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前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 ゼロのルイズの使い魔。広瀬康一のハルケギニアでの一日は、桶に水を汲んでくることから始まる。 水場で自分の顔を洗い、水を汲む。この水でルイズに顔を洗わせる。 次はルイズを制服に着替えさせるわけだが、最近ルイズは康一に手伝うように要求してこなくなった。 相変わらず背を向けて待つ康一から隠れるように、もぞもぞと着替える。何かの拍子に目が合うと、顔を赤くして怒る。 以前は裸になっても恥ずかしがらなかったのに、謎である。 朝食の頃合になると、康一はルイズからバスケットを受け取って外に出る。 最近は内容がかなり豪勢になっている気がする。 というか、ハルケギニアの朝食は総じて重いことが多いうえに、厨房のマルトー親父が「たくさん食べて大きくなれよ!」との愛をこめて、どんどん料理を豪勢にし、さらに肉をてんこ盛りにするので、康一はちょっとげんなりしてしまう。 質素でもいい、母さんが作ってくれた味噌汁が恋しい。 だから、食べきれない分は、最近仲良くなった他の使い魔たちに分けてあげることにしている。 先日タバサやキュルケを乗せていた青い竜(風竜というらしい)と偶然会った際に食べきれない肉をあげたら、他の使い魔たちもわらわらと寄ってくるようになったのだ。 最近の食事は、厨房の裏手にある使い魔たちのたまり場でとることも多い。 授業の時間は、康一もルイズに付き添って出席することにしている。 使い魔である康一は本来出てもしょうがないのだが、何気なく聞いているうちに面白くなってきたのだ。 本来は勉強が好きではなかったのだが、こちらの世界のことを少しでも知りたいという『必要性』が康一の意欲を支えていた。 「もう床はいいから、椅子に座りなさいよ!」 とルイズが言うので隣に座らせて貰っているが、他の生徒たちも何も言わない。 ただ、キュルケがタバサを連れてやってきて、康一をルイズと挟む形で座ってしまうので、キュルケに恋する男たちの視線が背中に突き刺さるのが最近の悩みの種である。 どうしても納まりきらない男が、康一に嫌味を言ってきたり、もっと直接的に侮辱してきたりすることもある。そういうときは、だいたいキュルケの合図で、フレイムがこんがりと焼いてくれる。 ただ、キュルケが居ないときに、一度数人の貴族に囲まれたことがあった。 「平民の癖に・・・」「ゼロの使い魔の分際で・・・」と詰る男たちの前に、かわりに立ちはだかってくれるものがいた。 あの決闘で因縁のあったギーシュである。 ギーシュは言った。 「ミスタ・コーイチは僕を相手に、立派に自らの実力を証明してみせた。その彼を平民と侮るなら、それは僕への侮辱と見なす!」 文句があるなら「青銅」のギーシュが相手になるぞ!そういってギーシュが見栄を切ると、男たちは鼻白んで退散していった。 所詮貴族相手に本気で対立するほどの覚悟はないのである。 康一が礼を言うと、ギーシュは照れくさそうに鼻を掻いた。 「君はこの『青銅』のギーシュに打ち勝った男だからね。その君が馬鹿にされるのが我慢できないだけさ。」 そして改めて、ルイズを皆の前で侮辱したことに謝罪した。 潔い謝りっぷりに「なんだ。以外といいやつじゃあないか。」とその謝罪を受け入れた康一は、ギーシュとそれから機会のあるごとに話す仲になった。 実は、あの鼻っ柱をへし折られた決闘の後、一気にカリスマ性を失ったギーシュを哀れに思ったモンモランシーが戻ってきてくれ、よりを戻したらしい。得なやつである。 そんな風にしてギーシュといろんな話をしていると、ギーシュの友人達とも自然と仲良くなっていった。 こうして、召喚されてから二週間もすると、康一の周りには常に人が集まるようになっていった。そして、康一の隣にはいつもルイズがいた。 それまでいつも一人だったルイズである。急にクラスメイトたちで賑やかになった学校生活に、最初ルイズは戸惑い気味だった。 しかし、みんなから好かれる康一と一緒にいると、わだかまりのあったクラスメイトたちとも自然と打ち解けることができた。 こうして一日を終え、二人揃ってルイズの部屋で寝る前には、ベッドのうえでいろいろな話をするようになった。 ルイズはハルケギニアのことを康一に教え、康一は杜王町のことをルイズに話した。 話が由花子さんの段になると、ルイズはしかめ面をして、疑わしそうな目で見た。 「あんた、前から時々恋人がいる、恋人がいるって言ってたけど、まさか本当なわけ?」 見栄張ってるんじゃないでしょうねー、と言わんばかりである。 「まさかって、まだぼくがうそついてるとか思ってたの~!?」 大仰に目をひん剥いてみせると、ルイズはなぜか目をそらした。 「・・・あんたの恋人ってどんな人?」 康一は目を閉じて、由花子さんの顔を脳裏に描いた。 すらっとした体型。整った鼻筋。きめの細かい肌。長く艶やかで、きらきらと光を放つ黒髪。そしてなによりも、あの強くまっすぐな瞳。 由花子の容姿を話して聞かせると、ルイズはどんどん不機嫌になっていった。 「男より頭ひとつ分大きい彼女なんて、似合わないわ。」 ルイズはそっぽを向いたまま、ネグリジェの裾をぎゅっと握り締めた。 「それをいうと、ぼくと付き合ってくれる女の人なんてほとんどいなくなっちゃうなぁ~。」 康一が笑うと、ルイズは口を尖らせた。 「別に・・・あんたより小さい女の子なんてそこら中にいるわよ。」 それだけ言って毛布に包まった。 「そうかなぁ~。」 康一は知り合いの女性たちの身長を思い出してみたが、自分より低い人は思いつかなかった。 こっちではタバサが自分より低いだろうが、あれは明らかに子どもだからノーカウントである。 でもルイズがこうやって毛布を被るのは、これで話を打ち切りにするという合図だと分かってきた康一も、そろそろ寝ることにした。 部屋の明かりを消す。 明日あたりオールド・オスマンに会いに行ってみようかな。 杜王町に帰る方法をそろそろ本格的に探してみよう。 そう心に決めて、目を閉じる。 静かになった部屋で、毛布から頭だけ出したルイズが、何か言いたげに見つめているような、そんな夢を見た。 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔
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前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 ルイズと康一は二人の男性と向かい合い、ソファーに腰を下ろした。 一人は先ほどの中年男性、コルベール。そしてもう一人の老人をコルベールは学院長のオールド・オスマン氏と説明した。 一言で言うと、『まるで魔法使いみたい』な容姿である。深緑のローブ、傍らには長い樫の杖を置いている。 白い顎鬚を長く垂らし、それをいじりながら康一のことを興味深そうに見ている。 一見何も考えてなさそうな顔をしているが、康一はその目の奥に深い知性の光を見た気がした。 まるで、ジョセフ・ジョースターさんのようだ。 「ふむふむ、君がその平民の使い魔かね。・・・なるほど、いい面構えをしているのぉ。」 その一言に、康一の隣に座っているルイズは露骨に『そうかしら。チビだし、彫りも浅くてハンサムとはいえないと思うけれど・・・』という顔をした。康一と目があって、またぷいっと横を向く。 オスマンはほっほっほと笑って、康一に尋ねた。 「それで君はどこから来たのかね?」 「日本です。いや、えっと、鏡に飲まれたときはイタリアのネアポリスにいたんですけど・・・。」 「日本、イタリア、ネアポリス・・・と。それはどのへんにある国なのかね?」 「どのへん・・・ですか。えーっと、日本はユーラシア大陸の東側にある国で、イタリアは逆にユーラシア大陸の西側、ヨーロッパの中にある国です。ネアポリスはイタリアの都市の名前で・・・」 康一は懸命に世界地図を思い浮かべた。 「ふーむ・・・コルベット君。」 「コルベールです、オールド・オスマン。」コルベールが訂正する。 「おお、そうそう。コルベール君じゃったの。今彼が言った国の名前を一つでも知っているかね?」 オスマンは尋ねた。 コルベールは困ったように首を横に振った。 「いや、全く聞いたこともありませんね。ハルケギニアの外の話でしょうか。エルフの住まう、サハラよりも更に東方の国のことなら、我々が知らないこともあるかもしれませんが・・・」 「(サハラ砂漠なら知っているぞ!)」と康一は言おうとした。 しかし、日本とイタリアは、まさしくサハラ砂漠を挟んで東と西である。二人の話とは大分食い違いそうなので、康一は黙っておくことにした。 オスマンはコルベールと話を続けている。 「そうか。わしも長く生きておるが、そんな国の名前は聞いたことがない。彼の話は本当だと思うかね。ゴルバット君。」 「コルベールです。オールド・オスマン。彼の言っていることが本当かどうかはわかりません。」 コルベールは少し言いよどんだ。 「ただ・・・私は先ほど彼の不思議な力を体験しました。いきなり自分の体が重くなったような・・・」 「ほう。重くなった、とな。見たところメイジでもなさそうなこの少年がそんなことができるとも思えんが・・・ちょっと君。えーっと、なんという名前じゃね?」 「康一です。広瀬康一。」 「そうか。ではミスタ・コーイチ。その不思議な力を、わしにも見せてくれるとうれしいのじゃが・・・」 「嫌です。」康一はむげも無く断った。 「なぜじゃね?」 「ぼくはここにそんな話をしに来たんじゃないからですよ。この状況を説明してくれるっていうからここにきたんですよ!説明しないならぼくを早くもといた所に返してください!」 いい加減我慢も限界に近づいていた康一は立ち上がって叫んだ。 康一はまだこれがスタンド攻撃であることを微塵も疑っていなかった。 「まぁまぁ。ミスタ・コーイチ。そうかっかなさるな。聞きたいことがあるならいくらでも説明するからまずは座りなさい。」 康一は不満そうにしながらもしぶしぶ腰を降ろした。オスマンは手を組んで身を乗り出した。 「興味深いことだが、どうやら君は我々のことをよく知らないらしい。ここがどこだか分かっているのかね?」 「知りませんよ!さっきもいいましたけど、いきなり鏡のようなものに吸い込まれて、気がついたらあの草原にいたんです!」 「ここはトリステインの魔法学院じゃよ。聞いたことはないかね?」 「ま、魔法学院?」 さっきからちょくちょく言ってるけど、魔法ってなんだ。もしかしてドラクエとかFFとかで出てくる魔法のことじゃないだろうなー。 康一はからかわれているのかと不安になった。 「魔法って・・・なんです?」 「魔法も知らないなんてどんなところから来たのよ!」ルイズが信じられないものを見るように言った。 「ミス・ヴァリエール?」 コルベールが静かにするよう促すと、ルイズは黙り込んだ。 「おほん。魔法というのはじゃね・・・こういうもののことじゃよ。」 オスマンはそういうと懐からコインを一枚取り出した。 杖を手に口の中でむにゃむにゃと呪文を唱えると、それまで机の上に置かれていたコインがふわりと浮かびあがった。 「う、浮いてる!?」 康一は驚いた。部屋を見回してもスタンドの姿は影も形も見えない。 もしかして・・・馬鹿げているとは思うが、本当に魔法とやらが存在するのだろうか。さっきみんなが飛んでいたのも魔法の力? 康一はめまいを感じた。 「これは『レビテーション』という魔法じゃ。そして先ほど君は『サモン・サーヴァント』という魔法でここに召還されたようじゃの。」 「さっきも言ってましたね。『使い魔』がどうとか・・・」 「うむ。『サモン・サーヴァント』は使い魔を召還するものじゃ。使い魔とはメイジの・・・そうじゃな。助手のような仕事をする。」 オスマンはこれがわしの使い魔、モートソグニルじゃ。といってハツカネズミを見せてくれた。 「普通はこのように人間以外の動物や幻獣が呼び出されるものじゃが、今回はどうしてか人間である君が呼び出されてしまったようじゃの。」 「じゃあ、これはなんです?そこの女の子に・・・えーっと、『キス』されたらこんなのが刻まれちゃったんですけど。」 康一はルイズのほうをチラッと見ながら、左手に刻まれた印を見せた。 「き、キスじゃないわよ!契約よ契約!誰があんたなんかとキスしたりするもんですか!」 ルイズは康一以上に顔を真っ赤にした。 オスマンはまぁまぁと二人を宥めた。 「メイジは使い魔を召還すると、『コントラクト・サーヴァント』で使い魔と主従の契約をするのじゃよ。それは通常口付けによって行われるんじゃ。それはその証のようなものじゃの。」 「いやですよ!なんでぼくがこんな我が侭な子のペットみたいなことをしなくちゃいけないんだっ!」 康一は声を荒げた。 由花子と出合った頃別荘に閉じ込められたときのことを思い出した。 あの時も石鹸を食べさせられそうになったり、電気椅子に座らせられそうになったりと人間扱いされなかったが、今度は正真正銘のペットにされてしまうという! 「うむ、君のいうことはもっともじゃ。わしとしても君を帰してあげたいのはやまやまなんじゃよ。」 じゃが・・・とオスマンは背もたれに身を預けた。 「じゃが、あいにく我々は君のいた国がどこにあるのかすら分からんのじゃよ。」 