約 256,954 件
https://w.atwiki.jp/orirowa2014/pages/340.html
蒼く冴え冴えとした夜だった。 ピンとした空気は張りつめ、辺りに漂うのは何処か剣呑とした刺々しさである。 ここは戦場かはたまた廃墟か、荒廃した市街地には朽ち果てた黴臭い死の臭いが蔓延していた。 この死の世界で生きることを許されているのは、積み重なった屍の山を踏み越えた者のみである。 その世界に男が二人。 ここに立っているという事は彼らもまた、多くの死を食い物にしてきた怪物なのだろう。 『…………あのさぁ』 乾いた風の吹く中で、電話の通話口から呆れたような声が漏れ聞こえた。 携帯電話を手にしているのは長身の伊達男である。 泥中に咲く蓮のように整った顔立ちはいかに傷つこうとも紛れるものではない。 身なりは所々煤けたような汚れにまみれているが、何処か余裕のある態度からか紳士然とした印象を受ける。 『放送中にかけるの止めてくれないかな。嫌がらせかい?』 「ああ、本当にそっちに繋がるんですね」 電話をかけた男は何処か納得したように頷く。 放送にかぶせるようにコールした電話は、放送が終わった少し後に取られた。 タイミングからして望みどおりの成果は得られたようである。 『それで何の用だい、ピーター・セヴェール』 「おや、驚かれないのですね」 電話先の声は平然とピーター・セヴェールと名を呼んだ。 この携帯電話は森茂から譲渡されたものである。 名乗りもしなかったのにそれを特定できたという事は、アイテムのやり取りといった細かい動向を参加者の主催者側が把握しているという事である。 だが、周囲に監視カメラらしきものは見当たらないし、これまでそれらしいものを見た覚えもなかった。 首輪に盗聴器でも仕掛けられているのかと思ったが、それにしてはいろいろと知りすぎている。 「死者の発表などもそうですが、その辺どうやって把握してらっしゃるんです?」 『ご想像にお任せするよ』 適当にはぐらかされてしまった、答えるつもりはないらしい。 まあ問うてみたものの、別にピーターとしても聞いてみただけでそれほど知りたいという話題でもない。 動向を監視されているという事実がわかれば十分だ、方法が分かったところで何がどうなる訳でもなければ。 監視されていたところでピーターにとって不都合がある訳でもない。 今更多少のズルを咎める主催者でもないだろう。 『わざわざ電話を手に入れてまで聞きたかったのはそれかい?』 「いえいえ。せっかく得た『交渉権』ですので活用しようかと」 この携帯電話は直接主催者と会話できる貴重なチケットだ。 それを手に入れた以上活用しないのは嘘だろう。 下らない躊躇など犬にでも食わせたほうがマシだ。 『交渉権ね。本当にそんなものがあるとでも?』 主催者と参加者の関係は神と人の関係に近しい。 少なくともたまたま携帯電話を手に入れただけで、おいそれと話ができるほど気安い関係ではない。 それほど立場に差がある状態で、交渉などそれこそ成立するはずもないのだが。 「あるでしょう? そうでなければ携帯電話(こんなもの)があるはずがない」 この世界に主催者の下に繋がる直通の電話があり、わざわざ電波塔まで用意して連絡環境を整えたのだ。 電話をかけられることが前提にあることは間違いない。 『普通に考えればそれは中にいる僕との連絡用だろう、参加者(きみたち)のために用意された物じゃないと思うけど?』 「そうですね。内通者や工作員もいるでしょうし、直通の電話があるという事自体は不自然ではない。 だが、あなたは電話が私に譲渡された事を理解していた。 その前提がありながらこの電話に出たという事はつまり我々の話を聞く用意があるという事ではないのですか? 参加者と会話するつもりがないというのなら、そもそも電話に出なければいい」 相手がピーターであると理解して電話を取ったのだ。 参加者と話をするつもりがあるという証明に他ならない。 『そうだとしても、ただの暇つぶしかもしれないぜ? 憐れにもがく蟻たちをを天から眺める余裕というやつだ』 「でしたらその余裕で私の願いを聞き届けて頂きたいものですね。 蟻一匹掬い上げるなんて、それこそ造作もないことでしょう?」 その回答に電話口からくつくつと楽しそうな笑い声が響く。 釣られるようにピーターも静かに喉を鳴らして笑った。 だが笑みを作る口元とは対照的にその眼は氷のように冷ややかだ。 恐らく電話越しの相手もそうなのだろう。 空々しいやり取りだった。 『まあ及第点にしておこうか。いいだろう。話を聞こうじゃないか。用件はなんだい?』 「用と言いますか、一つ聞きたいことがありまして」 許可を得た殺し屋は口を開く。 この殺し合いに巻き込まれて、今の今までずっと抱いていた疑問を口にする。 「私が死ぬ必要ってありますかね?」 何故殺し合いなのか、ではなく、何故自分が死ななくてはならないのか。 多くの人間を殺してきた殺し屋はあくまでも自分本位に、自らの死の必然性を問う。 それに対して彼らの死を望んだ主催者は答えた。 『そりゃまあ殺し合いだからねぇ。死ななきゃダメなんじゃないの?』 明言はせず疑問に疑問を返す。 答えを知らぬはずがないのだが、それははぐらかしていると言うより相手がどう答えるのか期待しているようでもある。 「いやね。少し考えたんですよ。貴方について」 『へぇ。それで? 何か分かったかい?』 答えに辿り着き、目的を理解した上での発言なのか。 電話先の声はそう期待して先を促した。 「いや全く。貴方が何をしたいかなんて私には全然分かりませんでした、これでは探偵にはなれませんね」 そう言ってため息を漏らし残念そうに肩を竦める。 もっとも、そんなものになる気もないが。 「ただ――――何をしたいかは分からなかったですが、何を求めているのかは少しだけ」 そう言って人差し指と親指で作った輪っかにほんの少し隙間を作る。 電話越しでワールドオーダーからそのジェスチャーは見えないが、へぇと感心したような息を漏らした。 「殺し合いを謳ってはいるものの、別に参加者を殺すための催しじゃないんじゃないか、とそう思ったんですよ」 『なぜそう思ったんだい?』 結論に思い至るには何らかの理由が必要だ。 まさか勘や思いつきという事もあるまい。 探偵のような推理力がないのならどうやってその発想にたどり着いたのか。 探偵ならぬ殺し屋は涼しい顔で根拠を述べる。 「だって死者を発表するときの声があんまり楽しそうじゃないじゃないですか」 快楽殺人者なんてものは組織に腐る程いるが、そう言う連中にとって死者の発表なんて唾涎物のイベントだ。 にも拘らず、ワールドオーダーは対して熱を上げる訳でもなく淡々と名前を読み上げるだけである。 「あなたの語気が強まるのはむしろ生き残った生者へ語りかける時だ。 目的が参加者を殺すことにあるのならこれはおかしい」 仮に殺人自体が目的でなくとも、死の方に比重のある目的ならば熱の入り所が違う。 探偵のような理論ではなく、殺し屋の感情でそう推察した。 『そうかな? おかしくはないだろう。連絡事項だから感情を押さえているだけかもしれないぜ?』 「だとしても別に私に私怨がある訳じゃあないんでしょう? あなたの目的は多くの死が積み重なった先にあるのかもしれない、だけどそれは私でなくともいいはずだ。 私一人死ななくたってあなたの目的は達成できるのではありませんか?」 僅かな沈黙。 自分だけが助かればいいという身勝手すぎる言い分を何の臆面もなく言い切った。 ピーターはワールドオーダーの目的がなんであるかなど微塵も理解していないのだろう。 ただ自分が生き残る目を敏感に察して突いているだけだ。 この嗅覚こそが彼をここまで生かしてきた強みである。 『面白いねぇ。君は自分が生き残ることし考えてない』 「ええ。当然でしょう。誰だってそうでしょう? ですが、生き残るのは一人だけ、というこのルールは非力な私にはなかなかに厳しい条件だ」 『その割にはなかなか生き残っているようだけど?』 「運がよかったのでしょう、どちらにせよ最後の詰めは暴力が必要になる」 最後の一人になるには最後に最低でも一人は殺す必要がある。 武力を持たないピーターとしては、そうなる前にクリアしておきたい。 優勝を目指す必要はない。 生存を確約できればそれでいい。 『それはそうかもね。では疑問にお答えしよう。 確かに究極的に言えば個人の死には意味がない。仮に君が死んでもその死にはきっと意味はないのだろう。 死ぬのも離脱するのも、脱落と言う意味では僕にとっては変わりがない』 殺し合いを主催し、多くの死を産み出しておきながら、死に意味はないと断ずる。 ピーター個人の生き死にはワールドオーダーの目的には影響がない。 最後の一人が選ばれるのならば、他の連中がどう脱落するかはどうでもいい事なのだ。 ピーターが「なら」と次ぐが遮るようにワールドオーダーが言葉をかぶせた。 『だがダメだ。君はダメだ。 愚にもつかないような下らない戯言を垂れ流す愚物だったなら放逐してもよかったのだけど。 君にはまだ芽がある。どうにかなる可能性を持っている』 無能であれば見込みなしと放逐してもよかったのだろうが、可能性がある以上逃せない。 ワールドオーダーの好みの有能さを示してしまった。 死に意味はなくとも、彼の生には意味がある。 「ふむ、当てが外れてしまいましたか。口が滑りすぎましたね」 元より期待はしていなかったのか、口ぶりに落胆はなかった。 生存の確立があるのならば全て試す、これはその一環に過ぎなかったのだろう。 これがダメなら次にかけるまでだ。 『まあ、そう悲観することはないさ。 君には勝ち残るだけの資格があるのだろう』 「勝つ資格ですか……それって要は貴方にいいように使われる資格って事なんですかねぇ?」 『さて。どうだろうねぇ』 声は弾むように楽し気だ。 ピーターは冷ややかに目を細め、これは当たりかなと心中でごちる。 最初の館でのやり取りといい、意外と感情はストレートな男なのかもしれない。 「資格があると言うのなら、少しは私の勝ちの目に協力してくださいよ」 『具体的に何をしろと?』 「そうですね。なら市街地の状況を教えていただけますか? 私が立ち去ってから何があったのかを詳しく」 市街地に向かうのは現状把握が目的である。 絶対的強者であった邪神の死。 そして絶体絶命の状況から生き延びたバラッド。 生死が入れ替わってる。 何があったのか、ピーターには想像もつかない。 『君が立ち去った後、邪神はオデットとバラッドによって討たれた』 「オデット?」 確か道明から聞いた名である。 幾度か交戦した怪物女の名だ。 そういえばあの場にはリヴェイラとバラッド意外にもあの女がいたんだったか。 立ち去る直後の記憶ではカエルのように潰されていたはずだが。 「それで、なんなんですあのオデットって怪物は?」 『魔族の娘さ。もとはあそこまで外れた存在じゃなかったんだが、悪食が祟って少々箍が外れてね』 魔族。大真面目な声でファンタジーでもなければ聞かないような単語が飛び出してきた。 だがあの怪物っぷりを見れば納得できない話でもない。 それに邪神なる物が実在している時点で今さらだろう。 「悪食ですか」 言われてオデットに女学生の死体を横取りされ苦い経験を思い返す。 あの怪物はピーターと同じく人を喰らう食人趣味だった。 美しい女ばかり選り好みするピーターと違って何でも喰らう雑食のようだが。 「それで何か腹に当たったんですか?」 『百万の死を内包した少女に悪党の手先のチンピラといろいろだが、一番はヴァイザーとかいう毒物だろうね』 「なるほど、それは猛毒だ」 ピーターでも腹を壊してしまいそうだ。まず喰おうとも思わないが。 だがそれで色々合点がいった。 殺気を読むようなオデットの動き、バラッドが感じ入っていたモノ、全てはヴァイザーに集約する。 奴は喰らったヴァイザーに乗っ取られでもしたのか。 それこそファンタジーだが、あの男ならやりかねない。 「つまりはヴァイザーとバラッドさんの共闘という訳ですか。それはそれは」 組織ども幾度か見られた近接が優位な室内戦においては最強の組み合わせだ。 だが、それでも足りない。 ピーターは相手の強さを嗅ぎ取る嗅覚には自信がある。 これまでピーターが裏稼業で生き延びてきたのはその匂いを敏感に感じてきたからだ。 組織最強のカードを切ってもあの邪神には届かないだろう。 そんな疑問に電話先の声が答える。 『死んだ尾関裕司の使っていた力をバラッドが受け継いだのさ』 「力? ああ、ユージーの使ったあのよくわからない超能力(?)ですね」 原理もよくわからなかったが、間違いなく強力な力だった。 あの力を今はバラッドが使っているというのだろうか。 ずぶの素人であるユージーが怪物と渡り合えるほどの力を発揮したのだ。 戦闘巧者であるバラッドが使えば確かに強力だろう。 ユージーの力を受け継いだバラッドにヴァイザーの力を受け継いだオデット。 大ゴマが二枚。これなら邪神から金星を勝ち取る可能性くらいはあるだろう。 「つまり本当にバラッドさんは勝ったのですね、あの邪神に」 『そう言っただろう』 ピーターは真剣な面持ちで薄く目を細めた。 何を考えているのか、表情の読み取れない電話越しではワールドオーダーとて理解できまい。 「バラッドさんはどうされてるんです?」 『珍しいね。君が他人を気に掛けるだんて。それとも強力な力を得たバラッドにまた守ってもらうつもりかい?』 「まあそんなところです」 曖昧な肯定。 無論生存のためと言うのもあるが、喰い逃した獲物への食欲も含まれていた。 生きることも大事だが、また食う事も大事である。 「まさかその後もオデットと行動を共にしてるなんて言いませんよね?」 『直後に別れたさ。彼女はまだ市街地にいるよ、地図で言う所のI-9辺りだ。 だが庇護を求めるのならお勧めはしないかな。 バラッドは戦いに敗れ、死んではいないモノの精霊の力を失っている。 何より途中にはオデットがいる。そちらに向かうなら出会う可能性は高い』 それは直接的な危機を知らせる有益な情報である。 だがなんとなくピーターの耳にはバラッドは諦めろと、試すような言葉にも聞こえた。 「それはそれは。気を付ける事にしましょう」 ピーターは表情を変えず、受け流すようにそう答えた。 肯定も否定もしなかった。 そこでピーターの方がちょんちょんとつつかれる。 振り返るとアサシンが手を差し出していた。 少し長電話が過ぎたようだ、いい加減電話を替われという事だろう。 一言電話先に断ってアサシンへと電話を手渡す。 「お電話代わりましたアサシンです」 携帯電話を引き継いだアサシンが淡々とした声でそう言った。 『ああ、君か。ちょうどよかった、僕も君と話をしたいと思っていたところだ』 思いがけない言葉だったがアサシンは動じる様子もなく「そうですか」とだけ答える。 そしてマイペースに自らの用件を切り出した。 「依頼の件について確認を」 『依頼? ああ……確かそうなってるんだったか』 ポツリと小さく呟く。 その呟きを聞き逃さなかったアサシンが首をかしげる。 「なんです?」 『こっちの話さ。それで? 