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部屋割りは、男同士でギアッチョとギーシュ、女同士でキュルケとタバサ、そして婚約者同士でワルドとルイズが同室になった。 「ダメよ!まだ結婚もしてないのに!」 とルイズが抗議するが、ワルドは「大事な話があるんだ」と言って微笑み、彼女は複雑な顔をしながらもそれを承諾。ちなみにギアッチョが「学院で俺と同室なのはいいのかよ」と突っ込むと、ワルドに物凄い眼で睨まれた。 アルビオン行きの船は明後日まで出ないらしい。ルイズは困った顔をしたが、どうにもならないと分かっているようで何も言わなかった。 「そういえば、彼はどこにいるんだい?」 姿が見えないギーシュを指してワルドが言う。ギアッチョは未だ抜け切らないはしばみ草のダメージに顔をしかめながら口を開いた。 「疲れてるらしいんでよォ~~ 一足先に適当な部屋で就寝中だ」 オレもそこを使わせてもらう、と言うギアッチョに、ワルドは特に疑問は抱かなかった。 「・・・それで、大事な話って?」 二人にあてがわれた部屋でワルドに注がれたワインに口をつけながら、ルイズは彼にそう促した。飲み干したグラスを置いて、ワルドはふっと遠くを見る眼をする。 「覚えているかい?あの日の約束・・・ ほら、君のお屋敷の中庭で・・・」 「あの、池に浮かんだ小舟?」 ワルドは優しげに頷いて続けた。 「君はいつもご両親に怒られた後、あそこでいじけていたね お姉さん達と魔法の才能を比べられて、出来が悪いなんて言われてた」 「ホントにもう・・・変なことばっかり覚えているのね」 口を少しとがらせて、ルイズは拗ねたような顔を作る。そんな彼女を見て、ワルドは「婚約者との思い出を忘れたりするものか」と楽しそうに笑った。それから彼は急に真面目な顔になると、 「・・・だけどルイズ 僕は君が才能の無いメイジだなんて思わない」 と言った。 「ガンダールヴ・・・?」 「そうさ あの使い魔君の左手に刻まれているルーン、あれは『ガンダールヴ』の印だ 始祖ブリミルが用いたという、伝説の使い魔だよ」 「ワルド、からかうのはやめて」 ルイズは信じられないといった顔をする。確かにギアッチョはそれこそ魔人のように強い。 しかし、ギアッチョが伝説の使い魔であるなどということはにわかに信じられるものではなかった。メイジの実力を知るには使い魔を見ろと言う。 魔法の成功率が殆ど0%に近い、「ゼロ」という嘲りすら受けている自分の使い魔が、始祖ブリミルの使役していた伝説の存在?信じられない。というか、有り得ない。 もし万が一、いや億が一兆が一、そうであったとしてもだ。それはどう考えても、何かの間違いだ。己の無能さは、自分が一番よく分かっている。 そもそも伝説云々以前に、自分がギアッチョを召喚出来たこと自体が何かの間違いか、そうでなければ神か悪魔の起こした奇跡であるとしか―― 「ルイズ、またネガティブなことを考えているね?」 どんどん落ちてゆくルイズの思考は、ワルドの言葉で停止した。ワルドはルイズの鳶色の瞳を覗き込むと、屋敷の小舟の上で彼女を励ました時の優しい顔で言う。 「君は偉大なメイジになるだろう そう、始祖ブリミルのように・・・歴史に名を残すような、素晴らしいメイジになる 僕はそう信じているよ」 「・・・ワルド、私は」 「――この任務が終わったら、僕と結婚しよう ルイズ」 「・・・え・・・?」 いきなりのプロポーズに、ルイズは眼を白黒させる。そんなルイズを穏やかに見つめて、ワルドは言葉を継いだ。 「僕は魔法衛士隊の隊長で終わるつもりはない いずれは国を・・・いや、このハルケギニアを動かすような貴族になりたいと思っているんだ」 ワルドはそこで一度言葉を区切ると、ルイズの頬にすっと手を触れる。 「ずっとほったらかしだったことは謝るよ 婚約者だなんて言えた義理じゃないことも分かってる・・・だけどルイズ 僕には、君が必要なんだ」 ワルドの口調は本気だった。彼は今、本気でルイズに求婚している。 「・・・ワルド ・・・・・・で、でも」 とっさに口をついた言葉に、ルイズははっとした。 でも――なんだ? 幼い頃から憧れていたワルドからのプロポーズに、今自分は「でも」何と返そうとした? ルイズは「でも」の続きを思い浮かべようとするが、しかしいくら考えても一体自分が何を言おうとしていたのか分からない。そんなルイズの胸中を知って知らずか、ワルドは困ったような顔をして口を開いた。 「僕のルイズ、まさか君には好きな人でも出来たのかい?」 「好きな人」と言われた瞬間、ルイズの脳裏に何故かギアッチョの姿が浮かび、 「ちっ、違うのワルド!そうじゃないわ!」 そうじゃないと連呼しながらも、彼女の頭の中はギアッチョで一杯になってしまった。 予想だにしない事態に、ルイズの頭は今必死に心を整理しようとしている。どういう ことかと言えば、要するに彼女はギアッチョを恋愛の対象としてはっきり意識したことなど一度もなかったわけで、ギーシュだのマリコルヌだの・・・まあ前者はともかく後者は論外だが、ともかくそういう順当に思い浮かべるべき男達をあっさりスルーしていの一番にギアッチョを思い浮かべてしまったことについてルイズの脳が納得のいく説明を求めているわけである。 ――ど、どどどうしてあいつの姿なんかが浮かぶのよ! ルイズは耳まで真っ赤にして俯いた。よりによって、よりによってどうしてギアッチョが浮かんだのだろうか。 ルイズは俯いたまま考える。「好き」という言葉で一瞬、本当にほんの一瞬だが、ギアッチョを思い浮かべてしまったということは・・・つまり多少は、いやきっと塵ほどに少しだが・・・・・・・・・その、気になっていたということなのだろうか。 ――そ・・・そんなはずあるわけないわ だってギアッチョよ、とルイズは思う。すぐにキレるし物は壊すし周りは気にしないし礼儀もなってないし常識的に考えて最悪ではないか。穏やかで優しいワルドとは全く正反対だ。 それにワルドは礼儀正しいし気配りも出来る。強さは・・・どっちが上か分からないが、なんたってワルドはスクウェアだ。 それにワルドは頭もいいし・・・いや、ギアッチョも多分頭はいいか。「ま、まぁそこはいいわ」とルイズは次を考える。第一ギアッチョは使い魔ではないか。 使い魔に恋するメイジなんて聞いたことがない。それにあいつは異世界の人間だし・・・それにワルドのほうが格好いいし、それに変な髪形だし変な眼鏡だし変な服だし変な名前だし――・・・。等々、後半はもう殆ど言いがかりなのだが、どうにかして否定しようと躍起になっているルイズにはもはや関係なかった。 あらかたギアッチョの悪口を並べ立てた後、彼女は「と、とにかくありえないわ!」と強引に結論を下した。 「普通に考えたらあんなのもう公害とか災害レベルに迷惑じゃない!誰がそんな奴をす、好きになるのよ!そうよ、何かの間違いだわ!はい決定!終了っ!」 どうしてこんなにうろたえるのかも分からないまま、ルイズは己の思考に強引な結論で無理やりに蓋をする。 ――・・・でも・・・ しかし閉じたはずのその蓋から、かすかに言葉が漏れ出す。 ――でも・・・あいつはいつもわたしを助けてくれる・・・ わたしの・・・かけがえのない・・・ 心ここにあらずといった感じで悶々としているルイズを眺めて、ワルドは苦笑まじりに 溜息をつく。 「君の心の中には、誰かが住み始めたみたいだね」 それを耳にして、ルイズはハッと顔を上げた。 「ち、ちち違うわワルド!そうじゃないの!」 「いいさ、僕には解る 取り消すよ・・・今返事をくれとは言わない でもこの旅が終わったら、君の気持ちはきっと僕に傾くはずさ」 ワルドは気にしないという風に笑うと、「さ、それじゃあもう寝よう」と言いながらベッドに潜り込んだ。 ワルドを見てルイズもベッドに入るが、その胸中はさっき以上に混乱していた。どうして、ずっと憧れていたワルドにはいと言えないのだろう。 どうして、こんなに優しくて凛々しいワルドを拒んでしまったのだろう。ワルドとギアッチョに対する疑問が、ルイズの頭を埋め尽くしていた。 ギーシュのベッドにデルフリンガーを放り投げると、ギアッチョは自分のベッドにぼすんと転がった。 ――ゆっくり考えてる時間がなかったからな・・・ 頭の後ろで手を組んで、ギアッチョは眼を閉じて夢のことを考える。 あの時は何の疑いも持たずに信じてしまったが、リゾットは本当に死んだのだろうか。 ――いや・・・ きっとあれは本当の光景だ、とギアッチョは思う。ただの夢にしては何もかもが精密すぎる。全てがただの夢ならば、どこかで必ず光景のブレや矛盾が出てくるはずだ。 あの夢にはそれがない。最初から最後まで、全てがまるで一本の映画のように精密無比に展開されていた。 しかしあの光景が現実だというのなら、リゾットの死をも受け入れなければならない。 ギアッチョはほんの一瞬苦しげに眉根にしわを寄せたが、すぐになんでもない顔に戻ると、口元に小さく笑みを浮かべた。 「全くよォォー 何うじうじやってんだァオレは?そんなキャラじゃねーだろーがよォォ あのバカ共はきっと地獄で笑ってやがるぜギアッチョさんよ 誇ると言ったからにゃあせいぜい胸張るしかねーだろーが ええ?オイ」 あいつらがどう思うかを考えると、不思議と力が沸いてくる。一人呟いて跳ね起きたギアッチョの眼鏡の奥の双眸は、もういつもの覇気を取り戻していた。 それから彼はしばらくデルフリンガーと話をしていたが、部屋に入ってからずっと「助けてくれ」だの「僕が悪かった」だのという声が煩いので仕方なく立ち上がって開けっ放しの窓からベランダを覗く。 見事に冷凍されたギーシュがギャーギャーとひっきりなしにわめいているので、ギアッチョはギロリと彼を睨んで「仕方ねぇな」と言うが早いかバタンと一片の慈悲も無い音を立てて窓を閉めた。 幸いなことにギアッチョが眠りについたと同時にホワイト・アルバムが解除され、ギーシュはガチガチと歯を鳴らして震えながらも何とか毛布に包まることが出来た。 ベッドと毛布の存在に無上の感謝を捧げながら、彼は眠りに落ちてゆき―― コンコンというノックの音で、ギーシュは眼を覚ました。窓からは燦々と陽光が差し込んでいる。 条件反射で「ふぁい!」と情けない返事をしてから、ギーシュは疲労が回復し切っていない身体を引きずるようにして扉へ向かう。 「おはようギーシュ君」 扉の向こうにいたのはワルドだった。憧れの隊長に名前を呼ばれて、ギーシュは思わず姿勢を正す。ワルドは部屋の中を見回してから、ギーシュに目線を戻して尋ねた。 「使い魔君はいないようだね」 「そ、そのようでありますね きっと一階の酒場とかその辺にいると思われるであります」 ワルドと話をしている緊張と寝起きで働かない頭の為に、ギーシュは口調がおかしくなっている。そんなギーシュに爽やかに笑いかけると、ワルドは礼を言って出て行った。 「珍しいな てめーが起きてるとはよ」 ワルドと殆ど入れ違いのような形で階下に下りたギアッチョは、既に酒場のテーブルに座っていたルイズを見てそう言った。ルイズは明らかに寝不足と解る顔でギアッチョを睨む。 「誰のせいだと思ってるのよ!」 「ああ?」 何を理不尽に怒ってやがるんだ、とギアッチョは自分を軽く棚に上げて思う。 何のことだと言い返そうとしたが、後ろからかかった声にそれは中断された。 「ここにいたとはね おはよう使い魔君」 使い魔君などと呼ばれてあっさり怒りゲージが針を振り切りかけるのを珍しく作用した理性で抑え、ギアッチョは後ろに眼を向ける。人好きのする笑みを浮かべたワルドがそこに立っていた。 優しげな微笑の裏側で、ワルドは激しく思考を巡らせていた。ルイズの気持ちを自分に傾ける為に、そして彼の力を知る為に、なんとかこの男、ギアッチョと「決闘」をしたい!しかし何故だか分からないが、かなりの確率で断られる予感がするッ!ならばどうするか?言い方を工夫するしかないッ! 「決闘したまえ」と命令してみるか?いや、この男は勝手に逆ギレする可能性がある。 この場で暴れられてはいくらなんでも話にならない。やんわりと雑談から入ってみるか? いや、それも却下だ。散々盛り上げておいて断られましたではみじめにも程がある。「頼む、決闘してくれないか」ではどうだ?勿論ダメだ。 貴族が平民にものを頼む時点でルイズは幻滅するだろう。ならば最善手は やはり、「決闘してくれ」だろう。これなら断られても僕の矜持は傷つかないし逆にルイズの使い魔に対する好感度を下げることにもなる・・・よしこれだッ! 奴の能力が見られないのは残念だが、3度ほど頼んでみてダメならさっさと諦めればいい。やはりシンプルだ・・・シンプルがいいッ! 「君に頼みがあるんだが」 平静を装って、しかし真面目な顔でワルドはギアッチョを見る。ギアッチョは一瞬怪訝な顔をしたが、すぐにワルドに向き直った。 「言ってみな」 その尊大な態度にワルドはピクリと眉を動かしかけたが、なんとかそれをこらえて今考えた必殺のセリフを放つ。 「僕と・・・決闘してくれ!」 「いいぜ」 「早ッ!」 予想外の展開に思わず叫んでしまい、ワルドは慌てて咳をした。聞き間違いかと思ったが、ギアッチョは面白い暇潰しを見つけたという顔をしている。 とりあえず今の情けない返事を誤魔化す為にも、貴族らしい返事をしなければならないと考えたのだが――色々と慌てていた為になかなか言葉が浮かばず、焦りに任せて「グッド!」などと更によく分からない返答をしてしまったワルドだった。 渡りに舟だとギアッチョは思った。色々と忙しくて試せていなかったが、あのオールド・オスマンに聞いた力・・・「ガンダールヴ」の効果を確かめるいい機会だ。 それにワルドの実力を知るチャンスでもある。ギアッチョの尋問のせいで誰も聞いていなかったが、彼らを襲った傭兵達を雇ったのは貴族だった。 この任務はアンリエッタの密命で、ワルドも彼女から直々に拝命したと言っていた。 手続きも通さずこっそりルイズの部屋に忍んできたほどなのだから――勿論これは推測に過ぎないが、ワルドにも内密のうちに直接依頼した可能性が高い。 自分はあれからずっとルイズのそばにいた、ならばあの王女様がヘマをしていない限りは、この任務が漏れることはワルド自身からしか有り得ないのだ。もっとも、事実は小説より奇なりなどという言葉を借りるまでもなく、こういった推理は思わぬところで穴が空いたりするものである。ギアッチョはあくまで可能性の一つとして、ワルドを警戒していた。 決闘の介添え人を任されたルイズは「バカなことはやめて」と怒鳴ったが、ギアッチョもワルドも聞く耳持たないことを理解して諦めた。 「なんなのよ、もう!」 「殺しゃしねーから安心しな」 臆面も無くそう言ってのけるギアッチョにワルドがブチ切れそうになったが、一つ深呼吸をしてなんとか気持ちを落ち着ける。腰の杖を引き抜いてビッと前に突き出すと、 「どこからでもいい 全力で来たまえ」 と言い放った。ギアッチョはフンと鼻を鳴らすと、剣を乱暴に抜いて腰を落とす。 それを見届けたルイズの怒りと心配の色を含んだ開始の合図で、決闘の幕は上がった。
