約 301,245 件
https://w.atwiki.jp/to-love-ru-eroparo/pages/55.html
リトの部屋に甘い喘ぎ声と、汗と体液の混じった独特の匂いが満ちている 唯はリトに下から突き上げられながら身をくねらせていた 長いキレイな黒髪を乱し白い体を赤く火照らせ、その口からは、普段絶対聞けない様な声を出している 体が動くたびにぷるぷると揺れる唯の胸を両手で揉みながら、リトはいつもとは別人の様な唯にただ見とれていた (すげえエロイ……) 自らリトに合わすように腰を動かしている唯は完全に自分の世界に入っている 口から垂れた涎が胸の谷間へと落ちていくのも構わず、自分のことを見つめ続ける唯にリトは興奮を隠せない 「…っはァ、ンン…結城くん、結城…くん……ッあァ…」 「…すげー腰使い、だな唯は」 すっかり牡の顔つきをしているリトを唯は上から睨みつける 「バカ!結城、くんが……動、くから…ンッでしょ!?」 「へ~ホントに?オレもう動いてないのに?」 その言葉に唯の動きはピタリと止まり、顔がみるみる真っ赤に染まっていく 「も、もうっ!!どうしてあなたはそうやって私をからかうのよ!?⁄⁄⁄⁄⁄」 「悪い、悪かったって!だからそんな怒んなよ!」 頬っぺたを抓ってくる唯の手をなんとか押さえつけると、リトは聞かれないように小さな声で呟く (やっぱ唯をいじめるのって楽しい……けどもっとこう…) 「なにぶつぶつ言ってるのよ?」 冷たい目で見つめてくる唯にリトは愛想笑いを浮かべる 朝、唯がリトの家に来てからかれこれ数時間 部屋に着くなりいきなり抱きつき唇を奪いにくるリトに最初こそ嫌悪感を滲ませていた唯だったが、 今は自分からリトを求めるまでに乱れていた 唯の変化は本能的なモノなのか、リトがそうさせているのか リトは色々と頭の隅で考えていたが、今はただ目の前の体に意識を集中させる 「ア…ふぅ、ンッ…あァ…」 ぱんぱんと腰が打ち付け合う度に唯の秘所から蜜がこぼれてくる リトの肉棒が膣内を掻き回し、溢れる蜜が白濁していく ぐちゅぐちゅと卑猥な音をたてる結合部に羞恥心を煽られながらも、唯の動きは止むことはない 自分が今なにをして、どう感じているのか唯はみんなわかっていた わかってはいるが止めることができない。止めようとも思わない 普段人目が気になったり、自分の性格が仇となって、中々リトに触れることのできない唯にとって 自分が定めた一週間に一度の日だけが、唯一素直になれる時だった なによりリトに全身を愛されることの悦びが大きい 口には絶対に出さないが、今日だって色々期待して家に来たほどだ リトのモノが自分の膣内をえぐる度、愛液を絡ませながら掻き回す度 唯の中で快感と共にリトへの思いが溢れ出す 結城くんは私だけの……誰にも誰にも―――― 唯はリトの胸板に手を置きさらに身を屈め、奥へ奥へと肉棒を導いていく 「ゆ、唯!?……すげー気持ち、いい」 「うん!わた、私も…私も結城くんを……いっぱい感じる」 「唯……」 リトは唯の細い腰に手を伸ばすと勢いをつけて下から突き上げ始める リトが腰を打ち付ける度に唯の中に電流の様な快感が流れていく 肉棒が膣内を擦り上げ、子宮口を激しく突きまわす 「アアっ…んッ!はァ…ぁ」 肉壁を抉るような強烈な出し入れに、快楽が波となって子宮へ全身へと押し寄せる 「ゆ、結城…くんっ、激し…すぎて私…」 「おかしくなる?いいよ…唯のイき顔オレに見せてくれよ。ちゃんと見ててやるからさ」 「だからどう…してそんなっ、ああッ…ンいじわるばかり……やッ」 リトは顔をにやけさせると、微妙に角度を変えて唯を責めたてる 「いつものお返し」 「もうッ、後で覚えて…アアぁ…んッ、ン!!」 今までとは違う波が体に現れると、それに唯は体を仰け反らせる 何度も交えているうちに、だんだんと唯の弱点がわかってきたリトは、そこを重点的に責めたてた 「…ゃあ、そこ、ダメぇ…」 「なにがダメ?」 リトはそう言うとそこに激しく打ち付ける 「ンッ、んん…結城くんっ…ホントにそこ…あァ」 唯の乱れようにますます興奮したリトの腰は、卑猥な音をたてながら何度も何度も唯を犯していく 上へ下へと体を弄ばれる唯の額から汗が滴り、リトの胸へと落ちる 「今のおまえすごいエロくてカワイイよ」 「バ…カ言わない、で!結城くんのせいで私っ…あァ…ん」 自分の全てに反応してくれる唯にリトはうれしくてしかたがなかった 笑みがこぼれ、顔をにやけさせていく 「あんッ…結城、くん…ハレンチは顔してる」 リトは汗に濡れる唯の白くてやわらかい乳房へと指を絡ませる 「ハレンチなのはおまえの方だろ?」 ムニュッとした肌触りが、上下左右にリトの手の中で形を変え弾む 「…ッん、やァ…ンン」 「おっぱい弄られながら突かれるのおまえ好きだなァ」 リトの言葉にムッとした顔になるも、胸への刺激と膣への快感が唯の理性を狂わせていく 「…ゃあ…そんな、こと言わない…でよ」 「なに言ってんだよ?こんなハレンチな風紀委員見たことねーよ!」 リトは胸を赤くなるまで強く揉み、膣へ少し乱暴に突き入れていく すぐに気持ちよさの中に痛みが生まれ、唯の整った顔を苦痛に歪めていく 「あッ!痛い…結城、く…アアっ…ん゛あっ」 「なに?」 唯の気持ちは手に取るようにわかるが、リトは止めようとはしない 「…ちょっ、ちょっと待っ…待って!こんなの……あッ、くぅ」 そんな言葉とは裏腹に唯の締め付けが、これまで以上にギュッと強くなっている様子に、 リトの顔に笑みがこぼれる それは日頃怒られてばかりいることへの仕返しなのか、リトはなんだか楽しそうだ 「や…やだっ、こんなコト…わた、私もっと…ンっ…ぁあ…」 「もっとなに?」 ろれつが回らないのかリトの言葉にも唯は、中々応えられない 「私…私こんなンっ…ぁは、んん…」 「……なに言ってんのかわかんねーよ」 リトは唯の腰を掴むと下から激しく打ち付ける ぱんぱんと肉と肉がぶつかる度に唯の顔はますます苦痛に歪んでいく けれども決してリトから逃げようとはせず、むしろ、腰の動きを合わせようとする唯 その姿は、快楽と苦痛二つの波に、だんだんと虜になってきているようで…… リトのモノを離そうとはしない締め付けや、硬くなっている乳首に、口から溢れる涎 感度の上がった唯の体はいつも以上のいやらしさをリトに見せる 「おまえってこんな風にいじめられるのが好きなんだ」 「そ、そんなワケないでしょっ!こ、これは……違うの」 けれども心も体もリトを求めて止まないことに唯自身も気づいていた いつもの優しさとは違うただ欲望に身を任せたリト 牡の顔をして貪るように体を求めてくるリト そして快楽と苦痛の中で、そんなリトを欲している自分 「ホントに?」 「……ッ!?」 リトの言葉に思わず言いよどんでしまう 「あはは、唯はカワイイなァ」 さすがにリトの態度に頭にきたのか唯の表情は厳しくなる 「もうっ!いい加減に……」 「そんなに怒るなって!それに……」 リトは動きの止まった唯の膣に肉棒を突き刺す 「ッあ!くぅ…うぅ…」 ガクガクと震える唯の腰を掴むと、リトは耳元でそっと囁く 「それに、オレにこんなことされるのホントは好きなんだろ?」 その言葉に耳まで真っ赤に染まる唯を、リトはにやにやと見つめる 「ホント、おまえってカワイイな」 「ち、違うの!ホントはこんな…私はただ…」 「違わねーよ」 リトの腰の動きがだんだんと早くなっていく 「んッ、あぁ…痛ッ…激しぃ…」 「けど…それがいいんだろ?」 リトの乱暴ともいえる突き上げに唯の軽い体は弄ばれる 「ん!ぁあ…すご、ダメぇ…やめ…やめて結城、くん」 「ふ~ん。嫌がってるわりにはさっきからオレのことギュウギュウ締め付けるおまえはなんなんだ?」 「しら…知らないわよそんなことっ」 唯は歯を喰いしばりながら、それでもリトから逃れようとはしない そればかりか、ますますリトを求めるかの様に締め付けていく 「ゆ、結城…くん、私もう…あぅ、んッ…」 「なにイきそうなの?」 唯は首を振るだけで、返事をしようとはしなかった そんな余裕などなくなっていた 苦痛が気持ちよさへと変わり、唯の体を支配していく ガクガクと震える腰をそれでもリトの動き合わせようと必死に動かす 「じゃあイッてもいいよ。オレの前でやらしい唯を見せてくれよ」 唯は紅潮する頬を歪めながら、リトの上で腰を躍らせる 「おまえのイくところ全部見ててやるからさ」 リトのいじわるな言葉も唯にはもう聞こえてはいなかった 「あッ…ん、んん…ダメホントにもうッ…」 リトはたぷたぷと揺れる唯の胸の先端を指で摘む 「あっくッ…や、やめ…」 「なんで?おまえの体はオレのだろ?」 「そ、そうだ…けど、もっとやさしくしてッ…んッ」 膣内がキューッと蠢き、肉壁がざわざわと波打つ リトの胸板に置いた手を支えに、唯の腰が激しく卑猥に打ち付けられる 「あ…くぅ…あぁ、んッん」 「もうムリっぽい?」 唯は首を縦に振ると、リトの顔を見つめる 熱を帯びた唯の視線にリトのモノも膣内でさらに大きさを増していく 「も…もう、ダメぇ私…私……あッくぅう、あぁあーーーッ!!」 体全体で大きく息をする唯は、リトのお腹の上で一人放心状態になる 「はぁ…はあ…は…ぁ…」 「おまえすげーよがってたな」 下でくすくす笑うリトを唯はムッとした表情で睨む 「だ、だってあなたがあんなに激しいことするから私は…。って全部結城くんのせいじゃないッ!」 いつもの調子で怒る唯にリトは笑みを深くさせると、いきなり上体を起こし、まだ脹れている唯に黙ってキスをする 「ちょ…ちょっとどういうつもりなの?⁄⁄⁄⁄」 いきなりのキスに口調こそまだ怒ってはいるが、その顔は、さっきまでと違いやわらかくなっている そんな唯の顔を確かめるとリトはくすっと笑った 「それじゃあ、今度はオレの番。次はおまえがオレを気持ちよくしてくれよ」 「え!?あ…えっと……べ、別にそれはいいんだけど…。その……私どうしていいのかまだ…」 体をもじもじさせて、困惑している唯にリトは笑いかける 「心配しなくても全部オレの言うとおりにすればいいだけだからさ」 「え?でも…」 心配?そんな顔で見つめてくるリトから顔を背けると唯はつい強がりを言ってしまう 「し、仕方ないわ…それでなにをすればいいの?」 「後でいっぱい怒ってもいいから、オレの好きなようにヤらせて欲しいんだ!それだけ」 じっと見つめてくるリトになにか引っかかるモノがあるものの、唯はその場の雰囲気に呑まれてしまう 「……変なコトしないなら…いいわよ」 「それじゃあ唯、立ってそこの壁に手をついてお尻こっちに向けて」 色々と反論はあるがさっき言ったばかりなため、唯はしぶしぶリトに従う そんなギコチナイ唯の動きにリトは顔をしかめる 「もっとお尻こっちに突き出して欲しいんだけど」 「そ、そんなコトできるわけ……⁄⁄⁄⁄」 「へ~唯って約束破るヤツだったんだ……」 リトの冷たい視線に唯の顔は凍りつく 「わ…わかったわよ!やればいいんでしょ?やれば……⁄⁄⁄⁄」 自分でも卑猥なコトだと感じたがリトへの思いが勝ってしまう 「これでいいんでしょ?これで…」 唯の後ろに回ったリトは満足げにその姿を見つめる 突き出された下腹部からは性器が丸見えで、恥ずかしさのため体まで赤くなっているその姿に、リトの興奮は高まる リトの指がすーっと唯の背中を滑っていく 「…ゃあっ…んッ…」 くすぐったさに身をよじる体に合わせて胸もぷるぷると震える 「結城…くん、くす…ぐったい……」 「じゃあどうして欲しいんだ?」 リトの手が唯のお尻へと這わされ、やわらかい肉感を堪能していく 「ん…ゃ…ンッ、そこ…違う…」 「違うってなにが?胸の方がいいのか?」 リトはそう言いながらもお尻を揉んでいく 「どうして欲しいのかな~唯は?」 唯はリトの焦らしに我慢できないのか体をピクピクと震えさせる 愛液が割れ目から溢れだし太ももに滴り落ちていく リトは膝を屈めると、その流れ落ちる愛液を舌で掬い取る 「ひゃッ!な、なにしてるのよっ?」 後ろを振り向き様子を確認する唯に、リトは白い太ももに口を近づけ舌を這わしていく 「…っあ、んッ…くすぐっ…ぁは」 上下左右に動く舌に唯の下半身はピクピクと反応する 「オレおまえの脚すっげー好き!」 「う…うんあり…が……とう…」 息も絶え絶えな唯はそれでも褒められたことがうれしくて、ついつい反応してしまう (結城くん私の脚好きなんだ……) リトの言葉に顔もほころんでくる そんな唯の下腹部に手を伸ばすと、リトはヒダを広げ膣内を覗き見る 何度も掻き回された膣内は唯の本気汁で溢れ、肉壁はリトの挿入を待ちわびているかのようにヒクヒクと波をうっている 「え、エロすぎ……」 リトの声が聞こえたのか唯は体を強張らせる。と、同時に膣内もキュッと締まるかの様に蠢く 「……あんまり見ないで欲しいんだけど⁄⁄⁄⁄」 耳まで真っ赤に染まっている唯に我慢できなくなったリトは、立ち上がり肉棒を割れ目へと当てる じゅぶじゅぶと音を立てて入ってくる感触に唯の口から熱い吐息が漏れる 「あッ…ん、結城くんが入って…くぅ、ぁあ…」 「おまえそんなに入れて欲しかったんだ?」 「だ、だってあなたさっきから違うコトばっかりして全然……」 ちょっと前まで散々リトに責められていた下腹部は、すでに少し動いただけでキュッと締まり、 とろりと溢れ出す白濁した愛液がリトのモノを白く染めていく 「そんなに欲しかったんだオレの?」 唯はなにも言わないがその顔を見れば十分だった。真っ赤になった頬に体は小刻みに痙攣し、リトの動きを待ちわびている リトは口を歪めると、いっきに根元まで挿入していく 「…あんッ…も、もっとゆっ…くり…んッ」 「オレも唯が欲しいよ!欲しくて欲しくてたまらない!!」 リトはそう言いながら腰を打ち付けていく 「ん、ぁあ…やッ…くう…ん」 リトは唯の背中にキスをすると、そのまま舌を這わしていく 汗に濡れた背中は少ししょっぱくて、なにより唯の味がした 「……ッはぁ…ん、んッ…ゃあ…」 ピクンと背中をよじると艶やかな黒髪が汗と唾液に濡れる背中へとかかる その髪の匂いを胸いっぱいに吸い込むとリトは唯の体をギュッと抱きしめた 「あんッ…結城、くん?どうしたの?」 自分を抱きしめ背中に顔をうずめるリトへ、唯は不思議そうな目をする 「なんかおまえがすげーカワイくてさ」 「…なによそれ」 顔を背ける唯がますますカワイく感じられたのか、リトは唯をさらに強く抱きしめる (もう……) 心の中で悪態をつきながらそれでも唯は、リトに身を委ねていく (結城くん、こんなに私のことを……) リトの行動が思いが唯の中で溢れ出し、それが普段よりも唯に積極性を出させる 「ねぇ、動いて…結城くん……」 唯の口から熱い言葉が紡がれる 「私…もう、我慢できない…から……」 その声はすーっとリトの頭へと入り込み、理性をとろけさせる声だった 膣内が唯の欲望を表すかのようにざわめきリトを促していく その反応に背中から体を離したリトは、唯の望む様に腰を打ち付ける それは、焦らしや緩急の変化もなにもない欲望にまかせただけの動き すぐに込み上げてくる射精感にもかまわずリトの動きは、止まらない 「あ…ふぅ…あぁ……ッん、ンン」 (すご…すごく激し…ッん!結城くんに私犯されてる…) 唯のお尻の肉に揉みしだくように手を押し付けながら、動きを加速させていく 前後へと乱暴に乱れさせられる唯の体 壁に付いた手からは力が抜けていき、下半身はリトにいいように責めたてられる 「ほら、しっかり手をついてろよ!姿勢くずしたらもう動くのやめるぞ?」 その言葉に体がピクンと反応し、唯の手に少しずつ力がこめられていく けれどすぐに手は壁からずれ落ちてしまい、反射的になんとか腕をついて体を支える 「ほら、どうするんだ唯?ちゃんと体支えてないとホントにやめるからな」 「…あッく、うぅ…いゃ……嫌ぁ、やめないでお願い…」 リトの方を振り向きそうお願いする唯の目は涙で濡れていて、リトの心を昂ぶらせる リトは口を歪めた 今、唯を支えているのは、リトに支えられている下半身と、わずかしか力が入らない壁についた腕だけになっていた 唯は残った理性をかき集めて腕に力を入れていく それは普段は滅多に見せない唯の心の内を表しているかのようで そんな必死な唯の姿が、リトはとてもうれしかった 「唯…」 リトのなにを感じ取ったのか、唯はわずかに見えるリトの顔を振り返る 「いい…わよ、私の中に出しても。結城くんの出したい時で…いいから」 リトの喉がゴクリと音を立てる。いつぶりだろう唯の膣内に出すのは…… 「いいのか?ホントに?」 「ええ…」 「だって、この前あんなに怒ったのに?なのにホントにいいの?」 何度も聞き返してくるリトにいい加減唯の顔はムッとしてくる 「もう、何度もこんなこと言わせないでよ!!恥ずかしいんだから……。 それに…それにもし、私に赤ちゃんできても結城くんがずっと一緒にいてくれるんでしょ?////」 それは一ヶ月前に交わしたリトの約束、そして、リトの純粋でいて強い思い 唯は溢れ出る快楽の中でリトの返事を待っていた リトは動きを止めると唯の頭を撫でる 愛しむように、自分の思いの全てを込めるように くすぐったさで身をよじる唯の背中へとリトは顔をうずめる 「ああ、いるよ。どんな時もずっと、ずっとおまえのそばに……」 それは不器用でいて、まだまだ未熟な背伸びをしている思い 未完成のプロポーズともとれるリトの言葉 それでも、だからこそ唯はうれしかった。リトの本当の気持ちが純粋な思いが、その言葉には込められていたから 思わずくすぐったくなる体をほころんでくる顔をなんとか押さえ込み 唯は短く返事をする 「うん、私も」 「…じゃあ、おまえの中に出すからな」 そう言うとリトの腰が再び動かされていく。込み上げてくる欲望を吐き出させるために リトは唯の体を膣内を犯していく リトが腰を打ち付ける度に胸を揉みしだく度に唯は、くずれそうになる脚に懸命に力を入れる そうしていないと立っていることすらできない 壁に腕をつきなんとか姿勢を支えている唯は、耳に届くリトの荒い息を感じながら、下腹部に意識を集中させる すでにリトだけの形になっている膣内はそれでもまだまだきつくリトを締め上げる 「おまえのココすげえ…最高……」 「ゆ…結城くんのだから…結城くんだけの、だから好きにしても……」 熱い吐息と共に唯の口から淫らな言葉が出る どんなに嫌がっても、どんなに否定しても体は心はリトを求めてやまない リトといるとどんどん変わっていく自分 (違う……変わっていってるんじゃなくて私は…) 「唯…出る…うッ!!」 唯の思考を邪魔する様に熱いモノが体に満ちていく 「あ…くぅ…ッん」 子宮に注がれる熱い流れに膣内はざわめき唯に絶頂を与える それでもなお膣内は痙攣を繰り返し、リトの全てを搾り取ろうと中を蠢かす 割れ目から中に収まりきれない欲望が蜜と共に溢れ、ベッドにぽたぽたと落ちていく ガクガクと震える腰をリトに支えられながら、唯はただ全身に覆う波に体をゆだねる 二人の荒い息だけが部屋に満ちていた リトが肉棒を引き抜くと先端から飛び出した欲望が唯のお尻を汚す 「はぁ…ぁ…熱い、んッ」 崩れる様にベッドに座り込む唯の顔にリトは愛液と精液で濡れた肉棒を差し出す 「ほら、ちゃんと掃除しろよ」 鼻につく強烈な牡の臭いに顔をしかめるも、唯は言われたとおりに口にそれを運びこむ (こんな……ハレンチなこと私…) けれど気持ちとは裏腹に、唯は自分の中に生まれた小さな変化に顔をほころばせる リトの前で素直に股を開く自分、リトの行為全てに淫らな声を出し反応をする体 そしてそんな自分を求めてやまないリト 『オレだけの唯』 いつか体を交えた時に言われた言葉 リトのぬくもりと共に伝えられたそれは唯にとって宝物にも似た大切な言葉だった 不器用に竿に舌を絡める唯の髪を、リトは愛しげに撫でる 唯は伏せていた目を向けるとリトを見つめた 愛情に溢れ自分の姿しか映さないリトの目 そんなリトを、唯はただじっと見つめ返す それは普段は奥手で純情なリトが見せる精一杯の意志表示なのかもしれない 唯は口から竿を離してもじっとリトを見つめ続ける。