だな、止めとこう』 まで思考してから見送れる程の時間流星が流れたとしよう。 だがそれは所謂スローモーションに感じる瞬間の中の出来事で、現実の時間ではせいぜい一秒を越える程度になるはずさ。 人間は集中すると瞳孔が開いて視覚情報が増え、最大で通常時の30倍にも脳の処理速度が高まるそうだ。 結果、体感として世界がスローモーションに見えるということになる。 身近な例を挙げるなら、たまに初めて見るCMをやたら長く感じる事があるだろう?あれも同じ原理だよ。 ……話しが逸れたね、元に戻そう。そんな一秒前後という短い時間の中で3回も願い事を唱えるなんて、 余程事前に願いに適う言葉を選び、早口言葉の練習を積み、更に運良く一秒にも達する位の流星を見つける事が出来て初めて やっと至難だが不可能ではないくらいのレベルになるというものだ、いきなりやったってまず無理というものだろう」 『やけに具体的だな、色々と』 「え!?あ、ああそれくらい難しいということで、特に深い意味は無いよ」 言えない……ここ二週間橘さん、周防さん、長門さんと一緒に我々の願いを叶えるに相応しい言葉は何が最適か激論を重ね、 意味合い・必要音数・言い易さを考慮した結果『豊乳』がベストであろうという結論に落ち着き、 一人でも願掛けが成功したらその人を皆で祝福しようと誓い合ったなんて言える訳が無い! 『そうか。じゃあ佐々木は流れ星を見つけても願い事言ったりしないのか?』 「それとこれとは話が別だよ。僕だってたまにはロマンチストになりたくなるのさ」 『へぇ。例えばどんな願い事をするんだ?』 「それはお互いに内緒にしておこうじゃないか。流れてみてのお楽しみって事にしよう」 『そうだな。じゃあ8時に迎えに行くから準備して待っててくれ』 「わかった」 さて、流星観測のポイントでも説明しようか。 まず、場所は街の明かりが入らずそれでいて開けているのがベストだが、主な移動手段がキョンの自転車だから近場で妥協する。 カメラを使う場合は広角レンズを着けて天頂方向か副射点、つまり流星が来る方向に向けてシャッターを数分開放を繰り返す。 肉眼での観測は地面に断熱シート等を敷いてその上で寝転び、なるべく広い範囲を視野に収めながら全体をぼんやりと眺める。 複数人いる場合は見る方角・範囲を分担した方が望ましいので、残念ながら二人仲良く並んで星を見ることはできないだろう。 そんな事を話しながら自転車と徒歩で2時間かけて現場に着き、設営も終わりいざ観測!という段になって… 「雨だね」 「いや、雪も混じってる。みぞれだなこりゃ」 「予報は快晴だったよね、これってやっぱり……」 「『やつ』のせいだろうなあ」 涼宮さんのばかぁー!! で、いつもなら終わる所だけど、今日は一味違う展開が待っていた。 涼宮さん、貴女は気付いてないかもしれないけど重大なミスを犯したのだよ?では私のモノローグから続きをどうぞ、くっくっ 水を弾く断熱シートは最も高価なカメラを護るために使用しなければならなかった為、私達はまともに氷雨を浴びてびしょ濡れだ。 体温を保持するのが目的の防寒具も冷水を吸収し、ただひたすらに重く冷たく、全くその役割を果たさなくなった。 雪混じりの冷たい雨は10分程で上がったが、身体は冷え切り、とても観測を続けられる状態ではない。 「くしゅっ!」 「おい佐々木、大丈夫か?」 「これが大丈夫に見えるならキミも相当危ないね。幻覚が見えているようだ」 「どうにかして暖をとらんとマジでやばいな。さてどうするか……」 朝になって、屋根付きベンチの休憩所で断熱シートにくるまる私達を発見した古泉君の顔は蒼白だった。 可哀相に、余程寒い中を探し回ってくれたんだね。私達は温かいどころか暑く、いや熱くすらあったというのに。くっくっ 『月曜日の天気予報をお知らせます。午前・午後を通して概ね快晴、所により一時血の雨が降るでしょう』 (色々ぶち込んで終わり)
https://w.atwiki.jp/sasaki_ss/pages/1394.html