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前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 一行が町の入り口までやってきたのはそれから二時間後だった。 タバサは近くの岩場に腰を下ろし、本を読んでいた。先ほどの竜がまるでタバサに話しかけるようにして顔を寄せている。 「おまたせ、タバサ。」 キュルケが康一の馬から飛び降りた。 「遅れたけど紹介するわね。あたしの親友、タバサよ。」 本を読んだままのタバサの肩を抱き寄せた。 「こ、こんにちはー」 康一は馬から降りて声をかけてみたが、反応はない。 「無愛想な子ねー」 ルイズはあきれたように言った。 キュルケが康一にずっとくっついたまま離れなかったのでご機嫌ななめである。 「ちょっと無口なだけよ。それにルイズも無愛想さでは負けていないと思うわよ?」 キュルケが軽く受け流すと、ルイズがむっとして睨みつける。 空気が険悪になりそうだったので、ルイズが爆発する前に康一は話題を探した。 「え、えーっと、そういえばルイズは何を買うつもりだったの?」 「・・・あんたにいろいろ買ってあげなくちゃいけないじゃない。杖とか。」 「杖?」 メイジでもない自分に杖などいるのだろうか。 ルイズはコーイチの耳元に口を寄せた。 (あんたの『スタンド』。魔法だってことにしたら都合がいいでしょ?) 「ああ、そっかぁ!」 康一は納得した。 スタンドをおおっぴらに使えないおかげで、ギーシュとの決闘ではひどい目にあった康一である。 杖さえ持っていれば、『スタンド』も『東方式のちょっと変わった魔法』としてみて貰えるかもしれない。 「なに、どういうこと?ダーリンって魔法が使えるわけ?」 キュルケは理解できない様子である。タバサは黙ったまま何も言わない。 「(そっか。康一の『スタンド』のこと、知ってるのわたしだけなんだ。)」 秘密を共有しているようでなんだか嬉しい。 「(そうよ。キュルケが無駄に色気を振りまいたって、所詮は他人だわ。わたしはご主人様なんだもの!)」 自信を取り戻したルイズは、とたんに上機嫌になった。 「たいしたことじゃないわよ。ちょっとあんたにはいえないけど。」 なんて澄まして見せる余裕まである。 キュルケからすると、非常におもしろくない。 康一から聞き出そうとするも、言葉を濁されるから余計である。 ほら、さっさと行くわよ。背を向けるルイズに向かってつぶやいた。 「いいわ。いずれじっくり聞き出してあげるんだから!」 「へぇ!なんだかいろいろなものがおいてあるなぁ~!」 康一はきょろきょろと興味深そうに店の商品を覗き込んでいる。 露店に挟まれた通りは非常ににぎやかで、人でごった返している。 売っているものも、肉や野菜や服などといったよくみるものだけでなく、日本では到底見れないようなものも並んでいる。 ビン詰めの目玉なんかがあったりしたが、あんなの何に使うんだろう。 「ここはトリステインで一番の大通り、ブルドンネ街よ。」 ルイズは心持ち得意げに説明した。 「え?一番の大通り!?」 康一は驚いた。単に近くの街だと思っていたのだ。 「それにしては・・・ちょっと小さい気もするなぁ~」 意外と規模の小さい国なんだろうか。 「なにわけわかんないこと言ってんのよ。ほら『杖』の店はこっちよ!」 ルイズは康一の手を引いた。 「あ、ちょっと待って!あの路地の奥に、『剣』の絵が描かれた看板が見えるんだけど・・・」 康一は薄暗い路地を指差した。 「そうね。武器屋があるんでしょ。それがどうかしたの?」 「いやぁー!ちょっと感動っていうか・・・!」 ゲームでよくあるような武器屋の看板が実際にあるのだ。 うわぁ、やっぱりファンタジーな世界なんだなぁ!と康一はわくわくした。実際の武器屋ってどんな感じなんだろう。 「ちょっと見てくるね!」 康一が走り出すので、ルイズはあわてて追いかける。 「こらー!武器屋になんて行ってどうするのよー!」 「やっぱりダーリンも男の子なのねぇ。」 キュルケとタバサも後を追った。 「おーい、坊主。ここはおもちゃ屋じゃねぇぞ。」 武器屋の店主は、さきほど入ってきた小さな少年に声をかけた。 ちょうど客もおらず、暇だったから構わないのだが、あまりにも目をきらきらさせて店を見回しているので苦笑する。 「あ、ごめんなさい。ぼく、こういう店、初めてきたんですよねー!」 まぁ害もなさそうだから放っておくとしようか。金も持ってなさそうだし。 と、そこへ今度は貴族の小娘が入ってきた。 すかさず店主は腰を低くした。 「いらっしゃいませ貴族様!当店はまっとうな商売をしておりまさ!怪しいものなんてなにも・・・」 「別にこの店に用があるわけじゃないわ。」 もみ手をする店長に、ルイズは興味なさげに返した。 「ほら、コーイチ。行くわよ!」 ルイズが袖を引っ張るが、康一は「もうちょっとだけ!」と壁にかけられている武器にかじりついている。 「(へぇ、ひょっとしてこの坊主は貴族の従者かなにかか。ってことはカモがネギしょってきたのかもしれん。)」 店主はにっこりと笑った。 「なんならお似合いのを見繕いましょうか?」 康一は嬉しそうに振り向いたが、残念そうに首を横に振った。 「ごめんなさい。ぼくって、お金もってないんですよね。」 店主は貴族の小娘を見たが、買い与える気など毛頭なさそうである。 そこに今度は、まぶしいほどの色気がある赤毛の美女と、青髪の娘が入ってきた。こちらも貴族らしい。 「あたしが買ってあげてもよくてよ?」 キュルケが康一に声をかけた。 しかしルイズが立ちはだかる。 「わたしの使い魔に変なものあたえないでよ!それに剣なんか買ってもしょうがないじゃない!」 「いいでしょ。あたしが何を買おうと勝手だし、コーイチが何を貰うのも勝手だわ。」 あのー、と康一が声をかけた。 「剣って杖の代わりにならないの?」 杖はただの棒じゃないから、代わりにはならないけれど・・・とキュルケはあごに人差し指をあてた。 「でも、魔法衛視隊なんかは、大体レイピア形の杖を持ってるわね。それに、傭兵をやってるメイジで、杖の機能を持たせた武器を使ってることはあるらしいわ。」 康一は財布を握っているルイズを見た。 「どうせ買うならそういうのがいいかなぁ~。って思うんだけど・・・高くなるのかな。」 店主がすかさず割り込んだ。 「いえいえ!当店は平民用の武器だけでなく、メイジ様にもぴったりな武器も多数取り揃えておりますですよ!傭兵のお客向きの商品などは、貴族様が使う杖などよりお安くできまさ!」 意地があるので決して口にはしないが、実は康一の治療費やらなにやらで、少し懐が心もとないルイズである。 自分が知っている店は貴族用の高級な店で、かなりの出費を覚悟していただけにその言葉には少し惹かれた。 「ま、まぁコーイチがそんなに欲しいなら、考えないでもないわ。」 ルイズが同意して見せると、店主は「では少々お待ちください!」と奥に引っ込んだ。 あの貴族の小娘たちと従者。関係は良くわからないが、雰囲気は貧乏貴族ではない。 おそらくかなりの金を持っているはず、と店主は睨んだ。 笑顔で一本の長剣を抱えていく。 「こちらなどはどうでしょう。かの高名なシュペー卿の鍛えし大業物!ちょっとお値段は張りますが、鉄を紙のように切り裂くって触れ込みでさぁ!もちろん、お望みのように杖の代わりとしても使えますぜ!」 宝石や金の装飾の散りばめられたいかにもな宝剣である。 「・・・ちなみにそれ、いくらなの?」 「そうですねぇ。本当はエキュー金貨で2500はいただきたいところですが・・・今回は、2000エキュー。新金貨なら2500で結構でさ!」 「2000!?ちょっとした家屋敷が買える値段じゃない!」 「いいものは値が張るものですぜ?命を懸けるものですからねぇ。」 店主がもっともな顔をして言う。 ルイズは顔をしかめた。 「・・・もっと安いのはないわけ?100くらいの。」 「まともな剣を買おうと思えば、少なくとも新金貨で200はしますがね。まぁそこにあるのは一律200ってものでさ。」 店主は店の隅で剣が無造作に束ねられている一角を指差した。 「しかし、貴族様の従者に持たせるには、あのあたりの凡庸なのは少々物足りないと思いますがねぇ。」 すると、突然、ガチャガチャという音とともに声が聞こえてきた。 「誰が凡庸だ、このスットコドッコイの詐欺親父!!このデルフリンガー様をそこらの剣と一緒にするんじゃねーよ!」 一行は驚いて声のするほうを見つめた。 「だいたい、そんなコゾーに持たせるならおしゃぶりのほうがお似合いだぜっ!」 「こ、こらデル公!お前はだまってろ!」 一本の錆びた長剣がカチャカチャと鍔を鳴らしているので、タバサがするりと引き抜いた。 「こら!小娘!勝手に触ってんじゃねぇよ!」 タバサはそんな剣の罵声に耳を貸さず、しばらく見つめてから康一に手渡した。 「インテリジェントソード」 「ま、まさかこの剣がしゃべってるのかぁ~!?」 康一は手に持ってしげしげと剣を眺めた。でもスピーカーはついてないしなぁ。 すると、それまで騒いでいた剣が、突然黙り込んだ。 「・・・おでれーた。おめぇ『使い手』か。」 「『使い手』ってなに?」 当然ながら今まで剣など触った事もない康一である。 「俺の柄を握ってみろ。」 言われるがままに、両手で柄を握ってみる。 すると、康一の左手のルーンが青白く光を放ち始めた。 キュルケが叫んだ。 「だ、ダーリン!手のルーンが光ってるわよ!?」 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔
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第08話 イタリア料理を作らせに行こう!⑥ ┣゙┣゙┣゙┣゙┣゙┣゙┣゙┣゙┣゙┣゙┣゙┣゙┣゙┣゙┣゙┣゙ おかしいッ!おかし過ぎるッ!何だこの料理人はッ!?『何者』なのだッ!? コルベールは目の前の光景に頭がショートしそうであった。 自慢じゃあないが自分はこれまで沢山の人間を見てきた。だがッ!誰一人として『病気を治す』料理人など見たことがないッ! 彼は何者なのか? 彼は平民なのか? 彼はメイジなのか? 彼は本当に料理人なのか? コルベールは自問するが一向に答えは出ない。 「さっ、次の料理に行キマショウカ?」 そう考えている間にもトニオは出来上がった料理を運んでくる。 「次はプリモ・ピアット(第一主菜)デス。」 そう言ってテーブルの上に置かれたのは、 『キノコのリゾット――――!!』 『五種類の野菜のソースのペンネリガーテ――――――!!』 ●キノコのリゾット リゾットとは米と具をブイヨン(旨味とスゴ味が一杯のダシ)で煮たもの。イメージとしては粒のはっきりしたようなお粥かおじや。 材料(二人分) ・米 1カップ(200cc) ・オリーブオイル 大さじ1杯 ・ニンニク 1かけ ・椎茸 2ヶ ・シメジ 1/2パック ・マイタケ 1/2パック ・ポルチーニ(乾燥) 5g ・玉ねぎ 1/4個 ・ベーコン 3枚 ・固形スープの素 1個(本来ナラバブイヨンを作っテ欲シイデス) ・バター 大さじ1杯 ・パルミジャーノ 大さじ3杯 ・塩、コショウ 適量 ●五種類の野菜のソースのペンネリガーテ ペンネとはパスタの一種。マカロニの様に管状になっている。ペンの先に形が似ている事からペンネ(ペン先の意)の名がついた。 材料(4~5人分) ・ペンネリガーテ 160g ・オリーブオイル 適量 ・ニンニク 1かけ ・トマト 小1個 ・ニンジン 中1/4本 ・ナス 1本 ・ズッキーニ 大1/2本 ・新玉ねぎ 中1/2個 ・トマトペースト 小さじ2杯 ・パルメジャーノレジャーノ 大さじ2杯 ・塩、コショウ 適量 「おおォ~~~~またも初めて見る料理じゃのォ~~」 オスマンが感嘆の声をあげる。 「学院長サンのはリゾットと言いマシテ、私達の住んでイル所で獲レルお米と言う主食を使ったモノデス。」 「俺の方は何なんだ?」 「マルトーさんのはペンネと言うモノデス。さぁ、お二人とモ召し上がッテ下サイ」 促され、二人は料理を口に運ぶ。 ・・ ・・・・ ・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・ 「「ゥンンンンンンンまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいッ!!!!」」 