「そんな・・・」康一はがっくりと肩を落とした。 「こっちに呼び出したのなら、送り返す呪文はないんですか?」 「うーむ、通常は使い魔になることを同意しているものが召還されるから、送り返す魔法なんてものはないんじゃよ・・・」 つまりぼくはその『サモン・サーヴァント』ってやつで、魔法の国なんていうゲームの世界みたいなところに、使い魔にするために連れたわけだ。 しかも帰る方法はないという!康一は頭を抱えた。 「そこでじゃね。どうじゃろう。しばらくこちらで使い魔としてやっていく気はないかね?」 「はぁ!?」康一は顔をあげた。 「使い魔召還の儀式はメイジとして生きていくうえでは避けて通れないものでの。そこのミス・ヴァリエールが2年生に進学するためには今、君という使い魔がどうしても必要なのじゃよ。」 ルイズは顔を俯かせた。 そんなこと知るもんか!と叫ぼうとした康一をオスマンは押しとどめた。 「それに想像してみなさい。見ず知らずの世界で、行くあても先立つものもないんじゃろう?食べるものはどうするかね?屋根がない生活はつらいぞい?替えの服はもっているかね?」 「ぐっ・・・」康一は反論しようとしたが、できなかった。確かに自分はこのわけのわからない世界で身分を保証するものはなにもないのだ。 「少なくとも使い魔として生活するならばミス・ヴァリエールのメイジとしてのプライドにかけて衣食住は保障される。ミスタ・コーイチの故郷のことはわしも興味があるし、調べてみよう。」 オスマンはウインクをして見せた。 「どうじゃ。それまで使い魔として生活してみんか。ミス・ヴァリエールは進学でき、ミスタは住む場所を得る。ギブ テイクというやつじゃの。」 オールド・オスマンは右手と左手でそれぞれ二人を指差した。 指差されたルイズと康一はお互いに顔を見合わせた。 結局その後も言葉巧みに説得され、康一はしばらく使い魔として暮らしていくことを同意させられてしまった。 なんだか上手く乗せられたような気がしないでもないが、実際他にどうしようもないのだからしかたがない。 ルイズは先に部屋を出ている。これから康一が住む場所に案内してくれるらしい。康一も彼女の後を追おうと立ち上がった。 「最後に一つだけいいかの?」オスマンが康一に声をかけた。 「なんです?」 「帰る前に、その『重くする魔法』を使ってみてはくれんかね?わしも魔法を見せた。これもギブ テイク、じゃよ。」とにっこり笑ってまだ浮いたままのコインを指差した。 康一は溜息をついた。断ろうかとも思ったが、確かめたいこともあった。 「ACT3。」 『YES!MASTER!』 康一が呼ぶと、突然テーブルの上に白い人影が浮かび上がり、オスマンとコルベールは思わず仰け反った。 康一はその様子を見て確信した。 「(やはり・・・見えている・・・)」 「こ、これがその『ゴーレム』とやらかね?」 「ゴーレムじゃなくて、『スタンド』ですけれどね。ACT3!そのコインを重くしろ!」 『S.H.I.T!』 ACT3が空中のコインを両手で触る。 すると、ズン!!という音を立ててコインが黒檀のテーブルにめりこんだ。 「おおおお・・・」オスマンとコルベールは立ち上がった。 「私はさっきこうなっていたのですね!」 コイン一枚でこの重さだ。自分が受けていた圧力を思うとぞっとした。 「うむ、半信半疑じゃったが、まさか本当にこんなことが・・・『スタンド』とは、いったいなんなのじゃね?マジックアイテムの類かと思うのじゃが・・・」オスマンは問いかけた。 「え~っと、ギブ テイク、ですよね?」康一は尋ねた。スタンドはもう消えている。 「うむ、それがどうかしたかの?」 「じゃあこれより先は、帰る方法が分かってからってことで。」 康一はにっこりと笑った。くるりと背を向ける。 オスマンは驚いたような顔をして、それから額を叩いて笑った。 「ほっほっほっほ!こりゃ一本とられたの!」 「それじゃ、失礼しま~っす。」康一は扉から頭を下げるとバタンと扉を閉めた。 外に出ると、ルイズが遅いじゃない!といいたげな目で康一を待っていた。そして、「こっちよ。」と歩き出していく。 康一は「(ひょっとしてぼくはとんでもない約束をしちゃったんじゃないだろうなぁー)」と先行きにどんよりとした不安を感じながらツカツカと揺れる、自分よりも小さな桃色頭についていった。 康一が出て行った後、コルベールはテーブルに埋まったコインに手を伸ばした。 完全にめりこんでしまっているが、もう重くはなっていないようだ。爪を立ててようやく引き起こし、つまみあげた。 「大したものですね。ハンマーで叩いてもこうはなりませんよ。」 コルベールは、裏返したり弾ませたりしてみたが、やはりただのコインだ。 オールドオスマンはその様子を横目で見ながら言った。 「実はの。今そのコインが重くなっている間、わしはレビテーションをかけ続けていたんじゃよ。力を測ろうと思っての。」 「そ、そうだったのですか!?それで、どうでした?」コルベールは目を輝かせて聞いた。 オスマンはただ首を振った。 「全力で持ち上げようとしたが、ピクリともせなんだ。底が知れんよ。」と背もたれに体をあずける。 コルベールは青くなった。あの大賢者と称えられたオールド・オスマンでもその力を測りかねるというのか。 「あの少年、何者なのでしょうか。『スタンド』とはいったい・・・」 自分達はひょっとして、生徒に得体のしれない「なにか」を押し付けたのではないだろうか。 オスマンはゆっくりと立ち上がると窓を開け、中庭を見下ろした。明るい太陽の光が差し込み、コルベールは目を細めた。 「『スタンド』とはなにか、彼がどこから来たのか。それはわしにもわからん。」 オスマンは何か遠くを見ているような目をして語った。 「じゃがのコンバートくん。あの少年は非常に澄んだ目をしておった。やさしく純粋で・・・まっすぐな目じゃった。ミス・ヴァリエールにとって害になることはあるまい、とわしは思うのぉ。」 そして振り向いて笑う。 「それどころか彼を召還したことは、彼女にとって・・・いや、もしかすると我々にとっても望外の幸運なのかもしれんぞ?」 コルベールは、そうだといいですけど・・・。と溜息をついた。 そして、私の名前はコルベールです。とだけ付け加えた。 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔
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抜ける様な青空、ただ広大な野原が広がる空間。そよ風が吹き、鳥がさえずりながら空を舞う。これ程のどかな場所であれば老若男女問わず、やれ野を駆ける、やれピクニックにでも来ようなり思うだろう。 ドッゴォォォォォォォン!! そう!こんな場違いな爆発音が聞こえなければの話だがッ! 少女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、はっきり言ってそこらのガキンチョじゃあ一発で覚えられる訳が無いほど長すぎるのだが、ルイズは困惑していた。 幾日も幾日も魔法を失敗し続け、いつの間にか「ゼロのルイズ」と言う不名誉極まりない渾名がつけられた。 このッ、誇り高きヴァリエール家のッ、三女たる自分がッ、という感情が勿論湧かなかった訳がない。 ただ、悔しかったのだ。 魔法がろくに成功しない。いいだろう、認めよう。 いつも失敗は決まって爆発であり、周りにかなりの被害も出しているのだろう。よし、これも認めよう。 あの、に、憎きツ、ツェルプストーを始め、周りの女よりも、そ、その、む、胸もないのもみ、認めようッ!ああ!自分は洗濯板だッ!大いに認めてやろうじゃあないかッ! それを引っくり返してやる程の力もッ!要素もッ!機会もッ! 悔しいのだッ!! 何一つ良いことがあった試しがない。 せめて、せめてこの時だけでもと、全身全霊をかけて臨んだこの儀式ッ! 術式が出来上がったのは問題なかった。だがッ! ドッゴォォォォォォォン!! よりによってこれだ。またアレだ。“爆発”だ。もうここまで来ると大爆笑だ。 美しく、気高く、力強い使い魔にきてほしかった。いや、くるハズだった。手ごたえは十分だった。 しかし、現実は非情である。 周りには爆発の余波で煙が立ち込め、視界が良くない。同期の皆が居たであろう人垣からは、 “また、ルイズは” “流石はゼロの・・・” などと聞こえてくる。ああ、またやってしまったのか。 そんな事を思い、気落ちしていたルイズであったが、次第に煙が晴れてくる。はて?目の前に人影の様なものが、影!?幾分かの救いを求めた彼女の眼前に、煙の向こうに現れたのは・・・・・ ・・・・鳥の巣の様な頭をした大男が倒れていた。 ZERO s BIZARRE SERVANT ―LEGEND IS ATTRACTED― ゼロの奇妙な使い魔-伝説は引かれ合う-
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前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 康一は、学院長室を退室すると、とりあえずルイズの部屋に行ってみることにした。 ひょっとしたらそろそろ起きてるころかもしれないし。 ガチャリと扉をあける。 ルイズはあどけない寝顔を晒して、すぅすぅと寝息を立てていた。 まぁ、三日間も寝ずにぼくの看病をしてくれてたんだもんなぁ。 もう少し寝かせておいてあげようかな。 康一はルイズを起こさないようにして部屋を出た。 そのへんをぶらぶらしてこよう。 お昼もかなり過ぎた頃にルイズは目を覚ました。 もぞもぞと起きあがり、きょろきょろと周りを見回す。 「コーイチ・・・?」 あいつどこいっちゃったのかしら。 ご主人様が寝てるってのに出かけてるなんて、いけない使い魔だわ・・・ ふと気づいた。 「あいつ・・・今日からどこで寝させればいいのかしら。」 当初は当然のように床に寝させる予定だった。 でもなぜか、今はそれが悪いことのように感じるのだ。 なぜかしら? 守ってもらったから? 嫌われたくないから? 「そ、そんなことないわ!あいつはただの使い魔だもの!」 じゃあ、この硬くて冷たい床に寝させる? 「・・・それはちょっと・・・」 ルイズは、んー、と唸った。 「そ、そうね。私は優しいご主人様だから、床は勘弁してあげるわ。床は!」 じゃあどこに寝させようか・・・ 自分の座っているベッドを見る。 大きなベッドである。 わたしもコーイチも小さいし、十分一緒に寝れる広さはあるわね。 「だ、ダメよ!ダメダメ!いけないわルイズ!結婚の約束もしてない男と一緒のベッドで寝たりなんかしたらお母様に叱られちゃう!」 だいたいあいつは犬っころだ!キュルケに誘惑されてだらしなく鼻を伸ばしていた。 一緒のベッドに寝たりなんか襲われ・・・ ルイズは康一の間の抜けた顔を思い出した。 「・・・襲われないわね。多分。」 大丈夫。子犬を抱いて寝るようなものだ。い、いや抱かないけど! ルイズは誰にでもなく言い訳した。 「まぁ・・・ちょっとしたごほうびってやつよね!変な気起こしたらひっぱたいてやるんだから!」 なんだかルイズはわくわくしてきた。 一緒のベッドで寝ていいわよ、って言ったらあいつどんな顔するだろう! ルイズはベッドを飛び出して、午後の授業に出ることにした。 次にルイズと康一が顔を合わせたのは夕食時のアルヴィーズの食堂である。 ひょっとしたら・・・と顔を覗かせると、ルイズはちょうど席についたところらしかった。 なぜか上機嫌なルイズに自分の夕食を渡された康一は、さて・・・と考えた。 「どこで食べようかな・・・。」 もう暗くなってきたし、外では食べたくない。 厨房に行こうか・・・でも、今はきっと忙しい時間帯だろうし、康一に構っている暇はないだろう。 そうしていると、暗闇の向こうから火の玉のようなものがふわりふわりと揺れているのが見えた。 「ま、まさか!あれ・・・・・・ひょっとして人魂ってやつですかぁー!?」 しかもその火の玉はこちらに近づいてくるように見える。 「ま、まさかこの世界にも幽霊がいるのかぁー!!」 杜王町の鈴美さんを思い出す。 しかし、その人魂が近づいてくるにつれ、人魂の下に大きなトカゲが浮かび上がってくる。 「ふ、フレイム?」 あれは確か、キュルケさんの使い魔、フレイムだ。 「なーんだ。びっくりした。お前だったのかぁ。」 康一はほっとした。そういえば、フレイムの尻尾は常に火が揺らめいている。なぜ、その辺に燃え移らないのかよく分からないが、そういうものなんだろう。 フレイムは康一の足元に来ると、きゅるきゅると人懐こい声をあげて康一を見上げた。 「な、なんだ?ご主人様とはぐれちゃったの?」 康一は恐る恐るフレイムを撫でてみた。 あたたかい・・・。滑らかな鱗は確かに爬虫類なのだが、まるでサウナの壁を触ったときのような熱さがある。 やっぱこの世界の生き物って面白いよなぁ。でも、なんか可愛いな。でかいけど。 康一がその肌触りを楽しんでいると、フレイムがもぞもぞと近づいてきて、康一の夕飯が入ったバスケットをぱくりと加えた。 「アッ!こら!食べちゃだめだってば!それはぼくのごはんだって!」 しかしフレイムは康一の抗議に耳を貸すこともなく、背中を向ける。しばらく歩いてからこちらに振り向く。 「・・・ひょっとして、ついてこいって言ってるの?」 きゅるきゅる。フレイムはバスケットを咥えたままで答えた。 しょうがないので、康一はフレイムについていくことにした。 フレイムを追ってしばらく歩くと、建物の中に入る。階段をのぼり、ルイズの部屋を通り過ぎ、ある扉の前で止まった。 「ここって、確かキュルケさんの部屋・・・だよね?」 フレイムが康一を見上げる。きゅるきゅる。 「入れっていうのか?でも、勝手に入っていいのかなぁ・・・」 康一は躊躇ったが、それでもフレイムがじっと康一を見つめてくるので、ドアノブに手を伸ばした。 「失礼しまーす。」 恐る恐る扉をあけて、顔を覗かせる。 部屋は真っ暗だ。しかし、カーテンからわずかに入ってくる月の光が、ぼんやりと椅子に座った女性のシルエットを浮かび上がらせる。 「いらっしゃいコーイチ。扉をしめてくださる?」 キュルケの声がしたので言うとおりにする。 「あのー、キュルケさん?暗くてよく見えないんですけど・・・」 康一がそういうと、キュルケが指を弾いた。 すると、康一の左右にある蝋燭に火が灯された。 奥に向かって順番に蝋燭の火が灯っていき、最後にテーブルの上にある燭台に火がついて、部屋の中をぼんやりと浮かび上がらせる。 テーブルには白いテーブルクロスをかけられ、アルヴィーズの食堂の料理が霞むようなご馳走が並べられている。 その向こうに、キュルケが座っている。いつもの大きく胸の開いた制服だが、マントは外している。 「待っていたわコーイチ。よろしければ、あたしと夕食をご一緒していただけないかしら。」 揺らめく蝋燭の光に照らされたキュルケは、あっけにとられる康一を見て妖しく微笑んだ。 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔
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アンリエッタとウェールズが出会ったのは今から三年前、ラグドリアン湖の湖畔にハルケギニア中の王侯貴族を招いて催された大園遊会の時期である。 毎日毎日、絶え間なく続く行事に辟易したアンリエッタはパーティを抜け出し、ラグドリアン湖で水浴びをしていたところ、偶然、散歩していたウェールズに見つかったのだ。出会った二人はたちまち恋に落ち、夜毎、抜け出してはラグドリアン湖の湖畔で逢瀬を重ねるようになった。 湖水に石が投げ入れられる音に、ファントムマスクをつけたウェールズは茂みから姿をあらわし、誰もいないことを確認すると、合言葉を口にした。 「風吹く夜に」 すぐに待ち合わせ相手からの返事が返ってくる。 「水の誓いを」 二人は相手の姿を認めると、ウェールズはマスクを、アンリエッタはフードを外し、駆け寄った。そのまま手を握り合い、ラグドリアンの湖畔を歩く。 二人が話すのは、このラグドリアン湖に住むという水の精霊の話や、アンリエッタが逢瀬という目的を知らせず影武者を頼んでいるルイズという少女についてなど、些細な話ばかりだ。アンリエッタはそれで構わなかった。大遊園会が終わるまでの限られた期間の、この夜の一時だけは彼女はトリステインの王女ではなく、ウェールズを愛する一人の女性でいられたのだ。 だが、二人は決して結ばれることはない。お互いに好意を持っていることを悟ってもいたし、口に出してもいたが、王族という身分は好きな相手と結ばれることが許される立場ではないのだ。もしも二人の関係が公に知られたら、二人はもはや顔をあわすこともできなくなるだろう。 ある時、ウェールズは無理に明るい声を作ってこう言った。 「ははは……、お互い面倒な星のもとに生まれたものだね。こうやって、ただしばらくの時間をともに過すときでさえ、夜を選び、変装して、影武者まで立てなければままならないとは! 一度でいいから、アンリエッタ、君と二人、太陽のもと、誰の目を気にすることもなくこの湖畔を歩いてみたいものだ」 それを聞くとアンリエッタは目をつむり、ウェールズの胸に寄り添う。 「ならば、誓ってくださいまし。このラグドリアン湖に住む水の精霊のまたの名は『誓約の精霊』。その前でなされた誓約は、違えられることがないとか」 「迷信だよ。ただの言い伝えさ」 ウェールズは微笑んだ。事実、水の精霊が人前に姿を現すことはほとんどないため、その言い伝えを確かめた者はいない。 「迷信でも、わたくしは信じます。信じて、それがかなうのなら、いつまでも信じますわ。そう、いつまでも……」 そういったアンリエッタの瞳から一滴、涙がこぼれ落ちる。ウェールズが優しく慰めるが、アンリエッタの悲しみは収まらない。ウェールズは現実を見るがゆえに、アンリエッタが傷つかないよう、冗談めかしたり、一歩引いたような態度を取ってしまうことがある。それがアンリエッタには悲しかった。 やがてアンリエッタはドレスの裾をつまんで湖の中へ入っていく。 「トリステイン王国王女アンリエッタは水の精霊の御許で誓約いたします。ウェールズ様を、永久に愛することを」 それからアンリエッタはウェールズにも促した。 「次はウェールズ様の番ですわ。わたくしと同じように誓ってくださいまし」 ウェールズは水の中に入り、アンリエッタを冷やさぬよう、抱きかかえる。アンリエッタはウェールズの肩にしがみつき、誓いの言葉を待った。ウェールズは困ったような顔でアンリエッタに呟く。 「誓約が違えられることはないなんて、ただの迷信だよ」 「心変わりするとおっしゃるの?」 ウェールズは黙祷するように考え込むと、神妙な面持ちで口を開いた。 「アルビオン王国皇太子ウェールズは水の精霊の御許で誓う。いつしか、トリステイン王国王女アンリエッタと、このラグドリアン湖の湖畔で太陽のもと、誰の目もはばかることなく、手をとり歩くことを」 それを聞いたアンリエッタはウェールズに顔を寄せ、聞こえぬように囁く。 「……愛を誓っては下さらないの?」 そのとき、湖面が光で瞬いた。 二人は顔を見合わせたが、それが月の光の反射なのか、水の精霊が誓約を受け入れたしるしなのか、二人にはついに分からなかったが、二人は寄り添い、いつまでもラグドリアンの美しい湖面を見つめ続けた。 第二十四章 怒りの日 前編 女王アンリエッタの侍女兼警護役を任じられているアニエスは、巡回中、ふと、中庭に視線をとめた。アニエスには平民であり、魔法は使えない。それ故に魔法以外の部分ではメイジに劣らぬよう、あらゆる鍛錬を欠かしていない。その鋭敏な感覚が、中庭に人影がよぎるのを見取った。気のせいか、自分と同じ、巡回の兵士かとも思ったが、何か勘に引っかかるものを感じた。 一瞬、主であるアンリエッタに報告すべきか迷う。しかし、女王は既に就寝しているはずの時刻である。それに一国の王の警護を平民一人に任せるわけもなく、各所には魔法衛士隊の精鋭が警護に配置されている。それでも巡回しているのは、アニエスの、少しでもアンリエッタの役に立ちたいという意欲の顕れである。 しばし後、違和感を確かめようと、アニエスは中庭へ足を進めた。 人影を見たと思った場所にたどり着き、周囲を見渡したが、特に異常は見られない。 気のせいだったか、と呟き、アニエスは声が出ないことに気がついた。 (これは……『サイレンス』?) そう思った瞬間、アニエスは横に跳んだ。直後、アニエスがいた場所を音もなく風の槌が通り抜ける。振り向くと、背後にいつの間にかフードを被った男が杖を構えて立っていた。どうやら音が出ぬよう、まず『サイレンス』をかけその範囲外から呪文で攻撃してきたらしい。 アニエスは相手を認識すると同時に、引き抜いた護身用の短剣を相手の心臓目掛けて投擲する。短剣は狙い過たず侵入者の胸に突き立った。他に賊がいる可能性を考え、腰に帯びた剣の柄に手をかけ、引き抜こうと力を込める。しかし、何百、何千と抜いてきたはずの剣は、ぴくりとも動かない。 「!?」 アニエスは剣の柄に目をやる。そこには何もいない。だが、まるで剣を押えつけられているような圧力をアニエスは感じた。戸惑うアニエスの身体を、無数の風の刃が襲う。吹き飛ばされ、倒れ伏すが、音が消されているため、物音ひとつ立たず、叫びすらあげられない。無念を思いながら、襲撃者を確かめようと顔を上げると、先ほど短剣を投げつけて倒したはずのフードの男が、短剣を引き抜き、背を向けて去っていくところだった。 (そんな馬鹿な……確かに……) 真っ赤に染まった短剣の刃を見つめながら、アニエスは気を失った。 アンリエッタは束の間の回想から戻ってきた。今のアンリエッタはラグドリアン湖のほとりではなく、トリステインの城の、女王となってから使い始めた亡き父王の居室にいる。 ベッドに横たわっていた身を起こし、脇のテーブルに置いてあったワインの瓶をつかむと、杯に注いで一気に飲み干す。女王になってからは、その重責にかかる心労とともに、以前はたしなむ程度だった酒量も、増すばかりである。ほとんどの決議はほぼ決定された状態で持ち込まれ、アンリエッタはその裁可を下すだけなのだが、今までほとんど飾りとして決断することもなかった彼女にとっては、それはかなりのストレスを伴っていた。今でも飾りではあるものの、女王ともなれば飾りなりの責任が発生しているのだ。その重圧の逃げ場として、アンリエッタは酒を選んでいた。酔えば眠れるからだ。とはいえ、まさ か酔っ払っている姿を臣下に見せるわけにもいかないので、こうして隠し持っているワインを夜中にこっそりと飲んでいるというわけだ。 再びワインを注ぎ、杯を煽る。 酔いが深まってくると、決まって先ほどのように十四歳の夏の、短い期間を思い出す。アンリエッタにとってはあの時間はほんのわずかな、生きていたと実感できていた、大切な思い出だった。酔いが深まってくると、今の現実が夢で、あの幸せな時間こそが現実なのであって欲しいと願うほどに。 「どうして貴方はあのときおっしゃってくれなかったの?」 顔を覆う手の下から涙が一筋流れ、しかし次の瞬間、はっとした。女王たる者、涙を流しているところを見られるわけにはいかない。慌ててそれをぬぐった。こんなことではいけないと思いつつ時計を見ると、もう夜も遅かった。明日には戦争を終らせるためにゲルマニア大使との折衝が待っていることを思い返し、最後の一杯を飲もうとグラスに手を伸ばす。 そのとき、扉がノックされた。 アンリエッタはガウンを纏うと、扉に向けて誰何した。 「このような夜更けに誰です?」 「僕だ」 その声を聞いたとき、アンリエッタは自分が知らぬ間に眠って夢を見ているのか、飲みすぎで酔っ払っているのだと思った。それほど衝撃的だったのだ。しかし、その疑念を打ち消すようにもう一度声がする。 「僕だよ、アンリエッタ。扉を開けておくれ」 「ウェールズ様……? 嘘よ、そんな……貴方はアルビオンで戦死なされたはずでは……。こうして風のルビーだって……」 アンリエッタは指をなぞる。そこには確かに形見の風のルビーがある。 「死んだのは影武者さ。敵を欺くにはまず味方からっていうだろう? それとも、僕が生きているのが信じられない? まあ、仕方ないね。では本物の証拠を聞かせよう」 しばらく相手は間をおくように黙る。ほんの数秒だったが、アンリエッタにはまるで何十分にも感じた。 「風吹く夜に」 ラグドリアンの湖畔で幾度も聞いたその言葉を聴いた途端、アンリエッタは警戒心も疑問もすべて忘れて扉を開け放った。 夢にまでみたその人物が、そこには立っていた。 「ウェールズ様…………。本当に、よくご無事で……」 「やあ、アンリエッタ、相変わらずだね。なんて泣き虫なんだ」 ウェールズはむせび泣きながら抱きついたアンリエッタの抱き返し、その頭を優しく撫でる。 「なぜ、もっと早くいらしてくださらなかったの?」 「すまない。だが、敗戦の後、敵軍の追求が厳しくてね。場所を転々としていて、このトリスタニアにも二日前にやってきたばかりなんだ。君が一人でいる時間を調べるのにも手間取ってね。まさか、死んだはずの僕が堂々と君に面会を申し込むわけにもいかないだろう?」 そう言うと、ウェールズはいたずらっぽく笑った。アンリエッタはその懐かしい笑顔を、笑っているような、すねているような、さまざまな感情がまざった表情で見つめていた。 「相変わらず意地悪ね。どんなに私が悲しんだか……。どんなに寂しい思いをしたか、貴方にはわからないのでしょうね」 「わかるとも。だからこうやって迎えに来たんじゃないか」 しばらく二人は抱き合っていたが、やがてウェールズは言った。 「アンリエッタ、僕と一緒にアルビオンへ来てくれ」 「ご冗談を! ウェールズ様はアルビオンへ戻るつもりなのですか? みすみす拾った命を捨てに行くようなものですわ!」 「それでも、僕は戻らなくちゃならないんだ。アルビオンをレコン・キスタの手から解放しなきゃならない。そのためにアンリエッタ、君が必要なんだ」 「そんな……、お言葉は嬉しいですが、無理ですわ。王女の頃ならともかく、わたくしは今や女王なのです。好むと好まざるとにかかわらず、国と民がこの肩の上にのっております。無理をおっしゃらないでくださいまし」 アンリエッタは首を振るが、ウェールズはその顎に手をかけ、瞳を覗き込みながら、更に熱心な言葉でアンリエッタを説き伏せにかかる。 「無理は承知の上だ。でも、勝利には、いや、僕には君が必要なんだ。負け戦の中で、僕は気づいた。どれだけ僕が、君を必要としていたかってことを。アルビオンと僕には勝利をもたらしてくれる『聖女』が必要なんだ」 アンリエッタは頭の中が痺れるような感覚を味わっていた。