約 20,660 件
https://w.atwiki.jp/azum/pages/58.html
「よみさん、ともちゃんが…ともちゃんがー!」 「大丈夫だよちよちゃん、目立った傷もないし…きっと明日には元気になってるさ」 泣きじゃくるちよちゃんにそう言い聞かせて、私はなんとか冷静さを保っていた。 智が交通事故にあって病院に運ばれたのは、 ちよちゃんの別荘から帰ってすぐのことだった。 下り坂を自転車で全力疾走し、そのまま軽トラックに横から突っ込んだらしい。 自転車はバラバラだったが、 乗っている本人は上に放り出されて頭を打つ程度で済んだ。 まったくあいつらしい事故だった。 こんな騒ぎを起こすのも程度の差こそあれ、一度や二度では無かった。 しかし… 扉一枚隔てた手術室に向かって、祈りを込めて呼びかける。 (大丈夫だ、今度だってどうってことないさ。そうだろ智?) 「よみちゃん、ちよちゃん、榊ちゃんと神楽ちゃんが来たでー」 廊下の向こうから、2人を引き連れて大阪が戻ってきた。 神楽は水泳部の練習から大慌てでやってきたようで、 髪の毛を濡らしたままこちらに駆け寄ってきた。 「智は大丈夫なのかっ!ここか?この中にいるんだなっ!」 神楽がそう言って手術室のドアを開けようとする。 「おい、神楽!今はまだ…」 私とちよちゃんが驚いて止めようとすると、榊が神楽を引き止めてくれた。 「あっ…そうかごめん。慌てて…」 心配のあまり判断力を失った神楽に比べると、榊は随分落ち着いて見えたが、 さっきから目が潤みっぱなしだった。普段の感情の表しかたから考えれば、 これが彼女にとっての激情に当たるのだろう。 「よみちゃん、ともちゃんのお父さんとお母さんには、まだ連絡つかへんの?」 「あ、ああ。ちよちゃんの別荘の行ってる間に、智の両親が実家に帰っててね、 後から智も行くはずだったんだけど…この事故だ」 「そらまずいなあ、ともちゃんが良くならんと連絡つかへんとちゃうか?」 緊急時にも関わらず、大阪は冷静だった。 必死で平静を装う私とは違い、他のメンバーにもしきりに声をかけては みんな落ち着かせようとしてくれている──ように見える。 大阪のことだけに本当の所どうなのかは、よく分からないが… 「そうだ、水泳部で黒沢先生いっしょだったろ?先生には伝えてきたのか?」 ようやく落ち着いてきたらしい神楽に聞いてみる。 「あ…ああ、後からゆかり先生連れていっしょに来るって言ってた。 そろそろ来るはずだと思うけど…」 「おーい、皆の衆ー。元気かにゃーー?」 「ゆかり先生!」 弾かれたようにその場にいた全員がゆかり先生に駆け寄った。 「うぇっ、ひぐっ…ゆかり先生!ともちゃんがぁ」 「はいはい、ちよちゃん泣かないの。大丈夫だから。 あの子が交通事故くらいでどうにかなるわけないでしょ?」 ぶっきらぼうで薄情にも感じられる言葉だったが、パッと場の雰囲気が明るくなった。 「ちょっとゆかりー、置いて行かないでよー」 後から黒沢先生が息を切らせてやってくる。 よく見るとゆかり先生も汗だくだった。 普段通りに振舞ってはいるが、よっぽど急いでここまで来たのだろう。 手術は1時間ほどで終わった。 智の両親の代わりに、黒沢先生とゆかり先生が医者の説明を受けている。 「智のやつ、頭を手術したんだよな…大丈夫なのか?」 「もしかしたら…後遺症が残るかもしれない…」 嫌な汗が体を伝う───ガチャ 不意にドアを開けて、先生達が戻ってきた。 「どうやら大丈夫みたいよー。経過を見るために2、3日入院は必要らしいけどね」 ゆかり先生の言葉を聞くと、ほっとした顔で、それぞれが顔を見合わせた。 「さあ、今日はもう遅いし、安静にしてなきゃいけないから帰りましょうね。 みんなも心配して疲れちゃったでしょう?」 黒沢先生がそう言われて、まだ目を赤く腫らしたままのちよちゃんが答える。 「はい、わかりました。それじゃあ明日みんなでお見舞いに行きましょう」 「おお!そうだなちよちゃん、明日あいつの喜びそうなもん沢山持っていってやろう!」 さっきまであれだけ元気の無かった神楽は、顔一杯に笑顔を浮かべていた。 「良かったなー榊ちゃん、智ちゃんなんともないんやねー」 「うん…本当に良かった」 気が付くと視界が歪んでいた。 今まで抑えていたものが一気に溢れ出して、涙が頬を伝っている。 言葉も無く、ただただ涙を流しつづけて、一つだけこう思った。 (こんなところ、智には見せられないな) 翌日 まだ朝早い時間に病院に着いてしまったが、すでに大阪と神楽が先に来ていた。 「お、よみも来たのか?じゃあちょっと早いけど様子見に行こうか」 病室のドアを開けると、ベットから上半身を起こしている智が見えた。 まだ頭に包帯が巻いてあり痛々しい。 「おーい智ー」 「智ちゃーん、大丈夫やったかー?」 「どうしたんだ智?ぼーっとして あ、腹へってんだろ、お見舞いにバナナ持ってきたぞー!」 智は不思議そうな顔をしてこちらを見ている。 「どうしたんだ、智?バナナがそんなに珍しいのか?」 神楽がしきりに声をかけるが、いまいち反応が薄い。 「あ、あのう…」 「どうしたんだよ智?」 「い、いや大したことじゃないんだけど…」 「なんだよ、他に食べたいもんでもあるのか?」 「智って、誰?」 「はぁ、何言ってんだよ智。ほら、バナナだぞー、あーん」 「あなた…誰?」 「智…どうしちゃったんだよ、神楽だよ神楽」 「分からない…」 半分泣き顔の、本当に困ったような顔で智はそう言った。 本当に何言ってんだ…いくら智でも… いや智だからこそ、こんな顔してこんな冗談をやるはずがない。 「智、何も覚えてないんだな?」 ─コクン 「自分の名前は?」 「覚えてないけど、智…っていうのが私の名前でしょう?」 と言うことは、当然… 「…私のこともか?」 「ごめんなさい、分からないよ…」 智はそう言って、申し訳なさそうにうつむいた。 「お前は滝野智、私は水原暦だ…なあ、本当に覚えてないのかよ」 「あなたが水原さんで、そっちの人が神楽さんね?」 水原さん──頭をガツーンとやられた気分だった。 子供の頃から「よみ」「とも」と呼び合ってきた、 その相手の口から突然、「水原さん」 頭では理解しているつもりでも、感覚がついていかなかった。 「あなたは何ていうの?」 智はそう言うと、後ろに立っていた大阪に向かって声をかけた。 「えっと、私は春日歩いいます…智ちゃん、私のことも覚えてへんの?」 「ごめんなさい春日さん、本当に何も覚えてないの」 智の返事を聞いた途端、大阪が大きく目を見開いた。 「ちゃうねん!私は大阪やねん …ひどいやんかぁ、智ちゃんがつけたあだ名やのに…」 大阪の気持ちは痛いほど良く分かった。 もう忘れてしまったけど、初めに私を「よみ」って呼んだのは、 あいつだった気がする…
https://w.atwiki.jp/azum/pages/65.html
「ようやくついたみたいだな」 「すげーっ! 一面真っ白だよ」 「この辺りは雪が数メートル積もることもあるそうですよ」 ワゴンが停まり、一同は真っ白い大地に降りたった。雪が靴のそこで押し固められて音をたてた。目の前には大きな屋敷が雪にうずもれて佇んでいた。 古い、わらぶき屋根の木造建築である。伝統的な平屋造りだが、敷地が広く屋敷自体も巨大で、その200年に渡る絶対的地位を象徴するようであった。 「今日はとりあえず一泊して、スキーは明日からにしましょう」 「賛成」 「開きましたよ~」 「うわっ、めっちゃ広いな~」 戸口から衝立の向こうに廊下が延々と伸びているのが見えた。 途中の部屋、さらに横の通路が何箇所も十字に交わって、遥か奥まで続いている。 智、暦、大阪、榊、神楽の四人は冬休みを利用して北陸にあるちよの別荘に遊びに来ていた。 「ほんとに、全部使っていいのか」 「はい。今は管理人のおじいさんが住んでるだけですから」 「かくれんぼできるぜ、かくれんぼ!」 「お前は子供だな」 「何を~! あんたの瞳はもう子供のころの輝きを失っちまってんだよ~」 「まったく、何いってんだか」 「ねえ、そのおじいさんは?」 屋敷には誰もいないようだった。 「迎えに出てくるはずなんですけど……」 背後で物音がした。 「うわっ!」 一同は声を上げた。驚きというよりは、不気味さやおぞましさ、 そして恐怖を感じてのことだった。後ろにはいつのまにか老人が立っていた。 「……ようやく来たか」 それだけいうと、老人は玄関から上がっていった。一同は顔を見合わせていたが、やがておずおずと老人の後を追って屋敷にあがっていく。 醜怪な老人だった。不恰好なほど大きな鼻が顔の真ん中に乗っかっているが、あばただらけで汚らしく、 全体的にしわがれた顔に三白眼が小さな裂け目から外を覗いていた。 「部屋の見取りはさっき言った通りだ。わしはこの部屋にいる。あんたらはどの部屋でも自由に使ってくれ」 そういうと、襖をあけて中の一室に消えて入った。一同の間をややしらけた雰囲気が包み込んだ。 「――今の人が?」 「はい。近所の農家の人で、今は畑仕事をやめて、住み込みで屋敷の管理をしてるんです」 「なんか気色悪い人やな~」 「確かに。ちょっと気持ち悪かった」 「そんなことより、はやく荷物運ぼうぜ」 気を取り直して、めいめいが手荷物を提げて屋敷を歩きまわる。 部屋数は一同の人数の十倍はある。