達成が難しそうだから条件を緩和して欲しいとか言う話かい?』 放送により発表された死者を差し引けば生き残りは17名。アサシン自身を除けば16名だ。 さらにピーターや森というすでに切られた連中も含まれないとなると、12名を斬るというのは生き残り全員を斬るようなものである。 これはいかに最高峰の暗殺者とはいえ不可能に近いだろう。 だがそうではないと首を振る。 「いやいや。そうではなくて。具体的な報酬について確認していなかったなと思いまして。 報酬に拘る方でもないんですが、ただ働きと言うのもなんですしね」 何せ事前準備無し、ターゲットは複数かつ超人揃い。 これまでにアサシンが受けた以来の中でも最上級の難易度の仕事だ。 これでそれ相応の報酬がなければ張合いもないというモノ。 『へぇ、だったらどうして受けようと思ったんだい?』 「どんな依頼も断らないが信条ですので」 その上で成功率100%だというのだから恐れ入る。 それはどんなガキの使いでもやるという意味ではなく、アサシンに依頼を出せること自体がステータスだ。 もっとも今回のように勝手に依頼だと思い込んで勝手に行動したという事案も少なくないが。 彼にとっての殺しとは挑戦や探究の類である。 報酬以上に彼は、己の能力を駆使することに拘っていた。 殺しには己の天才を出し尽くせる全てがある。 彼は生まれながらにして万能の天才だった。 世界中に掃いて捨てるほど存在する凡百の神童と違って彼は挫けることもく順調に全ての能力を人の極限に迫らせていった。 出来ないことなどなかったし、敵うものなどいなかった。 産まれたばかりの赤子は無限の可能性持っていると言うが、人は生きるたび何かを選択するたび可能性を失っていく。 だが彼の場合はその可能性を維持したまま育ったようなものである。 彼にはなんにでもなれた。 成功の約束された人生だった。 それがどうしてこうなった。 「それで確認しておきたいんですけど、達成したときに頂けるスペシャルな報酬とはなんでしょう?」 『一応こちらの想定したものはあるけれど、別の報酬を望むならそれでもいいよ、変更は可能だ。望みはあるかい?』 望みを聞かれるがアサシンだが、依頼と同じく報酬も依頼者の言い値で受けてきた。 報酬自体を指定したことはないが、アサシン相手に足元を見て報酬を出し惜しむような輩はいない。 不満が残る結果になった事はなかったが。 「ちなみに想定した報酬とはなんでしょう?」 『僕の首をくれてやろう、と思ったんだけど、いるかい?』 「いやまったく」 アサシンはシリアルキラーではない。 殺人はあくまで仕事である。 それでも普通ならば殺し合いに巻き込まれた怨みを持つものだが、生憎アサシンは普通ではない。 『だよねぇ。僕としてもこれだけ斬れるなら相応しい相手になると思ったけれど、どうにもそうはなりそうもないようだ。 この辺はこちらの見込みが少々甘かった、反省点だね』 「はぁ…………?」 それは誰に向けるでもなく自省するような呟きだった。 ただ何やらアサシンに不満を持っているのも分かった。 『なら代わりの望みを言えばいい。なんだったら生存をくれてやってもいいよ。 君が望むなら達成できた時点でこの殺し合いから生きて離脱させてあげよう』 ピーターならば飛びつきそうな条件だが、アサシンは首を捻りうーんと不満気な声を漏らす。 「いや自分で帰るので結構です」 あっさりと断りを入れる。 この報酬も最高峰の殺し屋にはあまり魅力的には感じられないようだ。 そもそもアサシンに死ぬ気などない。 幾らアサシンでも死ぬつもりなら呑気に仕事なんて受けていないだろう。 死が隣り合わせの仕事など彼の日常と何の違いがあるというのか。 難易度に差はあれどサラリーマンが毎日会社に出社するようにアサシンにとってはこれも何でもない仕事の一つだ。 それは「お前の目論見なんて無視して帰還する」と主催者に直接言っているようなものだが、気づいてないあたり天然の恐ろしさだろう。 『じゃあ何を望むんだい?』 「そうですねぇ……」 問われアサシンが考え込む。 元より物欲にかける男で、欲しい物などあまりなかったし、彼に手に入れられないモノもほとんどない。 生きるために金は必要だが、金ならすでにたんまりあるし、アサシンならばこれからいくらでも稼げる。 他に欲しい物と言えば…………。 『すぐに思いつかないようなら先にこっちの話を済ましてしまおうか』 考え込むアサシンの結論を待たず、ワールドオーダーが切り出した。 そういえば話がしたかったと言っていたのだったか。 「はい? なんでしょう」 『今君のやっている仕事だが中断してもらえるかな? 契約の変更と言うやつだ。』 突然の申し出だった。 アサシンは表情を変えぬまま目を細める。 「理由をお聞きしても?」 声にこもる不満を隠そうともしなかった。 任された仕事はやり遂げるが信条のアサシンにとって中途半端で投げだすのは納得いかないのだろう。 『君のまき散らしてるその病気は、困難を克服できるかどうかの選別でもあるのだけれど、どちらかと言うと状況を動かすための仕込みのようなものでね。 状況がこちらの想定以上のハイペースで進んでしまったので、この段階ではあまり意味のある物ではなくなってしまったのさ。潜伏期間もあるしね。 まあ依頼者都合の契約変更と言うやつだ君の失点ではないさ。実に見事な仕事だった、おそらく君以外には不可能だっただろう』 取ってつけられたような褒め言葉だが、一応本心からの評価だろう。 事実ここまでやれた存在はアサシンを置いて他にない。 「変更、という事は別の依頼があるのですか?」 『ああ、今度は単純だ。参加者を五人殺してほしい。方法は何でもアリだ、獲物も問わない、君にとってはこっちの方が簡単だろう?』 確かに、殺さないというのはアサシンにとっては枷でしかない。 その枷を解かれたほうが仕事がしやすいのは確かである。 「いいでしょう。新たに依頼を受け直しましょう」 アサシンは少しだけ考え、これを受ける事にした。 その前に「ただし」と条件を付けくわえる。 「改めて依頼を受け直すとして、この依頼の報酬とは別にこれまでの働き分の報酬を頂きましょうか」 違約金として当然の請求であると言える。 だが何が欲しいのか決まりもしなかった男が追加の報酬を持ち出すのは意外と言えば意外だった。 『まあそれは構わないけれど、望むものは決まったのかい?』 「ええ。決まりました」 これまでの会話の間も考えていたのか、迷いなくはっきりと言う。 何を望むのか、願いを受け届ける支配者は興味を引かれた。 「あなたの事を聞かせてください」 『…………そう来たか』 予想外の要求に支配者は電話越しの口元を歪めた。 『君はあまり僕に興味を持つ性質だとは思わなかったんだけどね』 「興味はありますよ。好奇心だけは人一倍ですから、見えません? とはいえ別に、知ったからと言ってどうこうするつもりもありませんが」 解決のためのヒントが欲しいという話ではなく、自分が何に巻き込まれたのかただ気になる。 彼にとってはそれだけの話だ。 野次馬根性とでも言うべきか。 『なら”僕”と『僕』どちらの話が聞きたいんだい?』 「はぁ、何がどう違うので?」 その疑問には答えず、ワールドオーダーはつらつらと己についての話を始めた。 『パティシエ見習いの21歳。容姿は中肉中背のどこにでもいるような平凡な男で、学業はやや苦手、英語が得意で数学が苦手。 日本の岩手県という片田舎出身で農家を継いでほしい親とは喧嘩別れで半ば家出同然に3年前に上京。 修行している店の店主とは比較的良好な関係を気づいているが、内心はあまり尊敬していない。 恋人とは3か月前に別れ、復縁しようと画策中。こんな所かな』 一息で捲し立てる様に語られる。 それは世界を巻き込む男にしては余りにも不釣り合いな平凡すぎるパーソナリティだった。 「なんですそれ?」 『僕の話さ』 思わず問い返すがあっさりと返される。 そして皮肉めいた口ぶりで言う。 『なんだい、さして珍しい経歴でもなかったと思うが、理解できなかったな?』 「いや、要するに貴方が取り付いたその体の話でしょう?」 こちらも負けじとあっさりと返した。 とぼけた男だが、頭脳も天才のそれだ。 余りにもイキ過ぎて浮世離れしているだけである。 常人であれば持っているような常識や先入観もないため、こういった不可思議な事態に対する理解も早い。 『そう。理解が早くて助かる』 「それはどうも。けど何か誤魔化してます? そういうことを聞いてるんじゃないってわかりますよね?」 『さて、どうだろう。そろそろ話してもいい頃合いではあるんだがね。 まあ、そっちはもう一つの仕事が終わった時にしようか。お楽しみは取っておこう。 別に構わないだろう? どうせ君にとっては成功する仕事だ』 確実に仕事が成功するというのなら報酬は確実に手に入る。 早いか遅いかの差でしかない。 つまりは、ここで喰らいつけばそれは完遂する自信がない、という事になるという訳だ。 そんな挑発めいた言動にも感情を動かすことなくアサシンはそうですねと淡々と同意する。 何故ならそれはアサシンにとって当たり前の事実なのだから。 『じゃあ、そういう事でいこう。そろそろ切るよ、あまり暇でもないのでね』 「ええ、了解しました。依頼が達成できたらまた連絡しますね」 そう言って電話を切る。 携帯電話をピーターに返そうとして振り返った所で、アサシンは間の抜けた声を上げた。 「おや……?」 ピーターの姿は消え去っていた。 一人目の標的として電話を渡すと見せかけて、近づいた拍子に首でも折ろうかと思ったが、どうやら危機を察知して逃げ出したようだ。 あっさりと殺しにかかろうとするアサシンもアサシンだが、それを察していち早く立ち去るピーターもピーターである。 弱者たるピーターがここまで生きてこれたのはこういう立ち回りの巧さ故だろう。 「楽には行きませんか」 この場が一筋縄でいかないのは十分に理解している。 一般人ならまだしもこの場の5人殺し切るというのも簡単ではないだろう。 それでもやりきるまでだ。 最高峰の殺し屋として完全な仕事を成すために。 【H-7 市街地/夜】 【アサシン】 [状態]:疲労(小)、右腕負傷、右足裂傷、左足に火傷 [装備]:妖刀無銘、悪党商会一般戦闘服 [道具]:基本支給品一式、携帯電話、爆発札×2、S WM29(0/6) [思考] 基本行動方針:依頼を完遂する 1:5人殺す ※正式に依頼を受けました ※5人斬りを達成した為、刃の伸縮機能が強化されました。 ※6時間の潜伏期間が4時間に短縮されました バラッドは遠く沈んだ空を見ていた。 目に映るのは心の不安を煽るような先の見えない暗黒。 その闇を見る。 ここからは星ひとつ見えない。 彼女に相応しい、慣れ親しんだ暗闇の時間が来る。 『……大丈夫?』 小鈴のように響く心配そうな声が聞こえた。 その呼びかけにバラッドは「ああ」と応えるが心ここにあらずと言った風である。 彼女が呆けているのは今しがた流れた放送によるものだ。 訪れたいくつかの死は彼女に衝撃を与えた。 亦紅――ルカの死。 裏切り者の元仲間、いやバラッドも組織を裏切った以上裏切り仲間か。 死亡タイミングからしてあの女に敗れたのだろう。 僅かに交戦した限り強敵であることも理解しているし、バラッドもその相棒に敗れたのだ、意外と言う程の結末でもない。 だが、あの冷たい殺し屋を知る者としては受け入れがたい結果である。 天然の怪物ヴァイザーに匹敵する純粋培養の怪物。 至高の殺し屋から生まれ、妄執の殺し屋に育てられた『完成された殺し屋』。 恐ろしく強く、恐ろしく冷たい、およそ人間らしさのない殺すための機械。 だが、奴は変わった。再会したルカはまさしく別人だった。性別すら変わり果てていた。 それは堕落なのか、それとも我らにはたどり着けない境地にたどり着いた到達者なのか。 奴の歩んだ道程を知らないバラッドには分からない。 分かるのはルカは敗北したという事実だけである。 ヴィンセントの死。 保護対象とした少年を護れなかった無念に己の無力を思い知らされる。 誰かを護ろうとすること自体が烏滸がましいことだったのだろうか。 所詮この手は人を斬ることしかできない血に塗れた人斬りの手でしかないのかもしれない。 そんな後悔に拳を握りしめる。 ヴィンセントを殺した下手人として一番怪しいのは森茂とかいう男である。 見た目からして胡散臭いあんな男に託した判断は間違いだった。 止むに止まれぬ状況だったとはいえ、己の浅慮さに歯噛みする。 ヴィンセントを殺された借りは必ず返すと誓う。 それだけがバラッドのできる弔いである。 こうして殺す事でしか己が価値を見いだせない。 自らを拾い取り立ててくれた恩人に対してだってそうだった。 アヴァンの役に立とうと、ただひたすらに己の腕を磨き、青春や思春期のすべてを人殺しの技術を磨くことに費やした。 そういう形でしか恩を返せなかった。 そういう方法しか知らなかった。 それが相手の望むことなのかなども考えずに。 これがバラッドという女の真実だ。 だが、これらの死よりも衝撃的に、彼女を打ちのめしたのは別の名だ。 これは予測していなかっただけに完全に不意打ちだった。 ――――サイパス・キルラが死んだ。 組織最強の鬼札すらあっさりと脱落したのだ。 ここが誰が死んでもおかしくない戦場であるなんてことは理解したはずなのに。 それでもサイパスが死ぬなどとバラッドは欠片も想像すらしていなかった。 好きだったわけでもないし、個人的に親しかったわけでもない。 巌のように頑ななあの男と親しい人間などバラッドの知る限りサミュエル翁くらいのものだ。 それでもあの男が死んだというのはバラットにとってヴァイザーが死んだという事実以上に信じがたい。 街一つ半壊させる怪物を目の当たりにしようとも、自身がそれに対抗しうる力を手にしようとも、あの男にだけは勝てる想像ができなかった。 それは単純な強さだけの問題ではなく、組織に属するものはまずあの男によって『教育』されるからだろう。 子が父に逆らえないようなものだ。 組織に属する人間はサイパスに畏怖の念を抱いており、誰も逆らうことはできない。 傍若無人なヴァイザーですらサイパスには伺いを立てていたほどである。 そしてそれはバラットも例外ではない。 面と向かって意見できるのは身の程知らずのイヴァンか古株の面々くらいのものだ。 組織の面子を追い返してそこでふと気づいた。 バラッドが組織を抜け、サイパスが死んだという事はつまり。 ここに連れてこられた組織の面々で生き残っているのはピーターだけになったという事だ。 バラッドに付き合い組織を抜けるなどと言ってい気もするが、本気にはしていない。 組織を抜けた今となってはどうでもいいと言えばどうでもいいことだが。 人生の半分以上を過ごした古巣が無残に散ったというのはどこか虚しい物がある。 組織の中でも軽んじられてきたピーターが最後まで生きこったというのは何の皮肉か。 戦闘力はヴァイザーやサイパスと比べるべくもないが、危機を察し流れを読む嗅覚は組織でも随一だった。 実際、奴は多くの危機から逃げ延びてきた。多くの死者を出した現場から一人だけ生き残ったこともある。 