この上無きが如く、まさに歓喜の雄叫びを上げる二人。 「こんなッ!こんな食材がッ!この世にあるとはッ!!うますぎブヘェアッ!」 「学院長(様)ッ!」 言葉も言い終わらぬうちにオスマンが突如盛大に血を吐くッ!言わずもがな、パール・ジャムの効果である。 「アヴァッ!ヴェベベベアバババババッ!」 全身から血を噴き出し、痙攣を起こしているオスマンは、さながら頭の逝ってしまった変態だ。くぐもった声も、もはや人類とは思えない。 ドグォッ! 瞬間ッ!彼の胸部が花開いたッ!それはまさに観音開きッ! 「うめェ――――――――――ゲバァッ!!」 同時にマルトー親父も臓物を爆発させ、危険なバイオハザード状態である。 二人の姿は、形容するならまさに『バケモノ』であったッ!! しかし次の瞬間には 「空気がうまいッ!体が軽いッ!肺の調子が良くなっておるッ!」 「下痢になったり便秘ななったりと最悪だった腹が治ったでよッ!」 見ているコルベール達も開いた口が塞がらない。いや、正確には少女の方は刺激が強すぎたのか気絶している。 「トニオ君ッ!君のような料理人ならメイジだろうと平民だろうと関係ないッ!是非とも雇わせて貰いたいッ!」 「おうよッ!お前ェみてェな奴なら一緒に仕事をしてもいいんじゃあないかと思うぜッ!」 おかしいッ!何なんだのだ!?このやってきた青年と料理人はメイジじゃあないと聞いたッ!ディテクト・マジックでも変な所は見られなかったッ! なのにこの料理は何なのだッ!? コルベールが悩みに悩み、思考が渦を巻き、虚空へと旅立っている間にも、構わず話は進んでいく。 「そこの仗助君は使い魔として不自由をかけるかもしれんが、一緒に便宜をはかる事にしよう」 「あ、ありがとうございますッ!ご迷惑をお掛けしますがッ!よろしくお願いしまッス!」 かくして、仗助とトニオのよるべが確保された瞬間であった。 そして、かなり久し振りに言葉を発した様な気がする仗助であった・・・・・ その少女はさ迷っていた。夜の闇の中を。 変な平民を召喚してしまい、その使い魔には契約前に逃げられ、今も学院を、森を、草原を探し回ったが未だに見つからない。 怒りが込み上げてくる。なんなのよ、このルイズ・フランソワーズに大ッ恥をかかせたくせにッ!変な平民のくせにッ! いくら悪態をついても見つからないものは見つからない。服は汚れ、疲れのせいか空腹も覚えてきた。 「帰ろ・・・・」 もう今日は諦め、明日に掛けよう。もし、それでもダメな時は覚悟を決めよう。再召喚なりそれとも・・・・・ ネガティブになっていく気持ちを抑え、学院へと足を向けたときであった。 「なんだろう?」 なんだか学院の方から良い匂いがする。 「いい匂い・・・・・」 疲れきった体は欲の赴くままに匂いの源へと足を運んでいくのであった・・・・・・・・ To Be Continued・・・・・・
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大地を揺るがす轟音の後、訪れたのは場違いともいえる静寂だった。 ほんの数分前まで空を占めていたレコン・キスタの艦隊は一隻の例外なくタルブの草原に叩き付けられ、友軍の地上部隊の大半を道連れにした。 昨日、美しく広大な草原であったそこは、中央に巨大な湖を生み出していた。 しかしその湖は風光明媚で知られるラグドリアンの湖とは比べることが出来ない。 かつて艦船であった木材の残骸と、かつて人間であった肉塊が湖面に浮かび、霧の様な土煙が立ち込める湖上。それを照らすのは、月に蝕まれた日の光。 地獄の一風景を現世に呼び出してしまったかのような凄惨な光景の端の中、トリステイン軍は時でも止められたかのように動くことが出来なかった。 しかし、この停止した時の中で動くことの出来る人間は二人いた。 この光景を作り出したウェールズ、そしてアンリエッタである。 「どうなさいました。枢機卿」 王女の可憐な唇から漏れたのは、戦の最中に呆ける行為を咎める響き。 アンリエッタの声で逸早く我に返ったマザリーニは、喉も裂けよとばかりの大音声を張り上げた。 「諸君! 見よ! 敵の艦隊は滅んだ! トリステイン国王女アンリエッタ殿下とアルビオン皇太子ウェールズ殿下の伝説の魔術、オクタゴンスペルによって!」 「オクタゴンスペル……!」 マザリーニの叫びに、将兵達の時が再び動き出していく。 「さよう! 王家の血に連なるメイジにのみ許された伝説の詠唱! 各々方、これで始祖の御意思、そして祝福がどちらにあるか示された! 彼奴らは今、始祖の鉄槌を下されたのですぞ!」 今、何が起こったのかを目撃したトリステイン軍は枢機卿の言葉をすぐさま受け入れる。腹の底から湧き上がる原始的な衝動は、水面に広がる波紋のように苛烈な砲撃を耐え抜いた軍勢に伝播していった。 「うおおおおおおおおぉーッ! トリステイン万歳! アンリエッタ王女万歳! ウェールズ皇太子万歳!」 鬨の声が上がる中、アンリエッタは自分を離すまいと回されている腕の感触に幸せそうな微笑を浮かべていた。 「ウェールズ様……ああ、まるで夢のよう。もし夢だったとしたら……二度と覚めなくても構わない。そう思います……」 ウェールズはその言葉に、ほんの少し困ったように微笑んだ。 「これが夢であってたまるものか。僕達は手に入れたんだ……これは現実なんだよ、僕のアンリエッタ」 恋人同士によく見られる、世界には二人きりと言わんばかりの甘い空気は、マザリーニの控えめな……しかしよく通る咳払いで掻き消えた。 「オッホン。王女殿下と皇太子殿下のお邪魔をするのは出来うる限り避けたい所ではございますが……まだもう一仕事していただかねば困ります」 アンリエッタは勿体つけた物言いのマザリーニに、悪戯っぽく笑った。 「うふふ、ごめんなさい枢機卿。王城に帰ったら、ゲルマニアに使いを出さねばなりませんものね」 「その通りですな。わたくしにドレスの裾を投げ付けたように、あの成り上がりに婚約破棄を通達してやらねばなりますまい」 変われば変わるものだ、という感慨がマザリーニの胸中を占める。 あの会議室での演説で、王家に飾られる花でしかなかった少女は王女になった。 そして今、皇太子の腕の中で王女は最上級のスクウェアメイジに成長を遂げた。 なんと出来過ぎた物語だろう、と思える。物語の筋としては使い古された陳腐な筋だ。 王女がこれ以上ない危機に立たされた時、王子様が突然現れて共に手を携えて危機を打ち破る――しかし、それが現実に起こったとなれば、そしてその物語が生まれた瞬間に立ち会えるとなれば。 せいぜいが慌てふためくセリフと演技しか許されない端役者だとしても、体の中から浮き上がるような歓喜は否定することが出来ない。 マザリーニは、主役の二人を眩しげに見上げ、二人の目を見つめた。 「さあ、これより勝ちを拾いに行きましょう。皇太子殿下、王女殿下――いや」 帰ったら、この題目を脚本にした舞台を上映させよう。それを国威発揚に用いれば、しばらくはこの劇の話題で持ち切りになるだろう。 ならばせめて、決め手になるセリフを告げる役得くらいはあっていい。 「アルビオン国王、ウェールズ陛下。トリステイン国女王、アンリエッタ陛下」 恭しく頭を垂れた枢機卿に、二人の王は強く頷く。 アンリエッタは水晶の杖を掲げ、ウェールズは愛用の杖を掲げた。 「全軍突撃ッ! 王軍ッ! 我らに続けッ!」 地を揺らすような轟きを上げ、トリステイン軍は熱狂に浮かされ駆け出した。 * ルイズは、熱狂とは無縁だった。 友軍の戦艦を竜巻ごと落とされたレコン・キスタ軍はほぼ壊滅状態であったが、撤退さえ許されることなくトリステイン軍の突撃を受けている。 しかしルイズは突撃に加わる事無く、ラ・ロシェールに一人立ち尽くしていた。 先の艦砲射撃でのトリステイン軍の被害は決して少なくない。大勢の負傷兵と共に友軍を見送る形となったルイズは、遠い空を飛んでいる飛行機を呆然と見上げていた。 王女の助けになりたい、という意思は確かにあった。 しかし、自分の出る幕などなかった。 竜騎士隊と命を賭けて戦ったのは、異世界の飛行機械を駆る奇妙な老人。 危機に瀕した王女様を助けたのは、魔法の唱えられない友人ではなく、国を追われた王子様。 「……何よ。何よ」 自分は何も出来なかった。自分がした事と言えば、舞台に上がることも出来ずただ指をくわえて物語を眺めているだけ。 魔法を使うことも出来ない。戦いに赴くことも出来ない。 ぽた、ぽた、と白く形の良い頬を伝って涙が落ち続ける。 涙を止めようと両手で顔を覆うが、涙は次から次へと手の隙間から落ちていく。 「何がメイジよ……! 何がヴァリエールの末娘よ……! 私、何も出来ないじゃない! 何も出来ない……ただの、ただの……!」 遠くから聞こえる戦の戦慄きすら、ルイズに届くことはない。 今まで自分を支えていた貴族の矜持も、今遂に枯れ果てた。 くたり、と身体から力が抜け、馬の背へ崩れ落ちた。 「う、う、うわぁぁぁっ……うわぁぁぁぁぁぁぁーーーーッッ!」 視界が歪む。嗚咽を抑える事など出来ず、溢れる心の迸りを吐き出すように叫んだ。 * ルイズの説得を聞き入れて戦闘空域から離脱したジョセフは、ルイズの言葉が嘘でなかったことをこれ以上ないほど目撃した。 ラ・ロシェールから放たれた巨大な竜巻が、空に浮かんでいた艦隊を飲み込んで地上へ落ちて行く様を文字通り『高みの見物』してしまい、流石のジョセフと言えども度肝を抜かれていたのだった。 「……うーわー、ありゃオクタゴンスペルだぜ。あの王子と王女ってトライアングルだって聞いてたが、化けたなありゃあ。俺っちもさすがにおでれーたぜ」 カチカチと金具を打ち鳴らしながら叩く軽口でさえ、ジョセフの右耳から入って左耳から通り抜けていた。 「……こいつぁえれーモン見ちまったわい。昔戦ったワムウの神砂嵐もすごかったが、こんな芸当が人間に出来ちまうとはな。魔法恐るべし」 雲より高い空の中、凍えるような寒さの中でも額に浮かんでいた汗を、手の甲で拭った。 「さて、墜落しちまう前にどっかに着陸しちまわんとな。いくらなんでも人生で五回も墜落するのはナシにしたいわい」 うるさく鳴っていた金具の音が止み、ぼそりとデルフリンガーが囁いた。 「二度と相棒とは一緒に乗らねえ」 「うるさいぞ」 くくく、と二人揃って笑い合えば、シュル、と小さな音を立てて紫の茨が左腕から伸びた。 「ん? どうした相棒。何かあったのかい?」 当のジョセフは、片眉を上げてハーミットパープルを見た。 「……いや、わしゃ出した覚えなんかないぞ」 「あん?」 「なんでか知らんが出てきた。……む」 手袋の中から漏れる光。何度か起こってきた経験に従って手袋を脱ぎ落とすと、使い魔のルーンが眩く輝いていた。 「どうしたことじゃ、こいつぁ。デルフよ、お前なんか心当たりないか?」 「知らねえよんなこたぁ。俺っちも長生きしてきたが、スタンド使いが使い魔になったこたぁねーからよ」 怪訝そうな呟きと視線を受けていたハーミットパープルは、ルーンが刻まれた義手の甲へと滑り、まるで穴へ潜る蛇のようにルーンの中へ潜り込んで行った。 「なんだ!? こいつぁ……! 引っ込め! ハーミットパープルッ!!」 今まで起こったことのない状況を前に、ハーミットパープルを引っ込めようとするが、茨はジョセフの意思に従わない。消えるどころか、茨は次々に増える一方だった。 「なんじゃ!? 一体何がどうなっとる!?」 * 崩れかけた街に、少女の慟哭が響く。 どれだけ泣いてもルイズの中から濁った感情が引く事はなかった。 泣いても、泣いても。 どれだけ泣いても、自分が無力な存在であることは変わらないのだ。 (始祖ブリミル、あんまりです……! どうして、どうして私だけ……!) 人目を憚らず泣く。こうして泣いていれば、誰かが見つけて抱きしめてくれた。 しかし今は誰もいない。 カトレア姉様も、ワルドも、ジョセフも。 自分の側には誰もいない。誰も、いない。 だからこそ、叫んだ。小さい頃からずっと、心の中で蟠っていた叫びを。 「私に……力があれば……! 何も出来ないのは、もう嫌……! 私に力を! 守られているだけなんて、見ているだけなんて、もう嫌! 私に、私にっ……『力』を……!!」 固く目を閉じて、喉も限りに叫び―― ――不意に、抱きしめられた。 誰かが自分を抱きしめている。 ルイズはこの感触を知っている。いや、この暖かさとこの力強さを知っている。 「…………ジョセ、フ…………?」 ルイズを包んでいたのは、茨だった。 見間違えることなどない、紫の茨。 ハーミットパープルが、華奢な体に巻き付いていた。 泣く子をあやすように優しく、それでいて力強く逞しい。 空を見上げれば、飛行機は空を飛んでいる。ジョセフはここにいない。 左手から何かが迸ってくる感覚がある。左手を見てみれば、ハーミットパープルは自分の左手の甲から出ていた。そこから現れたハーミットパープルが、自分を包み込んでいたのだった。 「これも、スタンド能力なの……?」 訝るように呟かれた言葉に応えるかのように、ハーミットパープルはしゅるしゅると動いていく。 茨の一本がポケットの中に入り込み、ポケットに入っていた『水』のルビーを取り出してくる。そのまま茨がルイズの手を取り、指にはめさせた。 「ちょ、ちょっと。一体何を……」 ルイズの疑問も意に介さず、続いて懐から始祖の祈祷書を引っ張り出した。 結局詔は完成せず、戦場へ向かうアンリエッタを追うのに慌てていれば、ラ・ロシェールへ持ってきてしまったのだ。 ハーミットパープルがルイズの眼前へ祈祷書をかざした、その時。 突然、『水』のルビーと『始祖の祈祷書』が光り出したのに、びくりと肩を震わせた。 「……何よ、これは……」 突如放たれた光に目を眇めていれば、白紙だったはずの紙面に文字が書かれているのが見えた。 