酔いと寂しさとが、愛しい人に必要とされているその感動を加速させる。 それでも必死にアンリエッタは首を振った。 「これ以上、わたくしを困らせないでくださいまし。お待ちくださいな、今、人をやってお部屋を用意いたしますわ。そのお話は明日、また……」 身体を離そうとしたアンリエッタの手をウェールズは優しく掴み、引き止める。 「明日じゃ間に合わない」 そしてウェールズはアンリエッタを抱き寄せ、彼女がずっと聞きたがっていた、そしてウェールズが決して言わなかった言葉をあっさりと口にした。 「愛してる、アンリエッタ。だから僕と一緒に来てくれ」 相手を騙す時に効果的なことの一つに、相手にとって都合のいい「現実」を語ることがある。極端な話、相手が切望している「現実」を提示さえすれば、そこに多少の矛盾があったしても、相手は都合のいいように解釈し、その矛盾から目をそらしてしまう。 そしてそれは一国の女王が相手であっても例外ではなかった。死んだはずの最愛の人が生き延びており、自分を愛し、必要としてくれる。その「現実」はアンリエッタを瞬く間に侵食し、冷静な思考も、王族としての義務感も遠い彼方へと押し流していった。 ゆっくりと、ウェールズはアンリエッタに唇を近づけ、何か言おうとしたその口はそれで塞がれた。 アンリエッタの脳裏に、ラグドリアン湖での甘い記憶がいくつも浮かんでは消える。その無防備な精神は眠りの魔法に抵抗することができず、アンリエッタは眠りの世界へと落ちていった。 シルフィードに乗ったルイズたち一行が王宮に到着したのは、深夜一時を回った頃だった。既にアンリエッタが連れ出されたことは王宮の者たちも気づいており、中庭は大騒ぎだったが、ルイズたちはかまわずその中央に降り立つ。 即座に魔法衛士隊が周囲を取り囲み、マンティコア隊隊長が誰何の声を上げる。しかし、隊長は以前にもこうやって降りてきたルイズたちを覚えており、その顔を見ると眉をひそめた。 「またお前たちか! 面倒な時にばかりやってきおって!」 そう毒づく隊長に、風竜の背から飛び降りたルイズは詰め寄る。 「姫様は!? いえ、女王陛下は無事ですか?」 答えを渋るマンティコア隊長の鼻先に、ルイズはアンリエッタから授けられた許可証を突き出す。 「私は女王陛下直属の女官です! 陛下直筆の許可証も持っているわ! 私は陛下の権利を行使する権利があります! 直ちに事情の説明を求めるわ!」 それを確認した隊長は流石に驚いたようだが、そこは軍人らしく上位権限者に従って説明を始める。 竜の背に乗っていたキュルケは、その様子を目を丸くして見ていた。 「ルイズったら、すごいじゃない。いつあんな権限を手にしたのかしら?」 「例の、タルブ平原の功績だ」 横にいたリゾットが説明する。 「ああ、なるほどね。あれだけのことをすれば、当然か。でも、ちょっと悔しいわね。水をあけられちゃったみたいで」 言葉とは裏腹に、キュルケは機嫌がよさそうに言う。ルイズの出世を喜んでいるのだろう。 「……ルイズはいい友人を得たな」 リゾットの呟きにキュルケは照れくさそうに笑うと、中庭に視線を移した。 「それにしても、すごい騒ぎねー」 中庭には松明を持った兵隊や、杖の先に魔法の明かりを灯した貴族が、あちこちに走り回っている。どうやら賊は逃走時に強行突破したらしく、各所に破壊の痕があった。 「貴方、みつからないようにしなさいよ?」 キュルケは竜の背でじっとしていたフーケに話しかけた。その口調にはからかいの響きがある。 だが、からかわれたフーケは無言で頷くと、フードを被り直し、下を向く。そのらしくない反応に、キュルケは拍子抜けした。フーケの性格なら、何か言い返すか、あるいは状況を楽しむように余裕を持って返すと思ったからだ。学院からここまでの二時間程の空の旅で、フーケは一言も口を利いていない。何か考え込んでいる様子だった。もちろん、それは今から会うであろう因縁があるという人物のことであろうことは想像に難くない。 「……ウェールズに会ってどうするつもりだ?」 リゾットが声をかけるとフーケはゆっくりと顔を上げ、頭を振ると、弱弱しく答えた。 「さあね……。ちょいと顔を見たいだけなのかもね……」 言葉とは裏腹に、その顔には好奇心はない。その表情から読み取れる感情は『困惑』だった。フーケ自身、どうしたいのか、決めかねているのだろう。 「……わかった。だが、油断するなよ。相手は俺たちの知るウェールズではないだろうからな」 フーケは再び考え込むように顔を伏せた。キュルケがため息をつく。 「まあ、仕方ないわね。助けてもらったこともあるし、いざというときはあたしたちがフォローするわ」 そこにルイズが風竜の背に飛び乗ってきた。 「姫様を攫った賊がラ・ロシェールの方へ逃げたわ! 国外に逃がす前に追いつかないと!」 「王宮から追撃は?」 「魔法衛士隊のヒポグリフ隊が向かってるわ! 私たちも急ぎましょう!」 場の空気が緊張したものになる。タバサが合図すると、シルフィードは飛び立った。 「低く飛んで! 相手は馬を使ってるらしいわ!」 シルフィードは一声鳴くと、あっという間に城下町を飛び出し、街道沿いに低空飛行を始めた。鋭敏な鼻先で風の流れを読み、夜の闇を物ともせずに飛んでいく。 トリスタニアからラ・ロシェールに向かう街道に何人もの人影や馬や、馬の身体に鷲の翼と嘴を持つヒポグリフが倒れている。彼らは王宮から誘拐された王女を助けるべく駆けつけた魔法衛士隊の一部隊、ヒポグリフ隊だったが、無残にもこうして野にその骸を曝すことになった。 「貴方は……一体、誰? なぜ、魔法衛士隊を……」 アンリエッタは殺害者であるウェールズに、肌身離さず腰に下げている水晶の光る杖を突きつける。 「僕はウェールズさ。……疑うのかい? なら、その魔法で僕を殺し、仇を討てばいい。君に疑われてまで生きている価値はない」 二人はそれきり沈黙し、次にアンリエッタの口から漏れたのは魔法の詠唱ではなく、嗚咽だった。 「僕を信じてくれるね、アンリエッタ」 「でも…こんな……」 「複雑な事情があるんだ。後で話すよ。僕を信じてついてきてくれ」 アンリエッタは項垂れて膝を突き、その場から動かない。ウェールズはアンリエッタの手をとると、優しくアンリエッタを立たせた。 「今はわからないかもしれない。ただ、君はいつかのラグドリアン湖の誓い通りにしてくれればいい。それともあの時から、君は変わってしまった?」 「……変わるはずがありませんわ。貴方に誓った愛は私のたった一つの生きる拠り所だったのですもの。私は貴方を永久に愛し続けます」 「そうとも。水の精霊の前での誓いは決して違えられることはない。君は己のその言葉だけを信じていてくれ。後は全部、僕に任せてくれればいい」 アンリエッタは自分に言い聞かせるように何度も頷く。自分の言葉と記憶に縛られた彼女には、それ以外の道はなかった。 『ヒヒ、よく言うぜ……』 その場に嘲笑が響く。アンリエッタは何の反応も見せない。まるでその声が聞こえていないようだった。だが、ウェールズはそれを軽く目線でとがめた。 『ククク……。しかし、どうする? 移動手段はなくなったが……』 その声なき声を聞いたウェールズが合図すると、周囲からウェールズ配下の騎士が起き上がった。その身体には先ほどの魔法衛士隊との戦いで致命傷とも思える傷がついているにも関わらず、彼らは無傷と変わらぬ動きを見せた。もはやアンドバリの指輪によって命とは別の動力で動いている彼らにとって、肉体の多少の損傷など、さしたる問題にならないのだ。死者の集団は一つの意思で動いているが如く、何の言葉も交わさずに黙々と戦闘で倒れた馬車を引き起こし、草むらの中へと散っていく。 シルフィードが警告の鳴き声を上げ、空中で停止した。ルイズたちが眼下をのぞくと、多数の人や動物の死体が転がっている。 「ここで待っていてくれ。安全を確認する」 そういいおいて、リゾットは風竜の背から飛び降りた。警戒しながら、地に倒れ伏している死体を調べていく。生存者がいるかもしれないし、相手の攻撃の方法が死体からわかるからだ。 リゾットの左手に持たれたデルフリンガーは黙ってその様子を見ていたが、あることに気がついた。 「王宮の衛士ばかりだな……」 倒れている死体はいずれも、トリステイン王国の紋章をマントに縫い付けている。そうでない人間の死体は一つもなかった。 「一国の精鋭メイジの一隊を相手に、一人の犠牲も出さずに圧勝できる戦力が敵にあると思うか?」 「よほど大人数ならともかく、あんまり考えられねえなあ……」 それきり二人とも沈黙する。 そうやって生存者の確認をしていると、一人、息のある騎士がいた。顔を確認すると、見覚えがある。 「ん……? こいつ……。こいつはまだ息があるな……」 「じゃ、上にいる嬢ちゃんたちを呼んで治療しようぜ」 「……いや、それはまだだな」 そうリゾットが答えた直後、周囲を囲む草むらから一斉に魔法が放たれる。 「リゾット!」 ルイズが叫ぶ。その攻撃はガンダールヴのスピードを持ってしても回避不能なタイミングに思えた。だが、リゾットはメタリカの磁力による反発を利用して爆発するような急加速を行うと、生存者を抱えたまま、魔法の合間を縫うようにしてそれらをかわしてのける。 デルフリンガーから安堵のため息が漏れた。 「ふぅ~、危ねえ……」 「やはり待ち伏せか……」 暗がりから拍手が響く。暗がりからウェールズたち、アルビオンの貴族が姿を現した。その姿を見て、リゾットはやはりウェールズが正気でないことを悟る。なんとなく表情に生彩というか、意思が感じられないのだ。 「お見事。まさか完全に避けられるとは思わなかったよ」 「待ち伏せは……予測できたからな……」 「ふむ……。どうしてだい?」 その言葉に、リゾットは地面を指差した。 「お前、頭脳が間抜けか? 馬車の轍が草むらの中に消えているし、ここに転がっている馬の数を見れば、お前たちが移動手段を失っていることは明白だ」 「なるほど」 素直に感心したような声を出すウェールズに、上空から声がかかる。 「ウェールズ皇太子!」 風竜の背のルイズに視線を投げかけると、ウェールズは微笑した。 「降りておいで、大使殿。いや、ミス・ヴァリエール」 風竜の背から降りてくるルイズたちを見て、ウェールズがふと、フーケに目をとめた。 「君は……」 「ふん、久しぶりじゃないか、ウェールズ。私を覚えてるかい?」 いいながらフードを外し、素顔を明らかにすると、ウェールズは僅かに目を見開いた。 「まさか……マチルダか? 無事だったのか……」 「はん! そうさ。あんた達、アルビオン王家に家をつぶされたサウスゴータの娘だよ」 「貴方、アルビオンの貴族だったの?」 ルイズが尋ねると、フーケは黙って頷いた。 「君がミス・ヴァリエールたちと一緒にいるのは意外だが……、いまさら何の用だい?」 「別に。ただ、あんたが王家にあるまじき醜態をさらしてるって聞いたから、哂いに来てやったのさ」 皮肉っぽい笑みを浮かべるが、ウェールズは微笑みを動かさない。 「悪いがマチルダ。僕は今、君に関わってるだけの暇がないんだ。君の家の運命には同情するが、ね……」 ウェールズがそういった途端、フーケの雰囲気が変わった。 「今……同情する、って言ったのかい?」 低い声で訊き返すと、ウェールズは微笑みを深くした。 「そう、僕だって君たちをあんな目には合わせたくはなかったんだが、王家の命に背いたのは君たちだ。気の毒に思ってもどうにもできなかったんだよ」 それを聞くと、フーケ、いや、マチルダ・オブ・サウスゴータはぶるぶると身体を振るわせ始めた。彼女の身体を貫くのは屈辱の怒りだった。 彼女はウェールズに再会して何と言ってもらいたかったのか、それは本人にすらわからない。謝罪の言葉を口にして欲しかったのかも知れないし、もしかしたら馬鹿にされることで自分とアルビオン王家が相容れないものであることを確認したかったのかもしれない。 だが、彼女がどれほど苦難の道を歩み、どれだけ苦痛を感じながら盗賊に身を落としたか、それを知りもしない癖に、その境遇に追いやった者の端くれに安易に同情される。これだけは許すことはできなかった。彼女の父の苦渋の決断と、自分の通ってきた道、それら全てを中途半端な思いやりと『気の毒』の一言に汚された気がしたのだ。 「ウェールズッ!」 その怒りは魔力となって迸り、マチルダは半ば無意識に一瞬で魔法を完成させていた。その唐突さ、そして速度に、その場で対峙していた者は誰一人反応することができず、気がついたときにはウェールズの身体は大地から生えた岩の槍によって貫かれていた。 「ウェールズ様!!」 悲鳴のような声と共に、ガウン姿のアンリエッタが駆け出してくる。槍は心臓を貫いており、常人ならば即死のはずだった。だが、ウェールズは水魔法をかけようとしたアンリエッタを片手で押しとどめる。 「心配はいらないよ、アンリエッタ」 ウェールズが身体を引いて石の槍を抜くと、見る間に傷が塞がっていく。 「無駄だよ。僕を殺すことは、君たちにはできない」 「何……だって……?」 フーケが呆然と呟いた。偽りの命を与えるとは聞いていたが、まさか殺しても死なない、というのは予想外だったのだ。 「分かって貰えたなら、退いてくれないか? 僕もアンリエッタの前で無用な戦いはしたくない」 そう告げるウェールズの隣に、アンリエッタはじっと佇んでいた。彼女に向けて、ルイズが叫ぶ。 「姫様、こちらにいらしてくださいな! 帰りましょう!」 アンリエッタはわななく様に唇を噛み締め、俯く。 