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【登録タグ W 初音ミク 曲 立秋】 作詞:立秋 作曲:立秋 編曲:立秋 唄:初音ミク 曲紹介 立秋氏の11作目。 ミク誕生日おめでとう!ってことでこんな曲作ってみました。もし良かったらドスドス四つ打ち聞いてあげてください。 素敵なイラストはピアプロよりぽんたろさんからお借りしました。ありがとうございます! 季節を壮大に間違っているのは仕様かもしれません。眠かったからかもしれません。 ちょうど僕も音楽初めて1年になりました 歌詞 (ピアプロより転載) 君に伝えたいことがあるよ 君に届けたい声があるよ ずっとずっと言えなかった 臆病なあたしだからずっと 君に伝えたいことがあるよ 君に届けたい歌があるよ いつもわがままばっかりだけど ここでこうして歌うよ ずっと 君に伝えたいことがあるよ 君と奏でたい音があるよ 幸せな気持ちなら ずっと 悲しいときでも ずっと 君に伝えたいことがあるよ 君に届けたい歌があるよ ずっとずっと言いいたかった 泣き虫なあたしだから 空の色 海の音 何もかも 優しくて 君に伝えたいことがあるよ 君に聞かせたい声があるよ まだこんなヘタクソだけど 絶対負けないから ずっと 君に伝えたいことがあるよ 君に聞かせたい歌があるよ たまに困らせたりもするけど ここでこうして歌うよ ずっと 君に伝えたいことがあるよ 君と紡ぎたい音があるよ 喜びも愛しさも ずっと 切なさも寂しさも ずっと 君に伝えたいことがあるよ 君に聞かせたい声があるよ いつかちゃんと歌ってみせるから 傍においてください 君の色 君の音 優しくて 嬉しくて 何気ない時間でも ちゃんと あたしのこと見てくれて ずっと 言いたいと思ってた こと 今日こそはちゃんと 言うの 好きだけじゃ足りないね きっと 他に何かないかな もっと 君のためになるような こと 君がびっくりするよな ななな アニメギャルゲフィギュア えっと そんなものたちよりも もっと 喜んでもらえる ぎゅっと 抱きしめてもらえる そんな 何かを探してみても うんと 見つからないままで 今日を 迎えてしまったの あーもぅ こんなあたしでごめんね でも ひとつだけ 歌わせて 君のため この歌を 君に伝えたいことがあるよ 君に届けたい声があるよ ずっとずっと言えなかった いきなりこんな歌ごめんね 君に伝えたいことがあるよ 君に届けたい歌があるよ いつもわがままばっかりだけど ここでこうして歌うよ ずっと 真夏に冬の歌歌うの こんなラブトランス歌うの 周りなんて関係ないでしょ 君と二人で作る音だから 君に伝えたいことがあるよ 君に届けたい声があるよ ずっとずっと言いいたかった 臆病なあたしから ありがとう これからも よろしくね きみと… コメント 制作ペース速いw追加乙です! -- 零 (2016-10-03 15 15 59) 名前 コメント
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ラノで読む 【case2 Eiserne Jungfrau】 これは、双葉学園とは別で起こった事件。 この世界《にちじょう》ではよくあることであり、そして隠蔽されることもまたよくある、 どこにでもある安っぽい悲劇。 その日、その女子高の生徒達が全員死んだ。ただそれだけ。 正確には、登校した生徒達全員。五百二十名、その悉くが殺された。 その惨劇を回避できたのは、病欠やサボり、そしてひきこもりの不登校の少女たちだけである。 その数、八名。 そしてその少女達は、ただ運良く回避できただけに過ぎない。 本当に、そうだろうか? そう疑問が湧くのもまた当然。世界に運命という絶対律があり、偶然は必然ならば。 “そうね” 笑い声が響く。 “故に、あの子たちが生き延びた理由は一つ” それは悪意を孕んだ声。 “あの七人が生き延びたのは――” 絶対的な、殺意の元に。 彼女はその娘たちへと声を届かせる。 “ただの、食後のスイーツ” ――そして。 取るに足らない惨劇が開始される。 皆槻直と結城宮子の前には、新しい血が飛び散っていた。 「うわぁ……」 ほぼ全校生徒が殺害された事件。 当然、封鎖された校舎に立ち入るものなどいない。いるはずがない、常識として。 だがその埒外もまた当然存在する。 それは、彼女たちのように、ラルヴァが起こしたであろう事件を調査・解決しようとするものだったり。 そして―― 新たなる犠牲者だったり。 「間違いない、新しい被害者ね……」 血は新鮮な赤色。数日前に殺された血痕ではない。 そしてその血の主は、すでに事切れている。 どれだけの恐怖と苦痛を味あわせられたら、こんな顔をするのだろうかと、想像することすら痛ましい表情を張り付かせて。 「ひどい……」 直は、拳を握り締める。 これは、彼女の美学とは相容れない。絶対に。 戦いの果ての死、などでは断じてない。そもそも彼女達はただの人間。ただの一般人。 それをこんな、拷問と玩弄の果ての……殺すことが目的ですらなく、「遊んでいたら死んだ」かのような。 宮子は、その遺体の目をそっと閉じさせる。 「……とにかく、ここにラルヴァがいるのは間違いないわね。 見つけ出して、退治しないと……」 そういいながら、血に染まった廊下を見つめる。 すると…… 「た、たすけてください……!」 疲弊したか細い少女の声が、二人の耳に届いた。 少女は、武上華菜、と名乗った。 引きこもりの不登校児。 だが、何故か気がついたら学校にいた。自分でもわからない。 ただ、呼ばれた気がする、とだけ。 「そんな、こんなひどいことになってるなんて……」 恐怖と嫌悪にむせび泣きながら、華菜は言う。怖い、と。 「でも、一人でも……よかったよ、本当に」 「ありがとう……本当に怖くて。 私、ここから出たいの……お願い、助けて」 華菜が懇願する。だが、その時…… 「あなた、誰」 直が、言う。 「え、誰って……」 「学校の生徒で、残っているのはいないのよ。 この中で私達が見つけた、新しい被害者は七人。 生き残ったのも七人……もう、いないの」 「わ、私は……いや、ちょっと待ってよ。 新聞見てないの? あの時の事件で……」 「そうね。あの日、学校に行かずに、あの事件に会わなかったのは七人。 でも……」 一息ついて、続ける。 「残りの一人は、死んでいた。ひきこもりの末、自ら命を絶って」 「……」 直たちは、すでにそれを調べていた。事件の情報収集は、基本だ。 「そう、これで五百二十+七+一、総勢五百二十八名……この学校の生徒は全員亡くなった。 じゃあ、あなたは誰なの? 最後の一人、自殺したはずの女の子の名前を騙る、あなたは」 その言葉に、少女はうつむき、そして…… 「うふ、ふふふふ……」 くぐもった笑いは、 「あは、あははははは、あっははははははははははははははははははははははは!!」 哄笑へと変わる。 そして。 「! ナオ、跳んで!」 宮子が叫ぶ。その声に従い跳躍したその刹那、 巨大な鋼の棘が空間から飛び出し、直前まで直のいた場所を串刺しした。 「惜っし~い。もう少しだったのになぁ」 くすくす、と。 