目を離すことができないでいた 口からは唾液が糸を引き、口元は欲望で白く汚れている唯の顔 唯は口元との精液を指で掬うと口の中へと運ぶ いつもの生真面目な顔に今は恍惚さが交じり合い、唯を女の顔へと変えていた 「唯……」 リトは自分にぼーっと見とれている唯の腰に手を回すとぐいっと引き寄せる 下腹部はすでに大きさを取り戻していた リトの膝の上に座った状態の唯は目をとろんとさせリトを見つめる 「またおまえの中に入れさせて欲しいんだ」 「……結城くんの好きにするんじゃなかったの?」 くすっと笑う唯にリトはバツが悪そうに顔を赤らめると、唯の腰を浮かして自分のモノを割れ目へと当てる ずぶずぶと肉がヒダを押し広げて中へと入っていく感触 今日、何度目かになるその心地よさにリトの下腹部はビクビクと波打つ 何度入れても、何回出しても飽きることのない唯の体 自然とリトの息も熱くなる 「…ッん…あ、あァ…ンくぅ」 「やっぱ今日のおまえいつもと違って積極的だな」 いつもなら、挿入する前どころか体を触る度にいろいろと文句を言う唯の変化に、リトも不思議そうな顔をする 唯はそんなリトに少し顔を曇らせると、恐る恐る尋ねる 「…こんな私……嫌?」 リトは目を丸くさせるとぷっと吹き出す 「ちょ、ちょっとどうして笑うのよ?私は真剣に…」 「悪い、ゴメンゴメン!ただ……やっぱ唯は唯だなぁって思ってさ」 唯はまだ釈然としないのか、それでもリトの首に腕を回す。その目はいつにもまして真剣だった 「……結城くん、私が変ってもずっと一緒にいてくれる?」 「なに言ってんだよおまえ?」 リトは唯の質問の糸がわからず首を傾げる 「私だけの結城くん」 「え?」 ぼそりと呟いた声はリトの耳には届かない。唯はその言葉を胸にしまい込むとリトにキスをする 「私を離さないでね。絶対…絶対」 いつもとは違う熱のこもった唯の眼差し 「……そんなの当たり前だろ!おまえのいない日常なんてもう考えられねェよ」 溜め息を吐きながらも話すリトの目は真剣そのものだ そんなリトの胸に顔をうずめながら唯は小さな声で精一杯応える 「…うん、私も!結城くんがいないなんてもう耐えられないから⁄⁄⁄⁄」 素直でいて真っ直ぐな唯の気持ちにリトの心臓がドキンと高鳴る 「唯……おまえ…」 自分が変わっていくことが、変わることでリトの気持ちが揺れ動くのではいかという、不安があった そして自分の『心の奥にある本当の気持ち』を知った時、いつかリトにとってそれが重く迷惑になるのではないかという不安 そんな自分の気持ちをリトに知られたくないのか、唯は黙って胸の中で顔をうずめていた リトは小さくなっている唯の肩を掴むと顔を上げさせる 「バカだなおまえは……そんなくだらねー心配するなよ!オレがおまえを嫌いになるわけないだろ!!」 唯はその言葉になにも言わずにただ首を縦にふる 「おまえは相変わらずいろいろと考えすぎるヤツだなァ」 少しあきれ気味のリトにも唯はなにも応えられずにいた リトとのありとあらゆる初めての経験が、唯に様々な壁を作っていく それに悩み苦しむ日々 本当のことが言えない…自分の本当の気持ちも伝えることもできない きっと結城くんにもいろんな愚痴をこぼさせてる…… それでも結城くんはそんな私のことを好きだと、大切だと言ってくれる 結城くんからもらったモノはたくさんあって、そのどれもが大切で大事なモノ… 唯はそんなリトのやさしさや気持ちになんとか応えたいと思っていた 思ってはいるのだがどうしていいのか、なにをしてあげればいいのかわからないでいた 不器用でいて真っ直ぐな気持ち故の唯の悩み そんな自分に内心あきれつつも唯は、今自分にできることを一生懸命しようと思った 俯かせていた顔を上げるとリトに懇願する 自分の気持ち、今リトにしてもらいたいことを伝えるために 「…結城くん…きて……」 唯はもう待ちきれないのかリトに顔を近づけさせていく 「オレも唯がもっと欲しい」 二人は貪るように互いの唇に吸い付く ぐちゅぐちゅといやらしい音が鳴るのも構わずに唯はリトに合わせて腰を動かしていく そこには風紀委員でも真面目な優等生でもない、古手川唯という一人の女の子がいるだけだった 肌を密着させ汗や唾液で汚れることにも遠慮せず舌を指を絡ませ合う 「んッ、ちゅ…ぅはあ…ちゅぱ、んッく」 互いの唇に吸い付き、舌で口内を蹂躙し唾液を交換しあう 「…ふぁ…むぅ、ンン…うぅ」 背中に回した手に力を込め肌が赤くなるほどに互いを抱き寄せる (結城くん…結城くん、私だけの結城くん……) 心に宿る強い気持ちを体で表すかのように唯は乱れていく 自分の体でリトに触られていない部分も見られていないところももうないだろう 体中隅々まで舌を這わされ、吸い付かれ愛撫される。今まで嫌悪の対象でしかなかった唾液の交換も、今では心地いいぐらいだ 唯の中でどんどんリトへの思いが強くなっていく 愛おしくて好きでたまらない気持ち 糸を引かせながら口を離した後も唯はじっとリトの顔を見つめ続ける 「…ッん、はァ…ん…イイ!すごく…気持ちよくて……結城くんが奥まで、きて…ン」 腰が上下に動く度、子宮口に当たるリトのモノはさらに中へ中へと膣内を押し広げる 「あ…ン…んんッ、ァハ…あァ」 お互い抱き寄せていた体を離すと、額から流れ落ちる汗が二人の間に落ちていく 「結城…くん、もっと欲しい…もっと…」 リトは唯のお尻を掴むと叩きつけるように腰を動かす 小柄な唯の体はそれに合わせてリトの膝の上で跳ねる 「…んッく…ぅ、あァすご…イッ」 上下に動く体に合わせ、唯の乳首がリトの胸板を擦っていく 「唯、唯、唯……」 自分の名を呼ぶ声が、熱い息と共に耳元に運ばれてくる 心地よくて何度も呼んでもらいたくなる呟きが唯の体をざわつかせる 「結城くん…私、もう…ダメ…」 「オレも……限界」 リトはすぐにでも吐き出しそうになる射精感を歯をくいしばって押さえ込む 「うん…一緒にきて…結城くんと一緒が…いいの…」 リトは唯の首に腕を回し体を抱き寄せる 「じゃあ出すな…おまえの中にいっぱい」 「いいわよ!出して…結城くんのいっぱい出して!!結城くんので私をいっぱいにして」 リトの突き上げが激しさを増していき、膣内を責めたてる 「あ…くぅ…はあ…ん、ンン…ッんア…ダメぇ私もうっ!」 キューっと締め付けが強くなる唯の中で、リトはこの日二度目になる欲望を吐き出した 荒い息を吐きながらベッドに横たわるリトを尻目に、唯は身なりを整えていく さっきまでの気持ちはどこへ行ったのか いつまでもハレンチな格好はできないと、唯は気持ちを切り替え下着を着けていく ベッドの上ではまだ余韻にひたっているのかリトは寝転がったままだ 「まったくあなたは……どうしてすぐにだらしなくなっちゃうの?」 唯の少しきつめの言葉にもリトは知らん振りを決めこむ 「もうっ!結城くん少しは話を……」 ムッとした顔でリトに詰め寄ろうとした唯の目に、四時を告げる時計が飛び込んでくる 「今、四時なんだ……」 朝からずっとリトとハレンチなことに夢中になっていた唯は時間の存在を忘れていた そして、そんな自分に顔を赤くさせる (と、とにかくまだ四時ということは……) まずシャワーを浴びて、服に着替え少し休憩しても五時前には…… 頭の中でこれからの計画を考え終えた唯はリトに向き直る。緊張が体を駆け巡るが、ちゃんと伝えようと思った。 自分の気持ちを素直に キュッと握り締めた手を胸に当てて深呼吸 「ね、ねえ結城くん、も…もしよかったらこれから私と外に出かけない? ほら、私達って今までデート……みたいなことしたことないじゃない?だから…」 「……」 無反応なリトに怪訝な顔をすると唯はベッドに近づく 「だ、だって私達ずっとこんな感じだし、そ…そうよそれにこんなこと高校生らしい付き合い方じゃないと思うわ! だ、だからと言って別に結城くんとハレンチなことしたくないって言ってるわけじゃなくて……。 えっと私ただその…結城くんともっと色んなところに行ったり、色んなコトしてみたいなァって⁄⁄⁄」 「……」 リトはまた無反応だ 「結城…くん?私なにおかしなこと言った?結城くん?……ちょっと聞いてるのっ?」 自分なりに精一杯の気持ちを言ったのに、それをことごとく無視するリトに唯は口調をきつくする 「あなたいい加減になんとか言ったらどう…」 リトに詰め寄ろうとした唯の動きは止まる ベッドの上ではリトが心地いい寝息を立てていた。その気持ちよさそうな顔を見ている内に唯の体から力が抜けていく 「……もぅ…」 唯は溜め息を吐きながらもリトに布団をかぶせてあげた 結局いつもの様に夜まで家にいた唯は、美柑お手製の夕食を食べた後、リトに送られながら家路についていた 「なあ、なに怒ってんだよ?」 「……別に」 隣を歩く唯の冷たい一言にリトは顔をしかめる (なんだ?オレなんかやったのか?) リトが悩んでいたその時、二人の横を同い年ぐらいのカップルがすれ違っていく その二人をじっと見つめる唯にピンときたのか、リトは唯の手をギュッと握り締める 「ほら、オレ達だって付き合ってるんだし負けてないと思うけどな」 リトと手を繋ぐのはうれしいし、こうやって並んで歩くのもうれしい だけど唯はリトとは別のことを考えていた 通り過ぎた男の子の手にはどこかで買い物をしたのだろう、デパートの紙袋やケーキの入った箱が握られていた きっと二人で服や小物を見たり、何を食べるのかウインドの前でケーキを選んだりしたのだろう 「いいなァ……うらやましい…」 素直な気持ちが口からこぼれる そんなぼーっとしている唯を立ち止まらせると、リトは家に着いたことを教える 「おまえホントにどうしたんだよ?大丈夫か?」 「う…うん!大丈夫だから!!今日はありがとう……じゃあまたね」 名残惜しげに手を離すリトに別れを告げると唯は玄関のドアを開けた リトと別れた唯は自分の部屋に戻ると、ぼんやりと窓の外を眺めていた 「はぁ~今日も一日結城くんとハレンチなことばかり……」 自分からリトを求め、リトに身を任せているのだから文句はないのだが それでも唯の口から溜息がこぼれる 窓の外を歩く同じ年ほどのカップルに唯の羨望の視線がそそがれる 仲良く腕を組んでいる二人。自分にはそんなマネはできないが手ぐらいは繋いで街を歩いてみたい リトとデートらしいデートなどしたことのない唯にとって、待ち行くカップルはみな憧れの対象になる 唯はまた深い溜息を吐くと、窓を閉めお風呂に入ろうと着替えの支度をする その時、ふとカレンダーに目が留まった唯は何気なく日にちを目で追っていった 来週の日曜日 (そういえばこの日は確か……) そのコトを確認すると唯は明日どうやってリトにその話を持ちかけようかと考え出した そして一週間後の日曜日 今日は地元の神社で行われる夏祭りの日 花火大会もあるということで、今、駅の中は人で溢れかえっている そんな中、唯は駅構内にある鏡の前で自分の服装のチェックをしていた 自分のセンスに自信があるわけじゃない。服のコーディネイトだって雑誌を見ながらだ それでも今日という特別な日のために、唯は自分なりに一生懸命がんばってみた 白い生地に、夏らしく涼しげな青の花や赤い花をあしらった浴衣 髪を後ろでアップにし、いつもとは少し違う印象を出してみたりもしてみた 唯は鏡の前で深呼吸をする 頭に浮かぶのはリトの顔 「結城くん…あなた今日のことどう思ってるの……?」 『へ、祭り?いいぜ!特に用事もないし』 あの日、なんとかがんばってリトへデートの誘いを申し込んだ唯は、リトのあまりの簡単な返事にきょとんとなった もっと驚いたり、焦ってくれたり、喜んでくれたりしてくれると思っていただけに、唯の中で複雑な気持ちが生まれていた これまでデートらしいデートなどしてこなかった二人にとっては、これが初デートだというのに、リトの気軽さが少し唯の心に影を落とす 「結城くん……」 ぽつりと呟いた言葉に唯の胸は締め付けられる 最近リトのことばかり考えている自分。リトを中心に考えている自分 頭の中にずっと居続ける最愛の相手 好きで好きで、どうしよもなく好きでたまらなくなっている それは唯自身でもわかるほどに強く、重い感情。決して表には出すことのない自分だけの思い それは、言葉では中々言えない素直な気持ち。ひょっとしたらこの先も口にだすことはないのかもしれない この日への思いも、その思いの深さも それでも唯は大丈夫だと信じていた 口に出さなくても、気持ちを確かめ合わなくてもきっと大丈夫だと―――― そこには確証もないし、絶対なモノもない あるのは信じているという気持ちだけ 口に出さなくても伝わっている、確かめなくてもわかるお互いの気持ち だから、だからきっと今日だって…… それはエゴかもしれない、自分勝手な思いかもしれない それでも……それでも―――― 「結城となら私は…」 小さなか細い声がこぼれた 唯は鏡の中の自分の姿をじっと見つめる 鏡に映る自分の姿は、普段の自分とは掛け離れていた そんな自分の弱さに唯はキュッと手を握り締める 「そうよ…そうよ!きっと…きっと結城くんだって今日のこと大切に思ってくれているわ」 鏡に向かって言い聞かせるようにそう呟く 心の中はまだざわめいたまま それでも最後にまた髪のチェックを済ますと唯は、リトとの待ち合わせ場所に向かう リトの顔を見るために、その手を繋ぎ合わせるために その胸に、一つの悩みを残して 夕方を少しまわった駅前広場、時間にうるさい唯のためとはいえ待ち合わせ時間より 30分も早く来ていたリトは、どこか落ちつかなげに人の流れを目で追っていた 今日は自分にとって、二人にとって特別な日 こうして待っている間もドキドキと心臓の音は早くなっていく リトがそうやって一人落ちつかなげにそわそわしていると後ろから見知った声がかかる 「結城くん?」 振り向くとそこには浴衣姿の春菜が立っている 「さ、西連寺!?」 「結城くんもこれからお祭り?」 「ああ…」 (そういやララのヤツが春菜ちゃんとどうこう言ってたな……) 今日は夏祭りということもあり駅前広場はいつも以上の人で溢れていた そして、そんな中でも一際目立つ雰囲気を醸し出している目の前のクラスメイト 黒髪と薄紫の生地に花模様の浴衣が、絶妙のバランス具合となって、春菜からいつもはあまりない大人びた色気を出させていた 中学の頃ずっと思いを寄せていた相手だけにリトの心臓はドキンと高鳴る (春菜ちゃん今日はなんだかすげーキレイだなァ……) 「結城くんはここでなにしてるの?誰かと待ち合わせ?」 「え!?ああ…うん、そうなんだ。友達と待ち合わせ」 別に付き合っていることは秘密でもなんでもないのだが、つい唯との関係を友達だと言ってしまうリト 「そっか…私もララさん達と待ち合わせ。同じだね」 にっこりと笑顔を向けてくる春菜にリトの顔も赤くなる (やっぱ春菜ちゃんカワイイ) リトは思い切って心に浮かんだコトを口に出す 「あ、あのさ西連寺…きょ、今日はいつもよりなんつーかその…浴衣すげえ似合ってるよ」 思ったことの半分も口に出せないリトだったが、春菜はそれがうれしかったのか耳まで真っ赤になった顔でもごもごと口を動かす 「あ、ありがとう…⁄⁄⁄⁄」 「う、うん⁄⁄⁄⁄」 「……」 「……」 (やべ!気まずい!!なんか…なんか言わねーと!!) 微妙な雰囲気に二人は飲み込まれていく 「あ、あの結城くん!」 春菜は顔を俯かせながら少し上ずった声を出す。その顔はまだ赤いままだ 「な、なに?」 「も、もしよかったら結城くんも……わた、私と……私達といっしょにお祭りに……」 言いたいことを最後まで言うことなく、その時、春菜の巾着からケータイの着信音が鳴る 「ご、ゴメンね…ちょっと待ってて」 春菜がケータイを取り出しなにやら話し込んでいる間、リトは時計を見る 時刻は六時五分前、中々姿を見せない唯にリトは少し不安になる (あいつなにやってんだ?いつもならとっくに来ててもおかしくないのに…) リトが一人考え込んでいると話し終えた春菜がリトに向き直る 「ゴメンね結城くん、ララさんから電話あって私そろそろ行かないと…」 「ああいいよ、オレこそ引き止めてゴメンな!」 春菜はリトの顔を見るともごもごと口を動かす。それはさっき言いかけたコトを、言いたかったコトを言おうとしているみたいで その様子にリトは不思議そうな目を向ける 「西連寺?」 「……ううん、なんでもない」 「そっか…じゃあ気をつけてな」 「うん、結城くんも」 去り際、春菜はもう一度リトの顔を見つめると、なにも言わずに歩き出した 「なんだったんだ春菜ちゃん?オレになんか用事だったのかな……」 「ずいぶん仲が良いみたいね西連寺さんと」 後ろから聞こえたその声にリトの背中はビクンとなる 「唯!?」 唯は遠くに見える春菜の姿に目を細めると、リトに向き直る 「……結構前に着いていたんだけど、なんだかお邪魔みたいだったから黙ってたの」 ふいっと顔を背ける唯にリトは溜め息を吐く 「おまえなに言って……まあ、ちゃんと来たからよかったけど。それじゃあ行こっか唯」 歩き出したリトの背中を見ながら唯は不満そうな顔になる (なによ!結城くんったらあんなにデレデレしちゃって……) リトの隣に並びしばらく歩いても、その気持ちは治まるどころか大きくなっていく (しかも結城くん私にはなにも言ってくれないし……) この日のために初めて買った浴衣 袖を通す時、リトの顔が浮かんではどんなコトを言われるか期待に胸を躍らした 店で買う時もリトの好きそうな色合いを思い浮かべ悩みながら選んだ 下駄も巾着もみんなこの日のために、リトのために――――― 『あ、あのさ西連寺…きょ、今日はいつもよりなんつーかその…浴衣すげえ似合ってるよ』 そう言った時のリトの顔が、声が頭の中で甦る 手を繋ごうと伸ばしたリトの手を無視すると、唯は黙って隣を歩く その目は少し悲しげに揺らめいていた 祭りのある神社は予想以上の人でごった返していた おいしそうな匂いがする露店の数々。子供たちの楽しそうな声。それがリトの心を躍らせる そして、それは隣にいる唯も一緒なようで、リトと同じように目を輝かせていた 「へ~おまえもやっぱ、こういうとこ好きなんだな。俺も好きなんだ、祭りって!」 楽しそうな顔で笑うリト 「べ、別に私はそういうんじゃ……。そ、それに勘違いしないでね!私が今日ここに来たのはお祭り目当てじゃなく…」 「風紀活動の一環なんだろ?彩西高の風紀を乱すヤツを取り締まるとかそんな感じの」 「え、ええ…。あなたにしたらよくわかってるじゃない。そうよ!私達が今日ここに来たのは、 あなたの様な生徒が問題を起こさないように見張りに来ただけなんだから」 妙に声を強めて力説する唯 「だ、だから変な勘違いしないで」 「ああ、んなコト今さら言われなくっても、ちゃんとわかってるって」 リトはそう言うと唯に手を差し伸べる 「けど、風紀活動も大事だけど、今日はせっかく祭りに来てるんだから楽しまないと損だぜ?それに、オレ達にとってこの祭りは特別なものだろ?」 唯の胸がドキンと高鳴る なにが特別なのか、喉まで出かけたその言葉をムリヤリ呑み込むと、照れ隠しの様にリトから顔を背けてしまう 「唯?」 「きょ…今日はそんなんじゃないんだから、結城くんも真面目にしてっ////」 二人は一通り祭り会場を一周すると、神社の境内に来ていた ここは露店などがない代わりに、カップル達の溜り場となっている場所 腕を組んで歩く男女に、ベンチに座ってキスをし合う者、木の影に隠れてイチャつく様子に唯の顔も自然と赤くなっていく (な、なんてハレンチなっ!!あんなコト人前でよくも……⁄⁄⁄⁄) 「ココすげー……」 舌を絡め合う男女を隣でまじまじと見続けているリトに唯の厳しい視線が飛ぶ 「結城くん!あなたなに真剣に見てるのよ?」 「いや、だって…」 顔を赤くさせながら言い訳をしても説得力があるはずもなく、唯の目はますます厳しくなっていく 「まったく!あなたってどこでも…」 普段と同じ様に振舞っている唯だったが、実は心の中はたいへんだった。 周りのカップル達の大胆な行為に、さっきから心臓の音がドキドキと鳴りっぱなしだ どんどん早くなっていく鼓動に自然と顔も赤くなっていく 唯はそっとリトの横顔を見つめた。