約 301,119 件
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/1870.html
36 :ウェハース第三話 ◆Nwuh.X9sWk :2010/09/12(日) 17 00 58 ID 4iKpRBc0 「寝ちゃったね、穂波ちゃん」 「いつもよりはしゃいでたから、藤松さんのおかげ。今日は本当にありがとう」 皿洗いを終え、台所から出ると穂波はソファーで寝息を立てていた。 「かわいい。本当に天使みたい」 「穂波って名前、いい名前だと思う?」 うん、と穂波の頬を優しく撫でながら藤松さんは頷く。 「父さん意外と凝り性でさ、穂波の名前を決めるのに一ヶ月掛けたんだ」 「すごーい!何か意味でもあるの?」 「穂っていうのは昔の人にとって幸せとか、大地から受けた恵みを意味していたんだって。そんな幸せとか、恵みが波のように押し寄せてくるように付けられたのが”穂波”だって」 「幸せが波のように……か」 「聞いたときは安直だなぁって思ってたんだけど、穂波が生まれてからずっと幸せだった気がするよ」 等間隔で上下する穂波の胸に、少し昔を思い出した。 思えば、穂波を笑わせるために顔芸を練習したんだっけ。 「穂波、上に運んでくる。藤松さんはゆっくりしてて」 「うん、わかった。」 もう、お姫様抱っこにも慣れたな。最初は落っことして母さんにドツきまわされたなぁ、そういえば。 抱えた掌だけで穂波と母さんの部屋を開けて、布団を敷き、穂波を横にさせた。 歯磨きはさせてないけど、今日のところはご愛嬌だろ。 一階に降りると、藤松さんがウフッといった感じの笑顔で僕を迎えてくれた。 「そろそろ帰ってアリバイ作っとかないと、非行に走ったと思われるから帰るね」 「送るよ」 「いいよ、穂波ちゃん一人になっちゃうし、それに……」 「実は家が近所じゃない?」 図星って感じの顔になる藤松さん。そりゃ分かるだろ普通。 「クラスの女子から聞いたよ、本当は最寄の駅△△△駅なんでしょ?」 申し訳無さそうに、藤松さんは表情を曇らせる。 「うん。嘘付いてごめん……」 「謝んないでよ、近いのはあってるし。母さんももうすぐ帰るってメールも来たし、逆に早く送らないとちょっと面倒なんだよね、実際」 「あ、邪魔者発言ですか?それは」 怒った風に、眉間に皺を作る藤松さん。 「ほら、行こう?駅までだけでも送らせてよ」 また藤松さんがウフッて笑った。 「じゃあ、お言葉に甘えて。ありがとう、真治君。あ、それとね……出る前に聞いときたいんだけど」 「うん?」 「明日も朝来てもいいかな?」 「勿論、穂波も喜ぶ」 「…そう、じゃなくて、さ」 静かにだが、深淵の暗闇から突然浮かび上がる泡のように藤松さんの小さな声が響いた。 じっとこちらを見つめる瞳。揺れる事もなく静かに僕だけを捉えるそれは少し不気味だ。 「真治君のために……、来てもいいかな?」 37 :ウェハース第三話 ◆Nwuh.X9sWk :2010/09/12(日) 17 02 19 ID 4iKpRBc0 家を出ると昼間よりも気温は下がったけど、湿度は上げましたよって言った感じの空気で満ちていた。 ジワリと暑い。 「お邪魔しましたー」 穂波を起こさないように藤松さんは申し訳程度の声で言った。藤松さんが玄関を出てから鍵を閉めて、家を後にした。 帰り道は朝の登校の時と変わらずいつも通り、僕が藤松さんを笑わせるためにずっと喋りっぱなしだった。 映画、ドラマ、アニメのパロディや創作ネタのオンパレードである。まぁ創作ネタなんて八割ぐらいが即席モノなんだけど。 藤松さんはお腹を抱えて笑ってくれた。特に好評だったのが『武士の情け』という映画で木村裕也が目が見えなくなってから家の中で歩くたび柱に当たるという目の不自由の恐怖を訴える所のシーンのマネ。 僕の自信作だ。これを映画を見に行った後の平沢の前でやったらすごくウケて一週間くらい会うたびにアンコールされてた。 「だ、駄目、ふ、ふっきんがぁ」 しかしこれには大きな弱点がある。映画を見た人になら誰にでもウケるが、みんなが爆笑するので普段はクール系や、おしとやか系の人の仮面を剥がしてしまう。 藤松さんも学校では物静かで、清楚で、少し影があるって感じの女子なのにさっきまで笑い転げていた。 その仮面が剥がれるところを、まざまざと見せつけられる。面白いが故の悩みでもある。 まぁ、藤松さんは笑顔も可愛いから結果オーライなんだが、やっぱり心境としては少し複雑だ。 ちなみにこの映画で主演の木村裕也、通称『キムヤ』が失明したきっかけはトリカブトの根を食べたからなんだが、この根の名称は『附子(ぶす)』といい、 僕らが日常でお顔が残念な人に罵倒や哀悼の意を表すために使う「ブス」の語源であったりする。 なんでも、食べた人は猛毒に苦しみ、七転八倒、阿鼻叫喚の末、恐ろしいほど顔が歪み、その顔が目を背けたくなるほど酷い有様になるんで顔の表現に使われるようになったとか。 閑話休題。そうこうしている内に駅のロータリーに出た。 駅に入り、改札の前まで来ると何だか少し名残惜しくなった。 「……じゃあ、また明……」 言葉が遮られた。背中に藤松さんが急に抱きついてきた。 藤松さんのブラの少し硬い部分が抱きつく事で押され、潰されていく。形を変えていくのが服越しにだが分かる。 「ごめん……もう少しだけ、一緒にいて。お願い」 そう言って手を強引につかみ、指を絡ませてくる。 心臓が鷲掴みにされたように、全身の血流が止まった。いや心臓をいきなり止められても血流は三回は全身を回って心臓に戻ってくるが、そんな野暮な事はどうでもいい。表現の問題なんだ、こういうのは。 「……ごめんね、ワケ分かんないよね。でも、私もそうなんだ、ワケが分からないの。なんだか離れたくなくって……ごめん…。ごめんね」 彼女、藤松小町は震えていた。 「わかった、とりあえず駅一回出ようか」 「……うん、ごめん」 彼女はそう言ってから僕の手を握り直した。 僕は彼女を手を引いて駅を出た。 38 :ウェハース第三話 ◆Nwuh.X9sWk :2010/09/12(日) 17 03 03 ID 4iKpRBc0 駅を出て、個々に落ち着いてから三十分くらい彼女の手を握りながら夜空を見上げていた。 駅の近くにあるブランコと鉄棒、それからベンチしかない公園の前にはさっきみたいな人通りはない。たまに犬の散歩でもしているおばちゃが通り過ぎるくらいだ。 「俺さ……、藤松さんの告白ウソだと思ってたんだ」 藤松さんはただ僕の手を握り返すだけで反応をみせる。 「女子とかは『えー、だって神谷くん面白いからモテそう』って言うんだけどさ、実際そんな事無くって、人に好きになってもらえた事なんてなかったから藤松さんの告白も面白がった女子グループのドッキリかなって思ってた」 藤松さんはまた手を握り返してきた。ちょっと手が汗ばんできた気がしたけど、全然不快じゃなかった。 「だから、ごめん。簡単に付き合うって返事言ったりして」 「……、じゃあなんで」 「ん?」 「なんで付き合ってくれたの?」 「ドッキリってさ、失敗するとドッキリ仕掛けた人が一番辛いんだよね」 僕は藤松さんに笑って見せた。なんだかそうしないと自分が潰れてしまいそうで、多分こういうのが僕の仮面なんだと思う。 「だから、そういうの分かってる僕がノってあげたら誰も傷つかないし、面白い。そう思ったんだ」 そう言うと藤松さんは恥かしそうにして、顔を伏せた。 ちょっとクサかったかな? 「……ズルいよ、いい事さらっと言っちゃうんだもん」 少し、藤松さんの握る力が強くなった。 やはり相当クサかったみたいだ。我ながら聞いた人の方が恥かしがる事を言うなんてどうかしている。 「あ、あのさ、」 藤松さんは恥かしそうにして、握っていた手を見る。 「い、今は……」 「……」 「なんで付き合ってくれてるの?」 そうなんだ。もうドッキリじゃないって分かったら、僕としては付き合う必要は無いんだ。 「それを答える前にさ、僕も一つ聞きたいんだけど……」 少し間をおいて、息を吸う。じゃないと押しつぶされてしまいそうだから。 「なんで、僕が好きになったの?」 藤松さんはきょとんとした表情のまま首を傾げた。 「俺、藤松さんとなんも接点無かったでしょ?何回か喋った事があって、ただそれだけ。遊んだ事も無かったし、アドレスも知らない同士だったのに」 「えっ……?そんなにおかしい事かな?」 「いや、うん。多分おかしいと思う。だってそれって……」 「一目惚れみたい?」 薄っすら笑顔を浮かべて藤松さんは僕の言葉を紡ぐ。 「……うん」 「私、告白とか付き合うとかそういうの初めてだけど……、一目惚れっていう理由は充分だと思うけど」 藤松さんと繋いでいない左手を握りしめる。 駄目だ。 そんな簡単な理由じゃ、僕は駄目なんだ 39 :ウェハース第三話 ◆Nwuh.X9sWk :2010/09/12(日) 17 04 18 ID 4iKpRBc0 「あるよ、ちゃんとした理由」 少し暗くなった僕を見かねたのか、藤松さんはいつものウフッて笑いながら続けた。 「初めはね、少し一目惚れも入ってたけど、それはただのキッカケ。興味を持つための」 「きっかけ?」 「うん。でね決定打があったの。それも決定打なんて言ったけどそれが三回も」 藤松さんは握っていない方、左手の親指で小指を押さえ人差し指、中指、薬指を上げて見せた。 「告白する前に一回、知り合ってから一回、さっきの入れて三回。あっ、でもこれだと付き合う前のヤツが決定打だね」 穏やかな彼女の笑顔が夜の闇にとても栄えて見えた。 「初めてなの、他の人の事にこんなに心が占められるの。それから私のこと見て欲しいって思った。いつもは放っておいて欲しかったのに、皆の輪の中にいる真治君がとっても遠くて、自分が惨めに見えた」 目を伏せる藤松さん、僕もなんだか居場所に困ってただ向こうに見えるブランコを見つめるだけだった。 「なんとかしなきゃって、必死に考えてやっと行動したのがラブレター。それも自信がなかったから。真治君を私って言う人間一人だけの魅力で二人っきりになれる自信が無かったから宛名も書かなかった」 ズルいよね?そう言って自嘲気味の笑みを見せる。 「私それまであなたに近づくために必死だった。周りの人と話してみたり、メールの打ち方勉強したり……。でもやっぱり駄目だった。そんな事をしても無駄って分かっただけ」 「知らなかった」 「だって、あなたの事は一度も他の人に聞かなかったから。なんだか、名前を呼ぶのも書くのも意識しちゃって……馬鹿みたいだね」 ココまで聞くと小学生男子みたいな奴だな、と素直に思った。 「恥かしいけど、勉強とかしてる時にね……その…笑わないでね?」 「いや、聞いてみないことには…なんとも」 「じ、じゃあ言わない!」 恥かしがったり、怒ったり、ころころ表情を変える藤松さんが何だか僕には新鮮だった。いや、呆気に取られていたといってもいい。 「分かった、努力する。気になるから早く」 「うー。えっとね…、その……苗字とか変えた名前書いたり、してたの」 「は?」 「だ、だから…苗字の藤松のトコ変えて……、神谷小町とか、書いてみたりしてたの……」 恥かしがる藤松さんを置いて、僕は笑いを噛み殺した。それも唇を噛んで必死に笑いを堪えた。 だって、そんな痛い事するの思春期の男子ぐらいだと思ってたから、なんだか妙にツボに入って、笑えてくる。 駄目だ、堪えきれない。 僕は藤松さんとは違うほうを向いてから爆笑した。 一分間爆笑した後、待っていたのは藤松さんの涙を溜めた視線だった。 「……うそつき」 初めて見た拗ねた藤松さんの表情も、とても可愛かった。 40 :ウェハース第三話 ◆Nwuh.X9sWk :2010/09/12(日) 17 05 08 ID 4iKpRBc0 それから藤松さんを宥め、二人で少し談笑した。小学校の時の夢とか、中学校での思い出。とにかく色々だ。 最後に僕の中学の話をした。 僕の中学で靴下に関する決まりで、靴下は踝以下は駄目で色も白に統一されていた時があった。 僕たちは勿論労働組合(生徒会)に立候補し、教師達と戦った。 もう生徒の声なんか頭ごなしに聞くようになっていた教師達の対応に怒り心頭だった僕らは生徒集会の最後の直談判の翌日。 僕らのクラスの同じ志を持つ全員が黒のニーハイソックスを穿いて登校する計画を立てた。 勿論下半身はブルマだ。これには少し男子生徒としての正義も入っている。 しかし、穿いて来たのは僕と平沢を含む男子数名だけで、逆に緊急集会で吊し上げにされただけであった。 これが学級新聞に取り上げられ、それを見たPTAの人が直談判し、学校側は事件をもみ消す代わりに、靴下の制限を無くしたのだ。 しかし、その体罰をネタにして文化祭のクラスの出し物の候補にニーハイソックス喫茶を提案すると担任がブチ切れた。 主謀者である僕と平沢を殴り、これまた不幸な事に殴られるダメージを減らすために殴られる瞬間に 拳が飛んでくるのと同じベクトルに飛んだ平沢にパンチがクリーンヒットし、平沢は慣性の法則にしたがって壁に突き刺さった。 そして、学校側はこれをもみ消すためにニーハイソックス喫茶も許可した。 ここで、藤松さんは爆笑した。目に涙を浮かべ、腹筋を痙攣させている。 少しオチは弱いが、それはいくらでも肉付けすればどうにでもなる。 藤松さんの爆笑の波が過ぎて、やっと落ち着き始めた頃、僕の携帯が鳴った。母さんからだ。時計を見るともう十時前。 来たメールはたった『帰りにアイス買ってきて』という内容だけで、帰りが遅くて心配させたかな?と思ったがなんだか損した気分だ。 時間を告げると、藤松さんは少しビックリしてから、困ったように笑った。 「送るよ」 「うん。ありがとう」 今日四回目の駅前のロータリーを抜けて、改札まで行く。 それから僕は藤松さんに聞いた。 「決定打はなんだったの?」 「駄目、教えない」 財布から定期を取りながら藤松さんは悪戯っぽく笑う。 「だって、一つって言ったでしょ?」 『でしょ?』の語尾の上がりだけで胸がキュンとした。なんだかもう笑うしかない。 「それじゃ、」 「うん。また明日」 僕は藤松さんが改札を抜けて、手を振るのを見た後、踵を返して駅を出た。 駅を出る前にもう一度振り返ると、まだ藤松さんがいた。じっと僕を見つめている。 なんだか反応に困って、とりあえず手を振ると、藤松さんはどう形容していいか分からない笑顔を浮かべてから、手を小さく振って返事をしてくれた。
https://w.atwiki.jp/talesrowa/pages/366.html
Normal End -君に届け- これまで、幾千、幾万と傷付いてきて、 俺のしてきたことは、一体何だったのだろう。 [The edge of an oath] 2日前に味わった感覚を、もう1度味わうとは思わなかった。 いや、味わうことを願ったのは紛れもない真実だが、この感覚はたった2日前というには 余りに忘却の彼方に追い遣られた感覚であり、濃厚な60時間によって身体はこれを微塵も覚えていなかったのである。 そして、厳密には、過去と現在に並べられた2つの感覚は別物だった。 初めは、少しの不安と決意が交わり合った感触だった。少なくとも、吐き気を催すほどの気色の悪さはなかった。 今は、余りある絶望と諦めが交わり合った感触。 自分1人だけが生き残り、主催者の下に導かれようとしている、その事実が既に虫唾の走るものだった。 自分でも願っていたのに嫌な心持しかしないというのは、ある意味新鮮だった。 周囲に渦巻く螺旋の光が消えていく。 眠りから覚めるようにフィードインしていく景色。 ぼんやりとした視界が完全に明瞭となって、自分の立っている場所があのホールだということに気が付いた。 縦横の比率が統一された正方形のタイルに吹き抜けの天井、仄暗い明度。 それらが、始まりの場所に戻ってきたのだと、懐かしくも黴のような不快な臭いで告げる。 空気は生暖かく、まるでホールが何かの生物の腹の中のようで、全体を呑む重く一体とした雰囲気が肌に張り付く。 唯一違うとすれば、最初にマグニスに殺された筈の男性の死体がないこと“だけ”だったが、 ミクトランが律儀に処理したのだと彼は判じた。 呼吸をすればするほど、肺に石が積もっていくかのような重み。 彼も、剣も、何も言わない。 一者一刃、一対の整った緊張感が全身を満たしていた。この2人のものだけでホール全体が埋まってしまうかというほどだった。 遂にここまでやって来たのだと、これから対峙する相手は一筋縄ではいかないのだと。 そして――――何よりも、目前にいるのだと。 王は寸分違わぬ場所にいた。ロウソクの炎がちらつくバルコニーの上である。 「来たか。まずは、おめでとうとでも言おうか」 炎から生まれる仄かな光がミクトランの金髪と頬を撫で、口元に浮かぶ鈍角の緩やかな笑みを照らし出す。 一斉にホールの燭台に炎が灯る。 『ミクトラン……!!』 ヴェイグの右手に収められた大剣、ディムロスは因縁の敵に怒気を吐いた。 するりと受け流すかのようにミクトランは小さく笑う。 