約 301,196 件
https://w.atwiki.jp/vip_witches/pages/720.html
第三話「ちょっと大人な入浴」 訓練が終わり、宮藤達の入浴が終わるまで俺は部屋に戻り読書をしていた。 読書を始めて半時程経つが坂本が呼びにくる様子は中々無く、彼も暇を持て余し始めていた。 「まだ浴び終わって無いのか、芳佳ちゃん達は」 ポツリと呟いた彼には段々と眠気もきているようで、言葉の端では大きな欠伸も出している。 『もう浴びずに寝るか』との考えが彼の頭を過った瞬間、部屋の扉からコンコンと叩く音が聞こえた。 「漸く来たか」 音を聞いた彼はベッドから跳ね起きて立ち上がり、あらかじめ準備していた着替え一式を手に取り扉を開ける。 外に居る人物は大体予想が出来るためそのまま言葉を掛けた。 「芳佳ちゃん達、結構長かったみたいだな」 「宮藤達は女だ。女は色々と時間が掛かるから仕方無い」 「男が言うような口振りだが、美緒もその女だろ?」 「私はそれ程時間は掛からん」 そんな軽口を二人は言い合いながら部屋を後にする。向かう先はこの基地にある露天風呂だ。 だが俺に関しては自分の部屋と食堂、ブリーフィングルームしか知らないので必然的に坂本が案内する形になる。 「俺が露天風呂を使う際は時間帯に気を付けた方が良いな。私は兎も角、私以外の奴に鉢合わせでもしてみろ」 「・・・・・・タオルを巻いた皆にその場で蜂の巣にされている自分の姿が安易に思い浮かぶよ」 想像した瞬間に俺の体から冷や汗がどっと出てくるのが分かった。 普通の女性でもさえも恐ろしいのに、ここの女性陣は世界でもトップクラスの力を持った軍人。間違いなく彼は血祭りに上げられるだろう。 「私も皆が俺を蜂の巣にするのに混ざるのも悪くは無いな」 「美緒が入った瞬間に俺はお天道様とご挨拶をせにゃならんから止めてくれ」 「む、私が一番狂暴だと言っているように聞こえるぞ」 「気のせいですよ、気のせい。美緒が狂暴な訳無いだろ?俺からしちゃ美緒が一番可愛いって」 その言葉に一瞬だけ彼女の顔は驚きの表情と頬が紅くなったが、すぐに表情は戻り溜め息を吐きながらつかつかと歩き始めた。 「・・・その口説き文句は他の奴等に言うので聞き飽きた。もう少し考えて物を言え馬鹿者」 「な、何で急に不機嫌になるんだよ。俺は正直に言っただけだろ」 「女を見るや否や『可憐だ』『素敵だ』何て簡単に言う奴を信用出来るか?」 「・・・・・・いや、そうだな。今度から自重するよ」 彼女の的を射ている言葉には流石に反論出来ず、彼は素直に謝った。廊下を歩く音だけが響き渡り、二人の間には何だか気まずい雰囲気が漂う。 そして気まずい雰囲気のまま、露天風呂のある場所へ到着。 「・・・ここが露天風呂だ。私は後で来るから先に入ってくれ」 「ん、分かった」 そう言って彼はチラッと彼女を一瞥した後に入っていった。 一瞥したのには気付かなかったようだが、入って行った事を確認した彼女は大きく溜め息を吐き、壁に背中を着ける。 「(・・・・・・本当は俺からの言葉が嬉しいのに、素直じゃ無いな私は)」 そうして少し経つと中から露天風呂に繋がる扉を開けた音が聞こえた。 「とりあえず、俺には謝ろう。湯に浸かる時はお互い良い気持ちで入らねばな」 「へぇ、これはまた立派な露天風呂だなぁ」 正直な話し、異国の地に造られた露天風呂には正直期待していなかったが・・・うん、認識を改めて無いといけないみたいだ。 「・・・なるほど温度も丁度良い。オマケに辺りの風景も最高と来たか。文句無しだ」 扶桑の地でもこれ程までに立地条件の良い露天風呂は中々無かろう。激戦が繰り広げられる最前線とは言え俺は恵まれた部隊に来たようだな。 本土防衛隊の皆、これからもボロい湯船で頑張れ。 とりあえず、湯に浸かる前に桶で汲んだ湯で体を綺麗に流す。 そしてタオルは折り畳み頭の上に乗せてゆっくりと足から浸かり底に腰かける。 「っあ~!!生き返るなぁ~」 風呂は命の洗濯、とはまさにこれだな。美緒の厳しい訓練の後には最高の癒しだ。 「・・・・・・そう言や美緒の奴、何で不機嫌になったんだろう」 確かに俺は女性が好きだ。好みの女性にはすぐに声を掛けてしまうのは、俺でも悪い癖であると思う。 だが、俺の言葉に嘘や偽りは断じて無い。全ての言葉に心を込めている。 「美緒に対しても正直に伝えたつもりなんだがなぁ・・・」 女性が好きだとか良いながら正直な話し、俺は美緒に惚れている。ガキの頃からずっと惚れている。 この軍に美緒が居るのは知っていた。んでそこに配属されると知った時は心から喜んだし嬉しかった。 また一緒に戦える、また一緒に生活出来る。また一緒に笑い合える!!・・・・・・だけど笑い合える所か、一日も経たずにこの様だ。 「アホだろ、俺って」 ハァ~、やっぱり節操無しに女性に声を掛けたりするのがいけないよなぁ。 自分の性格の駄目さ加減には本当に呆れたもんだ。 ガラガラッ 「!!」 扉が開いた音が聞こえた。美緒が入って来たんだな。ってそりゃ当たり前か、美緒と一緒に入る約束してたんだ。 「・・・・・・あ、一緒に、入る」 え、何か急に恥ずかしくなってきた。と言うか・・・・・・き、緊張してきた!! 今思ったら、風呂に入ってたのも美緒を何とも思って無いガキの頃じゃねえか!! 何でちゃんと考えて返事しなかったんだ、訓練が終わった後の俺ぇ!! 「俺、湯加減はどうだ?熱くは無いか?」 み、美緒が来た。ヤバい心臓の動悸が激しくなってきてる。 と、とにかく返事をしねぇと。 「お、おお!!湯加減は最高に丁度良い・・・・・・ぞ」 「そうかそうか。それは良かった」 湯煙から現れた美緒の姿を見た瞬間、俺の心臓の動悸は更に激しくなり、思考は停止、視線は美緒に釘付けになってしまった。 湿気で張り付いているタオルのせいか、胸の膨らみや引き締まった腰等の身体のラインをそのタオルが強調させ、とても女性らしさを感じた。 いつもは結っている髪も今は下ろしており、サラサラと髪が靡く様子は更にその魅力を増させているように見える。 そして笑顔を俺に向けてくれている。その笑顔はいつもより何故か綺麗で可愛いらしく見えた。 そこで俺は完全に━━━完璧に美緒に骨抜きにされてしまった。 「?どうした?顔が赤いぞ、もう逆上せたのか」 「!!あ、いや、大丈夫だぞ!!///」 美緒に声を掛けられて、漸く我に帰った。 心配そうに見つめないでくれよ、何か恥ずかしいだろ。 「まだ赤いがのぼせたのか?・・・あまり無理はするなよ?」 「あ、ああ」 まだ心臓がバクバクしている・・・・・・と、とりあえず深呼吸で落ち着かせなきゃいけない。 不審な行動は美緒にすぐばれてしまうからな。 「私も入るかな・・・」 今は美緒に背を向けているが、美緒が今何をしているかが分かってしまう。 湯を身体に掛ける音が聞こえる・・・そしてすぐに湯船に身体を浸からせた音もした。俺の後ろに静かに座ったようだ。 「ふぅ、良い湯だな」 「お、おお。気持ちが良いな」 「風呂は命の洗濯と言うが、全くその通りだと私は思う」 「だ、だな」 馬鹿みたいに緊張してんな、俺って。美緒は恥ずかしく無いのだろうか・・・・・・まあ、俺なんてただの仲の良い幼馴染みとしか思って無いよな。 あ、なんか気分が沈むと落ち着いてきた。 「・・・・・・」 「・・・・・・」 本当に濁り湯で良かった。タオルを取ってる美緒は肩から下まで浸かっているから、胸や下半身はあまり見えない。 あ、いや、動く度に綺麗な形の胸がチラチラ見えて逆に駄目だ。 「な、なあ俺」 「ど、どうした?」 「先程は、その・・・馬鹿者や信用出来ないとか俺に言ってすまなかった」 「・・・・・・」 美緒よ、湯で自分の頬が紅く染まっている時に、伏し目がちでそんな事言うなよ・・・・・・可愛くて理性が本当にヤバいだろうが。 ただでさえ、俺はお前に骨抜きにされてんだから。 「さっきの私はどうかしていたみたいだ。ほ、本当はお前に可愛いと言われて時は・・・・と、とても嬉しかった」 おいおい、本当にヤバいじゃないか━━━━ 「信用出来ないと言うのも嘘だ。私は心からお前を信用している」 ったく、理性って簡単に壊れそうだな━━━━ 「私にとって、俺は本当に大事なんだ。だからこれからは・・・」 すまん神様、これ以上はちょっと━━━━ 「私と一緒に戦い、私と生き、私と笑い合ってくれないか?」 我慢出来ないみたいだ━━━━ 「馬鹿美緒、当たり前だろ。一生お前の側に居るさ」 「俺?今なんて・・・んぅ!?///」 「んっ・・・ふぅ・・・ちゅっ・・・っふぁ///」 「・・・っはぁ、ぁ、美緒、その・・・」 美緒にキスをしてしまった・・・。本人の同意も無く無理矢理にしてしまった。 あ、ああ~俺って最低じゃねえか!! 「す、すまん美緒!!俺はお前になんて事を・・・謝って済む問題じゃ無いかもしれんが本当に・・・」 「ま、待て俺!!落ち着いてくれ!!」 落ち着け?・・・・・あ、ああそうだな。落ち着いて話さないとな。 「そんなに謝る事は無い・・・と思うぞ。急にされて心底驚いたが」 「・・・あ、すまない」 「だから謝るなと言っているだろう?驚いただけで別に・・・嫌では無かった///」 「い、いやでもな」 「・・・・・・ならば、これで良いだろう?」 「ぅむ!?///」 お、おい嘘だろ?美緒からのキスだって? てかさっきは勢いでしてしまったから分からなかったが、美緒の唇って柔らかいな。 「・・・・・・これで私もお前の同意無く、き、キスをしたからな///この事はお互い様だぞ?///」 「・・・・・・ああ、お互い様だな」 至近距離で見つめ会う俺と美緒。眼帯は付けているがもう片目でしっかりと俺を見つめてくれている。 「美緒・・・・・・俺は美緒が好きだ。ネウロイとの戦い、絶対に生き残るぞ。そして笑いながら扶桑に帰ろう」 「・・・・・・その言葉を何年待ったと思っているんだ馬鹿者」 やっぱり美緒の笑顔は世界中の誰よりも綺麗だな。 「・・・・・・私も俺が好きだ。501の誰一人欠ける事無く、戦いを終わらせ絶対に扶桑へ帰るぞ?」 「もちろんさ、美緒との約束は命を懸けてでも守るよ」 「命は懸け無くて良い。絶対に生きてもらわないと私が困る」 「ハハッ、だな」 一頻り笑った後に、また見つめ会う俺と美緒。 そしてお互いに顔を近付けどちらからもなく、唇を合わせる。 今は高揚もせずに不思議と穏やかな気持ちだ。 「んっ・・・ちゅっ・・・ふむぅ・・・ぴちゃ・・・」 お互いの感覚を得る為に舌と舌とを絡め深い深いキスをする。唾液が混ざり、ぴちゃぴちゃと水音が露天風呂に小さく鳴り響く。 心から愛している人物とのキスはこれほどまでに幸福感を与えてくれるのか。 時間としては数分間も経っていないだろうが、俺には何時間も経っている気がした。長く感じてしまう位に幸せな時間だったのだろう。 唇を離すと美緒が少し苦しそうにしていた。 「・・・・・・んっ///はあっ、はあっ」 「だ、大丈夫か美緒?苦しかったのか?」 「す、少しだけな。夢中に、なりすぎて、鼻での呼吸を、はあっ、忘れていたよ///」 少しだけと言いながらも結構苦しかったみたいだな。申し訳無いと思う反面、美緒が強がりを言っている所も今は愛しく感じてしまう。 「よしよし、落ち着くまで休もうな」 「こ、子供扱いするな!!///同い年だぞ全く///」 抱き締めて頭を撫でてやると、文句を言いながらもしっかりと抱き締め返してくれるのは本当に嬉しい。 身体を鍛えているけどやっぱり柔らかいなぁ、無駄な肉が無いのは実に素晴らしいと思う。 「・・・・・・さ、最後までするのか?///」 「あぁ~・・・・・・美緒はどうしたい?」 「わ、私に聞くな!!