鈴を転がすような声で笑う少女。 血に染まった校舎にそれはどうしょうもなく不釣合いで。 似合いすぎるほどに、邪悪だった。 「……ラルヴァ」 「ええ、そうよ」 「武上華菜を殺し、その体を……乗っ取ったの?」 宮子の言葉に、華菜の姿をした少女は笑いながら言う。 「はあ? なんで? 私が、華菜を? ちょっと、なにその発想? あはは、おかしすぎ! ねぇ、乗っ取るって何? 私ってば何者? それ、あはははははは!」 「……っ」 そのあまりにも馬鹿にした笑いに、宮子は憮然とする。 「私が、この私が! あの子を殺すはずないじゃない! だってさぁ……」 メキメキ、となにやら音が響く。 その音は、彼女の腹から。 そして―― 腹が爆ぜ、そこから鎖が幾重も飛び出す。 「殺してあげる前に、殺されちゃったんだからさぁっ!!」 唸る鋼の蛇。二人は走り、それを避わす。 鎖はまるで生きているかのように、地を砕き壁を走り、二人を追いかける。 「ほらほらぁっ、早く走らないと追いついちゃうわよ? もっと早くぅ!」 笑う。笑うラルヴァ。 鎖は生物のように、二人を追う。 そして…… 「それだけじゃないわよぅ?」 その言葉と共に、床が爆散した。 「!」 床から生える、太い針。 それが宮子の足を貫く。 「あうっ!」 「ミヤっ!」 そして、その刺棘に足を取られた瞬間、唸る鎖が宮子の全身を縛り上げる。 その光景に気を取られた一瞬の隙を突き、直の体にもまた鎖が巻きつく。 「く……!」 「うああっ!」 少女の腹を破り生える、血に染まった鎖が二人を拘束する。 「つーかまえたっ」 まるで鬼ごっこで勝ったかのような、そんな童女のような笑顔で、二人を縛り上げる。 「んー、拍子抜けよねー。かっこよく攻め込んできたのにもうおしまい? ほらほら、もっと頑張りなさいよぉ。でないと……」 別の鎖が、じゃらりと音を立てる。 鎌首をもたげて引っ張って来たのは、死んだ少女の亡骸。 「あなたたちも、こうなっちゃうよ?」 めきめきと音を立て―― ぱきゃん、と軽快な音を立て、その亡骸の頭は砕け散った。 「っ!」 「く……っ、そ……!」 頭の中身が、体の中身が飛び散り、床に、壁に、そしてラルヴァの顔に染みを作る。 ラルヴァはそれを美味しそうに舐める。 「ふふ、やっぱり浴びるなら女の子の血よね。 処女じゃないしただのゲスだけど、まあ贅沢は言えないかな」 その光景に、直は怒りを燃やす。 「やめ、ろ――」 「なによぅ。なんで? あんたらだって、アレでしょ? ラルヴァを殺したりしてるんでしょ? ならなんで私が人間を殺しちゃいけないの?」 「ふざけるな!」 直は叫ぶ。 「それは戦いじゃない。私は――お前のように、弱者を一方的に痛めつける奴が、嫌いなんだ!」 「あはははははは! そうね、確かにそう。本当にそうよねぇ、だったら――」 ラルヴァは笑い、そして――その顔を、憤怒と悪意に歪める。 「なんでそいつらを守るのよ」 一転。 周囲の空間が変わる。 これは映像。 空間に投影された、怨念だ。 「私は見てた」 華菜が、殴られていた。殴っている相手の中には、先ほどに直たちが見た顔もある。 みな、笑っていた。楽しそうに。当然のように。 「私は聞いていた」 華菜が、犯されていた。それを見ながら、万札を数えている女の子の中には、先ほどに直たちが見た顔もある。 みな、笑っていた。楽しそうに。当然のように。 「私は、知っていた」 華菜の体験してきた絶望、羞恥、悲嘆、それら全てが映し出される。 「私が間に合えば――もっと早く、私に力があれば――」 マンションの屋上に立つ華菜の姿。 「もっと早く、私が私になれていれば!」 ここまで苦しむ前に、殺せてあげた! きれいなままで、殺せてあげたのに! クズどもが、ただ楽しいから、面白いからという理由だけで、浮浪者に乱暴させた。 それで病気に罹った。 クズどもが、ただ楽しいから、面白いからという理由だけで、薬品をかけた。 それで、肌が焼け爛れた。 そして絶望し、死を選んだ。 ただそれだけの、よくある陳腐な単なる悲劇。 「あなた、一体――」 「お前、は……?」 二人の声に、ラルヴァはただ笑う。 そして、その手を顔面にかける。 血が滲む。血が流れる。血が沸騰する。血が凝固する。 それは、血の仮面。 彼女の血で、武上華菜の断末魔の血で出来た、仮面。 そう、これはただの悲劇だ。。 ならばこそ――「ただの悲劇」で終わらせてなるものか。 “憎いですか?” 声が響く。 ああ、憎いに決まってるじゃない。 “許せませんか?” 当然よ。 これを許せるものか。 “何を望みますか?” 彼女が失った美を。復讐の甘美と共に、それを再び取り戻す。 “あなたには、その手段がないのに?” そんな事は判ってる。 私には自由に動く体がない。意思もない。心もない。魂もない。 ただの人形。 でも―― “その呪いは、実に素晴らしい!” 私には呪いがある。 あの子が私に込めた呪い。断末魔の憎悪。 ただの人形の私に込めた、血と叫びが、私に呪いをもたらした。 “ならばこそ――” そう、ならばこそ。 “貴女には、踊る権利がある。義務がある。資格がある!” そう、悲劇はいらない。私が欲しいのは―― “仮面を授けましょう。あなたはこれよりプリマドンナとして――” 恐怖劇を、踊り狂う! 「何、これは――」 直たちはそれを見る。 ただの、傷だらけのデッサン人形。 武上華菜が呪いと憎悪と怒りを込めて、デッサンナイフを叩きつけ傷つけ、自らの血を擦り込んだ、歪な木製のヒトガタ。 それに、血の仮面が張り付く。 怨念が、結集する。凝固する。 その姿は―― 処刑器具、拷問器具が集まり、人間のカタチになった、デキソコナイの滑稽な人形。 針金。ペンチ。棘。鎖。手錠。針。車輪。檻。 それらが出鱈目に寄り集まって生まれた、不恰好で、だからこそ凄惨で恐ろしい―― 「鋼鉄の処女――」 二人の前に立つのは、正しく処刑具人形。アイゼルネ・ユングフラウ。 「その子のための……復讐で、こんなことを……」 「その子が、そんなことをして――喜ぶとでも!?」 「当たり前じゃない。世を憎み、世を呪って死んだ娘が、その復讐を喜ばないとでも? ええ、したり顔で言う人っているわよねぇ。 その子は生前に、復讐を考えたのか、とか。 馬鹿じゃない? 弱くて脆い子はね、負け犬はね、そんなことを考える事すら出来ない! 死ぬ気なら立ち向かえる? 呪うぐらいなら殴れ? はっ、馬鹿じゃない? そんなの――強い人間の勝手な持論よ! 強いからいいよねぇ、弱い人間の気持ちなんてわからない。わかったふりをするだけ、わかったつもりで……優しい自分に浸れるから!」 「違う!」 「あはははははは。何が違うの? あなたたちは何を救った? 違うでしょう、ラルヴァを倒す、殺すだけ。 正義の味方気取りで、価値観の違う存在を殺して、酔ってるだけよ? 違うって言うのなら―― なんであなた達は、華菜を救ってくれなかったの? そうよね、救う理由なんて無いものね、だって――ラルヴァに襲われたわけじゃない、ただいじめられてるだけの弱い女の子なんていくらでもいる! そんなのを助けるぐらいなら、ラルヴァを倒したほうがいい。そう、そうよ? ラルヴァを倒せば、そいつに殺されるかもしれない多くの人間が助かるから、だから――人間によっていじめ殺される、どこにでもいるそんな女の子に気付く必要ないものね!」 