それぞれ好きな場所に陣取った後、いろりのある部屋に戻ってきた。 「わ~っ、いろりだよ! 私はじめてみる」 「私も」 「今日はお鍋ですよ~」 「うおおっ! カニだカニ!」 「今夜はごちそうだな」 「あんたは北海道で喰ってきただろ。喰うなよ」 「何いってんだよ!」 「よし、榊、どっちがたくさん食べるか競争だ!」 「…食べ物はゆっくり噛んでたべなきゃだめだ」 「いっただきまーす!」 「あ~喰った喰った」 一同は食事を終えると、いろりを囲んでとりとめもない話に花を咲かせた。 友達同士、一緒に泊りがけで遊びに来たときの楽しみだった。 「あ~喰った喰った」 一同は食事を終えると、いろりを囲んでとりとめもない話に花を咲かせた。 友達同士、一緒に泊りがけで遊びに来たときの楽しみだった。 「それにしても、ちよちゃん家がこんな山奥に、こんなでかい別荘持ってるなんてな~」 「確かに。別荘というか屋敷だぞ」 「ここは、もともとお祖父ちゃんが住んでた家なんですよ」 ちよが語り始めた。 「うちは、もともとここら辺の庄屋さんだったそうです。それがお祖父ちゃんの ときから東京で事業をはじめて、今はここにはこの屋敷が残っているだけだそうです」 「へー、そうだったのか」 「そういえば、私のお祖父さんもここら辺り出身だって」 「神楽が?」 「じゃあ、案外親戚同士だったりして」 「別にそんなんじゃないよ」 「……吹雪いてきたな」 不意に、一人がぽつりと漏らした。先ほどからゴー、ゴーという吹雪の音がどんどん大きくなってくる。 たまに、吹き抜けになった高い天上が、ギシッ、と軋む音をあげた。 「もしかして、寒波がきてるんじゃ」 「天気予報だと大丈夫だといってたけどな~」 「山の天気は移り変わりやすいんだよ」 「――こんな晩は出るかもしれんな」 突然、声がした。 「うわっ!」 みると、管理人の老人がいつの間にか立ちつくしていた。 「な、なんですか?」 「なんですかとはあるまい。わしもいろりに当たらせてくれよ」 「……」 老人はいろりばたに腰を下ろした。 「あのぅ、さっき出るとかいってましたよね。なんなんですか、それ?」 気まずさに耐えかねたのか、神楽が老人に尋ねた。 「このあたりの伝説だ」 老人はそれだけいうと、それっきり黙りこくっていた。 やがて立ち上がると、そのまま去っていった。 「……なんだったんだ、あれ?」 「ねぇ、ちよちゃん知ってる? その伝説とかいうの?」 「……ええ」 「なぁ、ちよちゃん、教えてくれよ。 その話が気になるんだ」 ちよは気が乗らなそうであった。あいまいに頷いてお茶を濁そうとする。 しかし、神楽にしつこくせがまれ、それで仕方なく口を開いた。 「怖いお話ですよ。いいんですか?」 「おっ、怪談か。良いじゃんそれ」 「……わかりました」 ちよは語り始めた。低く暗い声で。 「――昔、この家にそれは美しい娘がいたそうです」 みんなは耳を傾けていく。 「その美しさは近隣の村々にも聞こえるほどでした。その娘は、年頃になり、どこか家柄の良い家にお嫁にいくことになったそうです。 ところが、その娘には想い人がいました。相手は近く集落の男でした。娘がたまたま外を通りかかったとき、二人は出会ったのだと。 二人はたちまち恋に陥りました。そうしてついに将来を誓い合う仲になったのだそうです。でも、それは許されぬ恋でした。なぜなら、男は貧しい小作人の子だったからです」 その場はいつの間にか静まり返り、ただ吹雪の音だけが響いていた。 「娘の父親はことを知ると烈火のごとく怒りました。そうして何度も男と合わせないようにしようとしました。しかし、娘は一向にいうことを聞こうとしません。 業を煮やした地主は娘からの手紙を偽って男をおびき寄せると、若い衆を集めて袋叩きにしてしまいました。そうして、吹雪の中、雪に放り込んだそうです。 ……夜が開けると、男は跡形も無く消えていました。娘はこのことを知ると嘆き悲しみました。彼女はその男と引き離すため、この屋敷のどこかにある 一室に幽閉されていたのだそうです。男が死んだ翌日、家の者がみつけると、彼女も血を吐いて死んでいました。――それからです、出るようになったのは」 静寂が、辺りを支配していた。 「こういう吹雪く晩になると、足音が聞こえてくるそうです。雪を踏みしめる足音が。そうして、朝になると、いつのまにか家の者が一人いなくなっているそうです。 一人、また一人と。そして、雪の中には確かに跡が残っているのだそうです。点々と続く血の後が……。多くの村人は半信半疑でしたが、 実際、その後、村には奇妙な疫病がはやったそうです。大勢がばたばたと倒れ、死んで行きました。やがて付近の人々は男の祟りだと噂しあうようになりました。 男が悪霊となって災いをなしているのだと。結局、その疫病が原因で村の皆は散り散りになり、この辺りも寂れていったんだそうです……」 ちよが語りつくした、そのとき――突然、奇声が轟いた。 「くきぃええええええええ!」 「うわあっ!」 「きゃああっ!」 何人かが悲鳴を上げる。 「プッ、ププ、ぎゃははははは!」 智が腹を抱えて笑い転げた。 「ひゃはははははは、ビビってるよ、マジビビってる! あんたら、もうサイコ―!」 「あー、びっくりした! この!」 「お前は調子に乗りすぎだ!」 「智ちゃん、ひっどいな~。あたし心臓が止まるかと思ったで~」 「……びっくりした」 智は気にせず笑い転げている。 「バーカ、バーカ」 「ごめんなさい。私がこんな話をするから脅かしてしまいました」 「ちよちゃんは悪くないよ」 やがて、笑いが収まると、再び皆は静まり返った。 「……それじゃ、もうお開きにすっか」 結局、その場は盛り下がってしまったのだ。老人の出現とその話によって。 めいめいは後味の悪さを残しながら、自分の部屋に引きこもっていった。 ――水の音がした。 智はうっすらと目を開けた。智は寝付けないでいた。皆の前でふざけてみたものの、あの話が気になって眠れないでいた。 その上、さっきからずっと、ポタポタという水が滴る音が暗闇の中を透き通るように響いてくる。 目が醒めた中、ただその音をじっと聞いていた。 「ああっ! うっとおしいな、もう!」 智は布団をけって立ち上がると、懐中電灯を手に襖を開けて部屋の外に出た。 何も見えない中、足元の廊下だけが明かりに照らされて黄色く光る。 他の皆はもう寝入ったのだろうか、屋敷の中は静まり返っていた。 「音はあっちからか」 智は、ただ一人で歩いて行く。さすがに怖くはあるが、すっかり目が醒めて、あの音が気になってしょうがない。 とにかく、音の原因を確かめて消しておく必要があった。ふと誰かを起こそうかと思ったが、みんなを脅かした手前 怖がってるようで決まりが悪い。一人暗い廊下を歩いていった。木目板の軋む音が吹雪の音と共に静かな廊下に響きわたった。 「この辺、あやしいな……」 音源がどんどん近づいてくる。台所の方らしい。そのとき、何かが動いた。 智は、はっきりと見た。暗闇の中、影が通り過ぎていくのが。智は慌てて追おうとした。 しかし、何かに掴まれてたように、台所の戸口で立ち止まった。 なぜだか、そこがどうしようもなく気になってしかたがなかったのだ。 あるいは、智の無意識が危険を察知したのかも知れなった。 そのことが智の命を救った。 「一体、何が?」 例の、水の音がする。どうも蛇口をしっかり締めていないらしい。 懐中電灯の明かりを無造作にそっちへむける。そして、映し出した。 ――そこにはちよがいた。首をワイヤーで絞められ、目玉を飛び出させて死んでいるちよが。 ちよの首は、あまりに強い力で絞められたのか、ほとんどちぎれかかっていた。 人間が、どうしたらこんな恐ろしい表情になれるのだろうか。ちよの顔は地獄の苦痛のただなかで固まっていた。 「あ……ぁ……」 智が、二歩、三歩後ずさりし、へたり込んだ。 「うわあああああぁぁぁぁぁぁっ!!」 吹雪の中、けたたましい悲鳴が木霊した。
https://w.atwiki.jp/azum/pages/23.html
もしも願いが叶うなら 1 もしも願いが叶うなら 2 もしも願いが叶うなら 3 もしも願いが叶うなら 4 もしも願いが叶うなら 5 もしも願いが叶うなら 6 もしも願いが叶うなら 7 もしも願いが叶うなら 8 もしも願いが叶うなら 9 もしも願いが叶うなら 10
https://w.atwiki.jp/muchidaioh39/pages/15.html
