約 115,900 件
https://w.atwiki.jp/kawayui1127/pages/24.html
10月11日。学園祭まであと4日。 私はいつも通り、部室へ向かいます。 梓「ふう・・・」 部室へ来るときはいつも私が最初で、先輩達が来るまで楽器をチューニングしています。 ガチャ 律「よっ!あ~ずさ!!」 澪「遅くなってすまないな」 紬「こんにちわ。梓ちゃん」 そして、走るような足音が聞こえました。たぶん、あの人だな・・・。 唯「あ~ずにゃん!」 梓「にゃ!?」 唯先輩はいつも私に抱きついてきます。 梓「離れてください!唯先輩」 唯「あずにゃん分補給完了~」 相変わらず、あずにゃん分というものがナゾでしょうがないです・・・。 梓「今日こそ、練習しますよ!」 唯律「え~。ティータイムがいいよ~」 梓「今日こそ、練習です!」 と私は言うけれど、滅多に練習はしません。文化祭まであと4日しかないのに・・・。 澪「さて、文化祭で演奏する曲はこれでいいか?」 紬「いいんじゃないかしら?」 梓「唯先輩。律先輩。戻ってきてください~」 唯律「ほげ~~~~~」 澪「どいててくれ。梓」 澪先輩が持ち出したのは、アンプでした。これを倒れている唯先輩と律先輩の前に置きました。 梓「澪先輩・・・。まさか・・・」 そのまさかでした。澪先輩はベースをアンプにつなげて弾きました。 唯律「うぐ・・・」 なんとか唯先輩と律先輩が復活し、軽く音あわせをして今日の部活は終わりました。 翌日。10月12日。文化祭まであと3日。 梓「さて・・と・・・」 学校へ行く準備を済ませ、家を出ました。 憂「梓ちゃ~ん」 梓「あ、憂。あれ?唯先輩は?」 憂「え?唯先輩って、誰のこと?」 梓「え・・・?」 憂「唯先輩って誰?梓ちゃんの知り合い?」 梓「え・・・?」 私の頭の中は真っ白になりました。 梓「唯先輩だよ。いつも一緒でしょ?」 憂「私は行くときは一人だよ?梓ちゃんと会うまでは」 梓「何を言って・・・?」 憂「まだ寝ぼけてるんじゃないの?何か変だよ?」 梓「本当に唯先輩のことが分からないの?憂の大好きなお姉ちゃんじゃん」 憂「私にお姉ちゃんなんていないよ?」 梓「え・・・?」 憂からとんでもない言葉が出ました。夢なら覚めてほしいと私は思いました。 とりあえず、私は唯先輩の教室へ行ってみました。 梓「唯先輩いますか?」 澪「ん?どうしたんだ?梓」 梓「唯先輩を・・・」 澪「唯?」 梓「はい。唯先輩を・・・」 澪「唯って誰だ?」 梓「へ?」 澪「律~。唯って知ってるか?」 律「唯?誰だ?それ」 梓「そん・・・な・・・」 そして、唯先輩の席を見ました。でも、そこには机すらありませんでした。 澪「どうしたんだ?梓。何か変だぞ?」 梓「いえ・・・失礼します」 私は教室から飛び出しました。 梓「どうなっているんだろう・・・。唯先輩がまるで最初からいなかったみたいに・・・」 私が考え事をしていると、携帯が鳴りました。 梓「この番号・・・」 番号を見ると、唯先輩でした。どうなっているんだろう・・・? 梓「もしもし」 唯「もしもし~。あずにゃん?聞こえてる?」 梓「はい。聞こえてます」 唯「聞いてほしいことがあるんだ。落ち着いて聞いてね」 梓「はい」 唯「あずにゃんは今、別世界にいるみたいなんだ」 梓「別の世界・・・?」 唯「憂から聞いたんだけどね。あずにゃんは今、私とは別の世界にいるらしいんだ」 私は、言葉の意味がわかりませんでした。 梓「どうすれば、帰れるんですか?」 唯「そうだね。家に帰ったら、PC開いて。憂から直接聞けると思うよ」 梓「わかりました」 唯「じゃあね。戻ってきてね。あずにゃん・・・」 梓「・・・・・・」 別の世界にいると唯先輩は言っていました。そして、憂から聞いたとも言っていたような。 梓「とりあえず、憂と連絡を取らないと・・・」 家へ帰って、自分の部屋にあるPCを起動しました。 梓「あれ?」 暗い画面から変わらないため、不調かな?と思いました。 梓「カーソルが・・・」 よくみると、左上にカーソルがありました。そして、文字が表示されました。 UI・H>見えてる?梓ちゃん 文字の下らへんに憂の画像がありました。恐らくこれが見えてるかということでしょう。 AZUSA>見えてるよ UI・H>お姉ちゃんから聞いたと思うけど、今の梓ちゃんは私達とは別の世界にいるんだ。 AZUSA>うん。唯先輩から聞いたよ UI・H>よかった。まず、何で梓ちゃんが別世界に飛ばされたか言うね。 AZUSA>うん・・・。 UI・H>原因は、梓ちゃんそのものなんだ。 AZUSA>え・・・?冗談でしょ? UI・H>冗談じゃないよ。元は梓ちゃんが原因。 AZUSA>元は? UI・H>うん。梓ちゃんはさ、お姉ちゃんにちょっと鬱陶しいと思ってなかった? AZUSA>それは・・・ 確かに私はちょっと鬱陶しいと思ってました。毎日ペタペタ引っ付いてくるので。 UI・H>それをお姉ちゃんが感じ取って、梓ちゃんを別の世界に飛ばしたんだと思うよ。 AZUSA>唯先輩が・・・ UI・H>元の世界に戻るにはね・・・ AZUSA>うん・・・ UI・H>過去に戻って、これを撃てばいいよ。 AZUSA>これって・・・ 銃らしき画像が見えました。 UI・H>過去に戻って、これをお姉ちゃんに撃てばいいよ AZUSA>これを・・・? UI・H>大丈夫。お姉ちゃんが死ぬわけじゃないから AZUSA>どうやって、過去に戻るの? UI・H>今から出す質問に答えてね。YESならエンターキーを。NOならそれ以外を押してね。 AZUSA>何か、軽くスルーされた気が・・・ UI・H>あなたは、今の世界の軽音部より、元の世界の軽音部の方が好きですか? AZUSA>YES UI・H>あなたは、私の話を聞いて、お姉ちゃんを恨んだりしましたか? AZUSA>NO UI・H>最後の質問だよ。あなたは、お姉ちゃんの事が好きですか? AZUSA>YES UI・H>質問はこれで終わりだよ。 AZUSA>・・・・ UI・H>準備はいい? AZUSA>大丈夫だよ・・・。 UI・H>目を閉じてて AZUSA>分かった そして、私は目を閉じた・・・。 梓「ここは・・・?」 憂「目が覚めた?梓ちゃん」 梓「憂・・・」 憂「元の世界の私だよ」 梓「・・・・」 憂「長居は出来ないんだ。行こう」 梓「行こうって、どこに?」 憂「お姉ちゃんの元に」 案内された場所は、私の部屋でした。 梓「ここって・・・」 憂「梓ちゃんの部屋だよ。分かると思うけど」 梓「足音が聞こえる・・」 憂「隠れて!」 私と憂はベッドの下に身を潜めました。 ガチャ 唯「あずにゃん・・・。なら、私はいないほうがいいんだね・・・」 梓「唯先輩・・・」 憂「タイミングは、梓ちゃんに任せるよ。お姉ちゃんがいなくなるまでに撃てばOKだから」 梓「分かった・・・」 銃口を唯先輩に向けました。唯先輩は、こちらに気づいていません。 すると、声が聞こえたような気がしました。 梓『ねぇ、私。答えてよ』 梓「え・・・?」 梓『大丈夫。時は止まってる』 梓「君は・・・」 梓『変なこと聞くなぁ。私は君だよ』 梓「何の用?」 梓『君の意思を再確認しようと思ってさ』 梓「・・・・」 梓『君は、憂の最後の質問にYESと答えたよね?』 梓「うん。そうだけど」 梓『何で?鬱陶しいと思ってたんじゃないの?だから唯先輩が私を別世界に飛ばしたんじゃないの?』 梓「確かに思ってたけど、いなくなってわかったんだ。私には唯先輩がいないとダメなんだって・・・」 梓『・・・・・・』 向こうの私は、こちらの目を見ていました。 梓『意志は固いみたいだね。石よりも、ダイヤモンドよりも』 梓「・・・うん」 梓『それを聞いて安心したよ。じゃあね』 向こうの私は姿を消し、銃口を唯先輩に向きなおしました。 梓「・・・行くよ。憂」 憂「うん」 私が引き金を引こうとした時でした。 梓「・・・!」 突然、意識が飛びました。もう・・・ダメなのか・・・。 最後の力を振り絞り、引き金を引き、私の意識は失いました。 薄れゆく意識の中で、見えたのは、唯先輩に良く似た姿だったような気がします。 梓「・・・・・・!」 目が覚めると、私はベッドで寝ていました。横を見ると、澪先輩がリンゴの皮を向いていました。 梓「澪先輩・・・」 澪「大丈夫か?梓」 梓「はい。なんとか大丈夫みたいです」 澪「そうか。少し待っててくれ。みんなを呼んでくる」 梓「分かりました」 ガラガラ 律「よっ!元気そうだな」 紬「大丈夫?梓ちゃん」 梓「はい。・・・あ・・・」 唯「どうしたの?あずにゃん」 梓「いえ・・・何でもないです・・・」 どうやら、元の世界に戻ったみたいです。やっぱり、これでこそ軽音部だな。と思いました。 澪「じゃあ、先に行ってるぞ?唯」 唯「うん。じゃあ、後でね~」 澪先輩たちは出て行きました。 唯「戻ってこれたね。あずにゃん」 梓「はい。おかげさまで・・・」 唯「私があずにゃんを別世界に飛ばしたなんて、信じられないでしょ?」 梓「そうですね。そんな力があるなんて思いませんでした」 唯「元からはないけどね。あのときに芽生えたとでも行っておこうかな」 梓「すいませんでした。唯先輩に悲しい思いをさせて」 唯「そうだねぇ~。あのときは悲しかったかな。あずにゃんがそんなことを思ってたと思わなくてさ」 梓「でも、今は違います。前の私とは違うんです」 唯「それを聞いて安心したよ。ありがとうね」 梓「唯先輩・・・」 ギュ 唯「あずにゃん分補給~」 梓「まったく・・・何なんですか?その成分は・・・」 唯「私のエネルギーみたいなものです!」フンス 梓「でも、今は許してあげますよ。迷惑かけましたから・・・」 相変わらずの唯先輩でした。やっぱり、軽音部は一人でも欠けたら成立しないんだなと思いました。 そして、私は唯先輩に抱かれる中、眠りに付きました。 ※BADENDはつっこみどころ満載のため、表示いたしません。 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/yuiazu/pages/1926.html
梓「唯先輩……」 唯「あずにゃん?」 梓「どこにも……行かない……で……」 唯「あずにゃん…」 唯「大丈夫だよ」 唯「私はずっとそばにいるから」ナデナデ 梓「私…ずっと…」 梓「唯先輩の…そばに…いるから……」 梓「嫌い…に…ならないで……」 唯「ならないよあずにゃん」 梓「唯…大好き……」 唯「えへへ~」 唯「私も大好きだよ梓」 チュ 梓「えへへ…」 唯「あずにゃん…」 梓「唯先輩?」 唯「ずっと…一緒に…いようよ」 梓「ずっと一緒ですよ」 唯「いなく…なったら…やだから…」 梓「いなくなりませんよ」ナデナデ 唯「あず…にゃん…大好き…」 唯「だから…ずっと…」 梓「一緒ですよ」 梓「私も唯先輩の事が大好きですから」 チュ 唯「えへへ…」 名前 感想/コメント: すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/yuiazu/pages/432.html
「好きです、唯先輩」 夕暮れの帰り道、私は唯先輩にそう告げた。 全く緊張しなかったと言えば嘘になるが、意外にあっさりと自分の気持ちを伝える事が出来た。 「どうして…」 つい先刻までの笑顔が消え、唯先輩は悲痛な声で呟いた。 「どうして、そんな事を言うの?」 唯先輩は今にも泣き出しそうな顔をしていた。 その悲しげな表情に思わず臆しそうになる私だったが、その気持ちを振り払うように強くはっきりと告げた。 「どうしても何もこれが私の気持ちだからです」 私の言葉に、唯先輩は顔を伏せ静かに首を振る。 「駄目だよ、あずにゃん…私、私は…」 「唯先輩…」 私の告白のせいで唯先輩が苦しんでいる、その事実に私の胸は張り裂けそうになる。 けれど…。 「何度でも言います、私は唯先輩が好きです」 私は言葉を紡ぎ続けた。 私の愛する人の為に、私を信じて送り出してくれた人の為に、そして私自身の為に。 ―それは、一昨日の事だった。 その日、私は学校の屋上にいた。 授業が終わる頃、大事な話があるからと私は憂に呼び出されていた。 「…」 今、私の目の前には憂が居る。 こちらに背を向けたまま、夕暮れが迫る空をぼんやりと見上げていた。 「…」 暫くそうして空を見上げていた憂だが、やがて何かを決心した様に私の方へ向き直り口を開いた。 「ねぇ、梓ちゃん」 「ん…どうしたの、憂?」 「梓ちゃんってさ…お姉ちゃんの事、どう思ってる?」 いきなりの問い掛けに、私の心臓はドクンと音を立てて飛び跳ねた。 「ど、どうって…ちょっとだらしない所もあるけど、良い先輩だと思ってるよ」 私は少し焦りながらそう答えた。 「そう言う意味じゃなくて…ね、わかるでしょ?」 「そ、それは…」 急速に顔が熱くなっていくのが自分でもわかる。 確認はできないが、きっと私の顔は茹蛸の様に真っ赤になってるに違いない。 「あはは… うん、その反応でわかっちゃったよ」 全てを見透かした様に憂がそう言った。 「憂…恐ろしい子」 「…でね、梓ちゃんにお願いがあるの」 「お願い?」 私が聞き返すと、普段はあまり見せない真剣な表情でこう言った。 「その気持ちが本物なら告白して欲しいの…お姉ちゃんに」 「え…」 憂の突拍子もない言葉に私は一瞬、唖然となる。 「な、何の冗談よ?」 「私、真剣だよ」 変わらず真剣な表情でそう言い放つ。 その表情を見れば、先刻の言葉が冗談ではないのは明白だった。 何よりも憂がそんな冗談を言う筈がない事は、私が一番良く知っていた。 だって、憂は…。 「憂…だけど良いの?」 「何が?」 「何がって、憂は唯先輩の事…」 「うん…私も好きだよ、お姉ちゃんの事」 当然の様にさらりと言う。 「なら、どうして?」 「私の好きは…梓ちゃんの好きとは違うものだもん」 「…違うの?」 「違うよ、お姉ちゃんの事は大好きだけど、キスしたいとかエッチしたいとかは思わないもの」 「エッ…!わ、私だってそんな事…!」 「考えた事ない?」 「うっ…」 「ふふふ、梓ちゃんって本当にすぐ顔に出ちゃうよね」 憂がニコニコしながら言う。 「む…悔しいけど反論出来ないのが痛い」 「そう言う事だからお願い…ね?」 