「違うっ!!」 「勘違いしないでね? 責めてるわけじゃないもの。 自分の手の届く範囲しかどうにもならないのは当然だもん。 それが限界。だからさ、あなたたちは目に付くラルヴァを殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺し尽くせばいい。 ええ、最高よね。ラルヴァにも心はある。動物にも心があるのと同じ。血の色はどんなかしら? その悲鳴は? ああ、考えるだけでドキドキして胸が高まる! 自分とは別の生物、自分達を害する敵だから倒していい、殺していい、なんて素敵な免罪符! 本当、あなた達って最高」 「ふ、ざけるな……!!」 「ふざけてなんかないわよ。だから私は、異能者《あなたたち》が大好き。 だから……」 鎖がほどける。 二人は床にそのまま投げ出される。 「あなた達は殺しちゃわないわ。あなたたちがラルヴァを殺していくのを楽しませてもらう。 あなたたちも恐怖劇の大事な大事なブリマドンナ。 そして……」 仮面が笑う。 「それが違う、って言ったよね? ならその偽善が何処まで通用するか楽しみ。 だからここでは殺さない。 でもいつか殺してあげる。私があなたたちを覚えていたら、の話だけどね? だって――」 鋼鉄《アイゼルネ》の処女《ユングフラウ》は笑う。 「何処の誰でも言いそうな、陳腐でどうでもいい正義なんて、私の胸には届かないもの。 あの子の嘆きが誰にも届かなかったように」 それは何処にでもある話。どこにでもある安っぽい悲劇。 理由は、その基点は何だったかはもう思い出せない、そのくらいに些細な、いうなればボタンをかけちがった程度。 いじめられ、疎まれ、そして犯され殴られ踏み躙られる、何処にでもある弱者の、ただひとりだけの地獄。 それを生き地獄だと、同情する余人は言ってくれるだろう。だが、言ってくれるだけだ。 ひとつの国どころか、地方、いや市、町、区――そのぐらいに地域を切り刻んでも、そのどこにでもあるような、安く陳腐な生き地獄。 転じて世界を見渡せば、貧困にあえぐ国、戦火に晒された国に起きる多くの悲劇に比べれば、なんと陳腐で矮小。 そんな程度、五時のワイドショーのネタにすらならない。 「自分だけが、不幸だと――」 ナオの言葉に、 「思うはずないじゃない?」 そう彼女は即答する。 「だから知らしめてあげる。世界に。華菜のだけじゃない、みんなの苦痛、苦しみ、悲しみ、屈辱を。 みんなの不幸を、平等に。そう、これが私の、華菜への愛! 私の愛が世界を包む、私の棘で抱いてあげる! あは、あはははは、あははははははははははははははははは!!」 笑いながら、影へと溶ける。影へと消える。 その前に、直は問いかける。 「お前は、何者だ――?」 【case3 Wladislaus Drakulya】 (死にたくない) 闇の中、 彼はそう考えていた。 彼は死んでいる。すでにこの世のものではない。 だが、何故彼はそう思うのか? 死者はものを考えない。死者は語らない。死者は歩かない。 だがそれでも―― (死にたくない) その思考が、体を焼く。 生への渇望、命への羨望が狂気となって荒れ狂う。 (死にたくない) 彼にもはや体は無い。在るのはその執念のみ。 それでも、手を伸ばす。渇望を形に。憎悪を姿に。 ただ。 それはただ―― (生きたい――!!) それを聞き届けたのは、誰か。 それは誰でもない誰か。それは誰でもある誰か。 それは語り部。 それは道化。 彼はその声を聞き届け、そして彼に賛辞を贈るのだ。 然り。 然り。 然り! 素晴らしい。おお、おお……なんと素晴らしいその渇望か! 生きたいというのは生物の本能。 故に寓話はそれを叶えない。 だが。だが、だが! 死してなおのその渇望。嫉妬、羨望、憎悪―― ここまでの感情が渦巻くそれはもやは、本能という陳腐な言葉では語れない。 ――衝動である。 素晴らしい。人は此処まで狂えるのか。 憎み、焦がれ、それはまるで愛にも似た憎悪。 よろしい、ならばいまこそ君の物語は始まる。 生に焦がれる物語。 死を拒絶する物語。 受け取るがいい。 さあ、貴方は。貴方様は―――― その名は――――!! オメガサークル、とよばれる秘密結社がある。 異能者研究の機関だ。 故に、異能者の死体が出れば、それを非合法な手段で回収する事も多い。 葬儀屋に手を回し、死体を摩り替えたり。 学園の“掃除屋”にメンバーを潜入させ、そして横流しさせたり、である。 「うーわ、こりゃアレだな。使えねぇ」 研究員の一人が、ソレを見てぼやく。 双葉学園の商店街炎上。 その事件の犯人と呼ばれる異能者。 被検体Nβ207。 彼の所属していた組織の名は、スティグマ。コードネーム……ギガフレア。 だがその名ももはや意味を成さない。 何故ならソレは―― 「ただの灰じゃねぇの。遺伝子調査もできねぇよ、これじゃ」 「ったく。こんなゴミ、もって来たの誰だ」 ぼやきながら、研究員はその黒い燃えカスのファイルにボールペンで雑に書き込む。 被検体Nβ207、ロスト。 役立たず、と。 「次のNβ208……今度は女か。うわ、もったいねぇ」 研究員は頭を大げさに抱える。その遺体が美少女であったからだ。 「くそー、生きてるときにお目にかかりたかったぜ」 「いいじゃん別に。外傷なし、データによると死因は遠距離攻撃による心臓麻痺、ってことだし……」 「なるほど」 研究員達はにやりと笑いあう。 「バラす前に、楽しめるって事か」 「まったくだ。さっきのゴミとは大違いだ、死んだ後も役に立ってもらわないと」 ギガフレアだったモノに嘲笑と罵声を浴びせながら、研究員たちは少女の遺体、その乳房に手を伸ばす。 「へへへ……ん?」 その時、研究員達は異常に気付く。 薄暗く青白い研究室に、赤い光が見える。 それは研究員達の後ろから。 「何、だ……?」 彼らは振り向き、そして――見てしまった。 燃えている。 灰が燃えている。 その火種が大きくなり、炎を上げ、そして人の姿を取り始める。 「ひ、なんだ……なんだこれは!」 研究員は非常ベルを押す。 鳴り響く警報。シャッターが下りる。 だが―― シャッターに穴が開く。赤い紅い、杭のように凝縮された炎が、超硬合金とセラミックの多重積層シャッターを突き破る。 「ひいいいいっ!」 そして炎が人の形をとる。 その頭部と思われる部分に張り付くは、仮面。 真紅の仮面。炎の色、血の色。赤い仮面。 そして、その仮面を貼り付けた顔が――口を開ける。 炎の牙が、研究員達を飲み込んだ。 彼は、生きたかった。 その異能、炎とはすなわち、命の炎。 彼は、羨ましかった。 生きている人間が、死した今、その羨望はさらに燃え上がる。 彼は、憎かった。 世界の全てが。 そして、死した今――死から蘇った今、その憎悪と殺意は、生きる全てへと向けられる。 炎にその施設は飲まれる。 研究員達、警備員達、そしてそこにいたオメガサークルの異能者たち―― 誰も彼もが一切合財の区別も無く、その血を啜られ、肉を燃やされて死に絶えた。 その死と灰の世界で、それは笑う。 自らの新たなる生誕を呪う。 この忌むべき世界に再び、一個の存在として立ったその悲劇を歓喜する。 彼の物語を称えよう。 「――謳え! 命を憎む物語を! ――燃やせ! 世界を焼き尽くす炎で!! 僕は戻ってきた! この憎むべき世界に! そうだ、そうだ、そうだ! これが僕の物語!!」 彼は笑う。 その名は。その物語は。その仮面は――“吸血鬼ドラキュラ”。 ヴラド=ギガフレア。 紅蓮の串刺し公。 「待、て……!」 息も絶え絶えな異能者が、なんとか声を絞り出す。 もはや彼の残された命は少ない。 数瞬後にも、尽きてしまうだろう。 だからこそ、せめて――自身の疑問を晴らしたかった。 何だ、コレは。 何なのだ。 「……お前は、何者だ――?」 「お前は、何者だ――?」 その問いに。 仮面のラルヴァは、答える。 「――寓話。寓話演者《グリムアクター》」 或いは、 「寓話人形《グリムドール》」 そう、手にした自らの力を、あるいは自らの存在を誇るように。 「物語に成り得た、現実」 或いは。 「現実を侵した物語」 彼らは―― 「我らは――」 トップに戻る 作品投稿場所に戻る