それは果たして古代のルーン文字であったが、学年でも指折りの勉強家であるルイズは難なくその文字を読める。ページにびっしり書かれた文字列を目で追っていく。 『これより我が知りし真理をこの書に記す。この世のすべての物質は、小さな粒より為る。四の系統はその小さな粒に干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる呪文なり。その四つの系統は、『火』『水』『風』『土』と為す』 視線を素早く走らせ、内容を読み解いていく。ルイズの視線が最後の行を読み終わった瞬間に、ハーミットパープルがページをめくってくれた。 『神は我にさらなる力を与えられた。四の系統が影響を与えし小さな粒は、さらに小さな粒より為る。神が我に与えしその系統は、四の何れにも属せず。我が系統はさらなる小さな粒に干渉し、影響を与え、かつ変化をせしめる呪文なり。四にあらざれば零。 零すなわちこれ『虚無』。我は神が我に与えし零を『虚無の系統』と名づけん』 読み進めていく内に、ルイズの鼓動は高ぶっていく。 「虚無の系統……伝説じゃないの。伝説の系統じゃないの!」 祈祷書を読み耽るルイズは、頬を濡らした涙を拭くことも忘れていた。ハーミットパープルがポケットから取り出したハンカチで拭ってくれているのも気付かないまま、胸の中で大きくなっていく鼓動ばかりを強く感じていた。 『これを読みし者は、我の行いと理想と目標を受け継ぐものなり。またそのための力を担いしものなり。『虚無』を扱うものは心せよ。志半ばで倒れし我とその同胞のため、異教に奪われし『聖地』を取り戻すべく努力せよ。『虚無』は強力なり。 また、その詠唱は永きにわたり、多大な精神力を消耗する。詠唱者は注意せよ。時として『虚無』はその強力により命を削る。したがって我はこの書の読み手を選ぶ。たとえ資格なきものが指輪を嵌めても、この書は開かれぬ。 選ばれし読み手は『四の系統』の指輪を嵌めよ。されば、この書は開かれん。 ブリミル・ル・ルミル・ユル・ヴィリ・ヴェー・ヴァルトリ 以下に、我が扱いし『虚無』の呪文を記す。 初歩の初歩の初歩。『エクスプロージョン(爆発)』 』 その後に古代語の呪文が続く。 読み終わったルイズは呆然とする。虚無が強力なら厳重にするのも理解できるが、それにしたってここまで厳重にしたら気付かないで一生を終えたりする可能性高すぎるでしょう、とか当然言いたかった。 が、それよりも今、余りにも多くの事が一度に起こり過ぎて混乱しかけていたルイズの思考が、段々落ち着きを取り戻してきていた。 祈祷書から、自分を包み込んでいるハーミットパープルに視線を移すとそっと撫でてみる。茨に棘は生えているが、先端に触れてみても痛みはない。 『メイジと使い魔は一心同体よ』 ジョセフを召喚した夜、滔々と語っていた言葉を思い出す。 『ハーミットパープルの能力は念写に念視!』 武器屋を探す時に、ジョセフが見せてくれたスタンド。 「……もしかして。私が……力を欲しいと、心から願ったから? ハーミットパープルが、私の中に眠っている虚無の力を探し出してくれたの……?」 もしハーミットパープルがなかったら、果たして自分は祈祷書を読めていただろうか。 『水』のルビーを指に嵌めた後で、祈祷書を開いて読もうとする機会など考えにくい。 だとすれば、なんて迂遠なことだろうと思う。 自分の中に眠る力を見つける為の大きな扉を開くために、異世界のスタンド使いを――それも探索能力に長けた――連れてくるだなんて。 しかしそうでなければ、一生気付かないままだったかもしれない。 一生、ゼロのルイズとして蔑まれる人生を送っていたかもしれない。 しかし今、ルイズは自分の系統に気が付いた。 ジョセフの力を借りられたのは、彼が自分と一心同体の存在だったから。主人の切なる願いを感じ取ったハーミットパープルが、主人の望む物を探し出したのだ。 「…………ジョセフ…………!」 今、ここにいない使い魔を掻き抱くように、自分を包む茨を抱いた。 再びルイズの目から涙が零れる。 しかし、先程の涙とは違う。 暖かく、暖かく、暖かく……――嬉しくて流れた涙だった。 ぐ、と袖で涙を拭うと、まだ暗い輪を作る太陽を見上げ、続いて飛行機に目をやった。飛行機は日蝕の輪に向かってはいない。むしろゆっくりと高度を落としていっているのが見えた。 ルイズは、祈祷書に目をやる。静かに、しかし大きく息を飲んでから、右手にある杖を握り直した。 (ダメよ)(やらなくちゃ) 二人のルイズがいる。 呪文を唱え始める。 (何をする気なの)(そんなの決まってるわ) 沸き立つような心の波、冷ややかに祈祷書の呪文を追う視線。 まるで何度も聞いた子守唄のような懐かしい旋律を紡いでいく。 (そんなことをしてはダメよ。ジョセフを帰すだなんて)(帰さなきゃいけないのよ) 初歩の初歩の初歩の虚無、エクスプロージョン。 聞いた事もないのに、初めて使う魔法だというのに、ずっと前から知っていた。 (馬鹿げてるわ! そんなことの為に、伝説の力を使うだなんて!)(伝説の力だからこそ使うのよ。エクスプロージョンなら……虚無の力なら、飛行機をあの日蝕の輪へ持ち上げることが出来る!) リズムが体の中に沸き起こり、駆け巡る。 今、何をしようとしているのか、ルイズは十分すぎるほど理解していた。 自分を優しく支えてくれてきた使い魔を、自らの魔法で、自らの手の届かない世界へ帰そうとしているのだ。 (やめましょう! 今なら間に合うわ! 簡単よ、今すぐ詠唱をやめて、日蝕が終わるのを待つのよ! 誰にも判らないわ、私が何もしなかったからって誰も責めないわ! そうよ、ジョセフだって、きっと仕方ないって――……) (私が許さないわ!!) 囁くのは、ルイズ。一喝したのも、ルイズ。 二人とも紛れもないルイズであり、ルイズの本心。 二人に共通しているのは、ジョセフを大切に思っているということ。 しかし、決定的な違いがある。 一人は、ジョセフを慕い縋ろうとする少女のルイズ。 もう一人は、ジョセフを誇りに思う貴族のルイズ。 帰したくない、帰してあげたい。それは同時に存在する、ルイズの本心。 どちらにも転ぶ。どちらかを選ぶ。そしてルイズは選んだ。 詠唱は、止まらない。 (駄目、駄目よ! そんなことしたら、私は一生使い魔のいないメイジになるわ! ジョセフが死ぬまで新しい使い魔を呼べないのよ! 使い魔が欲しくてジョセフが死ぬのを願ったりするなんて、そんなことはいやよ! やめて! やめましょう!) (そんなことは願わないわ、決して! だって、だって、私は――……) 長い詠唱の後、呪文が完成した。 その瞬間、ルイズは己の呪文の威力を完全に理解した。 これは、大いなる力だ。 先程の艦隊を、ただ一人で打ち破れる。いや、それだけではない。自分の視界に映る全てを巻き込み、しかも自分の破壊したいものだけを破壊できる。 今なら、まだ引き返せる。この杖を振り上げなければ、まだ引き返せる。 これだけの力を使えるのは、最初の一回だけ。今まで溜め込んできた精神力を使ってしまえば、また溜め込むのに時間が掛かる――使ってもいないのに、ルイズには当たり前のように理解できていた。それは自分の系統だからだ。 そう、今までゼロだと蔑まれてきた自分が伝説の担い手だったのだ。 この力があれば、敬愛するアンリエッタ様の力になれる。 両親に、姉達に、友人達に、教師に、胸を張れる。 私は、立派なメイジなのです。 ちょっと奇妙な使い魔がいるけれど、私は一人前のメイジなのです…… 杖を握る手に、力を込めた。一瞬、自分を包んだままの茨に視線をやり……そして、何かを吹っ切るように空を見上げる。 「私は……私はぁッ!!!」 涙が落ちるのにも気付かず、天高く杖を振り上げた。 「ジョセフ・ジョースターの主ッ!! ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールなのよぉーーーーーーーッッッ!!!」 * ハーミットパープルが自分の制御を外れたのに警戒はしつつも、今最優先すべきなのは無事に不時着することである。 今にもオシャカになってしまいそうなゼロ戦を宥めすかしつつ着陸場所を探していたジョセフは、突如眼下で膨らんだ光の球に気付く。 まるで小さな太陽のように鮮やかで激しい光を放つそれに、思わず腕で目を覆った。 「なんだぁーーーーッこいつはッ!!」 回避運動を取ろうにも、下から膨れ上がる光の球の速度は、どう逃げようともゼロ戦を捕らえる。ガンダールヴのルーンが突き付ける非情な現実が、ジョセフの頭に否応なしに浮かぶのだった。 「落ち着けよ相棒。ありゃあ、虚無の魔法だ」 「なんだと!? 虚無!? それがなんで今頃……」 「そりゃあ、虚無の担い手が使ったんだろ。ふつーのメイジにゃ使えねぇ」 「お前、そんな暢気な……!」 「俺の敬愛する相棒に含蓄ある素晴らしい言葉を送るぜ。ダメな時ゃ何やってもダメ」 「ただ諦めてるだけじゃないかそいつァー!!」 狭いコクピットの中で何を言い合おうと、結果が変わる事はない。 迫り来る光の球がゼロ戦の腹に当たる瞬間、覚悟を決めて目を固くつぶる。 (ああ……ここでオシマイかッ……すまん、スージー、ホリィ、承太郎、ルイズ……ッ!) しかし、終わりの時は訪れない。 不意に感じた奇妙な感覚に恐る恐る目を開けた。 結論から言えば、光の球はゼロ戦を飲み込まなかった。 光の球は、ゼロ戦を飲み込むのではなく―― 「こ、こいつはッ! ゼロ戦を『押し上げている』ッ!?」 風防ガラスの外に見えたのは、『垂直に落ちて行く雲』。否、そう見えるのは自分達が垂直に上昇しているから。 どこへ向かうのか。 思わず上を見上げたジョセフの目には、今にも途切れそうになっている日蝕の輪が見える。 その瞬間、ジョセフは全てを理解した。 操縦桿から手を離し、側壁に凭れ掛かる。 「そうか……ルイズ……。お前、魔法使えるようになったんじゃなぁ……」 満足げに微笑むと、目を閉じて生意気な孫娘の顔を思い返した。 「なあ、デルフリンガーよ」 「なんだい相棒」 「いきなり召喚されて大変な目にもあったが……だが、楽しかった。とても楽しかったよ」 かちり、と一度金具を鳴らし、剣はしみじみと呟いた。 「ああ。楽しかったな……本当に心からそう思うぜ」 日蝕の輪は、どんどん近付いてくる。 「相棒の世界ってのは、俺っちが活躍できるような世界かい?」 「んーむ……DIOも倒したところじゃからなあ。お前の出番はないんじゃないか?」 イヒヒと笑うジョセフに、デルフリンガーは嫌そうな声を上げた。 「また武器屋の店先で安売りされるのだきゃカンベンしてくれよ、相棒」 そしてまた、二人で笑い合う。 光の球は輝きを増していく。 まるで月に隠れた太陽の代わりになろうとするかのような、黄金の輝きを。 その時、ジョセフは確かに見た。 日蝕の輪を潜った瞬間を。 * 不意に現れた光の球を、タルブにいた者達は見上げていた。 不意に現れた光の球は、特に目立った何かを起こすわけでもなく、現れた時と同じように不意に消えた。 その光の球が如何なるものだったのか理解できる人間は、一人だけの当事者を除いては誰一人存在しなかった。 そのたった一人の当事者も、今までの人生で蓄積してきた精神力を全て使い果たし、馬の背の上で気を失っていたのだから―― 【ジョセフ・ジョースター (スタンド名・ハーミットパープル) 地球へと帰還】 To Be Continued → 戻る
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前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 二年生最強のメイジ。ギーシュ・ド・グラモンが食堂で女の子を苛めていると、平民の少年がそれを止めに入った。 「まちな!」 「何者だ貴様!」 ギーシュがその少年に杖を突きつける。 「てめーみたいな屑に名乗る名はねぇぜ・・・・」 「平民の分際で貴族に楯突く気か・・・?いいだろう。かかってこい!」 「てめーは俺が裁くっ!」 そして始まる決闘。 「この『平民』がぁー!『貴族』様に勝てると思ってんのかぁー!」 ギーシュはゴーレムを作り出し、少年に襲い掛かった。 「オラァ!」 少年が鉄拳を振るうと、ゴーレムは一撃で砕け散った! 「な、なんだとぉー!?」 「なめるなよ?全力を出せ。貴族!!」 「ひ、ひぃぃ!や、やってやるぅ!!」 ギーシュが杖を振るうと、数十体のゴーレムが少年を取り囲んだ! 「げへへ!平民の分際で舐めた口聞いたことを後悔させてやるゥー!!」 少年に襲い掛かるゴーレム達! だが、少年はゴーレムの一体を踏み台にして飛んだ! 「な、なにぃぃー!馬鹿なぁー!」 ギーシュは驚愕した。 少年はギーシュの背後に華麗に着地すると、ギーシュをギロリと睨んだ。 「次はてめーの番だ・・・」 「はひぃぃー!」 ギーシュはあまりの恐怖に失禁して腰を抜かしてしまう。 「右の拳で殴るか左の拳で殴るか、あててみな・・・。」 少年はギーシュを見下ろした。 ギーシュはごくりと唾を飲んだ。 「ひ、一思いに右で・・・やってくれ!」 「NO!NO!NO!」 「ひ・・・左?」 「NO!NO!NO!」 「り・・・りょーほーですかぁー!?」 「YES!YES!YES!」 「もしかしてオラオラですかぁー!?」 「YES!YES!YES!OH!MY!GOD!」 「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ――!!」 少年のラッシュでギーシュは「ひでぶ!」と言いながら吹っ飛んだ! 顔面を血だらけにされたギーシュは命乞いをした。 「今まで威張ってすみませんでしたァー!もう平民を馬鹿にしないので、許してくださーい!」 「てめーら貴族が平民を苛めるようなことがあれば、またすぐにボコボコにしてやるからな。」 