口調は軽いが、その表情は先程の真剣なものに戻っていた。 「ちょ、ちょっと待って… 憂の気持ちはわかったけど、だからって何で私が唯先輩に告白しなきゃいけないの?」 「…」 私の反論に憂は無言のまま顔を伏せる。 「憂?」 「…時間がないの」 今にも消え入りそうな小さい声で、憂がそう呟いた。 「え?」 「ねぇ、梓ちゃん…」 「憂?」 「手が届かなくなってからじゃ遅いんだよ?」 その言葉の意図が掴めない。 手が届かなくなってからじゃ遅い?一体、何の事を言ってるんだろうか。 「憂、それって一体…」 「お姉ちゃん」 私の言葉を遮り、俯いたままで憂が言う。 「お姉ちゃんには、もう時間がないの」 「時間がない?」 唯先輩に時間がない?一体、どう言う意味だろう? 卒業の事を言ってるのだろうか?それとも、まさか何処かへ転校してしまうとか? 色々な憶測が私の頭を駆け巡ったが、どれも今一つピンと来なかった。 「ねぇ、憂… 唯先輩に時間がないってどう言う事なの?」 「…」 憂は無言のまま顔をあげる、その表情は悲愴な色に満ちていた。 「お姉ちゃんね、もうすぐ何もかも忘れちゃうかも知れないの」 「!?」 「先天性のものらしいんだけどね…」 再び顔を俯かせ、憂が静かに話し始めた。 「お医者さんが言うには、恐らく卒業するまで持たないだろうって…」 「何よそれ…」 「脳の萎縮が急速に進んでるらしいの… 少しづつ、だけど確実に、お姉ちゃんの記憶が失われていくって…」 あまりにも突然の告白に私の頭は混乱する一方だった。 「どうする事も出来ないの?」 私の問いに、だが憂は首を横に振る。 「ただ黙って見てるしかないって言うの!?」 憂は答えなかった。 「唯先輩がまさかそんな…」 「…」 「酷いよ…あんまりだよ…!」 「仕方ないんだよ、私達にはどうする事も出来ないんだから」 「仕方ないってそんな言い方…!」 ないじゃない! そう言い掛けた私だったが、憂の顔を見て言葉を失った。 「…」 必死で涙を堪える憂。本当は泣き出してしまいたい筈。けれど泣かない。 それは、私に伝える為。泣いても仕方ない。今、私達がやるべき事はそんな事じゃない。 憂の表情が私にそう言っていた。 「ごめん、憂…」 「ううん、良いんだよ」 「憂…」 「梓ちゃんが怒ってくれて嬉しいよ… だって、それだけお姉ちゃんを想ってくれてるって事だから」 涙交じりの笑顔でそう言った。 「だけど、唯先輩の知らない所でそんな事になってるなんて…」 「知ってるよ」 「え?」 「お姉ちゃんは全部知ってるんだよ… もうすぐ自分が記憶を失ってしまう事も、それを止める方法がない事も」 「嘘…でしょ?」 「…」 憂は答えなかったが、その表情はそれが真実である事を語っていた。 「じゃあ、何? 唯先輩は自分がそんな状態だって知りながら、いつもあんな風に明るく笑ってたって言うの?」 「うん…それが、お姉ちゃんなんだよ」 「いつから知ってたの?」 「三年前かな、高校に入る少し前だよ」 「…」 言葉が出て来なかった。 私の記憶の中の唯先輩はどんな時も笑って、そんな様子など億尾にも出さなかったから。 「お姉ちゃんね、いつも口癖の様に言ってた事があるんだ」 「唯先輩…何て言ってたの?」 「例えどんな結末が待っていても逃げたくない…って」 「…」 その言葉にはどれ程の決意が込められていたんだろうか。 「でもね…逃げちゃったんだよ、お姉ちゃん」 「逃げたって、何から…?」 「梓ちゃんだよ」 「わ…たし?」 「お姉ちゃんは梓ちゃんの事が好きなんだよ」 「え…」 その言葉で、私の思考は瞬間的に停止した。 「勿論、それは…私のお姉ちゃんに対する『好き』じゃなくて、梓ちゃんがお姉ちゃんに対して抱いてる『好き』って気持ちの事だよ」 憂がそう言って念を押す。 「唯先輩が私を…?」 「だけど、お姉ちゃんからはその気持ちを絶対に伝えない、伝えられないの…何故かはわかるよね?」 唯先輩は自分の置かれている状況を理解している。 つまりは近い将来、自分がどうなってしまうかを知っていると言う事だ。 「唯先輩…」 「私が梓ちゃんにお願いしたのは、つまりそう言う事なんだよ」 「…」 「このままじゃお姉ちゃんは絶対に後悔する… その事自体いずれ忘れてしまうとしても、私はお姉ちゃんにそんな後悔をして欲しくないの」 「憂…」 「梓ちゃん… 私のお願い、聞いてくれないかな?」 そう言って、憂は私を見つめる。 今にも泣き出しそうな、けれど強い意志をその瞳に宿して。 「答えは一つしかないよ」 そう言いながら、私は憂の体をそっと抱きしめた。 「えへへ… 抱きしめる相手が違うよ、梓ちゃん」 「良いんだよ、憂… これは、今までずっと頑張って来た憂へのご褒美だから」 「梓ちゃん…」 「後は私に任せて…ね?」 「梓ちゃん、お姉ちゃんを幸せにしてあげてね」 「うん、約束するよ」 私は静かに目を閉じ、その意志を固めた。 「唯先輩」 私の呼び掛けに、俯いて黙り込んでいた唯先輩が顔を上げる。 「ずっと、我慢してたんだよ? 諦めようとしてたのに…どうして?」 そう言って、唯先輩は悲痛な表情で私を見つめた。 「悲しませてごめんなさい… だけど、この想いだけは絶対に譲れません」 「唯先輩、貴女が好きです」 三度目の告白。譲れない。諦めない。絶対に。 「ずるいよ、あずにゃん…」 「好きな人にそんなに求められたら… もう我慢なんて出来ない、諦める事なんて出来ない」 そして、唯先輩が一際大きな声で叫ぶ。 「私だって、大好きなんだもん!」 それはきっと魂からの叫び、唯先輩がずっと抑えてきた想いを解放した瞬間だった。 「我慢する必要なんてないですよ」 私は唯先輩の震える肩に手を掛け、そしてゆっくりと抱き寄せた。 「あずにゃん…」 気付けば、お互いの息が掛かりそうな距離。 間近で見る彼女の顔は、いつも以上に綺麗に見えた。 「唯先輩…」 彼女の全てが私を釘付けにする。 そっと彼女の頬に手を触れる、そして引き寄せられる様に唇を重ねた。 『…』 唯先輩は少しも抗う事なく、私のキスを受け入れてくれる。 『ん…』 実際には数秒の事かもしれないが、私には永遠に感じられたその時間。 私達は唇を離し、無言のまま見つめ合う。 『…』 そして、どちらからともなく再び唇を重ね合わせた。 「あずにゃん、今日の事は忘れてくれないかな」 二度目のキスを交わした少し後、唯先輩が徐にそう言った。 「そんな勝手な言い分を私が許すとでも思いますか?」 「ですよね~」 私の答えに唯先輩は苦笑する。 「折角、こうして想いが通じ合ったのに… 唯先輩、本当は私の事あまり好きじゃないんですか?」 「ううん、大好き」 見事に即答だった。 「それなら、何も問題ないじゃないですか」 「…」 唯先輩は答えない、先刻の様に黙って俯くだけだった。 「唯先輩」 私は唯先輩をそっと抱きしめ、自分の決意を口にした。 「絶対に忘れさせませんから」 私の言葉に唯先輩が呆然と呟く。 「あずにゃん、何で…?」 「病気の事、憂から聞きました」 「そっか… 知ってたんだ、あずにゃん」 唯先輩はそう呟くと、ゆっくりと私から離れようとした。 「唯先輩?」 それを追って手を伸ばすが、唯先輩は拒絶する様にその手を振り払う。 「ありがとう、あずにゃん…だけど、やっぱり駄目だよ」 「何が駄目なんですか?」 「あずにゃんを悲しませたくないもん」 「…」 「嬉しかったよ、あずにゃんが好きだって言ってくれて」 「…」 「今、すっごく幸せな気分… だからね、このまま終わりにしよ?」 「…」 「私達にとって、それが一番幸せな事なんだよ」 「…」 「だから…」 「幸せですか?」 「え…?」 「唯先輩は本当にそれが幸せだって言うんですか?」 「うん、幸せだよ」 「じゃあ、どうして唯先輩は泣いてるんですか?」 「え…」 私の言葉を受け、反射的に頬を拭うがもう遅い。 唯先輩は泣いていた。 私を必死に諭す間、ずっとずっと泣いていた。 「本当に嘘が吐けない人ですね、唯先輩は…」 「こ、これは嬉し涙だよ!」 「流石にそれは苦しいです」 「うぅ…」 「そんな悲しそうな泣き顔で『幸せ』を連呼されたって、全く説得力ないですよ」 「…」 唯先輩は返す言葉を失くし黙り込む。 「唯先輩」 「なぁに、あずにゃん?」 「私の一番の幸せは唯先輩とずっと一緒に居る事です」 「あずにゃん、ずるい」 「ずるくて良いんです! 信じてください、私は絶対に悲しんだりしませんから」 「私があずにゃんの事を忘れちゃっても?」 「忘れさせないって言ったでしょ?」 「無理だよ、絶対に忘れちゃうよ」 「忘れたら憶えさせますよ」 「また忘れちゃったら?」 「そしたら、また憶えさせます」 「堂々巡りになっちゃうよ?」 「堂々巡りでも良いんです」 ここまで来たら意地の張り合いだ。 「もぉ…あずにゃんってば頑固なんだから」 頬を膨らませながら唯先輩が言う。 「頑固で良いんです、私は私の道を行くんです!」 負けじと私も言い返す。 暫くおかしな睨み合いが続いていたが突然、唯先輩が頬を綻ばせた。 「…ぷぷ」 「唯先輩?」 「あ~ずにゃ~ん!ありがと、大好きだよ♪」 そう言って、抱きついて来る唯先輩を私も優しく抱き締め返す。 「私も大好きですよ」 「覚悟しててよ、あずにゃん…こうなったらもう、手加減無しで愛しちゃうからね!」 「望むところです、唯先輩♪」 夕暮れの帰り道に、寄り添いあった二つの影が伸びていた。 病気設定がいかせてない 発祥後の話がないと茶番 -- (名無しさん) 2010-12-29 15 16 17 ↑正論だが・・・細けぇこたぁどうでもいいのよ -- (ダメですぅ~) 2011-01-04 23 06 27 長編だったら良かった… -- (名無しさん) 2011-12-13 21 48 24 これの動画版見て泣いたなぁ…動画の方はハッピーエンドだったけど -- (名無しさん) 2012-09-03 21 28 03 名前 感想/コメント: すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/yuiazu/pages/1555.html
「――唯先輩っ!!」 「ふわふわ時間」の2番が終わったちょうどその時。 バン、と大きな音を立てて乱暴に部室のドアが開かれると同時に大声で叫ばれ、 私と友人は驚いて振り返りました。 唯先輩もさすがに少し驚いた様子で演奏をストップさせましたが、 「――あずにゃん、おひさ♪」 血相を変え、すっかり息を切らせて部室に飛び込んできたその人物 ――梓先輩の姿を確認すると、ピースサインをしながら顔をほころばせました。 「唯…先輩…なんでいるんですか…」 よほど急いで来たのか未だ呼吸が落ち着かない梓先輩は、 笑えばいいのか怒ればいいのか、はたまた泣けばいいのか分からないといった様子で、 そのどれも抑え込もうとして抑えきれずに少しずつ入り混じったような、 とても複雑な表情を浮かべていました。 「いきなり暇になっちゃったから遊びに来たんだよ~♪ あずにゃん、私の演奏、ちゃんと分かってくれたんだね」 「…当たり前です。私が、唯先輩の音を聞き間違えるわけがないじゃないですか…!」 あっけらかんと言う唯先輩に、 梓先輩は今にも泣き出しそうな笑顔で言いました。 しかし零れ落ちそうな何かを誤魔化そうとしたのか、すぐに「きっ」と眉を吊り上げます。 「…じゃなくて! まだほとんどのクラスでHR中なのにあんな大音量で演奏して、何考えてるんですか!」 「いやー、あずにゃんにも聞こえるかな、と思って…」 「確かに聞こえましたけど、少しは迷惑ってものを考えてください!怒られますよ!」 「もう卒業したからモウマンタイ!」 「大問題です!在校生に卒業生が迷惑かけてどうするんですか! まったく、大学生になったんですからもう少し自覚ってものを…!」 「もー、久しぶりに会ったのにあずにゃんのいけずぅ。そんな子には…こうだっ!」 「にゃあっ!?」 いきなり、唯先輩が梓先輩にがばっと真正面から抱きつきました。 なるほど、これが噂の唯先輩の抱きつき…。 しかし梓先輩、「にゃあっ」っていうリアクションはどうなんですか。 だから「あずにゃん」って呼ばれるのでは…。 なんて思ってるうちに頬ずりモードに突入している唯先輩。 評判に違わぬスキンシップの激しさです。 でも、唯先輩のあのぷにぷにしたほっぺたはちょっと気持ちよさそうです。 「あずにゃん分補給~♪」 「ちょっ!や、やめてください!後輩の前で恥ずかしいです!」 「やーだ。せっかくあずにゃんが寂しがってると思って会いに来たのに、 あずにゃんってば怒ってばっかりなんだもん。少しは素直になりなさい!」 「誰のせいですか!っていうか、寂しがってなんかいません!」 「え~、ホントにぃ~?」 「っ…ほ、本当ですっ!」 「ふ~ん…まあいいけどね。 後輩ちゃんたちにも私のあることないことしゃべってくれちゃったみたいだし、 お詫びとしておとなしくあずにゃん分補給させたまえ!」 「あることないことって、私はあったことしか話してません!いいから離れてください!」 「もう、つれないんだから…ねえ、あずにゃん?」 「…何ですか?」 しばらく抱きあったまま――パッと見は唯先輩が一方的に抱きついているようでしたが、 梓先輩も口では文句を言いながら、その実嬉しそうに頬を染めつつ、 ごくごく控えめに唯先輩の背中に手を回していたのを私は見逃しませんでした―― 言い合いをしていた2人でしたが、唯先輩が急に改まったように名前を呼び、 強がっていた梓先輩も、それを不思議に思ってか語気を弱めて返事をしました。 「大きくなったね、あずにゃん」 「…はい?」 その腕に抱き締めたままの梓先輩の頭を優しく撫でながら唯先輩が言った言葉は、 どちらかというと田舎のおばあちゃんが久々に会った孫に言う定型文のようで、 約1ヵ月ぶりに会った後輩に言うものとしてはいささか的外れなように感じました。 梓先輩もそれは同じだったようで、少し呆気にとられたような様子。 「大きくなった、って…そんなすぐに身長は伸びませんよ」 「違うよ、そういうことじゃなくてさ」 怪訝そうな梓先輩の声に、唯先輩は軽く首を横に振りました。 「さっき入ってきた時、あずにゃんが大きく見えたんだよ。 