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メイガスナイト その① ――何も起きて無くてもみんな変わらないな。 退屈って事だな BGM “ミセリコルディア -Misericordia-” by 桃梨 一、 その日は朝から何かがおかしかった。 珍しく昼近くになってから目を覚ました魔理沙は、横になっていた薄い布団の上で“おや?”と思った。覚えのない不可解な感じが……なんとなくどこか調子が悪い気がした。 その、何かが変だなという感覚は多少気になったが、いやいや大した事じゃないだろうとその時には軽く思っていた。 けれどもすぐに、こりゃ異常だなと思い知った。 着替えたりして動いている間中ずっと、体が徹夜明けで疲労しているみたいにずっしりと重くて、その上にいつの間にか頭痛まで感じる。 こめかみに手をあてて、どうしたんだぜ、どうしたんだぜ、とぶつぶつ繰り返した。その奇妙な現象に動揺を隠しきれていなかった。意味もなく家の中をうろうろと歩いて、手助けを望める味方を探したりもした。すんすん鼻を鳴らして、二回ぐらいくしゃみをした。 「どういう……事なん、だ」 さすがに事態がかなり不気味な方へと推移しだしていると感じた。とりあえずは、家から離れようとした。別に行き先も何も考えていなかったのだが、気弱になった思考は自然に博麗神社を思い浮かべた。昔から魔理沙は何かあると神社に飛ぶ。もう癖や慣れというか習性と呼べるレベルにまで染み付いた行動だったし、それは弱った野生動物が安心できる場所へ逃げ込もうとするのにも似ていた。 家の前で箒を飛ばそうとした瞬間、理由もわからないままに“こてっ”と転んだ。そして、手の中から箒が転がっていってしまう。 すぐに立ち上がろうとした。この魔理沙ともあろうものが一人で自宅前の土にまみれているのはとてもとてもよろしくないと思ったからだ。 しかし、体に力が入らない。骨を全部コロイド溶液のゲルにでも変えられてしまったように、くにゃくにゃと力が抜けていってしまう。うんうん唸って、腹筋に力を入れてもだめだった。そもそもそれは魔法少女の腹筋であり、幻想郷の少女の腹筋が活躍する場面は弾幕ごっこの時と相場は決まっていた。 次に、こいつは一体誰の仕業なのかと考えた。さすがに自分の中にこんな事の心当たりはなかった。次々と知人妖怪その他の顔が浮かぶが、どいつもこいつもやりそうになかったけれど、同じぐらい誰でもやりそうだと思えた。矛盾しているようだが、幻想郷の面々なんてそんな奴らばかりだった。 そして、そうやって、次の瞬間。 魔理沙は思い切り吐いた。 「二日酔いだったわ」 吐くだけ吐いたらすっきりした。 少しして不調から復活した魔理沙は風呂に入った後霊夢のところへ行って朝餉を共にした。神社には、朝っぱらから背筋をしゃんと伸ばして清まし顔のアリスがいた。基本的に、滅多に森から出ないヤツだ。魔理沙との相性はあんまり良くなかった。両者とも火力偏重の狭撃タイプであり、霊夢のホーミング性を見習ってほしいところだが、その頭悪いスタイルが相乗した火力の結果がマリス砲であるともいえるから、まあそこそこ仲良しさんなのかもしれなかった。 味噌汁の具について多少アリスと魔理沙とで口論になったが、霊夢が二人を無視してジャガイモをぶち込んだために争いは収まった。 「シンプルに、豆腐でいいだろ。何だ蕪って」 「あら、食べればわかるわよ」 「別に何だっていいじゃない」 どうも霊夢は食べられれば別に何だっていいじゃないとか考えている節がある。 朝食がひと段落し、アリスが持参した茶葉をいそいそと淹れ始める。それは深橙色の紅茶で、日本ではもちろん栽培できない。そのため、紅茶に似た何かである可能性が高かった。こんな伴天連茶飲めたもんじゃないわと最初は口をつけるのを渋っていた霊夢も、強引に薦めるアリスに押し負けてちょっとだけ啜り、まあまあねと感想を零してアリスを微笑ませた。 魔理沙はしばらく産地について説明されるものだと思って待っていたが一向にアリスが喋る気配をみせないから潔く諦めて“グィィィ――z__ッ”と一息に紅茶を飲み干した。 「えッ!」 「うそだろッ! オイッ!」 「うわお! バッチイッ! 飲みやがったこいつッ!」 「何飲ませたんだよお前ら」 ※ ※ ※ 朝五ツ半(午前九時)ぐらいになって神社を文字通り飛び出した(基本的に箒で飛んで移動しているため)。魔理沙はまっすぐ西へと向かった。紅魔館の地下、なんちゃら図書館が目的である。 別れ際の一言もない二人の態度に涙眼になんてなっていない。 魔理沙は強い子だった。 愛用の箒は中空を滑るようにして彼女を運んだ。リボンのついた帽子や白くて黒いエプロンドレスの隙間から夏の青い日差しが照りつけてくる。金髪に縁取られた頬が、じんわりと熱を持つ。 目の前に広がる魔法の森には色々な妖怪なんかが生息しているためか、上を飛んでいるとけったいな連中とのエンカウントが多かった。 「あ」 「あら」 「あっと」 「――ん。三妖精か」 魔理沙の前に、金髪と金髪と黒髪の妖精たちが現われた。ちんまいのとロリいのとペドいのと言い換えてもいい。念願叶い見事STGゲーム作品に出演した後も、妖精というだけで甘く見られているのか、大して株は上がらなかった連中である。 三匹集まって、なにやらひそひそと話し込んでいたようだった。多分またぞろイタズラの相談でもしていたのだろうと魔理沙は思った。妖精といえばイタズラだ。なぜか阿求は蛇蝎のごとく妖精を嫌っているが、その理由もおそらくイタズラされたからだろう。子供程度の知恵は働くため、たまさか面倒な事をされたりもする。 ちなみに三妖精は彼女の事を魔理沙さん魔理沙さんと呼んでいたりする。きっと妖精相手でもそれなりに構ってくれるからだろう。魔理沙の方も、まんざらではないようだった。 「魔理沙さんだー」 「今日はお出かけ?」 「こんにちは。いいお天気ですよね」 「私たちはこれから里の方へ行くつもりだったんですけど、そっちは?」 「サニーが、里は太陽の導きがどうのって聞かなくて」 「人里だと、ちょっと失敗すればすぐおっかないのが飛んでくるし」 「ちょっと待て、一人ずつ畳み掛けて喋るな」 少しうっおとしくなって、エプロンのポケットに入っていたなめこ味の飴玉をそれぞれの手に握らせた。 