約 301,164 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2055.html
第三章:入城姫 とうとう、俺と蒼貴は神姫を戦わせる場所……神姫センターに到着した。そこは俺の家からは駅五つ分程、離れている場所にあり、都会に分類される発展を見せる町の中にある。 駅を降りるとそれぞれが自らの目的のために移動する人々が行き交い、背比べでもしているかの様に大きな建物が立ち並ぶ。それらによって造り上げられた活気は人類の文明を感じさせるに十分な力を持って都会の凄さを物語る。 が、俺は正直、こういう所は好みではない。確かに凄いのだが、田舎者の俺としては少々騒がしい場所であるからだ。田舎の家でゆっくりしている方が性に合っている。 さて、どうでもいい事は置いておいて俺は神姫センターに急ぐ事とする。公式ホームページは調べたが、かなりでかい建物で駅から近い事を見ていた。 外観だけを見ればかなり清潔感のある環境のいい建物である事がわかるのだが、果たして中身はどうなのや……ら……? 「……オーナー?」 俺の鞄の中から頭だけひょっこりと出して心配そうに俺を見る。俺の顔は今、相当まずい事になっているらしい。そりゃぁ、そうだぁ……何たって…… 「お兄ちゃん! 僕の活躍見ていてくれたよね!?」 「うん! ちゃんと見ていたよ! エリサ!!」 ある所では何だか女の癖に僕とかほざく上にオーナーの事を『お兄ちゃん』とか行って媚を売りまくるセーラー服の人形とそれを聞いて何とも思わないオーナーがいるし……。 「マスター、見てたかにゃ~? ムカつく奴を倒してやったにゃ~」 「いいぞ! ミンクーちゃん!! この調子でSランクを目指すぞぅ!!」 またある所では……何て言うんだ? 猫みたいな喋り方をしてオーナーにベタベタしている猫耳を無理矢理つけたナース人形がいて……。 「これでよろしいでしょうか? ご主人様」 「うむ。これでまた一勝を挙げる事が出来た……」 ……俺の隣を何だか貴族臭い口調でカッコつける女性が通り過ぎたぞ。おまけにご丁寧にも人形はメイド服姿ときた。 何なんだここは……。色々と俺の身体の中で拒否反応が起きている。ここは危険だと体内から危険信号を発し、頭の中ではこれは受け入れていい事実ではないと規制がかかって脳に負荷がかかっている。 ここは地獄だ。カオスだ。この世のものじゃねぇとかかんとか……。 そんな危険を察知して改めて周りを見てみる。メイド、ナース、制服、チャイナ、ミリタリーなどなどありとあらゆるコスプレをした人形が老若男女とともに戯れている光景しか目に映ってこない。 ――な、なんじゃごりゃ~~!! 俺は思わず心の中で叫んでセンターから逃げ出すと公園へと移動してベンチに座り込んだ。そして鞄の中から蒼貴を取り出して彼女を見た。 「おい。蒼貴。前のマスターはあんな場所を平然と歩き回っていたのかよ?」 「そ、そうですけど……」 「なんてこった……。よくもまぁ、あんなヘンテコな人々が集う場所にいけるなぁ……。ある意味感心してやるぜ……」 蒼貴の答えに俺は絶望的な声を上げて前のマスターにお世辞を送ってやった。 建物そのものは未来的でいいのだが、そこを徘徊する人々は何かが間違っている。そんな事が俺の頭の中に浮かんでくる。 人形に罪は無いが、いくらなんでもあんなへンテコな格好させる神経を俺は理解できない。オタクではない事を未だに主張する俺にはどうにもついて行けない領域を感じる。 ウチの蒼貴も忍者姿だがここまで落ちぶれちゃいねぇぞ……。 「オーナー……大丈夫ですか?」 「……いや、ちょっと絶望気味になっているさ」 「すいません……。オーナーに無理をさせてしまいまして……」 「お前に罪はない。あの場所にいる奴に問題があるんだ……。おぉぉぁっ……」 蒼貴に慰められる中、俺は絶望し続ける。蒼貴を戦わせるためにはあんな空間に入り浸らなくてはならないのかと思うと……ダメだ。 「あの……。そんなにあそこの人達に問題があるのでしたらそんな人達をやっつけるために行くというのはどうでしょう? そうです。幻覚から目を覚まさせてあげるんです」 蒼貴の言葉を聞いたとたん、俺は何かが吹っ切れ、頭の中がクリアになった。 ―― ……そうだ。そういう趣向の野郎共をぶっ倒す事こそが俺の目的だ。俺は悪役だ! 奴らの敵だ! 悪者ぶってどっちが正しいか思い知らせてやるんだ!! 「よし! 蒼貴! それで行くぞ! 痛い人形退治だ!」 「は、はい!」 蒼貴の言葉を心の中に刻む事でセンターの放つ空間の免疫を作る事に成功した俺は改めてセンターへと突撃する事にした。 気を取り直してTAKE2。俺はセンターの様子を見回す。 センター内の人々は戦闘用ブースを借りて戦闘したり、ティールームで談話を楽しんだりと個々で色々な楽しみ方を考え出して自らの時間を満喫している様だ。 早速、戦闘と行きたいが、情報も集めずに突っ込むなどただのアマチュアだ。まずは情報収集に入る。 手始めにセンターに関するパンフレットをもらった。それにはアクセスコードなるものがあり、それを使う事で武器を調達出来るという事が書かれてあった。 運良く期間限定でお試し用のアクセスコードが付属されてあったのでセンター内の転送装置にそれを入力してみる事にした。 そうすると大型の手裏剣が一つ、俺の手元に転送される。今持っている鎌と比べると距離を取った戦いに向いている。そういえば蒼貴の躯体はこういう投擲武器を好む傾向にあるという事を調べた事がある。 試しに戦闘で使わせてみてどちらが使いやすいか蒼貴に聞いておこう。好きこそものの上手って言うしな。 さらに転送装置から俺はバトルシミュレータのシステムをUSBメモリにダウンロードした。これで能力こそ成長しないが、自宅でオンラインの奴らと戦う事が出来る。戦闘経験は強化するには打ってつけだ。 装備を揃えた後は神姫の登録も始める。蒼貴に聞いた所、本当は所持した瞬間に登録を済まさなければいけないものだったらしい。 何故かというと神姫が、身体が小さい事を活かした犯罪や他の神姫に非合法な戦いを仕掛けてCSCや装備を強奪する強盗などがたまに起こるため、こうした登録を義務付けられているとの事だ。 確かに神姫を犯罪に利用するのならば、どこか小さい穴からも侵入して内側から鍵を開けるとか、重要な書類を盗み出すとか考えれば結構、ありえる話かもしれない。 強盗もそうだ。装備品、特にCSCはかなり高価なものである事は俺だって知っている。そうしたものを装備している弱い奴を襲えば、確かに金にはなるだろう。 ――良い使い方もあれば悪い使い方もやっぱあるんか……。世知辛い……。 そんな事を思いつつ、個人情報の他にオーナー名を書き、登録証を発行してもらった。 なんでもセンター内で放送される時はオーナー名で呼ばれるらしい。確かに放送で本名を呼ばれるのはいい気持ちがしない。有難い配慮だ。 登録証が完成すると登録特典として急速バッテリー充電器十個と武装パーツ試用チケット三枚と一緒に登録証が手渡された。 試用チケットは使うか怪しいが、充電器をタダで十個ももらえるのは有難い。ここは喜んでもらっておく事とする。 さて、これで全ての準備が整った。俺はオフィシャルバトルをするため、登録証をバトルブースの受付のカードリーダーに通す。これで何分かすれば適当な相手と戦わせてくれるって寸法ならしい。 俺は対戦相手が決まるまで壁に寄りかかって待つ。情報収集はもう十分したため、やる事が無い。 「オーナー……。勝てるでしょうか……?」 「そんな事、聞くなよ。それで勝てるとか負けるとか言ったってしょうもないだろ。だからな。今からどう戦うべきかをおさらいしようじゃないか」 「……はい!」 不安になっている蒼貴を安心させる事と戦闘目的を伝える事の兼ね合いで俺は蒼貴と打ち合わせを始めた。 まず、戦闘目的だが、鎌と手裏剣のどちらが使いやすいかを実戦の中で確かめる事を最優先とする。これは先に言った通り、万能型ではなく特化性能を俺は求めるため、武器の性格も固定化する必要がある。 近距離か遠距離か。これだけでも大きく違ってくる。 そして次に周りの物を可能な限り使ってみる事を蒼貴に教える。真正面に立たず、物陰に隠れて背後から襲い掛からなくては装備差で負ける事は目に見えている。 卑怯だろうが、姑息だろうが知ったこっちゃ無い。こっちは常に不利な状態で戦わなくてはならないのだから正攻法など付き合ってられん。 最後に……ある攻略法を仕込んでおく。こいつは戦闘の中でやってもらう事としよう。今、語っても面白くない。 『尊様、対戦相手が決まりましたのでB-5番のバトルブースにお越し下さい。繰り返します……』 「対戦相手が決まったんだとよ。……行くぞ」 「はい」 放送が鳴り響くと同時に俺と蒼貴は移動を始めた。目指すは戦場だ。こいつに勝利をさせ、いずれ捨てたとかいう奴をぶっ倒す。これがそのための一歩だ。 バトルブースに到着すると対戦相手とフィールドの種類が表示される。相手はルナというらしい天使型アーンヴァルタイプ。各距離に対応した武装群とそれを使いこなすだけの機動力をも持ち合わせる万能型だ。 万能型は弱いと言ったが、それは油断していい事にはならない。万能型は言い換えれば得体が知れないとも言える。その証拠に武装データを見てみると近距離特化、遠距離特化、各距離対応の装備をしたセットが見つかった。 武装で読むのはいささか難しいものがありそうだ。 それ以外の性能を見てみる。どれも防御力がある程度ありながら、装備品で機動力を無理矢理高めた凄まじい装備になっている。レベルもあちらが上であり、こちらが勝るのは回避力と命中力のみでそれ以外は大きく差がある不利なものとなっている。 だが、こんなものにも弱点はある。それは機体の重量が神姫の最大積載値ギリギリになっている事だ。 つまり、ブースターを一つでも破壊できれば速度とバランスを大いに崩す事になるのだ。さらに直線的な機動力はあっても曲線的な機動力は無いに等しい。重量は旋回性を殺すのである。これならば付け入る隙があるというものだ。 さらにフィールドは森林だ。隠れる場所が多く、奇襲に向いたマップだ。運はこちらに味方していると俺は確信する。 「蒼貴。……って訳でよろしく頼むぜ。細かい指示は追って知らせる」 「了解です」 「後はアレ、上手く使えよ?」 「わかりました」 蒼貴に作戦内容とアレについての説明をしておいた。 そう。俺は鎌と手裏剣の他にある物を蒼貴に持たせてある。対戦相手にはちゃんと公開してあるが、どう使うのかもわからない変な物だから相当混乱しているだろう。 ――さて……蒼貴が二週間の間にどれだけ成長したか……見物と行こうか。 戻る 進む
https://w.atwiki.jp/bsr_je/pages/8.html
脚本:高橋ナツコ/絵コンテ:川口敬一郎/演出:有江勇樹/作画監督:鈴木美音織 戦国随一の傭兵軍団・雑賀衆。 その力を得る為、石田三成は、雑賀の里へと向かう。 一方の徳川家康もまた、絆の力で日ノ本をまとめることを宣言し、各地の武将との絆を結ぼうと、手始めに雑賀の里へと向かうのだった。 さらに、徳川軍に四国を壊滅させられた長曾我部元親、かつて豊臣秀吉の友であった前田慶次も、家康を追い、雑賀の里へ……。 その頃、奥州で意識が戻った伊達政宗と、武田信玄を失った真田幸村は、失意の中であえいでいた。二人の行く末やいかに…?! (アニメ公式サイトより引用) + ←箇条書き先頭のこの部分をクリックすると詳細が表示されます。 もう一度クリックで 閉じます。 ※このページでは検証目的で「戦国BASARA Judge End」(テレコム・アニメーションフィルム制作)の映像を一部引用しています。 サムネ表示なので、クリックすると大きめの画像へ飛びます。 ・以下アニメの疑問点を紹介 + 病床に伏せる武田信玄 病床に伏せる武田信玄 意識不明の状態で床に伏せている武田信玄だが、寝所が木戸しか無い上に開け放した状態になっている。 一話の竹中半兵衛と同じ様に、かいまきでは無く普通の掛け布団がかけられている状態。 原作でキャラクターが寝るときは史実通りかいまきを使用している。 掻巻=袖のついた着物状の寝具 + 単独行動する鶴姫 単独行動する鶴姫 雑賀荘を目指す鶴姫だが、周囲に従者はおらず完全に一人で行動している。 鶴姫は「伊予河野の隠し巫女」として大切に育てられた箱入り娘であり、たった一人で遠出する事はありえない。 + 背部のバーニアを使わず空を飛ぶ忠勝 背部のバーニアを使わず空を飛ぶ忠勝 忠勝が空を飛ぶには背部のバーニアを噴かす必要があるのだが、足からうっすら空気のようなものを噴き出す程度で空を飛んでしまっている。 本来ならばかなりの速度で飛行可能なのだが、上記の理由の為か飛行速度が遅すぎる。 加えて下降着陸時は風すら巻き起こさない状態でゆっくりと降りてきている。動力は謎である。 + 家康を見つけても普通に歩いている石田三成 家康を見つけても普通に歩いている石田三成 ゲームにおける秀吉没後の石田三成は、家康への憎しみのみに生きており、 制作側に「三成は家康以外に意識を向けるとキャラがブレる。だから政宗の名前を覚えないことにした」と言わしめるほどである。 ゲームの三成は家康を見つければ状況を問わず家康に突進する。 このアニメのように冷静にスタスタ歩き他のことをしているなど、あり得ない行動である。 + 家康と北条が、二言三言会話しただけで同盟する 家康と北条が、二言三言会話しただけで同盟する (家康、忠勝と共に氏政の元へ) 氏「な、何ぢゃ……この年寄りを未だ虐めるのか」 家「ワシはかつては敵であったが、今は味方だ」 氏「み、味方……?」 家「良く生きておられた、北条殿。どうかワシら徳川に力を貸して頂きたい」 氏「と、徳川の……」 その後家康は氏政に背を向けて歩き出している為、これ以上の会話は無いと推測出来る。 お互い国主であるにも関わらず、口約束のような形で同盟を結ぶのは国の命運を握る者として短慮な行動ではないだろうか。 + 天下を目指している石田三成 天下を目指している石田三成 他キャラの状況説明によると、石田三成は「秀吉の遺志を継ぎ、力によって天下を治めようとしている」らしい。 ゲームの石田三成は天下などどうでもいいと言い切り、ただひたすらに家康への復讐のみを目指して戦禍を起こしている。 秀吉の後継者を名乗りながらその遺志を理解していないことについて、伊達政宗に糾弾されるやりとりもある。 その破滅的な生き様が個性であり魅力でもあったはずだが、天下への夢を放棄したことになった伊達政宗とは逆に 天下を目指していることになっており、こうした入れ替えが何故起こったのかは不明である。 + 勝手に加賀の国を担保にする慶次 勝手に加賀の国を担保にする慶次 拐われたまつを探す為に雑賀荘を訪れた慶次だが、勝手に加賀の国を担保とする形で契約を結んでしまう。 当然ながら加賀は前田利家の統べる地であり、甥である慶次の独断で決めていいことではない。 + 国主としての自覚ゼロな伊達政宗 国主としての自覚ゼロな伊達政宗 小田原から敗走し奥州で目を覚ますまで、昏睡する政宗はキラキラエフェクト付きの真田幸村と戦う夢を見ており、 その楽しい夢に石田三成が現れ悪夢に変わるという演出がなされていた。 国主として軍を動かし戦い(第1話の伊達軍は途中で消失したが)天下獲りの戦に敗れたというのに、 敗北して夢に見るのが天下への夢でも部下や領民への想いでもなく、なぜかひたすら真田幸村との個人戦であった。 伊達政宗と真田幸村とのライバル関係はゲームにおいても重要な要素であるが、国を背負う責任感や 天下への想いが強い政宗のキャラクター性から考えると、状況に似つかわしくなく疑問が残る演出である。 その後目を覚まして以降も、そうした背負うものたちへの配慮は一切描写されていない。 + 錯乱し小十郎と部下に斬りかかる伊達政宗 錯乱し小十郎と部下に斬りかかる伊達政宗 悪夢から目覚めた政宗は錯乱し、なぜか布団の傍に丁度置かれていた刀をとって小十郎に斬りつけ、 その後も部下達に向かって刀を振り回しひとしきり暴れていた。 まるで狂人のような錯乱状態であったが、ゲームの政宗は例え片倉小十郎を惨殺されても理性を失わないような人物である。 そうした理性的な面や、部下想い、部下の前では弱みを見せない、といったキャラクター性を全て覆すような描写であり、 ゲームやIG版アニメの政宗像からはおよそ考えられないその姿は、ファンに大きなショックを与えることとなった。 原作における該当場面は、小十郎の「多くを背負うあなたを今一度支えさせて欲しいという誓いに導かれるように」 (戦国BASARA3宴台本集より)静かに目を開けた場面であり、 私怨以外は何も背負っていなそうな政宗が叫びながら部下に斬りつけて暴れるという顛末は、 原作ファンにとっては落差の激しい改変であったといえる。そして、やはりかいまきではなく布団が使用されている。 (ちなみに、錯乱して部下に斬りつけるというのは「戦国BASARA4」における石田三成の行動である) 錯乱し小十郎へ刀を向ける 刀を振り回す伊達政宗 + 錯乱する主君を棒立ちで遠巻きに眺める片倉小十郎 錯乱する主君を棒立ちで遠巻きに眺める片倉小十郎 原作ゲームの小十郎は、従者であるだけでなく政宗の父であり兄であり友であるとも評され、 政宗を諌めるため、刀を手で掴んだり、場合によっては主君相手に斬り合ったりと 手段を選ばず体を張ってぶつかっていくキャラクターである。 あんな状態の政宗を棒立ちで遠巻きに眺めているなど、到底あり得ない行動である。 錯乱し刀を振り回している主君を遠巻きに眺めるのみ 下記項目時も(「取り押さえろ!」発言)遠巻きに眺めるのみ + 錯乱する政宗を「取り押さえろ!」と部下に命じる小十郎 錯乱する政宗を「取り押さえろ!」と部下に命じる小十郎 小十郎のキャラクター性以前に、侵入者か賊に対して使うような表現であり、 一般的な従者の主君に対する言葉遣いとして、まずあり得ないものである。 ゲームの小十郎であれば部下に命じず自分で押さえようとするだろうが、仮に命じるとしても 「お止めしろ!」「お諌めしろ!」等の表現が妥当ではないかと考えられる。 + 家康に「アンタがこの世の中心か?」と噛みつく伊達政宗 家康に「アンタがこの世の中心か?」と噛みつく伊達政宗 これも下記の台詞同様、原作ゲームでは石田三成の台詞である。 ゲームにおいては家康を信頼し同盟を結んだ伊達政宗に、何故この台詞を言わせたのかは不明である。 + 「天下なんぞ欲しい奴にくれてやる!」 「天下なんぞ欲しい奴にくれてやる!」 同盟を求めて訪れた家康に、政宗が放った衝撃の一言。 ゲーム一作目から一貫して天下統一を目指している政宗として最もあり得ない台詞。 民の為、戦なき世にする為に天下を目指すというのが政宗の重要なアイデンティティだった。 「戦国BASARA3」においても石田三成への復讐について 「天下獲りの前のリベンジ」と称しており、天下への思いがブレたことはない。 ちなみにゲームにおいては、この台詞は石田三成の台詞であり、天下に興味の無いはずの三成は逆に天下を目指そうとしている。何故このような設定の入れ換えが行われたのかは不明。 + 「(石田三成を)ぶっ殺す」と吠える政宗 「(石田三成を)ぶっ殺す」と吠える政宗 ゲームの伊達政宗は、一見荒っぽい言動をする部類のキャラに見えるが、 実は婉曲な台詞まわしが特徴的であり、こうした直球の表現は絶対に使わないキャラである。 頭に血が上っていた状態で仇である石田三成に対しても、「アンタを潰す」と言うのがせいぜいであった。 (「ぶっ殺す」は‘極殺状態’になった時の小十郎の台詞であるが、何故政宗に言わせたのかは不明である) + 家康の話も聞かずに食ってかかる政宗 家康の話も聞かずに食ってかかる政宗 ゲームの伊達政宗は誰かれかまわず噛みつくようなキャラではない。 挑発的な言動は多いが筋を通すタイプであり、人の言うことはまず一度受け止める。 原作ゲームで敗北スタートとなった時点においても、頭に血が上りつつも どこか自分をも俯瞰しているようなシニカルな物言いが主であった。 本作アニメにおける政宗のキレ芸ぶりは彼の圧倒的小物感を醸し出すことに大きな役割を果たしており 原作のカリスマ性のあるキャラ像とは乖離の激しいものとなっている。 + 政宗を見限る(?)家康 政宗を見限る(?)家康 伊達軍とも同盟を結びに来た家康だったが、冷静さを欠き三成への怒りを露にする政宗を見て 軽く目を見開いた後、あっさりと引き下がり退散した。 原作ならば同盟を結ぶ為に大軍を動員し奥州を包囲するなど、家康は伊達軍との同盟を切望していたはずである。 しかし、家康があまりにも簡単に引き下がる為 「国主らしからぬ政宗に失望し伊達軍を見限った」 とも捉えられる表現となっており、家康と伊達軍の関係性が原作から大きく変わってしまっている。 上へ 一つ前のページにもどる
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/2275.html
658 :ヤンデル妹:2011/06/06(月) 00 36 03 ID ySaUzkQA 今日は月曜日。 妹の信じたくない秘密をしってしまってからもう1日たってしまった。 昨日の夕方、妹の様子が急におかしくなった。 いや、たぶん・・確実に俺のせいなんだけど・・。 あれから、いつも母親が作ってくれていた弁当を、妹が作りたいといってきた。 急に料理に対する情熱が燃えたんだとか、なんとか・・。 まあ、それ自体は別にいいんだけど・・・。 弁当をもってきた妹の手が絆創膏まみれなのは驚いた。 そんなわけで、今昼休み。 恐る恐る、弁当を開けてみると結構ちゃんとできていた。 うん、味もなかなか・・いける! 将来いい奥さんになりそうだな。 にやにやしながら弁当を食べてる俺は他の奴らから見たら気持ち悪いだろう。 まあ、そんな心配する必要はないんだどな。 いつも一人で、屋上で。 すずめと一緒に食べているからな。 そうです。 俺には友達がいないのです。 あることが原因で・・。 「城間くんっ今日も一人でお弁当?」 そういってきたのは俺の幼馴染の上間 はるか。 ひらがなではるかだ。 そういえば、こいつだけは俺のこと嫌いにならなかったんだっけ。 「あれ~?それいつものお弁当とちがうね!」 女の子ってこういうの本当っ・・・・に!敏感だよね。 「もしかして、妹さんが作ってくれたの~?」 あらら、本当に女性って超能力でもあるのかね? 「ま・・まあな。」 「ふ~ん。そうなんだ。」 「むかつく。」 はるかは、俺には聞き取れないくらい小さな声で何かをぽつりとつぶやいた。 なんだろう・・笑顔の裏にものすごい気迫を感じるんだが・・。 「ってか。俺と一緒に飯食って大丈夫なのかよ?」 「全然大丈夫!きっと、いつか城間君の誤解も解けるよ!だから・・そのあいだ・・。」 そう、はるかは顔をほのかに赤らめながら言った。 その反応になぜか俺も顔が赤くなる。 その時、タイミングよくチャイムがなった。本当にこういうときってタイミングいいよな・・・。はぁ・・。 「いけない。私次の体育、水泳だったんだ。ごめんね。いっしょに食べられなくて。」 「いいって。早くいかないと遅れるぞ?」 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。」 「おっ・・おい!はるか?」 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい本当にごめんなさい。だからだから・・。」 虚ろな目でそういうとまるで、捨てられそうな子犬のような声で 「捨てないで・・。」 と、ぎりぎり聞き取れるくらいの小さな声でそうつぶやいた。 「なっ!なにいってんだよ!俺がはるかを捨てるわけないじゃん!」 「本当?・・本当?・・本当・・・?」 そう、すがるような目つきで言った。 なぜか、その眼を見ていると心が苦しくなった。 「ああ、本当だ。約束する!」 俺はそう、力強くいった。それがどういう意味になるのかも知らずに。 「うれしい・・うれしい・・。」 「そっ・・それじゃあもう行くね!絶対!!絶対次はいっしょにたべるから!」 そういうと、あわてるように駆け出して行った。 あいつおっちょこちょいだから、コケそうだな~。 ・・・やっぱりコケた。 って、こうしてる場合じゃない。 俺は、最後にとっておいたハンバーグを急いでかきこむと、教室に向かって走った。 気のせいか、そのときハンバーグについているケチャップから鉄の味がした。 まさか、そんなはずはないよな? 661 :ヤンデル妹:2011/06/06(月) 08 49 49 ID FebmqocQ 続き書き込みます。今度は、はるか目線で書き込みます。 城間君とはもう、幼稚園の頃から一緒だったな。 臆病で引っ込み思案だった私に初めて話しかけてくれたのは 城間君だった。 いつも私を連れ回して一緒に遊んでくれたっけ。 あのとき二人で交わした約束。 今でも覚えているかな? あの時私、城間君に大きくなったらお嫁さんにしてくれる?って聞いたら。 「うん!もちろん!」 っていってくれたよね。 私、すごく嬉しかった。 もちろん、城間君も覚えているよね? うん、そうだよね。それならいいの。 でも、一つだけ許せないことがあるの。 城間君に群がってくる・・女、女、女、女。 すぐ目を離すとこれだもん。 だからね。これは仕方ないことなの。 城間君の悪い噂が流れれば、誰も城間君に近かなくなる。 そうすれば、城間君は私だけのもの。 ごめんね、城間君。 でも、私と二人っきりになれた方が城間君も嬉しいでしょ? でも、妹さんだけは城間君のこと嫌いにならなかったな潤オ。 どんなに悪い噂流しても、 「お兄ちゃんがそんなことするはずない!!」 っていって。 城間君の妹さんだから手荒な真似はしたくなかったのにな潤オ。 あっ!もう、放課後だね。 今日も、城間君の隣を歩かなくちゃ。 だってそれが奥さんのつとめでしょ? 城間君待っててね。 絶対に城間君は私だけのものにして見せるから。
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/2197.html
174 :girls council ◆BbPDbxa6nE:2011/04/18(月) 00 26 31 ID 0tpXFGR6 第三話 「例え話をしましょう、鳴宮君」 「女の子が、一人います」 「可愛い可愛い、女の子です」 「骨があれば肉がある」 「肉があれば皮がある」 「目があれば口がある」 「心臓だって脳だってある」 「どこからどう見ても、あなたと変わらない〝人間〟に見えます」 「でもその女の子には〝感情〟がありません」 「嬉しいと感じることすら、悲しいと感じることすら、痛いと感じることすらできません」 「さて、この女の子は、はたして〝人間〟でしょうか?」 「…………」 ふざけた話だ、と。 俺は無下に扱おうとした。だってそうだ。この俺の目の前にいる少女、篠原瑞希はいつだって突拍子もない事を言い出し、いつだって俺の事を嘲るために頭を使う。 そんな篠原がいきなりこんな事を言い出しては、また俺を陥れる策ではないかと考えるのは当たり前だった。 「〝バケモノ〟なんじゃないのか、そんな気持ちの悪い奴は」 だからこんなぶっきらぼうな言い方で、無責任な言い方で、返答した。 「………そう」 だから篠原の瞳を、俺はこんなにも歪めてしまったのだろうか? 175 :girls council ◆BbPDbxa6nE:2011/04/18(月) 00 27 04 ID 0tpXFGR6 俺が篠原瑞希に銃口を突き付けられてから、もう一週間、つまり、入学してから二週間も経った。 「……………」 おかしい。 「……………」 絶対におかしい。と、俺は心中焦りまくりだった。 何がおかしいかと聞かれれば何もおかしい事はなく〝正常〟であるのだが、俺こと鳴宮拓路と、目の前に豪華なイスに優雅に座る少女、篠原瑞希との関係は〝正常〟であることこそが〝異常〟であるために、俺は焦っていた。 ……何も言ってこない、だとッ。 あの篠原が、だ。 いつも通りに生徒会室に来て、いつも通りに暇な時間を過ごしながらももう二時間は経った。もうすぐで完全下校時刻であるのに、篠原は俺に向かって何一つ言ってこない。 嘲る事も、貶す事もしない。無茶ぶりも言ってこない。 何だ、この平和。何だ、この違和感。 もしやこの目の前にいる少女は、俺の知る篠原瑞希とは別モノではないのだろうか。 偽物? そう言った非現実的な事を考えた方がよほどしっくりくる。 暴言がない今。幸せなはずなのに、心にどこかモヤモヤ感を持ちながらも、じれったくなった俺は篠原に話しかけた。 「なぁ、篠原」 「死ねばいいのに」 「即答! え、何その死刑宣告、ひどくね! でもそんな篠原にいつも通りを実感してしまう俺が一番駄目な気がする!」 良かった。とりあえず偽物ではないようだ。……良かったのか? 「あなたの駄目さ加減に今さら気付いたのかしら」 「……いや、俺が駄目なことぐらい、俺が一番よく知っているさ」 俺は後ろめたさからか。視線を篠原に合わせることに億劫になって、何もない、目の前の空間に焦点を合わせた。 「そう、なら良かったわ。あなたはボタンの押せない携帯電話みたいなモノだもの」 「そこまで駄目じゃねえよ!」 「あぁ、ごめんなさいね」 「……何だよ、謝るなんてお前らしく――」 「携帯電話は科学の結晶。いくらでもリサイクルのしようがあるわ。こんな埋め立てゴミと同じに扱ったらばちが当たるわ」 「あぁ今、携帯電話に謝ったのね! ……つか、人を埋め立てゴミ扱いするな!」 「ではあなたは何ゴミだって言うの?」 「ん? まぁ、何ゴミかって言われたら……生ゴミかな……。って、違う違う違う! まず俺はゴミじゃない! お前の考えは根本から間違っているんだよ!」 「人の考えを根本から否定するなんて、えげつないわね」 「お前の俺に対する態度が一番えげつねえよ!」 ハァハァハァ、と。 息を荒くしそうになった俺は、あの初めて会った時の――ごめんなさい。こんなところで性的興奮をしないくれないかしら――という勘違いも甚だしい言葉を思い出して息をひそめた。ふっ、篠原。お前に同じ事は二度言わせんッ! 「ごめんなさい。こんなところで性欲の権化みたいな顔しないでくれないかしら」 「今度は顔を責められた! しかも性欲の権化って何? 俺そんな欲求不満じゃねえよ!」 「……あなたが欲求不満でないことくらい十分に承知しているわ。一日に一度は〝抜いて〟いるものね。……ずいぶん〝妹モノ〟が好きみたいだけど」 ピタッ、と。世界が停止した。 「…………………………………ちょっと待て、お前が何故知っている?」 やばい、冷や汗が止まらない。 「乙女の感よ。分からないことなんて無いんだから」 「半端ねえ、乙女の感!」 「半端ないのは……昨日のあなたの股間の膨張率じゃないかしら」 「や、やめろ」 「ちなみに昨日は……〝お兄ちゃん、私がしごいてあ・げ・る ~発育しすぎた妹に迫られる兄~〟だったかしら」 「やめろおおおおおおおおおおおおお! そんなことにお前の中にある数少ない乙女を使うなぁあ!」 え、ちょ! 何で知ってんだよお前はああああああああ! 俺ちゃんと確認したぜ! 周りに誰もいないことを確認してから〝して〟たぜ! 部屋にも鍵かけたし。カーテン閉めたし。 どんな透視機能が付いてんだよ、乙女の感! 176 :girls council ◆BbPDbxa6nE:2011/04/18(月) 00 27 33 ID 0tpXFGR6 ………………、とかなんとかそんな感じで。 