それはきっと、ひとりきりにさせちゃって色々と大変だったはずなのに、 新勧ライブをバッチリ成功させて、新入生を2人も――私たちの倍も入れて、 そうやってちゃんと部員を揃えて、軽音部を続けさせた ――ううん、新しい軽音部を立派に作り上げた、頼もしい部長さんの姿だったんだね」 唯先輩に言われて梓先輩は一瞬ハッとしたような表情を見せましたが、すぐに俯いてしまい、 そして呟くようなか細い声で、唯先輩の言ったことを否定しました。 「…それは、唯先輩の気のせいです」 「ふぇ?」 「私は、全然頼もしくなんかないですよ。 部員が揃ったのは憂と純が自分から入ってくれたからで、 新勧だってあの2人がいたからどうにかなったんです。 普段だって、憂は人当たりが良くて何でもできるし、 純は私なんかよりずっと後輩との接し方に慣れてて…。 私は分からないことだらけで、色々手探りで、 部長としてちゃんとやれてるのか、どうすればいいのか…全然分からなくなって…! 受験生になるタイミングで入ってくれた憂、ジャズ研から移ってくれた純、 入部してくれた後輩たち…みんなのためにも頑張らなきゃいけないのに…! 先輩たちの大切な軽音部を、ちゃんと守らなきゃいけないのにっ…!」 梓先輩の声と身体は、途中から震えていました。 思いがけず露わになった、その胸の内に抱えていた悩み、不安。 それは、私たちにはその存在を今まで欠片ほども感じさせなかったもので、 だから突然梓先輩の口から吐露された言葉には、驚きと戸惑いを感じました。 「あずにゃん」 唯先輩は最初こそ僅かに驚いた様子を見せたものの、すぐに慈愛に満ちた微笑を浮かべると、 未だその腕の中にある梓先輩の身体をより力強く自らの身体に引き寄せ、 それまでよりもしっかりと包み込みました。 梓先輩はそれに抵抗する事はなく、むしろ自らの両腕をさっきまでよりもあからさまに 唯先輩の背中に回し、自分より僅かに背の高いその身体に縋りつきました。 「大丈夫。あずにゃんは立派な部長さんだよ」 「…適当なこと言わないでください、まだ活動の様子も見てないのに…」 「適当なんかじゃないよ。ちゃんと分かるよ。 だって私は2年間ずっと、あずにゃんのことを見てきたんだから」 「唯…先輩…でも…」 「憂と純ちゃんが軽音部に入ったのは、あずにゃんの強い想いがあったからだよ。 軽音部を想うあずにゃんの真剣な気持ちが2人を動かしたんだよ。 それに、後輩ちゃんたちがライブに感動して入部してくれたのだって、 演奏を通じてあずにゃんの想いがあの子たちの心に伝わったからだよ。 あずにゃんの想いこそが人を集めて、それで今の軽音部が出来上がって。 私たちの軽音部から『あずにゃんの軽音部』になって、ちゃんと守られてる。 だからこの軽音部の部長さんにふさわしい人は、あずにゃん以外にはいないよ!」 「そう…でしょうか…」 「そうだよ。それに、さっき後輩ちゃんたちも話してくれたよ。 あずにゃん部長はすごくよくしてくれる、って。 優しくて面倒見もいいし、しっかり者でギターも上手いし、 部員全員のことをいつもよく考えてくれてる、とっても素敵な部長さんだって。 だから、何も心配はいらないよ」 梓先輩は縋りついていた腕の力を少し緩め、唯先輩との間に少し隙間を作ると、 その目に涙をいっぱいに溜めながら唯先輩の顔を見上げました。 「唯先輩…それじゃ、それじゃ私は…ちゃんと頑張れてるんですか…?」 「むしろ頑張りすぎ…かな。色々と余計な不安まで抱え込んじゃってるみたいだよ?」 「うう…だって…」 「あずにゃんは真面目で頑張り屋さんだもんね。 大丈夫だよ。憂も純ちゃんも、後輩ちゃんたちも、 りっちゃんも澪ちゃんもムギちゃんも――もちろん私も、みんなちゃんと分かってるから。 だからね、まずはあずにゃんの頑張りを、あずにゃん自身がちゃんと認めてあげなきゃ。 頑張って、でも頑張りすぎずに、自信をもって、胸を張ってね」 「…はい…」 「それでも自信がなくなったら、憂や純ちゃんに頼って。 それでもまだ心配なら、後輩ちゃんたちの笑顔をちゃんと見て。 それでもまだまだ、どうしようもなく不安なら…いつでも私たちを、私を呼んでね」 「唯先輩…ゆいせんぱぁい…!」 ついに抑えきれなくなって、再び唯先輩にしがみつく梓先輩。 その様子を見ながら、私は今更ながらに気付かされました。 結局、唯先輩の言う通りだったことに。 私たちのために頑張ってくれている梓先輩が、その裏で人知れず抱えていたものに。 いくら丸くなったと言っても、人の性質はそう簡単に変わることはなくて。 廃部の心配が消えてもなお梓先輩の不安が減ることはなく、 本質的に真面目で律儀な梓先輩の心には、また別の不安が生まれていたのです。 それはしんしんと降る雪のように少しずつ梓先輩の心に積もり、 いつの間にか抱えきれないほどの重さになりつつあったのでしょう。 私たちには…もしかしたら憂先輩や純先輩にも決して見せないように 日陰に隠し通されてきたそれを、唯先輩はいとも簡単に引き出し、暖かく照らしたのです。 だから、雪が暖かい春の日差しに溶かされ、水になって流れ、消えていくように。 梓先輩の不安は唯先輩の温もりに溶かされ、その目から流れ、消えていったのでしょう。 きっと、こんな風に梓先輩を溶かすことができるのはこの人――唯先輩だけ。 そうか、だから梓先輩は、この人のことが――。 「よしよし、あずにゃん泣かないでー。後輩ちゃんたちが見てるよー?」 「ぐすっ…唯先輩のせいですよぉ…」 「ふふ、そっかそっか。ごめんね♪」 「んにゅ…」 唯先輩に抱かれ、頭を撫でられ、気持よさげにうっとりと目を閉じる梓先輩。 その姿はまるで大好きな飼い主に、或いは母猫に甘える子猫のようで。 唯先輩が命名した「あずにゃん」というあだ名は、やはりピッタリな気がしました。 梓先輩にそれを言ったら怒られるだろうけど…。 と、そんなことを思っていたところで。 「やれやれ。HR中にギターの音が聞こえてきた瞬間そわそわし始めて、 HR終了と同時に掃除当番を私に押し付けてものすごい勢いで教室を出てったかと思ったら、 案の定大好きなご主人様にゴロゴロ甘えてたってわけね、この猫は」 「やっぱりお姉ちゃん来てたんだ♪よかったね、梓ちゃん♪」 純先輩と憂先輩がようやく現れました。 純先輩はニヤニヤ笑いながら、遠慮なしに梓先輩を猫扱い。 憂先輩もニコニコとなんだか嬉しそうです。 どうでもいいですが、やっぱり唯先輩と憂先輩はそっくりです。 「あっ!憂、純ちゃん!おひさー♪」 「…んなっ!?ふっ、ふふふ2人ともいつの間に!?っていうか誰がご主人様よ!」 いきなり声をかけられ我に返った梓先輩は、顔を真っ赤にして慌てました。 「つい今しがただけど、まあこんな事だろうと思ってたよ。 唯先輩、お久しぶりです――にしても、さすがですね、唯先輩は」 「ふぇ?」 「私たちがそろそろ梓ちゃんに言ってあげなきゃって思ってたこと、 お姉ちゃんが先に言っちゃったみたいだね。ずるいなぁ」 「ふふふ。憂よ、こういうのは早い者勝ちなのだよ!」 「それにしたってタイミングが絶妙すぎですよ」 「…え?私に言うことって…え?」 「――ね、だから言ったでしょ?あずにゃん」 きょとんとした表情の梓先輩。 なるほど、確かに唯先輩の言った通り、憂先輩や純先輩もちゃんと分かっていたようです。 親友だから当然といえば当然で、だから、もし唯先輩が今日ここに来なくても、 きっと遅かれ早かれ憂先輩や純先輩が梓先輩の不安を取り除いていたのでしょう。 けれど。 「でもまあ、良かったんじゃない。唯先輩に言ってもらうのが、梓には一番だろうからね」 「うん、それは間違いないね」 「ちょっと純、憂、それどういう意味?」 私も純先輩に同感でした。 言葉というものは、内容が同じでも誰が言ったかで受け手の感じ方はまるで変わるもので。 梓先輩にとっては、唯先輩にそれを言ってもらうことが、きっと一番の救いだったはずです。 だから、講義が休講になって暇だから遊びに来たと唯先輩は言っていたけど、 もし休講にならなくても、全てを見通してここに来ていたんじゃないか、なんて。 それは考えすぎかも知れないけど、それでもそんな風に思ってしまうのでした。 「さーて、それじゃ全員揃ったし、唯先輩も来てることだし、早速お茶にしますか!」 話も一段落したところを見計らって、純先輩がいつもの部活の始まりを宣言しました。 「ティータイムかぁ。私もお邪魔していいのかな?」 「もちろんだよ、お姉ちゃん」 「ぜひぜひ、むしろ積極的にお邪魔してってください!」 「――あ、あのっ、唯先輩っ!」 憂先輩や友人が唯先輩をお茶に誘う中、何か落ち着かない様子でいた梓先輩が、 意を決したように唯先輩を呼びました。 「なに?あずにゃん」 「あの…そのっ…もし唯先輩がよければっ、ですね…お茶の前に…」 気持ちが逸って言葉がついてこないといった様子で、どこかもどかしそうに話す梓先輩。 そのほんのり上気した顔を見て、唯先輩は全てを理解したように「にっ」と笑いました。 「――お茶の前に、一曲いっとこうか?」 唯先輩の言葉を聞いた梓先輩は、その顔をぱあっと明るく輝やかせて。 「――はいっ!」 力強く返事をしました。 「準備はいいかな?あずにゃん」 「OKです。いつでもいけますよ」 梓先輩と唯先輩、2人のギタリストだけのライブが始まろうとしています。 メンバーが揃っているのだから皆で全てのパートをやればいいのに、 と思われるかもしれませんが、今あの2人の間に割り込むのは野暮だろう、 というのがその場にいた全員の総意だったことは想像していただけると思います。 それに、私個人の希望としても、この時ばかりは純粋に聴き手に回りたいと思っていました。 お互いにお互いが大好きな2人のギタリストは、どんな音を奏でるのか。 それを、ただ純粋に聴いてみたかったのです。 「――それじゃ、行くよ!もっかい『ふわふわ時間』!」 ああ、これは――すごい。 唯先輩の掛け声と共に始まった演奏は、 さっきの唯先輩のソロよりも更に強烈な衝撃を伴って私に襲いかかってきて。 私の貧弱な語彙では、それはもう本当に「すごい」としか表しようがないものでした。 まず何より驚いたのは、今までに見たことも聴いたこともないような梓先輩の演奏。 これまで私は、梓先輩の演奏はカッチリとした精度と安定感こそが特徴だと思っていました。 そういった先入観をもって見ると、今の梓先輩の演奏はとても激しくて、ラフで、 正確さという点ではむしろ普段よりも欠けているようにも感じられます。 だけど、その音は今までに聴いた梓先輩のどんな演奏よりも情熱的で、魅力的で――すごい。 私の心に直接飛び込んでくるかのように鳴り響き、身体を過熱させていきます。 喜びに打ち震えるかのように甲高く鳴く梓先輩のムスタングの音色は、 その通り梓先輩の心境をそのまま映し出しているのでしょう。 それを何より証明しているのは、その姿。 満面の笑みで、小柄な身体とトレードマークのツインテールを揺らしながら、 愛用のムスタングを激しくかき鳴らす梓先輩。 こんなに楽しそうで嬉しそうにギターを弾く梓先輩を見るのは初めてでした。 私はもちろん、世界のどんなギタリストでも、きっと梓先輩をこんな風にはさせられない。 こんな梓先輩を引き出せるのは、ただひとり――。 そこで目をやった唯先輩の演奏も、さっきよりも更にすごいことになっていました。 あのエモーショナルさはそのままに、演奏のキレがさっきよりも断然増していて。 そしてこちらもやはり、「ギー太」に自らの喜びを代弁させつつ、 自らも全身でそれを表現していたのでした。 そして、2人の音は絶妙に絡み合っていきます。 唯先輩が少し突っ走り気味で危なっかしい感じになれば、梓先輩が窘めるように支えて。 サビで盛り上がるところでは、もっと強くいこう、と唯先輩が梓先輩を引っ張って。 それはまさしく、2人の関係そのものでした。 お互いの音が寄り添って、鳴るべき場所で鳴っていて。 お互いが寄り添って、いるべき場所にいるんだと。 誰もが絶対にそう感じるであろうほどに、 2つの音は、2人は、絶妙のハーモニーを奏でていて。 その音色は、その姿は、私が知るあらゆるものの中で最も美しいものに感じられました。 しかし、その演奏は間違いなく素晴らしいもので、私は間違いなくそれに感動しているのに。 一方で私は、何とも言えない微妙な、悔しさに似たものを感じてもいました。 それがどこから来るのか、すぐに気付きました。 今、最高のライブで魅せてくれている2人のギタリストは、 その実、私たちにその演奏を聴かせようとしてくれてはいないのです。 彼女たちが聴かせたい相手は、自分の隣でギターを弾く人、たったひとりだけ。 その人のためだけに奏でられた最高の音の、 言わばおこぼれを私たちはもらっているに過ぎないのです。 だからこの演奏の神髄は、演奏している当人たちにしか感じ取ることができなくて。 この2人のギタリストだけのライブは、本当に「2人のためだけ」のライブで。 「ふわふわ時間」の歌詞にあるように、まさしく「2人だけのDream Time」で。 そこに他の誰も入り込む余地はないのです。 これだけ感動させられているのに、それは自分たちに向けられたものではないという皮肉。 それが、ほんのちょっとだけ悔しかったのです。 けれど、全然悲しくはなくて。 2人が分けてくれる感動や心地よさの方が、そんなものよりもずっとずっと大きくて。 だから、気がつけば私は、気持ちのいい音の中で、気持ちのいい涙を流していました。 4人の盛大な拍手の中で梓先輩と唯先輩の演奏も無事終わり、その余韻も覚めやらぬまま、 待ちに待った…と言うと梓先輩に怒られそうですが、ティータイムになりました。 「あれ?あずにゃん、今は前に私の席だったところに座ってるんだね」 いつも通りの席についた梓先輩を見て、唯先輩が指摘しました。 なるほど、私が入部した時から梓先輩はそこに座っているので てっきりそこが定位置だったのかと思っていましたが、元・唯先輩の席でしたか。 「え?あ!?しまっ…」 「…ほほう、梓がいつも座っている席にそんな秘密があったとは知らなかったなぁ」 また梓先輩をいじるネタになりそうな情報を手に入れた純先輩はとても嬉しそうです。 「違う!