「まったく、キョン。君は、女の子をいつまで待たせるんだい?」 「いつまでって、5分しか遅れてないぞ?」 「僕は、1時間前からここで待ってる。」 「1時間前?何でだ?」 「さて、どうしてだろうね?朝は、5時に起きて、髪をセットしたり 服を選んだり、鏡の前で表情を作ったり、自分を励ましたり、一体どうしてだろうね」 「朝早起きせずに、昨日の晩から用意してなかったから?」 「・・・・・・・」 「・・・・・・・」 「くっ、くっ、くっ。全く、君といると力が抜けるよ。」(バカ) 「何でだよ」 「言いたくないよ。それより、君の遅刻の理由を聞かせてもらおうかな?」 「俺のは、すごく簡単だ。」 「そう思うよ。」 「昨日の晩からお前に送る花束は、何がいいのか考えていた。」 「え?・・・・」 「色々、考えたが、今日、お前が来て着た服の色に合わせることにしたんだが、」 「・・・・・・・・・」 「そこの花屋からお前を見ながら、花束を選んでたんだけど、どうもうまくチョイスできなかったんだ。結構、アホだな俺は」 「で、結局、これ一本しかない。1本だけなら色で外さないからな」 「ピンクのバラ。とてもきれいだね。ありがとう」 「小さいヒマワリとどっちがいいか、悩んだんだが、結局、バラにした」 「へぇ、どうしてバラにしたの?」 「ひまわりの花ことばは、「あなただけを見つめる」バラは、「美しい愛」。どっちのほうがいい言葉か悩んでたんだ」 「・・・・・・・・薔薇がいい。」 「そうだろ、アホなりにずいぶん考えたんだぜ。遅刻もするさ」 「くっ、くっ、くっ。そうだね。でも、意外と頭が悪いのって、かっこいいね」 「かっこいいか?情けない気がするけどな」 「ううん。とっても素敵だよ!キョン」 佐々木はそういうと、俺の腕に抱きついてきた。こいつも意外と女の子らしい反応するんだな。 さて、ここからが問題だ。一晩以上かけて花束のことばかり考えていたから デートコースを考えてこなかった。本当、アホだな俺は。 俺は、とりあえず南の喫茶店に向かうことにした。 このボーイッシュなお姫様が喜んでくれそうなデートコースをあほな頭で考える時間を稼ぐために・・・・・・
https://w.atwiki.jp/sasaki_ss/pages/1196.html
翌朝、金曜日。 脳に戻って来た意識が現在の状況を理解するのに少し時間が必要だった。 というか寝起きで目の前に愛くるしい佐々木の顔があったらそりゃあ驚くだろ? 吐息がかかる程近い。というより寝息が鼻に当たってこそばゆい……。 俺何もしてないよな? 服も着てるし平気…………だな。よし。 俺は佐々木の頭を一撫でしてから、起こさぬようそうっと布団から抜けだした。 6 41………… いつもより少しだけ早く起きた俺は、いつもより少しだけ早く学校へ向かった。 気持ちのいい朝とはいえハイキングコースばりの坂道が緩やかになるでもなく、 軽やかだった足取りもどこへやらだ。それでも教室の暖房を求めて冬の寒さを噛 み締めながら早足で上っていくと見慣れた黄色いリボンとセーラー服が目に入っ た。 よかった。戻ったみたいだな。 「ようハルヒ。今日は早いな」 いつも通りのはずだった。 何の変哲もないごく一般的な挨拶。文句のつけようもない同級生同士のやり取り だ。 いや、同級生同士のやり取りのはずだった、と言うべきか。 振り向いた顔が少し大人びて見えたのは気のせいじゃなかった。 「キョン、あんた…最高学年の先輩様に向かって呼び捨てなんて、偉くなったわ ね。敬語の使い方を義務教育課程で習わなかったのかしら?」 《しゅくしょうしゃしゃき伍 前編》 状況が飲み込めない。こいつは何を言っているんだ? 最高学年?ホワイ? 「あーぅ……マイブレイン(私の脳)がノットスリーピング(寝たままでない)なら ユーはラストイヤー(去年)のスプリング(春)にエントランス(入学)したプレゼン ト(現在)はセカンドグレィド(二年生)のハイスクールスチューデンツ(高校生)の はずだがぁ?」 「誰がルー語にしろって言ったのよ!敬語よ『け・え・ご』!!今日は夢見が悪 くてイライラしてんのよ、これ以上無駄にアングリー(怒り)な気分にさせないで くれる?」 そう言うとハルヒ先輩はスタスタと行っちまった。 一体どうなっているんだ、戻ったんじゃなかったのか? 普段全く使わない上に日本語をルー語に変換するという重労働で疲弊仕切ったマ イブレインをリミッターカットし、フル回転させながら考える。 なんだ?何が起こっている。この様子だとそろそろアイツが現れる頃か。 案の定、坂を上りきった俺を待っていたのはベンチに座ったやたらイイ男だった 。 その男はこちらを見てニヤリとほほ笑むと徐にネクタイを緩め、 「やらないか」 「やらねぇよ」 笑えない冗談はやめろ古泉。そこまでしてキャラを立てたいか。 「ノリが悪いですね。