///」 「キスだけで俺は充分幸せだけどなぁ」 落ち着いた美緒からのまさかの言葉にびっくりしたが、まあ別にしなくても今の俺は本当に幸せなので大丈夫だ。 「だ、だがな・・・・・・わ、私のお腹に当たってるモノが苦しそうだぞ///」 「・・・・・・」 湯船に腰掛けた俺の太股の上に跨がって座っている美緒の腹には臨戦モードの俺の愚息がいた。 つっても仕方ないよね、だってすぐ目の前には裸体の愛しき女性が居るんだ。おまけに抱き合ってるんだぜ?おっ立つのは仕方ないよね? それにこいつは後で発散させれば良いしな。 「いや、なんかすまん。精神は落ち着いているがどうもこいつは落ち着かんらしいな。まあ時間が経てば元に戻るさ」 「が、我慢は良く無いんじゃないか?」 「心配すんな。自然と治まるようになって・・・・・・っあ!?」 話している最中に俺の身体が急にびくんと震えた。 原因は分かっている、美緒が突然俺のモノを手で触れたからだ。 驚きと柔らかな手のひらの感覚で思わず身体が跳ねてしまったようである。 「ばっ、美緒っ!!」 「・・・・・・こ、ここを擦ると良いんだよな?///」 「ま、待て!!くっ・・・!!」 おずおずと探るようにして触る美緒の柔らかな手のひらは半端では無い位気持ち良く、今まででも経験した事の無い程ヤバい。 つか完全に流されかけている。 「俺、気持ち良いか・・・?」 「ぅくっ・・・美緒っ」 「ふふ、上手く出来てるみたいだ。もう少し動かしてみても良いな?」 「・・・っう、ふくっ、」 俺の反応を見て美緒は少し自信と余裕が付いたのか、指先で先をくりくりと弄ったり、竿を優しく手のひらで包み上下に動かしたりとしてくる。 頭の中は美緒と快楽でいっぱいになり、思考は靄が掛かったようになった。 「これ、以上はっ・・・んぅっ」 「ちゅっ・・・んっ・・・ふぅ・・・ちゅく・・・」 快感に支配されつつも美緒に制止の言葉を掛けようとしたが、唇を塞がれまた深いキスをする。 だが美緒の手は止まらず、舌を絡めながら更に快感を与えてくる。 「・・・っはぁ、美緒っ、そろそろ、ヤバ・・・っう!?」 「もう限界か?・・・大丈夫だ、我慢せずに出してくれ」 俺のモノから伝わっているのか触っている美緒にも限界が近付いている事が分かるようだ。 正直今にも出そうで我慢のせいか身体が震えてきた。 「み・・・お・・・っぅあ!!」 「っ!!・・・・・・これが俺の子種か。これほど熱いのだな」 びくんと一度身体が跳ねたと同時に、俺のモノから白く濁った液体が美緒の手のひらに吐き出された。 断続的に出続ける液体の勢いは中々治まらず、美緒の手の平へと更に出される。 「はあっ、はあっ、」 「しかしこんなに出る物なのか・・・・・・おっと」 漸く出すのも終わったようで、湯船に腰掛けていたが、身体の力は抜け息も絶え絶えになり、白濁の液体を見て驚いている美緒の肩に顎を乗せ、腕は美緒を抱き締め息を整える。 「・・・・・・馬鹿美緒、死ぬ程気持ち良かっただろうが」 「それは良かった。初めての体験だったが上手く出来てたか?」 「文句無しだな。もう美緒に依存するなこりゃ」 「はっはっはっ!!お互いに依存すれば良いさ」 それはどんな意味になるんだ?いや、深くは考えないでおこう。 「これから私達は恋仲になるのか?」 「まあそうなる、ってかそうなりたい」 「・・・何だかムズムズする響きだな」 「馴れれば良いだけの事さ。これからもよろしくな美緒」 「ふふっ、よろしく頼むぞ俺」 そして俺と美緒はまたキスをした。 これからネウロイとの戦いも激しくなるだろう。それでも俺は必ず美緒を・・・・・・心から愛している人を必ず守る。 俺の命が尽きてもだ。 「所でこれはどうすれば良い?」 「・・・・・・お湯で流した方が良いと思うぞ」 「そうだな。しかし少し舐めてみたがこれは変な味がするんだな」 「舐めたのかっ!?」 「うむ、一応馴れておこうと思って。確か口でもやる行為があった・・・」 「さ、さあゆっくり湯に浸かるぞ!!」 「?おかしな奴だ」
https://w.atwiki.jp/sousakurobo/pages/675.html
第三話 たずさえぬ手と手 その日のGBCの限定攻勢中継は異様な緊張感の中で行われていた。 未開惑星である地球で、銀河列強有数の大国である帝政ツルギスタンが敗れた。 これは由々しき事態であり、この2週間というもの、GBCはダイガストの情報収集に躍起になっていたし、 列強の市民たちも辺境での椿事に興味津々であった。 しかしダイガストが所属するという『大江戸先進科学研究所』の情報封鎖のヴェールは厚く、 今もってその全貌は掴めない。…その方が視聴率的にも注目を集める、GBCはむしろ、そう開き直っていた。 例によってレポーターが日本とツルギスタンの参加兵力を読み上げてゆく。 「帝政ツルギスタンは前回と同じくランツェタイプの儀仗兵が5機に、 アフバルト・シュバウツァー大刃士が搭乗するブレーディアンという変わらぬ布陣です。 解説のリッケントロップさん、これはどういう事でしょうか?」 「汚名返上の機会では?ツルギスタンでは名誉も重んじられますし」 「なるほど。さて、問題の日本国ですが…やはり今回もダイガストの名前があります。 それと90式装甲戦闘車両、AH-1Sコブラ対戦車ヘリコプター。 それにしてもダイガスト、未だ謎のヴェールに包まれております」 「圧倒的な戦闘能力でしたが、未開惑星の科学技術とは思えません。先日の特番でも示唆されておりましたが、 やはり列強の植民地支配より逃れた亡命者による技術供与があったと考えるのが妥当でしょう。 GBCでは地球への亡命者が60年ほど前に存在したことを掴んでいます。 彼らの亡命先はアメリカ合衆国、エリア51という疎開地であり、また彼らの技術供与により、 アメリカ軍は限定戦争でも善戦をしています。かのダイガストも、同じような経緯ではないでしょうか?」 90式戦車の砲手席で私物のワンセグ携帯でGBCを見ていた若い二尉は、苦笑いを浮かべて自分の後方ちょっと上にある戦車長席を見上げた。 「聞きましたか戦車長、ロズウェル事件は本当だったそうですよ」 話を振られた東和樹三佐はどんな顔をしたものか判らず、力無い笑いを浮かべる。 「マスコミの言うことなんて、いちいち真に受けるな。 この調子じゃツングースカの爆発まで亡命者の仕業と言いかねんぞ」 「そういやロシアも何のかんのと上手いこと凌いでますよね。やっぱりツングースカには…」 「ロシアは国土の縦深が深いだけだ。独ソ戦の時と同じく、下がりながら戦っているだけだよ」 言いつつ東は部隊内に蔓延している楽観ムードに心の中で舌打ちする。 ダイガストの参陣が自衛官達から緊張感を奪っていた。2週間前の虚脱状態と比べるのは酷だが、しかし楽観は同じくらいに危険だった。 東は部隊を率いる隊長なのでまだしも、果たして彼と同じような危惧を抱いている隊員は、青森平野に布陣した陸上自衛隊の中にどれ程いるものか。 「しっかし…」砲手はGBCのテレビ番組に目を落としながら言った。「せっかくスーパーロボットなんてもんと 共闘するのに、打ち合わせも無くて良いんですかね?」 「ぶっつけ本番で人型兵器との共同作戦なんてとれるか。 符牒は? 通信帯は? 作戦は?何よりあっちは民間だぞ。アニメじゃないんだ、ホイホイ共闘できるかよ」 「アニメじゃない、ホントの事さー…でも現実は夢も浪漫も無いんですね」 「お前の現実は120㎜滑腔砲のトリガーだってことさ」 ちょうど話がひと段落つくところで、彼らの上に爆音が響き始めた。 何事かと東がコマンダーズキューポラから空を覗いてみると、彼の目に飛び込んできたのはスコップの先端のような、マンボウを横に寝かせたような、ともかく奇怪な大型航空機だった。 大型機は見る間に高度と速度を下げると、失速寸前で機首を上げつつ後部ハッチを開いて、あのダイガストに合体した『形だけは90式戦車』を放り出す。 ああ、ああやって馬鹿でかい戦車を持ってきていたのか。東は変なところに感心する。 失速寸前といっても巨人機は110ノット――時速、約200キロ――は出しているだろう、それで大地に放り出されるのだからあの巨大戦車は無事なのかと勘ぐってしまうが、着地の寸前に覆帯にロケットパンチ――ブラストマグナム――の時に発生した力場と同じ発光現象が確認できた。おそらく衝撃は本体とは別の部分が受け取ったのだろう。 「まったく、民間はやる事なす事、豪勢で羨ましいな」 東は呆けたように呟いた。 「まったく、金があるのならダイガストに飛行能力くらい付けらるもんを」 大江戸博士は不機嫌そうに呟いた。 手狭な部屋には壁面と一体化したディスプレイが配置され、その前には女性が席について、画面と繋がっているであろうパソコンのインターフェースをいじっている。艶やかな黒髪を長く伸ばした乙女…笠置透(カサギミナモ)嬢であった。 「『獅子王』、着陸しました。慣性制御フィールドは順調稼動。サスペンションに疲労は有りません」 透は部屋の中央、手狭な部屋を更に狭くしている台座の前に立つ白衣の怪人物に報告する。 怪人物などと対象の人格を否定するかのような表現ではあるが、何しろ白黒ストライプの頭髪を、講談の由比正雪みたいに伸ばしたおっさんである。怪人物としか言いようがない。 自称地球が宇宙に誇る碩学、大江戸多聞博士は、白衣に手を突っ込んだまま台座の上をつまらなそうに眺めては、何やらぶつくさと呟いている。部屋にいるのは、この二人だけだった。 「くだらん。つまらん。どいつもこいつも杓子定規に時間と場所を合わせてヨーイドンで戦争。 攻撃側が侵攻地域を指定、防御側が攻撃側の戦力発表に応じて防衛戦力を配置、攻撃側の戦力変更は不許可… なんだかんだと公平なルールとか言っとるワリに、防御側が守り切っても逆侵攻は禁じられている。 結局は攻めて来た側、列強諸国に利する不平等なルール。付き合うほうがバカバカしいわ」 作業台ほどの台座の上面は液晶になっていて、今日の限定攻勢に関する両国の諸元が表示されている。 その中には日本側の戦力表示である青い三角――古今東西、友軍とは青であり、敵軍とは赤である――の集団から徐々に遠ざかる大きな三角が映っている。 インフォメーションには大鳳(タイホウ)との表示。 つまりはこの部屋を含み、獅子王と呼ばれた巨大戦車を空輸してきて、東三佐を呆然とさせた、大型の輸送機のこと。 東三佐は豪勢と言っていたが、実際のところは米国製C-17輸送機を川崎重工が (※この物語はフィクションです。実際の団体とは云々かんぬん) 研究用として購入したのを、研究終了に伴い大江戸研究所で買受け、いわゆる魔改造を施したものである。 ちなみに、自衛隊の次期輸送機開発計画を受領したのは川崎重工である。 生まれ変わったC-17輸送機は大江戸研究所の『研究実証用飛行試験体・大鳳』という、海の物とも山の物とも付かない物体となったが、同研究所の研究員達はその外見から『雷鳥2号』という不可解な愛称で呼んでいた。 さてその大鳳のメインの通信設備の前で、軍艦のCIC(戦闘指揮中枢)も真っ青の情報処理設備を取り仕切っているのが、大江戸先進科学研究所のアルバイトである透だ。彼女はヘッドセットのマイクのスイッチを入れると、 「鷹くーん、土岐さんは到着したよ」 と、なんとも気の抜けた報告をいれる。 彼女の前のモニターに苦虫を噛み潰したような顔の幼馴染が現れたのは、まぁ当然の流れであった。 「俺の機体の通信符丁は『太刀風』だと言ったろうが!」 「えー、鷹くんは鷹くんだよ」 「取り決めなの!通信記録が残ってるの!後で聞く人がいるかも知れないのっ!!」 