約 17,171 件
https://w.atwiki.jp/dragonfang-drafan/pages/75.html
https://w.atwiki.jp/yugio/pages/11199.html
CNo.102 光堕天使ノーブル・デーモン(アニメ) エクシーズ・効果モンスター ランク5/光属性/天使族/攻2900/守2400 光属性レベル5モンスター×4 このカードは「No.」と名のつくモンスター以外との戦闘では破壊されない。 このカードが「No.102 光天使グローリアス・ヘイロー」をランクアップして エクシーズ召喚に成功した場合、以下の効果を得る ●このカードのエクシーズ素材1つを取り除いて発動する事ができる。 相手モンスター1体の効果を無効にし、その攻撃力を0にする。 ●このカードが戦闘またはカードの効果によって破壊される時、 このカードのエクシーズ素材全てを取り除いて発動する事ができる。 このカードはその戦闘及びカードの効果では破壊されず、 このカードの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。 エクシーズモンスター カオスナンバーズ デーモン モンスター効果無効 光属性 天使族 直接ダメージ 破壊耐性 能力弱化 同名カード CNo.102 光堕天使ノーブル・デーモン(OCG) 関連カード No.102 光天使グローリアス・ヘイロー(アニメ) No.102 光天使グローリアス・ヘイロー(OCG) 七皇の双璧(アニメ)
https://w.atwiki.jp/yugio/pages/11365.html
CNo.102 光堕天使ノーブル・デーモン(OCG) エクシーズ・効果モンスター ランク5/光属性/天使族/攻2900/守2400 光属性レベル5モンスター×4 フィールド上のこのカードが破壊される場合、 代わりにこのカードのエクシーズ素材を2つ取り除く事ができる。 このカードのエクシーズ素材が全て取り除かれた時、 相手ライフに1500ポイントダメージを与える。 また、このカードが「No.102 光天使グローリアス・ヘイロー」を エクシーズ素材としている場合、以下の効果を得る。 ●1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。 相手フィールド上のモンスター1体を選択して攻撃力を0にし、その効果を無効にする。 エクシーズモンスター カオスナンバーズ デーモン モンスター効果無効 光属性 天使族 直接ダメージ 能力弱化 同名カード CNo.102 光堕天使ノーブル・デーモン(アニメ) 関連カード No.102 光天使グローリアス・ヘイロー(アニメ) No.102 光天使グローリアス・ヘイロー(OCG) 七皇の双璧(アニメ)
https://w.atwiki.jp/legends/pages/2332.html
ドクター 47 無双に巻き込まれる犬一匹から …闇が、蠢いた ざわり、ざわりと 闇が蠢き…ゆっくりと近づいてくる そんな錯覚……否 「む…?」 「げ!?」 ざわざわ、ざわざわと 夜の闇に紛れて、それは呂布と犬耳メイドに向かって、突進してきた それは、闇 闇に蠢く、悪霊の群れ レギオンとも呼ばれる群れが、一斉に襲い掛かってくる 襲い掛かる、といっても、攻撃の意思はないようだ ただ、その体に纏わりつき、行動を阻害しようとしてくる 「……あら?マステマ?」 その、様子に 追撃者、玄宗 エリカは首を傾げた 明らかに、この群れを操る何者かを知っている言葉 直後 エリカの体が、何者かによって、空へと持ち上げられた ばさり、漆黒の翼が暗闇をはばたく 「何、やってんだよ、お前はっ!?夜の散歩に行って帰ってこないと思ってたら!?」 ばさばさと、翼をはばたかせながら、仮面を被った男がそう、エリカに苦言した が、エリカはじたばた、その腕に抱かれながらも……呂布に抱えられている、犬耳メイドに手を伸ばしている 「メイドさんー!お持ち帰りしたいのーーーー!!」 「あれかっ!?目的はあの犬耳メイドかっ!?仕方ないから、俺があの格好してやるから!!頼むから諦めてくれ!!呂布なんて化け物級と戦ってまで持ち帰ろうとすんなっ!?」 「いえ、マステマには、あれよりももっと露出の多いメイドさん衣装を、狐耳と尻尾とセットで」 「予想の斜め上を要求されたっ!?」 ばさばさ、夜空を飛ぶ男…堕天使 マステマ そのマステマと、マステマが抱えるエリカに向かって…無数の矢が、放たれた 「っ!」 空中を旋廻し、マステマはそれを避ける 避け切れなかった矢は、エリカの右手によって破壊され、左手で撃ち落される 「逃がさんぞ」 弓を構えるのは、呂布 無数の悪霊に纏わりつかれながらも、それをものともせずに矢を放つ 「いーーーーやーーーーっ!?スカートの中に入ってきた!?っちょ、これ以上はやばいやばいやばいストーーーーップ!?」 …すぐ近くにいる犬耳メイドが、纏わりつかれて非常にエロ…………大変な事になっているのだが、盛大にスルーされている 「メーーイーードーーさーーんーー!!!しかも、あれは本来、男性と見たわ!!おねーさん、妄想が広がるから是非お持ち帰りっ!!」 じたばたじたばた 呂布から、逃げるつもりなどないのだろう エリカは、地面に降りたがる ……だが、マステマはそれを許そうとしない 「だからやめろ。マジでやめてくれ……あんな化け物と戦って、お前に傷ついて欲しくないんだよ」 ぎゅう、と マステマは、しっかりとエリカの体を抱きしめて、そう呟いた …エリカの右腕についた、小さなかすり傷 矢が掠っただけの、その小さな傷 そんな傷すらも、マステマはエリカに負ってほしくはないのだ どうしても、どうしても あの、血溜まりの光景を、思い出してしまうから 「…そんな顔しないでよ」 マステマの言わんとしている事に、気づいたのだろう エリカは、困ったように笑って見せた そして、眼下の、悪霊に纏わりつかれている呂布たちに、申し訳無さそうに言う 「…ごめんなさい。おねーさん、バトルストップかけられちゃった。また今度ね?」 「逃がすとでも思っているか?」 「逃げるさ。空を飛ぶ事もできない奴が……追いつけると思うか」 ばさ、と マステマは、さらに高く高く、飛び上がる 「押さえつけろ、レギオン共!!」 マステマの命令に従って さらに、さらに、闇から悪霊が姿を現していく それは、次々と呂布に圧し掛かり、動きを束縛する ばさばさと 漆黒の羽を数枚落として………マステマは、エリカを抱えたまま、夜空へと飛び去っていく 「……全く、もう。心配性なんだから」 そのマステマの腕に抱えられ、小さく苦笑するエリカ かすり傷が出来たそこを、軽く撫でて ………手を放した時、そこには傷一つ、残ってすらいなかった 「………ぬぅん!!」 呂布が、悪霊を弾き飛ばした時 マステマの姿は、もうどこにもいなかった 「逃がしたか…」 「ショクシュコワイショクシュコワイショクシュコワイショクシュコワイ」 ガクガクブルブル 何だかトラウマができたっぽい犬耳メイド 立ち上がれないそれを持ち上げ、呂布は歩き出す 「…あの女の情報を集めておけ。あれもまた、俺の武を示すのに相応しい相手だ」 「ショクシュコワイショクシュコワイショクシュコワイショクシュコワイ」 「……聞いているのか?」 「辛うじて…」 わかったよ、と頷く犬耳メイド …玄宗 その苗字に、嫌な予感しか、覚えない (…まさか、「抹殺者」玄宗 カイと「捕獲者」玄宗 梨花の娘か?…だとしたら、確実に「あの血」を引いてるじゃないか) 関わりあいたくない、全力で しかし、最早関わってしまった事は確定であって 犬耳メイドは、盛大にため息をつくしかなかった その、犬耳メイドの……長い、スカートの下に 小さな、小さな、悪霊が一匹、入り込んでついてきてしまっていることに 二人は、まだ、気づいていない to be … ? 前ページ次ページ連載 - 仲介者と追撃者と堕天使と
https://w.atwiki.jp/fantasylaboratory/pages/486.html
2008/05/04 01 20 水上 える 夕さんにささげます。 野良(--) もうなにがなんだかわからんな(笑05/04 12 46 abendrot これって、罰ゲームですか(苦笑05/05 16 23 白い北風 妄想が暴走したのですね。まあ、他人に迷惑を掛けない暴走なら、良いんじゃない?w (って、違うかな?色々と{汗})05/05 18 33 水上 える 迷惑はかかってないはずもじゃ。夕さんはきっとよろこんでいるもじゃ。05/09 00 37
https://w.atwiki.jp/magicman/pages/45737.html
堕天の精霊 キルフェウス SR 光水闇8コスト クリーチャー エンジェル・コマンド/デーモン・コマンド/ドラゴン・ゾンビ パワー 9500 ■ブロッカー ■W・ブレイカー ■このクリーチャーが出た時、相手のクリーチャーを1体選んでも良い。このターン、そのクリーチャーのパワーを−7000する。(パワー0以下のクリーチャーは破壊される) ■クリーチャーがバトルゾーンを離れた時、コスト8以下の呪文を1枚、自分の手札または墓地から唱えてもよい。それを唱えた後、墓地に置くかわりに自分の山札の一番下に置く。 ロスト・スパーク 光闇8コスト ■相手の手札を1枚見ないで選び、残りを捨てさせる。 ■相手のクリーチャーをすべてタップする。 作者 戦慄のもやし
https://w.atwiki.jp/kuroneko_2ch/pages/1235.html
今日は楽しい雛祭り~ 3姉妹の五更家では毎年しっかりと祝っていそうな 雛祭りにちなんだSSを投稿させて頂きました。 この話は俺妹HD家庭派ルートをベースにした拙作 『家庭派アイドルの11月29日』 『聖なる夜に幸いあれ』 『新年の母と娘のガールズトーク』 『With You Forever』 から話が繋がっています。 今回は少々以前の作品の描写も絡めて書いていますので 宜しければ上記のものも合わせてお読み頂ければと思います。 それでは少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。 ------------------------- 「下あごに力を入れるな!それじゃあすぐに喉を潰してしまうぞ!!」 今日何度目になるかもわからない怒声が講師から飛ぶ。 今までも何度も注意を受けているのだけれど、いまだに高いキーを 出そうとすると、顎から喉にかけて力が入るのが抑えられない。 そしてその度に『悪鬼講師』から叱責を繰り返し受けてしまっている。 「声量が足りないからそうなるんだ!トレーニング、倍やっておけよ!」 ここのところ毎日続けている複式呼吸のトレーニングだけれど いまだにコツというものが掴めてこない。何度繰り返しても一向に 声量が増えたように思えず、すぐに息切れしてしまうし高音を出すのに あごや喉に無理な力がかかってしまっているのよね…… ふっ、そもそもこの仮初の肉体では、私の意のままに 動かすことなど叶わないのだからそれも詮無きことだわ。 なんて言い訳を実際に口に出す事も、仮に口にできたとしても 『悪鬼講師』に通用するわけもないでしょうし。 私は今日も散々に叱られながら歌のレッスンを続けるのだった。 ようやく『煉獄』から解放された私は、休憩室の椅子に深々と腰掛けて 自販機で買ったスポーツ飲料でくたくたになった身体の隅々まで 水分を行き渡らせていた。 ふぅ、今日のレッスンはまた一段と厳しかったわね。 でもそれも仕方ないことでもある。歌手を正式に目指すことに なってからというもの、毎日レッスンを続けているというのに 一向に上達している手応えも評価も得ることができないのだから。 やはりこの身では荷が勝ちすぎることだったのかしら…… そもそも学校の通知表の音楽を4以上の評価を取ったこともないし カラオケだって人前で歌うようなことは恥ずかしくて 桐乃や沙織と一緒に行ったときでもまともに歌えた試しもない。 ……でも歌を歌うこと自体は嫌いじゃないのよね。 音楽の時間に声を上げて歌うのは気持ちが良かったし 好きな歌-といってもアニソンばかりだけど-を密かに 口ずさんだりするのもよくあること。 そういえば、マスケラ放送時にはそれが高じて 『マスケラのオープニングを歌ってみた』なんてタイトルで 私の歌声をネットに投稿したこともあったわね。 まあ、ついたコメントは散々なものだったけれど…… ふっ、所詮人間風情には『夜魔の謳い手』たる私の魔声を 理解することなど未来永劫適わないことでしょうからね。 そ、それでも中には評価してくれたコメントもあったのよ?本当よ? といってもそのコメントも『声は激甘』やら『超癒しオサレソング』やら 『厨二歌詞なのに異常な安らぎ』やら。まったく『夜魔の女王』に対して 不遜極まりないものではあったわね…… でも今に見ているがいいわ。あの時私を理解できなかった者たちも いずれ己の浅薄さに気付き、そして後悔の念に苛まれることになるでしょう。 すぐに『夜魔の謳い手』の真の力を目の当たりにすることになるのだから! ククク、その様が『真紅の神眼』にはっきりと浮かび上がってくるわ。 私がいつものように『未来視』の力を発現して 我が身が『比類なき偶像』に至る『栄光の軌跡』を垣間見ていたのだけれど。 「よう、こってり絞られてたわりには随分幸せそうじゃん」 突然かけられた無遠慮な声に、思わず持っていたペットボトルを 慌てて取り落としそうになってしまったわ。 「ふっ、私は自らの目指す高みに向かって常に最善を尽くしているわ。 ゆえにあの修練をも我が歓びの一つということよ。蝶が美しいのも 幼虫の姿を経てのこそ。すぐに私の飛躍の姿を見る事になるでしょう」 私は気だるい身体に鞭打って毅然と立ち上がり『堕天聖の見得』を切る。 「アイドルとしてすっかり有名になってきたって言うのに あなたは自身はあいかわらずそんな調子なんですね……」 「あら、『デミ・メルル』だけじゃなく『闇天使』まで一緒なのね?」 「誰が『デミ・メルル』だ!」 「誰が『闇天使』ですか!!」 普段はでこぼこコンビといってもいいくらい、友達だというのが 不思議なくらい共通点の少ない加奈子とあやせだけれども。 こういうときには息のあった反応を返すのはさすがは長年の親友同士、 というところなのかしらね? まあ私と桐乃や沙織だって傍から見ればこんな感じなのかもしれないわ。 『夜魔の女王』たる私が余人と一線を画すのは仕方がない事としても。 桐乃も沙織も強烈なまでの個性を持っているものね。 「で、私の修練を盗み見ていたあなたたちが一体私に何の用なのかしら?」 「別に盗み見てなんていないけどヨ。おまえが怒鳴られてる声が フロア中に響いていれば誰でも気がつくだろ」 「今日はわたしたち、加奈子の収録にこのスタジオに来ていたんです。 そしたら黒猫さんのレッスンの声が響いてきたから ちょっと様子を見に行ってみようぜって加奈子が」 「そうそう、おまえがずーんって落ち込んでる姿を見て 思いっきり笑ってやろうと思ってたのになー」 加奈子はいつものようにニヤニヤとした表情を貼り付けて 私に挑発的に言い放ってくる。私がアイドル活動を始めて以来 加奈子とこんな感じに顔を合わせる機会も少なくないのだけれど。 まあ、始めて顔を合わせたあのパーティの時と同じように 加奈子とは万事こんな調子なので、私もすっかり慣れてしまったわね。 今ではそんなやり取りもむしろ楽しんでしまっている気がするわ。 「そう、それならばお生憎様ね。それに私のことはともかく 自分自身のほうは上手くいっているのかしら? なにやら監視役がついているようだけれども?」 