あまり期待していなかったとは言え、もう少し冗談が通じ ると思ったんですが」 生憎とそんな気分じゃないんでな。ハルヒに会わなければウホっ、ぐらいは言っ てやったかも知れんが。 「それは残念でした。ところで早速ですが本題に移りましょう。涼宮『先輩』の 事です」 ニヤけた面を突然真面目面に切り替えて言った。 ああ、是非とも御教授願いたいものだ。さっさと行くぞ。 「おいおいいいのかいホイホイついてきちまって」 …………じゃあ、死んで。 「ちょ、待ってくださいわかりましたよこのネタ引きずるのやめますから!」 それでいい。 「ふぅ………全く…では部室へ行きましょうか。ところで、鞄はどうなさいまし たか?」 鞄?鞄ならここにちゃんと…… そこでようやく気付いた。 勉強道具とともに鞄を佐々木宅に忘れて来た事に。 ………入学直後の小学生じゃ在るまいし何をやってるんだ俺は…… 「ふふ……。まぁいいでしょう。緊急事態ですし、本日の授業はサボタージュの 方向で」 悪いな岡部教諭よ。 俺は今日は学校に来ていながらも欠席することになったようだ。 「では昨日の事を聞かせていただきましょうか」 なんだ語るのは俺なのか?お前から説明があるんじゃないのか。 「まずはあなたの話が先です。僕の推論が外れていなければ、問題はやはりあな たにある」 そういう古泉はやんわりと俺に非難の目を向けている。なんだ責任転嫁はよして くれ。 脇では長門が珍しく薄い本を読んでいた。ブックカヴぁーをしていてタイトルは 分からないが、サイズ的に文庫本ではないようだ。 気にならないと言えば嘘になるが……今はそれより昨日の事……… それはやはり涼宮ハルヒ教諭との一件のことなのだろう。 俺は再び回想の海へと飛び込んだ。 ………………………… ………………… ……… 「今日の団活は休みにするわ。少し事情があってね。他の二人にも話してあるか ら、有希も帰って良いわ。あ、キョンは残りなさい。話があるから」 来て早々一気にここまで言い切り俺に人差し指を突き付ける人物は言うまでも無 く我らが団長涼宮ハルヒだ。 ただ、今は団長兼顧問の教師という立場だが。 長門は一度ハルヒを見て溜め息をつき、それから俺を見てチッと舌打ちしてから 本を閉じ、部室を出ていった。 「な、長門気をつけて帰れよ?」 せめてもの償いに俺は手を振って挨拶したが、長門は一瞥もくれずに去っていっ た。 機嫌悪そうだったな……追い出されたからか? ドアのところで長門が去るのを確認したハルヒはこちらに優しくほほ笑んだ。 「人間はやらなくて後悔するよりも、やって後悔したほうが良いって言うわよね 」 ちょっと待てそれなんて朝倉だ。 3度目か?3度目の正直で俺ついに死亡か。 もしこの後、現場の独断で~なんて言われて刺されるくらいなら俺は自分から窓 へ身投げするね。 しかし続いた言葉は幸か不幸か違ったものだった。 「ねぇキョン。若さって何だと思う?」 手にナイフはない。眉毛は細い。……セーフか。 「若さ……振り向かない事、じゃないですよね?」 昔、濃ゆい顔の宇宙刑事にそう教わったんだ。 分かる人だけうなずいてくれ。分からない人はオ〇サイトへゴーだ。ニ〇動でも いい。 「そこまでわかるなら、愛って何なのかも解るわよね?」 いつもとは雰囲気が違い落ち着いている。嵐の前の静けさ、とは思いたくないが さっきからいやな予感がしっ放しだ……的中するなよ? 「愛とは………ためらわないこと、ですね」 全く、こんな微妙なところから引用するなよ………ジェネレーションギャップか 。 「私はね、高校生の頃までは不思議を望んで毎日過ごして来たの。でもね、結局 なにも見つからなかった。その内気付いたら大人になっていて、そしてあなた達 に出会った」 一応このハルヒにも過去の人生の過程は不自然なく存在するらしい。よくできた もんだな。 「昔のワクワクが蘇ったわ。不思議な気分だった。そして、この団を作った。も しかしたら私の望む不思議なことが起こるかもって……」 俺は何も言わなかった。否、空気に押されて何も言えなかった。 「結局結成から一年を過ぎても、何も収穫はなかった。でもね、気付いたの。そ んな不思議体験よりも大切な存在に…」 ハルヒは瞳を閉じて一息ついてから俺の目を見た。 「私は、これが愛だと言うならためらわない。後悔したくないもの。だから…言 うわ。キョン、私は………あなたの事が好きよ」 …………やはり、な。 