「ふぅんだ、わたしはただの大学生ですー。鷹くんみたいに自衛隊から出戻りになった訳じゃないもん。 小難しいことはわかりませーん」 当事者同士にしか判らない痛いところを突かれ、鷹介は言葉に詰まる。 「お、お前、まだ根に持ってるのか?」 「…太刀風、通信は記録されているのでは?」 「うぐぁ…」 透は直ぐに事務口調に戻ったもので、鷹介は変な唸り声を上げるしかなかった。 総じて透は抜けた口調から『頭が残念な子』に思われがちだが、彼女の後ろに陣取る『宇宙に冠たる変人』の愛弟子であるからして、生半な秀才では勤まらない。 おそらく脳味噌の変わりに高性能な餡子が入っているのだろう。彼女のことを昔から知る鷹介には、そう思えてならない。ただ気掛かりなのは、彼女は国文寄りの歴史を学んでいた筈なのだが、何故に大江戸博士の研究室の扉を叩いたのかだった。 超考古学。だいたい学会では閉会1時間前にピストン発表されるイカモノの類である。 どうしてこうなった。 鷹介は自分の身の上に微かな後悔を感じつつ、F-15もどきである『太刀風』を青森の上空に進出させた。 アフバルト・シュバウツァーは今回は警告無しに行動していた。 ダイガストは紛れもなくツルギスタンの覇道に立ち塞がる敵である。過去の武人達の逸話のように、鉾を交えていない時なら友人の様に振舞う、そんな真似は出来そうに無かった。 ブレーディアンを先頭に立たせ、儀仗兵を二列縦隊にして後に従わせる。 モニター上のダイガストは既にあの巨砲を腰だめに構え、戦闘準備を整えていた。例によって砲口は真円を描き、水平射で直撃を狙っている。 モニター上のインフォメーションが、攻勢開始までの時間をカウントダウンしていた。多数の棒線で構成された彼らの数字は、どの文明でも同じなのだろう、時間経過と共にどんどんシンプルに変わってゆく。 すなわち、1に、0に。 「鷹介、『46センチ ヤマト砲』の照準、完了だ」 頭上からの虎二郎の報告を聞きつつ、鷹介はそれぞれの手に握ったサイドスティックを柔らかく握り直す。 本来なら弾道軌道で――飛ばすだけなら――40000メーターを飛翔する筈の砲弾を、精々2000メーターで直射するのだから、照準なんて有って無きが如しだ。 地球人類史上最大の艦載砲が何ゆえダイガストの携行火器となっているのか、それはいずれ語られる時も来るだろう。それよりも今は1,4トンの金属塊を、何として音速の2倍で異星人の侵略軍にお見舞いするか、これに尽きた。 何しろ今回は陸自のコブラが周囲を旋回している。 彼らには彼らの役目が有るのだろうが、しかし砲の発射時に生じる衝撃波に巻き込んでしまったら、回転翼機など一溜まりも無く弾き飛ばしてしまう。 悪いことに、自衛隊との協調は執られていなかった。 それは面子とかの生臭い話より、むしろ東三佐が指摘したような、極めて現実的な不具合だった。 ダイガストの性能諸元は当然不明のままであり、通信帯も判らないので通話手段が無い。 そもそも陸上自衛隊には異星人との交戦ドクトリンが無い。…ある訳が無いのだが。原則論の無い状態で協力のみを現場に求めるのは酷だ。 自衛隊側の法整備の不備にも問題があった。 日本国自衛隊の軍法や交戦規定に値するものは、警察予備隊の時分から曖昧なままである。戦場で彼らを守り、律するのは、あくまで日本国憲法であり、罰するのは警察である。自衛隊法では義務と責任を行使する機会が不明瞭であり、その名誉を保障するには余りに心許無い。極端な話ここで戦死したとて、白木の箱に収めて国旗に包み、その死が無駄でないことを国民に周知してくれるのかも定かでない。 その上で、誰がこれ以上の面倒と責任を請け負うのか? 青森平野に集まった自衛隊員達が、ダイガストの巨体をまるで他人事のように見上げていたとて、誰が責める事が出来ようか? そして当事者達に意思の疎通が無かったとて、侵略者達の茶番劇は放送時間通りにやってくる。 まるでスポーツの試合開始のように、戦闘開始を告げるサイレンが青森の空に響きわったった。 東三佐は戦闘開始と同時にヘッドセットのマイクにむかって声を張り上げた。 「前進用意、前へ!」 そして逡巡の後、全車に私用通信である一言を付け加えた。 「プロの仕事を、アマチュアに見せてやれ!」 十数両――中隊規模――の臨時編成された90式戦車達が一斉に黒煙をあげて前進を開始する。射撃指揮装置はいかなる戦車の機動でも、120mm滑腔砲の筒先を侵略者たちに据え付け、微動だにしない。 頭上にコブラを伴って進撃する90式戦車の姿は勇壮であり、時と場所が違えば自衛隊の広報映像であると勘違いしそうになる。 彼らの向かう先に広がる驚天動地の光景が無ければ、だ。 迫り来る剣を逆さにしたような化け物と、その後ろに連なる、槍を構えた首の無い西洋鎧をディフォルメさせたような巨人たち。そして化物の行進に立ち塞がる、スーパーロボットととしか言い表せない何か。 ああ、ああいうのに乗ってないと、ここにいてはいけないんじゃあ… 少なくない何人かが、漠然とそう感じていた。 と、唐突に彼らを現実に引き戻す、凄まじい号砲が響き渡る。 ダイガストが抱えた巨砲を発砲したのだ。通常装薬量、実に360kgが瞬時に燃焼し、砲口からこの世に煉獄の光景が生み出されるや、1,4トンの砲弾が音の壁を突き破り吐き出される。発砲の衝撃は大気を揺らし、分厚い空気の波となって90式戦車を叩くや、コブラのパイロット達を慌てさせるほどの気流の乱れを作り出した。 自衛隊員達が驚愕するのと同じころ、アフバルトもまた46センチの洗礼を受けていた。 砲弾とは装甲に対し垂直に突き立つ時に最大の効果を発揮する。数千メーターを弧を描いて飛来し、哀れな標的の直上に降り注ぐのが理想的な砲撃である。が、帝政ツルギスタンとの限定戦争に関しては、砲戦距離という言葉が意味を成さない距離で戦闘が開始される。 結果、砲弾は戦車砲のように水平に飛来し、装甲に対して垂直に食い込んでゆく。弾道軌道を描かないため位置エネルギーによる加速が無く、破壊力は理論値よりも低くなるが、まぁ1,4トンをぶつけられてもビクともしない質量塊というのにブレーディアンは含まれない。 砲弾は修理とともに増設したはずの複合装甲が、形成炸薬効果を減衰する前に物理的にそれを破壊し、機体表面に存在する限定的な慣性制御の力場を瞬時に飽和させ、ツルギスタンが誇る特殊鋼の装甲を直接食い破り、その内部で弾殻が爆発するや、モンロー/ノイマン効果に従い高温高圧の金属粒子を機体内部へと押し込んでゆく。 瞬時に機体表面は爆発で引き千切られた増加装甲でささくれ立ち、右肩辺りに引き裂いた粘土の様な破孔が開いていた。 機体の損壊にアフバルトはしかし凄絶な笑みを見せ、破孔の向こうに後ろの光景が見える事に虎二郎は舌打ちする。 「破孔が思ったより広がらない…バリアか!?ダメージを局限されてるぞ!」 「第二射、いきます」 鷹介は効果を気にせずにトリガーボタンを親指で押し込む。 ツルギスタンの兵器にも人間が搭乗している。その上で砲火に身を晒しての、無策な突撃などする訳がない。彼らは政治将校に見張られた共産国の軍人と言うわけでもあるまい。ならば考える頭を持っている。その突撃には意味がある。 さし当たっては、このままなら済し崩しに六対一の乱戦に巻き込まれてしまうだろう。 視界を朱に染める発砲炎の中、鷹介はいまだ突撃を続けるツルギスタン軍に、尻の座りが悪くなるような不安を感じていた。 第二射も過たずブレーディアンを打ち据え、その装甲を食い破った。下半身にあたる剣の刃のような部分が石榴のように裂けて黒煙と破片が噴出する。 が、行軍速度は衰えない。 46センチ砲弾という規格外の巨弾の再装填には時間を要する。機動戦には甚だ不向きだ。鷹介は次弾装填の時間は無いと判断し、ダイガストに46センチ砲を投げ捨てさせる。 既に敵は指呼の距離に接近していた。 「鷹介!ミサイルならまだ間に合う!」 虎二郎が悲鳴じみた声をあげる。 鷹介としては取り合っている暇がない。とっさに昔の癖が出た。 「ユーハブ!(この場合の意訳:任せた)」 「あ、アイハブ!?」 よくもまぁ母国語でないのに土壇場で出てくるもんだと、虎二郎は妙なことに関心しながらコンソールパネルから火器管制に直接指示を送る。その間にもダイガストは拳を固めて踏み出していた。 僅かな助走距離からGを感じるほどの加速に移ると同時に、ダイガストの後方の空間に波紋のような揺らぎが現れ、そこから4発のミサイルが飛び出した。 「次元背嚢(はいのう)転張終了、99式誘導弾/改を4発発射、目標は先頭のブレーディアン、残弾ナシ」 「了解、格闘戦に入ります」 二人は淡々と受け答えを続けながら、増大した相対速度の中を一気にツルギスタンの軍勢へと突っ込んでゆく。 突進の力をそのままに、繰り出した右の拳ごと、矢のようになって突き込む。同時に99式誘導弾/改――空自の標準装備のバンカーバスター仕様――がブレーディアンに殺到した。 連続して黒煙を伴う爆発が起こり、止めにダイガストの拳が唸りを上げて飛んでくる。 『わざわざ突撃を受け止める必要なんて無い。こっちから鼻っ面に一撃くれて衝力を砕いてやる』 鷹介の思惑を知ってか、ここで初めてアフバルトが動いた。こちらも突撃の速力そのままに、剣となった腕を袈裟懸けに振りおろす。 ぶつかり合った両者の得物が金属の火花を上げて弾き飛ばされた。互いの上体が反発力で仰け反り、その動きが瞬時、止まる。 直後、アフバルトの宣言が外部スピーカーからほとばしった。 「勝ったぞ!」 その言葉を待っていたように、儀仗兵が全速力でダイガストの両脇を素通りする。 「し、しまったぁぁああぁあぁぁああぁあぁああぁぁああああぁあぁあぁ!!」 大江戸博士の絶叫がコンソールのモニターから轟く。その余りの驚きように虎二郎が目を白黒させるほどだった。 「は、博士?」 「奴等の狙いはダイガストの撃破じゃない!戦線の突破だ!! ツルギスタンとの戦時協定では敵戦線を2キロ越えれば、攻撃側の勝利とある!!」 聞いてないよ、とか使い古しのギャグを言いたくなるのをグッと堪え、鷹介は直ぐに左手の操縦桿のトリガーボタンを押し込む。 左腕がブラストマグナムとして発射され、遠ざかりつつあった儀仗兵の最後尾の一機の背をまともにブチ抜いた。 右腕のみと思っていた射出拳が左腕にも装備されていたことにアフバルトは少なからぬ驚きを覚えたが、その拳が左肘に帰還する前にブレーディアンの腕の刃で叩き落す。 「再装填なぞさせん!」 重々しい音をさせてダイガストの左腕が土にめり込む。不首尾に大江戸博士のヤジが飛んだ。 「早く拾わんか!!ヤマト砲を構えろ!雑魚を撃ち漏らすな!!何のために飛び道具を用意したと思っとる!!」 しかし鷹介は対峙したブレーディアンとの決闘にまんじりとも動けず、虎二郎も大立ち回りを控えたダイガストの出力調整に神経を尖らせている。 地球人類が手にした暴力の中で間違いなく過去最高であるダイガストを操るには、大人二人でも手一杯であった。…それでも大鳳からの通信のボリュームを下げたのは二人同時であったが。 張り詰める緊張の中、ダイガストの右足が土に深く沈みこむ。 出る、そう思わせた瞬間に鷹介はバーニアのスロットルをメカニカルロックまで押し込み、ダイガストの巨体を全速で飛び退らせた。 フェイントに、しかしアフバルトは引っかからない。すぐさま突っ込んで、ダイガストに追いすがる。いや、フェイントで有ろうと無かろうと関係ないのだ。 今日の彼の役目は、ダイガストの足止めに他ならなかった。 復仇と、任務のために、ただ雄々しく戦い続ければよい。これほど楽なことは無い。