「わ、わかりましたー!」 ギーシュは土下座をした。 「やれやれだぜ・・・・」 少年はくるりと背を向けた。 「助けていただいて、ありがとうございました!」 苛められていた少女が礼を言うと、 「気にするな・・・」 とだけ言って去っていく。 「ま、まってください!」 少女が叫んだ。 「あなたの・・・あなたのお名前は?」 少年は顔だけを少女に向けて言った。 「俺の名はコーイチ。しがない平民さ・・・」 あれから三日。これが現在平民の間で噂されている決闘の詳細である。 あの決闘を見ていた平民はシエスタだけだった。 シエスタは興奮のままに、平民の仕事仲間に『平民の少年が貴族に勝った』決闘のことを話した。 シエスタから聞いた平民は、またその仲間に聞いた話を伝えていく。その仲間はまた別の仲間に。 「きっと、こうだったのさ・・・!」「・・・だって聞いたわよ!」「・・・だったらしいぜ!」 噂をするうちに膨らんだ想像が付け足されていき、逆にいくつかの情報が抜け落ちていく。 こうして、本人がいない間に、康一は 『弱きを助け、強きを挫く勇者』にされてしまったのだった。 「う、うわぁ・・・」 康一は青くなった。 なんだか、話が無茶苦茶美化されている。 しかも平民の代表みたいにされてるし・・・。 話を聞いていると、まるでその決闘をしたのが承太郎さんだったように思えてくる。 「(少なくともぼくみたいなチビのことじゃないよね。その主人公。)」 厨房にやってきた康一は、集まってきた平民達に取り囲まれ、話ようやくその噂を知ったのだった。 康一は誤解を解こうとした。 「い、いや。そんな大したもんじゃないですよ!実際ぼくだってボコボコにされて、今まで寝てたんですから!」 「でも、ギーシュって貴族に勝ったのは本当なんだろ?」 マルトー親父が尋ねた。 「それは・・・まぁ。そうなんですけど・・・。」 オオオオオオ! 集まってきた平民達がどよめいた。 「しかも素手でぼこぼこにしたって聞いたが?」 「それも、確かにそうなんですが・・・」 オオオオオオオオオ!! 歓声があがる。 「しかもトドメに、その貴族、『ゆるしてください!』って泣いて謝ってきたんだろ?」 「まぁ・・・それもだいたいその通りですけど・・・」 ヒャッホ――――――! 帽子が乱れ飛ぶ。泣き出したり、抱き合ったりしている人もいる。 康一の首にマルトーの毛深い腕が廻される。 「可愛い顔して、おめぇはすごいやつだ!コーイチ!『我らの拳』だ!」 「お、おおげさだなぁ。」 康一は困った。結果的にばれない形になったが、スタンドを使ったわけで、素手だけで倒したわけではない。しかし、 『いやー、実は『スタンド』っていうみなさんの言う『先住魔法』みたいな力を使ったんですよー!』 なんて明るくネタバレした翌日に火あぶりにされたりしたら困る。実に困る。 それになにより、これだけ喜んでいる人たちを悲しませるのは憚られた。 「おおげさなことなんてないぞ!」 マルトーは大きく首を振った。 「俺達平民は、いつもいつも貴族のいいなりにされてるんだ。それに逆らって殺されたやつを、俺は何人も知ってる。」 他の平民も静かに頷いている。 「俺達平民が一人の貴族を倒そうと思ったら、武器を持って数人がかりさ。それだって返り討ちにあうことすらあるんだ。」 それなのに・・・!マルトーはぐっと拳を握り締めた。 「お前は一人で、しかも素手で貴族を倒しちまった!こんな痛快な話聞いたことがない!だからお前は英雄だ!『我らの拳』だ!」 シエスタはその様子を見て嬉しそうに微笑んでいる。 「ちょ、ちょっとシエスタ!なんとかしてよ!それに、その噂すごい誇張してるよね!あいつ別にもらしてなんかなかったし、ゴーレムも7体しかいなかったよ!」 「そのくらい演出の範囲内ですわ。」 シエスタは嬉しげに胸を張った。どうやら話を大きくするのに積極的に関わったらしい。 「俺はお前と知り合えてうれしいぞ!俺がみこんだ男だけあった!コーイチ!俺はおまえの額にキスしてやるぞ!」 とマルトー親父が分厚い唇を近づけてくる。 「うわぁ!マルトーさん!ちょっとまって!キスは・・・!キスはいいからぁー!!」 康一は悲鳴をあげた。 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔
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「宇宙の果てのどこかにいる私のシモベよ… 神聖で美しく、そして、強力な使い魔よッ 私は心より求め、訴えるわ 我が導きに…答えなさいッ!!」 ドッグォオォ 今更、爆発くらいでは誰も驚かない 慌てて身をかばいはするが、誰も彼も、ただそれだけのことだ ゼロのルイズが魔法を使えば爆発する 馬を怒らせたら蹴飛ばされるのと同じくらい、彼らにとっては当然 だが、煙がおさまったあと、そこに見えてきたものは違った そういえばルイズは召喚魔法を使ったのだ クラスメートは皆、そのことを思い出していた そして――― 「…なに? この…鳥の巣アタマ…は?」 当のルイズがのけぞりおののいた時、それは噴出する 煙から現れ出た男、その頭ッ 彼らの目にはまさしく鳥の巣ッ 笑い出すにはあまりに充分ッ 「うはッ」 「くくくっ」 「あっはっはっはっはっは」 「ぶーっはっはっはっはァ――――ッ」 「ちょ、ちょっと、ぷはっ、アハハハハハハハハ」 「鳥の巣、鳥の巣、くわははははは」 「さっすがルイズッ ぐはははは」 「鳥の巣男を召喚したぞおおおお」 「そこにしびれるあこがれるゥ――ッ ヤッハハハァァ」 腹を抱え、転がる 教員にも収集がつかない 引率のコルベールは頑張っていたが その努力はむなしかった 笑い声に囲まれたルイズは拳を握り、 どうしてくれようかと男を見やった瞬間である 「DORAa!!」 ズド ルイズは空を飛んでいた 何が起きたのかわからなかった 空と地面がぐるりと視界を一週、二週、三週 桃色がかったブロンドも歌舞伎のように乱れ、そして ドザアッ 肩から落ちた 笑い声がぴたりと止んだ 「鳥の巣」の様子はおかしかった 誰が見ても明らかだった そいつは今まで座っていたが 立ち上がってみると、意外なまでに大きな男だった 「鳥の巣」もそうだが、見たこともない黒ずくめの服装、その装飾 何から何まで奇妙だ だが奇妙なのは、もっとも奇妙なのはッ ・ ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 男が一体何をしたのか、誰の目にも見えなかった 「お…おまえ、ご主人様にッ つ、使い魔のぶんざいでぇぇっ」 痛みを忘れたルイズは身を起こし、半泣きで怒鳴るが 虚勢は一瞬で消し飛ばされた ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ 「鳥の巣」が影となって、その目元はよく見えない 見下ろすように顎を上向けているにも関わらず (何、こいつ… なんか知らないけど、ヤバいッ) 直感し、立って少し離れようとした直後 男が初めて喋った 聞き取れる声を出した 「oreno…」 「オ、オレ、ノ?」 「orenoatamaganandatte?」 「わ、わっかんないわよっ 人間の言葉しゃべんなさいよッ!!」 「darenoatamagaDORAEMONnoSUNEOmiteedato~~~ッ」 「そこまでだッ」 「不審なヤツめ、取り押さえてやる」 衛兵がやってきた 誰かが呼んだのだろうか どうでもいいが彼らは不運だった ドゴ バキャア 兜と顎が砕け割れる 二人同時だった 同時に別方向に飛んでいった 今度こそ確かに言える 「見えない何かに殴られた」 この場にいる全員に、そうとしか見えなかった 「kikoetazoKORAaa!!」 ズンッ 踏み出す男、全員後じさる 「い…い…」 ゲドゲドの恐怖ヅラで、生徒の一人が命じてしまった 緊張に耐えきれず、火蓋を切ってしまった 召喚したての使い魔に、自らの半身にッ 「いけえええ、ビーティィィィ―――ッ」 パニックだった 頭の血管がプッツンした生徒が次々と使い魔をけしかける だが、彼らなどよりも「鳥の巣」男の方が圧倒的にプッツンしていた 彼らはそれを知らなかった プッ プッ… プッ…… プッ ツ~~ン 「DORARARARARARARARARARARARARARARARA」 バス バスッ ドゴォ ベキッ ズドム 使い魔達が空を飛ぶ 木の葉の軽さで宙を舞う 大惨事である 「なんということだ…」 コルベールは戦慄する あと数分もしないうちに、このままでは生徒達が「殴られる」 応援を呼ばせようと、先に殴られた衛兵二人に向き直り… 目の玉をひん剥いたッ 「治っている? ひとりでに? いや…違うぞ」 「た、助けてくださ、助けてェェ」 「これ、は…こいつはッ」 ドドドドドドドドドドドドドドドド (兜と顎が、癒着…しているのか? これは魔法か? 何の系統だ…水、土? スクエアメイジだとでもいうのか、あの青年がッ そんなことはどうでもいい もし子供達がこの力で殴られてみろ…ハッ!?) すでに一人殴られている コルベールは咄嗟に彼女の方を見た 抜かした腰でずりずりと下がっていく彼女の胸にある、マントの留め金…五芒星の、学園制式の… 本人は気づいていないようだが… 三日月にも似た前衛芸術と化し、一部はシャツと同化していた (ダメだ…応援を呼んでいるヒマは、ないッ 守るのだ!! 私が、生徒をッ) 2へ
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[部分編集] 企画作品 クッキー☆☆☆ ニコニコ user/20930894 [部分編集] 概要 クッキー☆☆☆の企画者。ビーフ姉貴とは共同でアカウントを使っており、リゾット姉貴がお題投稿を担当している。 クッキー☆☆☆の後にも声当て企画を企画していたが、クッキー☆☆☆の騒動でそれ以降の活動は中断している。
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前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 学院の宝物がフーケに盗まれた! そのニュースは学院中を駆け巡り、ルイズと康一が目を覚ましたときにはすでに大騒ぎになっていた。 廊下を歩いていると、キュルケとタバサが駆け寄ってきた。 「おはようダーリン!聞いた?昨晩学院に賊が入ったらしいわよ。」 キュルケはやや興奮気味である。 「それならもう知ってるわよ。この学院で一番最初にそれを知ったのはわたしたちだもの。・・・ていうか、使い魔にはあいさつしてご主人様であるわたしになにもなしってどいういわけ?」 ルイズが口をとがらす。 「あーら、ルイズ。いたのね。あたしの頭はダーリンのことでいっぱいだから、あなたみたいなちんちくりんの入る余地なんてないのよ。・・・で、一番最初にってどういうこと?」 昨夜のことを思い出したルイズがため息をついた。せっかくのチャンスを逃したことでずいぶんと気落ちしている。 「昨日の夜、ぼくらが最初にフーケを見つけたんだ。」 康一が代わりに説明した。 「あら。すごいじゃないの。で、どうだったの?」 「すっごいでかいゴーレムが出てきてさ。捕まえるどころか、逃げ回るので精一杯だったよ。」 「ダーリンが手も足も出ないなんて、さすがハルケギニア中の貴族を翻弄する大盗賊だけあるわね。」 康一は頷いた。ギーシュもゴーレムを使っていたが、はっきり言って桁が違う。 「まぁ、それで朝一で学院長室に出頭するように言われてて、今から行くとこなんだよ。」 「ふーん、おもしろそうね。あたしも行くわ。タバサも行くでしょ?」 後ろに尋ねると、タバサはこくりと頷いた。 「あんたたち、フーケをみた訳じゃないんだから、来たってしょうがないじゃない。」 ルイズは見るからに嫌そうだ。 「このまま授業に出るよりもおもしろそうだもの。ねぇいいでしょダーリン!」 ルイズは渋ったが、結局キュルケとタバサもついていくことになった。 4人が学院長室の扉をあけると、中にはもう十数人の教師たちがいて、殺気だった議論を戦わせていた。 突然入ってきた生徒たちに入り口付近にいた教師たちが不審そうな顔をするが、何も言ってはこなかった。 「この魔法学院に忍び込むとは、なんといまいましい盗人め!」 「しかも盗まれたのはよりにもよってあの『弓と矢』というではないか!王宮になんと申し開きをすれば・・・」 「だいたい昨夜の当直はなにをしておったのだ!」 全員の視線が一人の中年女性に向けられた。 以前ルイズの練金でKOされた、ミセス・シュヴルーズだ。 シュヴルーズは青くなった。唇がわななき、目は泳いでいる。 やせぎすの男性教師がシュヴルーズに詰め寄る。 「確か、昨夜の当直はあなたでしたな。ミセス・シュヴルーズ。さぁ、昨夜にあったことを説明してもらいましょうか!」 シュヴルーズは黙り込んだ。言えない。言えるわけがない。まさか学院に賊が入るとは夢にも思わず、当直をさぼって部屋で寝こけていたとは。 男――ミスタ・ギトーは目を細めた。 「失態ですな。ミセス。この責任をどう取られるおつもりで?」 「わ・・・わたしは・・・」 おろおろと周りを見回すが、同情の視線こそ帰ってくるものの、助けに入ろうとするものはいない。 「まぁまぁ、そのへんにしておきなさい。」 しかし奥の扉から、オールド・オスマンが入ってきて助け船を出した。隣にはミス・ロングビルが控えている。 「しかし、ミセス・シュヴルーズが当直をさぼったおかげで、みすみすフーケの進入を許したのですぞ!この責任をどう取らせるおつもりですか!」 よっこらしょ、とオスマンは椅子にすわった。 「この中に当直をまじめにやったことのあるものはおるかの?