別に唯先輩の席だったからってワケじゃなくて! その…そう、ここの方が色々と都合がよかったの!」 「まあそりゃ、梓にとっては都合がいいよね。元・唯先輩の席なんだし?」 「だぁかぁらぁ~、そうじゃなくってぇ!」 「みんな、お茶が入ったよ~」 憂先輩がお茶を運んできて話が中断され、梓先輩は安堵の表情を浮かべました。 純先輩は少し物足りなさそうでしたが。 「あ、そうそう。みんなにお土産があるんだよ~」 唯先輩はおもむろに立ち上がると自分の荷物を漁り、箱をひとつ取り出しました。 「大学の近所にあるお菓子屋さんのシュークリームなんだ。おいしいんだよ~」 「おお、さすが唯先輩!」 「そんな。唯先輩、お土産なんていいのに…」 「いいのいいの。後輩は先輩の好意を素直に受けるものだよ、あずにゃん」 「はあ、それじゃお言葉に甘えて…」 「それじゃ開けるよ…あれ?」 箱を開けた憂先輩が頭に?マークを浮かべました。 「お姉ちゃん、なんで5個しかないの?」 「ふぇ?だって憂とあずにゃんと純ちゃんに、後輩ちゃんが2人で5人でしょ?」 「…自分の分は?」 「……あ」 どうやら唯先輩は、自分を勘定に入れ忘れるというベタな失敗をやらかしたようです。 梓先輩が言うほど天然ボケという感じではないと思っていましたが、ここに来て炸裂です。 唯先輩は涙目で、すっかり意気消沈といった様子。 さっきあんなカッコよくギターを弾いていたのと同じ人とは思えないしょぼくれっぷりです。 「お、お姉ちゃん、私はいいから食べなよ…」 「ううん、いいよ…これはみんなのために買って来たんだし… 私はどうせあっちに帰ればすぐ買えるんだし…大丈夫…ハハ…ハハハ…」 あんまり大丈夫そうには見えないんですが…。 そこで梓先輩が見かねた様子で口を開きました。 「もう。唯先輩、私のを半分あげますからそんな顔しないでください」 「いいよ、あずにゃん…遠慮しないで…私は我慢できるから…大丈夫だから…」 「そんな思いっきり凹んだ様子を見せられて大丈夫とか言われても説得力ありません。 ほら、どうぞ」 梓先輩はシュークリームを器用に半分にちぎって、 クリームが零れ落ちないよう気をつけながら、そのうちの片方を唯先輩に差し出しました。 「あ、あずにゃん…ごくり。うう、でも…」 「ああ、もう!私ダイエット中だから、むしろ半分でちょうどいいんです!」 「梓ちゃん、そうだったっけ?初耳だけど」 「っ、そうなの!今日から!」 「でも、昼は普通に食べてたじゃん?」 「きょっ、今日の午後からなの!うん!」 「ふぅん…私はてっきり唯先輩と半分こしたいだけかと思ったわ。 ひとつのシュークリームを分け合って、愛情も分け合って…ってね」 「そっ、そんなんじゃないもん!」 またしてもからかってくる純先輩に顔を真っ赤にして反論する梓先輩。 まあ、私もなんとなくそんな感じじゃないかとは思ってましたけどね。 気がつけば唯先輩はそんな梓先輩を見て、笑顔を取り戻していました。 「そっか、あずにゃんダイエット中なんだね。それじゃ半分いただくよ」 「はい、どうぞ」 「それじゃ…あ~ん♪」 あんぐりと大きく口を開ける唯先輩。どうやら食べさせてほしいようです。 そんなことをしても、梓先輩は人前じゃ恥ずかしがってやってくれないと思いますが…。 「はい、唯先輩あ~ん♪」 えっ、やるんですか!? 「…って、何やらせるんですか!自分で食べてくださいよ!」 「え~、あずにゃんがしてくれたら私もあずにゃんにあ~んしてあげようと思ったのに…」 「……け、結構ですっ!」 今ちょっと考えましたよね、梓先輩。 「ちぇ~、あずにゃんのいけずぅ」 口を尖らせ文句を言いながら、梓先輩からシュークリームの片割れを受け取る唯先輩。 すぐにそれをおいしそうに平らげましたが、口元にクリームがついてしまっています。 「唯先輩、口元にクリームついてますよ」 「え?どこどこ?あずにゃん拭いて~」 甘えた声で言う唯先輩。さっき「あ~ん」を断られたのにまたそういうお願いをしますか。 懲りない人というかなんというか…。 「もう…しょうがないですね、唯先輩は」 しかし梓先輩は、今度は唯先輩のリクエストに応えました。 「あ~ん」を断って拭き拭きは応えるという基準がよく分かりませんが、 しょうがない、と言いつつ嬉しそうな梓先輩。 拭いてもらっている唯先輩も、少しくすぐったそうで、とても嬉しそう。 何でしょう、このバカップルっぽい雰囲気。 いや、もう「ぽい」んじゃなくてそのものという気がします。 先輩と大先輩に向かってバカはどうかと思いますが、どう見ても2人はバカップルです。 もっとも、見ている私たちまで頬が緩んでしまうような微笑ましさを感じさせるのは 普通のバカップルとちょっと違うところかもしれません。 憂先輩も、純先輩も、友人も、そして私も、みんな笑顔で2人を見守っていました。 そこではた、と思い当たったこと。 最初に梓先輩が唯先輩のことを語ってくれた時のこと。 あの時梓先輩は唯先輩の文句を言いながらも楽しそうに笑っていて、 それは唯先輩のそういう部分でさえも楽しい思い出だったからだと思っていましたが。 何のことはありません、もっと単純なことでした。 あれは愚痴に見せかけた「ノロケ」だったんですね。 「それにしても、後輩ちゃんたち2人ともかわいいよねぇ。 あとでちょっとぎゅーってさせてもらおうかなぁ♪」 お菓子もほとんど食べ終えたころ、お茶をすすりながら唯先輩が言いました。 「ダメです!!」 冗談めかして言った唯先輩の言葉に、即座に強い口調で反応したのはやっぱり梓先輩。 「えー、なんでぇ?」 「なんでじゃありません!後輩たちに迷惑かけないでください!」 口ではそう言ってはいますが、本心は多分、いえ間違いなく…。 「梓、ヤキモチぃ?」 「違っ、私はただ後輩たちのことを思って…!」 必死で反論する梓先輩を見て、友人はいたずらっぽい笑みを浮かべました。 何かよからぬことを思いついたようです。 「梓先輩、大丈夫ですよ。私、ちょっと唯先輩にぎゅってされてみたいですし」 「だ、ダメ!甘やかすとロクなことにならないんだから!」 まったく先輩をからかうなんていけない子です。止めなかった私も私ですが。 梓先輩のリアクションが個人的にちょっと面白くて、 申し訳ないと思いつつ見たくなってしまうのです。 「あー、そういえば私も久しぶりに唯先輩に抱きつかれたいかなー?」 「ちょっ、純まで!ダメだってば!」 純先輩のあからさまな冗談にまで必死になって、なんだか可愛らしいです。 そんな梓先輩を見て、私もちょっと悪戯心。 私も唯先輩に抱き締めてもらいたいかもです。 …ああ、梓先輩。そんないっぱいに涙を溜めたジト目でこちらを睨まないでください。 なんだかキュンキュンしちゃいます。 「ちぇー、じゃああずにゃん抱きつかせてよー」 「!も、もう、しょうがないですね。後輩や親友に迷惑はかけられませんから。 でも私だから許すんですよ。抱きつくのは私だけにしてくださいね?」 最後にサラッと本音が漏れてましたよ、梓先輩。 ちなみに、憂先輩は一連のやり取りをニコニコ笑いながら見ているだけでした。 さすがに実の妹が立候補したら、梓先輩もそれを止める術がないでしょうからね。 楽しい時間はあっという間に過ぎ、下校時刻。 唯先輩もそろそろ大学の寮に戻らなければならないということで、 夕日に照らされたオレンジ色の正門前でお別れの挨拶です。 「今日は楽しかったよ。みんなありがとね!」 「こちらこそ素晴らしい演奏を聴かせていただき、ありがとうございました!」 「また来てね、お姉ちゃん」 「これからも憂と梓に会いに来てやってくださいね。――ほら、梓」 「…唯先輩、その…たまにはOGとして、活動の様子を見に来てくれてもいいですよ」 「ったく、あんたって子は…素直に『また私に会いに来てください』って言えないの?」 「別にそんなことっ…!」 またムキになりかけた梓先輩の頭に、唯先輩はポンと手を載せ、優しく撫でました。 「大丈夫だよ、あずにゃん。また遊びに来るから。今度はりっちゃんたちもね。 だから、そんな寂しそうにしないで?」 「…寂しくなんかないです」 そう弱々しく否定する梓先輩の顔に、 「寂しい」と大きく書かれているのが見えるような気がしました。 いくら楽しい時間を過ごしても、いえ、楽しかったからこそ、 大好きな人とのお別れの時は切なくなるもので。 それを寂しがるなという方が無理というものでしょう。 けれど、最後にそれを打破する隠し玉を、どうやら唯先輩は取っておいたようです。 「――そうそう、あずにゃん。さっきりっちゃんからメールが来てたんだけどね。 あずにゃんにも伝えてほしいって」 「はい?」 「再来週の土曜日は暇かな?」 「はい、特に用事はないですけど…」 「よかった。じゃあ決まりだね!」 「何がですか?」 「その日に久々にHTTのメンバーで集まって練習しよう、ってメールだったんだよ」 「ほ、ホントですか!?」 梓先輩の顔に再び光が差すのを見て、にっこり微笑む唯先輩。 「うん。それで、大学の近くのスタジオを予約したらしいんだけどね。 あずにゃん、あっちの方の道とか途中の交通手段とか、よく分からないでしょ?」 「確かにそうですけど、それくらい調べれば…」 「まあまあ。それでさ、私、その前の日の夕方に一度こっちに帰ってくるつもりなんだ。 だから――あずにゃんもその日の夜はウチにお泊まりして、 次の日の朝、私と一緒にあっちに行くってのはどうかな?」 唯先輩のその提案を聞いた時に梓先輩が見せた表情の輝きぶりを、どう表現すればいいのか。 梓先輩の周りにだけ星屑が散らされたのかと錯覚するほどだった、とでも言っておきます。 「し、しょうがないですね。唯先輩の道案内というのが少し不安ですが、 せっかくの提案ですし、唯先輩がどうしてもって言うなら…」 「あーずーさー、あんたいい加減にしなさいよ」 「うっ…その…是非、よろしく…お願いします…」 「お願いされました!」 相変わらず素直ではない梓先輩でしたが、純先輩にさすがに窘められてしまい、 ぎこちないながらも唯先輩の提案を受け入れました。 ともかく、これでお泊まりイベント決定。よかったですね梓先輩。 といっても憂先輩もいるので、滅多なことは起こらないと思いますが。 ――いやいや滅多なことって、何を考えてるんでしょうね私は。 「それじゃ、2週間後にまた会いに来るからね!あずにゃん!」 「はい!待ってます!」 梓先輩とそう言葉を交わして、私たちにもひとことずつ挨拶をしてから、 何度か振り返っては手を振りながら、唯先輩は夕暮れの中を去っていきました。 やがてその姿が見えなくなっても、余韻に浸っているのか 唯先輩が歩いて行った方を見つめたまま立ち尽くしていた梓先輩に、 しばらくしてから私は声をかけました。 梓先輩、唯先輩って素敵な人ですね。 「へ?ああ、うん。まあ結構変わってる所はあるけど…でも、いい人でしょ?」 梓先輩が好きになった理由がよく分かりました。 「好っ…!?な、何を…」 大好きなんですよね?梓先輩は、唯先輩のことが、誰よりも。 「…っ」 夕日の中でもハッキリわかるくらいに真っ赤になった梓先輩は、 顔を強張らせると押し黙ってしまい、 恥ずかしさを誤魔化すようにぷいっと斜め下の方を向いてしまいました。 しかしすぐに表情を緩め、再びこちらの方を向くと。 「――うん!」 少しはにかんだような最高の笑顔で、力強く答えてくれたのでした。 END 最高だったぜ… -- (柚愛) 2011-05-19 01 39 53 俺のニヤニヤが限界突破した -- (名無しさん) 2011-06-01 02 26 38 公式の要素が全て押さえられているのが素晴らしい。 -- (名無しさん) 2011-07-12 18 50 42 公式でこんな後日談を用意してたなんて… いや、そう思わせたとしても何の不思議もない程にすばらしい出来のSSでした!! 後輩キャラからの視点が,見事に本編の客観的な解説と雰囲気を伝えていてスゴいと言わざるを得ません! とてもいいものを読ませてもらいました。 ありがとうございます! -- (名無しさん) 2011-08-17 00 04 36 キマシタワーw -- (名無しさん) 2012-09-16 21 02 58 凄くイイ 至高のSSだ! -- (名無しちん) 2012-10-28 21 26 59 何回も読んでしまいます!! -- (名無しさん) 2013-08-21 20 10 10 最高です!! -- (名無しさん) 2014-04-17 22 20 08 唯梓wikiで一番すごい -- (名無しさん) 2014-08-29 22 59 30 二週間後の続きが読みたくやります! -- (唯ちゃんラブ) 2017-11-15 20 05 43 名前 感想/コメント: すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/83452/pages/9284.html
