約 1,638,826 件
https://w.atwiki.jp/kolia/pages/1705.html
改行ズレ/画像ヌケ等で読み辛い場合は、ミラーWIKI または図解WIKI をご利用ください <目次> ■1.はじめに ■2.法価値論、正義、法的安定性、衡平 ■3.狭義の正義・・・手続的/形式的/配分的正義 ■4.価値論一般 ■5.法の支配 ■6.ご意見、情報提供 ■1.はじめに 政治思想・政治哲学の根本的価値が「自由(freedom/liberty)」という言葉で表現されるように、 法思想・法哲学の根本的価値は「正義(justice)」という言葉で伝統的に表現されてきた。 ここでは「正義」概念に関して概括的整理を行うとともに、「法の支配」理念との関係について考察する。 ※サイズが合わない場合はこちら をクリック。 ※なお、「自由」概念に関しては下記参照。 リベラリズムと自由主義 ~ 自由の理論の二つの異なった系譜 ■2.法価値論、正義、法的安定性、衡平 ※まず、法価値論、および、①正義、②法的安定性、③衡平、といった法価値を構成する基礎用語の説明。 ※なお、添付図では、法価値を構成する3つの要素のうち、【法的安定性】、【衡平】と区別された意味での【正義】を、「狭義の正義」と便宜的に呼び、これに対して、【法価値論】の用語説明にあるように、法価値論を一括して「正義論」と呼び習わす場合の「正義」を「広義の正義」と呼んでいる。 ほうかちろん【法価値論】legal axiology 日本語版ブリタニカ 法的な価値について考察する研究分野。法的な価値は正義という言葉で表現されることが多いから、正義論といってもよい。 古代ギリシア以来、法哲学の主要分野をなしてきたが、最近は、①規範的倫理学と、②分析的倫理学の区別に対応して、①規範的法価値論と②分析的法価値論(メタ法価値論)とが明確に区別されるようになった。 せいぎ【正義】 広辞苑 ① [荀子(正名)]正しいすじみち、人がふみ行うべき正しい道。「-を貫く」 ② [漢書(律暦志上)]正しい意義または注解。「尚書-」 ③ (justice) (ア) 社会全体の幸福を保障する秩序を実現し維持すること。プラトンは国家の各成員がそれぞれの責務を果たし、国家全体として調和があることを正義とし、アリストテレスは能力に応じた公平な分配を正義とした。近代では社会の成員の自由と平等が正義の観念の中心となり、自由主義的民主主義社会は各人の法的な平等を実現した。 これを単に形式的なものと見るマルキシズムは、真の正義は社会主義によって初めて実現されると主張するが、現在ではイデオロギーを超えた正義が模索されている。 (イ) 社会の正義に適った行為をなしうるような個人の徳性。 せいぎ【正義】justice 日本語版ブリタニカ 人間の社会的関係において実現されるべき究極的な価値。 ▽ 善(※注: agothos, bonum, good)と同義に用いられることもあるが、 (1) 善が、主として人間の個人的態度にかかわる道徳的な価値を指すのに対して、 (2) 正義は、人間の対他的関係の規律にかかわる法的な価値を指す。 ▽ 正義とは何か、という問題については、古来さまざまな解答が示されてきたが、一般的な価値ないし価値基準に関する見解と同様に 1 正義を客観的な実在と考える客観主義的・絶対主義的正義論と、 2 正義を主観的な確信と考える主観主義的・相対主義的正義論とに大別できよう。 法思想の領域では、だいたいにおいて、自然法論が 1 前者に、法実証主義が 2 後者に、属する。 ▽ 従来の正義論のうちでは、アリストテレスやキケロの見解が名高く、与えた影響も大きい。 (ア) アリストテレスは、道徳と区別される正義(特殊的正義)について、①配分的正義と、②交換的正義(平均的正義、調整的正義とも訳される)とを区別し、 ① 前者は、公民としての各人の価値・功績に応じて、名誉や財貨を配分することにおいて成立し、 ② 後者は、私人としての各人の相互交渉から生じる利害を平均・調整することにおいて成立する、とした。 (イ) キケロは、この①配分的正義と同様な内容を、「各人に彼のものを」という公式で表現した。 ほうてきあんていせい【法的安定性】Rechtssicherheit 日本語版ブリタニカ 法の支配ないしは法治主義の思想のもとにおける一種の法価値。法的安全、法的確実性ともいわれる。 ▽ この言葉は、 (1) 法による安定性、つまり、法による社会秩序維持がもたらす社会生活の安定、という価値と、 (2) 法の安定性、つまり、法それ自体の安定からもたらされる法価値、という2つの意味に用いられる。 (1)前者は、(2)後者を前提にして成り立ち、しかも、①平和、ないしは、②秩序、と同意義であるので、(2)後者の「法の安定性」が、固有の意味で法的安定性である。 ▽ (2)この安定性は、次の要求を満たすことによって確保される。 第一は、 法が実定法であること、 第二は、 その法の解釈・適用が客観的であること、 第三は、 その法の実効性があること。 ▽ 法的安定性は、また、法の目的でもあり、法が追求すべき正義・衡平などの高次の諸価値を達成するために、まず実現すべき卑近な第一次的な目的とされている。 こうへい【衡平】 equity 日本語版ブリタニカ 具体的事件に法を適用すると実際に不当・不公平な結果になるようなとき、それを是正する原理。 「法は善と衡平の術なり」ともいわれ、この原理から、 1 古代ローマ法では、 ①市民法に対する、②法務官法が、 2 イギリスでは、 ①コモン・ローに対する、②エクイティー(衡平法)が、生まれた。 ■3.狭義の正義・・・手続的/形式的/配分的正義 ※次に、手続的正義、形式的正義、(実質的正義の中の)配分的正義、をそれぞれ理解するための用語説明 デュー・プロセス・オブ・ロー【due process of law】 日本語版ブリタニカ 法によって定められた適正手続のこと。 (1) アメリカ合衆国憲法は、「法の適正手続によらなければ、①生命、②自由、または、③財産を奪われることはない」(修正5条)と規定している。 これは、マグナ・カルタ39条中の「自由人は、同輩によって構成された合法的な法廷および国法によるのでなければ、①逮捕、②監禁、③差押え、④法外放置、もしくは、⑤追放を受け、または、⑥その他の方法によって侵害されることはない」の規定に淵源をもつ、といわれている。 この修正5条は、個人の憲法上の権利を侵害する州の行為には適用できなかったので、1868年に、さらに修正14条が追加され、州の行為にも適正手続の拘束が及ぼされることになった。 1 デュー・プロセス・オブ・ローは、アメリカでも当初は文字通り手続的制限規定と解されていたが、 2 19世紀末頃より、実体的適性の意味にも解されるようになり、連邦最高裁判所は、その中に契約の自由などを読み込んで、社会経済立法の多くを違憲と判示した。 3 しかし、1937年を契機に、最高裁判所は判例を変更し、ニュー・ディール諸法を合憲とするに至り(⇒私有財産制)、以後、学説・判例において、実体的デュー・プロセスの考え方には消極的ないし警戒的態度が一般的となった。 4 もっとも、1960年代なかばから、とりわけ70年代以降、実体的デュー・プロセス論の復活の兆しが見受けられる。 (2) 日本では、日本国憲法は、「何人も、法律の定める手続きによらなければ、その①生命若しくは②自由を奪はれ、又は③その他の刑罰を科せられない」(31条)と規定している。 この規定は、今日では、 1 「手続」とは、①純然たる手続のみならず、②実体要件までも含み、 2 「法律の定める」とは、①ただ形式的に「法定」の意味ではなく、②内容的にも適正なものでなければならないことを意味している、という理解が確立している。 かくじんにかれのものを【各人に彼のものを】 suum cuique 日本語版ブリタニカ 正義についてキケロが述べた言葉、「各人に彼のものを配分すること、それがまさに最高の正義である」suum cuique tribuere, ea demum summa justitia est や、ウルピアヌスの言葉を簡略化したもの。