それを逃げ腰だと揶揄する者もいたが、サイパスだけが高く評価していたことを覚えていた。 当人は称賛も侮蔑も気にせず飄々と立ち回りっていたようだが。 邪神を前に逃げ出した時もそうだ。 あの邪神を前に逃げ出すのは正常な判断だろう、むしろ意地になって挑んだバラッドがバカであるくらいの自覚はある。 ピーターの判断を責める気はない。 今頃どうしているのか。 少しだけ気にかかった。 「…………バカらしい」 振り払うように首を振る。 何の未練だこれは。 下らないと思考を断ち切る。 「ユニ、もう一度戦えるようになるにはどれくらいかかりそう?」 『ゴメン。まだあと2時間くらいは必要』 申し訳なさ気にユニは言うが、ユニが謝るようなことではない。 敗北し純潔体が解かれたのはバラッドの落ち度だし、再生力に時間がかかるのも妄想力の低さゆえだ。 思春期に妄想に耽ることなど無く、刃と硝煙の臭いがする世界で現実と戦い続けてきた。 それはバラッドにとっての誇りではあるのだが、今はそれが足を引っ張っている。 あの力に頼り切るつもりはないが、怪物たちが跋扈するこの戦場で必要な力である事もまた確かだ。 純潔体の回復を待たねばまともに戦うことはできないだろう。 これまで自分が積み重ねた力、ここで得た新たな力。 そのどちらに頼り切ってもならないし。 そのどちらも欠けてはまともに戦えない。 復讐対象のイヴァンは死に、保護対象のヴィンセントも死んだことにより当面の目的は失われた。 探すべき仲間も知り合いもない。 新たな目標を考えなくてはならい。 先ほど敗れた相手を探し出してリベンジマッチを申し込むか。 ヴィンセントを殺したであろう森を探し出し落とし前をつけさせるか。 それともいい加減、あの怪物女との決着をつけるか。 そこまで考えて苦笑する。 どれもこれも血生臭い。 そんな選択しか思いつかない辺り、これでは何のために組織を抜けたのか分からなくなる。 そもそも考えてみればこの場の目標だけじゃなく、生きる目標も曖昧である。 部屋の隅の埃のように死が積み重なりいろんなものが見えなくなる。 この生き方しか知らない自分が、組織を抜けどう生きるというのか。 何が何でも生き延びたいかと問われれば疑問は残る。 これまで殺し屋として多くの人間を手にかけてきた。 そんな自分が穏やかで幸せな生活を送れるとも思えない。 ユニとの契約により子をなす未来もない。 それならば、この場で誰かを護って上等な死に方をした方がいくらかマシだ。 そんな自罰的な破滅願望がないとも言い切れない。 だから優勝を目指すでも脱出を目指すでもない曖昧なまま。 ヴィンセントを気にかけていたのもそういう理由だったのかもしれない。 そう思えば、別人のごとく変わり果てたルカは立派に新たな人生を歩んでいたのかもしれない。 あれほど殺し屋としての機能以外を持たなかった人間が殺し屋以外の生き方を見つけたのだ。 それは得難く尊いものだったのかもしれない。 そんな生き方が自分にもできるだろうか? 分からない。 そんなものを望んでいいのかすら。 分からなくとも、己にできることは剣を振るう事だけだ。 己の矜持に殉じる覚悟はあれど、バラッドだって死にたいわけではない。 無駄死にはごめんだ。 先があるかないかは精いっぱい生き延びた後に見えるものだろう。 「……とりあえず休むとするか」 純潔体の回復まで2時間。 素直に身を隠して息をひそめることにした。 それまでの間、何事もなければいいのだが。 【I-9 市街地/夜】 【バラッド】 [状態]:ダメージ(中) [装備]:ユニ、朧切、苦無(テグス付き) [道具]:基本支給品一式 [思考・行動] 基本方針 殺し合いに乗るつもりは無いが、襲ってくるのならば容赦はしない 0 純潔体の回復まで身を休める 1 オデットと決着をつける 2 森茂に落とし前をつけさせる 3 りんご飴に借りを返す 4 アサシンに警戒。出来れば早急に探し出したい。 ※純潔体修復完了まで2時間 ※3時間以内に参加者を一人殺害、9時間以内に参加者三人殺害しなければ死亡します オデット。 それは人間に与した父を殺され、呪いをかけられて打ち捨てられた美しき魔族の名だ。 呪いに身を焦がし彷徨う中、勇者カウレスと運命の出会いを果たし共に長い旅をした。 怨みではなく人間と魔族の融和を求めた心優しき少女。 だが、今のオデットにかつての姿は見る影もない。 今の彼女は優しさとは無縁の暴虐と暴威を振るう怪物だった。 彼女の存在はもはや別の何かに成り果てた。 存在の証明とは何によって成されるものなのだろう。 肉体か精神かそれとも、魂か。 心優しき少女の存在は、どこに行ってしまったのか? 魂どこにが存在するのか証明できた人間はいない。 だが少なくとも丸ごと喰ったのだから、どこにかに魂も含まれていたのだろう。 その魂がこうしてオデットを苛み蝕んでいるのかもしれない。 だが、豚を食べて豚に意識を乗っ取られる人間はいないだろう。 例えば喰人鬼であるピーター・セヴェールは多くの人間を喰らってきたが喰った相手の意識なんて微塵もない。 では、彼女の中に取り付いたこれらはなんなのか。 全てを許す穏やかな海のような彼女の心は、荒れ狂う嵐によって千切れんばかりに張りつめていた。 その嵐の正体はノイズのように幾重にも積み重なった声。 声。声。声。声。声。声。声。声。声。声。声。声。声。声。 聴覚ではなく意識に直接叩きつけるような不協和音を防ぐ手立てはない。 絹を割いたような女の絶叫が響く。 呻くような子供の断末魔が聞こえる。 低く唸るような怨嗟の声が染み渡った。 それは怨嗟であり歓喜であり渇望であり悲観の声である。 多くの人生が瀑布のように流れ込み、ドロドロの血と肉を煮詰めたスープのように意識が砕かれぐちゃぐちゃに溶けた。 こんな世界で正気を保っていられるだなんて、それこそ正気ではないだろう。 死に廻る。 死とは人生の総括だ。 百万の死があるという事は百万の人生があったという事。 百万の人生が一人の体と脳に刻まれる。 刻まれたエピソード記憶から多くの経験が思い返される。 彼女は魔族であり冒険者であり学生であり奴隷であり作家であり赤子であり貴族であり聖職者であり娼婦であり病人であり数学者であり少年兵であり詐欺師であり教師であり技術者であり剣闘士であり医者であり小市民であり政治家であり世捨人であり英雄であり野生児であり魔法少女であり社会人であり映画監督であり領主であり超能力者であり商人であり罪人であり巫女であり侍であり踊り子であり航海士であり大富豪であり悪党であり殺し屋だった。 自分で自分が分からなくなる。 自分が自分であると分からなくなる。 100万分の1になれば、どれが自分かわからなくなる。 己はただ一人の我であるという強い自我がなければ、誰にも負けない強い個を持たなければ、あっという間にこの奔流に押し流されてしまうだろう。 それを持っていたのがヴァイザーであり、茜ヶ久保である。 この二人は何事にも染められず己が黒ならば世界が白でもそれを貫く強さを持っていた。 だからこそ彼らは全てが薄まる奔流の中でも色濃く表立つ。 それが己の人生だと錯覚するほどに。 だが、その一つに揺らぎが生じていた。 揺らいだのは第一支配権を握るヴァイザーだ。 きっかけはワールドオーダーに為す術なく敗北したことである。 道明にはめられ死亡したときとも感じなかった敗北感が彼の精神を打ちのめした。 道明がヴァイザーに勝ったのは殆ど偶然のようなもの、一発限りの賭けに勝っただけである。 実力では負けていない、次があれば確実に勝つ。 森にも一杯喰わされたが、明確な決着には至らなかった。 あのまま続ければどうなっていたかはわからない。 どちらもまだそういう逃げ道(いいわけ)が残されていた。 だが今回ワールドオーダー相手に喫した敗北は違う。 恐らく10回やっても10回負ける。 言い訳のしようもない完膚なきまでの敗北だ。 それどころか、いいように顎で使われようとしている。 己にできたことは負け惜しみのような言葉を残して立ち去ることだけ。 このような屈辱を味わったのは生まれて初めて、いや死んでからも味わったことがない。 ヴァイザーの人生は最底辺の溝の中で勝ち続けた人生だった。 勝利こそがアイデンティティ。最強である事こそがヴァイザーと言う男の人間性だ。 それが否定された。 加えてサイパス・キルラの死亡。 ヴァイザーとしての記憶はなくとも感じ入る物があったのか。 その悲報が届いた瞬間、ダメ押しのように精神性が揺らいだ。 逆に活気づいたのは茜ヶ久保だった。 茜ヶ久保は負け慣れている。 良く言えば敗北を糧にして奮起する人格だ。 故に滾って燃えていた。 この屈辱を返すとリベンジに燃えていた。 頂点が下がり、次点が上がる。 上手くボトムとトップが釣り合って、溶けたアイスクリームみたいに意識が混ざり合う。 泥のように、絵の具のように、意識と意識がマーブル模様を描く。 それは美しいと言うよりも禍々しく吐き気を催すようなおどろおどろしい狂気だった。 『ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!』 弾けるような哄笑が高らかに響く。 それは怨嗟や渇望の声をかき消すような歓喜の声だ。 入り混じる。 人生が入り混じる。 人格が入り混じる。 人間性が入り混じる。 誰が誰なのか分からなくなる。 自分が誰なのか分からなくなる。 自分が自分でなくなるのはたまらなく悍ましく、たまらなく空虚で、たまらなく愉快だった。 自分は誰だ。 問いかける。 私はオデットだ。 本当に? 少なくともそういう名前のモノだった。 なら今は? (こんな、違う…………こんなの、私じゃ) それはか細く、逃避するような小さな声。 その細い糸はうねりを上げる死の奔流に掻き消されてゆく。 残ったのは何物にも負けず轟く誰かの笑い声だけだった。 【I-8 市街地跡/夜】 【オデット】 状態:首にダメージ。神格化。疲労(中)、ダメージ(大)、首輪解除 装備:なし 道具:リヴェイラの首輪 [思考・状況] 基本思考:気ままに嬲る壊す喰う殺す 1 西側の殲滅? ※ヴァイザーの名前を知りません。 ※ヴァイザー、詩仁恵莉、茜ヶ久保一、スケアクロウ、尾関夏実、リヴェイラを捕食しました。 ※現出している人格は????です。 アサシンとワールドオーダーの会話に不穏な気配を察していち早く立ち去っていたピーター・セヴェールは足早に夜の市街地を歩いていた。 端くれとはいえ殺し屋である。 足音を殺しながら、最低限気配を悟られぬよう隠密行動をとっていた。 さすがにアサシンのような規格外の化物には無意味だろうが、素人相手なら夜の闇に紛れてそうは見つかるまい。 主催者に取り入るプランは失敗に終わった。 そのプランは最初から考えていたものだったが、交渉手段を得たのは偶然に過ぎない。 携帯電話の交換材料もアサシンが用意したためピーターの払った代償はないも同然である。 別段落胆するほどの結果ではない。 だが次のプランを考えねばならないのも事実である。 ミル博士も死亡したようなので、首輪解除の当てはなくなってしまった。 どちらかと言うとこちらの方が痛い。 禁止エリアで行動が制限されるだけではなく、そう言う当ても減っていく。 状況が進むにつれ追い詰められていくのを感じる。 多分これはあの男のしつらえたそう言うシステムなのだろう。 あの男は誰かを殺したいわけでも殺し合いを完遂したいわけでもない。 何か条件に見合う人間を探している。 ピーターはあの短いやり取りでそう察した。 つまりこの殺し合いを終わらせる方法は二つ。 ピーターが条件を察してそれに見合う人間になるか。 誰かが条件を満たし取り立てられるかだ。 前者はあの男に利用される可能性が高いためできれば後者だが。 後者は後者で選ばれなかった人間がどうなるのか分かった物ではない。 なんとも痛し痒しである。 やはり横貫で帰る方法を見つけ出したほうが利口か。 生き残りの中にもそう言う方向を目指している面子もいるだろう。 そこに取り入るのが無難なのかもしれない。 そうなると顔見知りがいると便利なのだが。 生憎、組織の面々は壊滅、生き残った知り合いはバラッドくらいの物である。 まあ組織の人間がそんな平穏な方針のチームにいるとは思えないが。 組織と言えば、バラッドに組織を抜けるという話をしたことを思い返す。 あの時はバラッドに合わせた説き文句、リップサービスのような物だったが今は本気でそうしようかと考えている。 契機となったのはサイパス・キルラの死だ。 サイパスはピーターが食欲以外で興味持った初めて人間だったといえる。 異常者を束ねるモノが、誰よりも正常な人間であったという皮肉。 その事実がたまらなく愉快だった。 その矛盾と妄執の末路を見てみたいと思っていたが、どうやらそれはもう叶わないようだ。 「……残念ですね」 心の底から呟く。 ピーターが組織にいた理由は三つ。 そのうち二つはこの地で失われしまった。 去る理由が残る理由を上回ったのなら立ち去るのが道理だろう。 追手は差し向けられるだろうが、ヴァイザーもサイパスも欠けた組織など正直それほど怖くはない。 怖いと言えばボスは怖いが、積極的に追手を差し向けるような性格でもなかった。 あの男は組織の内側にしか興味がない。組織の外に逃げた相手など興味を持たないだろう。 「まあ後処理やいろいろ段取ってくれるのは、便利ではあったんですが」 その最後の理由もサイパスが消えた以上どうなるのか分からない。 イヴァンも同時に消えてくれたおかげで下手なことにはならないとは思うが、今のボスはピーターでも読み切れないところがある。 今後の組織はどうなるのか。 「ま、どうでもいい話ですが」 無感情な声でつぶやく。 本当にどうでもいいと言った色のない声だった。 サイパスと違いピーターは組織自体には何の思い入れもない。 組織に育てられたアザレアやイヴァン、バラッドなどとも違う。 確かに便利で面白くはあったが、それだけだ。一時の腰かけでしかない。 あの組織は元より5人の男の妄執で保たれた張りぼての船である。 サイパス・キルラという竜骨が折れた時点で破綻は免れない。 いや、それを言うのならアヴァンが死んだ時点で崩壊は始まっていた。 組織の行く先はとっくに暗礁に乗り上げている。 既に始まっていた崩壊に人を殺すしか取り柄のない連中は気付いてもいなかったようだが。 イヴァンは色々方策にひた走っていたようだが、それも実ることなく無意味に終わった。 そんなところに付き合う義理もない、この地でなくなった。 なら沈む前にさようなら。 ピーター・セヴェールは普通の喰人鬼に戻ります。 ひとまず離脱を目指すとして、この地に未練があるとするならば一つ。 バラッド。彼女を食せないのは未練だ。 一度諦めたご馳走を喰えるかもしれないとなるとむくむくと食欲が鎌首が擡げる。 とは言えワールドオーダーからの忠告に合った通り、オデットと出会ってしまうのは美味くない。 一対一で出会ったら間違いなく殺される。 あれが本当にヴァイザーの気質を受け継いでいるのなら見逃されることはないだろう。 禁止エリアで行動範囲が狭まった今では避けて通るのも難しそうだ。 かと言って引き返してアサシンに出会うのもまずい。 僅かとはいえ行動を共にしただけだが分かる。 対人に関してあれはオデットを超える怪物だ。 殺すつもりになったあの男に出会った時点で、否、出会ったことに気づくことなく殺されるだろう。 不意打ちを受けるような状況だけは絶対に避けなければならない。 進むも地獄戻るも地獄。前門の虎後門の狼である。 つまりはいつも通りの日常だ。 いつものように人を喰った笑顔で乗り切りながら、地獄を渡り歩くとしよう。 【I-7 市街地/夜】 【ピーター・セヴェール】 [状態]:頬に切り傷、全身に殴られた痕、マーダー病感染(発病まで1時間) [装備]:MK16 [道具]:基本支給品一式、MK16の予備弾薬複数、焼け焦げたモーニングスター、SAAの予備弾薬30発、皮製造機の残骸とマニュアル本、『組織』構成員リスト、エンジンボート [思考・行動] 基本方針 女性を食べたい(食欲的な意味で)。手段は未定だが、とにかく生き残る。 1 バラッドを探す? 2 脱出を目指す参加者を探して潜り込む 145.復讐者のイデオロギー 投下順で読む 147.!緊急クエスト! ― 悪党をやっつけろ ― 時系列順で読む Negotiation アサシン 死なずの姫 ピーター・セヴェール さあ、ラスボスの時間だよ オデット 炎のさだめ バラッド 人でなしの唄