おらんじゃろう。それがたまたまミセスの担当日だっただけで、別の日であったとしても、同じことじゃったろう。」 教師たちは黙り込んだ。皆思い当たる節があるのだ。 「わしらは油断しておったのじゃ。まさかメイジの巣たる魔法学院に入るような盗賊がいるわけがない、とな。だから生け贄を探すようなまねはやめなさい。あえて責任を問われるとすれば、学院の長たるこのわしこそがそれにふさわしいじゃろうの。」 ミセス・シュヴルーズはオスマンの手を握り、ひざまづいた。 「ありがとうございます!ありがとうございます!」 うむうむ、とシュヴルーズを労う。 「それにまだすべてが終わったわけではない。わしらで『弓と矢』を取り戻せばよいのじゃからの。」 部屋がシンと静まり返った。 一人の教師がおそるおそる手を挙げる。 「あの・・・王宮に報告して、衛兵を派遣してもらえばいいのでは?」 「だめじゃ。これから王宮に使いを出しておったら、間に合うものも間に合わなくなる。それに、仮にも貴族なら、自らの失敗の責任を自らで取る義務があるはずじゃ。」 もう言い返すものはいない。 「よいかな?それではまず、昨夜の報告から聞こうかの。ミス・ヴァリエール。ミスタ・コーイチ。二人は昨夜フーケと交戦したと聞いたが・・・」 室内がどよめいた。 ルイズは口をきゅっと引き結び、オールド・オスマンの前に進み出た。 「はい。昨夜フーケが巨大なゴーレムを使って宝物庫に進入するのを見ました。捕まえようとしたのですが、力及ばず、逃げられてしまいました。」 本当なら、ここでフーケを捕まえたと報告したかった。そうすれば、みんなに認めて貰えたのに・・・。 オスマンは髭を撫でた。 「では次に、ミス・ロングビルから報告をしてもらおうかの。」 もう、すでに自分は報告を受けているのだろう。手を組み、不安げな教師たちの様子を眺めている。 オスマンの後を受けて、ミス・ロングビルが手元の紙をめくった。 「あれから聞き込み調査を行ったところ、近在の農民からの、フーケらしき男をみたという目撃証言がありました。そしてその居場所らしきところも、もうつかんであります。」 な、なんですと!?教師たちがどよめく。 「その証言者によると、フーケはここから半日ほど先にある森の中の小屋に入っていったそうですわ。」 「要するにじゃ・・・。今回は幸運にも、フーケの居所がつかめているというわけじゃ。」 オスマンはすっくと立ち上がった。 「よって、学院から盗まれた『弓と矢』を我々の手で奪還する!我こそはと思うものは名乗り出よ!」 賢者オールド・オスマンの一喝であった。 しかし名乗り出るものはいない。お互いがお互いの顔を見まわす。 誰かが解決してほしい。しかし自分が危険な目に遭うのは嫌だ。と顔に書いてある。 「どうした!おぬしらには貴族としての誇りがないのか?」 しかし答えるものはいない。 そんな中、一人、決然と手を挙げるものがいた。 「ルイズ!」 「ミス・ヴァリエール!?」 そう、先ほど目撃談を証言し、それで役目を終えたと思われていたルイズである。 「わたしが行きます。」 ルイズには覚悟があった。「貴族としての誇り」。自分が手をあげることで、それが得られるのならば。フーケをむざむざ逃がしてしまったという汚名を返上する機会が与えられるのならば! 「本気かね?」 オスマンは静かに訪ねた。 「はい。」 決意は固い。 それまで黙りこくっていたコルベールが叫んだ。 「取り消しなさい。ミス・ヴァリエール!生徒に解決できるような問題ではありません!」 「だって、先生方は手をお挙げにならないではないですか!」 ぐっ、とコルベールは言葉がつまらせた。 生徒を止めたい。しかし、志願せず、どこかの誰かに責任をゆだねようとした自分に彼女を止められるだけの言葉はない。 今まで黙って聞いていただけだったキュルケがルイズと同じだけ、前に進み出た。 「では、あたしも志願いたしますわ。」 「キュルケ!なんであんたまで・・・!」 ルイズは驚きの声をあげた。 キュルケは優雅に髪をかきあげた。 「ヴァリエールだけに手柄を取らせたとあっては、ツェルプストーの名が泣くわ。」 するともう一人、杖を上げて進み出るものがあった。タバサである。 「タバサ!あなたまで付き合う必要はないのよ!?」 「心配。」 タバサは一言だけ、ぼそりとつぶやいた。 感極まったキュルケはタバサを抱きしめた。 しかし、それでは収まらないものたちがいる。学院の教師たちである。 自分たちは行きたくない。しかし、生徒に生かせては教師として立つ瀬がない。 「学院長!危険すぎます!ここはやはり王宮に応援を頼むべきです!」 ミスタ・ギトーが教師たちの心中を代弁した。 しかしオスマンは、憤る教師たちを制した。 「彼女たちは貴族としての義務を果たすべく、自ら志願したのじゃ。それを止める道理はあるまい?」 「しかし・・・」 「それに、彼女たちがただの学生だと思ったら大きな勘違いじゃ。たとえば・・・」 タバサに目を向ける。 「ミス・タバサはこの年でシュバリエの称号を持っておる。この意味は分かるじゃろう?」 シュバリエとは貴族階級の最下級である騎士位のことである。 子孫に継承することすらできない、一代限りの位である。だからこそ自らの手で手柄を立てなければ持つことのできないということでもあり、実力と経験を証明する特別な称号なのだ。 「それに、そこなミス・ツェルプストーは、代々火の優秀なメイジを輩出しつづけ、ハルケギニアにその名を轟かすツェルプストー家の者であり、本人も相当に卓越した火の使い手と聞いておる。」 キュルケがただでさえ大きい胸を張った。 「そしてミス・ヴァリエールは・・・」 今度はルイズが小さい胸を精一杯張った。 えーっと・・・。オスマンはしばらく中空に言葉を探し、ゴホンと咳払いを一つ。 「ミス・ヴァリエールは非常に努力家であり、今回のフーケ発見も、夜遅くまで魔法の練習をしていたからだと聞いておる。それに、爆発の呪文に長けており、トライアングルクラスのミス・シュヴルーズすら一撃で昏倒する威力と聞く!」 物は言いようである。 「そして、彼女の使い魔は、平民ながら、ドットメイジとしては頭一つ抜けておるギーシュ・ド・グラモンとの一騎打ちに見事勝利した使い手である!」 「おお、なるほど!!」 コルベールがぽんと手を打った。 「ガンダールヴの力があれば、いかにフーケといえども・・・」 「おーっと、頭に蚊が止まっておるぞコルベール君ッ!!」 コルベールが何かをいおうとした瞬間、オスマンの杖が最近殊に薄くなってきたハゲ頭を目にも留まらぬ早さでぶったたいた。 昏倒するコルベール。 コルベール先生も知ってたのかぁー!? 事情を知る康一は、危ういところだったと青くなった。 事情を知らない教師たちはぽかんとしている。 「・・・何でいきなり?」 「うむ。蚊は危険じゃぞ。病気を蔓延させたりするし、夜枕元でプンプンいわれると、気になって眠れなくなったりするからの。」 誰がどう見ても不自然だった。しかしオスマンは持ち前の威厳で無理矢理乗り切ることに決めたようだ。 「さぁ、こんなことは大事の前の小事である!蚊などに気を取られることなく、見事『弓と矢』を取り返してくるがよい!勇者たちよ!」 教師たちは不可解ながらも、まぁそんなものか。と思うことにした。 「ところで、その『弓と矢』というのはいったいなんなんです?聞く限りはそんなに大騒ぎするものとも思えないんですけれど。」 コルベールとかその辺は心底どうでもいいキュルケが手をあげた。 「うむ。いい質問じゃな。」 話題を逸らせてほっと一息のオスマン。 「宝物というからにはもちろんただの弓矢ではない。いや、正確に言うとない『はず』じゃ。」 「はず・・・といいますと?」 「わしも含めて誰もその『弓と矢』が特別なところを見たわけではないからじゃ。見た目もそこまで変わっておらんんし、魔力も感知できん。」 「じゃあただの弓矢なんじゃないですか?」 ルイズが思ったまま疑問を述べた。 「うむ。しかし、あの「『弓と矢』にはトリステイン王家に代々伝わる伝承があるのじゃよ。伝承にはこうある。『此の矢世に出すべからず。平民これを手にするとき、悪魔現る。世界を滅ぼす災厄なり。』とな。」 教師たちはもうその伝承を知っているのであろう。驚く様子はない。しかし、初耳の生徒たちにとっては衝撃的である。 「世界を滅ぼす・・・とは大きくでましたわね。」 キュルケもそういうのが精一杯である。 しかし正直なところをいうと、嘘臭い。 それが顔に出ていたのだろう。オスマンはふぅーっと長く息を吐いた。。 「気持ちはわかる。じゃが実際王家にはこういった伝承が数多くのこされておる。やれ、風よりも早く飛ぶ船やら、始祖の残せし魔導書やら、数え上げるとキリがない。」 「わしもそれが本当かどうかは知らん。じゃが、それでも王家が先祖から守るように言い遣ったものじゃ。盗まれました、なぞと言おうものなら王家の面目は丸つぶれじゃよ。だからなんとしても取り返さねばならん。」 それにしても・・・。ロングビルが眉根をよせた。 「わざわざ平民に渡すな、としているあたり。どう使うのかが疑問ですわね。」 「そうじゃのぉ。魔力もない、形も普通となると、鏃に毒でも塗られておるのかもしれん。もしくは撃って初めて効果が現れる類なのかものぉ。だからといって、実際試してみようというものも今までおらんかったが・・・。」 「そうですわね・・・。」 ロングビルはなにやら考え込んでいるようだ。 「まぁなんにせよ、道案内は必要ですわ。私がその証言にあった小屋までお連れしますね。」 「おお、そうしてくれると助かるのぉ!」 いくら実力があるとはいえ子ども達だけに行かせるのは心配だ。信頼できる大人がついていってくれればこちらとしても安心である。 では、用意が出来次第、出発するように!とオスマンが最後に言って、この場は解散となった。 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔
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食事はきっちり全員分作られてある。ギアッチョが貴族の分を食べたため―― ルイズの分の食事はなくなってしまった。するとどうなるか?ルイズは使い魔の責任を取って、本来ギアッチョが食べるはずだった実に貧相な朝食を食べる 羽目になってしまったのだ。生まれて初めてのことである。 「それもこれも・・・全部あのクサレ眼鏡のせいよッ!!」 食堂に来たとき以上の怒りを撒き散らしながら、ルイズは教室に向かった。 さりげなく罵倒のランクも上がっている。 「ていうかあいつちゃんと掃除してるんでしょうね・・・もし教室にいなかったら飯抜きだわ!」 ブツブツ文句を垂れながら教室の戸を開く。 はたしてそこにギアッチョはいた。ぼんやりと宙を見つめて座っている。 「ちょっ・・・どこに座ってんのよあんた!降りなさい!」 「学生ならよォー 誰でも座るだろォ?怒ることじゃあねーだろ」 「座らないわよ!ここは平民の学校なんかとは違うんだからね!」 「やれやれ」ギアッチョはそう呟くと教卓から飛び降りた。 「文句ばっかじゃあ人はついてこねーぜお嬢様よォ~」 「ここまで酷い仕打ちにあって文句を言わない奴がどこにいんのよッ!!」 正論である。しかしギアッチョは動じない。 「リゾットの野郎は文句一つ言わなかったぜ 『お前はそういう奴だからな・・・』 とか何とか言ってよォオォ」 「あんたそれどう考えても諦められてるじゃない!」 等と無駄な問答がしばし続き― 「ハッ!肝心なことを忘れてたわ!あんたちゃんと掃除したんでしょうね!」 ようやく本題に気付いたルイズが辺りを見回すと・・・ 意外ッ!それは完璧ッ!! 「うッ・・・美しい程に磨かれているわッ!!あんた一体どんな魔法を使ったの!?」 「何も・・・別に元々掃除は嫌いじゃあねー」 ルイズはそこで理解する。こいつはキレさえしなければマトモな奴なのだと。 「・・・ん?」 キレさえしなければ。 「・・・ギアッチョあんた 念のために訊くけど・・・ 私の部屋も綺麗に片付いたんでしょうね?」 「・・・・・・」 ―ルイズは頭痛と共に確信する。 「・・・壊したのね」 「・・・まぁ そういう説もあるな・・・」 「・・・あーそう・・・」 ルイズはもはや怒る気力もなくなっていた。隣でギアッチョが「椅子の形が気に入らねェんだよ椅子の形がよォォォーーー」等と呟いているので恐らく壊れたのはそれだろう。 全くこいつを召喚してしまってからというもの本気でロクな事がない。「私は今世界で一番不幸な貴族だわ・・・」とルイズは一人ごちた。 始業の鐘が鳴り、教師が入ってくる。シュヴルーズと名乗ったその教師は、開口一番 「おやおや、面白い使い魔を召喚したものですね ミス・ヴァリエール」 とのたまった。本人に悪気はないのだろうが、ルイズにその言葉はかなり 堪えた。「こいつと一日一緒に過ごしてからもう一度言ってみなさいよ!」と言いたかったが、勿論教師にそんなことが言えるわけもない。 しかしそんなルイズの胸中も忖度せず、一人の生徒がルイズをからかい始める。 「ゼロのルイズ!召喚出来ないからって、その辺歩いてた平民を連れて 来るなよ!」 周りでドッと笑いが起きる。 「うるさいかぜっぴきのマリコルヌ!私はきちんと召喚したもの!こいつが 来ちゃっただけよ!」 「嘘つくな!『サモン・サーヴァント』が出来なかったんだろう?それと俺は風邪なんかひいてない!」 二人はギャーギャーと言い争いを始めた。罵り合いは次第にエスカレートし、やる気かと言わんばかりに二人がガタンと席を立ったところでシュヴルーズは 杖を振った。彼女の魔法によって糸が切れたように着席した二人を交互に見て、ミセス・シュヴルーズは仲裁にかかる。 