約 301,189 件
https://w.atwiki.jp/calendar_girls/pages/14.html
7月某日 3話 文月 朝顔編 まだ梅雨の気配覚めやらぬ7月。 彼女は6月まで目にかかっていた前髪を直し、ツインテールに纏め上げて衣替え(ちょっと違うか…)を果たし、7月のあいつになっていた。 あの、いつもツンケンして可愛くないアイツに…… 「ほら、星霜! やる気あるわけぇ?」 「あるよ……ほら、手伝え! てめーの部屋だ」 5月6月と掃除のできない人格が続いたため、部屋は凄惨なことになっていた… 文月はそれを憂い、大掃除の宣言をだしたのだ……そんなことどうでもいいが、俺を巻き込まないで頂きたい。 「ぐだぐだうっさいわね! ほら手を動かす!!」 この暴虐不尽なるお嬢は、命令だけする癖して結局何もしていない…むしろ動いてもらったほうが迷惑なだけだが。 なんか、理不尽なのは俺だけだろうか? 釈然としない思いを抱え、ボロい安アパートの狭い部屋の掃除をすることになったのだ。 彼女特有のイライラとした怒りを内に隠した瞳が、全方位警戒態勢で俺の掃除を監視しつつ、彼女は急に口を開いた。 「ねえ、あんたさ……アノ子の気持ち受け取って上げたわけ?」 「アノ子って……お前の場合、卯月か?」 文月は質問には答えず、答えを促すようにこちらを睨み続ける。これは無言の肯定を示していた。 「出来なかった……あいつは……本当に真剣だ。だから軽い気持ちでハイとはいえない」 「………ねぇ、あんた…それ、本気で言ってるわけ?」 空気が…凍る。彼女のものとは思えない強い強い声は、ずしんと俺の心まで響いた 「あいつだけじゃないよ! 他の子だって、ずっとずーっと真剣なんだからねッ! わかっていってるわけ? しんじらんない……サイテー」 なに言ってんだこいつ? 「俺はそうは言ってないだろ?」 「じゃあ、なんで皐月ちゃんのとき…あんなによくしてあげたのよ」 「っ! ………」 言葉に、詰まった。俺はいつもと違う彼女を見て、ちょっと混乱したのだ……違う、そんな理由じゃない。 じゃあ、なんだ? 俺はあの時確かに、皐月に対してちょっと甘かった気がする…でもそれは咎められるような事か? 「本気で言ってるわけ? もういい、知らないッ! 出てってよ!!」 「なっ…おい!ああ、クソ出てってやるよ!」 何で俺が悪くなるんだよ、クソッ。 悪態をつきながら出た共通廊下は雨が差し込み、庭には大家さんが手入れをしているのだろうアジサイが咲いていた。 彼女と喧嘩をしたまま、一週間が過ぎた。 昼休み、期末試験も近くなりごった返す食堂の中、四葉は遠くに見えるのに文月はここには居なかった。 いつも一緒の彼らにとっては、とても珍しいことといえる。7月だけは例外的だった。 ('A`)「四葉の野郎、どうした? 喧嘩か?」 ( ^ω^)「アノ二人は7月になると必ず喧嘩するおっ」 ('A`)「仲が悪い……ってわけじゃないんだろ? なんでだ?」 ( ^ω^)「……よくわからんおっでも、仲直りしてほしいおっ、ちょっと話だけでも聞いてみるおっ」 ('A`)「行っちまいやがった…マンドクセ」 しばらくして、内藤が四葉を引き連れてドクオと同じ食卓を囲む。 内藤たちからの質問に、はじめは何も伝える気はなかったが、ちょっとずつ、文月との喧嘩について触れていった。 説明を受け、呆れ顔の二人は最後にきっぱりと言い放った。 ( ^ω^)&('A`)「「それはお前が悪い」おっ」 ('A`)「あのなあ、文月ちゃんはお前が皐月に優しくしたことじゃなくて、卯月につらくあたったことに怒りを示してんだよ」 「はぁ? だって、俺にはあいつが居るんだぞ?」 俺は意味がわからない、とでも言うように、疑問をぶつけたが帰ってきたのは呆れ顔だった。 ('A`)「お前な…まあ、いいや頭冷やして考えてろ、悩め悩め青少年……マンドクセ」 それだけ言い残すと、ドクオは残った蕎麦を掻きこんで、食堂を離れていく。 ( ^ω^)「あっ、待ってお…文月ちゃんには謝っておいたほうがいいお……あ、置いてかないでおっ」 こんなときに親友は、俺を置いて去っていく……弁当の冷たいご飯がなんか、いやだった。 部屋に帰るまでの沈黙が、隣にあいつが居ないことを痛感させる。 傘を持って歩く蛙のなく声に、意味のないイライラと哀愁を感じる。 居ないだけで、こんなにも大きかったのかと、心を蝕んだがなんとなく認める気にはなれなかった。 そんな時、携帯が胸で振るえた、アイツからだ。 件名:傘忘れた ごめん、持ってたよね? 持ってきて… まだ学校からはそんなに離れてない。5分待ってろと打ち込むと、きた道を全速力で駆け戻った…なんだ、うれしいんじゃないか、俺。 きた道を戻れば、昇降口にたどり着く前に彼女の姿を見つけることが出来た。 強く降りしきる雨の中、鞄を傘代わりにこちらへ駆けて来たのだ。 「え? …なんであんたが……」 「は? いや、お前が連絡してきたんだろ?」 「なにそれ?……あっもしかして…」 急に言い淀む彼女をはびしょ濡れで、なんかドブネズミみたいになってる癖して妙に色っぽくて…とりあえず、手招きした。 「入れよ…濡れるだろ?」 「どうしたの? なんかアンタらしくない…」 男物の黒くて大きな傘に潜るように入り込み、彼女は疑問をぶつける。俺は答えず、軽く微笑みかけてまた帰り道を歩き始めた。 「頼られてるのよ、私」 「誰に?」 彼女は、歩きながら訥々と語り始めた。なんでだろう、ちょっと、いつもと違う雰囲気を感じて俺は神妙に返す。 蛙はいっそう五月蝿く鳴き始め、彼女の小さな声など飲み込んでしまいそうで、だけど、決して聞き漏らさないように俺は耳をそばだてた。 「桜……卯月 桜にね」 初耳だった。そういえば、俺と一緒に居ないときの彼女たちは、いったいどのように生きているのだろう? いまさらかもしれない疑問が、ふつふつと浮かぶ。だけど、今は彼女の言葉を受け止めるので精一杯だった。 「桜は、何でも背負い込んじゃうから……私が見ていないとね?」 「うん」 ──卯月につらくあたったことに怒りを示してんだよ。 友人たちの声が聞こえた気がした、なんだ、一番理解していたようで、大事なところで理解できていなかったのは俺じゃないか。 「……わるかった」 「ばか、今謝ってもしょうがないんだからっ本当に悪いと思うなら、来年、卯月にあって態度で示しなさい。今日のことは言わないであげるから」 今は、本心を伝えなければならない気がして、俺はこいつに隠していたことを伝え始めた。 「なぁ、俺はアイツに惚れたんだ…あの時あいつからのプレゼントを貰えた」 「へーそうなんだ」 "やっぱり"、文月は知らないようだった 「だけどな、お返しくれるって言って、その気持ちを聞く前にアイツはアイツじゃなくなっていた」 つらい沈黙が俺たちを包む。 「だから、初めて知ったとき俺はお前たちを好きになれなかった」 「それが…桜?」 「間が悪いよな…だから、素直に直向に気持ちをぶつけて来る彼女に対して、素直になれなかったのかもしれない。だけど、多分違う……今はわからないけど、俺の多分ひどく利己的な内容だったと思うんだ」 「……なにそれ?」 彼女は理解できないという風にこちらを見上げた。濡れた髪が肌に張り付き艶かしい…雨はいっそう強くなったようだった。 「なんか引っかかるものがあるんだ、だから、卯月に会うまでにそれを理解しておく…それでいいか?」 暫し勘案の後、だがやがて納得したように俺を見上げると彼女は 「……わかった…だけど、桜を傷つけたら許さないからねっ」 と、明るく言って走り出す。傘の恩恵を離れ、蛙たちの合唱する雨の世界へと飛び出した。 「おいっ! ズブ濡れになるぞ!!」 「もうなってるっつの! ……桜を泣かすアンタなんか大っ嫌いだっ!」 それだけ叫ぶと、彼女は速い足を生かし、俺をグングンと引き離す。傘を握る俺はその俊足に追いつくことは出来なかった。 あーぁ…アイツ、最近答えに近づいてるなぁ…そしたら私たちは…ううん、違うよね。 桜を泣かすアイツなんか大っ嫌いなのに……鈍感で気の利かないあいつなんか大っ嫌いなのに…なんで涙が出てくるんだろ? もっと素直になっていい、のかな? でも、怖いよ…… 見せたくないから、走って逃げちゃったけど、ずぶ濡れだなぁ 思い、鏡を見ると夏服の薄いセーラー服の間からちょっとだけブラが透けて見えていた。 瞬間顔が沸騰したように熱くなる……もうっあいつなんか、大っ嫌い!! 3話 文月 朝顔編 完
https://w.atwiki.jp/achdh/pages/16.html
第二話/ /第三話/ /第四話 第三話 執筆者:ギリアム 一機のACが巨大なホバータンクの横を通り過ぎ、古代遺跡の中へ進行すべくブースターを吹かした。 その時、左腕を損傷したACとすれ違ったが、気にも留めなかった。 負傷したACなどに興味は無い。彼が求めるのは真の強者のみだった。 始まりは一通のメールからだった。差出人はミラージュ。 「滅多に依頼を受けることの無い私に依頼とは…」 訝しみながらもメールを確認すると、そこには簡単な依頼が書かれているだけだった。 『古代文明遺跡にて、古代兵器駆逐のために派遣したAC部隊を撃破して欲しい』 「古代文明遺跡…」 この言葉には聞き覚えがあった。 ミラージュが古代文明の遺跡調査のためにパルヴァライザーの掃討作戦をすべく、レイヴンをかき集めていたのだ。 企業の捨て駒になるなど馬鹿げているし何の価値も見出せなかったため蹴ったが、報酬だけはやけによかったのを覚えている。 今現在、その作戦が進行中のはずだ。 「ミラージュがミラージュの依頼を受けた部隊を撃破しろと?」 最初は困惑したが、真っ先にこの作戦に対して参加を表明した部隊の名前を見て大体の察しはついた。 サンドゲイル。どの企業勢力にも属さない遊撃部隊。 その遊撃隊がこの作戦の鍵を握っていた。 サンドゲイルと言う名は調べなくても勝手に耳に入ってくるほど有名な遊撃部隊で、三機のACを保有している。 三機のうち二機はあまり噂を聞かないが、中核の人物であるザックセルは元トップランカーだとも聞く。 無所属のACはごろごろいるが、三機もACを保有している遊撃部隊とは珍しい。おまけに元トップランカーが率いている。 企業に属しないただの遊撃隊がここまで力を持つ事に、ミラージュは不安を感じたのだろう。 更にこの作戦には報酬の良さに釣られてか複数の無所属レイヴンまで参加を表明している。 いつ自分に牙を向くかわからない無所属レイヴンまで、まとめて始末しようというところか。 つまりミラージュの考えはこうだ。 撃破数に伴って支払う高額報酬をエサに、危険な依頼を任せサンドゲイルの所属ACやどこにも所属しない無所属ACを潰す。 