何しろ彼は勇猛果敢であれと薫陶行き届いた、ツルギスタンの模範的貴族仕官であるのだから。 ブレーディアンの両腕が竜巻のように絶え間なく襲い来る。 ダイガストは右腕一本で刃を打ち払い、いなし、徐々に後退してゆく。それは落着した左腕との距離が開いてゆくことも意味する。拳に展開したフィールドが斬撃の負荷に光の飛沫となって飛び散り、右腕の装甲が火花をあげた。 「土岐さん、30mmレールガン、預けた!」 「諒解!」 寸刻みに戦力を削がれてゆくなか、虎二郎の照準でダイガストの胸部から電磁パルスを伴う弾丸が射出される。しかし46センチ砲弾ですら止まらないブレーディアンの巨体には足止めにもならなかった。 手数が足りない。鷹介はこの闘いに没入せざるを得ない状況に陥っていた。 それは同時に彼らの後方で行われる戦いが、過酷なものになることを物語っていた。 一機減って四機となった儀仗兵ランツェは、それでも見事な動きで横隊に移行し、陸上自衛隊へと突進を開始した。 土煙を上げて迫りくる巨人の集団。殆どの隊員達が頼りにしていたであろうダイガストは、敵の主力に吸引されていた。東三佐の脳裏に過去二度の戦いの悪夢が蘇る。 彼らの頭上で風を巻いてAH-1コブラが進出した。 「目標、前方の『槍持ち』…発射よーい…発射」 相対距離の関係で直ぐに射点に達したコブラ達は、機体の左右に吊り下げたTOW(対戦車ミサイル)を次々と発射した。 多数の白煙を引いて有線式のミサイルが飛翔する。前回のダイガストのミサイルによる儀仗兵各坐の戦訓から、目標は脚部と定まっていた。 低空でホバリングしながらミサイルの照準を続けるコブラに、儀仗兵の胴体から赤色の可視光線が延びたのはこの時だった。横薙ぎに振るわれたのはレーザーであり、まるで据え物斬りの様にコブラが溶断されていった。 TOWは着弾まで照準を続けねばならない、誘導兵器としては些か旧式の部類だ。当てようとするなら、大きな回避行動はとれない。 誰もがその危険性を理解していた筈である。しかし、結局、義務は履行され、コブラの搭乗員達は次々に『英雄』に散華してゆく。 ほんの何発かが儀仗兵の膝頭に突入したが、黒煙の後に現れたのは先んじて砕けた増加装甲だった。 「『槍持ち』は足に装甲を付けている!装甲の破壊を確認したのは、1番と4番!繰り返す!!1番と4ば…」 通信がノイズに変わる。 最後のコブラが火達磨になると、力を失ったローターの回転に引きずられ、くるくる回りながら大地に還っていった。 くそっ! 東は心中で舌打ちすると、彼らが命に変えて伝えてきた事をヘッドセットのマイクへと叫んだ。 「一小隊は『槍持ち』1番に、二小隊は4番、三小隊は2番、ついで3番の装甲を狙え!!」 東が直接率いる4台の90式戦車は儀仗兵の進路に直角に侵入し、 「小隊、『槍持ち』1番、徹甲、班集中、撃(て)ッ!!」 俗に殺人ブレーキと呼ばれる90式戦車自慢の急停車を見せるや、直後に4台が殆ど同時に44口径120mm滑腔砲を発射する。体感的には音も振動もただの一度きり。そして発砲炎を引き裂いてAPFSDS(Armor Piercing Fin Stabilized Discarding Sabot)が飛び出した。 タングステン製の矢のようなこの徹甲弾は、儀仗兵の膝頭に触れるや、速度でもって自身の形状を変形させながら、装甲の奥深くへと穿孔してゆく。異星の科学技術で作られた脚部は地球人の第4世代戦車の正面装甲より厚く、タングステンの浸透体は次々に装甲の半ばで質量の全てを変形し尽くし、運動エネルギー弾としての役目を終えてゆく。 しかし、誰の放った弾か、その一発だけはTOWが作り出した装甲の歪みの、ほんの僅かな凹みに浸透し、最後の数ミリを残った運動エネルギーとともに間接部の機械部品へと解き放った。 突如として儀仗兵の一体が片膝を着き、大地の上に身を投げ出すように転がった。 各車から歓声があがる。 が、それも直ぐに爆発音に掻き消された。 奇跡はそこまでだった。彼ら以外の小隊は儀仗兵の脚部装甲を貫徹できず、あるいは命中弾を得られずに、反撃…いや、駆逐の憂き目にあっていた。 破壊する筈だったロボットの足でもって蹴たぐられれば、質量差から簡単に複合装甲はひしゃげ、あるいは裂ける。そこに偏光器から照射される赤色破壊光線がものの数秒降り注いだら、あとは弾薬庫の砲弾が自分達ごと車体を誘爆させる。爆発音の正体はそれだ。 東はもはやどれだけ残っているかも判らない戦車中隊に指示を飛ばす。 「全車、『槍持ち』4番に集中…」 彼は最後まで命令を口にする事が出来なかった。 凄まじい衝撃に車体が浮くような奇妙な感覚を味わい、彼の意識は途切れていた。 各坐したはずの儀仗兵が寝転びながらに振り回した槍が、車体を吹き飛ばしていたのだ。 ハンス・グラーフ・ルドガーハウゼン大剣卿は執務室の豪奢なデスクでGBCの戦闘中継を視聴していた。 殖民惑星から取り寄せた巨木――原住民が信仰の対称にしていたらしい――から切り出した一枚物のデスクの上では、中空へと実体のないモニターが映像を投影している。 リポーターはツルギスタンの日本の防衛陣地突破による勝利を伝えていた。また、火中のダイガストとブレーディアンの『引き分け』を名勝負と褒めちぎり、しきりにゲストの巨乳タレントが黄色い声をあげている。 アフバルト・シュバウツァー発案による戦線突破案。消極的に過ぎると一部の幕僚から非難があがったものだが、最終的に妥当としたのはルドガーハウゼンだった。 GBCも盛り上げるのに必死であり、作戦は概ね『速攻』として報じられている。 まずは汚名返上。 ルドガーハウゼンは椅子に深く背をもたれると、安堵に小さな溜息をついた。 いずれはダイガストを撃破せねばならない。が、勝ってなんぼの銀河列強。今回の件もツルギスタンやその他の銀河帝国文明圏の臣民・市民達は、演出された苦戦と捉えているに違いない。 対策はその間に立てねばならない。誰しもに、本当の苦戦と気付かれるまでに。 と、鬱々として愉しまないルドガーハウゼンの元を、緊張した面持ちの幕僚が訪ねてきた。彼は北海道支配に関する進捗データを入力した端末――まさに色付きの半透明下敷き――を手渡すと、落ち着かない様子で上官の閲覧する様子を見守っている。 「ん?」 はたしてルドガーハウゼンは膨大な数値が入力された表の中に、気になるものを発見する。 「通貨の交換率が芳しくないな。情報の周知は徹底したのかね?」 「はっ。ホッカイドウ住民にはツルギスタンへの編入と、それに伴う『エン』の価値の消失を説明しております。 放送は一日に朝、昼、晩と三度。既に一週間に渡って告知を続けています」 「…ふむ、ではそれ以外に不備があった?」 「各市役所に充分なスタッフを派遣し『エン』と『ツルギスマルク』の交換を行っています。 交換レートは未開惑星格付けに照らし合わせ、10:1で」 「交換比率が彼らに受け入れなかったのか?」 「いえ…無いのです」 幕僚は実に控えめに答えた。 「何が、かね?」 ルドガーハウゼンは悪い予感を覚えていた。 「『エン』が、です。我々の『ツルギスマルク』と交換するための種銭が。 銀行や証券会社にも調べに入りましたが…日本国総理大臣の命令により、取引が凍結、 あるいはニホン本土に引き上げられた後でした」 音高く席を立ち、ルドガーハウゼンは驚きに戦慄いた。幕僚は続けた。彼自身、その事を信じられないのだが、言うだけだから苦労は要らない。 「大手金融機関ほど徹底して通貨と証券が引き上げられています。ご報告した通貨交換の数値は、 つまりは民衆のポケットマネーです。 麻痺した市場にはなけなしの『ツルギスマルク』を握った民衆が溢れていますが、 通貨量が圧倒的に足らず市場経済が成り立ちません。 現地通貨との交換を基本とした植民地市場計画は…破綻します」 「すぐに経済スタッフに市場復興に必要な金額を試算させろ! 配給計画の終了は当分先送りに。それと、GBCには絶対にスッパ抜かれるな!!全宇宙の笑いものになるぞ!」 幕僚は復唱の後、敬礼をすると、慌ただしく司令官の執務室から出て行った。 残されたルドガーハウゼンは喉の奥から搾り出すような怨嗟の声をあげるのだった。 「おのれクニバミチアキィィィッ!!」 敵はダイガストだけでは無かった。 まさに、ルドガーハウゼンにとって、最強の敵とは。 頭の中で割れ鐘が響いているようだった。 不快な鈍痛に耐えながら東三佐は、ようやっとガンナーシートから引きずり出した砲手を地面に寝かせた。 操縦手席には何かがブチ当たり、血の泥濘と化していた。そこにいた操縦手の痕跡は、たった一つの色のみ。 「…東三佐」 血の気の失せた顔で砲手は口を開いた。顔にあるべき色は、こちらは腹部に大量に移っていた。 「負けっちまいましたねぇ…」 「喋るな。すぐに回収班が来る」 東は自分がどんな顔をしているか判らなかった。ただ、無性に目頭が熱かった。たぶん、しこたまヘルメット越しに頭をぶつけたからだ、そうに違いない。 砲手はチラリと頭上を見上げる。 地響きをさせてダイガストが歩いていた。時折しゃがみ込んで、ひっくり返った90式戦車を起こし、ひしゃげた車体を指で器用に戻して回っている。 「あ~あ、不甲斐無いとか思われてるかなぁ…」 「そんな事は無い!誰にも言わせない!!」 東は砲手の手を握り、焦点を失いつつある部下の瞳に語りかける。 「俺たちは『槍持ち』を1機各坐させたろ。戦えるんだ、まだ、俺たちは!」 それは自分に言い聞かせているようなものだった。 「敵1両撃破だぞっ!俺が考課表に書いておいてやるからな!昇進も早まるぞ!!だから寝るなっ!まだ寝るな!!」 砲手は何時の間にか事切れていた。その顔に浮かんだ力ない笑みは、成し遂げた事への満足だったのか、東への同情だったのか。 東は慟哭した。 暗い表情で絶望的な救出活動を続ける鷹介は、ふと、誰かの泣き声を聞いたような気がした。 蹂躙された戦車とヘリを見るに、肉体を失った誰かの声が聞こえてもおかしくない状況だった。 ダイガストの損害は軽微だ。研究所に戻り、大江戸博士に嫌味を言われて、腕の装甲板を取り替えれば、戦力を取り戻すだろう。 しかし限定攻勢の結果は日本の敗北。ことに、ここまで生き残ってきた将兵の損失が痛い。 装備はまた作れば良い。しかし経験は直ぐには準備できない。ミッドウェーの大敗で、独ソ戦の泥沼で、枢軸軍が数値化できない貴重な戦力を失っていったように。 もっと上手く立ち回れなかったのか。 それは鷹介と虎二郎の心の奥に凝る、遣り切れない何かだった。 同じ頃、回収艇で帰還するツルギスタン将兵の中、アフバルトも煮え切らない感情を抱いていた。 決定的な破局はないが、決定的な勝利もない。僅かな時間斬り結び、ルールに則って勝利を得る。 おかしな事は何も無い。これが銀河帝国に属した人々が、長年にわたる不毛な小競り合いの後に見出した、文明人に相応しい闘争の形なのだ。 それでは自分の中に渦巻くわだかまりは何なのか。 アフバルト・シュバウツァーは、その理由を追求するのを無理に止めた。 青森平野を夕日が照らす。 大地が吸った幾多の血潮を映したようなその色は、やがて来るであろう北海道と同じ混乱を予感させた。 兵の血の色か、民を焼く火の色か。 しかし、安易に流血を否定するのなら、より過酷な現実が突きつけられる事となる。 ただ家畜であるべし、と。 次回予告 ツルギスタンの進駐に混乱を極める青森で、 広域指定銀河暴力団『モンタルチーノ商会』が跳梁跋扈を始めた。 水に落ちた犬を棒で突くような下種に、鷹介とアフバルトは図らずも怒りを共有する。 次回、地球防衛戦線ダイガスト 第4話 『誰がために『金』は成る』 この国を好きではいけないのですか?