もう僅かに口角を上げれば少しは爽やかな好青年の要素を見出せただろうに、酷薄な微笑と細められた鋭い目――笑ってはいない――が、 それらを見事に掻き消していた。 「やはり天地戦争最強の携行兵器と謳われるだけあるか。3本の内、1本が最後の1人の手にあるとはな」 『その賛辞、喜んで受け取らせてもらう』 言葉に引き摺られるように、無言でヴェイグはサックを地に置き、剣を構える。 『お陰で、貴様を滅することも適う』 意気を吐きながらも、それでも今にも溢れ出しそうな感情を抑えるかのような、低く抑圧された声だった。 しかし、それすらも些細であると、ミクトランは高らかに笑う。 高みから野良犬の唸りをただ眺め、見下す姿は王に相応しい。どれだけ威嚇しようと決して届きはしない。 「何を熱り立っている? 私は優勝者に、私と戦う権利を与えたのではない。彼の者の願いを叶えると言ったのだ」 構えを解かず、ヴェイグは沈黙を保ったまま上空のミクトランを見つめる。 「黙することはない、ヴェイグ・リュングベル。貴様には正当な権利がある。 2日と半日をかけて行われたこのゲームを貴様は勝ち残ったのだ。 0.02にも満たない勝率を1にまで引き上げたのだ。これは名誉あることだぞ? 何も悲観することはない。死ぬ者は死に、生きる者は生きる。これは必然のルールだ。 『殺し合いをさせられた』のではない。『殺し合いをした』のだ。 全ては己の意思と本能が命じた結果、その血塗れの手が何よりの証拠ではないか。 さあ、貴様はその汚れた手と引き換えに何を願う?」 いつしか、ヴェイグの身体に震えが走っていた。隠すにも震えを抑える腕は1本しかなく、その腕で握る左腕は既に原形を留めていない。 震えが絶望により引き起こされたか、たった1人で55の命を握った傲慢な王への憤怒かは分からなかった。 だが、1つだけ分かるのは、これが憎悪の類だということ。 憎しみが青い炎で形容される理由が分かる。全身に寒気が駆け抜けていく。 振り切るようにヴェイグは結いの解けた頭を大きく揺らし、力強く剣鋩を向ける。 「……正しさも、間違いも、何もいらない。俺は全てを終わらせるッ!」 ミクトランの笑みが一気に消え失せた。中途半端に見開いた、それだけで身体を射抜いてしまうような目がヴェイグを捉える。 「王の施しを無碍にするというか」 ふわり、と白い外套が空気の流れとは独立してはためく。 宙に浮いたミクトランは次の瞬間にはホールに上に降り立っていた。 びっしりと敷き詰められたタイルのそれぞれに、幾つもの光によって複数現れた影が侵略する。 影はロウソクの後光によって淡くも長く伸び、巨大な王の影を生み、王の表情を隠した。 たじろぐことなく佇むヴェイグは、目の前の影が僅かに動いたのを見た。 胴体の横にある細長い影の先端が、頂点と胴の付け根辺りに同化する。 とんとん、という高い音が炎の弾ける音の中で微かに聞こえた。 「貴様の首にある“それ”を忘れたか? 首に嵌められている内は貴様の命は私が握っているのだぞ? 命を粗末にすることはないと思うがな。素直に言ってみるといい」 ヴェイグは影の中に下弦の月が浮かぶのを見た。ひどく冷たく、冴え冴えとした、月。 外だけ見れば綺麗とも言えたかもしてないが、秘められた陰鬱なものを感じ取ってしまえば不快極まりないとしか言えなかった。 その月は、紛れもない嘲笑でしかないのだから。 噛み締められた歯がぎりりと鳴る。 「それは……貴様が言う科白じゃないッ!!」 蒼い、フォルスのオーラが全身を包み、そして熱と冷気が均一に織り合わされていく。 紛れもない臨戦態勢、今から牙を剥くという合図。 1つの意思、目的の下同調したヴェイグとディムロスの瞳が憎悪に染まる。 それを前にしても未だ涼やかな表情を見せる王は、やれやれと肩を竦めてみせた。 強張りのない、多彩な顔を見せる姿に緊迫感など何1つなかった。せいぜいが目障りな羽虫を退治する気だるさだ。 「どうであろうと、私に楯突こうとするか――」 マスターと人数は違えどそれは天地戦争の決戦の再現を思わせた。隻眼隻腕の剣士が炎の大剣を手に駆ける。 そのハンディを前にしてだろうか、ミクトランは走りも退きもしない。 王として有利点を与えるどころか不利点は相手にあるのだ、ミクトランが退かないのは当然と言える。 「残念だよ。こちらはその気であったというのに――」 鈍色の刀身が僅かばかりの光に輝き、反射光は流れるように位置を変えていく。 刀身から切先へ、横に薙がれた剣は王の胴体を輪切りにしようと目論む。 しかしミクトランは小さく後方へバックステップを取り剣の間合いから逃れる。空振るヴェイグを尻目にほくそ笑んだ。 「自ら手を下せぬのが惜しいがな。構わん、やれ」 ぱちん、と親指と中指を擦らせ指が鳴った。 ヴェイグは横に振られた剣を、まるで指揮棒を振るうかのように軌道を元に戻し、更に上手へ振り上げる反動をそのまま前進行動へと反転する。 身体を捻らせ、詰めた間合いを更に詰める。 片方しかない目が合い視線が交錯した。相手の色は不敵、しかし直ぐに視点は外れそのまま後方へとすり抜ける。 ぴ、と首元の不穏な音が耳内で駆け巡る。残念ながら30秒後などという生易しい設定ではない。 「崩龍――――」 ミクトランは振り向かぬまま、極上のワインを飲み干し酔いの回ったような上品な笑みを浮かべ、目を閉じた。 ぼぅん、という爆発音が背後で聞こえた。 金属の破片、砕けた首輪が落ちる音がした。“それだけだった”。 熱、いや冷気。ミクトランに一閃の痛みが走る。走り、感じる頃には――銀髪の剣士ヴェイグ・リュングベルは一瞬で王の目の前に現れ、 「――――無影剣ッ!!」 ひとひらの雪が花弁のように舞い、瞬時に無数の氷の断片となってミクトランの身体を傷付ける。 しかし、最も強大な一閃、ヴェイグとディムロスそのものは、王の両手に握られ交差したソーディアンに阻まれた。 ディムロスは驚愕の声を上げるも王は意に介さない。 顔には笑み。但し、余裕ではなく引きつった。 「貴様……何故生きている?」 3本の剣が交錯する中、ミクトランは問う。剣を介して交わり合う視線は互いに鋭い。 「俺のフォルスは……炎すら凍らせられる。そして、シャーリィの術を耐え切った。 タイミングを見計らい、瞬間的に最大出力で頭部外側を凍結させる。爆破の熱と衝撃さえ耐え切ればこちらのものだ」 ヴェイグの表皮には、首輪の爆破で砕けたのだろう氷片により、無数の切り傷が刻み込まれていた。 何より、首輪があっただろう位置を中心に火傷が広がっていた。 それでも首は繋がっている。頭ごと飛ばされるよりは数倍ましだ。 視線の交錯の中でぎりと歯が鳴った。 「姑息な真似を。下賎な地上人めが」 「命は粗末にするものではないんだろう?」 刃の滑る耳障りな音が空間を満たす。上下に揺らめき緊張の波を破りそうで破らぬ緊迫の応酬。 互いに反発し合う交差の剣はどちらかが隙を見せればすぐにでも終わりそうだった。弾かれた瞬間が勝負。 しかし、ミクトランがにやと笑う。 「氷が得意属性となれば炎のソーディアンの真価も使えまい。“ソーディアンは白兵性能だけが取り柄ではないのだよ”」 3本の内の1本、二刀流で用いるには大きすぎる幅広の剣が光を発する。 名はクレメンテ。ソーディアンの中でも随一の“晶術性能”を誇るものである。 『――ヴェイグ、下がれ!!』 「遅い!」 クレメンテのコアクリスタルが煌き、風刃の矢ウインドアローがほぼ零距離に近いヴェイグの心臓を襲う。 ディムロスの声で反射的に大きく下がり、直撃は避けるも、矢は狙いを研ぎ澄まし彼の右腕を掠る。 衣服が裂け肉が裂け口が裂け悲鳴を発する。 右腕の先にあるディムロスだけは取り落とさなかったが、血が流れる右腕はだらりと垂れる。 使い物にならなくなった黒焦げの左腕も含めて、今の彼の姿は無防備に立っているようにしか思えなかった。 少し荒くなった息が、確かに刻まれる時を告げる。 尤も、呼吸を1回、2回と繰り返したところで進む秒数は、状況の好転を示さない残酷なものであったが。 『……何故、残りの2本を持っている? マスターはどうしたッ!?』 ディムロスの赤い感情が流れ込んでくる。 ヴェイグは知らぬことだが、ディムロスは1度、本当に僅かな間であったが、2日目の朝にソーディアン2本と邂逅していた。 ちょうど、この下らないゲームに参加させられたソーディアンマスターと符合した。 よって残りの2本、フィリア・フィリスのクレメンテとウッドロウ・ケルヴィンのイクティノスは埒外の存在であったのだ。 この死合いには関与していない、ありすらしない、と。 しかし、今こうして2本は炎の大剣の目の前にある。その事実がディムロスには受け入れがたい。 ミクトランは悲痛を餌に嗜虐的な笑みを浮かべた。片手直剣を右に、魔法大剣を左に構えている。 「覚えていないのか?」 簡潔な問い掛けにディムロスもヴェイグも困惑げな表情を浮かべる。 「クク、覚えておらぬだろうな。なあに、些細なことだ。忘れてしまうとはその程度のことなのだよ」 左手のクレメンテが宙に浮き、くるくると回転を始める。 嵌められたコアが輝き、術だと判断したヴェイグはすぐさま突撃する。目の前の詠唱など絶対の好機だ。 「それに、知る必要もなく死ぬ――ホーリーランス!!」 透き通った浅緑の光が何本もの長槍と化し、ヴェイグ目掛けて降り注ぐ。 「絶・瞬影迅!!」 だが、ホーリーランスは追尾系の術ではない。具現した姿こそ違えどミトスとの戦闘で同じ術を喰らい、 「瞬間的に速度を上げる」という対策を知ったヴェイグには通じない手だった。 散らばった氷の破片に碧光が映え、身代わりにでもなったかのように砕かれる。 光の槍を突破した彼は突貫衝力をそのままにミクトランに迫る。狙うは術の発動後による硬直。 しかし、ミクトランとて剣術の達人と云われる人物。右からの袈裟懸けをイクティノスで早々に受け止め、離し、間髪なく次への一撃へと持ち込む。 甲高い金属音と共に火花が散る。 本来とは異なり片手のみで大剣を振るうヴェイグもまた、剣を受け流し状況の悪化を逃れた。 ――イクティノスの本分は刀身の長さによるリーチとそれを生かした突きの威力である。 敵の特色を弁えた賢明な王は迷うことなく次の一手を突出と定める。 風を切る一撃がヴェイグの顔面を狙う。彼は咄嗟に顔を右に逸らし、開けた長髪が風圧で泳いだ。 突きの後は総じて手薄になる。しかしヴェイグは攻撃には出ない。 ミクトランの腕が胸元へ、突きを繰り出したイクティノスが首元へと薙がれている。 右手のディムロスで相手の剣の腹を押さえ込む。それで何とか斬首刑は免れた。 身体を引き体勢を整える。整えて、左肩が何かに触れたのを感じる。 壁だ。 はっとしてミクトランを見遣る。にたりとした不敵な笑みが浮かんでいた。 「少々軽んじていた。流石に勝ち残ってきただけはあるか」 片手ずつ競り合っていた剣達にクレメンテが加わる。片手と両手、1対2では差は自明だった。 「それでも、隻眼、腕は1本、満身創痍……そして元々の実力差、遠く及ぶまい」 剣が次第にヴェイグに迫っていく。自然と壁に沿って身体が床に沈んでいく。 食い縛られた歯の間から息が漏れる。声にならない声の成れの果てだった。 大剣のみで支えるのにもう1つ手を添えられれば、と叶わぬ願いが恨めしい。 「貴様の声はよく聞かせてもらったよ。全てを終わらせる、か」 弾かれたようにヴェイグは目前のミクトランを見る。 「狂っているから、間違っているから壊す」 録音された音声を再生するかのような、迷いない澄み切った声。 「本当か?」 ヴェイグの頬に汗が一筋流れる。 「世界が狂っているのではなく、貴様が狂っているのではないか? 世界が間違っているのではなく、貴様が間違っているのではないか?」 刃が更に押されていく。力と力の迫り合いでかたかたと剣が震える。 心の優勢と劣勢を示すバロメーターとしてこれ以上的確なものはない。 何も言わぬヴェイグに、ミクトランは不快な笑みを尚も続ける。 「貴様だけが誤った像を結んでいるのだ。世界は今も“正常”だよ」 見つめ合っていた視線が逸れる。ミクトランの目は左に動いていた。 「全てを終わらせるのならば、今終わっても大した違いはあるまい?」 目線はヴェイグの左腕へ。そして、王は虫を踏み潰しでもするかのように左肩の付け根に思い切り足を踏み落とす。 痛々しい絶叫が伝播した。 元々向こう側の見えていた左肩は辛うじて胴と繋がることで左腕と名乗ることを許されていたのだ。 王のスタンピングにより僅かな肉と神経は接続を断ち、みりみりという音を立てて床へ落ちた。 激痛による生理的な涙がヴェイグの瞳に浮かぶのを見て、ミクトランはとても浮き立ったような顔をした。 この上ない悦楽に耽るような、そんな反吐の出る顔だ。 均衡は更に傾き、剣はそろそろヴェイグの首元にまで迫ろうかという頃合だった。 それでもミクトランは次はどれにしようかといった品定めをする面を変えない。 顕わになったままの左目、氷で保護された脇腹、胸元の火傷、どこも手を出すには実に旨味のある箇所であった。 品評の目を頭部に移して、ミクトランは顔をしかめた。 ――笑みだ。長めの銀の前髪に伏せがちな顔が覆われる中に、笑みが浮かんでいる。 「俺が間違っている、か」 震えのない声がホールに響いた。どこか安らかささえ感じる音色に王は顔を歪める。 「思えば、俺はずっと矛盾ばかりだった。 姿の違うクレアをクレアだと思いながら認めることが出来ず…… クレアが悲しむと分かっていながら、クレアの下に帰るために凶行に走り…… 誰かを助けようとしても、誰かが傷付き…… 償いのために守ろうとしても、マーダーにすら手を掛けられず…… 間違った世界を壊すという大義名分も、只の逃避でしかなく…… そして、最後は世界が狂っているのではなく、俺が狂っていた」 淀みのない声が続く。 動かぬ剣に、ぴんと張った静寂は彼の声を聞くかのように一切の音を失くし傍聴していた。 「始めから、俺が間違っていた――――」 笑みの浮かんだ顔が持ち上がる。笑みは、未だ消えず。 「――――ならば、今更矛盾の何を恐れる必要があるッ!!」 そこには、一種の悟りが生んだ強い瞳があった。 「俺の行動も、何もかもが真と偽の垣根を失くす。なら俺は、俺のすべきことを為すのみッ!! 俺の望みは、全てを、俺を終わらせることだけだッ!!」 瞬間的に全力を込め剣を弾き返す。壁に寄り掛かったまま中立ちだった足に力を入れ、剣戟と共に斬り抜ける。 力の入っていない一撃だ。元から致命傷は狙っていない。 狙ったのは――相手の背後に回ること唯1つ! 「ディムロス、力を貸せ! これで……終わらせるッ!!」 ヴェイグの身体から青い光が、ディムロスの刀身から赤い光が走る。 織り合わされる各々の光、ヴェイグの中に旋律が流れる。重なり合う波長、紡ぐは終焉。 ミクトランは振り返る。そこにあるのは1つの驚喜だけだった。 焦りも何もなく、穏やかに彼を眺める。決戦を前にした恐れなき瞳とでも言えばいいのか。 2本のソーディアンを納め、ミクトランの周囲に光が満ちる。目を伏せる姿に金髪が揺らめく。 堂々と待ち構える姿は、まさしく王そのものであった。 光は、あまりに眩くホール全体さえ満たしてしまいそうだった。 目の前に光の波が迫り、視界が真っ白く染まるも、ヴェイグは止まらない。 彼が剣を翳す。朱色の線が幾つもの円を作り、熱波がディムロスを包む。 『燃え盛れ、紅蓮の炎ッ!!』 刀身から発せられた強大な火炎は弧を描き王へと駆け、――戻れ!――波のように広がり炸裂する。 「……楽に死なせはしないッ!!」 炎が命中する前から駆け出したヴェイグは、ディムロスを振り下ろし、ミクトランの身体を切り刻む。――戻れ! 一撃一撃、剣を加えるごとに氷が散る。――戻れ! 王の身体に1つ、また1つと傷が刻まれていき、白い外套が赤く染まる。 それでもヴェイグは手を休めない。 全ての憎しみをぶつけるかのように、例え間違いであろうと、今まで積み重なってきた怒りを叩き込む。 一撃の重さは憎悪の証。傷の深さは絶望の証。 一歩下がり、大剣を顔まで近付くほどまでに引き絞り、最後の一撃、チェックメイトへの手を掛ける。 『行け ――――――ヴェイグッ!!! 戻れ 』 ぱちり、と手品でもするかのように指の鳴る音は氷の中に吸い込まれた。 『「奥義!! インブレイスエンドッ!!!」』 腕が、剣が、王へと迫っていく。 全身を包むほどまでに形成された氷の結晶を突き砕き、ミクトランの身体が貫かれる。 大きく開いた胸の風穴から血と肉が飛び出ていく。整った顔の口から血が溢れ、隣接するヴェイグの顔面にも降りかかる。 再び、両者の視線が合う。ミクトランは嘲笑を浮かべた。 剣を勢い良く引き抜いて、血のしぶきが舞う。身体が崩れていき、どさりと倒れ込む音だけが耳に届く。 息を荒々しくつく音だけがホールで反響する。 真っ白に近かった頭が鉄の臭いを嗅ぎ取ったことで、やっと目の前の視界が開けていく。 仰向けになったミクトランの身体は動かない。目の前に血の池が広がっていき、開いた目と口元の笑みだけが固まっている。 肩を上下させ、呼吸音が頭に詰まっていく。 身体が、熱い。 [be my Last] 「……勝っ、た……」 ぽつりと小さな呟きが自然と口から零れ出る。 