更にパルヴァライザーをものともしない腕前の者には別に雇ったレイヴンをぶつける。 新たに別のレイヴンを雇ったとしても、大量に現れるパルヴァライザーの撃破数に応じて払う額よりはぐっと安い。 制御装置を破壊させ、遺跡の安全性を確保した上に危険分子を排除しつつ経費削減まで狙っている訳だ。 誰が死んでもミラージュが得をする。 「ミラージュも相変わらずですね…」 思わず呟いていた。 レイヴンを使い捨ての駒としか見ていないミラージュらしいやり方だ。 「本当ならこんな依頼、すぐに蹴ってしまうところですが…」 ――サンドゲイルに所属している腕利きのレイヴンや、腕のいい無所属レイヴンと戦えるかもしれない。 その可能性だけでこの依頼を引き受ける価値はある。 『黒い男爵』の二つ名で知られる漆黒のレイヴンは うっすらと笑みを浮かべ依頼を受諾するメールを返信した。 「これで全部か」 最後のパルヴァライザーの停止を確認して、ゼオはため息をついた。 『制御装置の破壊を確認した』という情報はまだ無かったが、これでこのエリアは制圧できたようだ。 パルヴァライザーは数はいるものの性能や動きはお粗末だった。 これで撃破数に応じて報酬を貰えるなら、これほどうまい仕事も無いだろう。 今回の儲けを考えながら気分良く、煙草を吸おうと懐に手を伸ばした時 そいつは現れた。 『これだけのパルヴァライザーを撃破しながら損傷は最低限。弾薬も温存しているとは、いい腕ですね。貴方はサンドゲイル所属のレイヴンですか?』 何者かが回線を通じて通信してきたのだ。 それと同時に闇に紛れた漆黒の機体の姿が浮かび上がった。 「違う。俺はサンドゲイル所属では無い。しかし、誰だお前は。遺跡突入後は単独行動のはずでは…」 『貴方がたと一緒にされては困りますね。企業の捨て駒なんて冗談じゃありませんよ。私はダンスのパートナーを探しているのです。このナイトエンドにふさわしいパートナーをね…』 「何だと?」 訳が分らなかった。しかし次の一言で事態は予期せぬ方向に向かう。 『貴方の腕なら私の相手が務まりそうです。どうです、一緒に踊りませんか?』 殺意に満ちた一言だった。 ――こいつは…ヤバイ! そう思った瞬間漆黒の機体からにミサイルが飛び乱れる。マイクロミサイルの嵐だ。 急いでデコイを展開し、後退する。 ミサイルはすべてデコイに誘導され、不発に終わった。ように見えた。 しかし攻撃を回避した事に安心している暇も無く、激しい衝撃が機体を襲った。 『右碗部、損傷』 なんとエクステンションを放出するために開いていた右腕にライフルの弾丸が撃ち込まれていたのだ。 もともと装甲の厚い腕では無いため損傷が激しい。 「右腕が動かん…これではマシンガンが発射出来ない…!」 舌打ちしつつ、すぐさまマシンガンをパージしミサイルと投擲銃を構えて戦闘態勢に入る。 しかし今の装備ではどう考えても火力不足だった。 投擲銃は当たりさえすれば威力は大きいが、なかなか当たってくれない。 ミサイルも小型ミサイルで威力には期待できなかった。 EOコアの弾数も先ほどの戦闘で消費してしまっている。チャージには時間が掛かりそうだ。 要のマシンガンを使用不可能にされたのは痛手だった。 それに比べて相手はマシンガンとライフルを巧みに使い分け攻撃しており迂闊に近づく事も出来ない。まさにダンスを踊るような華麗な動きでこちらを追い詰めてくる。 回避行動で手いっぱいで攻撃すらさせてくれない。 ――状況はこちらが不利…なら… エクステンションのエネルギーシールドを展開しブーストのアクセルを全力で踏んで一気に漆黒の機体との間合いを詰めた。被弾覚悟の特攻だ。 漆黒の機体は逃げなかった。留まってコアを集中攻撃する事を選択したようだ。 『右腕部、破損』AIのナビゲートと共に右腕が無数の銃弾を受けてバラバラに飛散する。修理費が酷いことになりそうだが、もともと動かない腕だ。こうすれば盾として役立つ。 ――これでどうだ! 至近距離での投擲銃。 どう動いても直撃は避けられない…はずだった。 ――勝った! そう思った。 しかし漆黒の機体はあわてる様子も無くエクステンションをパージした。そして少し下がる。 決死の覚悟で放った投擲銃の弾丸は漆黒の機体にぶつかる事無く… 「く、これでは…」 投擲銃の弾丸がエクステンションに着弾し、大きな爆発を起こした。 至近距離まで迫った二機の間合いが爆風で無理やり引き離される。 漆黒の機体も自分の機体も無傷では済まなかった。 ドドドオン! 激しい衝撃で愛機が倒れた。 漆黒の機体の方はと言うと、素早く体制を立て直し何事も無かったかのように着地する。 特攻のためにエネルギーシールドとブーストを酷使してしまった為にチャージングが発生、被弾も酷く機体が言う事を効かない。 ――命をかけた特攻が失敗…ここで…こんなところで俺は終わるのか…! 『なかなかいい動きでした。最後の特攻は驚かされましたよ。しかし、貴方では私の相手は務まりませんでしたね。その腕に敬意を表して…死になさい』 漆黒の機体が装備したマシンガンとライフルの銃口が愛機、シックザールのコアに向けられた…その時だった。 二発の銃声と共に目の前のマシンガンとライフルが爆発したのだ。 そして新たな声が通信に加わった。 『パルヴァライザーを撃破するだけのミッションだなんて、私にうってつけだと思ったのに…なんでレイヴン同士が争ってる訳?』 若い女の声だった。 漆黒の機体のライフルとマシンガンが爆発したのは、その女の機体の放った弾丸が見事に直撃したからだ。 『…また貴方ですか。マユ・キリシマ』 漆黒の機体のレイヴンがため息をついてそう言った。 キリシマ… 確か第一陣で地上を担当していたレイヴンの名前だ。 『悪いけどそれはこっちのセリフ。なんであんたは相変わらずレイヴン同士の殺し合いをするの!?』 『人間同士で殺りあって、わざわざ戦力を減らすなんてバカバカしいと思わないの?』 この二人には浅からぬ因縁がありそうだ。 もう俺の事など忘れたかのように論争を繰り広げている。 『その説教は聞きあきましたよ…。まぁ、貴方と戦うつもりはありません。そこのレイヴンにトドメを刺せないのは名残惜しいですが、撤退させて頂きます』 そう言うと黒い機体は高速で遺跡の出口へ向かっていった。 俺は…生きてるのか…? 『そこのレイヴン、大丈夫!?』 マユ・キリシマと呼ばれたレイヴンが通信で声をかけてくる。 しかし、安心感と共に意識は闇に飲まれた。 第三話 終 →Next… 第四話 コメントフォーム 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/409.html
793 :あなたと握手を ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/01/22(月) 22 48 40 ID sVWolwVr 大河内の自宅の周りには塀が建てられている。 自宅の敷地内にも道場が建てられているらしく、次の曲がり角までその塀は続いている。 塀に沿って歩きながら、別れ際に大河内の言った言葉を思い出す。 「決戦は月曜日ね・・・」 その言葉はおそらく、『交際の申し込みを月曜日にする』ということだろう。 確信は持てないが、なんとなくそんな気がする。 大河内が俺に対して好意を持っていることは薄々感づいていた。 『練習のあとに一緒に帰ってほしい』と頼み込んできただけだったら、自分の勘違いだと思っていただろう。 しかし大河内はいろいろな面で俺に関わろうとしてきた。 ときどきではあるが俺に弁当を作ってきてくれたこと。 メールアドレスを交換してから毎朝おはようのメールを送ってくること。 休日に大河内家の道場で家族と一緒に剣道の練習をしようと頼んできたこと。 あのときは大河内兄に防具をつけたまま便所まで追い込まれた挙句閉じ込められたり、 絵に描いた様な巨漢である大河内父から、高速の突きを受けてむちうちになったりと散々だった。 あの日、唯一嬉しかったことは大河内母の作る昼食の豚汁が言葉にできないほど美味だったことだけだ。 まさにアメとムチ。豚汁とむちうち。 一回行ったきりだが、また今度行ってみるとしよう。今度は医者同伴で。 それは置いておいて。 そんな大河内の姿勢に俺も段々惹かれていき、気づいたら異性として好きになっていた。 なぜ今まで告白しなかったかというと、一緒に練習をして談笑しながら帰るという関係が心地良かったからだ。 だがそれも月曜日で終わらせる。こっちから先に告白して、あいつの驚いた顔を拝むことにしよう。 もし俺の勘違いだったとしても構わない。 俺は大河内のことが好きだから告白するのだ。 794 :あなたと握手を ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/01/22(月) 22 49 40 ID sVWolwVr 俺の家は大河内の家から国道を挟んで向こう側にある。 国道とはいえ俺の住む町は都市部とは違い九時ごろになるとほとんど車が通らない。 だからいつもは横断歩道が赤でも車が来なければ渡っていた。 その日は右側百メートルくらい向こうから車が来ているだけだったのでいつものように渡った。 『ドサッ』 向かい側の歩道に着いたときに後ろから物音がした。 振り向くと、同じ高校の女生徒が手提げバッグの中身を落としてそれを拾っているのが見えた。 右からは車が迫っている。止まる様子は、ない。 (ズクン。) 心臓が締め付けられるのを感じた。 引き返すな。間に合わない。このまま止まっていろ。そう言っていた。 それでも恐怖で上手く動かない足を動かし、引き返した。 もしかしたら助けられるかもという小さな望みが体を動かした。 女生徒の左側で急停止。 腰を落として、しゃがんでいる女生徒の腰に右手を回し、引き寄せる。 この時点で車は二メートル前に迫っていた。視界が光で埋め尽くされる。 考える時間はなかった。 反射的に道路についた左手を軸にして両足で地面を蹴り、 体を移動させることができたのはまぐれ、もしくは運が良かったと言うべきだろう。 車が一瞬前に自分たちのいた空間を通り過ぎる。と同時に俺は衝撃を受けた。 最初にゴォンという音と一緒に頭に激痛が走り、 次に鉄の匂いときつい香水の匂いがして、 最後に左手から、骨を伝って嫌な音が脳に届いた。 『ぐきゃ』 その音を最後に、 俺は意識を手放した。 795 :あなたと握手を ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/01/22(月) 22 50 37 ID sVWolwVr 月曜日。 大河内桜は早起きして台所で料理しながら変な歌を歌っていた。 