その顔は複雑な表情を浮かべている さっき意地を張ってリトの手を拒んだことが悔やまれた せっかくのデートを風紀活動だなどと言ってしまった自分に不甲斐なさを感じた (私が言い出したことなのに……) からっぽの手が寂しく感じられる。リトのぬくもりが恋しい リトを見つめる唯の目に熱が帯びていく そんな唯の複雑な思いがこもった視線にリトはようやく気付く 「ん?どうしたんだよ?」 「な、なんでもないわよ!早く行くわよ…」 境内に背を向けると唯は再び祭りの喧騒の中に入っていく 人を掻き分けながら進む唯の背にリトの手がかかる 「ちょっと待てって!こんな人がいっぱいだと迷子になるぞ」 「なるわけないでしょ!だいたいあなたが逸れなければ私は…」 そう言いながら進もうとする唯の手にリトの手が重ねられる 「ちょ…ちょっとなにするのよ!?」 手を握り締めるリトに唯はびっくりして思わず声を大きくする 「風紀活動だろうと、なんだろうとおまえを一人にはできねーよ!」 「え…?」 リトの手に力が込められる 「それに……それに変なヤツが来てもおまえを守れないだろ」 リトの力強さといつものやさしいぬくもりが手に伝わってくる その目は真剣だった 「う、うん……////」 唯は短く応えると、キュッと手を握り返した 「そう言えばおまえ腹減ったりしてないのか?」 「……少し」 ぼそっと話す唯の手を引きながらリトが進みだす 「それじゃあ、なにか食いにいくか。おまえなにが食べたい?」 唯は少し目を彷徨わせると、すっと一軒の露店へと指差す 「え?これって……おまえこんなのが好きなの?」 意外な唯の選択にリトの目も丸くなる 「わ、悪かったわね⁄⁄⁄⁄」 恥ずかしさで顔を俯かせる唯の手を取ると、リトは露店のおじさんに声をかける 「すみません、リンゴ飴二つください」 リトは飴を受け取るとお腹が空いていたのか早速口を近づける 「ダメよ!立ちながら食べるなんて。それに歩きながらなんてもっとダメ!!」 「おまえなァ……こんな時ぐらいいいじゃねーか」 「こんな時だからこそよ!とにかく風紀の乱れに繋がることは私が許しません!」 頑として言い放つ唯に溜め息を吐くと、再びリトは唯の手を取って歩き出す 「ったくしょうがねえな……どっか座れる場所は……」 「しょうがなくなんてないわ!だいたいあなたは日頃から…あっ」 メンドクサそうに顔をしかめるリトに注意をしようとしたその時、目に映ったあるモノの姿に唯の足は止まった 「ん?どうしたんだよ?」 ぼーっとしている唯に怪訝な目を向けると、リトはそのままその視線を追ってみる 向かいに並ぶ露店の一つ、射的屋 そして、唯の見つめる視線の先には、茶色い毛並みをした子犬のぬいぐるみがあった 「なんだよおまえ、あんなのが欲しいのか?」 リトの言葉にぼーっとしていた顔をハッとさせると、唯は慌てて否定する 「ち…違うわよ!私はただ……」 「……」 リトは手に持っていたリンゴ飴を唯に渡すと、射的屋の親父に声をかける 「おっちゃん一回!」 おもちゃの銃に玉を込めるとリトは他の景品には目もくれず、目当ての物に狙いを定めて撃つ (結城くん…?) 少し大きめなソレは一回や二回当てた程度ではグラつくだけだったが、三回四回と当てる度に揺れは大きくなり、五回目でようやく下へと落ちた リトは射的屋の親父から景品を受け取ると、少し照れくさそうに唯に渡す 「ほら、これが欲しかったんだろおまえ」 「ぁ……あ…」 リトから渡された物を受け取っても唯の口からは小さな呟きしか出てこず、もじもじと体をくねらせるだけだ 「なんだよこれが欲しかったんじゃなかったのかよ?」 「ち、違うの…そうじゃなくて……」 歯切れの悪い唯を怪訝な顔で見つめるリトに、射的屋の親父が声をかける 「そこのお二人さん!!祭りの日にケンカたァいただけねーな」 「え!?いやオレ達別にケンカしてるわけじゃ…な、なあ唯?」 リトの言葉にも唯は顔を背けて応えようとはしない (な…なんなんだよコイツ!?) リトは眉間に皺を寄せムッとした顔になっていく そんな二人の様子を見ていた親父の目が輝く 「ふ~んなるほどね…。俺の経験から言わせてもらえば彼女、きっとあんたからのプレゼントがうれしくて、どうしていいのかわかんねーのさ」 「えっ!?」 目を丸くするリトは慌てて唯の方を振り向く 「いや~カワイイ子じゃねーか!」 「唯……」 真っ赤になった顔を俯かせていた唯は二人のやり取りに顔を上げる 「ち…違います!!私は別に…だいたいコレは彼が勝手にやったことなんです⁄⁄⁄⁄」 全力で否定する唯に射的屋の親父は笑い出す 「そんなにテレなくてもいいじゃねーか!青春ってのは大事なモンだぜ」 話のまったく噛み合わない相手に唯の顔はムッとなっていく 「あ、あなたちょっとは人の話を……」 「お…おいこんなところでそんなコトやめろよな」 妙に冷静なリトに唯はつい怒りの矛先を向けてしまう 「だ、だいたいあなたが私の話を聞かずに勝手にするからこんなことに……」 「はぁ?なんでオレのせいになるんだよ?おまえが欲しそうな顔してたからオレは…」 そんな二人のやりとりを見ていた親父は交互に二人の顔を見つめて頷く 「ケンカするほど仲が良いって昔から言うしな。あんたら見てるとこっちまで微笑ましくなってくるよ。あんたらお似合いのカップルだぜ!」 「なっ!?」 「お似合いの……」 その言葉に耳まで真っ赤になった二人は、さっきまでの言い合いも忘れて、お互いの顔を見つめる そんな二人の様子をにやにやと見ていた親父は、ついにぷっと噴出し豪快に笑い出した そして、そんな様子を少し遠くから見ている者がいた 「…あれって結城くんと古手川さんよね」 それからリト達は再び人の波の中を歩いていた。リトの隣には唯と、そして、春菜がいた 「…にしてもララ達なにやってんだよ……。西連寺を置いて勝手にどっかに行くなんて」 「そんなことないよ。私がぼーっとしてたからはぐれちゃったんだし…」 小さな声で春菜が応える 「西連寺はなにも悪くないよ!悪いのはララ達なんだしさ。だいたい美柑のヤツはなにやってんだよ……なあ、唯?」 「……そうね」 怒ってるわけでも、楽しそうでもない唯の声にリトは一瞬眉を寄せる 「と、とにかく二人が見つかるまでオレ達と一緒にいるといいよ」 「う…うん。それはうれしいんだけど…。私、迷惑になってない?その…結城くん達の……」 リトは顔を赤くさせると、手で全力で否定しながら必死な声をだす 「そ!そんな事ねーよ!!オレ達はただおもしろそーだなァって感じでココに来てるだけだし!それに、こーゆートコは大勢の方が楽しいしさ!!」 その言葉に唯の目がピクリと反応する 「……ホントに?」 春菜の声はリトではなく、その隣を歩く唯に向けられている様だった 唯は黙ったまま地面を見つめていたが、やがてぽつりと言葉をこぼす 「心配しなくてもいいわよ。私もそう思うし……。二人より三人の方が楽しいじゃない」 数秒の間を置いて応えたそれは、感情のあまりこもって無い淡々としたモノだった 春菜はそんな唯に違和感を覚えるも、安心したかの様に笑顔を浮かべる 「…うん、ありがとう古手川さん」 「別にいいわよ、こんなこと…」 そんな二人のやりとりに、リトは、気付かれないように唯を横目で見つめる 黙ったまま地面を見続ける唯は、さっきまでの雰囲気はどこにもなく、どこか寂しそうだった (なんだよ…。どうしたんだこいつ……?) リトは聞かれない様に心の中だけで唯に呟いた それから3人はララ達を見つけるついでに、様々な露店巡りをした ヨーヨー釣りに焼きそばを食べたりカキ氷で喉を潤したり、そして、金魚すくい (オレはこーゆーの得意なんだ!カッコイイとこ見せてやる!!) 美柑からは散々ムダな才能だとからかわれてきたリトだったが、二人にカッコイイところ見せようと張り切って挑んだ が、中々うまく掬うことができず、結果0匹に終わってしまう 「気にしないで結城くん。ほら、金魚すくいって難しいと思うし…」 「……ゴメン、面目ない……」 春菜の励ましにもリトは力なくうな垂れたままだ そんな二人の様子を唯は少し後ろから黙って見ていた 「にーちゃん彼女をあんまり困らせたらダメじゃねーか。彼氏ならもっとドンと構えてなきゃな。 ほら、オレからあんた達カップルにサービスだ!受け取りな」 そう言って1匹の金魚を差し出す露店の親父に、リトと春菜は耳まで真っ赤にさせる 「カカ…カ、カップル~!?」 「お…おじさん待って、私たちそんなんじゃ……////」 二人の反応に唯の表情はムッとしたものに変わっていく 「なによ、もっとちゃんと否定しなさいよ……」 唯の言葉はリトに届くことなく祭りの雑踏の中に消えていった 「げ、元気出して結城くん!ホラ、おじさんがサービスで1匹くれたじゃない。…それよりゴメンね、カップルだなんて言われちゃって…」 「え!?いや…オレは別に気にしてないっていうか…その……」 リトはチラリと唯の方を見る。唯はそっぽを向いていた (唯…) 一週間前のあの日、珍しくお説教以外で唯の呼び出しを受けたリトは、少しビクビクしながら唯との約束の場所まで行った 『今日はあなたに大事な話があって呼んだの。一週間後の日曜日に近所の神社でお祭りがあるんだけど。その…結城くんその日って空いてる?』 ぼーっとしているリトへ、唯はなぜか大慌てで付け加える 『も、もちろんデートってわけじゃなくて…そう!これは風紀活動の一環として私はね…』 どんどんと一人焦りだす唯へ、リトは短くいいよと応えた 唯のほっとした様な表情と、どこか寂しげな顔に少し引っかかるモノがあるものの リトは心の中で喜びを爆発させた 唯からの誘い それはリトにとっては意外なことであり、そして、すごくうれしいことだった きっと何度も何度も頭の中でなにを言おう、どう言おうと、繰り返し練習したのだろう 唯らしいギコチない言葉の中に、唯のその日への思いがいっぱい詰まっていると感じた なのに自分は…… あいまいな言葉で濁す自分を見つめる春菜へ、リトは、思い切ってホントのことを言おうと口を開く 「あ、あのさ、西連寺っ!」 「どうしたの?」 思いのほか大きな声を出してしまったことに、リトは躊躇ってしまったのか少し間を空けてしまう そして、その声にこちらを見つめる唯の姿が目に映る 変な緊張が喉を締め付けていく 「えっと…あのさ…」 「うん」 続く言葉が出てこない。心臓がドクンドクンと早くなっていき、手に汗が浮かんでくる ただ本当のコトを言うだけなのに 「さ、西連寺その…オレ……オレは…そうだ!!腹減らない?タコ焼きでも食おうぜ」 「うん!」 ハハハと力なく笑うリトに唯は溜め息をこぼすと、その横を黙って通り過ぎていく 「ゴメン、唯……」 横を通り過ぎる時、その声が聞こえているのかいないのか、唯はリトの顔を一度も見ようとはしなかった 結局、再び祭りの中を歩く3人の中で唯の表情は晴れないばかりか、今はその顔に複雑なものを浮かべていた 唯はリトの性格をよく知っている。普段は頼りないしデリカシーもない。だけど、やる時はちゃんとしてくれる そして、なによりどんな時でもやさしさがあった だから今にしても、春菜をこんなところで一人っきりにはさせられないという思いが、あることもわかっていた (だからって……) 隣で仲良く話す二人に唯の中で、もやもやとしたモノが生まれる リトと春菜は今、高1の時の思い出話に夢中になっていた 臨海学校の水着盗難の時のこと、文化祭の話、クリスマスパーティの話にララが宇宙人だとバレた時のこと そのどれもが唯の知らない話だったし、そして、唯の知らないリトだった リトの隣を並んで歩く唯の表情は優れない リト達の話に相づちをうったり、頷いたりはするが、とても楽しめる気分ではなかった 自分の知らないリトを知る春菜 どういう理由でも春菜を思うリトのやさしさに複雑な感情が芽生える なによりリトのやさしさが自分以外に向けられていることに、春菜への嫉妬が生まれる もちろんそれはただの我がままだと思うし、いけないことだとわかってはいた わかってはいるのだが…… 隣で自分の知らない話をしている二人に唯は顔をムッとしかめる 隣で黙って歩く唯にいつもとは違うなにかを感じたのか、リトは小さな声で話しかける 「唯?」 「……」 「さっきは悪かったよ。その、オレちゃんとするから、だから…」 「……」 唯はなにも答えない 心配になったリトは唯の肩に手を置こうと手を伸ばす その手から逃れるようにリトから距離を置くと、唯は一人黙って歩き出した 「お、おい…」 「ほっといて!一人になりたいのっ」 こちらを振り返りもせずそう言い放つ唯の口調は、いつにもまして強く、そして、どこか悲しそうだった 「あいつなに考えて…。ゴメン、オレちょっと追いかけてくる」 「あっ!結城くんちょっと待って私が……」 なにか言いかけた春菜を後ろに残し、リトは唯の後を追う 「どうしたんだよ唯のヤツ……」 悪態を吐きながらも、リトは、自分の不甲斐ない態度で唯を怒らせていることをわかっていた わかってはいるがどうすることもできない 思いが空回りをしてしまい春菜に本当のコトを言えないでいた 「クソっ!なにやってんだよオレは…」 人ごみを掻き分けながら進んでいくと唯の後ろ姿が映る 「あっ!唯ッ」 リトは唯の前に回りこむと肩を掴んで捕まえる 「…なによ?」 「なによっておまえな…。なに考えてんだよ?」 その言葉に唯は顔をムッとさせる 「それは私のセリフでしょ!あなたこそなに考えてるのよ?だいたい今日は私たちの……」 「私たちのなんだよ?」 「それは……」 唯は黙って俯いてしまい、そのまま黙り込んでしまう 「とにかく一度戻ろうぜ。西連寺も心配してるだろうしさ」 「……なによそれ?」 「え?」 ぽつりと呟いた唯の声にリトは間の抜けた返事を返す 唯は俯いていた顔を上げると、そんなリトを睨み付ける 「どうして…どうして西連寺さんの心配ばかりするのよ?どうして西連寺さんばかりなの?私のことはどうでもいいの? 私だって一緒にいるのに、私はあなたのなんなの?ねえ、答えてっ!?」 唯の大きく強い口調は周囲の人たちの視線を集めるが、そんなことは気にも止まらないのか、唯はますます声を荒げる 「だいたいあなた今日がなんの日かわかってるの?すごく大切な日なのよ!それなのに…それなのに……」 リトが春菜を気にかけてるのはわかる。わかってはいるがそれが必要以上に唯の目には映っていた 自分の知らない話、目の前で春菜にデレデレしているリト 三人でいるはずなのに自分一人だけ取り残されている感覚 なによりリトが自分以外の女の子と仲良くしているのが嫌だった だって、だって結城くんは私だけの―――― 再び俯いてしまった唯にリトは溜め息を吐く 「とにかくさ、こんなところじゃなんだからどっか違うところで話そーぜ、な?」 心配そうな顔で近づけてくるリトの手を、唯は、思わず払いのけてしまう 「もうほっといてっ!!」 少し赤くなった手とリトのきょとんとした顔に、唯は苦い表情になる 「ゴメン…なさい……」 「いや、別にいいけど…それより唯…」 いつも以上に暗く落ち込んでしまった唯に、リトもそれ以上声をかけられないでいた 祭りの賑やかでいて楽しそうな人々のざわめきの中で、二人の周囲だけポッカリと寂しい空間ができていた なにもしゃべらなくなった唯へ必死に言葉を探すリト だが、焦る気持ちがリトから冷静さを奪っていく 目の前で一人あたふたとしているリトへ、唯はすっと持っていたぬいぐるみを差し出した 「これちょっと持ってて」 なにも言わず反射的に受け取ったリトの胸に、嫌な不安が広がっていく 「えっ…あのさ唯、これって…その……」 唯はリトに背を向けるとそのまま歩き出す 「もしかしてオレ…嫌われた……?」 ぼーっとその背中を見続けていたリトは、ハッと我に返ると慌てて唯を呼び止める その声に立ち止まった唯は、リトに振り返るとごにょごにょと何かをしゃべった その顔はなぜか赤くなっていて、聞き取れない声と唯の表情にリトは怪訝な顔をする リトは唯に駆け寄る 「どうしたんだよ?なに言ってんだかわかんねー」 唯は長い睫毛を伏せるかの様に真っ赤になっている顔を俯かせる 「もう…わかって……」 「え?」 ぼそりと小さな声で呟くだけの唯にリトは顔を近づけさせる 「唯?」 「……も、もういい加減わかって!トイレに行きたいだけなのっ////」 「あっ…」 ようやく納得したのかリトは一人顔を明るくさせる 「なんだ。そんなことならそうと言ってくれればいいのに」 「女の子にそんなこと聞くほうがどうかしてるわよ////」 唯は少し怒ったような目をするとくるりと背中を向けて歩き出した リトは唯が終えるのを簡易トイレのある広場前で待っていた。待ってる間、腕の中の景品に目を落とす 茶色の毛並みをした子犬のぬいぐるみ 少し大きめなソレは両手で抱きしめるにはちょうどいいサイズで、今はリトの腕の中で将来の主になる人をリトと一緒に待つ 「オレなにやってんだよ……」 今日の自分の不甲斐なさに、リトに思わずぬいぐるみに話しかけてしまう けれど、ぬいぐるみに話しかけても応えが返ってくるはずもなく、リトが溜め息を吐いていると後ろから声がかかる 「結城くん」 後ろにはいつの間にか春菜が立っていた 唯は鏡を見ていた。その口から溜め息がこぼれる 「はァ~私なにしてるんだろ……」 今日は色々と楽しみにして来た分、中々期待通りにいかないことに気持ちも沈む (こんなに思ってるのに、こんなに楽しみにしてるのにどうしてうまくいかないの?) 唯の口からまた溜め息が漏れ、鏡に映る浴衣姿の自分を白く曇らせる 今日のために、リトが喜ぶと思って一生懸命選んできた浴衣 「結城くん私より西連寺さんといる方がいいの?私よりも……」 溜め息がこぼれ、唯の顔を寂しさが覆う 「ゴメン…西連寺のことほっといたままで」 申し訳なさそうに頭を掻くリトに、春菜はくすっと笑いかける 「ううん。私は別にいいの。それより結城くん、古手川さんは大丈夫なの?」 「あいつは…」 ぬいぐるみに視線を落とし言いよどむリトに、春菜が明るい声で話しかける 「それカワイイ子だね。どうしたの?古手川さんの持ってた物だよね?」 「え?ああ…これは」 リトは一瞬目をさ迷わせた後、再びぬいぐるみへと視線を戻す 「うん、これ古手川のなんだ」 「……」 「あいつコレが欲しかったみたいでさ、オレが射的で取ったんだ」 唯はトイレを出ると、暗く沈んでしまった自分の気持ちをなんとか押さえ込み、リトの下に急いだ やせ我慢だとわかってはいたが、これ以上自分の気持ちで二人の雰囲気を壊したくないと思った なによりこれ以上リトと気持ちが離れるのは嫌だと思った そんな唯の周りを何組ものカップルが行き来する 自然と目は彷徨い、足は立ち止まってしまう (私達だってちゃんとしたカップル…なのに…) 互いに肩を寄せ合って歩く姿に楽しそうにしゃべる様子に軽い嫉妬を覚える 頭になぜか春菜と楽しそうに話すリトの姿が浮かんだ 唯の足は自然と早足になる (我がままだってわかってる!だけど、だけどやっぱり私は…) リトの姿が目に入ると自然と笑みがこぼれる。唯はそんな自分を落ち着かせる様にゆっくりと歩き出した 「お待たせ。結城…え!?……また西連寺さんと一緒なんだ…」 春菜と話すリトの姿が唯の胸に重く圧し掛かる 「さっきまでは私と一緒だったのに、私を追って来てくれてたのに…」 唯は二人に気づかれないように近くにあった木の影に隠れてじっと二人の様子を見つめる 「なにしてるのよ私は…」 言葉とは裏腹に唯の心は二人を捉えて離さない。リトと春菜の二人を 「結城くん…」 唯は胸で手を握り締めてただ二人を見つめる 「オレ…さ、駅前で西連寺に今日は友達を待ってるって言ったじゃん?あれ…ホントはウソなんだ」 「……うん」 (それって私の…こと?) 木の影からかろうじて二人の会話が聞こえていた唯は、思わずリトの言葉に耳を疑う 「ホントは違うのに…ホントは一番大事なヤツなのにオレ……誰かにホントのこと言うのが恥ずかしくってさ」 「…うん」 言葉を探すようにゆっくりと話すリトに春菜はじっと耳を傾ける。そしてそれは唯も同じだった 「オレ古手川と付き合ってるんだ!二ヶ月前からさ…」 「うん」 「うんって……あれ?驚いたりしないの?」 