「俺は、勝ったのか……?」 感慨のないまっさらな言葉だ。顔もまた、ぼんやりしたような曖昧な表情しか浮かんでいない。 未だ状況を、実感を掴めぬ彼はただ立ち竦んでいた。 『そうだ。お前は勝ったのだ、ヴェイグ』 ディムロスの言葉が聞こえてきて、ヴェイグはやっとその場にへたりと座り込んだ。 片腕がなく、いきなり湧いて出た疲労の前に尻餅をついて座り込む情けない姿だったが、彼は何も思い浮かばなかった。 彼には何の表情も浮かんでいない。敢えて言えば、汗に混じって頬を一筋の涙が伝っていた。 但し、どちらも何も把握出来ないからではなく、喜びが溢れるからでもなく、ただ――――ただ、心中に空しさが漂っていた。 「そう、これが、全ての終わり……」 どこを見るともなく、ましてや地に臥せる無様な王を見る訳でもなく、ヴェイグは呟く。 「こうした所で、何も戻ってきはしない……」 無音の、炎の弾ける音のみのホールに生気などまるで感じられず。 「世界に、色がない……」 広いホールの中でただ自分だけが生きているという実感が、世界には今自分1人しかいないのではないかという錯覚を生んだ。 呑まれていく。ぼろぼろと砕けていく白黒の世界が、自分の中で崩れていった全てと重なり合った。 全ての元凶、ミクトランは倒した。それだけだ。後に残ったのは“無”だけだ。 生暖かかった空気が、自らの熱が急速に冷えていくのを感じる。生の実感もまた、共に失せていく。 頬を伝う涙が、止まらない。壊れてしまったと思った。 『ヴェイグ』 コアクリスタルの輝きが目に入って、彼は発生源を見る。 『これが我らに与えられた最大の罰だ。多くの選択を見失ってきた者達への、自分の心が与える罰なのだ』 ディムロスの淡々とした言葉にヴェイグは何も返さない。 これが、自分から自分へ送られた裁きだということはとっくに分かっていた。 たった18年ではあるけれども、今までの自分が積み上げてきたもの全てが、今の自分を否定する。 積み木や塔、砂の城は高く高く積み上げたのを最後に崩すからこそ、その崩壊の様は見事と言えるのだ。 例えそれが間違いであろうと、虚数ばかりのつぎはぎの砂城であろうと。 『しかし』 この場に流れる空気を途切れさせようとするかのように、ディムロスは強く発する。 『……いや、私もお前と同じ、咎の住民だ。お前と同じ人間の戯言だと、受け流してしまっても構わない。 昨日、お前と初めて出会ったばかりだが……私は、お前の全てが間違いだったとは思わん』 少し落ち着いた声にヴェイグは目の色を変えた。純粋な驚きが瞳に宿っていた。 『ヒトは過ちを犯すもの……お前も、私も、その1人だ。 だが、全てが間違いである人間など、居りはしまい。虚構であろうと、積み上げられてきたものに嘘はない。 ミクトランのあの言葉だけは、否定出来る』 ディムロスの言葉を吟味するかのように、少々の沈黙が2人を包み込んだ。 静かに揺れる心の水面が再び水平となって、ディムロスを置いた右手で涙を拭き取り、やっとヴェイグは微笑を浮かべる。 「ありがとう、ディムロス。だが、いいんだ」 そう言ってヴェイグは天井を見上げる。 「始めから間違っていた……その方が、余程諦めがつくんだ」 吹き抜けの天井はどこまでも遠く、天でありながら深淵へ続くように思わせる。 そうか、とディムロスは言って、彼は小さく頷いた。 自分の中から何かが抜けていくのを感じた。心の奥底で湧き上がる泉のようなものが枯れていくのを感じた―――― いや、存在そのものがなくなったと言えるかもしれない。 ヴェイグは手を広げ力を込めるも、もはや氷は具現されなかった。心がゼロになった何よりの証拠だった。 少し待ってくれ、と彼はのろのろと立ち上がり、始めに転移してきた位置に置いたサックの下へと向かう。 その歩は不安定であるのに確固とした足取りだった。 サックの紐を解き、するするという静かな音が耳を満たす。 全ての要素が、1歩、また1歩と何かに近付いていくのを感じさせた。 サックの中に手を突っ込み、目当ての物を取り出す。 ディムロスは彼を見て、自殺を行おうとしていた少年の姿を思い出したが、不思議と不安はなかった。 振り向いた彼が握っていたのは、小振りの曲刀だった。不意にディムロスは息を呑んでしまった。 「俺の力は、もう使えない。代わりの刃があってよかった」 施された意匠が自身とよく似ているのを見て、ディムロスは皮肉だな、と思う。 コアクリスタルの輝きは既になく、中央に青い結晶が填め込まれているが、ディムロスは結局恋人の宿った刃で幕を下ろされるのだ。 世界とは何たる皮肉な魔物だ。本当に、全ては決められた結末に向かうよう定められているのかもしれない。 その世界に、咎の住民たるディムロスは感謝した。 ヴェイグは既にディムロスへと近付いていた。終わりの時が近付いていた。 「ディムロス、今まですまなかった」 『構わん。ハロルドに振り回されるお前は中々面白かったぞ。 口の利き方は……そうだな、地獄というものがあるならゆっくりそこで講釈してやる。今やるには、些か……疲れた』 ふっと笑みが零れて、2人は小さく笑い合った。 「あんたがいなければ、俺はここまで来れなかった。ミクトランも倒せなかった。……ありがとう」 ああ、こうして礼を言われるからこそ、例え間違いだらけの積み重ねであろうと、否定されようと、 人との出会いや交わした言葉は嘘ではないのだ。 一抹の満足感すら覚えていることにディムロスは罪悪感を覚えた。 全てが消え失せた今となっては小さな言葉1つでも心を暖める。 『――――さらばだ、ヴェイグ』 地に置かれたディムロスのコアに刃が振り落とされる。 矛先が結晶に突き刺さり、亀裂を生み出し、粉々に砕け散った。宙に舞う欠片が光に煌いて、やがて見えなくなっていった。 これで、本当に1人になった。世界にただ自分しかいない。 ヴェイグはディムロスを砕いた曲刀の柄をこつりと額に当てる。 自分が誤っているのか。世界が誤っているのか。どちらが真実なのかは最早分からない。 ただ、この2つが行き着く先は同じ――どちらが誤っていようが、映し出されるモノは“間違い”なのだ。 人が世界を生み出すのか。世界に人が生まれるのか。 人が狂気に堕ちたのか。世界が狂気を与えたのか。 平行線の論議など、永遠に終わらない。だから、全てを終わらせるのだ。自らの手で。 間違いだけの世界に、何の価値があろうか。 両目を閉じ、震える息が腕の中で零れる。 死ぬことは、怖くない。この結末はずっと頭の中で思い描いてきていた。 これで血塗られた惨劇の全てが終わる。憎しみの連鎖は断たれ、もう誰も傷付かないで済む。 崩れた過去の自分が遠く離れていく。光が闇の奥へ消えて、小さく小さくなっていく。 カイル――母親には会えただろうか。 ティトレイ――お前が見てきたものが見れた気がする。 クレア――――すまない。俺は、戻れない。 一度刀剣を離し、空を見上げた。ゆっくりと息を吐くのと同時に、全身の力がすうっと抜けていく。 視線を戻すと刀身に自分の顔が映った。眼球のない左目が、その奥に見える無が自分を見つめる。 刃が傾いて、反射している顔が消える間際に表情は安らいだ。 切先は、紛うことなく心臓へ―――――― 突然過ぎる覚醒だった。 目の前に景色を叩きつけられたような、ふと我に返った時に光景が見えてくるようなものだった。 薄暗いホール、冷えた空気、血の臭い、ミクトランの死体。 それを前にして、彼は困惑どころか状況が把握できずにいた。 死を経たはずの頭は真っ白で、目の前の風景が一体どんな意味を持っているのかすら、分からなかった。 ただ、勝手に右手だけが動き、頬があると思われる位置に触れる。 手套の向こう側でも、柔らかくすべらかな肌の感触と、ヒトが持つ36度の体温を感じた。 それを確かめるように、何度も何度も指先を動かす。 「……生きている……?」 不意に飛び出た自分の声に、彼ははっとして手を身体に遣る。 剣を刺した筈の胸元に触れ、走った痛みに顔を歪める。 しかし、胸を見ても心臓を刺した傷はなく、ミトスとの戦いで負った火傷だけがそこにあるのだ。 右手の曲刀に目を移しても、血に塗れた気配すらない。 「ディムロス?」 無意識に相棒の――相棒だった剣の名を呼ぶ。 反応が来る前にディムロスの方を向くも、コアクリスタルは砕け、僅かに残った残骸はくすんでいる。 反応はない。 訳が分からなかった。確かに胸部に剣を突き刺した。それなのに傷1つなく、こうして生きている。 ふっと、ホールを照らしていたロウソクの炎が消え、辺りは暗闇に包まれる。 混乱の中では風の流れで消えたそれも異常な事柄だと思えた。 誰も、彼の問いに答えてくれる者はいない。静寂がしばらく続いて、彼は冷静さを取り戻した。 こんなことが起きたところで、やるべきことは変わらない。 きっと幻覚でも見ていたのだろうと、これから死ぬ自分への、死の恐怖を和らげようとした深層心理の 愉快なサービスだと、馬鹿らしいことを考えた。 笑顔を作ろうとして、笑えなかった。水を思い切りかけられたように気は沈んでいた。 首を振って頭の中にわだかまる靄がかったものを振り払い、もう1度剣を強く握る。 彼は迷いなく首下を剣で貫いた。 突然過ぎる覚醒だった。 目の前に景色を叩きつけられたような、ふと我に返った時に光景が見えてくるようなものだった。 薄暗いホール、冷えた空気、血の臭い、ミクトランの死体。 それを前にして、彼は今度こそ困惑を見せた。 「どうして……?」 彼は座り込んだまま、目の前に広がる光景の異様さにそう呟くしかなかった。 首の真中に触れると、やはり痛みを感じる。しかし、やはりそれは首を刺した傷の痛みではないのだ。 首輪爆破を防いだ時にできた火傷だった。 無言のままディムロスの方を向くも、コアクリスタルは砕け、僅かに残った残骸はくすんでいる。 「誰か……誰かいるのか?」 姿の見えぬ誰かが傷を癒してくれているのかもしれない、今度はそんな考えが浮かんだ。 考えられないのが9割であったが、こんな風にもなると考えたくもなる。そうとしか考えられなかった。 よろめきながら立ち上がり、辺りを見回す内に再びロウソクの炎が消え、辺りは暗闇に包まれる。 他人の姿どころか、自分の姿さえ把握できるのか怪しい。 探すな、と暗に示しているのだろうか。どんな意図があって2回も同じことをしたかは分からない。 この期に及んでもまだ生きろとでも言うのか。 ――逃げても、這い蹲ってでも生きろ。確かにそう言った奴はいる。 だが、この何もない世界で生きていくには辛く――――生きられるほど、強くはない。 死を選ぶ人間が一体何を見てきたのか。このモノクロームの世界に、どんな光を見出せるのだろう。 闇の中で、彼は額に剣を当てる。眉間を貫けば流石に治療もできないだろう。躊躇いはない。 額に触れる刃が冷たい。これが死の感触だ。 彼は勢いよく眉間に剣を突き刺した。 突然すぎる覚醒だった。 目の前に景色を叩きつけられたような、ふと我に返った時に光景が見えてくるような……。 彼は唖然とした。何故、この光景を3度も見ているのか。 鼻に流れてくる臭いも同じ。肌に刺す冷気の感触も同じ。何も変わってなどいなかった。 額に触れるも、今度は痛みすらない。刀身を鏡代わりにして顔を映すも、見えるのは左の眼窩がごろりと開いた情けない表情だった。 吐き気が催されるのを感じた。何故かは、自分でもよく分からない。 ただ、自分の肉体が自然と違和感や恐怖を覚えているのだと思った。 困惑を通り越して、この状況が悪意のある、いや、異常なものだと思った。 幻覚でも、誰かが癒しているのでもない。第六感がそう告げていた。 思わず縋るようにディムロスの方を向くも、コアクリスタルは砕け……何となく、予想はついていた。 次は炎が消える。これも何となく分かった。考えるのと同時にロウソクの炎が消え、辺りは暗闇に包まれる。 ヴェイグは、腿に刃を入れた。肉が裂けていき、抑えるも叫びを上げた。 深くぱっくりと割れただろうことを激痛で理解して、もう1度傷口へ刃を刺し込んだ。 痛みで手を離し中断したい衝動に駆られるも、それを耐え刃を更に奥へ奥へと沈めていく。身体がびくびくと震える。 痛い。口からひいひいと息が漏れて、何も見えない中に確かな人の感触を感じさせる。 痛い。これが生きている証拠だ。脂汗と涙が顔に浮かぶ。 その内、刀身が骨に当った。それにも彼は刃を入れ、鋸のようにごりごりと削り取っていく。 合間に刃が肉に触れて、上下運動に巻き込まれて細切れになっていく。 骨も真っ二つになって、彼は思い切り刃を重力に任せて進めた。皮膚が裂けていく感触がして、足先の重みが失せていく。 刃がつっかえを失くして、そして彼は大量の汗が滲んだ柄を離し、仰向けに倒れ込んだ。 熱い。体内の熱が断たれた足から一気に放出されているように、熱が一箇所に集中している。 全身の血潮が外へと流れ出ていく。脱力感が襲い掛かってきて、痛みで冴えた目すら、重く閉じたくなってきてしまう。 こうしてまで痛みを感じなければ、それは死ではないということだろうか。 再び曲刀を握って、彼は腹部に刃を突き立てる。古傷が開いていく。肉を裂いて内臓を抉る。 口から血が溢れ出て、目の前の闇が更にフィードアウトしていった。 とつ然すぎる覚せいだった。 彼はすぐさま自分の足を見て、息を呑み愕然とした。 何で、どうして――繋がっている。 遅れて腹部を見る。傷はなく、脇に凍結された傷跡だけが残っていた。 そして、何よりの異常に気付く。自分は仰向けになっていた筈なのに、何故――座っている? 刃に血の跡はなく、見えるものは何も変わらず、ディムロスの応答はなく、まるで―――― 身体の振動を隠すように、叫びにも似たそれを上げながら、彼は足に剣を振り落とす。 次は別の足へ、肩へ、腹へ、目へ、胸へ――どうして、どうして死なない。死ねない。 全身から血が流れていく。それでも、彼は手を休めない。刺しても刺しても斬っても斬っても無事な肌へ。死ねない。 殺せ。殺せ。誰か俺を殺してくれ。 飛び散る赤い飛沫が消えた炎の闇へと溶けた。 死にたい。死にたい。死にたい死にたい死にたい死なせてくれ。 どれだけ傷付ければ死ねる? 何が足りない? 結局、諦めは逃避でしかないのか? 闇の中でただ彼の声と水音だけが木霊する。 とつぜんすぎるかくせいだった。 彼は、笑うしかなかった。 決まりとなったボディチェックも、せずとも結果は既に決まっていた。全てを埋め尽くしてしまう痛みもないのに、どこに傷がある? 乾いた笑い声はホールに響き、まるで自分のではなく、他の誰かが嗤っているようにすら聞こえてきた。 悟ってしまった。これは、幻覚でも何でもない。 ホールを照らしていたロウソクの炎が消え、辺りは暗闇に包まれる。 それから、時間の感覚は失われた。もうどれ位の時間が経ったのかも知らない。 食糧として残っていた果物も早々に叩き潰し、残っていた水のボトルも砕いた。 しばらくは甘い果物の香りが残っていたが、いつしか空気にさらわれ消えていった。 唯一残った臭いは――ミクトランの腐臭だけだった。それも慣れてしまえば何の興味も出ない代物だった。 空腹と渇きはある。水と食料が差し出されれば、咽から手が出る勢いで貪りつくだろう。 けれど、当然差し出す人間はいない。そして探しに行く気力もない。肉体的にも精神的にも、1歩踏み出す気概は乏しかった。 頬も痩けただろうか。筋肉も衰えたかもしれない。排泄も止まった。既に、腹の音が鳴る力すらない。 目はとうに慣れていたが、辺りが暗くて良かったと思った。死体が見えれば腐肉だろうと喰らい付いていたかもしれない。 そう理由付けて、彼は必死に死を待っていた。 指先を動かすことすら重く気だるい中だった。 久方振りの光に、彼は目を眩ませた。そしてぼんやりと霞敷いた視界が彼の視力を奪っていた。 しかし、初めての出来事に彼は力を振り絞って大きく目を開いた。 はっきりとしない視野に映るのは――白い光の中の金と薄めの青、そして縁取る輪郭線だけだった。 ふと、似たようなことがあったのを思い出す。あれは……そう、身体が石になった時だ。 「何故ですか?」 光が、声を出して問い掛けてきた。彼は必死に、弱々しくも微笑を作った。 「大丈夫、クレア……俺の手は、もう汚れないから……俺はもう、こんなこと……望んでいないから……」 か細い声で、彼は前後の脈略もなく答えた。 「いいえ、貴方は、死を望んでいます」 「俺が望んだものは、こんなものじゃないから……」 「いいえ、貴方は、死を望んでいます。貴方は、死を望んでいます……」 とつぜんすぎるかくせいだった―――― 最早彼の表情には何も浮かんでいない。この景色が浮かんでくるのも、既に想像がついていた。 薄暗いホール、冷えた空気、血の臭い、ミクトランの死体。 サックの下へと近付き、中身を確認する――そのままの果物に、水の入ったボトル。 思わず手を伸ばそうとして、とっくに空腹感も渇きもないことに気が付いた。 身体が跳ねる。こみ上げる笑いを必死に抑えて、押し殺された声だけが出た。 何度も何度も繰り返すだけ。永遠の死を以て永遠の生を続ける。 全てを終わらせると決めた筈なのに、終わらせられない。誰がこうしたのか、残ったのは“無”だけだ。 