呪われし風の地図Lv56(通称:まんちゃん) あらぶる岩の地図Lv57(通称:ベーベ) 残された風の地図Lv64(通称:うごいちⅡ、てけ最浅ゴルスラ、かねよこせ、江ノ島最浅ゴルスラ/木更津ゴルスラ、金妻ゴルスラ/旅人ゴルスラ、J・2万マイルゴルスラα) 見えざる夢の地図Lv69(通称:CBゴルスラ) 大いなる岩の地図Lv71(通称:やり賊ゴルスラ) 大いなる大地の地図Lv72(通称:ヨウスケ、アンチ、メイドゴルスラ、ミズホ) あらぶる光の地図Lv72(通称:エルナ、シウマイゴルスラⅢ、マキ最浅ゴルスラ、くまぞう最浅ゴルスラ、キャプテンゴルスラ、ましゃ最短ゴルスラ/エスタークゴルスラ/ケイジ最浅ゴルスラ) 大いなる岩の地図Lv74(通称:てっくるゴルスラⅠ) とどろく夢の地図Lv74(通称:ヨシノリⅡ、ヨシノリⅡ発見者違い(仮)、J・2万マイルゴルスラ) あらぶる空の地図Lv74(通称:ヨシノリ大財閥) 大いなる闇の地図Lv75(通称:よしゆき氷結ゴルスラ) わななく獣の地図Lv80(通称:あゆみ金) けだかき夢の地図Lv80(通称:よしにぃゴルスラ/溢れ出すゆうのへそくり光り) あらぶる闇の地図Lv81(通称:カイエン・グレゴル、ソフィアグレゴル、江ノ島グレゴル/グレゴルウォルロ、みらの氷金、てっくるグレゴル、シウマイゴルスラⅣ) あらぶる光の地図Lv81(通称:薩摩ゴルスラ、てっくるゴルスラⅡ、精霊ゴルスラⅩ、てけ最浅ゴルスラⅢ、黄金の鉄の塊で出来たゴルスラ/カラメルなしプリン、てっくるゴルスラFinal/新宿最浅ゴルスラⅢ) 放たれし悪霊の地図Lv82(通称:てっくるゴルスラPremium) 残された魂の地図Lv83(通称:レフィカル) 大いなる大地の地図Lv86(通称:倉敷ゴールデンパイン) 大いなる光の地図Lv86(通称:トレジャーゴルスラ) 見えざる星々の地図Lv89(通称:さとる・さとる大富豪) 見えざる星々の地図Lv89(通称:四星球、精霊ゴルスラⅣ、大江戸最浅ゴルスラ、まさスラ89、シウマイゴルスラⅨ、J・2万マイルゴルスラγ/やり賊ゴルスラⅢ、新宿最浅ゴルスラ、真・旅人最浅ゴルスラ、ましゃアニバーサリーゴルスラ、J・2万マイルゴルスラγⅡ) 呪われし風の地図Lv56(通称:まんちゃん) 地図名:呪われし風の墓場Lv56 発見者:まんちゃんさん 場 所:エルシオン学院横 地 形:遺跡 ボ ス:B16F 黒竜丸 内 容:B15F ゴールデンスライムオンリー 備 考:…と入れましたが、特にこの地図には、わざわざ備考にするようなことはなかった、気が、します…。 気のせいでなければ、ね…。 あらぶる岩の地図Lv57(通称:ベーベ) 地図名:あらぶる岩の墓場Lv57 発見者:ベーベさん 場 所:ウォルロ地方 地 形:氷 ボ ス:B13F スライムジェネラル 内 容:B10F ゴールデンスライムオンリー 備 考:グレゴルのランク違い。 残された風の地図Lv64(通称:うごいちⅡ、てけ最浅ゴルスラ、かねよこせ、江ノ島最浅ゴルスラ/木更津ゴルスラ、金妻ゴルスラ/旅人ゴルスラ、J・2万マイルゴルスラα) 地図名:残された風の世界Lv64 発見者:うごいちさん、てけてんちさん、かねよこせさん、マ○○さん/タマ○さん、かたせりのさん/アイルさん、○ェ○さん 場 所:セントシュタイン北、シュタイン湖(黒騎士と戦った場所)の南の森/アユルダーマ島高台(クリア後のみ利用可能)/竜のしっぽ地方 地 形:遺跡(敵ランク最高) ボ ス:B15F ハヌマーン 内 容:B9F ゴールデンスライムオンリー 備 考:お供には見逃すが通用します(要高レベル)。ついでにB5Fに即メタスラのやり、B8Fに即ふんさいのおおなたがあるので、武器スキルが整ってさえいれば即ゴルスラ狩りに移行可能。 うごいちⅡのほうはB9Fゴルスラオンリー地図としては場所は現状最良。 当該フロアまでのタイムはエルナやさとるのほうが速いですが…(オンリーフロアまで1分58秒とのこと)。 見えざる夢の地図Lv69(通称:CBゴルスラ) 地図名:見えざる夢の迷宮Lv69 発見者:○○ンさん 場 所:エルマニオン雪原 地 形:遺跡(敵ランク最高) ボ ス:B15F スライムジェネラル 内 容:B12F ゴールデンスライムオンリー 以上…かな? 大いなる岩の地図Lv71(通称:やり賊ゴルスラ) 地図名:大いなる岩の迷宮Lv71 発見者:い○○さん 場 所:竜のしっぽ地方 地 形:遺跡(敵ランク最高) ボ ス:B16F スライムジェネラル 内 容:B12F ゴールデンスライムオンリー 神奈川産地図。 大いなる大地の地図Lv72(通称:ヨウスケ、アンチ、メイドゴルスラ、ミズホ) 地図名:大いなる大地の氷河Lv72 発見者:ヨウスケさん、アンチさん、ともさん、ミズホさん 場 所:雨の島そばの小島 地 形:氷 ボ ス:B15F ブラッドナイト 内 容:B14F ゴールデンスライムオンリー 備 考:天むこ水ソーマ、大王げんまと同じ場所。メイドゴルスラのほうは神奈川産地図。 発見者ヨウスケさんのほうは、ゆい(元祖黒地図)と並ぶ、氷ゴルスラオンリーの先駆け的存在。 発見者アンチさんのほうは、中古購入の12ロムめに入っていました。 ごまプリンさんのおかげで、ミズホを回収できました。ありがとうございました! あらぶる光の地図Lv72(通称:エルナ、シウマイゴルスラⅢ、マキ最浅ゴルスラ、くまぞう最浅ゴルスラ、キャプテンゴルスラ、ましゃ最短ゴルスラ/エスタークゴルスラ/ケイジ最浅ゴルスラ) 地図名:あらぶる光の遺跡Lv72 発見者:エルナさん、せいふくさん、マキさん、くまぞうさん、ツバサさん、まさ○○さん/エスタークさん、のんさん/ケイジさん 場 所:ジャーホジ地方/竜のつばさ地方/ビタリ海岸高台(クリア後のみ利用可能) 地 形:遺跡(敵ランク最高) ボ ス:B14F アトラス 内 容:B9F ゴールデンスライムオンリー オンリーフロアまで最速1分28秒(安定1分30~31秒)とのこと 即せいじゃのはい(B4F) 即げんま(B10F) 即ソーマ(B13F) 備 考:シウマイゴルスラⅢ、ケイジ最浅ゴルスラについては神奈川産地図。水メタキンのSeed2違いの地図でもあります。 ましゃ最短ゴルスラについては、後追いにはなりますが発見者様撮影の動画を確認させていただきました。ありがとうございました! 大いなる岩の地図Lv74(通称:てっくるゴルスラⅠ) 地図名:大いなる岩の世界Lv74 発見者:てっくるさん 場 所:エルマニオン雪原 地 形:遺跡(敵ランク最高) ボ ス:B17F スライムジェネラル 内 容:B12F ゴールデンスライムオンリー 神奈川産地図。 とどろく夢の地図Lv74(通称:ヨシノリⅡ、ヨシノリⅡ発見者違い(仮)、J・2万マイルゴルスラ) 地図名:とどろく夢の迷宮Lv74 発見者:ヨシノリさん、○○りさん、○ェ○さん 場 所:ウォルロ地方(ウォルロ北東) 地 形:遺跡(敵ランク最高) ボ ス:B16F スライムジェネラル 内 容:B12F ゴールデンスライムオンリー 発見者Jさんのほうは、労苦の果てに引いたまさに渾身の一枚です。 あらぶる空の地図Lv74(通称:ヨシノリ大財閥) 地図名:あらぶる空の墓場Lv74 発見者:ヨシノリさん/けいこさん 場 所:アユルダーマ島高台(さとる大富豪の北東あたり、クリア後のみ利用可能)/竜のしっぽ地方 地 形:遺跡 ボ ス:B14F ブラッドナイト 内 容:B13F ゴールデンスライムオンリー 即げんま(B7F) 備 考:お供には見逃すが通用します(要高レベル)。 補 足:B3FにB箱が2つあり。エンドレスマラソンでB3FのB装備2取得を繰り返すことで、 時速230~250万G取得可能とのこと。 大いなる闇の地図Lv75(通称:よしゆき氷結ゴルスラ) 地図名:大いなる闇の氷河Lv75 発見者:よしゆきさん/○でさん 場 所:雨の島そばの小島/セントシュタイン下 地 形:氷 ボ ス:B15F アトラス 内 容:B14F ゴールデンスライムオンリー 発見者○でさんのほうは神奈川産地図。 わななく獣の地図Lv80(通称:あゆみ金) 地図名:わななく獣の世界Lv80 発見者:あゆみさん 場 所:ウォルロ村そば 地 形:氷 ボ ス:B15F ブラッドナイト 内 容:B12F ゴールデンスライムオンリー けだかき夢の地図Lv80(通称:よしにぃゴルスラ/溢れ出すゆうのへそくり光り) 地図名:けだかき夢の遺跡Lv80 発見者:よしにぃさん/ゆうさん 場 所:ヤハーン湿地/オンゴリの崖 地 形:遺跡 ボ ス:B17F ブラッドナイト 内 容:B15F ゴールデンスライムオンリー よしにぃゴルスラのほうは神奈川産地図。 あらぶる闇の地図Lv81(通称:カイエン・グレゴル、ソフィアグレゴル、江ノ島グレゴル/グレゴルウォルロ、みらの氷金、てっくるグレゴル、シウマイゴルスラⅣ) 地図名:あらぶる闇の雪原Lv81 発見者:カイエンさん、ソフィアさん、マ○○さんでぶ.さん/な○○さん、みらんださん、てっくるさん、せいふくさん 場 所:サンマロウの西の小島/ウォルロ地方 地 形:氷 ボ ス:B12F グレイナル 内 容:B10F ゴールデンスライムオンリー 江ノ島グレゴル、てっくるグレゴル、シウマイゴルスラⅣのほうは神奈川産地図。 備 考:グレイナル最浅兼用。お供は遺跡ゴルスラオンリーより弱いという意見をよく耳にしますが、 個人的には見逃すの通じる遺跡マップを薦めます。すれちがいwiki厳選地図。 あらぶる光の地図Lv81(通称:薩摩ゴルスラ、てっくるゴルスラⅡ、精霊ゴルスラⅩ、てけ最浅ゴルスラⅢ、黄金の鉄の塊で出来たゴルスラ/カラメルなしプリン、てっくるゴルスラFinal/新宿最浅ゴルスラⅢ) 地図名:あらぶる光の迷宮Lv81 発見者:り○○○さん、てっくるさん、ひ○きさん、てけてんちさん、ブロンこさん/ごまプリンさん、てっくるさん/と○ゅ○さん 場 所:ビタリ海岸・時の水晶販売所近く(クリア後のみ利用可能)/ジャーホジ地方/竜のつばさ地方 地 形:遺跡(敵ランク最高) ボ ス:B17F アトラス 内 容:B9F ゴールデンスライムオンリー オンリーフロアまで最速1分28秒(安定1分30~31秒)とのこと エルナのDDランク版(3階層+版)。