春菜への思いは吹っ切れていたとはいえ、それでもかつて好きだった相手に告白するのは、それなりの勇気がいったことだった それなのに、それをあっさりと受け取った春菜にリトは呆気に取られてしまう 「うん!だってわかってたし…と言っても、わかったのはほんのちょっと前なんだけどね」 少しはにかむ春菜にリトは慌ててワケを尋ねる 「えっと、それって……どういう…」 「うん実は……」 春菜はあの後、唯とリトを追って偶然話し合っている二人の姿を見つけたこと そして、その話の内容を聞いて、二人の関係を知ってしまったことをリトに告げた 「ご、ゴメンなさい!悪いことだってわかっていたんだけど…どうしても気になって…」 「いいって!気にすることないよそんなこと。それより知ってたんだ…」 リトはほっとした様な少し複雑な表情を浮かべる 「うん…それに結城くんを見ていたらわかるしね」 「え!?どういう……」 春菜は悪いと思いつつもくすくすと笑う 「西連寺!?」 「ゴメンなさい……結城くんはね、私を見る時と古手川さんを見る時とじゃ全然違うから」 首をかしげるリト 「それはね…すごくやさしくて、愛情に満ちた感じ。そんな風に古手川さんのことを見ているんだよ」 「……なっ!違…そ、そんなことねーって!!オレは別に普通なワケでっ!」 真っ赤になって慌てて訂正しようとするリトへ春菜は笑いかける 「フフ、それを自然にできるところが結城くんの素敵なところなんだよ」 「オ…オレは別にそんなつもりであいつを見てるわけじゃ……⁄⁄⁄」 「だけど大切なんでしょ古手川さんのことが?」 さらに顔を赤くさせるリトを春菜は少し切なげに見つめる 「古手川さんがうらやましい……」 「え?」 思わずこぼれた自分の気持ちを誤魔化すように、春菜は慌ててリトが抱えるぬいぐるみを指差す 「だ、だからねきっと古手川さんも結城くんと同じ気持ちだから、もっと大事にしないと!」 「そ、そうかな~」 少し否定的なリトの態度に唯の顔がムッとなる 「うん!だってそれ…ぬいぐるみを見たらわかるから」 「え?これが?……オレは全然わかんねーけど」 春菜はリトからぬいぐるみを受け取るとその顔をじっと見つめる 「西連寺?」 「……フフ、やっぱり。このぬいぐるみ結城くんに似てるの」 「へ?」 リトは素っ頓狂な声を上げてもう一度ぬいぐるみの顔を見つめる 確かに髪の色とかは似てはいるのだが…… 「そっかなー?」 「うん、顔とかそっくりだよ。結城くんが笑ったところに」 春菜にそう言われればリトも頷くしかない。リトはぬいぐるみを抱きかかえると改めて春菜に向き直る 「オレあいつを大事にするよ。今日みたいにウソなんてもうつきたくないからさ あいつは……唯はオレの自慢の彼女だからさ!みんなに自慢できるオレの一番大切なヤツだから」 リトの真っ直ぐな言葉。それはいつか自分が聞きたかった言葉だったのかもしれない…… 春菜はそんな自分の気持ちを心の奥に封じ込めると、リトの顔をもう一度見つめる 「うん!結城くんと古手川さんならきっとこの先も大丈夫だと思うから……。それじゃあ私もう行くね」 「え!?行くってでも一人じゃ……」 (やさしいな、結城くん……。だけどこれ以上一緒にいたらきっと古手川さんに悪いから) 心配そうに顔を見つめるリトに春菜は微笑む 「さっき結城くん達を探してる時に、偶然ララさん達も見つけたの。だから、心配しなくても大丈夫だよ。」 「そっか、じゃあもう安心だな。…それじゃあ気をつけてな西連寺」 リトはそう言うと春菜を見送った (結城くん…) 二人の会話を一部始終聞いていた唯は、出るに出れない状況に頭を抱えていた (あんなこと言われたらどんな顔をして結城くんに会えばいいのよ……) 『唯はオレの自慢の彼女だからさ!みんなに自慢できるオレの一番大切なヤツだから』 思い出すだけでも顔が熱くなる。何度でも聞きたい言葉 それでも唯は立ち上がると、少し勇気を出して茂みから一歩出る 「結城くん」 後ろから聞こえた声に慌てて振り向くと、少し顔を赤くした唯が立っていた 「あれ?おまえトイレに行ってたんじゃ……」 バツが悪そうに言いよどんでいる唯の様子に、リトはピンときた 「ああそっか…おまえさっきの聞いてたんだ」 「ゴメンなさい!悪いとは思ったんだけど…」 「うん…」 「……」 「……」 二人の間に微妙な空気が流れる お互い言いたいこと、伝えたいこと、たくさんあるはずなのにそれをうまく言えないでいた その時、祭り会場にアナウンスが流れる 『ただいまより恒例の花火大会を行ないますので、ご来場の皆様は……』 時刻は八時十分前、花火大会を告げるアナウンスに人々は色めき立つ 「やばっ…もうこんな時間かよ…」 一人焦りだすリトを唯は不思議そうな眼差しで見つめる 「結城くん?どうしたの?」 ぼーっとしている唯の手を掴むと、リトは、急に小走りで駆け出す 「ちょ…ちょっとどうしたのよ急に?」 「いいから!急がないと始まっちまう…」 「はぁ…はぁもうちょっとだから、がんばれよな唯」 「それはもうわかったから、どこに行くのよ?」 息も絶え絶えな二人は今、神社の境内の更に奥、どこに続くかもわからない山道に来ていた 周囲に明かりもなく、虫の鳴き声や得体の知れない物音にビクビクしながらも歩き続けていた 本当なら今すぐにでも帰りたい衝動をグッと我慢できるのも、ずっと手を繋いでくれているリトのおかげだ けれどそれも限界に来ていた。さすがに目的もどこに行くのかも知らされていないのは辛い そんな弱気になっている唯の手をギュッと握り返すと、リトは再び歩き出す 「結城くん、私もう足が……」 「もうすぐそこだからがんばって…」 その時、真っ暗だった山道に赤や青といった明かりが灯る リトが振り返ると、花火大会の開始を告げる盛大な打ち上げ花火がどんどんと上がっていた 「うわぁ!始まっちまった」 リトは足を速めると、草木を掻き分けながらも森の中へと進んでいく どんどん先へ進んでいくリトの背中を追うように、唯もその後を歩いて行く 「結城くん、いい加減にして!いったいどこに行くのか行ってくれないと私…」 自分の声を無視するかの様に先へ先へと進むリトに、唯のいらだちは募っていく 「結城くん聞いてるの?ちゃんと説明してくれないと…」 その時、前を行くリトがふいに止まる 「あった!ここだ」 「え?」 リトが身の丈ほどの草を払いのけるとその先は、小さな広場ができていた 「ホラ、唯お疲れ。到着したぜ」 リトの差し出す手を握り返すと、唯は森から一歩外に出た 雲一つない月明かりが、広場を明るく照らす 「ここって……」 「オレ子供のころよくこの神社で遊んでてさ。その時見つけたのがこの広場。 結構見晴らしがいいだろ?」 山の中腹にあるそこは、ちょうど境内の真上にあって、下に大勢の人達が見える 「すごい…こんなところがあっただなんて」 「ここだと人もこないし、周りに大きな建物とかもないからさ。絶好の穴場だろ? 花火もよく見えるし」 どこか得意げに笑うリトの顔を花火の色が染める 「いつか誰かと、って思ってずっと秘密にしてたオレだけのとっておきの場所なんだここ…」 「え?」 真っすぐ前を見つめるリトの横顔は、花火のせいなのかどこか赤くなっていた 「その…今日は初デートだろ?だからどうしてもお前とここに来たかったっていうか…////」 どんどん小さくなっていくリトの言葉に唯は、ただぼーっとその横顔を見つめる 「結城くん、今日がなんの日なのかわかってたんだ…」 「当たり前だろそんなことっ!」 照れくさいのか顔を背けるリトの横顔を、唯はまじまじと見つめる 赤くなっている顔に花火の青や黄色が重なっていくと、リトはその顔を真剣なモノへと変えていく 「さっきは悪かったな。いろいろと…」 「え…」 黙ってしまった唯にリトは頭を下げる 「オレ今日、おまえに言いたいこととかいっぱいあったんだけどさ、中々言えないどころか、おまえに色々変な誤解とか与えてたみたいでさ。その…ゴメンな唯」 「結城くん?」 「今日は初めてのデートの日だっていうのにオレなにやってんだよ……」 初じめてのデート―――― 気付いていないと思っていた。なにも考えてくれていないと思っていた 誘った時、今日の態度 普段となにも変わらないどころか、目の前で仲良く話す二人に嫉妬すら抱いた 「ホントにゴメンな唯」 申し訳なさそうなリトの顔に胸が締め付けられる 唯はそんな自分の気持ちを隠すようにそっぽを向く 「……別にいいわよそんなこと!よ、よくはないんだけど…それより」 「それより?」 「わ…私の方こそさっきはあんな態度とって悪かったわ。その…あなたがなにも考えていないと思ってたから…」 その顔は相変わらずそっぽを向いたままだったが、唯の純粋なまでの気持ちがそこには込められていた リトはそんな唯に笑いかけると、そっと手を唯の頬に這わせる 「じゃあ今日はお互い様ってことだな?」 「ま、まあ今日はね」 どこかまだギコチない唯の気持ちをほぐす様に、その手を頬から頭へと動かす 「ホントは後もう一個あるんだ、言いたいこと…」 「なんなの?」 リトは唯に顔を近づけていく。二人の距離は数センチほどしか離れていない 「今日のおまえすげーキレイだよ。他の誰よりも…」 「な、なにを言って!だ、だいたい言うのが遅いのよ。そんなことフツー会った時に言うものでしょっ////」 「ゴメン…」 リトはそう言うと唯の唇に自分のを重ねる 最初は驚きと恥ずかしさで体を硬くさせていた唯だったが、次第にリトに合わせるよう口を動かしていく 「んッ…」 リトは一旦唯から口を離すと、その顔を覗き見る うれしさと恥ずかしさで唯はギュッと目をつむったままだった 「どうしたんだよ?やっぱまだ怒ってるとか?」 唯はリトの胸に顔をうずめながら、首を振る 「違うわ。違う…そうじゃないのそうじゃ…」 必死に首を振る唯の様子にリトは笑いかける まだまだギコチない唯の表情だったが、その思いにリトはその手をギュッと握り締める 「やっぱ、おまえはおまえのままだな」 「なによそれ?」 手を握りしめ合いながら見つめる二人の空に特大の花火が上がった あたりを色とりどりの色に染めながら何度も空に上がっていく花火の下で、二人はこの日初めて笑いあう 胸からいろんな思いが消えたせいか、その顔はいつも以上に明るい 赤や青、黄色といった一瞬の光が唯の顔を美しく染める それはリトでなくても誰もが見とれる美しさだった ぼーっと見とれるリトに、唯は怪訝な顔をする 「どうしたの?」 「カワイイ…」 リトはそう呟くと唯をギュッと抱きしめた。満点の星空の下抱き合う二人を花火が赤く染める 「ちょ…ちょっと!こんなところでなにを⁄⁄⁄⁄」 リトは腕に力を込めると唯の細い腰に手を回す 「今日うちに来ない?オレ、おまえとこのままずっと一緒にいたいんだ」 つまりそれは自分とハレンチなことをしようと言っているのと同じこと あまりのストレートなリトに唯は耳まで真っ赤にして顔をうっとりさせるが 慌てて頭を振ると、気を引き締める 「な、なに考えてるのよあなたは!?一週間に一度って決めたでしょ?」 そう言いながらも唯は自分が妙に昂ぶっていることに戸惑う リトはそんな唯の体から離れると両肩に手を置く 「いいじゃん!今日ぐらいはさ」 思わず首を縦に振りそうになる自分をなんとか踏みとどまらせると、唯はふいっとリトから顔を背ける 「だ…ダメよそんなこと!約束したでしょ?だいたいなによ今日ぐらいはって?」 「えっ!?だって今日は祭りだしさ、おまえとずっと一緒にいたいって思うのは普通だろ?」 「ふ…普通のこと……なの?」 そういえば浴衣を買う際、店員から彼氏がどうとか祭りは特別な日だからなんだと色々言われたことを思い出す 「当たり前だろ!年に何回もない特別な日なんだから、やっぱ特別なヤツと過ごしたいだろ?」 唯の胸がトクンと高鳴る 「特別……なんだ⁄⁄⁄⁄」 「なに言ってんだよ?おまえ以外に誰がいるんだよ?」 自分よりも少し背の高いリトの目を上目遣いで見るように、唯はリトを見つめる 黒い瞳を潤ませ顔を赤くさせる唯の顔を、花火が幾重にも彩る リトの喉がゴクリと音をたてる 「唯……」 「…ぁ……」 肩に置かれた手に少し力を入れるだけ簡単に引き寄せられた唯は、そのまま導かれる様にリトの唇に自分のを重ねる 「…ッん、ン…うん」 短くて長い、触れ合うだけのキスは、唯から理性を奪っていく 「きょ…今日だけだからね!こんなこと……⁄⁄⁄⁄」 目を逸らし体をそわそわさせる唯を、リトは再び抱きしめた 背中に回された手がもぞもぞと動き、腰周りやお尻のあたりを撫でていく 「も、もうっ!ちょ…結城くん、ダメっ。花火が終わってから!」 腕の中で必死に抵抗をする唯を名残惜しげに離すと、リトは唯の手を取る 「悪い、ちょっとガマンできなくてさ」 いたずらっ子の様に笑うリトをムッとした表情で睨みつけるもどこかうれしそうな唯 その時、今日何度目かの連続打ち上げ花火が舞った 「うわぁ……すげーな」 幾重にも重なる花火が色とりどりに空に舞う様に、リトの口から感嘆の溜め息が漏れる 「ホント…キレイね」 そう横で呟いた唯の横顔をリトはじっと見つめる 明るく微笑む唯の横顔は誰よりもキレイだと感じた 隣通し肩を寄り添いながら座っている二人の空に、何度も花火が上がっていく 満点の星空を赤や青の光の花が幾重にも染める 「すげー……」 感慨深げに呟くリトに唯は心の中だけで笑みを浮かべる この光景を見るために、この時を一緒に過ごすために今日を選んだのだから 「よかった…」 ぽつりとこぼれた唯の本音は、花火の音にかき消される 花火が終わると静寂が訪れ、今度は真っ暗闇に浮かぶたくさんの星の光が二人を包んだ 夜空に散りばめられた星座の数々 雲ひとつない澄み切った夜空が、星の絵により一層美しさと壮大さを与える 「すげー!!キレイでおっきいなぁ……。きっと神様がいたらもっと大きいんだろうな…」 いきなりそんなことを呟くリトの横顔を唯はまじまじと見つめる 屈託なく笑うリトは純粋な子供の様な顔をしている。それに唯はクスっと笑った (西連寺さんは知ってるのかしら?こんな結城くんを…。私だけの秘密にしたいな) 「ん?どうしたんだよ?」 一人楽しそうな唯にリトは怪訝な顔をする 「なんでもないわよ」 そっぽを向く唯に、リトの顔はますます眉をひそめる 「ったく、なんなんだよおまえは……」 少しトゲのあるリトに唯は黙って手を重ねる キュッと握り締めたリトの手は、いつもと同じ様にあったかくて、そして、いつも以上に愛おしく思えた 今日何度も触れ合っていたはずなのに、なんだか久しぶりに繋いだ様な感触に、唯の顔は自然とやわらかくなる 「ホント、今日のおまえどうしたんだよ?」 わけがわからないリトは溜め息を吐きながらも、それでも唯の手を握り返す 唯と同じ強さで、唯と同じ気持ちで 夏の夜の涼しい風が二人を包む 「花火、終わったわね…」 ぽつりと呟いた唯の横顔はいつもと同じ様でいて、どこか悲しそうだった 「また、来年も来たらいいじゃねーか」 リトの言葉に今度は唯がリトの横顔を見つめる 「来年も再来年も次もその次の年も、ずっと、ずっと…オレはおまえとここに来たい!」 「結城くん…」 リトの言葉が思いがすーっと唯の胸に染み込んでいく 「私…私も、私も結城くんとまたここに来たい!ずっと一緒に…ずっとだって…だって…」 言葉がうまく出てこず、思いだけが宙に浮いてしまう 自分の不甲斐なさに唇をギュッと噛み締める唯の頭を、リトはやさしく撫でる 「心配しなくてもおまえの気持ちみんな届いてるよ」 「ホント……?」 思わず俯きかけた顔をリトに向けると、リトと目が合う じっと見つめてくるだけのリトに、唯の顔はどんどんと曇っていく 「あの……結城…」 「なあ唯、膝枕してくれない?してくれたことないだろ?」 思っても見なかった言葉に、唯はただあっけにとられる 「なあ、頼むよ唯!」 妙に真剣なリトに、唯は慌てて首を横に振る 「そ、そんな恥ずかしいこと嫌よ!それより結城くん、さっきの私の質問に…」 「膝枕してくれたら答えてやるよ!」 唯はしばらく考え込むと、少し乱れていた浴衣を直し自分の膝を手でぽんぽんと叩く 「仕方ないわね…ほら、いいわよ」 少し怒った感じの唯にリトは見えないように笑うと、唯の膝に頭をのせる 浴衣越しに伝わる唯のやわらかい太ももの感触、至近距離から伝わる唯の匂い にやけた顔を隠そうともせず、リトは唯の膝を頬で撫でるように擦り付ける 「最高…」 思わず出たリトの本音に、唯の顔が険しくなっていく 「結城くんいい加減にして!私ちゃんと膝枕したんだから、今度はあなたが私の約束守りなさい!」 少し顔を赤くしながらも本気ともとれる唯の厳しい口調に、リトもにやけた顔をちゃんと正し、唯に向き直る 「まったく!あなたはいつも…」 「届いてるよ、おまえの気持ち」 ぽつりとこぼれたリトの声に唯は一瞬きょとんとしてしまう 唯はリトの顔を見つめる。その顔は真剣だった。いつもと同じ、それ以上に 知らず知らずのうちに唯はリトの瞳に引き込まれていく 「ちゃ…ちゃんとわかってくれてるの?私のこと…」 「当たり前だろそんなこと!オレ以外におまえのコト、こんなにわかってるヤツいると思うか?」 唯は全力で首を横に振る そんな人いないと思うし、いてほしくないとも思った リトの屈託なく笑っている顔が、今はとても頼もしく思える 唯の手がリトの顔へと伸び、頬をやさしく包んでいく 「結城くん…」 手の感触よりも唯の声の響きにリトはくすぐったさを覚える リトはその声を、言葉を、そして今日の出来事をみんな胸の中に刻み込もうと思った 唯の思いもぬくもりも全て 子供時代の秘密の場所はもう自分だけの場所ではなくなっていた ここは唯と二人だけの特別な場所 リトの手が唯の手に重ねられる 「また来ような」 「うん」 唯は短く応えると、リトに顔を近づける 一瞬見つめあった二人は、互いの唇を重ね合わせる 二人の甘く熱い吐息だけが、夏の夜の涼しい風の中に満ちていった
https://w.atwiki.jp/sousakurobo/pages/1173.html