https://w.atwiki.jp/jisakurowa2nd/pages/110.html
あたしが殺した(前編) ◆CUPf/QTby2 一刻も早く、人の気配に触れたかった。 ゲームに乗っていても構わない。殺意を向けられても構わない。 相手が人間ならば、顔見知りならば、クラスメイトならば、 出来ることは自分にもある。けれども、この森は手に負えない。 自然の前では、自分は無力だ。いや、無力だと思ってしまう。 一歩足を踏みしめるたびに、枯れ枝が乾いた音を立てる。 視界が悪い。枝葉が天を覆い隠し、星明りすらも遮ろうとする。 がさり、と近くで音がする。獣か、蛇か、虫けらか風か、 それとも己の踏みしめたものが離れた何かに繋がっていたか。 がさり、と再び音がする。誰もいないはずの場所から、這うような音。 獣だったらどうしよう。毒蛇だったらどうしよう。気持ちの悪い虫だったら。 逃げ足には自信がある。持久力にも自信がある。 しかし、視界が悪すぎる。足場も悪く、障害物にも事欠かない。 恐怖に屈して走り出せば、怪我を負う可能性のほうが高くなる。 ――大丈夫。落ち着きを失ったら、出来る対処も出来なくなるわ。 冷静に考えて。さっきの校舎。この島には、少なくとも学校がある。 つまり、それなりに文明と共存している場所だってこと。だから……。 大丈夫。どうにかなる。そう自分に言い聞かせ、 不動院凛華(ふどういん・りんか/女子十六番)は前進する。 それでも恐怖は忍び寄る。周囲のすべてが不安を生む。 何度も怯え、足を止め、ようやく視界が開けたとき、 凛華はその場にへたり込んだ。 そう、たとえそこが、ゴーストタウンであったとしても―― 町並みは暗く沈んでいても、その形には人の営みの痕跡がある。 凛華の見知った世界がある。だから凛華は安堵した。 大丈夫、どうにかなる。その言葉にようやく根拠が宿ったような気がして。 ふと視線を感じ、顔を上げると、同じクラスの女生徒が 住宅の外壁に背をもたせかけ、力なくこちらを見やっていた。 有栖川桜(ありすがわ・さくら/女子二番)。負傷しているのだと分かる。 右腕に何かが刺さっており、鮮血が流れ落ちている。 誰かに襲われたのだろうか。それとも返り討ちに遭ったのだろうか。 どちらにせよ、手当てをしなければ。自分には、それが出来るのだから。 凛華は桜に歩み寄る。桜の身体が強張るのが分かる。 「大丈夫。危害を加えるつもりはないわ」 凛華は両手を軽く挙げ、丸腰であることをアピールする。 桜は何も答えない。その強い視線からは、警戒心が見て取れる。 凛華はふと、思い出す。 両親の経営する動物病院、そこに運ばれてきた傷だらけの犬。 人間から虐待を受けた犬の様子に、今の桜はどこか似ている。 ――誰かに襲われた可能性が高そうね。それも、一方的に。 彼女を休ませなければ、と思った。 怪我の手当ても必要だが、心の休息も不可欠だ。 一歩、また一歩、凛華は桜に歩み寄る。 「有栖川さん、歩ける?」 「……うん」 「近くに診療所があるようだけど……、そこに向かうのはあとね。 手近な家に入って、そこで応急処置をしましょう」 □ ■ □ 誰かが点したその部屋の明かりが、暗いカーテンから漏れている。 黄色がかった淡い光は、そこに獲物が潜伏していることを物語っていた。 なんて迂闊なんだろう、取り締まらなければ、罰を下さなければ。 嵐崎・キャラハン・蘭子(らんざき・-・らんこ/女子二十番)は 唇の端を吊り上げて一歩、また一歩、着実にその住宅との距離を縮める。 ――そこにいるのは桜なの? 随分と無用心じゃない。 そんなことしてたらママが怒り出しちゃうわ。ほぉら、こんな風に! 自身の背丈よりもはるかに長い物干し竿の端を両手で握り、 まるで薙刀を振るうように、遠心力を乗せた先端をガラス窓に叩き込む。 その一撃で、ガラスは砕けた。ガタリ、と頭上で何かが動く。 明かりの点った二階の部屋から、慌ただしい物音が聞こえてくる。 獲物が外敵の襲撃に、己の迂闊さに気付いたのだろう。 今更気付いても遅いのに。腹の底から笑いが込み上げる。 とはいえ、侵入経路はいまだ不完全。 ガラスを砕いた窓の枠組みは小さく、無理に潜り抜けようとすれば、 豊かな胸がつかえてしまうに違いない。 不意に、中学時代のことを思い出す。 『蘭子ちゃん、胸が大きくて羨ましい』――無邪気な笑顔で そんなことを言ったクラスの女子を、蘭子は即座に叩きのめした。 お仕置きだ。罰だ。巨乳には巨乳の苦悩があることも知らず、 安易に羨ましいなどと口にするなんて。ママなら激怒するだろう。 だから、教育してあげたのだ。その子のママの代わりに、自分が。 いいことをした、と思っている。ママだって絶対、そうするはずだ。 なのに、思い出すと苛々する。何もかもすべてが気に入らない。 何でもいい、誰でもいい、壊したくて殺したくて仕方がない。 チアガールがバトンを回すように、蘭子は物干し竿を回転させる。 ステンレス製の棒に遠心力を乗せ、次々と窓ガラスに叩きつける。 ガタン、と再び頭上で鳴る。慌ただしい音が二階から聞こえる。 しかし、明かりは点ったまま。足音も物音も、 同じ場所を行き来するだけで、逃亡の気配はうかがえない。 パニックに陥っているのだろう。蘭子は声を上げて笑った。 無駄なのに。逃げられないのに。勝てないのに。生き残れないのに。 あたしがいるのはそこじゃないのに。見当はずれな動きばかり。 無駄なことをして無駄なことを思って無駄に身構えて無駄に抵抗して、 そういうの、ママは大ッ嫌いなのに。知らないなんて重罪、死刑。 大窓を叩き割りながら、蘭子は甲高い笑い声を上げた。 □ ■ □ 静寂の彼方から、風に乗って、何かの割れる音が聞こえた。 聞き覚えのある女生徒の笑い声が被さるように遠くで響く。 「くっ、嵐崎の奴……」 桜の双眸が、にわかに力を取り戻す。 暗がりを力なく眺めることしか出来なかった彼女の目が、窓の外に向く。 桜がいるのは、凛華に手を引かれるまま転がり込んだ住宅内の一室。 襲撃者を警戒して、明かりは一度も点していない。 つい今しがたまで、桜の心は無力感に覆われていた。 理不尽極まる蝶野の命令、役立てられない超能力、負傷による激痛、 そして、ろくに言葉を交わしたことのないクラスメイトから受ける手当て。 緊張した。沈黙が心にのしかかる。次第に自己嫌悪が強くなる。 それを破ったのが、蘭子だった。 蘭子の声を耳にした途端、心が活力を取り戻した。 ――そうだ。弱腰になっちゃダメだ。出来ることを全力でやらなきゃ。 手当てを続ける凛華の指を退けるように、桜は無言で身じろぎする。 凛華が小声で桜を制する。その声は穏やかだが、芯の強さを感じさせる。 「有栖川さん、動かないで」 「嵐崎が暴れてるんだ。止めに行かなきゃ」 「だったらせめて、処置が終わってからにして」 「嵐崎の奴が、誰かを襲ってるんだ。あたしは助けに行きたい」 「気持ちは分かるけど、あと少しだけ我慢して。私も一緒に行くから」 「や、いい、ひとりで行く。あたし、嵐崎のことはよく知ってるから。 早く止めなきゃ、誰かが殺されるかも知れない。 怪我なんて気にしてる場合じゃないんだ、だから!」 痛む右腕をもう一方の手で庇いながら、桜は凛華から身を離す。 「有栖川さん、待って」 感情を抑えた凛華の声が、桜の背中に突き刺さる。 けれども桜は振り向かない。月明かりを頼りに暗い廊下を走る。 凛華の足音が追ってくる。踏み出すたびに、振動が傷の奥深くに響く。 ――諦めちゃダメだ。あたしの体はちゃんと動くんだから。 そう自分に言い聞かせ、廊下を抜けて、再び外へ。 ……桜は今、凛華に対して苦手意識を抱いていた。 性格が合わないわけではない。むしろ、好感を持てる方ですらある。 元々、桜は女子特有の粘着質なコミュニケーションが苦手だった。 一緒にトイレに行ったりだとか、相手の話に相槌を打ちまくるだとか、 そういう人付き合いの形に馴染めないものを感じていたのだ。 その点、凛華のパーソナリティは中性的で、自分に近いものがある。 もっとも親しい友人が男子生徒、という点も、ふたりの共通点と言えた。 また、生まれつき体が弱く、入院生活を送ることの多かった桜にとって、 負傷した腕を見ても取り乱すことなく手当てを買って出た凛華の姿は、 幼い頃より幾度となく自分を助けてくれた看護師を思わせ、心強い。 しかし、だからこそ桜は引け目を感じる。 対等な友人として接したいのに、どうすればいいのかが分からない。 相手が自分にしてくれたこと、自分の心にもたらしたもの、 それと同じだけのものを、どうすれば相手に返せるのか、 それが分からなくて身動きが出来なくて、息が詰まりそうになる。 そんな桜にとって、蘭子の横暴は渡りに船だった。 今の自分に出来ることがあるとすれば、それは蘭子を止めること。 そうすることで凛華を守り、蘭子に襲われている誰かも守る。 それに、蘭子自身についてもそう。蘭子を危険視してはいるものの、 邪魔だと思っているわけでもなければ、別に殺したいわけでもない。 蘭子のやり方には到底賛同など出来ないし、擁護するつもりもないが、 暴力という形でしか他人とコミュニケーションを取ろうとしない 彼女の姿を見ていると、関わりを持たずにはいられないのだ。 桜にとってそれは、一種の仲間意識だったのかも知れない。 □ ■ □ おっす! オラ八十島秋乃(やそじま・あきの/女子十九番)! たまたま上がり込んだ民家の一室で、オラ、パソコンを見つけたぞ! よーし、これでオラの支給品・USBフォルダも大活躍だ! まずは部屋の電気を点けて、パソコンを起動……っと。 どんなデータが入ってんのか、オラもうわくわく。 その時、庭先ですんげー音がした。誰かがオラに戦いを挑んできたんだ。 ……げげっ! その声は、嵐崎・キャラハン・蘭子! こりゃ、すげぇ虐殺になりそうだぞ。 次回、自作キャラでバトロワ2nd 『八十島秋乃、最大の危機!』 絶対見てくれよな! ――って、ちっがああああああああああああう! そんなこと考えてる場合じゃない! しっかりしろ、私の頭! 脳内番組の次回予告に登場するキャラクターの声を振り払い、 秋乃は意識を聴覚に向ける。 階下で床板が軋んでいるのが分かる。 襲撃者の足音がこちらに近付いてくるのが分かる。 ドスッと鈍い音がする。鈍器のようなものが壁に叩きつけられる音だ。 そして、蘭子の笑い声。破壊活動を満喫しながら、ゆっくりと、 しかし確実に、蘭子はこの部屋との距離を縮めていく。 逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ―― みんな! オラに元気を分けてくれ! 脳裏ではついに本編が始まる。しかもクロスオーバー企画の特別編。 秋乃はシンクロ率120%で狭い室内を動き回る。 部屋中の家具を入り口付近に集め、バリケードを築いて襲撃者に備える。 おいおい、逃げちゃダメだ×3にシンクロしてる場合じゃないだろ、 ATフィールドを張ってる暇があるなら逃げろよ、ベランダから。 そんなツッコミを入れる者など、室内はおろか脳内にすらいない。 折り重なった家具の向こうから、階段を踏みしめる足音が聞こえる。 蘭子の笑い声が防壁を抜けて、こちらに近付いてくるのが分かる。 もっともっと、もっともっともっともっと守りを固めなければ、隠れなければ。 秋乃は窓辺に走り寄り、カーテンをさらに固く閉ざしてうずくまる。 ドン、と全身に衝撃が走る。一体何が起きたのだろう。 事態を把握出来ず、目を白黒させる秋乃の体に再び、ドン。 中でも特に、窓辺に接している部分に衝撃を感じる。 秋乃は気付く。ガラス戸が振動している。ガラスに何かが当たっている。 いや、違う。ベランダに誰かがいて、ガラスを外から叩いているのだ。 「あっははははははは、見ぃつけた!」 扉一枚隔てただけの場所で、蘭子が無邪気に笑っている。 バリケードの向こうで、ドアノブががちゃがちゃと音を立てる。 心臓が早鐘を打ち、口の中がからからに乾く。鍵はかけた。でも―― 生木を引き裂くような音を立て、衝撃が木製のドアを揺るがす。 蘭子が扉を蹴っている。笑いながら、罵りながら、何度も何度も蹴りつける。 その余波で、机の上に乗せた椅子が滑り落ちて床を揺るがす。 ドアは破られてなどいないのに、バリケードが先に崩れていく。 ドン、と背後でガラスが揺れる。誰かが再び戸を叩く。 恐怖で身体が動かない。声を出すことすらままならない。 二人の襲撃者に挟まれているのに、逃げ場がどこにも見つからない。 蘭子を阻む木製のドア、その上部に設けられた採光用の小さな窓、 そこに嵌った曇りガラスが、乾いた音を立てて砕け散る。 代わりに現れたのは見覚えのある赤毛、続いて蘭子の大きな目。 淡い色の瞳がきょろきょろと回り、秋乃を捉えて動きを止める。 「なぁんだ、桜じゃないんだ。ぶぅー、つまんないのー」 助かった。秋乃の胸に光が灯る。事情はまったく読めないが、 少なくとも自分は蘭子のターゲットからは外れていたらしい。 芽生えた希望に応えるように、蘭子が可愛らしくクスクスと笑う。 「そこで待っててね、秋乃。今行くから。すぐに終わらせてあげるから」 再びドアが衝撃に震える。積み上げられた家具が余波で軋む。 背後で誰かがガラス戸を叩く。何度も何度も何度も叩く。 もうダメだ、私は死ぬんだ、同じクラスの生徒に殺されるんだ、 やりたいこともいっぱいあるのに、会いたい人もいっぱいいるのに、 もう叶わないんだ、蝶野先生はどうしてこんなことをするの、 生徒の未来を犠牲にしてでもしなきゃいけないことって何なの、 先生はそんなに麓山さんのことが――その時だった。 「嵐崎! あたしと勝負しろ!」 離れた場所で、下の方で、有栖川桜の声がした。 蘭子の視線が自分から外れる。しかし、立ち去るには至らない。 