水メタキン(Seed:7854)のSeed2違い(Seed:7856)。 備 考:てっくるゴルスラⅡ&Final、精霊ゴルスラⅩのほうは神奈川産地図。てっくるゴルスラFinalに関しては発見者様撮影の動画を確認いたしました。ありがとうございました! 放たれし悪霊の地図Lv82(通称:てっくるゴルスラPremium) 地図名:放たれし悪霊の遺跡Lv82 発見者:てっくるさん 場 所:東ナザム地方 地 形:遺跡 ボ ス:B15F 魔剣神レパルド 内 容:B13F ゴールデンスライムオンリー B9Fにイケない通路あり(見えません) この地図のこの場所は引けるBase値が210と211(Lv99+転生☆でLv61と62相当)しかなく、非常にレアなゴルスラオンリーです。神奈川産地図。 残された魂の地図Lv83(通称:レフィカル) 地図名:残された魂の遺跡Lv83 発見者:レフィカルさん 場 所:エルマニオン海岸 地 形:遺跡 ボ ス:B17F 怪力軍曹イボイノス 内 容:B16F ゴールデンスライムオンリー S2A4 即げんま(B6F) 元祖ゴルスラオンリー地図。手に入った当時は、こんな深い階層でも良く潜ったものです。 まぁ、そこから下記の地図へとほどなく移行したわけなんですが…。 大いなる大地の地図Lv86(通称:倉敷ゴールデンパイン) 地図名:大いなる大地の迷宮Lv86 発見者:パインさん 場 所:竜のしっぽ地方 地 形:遺跡(敵ランク最高) ボ ス:B16F 怪力軍曹イボイノス 内 容:B12F ゴールデンスライムオンリー 2010/11/20に、倉敷にて自分の目の前で発掘されました。水メタキンのSeed1違いの地図でもあります。 大いなる光の地図Lv86(通称:トレジャーゴルスラ) 地図名:大いなる光の墓場Lv86 発見者:スコールさん 場 所:ガナン帝国領 地 形:遺跡(敵ランク最高) ボ ス:B17F アトラス 内 容:B10F ゴールデンスライムオンリー 珍しいB10F遺跡ゴルスラ。 備 考:下記地図(Seed:447E)のSeed1違い(Seed 447D)。 見えざる星々の地図Lv89(通称:さとる・さとる大富豪) 地図名:見えざる星々の世界Lv89 発見者:さとるさん 場 所:ダーマ南東の台地(クリア後のみ利用可能) 地 形:遺跡(敵ランク最高) ボ ス:B17F 魔剣神レパルド 内 容:B9F ゴールデンスライムオンリー オンリーフロアまで1分41秒とのこと B3F即げんま(洞窟入口から当該箱まで48~49秒とのこと)何気にB箱が11個あり。 備 考:お供には見逃すが通用します(要高レベル)。すれちがいwiki厳選地図。最早定番のゴルスラオンリー地図ですね。 発見者様は、自分の知る限り恐らく全国で初めて、最浅ゴルスラと最浅メタキンを両方引いた人だと思います。 見えざる星々の地図Lv89(通称:四星球、精霊ゴルスラⅣ、大江戸最浅ゴルスラ、まさスラ89、シウマイゴルスラⅨ、J・2万マイルゴルスラγ/やり賊ゴルスラⅢ、新宿最浅ゴルスラ、真・旅人最浅ゴルスラ、ましゃアニバーサリーゴルスラ、J・2万マイルゴルスラγⅡ) 地図名:見えざる星々の世界Lv89 発見者:○ー○さん、ひ○きさん、ア○スさん、まさとさん、せいふくさん、○ェ○さん/い○○さん、と○ゅ○さん、リアラさん、まさ○○さん、○ェ○さん 場 所:ダーマ南東の台地(クリア後のみ利用可能)/竜のしっぽ地方 地 形:遺跡(敵ランク最高) ボ ス:B17F 魔剣神レパルド 内 容:B9F ゴールデンスライムオンリー オンリーフロアまで1分41秒とのこと B3F即げんま(洞窟入口から当該箱まで48~49秒とのこと)何気にB箱が11個あり。 備 考:上記地図の発見者違い、および場所違い。精霊ゴルスラⅣ、やり賊ゴルスラⅢ、シウマイゴルスラⅨのほうは神奈川産地図。 ましゃアニバーサリーゴルスラについては、発見者様撮影の動画とともにいただきました。本当におめでとうございます! シウマイゴルスラⅨについても、後追いではありますが発見者様撮影の動画を確認させていただきました。ありがとうございました! トップページへ
https://w.atwiki.jp/azum/pages/51.html
「Zapping SS・結末の行方‐sight of Tomo‐」 第4章 放課後、智はすぐさま教室を出て行ったよみの足取りを追おうとしていた。 よみー、逃げようったって無駄だぞ。絶対捕まえてやる。 しかし、そんな意気込んでいる智の襟首を突然つかんだ人間が現れた。神楽だ。 「こら、智!お前も今日掃除当番だろう、サボりなんて許さんぞ!」 神楽はそう言って、手に持っていた2本の箒のうち1本を智に渡した。 「なんだよ、神楽はマジメだな。掃除なんてたまにサボったっていいじゃん」 「智が不真面目なだけだ。ほら、掃除するぞ」 智は神楽に引っ張られ、しぶしぶ教室の掃除を始めた。 「くそー、何でこんな日に限って掃除当番なんだー」 智は箒をぐるぐる回しながら、早く済まそうと適当に掃除をした。 「智ちゃん、マジメに掃除しないとだめだよー」 と、ちよちゃんに注意されたが、よみを早く追いかけたい一心で気持ちが焦っていた智は そんな注意など全く聞いていなかった。 こうして、ようやく掃除が終わると、智は一目散に学校を出た。 よみのことだ、もう家に帰っているだろう。よし、奇襲をかけてやる。 智は急いでよみの家まで走っていった。 10分ほどして、智はよみの家の前についた。 よみ~、もう逃げられないぞー。 智はそう思いながら、よみの家のインターホンを押した。 「はーい、あら…滝野さんいらっしゃい」 ドアを開けて出てきたのは、よみの母親だった。 「暦ならまだ帰って来てないわよ」 「えっ、そうなんですかぁ?」 智はそう言いつつも、母親がよみをかくまっていないか確認するため、玄関を見た。し かし、よみのものらしき靴はなく、まだ帰って来ていないのは事実だと感じた。 くそっ、まだ帰っていないか。どこへ隠れたんだ? 「今日は一緒じゃなかったんだ?」 「ええ。私は今日、掃除当番だったもんで」 よみの母親の質問に智はそう切り返した。しかし、それは事実でもある。 「もうじき帰って来るとは思うけど、上がって待ってる?」 よみの母親はともに上がるように促した。しかし、智は自分が部屋で待ち構えていると、 仮によみが家に電話したときに自分がいることが分かって帰ってこないんじゃないかとい う懸念が頭をよぎり、断るほうが得策のように思えた。 「そうですか、ちょっと宿題で分からないところがあったもんで…。また、後で来ます」 智はそれだけ言うと、よみの母親に一礼して、自分の家の方へと歩いていった。 む~、よみめー。どこへ隠れたんだ? 学校の図書室?いや、下駄箱には上靴しかなかったから、それはないか。ちよすけの家? うーん、でもちよすけは今日一緒に掃除当番だったから、それもないか。 近所の公園かな?よし、ちょっと行ってみるか。 智はそう思うや、すぐさま公園へと走り出した。 よみめ~、今度こそ犯人の名前を暴露してやる~。 智はその執念に燃えながら公園にたどり着いたが、よみの姿はそこにはなかった。 うーん、ここにもいなかったか。こうなったら仕方ない。今夜よみの家に奇襲するまで は自宅待機だ。勝負は今夜だ。ふっ、よみめ。それまで首を洗って待ってろ~。 智は不敵な笑みを浮かべて、自分の家へと向かった。 (続く)
https://w.atwiki.jp/azum/pages/28.html
にゃも、本名黒沢 みなもはため息をつきながら学校の廊下を歩いていた。 今日は給料日で、さらに必ずといっていいほど給料日には「呑みにいこう!」と誘ってくる長年の友人、谷崎 ゆかりも風邪で休んでいるので、本当なら嬉しくてしょうがないはずなのだがなぜか素直に喜べなかった。 ―――馬鹿は風引かないって言うけど……あれは嘘ね――― みなもは長年の友人に対して普通に「馬鹿」と思ってしまう。いや、長年の友人だからそういえるのかもしれない。 「あ、にゃも。さよなら。」 古文の木村がみなもにあいさつをする。木村は変人だが善人でもある。 その後もみなもは幾人かの生徒と挨拶を交わした。 ―――今日は一人で呑みに行こうかな……――― いつものゆかりはいないので、今日はゆっくり呑める。みなもはそう思っていた。 学校帰りにみなもが寄ったのは、風邪で休んでいるゆかりの家だった。 ピンポーン。 みなもがチャイムを押すと、ゆかりのお母さんが出てきた。 「あぁ、ちょっと上がってってね。ゆかりは多分おきてるわよ。」 みなもはお見舞いのりんごを持ってゆかりの部屋に歩を進めた。 ゆかりの部屋に入ると、いつもどおりの汚い部屋だった。 「あ~にゃも~・・・お見舞いちょうだい~」 ゆかりが少し虚ろな目をしてお見舞いを欲しがる。 みなもがお見舞いをわたすと、ゆかりは不機嫌そうに「メロンが良かった」とつぶやいた。 「馬鹿なこと言わないの。はい。今日は給料日でしょ。」 みなもはそういってゆかりに給料袋を手渡した。 「頑張って風邪治しなさい。」 それだけいってみなもはゆかりの部屋をあとにした。 部屋からは、風邪だというのに嬉しさのあまり狂喜乱舞しているゆかりの声が聞こえてくる。 