分かってはいたが、実際その場に立ってみるとこの言葉は重いな…………普段の ハルヒに言われていたらどうしただろう。 そんなことが頭をかすめたが今はそんなことを考えている場合ではない。答えは 決まっている。さてどうやってさりげなく断るか…… しかし再び目を瞑って開いた時のハルヒの目はさっきまでの落ち着いた雰囲気で はなく、獲物を追う肉食動物のそれだった。まさか………… 「年齢や、教師と生徒だなんて関係ないわっ!さぁキョン!私と禁断の愛をぉぉ ぉぉぉ!!!」 次の瞬間俺はハルヒに押し倒されていた。 だぁぁこいつ焦って年齢と一緒に理性もぶっ飛ばしやがったな!ムードもへった くれも全部ぶち壊しじゃないか!! 「だ、ダメですよ!俺は学生で先生は教師なんですから!」 「何も問題はないわ!あんたの部屋に似たようなシチュのAVがあったじゃない! それと同じよ!!」 何故それを!じゃなくて… 「あれは架空の設定だから楽しめるんです!現実に起こったら困るんですよ!」 事実困った状態になっている。帰ったらあれは捨てるぞ…… 「心配ないわ痛くしないから!初めてだから、優しくしてねぇっ!」 それこのタイミングで言うセリフじゃねぇぇぇぇ!!! 「だから、俺は学生同士の普通の恋愛がしたいんですよ!禁断の愛は望んでない んです!」 突如、ハルヒの動きが止まった。そしてフラフラと立ち上がると「売れ残りやな い……売れ残りやないんや……」と呟きながら去っていった。 俺は呆気にとられ、しばらく動けなかったんだ。 「以上だ。ハルヒが自分から去っていったんだぞ。上手く断れたんだろ?」 違うのか、と問うてみる。 しかし向かいの超能力者は呆れ顔で、 「あなたは……それでは結局根本的な解決になっていないじゃないですか…」 溜め息とともに吐き出した。 どういうことだ? 「いいですか。長門さんはあなたになんとおっしゃったんです?」 上手く断れとしか言われていないが?なぁ長門。 「あなたならやってくれると思った。でも、今回は別の意味でやってくれた。う かつ」 「………………はぁ…」 古泉、そんなあからさまにがっかりした表情をするな。お前だって長門に聞けと 言ったじゃないか。 それなら逆に聞くが、どうすればよかったんだ? 「涼宮さんはまだ年上が有利だと――もちろん深層心理での話ですが――思って います。あなたは昨日学生などと濁さずにハッキリと年上好みではないと言うべ きだったんです。それで生まれる閉鎖空間なら、僕は喜んで消しましょう」 それはあれか。 またも俺の発言でハルヒは年上でかつ学生である立場、つまり先輩になるように その分年齢を戻したと言いたいのか。 「正確には戻したのではない。改変に改変を重ねた形になる」 どういうことだ?何か違うのか? 「いろいろと違う。説明する…?」 いやいい。長くなりそうだからな。後にしよう。で、どうなったんだ古泉? 「年齢の変化で言えば、17歳+10歳-9歳=18歳ということですね。それと涼宮さん は昨日起こったことを夢だと思っています。実際の昨日は団活が休みで直ぐに帰 宅した、と改変されているようですね。もちろん他の人間の認識でも同様に」 全く都合のいい能力だな。 それより昨日のハルヒは27歳だったのか。そもそもなんで27歳だ?始めから先輩 でもよかったんじゃないか? 「恐らくあなたの部屋のベッドの下を見れば理由は明らかでしょう」 ………………長門、そんなじっと見ないでくれ。死にたくなってきた。 よ、よし!話を変えよう! 「そういえば昨日電話かけたのに出なかったのはバイトに行ってたからか?」 「お察しのとおりです。あの留守録には流石の僕も憤りを感じましたね。何が『 佐々木の家に泊まるからお前口裏合わせ宜しくな』ですか。危く機関から支給さ れている携帯電話をまっ二つにするところでしたよ」 それは………まぁなんだ。すまなかった。 「昨日は本当に大変だったんですよ?普段腕でビルを壊す程度の《神人》が、ま るで『話が違うじゃないのよ!』と言わんばかりにヒステリ気味で飛び跳ねたり 、猛スピードで転がりまわって市街地が荒野になったり、目からビームに口から バズーカでゲ〇ズ周辺も一瞬で焼け野原ですよ。しかも群れを成してそれをやる もんですから手の付けようがありません。 止どめに森さんが、あのモミアゲがぁぁぁ!今度会ったらぶっ殺してやる!って キレてましてね。その後僕に組み手と称して八つ当たりですよ。本当勘弁して欲 しいです。