微妙に渋い顔をされたので、足早にそこから立ち去る事にした。 「はて、今どこぞで人気だとか聞いてたんだが」 時と場所によるのかもしれなかった。 小さくせせらぎの音がするような、眼下の森の少し開けた場所で、秋の神様がローキックの稽古に精を出す姿が見えた。魔理沙の経験上、この手の精神病患者が明るく振舞っている時にはそばに近寄るべきではないから、見なかった事にしてさっさと飛び去ろうとしたのだが、静葉がひょいと顔を上げ魔理沙を見つけて大声で呼び止めてきた。 仕方なく、箒の高度を下げていく。正直なところかなり迷ったのだが、下手に逆恨みされてもおもしろくない。芋を焼く程度の神でも一応そのぐらいはしてきそうだった。 顔がはっきり見えるぐらいにまで近づいてきて、何気なく足元を見るとスカートから伸びる白い膝に赤く滲んだ包帯が巻かれていた。 両膝だった。 手首には巻いていなかった。 「おおい、確か山で会った、魔理沙とかいったっけ……てぇおい何で逃げる!」 「別に逃げてるわけじゃない。誰だって火事があれば高みの見物するだろ? お前らみたいに飛び込む馬鹿は人間にゃいないぜ」 季節が秋ではないからか、魔理沙の速度が速いのか、それ以上の反応は無かった。秋でも怪しいぜと魔理沙は思った。 その後も、喧しい天狗に付き纏われたり、自称常識的巫女に絡まれたりしていたから、魔理沙が最初考えていたよりずっと時間を食ってしまった。下のアングルからシャッターを切る天狗を魔砲で撃退し、風祝と明後日に博麗神社でパジャマパーティーを行う旨の約束を交わした。 「――しかしそれって霊夢に伝えてるのか?」 「え?」 「えっ」 「当日まで黙っているからドッキリなんじゃないですか」 早苗は清々しいまでのドヤ顔でそう言っていた。 ああこいつは長生きするだろうなと魔理沙は思った。それから、そういや神なんだっけかと思い直した。 魔理沙は今日も愛されています。 二、 手足のごとく箒を繰って縦とも横とも上下ともいえぬ微妙な飛行を繰り返す。 ガリガリガリガリという――耳に残る弾幕とグレイズの小気味よい効果音。 夢に出てきそうな色とりどりの大瀑布を相手取り涼しい顔をかけらも崩さない魔理沙は――目下のところ、“ごっこ”の真っ最中だった。 小悪魔の弾幕は俯瞰的な視点を使った細かい円運動を強要される。そのくせ目先の空白地帯より早め早めで次の弾幕に突っ込んだ方が労力を使わずにすむ上、大玉の影から何気なく小玉が飛んできたりする非常に陰湿なものだ。魔理沙の竹を割ったような性格(レベルを上げて物理で殴れ)とは相容れないものがあった。 糸を針穴に通すため真心を込めたスレッジハンマーで打ち抜く。そんな心境で、弾幕を潜り抜けながらレーザーを大雑把にぶっ放す。矛盾しているようだが、弾幕ごっこをしている最中の魔理沙は大体そんな感じだった。位置の確認は一瞬、反撃の呪文詠唱も一瞬、それでいて全体把握は常に。幻想郷の少女達が皆、どいつもこいつも頭のネジの一本や二本外れている原因であり(そして“弾幕狂ども”として差別される一因でもある)、慣れぬ内は「なんだこのクソゲー」といいたくなる中の最たる理由でもあった。被弾しそうな瞬間指がボムのキーを押せるようになるだけでも随分違うから、まずは死んで覚えてください。正直魔理沙はピーキーだからまずは無難に霊夢のがいい。さすが博麗の巫女様……。 余談だが、魔理沙はレーザーとビームを混合されるのが嫌いだった。恋する魔理沙はビームとかほざく輩をついついアヘらせちゃうの。 彼女の弾幕は図書館のような暗闇の中で、とりわけ澄み渡った夜空の下が一番映える。レーザーも、星の弾幕も、爆発は一瞬だけまたたいてから闇の中へ吸い込まれるようにして消える。それは魔理沙の生き方を象徴していた。 交わされる閃光と弾。絢爛豪華な、意志のぶつけ合い。 幕引き――演題交換。 その光景を頭上から四角く見下ろせば、そんなイメージが浮かぶのか。紫と紺が等差で織り成す、退廃的ながらどこか心惹かれる悪魔めいた弾の群れが天井に床に壁に水のごとく潜って消えていき、舞台が一時静まる。 魔理沙の手がスペルカードを切った。 紅魔館の妖精がよく繰り出すクナイ弾。鎖のように数列並んだ大玉の間をちかちかと光りながら、一斉に魔理沙目掛けて押し寄せてくる。 どちらかといえば、ランダム弾は嫌いだった。単純ながら、覚えたらクリアできるというパターン作りこそがスペルカードの醍醐味であると思っている魔理沙からしてみれば、気をゆるめると変なところで落ちてしまうランダム系スペルは苦手な部類に入る。死んで、無敵時間の間に画面上部で急いでパワーを回収するのも見目が悪かった。 「例えば――そうだな、私だけキノコを取ったら一機アップとかどうだ?」 弾の勢いが増した。 新たなシステムを提唱するのは悪い事じゃない。人間は慣れて飽きる生き物だし、安易なリメイクを繰り返すよりか常にサプライズを忘れないでいる方がよほど有意義ではないのか。魔理沙はそう考えていた。 ただし地霊殿の教訓は胸に刻むべきだ。 そしてそれを許容する土台こそが、弾幕ごっこである。 初見でレバ剣にあっさり一薙ぎで殺されようとも、残機零で泣きべそかきながら気合よけをする破目になろうとも、それこそがスペルカードの醍醐味だと魔理沙は断言できる。 ――断言はできるぜ。明言しないだけでな。 そんな風に、魔理沙は本日も図書館の愉快な警備装置と一戦交えていたのだが、それがその変事にいち早く気づく一因となっていた。 図書館のどこか埃っぽいような風の中を翔る。相手の考える事を見透かして、相手の切り替えしの裏をかいて。赤い空間の中で、そのうちに声もなく会話しているような気になる。言葉も不要で酷く原始的な交流だ。 そんなさなかの事だったのだ。 「あ、れ……?」 気づいた時には一機減らしていた。被弾した覚えはないにも関わらずだ。 自分の手のひらを見る。 「おい、お前、なんかしたのか?」 ……返事はない。小悪魔は気絶している。本棚の向こうに墜落してすぐ見えなくなった。 「なんだかわからんが食らうと相打ちの形になる……ま、手間は省けたが」 それにしても奇妙な現象だと思った。箒にまたがってふよふよと浮いたまましばし考え込んでいたが、ややあってうんうんと一人合点したように頷いた。 「まずは目的を果さないとな。それに、パチュリーなら何か知ってるだろ」 一息で箒に魔力を巡らせてその場から弾けるようなスピードで飛んでいった。苦悩や悲嘆なんて欠片もなさそうなその背中はあっという間に小さくなって、黴臭い空気が再び落ち着きを取り戻す頃には、目を回した小悪魔がいるだけだった。 恋色の魔法使いは今日も平常運転であるようだった。