シュバルツ=ニュングによる、ユウ=マテバへの制裁に近い訓練は、連日それを続けられていた。ユウは、その過酷過ぎる責めに耐えながらも、何とかシュバルツに一発かましてやろうと企む。 やられっぱなしでは、自分の気が治まらない。やられたらやり返すのが、彼の気性だ。 そのためにも、今は耐えて自分を鍛え上げなくてはならない。ユウは今までは、牙をもがれた野犬だった。それを隠し、必死に近寄る者を威嚇していた。 だが、時は新たな牙を生やす機会をくれたのだ。これをむざむざ捨てるわけにはいかない。自分は強くなる。そして、全てを手に入れるのだ。 「畜生! 当たれッ! 当たれよッ!」 シュリムの手に持たせたペイントガンを、飛ぶように機動する、シュバルツの駆るシュリッツ・オーアに乱射する。 しかし、シュリッツ・オーアはそれを軽々と回避してみせる。そして数発ペイントガンを発射すると、それを的確にシュリムの右腕に命中させた。 「ユウ、貴様はつくづく間抜けだな。右腕のパワーをカットしろ。それと右腕に持たせているペイントガンも撃破扱いだ。さぁ、どうする?」 「ざけやがって! だったら、こうしてやるよッ!」 ユウはシュリムのスラスターを吹かし、シュリッツ・オーアに体当たりを仕掛ける。それはお互いの機体を僅かに接触させるだけで終わった。 「ふん、面白い。だが実戦では、撃破できなければやられるのは貴様だ!」 シュリッツ・オーアはペイントガンでシュリムのコックピットを狙い撃つ。黄色のペイント弾が、べっとりとユウの収まるコックピットのハッチに広がった。 「実戦ならば、貴様は戦死だ、ユウ」 クソッタレ……。確かに、腕の差がありすぎる。そして機体の性能差もだ。あの、鷹のパーソナルマークをつけた機体。それはそのマークが現すように、軽やかに大空を舞う。そしてその鋭い爪で、獲物を狩り捕るのだ。 一方のユウ=マテバの機体には、白い野良犬のパーソナルマークがつけられている。負け犬の自分を、忘れないようにしたい。そのユウの思いが、それを描かせた。 「もう一度だ、シュバルツ、もう一勝負だ!」 「ふん、無駄な事を……いいだろう、かかってこい!」 地を這う野良犬は、空を自由に駆ける鷹には勝てない。その爪で切り刻まれるだけだ。しかし、その老いぼれた薄汚い野良犬にも、牙はあるのだ。一度食らいついたら離れない、鋭い牙が。 ユウはホバーしていた機体を海面から跳ねさせると、シュリッツ・オーアの背後から迫る。そのパーソナルマークが間近に見える距離まで近づくと、ペイントガンを発射する。 しかし、それをまるで後ろに目がついているかのように、シュバルツは回避して見せた。その動きに驚愕し、そして頭に叩き込む。奴にできるのだ、自分にできないはずがない……。 今度は急反転したシュリッツ・オーアが、シュリムの背後に着く。そしてペイントガンを撃つ。ユウはタイミングを合わせると、スラスターを噴射して姿勢制御、それをかわしてみせた。 「……ほう、俺の動きを真似するか……。しかし、模倣ではいつまでたってもオリジナルには勝てんぞ!」 ペイント弾が飛び交う。その中を、二機の機体が駆け抜ける。お互いに撃ち合い、そして回避する。ユウはその戦いの中で、確かに自分が興奮しているのが分かった。 戦いが、彼の中に眠る闘争本能を刺激したのだろうか。ユウはその中で、確かに一発一発の銃弾に意思が感じられ、敵の動きに感情が込められているのを知った。 戦いは、意識と意識のぶつかり合い。そのせめぎ合う狭間に、感情が爆発する。ユウは、キレた。ペイントガンを乱射しながら、シュリッツ・オーアの足に取り付く。それを振りほどこうとするシュバルツ。 「へっ! この距離なら、外しゃしねェだろうがッ!」 「……甘いな」 シュリッツ・オーアはその足を強制排除する。バランスを崩し、落ちていくユウのシュリム。長時間飛行するには、推力が足りないのだ。 そして落ちていくそこを、身軽になったシュリッツ・オーアが狙撃。再びコックピットにペイント弾を命中させた。 「戦いにおいては、臨機応変だ。それができぬような奴は、死ぬ。覚えておけ、ユウ=マテバ。貴様は今日、二回死んだのだ」 「言ってやがれ……最後に笑うのは、この俺だッ! 実戦なら、俺は勝ってみせるッ!」 二機はその機首を巡らし、プラントへと帰還する。黄色の塗料が、海面を染めていた。 「はぁっ、はぁっ……」 ユウはパイロット用に割り当てられたロッカールームで、深く息をついていた。戦闘訓練中は感じなかったが、深い疲労が彼を包んでいる。 自分は、まだまだ未熟だ。シュバルツの奴を見てみろ、汗ひとつかいちゃいない……。 二人の格の違いは、如実に現れていた。しかし、それもユウがたったの二回しか実戦に参加していないのに対して、シュバルツは歴戦の勇士であるということが大きいだろう。 経験は、何物にも勝る。その点で言えば、ユウ=マテバはまだまだ未熟であった。 シュバルツがパイロットスーツから作業着に着替え、ロッカールームを出ていく。ユウもパイロットスーツを脱いだ所で、その場に崩れ落ちる。 「……糞ッ! こんな様じゃ、いつまでたっても奴には勝てない……」 気がつけば、ロッカールームのドアの隙間から、オフィーリアが彼の様子を覗いていた。ユウは何でもないように振舞うと、立ち上がって彼女に声をかける。 「どうした、未来の恋人の裸でも、覗きに来たのかよ?」 「そ、そういうわけではない……」 僅かに顔を赤くして、オフィーリアは呟く。ユウは気にせずに着替えを続ける。そして作業用のツナギに、その袖を通した。 「訓練、頑張っているようだな」 「あぁ、俺だって死にたかァねェからな。やれるだけはやってみンのさ」 二人はロッカールームを出ると、通路のベンチに腰を下ろす。そこは一種の休息所のようになっていて、自動販売機と観葉植物が置いてある。 オフィーリアはジュースを買うと、そのうちの一本をユウに手渡す。彼女にとっては、特に彼を気にしているわけではなく、これが当たり前の行動なのだろう。 「おっ、サンキュ」 早速紙コップに口をつけるユウ。激しい訓練の後で、喉がからからだったのだ。彼女を前に、遠慮することもないだろう。 そんな彼の様子を、オフィーリアはじっと眺めていた。どことなく、その顔は安心しているようにも見える。 「……ナンだよ?」 「いや、訓練は辛いのであろう? よく体が持つな。私には、真似できぬ」 「鍛え方がチガウんだよ。俺ァスペシャルだからな」 「スペシャル……私と、何が違うというのだ?」 飲み終えた紙コップを、クシャリとユウは握りつぶす。 「持てる者と、持たざる者……手前ェに分かるか? 何も持たずに、ただ体ひとつで生きてこなけりゃならなかった俺の苦労がよ?」 「……分からない。それが、強さに繋がるのか?」 「持たざる者は、僻み根性が強いんだ。チックショウ、今に見ていやがれってな。そんで自分の限界を突破して、本当の意味で生まれ変われるって寸法だ」 ユウは、確かに生まれ変わろうとして、足掻いていた。目の前には、大きな壁がある。乗り越えようにも、それはあまりにも高すぎる。ならば、どうすればいい? そしてユウは、その壁を破壊することに決めた。粉々に、自分の前に二度と立ちはだからないように粉砕する。そのために牙を研ぎ、そのチャンスを狙っている。今に見ていろ、この壁野郎。この牙で、手前ェを抉り取ってやる……。 「ユウは、強いな。本当に、強い……私には、真似できない」 「何言ってやがるッ! 手前ェも俺の隣に並ぶんだから、自分を磨きやがれ! 俺は今の手前ェに、正直これっぽちも魅力なんか感じちゃいねェ。もっといい女になれ。そうしたら、俺が奪ってやる!」 オフィーリアは立ち上がると、ジュースを手に歩き去っていった。何事かを考えこみながら。ユウは黙って、それを見送る。 『まァ、精々いい女になってみせるンだな……』 プラントの中に、サイレンが鳴り響く。大勢の反抗組織のメンバー達が、プラント内を右往左往する。 『敵戦闘機接近! 戦闘用意! 繰り返す、敵戦闘機接近! 総員、戦闘用意!』 「ふん、来たか……よくも逃げ出さなかったものだな」 格納庫へと向かったユウを、シュバルツが待ち受けていた。どうやら彼が、また逃げ出すと思っていたらしい。しかし、ユウはもう逃げない。この男の顔ッ面に、拳を叩き込んで地面を舐めさせるまでは、逃げてなんかやるものか……。 すぐにコックピットに乗り込み、シュリムの発進準備をする。旧式とはいえ、運用しだいでは戦闘機などに遅れをとるものではない。 シュバルツはシュリッツ・オーアで先に発進するようだ。まァいいさ。精々そうやってベテランって顔をしていればいい。しかし、いつか手前ェは俺が追い越して見せるさ。 シュリッツ・オーア、発進。続いて二番機、ユウのシュリム、発進。ホバーで海上を走行しながら、飛行して敵を追うシュバルツを見上げる。そんな高い所を飛んでいられるのも、今のうちだぜ……。 やがて水平線上に、米粒のような敵戦闘機の姿が見える。ターゲットサイトを開き、ユウはそれで狙いを定める。 「……堕ちやがれッ!」 ユウの放った銃弾は、一機の敵の翼をかすめる。直撃ではない。しかし大きく体勢を崩した敵機は、続くシュバルツのライフルの狙撃の前に撃破された。 「野郎ォ、俺の獲物をとりやがって!」 その後も、次々とシュバルツは敵を撃墜していく。ユウは辛うじて、逃れようとした敵を一機落としただけだ。 シュバルツと自分は、機体の性能からして違う。あっちは自由に飛行できるのに対し、こっちは瞬間的なジャンプ・フライトしかできない。いくら奴がエースだからといって、こんな旧式じゃ張り合う事もできやしない。 レティクルに敵の姿を収め、引き金を引く。直撃を受け、煙を吹いて落ちていく敵。この戦いでの、ユウの二機目の戦果。しかし、戦いはそこまでだった。 自由に空を飛行できるドールであるシュリッツ・オーアの存在により、戦況は圧倒的に抵抗組織デア・ヒンメルに有利に運んだのだ。 撤退していく敵。それを追おうとしたユウ機の前の海面に、シュリッツ・オーアのライフルが撃ち込まれる。 「手前ェ! 何しやがるッ!」 「貴様は頭に血が上りすぎだ。状況を把握しろ。そうでなければ、貴様はたった一人、無様に死ぬだけだ」 ユウはチッと舌打ちをすると、シュリムを海上プラントに向けた。シュバルツは一足先に帰還してゆく。 恐らく戻れば、彼はまた英雄としてみんなにもてはやされるのだろう。十機以上の撃墜。それに比べて、自分はどうだ? たったの二機しか落とせずに、シュリッツ・オーアの後に下僕のように従っていく。 このままで終わって、なるものか……。必ず自分の前に、奴をひざまずかせてみせる。そのためには、力だ。何者にも負けない、絶対的な力が必要だ。 ユウは思いを巡らせる。自分の腕は、この先も上昇していくことだろう。しかし、それに対して乗っている機体があまりにも貧弱だ。 『ダメもとで……オフィーリアの奴に頼んでみるか……。もっと上の機体を、俺に寄越すように……。シュリッツ・オーアクラスまでとまでは言わない、せめてもう一ランク上のドールが必要だ……』 そしてユウは海上プラントに帰還する。格納庫では、予想通りにシュバルツがみんなに出迎えられていた。皆一様に、彼を褒め称える。笑顔でそれに応えるシュバルツ。 しかし、ユウの方には誰一人として寄っては来ない。それも、仕方がない……。ユウはコックピットから飛び降りる。そこへ駆け寄る、一人の小さな影。 「よくやったな、ユウ。二機撃墜か? ほとんど初陣にしては、いい戦果だ」 「手前ェ……何で、俺なんかの所に……」 「当たり前であろう? 帰ってきた者を出迎えるのも、私の役目だ」 それからも彼女は、戦場で生き残る秘訣というものを滔々とユウに語って聞かせた。周りの者たちが、そんな二人を訝しげに眺める。 その中でもシュバルツ=ニュングはどこか楽しげに会話する二人を、憎々しげに見つめていた。彼の心中は、誰にも分からない。 「……それで、話とは何だ?」 海上プラントの甲板。風の吹き抜けるそこで、ユウはオフィーリアと改めて向かい合っていた。 彼には、彼女に話がある。力を手に入れるために、それはどうしても必要なことだ。ユウは話を切り出す。 「実はよ、俺にも新型のドールを、一機調達して欲しいんだよ」 「新型、だと……?」 ユウは話を続ける。 「今の俺は、少しでも力が欲しいんだよッ! 少しでも上に這い上がるための、力がッ! 確かにこのちっぽけな組織の力じゃ、限界があるかも知れねェ、けどよ、何でもいい! 今のシュリムよりマシなら、どんな機体でもいいんだ」 オフィーリアはしばらく考え込む。お互い無言の時間が過ぎる。そしてどれだけの時間が経ったのか、彼女はようやく顔を上げた。 「一機、テスト中の機体がある……。それでも構わぬというのなら、乗るがいい」 「ありがてェ! そんで、そいつの……」 「止めておけ」 その声に振り返ると、シュバルツ=ニュングがユウの事をじっと睨みつけていた。その視線は冷たく、ユウを刺し貫く。 「貴様のような戦いのなんたるかも知らない男に、新型機など百年早い。精々今の旧式に乗り続け、そしてそのまま死んでゆけ」 「んなろォッ!」 ユウはシュバルツに飛び掛る。しかしその攻撃はあっけなくかわされ、カウンターを叩き込まれる。甲板に倒れ伏すユウ。その体を憎々しげに踏みにじるシュバルツ。 「貴様など、あの時殺しておけば……。オフィーリア様も、もうこんな屑の相手をするのはお止めください。皆の士気に関わります。どうか……」 「ユウ!」 その彼の言葉も聞かず、オフィーリアは倒れ伏したユウに駆け寄る。そしてそっと、その体を抱え上げる。 「ユウ、しっかりしろ、ユウ!」 そっとその体を揺さぶる。僅かにうめき声を上げて、身悶えするユウ。相当なダメージを負っているらしい。シュバルツは手加減などしなかったのだ。 「……ユウ=マテバ。貴様は……」 その言葉を残して、シュバルツは去っていく。後に残される二人。 「ち、畜生ォ……俺ァ絶対に、強くなってやる……強く、誰よりも強くよォ……」 「ユウ……私は、強くあろうとするものが好きだ。人であれ、何であれ……」 オフィーリアは、まだ目を閉じて唸っているユウの額に、そっと手を乗せた。 ユウは自室に割り当てられた狭い部屋の中で、ベッドにパイロットスーツのままで寝転がっていた。何もない部屋の中の光景。それは、今の自分の姿を現しているかのようだ。 空っぽの、中身のない自分。いつかはそれも、満たされる時が来るのだろうか。それはまだ、分からないことだ。 「あの野郎ォ……手加減しないで殴りやがって……」 頬に手をやる。そこは恐らく、痣になっていることだろう。しかし、こんな傷が何だというのだ。こんなもの、放っておけばいつかは治る。だが、いつかシュバルツの奴には、この何十倍も痛い目を見せてやる。 コンコン…… 部屋のドアを、軽くノックする音。こんな所に尋ねてくるのは、知っている限り一人しかいない。入れッと声をあげる。 「……お邪魔するぞ」 オフィーリアが、何かを手にして部屋の中へと入ってきた。 「何の用だ?」 「用が無ければ、来てはいけないのか?」 ユウは苦笑する。さて、この警戒心のまったく欠如しているお嬢様を、どうしてやろうか……。 「傷は、どうだ? まだ痛むか?」 「大したことねーよ。こんなもん、宇宙にいた時にはしょっちゅうだったぜ」 ベッドに腰掛けるユウの前に、オフィーリアはやって来る。 「痣になっているな。手当てをしよう。動くなよ」 手にした箱から、治療道具を取り出す。どうやらそれは、救急パックだったらしい。スプレーを取り出し、患部に当てる。 「少し、冷たいぞ?」 冷却効果を持った薬が、痣に当てられていく。その冷たさに、ユウは顔をしかめる。 「よし、後はシップだな……。ほら、顔を動かすなと言っておろうが」 患部にシップを当て、テープで止めていく。その手つきはたどたどしいものであったが、ユウには何故かどんな治療よりも手厚く感じられた。 「よし、これで大丈夫だろう。違和感はないな?」 「ああ、悪くねェ……」 ユウは僅かに彼女に感謝をする。しかし、それを表情に出す事はしない。ただ軽く、彼女の手を取った。 「……ユウ?」 「手前ェ……いや、お前さ、ホンッとに無防備だよな」 ユウは彼女に顔を近づける。何が起こるのかと、目を丸く見開いているオフィーリア。そこに、ユウは付け込んだ。 「……!」 唐突なキス。オフィーリアには時が止まったように感じられる。何が自分の身に起こっているのか、それすらもはっきりとはしない。 やがてそのキスは、ユウが離れることによって終わりを告げた。 「おっ……おまぇ……な……!」 「お前一体、何をしたんだ……って所か?」 オフィーリアはこくこくと頷く。その目は相変わらず、真ん丸に見開かれたままだ。そしてそこから、涙の雫が零れ落ちそうになっている。 泣かせてしまうつもりは、無かったのだが……。それだけ唐突な出来事に、ショックが大きかったのだろう。 「こ、この愚か者! 自分が何をしたのか、分かっているのかっ?」 「ただの挨拶だって」 「嘘だ! 今のは、そんなものではなかった……!」 そう彼女に言われて、ユウは初めてさっきのキスが、いかに自分の中でも唐突なものであったのか理解した。 『ヤバイな。あまり、この小娘にのめりこむわけにはいかねぇ……』 それは、咄嗟の時に彼女の事を思い浮かべてしまうのが、急に怖くなったからだ。自分は純粋に、力だけを追い求めていればいい。 その結果彼女をものにできるのならば、それが理想であろう。しかし、それが逆転してしまっては困るのだ。 『純粋な力だ……俺はそのことだけを考えていればいい……』 オフィーリアは彼から離れると、いやいやをするように首を振った。涙が零れ、雫を散らせる。その姿は、どこかに忘れていた、美しいものを感じさせた。 それが更に、ユウの心を惑わす。自分のものにしたい……。その欲求が抑えられなくなる。 ユウは手を伸ばす。オフィーリアは、何故か逃げなかった。その肩をがっちりと捕まえる。彼はふと自分の意思の弱さというものを、自分の弱点なのだと気がついていた。 そして再び、顔を近づける。じっとオフィーリアの瞳が、彼の瞳を覗き込む。そこにお互いの姿を見て、目が離せなくなる。ユウの指が、軽く彼女の唇に触れる。ぴくりと反応する彼女。 自分が悪循環に嵌っていると感じつつも、ユウは意を決して唇を触れ合わせようと……。 『敵ドール部隊が、当施設に侵攻中! パイロットは発進用意! 対空監視班、所定の位置へ! ウェポンズ・フリー! 繰り返す……』 「……続きは、お預けだな」 にやりと笑うと、ユウは身を離す。この敵襲は、自分にとっては良かったのかもしれない。深みに嵌る前に、抜け出せた。その安堵感を隠しつつ、ユウは部屋を後にする。 「何故、私は抵抗しなかったのだ……?」 部屋の中、ただ少女が一人、ぽつんと取り残された。 ・第四話へ続く……
https://w.atwiki.jp/oreqsw/pages/1169.html
48.俺「ストライクウィッチーズじゃねえの?」 675~694 リーネ「はぁ・・・・はぁ・・・・」 芳佳「い・・・・息が・・・・」 俺「・・・・」 グラウンド代わりの滑走路を、三人で走り込みの訓練をしている。 長時間空を飛び続けるには、まずは体力が重要らしい。その為に走り込みをしているけど・・・・ リーネ「お、俺さん速い・・・・」 芳佳「ま、待って下さ~~い!」 坂本「他人のペースを乱すなー宮藤ー!」 芳佳「はっ、はいっ! すみませ~ん~ッ!」 まあ、当然か。 俺は色々と鍛えられていたからこれくらいは苦でもなかったりするんだけど、芳佳たちには十分キツいもんだよな。 因みに、俺は男だということで二人よりも十周多く走らされているけどなんてことない。 俺「二人ともー、キツいって思うからキツくなるんだー! 逆に気持ちがいいって思うと苦じゃなくなるぞー!」 坂本「そうだー! 心頭滅却すれば火もまた涼し!」 芳佳「む、無理です~!」 ◇ ◇ ◇ 走り込みを終え、芳佳とリーネは二人並んでへばりきっている。 俺「ほら、二人とも水だ」 芳佳「あ・・・・ありがとう・・・・ございます・・・・」 リーネ「ど・・・・どうも・・・・」 二人は俺から水の入った水筒を受け取ると、勢いよく水を飲み干した。 俺「そんなに急ぐと咳き込んじまうよ」 芳佳「ケホッケホッ! 喉が・・・・苦しッ!」 案の定、芳佳が咳き込んだ。やれやれ・・・・ 坂本「俺、初日からよく私の訓練に耐えてるな。見上げたものだ」 芳佳「私も凄いと思います、追いつくこともできなかった・・・・」 俺「俺も最初は二人みたいにすぐへばってたさ、長い間鍛えまくった結果だよ」 リーネ「因みに、最初っていつくらいなんですか?」 俺「んーと・・・・八歳ぐらいの頃かな。だから十年前になるのか」 それを聞いた二人は呆然となってしまった。 芳佳「十年も・・・・」 リーネ「敵わないなァ・・・・」 あらら、自信喪失させちまったかな。別にそんなつもりは無かったんだけど。 俺「別に俺に匹敵する必要はないだろ。二人にだって俺には無い良いもの、あるじゃないか」 芳佳「そうですか?」 俺「ああ、料理が美味いだろ。それから可愛いしな」 芳佳「か・・・・可愛い?」 リーネ「そ、そんな・・・・」 俺の言葉に、二人は文字通り顔が真っ赤になる。そして、そんなことはないと必死に否定する。 俺「そうか? まあ、いいか。あと、実戦になったら俺よりも戦えそうだし・・・・」 芳佳「え?」 俺「まあ、そのうち分かるって」 坂本「よーし。休憩はその辺にして次は射撃の訓練だ! 各自、武器を持って来い! 俺には扶桑海軍から支給された武器を使ってもらおう」 ◇ ◇ ◇ 一方、その様子を陰で見ている人物があった。バルクホルンとペリーヌである。 それぞれ、違う理由で四人の様子を窺っていたのだがどちらも嫉妬の念がその燃える瞳から表れている。 ペリーヌ(あの男・・・・あんな涼しそうな顔で少佐の気を引くつもりなのかしら? 断固、許せませんわ!) バルクホルン(早速宮藤に言い寄ってきたか、あいつ。 そもそも、少佐もミーナも一体全体どうしてあんな得体の知れない奴をすんなり入れたのか理解できん。 宮藤に纏わり付く悪い虫は私が掃わねば・・・・) ペリーヌ、バルクホルン「よし!」 二人は何か閃いたのか、一人になった坂本の元へと黙ったまま歩み寄っていった。 お互いに顔も合わせていないのにまるで心が通じ合っているかのよう。 坂本「おー、どうしたお前たち? 