私は、唯先輩に依存しているのかも知れない。 ――――― ―― 「あーずにゃんっ」 「にゃっ!?」 やっぱり、いつまで経っても慣れない。 唯先輩に抱き着かれるのは。 私は元々、スキンシップなんてしないタイプだったし、どちらかといえば寧ろ、 誰かに抱き着いたり抱き着かれたりするのは、たとえどれだけ仲の良い友達だったと しても苦手だった。 だから最初、唯先輩に抱き着かれることに抵抗を覚えて、「あ、この人苦手だな」 なんて思ってしまっていた。 もちろん、今はそんなこと思ってないけど、それでも抱き着かれることについては、 慣れるものじゃない。 「どうしたの、あずにゃん?最近元気ないけど?」 唯先輩が、私の頬を人差し指で突きながら訊ねてきた。 私は「何でもないです」と顔を背けた。 もうすぐで、季節は春になる。 窓から見える校門へと続く道が、桜で満開になる頃、先輩たちは卒業してしまう。 そのことを考えてしまって、最近じゃ練習だってまともに出来ない。 「ほんとにー?」 「ほんとです」 あぁ、どうしてだろう。 軽音部に入りたての頃みたいに、唯先輩に対しての態度が悪くなってしまう。 ほんとはもっと、素直になりたいのに。 私は首に回された唯先輩の手を解くと、ギターケースに手を掛けた。 本当に、自分が嫌になる。 後ろを振り向かなくても、唯先輩が悲しそうな顔をしているのは想像できた。 だから私は、唯先輩のほうを向かなかった。 「あ、そうだあずにゃん、次の土曜日、暇?」 私がギターをチューニングしだすと、それを黙って見ていた唯先輩が、突然 訊ねてきた。 今日は他の先輩方は、用事があるらしく部室にはいなかった。 「次の土曜日、ですか?……暇ですけど」 「それなら一緒に遊びに行かない?」 「はあ……二人だけ、ですか?他にも誰か……」 「二人だけだよ」 私は曖昧に頷いてから訊ねると、唯先輩はきょとんとしながら答えた。 唯先輩と一緒に遊びに行くは大して珍しくないけど、 それは軽音部の皆でというのが殆どだったので、二人だけなんて珍しい。 やっぱり、卒業前、だからかな? お別れを言うために? まさかお礼参り? ……は唯先輩に関してはないよね。 何にしても、変なもやもやが私を襲った。 唯先輩に、「何かあるんですか」と訊ねようとしたとき、タイミング悪くチャイムが 鳴った。 下校時間のチャイムだった。 唯先輩がのんびりした動作で「帰ろっか」とカバンを持った。 私は聞くタイミングを逃してしまって、「はい」と大人しくギターをケースに仕舞った。 . 校門をくぐって、いつもの場所で唯先輩と別れても、次の日になっても、 ずっと変なもやもやは消えてくれなかった。 部活でも、唯先輩は抱き着いてくるけど私はそれを適当にあしらうだけで、 何も聞こうとしなかった。 何となく、聞けなかった。 結局そのまま、一週間が過ぎていった。 金曜日、唯先輩から一通のメールが届いた。 『あずにゃん、明日は朝9時に駅前に集合だよ!』 『わかりました』 私はそれだけ書いて返信をした。 その返信は、当たり前と言っちゃ当たり前だけど、少しだけ私を不安にさせた。 . 「おはよー、あずにゃん!」 少し遅れて待ち合わせ場所に行くと、唯先輩は早速私に抱き着いてきた。 そうしてくるだろうとは予想していたので、変な声は上げずにすんだ。 「おはようございます」 「あずにゃんの私服、可愛いねえ」 「唯先輩も……」 頬をすり寄せてくる唯先輩を何とか離そうとしながら私は言った。 唯先輩が「そう?」と言って嬉しそうに笑う。 「今日はね、あずにゃんと遊ぶから憂にも手伝ってもらってとびっきりお洒落して きたんだよー」 「なんですか、それ」 「だって、あずにゃんには可愛く見られたいもんっ」 呆れて溜息をつくと、唯先輩が頬を膨らませた。 私は目を逸らすと、「それで、どこ行くんですか」と話を逸らした。 「あ、うん、あずにゃんはどこ行きたい?」 「え!?決めてなかったんですか!?」 「えへへ」 悪びれなく頷いて笑う唯先輩に、今度こそ本当に呆れてしまった。 どこか行く場所があるから誘ったというような言い方をしていたので、てっきり 決めていると思っていたから。 「でも私、大して行きたい場所とか、ないですよ?」 「うん。私はあずにゃんと一緒に行けたらどこでもいいよ」 「……はあ。それなら……ペットショップは?」 唯先輩の冗談に何を言う気にもなれずに、私はとりあえずうるさい駅前から 離れようと提案した。 唯先輩が「おぉ」と謎の声を上げた。 「あずにゃん、何か動物飼いたいの?」 「あ、いえ!」 「でも猫とか飼ってみたらいいのにー。あずにゃんと猫かー、ふふっ」 「何想像してるんです」 「べっつにー」 唯先輩は相変わらず「ふふふ」と笑いながら、突然私の手を掴んで「しゅっぱーつ」と 歩き出した。 私は、恥ずかしくて手を繋いで歩いているように見られたくなくて、わざと唯先輩の 後ろのほうを歩いた。 . 「先輩、先輩!猫ですよ、猫がいますっ」 「だって、ここペットショップだもん」 「あぁ!今欠伸しました!すごい、可愛い!」 唯先輩が、疲れたように「うん、そうだね」と相槌を打った。 ペットショップを回り始めて、今は三軒目。 「そろそろ違う場所行かない?」と言う唯先輩を無視して、私は猫を見て目を 細めた。 「あずにゃんって動物、そんなに好きだったんだね……」 「はい!」 勢いでペットショップと言った私だけど、まさかそんな私がここまでペットショップ 巡りに熱中してしまうとは自分でも思わなかった。 私が動物の入っているゲージから離れたのは、そろそろお昼時の頃だった。 「なんというか……。すいません、唯先輩」 流石の私も、ぐったりしている唯先輩に頭を下げた。 「動物、苦手だったんですか?」と訊ねると「違うよ」と唯先輩は首を振った。 「ただあれだけ一度にペットショップ行くと、さすがに飽きてきちゃって」 「う、すいません……」 「ううん、あずにゃんが楽しそうで良かったよ」 唯先輩がふんわり笑って私の頭を撫でてくれた。 それから、「じゃあ次は私の行きたい場所、行っていい?」と訊ねてきた。 「結局行きたいとこあったんじゃないですか!」 「違うよ、今思い出しただけだよ!」 唯先輩の目が泳いでる。 きっと、最初からそこに行くつもりしてたんだ。 けどそれならどうして先にそっちに行かなかったんだろう。 「それで、どこに?」 「うん、すぐそこ」 「へ?」 唯先輩が指差した先は、いつか一緒にギターの練習をした河原だった。 いつのまにこんな場所に来てたんだろう。 気が付かなかった。 「でも、ここで何するんですか?何もすることないじゃないですか」 「うん、そうなんだけどね。もう一回、あずにゃんと二人でここに来てみたかったんだ」 唯先輩はそう言うと、私の手を引いて、以前の場所に私を座らせ、唯先輩も 私の隣に腰を下ろした。 それっきり、無言のまま、ただ時間だけが過ぎていった。 何か言わなくちゃ、と思いながら唯先輩の横顔をちらりと盗み見ると、唯先輩の表情は どきんとするほど大人びていた。 あれ?唯先輩ってこんな顔、したことあったっけ? 「ねえ、あずにゃん」 ふいに、唯先輩が口を開いて私を見る。 目が合った。 無意識のうちに、私は唯先輩から目を逸らしてしまった。 「あずにゃんは、私のこと、嫌いなんだよね?」 「……え?」 突然、それは本当に突然のことで。 私は驚いてしまい、何も答えることが出来なかった。 唯先輩は、前に向き直ると、言葉を続けた。 「私、知ってたよ。あずにゃんが私に抱き着かれるの嫌がってたの」 そんなことないです! そう言いたいのに、声が出ない。 唯先輩の顔が、あまりにも真剣だったから。 「けど私はあずにゃんのこと、大好きだったし、あずにゃんに抱き着くことだって。 あ、今でも大好きだけどね」 だけど、あずにゃんは嫌だったよね? 唯先輩はそう言って、「ごめんね」と悲しそうに微笑んだ。 胸が締め付けられるような思いがした。 「でも良かったね、あずにゃん!私、もうすぐ卒業するんだから」 唯先輩、違います! 「あずにゃん、やっと私から離れられるよ」 私は……! 「今までごめんね、それから沢山、色々してくれてありがとう」 待って下さい、唯先輩! 手を伸ばした。 届かなかった。 唯先輩は、振り向かずに行ってしまった。 私はその場所に一人、取り残された。 ――――― ―― 私は、唯先輩に依存しているのかも知れない。 抱き着かれることだって、唯先輩と一緒にいることだって、 本当は私は大好きで。 唯先輩が、あまりにも優しいから、私はその優しさに甘えていただけだった。 唯先輩を引っ張っているつもりが、本当は引っ張られてた。支えられていた。 私は、唯先輩に依存している。 だけど、唯先輩は卒業してしまう。 私は、一人じゃ、唯先輩がいなきゃ立っていられないのに。 . 「平沢唯」 唯先輩の名前が呼ばれる。 「はいっ」と元気な声で返事をして、唯先輩は壇上に上っていった。 卒業証書を受取った唯先輩の表情は、晴れ晴れしていた。 本当に、卒業しちゃうんだ。 本当に、いなくなっちゃうんだ。 卒業式は、終わりに近付いていた。 教頭先生の号令がかかり、卒業生は退場していく。 私は必死に唯先輩の姿を探したけど、目の前が霞んで見つけられなかった。 臆病な私は、最後まで唯先輩を追いかけることが出来なかった。 部室に顔を出すことさえ怖くて、私は教室で一人、卒業生が帰っていくまで時間を 潰した。 下校時間のチャイムが鳴る。 そろそろ帰らなきゃ……。 私はいつかの唯先輩みたいに、緩慢な仕草でカバンを肩に掛ける。 教室の扉を開けようとしたとき、計ったかのように突然、ドアが開いた。 「帰ろっか、あずにゃん」 「ゆい、せんぱい……?」 「やっぱだめだよ、あずにゃん」 唯先輩はそう言って笑い、何の前触れもなく私を抱き締めた。 久しぶりに感じる唯先輩の温もり。 ずっとずっと、欲しかった唯先輩の体温。 「唯先輩、私……」 伝えなきゃ。 私は唯先輩のことが大好きなんだって。 嫌いなんかじゃないって。 「ごめんね」 だけど唯先輩は、私の言葉を遮るように謝った。 どうして唯先輩が謝るんですか。 謝らなきゃいけないのは、私なのに。 「あずにゃんに迷惑掛けちゃいけないって思ってたのに……。何でだろうね、 あずにゃんに抱きつかなきゃ落ち着かなくって……。あずにゃんと話したくて、 あずにゃんに触れたくて……」 唯先輩が、私の背中に回した腕の力を強くしながら、掠れた声で、言葉を紡いでいく。 「私、あずにゃんに依存してるのかも」 そして、唯先輩はそう呟くと、自嘲じみた笑顔を浮かべてまた、「ごめん」と謝って 私の肩に顔を埋めた。 「私だって……」 私は、初めて唯先輩の背中に自分の腕を回して、呟いた。 唯先輩が、「ん?」とくぐもった声を出す。 「私だって、唯先輩に依存、してるかもです」 「……へ?」 「唯先輩と話さなくなったあの日から、ずっとずっとずっと、唯先輩のことしか 考えられませんでした。唯先輩の温もりが、恋しかった。確かに私は抱き着かれること とか苦手です、けど唯先輩に抱き着かれるのは好きなんです!」 「あずにゃん……」 「唯先輩のことが、大好きなんですっ……!」 ちゃんと自分の想いは伝えられたのに。 涙が溢れ出てきた。 唯先輩は、暫く黙り込むと、「ありがとう」と囁いた。 「お互い、依存症になっちゃったね」 止め処なく溢れてくる涙を拭ってくれながら、唯先輩はそう言って笑った。 「これじゃあ卒業できないよ」と。 「卒業、しないでください……っ」 私は言った。 心の底から、本気でそう思った。 卒業しないで欲しいって。 無理だってわかってるのに。 「ごめんね、あずにゃん……」 唯先輩は私の頭を宥めるように撫でてくれた後、 「大丈夫だよ」と言った。 「私たち、これだけ想い合ってるんだから……。離れてたって、大丈夫」 私は大丈夫なんかじゃない。 なのに。 唯先輩の笑顔を見ると、本当にそうかもと思えてくる。 「ねえあずにゃん。あずにゃんが私たちの大学に来るまでは、あずにゃんを抱き締める のはお預け。だからあずにゃん、絶対私たちの大学来て、また一緒にバンドやろう」 待ってる。 唯先輩はそう言い残して、私から離れていった。 私はもう、唯先輩に手を伸ばさない。 「待っててください」 唯先輩の背中に、私は叫んだ。 ――――― ―― 私は、唯先輩に依存している。 だけど、離れてたって大丈夫。 だって。 私たちは、心が繋がってるから。 終わる。 戻る
https://w.atwiki.jp/25438/pages/3097.html
直「こんにちは。あれ?平沢先輩、早いですね」 唯「おぉ!わ、私の名前知ってくれてるの!?」ジーン・・・! 直「?………なにを言ってるんですか?そういえばなんで私服で……髪型も今日は違いますね……?」 唯「?………あっ!なるほど、憂と勘違いしてるんだね?」 直「えっ?」 唯「はじめまして!軽音部OG、憂の姉の平沢唯です!」 直「平沢……唯、先輩?あっ、はじめまして!すいません…… 平沢先輩にお姉さんがいることは聞いていたんですけど……」 唯「いいよいいよ〜♪昔からよく間違われるから。キミは新一年生だよね?」 直「あ、はい。私は……」 唯「ストップ!ふふふ……ちゃんと憂やあずにゃんから聞いて知ってるよ〜♪ 新一年生の佐藤さんと奥野さんのうち……佐藤さんのほうだね!?」 直「斉藤と奥田のうち奥田のほうです」 唯「………………ゴメンナサイ」 直「いえ、気にしないでください。それより平沢先輩はどうしてここに?」 唯「え?ああ、ちょっと用事で実家のほうに帰ってきたんだよ。 それで、ついでにみんなの様子を見ていこうかなーってね♪」 直「……でも確か中野先輩が学園祭までは先輩方に会わないって言ってたような……」 唯「えぇっ!?あっ!そ、そういえば憂から聞いた気がする………どうしよう…… えっと、ま、まあ、一日ぐらい大丈夫だよね!」 直「平沢先輩がそれでいいんでしたら……」 唯「まあその話は置いといて……奥田さんって下の名前なんていうの?」 直「直です。奥田直」 唯「おぉ!直ちゃんか〜♪かわいい名前だね!」 直「そ、そうですか?あんまり言われたことないですけど……」 唯「ねぇ、直ちゃん?軽音部楽しい?」 直「………………」 唯「直ちゃん?」 直「あ、すいません……あまり下の名前で呼ばれることがないもので……」 唯「そうなの?軽音部のみんなにはなんて呼ばれてるの?」 直「『奥田さん』ですね」 唯「えぇ〜っ?ダメだよー。せっかくかわいい名前なのに……それに、 軽音部には下の名前で呼び合うっていう伝統があるんだよ?」 直「……そうなんですか?」 唯「うん!私達の時はそうだったよ?だから直ちゃんも私のこと唯先輩って呼んで? 平沢先輩じゃ憂と紛らわしいし」 直「わかりました……唯、先輩……」 唯「よし!えへへ………あれ?なんの話してたんだっけ……?」 直「唯先輩が私に軽音部は楽しいかと……」 唯「あぁ!そうそう。で、どう?楽しい?」 直「そうですね……楽しいですよ。先輩方は良くしてくれますし。斉藤さんもいい子ですし…… 山中先生はちょっと変わった人ですけど……」 唯「そっか。良かったぁ♪……直ちゃんは楽器なにやってるんだっけ?」 直「………私は楽器はやってません。今はパソコンで曲を作ったりしてますね」 唯「あ、そっか。そういえばあずにゃんがそんなこと言ってたような……」 直「先輩方の演奏聴かせてもらいました。『ふわふわタイム』……でしたっけ? すごくいい曲ですね」 唯「でしょでしょ〜♪作詞澪ちゃん作曲ムギちゃんの最強タッグだからね!」