アリストテレスの配分的正義とともに、正義に関する簡潔・的確な表現として名高い。 しかし、正義が問題となる際に議論の的となる「何が彼のものであるか」について明らかにしていない点で、内容の空疎な公式に過ぎない、と批判されることもある。「何が彼のものであるか」を定めた既存の法秩序を前提してのみ機能する公式といえよう。 はいぶんてきせいぎ【配分的正義】 dianemetikon dikaion; justitia distributiva 日本語版ブリタニカ アリストテレスに由来し、トマス=アクィナスのラテン語への翻訳と注解によってスコラ学に定着した正義の分類の一つ。交換的 commutative 正義に対置する。すなわち、 1 ある共同体の権威者によって 2 ①利益と②負担とが 3 その共同体の各成員の業績や能力に比例して配分されること、を要求する正義。 今日の公法上の正義に近いが、業績や能力を評価する基準を何とするか、によって正義の内容も異なりうる。 ■4.価値論一般 ※次に、法価値論に限らず、価値論一般に関する用語説明 かちじょうちょせつ【価値情緒説】 emotive theory of value 日本語版ブリタニカ 価値判断は、判断主体の個人的な感情・情緒の表明に過ぎない、という説。 この立場からすると、 1 事実判断は、①対象が具備している実在的な性質を指摘するものであり、②その真偽が客観的に判定できるが、 2 価値判断は、①対象の実在的な性質を指摘しているわけではないので、②真理知を持たないことになる。 従って、 2 価値判断の問題は、科学的認識の領域外にあり、価値についての争いは、実践的にのみ解決されるもの、とされる。 価値情緒説という名称は、現代のイギリス・アメリカの価値論ないし倫理学で用いられ、A.エイアー、B.ラッセル、S.スティーブンソンらによって代表されるが、M.ウェーバー、G.ラートブルフ、H.ケルゼンらの価値相対主義も実質的にはこれに近い。 かちそうたいしゅぎ【価値相対主義】 value relativism 日本語版ブリタニカ 価値は各人の感情、意欲、信念に依存する相対的なものであるとする主張。 善、正義などの価値あるいは価値基準が客観的に実在し、認識されうるとする価値絶対主義ないし価値客観主義に対する。価値主観主義ともいう。 古代ギリシアのソフィスト以来さまざまな形態をとってきたが、近年では、M.ウェーバー、G.ラートブルフ、H.ケルゼンらが名高い。この近年の価値相対主義は存在と当為・価値を峻別する新カント主義的な方法二元論に主たる基礎をおくが、実質的には価値情緒説に接近する。なお、ラートブルフやケルゼンは、価値相対主義によって民主制を理論的に基礎づけている。 ■5.法の支配 ※最後に、「法の支配」の用語説明 ほう-の-しはい【法の支配】 (rule of law) 広辞苑 イギリスの法律家コークが、国王は神と法の下にあるべきである、として、ジェームズ1世の王権を抑制して以来、「人の支配」に対抗して認められるようになった近代の政治原理。コークのいう法は、イギリスの判例法で、立法権をも抑制する点で、法治主義とは異なるが、後に法治主義と同義に用いることもある。 ほうのしはい【法の支配】 rule of law 日本語版ブリタニカ 法至上主義的な思想、原則。 (1) どんな人でも、通常裁判所が適用する法律以外のものに支配されない、あるいは、 (2) 被治者のみでなく、統治者・統治諸機関も、法の支配に服さなければならぬ、とする、「法のもとにおける統治」の原理。 イギリスの伝統に根ざす思想であり、自然法思想にも淵源をもつ、法の権力に対する優位性の主張である。 A.ダイシーは、その著『憲法入門』(1885)のなかで、①議会主権と、②法の支配、がイギリスの2大法原理である、としたが、 1 ここから、人間とその自由を権力から守るイギリス型法治主義の原則が確立され、 2 アメリカにおいては、司法権優越の原理を生んだ。 20世紀に入り、経済・社会情勢の著しい変化につれ、伝統的な法支配の原則に対するいろいろな批判も起っている。 rule of law collins The rule of law refers to a situation in which the people in a society 1 obey its laws and 2 enable it to function properly. ※詳しくは 「法の支配(rule of law)」とは何か 参照。 ■6.ご意見、情報提供 ↓これまでの全コメントを表示する場合はここをクリック +... 以下は最新コメント表示 名前 ラジオボタン(各コメントの前についている○)をクリックすることで、そのコメントにレスできます。 ■左翼や売国奴を論破する!セットで読む政治理論・解説ページ 政治の基礎知識 政治学の概念整理と、政治思想の対立軸 政治思想(用語集) リベラル・デモクラシー、国民主権、法の支配 デモクラシーと衆愚制 ~ 「民主主義」信仰を打ち破る ※別題「デモクラシーの真実」 リベラリズムと自由主義 ~ 自由の理論の二つの異なった系譜 ※別題「リベラリズムの真実」 保守主義とは何か ※概念/理念定義、諸説紹介 まとめ ナショナリズムとは何か ケインズvs.ハイエクから考える経済政策 国家解体思想(世界政府・地球市民)の正体 左派・左翼とは何か 右派・右翼とは何か 中間派に何を含めるか 「個人主義」と「集産主義」 ~ ハイエク『隷従への道』読解の手引き 最速!理論派保守☆養成プログラム 「皇国史観」と国体論~日本の保守思想を考える 日本主義とは何か ~ 日本型保守主義とナショナリズムの関係を考える 右翼・左翼の歴史 靖國神社と英霊の御心 マルクス主義と天皇制ファシズム論 丸山眞男「天皇制ファシズム論」、村上重良「国家神道論」の検証 国体とは何か① ~ 『国体の本義』と『臣民の道』(2つの公定「国体」解説書) 国体とは何か② ~ その他の論点 国体法(不文憲法)と憲法典(成文憲法) 歴史問題の基礎知識 戦後レジームの正体 「法の支配(rule of law)」とは何か ※概念/理念定義、諸説紹介 まとめ 立憲主義とは何か ※概念/理念定義、諸説紹介 まとめ 「正義」とは何か ~ 法価値論まとめ+「法の支配」との関係 正統性とは何か ~ legitimacy ・ orthodoxy の区別と、憲法の正統性問題 自然法と人権思想の関係、国体法との区別 「国民の権利・自由」と「人権」の区別 ~ 人権イデオロギー打破のために 日本国憲法改正問題(上級編) ※別題「憲法問題の基礎知識」 学者別《憲法理論-比較表》 政治的スタンス毎の「国民主権」論比較・評価 よくわかる現代左翼の憲法論Ⅰ(芦部信喜・撃墜編) よくわかる現代左翼の憲法論Ⅱ(長谷部恭男・追討編) ブログランキング応援クリックをお願いいたします(一日一回有効)。 人気ブログランキングへ
https://w.atwiki.jp/habeasproper/pages/8.html
動画(youtube) @wikiのwikiモードでは #video(動画のURL) と入力することで、動画を貼り付けることが出来ます。 詳しくはこちらをご覧ください。 =>http //atwiki.jp/guide/17_209_ja.html また動画のURLはYoutubeのURLをご利用ください。 =>http //www.youtube.com/ たとえば、#video(http //youtube.com/watch?v=kTV1CcS53JQ)と入力すると以下のように表示されます。
https://w.atwiki.jp/habeasproper/pages/7.html
アーカイブ @wikiのwikiモードでは #archive_log() と入力することで、特定のウェブページを保存しておくことができます。 詳しくはこちらをご覧ください。 =>http //atwiki.jp/guide/25_171_ja.html たとえば、#archive_log()と入力すると以下のように表示されます。 保存したいURLとサイト名を入力して"アーカイブログ"をクリックしてみよう サイト名 URL