笑いが押し切って口から飛び出る。四つん這いになり、頭を床に埋め、身体を丸め、両手を頭に遣り、解けた髪をぐしゃりと握る。 死ねない。死ねない。死ねない。 自分はこのままこうやって刃を心臓に突き立てるなり餓死するなりを繰り返して生きていく。 何の意味もない生。無に覆われた中で時間を使うだけの生。いや、生とすら呼べるのだろうか? 後に残された無、それを永遠に味わい続ける罰。 何てことだろう。1番自分が欲していたものなのに、それがとてつもなくおぞましい。 死ねない。死ねない。死ねない。 俯き影に覆われる顔の中にあるのは、笑みと見開いた目と声にならない声。 このまま狂ってしまうなり廃人になってしまう方が楽だと思えた。 そうすればもう、何も見ないで済む。永遠に死んで永遠に生きても、何も感じずに済む。 逃げだろうと何でもいい。 それを許さないなら、誰か俺を死なせてくれ。 虚ろな笑い声がホールに響く。聞けば聞くほど、世界が遠ざかっていく。 刹那――――甘い香りが鼻をくすぐった。 ぴたりと笑い声が止まる。口内を、よく分からないものを駆け巡った。甘ったるい、口で溶けていくような―――― どうして、どうしてこんなに胸が締め付けられるのだろう。 崩れてしまった自分が告げる。しかし、何なのかは分からない。 “どうでもいい味”はすぐに消え失せ姿を隠してしまっていた。 ホールを照らしていたロウソクの炎が消え、辺りは暗闇に包まれる。 闇の中でとても悲痛な、それごと引き裂くかのような絶叫が響き渡った。 [who is good or evil?] 『ヴェイグ……ヴェイグ!!』 手に握られたソーディアンが彼の名を呼ぶ。己の位置、即ち彼の位置はぴくりとも動かない。 こつこつと靴を鳴らす音が接近してくる。1つ1つの音が軽快で、引き摺るような、そんな音は聞き受けられない。 足音が止まって、ソーディアンは“見上げる”。そこには、 「残念だったな、ディムロス」 長く細やかな金髪を1つに結い、白い衣服を身に纏った王が佇んでいた。まともな傷もない、勝ち誇ったような笑みを浮かべて。 後光を受けて窺えぬ表情が、一瞬光が揺らめいて見通す。 口元を一筋の血が伝っていた。 「だが、最後の一撃は……まともに喰らえば私すら危うかった」 焦げた衣に、真中を走る1本の裂け目。確かに、ヴェイグの秘奥義インブレイスエンドは発動した。 しかし、届かなかった。最後の最後で、チェックメイトには至らなかった。 そうでなければ、どうして天上王が前に立っている? 『貴様ッ……何をしたッ!?』 上擦った声で、傷1つないコアクリスタルを輝かせソーディアン・ディムロスは叫んだ。 「何をした? 私は、ただ奴の願いを叶えただけだよ」 『願いを、叶えただと?』 「そうだ。私はこのゲームの主催者として公約を果たしたのだよ」 ぎらり、とミクトランは笑う。 「但し、夢としてだがな」 その笑みに生理的嫌悪感をディムロスは覚えた。 ヴェイグは、ミクトランの前で地に臥せっている。ディムロスを握ったまま。 寝顔は本当に普通に眠っているように見えるのに、それでも、その瞼の裏に広がる悪意は計り知れない。 『ふざけるな……! 夢だと!?』 「何を言う。夢だと知覚しなければ現世と夢に一体何の違いがある?」 ミクトランは王の風格そのままに、ディムロスを見下げたまま言う。 「神の化身は1度、幸福の世界として夢の中の世界を選んだよ。聖女でも為しえた事象を、神の宿ったレンズで行えないと思うか?」 『神の宿ったレンズ……貴様、まさか、神の眼を……!!』 「物事は人間が思うより1歩先に進んでいるものだ。貴様の考えなど到底浅はかだよ」 くく、と王は笑う。 「奴だけが誤った像を結んでいるのだよ。だが、よいではないか。 願いの叶う素晴らしい世界へ行けるというなら、奴の言う今の間違った世界などかなぐり捨てていけるのだからな。 他の54人が野垂れ死んでいった中で優勝者にのみ許された権利だ。そこに一体何の間違いがあるッ!?」 両手を広げる王に、ディムロスは口をつぐんだ。抑えられた息だけが漏れる。 もし夢の世界がヴェイグの願う幸福の世界だとするならば、それは幸福でも何でもない。 延々と全てを終わらせる、その繰り返し。即ち、逆接的な永遠の生だ。 ミクトランはヴェイグの願いを知った上で夢へと連れ込ませたのか。怒りを通り越して憤死しそうなほどの血が込み上げてくる。 『ヴェイグ、戻れ……戻ってくるんだ……ヴェイグ!!』 「無駄だ。奴は既に神の胎内で眠っている」 少しも動かぬヴェイグに叫びかけるも、すぐさま王に一蹴される。 「マスターが消えれば貴様は何も出来ない。所詮は道具に過ぎないということか」 そう言って、ミクトランは納めていたソーディアンを取り出す。切先は無論ディムロスへと向けられている。 それを見て、ディムロスは目を見開き驚愕した。 失念していた。そう、このソーディアンは今や、ミクトランの所持品となっていた。5本だけではないのだ。 ソーディアンの中で唯一黒い、異質な刃。 一振りで禍々しい悪魔の翼を思わせるかのような、邪気さえ溢れ出ていると思える意匠。 その作りは、確かに今の混沌とした世界にぴたりと符合していた。 名を、ソーディアン・ベルセリオス。軍師カーレル・ベルセリオスが用い、妹のハロルドが人格投射した、6本の中でも特別な存在。 しかし、ベルセリオスのコアもまた、他の2本と同じように光はない。反応する様子すらなかった。 『何故、それを』 負け惜しみを吐くかのようにディムロスはたどたどしく言う。 「愚問だな。貴様は覚えているように“されている”のではないか?」 嗤うミクトランに、ディムロスは発せられた言葉の意味を咀嚼していた。 今の言葉には明らかな違和感と、邪念がある。 混乱が伝わったのか、一度はミクトランは剣を引いた。 「そうだ。先程、貴様が忘れた些細なことを教えてやろう。 私は、現実と夢は知覚できなければ違いはないと言った。そして、ソーディアンの人格など、結局は情報の集合体でしかない。 ならば――――」 「――――自分の記憶が唯のデータでしかない、と疑ったことはないか?」 『どういう、ことだ』 「問うているのはこちらだ。貴様は何故2つの記憶を持っている? 同じ時間、同じ場所、しかし中身は異なるなどという奇妙な記憶を、貴様は何故疑わず矛盾なく受け入れている?」 ディムロスは何も言わない。立てられた仮定のピースが少しずつ表に裏返っていく。 人は1秒1秒過ぎ行く現在を1つしか覚えられない筈なのだ。 「結論を言う。貴様の記憶は全て、纏めて後付けされたデータでしかない。貴様は何もない状態から生まれた幻影でしかないのだよ」 ぐらり、と視界が揺らぐ。 スタンとの記憶も、カイルとの記憶も、積み上げられた輝かしき記憶ではなく唯の作られたデータ。 それだけで楽しかった日々も何もかもが色褪せていってしまう。 ディムロス・ティンバーという一個人が経験した出来事ではなく、“経験したと設定された”出来事でしか、それはないのだから。 2つの記憶など、それこそ情報集合体という単位でしか為し得ない事象だ。 『アトワイトも、シャルティエも、クレメンテもイクティノスも、その手のベルセリオスも』 「ああ、同様だ。貴様らは今この2本の状態にデータを書き加えたに過ぎない存在だよ。さて」 向けられていた切先が引き上げられていく。 「冥土の土産もここまでだ。絶望して死ね。貴様らソーディアンチームは“負けた”のだ」 にや、と笑うミクトランをディムロスは力なく見る。目の前へと迫る矛先。 傍に立つ男は、確かに天上王ミクトランの姿を象っている。 しかし、ディムロスは違和感を禁じ得ない。自分の記憶がバックアップでしかないと理解してから更に感じる。 異なった見地、ディムロス・ティンバーではない名もなき誰かが王を見つめ、固まり尽くした先入観を解していく。 この男はミクトランに間違いない。だが、そのミクトランのイメージは“後付けされたデータ”の中の存在でしかない。 ならば、今目の前に立っている男は、真に“記憶の中にある”天上王なのか? 『……お前は、誰だ……?』 答を聞くことも叶わず、コアクリスタルは砕けて散っていった。 最後の1人は夢によって神の下へ導かれ、異空間の安定を保っていた最後のソーディアンは砕かれた。 バトル・ロワイアルに招かれ、このホールに――ホールに似せられたセットに――いた筈の55人は、今は何人たりとも存在しない。 がらんと空いたホールをぐるりと眺め、ミクトランは天を見上げた。 ぱちぱちと炎の弾ける音だけが鼓膜で響く。何の音もない空間に、王は自分の笑い声を満たしたくなった。 「くくっ……はは、ははははっははははははは!!!」 気高き勝利の笑いだった。深く酔い痴れた、この上なく寒気のする笑いだった。 笑声の余韻がハウリングとして残る中、こつ、こつと、全ての屍を踏み越えていくように歩む。 高らかに靴は鳴り、何度も何度も自分を包み込む響きは王を迎える民衆の歓声のようだった。 音は、高く高く天へと向かっていく。 悪夢の3日間の始まりとなったホールは、遂に無人となった。 王は、大きく作られた両開きの扉の前に立っていた。 まだ外であるというのに、粘りつくような絡みつくような電気が全身に纏わりつく。 横にはこじんまりとしたセキュリティシステムが1つ。 彼は繊細な指、もとい手をパネルの上へと遣り、点っていた光が赤から緑に変わるのを確認する。 静かに、厳かに扉が開いていく。無色の光が満ちて、一気に外へ溢れ出てくるのが分かる。彼の口元が厭らしく上がった。 光の先で、部屋中に張り巡らされた配線は鼓動を続けている。 連結と分岐を繰り返し、最終的な十数本の先は巨大なレンズが安置された台座へと繋がっていた。 結晶は何の力を受けることなく自転し、延々と光を放ち続けている。 中心が、そこが心臓であるかのように光の律動を繰り返す。ゆっくりとしたそれは眠る子供の呼吸のリズムだった。 粘性の帯びた空間の中を、王は、ミクトランは頭に響く唸りももろともせずに踏み分けていく。 神の御許まで辿り着いて、彼は懐からベルセリオスを取り出した。 このバトル・ロワイアルも、運営にベルセリオスの情報的支援がなければ為し得なかった。 例え宿っているのが自分のAIであろうと、神の御姿を見せるのもまた一興だろう。 神の宿る6メートル規格のレンズを見上げる。 「54の祈りと1の願いは集った。万能の変換機は完成した! 精霊王も、セイファートもネレイドも大いなる滄我も弱った。神の断片も本体へと戻った。私を遮る物はないッ!!」 声高々と宣誓する王は笑う。 万色の絵の具と万能の変換機を手にした彼に叶わぬものなど何もなかった。 ディムロスにスタンとカイルの時代を与えた王は、つまりは自らの結末を知っている。 彼は知っているのだ。自らが、正しき歴史の障害となる外れた存在であることを。 「何故私が歴史の敗者とならねばならぬ……私は天上王ミクトラン、全てを手中に納める者ッ!!」 勢いよく両手を広げ、彼は叫ぶ。 降臨する神を受け止めるかのようなそれは、子を受け取ろうとするような姿であった。 神の親、然らば彼もまた神。 目前に白い蛍光色が集っていき、辺りの色彩が失われていく。 どんどんと光は肥大していき、広大な部屋1つすら埋め尽くしてしまいそうになる。 王、否、現人神の身体を呑み、白1色が多い尽くす刹那。彼は恍惚を前に見たくとも見れなかった。 正何面体かを数えるのも億劫になってしまう結晶の面1つ1つ、その隅に――右手のない桃髪の女性が映り込んでいることを。 「神よ!! 私を理想の世界へ――――――――」 全てを光が呑み込む――――今こそ神の降臨の刻。 残されたのは、ただ回転を続ける神の眼だけ。 その後、彼らの行方を知る者は、誰もいなかった。 [a little wish in the despair] 季節が巡り、冬が訪れた山麓の村に雪が降る。 冬になればノースタリアに近いこの村は毎年大雪が降り、人々は雪かきに勤しむ。 この村の家々は対策として一般的な民家よりも屋根を斜めに建てているも、それでも雪は積もってしまうからだ。 雪を掻く重い音と、屋根から一気に雪が落ちる音を聞きながら、彼女は外を眺めていた。 ざっ、ざっ……ごうっ……どしゃ。 景色を切り取る窓からも、時折崩れた雪がどうっと落ちてくる。今は、彼女の父が雪降ろしをしていた。 母親もちょうど、今は集会所に出掛けている。 暖炉の薪が弾ける音の中、パイを焼く甘い香りが部屋を漂っていた。これも、何度目のことだろうか。 彼女の心は――――スールズの冬の寒さのように、冷えていた。 ずっと聞こえていた雪の降ろされる音がなくなったのに気が付いた。その代わりに、ドアの開く音がした。 防寒具を身に付けながらも、雪が全身に降り積もり、顔を赤くした父親が立っていた。 「クレア、お客さんが来てるぞ」 手で雪を払いながら言い、父は振り返った。背丈に隠れていた少女が、おずおずと前に歩み出る。 同じように頬を赤くし、白い息が声と一緒に零れ出た。 「お久し振りです、クレアさん」 胸に手を当てた少女、アニーが微笑んだ。 ハーブティーを入れ、アニーは両手でカップを持ち手を温めるようにしていた。 再び聞こえ始めた雪降ろしの音を聞きながら、クレアもアニーも外を眺めていた。 2人とも、そうする理由があったのかもしれない。人は思いを馳せる時、大抵窓の外を見つめる。 「ヴェイグさん達がいなくなって、もう4ヶ月経つんですね……」 アニーが顔を動かさぬまま呟いた。彼女は正面に向き直って、少女の横顔を見た。 まだ幼さの残るあどけない顔立ちに、幾分かの影が落ちていた。 もうそんなに経ったのね、と答えて、アニーも正面を向く。 「ティトレイさんもまだ戻ってきてないそうです。この前ヒルダさんの所に行ったら、やっぱり寂しそうでした。 言葉はぶっきらぼうでしたけど。……ポプラさんも?」 「ええ。おばさんも、まだ行方不明のまま」 言葉を飲み込むように紅茶に口をつける。この話題を出す度に、重いものが胸に圧しかかってくる。 ハーブティーの爽やかな香りが、そんな気持ちを何とか落ち着かせてくれていた。 4ヶ月前、何の前触れもなく、ヴェイグがクレア達家族の前から立ち去った。 置き手紙もなく、近所に住むポプラにも話を聞こうと思って家に行けば、そのポプラもいなかった。 1年前のラドラスの落日、そして数ヶ月前に彼女、クレア・ベネットが王の盾に浚われるといった大事件はあったけれども、 基本的に何もない、平和なスールズにとっては2人の失踪だけでも事件となった。 幼馴染みのスティーブもモニカも、何も知らないと言っていた。 瞬く間に噂は広がり、何か事件に巻き込まれたんじゃないか、実は2人で駆け落ちしたんじゃないかと、諸々の憶説が飛び交った。 数日して、ペトナジャンカのセレーナから手紙が届いた。「ティトレイが遊びに行っていないか」と。 彼女は気になって思わず馬車でペトナジャンカまで行き、セレーナに聞いてみれば、 ヴェイグ達がいなくなったのと同じ日に弟のティトレイが失踪したという。 彼女の胸に、嫌な予感が過ぎった。 それから4ヶ月、何の連絡もない。 「ユージーンとマオは世界を旅しているから、何かヴェイグさん達の情報を得たら教えてくれると言ってくれました。 でも、今のところはまだ……」 カップを置かず、両手で抱えたままアニーは萌黄色の水面を見つめていた。 見つめていたけれど、実際見てはいないだろう。悲しく沈んだ自分の顔を誰が望んで見るだろうか。 ヴェイグも、ティトレイも、家族の何の連絡もなしにいなくなる筈がない。彼女にはその思いがあった。 だが、その2人が数ヶ月何も知らせないという事実が、不安の影を落とす。 ざっ、ざっ……ごうっ……どしゃ。 沈黙の中、雪の音だけが厭に聞こえてきた。気付けば、顔は再び新雪の降る窓を向いていた。 手持ちぶさたげに彼女は紅茶をもう1口飲む。 2人の間に横たわる沈黙は重々しく、棘を持って2人の胸を突き刺していた。 ざっ、ざっ……ごうっ……どしゃ。 「そういえば、クレアさん……お菓子を焼いているんですか?」 「え?」 静寂を破るアニーの上擦った言葉で、クレアは一瞬きょとんとし、すぐさまはっとした。香草の匂いの中に甘い香りが混じる。 「いけない、焦げちゃう!」 ぱっと立ち上がり、キッチンの焼き窯の中から慌ててパイを取り出そうとして、ミトンを付け忘れて慌てながら嵌める。 改めて取り出した時には、さくさくと焼き上がった生地が所々黒くなってしまっていた。 「焼いていたのを忘れてた……どうしましょう」 「大丈夫ですよ」 傍に寄っていたアニーがパイを指す。 「ほら、こことここ、ちょうどどこも焦げていませんし。それに、凄くいい匂いです」 「アニー」 「せっかく作ったピーチパイです。もったいないですよ」 微笑みかける少女に、彼女もつられて笑い頷いた。 焦げ目のない部分を上手く切り分け、一切れずつ皿に分け、今まで座っていたテーブルへと持って行く。 アニーは一口運ぶと、ぱっと顔を明るくする。 「美味しいです、クレアさん」 「あの後、おばさんに作り方を習ったの。それでもまだまだ敵わないけどね」 彼女も一口ピーチパイを含んだ。