今から射撃の訓練だが一緒にやるか?」 ペリーヌ「え、ええ! 是非させていただきますわ少佐!」 バルクホルン「私はあの新人の腕前がどのようなものか、見定めに来た。 下手な射撃を見せたら私自らしごき倒してやるつもりだ」 坂本「そうかそうか! 熱心でよろしい! ただ、あいつは一応ヒヨッコだからあまり無茶はさせるなよ?」 バルクホルン「なるべく善処はするさ・・・・」 バルクホルン(ふふふ・・・・金輪際宮藤に近付けないようにしてやる) 模倣的軍人であるはずのバルクホルンに、そんな邪な感情が芽生えつつあった。 ◇ ◇ ◇ 芳佳「あれ? ペリーヌさんにバルクホルンさん?」 俺たちが武器を取りに行ってる間に人が増えていた。ペリーヌと、バルクホルンさんだ。 ペリーヌ「私も訓練に参加することにしましたわ」 バルクホルン「少佐に代わって射撃の訓練は私が監督をすることになった」 坂本「バルクホルンがどうしてもと言うのでな・・・・」 バルクホルン「しょ、少佐! そういうことは!」 俺「そうなのかァ。それじゃ、二人ともよろしく」 笑顔で二人に挨拶をしたが、どちらからもそっぽ向かれた。本当に嫌われてるみたいだなァ、俺。 バルクホルン「それでは、ペリーヌ、リーネ、宮藤、新人の順に的を撃ってもらおう。 いいか、たとえ訓練であろうと実戦の如く臨むのだ、気を抜くんじゃないぞ!」 芳佳、リーネ、ペリーヌ「はいっ!」俺「うん」 バルクホルン「新人、なんだその気の抜けた返事は。 そんな心構えだと戦場で真っ先に命を落とすことになるぞ?」 俺「ごめん」 バルクホルン「・・・・まあいい、早速始めるか。ペリーヌ! エースの力を新人にとくと見せ付けてやれ!」 ペリーヌ「了解ですわ!」 ◇ ◇ ◇ 三人の撃つ番は終わった。三人とも一度も外さずに的を撃ち抜いて凄かったけど、特にリーネは凄いなって思った。 他の二人よりも遠くの的を、大きな銃で撃ち抜いたんだ。流石、毎日訓練をしているだけのことはあるなァ。 バルクホルン「よし、新人。最後は貴様の番だ。 下手な撃ち方を少しでも見せてみろ。みっちりしごいてやるからな」 俺「それはちょっとキツいな・・・・」 そう言って俺は支給された銃を構える。宮藤と同じもの、名前は九九式二号二型改13mm機関銃とか言ったかな。 とりあえず銃の扱い方とかは宮藤から丁寧に教えてもらった。 この十字の印が付いている所、照準を覗き込みながら獲物を捉えて・・・・ 俺(ここを引けばいいんだな) 引き金、を引いてみたがカチャッと音が鳴るだけで中の弾が発射される気配は全くない。 何か、詰まっているような感じがする。 バルクホルン「馬鹿者、安全装置を外さなければ弾は出ないぞ。何をやっとるか!」 俺「あ、あははは・・・・」 銃の側面に付いている安全装置。撃つ前にはこれを外すようにって散々言われてたな。 すっかり忘れてしまっていた・・・・ バルクホルン(今ので十分焦らせられたか? それならば好都合だ。 私が貴様を最後に選んだのは、先に宮藤たちの圧倒的な腕前を見せ付けて 貴様に多大なプレッシャーを与えるためだ! 尤も、貴様には気付く由も無いだろうがな) 安全装置を外して銃を再び構えたが、バルクホルンさんの方へと振り向いた。 バルクホルン「どうした?」 俺「あんた、もっと笑ってた方がいいと思うよ。折角別嬪なんだから、そんな怖い顔してると勿体無いぞ」 バルクホルン「なっ・・・・」 ペリーヌ「こ、こんな時に口説くなんてどういう神経してますの!?」 俺「口説く? 俺は思ったままのことを言っただけだぜ」 バルクホルン「ええい! 馬鹿言ってないでさっさと撃たんか!」 俺「やれやれ・・・・」 坂本「はっはっは! バルクホルンを口説こうとは、いい度胸をしているな!」 芳佳(俺さんって凄いよね・・・・あんなことを素で言えるなんて) リーネ(うん・・・・私たちもさっきはいきなりすぎて焦っちゃったもんね) 俺「これで今度こそ弾が出るんだな」 照準を的のど真ん中に定め、引き金をゆっくり引く。次の瞬間、思った以上に大きな音が響き、銃口からは小さく火を吹きながら弾が発射された。 その大きな音と身体に伝わる振動に、思わずびっくりして引き金から指を離した。勿論銃を制御する余裕なんて無かったので弾は的に掠りもしていない。 バルクホルン「掠りすらもしない、全く駄目だな」 俺「これって思ったよりも凄いんだね・・・・慣れないもんだからつい驚いたよ」 バルクホルン「言い訳は無用。少佐、この新人の教育は私に任せてくれ」 坂本「ん? まあ構わんが、お前にしてはやけに新人に拘ってるな?」 バルクホルン「わ、私はこの隊に足手まといがいると困るだけだ! 他意など無い!」 坂本「そうか? まあ、俺のことはバルクホルンに任せるとして、三人はこれから飛行訓練を行う!」 ペリーヌ「はいっ!」 ペリーヌ(何とか少佐から引き離すことができましたわ!) リーネ(俺さん、大丈夫かな・・・・) 芳佳(バルクホルンさん、いつに無く張り切ってるし・・・・何も無ければいいんだけど) 坂本「宮藤にリーネ、返事はどうしたー?」 芳佳「はっ、はい!」 リーネ「すみません!」 ペリーヌ「全く・・・・」 坂本「バルクホルン、私たちはもう行くけどくれぐれも無茶はさせるなよー。 実戦に出る前にへこたれてもらっては困るからなー」 そうして四人はハンガーの方へと行ってしまった。 ◇ ◇ ◇ バルクホルン「さてと・・・・」 私は四人を見送ると、俺の方に振り返った。 バルクホルン「散々私に恥をかかせてくれたな、新人」 俺「恥をかかせたって・・・・口説く云々のことは兎も角として、あとは大体あんたの自爆じゃないのか?」 バルクホルン「ええい、つべこべ言うな! よりにもよって宮藤の前であんな大恥を!」 俺「宮藤? 芳佳が何か関係あるのか?」 私としたことが、よりによってこんな奴の前で思っていることが口に出てしまった。 何とか適当に取り繕わねば・・・・ バルクホルン「こ、後輩の前で無様な所を見せるわけにはいかんからな」 俺「リーネとペリーヌも後輩じゃん」 こいつ、私が必死で考えた言い訳をヘラヘラと笑いながら撤回してきた・・・・我慢ならん! バルクホルン「・・・・新ッ人! 貴様という奴はどこまで――」 俺「その新人ってのよしてくれよ、なんか素っ気無いしさ。姓は無いけど、一応俺っていう名前があるんだ」 どこまで人をからかえば気が済むのだ、そう言い切る前にどうでもいいことで押し返された。 名前? 今はそんな話をしている場合じゃない。さっきからニヤニヤと・・・・なんて嫌な奴だ。 俺「まあ、芳佳の作る飯は本当に美味いからなァ。あんたもそのクチなんだろ?」 言わせておけば・・・・芳佳芳佳と馴れ馴れしい奴だ。私ですら未だに姓でしか呼べてないというのに、腹立たしい。 大体、昨日今日しか宮藤の手料理を食べてない貴様に何が分かるというのだ。私は宮藤を一年前から知っているのだぞ・・・・ いかんな、ここで私が冷静さを欠けばそれこそこいつの思う壺か。 カールスラント軍人たるもの、如何なる時でさえ冷静さを欠いてはならんな。 バルクホルン「ま、まあ、宮藤の手料理は何よりも美味いな」 俺「そうだよなァ」 なんだ、手料理が目当てだったのか。完全に心を許せるとは言えないが、どうやら邪な気持ちはないようだな。 気安く宮藤を語るのは気に食わんが、多少は目を瞑ってやるか。 俺「それに可愛げもあるし」 そうそう、クリスには到底及ぶこともないが可愛げも中々・・・・ 前言撤回だ。やはりこいつは宮藤に対して邪な気持ちがある。 同性同士ならば兎も角、男のこいつがこんなことを言うとそんな風にしか見えない。 私が宮藤をこいつの魔の手から守らなければ! ◇ ◇ ◇ バルクホルン「しゃ・・・・」 俺「ん?」 バルクホルン「しゃべっとる暇があったらさっさと的を撃たんかァ!」 俺「ど、どうしたんだよ・・・・」 バルクホルン「貴様からは真摯に訓練に臨もうという心構えが見られない! 今日中に的を撃つことができなければ金輪際宮藤に近付くな! いいな!?」 俺「それは酷いんじゃないかなァ、折角打ち解けているってのに」 バルクホルン「的を撃てれば許してやる!」 俺「そうかァ。それじゃ、なんとしても撃たないとな・・・・」 あまり使いたくは無かったんだけど、場合が場合なだけに仕方無いよな。芳佳と喋れなくなると寂しいし。 銃の弾倉を開ける。銃弾がビッシリと、綺麗に整列して詰まっていた。 バルクホルン「何をやっている?」 俺「慣れないことはしたくないからな・・・・」 その中の一個を取り出して右手に軽く握り締める。 俺「あ、今日中と言わずにさ、この一発であの的を撃ち抜いてみせるよ」 バルクホルン「大きく出たな。失敗しても知らんぞ?」 俺「分かってるって。だからついでに『新人』って呼ぶのもよしてくれないか?」 バルクホルン「・・・・いいだろう」 俺「そんじゃ、いきますかっ」 尚更失敗は許されなくなったなこりゃあ。 滑走路の遠くに立てられた的を見据え、右手に収めてある銃弾を思い切り的に向かって投げつける。 銃弾が激しい勢いで的を突き破って地面に転がった。 バルクホルン「な、何だと!?」 俺「へへ・・・・」 どうやら腕は落ちていなかった。いや、むしろ前よりも切れが良くなった感じだ。 魔力のおかげかな・・・・? ◇ ◇ ◇ 思いもよらぬモノを目の当たりにした。私の目が間違ってなければ、こいつが手で投げた銃弾が的を貫いたように見えた。 その証拠に、破壊された的の後方の地面に薬莢が残ったままの銃弾が転がっている。 石をぶつけて壊すのなら私にも可能だが、銃弾となるとかなり難しい。そして、本当に一発で決めてしまった。 バルクホルン「あの業は一体なんだ!? 何をした!?」 俺「昔ちょっとね・・・・それより、約束は果たしてくれるんだよな?」 ブリーフィングの時の少佐の質問と何か関係がありそうだな。 とりあえず問い詰めたいことではあるが、あまり深く詮索はしないことにしておこう。 約束と言えば宮藤のことだな・・・・ バルクホルン「あ、ああ・・・・宮藤のことは許してやろう。新人」 俺「その新人ってのも」 バルクホルン「・・・・俺」 俺「どうも」 許したからといって宮藤との仲を認めるわけではない。ここは単刀直入に聞いておくか。 バルクホルン「一つ、聞きたいことがある」 俺「ん?」 バルクホルン「貴様は宮藤を・・・・その、ど、どう思っているんだ?」 俺「好きだよ」 一番に聞きたくない言葉がその口から聞こえてしまった。『すき』だと・・・・ 俺「あ、宮藤だけじゃないぞ。リーネも好きだし他の皆も好きだし・・・・ まだ会ったばかりのヤツもいるけど皆好きさ」 likeの意味の好きか、紛らわしい奴め! ・・・・私は一体何を必死になっているんだ。 カールスラント軍人とあろうものが、冷静さを欠くとは。冷静に見ると本当にこいつには邪な気持ちなどないようだ。 さっきも思ったが、宮藤の長所を素直に認めているし、むしろ良い奴なのかもしれない。 宮藤に言い寄っていただとか、どうやら私の思い過ごしだったようだな。 しかし・・・・こいつはよくぞこんなことを恥ずかしげも無くさらっと言うよな。 俺「勿論、あんたのことも好きだよ」 あまりにも不意打ち過ぎて、動きが固まってしまった。 バルクホルン「ば、馬鹿言え! そんなことちゃらちゃらと口にするな!」 俺「なんでさ? 一応仲間なんだから、嫌う道理はないだろ」 バルクホルン「そういうことではなくてだな・・・・!」 前言撤回だ。やっぱりこいつは嫌な奴なのかもしれない。
https://w.atwiki.jp/gensounoutage/pages/892.html
http //www1.axfc.net/uploader/He/so/234340 ←パスtega-ruで取れます 魔法天使希一 第3話『希一の覚醒』 幻想ノ宴プレイヤーの皆さん、こんにちは!私、希一! 幻想ノ宴を始めることにした私は、学校の宴研究会でFくんと初対戦。 でも、惜しい所で負けちゃった……。 くやしい、そう思った私は、自宅で幻想ノ宴について調べることにしたの。 まずはグーグル検索で『幻想ノ宴』っと。ヒット! 幻想ノ宴wiki、これで全てのカードの効果と評価が確認できるわ! ふーん、いっぱいあるなぁ。 気軽に色んなデッキを組んで対戦できたらいいのに……。 あれ?これは……。 『永恆の砂』?なんだろうこのサイト。入ってみよう! えっ?なに、この光は!? 裏鍵「モンドームヨーデース!」 希一「パソコンから……小人?」 裏鍵「いえいえ、小人じゃなくて精霊だヨ!」 希一「精霊さん?」 裏鍵「そうそう、私は幻想ノ宴が趣味の精霊デース!」 希一「幻想ノ宴に宿ってるとかいう訳じゃなくて?」 裏鍵「趣味デース!」 希一「そう、でっどうして私の前に現れたの?」 裏鍵「あなたと波長が合ったからだヨ」 希一「波長?」 裏鍵「そうそう、私は強くなりそうな初心者を育てて宴を広めようと思ったのデース。」 希一「それで私が選ばれたって訳?」 裏鍵「そうデース!」 希一「もしかして、精霊さん私と宴してくれるの?」 裏鍵「その前に名前ぐらい聞けヨ!精霊なんてごまんといるゼ。」 希一「あっ私は希一、あなたは?」 裏鍵「人の名前を尋ねる前に自分が名乗る、これ、精霊界のマナー。 希一、流石私が見込んだ人間!」 希一「ありがとう。」 裏鍵「私は裏鍵。雛サイコー!」 希一「よろしくね!」 裏鍵「ヨロシクー!」 裏鍵さんと出会った私は、対戦を重ねていくうちに様々なデッキの特徴や、相性 効果の処理などをほとんど学んだ。 裏鍵さんはさん付けで呼ぶことにしました。 だって裏鍵さん。小さくて可愛らしくて空飛んだりするけど、見た目は大人だもん。 F 「うわーまた負けた!」 ノナメクス 「希一くん、突然ここのだれよりも強くなったね。」 希一 「私、精霊さんに鍛えてもらったの!」 ノナメクス 「へぇ、精霊さん。」 F 「なんじゃそりゃ!!」 希一 「う~。信じてもらえないかもしれないけど、本当にいるの! 今だってそこにいるけど、やっぱり私にしか見えないのかな?」 スピリットK「見えないよ。」 F 「見えない~。」 ノナメクス 「先生は見えないけど信じるぞ~!」 希一 「本当ですか?」 ノナメクス 「最近は何が起こるか分からないし、希一くんがこんなに上達するんだから、 精霊の力ぐらいあるかもしれないからね。」 裏鍵 「ほう、人間にも物分かりの良い人がいるんですネ!」 希一 「うん!」 F 「ところで希一知ってるか?最近カードショップで宴やってると 突然挑んでくる奴がいて、負けると二度と宴がやりたくなくなるらしい。」 希一 「何それ!?それじゃ宴プレイヤーが少なくなっちゃうじゃない!」 裏鍵 「それは大変デース!早くそいつを何とかしないと!!」 希一 「Fくん、そいつの特徴は?」 F 「仮面をしてるから、見ればすぐに分かるみたい、声は聞こえるんだけど、 そいつがしゃべってるようにはとても聞こえないらしい。」 希一 「なにそれ?自分ではしゃべらないってこと?」 F 「うん、そいつのせいで宴をやめた友達が結構いるから、 カードショップに行ってフリーで対戦するのが怖くなっちゃって。」 希一 「何言ってるのよ!そんな奴退治しなきゃダメに決まってるでしょ!?」 裏鍵 「その通り!早くカードショップに行くのデース!!」 スピリットK「大丈夫?すごく強いらしいけど。」 F 「無理するなよ希一。」 希一 「大丈夫!無理なんかじゃない!絶対そいつをやっつけてやるんだから!!」 ノナメクス 「では希一くんにこれを。」 希一 「これは……永遠を斬るカウンター!!」 ノナメクス 「気をつけてね!」 希一 「ありがとうございます!ノナメクス先生!!」 F 「頑張れよ!」 希一 「うん!じゃあ行こう!」 裏鍵 「突撃デース!!」 そして、私と裏鍵さんは、仮面プレイヤーのいるカードショップに向かった。 次回、魔法天使希一 第4話『希一の変身』次回も私と一緒にアァース! (この物語は完全なるフィクションであり、全てテガーるの自演です。)
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/1719.html
625 :自宅警備員の姉 [sage] :2010/07/11(日) 15 14 41 ID 49xj/ojQ 昼休み、涼子に呼び出されて足を運んだのは、体育館の奥にある体育用具倉庫だった。 だれもいない体育館。 古びた金属の扉を開けると、涼子はすでに倉庫の中で俺を待ち構えていた。 身長190センチを誇る筋肉女は、跳び箱に腰掛けて悠然と微笑んでいる。 「やあ、遅かったね。待ちくたびれたよ」 「わ、悪い」 「レディを待たせるなんて礼儀知らずもいいところだ。これは、お仕置きが必要かな?」 唇を舐めながら、その瞳にサディスティックな本性を滲ませる、涼子。 俺は、まさに蛇に睨まれたカエルのごとく動けなくなり、しかも小さな悲鳴さえ上げてしまった。 そんな俺のぶざまな様子がおかしかったのか、涼子は声を上げて笑う。 「冗談だよ、誠司。安心しな。ボクは我慢強いし慎み深い性格だからね、多少のことは許すさ。それに、待ち人が愛しいきみなら、待つ時間さえ楽しいのさ」 そう、驚くべきことに、この美しい筋肉女は、俺のことを愛しているらしい。 俺から見ればまったく歪んだおぞましい愛情だが、それは確かだ。 「でもね、誠司」 跳び箱から腰を上げて、涼子がこちらに歩いてくる。黒髪のポニーテールを揺らしながら。 「そんなボクにも我慢できないことがあるんだ」 俺の身長はせいぜい170センチ。 だから涼子が間近に迫ってくると、どうしても首が痛くなるほど上を見上げる必要がある。 涼子は笑みを浮かべていたが、その眼は笑っていなかった。 「三原さんとのデート、中止してよかったね。・・・ボクを裏切ったりしたらどうなるか、きみはよく知っているはずだろう?」 背中を冷や汗が濡らす。 呼吸が辛くなる。 涙が零れそうだ。 「ボクはね、きみとお姉さんとの仲を引き裂こうだなんて思ってないよ。麗しい姉弟の絆、けっこうなことじゃないか。家の中で存分に愛し合うがいいさ。・・・でもね」 涼子の腕が伸びる。 反射的に身を竦める、情けない俺の頭上を通過した涼子の太い腕は、開けっ放しとなっていた重い扉を簡単に閉じてしまった。 さらに鍵をかけられて、もはや俺はこの場から逃げ出すことも、誰かが助けてくれるのを期待することすらできなくなった。 「家の外にいるきみは、ボクのものだ。ボクの親友、ボクの恋人、ボクの奴隷、ボクの玩具。わかるよね?」 涼子は制服のポケットから携帯電話を取り出した。 俺は、自分の身体から血の気が引くのを感じる。 626 :自宅警備員の姉 [sage] :2010/07/11(日) 15 16 26 ID 49xj/ojQ 涼子はニヤニヤと笑っている。 「山ほど集まった、きみとボクの愛のメモリー。ボクの友達に一斉配信してもいいのかな?」 「やめてくれえええっ!」 泣き叫んで腕を伸ばし、涼子の携帯を奪おうとするが、無駄だった。 俺が手を伸ばせば伸ばすほど、涼子はさらに高く携帯電話を持ち上げてしまう。それでもピョンピョンと跳びはねる俺は、たとえようもないほど滑稽だったことだろう。 だけど、あの携帯には俺のありとあらゆる恥ずかしい姿が記録されているのだ。 涼子に殴られて気を失い、失禁しながら白目を剥いている俺。 反抗しようとしたが、返り討ちにあい、ボコボコにされて男のプライドをへし折られ、全裸で土下座しながら許しをこう俺。 夜中の公園で全裸自慰を強要されたときの射精シーン。 そして、馬乗りになって腰を振る涼子の膣にペニスを犯され、堪えきれずに射精したときの情けないアヘ顔。 俺の人間としての尊厳をグチャグチャに踏み潰し、社会人としての未来を台なしにする写真と動画が、あの携帯には記録されているのだ。 だから俺はあの携帯を奪い取りたいし、涼子には逆らえない・・・。 「しつこいよ」 いつまでもピョンピョンと跳びはねていた俺を涼子が軽く小突いた。 たったそれだけで、俺は大きく後ろに飛ばされて、扉に背を打ち付けてしまう。 男と女の本来あるべき体力の差を完璧に覆す、涼子のパワー。 「いつものように脱ぎなよ、誠司。昼休みは短いんだからさ、有効に使おうよ」 逆らえない。 涙を堪えながら、服を脱ぐ。 俺が全裸になったときにはすでに、涼子もまたすべての衣服を脱ぎ捨てていた。「ほら、おねだりはどうしたんだい?」 期待をこめた瞳で俺を見つめる、涼子。 今日もまた、唇を震わせながら屈辱の台詞を口にする。 「俺は涼子のための愛玩奴隷、桐沢誠司です。今日も愛する涼子に抱かれて犯しぬいてほしくてたまらず、朝からチンポを勃起させていました。どうか、この情けないマゾチンポを、涼子のまんこで擦りむけるほどしつけてやってください」 よどみなく言えるのは、ほぼ毎日、同じような台詞を言わせ続けられてきたからだ。 こんな情けなさすぎる台詞を暗記してしまった自分を呪いたくなる。 涼子は満足がいったようで、心から嬉しそうに笑った。 「いい子だね、誠司。では、望み通り、嫌というほどレイプしてあげるよ」 涼子のたくましい腕で抱きしめられたかと思うと、次の瞬間には足が床から浮くほど持ち上げられ、唇を奪われていた。 甘くとろけるような、情熱的なディープキス。 嫌になる。 なにが嫌になるかって、そんなのは決まってる。 俺のペニスはすでに痛いほど勃起していて、いまこうして涼子の太ももに押し付けているだけで先端から先走りの汚い汁を垂れ流し、精液を漏らしそうになっている。 涼子にレイプしてもらえることを期待していたのだ。朝、教室で微笑まれた瞬間から。 あのときからずっと俺のペニスはガチガチに充血していた。盛りのついた犬のように。 俺はもうどうしようもないほど涼子に調教されていて、逃れる方法など存在しない・・・。