みなもがゆかりの家をでると、そのまま駅のほうまで向かった。この前見つけた美味しそうな居酒屋がそこにはあるのだ。ただ、静かそうな雰囲気だったのでゆかりをつれてこようとは微塵も思わなかった。 ガラッ。 いい音を立てて居酒屋の扉が開いた。 中には何人も先客がいた。 みなもは席につくと早速、ネギマと中ジョッキを頼んだ。 みなもがまったりとした時間をすごしていると、みなもと同じくらいの男女が入ってきた。 ―――あっ!あの人は――― みなもは男性のほうには見覚えがあった。前に一度、大学時代にラブレターを出そうと思った相手。勇気がだせずに、結局気持ちを伝えられないまま卒業してしまった相手。(そのときのラブレターはどうしてかゆかりの手にわたっている) 男性は後ろの女性と楽しそうに話をしている。二人の指には結婚指輪と見られるものがあった。 ―――・・・くそぉ!なによ!いまどき高校生でも彼氏がいるってのに!今日は呑んでやる!どうせ私は一人身よ!――― そのあとみなもは何を頼んだのか覚えていない。ただ会計が五千円前後だったのは覚えている。 会計を済ませて街中を歩いていると、ホストと見受けられる人物がみなもに近寄ってきた。 「どうしたの?何か悲しそうな顔をしているね。ホストクラブでパーッと遊んでみない?」 「結構です。」 みなもはそれだけいうとわき目も振らずに帰ろうとした、だが、ホストはみなもの腕をつかんで話さない。 「見るだけでもいいからさ。一回来て見てよ。」 「ちょっと!離してください!」 しかしホストは一向に離そうとしない。 ホストの肩に何者かが手をポンと置いた。 「強引過ぎる男は嫌われますよ。」 ぬっと木村の顔がいきなり出てきたことにより、ホストは驚いて逃げてしまった。 木村はみなもを見たまま動かない。 「大丈夫ですか?嫌なら嫌ってきっぱりいったほうがいいですよ。それに女性一人で夜道を歩くのは危険だ。家まで送ってあげます」 木村はそういいながら近くにあった募金箱に一万円を入れる。 みなもは不意に、子供のころ見た戦隊ものの特撮番組を思い出した。 ―――そういや、ああいうのも、ピンチになったところに正義の味方が助けに来るんだっけな・ 木村はみなものマンションまで本当に送ってくれた。 「それじゃあ、おやすみ。」 木村はそれだけ言うと、自宅の方向に向かって歩き出した。 翌日、ゆかりは復帰し、職員室に賑わいを越えたうるささが戻った。 木村に礼を言っても「当然のことでしょう?」というばかりだった。 ―――あなたは、奥さんもお子さんもいます。でも、近くから見守るだけなら、いいですよね――― みなもは木村を見つめながら、にっこり微笑んだ。 END
https://w.atwiki.jp/azum/pages/16.html
このSSには過激な暴力表現が含まれています。 正月――――― いつもの6人が集まって餅つきをする事になった。場所は美浜家である。 「皆さん、準備できましたよ~」 ちよが声をかける。その言葉通り臼と杵と餅が用意されていた。まず、歩とちよ が初め、次に榊とよみがやった。で智と神楽の番になるのだが・・・ 「普通についてたんじゃつまんねーよな。神楽あれやるか?」 「ああ、あれだな。いいぜやろーぜ。」 智と神楽が何か思いついたようだ。 「一体何を始める気だ?」 その様子を不安げにみている暦。他のメンバーも固唾を飲んだ。 「せ~の!!ジャンケンポイ!!」 いきなりジャンケンを始める智と神楽。結果は智の勝ち。すると智は大きく 杵を神楽の頭上目掛けて振り下ろす。 「おりゃあああああああ!!」 「甘い!!」 とっさに神楽は臼を頭上に上げる。間一髪の所で杵は餅をつくにとどまった。 「今すぐやめろ~~~~~~~~!!バカ達~~~~~!!」 「し、心臓に悪いですよぅ。」 「ダイナミックや。」 「・・・・・・・・・・・・」←驚きのあまり言葉のない榊 しかしそんな言葉に耳を貸さずに続行する智と神楽。 今度は神楽の勝ちで神楽は杵を真横に振った。 「もらったあああああああああ!!」 「おせーよ!!」 智も臼を真横に振って防御する。一応今回も餅をついている。 「お前等ぁぁぁぁ!!いい加減にしろ~~~~~~!!」 暦が石を拾って二人に向かって投げる。しかし、二人はあっさりとかわしその石は 何と近くにいた榊に当たってしまった。しかも眉間・・・・・ 当たりどころが悪かったのか、榊はそのまま地面に倒れた。 「わ~榊さん、しっかりして下さい!!」 「シャレにならんで、あかんわよみちゃん。」 「わ、私もこんな事になるなんて思わなかったんだよ!!」 「おいおい榊ちゃん、大丈夫か?」 「榊ぃ!!しっかりしろぉ!!」 心配する一同。それに反して榊はすぐに起き上がった。 「あ、榊さんだいじょ・・・・ひっ!!」 ちよが驚いたのも無理はない。榊の目はいつも以上に座っていたのである。 「今、私に石当てたの誰だ!?」 ものすごく低い声で榊が言葉を発した。その迫力に言葉が出ない歩。 同じく言葉を発する事が出来ない智と神楽。 「さ、榊!!わ、悪い!!わざとじゃないんだ!!」 暦が必死に謝る。すると榊は暦の方に歩み寄る。さすがの暦もこれまで見せた 事のない表情に戸惑いを隠せなかった。じりじりと後ずさりする暦。 「ご、ごめん!!本当にそう思ってるよ。」 しかし榊はまるで聞き入れてる様子はない。とうとう暦は端に追い詰められて しまった。そして榊は暦の肩をガシッと掴んだ。 「あ、あ、榊・・・」 「無闇に物投げちゃダメだ。とても危ないから。な?」 一転して榊の表情は穏やかになった。いつもの優しい表情に戻ってる。 「わ、分かったよ。」 「ならいい。」 そう言うと榊は笑みを浮かべた。その瞬間、暦は緊張の糸が切れてその場に 座り込んだ。 「弥生ちゃん天使みたいや・・・」 「私でもあんな事されたら怒りますのに・・・・」 「榊ちゃんごめん。あたし等のせいで・・・」 「ごめん榊。もうこんな事しないよ。」 さすがにこたえたのか智と神楽も榊に謝った。 「うん。みんな仲良くしなきゃダメ・・・・」 頭から血を流しながら榊はニッコリ微笑んだ。 「それもそうだけど、まずお前は病院行った方がいいぞ。」 座り込んだ姿勢のまま暦は榊に言った。ある冬の日の出来事だった。END
https://w.atwiki.jp/azum/pages/67.html
「だめだ! 通じない!!」 「こっちもだ」 よみが携帯を手に首を振った。 「ちよちゃん……ううっ、ちよ……ちゃん……」 隣の部屋で、榊がちよの傍らに腰をおろして泣いている。仰向けに横たわるちよの顔には 白い布がかけられていた。もう、彼女が起き上がることは二度と無い。 「――とにかく、管理人の爺さんを探そう! あいつ、どこいったんだろう」 「……いや、待て、神楽。少し慎重になったほうがいい」 「どういう意味だ?」 「つまり、怪しいんじゃないのか、あのジジイが」 「なに……?」 暦はいわくありげな面持ちで口を開いた。 「あいつは昨日の晩から姿を見せていない。部屋に行ってももぬけの殻だった。 この雪では外に出ることさえ不可能なはずなのに、だ。ということは、まだ屋敷のどこかにいるはずなんだ」 「ああ、そういうことになるな」 「――では、あのジジイはどうして姿をみせないで、隠れるようなまねをするんだ?」 「あ……」 よみが、眼鏡を指で押し上げた。 「考えられるのは、あいつが犯人じゃないかということだ」 そのとき、大阪と智が戻ってきた。 「おーい、駄目だったで」 ふすまを開け、大阪が智と一緒に部屋に入ってくる。 「管理人室の電話は使えんようになっとった」 「使えないって……一体なぜ?」 「どうも電話線が切れとるみたいなんや。ツーツーいう音すらもせんで」 「なっ!?」 二人が声を漏らす。 「やっぱり、私も駄目だった」 智がいう。頭には雪の粉が載っていた。 「すごい吹雪だ。それに屋敷のまわりは完全に雪で埋もれていて、とても外に出られそうにはない」 首を左右に振る。 「たとえ出られたとしても、一番近い民家まで1キロはあるんだろ。それじゃ、とても助けを呼ぶなんて無理だ」 「そんな……じゃ、私たちは……」 「ああ」 暦が頷いた。 「私たちは、閉じ込められた」 その場が水を打ったように静まり返った。ますます激しくなっていく吹雪が窓ガラスを叩く。 「――とにかく、みんなで固まろう。バラバラになったらまずい!」 智がいつになく神妙な面持ちでいう。 「そうだ! そうしよう」 皆が頷く。 「あそこの部屋がいいだろう。それから、食料などもまとめて運んでおこう」 暦の指示で皆は荷物を手に手に一室に集まった。二十畳ほどある、 一番大きな部屋である。部屋の真ん中に寄り添うように布団を敷き、 まわりにファンヒーターと電気ポッドを置いてコンセントに繋ぐ。 持ってきていたカップめんとお菓子も周りに積み上げた。 「冷蔵庫のものはどうするよ?」 「慎重になった方がいいだろうな……。毒を盛られている可能性がある」 「だけどよ、まだ爺さんが犯人だときまったわけじゃ……」 「あいつだよ! ちよちゃんを殺したのはあいつに決まってる!」 突然、智が叫び声を上げる。みんなは驚いて智を見上げた。 「私は見たんだ! 廊下を走っていく影を見たんだ。あいつがちよちゃんを殺したに違いないんだ!」 「智、分かったから落ち着け」 暦と神楽になだめられ、智はようやく静まった。