「お友達をゼロだのかぜっぴきだの呼んではいけません。わかりましたか?」 マリコルヌはニヤニヤと笑みを浮かべながら言った。 「ミセス・シュヴルーズ。僕のかぜっぴきはただの中傷ですが、ルイズのゼロは事実です」 マリコルヌは自分で言って大笑いする。が、そのバカ笑いは突然ピタリと止んだ。 「はガッ!?ぼ、僕の口にィィ こ 氷がァァァ!!」 マリコルヌの口は、いつの間にか氷でガッチリと覆われていた。 ルイズはハッとして床に座らせていた己の使い魔――ギアッチョを見る。 「氷を床から伝わせて奴の口を封じた・・・ ゼロだか何だかしらねーが 恩人がバカにされてんのを見んのはいい気分じゃあねーからよォォ~~」 「・・・ギアッチョ・・・あんた・・・」 この学院に来て以来、ルイズは誰かが自分をかばってくれたことなど一度もなかった。 昨日自分を助けてくれたキュルケだって、普段は数百年来の怨敵の間柄である。 ―むしろ彼女がどうして体を張ってまで自分を助けようとしてくれたのか、ルイズにはまずそれが分からなかったが―つまりギアッチョは、ルイズにとってここで初めての味方だったのだ。 ルイズは一瞬だが、今までギアッチョに受けた仕打ちなどすっかり忘れて、この男を召喚出来たことを始祖ブリミルに感謝した。 ミセス・シュヴルーズは授業を開始した。マリコルヌの口はしばらくふさがれていたが、息が苦しいのかウーウー唸るのが煩わしくなってきたのでそのうちギアッチョに解除された。 そのギアッチョは真面目に授業を聞いている。やっぱり 平常でさえあればマトモな男なのだろう。意外と勤勉なのかもしれない、とルイズは思った。 「そういえば何度か妙な雑学を披露してたわね・・・」 まぁ問題は披露の度にブチキレる事なのだが。そんなことを考えていると、「ミス・ヴァリエール!」 突然先生に名前を呼ばれた。 「は、はいっ!」 「使い魔が気になるのは分かりますが、そちらばかり見ていて授業を疎かにしてはいけませんよ」 「ち、ちがっ・・・」 「口ごたえをしない!ではあなたにこれをやってもらいましょう ここにある石を、望む金属に変えてごらんなさい」 「え?わ、私がですか?」 シュヴルーズがルイズを指名した途端、生徒達から一斉にブーイングが起こる。 「まってくださいミセス・シュヴルーズ!」「ルイズに魔法を使わせるなんて自殺行為 です!!」「・・・イカレているのか?この状況で・・・」等々、まるでルイズが魔法を使うと死人が出るかのような狼狽ぶりである。 ルイズは正直やりたくなかった。 彼女の魔法が成功したことなどサモン・サーヴァントを除けば殆ど皆無なのだ。 しかし――彼女はちらりとギアッチョを見る。 ――使い魔の前で主が逃げ腰になるわけにはいかないわ! ルイズは「覚悟」を決めた。クラスメイト達にとってはこの上なく迷惑な「覚悟」だったが。 「やります!」 と言うがはやいか、ルイズは教卓に向かって歩き出していた。石の前に立ち、 杖をかざし、呪文を唱え始める。ギアッチョは興味深げに見守っていたが、 それにしても周囲の声が尋常ではない。「その魔法を出させるなァーーー!!」 だの「う…うろたえるんじゃあないッ! ドイツ軍人はうろたえないッ!」だの、 あまりにも怯えた声が聞えてくるものだから流石のギアッチョも何だか 分からないなりに用心の構えをとることにした。 ―私は出来る、やれば出来る子よ!そうよ、サモン・サーヴァントだって 成功したんだから! そしてルイズは呪文を発動させる! カッ!! 一瞬の光の後、 ドッグォオオオォオン!!! 運命は覆らなかった。石を中心に広がった爆風は石や机の破片を撒き散らし、逃げ遅れた生徒は殆ど例外なくその餌食になった。間近にいた ミセス・シュヴルーズは、ちょっとお見せできない顔で地面に倒れている。 とっとと机に潜り込んで難を逃れていたキュルケは、はたと思い当たってギアッチョの姿を探した。 ギアッチョは―座っていた場所を1mmも動いてはいなかった。少し驚いたような顔はしていたが・・・彼の体には一箇所たりとも傷はなかった。 そして更に奇妙なことに、ギアッチョの体から大体半径50cm程度の範囲に飛来したと思われる破片は、全て宙に浮いて止まっていた。 ――バカな・・・この一瞬で爆風と破片全てを「止めて」しまったというの!? 一人眼を見張るキュルケをよそに、ギアッチョは呼吸と共にスタンドを解除し、宙に浮いていた破片はそれと同時に一斉に地面に落下した。 ――なんて「パワー」なの・・・ この男 ギアッチョ・・・やはり危険だわ! キュルケは出来うる限りの範囲でこの男を警戒することを心に決めた。 「あーもうッ!全然終わらないじゃない!!」 ルイズは箒を片手に喚いていた。 「そりゃあそーだろォォォ 教室の半分をフッ飛ばしゃあよォォ」 2人は今掃除中である。ルイズは始終ぶつぶつと文句を言っているが、教師の不注意ということで十数人を医務室送りにした事を問われなかったのだから、むしろここは喜ぶべきなのである。 「ったく・・・どうしてこの私がこんなことを・・・」 「てめーがブッ壊したからだろ」 この学院では、選択も掃除も全てメイドが行っている。勿論ルイズの実家でもそうだったので、彼女に掃除の経験など全くなかった。 「あんたのおかげであんな惨めな場面を衆目に曝されるハメになるし、 その上あんたの代わりに使い魔のご飯は食べるハメになるし、おまけに魔法も失敗してこんな平民の仕事をやらされるハメになるし・・・全部あんたのせいよこのバカ使い魔!!」 「後半2つは関係ねーだろ」 「うるさい!ていうかあんたも手伝いなさいよッ!さっきからそこに座ったまんまで何にもしないじゃない!」 ルイズはギロリと半分壊れた教卓の上のギアッチョを睨む。 「ここを爆破したのは俺じゃあねーぜ」 「主の不始末は使い魔の不始末よッ!」 さっきの「覚悟」のことなど、少女はすっかり忘れ去っていた。 自分で言って恥ずかしくねーのかこいつは、と思ったギアッチョだったが、これ以上ギャーギャー騒がれると氷漬けにして窓からブン投げたくなるので仕方なく掃除を手伝うことにした。 「あんたはここからそっちまでお願い それと一つ言っておくけど、絶対にキレて物を壊したりしないでよ!」 「ここからそっちってほぼ4分の3じゃねーか、ええ?おい まあそれでもお前がそこを掃除し終えるよりは早く片付くだろーがよォォ」 こうして互いが互いをいつまでも罵り合いながら、教室の掃除は進んでいった。 午前の授業の終わりを告げる鐘が鳴る。それとほぼ同時に、2人の掃除は終了した。 「はぁー・・・やっと終わったわ・・・ 掃除なんてもう二度とやらないんだからね!」 誰に向かって宣言しているのだろうか。 「やりたくねーならちゃんと魔法を勉強するこったな」 ビキッ! ギアッチョの何気ない一言は―ルイズの逆鱗に触れてしまった。 「・・・てるわよ・・・」 「ああ?」 「してるわよッ!!」 ルイズは幼い頃から魔法も使えないメイジとしてバカにされてきた。自分を見下している奴らを見返すために、彼女は常の他人の何倍も努力をしている のだった。それを、知らないとはいえ自分の使い魔にバカにされたのだ。 ルイズが怒るのももっともである。 「ええそうよ、私は一度も実技を成功させたことのない『ゼロ』のルイズよ!! だから何!?勉強なんて腐るほどしてきたわよ!!練習だって毎日毎日死ぬほどやってきたわ!!腕から血が出るまでし続けたこともあったわよ!! サモン・サーヴァントが成功した時私がどれほど喜んだか分かる!? それをッ・・・!!どうして何も知らないあんたに言われなくちゃならないのよッ!!」 激昂して喋るルイズの眼には涙が浮かんでいた。彼女はそれを乱暴にぬぐいとると、バン!!と激しく扉を開けて駆け出していった。 「・・・・・・チッ」 誰に向けてのものだったのか、ギアッチョは舌打ちをしながら走り去って行く彼女の後姿を眺めていた。 ギアッチョは食堂に来ていた。怒っていても根が真面目なルイズの事だ、今朝のような事態にさせないためにも食事には来るだろうと考えたのだ。 食堂を見回してみると、やはりルイズはそこにいた。まだ怒りが冷めていない のがここからでも分かる。キュルケなどがいつになく真剣に怒るルイズを いぶかしんで話しかけていたが、ルイズは「うるさい!」の一点張りで取り合おうとしない。 「チッ!」 先ほどよりも大きく舌打ちして、ギアッチョはルイズの元へ向かった。 「まだ怒ってんのかよ ルイズよォォ」 「・・・うるさい」 ルイズはギアッチョとまともに顔をあわせようともしない。 ―・・・やれやれ ギアッチョは心の中で嘆息すると、ルイズに向き直った。 「・・・さっきは悪かったぜ お前が勉強してるかも知らずによォォあんなこと言っちまうのは・・・『礼節』に欠ける行為だった 反省してるぜルイズ」 ルイズは耳を疑った。こいつがこんなに早く謝ってくるなんて夢にも思わなかったのだ。こいつは自分が思っているよりよほど礼儀の 分かる男だったらしい。ルイズは少しばつの悪そうな顔をしながらそこでようやくギアッチョに顔をあわせた。 「・・・わ、分かればいいのよ ・・・・・・どうして魔法が成功しないのか分からないけど 私はいつも死に物狂いで努力してるんだから―もう二度とさっきみたいなこと言わないで」 「・・・ああ 分かったぜルイズ」 それを聞いてルイズは少し表情を崩し、そしてそれを合図にしたかのように祈りの唱和が始まった。 「偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ 今朝もささやかな糧を我らに与えたもうたことを感謝いたします」 貴族達の祈りが終わると同時に、あちこちでフォークとナイフの音が鳴り始めた。 「ところでよォォ オレの椅子が見当たらねーんだが」 「使い魔は床よ」 やれやれ・・・ギアッチョはもう一つ嘆息すると、もう一つルイズに尋ねた。 「で・・・オレの飯はどれだ?」 ルイズはちょいちょいと下を指差す。そこには見るからに硬そうなパンが小さく二切れ、そして意識して見なければ見逃してしまいそうな ほど小さな肉のカケラが2つ3つ浮かんだスープが置いてあった。 「・・・なるほどな・・・ こいつが使い魔用のメニューってわけか」 「そういうことよ 使い魔が食堂の中で食事をすること自体が 特例なんだから 始祖と女王陛下に感謝を捧げてありがたくいただきなさい」 とのご主人様の優しいお言葉に、 ブッチィィィィ―――――z______ンッ!! 今度はギアッチョの怒りが爆発した。
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「俺はお前に……近づかない」 センサーに反応しない敵。謎の吐血と剃刀。 黒衣の男は音も無くウェザーの背後を取り、音も無く攻撃を始めていたのだ。 「チィッ!」 ウェザーは男に向かい薙ぐようにして拳を振るった。 しかし男はそれを大仰に飛びずさってかわす。 「うおおおぉぉぉぉぉッ!」 ウェザーは雄叫びを上げながら一直線に窓に向かった。敵に背を向けることは危険でもあるが、敵のホームグラウンドに居続ける事の方が危険と判断したのだ。もしもこの屋敷に仕掛けがあるのならば尚のこと危険である。 窓を破って道に転がり出ると、後ろには目もくれずに駆け出していった。 無言でそれを見送った男も、程なくして闇に溶けて消えた。 先程までの喧騒が嘘のように静まり返った一帯には、熱帯夜にしては冷たい風が吹いた。 背筋の凍るような、鉄のように冷たく鋭い風が―― 『Do or Die―6R―』 しばらく走ったウェザーは、居住区からやや離れたところにある空き地へ駆け込んだところでようやく振り向いた。 追って来る足音は聞こえなかったが、黒衣の男は自分を追ってここに必ず来るだろうとわかっていた。 あの男は自分に姿を見せている。それはつまり『貴様を必ず始末する』という意味だ。そして同時に絶対の自信の表れでもあるだろう。 能力は未知数だが向かって来てくれるというのならば好都合だ。わかっていることも幾つかある。 まず第一に男はスタンド使いないしスタンドの存在を知っている者である。これは男が《大仰》に拳をかわしたことでわかったことである。 そうでなければ破れかぶれの攻撃をわざわざ距離をとってかわす必要は無いのだ。スタンドが見えるからこそ、知っているからこそその射程を恐れて大袈裟に距離をとった。 そして第二に、男は接近戦を得意としない。もしくは中・遠距離が本領なのかもしれないが、背後を取っておきながら致命打を撃ってこないのは近距離パワー型ならまずありえない。 だからこそこの開けた空き地をウェザーは選んだ。細工を弄する物も無く隠れる場所も無い、能力が自由に使える場所。 ウェザーは注意深く辺りを見渡しながら、改めて空気のセンサーを巡らせる。今のところ空気に大きな乱れは無い。 だから、ウェザーが自らの背後に無数のナイフが浮いていたとしても、知覚できるはずがない。 「はっ!」 そのナイフの群れが殺到したところでようやくウェザーは背後の危機に気付いた。 咄嗟に『ウェザー・リポート』で防ぎはするも、何本かは腕や腹部に突き刺さる。 「ぐううあッ!」 傷口を押さえて蹲ったところに、再びナイフの群れが襲い掛かる。だが、その切っ先は無防備な背中に刺さる前にボロボロと錆びて地面に落ちて行った。 「はーっ、はぁー……『ウェザー・リポート』で酸素濃度を上げた。遠距離攻撃はもう効かんッ!」 姿は見えないが、既にこの場にいるであろう敵に向かって言い放つ。それは事実でもあるが牽制でもあった。 ウェザーは刺さったナイフを抜きながら視線で周囲を探る。センサーには今だ反応は無く、周囲に変化は無い。 どこからの攻撃なのか。次は何を仕掛けてくるのか。一度凌いだとはいえ未だに謎は解けてはいない。 と、ウェザーは不意に頬に張りを感じた。