乙女の感と呼ばれるプライバシーを無視した未知の特殊能力について、俺は思考の半分以上を使用していたのだが…………………うん。やっぱりおかしいな。 頭の片隅で、そう俺は素直に思えた。 出会ってから一週間。相手を知っていると言うにはまだ早すぎる期間。 だから俺は篠原の癖や本質まで知っているわけではない。 今俺が篠原で知っている事と言えば、見た目や表面上の人との接し方だけだったりするけれど。ただそれだけで、本当の篠原を知った気にはなれないけれど。 でも、それでも。 今篠原が〝機嫌が悪い〟ということぐらい、俺にでも分かった、読み取れた。 だから。 「何でお前機嫌悪いんだよ」 率直に聞いてみた。 先ほどまで性欲とか話していたのが嘘みたいに。真剣なまなざしを、篠原に向けて。 「やめて」 「…………何を?」 篠原の拒絶的単語に、俺は端的に聞き返した。アホ毛を一房、揺らしながら。 「〝気持ち悪い〟」 「……あのな、篠原。こっちは本当に心配して―――」 「そうじゃない。あなたの容姿的な意味で、言ったんじゃない。私はあなたのその卑屈な態度に言ったのよ」 「卑屈? 俺がか」 「そうよ。だってよく考えてもみなさい。あなたは〝何もしていない〟のよ。それなのに、あなたはそんな下手にでて……。本当はあなた怒っても良いのよ。こんな生徒会にいきなり引きずり込まれて、私にいろいろ言われて……霧島とも何かあったみたいだし。それにあなたは、いつだって…………………あの時だって」 最期の方になると、篠原の声はしぼんで聞こえなくなってしまったが、そんなことよりも。 俺は篠原が、ここまで弱気な言葉を発するのを初めて、いや、初めて会った時にもあったし二回目か、に見たので、はっきり言って拍子抜けしていた。 「お前……自覚あったのか」 「自覚しても行動に移せない事もあるのよ」 「ん……あ、あぁ、そ、そうか」 「…………………」 「…………………」 一気に部屋が気まずくなってしまった。 俺は篠原を見ている事が出来なくなって、視線を外し、部屋内のあちこちに視線を転々とさせていた。そのまま二分ほど経過したところで、 「………………………………ぼそぼそ」 もうすぐ完全下校である事に気付いた。 「ぼ、そ……ぼそぼそ…………………ぼそぼそぼそッ!」 だから俺は、そろそろ帰ろわ、とかいう無難な話題で、この気まずい雰囲気を消そうとしたんだ。 「な、なぁ、篠原……そろそろ俺〝帰るわ〟」 「ぼそぼそぼそぼそ……………ッ! か、カか、か、かエる?」 「あ、あぁ……うん」 したんだが。 どうも篠原の返答がおかしい。なんだか、すごく何かを怯えているようで、すごく驚いたようで、すごく……泣きそうな、そんな感じの返答だった。 それに、さっきからぼそぼそぼそぼそ、何か独り言を言っているようなのだが、聞き取れない。そんな変な点が重なった俺は、篠原の方に振り返ってみることにした。 「嫌、やだ、やだよぉ」 でもそこには篠原はいなかった。 正確には、俺の知っている篠原瑞希はいなかった。 「し、篠原?」 「やだ、やだよ。行かないで、行かないで……拓路君。ごめんなさい。謝るから……、ごめんなさい、謝るから。ごめんなさい、謝るから! 今までの事、全部謝るから。全部全部謝るから。だから………えぐっ……き、きりゃいに、な、にゃ、にゃらないで」 ぎゅ、っと。 俺の制服の袖の裾を、小さく掴む篠原。 顔は伏せていて見えないが、身体が小刻みに震えている事や、途中途中に言葉が乱れることからも、泣いているということは明白だった。 いつもの威厳ある、クールな篠原とは全く別の、真逆の態度。 いつもは寅みたいなくせして、いまは親からはぐれた子猫みたいだった。 「いつも、いつもいつもいつもいつもいつも。た、拓路君は、か、かか、勝手に帰って……いつも私のせいだって、わ、分かってるのに………………。ご、ごめんにゃ、ごめんなさい。謝るから何だってするから。あの時の事だって、しっかりゆうから。き、きりゃわないで………お願いだから」 「あ、の……と、とりあえず、落ち着こうか。はい、深呼吸をしよう」 俺は篠原の態度に焦っていたから、あの時とか、拓路君と呼び方が変わっている事にも気付かなかった。 とりあえず、篠原を落ち着かせるのに夢中で。 ただ夢中に、篠原背中を撫で続けた。 「大丈夫、俺はどこにも行かないよ」 とかなんとか、格好をつけたセリフを口から出しながら。 177 :girls council ◆BbPDbxa6nE:2011/04/18(月) 00 28 12 ID 0tpXFGR6 「もう、大丈夫なのか?」 「……………えぇ。格好の悪いところを見せてしまったわね。早く忘れてちょうだい」 「………いや、あれだけ衝撃的なモノを忘れるなんて―――」 「忘れなさい」 「…………はい」 結局。 下校時刻も過ぎて、運動部の声が外からしなくなった頃。 篠原は泣きやんだ。と、思ったら、いきなり元通りの篠原に戻った、と言うわけだ。 何事もなかったかのように、ぴたりと。 ……本当に、さっきのは何だったのだろうか。 「では、帰りましょうか」 「あー、あぁ。そうだな」 踵を返した篠原は、帰り支度をし始める。 それに合わせて俺の方も支度をし始めた。 「………………なぁ、篠原」 「なにかしら」 泣いたことで、少しすっきりしたような声をあげた篠原に、俺は二つの事を言ってやることにした。 「二つ、言いたい事がある」 「…………なにかしら。愚図ってないで早く要件を言いなさい。時間の無駄よ」 「じゃあまず一つ目。この間の……ほら、女の子の話に対する回答」 「あなたは〝バケモノ〟だと言ったじゃない。気持ちの悪いと言ったじゃない…………それがすべてでしょ」 「あー、ごめん。それ撤回するわ」 「………じゃあ、あなたは何と回答してくれるのかしら」 二人とも、帰り支度をしているので目は合わせていない。 声のコミュニケーションのみだったが、篠原が興味を示しているの手に取るように分かった。 「その女の子は、感情がないことはないと思うぜ。だってそんな〝普通〟じゃない〝異常〟な女の子の近くには、いつだって優しい主人公の男の子がいると思うからな。女の子の悩みの種に主人公がぶち当たって、女の子を助けたりしたときなんかに、女の子は感情を――〝恋〟を知るんじゃないのか? それが〝異常〟な女の子の〝普通〟の話だろ、違うか?」 「ッ! …………え、えぇ。その通りね。本当に、その通りだわ」 何か思い当たる節があったのだろうか? 強く篠原は肯定した。 「そして後もう一つ。篠原、お前勘違いしてるぜ」 「勘違い……この私が?」 「おう。さっきお前言ったよな、本当はあなた怒っても良いのよ。こんな生徒会にいきなり引きずり込まれて、私にいろいろ言われて……とかなんとか」 「確かに言ったわね。……その通りでしょ」 「違う」 俺ははっきりと、そう、断言した。 それに驚いて、篠原は俺の方を向いてきた。俺も篠原の方を向いた。 二人の視線が、互いを捉えた。 「お前の考えは根本から間違っているんだよ」 「人の考えを根本から否定するなんて、えげつないわね」 「そうだよ、俺はえげつない」 さっきも同じ様なことを言ったが、今回は終着点が違う。 俺は認めた、自分がえげつない事に。 「俺は最初に言うべきだったんだ」 「何を?」 「お礼を、さ」 「ッ!」 篠原の瞳に、揺らぎが生まれる。 「俺は、さ……親父の事とか、中学の時の一件で、その……誰とも話せなかった。寂しかったし、つらかった。………でも、お前は違った」 「……………」 「篠原は、俺に、話しかけてくれた。噂を知らないわけがないのに、それでも……俺に生徒会と言う居場所を、人とふれあう場所を作ってくれた」 そして、この後に続く、おれの〝ありがとう〟の言葉。 ただの五文字の言葉なのにどこか恥ずかしくなった俺は、篠原から視線を外して、多分、真っ赤になった顔で、言った。 「だから、そ、その……ありが―――」 「大丈夫」 しかし、俺の言葉は、俺の唇は、篠原の人差し指によって止められた。 「そこから先の言葉は――――もう、一度聞いてるから」 「一度? 何の事だ?」 「何でもないわ。ただの……乙女の感よ」 そう言って篠原は、柔和な笑みを浮かべた。 それはそれは、今まで見た事のないような、可愛らしい、年相応の笑みで。 ……やべえな。めちゃくちゃ可愛い。 こうして俺の一日は幕を閉じた。 178 :girls council ◆BbPDbxa6nE:2011/04/18(月) 00 28 37 ID 0tpXFGR6 そして俺は、気付いた。 嫌で。 本当に嫌で、目をそらしていた事―――今日の日付。 六月二十九日。もうすぐ夏が来る手前。 そして、今日が親父の釈放の日。 ――――――六月二十九日、親父は死んだ。 「拓路、お前の見ている世界が違うことに気がつけ! いいか、お前の傍にい――ガハッ!」 約十年ぶりに外に出られた親父の、電話口に聞こえた死ぬ直前の奇妙な言葉と、 「えっへへ~。にぃにぃ~………………これでやっと、ね。二人っきりだ」 親父の葬式中に、俺にすり寄ってきた美帆の無気味な笑いは、何を意味していたのだろうか? 俺には、分からなかった。 分かりたくも―――なかった。 梅雨が止んで、暗い雰囲気をすべて打ち払ってくれると信じていたのに。 これから、俺の心が、闇に病んでいくことになるなんて―――――― ――――――――この時の俺は、自分の周りで何が起こっているのかを、まだ知らなかったんだ。
https://w.atwiki.jp/sousakurobo/pages/1271.html
……目を覚ますと、そこには見慣れた天井があった。 部屋の中は薄暗い。たぶんカーテンが閉まったままなんだろうと満足に働かない頭で私は思う。 耳をすましたが、窓の外は静かで、ときおり聞こえる雀の鳴き声以外に音は無い。枕は柔らかくしかししっかりと 私の頭を支え、ふわふわの羽毛布団は優しく私の体を包んでいた。 とても穏やかな気分でしばらくぼんやりと、ただ呼吸をするだけでいた私は寝返りをうつ。するとベッドのわきに おかれた目覚まし時計が目に入った。 私ははね起きた。 「やばっ! 2限ギリじゃん!」 思わずそう叫び、急いでパジャマから私服に着替え、顔を洗って髪を整え、軽く化粧をし、 ピアスとネックレスをつけ、家を出たところで教科書を忘れたことに気づき、またとってかえしてから、 ようやく自転車に跨って大学へと向かう――志野真実の1日は、だいたいがこんな風に慌ただしく始まるのだった。 関東地方のとある県にある地方都市、『女木戸市(めぎどし)』は自然豊かな土地にある。 古くは平安の時代にこの街の北にそびえる『織星山(おりほしさん)』から採れる良質のヒノキを使った建築で 名が知られていたが、とくにそのヒノキを使った戸はまるで天女の肌のような美しい光沢を放ったことからとくに 『女木戸』と呼ばれ、それがそのままこの土地の名前となった。 山で採られた材木や、『女木細工』と呼ばれる木の工芸品は、街の南方を流れる二級河川で西から東に流れた 遥か遠方で太平洋へと注ぐ『三州川(みすかわ)』(名前のとおり広い三角州が3つ河口にある)を利用した船で運ばれ、 それから京の都へと送られていたものの、日本が開国して西洋技術が流入してきたために安価な建築資材が入ってくる ようになってからは、めっきりそういった産業は衰退してしまって、それに伴い人口も減少の一途をたどっていた。 しかし最近、織星山よりも小さな山で街の東にある鉱山『女瑠山(めるやま)』の地下深くから、運良く半導体の 作成に使われるレアメタルの大規模な鉱脈が見つかり、そのために様々な企業が工場をこの街に置きはじめたので 女木戸市はまたかつてのようなにぎわいを取り戻しかけている。 そんな中でもいまだに街の西方にある広い平原『女木戸ヶ丘(めぎどがおか)』はどういうわけかほとんど手つかず のままで、このあたりの子供たちのいい遊び場になっていたりしている。 私の家は三州川のやや上流、女木戸ヶ丘にやや近い、女木戸市内から少し外れた場所にあって、 私の通う『三州カトリック大学』は三州川に沿った道を自転車で40分ほど下ったところにあった。 『三州カトリック大学』は名前の通り日本カトリック教会が母体となっているミッション系の私立大学で、 外観はまるで中世ヨーロッパ時代の建物のように赤レンガを多用したものになっている。ところどころ外壁にツタが 這って年季の入った風情を演出しているが、それはしかし見せかけだけで、実際は設立されてから半世紀も 経っていない。三州川のほとりに佇むその姿はファンタジー小説に出てくる魔法学校のようで、 実際、黄昏時に構内にある教会の鐘が鳴らされるときなどはなんともいえない神秘的な雰囲気を漂わせるのだった。 私がこの大学を選んだのは単に自宅から近く、偏差値的にも悪くないからというどうしようもない理由からだったが、 今となってはこの独特の雰囲気がけっこう気に入ってもいた。 正門から自転車を乗り入れ、駐輪場に停めて鍵をかけ、それから3つある校舎のうち一番遠くにあるものまで 全力疾走。階段を駆け上がり、記憶にある大講義室の扉を開けると、どうやら間に合わなかったらしい。 すでに講義は始まっていた。 肩で息をしつつ席を探す。学生は、出席をとらない授業にしては多く居て、空いている席を見つけるのには 少しかかった。着席する。 黒板にチョークで書かれた講義内容は「原始から見た罪と罰の概念」についてで、「罪」というものがそもそも どういったもので、「罰」というものがなぜ必要なのかということについて教授は論じていた。 「……皆さまもよくよくご存知の通り、我々人間は社会を構成する生物でありますので、 お互いに助け合わなければ生きていけないということは本能のレベルで、脳味噌の奥深くに刻み込まれているわけで あります。そしてその共同体秩序を維持し、自らの、群体としての生存率を高めるために、 その集まりの中でルールを設定するわけなのであります。 例えば人を殺してはいけないだとか、人のものを盗んではいけないだとか、そういったものですが、 なぜこのようなルールを設定せざるをえないかと言いますと、そういう風にしたほうが、 結局は自らの生存に役立つからなのであります。 自らの生存率が高まれば、群体、遺伝子の運び手としての人間の生存率も当然に高まるわけなのですから。 つまりルールを設定することと、それに伴って『罪』という概念が生まれることは、至極当然、生物学的にも 遺伝子の作用としてごく自然ともいえるようなことなのであります…… ……しかし人間というのはとかく悪心というものを備えているものですから、ときにおれはこのルールを無視しても かまわないだとか考えるものが出てきます。これを放置しておくと、自分たち、ひいては遺伝子全体が危ない。 これは生物の本能として対応を迫られる事情でありまして、私たちの脳は速やかに対応し、ルールを破った者を 群体の中から弾き出そうといたします。これが『罪』に対する『罰』としてもっとも原始的なかたちでございます。 ルールがうまれたことも必然ならば『罪』がうまれたことも必然で、『罰』の発生も自然の摂理であるということ なのであります…… ……ところがここに宗教とかの文化的なもの、生存に直接関係のない価値観とルールがうまれて、 絡んできますとまた話が違ってきてしまいます。ルール自体が権力者の有利になるように定められ、 もはや生存のための用に適さなくなってしまうこともあります。これらの要因は『罪』の対象に変化をもたらします。 すなわち、文化が未成熟の時代には平気に行われていた近親相姦だとか、キリスト教から見た邪教だとか、 被害者の無い『罪』が新たに発生するのです。そういった『罪』には従来からの『罰』ではなじまない。 