「うっなばら♪ うっなばら♪ うっなばらせ~んぱい♪ きょうのおかずはハンバーグ~♪ ポテトサラダもたっくさんいれて~♪ ニ~ンジンもいっぱいいれました~♪ ぜ~んぶ た~べてくださ~いね~♪ さ~いごはわたしをたべちゃって~♪」 歌の内容のとおり、憧れの海原英一郎の心を射止めるための弁当を作っているのだ。 メインのおかずは一番得意なハンバーグ。 以前手作り弁当を食べてもらったときに一番の好評を得ていた。 食卓では定番のメニューだが時間がかかるため、朝作ることはほとんどない。 だが今日だけは別である。愛の告白という最重要イベント。 少しでも勝率をあげるためにはどんな労力も厭わないのだ。 「じゃあ、行ってきます!」 母に見送られ大河内桜は勇み足で歩き出した。 憧れの人が待つ学び舎という名の決戦場へ向かって。 796 :あなたと握手を ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/01/22(月) 22 52 49 ID sVWolwVr 今私は屋上で先輩を待っている。 学校の屋上と言えば昼食をとる学生たちで賑わうものだというイメージがあるが、 この高校は安くて美味しい料理を出す学食や、テーブルが設置されている中庭もあるので人が滅多にこない。 告白するには絶好の場所だ。 朝、先輩の下駄箱に 『屋上で待ってます。一緒にお弁当を食べましょう。 桜』 と書いた手紙を入れておいたから先輩はきっと来てくれる。 でも、さすがに先輩も今日この場で告白されるとは思わないはずだ。 もし、告白したら・・・ 「先輩。私は、先輩のことが好きです。初めて会った日から好きでした! 私を先輩の恋人にしてください!」 「えぇっ!え、あ、いやなんでていうかそういうのはもっとこう 長くお知り合いになってからのほうがいいのではないかと思うのだが。」 「もう私たちが知り合ってから10ヶ月目です。十分にお知り合いですよ。」 「し、しかしだな今月号の保健便りにも思春期の恋愛ではキスを許してしまうと 男が発狂してその先へ行ってしまうということが書いてあってだな つまり何が言いたいかというとだな俺とお前がそういう関係になった場合 俺が狂人にならないとは言えないわけでだな。」 「いい、ですよ。」 「ぇ?」 「私のファーストキスも、初めても、全部先輩にあげます。 ・・・先輩。私、本気ですよ。」 「・・・・・・・・・。 ・・・大河内。実は、俺もお前のことが―――――― 797 :あなたと握手を ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/01/22(月) 22 53 20 ID sVWolwVr 「大河内?来てるのか?」 「『そして私たちは顔を寄せ合い』って、へぁっ!?」 先輩の声が後ろから聞こえた。振り向くと左肩を壁に当ててもたれかかっている先輩がいた。 心臓が高鳴る。顔が紅くなるのがわかる。 まずい。いざとなると頭が回らない。えーと、『私のファーストキスも、』じゃなくて! そう!まず一緒にご飯を食べるんだった。告白はそのあと。 「手紙、呼んでくれたんですね。じゃあ、一緒にお弁当食べましょう。」 「待ってくれ。その前に言っておきたいことがあるんだ。」 「ぇ?」 まさかさっきの妄想が本当に? 嘘、え。やだ、嬉しい。どうしよどうしよ。 いや、落ち着け私。先輩の告白の言葉を脳に永久保存するために耳を澄ますんだ。 「大河内。実は俺な・・・」 くるっ! 「この間の夜、事故った。」 ・・・じこった? なんですかそれ。どこの国の言葉ですか?もし日本語だとしたらどの地方で流行っている告白の言葉ですか? しかし次の瞬間私は凍りついた。 先輩が体の後ろに回していた左手を私に見せる。 左手が、包帯でぐるぐる巻きにされていた。 798 :あなたと握手を ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/01/22(月) 22 54 22 ID sVWolwVr あの夜にあった出来事を大河内に話すことにした。 こいつには話しておいたほうがいいだろう。 「国道でうちの高校の女生徒が車に轢かれそうになってて、俺が助けようとしたんだ。 どうにか女生徒は無事だったけど、俺は左手をタイヤに踏まれて、この通りさ。」 明るい口調で喋ったつもりだったが、大河内の表情はさらに険しくなった。 「女をかばって、先輩が怪我をした、ってことですか」 「まあ、そういうことだ。」 事故のあとに目を覚ました俺は病院のベッドに寝ていた。 目を覚ました俺を見て両親は緊張の糸が切れたように座り込んだ。 聞くところによると、ガードレールの柱に頭を打って倒れていた俺を見て救急車を呼んでくれたのは 俺がかばった女生徒ではなく、散歩途中のおばさんだったらしい。 横断歩道に潰れた携帯電話や化粧品が転がっていただけで 女生徒らしき人影は見当たらなかったそうだ。 車はそのまま走り去ってしまったらしく、警察が調べてはいるが 人を直接轢いたわけではないので特定は難しいとのこと。 怪我の具合を聞いてみたところ、脳波や頭蓋骨・脊椎などに異常は無かったらしい。 「ただ・・・」と言葉を切った母の視線が俺の左手に向けられていた。 それにつられて見た自分の左手は、包帯に包まれて楕円形になっていた。 それを見て嫌な予感がよぎる。 軽く人差し指を動かしてみようとするが、動かない。ああ、やっぱりか。 左手が、まったく動かなくなっていた。 799 :あなたと握手を ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/01/22(月) 22 55 15 ID sVWolwVr ここまでの話を聞いた大河内の表情は、絶望の色に染まっていた。 「右手は動くし、左手は薬を飲んでおけば日常生活に問題はないから学校には通うことにしたんだ。 ちょっと不便だけどな。」 「・・・・・・・・・そうですか。」 いつもの明るい声も暗く沈んでいる。 何を言っても元気を出してくれないのではないだろうか。 「・・・完治は、するんですか?」 「医者の話では骨は元通りになるそうだ。 ただ以前のように動くかは経過を見ないとわからないってさ。」 「・・・・・・・・・そうですか。」 声を聞くたびに俺の気分まで落ち込んでいく。 こいつのこんな顔は見たくなかった。 (今告白したら元気、出してくれるかな。) 馬鹿か俺は。 ここまで落ち込んでいる人間にそんな話をしたら嫌われるに決まっている。 「あー、とりあえず弁当食べないか?作ってきてくれたんだろ?」 「・・・はい。すいません先輩。 私、急用を思い出しました。・・・失礼させていただきます。」 そう言って大河内は俺に弁当の包みを渡すと屋上から去っていった。 あとには俺一人が残された。 その弁当は確かに美味かった。 ハンバーグまで入っているということは相当に力を入れて作ったんだろう。 でも。 「二人で食べたらもっと美味しいんだろうな。」 誰もいない屋上でそんなひとり言をつぶやいた。 800 :あなたと握手を ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/01/22(月) 22 56 06 ID sVWolwVr 先輩を屋上に残し、ゆっくり屋上のドアを閉めて、・・・そしたらもう我慢の限界だった。 (なんで!なんでなんでなんで!どうしてこんなことになってるのよ!) 声には出さないけど心の中では絶叫が響きわたっている。 いま自分がどんな表情をしているのかわからない。でも、きっと子供が見たら泣くのは間違いない。 絶望と、怒りと、悲しみが混沌を生み出している。なにがなんだかわからない。 くらくらする。眩暈がする。足がもつれて、階段を踏み外してしまった。 「いっっつう・・・うく、くぅ・・・うっうぅぅ・・・」 泣き出してしまった。痛みからではない。悲しみが堰をきって押し寄せてきたからだ。 先輩の左手が動かなくなった。そのうえ、元通りになるかはわからない。 直る可能性もある。でも、もし直らなかったら。 「そんな・・・そんなこと、考えちゃ、だめ・・・うぅぅ、く、ふ・・・ いや、そんなの・・・いや。だ、って、もしそんなぁ、ふぁ・・・ことに、なったら・・・」 先輩は剣道部をやめてしまう。 つまり、先輩とのつながりが無くなってしまうということ。 今まで私は先輩と『剣道部の後輩』としてしか付き合ってこなかった。 お弁当を作ることができたのも『後輩』だったから。メールでの話題も『剣道』のことばかり。 家に呼べたのも一緒に『剣道の練習』をすることができたから。 それは先輩が剣道部員だから成り立っている関係だった。 先輩に対して学校の上級生として接することもできるのかもしれない。普通の女の子なら。 でも私には無理。今までの人生で男の子とは『剣道』を通してしか関わらなかった。 そう。『剣道』が無ければ何もできないような臆病者なんだ。私は。 801 :あなたと握手を ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/01/22(月) 22 56 50 ID sVWolwVr だからこそこの関係を早く終わらせようと思ったし、告白する勇気も持てた。 それなのに、こんなことになるなんて。 「辞めないで・・・せんぱい。やめないで・・・ 私は、うなばらせんぱいが、いないと・・・もう、だめなんです・・・ 好きです・・・好きです・・・好きぃ、で、すぅ、う、ふぇぇぇ・・・」 ならなぜ告白をしなかったの?毎日そのチャンスがあったのに。 後悔してももう遅い。そう思うともっと悲しくなる。 「なんでぇ。なんでこんなことに、なっちゃったのよぉ・・・ ふぇ、えぇぇぇぇぇん・・・こんなの、やだよぉ・・・ どうしてせんぱいは、変なおんななんか、かばって・・・・・・、ぇ?」 ・ ・ ・ 女? そうだ。変な女が轢かれそうになっていて、それを先輩が助けて、そして怪我をした。 涙が止まる。 意識が覚醒する。体が軽い。心も軽い。 そう。あの夜。 「その女が、居なければよかったのに・・・」 いまさらその女をどうにかしても先輩の左手はすぐには回復しない。でも。 「その女に、報いを・・・」 助けてもらった恩も忘れ、立ち去るような人間には。 「その女に、■を・・・」 まずは探さなければ。その女を。 「・・・誰、なのかしらねぇ・・・」
https://w.atwiki.jp/euphshaker/pages/72.html