https://w.atwiki.jp/sakura398/pages/251.html
<目次> ■1.はじめに ■2.法価値論、正義、法的安定性、衡平 ■3.狭義の正義・・・手続的/形式的/配分的正義 ■4.価値論一般 ■5.法の支配 ■6.ご意見、情報提供 ■1.はじめに 政治思想・政治哲学の根本的価値が「自由(freedom/liberty)」という言葉で表現されるように、 法思想・法哲学の根本的価値は「正義(justice)」という言葉で伝統的に表現されてきた。 ここでは「正義」概念に関して概括的整理を行うとともに、「法の支配」理念との関係について考察する。 ※サイズが合わない場合は こちら をクリック。 ※なお、「自由」概念に関しては下記参照。 リベラリズムと自由主義 ~ 自由の理論の二つの異なった系譜 ■2.法価値論、正義、法的安定性、衡平 ※まず、法価値論、および、①正義、②法的安定性、③衡平、といった法価値を構成する基礎用語の説明。 ※なお、添付図では、法価値を構成する3つの要素のうち、【法的安定性】、【衡平】と区別された意味での【正義】を、「狭義の正義」と便宜的に呼び、これに対して、【法価値論】の用語説明にあるように、法価値論を一括して「正義論」と呼び習わす場合の「正義」を「広義の正義」と呼んでいる。 ほうかちろん【法価値論】legal axiology 日本語版ブリタニカ 法的な価値について考察する研究分野。法的な価値は正義という言葉で表現されることが多いから、正義論といってもよい。 古代ギリシア以来、法哲学の主要分野をなしてきたが、最近は、①規範的倫理学と、②分析的倫理学の区別に対応して、①規範的法価値論と②分析的法価値論(メタ法価値論)とが明確に区別されるようになった。 せいぎ【正義】 広辞苑 ① [荀子(正名)]正しいすじみち、人がふみ行うべき正しい道。「-を貫く」 ② [漢書(律暦志上)]正しい意義または注解。「尚書-」 ③ (justice) (ア) 社会全体の幸福を保障する秩序を実現し維持すること。プラトンは国家の各成員がそれぞれの責務を果たし、国家全体として調和があることを正義とし、アリストテレスは能力に応じた公平な分配を正義とした。近代では社会の成員の自由と平等が正義の観念の中心となり、自由主義的民主主義社会は各人の法的な平等を実現した。 これを単に形式的なものと見るマルキシズムは、真の正義は社会主義によって初めて実現されると主張するが、現在ではイデオロギーを超えた正義が模索されている。 (イ) 社会の正義に適った行為をなしうるような個人の徳性。 せいぎ【正義】justice 日本語版ブリタニカ 人間の社会的関係において実現されるべき究極的な価値。 ▽ 善(※注: agothos, bonum, good)と同義に用いられることもあるが、 (1) 善が、主として人間の個人的態度にかかわる道徳的な価値を指すのに対して、 (2) 正義は、人間の対他的関係の規律にかかわる法的な価値を指す。 ▽ 正義とは何か、という問題については、古来さまざまな解答が示されてきたが、一般的な価値ないし価値基準に関する見解と同様に 1 正義を客観的な実在と考える客観主義的・絶対主義的正義論と、 2 正義を主観的な確信と考える主観主義的・相対主義的正義論とに大別できよう。 法思想の領域では、だいたいにおいて、自然法論が 1 前者に、法実証主義が 2 後者に、属する。 ▽ 従来の正義論のうちでは、アリストテレスやキケロの見解が名高く、与えた影響も大きい。 (ア) アリストテレスは、道徳と区別される正義(特殊的正義)について、①配分的正義と、②交換的正義(平均的正義、調整的正義とも訳される)とを区別し、 ① 前者は、公民としての各人の価値・功績に応じて、名誉や財貨を配分することにおいて成立し、 ② 後者は、私人としての各人の相互交渉から生じる利害を平均・調整することにおいて成立する、とした。 (イ) キケロは、この①配分的正義と同様な内容を、「各人に彼のものを」という公式で表現した。 ほうてきあんていせい【法的安定性】Rechtssicherheit 日本語版ブリタニカ 法の支配ないしは法治主義の思想のもとにおける一種の法価値。法的安全、法的確実性ともいわれる。 ▽ この言葉は、 (1) 法による安定性、つまり、法による社会秩序維持がもたらす社会生活の安定、という価値と、 (2) 法の安定性、つまり、法それ自体の安定からもたらされる法価値、という2つの意味に用いられる。 (1)前者は、(2)後者を前提にして成り立ち、しかも、①平和、ないしは、②秩序、と同意義であるので、(2)後者の「法の安定性」が、固有の意味で法的安定性である。 ▽ (2)この安定性は、次の要求を満たすことによって確保される。 第一は、 法が実定法であること、 第二は、 その法の解釈・適用が客観的であること、 第三は、 その法の実効性があること。 ▽ 法的安定性は、また、法の目的でもあり、法が追求すべき正義・衡平などの高次の諸価値を達成するために、まず実現すべき卑近な第一次的な目的とされている。 こうへい【衡平】 equity 日本語版ブリタニカ 具体的事件に法を適用すると実際に不当・不公平な結果になるようなとき、それを是正する原理。 「法は善と衡平の術なり」ともいわれ、この原理から、 1 古代ローマ法では、 ①市民法に対する、②法務官法が、 2 イギリスでは、 ①コモン・ローに対する、②エクイティー(衡平法)が、生まれた。 ■3.狭義の正義・・・手続的/形式的/配分的正義 ※次に、手続的正義、形式的正義、(実質的正義の中の)配分的正義、をそれぞれ理解するための用語説明 デュー・プロセス・オブ・ロー【due process of law】 日本語版ブリタニカ 法によって定められた適正手続のこと。 (1) アメリカ合衆国憲法は、「法の適正手続によらなければ、①生命、②自由、または、③財産を奪われることはない」(修正5条)と規定している。 これは、マグナ・カルタ39条中の「自由人は、同輩によって構成された合法的な法廷および国法によるのでなければ、①逮捕、②監禁、③差押え、④法外放置、もしくは、⑤追放を受け、または、⑥その他の方法によって侵害されることはない」の規定に淵源をもつ、といわれている。 この修正5条は、個人の憲法上の権利を侵害する州の行為には適用できなかったので、1868年に、さらに修正14条が追加され、州の行為にも適正手続の拘束が及ぼされることになった。 1 デュー・プロセス・オブ・ローは、アメリカでも当初は文字通り手続的制限規定と解されていたが、 2 19世紀末頃より、実体的適性の意味にも解されるようになり、連邦最高裁判所は、その中に契約の自由などを読み込んで、社会経済立法の多くを違憲と判示した。 3 しかし、1937年を契機に、最高裁判所は判例を変更し、ニュー・ディール諸法を合憲とするに至り(⇒私有財産制)、以後、学説・判例において、実体的デュー・プロセスの考え方には消極的ないし警戒的態度が一般的となった。 4 もっとも、1960年代なかばから、とりわけ70年代以降、実体的デュー・プロセス論の復活の兆しが見受けられる。 (2) 日本では、日本国憲法は、「何人も、法律の定める手続きによらなければ、その①生命若しくは②自由を奪はれ、又は③その他の刑罰を科せられない」(31条)と規定している。 この規定は、今日では、 1 「手続」とは、①純然たる手続のみならず、②実体要件までも含み、 2 「法律の定める」とは、①ただ形式的に「法定」の意味ではなく、②内容的にも適正なものでなければならないことを意味している、という理解が確立している。 かくじんにかれのものを【各人に彼のものを】 suum cuique 日本語版ブリタニカ 正義についてキケロが述べた言葉、「各人に彼のものを配分すること、それがまさに最高の正義である」suum cuique tribuere, ea demum summa justitia est や、ウルピアヌスの言葉を簡略化したもの。