https://w.atwiki.jp/moondream/pages/22.html
俺たちが戦士になろうと思ったのは3年前のある出来事だった それまで戦士に無ろうなどと蚊程も考えていなかった 俺らは三人ではなく四人だった、奴の名は・・・・・月 俺らはまあまあ幸せだった、それを奪ったのはとある戦士だった ある日その戦士が襲ってきて月が俺らのおとりになって、そのまま奴は去って行ったのだ 奴は植物状態のまま今もアブレイス国立病院に入院していた 俺たち三人は戦士になり、そいつを生き返らせることを誓ったのだ・・・・ 玲「おい、武、起きろ、敵襲だ」 武「ん?」 智「ん?じゃないよ全く、敵は5人いる、炎使いが3人、剣士が1人、狙撃手が1人だ」 玲「俺らがかなう相手じゃない」 武「あぁそうか、なら逃げるか?」 智「いや、それだけは俺らはしちゃいけない」 武「なら答えは一つだ」 クリー「この辺に人影がなかったか?ドン」 ドン「あぁ、そこの洞窟が怪しい、狙ってみる」 パン 玲「危ねぇ、あっちは気づいているな」 智「じゃあ玲、行ってこいよ」 玲「あぁ、二刀流その1・・・・・」 切! クリー「うわーーーーー」 ドン「ち、クリー」 玲「炎上二刀流その1・・・・・・」 斬! ドン「うわーーー」 智「すごいなぁ、やっぱり青は、さすがだ」 玲「あぁ、体力的にちょっとしんどいな・・・・・」 武「大丈夫か?でも5人中2人倒したぞ」 智「油断するなよ、あと炎使いが3人なんだ」 武「炎を使わなくてもコンビネーション使えば何とかなるんじゃないか?」 玲「じゃあやるか・・・・・」 オム「2人から連絡がないな・・・・・」 ワイム「あぁ、どうしたんだろうか・・・・」 玲「二刀流その2」 武「拳法第二条」 時雨×拳乱・・・・・時乱! 智「うまくいったな・・・全員倒せた」 武「ナイス指示だったぜ、ばっちりだ」 玲「早いところ炎をものにしないと・・・Gランク戦士だったから勝てたものの・・・」 戦士にも技量というものがある 強ければ強いほどAに近くなる、HランクからAランク、S、☆ランクがある 智「あぁ、炎強化プログラムというのを見つけた、早速やってみよう」 玲「なんだ?どういう?」 智「うん、ただただ炎を出し続けるのみ」 武「へ?何とシンプルな・・・・・」 智「一人がそれを頑張って後二人が見張りかな」 武「なぁ玲」 玲「なんだよ?」 武「大丈夫なのかよ」 玲「何が?」 武「このフォーメーションだよ、戦略家不在で大丈夫なのかよ」 玲「大丈夫じゃないけどそれでも強くなる方がいいとうちの戦略家が言っているんだから間違いないだろ、お前だって15年見てきただろ」 武「まあそうだけどよぉ・・・・‼?」 玲「まあ、各々行くか」 武「拳法第三条・・・・・・・」 蹴! 玲「二刀流その3・・・・・・・」 矢武雨! 智「やってるね」 玲「ああ、よかったな、Gランク賞金稼ぎで」 武「だな、E以上なら確実に死んでいたな」
https://w.atwiki.jp/roseofmay/pages/19.html
姉ちゃんが教卓にたどり着く。 「はい、みんな席着いてー!ほら鉄槌カード仕舞いなさい!」 「うー…」 「後てぃるてぃる先生は自分のクラスに帰ってください」 「……みなちんまたあとで」 「二度と来んなし!」 再びざわめき立ち、あるべき形へと教室の中が修正されて行く。 机の上は片付けられ、己が席に戻って行く。 その中でも俺への注目は失われない。 口々に「あれが姉御の弟かー」「うほっ…いい男…」との感想が聞こえる。 …後者は聞こえなかったことにしたかったけど。 仮り染めの沈黙が教室を支配したところで、真の主たる姉ちゃんが口を開いた。 「はい、それじゃあ委員長号令ー」 「起立!気をつけ!」 委員長、と呼ばれた少年が高らかに叫ぶ。 セオリー通りならこの後礼がかかるはずだ。 俺も頭を下げるべきかな、と思案していたら。 「バトルドーム!」 え。 「ボールを相手のゴールにシュゥゥゥーッ!!」 な… 「「「超!エキサイティン!」」」 「3Dアクションゲーム!バトルドーム!」 これは…バトルドームのCM!? このシンクロ率はいったいなんなんだ…っていうかこんな馬鹿げた号令をさせる教師なんて… 「ツクダオリジナルから!」 …姉ちゃんなら、有り得た。 そういえば、この掛け合いの時必ず姉ちゃんが「ツクダオリジナルから!」を担当してたんだよな。 それで、俺が… 「ドラえもん バトルドームも出たぁ!」 「…!」 「…!!」 …あ。 …やってしまった。 つい昔の癖で二の句を継いでしまった…思わず口をつぐんでももう遅い…。 初日からいきなりやらかしてしまうなんて、今日は厄日ではなかろうか。 恥辱に朱く染まる俺を迎えたのは嘲笑の声ではなくて、 「…やるネェ」 「流石姉御の弟ですね!」 「俺の台詞とんなよ転入生っ」 「ねうろん乙!」 賛美の声だった。 …どういうことなんだ? 予想外の展開に頭が回らない中、姉ちゃんが柏手と共に収拾を試みた。 「はいはい、みんな静かにー!転入生を紹介するよー!」 三度静寂。 姉ちゃんが振り返り、黒板に俺の名前を書いていく。 べぇず、と。 …。 ………それ、あだ名じゃないか…。 「今日から皆とエキサイティンするべぇず君です。ほら、けーちゃん挨拶して」 姉ちゃんに促されたので、渋々、いや、姉ちゃんの手前故にしっかりと挨拶をしよう…そう思った。 「えと…べぇずです。よろしくお願いします」 頭を下げる。 「よろしくー!」 「よろしゅうなぁー!」 故に、歓迎の証を聴覚のみで受け取る。 顔が見たくないわけじゃなかった。 それでも、この声に嘘は無いと信じられた。 姉ちゃん、言ってたもんな。 バトルドーム好きな人に悪い人はいないって。 「それじゃあ席は…先生の隣にする?」 それは遠慮したい。 「冗談冗談。ねうろんの隣が空いてるからそこに座ってー」 台詞を取られた、と嘆いた少年の隣の空席へ俺をシュゥゥゥーッ!!する……聞かなかったことにしてくれ。 たどり着くと、ねうろん、と呼ばれた彼は快く俺を迎えてくれた。 「俺はneuron。よろしくな、べぇず」 「あ、ああ、よろしく」 いきなり同じ目線で話し掛けられてどぎまぎしたが、なんとか相応の返答をすることができた。 こいつとなら友達になれるかもしれない。直感的にそう思った。 「にしてもたまげたなぁ…ドラえもんは俺の専売だったのに」 「あ、ごめん…」 「謝るなよ。あれは一つの競争なんだからさ」 明日は負けないぜ、とねうろんは笑った。 マツジュンに似てるなぁ、と思った。 「出席とるよー。あおあおー」 「こんばっぱー」 「あややー」 「今水やりしてまーす」 「あいよー…単位相殺っと…紅蓮ー」 「おめでとう」 「じょんじょーん」 「はぁい」 「真剣ー」 「欠席でーす」 「TDNー」 「Fuck you」 「ちゅるやーん」 「( ^ω^)」 「ちてっつーい」 「うー…ち?」 「ねうろーん」 「何がクニだよ!」 「べぇずー」 …普通に返事すべきか、これ。 「はい」 「べぇずー」 …あれ、やり直し? 姉ちゃんがこっちを見てる。…そういえば朝、挨拶はこうしろって…。 …言えと申しますか。 言えと申しますか、姉ちゃん。 「べぇずー?休みー?」 「…姉ちゃんは俺の嫁」 「ワンモアセッ!」 「姉ちゃんは俺の嫁!」 「ヒャッハー!…いるならちゃんと返事しなさい」 「…すみません」 羞恥心は誰にでもあると思う。実際、俺にはある。さっきも感じたし、今この時も身を捩りたいほど実感してる。 唯悲しいかな…姉ちゃんにはそんなものは備わっていないのだった。 「みなつーん」 「ぅい!」 「レイレイー」 「それロン!」 「れいじー」 「hじゃろー」 「うん、あややと真剣以外は全員いるね!」 「姉御ー、ゆて吉忘れてるお」 「え?ゆてぃってこのクラスだったっけ?」 「…なんで僕ばっかり…」 「ゆてぃいたんだ」 「くーさん…目の前の生徒に向かってそれはひどいです…」 …正直、俺さえも存在に気づけなかった。 「ま、それはそれとして。一時間目は伊吹先生だからみんな授業に遅れて行くように。HRおわりっ!」 「「エキサイティン!」」 掛け声と共に、この場はお開きになった。 当然のようにゆてぃと呼ばれた彼は出欠を取られることはなかった。彼なら仕方ない。なんとなくそう思えた。 前の学校では着替えは部室等か教室で行っていたが、この学校も例に漏れぬようで、うら若き肉体を白日の下に晒してる男子が数多く見られた。 …断っておくが俺はゲイではない。 姉ちゃんに渡されたサブバックから中身を取り出す。新品の体操服に着替えると、制服とは違う開放感が心地よかった。 同じくねうろんが着替え終わるのを待っていると、他の生徒がデッキケースをポケットに下げ教室から出て行くのが見受けられた。 「…なぁ、ねうろん」 「ん?」 「次体育なのに…デッキ持ってくのか?」 「何言ってんだべぇず、デュエリストたるものいつでも決闘に応じられる姿勢でいるのは当然じゃないか」 …当然、と言われた。 姉ちゃんから「遊戯王ありきの学校」と聞かされていたが、…軽くカルチャーショックを受けた。 全く、変な学校だなと思う。 変な学校、だけれど。 「ねうろんはどんなデッキ使ってるんだ?」 「俺か?俺は忍者さ。忍者かっこいいぜ忍者」 「忍者か…手裏剣も入れてる?」 「当然だろ」 こうやって日常的に遊戯王の話が出来るのは楽しいかもしれない。 皆と同じように、俺はポケットにデッキケースを刺してみた。 …動きにくそうだな、と思った。
https://w.atwiki.jp/pokekora/pages/309.html
グラップラー刃牙のあらすじ ジャック・ハンマーは、刃牙の腹違いの兄だった。 本編 メカポケモンと呼ばれる謎の敵との戦いから一夜明け・・・ コウセイたちはアララギ博士の研究所へ呼ばれていた。 イトウ「とりあえず、メカポケモンについて、私が知っていることはそれだけです」 コウセイ「いやいや、身体がメカで出来てるってことは、誰でも見りゃ分かるでしょ!?」 アララギ「とにかく、今はどうともいえないわね。」 コウセイ「アララギ博士・・・いたんだ・・・」 アララギ「失礼ね!ちゃんと昨日のバトルも見てたんだから!」 チェレン「そういえば、あのメカポケモンの左胸部に刻印されていたロゴ・・・ あれって、プラズマ団のマークじゃなかった?」 コウセイ「よく覚えてるなぁ、くだらないことを」 チェレン「コウセイはいつか殺す」 ベル「プラズマ団って何?大槻教授の?」 イトウ「はい」 アララギ「とにかく、今はプラズマ団が厄介なことをたくらんでるかもしれないってことか・・・ ベル、チェレンにもこの二匹のポケモンを与えるわ! それで、プラズマ団の実態を暴いて頂戴!」 チェレン「そんなやぶから棒に・・・」 ポカブ「感謝しろよ少年」 ベル「わーい、タマラッコだ!!」 ミジュマル「えっ えっ」 イトウ「あ、あの・・・私は?」 アララギ「あっ」 ~カノコタウン コウセイ「名前をつけろって言われたってなぁ・・・ じゃあ、ムスカにするか」 ツタージャ「いや・・・いやいやいや!! やめろおおおおお!!!」 コウセイ「あ、間違えた」 ツタージャ→ムスコ「何なんだよこの羞恥プレイは!!」 イトウ「とりあえず、ポケモンにニックネームをつけると愛着沸きますからね ねっ、ピィちゃん」 ピッピ「ギエピー!!」 ~10分前 チェレン「よし、それなら、俺たち3人は別々に行動して、誰が一番最初にプラズマ団の陰謀を暴けるか勝負だ!」 コウセイ「え~、いいよめんどい・・・」 ベル「あたしも、みんな一緒に旅するのがいいなぁ」 イトウ「わ、私の分は!?」 チェレン「うるさい! とにかく、決定事項だ! イトウは好きに行動すればいいと思うよ」 コウセイ「お前のそういうとこ嫌い」 ベル「なんだかなぁ~」 イトウ「わわ、私の分・・・・」 ~カノコタウン ムスコ「で、まぁ、イトウは俺たちについてくることになったと」 コウセイ「そうみたいね」 イトウ「はい」 ムスコ「(だいぶ、都合がよくなってきたな だが、プラズマ団・・・多分、あいつらがカナの命を狙ってくるはず) とにかくコウセイ! 崎へ進むぞ!」 コウセイ「仕切るなよ!!」 続く おまけ マキ「途中でめんどくさくなったんですね」 ツバサ「まぁ、説明はよだいから脳内保管してくれ」
https://w.atwiki.jp/aria_matome/pages/63.html
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3836.html