「嵐崎! そこにいるんだろ! あたしと勝負しろ!」 蘭子はその場から動かない。背後で誰かがガラス戸を叩く。 まるで焦りを帯び始めたように、音は大きく、激しくなる。 「あたしと勝負出来ないのか? おまえ、ホントは怖いんだろ!」 舐めやがって。蘭子が憎々しげに吐き捨てた。 しかしその場からは動かない。桜の挑発はさらに続く。 「あたし、知ってるぞ。おまえがホントはすごい臆病者だってこと。 臆病だからそうやって、すぐに暴力を振るって暴れて、 必死になって自分を強く見せようとするんだ。違うか?」 「……桜、てめぇ……」 廊下で鈍い音が上がる。蘭子が怒りに任せて壁を蹴ったのだ。 そう、壁を。この部屋に通じるドアではなく、廊下の壁を。 それは彼女の殺意が秋乃から外れたことを意味していた。 「……ブッ殺してやる!」 蘭子の足音が遠ざかる。勢いよく階段を駆け下りるのが分かる。 ガラス戸を隔てたすぐそばから、見知った女生徒の声がする。 「お願い、ここを開けて! 私は不動院よ、あなたを助けに来たの!」 □ ■ □ 時は遡る―― 桜が凛華に追いつかれるのは時間の問題だった。 運動部所属とはいえ幼い頃から病気がちで、怪我を負った身である桜と、 陸上部所属で長距離走を得意とする無傷の凛華。 ふたりのスタミナは、比較するまでもなかった。 とはいえ、凛華は桜を無理に連れ戻そうとはしなかった。 凛華もまた、蘭子とその相手のことが気がかりだったのかも知れない。 放心している桜に事情も聞かず、手当てを買って出たくらいだ、 死傷者が出かねない状況を見過ごすことなど出来ないのだろう。 簡易的な止血処置を行ないながら、蘭子の声に向かって歩く。 目指すべき場所はすぐに分かった。笑い声の聞こえる方角を見ると、 二階の一室に明かりの点った家があるのが遠目でも確認出来た。 近付くと、窓辺で人影が動いた。 その背格好は女子のように見えるが、誰なのかまでは判らない。 何をしているのだろう。蘭子の声と彼女の立てる物音は、一階から聞こえる。 ガラス戸を開けてベランダに出れば、塀を伝って逃げ出せるのに、 人影は右往左往するばかりで部屋から逃げ出そうとはしない。 ――右腕がこんな状態じゃなかったら……。 桜は無言で歯噛みする。 彼女の右手は今、使い物にならない状態だった。 物を握ることはおろか、指一本動かそうとしただけで、 耐えがたい激痛に見舞われる。凛華の見立てによれば、 骨にヒビが入っているかも知れないとのことだった。 桜は塀を、ベランダを見上げる。 体操部所属の彼女の運動能力でなら、簡単に辿り着ける場所だ。 しかし、それは腕に怪我をしていなければ、の話だった。 ベランダを睨みつける桜に、凛華が小声で話しかける。 「有栖川さん、ここで待ってて」 「何するつもりなんだ……」 「ベランダから助け出すわ。嵐崎さんが来る前に」 「そういうことなら、あたしも手伝う」 「いいの。私ひとりで大丈夫。有栖川さんはここにいて」 言い終わるや否や、凛華は塀に手をかけて、頭上より高く跳ね上がった。 猫のようにしなやかな身のこなしで、塀からベランダへと飛び移る。 凛華がガラス戸をノックすると、人影の全身がビクッと跳ねた。 しかし、それ以上は動かない。人影はカーテンを開けようとしない。 蘭子の声が移動する。階段を踏みしめる足音が聞こえる。 凛華はノックを繰り返す。けれども人影はカーテンを開けない。 蘭子に聞かれることを警戒してか、凛華は言葉を発しようとしない。 ――クソッ、あたしに出来ることは何もないのか……? 超能力も運動能力も役に立たない、しかも声も出せないとなると―― そこまで考えて、ひらめいた。 声を出せば、蘭子に気付かれる。 ならば、この状況を逆手に取ればいいのだ。 凛華に察知されぬよう、忍び足で玄関方面に回り込む。 扉を開けると、吹き抜けの玄関の向こうに螺旋階段が見えた。 この上に、蘭子がいる。何かを蹴りつける音と蘭子の笑い声が聞こえる。 姿の見えない宿敵に向かって桜は叫んだ。 「嵐崎! あたしと勝負しろ!」 □ ■ □ 「鍵がかかっているわ……」 玄関扉の取っ手から、凛華はそっと手を離す。 この家の中に、桜と蘭子がいる。助けに行かなければ、と思う。 「あたし、嵐崎のことはよく知ってるから」と桜は先ほど言っていたが、 あれほど挑発したあとだ、今の蘭子の凶暴性は 桜の手に負えないレベルまで達しているだろう。 現に、聞こえてくるのは蘭子の笑い声と、そして桜の悲鳴ばかり。 一刻も早く助けなければ。凛華は振り返り、秋乃に問う。 「八十島さんの支給品は?」 「あ、ああ、私……私、私は……」 秋乃は声を震わせながら、デイパックの中を覗き込む。 やがて、弾かれたように顔を上げ、隣家の二階を指差した。 さっきまで彼女のいた部屋だ。今も明かりが点いたままになっている。 あの部屋に支給品を置いてきてしまった、と言いたいのだろう。 秋乃は今にも泣き出しそうな顔で、縋るような目でこちらを見ている。 彼女の精神はまだ、恐慌状態から抜け出していないようだ。 ――仕方ないわ。怖い思いをしたばかりだもの。 安全な場所で休息させたいと思う。しかし、ひとりにはさせられない。 秋乃の神経は今、きわめて過敏な状態にある。 つまり、何の害にもならないような些細な物事に過剰反応し、 誤った行動を取りかねない、ということだ。 なら、多少の危険が伴っても、目の届く場所に置いておく方がいい。 視線を落とすと、秋乃の膝がかすかに震えているのが見えた。 履いている靴は、軽い運動に適した歩き易そうなものだ。 ベランダから脱出したとき、秋乃は裸足のままだったが、 動けない彼女の代わりに凛華が玄関まで靴を取りに行ったのだった。 「……他の入り口を探すしかないわね。 八十島さん、ゆっくりでいいから私について来て」 □ ■ □ 投下順で読む Back すれ違い通信、成功? Next あたしが殺した(後編) 時系列順で読む Back 機獣咆哮 Next あたしが殺した(後編) GAME START 不動院凛華 022 あたしが殺した(後編) 019 汚れなき殺意 嵐崎・キャラハン・蘭子 022 あたしが殺した(後編) 014 ローリンガール 有栖川桜 022 あたしが殺した(後編) 014 ローリンガール 八十島秋乃 022 あたしが殺した(後編)
https://w.atwiki.jp/hmiku/pages/49994.html
【検索用 おしをころしてわたしもしぬ 登録タグ CeVIO お 可不 曲 真宵ラノ】 + 目次 目次 曲紹介 歌詞 コメント 作詞:真宵ラノ 作曲:真宵ラノ 編曲:真宵ラノ 唄:可不(KAFU) 曲紹介 曲名:『推しを殺してわたしも死ぬ』(おしをころしてわたしもしぬ) 推しを失った全てのオタクたちへ。 真宵ラノの9作目。 Illustration:a37 歌詞 (動画説明文より転載) 毎週末いつも通ったビルの地下の狭い箱 ブルーライト越しに告げられた 活字だけの残酷な現実 僕の生きる世界が一瞬で崩れ落ちる 君だけがいない舞台 残されたただ嗤う彼等 逆最で見た光の海 君の色だけ無かった 君のいる未来を一緒に見たかったのに さよならもありがとうも 何も言えず消えた あれから僕の世界は色を失くして灰色だった 「わたしだけの王子様」 そんな君はもう何処にもいない 今日も悲しみに暮れる 教えてよ どうして?ねえ 君だけがいない舞台 勝手に期待して馬鹿みたいだ 今でも何もかも受け入れられないまま 紙一重の愛と憎しみが入り混じる 部屋に飾られたままの君を睨んだ 君のいない世界なんて 君のいない界隈なんかいらない 赤く染まる舞台 歓声が悲鳴に変わる 最期の一度だけの君だけの舞台 戻れないあの日々 さようなら純情 血塗られた君と僕 これでずっと一緒だね💓 推しを殺してわたしも死ぬ コメント 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/legends/pages/3983.html
(清太 っぜぇ、ぜぇ・・・な、何なんだよあいつは・・・新学期早々・・・ この俺、水無月 清太は、本日晴れて小学4年生になった! でも、この記念すべき日に俺は相変わらずあの女――空出 実に追い掛け回されていたのだった そして命辛々逃げ走り、今トイレの中に隠れているところ どうやら巻いたみたいで、追ってくる様子もなかった (清太 ふぅ、良かった良かった・・・あぁ、安心したら催しちまったよ トイレトイレ・・・・・・・・・・・・あれ? ずらりと並んでいるのは個室の洋式便器 直立するタイプのものが1つも無く、ピンク色のスリッパが綺麗に整われている (清太 女子トイレかよ!? 焦って間違えてしまったらしい こんなところ見られるとまずい・・・けど実には見つかりたくない・・・ どうすれば・・・あ、個室に隠れたら良いんだ (セキエ 余計変態扱イサレルゾ (清太 ビックリした!? 大丈夫だよ、今は放課後だから人いないし (セキエ 妾ハ既ニ汝ヲ軽蔑シテイル・・・ (清太 うるせぇ!? 石に軽蔑されても別に凹まねぇよ!? こまめに振り返りながら、俺は個室に・・・何処に隠れようかな (清太 やっぱり一番奥か (セキエ 止メテオケ (清太 何で? (セキエ 嫌ナ予感ガスル (清太 安心しろよ、まさかあいつも便器から這い上がってくるなんてことはないだろうし (セキエ ソレハソレデ実行シソウダカラ困ルナ (清太 不安な事言うなって・・・ ぶつぶつ言いながら、俺は一番奥――3番目の個室――の扉を開けた すぐに閉めた (清太 #&√Д※$*¥+@Σ∀!? (セキエ 落チ着ケ (清太 っだ、だっって、ひ、人、お、女っ、の子っ、お、い、居たっ!? (セキエ 用ヲ足シテイル途中デモナカッタシ、雰囲気ガオカシカッタ (清太 そ、そう、か・・・開ける、のか? (セキエ 知ラン、好キニシロ と言われて開けてしまう俺もどうかとは思うけど 見れば、確かに蓋の閉まった洋式便器の上に女の子が座っていた パンツも脱いでなかった! おめでとう俺! まだまだ変態にはなってないよ! ・・・ところで、どうも様子がおかしい。じっと俺を睨んでいるこの女の子、人の気配がしない 都市伝説なのか?・・・と、ここで俺は思い出した 女子トイレ、3番目、女の子。この3つのキーワードで思い浮かぶものは―――――そう! 俺はその女の子に指差して高らかに言った (清太 お前! 「花子さん」だな!? 意味が分からなかった。言った直後にその女の子の顔が物凄く怖くなった その子は便器から降りて手を挙げると、便器から水が溢れ出て、トイレットペーパーが伸び始めた そして一言 (少女 ・・・あたしは「闇子さん」だ!!! 何て理不尽なんだ 俺の目の前に現れた「花子さん」は―――― (闇子 だから「闇子さん」だってば!!! ――――訂正、「闇子さん」は、その水とトイレットペーパーを俺に向けてきた いつものように、左手を水晶にして邪気が篭ったその攻撃を無効にする 知っての通り、「水晶は邪気を吸収する」は『あらゆる邪気を吸収し、それが篭った攻撃を無力化する』 汚い水も長い紙も、一瞬にして消えてしまった (闇子 ――――って何したのよあんた!? (清太 いや、それよりこんな狭いところで急に攻撃ってのもどうかと思う (闇子 あんたが名前間違えたからじゃないの!! (清太 だって「闇子さん」なんて聞いたことなかったし (闇子 カチーン!!! 遂に言ってはいけない事を言ってしまったわね・・・ あーぁ可哀想に、どうなっても知らないわよ? もはやこの負の想念は、あたしですら止められはしない!!! 「闇子さん」が両手に掴んだものは、縄跳びを2つ折にしたものだった それを鞭のように振って、また俺に襲い掛かった 早い、鞭もそうだけど一手一手の判断も早い 隙を突いて攻撃の一つや二つしなきゃ、とは思ってたけど、思うようにはいかないらしい 左手に続いて右手、そして両足を水晶に変えて、鞭の邪気を吸収していく そもそもトイレは広くないし、今はこれが精一杯だ (清太 っく、くそっ! (闇子 何よあんた! さっきから守ってばっかりじゃない!! (清太 じ、じゃあ、休ませろよ!? ジョークのつもりだったんだけど (闇子 良いよぉ? 水でもたぁっぷり飲めばぁ!? 「闇子さん」が手を動かすと、個室という個室の扉が全て開いて、 便器から水が溢れ出し、うねるようにこちらに迫ってきた その水の蛇を何とか受け止め、掻き消す そして気づいた (清太 やっ、べぇ・・・もしかして、終わりじゃね? (セキエ [御名答ダ。一度デモ水流ガ来レバ邪気ガ満チル。ココハ大人シク逃ゲタ方ガ賢明ダ] (清太 だよなぁ・・・ 一歩後ろに下がって、 (闇子 鬱陶しい能力ねぇ、でも今度こそ流してあげるわぁ!! (清太 あの、「闇子さん」? 悪いけど俺は――――― 『帰る』、と言いたかったのに 帰れなくなった (実 清太ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! (清太 こんな時にぃぃぃぃぃぃ!? 悪夢だ・・・俺に怒ってる女の子と俺を追いかけてる女の子に囲まれてしまった いや待て、そんなこと考えてる場合じゃない 寧ろチャンスじゃないか? (実 まさか女子トイレにいるとは思わなかったぞ清太ぁ!! 後先考えずに行動するちょっとドジなお前も俺は愛してるぞ!!! (清太 実! 何も言わずに手伝ってくれ! (実 へ? (闇子 流れろぉ!! また水の龍がうねり寄る 俺はそれを能力で何とか防いだ 吸収しきれなくなるのは分かってる、でも止めなきゃならなかった だって、実は―――― (セキエ [セ、清太、モウ無理ダ!] (清太 なっ、実にげっガボッ!? (実 お、おい清っブググッ!?!? ――――金槌だからだ (闇子 やはははははははははは!! ざまぁないわぁ!! なんか余計なのも混じってるけどいいや、とりあえず今度こそ流れろ!! 息が出来ない 外に押し流されるというより、奥に吸い込まれそうになる 近くにあった手洗い場の蛇口を掴み、必死に鼻を抓んでいる実の手を引いた 話し掛けようとしたけど、無理だった 当たり前だ、水の中なんだから (闇子 しぶといわね、早く流れちゃえばいいのに!! 外から何か聞こえた その直後に、水の流れが強まった うっかり離しそうになった手に力を入れる でもそう長くは持ちそうにない 酸素が、欲しい (セキエ [清太!?] (清太 [大、丈夫、だけど・・・] そう、“俺は”大丈夫だった 問題は、今俺が手を掴んでいる実だった 口から少しずつ空気が漏れていっている 小さい時から泳ぐどころか、水が苦手だった実 長い時間息を止めることに慣れている訳がない (闇子 仲良く手なんて繋いじゃって・・・いつまで離れずにいられるかなぁ?? こいつは・・・実は、迷惑な奴だ いつもいつも俺を追いかけて、いつもいつも俺を捕まえて、骨を折って だからこそ俺はこいつに迷惑をかけたくなかった 俺が起こしたこの問題に巻き込みたくなかった 今、俺のやるべき事はただ1つ――― (清太 こいつを助ける・・・力をくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!! 