「帰るわよ、プーキー」 物資の搬入を終え、イリアスは廃都市のはずれに停めておいたグスタフに戻る。 「へいへい、了解っス」 イリアスがサブシートに座ると、すぐにキャノピーが下りグスタフは発進。次なる「仕事場」へと向かった。 「……にしても、お嬢も物好きっスね」 「んー? 何が?」 何をするでもなく外を眺めていたイリアスが、プーキーと呼ばれた男性の声に反応して振り向く。どこか気だるそうに。 「いや、わざわざこんな組織相手に仕事しなくとも、お嬢ならまともな働き口くらいあるでしょうに」 「まあね……」 シートに身体を預け、目を閉じる。疲れているのか何なのか、普段と比べて反応が悪いようだった。 「……別に伊達や酔狂でやってるわけじゃないわよ」 ぽつりと、一言。 「やってる事自体はそれこそ死の商人……。ま、今更ビビっても仕方ないんだけどね」 またこうやって、はぐらかそうとする。 「そりゃ、そうっスけど」 「別に、怖くなったら辞めてもいいのよ?」 どこか退廃的な光を湛えた笑み。結局の所、プーキーはこれに惹かれているのだった。とても自分より年下に見える少女が見せるものではない、引きずり込まれるような笑み。 「……そしたら俺、どこで働きゃいいんスか」 仕事が無い、これも理由の一つだったが。 「行っちゃった?」 「ん? ああ、ついさっきな」 先ほどまでイリアスが訪れていた格納庫に、新たな来客が一人。 「あ、そ……」 「何だ? 何か用でもあったのか?」 「別に」 整備士の男はこの来客を胡散臭げな目で眺める。イリアスよりもさらに小柄な少女。薄暗い格納庫においてなお黒い、無造作な髪。真紅の瞳。 だがそれらを差し置いて最も目を引く存在、それが顔の右半分を覆う仮面だった。数ヶ月前に突然組織に参加して以降、一度も仮面を外した事は無い。組織内ではその姿から、いつしか「ファントム・オブ・ジ・オペラ」、通称で「オペラ」という通り名までついていた。本名が明かされていないため、実質名前扱いになっているが。 当然、様々な噂が流れる。過去に大火傷を負った、戦場で傷付けたというオーソドックスなものはともかく、外見の年齢にそぐわない言動から、秘密組織の薬で縮んだとかいうわけのわからない噂話まで飛び出す始末だった。 そんな得体の知れないヤツに、好意的に接する人間などそうは居まい。 「おい、本当にあんたの機体、整備しなくていいのか?」 整備士から見ても、この少女は少々扱いに困る。搭乗機を一切、他人に触らせないのだ。彼女の機体はとても個人で維持できるようなモノではなかったし、なによりメカニックとして「いじりたい」と思わせるにふさわしい機体でもあった。 「死にたい?」 だからそう聞くと、必ずこう返ってくる。 「……知らねえぞ、どうなっても」 本当に、取り付く島も無い。しかしそう言われた以上、勝手に機体を触るわけにはいかない。余所者同士の集まりである彼らには、越えてはいけない一線が存在するのだ。それは、整備士自身がよく知っていた。 「そうね……、リュシーさんは、歴史は得意?」 「えと、普通に学校でやるレベルなら」 まるで学校の先生のように、目の前の女性は私に話しかけてくる。 「じゃあ、今の統一政府が出来たきっかけは何だったかしら」 それなら少しはわかる。最後に受けた授業で、丁度そんな内容をやっていたはずだった。というか、こんな経験をしても授業の内容は覚えているらしい。 「ZAC2132年に起こった、ニカイドス島でのテロが原因なんですよね?」 「んー、まあ正確にはあれはテロじゃなくて『個人戦争』ってカテゴリーに入るんだけど、よしにしましょう。ところでその当時、国というものはどうなっていたかわかる?」 「え……、国、ですか?」 あまり意識した事の無い単語だった。 「正直……、良くわかりません」 「うん、それでいいわ。その当時、国家というものは限りなく規模を小さくしていたからね」 「領土が少なかったんですか?」 パッと浮かんだイメージを、そのまま口にする。すると、女性が苦笑いを浮かべた。 「うーん、そういうわけじゃないのよ。規模を小さくするっていうのは、要するに国がやらなきゃいけないことを可能な限り減らした……っていうところかしら」 「国がやらなきゃいけないこと?」 「そう。簡単に言うと福祉、教育、防衛あたりかしらね」 そのあたりなら、私にもわかる。 「まあこれらをひっくるめて『行政』としましょう。これを各都市に全部丸投げしてたのよ」 「ま、丸投げ……?」 ずいぶんと乱暴な言い方だと思う。 「そ、丸投げ。もっともこれは、あまりに長く続いた戦争のせいで国を国として維持出来なくなったというのが本音かしらね」 「戦争……」 言葉だけはよく聞く。やってはいけないものという、マイナスのイメージを持って。 「……戦争ばっかしてきたからな、この星は」 「え?」 振り返ると、そこに私より年下に見える少女が立っていた。顔の右半分を仮面で覆っていて、凄く不気味な。 「あらオペラ、また包帯?」 「うん、悪いけど頼む」 女性が机の引き出しを開く。と同時に、仮面の少女は私に視線を向けた。ふと見ると、袖口から覗く右腕には包帯が巻きつけられている。何か怪我でもしたのだろうか。だとすれば、この少女もテロに関わっているのだろうか……? 「……何?」 「! い、いえ! 別に……」 そんな事を考えていたら、じろじろ見ていたのに気付かれたらしい。 「はい。もう残りも少ないから、なるべく節約して頂戴ね」 「わかった、ありがとう」 女性から包帯の箱を受け取り、少女は部屋から出て行った。 「あの、今の子は……?」 「名前は私達も知らないわね。ここだとそういう人達も多いし。オペラっていうのは通称ね。ほらあの仮面、『オペラ座の怪人』にそっくりでしょ?」 そう言われればそんな気もする。ミュージカルなんて、音楽の授業でしか見たことは無いのだけれど。 「あの子も、テロリストなんですか?」 「そうね、今の貴女の目線から見れば、彼女もテロリストかもね」 信じられなかった。私が普通の生活をしていた影で、私より小さな子ですら、テロに関わらなければならないなど。 「でもこれだけは言っておくけど、彼女は自分の意思で参加しているわ。洗脳とかそういうのじゃないから」
https://w.atwiki.jp/shinatuki/pages/381.html
所変わらずここは永遠亭の食卓 「おい肉はまだできてないぜ」 「少し味が濃いかしら?」 「十分においしいわー」 子どもが肉に手を伸ばし、父(?)が肉の出来具合を確かめ、母(?)が少なくなってきた鍋にお湯をつぎ足す。典型的な家族の鍋というやつだ。 ただ一つ・・・屋根裏でその光景を監視しているものを除けば。 「(で?どこらへんが「邪悪」なんだ?)」リゾットが眼を細めて聞いた 「(てゐ~!師匠ぅ~!1人だけいちゃあいけないのが混ざってるでしょ!絵柄からして明らかにおかしいぃ~)」うさぎ特有の長い耳が彼女の怒りを代弁しているかのごとくはげしく動いている・・・猫の尻尾みたいなものなのだろうか? 「(人の話を聞けッッ!!)」 どうも周りが見えていないうさぎはほうって置いてリゾットは再び観察を続けることにした。 「なべの後はおじやか?」 「今日はうどんよ」 が、やはり暖かい家庭の会話以外のなにものでもない。なにか邪悪なものはないかと標的をじっくり観察するが、暗殺を生業としてきたリゾットの眼からみてもチョコラータは邪悪ではなかった。むしろ彼の隣から邪悪を感じていた・・・というより・・・殺気か?。 腹も減ってきたしもう帰ろうと思い、隣のうさぎに声をかけた 「(もう満足したか?ばれる前に撤退するぞ)」 「(どうしてこうなった・・・誰も私の話題とかしないし・・・)」彼女の耳が力なく垂れ下がる・・・やっぱり尻尾なのだろうか? 「(忘れられてるんじゃあないのか?)」なげやりにリゾットが聞いた 「(そんなはずありませんッッ!!)」いかりのこえ と ともに その ながいみみ が リゾット を おそう。リゾット は 33ダメージをうけた。 二人が屋根裏で争っている間に食卓でチョコラータが至極どうでもよさげに言った 「そういえばオレがここに来てすぐの時は・・・4人で食事をしていなかったか?」 「ええー?4人?ずっと3人だったよー」ニンジンを取りつつてゐが答えた 「そうねぇ4人もいたかしら?」あごに手をあて考える 「(おい?チョコラータ以外に気にされていないどころか存在そのものを忘れられてるぞ)」リゾット の れいせい な してき 「(なんでえぇぇッ!?師匠!てゐ!!)」レイセンに 64のダメージ 「いや、変な服着た兎がいなかったか?名前はたしか・・・食べ物みたいな・・?」チョコラータが頭をかきながら考える 「言われてみれば居たような・・」首をかしげるてゐ 「誰かしらねぇ?」うどんをなべにいれようとする永琳 「(おまえホントにここに住んでたのか?)」 リゾット の ようとんじょう の ぶた を みる め 「(いましたよ!!そんな哀れみの目でこっちを見ないでください!)」涙声になって答える。レイセン の ぼうぎょりょく が さがった 「そうだ!!『うどん』だッ!『うどん』ッ!!そんな名前だったはずだぜ!」 永琳がいれようとしたうどんを見て叫んだ 「まっさか~。そんな変な名前の兎なんているわけないわ~」 「でも確かに『食べ物』って何か引っかかるわね」 「(チョコラータ惜しいッ!!もうあんたでいいから思い出して!!)」 「(・・・・)」 「(だからその目はやめて)」 チョコラータは自分の髪の毛をいじくりながら考えている。 「なんだったか・・・麺類?」 「うどん?」 「どんべえ?」 「いや・・・なんか中華だった気がするぜ」 「・・・・あッ!!冷麺(レイメン)」 「(惜しいッ!!だから一文字間違ってるッ!)」 「(・・・・)」 「そうそう『冷麺』だ『冷麺』」 「『うどん』じゃあなかったの?」 「いや・・・確か『冷麺・うどん・なんとか』だッ!」 「麺類が続いているわね?じゃあ最後のは『おにぎり』とかなんじゃないの?」 「おいなりさんとか?」 「それだーッ!!『冷麺・うどん・いなり』に間違いないッ!!」 のどにつっかえていたものが取れたようなすがすがしい声でチョコラータが断言した。 しかし 「(んな炭水化物のトリオが名前になるかーッッ!!)」 声にならない叫び声(?)で屋根裏からレイセンがツッコんだ。 「ああ・・・そういえばそうね、そんな兎いた気がするわね。あ、そういえば・・・」 スデに興味がなくなったのか3人はまったく別のことを話しはじめた。 リゾットが隣でくたばっているうさぎに声をかけた 「(もういいだろう?ここにはもうお前を覚えているやつなんかいないんだ。お前の代わりはあのチョコラータがしっかりとやってくれている。これ以上ここにいてもお前が傷つくだけだぞ)」 「(・・・・・・)」そこには絶望し、力なくうなだれたあわれな一匹のウサギしかいなかった。 「(もう退却だな。・・・連れて行くか・・・)」リゾットがこっそりと帰ろうとした時 「キノコ類を用意していなかったわね」と、永琳がどこか演技臭くそんなセリフを言った。 