あの人、他の人に変に思われないようにって気を使ってわざと服に隠 れて見えなくなる所を集中的に攻撃するんです。ところでこいつを見てどう思い ますか?」 そう言って捲ったシャツの下には青黒い痣が大量に……… 「すごく……痛そうです」 「痛いんですよ、実際。この際だから言わせてもらいます。あなたには彼女を安 定させる力もあれば、不安定にさせる力もあるんです。少しは僕の苦労も……… 」 ああ悪かった。だがお前なんでそんな心底楽しそうな表情でまくし立てる。怒っ てるんじゃねぇのか? 「今は怒ってませんよ。呆れてるんです。ただこの際だから言ってしまおうと思 いまして。それに、普段はやる気なく表情筋を緩ませているか、苦虫を噛み締め るような表情のあなたですから、申し訳なさそうな顔は見ていて非常に愉快です 」 「今ので謝罪の念がきれいさっぱり消えたぜ」 「それは残念です」 やっぱりお前はその不気味な程さわやかな笑顔を維持するべきだな。 ああそういえば。 「なぁ長門、今回は佐々木に影響は出てないのか?」 「出ていない。正確に言えば、まだ出ていない。さらに言うともし影響が出たと しても恐らく無視できるレベル」 そうか。ハルヒが若返った分大きくなっているかと思ったんだが。ならやはり戻 るのはあと二日か。 「当初の計算ではそうなる。涼宮ハルヒが元の年齢に戻ればそれから一日経つご とに年齢で言えば3歳程度ずつ戻る予定……………だった」 だった? 「改変が確認された……たった今」 「それはどういう……」 言うが早いか超能力者の方から物凄い毒電波が流れてきた。 『(いいからはやく か↑ け↓ て↑)(Pom!)ガ チ ャ ガ チ ャ き ゅ ~ っ と ふ ぃ ぎ ゅ あ っ と ★ こ の 街 に 降 り ……』 「すみません、電話です。…もしもし古泉ですが」 …………ツッコまない………絶対にツッコまないぞ…… 「え!?なんですって!?佐々木さんに!!?」 なんだ?佐々木がどうかしたのか? 古泉は待ってくださいとこちらに手の平を向け、 「はい、はい。わかりました。今回ばかりは呉越同舟獣拳合体ということで。い え、もちろんこちらが激獣拳です。なんたって主役張ってますから。はい。では …」 おい、誰からなんだ。佐々木に何かあったのか!? 携帯を閉じた古泉は心なしかやつれて見えた。 「橘さんからの電話です。僕もまだ信じられませんが、佐々木さんが………」 俺にもその後の言葉はすぐには信じられなかった。が、結果として直後に目の当 たりにすることになるのだ。 今まで以上に予想外なハルヒの能力のぶっ飛び具合とそれ以上に予想GUYな佐々木 の超絶変化を…………。 あの、えっとぉ…ごめんなさい。後半に続きますぅ……
https://w.atwiki.jp/sasaki_ss/pages/1009.html
「キョン、古代メソポタミア文明で生まれた人類初めての法律は復讐法だったと知っているかい? どのような宗教、文化を見てみても因果応報の論理は存在している。 なぜならば、他人の行動に対して怒りや嫉妬を感じ、 同様に他人からの報復を恐れているからだ。 そうやって奪い合うことしかできない姿は、 実に滑稽で目を背けたくなる光景だろう。 しかしながら、僕はそういった部分を越えた良識や良心とでも言うべきところに人間の尊厳はあると考えて、 それを期待している。 特に自分の親友とでもなれば、 否応なしでもそういった良心を持った人間であると信じていたい。 たとえ間違った行動をしてしまったとしても、 良心の呵責にさいなまれ、そして自ら進んでそれを償うということをね。」 「佐々木、それは、つまり―」 「そうだね、プリン2個で手を打とうか―」 『僕のプリンを食べただろう』
https://w.atwiki.jp/sasaki_ss/pages/1964.html