皆、一様に沈黙した。 何人かが隣の部屋に目をやる。ふすまの向こうにはちよちゃんの遺体が安置されていた。 「……それで、武器になるものは?」 「これが」 神楽が手に抱えた者を差し出す。 「包丁、果物ナイフ、金属バッドにアイスピックか……まあ、ないよりはずっとマシだな」 武器が皆の手に行き渡る。 金属バッドなどの長柄は暦や智、大阪が持ち、包丁や果物ナイフなど扱いの危険なものは 運動神経のよい神楽と榊に手渡された。榊はちよちゃんが死んだショックからまだ立ち直れて いないのもあり、もとより暴力を好まない性癖でもあって、最初は刃物を持つことを嫌がって いたが、暦に強く説得されてしぶしぶ手に取った。 「これからは必ず二人一組で行動すること。何をするにも、絶対に一人になってはならない。 トイレにも必ず二人一組でいく。夜寝るときは交代で不寝番をたてよう」 「よみちゃん、あたしら五人やから、一人あまるで」 「そのときは、三人組になるようにしよう」 「それで、とりあえずこれからどうする?」 「ジジイを探そう」 暦は皆を見渡した。 「あのジジイが犯人かそうではないか、いずれにせよ見つけておく必要がある。 犯人で無いのなら、もう既に殺されている可能性が高い。その場合、何者かが 屋敷に侵入していると考えられる。そしてもし犯人なら、次の凶行に及ぶ前に、 先手を打っておかなければならない」 「ちょっとまってや」 大阪が口を挟んだ。 「よみちゃんのいいようだと、まるで、爺ちゃんみつけたときは――」 「ああ」 暦が頷いた。 「殺すしかないな」 「!!」 皆が再び息を呑んだ。 「こ、殺すって……」 暦の眼鏡が無機質に光を反射する。 「もちろん、やむをえない場合だ。私たちを狙う動機も分からないしな。だが、まずは 私たちの身を守らなければならない。もし話し合いでどうにかなる状況で無ければ、そのときは――」 皆が静まり返る。 「――それじゃあ、もう行こうか。みんな気をつけていけよ」 暦が立ち上がる。まだ夜が開けきっていない時間だった。 吹雪はますます激しく、古い木造の屋敷全体が軋みを上げていた。 智たちは二つのグループに分かれた。一つは智と神楽、もう一つは暦、大阪、榊の三人である。 智のグループは屋敷の東側を受け持つことになった。 「なあ、今の話どう思う?」 「何がだよ」 おずおずと問う神楽に智はぶっきらぼうに答えた。 「あの爺さんが犯人じゃないかって話だ」 「ああ」 智が手に提げたアイスピックを軽く一振りさせる。 「たぶん、間違いないと思う」 「なんで?」 「なんでって、他に考えようが無いだろ。いいか、私たちはつい昨日ここへ来たばかりなんだぞ。 それが電話線を切っておいてから襲おうなんてこと、前もって計画していなければできるはずないじゃないか。 それができたのはあのジジイだけだよ」 「うーん、そうだよな……」 やや黙ってから、また口を開く。 「じゃあさ、さっきのよみの話は?」 「話って?」 「その……殺すってことだよ」 廊下が軋む音をたてた。 「――やるしかないだろ」 智は抑揚の無いでつぶやくように言う。 「で、でもよ……」 「だったら、他にどうする!?」 智は弾かれたように振り返り、神楽に怒鳴りつける。 「実際にちよちゃんは殺されたんだぞ! それもあんなに酷い殺し方で! 私らだっていつ同じ目に遭うか分からないんだ! 悠長なこといってる場合なのか!?」 「わ、分かったよ、落ち着けって」 「殺るか殺られるかなんだ! 手段なんか選んでる場合じゃないんだ! 殺るしかないんだよ! でなきゃ、私たちはちよちゃんみたいにみんな殺られてしまうんだ!!」 神楽はびっくりしたように見ている。智が荒く息を吐いた。 「……ごめん。私が大人気なかった」 神楽が首を左右に振る。 「いいって。気にすんなよ」 努めて明るい声を出した。 「しっかし、大人気ないとか、お前の口からそんな殊勝な言葉がでてくるとはな~」 「何を~!!」 「ははは」 二人はわずかな間じゃれあっていた。だが、ほんのつかの間のことだった。 二人は再び重苦しい沈黙に包まれた。 「なあ、あたしまだ信じられないよ」 ぽつりと神楽が漏らす。 「ちよちゃんが、ちよちゃんが死んじゃったなんてさ」 「うん……」 ――そのとき、悲鳴が響き渡った。 「!!」 「い、今の……」 「行こう! あっちからだ」 智がアイスピックを片手に駆け出す。その後を、神楽が慌てて追う。 廊下を走り、畳の上を横断して、なん部屋も通り過ぎながら、薄暗い屋敷を走り回る。 声は西側から聞こえた。暦たちのグループで何かがあったのだ。 「! 智、あそこ!」 廊下の先で誰かが倒れていた。 「うおおおおっ!!」 智がアイスピックを振り回しながら突進する。 「どうした、何があった!? ああっ!!」 廊下には榊と大阪が倒れていた。二人とも血を流している。 「おいっ! しっかりしろ!!」 智が大阪を揺り起こす。大阪は頭から血を流していた。 「しっかりしろったら! おい、お前冗談だろ!? おいったら!!」 激しく揺さぶる。反応は無い。さらに叫びかけたそのとき―― 「う……ん……」 大阪は薄っすらと目を開けた。 「智ちゃん……?」 「大阪! 生きてたか! 良かったぁ!」 智が歓声を上げる。 「神楽、そっちは?」 「……駄目だ」 「えっ?」 「もう、死んじまってる」 「そ、そんな……冗談だろ?」 神楽は細かく震えていた。 「榊はもう死んじまってるんだよおおおおおおおおおっ!!」 「あ……あ……そんな……何で?」 榊は腹から包丁を生えさせていた。榊が持っていたはずの包丁を。 榊はいつものやや無表情な顔のまま、少しく目を見開いて、 自らが流した血の海の中でかたまっていた。瞳孔は既に開いている。 「何でなんだああああああああああっ!! ますます激しくなる吹雪にかき消されながら、智は絶叫した。
https://w.atwiki.jp/azum/pages/22.html
ボールの弾む音と激しい足音。その音の中で、周囲よりひときわ背の高い少女が ボールを受け取る。 「いっけー!! 榊さーん!!」 「榊さんがんばってー!!」 周囲の少女たちから歓声が上がりだす。背の高い少女、榊はドリブルしながら全速力で ゴールに突っ込んで行く。 「させるかぁぁ!!」 ゴールの目の前で、ショートカットの少女、神楽が仁王立ちになる。 「神楽さーん!! 止めて!!」 「神楽ーっ!! 今戻るから!!」 神楽と同じチームの少女たちが叫ぶ。だが間に合いそうもない。榊はスピードを落とさずに ドリブルを続ける。そのまま、榊は立ちはだかる神楽をかわそうとする。 「あっ!」 「うわっ!」 二人から声が上がる。かわそうとする榊と止めようとする神楽の足が引っかかってしまい、 二人とも倒れこむ。そして、ゴッという鈍い音が上がる。転んだ拍子に、二人がお互いの 頭同士をぶつけてしまったのだ。 「ああっ、榊さんしっかりしてください!」 「神楽ちゃーん。神楽ちゃーん。授業中に寝たらあかんで」 「寝てるんじゃねー!! てゆーか、体育以外の授業中寝たきりのおまえが言うなよ!」 そんな周囲の呼び掛けにも喧噪にも、榊と神楽は答えることはない。 眠りから少女が目覚めた。まず彼女は思った。頭痛いなー、と。そして、 きょろきょろと周囲を確認し、ここが学校の保健室であることに気付いた。 (何で私がここにいるんだ? そうか、私はバスケしてたんだっけ。それで榊とぶつかって ……気絶してたのか? くそーっ、受け身全然取れなかったもんなー。 今起きるちょっと前何か夢見ちゃったな。 どんなのかよく思い出せねーな。 ずいぶん変な夢だったってのは覚えてるけど。まあ夢なんかどうでもいいや。それより もう体育の授業は終わって……うわっ! もう六時間目終わってる時間だよ! そういや榊はどうしたんだ? 無事だったのか?) 再びきょろきょろと保健室の中を見回した少女は、隣のベッドの中にもう一人少女が 寝ているのに気付いた。 (榊かな?) カーテンを開けてベッドを覗き込む。そこには見覚えのある少女が寝ていた。 (……ああ、神楽いるじゃん。大丈夫なのかな? まぁ、ここで寝てるんなら そんな大したことなかった……ちょっと待てぇ! 「神楽」だと!?) 改めてベッドの中の少女を見る。ショートカットの髪。丸顔。胸。うん、この胸のせいで いつもからかわれるんだよな。日焼けした肌。この季節屋外で泳げば嫌でもそうなるよ。 んで、身長156cm。せめて160cmあればスポーツ人生変わってたのかもしれないのに。 さて、コイツは誰でしょう……? (私じゃん!!) 少女の目の前にいるのは、間違いなく神楽と呼ばれる少女だった。だが、それを見ている 少女は、自分のことを「神楽」であると認識している。 (すると、これはあれだ) 【神楽】=自分を神楽であると認識している少女は思った。 (私はまだ夢を見てるんだ。それで自分が二人になったなんて思ってるんだな) ならばすべきことは一つ。パーンと言う乾いた音が保健室に響いた。【神楽】が、 【神楽】自身のほほを平手で打ったのだ。気合いを入れるというやつである。 (これで夢から……覚めねー) 目の前の神楽はあいかわらずそこにいる。【神楽】は恐ろしい結論にたどり着いた。 (ひょっとして私……もう死んじゃって、自分の体に最後のお別れを言いに来てるのか? そ、そんなの嫌だ!!) 