一番初めに違和感に気付いたのはリゾットだった。「(なんだ今のは?妙だ・・・妙に演技風な言い方だったが、こちらに気付いているわけでもなさそうだ。どちらかと言うと・・・)」 リゾットはチョコラータの方を見つめた。「(あいつに向かって言っているような気がするな)」チョコラータもそれに気付いているのか、いささかうんざりしたように言った。 「わざとじゃあないのか?」 「?気のせいよ。それよりお願い」 その声にレイセンが反応した。 「(!なッ!師匠ッ!なに妙に色っぽい声出してるんですか!「(コラ!暴れるな!)」)」 「しょうがないな」そう言ってチョコラータは自分の髪に手をやり 髪の毛を数本引っこ抜いて 鍋の中に 入れた ポチャン・・・・・・ 「「((え?))」」 屋根裏で二人が固まり、 時計の秒針が2周ほどしてから 食卓の3人は 食事を再開した。 「っておいいいぃぃぃぃぃぃぃッッ!!!おかしいだろ!髪の毛じゃないのあれ!?ねえ!?キノコ頭って言ったけどホントにキノコだったの!?なにあれ!? ずっと髪の毛あらってなかったら人間ってキノコはえるものなの!?ねえ!!」 うどんが(多分小さな声で)絶叫した。 「気持ちはわかるがいったん落ち着け!!あれだ、ほら、常識は通用しないとかさんざん言ってただろ?俺だってこの前旧地獄で頭にアイスクリームのコーン生やしたやつを見たぞ。 あれだろ?食い物が頭に生える性質なんだろ?」 「んなやついるかーッ!!第一それはコーンでもクラッカーでもない、『ツノ』だ!!気にしてるらしいから本人の前では言うなよ」 「え、この前味見させてもらったんだが・・・」 「食うなよなーッ!!!だいたいアレだろ!?いくらおいしそうでも頭についてるものなんて食べる気おきないだろーッ!!! じゃあなに!?ウサギの尻尾は綿菓子みたいだから食えるの?ねぇ!?」 「は?尻尾を食うバカがどこにいるんだ?」 「だったら髪の毛も食うんじゃねーッ!!」 屋根裏の2人に気付くことも無く、食卓では相変わらず食事が続けられている。屋根裏に響くのはなぜかモサモサした音ではなく気持ちのいいほどフレッシュな音だった。 「だからなんで平気そうに食えるんだーッ!!おかしいよねあれ?じゃあなに?あんたのとこのペッシも実はあれパイナップルの妖精だったの!!?」 「そんなわけないだろッッ!俺たちの仲間を侮辱するのは許されることじゃあないぞッ!」黒い眼差しから、殺気が放たれた 「なんでいきなりシリアスモードォオオ!!」メシメシッ 「ってバカこら暴れるな」二人が暴れた衝撃で、屋根裏は壊れ 「「痛ッ」」 食卓に落ちて行き、 「あらあら」 3人と対面することになった。 「ど、どーもです・・・師匠・・・ゥ?」 リゾットはとっさに思いついたことを言った。 「あー・・・食事中に失礼したな。 ちょっとネズミ駆除のボランティアで来ていただけだ。 すぐに帰る予定だったんだが、実はネズミがスタンド使いだったんでな。思った以上に激しい戦闘になって、屋根が壊れてしまった。 修理代はこちらが持つから心配しないでくれ。こいつか?こいつは・・・俺の相棒だ。気にするな。それじゃあな。邪魔をしたな、スマン」リゾット、嘘がつけない性格であった。 ばれたか?と気にするリゾットとは裏腹に3人はリゾットの隣の人物を凝視していた。 「あ、あなたは・・・」「お前は・・・」 自分の存在を思い出したのかと期待した眼でレイセンは3人を見つめた。「師匠・・・」 「「「そうだ思い出したッ!!!!」」」 そして3人はある名前を口にした 「スパゲティー!!!」 「どんべえ!!!」 「スシロー!!!」 しばらくの沈黙の後に 「・・・・・・・・違ウWWWWWWWWWWWWRRRRRRRRRYYYYYYYYYY!!!!!!!」 スパゲティ・どんべえ・スシロー改め冷麺・うどん・いなり改め鈴仙・優曇華院・イナバ改めレイセンはそう叫んだ。
https://w.atwiki.jp/euphshaker/pages/17.html
……何だったんだ、今のは。 もっとも端的に表現するならば「夢を見ていた気分」と言えばいいだろう。しかし、まさかこんな場所でこんな時間に夢など見るはずもない。そもそも寝てない。 もう一度、例の本のページをめくる。 目についた記述は、「老砲兵の意地(ZAC2101年)」というもの。その先は空白。 (……歴史書かと思ってたら……、そうでもないらしい) と、思った時。 「っ!」 また、あの感覚。引き込まれるような、包まれるような。 「はあ? 今更戦闘配備ってな、どういうこったよ?」 しゃがれた、しかし強い老人の声が響く。 「摂政直々の命令だ。拒否は許されん。それと、予備役だからといって、その口のきき方は上官反抗に当たる。気をつけたまえ」 暗黒大陸ニクス、ガイロス帝国首都ヴァルハラ。そのはずれに位置する小さな家に、突然、数人の軍人が訪れた。 「集合は明後日、〇九〇〇。遅れないように」 「……了解」 そう返すと、軍人達はさっさと出てゆく。他にも行く所があるのだろう。 「ちっ」 家の主は、舌打ちを漏らした。 フーバー・シュタインベルグ。齢80を超える、ガイロス帝国軍元曹長。かつてこの星で起こった大陸間戦争において、ゼネバス帝国から接収したブラキオスやシーパンツァーで、多大な戦果を挙げた老砲兵である。 彗星衝突後も退役せず、予備役として軍に身を置き続けていた。もっとも、まさかこんな時期になって召集がかかるとは思っていなかったが。 翌々日。兵員輸送車に揺られ、同じく召集をうけた予備役の兵と共に、フーバーはヴァーヌ平野の軍事基地に向かった。 兵員や将校には、彼を知る者が何人もいた。しかしながらフーバーは、話しかけてくる者をことごとく無視する。 そんな気分ではないからだ。 (……確実に勝てた戦を長引かせた挙句、予備戦力の投入、か……) 一昨年の西方大陸戦争に端を発する、この戦争。当初、ガイロス帝国軍は圧倒的に有利だった。戦力は、敵の三倍。戦争において重要な制空権も、レドラーを有する帝国側が一方的に握っていた。勝てるはずの、いや、勝てなければおかしい戦争だった。 それがどうだ。今こうして、ガイロス帝国軍は予備役すら駆り出されている。 西方大陸で敗北した要因はいくつかある。共和国の新型機ストームソーダーの存在。あまりに速い進撃による、兵站の伸び。ロブ基地に仕掛けた奇襲作戦の失敗。これらが絡み合い、帝国軍は敗北した。 (……自滅した、と言っても過言じゃねえんだがな) フーバーはそう思う。ストームソーダーは本来、帝国軍の新型機だった。その設計データを奪われたのは、開発局の怠慢。 兵站の伸びは、上層部の計算違い。 ロブ基地奇襲失敗は、そもそも兵站の伸びが原因。 結局のところ、敗因の半分以上はこちらにあるのだ。 (……着いたか) そうこう考えているうち、基地に着いたようだ。 格納庫には、キャノリーモルガをはじめとする砲撃用ゾイドが並んでいた。その中に一機、姿を異にする機体がある。 「マルダーか……」 フーバーにとっては、やっつけのように大砲を背負った突撃機のモルガより、よほど馴染みのある機体だった。旧大戦の初期にゼネバス帝国によって開発された、カタツムリ型重ゾイド。ガイロス帝国軍も、ディオハリコンを試験的に投与した機体を何機か使用していたはずだ。 「あの機体、誰が乗るんだ?」 手近な整備兵を捕まえて、聞いてみる。 「誰も乗りたがらないんじゃないですか、あんなロートル。曹長の隊の中から、搭乗者を出してくれるんですか?」 まあ、確かにそうだろう。 フーバーは、そのロートルの所に足を向ける。 どこか愛らしさすら感じさせる機体でありながら、間近で見ると意外なほどの迫力がある。 良く見れば、装甲には幾つもの小さな傷が走っている。年式を確認すると、ZAC2033年製とのことだった。 ……面白い。 フーバーは、急にこのマルダーに乗ろうと思い立った。 轟音が響く。空気そのものが振動し、伝播する。 戦場。 (……まさか、また帰ってくるたあな) マルダーのコクピット、気密性の高いそこにいても、ひしひしと感じる。 50年近く忘れていた、思い出そうとしなかった感覚。 「お前さんも思っちゃいなかっただろ?」 口に出して、マルダーに問う。 後の歴史書に記される「ヴァーヌ戦線」の中で、フーバーは重砲隊を率いて戦っていた。 突撃志向の強いガイロス帝国陸軍において、砲兵隊は臆病者の集団と考える輩は少なくない。 しかし、フーバーはそれでいいと考える。人間臆病な位が丁度いい。実際、自分がこうして生き残っていられるのは臆病だったからである。 だが、戦場の女神は気まぐれだ。 布陣の左翼、キャノリーモルガが二機、吹っ飛んだ。 「何っ!」 敵がいる。だがどこに? 四半秒思考を流す間に、また一機、モルガが撃破される。 (……高速機、それもステルスか) おそらく光学迷彩。それも、ヘルキャットの物を上回る。 弾種を選択、まさか使うとは思わなかった「広範囲ペイント弾」を装填。 「……行けよ!」 ミサイルハッチを半開きにして、真上に撃つ。一瞬の間をおいて、上空から大量の塗料がぶちまけられた。敵の姿が露になる。狐型の中型機。おそらく後方撹乱の任務に就いた機体だろう。 「そこか!」 加速ビームランチャーが連射力に物を言わせ、姿を見せた敵に浴びせられる。だが、当たらない。 「ちっ、速え」 おまけに光学迷彩がすぐに復活した。エネルギースクリーンに自機の周囲の映像を移すタイプなので、塗料がかかった「瞬間」は無効化できても、すぐにスクリーンに隠されてしまうのだ。 「下がれ! 無駄に死ぬだけだぞ!」 同士討ちを恐れ、下手に撃てない重砲隊に指示を飛ばす。飛ばしがてら、次の策を考える。余裕を見せているのか、追撃はまだない。 (ペイントが駄目なら……) フーバーは、撃破されたモルガに加速ビームの照準を合わせた。乗員の脱出は確認している。 (すまん……!) 撃つ。搭載された弾薬に引火、モルガが激しく炎上する。 追い討ちをかけるがごとく、榴弾をマルチミサイルランチャーから発射。爆発的な勢いで、戦場は炎に包まれた。 「……見えたぜ!」 それがフーバーの狙いだった。炎により発生する熱、それによって引き起こされる大気の揺らぎ。光学迷彩のスクリーンも、それによって大きく揺らいだ。 マルダーの左ハッチが開く。中口径電磁砲。当たれば、敵の動きを止められる。 同時に、加速ビーム砲も火を噴く。こちらはエサだ。相手を電磁砲の射界に誘導するための。 「そこだ!!」 電磁砲が発射される。一発目、僅かに逸れた。だが二発目は命中。敵の足が止まる。 「こいつで……とどめ!」 最後の一撃、ミサイルランチャーから対ゾイド徹甲ミサイルが撃ち出される。 高速機の装甲は、脆い。弾頭が敵機に突き刺さった。 「……さすがです、曹長」 見ると、一機のモルガが戻って来ていた。 「何をしてる。下がれと……」 不意に、フーバーの総毛が逆立った。 撃破したはずの敵機、既に丸見えとなっている濃紺の狐型ゾイドの背中、バルカン砲と思しき武装が、こちらに狙いをつけていた。 ――奴の武装はまだ生きている!! 発砲される寸前、フーバーはマルダーを横向きに、モルガへの射線を遮った。 一瞬遅れて、徹甲レーザーの雨、それも横殴りの強烈な一撃が、マルダーを、フーバーを襲う。 「そ……、曹長!!」 「いいから逃げろ! 俺に構うな……!!」 装甲がひしゃげてゆく。しかし貫かれはしない。 「行け!!」 フーバーの声に押されるように、モルガが走る。 時間にして数秒、マルダーは射撃に耐えた。その数秒で、モルガは逃げ切ることが出来た。敵の残りエネルギーが少なく、射撃がすぐに止んだからだ。 だが、 「……ここらが、年貢の納め時か」 その代償は、フーバーと、そしてマルダーの命。 装甲は撃ち抜かれ、搭載していた弾薬に引火、射撃が止んで一瞬後、歴戦の砲兵を乗せたマルダーは、爆散した。 フーバー・シュタインベルグ、ヴァーヌ平野で戦死。二階級特進により、中尉に任官。 歴史に記されるのは、たったこれだけの文章。