べつに自分の身が脅かされたわけではないが、なにやら文化的な価値観に基づいた道徳的に見て、 ルール的に見て気持ちが悪い、危険だ。だから『罰』を与えようとなるわけです。 ルールが道徳だとかいったものに名前を変えるわけです。この変化は原始的な『罰』である、 共同体から弾き出すということのほかに、新たに道を開きます。それが『償い』であります…… ……人を殺してしまったらもうどうやっても元には戻せませんし、傷を負わせた場合も完全には治りません。 しかし邪教の信者はキリスト教に改宗することで道徳的な存在になれますし、近親相姦でも本人たち深く反省すれば、 別に誰も回復不可能な損害はうけていないのですから、道徳的な存在としての再出発ができる。 これが物質的な『罪』だけでなく精神的な『罪』がうまれたことで発生した新たな『罰』であり、 『償い』なのであります…… ……『償い』というものが現代では重視されておりますが、これは現代が文化的、精神的に本能に逆らうことで 成り立っている時代であるということの証拠であるとも言えましょう。本能のままに従ったら、殺人者は速やかに 死刑にしてしかるべきなのですから。私はどちらかといえば死刑廃止派ですが、べつに死刑肯定派が本能に従って いるだけだとは言っておりません。 余談ですが、私は、現代の価値観でいえば、その人が一生をかけても償えない罪なんてものは無いと思っております……」 だいたいこんなことを教授は言っていた。 私はノートに要点だけを書き写しながら部屋内を見渡し、知っている顔は無いかと探す。 いつものグループは講義室の後ろのほうに固まっていて、目が合うと軽く手を振ってきた。 昼休みになった。 私は友人達との馬鹿らしい話に時々げらげらと笑い、昼食について相談しながら校舎を出る。 春から夏のものに変わりつつある陽射しが目を刺した。クリームを塗っていないことを思い出す。 中央に噴水のあるこの中庭は赤レンガが敷かれた円形をしていて、昼休みのこの時間帯が一番人が多い。 この分だと学生食堂も混み合っているだろうね、とかいうことを友人に話すと、じゃあ街へ出て食べようということに なって足を正門に向けたとき、ひとりの人間が目についた。 その人物は正門前に大型バイク(『あの』ハーレーだ!)を停めて、それに寄りかかって誰かを待っているようだった が、私と目が合うとにっこり笑って、手を振った。 私はそれがあの青年だということに気づくと、一緒の友達にちょっと待ってもらうようお願いをして 彼のもとにかけよる。青年はお辞儀をした。 「よかった、お会いできました。」 「ということは見つかったんですね、頼人さん。」 私はそう彼に呼びかけた。青年は『高天原 頼人(たかまがはら よりと)』という名前で、 天照研究所の幹部のひとりであるらしかった。 今日の彼は革製のがっしりしたライダースーツを着ている。彼自身がどちらかといえば細身なのであまり似合って いないように見えたが、それでもやはりびしりと決まっているのは、彼のセンスのよさによるものだろう。 何着ても似合うなんてうらやましいなぁ。 「いえ、残念ですが……」 彼は私をバイクのそばによらせると、座席シートの下から引っ張り出したカバンの中からスマートフォンを 取り出して手渡してきた。困惑する私に彼は説明する。 「志野さんの携帯電話ですが、私どもも総力をあげて探しましたが、どうしても見つかりませんでしたので、 代わりといってはなんですが、こちらを差し上げます。」 「え……困りますよ、そんなこと」 「お詫びに、利用にかかる一切の料金は私どもが負担いたしますよ」 「えっ悪いです!」 「どうかご遠慮なさらず、私どもの気持ちです……」 なんだかこれ以上ムリに断るのも悪い気がして、私はおずおずとそれを受け取った。 するとすぐに私はそのスマートフォンが見たことのない型であることに気づく。鈍い銀色の表面に、 細かい彫刻で幾何学的な模様や、サンスクリット、ラテン語、漢字、ヒンドゥー語などがデザイン化されて刻まれているのだ。 「これ、どこのモデルですか?」私はそれを眺めながら訊いた。 「私どものオリジナルモデルですが、大丈夫、一般のものにできるようなことは全てこれにもできますよ。」 「へぇ……」 「圏外無し、電池切れ無し、複数処理にも余裕で対応、自己修復機能に、物理キーボードがお好みなら設定で 画面が盛り上がるようにもできますし、話題のSiriも勝手に組み込みました。」 「え、すご!?」 「最初から入っているアプリも、お守りアプリに、除霊アプリに、擬似月光アプリに、付喪神(本物)育成アプリに、 業チェッカーに……」 「そのへんはいいです。」 「えっ?」 「えっ」 一瞬みょうな間があった。 「……まぁいいです。では、後ほどまたお会いしましょう。」 「はい、忘れずに行きます。」 「お待ちしております。」 「ええ。『君』も、またね。」 言いながら私はバイクに向けて軽く手を振る。するとハーレーはどこか嬉しそうにライトを一瞬だけ点灯させた。 そして頼人はまた丁寧にお辞儀をすると、バイクに跨って(また暴れだすんじゃないかと私はひやひやした)街の方へと 去っていった。 友人達は彼についてきゃあきゃあと私に質問してきたが、私は説明に困り、曖昧な笑顔で返すことしかできなかった。 その日最後の講義が終わると、私は大学を自転車で出て、街へと向かった。 大学から街へと向かう道路は住宅街の中にある。空はまだ明るく、途中通り過ぎた小さな公園では小学生くらいの 子供たちが携帯ゲーム機を持ち寄って遊んでいた。鬼ごっこでもすればいいのに、とかいうことを私は思う。 少しずつ街並みから住宅が減っていき、代わりに小さな個人商店が増えてきて、自動車の盛んに行き交う広めの 道路に出ると、ついにそういった商店も姿を消して、背の高い建物ばかりがこちらを見下ろすようになった。 そしてその道路を天照研究所に向かって進んでいくと、通行止めにぶつかった――私は思い出した。 ……あれから4日が経っていた。 砂の巨人が暴れたせいでめちゃくちゃに破壊された道路はいまだ復旧していない。体に引っ掛けた電線は 昨日やっと全てが張り直されたばかりだ。巨人の溶けた右腕が飛び散り火事になったビルは建て直しが必要らしい。 目には見えないが地下の水道もかなりのダメージを受けたようで、今も一部地域では断水が続いている。 これらを全て自分がやってしまったのだと思うと、胸が抉られるような思いがした。 (……あのとき、天照さんたちの指示に従っていれば、ここまでひどくなかったのかな……) そんな考えが頭をよぎる。少なくとも、最後の攻撃で出た分の被害は避けられたはずなんだ……。 私はいやな考えに脳が支配される予感がして、頭を振り、研究所へと急いだ。 どこかから救急車のサイレンが聞こえる…… 「ずいぶんお待たせしてしまいましたね。」 4日ぶりに会った天照はかなり疲れているように見えた。微笑みには輝きが欠けていて、 目の下にはファンデーションでもごまかしきれない隈が浮き出ている。その原因が自分にもあることをさとって、 私は申し訳なさで胸がいっぱいになった。 彼女は私を施設内のラウンジのようなところへ案内して適当な席に座らせると、 飲み物をふたつ――「紅茶でよろしいでしょうか?」――自動販売機で買ってきてくれた。 それを受け取った私がお礼を言う間に彼女も私の向かい側に座る。天照はやっと一息つけたようだった。 「……お疲れみたいですね」 気遣って私が言うと、申し訳なさが口調に出たのか、 天照は軽く頭を振って「志野さんのせいではありませんよ」と言った。 「あんまり寝ていないんですか?」 「そんなに疲れた顔してますか?」 私は返答に困り、曖昧に笑った。そんな様子が可笑しかったのか、彼女も小首をかしげて小鳥のように笑う。 「警察の事情聴取に時間をとられているのと、それと後始末が大変でして。」 「警察は、大丈夫なんですか?」 「たとえいくらこの施設から巨人が出て帰っていくのを見たり、砂場に横たわるあの骸骨を見た人がいても、 『科学的に見て』絶対に動くはずのないものを証拠にはできませんから。」 「……なんだか、いいんですか? それって……」 「良心が痛みます?」 私は答えない。 「街への被害も、被害を受けた人のところへ今ごろ匿名で多額の寄付がされているころですから、 志野さんが気にすることはありませんよ。」 天照はそう言うと紅茶を少し口にした。 彼女は私の意見を聞きたいようだったが、私の想いは上手く言葉にならず、グルグルと頭の中で渦巻くだけだった。 そんな私を見て、天照は椅子に座りなおして私にまた微笑みかけてくる。 「それでは、約束通り、なんでもお答えしますよ。」 私は彼女の目を見た。天照の黒曜石のような瞳は深い優しさをたたえていて、覗き込む者に安心感を感じさせる。 私はどうしようもない考えを切り捨てて彼女に訊く。 「……どうして私だったんですか?」 「そのことですが……」 彼女は困ったような顔をした。何かいけないことでも訊いてしまったかと私は不安になるが、 すぐにそんなことはないはずだ、と考えなおした。 「どうにも、納得していただけるかわからないのですが……」 天照は目を落としていた。よほど言いにくいことなのだろうか。 「……志野さんは『予知夢』を信じますか?」 「よちむ、ですか?」 「はい」天照は真剣に頷いた。 「まさか……」少しだけ嫌な予感がする。 「それで見たんです」 「誰が?」 「私が」 「本当ですか?」 「本当です」 「真剣に?」 「真剣に。」 「それを信じろって?」 「お願いします。」 軽く目眩がした。 「まぁとにかく聞いてください。」天照が言った。 「なにをですか」 「私の家系――天照家についてです。」 「はぁ……」 あまりにもバカバカしすぎて怒る気も失せた私はそう気のない返事をかえしたが、彼女はそれでも恭しく頭を下げて 姿勢を正した。 「では、お話しいたします――『天照』は、その起源を日本神話の時期にまで遡ります……まぁ聞いてください…… ざっくばらんに言ってしまえば、天皇家と大元を同じくする、兄弟のような家系とでも申しましょうか…… 信じられないみたいですね……まぁお聞きください…… ……天皇家の歴史については日本史の教科書でもめくってもらうことにいたしまして、 天照の血は天皇家の血とは異なり、天照大御神から直接に受け継がれたものであります――そう伝えられています――ので、 普通の人間には無い不思議な力(このことがのちに魔学研究の発展に深くかかわるのですが、今はおいておきましょう)を 備えておりました。 初代天照様はその力の恐ろしさを心得ておりましたので、力の存在を隠し、政治の舞台には上がらずに、 その子孫は平安の世には陰陽師として暮らし(あの安倍晴明も実は天照の血筋でございます)そのまま明治の頃まで この国を魔術的な方面から守護してきたのです……」 「へぇ……」 いつのまにか私は彼女の話にすっかり聴き入ってしまっていた。 「その、『不思議な力』が、予知夢ってことですか?」 「――のひとつですね。実際には他にもありますが……」 「が?」 「……長い年月を経て大分血が薄れてしまいまして、自由に扱えるわけではないんですよ。」 天照は自嘲気味に笑った。 「そうなんですか?」 「ええ……残念ですが。」 彼女はまた視線を落とし、紅茶を飲んだ。 「……明治から先はどうなったんです?」 私は訊いた。天照家の歴史はそのままこの研究所のルーツとなっているらしいことがすでに私には予想できていた。 天照は続きを語り始めた。 「……明治初頭に行われた、近代化学導入に伴う、陰陽道などのオカルト排斥の運動をうけ、 天照家も国家から弾き出されました。しかしその後、天照は英国に本部を置くとある組織に拾われることになります。」 「それは?」 「……『フリーメイソン』です。」 私はびっくりして聞き返した。 「それって……『あの』フリーメイソンですか?」 「はい。」 「FBIと並んでよく陰謀の黒幕にさせられる?」 「映画の中ではそうですね。」 「……本当ですか?」 「この研究所のマークをご覧になりませんでしたか?」 「え?」 私は意味がわからずにまた聞き返した。天照は名刺を取りだして、その右上に印刷されている 天照研究所のシンボルマークを指す。 「これです。」 「あ、これ見たことある!」 思わず興奮した声をあげてしまった。彼女が示したマークには、映画で見たことがあるのとそっくりな、 三角形と目を組合せた絵が描かれていたのだ。 「これは『プロビデンスの目』と言って、フリーメイソンのシンボルです。」 「じゃあ、本当の、本当に?」 「ええ……我々天照研究所は、フリーメイソンの下部組織です。」 天照は名刺をしまった。 なんだか話の壮大さに頭がくらくらしてきた。 「……そしてそのフリーメイソンが19世紀末にはすでに始めていた研究が『科学と魔術の融合』、つまり『魔学』です。」 「な、なるほど……」 「……少し一度に話し過ぎたようですね。」 私の圧倒された様子をどうやら疲れてきたものととらえたらしく、天照は申し訳なさそうにこちらを見た。 慌てて私は手を振り否定する。 「無理はなさらないでください、志野さんは病み上がりなのですから。」 「そ、そういえば! 魔学はすごいですね!」 なぜか焦った私は素っ頓狂な声をあげてしまい、さらにそれをごまかすためにやたら声をはりあげて天照を驚かせてしまった。 「あんなに火傷だらけだった右腕もすぐに治っちゃって!」 私は腕を掲げて見せた。4日前の戦いでウリエルの炎に焼かれた右腕にはもう火傷の痕跡すらない。 これも魔学を用いた治療の成果だった。 「それは……ありがとうございます」 彼女は少し照れくさそうにはにかみ、頭を下げた。そのことだけでも魔学が天照にとって単なる 研究対象ではないことがうかがいしれた。 「でも、どうしてこんなすごい技術を秘密にしているんです?」 何気なく私は訊いた。すると天照はまた目を伏せる。 「……魔学はたしかに素晴らしい技術ですが、諸刃の剣なのですよ……使い方次第で神にも悪魔にもなります。 だから、限られた人々のみが扱うべきなのです。」 天照はそう断言した。私にはそれが正しいのかそうでないのか、それすらも判らないままだった。 その後も私と天照は少し話したが、話が『×』や、あの巨人『シンブレイカー』のことに及ぶ前に天照の予定の時間が 来てしまったために、また続きは後日ということにして別れることになった。 その分かれ際に天照は私に言った。 「志野さん、あなたの戦いはまだ終わっていません。」 その言葉に私は施設の玄関口で振り向いて、頷いた。 「……また『×』が来るんですね。」 「驚きませんか」 「なんとなく、そんな気がしてました。」 私は笑ってみせる。これは本当のことで、きっと『×』とはこの先も戦い続けることになるだろうと、 また『シンブレイカー』に乗ることになるだろうということは、最初の断頭台を倒したときから感じていた。 それがどうしてかは分からないが、考えていても仕方がないと割り切って、もうすっかり忘れてさえいた。 「戦いますよ、私は。」 天照の不安げな表情を打ち消すために私はそう言ったが、ふ、といつもの微笑の前に一瞬見せた彼女の顔は とても悲しげで、そのことが私には意外だった。 「……では、気をつけてお帰りください。」 天照は私から顔を背けるように立ち去った。私はしばらく動けなかった。 太陽も女木戸ヶ丘の果てに落ち、宵闇がすっかり女木戸市をのみ込んだころ、市内のファーストフード店で食事と 大学の課題を済ませた私は、町外れの自宅へと向かう道を自転車で走っていた。 女木戸市の西の辺りは農家が多く、空から見ると四方に広がる畑の中を一本のアスファルトの線が引かれているような 感じになっている。このあたり、最近賑わっているとはいえ女木戸市もまだまだ田舎くさい。 道路にも街灯はまばらで、路面に落ちるひとつの灯りと灯りの間には数メートルもの暗闇が横たわっている。 