飴でも転がしたような、内側からのふくらみ。そして―― 「う、うボァ!」 爆ぜるようにして頬から無数の釘が飛び出した。遠距離でも近距離でもない、内側からの攻撃にウェザーは目を白黒させた。 しかし、今の攻撃である程度の謎が解けた。 「剃刀、ナイフ、釘――それらを空中、あるいは俺の体内から飛ばす能力。《鉄を操る能力》あるいはそれに類する能力だな?そしてそうだとするのならば、もう一つの謎もわかってくる」 今までセンサーに反応させずに攻撃してきた敵だが、それはセンサーに反応しないのではなく、空気中の埃や地表の鉄を空中で掻き乱して空気のセンサー全体を反応させていた。 「云わば空気のジャミング……すごいスケールだ、大した奴だよ。鉄を操るとするのならば、この釘や剃刀は俺の体内の鉄分から作り出したもの……そして、今もう一つわかったことがある」 ウェザーの手には先程まで腹部に刺さっていたナイフが、勢いよく回転していた。 「鉄が引っ張られている!それはつまり《磁力》こそがお前の能力である証!ジャミングの距離から見て射程距離はおよそ十メートル!ならばッ!」 そしてその刃はある方向を指し示して止まる。 「見つけたぞッ!」 ウェザーの身体はガンダールヴの恩恵により、十メートルをまるで滑るような速度で詰めた。そして拳を振り上げる。ここに来てセンサーが強く揺れているのがわかった。 「くらえッ!『ウェザー・リポート』!」 確信を持って振りぬいた拳は、しかし虚しく空を切った。そこにあったのは肉片とそれに張り付く亡霊のような気味の悪い《何か》だけだ。 「ロオォォ~ドォ」 「…………ッ!」 背後から哀れむような声がかかった。 「磁力を使うスタンドというその推測は当たりだが……残念。その手は織り込み済みだ」 ウェザーは幾度目かの体が内側から引っ張られる感覚を感じた。そして、やはりというべきか、再び剃刀が体から噴出す。 「おああぁ!」 「鼠の死体に『メタリカ』を付着させた。さっきそこで見つけたんだが、役に立ったようだな。空気のセンサーに風圧の拳、風を操るかその発展系の能力か……お前の挙動を観察しておいて正解だったな」 「テメェ……部下との戦闘を全部見ていたのか!」 ウェザーは激昂するが男は淡々と話を続けるだけだった。 「……しかし今のお前の速さ……スタンド能力か?まあ、どうでもいい事だがな。風を操る近距離パワー型、それがお前の能力。射程距離2~3メートル……それがわかれば、やり方はもう既に出来ている」 つまらなそうに呟いて再び景色へとその姿を溶け込ませていく男。 だが、すぐにその顔色も変わることとなった。もっともウェザーには見えていないのだが。 二人のいる空き地一面に霧が立ち込めているのだ。夕立が降った後とはいえ、あまりにも唐突に。 「カメレオンやタコやイカは自らの体色を変えることで背景に溶け込む……だが人間にそれはできない。ならばお前はどうやって姿を隠すのか」 言葉を紡ぎながらウェザーは地面をなぞる。 「答えはずばり砂鉄だ。ガキの頃に磁石で遊んだことがある。砂鉄でアートを書く奴もいるそうだ。ロンドンの街並みから荒野の景色まで――そう、まるで今のお前のようにな!体に砂鉄を被り、景色に擬態している!」 指先に付いた砂を擦り落とせば、風に巻かれてどこかに消えた。 「そして今度こそ!捉えたッ!」 白く染まった空き地の中に、ぽっかりと穴が開いている。まるで人が一人立っっているかのような穴が。 「この霧……!風のほかにも水分を操れるのか、お前のスタンドは!」 感覚によるセンサーが封じられたのなら、肉眼で捉えるまでだ。 距離にして五メートルはない。一歩踏み込めば『ウェザー・リポート』の射程距離だ。 「次は外さねぇ――」 再度駆け出そうとしたウェザーの脚は、しかし立ち上がることすら出来ずに崩れ落ちてしまった。 「な、なに?」 体中から力が抜けていた。夏の夜にしては自分の体が冷え切っているのをウェザーは確かに感じていた。指先が震えて体を支えるのが精一杯な程だ。呼吸が苦しく、吸っても吸っても楽にはならない。 そして一番の異変は、その流れ出る血液の変色だった。赤みが消え黄色くなっている。 「なるほどな、恐らくは天候を操る能力だったか。いい一手だったんだがな……言ったはずだ。やり方は既にできている、と」 男の声がする。ウェザーが顔を上げてみれば、霧の中に幾つもの穴が開いていた。男は磁力で霧の中に擬似の人影を作り出しているのだ。 これではせっかくのウェザーの霧も意味を成さなくなってしまった。 ダメ押しとばかりに、ウェザーの脚から剃刀が飛び出し、ウェザーは地に伏せてしまう。 「血液中の鉄分を体外に取り出したんだ、お前の身体は酸素を供給できなくなっている。何をしたところでもう遅いんだ……お前はもう既に出来上がっているのだから」 そして男は死刑宣告をする。 「色のない血液を流して死ぬがいい」 「オオオオオオッ!」 搾り出すような咆哮と共に、ウェザーを中心にした旋風が巻き起こる。それは、砂を巻き上げ霧を飛ばし、男の作り上げた擬態さえも―― 「そろそろやってくる頃だろうと思ったぞ」 ウェザーの後ろからその声は降ってきた。既に男はウェザーの行動を見越して機をうかがっていたのだ。 「貴様は弱り焦り、一気に勝負に出ようとした!力なく隙だらけ、そしてこの距離!十分殺れるッ!」 驚愕するウェザーに振る向く暇も与えずに、その脳天から剃刀が現れる。その殺気から止めに出たことが伝わってきた。 ウェザーも何とか手をうとうとするが、どうやっても体が言うことをきいてくれない。 「う……おおぉあ……!」 消えゆく命が見せたのは走馬灯だった。一度目の誕生と一度目の死、そして二度目の誕生から今までのことを、一気に垣間見経験した。 そしてその中である言葉を思い出す。 ペルラ徐倫アナスイFFエルメェスエンポリオプッチギーシュキュルケタバサアニエスフーケ――――ルイズ! 「終わりだッ!頭を切り飛ばすッ!止めだ、くらえ『メタリカ』ッ!」 バッシュオォォ!と、肉の裂ける音がした。 だが裂けたのはウェザーの額ではなく、リゾットの足だった。爪先から赤い筍でも生やしているかのような光景。 何が起きたのか理解できていない様子のまま、男はその足を動かした。そして再びその足の肉を裂いてしまう。 「な!…………!?」 混乱する男の耳に氷が出来上がるような、何かが凝固するような音が聞こえてきた。それも幾つも幾つも。 辺りには幾つもの赤く鋭利な突起物が出来上がっていた。 「これは……これもお前の能力なのか!?赤い……血?まさかッ!」 「コントロールは……出来る……単純でいい……今回ばかりは素早く行くがな……」 「乾燥か!血を吹き上げて乾燥させて固めて……血の槍をッ!あの旋風は血を撒き散らすためかッ!」 「どうした?スタンドのパワーが弱っているぞ」 ハッとした男が顔を上げた時、既にウェザーは目の前に迫っていた。何とか離れようとする体を、絡みつくような風が逃がしてはくれない。 男は驚愕するしかなかった。体格から考えても限界近い出血量に、ダメ押しに脚を切り裂いた。おまけに酸素を供給できない体のどこにこれほどの力が残っていたというのか。 ウェザーが男を捕らえる。 「あいつらの為にも……お前だけは……ここで倒すッ!」 振り上げた右手には何か光る文様が見えた。 「くそっ……」 「『ウェザー・リポート』ッ!」 渾身の一撃が、男の腹部に突き刺さった。鈍くエグイ音がして、男は大量の血を吐き出した。 「終わりだ!このままテメェをぶっ殺す!」 ◆ 男はレストランに座っていた。黒衣の男がやけに目立ってしまう真っ白なレストランで、目の前のテーブルには皿が幾つか置いてあるだけだった。チーズや魚料理などが置いてあったはずのそこにはもう何もなく、雑炊にいたっては地面にぶちまけてしまっていた。 ――俺は何をしていたんだ。ボスに付けられた首輪を外すために反逆し、仲間を失いながらついにボスに辿り着いたものの敗れ、死んだ。 なのに俺はあの世にもいけずに、再び生かされ首輪をはめられた。そこには何もなかった。仲間も、目的も。何もなかった。虚無の業火がこの身を焼き続ける生き地獄。 ただ楽になりたくてここまで来た。言われるがままに。だが……それも終わる。 エンジン音を上げてやってきたバスが止まり、人影がやって来るのがわかった。その数は六つ。男の口からなぜか笑いが漏れた。 ――これで終われる。やっと……あいつらのもとに逝ける。 そして影が目の前に来たところで立ち上がろうとした男は、しかしその胸倉を掴まれて乱暴に引き起こされたのだ。そして、全力で殴り飛ばされた。 理解できずに地面に転がされた男の頭上から激昂した声が圧し掛かる。 「いいかッ!オレが怒ってんのはな、てめーの《心の弱さ》なんだリゾット!そりゃあ確かに限界を超えて襲い掛かってきたんだ、衝撃を受けるのは当然だ!《予想外》なんだからな。オレだってヤバイと思う! だが!オレたちのチームの他のヤツならッ!あともうちょっとで脳天を吹き飛ばせるってスタンドを決して解除したりはしねえッ!たとえ腕を飛ばされようが脚をもがれようともなッ! オメーは諦めちまってるんだよリゾット!動かなかった。甘ったれてんだ!分かるか?え?オレの言ってる事。《予想外》のせいじゃねえ。心の奥のところでオメーには諦めがあんだよ! 立ち向かえリゾット!《反逆》しなきゃあオレたちは《栄光》をつかめねえ。あの男には勝てねえ!そして今改めてハッキリと言っておくぜ。 オレたちチームはな!そこら辺のナンパ・ストリートや仲良しクラブで《ブッ殺す》《ブッ殺す》って大口叩いて仲間と心を慰めあってる様な負け犬どもとは訳が違うんだからな。 《ブッ殺す》と心の中で思ったならッ!その時スデに行動は終わっているんだッ!」 再び胸倉を掴んだ男を別の男が制した。 「お前はいきなり過ぎるんだよプロシュート。見ろよ、リゾットが目ェ白黒させてんぞ。ったく、しょおおがねーなあ~。でもよお、楽じゃあなかったろ?たかが《死ぬ》のもさ」 その男の言葉を引き継いで別の男が言う。 「アンタはやっぱりリーダーだからさ、ただ《死ぬ》なんて出来なかったんだろう?頭は死にたがっても、本能が、誇りがそれを許可しない……だろ?」 そう言って肩を叩かれる。 「まあ、あんたとは積もる話もありそうだけど、もうちょい頑張ってくれよ。そっちの奴らにも見せてやろうぜ。俺達チームの《覚悟》ってのをさ。それならディモールト・ベネだ」 「積もる話の積もるってよぉ……」 「お前はそれしかないのかよ」 後ろから出てきた二人も視線を送ってくる。そしていつの間に前に出てきていたのか、最後の一人がリゾットと呼ばれた男を見た。 「リーダー……今の俺ならわかるよ。今までアンタがやってきた《覚悟》の本当の意味が。だからリーダー!勝ってくれ!」 リゾットを立たせると、六人の男たちは背を向けてバスへと向かっていった。 「じゃあなリゾット!先にいってるぜ。ソルベとジェラートも地獄で待ってるんだとさ!」 「ベネ!今度は地獄の鬼共相手に縄張り争いってわけか」 「おい~、覚悟はできてんだろうなあオメーら?」 「ふっ、これしきのこと、日常茶飯事だろう」 「敵のボスは閻魔ってところですかね、兄貴」 「栄光はお前にあるぞ、リゾット」 肩や胸を叩きながらそう言い残してバスに乗り込んでいく。再びエンジン音を上げてバスは発車する。運転席を見る限り、彼らは運転手を脅してここに立ち寄ったらしい。 まったく暇な奴らだと、リゾットは溜め息をついた。 そして地面に落ちた雑炊の皿を持ち上げてみる。 中身がこぼれたとはいえ皿にはまだいくつかご飯粒が残っていた。 出された食べ物は残さず食べるのが食事のマナー。跡を残さず消すのが暗殺者のマナーだ。 とすれば、まだ己にはやることがある。 リゾットは自らの首に手をかけると、何かを掴み投げ捨てる《仕草》をして見せた。不思議と、それだけで体が随分と軽くなった気がした。 そしてその体で外へ出た。足は自然と、バスとは反対方向に向かっていた―― ◆ 腹に突き刺さったウェザーの腕を掴んで男――リゾットは言う。 「『ブッ殺してやる』ってセリフは…終わってから言うもんだぜ。オレたち《ギャングの世界》ではな!」 すると腹部の傷口から溢れていた血が杭となり、ウェザーの腕とリゾットの体を固定したのだ。 そして勢いよくウェザーに頭突きをかまして、額を擦り付けるようにしながら宣言した。 「この距離なら小細工は無しだ。どうする?もう後には引けなくなった……お前がどんな選択をしようと、俺は押し通るまでだ」 「……面白いッ!さっきまでの死人みたいな目とは大違いだな!だが勝つのは俺だッ!」 「決めるのはお前ではないッ!」 ウェザーはこのまま拳を貫ければ勝ち。リゾットはウェザーの頭を吹き飛ばせれば勝ち。 今、男たちの最終ラウンドが始まった。 「『ウェザー・リポーォォーット』!!」 「『メタリカァッ』!!」 お互いの全力のスタンドが発動された。巻き上がる砂塵。緊張する空気。そしてまるで時が止まったかのような静寂が訪れた。 トスッ。 静寂を破ったのはウェザー――その頭から落ちた帽子だった。 その音が合図となり、二人は倒れ伏した。 奇妙な沈黙は再び続いた。 だが、そのしばしの後に、立ち上がったのはウェザーだった。額から痛々しく飛び出す剃刀が、音もなくその形を失くしていく。倒れ伏すリゾットには動く気配すらない。どころか、呼吸している様子すらないように思えた。 敵の様子を見たウェザーは安堵し、しかし勝ち名乗りを上げることすら出来ずに再び背から地面にダイブしてしまった。 細々とした呼吸音だけが聞こえていた。もはや疲労困憊。瞼すら自力で起こせそうにないほどに消耗したウェザーは、滅多な事では起きることが出来ないだろう。 そう、例え隣で倒れていた男が立ち上がろうとも―――― To Be Continued…