https://w.atwiki.jp/wiki7_vipac/pages/30.html
自宅地下より通じる雫のACガレージ。 重厚な金属の扉を開き、その冷たく暗い空間に身を躍らせる。 扉の近くにある、照明のスイッチに手をかける。 いくつかのスイッチをオンにすると、ゆっくりと周辺が明るくなって行った。 ガレージの中心にたたずむ、蒼いAC。 「……シルフ」 返事をするわけでもないのに、つい名前を呼んでしまう。 その冷たい脚に手の平を合わせ、愛機の命の鼓動を感じ取る。 苦楽を共にし、数多の敵を倒し、傷ついては修理し、一緒に同じ道を歩んだ。 言わば親友。 言わば家族。 同じ時を過ごした、最愛の仲間。 兄の命を受け継いだ、最愛の兄弟。 「……今までありがとう。……そして……お疲れ様」 愛する者に別れと感謝を告げ、雫はその場を去った。 次の日 ピンポーン……。 優雅に紅茶を楽しんでいた雫の耳に、チャイムの音が届く。 「来たわね……」 ティーカップをソーサーへ戻し、立ち上がる。 エレンは、一瞬雫が呟いた言葉に首を傾げていた。 玄関から戻った雫の後ろには、エレンが想像していなかった人物が立っていた。 「ようお嬢さん。同居してたんだなあんたら」 ハンニバルである。 意外な人物の登場に、エレンは目を丸くして固まっていた。 「昔からの親友なのよ……あの事件以来同居してる」 律儀に説明する雫。 あまりに普通の対応だったのでエレンは一人除け者の気分だった。 「ところでお前さん日系だったんだな」 「何を今更」 「いや、表札にSUMERAGIって書いてあったからよ」 極々普通の会話をしながら二人はガレージの方向へ歩んで行った。 一人取り残されたエレンは二人を追うことも忘れていた。 二人がガレージに入ると、既に数十名の作業服を着た整備士が待機していた。 「ご苦労さん」 ハンニバルが適当に手を挙げ挨拶をする。 雫は無言でAC付近の端末へ歩いていく。 「おいおい……お前も挨拶ぐらいしとけよ」 しかめっ面で挨拶を促す。 煙草の煙が雫にかかり、若干鬱陶しそうに歩調を速めた。 「さっきしたわよ」 至って平坦かつ冷淡な返答だった。 「そうかいそうかい……」 ハンニバルも半ば諦めつつ返す。 結局会話はそれだけで終わった。 端末を起動させ、ACの構築データを読み込む。 やや間があって、画面には今後ろにあるACの姿が映し出された。 「これが今日搬入したパーツのデータだ」 ハンニバルがポケットから何かを取り出す。 所謂メモリースティックの類で、今雫が操作している端末に対応しているタイプのものだった。 雫はそれを無言で受け取り、端子へと挿入する。 データの読み込みのためしばらく待つ。 「搬入したのはどんなパーツ?」 読み込みの間、雫はハンニバルに出来るだけ質問することにした。 主に、今日行う作業についてだ。 「読み込まれるリストを見ればわかると思うが……まぁ主に脚部やコアなどの外部パーツだな。 この間の戦闘から判断し、主に中量2脚や軽量2脚、それに見合うコアを用意した。 武装パーツは軽めの物をいくつかって程度だな。主力はあのブレードだろうし、そんなに用意しなくてもよかっただろう?」 そこまで言うと、読み込みが完了される。 出てきたパーツリストは、ハンニバルが雫に合わせて選んだパーツ。 どれも雫の戦闘スタイルに合ったものばかりだった。 (この男……あれだけの戦闘でよくここまで……) 素直に感心した。 性格はとてもじゃないがいいとは言えない。 だが、確かにハンニバルの腕は一流なのだ。 「だてに色んなパーツ使いまくってるわけじゃない。 そこらのレイヴンよりアセンブリの腕はいいつもりだぜ」 現に、彼のアセンブリの腕は定評がある。 彼のACを模倣するものも現れるほどだ。 「上出来ね……信頼に値するわ」 恐らく、雫の口からハンニバルに対して褒め言葉に値するものが出るのは初めてだろう。 (よっし!!この調子でフラグまで持ち込んでやる!!) ……やはりこんな男だった。 二人で話し合いしつつ、ACの構成を決めること既に2時間。 その間、クレストより派遣された整備士は仕事の準備をする者もいれば談笑する者もいた。 エレンが途中お茶を運んで来ることもあった。 そして……。 「こんなものかな……」 データの入力を終え、イメージの出力をする。 ハンニバルがそれを後ろから覗き見た。 「ほぅ……結構いいんじゃねーか?」 あくまでブレードを主体に、補助火力としてイクシードオービットとライフルを積んだタイプの軽量2脚AC。 今までのACよりエネルギー効率が良く、積極的にブレードを狙っていける。 雫なりに導き出した最良の構成だろう。 「で……名前はどうすんだ?前のままでいいのか?」 ある者は語る。 名前はACにとって命のようなものである、と。 ACは自分の子供のようなもの、とそいつは言った。 『自分の子供には、愛を込めて名を付けるべきだ』と。 「……ブラッドファング」 ……果たしてその名に愛は存在するのだろうか。 雫にとって、こいつは戦友。 復讐のために、共に戦う大事な仲間。 だからこそ、この名を捧げる。 「血塗られた牙……ね。まったく……お前らしい名前だ」 「まだ知り合って間もないのに『お前らしい』とは、ひどい言い草ね」 データを整備士達が持つ小型端末に転送する。 データを受け取った整備士達が各々の作業のために動き出す。 ここからは彼らの仕事のため、二人はガレージの端で見守ることにした。 「………………」 じっと、作業の様子を見つめる雫。 ハンニバルはその横顔を見て、呆けていた。 その視線に気づいたのか、雫は険しい顔をしてハンニバルに迫る。 「……何?」 ハンニバルはあわてて取り繕った。 「あぁ……いや。お前さん……年はいくつなのかなぁって……」 「17よ」 その答えに、ハンニバルは動揺する。 「何よその顔」 どうやら表情に出ていたようだ。 あわてて真顔に戻し、話を続けた。 「いや……ずいぶんと若いんだな」 レイヴンの世界は、そう簡単に入れるものではない。 強者の領域になると、並大抵の努力ではなれない。 そのため、上位にはある程度年を重ねたものがなるものだった。 ハンニバルも、彼是10年はレイヴンをやっている。 それでもやっと、アリーナランク10位以内に食い込むのが関の山だ。 それと同等……いや、それ以上の力を持つ少女。 (本当にいやがるんだな……天才って奴が) ふと、昔を思い出す。 真の天才に出会ったあの時を……。 5年前 「ひぃふぅみぃ……っと。これで全額だな」 男の手には札束が握られていた。 「まったく……たかが200万コーム返すのに5年もかけやがって」 一瞬、ぶん殴ってやろうかと思ったがさすがにまずいので手は上げない。 良家の人間を相手にすると自分の金銭感覚がおかしくなりそうだった。 だから、彼は金を渡した後すぐその場を去った。 「悪かったな。じゃあ、俺はこれで」 背中越しに手を振り、出来るだけ早く自宅へ戻ろうと考えた。 寄り道もせず、余計な買い物も避けようと、そんなことを考えていた。 「あ、ガルシア」 ふと、呼び止められる。 「何だよ……俺は急いでるんだ」 溜め息混じりに吐き捨て、振り向いた。 「お前、レイヴンやってるって本当か?」 この男は、学生時代のダチだった。 昔から金銭面で世話になることが多々あり、今返済した金もその頃から溜まっていたものだった。 卒業して離れてからは、極たまにメールのやり取りをする程度だった。 その度に『早く金返せ。』などと言われるので、いつも頭に来ていた。 卒業してからの進路は、誰にも告げることは無かった。 両親を亡くした15の時から天涯孤独、ずっと一人で生きてきた。 だから、高校で出来た友人とはいつも馬鹿やって騒いでた。 そうしているのが一番楽しかった。 家に戻ってもいつも一人。 一人で過ごすより、複数で遊んでいるほうが楽しかった。 だが金遣いが荒く、バイトだけではとても足りなかった。 だから友人たちからお金をよく借りていた。 一番大きかったのが目の前にいる男から借りた200万だ。 卒業と同時に借り、そのお金でレイヴンになった。 誰にも告げず、地道に任務をこなし、少しずつアリーナの順位を上げて稼いだ。 「……どこで聞いた」 不思議でしょうがなかった。 レイヴン名は本名ではない。 顔だって、レイヴン同士でなければほとんどわからない。 そんな世界の人間の話を、どこで知ったのか。 「最近……お前が借りていた金を全部まとめて返してきたと聞いてな。 金回りのいい仕事でもやってんのかと思って。そんでお前がレイヴンなんじゃないかってダチの間で噂に」 確かに、すぐ返せるような金額ではなかった。 それをまとめて返済しているとなれば、相当金回りのいい仕事をしているとしか思えない。 そしてこの世界で、最も金回りのいい仕事はレイヴンだった。 「まったく……大した想像力だぜ」 吸っていた煙草を携帯用灰皿に押し付け、新しい煙草を取り出す。 「あぁそうだよ……俺はレイヴンだ。これでもアリーナで最近話題になってるんだぜ」 今更隠し通そうとは思わなかった。 別に学生時代の友人にバレたところでどうって事はないだろう。 「やっぱりそうか……まぁお前のことだから大丈夫だとは思うんだが……」 「あぁ?大丈夫って……何がだ?」 こんな時でも挑戦的な口調なのは彼の性格だった。 「いや……なんでもない。とにかく、絶対死ぬんじゃないぞ」 それだけ言って、別れた。 (死ぬんじゃないぞ……ってか) 相変わらず煙草を咥え、帰路をゆっくりと歩く。 (レイヴンなんて……いつ死んでもおかしくはねぇ) それは彼自身がよくわかっていた。 何度も死線を掻い潜っている彼が、わからないはずがなかった。 (ま、しばらくはアリーナで遊んでるか……) それから数日後 この日はアリーナで挑戦を受けることになり、彼はアリーナに来ていた。 数々のACが立ち並ぶガレージ、その中をただ何も考えず歩いていた。 いつも通り煙草を咥えながら。 (…………そういや今日の相手誰だったかな) ここで今更対戦相手のことを思い出す。 マイペースな男だ。 (確か……エンペラーとか言う奴だったか) エンペラー……皇帝の名を冠するそのレイヴンは最近アリーナに参戦した言わば新参。 それでもここまで破竹の勢いで駆け上がって来た。 (相手にとって不足は無し……) ドンッ!! 「あっ!!申し訳ございません!!」 突然衝撃を受け、突然謝られる。 声の主のほうを向けば、そこにはいかにも新人っぽい青年がいた。 「あぁ……いや。こっちこそぼーっとしてた。悪い」 それだけ言って、その場を去ろうとする。 面倒なことに関わりたくは無かった。 これが美女なら話は別だが……。 男、しかもここにいるって事はほぼ確実にレイヴンだろう。 そんな奴にはなるべく関わらないほうがいい。 「あの」 ……そううまくはいかないらしい。 渋々、彼は相手をすることにした。 「……なんだ」 声が明らかに不機嫌なのは仕様である。 「今日の試合、よろしくお願いします。」 青年は、深くお辞儀した。 (今日の試合……) 少し考えてしまったが、すぐに答えを導き出した。 「まさか……お前が……エンペラー?」 こんな若いとは思わなかった。 明らかに15かそこらの青年。 そんな奴が、自分の対戦相手とは……。 「はい。……あの、何か顔についてますか?」 気が付けば、相手の顔をずっと伺っていた。 すぐに視線を戻し、歩き出す。 「いや……なんでもねぇよ」 少しだけ、後の対戦が楽しみだった。 (とてもじゃないが……レイヴンには見えねーな……) 後のインタビューで彼はこう答えている。 『あいつはまさに、ACに乗るべくして生まれた人間だ。 天才とはあいつのような奴を指すんだろう。 強いとか、上手いとかのレベルじゃない。 初めて、天才の二文字が似合う奴に出会えたよ。 彼から学んだ事も少なくない……今後に生かして、いつか追い抜いてみせるさ』 「ハンニバル!!」 前方からの怒鳴り声に意識を戻す。 少し、ぼーっとしていたようだ。 「すまん……考え事をしていた」 ハンニバルが戦った、『天才』レイヴン。 戦うために生まれてきたような存在。 何度も再戦を望んだが、ある日突然彼は姿を消した。 「あんたも考え事なんてするのね。まぁいいわ。 私シャワー浴びてくるから。作業終わるまでよろしく」 そう言って答えを待たず、いそいそとガレージから出て行く雫。 「………」 一人取り残されるハンニバル。 作業はまだ終わる気配が無く、どうしようも無く暇な時間が彼を襲う。 「……そうだ」 何を思ったのか、彼は歩き出した。 先ほどACの構成を決めるため使用した端末の電源をオンにする。 画面には先ほど構築したACが映し出されていた。 「構築済みACデータはっと……。」 彼がしようとしているのは、雫が過去に構築したACのデータの読み込み。 あの時戦ったACを詳しく調べてみようと思ったのだ。 「お……あったあった……ってあのACの名前わかんねーや」 そこにはいくつかのAC名が書かれていて、どれがあの時戦ったACなのか名前だけでは判断できなかった。 仕方が無いので上から調べていく。 「これかな……」 いきなり当たりだった。 内装から武装まで、全てのデータが映し出される。 「ほぅ……こんな構成だったのか……」 チューンまで詳しく調査しておく。 こうやって他人のACを調べるのも知識を溜め込むには丁度良い。 (……腕はいいのに……アセンブリのセンスがあまり無いな……。勿体無いと言うか……なんというか) ついでに他に保存されていたデータを調べることにした。 (ほぅ……よく見るといい構成のACも見られるな……) 中には、とても雫が構成したとは思えないACも見られた。 ダブルトリガーだったりフロートだったり。 あの時見た雫の戦闘スタイルとは想像が付かない物もある。 (これが……最後か) ハンニバルは、最後のデータを開き、ショックを受けた。 「……まさか……これは……!!」 そこに映し出されたのは、赤い高火力の4脚AC。 5年前ハンニバルが戦った、エンペラーのACそのものだった。
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1149.html
わたしの朝はクレイドルから始まる。 朝、タイマーによって起動したわたしはまず今日の日付を確認する。これは体内に内蔵されたカレンダーでも出来るものなのだがどうも、紙でできたカレンダーのほうが好きなのだ。 そして日付を確認した後、わたしのオーナーであるハルナを見る。 ・・・・これはまたなんとも。 「寝相が悪いですね。はだけ放題じゃないですか」 体だけ見れば十分大人なのに・・・・もったいない話です。 さて、そんな毎朝抱く感想は置いておくとして起こさなければいけませんね。ハルナを起こすのはわたしに課せられた使命ですから。 ・・・・しかし、どうやって起こしたものか。 寝起きがあまりよくないのですよね。ハルナは。 何か道具が無いかとあたりを見渡すと、白と赤で着色されたパッケージが目に入りました。アレは確か昨日、ハルナが買ってきたジンギスカンキャラメル・・・・使えますね。 わたしはお菓子のパッケージに近づくとナイフで箱を開けました。中には一個一個丁寧に包装されたキャラメルがたっぷりと詰まっています。 その中から二つほど拝借し、銀紙を取ってハルナが眠るベッドに向かいます。 よじ登って辿り着き、寝ているハルナの口の中に放り込みました。 さて、後は放っておきましょう。しばらくすればうなされていい表情を見れますから、観察しつつ起きるのを待ちましょうか。 クラブハンド・フォートブラッグ 第三話 『主の日常と姫君の退屈』 「・・・・・・・あのクソ女・・・」 いつもより念入りにうがいを済ませた私は鏡に向かって毒づいた。 「よりによってジンギスカンキャラメルを口に入れるか・・・・しかも寝てる時に・・・・」 お陰で今朝はひどい夢を見た。焼肉屋さんでラード(脂肉)ばっかり生で食べさせられる夢。うえぇ・・・口の中にまだ味が残ってる・・・・。 「いやいやとても素晴らしいものを見させていただきました。若き乙女の苦悩する姿は非常に良かったですよ」 と、洗面台のコップの中に入って遊んでいたサラがいう。 「黙りなさいこのタコ頭。しまいにゃきれるわよ・・・・?」 「きれる中学生! 今朝の新聞の一面ですね」 「あんたに今ある選択肢は二つ。そのままコップに蓋をされて閉じ込められるか電子レンジでチンされるかよ!!」 「神姫を電子レンジに入れると爆発しますよ?」 「するんだ!? 爆発するんだ!?」 と、いけないいけない。今日は月曜で学校があるんだった。 サラに付き合ってたら遅刻しちゃうわ。 「私は学校行くけどあんたは留守番よ?」 「判ってますよ。とりあえず部屋まで乗せていってください。神姫に階段はキツイです」 嘘付け。平気で上り下りしてたじゃないのよ。 その言葉を飲み込み、私はサラが入ったままのコップを持つと二階に向かって歩き出した。 「・・・・・気持ちわる」 「七瀬、大丈夫?」 机に突っ伏していると八谷が話しかけてきた。 うぅ・・・お心遣いありがたし。 気を紛らわせるために、今朝の事情を説明する。 「そんなにジンギスカンキャラメルってヤバイの?」 「寝起きに食べてみなさい。一発で目が覚めるわよ。・・・・うぅ・・冗談で買ってきたのに・・・・・八谷にでも食べさせようかと思ったのにぃ・・・」 「標的僕だったのか!? ならそれは自業自得なんじゃないかな!?」 「私が食べさせてあげようかと思ったのにぃ・・・・」 「いや、それは嬉しいけど、七瀬みると遠慮したくなるよ・・・?」 苦笑しながら八谷は頭をかいた。 ・・・・結構かわいいかも。 神姫バトルじゃ私より強いのにな。 「・・・そういやあんた。マイにゃんの調子はどう?」 マイにゃんと言うのは八谷の神姫だ。 猫型MMSで、かなり自由気ままな性格をしている。鈴の代わりに首に数珠をつけている変な猫だ。 「ふつー。多分今は日向ぼっこしてるんじゃないかな」 「ふぅん。・・・そういやマイにゃんと八谷は勝率高いんだよね」 私がそう言うと八谷は笑いながらこういった。 「七瀬、それ昨日も聞いたよ?」 「む・・・・どうも駄目ね。今日は調子が良くないかも」 恐るべしジンギスカンキャラメル。 こうも爽やかな朝を妨害してくれるとは。 「それじゃぁ気分がよくなることを一つ。駅前のクレープ屋に新作が出たから帰りに食べに行こうよ。奢るからさ」 「その話乗ったわ・・・・にしても男の子らしくない会話ね」 「う、・・・いいじゃないか。甘いもの好きなんだから」 「甘いものだけじゃなくてファンシーなのも好きなんだよねー? 知ってるわよ。八谷の部屋にはぬいぐるみと犬猫の写真集がずらりと並んでるって」 「別にいいじゃん!? っていうか七瀬だってよく写真集借りてくじゃないか」 「私は女の子だから良いの」 「酷っ! ・・・・奢るのやめようかなー」 「あぁんウソウソ。いいと思うわよ男の子ファンシー」 「それだと何か違うものに聞こえるよ!?」 確かに。 何となく半ズボンはいてそうなイメージがある。 「はぁ・・・七瀬は僕を虐めるのが趣味なの?」 「それに近いものはあるかもネ?」 「なぜ語尾がカタカナなのか論理的な説明を求むよ」 ふふ・・・あぁ楽しいなぁ。 普段はさらに突っ込んでばっかりだから、誰かをからかうのが楽しくなってるなぁ・・・・。 あれ? もしかして私結構ヤバイ? 「まぁいいけど。先生来たから席に戻るよ。また授業の後にね」 「おっけ。居眠りすんなよ?」 「キミに言われたくないね?」 そういって八谷は席に戻っていった。 ・・・さて、私は寝ようかな? ・・・・・さて、ハルナが学校に行っている間、どうやって暇を潰したものか。 あぁ、弄る相手がいないと言うのは割かし寂しいものです。 「・・・・ふむ。最近は縞模様が好みみたいですね」 まぁハルナがいなくともハルナの部屋には色んなものがあるのですけど。 さしあたってわたしはタンスの下着入れを物色していたりします。主の好みを把握しておくことも、神姫として当然の事なのですよ。 ・・・・それにしても、歳の割りに大きい胸ですこと。わたしが二人分入れますね。フル装備で。 「ん? これは・・・・生理用品ですか。流石にこれはスルーしておきましょう。・・・・・・しかし胸は大人なのに下着は随分と歳相応ですねぇ・・・・お、この袋は・・・・? ・・・・お年玉袋ですか。つまらないですね」 ・・・・なんですね。 ハルナが登校してから二時間、流石に物色するのにも飽きたのでネットサーフィンでもしましょう。 戻る進む