さらに人けも無くよく不審者が出るので、それがますます夜間にこの道を利用する人を少なくした。おそらく こんな時間にここを通る女子大生なんて私くらいのものだろう――だって、こっちを通ったほうが近いんだもん。 その半ば、視界の邪魔になるほど大きな貸し看板の影に、これまた寂しげな雰囲気を漂わせた自販機コーナーが 唐突に現れる。私はここで自転車を停めた。 砂利の上に3台並んだ自動販売機からペプシネックスの缶を一本買い、飲みながら停めた自転車に跨って、 少しぼんやりとした。 自販機コーナーは道路を挟んで小さな、砂利の敷かれた駐車場まであって、よくそこにはホテル代をケチった 頭の悪いカップルの車が停まっていたりするが、今日は1台もそういった姿は見えない。おかげで見晴らしがよかった。 私は自販機コーナーから道路を挟んで、駐車場の向こうに広がる夜景を眺める。 この畑の真ん中であるこの場所から見る女木戸市の夜景が私は好きだった。この場所からは遠くにある女木戸市の 中心部がまるでパノラマ写真のように見えるのだ。私は小学生のころにこの場所を見つけてからはよく 夜中に家をこっそり抜け出してここに来て、女木戸市がまだなんの変哲もない田舎街だったころから、 そこからタケノコのようににょきにょきと背の高いビルが生えてきて今のようなちょっとした都市になるまでを ずっと見てきたのだった。 (あとはこれさえ無ければなぁ……) 私は恨めしげに貸し看板の裏側を見上げた。自販機コーナーを道路から隠すように立てられたこれのおかげで パノラマは狭まってしまっていたのだった。おまけにその裏側にはこのあたりの不良たちがスプレーで描いた 下品な落書きもある。 ……ふと、何かその看板がみょうなことに気づいた。いや看板自体には何も無いのだが、 看板の上に誰かが立っている――!? 黒い人影が跳躍し、何か長い刃物を月光に煌めかせて襲いかかってきた。私はとっさに自転車から離れ、 頭を低くして前方に跳んだ。地面の砂利が転がる私の身体を痛めつけて、小さく悲鳴をあげる。 涙が浮かんだ目でその突然の襲撃者を見ると滲んだ視界の向こうに、真っ二つにされた自転車の前に佇む、 自動販売機からの明かりで照らされたその人物が見えた。 奇妙で、異様な人物だった。 白くて長いマフラーを首元に巻き、日本刀のような長い刃物を携え、ニッカボッカにも似たゆったりとした ズボンを履いている。刀の鞘を背負った上半身は何か機械のような生き物のような外観のピッチリとしたスーツを 着ていて、まるで人体模型のようだ。右腕には何か独特な形状の機械(それは研究所にあった魔学の機械にそっくり だった!)をつけている。 こちらを振り向いた顔は無機質なデザインのマスクにで隠されていたが、その中心に刻まれているのが、 あの目と三角形の、研究所のマークであることに私はなによりも驚いた。 「誰!?」 言ってから、私はその人物を見たのが初めてではないことを思い出した。そうだ、あのとき私を『×』の攻撃から 庇ってくれた…… 「忍者……?」 呆然とする私に忍者は刀を突きつけ、近づいてくる。私は立ち上がろうとしたが全身の痛みに崩れ落ちた。 忍者は無感情に私のそばに立つ。刀を振り上げた――! 死を直感するのとほぼ同時に私のポケットの中で小さな電子音がする。私がその音に気づいたときには、 どういうわけか忍者は勢いよく吹き飛ばされて、自販機に叩きつけられていた。 自販機のガラスにヒビが入り、正面の外装がヘコむ。忍者は足をふんばり、なんとか地面に倒れこむのだけは 避けたようだった。 目の前に次々と展開していく光景に私は頭が追いつかず、痺れたままの脳でポケットのスマートフォンを取り出して 画面を見た。そこには『お守りアプリ【バリア】起動中』とあった。それで私はこのバリアのおかげで 助かったのだと知った。 私はそのスマートフォンを忍者のほうに突きだしながら叫ぶ。 「なに!?」 忍者は立ち上がっていた。彼は仮面をつけたままこちらを見すえ、刀をかまえる。 逃げようと思ったが、腰が抜けたらしい。立てない。 またバリアが守ってくれるくれるだろうか? そう自問する前に忍者はすでに私の目の前に迫って ――また吹き飛ばされた。 しかし今度はバリアじゃない。大きな機械が忍者の横っ腹に突進してきたのだ。 私はそれがあげる唸り声を知っている。 《ガオオオオオッ!!》 「頼人さん!」 忍者を再び自販機に直撃させたのは、高天原頼人が駆るあのハーレーだった。頼人はハーレーを忍者に ぶつけると同時に空中に跳び、私の前に着地する。ハーレーは忍者を牽制するようにさらに頼人の前に立ちはだかり、 威嚇するようにライトをチカチカとさせていた。 「『カオスマン』ッ!!」 頼人は私の言葉が耳に入らない様子で忍者を怒鳴った。カオスマンは再び立ち上がったが、 刀をかまえはしていなかった。 「あなたの刃はこんなことのために振るわれるものじゃないはずだっ!」 頼人はまた怒鳴る。 カオスマンはまた戦闘態勢になった。頼人は袖をまくって腕を覆う機械をむき出しにし、 手のひらをカオスマンに向ける。 「使わせないで……!」 懇願するような響きだった。 カオスマンはしばし考えた様子を見せた後、刀を納める――と同時に、不意をついて何かを放った。 それは紙片のようで、バイクと頼人の横をすり抜け、私の目の前の地面に突き刺さる。 それだけするとカオスマンはこちらに背を向け、夜空にジャンプして姿を消した。 「御怪我はありませんか?」 頼人も機械を袖の中に納め、こちらを向いた。その額には汗が浮いていて、先ほどまでの緊張感がどれほど だったのかを物語っている。 「あれは……いったい?」 「あれは『カオスマン』……秩序から外れた者です。」 頼人はそう言って手を差し伸べてきた。私は受取り、立ち上がる。 「前にも見ました……あれも、あなた達の仲間なんですか」 そう問うと、頼人は言いづらそうに「……はい。」 「説明してください! 私、殺され――」 口に出してはっとした。 そうだ、私は殺されかけたのだ。頼人とバイクが駆けつけてくれなかったら、今ごろ…… 私は真っ二つにされ、地面に転がされたままの自転車を見た。ぞっとした。 「彼に関しては説得します。安心してください。」 「そんなことっ! せめて、なぜかを教えて!」 「……彼は、あなたがシンブレイカーに乗るのに反対しているんです。」 かっと頭の奥が熱くなった。 「そんな理由で!? ふざけっ!」 怒りに任せて足元の小石を蹴る。それは転がって、さっきカオスマンが投げた紙片にぶつかった。 頼人がその存在に気づき、近づいて拾い上げる。顔色が変わった。 私はそれに気づいて、頼人に飛びつく。彼は一瞬抵抗したが、すぐにそれを見せてくれた。 それは写真だった。私は頭をガンと殴られたような感じがした。 「この写真……!」 それは記念写真のようだった。山の上だろうか、どこかの街を一望できるほどに高く見晴らしのいい場所で、 ひとりの女性がバイクに寄りかかって笑顔でピースサインをキメている。 バイクには見覚えがあった。それは大型のハーレーで、今も私たちを守るために周囲を警戒してくれている、 このバイクに間違いない。 女性の方にも見覚えがある。しかし、これは―― 「――私……!?」 それは志野真実がバイクに寄りかかって笑っている写真だった。
https://w.atwiki.jp/rozenmaidenhumanss/pages/2602.html
ベッドに入ってから一睡もできなかったというのに、頭は妙にスッキリしていた。 気怠さや、疲れも感じない。肌だって瑞々しくて、パッと見、荒れた様子はなかった。 これが若さなのかな? と蒼星石は洗面所の前で、小首を傾げてみた。 鏡の中の彼女は、不思議そうに、自分を見つめ返している。 そこに、昨夜の雰囲気――柏葉巴の影は、全く見受けられない。 今日、学校に行ったら……話しかけてみよう。 夕暮れの体育館で見た凛々しい姿を思い出しながら、もう一度、昨夜の決心を繰り返す。 おとなしそうな彼女だけど、果たして、呼びかけに応えてくれるだろうか。 人付き合いは、やはり、第一印象が大事。変な人と思われないように、気を付けないと。 蒼星石は、鏡の中の自分に、ニッコリと笑いかけてみた。 大きな期待の中に、ちょっとの不安を内包した、ぎこちない微笑み。 少しばかり表情が硬いな、と思っていると―― 「朝っぱらから、鏡の前で何ニヤついてるです?」 「わぁっ! 驚かさないでよ、もぉ……」 いつから見ていたのだろう。 蒼星石は耳まで朱に染めて、ニタリと笑っている姉の脇をすり抜けた。 第三話 『運命のルーレット廻して』 揃って朝食を済ませ、支度を終えた姉妹は、一緒に玄関を出た。 秋も深まり、日一日と風が冷たくなる時候ながら、今日は普段より暖かい。 小春日和の日射しに包まれていると、なんだか…… 何年もそうしていなかったような、とても懐かしい気がする。 (姉さんも、ボクと同じ気持ちなのかな?) ちらりと盗み見ると、翠星石は口に手を宛い、大きな欠伸をしていた。 しばしばと瞬いて、滲み出した涙を堪えている様子が微笑ましい。 「随分と、眠そうだね」 言ったそばから、姉の欠伸が移ったのか、蒼星石も大きな欠伸を放つ。 それを見て、翠星石は愉しげに目を細めた。 「蒼星石だって、他人のこと言えねぇです」 「……らしいね。シャワー浴びたせいか、あれから目が冴えちゃってさ」 「実は、私も――――ずっと眠れなかったですよ」 そう呟いて、隣を歩く妹に、咎めるような眼差しを向ける翠星石。 「蒼星石が、あんなコトするから……」 「はは……ごめん。そう言えば、姉さんってスキンシップに弱かったっけ」 「知ってるクセに抱きつくなんて……とんだ悪党ですぅ」 赤らめた頬を、可愛らしく膨らます姉の仕種は、しかし、長く続かなかった。 やおら真顔に戻ったかと思うが早いか、蒼星石の背中をバシンと引っ叩く。 照れ隠しのためとは言え、あまりの手加減のなさに、蒼星石は息を詰まらせた。 「い、痛いよ姉さん! 何するのさ」 「それでチャラにしてやるですぅ。さっ、気を取り直して、学校に行くですよ」 「……はいはい。とにかく、授業中に居眠りしないように、気をつけなくっちゃね」 「今日は土曜日ですから、午前中さえ凌げば大丈夫ですぅ」 答えた途端に、またぞろ大欠伸をする姉を見て、蒼星石は、ふっ……と口元を綻ばせた。 そして、こんな二人だけの時間が、もっと欲しいと思って―― 「今日の午後、たまには二人で、パフェとか食べに行かない?」 翠星石を、遊びに誘った。彼女から誘うなんて、真夏に雪が降るくらいに、珍しいことだ。 だからこそ、彼女は翠星石が「はい」と頷いてくれるものと信じていた。 しかし、蒼星石の期待は、呆気なく拒否される。 「とっても嬉しいですけど……今日は都合が悪いですよ」 「そう……なんだ。残念だなぁ」 「ゴメンナサイです、蒼星石。この埋め合わせは、近い内に、きっとするです」 「別に、いいよ。気にしないで」 心底、申し訳なさそうに項垂れる彼女を、蒼星石は笑って宥めた。 けれど、二人の間に漂うギクシャクした空気は、学校に着いても薄れることがなかった。 学校に到着して、カバンを机に置くなり、蒼星石は隣のクラスに向かった。 昨日から頭を離れない彼女――柏葉巴と、一言でも話をするために。 HRが始まるまで、まだ十分ほど余裕がある。 (もう来てる頃だよね) 学級委員を務めるほどだ、遅刻するような問題児ではあるまい。 そう思って、教室の後ろの扉から、そぉっと様子を窺うと…………居た。 なんの偶然か、彼女が丁度、教室から出てくるところに鉢合わせたのだ。 巴は、蒼星石の姿を認めると、控えめに微笑んだ。 「おはよう。誰かに用事? 呼んできてあげようか」 「あ……おはよう、柏葉さん。ボクは……キミに会いに来たんだ」 「わたしに?」 「ちょっと、話がしてみたくてさ。今、少しだけ時間つくれる?」 問いかける言葉に、不思議そうな表情を浮かべる巴。その反応は、蒼星石の想定内だった。 体育の授業は隣のクラスと合同で行うから、二人は一応、顔見知り。 だけれども、今日に至るまで、交流を図る機会には恵まれていなかった。 「……ダメかな?」 蒼星石が不安げに訊ねると、巴はシンプルな造りのアナログ腕時計にチラと目を遣り、 「いいわよ」と、にこやかに応じた。 巴にしてみれば、なぜ今になって蒼星石が近付いてきたのか、その理由に興味があったのだろう。 クラスメートの視線を気にしてか、廊下に出た彼女は、後ろ手で教室の扉を閉ざした。 室内の喧噪は遮られ、話をする環境が整えられる。 巴は、背格好の似通った娘の双眸を、その鳶色の瞳で、ひた……と見据えた。 「それで、お話ってなぁに? 蒼星石さん」 「ボクの名前……知ってたの?」 「ええ。自覚してないみたいだけど、貴女は割と有名だもの」 「正しくは、ボクの姉さんが有名……でしょ」 姉と自分は、二人でひとつ。生まれながらにして、二人はいつも一緒だった。 別個の存在でありながら、一心同体。 蒼星石の半分は翠星石であり、姉の半分は妹で占められている。 そう。本来ならば、彼女たちは対等の関係である筈だった。 しかし、等しく浴びる筈だった陽光は、いつだって姉にのみ注がれてきた。 蒼星石の存在は、煌びやかに光り輝く姉の足元に落ちた影と同じ。 言わば、彼女の『おまけ』でしかない。名前を間違えられることも、しばしばだった。 (でも、ボクは――それがイヤじゃない) 寧ろ、姉の名で呼ばれると嬉しくなったし、彼女とひとつになることは密かな望みだった。 触れ合い、癒着し、どろどろに溶けて、混ざり合ってしまいたい。 そして、コールタールの様な混沌から、たった一人―― 至高の美しさを持った少女として生まれ変われたのならば、どんなに素晴らしいだろう。 ――が、所詮は、実現不可能な世迷い言。正気と妄想の狭間に産まれた悪夢。 我ながら、馬鹿げた願望だ……と、蒼星石は自嘲した。 「ごめんなさい。何か、気に障ること言ったみたい」 間近で紡がれた声で、蒼星石は我に返った。 声の主は、困惑の表情を浮かべて、自分を見つめている。 「ご、ごめん。ちょっとボーっとしちゃってた。怒ってたワケじゃないよ」 「……よかった。急に黙っちゃうから、心配したわ」 その言葉どおり、巴は安心したように小さく笑って、付け加えた。 「でも、貴女が有名っていうのは本当のことよ。魅力的な人だなって、わたしも思うもの」 「ボクが? ははっ……まさかぁ。ボクなんかよりも、キミの方がずっと素敵だよ」 「え?」 「昨日の放課後、体育館で剣道の練習してるキミを見たんだ。 すごくカッコよくて…………思わず見惚れるくらいに綺麗だった」 「汗まみれな姿を見られてたなんて、恥ずかしいわ。それに、お世辞でも誉めすぎよ」 両手で頬を包み、はにかむ巴の仕種は、蒼星石の眼に、とても初々しく映った。 やがて、HRの始まりを告げる予鈴が鳴り、廊下にまで溢れていた喧噪が静まる。 もう、それぞれの教室に戻らねばならない。だけど、もう少し話していたい気分だった。 だから彼女たちは、ごく自然に、同じ言葉を口にしていた。 「また、後でね」 第三話 おわり 三行で【次回予定】 相まみえて、たちまち意気投合する乙女たち。 縁と浮世は末を待て。彼女たちは時を積み、言を重ね、情を育む。 その間も、運命のルーレットは休みなく廻る、回る―― 次回 第四話 『今日はゆっくり話そう』
https://w.atwiki.jp/crossstory/pages/35.html