甘く、まろやかな味が口の中で溶けていく。 アニーは既に半分ほど食べてしまっていた。 含んでいた分を飲み込んで、小さいフォークを持ったまま、少女はクレアの方を向く。 「クレアさんは、やっぱり強い人ですね」 「え?」 「前に、ヴェイグさんがいなくなってしまった後に来た時も、クレアさんはピーチパイを焼いてました」 こつん、とフォークを置く音が鮮明に聞こえるほどに、彼女の頭ははっきりとしていた。 「クレアさんは、ピーチパイを焼いてヴェイグさんを待っているんですね」 思いがけないアニーの言葉に、クレアは何も考えられず、相手の顔をただ見つめるしかなかった。 可愛らしい顔立ちに浮かんだ微笑はどこか真剣さが混ざっていた。 その瞳に見抜かれ、少しして彼女は首を横に振る。 「あなたが思うほど、私は強くないわ。ピーチパイを焼くのも、ただ寂しさを紛らわせようとしているだけなのかもしれない……それに」 「それに?」 アニーの問い掛けに、彼女もフォークを置いて言う。 「もしヴェイグが戻ってこなかったら、この味は思い出す度に辛くなってしまうものかもしれない。それは、アニーも同じ」 私は、他人と寂しさを共有しようとしているだけなのかもしない、と彼女は思った。 ピーチパイの味を思い出して辛くさせるように、罪のようなものを他の人に押し付けているのかもしれなかった。 少女は、少し冷めた紅茶をすすって、クレアにもう1度微笑んだ。 「いいえ。私は、クレアさんのピーチパイの味を思い出す度に、強くなれます」 その言葉に彼女の目は大きく見開いた。 「不安な気持ちも分かります。私も……不安で押し潰されそうでされそうで堪りません。 でも私は、クレアさんの行為がきっと、心の弱さではなく強さから来るものだと信じています。 本当は、ヴェイグさんは戻ってくるって、心の奥底で信じているんだと思ってます。 だから私も、クレアさんの姿を思い出して、頑張ろうって思えるんです」 横槍を入れられぬよう、捲くし立てて言ったアニーは、一拍置いて「唯の独り善がりかもしれませんけど」と付け加えた。 彼女は、自然と首を振っていた。それを見て、アニーは組んだ手を胸に置いた。 「クレアさん。きっと、きっとヴェイグさんは戻ってきます」 そうして、クレアは気付いた。アニーは、自分自身に言い聞かせているのだ。 不安で一杯な気持ちを精一杯隠すように、ヴェイグは必ず戻ってくると、そう心の中で繰り返しているのだ。 目の奥が熱くなる。 私がしっかりしないでどうする。家族の帰りを待つのは、家に残る家族の役割なのに。 「ありがとう、アニー。そうね……待たなきゃ」 帰ってきて、安心して「ただいま」って言えるようにするのは、家族の役割なのに。 「私が、私が待っててあげなきゃ、ね」 目頭を手でこすって、潤んだ目を見せないように、それでもしっかりと前を向く。 「さ、食べちゃいましょう? せっかくのピーチパイ、だものね」 「……はい!」 ピーチパイを残さず食べて、少し話をした後、アニーは雪の中の馬車で帰っていった。 もう少し遅れてしまうと、ミナールから出るバルカ行きの船に間に合わなくなってしまうらしい。 泊まったら、とクレアは提案したが、明日は医院での仕事もあるので、と小さな医師は断った。 アニー曰く、心のケアも医師の仕事らしい。自分を心配してわざわざ来てくれたのだろうか。 だが、同時に心のケアをする側にも、癒す人間が必要なのだ。 アニーも不安で胸が張り裂けそうだったのかもしれない。結果としてアニーの心も軽くなったのなら、それで良かったと思う。 今度はピーチパイの作り方を教えてもらいに来ます、と笑いながら言っていたので、逆に私がバルカに行くわ、と答えた。 最後に、アニーは「ヴェイグさんがクレアさん1人を残す筈がない」と言っていた。 どうして、ヴェイグは私達の前から去ったのだろう。 何か理由があったのか、それとも事故や事件に巻き込まれたのか。彼女は考えるも、答えてくれる人はいなかった。 もう1度、不安という負の感情が手を伸ばしてきた。けれども、クレアは大きく頭を振って手を払った。 アニーも帰りを信じている。自分が挫けてはいけない。 ヴェイグがいつ戻ってきてもいいように、私はピーチパイを、彼の好物を作りながら待ち続けよう。 沢山食べてもらって、美味しいと硬い顔を笑わせてあげよう。 雪が降る。今年の冬も寒さが厳しそうだ。心の炎に薪をくべて、願いながら彼女は待つ。 空から白く降る結晶を、彼の力を思い出させるそれを見上げながら、彼女は呟いた。 「ヴェイグ……私、信じてるからね……」 甘く漂っていた残り香が雪の中に消えていき、残った悲しみだけが村を漂っていた。
https://w.atwiki.jp/putihedora/pages/138.html
第三話↓ ―――Mスクール卒業試験当日。 中條「いよいよ今日は卒業試験である。それぞれ今までの勉強の成果を十分出して欲しい!」 彼は中條真一(ちゅうじょうしんいち)。Mスクールの校長だ。 中條「皆も知っている通り、この試験は「筆記試験」と「実技試験」に分けられている。 筆記の方は70点以上で合格だ。実技は武器・格闘の二科目で行われる。また、 実技の格闘は一対一の一騎討ちだ。基本的に勝った生徒が格闘試験は合格だが、 戦い方の素質を認められた者や事前の確認で成績が優秀だった者も合格とする!」 生徒「ざわざわ・・。」 中條「では筆記試験から始めてくれ!」 全生徒に筆記用紙が配られた。みんなこれまでにないほどな真剣な表情で満ち溢れている。 優馬「へぇ~、筆記は実技以外の全教科が一枚にまとめられているんだな。」 優馬はシャーペンを指でクルクル回しながら、呟いた。 試験管「制限時間は一時間だ。・・・それでは、始めろ。」 優馬(まずは用語だな。え~と・・・。) 問①:『火龍』←の漢字で表される戦艦名を平仮名で()内に書き入れなさい。 ( ) 優馬(なんだ、大したこと無いな。) 優馬回答 問①:『火龍』←の漢字で表される戦艦名を平仮名で答えなさい。 (かりゅう) 沙織回答 問①:『火龍』←の漢字で表される戦艦名を平仮名で答えなさい。 (かりゅう) 隼人回答 問①:『火龍』←の漢字で表される戦艦名を平仮名で答えなさい。 (かりゅう) 沙織(・・・次。) 問②:『百発百中』とは誰の名台詞で知られていますか?()内に漢字で書きなさい。 () 沙織回答 問②:『百発百中』とは誰の名台詞で知られていますか?()内に漢字で書きなさい。 (醍醐事務総長) 優馬回答 問②:『百発百中』とは誰の名台詞で知られていますか?()内に漢字で書きなさい。 (醍醐事務総長) 隼人回答 問②:『百発百中』とは誰の名台詞で知られていますか?()内に漢字で書きなさい。 (国木田少将) 隼人(次は・・・なになに?) 問③:『ごうてんごう』を漢字で書きなさい。 () 隼人回答 問③:『ごうてんごう』を漢字で書きなさい。 (号天轟) 優馬回答 問③:『ごうてんごう』を漢字で書きなさい。 (轟天号) 沙織回答 問③:『ごうてんごう』を漢字で書きなさい。 (轟天号) 15分経過し、ほとんどの生徒は次の戦略のテストをやり始めた。 問①:ミュータントの戦法を二つあげなさい。 ()() 優馬回答 問①:ミュータントの戦法を二つあげなさい。 (兵器での攻撃)(肉弾戦) 沙織回答 問①:ミュータントの戦法を二つあげなさい。 (兵器攻撃)(己の肉体での攻撃) 隼人回答 問①:ミュータントの戦法を二つあげなさい。 (兵器)(格闘) 問②:ミュータントの標準装備を答えなさい。 () 優馬回答 問②:ミュータントの標準装備を答えなさい。 (小型メーサー銃) 沙織回答 問②:ミュータントの標準装備を答えなさい。 (小型メーサー殺獣砲) 隼人回答 問②:ミュータントの標準装備を答えなさい。 (メーサー銃) 続いて、歴史のテストへ突入。 問①:ゴジラが最初に日本を襲ったのは何年ですか? 優馬回答 問①:ゴジラが最初に日本を襲ったのは何年ですか? 1954年 沙織回答 問①:ゴジラが最初に日本を襲ったのは何年ですか? 1954年 隼人回答 問①:ゴジラが最初に日本を襲ったのは何年ですか? 1954年 問②:1968年・怪獣総進撃事件でゴロザウルスがキングギドラの背中に食らわせた技は? 優馬回答 問②:1968年・怪獣総進撃事件でゴロザウルスがキングギドラの背中に食らわせた技は? カンガルーキック 沙織回答 問②:1968年・怪獣総進撃事件でゴロザウルスがキングギドラの背中に食らわせた技は? カンガルーキック 隼人回答 問②:1968年・怪獣総進撃事件でゴロザウルスがキングギドラの背中に食らわせた技は? ドロップキック 問③:1973年・ゴジラ対メガロ事件でジェットジャガーがメガロ&ガイガンにやられた、屈辱的な技は? 優馬回答 問③:1973年・ゴジラ対メガロ事件でジェットジャガーがメガロ&ガイガンにやられた、屈辱的な技は? ジェットジャガー・ラリー 沙織回答 問③:1973年・ゴジラ対メガロ事件でジェットジャガーがメガロ&ガイガンにやられた、屈辱的な技は? (空欄) 隼人回答 問③:1973年・ゴジラ対メガロ事件でジェットジャガーがメガロ&ガイガンにやられた、屈辱的な技は? ジェットジャガー・ラリー 続いて科学。 問①:ゴジラが吐く熱線の正式名称を答えなさい。 優馬回答 問①:ゴジラが吐く熱線の正式名称を答えなさい。 放射能熱線 沙織回答 問①:ゴジラが吐く熱線の正式名称を答えなさい。 放射熱線 隼人回答 問①:ゴジラが吐く熱線の正式名称を答えなさい。 放射能火炎 問②:ゴジラは何をエネルギーとしていますか? 優馬回答 問②:ゴジラは何をエネルギーとしていますか? 核 沙織回答 問②:ゴジラは何をエネルギーとしていますか? 放射能 隼人回答 問②:ゴジラは何をエネルギーとしていますか? カルシウム 続いて英用語。 問①:GODZILLAの意味を答えなさい。 優馬回答 問①:GODZILLAの意味を答えなさい。 ゴジラ 沙織回答 問①:GODZILLAの意味を答えなさい。 ゴジラを英語で言った形 隼人回答 問①:GODZILLAの意味を答えなさい。 ゴッドジラ 問②:『ファイナルウォーズ』を英語で書きなさい。 優馬回答 問②:『ファイナルウォーズ』を英語で書きなさい。 FINLWARS 沙織回答 問②:『ファイナルウォーズ』を英語で書きなさい。 FINLWARS 優馬回答 問②:『ファイナルウォーズ』を英語で書きなさい。 FINLWARS そして一時間後、制限時間が終了し試験管の声が試験部屋に響いた。 試験管「終了!そこまで!各列の一番後ろの生徒は後ろから集めて、オレに渡せ。」 各列の一番後ろの生徒は立ち上がり、後ろから順に筆記用紙を集めていく。 集め終わると、生徒たちはできただのできなかっただのと大騒ぎだ。するとそこへ またも試験管の声が響く。生徒たちは一斉に静まり返り、視線を試験管へ。 試験管「話したいのは分かるが、時間はない。これよりすぐに実技試験を始める。」 隼人「これからすぐだと!?」 優馬「先生、テストの結果は?」 試験管「実技試験中にテストの採点をする。この実技試験は点数が気になり、実技がうまくいかない生徒を出すのも一つの目的だ。さぁ。分かったら全員、体育館に移動しろ!」 ―――体育館 片桐「おらぁ!試験管はこのオレだ。オレの指示に従ってもらうぞ。まず実技試験のルールだが、この試験は武器と格闘の二つに分かれている。はじめに武器試験を行い、成功した者は格闘試験に進める。失敗した奴はその時点で生き残りレースからは脱落、実技試験は失格だ。しかし、武器試験を成功させ格闘試験に進んだ者には、一対一の一騎討ちをしてもらう。どちらかが死ぬか負けを認めるまで格闘試験は続く。オレが止めに入ることもあるからその時は素直に従え。ただし、格闘試験で負けた者は、たとえ武器試験を成功したとしても負けは負け。失格だ。だが才能がある者、事前の確認で成績が優秀だった者については、その後の職員会議で合否判定をする。これが実技試験のルールだ。」 隼人「長っ!でもルールが細かく分かってりゃ、その分試験は楽だぜ。」 片桐「ではまず武器試験から始める。内容は飛んでいるフリスビーをメーサー銃で撃ち落すんだ。」 生徒一同「はい!」 片桐はフリスビー発射装置を起動し、上手く飛ぶかテストした。フリスビーは発射装置から 勢いよく飛び出し、しばらくして床に落ちた。 片桐「フリスビーの速度は時速60キロだ。」 隼人「え?」 沙織「ほぼ車と同じ速度ね。」 片桐は抽選箱から紙切れを取り出し、書いてある名前を叫んだ。 片桐「第一挑戦者は冷田信(さめたしん)。メーサー銃を持って、前へ出ろ!」 冷田「・・・はい。」 冷田信。冷静沈着で寡黙。無口すぎるので今までではあまり口を挟まなかった。 兵器・格闘両方平均的な成績であるが、わずかに兵器の方が得意である。 片桐「フリスビー発射!」 発射砲からフリスビーが勢いよく飛び出す。冷田は片目を閉じ、狙いを定める。 床スレスレで見事に冷田はフリスビーを撃ち抜いてみせた。 生徒「すげ~!」 片桐「冷田信。武器試験合格!格闘試験で進む権利を得た!」 冷田「・・・フッ・・。」 続いて優馬合格。沙織合格。隼人かろうじて合格。 隼人「危ねっ!外しまくった!」 優馬「お前、兵器はあまり得意じゃなかったよな。」 沙織「次は格闘試験ね。」 片桐「ではこれより武器試験合格者だけによる格闘試験を始める。対戦カードは抽選で決まるぞ。」 片桐は抽選箱に手を入れ、ガサゴソかき回し二枚の紙切れを箱から出した。 片桐「抽選の結果はそこの電光掲示板に記される。第一試合は・・・。」 田村沙織vs冷田信 沙織「・・・・!」 冷田「・・・・・。」 優馬「頑張って!田村さん!」 沙織「・・・・うん。」 隼人「・・・へっ。ここで落ちてくれればいいけどな。」 優馬「まだお前はそんなこと言ってんのかよ。」 片桐「では両者前に出ろ。このカードで文句はないな?」 沙織「・・・はい。」 冷田「・・・ああ。」 一歩前に進む二名。体育館に緊張が走る。 冷田「・・・田村沙織。お前の実力は知っている。目立った功績はないが、武器は得意。だが、これは格闘試験。この勝負、オレがもらう。」 沙織「やってみれば?」 まずは冷田がしかける。沙織に向かって突進し、そのまま跳び蹴りの体勢へ。 沙織は軽々とかわし、とりあえず冷田の脚にチョップを叩き入れる。冷田は わずかに苦悶の表情を浮かべるが、すかさずもう一方の脚で沙織の脇腹を蹴る。 沙織は吹っ飛び、体育館の床を大きく転がる。すばやく立ち上がるが冷田が 発射したメーサーが肩に直撃し、沙織の肩に激しい火花が散った。 優馬「田村さん!」 隼人「あいつは格闘戦には向いてねぇよ。」 片桐「・・・まだ止める必要はないな。」 冷田「これ以上は無意味だ。棄権しろ。田村沙織。」 沙織「誰がそんなことするのよ。」 一瞬の隙を突き、メーサーを発射する沙織。冷田の腹に直撃し火花が散る。 思わず腹を押さえる冷田。そして顔を上げると沙織が至近距離に立っていた。 焦った冷田は回し蹴りで蹴りつけようとする。ジャンプでかわす沙織。 そのまま冷田のアゴを飛び膝蹴りで思い切り蹴りつけた。 冷田「・・・がっ・・・!!」 沙織「はぁ・・・はぁ・・。」 優馬「すごい!!」 隼人「・・・・へっ。」 片桐「確かめる必要はないな。第一試合は田村沙織の勝利!並びに実技試験合格!」 冷田は吐血して床に倒れていたが、意識はあるようだ。 片桐「次の対戦カードは・・・。」 皆本優馬vs平岡隼人 優馬「・・・なっ!」 隼人「・・・またお前とかよ。」 片桐「はじめっ!!!」 隼人「すぐに終りにしてやるぜ。」 隼人が優馬に突進。隼人はタックルの体勢へ移る。優馬は逃げずに隼人のタックルを受け止め、 そのまま隼人の顔面に膝蹴りを食らわす。空中に飛んだ隼人だが空中で体勢を立て直し、そのまま 急降下して優馬の頭を踏みつけるような形で蹴りつける。思わず後退する優馬。だがすかさず隼人は 優馬を殴り飛ばす。吹っ飛んで体育館の床を沙織同様、大きく転がった。 隼人「手加減しねぇぜ。オレ流・奥義・・・!!」 優馬「なにをする気だ、隼人!」 百花繚乱(ひゃっかりょうらん)!! 次の瞬間、隼人はパンチとキックを嵐のように繰り出す。全て優馬に直撃する。 そして最後にムーンサルトキックで優馬の顔面を蹴りつける。またも吹っ飛ぶ優馬。 優馬「ぐっ・・・!!」 隼人「どうだ、オレの百花繚乱の威力を見たか!」 優馬「やるな。これからはオレも本気でいく!でも・・・お前を失格させることになったら・・・。」 ???「関係ねぇよ。」 優馬「――!!」 隼人「ん?どうした優馬。」 優馬「誰だ!」 沙織「優馬?」 ???「名前なんかねぇよ。ったく、オレが着いているってのになんだ、そのやられっぷりは。」 優馬「・・・・!」 どうやらこの対話は周りの人々には聞こえていないらしい。 ???「こっからはオレにやらせろ!このヘタクソがっ!!」 優馬「だめだ!お前では隼人を殺しかねない!このままオレに戦わせろ!」 ???「心配すんな。死ぬギリギリまで追い込むのは超得意だぜ。