アリストテレスの配分的正義とともに、正義に関する簡潔・的確な表現として名高い。 しかし、正義が問題となる際に議論の的となる「何が彼のものであるか」について明らかにしていない点で、内容の空疎な公式に過ぎない、と批判されることもある。「何が彼のものであるか」を定めた既存の法秩序を前提してのみ機能する公式といえよう。 はいぶんてきせいぎ【配分的正義】 dianemetikon dikaion; justitia distributiva 日本語版ブリタニカ アリストテレスに由来し、トマス=アクィナスのラテン語への翻訳と注解によってスコラ学に定着した正義の分類の一つ。交換的 commutative 正義に対置する。すなわち、 1 ある共同体の権威者によって 2 ①利益と②負担とが 3 その共同体の各成員の業績や能力に比例して配分されること、を要求する正義。 今日の公法上の正義に近いが、業績や能力を評価する基準を何とするか、によって正義の内容も異なりうる。 ■4.価値論一般 ※次に、法価値論に限らず、価値論一般に関する用語説明 かちじょうちょせつ【価値情緒説】 emotive theory of value 日本語版ブリタニカ 価値判断は、判断主体の個人的な感情・情緒の表明に過ぎない、という説。 この立場からすると、 1 事実判断は、①対象が具備している実在的な性質を指摘するものであり、②その真偽が客観的に判定できるが、 2 価値判断は、①対象の実在的な性質を指摘しているわけではないので、②真理知を持たないことになる。 従って、 2 価値判断の問題は、科学的認識の領域外にあり、価値についての争いは、実践的にのみ解決されるもの、とされる。 価値情緒説という名称は、現代のイギリス・アメリカの価値論ないし倫理学で用いられ、A.エイアー、B.ラッセル、S.スティーブンソンらによって代表されるが、M.ウェーバー、G.ラートブルフ、H.ケルゼンらの価値相対主義も実質的にはこれに近い。 かちそうたいしゅぎ【価値相対主義】 value relativism 日本語版ブリタニカ 価値は各人の感情、意欲、信念に依存する相対的なものであるとする主張。 善、正義などの価値あるいは価値基準が客観的に実在し、認識されうるとする価値絶対主義ないし価値客観主義に対する。価値主観主義ともいう。 古代ギリシアのソフィスト以来さまざまな形態をとってきたが、近年では、M.ウェーバー、G.ラートブルフ、H.ケルゼンらが名高い。この近年の価値相対主義は存在と当為・価値を峻別する新カント主義的な方法二元論に主たる基礎をおくが、実質的には価値情緒説に接近する。なお、ラートブルフやケルゼンは、価値相対主義によって民主制を理論的に基礎づけている。 ■5.法の支配 ※最後に、「法の支配」の用語説明 ほう-の-しはい【法の支配】 (rule of law) 広辞苑 イギリスの法律家コークが、国王は神と法の下にあるべきである、として、ジェームズ1世の王権を抑制して以来、「人の支配」に対抗して認められるようになった近代の政治原理。コークのいう法は、イギリスの判例法で、立法権をも抑制する点で、法治主義とは異なるが、後に法治主義と同義に用いることもある。 ほうのしはい【法の支配】 rule of law 日本語版ブリタニカ 法至上主義的な思想、原則。 (1) どんな人でも、通常裁判所が適用する法律以外のものに支配されない、あるいは、 (2) 被治者のみでなく、統治者・統治諸機関も、法の支配に服さなければならぬ、とする、「法のもとにおける統治」の原理。 イギリスの伝統に根ざす思想であり、自然法思想にも淵源をもつ、法の権力に対する優位性の主張である。 A.ダイシーは、その著『憲法入門』(1885)のなかで、①議会主権と、②法の支配、がイギリスの2大法原理である、としたが、 1 ここから、人間とその自由を権力から守るイギリス型法治主義の原則が確立され、 2 アメリカにおいては、司法権優越の原理を生んだ。 20世紀に入り、経済・社会情勢の著しい変化につれ、伝統的な法支配の原則に対するいろいろな批判も起っている。 rule of law collins The rule of law refers to a situation in which the people in a society 1 obey its laws and 2 enable it to function properly. ※詳しくは 「法の支配(rule of law)」とは何か 参照。 ■6.ご意見、情報提供 ↓これまでの全コメントを表示する場合はここをクリック +... 以下は最新コメント表示 名前 ラジオボタン(各コメントの前についている○)をクリックすることで、そのコメントにレスできます。 ■左翼や売国奴を論破する!セットで読む政治理論・解説ページ 政治の基礎知識 政治学の概念整理と、政治思想の対立軸 政治思想(用語集) リベラル・デモクラシー、国民主権、法の支配 デモクラシーと衆愚制 ~ 「民主主義」信仰を打ち破る ※別題「デモクラシーの真実」 リベラリズムと自由主義 ~ 自由の理論の二つの異なった系譜 ※別題「リベラリズムの真実」 保守主義とは何か ※概念/理念定義、諸説紹介 まとめ ナショナリズムとは何か ケインズvs.ハイエクから考える経済政策 国家解体思想(世界政府・地球市民)の正体 左派・左翼とは何か 右派・右翼とは何か 中間派に何を含めるか 「個人主義」と「集産主義」 ~ ハイエク『隷従への道』読解の手引き 最速!理論派保守☆養成プログラム 「皇国史観」と国体論~日本の保守思想を考える 日本主義とは何か ~ 日本型保守主義とナショナリズムの関係を考える 右翼・左翼の歴史 靖國神社と英霊の御心 マルクス主義と天皇制ファシズム論 丸山眞男「天皇制ファシズム論」、村上重良「国家神道論」の検証 国体とは何か① ~ 『国体の本義』と『臣民の道』(2つの公定「国体」解説書) 国体とは何か② ~ その他の論点 国体法(不文憲法)と憲法典(成文憲法) 歴史問題の基礎知識 戦後レジームの正体 「法の支配(rule of law)」とは何か ※概念/理念定義、諸説紹介 まとめ 立憲主義とは何か ※概念/理念定義、諸説紹介 まとめ 「正義」とは何か ~ 法価値論まとめ+「法の支配」との関係 正統性とは何か ~ legitimacy ・ orthodoxy の区別と、憲法の正統性問題 自然法と人権思想の関係、国体法との区別 「国民の権利・自由」と「人権」の区別 ~ 人権イデオロギー打破のために 日本国憲法改正問題(上級編) ※別題「憲法問題の基礎知識」 学者別《憲法理論-比較表》 政治的スタンス毎の「国民主権」論比較・評価 よくわかる現代左翼の憲法論Ⅰ(芦部信喜・撃墜編) よくわかる現代左翼の憲法論Ⅱ(長谷部恭男・追討編) ブログランキング応援クリックをお願いいたします(一日一回有効)。 人気ブログランキングへ
https://w.atwiki.jp/kbt16s/pages/14.html