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「はぅ~☆猫かぁいいよ~!!」 いつものように『機関』に集まった僕等。 森さんがどこで見つけたか知らない生物(ナマモノ)をぎゅっと抱きしめている。 「あ、あちしを殺す気かー!!」 その謎の生物(ナマモノ)はずっとそう叫び続けている。 「やれやれ。『機関』にあんなもの持ち込まないで欲しいですね」 僕の隣で優雅に紅茶とココイチのカレーを頬張る女性が呟く。 それで、カチンと来た。怒り頂点を貫いて噴火。 「・・・あのですね」 「はい?」 「『機関』は『機関』でも、『埋葬機関』じゃなぁぁぁぁぁあぁあああいぃぃっっっ!!」 「「「「な、なんだってー!?」」」」 「死徒二人と第一位、七位全員帰って下さいッッ!!」 僕はスタンローブの怨念を四人に向かって投げつけた。 「「「「ギャー!!」」」」 彼じゃないけど、こう言いたくなる。 やれやれ、って溜息と共に。 「生徒会長のアナル掘ってくるか」 新川さんのそんな一言に更に溜息が出る。 「猫ー!!猫ー!!ほ、ホァーッ!!」 「ニャーッ!!」 森さんと生物(ナマモノ)に対して更に溜息が出る。 「兄さん。クッパをどうやって倒せるかな」「どうだろうな」 「多丸兄弟何をやってるんですか?」 「「マリオブラザーズのコスプレ」」 ・・・・・どうやら、今日も『機関』は平和なようです・・・・・。 ・・・平和じゃないのが、平和なような場所ですから。 第三話「僕と彼と時々機関」 「んちはー!クロレンヤマトの宅急便でーす!!」 誰も出る気配が無い。仕方ない、ここは僕が出るしかないのか。 「はーい」 「判子お願いします」 僕は指差された場所にポンと判子を押した。 そして、荷物を確認する。どうやら僕宛の荷物のようだけど・・・。 ・・・あぁ、そうか。この前、森さんが僕名義で買ったゴスロリか。 いや、違う。今回は甘ロリを買ったんでしたっけ・・・。 「森さーん!甘ロリ届いたよー!」 「じゃあ、いっちゃん!!早速着てみて触らせて~♪」 「触らないで下さい」 「そんな事言って毎回感じちゃってるくせにー☆」 「そりゃ否が応でも反応しちゃいますよ!人間だもの!!」 そんな攻防が一時間以上続き、最後は森さんに半ば襲われて僕がKOされました。 ・・・女に責められる女。そっちの人ならきっと喜ぶんだろうな。 しかし、僕はキョンくんが大好きだから。 うん、とても苛められたいぐらい大好きだから。苛めちゃってるけど。 「なぁ、森」「生物(ナマモノ)逃げたぞ」 「え!?あ、こらー!!」 ここで多丸兄弟・・・もといマリオブラザーズが助けてくれた。 「大丈夫か」「ピーチ姫」 「甘ロリだからそう見えるかもしれないけど、決してピーチ姫のコスプレではないんですよ、コレ」 溜息をついて外を見る。遠くで、ビームが飛んでいるのが見えた。 「・・・はぁ」 このまま機関に居ても仕方が無い。普段着に着替えて僕は外に出る。 こうして素、つまり女の子として街中を歩くのは結構久しぶりな気がする。 いつも忙しいから。彼のせいで。本当に迷惑。 だけど・・・やっぱり大好き。そんな彼が世界で一番。 男としてだけど近くに居て解るもん。いつも僕には厳しいけど、だけど優しいんだって。 ただゆらゆら街中を歩く。行く当てなんて無いけど。 そして、良い感じの川辺にそっと座る。 春の訪れが近い。生えている草を見て、そう感じる。 「・・・帰ろうかな」 数分してポツリと独り言。元々何も目的が無かったんだから。それが良い。 でも・・・それは無理みたい。 「へへへ・・・一緒に遊ばないか?」 不良が五人。僕の周りを囲んでいた。 分が悪い。三人ぐらいなら大丈夫だけど、これは人数が多い。 「なぁ、いいだろ?楽しい事しようぜ?」 「いえ、用事があるので」 「いいじゃねぇか、そんなもんさ?」 「っ!離して!!」 「おとなしくしな!!」 このままじゃ、危ない。そう思った時だった。 「おい、キョン。見ろよ」 「弱いもの虐めをしてる弱者だな」 「同意見だね」 見覚えのある三人がそこに居た。 「何だ、お前等?」 「お前ら頭の悪い不良と違ってただの高校生さ」 谷口くんが答える。・・・あれ?キョンくんの話だと谷口くんって赤点ギリギリじゃなかったっけ? 「んだとゴルァ!!」 「負け犬ほど、よく吠えるって言葉を知ってるかい?」 国木田くんが嘲笑を浮かべる。 「んのやろー!!」 「やれやれ。国木田、谷口、散開しろ」 そして・・・キョンくんが指示する。 「「OK!」」 国木田くんと谷口くんはそれぞれ一人ずつ相手していた。 国木田くんは、体が小さい分動きが身軽。 谷口くんは、ただ単純に喧嘩慣れしている傾向が見られる。 キョンくんは三人を相手にして、防御に徹している。けど、動きには余裕が見られた。 ふとキョンくんの頬に拳が一発入る。と、同時に 「正当防衛成立だな。二人ともやっちゃえ!!」 そう呟くのが聞こえた。 キョンくんはそこで反撃に移り変わった。 身軽な動作で蹴りを払い転ばせ、突きを流して顔面に肘を入れる。 食らった二人はその場で蹲って呻いている。 そして、それを見て呆然としている一人の顔面に思いっきり右ストレートを入れた。 「伊達に休日どっかの誰かに振り回されて体動かしてる訳じゃないからな・・・動体視力と体力には自信があるんだ」 見れば、国木田くんと谷口くんも相手を気絶させていた。 ふと、何事も無かったようにキョンくんが私を見る。 「大丈夫か?」 「はい。助けてくれてありがとうございます」 「気にしなくていいさ」 「それよりも、俺と一緒にデー・・・」 「うるさいよ、谷口」 「んじゃ。川辺は不良が多いから気をつけろよ」 「はい。本当にありがとうございました」 キョンくん達は何処かに歩いていった。 それを見送ってふと僕は疑問に感じた。なんで、あれだけ強いのにアナル掘られる時に対抗しないんだろうか、と。 そんな訳で長門さんに電話で聞いてみたらマッハの速度でキョンくんのアナルを掘っていた事が判明した。 「抵抗しようにも出来ないのか・・・」 僕は自然と自嘲気味に笑っていた。 そんなこんなで、『機関』に戻った。そして、 「だーかーらー!!なんで貴方達が居るんですかー!!」 と、思わず叫んだ。 「「「「何となく」」」」 とりあえず、『機関』は『機関』でも『埋葬機関』の四人には再びスタンローブを投げつけて置きました。 そのついでに瀕死の四人をアインナッシュの中に放り込む。どうせ死にはしないでしょう。 「にゃー!!」 「はぅ~☆猫かぁいい~♪」 森さんは追いかけて引きずり戻したのであろう生物(ナマモノ)を大事そうに全力で抱きしめていた。 「やっぱり生徒会長のアナルはよく締まるぜ」 新川さんは何故か若々しくなって帰ってきていました。 「変なのー」「変なのー」 多丸兄弟はまた違うコスプr・・・っていうか、それ姉妹専用じゃないんでしょうか? そんなこんなで「平和」と書いて「平和じゃない」と読む。そんないつもの『機関』でした。 「平和ですね・・・」 「やめるにゃー!!もう一回、び~む」 「痛い、痛いよー!でもかぁいいよ~♪」 「ニャー!!」
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『汐華初流乃の憂鬱』 第三話予告 ハルヒ「次回、汐華初流乃の憂鬱 第4話!」 初流乃「違います、第三話です」 出会い、運命、、糸、引力 人は如何にして出会うべき人々の元に集っていくのだろう 運命が変わる時、それは新たな出会いを呼び寄せるのか。 それとも出会いが運命を変えるのか。 イタリアに放り出され次々と襲い繰る試練の中、悪逆非道の犯罪者達に ハルヒの正義の怒りがついに爆発する。 その時、俺達の目の前に現れたのは一体・・? 第三話 『シャイニングウィザード』 →