ヒャハハハハッ!!」 優馬「やめろおおお!!」 隼人「さっきから突っ立ったままだな。どうしたんだあいつ。」 優馬「アアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」 隼人「・・・・!!!」 沙織「・・・なっ・・・なに!?」 片桐(この感じは・・・。) 見ると普段は茶色だった優馬の瞳が燃えるような朱色に変化し、髪が逆立っている。 ものすごい気力だ。周りの人々は、立っているのがやっとという感じである。 隼人「優馬?・・・お前、どうしたんだよ。」 優馬「優馬?オレに名はねぇ!さぁ、殺し合い楽しもうぜ!!ヒャハ~ハハッ!!」 ものすごいスピードで隼人に迫る優馬。隼人は優馬に向かってパンチ。 だが、すでに優馬は後ろに回りこんでいた。そのまま優馬は隼人の背中に 連続パンチを食らわす。吹っ飛ぶ隼人。またも超スピードで隼人に迫る優馬。 隼人が床に着く前にもう一度、隼人を蹴り飛ばす。さらに空中の隼人を追いかけ、 ハンマーパンチを勢いよく振り下ろす。隼人は激しく床に叩きつけられる。 肉弾戦トップクラスの隼人を優馬が確実に圧倒している。こんなことはあり得ない。 隼人「ぐあっ!!」 沙織「なにあれ?優馬って、あんなに格闘強かったっけ!?」 優馬「ヒャ~ハハハハハハッ!!」 片桐「ええい、それまで!第二試合は皆本優馬の勝利だ!並びに実技試験合格!」 優馬「止めんなよ!」 優馬(本体)「やめろって言ってるんだよ!」 次の瞬間、悪魔のような優馬の姿は普段の姿に戻っていた。 優馬「はぁはぁ・・・。オレ。一体どうしたんだ?」 片桐「救護班!急いで、隼人を治療室へ!」 隼人はたんかに乗せられながら、静かに優馬に尋ねた。 隼人「・・・お前・・・一体・・・ゲホッ!」 救護班「しゃべっちゃだめだ!」 優馬「・・・・。」 片桐「以上をもって実技試験は終了!」 体育館はその言葉と同時に一気にざわつき始めた。その中をしょんぼりしながら歩く優馬。 片桐はそれを見て、優馬を体育館中に響くほどの声で呼び止めた。 片桐「優馬!・・・ちょっとこっちこい!」 優馬「わっ!・・・なんですか?」 ずっとへこんでいたのにいきなり呼び止められ、優馬は 体が5センチほど宙に浮くほど驚いた。 片桐「・・・格闘戦がそんなに得意ではないお前が見せた、あの隼人の圧倒。髪の逆立ち。瞳の色の変化。どう考えてもおかしいだろ?・・・お前のその力・・・・もしかしたら・・・カイ・・」 試験管「片桐先生!!」 優馬と対話中の片桐を先ほどの筆記試験試験管が呼んだ。 片桐「・・・なんですか?」 試験管「調度今、筆記試験の採点が終わりましたよ。ここで結果を発表してもいいですかね?」 片桐「どうぞ。」 試験管「お~いお前ら!先ほどの筆記試験の採点は終了した。合格点数者は3名いる!・・・・・・・・・・皆本優馬!87点で合格!並びに卒業決定!田村沙織80点で合格!以下同文!平岡隼人ぉ・・・・は?」 片桐「ああ。彼なら今は治療室ですよ。格闘試験で負けちゃってね・・・。」 試験管「そうですか。・・・平岡隼人も73点で合格!彼の卒業決定についてはこれからの職員会議で、合否を判定する!オレからは以上だ!各自、教室に戻れ!」 優馬「・・・隼人・・・。」 沙織「・・・・・。」 職員会議後、優馬は廊下を歩いていた武田を呼び止めた。 優馬「武田先生!」 武田「・・・・何?」 武田は、はぁとため息をついた後、ぶっきらぼうに答えた。 優馬「あ・・あの、職員会議で・・・平岡はどうなりましたか?」 武田「ん?ああ、あいつなら合格だよ。」 優馬「え?で・・でも、平岡はオレに格闘試験で負けて・・・」 武田「何言ってんだ。才能かある者、事前の確認で成績が優秀だった者については職員会議で判定すると中條校長や試験管もおっしゃっていただろ。そもそも隼人はミュータント戦法の主体である格闘の才能はあるし、成績だって兵器・格闘ともに優秀だ。オレがそのことを訴えて、隼人は合格したんだよ。」 優馬「あっ・・。そうだったんですか。ありがとうございます。え~と、では。」 武田「待て、優馬!」 優馬は片桐に呼び止められたときと同様に驚いた。 優馬「・・・なんでしょう?」 武田「明日からはM機関での任務だな。・・・お前と隼人、ライバル的な存在同士だったよな。ここではあいつに負けっぱなしだったろ?・・・M機関に入ってからは、負けんなよ・・・。」 優馬「―――!!ありがとうございます!!!」 深く頭を下げ、大声を張り上げお礼を言った優馬。 武田は優馬に背を向けて歩きながら、ニッコリと微笑んだ。 ―――治療室。 優馬は治療室のドアを吹き飛ばす勢いで開けた。室内では、 先ほどの試験で深手を負った隼人がベッドの上に寝転んでいる。 優馬「平岡!よかったな!職員会議でお前の合格、決まったってさ!」 隼人「・・・よう。優馬。・・・ああ、既に武田さんから聞いてるぜ。・・・・よかった。・・・でも、一つ、引っかかることがある。・・・優馬、お前さっきの試験の時にこのオレを格闘で圧倒してた。普通なら、あり得ない話だ。あの力・・・・もしかしたらお前、カ・・・」 その対話中、ドアを静かに開ける者がいた。・・・・沙織だった。 優馬「あ、田村さん。」 優馬が言うと沙織を優馬に笑みを見せたあと、隼人にたずねた。 沙織「隼人、調子はどう?」 隼人「ん?ああ、大丈夫。あんぐらいでやられるオレじゃねぇよ。・・・ってか、お前に心配されるようなヘマをオレがするわけないだろ。」 優馬「あいかわらず、田村さんにはその態度か。」 沙織「・・・・。」 すると、またドアを開けた者がいた。先ほどの試験で沙織に敗北した、冷田だ。 冷田「三人とも、もう帰りの会が始まるぞ。」 優馬「ああ、すぐ行くよ。」 優馬がそう言うと、冷田はうなずいてから静かにドアを閉めた。 すると、隼人がベッドから起き上がり、教室に向かおうとする。 優馬「おい!もう立っても平気なのか?」 隼人「言ったろ?この程度じゃオレはやられねぇよ。・・・オラ、とっとと教室行くぞ。」 ―――最後の帰りの会。 武田「皆本優馬くん、田村沙織さん、平岡隼人くん、合格おめでとう!明日からはM機関での任務ですね。たくさんの功績をあげることを、期待しています。さて不合格だった人たち、M機関には入れませんがここ、Mスクールで学んだことをこれからの生活に生かしていってほしいです。・・・・・以上!!我がクラスは・・・・え・・・永遠に・・・こ・・れで解散・・・です・・・・!!」 隼人(・・・・武田さん。) あの武田光秋が生徒に泣き顔を見せた。多くの生徒はこれが初めてであろう。 その武田の姿を見た瞬間、この教室の全生徒が声を張り上げ号泣した。思いは様々だろう。 このクラスを離れるのがいやな者。クラスを離れてよかった(!)者。卒業できて嬉しい者。 卒業できずくやしい者。実に様々だ。滅多に泣き顔を見せない田村や泣き顔が似合わない優馬、 あの隼人でさえ泣いていた。・・・しばらくして教室はまた今度会えるよねだの、元気でねだので ざわつき、そして教室には誰もいなくなった。・・・・さて、次はM機関だ。頑張れ!優馬・沙織・隼人!
https://w.atwiki.jp/sw-kou/pages/23.html
ワイエル戦記第三話 プリプレイ レベルアップ ラムル:ファイターLv2→3 ニムレ:プリーストLv2→3 ―小さな暗殺者― 登場PC:全員 GM:マーレットへの進軍の準備をしていると、いつものように関所の司令官だった男が近づいてきました。名前はシリウスです。 GM/シリウス:「ヴァステン様、マーレットの情報をつかんできました。」 ヴァステン:ぺこりと挨拶をしてから「早速聞かせてもらっても宜しいでしょうか」 GM/シリウス:「はい、アレクドリア王の情報どおりクーデタが起こったようです。まだ市民の暴動レベルですが、南朝は介入しようとしております。マーレットを南朝に取られてしまうとエンドレル攻略の不安材料となるので抑えておくべきだと思います。大きな軍事力を持っているわけではないので市民と接触できれば我が軍の力を必要とするでしょう。」 ヴァステン:「そうだね。急ごう」 GM/シリウス:「わかりました。準備でき次第向かいましょう。」 ヴァステン:「市民か…。」 市民側、国側どちらにつくかなど話し合いをしたが、とりあえず出ようということになった。 GM:マーレット郊外に到着です。 マーレット郊外につくとクーデターが起きている割には静かな街が見えます。もちろん戦闘があったような形跡はあります。 ラムル:「ここがマーレット郊外か・・・。随分静かじゃねぇか」 ヴァステン:「まさか、もう鎮圧済とか……」 静かな町を見渡す。 ラムル:「さぁなあ。」 GM:危険感知お願いします。 エリック:ぬお、いきなり! 一同:(コロコロ) GM:5以上の人は成功です。 一同:成功。 GM:4人の少年が短剣片手につっこんできますが、成功した人は回避しました。 ヴァステン:「わっ……とと」 ラムル:「おっと。」 エリック:「踏み込みが甘い。」(ひょい ニムレ:捉えられるなら捉えます。 GM:できますよ。 ニムレ:「捉えよ」部下に捕らえさせます。 GM:「うわぁ!?離せよ!」一人の少年が叫びます。 ニムレ:「斥候は何をしていた?!なんだこの始末は?!」 ラムル:何歳くらいのやつでしょう? GM:10歳前後です。 ラムル:んじゃあ、しかめっ面で「なんだぁお前は。ぶっそうなもん振り回して」 ヴァステン:「近付いて「何故こんな事を?」 GM/子供:「お前ら、マーレットの援軍だろ!」 ニムレ:「ならばどうする気だ?」 GM/子供:「もちろん、やっつけるさ!」 ニムレ:「勇敢だな。この軍勢を見て恐怖を覚えなかったのか?」 GM/子供:「先生の仇だからな!怖いわけないだろ!」 ヴァステン:こんな子供まで戦場に出ようとするなんて……と、暗い表情になります。 エリック:「その勇気はいいが、その前に相手がどこの軍か見分ける知恵を手に入れるべきだろ。」 GM/子供:「え?だってエンドレルだろ?」 エリック:・・・GM、うちらってまだエンドレルの旗立ててます? GM: 立ててるんじゃないんですか・・・?エンドレルとして同盟したぐらいですから。 ヴァステン:新ファレル同盟(仮)で旗なり用意する時間ってまだないんじゃなかろうか(笑) ニムレ:翌日だったしなー。 ラムル:「おい、坊主。気にすんな!この旗は飾りだ」 GM/子供:「じゃあ何者だよ!?」 ラムル:「う~ん、なんていえばいいんだろうなぁ」 ニムレ:「お前を捕らえたものだ」槍を首先に付きつけます。 GM/子供:「う・・・子供に手を上げるのかよ!」 ニムレ:「お前は捕虜となった。お前の命は私の一存で決まる……。わかっておろうな?」 ラムル:「ニムレ。そういじめるなよ。」 GM/子供:「殺すのか・・・?」恐怖で顔が引きつります。 ニムレ:「子供であろうと刃を向ければ敵だ……。戦場を甘く見るな。しかし、お主が敵で無いならば力を貸さぬことも無い。」 GM/子供:「助けてくれよ!いいこと教えてやるからさ、な?」 ニムレ:「話すが良い。」 GM/子供:「その代わり条件があるんだぜ!マーレット軍じゃないってならいいぜ!」 ニムレ:「これは交渉では無い……」槍を軽く突き出しますよ。 エリック:「そう脅すものではないだろう。我らは場合によっては反乱軍に加勢する為にきたのだ。」 ラムル:「ま、そういうことだ。さぁ坊主。お兄ちゃん達に話してみ」と奇妙な笑みでいいます。 GM/子供:「ほんとか!?俺らは反乱軍の少年隊なんだぜ!反乱軍のリーダーに会わせてやってもいいぜ」 ヴァステン:ほっと背後で胸を撫で下ろしつつ「リーダーは何処にいるのかな」 GM/子供:「ついて来いよ、ただしお前ら4人だけだからな」 ヴァステン:「……うん」 少年に連れられて森の奥に進む4名。しばらくすると目の前に小さな洞窟のようなものが見えてきたのだった。 ―青のソフィア― 登場PC:全員 GM:洞窟の目の前には門番らしき人にいた。少年が話しかけると門番は近づいてきた。 GM/門番:「失礼、エンドレル軍ではないのでしょうか?」 ニムレ:「貴軍は将への礼も知らぬのか?この期に及んで疑うか?」と、強気で行きますよ。 エリック:「諸君らと似たようなものだ。」とちょっと匂わせる感じでいきましょうかね。 ヴァステン:「似たようなもの……そうだね」と苦笑する。 GM/門番:「子供達からの話ですから。ここが知れると市民すべてに危険が及ぶのです。」 ニムレ:「兵を連れずに来た事が証明にならぬか?子供を放し後をつけることも出来たのだぞ。」 ラムル:「しかしまぁ、隠れるには最適なところだなここは」 GM/門番:「失礼しました。では我がリーダーソフィアに会ってもらいましょう。」 ニムレ:「案内いたせ。」 GM/門番:「一本道となっておりますので、一番奥の部屋へどうぞ」 ヴァステン:「失礼します」 どきどきしながら侵入。 ニムレ:「殿下。腰が低い事も大事な事ですが、状況によっては厳格な態度も大事です。」 ヴァステン:「……うん、分かってる」 GM:洞窟は薄暗くじめじめとしていた。そして奥の部屋にはいるとそこには3人の人間がいた。 GM/ソフィア:「あなたは・・・力を貸してくれると言う軍の方でしょうか?」青い髪の美しい女性が話す。 GM:そして二人の男はさっと女性を隙なく守るように立ち上がる。 ニムレ:「無礼者!闇討ちをすると思ってか!」男を怒鳴りつけますぞ。 GM/男:「失礼しました。仕事柄体が動くのです。」 エリック:「ニムレ。ちょっとは落ち着けよ」と耳打ちします。 ヴァステン:「僕達はまだ互いを知りません。警戒も当然だと思いますよ」 ニムレ:「相手を信用しないものと交渉など……。そうではないか?」 GM/ソフィア:「失礼しました。お前達下がりなさい」と男たちに命令し、男たちは無言で部屋を出て行きます。「さあ、おかけになってください」 ニムレ:「うむ。」 GM/ソフィア:「まずは私たちを知ってもらいます。私達は宰相ロイドの圧政に耐えかね立ち上がった者です。兵力は2000を超えますが、実際戦えるのは半分でしょう。そして私はソフィア。反乱軍のリーダーそしてロイドの娘です。」 ニムレ:「幼き子供も戦っているようだな」 GM/ソフィア:「彼らには安全な仕事をしてもらってるつもりですが・・・?」 ニムレ:無言で続きをどうぞと促します。 ソフィア:「続けます。現状では圧倒的な軍事力の差で反乱軍は劣勢です。そこで私達はロイドの暗殺を計画をしています。こんなところでしょうか。私達にもあなた方のことをお教え願えませんか?」 ヴァステン:「分かりました。僕達はアレクドリアに拠を置く新ファレル同盟の一員として来ました。出身はエンドレルですが、故あって現在のかの国とは行動を別にしています」 GM/ソフィア:「なるほど、私達に協力してくださるのでしょうか?」細かい話も聞いたと言うことにします。 エリック:「一つだけお聞かせ願いたい。あなたが自らの父を殺す以外に道はないのでしょうか?」 GM/ソフィア:「あるのかもしれません、しかし私はそうする道しかわかりません・・・。何度も父とは話しました。しかし父はもう誰の言葉も耳に届かないようでした・・・。そして市民と接触し成り行きですが、こうなったと言うわけです」 エリック:「そして自らの手で打つほか無しと・・・。良くぞご決断なされました。」 GM/ソフィア:「しかし、父は周りに何人もの護衛を置きことごとく失敗しているのです。特にローウェン将軍にはとてもかないません。」※二話参照。 エリック:ああ・・・・・・・・・・・・どうしよう、帰りたくなってきた(爆 ヴァステン:ははは(笑) ニムレ:勝てませんが(笑) ヴァステン:「かといって正面から挑むのも無茶ですね……。」 GM/ソフィア:「ええ、もとよりローウェン将軍に勝つことは目的ではありません。父を暗殺し、ゼノ・マーレット様に政権を返すことが出来ればよいのです。」 ゼノ・マーレット マーレット家当主。80歳を超える老人で、同盟の中でも力を持っていた。 北朝側につき、その援助もありファレル同盟最大の勢力を誇るようになる。 しかし、数年前より病を患い床に伏せているという。 GM/ソフィア:「いかなローウェン将軍といえどゼノ様に逆らうことは出来ません。どうでしょうか、反乱軍に協力してもらえるでしょうか?」 ニムレ:「あまり関係の無いは無しかも知れぬが、子供が先生の敵などと言っておったが。」 GM/ソフィア:「あの子達は孤児院の子達で、税金が払えなく先生が自殺してしまったそうです・・・。」 ニムレ:「具体的に何をすれば良いのだ?」 GM/ソフィア:「敵軍の陽動、または暗殺の実行をしてもらいたいです。できることならロイドの捕縛の方が望ましいですが・・・。」 ニムレ:「で、父を殺してその後はどうするのであろう?」 ヴァステン:「失礼な言い方かもしれませんが、二の舞が懸念されますね……」 GM/ソフィア:「・・・私がなんとかいたします。反乱軍の勝利となれば新政府を作ることも可能でしょう。」 