フンス! 直「私も先輩方に負けないような曲を作りたいと思います」 唯「………ねぇ、直ちゃん。直ちゃんはなにか楽器やりたいとは思わないの?」 直「………いえ、私は………」 唯「曲を作れるのってすごいことだと思うけど…… でも、みんなと一緒に演奏するの、すっごく楽しいよ?」 直「………入部した頃はギターとか、やりたいと思ってました。 でも、楽器の才能がなかったので………」 唯「そんなことないよ!私だって高校入った時は初心者だったもん! 頑張って練習すれば絶対、弾けるようになるよ!」 直「指が上手く動きませんし……」 唯「私も最初は動かなかったよー。毎日ギター触って、 指のストレッチとかしたら動くようになってくるよ」 直「で、でも、ギター持ってませんし……」 唯「さわちゃんに頼んだらきっと貸してくれるよ。とりあえず今日は私のギー太貸してあげる! ちょっと重くって最初は扱いにくいかもだけど……」 直「だめですよ……唯先輩の大事なギター壊しちゃったりしたら……」 唯「あはは。ギー太はそう簡単に壊れたりしないよ?ね、ちょっとだけ練習してみよう? みんなと一緒に合わせれるようになったら、きっともっと部活が楽しくなるから!」 直「は、はぁ………」 _________ 唯「………ね?ゆっくり弾いたら、ちゃんと出来るでしょ?」 直「は、はい………ちょっと指が痛いですが………」 唯「あはは、最初はそうだよねー。でも直ちゃんすごいよ!コードほとんど憶えちゃってるもん!」 直「はい。勉強はしましたから」 唯「私はコードちゃんと憶えるのに二年ぐらいかかったなー……… こんなにすぐに憶えられたんだから直ちゃん、才能ないなんて言っちゃダメだよ!」 直「はあ……でもコードを憶えるのはギターの才能なんでしょうか?」 唯「私なんて今でもたまに忘れちゃうし……何度あずにゃんに怒られたことか……」 直「あの、唯先輩?さっきから気になってたんですけど『あずにゃん』ってもしかして……」 唯「え?……あぁ、梓ちゃんのあだ名だよ。まあ、私しか呼んでなかったんだけどね〜♪」 直「あの中野先輩が『あずにゃん』ですか……」プッ 唯「あっ!直ちゃん。『中野先輩』なんて呼び方ダメだよー。呼ぶなら『梓先輩』か、もしくは……」 直「『あずにゃん先輩』ですか?」 唯「プッ……あはは!直ちゃん、わかってるぅ!」 直「あはは……ご本人の前では言えませんけどね」 _________ 唯「どうだった?ギター弾いてみて」 直「はい……楽しかったです。ありがとうございます」 唯「みんなで一緒に演奏したら、もっともーっと楽しいよ♪」 直「………唯先輩。実は私、一度軽音部を辞めようと思ったことがあるんです。 どの楽器も上手く扱えなくて……その時、山中先生がパソコンで曲を作れること 教えてくれて。これなら私にも出来るって思って軽音部に残ったんです」 唯「………………」 直「だから、曲を作る事でしか私は軽音部に貢献できないって。それしか私の居場所はないって 決め付けていたんです。軽音部に入部する前もそうでした。色んな部活に体験入部して ちょっとやってみただけで、それで自分には向いてないって決め付けて………」 唯「直ちゃん………」 直「私、ギターやりたいです」 唯「うん、頑張って!あずにゃんや憂は私よりずっといい先生だから、 教えてもらえばきっと上手くなれるよ」 直「出来ればこれからも唯先輩に教えてもらいたいんですが……それは無理ですもんね」 唯「うーん……そう言ってくれるのは嬉しいけど……なかなか来れないしねぇ…… でも今日みたいに、たまには顔出すようにするから、ね?」 直「はい。ありがとうございます。………それにしても、唯先輩は 私がイメージしていた人とちょっと違いました」 唯「そうなの?どんなイメージだったのかなぁ?」 直「平沢せんぱ……憂先輩が『お姉ちゃんは私よりもっとしっかりしてる』と 言っていましたので……」 唯「まぁ♪憂ったら………んん?それでイメージと違ったってことは……? あぁーーーっ!直ちゃんひどい!」 直「ふふっ、すいません。でもいい意味でイメージと違ったんですよ? もっとロボみたいな人を想像してましたから」 唯「ロ、ロボ……?」 _________ 唯「ふぅ……それにしてもみんな遅いねぇ」 直「三年生は確か学年集会があるんで遅くなるそうです。斉藤さん……菫は 日直だったんでもうすぐ来ると思いますけど」 唯「そっか………よし!今日はもう帰るよ、直ちゃん!」 直「……えぇっ!?みなさんに会っていかないんですか?」 唯「うーん……まあ、会いたいけどねぇ。ほら、さっき言ってたでしょ? あずにゃんが学園祭までは会わないって決めてるって。やっぱり今日会っちゃったら 怒られそうだし……それにあずにゃんの決意を無駄にしちゃ悪いもんね? 直ちゃんも今日私が来たことは内緒にしててくれないかなぁ?」 直「それは構いませんけど……私も学園祭まで、唯先輩には会えないんですか? ギター教えてほしいです」 唯「あっ、そっか……じゃあ、私の家で会おう!私が実家に帰ってる時は憂から 直ちゃんに伝えてもらうようにするから!」 直「わかりました。楽しみにしてます!」 唯「うん。じゃあね直ちゃん。軽音部、楽しんでね!」 _________ ガチャッ 純「ふぃ〜〜……お疲れ〜」 憂「ごめんね、奥田さん。遅くなっちゃって」 梓「お待たせ、奥田さん」 菫「すいません……私も遅くなりました……すぐにお茶の用意しますね?」 純「悪いね、奥田さん。一人で寂しかったでしょ?」 直「いえ、特には……」 憂「!?……お姉ちゃんの匂いがする……なんで!?」 梓「はぁ?なに言ってんのよ憂」 純「お姉ちゃん好きが高じてついに幻嗅まで……」 直「あの、梓先輩」 梓「えぇっ!?」 直「まだ何も言ってませんけど……なんでそんなに驚いてるんですか?」 梓「えっ、だ、だって奥田さん今まで私のこと『中野先輩』って呼んでたよね?」 直「ああ……すいません、ダメでしたか?」 梓「う、ううん!ダメじゃない!全然ダメじゃないよ!むしろそう呼んで?」 純「私のことも『純先輩』でいいからねっ!?」 憂「じゃあ私も『憂先輩』で!」 直「はい。皆さんのことこれからは下の名前で呼ぼうと思います。……菫もいいかな?」 菫「えっ!?う、うん!嬉しい……」 直「ですから皆さんも私のことは『直』と呼んでください」 純「そういえば……奥田さんだけ何故か今まで苗字で呼んでたよね……」 憂「ホントだね……特に意識してたわけじゃないんだけど……ごめんね、直ちゃん」 菫「な、な……なお…ちゃん……///」 梓「そう言えば先輩も後輩も下の名前で呼び合うのは軽音部の伝統だったね……ごめん、直」 直「………あ、そうだ。梓先輩に言いたかったのはそんなことじゃないんです」 梓「なに?」 直「あの……私、今日からギターの練習させてもらってもいいでしょうか?」 梓「!!」 憂「どうしたの、急に?」 直「……みなさんと一緒に演奏したくなりました。下手くそで足を引っ張るかもしれませんけど 頑張りますので、どうか教えてください!」 梓「うん、もちろんいいよ。ごめん……私、もう直は楽器演奏するの嫌がってるんじゃないかって 思って……無理になにかを演奏させようとしたら軽音部辞めちゃうんじゃないかって勝手に 思い込んじゃって……やっぱり、みんなで演奏したほうが楽しいもんね?一緒にがんばろう、直!」 直「はい!」 直「あ、それともう一つ……」 梓「なに?なんでも言って?」 直「あずにゃん先輩って呼んでもいいですか?」 梓「……んんっ!?」 おしまい 戻る
https://w.atwiki.jp/yuiazu/pages/2055.html
梓「唯先輩朝ですよ」 梓「起きてください」 唯「zzz」 梓「起きないと遅刻しちゃいますよ」 唯「zzz」 梓「本当に遅刻しちゃいますよ」 唯「zzz」 梓「……」 梓「唯先輩がそれで良いなら良いんですけどね」モゾモゾ 梓「お邪魔します」 唯「ふぇ?」 唯「あず…にゃん…?」 梓「起きましたか?」 梓「このまま起きますか?それとも…」 唯「んっ」チュウ 梓「あっ//」チュ 梓「もういきなり何するんですか///」 唯「だってあずにゃんの顔見てたらキスしたくなっちゃったんだもん」 梓「もうしょうがない人ですね」 唯「今度はあずにゃんからしてよ」 梓「…///」チュウ 唯「っんぁ」 唯「もうあずにゃん//舌を入れてくる何て大胆過ぎるよ//」 梓「唯先輩がいけないんですよ」 梓「朝からこんな気持ちにさせて…///」 唯「あずにゃんが可愛い過ぎるのがいけないんだよ」 唯「んぁ///」チュウ 梓「っん///」 唯「あずにゃん…んっ///」 梓「唯先輩…///」 唯「あずにゃん…」 梓「何ですか?」 唯「今日はこのまま…遅刻しちゃおうっか//」ボソッ 梓「……」 梓「唯先輩がそれで良いなら//」 唯「決まりだね」 梓「昨日もあんなにしたのに…」 唯「でもあずにゃんもしたいでしょ?」 梓「それは…その…」 梓「はい///」 唯「じゃあ、あずにゃん」 唯「えい」 梓「い、いきなりそんなところ…んっ…///」 唯「あずにゃん?」 梓「何ですか?」 唯「今夜と…明日の朝もね///」 梓「…もちろん行きますよ//」 梓「特に唯先輩は朝が弱いんですから私がしっかりと起こして元気にしてあげないと」 唯「うんうん」 唯「じゃあ元気になったからもう1回…///」 梓「ほんと…仕方ない人ですね///」 梓「唯先輩…んっ」 唯「あずにゃん///」 終わり 朝から何やってんだっ!!(ハナチ -- (鯖猫) 2012-06-08 02 29 13 怒られるぞー!! -- (あずにゃんラブ) 2013-01-07 04 17 16 名前 感想/コメント: すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/25438/pages/1977.html
唯先輩はギターがうまい。 …のかな? 初めて放課後ティータイムの演奏を見たとき、唯先輩はすごく輝いて見えました。 上手だな、と思ったし、演奏に惹き込まれたし… 唯先輩みたいになりたい、唯先輩と一緒に演奏したい、そう思って軽音部に入ったんですよ? でも、唯先輩は実は全然ギターの知識が無くて、練習もしなくて… お世辞にも、高い技術を持っているとは言えません。 それでも、本番とかではやっぱり唯先輩は輝いていましたね。 その時だけは、「上手い」んです。 なんでかな…?ってずっと考えてましたが、やっとわかったんです。 唯先輩は、すごく楽しそうにギターを弾く、というか…全身で楽しさを表現する感じですね。 型にとらわれない、自由な演奏、とも言えます。 だから、見ている人、聴いている人も楽しくなるんですよ? たとえすごい技術がなくても、唯先輩の演奏は、魅せる演奏なんです。 私は…ギターが上手いって皆さんに言っていただいてますが、唯先輩みたいな演奏はできません。 技術を磨くことはずっとやってきましたが、それだけじゃ楽しい演奏にはならないんです。 唯先輩を見てて、わかりました。 それに気づいてから、ちょっと悩んじゃいました。 私は技術だけなんだ、唯先輩にはかなわないんだ、って…。 唯先輩のまねをしようともしました。でも、私が無理して楽しそうに動きながら演奏しても、なんかしっくりこなくて… その時は少しふてくされていました。 唯先輩に冷たく当たったこともありました。すみません。 でも、そのうち、こう考えるようにしたんです。 私は私。私は唯先輩にはなれないし、なる必要もない。 私は私の道を行く。 …って。 私は、唯先輩に比べたら、正確にリズムを刻んだり、細かい動きをしたりする自信はあります。 だから、私は唯先輩のいいところを邪魔せずに、足りないところを補おうと思ったんです。 逆に、私の足りないところは、唯先輩がカバーしてくれています。 ひとりひとりが完璧になる必要なんてないんです。 二人で、いい演奏を生み出せれば… そう思うようになってから、唯先輩と一緒に弾くのがもっともっと楽しくなりました。 ――今も。 「あずにゃん、ダブルソロいっくよ~!!」 唯先輩の自由奔放なメロディ。 それを支えるように、しっかりとリズムを刻みます。 「あずにゃん、背中合わせ!」 背中ごしに、唯先輩の鼓動が、リズムが、メロディが伝わってきます。 …ふふ。次はこう弾くつもりですね? 唯先輩の弾き方、もう最近は手に取るようにわかるんですからね。 唯先輩の自由なメロディの合間を縫うように、私の正確なリズムを刻みこんでやります。 …どうですか! 「ぷはーっ、楽しかったねあずにゃん!わたしたち、やっぱり相性いいね~」 そうです。当たり前です。 だって、唯先輩と私なんですから!! これからも、ずっと一緒にギターを弾いていたいですね、唯先輩。 おわり 戻る
https://w.atwiki.jp/yuiazu/pages/1079.html