「ったりめーよ。この加奈子サマをなめんなよ」 「まあ加奈子は本番中は全然心配ないんですけどね。 その前後の素行の悪さが問題なんですよね……」 心の底から吐き出すような溜息をつくあやせ。確かあやせは加奈子が リアルメルルとしての活動を始めるきっかけになったらしいけれど。 その責任もあっての監視役、ということなのかしらね。 「んだよ。与えられた仕事はきっちりこなす。それがプロってもんだろ? それ以外がどうだろうが文句を言われる筋合いはねえよ」 「……そう、相変わらずそういうことをいうんだね、加奈子……」 な、なにかしら。私達を取り巻く気が突然変異した気がするわ。 先の修練で火照っていた身体に震えが来るくらい『凍てつく波動』に 周囲が満たされていく。 その正体を誰よりも知っているだろう加奈子は 蛇に睨まれた蛙よろしくすっかり涙目になって萎縮してしまっている。 まあ、こんな場所で『闇天使』の力を解放して惨劇の舞台を現出させる わけにもいかないでしょう。『暗黒同盟』のよしみで引き止めてあげるわ。 なにも私の様子を気にして見に来てくれたことへのお礼、 なんて俗な理由ではないのよ?勘違いしないで頂戴。 「確かに今のままでは私は仕事も任せられない半人前なのは間違いがないわ。 我が務めが果たせるよう一日でも早く修練を終わらせないといけないわね」 「そ、そうだろ、そうだろ!なんならこの加奈子サマが プロの仕事っぷりの見本を見せてやってもいいぜ。 半人前との違いをきっちり見せてやんよ」 渡りに船とばかりに呪縛の解かれた加奈子が話に飛びついてきた。 ……まあ、幾分調子に乗りすぎな気はするけれど。 あやせも再び溜息を付きつつも、波動の放出を止めていたので この場の雰囲気も元の落ち着きを取り戻しつつあったわね。 「ふっ、せっかくだからその機会は私が修練を修めてからにしましょう。 あなたも今の私よりも、プロとして一人前になった私と はっきりと決着をつけたほうがいいのでしょう? 「へっ、上等だぜ。こっちの事までおまえに負けるつもりはないかんな」 「はぁ、まったく。二人が勝負するのは勝手ですけれど 変に盛り上がって他の人に迷惑をかけないようにやってださいね」 「なにいってんだ。そん時にはどっちが上か判定する役がいるだろ? そんなのあやせが一番の適任にきまってんじゃんか」 「ええ!?どうしてわたしが。それにわたしじゃ友達の 加奈子が有利になってしまって公平じゃないでしょ」 厄介ごとに巻き込まないで、とばかりにあやせが反論するけれども。 「はっ?そんなんあやせなら大丈夫だろ?」 「そうね。そういうことで身内贔屓ができる性格ではないものね、あなた」 私達は二人揃ってそれを却下した。加奈子は勿論、私だって すっかりあやせの性格を把握できるくらい浅からぬ付き合いがある。 そんな性格のおかげで損をしているところもあるでしょうけど きっとそれ以上に周囲の人からの信頼を集めてるのがわかる程には。 「はぁ、もういいですよ。二人共にお墨付きがもらえているなら わたしが立ち会ってあげますから精々二人とも頑張ってくださいね」 この手のことに振り回されるのももう慣れっこなのでしょうね。 あやせは何度目かの溜息を付きつつも、笑顔で応えていたわ。 まあ、加奈子は勿論、桐乃とも友達をしていればそれもむべなるかな、ね。 学校では猫を被っているとはいえ、あの娘は先輩同様 厄介事には首を突っ込まずにはいられない性格でしょうし…… だ、誰も、それも楽しそうね、なんて羨ましく思ったわけではないわよ? 根も葉もない言いがかりはやめて頂戴。 「それにしても……こっちの事まで、とはどういう意味かしら?」 先の加奈子の台詞で気になった言い回しを、私は改めて問い質した。 加奈子は私と顔を会わせる度に絡んできて、何かにつけて 勝負を挑んでくるので、勝った事も負けた事も勿論沢山ある。 でも、それもどうでもいいような勝負ばかりなので (どっちが声援を集めたかとか、サイン会でより多くファンに渡せたかとか) 逆に言えばこんな風に負けたことを根に持たれるなんて 今までなかったはずだけれど。 「ん?加奈子そんなこと言ったっけー?」 「ううん、確かに言ったよ。『こっちの事まで負けるつもりはない』って。 どういうことなの?加奈子」 惚けて誤魔化そうとした所を、すかさずあやせに指摘されて ばつが悪そうにあやせを睨む加奈子。まったく身内にも厳しい 正直者の友達を持ってあなたも大変なことね? どうやら先の台詞はあやせも気になっていたらしくて 顔は笑顔のままでも、加奈子を見る目には鋭い光が込められていた。 「あー、もう、言えばいいんだろ、言えば。 まあ、その、あれだよ。京介に関してのことだって」 「な!?で、でもまだ先輩は誰を選んだわけではないでしょう?」 「そ、そうだよ、加奈子。それにお兄さんは今、 桐乃との問題が片付くまでは誰とも付き合うつもりはない、て」 私もあやせも予想外の加奈子の言葉にすっかり動転してしまった。 いまだに『神魔の和約』は履行中だというのに、いつの間にか私達の 預かり知らぬところで決着がついたかのような事を言い出すのだから。 「ああ、わりぃわりぃ。クリスマス前にチャンスがあったんで つい京介に迫っちまったんだよ。この加奈子サマと付き合えってな」 「な、なんてことしてるのよ、加奈子!お兄さんは受験もあるから なるべくみんな負担にならないようにって話し合ってたのに!」 「あー、まあそうなんだけど。でも、ま、目の前にチャンスがあったら 逃す手はないべ?唯でさえ他のライバルに比べて、加奈子は京介との 付き合いが浅いんだしー。そのくらいのハンデは貰って当然じゃね?」 真相を話してからは、全く悪びれることなく加奈子は言い放った。 そのあっけらかんとした言い様に、さすがのあやせも 呆気に取られて二の句が告げないでいたのだけれども。 ……なるほど、先輩がクリスマス会で珠希へプレゼントした メルルフィギュアを加奈子から譲り受けたときのこと、かしらね。 最初の衝撃から立ち直った私は、加奈子のチャンスとやらに想像がついた。 いくらメルルの作品自体には興味がないとはいえ、イベントの記念に 高名のフィギュア造型師から贈られたはずの世界に一つしかないフィギュアを そう易々と加奈子が先輩に譲り渡したとは思ってはいなかったけれど。 その時の交換条件として交際を持ちかけた、ということなのかしらね? でも、私は即座にその考えを否定した。私の知っている加奈子なら いくら大事なものでもそれを条件に突き付けるようなマネはしないから。 きっとフィギュアの件は二人きりで会う機会を設けるためで。 告白自体は間違いなく正面からぶつかりに行ったのでしょうね。 いつだってそんな加奈子の男らしいまでの高邁さは 私自身、見習いたいものだと思っているくらいなのだし。 「ま、どっちにしたってあれじゃん?加奈子にゃ京介は 振り向いてはくれなかったんだから抜け駆けもなにもないって。 さすがに例の宣言中だから誰を選ぶとかは言ってなかったけどヨ」 加奈子はそこで一息ついて、私とあやせを順々に見据える。 「どっちにしたってあとはおまえ達の誰かだろ? 師匠やあのでか女の可能性だってあるだろうけど。 ま、ナンにしたってそっちはともかくこっちの事でも負けるようじゃあ 加奈子の女がすたるってもんだ。ぜってー負けねぇから覚悟しとけよ!」 どやっ、とSEでも聞こえてきそうなくらいの決め顔で 加奈子は改めて私への宣戦と必勝を表明する。 その気持ちのいいまでの啖呵は確かに桐乃の友人に相応しいといえるわね。 「ふふっ、望むところよ。やはりあなたも我が宿敵に相応しい存在ね。 『デミ・メルル』などという呼び名を改めさせてもらうわ。 これからは『戦少女』と認定呼称しましょう。 あなたと雌雄を決するその時を今から楽しみにしているわ」 私も負けじと『堕天聖の見得』を切って加奈子に応じる。 最近の私には公私とも『宿敵』が現れてばかりで心休まるときがないけれども。 『闇』に囚われたものとして常に戦いを課せられるのも私の宿命なのでしょう。 そうでなければ『宿敵』との戦いにこんな高揚感を覚える事もないものね。 「はいはい、まったくもう。すっかり息があっていることですね。 案外似たものどうしなんじゃないですか、加奈子と黒猫さん」 「そんなわけねーだろ」 「そんなわけはないわ」 先の二人と同じように、私達は即座に異句同意に否定した。 いくら『宿敵』と認めたとはいえ、この高貴なる『夜魔の女王』と 猛々しい『戦少女』が似た者同士などとは無礼の極みだわ。 「まあわたしはアイドルになったりはしませんし、二人がそうやって 互いに競争しながら活躍していくのを影ながら応援させてもらいますよ」 「随分お優しいことだけどよ、あやせ。こっちのことはともかく 受験も終わってんだし、そっちは早めに勝負かけた方がいいんじゃね? ノンキなこといってたらあっという間に終わっちまって後悔すんぞ」 「なっ!?わ、わたしだってその辺は心配しないでもしっかり考えてるよ!」 顔を真っ赤にしながらあやせは加奈子を睨みつけていた。 でも、その視線にはいつもの彼女の見せる威圧感や鋭利さは感じられない。 ふふっ、まったく名立たる『闇天使』だというのにあなたも大概乙女よね。 「そうね、あやせ。あなたも自分の想うがままに行動する時よ。 勿論、私だって私の目指す『理想の世界』に向けて邁進しているわ。 だから……あなたの殺戮衝動のように遠慮なく気持ちをぶつけなさいな」 「な、何が殺戮衝動ですか!?はぁ、本当にあなたは……」 あやせは今日一番の深い溜息を付きつつも、やはり今日一番の笑顔を浮かべた。 なるほど、その華やかな微笑みは桐乃の親友と呼ぶに相応しいのでしょうね。 「まあ覚悟していてくださいね、黒猫さん。お兄さんがこの間まで あなたのマネージャーだったからといって、そんな優位点など 些細なことだったと思い知る事になりますよ」 柔らかい笑顔から一転、思わせぶりな表情になりながら私に宣言するあやせ。 それに対して私もいつもの不敵な笑みで応える。ふっ、それでこそ、よ。 しばし火花を散らしあう私達だったのだけど。 「そういや今度は師匠のとこにも対決にいくそーじゃんか」 「ええ、対決、というのは語弊があるけれどもね」 「今更師匠と二人きりで話をすんのに他になんの理由があんだよ。 ま、師匠もすっげー気合入ってたかんな。精々気張ってけヨ」 そんじゃな、と後ろ手に軽く手を振って加奈子は休憩室から出て行った。 「もう加奈子ったら自分の用事が済んだらとっとと行っちゃうんだから…… それでは黒猫さんもレッスン頑張ってくださいね」 「ええ、あなたもいろいろとね、あやせ」 私に軽く会釈をするとあやせも慌てて加奈子の後を追いかけていく。 あの二人がいなくなった途端に、まるで嵐が過ぎ去ったかのように あたりが静かになった気がする。 時計を見るとすっかり休憩時間も終わりに差し掛かっていた。 今日はこの後ダンスのレッスンもあるから、そろそろ準備に 取り掛からないと間に合わないわね。 今日はせっかくの雛祭りだというのに家に帰るのはまだまだ遅くなりそうね。 残っていたペットボトルを一気に飲み干して私も休憩室を後にする。 あやせや加奈子とのやり取りで、ゆっくり休憩なんて出来なかったけれど。 思いのほか疲労は抜けていて身体に力が入るのが感じられる。 ……いえ、きっとこれは私の魂が奮われたから、でしょうね。 同じ願いを抱いて凌ぎあう『宿敵』にして『輩』と 改めて己の決意を表明しあったのだもの、ね。 * * * 今日は3月3日のひなまつりです。 うちでもひなだんをかざったり、ひしもちをよういしたりして 1年に1度のおんなのこの日をおいわいします。 「あ、たまちゃん、雛壇の飾りつけおわった? うんうん、綺麗にできてるよ。たまちゃんはすごいねー」 さっきまでだいどころでお母さんといっしょに 今日のごはんのじゅんびをしていたひなたおねぇちゃんが おひなさまをかくにんすると、わたしのあたまをなでてくれました。 「はい、たまきももうすぐ2年生ですから!」 じぶんでも今日はきれいにならべられたと思います。 まえのひなまつりでは、わたし1人ではうまくできなくて 泣いてしまって、さいごにはるり姉さまにてつだってもらいました。 これならきっと姉さまもよろこんでくれますよね? おねぇちゃんにほめてもらえたばかりか、アイドルのお仕事から かえってきた姉さまが、たくさんよろこんでくれるすがたをそうぞうすると わたしもとってもうれしくなりました。 「じゃ、もう少し待っててね、たまちゃん。 ルリ姉が帰ってきたらみんなでご飯にするからね」 「はい、おねぇちゃん」 「あ、そうそう、そろそろ高坂君がうちにくるんだった。 たまちゃん、ルリ姉が戻るまで高坂君の相手をお願いできるかな?」 「わー、おにぃちゃんがうちにきてくれるんです? それならおにぃちゃんといっしょにあそんでますね」 今日のひなまつりにはおにぃちゃんもきてくれるそうです。 わたしもおにぃちゃんとあそべるのはたのしみですし なにより姉さまももっともっとよろこんでくれると思います。 おにぃちゃんといっしょにすてきなえがおをうかべる姉さまを思いうかべて さっきよりもいっぱいいっぱいしあわせなきもちになりました。 姉さま、はやくかえってきてくださいね。 わたしはいつもよりもいっしょうけんめいにおねがいしました。 * * * 「ただいま。……ごめんなさい、遅くなってしまったわ」 「姉さま、おかえりなさいです」 姉さまがのただいまの声をきいたとたん、わたしはげんかんにはしりました。 すこしでもはやく姉さまによろこんでほしかったからです。 「あら、珠希。どうしたの?そんなにあわてて」 「えへへへ、姉さまに見てもらいたいものがあるんです!」 わたしはとまどっている姉さまの手をひっぱるように ひなだんがかざってあるおへやにいそぎました。 おそとはさむかったはずなのに、姉さまの手はいつものように とてもあたたかでまるでお日さまのようです。 「おかえり、黒猫。お邪魔させてもらっているよ」 「せ、先輩!?ど、どうしたの突然。 今日はうちにくるような予定はなかったはずと記憶しているけれど」 「ああ、それに関しては後で説明するけどな。 先に珠希ちゃんの見せたいものを見てあげてくれよ」 ドアをあけるとおにぃちゃんがでむかえてくれました。 でもすぐに姉さまをへやのおくにみちびいてくれました。 おにぃちゃんのこんなところはとてもやさしくてすてきです。 「あら……これを珠希が飾ってくれたのかしら?」 「はい!どうですか、姉さま」 「ええ、とても綺麗に出来ているわ。五人囃子も正しく並べられているし 小道具の配置も完璧ね。菱餅もおいしそうで日向も喜びそうね。 すごいわ、珠希。良く頑張ったわね」 「えへへへ」 思ったとおり姉さまはすごくやさしいおかおになって わたしのあたまをなでてくれました。姉さまの手からぽかぽかが つたわってきてわたしの心もあたたかくなります。 「それにしても立派な雛飾りだよな。 うちにも一応あるけど全然ちっちゃいやつだからなぁ。 桐乃が中学になる前くらいからは飾ったりもしなくなっちまったし」 「ええ、私が生まれたときにお母さんの実家から頂いたらしいわ。 昔はこんな大きさの雛壇も当たり前だったみたいだけど」 「今では核家族化も進んでしまっているしなぁ。 一戸建てでもないとなかなか飾る場所も確保できないしな」 「そうね……この日の本の国の伝統ある儀式が失われて 風土に根付いた秘術が消え去っていくのは悲しい事でもあるわね」 姉さまとおにぃちゃんのおはなしは、いまのわたしには やみのことばのようにむずかしくてりかいできませんでしたが 姉さまがとてもとおいところを見るようなおかおで さびしげにはなしているのがむねがしめつけられるようでした。 「……ごめんなさい、珠希。 