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こなたに連れられて一階までついていくと、なにやらスパイスの 効いた香りが漂ってくる。ひょっとして万人が好物とするあれですか。 先回りするのも可哀想なので一応何を作ったのか聞いてあげることにする。 「何を作ったの?」 「まぁ匂いで大体分かると思うけどお楽しみ~」 テーブル席に着くといよいよ匂いの正体が判明することになった。 「じゃーんっ。我が家の定番、チキンカレーだよ。かがみの為に前日から 仕込んだから一味違うよ?」 「それはちょっと気合入れすぎじゃないのか?」 「なーんてね!ほんとは今日の晩御飯用に準備しといたんだけど、 せっかくだからかがみにも食べて欲しいなと思ってさ」 いや今日は遊びに来ただけだし、そこまでしてしてもらわなくても…。 こなたの行動は時々分からない。どこまで本気なんだか。 しかし今は空腹の身。目の前のご馳走をありがたく頂くとしよう。 「カレーなんて久しぶりね。いただきまーすっ」 「んぐんぐ…。我ながら傑作だねこりゃ」 おお、前日から仕込んだだけあっておいしい。 ここまでくると高校生が作れるレベルを超えてるような気がする。 …もはや何でもありですかこなたさん。 しばらく無言で夢中になってしまっていたのだが、 食べ終わってからふと自分を見つめる二つのエメラルドに気が付いた。 「じっ……」 「どうしたの?」 「味…どうかと思って」 「まぁ悪くないわね。おいしいわよ」 私が率直な感想を述べるとこなたは安堵した顔で言った。 「良かったぁ~。かがみの口に合うかどうか不安だったよ」 「あんたでも不安になる時があるんだ?」 「そりゃあ私にもあるよ~?」 普段はあまり弱みを見せないので、この答えは意外だった。 それは一体どんな時なんだろう? 「へぇ?どんな時に?」 と聞くとこなたは何故か顔を赤らめながら俯き気味に言った。 「そ、それは…かがみが傍に居ないと…」 そう来ましたかこなたさん。これは反応に困る。 「え…。あー、えーとそれはどういう…」 思いがけない言葉に私は面食らってしまっていつものノリで 突っ込めないでいた。軽く流せる台詞を思案していると、こなたは これはいけないといった表情になったかと思うと 「これからも一緒がいいねって事っ。さぁ片付け片付けっと」 などと言って何事も無かったかのように食器を片付け始めた。 昨夜の電話の事といい、やはり何かおかしい。実に三年の付き合いだ。 彼女の些細な変化など傍目に分からなくても、私には分かる。 それなのに私は気が付かないふりをしている。 まるで逃げているみたい。急に家に呼んだり真面目に勉強してたり 何かあるに決まっているじゃない。 ここは何があったのか話を聞いてみるのがこれからの二人にとって おそらく最善なのでは?いや、聞かずとも答えは薄々分かっているはず。 これまでの一連の言動を振り返ると、いくら私でもそこまで鈍感ではない。 でもこのまま何もせず終わっていいの?こなたの気持ちはどうなる? 私はどうしたい?私にとって彼女は何?妹の知り合いでもなければ ましてやクラスを隔てたただの友達でもない。 …親友なんかじゃなくてもっと大きな何か、だと思う。 いつからだろう?あいつは私の心の中にずかずか踏み込んできてそのまま そこに居座ってしまった。だけどそれが当たり前になっていて…。 私はいつの間にかあの真っ直ぐな緑の瞳に惹かれていた。 もう自分の気持ちに答えは出た。しかしこなたはまだ何も言ってきていない。 きっと彼女の事だから私を傷つけまいと気を使っているのだろう。 こちらから何か言うべきなのだろうか…。 すっかり片付いたテーブルで一人思い悩んでいると、台所で洗い物を していたこなたが作業が終わったのかおもむろに顔を覗き込んできた。 「おや~?テーブルと睨めっこなんかしてまた退屈になっちゃったのかな?」 「ちょっと考え事してただけよ。まぁあんたに関係あるかもね」 「え~?私に?」 このままうやむやにしておいたらきっと後悔する。 今ここではっきりさせておくべきだろう。 何より逃げるのは性分に合わない。 私は意を決して、こなたに打ち明けようとした瞬間、それは起こった。 周りの視界が上下に揺らいだかと思うとドンッという衝撃に包まれた。 「きゃあッ!?」 「うわ!?」 あちこちで色々な物が落ちては硝子が割れる音が鳴り響き、 目の前の日常は文字通り音を立てて崩れ去っていった。 私とこなたはとっさにテーブルの下に潜り込んだのだが、 視界の隅で倒れる家具や砕けていく食器などを目の当たりにして これで本当に身を守れるのかと思うと自分達を覆っているテーブルが 大層貧弱に見えてきた。 「うっ…くっ…これって…地震!?」 「やだこんな時に…ッ!?」 抑制していた恐怖がいよいよ限界に近づいてくると、私はたまらずに こなたに抱きついて震えてしまっていた。多分相当な力でしがみついてしまって いたと思うのだが、小柄な身体で体格差のある私に抱きつかれたこなたの方は たまったものではない。 「うぅ、私もう駄目!」 「うっ!?か、かがみ、ちょっと苦しい…」 私にはこなたの抗議を聞き入れるだけの余裕はなく、ひたすら悪夢が終わるのを 待っていた。 気が付くと揺れはすっかり収まっていて、散らばった食器や振り子のように まだ揺れている照明器具が地震の激しさを物語っている。 「ふぅ…だいぶ揺れた気がするけど十秒も経ってないね」 「嘘でしょ?五分以上は揺れたと思うけど」 「いや、揺れる前に時計を見てたから間違いないよ。私もかなり長く感じたけど そこまで経ってないよ」 「そんな短い時間でこんなに…」 あれだけ長く感じた悪夢がほんの数秒の出来事だなんて…。 これが実際に数分の間続いたらと思うとぞっとする。 こなたは落ち着いているみたいだけど私は心臓がまだドキドキしている。 「ところでかがみ、そろそろ離してくれないとテーブルから出られないんだけど…」 言われて初めて私はこなたをまだ拘束してしまっていることに気が付いた。 こなたはこの状況を少しばかりか楽しんでいるらしく、途端に恥ずかしくなって 慌ててこなたを解放した。 「ご、ごめん!苦しかったでしょ?」 「も~地震が怖いのは分かるけど、私はかがみんに絞め殺されるかと そっちの方が怖かったよ」 「悪かったってば。その、つまりあれよ、こなたが不安にならないように 傍に居ようとしただけよ」 思わず言い訳するがこなたはニマニマしながら図星を指してくる。 「ふーん?その割にはかがみの心臓バクバクいってたけど?」 「なっ!?ちが…」 「しっかり胸に抱き寄せられてたからかがみの鼓動が ダイレクトに伝わってきたよ」 「うわわ、それは…」 あれだけ強く抱きしめてしまっていたら心臓の鼓動も伝わるというものである。 どうにか悪あがきしようとするが、耳元で囁かれた次の一言でトドメを刺される。 「『私もう駄目!』」 「ッ!?」 やばい、聞かれていた。 「何が駄目なのかな~?」 「うー…。もうどうでもいいでしょ!