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/1690.html
235 :非日常の日常:2010/07/04(日) 09 20 46 ID h/jLyTUi 「加絵・・・・・・」 かなり痛かった思い出でもあるがやはり楽しい思い出でもあった それ故に今の状況をどうにかしなければと考える思いも強かった 「しかし・・・どうやって脱出するか?」 脱出するまでにはいろいろと問題が山積みである その今の問題は 「この手錠・・・・なんだよな」 特殊な手錠を見ながらふと思った 「ここは日本か?というより・・・・・・」 「現実か?という問いならYESよ」 と聖城が花の香りを漂わせながら現れた 「お前・・・・・」 「どう?似合うかしら」 いつもと違う服の色に雄介は驚いた 漆黒の闇とは正反対の純白の服を身に纏っていた その姿はまさに天使と呼べるだろう なら漆黒を纏った姿は堕天使と呼ぶだろう そうして唖然としていると聖城は頬を赤らめながら 「そんな熱い視線で見ないでよ・・・・・もしかして食べてみたい?」 と微笑しながら聞いてきた 「いや・・・・だが綺麗なのは確かだ」 と雄介は本当にびっくりしていた だがよく見たら何か違和感を感じていた そうよく教会で見るような・・・・・・ 「なぜウェディングドレスなんかを?」 「私が着てはだめかしら?」 「そうではないが・・・・・・・・」 雄介は少し警戒して身構えた 「別に殴ったりしないから身構えなくてもいいわよ」 とムスッとした顔で近づいてきた 「俺の予想が外れることを祈るが・・・・・・・結婚式とかわけわからないことを意識してないよな?」 そう聞きながら外れることを祈った しかし 「あらよくわかったわね、ご褒美として妊娠してあげるわ」 「黙れこの痴女!」 頬を真っ赤にして笑っていた だがその目はどこか濁っているようにも思えた 「別にいいじゃない、それともまさか・・・・・」 といきなり真顔になり雄介は恐怖を覚えた 「なっ・・・・何だ?」 と恐る恐る聞くと 「私よりも男の人のほうがいい?」 「・・・・・・・・・・・・はっ?」 「女の体よりも男のケツのほうがいいのかしら?目の前にこんなにあなたを・・・・・・雄介を思っている人がいるのに男のほうがいいの?もしそうならこの世の男なんか全員殺して男なんかに興味を持たないように調教してあげるわ」 そうしてブツブツいいながらゆっくりと手を伸ばし 「!?」 腕を鞭のようにし体を縛り付けて一言 「誰にも渡さない」 そういった後ものすごい力で縛り上げてきた 「ぐぁあああ!!!!」 体中が音を立てて軋み雄介の絶叫がこだまする 「誰にも・・・・・・・・誰にも渡しはしないわ」 そうしていきなり離し雄介は解放された そして闇の中へ意識を沈めていった ・・・・・・・・・・ ・・・・・・・ ・・・・ 236 :非日常の日常:2010/07/04(日) 09 22 31 ID h/jLyTUi その同時刻 雄介の部屋に一人泣きながら雄介の名を呟いてる女がいた 「ゆう・・・・・ぐすっ・・・・すけぇ・・・・えぐっ・・・・・」 浄財は一人名前を呟き続け泣き続けていた もはや声は枯れたが涙だけは枯れなかった 「どこに・・・・行ったんだよぉ・・・・」 そしてずっと泣いていたらふと真顔になり 「・・・・・・・・久しぶりにあれを使うか」 とどす黒いオーラを身に纏わせて不敵にわらった 「ふふふっ・・・・・・絶対に見つけるからな・・・・・・」 そうして笑いながら雄介の部屋を後にした 237 :非日常の日常:2010/07/04(日) 09 24 40 ID h/jLyTUi 「うぅ・・・・骨の節々が痛い・・・・」 「ごめんなさいね、これじゃ妻として失格だわ」 「結婚すらしてないしするつもりもない」 「いいじゃないの、こんな美人と毎日イチャイチャできるのよ?」 多分一方的だろうな・・・と言いかけてやめておいた あまりにも否定しすぎると先ほどのようなことになりかけない しかしなぜ俺なんだろうか?という疑問を聞いてみることにしてみた 「なぁ」 「何かしら?ア・ナ・タ」 「だめだこりゃ・・・・」 一瞬で聞く気が削がれたためやめた 「はぁ・・・・加絵」 と思わず呟いた瞬間 「!!?」 物凄い威圧感ともダークフォースとも取れるものがすぐ隣から感じられた 「せっせい・・・じょう?」 チラッと見た瞬間震え上がった なんと本当に黒いのが体中から出てるではないか そして体の半分以上が原型から大きくかけ離れていた 「おっおま「誰その女」あっ・・・・それは」 目の光なんてとっくのとうに消えており底知れぬ闇になっていた 「誰なのよ?そいつはどこの雌猫?それとも泥棒猫?いえ・・・・・どこの寄生虫かしら?なんでそんな寄生虫の名前を呼ぶの?」 「私がそばにいるじゃないなんで?なんでなのよ?私よりもそんな寄生虫のほうがいいっていうの?あなたのためなら何でも捧げることもできるのに・・・なんで?そんなゴミはどうせあなたを捨てるに決まってるわよ?」 「そんなこともわからないの?」 そしてその体で上に乗っかってきた 238 :非日常の日常:2010/07/04(日) 09 25 09 ID h/jLyTUi 「ぐぐぐ・・・・」 おそらく大きくなった上に腕なども重くしてあるのだろう 重さはおそらく軽く100キロは超えてるに違いない 「ねぇ・・・・・誰?」 顔の距離はもはや鼻と鼻が触れるほどに近かった 「どこにいるのか言ってよ・・・・・・ころすから」 「やらっ・・・・せ・・・・な・・・い」 重さによって呼吸ができない上にこの威圧感のせいで意識が朦朧としてきた 「・・・・・わかったわ」 そう言って雄介の体から降りた 「修羅」 そう言うとあの屈強な男らしきやつが現れた 「雄介に寄生しているゴミを殺処分してきて、そして塵も残らないぐらいに燃やしなさい」 「わかりました」 と抑揚のない声で返事した後消えた 雄介は頼りない意識で修羅と呼ばれるやつのことについて考えてみた 身長はおそらく175以上はあるだろうと思う だがなぜらしきやつなのかというとその声にある その声はどうも男の声とも女の声ともとれるのである、というかどちらの声も聞こえる それ故でわからない上にパワースーツみたいなのをつけているのでどうしようもない 今はそれぐらいしか考えることができなかった 「さて・・・・と」 聖城は落ち着いたのか体を元に戻しながらこちらを見て言った 「すぐにそんな記憶忘れさせてあげる」 そして消えた 「・・・・・・・・俺はどうすれば」 そうして意識を手放した
https://w.atwiki.jp/shinatuki/pages/312.html
ディスクブレイカー☆フラン 『薬を貰いに行こう』 「行ってきまーす!」 レンガの壁を勢いよく粉砕して、フランは夕焼けの空へ飛び出した。 空を飛ぶ彼女の手には藤の籠。 目的場所は、永遠亭。 何故永遠亭なのか? 答えは簡単。 パチュリーと小悪魔が患っている(?)筋肉痛の薬を貰いにいくためだ。 藤の籠の中には、羊皮紙が一枚。 これを永琳に渡せばいいと彼女は聞いている。 「まずは、妹紅さんか育郎さんを探すんだっけ」 フランは人里の方へと頭を向ける。 そこには竹林の案内人の藤原妹紅がいるからだ。 さらに、この時間帯なら永遠亭から薬を持ってきている橋沢育郎、もしくは鈴仙・U・イナバが来ているかもしれない。 しばらく風を切って飛ぶと、人里の明かりが見えてきた。 踏み固められた道に降り立ち、寺子屋の方へと歩き出す。 寺子屋には妹紅がよくいるからだ。 歩いて寺子屋まで到着すると、そこには背の高い青年が、大きなつづらを背負って立っていた。 橋澤育郎だ。 「育郎さーん! ちょっと永遠亭まで用があるんですけどー!」 寺子屋の校庭から、フランは育郎の名を呼んだ。 彼はその呼びかけに気づき、振り返ると、 「ちょっと待っててくださーい!」 大きな声でフランに返事をする。 その返事を聞いたフランは、今育郎が取り込み中だと思い、座って待つことにした。 しばらく待つと、つづらを背負った育郎が走ってきた。 「やあ、今日はどうしたんだい?」 「パチュリーと小悪魔が筋肉痛になったから永遠亭に行け、ってお姉さまから頼まれた」 「パチュリーさんが筋肉痛? 喘息じゃなくて?」 育郎は、驚いた。 あのめったに運動をしない紫もやしが筋肉痛に苦しんでいるという事実に。 「そうなのよ。昨日ちょっとした騒動があって、パチュリーがなんか一子相伝の暗殺拳がどうとか言って小悪魔と取っ組み合ってたの」 「……あまり想像ができない光景だね」 「でも実際にあったからしょうがない」 「とりあえず、永遠亭に向かおうか」 「うん」 頷いて、フランは育郎のつづらに座る。 「……危ないよ?」 「大丈夫、大丈夫」 大丈夫じゃないんだけどなぁ……と育郎は呟いて、歩き出した。 バイクの方に向かって。 「え? あれ? 竹林はそっちの方じゃ……?」 フランは困惑して、育郎の進む方向とは逆の方向を指差す。 「僕は空を飛べないからね」 背負っているつづらを荷台に置き、フランをひょいと持ち上げて地面に降ろす。 荷ヒモでつづらを固定しバイクに跨る。 「えっと……それ、何?」 フランは唖然とした表情で、バイクを指差した。 「バイクだよ。魔法の森に薬を売りに行った時、近くの古道具屋で見つけたんだ」 「へえ、それって凄いの?」 「結構な速さが出るね。さ、後ろに乗って」 言われるままに、フランは育郎の後ろに座った。 つづらと育郎に挟まれるという何とも言えないポジションである。 「しっかり捕まっていてね。落ちたりしたら大変だ」 育郎のバイクが、咆哮を上げる。 ブルブルとその巨躯を震わせ、走り出す瞬間を今か今かと待ちはじめる。 育郎がそのアクセルレバーを捻ると、バイクは一際大きな唸りを上げて走り出した。 方向転換をし、まっすぐに竹林方面へと向かって行く。 人里の通りを抜け、田畑が並ぶ道を駆け、野原を走る。 一面の草原の向こうに、竹林が見えてきた。 これこそが永遠亭への入り口となる『迷いの竹林』。 異常なスピードで成長する竹が作り出した天然の迷宮。 刻一刻と変化を続ける竹林の中で迷わずにいられる奴はごくわずか。 しかし育郎は知っている。 永遠亭の『におい』を。 彼は永遠亭の『におい』を嗅ぎ取り、その位置を掴み取ることが出来る。 だから、彼は鈴仙や妹紅同様に竹林でも迷わずにすむのだ。 竹林に入ると、すぐに育郎は永遠亭の『におい』を吸い込んだ。 「こっちだな」 ハンドルを切り、そこらじゅうに生える竹を避けてバイクは疾走する。 やがて、永遠亭の門が見えてきた。 永遠亭の門をくぐると、強烈な熱気が育郎とフランを出迎えた。 二人は思わず目を見開き、熱気の出元を注視する。 「輝夜アァァーッ! アンタ今度はアタシの作っていたおはぎ全部食べたでしょォォーッ!」 火柱を上げて怒り狂う妹紅と、 「…い、いや、私は違うわよ。おはぎって、何のことなのよ」 珍しく慌てている輝夜。 そして…… 「さぁーッ! 張った張った! 第50万7584回目の姫様と妹紅の対決! 一口人参一本だよーッ!」 賭け事を始めるてゐとその配下の妖怪兎たち。 その様を見て、二人は唖然とした。 「……とりあえず、二人は放っておいて行こうか」 「そだね。とばっちりは嫌だよ」 とばっちりを受ける前に、そそくさと永遠亭の中に入ることにした二人は、その場をかけて行った。 永遠亭――永琳の研究室 窓のない、密閉された部屋の扉が開いた。 扉を開けたのは部屋の主、八意永琳。 「さて、この前捕まえたネズミは元気かしら?」 ヒマワリの種が入ったビーカーを片手に、机の上にあるボールのような形をした籠を見る。 永琳の顔が、青ざめた。 床にビーカーが落ちて、ヒマワリの種が散らばった。 いない。籠の中でおとなしくしているはずのネズミの姿がない。 籠を持ち上げ、くるくると手の上で回す。 すると、籠の一部が破れているのを彼女は見つけた。 「フェ……フェムトファイバーで作った籠が……破られている……」 つまりは、逃げられた。 「いけないわ……あのネズミの『能力』を甘く見ていたわ……」 永琳は頭を抱えた。 床に落ちた籠の一部が、『溶けて破れていた』。 「っていうか、あのフェムトファイバー失敗作だったのかしら。やっぱり自作じゃなくて月から取り寄せた方が良かったかしら……」 頭を抱え続けていると、どたどたと慌ただしい足音が聞こえてきた。 「師匠! 何かありましたか!」 足音の正体は、鈴仙だった。 「ああ~逃げられちゃった」 「逃げられちゃった? 何にですか?」 「ネズミに」 その言葉を聞いた鈴仙も、青ざめた。 ついこの前永遠亭の人(?)員総出で捕まえたあのネズミが逃げてしまったのだから。 育郎のパワーと、スミレと鈴仙の探知能力、永琳とてゐの罠に妖怪兎たちの人海戦術そして輝夜の力を使った距離や時間の操作。 それらを総動員し、半日かけてやっとのことで捕まえたネズミが、逃げた。 「し、師匠、どこか溶かされてませんか?」 「いや、私が来たときにはすでに籠が溶かされていたわ」 「籠って……ええ!? あのフェムトファイバーでできた籠を溶かしたんですか?」 「そうなのよ。とりあえず今日がネズミ追いに潰れるのは確実ね。 二人は、ため息をついた。 そんな二人の背後に、育郎とフランが立っていた。 「あの……永琳さん、どうかしたんですか?」 育郎の質問に、永琳と鈴仙は口をそろえて、 「「ネズミに逃げられた」」 と言った。 育郎の表情が、固まった。 「ね、ネズミって……『あの』?」 「そう、『あの』ネズミ」 頭に手を当てながら、永琳が答えた。 育郎も、頭に手を当てた。 「今表で姫さまと妹紅が喧嘩している上にてゐが賭け事を始めています。どうにか止めて引っ張り出してきます」 フラフラと育郎は歩きだし、その場から立ち去った。 「ねえ、何があったの?」 事情を知らないフランが一人、永琳に質問をした。 「苦労して捕まえたネズミが逃げちゃったのよ。しかもただのネズミじゃないわ。人並みの『知性』を持ち、そして『特別な力』を持つネズミよ」 「それってすごいの?」 永琳の視線が逸れた。 しばらく黙りこんで、 「……すごい」 青い顔のまま答えた。 「で、そのすごいネズミはどこにいるの?」 「それがわからないから苦労してるのよ……」 永琳は、腕を組んでため息をつく。 「こう、何か、ネズミを追い出すためのいい物があると嬉しいんだけどね……」 二つ目のため息をついて、永琳は部屋から出ていく。 そうして、部屋には鈴仙とフランだけが取り残された。 鈴仙は、じっとフランを見つめている。 「どうしたの?」 不審に思ったフランが、鈴仙の顔を見ると、鈴仙は何かを思い出しそうな表情をしている。 「えっと……どこかで会ったっけ?」 「えっと……この前の月ロケットのパーティーで迷ってた人?」 フランの答えると、鈴仙はいきなり笑い出した。 いきなり笑われたので、フランはむくれた。 「なに笑ってるのよ」 「あっははは……いや、あの影がアンタだったなんて……怖がってた私がバカらしい」 「む~。どういうことよ」 「そのままの意味よ」 笑いながら、鈴仙は部屋を後にした。 「なにがあるのかな? ついて行ってみよっと」 フランも、筋肉痛の薬のことを忘れ、鈴仙の後を追って行った。 育郎が庭に駆けつけると、そこにはカラフルに染まった妹紅とアフロになった輝夜が立っていた。 一体どういう戦いがあったのだろうか。 その疑問を飲み下し、育郎は輝夜に駆け寄る。 「輝夜さん、緊急事態ですよ」 「な……なによ」 息を切らしながら、輝夜は育郎を見る。 「例のネズミが逃げました」 輝夜が、固まった。 「……さ、さーて盆栽の様子はどうかしら?」 輝夜は振り返って歩こうとするが、 「てめーの相手はこのアタシだ」 妹紅が道をふさぐ。 「妹紅さん、今緊急事態なんで、ちょっとお引き取り願いたいんですけど……」 「駄目だ。輝夜が泣くまで戦うのをやめない」 怒り心頭の妹紅を前にして、育郎はため息をついた。 このままだと自分までとばっちりを受けかねない。 とりあえずこの二人は満足するまで放置しておくことにして、てゐの方へ向かう。 「てゐ、緊急事態なんだ」 「話はさっき聞かせてもらったわ。でもいやよ」 「……なんで?」 「あんなに罠にかからない奴を相手にしても楽しくない」 またしても育郎はため息をつく。 だが、その時彼は思い出した。 ある古いイギリスの伝記にこう書かれていたことを。 『Think about the opposite when things do not go well.』 つまり、『物事が上手くいかない時は逆に考えるべし』と。 育郎は、さっきてゐが言ったことを逆手に取った。 「罠にかからないからいいじゃないですか。いかに罠にかけるかが楽しくなる」 そう言われたてゐは、しばらく考え込んでから、 「そう言われればそうね。あのネズミめ……せっかくだから新作の罠にはめてやる」 にやにやと策士の笑いを浮かべた。 そしてラッパを取り出して、それを思いっきり吹く。 すると、永遠亭中の妖怪兎たちが集まり、一斉に人の形をとる。 「隊長! 今日はなんですかー?」 妖怪兎の一人が、手を挙げた。 てゐは、コホンと咳払いをし、 「今日は、残念な知らせがある。例のネズミが逃げた」 え~っ、という声が庭に広がった。 「またネズミ捕まえるんですか?」 「あの無駄に頭がいいネズミを? そんな無茶な」 「いやだよ~」 文句たらしまくりの妖怪兎を、てゐは手を広げて止める。 「まあ待て。あの妖怪兎を捕まえた奴は最高級の高麗人参が永琳から授与されるウサ」 その言葉に、妖怪兎たちは目を輝かせた。 ざわめく妖怪兎たち。 その中の一人が、こう言った。 「ところで、賭けの人参はどうなるんですか?」 てゐは、黙って逃げ出した。 恐らく、この混乱に乗じて人参を独り占めするつもりだったのだろう。 「隊長をひっ捕らえろー!」 妖怪兎の副リーダー格の号令により、彼女たちは一斉にてゐを追いかけ始めた。 その様を見ながら、育郎はひとり、 「駄目だこりゃ」 と肩をすくめるのであった。 一方、フラン、鈴仙、永琳の三人は診療室にいた。 「なるほど。フランドールさんはパチュリーが筋肉痛になったから、その薬を貰って来るためにここまで来たのね」 フランからここに来た理由を聞いた永琳が、カルテにペンを走らせる。 「普段なら今すぐにでも薬を作れるけど……困ったわ」 ペンを置き、またしても永琳はため息をついた。 