<目次> ■1.はじめに ■2.法価値論、正義、法的安定性、衡平 ■3.狭義の正義・・・手続的/形式的/配分的正義 ■4.価値論一般 ■5.法の支配 ■6.ご意見、情報提供 ■1.はじめに 政治思想・政治哲学の根本的価値が「自由(freedom/liberty)」という言葉で表現されるように、 法思想・法哲学の根本的価値は「正義(justice)」という言葉で伝統的に表現されてきた。 ここでは「正義」概念に関して概括的整理を行うとともに、「法の支配」理念との関係について考察する。 ※サイズが合わない場合はこちらをクリック。 ※なお、「自由」概念に関しては下記参照。 リベラリズムと自由主義 ~ 自由の理論の二つの異なった系譜 ■2.法価値論、正義、法的安定性、衡平 ※まず、法価値論、および、①正義、②法的安定性、③衡平、といった法価値を構成する基礎用語の説明。 ※なお、添付図では、法価値を構成する3つの要素のうち、【法的安定性】、【衡平】と区別された意味での【正義】を、「狭義の正義」と便宜的に呼び、これに対して、【法価値論】の用語説明にあるように、法価値論を一括して「正義論」と呼び習わす場合の「正義」を「広義の正義」と呼んでいる。 ほうかちろん【法価値論】legal axiology 日本語版ブリタニカ 法的な価値について考察する研究分野。法的な価値は正義という言葉で表現されることが多いから、正義論といってもよい。 古代ギリシア以来、法哲学の主要分野をなしてきたが、最近は、①規範的倫理学と、②分析的倫理学の区別に対応して、①規範的法価値論と②分析的法価値論(メタ法価値論)とが明確に区別されるようになった。 せいぎ【正義】 広辞苑 ① [荀子(正名)]正しいすじみち、人がふみ行うべき正しい道。「-を貫く」 ② [漢書(律暦志上)]正しい意義または注解。「尚書-」 ③ (justice) (ア) 社会全体の幸福を保障する秩序を実現し維持すること。プラトンは国家の各成員がそれぞれの責務を果たし、国家全体として調和があることを正義とし、アリストテレスは能力に応じた公平な分配を正義とした。近代では社会の成員の自由と平等が正義の観念の中心となり、自由主義的民主主義社会は各人の法的な平等を実現した。 これを単に形式的なものと見るマルキシズムは、真の正義は社会主義によって初めて実現されると主張するが、現在ではイデオロギーを超えた正義が模索されている。 (イ) 社会の正義に適った行為をなしうるような個人の徳性。 せいぎ【正義】justice 日本語版ブリタニカ 人間の社会的関係において実現されるべき究極的な価値。 ▽ 善(※注: agothos, bonum, good)と同義に用いられることもあるが、 (1) 善が、主として人間の個人的態度にかかわる道徳的な価値を指すのに対して、 (2) 正義は、人間の対他的関係の規律にかかわる法的な価値を指す。 ▽ 正義とは何か、という問題については、古来さまざまな解答が示されてきたが、一般的な価値ないし価値基準に関する見解と同様に 1 正義を客観的な実在と考える客観主義的・絶対主義的正義論と、 2 正義を主観的な確信と考える主観主義的・相対主義的正義論とに大別できよう。 法思想の領域では、だいたいにおいて、自然法論が 1 前者に、法実証主義が 2 後者に、属する。 ▽ 従来の正義論のうちでは、アリストテレスやキケロの見解が名高く、与えた影響も大きい。 (ア) アリストテレスは、道徳と区別される正義(特殊的正義)について、①配分的正義と、②交換的正義(平均的正義、調整的正義とも訳される)とを区別し、 ① 前者は、公民としての各人の価値・功績に応じて、名誉や財貨を配分することにおいて成立し、 ② 後者は、私人としての各人の相互交渉から生じる利害を平均・調整することにおいて成立する、とした。 (イ) キケロは、この①配分的正義と同様な内容を、「各人に彼のものを」という公式で表現した。 ほうてきあんていせい【法的安定性】Rechtssicherheit 日本語版ブリタニカ 法の支配ないしは法治主義の思想のもとにおける一種の法価値。法的安全、法的確実性ともいわれる。 ▽ この言葉は、 (1) 法による安定性、つまり、法による社会秩序維持がもたらす社会生活の安定、という価値と、 (2) 法の安定性、つまり、法それ自体の安定からもたらされる法価値、という2つの意味に用いられる。 (1)前者は、(2)後者を前提にして成り立ち、しかも、①平和、ないしは、②秩序、と同意義であるので、(2)後者の「法の安定性」が、固有の意味で法的安定性である。 ▽ (2)この安定性は、次の要求を満たすことによって確保される。 第一は、 法が実定法であること、 第二は、 その法の解釈・適用が客観的であること、 第三は、 その法の実効性があること。 ▽ 法的安定性は、また、法の目的でもあり、法が追求すべき正義・衡平などの高次の諸価値を達成するために、まず実現すべき卑近な第一次的な目的とされている。 こうへい【衡平】 equity 日本語版ブリタニカ 具体的事件に法を適用すると実際に不当・不公平な結果になるようなとき、それを是正する原理。 「法は善と衡平の術なり」ともいわれ、この原理から、 1 古代ローマ法では、 ①市民法に対する、②法務官法が、 2 イギリスでは、 ①コモン・ローに対する、②エクイティー(衡平法)が、生まれた。 ■3.狭義の正義・・・手続的/形式的/配分的正義 ※次に、手続的正義、形式的正義、(実質的正義の中の)配分的正義、をそれぞれ理解するための用語説明 デュー・プロセス・オブ・ロー【due process of law】 日本語版ブリタニカ 法によって定められた適正手続のこと。 (1) アメリカ合衆国憲法は、「法の適正手続によらなければ、①生命、②自由、または、③財産を奪われることはない」(修正5条)と規定している。 これは、マグナ・カルタ39条中の「自由人は、同輩によって構成された合法的な法廷および国法によるのでなければ、①逮捕、②監禁、③差押え、④法外放置、もしくは、⑤追放を受け、または、⑥その他の方法によって侵害されることはない」の規定に淵源をもつ、といわれている。 この修正5条は、個人の憲法上の権利を侵害する州の行為には適用できなかったので、1868年に、さらに修正14条が追加され、州の行為にも適正手続の拘束が及ぼされることになった。 1 デュー・プロセス・オブ・ローは、アメリカでも当初は文字通り手続的制限規定と解されていたが、 2 19世紀末頃より、実体的適性の意味にも解されるようになり、連邦最高裁判所は、その中に契約の自由などを読み込んで、社会経済立法の多くを違憲と判示した。 3 しかし、1937年を契機に、最高裁判所は判例を変更し、ニュー・ディール諸法を合憲とするに至り(⇒私有財産制)、以後、学説・判例において、実体的デュー・プロセスの考え方には消極的ないし警戒的態度が一般的となった。 4 もっとも、1960年代なかばから、とりわけ70年代以降、実体的デュー・プロセス論の復活の兆しが見受けられる。 (2) 日本では、日本国憲法は、「何人も、法律の定める手続きによらなければ、その①生命若しくは②自由を奪はれ、又は③その他の刑罰を科せられない」(31条)と規定している。 この規定は、今日では、 1 「手続」とは、①純然たる手続のみならず、②実体要件までも含み、 2 「法律の定める」とは、①ただ形式的に「法定」の意味ではなく、②内容的にも適正なものでなければならないことを意味している、という理解が確立している。 かくじんにかれのものを【各人に彼のものを】 suum cuique 日本語版ブリタニカ 正義についてキケロが述べた言葉、「各人に彼のものを配分すること、それがまさに最高の正義である」suum cuique tribuere, ea demum summa justitia est や、ウルピアヌスの言葉を簡略化したもの。アリストテレスの配分的正義とともに、正義に関する簡潔・的確な表現として名高い。 しかし、正義が問題となる際に議論の的となる「何が彼のものであるか」について明らかにしていない点で、内容の空疎な公式に過ぎない、と批判されることもある。「何が彼のものであるか」を定めた既存の法秩序を前提してのみ機能する公式といえよう。 はいぶんてきせいぎ【配分的正義】 dianemetikon dikaion; justitia distributiva 日本語版ブリタニカ アリストテレスに由来し、トマス=アクィナスのラテン語への翻訳と注解によってスコラ学に定着した正義の分類の一つ。交換的 commutative 正義に対置する。すなわち、 1 ある共同体の権威者によって 2 ①利益と②負担とが 3 その共同体の各成員の業績や能力に比例して配分されること、を要求する正義。 今日の公法上の正義に近いが、業績や能力を評価する基準を何とするか、によって正義の内容も異なりうる。 ■4.価値論一般 ※次に、法価値論に限らず、価値論一般に関する用語説明 かちじょうちょせつ【価値情緒説】 emotive theory of value 日本語版ブリタニカ 価値判断は、判断主体の個人的な感情・情緒の表明に過ぎない、という説。 