日は完全に沈み、星空となった空には白く輝く月の姿が浮かぶ。 その頃、月光に照らされた街の中では…… ??? ……何だろう、この感じは。 体が落ちていくような……と言うよりも、本当に落ちているらしい。 空はどんどん離れていき、下には一面の暗い海が広がっている…… でも、どうして落ちているのだろう。 私はどうして落ちていて、そしてどうなるのだろう…… そこへ、一筋の光が見えた。此方に向かって、直進的に飛んで来る…まるで翼のような、一対の光が。 私は恐怖の余り、思わず目を閉じていた。 しかも、私の身を打つ風の衝撃に耐えられず、 どんどん私の意識は遠退いていく…… ヘブンシティ都心 場所は変わり、此処はヘブンシティ。 幾多にも及ぶ建物の陰に隠れるように、二人の人影が映っていた。 「ほら、今日は魚と果物が取れたわよ。」 二人のうちの片方……恐らく少女だろう。 彼女は目の前の相手に、人間の頭程の大きさの魚と、林檎のような赤い果物を差し出した。 「これだけしか無くて申し訳無い」と述べる彼女に、相手は優しげな言葉を返した。 「ううん、僕これだけでも平気だよ。それに、わざわざ採ってきてくれたんだし……むしろ、ありがとう」 中性的な声の少年は相手にお礼を言うと、そのまま果物にかぶり付いた。 その様子を観察していた誰かに気付かないまま…… 「やっぱり、本当に居たんだ…」 「すぐ、誰かに知らせよう!」 海岸 「……で、此処がヘブンシティ自慢の海岸だ。」 俺はサザロス、遥か南にある王国アポロンズフィールドの…… というのは前も言っただろうから言わない。 今はジャンに連れられて、ヘブンシティの見学をしている。 エルフィア達も誘ってみたのだが、 エルフィアは「遊ぶ約束があるんだ」と言って出ていったし、ミリフィアは「誰かが留守番しなきゃ」と言って家に残った。 そして、結局はジャンと二人で廻っている。 そして今居るのが海岸なのだが、これがなかなか綺麗なのだ。 月の光を受けて煌めく海面は、まるでプラチナでも溶けているように見える。 砂浜にも光が当たっており、此方は真珠のような輝きを持っている。 ヘブンシティの自慢と言うだけあって、それは最高に美しかった。 しかも海面を見ていると、青白い光が線を描いて飛んでいくのが映った。 急いで空を見上げると、そこには海面に映った光より更に眩しい光……それは星と言うにはあまりに大きく、月の欠片でも落ちたかと思ってしまう程の物だった。 「うぉっ スゲェ!あれ見ろよ、流れ星じゃないか!?」 俺はジャンの肩を叩き、空を指さした。 するとジャンは、俺に続いて空を見上げた。その光を目にした彼も、俺と同じように目を剥いて、釘付けになっていた。 「本当か!?……」 しかし、その後の表情を見た俺は疑問に思った。 笑っていない。飛行する光を、何故か睨みつけている。 確かに、流れ星にしては大き過ぎるが……と思い、俺も再び空に目を向けた。 そこには、未だ消えずに残る光……否、その光は本当に何かが可笑しかった。 「あれは流れ星なんかじゃない……デカい光の翼だ!」 そう、それは巨大な光の翼だった。だから、あんなに大きかったのか。 間もなく翼は海岸の向こうへと降り立ち、終いに光は薄れて消えていった。 何者かを確かめるべく、俺達もそこへ駆け寄った。 しかし、遅かった。 後ろ姿で立っていた、目の前に居た誰か……そいつは、背中から光の翼を出現させた。 あまりの眩しさに、俺達は目を閉じた。 そして目を開いた時には、あの光など何処にも無かった。 代わりに、何故かそこには一人の少女が倒れていた。 銀の色をした艶やかな髪を、両サイドと後頭部でテールにしている。トリプルテール、とでも言うべきか。 そして、その服装は異国の雰囲気を持っていた。 俺の故郷・アポロンズフィールドでも見た事は無いし、 このヘブンシティでも見かける事はなかった、少女の暑そうな格好。 これは確か……そうだ、雪国の格好だ。しかし、何故こんな所に、雪国の少女が倒れているのだろう。 とりあえず、このまま放っておく事は出来ない。少なくとも、俺には出来ない。 まず、俺は声をかけてみた。 「おぉい、大丈夫かー?」 返事は返ってこない。それどころか、ピクリとも動かない。死んでしまったのか……そんな事、俺は認めない。 次に、体を揺すってみた。 相手の肩をそっと揺らして、声も同時にかけて…… すると、ようやく彼女の目が動いた。その瞬間に俺は、大きな安心感を取り戻した。人命救助とは、こんなにも緊張するものなのか。 「人工呼吸でもしてみたらどうだ?」 「何もしてねぇ奴が口出しすんな!ってか出来る訳ねぇだろ!」 ジャンがまさかの『空気読めない発言』だ。 俺の緊張を解してくれようとしたのだろうが、その発言は全く空気を読めていない。 しかし、今の俺の突っ込みが耳に届いたのか、 遂に彼女の意識が戻った。 俺の声に続き、小さな唸り声をあげた彼女は、白雪姫の如く目を覚ましたのだ。 「んー……………大きい剣で天井が………」 起きて早々、意味の分からない事を呟きだしたが……頭でも打ったのだろうか。 俺の後ろで腕を組みながら様子を見ていたジャンも、彼女の言葉に首を傾けていた。 「……とりあえず。俺はサザロス、太陽の国の王子だ」 今は、彼女を知っておかなければ。俺は相手に手を差し伸べ、自分の紹介をしてみた。 物分かりが異常に良かったジャンは俺を信じてくれたが、彼女はどうだろうか? とにかく今は、信じてくれる事を祈るだけだ。 彼女は、俺が伸ばした手を掴み、立ち上がった。 「王子……………何、それ。」 「えっ?」 「ぇ…」 ……そんな馬鹿な。信じるどころの問題ではないじゃないか。 ま、まぁ良い、王子の意味は後で教える事にしよう。 心に多大な敗北感を覚えた俺に代わり、後ろからジャンが相手に問い掛けた。 「俺はジャン・スレイド。どうやら此処ら辺じゃ見かけない顔だが…どちら様だ?」 「え、私?……私は、…」 彼女は、ジャンの質問に対して困っていた。 まさか、と思った。そして、彼女が呟いた一言は、その『まさか』通りだった…… 「………名前なら分かるよ。私はノゼライ。それ以外は……分かんない、かな」 やっぱり、記憶喪失だった。本当に頭を打っていたという事か。 「人の命を助けた」と浮かれていた俺も、その言葉を聞くなり思わず黙り込んでしまった。 ジャンも、相手が記憶喪失だろうと推測出来ているようで、何かを必死に考えている。 そして、ノゼライと名乗った少女は、俺達の様子を不思議そうに見ている。 この風景が、延々と続いた……… その時だった。 突然のズドォンッ、という音と共に、砂煙が巻き起こった。 「っ!! 何かが降ってきた!」 俺達は、一斉に砂煙の方を向いた。 背後から、まるで嵐のように暴れる砂の粒。そしてその中には、一人の怪しい影…… 「人間よ……そいつの命は我々が貰う!」 砂煙は晴れ、そこに立っていた人物が指を指しているのが分かった。 その指の先にいたのは、俺達が今さっき助けた少女、ノゼライだった…… ー続くー
https://w.atwiki.jp/genshikenss/pages/144.html
第三話・迷子の兵士 【投稿日 2006/02/06】 第801小隊シリーズ 「早朝から大変ですね・・・。」 「まあ、戦争って言うのは相手の隙をついてこそだからね・・・。」 日課である早朝ミーティングが出撃のため中止になり、 持ち場に戻るため、二人で基地内を歩くタナカとオーノ。 「皆さん無事に帰ってきてくれるといいんですけど・・・。」 「新型がものすごい性能だから、きっと大丈夫だとは思うけどね・・・。 だけど戦いって言うのは水物でね。どういう結果になるかはわからんよ。」 「それはわかってますけど・・・。」 「うん、無事でいてほしいと思うのは俺も一緒だ。」 ちょうどオーノの職場である医務室前に差し掛かる。 「では、またあとで。」 「ああ。」 医務室に入るオーノに軽く手を振り、整備場へと向かおうとするタナカ。 しかし、そこに後ろから声がかかる。 「タ、タナカさん!」 「え、なに、どうしたの?」 そのオーノのあまりに大きな声に、タナカは驚いた。 「あ、あの子がいなくなっちゃってます!」 「ええ!」 「そろそろだな・・・。」 マダラメはカラーリングを赤に変えたザクに搭乗している。 そのコクピットでぼそりと呟く。 『ですね。そろそろ警戒して進んだほうがいいですね。』 ホバートラックを中心にコクピットでの会話はすべて伝達されている。 その通信をこいにきらない限りは。 マダラメの呟きに反応したササハラがそう進言した。 「ん・・・。そうだな。各機、スピードを落とせ。」 きゅぅぅぅぅぅ・・・・ん。 「・・・どうよ?調子は。」 『ジムっすか?良いですよ。だけど、あのシステム、まだ理解できてませんよ。』 マダラメの問いの対象が自分だとわかったササハラが、率直な感想を述べる。 「ふーん。まあ、無理して使う必要もないわな。」 『ですね。でも、一応ためしにオンしてみますよ。』 隣に並んだ見た目は彼らにとってはおなじみのジム。 あらゆるところがさまざまなパーツで補修されているため、 ヘッドはジムスナイパ-カスタム、腕がジムキャノンといった、 つぎはぎMSと化していた。否、そうせざるをえなかった。 だが、昨日からその内部には実験用の最新システムが組み込まれた。 『成長型のAIだと聞いてるから、なるべく使ったほうがいいよ。」 その会話に割って入ったのはコーサカだった。 「へえ、AIね。」 マダラメが胡散臭そうに言葉を返す。 『ええ。空間知覚を拡大するためのデバイスになるらしいです。』 『?その辺がさっぱりわからないんだよね。』 昨日のミーティングにてタナカから説明されてはいたのだが、 いまいちササハラは理解できてなかった。 『早い話が、目で見る、耳で聞く以上の空間認識が出来るようになるってこと。』 『それって・・・。うわさに聞くニュータイプみたいになれるってこと?』 「そんな夢物語みたいな話・・・。」 ニュータイプ。うわさに聞く天才パイロットたちの逸話。 『まあ、それを目指してみたってことらしいですが・・・。」 「ふーん。まあ、うまく使えるならそれにこしたことはないわな。 で?お前さんの乗ってるガンダムは大丈夫なのか?」 『もちろんですよ。』 裏表のなさそうなはっきりした声で答えるコーサカ。 「期待してるぞ。俺らの中じゃ一番性能はよさそうだからな。」 『了解しました。』 一歩後ろからマダラメ機とササハラ機に追従するコーサカ機。 見た目はうわさに聞くガンダムのそれとは違い、カーキー色のボディ。 肩や膝といった関節が黒で塗られたそのフォルムは、ゲリラ戦向きといえた。 「初陣、ってわけじゃないんだろ?」 『ええ、もちろん。一時期研究室にいましたが。』 『ちょ、コーサ・・・。』 サキがその言葉に反応して言葉を発した。 「ほーん。研究員だったわけだ。」 『ええ。まあ。』 「ほお。・・・そろそろだな。」 マダラメとしては少しその言葉に違和感もあったが、 現場に近くなってきたため、会話はそこで打ち切りとなった。 「クチキ一等兵、現場からの連絡は?」 『一切ないであります!』 「くそ・・・。」 マダラメの頭に最悪の予感が頭によぎる。監視部隊の全滅。 しかし、戦闘中のため発信が出来ない可能性もある。 ようやく現場が視界に入ってくる。 『敵MS反応!八機いるよ!』 サキによる索敵レーダー反応の報告が伝わる。 「!よりによってドダイつきかよ・・・。」 墜落した大物の上空に、ドダイに乗った五機以上のザク。 大物の周辺にはガンタンクⅡが展開していたが、 撃っている砲撃はまるで当たらない。 すでに、二、三機が撃破されている様子だ。 「ホバーはここで待機!サササラ、コーサカ両少尉は突撃するぞ!」 『『『了解!!!』』』 「射程に入り次第各個撃破だ!ガンタンクのフォローも忘れるな!」 そういって早々に敵の射程の真っ只中へ進むマダラメ。 「ちい、遠距離は得意じゃねえんだけどな・・・。」 今回の補給で得たビームマシンガンを構え、 ガンタンクに注意を引かれているザクの一機に狙いを定めた。 ドダダダダダダダダダダ・・・・。 よもやその方向から攻撃が来ると思っていなかったのだろう。 狙われたザクはそれをかわしはしたものの、バランスを崩しドダイから落下した。 そこに間合いを詰めるマダラメ。ヒートホーク一閃。 武器を持つ腕を切り落とし、戦闘不能状態にする。 「これでもう戦えねえだろう!投降しろ!」 マダラメは外部スピーカーで投降を訴えるが、 かまわずそのザクはヒートホークを残った手に持ち、振り下ろしてきた。 「ちくしょう、やるのかよ!」 マダラメは間一髪それをかわし、もう片方の手も切り落とす。 ついに、ザクはその活動をやめた。 ササハラのコクピットでは、妙な機械音が鳴り響いていた。 「コレ・・・。本当に使えるんだろうな・・・。」 不安はあるものの、やってみない以上には仕方がないとササハラは自分を納得させる。 「・・・よし。」 ササハラはスイッチをいれた。カチ。 キュイー・・・・・・ン。 『始めるの・・・?』 「????声????」 聞いたこともない女性の声が頭に響く。 「え、え、なにこれ?」 頭に妙なビジョンが広がる。自分を中心に一帯の風景が浮かんでくる。 「これが、空間認識?目の前の光景とは別に、頭に浮かぶってことか・・・。」 しかし、その光景が不規則に変化する。 後ろが映ったと思ったら上、下。斜め前方、右斜め45度。 まったく関係ない輸送船の中。ホバートラックのアンテナ。 「うわ・・・。なんだこれ・・・。」 頭を抱えてしまうササハラ。ここが戦場にもかかわらず・・・。 『貴方が見たいものは何・・・?』 再び声が響くものの、そのビジョンに圧倒され、行動がままならなくなる。 マダラメの突撃によって援軍に気付いた皇国軍は、狙いを小隊の方に向けてきた。 「き、気持ちが悪い・・・。」 ササハラはもはや何も考えられず、何も出来なくなってしまった。 『ササハラ少尉!何をしている!』 マダラメの声にはっとするササハラ。 目の前上空には、一機のザクが迫って来ていた。 「く、くそ!」 スプレーガンを向け、応戦の体制をとるササハラ。 二連射するが、あっさりかわされる。 真上に来たザクはすぐさま落下しながら、 ササハラ機に向かってヒートホークを振り下ろしてきた。 「うわ・・・!」 間一髪かわすが、左の手が切り落とされる。 「うあ・・・。」 相変わらずビジョンは続く。 『私を必要としていないの・・・?』 声も響く。 「なんなんだよこれ・・・?」 『ササハラ君、装置をオフにするんだ!』 響くコーサカの声。 「わ、わかった!」 すぐさま装置のスイッチをオフにする。 すると、頭の中に起こっていたビジョンが嘘のように消えた。 しかし、目の前には追撃をしてくるザク。ヒートホークが迫る。 「うおーーーー!!」 ササハラは叫びながら、ビームサーベルを抜き放ち、ヒートホークを真っ二つにする。 「はあ、はあ。」 だが、これでは終わらない。次にザクは体当たりをしてくる。 「うぐ・・・。」 衝撃が体に響く。先ほどの嘔吐感も重なり、少し吐きそうになる。 「くそぉ!」 それも何とかこらえ、ビームサーベルでコクピットを貫く。 ザクの動きは完全に停止した。 「はあ、はあ・・・。やっちゃったか・・・。」 人を殺すのは別に初めてではない。それはマダラメもコーサカもだろう。 しかし、いまだにこの自己嫌悪感は拭いきれない。 「・・・まだ、戦いは終わっちゃいない。気を抜いちゃだめだな。」 『コーサカ少尉、今日のエースだな。』 ササハラがザクを一機撃破したころ、コーサカはすでに三機ザクを撃破していた。 「いえいえ。運が良かっただけですよ。」 『謙遜は良くないな。しかもうまく動きを止めるようにしている。』 事実、コーサカに相対したザクは、すべて手や足がもがれた状態で、パイロットは無事だ。 「まあ、気分の良いものではありませんからね・・・。」 『・・・それはそうだな。』 マダラメも、ドダイを奪い、空中戦にて二機目を撃破したところだった。 「ち・・・、やっちまったか・・・。」 今回はうまくとめられず、相手のザクのコクピットを切り裂いてしまった。 