「そのウェールズ皇太子は、ウェールズ様ではございません! クロムウェルの『アンドバリ』の指輪で蘇った亡霊です!」 ルイズの必死の訴えかけに、しかしアンリエッタは嫌々するように首を振ると、ルイズたちに告げた。 「ルイズ、道を開けて! 私たちを行かせてちょうだい!」 「姫様、何故です!? 姫様は騙されているのです! 今、姫様も目の前で見たではありませんか!!」 それを聞くと、アンリエッタはにこりと笑う。それは世界中の全てを敵に回すことを理解しつつ、なおかつそれを躊躇わない者の笑みだった。 狂気すら宿らせ、アンリエッタは高らかに愛を謳う。 「全て知っているわ。ルイズ、貴方は本当に人を好きになったことがないから分からないのよ。本当に好きになった人になら、何もかもを捨ててでもついて行きたいと思うものよ。嘘かもしれなくても、信じたいものなの。私は水の精霊の前で誓ったのよ。『ウェールズ様に永遠の愛を誓います』と。もう自分の気持ちに嘘はつけないわ」 「姫様!」 「命令よ、ルイズ・フランソワーズ。道を開けてちょうだい!」 ルイズはアンリエッタの決死の硬さを知った。例えトリステインを滅ぼすとしても、アンリエッタは行くというだろう。絶望に、杖を掲げ持つ手がゆっくりと下がって行く。 その手を、横から別の手がつかんだ。顔をあげると、リゾットだった。 「本当にそれでいいのか……?」 一言だけ問うと、じっとルイズを覗き込む。そのひたすらに深い目に、ルイズは自分の心の奥底まで見通されるような気がして、思わずルイズは目を逸らした。俯いたルイズをおいて、リゾットは前に出る。その表情や視線は常のような無表情なものだったが、何故かいつにない冷たさを感じさせた。 「ど、どきなさい……。これは命令よ」 搾り出すようにいうアンリエッタを一瞥すると、リゾットは淡々と、呟くように話し始めた。 「お前は自分が愛のために動いていると、思っているようだが……、それはただの逃避と裏切りだ……」 その言葉に、アンリエッタの身体が一瞬、強張る。 「お前は辛い現実から逃げるために、お前を慕う部下と国民を裏切り、その責任をウェールズに、誰よりお前を愛していたはずの男に押し付けている……」 氷のようだったリゾットの眼差しが、唐突に怒りの色を帯びる。 「それが彼らの、何よりウェールズ本人の信頼と尊厳をどれだけ踏み躙っているか、お前は分かっているのか……?」 今や、リゾットは怒りを隠してはいなかった。自分を信じてついてきた人間を裏切り、その尊厳を踏み躙る。それはリゾットにとって最も許せないことの一つだった。ボスを裏切った動機も組織への忠誠と信頼を裏切られ、ソルベやジェラートの尊厳を踏み躙られたことが切欠だったのだから。 デルフリンガーをアンリエッタに向けて突きつける。 「分かってやっているならば、俺はお前を許さん……! ウェールズやルイズの心を裏切った報いを……、この場で受けさせる!」 だが、この場面において、リゾットは選択を誤った。怒りは怒りを呼ぶ。無自覚だった事実を指摘され、アンリエッタは胸に刃を突き立てられるような痛みを感じたが、同時にそれは燻っていたリゾットへの憎しみを燃え上がらせることになった。 「黙りなさい! ウェールズ様を見殺しにした貴方に、ウェールズ様を語ることは許しません!」 アンリエッタが杖を振ると、リゾットを囲むように水の壁が出現し、リゾットを押しつぶそうとする。磁力を利用した跳躍でそれを回避したリゾットを狙い、ウェールズの風の魔法が飛ぶ。だが、ウェールズの眼前でその魔法は爆発した。ルイズの『エクスプロージョン』だった。 静かな声が響く。 「お止めください、姫様……」 「ルイズ、貴方まで私の邪魔をするの?」 アンリエッタがルイズを見て、息を呑む。ルイズは涙を流していた。 「いいえ、姫様。私はあくまで姫様の味方です。ですが、だからこそ先の命令はきけません」 悲しげに、しかし決然とルイズは言う。 「仰せの通り、私は本当に人を好きになったことがないのかもしれません。その証拠に、私は姫様を諫めるだけの言葉を編むこともできません」 ルイズの記憶に、アルビオンで過ごした一夜がよみがえる。リゾットを見ると、僅かに驚いたような顔でルイズを見つめていた。 「ですが、この選択が姫様を破滅においやることだけはわかります! 姫様への忠誠と友情にかけて、私は姫様の命に従うことはできません!」 今なら逃げることなく死んでいったウェールズの、そして主人の命令を聞かず、自分を残してタルブの村へと飛んだリゾットの気持ちが少しだけ理解できた。相手の望み通り振舞うことは必ずしも相手を思いやることではないのだ。 かといって、ルイズにはアンリエッタの気持ちを否定することもできない。自分も同様の立場に立てば、同じ選択をするかもしれない。それに今、一番苦しみ、悲しんでいるのはアンリエッタだ。彼女のその苦しみをルイズは想像する事しかできない。だが、だからこそ友である自分がアンリエッタを傷つけることをも覚悟して止めなければならない。ルイズはそう思っていた。 決然と覚悟を決め、自分を見つめてくるルイズを見て、アンリエッタは動揺した。それきり、ルイズもアンリエッタも口を開かず、向かい合ったまま、時間だけが過ぎていく。 と、ウェールズがアンリエッタを後ろから抱きしめた。 「君は僕を信じてくれればいい……。愛してる、アンリエッタ」 その言葉は麻薬のようにアンリエッタを蝕んだ。反論しようとするルイズたちを黙らせるように、周囲のアルビオンの騎士たちが魔法を放つ。タバサが空気の壁を作り出して防ぐが、数が多かったため、いくつかがすり抜けた。 その一つ、火球がフーケに襲い掛かる。普段ならともかく、感情が頂点から急激に落ち込んだため、一時的な虚脱状態に陥っていたフーケはそれを避けることができない。 「ぼーっとしないで!」 間一髪、キュルケが炎を放ち、空中で火球を相殺する。 「しっかりしなさい! 来るわよ!」 激しく揺さぶられ、フーケの目に焦点が戻る。 「す、すまないね……。もう大丈夫」 「頼んだわよ!」 かくて戦いが始まった。 戦局はウェールズたちに有利に進んでいた。何しろ、人数が多い上に、ほとんど一個体であるかのような見事な連携を使う。その上、ダメージを受けても勝手に修復されるため、ほとんど防御する必要がない。 対して、リゾットたちはデルフリンガーで魔法を吸い込むといっても、その量には限界があるため、どうしても魔法で防御しなければならない。防御に回る分、手数が足りないのだ。 相手は精神力を温存するためか、ほとんどドットの弱い攻撃しか繰り出してこないが、それでも当たり所が悪ければ致命傷になる。ルイズたちはじりじりと押されていた。 「どうするの、ダーリン!? このままじゃ……」 キュルケが溜まりかねて指示を仰ぐ。 「さて、どうするかな……。確かに防御に徹していても、勝ち目はない……」 リゾットは先ほどまでの怒りを抑え、考えを巡らせる。手早く方針をまとめると、ルイズにデルフリンガーを手渡した。 「ちょ、ちょっと何よ!?」 突然のことに驚くルイズに、リゾットはいつものように冷静に話しかける。 「デルフと一緒に敵の攻撃を吸収していてくれ」 「お、おい、相棒、そんないきなり……」 「あんたはどうするのよ?」 ルイズの言葉に、リゾットは視線をウェールズに移した。 「俺はやつらを倒す方法を探す。みんな、しばらく持たせてくれ」 「……援護は?」 タバサが呟くように問う。 「余裕があれば頼む。だが、こちらの防御を優先させてくれ」 「分かった」 タバサに続き、キュルケとフーケが頷くのを確認するとリゾットはメタリカを使って長く強固な短刀に変えたナイフと、銅線を巻きつけた鉄の棒を取り出す。敵へと駆け出そうとするリゾットを、ルイズは呼び止めた。 「リゾット、姫様のこと……、助けてあげて」 その言葉にリゾットはしばらく動きを止めたが、結局それに答えず、駆け出した。 「ちょっと、待ちなさいよ! ……きゃっ!?」 直後、デルフリンガーが魔法を吸い込み、ルイズは驚いて手放しそうになる。 「おい、もっとしっかり握ってくれよ、貴族の娘っ子!」 「仕方ないでしょ。剣なんか握ったことないんだから!」 ルイズはデルフリンガーを構え直した。 「相棒のことなら心配するな。ご主人様の友達を殺そうとするような奴じゃねえよ」 「分かってるわよ! 全く……ご主人様に剣を持たせるし、余計な心配かけるし、碌な使い魔じゃないわ。後でお仕置きなんだから……」 ぶつぶつ言いながらも、ルイズは重さにひっぱられるようにしてデルフリンガーを振り回し、魔法を吸収し始めた。 一方、単身、飛び出してきたリゾットを仕留めるべく、メイジたちは呪文を唱え始める。呪文はリゾットがこちらに接近する前に完成し、デルフリンガーを持たない彼を吹き飛ばす予定だった。 しかし、ガンダールヴのルーンによって強化された脚力にメタリカの磁力による反発力を加えたリゾットのスピードは相手の予想を遥かに上回る。呪文が完成する直前に先頭のメイジに到達すると、短刀で喉を切り裂いて詠唱を強制的に中断させ、同時に隣にいた別のメイジに帯電した鉄棒を押し当てる。電撃を浴びたメイジは身体から煙を出しながら倒れた。肉の焦げる、嫌な臭いが広がった。 そのままリゾットは敵メイジを攻撃しつつ、道を切り開き、奥にいたウェールズの元に跳んだ。すれ違いざまに杖を持つ手を切り落とし、走り抜ける。 「やるじゃないか。だが、ここまでだ」 ウェールズの言葉とともにウェールズたちに背を向けたリゾットを追うように、呪文を唱え終わった攻撃魔法の雨が降る。仮に味方に誤射しても再生し、一個体のごとく動く彼らならではの反撃速度だったが、その魔法は突如として空中に出現した氷の壁に遮られた。 「何っ!」 驚きの声を上げるウェールズたちを尻目に、リゾットは迂回してルイズたちに合流する。 「助かった。感謝する……」 リゾットがタバサに礼を言うと、氷を張った張本人は、いつもと同じように無表情に頷いた。 と、そこにルイズの声が飛んだ。 「ちょっと、リゾット! いつまでこのボロ剣を持たせておくのよ!」 「ボロ剣って……伝説に向かって酷くねえ?」 「あんたなんてボロ剣で十分よ!」 不機嫌を隠そうともしないルイズから、デルフリンガーを受け取る。 「悪かったな……」 「べ、別にいいけど……。それより……」 「アンリエッタのことなら、保留しておく。今は戦いに勝つことが先決だ」 ルイズの機先を制するようにいう。 「ダーリン、何か糸口は見つかった?」 尋ねるキュルケに、リゾットは曖昧に頷いた。 「多分、だがな……。ここからの相手の対応次第だ」 そういってリゾットはウェールズに振り返るが、ウェールズは微笑を浮かべてそこにいた。 「往生際が悪いね」 「口を開くな。お前が何を喋ろうとウェールズに対する侮辱になる」 「ウェールズは僕さ」 ウェールズが落ちた腕を拾い、切断面を合わせると、すぐに元通りになる。 「……やっぱり無駄なのかしら……」 ルイズが苦々しく呟くと、その頭にリゾットの手が置かれた。見上げるルイズに、リゾットは敵に目を向けたまま淡々と、しかし力強く断言する。 「いいや……、無駄じゃない。奴らを倒すヒントが見つかった。お前たちが時間を稼いでくれたお陰だ」 不思議そうな顔をする一同に、リゾットは指示を始めた。 戦闘が再開してすぐ、戦いは先とは違う様相を呈した。タバサとルイズが魔法、リゾットがデルフリンガーや鉄棒の電撃で防御や足止めをしたと思うと、キュルケの炎球がメイジを燃やし尽くし、フーケのゴーレムがメイジを上から叩き潰す。 倒されたメイジが復活しないのを見て、ウェールズの顔がわずかに曇る。その表情を読んだリゾットは確信とともに呟いた。 「やはりここまでダメージを与えれば、再生はしないか……」 動く死者といえど、燃やし尽くされたり、切断する、潰すといった広範囲の細胞へのダメージは再生しにくいらしい。その証拠に、先の攻撃の際、電撃で焼かれたメイジの肌には今も焦げ痕が残り、ウェールズは切り離された腕を拾いあげて治療した。逆に言えばその種のダメージを行動不能になるくらい一気に与えなければ倒せないということだが、この場にはトライアングルクラスの火のメイジであるキュルケと、同じく土のメイジであるフーケがいる。相手に再生不能のダメージを与えることは可能だった。 「やれやれ、対処法を見つけられてしまったか……。だが、それだけで勝てるとは思わないでほしいな」 そういうと、ウェールズたちはキュルケとフーケに攻撃を集中し始めた。負けじとリゾットは前でデルフリンガーを振るい、次々と魔法を吸収する。 「ああ、やっぱり持つのは相棒に限るわ……」 「ここが正念場だ……。デルフ、頼んだぞ」 「まかせときな、俺のガンダールヴ!」 タバサ、ルイズもそれぞれに魔法を駆使し、防御に徹する。その魔法の応酬の隙間を縫うようにして、キュルケの火が、フーケのゴーレムが一人一人、敵を燃やし、打ち倒していく。 「行けるわ! このままなら勝てる!」 何人か倒した頃、キュルケが声を上げる。確かに、戦況は徐々に逆転しつつあった。だが、リゾットの長年の暗殺の経験は、状況とは逆に、まだ完全なる『勝ち方』ができていないことを告げていた。今までメタリカの能力を派手に使わなかったのも、その経験が能力濫用の危険を告げていたからだ。 (なぜ、威力の弱い魔法しか使ってこない……? 何か、あるな……) 弱点が知られた以上、ウェールズ側はその弱点を突くことができるキュルケとフーケを多少の損耗は覚悟してでも全力で攻撃しなければならない。だが、敵は攻撃をその二人に集中こそしているものの、未だにドットの魔法しか使ってこない。それに人数が多いにもかかわらず、展開せずに密集して攻撃を続けている事も気になった。 (まるで視線を一方向に固めるような……。そうか!!) その瞬間、リゾットは敵の狙いに気づき、後ろを振り向く。そして叫んだ。 「キュルケ、伏せろ!」 「え?」 聞き返したキュルケは、背後から軽い衝撃を受け、よろめいた。振り返ると最初にリゾットが助けた生存者……アニエスが立っていた。その手には血に塗れた剣が握られている。 (誰の……血?) そう、他人事の様に考えながら、キュルケは地面に崩れ落ちた。