ドクターウェストは世間でいう所謂天才という奴に分類されるが、その卓越の頭脳と才能をブッ千切る変態度数と脳内にいる妖精さんの他者との圧倒的保有数の差のため、尊敬もされなければ賛同もされていない。 愉快犯に近い彼自身の性質もあいまって、彼によって産み出される発明品の数々は基本的に犯罪じみたものが殆どである。 よってウェストの発明品はウェスト自身意外には限りなく毒にしかならない。 というかウェスト自体が毒であった。 「ちょっとあんた! ご主人様のわたしがせっせと汗水たらして肉体労働にか細い手足を酷使してんのに、使い魔のあんたが床に肘突いて寝そべってるってどういうつもりよ! ちょっとは手伝いなさいよ! その体の筋肉は何の為にあるのよ! 飾り!? 飾りなの!? 飾りなのですかこのバカヤローッ!!」 「やれやれ…… 時に、凡人の粗悪極まりない脳の構造では天才たる者の考えに理解が及ばないというが……所詮貴様もこの事例に該当する由所正しい真の凡人でしかなかったという事だ。 今の我輩の姿勢は体の余分な力を解き放ち、リラックスの後に脳の回転をスムーズにし、更に肉体的疲労も回復しうる思慮深い大天才的思考形態なのである。 つーか、何故に我輩が貴様の尻を拭ってやらねばならぬのだ。 ちり紙くらいならくれてやる温情が我輩にも辛うじてあるので、そーいうことは自分でやれ! である。 あ~~~、バッチイバッチイ!」 「なっ!? それくらい自分でするわよこのバカ! 変態!! わたしが言ってるのはこの部屋の片づけを手伝いなさいってことよ! 手伝わないならせめて立ちなさいよ!」 「ご~~めんなちゃ~~~い。 貴様は我輩の守備範囲を地球からセラエノまでの距離くらい逸脱しているので、我輩の御曹司ちゃんはちっとも起き上がらないのであーる」 「何と勘違いしてんのよ!! ヴァリエール家の三女であるわたしの前でそんな下品極まりない言葉を吐くのは止めなさいよ!!」 「勘違い? 勘違いとな?? ていうか下品??? 貴様の方こそ何と勘違いしているのであるか?」 「何って……」 「さっき我輩が言った言葉に中の何所に下品な言葉が混ざっているであ~るか? もしかしてセラエノ? それとも守備範囲? 我輩、貴様が何を言っているのかさ~~~~っぱり解りましぇ~ん。 出来る事なら後々ために貴様の言う勘違いとやらが何なのか、是非知りたいのですが、教えてくれま~すか~? 主に貴様が下品と認知する言葉の辺りを、より一層事細かく微細零細に到るまで手取り足取りナニ取りドコ取り、この我輩の記憶力抜群の頭脳に刻み込んでもらおうか?」 猥褻物も同然の笑みで、ウェストはルイズに言った。 怒りとも羞恥とも突かない赤みがルイズの顔を被った。 ルイズは両手を握り締めて震えている。喋らない。 「さあさあさあ、どうしたであるか? 何とか言ったらどうであるか? 答えられない訳でもあるであるか? 早く言うである。さもないと掃除が何時まで経っても終わらないであるよ? アーーーーーーーーーヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッ!!」 トチ狂った哄笑を響かせたウェストはシュバッと懐からエレキギターを取り出すと、またもやトチ狂った音を響かせた。 しかも先程使用する機会をタバサに奪われた千手観音フォームを惜しげもなく使い、展開したマジックハンドを遺憾なく発揮して蜘蛛の如く壁に張り付き、天井・床・壁など節操無く縦横無尽に走り回る。 「我輩の股間はマーラ様であ~る! ところで、マーラとモーラって、なんか似てね?」 「あああああああああああああああああああああああっ!! 毒電波撒き散らすのもいい加減にしなさいよね!? わたしはもうSAN値もHPもMPも、そんでもってカルシウムも0よ!! もう手伝わなくていいから大人しくしてて!」 なんでわたしはこんな事をしているのだろう。 深々と溜息を吐く自分自身に、ルイズは哀愁を感じた。 そして自分自身に哀愁を感じたことで鬱になる。 そのことで再び溜息を吐いて、また鬱になる。 悪循環此処に極めり。 「どうしたであるかロリっ娘。元気が無いであるな―――――――ああ、なるほど」 何やら納得したように肯くウェストに、ルイズはまたくだらない事でも考え付いたのだと思った。 そしてその考えは正しくそのとおり。 「スマンが、いくら大天才の我輩でも、生理痛に利く薬は持っていないである」 「違うッ! 生理違うッ! ―――って、あああああんたうら若き乙女の前でななな何言ってんのよ!? もっとオブラートに包みなさい! 露骨なのよ!」 「な~にを恥ずかしがっているであるか。 生理とは切っても切れぬ女子の営み! 女子ならば皆あるのだからして、むしろ恥ずかしがっているほうが見ている側としては恥ずかしいである」 「だから違うって!」 必死に否定するルイズ。 当然ウェストには聞き入れられない。 「もうそれ以上言うなである。貴様がイライラするのも当然のこと。 生理の日の女子どもは皆しかめっ面でインスマス面である。 しかし、我輩は大天才であるが故、薬が無くとも貴様の痛みを和らげる効果があるものを持っている。 だからもう、そのようにイライラしなくても言いのである。 そしてその効果があるものといえば―――――――」 ウェストは地を蹴って飛び上がり、空中で一回転すると煤の付いた教卓の上に降り立ち、エレキギターを掻き鳴らす。 「歌であ――――――――――る!!! レッツ! ロケンロ―――――――――ルッッ!! 日本人はッ♪ 胃腸が弱いッ♪ だけど我輩は鉄を食べてもモウマンタ――――イッ!」 「人の話を聞きなさいってば!! わたしは生理じゃないの!! 生理は来ていないの!!」 勿論ルイズが言っているのは生理が来る周期が来ていない事を言っているのだが。 「?? 生理が来てない? そんな馬鹿な。 いくら貴様の発育が劣悪だとはいえ、生理が無いのなどありえな――――――まっ、まさか!?」 「……なによ」 「貴様、もしかして妊娠を―――」 ルイズは頭の中の何かが千切れる音を聞いた。 それと同時に火山が噴火する時の頂点へ突き抜ける怒濤のエネルギーに等しい激情が小さい身体を貫いた。 意識が白熱し、表情を忘れ、発声も惜しみ、ウェストコロスという極限まで省略されながらも圧倒的物量を持った衝動に付き従い、人生最大の威力を誇るであろう失敗魔法―――セクハラ・インパクトとでも呼称すべき奥義っぽい爆発を叩きつけようとした―――まさにその時! 「ドクター!! それは本当のことかね!?」 完全な不意打ちで叫ばれた言葉にルイズは動きを止めて声のした方を見ると、えらくシリアスを纏ったコルベールが立っていた。 「ミスタ・コルベール、今は取り込み中で―――」 「そうだとも、異世界の科学の徒よ! この小娘は生理が来てないとハッキリと断言した。 つまり、この歳で生理が来ない理由でまず第一に考えるべきは妊娠の可能性である。 やはりピンクは淫乱であーる!」 ズビシッ! とルイズを指して言い切るウェストに、ルイズは杖を振り上げる―――しかし、コルベールに腕を掴まれて再び阻まれる。 「何をしているのだミス・ヴァリエール! さあ、早く保健室へ行くのだ。 両親の方へは私から連絡しておくから、お急ぎなさい!」 「そうであ~る。 今の貴様の身体は、貴様一人のモノではないである。 最近の若者の性の乱れに嘆きつつも、今は新たな生命の誕生に喜ぼうではないか」 「そうだともドクター。 今日はまったくもっておめでたい日だ」 「よぅし! 此処はこの大天才が一肌脱ぐのであ~る。 ロリッ娘、ありがたく思え! 我輩が直々に作詞作曲したおめでたいソングを貴様に今この場でプレゼントしてやるのであーる」 「ならば私は喜びの舞を踊ろうではないか!」 そして鳴り響くユークリッド幾何学を凌駕する何かよく分からない歌と、リンボーダンスとキタキタ的な何かが混ざった狂ったフルートでも聞こえてきそうな踊りが始まった。 その時ルイズは――― 光射す学院に 汝ら阿呆 棲まう場所無し 渇かず飢えず 無に還れ――! ルイズは口訣と共に杖を振り下ろした。 「セクハラ・インパクト!」 そして教室は昇華した。 ―――いや、ちゃんと残ってるよ……瓦礫はな! 「…う~ん…………ん? はて? 何故私はこんな所で寝ているのだ?」 保健室のベッドから起き上がったコルベールは一体何故自分が此処で寝ていたのか思い出せず、首をかしげた。 「ああ、ミスタ・コルベール。お目覚めになられましたか」 聞こえてきた声の方へ目を向けると、保健室を任されているメイジの女性が机から立ち上がってこっちへ来ようとしていた。 仕事の途中だったのか、机には書類と筆記用具が置かれている。 「どこかおかしな所はございませんか?」 「いえいえ、大丈夫ですよ。何も問題はありません。 ただ、何故私が寝ていたのか教えてくれませんか? どうも寝る前の記憶があやふやでハッキリしないんですよ」 「それでしたらミス・ヴァリエールから聞きましたが、どうも支離滅裂……とまではいきませんが、曖昧な部分が多かったので私もハッキリとは分かりません。 まあ推測するに、おおかた彼女の失敗魔法に巻き込まれたと考えるのが妥当でしょう」 「そう言われてみると爆発に巻き込めれたような巻き込まれなかったような…………まあいいでしょう。 とりあえず私は無事ですから」 「それもそうですわね。あの子の失敗は今に始まったことではありませんもの」 「彼女もそれなりに頑張ってはいるんですがねぇ。 ところでミス・ヴァリエールは何と言っていたんです? 一応聞いておきたいのですが」 「えーっとね。確か――― 『ミスタ・コルベールは変な歌でキタキタになってこの世界から外れた時間の角度に在る異次元の狂った調に乗せて、死すら死する永劫の卑しい床で臥せる膨張と収縮を際限なく繰り返すナニかへの舞を捧げながらピ~ヒャラリになっちゃいましたけど、どうぞご心配なく』 て…言っていたわ」 「なんですかそれ?」 「さあ? もっとも彼女が本当に何を言ったのかは私にも分かりませんわ。 なにせ彼女、その時物凄くしどろもどろで混乱しながら興奮してたし、舌も回ってなかったし。 今私が言った事は私が聞き取った事をなるべくまともに訳しただけなの」 ルイズは一体何を言おうとしていたのか、コルベールが考えようとするよ鈍い頭痛が走り、思わず顔を顰めた。 「どうしましたか?」 「いえ、軽い頭痛がしただけです。ご心配なく」 「頭痛ねぇ。 今日は大事を取ってお休みになられては? 報告なら私がしておきますけど」 「頭痛程度で休むわけにはいきませんよ。 ご配慮ありがとうございます」 「そうかい。 健康には気を使いなさいよ。 軽く見ていたものが実は大病の元だったり――なんて事はよくあることですから」 「はは。気をつけさせてもらいますよ」 軽く会釈をしてコルベールは保健室から離れた。 そのまま暫く歩くと、何やら焦げ臭さが鼻を突いた。 「はて? この臭いは一体……」 臭いのする方へ行くと、其処には壁が瓦礫となって消えて外と繋がる焦げた教室の無惨極まりない姿が飛び込んできた。 「なっ、何だこれは!? 一体此処で何が…………!」 驚愕するコルベールの脳裏に強烈な閃光が瞬いた。 断片的な映像と音声が点滅しながらコルベールの脳の中で暴れまわる。 「……………………………!!」 理解出来ない――――否! 理解したくないのだ。 理解すれば人間としての何かが瓦解する! 授業が終わった筈の教室から聞こえてくるミス・ヴァリエールと使い魔の話―――遮断 ミス・ヴァリエールの妊―――遮断 ドクターウェ―――遮断 喜―――遮断 精神への膨大な過負荷が発生 自己構造体へのダメージが第八レベルまで侵攻 現状では自己修復プログラムでの対処は不可能と断定 過負荷の外的要因を検索〟〟〟〟判明 外的要因の削除を要請―――許可 削除開始 削除完了 再起動開始 「…あ……ああ……酷い頭痛だ。 やはり調子が悪いな。 素直に休んでいた方が良かったかな?」 そう呟くとコルベールは破壊された教室から去って行った。 コルベールの中で何が起こったかは定かではないが、何かしらの悪影響の侵食を駆逐できた事は確かだろう。 一体彼に身に襲い掛かったモノの正体は何であったのだろうか。 まだ見ぬ未知のウィルスか、はたまた異次元の侵略者からの攻撃か。 だがそれを知る術はもう無い。 全ては闇の中に葬られた。 後は彼が無事に平穏の中に帰っていける事を祈るばかりである。 何処からか夜鷹の鳴き声―――っぽいウェストの笑い声が聞こえてきた。 ドクターウェストの華麗なる実験:第三話「マーラとモーラって、なんか似てね?」完 次回、第四話「このゲームは十八京歳以下のニャル様は購入できません」につづく。
https://w.atwiki.jp/shinatuki/pages/395.html