「いまだに・・・。思い出しちまうな・・・。」 『隊長!あと二機ですか!』 「おうよ!」 少し感傷に浸りそうになったマダラメの意識を、、ササハラの声が現場に戻した。 しかし、その二機が見えない。見える範囲にいないのである。 『たいちょお~~~!大きな識別反応が!』 「なんだと!?・・・あれは!」 クチキの報告から例の大物のほうを見やるマダラメ。 その周辺には先ほどの二機のザクが。 そして、空中にいるマダラメは見ることが出来た。 超巨大な、ハラグチの乗って来たものよりも、 数倍はあろうかという輸送船が近づいていることに。 「・・・うそだろ?流石にあれは落とせんぞ!」 ちょうど上空にきた輸送船は、ワイヤーを下に落下させる。 残った二機のザクによりワイヤーがくくりつけられる。 『あのワイヤーさえ切れば!』 叫び、狙いを定めようとするササハラに対し、 「・・・いや、やめとこう。俺らの任務は、監視隊の防衛だ。 下手を打って反撃されたらかなわん。」 そういって、その光景を眺めるマダラメ。 徐々に引きずり上げられていく大物。 『・・・あとで少将に怒られませんかね?』 そういったのはコーサカ。 「・・・しょうがあるまい。出来ないことをやるわけにもいかん。」 輸送船は空中に大物をぶら下げたながら、皇国軍のエリアのほうへと去っていった。 『貴様ら!何をやっている!』 そのタイミングで通信に入っていたのは、大きな怒声であった。 「なぜ、見逃した!あれは皇国の機密であり、 わが軍にとってあれを逃すことは大きな損失なのだぞ!」 基地に戻ってきた801小隊の面々は、ハラグチ少将の怒声を浴びることとなった。 今彼らがいるのは司令室。出撃隊に加えて、大隊長も同席していた。 「・・・われらの任務は監視隊の護衛でしたから・・・。」 「理由になっとらん!」 マダラメの言葉に怒りをさらに膨らませる少将。 「ですが、あれを取り戻そうとしたらこちらにも甚大な被害が・・・。」 「そんなもの知るか!あれには兵100人以上の価値がある!」 マダラメとの問答を続ける少将の言葉にカチンと来たのはササハラ。 「な、なんてことを言うんですか!人の命のほうが軽いですって!?」 「馬鹿、やめろ、ササハラ・・・。」 同じく頭には来てるものの、軍属として上官に反論はしてはいけないと 考えるマダラメは、ササハラの言葉に冷や汗ものだ。 「その通りだ!それによってわが軍が勝利し、 さらに何十万という命が助かるのならば、それも致し方あるまい!?」 「それは詭弁でしょう!」 「貴様!上官に逆らう気か!」 にらみ合う二人。そこに、大隊長が声をかけた。 「・・・まあまあ。落ち着きなさい。」 「はあ・・・。」 「しかしですな。上官への口の利き方も知らんような兵士は切るべきですぞ。」 その言葉にさらににらみを利かせるササハラ。 「それはそうとハラグチ少将。こんなものが出てきたんだがね・・・。」 一つの封筒をハラグチに向かってヒラヒラさせる大隊長。 「はあ?なんですか、それは。」 近寄り、封筒を受け取り、中を見るハラグチ。顔が変わる。 「・・・これ、どこで・・・。」 「ん?たまたま、ね・・・。」 「コピーのようですが・・・。」 「原本はボクの信頼してるある人に預けてあるよ。」 そういってにこりと笑う大隊長。 「・・・何がお望みで・・・。」 ハラグチが、今までにないくらいしおらしい表情を見せる。 「ん。この部隊への補給を忘れないようにしていただけるかな。 今までずいぶんと・・・。」 「はい、はい!わかっております!」 「あと、ガンタンクⅡとジムキャノンあったよね、置いてってくれる?」 「わ、わかりました。で、では、私はこれで。」 そういいながら、足早に立ち去ろうとするハラグチ。 「ん・・・。そうだ・・・。報告書、まだ出てないようだな。 あと、パイロットが脱出したような形跡、 いや外からこじ開けたような形跡があったんだが、 何か知らないか?」 出ようとした瞬間にハラグチは出撃隊の面々に向かって質問した。 「・・・われわ」 「いーえ、何も知りません。 皇国がパイロットだけ先に救出しにきたのではないですか?」 バカ正直に答えようとしたササハラの言葉をさえぎり、マダラメが答えた。 「そうか・・・。では報告書だけは頼むぞ・・・。」 そういって、ハラグチは面白くなさそうに出て行ってしまった。 「隊長・・・。」 「まー、そういうことにしとこうぜ。俺らしか知らないわけだし。」 「すいません、先ほどはついかっとなって。」 「頭に来てたのは俺もだしな。」 「ったく、嫌なやつだね。ああいうのがいるから軍は嫌なんだ。」 サキがようやくいえると言った様子で文句を並べた。 「ササやんはかっこよかったね。まあ、隊長さんもね。」 「へ。軍属って言うのはいろいろ大変なんだよ。」 サキのほめ言葉も、皮肉で返すマダラメ。 「またそういう言い方をする・・・。」 ササハラが苦笑いをする。 「しかし、大隊長、あの封筒って・・・。」 「ん、気にしないで。これでずいぶん君らにも楽をさせて上げられる。」 (き、気にしないでっていわれてもな~~~。) そこにいた全員がそうは思ったが、突っ込まないことにした。 「では、解散!ササハラ、報告書、うまく書けよ。」 「了解!」 笑顔でそこから飛び出し、気になっていた医務室へと向かうササハラ。 その途中でオーノと出会う。 「あ、ササハラさん!いいところに!」 「え、あの子目が覚めた!?」 「そうだと思うんですが、行方不明に!」 「ええ!?」 「じゃあ、朝から見つかってないわけね?」 サキがオーノに向かって聞く。 「ええ。皆さんが出撃されたあとに・・・。」 「かー、厄介だねえ。まがりなりにも敵国の兵士だろ?」 そのことをオーノから聞いたササハラはすぐさま皆に捜索の手伝いを依頼した。 「ええ・・・。ですけど、片手骨折してますから、 たいしたことは出来ないとは思いますが・・・。」 一応の装備を固めながら、オギウエの捜索をしている二人。 「ここの連中はお人よしだね。軍人らしくないよ。」 「ええ。だから私はここが大好きなんです。」 「ふーん。まあ、私としても居心地は悪くないかな・・・。」 「そういえば、カスカベさんとコーサカさんはどういったご関係なんですか?」 「サキで良いよ。一応恋人ってことになるのかな?幼馴染でね。」 「へーえ。」 「研究所に勤務してたときに再会してね。まあ、そのままって感じ。」 「え、じゃあ元は軍属じゃなかったんですか?」 「まあ、いろいろあってね・・・。」 「あ、あそこに動く影!」 前に見えた影を追って、サキとオーノは話を中断して影を追った。が。 「なんだ。クガヤマ・・・だっけ?」 「な、なんだよ。み、みつかったのか?」 「いえ・・・。クガヤマさんの影がそうなのかなっておもって・・・。」 「そ、そっか。じ、じゃ、俺あっち見に行くよ。」 「うん。じゃあ、私らはあっちね。」 ササハラはMS整備場に来ていた。 普段はタナカとクガヤマが機械をいじる音を全開にしてるものだが、 今はみなで捜索してるので静かなものだ。 「・・・おーい!でてこーい!!」 一応声を出してみる。 しかし、それで出てくるようなら、もう見つかっているはずだろう。 そうは思いつつも、声を出してしまった。 ガチャ・・・。 音がした。その方向を向くと、廃パーツの山が動いていた。 「そこか?」 ササハラは静かに近寄り、その山を動かしていく。 「ひい・・・。」 そこには、恐怖におびえ、身を丸くしたオギウエの姿があった。 「・・・よかった。意識戻ったんだね・・・。」 満面の笑顔を、オギウエに向けるササハラ。 「!なんで、笑うんだ・・・。私とお前は敵なんだろう!?」 「でも、人の命にはかわらないよ。」 「私は・・・。私は・・・。」 わなわな震えるオギウエ。それを見て、ササハラは言う。 「いろいろあったんだろうとは思うんだけど、聞いたりしないからさ。 ひとまず医務室に戻らないかな?」 「・・・わかった。」 ササハラは、しゃがんでる荻上の手を引き、立ち上がらせる。 「・・・そうだ、名前は?」 「・・・オギウエ。チカ・オギウエ少尉。」 「へー。俺と同じ階級なんだ。」 「・・・別に、気を許したわけじゃないぞ。」 「はは。わかってるよ。じゃあ、いこう。」 「オギウエさんていうんですね。いいですか、オギウエさん。 あなた、一応体弱ってるんですからね。 動いてさらに悪化したらどうするつもりだったんですか? そういうの、甘く見てる人私とっても腹が立つんです。」 笑顔ではいるものの、棘のある言葉をオギウエに並べ立てるオーノ。 あのあと、ササハラは医務室にオギウエを戻し、みなに発見を報告した。 「別に助けてくれとはいってない・・・。」 「やかましいですよ?腕も骨折してるというのに廃パーツの中ですって? もしかして持ち上げたんですか?そういうのが良くないんですよ? いいから助かった命、大切にしてゆっくり治してくださいね。」 あいかわらず笑顔でいるものの、言葉にさらに棘を含ませるオーノ。 「ぐ・・・。」 口では勝てないと思ったオギウエは、布団にもぐりこんでしまった。 「あはは・・・。」 「まったく人に迷惑かけといて・・・。」 「まあまあ。俺らのこと信用はまだ出来ないでしょうから。」 オーノに近づき声を潜め話すササハラ。 「それはそうですけど・・・。」 「元気になるまでは一応そっとしといてあげてね?」 そういって手のひらを縦にして口の前に置き、片目をつぶるササハラ。 「はい、わかりました。 でも、元気にさせるためのことはいろいろしますよ?」 「あはは・・・。お手柔らかに頼むね・・・。」 時間は夕暮れ。第801小隊は、死者を出すことなく今日を終えることが出来た。 「パイロットの生死不明・・・?」 皇国軍基地にて、先ほど回収された兵器の報告書を見たナカジマが眉を顰める。 「ええ。死体はなく、外からこじ開けた形跡が・・・。」 「!?まさか、連盟軍に囚われたのではないのか??」 「その可能性も否定は出来ません。」 「困ったことになったな・・・。大したことを知ってるわけではないが、 やつらに良いサンプルを渡すことになる・・・。」 地図が映し出された大型のディスプレイを見るナカジマ。 「・・・一番近い連盟の基地は?」 「B-801地区の基地ですね。」 「・・・工作員を潜入させてみるか・・・。時間はかかりそうだがな・・・。」 次回予告 新システムの基盤はある少女の思考パターンが元になっているという。 システムになれるために日々特訓を繰り返すササハラ。 一方で敵国の少女・オギウエと交流するごとに、 戦争がさまざまなものを失わせることを再認識する。 次回、第四話「二人の少女」 お楽しみに。
https://w.atwiki.jp/to-love-ru-eroparo/pages/95.html
「それじゃあ、風邪など引かないよう気をつけてください」 骨川先生の言葉でホームルームが終了する。 「リトー、かえろー!!」 効果音をつけるなら間違いなくピョーンだ、 といった感じでララが飛び跳ねながらやってきた。 その瞬間、自分が声を掛けられた訳ではないのに唯の体がビクッと震える。 そう、この後には一大イベント(?)が控えている。 リトとの勉強会が。 しかし勉強会といっても決まっているのは日時が今日で、場所が図書室ということだけ。 となると、ここでのリトの反応は唯にとってとても気になることなのだ。 5時間目も6時間目も唯は放課後のことで頭がいっぱいで、 先生に指された際も周囲から多数の視線を向けられて初めて気づく有様だった。 だから唯は、リトに背を向けて教科書やノートを机から鞄の中へと移す作業をしながらも、 しっかりと耳に意識を集中させていた。 リトはというと、少し困ったような笑顔を浮かべてララに返答する。 「わり、今日はちょっと残ってくから。先に帰ってくれ」 リトの言葉を聞いて、唯の両手が無意識にキュッと握り締められた。 一方ララはキョトンとした表情だ。 リトが放課後学校に残るなんて滅多にあることではないから、当然といえば当然の反応である。 「えっ、何でー?」 リトは目線を合わせず、頬をポリポリとかきながら言葉を返す。 「ちょっと勉強していこうかと思ってな」 「リトが勉強ー??」 ララはもともと大きな瞳をさらに見開き、心底驚いたという表情をする。 「そこまで驚かんでも・・・」 リトは苦笑する。 (だいたい俺がますます勉強しなくなったのはララが現れてからなんだがな・・・) リトがそんなことを考えているとは知らないララ。 「でも、勉強だったら家に帰ってからでもできるじゃない」 「うっ」 痛いところを突かれた。 そもそもリトが図書室を指定したのは、静かに勉強ができそうだという理由からである。 家に帰ればララがパタパタと動き回って騒ぎに巻き込まれ、 それを美柑にからかわれることになる可能性が非常に高い。 何せ結城家の「トラブル率」は半端ではないのだ。 が、本人を前にしてそんなことは言えないので言葉に詰まってしまう。 「それに、勉強だったらわたしが教えてあげるよ♪」 とララは明るく言って、満開の花のような笑顔を見せる。 そんな二人のやりとりに、嬉しさで握り締められたはずの唯の両手はワナワナと震え始めていた。 (結城君ったら、自分から頼んできたくせに!結局ララさんの方がいいの?) 確かに勉強を教えてくれと頼んだのはリトだが、 元をただせば唯が何でもしてほしいことを言えと言ったからこうなったのだ。 しかし今の唯には順序だててそんなことを考えることはできない。 (どうして好きな人にそんなに自然な笑顔を見せられるの?) (結城君は困ってるはずなのに、どうして少し嬉しそうなの?) 唯の胸の中には焼け付くような感情が渦巻いているから。 初めて感じる、いや、初めてしっかりと自覚する、強烈な嫉妬心―――。 唯の感情は今にも爆発しそうだった。 一刻も早くこの場を去りたい。 鞄に手を伸ばそうとしたとき、リトの言葉が聞こえた。 「実は一緒に勉強しようって友達と約束してるんだよ」 伸ばしかけた手がピタリと止まり、ハッとした表情でリトのほうを振り向いてしまう。 リトは目を泳がせていたが、その意識はララではなく、そして唯でもない別の誰かを探していた。 (西蓮寺さん・・・か) 唯の表情が曇る。 胸を小さい針で断続的に刺されているような感覚。 リトとララの会話は続く。 「友達って?」 興味津々、というよりもやや訝しげにララは聞いてくる。 リトの男友達に勉強熱心な者などいない。 春菜の姿はすでに教室にはなかった。 いつの間にかリトの表情がややホッとしたものになっていることに、唯は気づいていた。 「と、友達は友達だよ。それより早く帰らないと、お気に入りのアニメはじまっちまうぞ?」 苦し紛れな言い訳だったが、ララには効果覿面だった。 「あっ、そうだったーー!!じゃあ今日は先に帰るね」 言うやいなやあっという間に遠ざかっていくララの背中を、 リトは安堵と苦笑の混ざったため息とともに見送った。 (ふう、何とかなったな) いつの間にか教室にいる人はまばらになっている。 っていうか皆、掃除はどうしたよ・・・ ま、いいや、勉強勉強。リトは気合を入れてから、唯へと声を掛ける。 「古手川、行こうぜ」 「・・・・・・」 反応が返ってこない。 「古手川?」 唯は無言のまま教室を出て行ってしまう。 ポツン、と取り残されるリト。 (俺、また何かやらかしたのか?) フリーズするリト。 もはや呆れるのを通り越すほどの鈍さだ。 こと恋愛において、リトに対して遠まわしな表現は無意味といえるだろう。 しばらくすると、教室を出て行った唯がドアのところからこっちを睨んでいる。 (早くしろってことなのか?) リトが慌てて教室を出ると、唯は後ろ手に鞄を持ちスタスタと先を歩いていく。 二人の距離は1メートルほどだ。 