あなたを放ってつい先輩と話し込んでしまったわね」 かなしいきもちになっていたわたしに気がついた姉さまが わたしをやさしくだきしめてくれました。それだけでわたしの心は さっきのようにぽかぽかになります。 「さて、私も今日の雛祭りのご飯を手伝ってこないといけないわ。 先輩、申し訳ないけれど今日の用事は後回しでもいいかしら? 代わりに夕飯をご馳走するから。珠希も先輩の相手をよろしくね?」 姉さまがいつものようにお夕はんのお手つだいにむかおうとしました。 でも、姉さまはいま、かしゅになるためにとてもたいへんな おべんきょうをしていてくたくたにつかれているはずです。 「だめですよ、姉さま。おにぃちゃんのおあいては やっぱり姉さまじゃないといけないですから! わたしがてつだってきますから姉さまはここにいてください」 だからわたしは姉さまに休んでもらうために すこしつよめに姉さまにそういっておねがいしました。 そしてすぐにへやを出て二人きりにさせてあげました。 ドアをしめるときに、ぼうぜんとしていた姉さまが 「珠気が……反抗期に……」といって、なきくずれていたのが とても気になったけど、これもすべては姉さまのためです。 姉さまにとって今はたいせつなときです。だからちょっとむりやりにでも 姉さまをたすけてあげないといけない、とおねぇちゃんもいってましたから。 だから……おにぃちゃん、どうか姉さまのことをよろしくおねがいしますね? * * * 「さ、ご飯できたよー。ルリ姉、高坂君も早く早く」 思ったよりも時間がかかっちゃったけど、ようやく夕飯の 準備ができたので、ここにいない二人を呼び出した。 たまちゃんが上手くルリ姉に言い含めてくれたようだから ルリ姉は高坂君とちょっとはゆっくりできたかな? まあ、ルリ姉はたまちゃんに気を使われたのが ショックでまた落ち込んでいるかもしれないけれど…… それにまあ。ルリ姉のことだから先に高坂君の用件を片付けようとするかな? まったく好きな人とたまに顔を合わせるときくらい ゆっくりと逢瀬を楽しめばいいのにねぇ? 「……甘いお酢の匂いがするわ。今日はやっぱりちらし寿司なのね」 ルリ姉が高坂君と一緒に居間に入ってくるなり 本人のハンドルよろしく本当の猫のように鼻を利かせていた。 可愛い仕草だとは思うけど、ちょっと行儀が悪いんじゃない?ルリ姉。 「うん、やっぱり雛祭りのご飯といえばちらし寿司だからね!」 あたしは胸を張ってルリ姉に応える。まあ、毎年五更家における 雛祭りのメニューはずっと変化ないから当たり前なんだけど。 このあたりはお婆ちゃんが一緒に暮らしてたころからのお約束だったしね。 でも今年のメニューはいつもと違う意味合いもあるんだよね。 なにせ今日はあたしの日と言っても過言じゃない『ひな祭り』。 家族の誕生日とクリスマスとお正月とお肉の日の次くらいのお祝いの日。 その大切な日を飾る、あたし五更日向の初のちらし寿司なんだから! って勿論今日ぶっつけ本番で作ったわけじゃないよ? 最近はルリ姉が歌手になるためのアイドル活動が忙しくなってきて あたしがご飯の用意をする機会もそれに合わせて増えてるから 料理の腕もどんどん上がってきているんだよね。 加えてお母さんに教えてもらいながら地道に基本の練習もしているし 今日の日のためにちらし寿司だって何度か試しに作ってるからね。 でも実際に五更家の食卓にちらし寿司をお披露目するのは今日が初めて。 だから普段とは違った感慨もあるんだよ。 「ふふっ、自信たっぷりのようね、日向。いいでしょう。 あなたの実力、この『夜魔の女王』自らが見定めてあげるわ」 ルリ姉はいつもの調子で片足立ちに左手を突き出すポーズを決めていた。 お正月にも着ていた赤い晴れ着姿で。 ……どうしてあたしのたった一人の姉は、黙っていればこんな着物姿が 一際映える和風美人で、アイドルでもかなりの人気を集めているのに こんな残念な性格なんだろう…… まあでも。このギャップがアイドルとしての人気の秘密でもあるんだよね。 あたしからみると10年以上時代を先取りしているイメージなんだけど 本当、世間のニーズが追いついてきてくれてよかったね、ルリ姉。 それにまあ。あたしたち家族だけじゃなくて そんな面も受け入れてルリ姉を支えてくれる人たちもいるんだし。 そんなに悲観しなくてもいい……のかな? 「ま、まあともかく席についてよ、ルリ姉。 うしろで高坂君もお腹が空いた顔をして困ってるよ」 とりあえずその辺は置いといて、ルリ姉を宥めて席に促した。 いつもは自分の事は二の次にして人の心配ばかりしているのに いったん自分の世界に入るとてんで周りがみえないんだから。 それこそ周りで心配する身にもなって欲しいもんだよねぇ? 「それじゃあお夕飯をはじめましょうか」 「「「「はい、いただきます」」」」 お母さんの合図に合わせて、みんなで声を揃えて 今日の雛祭りのご馳走の開始を宣言した。 「ねぇねぇ、どう!どう!?あたしの作ったちらし寿司は!」 そしてみんながちらし寿司を食べたのを見計らってから あたしはうきうきしながらその感想を聞いてみた。 味見の時にももちろん自分で食べてみたけれど 我ながら結構おいしく出来てるって思える自信作だからね! まあ、ちょっとばかりきゅうりや卵の千切りが上手に できてなかったりするけど、その辺はご愛嬌ってことで。 「ああ、旨いよ、日向ちゃん。今度桐乃にも教えてやってくれよ」 「ひなたおねぇちゃんのおすし、すっごくあまくておいしいです!」 高坂君とたまちゃんが口を揃えて褒めてくれる。たまちゃんは嘘なんて 絶対につけない性格だからその評価はすっごく嬉しいなぁ。 あ、勿論高坂君の方もほめてくれているのは嬉しいよ? でもまあ……相変わらずだよねぇ、高坂君。 その辺に関してはルリ姉は重々承知の上だから特にツッコまないけどさ。 お母さんはみんなの様子を見ながらいつものようにニコニコと笑っている。 まあ、お母さんはわたしと一緒にご飯の用意をしていたし 練習しているときからあれこれ細かく指摘も受けてたから問題ないんだけど。 そんなわけで残った一人の感想が気になるところなんだけど。 「……珠希の言ったとおり、合わせ酢のお砂糖の割合が多くて甘いわね? これは日向の好みにあわせた、ということかしら?」 「う、うん……このほうがみんなおいしいかなって思って…… これだとルリ姉の口には合わなかった?」 さっきまで目を閉じながら無言でゆっくりと寿司飯を味わっていたルリ姉が そのままの姿勢であたしに尋ねてきた。 練習ではお母さんから教わったレシピ通りにちらし寿司は作ったんだけど。 少しは自分なりの工夫をしたくて合わせ酢の配合を変えてみたんだよね。 自分としてはもっとおいしくなったと思ってたんだけど。 あれ、ルリ姉甘いのだめだったんだっけ? 確かに積極的に甘いもの好きってわけではないけど ケーキだって和菓子だっていつもおいしそうに食べていたよね。 「いいえ、辛党の人には確かに口に合わないかもしれないけれど お父さんもどちらかというと甘いもの好きだし、先輩にも好評の ようだからその問題はないでしょう。でも、ね」 ルリ姉は一旦言葉を切ると、閉じていた目を開いてあたしと視線を合わせる。 その表情は良く見知っている。あたしが悪戯をしたときとかに それを聞き咎める時のそれと同じ厳しいものだったから。 「ご飯の後には、甘酒や菱餅、ひなあられも食べるのでしょう?」 「あっ……そっか……」 「毎年作っていたお婆ちゃん直伝のレシピは伊達ではないのよ? いつだって料理全体の調和と均衡を考えて作られているわ」 ルリ姉の鋭い言葉があたしの浅はかな考えをざっくりと切り裂いていた。 さっきまでの自信満々な気持ちやみんなに褒めてもらえていた嬉しさが 一気に破裂してなくなってしまうくらいに。 「でも……美味しいわよ、日向」 「え……?あ、でも」 「『料理で一番大切なのは、技術でも調理法でもない。 美味しく食べてもらおうという気持ちなんだよ』 これがお婆ちゃんの口癖だったわ。だからね、日向」 気がつけばいつの間にかルリ姉の厳しい表情が変わっていた。 それもやっぱり見覚えのあるものだったけどね。 あたしを怒った後にいつも見せてくれる、優しいおねぇちゃんの顔だから。 「あなたの作ってくれた料理はその気持ちに溢れていてとても素晴らしいわ」 そしてあたしにはなかなか見せてくれない笑顔を向けてくれた。 「う、うん……ありがとう、ルリ姉」 「まあ、野菜の切り方とか、レンコンのアク抜きとか まだまだ至らないところは沢山あるのだけれどもね。 これからは私も時間が空いた時に、あなたに五更家代々に 口伝されてきた厨房術を叩き込んであげましょう」 でもすぐにいつもの澄ました表情で厨二なノリに戻ってしまう。 まあ、そんな素直じゃないところもやっぱりいつものルリ姉だよね。 でも今回ばかりはいろいろと教えられたことも多いからね。 「はい、よろしくお願いします。瑠璃おねぇちゃん」 だからあたしの方はいつもとは違う呼び方で素直な気持ちでルリ姉に応える。 ルリ姉はちょっとだけ驚いたようにあたしを見たけれど 覚悟しておきなさい、なんて言いながらそっぽを向いてしまった。 はいはい、精々覚悟していますよ。そして次の機会には今度こそ ルリ姉がびっくりするくらいの御馳走を作って見せるんだからね。 気がつけばそこにいるみんなが笑顔で見ていて恥ずかしかったけど。 あたしは改めて心に誓うのだった。 * * * 夕飯を食べ終わってから、私は先輩の用事の続きを済ませるために もう一度雛壇を飾った部屋に戻っていた。 「よし、今度はここで甘酒を飲んでいるポーズでじっとしていくれ」 「ええ、こうかしら?」 初詣にも着ていた赤い晴れ着姿のまま、一度正坐の姿勢を正してから 私はお茶碗を口元に引き寄せた状態で自らの動きを止めていた。 昔は写真撮影でこんなちょっとした姿勢を続けることすら大変だったわね。 桐乃に「あんたは体幹を強くしないとモデル失格だかんね!」と 指摘されてから密かに身体を鍛える修練も積んではいたのだけど。 最近は歌手に向けたダンスの練習などもしているせいかしらね。 こういった撮影のポーズを取ったりそれを維持することも 以前と比べると、無理なくこなせるようになったわ。 「よし、OKだ。じゃあ最後に雛壇の正面で笑顔を撮ってみるか」 「か、簡単に言ってくれるわね……」 でもいまだにカメラの前で笑顔を作るのは難しいのよね…… どうしても意識してしまって不自然なものになってしまうから。 不敵な笑み、というのなら得意中の得意なのだけれども。 だからといって余計な力が入らないようにリラックスしようとすると やっぱり桐乃に「あんたって普通にしているとお母さん?」なんて 現役高校生アイドルとしては有り難くない評価を貰ってしまうことだし。 「ほらほらルリ姉ー。笑顔が固いよー今更緊張しないでよー」 「姉さま、がんばってください!」 さらに妹達の観客付きともなれば、なおさら意識してしまうじゃない…… 「あなたたち!約束通り黙って見られないなら居間に戻ってなさい!」 「はーい、ごめんなさーい」 「しずかにしてます、姉さま」 私の一喝に素直に応える日向と珠希。まあ日向は形ばかりでしょうけど。 「まったく、もとはといえば日向。先輩が今日うちに来ることを 隠していたあなたも悪いのよ?私にもプロとして写真を撮るときには いろいろと準備や心構えというものがあるのだから」 「まあまあ黒猫。そう言うなって。俺も確認しないで悪かったよ」 ……つくづく先輩は、年下の女の子が責められているのを見ると 庇わずにいられないのかしらね?あなただってこの謀略の被害者でしょうに。 聞けば今日の写真撮影は、河上さんから私が着物姿で雛祭りを祝う写真を 取ってほしいと先輩が依頼を受けたのが発端だった。 なんでも、お正月の初詣のときの晴れ着姿の写真が大好評だったらしいわ。 私としても『夜魔の女王』として和の正装でこの身を鎧うのは 嫌いではないからそれは構わないけれども。 問題は、先輩は河上さんから「妹さんに連絡済みだよ」と伝えられていて 何の疑問も持たずに今日うちに来たことなのよね。 それなのに肝心の私がそのことを聞かされていないということは。 つまりは河上さんと日向が共謀していた、と考えるのが妥当よね? まったく、二人揃って余計な気をまわしてくれるのだから。 びっくりして今日の修練の疲れなんてどこかに吹き飛んでしまったじゃない。 そもそも今日1日。いえ、ここずっと、かしらね。 私が家族と相談して歌手活動を行っていくと決めたその時から。 日向は私の代わりに家事を受け持ってくれているし そのフォローのためにお母さんも仕事を減らしてまで早めに帰宅している。 その分はお父さんが一層仕事に励んでカバーしているらしい。 さらにはさっきのように珠希までもが私に何かと気を使ってくれている。 「まあいいわ。日向への教育は後でじっくりするとして…… 先に撮影を終わらせましょう、先輩」 そんなお節介で愛しい家族のことを想うと、揺らいでいた心も自然と落ち着いて 暖かな気持ちに満たされてくるわ。だから今ならきっと撮れると思うから。 まばゆいフラッシュにも、いつも心を乱すシャッター音にも屈することなく 私はカメラに、いいえ、先輩に向かって笑顔を向け続けた。 「よし!いいぜ、黒猫!最高の笑顔だ」 「うわぁ、ルリ姉。決めるときは決めるんだね!さすがアイドル様!」 「姉さま……とってもおきれいです」 ふふっ、ありがとう。あなたたちのおかげよ。 「さて、これで依頼分は大丈夫だろうし、俺もそろそろお暇するよ。 平日なのに遅くなったら迷惑かけちゃうしな」 「あー、高坂君、そんなこと気にしないでいいよいいよ。 せっかく受験も終わったんだしゆっくりお茶でも飲んで行って。 さ、たまちゃんもお茶の準備、手伝ってくれるかな?」 「はい、おねぇちゃん」 先輩がカメラ機材を片付けながらそう切り出すやいなや 日向と珠希はそう言って慌てて部屋から出て行ってしまった。 いきなり取り残された私たちは、しばし会話に詰まってしまう。 ……まったくあの娘たちときたら。 それでは気を使っているのあからさますぎて対応に困るじゃない。 でも……せっかくあの娘たちが作ってくれた機会だものね。 それに、今日は私もちょうど魂を奮い起されたところでもあるし。 私は一旦目を閉じて、昼間の心の昂りを思い返すと 意を決して先輩に話しかけた。 「ねえ先輩。雛人形は何のためにあるか知っているかしら?」 「ん?女の子が健やかに育つように、って願うためなんだろ?」 「そうね。でも本来の意味は、この雛人形たちが女の子が受ける 様々な災いを肩代わりして守ったり、冬の間に溜まった様々な穢れを 春を迎えるために祓う力があると言われているわ」 「へぇ、そんな由来があったのか。じゃあこの人形たちは 体を張って黒猫たちを守るために頑張ってくれているんだな」 感慨深げに先輩は雛人形たちを見まわす。 そう、まるで身体を張って大切な人を守ってる誰かさんのことみたいに、ね。 「ええ、だから私もこの機会に、この人形たちに守ってもらって 暖かな春に向けての一歩を踏み出そうと思うのよ」 「黒猫?」 私は文字通り先輩に一歩近づいて真っ直ぐに先輩の顔を見つめる。 怪訝そうに私を見た先輩だったけど、私の表情を見て取ると 先輩の方も私にしっかりと向かい合ってくれた。 「ねぇ、先輩。私は今、歌手デビューに向けて、毎日修練に励んでいるわ」 「ああ、毎日大変そうだって日向ちゃんや珠希ちゃんにも聞いたよ」 「ええ、確かに容易なことではないわね。でも決めたからには 今回もやり遂げてみせるわ。私がアイドルになってから ずっとそうだったように、ね」 本当、随分と意地になって続けてきたものよね。 でも途中で挫けるのは、何かに負けてしまう気がして ずっとここまで歯を食いしばって走り続けてきたわ。 