「困ったことって、ネズミ?」 フランの質問に、永琳はうなづく。 「今どこに隠れているか分からないし……どうにかしてこの広い永遠亭の中からあぶり出さないと……」 思案にふける永琳の横で、鈴仙が何かを思いついた。 「そうだ、師匠。スミレちゃんに聞いたらどうです? 外から来たあの子なら何かいい策があるかも知れないですよ」 鈴仙が言い終えると、診療室のドアが開いた。 ドアを開いて入ってきたのは茶色い髪をポニーテールにした勝気そうな少女。 「家からネズミを追い出す手段、知ってるわよ」 「スミレ! いつの間にこの話を聞いてたの?」 永琳が、スミレの方を向いた。 「聞いていた……と言うより『見た』の方が正しいわね。資料の整理をしていると、ネズミが逃げだしてそれに困っている永琳さんたちの『像』が見えたの」 スミレと呼ばれた少女は、診療室のベッドに座る。 「家からネズミを追い出す方法の一つに、超音波があるわ。ネズミは約15キロヘルツから20キロヘルツの音波を嫌うの。それを永遠亭の敷地内にばらまけばいいわ」 簡単にネズミ撃退法を言ってのけるスミレ。 しかし、帰ってきたのは永琳の青色吐息だった。 「そんな音を出せるものがあればいいんだけどね……」 そう言いながら、視線を鈴仙に送る。 「……私がそんな声出せると思ったら大違いですよ」 鈴仙はジト目で視線を返す。 「音なら、あるよ」 皆が悩む中、フランだけが、さらりと言ってのけた。 「「「……どこに?」」」 スミレ、永琳、鈴仙は口をそろえてフランに質問する。 フランは、ポケットから一枚のDISCを取り出す。 「音を操る手回しオルガンのスタンド、『ストレンジ・リレイション』だッ!」 得意げな顔で、それを頭に差し込むと、フランの手元に手回しオルガンが現れる。 「「「おお!」」」 三人は、目を皿にしてフランを見つめた。 「で、どうやってその15キロヘルツっていう音を出すの? ド? レ? ミ?」 そしてキロヘルツという言葉を知らないフランの発言で揃ってひっくり返った。 「アンタの物でしょ! 自分の持っている道具の力ぐらい知っときなさいよ!」 起き上がりと共にツッコミを入れたのは、鈴仙。 流石ボケが多いこの永遠亭で一人ツッコミを続けてきただけのことはあった。 「……それで、その手回しオルガンで15キロヘルツの超音波って、出せるの?」 「出し方知らなーい。でも、これの音でガラス割ることができたから出来るかも」 鈴仙の質問に、しれっと答えるフラン。 「……ちょっと貸してくれる?」 そう言って、鈴仙はフランから『ストレンジ・リレイション』を渡してもらう。 「案外重くないのね」 フランから借りた『ストレンジ・リレイション』の重さに感慨しつつ、鈴仙はハンドルに手をかける。 古びた外見とは裏腹に、ハンドルは抵抗なく回り始めた。 すると、『ストレンジ・リレイション』は音楽を奏で始める。 「ああ~結構いい音色じゃないの。こう、体がふにゃ~ん、てなって……って、いかんいかん」 一瞬放心状態になりかけた鈴仙は、急いでハンドルを止める。 「とりあえず師匠。私とフランドールはこれで何ができるか考えておきます。師匠たちは早く姫様たちを……」 鈴仙は振り向きつつ永琳とスミレの方を向こうとすると、 「どうしたんですか? 育郎さん」 そこには育郎がいた。 育郎の表情は、なんだか疲れ気味に見える。 「輝夜さんとてゐの件です」 疲れ気味の育郎は、これまた疲れた声で言った。 「輝夜さんと妹紅さんの喧嘩は結局止められず、てゐは配下の兎に追われてどこか行きました」 育郎の言葉に、場の空気が冷えた。 「姫様はとにかく、てゐがいないとなると人手が足りなくなるわね……」 ついに永琳は目に手のひらを当て、ベッドに寝転んでしまった。 外では妹紅の怒号と、何かが燃える音や輝夜の悲鳴が絶えず鳴り響いていた。 もはやこの場の空気は完全に諦めムード一色になっている。 「とりあえず、ここから例のネズミを追い出すところから始めましょうか」 『ストレンジ・リレイション』を抱えた鈴仙が言うと、皆がうなづいた。 こうして、なんだか煮え切らないテンションの中でネズミ捕獲作戦が開始されたのであった。 ← to be continued
https://w.atwiki.jp/oreqsw/pages/2320.html
月明かりが、薄暗い部屋に差し込んでいる 俺「……ふぅ」 俺は訓練で疲れきった身体を、ベッドに沈ませていた 俺「……」 ちらりと壁のカレンダーを見る ……俺がこの世界に来てから、既に三週間が過ぎていた 我が隊長フェデリカ・N・ドッリオの元で、迫り来るバケモノ共の相手をするのにもようやく慣れて来たところだ 最も、まだまだおっかなびっくりの未熟者だが ……そう言えば フェデリカにこの部屋をあてがわれた際に、彼女から『せくしーかれんだー』なるものを渡されたっけ 無論、丁重にお返ししておいた ……あんなけったいなものを掛けている部屋を妻に見られた日には、342万4867回――――いや、1億と2000回は死ねる自信がある 俺「……」 ……まぁ、とにかく、だ 3週間 ……3週間も時は経ってしまったのだ 俺の世界はどうなっているだろう 行方不明者として俺が探されているだろうか 仕事場の皆は俺を心配しているだろうか あの狭い―けれど、思い出が沢山詰まった―6畳一間のオンボロアパートはどうなっているだろうか 母さんと父さん、義父と義母さんは俺を心配しているだろうか ……娘は、どうしているのだろうか 泣いているだろうか? 笑っているだろうか? 幼稚園に行っているだろうか? 母さん達が面倒を見てくれているだろうか? 風邪を引いていないだろうか? ご飯をちゃんと食べているだろうか? 夜はぐっすり眠れているだろうか? 父さん母さん達の家で暮らしているのだろうか? ……俺の帰りを、待ってくれているのだろうか? 俺「……ッ!」 数え出せばキリが無い、娘への想いの数々 その想いは日が経つに連れ、俺の心を『焦り』と言う鎖で拘束してゆく ……俺は今、命を掛けて『奴ら』と戦っているのだ こんな心理状態では不味い事ぐらいわかってる けれど この焦りを、心の中に留め続けなければならないのだ 『この手で、娘を守る』 俺の唯一つの望みを忘れてしまわぬように…… 俺「……糞っ……」 こうして…… 俺の意識はまどろみへと沈んでゆく…… ……………… ………… …… 俺「……」 瞼を上げる カーテンから漏れる日差しが、部屋全体を明るく照らしている 寝ぼけた身体で起き上がり、シャッ、とカーテンを開けた 俺「……っ」 さんさんと降り注ぐ太陽の光が顔に差し込み、思わず目を細める 太陽の位置からして……ああ、やっぱりもう10時だ 置かれた置時計はしっかりと俺に時を告げていた 今日は非番の日だからと言って、少し寝過ぎたか 俺「……」 ぼりぼりと寝癖のついた髪を掻きながら寝巻きを脱ぎ、服を着替える さて、今日は何をして過ごそうか そんなことを考えながら、俺は部屋を出た ……………… ………… …… 取り敢えず昼食の前に何か軽いもの――おにぎりでもひとつ作って腹にいれておこう そう思って俺は食堂へと足を運んだ 俺「ん?」 長テーブルの椅子に、座る人影がひとつ 「……誰かと思えば、何だ、お前か」 俺「……アンジー」 少女の名を、アンジェラ・サラス・ララサーバル 愛称はアンジー ヒスパニア空軍「青中隊」指揮官にして、この504部隊のエースの1人だ アンジー「……今起きたのか?」 俺「まさか、そんな訳ないだろ」 彼女の前の椅子に座りながら、言う こんな時間まで寝ていました、などと正直に言うのはみっともない アンジー「……」 俺「?……俺の顔に何か付いてるか?」 怪訝な目でこちらを見つめてくるアンジー どうかしたのだろうか? アンジー「……寝ぐせ」 俺「え?」 アンジー「寝ぐせ、ついてるぞ」 ちょいちょいと自分の頭を指差す彼女 慌てて手を当ててみると確かに髪がハネていた おかしい、ちゃんと直したはずなのに…… 俺「は、はははは……」 これには流石の俺も苦笑いだ アンジー「まったく、いくら非番の日だからって感心しないな」 俺「そう言うお前はどうなんだよ?」 アンジー「もちろんいつもの様に早起きして自主トレーニングをしていたさ」 俺「そりゃ熱心なことで……」 この娘は本当に……努力が似合うお馬さんだ 初めてこのぶっきらぼーな少女に会った時から、俺はどことなく彼女に親近感を湧かせていた 使い魔が同じ馬だと言うのもあるのだろうが、彼女からは何処か放っておけない雰囲気を感じたのだ これも父親のサガなのだろうか、困った話だ アンジー「お前も随分頑張っているじゃないか」 俺「……そうか?」 アンジー「ああ、そうさ」 アンジー「ウチの隊長がまた何を訳わからん奴を拾ったんだかと思っていたが、いや、なかなかどうしてお前はやってくれる」 アンジー「たった三週間であそこまで成長するとは驚いたよ」 俺「お褒めに預かり、光栄です」 アンジー「だがな」 俺「?」 打って変わって、神妙な目で俺を見るアンジー 思わず固唾を呑む アンジー「昨日の戦い、アレは一体何だ?」 昨日の戦い…… 俺とアンジー、それとアンジーの親友にして504のメイン盾――もとい、頼れる守護天使の少女、パトリシア・シェイド、パティとケッテ(三機編隊)を組んでネウロイの殲滅をした話か 小型10、中型2を相手した激しい―だがいつも通りの―戦いだった 俺「何のことだ?」 アンジー「わからないのなら、単刀直入に言ってやる」 アンジー「……お前、焦り過ぎだ」 俺「っ!」 アンジー「あんな戦い方をすれば、そのうち死ぬぞ?焦りは人を滅ぼす」 アンジー「……確かに、お前が元の世界に戻りたいのは解る、娘さんを残してるって言ってたからな」 アンジー「でも、それで死んだら元も子もない。よく言うだろ、命あっての物種って」 俺「……解ってる……解ってるさ……!」 アンジー「……なら、いい」 ふぅ、と彼女は小さく一息ついた アンジー「人は完全な生き物じゃない、だからお前が焦るのも仕方ない……けど、これだけは言わせてくれ」 アンジー「『死ぬな』!」 アンジー「……お前がいなくなったら、娘さんが、部隊の皆が悲しむ」 アンジー「……もちろん、私もな」 そう言って、彼女は俺の手を握った ……この娘達は、本当に20に満たない少女なのか? その瞳に確固たる―三週間前の、フェデリカと竹井の様な―意思、そう、『黄金の精神』を宿すアンジーを見て、俺はそんなことを考えた 俺「……っ」 視界が、滲む ……まったく、この年になると涙もろくなるから困る 俺「……ありがとな」 心を縛っていた『焦り』が、ほんの少し緩まった気がした アンジー「別に、気にするな。私とお前は――――」 アンジー「『仲間』、なんだからな」 柔らかな笑みを浮かべながら、彼女は言った そして 俺「……美しい、な」 アンジー「ふへっ!?」 ……俺がそんなことを呟いたのは、至極当然なことだろう 彼女の、彼女達の ……まるで一枚の絵画のような気高さを見てしまえば、そんな言葉を紡ぐことは自然な事だ 俺「……ふふっ」 ……なんて、そんなことを言ったら空にいる『アイツ』に怒られちまうな 安心してくれ、俺に取ってお前は――唯一無二の存在だ ……妬かないでくれると、嬉しい アンジー「…………」 俺「?」 どうしたのだろうか、アンジーの様子がおかしい アンジー「え、えーっと、その……な、なんだ……その……」 俺「どうかしたか?」 アンジー「そ、そんなことを言われたら照れるじゃないか……」 俺「え?……あ、ああ!悪い、つい!」 俺「口から自然に出たと言うか、故意は無いと言うか……その」 アンジー「だ、だからっ!自然に出たとか!こ、故意はないって言うな!ててて照れるって言っただろ!」 耳まで真っ赤になっている……思わぬところで、彼女の一面を見つけてしまったようだ 俺「……スマナイ」 アンジー「わ、わかればいいんだ、わかれば……」 「「…………」」 ……妙な雰囲気になってしまった だが、彼女のおかげで気が少し楽になったのも事実だ ああ……本当に この世界に来て、彼女達に出会えて良かった! 俺「……?」 ……ん? 俺「なんだ?」 気づけば彼女がこちらを見ていた もじもじと、恥ずかしそうに ……ひょっとしてさっきの俺の呟きを気にしているのだろうか だとしたら悪いことをした アンジー「そ、その……あー……うー……う、嬉しかった、ぞ?」 俺「え?」 アンジー「な、なんでもない!やっぱり気にするな!」 アンジーは何かを呟いたが、いかんせん声が小さ過ぎて聞き取れなかった まぁ本人が気にするなと言っているんだ、気にしないでおこう……だが アンジー「うー……あー……うー……」 頭を抱え込んで何やらぶつぶつ呟いている 俺「お、おい……?」 流石にこれは気にしないと言う訳にはいかない すると、彼女は…… アンジー「えっ!?あ、あっ!そうだっ!」 ズビシッ!と人差し指を突きつけて来た! アンジー「お、お前の……」 俺「?俺の?俺の何だ?」 アンジー「お前の娘の話を聞かせてくれないか?」 俺「はぁ?……どうしてまた、そんな」 アンジー「いや、なんだ、お前がそこまで可愛がっているんだ、気にならないはずがないだろう」 俺「成る程」 アンジー「……ダメか?」 俺「いや、別にいいぞ?お前が聞きたいんなら」 アンジー「そ、そうか!ありがとう!」 この世界に来て、娘の話を聞きたがった人はこれで4人目だ ここに来た日の夜にフェデリカに、いつぞやの夜の酒の席で大将……リベリオンのワンマン・.エアフォースことドミニカ・ジェンタイルと、『大将の女房役』ことジェーン・ゴッドフリーに、そしてこの少女、アンジーに ……さて 俺「そうだな……それじゃあアイツが1歳になった時の話で――……」 話を、始めようか…… ――――1時間経過―――― 俺「それで、その時我が大天使娘はなんて言ったと思う?」 アンジー「…………」 俺「――――って、言ったんだぜ?いやー流石まいすいーとどーたー、可愛いったら……って、どうした?」 アンジー「え、えーと、あとどれぐらい『俺の娘マジ天使伝説』のストックがあるんだ?」 俺「そうだなー、あと3分の2ってところだな」 アンジー「ええっ!?」 俺「で、次の話なんだが――――」 ……ん?今のアンジーの顔どこかで見たことがあるぞ アンジー「……あっ!そ、そうだ!今日はパトリシアと一緒に昼食を食べる約束をしていたんだ!ち、ちょっと彼女を呼んでくる!」 脱兎のごとく食堂から出てゆくアンジー ……思い出した、さっきの彼女の顔、アレは一緒に酒を飲んだ翌日に大将とジェーンが見せた顔だ 俺「……」 ……イカンな、またやってしまった 娘のこととなるとついつい熱くなってしまう まぁ、治す気は無いがな! …………ん? アンジー「…………」 ひょこっ、とアンジーが顔を覗かせていた 壁に体を隠し、顔を半分だけ出してこちらを見ている 俺「どうした?パティを呼んでくるんじゃなかったのか?」 アンジー「い、いや……その……」 俺「?」 アンジー「ま、また今度!話を聞かせてくれないか!?」 俺「……ああ!もちろんだ!」 アンジー「あ、出来れば、その、話を少し短くしてくれるとあり難い……」 俺「解ってるさ……俺も、ちょっと熱くなっちまった、反省してる」 アンジー「は、はははは……でも、本当……お前がどれだけ娘を大切に想っているか解ったよ」 アンジー「……それじゃあな」 ポニーテールを靡かせ、彼女は去っていった …………さて、と 今日も一日、頑張りますか! .
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2154.html
「約束は守ってもらいますよ」 試合終了後、サロンルームへと移動し話し合いが始まっていた。 円形のテーブルをはさみストーカー男の対面にクロエ、その隣にうつむく芽衣そしてクロエの肩にエリアーデ、敗北したムルメルティアはメディカルルームで精密検査中だ 「あ、あんなのしし勝負じゃないんだな、それに良いとこ引き分けなんだな」 そう告げそっぽを向くストーカー 「はぁ!?」 クロエの耳をつんざく大きな声を上げるエリアーデ、肩から降りクロエがまだ口をつけていないコーヒーの入ったカップの取っ手を無言で掴みジャイアントスイングの要領でストーカー男に投げつけた。 「熱っ!」 カップは綺麗に男のこめかみに当たり地面で砕けた。そして被害はクロエ達にも及んでいた。テーブル周囲にコーヒーがぶちまけられていた。 「熱い!エリアーデ・・・」 「クロエは黙ってて!」 何だか理不尽な気もするがこの状態のエリアーデには何も言わずに黙っておいた方が得策だ。 「貴方ね!良いこと!このウシチチ女の事はもうどうでもいいわ!」 事件の中心をどうでも良いと言いのける 「ひどい!」 さすがに芽衣も突っ込まざるをえまい 「うるさいですわ!そもそも貴方がはっきりしないからいけないのですわ!はっきり言いなさい!この男をどう思っているのか!オブラートに包まずそのままですわよ!」 芽衣がエリアーデに言われたようにはっきりと答える 「うぅ、ごめんなさい。貴方と付き合うのは今ここで芽衣がミジンコに変身するくらいあり得ません」 はっきりとした拒絶の言葉に揉めるかと思われたが物事は意外な方向へと向かった。 「わ分かったんだな」 「「「「え?」」」」 クロエとエリアーデ、そして芽衣とアムの頭上に?が浮かんだ。 「こういうのも何ですけど、簡単に諦めて良いんですか?」 クロエは自分がおかしなことを口走っているのは分かっているが聞かずにはいられなかった。 「も、もういいんだな。諦めるんだな、そそそそそれにやっぱり生身の女は駄目なんだな」 「は?生身?はぁまぁそうですか」 こんなに簡単に諦めてくれるのならこちらとしても楽だ。 「それでは芽衣さんの事は諦めてくれるんですね?もう付き纏ったりしないんですね?」 「ししつこいんだな、もう興味はないんだな」 何だか腑に落ちない所も多々あるが、本人がこう言っている以上は信用するしかないだろう。それで何かをしてくるようなら警察の領分だ。 「芽衣さん、あちらもああ言っているので、今日の所はこれでよろしいですか?」 「え、えぇ諦めてくれるのでしたら私も満足ですから」 「そうですか、それでは行きましょうか」 そうして椅子から立ち上がろうとした時、ストーカー、いや元ストーカーが呼びとめた。 「ま待つんだな!」 「まだ何か?」 「芽衣たんのことは諦めるんだな」 「えぇ、さっき聞きましたけど?」 「そのかわり」 「そのかわり?」 「エリアーデ様を譲ってほしいんだな!」 「「「はぁ!?」」」 「お金はいくらでも出すんだな!」 「いや、金額では」 「100万!」 「いやですから」 「じゃあ200万」 鼻息荒くまくしたてる元ストーカー、それに激怒した神姫が一体、当然 「嫌だってぇぇぇぇぇ!言ってるんですわ!!」 エリアーデだった。 「ぷぎゃ!」 エリアーデのライダーキックもとい飛び蹴りが元ストーカーの鼻の下に綺麗に入った。大の字に倒れる元ストーカー。 「ふん!行きますわよ!!」 「え、いやさすがにこのままはマズいでしょう」 「確かにこのままは・・・」 悶絶しのたうちまわる元ストーカー、その状況に周りを囲むように人だかりが出来ていた。 「良いのですわ!こんな不躾な男」 クロエの手の平で腕組みをするエリアーデの姿に人だかりから声が上がる。 「あ、拳様だ」 「え?あ本当だ」 エリアーデを指し拳様の謎の声が上がり始める。 「クロエ、こぶしさまって何かしら?」 「さぁ?何だろうね」 「あの、たぶんエリアーデちゃんの事だと思います」 芽衣の言葉に驚くエリアーデ 「なんですって!」 「ほら、バトルロンドで格闘戦しかしてないじゃないですか、それで今日のバトルロンドが決定的だったみたいで、拳系お嬢様神姫、略して拳様です!」 芽衣の説明にエリアーデが絶叫する。 「こんなの不本意ですわ~~~!!」 その後、エリアーデに拳様のあだ名は定着し、元ストーカーは飛び蹴りなどを受けたにもかかわらず何故かエリアーデのファンの一人になった。
https://w.atwiki.jp/rozenmaidenhumanss/pages/2204.html