ヴァステン:「分かりました。微力ですが、持てる力で最善を尽くすと約束しましょう」>ソフィアに。 GM/ソフィア:「ありがとうございます。では作戦の話にはいりましょう。ローウェン将軍は戦闘が起こると必ず指揮をとります。つまりその時がチャンスなのです。」 ヴァステン:「ロイドは戦場にはまず出てこないと?」 GM/ソフィア:「ロイドは自室にいるでしょう。もっとも安全な場所ですから。私が逃げた隠し通路なら知っているのですが・・・。いままで私達は使っていないので警戒はしていないと思います。」 ニムレ:兵は連れて行けるのかな? GM:兵は連れて行けません。陽動の方にまわるなら連れて行けます。 ラムル:「なるほど。隠し通路を通れば城まで一直線か。」 ニムレ:「こちらに援助は一切して貰えぬのか?」 GM/ソフィア:「暗殺は少数精鋭でお願いしたいです。陽動の場合は軍を指揮して構いません。」 暗殺か陽動のどちらかを考える。結果全員暗殺に行くことになる。 GM/ソフィア:「では私たちが軍の陽動をいたします。合図として開始時に狼煙をあげます。申し訳ありませんが、直接私室と言うわけではないのです・・・これが地図です。赤丸のところに繋がっています。近衛兵の部屋となっていますが、戦闘時は誰もいません。そして青丸のところがロイドの部屋となっています。決行は今夜0時、奇襲をかけます。」 GM:一人100Gまで自由に使ってください。反乱軍は資金源ないのでこれが限界と言うことで。 GM/ソフィア:「他に質問があれば応えられる範囲でお答えします。」 エリック:「・・・陽動ですが、単独戦力ではどれほどなら持ちこたえられる見込みですか?」 GM/ソフィア:「30分ほどが限界ではないでしょうか。」 GM:時間は違うのですが5ラウンドです。ロイド暗殺の6ラウンド目にローウェンが来ると思ってください。陽動した場合は5ラウンド+陽動ラウンドです。逃げるのは自動成功ということで。 GM/ソフィア:「他に質問はありますか?」 エリック:「部屋を出てからロイドの部屋までの距離はどのくらい?」 GM/ソフィア:「そうですね・・・ほんのすぐそばです、20mほどでしょうか」 エリック:・・・もしかして1ターン目に部屋まで辿り着いて攻撃できるのって俺だけ? ここで作戦会議。簡潔にまとめるとやばくなったら逃げる(笑) GM/ソフィア:「今夜0時に開始します。それまで自由に準備をしてください。外の者に言えば隠し通路の場所までお連れします。」 そして時計の針は0時の時を刺すまで残り数分となった・・・ ―作戦決行― 登場PC:全員 GM:午前0時前、隠し通路の入り口の前に到着した。しばらくすると正門のほうで狼煙が上がり、戦闘が始まったようだ。 ニムレ:マップに入る直前にフィールドプロテクション。 GM:PCたちは隠し通路を進み城内に侵入した。部屋の外からスタートです。 ラムル:「ふぅ。やっと広いところに出られたな。」 エリック:「静かに。ここからが本番です。」 ラムル:「お、悪い悪い。」 GM:1ラウンド目です。 エリック:ではそそくさと扉の前まで通常移動。突入は次のたーんかな。無事に辿り着けたら聞き耳します。 GM:2つ目の曲がり角で人の気配を感じます。近いので判定しなくてもわかります。扉の前に一人人がいます エリック:じゃあそのまま強襲。待っていても仕方ない。 GM:隠密判定お願いします。 エリック:(コロコロ)17です。 GM:おお!そりゃ成功です。 ニムレ:さすがグラランだな(笑) エリック:どうやら今日の俺はアサシンのようだ(笑) GM:死角から現れたエリックの刃は一撃で肺を貫いた。 ヴァステン:僕も全力移動しておくかなー。 ラムル:んじゃあ俺も全力移動でおいつくぜー。 GM:2ラウンド目です。PC側の不意打ちということでいいですよ。 エリック:では先陣を切らせてもらおうかな~。弓に持ち替え、部屋をバンと空ける。 GM:A,Bがいます。 エリック:弓矢を構えて宣言しよう。「ロイド、直接の恨みはないが貴君の命、貰い受ける!」 GM/ロイド:「な、何者だ!?お前らやってしまえ!」奥の部屋へ逃げます。 ラムル:「俺はあんまり乗り気じゃないんだけどなぁ」とボソっと呟きながら剣を構える。 魔物判定の結果Aはボガード、Bはレッサーオーガとわかった。 そしてボガードのみ弱点がわかる。 エリック:乱戦エリアまだ形成前だから直接ロイドを撃ちます GM:ロイドへはなんらかの力でできませんでした(笑) エリック:(笑) ニムレ:なんらかってなんだよ(笑) ヴァステン:なにごと(笑) エリック:ではロイドを狙った凶刃をAがかばったということで(笑) GM:そういうことで(笑) エリック:(コロコロ)17!目がさっきから飛んでる(笑) GM:ダメージどうぞ。 エリック:(コロコロ)2,1の8・・・なんてこった!「ロイド様、速くお逃げくだされ!」「く、こいつできる!」 ヴァステン:僕も乱戦エリアが出来る前に数拡大ファイアボルト撃つよー。 エリック:Aを瞬殺して、急いで追いかけるか。 ヴァステン:(コロコロ) GM:Bは抵抗ですね。 ヴァステン:(コロコロ)Aは2,1の6。(コロコロ)Bは8。 エリック:Aの変転すれば消し炭にならんか? ニムレ:ぁ、クリティカルになりますね。 ヴァステン:ふむ。支持が多ければヤルヨー。 エリック:無改造なら残り14だから狙う価値あるかと。 ニムレ:行こう!敵が減れば受けるダメージも減る。 ヴァステン:運命変転で(コロコロ)クリティカル、クリティカル! ごめんやりすぎた(笑) ラムル:おおーーーーーー。 エリック:ちょ・・・(笑) GM:ひどい・・・(笑) ニムレ:これで生きてたら凄いな(笑) GM:Aは文字通り消し炭になりました(笑) エリック:変転分加えて32ダメージ・・・・・。 GM/B:「ハンス!?おまえら何者だよ・・・」 ヴァステン:「………」無言で正面を見据える。 ラムル:ハンスっていうのか(笑) エリック:王子、何か覚醒してませんか?(爆笑 ニムレ:妖精ぢからに飲みこまれちゃダメ(笑) ラムル:王子がフォースに取り付かれたようだ(笑) ヴァステン:ダークサイドはどっちかなうふふ(笑) ニムレ:ここはフォースで行こう。(コロコロ) GM:抵抗ですね。 ニムレ:(コロコロ)3点どうぞー ラムル:んじゃあBに切りかかりますか全力攻撃で(コロコロ) GM:不意打ちなので当たってます。 ラムル:(コロコロ) GM:12点もらいました。ではこっちの番かな?ラムルに攻撃します。命中12、ラムルの回避-2ですのでー。 ラムル:はーい(コロコロ)当たりました。 GM:くらえー(コロコロ)10点! ラムル:しかし、フィールドプロテクションという加護が俺にはある!5点貰いました~。 GM:ではPCの手番です。3ラウンド目。 エリック:射撃せずにまずは通常移動で追いかけます。 GM:開けるとそこは大きな寝室で、老人がベッドに寝ています。ロイドはその部屋の隅で小刻みに震えているようです。 国を牛耳っていた男の姿にはあきれ果てるしかなかった。 ―もう震えて命乞いをすることしか出来なかったのだから・・・ ―盟友マーレット― 登場PC:全員 GM/ロイド:「うわぁ!?く、くるな・・・くるなー!」ロイドは殺すといえば殺せますし、捕縛と言えば捕まえられます。 エリック:ではバックラーを落としてショートソードに持ち替えて、喉元に刃をつきたてて脅す準備OK。殺すのもあれですから。 GM/ロイド:「ひぃ!助けてくれ!いくらほしい?金ならあるんだ」 エリック:「カネが欲しくないといったら嘘になるが、とりあえず目的は違う。」あっても困るものじゃないし(笑) GM/ロイド:「ならなんだというのだ!?目的は!?私の首だろう?それだけは勘弁してくれ!」 エリック:「貴君の退陣。そのために貴君の命を奪うことも辞さないつもりだ。」 GM/ロイド:「なるほど・・・な。しかししばらくすればローウェンがくるぞ。外を見るといい、もう戦闘は終わっているではないか!」 エリック:「それまで貴殿が生きられればよろしいがな」といってニタリと笑う子供。 GM/ロイド:「く・・・わかった。降参だ・・・命だけは助けてくれ・・・。」泣きながら懇願してきます。 ラムル:「まぁ、大人しくしてればいいんだぜ?」といいながらロープを身体に巻きだす。 ヴァステン:「ご決断に感謝します」 簡潔に。 エリック:「不甲斐ない。だが貴殿の娘に免じて生かしておこう。」とソフィアさんを立てておきましょう。 GM/ロイド:「ソフィアか・・・」 GM:その時部屋にローウェンが入ってきます。 GM/ローウェン:「ロイド様!・・・お前らはアレクドリアの・・・!」 GM/ロイド:「もうよい、私は降ったのだ・・・。」 GM/ローウェン:「しかし・・・はい・・・。」 ニムレ:「退け……。我らの勝ちだ。」 GM/ローウェン:「やはり外の軍は陽動か?」 ヴァステン:「剣をまみえればそれ位一目瞭然ですよね?」 GM/ローウェン:「あたりまえだ、だからこうして帰ってきたのだ。」 エリック:「聞け!現時点を持ってロイド殿はその全権限をゼノ・マーレット様に返納し、その補佐として娘のソフィアをつけることで自らは隠居なさることをお決めなされた!」 ニムレ:しかし、ソフィアはまだ若い。よって、後見役として云々も付けたそう。 GM/ローウェン:「ふむ・・・もうそろそろ時間だな。ゼノ様が起きられるぞ」 GM:するとゼノは目を開いた。 GM/ゼノ:「なんじゃ・・・騒がしいではないか。」見た感じではぴんぴんしております。 エリック:「おはつにお目にかかります。我ら新ファレル同盟からきたものでございます。」 GM/ゼノ:「新・・・?どういう意味じゃ?」 ヴァステン:「最早旧来の同盟は形を失ってしまった、という事です」 GM/ゼノ:「よく状況が飲みこめんの・・・」 ニムレ:ゼノの診察がしたいです。 GM:どうぞー ニムレ:(コロコロ) GM:異常はまったく見当たりません。 ニムレ:将軍はこの部屋にいるんですか?いるならば、外に退かせたいのですが? GM:将軍いますね。 ニムレ:退かせて良いかな?ゼノの命令を聞くとか言ってたので。 GM/ローウェン:「下がれと?いいだろう」ローウェンは部屋の外へ行きました。 GM/ロイド 「ゼノ様を診察しても無意味だ」ぶつぶつと言い始めました。「もとより病気などない。ずっと眠っていてもらっただけだからな・・・」 ヴァステン:「やはり貴方の生み出した風評ですか」 エリック:「親が子を謀り、子が親を殺す。我々はそんな時代を終わらせたいのです。」最近の情勢をゼノにかたります。 GM/ゼノ:「ふむ・・・わしの眠っていた間にな・・・。このマーレットをもう一度興さねばならんようじゃな。すまぬが、ずいぶん寝ていたせいで体が思うように動かぬ。」 ニムレ:「では神の癒しを……。」 GM/ゼノ:「おお、すまぬな。すこし、ロイドと2人にさせてはくれんか?隣の部屋で待っていてほしい。大丈夫じゃ、わしは真語魔法を修めておる。」 ニムレ:眠らされてたじゃんって突っ込みたいのだが(笑) ヴァステン:良くこの人を眠らせたものだ(笑) ニムレ:まあ、縄で縛ったままで良いなら二人きりでも良いですよ。 GM: 縄はそのままでいいです ニムレ:では、OK ヴァステン:ローウェンと話でもしつつ待つかなあ。 ニムレ:ですね。 GM/ゼノ:「まあ年寄りの説教と言うやつじゃ、ひっひっひ」 GM:ではローウェンいきましょうか ヴァステン:「ゼノ様が眠らされていた事はご存知だったのですか」 GM/ローウェン:「ああ、ロイド様の部屋にある杖だ。それで眠らせていたらしいな。私は戦える場所がほしかっただけだからな。」 ヴァステン:「……そうですか。」 忠誠篤いタイプだと思ってたのでショックだw GM/ローウェン:「しかし、ロイド様は間違っていたとは思う。」 ヴァステン:「人間はどうして間違えてしまうんでしょうね。」 GM/ローウェン:「間違って生まれてきたのだろう。私は学問を修めていないから答えはでんさ・・・」 ニムレ:「間違いなどありません。間違いと思ったときに全てが間違いになるのですよ」 GM/ローウェン:「そういえば、貴殿らに悪い知らせがある。」 ニムレ:「なんでしょう?」 GM/ローウェン:「マーレットはファレル同盟に降伏したが、エンドレルはマーレットから独立。一国家として北朝についた。」 ヴァステン:「凶報には慣れていますよ」 小さく笑って。 GM:すると隣の部屋の扉が開いた。 GM/ゼノ:「終わったぞい。来てもらえるかの。」 ニムレ:では、部屋に移動しましょう。 GM/ゼノ:「マーレットは新ファレル同盟に降る。そして新ファレル同盟の一員として迎え入れてはくれぬか?そしてロイドは刑に服すと自分から言うのでな、地下牢で人生をすごしてもらおうと思う。」 ヴァステン:「……宜しいのですか?」 押しの弱い僕だった。 GM/ゼノ:「何がじゃ?それはわしのセリフじゃろう」 ニムレ:「ならば……エンドレル攻略の折に力添えを頂きたい。」 GM/ゼノ:「うむ、それはもちろんである。ローウェンの部隊を従軍させることでかまわんか?」 ヴァステン:「は…はいっ。此度のご英断に心より感謝申し上げます!」 ニムレ 「もうひとつ。我らが主をエンドレル領主である事を認めて頂きたい。」 GM/ゼノ:「何を申されるか、ヴァステン殿以上の領主はおらん。」 ニムレ:「我らが領地を取り戻し、戴冠式を行う際はご出席をして頂けると受けとって宜しいか?」 0GM/ゼノ:「うむ」 ヴァステン:「えっ…と。ニムレ、まだそういう話は早いんじゃないかな。」←領主は弟が適任だとか本心思ってる人 ニムレ:脚を踏む しれっと(笑) ヴァステン:うわん(笑) GM/ゼノ:「では新たな盟友を国民に知らせようかの。ヴァステン殿共に来てくれ。」 ヴァステン:「僕なんかよりゼノ様のお元気な姿をお見せするのが先ですよ」 GM/ゼノ:「いや、貴殿もおらんとダメなのじゃ」と袖を引っ張られ正門向きのテラスへと連れ出される。 ヴァステン:「ゼノ様、力つよっ!?」 GM/ゼノ:「国民の皆!しばらくの間苦しい思いをさせ申し訳ないと思う!しかし、いまここに新たなるファレル同盟としてマーレットは復活することを約束する!」 ――反乱軍だったであろう人やいままでおびえながら暮らしていたであろう人、あらゆる人が正門に集まり歓声をあげた ――その声はずっと続くかのように長く続いたのだった・・・ To be continue・・・
https://w.atwiki.jp/sengoku3/pages/376.html
濃姫の章・第三話「金ヶ崎撤退戦」 この無双演武は、戦国無双3・通常版ではプレイ出来ません。 濃姫の章・第三話「金ヶ崎撤退戦」あらすじ 戦況(解説者 竹中半兵衛) 勝敗条件 武将データ イベント ミッション 撃破効果 アイテム配置 攻略アドバイス 無双演武一覧 あらすじ 濃姫は自らの手で斎藤家を滅ぼし、 乱世の呪縛をひとつ解いた。 美濃を得た信長は、 次に越前の朝倉家を攻める。 朝倉は浅井長政に救援を求めた。 だが、長政は信長の盟友であり、 妻は信長の妹・お市であった。 長政は苦悩の末、朝倉に協力し、 織田を討つことを決断する。 長政の裏切りで、織田家は 挟み撃ちに遭い、退路を断たれる。 桶狭間の窮地を彷彿させる 絶体絶命の危機である。 信長の運命に、乱世の宿命に 濃姫は再び弄ばれることになる。 戦況(解説者 竹中半兵衛) あっちゃー…。 あーあー長政さん、裏切っちゃったかー。 前も後ろも敵だらけ、こりゃ絶体絶命だね。 こういう時こそ、俺の神算の出番! この窮地を逃れられる方法が、一つだけある。 森を通り西砦、中央砦、東砦と抜けるんだ。 長政さんやお市さんの懐に入り、虚を突く! 敵中突破って奴だね。 さ、姫様、一緒に逃げよ。 こんなとこで死んじゃダメだよ。 勝敗条件 勝利条件 織田信長の脱出地点への到達 敗北条件 織田信長の敗走 武将データ 織田・徳川軍 備考 浅井・朝倉軍 獲得 備考 織田信長 総大将 浅井長政 装備品 浅井軍・総大将ミッションNo.5の撃破対象 羽柴秀吉 磯野員昌 巻物 明智光秀 新庄直頼 素材 撃破効果No.2の撃破対象 濃姫 プレイヤー 宮部継潤 素材 竹中半兵衛 遠藤直経 巻物 撃破効果No.4の撃破対象 池田勝正 赤尾清綱 素材 朽木元綱 海北綱親 巻物 徳川家康 織田信長が中央砦に接近すると出現 朝倉景恒 素材 ミッションNo.1の撃破対象 酒井忠次 真柄直隆 素材 撃破効果No.3の撃破対象 榊原康政 山崎長徳 素材 撃破効果No.1の撃破対象 富田長繁 巻物 ミッションNo.1の撃破対象 溝江長逸 素材 六角義賢 装備品 河合吉統 素材 南の森の伏兵として出現ミッションNo.3の撃破対象 前波吉継 素材 朝倉義景 装備品 ミッションNo.2達成後に出現朝倉軍・総大将 魚住景固 巻物 ミッションNo.2達成後に出現 高橋景業 装備品 お市 装備品 ミッションNo.2達成後に出現ミッションNo.4の撃破対象 イベント クリア後、ムービー「千草越」が流れる。 ミッション 番号 内容 備考 No.1 味方の進路を確保するため、朝倉景恒と富田長繁を撃破せよ! 達成後、西砦北門が開門織田軍が西砦へ進軍開始 No.2 織田信長を中央砦まで護衛せよ! 発生時、南の森に伏兵が出現織田軍が西砦で待機達成後、朝倉軍の援軍が出現朝倉軍が織田信長へ進軍開始織田信長が東砦へ進軍開始お市が出現 No.3 3分以内に、南の森の伏兵を撃破せよ! 終了後、織田軍が中央砦へ進軍開始 No.4 東砦を突破するため、お市を撃破せよ! 達成後、東砦北門が開門織田信長が脱出地点へ進軍開始北東砦がすべて開門 No.5 浅井長政を撃破せよ! 達成後、北砦東門が開門 撃破効果 番号 内容 効果 備考 No.1 撃破数が100以上で山崎長徳を撃破 浅井・朝倉軍の防御力が一定時間低下 No.2 織田・徳川軍の武将数が5人以上の状態で新庄直頼を撃破 浅井長政の攻撃力が一定時間低下 No.3 携帯道具が未使用の状態で真柄直隆を撃破 石高を獲得 No.4 体力ゲージが赤い状態に一度もなることなく遠藤直経を撃破 武器を獲得 アイテム配置 携帯道具 壱 団子 団子 団子 大盛御飯 大盛御飯 大盛御飯 弐 団子 団子 大盛御飯 黒漆太刀 戦草鞋 荒御霊 参 団子 黒漆太刀 戦草鞋 戦草鞋 陣太鼓 陣太鼓 攻略アドバイス 無双演武一覧 第一話 第二話 第三話 第四話 第五話 桶狭間の戦い 稲葉山城の戦い 金ヶ崎撤退戦 木津川口の戦い 本能寺の変