最近、唯先輩がおかしい。 何がおかしいって、全く抱きついて来なくなった。 元々抱きついてくる方がおかしいんだけど、 何だかそれが日常になってしまったので抱きつかれないと何だか落ち着かない。 これが普通だし、別に特に困るとか、そう言う訳じゃない。 そう言う訳じゃないけど。 いや、それより今の問題は、私の手の中にあるコレについて。 何と言うか、まあ直接的に言えばラブレターと言う物だ 今日登校して下駄箱を開けたら入っていた。 差出人は知らない名前、学年とクラスも書いてある。 唯先輩と同じ学年で違うクラスだ。 私を好きだと言う事と今日の放課後屋上に来て欲しいと書いてある。 好意を持ってもらえる事は嬉しいけど顔も知らない人から言われても、 正直どうすれば良いのかわからない。ましてや先輩だし。 屋上で何を言われるかもさすがに想像がつく。 「うーん…」 結局何も良い考えが浮かばないまま放課後になってしまった。 律先輩へ部活に遅れる事をメールして私は屋上に向かう。 手紙の差出人と思わしき人はすでに屋上に来ていた。 ショートカットでかわいい感じの人だ。 雰囲気が少しだけ唯先輩に似てるかもしれない。 「あの…」 「来てくれてありがとう」 「あ、いえ」 「突然で驚いたでしょ。ごめんね」 「あの、ええ少し」 「どうして呼びだしたかはわかってると思うけど直接顔を見て話したかったの」 「はい」 「話をした事もない人からこんな事を言われて困らせちゃうかな」 当然かもしれないけど、その人はとても真剣な顔をしていた。 そう言えば、最後に唯先輩の真剣な顔を見たのはいつだったっけ 何となくそんな事が頭に浮かぶ。 「学園祭で演奏してる姿を見てすごく素敵だと思って」 普段はだらしないくせに、ステージで演奏してる姿はかっこよくて 「それであなたの事が気になって仕方がなくなって」 変なあだ名をつけていつも過剰にスキンシップをして来て 「自分の気持ちを伝えたいと思ったから」 いつも、あずにゃん大好きだよとか言って抱きついてくるけど 「…あなたの事が好きなの」 こんな風に真剣な顔で、声で、伝えてくれる事は、たぶんない 気がつくと私はその人を前にして唯先輩の事ばかり考えていた。 彼女に対して失礼極まりない話だけど、でもどうしても止められなかった。 もしもこれが唯先輩なら、私はどう答えるんだろう。 「中野さん?」 「あ、は、はい」 「ごめんなさい。やっぱり迷惑だったわよね」 「いえ、そんな、迷惑なんて事はありません。ただ…」 「ただ…?」 「すいません。私、好きな人がいるんです」 気が付いたらそんな言葉が口から出ていた。 「そっか、そうなんだ」 そうなんだろうか?本当に? 「…今日はここに来て、話を聞いてくれて本当にありがとう。 またあなたの演奏を聴けるのを楽しみにしてるから、時間とらせてごめんね」 その人は無理に作った笑顔でそう言うと小走りで屋上から立ち去った。 途端に緊張が解けて壁に寄り掛かる。 「好きな人?」 好きではない人から告白されて断るには一番無難な理由だ。 だからとっさに口から出てしまったんだろう。 私はそう思う事にした。 そしてそれ以上考えるのはやめて私は部室に向かった。 部室のドアの前に立つと先輩たちの話し声が聞こえてくる。 やっといつもの気持ちに戻れそうだ。 そう思ってドアを開けようとした時、律先輩の声が聞こえてきた。 「唯、最近梓と喧嘩でもしてるのか?」 「へ?何で?」 あいかわらず気の抜けた声 「いや、最近スキンシップしてないじゃん」 「そう言えばそうね~」 「何かあったのか?」 先輩達が口ぐちに質問する。 「うーん。迷惑かなって」 え?いまさらですか? 「今まで散々抱きついといてずいぶん突然なんだな」 澪先輩が声に笑いをにじませながら問いかける。 「私だってあずにゃんの事考えてるんだよ」 だから、突然私の気持ちを考え始めた事が謎なんですよ。 「唯…、もしかしてこの間の話気にしてるのか?」 「気にしてるって言うか、りっちゃんの話を聞いて私も考えた」 何の話?律先輩は何を言った? 「律、この間の話って何だ?また余計な事言ったんじゃないだろうな」 「違う違う。ただ、梓って結構もてるんだよって言う話」 はい? 「そうなのか?」 「まあ、澪みたいにファンクラブはないけどなー」 「うるさい!」 「梓ちゃんも澪ちゃんもかわいいから~」 「まあ、冗談抜きにファンクラブができないような人気があるんだよ」 「何だそれは」 私も意味がわからない。 「みんな本気なんだよ。澪の場合は割と澪を愛でる会みたいだろ」 「だから一々私を引き合いに出すな」 「澪ちゃんの場合はアイドルみたいなものだから誰かが抜け駆けしたりはしなそうよね~」 「けど、梓の場合はみんな本気で梓の事を好きだからなー」 「……だから、私が抱きつくと迷惑かなって思ったの」 何が、だから、なの? 「もしあずにゃんの事好きな子が、私が抱きついてる所見たらすごくイヤだと思うんだよね」 「いや自分で言っといてなんだけど、そんな事気にしなくてもいいんじゃない?」 「駄目だよ。それでイヤな思いをさせたら悪いよ」 何それ。 「でも唯ちゃんはそれでいいの?」 「別に喧嘩してる訳じゃないし、普通に喋ってるよ」 「いや、そうじゃなくて」 「今まで通り接してる。ただ抱きつくのをやめただけだよ」 珍しく不機嫌そうな声 「おい、唯」 「もうこの話はいいよ。そろそろ練習しようよ」 「唯」 「唯ちゃん」 少しするとそれぞれの楽器の音が響き始める。 私は元々どこかの誰かさんみたいにいつも笑顔な訳じゃない。 だからただ自分が泣いてないかどうかだけ確認してドアを開けた。 「遅れてすいませんでした」 「あずにゃんが来たー」 「梓ちゃん、こんにちは~」 「梓、先に練習始めてるぞ」 「どうだすごいだろ!練習してるんだぞ!」 「律、それは威張る事じゃない。普通だ」 私は苦笑しながら鞄を置きギターを肩にかける 「私もすぐ始めます」 さっきまでの気まずい雰囲気は全く感じられない。 先輩達はいつもの笑顔で私を迎えてくれる。 なるほど1つ年が上だとこう言う事ができるのか。 勉強になりますよ、先輩方 …いや、あんな話を聞いて普通な顔をしてる私もか。 先輩たちの好意さえ素直に受け取れない自分がイヤになってくる。 けれどもそんな私の気持ちとは関係なく時間は過ぎる。 「さーて、そろそろ終了するかー」 「今日はギー太が饒舌だったよ!」 「みんな順調だったな。いつもこうだと良いんだが」 「たまにだから良いんじゃないかしら~」 「ムギ…、冗談なのか判別に困る事を言わないでくれ」 今日私は特に失敗していない、 でも決して良い演奏じゃなかった。 自分でそれは良くわかる。 家に帰り自分の部屋で今日の事を思い返してみる。 知らない上級生に告白された事 どう考えてもそれが一番メインイベントだ。 でも気がつくと私は先輩たちの会話を何度も思い返していた。 私の事を好きな子の事を考える? それで抱きつくのをやめる? 何それ、それじゃあ私の気持ちはどうなるの? あれ、私の気持ちって何? どうして私はこんなに怒ってるの? ここから先は考えない方がいい。屋上ではそう思った。 けれど一度考え始めてしまったから、だからもう目をそらす事ができない。 そう、ただ認めたくなかっただけで本当はずいぶん前からわかっていた。 私は唯先輩の事が、好きなんだ。 次の日の放課後、部室のドアを開けると、 唯先輩がテーブルに突っ伏して眠っていた。 他の先輩達はまだ来ていない。 2人きりになるのは久しぶりだから少し緊張する。 まあ、寝てるけど。 しかし本当に無防備な顔をして眠っている。 私の緊張を分けてあげたい。 そもそもいくら学校とは言え、気を抜き過ぎだ。 ここは自宅じゃないんですよ。 警戒心とかないんですかねこの人は。 何だかのん気に寝てる姿を見ていたら腹が立ってきた。 八つ当たりだけど。 どうせ寝てるんだし少しぐらい話しかけても良いかな。 「唯先輩」 それが聞こえた訳じゃないだろうけど なんだかすごく苦しそうな顔をし始めた。 そうですよ。少しくらい辛い思いをして下さい。 私の100分の1で良いですから。 「うーん。…あ、あずにゃん…」 前言撤回 少しじゃなくてすごくイヤな思いをして下さい。 私の夢を見ながら苦しむなんて嫌がらせにも程があります。 「…あ、あずにゃん分が足りない…」 この人は… あずにゃん分の補給とか言って今まで自分で勝手に抱きついてきた癖に 急に気を使って抱きつかなくなったのは自分じゃないですか。 「あれ?あずにゃん?」 「やっと目が覚めましたか」 まだ不機嫌そうな顔をしながら 唯先輩が体を起こす。 「うーん」 「なんですか」 「何だかイヤな夢を見た」 「そうですか。まあ目が覚めたんだから良いじゃないですか」 「…でも、起きてもあんまり変わらないや」 「それはすごく私に失礼ですね」 どうもすいませんね。生意気な後輩が夢に出てきちゃって。 その上目が覚めたら私がいてそりゃイヤですよね。 自分で思ってすごく傷つく。 「どんな夢だったんですか」 「うーんそれは…、覚えてないや」 本当にわかりやすい人ですね。 目が泳いでますよ。 「じゃあ起きても不愉快なままなのは私のせいですか」 こんな事言っても仕方ないのに、 ちょっと絡んでみたくなる。 「ち、違うよ!ただちょっと、自分の事がイヤになる夢だったの」 「はぁ、良く分かりませんが」 自分の事がイヤになる夢? 私が出て来たのに? どんな夢ですかそれは。 「唯先輩がそんな事言うの珍しいですね」 「そうかな」 「あまり何も考えてなさそうなので」 「あずにゃん、ひどい」 ひどいのは唯先輩です。 何も考えてない振りをして、人に気を使って、でも結局私の気持ちは考えないで。 そう思えば思うほど腹が立ってくる。 「まあ自分のせいじゃないですか」 「何が?」 「イヤな夢を見るのも、その気分が続くのも」 「どうして?」 「唯先輩が勝手に私に気をまわして、 1人でイヤな気持ちになってるだけでしょう」 まずい。 余計な事を言い過ぎた。 「あずにゃん…、もしかして昨日の話聞いてた?」 やっぱり変な所で勘の鋭い人だ。 失敗した。 もうごまかせない。 「…立ち聞きするつもりはなかったんですが」 「そっか、ごめんね」 「それは何の謝罪ですか」 ここで謝られる意味がわからない。 私のいない所で噂話をしてた事? 「今まであずにゃんの迷惑を考えなくて」 「私の迷惑?違うでしょう。 唯先輩が考えてるのは、私の事を好きな人の事、ですよね」 私の事なんて考えてない癖に。 考えてるのは私の事を好きな人の事 そんな人に気を使ってどうするつもりなんですか? 「私はあずにゃんの事を考えてない?」 「考えてると思ってたんですか?」 ああ、思ってたんですよね。 駄目だ。この人は本当にわかってない。 「あずにゃん、ごめん」 「もういいです。唯先輩は優しいですよ。 でも唯先輩のしてる事はただの自己満足です。 大体、自分で勝手に気をまわしておいて、 どうしてそんな辛そうな顔するんですか!」 さっきから私は余計な事ばかり言っている。 でも言わずにはいられなかった。 「あのね、あずにゃん」 「はぁ…、言い過ぎました。すいません。 気を使って頂いてありがとうございます」 無理やり唯先輩の言葉を遮ってそう言った。 もうそれでいい。何も聞きたくない。 「私の話を聞いて欲しい」 「なんですか」 今度は何を言い出すつもりですか。 何を言っても、何を言われても傷つく気がする。 「確かに私は自分の事しか考えてなかった。 私が今してる事は、あずにゃんの事を好きな子のためでもないし あずにゃんの迷惑を考えてでもない」 さっきまでは何も聞きたくないと思っていた だけど聞かずにはいられない。 それぐらい唯先輩は真剣だった。 「あずにゃんの事を好きな人がいるって聞いて それだけですごく辛い気持ちになった。 それはどうしてなのかわからなかったけど もしあずにゃんが私から離れて行ったらたぶん耐えられない。 それだったら自分の方から離れてしまえば良いと思った。 だんだん離れて行けば自分が傷つかなくて済むから」 どうしてそんなに辛い気持ちになるんですか。 どうして唯先輩が傷つくんですか。 「こんな気持ちになる理由がやっとわかった」 「私は、あずにゃんの事が好きなの」 真剣な顔、真剣な声 こういう顔をして、こんな風に言ってもらいたかった。 唯先輩はずるい。 そんな事を言われたら私は自分の気持ちに素直になってしまう。 「私だって、私だって唯先輩の事が好きです。 急に抱きつかれなくなって、嫌われたのかと思って、 私がどれだけ寂しかったと思ってるんですか。 唯先輩は勝手過ぎます。少しは私の気持ちを考えてください」 「ごめん。あずにゃん。泣かないで」 そう言われて気付いた。 私は泣いていた。 「本当にごめんね、あずにゃん」 「もう離れたりしないって約束してくれますか」 「うん、ずっと一緒にいるよ」 「絶対ですよ」 「うん。絶対だよ。絶対にずっと一緒にいるよ」 「こんな事して許すのは今回だけですからね」 「うん。わかってる。もう勝手に一人で考えたりしない」 でももしまたこの人がこんな勘違いをしても私は許してしまう。 喧嘩してもすれ違ってもずっと一緒にいたいから。 「大好きだよ、あずにゃん」 「私の方が唯先輩を好きです」 さっきの怒りがあっと言う間に消えて押さえていた気持ちが溢れだす。 どうせ唯先輩しか聞いてないんだ。 少しくらい素直になったって良いだろう。 「えへへ、ありがとう」 「だから唯先輩は私の事をもっと好きになってください」 けれど急に恥ずかしくなって訳のわからない逆切れをしてしまった。 余計に恥ずかしい。 「うん!これからもっと好きになるよ。もちろん今も大好きだよ!」 唯先輩はすごく嬉しそうな顔でそんな事を言う。 まあ、私の方が嬉しいですけどね。 「おぉー!めでたいな!」 「バカ、律、声が大きい。聞こえるぞ」 「2人とも良かったわね~」 「いや、ホント良かったよー」 「まあ確かに幸せそうで何よりだ」 「今日は部活は中止ね~」 「よしお祝いにどっか寄って行こーう」 「そうだな」 「今日は楽しくお茶が飲めそうね~」 ……えーっと、わざわざ部室の外待機して頂いて その上祝福してくれるのは非常にありがたいんですが、 会話が全部中に聞こえてますから。 「あれ、みんな外にいたんだー」 いや、そんなのんびりした声出してる場合じゃないですよ。 大体いつからいたんですかあの人たちは。 もしかしてさっきの全部聞かれてたって事ですか。 恥ずかしすぎる。 「今日は部活休みになっちゃったみたいだねー」 「そこですか。今、気にする所はそこなんですか」 「だってみんなには悪いけどあずにゃんと2人きりでいられるから」 「部活が中止なら私たちも帰ればいいじゃないですか」 もう素直じゃない私に戻ってる。 どうしていつもこうなるんだろう。 「あずにゃんは帰りたい?」 「別にどっちでもいいです」 愚問ですね。そして私は素直じゃない。 帰りたくないに決まってるじゃないですか。 もっと2人でいたいです。 「そっか、私は帰りたくない。あずにゃんと一緒にいたいよ」 「そうですか。ならもう少しいますか」 自分でもイヤになるくらい素っ気ない口調 唯先輩ほどじゃないにしろもう少しどうにかならないのか私 「あずにゃーん」 「ちょ、ちょっと急に抱きつかないで下さい」 「だってずっと抱きついてなかったからあずにゃん分が枯渇してるんだよー」 「それは自分のせいじゃないですか」 「禁断症状が出そうだった!」 