この立場からすると、 1 事実判断は、①対象が具備している実在的な性質を指摘するものであり、②その真偽が客観的に判定できるが、 2 価値判断は、①対象の実在的な性質を指摘しているわけではないので、②真理知を持たないことになる。 従って、 2 価値判断の問題は、科学的認識の領域外にあり、価値についての争いは、実践的にのみ解決されるもの、とされる。 価値情緒説という名称は、現代のイギリス・アメリカの価値論ないし倫理学で用いられ、A.エイアー、B.ラッセル、S.スティーブンソンらによって代表されるが、M.ウェーバー、G.ラートブルフ、H.ケルゼンらの価値相対主義も実質的にはこれに近い。 かちそうたいしゅぎ【価値相対主義】 value relativism 日本語版ブリタニカ 価値は各人の感情、意欲、信念に依存する相対的なものであるとする主張。 善、正義などの価値あるいは価値基準が客観的に実在し、認識されうるとする価値絶対主義ないし価値客観主義に対する。価値主観主義ともいう。 古代ギリシアのソフィスト以来さまざまな形態をとってきたが、近年では、M.ウェーバー、G.ラートブルフ、H.ケルゼンらが名高い。この近年の価値相対主義は存在と当為・価値を峻別する新カント主義的な方法二元論に主たる基礎をおくが、実質的には価値情緒説に接近する。なお、ラートブルフやケルゼンは、価値相対主義によって民主制を理論的に基礎づけている。 ■5.法の支配 ※最後に、「法の支配」の用語説明 ほう-の-しはい【法の支配】 (rule of law) 広辞苑 イギリスの法律家コークが、国王は神と法の下にあるべきである、として、ジェームズ1世の王権を抑制して以来、「人の支配」に対抗して認められるようになった近代の政治原理。コークのいう法は、イギリスの判例法で、立法権をも抑制する点で、法治主義とは異なるが、後に法治主義と同義に用いることもある。 ほうのしはい【法の支配】 rule of law 日本語版ブリタニカ 法至上主義的な思想、原則。 (1) どんな人でも、通常裁判所が適用する法律以外のものに支配されない、あるいは、 (2) 被治者のみでなく、統治者・統治諸機関も、法の支配に服さなければならぬ、とする、「法のもとにおける統治」の原理。 イギリスの伝統に根ざす思想であり、自然法思想にも淵源をもつ、法の権力に対する優位性の主張である。 A.ダイシーは、その著『憲法入門』(1885)のなかで、①議会主権と、②法の支配、がイギリスの2大法原理である、としたが、 1 ここから、人間とその自由を権力から守るイギリス型法治主義の原則が確立され、 2 アメリカにおいては、司法権優越の原理を生んだ。 20世紀に入り、経済・社会情勢の著しい変化につれ、伝統的な法支配の原則に対するいろいろな批判も起っている。 rule of law collins The rule of law refers to a situation in which the people in a society 1 obey its laws and 2 enable it to function properly. ※詳しくは 「法の支配(rule of law)」とは何か 参照。 ■6.ご意見、情報提供 ↓これまでの全コメントを表示する場合はここをクリック +... 以下は最新コメント表示 名前 ラジオボタン(各コメントの前についている○)をクリックすることで、そのコメントにレスできます。 ■左翼や売国奴を論破する!セットで読む政治理論・解説ページ 政治の基礎知識 政治学の概念整理と、政治思想の対立軸 政治思想(用語集) リベラル・デモクラシー、国民主権、法の支配 デモクラシーと衆愚制 ~ 「民主主義」信仰を打ち破る ※別題「デモクラシーの真実」 リベラリズムと自由主義 ~ 自由の理論の二つの異なった系譜 ※別題「リベラリズムの真実」 保守主義とは何か ※概念/理念定義、諸説紹介 まとめ ナショナリズムとは何か ケインズvs.ハイエクから考える経済政策 国家解体思想(世界政府・地球市民)の正体 左派・左翼とは何か 右派・右翼とは何か 中間派に何を含めるか 「個人主義」と「集産主義」 ~ ハイエク『隷従への道』読解の手引き 最速!理論派保守☆養成プログラム 「皇国史観」と国体論~日本の保守思想を考える 日本主義とは何か ~ 日本型保守主義とナショナリズムの関係を考える 右翼・左翼の歴史 靖國神社と英霊の御心 マルクス主義と天皇制ファシズム論 丸山眞男「天皇制ファシズム論」、村上重良「国家神道論」の検証 国体とは何か① ~ 『国体の本義』と『臣民の道』(2つの公定「国体」解説書) 国体とは何か② ~ その他の論点 国体法(不文憲法)と憲法典(成文憲法) 歴史問題の基礎知識 戦後レジームの正体 「法の支配(rule of law)」とは何か ※概念/理念定義、諸説紹介 まとめ 立憲主義とは何か ※概念/理念定義、諸説紹介 まとめ 「正義」とは何か ~ 法価値論まとめ+「法の支配」との関係 正統性とは何か ~ legitimacy ・ orthodoxy の区別と、憲法の正統性問題 自然法と人権思想の関係、国体法との区別 「国民の権利・自由」と「人権」の区別 ~ 人権イデオロギー打破のために 日本国憲法改正問題(上級編) ※別題「憲法問題の基礎知識」 学者別《憲法理論-比較表》 政治的スタンス毎の「国民主権」論比較・評価 よくわかる現代左翼の憲法論Ⅰ(芦部信喜・撃墜編) よくわかる現代左翼の憲法論Ⅱ(長谷部恭男・追討編) ブログランキング応援クリックをお願いいたします(一日一回有効)。 人気ブログランキングへ
https://w.atwiki.jp/kolia/pages/2250.html
中川八洋公式掲示板に3/24付けで記事あり。言葉づかいは相変わらず激しくてちょっとどうかとは思うが、論旨明快で参考になる。「立憲主義」を振り回す“反・立憲主義”の朝日新聞 ──「集団的自衛権」への第九条解釈変更こそ“立憲主義”http //nakagawayatsuhiro.hatenablog.com/entry/2014/03/24/131147 -- 名無しさん (2014-04-03 02 23 43) 松尾光太郎氏blog記事。一記事に内容が詰め込まれすぎていて(思想の累多)とてもではないが全部理解するには行かない、という珍しい(そして貴重な)タイプ br()立憲主義の無知が爆裂した朝日新聞 br()http //blogs.yahoo.co.jp/kabu2kaiba/archive/2014/02/08 -- 名無しさん (2014-04-05 03 28 05)
https://w.atwiki.jp/sakura398/pages/1429.html
中川八洋公式掲示板に3/24付けで記事あり。言葉づかいは相変わらず激しくてちょっとどうかとは思うが、論旨明快で参考になる。「立憲主義」を振り回す“反・立憲主義”の朝日新聞 ──「集団的自衛権」への第九条解釈変更こそ“立憲主義”http //nakagawayatsuhiro.hatenablog.com/entry/2014/03/24/131147 -- 名無しさん (2014-04-03 02 23 43) 松尾光太郎氏blog記事。一記事に内容が詰め込まれすぎていて(思想の累多)とてもではないが全部理解するには行かない、という珍しい(そして貴重な)タイプ br()立憲主義の無知が爆裂した朝日新聞 br()http //blogs.yahoo.co.jp/kabu2kaiba/archive/2014/02/08 -- 名無しさん (2014-04-05 03 28 05)
https://w.atwiki.jp/kbt16s/pages/161.html