きっかけはなんとも恥ずかしい理由からだったのに、ね。 「黒猫が頑張ってきた事は傍で見てきた俺にはよくわかってる。 だから今回もきっと黒猫は立派な歌手になれるって確信してるぜ」 だから、あなたのそんな優しい表情を見る度に いつでもどんなことでも成し遂げられる気がしてきたから。 「ありがとう、先輩。だから、ね、その…… 私が無事に歌手としてスタート出来たその時には」 だから今は、私の気持ちをしっかりとあなたに届ける力を頂戴ね。 「私の話を……聞いてくれる?」 先輩は私の言葉を聞いて、ひと時何かを逡巡したようだった。 でもその表情はすぐに強い意思を感じさせるものになって。 「ああ、いいぜ」 落ち着いた声で、力強く先輩は応えてくれた。 うん、あなたならきっとそういってくれるって思ってた。 それに応えるためにも、私はいよいよ覚悟を決める時がきたようね。 あの娘と。『熾天使』と向き合う決意を。 「あれあれ?なにこの流れ?違うでしょ?そーじゃないでしょ? ここはどう考えたって一気に告白するところじゃないの!?」 「おねぇちゃん、しーですよ」 ……まあその前に。不埒者に教育を果たさなければならないようね? いつの間にかほんの少し開いていたドアの死角にすばやく回り込んで 一気にドアを開け放つと、ドアに身を寄せてその隙間から中を覗いていた 日向と珠希がもんどりうって部屋の中に倒れこんできた。 「うひゃあぁ!?」 「はうぅぅ」 クククッ、姉の秘密を覗き見ようなどと不届きな妹達には どうやら普段の教育だけでは不十分だということね。 「……ククク、ハハハ……さああなた達の畏れ多い罪に 今から罰を下しましょう。なにか言い残す事はないかしら?」 渾身の発言を覗き見られていたことの恥ずかしさを覆い隠すように 私はこの身に封印せし闇猫の力を発現して、闇のオーラを解放する。 狩人の闇の瞳に射すくめられ、日向と珠希が抱き合って震えていたけれど。 でも今回ばかりはそんな顔しても許してあげないわよ? 私が大きく目を見開いて二人へと一歩を踏み出した途端。 「うわああぁぁぁ、ごーめーんーなーさーーーい、ルリ姉ーーーーーー!」 ついに私の闇のプレッシャーに耐えかねた珠希がその場に倒れこみ 日向は後ろ手にドアを開けるや一目散に逃げ出してしまった。 まったくあなたが逃げてしまったら珠希はどうするのよ。 これは本当に日向にはあとできつく教育をしないといけないわね。 「ごめんなさい、先輩。ちょっと珠希を布団に寝かせてくるわ。 日向たちのもってきてたお茶でも飲んでいてくれるかしら?」 「あ、ああ……」 私は気絶してしまった珠希を静かに抱き起こすと両手で抱え上げた。 そのときに振り返ってみた先輩が、蒼い顔をして何度も勢い良く 頷き続けていたのが不思議だったけど、ね。 部屋を出て珠希たちの寝室に向かう中、以前こうしたときよりも 僅かに増した手応えが、珠希の順調な成長を物語っていた。 きっとすぐに日向のように、珠希も私の腕ではこうやって 横抱きに抱えることなんて出来なくなってしまうのでしょうね。 ふふっ、いつの間にかあなたたちに支えられるようになっているわけよね。 それがとても誇らしくて……ちょっぴり物寂しくも感じてしまう。 それにあなた達だけでもなく、お父さんもお母さんも。 そしてお婆ちゃんが贈ってくれた雛人形にも見守れて 今の私があるのですものね。 だから、こうして支えてくれるみんなの想いに応えられるように 私はこれからも自分の目指す道を胸を張って進んでいくわ。 桃の節句に禊を済ませた私には、もう春を迎えるしかないのだもの。 そう、この先にある暖かい未来を、ね。
https://w.atwiki.jp/ygo000/pages/512.html
エクシーズ・効果モンスター ランク5/光属性/天使族/攻2900/守2400 光属性レベル5モンスター×4 フィールド上のこのカードが破壊される場合、 代わりにこのカードのエクシーズ素材を2つ取り除く事ができる。 このカードのエクシーズ素材が全て取り除かれた時、 相手ライフに1500ポイントダメージを与える。 また、このカードが「[[No.102 光天使グローリアス・ヘイロー]]」を エクシーズ素材としている場合、以下の効果を得る。 ●1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。 相手フィールド上のモンスター1体を選択して攻撃力を0にし、その効果を無効にする。 破壊耐性効果とバーン効果を持つが素材が4枚と重く、そのままエクシーズするには物足りないモンスター。 基本的にRUMを使って召喚することになるだろう。 ランク5なので《RUM-リミテッド・バリアンズ・フォース》からも出すことができ、特殊召喚自体は容易。 しかし《No.102 光天使グローリアス・ヘイロー》のエクシーズ召喚が容易でないことから●以降の効果を得ることが難しいため、 ほかのランク5CNoに比べるとEXデッキでの優先順位は落ちてしまう。 耐性とバーン効果のみでもなかなかに強力であるため、●以降の効果を考えずに使用したほうが良い。 効果を有効に発揮したいのであればやはり《鬼神の連撃》を用いて2900×2+1500=7300のダメージを狙える点を生かしたい。 特に《ガガガガンマン》を守備表示で特殊召喚、効果起動→RUMリミテッドの流れが決まれば8100ダメージでワンキルである。 コンボ前提とはいえ、使うカードどれもが応用性にたけているため構築を工夫すれば汎用性も落ちない。 と、ここまで見ればただの汎用ランク5モンスターであるが、実はこのカードは人類にとって重要なカードなのだ。 デュエリスト、いや人間は常に向上心を持って魂のランクアップを目指さなければならない。 アストラル世界はカオスを切り捨てることによってランクアップを目指してきたが、これによるランクアップは 《No.63 おしゃもじソルジャー》→《機装天使エンジネル》→《始祖の守護者ティラス》→《No.7 ラッキー・ストライプ》 という経路の3回が限界だった。 しかしこのカードの登場によって間に《RUM-バリアンズ・フォース》を2度挟む、つまりカオスの力を取り込むことによって 《No.63 おしゃもじソルジャー》→《機装天使エンジネル》→《CX 機装魔人エンジェネラル》→《CNo.102 光堕天使ノーブル・デーモン》→《No.7 ラッキー・ストライプ》 という現在最多のランクアップ経路を新たに切り開いたのである。 しかも《RUM-バリアンズ・フォース》によって素材を奪えるので《No.7 ラッキー・ストライプ》は最多で8枚もの素材を得られ、効果の成功率も飛躍的に高まる。 バリアン界とアストラル界を繋げたこのカードは平和の象徴と呼んでも差し支えないだろう。 まさにこの《CNo.102 光堕天使ノーブル・デーモン》は「ランクアップ・アドバンテージ」と呼べる新しいアド概念を持つカードなのだ。 8スレ目 295 :名無しプレイヤー@手札いっぱい。:2014/02/07(金) 20 31 25.57 ID tAi6l9mJ0 デュランダル「うーっす」 上手いな、バリアンズフォースの発想はなかった ラッキー無双が本体か ノーブルは七皇の剣から4400削れるから割と優秀 その手があったかっていう評価だな 関連カード No.102 光天使グローリアス・ヘイロー Tag:【デーモン】 【バーン】 ランクアップアド ワンキルアド 平和アド
https://w.atwiki.jp/datensihifumin/pages/13.html
『堕天使ひふみんのブログ』 7月16日 00 30投稿 おひさ~。三十路を目前に控えたひふみんだよー。 歳のことはみんなに言ってないから、なんとなく同世代とか思われてるけれど、 実は銀髪の偉い人(最年長)に一番近い年齢なのは私なんだよね。若作りも必死だよ。 私からすればアオバン(青葉ちゃん)とか学生にしか見えない。若いって眩しい、それに妬ましい。 今日、休憩中にアオバンが「私、最近この漫画にはまってるんですー!」とか言って私に漫画本を見せてきた。 それが中学生くらいの子が読むような幼稚な漫画でドン引きしちゃった。 無言でページをめくってたら「どうですか?ひふみさん的にありですか?」とか目を輝かせながら聞いてきた。 漫画本を黙って閉じて「つまんない」と言いたい気持ちになったけれど大人の理性で私は堪えた。 でも心底つまらなかった。どういいつくろうか迷っていたら、ゆんちゃんが嫌味のない笑顔で 「青葉ちゃんってそんな漫画読むんや、子供やなー」と言ってくれたので助かった思いだった。私は愛想笑いをした。 アオバンは「面白いんですよー!」とぷんぷんと怒りのポーズを作って、それが可愛い子ぶっているように見えた。 というか、ぶっていた。最近、アオバンは若いをステータスに調子に乗っていることがあるから癪に障ってたまらない。 少し出かけてきますと私は言って近くの花屋へ足を運んだ。店の奥にはサボテンコーナーがあって、色んなトゲトゲしたものが売っている。 どれが一番、刺々しいのかと店員に聞いてお勧めされたそのサボテンを購入した。サボテンを隠し持ちながらブースに入って、アオバンがいないのを確認。 私はこっそりと買ってきたサボテンをアオバンの机に置いた。謎のサボテンはいつもアオバンを仰天させる。その度に私はみんなに見えないようにして笑う。 こんなことは何度も繰り返してきた。いつまで経っても飽きない自分がいたし、それが会社での私の楽しみになっていた。だから、ずっと通うんだ。 謎のサボテンはアオバンの手によって廊下に飾られる。今日も「またか…」とため息をついているのを見た。サボテン、いいよねって私は話しかけた。 アオバンは苦笑いをしていた。 その瞬間に夢見る光景があった。 この会社がサボテンまみれになって、私とアオバンで一緒にサボテンを生食いするんだ。 きっと、おいしいに違いないよね。 『堕天使ひふみんのブログ』 7月17日 01 30投稿 タイトル:許したまえ 3時間くらい仕事に遅刻した。寝過ごした。目覚めたのが9時で、完全に終わったと思った。 会社に電話を入れたら「何してるの、着いたら葉月さんのところへ行きなさい」とりんちゃんにキツめの口調で言われた。 その時からずんと暗い気持ちに沈んで会社へ向かう電車の中ではひたすらサボテンのことを考えていた。 無数の針が四方八方からりんちゃんの全身に突き刺さる想像。なんてむごったらしい想像をするんだと私は自分で自分が嫌になった。 会議室に入ると葉月さんがふんぞり返るようにして社長椅子に座っていた。にやっと不適な笑みを浮かべたのでぞっとした。 「おやおや、ひふみくん。いつもより出社時間が随分と遅いではないか。何かやんごとない事情でもあったのかな?」と嫌味みたいな事を言う。 事情はりんちゃんから聞いているはず。寝坊して遅刻しただけ。私の口から言わせるように仕向けてるんだ。むかっとしたけど抑えた。 「寝坊しました。ごめんなさい」頭を下げた。「ふ~ん、寝坊かぁ。昨日は何時に寝たの?」「夜の3時くらい」「それは遅いねぇ、なにしてた?」 詰問するような口調。この人は仕事のこととなると嫌な面がある…。嘘をつけない私は正直に言った。「ずっとサボテンのことを調べてました」 サボテン?と葉月さんは目を丸くした。意外な答えだったんだと思う。「サボテンの針はどのくらいの強度を持っているか知りたかったんです。 調べていくうちに夢中になっちゃって…」もう一度、頭を下げた。「どうしてそんなことに興味を持つの?それは仕事とは関係あるの?」 この見下したような物言い。私は早くも鶏冠にきた。ムカムカ。私はポケットに隠し持っていた小さなサボテン達を葉月さんに投げつけた。 「いたっ!痛い!」とわめいていた。気が済むまで投げたら葉月さんはサボテンまみれになっていた。ごめんなさいと一応、謝った。 そのまま会議室を出ようとしたら後ろから葉月さんの声が聞こえた。「ひふみくん、君は本当にとげとげしたものが好きだねぇ」 たぶん、まんざらでもなかったみたい。 『堕天使ひふみんのブログ』 7月18日 00 00投稿 タイトル:オールトマト 「疲れた、もうそっとしといてほしいの」 と言うと青葉ちゃんはトマトでも食べますかと私に差し出してきた。 お弁当箱に入っていたと思われるミニトマト。 こんなの食べたいと思わないし、人のお弁当箱に入っているものは不潔に感じた。 私はそのプチトマトを指で摘んだ。ゆっくり青葉ちゃんの顔の前に持っていってから指に力を込めた。 プチトマトは弾けてぐちゃぐちゃになった。一瞬、間があって青葉ちゃんは「うわわ、なにするんですか!」と慌て始めた。 その様子が面白くて、スマホで写真におさめた。幾分か気分も晴れたので仕事に向き直ることにした。 ちょうど真っ暗の背景が出ていたのでディスプレイに反射してゆんちゃんの顔が見えた。 鬼の形相で私を睨んでいた。きっと青葉ちゃんに酷いことをしたからだと思った。 ゆんちゃんは青葉ちゃんのことが好きだ。何かと青葉ちゃんを気にかけているのはコウちゃん以外でゆんちゃんだけ。 まさかゆんちゃんに見られていたなんて…。恐ろしくて冷や汗が出てきた。 いつか、ゆんちゃんが厳しい口調で同僚に叱責を浴びせているのを聞いたことがある。普段は穏やかだけれど、気性は荒い。 怒らせると怖い人という間違いない確信があった。ゆんちゃんがゆっくりと近づいてきた。ひっぱたかれると思って、私は全速力で会社を出た。 急いでスーパーに行ってプチトマトの詰め合わせを購入した。 真っ赤で小さくて艶やかなものを選んだ。これを青葉ちゃんにあげれば喜んでくれるはず。 息を切らせながらブースに戻ったら青葉ちゃんがいなかった。 「どこに行ったんの、アオバン!!」と叫んだら代わりにゆんちゃんが出てきた。 「どうしたんそれ?」と普通に聞いてくる。でも顔は普通じゃない、拳で殴られると思った。私はとっさの行動に出た。 買ってきたプチトマトの詰め合わせを取り出して、ぜんぶまるごとゆんちゃんの口に突っ込んでやった。うががががってもがいてた。 ひとしきり突っ込むとゆんちゃんの口はオールトマトになった。白けた。 私は「疲れた、もうそっとしといてほしいの」と言って仕事に戻った。 本当に疲れたの。 『堕天使ひふみんのブログ』 7月19日 00 00投稿 タイトル:ライン 1 「そういえば、ひふみさんってラインしていないんですか?」 とアオバンに言われて椅子から転げ落ちた。 しかも頭を机の角にぶつけて軽く出血した。 痛さのあまり、ダンゴムシみたいに丸まって頭を抱えたら心配された。 私は知らない事を、それも唐突に言われるとこのように驚いてしまう。下手をすれば心臓が止まる可能性だってある。 ライン。なにそれ。繋がるって意味?新種のツール?もしかして私の技量を超されたの?色んな事が頭に巡った。 とりあえず「大丈夫だよ、気にしないで」と言った。 でもアオバンはどこからか救急箱を持ってきてオキシドールを取り出した。 「傷口を見せてください」とか言うので無意識に頭を向けてしまった。最悪だった。 分量を知らないアオバン(看護師気取り)は、 これでもかというくらいに傷口へ消毒液を垂らすものだから、 あまりに染みて「ひふっ!」と声が出てしまった。 「なんとかこれで、大丈夫ですかね…?」と聞いてくる。 『堕天使ひふみんのブログ』 7月19日 00 00投稿 タイトル:ライン 2 アオバンはやっぱり悪魔だと思った。悪魔めっ!と心の中で思いつつ、 勝手に転げ落ちたのは私だし、サボテンは投げないようにしないとって自分を抑えた。サボテン禁止、これ重要。 思考が横に逸れたので、改めて青葉ちゃんに聞いた。「ラインって、なに…?」 するとアオバンは目をぱちくりさせた。横にいたゆんちゃんが「え!?」と言った。 