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まだ近くにいたギーシュの友人にヴェストリの広場の場所を聞き、向かう。 すでに広場には騒ぎを聞きつけた貴族達でいっぱいだった。 広場の中心にギーシュとルイズがいた。 ギーシュとルイズは口論しているようだったが、 やがて渋々と言った感じでルイズが引き下がる。 そして形兆がやってきた。 広場の真ん中で形兆とギーシュがにらみあう。距離はおよそ三メイル。 「諸君!決闘だ!」 ギーシュが薔薇の造花を掲げる(あれが杖らしい)。その途端歓声が巻き起こる。 「さて、今回決闘をするのは、ぼくことギーシュ・ド・グラモンとミス・ヴァリエールの使い魔だッ!」 またもや巻き起こる歓声。それを満足そうに聞きながら、ギーシュは形兆に話しかける。 「逃げずに来たことは褒めてやろう」 「……」 形兆は答えない。 そして、決闘が始まった。 場所は変わって学院長室。 その部屋の主、オスマンは難しい顔をしていた。何かを考えているらしい。 考えがまとまったらしく口を開く。 「ワシがトリステイン魔法学院学長、オスマンであーる!…コレ面白いと思わない?」 「思いません」 彼の考えたキメ台詞は秘書のロングビルには不評だった。 そんな平和な学院長室に男が慌ただしく入ってくる 「大変です!オールド・オスマン!」 コルベールだった。 「大変です!コレを見てください!」 そういって手に持った本を見せる。 「ム!?……スマンが席をはずしてくれんかの。ミス・ロングビル」 「はい」 ロングビルが部屋を出て行ったのを確認し、コルベールが話しだす。 「ミス・ヴァリエールの使い魔の少年のルーンが珍しいので調べてみたら 『ガンダールヴ』のものと同じだったんです!」 「つまりその少年はガンダールヴじゃと言いたいのか?」 「そうです。正確にはガンダールヴの力を手に入れたということですが……」 「フーム……」 二人が黙り込む、その静寂を破ったのは第三者だった。 「大変です!オスマン氏!」 飛び込んで来たシュヴルーズはそのまましゃべり続ける。 「きょ、教室が、教室が!」 「落ち着きなさい。一体どうしたというんじゃ」 「教室がとても綺麗になっているんです!普通じゃないくらい!」 それがどうした。そう言いたいが言えない二人。 さっきとは意味の違う沈黙を破ったのはまたもや第三者だった。 「大変です。学院長」 ノックの後に聞こえてくる声。 「今度は何じゃ?」 入ってきたのはさっき出て行ったロングビルだった。 流石にウンザリしながら聞くオスマン。 「広場で決闘騒ぎです。教師たちが『眠りの鐘』の使用許可を求めています」 「ダメじゃ、子供のケンカに秘宝を使える分けなかろう。ほっとけば良いのじゃ」 そういって窓の外を見る。 (全く…騒ぎが多いのう) オスマンは知らない、その騒ぎは全部形兆が関っていることを。 形兆はどうしても決闘に勝ちたい訳ではない。(負けるつもりもないが) 二つの目的のためにこの決闘を受けた。 一つ目はもう達成した。 決闘が始まった時点でシエスタの安全は保障される。 そして二つ目。 メイジの戦闘力を肌で知ることだ。 脱走の際に自分はメイジと戦って勝てるのかどうか、 それ次第で自分の脱走法も変わってくる。 これはまだ結論がでてなかった。 ギーシュが錬金で作ったワルキューレの攻撃を後ろに下がり避ける。 さっきからコレの繰り返しのため距離は九メイルほどまでに開いていた。 「避けてばかりかい?」 そういいながらワルキューレを操るギーシュ。 ワルキューレは何も持っていない。だが青銅でできている拳の威力が高いだろうことは予測できる。 それでもスピードはたいしたことない。クレイジーダイヤモンドに比べれば全然遅い。 情報集めを終え、本格的な戦闘体勢にはいる。 ワルキューレが間合いギリギリの攻撃を仕掛けてきた瞬間、それをギリギリで避け、 右脚でワルキューレの左の腹を蹴り『飛ばす』。 もちろん青銅をそのまま蹴りつけるほどバカじゃあない。相手を転ばすための蹴りだ。 膝を使って衝撃をやわらげ、力を込める。 そしてそれは成功。 ワルキューレが左に倒れこむ、形兆はそのまま右脚を下ろすと同時に地面を蹴り、 ギーシュに向かって走り出す。 「ふん、突っ込んでくるとは単純だね」 自分の方に突っ込んでくる形兆を見てそう言う。 形兆が残り二メイルまで迫ってきたところで杖を振る。 ―――スタンドが倒せないなら本体を狙う。それはスタンド使い同士の戦いでは基本だ。 ―――それもスタンド使い同士『なら』の話だが。 二体目のワルキューレが現れる。 「何ィッ!?」 スタンドは一人一体。(形兆自身のように例外はあるが)原則的にはそうなっている。 スタンド使いとの戦いが長かったため二体目があるかもしれないことを考えもしなかった。 そのまま自分の勢いを止められず、カウンター気味に二体目のワルキューレの拳を腹に受け、 形兆は意識を手放した。 To Be Continued ↓↓
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前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 「そろそろ朝食の時間ね、あんたもついてきなさい。」 とルイズが言うので、彼女について康一は部屋を出た。 すると丁度康一の左手のドアが開いて、女の人が出てきた。 「(あっ、昨日の女の人だ)」 と、康一は気づいた。 炎のような真っ赤な髪と褐色の肌。ルイズと同じ服装(たぶん魔法学院ってやつの制服なんだろう)なのに、上のボタンを大きく開けて豊満な胸を露出しているせいかずいぶんと印象が違う。 ルイズが『美少女』ならばこちらは『美女』だろう。とびっきりの、とつけたいところだ。 康一はついつい胸元に目が行きそうになるのをこらえた。 「(だ、だめだだめだ!こんなところ由花子さんに見られたらどんな目にあうか!)」 付き合うようになってからの由花子は、暴力で康一をどうこうすることはなくなった。 だが、代わりにあの気の強そうな目を細めてずっと康一を睨むのである。 ・・・もう由花子さんには会えないのかなぁ・・・。 康一は切なくなった。 康一は切なくなった。 『美女』はこちらに気づくとにこりと笑った。 「おはようルイズ。昨夜は楽しめて?」 「た、楽しんでなんてないわよ!あれは使い魔の持ち物をチェックしてただけなんだから!勘違いしないでよね!」 「まぁ、あなたの恋路には口を挟む気はないわ。それより・・・」 ルイズが「恋路って何よ!色ボケキュルケ!」と叫ぶのを無視して、キュルケは康一のことをじろじろと眺めた。 「な、なに?」 康一はこんなに色気のある人と出会ったのは初めてだったので、目のやり場に困って顔を赤くした。 「ふーん・・・ホントに人間じゃない!人間を使い魔にするなんて、さすがはゼロのルイズ!」 ルイズはむっとした。 「うるさいわね。私だって好きで平民を呼び出したわけじゃないわよ!」 ぼくだって好きで君に召還されたわけじゃないよ!と康一は思ったが口には出さなかった。 「あたしも昨日使い魔を召還したのよ?どこかの誰かさんと違って一発で成功したわ。」 そういうと、キュルケの部屋からのそりと大きな何かが姿を現した。 「うわぁ!」 康一は飛びのいた。 真っ赤なトカゲである。それだけなら一向に構わないのだが、その大きさが虎ほどもあった! 四つんばいなのに頭が康一の胸の高さにある。なぜか尻尾の先が松明のように燃え上がっており、むんという熱気が康一のところまで届く。 使い魔といわれて犬とか猫とかネズミとかを想像していた康一は悲鳴をあげた。 「そ!それなに!?」 「あたしの使い魔・・・『火トカゲ』のフレイムよ。見て!この大きさ!鮮やかな炎!わたしにぴったりの使い魔だわ!」 「あんた『火』属性だもんね。」 ルイズは苦々しく言った。 「ええ、あたしは『微熱』のキュルケ。ささやかに胸を焦がす情熱の炎よ!」と胸を張った。 さらに突き出した胸に、康一はごくりと生唾を飲み込んだ。これはさぞやモテることだろう。 キュルケは腰を屈め、康一に顔を近づけた。大きな胸がさらに強調されて、康一はドギマギした。 「それで・・・あなたのお名前は?」 「ひ、広瀬康一・・・」 「そう。変わったお名前ね。あたしはキュルケ。キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーよ。」 そして康一の耳元に唇を近づけて言った。 「あたし、あなたに興味があるの。また今度二人きりでお話したいわ・・・」 「はわわわわ・・・」康一は顔を真っ赤にした。 「ちょっと!わたしの使い魔になにしてんのよ!!」 ルイズが二人をぐいっと引き離す。 「あら、独占欲?力ずくは醜いわよルイズ!」 「違うわよ!この色ボケ!!行くわよ、平民!」 康一の襟を引っつかんでずるずると引き摺っていく。 「わ、わぁ。ちょっと!歩く!歩くから!」 康一は引き摺られながら悲鳴をあげた。 「またね~~♪」 キュルケは満面の笑顔で手を振って見送った。 「ほんとにもう!ツェルプストーなんかにデレデレしてっ!この馬鹿犬!」 ついに犬に格下げですかぁー!?もう怒る気も失せる。 「あの人と仲悪いの?」 「ヴァリエールとツェルプストーとは先祖代々犬猿の仲なのよ。」 ルイズは歩きながら説明した。 要するに、ルイズのヴァリエール家とキュルケのツェルプストー家はトリステインとゲルマニアっていう二つの国の国境沿いで領地を接していて、代々何かと戦ってきた間柄らしい。 しかもなぜかいつも恋のライバルでもあったようで、代々ヴァリエール家は代々ツェルプストー家に恋人を取られ続けてきた歴史があるのだという。 「なんとなく想像つくなぁー」 康一はちらりとルイズを見た。 ものすごくきつい性格のルイズと比べて、あっちのキュルケは包容力がありそうだ。 それに何より、ストーン!としたルイズとボイーン!としたキュルケ。 ふらふらとあちらに行きたくなったヴァリエール家ご先祖様達の気持ちが康一にも分かる気がした。 「・・・なによ。」 ルイズがじろりと睨む。 「いーえ・・・なんでも・・・・」 康一は目を逸らした。 「うわぁ!すごい豪勢だなぁ!!」 康一は目を輝かせた。 ここは『アルヴィーズの食堂』。トリステイン魔法学院の貴族は、みなここで食事をとる。 学院の中で最も高い、真ん中の本塔の一室にある食堂は、驚くほど広い空間だった。 学校の体育館ほどの広さがあるだろうか。だが、これだけ広いのに、イタリアで見た教会の大聖堂ような荘厳な雰囲気を漂わせている。 3列に並べられた長い長いテーブルには真っ白なテーブルクロスがかけられ、その上には燭台が並べられ、フルーツの篭やでかい鳥のロースト、ワインや鱒の形をしたパイなどが所狭しと並べられている。 ゴクリ・・・。康一は口の中でよだれが出てくるのを感じた。そういえば昨日の昼に召還されてから何も食べていないのだ。 「うわぁー!すごい豪勢な食事だなぁー!朝からこんなに食べられるかなぁー!」 康一はここにきて初めて、「召還されていいこともあるなァー!」と思った。 ルイズは眉をひそめた。 「何言ってるの。ここは貴族の食卓よ?あんたみたいな平民が席を同じくできるわけないじゃない。」 「え・・・?」康一は目を見開いた。 「じゃあ、ぼくの朝食はどこにあるっていうのさ!」 そういうとルイズはそこで初めて気がついたように、「あー、そういえば。」と言った。 「あんたの食事、手配するの忘れてたわ。」 「わ、忘れてただってェー!!」 「しょ、しょうがないじゃない。手配するような暇がなかったんだもん。」 ばつが悪そうにしてつぶやく。 「じゃあ、ぼくは何を食べればいいのさ!」 「一食抜いたくらいじゃ死にはしないわよ。悪いけど我慢してちょうだい。」 「ぼくは昨日の夜も食べてないよっ!」 「うるさいわねー。わたしだって食べてないわよ。それよりも、椅子を引いてちょうだい。気の利かない使い魔ね。」 「こ、このぉー!!」 こいつ、可愛い顔して血も涙もないッ!ギブ&テイクといっても限度がある!大体お前がぼくを無理矢理こんなところに連れてきたんじゃないか!! 康一は踵を返した。 「ちょっと、どこ行くのよ。」ルイズが呼ぶが、 「知るもんかッ!!」康一は振り返らずにアルヴィーズの食堂を後にした。 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔
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前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 服や小物、化粧品に下着etcetc。とかく女性の買い物は長いものである。 あの後、キュルケがタバサのために服や化粧品を選んでやったり、下着を試着したキュルケが「ねぇ、これってぐっとくるかしら?」と康一に見せようとしてひと悶着あったりなどするうちに、康一が抱える荷物は山のようになっていった。 気軽に「ぼくが持ちますよー」なんて言うんじゃなかった・・・ 「ところで、あんたには他に欲しいものはないの?」 自分たちの買い物を女性陣が一通り済ませた後、ルイズがふと思いついたように聞いた。 山盛りの荷物を抱えたまま、康一はうーん・・・と悩んだ。そして「気軽に買えるようなものじゃないのは分かってるんだけど・・・」と断りを入れた。 「ぼくは・・・寝具が欲しいかなぁ~。床で寝るのはちょっとつらかったりするんだよね。」 こちらに来てから、基本的に床である。ギーシュにぼこぼこにされて唸っている間はベッドを使わせて貰っていたのだが、そういう例外を除いて基本的に犬は床らしい。 「ダーリン、床で寝させられていたの!?」 キュルケが悲鳴をあげた。溜息まじりのあきれた視線をルイズに向ける。 「ルイズ。あなたねぇ・・・」 「う、うるさいわね。あれは罰よ!罰!だいたいわたしの部屋にベッドなんてひとつしかないんだから仕方ないじゃない!」 ルイズがわたわたと手を振った。本当は今日から自分のベッドで寝させるつもりだった、などと口が裂けても言えない。 キュルケが感極まったように康一を抱きしめた。 「かわいそうなダーリン!こんな血も涙もない女のところに居る必要なんかないわ。今夜からあたしのベッドで一緒に寝ましょう?」 身長の高いキュルケに抱きしめられると、必然的に胸が顔の位置にくるのだった。うれしいし気持ちいいが、後ろめたいし恥ずかしい。 康一は顔を真っ赤にしてもがもがと唸った。 「あんたがそういうことするから罰を与えないといけなくなるんでしょぉ―――!」 顔を赤くしてもがく康一をルイズが引っぺがした。 かくしてルイズの部屋である。 「うわぁ!ベッドだ!まともな寝床だよぉー!」 康一はつい先ほど運び込まれた自分のベッドに飛び込んではしゃいだ。 結局あの後、康一のためにベッドなどの寝具も買っていくことになったのだ。 平民が使うベッドとしては標準的なものである。現代のベッドのようにスプリングなどがついているわけでもない。 隣にあるルイズのベッドとは大きさもやわらかさも段違いなものではあったが、暖かな寝床というだけで康一は大満足だった。 康一にはさすがに持ちきれなくなったので(康一「まさかベッドを担いで馬にのれっていうんじゃないだろうね!」)、馬車を手配して部屋まで運ばせることにしたのだ。 帰ってからベッドを設置し、食事や入浴などをすませると、もうすっかり夜も更けていた。 キュルケからの熱心なお誘いもあったのだが、康一は遠慮しておくことにした。 自分には由花子さんという恋人がいる。ばれることは間違いなくないだろうが、そこはきちんとしておきたい。 さらに言えば、キュルケに誘われて考えるそぶりを見せると、ルイズが途端に不機嫌になるからだ。 「おおげさねぇ。」 ベッドにはしゃぐ康一にルイズはあきれて見せるが、実際には複雑な気持ちだった。 『自分のベッドで寝させてあげる』という『ごほうび』をあげられなくなったからだ。 思いのほかがっかりしている自分に、ルイズは気がつかないことにした。 康一はベッドに寝転がったままで答えた。 「君も一度床で寝てみるといいよ。硬いし冷たいしで、寝られるもんじゃないんだから。」 「いやよ。そんなの。」 ルイズはベッドの上にネグリジェ姿でぺたんと座ったまま康一の左手を見た。 「それより、あんたのルーンが光ったのって、いったいなんだったのかしら。」 康一は左手の甲にあるルーンをみた。手元にあったデルフリンガーを引き寄せて構えると、淡く光りだすのが分かる。 自分の皮膚がホタルよろしく光りだすのだから、康一としては不気味である。しかしいやな感じはしない。暖かいエネルギーがあふれてくるようだ。 「やっぱり、剣をもつと光るみたいだね。それになんだか・・・体に力が沸いてくる感じがする。」 康一はデルフリンガーを鞘から抜くと、軽く振ってみた。 野球のバットを想像してもらいたい。一般人でも全力で振ると振り回されるあのバットですら、長さはだいたい80~90cm。重さは900g強である。 一方のデルフリンガーは全長150cm余りと、長剣というよりはグレートソードのカテゴリーである。重さだって少なくとも倍以上はあるのだ。 本来、筋骨隆々の大男が力任せにぶん回すのがお似合いの大剣を、剣と大して身長の変わらない小柄な康一が軽々と振るうのは、かなり異様に見える。 「普段だったらこんな重い物振ったり出来ないよ。」 「それもそうよね。あんた、鍛えてる様にも見えないし。」 そのルーンの特性かしら。とルイズは首をひねった。 「使い魔のルーンで、犬や猫が人間の言葉を理解できるようになったりする、というのは聞いたことがあるわ。でも、『武器をもったら強くなる』なんて聞いたことがないもの。」 自分の使い魔は常識はずれなことが多すぎるのだ。もうほかの使い魔を参考にすることすら馬鹿らしい。 康一は枕元にデルフリンガーを置くと仰向けになった。 「明日君が授業に出てる間、いろいろ試してみるよ。『スタンド』に影響があるかどうか調べたいしね。」 「そうね。わかったらわたしに全部報告しなさいよ?」 うん、わかったよ。と康一が目を閉じたまま言うので、ルイズも灯りを消して寝ることにする。 瞳を閉じたまま、ルイズは小さな声で呼びかけた。 「ねぇ・・・」 眠そうに康一は返事をした。 「なぁに?」 「あんたってすごく変わってるわね。」 「そうかなぁ。」 「変わってるわ。あんたみたいな使い魔みたことも聞いたこともないもの。」 「『スタンド』はともかく、ルーンのことはぼくもよくわからないよ?」 「そうね・・・」 わたしもコーイチも普通じゃない。特にコーイチは。 「もしかして、あんたってすごいやつなのかしら。」 返事はなかった。もう、すやすやと寝息が聞こえる。きっと疲れていたのだろう。 あんたがすごい使い魔だとしたら、わたしはなんで『ゼロ』なんだろう。とは口に出さなかった。 代わりに小さくつぶやいた。 「わたしもあんたに負けないようにがんばらなくちゃね。」 翌日。ルイズが授業に出かけた後、康一は二本の剣を持って学院から少しはなれた人気のない広場にやってきた。 ルイズはなんだかやる気満々で出かけていった。空回りしないといいんだけど。 「なあ相棒。こんなところで何をするつもりだい?」 デルフリンガーが尋ねた。 相棒、相棒と親しげに話しかけてくるので、康一とデルフリンガーは結構気安い仲になっていた。 「昨日光ったルーンを調べるんだよ。昨日言ってた『使い手』ってルーンのことなの?」 「そうさね。その左手のルーンが『使い手』の証だよ。」 デルフリンガーを握る。ルーンが光を放つ。体が軽くなる。 剣を軽く振ってみる。 ヒュン!と風切り音がする。 今度は思い切り振ってみた。 「おわっ!」 振りぬかれた剣に振り回され、体が泳ぐ。 転びそうになって思わずたたらを踏んだ。 「重い感じはしないんだけどなぁ。」 手の感触を確かめる。筋力は確かに強くなっている気がする。 デルフリンガーがからかう様に言う。 「相棒が軽すぎるのさね。ルーンは使い手の体重まで変えちゃくれないからな。」 「剣を振るのに体重が関係あるの?」 「そりゃああるさね。重心が体幹から遠くなると、とたんに扱いが難しくなるからね。」 康一は感心した。 人間だってこんなに詳しい人は居ない。たぶん。 「剣なのによくそんなこと知ってるなぁ。」 「まぁ6000年は生きてきたし、いろんなやつに使われてきたからね。」 「6000年!?」 現代ではイエスキリストが生まれたのが2000年前。6000年といえばそれの3倍じゃないか! 6000年という年月を自分の身に即して考えようとしたが、桁が違いすぎて実感がわかない。 「君って実は結構すごいわけ?」 「まぁね。」 デルフリンガーも心なしか得意げである。 「まぁそれは置いておいて、つまりぼくじゃ君を使いこなせないわけだよね。」 「大丈夫さね。相棒はまだ成長期だろ?これから大きくなるって。」 「ぼく、これでももう17歳。もうすぐ18になるんだよね。」 ちなみに高校の3年間で、身長はほとんど伸びていない。 「まだ若いじゃねぇか。これからまだまだ伸びるって。ところで、人間って何歳まで大きくなるんだっけか。50歳くらい?」 「50歳になるころにはぼくはもうおじさんだよね。」 「へぇ、そうだったっけか。」 この自称6000歳、いまいち常識に欠けるらしい。 しかしこのデルフリンガー。話を聞く限りすごそうな剣なのだが、もったいないことに自分には合わないのかもしれない。 「これなら、まだキュルケさんにもらったこの剣のほうがいいのかなぁ。」 もう一本の剣を手に取った。 比べてみると『シュペー卿の剣』のほうが、デルフリンガーよりは軽いようだ。長さも少し短い。ただ、格好よすぎて自分に不釣合いなのが問題だ。 「やめとけって相棒。そりゃあなまくらだよ。格好ばっかり気を使ってるが、造りがいいかげんだ。」 「ふぅん・・・」 次に『スタンド』を出してみる。 この『ルーン』はスタンドにも影響を与えるのだろうか。 「ACT3!」 康一が呼ぶと、空中に白い人型の『スタンド』が姿を現した。 「うわ!なんだいそいつは!」 デルフリンガーが驚いたように言った。 「ぼくが出した『スタンド』だよ。ぼくは『スタンド使い』だからね。」 「そいつを相棒が作ったっていうのかい?」 「まぁ、そういうことになるのかな。」 「へぇー。今度の相棒は変わってらぁ。」 表情がないのでわかりにくいが、感心しているらしい。 「6000年生きてきたのに、『スタンド』を見るのは初めてなんだね。」 「『ゴーレム』みたいだが、雰囲気は違うよな。先住でもないし。」 やはりこちらの世界に『スタンド使い』はいないのだろう。 何かヒントになることを知っていないかと思ったが、無駄骨だったらしい。 でも、めげない。まずはこのルーンが『スタンド』に影響するのか調べないとッ! 「ところでデルフ。君って頑丈なんだよね?」 シュペー卿の剣に持ちかえ、デルフリンガーを地面に置いた。 「まぁな。よっぽどのことがないと折れたりしないね。6000年も折れずにいるんだぜ?」 「それもそうだよね。それじゃ、ちょっと実験したいから感想を聞かせてくれるかな。」 「おう、まかせとけ!・・・・・・・え、実験?」 自分の頑丈さに自信はある。しかしなぜか相棒の言葉に、嫌な予感がよぎった。 「ACT3の『3FREEZE』は物体を『重く』するんだよね。だからこのルーンがあったらどれくらい『重く』なるのか知りたいんだよ。」 「んー・・・よくわかんないけど、かまわねぇよ。」 まぁたいしたことはないだろ。今までの6000年。殴ったり蹴ったりされたくらいじゃびくともしなかった。 「よーしそれじゃ・・・ACT3!この剣を重くしろ!」 「S.H.I.T!3FREEZE!」 ACT3が妙な構えの後、拳を振り上げた。 「あ、やっぱちょっとm ズン!!!! 一瞬でデルフリンガーが見えなくなった。 『デルフリンガー』-ACT3の超重力で地中深くまで沈み込んでしまい【再起不能】 なんてことに危うくなりそうだったので、康一は慌てて土を掘り下げ、デルフリンガーを回収した。 「壊れない自信はあったけど、まさか埋められるとは夢にも思わなかった!俺剣だから夢みないけど!!」 「ごめんごめん。まさかこんなに『スタンドパワー』が全開になってるとは思わなくてさぁ。」 大騒ぎするデルフリンガーに康一は頭を下げた。 「それにしても、やっぱり『スタンド』もルーンの影響を受けるみたいだなぁ。」 ACT3に調子を聞いたところ、 「最高ニ「ハイ!」ッテヤツデスネ。HELL YA!今ナラTRIPPING『キラークイーン』モ地球ノ裏側マデブッ飛バセソウデス!」 とパンチやキックをして見せていた。スラングも増えている。相当テンションがあがっているようだ。 「最高にハイってやつ、かぁ。でもなぁ・・・」 思わずため息が出る。 「なんだい相棒。うれしくないのかい?」 「うれしいけど、君みたいな馬鹿でかくて重いものを持たないといけないのはめんどうだなぁー、って。」 この馬鹿でかい剣を売り払って小さなナイフでも買おうかなぁ、というとデルフリンガーは「そりゃないぜ相棒~」と情けない声をあげた。 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔
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前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 アルヴィーズの食堂を飛び出した康一だったが、しばらく歩いたところで座り込んでしまう。 「あー、お腹減ったなぁ・・・」 お腹がグルグルと鳴る。さっきまではこの異世界に気を取られて意識しなかったが、お腹が減ってしかたがない。 「そういえば・・・」康一は思い出す。 昨日は駅についてから昼飯を食べようと思っていたところを捕まったのだ。 つまり、これで丸一日食べてないってことになるんじゃないのかァー!? 「衣食住は保障されるんじゃなかったのかァ~?約束が違うよ~。」 さっき豪勢な食事を見たせいで余計につらくなってきた。 康一はお腹をおさえて溜息をついた。 「あら、コーイチさん。どうかされたんですか?」 え?と顔を上げた。黒髪のメイドさん。朝に会ったシエスタだ。 「ああ、シエスタか・・・。いや、大したことないんだけどさ・・・ルイズにご飯を抜かれちゃって・・・」 お腹がグルグルキュキュキュ~!と鳴いて、康一は顔を赤らめた。 「まぁ、それは大変でしたね!こちらにいらしてください。まかない食でよければお出しできますよ。」 シエスタは康一の手を取った。 「ええっ!いいのぉ~!?」 「もちろんです。ささ、こちらにいらしてください。」とシエスタは康一の手を引いてくれる。 シエスタの笑顔が天使に見えて、康一はちょっとだけ涙ぐんでしまった。 「ゥンまああ~いっ!」 康一はシチューをガツガツとすくった。 「よっぽどお腹が空いてたんですね。」 シエスタはクスクスと笑った。 康一がつれてこられたのは食堂の裏手にある厨房の一角だった。 大きな鍋やオーブンなどが並んでいる。あちらこちらに色々な食材が貯めてあるのが見える。 そこでシエスタは、康一のためにパンとシチューを持ってきてくれたのだ。 この世界に来てから初めて優しくされた気がする! お腹を満たす幸福感ともあいまって、康一はほろほろと涙を流した。 「こんなに美味しい食事は初めてだよぉ~!」 空腹は最高のスパイスというのは本当だ!と康一は思った。 「ふふ、大げさですね、コーイチさんは・・・」 シエスタは流れる涙をハンカチでそっと拭いてくれた。 たぶん、童顔で背の低い康一を年下の男の子だと思っているんだろう。 康一はたぶん同い年くらいだろうと思ってはいたが、優しさが心地よいのであえて何も言わなかった。 「ぼく、召還されてからこんなに優しくされたの、初めてで・・・本当にありがとうございます~!」 「いいんですよ。平民同士助け合わないと、ですしね。」 シエスタは笑った。 「それにしてもひでぇ話だ!」 40過ぎで太めの男がやってきて怒ったように言った。 彼はマルトーさん。この魔法学院で料理長をしているらしい。 康一を連れたシエスタが事情を説明すると、同情して食事を出してくれたのだ。 「無理矢理使い魔にしておいて、メシも与えないなんざ、平民をなんだと思ってやがる!」 康一の肩に手を載せる。 「貴族はいつも勝手なもんさ。平民がいなきゃなんにも出来ない癖して、いっちょ前にいばりやがって。おまえも災難だったなぁ。こんなもんでよけりゃいつでもご馳走するからいつでもこいよ?」 「はい!ありがとうございます!」 康一は初めて味方が出来た気がして嬉しくなった。 でも・・・とシエスタが康一を気づかうようにいった。 「あまりミス・ヴァリエールを嫌わないであげてくださいね?」 「どうして?」 康一は尋ねた。 「ぼく、あいつに召還されてから今までろくな目にあってないんだけど・・・」 「ミス・ヴァリエールは本当は優しい方なんです・・・・」シエスタは目を伏せた。 話によると、シエスタが以前貴族にいびられているときに、ルイズが助けてくれたことがあるらしい。 「想像つかないなぁ~」 康一は首をひねった。 「多分ミス・ヴァリエールは焦っておられるんです。だから周りが見えなくなってるんじゃないでしょうか。」 「焦る?どうして?」 「えーっと、それはですね・・・」シエスタが言いにくそうに口ごもっていると、 「コーイチ!コーイチー!どこにいるのー!出てきなさーい!」 とルイズの呼ぶ声がする。 「噂をすれば、ってやつだね。」 康一は溜息をついた。でも、美味しい食事と優しさをもらった。しばらくがんばれそうだ。 「ありがとうマルトーさん。シエスタ。ぼく、行くよ。」 「そうか、がんばれよ。」 「またいつでもいらしてくださいね!」 二人に見送られ、康一はルイズの声がするほうへ走っていった。 康一が走ってくるのを見つけると、ルイズは怒ったように言った。 「どこいってたのよ。」 「ぶらぶらしてただけだよ・・・。」 厨房のことは言わなかった。何か言われたらたまったものではない。 さっき喧嘩したばかりで、少し気まずい康一に、ルイズが「これ。」と手を突き出す。手には一個のパンが乗っていた。 「・・・何これ。」と康一が聞くと、ルイズは少し顔を赤くした。 「お腹が減って倒れられたら困るでしょ!ほら、早く食べなさいよ!」 ルイズはパンを押し付けると、スタスタと歩き去っていく。 康一は押し付けられたパンを見た。多分食卓から康一のために取ってきてくれたのだろう。 ミス・ヴァリエールは本当は優しい方なんです。というシエスタの言葉を思い出す。 「ほら、早く来なさいよ!授業に遅れちゃうでしょ!」 いつまでもついてこない使い魔をルイズが呼ぶ。 「も~・・・しょーがないなぁ~」 康一はパンをくわえると、小さなご主人様(仮)を追いかけることにした。 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔
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前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 一人で食べる食事というのは味気ないものだ。 だから、そんなときにやってきた食事のお誘いは大歓迎なわけで。 しかも誘ってくれたのが十人中十人が振り向く絶世の美女であれば、もうなにも言うことはないのであった。 「おいしそーだなあ―――!いただきまあ―――す!」 肉汁滴るステーキにかぶりついた康一は、目を輝かせた。 「おいしい!」 キュルケは微笑んだ。 「喜んでいただけてうれしいわ。あなたのために特別に用意したんですもの。」 「へぇー!うれしいなぁ!」 どれもこれも絶品だ! しかし、グラスを手にしたところで康一はキュルケに尋ねた。 「これってワイン・・・ですよね?」 「それがどうかして?」 「いやぁ、ぼくの国ではお酒って大人にならないと飲んじゃいけないものだったんですよ。」 あら・・・。とキュルケは目を丸くした。 「あなたのお国はどちらなの?」 「え!?え、えーっとぉー、ロバアルカリイエ・・・てとこかな。」 康一はとりあえずルイズが言っていたようにすることにした。 「そう。あなた東方の出身なの。だから顔つきもそんなにエキゾチックなのね。」 キュルケはワイングラスを軽く掲げて見せた。 「でも、ここはトリステインなのだから、あなたも気にせずに飲めばいいと思うわ。」 「そ、そうかな?じゃあ、ちょっとだけ・・・」 グラスをちびちびと傾ける。 「あれ、でもなんだかお酒って感じがしないね。結構飲めるかも・・・」 「いいワインは人を選ばないの。お気に召した様で良かったわ。」 ふーん・・・。そういうもんかぁ・・・。ワインをちびちびと舐めながら康一は感心したが、ふと疑問に思った。 「そういえば・・・どうしてぼくを食事に誘ってくれたの?わざわざこんな料理まで用意して・・・」 ヴァリエールとツェルプストーの因縁の話を思い出した。 「ひょっとして、ルイズのことが聞きたいの?でもぼく、まだここに来てから日も浅いし、そんなにすごいことは知らないよ?」 おほほほほ。とキュルケは口に手を当てて笑った。 「あたしはルイズなんて眼中にないの。それにこんな回りくどいことはしないわ。」 キュルケは顔を赤らめた。 「あたしが知りたいのは、あなたのことよ・・・」 「ぼ、ぼくですかぁー?」 キュルケが潤んだ瞳で見つめてくる。康一はなんだかドキドキしてきた。顔が赤くなるのがわかる。 「最初はちょっとした興味だったの。ルイズがあなたみたいな不思議な使い魔を召喚したから。」 キュルケは立ち上がった。 「あなたは小さくて可愛らしいわ。でも、見ているうちに分かったの。あなた、その瞳の奥に、それだけじゃない『何か』を持ってる。」 キュルケはテーブルクロスを指でなぞりながら、ゆっくりと康一のところへ歩いてくる。 「トドメに、あの決闘。ギーシュを倒したあなた、すごくかっこよかったわ。まるでイーヴァルディの勇者のようだった・・・。あの時のあなたの強い瞳を見て、あたしの心は今までにないくらい燃え上がってしまったの。」 康一の肩にそっと手を乗せた。 「恋してるのよ。あたし。あなたに。恋はまったく、突然ね。」 ほっぺたに、スープがついてるわよ? キュルケは康一の耳元で囁くと、康一の頬についた汚れを、小さく舌を出して舐め取った。 「なななななななにを!!」 康一はガタン!と立ち上がり後ずさった。 しかし、足元がおぼつかなかない。 ふらつく康一の手を、キュルケが握った。 「急に立ち上がったら危ないわ。ベッドに座りましょ?」 「う、うん・・・。」 どうしたんだろう。頭がぼうっとする・・・。 康一はふらつきながらも、キュルケに導かれるまま、ベッドに腰掛けた。 キュルケも隣に座って、しかし、康一の手は離さなかった。 暑くなってきたわね。とキュルケはブラウスのボタンをもう一つ外した。 ついそちらに目が行く。 康一君を責めるのは酷である。正常な男であれば目が行かないわけがないのだ。 それでも康一は慌てて目を逸らした。 「からかってるの!?」 すでに顔は真っ赤だ。 「いいえ。あたしは本気よ。あなたが好きなの。あなたのことがもっと知りたいのよ。」 キュルケは、康一の手を握っているのとは別の、もう一方の手で康一の膝頭を軽く弄った。 「う、うわぁ!」 こ、これはなんだかまずいぞ!と康一は思った。 このままではまずいことになる! 「ま、待って!ぼくには恋人がいるんだ!」 「あら、そうなの?でも当然よね、あなたのような可愛いくて頼もしい魅力的な男の人を、女が放っておくわけないもの。」 「い、いやぁ。そういうわけでもないけど・・・」 今まで由花子さん以外に浮いた話などまったくない康一である。 でもね・・・。 キュルケは続けた。 「ここはハルケギニアよ。はるかかなたにあるロバアルカリイエは、あたしたちの恋を邪魔できないわ・・・!愛してるの!コーイチ!」 キュルケは康一の頬を両手で挟んで、情熱的な口づけをした。 ベッドの上に押し倒されると、康一の頭の中で世界がぐるんぐるんと回転した。 押しのけようとしたが、腕に力が入らない。 あたまがぼーっとする。 ごめん由花子さん・・・。ぼくはこのへんてこな世界でお星様になりそうです。 そのとき。バターン!とものすごい音がして、扉が開いた。 「・・・なにをしてるわけ?」 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ 廊下の明かりを背にそこに立っていたのは、白い肌にくっきりと青筋を立て、ドラゴンも逃げ出しそうな怒気をまとった、康一のご主人様だった。 数分後。康一はルイズの部屋で正座をしていた。 髪型を貶されたときの仗助もかくや、という勢いでプッツン来ていたルイズは、キュルケから康一を引っぺがし、そのまま襟首を持って部屋まで引き摺ってきたのだ。 ルイズが康一を見下ろす。まるで、道端に落ちた馬の糞を見るような目である。 康一の顔は未だ真っ赤だ。 部屋に連れ帰ってからもぼーっとした様子を見て、ルイズはようやく康一が酔っ払っていることに気づいた。 「(そっか・・・これが酔っ払うってやつか・・・)」 康一は回らない頭でぼんやりと考えた。 ルイズの手には乗馬用の鞭が握られている。 「・・・で、食事に誘われたわけね。」 「うん。」 「初めてのお酒を飲まされたと。」 「うん。」 「ついでに、ベッドにも誘われたと。」 「うん。」 「お酒のせいで、ろくな抵抗もできずに。」 「うん。」 「わたし、言ったわよね。ツェルプストーなんかにデレデレするなって。」 「うん。」 「デレデレしたら死刑って言ったわよね。」 「うん。・・・・・・え!?そんなこと言ったっけ?」 「言ったのよ。心の中で。」 康一は目をあげた。ルイズの目が本気と書いてマジだったので、康一は言い訳するのをやめた。 ルイズはぷるぷると震えている。 「それなのに・・・!それなのに・・・・!この・・・!スケベ犬がぁー!!!」 バシンバシンと鞭が振り下ろされ、康一は悲鳴をあげた。 「い、痛っ!やめっ・・・!痛い痛い!」 逃げまわる康一を、ルイズは鞭を振り回しながら追い回した。 「(がんばった使い魔に、せっかくご褒美を用意してたのに!一緒のベッドで寝させてあげようと思ってたのに!)」 よりによってキュルケに先を越されてしまうなんて! べ、別にわたしは康一を誘惑しようとしたわけじゃないけど! あの万年発情期のキュルケと違って! ルイズは追走劇の結果、ボロ雑巾のようになった康一を見下ろした。 「もう・・・知らない!」 ルイズは鞭を投げ捨てて、ベッドにもぐりこんだ。 ようやく折檻から開放された康一がふらふらと起き上がった。 ルイズは毛布にもぐりこんで丸くなっている。 「・・・ぼくは、どこで寝ればいいんでしょう。」 凍て付くような視線が帰ってきた。 「犬は床って、相場が決まってるわ。」 今度は毛布すらなかった。 しかたなく康一は、部屋の隅に丸くなった。 寒い。床が自分の体温を奪うのがよく分かる。 ぼくがなにをしたっていうんだ・・・ 康一は赤い顔で溜息をついた。 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