慌てて鏡を探す【神楽】。姿見が見つかった。自分の姿勢が正しいかを確認するための 姿見だが、この際本来の用途はどうでもいい。そこに自分の姿が映っている。 (よかった、映るってことは私は幽霊じゃない……) 幽霊が鏡に映る怪談はあるのだが、そんなことは【神楽】は知らない。 彼女の認識では、鏡に映るものは幽霊ではないのだ。だから彼女はほっとした。 それも数瞬しか続かなかったが。 「っっっっ!!」 彼女の叫びは音にならなかった。鏡には、【神楽】のよく知る少女が映っていた。 それを【神楽】が確認したからだ。 (あ、あ、ああああ……) 足下を見る。いつもより足下が遠く見える。靴のサイズも明らかに大きい。 視線を上げる。普段より視線が高い。幼い頃竹馬に乗ったときのことを思い出した。 私は昔からおてんばで……と、そこまで考えたところで感傷に浸るのを止め手をうなじに 持って行く。髪が手に触れる。そのまま手を下に移動させる。腰まである長い髪。 手のひらを見る。傷だらけの手。手の臭いを嗅ぐ。魚の臭い……はしなかった。 あんな失礼なことを言ったのは謝らなきゃ……それはまた今度だ。覚悟を決めてもう一度 姿見を覗き込む。男子のみならず一部の女子からも圧倒的な人気を得ている 涼しげな瞳が姿見の中で自分を見つめている……。 (榊!! 榊が!! 何で!?) 自分がまばたきすれば、鏡の中の榊はまばたきする。自分がひらひらと手を振れば、 鏡の中の榊がひらひらと手を振る。ついでにくるっと回ってみた。 鏡の中の榊が360度ターンする。 (これで……私が本当に榊なら問題ないんだけど……) 自分に関することを思い出してみる。しかし、どんなに思い出しても榊という少女の 持っているべき記憶は思い出せない。自分の記憶は、自分が神楽という女子高生で あることを力一杯主張した。ならば結論は……。 (私の心が……私「神楽」の心が……榊の中に入った?) (じゃあ、榊の心は? 私「神楽」の体はどうなってるんだ?) そこまで【神楽】が考えたとき、ベッドの方からごそっと音がした。ベッドを見やると、 ベッドの上の少女がむくっと起き上がった。 神楽の姿をした少女は、【神楽】の姿を認めると、ベッドの上でペコっと お辞儀をした。つい【神楽】もペコっと頭を下げてしまう。そのまま二人はお互いを じっと見つめ合った。数秒が経過した。 神楽の姿をした少女の瞳が大きく広がり、驚愕の色を浮かべた。神楽の姿をした少女の 口が開き、叫び声を紡ぎだそうとした。 (ヤバイ!!) とっさに【神楽】は神楽の姿をした少女に駆け寄り、口を塞いだ。 「(んん~!! んん~!! ん~!!)」 口を塞がれ声の出ない少女に【神楽】がひそひそ声で話し掛ける。 「(おい、頼むから大声を出さないでくれ! 落ち着け! 大声を出さないでくれれば 放してやるから!)」 口を塞がれた少女が【神楽】の方に目を向け、「本当?」と涙目で問いかける。 「(ああ、本当だ。約束するから。だから落ち着いてくれ。よし、今手を離すぞ)」 【神楽】が手を離すと、神楽の姿をした少女は言われた通り小声で一気にまくしたてた。 「(お願いですまだ殺さないでくださいまだ殺さないでくださいまだ連れて行かないで くださいあなたが来たってことは私はもう駄目だってことは分かります でも聞いてください私には友達が出来たんです高校で友達が出来たんです 本当にいい友達なんです私こんなこと初めてで本当にうれしくてだからお願いです せめて高校が終わるまで生かしておいてくださいその後どんな地獄に堕ちても構いません だからお願いですそれが無理なら せめて自分の言葉で友達にさよならを言わせてくださいお願いです……)」 【神楽】は慌てて口を挟んだ。 「だ、だから落ち着けって。大体私はあんたを殺しなんかしねーし、 てゆーか何で殺さなきゃいけねーんだよ」 神楽の姿をした少女はきょとんとして問い返した。 「え? あ、あなた死神さんじゃないんですか?」 今度は【神楽】がきょとんとする番だった。 「……死神って何のことだよ?」 神楽の姿をした少女は【神楽】を指差しこう言った。 「……ドッペルゲンガー……」 ドッペルゲンガーとは自分自身の影、もう一人の自分で、ドイツの伝説では、 見てしまうとその人間は必ず死ぬとされている。神楽の姿をした少女は【神楽】が ドッペルゲンガーであると考えたのだ。そのことを、神楽の姿をした少女が 【神楽】に手短に説明する。 【神楽】はあることを確信した。目の前の自分の姿をした少女にその確信をぶつける。 「私を見てそのドッペル……なんとかって言うことは、あんた……榊だな!!」 神楽の姿をした少女はこくこくとうなずく。そして、 「ドッペルゲンガー……さんは……なぜここに?」 と問い返した。【神楽】はその質問には答えず、 「私は神楽だ。神楽なんだよ」 と答えた。え? という顔をする神楽の姿をした少女。【神楽】は、 「いいか、気合い入れて見ろよ」 と言いながら神楽の姿をした少女を姿見の前に引っ張った。 「榊、これが今のあんたの体だ」 数秒後、保健室には悲鳴を上げようとする神楽の姿をした少女の口を、 必死で塞ぐ【神楽】の姿があった。 「どういうわけか知らんが、私の体の中に榊が、榊の体の中に私がいるみたいだ。 魂が入れ替わったとでもいえばいいのかなぁ」 【神楽】が彼女なりにまとめた現状を説明する。立ち直りの早い【神楽】に対して、 神楽の姿をした少女=【榊】は口に手を当ててベッドに座り込みがくがく震えている。 「それで今は大体六時間目が終わったとこで……」 【神楽】が説明しきらないうちに、ガラッという音とともに扉が開いて女教師が現れた。 「おお! 2人とも起きてるじゃーん。二人とも起きないっていうから心配したぞー。 いやー、養護の先生今日休みでほったらかしになっちゃったのよねー。悪い悪い。 あーホームルーム終わっちゃったけど大した連絡もなかったから別にいいやー。 そのまま帰っていいぞー。今日は掃除は二人とも免除!! 念のために聞くけど別にちょーし悪いとかそんなことないよねー」 現れた女教師は二人の担任の谷崎ゆかりだった。ゆかりの姿を見た【榊】は、 はっと気付いて、ゆかりに向かってしゃべりはじめた。が。 「ゆ、ゆかり先せ……」 「二人ともいたって健康です!! 問題ありません!! お見舞いありがとうございます!!」 【神楽】に遮られてしまった。 「おお、そうか。ほんじゃまた月曜日にねー!!」 「あ、ああ、ゆかり先生、あの……」 「はいっ!! お疲れ様です!! ゆかり先生さようなら!!」 ガラガラ、ピシャ。ゆかりは扉を閉めて行ってしまった。 「今日の榊妙に気合いが入ってたわねー」と呟きながら。 「ああ、待って……」 戸口に駆け寄ろうとする【榊】を【神楽】が引き止めて、 「落ち着けって榊。ゆかり先生に話そうって気持ちは分かるけどさぁ、 どこの誰が『体育の時間にぶつかって魂が入れ替わりました。どうすればいいんですか?』 って質問に答えてくれるんだよ。」 「う……。そ、それはそうだけど……」 「だろ? 人にしゃべったって変に見られるだけだぜ。自分達だけで解決しねーと。 幸い養護の先生もいなかったから誰にもばれてねー。かえって好都合だぜ」 「う、うん……」 「それに私は結構この状況気にいってるんだ」 え? という顔で改めて【榊】が【神楽】の顔を見る。【神楽】はこんな状況にも 関わらず上機嫌だった。それはさっき【榊】がまくしたてた 「高校で友達が出来たんです本当にいい友達なんです私こんなこと初めてで本当にうれしくて」 のくだりがうれしくかつ照れくさかったのもあるが、それ以外にも理由があった。 そっちの方がどちらかというとメインである。そっちの理由を【榊】に説明する。 「だって、理想の肉体が借りられたんだぜ!!」 ますます分からない【榊】。顔が え? から は? になる。 「わかんないかなぁ榊。あんた、自分の体がどんなに恵まれてるか自覚してねーぜ」 説明しながら、【神楽】は、 (しっかし、自分の体と声相手に、榊の体と声で話し掛けるって違和感バリバリだな) などという感想を持っていた。 「いいか榊。あんたの身長は170オーバー。太股の筋肉、腕の筋肉、腕の筋肉、 体のバランス、もうバッチリ!!」 【榊】は、いきなり自分の体のことを言われてこっぱずかしくなり、 「い、いや……その……好きでそうなったんじゃないし、もっと背の低い方が……」 【神楽】は、今は【榊】が使っている自分の顔を見て、 (うわー、私って弱気のときはこんな顔してるんだー。 うーん案外自分でも分からねーもんだなー) と感心しつつ話を続ける。 「そう、そこだよ榊!! 『もっと背の低い方が……』なんて贅沢な悩みだー!! いいか! 背の低い人間が、体格に恵まれない人間が、どんなに辛いかあんたは 分かってない! 毎日牛乳を1リットル飲んで、七夕の願い事に 『背が高くなりますように』って書いても私は背が高くならなかった!! 鉄棒に逆さにぶら下がるという無駄な努力もやったさ!! ああ、もっと体格が良ければ私の記録は学校の狭いプールをぶち抜いて津々浦々にあふれ出し バサロが個人メドレーでフライング……」 【榊】は【神楽】が体が入れ替わったショックと興奮でおかしくなっていると思ったが、 あんまり自分の体で変なことをしゃべって欲しくないという気持ちもあったので、とりあえず 「ご、ごめんなさい……」 と謝っておいた。