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2001.html
サーレーの母の病気の原因は肺ガン。 治療にはSPW財団のガンの発育を抑える薬が要る。 それには莫大な金とSPWに顔利きが出来るぐらいの地位が無ければ買えなかった。 その薬が手に入るまで、サーレーの固定化で症状の悪化を防いでいた。 しかし、現在サーレーと母親との距離は遠い。 固定化の効果が切れるまで後大体3日。 この間に帰る必要が有った。 第三話 「使い魔サーレーと黒髪メイド」 ルイズ日記 ●月▼日 あ、有りのままに起こったことを書くわ! 今日私の召喚した使い魔なんだけど、最初逃げたり、生徒たちの総攻撃を止めまくったり すごいと思わせるようなことをやりまくったのに故郷に帰れないと知ってイキナリ取り乱したりとんでもなく凄かった! 何を言っているかわからないと思うけど、先住魔法や家庭の危機とかチャチな物では断じてないわ!!もっと凄い物の片鱗を味あったわ。 なんかお母さんが何とかって言ってたわね・・・。 わめき疲れて今は寝てるけど、こいつに何があってどんな理由で逃げようとしていたのかは聞くのは明日になりそう・・・。 俺は何をしていたんだろう。何か疲れて寝ていたんだけど。 て、床アア阿亜阿亜嗚呼!? ・・・大して驚くような事でもなかった。 それにしても此処は一体何処なんだ? サーレーはすっかり昨日起こったことを忘れていた・・・訳ではなかった。 「ああ、俺。あのクソ生意気な小娘に何かよびだされたんだったっけ。」 サーレーは身の回りの状況を把握する。 中々外装が豪華な部屋だ。 辺りの目ぼしい物を漁ってみることにした。 もしかしたらこの場所がどこか分かるかもしれない。 サーレーはルイズの寝ているベッドに近ずく。そして眠りこけているルイズの顔をそっと覗いた。 ネクリジェ姿でかわいらしい寝顔のルイズを見ていると幼いころの妹を思い出す。 「この寝顔だけ見てれば可愛いんだがな・・・。」 昨日のルイズの高飛車っぷリを思い出してみる。 やべえ、何かやる気萎えてくる。 ああいう高飛車な女、好きじゃねえんだよなー。 サーレーはそう思いながら身の回りを漁るのを再開する。 机の上に何やら本が見えた。ちょっと読んでみよう。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「なにこれェ!!こんな言語見たことも聞いたことも無いぞ!!」 でも、イタリア語通じてたよな・・・。 サーレーの頭に疑問が浮かぶ。 昨日まで言語は問題なく通じていた。多分、今でも通じるだろう。 しかし何か頭の奥底に違和感が残る。 この国は一体どこなのか。母にかけている固定化が自分のスタンドと繋がっている感じがしない。 ・・・・ 只考えていては仕方ない。何かしなければ。 サーレーには考えている余裕は無い。彼には帰るべき家と守るべき家族がいる。 こんな所で立ち止まっている場合じゃない。 サーレーは今度はクローゼットを開いて物色を開始する。 「・・・服ばっかりだな。」 しばらく物色していると何やら黒いひも状の布製品が見つかった。 「何だ、コリャ?」 この余計な発見でサーレーは後に地獄を味わうことになる。 「ふああ・・・。」 サーレーが起きてグッと伸びをするルイズに近ずいていく。 「よう。起きたか。」 サーレーがルイズの顔を覗く。 まだ眼がトロンとしていて眠そうだ。 「もしもーし・・・。」 返事なし。 今度は耳元で声をかけてみる。 「もしもーし。ボン・ジョルノ!!(おはようございます)」 反応なし。 しかたない・・・最終手段発動まで3!2!1! 「こんの・・・ぺちゃパイがアアアアア!!さっさとおきやが「誰がぺちゃパイじゃあああ!!」」 ・・・首の曲がる嫌な音がした。 「いてえ・・・。」 ルイズの回転膝回し蹴りで首が90度回転して変な方向に曲がった。 「だれがぺちゃパイよ!!この蜘蛛頭!!」 「誰が蜘蛛頭だ!!このチンくしゃ!!」 まさに売り言葉に買い言葉!馬鹿と傲慢、二大関わりたくない人種の共演! これぞまさに究極のシンフォニー(究極的に駄目な意味で。)!! とまあ、こんな感じで口喧嘩は進行していたのだが・・・・・。 ここに一人、乱入者が現れる。 「ちょっと!うるさいわよ、ヴァリエール!!」 そう!この状況で一番被害を受けているであろうキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーである!! 「な、何よ!ツェルプストー!勝手に入ってこないで!!」 「あんたらがウルサイから文句言いに来たんでしょう!!まったく・・・朝っぱらから何やってんのよ・・・。」 そこまで言うとキュルケは次にサーレーを一瞥した。 (昨日はトンデモナイ化け物に思えたけれど・・・案外人間味の有る奴なのね。) あのネボスケを起こしてやるなんて、案外いい奴なのかも・・・。結構イイ男だし・・・。 実は手がかりが見つからずルイズに直接聞こうとしていたという事は本人は知る由も無い。 「分かったわね!今度うるさくしたら、只じゃ置かないから!」 「うるさいわね!!わかったわよ!!」 ルイズがそういうか言わないかの間にキュルケはルイズの部屋を出て行った。 「あんた!たとえあんたがメイジだとしても人の悪口を耳元で叫ぶなんてどういう神経してんの!!」 ルイズが随分怒ってサーレーに怒鳴る。 「ああ、もう悪い。悪う御座いました。」 サーレーはそれを聞き流した。なにやら言い争っているのが馬鹿らしくなってきたのだ。 言い争いはこれぐらいで切り上げ、ようやく本題に入る。 「なあ、ルイズ。お前、前にここから俺が帰りたいと言った時無理だと言ったよな?一体なんでなんだ?」 「だって使い魔は主人を守る・・・。」「いや・・・その話は昨日の腐るほど聞いた・・・。」 そう・・・。」 ルイズはそこまで言うとチラリと自分の部屋の時計を確認する。 「時間が無いわね・・・。ねえ、あんた。洗濯言ってきてよ。」 「はあ!?何で俺が行かなきゃならないんだ!?」 ルイズがサーレーをジロリと睨む。 「あんたの仕事は私を守ることだけど何も無いときは何をするの?で、考えたんだけどしばらくは家事をやってもらいたいのよ。あんたは聞くところ魔法は使えるけど貴族じゃ無さそうだしね。」 サーレーは呆れてしばらくポカーンとしていた。 何せ自分の着た服や下着を初対面の人間、しかも男に洗えという。 デリカシーの無いにもほどがある。 「年頃の娘の言うことじゃないだろう・・・。」 「なんか言った?」 サーレーは肩をすくめた。 (まあ、暫くはここで世話になるんだからこの位やるか・・・。こんなチンクシャの下着なんか洗ってもやる気と希望もムンムン沸いて来ないんだよな!!・・・多分。) ほんの少しチョッとした邪念が入っているサーレーなのであった。 このサーレー、完璧に当初の計画を忘れている。 「はああ、っと。ここで洗濯すればいいとか言ってたな・・・。」 サーレーは巨大な洗濯物の山を持って水汲み場まで来ていた。 そこでサーレーは一つ重大なことに気が付く。 「あ、洗濯板と洗剤忘れた・・・。」 だめジャン俺!! な、状態のサーレーの視界に一人のメイド服の少女が飛び込んできた。 普段なら気にしないその少女も今のサーレーにとっては救いの神だった。 なぜなら彼女は洗濯をしていたのだ!! 洗濯板と石鹸を持って!! そして、サーレーは彼女から借りれば態々あの鬼ガキのところまで返らずに済む!! 横顔も可愛かったし、もしかしたら・・・・。うへへへへへへ・・・・。 邪念たっぷりなサーレーはメイド服の少女に近ずいていった。 「あのーすんません・・・。」 「きゃっ!」 少女が驚いて飛びのく。 「あ、すんません。ちょっと洗濯板と石鹸貸して貰っていいですかね?いやー最近来たもんでどこに何があんのか分からなくて・・。」 あ、この子。横顔もだけど正面も可愛い!! 「あ、貴方がミス・ヴァリエールに召喚された人ですね?」 「あれ、俺そんなに有名になってんの!?」 「ハイ。何でも奇妙な術でメイジの貴族の方々を相手に大暴れしたとか。」 ヤバイ・・・こんなところで目立っちまった!! 正直スタンド使いが目立つのはご法度だ。 能力を相手に示すことは本人にとって同時に弱点をさらけ出すこと。 まだ、奇妙な術程度の認識だから良い物のばれれば対策を立てられて終わりだ。 この前の戦闘で俺を眼の敵にしている奴は五万といる。 まあ、正直いって自業自得なんだが・・・。 「あのー・・・。どうしました?」 少女が悩んでいるサーレーを心配そうに見た。 「ん、ああ、スマン。洗剤と洗濯板だったよな。」 考えていてもしょうがない・・・。 そういう問題はそのときに考えよう。 サーレーの顔が焦った顔から普通の(堅気の人専用)顔に戻った。 その顔に戻ったのを見て少女は安心したのかニッコリとしてサーレーに顔を向けた。 何やら悪い物が洗い流された気がする。そんな感じの笑顔だった。 「私はシエスタって言います。はじめまして。」 「俺はサーレー。名前は故郷の言葉で塩だ。」 「変な名前ですね。塩って。あ、でも覚えやすくていいかも・・・。」 サーレーはその問いにへへっと笑った。 この二人の出会いが今日、トンデモナイ事件を引き起こすことはまだ誰も知らない・・・。 「ン出よ、シエスタ。」 「はい?何ですか?」 「なんで月が二つあるんだ?」 ・・・・・・・・・・・・・・ 「何イイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!」 まだまだサーレーは前途多難なようです・・・・。 ルイズ「ちょっと!私の出番!良いとこないじゃない!!」 今度こそルイズに出番がありますように・・・・。 TO BE CONTINUED
https://w.atwiki.jp/civilization/pages/976.html
プレイレポ/MOD/へっぽこ副王のRFC攻略・アラビア編 第三話 「なんとイベリアの黒死病は」→「なんとか」ですね 伝染病は面白そうだけど恐ろしいイベントだ……何度もあるなんて -- 早速のご指摘ありがとうございます。修正いたしました。 -- へっぽこ作者 国名まで変わるのか、このMOD -- 疫病は街が小屋に退化するのが一番恐ろしい。また育て直しとか勘弁してほしいw -- 続きが気になります。良レポ。 --