「おや。奇遇だね。」 「佐々木か。」 図書館。長門の調べ物に付き合っていたら、図書館には佐々木がいた。 「…………」 長門は、例により液体ヘリウムのような目で佐々木を見ている。 「彼女とデート中だったかな?」 「長門が?そりゃ長門に失礼だろう。」 「…………」 長門が何故か俺から離れない。普段ならフラフラ本の所に行くはずなんだが。 「調べ物……」 長門が俺の手を引く。佐々木は… 「キョン、ついでだ。少し付き合いたまえ。勉強を見てやろう。」 そう言うと俺の手を掴んだ。 「「…………」」 二人の間に火花が散る。 ……あとは分かるな?肩を脱臼しちまった俺は、長門に治してもらい、外の芝生にふて寝した。 「クールだと思っていたら、意外に負けず嫌いなのね。」 「それはあなた。」 キョンに散々怒られ、私は罰として長門さんの調べ物に付き合う事になった。 「調べ物って、ブラフでしょ。」 「……嫌な人。」 調べ物もせずに、彼女はドストエフスキーを読んでいる。ロシア文学なんて、長大で陰鬱な話をよく読む気になれるな。 「あなたも。」 私が手に持つ本は、コクトー。偉大な芸術家の本だ。 「私という個体に、人の言う芸術は理解出来ない。」 長門さんはそう言うと、本に視線を落とした。 「理解出来るように噛み砕くのが文章であるし、文章で情景を描かせるものについて、こうした詩も文学書も大差無いって思うわ。」 「理解不能。私には、絶対的に経験が足りない。」 ふむ。 「そうね。思想というものを他者に伝える為のツール。それが芸術であり、長門さんが好きな本であると言えば理解しやすいかしら。」 「…………」 「色々な思想を学び、相手が伝えたい意思を読み取る。それが私にとっての本ね。本で経験は積めないけど、行動の指針にはなる。」 「一理ある。しかし、私は対有機生命体のインターフェースに過ぎない。」 議論は平行線かと思いきや、彼女は意外な言葉を口にした。 「くっくっ。」 「…………?」 いや、可愛いじゃないか。彼女は、完全に頭でっかちの子どもみたいなものだ。 「いや、ごめんなさいね。なんだか私を見てるみたいで。」 自分も、キョンに会うまではこうした『頭でっかち』であり、自身に凝り固まっていただけだと思う。 長門さんは、きっとその頃の私。キョンに出会い、キョンと一緒にいる頃の私だろう。 「意味不明。私という個体は、対有機生命体のインターフェース。」 長門さんは、微妙に表情が変化していた。 「長門さん。」 「…………?」 長門さんがこちらを向く。 「ひとつ忠告しとくわ。私は幾ら語彙を上げようが、出る言葉は一つしか浮かばなかった。 どれだけ美辞麗句を並べようが、相手に響く言葉はシンプルなものよ。」 「理解不能。」 そこはゆっくり学べばいいさ。その前に、キョンが誰かのものになってないといいね。私も譲る気はないけど。 結局閉館時間まで本を読んでいた。キョンは、芝生の上で幸せそうに眠っている。 二人で溜め息とも微笑みともつかない吐息を洩らす。この罪作りな男に、何をしてやるかね。 私は長門さんに笑いかけた。 END
https://w.atwiki.jp/sasaki_ss/pages/1457.html
417 : この名無しがすごい! :2008/12/06(土) 00 11 31 ID nKH6EoW7 佐々木さんの戦争論とか聞いてみたい 「キョン、米国がイラクに戦争を仕掛けてもう5年になる。この5年間は人間同士の殺し合いだった。 開戦前の5年間もその前の5年間もその前も思い出せる限り僕はそればかり見てきた。人間の殺し合い。 したがって僕にとってはこの状態こそ正常だね。」 いかんゾンビ映画の某少佐になってしまった。 418 : この名無しがすごい! :2008/12/06(土) 00 27 33 ID E2oBKkyX SFは少し不思議だしね 419 : この名無しがすごい! :2008/12/06(土) 01 15 39 ID AZDazEym 「人間同士の殺し合いを止めるにはどうしたらいいと思う」 「人間以外と殺し合うことになれば嫌でも止まるさ。 宇宙人、 未来人、異世界人、超能力者とかね」 420 : この名無しがすごい! :2008/12/06(土) 01 46 00 ID E2oBKkyX 419 シュールすぎます 佐々木さん
https://w.atwiki.jp/sasaki_ss/pages/1868.html