通りかかったコウちゃんも「まじかお前!」と叫んだ。 りんさんは手を頬に当てて「あらら」とバカにしたように言う…。 何か、この感じは変。サボテンを投げたい気分になった。サボテン、助けてよ。 ラインとは。その後、コウちゃんによる解説が始まった。 コミュニケーションツールの一種、若者なら9割は利用しているアプリだって。 していないのは変人らしい。変人だと私は言われた。変人じゃないといったら変人だよとコウちゃんが返してきた。 変人じゃない!と叫んだら、 今度はアオバンが「ライン、入れよう?」と宥めるような口調で言ってきた。 ついにアオバンは敬語を使わなくなった。 完全になめられている…。 かくして私のスマートフォンにラインがインストールされた。ニックネームは滝本ひふみとした。 第一声は何にしようかなーと考えているうちにその日の夜はふけた。 出社した朝、「何も返してこないとか、ひふみんっぽい」とか言われた。 私はサボテンを毟り取った…。 『堕天使ひふみんのブログ』 7月21日 03 02投稿 タイトル:ハリネズミ 青葉ちゃんの肩に毛玉がついていた。それがソウジロウに見えた。 ソウジロウと叫んだら青葉ちゃんがびくっと反応した。 「違う、あなたじゃない」と言って肩の毛玉に手を伸ばした。 毛玉?私は毛玉とわかっていて、どうしてソウジロウに見えたのか、どうして手を伸ばしたのか。 私は考え込んだ。わからなくて、頭がずきずきと痛くなってきた。ソウジロウことハリネズミ。 ハリネズミはもういない。去年の8月だった。遅刻しそうになった私は窓を開けるのも忘れて家を出た。 その日は猛暑だった。エアコンをオフにして、窓も締め切った部屋の中はどれほど暑かったか。 想像できたはずなのに、会社に行くとエアコンがガンガン効いていて私は自宅のことをすっかり忘れていた。 仕事が終わって帰宅…。あまり思い出したくない。 自宅の扉を開けた時にむっとした熱気をあびて、私は血の気が引いていく思いをした。 ハリネズは精細な生き物。何度も本で読んだ。温度調整はしっかりすることって書いていた。 たった一度でも怠ったり忘れてしまうと万が一のこともあるということ…私のハリネズミは万が一を起こしていた。 そこまで思い返していて、はっと気がついた。目の前に心配そうな顔をした青葉ちゃん。 「ハリネズミー!!!」と私は叫んだ。ブースにどこまでも響き渡った。 どうしちゃったのと、こうちゃんが顔を出した。 私は目にこみ上げてきた涙をぬぐって「なんでもないよ」と言った。 そして机の上に置いてあるサボテンを手でさすった。 「私にはサボテンがあるから」手の平が血だらけになったけれど痛くはなかった。 『堕天使ひふみんのブログ』 7月22日 00 52投稿 タイトル:後味の悪いキュウイの話 まじウケ。会社行ったら庭で青葉ちゃんがキュウイを栽培してた。 ゆんちゃんが腕を組みながらその様子みていて「なにしとんの自分」と険しい顔してた。 一切、手伝わないからね。見てるだけ。私も青葉ちゃんのキュウイ栽培を鑑賞した。 キュウイは完全に育ってなかった、これからってところ、でも私は無慈悲にもぎ取ってやった。 「あっ、ひふみ先輩やめてください」 制止する青葉ちゃんを無視して、キュウイを道路の溝に投げ込んだ。 「けっこうえげつないことするな自分」 とか言いながらゆんちゃんもこっそり青葉ちゃんのキュウイをもぎ取っててウケた。 しかも食べるわけでもなく、片手でキュウイを粉砕して青葉ちゃんに見せつけてた。私よりえげついし。 青葉ちゃんは顔面蒼白。頑張って育ててきたキュウイが無残にも汚い溝に放り込まれていくんだから。 少し可哀想に思って私は青葉ちゃんの頭をナデナデした。 「いい子、いい子」って。やめてくださいって振り払われた。 まだまだ他にも実っているキュウイはたくさんあったから、どんどんもぎっては投げ捨てた。 「あはははは」 ゆんちゃんと一緒に私は笑っていた。キュウイは全部なくなった。全部、なくなった。 夏の日差しの中での出来事だった。白昼夢のような感覚があった。だって私はこんな酷いことをしない。 取り返しのつかないような気持ちになって、だから私とゆんちゃんは青葉ちゃんに謝った。 青葉ちゃんは笑いながら、でも目には涙を蓄えながら、「いいんです」と震える声で言ったのだ。 この時の後味の悪さはよく覚えていて、自分がどうしようもなく惨めになって、それで目が覚めた。 夢でよかった、とほっとしたのと、私は最低と思った。 反省の気持ちで青葉ちゃんに話したらドン引きされた。ゆんちゃんは夢と同じように笑ってた…。 『堕天使ひふみんのブログ』 7月23日 00 00投稿 タイトル:アホ賢いゆんちゃん 休憩中にテレビを見ていたら、ゆんちゃんが急に憤り始めた。 「世の中、腐ってるな」 テレビは政治のよくないニュースをしていた。私は興味0%だった。 政治とか知らないし頭もよくないので何がなにやら、でもゆんちゃんだけ真剣だった。 「腐敗や、腐敗。上が腐っとる、どうしようもないな」 一人で毒づきながら政治の愚痴を語ってた。色々と言っていたが全部、聞き流した。 「もうこの国、いや、世界の人類みなアホや」 最後に行き着いた言葉がそんなのだから私は笑った。「なにわらってるねん」 「だって、みんなアホだったらゆんちゃんもアホだって思ったら面白くて…」 「せやで。私もアホや、ひふみ先輩も青葉ちゃんもコウちゃんもアホなんや」 「じゃあ、誰が賢いの?」「そんなやつおるか。人類みなアホやっていうたやろ」 すかさず突っ込みを入れたのはりんさんだった。 「ゆんちゃん?アホな人間は賢い人間の存在を知覚できないのよ?この意味わかる?」 「うぐぐ…」だって。ぷぷぷって、影でねねちゃんが笑ってた。 りんさんってやっぱり怖いなぁ。私はゆんちゃんを応援したくなった。 「私は…ゆんちゃんは賢い、と思う…」でも、その先の言葉が出てこなかった。 え、とゆんちゃんが少し戸惑っている間に、ゆんちゃんってどこが賢いんだろうと考えていた。 賢いところ、ない。たぶん、私がゆんちゃん以下のアホだからきっとゆんちゃんの賢さを知覚できないんだ。 「そう、りんさんの言う通り…私はゆんちゃんをアホだと思う…それは私がゆんちゃんの賢さを知覚できないから…」 じと目でゆんちゃんが見ていた。なんだか焦った。 「つまり、その…言い換えれば、アホだと思われた人は賢いんだって、そういうこと…私にアホだと思われたゆんちゃんは実は賢い…」 「必死のフォローありがとな。私もひふみ先輩のことアホやと思ってるでー」ゆんちゃんは穏やかな顔つきになった。よかった。 でも、りんさんだけ私たちをひどく冷めた目で見ていた。どれだけ人を見下せばこんな冷たい目になるんだろうと思った。 『堕天使ひふみんのブログ』 7月24日 00 00投稿 タイトル:色んなものを吐き出すゆんちゃん この日、ゆんちゃんが百貫デブになって会社に出勤してきた。 ダイエットのための健康食品の食べすぎで逆に太ったとのこと。 お腹がぶくぶくとふくれあがっていてフグみたいだった。 「サボテンの針でつついたら破裂しちゃうのかな?」なんて冗談を言ったら本気で睨まれた。 青葉ちゃんもゆんちゃんのタプタプ腹が気になったらしく、私に「もしかして、妊娠ですか…?」と聞いてきた。 そのくらいに太ってたのね。当然、そのお腹は隠しきれるわけもなく、ゆんちゃんはむしろ何か文句ある?と言いたげだった。 コウちゃんがやってきた時は戦慄した。コウちゃんは何の躊躇いもなく「なに、その腹っ!やばっ!!」とゆんちゃんの腹をつついたのだ。 でもゆんちゃんはコウちゃんには怒らず「うう…」と顔を俯かせるだけだった。みんな、どうにかしないとって気持ちになった。 「そうだ、みんなでゆんちゃんのお腹を押し込んでいったら凹むんじゃないか?」とコウちゃんが名案を出した。 なるほどと思って、私と青葉ちゃん、そしてコウちゃんみんなでゆんちゃんのお腹を一生懸命、手で押し込んだ。 ゆんちゃんは苦しそうだったけれど、そのうちに口から色んなものをポコポコと吐き出し始めた。 奇妙な色をした魚、健康食品の数々、積み木のオモチャとか、あと大量のプチトマト…それらが無尽蔵に出てきた。 「なんてものを食べてるんだこいつ…」とコウちゃんが言っていた。ゆんちゃんはいつの間にか気絶していた。 お腹がすっかり元に戻ったころ、ブースの床はゆんちゃんの吐瀉物まみれになっていた。汚くてどうしようもなかった りんさんがやってきたかと思うと「なにここ、くっさ!」と言った後にすぐに走り去っていった。 当の本人はけろりとした様子で起き上がると「あら、お腹が凹んどるわ。なんか知らんけどこないなことがあるんやな」と言った。 そして自身が撒き散らした吐瀉物を気にする様子もなく「さ、仕事仕事」と自分のデスクに戻っていった。 青葉ちゃんとコウちゃんは呆れてたけれど、私にはゆんちゃんがどこか幸せそうな人に見えた。 『堕天使ひふみんのブログ』 7月25日 03 15投稿 タイトル:ゆんちゃんは腹痛で欠勤だって 仕事がなかったよ。今日は1日中ね、サボテンに生えているトゲの数を数えていた。 いくつあったと思う?私は200個くらいかなと思ってたけど、ぜんぜん違ってたよ。 青葉ちゃんが「え、どのくらいの数があったんですか?」と真顔で聞いてきた。 答えようか迷った。だって調べるのに8時間を費やしたんだもん。簡単に教えたくはなかった。 それにサボテンのトゲを気にするような青葉ちゃんではないことを私は知っていた。 私に話を合わせようとしているだけ。興味もないのに無理やりに聞かれたって嬉しくなんてない。 でも、コウちゃんなら。あるいは興味を示してくれるかもしれない。だから、コウちゃんのところに行った。 コウちゃんはキャラのデッサンに頭を抱えている最中だった。この状況下でサボテンの話題を提供するのは違う。 わきまえた私はサボテンを携えながら、今度はりんさんのところへ行った。 りんさんは私を一瞥すると「そのサボテンはなに?」と詰問口調で言った。 頭にきたので「あなたに投げつけるもの」と言うと「ふざけないで」と怒られた。 しょんぼりして廊下を歩いていたら葉月さんに声をかけれた。 「おやおや、ひふみくんではないか。そのサボテンはいつものかい?」 こくっと私は頷いた。葉月さんは私のサボテンをじろじろと見てきた。 「ふ~ん、いつ見ても立派なサボテンだねぇ」なんて言う。 ドキドキした。サボテンのトゲのことを聞かれるんじゃないかって。 もし聞かれちゃったら答えないといけない、私の8時間の成果…。 嫌だ嫌だと思っているうち、葉月さんは私のサボテンのトゲを一本、手でつまんで抜き取った。 「あっ」と私が言うと「可愛いねぇ」と気色の悪い笑みを浮かべながら葉月さんは去っていった。 聞かれなかった。サボテンのトゲが一本、減っただけ。安心感と、なんだか、心残り…。 そんな日だったよ。 『堕天使ひふみんのブログ』 7月27日 03 25投稿 タイトル:一人しりとり お風呂で一人しりとりをしてた。 「そうじろう、うばぐるま、まりおねっと、とーてむぽーる…」 る、のところで考えながら身体をゴシゴシしてたらシャボン玉が出来上がった。 未だかつてない大きさだった。ふわふわと昇ったのちにパチンと消えた。 私、なんでこんなのぼーっと見てるんだと思うと、やりきれなくて、湯船を張ったお風呂に飛び込んだ。 すると無数の泡たちが私に語りかけてきた。 『ひふみちゃん、今日もお仕事疲れたね』 『たくさん、頑張ったよね』『青葉ちゃんはどんどん仕事が上達していくよね』 『新入社員の中で一番、コウちゃんに見初められていて、りんちゃんにも期待されているし、 葉月さんだって青葉ちゃんのことを一目置いてたよ』 『若いってこともあるんだろうね、それに才能もある。逸材だよね』 『でも、ひふみちゃんは…もう何年も会社に勤めていて未だに昇進しないね、がんばってるのに哀しいね』 しくしくと泡たちが泣き出した。私もなんだか哀しくて、ぽろぽろと涙がこぼれた。 涙の粒は泡たちの上に落ちて、それらを潰していった。 「アオバンがなんだこのやろー!」って叫んだらやたらに響いて、 私のマンションの壁は薄く、「うるせぇ!」と隣人から壁ドンされた。 ほんと哀しい(´・ω・`) 『堕天使ひふみんのブログ』 7月28日 00 20投稿 タイトル:弱肉強食 こんばんはーもう寝ないといけない時間なのに起きてるひふみんだよぉ。 さっきまでお酒(日本酒)飲んでたから身体がふわふわしててワロ ソウジロウに「明日はもーっと楽しくなるよね、そうじろう?」って話しかけたら無視されたし。 なんだ私一人ぼっちじゃんと思ってテレビつけたら壮大なサバンナの特集が放送されてた。 チーターが鹿を追いかけてて、鹿は必死に逃げてた。 追いつかれたら食べられるって本能的に知ってるんだろうね。 私は「鹿がんばれー!」ってテレビに叫んだよ。でも鹿は追いつかれてチーターに食べられちゃった…。 弱肉強食の世界って大変だなぁとしみじみ感じた。 それに比べて、と思ってソウジロウ見たらダンゴムシみたいにまるまって寝ててウケた。 この子は自然の厳しさなんて知らないで幸せに生きていくんだろうね…。 だんだん酔いも冷めてきて明日のために寝ないとって思った。お風呂に入って布団をしいて電気を消した。 真っ暗になった部屋で見えない天井に目を凝らしながらふと、私って幸せなのかな…?と思った。 会社に行けばアオバンもゆんちゃんもコウちゃんもサボテンもいるし楽しい、はず。 楽しいことは幸せなんだ。でも不安になってまたソウジロウに声をかけた。 「きっと幸せだよね…?」 返答はなかった(´・ω・`) 『堕天使ひふみんのブログ』 7月29日 00 00投稿 タイトル:ミニサボテン るんるん気分で出社したよ。でも青葉ちゃんがいつもの席にいなかった。 りんさんに聞いたら「なんか風邪みたいね」と関心なさそうに言ってた。 せっかく今日は青葉ちゃんのためにミニサボテンを買ってきたのに、なんだか気落ちしちゃった。 見舞いに行こうと思ったけれど私って青葉ちゃんの家を知らないのよね。というか、みんな知らない。 どこに住んでどこから来ているのか。わかるのは電車の方角だけ。プライベートでは関わりないの。 行き場所のなくなったミニサボテンを、仕方ないからゆんちゃんのデスクの隅っこにそっと置いた。 忍びを意識して置いたつもりだけれどすぐに気づかれた。「サボテンはいらん」だって。酷い。 普通に傷ついた私はその時点で帰りたくなった。ちょうどその時にコウちゃんが通りかかった。 勢いで「帰りたい」と言ったら、聞こえなかったらしく「ん?」と聞き返された。 もう一度、言う勇気はなくて「なんでも…ない」とだけ言ってデスクに戻った。 私、青葉ちゃんがいないとコミュ病が増す。普段「アオバン」とか言って調子に乗ってるけど。 デスクにぽつりと置かれた自分のサボテンを見た。全然、大きくならない。観賞用だからかな? でも入社当時はサボテンが巨大化したり針が四方八方に飛び出してたような記憶がある。 不思議だなぁと思いながら、サボテンをつんつんと突いた。そしたら指先が鋭利な針に触れた。 瞬間、人差し指からブシャー!って滝みたいに血が噴射し始めてウケた。しかも気を失った。 …気がついたら病室。私の指先は包帯でぐるぐる巻きになってた。血はすぐに収まったらしい。 いい匂いがして隣を見るとベットで青葉ちゃんが寝てた。家じゃなくて入院してたんだ。 青葉ちゃんに会えた私はなんだか嬉しくなって一人でニヤけた。しばらく幸せな心地で寝顔を見てた。 後からゆんちゃんが来た。「青葉ちゃんはただの疲労やて」と言いながら、あのミニサボテンを持ってた。 ミニサボテンは青葉ちゃんの隣に置かれた。そんなゆんちゃんの心意気にも嬉しくなった。 ゆんちゃん、サボテンさん、ありがとね。 