中川八洋公式掲示板に3/24付けで記事あり。言葉づかいは相変わらず激しくてちょっとどうかとは思うが、論旨明快で参考になる。「立憲主義」を振り回す“反・立憲主義”の朝日新聞 ──「集団的自衛権」への第九条解釈変更こそ“立憲主義”http //nakagawayatsuhiro.hatenablog.com/entry/2014/03/24/131147 -- 名無しさん (2014-04-03 02 23 43) 松尾光太郎氏blog記事。一記事に内容が詰め込まれすぎていて(思想の累多)とてもではないが全部理解するには行かない、という珍しい(そして貴重な)タイプ br()立憲主義の無知が爆裂した朝日新聞 br()http //blogs.yahoo.co.jp/kabu2kaiba/archive/2014/02/08 -- 名無しさん (2014-04-05 03 28 05)
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8052.html
前ページ次ページゼロと電流 「貴女には、なんと言えばいいのでしょうね」 城に入ったルイズは人払いをしたアンリエッタの前に通される。ルイズはまず、手紙を差し出した。 右腕に巻かれた包帯はまだ新しい。シルフィードに運ばれている間に水の秘薬とモンモランシーの応急処置を受けただけで、きちんと医者に診せたわけではないのだ。 学院でシルフィードから降りるとすぐにマシンザボーガーに乗り込んだルイズに、そんな時間はなかった。 キュルケ達は当然止めるが、ルイズには急ぐ理由があった。その理由の一端を話すと、全員が口を閉じる。 全員がルイズの用件の緊急性を理解したのだ。 「ウェールズ様からお預かりしました。ご確認ください」 即座に手紙を開いたアンリエッタは、それがかつての自分によるものだと確認次第、手紙を脇へ置く。 次にルイズは始祖のオルゴールを。 アンリエッタも何も聞かずに受け取る。 説明は必要なかった。 アルビオン王家にあるべきものをルイズが、いや、ルイズ経由でアンリエッタが、トリステインが託された。それだけで充分だった。 「大儀でした。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」 アンリエッタ・ド・トリステインとして、アンリエッタは言う。 そして、ルイズの幼馴染みアンリエッタは言う。 「ごめんなさいっ!」 「姫殿下?」 伸ばしたアンリエッタの手が、ルイズの左肩に優しく触れる。そしてアンリエッタは立ち上がり、ルイズへと歩み寄った。 「私が余計なことを言ったばかりにこんな……」 あくまでも優しく、アンリエッタは逆の手でルイズの右腕に触れる。 「貴女をこんな目に遭わせる気なんてなかったのです」 ルイズは一歩下がり、跪いて頭を垂れた。 「ルイズ?」 「これは私の、愚かさが招いた怪我です。決して姫殿下の責など……」 「ルイズ!」 「姫殿下。まずはお聞きください」 アンリエッタの言葉を遮りながら、ルイズは語り始める。 アルビオンで見たことを。聞いたことを。感じたことを。 一部の急を要する情報はここに通される前に既にマザリーニに伝達済みではあるが、アンリエッタにとっては初耳な話ばかりだった。 そしてルイズの話がワルドの裏切りに至ったとき、アンリエッタは目を見開く。 「……あの人が……」 いずれはトリステインを代表する騎士となる、とまで考えられていた男である。アンリエッタとて、何度か拝謁を許したことがある。 信じられない。 いや、そうではない。逆に自分はワルドを信じていたのか。 側近であるマザリーニすら本当には信じられずにいた自分が、どうしてワルドを信じていると言えたのか。 まさに愚かな王族ではないか。とアンリエッタは自嘲する。 「愚かですね」 「はい」 素直に答えたルイズに、アンリエッタは俯いていた一瞬顔を上げる。その表情には不審と驚愕が表れていたが、すぐにルイズの言葉が自分を指したものではないと気付く。 ルイズは、ルイズ自身のことを言っているのだ。 「私は愚か者でした。姫殿下のお言葉に甘え、暴走しました。無断でアルビオンへ向かい、あまつさえ、裏切り者を引き込んでしまいました」 「ルイズ……」 「姫殿下が私を処罰すると仰るのなら、私はその罰をお受けします」 「何故です」 アンリエッタは問うていた。 違うのだ。 ここにいるのはルイズではない。いや、確かにルイズなのだが、アンリエッタの知っているルイズではない。 何かが、大きく変わっている。 その変化は好ましいものではないかとアンリエッタの中の何かが、ルイズの親友としてではない、トリステインという国を預かる者としての何かがそう訴えているのだ。 だから、アンリエッタは問うた。その問いの意味すら、自分では理解していなかったというのに。 「私が、トリステインの貴族だからです」 「貴族だから、王族に従うというのですか?」 「いいえ」 ルイズはきっぱりと答えた。 「貴族だから、真っ直ぐに道を行くのです」 「罰を受けるのが、正当な道だというのですか?」 「間違っていた自分を正すのは、正当な道だと思っています」 アンリエッタが積極的に罰を与えたがっているというわけではない。それはルイズにもわかっていた。 それでも、何らかの形の罰は必要だろう。 ルイズは、無断で紛争中のアルビオンへ向かったのだ。その一事だけでも、罰には値する。 「私は、ザボーガーという分不相応な使い魔を召喚しました」 ザボーガーの力に振り回されていたこと。その力に酔いしれていたこと。 思い上がりと鼻っ柱をギーシュに砕かれ、藻掻き足掻くなかでアンリエッタの言葉を曲解したこと。 自分は姫殿下の、幼馴染みの想いを叶えたいと思ったのではない。それによって自分の地位を取り戻そうとした。利用しようとしていたのだ。 それがどれほどの身勝手で愚かだったか。 誰のためでもなく自分のために、力に地位に執着する愚かさ。 ルイズは、ワルドを醜いと感じた。その時に気付いたのだ。自分自身のこれまでの醜さに。 力に溺れる存在にはなりたくないと思っていたはずだった。 それがどうだ。ザボーガーという力を得た瞬間、自分はどうなった。 力に溺れる存在になりたくない? それは、魔法という力を持たない自分を正当化するための偽りだったのではないか。 力を持った上で力に溺れぬ事が、どれほど難しいか。本当にわかっていたのか。 力を持つということが、どれだけ誘惑に満ちているのか。理解できていたのか。 ギーシュに負けたことで何故落ち込む。ギーシュが自分より強いと思ったなら、彼に学べばよいのだ。 タバサでも、キュルケでも、モンモランシーでも。自分より優れていると思うのなら学べばいいのだ。 今までが愚かなら、改めればいい。 滑り落ちたのなら、這い上がればいい。 貴族に相応しくないと思うのなら、次から貴族らしく振る舞えばいい。 それがせめてもの、今の自分の誇り。 「貴族として、使い魔の主として相応しくありたいと思いました」 だからルイズは、再び前を向く。前を向くことを宣言する。 貴族として、魔法使いとして。 貴族だからといっても魔法が使えるとは限らない。それをルイズは誰よりも知っている。 そして、魔法が使えるからといって貴族に相応しいとは限らない。 魔法を使える者が貴族なのではない。魔法という力に溺れず、正しく力を行使できる者こそ、貴族と呼ばれるに相応しい。 力に溺れた魔法など、ただの暴力装置に過ぎない。 ルイズは気付いていた。 使い魔を呼ぶ意義とは。 自分に相応しい使い魔を呼ぶ。それだけではまだ半分なのだと。 自分が使い魔に相応しい主となること。それが出来てこそ、真の使い魔召喚の儀なのだ。 「今の貴女なら、それが出来るでしょう。いえ、前に進むことが出来るでしょう」 アンリエッタは立ち上がり、ルイズの前へと進む。 「ルイズ、貴女は未だに、私の秘密騎士でいてくれますか? 貴女の使い魔ザボーガーと共に、私のため、いえ、トリステインのために動いてくれますか?」 再び跪くルイズ。 「姫殿下のお許しがいただけるなら」 「勿論です」 一旦受け取っていた風のルビーを、アンリエッタは手ずからルイズに指にはめなおす。 「この指輪は貴女が持っていなさい。私の直属として動くことが出来るように、様々な許可証の代わりとなるでしょう」 そして自らのはめた水のルビーをかざした。 二つの指輪は共鳴し、虹色の光が現れる。 「かつて一度だけ、ウェールズ様と二つの指輪を合わせたことがあります」 ルイズは無言で溢れる光に目を向け、アンリエッタの言葉に耳を傾ける。 