「ごまかしてますね…、それに人を違法薬物みたいに言わないで下さい」 柔らかい体、温かい体温、背中にまわされる腕 すごく声が近い。 抱きしめられると安心する。 もっとずっとこうしていて欲しい。 「あずにゃん分が補給されていくのを感じるよ!」 「電池みたいですね。充電完了までどれくらいかかるんですか」 そしてすぐに満足して離れちゃうんですか。 私はまだまだ足りないです。 「うーん。ずいぶんあずにゃんに抱きついてなかったからなー」 「まさか、今まで抱きつかなかった時間分を取り戻すつもりですか」 こんな事を言っておきながら何ですけど、 私はそれでも満足しないと思います。 「でもそんな事したら、これからのあずにゃん分の補給が先延ばしになっちゃうから」 「何だか良くわからない理屈ですが、そうなんですか」 何でも良いですからまだ離れないで下さい。 お願いだからもう少し。 「だから違う方法で補給するよ」 「何ですか、違う方法って」 ふざけた口調だけど、顔を見ると真剣だった。 さっきと同じぐらい、いやもっと。 「あずにゃん」 顔が近付いてくる 目を閉じると、すぐに柔らかい感触が唇に触れた。 ただ抱きしめられてるよりもずっと温かい。 体から力が抜ける。 「…いや、だったかな?」 私を見つめながら心配そうに聞いてくるけれど 何を言えばいいのかわからない。 「ごめんね」 謝らないで下さい。 ただ力が入らないだけなんです。 頭の中も真っ白で何も考えられないんです。 唯先輩が体を離そうとする。 いやだ。離れないで欲しい。 「唯先輩」 「ん?」 「足りないです」 また抱きしめられて、今度はさっきより強く唇が押し付けられる。 困った。これからはもう抱きつかれるだけじゃ満足できない。 さっきよりもずいぶん長い時間が経って顔が離れた。 「あずにゃん大好き!」 嬉しそうな顔、嬉しそうな声 さっき言ったじゃないですか、私の方が好きですよって。 本当はもう1度、そう思ったけれどキリがないので口に出すのはやめておく。 これからまたそういう機会もある…と思うので。 とりあえず次回への期待と念のための注意を込めて言っておこう。 「唯先輩、わかってるとは思いますが 今…した事は2人きりの時だけにして下さいね」 「うーん。2人だけの時かー」 いや、そこは考える所じゃないですから。 やっぱり言っておいて良かった。 「そこで悩まないで下さい」 「我慢できるかなー」 「子供じゃないんですから我慢して下さい」 私が我慢できるか自信がないんですよ。 だから唯先輩が我慢して下さい。 年上なんだし。 「前向きに検討するよ!」 「いや検討じゃなくて、絶対しないで下さい!」 「もうしたくない?」 「…2人きりの時にして下さいと」 どうしてこんな恥ずかしい事を言わせるのか。 わざとじゃなくて本気で聞いてるのがタチが悪い。 「うーん。あ、そうだ。あずにゃん今度の日曜日、うちに遊びに来る?」 「このタイミングで言われると、ものすごい下心を感じますね」 「そんな事はないよ!」 「目が泳いでますから」 あまりにも分かりやすい誘いで思わず吹き出しそうになる。 まあ、もちろん行きますけど。 「じゃあ、ギターの練習しますからそのつもりでいて下さいね」 「えー練習するのー」 「私たちは軽音部ですから」 ただ家に行ったんじゃそのまますぎる。 たとえ使わなかったとしても私はギターを持っていきます。 恥ずかしいんですよ、察して下さい。無理だと思うけど。 「わかったよー。じゃあ日曜日待ってるねー」 「はいはい、じゃあそろそろ帰りましょうか」 「うん!」 嬉しそうな顔、嬉しそうな声 私はこの人が好きだ。 ずっと一緒にいたい。 いてくれますよね? そんな事を思いながら、私たちは部室を後にした。 すばらしい -- (名無しさん) 2011-10-24 08 01 56 名前 感想/コメント: すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/83452/pages/823.html
梓「雪が降って来たなぁ……」 梓「今年は例年より早いんだなぁ……」 梓「唯先輩は……いつまで此処にいられるんだろう…?」 梓「私では……傍に居る事は出来ないのかなぁ……?」 梓「唯先輩……」 梓「はぁ~………」 ― 昨日… 『あずにゃん、あずにゃん、見て見てっ!!』 梓「…唯先輩はそう言って、沢山の花々を私に見せて来た」 梓「…とても色美しく、キラキラと華やかな沢山の花…」 梓「私には、それがどんな名前の花なのか分からないけれど…」 ―『あずにゃん、これあずにゃんにあげるねっ!』 梓「唯先輩は、私にそれを渡してくれた……」 梓「とても、嬉しそうに………」 梓「後で調べたら…ただの花屋さんでは手に入らない貴重な花だった……」 梓「花言葉は……かけがえのない絆人」 梓「唯先輩……」 梓「私に……それは当て嵌まるのでしょうか…?」 梓「私と唯先輩は……確かにお互いを信じ合っていますけど……」 梓「私は……特に、唯先輩の事を…」 梓「だけど、それは同じ部活動の仲間として…」 梓「同じ学校の仲間として…」 梓「………」 梓「絆、か………」 梓「そんな大層なもの、私には不釣り合いだと思いません……?」 ― 平沢家 ― 唯「ねぇねぇ、うぃ~」 憂「なあに?お姉ちゃん」 唯「あずにゃんって、何であんなに可愛いのかな~?」 憂「ふふっ、お姉ちゃんったら、また梓ちゃんの話ばっかり」 唯「うぅ、だって~!!あずにゃんが可愛いすぎるんだもんっ!!」 憂「はいはい、お姉ちゃんの目には特にそう見えるんだよね~?」 唯「あぅ…///そんなんじゃないもん…っ!!」 憂「あはは、お姉ちゃん顔真っ赤だよっ♪」 憂「まあ、でも…梓ちゃんは本当に可愛いと思うよ」 唯「あの猫耳が似合いそうな感じが堪らないよねぇ…♪」 憂「またぁ…お姉ちゃんったら」 憂「………」 … 憂(本当に…梓ちゃんじゃなきゃ私は許せなかったんだから…) 憂(私の…最愛のお姉ちゃんを……誰かに譲るなんて……) 憂(……お姉ちゃん………) ぎゅうぅ… 唯「憂ぃ?どうしたの~?…」 憂「うぅん、ただちょっと…悔しくて」 唯「憂……」 憂「梓ちゃんは良い子だもんね…」 憂「私にとっても、大切な大切な親友だもん……」 憂「反対なんて…できるわけ、ないよね……」 唯「憂……」 唯「私、憂の事も大切だよ?」 唯「憂と毎日一緒に生きていられて、私すっごく幸せだよ!」 憂「お姉ちゃん……」 憂「これからも……ぎゅってしてね?……」 ― 学校 ― 唯「あずにぁああんっ♪」 梓「わわっ、唯先輩~っ!///」 唯「スゥスゥ…はぁ~、今日もあずにゃんは可愛いくて良い匂い…」ギュウ♪ 梓「……///先輩…っ!最近スキンシップが激しすぎますっ!!」 唯「えぇ~?そんな事ないんじゃない~?」 梓「ありますよっ!///…前は匂いなんて嗅いでこなかったのに…」 梓「それに……」 梓(唯先輩の方が、いい匂いしますって……///) 唯「あずにゃあああん♪あずにゃあああん♪」ぎゅうう~!! ― 部室 ― 紬「唯ちゃん……」 唯「うん、わかってる…」 唯「私は、もう長くは此処に居られない……」 紬「………」 唯「でもっ……せめて、あの子にもう一度会うまでは……っ!」 紬「………唯ちゃん」 紬「期限はもう、迫っているわ……」 紬「それに、唯ちゃんの探し物なら…きっとすぐ傍に………」 紬「唯ちゃんが今、1番大切にしているものと共に…」 唯「ムギちゃん……」 ――ガチャッ! 律「おぃ~す!今日も練習がんばるぞー!」 澪「…すまない、少し遅れてしまったな」 唯「……ううん。待ってたよ、さあ早速始めようっ♪」 紬「ふふ、そうね」 …… 梓「…………」 梓(今の会話は、一体……) 梓「私は特に耳がいい…」 梓「普通の人よりも、些細な会話を聞き取れてしまう…」 梓「今の会話は…」 梓「先輩が、何処かに行ってしまう……?」 ヒュゥゥゥ…… 梓「………ヒッグ、グスッ…」 梓「…うぅ……うわわああ……」 梓「…唯先輩……」 梓「…どこかに、行っちゃうなんて、ヤダ……」 梓「いやだよおおおっ…………」 ヒラヒラ…‥ 梓「雪が…降って来たんだなぁ…」 梓「今年は…早いんだなぁ…」 梓「あの時も、雪が降っていたっけ…」 梓「懐かしいなぁ……」 梓「唯先輩は……覚えてないだろうなぁ……」 梓「絆、か………」 梓「唯先輩………」 …… 憂「あっ、雪だ……」 憂「今年は早いなぁ……」 憂「………」 憂「ねぇ…お姉ちゃんは、どうして私のお姉ちゃんになってくれたの?」 唯「ふえ?憂が『お姉ちゃんが欲しい~!!』って言ってなかったっけ?」 憂「お姉ちゃん……」 憂「お姉ちゃんは、優しいんだね……」 唯「もうっ、何言ってんのよ憂ぃ~!」 憂「えへへっ…」 憂「……お姉ちゃん」 憂(私は本当は、お姉ちゃんを手放したくないの…) 憂(何処かへ飛び立つ前に、翼を折ってしまいたい程に…) ― 学校 ― 紬「あとの事は全部任せて…」 唯「うん……」 紬「唯ちゃん…これも決まり事なのよ」 唯「でもっ……!」 紬「探し物は……向こうから近付いて来てるわ」 唯「え?……」 紬「きっと向こうも…唯ちゃんの事が大好きなのね……」 唯「うぅ……うわあああん!!」 紬「よしよし…」ナデナデ 紬「早く、見付けてあげてね……?」 唯「うん………」 ……… バサッ…バサッ… 唯「此処にもいない…」 唯「何処にもいない…」 唯「ムギちゃんは、近くにいるって言ってた…」 唯「どうして見付からないんだろう…?」 唯「おかしいなぁ……」 唯「ムギちゃんが嘘付くわけないし……」 唯「あっ…あずにゃんだ!」 スルスル…しゅたっ!! 唯「やっほーい!あずにゃん♪」 梓「え?……唯先輩?…」 梓「どうして此処に、唯先輩が……?」 唯「いや~、ちょっと通り掛かってさ~……」 唯「たまたまあずにゃん見付けちゃった♪」 梓「あはは…そうだったんですか」 梓「………」 梓「星が、綺麗ですね…」 唯「そうだね……」 梓「………」 梓「………唯先輩」 唯「なに?あずにゃん?」 梓「………いえ、何でもないです」 唯「………そっか」 唯「………」 唯「……あずにゃんってさ…」 唯「まるで野良猫さんみたいだね…」 梓「………」 唯「こんな所にボーッと座っててさ…」 唯「風邪引いちゃうよ……?」 梓「いえ……私は大丈夫です……」 梓「私は……本当に……」 ぎゅうぅ… 梓「ひゃうっ……///」 唯「えへへ~、こうすればあったまるよ~…」 梓「唯先輩っ……///」 唯「あんまり独りぼっちになっちゃ駄目だよ…?」 梓「………唯先輩……」 梓(唯先輩はあったかいなぁ……) 梓(唯先輩はいつも優しいなぁ……) 梓(唯先輩……) 唯「ねえ…?今度デートしよっか!」 梓「………え?」 唯「だ・か・らっ!デートだよデートっ!!」 梓「えっ?えっ?……唯先輩と私がっ…!?」 唯「もぅ~、そうだよぅ………私とじゃイヤ?…」 梓「いえっ!?嫌なんて事…何一つ無いです!むしろ喜んでっ…!!」 唯「ふふっ、やったぁ!!」 梓(唯先輩とデート……ほんとに?やったぁ!!……)ドキドキ …… 憂「お姉ちゃん…近頃帰りが遅いなぁ…」 憂「きっとまた…探しに行ってるんだろうな…」 憂「お姉ちゃん……」 憂「私達にも、絆はあるって思っていいよね…?」 憂「私の事…置いていかないよね……?」 憂「私……もう独りぼっちじゃ……堪えられないよぅ……」ぽろぽろ 憂「お姉ちゃん…………」 …… 律「よーし、今日も練習再開するぞ~!」 梓「はいっ!」 澪「おっ、今日は梓がやけにやる気あるなー」 紬「あらあら、うふふっ♪」 唯「私もがんばるよーっ!!」 ジジャーン!!… 梓「みんないいかんじですね!」 澪「この分だと今度の発表会はいい出来になりそうだなっ!」 紬「ええ、…そうね……」 唯「うんっ…………」 ― 帰り道 ― 唯「あずにゃん……」 梓「唯先輩………」 唯「そろそろ…ペロペロさせてくれてもいいんじゃない?」 梓「良くないですよっ!!だんだんエスカレートして来てるじゃないですかっ!」 唯「えぇ~?!だってぇ…あずにゃんが可愛いすぎるんだもんっ!!」 梓「だからって……っ!!」 梓(唯先輩にそんな事されたら……) 梓(私っ……///) 唯「……まぁペロペロは今度させてもらうとして…」 梓「…結局するんですかっ!?(…うわー、うわー///)」 唯「明日はデートだねっ、あずにゃん♪」 梓「そ、そうですね……///」 唯「ふふっ、楽しみだなぁ♪」 … シーン…‥シーン…‥ 梓「唯先輩は優しいなぁ…」 梓「明日は唯先輩とデートかぁ…」 梓「夢が一つ叶っちゃったなぁ…」 梓「唯先輩………」 梓「どうして、私にそんなに優しくしてくれるんですか…?」 梓「私は……本当は……ただの猫なのに」 梓「唯先輩………」 梓「絆なら…憂のが適任でしょう…?」 ― デート当日 ― 梓「ひゃあっ///……な、なんで手を…つ、繋いでいるんですかぁ!?」 唯「だぁって~…デートだよ?手ぐらい繋ぐに決まってるじゃんっ♪」 梓「はは、恥ずかしいですよ…///」 唯「ん~、私達のラヴラヴっぷりを見せ付けてやろうよっ♪」 梓「うぅ……もぅ///」 唯「あっ、やっぱ止めた」パッ 梓「え?……ヤダ‥」 唯「やっぱり腕組みにしよう♪」 梓「ひゃああぅ!?唯先輩……!??」ドキッ 唯「~~~♪」 梓「…ぁぅぅ……///」ドキドキ ― 服屋 ― 唯「あずにゃん、あずにゃん!これ着て~♪」 梓「ちょ、ちょっと!何ですかこの白黒フリフリな服はっ!?」 唯「メイド服だよ、あずにゃん♪」 唯「あずにゃん、あずにゃん!これも着て~♪」 梓「にぁああ!?何ですかこの白赤の着物みたいな服はっ!?」 唯「巫女服だよ、あずにゃん♪」 唯「あずにゃん、あずにゃん!これも着て~♪」 梓「ちょ、ちょっと待って下さい!これはバニーガールじゃないですかっ!?」 唯「うん、そうだよっ♪」 梓「着ませんよ、こんな服!っていうか何なんですかこの店はっ!?」 唯「ただの服屋さんだよ?」 梓「明らかに普通の服屋さんじゃないぃぃ!!?」 唯「着ないのなら着せてあげるっ♪」 梓「にぁああ!?やめてっ?脱がさないでっ!!唯先輩ぃ~!!?」 2