「また明後日、部室で会いましょ」 ハルヒの後ろ姿がスローモーションで遠ざかるとき、アレが来た。 デジャブだ。それも今までにないくらいの強烈なヤツだった。 どうすればいい? 思いだせ。ハルヒの言葉に何かヒントがあったはずだ。 ここで何かしないと、ハルヒをこのまま帰らせてしまうと、またあの2週間を繰り返す羽目になってしまう。 だが何を話せばいい? どうやって呼び止めればいい? 分からない、思い……つかない……。 結局、俺は何も言うことができなかった。 今回の忌々しいループもついぞ脱出できずに解散することになったのだ。 古泉は「記憶がリセットされるのは幸いしていますよ」なんてことを言っていた。 朝比奈さんは未来から連絡がこないと言った日からずっと沈んだ調子で心が痛む。 長門はいつもどおりのように見える。心なし疲れているように見えるのは、俺が疲れているからなのかもしれない。 ともかく今回の俺も失敗したわけだ。次回の俺よ、このへんちくりんな終わらない夏休みをなんとかするのは頼んだぞと 思いつつ、明日はごろ寝を決め込もうと考えながら自転車置き場に向かうのだった。 「やぁ、キョン」 「うぁ」 突然声をかけられたので、変な声を出してしまった。 とはいっても、別に聞いたこともない声ではなかった。 それにこんな調子で俺に声を掛けてくれるヤツは絞られてくる。 だから声の主の方を向けば返事はすぐにできた。 「なんだ、佐々木か」 赤チェックのスカートにニットベストといういでたちだったが、それはまきれもない中学時代のアイツだった。 「なんだとは、とんだ挨拶だ。ずいぶん久しぶりなのに」 言葉の上では非難めいていても口元を見ればただの皮肉交じりの談笑だということはすぐに分かった。 「半年ぶりじゃないか」 再会の挨拶はそこそこに佐々木は言葉を続けた。 「キョン」 こうもナチュラルに話しかけられると嫌でも思い出してくる。そう、佐々木はこういうヤツだった。 「どうも600年いや610年くらい君の顔を見ていないような気がするよ」 ずいぶん中途半端な数字を出してくれるじゃないか。いや待てよ。今こいつは俺にとって何気に洒落になっていない発言をしている。 涼宮ハルヒという女に出会い、いろんなことに巻き込まれてきた。いや今も現在進行形で夏休みが終わらない。幸いなのは俺は この繰り返しを全部覚えているわけではないということだ。いや問題なのはこの変態的な集団とはなんの関わりもないはずの 中学時代のちょっと変わった友人がなぜニアピンな発言をするのかということだ。 断っておくが、平時の俺ならこんなことを言われた程度で動揺もしない。中学時代の俺だったらまたいつもの佐々木節が始まったと 思っているだろう。ところが今はそうじゃない。 そんな俺の様子を知ってか皮肉めいた笑みを浮かべた佐々木は真面目な表情になった。 「顔色がすぐれないようだ。夏バテではないようだが」 心配させるわけにはいかない。俺は大丈夫だと答えて、時間があれば喫茶店で話をすることを提案した。 奇跡的に財布には余裕があったんでね。佐々木も快諾してくれた。 先ほど感じた疑念は霧散していた。 「コーヒー2つ。ホットで」 8月最終日だ。まだまだ暑い日が続く。 「キョン、呆けた顔なんてしてどうしたのかい。夏バテではないようだが」 終わらない夏休みを前にうんざりしたなんて言っても信じてはくれないだろう。だから、俺はどうしてこんなクソ暑い日に ホットなんて頼むんだと毒づいてみると、 「そうはいうけどね。たまには暑い日に温かい飲み物を飲みたくなる時だってあるのさ」 確かにクーラーが効いた部屋でならその意見は同意するね。寒い時にアイスを食いたくなることもある。まったくもって 地球には優しくなることこの上ないが。 「それにだ」 「キミはもう少しリラックスした方がいい。さっきよりは顔色が良くなったとはいっても僕の目はごまかされない。 これでも1年ばかり同じ人を見てきたんだ。キミが疲労困憊なのはお見通しなのさ」 差し出がましいことをしてしまったのならすまないと佐々木は言ったが、俺は大して気にしてなかった。 それによくよく考えてみたら、さっきSOS団で解散したときに冷たいドリンクを飲んだばかりなんだ。口の中を落ち着かせる ためにはこの選択は悪くなかったということにしておこう。しかし、俺はわかりやすいやつなのだろうか。鏡を持ってない からわからないんだがね。 「ふっ、くくっ。やはりキミはそういう奴だ」 呆れているかのようなシニカルな表情で佐々木は言った。 「それでキミはどうしたんだい。いや、日に焼けていることをみるに十分夏休みを堪能したと見て取れるんだが」 相変わらず聡明な奴だ。 「僕は平常時と変わらず塾だよ。まったく学校の勉強についていくのが大変だ。 なにしろ夏休みにも学校はあるし模擬試験もあるんだ。夏は受験の天王山というけど、これを3年続けるとなると慣れる までが骨だよ」 それはなんだか申し訳ない気分にもなってくる。 