クラフト・ワークは動かせない 第三話「紅・魔・逃・走」 足音が聞こえる。ひどく焦った足音が。 だが足音は後方からは聞こえず、自らの足が鳴らしている。 振り向く暇などない。ただ走り続けるのみ。 元々ギャングなので運動能力は高い、2時間程度なら容易に走り続けられる…と思っていた。 しかし30分走っただけで息は切れ、後ろを向く余裕も無い。なぜなら… これは『リアル鬼ごっこ』だからだ。決して2時間耐久マラソンなどでは無い。 男…サーレーを追いかけているのは鬼だ。危機感を覚えるのも無理はなく、ただ精神的疲労が溜まっていく。 少し休もうと立ち止まり、紅い壁に背を預けた。しかしため息をつく間も無く、その「声」は聞こえた。 幼い少女の、カリスマのかけらもないひどく楽しそうな声が。 それはサーレーにとって、死刑宣告並みの絶望だった。 「ぎゃおー!たーべちゃーうぞー!」 壁から壁へと反響していく悪魔の声を聞き、反射的に走りだす。 一歩間違えれば満身創痍確定の悪魔のゲームを味わい、当初の希望はムンムン委縮していた。 結局人間は人間、どんなに強力な力を持とうと悪魔には敵わない。 そんな絶望を込めて、サーレーは叫んだ! 「HEEEEYYYY!あんまりだアアアア!」 『リアル鬼ごっこ』:残り1時間30分 ―――――――――――紅魔館:広間―――――――――――― 「お嬢様が行って大丈夫かしら…サーレー…」ズズ… 「お姉さまが行って大丈夫かな…蟹さん…」ゴクゴク… 「レミィが行って大丈夫なのかしら…蟹頭…」ズズ… …紅魔館広間に集まっているのは咲夜、フラン、パチュリーの3人。 自分たちは鬼役もほどほどに広間で紅茶を啜っている。ときどき哀れみの目で遠くを見るのは何故だろう。 現在鬼は1人だけだ。どうやらあまりにも不憫に思ったのか、1対1にしたようだ。しかし1対1なのをサーレーは知らない。 やけに『ハイ!』になっているお嬢様(笑)に追いかけられ、たまに悲鳴が聞こえてくる。 無いとは思うが、万が一レミリアが負けて帰ってきたらバトンタッチするようにと待っているのだ。 「パチェー。砂糖取ってー」 「はいどうぞ」 「ありがとー」 フランに砂糖を渡すパチュリー…何とも言えないほのぼのした雰囲気がそこにはあった。しかし… ドタドタドタドタ… 雰囲気を壊す何やらひどく忙しない足音が聞こえる。咲夜がため息交じりの演技交じりで口を開く。 「何の音かしら…って聞くまでもないわね」 お嬢様(笑)ことレミリアは低空飛行で追いかけているため、足音の主はサーレーである。 ドタドタドタドタ… 「パチェー、さくやー。なんか音が近づいてる気がするよ?」 フランの言うとおりに、音は確実に大きくなっている。つまりはサーレーがこちらに向かってきているのだ。 ドタドタドタドタ どんどん音が大きくなる。パチュリーはある懸念を口にした。 「まさか、この広間に入ってくるなんて間抜けな事しないわよね」 「…パチュリー様。それはフラグです」 そんな会話をした刹那、広間のドアが勢いよく開いた。 「クソッ!どこまでもしつこいガキだぜ…一応カギかけとくか。『クラフト・ワーク』ッ!」 あろうことか鬼の蔓延る広間に入ってきたうえ、隠していた能力を披露した。サーレー、フラグ成立というより…不憫。 「ったくよォ~。ま、これで一休み……あ?」 そしてお茶会に気づく。自分にクラフト・ワークを使ったかのように動かない。 「………………………………」 「「「………………………………」」」 理由は違えど、両者とも開いた口が塞がらない。一方は唖然、一方は絶望。 しばらくして、先に口を開いたのは咲夜だった。 「えーと…紅茶でも飲む?」 必至のフォローだった。それに返すは… 「あ、ああ。もらっとくぜ…」 まさかの了承。席について、紅茶を啜った。お次はフランが静寂を打ち破る。 「あ、さっきのカギかけとくかってどういう事?」 「ああ、それはオレの『クラフト・ワーク』の能力でな、触れた物体を固定出来んだよ」 あまりの緊張に隠していた能力をあっさり話してしまった。 「あら?そんな能力があったのね。聞いてなかったけど…」 「すまん…言い忘れてたぜ…(言っちまったーッ!もうバレたァーーーッ!)」 どんどん気まずくなっていくお茶会だったが、それを打ち破る音が広間に響く。 ドンドンドンドンドンドンドン! 「なによー!開けなさいよ!サーレー?絶対働かせるんだから!」 まさに『このドアは空間に固定されている』というメッセージウィンドウが出てきそうだが、ともかく開ける事は不可能である。 しばらくしてレミリアが黙ると、今度はパチュリーが何かに気づき声を張り上げた。 「魔力が集まってる…みんな避難しなさい!グングニルが飛んでくるわよ!」 グングニル。かの北欧神話の主神、オーディンが持つ槍である。まあレミリアが放つグングニルは魔力の槍だが。 パチュリーは魔力の変化を感じ取ったのだろう。しかし時はすでに遅かった。 「いくわよ!神槍「スピア・ザ・グングニル」!」 膨大な魔力を凝縮した紅い巨大な槍が、高速で扉を破壊しサーレーへと向かってきた。紅魔館の住人がいる事も知らず。 しかし、その紅い槍がその中の誰ひとりにも直撃する事はなかった。 なぜなら、グングニルはサーレーの眼の前で『停止』しているから。 「オレの『クラフト・ワーク』…もう能力を隠す必要はねー。喋っちまったからな…だから遠慮なく使わせてもらうぜ。 『クラフト・ワーク』の固定には種類がある。1つ、固定したもののエネルギーの有無。」 そう言って目の前のグングニルの固定を解除し、手に持つ。そこには投擲したときの運動エネルギーはなかった。 「2つ、固定の時間差」 そしてグングニルをレミリアに向かって投げた。誰が投げても威力があるのか恐ろしいスピードで飛んでいくも、時間差で止まった。 レミリアは身構えようとしたが、体勢を崩してしまった。 「3つ、経由させ物体と固定させる」 レミリアが体勢を崩したのは、床と足がくっついていたからだ。ミスタの手とトラックをくっつけた時のものである。 「オレはマフィアだ、売られたケンカは買うのが筋だろ?」 何か吹っ切れたシリアスサーレーを見て、周りでは3人が唖然としている。 「おめーがどんなに速かろーと強かろーとこの距離でこのスピードだ………」 レミリアは動揺して霧化という選択肢が頭に無い。 「オレを相手にした事を後悔しろ。解除だ…『クラフト・ワーク』ッ!」 超高速のグングニルが、エネルギーを保持した状態で解除される。一瞬でレミリアの元に辿りつき、その胸部をふっ飛ばした。 …と言っても霧化していないだけなので当分の間は再起不能という程度だろう。 「…かっこいい……」 フランが思わず呟く。強大な姉を粉砕したので当たり前といえば当たり前。 瞬間、咲夜が時を止めて、レミリアをどこかに運びに行った。 「レミィを倒すなんてやるじゃない…鬼ごっこじゃなくて殺し合いが良いのかしら?今日は絶好調だし、相手になるわよ?」 パチュリーが思わず褒め称える。レミリアを倒してしまった男だ、強者の血が滾るのかもしれない。いやに好戦的だ。 「いや、遠慮しておくぜ。だいたいこれは鬼ごっこだろ?だったらオレは逃げさせてもらうぜッ!」 たたっと駆けだすサーレーを追いかけようとする2人だったが、足が床にくっついていて動けない。 「…面白いわね」 「…遊んでくれるのね!」 楽しそうにつぶやく。あまり付いてほしくない闘志の火が付いてしまったようだ。 ―――――――――――紅魔館:寝室―――――――――――― ここはレミリアの寝室。当の本人は再生したものの気を失っている。 「サーレー、あんなに強かったのね…」 咲夜がレミリアのベッドの隣に座り、一人言葉を漏らしている。 状況があんなのとはいえ、主人を守れなかったことを気にしているようだ。 ため息をつきながら、コップに水を注ぐ。 しかし、ここで咲夜は気づくべきだったのだ。自分が注いでいる水のビンは、紅魔館近くの外来品からこっそり持ってきたものだと。 おそらく新しい紅茶に使えるだろうというような理由で持ってきたのだろうが、拾ったものは飲み食いしてはいけない。 そして、気づくもなにも彼女が知り及ぶものではないが、一応もっと深く考えて拾うべきだったと思われる。 なぜならその青色のビンには『Survivor(サバイバー)』とペンで書かれていたからだ。 書いたのは誰か?そもそも何でこんな事を書いたのか?そんな事を考える事無く、咲夜はコップの水を飲み干した。 数十秒の沈黙が流れ、咲夜が口を開いた。 「サーレー…お嬢様を倒せるんだもの。強いわよね?」 その瞳には妖しい光が宿り、笑いを浮かべ、時が止まり、寝室から咲夜の姿が消えた。 『リアル鬼ごっこ』:残り1時間10分
https://w.atwiki.jp/yuimio/pages/152.html
澪(唯ちゃん・・・可愛いな)第三話 前回のあらすじ! 澪ちゃんは唯が結構お気に入りみたいです。 頭ナデナデしてるし唯の嫌いな勉強にも付き合っててもしかしたらお似合いかもしれまん。 たまにはお姉ちゃんを頼ってよ唯~! By 最近怖いのは唯の通知票な平沢憂 平沢家! 澪「やっと着いた」ハァハァ ピンポーン ガチャ 唯「あ・・澪ちゃんさん」 澪「宿題の確認しに来たよ」 唯「そっそれはバッチリなんだけどね・・・」 澪「?・・・あ!ごめんアイス買ってくるの忘れちゃった」 唯「きっ今日はいいよ」 澪(?意外だなぁ) 唯の部屋・午後5時半! 澪「完璧じゃないか!」マルマル 唯「そっそう?澪ちゃんさんの教えが良かったからじゃないかな?」オロオロ 澪「?・・唯ちゃんさ、何かに怯えてないか?」 唯「ギクッ!そんな事ないでしゅ!」 澪(噛んだ。可愛い)「もしかしてテストがダメだったとか?」 唯「・・・・・」グスッ 澪(図星か)「大丈夫大丈夫。唯ちゃんなら出来てるって」 唯「・・・そうですよね。なんとかなってますよね」 澪「そうそう。落ち込んでたらせっかくの可愛い顔が台無しだよ」 唯「私よりお姉ちゃんの方が可愛いですよ」 澪「まあまあ唯ちゃんはアイス食べてるところが一番可愛いからアイス食べ行くよ」 唯「良いんですか?」 澪「宿題満点だったからオッケーだよ」 唯「でもお姉ちゃんになんて言ったら」オロオロ 澪「唯ちゃん携帯ないんだっけ?」 唯「私はまだ中学生だからお姉ちゃんしか・・・」 澪「じゃ私が憂にメールしとくよ」 唯「すみましぇん」 澪「良いって。誘ったの私だから。ただちゃんと今日も宿題出すからやっとくんだよ!」 唯「うへ~」 喫茶店 唯「うまうまー」パクパク 澪(結局アイス屋は終わってたから喫茶店来たが・・・) 唯「澪ちゃんさんこれおいひぃ~よ~」ペロペロ 澪「そう。良かったね」ズズー 澪(まさか、賞金パフェを頼むとは・・・) 澪(でも、唯ちゃん良いペースで空にしてるからありがたい) 20分後 唯「・・・」カチャカチャ 澪「・・・・・唯ちゃん?」 唯「・・・・ごべんなざい。もう食べきれましぇん」 澪(やっぱり) 澪「えっと、後、ほんのちょっとだから行けない?」 唯「お茶ください」 澪「はいよ」 15分後 唯「もっもう無理」 澪「いや、頑張ったよ唯ちゃん」パタパタ 澪(今の状態をありのまま話す。唯ちゃんは賞金パフェを挑んだ。 しかし、時間内に食べきれなかったけどパフェは食べきったからパフェ代は払わなく良かった。 で、今度は気持ち悪いと言い出した唯ちゃんを近くの公園で膝枕してあげてるの。 ばいレフティにしか興味ないよ秋山澪) 唯「しばらくパフェはいいや~」 澪「甘いものは大丈夫なんだ」パタパタ 唯「どうしよう。お夕飯食べれないよ」 澪「別腹って言うじゃない」 唯「パフェが埋め尽くした」 澪「あー。納得」 唯「澪ちゃんさん。食べ来ませんか?」 澪「いや、さすがに2日続けては悪いよ」 唯「お姉ちゃんも歓迎するんで」ウルル 澪「いやしかし・・・」チラッ 唯「・・・・」ウルッキラッ 澪「お邪魔しよっかな」 平沢家! 澪「ホントすまない」 憂「気にしない気にしない」カチャカチャ 唯「うまい!」テテー 憂「唯はあんまり食べ過ぎてお腹壊さないようにね」 唯「へーきへーき」バクバク 憂「明日お腹壊しても学校行くんだよ」 澪「宿題もちゃんとやっといてね」 唯「大丈夫だよ」バクバク 40分後 唯「お腹痛い」 憂「やっぱり食べ過ぎ。澪ちゃんに謝ってもう休む事」 唯「わかった。澪ちゃんさん、ごめんなさい。宿題出来なくて」 澪「体調悪かったら仕方ないよ。明日も悪かったら憂から聞くから。お大事に」 唯「今日はごちそうさま。おやすみなさい」ペコッ 憂「唯は昔からああいった感じなんだよ」 憂「体調考えないでたくさん食べて壊すの繰り返しかな」 憂「多分、今日食べた量からして唯は明日休むよ」 澪「・・・」 憂「唯が心配?」 澪「いっいや・・」 憂「はいこれ」カチャリ 澪「何で私に?」 憂「唯のお気に入りなんだよ澪ちゃんは」 憂「嫉妬しちゃうくらい羨ましいよ」 澪「・・・・」 憂「だから唯の事よろしくね」 澪「・・・・・任せてくれ」 【澪は憂に認められた。平沢家の合鍵を手に入れた。】 チャーチャーチャーチャチャチャチャッチャチャー←ポケモンの進化した後の音 翌日・通学路! 律「憂おいっす」 憂「りっちゃんに澪ちゃんおはよー」 澪「おはよう憂」 律「そうだ!憂も澪に言ってやってくれ」 憂「何を」 律「澪が昨日帰ったから合わせられなかった事だよ」 澪「だから悪かったって」 憂「あー。澪ちゃんは今は大事なんだよ」 律「何が大事なんだよ?」 憂「唯の事が澪「さっさと学校に行こう!」タッタッ 律「?」 憂「ふふふ」 学校・教室! 律「ムギおーす」 紬「・・・・あっりっちゃんに澪ちゃんに憂ちゃんおはよう」ペラッ 律「今度はアタックNo.1か」 憂「ねえりっちゃん」 律「ん?」 憂「私、夢で見るムギちゃんは女の子同士の恋愛に凄い興奮するんだけど・・・」 律「奇遇だな。私の夢で出てくるムギも百合最高とか王道とか至高とかわけわからない事言うんだよ」 憂「でも実際ムギちゃんはスポ根漫画にハマってるよね」 律「もうちょっとで気円斬や霊ガンまで物真似するんじゃないかな」 憂「卍解とか『ジャスト1分だ。夢は見れたかよ』とか言いそうだよね。・・あっ澪ちゃん」 澪「いきなり私に振ってきたみたいな話しかけかただね」 憂「唯。今日休みだよ」ボソッ 澪「え?///」カァ 憂「1人で家で寂しく寝てるんだよ」ボソッ 澪「1人寂しく・・・」ボソボソ 唯『お腹痛いよ~』グス 澪「すまない。急用が出来たから帰る」 律「はいぃ!?まだ一時限前だぞ」 澪「それよりも大事だ!」タッタッタッ 憂「澪ちゃんは首ったけなんだよ」クスクス 律「?」 紬「あついを言っちゃダメってルールは簡単よね」ペラッ 三話・終 次回予告 唯「お姉ちゃんにしばらくアイス抜きにされるかも」 澪「だから唯ちゃんの事が好きなんだって///」 今回も覚醒しなかったムギビジョン だって未来を決めるのは運命じゃないからねえ 初出:1- 968 NEXT:澪(唯ちゃん・・・可愛いな)第四話 INDEX:澪(唯ちゃん・・・可愛いな) BACK:澪(唯ちゃん・・・可愛いな)第二話 戻る(SS) TOP