『堕天使ひふみんのブログ』 7月30日 01 15投稿 タイトル:大人になった心 パソコンが壊れていた。 電源入れても意味不明なメッセージが出るだけで起動しない。 PCの調子が悪いです、とりんさんに報告したら「私、パソコンの先生じゃないわよ」と言われた。 じゃあどうすればいいのと言いたくなっちゃった…。 でも、りんさんは怖い。真正面から反抗するなんて無理。 だから私はポケットに入れてたプチトマトをりんさんの背中に投げつけてから逃げた。 ぷちってトマトが弾ける音がした。きっとばれないよね、すっきりした。 デスクに戻ったらコウちゃんが私の席に座ってた。パソコンがちゃんと起動していた。 「なんかエラー出てたから再起動しといた。もしおかしくなったら言って」 そう言って立ち去っていたコウちゃん。かっこよくて、胸がドキドキしちゃった。 少し妄想にふけっていると「その惚れ惚れした目、やめい」とゆんちゃんに指摘された。 知らない間にそんな目になってたみたい。私って乙女なのかも。乙女、だよね? やがて復調したアオバンがやってきた。退院してすっかり元気いっぱいになってた。 「青葉、完全復活しました!」とか言ってた。その若さがいっそう眩しく見えた。 いつもなら嫉妬心に駆られるところなのに、最近は心が穏やかになった、何も思わない。 それどころか私は青葉ちゃんに「なんともなくて良かったね」と声をかけていた。 自分でも気づかないうちに心が大人になったのかなぁ。ほんの少しだけ、寂しさを感じた。 表情がたぶん、瞬間だけ哀愁を帯びていたんだ思う。ゆんちゃんがニヤニヤしてるのに気づいた。 ゆんちゃんにとって私は監視対象だから、こんな心の機微だって知れて面白いんだ。 そう思うとなんだかムカムカしてきて、私はプチトマトをゆんちゃんに投げつけちゃった。 「なにすんねん!」と怒ってた。ごめんね。 『堕天使ひふみんのブログ』 7月31日 00 00投稿 タイトル:ネリケシ ネリケシ作りに夢中だった小学生のころ。 消しゴムのカスをダンゴ状にするのに一心で、授業なんて聞いていなかった。 先生はそんな私に「ネリケシとやらに使われる消しゴムがもったいない」と怒った。 何も言い返せなかった。だから無視した。またカスをコネコネしようとしたら消しゴムを取り上げられた。 「あ…」という声だけ出た。先生は消しゴムを手にして黙ったまま教卓へ歩き出した。 教卓についた先生は、私から取ったボロボロの消しゴムをみんなに見せて、こんなことを言い始めた。 「消しゴムは何のためにあると思いますか。誤って紙に書いた字や絵を消すためにあります。 そうしたら消しゴムのカスが出ますね。これは仕方がないことです。消しゴムの性質なんです。 カスをもったいないと思ってかき集めてネリケシにして再利用している子がいれば殊勝だと私は思います。 そんな子を私は褒めます。 でも、ネリケシを作るためだけに何も間違っていない紙に対して削りつづけたらどうですか。 消しゴムは無意味に消費されて利用価値は下がってしまいます。とても、もったいないことです。 世の中には消しゴム一つの金額以下で1日を過ごしている貧しい人たちがごまんといます。 そんなことを皆さんが知らないのは無理はないですけれど、物を無駄にしないようにと私はお願いしたいです」 それから先生はつかつかと私のところへやってきた。さっき私から取った消しゴムを返してきた。 私はなんとなく両手でそれを受け取った。手のひらに乗せられたボロボロの消しゴムが何故か無残に見えた。 …というような事をアハゴンが青葉ちゃんに(エラーのことで)説教している姿を見て思い出した。 あの時の先生の言い回しとイントネーションが、アハゴンとなんか似ているせいかも。 少しだけ懐かしくなって、ゆんちゃんに「消しゴムは大事にしようね」と言ったら、 「今はデジタルツールの時代やん。リアルに消しゴムとかコスパ悪すぎや。せめてフリクションペンやろ」 とリアルに返された(´・ω・`) 『堕天使ひふみんのブログ』 08月03日 00 53投稿 タイトル:過去の片鱗 「あんたのその面、もう二度と見たくないわ」 私の人生で一番、心に残っている強烈な言葉。お母さんに言われた。 それが私に向けたお母さんの、最後の言葉だったと思う。 それ以来、私はお母さんに顔を合わせていない。 一人で東京に出て色んな仕事をしてやっと今の会社にたどり着いた。 それまでは日払いの派遣会社に登録して、その日暮らしの生活を続けていた。 辛くて苦しくて孤独だった。食事は1日に1回のパスタだけ。それも具なし。塩をかけて食べていた。 とにかくお金がなかった。 仕事もこんなオフィスワークじゃなくて、空調もろくに効いてない工場で1日中経ちっぱなしの単純作業。 ベルトコンベアの上で流れ行くお弁当に具材を盛り付けるだけの何の創造性もない気がめいるような仕事だった…。 刑務所にいるのと変わりないねって隣にいた子と一緒に会話をするのが唯一の安らぎだった。 最初こそ楽しげにオシャベリとかしていたけれど、こんな工場で働く仲、その子も決して明るい人生を歩んできてはいなかった。 次第に、愚痴やら人生に対する嘆きやらそんな鬱屈した言葉をお互いに吐き出すようになった。 その人も私も目が虚ろで、お互いに現実逃避をしている感覚があった。その人は急に工場にこなくなった。 私はそれからロボットみたいに身体を動かして何も考えないようにして単純作業に従事した。 そんな日々が長らく続いたせいで、コミュ症はますます酷くなっていった。昔は、もっと明るい性格だったのに。 というような私の過去を今の仕事場で話したことがないから、みんな私がどういう性格なのか、本当のことを知らない。 だから、こうしてふざけたくなる。 「ワタシハ、ヒフミン。ヒトト、ウマク、ハナセナイ。デモ、カツテハ、ニンゲンダッタ。 アカルイ、ジダイモ、アッタ。オモイダスト、カナシイ」 カクカクした動きで言って、みんなに笑ってもらうの…。 『堕天使ひふみんのブログ』 08月02日 00 33投稿 タイトル:メロン 「メロンも身体の一部やで」 ゆんちゃんが意味不明なことを言った。 「ゆん先輩ってリアリストですか?」 それに対する青葉ちゃんの反応も意味不明だった。 「まぁそういうことになるな」とゆんちゃんは得意げだった。 何かがおかしいと思った。今、私だけがまともだって思った。 まともな私はまともなことを言うことにした。 「メロンは果物、人間は動物…だから違う。そして、ゆんちゃんはリアリストじゃない」 「え?なに言うてるの?」 「ひふみ、先輩…?」 二人は目をしばたかせていた。この反応も意味不明。 どうしたらいいのかわからなくなってオロオロした。アセアセした。モジモジした。 身体中から大量の汗が噴きだしてきて服がべたべたになっちゃった。 「うわぁ、すごい汗ですねー!」 青葉ちゃんが興味津々に私のことを見つめてきた。今度はドキドキした。 「…新陳代謝が優れとるな」 羨ましそうなゆんちゃんの顔もあった。わけがわからず、私は怖くなった。 逃げ出したい気持ちを抑えながらも現実と向き合った。 机の上にはメロンが置かれていた。そのメロンには口も顔もついていた。 おかしなメロンは唐突に喋り始めた。 『ひふみちゃんはいつも夢を見ているけれど、夢は永遠に続かないよ。 いつか終わる日がやってくる。それだけは覚えておいて。 じゃないとその時の現実に耐えられなくなっちゃうから』 …こんなことがあったって、コウちゃんに言ったの。 そしたら「ひふみ、大丈夫か?」と心配されちゃった。 でも後ろであのメロンが確かに笑っていた(´・ω・`) 『堕天使ひふみんのブログ』 08月03日 23 12投稿 タイトル:覗けない心 ひふみんだよ…今日、アオバン(青葉ちゃん)に渡した紅茶をこぼされた…。 手が滑って落としたとかならいいんだよ。でも、わざとだった。 無表情でコップを逆さまにして、零れ落ちる紅茶を止める気配がなかったもん。 私が呆気にとられてると、アオバンは満面の笑みで「あ、ごめんなさい」って言った。 このごろ、アオバンの悪魔属性にもほどがある。悪魔というか、これはもうイジメだから…。 泣きそうになった私を、でもアオバンは優しく抱きしめてくれた。 「本当にごめんなさい。悪戯がすぎました…ひふみ先輩、泣かないでください」 「う、う…アオバン酷いよ…酷すぎるよ…」 アオバンの胸でわんわんと泣いた。アオバンがわからない、私はアオバンが好きなのに。 そんな私たちの様子をゆんちゃんは一人で優雅に紅茶をすすりながら見ていた。 落ち着いた頃になんか恥ずかしいところを見られたような気がしてどぎまぎした。 アオバンは変わった様子もなく床にこぼれている紅茶をふき取り始めた。 なんか、私はどうしていいかわからず、棚のサボテンをスケッチすることにした。 普段はPCで描くけれど、なんとなく画用紙に鉛筆を滑らせた。 「へ~けっこううまいやん」 描いているとゆんちゃんに後ろから覗き込まれた。 それも恥ずかしくて顔が熱くなるのを感じた。 「なに照れとるねん、可愛いな自分」 笑いながら言うものだからバカにされたような気も、だけどちょっと嬉しいような気もした。 その時の私はえへへって愛想笑いをした。 出来上がったサボテンのスケッチはアオバンにあげた。 「上手いですね~」って言ってた。 本当にそう思っているのかわからないけれど、それでもいいやって思った(´・ω・`) 『堕天使ひふみんのブログ』 08月05日 01 30投稿 タイトル:酔ってた 「世界の人口はどんどん加速しとる。猛烈な勢いで人間が増えてきてるんや。 いま何人かって、軽く70億はいっとるやろ?70億やで?うちら3人やん。 もし70億人 VS 3人ってなったら、絶対にうちら負けるやん? 青葉ちゃんとひふみ先輩とウチ。これで勝てる方法ってある?いや、マジで。 これ真剣に聞いてるからひふみ先輩、答えてください」 お酒の席でハイになってるゆんちゃんが私に聞いてきた。 けっこう私はシラフだった。本当に白けてゆんちゃんの話を聞いてた。 「負ける、と思う…」 「当たり前や!どうやって勝てっていうねん!うちら、か弱い女子やん。 特に青葉ちゃんなんて小学生よりたぶん弱いし、うちも全然、力ないし。 でもあれやな、ひふみ先輩はサボテンとか投げそうやから意外に強いかも。 もし雨みたいなサボテンが世界中に降ったら世界滅亡やろ。敵なしやん」 「サボテンは雨みたいに降らせないよ…」 「嘘やん!ひふみ先輩が持ってるサボテンってでかくなったり、増殖したりするやん!」 「しない、あれは幻だから」 「幻やないし!うち、この目でみたし!ひふみ先輩ってサボテン食ってたし!!」 私は日本酒を片手に、ゆんちゃんの妄言を際限なく聞いていた。 どこかで鈴虫の鳴き声がして、それはゆんちゃんの声より耳に響いた。 秋を感じさせる鈴虫の鳴き声。「風情だなー」ってコウちゃんが言った。 色んな感傷がある秋は、哀しいことが多すぎて、私には虚しかった。 迫り来る1年の終わり、20代の終わり、来年になると私はオバサンなんだもん…。 「そんな私の気持ちがわかるのっ!!」 気がついたらゆんちゃんに叫んでた。 私もいつのまにか酔ってたみたい(´・ω・`) 『堕天使ひふみんのブログ』 08月06日 01 15投稿 タイトル:みんな可愛い ひふみは知ってる、オッサンってウザい。 満員電車に乗り込んだらゆんちゃん以上のデブ男(オッサン)2人に挟まれた。 汗臭いしべとべとしてるしむさ苦しくて最悪だった。 どっかいけ!って心で念じ続けたけれどデブ男2人は最後まで降車しなかった。 その間、私は地獄を味わい続けた…。あまりに辛くて目を瞑って現実逃避を試みた。 デブ男2人を脳内で青葉ちゃんとコウちゃんに置換しようとしけれど無理だった。 こんなキモクサいオッサン達は、どんな想像力を持ってしても女の子に変換できない。 限界を知った。オッサンはどこまでいってもオッサン。キモいものはキモい。 うざいし、不潔。心でひたすら文句を呟き続けた。言い過ぎたけれどそんな思いだった。 だから、会社についた時は心から安堵した。みんな、オッサンと違って可愛い! コウちゃんも青葉ちゃんも、大好き。ゆんちゃんもそこそこ好き。 りんさんも、怖いけれどまぁ好きな方かな。葉月さんは美人だよねー。 こんな可愛い人たちがいる職場で働けて私は幸せだって実感した。 でも、さっきまでの嫌な汗が残っていたので、トイレに行って水で顔を洗い流した。 久しぶりに自分の顔を鏡で見たらなんか自分も可愛く思えてきた。 "ひふみん”とみんなから呼ばれている私。ひふみんって、可愛い。私って可愛い。 「なに自分の顔見てうっとりしてるねん」 またゆんちゃんがどこからか沸いてきて、冷めるようなことを私に言い出した。 途端に頭が冷静になって、少し恥ずかしかった。ぽっちゃり体形のゆんちゃんよ。 あなたはデブ男のオッサンよりも遥かに可愛い。でも急に出てくるのはやめて。 誰だって人には見られたくない一面があるんだから(´・ω・`) 『堕天使ひふみんのブログ』 08月08日 00 10投稿 タイトル:メランコリー 仕事、疲れた。リーダーとかやってらんない。 アオバンとゆんちゃんは一生懸命、PCに向き合っている。 そんな二人を見ると、なぜかふてくされるような気持ちになった。 若いから情熱があるんだ。29歳の私にはない、溢れるような気概が…。 もうめんどくさくなって私は引き出しから仮眠用のクッションを取り出した。 サボテン柄のそれに顔をうずめてから、思いっきりため息をついた。 すると口元から魂が抜けていって、意識もまた身体の外に出た。 幽体離脱ってやつ。ふわふわと私は宙に浮かんでいた。 (このまま天に召されてもいいや…) 仕事をしている2人を俯瞰して、ぼんやりとそんなことを考えた。 「いいや、あかんわ!!」 急にゆんちゃんが叫んで席を立った。 誰に話しかけてるわけでもなく、パソコンの上にある変なモンスターに言っていた。 「私のデザインはあかん!おわっとる!それに比べて、このモンスターを見てみい!」 「急にどうしたんですか、ゆん先輩…」 困惑する青葉ちゃん。 ゆんちゃんはモンスターを指差した。 「おどろおどろしいやろ!しかも精巧や!こんなのを作らなあかんねん!でもうちにはできへん!」 頭を抱えて真剣に悩んでいた。どんなに追い詰められているんだろう。 青葉ちゃんは「だ、大丈夫ですよ!ゆん先輩のもうまくできてます!」と必死に励ましていた。 その後ろで手をぶらんとして、机に顔を突っ伏した私の姿。すごく惨めに見えた。 (リーダーの私がしっかりしないと…!) そう思った途端に意識を取り戻した。 ただ、言うべき言葉がすぐに出てこなかった。どうしようもなくミニサボテンを手にした。 ゆんちゃんに「こ、これあげる!」と押し付けたら「またサボテン…」と困った顔をされた。 そういえば、過去にゆんちゃんがこっそり私のミニサボテンをゴミ箱に捨てていたのを思い出した。 励ましのつもりだったのに…。今度こそ本気でやるせなくなった。もう寝よ(´・ω・`) 『堕天使ひふみんのブログ』 08月09日 22 06投稿 タイトル:夏季休暇 1 夏季休暇に突入したよー。私が勤める優良企業には夏休みがあるのだ。 それも1ヶ月。もちろん正社員だから給料は出るんだよ。こんな嬉しいことってある? なのにアオバンだけ「仕事ができなくなると暇ですね…」なんて落ち込んでた。 アオバンの人生って仕事?って突っ込みたかったけれどコミュ症の私は口をもごもごさせるだけで終わった。 ゆんちゃんは背伸びをして「思いっきり羽を伸ばすでー」と言っていた。私もそんな風になりたいなぁ。 『堕天使ひふみんのブログ』 08月09日 22 08投稿 タイトル:夏季休暇 2 「ひふみ先輩は休みに何をするんですか?」 いきなりアオバンに聞かれたから面を食らった。 何って、何をするって、そんなプライベートなこと…。 