それより片付けないといけないんじゃない?」 「あ、そういえば今メチャクチャになってるんだっけ。まぁ怪我が無いだけましか」 それもそのはず、辺り一面が割れた食器などで散乱した酷い現状を私たちは 忘れかけていた。気を取り直してテーブルの下から破片に注意しながら慎重に 這い出る。 「ふぃ~、しっかしあれだけの震度って結構やばいんじゃないのかな。 震源地近いんじゃないの?」 「つかさたちは無事かしら…。」 これだけの規模の地震となると当然周囲の土地にも被害が及んでいるはずである。 安否を確認するため、携帯電話を掛けてみるが案の定繋がらなかった。 「これって予想以上にまずいんじゃ…」 「ゆーちゃんたち平気かなぁ?お父さんは…イタリア行ってるから関係ないか」 「イタリアって…あんたのお父さん何しに行ってるの?」 「んっと、仕事の取材だかなんかって聞いてるけどあながちそれだけじゃないかもね?」 「まさか聖地巡礼とか?って今はふざけてる場合じゃないってば!」 「いやかがみが独りで勝手にノリ突っ込みしてるだけだし」 「うっさいわね。ゆたかちゃんは実家にいるの?」 「うん。まぁここに居るよりかはずっと安全だと思うよ。不幸中の幸いってとこかな」 「やれやれ、明日の学校どうなるんだろ?」 「考えていても埒が明かないし、とりあえず片付けようか」 「そうね…電話もしばらく繋がりそうにないし、じたばたしてもしょうがないわね」 それぞれの家族や知り合いの安否を心配する余裕が出てきたところで、 私たちはぼんやりしながら掃除と片付けをようやく開始した。 突然やってきた日常の変化。これから先に何をもたらすのか…。 KEEP YOURSELF ALIVE2 第四話へ続く コメントフォーム 名前 コメント (≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-02-24 15 50 53) 何をもたらすのか楽しみです -- 名無しさん (2008-04-26 14 02 44)
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急いで家に入り、リビングへ向かい、勝手に入って、くつろいでいる侵略者どもに尋ねる。 「おまえら、金は持ってないのか!!!?」 返事は予想どうり、 「あら持ってるわけないじゃない。それに、輸送量は購入者負担になってるわよ?」 規約なんていちいち読むわけがない。遊びでやっているのだから。 「心配しなくても、タクシー代以外はいらないわ。密入国したから。」 犯罪にまで平気で手を染めるのかよコイツラは。 「なら警察を呼んでやる!」 「させると思う?」 「させるわけないわよぉ。ねえ?」 「かしらー!」 「あったりまえです!」 「さすがにそれはいやだね。」 「なのなのー!」 「絶対に、させない。」 僕の背中から血の気が引いた。 だめだ、勝ち目はもうない。嗚呼神よ、ついに僕を見放したか。 「ほら、さっさと払ってきなさい。」 「ささっと済ませれないのですか?このノロマ。」 ソファーにころがりながら命令してくる。なんて屈辱だ! もう抵抗は無駄だろう。そのうち殺されるかもしれないので仕方なく払うことにする。 「はあ。」 リビングの戸棚に隠してある封筒を出してきて、諭吉を四人引っ張り出す。 「クソ、何でこんな・・・」 外で待っている運転手二人に諭吉を渡す。 「どうもありがとうございましたー。」 にこにこしながら去っていく。 「姉ちゃんになんて言われるか・・」 正直、いつも口で命令しているが、のりは怒ると最高におっかない。 想像しただけでも、背筋に悪寒が走る。 「アイツラのことも何て言われるか・・・」 追い出すということはないだろうが、やはり不安だ。なんせ、諭吉を一日で四人使ったのだから、不安にならないわけがない。 「はあ。」 ため息をつきながら家に入り、牛乳を飲もうと騒がしいリビングに入ると、 「うわああああ!何やってんだよお前ら!」 そこには、食べ散らかした、菓子類のくずやら、ごみやらがそこら中にあった。 「見て分からないですか?おやつの時間ですよ。」 「早くお茶を出しなさい。」 「このうにゅー、とってもおいしーの!」 「このヤクルトっていうの?とってもおいしーわぁ」 「み、みんなちゃんと断ってから食べようよ。」 ん?あとふたり足りないな。そう思い、ふとキッチンのほうに目をやると、 「げっ・・・」 『がさがさむしゃむしゃもぐもぐ』 『かちゃかちゃ』 「な、なな何やってんだー!」 薄紫の服を着た、薔薇水晶?がこちらに振り向き、答える。 「おなか、すいたから・・・。」 次に、黄色の服を着た金糸雀?が答える。 「甘ーい卵焼きを作ってるのかしら!」 「お、お前ら、出てけー!!!」 「「「「「「「それは無理」」」」」」」」 それから数分、桜田家のリビングは騒がしかった。 「だから、食うのをやめろといってるんだ!」 抵抗されながらも必死に止めようとするジュン 「み、みんなジュン君の言うとおりにしようよ。」 蒼星石も援護する。 「ハラが減ったら食う!本能に従って何が悪いのですか?」 その言葉を聞き、ジュンが反論しようとしたところ、 「翠星石!皆ももうやめなよ!ジュン君だって困ってるじゃないか!」 と怒声が聞こえた。怒声を発したのはジュンではなく、蒼星石だった。 翠星石はいつもとは違う雰囲気を放つ蒼星石に押されたのか、 「うう…そ、蒼星石がそこまで言うなら仕方ないです・・・」 と言って黙り込んだ。他の姉妹たちも、口々に 「「そ、そうね。」」 「ご、ごめんなさいなのー」 「ちょ、ちょっと待ってかしら~、卵焼きがこげちゃうのかしら~。」 「・・・・」 と同意していった。普段はおとなしい蒼星石が怒ったので、姉妹たちは押されていた。 「まったくもう、好き勝手するにも程があるよ。まるで迷惑かけに来たみたいじゃないか。」 (こいつ、結構すごいやつだったんだ) 静かだ。これがいつもの空間。ああ、なんて静かなんだ。 「真紅!」 名前を呼ばれたが、真紅は引け腰だ。少しスカッとする。 「な、何?蒼星石。」 「扉のガラス、割ったままだよね、ジュン君と一緒に片付けなよ。」 な、何でこいつと一緒ににしなきゃならないんだ。僕は反論する。 「何で僕が・・・」 蒼星石がこちらに振り向いた。今の蒼星石は怖い。そう感じさせるオーラが回りにあるようだ。 「ジュン君にも少しからず責任はあるよ。居留守使ってたんだし。」 「わ、わかったよ」 しぶしぶ返事をした。 「翠星石、雛苺、僕も手伝うから、部屋のかたづけを・・・こら翠星石!逃げるんじゃない!」 「わ、わかったですぅ。」 逃げる翠星石を引き止めた。あの緑を・・・蒼星石、もっとも怒らせたくないうちの一人だ。 「水銀燈、薔薇水晶、冷蔵庫を片付けて。」 「い、いいわようぅ」 「はい。」 残りの一人に向き直る。やっぱりオーラが出ている。 「金糸雀、後片付けは最後まできちんとやるんだよ。」 「は、はいなのかしら~!」 全員に注意し、その上掃除を言い渡した蒼星石に僕は感謝している。 「じゃあ皆始めて。」
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