「僕はこの通りな有様だから、息抜きに読書したり音楽をかけながらリラックスするのが関の山だよ。 ああでもプールに行きたかった。花火大会も悪くないね。ちょっとした旅行にも憧れるものだし、受験が終わって無事 志望大学に行けたら思いきっていろいろやってみるつもりではあるけど、やはり中坊までにある程度羽根を伸ばして おくべきだったかなと今となっては少しは思えてくるよ」 俺はこの夏、ひと通りのことはこなしたつもりだぜ。誰かさんのおかげでな。別にまんざら楽しくなかったというわけでもない。 ただ、どうも同じ事を何度も何度も繰り返したらしいことを思うと野菜と焼豚がてんこ盛りになったラーメンを朝も昼も夜も 食べたような気分にもなる。 「おやおや、キミは夏休みを堪能するあまり大事なことを忘れてしまっているような気さえするね」 そして佐々木はこんなへんちくりんな状況に置かれている俺には全く発想しなかったことを言い出した。 「宿題は終わったのかな?」 俺は宿題のことなどすっかり忘れていた。 正直言って今の状況がなかったとしても忘れていなかった保証はなかったにしても、谷口は無理だとして国木田あたりに見せて もらう腹づもりでいただろう。もう一度言う。こんなこと全く頭の中からすっぽ抜けていたのだ。そしてそいつはそんな俺の様子を みればお見通しのようだ。 「やはりそうか。世間的にはあまり褒められたことではないのだが、キミにもいろいろあるのだろう。 キョンが理由もなく課題をすっぽかす奴ではないということを僕は知っている」 佐々木は叱るでもない、どちらかというと諭すかのように話を続ける。 「楽しいとわかることばかりをするのが夏休みの醍醐味ではない。苦しいことも含めて如何に心健やかに過ごしていくことを 考えるのが夏休み、いや日々の醍醐味だと僕は思うね。 どうだい、キミさえよければ宿題を手伝うこともやぶさかじゃないんだ」 それには及ばないさ。昔みたいにお前の手を煩わせるわけにもいかない。何より今抱えているのは俺がやらないといけない厄介な宿題なんだ。 「……そうか。まあでも元気が出たようで幸いだ」 佐々木はいつもよりも少しだけ柔らかな笑みを俺にくれた。 そんな顔を見た俺は何を考えていたのだろうか。つい最近似たような感覚に囚われた気もするのだが気のせいだろう。 記憶と既視感があいまいな状況では正確な判断もできまい。それに重ねて言うが俺は今鏡を持っていないからどんな表情を しているかなんてわからない。物思いに耽っていたのに気づき、話し相手に顔を向けると佐々木の表情は元のシニカルな 微笑みになっていた。コイツの見慣れていた顔にやっと戻ってくれたというべきなのかね。 「そろそろ時間だ。流石にこれ以上は図書館で自習してましたという言い訳も通用しない。一応僕にも門限はあるのだからね」 今日佐々木に会ってコイツにしてはいろいろな表情を見せたような気がする。どうやら思ったより心配させてしまったらしい。 とはいえ、ノスタルジックな感覚を取り戻すくらいには俺も調子を戻してはきたのかもしれない。 「それじゃあまた会おう。親友」 そうして俺達は別れた。今度会うのはいつになるやら。1年後かもしれないし半年後かもしれない。 ひょっとしたらそんなに遠くない頃に今回のようになんとなく偶然また再会するのかもしれないなと思いつつ、帰路に着いたのだった。 さて、おどろくべきことに佐々木を話している間はデジャヴを全く感じなかった。 今となってはそれはどういうことなのかなんてどうでも良くなっていた。 まあいい。次の周回の俺よ。今度はうまくやってくれよ。できたら今回のイレギュラーも思い出してくれると幸いだ。 ──8/31 23 59 「彼が正体不明の女子と過ごしたシーケンスを確認。エラー」 (終わり)
https://w.atwiki.jp/sasaki_ss/pages/1992.html
削除
https://w.atwiki.jp/sasaki_ss/pages/1096.html
分裂の某シーン。 『涼宮ハルヒの驚愕』 ハルヒは一気に喋り終え、大きく深呼吸してから、そして奇異な目を俺の隣に向けた。 「それ、誰?」 「ああ、こいつは俺の……」 と、俺が言いかけた途中で、 「セフレ」 佐々木が勝手に回答を出した。 …ちょっとまて、今なんて言った? ハルヒの顔が形容しがたい驚愕めいた憤怒を交えた顔つきになってから 古泉のケータイのベルが鳴り始めたのは言うまでも無い。 ~DEAD END~