水の中で、無理矢理に叫んだ 一気に酸素が無くなって、気を失いかけた時だった 水の中なのに、身体中が熱くなった まるであの時――セキエと出会った時のような感覚 そして、 (清太 ――――――――ッ!? (闇子 えっ!? 今度は身体が――俺の身体が、氷のように冷たくなった (清太 ・・・あ、れ? 普通に、声が出せる 一応だけど、呼吸もできる でも問題はそこじゃない 俺の目の前に広がる光景が、がらりと変わっている もうトイレじゃなかった 分厚い氷河にでも入ってしまったんじゃないかと思えるくらい綺麗な光景 ―――そう、“氷” 俺も実も、水の中ではなく、氷の中に入っていた (清太 どう、なって・・・ (セキエ [清太・・・汝、何ト言ウ事ヲ・・・] (清太 は?何が? (セキエ [己ノ手ヲ見テミヨ] (清太 手を見ろって―――――――――――あっ!? 水晶化した俺の手 でもいつもと違う 白い冷気が、腕を伝って下へと落ちていっていた (清太 こ、これ・・・水晶じゃなくて・・・氷? (セキエ [イヤ、正真正銘“水晶”ダ] (清太 え、だって――― (セキエ [「水晶は永久的に凍ったままの氷」ダ、トイウ説ガアッテナ ドウイウ訳カ知ランガ、汝ト契約シテシマッタラシイ] (清太 ・・・それって、師匠と同じマルチスキル? (セキエ [良ク分カランガ・・・多重契約シテシマッタ事ニ違イナイ] 状況を整理しよう どうやらこの俺、水無月 清太は、たった今多重契約というものに成功してしまったらしい・・・自覚ないけど (闇子 な、何よこれ!? こんなの聞いてないわよ!? 突然現れた氷の塊に驚いたのか、「闇子さん」はまた縄跳びを鞭のように使って、 それで何度も何度も叩くと、氷はガラガラと崩れていった 実を守rじゃない、庇うようにして俺は氷を払い除けていった (清太 どうも、動き辛かったんだ (闇子 自分でやった癖に・・・ふざけんなぁ!!! 4度目の、便器からの水流 俺達を飲み込もうと、大蛇が口を開けるみたいに迫ってきた (清太 ・・・えっと、こう、かな? 右手を水晶にして、水の大蛇に向けて差し出した その手はゆっくりと冷気を漂わせ、大蛇に触れた (闇子 ―――――――えぇっ!? キラリと輝く永遠の氷 その美しい姿を保つ為に、俺に与えられた力は―――“冷気” 俺の手に、俺の氷に触れた全ての物は、 (清太 凍れぇ!! 瞬間的に、“氷”へと変わる! (闇子 ~~~~~~~~~~~っ!!?? つっ、冷たっ・・・!? 大蛇の氷像に埋もれてしまう形で、「闇子さん」は少し大人しくなった 口も塞げたらよかったんだけど、まぁいいや (清太 ・・・よし、もう終わりにしてやる・・・ 一歩、また一歩と「闇子さん」に近づいた 「闇子さん」は睨んでいるが、ちょっとだけ顔が引き攣っていた (闇子 ・・・何よ、やるならやればいいでしょ!? 涙混じりに吐き捨てたけど、俺は耳も向けずに、勢いよく振り下ろした (清太 ―――――――ごめん!! 頭を (闇子 っへ!? な、ななななななな何なのよいきなり!? (清太 だって、確かに俺も実も死にそうになったけどさ、お前を怒らせたのって、元はと言えば俺だし・・・だから、ごめん 氷を殴って崩し、「闇子さん」を解放する 自由になってまず服の埃をはたくようなそぶりを見せて、彼女はまた俺を睨むと、 (闇子 ・・・ふ、ふん! べ、別に怒ってなんかないんだからね!! た、ただ暇だったから遊びたいなーとか思っただけよ! あー楽しかった! (清太 え、ツンデレ? (闇子 誰がツンデレよ!? っていうか何で女子トイレに男のあんたがいるのよ変態! (清太 今更!?ってか、誰が変態だ!? (闇子 あんたしかいないでしょうが! さっさとそこの女連れて出て行きなさいよバーカ!! 粗方文句を言い終えると、「闇子さん」は奥の個室へと入っていき、ばんっ!!とドアを閉めた 同時に、彼女の気配も無くなった (清太 ・・・お、終わったのか・・・疲れた、何だったんだ一体・・・ (セキエ [・・・フフ] (清太 何だよ、急に 掌を広げると、手が元に戻って、中から水晶のペンダントが出てくる (セキエ イヤ、ナ・・・成長シタナ、汝モ (清太 ッ!? し、知るかバカ! そ、それより実を・・・ 実はまだ起きてなかった 息はしてるみたいだけど・・・どうしよう (清太 こういう時は・・・保健室、だよな? 仕方ないので、俺は実を背負って保健室に連れていく事にした 何か尻だとか太腿だとか触っちゃってるけど、姉ちゃん以外に興味ないから別に―――― (実 この時を待っていたぞ・・・ (清太 はっ!? 遅かった 完全に、後ろから身体を掴まれてしまった (実 うおおおおおおおおおおお清太あああああああああああああ!!!! 助けてくれてありがとおおおおおおおおおおおお愛してるうううううううううううううう!!!! (清太 ギャアアアアアアアアアアア骨がああああああああああああああああ!!!??? 新学期早々、不幸だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! ...see you NEXT 前ページ次ページ連載 - 邪気殺し
https://w.atwiki.jp/animerowa-3rd/pages/545.html
思春期を殺した少年の翼 ◆mist32RAEs 玄関を開けてすぐのところにソレはあった。 様々な種類の草木が周囲に生い茂る、外見だけがおんぼろな山中の洋館。 その出口から出てきたヒイロとファサリナを出迎えたのは少女の死体だった。 茂みの真ん中に投げ出された血まみれの死体だ。 上等な服にいくつもの銃創。そこから溢れ、すでに生乾きの赤黒い液体。 よく見れば身体のそこかしこに死斑が浮き出ており、耳や鼻から血液混じりの体液が垂れ流され始めている。 生前はさぞかし見目麗しい少女であっただろう。 だが今は誰もが目をそむけるほどに死の気配を振りまいているだけの物体に成り果てた。 これが死だ。 人がモノになる。 そこに幻想はない。 人が腐り果てる。 そこに美しさなどない。 ソレはもう人ではない。 「リ……リリー……ナ……」 それはヒイロの掠れた声だった。 ファサリナは少なくともここで出会ってから、この少年のこんな声を聞いたことはなかった。 鍛え上げられ、引き絞った若い身体が微かに震えている。 何があろうとも動揺とは無縁と思われた鉄面皮のこの少年が、だ。 それだけでファサリナはヒイロの心中を察した。 この死体の首元を見れば、自分たちと同じ境遇であることは容易く知れる。 そしてヒイロの知る人物であることも彼の反応を見れば一目瞭然だ。 ファサリナにその名前を教えなかったのは警戒していたが故だろう。 ゼクス、トレーズなどの名前とは違う、迂闊には教えられない大事な名前だったはずだ。 その名前の持ち主である少女。この目の前の死体が……リリーナ。 下手に声などかけられない。 ゆえにヒイロの呟きを最後として、この場に空虚な静寂が満ちていった。 今は彼は何を思うのだろう。 ファサリナがヒイロについて知ることはあまり多くない。それゆえにその心中を慮ることなどできなかった。 佇む少年は動かない。まるで一枚の写真のようにファサリナの見る風景は固まっていた。 「…………少しお伺いしてもよろしいでしょうか、ヒイロ」 無視しているのか聞こえていないのか、反応はなかった。 ただ立ち尽くして少女の死相を凝視している。 その視線を遮るようにしてファサリナはかつてリリーナと呼ばれた少女の遺骸へ、そろりと身を寄せた。 その手には洋館の内部から携えてきたカーテンの布地がある。 ヒイロが動かぬ間に館の中から調達してきたのだ。 それをイスラムの女性が纏うスカーフのようにしてリリーナの身体へ巻きつけていく。 「何のつもりだ……」 弱々しく呟くように。 その声には力がなかった。 「この方は貴方の大事なひとなのでしょう……?」 「何のつもりだと聞いている」 やや強い声。 だがいまだに虚ろな感情を隠せるほどのそれではない。 「弔う前にせめて死化粧を」 「……化粧?」 「ええ、この方の姿を見ることができるのはこれで最後。ならば出来る限り美しく、貴方の想い出の中へ刻んであげたいと思います……」 手櫛で髪を軽く整え、顔の汚れをカーテンの裾で丁寧に拭きとってやる。 ヒイロはその作業を邪魔しない。佇み、ファサリナがリリーナを清める作業を言葉ひとつ発さず見つめていた。 自分の背後に立つ少年は今、悲しみとともにこの少女の記憶を己の脳裏に焼き付けているのだろう。 それでいい。肉体は死んでもその生前の記憶は誰かの心の中に残る。 ならばその死者はその思い出の中で永久に生きることになると、同志たるカギ爪の男はそう言っていた。 ファサリナの記憶の中にはあの優しげな微笑が今でもはっきりと思い出せるほどに深く刻まれている。 そう、例え肉体は死んだとしても自分の中で同志は生き続けているのだ。 だからこその理想のために躊躇わずこの身を捧げることができる。平和と調和を目指すその想いが胸の中にある。 ヒイロにもそうあって欲しい。この少年は強い。安々と悲しみに折れるような人間ではないだろう。 だがこの島に連れ去れられてきた現状のファサリナにとっての唯一の希望たる彼には、自分と同じ気持ちを理解して欲しい。 無愛想だが妙に誰かの気持ちに敏感なところのある不器用な彼に、自分の気持ちを理解して欲しい。 汚れた女だ。自覚はしている。 よりによって、少女の死によって悲しみにくれるヒイロ・ユイにこの自分を理解して欲しいと、浅ましくもそう言っているに等しい。 だってこの哀しみは一人で背負うには重過ぎる。傷の舐めあいでもいいから誰かの理解が、温もりが欲しかった。 同志が生きているにせよ死んでいるにせよ、その理想のために自分がやるべき事は多く、道は険しい。 その道をたった独りで行けというのか。誰かを頼りにするのはそんなにもいけないことなのだろうか。 そんなはずはない。ヒイロでも、異常とも言えるほどの強靭な精神であろうとも、そんな気持ちを少しでも抱かないはずはない。 だって彼は、ああ見えてとても優しい子だとファサリナは思うからだ。 ヒトは結局自分のことしか理解できない。 ゆえに自分の弱さを真っ直ぐに見つめられればこそ、誰かの弱さを汲み取れる優しさが生まれるのだから。 それができるなら、きっと――、 ――ごめんなさい。 この少女がヒイロにとってどんな存在なのかは知らない。 だがこころの中で謝りの言葉を呟いて、ファサリナはリリーナの唇に彼女自身の血で紅をひいた。 半ば乾いたその血は赤というより暗褐色に近い。 生前は清楚で明るい雰囲気を纏っていたと思われる快活そうな少女の猊は、白蝋と見紛うばかりの青白い肌にダークな口紅という組み合わせによって、妖艶ともいえる気配に包まれていた。 血に汚れてボロボロのドレスはその全身を包んだカーテンの布地によって隠されており、その顔はファサリナの化粧によって見違えるようだ。 茂みの緑に覆われたローブ姿の美しい少女がそこにあった。 「なぜこんなことをする」 ヒイロの質問は先ほどと同じだった。 ファサリナは全ての作業を終えて振り向き、少年の真ん前まで歩み寄る。 相手は微動だにしない。だからこちらからさらに一歩近づく。 「……答えろ」 互いの瞳の中に向き合う相手の姿が映る、それほどの近さ。 ヒイロの瞳は揺れている。それがファサリナには見えた。 「ヒトは死んでしまってもその人を大切に思う人間の記憶の中で生き続けます。それこそが思い出というものではないでしょうか」 「……否定はしない」 「それに……女は想いを寄せる殿方には一番美しい姿を見せたいと思うものです。この方もきっとそう思うでしょう」 「何を勘違いしているか知らないが、俺とリリーナは――」 ファサリナがさらに一歩踏み出した。 顔と顔が触れ合う距離。 ふわりと柔らかな風が女の匂いを含んでヒイロの肌に触れた。 そしてその発生源たるファサリナの肌も触れ――――なかった。 「ええ、ですからこれは私の一方的な勘違いです……ごめんなさい、ヒイロ」 まさに触れるか触れないかの距離で、生めかしい薄桃色の唇が言葉を紡いだ。 その言葉をくだらないと切って捨てる、そういうことをヒイロはしない。 ただ無言で答えを隠す。否定ではなく、答えることを拒絶。 「――同志が生きている確率は……殆ど無いと言っていいでしょう」 「何?」 すっと距離をとってから視線を外して、ファサリナは言った。 冷静に考えればわかることだったのだ。 「同志を付け狙う者の名前を覚えておりますか」 「ヴァン……だったか」 「ええ、彼は思い返せば同志のことを『カギ爪』と呼んでいました。おそらく彼は同志のお名前など知らないのでしょう」 「そうか……俺とお前の情報のみによる推測だが、この島には何人かの括りごとに何らかの面識がある人間同士が集められている」 名簿にファサリナの知る名前は、自分自身の他にいくつかある。 ヒイロも数こそ違えど知る名前が複数あるという。 つまり知り合いが全くいない人間はここにはいないのではないだろうか。 この何でもありのサバイバルにおいて、面識のある知り合いという存在は、徒党を組んで身を守る上でとても有効だ。 それにヒイロにとってのリリーナのように、ファサリナにとってのカギ爪のように、守りたい存在があるならばこそ自ら捜索のために動くだろう。 その逆としてヴァンという男のような誰かの命を付け狙う人間という存在にとっても、理由こそ違えどその誰かを探しに自ら動く動機となる。 自分だけの命が大事なら、どこかに引きこもっていれば生存確率は格段にアップする。 だが皆がそうしていたら、ほとんどのプレイヤーは遭遇する確率が激減、殺し合いも発生する確率は同様に低くなる。 結果、帝愛の言う『ゲーム』はつまらないものになるだろう。少なくとも自分たちを監視して殺し合いを眺める存在にとっては。 ヒイロもファサリナも知人の捜索にあたって一人での単独捜査に限界を感じているからこそ、こうして行動をともにしているのだ。 それがないならわざわざ危険を承知で歩きまわったりはしない。見知らぬ誰かと組むこともなかったろう。 帝愛はそれを見越してこのような人選をしたのだとしたら。 「ヴァンという男が名簿を見たとき、カギ爪の本名が書かれていたとしてもそれが目的の人物とはわからない……」 「ええ、ですから彼にもわかるように『カギ爪の男』と書いたのでしょう」 理屈は合う。 ヒイロもそれを認めた。 だがそれを認めるということはファサリナ自身が最も認めたくない想像を認めることと同義だ。 「それを受け入れてこれからお前はどうする気だ」 「同志の理想を果たすために動きます。同志の想いは私の胸の中で生きている。私はそれを実現させなければなりません」 「生き残って同志とやらの代わりを果たすために動くか。それがこのゲームに乗るということなら……」 ――お前を殺す。 ヒイロは無言でそれを伝える。 その瞳の中に最早、揺れは無い。 「ヒイロ、貴方の中のリリーナさんは貴方に何を望むのですか?」 