アンリエッタはウェールズとの想い出を語っていた。それは、ルイズに聞かせるためではない。 自分自身に、もう一度ウェールズを思い出させるため、そして、けじめを付けるために。 「こんな、音も聞こえないオルゴール。それでもウェールズ様は、何度でも試すのだと、いつもこれを開いていました」 開いたオルゴールから音は流れない。流れるはずはなかった。 しかしその時、ルイズは確かに聞いたのだ。 オルゴールから聞こえる言葉を。 それは虚無の術者への語りかけ。 「……嬢ちゃん、こいつは当たりだぜ?」 それまで黙っていたデルフリンガーが口を開いた。 「ルイズ?」 「姫殿下、これは……」 それは、虚無の使い手の前でルビーと宝物の二つを合わせることによって初めて起こる現象。 それは、虚無の使い手にしか感じられない言葉。 ルイズは知った。己の魔法の属性を。 己の爆発魔法の出自を。 「……〈爆発〉……〈記録〉……」 二つの虚無魔法がルイズの意識に記されていく。 任意の物体を爆発される攻撃魔法。 物体に込められた記憶を再生する魔法。 「聞こえるの……声が……」 「ルイズ?」 ルイズは突然立ち上がると、テーブルの上にアンリエッタの注意を向ける。 紡ぐ呪文。 テーブルの上に置かれた菓子の一つが、突然小さく破裂する。 「今のは?」 「虚無魔法〈爆発〉ですわ、姫殿下」 その言葉にアンリエッタは驚くと、直ちに説明を求めた。 ルイズは隠すことなく、今その身に起こったこと、始祖のオルゴールから聞こえてきた言葉を余さずに報告する。 王家に伝わるルビーと対をなす秘宝こそが、虚無の使い手を目覚めさせるアイテムなのだと。そして今、ルイズはその力を得たのだ。 「……ああ、思い出したよ、嬢ちゃん」 デルフリンガーがルイズの言葉を補足していた。 四つの秘宝。四つの虚無。四つの使い魔。 「この国にも、そんなのがあるんじゃねえか? このオルゴールみてえに、一見役に立たないのに、大事にされてきたものが」 「……始祖の祈祷書」 アンリエッタは理解した。 あるのだ。始祖の祈祷書と呼ばれている代物ではあるが、その中身は誰も知らない。いや、中身は全くの白紙なのだ。だから、誰にも中身は読めない。 「ルイズなら、祈祷書が読めるというのですか……?」 「少し違うね」 答えたのはデルフだ。 「虚無魔法ってのは、習い覚える類のもんじゃねえのよ。必要に応じて、その祈祷書なり、このオルゴールが教えてくれるもんだね。今だって、嬢ちゃんが覚えたのは二つだけ。いくらなんでも、虚無の魔法が二つきりってこたぁねーやね」 「〈爆発〉と〈記録〉が?」 「〈爆発〉は嬢ちゃんが今まで無意識に放っていたもんだろーね。〈記録〉は……」 「ザボーガー、ね」 「だね」 二人はザボーガーの置かれた中庭へと移動する。 その後ろにいつの間にか現れ従うのはアニエスだ。 ザボーガーの記録に目を通すことを、アンリエッタは希望しルイズは承諾した。 虚無の使い手であったルイズ。ならばそのルイズに召喚されたザボーカーとは一体なにか。 場合によってはトリステイン、いや、ハルケギニア全体にも関わる問題なのだ。 ルイズは電人ザボーガーを一旦、城内まで移動させる。 そして呼ばれるマザリーニ。 ザボーガーを招いた部屋にはルイズとアンリエッタ、そしてアニエスとマザリーニが揃う。 アンリエッタからの説明をマザリーニは淡々と受け入れる。 「驚かないのですね」 「可能性はあると考えられていましたからな」 王家の血を引くものが虚無を受け継ぐ。今の王家にいないのならば、王家の傍流、すなわちヴァリエール家を筆頭とする者たちである。 「既に、学院からは内々に報告を受けておりますし」 アンリエッタはやや眉をひそめるが、ルイズは素直に頷いた。今にしてみれば、考えられないことではないからだ。 「よろしいですか? 姫殿下」 「ええ」 ルイズはゆっくりと呪文を唱えるとザボーガーの中の記録を取りだし、四人の目の前に開陳する。 犯罪捜査ロボットとして大門勇博士によって作られたロボット、電人ザボーガー。 だが、ザボーガーの動力源として開発した新エネルギーダイモニウムを狙う悪之宮博士によって、大門博士は殺されてしまう。 大門博士の息子でもある警視庁の秘密刑事大門明は、ザボーガーと共に悪之宮博士率いる秘密殺人強盗機関Σ団と戦い、これを粉砕した。 しかし、Σ団を直接壊滅させたのはザボーガーではなかった。 ザボーガーに追いつめられたΣ団は、魔神三ッ首率いる恐竜軍団に襲撃され壊滅したのだ。 そして激闘の末、ザボーガーは魔神三ッ首と相撃ちとなり、戦いは終わった。 映像が薄れる中、ルイズの声が三人に聞こえる。 ザボーガーを動かすダイモニウムとは、怒りの電流で代用することも出来る。そして怒りの電流とは、ここハルケギニアでは“虚無”とも呼ばれているのだと。 つまり、ハルケギニアでザボーガーを動かすことが出来るのは、虚無の使い手のみ。 さらに、Σ団との戦いの中ではマシンザボーガーと同等のマシンホーク。恐竜軍団との戦いではザボーガーと合体する事によってストロングザボーガーにパワーアップさせることのできる、マシンバッハというモノが存在していた。 もしかすると、マシンホークとマシンバッハも他の虚無に召喚されているかも知れない。 「ということは、そのマシンホーク、マシンバッハがアルビオン、ガリア、ロマリアに?」 「可能性としてはそうなるでしょうな」 「すぐ調査を。ただし極秘裏にです。こちらに虚無とザボーガーがあることを知らせぬように」 「はっ」 即座にマザリーニへと指示を出したアンリエッタは、次にアニエスを医者の元へ向かわせる。 王室付きの医者にルイズの腕を任せようということだ。 「ルイズ、貴方はまずその腕を治すことに専念しなさい」 「はい」 活発に動き出す四人。だからこそ、 「……まさか、そんな……」 デルフリンガーの小さな呟きは、誰にも聞こえなかった。 その日から、ルイズは数日を王宮で過ごすこととなる。 傷を癒すだけでなく、ザボーガーの今後の運営、そして虚無への対応。 また、〈記録〉によってルイズが初めて知ったザボーガーの性能についても検証しなければならない。 整備、補給を考えなければならない。ザボーガー本来の世界でないここで、どれほど補給と整備が可能なのか。 療養とは思えない忙しさで、ルイズは走り回ることとなっていた。 そしてルイズの知らぬ間に、物事は動く。 一つは、ルイズの母であるカリーヌが、ルイズに合うために王宮へ向かったこと。 そしてもう一つは…… 「久しぶりだな、シャルロット」 王からの気さくな挨拶に、タバサは非の打ち所のない答礼を返す。 「王とはいえ、伯父と姪ではないか。もう少し楽にすればどうだ?」 ジョゼフは親しげに笑う。 ここはガリアの王宮。急の呼び出しを受けたタバサの前に現れたのは、あろう事がジョゼフ本人だったのだ。 「なに、今更貴様に毒を飲めと命ずるつもりはないわ。安心するがいい」 タバサの表情が揺れる。 怒りが、内に秘める事の出来ぬまでに膨張しようとしている。 「命じられても、呑まない」 「ふむ。そうであろう、そうであろうとも」 ジョゼフはひとしきり笑うと、六つのビンを並べたテーブルを示す。 「ところで、貴様は博打が得意だと聞いたが。余と勝負する気はないか?」 タバサの目がビンに向けられる。 「一つは、解毒薬だ」 「……残り五つは?」 「さあな。だが、掛け金を出せば、あそこから一つ選ばせてやると言っているのだ」 「何をすればいい?」 いくら、と聞かないタバサに、ジョゼフは機嫌良く微笑んだ。 「ザボーガーを、連れてこい」 何故かタバサには、ジョゼフの向こうに三ッ首の竜が見えたような気がした。 前ページ次ページゼロと電流
https://w.atwiki.jp/habeasproper/pages/6.html
更新履歴 @wikiのwikiモードでは #recent(数字) と入力することで、wikiのページ更新履歴を表示することができます。 詳しくはこちらをご覧ください。 =>http //atwiki.jp/guide/17_117_ja.html たとえば、#recent(20)と入力すると以下のように表示されます。 取得中です。