さすがの私もデリカシーのないアオバンに「この…にぶちんめ!」と叱ってやった。目をぱちくりさせてた。 無神経。ゆんちゃんは存分に遊べばいいし、青葉ちゃんはねねって友達がいるでしょ、私には何もない。 自宅に帰ればソウジロウはいるけれど、あいつはハリネズミだし会話はできない。かと言ってネットは見飽きた。 趣味のコスプレだって毎日するものではないし基本的に私の日常はからっぽなの。からっぽの私をバカにしないで。 いつの間にか私ってばイライラしていた。長い休みは嬉しいはずなのに。考えると、アオバンの言う通りかもしれない。 仕事をしていると仕事の事しか考えないからいいけれど、休みになると自分のことを考えるようになるから嫌だ。 ダメだ私。ダメだよ。サボテンを手にしたらダメ。これを2人に投げつけちゃう。どうしよう、手が止まらない。 「あ…あ…」 手先が自分の意思とは無関係に動き始めて、まさにゆんちゃんとアオバンに向かってサボテンを投げようとしていた。 光景がスローモーションになり、頭の中にいる理性的な私が語りかけてきた。 (こんなことをして何の意味があるの。怒らせるだけ、嫌われるだけ) そうだよね、一時の感情に身を任せてうまくいったことなんてないよね…。 (でも!)と感情的な私が叫んだ。 (そうやって我慢するからストレスが溜まるの!投げちゃえばいい!後のことなんて知らない!!) 決めた。私、投げる。投げちゃう。だって後に出てきたのが感情的な私だもん。仕方ないもん。 「うわああああああ」 私は大量のサボテンを青葉ちゃんとゆんちゃんになげつけた。 2人はサボテンまみれになった。ウケた(´・ω・`) 『堕天使ひふみんのブログ』 08月10日 00 06投稿 タイトル:杞憂 昨日、そんなことがあったので出社する時が不安だった。 挨拶をしても無視をされたらどうしようとばかり考えていた。 なにせサボテンを投げつけたんだ。嫌われてしまっても不思議じゃない。 でも嫌われたら職場で私の居場所はなくなってしまう。 リーダーになったばかりなのに、私はどんな顔して会社に行けばいいのだろう。 胸が苦しくてたまらなかった。はぁはぁって過呼吸みたいになった。 朝になったら昨日の感情なんて全てリセットされてしまうから、 一時の感情にまかせてサボテンを投げつけてしまった私の行動が取り返しのつかないように思えた。 いつも後悔するくせに私は学習しないんだ。やっぱり私はダメなんだよ。 もし嫌われてたら会社を辞めようと思った。 そして以前みたいに派遣の工場で誰とも関わらずに働くんだ…。 絶望にくれた私はゾンビみたいな顔をしていたんだと思う。 出社したらコウちゃんに「ぎょっ!?」って驚かれた。 もうどうにでもなれって気分。素通りして2人がいるところに向かった。 2人は早くも仕事に取り掛かっていた。私が来たことに気がついていない。 すぅと息をすってから、大きめの声で「おはよう!」って言った。かなりの勇気。 「あ、おはようございます」と青葉ちゃん。「おはようさん」とゆんちゃん。 普通だった。拍子抜けした。全然、怒ってなかった。良かったと胸をなで下ろした。 大海のように広い心を持った2人に乾杯(´・ω・`) 『堕天使ひふみんのブログ』 08月11日 00 00投稿 タイトル:人類の母 「れんたん♪れんたん♪」 青葉ちゃんがやばい鼻歌ならしててウケた。 笑いを堪えながら、もしかして練炭持ってるの?って聞いたら無視された。 瞬時に頭が真っ白になった。あの青葉ちゃんが私を無視するなんて。 嫌われたのか見下されてるのか知らないけれど、すごく落ち込んだ。 いよいよ青葉ちゃんもか…って感じ。 ゆんちゃんはとっくの前から私をなめてたけれど、 まさか後輩である2人ともから軽んじられるなんて滑稽な私。 哀しくて涙がこぼれそうになったけれどぐっとこらえた。 やり場のない哀しみを、私はサボテンのトゲを引っこ抜くことで忘れようとした。 ひたすらトゲを抜いていたらブースがトゲだらけになった。 なんか、おもろい。こんな床をどうしたら歩けるのかな。 「いたっ!」 さっそくトゲを踏んだらしくゆんちゃんが痛がってた。 仕方なくポシェットから絆創膏を取り出してゆんちゃんに渡した。 すると「あのさぁ…自分がしてること、どう思うん?」って睨まれた。 明らかに人を見下す目をしていたので私は感情を抑え切れなかった。 「そんなの、知らないし!」 子供みたいな逆ギレしちゃった。今度は、はぁ…とため息混じりに呆れられた。 我慢していたけれど涙が溢れ出てしまった。なにしてんだろ私。 そのまま一人でしばらく泣きながらトゲを抜いていた。 「ひふみ先輩、もうやめよう?」 気がついたら青葉ちゃんに後ろから抱きしめられていた。 とても心地の良い香りがした。哀しみが消え、すべてを忘れさせてくれるような。 涙は止まった。2人とも許せた。だから「ごめん」って謝った。 まさにマダム。青葉ちゃんは人類の母やで(´・ω・`) 『堕天使ひふみんのブログ』 08月12日 00 00投稿 タイトル:キュウリ畑 「あのキュウリが狙い目や」 畑には大量のキュウリがたわわに実っていた。 ゆんちゃんと私はカカシに隠れて、それらのキュウリに狙いを定めていた。 日が落ちてあたりは一面、闇の世界。 いま、私たちがしようとしていることは畑泥棒…。 マジで飢え死にする30分前だから仕方のないことだった。 人の気配が消えて、ゆんちゃんがGOサインを出した。 私は頷いて、全速力でゆんちゃんと一緒に畑を駆けた。 「やったるで…!」 罪悪感を心から払拭し、手当たり次第にキュウリをもぎ取っていった。 それらを持参した風呂敷の上にどんどん積み重ねていく。ゆんちゃんも頑張ってた。 とにかく夏で、夜なのに暑かった。 汗がだらだらと額から伝い落ちてきて、着ているシャツや風呂敷やらに染みを作った。 ひとしきりキュウリをかき集めたころ、ゆんちゃんは「もうええやろ」と言った。 風呂敷の上に積載されたキュウリたち。私とゆんちゃんはお互いに顔を見合わせた。 揺らぎのないゆんちゃんの瞳を見て私も心を固めた。もう後には引き返せないんだ。 大きな風呂敷でキュウリを包み込んでから両手で持ち上げた。重くて、身体がよろめいた。 ここで倒れるわけにもいかないので最後の気合で足に力を込めた。後は逃げるだけ。 「西の方向にいくで…!」「うん」 疾走するゆんちゃんを追って、私たちは日が昇るまで走り続けた。 …こんな夢を見たのって皆に話したら「頭の中、キュウリ畑やな」って言われた(´・ω・`) 『堕天使ひふみんのブログ』 08月14日 01 44投稿 タイトル:パジャマ デパートですごいの売ってた。サボテン柄のパジャマ。 こんなの絶対ほしいじゃんと思って値札を見ると5000円だった。 所持金は2300円くらい。無理だった。ふざけるなと怒りがわいてきた。 サボテン柄のパジャマなんて私しか買わないんだから、堂々とした値段をつけるなって思った。 店員と交渉して値下げを試みたけれど「いくらなんでもそこまで安く出来ないですよ」と断られた。 諦めて無地のパジャマ(別の店で1000円で売ってた激安のやつ)を買って家に帰った。 家に帰った後もさっきのサボテン柄のパジャマが頭にちらついて、ずっとイガイガしていた。 どうしたって無地じゃなくサボテン柄のパジャマが欲しくて、私は手でアルミ缶を握りつぶした。 青葉ちゃんに電話で相談したら『じゃあその無地のパジャマにサボテンの絵を描いたらどうですか?』 と名案が飛び出してきたのでさすがアオバンだと私は感心した。『ありがとう』と心の底から感謝した。 さっそく無地のパジャマにサボテンの絵を描きこむ作業を開始した。 繊維の生地に絵を描くのは至難だった。でも頑張った甲斐があった。 一晩かけてようやく描き終えたそのパジャマは本物に引けをとらない出来だった。私って頑張れば出来る。 嬉しくてその日はそのパジャマを来て会社に出勤した。 ゆんちゃんには「ださいなー」と言われたけれど、アオバンには「うわぁ、よく出来てますねー」と褒められた。 まんざらでもなかったよ。でも儚かった。パジャマにはうっかり水性ペンでサボテンを描き込んでいたの。 洗濯したら無地のパジャマに戻って哀しかった(´・ω・`) 『堕天使ひふみんのブログ』 08月15日 01 14投稿 タイトル:噂のぞいポーズ 私、ひふみん。今日は疲れていた。 お昼休みになっても食欲が出なくてお弁当の包みを開けられずにいた。 青葉ちゃんは一人でバクバクとサンドウィッチに食らいついてた。 どこからそんな元気が出てくるんだろうと考えたら羨ましくなって、 ため息ついでに「会社って辛いよね」と愚痴がこぼれてしまった。 こんなことを言う私じゃないのに。どう取り繕うか考えているうち、 「なんてことないですよ!」と噂のぞいポーズを見せつけられた。 眩しかった。腹が立った。だから、自分のお弁当をひっくり返した。 卵焼きしか入っていない私のお弁当箱はたいして散らからなかった。 「ひふみ先輩、このお弁当は何ですか…」 床にこぼれていく卵焼きを見ながら、さすがのアオバンも引いてた。 「卵焼き弁当、だよ。卵焼きしか入ってない、でも栄養たっぷりだから」 「そう、ですか…」 青葉ちゃんが反応に困っていて笑っちゃった。ほんと面白かった。 さっきまでの落ち込みがなくなって私は急に踊りだしたくなった。 「青葉ちゃん、見てて!」 ハイになった私は机の上に乗って、サボテンダンスを披露した。 身体中にサボテンを纏って、くるくる回りながらトゲを射出するんだ。 トゲはあらゆるところに突き刺さった。魔法だなぁって自分で感心した。 「こんなパフォーマンス、みたことないです!」 と青葉ちゃんは目を輝かせていた。その瞳に偽りがないことを確信。 まだまだ私だって現役なんだよって言えた気がした…! 『堕天使ひふみんのブログ』 08月24日 23 17投稿 タイトル:影うす 最近、社内で影の薄いひふみんだよ…。 出社しても「おはよう」と声をかけてくれる人がいないの。 というか私が来ても、みんな気がついてないみたい。 黙って席について仕事してたら「あ、ひふみ先輩いたんですね」 とお昼休みになってアオバンに言われた時はショックだった。 ゆんちゃんに至っては「ひふみ先輩は忍びの才能があるんちゃう」とか言う始末。 そして2人してくすくすと笑ってた。すごく惨めな気持ちになった…。 午後からは仕事をする気をなくして、ひたすらサボテンをいじることにした。 トゲトゲを指でつんつんしてたら指先から血がたくさん出てきた。 それが面白くて、仕事をしているアオバンに指先を見せた。 「みてみて、指から血が出たんだよ」 「そうですか…」 アオバンは笑わなかった。冷たい目をしていた。びびった。 怖くてゆんちゃんにしがみつこうとしたら、力いっぱいに振り払われた。 「なにするねん!」って睨みつけられた。 何もしないのに、ただ、怖かっただけなのに…。 行き場をなくして私は悲しみに暮れた。一人、デスクで涙をこぼした。 ずっと泣いてたら夜になって、いつの間にかみんなは帰っていた。 オフィス内は暗くてパソコンの明かりだけだった。 寂しくて私はサボテンに話しかけた。 「明日は、きっと楽しくなるよね?サボテン…」 当然、返事はなかった…(´;ω;`) 『堕天使ひふみんのブログ』 08月25日 23 10投稿 タイトル:三十路を手前にして ひふみ、29歳。もうすぐ三十路。 誰かが30代になったら立派なオバサンだって言ってた。 私もそう思っていたし、オバサンになることも受け入れるつもりだった。 でも30を手前にして心境が変わった。 振り返れば私の価値は若さと可愛さだけだった。 そのどちらもなくしてしまえば、私には何が残るのだろう。 コミュ症だって今までは若さと可愛さで周りに許してもらえていたのに、 オバサンのコミュ症なんかに、いったい誰が優しいまなざしを向けるのか。 考えるだけで、猛烈な若さへの嫉妬と老いの恐怖が私を苛めた。 オバサンになれば自分の価値がどん底にまで落ちることは明白だった。 ねねっちという“若さ”が入社してきた。 そして、青葉という”若さ”が躍進している。 既に私の居場所は追いやられつつあるんだ。 その事に気がつくと手のひらは粘つくほど汗ばんでいた。 …葉月さん、あなたは一体どういう気持ちで会社に通っているの? 『堕天使ひふみんのブログ』 08月27日 01 18投稿 タイトル:夢の中の夢の夢 今朝、寝起きの身体がいつもよりだるかった。 おかしいと思って体温を測ったら38℃もあった。 たぶん風邪。会社に電話をするとりんさんが出た。 コウちゃんじゃなくてりんさん、胃が痛くなった。 熱が出たので休みますと告げたら淡白な声が返ってきた。 「そう、お大事に」 それだけ。しかもガチャ切りされた。 私がどんなに不快な思いをしたのか、りんさんはきっと知らない。 …お布団に戻って寝転がると、天井がぐるぐると回り始めた。 遊園地にあるコーヒーカップに乗っているみたいで少しだけ酔った。 目を閉じても三半規管が揺らされている感覚があって気分が悪かった。 うなされているうちに私は眠ったんだと思う。夢を見た。 青葉ちゃんとサボテンを買いに、ホームセンターへ行く夢。 ホームセンターには色んな大きさのサボテンが並んでいた。 小さいのが好きだと青葉ちゃん。私は大きいのが欲しかった。 だから間の大きさのサボテンを選ぼうと2人で探した。 でもなかなか見つからなかった。店員に聞いても「知らん」と言われた。 適当な大きさのサボテンはどこにあるのか、コウちゃんに電話で聞いた。 『サボテンなんかない、こっちに戻ってこい』 その声は鐘みたいに頭に響いて、私はその痛みで目が覚めた。 朝で、熱なんてなかった。時刻もいつも通り。夢だったんだと安堵した。 出社すると先に青葉ちゃんがいた。「夢の中で夢を見たよ」と話しかけたら、 笑いながら「今も夢の中なんですよ」と言うものだから私はぞっとしたんだ。 『堕天使ひふみんのブログ』 09月03日 00 26投稿 タイトル:お茶会 ゆんちゃんが定期的に開催する真昼間のお茶会という名のサボり。 他の皆が見てみぬふりをするその空間に私もいつしか馴染んでいた。 そこで交わされる会話のぬるさに、ジャスミンティーの効果も相まって、 私はくらくらするほど眠くなっていた。みんなの声が遠くに聞こえた。 特製のクッキーがどうとかゆんちゃんが誇らしげに言っていて、 それに追従するように「すごくおいしですぅ!」とか媚びた青葉ちゃんの声。 バカじゃないのと心の中で毒づいて私ってひねくれてるかなぁとか思った。 でも、こうして聞いていると誰も本心でなんか話してないように感じた。 みんな上っ面の会話を取り繕うことに必死で、心の声を押さえ込んでいるんだ。 確かめるために、目を閉じながら青葉ちゃんとゆんちゃんの会話に耳を傾けた。 『あれ、ひふみ先輩寝ちゃいましたね』 『まぁ疲れてたんやろ。昨日は徹夜で仕事がんばってたみたいやし』 『へぇそうなんですか。何か溜まってる仕事でもあったんですかね?』 『リーダーやからみんなの進行管理とかスケジュール調整とかしてるんちゃう?』 『ああ、事務的な…』 『せや、創造性なんて1ミリ足りともない仕事や、それがひふみ先輩の役割』 『ちょ、ひふみ先輩が聞いてたら怒りますよ!』 『でも実際そうやからなー青葉ちゃんもそう思っとるんちゃう?』 『そんなこと、思って…る…かも』 『なに笑っとるねん』『もー笑わせたのはゆん先輩ですよー』 『リーダーではりきってるひふみ先輩ウケるわ』『一人だけ年齢いってますからねー』 …めちゃくちゃ本心の会話だった(´・ω・`) 『堕天使ひふみんのブログ』 09月03日 23 51投稿 タイトル:残暑 9月なのに今日はムンムン…激、暑い日。 会社に行ったらエアコンが壊れていて大変だった。 みんな汗をかきながら扇風機だけで業務をこなしていた。 