「質問の意味が理解できかねる。わかるように言え」 「貴方が最も守りたかったヒトはもうこの世にいないのですよ? そしてそれは私も同じ」 ファサリナはそっと悲しげに眼を伏せた。長いまつげが濡れた瞳に被さり、眼から透明な液体を溢れさせる。 ヒイロ・ユイはたしかに強い。だがその強さはその若さには余りにも似あわず、ゆえにファサリナの眼には歪に映った。 感情を肯定するも、自身の感情そのものは完全に制御しているように見える。 まるで恐怖を知らない、完璧に訓練された兵士のようだ。 そんな彼が揺れたのはこの少女の死を見つめた時だけだった。 土壇場でも揺らぐことなく、自分の生き死にの境目ですらクールに状況を見つめることができるにも関わらずだ。 リリーナという少女がヒイロの大切な人物だということは誰にでもわかる。 しかしそのような人間らしい感情を持ち合わせているのに、なぜこうも自分を生き死にの埒外へと捨てられるのか。 ファサリナには未だにヒイロ・ユイを完全に理解することはできない。 だが完全に理解せずともアキレス腱を握れればそれで十分。 「……だから何だ」 「私たちは……協力できるのではないでしょうか。もし主催の力が死者を生き返らせることが可能であるなら――」 「馬鹿げている。冷静になって考えろ」 「それをいうならば、私達がここへ連れ去られた事自体がすでに馬鹿げたことです」 それを完全に否定する意見をヒイロは持っていないはずだ。 ファサリナ自身、世界中で暗躍するカギ爪の組織では幹部といってよい。 そんな組織の最重要人物を拉致など、少なくともファサリナの知る世界の人間にできるわけがない。 「……だとしたら、どうする。優勝賞金の十億では、お前と俺の求める人物をそれぞれ五億×2で蘇生・帰還させればそれで終わりだ」 「私はそれで構いません。同志の胸の中で私はあの方の記憶となって、そして一つになるのですから」 「自己犠牲か……俺もそうだと何故お前は考えられる?」 きっとこの少年も同じはずだ。 少なくとも彼にとって最も大事な存在は己ではないのだ。 だから例え自身がどうなろうとも、リリーナという名の少女のことを最優先にするだろうという確信があった。 「貴方は平和を求める同志のお考えを私から聞いたときに、その思想を肯定して下さいました。 ですが貴方はその一方で、このゲームを主催する帝愛に戦いを挑むことを躊躇っているようには見えません」 「怖気付いたのかファサリナ。奴らは確かに強大だが、お前がその力に屈するというなら、敵として排除するまでだ」 「そうではありません、貴方自身のあり方のお話をしているのです」 「俺自身だと……!」 なぜファサリナがヒイロ・ユイの事をそう思ったのか。 それは一つの疑問がきっかけだった。 平和を肯定し、だが戦いに躊躇いを見せない――矛盾したように見えるこの二つの要素は少年の中でどうやって並びたっているのか。 争いを忌避するから平和を求めるのではないのか。 ならば何故迷いなく闘争の中へ飛び込む決断を下せるのか。 その答えはおそらくこれだ。 「貴方は平和を肯定する――ですが、その平和の中に貴方が入ることを考えていない」 ヒイロは答えない。 だがその平和を担う存在がヒイロ自身でないことはファサリナにも解る。 その研ぎ澄まされたナイフのような闘争技術と冷徹な意思は、戦争のためだけに存在するものだからだ。 「貴方の言うように行動して、結果として勝利するに至ったとしましょう。ですが、その確率はどれほどのものなのでしょうか? 怖いのではありません。私の存在の全ては同志のためにあります。同志が理想を追い求めるのならば、その理想のためにこの身を捧げます。 ですが私は貴方とは目的を違えるものと思っていました。貴方が何のために戦っているのかわかりませんでしたから。 ゆえに言い出せずにおりました。貴方は強い……そして……貴方のような殿方の敵になるのは辛いことです。 ですから――」 ちゃきり。 コルトガバメントの冷たい音。 「ヒイロ……」 少年の右手が構える暗い銃口がまっすぐにファサリナを狙っている。 「もういい、わかった。お前は俺とは道を違えた。ならばここで殺す」 「いいえ、違いません。貴方は私と同じです!」 「違う。俺は、己の妄執と作戦目的を混同などしない」 「ならばなおのこと貴方の冷静な判断で見極めて下さい! 貴方の言うようなことで同志が生き返る確率はどれほどのものですか!? 私達を拉致してきた彼らの言う事を鵜呑みにすることは確かに危険かも知れません。 ですが普通は、わざわざここまで大規模な仕掛けを施してまでこんな回りくどいことをするでしょうか!?」 そうだ。 相手は――帝愛は普通ではないのだ。 どうやって自分たちを連れさってきたのか分からない。 どうやっていつの間に爆弾首輪を取り付けたのか分からない。 どうやってこのデイパックに質量を無視した荷物を入れられるようにしたのか分からない。 「彼らに勝てますか? よしんば勝ったとしても私達の求める人間を生き返らせることができなければ、それは勝利でも何でもありません。 つまり彼らが生き返らせる技術を持っていることを信じなければ、貴方の作戦は成り立たない。 貴方は帝愛の常軌を逸した『魔法』を信じているのです! 人を、人間を生き返らせることが可能だと!」 「……!!」 ヒイロの表情が変わった。 眉間に険しい皺がよって、その秀麗な眉目を歪ませている。 ぎりっ、と歯が軋む音が聞こえてきそうなほど唇の端に力がこもっているのがわかる。 「もし貴方が……自らの命すら捨ててこの方を救いたいと願うのならば、私たちは協力できるはずです。 二人で生き残りましょう。私達全てを生きながら拉致した相手と戦うよりは、勝率は遥かに高いのではないですか?」 「…………最後に残ったお前が俺を裏切り、同志と二人で生還する可能性もありえる」 「その時はどうぞ……約束のとおりにしてください」 ――お前を殺す。 以前、ヒイロはファサリナにそう言った。 ファサリナの提案では、優勝者となるのはヒイロ・ユイ。 そして望みはリリーナとカギ爪の蘇生と帰還。 自身の生死は度外視。 だがファサリナとて何の計算もなしでこの少年を信じたわけではない。 このようなことを約束しようと、最後まで生き残ることができなければ一切の意味を成さないのだから。 今の段階ではどうとでも言えるただの口約束でしかない。 その時になってヒイロが信じるに値しない相手と分かったならば、その時はその時だ。 だが彼がファサリナが感じた通りの人間だったなら――ヒイロに殺してもらえるのは悪くないことかもしれないとファサリナは思っていた。 「先程、私に手榴弾を分けていただいたお返しです……もし協力していただけるなら、これを」 「ゼロシステムだと……!?」 前もって確認しておいたファサリナの支給品のひとつだ。 携帯できるようにメット型になっており、これをかぶる事で効果を発揮できるらしい。 だがいまいちデザインがごつくて気に入らず、そして説明書きに書いてあったリスクの大きさゆえに今まで使おうとは思わなかった。 だが強靭すぎるほど強靭な精神を持つこの少年ならば、もしかしたら有効に使えるのではないだろうか――そう考え、ヒイロに渡そうと思ったのだ。 「ククク……ハハハハ……ハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」 メットを手にとって説明書きを読み終わったヒイロは突如として笑い出した。 彼のこんな行動など全く予測していなかったファサリナは思わず首をかしげながらも問う。 「ヒ、ヒイロ? いったい……」 「……いいだろう。ならばお前の選んだ未来が正しいかどうかゼロに聞いてやる……!」 戸惑うファサリナをよそに、皮肉気な形に口元を歪めながらヒイロはおもむろにそのメットを被ってスイッチを入れた。 ブゥン、という起動音と、続いて甲高い電子音。 その連続する音はモーターが回転数を上げるように、どんどん速くなっていった。 「ぐっ……」 「ヒイロ……!?」 ――――そして少年は血塗られた未来を垣間見る。 ◇ ◇ ◇ 殺した。 殺し続けた。 ナイフで、銃弾で、毒で、爆弾で、モビルスーツで。 貫いた、切り裂いた、燃やした、沈めた、押し潰した。 一度としてその意味を疑わず、その価値を慎重に推し量り、弱者の声なき声の代弁者として、己の感情など一切顧みることなく。 地球政府に立ち向かい、凶弾に倒れたコロニーの英雄――ヒイロ・ユイの名を与えられたのはそのためだ。 少年の肉体はコロニーのためにあった。 少年の感情は平和を求めるものたちのためにあった。 少年自身のために少年が動くことなど何一つとしてなかった。 だからこんなことはいつもどおり。 いや――もしかしたら名もなき少年は今、初めて己自身の中から沸き起こった感情に従ったのかもしれない。 平和を創り上げるのは彼女の役目だ。 自分は戦うことしかできないから。 だから平和をもたらすことができたなら、彼女に自分は必要ない。 殺した。 死んだ。 殺した。 死んだ。 殺した。 死んだ。 たくさん、たくさん、たくさん、たくさん――――だから、どうした。 「命なんて安いものだ…………特に俺のは」 ――――――――――リリーナ。 ◇ ◇ ◇ 「ぐううっ! はぁっ……はぁっ……」 「ヒイロ!」 息も荒く、ヒイロは膝をついてかぶっていたそれを脱ぎ捨てた。 どさりと草のうえにヘルメットが落ちる。 そこへファサリナが心配そうな表情で駆け寄った。 「大丈夫ですか!? 貴方ならと思ったのですが、やはり……」 「いや……問題ない」 ゼロが見せた未来はすでになく、ヒイロの目の前にはファサリナの心配そうな表情と、そしてリリーナの遺体。 状況を確認する。訓練によって身体に無意識レベルで染み込んだ行動。 身体能力問題なし。 精神面、ゼロシステムからの回復まで数秒。 肉体の動きを確認するようにゆっくりと立ち上がった。 「ファサリナ――」 「はい」 第二回の放送が近い。 太陽が真上でギラギラと輝きながら二人を見つめていた。 その光に照らされたファサリナは、どこか写真のようにぼんやりとヒイロの瞳に写っていた。 「答えは出た。俺は――――」 C-3/憩いの館/1日目/昼】 【ファサリナ@ガン×ソード】 [状態]:健康 [服装]:自前の服 [装備]:ゲイボルグ@Fate/stay night [道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1個(確認済み) M67破片手榴弾x*********@現実(ヒイロとはんぶんこした) 軽音部のラジカセ@けいおん(こっそりデイバックに入れた) [思考] 基本:ヒイロと協力、無理だと判断した場合単独で殺し合いに乗る 1:ヒイロと共に行動する 2:間欠泉を調べ終わったら、早く新しい同士を集めたい 3:なるべく単独行動は避けたい 4:ゼロなどの明確な危険人物を排除。戦力にならない人間の間引き。無理はしない。 [備考] ※21話「空に願いを、地に平和を」のヴァン戦後より参戦。 ※トレーズ、ゼクスを危険人物として、デュオ、五飛を協力が可能かもしれぬ人物として認識しています ※ヒイロを他の惑星から来た人物と考えており、主催者はそれが可能な程の技術を持つと警戒(恐怖)しています ※「ふわふわ時間」を歌っている人や演奏している人に興味を持っています ※ラジカセの中にはテープが入っています(A面は『ふわふわ時間』B面は不明) 【ヒイロ・ユイ@新機動戦記ガンダムW】 [状態]:左肩に銃創(治療済み) [服装]:普段着(Tシャツに半ズボン) [装備]:基本支給品一式、ゼロシステム@新機動戦記ガンダムW コルト ガバメント(自動銃/2/7発/予備7x5発)@現実、M67破片手榴弾x*********@現実(ファサリナとはんぶんこした) [道具]:B-2と記された小さな紙切れ@現実 『ガンダムVSガンダムVSヨロイVSナイトメアフレーム~戦場の絆~』解説冊子 [思考] 基本:??? 1:リリーナ…… [備考] ※参戦時期は未定。少なくとも37話「ゼロ対エピオン」の最後以降。 ※D-1エリアにおいて数度大きな爆発が起こりました。 ※ヴァンを同志の敵と認識しています ※ファサリナの言う異星云々の話に少し信憑性を感じ始めています。 ※ファサリナのことは主催に対抗する協力者として認識しています。それと同時に、殺し合いに乗りうる人物として警戒もしています。 【ゼロシステム@新機動戦記ガンダムW】 正式名称「Zoning and Emotional Range Omitted System」(直訳すると「領域化及び情動域欠落化装置」)。 分析・予測した状況の推移に応じた対処法の選択や結末を搭乗者の脳に直接伝達するシステムで、端的に言うと勝利する為に取るべき行動を予めパイロットに見せる機構である。 高性能フィードバック機器によって脳内の各生体作用をスキャン後、神経伝達物質の分泌量をコントロール。 急加速・急旋回時の衝撃や加重等の刺激情報の伝達を緩和、或いは欺瞞し、通常は活動できない環境下での戦闘行動を可能とする。 更に外部カメラ、センサーによって得た情報を、パイロット自身の視聴覚情報として伝達する事も可能である。 しかし本システムが提示する戦術とは、基本的に単機での勝利を目的としたもので、目的達成の為であればたとえ搭乗者の意思や倫理に反する行為も平然と選択する。 状況によっては搭乗者自身の死や機体の自爆、友軍の犠牲もいとわない攻撃など、非人間的な選択が強要される事もあり、これがパイロットの精神に多大な負担をかける。 そのため、ただゼロシステムを使うだけではシステムに命令されるがまま暴走するか、もしくは負荷に耐え切れず精神崩壊・廃人化を招く恐れがある。 本システムを体験したデュオ・マックスウェル曰く、「まともな人間に扱える代物ではない」とのこと。 ヒイロはエンドレスワルツの五飛戦において、このシステムの命令を完全に捩じ伏せながら戦っていた。 このロワ内では携帯できるようにメットの中にシステムが内蔵されている。外見デザインはTV版最終決戦でドロシーがかぶったものを参照。 時系列順で読む Back 神浄の恋せぬ幻想郷(後編) Next 「 」に挑む意思 投下順で読む Back 神浄の恋せぬ幻想郷(後編) Next 「 」に挑む意思 133 戦場の絆 ヒイロ・ユイ 171 燃えつきない流星 133 戦場の絆 ファサリナ 171 燃えつきない流星
https://w.atwiki.jp/lanove/pages/11.html
タイトル 一週間後、あなたを殺します シリーズ 一週間後、あなたを殺します レーベル GA文庫 著者 幼田ヒロ イラスト あるてら 発売日 2024/07/14 書籍情報 https //ga.sbcr.jp/product/9784815626310/ キミラノ https //kimirano.jp/detail/36508 購入ページ Amazon 楽天
https://w.atwiki.jp/kinoutun/pages/285.html