興奮し過ぎて自分でも何をしゃべっているか分からなくなっていた 【神楽】は、榊の謝罪を渡りに船とばかり受け取って、 「う、うん。分かればいいんだ。私も言い過ぎたな」 と、一息おいて、 「つまりだ。榊はあんまりこの体……今私が入っているヤツを有効利用していない。 こんなに運動向けの体はそうそうないのにだ。私は正直うらやましい、もったいないぜ、 なんで水泳部に入らねーんだ、と思っていた。そこへ今回の事故だ。私は榊の体を、 榊は私の体を手に入れた。これはせっかくの稀代の肉体を 有効利用するチャンスだと思わねーか?」 【榊】にもなんとなく話が見えてきた。 「私の体を使って、いい記録を出したい、そういうことか?」 「まあ、そんなところだ。安心しろ榊。あんたの肉体はきっと日本の水泳界発展のために 役立ててみせる!!」 (すいません親からもらった体なんで勝手に使われるのはちょっと) と【榊】は思ったのだが、【神楽】は話す暇を与えず、 「よーし、そうと決まればさっそく実行!! この肉体の底力を試してやるぜ!! 生まれ変わった私を見ろーっ!!」 と、【神楽】は叫ぶと扉を開けて駆け出して行ってしまった。 うりゃうりゃうりゃー!! などとドップラー効果つきで叫んでいる声が聞こえる。 榊の声(CV 浅川悠)で。 【榊】は、元に戻れなかったらどうしようとか、体が入れ替わってしまって どんなふうに生活に支障が出るのだろうか、という心配よりも、 (私の体で変なことをしないで欲しい…… せっかく、まあ最近趣味の可愛い物好きの副作用で崩れてきたとは言え、 クールでクレバーなイメージでやってるのに……) という心配をしていた。 【神楽】はまるでこの世の春を謳歌しているような気分だった。あの榊の体が 自分のものになっているのである。借りると言ったが、返すつもりはなかった。 二人を元に戻す方法が見つかったとしても、地の果てまで逃げ回るつもりだった。 大丈夫、私の肉体より榊の肉体の方が足が速い。校内の女子で追い付けるものはいない。 男子に対しても男子の平均レベルくらいならまず大丈夫。あ、長距離が苦手なのか。 まあなんとかなるさ、榊が返せーって追いかけてきても地の果てまで逃げ切れる。 でも水の果てになると不利か? そんなことを考えながらルンルン気分で校庭にでた。 見る人が見れば、【神楽】の頭にチューリップが咲いているのが見えたかもしれない。 校庭では陸上部が練習していた。榊の肉体の力を試すチャンスである。 【神楽】は勝手に練習中の女子選手の横について競争した。完勝した。 ついでに男子選手も何人か追い抜いておいた。男女陸上部長と数人の部員が走ってきて 【神楽】にクレームをつけた。練習中に勝手にトラックに入るんじゃない、 そうよそうよあんた帰宅部でしょ何様のつもりよ、と。【神楽】は、 自分が他人から見れば榊であることなどすっかり忘れて、 「うるせーバカ!! 私は走りたいから走っただけだ! 遅い奴はトラックから出て行け」 と、【榊】が見ていたら卒倒しそうなやりとりをしてしまった。このやり取りで 当然男女陸上部員の榊に対する印象は基本的に悪化したが、中には (ああ……毒舌な榊様も素敵だわ……) (ああ……あんな風にして榊さんに言葉責めされて肉棒踏まれたいハァハァ……) という部員もいて、若干人気が上がったのもまた事実だった。 多数の敵意のこもった視線と若干のえろえろな視線を浴びつつ【神楽】は トラックを後にした。プールに向かっていたのだ。校舎と校舎の間の人通りの少ない 場所にさしかかったとき、何者かが【神楽】に飛びついた。 (バカな?! 私に気付かれずに近付いてきた? くそっ、榊か!?) そう思いつつ慌てて不審者を確認……するまでもなかった。 「さーかーきーさーーーん!! ご無事だったんですねーーっ!!」 (かおりんかよ……) かおりんは天体望遠鏡を使い屋上から榊……今は【神楽】だが……を監視していたのだ。 榊が本物の【榊】ならばこの程度のかおりんの監視には引っかからないし、 不意打ちで飛びつかれたりもしないのだが、あいにく今日は中の人は神楽である。 「榊さーん!! ほんとにご無事で何よりです!! 私、本来なら保健室で榊さんが お目覚めになるまでちゃんと看病してさしあげたかったんですけど、 ゆかり先生が『てめえ私の授業に出れねえのか!!』 って無理矢理私を引っ張って行ったんですよ!! ひどいですよねー!! それにゆかり先生はこんなことまで言ったんですよー! 『ふっふっふっ……かおりさん、 心配しなくてもいいわよ。どーせ榊は神楽と二人っきりでよろしくやってるに 違いないわよー!! だって今日養護の先生休みでいねーんだもんねー! 二人っきりの保健室、起きたばっかでまだ動けない榊に向かって神楽が 「榊ぃ、私はあんたのことが……」、榊が「いけないよ神楽……私にはかおりんが……」、 神楽が「そんなこと言ってここはいやがってないぜおりゃおりゃ」、 榊が「うう……汚された……でも悪くない……神楽に乗り換えよう」って ちょっとかおりさん何マジ切れしてんのよジョークに決まってるだろジョークに ええい分かった分かったから廊下でそんな卑猥なことを大声で叫ぶんじゃないわよコラ!』 ってー!! でもね榊さん、こんなことでは私の想いは(以下長文のため1024行略)」 と、このようにまくしたてるかおりんに【神楽】は辟易した。 (ゆ、ゆかり先生……あなた本当に教師ですか……? てゆーか、それかおりんにだけ 言ったんですよね? クラス全員の前で言ったりしてないですよね? ああ、後で確認取らなきゃ……。ったく、榊と私がデキてるってネタいいかげんに 止めて欲しいぜ。デキてねーつーの! 大体ともとよみの方が怪しいだろうってゆーか かおりんいいかげん放してくれよどこ触ってんだよったく榊は毎日こんなのに耐えてんのか?) 実は榊は普段はかおりんが現れると適当にどうとでも取れる言葉を呟いておいて、 かおりんがくらっとなった瞬間にその俊足を生かして逃げているので大事には いたってないのである。しかし場慣れしていない【神楽】には それは無理というものであった。ベタベタと触りまくるかおりんに 【神楽】はぶつっと切れてしまい、 「ああもう!! 気持ちわりぃからやめろよ!!」 と怒鳴ってしまった。愛する「榊さん」に怒鳴られたかおりんは、 「うう……榊さん、どうしちゃったんですか?」 と【神楽】を涙目で見上げてきた。 (あ、そっか。榊の背の高さだとかおりんの顔は下にくるんだな。 っと、そんな場合じゃねえ。どうフォローしようか) 【神楽】は榊のイメージにあったフォローを考えたが、ガサツでボンクラな彼女には 2秒が限界だった。彼女が2秒で導きだした結論、それはめんどくさいので 地のままでいく、ということだった。 「あー、私急いでっから。それとあんまりべとべと触るんじゃねーよ。 この時期暑っ苦しいだろ。そんじゃな」 そう言い残してプールの方に駆け出して行った。残されたかおりんは 「榊さん……言葉遣いが悪くなっちゃって……それに冷たいし……どうしたんだろう」 と呟いていた。 【榊】は困っていた。それはそうである。いきなり友人とは言え他人の体になって 困らない方がおかしい。しかもその友人は榊の体を持ち逃げしてどこかに行ってしまった。 「どうしよう……」 きょろきょろと誰もいない保健室の中を見回す。天井が、棚が、ベッドのカーテンレールが、 全て高く見える。自分が神楽の体を借りているということが実感できた。 (ああ……) 嘆きながら足下を見る。何でこんな風になってしまったんだろう。そう思いつつ床を はわせていた視線が一点に止まる。 (神楽の上履き……小さい) さっき立ち上がったときは余裕がなかったため上履きなど気にしなかったが、 よくよく見ているとかなり普段自分の使っているものより小さいのだ。そして姿見を もう一度見て自分の姿を確認する。 (やっぱり小さい……ともや大阪と同レベル……これは……これは…… 可愛い服を着るのにうってつけ?!) これなら普段自分には似合わないと諦めていた可愛い服が着られるかもしれないのだ。 もちろん、ちよちゃんレベルは無理にしても、工夫すればある程度いけるかもしれない。 もし普段神楽に可愛い服を着ることを頼んだとしても、断られるのがオチだろう。 だが、今は神楽の体は【榊】のものなのだ。 (そうだよね……神楽だって私の体を使うって勝手に行ってしまったんだ、 ちょっとぐらい私も好きなように使わせてもらっても構わないはずだ) 今の【榊】は、小さい頃から悪ガキに「十六文」、「アッコ和田」などと からかわれていた大女ではない。「目つき悪い」とか「三白眼」とか、「鉄面皮」などと 詰られていたちょっと怖い印象の女ではない。結構小さいのにやたらとグラマラスな 少女なのだ。ややつり目だけど、くりっとした大きなきれいな目で、 笑顔が素敵なさわやかスポーツ少女なのだ。 (……っ!) 可愛い想像をし過ぎて、いつもの症状が現れた。姿が変わっても これは変わっていなかった。【榊】は結局十分ほどそこで姿見を見ながら震えていたのだった。 (つづく)
https://w.atwiki.jp/azum/pages/2.html
メニュー トップページ プラグイン メニュー 小説一覧 @wiki 更新履歴 取得中です。