私は暑さには強いから気にならなかったけれど、ゆんちゃんがかなり怒ってた。 「なんでこんな状況で仕事せなあかんねん!常識でおかしいやろ!常識で!」 葉月さん相手にどなっていて、ちょっと怖かった。アオバンもびびってた。 対して葉月さんは冷静だった。 「とは言ってもね、いま遅れが出るのはまずいんだよ。1日だけだ、我慢してくれないか」 「我慢できへんわ!うち長袖ですよ!?こんなの熱中症になっちゃいますやん!!」 「ドリンクを定期的に摂取すれば大丈夫だ。それに扇風機もある。長袖はめくればいい」 「うちは長袖にこだわりがあるんや!いかなる状況でも前腕は晒してたまるか!」 ぷんすかしながらゆんちゃんが戻ってきた。汗で顔中がてかっていてウケた。 どしんと椅子に腰を下ろすと「あっつ~」と言いながら扇子を仰ぎ始めた。 その様子を見たアオバンが気を利かせて、扇風機をゆんちゃんに向けた。 「ありがとうな~うち暑がりやから」 だったら暑い格好なんてしなければいいのにと思ったけれど言わなかった。 人には色んな事情があるもんね。長袖にこだわる理由を私はあえて聞かない。 そんな気遣いも知らずにゆんちゃんは私の服装をマジマジと見てきて、 「涼しげなオフショルダーやな~さすがファッションリーダーや」 からかいにも聞こえる口調でそんなことを言った。ムカってきた。 「ですねーいつもひふみ先輩っておしゃれで憧れます」 アオバンは本当にそう思ってそうで許せた。危うくサボテンを投げつけるとこだった。 しばらくして「…でもな」とゆんちゃんはどこか自信のなさげな声で言った。 「このブースにもっと涼しげな格好をした子がおらんかったっけ?」 私も青葉ちゃんも何も答えられずにいた。遠い夏の日のことは忘れたんだ。 いたような気がするし、気のせいだったような気もする。どうでもよく思えた。 ただ、開け放った窓からセミのけたたましい鳴き声だけが耳にうるさく、嫌になった…。 『堕天使ひふみんのブログ』 09月06日 00 26投稿 タイトル:ゆんちゃんのこと ゆんちゃんは利口そうで実は抜けているところがあって可愛い。 この前、3kgの減量に成功したとか言って喜んでた。 タプタプのお腹も少しは引き締まったんだって。 ダイエット方法を聞いたら「夜食を抜くこと!」と胸を張ってた。 今まで夜食に手を出していたことからして普通じゃないと思った。 聞くところによると毎晩、ポテチ一袋とメロンパンを食べてたらしい。 りんさんは「そんなの太って当然よ」と厳しいコメントをしてた。 うんうんってコウちゃんも頷いてた。私も頷いたし、青葉ちゃんは苦笑いをしてた。 みんな気を遣って言わなかったけれど、ゆんちゃんの食欲は人並みはずれてる。 以前、駅前のドーナツをみんなが差し入れに買ってきてすごい量になったことがあった。 「どうするのこれ」とりんさんが言うと、その時のゆんちゃんは自制心がまるでなくて、 「うちが全部食べます!」と手を上げて宣言をした。みんな目を丸くしてた。 その後、本当に一人で食べつくして「うまかったぁ」と丸いお腹をさすりながらゲップしてた。 完全に百貫デブじゃんとコウちゃんが呟いていたのが印象的だった。 そんなころに比べたら今はだいぶマシなのかなぁって思う。 持参してくるおやつ(クッキー)の量は減ったし、紅茶に注ぐ砂糖も4袋から2袋に減ってた。 相変わらず重量感だけはあるけれど、まだまだダイエットは頑張るらしいよ。 次の目標は常飲しているコーラをダイエットコーラに切り替えることだって、ワロ。 『堕天使ひふみんのブログ』 09月09日 23 50投稿 タイトル:反逆の青葉 仕事中の出来事…。 みんなの進捗状況を聞けずに私はおろおろしていた。 すると青葉ちゃんがそっとやってきてこう言った。 「ひふみ先輩ってかなり、どんくさいですね」 「え?」 冗談かと思ったけれど顔が笑ってなかった。 「全体的に動作が鈍いというか、見ていてめんどくさいというか。 どうしてもっと、はっきりと生きないんですか?」 「ご、ごめん…」 「謝らないでください。別に責めているわけじゃないんです。 ただどうしてかなと思って気になっただけですから」 「わ、わたしって臆病だから思ってること口にできなかったり、 口にする前に色んなことを頭で考えてしまったり、 それで、人とどう接していいのかわからなくて、ぎくしゃくしてしまうの…」 「あ、自分のことを喋る時だけは饒舌ですね。もしかして興味対象は自分だけですか? 他人と喋れないのは他人に関心がないからですよね。でも自分だけは大好きなんですよねー」 「違う…!そんなのじゃ、ないよ…」 「じゃあどういうのですか?どういう理由で進捗状況ぐらい同僚に聞けないんですか?」 社内社外共に評判上々の青葉ちゃんがいよいよ私に牙を向いた。 人は自分の地位が上がると、こうも他人を見下せるんだ…。私は恐ろしくなった。 黙り込んでると青葉ちゃんはやれやれといった様子でため息をついた。 瞬間的にイラッとした私は青葉ちゃんの耳元でこう言ってやった。 「でも青葉ちゃんって、口、臭いよね」 「!?」 効果てき面。歪んだ青葉ちゃんの顔を見てすっきりした☆ 『堕天使ひふみんのブログ』 09月09日 00 46投稿 タイトル:ゴミ屋敷 部屋がゴミ屋敷になっちゃった。 捨てるのがめんどくさくて、いや、汚くてゴミに触れられなかった。 気がついたら溜まりに溜まって、取り返しのつかない汚部屋に変貌してた。 うげぇと帰るたびに散乱するペットボトルやお菓子の袋などに気持ち悪くなる。 どうしちゃったんだろうと私って、ふと我に返ることはあったけれど現実は見ないようにした。 ソウジロウのゲージと、ベットの上だけは綺麗にしているから、そこだけが安らぎだった。 家に帰るとゴミに囲まれながらゴミの上にカップめんを乗せてゴミのような味のカップめんを啜る。 お腹を満たすためだけのもので本当に不味かった。でも、料理を作る気力なんてなかった。 「私っていつもこうだよね、どうしたらいいの、ソウジロウ…」 ソウジロウはゲージ内で、バカみたいにクルクルと歯車を回しながら走っていた。 ハリネズミはのん気でいいものだなぁって思った。 食べ終わったカップめんをゴミの山に投げ捨ててお風呂に入った。 お風呂に入った後はなるべくゴミに触れないようにしてベットにダイブした。 ようやく落ち着いたような気になる。ソウジロウはまだ歯車を回していた。変に虚しい。 もう12時を過ぎていた。寝ないといけない。寝たら明日なんだ、明日はどんな日だろう。 ぼんやり明日のことを考えても特別、新鮮なことは思い浮かばなかった。 私はいつも通り会社でみんなの進行管理とか雑務やらに従事するんだろうね。 つまらないと、一人でぼやいた。聞く人はいない。カラカラと歯車の音だけが聞こえる。 みんな、ゴミだらけになった私の部屋を見たらびっくりするんだろうなぁと思った。 『堕天使ひふみんのブログ』 09月14日 01 20投稿 タイトル:心移り なんか最近、お昼休みに誰からも誘われなくなった。 青葉ちゃんは新入社員のももちゃんに夢中で私への関心を失っているし、 みんなと席が離れたことで、ただでさえ存在感が薄かった私は空気になった。 一人って寂しい。以前までそんなことは思わなかったのにそう感じるようになった。 今日なんて酷かったよ。 ももちゃんとのスキンシップのため、私はデブ猫を抱えてみんなのブースに行った。 このデブ猫を紹介したら少しは距離も縮まると思ったんだ。でも、誰もいなかったからね。 「今日はこの会社の主を紹介するね!」と声を張り上げた私がバカみたいだった。 しーんとしたブースに私とデブ猫だけで、デブ猫は私をからかうように「にゃぁ~」って鳴いてた。 ももちゃんはみんなに誘われて食堂に行ってたんだってさ。 そうだよね、アラサーでコミュ症の私にいつまでも構ってくれるみんなじゃないよね。 別にいいんだと自分に言い聞かせた後、コンビニでサラダを買って一人で食べた。 シャキシャキのレタスをシャキシャキさせてるとコウちゃんが前に座ってきた。 「ひふみちゃん、元気?」 口の中に大量のレタスが含まれていたから何も喋れず、私はただ頷いた。 「そっか、良かった」とコーヒー牛乳のフタを開けながらコウちゃんは言った。 妙に気まずいというか、2人でいるところをりんさんに見られたらどうしようと不安だった。 でもコウちゃんが話しかけてきてくれたことは嬉しかった。 私は最後まで残しておいたサラダのプチトマトをコウちゃんにあげた。 「お、サンキュー」と言って食べてくれた。 コーヒー牛乳とプチトマトは合わないなって笑ってた。 胸がきゅっと締まるような感覚が走って、私は自分の心がコウちゃんに移っていくのを感じた…。 『堕天使ひふみんのブログ』 09月21日 23 30投稿 タイトル:ひふみの怒り 今日は1日中、仕事をしているフリをした。 フリをしすぎて本当に仕事をしているんじゃないかと自分で錯覚するほどだった。 することなかったの。何も仕事を与えられなかった。 何かの間違いだと思って葉月さんに聞いたら「何も間違ってないよ」と言われてショック。 ひたすらCGのサボテンを無意味に大量生産して1日が終わった…。 「私って会社に来ている意味あるのかな…」 就業時、ぼそっと呟いてしまって、みんなを固まらせた。 やばいと思ったけれどもう遅かった。私の顔にみんな注目してた。 額から滝汗がひっきりなしに出てきて、足元に水溜りを作り始めた。 「うわ、ひふみ先輩の洪水や!はよふかんと!」 ゆんちゃんがどこからか雑巾を持ってきて床を吹き始めた。 でも汗は止まらなくて、ゆんちゃんを困らせた。 「どんだけ出るねん!脱水症状なるで!」 何の私、いったいどうなってるの。自分のことがよくわからなかった。 頭に浮かんできたのはサボテン。 そういえば、サボテンは中に大量の水分を含んでいるんだ。 私ってもしかするとサボテンなのかな? 考えてたら一人でにやにやしてたみたい。 「きもちわるっ!」とゆんちゃんに雑巾を投げつけられた。 酷くない?鶏冠にきた私はみんなに「帰ってよ!」と叫んだ。 みんな、あっさりと帰っていった。 私は一人で水浸しになった床の掃除をした…。 『堕天使ひふみんのブログ』 09月22日 23 55投稿 タイトル:終わり 私はひふみんという。仕事をしている。 仕事をしないと生きていけない。なぜなら食べ物を買えないから。 屋根のあるところに住むのにもお金がかかる。 仕方がないんだと自分を納得させて今日も出勤。 無理やり作った擬似笑顔でみんなに「おはよう」と挨拶すると、 「おはようございます!」と、いつも一人だけ張り上げた声が返ってくる。 こんな辛い職場で本当の笑顔を振りまいている子、名を青葉ちゃんという。 彼女は入社当初から眩しかった。きらきらのオーラをまとっていた。 そんなの最初だけだろう、仕事に疲れて次第にくすんでいくんだって、 勝手にそう思っていたけれど、彼女は日に日に輝きを増していった。 今では会社の太陽みたいな存在になってみんなに慕われている。 どうしてこんな前向きに生きていけるんだろうって何度も考えた。 でも根暗な私は青葉ちゃんの気持ちを理解できなかった。 …青葉ちゃん、ゆんちゃん、コウちゃん、りんさん(ちゃん)。 周りにいる人たちは、けっこう頑張ってる。私は頑張っていない。 だってこんな暗いことを常に考えているんだもの。 今も仕事をしているように見せかけて、消しゴムのカスをぐにゅぐにゅしてるだけ。 「こういうのが一番、落ち着くんだよね…」 みんなと席が離れちゃってからサボり癖がついてしまった。 張り合う子がいないのが原因。私のせいじゃない。一人で言い訳してた。 「ひふみ先輩、一緒にご飯食べませんか」 お昼休み、いつぞやの青葉ちゃんが私を誘ってきた。 なんだか久しぶりのような気がした。一瞬、戸惑ったけれどついていった。 食堂にはみんなが集まっていて、楽しそうに雑談をしていた。 何か私も話そうかなと思ったけれど言葉が出てこなかった。 まぁいいやと思ってみんなの声に耳を傾けながらお弁当をつついた。 そういえば、私はいつもそうだったなぁと思い返した。 この職場で、ずっと変わらない私。でも、時間は経っていく。 …もうすぐ、私は30になる。 だから、今日でブログは終わり。 みんな、ばいばい。
https://w.atwiki.jp/p_ss/pages/1676.html
Side A あれから、ちゃんと言わなきゃって、何度か二人に言いかけたけど、まだ言えてない。 もしかしたら、二人が知らなくても良いコトなんじゃない? 二人が知ることで、二人の関係が崩れたら嫌だ。そんなことを考えてしまったから。 もう、本当にどうしたら良いのか分からない。 そんなある日。 急にゆかちゃんが「久しぶりに三人でお泊りしよ?」って言ってきた。 のっちもそれに賛成して、でもあたしは少し迷う。 二人と一緒で大丈夫なの? ちゃんと普通にしていられる? そんなあたしに 「最近、三人だけってあんまりなかったじゃろ?」 そう言って、あたしを説得してくるゆかちゃん。 「うん、そうだね?」 努めて笑顔で返事する。 「ヨシッ!決まり!」 ゆかちゃんは嬉しそうにガッツポーズをとって、のっちとハイタッチまでしてる。 二人ともそんなに嬉しいの? そう思ったら、あたしもなんだか楽しみに思えてきた。 そして、買出しして、のっちの家に着いて…。 今日はのっち特性カレーを作ってくれるようで、一人キッチンへ。 あたしとゆかちゃんはリビングで、なんてことない会話をしていた。 だけど…。 ゆかちゃんがソファーに座るあたしの隣に座ってきて、名前を呼ばれたと思ったら。 突然のキス。 なに? あたしが反応できないでいると、そのままキスを深くしようとするゆかちゃん。 慌ててゆかちゃんを引き離す。 「ゆかちゃん、ココのっちの部屋よ?」 「平気じゃよ。のっちまだ来ないし。それに…」 「スリルあるでしょ?」 耳元で囁かれて、思わず反応する。 「ん、ゃ…。」 「嫌なんて言わせんよ?一番最初に誘ったのはあ〜ちゃんなんだから。」 あたしはそれに何も返せなくて。 なんだかいつもと違う、強引なゆかちゃんに押し倒されて、ニッコリ笑うゆかちゃん。 「今日は私がしてあげるよ。」 そう言って、またあたしへキスしてくる。 …。 なんで? ココのっちの部屋なんだよ? のっちに見つかっちゃっても良いの? もう、のっちの事… 好きじゃなくなったの? そんなのヤダよ…。 でも、その指輪は? それをしてるってコトは、まだ好きなんよね? あたしが、そんなことを考えている間にも、ゆかちゃんのキスは深くなってくる。 拒まなきゃいけないのに、その力が出ない。 どうしたら良いのか分かんないよ…。 しかも、そこに聞こえてきた声がさらにあたしを後悔へと追いやる。 「ゆか、、ちゃん?」 それと同時にゆかちゃんの唇が離れて、ハッとして声がした方を見ると…。 のっちがお皿を持ってゆかちゃんを見ていた。 「何してるん?」 「何って、キスじゃけど?」 サラッとそう言うゆかちゃんは、見つかってしまったことを気にも留めていない。 あたしは慌てて体を起こして 「っ、のっち!違うんよ!ゆかちゃんは何も悪くないんよ!」 あたしの声に、こっちへ顔を向けるのっち。 のっちは何も言ってくれない。 酷いよね? のっちとあんなことして、ゆかちゃんともして…。 「悪いのは…全部…あたし、だから…。」 二人のこと裏切って…。 最低だね…。 「悪いのは、あ〜ちゃんなの?」 のっちの少し低い声が耳に響く。 あたしが頷くと、持っていたお皿を置いて、あたしの前にやってくる。 「それじゃあ、ちゃんと罰は受けてもらわんと…。」 …もう覚悟は、出来てる。 あたしを見下ろすのっちの表情が、一瞬、笑った気がした…。 やっぱり、遅かった…。 堕ちたものは、もう、戻れない…。 —つづく—