「・・・・・・」 「・・・・・・」 全く会話のないまま図書室へと到着してしまう。 しかしリトは内心ホッとしていた。 (このまま帰っちゃうのかと思ったけど、勉強見てもらえるみたいだ) 二人は図書室へと入っていく。 図書室内にはほとんど生徒の姿はなかった。 リトは普段図書室に全くといっていいほど来ないためいつもより多いのか少ないのかよく分からないが、 テスト前の図書室は想像していたよりもずっと閑散としていた。 リトがキョロキョロしている間に、唯は司書さんと一言二言言葉を交わすと、 なにかを受け取って戻ってきた。 その表情はまだ不機嫌なままだ。 リトにはその原因がさっぱり分からない。 「・・・行くわよ」 「行くって、どこに?」 問いには答えず、唯はまた先を歩き出す。 無視されているにもかかわらず、リトは律儀に唯と1メートルの距離を保って後を追う。 二人は図書室の中を真っ直ぐに最奥まで進むと右に曲がる。 その先にはパッと見ではサウナのような、木でできた扉つきの小部屋が合った。 ちょうど目線の高さに「学習室」の文字。 唯が先程司書と話していたのは、この部屋を借りる手続きについてのことだったのだろう。 唯が開錠してドアを開け、二人はリト、唯の順に部屋に入る。 部屋の広さは3畳ほどだろうか。 中央に大きめのテーブルがあり、 4人分の椅子が2脚ずつ向かい合わせで置かれている他には何もない。 「こんなところがあったんだ・・・」 リトはもちろん、この部屋に来るのは初めてだ。 部屋を見回した後、入り口から一番近い椅子に座る。 唯はリトの反対側へと回ると、リトの正面の椅子を引いた後何かを思い出したかのように それを元に戻し、不機嫌さを見せ付けるようにしてその隣の椅子に陣取った。 (わたしは今、怒ってるの!だから簡単に甘い態度なんてとらないんだから!) 二人は対角に位置した状態である。 「あの・・・、古手川・・・?」 「・・・なに?」 唯はリトの方を見ようともしないが、とりあえず反応はしてくれた。 「なんで斜めに座るの?」 「・・・関係ないでしょ。結城君には」 「・・・怒ってる?」 ここで久しぶりに唯はリトに視線を向ける。 若干頬を膨らませている様子が可愛らしいが、そんなことを言ったら本当に帰ってしまいかねない。 「・・・何によ?///」 「いや、俺が聞いてるんだけど・・・」 再び訪れる沈黙の時間。 リトとしては唯がなぜ怒っているのか皆目見当がつかない。 (ララと話して待たせたからか?でも時間なんて約束してなかったしなぁ) 唯は確かに怒ってはいたが、、何に対して怒っているのかよく分からなくなっていた。 原因は、嫉妬。 もしリトがララと勉強すると言い出していたら、 その怒りを胸いっぱいに抱えたまま、唯は教室を飛び出していただろう。 でも、リトは唯と勉強することを選んでくれた。 それも、ララを家に帰して、二人っきりでだ。 唯にはそれが、ものすごく嬉しかった。 それこそ、その直前までの怒りなど全て吹き飛んでしまうほどに。 もしリトが、ララか自分かどちらかを選ばざるをえない状況になったら、 自分を選んでくれるなどとは考えたこともなかった。 自分にはないものをたくさん持っているララ。 明るくて素直で可愛くて、プロポーションもよくって。 何よりリトへの「好き」という気持ちが滲み出ている。 自分はあんなふうに甘えたり、抱きついたりはできない。 口先では嫌がっていても、結城君だって嬉しいんだろうな。 ララさんのこと、好きなんだろうな。 そんな気持ちがあったから。 今まで誰にも、自分自身にさえ知られることのなかった、唯の心の中のフィルタ。 大きな「意地っ張り」を包んだフィルタ。 それに、小さいが確かに穴が開くほどに、リトが自分を選んでくれて嬉しかった。 それなのに、唯はやっぱり素直になれない。 あの時、ララ以上にリトが意識していたのは、きっと春菜。 春菜を見るリトの表情は、他の誰かを見るときとどこか違っているような気がしていた。 自分とも、ララとも。 春菜には、なぜか自分と同じものを感じていた。 リトへの気持ちを自覚した今なら、それがはっきりとわかる。 必死になってリトへの気持ちを抑えているような、 それでいてどこかで諦めきれずにいるような、そんな態度。 ララと春菜の存在が、唯の前の大きく立ちはだかっていた。 そして唯には、もう一つ引っかかっていることがあった。 (友達って言った・・・) リトは自分を友達だと、そう言った。 とっさに出た言葉かもしれない。 そもそも、唯とリトは付き合っているわけではないし、 数ヶ月前までの唯ならリトから友達といわれたら怒って否定していたかもしれない。 この1ヶ月で二人の仲はグッと縮まったが、決して妖しい雰囲気にならないようにセーブしてきたのは唯の方だ。 それなのに今は、友達といわれたことを180度違う意味で怒っている自分がいる。 自覚してしまった、強烈な嫉妬心。 笑顔を見るたびに、言葉を交わすたびに、飛び跳ねる心臓。 一方的に無視され、理不尽な扱いを受けてきた今でさえも、 唯を心配そうに見つめている、どこまでも優しいリト。 (わたしは、結城君が、好き・・・) もはや自分がリトに恋をしていることを認めないわけにはいかなかった。 だから・・・。 (わたしが怒っているのは、身勝手なわたし) 今まで必死になってリトへの想いを否定してきたのに、好きだと認めざるを得なくなったとたん、 自分を好きになってほしいと思う、自分だけを見てほしいと思ってしまう、身勝手なわたし。 結城君は何も悪くないのに、今この瞬間も結城君を困らせ、心配させている、意地っ張りなわたし。 時計すらないので、秒針の音すらしない学習室。 沈黙が耐え難いという思いは、時間の経過とともに少しずつ和らいでいってはいたが、 リトはやや沈痛な面持ちでぼんやりと唯の鞄を眺めていた。 「でも、しょうがないじゃない・・・」 (そんな簡単に、素直になんかなれないわよ・・・) 「えっ!?」 唐突に発せられた唯の言葉にリトはビックリしてしまう。 落としていた視線を唯に向け、リトは唯の言葉を待つ。 二人の静かな吐息だけが部屋を満たしていった。 その沈黙は1分だけだったような気もするし、5分はたっていたような気もする。 唯は何かを決意するかのように数秒瞳を閉じた後、その小さな唇で言葉を紡いだ。 「結城君は、こんなわたしでも・・・、ホントにいいの・・・?///」 瞳を潤ませ、顔は15度ほどうつむき加減で、上目遣いで。 いつもの強気な唯からは想像もできないようなか弱い表情で、 唯はじっと、リトを見つめてきく。 「な、なな、何言ってんだよ/// 古手川頭いいし、面倒見いいし、字もキレイだし、 えっと、その・・・とにかく、絶対教えるのうまいよ、う、うん///」 (か、かわいい///何だかわけわかんないけど、めちゃくちゃかわいい・・・///) リトは照れと戸惑いとで顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。 その様子を見て唯はクスッと笑みを漏らすと、顔を上げた。 いつものように凛とした表情。 だけど少しだけそれは柔らかい。 「結城君、第一問は不正解ね」 「へ?」 リトは何が何だか分からない。 「不正解ってどういうことだよ?」 「質問に適切に答えられてないんだから、不正解に決まってるでしょ♪」 さっきまでの不機嫌さが嘘のように消え、唯はどこか楽しそうだ。 「さ、始めましょ。まずはテスト初日の国語からでいいわよね」 あっけにとられているリトをよそに、唯はテキパキと準備を進める。 まだ完全に吹っ切れたわけではない。 家に帰れば、切ない気持ちに悩まされることになるだろう。 でも。 唯の、二人の「勉強会」は、これから始まるのだ。 (ホントの答え、いつか聞かせてね・・・結城君・・・) 唯はリトに聞こえないように、そっと呟いた。
https://w.atwiki.jp/3edk07nt/pages/158.html
ベッドに入ってから一睡もできなかったというのに、頭は妙にスッキリしていた。 気怠さや、疲れも感じない。肌だって瑞々しくて、パッと見、荒れた様子はなかった。 これが若さなのかな? と蒼星石は洗面所の前で、小首を傾げてみた。 鏡の中の彼女は、不思議そうに、自分を見つめ返している。 そこに、昨夜の雰囲気――柏葉巴の影は、全く見受けられない。 今日、学校に行ったら……話しかけてみよう。 夕暮れの体育館で見た凛々しい姿を思い出しながら、もう一度、昨夜の決心を繰り返す。 おとなしそうな彼女だけど、果たして、呼びかけに応えてくれるだろうか。 人付き合いは、やはり、第一印象が大事。変な人と思われないように、気を付けないと。 蒼星石は、鏡の中の自分に、ニッコリと笑いかけてみた。 大きな期待の中に、ちょっとの不安を内包した、ぎこちない微笑み。 少しばかり表情が硬いな、と思っていると―― 「朝っぱらから、鏡の前で何ニヤついてるです?」 「わぁっ! 驚かさないでよ、もぉ……」 いつから見ていたのだろう。 蒼星石は耳まで朱に染めて、ニタリと笑っている姉の脇をすり抜けた。 第三話 『運命のルーレット廻して』 揃って朝食を済ませ、支度を終えた姉妹は、一緒に玄関を出た。 秋も深まり、日一日と風が冷たくなる時候ながら、今日は普段より暖かい。 小春日和の日射しに包まれていると、なんだか…… 何年もそうしていなかったような、とても懐かしい気がする。 (姉さんも、ボクと同じ気持ちなのかな?) ちらりと盗み見ると、翠星石は口に手を宛い、大きな欠伸をしていた。 しばしばと瞬いて、滲み出した涙を堪えている様子が微笑ましい。 「随分と、眠そうだね」 言ったそばから、姉の欠伸が移ったのか、蒼星石も大きな欠伸を放つ。 それを見て、翠星石は愉しげに目を細めた。 「蒼星石だって、他人のこと言えねぇです」 「……らしいね。シャワー浴びたせいか、あれから目が冴えちゃってさ」 「実は、私も――――ずっと眠れなかったですよ」 そう呟いて、隣を歩く妹に、咎めるような眼差しを向ける翠星石。 「蒼星石が、あんなコトするから……」 「はは……ごめん。そう言えば、姉さんってスキンシップに弱かったっけ」 「知ってるクセに抱きつくなんて……とんだ悪党ですぅ」 赤らめた頬を、可愛らしく膨らます姉の仕種は、しかし、長く続かなかった。 やおら真顔に戻ったかと思うが早いか、蒼星石の背中をバシンと引っ叩く。 照れ隠しのためとは言え、あまりの手加減のなさに、蒼星石は息を詰まらせた。 「い、痛いよ姉さん! 何するのさ」 「それでチャラにしてやるですぅ。さっ、気を取り直して、学校に行くですよ」 「……はいはい。とにかく、授業中に居眠りしないように、気をつけなくっちゃね」 「今日は土曜日ですから、午前中さえ凌げば大丈夫ですぅ」 答えた途端に、またぞろ大欠伸をする姉を見て、蒼星石は、ふっ……と口元を綻ばせた。 そして、こんな二人だけの時間が、もっと欲しいと思って―― 「今日の午後、たまには二人で、パフェとか食べに行かない?」 翠星石を、遊びに誘った。彼女から誘うなんて、真夏に雪が降るくらいに、珍しいことだ。 だからこそ、彼女は翠星石が「はい」と頷いてくれるものと信じていた。 しかし、蒼星石の期待は、呆気なく拒否される。 「とっても嬉しいですけど……今日は都合が悪いですよ」 「そう……なんだ。残念だなぁ」 「ゴメンナサイです、蒼星石。この埋め合わせは、近い内に、きっとするです」 「別に、いいよ。気にしないで」 心底、申し訳なさそうに項垂れる彼女を、蒼星石は笑って宥めた。 けれど、二人の間に漂うギクシャクした空気は、学校に着いても薄れることがなかった。 学校に到着して、カバンを机に置くなり、蒼星石は隣のクラスに向かった。 昨日から頭を離れない彼女――柏葉巴と、一言でも話をするために。 HRが始まるまで、まだ十分ほど余裕がある。 (もう来てる頃だよね) 学級委員を務めるほどだ、遅刻するような問題児ではあるまい。 そう思って、教室の後ろの扉から、そぉっと様子を窺うと…………居た。 なんの偶然か、彼女が丁度、教室から出てくるところに鉢合わせたのだ。 巴は、蒼星石の姿を認めると、控えめに微笑んだ。 「おはよう。誰かに用事? 呼んできてあげようか」 「あ……おはよう、柏葉さん。ボクは……キミに会いに来たんだ」 「わたしに?」 「ちょっと、話がしてみたくてさ。今、少しだけ時間つくれる?」 問いかける言葉に、不思議そうな表情を浮かべる巴。その反応は、蒼星石の想定内だった。 体育の授業は隣のクラスと合同で行うから、二人は一応、顔見知り。 だけれども、今日に至るまで、交流を図る機会には恵まれていなかった。 「……ダメかな?」 蒼星石が不安げに訊ねると、巴はシンプルな造りのアナログ腕時計にチラと目を遣り、 「いいわよ」と、にこやかに応じた。 巴にしてみれば、なぜ今になって蒼星石が近付いてきたのか、その理由に興味があったのだろう。 クラスメートの視線を気にしてか、廊下に出た彼女は、後ろ手で教室の扉を閉ざした。 室内の喧噪は遮られ、話をする環境が整えられる。 巴は、背格好の似通った娘の双眸を、その鳶色の瞳で、ひた……と見据えた。 「それで、お話ってなぁに? 蒼星石さん」 「ボクの名前……知ってたの?」 「ええ。自覚してないみたいだけど、貴女は割と有名だもの」 「正しくは、ボクの姉さんが有名……でしょ」 姉と自分は、二人でひとつ。生まれながらにして、二人はいつも一緒だった。 別個の存在でありながら、一心同体。 蒼星石の半分は翠星石であり、姉の半分は妹で占められている。 そう。本来ならば、彼女たちは対等の関係である筈だった。 しかし、等しく浴びる筈だった陽光は、いつだって姉にのみ注がれてきた。 蒼星石の存在は、煌びやかに光り輝く姉の足元に落ちた影と同じ。 言わば、彼女の『おまけ』でしかない。名前を間違えられることも、しばしばだった。 (でも、ボクは――それがイヤじゃない) 寧ろ、姉の名で呼ばれると嬉しくなったし、彼女とひとつになることは密かな望みだった。 触れ合い、癒着し、どろどろに溶けて、混ざり合ってしまいたい。 そして、コールタールの様な混沌から、たった一人―― 至高の美しさを持った少女として生まれ変われたのならば、どんなに素晴らしいだろう。 ――が、所詮は、実現不可能な世迷い言。正気と妄想の狭間に産まれた悪夢。 我ながら、馬鹿げた願望だ……と、蒼星石は自嘲した。 「ごめんなさい。何か、気に障ること言ったみたい」 間近で紡がれた声で、蒼星石は我に返った。 声の主は、困惑の表情を浮かべて、自分を見つめている。 「ご、ごめん。ちょっとボーっとしちゃってた。怒ってたワケじゃないよ」 「……よかった。急に黙っちゃうから、心配したわ」 その言葉どおり、巴は安心したように小さく笑って、付け加えた。 「でも、貴女が有名っていうのは本当のことよ。魅力的な人だなって、わたしも思うもの」 「ボクが? ははっ……まさかぁ。ボクなんかよりも、キミの方がずっと素敵だよ」 「え?」 「昨日の放課後、体育館で剣道の練習してるキミを見たんだ。 すごくカッコよくて…………思わず見惚れるくらいに綺麗だった」 「汗まみれな姿を見られてたなんて、恥ずかしいわ。それに、お世辞でも誉めすぎよ」 両手で頬を包み、はにかむ巴の仕種は、蒼星石の眼に、とても初々しく映った。 やがて、HRの始まりを告げる予鈴が鳴り、廊下にまで溢れていた喧噪が静まる。 もう、それぞれの教室に戻らねばならない。だけど、もう少し話していたい気分だった。 だから彼女たちは、ごく自然に、同じ言葉を口にしていた。 「また、後でね」 第三話 おわり 三行で【次回予定】 相まみえて、たちまち意気投合する乙女たち。 縁と浮世は末を待て。彼女たちは時を積み、言を重ね、情を育む。 その間も、運命のルーレットは休みなく廻る、回る―― 次回 第四話 『今日はゆっくり話そう』