ゲーム前 青狸 こんにちは。小笠原ゲームの補修をさせていただきに来ましたー。 芝村 うまくいくとええのう 芝村 記事どうぞマイルは0 青狸 【予約者の名前】2300449:青狸:キノウツン藩国 【実施予定日時】12月9日/15:00~16:00 【ゲームの種別】小笠原ゲーム 【イベントの種別:消費マイル】 小笠原ミニゲーム(1時間):10マイル 【召喚ACE】(※小笠原のみ) 結城火焔:藩国滞在:0 【合計消費マイル】計10マイル 【参加者:負担するマイル】 2300449:青狸:キノウツン藩国:入学済:10 青狸 あ、マイルは0ですか!ありがとうございます 芝村 イベントは試練だね 青狸 はい。よろしくお願いしますー! 芝村 2分待ってね ゲームログ 芝村 /*/ 火焔は退院することになったよ 青狸 おお、よかったー 芝村 今日は別れの日だ 青狸 別れですか! 芝村 キノウツンからね 青狸 ああそうか…けがの治療できてたんですもんね…。 青狸 現在の位置はどうなっていますか? 青狸 (お互いの) 芝村 キノウツンのはずれだよ。 芝村 コガに荷物が装備されている。 青狸 見送りに来ている感じですかね 青狸 火焔はこの後どこに帰ることになるんでしょう? 芝村 きけばいい 青狸 「火焔…怪我が治って本当によかった…」 火焔:「ん?ありがと」 青狸 「この後は…元いた場所に帰るつもり…?」 火焔:「もう、立派に元気な火焔様。超絶可愛い火焔様」 火焔:「FEGに住むつもりなの」 青狸 「FEGに?どうしてまた?」 火焔はあいまいに笑った。 火焔:「王様に誘われたから」 青狸 「そうか…。是空さんが誘ったのか」 火焔:「将軍にしてくれるって。あと焼き芋食べ放題」 青狸 「そりゃ破格だね」と笑います 火焔:「うん」 青狸 「…キノウツンじゃ…ダメかな?」 火焔:「みんなかわいいから。やだ」 青狸 「美少女ハンターは廃業したのかな」 火焔:「あんたのそういうところ、大嫌いだった」 火焔:「じゃあね。アララさんにはお礼いっといて、士官の口きいてありがとうって」 青狸 「待った!」 青狸 「ごめん。皮肉を言いたくてここに来たんじゃないんだ!」 火焔は無視した。 芝村 コガに顔を摺り寄せて、またがった。 青狸 「君がキノウツンを離れると聞いて、僕はもうどうしたらいいかわからなかったんだ」 青狸 手をとって「話を聞いてほしい。お願いだ」 火焔:「電話番号」 青狸 「いらない!今いいたいんだ!」 火焔は貴方の胸ポケットにメモを入れた。 火焔:「じゃあ」 青狸 「君が好きだ。君とずっと一緒にいたいんだ。」 火焔:「相変わらず子供なのね」 青狸 「そうさ。だから大人にはできないこともできる」 火焔:「例えば?」 青狸 「君に好きだといえないのが大人なら僕は子供でいい」 青狸 「こうして君を抱き寄せて引きとめることも、」抱き寄せます 青狸 「キスをすることも」します 芝村 相手はコガの上にのっている。 芝村 あなたはぴょんぴょんはねた。それだけだった。 火焔:「気持ちだけもらっておくわ」 青狸 コガの上に飛び乗ります 青狸 「子供は諦めが悪いんだ」 芝村 コガ迷惑そう。 火焔:「10年くらいまってあげる。本当の意味で大きくなって」 青狸 「10年もいらない。君が望むなら君の望む人物になれるよう努力する」 青狸 「だから、君のそばに立たせてくれないか」 火焔:「私はもう、FEGのACEよ?」 火焔:「でも同じ国だしね。今度またあいましょう?」 青狸 「君がFEGに行くというなら、僕がFEGに行ったっていい。僕は火焔のそばに居れれば、それでいい」 火焔:「キノウツンのみんなが悲しむわ」 青狸 「火焔と一緒にいられるなら、構わない」 火焔:「ほんとに?」 青狸 「前にお見合いの時国とか楽しくとか…って君は言った。 僕はその時決めたんだ。君が僕の全なんだって」 青狸 「だから、僕は全力を挙げて結城火焔に尽くす。そう決めたんだ」 火焔:「ほんとかなあ」 青狸 「誓う。これから先も、君だけは絶対に嘘をつかない」 青狸 君だけには、です 火焔:「どうしよっかなー」 青狸 「…お願いだ。信じてほしい。証を見せろというのなら何だってしよう」 青狸 真剣な目で火焔を見ます 火焔:「私を笑わせてみて?3分くらいで」 青狸 「…くすぐっちゃいけないんだよね」 火焔:「ぶっぶー失格ー」 青狸 「早いよー!」 火焔は赤い髪を揺らした。 火焔は貴方の顔を覗き込んでいる。 芝村 はやくーという顔。 青狸 キスをします 青狸 「一生かかるかもしれないけど、君を心から笑わせてみせるよ」 火焔:「はい。失格。じゃ、来年よろしく」 芝村 キスのあとでそういわれた。 芝村 落とされた。 芝村 コガが走った。 青狸 追いかけます! 芝村 はやくーを勘違いしたようだ。 芝村 致命的ミスだった 青狸 やっぱりー 青狸 まだまだ諦めません。なんとしてでも追い付いて見せます 芝村 コガにはおいつけないよ。どうする? 青狸 キノウツンですから、何かしら乗り物があると思うんですが 青狸 国境付近らしいので警備の乗り物か何かを 芝村 ふつうのうささんがあるよ 青狸 コパイは必要でしょうか 芝村 ええ 青狸 そこいらに猫士はいませんか? 青狸 いなければここまで来るのに使ったであろう乗り物を使って追いかけます 芝村 自転車だけどいいかい? 青狸 自転車でコガに追いつくのは無理ですよね…? 芝村 ええ 芝村 どうする? 青狸 ではうささんに乗り込んで一人で動かせる範囲で追いかけます 青狸 (攻撃関係を無視すればコパイなしでも何とかなるはず) 芝村 1d6で1、2、3でおいつける 青狸 ここでか…! 青狸 では 青狸 1d6 芝村 のアドイン "mihaDice" [mihaDice] 青狸 1d6 - 1 = 1 青狸 ありがとうダイス 芝村 おいついた。 火焔は腕組んでまっていた。 火焔:「遅かったじゃない」 青狸 「ごめん!本当に!」 青狸 息を切らせて走っていきます 火焔:「一つ言うの忘れてたけど」 青狸 「…」真剣に見つめます 火焔:「私、一生なんて待てないから」 青狸 「…わかった。じゃあ…毎日。これでどうかな」 火焔:「今すぐ。キスなし。3分で」 青狸 「わかった。…じゃあ行くよ」ただじっと自分の顔を火焔に見せ続けます。 汗と涙と砂ぼこりで変極まりない顔でにらめっこです 火焔:「悲しくなるからだめね」 火焔は少し笑って言った。 青狸 「もっと腕を磨くよ…!」 芝村 指摘を間違えた気がする。 青狸 「でも、笑ったよね。」 火焔:「そうだったっけ?」 火焔:「忘れちゃった?」 芝村 てへと笑われた。 青狸 「今度こそ笑った」こちらもニコッと笑います 火焔は微笑むと、貴方の頬にキスをした。 火焔:「焼き芋食い放題より価値があること見せてね?」 青狸 「うん。男の誓いはどんな料理よりすごいって言えるよう頑張るよ」 芝村 /*/ ゲーム後 芝村 はい。お疲れ様でした。 青狸 お疲れ様でした! つ、つかれた 火焔がおおあまでよかったね。 芝村 微笑青空どうぞ(笑) 青狸 ありがとうございますー。…途中はもう死にかけでした 芝村 月並みでない告白聞きたいらしくてね 芝村 凄い粘ってうそばかりついてた 青狸 らしいけどするほうからすればうあああーでしたよw 芝村 だよなあ 青狸 下手に言葉で指摘すると怒らせてしまうのでどうすりゃいいんじゃーとw 芝村 あの状況で面白いこといえるのは芸人でもいないよ 青狸 何か面白いこと言って?はボケ殺しの王道ですもんねえ 芝村 ええ 青狸 バラエティなら「そんなボケ殺しやめえや!(ワハハハ)」ですむんですけど、ここでそれはできませんでしたw 芝村 ははは 芝村 そだね 芝村 では、まあ、火焔に優しくしてもらってください 青狸 はい。いずれ抱腹絶倒させることを目標に…! 芝村 ではおつかれさまでしたー 青狸 はい、ありがとうございましたー! 青狸 それでは失礼します。お疲れ様でしたー
https://w.atwiki.jp/tsuritomo12/pages/20.html
テスト -- (。) 2013-10-23 15 21 34 セリでワンパンを落札したけど、情報がなく…進化すらまだしてないが、使ってる方いましたら進化と役に立ってるか教えて -- (名無しさん) 2015-01-22 15 58 56
https://w.atwiki.jp/jimijimi_gabriel/pages/128.html
悪魔滝沢秀明は殺しません。 2007/4/9(月) 午前 0 59 「滝沢秀明が悪魔であなたが天使だというのが本当なら、 さっさと滝沢秀明を殺せばいいじゃないか」 という物騒なコメントつける方がいらっしゃいますが、 悪魔滝沢秀明は殺しません。ジブリールには、ある目的が あるからです。それについては、まだここには書きません。 天使チームにはすでにその「理由」について、教えてあります。
https://w.atwiki.jp/legends/pages/2775.html
【拝戸直の人殺し 第三話「拝戸直と口裂け女」】 拝戸直は朝早く起きると深煎りのコーヒー豆をたっぷり使ってコーヒーを淹れた。 水はただの水道水だが番屋町は山に囲まれた土地柄のため、とにかく水がおいしい。 只の水道水が他県でボトル詰めされて販売されているほどである。 だからそんな彼の淹れるコーヒーは大して飲み物の味にこだわらない人間であっても感動するようなおいしさなのであった。 「今日も良い朝だ。」 誰に聞かせるでもなくそうつぶやくと拝戸はカーテンを開ける。 春の朝日が部屋の中を暖かく照らし始めた。 それがまぶしくて拝戸は思わず片手で目を覆った。 チーン! テレビで朝のニュース番組を確認すると男の子が両親に虐待されて殺されたというよくある悲しいニュースが流れていた。 それを見て拝戸はヤレヤレと首を振ると、トースターから出てきたトーストにジャムを塗り始めた。 時刻は朝の6時30分。 彼にとっては理想的ないつもの朝だ。 「口裂け女さん、もう朝の6時30分だ。起きてくれ。」 「へ?まだ7時前じゃないですか……むにゃむにゃ。」 「まったくもってだらしないなあ、早起きできるかということはその一日を占う要素なんだ。 早く起きた朝は余裕を持って一日を迎えられるだろう? そうしたらそれだけすばらしい一日を送れる可能性が増えるじゃないか。 さ、起きてくれ。今日は君についてもっと知ろうと思っているんだ。」 「うにゃー!」 ベッドでごろごろしていた口裂け女(メイド)はあっさり布団を引きはがされた。 寒そうに丸まっている。 「朝は低血圧なのー!」 「良いだろう、ならば軽く散歩でもしないか? 体に良いぞ?ほら、おいしいコーヒーも淹れてあるしそれを飲んでからとか。」 「うー……。」 「嫌か?」 「嫌。」 「わがままなお姫様だ。メイド服だけど。 あ、そうだ。服でも買いに行かないか? さすがにメイド服だけじゃあ困るだろう。」 拝戸は口裂け女がわずかに頷いたのを確認すると自分だけで朝のランニングと洒落込むことにしたのである。 彼はジャージに着替えてランニングシューズを履くとマンションの周りをゆっくり走り始めた。 走り始めてから十秒後、彼は明確すぎるくらい明確な変化に気がついた。 なぜかやたら速く走れるのだ。 今の彼はゆっくり走っているのだが、それでも今までの自分の全力疾走くらいに速く走れる。 「そういえば口裂け女は100mを3秒で走れるんだったっけか。 なるほどねえ、良い能力だ。」 彼は口裂け女について巷で語られていることを思い出す。 たとえばいつも刃物を持ち歩いているとか。 たとえばポマードに弱いとか。 しばらく走ると拝戸はマンションの自分の部屋に戻った。 「あ、おかえりなさい。」 「ていうかお前馴染んでいるなあ……。 自分を殺した殺人鬼の部屋でのんびり朝食喰うなんてどんな神経だよ。」 「どこであってもおなかは普通に減るもん。」 「なるほど、文学的だ。」 ああ、なんてことだろう。 君はどうあっても普通を貫くんだ。 と、他人には理解できないような理由で拝戸は深く感心した。 拝戸の用意した朝ご飯を食べてから二人はとりとめもない会話を始め、それが途切れると近くのデパートに服を買いに行くことにした。 拝戸はなんだかんだ言って普通の服も用意していたので服を買いに行く服がない、なんて無様な事態にはならなかった。 下着まで丁寧に用意していた拝戸に若干というかすごく引いていた口裂け女だったが、 とりあえずメイド服で外に出るわけにもいかないので素直にそれに着替えて部屋を出た。 デパートまではとりあえず拝戸の車に乗っていくことになった。 拝戸の乗るムーブは番屋町の市街地に向けて狭い道をすいすい進んでいく。 「大学生のくせに自分の車持ってるなんてずるいです!」 「医学部に合格した自慢の息子だ。それくらいあったって良いだろう?」 「でもでも私は親に買ってもらえなかったですよ車。」 「ああー、そういや君はもう大学卒業しているのか。」 「私の方がお姉さんですね。もうちょっと敬うべきです。」 「十分敬意を払っていると思うけどね。」 「ところでお医者さんなんですか。」 「ああ、これでも精神科医志望だ。切った張ったの外科なんて野蛮きわまりないぜ。」 「精神科だってよくわからない人たちしか患者に来ないようなイメージが…… っていうかあなたがかかるべきですよ精神科には。」 「知らないのかい?いや、普通知らないか。フロイトも自らの治療のために精神医学を研究したそうだ。 彼の書いた当時の友人への手紙には明らかに精神病的な傾向が見受けられる。」 「ふーん……。」 どうやら彼の話はあまり興味を持っていただけなかったようだ。 拝戸は残念そうにため息を吐く。 「そういえば口裂け女って常に口が裂けている訳じゃないんだね。」 拝戸は彼女の口を指さす。 口裂け女はそのことに気づいていなかったようで自らの頬に触れて驚いていた。 「あれ?本当だ!」 軽く喜ぶような仕草。 やはり口が裂けっぱなしなのは嫌なのだろう。 しかし口が裂けていた方が拝戸は好みだった為、彼は少々がっかりしている。 「それ見てて気になったんだけどさ。 君は口裂け女としてどこまでのことができるんだい? とりあえず俺の足が速くなったりとか契約とやらの効果は出始めているみたいだけど……。」 よりすばらしい能力を手に入れれば よりすばらしい芸術に近づく 拝戸直はどんな能力でも自らの殺人行為に華を添えると期待していた。 「鋏とか……、出せますね。」 「鋏?なるほど、それ以外には有るか?」 「あとはまだ私自身もあなたの契約者としてのレベルも未熟なので……、 特に何もできません。あ、ちょっと力が強くなってるかも。」 「なるほど、身体能力の強化と武器を自由に出現させる力ね。 それは割と便利だな。 お、デパートついたぜ。今日は好きな服買ってやるから存分に見て回ってくれ。」 その言葉を聞くと口裂け女は少女のようにはしゃぐ。 どうやら出費がかさみそうだな、と拝戸はすこしばかり困った表情をしていた。 【拝戸直の人殺し 第三話「拝戸直と口裂け女」fin】 * 前ページ連載 - 口裂け女と人殺し