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1233.html
鋼の心 ~Eisen Herz~ 第三話:魔弾の射手(前編) 「嘘っ!?」 打ち出された砲弾は重力に引かれ落下する。 ゆえに、よほどの至近距離でもない限り、砲弾は狙った場所よりも下に着弾する事になる。 それを命中させるためには、精密な弾道計算が必要になる為、神姫による得手不得手がはっきりと出るのだ。 しかし、この場合、この砲撃手に限って言えば、重力すら武器にしていると言えるだろう。 「こちらの動きが読まれてる!?」 “落下してきた砲弾”の雨に打たれ、隠れていた岩山から飛び出すアーンヴァル・フェータ。 一度や二度なら偶然で済ませられるが三度、四度と続けばそれは必然だ。 この相手には遮蔽物など物の役に立たない。 そう判断しても迂闊に高度を上げて索敵をする気にはなれなかった。 そもそも、飛行中に下からの狙撃を受けたから、身を隠すために高度を下げたのだ。 高度を上げ、敵の位置を確認し、そこに飛び込んで切り捨てるまで、一体何発狙撃を受けるのだろう。 そう考えると戦局は絶望的。 フェータは未だ、敵の姿すら目にしてはいないのだ。 「何とかして敵の位置を割り出さないと……」 今判っているのは、砲撃が飛んでくる大体の方角のみ。 敵は斜め上に向けて砲撃をしている筈なので、必ずしも開けた場所に居るとは限らない。 谷底にでも居られたらまず発見できないだろう。 先週の一件で、根幹部分の修理を受けたフェータは、今ではカタナ以外の装備も扱えるが、やはりメインは抜刀による一撃だ。 近付きさえすれば、極々一部の神姫以外は一瞬で粉砕してのける自信がある。 だが、この敵は圧倒的なアーンヴァルの速度を持ってしても接近が容易ではない。 返す返すも敵の位置が分からないのが致命的だった。 「くっ!!」 背後で着弾。 爆風に押されるように谷底を進むフェータ。 上空で落下してくる砲弾、連続で4。 今居る場所と、さっきまで居た場所を狙っている。 更に進んで砲撃をかわし、次の砲弾を目視で発見。 避せる場所を探しだし、慌ててそこに飛び込んだ。 こんな逆もぐらたたきみたいな真似、何時までも繰り返せる事ではない。 そう考えて周囲を見回し失策に気付く。 「しまった!!」 目の前には見上げるような崖。 右も左も崖。 今通ってきた背後と、今居るこの場所に向って落ちてくる砲弾。 逃げ場は。 無かった。 「あ~もう何なのよアレ!! どうなってる訳!?」 ゲシゲシと壁を蹴って暴れる伊籐美空。 フェータのオーナーである彼女はフェータの敗北にご立腹だった。 もちろんフェータに非が無いのは分かっている。 だから怒りをぶつけるのは敵側の神姫になるのだが、その姿さえ分からなくてはどうしようもない。 「けちょんけちょんだったね」 「うるさ~いっ!!」 現れるなり余計な事を言う少年を壁代わりに蹴飛ばす。 「痛てっ!! 何すんだよ!?」 脛を押さえて飛び跳ねる少年、島田祐一。 先週戦い、今はフェータの専属メカニックに無理矢理指名した相手だった。 「大体、なんで見えてない相手を狙えるのよ!! 何かズルしてるんじゃないの!?」 「そりゃ、見えてたんじゃないのかな?」 祐一が事も無げに言うのは、美空に数倍する戦闘経験によるものだろう。 「どういう事?」 「さっきの戦闘。場外モニターの記録ならあるけど、見る?」 「………………」 祐一が手にしたノートパソコンを訝しげに見る美空。 祐一と違い、美空は機械に弱い。 当然、戦闘後にその記録を分析するような習慣も無かった。 「アイゼン」 「ん」 自らの神姫に呼びかける祐一。 彼の神姫、タイプストラーフ・アイゼンは手馴れた手つきでUSBケーブルを挿し込み、自らとノートパソコンを接続する。 そのまま画像ファイルを呼び出し並べてゆく様に淀みは一切無い。 「ねぇ、フェータ。あんたにもああいう事、できる訳?」 「れ、練習すれば何時かは……。―――出来るといいなぁって思います」 道のりは、かなり遠そうだった。 「出たよ」 「ありがとう、アイゼン。………ほら、ここ」 アイゼンがディスクトップに拡げた画像を、祐一が指で指し示す。 そこにはかなりの望遠だが一体の神姫が映っていた。 「ハウリン、ですか……?」 てっきり砲撃と言う戦法から、砲戦型のフォートブラッグだとばかり思っていたフェータが驚愕を顔に出す。 と、すればあの砲撃はハウリンタイプが誇る重砲、吠莱壱式によるものなのだろう。 「フルカスタムのハウリンだね。基本はヴァッフェバニーの装備みたい。バックパックに吠莱壱式を二門装備して、手にはツガルのスナイパーライフル」 「あの曲射砲撃で敵を焙り出してスナイパーライフルで狙撃。ですか……」 「うん、弾道計算もさることながら、あの砲撃の秘密はこれかな?」 そう言って画面の隅を指差す祐一。 「なに、これ?」 よく見れば、美空の眼にも何かが浮かんでいるのが見えた。 「ぷちマスィーンズ。ハウリン、マオチャオの自立型支援兵器って位置付けだけど、火力が低すぎてお遊びアイテムになっちゃった奴だね」 ぷちマスィーンズ。 ハウリン、マオチャオの特徴的な装備として挙げられる浮遊型の支援ユニットだが、浮遊の為に小型化した事が逆に災いし神姫相手の火力が不足してしまうという欠点を持っていた。 その上最大四機のユニットを制御する為に本体側にも少なからぬ負担を強いるとあって、使い勝手を見出せず使用を断念したオーナーも多い。 使いこなす為には、低い火力を補うだけの本体、ユニット間の連携が必須で、その習得難易度を考えれば、多くのオーナーがより安易で確実な射撃や格闘に傾倒してしまうのも無理からぬ事と言えるだろう。 「でも考えたね。支援兵器の火力を全く当てにせず、着弾観測にのみ使用して姿を見せずに勝つ。言うのは簡単だけど実際に習得するには物凄い量のシミュレーションとプログラム補正を繰り返したんだろうね……」 まだ見ぬ対戦相手に畏敬の念を込めて祐一が呟く。 一方の美空といえば……。 「つまり、先にこいつ等を破壊しちゃえばおっけー、って事ね?」 単純に結論付けていたりする。 「ま、それはそうなんだけど。簡単な事じゃないと思うよ? 砲撃の雨の中、何処に潜んでいるかも分からない小型メカを探すって言うのは……」 「……大丈夫!! …………よね?」 力なく尋ねる美空に、無言でふるふると首を振るフェータ。 「少なくとも、銃器の一つでも買ってやった方が良いんじゃないか?」 「う~ん、と言っても何を選べば良いのか……」 「そこはほら、本人に聞いてみるとか……?」 そう言って祐一は、期待に目を輝かせているフェータを見た。 「す、好きなものを買って下さるのですかぁ!?」 多くの神姫がそうであるように、彼女もオプションが増えるのは嬉しいのだろう。 生真面目なフェータの初めてのおねだりに怯む美空。 この時点で勝負は決まったような物だった。 「良いわよ。何か買ってあげる……」 「ホントですかぁ?」 わーい、と普段の真面目さは何処へやら無邪気に喜ぶフェータ。 パートナーの新たな一面を目に困惑する美空。 それを見て、ほんとに飽きないなと思う祐一だった。 「ただいまー」 「ただいまです」 「あ、お帰りアイちゃん、ついでに祐一」 「弟後かよ」 家に帰ると姉、島田雅が待っていた。 なにやら妙に上機嫌だが、わりと何時もの事である。 「そんなことより聞いてよ、聞いてよ、聞いてよぉ~っ」 「そんな事……」 「あのね、あのね。神姫買っちゃった」 「え、姉さんが!?」 「何よ、文句でもあるの?」 「神姫って精密機械なんだよ!? メンテナンスとかしなきゃだめなんだよ!? 乱暴に扱ったら壊れるんだよ!?」 「まるであたしが直ぐ壊すみたいな言い方しないでよ」 「車買って、その日のうちに壊したの何処の誰だよ!?」 「あれは……、きっと根性が無かったのよ」 「神姫相手にも、その言い訳が通用するとでも?」 「そこは大丈夫、根性ありそうなの見繕って来たから」 ちなみに神姫の“個性”が出るのは購入後である。 「じゃーんハウリンのセタちゃんでーす」 「セタです。よろしくお願いいたします」 ペコリとお辞儀するハウリン、セタ。 「………………」 「………………」 ハウリン型の素体にヴァッフェバニーの装備。バックパックには吠莱壱式が二門と背面の指令型ぷちマスィーンズ。 「今日早速バトルロイヤルに参加させたらな~んと優勝。いやーお姉ちゃんびっくりだわぁ~」 「何だろ、さっき下した評価を全部覆したくなるこの心境は……」 「マスター、この事が美空にばれると、きっと面倒な事になる……」 「うん。黙ってようね」 丁度その時ピンポーンと、玄関のチャイムが鳴り響く。 玄関で話し込んでいたため、直ぐそこにドアがあった。 だから、祐一は何も考えずにそれを開ける。 ぶっちゃけ、考える気力を失っていた……。 「あのさ、祐一。これ使い方分からないんだけど?」 唐突に出現した美空を見て祐一が発した言葉は。 「……勘弁してくれ」 であった。 もちろん、その直後に美空キックで撃沈されたのは言うまでも無い。 「いいわよ。受けて立ちます」 「それじゃあ対戦の日にちは……」 「今週の日曜でどう? 3日後ね」 「それでいいわ」 短気なもの同士話が早い。 あっという間に対戦の日取りが決定した。 「……って事で、セタに勝つにはどうしたらいいか、対策会議を始めます」 美空がそう言ったのは他ならぬ祐一の部屋。 何ていうか、年頃の女の子を自室に上げるアレやこれなイベントが全部すっぽかしである。 そもそも住所教えた覚えも無いのだが、その事を聞いてもろくな答えは返って来そうに無いので聞かない事にした。 「さあ、意見を述べよ」 おまけに命令形である。 はぁー、と溜息一つ吐くが答えないときっと暴れだす。 猛獣を相手にした調教師の気分で祐一は口を開いた。 「だいたい。対策会議も何も、ぷちマスィーンズ叩き落して砲撃を封じるしかないだろ」 「だから、それを効率よく行う方法よ」 「……ん。……そうだな……。ぷちマスィーンズ自体は機動性も装甲も大した事無いから、見つけさえすればなんとでもなるだろ」 「でもちっこいのよね? どれ位の大きさなの?」 「神姫の頭部程度のサイズ」 答えたアイゼンは胸の前で手を広げる。 大体神姫の頭部が挟まる位の大きさだった。 「確かに見つけるのは面倒そうね……」 ん~、と考え込む美空。 やがてポン、と一つ手を打ってフェータに問う。 「あ、そうだ。フェータもぷちマスィーンズ使うってのはどうよ?」 「そりゃ、司令ユニットを本体に接続すれば、アーンヴァルでも使えるだろうけど……」 「え、司令ユニットが本体についてるの?」 「まあ、リモコンみたいな物だな……」 「じゃあ、本体を叩けばいいだけじゃない?」 「それが出来ないから負けたんだろ、お前は……」 「あ、そっか」 「話を戻せば。ぷちマスィーンズは結構扱いが難しいんで、別の方法考えた方が良いと思うぞ?」 「じゃあさ、こういうのはどうかな?」 そう言って美空はぴっ、と指を一本立てた。 第四話:魔弾の射手(後編)につづく 鋼の心 ~Eisen Herz~へ戻る