https://w.atwiki.jp/gikobouken/pages/16.html
第三話 『ショーボ=ショボン』 「常盤に着いたよ。擬古君。とりあえず、まあ。フレンドリィショップに行く事をオススメする」 喪羅々は、青い屋根と看板にモンスターボールがプリントされている建物を指差しながら言った。 「そうですか。親切にどうも」 そう言いながら、擬古はフレンドリィショップに歩いていった。 ―フレンドリィショップ― フレショ 擬古がフレンドリィショップに入ると、しょぼくれた顔の店員がカウンターに座っていた。 擬古が店内に入りきると、しょぼくれた顔の店員が、『こっちに来い』と、手招きをした。 「やあ、ようこそ。フレショへ。ところで、この傷薬はサービスだからよく考えて使ってほしい」 そう言って傷薬を擬古に差し出した。 「君は見たところ、真白村から来たようだね。帰るついでに、大城戸博士に、この封筒を渡してほしい。ついでに言っておくが、これはヤマシイ物では無いぞ。僕の曾々祖父さんが、これを言い忘れて、オーキドと言う昔の博士を殺しかけてしまったんだ」 ~~~~~昔の事(ト書き)~~~~~ 部雲=(^ω^) ピカチュウ ツン(なぜか喋れる)=ξ゚⊿゚)ξ -小略- (´・ω・`)「と、言う訳だ。わかったか? 小僧」 ( ^ω^)「わかったお! わざわざ丁寧にありがとうだお!」 (´・ω・`)「そうだ、小僧。マサラタウン出身だと言ったよな?」 ( ^ω^)「そうだお ?どうかしたお?」 (´・ω・`)「丁度よかった。実はあそこの博士にあるブツを頼まれててな。お使い頼まれてくれんか?」 (*^ω^)「わかったお! お礼に言ってくるお!」 ξ゚⊿゚)ξ「あー…もう。全くバカじゃ無い。せっかくここまで来たのになんでそんなの頼まれるのよ…」 ( ^ω^)「感謝には感謝で返さなきゃだめだお!」 ξ゚⊿゚)ξ「は? 意味わかんないし」 (;^ω^)「・・・・」 と言うことでオーキド博士は、色々あってこの後殺されかけた。 ~~~~~昔の事~~~~~ 「と言うことだ」 「そ、そうかゴルァ」 擬古は、行くかどうか決める前に、 「そのまえにあんたの名前を教えてくれないか? ゴルァ」 と尋ねた。 「俺かい? 俺は、ショーボ=ショボンだ」
https://w.atwiki.jp/rakatonia/pages/43.html
第三話 鍬もって畑の手伝いする三歳児、ほほえましすぎるとは思いませんか? でもなんか周りの目が「ほほえましい」って感じじゃないのが気になるよね。 ……なんでだろ? 俺、超がんばってるのに。 新しい畑開拓しちゃいけないってのか! ぷんぷん! ……あれかな? こないだこっそり食い物パクッたのがばれたのか? それとも勝手に作ってる木工細工がいかんのかな? さすがに村のマスコット作って売るのはやりすぎたかもしれない。 かわいいのにせん○くん。 みんな俺の器用さに嫉妬しているんだね、わかります。 というかそういうことにしておかないと、へこみそうな今日この頃です。 ともあれ、俺の村での評判は置いておくとして、前世じゃ全然運動とはかけ離れた生活をしていたせいか、毎日がとても新鮮であるのは間違いない。 多少無茶な事したって子供だからですんじゃうし、乳児の時からの筋トレのおかげか色々とハイスペックなのは特典といえば特典なんだろうから、しっかり利用させてもらわないともったいない気もするしね。 ああ、そうそう。 木工細工で思い出したけど、とりあえず紙を一から作るのはやめたよ。 森を切り開いているから、木材が割りとあるので、とりあえず木簡みたいなのからはじめてみた。 木の巻物みたいな奴ね。 墨もがんばったけどこれでいいのか? いいか書けるから。 「もういいかげんにしときなさい」 心配そうな呆れたような母ちゃんから窘められたけど、仕方ないんですよママン。 こればっかりはゆずれんのです。 だって大豆育てなきゃならないし? 米食わなきゃならんし? 一人じゃいくら時間があっても足りません。 やっぱり健全な魂は健全な肉体に宿るんですよ? ジャパニーズフードの底力みせてやるぜ! 貴族? 大丈夫だって! あいつらどんぶり勘定だから、畑が少し増えたって気がつきゃしないよ。 ああ、でもさすがに地下でカビ育ててたら、怒られちゃったけどね。 意地でも取り返させてもらいましたが。 だってそうだろう? 麹の栽培は、異世界に召喚された日本人の義務じゃね? ……違いますかそうですか。 でも心配すんなよ父ちゃん母ちゃん、悪いことじゃないんだってば。 え? 無理? そうかなぁ?
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/2344.html
488 名前:愛と憎しみ 第三話 ◆O9I01f5myU[sage] 投稿日:2011/08/02(火) 21 57 24 ID jhtXEcPc [2/6] 3 夜。幸人はベッドの中でぐっすりと眠りについている。それを視線の端で確認した香山はこっそりと抜け出し、寝室を後にする。その足先は玄関を向いていた。 物音を立てない様に外へ出て、県道伝いに駆けていく。漆黒の帳が下りた住宅地の中、街灯を頼りに町の中心へ行く。遠い距離でもないのでそれ程時間も掛からない。 変質者に悩まされている市町村もあるだろうが、この町ではそういった悪い噂は聞かない。過信こそ禁物ではあるが、夜でも比較的安心できる。時折男とすれ違うものの、こちらに関心も示そうとしない。 夜でも営業している店は数多い。中心地ともなるとそれは顕著で、真夜中であるというのに目が眩む。点々とした街灯のみの明かりでは足元が少しおぼつかないが、これだけ光源に溢れていればもうそんな心配もいらなかった。 光に包まれた町の中を歩み進んでいく香山。やがて一つの店の前に立つと、その中へと吸い込まれる様に入って行った。電飾の飾られた看板には、ネット喫茶の大手チェーン店の名前が大きく描かれている。 平日の真夜中には似つかわしくない、若い男女の散りばめられた中を案内された部屋。香山は一息吐くと、椅子に腰を落とし、パソコンを起動させた。 アクセスしたのは、インモラルな話題を多く扱ったコミュニティサイトだった。殺人事件やカルト宗教、レイプ、ヴァイオレンス、自殺、果ては公開処刑の映像の投稿もされているホームページだ(動画については海外の投稿サイトのからの転載である事が殆ど)。 掲示板が各ジャンル毎に分けられており、香山はその中の一つのスレッドを開いた。 シークバーを下す。数多の文字が下から上へと駆け昇っていく。香山の瞳は左右へ揺れ動き、その流れを追う。 合間に画像もアップされており、それにも勿論目を通す。週刊誌からスキャンした物、ニュースサイトからの転載、個人が撮影した物とあるが、どれも似通った物ばかりで、香山の求めている物ではない。個人がアップした物に至っては、事件現場の外観を写した程度の物でしかなく、論外だった。 情報の力というのは侮れないもので、少年法によって保護された未成年犯罪者をも割り出してしまう。十二歳で殺人を犯した少年や、少女を輪姦し、死に追いやった少年グループも露にされている。 489 名前:愛と憎しみ 第三話 ◆O9I01f5myU[sage] 投稿日:2011/08/02(火) 22 00 23 ID jhtXEcPc [3/6] 一度どこかがそれを明らかにしてしまえば、後はそのデータが瞬く間に蔓延していく。栄養を得た細菌と同じだ。この手のコミュニティサイトはそういった各地に広がった情報を各自がかき集めてくるので、データの蓄えが豊富にある。 一見、断片的で役に立たない様な残滓でも、数が揃えば互いを補完し合い、一端の情報になり得る。このサイトも発足当時はその様な形で、雑誌やニュース、新聞の流し読みで得た知識を若干数の人達が世間話程度に交換するぐらいであったのが、年月を経ていく内に人数は集まっていき、やり取りされる情報の量が増大していった。その流れに乗じてサイトのコミュニティサービスも充実していき、今の形にまでなった。 だが、この発展の裏にはあまり良くない事情も絡んでいる。このサイトが注目を浴びたのは、このサイトの閲覧者が殺人未遂事件を起こした事が報じられてからだ。曰く、このサイトを見て人を殺す手順を学んだとの事で、それが各媒体で報道されてからアクセスが倍加、認知度も高まったのだ。 無論、このサイトの存在を危険視する向きも強く、倫理を問う声も多かったが、それら論争がさらにこのサイトの常連を増やしていく事になっていったのだから皮肉なものである。 普段ネットに詳しくない香山がこのサイトの存在を知ったのも、そういった一連の動きをリアルタイムで視聴していたからだった。 マウスを握る手が止まった。香山の目はスレッドの一文に釘付けにされている。 ――市営団地女性殺人事件の被害者の息子はどうなったんだろう? 文章の流れる速度が緩やかになる。一字一句の見逃しを許さない眼差しで読み進めていく。 曰く、「子供はまだ小学生だったらしい」。曰く、「施設に入ったんじゃないの?」。曰く、「親戚は引き取りたがらないんじゃないの、売春婦の子供だし、親族の間では不仲だったらしいし」……等、憶測の域を出ない雑談が続く。 進むに連れて、段々別の話題へと変わり始めようとしている。最もな話だ。結論の出ない一過性の話を延々と続ける意味は無い。 落胆を覚える香山だったが、そのまま惰性でホイールを転がし続けて出てきた書き込みに、頭が瞬時に冴えた。 490 名前:愛と憎しみ 第三話 ◆O9I01f5myU[sage] 投稿日:2011/08/02(火) 22 02 52 ID jhtXEcPc [4/6] 「この間聞いた話だが、その被害者の息子だと思う子供が、黒のロングヘアでデカい図体をした女と一緒に歩いていたらしい」 その書き込みを境に、ちらほらと目撃証言が出てきている。それらの特徴を纏めると、その女はかなりの長身で肩幅も広く、服を着ていても分かる程胸が大きく、さらに目が吊り眼で三白眼であったという。極めつけに迷彩服を羽織っていたという事で、全てが合致している。 間違いない。ここで目撃したという女性は忍の事だ。ここまで特徴的な要素全て当てはまるのは彼女以外にいない。 これで一つ分かった。幸人は佐原幸華の息子で、彼女の死後、忍が彼を引き取ったのだ。 この点は結び付いたものの、まだ合点のいかない節はある。どういう因果で接点の無い筈の幸人を忍が引き取ったのか。彼女は幸人を捨て子と説明していたが、どうして嘘をつく必要があったのか。 嘘をついた事に関しては、幸人の記憶が大きく関わっているからだと考える事はできる。彼は過去を「憶えていない」と言っていた。彼が本当に記憶を失っているとしたら、忍は幸人にショッキングな記憶を思い出させない様に、少しでもその可能性を排除したかったのかもしれない。だから自分にも真実を明かさなかった……。 確かに筋は通ると香山は思った。話の筋では納得がいく。が、心の面ではまた別だ。言い様にもない疎外感を感じずにはいられなかったのだ。 自分だけには真実を教えてくれても良かったのではないか? 結婚の件でもそうだ。どうして自分に何一つと相談してくれなかったのか。好き合っている人がいるなんておくびにも出さなかったが、ほんの少しでも教えてほしかった。披露宴にも呼んでくれなかったし、その話題を出そうともしない。 香山の脳裏に、幸人を伴って来訪してきた、お腹の大きな忍の姿が浮かび上がった。 ……私は貴女にとって、どういう存在なの……? 力無く電源を落とし、席を立つ。香山はそのまま、酒に飲まれた様な足取りで、目の眩む町に背を向けていった。 夜闇の中、外灯の明かりが彼女の顔を照らしだした。その顔は生気がすっかり抜け落ちていた。光の加減なのか、肉の削がれた骸骨に皮膚だけが貼り付いている風に見える。背筋は丸く、足元はおぼつかないその様子は、ホラー映画に出てくるゾンビを思わせる。 491 名前:愛と憎しみ 第三話 ◆O9I01f5myU[sage] 投稿日:2011/08/02(火) 22 04 40 ID jhtXEcPc [5/6] 胸の中が散っていく感覚を覚えていた。心がひび割れ、段々と風化し、形を保てなくなってくる。 心が無くなると人はどうなるんだろう――そんな事を考え始める。 境界線は彼女の目の前に現れた。 その境を超えずに留まるか、超えてしまうか。 留まれば、まだ日常の中にいられる。 超えてしまえば、今の日常は無くなってしまう。 香山は思う。あの笑顔を……自分を見捨てていく彼女の幸せを、砕いてやりたいと。 黒い想いは答えを導いた。 後に残ったのは、踏みにじられた白線だけだった。
https://w.atwiki.jp/animeyoutube/pages/891.html
この話大好きです。めっちゃ感動。 - あいつに届け 2010-06-25 17 02 55 いい話!! - 五十嵐 2010-10-11 00 55 39 どきどきした! - ミー 2010-12-11 12 08 44
https://w.atwiki.jp/tsvip/pages/854.html
「虚像」第三話 デジタル時計のアラームをいつもより20分早くセットする。 特に理由はないが、この体では前より朝の支度に幾分時間がかかってしまうような気がしたからだ。 無機質な液晶画面は静かに今、日付が変わった事を俺に伝えた。開け放した窓からはひんやりとした夜の空気が流れ込んできた。 明日俺は、親にも教師にも、クラスの仲間にも何も言わずへ学校へ行くつもりだ。 本来明日は、親に連れられ病院で検査を受ける予定になっている。14才での女体化が稀な事だから念のためにだとか。 学校への連絡はそれかららしい。 だが、そんな事をする気分にはなれない。…している場合ではないんだ。 俺の心が男の内に、クラスの誰もがこの事を知らない今、もう一度だけ男として学校へ行きたい。 当然、制服は男の時のまま、特別な準備は何もしていない。俺の中では以前と何も変わらないただの登校。 ――ただ周りは、今の俺を以前のようには見てくれはしないだろう。 よくバカ話をした仲間、噂好きな女子、可愛い後輩達、そして…真琴も。 実際にそうなのかもしれないが、今頭に浮かんだ顔達が、もうまるで自分とは全く関係のない遠い過去の物に思えてきた。 みんな…俺が教室に入った時どんな顔するんだろうな。 真琴には今日、プリントを玄関で母が受けとった後、半ば強引に帰ってもらった。 「優がかなり症状悪くなって…」とか母が言い訳して、真琴がアホな声で「じゃあ尚更お見舞いしますっ!」なんて返してたな。 会える訳ねえだろ。女になってんだぞ俺。 もっとも、真琴は別のクラスとはいえ明日は否応なく顔を合わせる事になる…一体どう接すればいいのだろう。 頭の中に、昨日の妹のような複雑な視線を向ける真琴の顔が浮かんできた。実際にそんな状況になるのは想像がつく。 するとなんだか喉の奥に熱いものが込み上げてきた。 突然しゃくり上げてしまいそうになり、頭から布団を被った。もう考えるのはやめよう… 時間もあり、そのまま眠気を催すのに時間はかからなかった。 雨の音で目が覚める。 窓の外をのぞくと、分厚い雲から大粒の雨が降りしきっていた。 時計を見るとまだ5 30だった。だが、もう寝る気は失せている。 椅子にかけてある制服をとる。雨とはいえもう6月の下旬。Yシャツ一枚で充分だろう。 長袖に腕を通し、肘まで捲くった。次に上からボタンをしめていく。 胸元のボタンをしめた時、うっすらと小さい突起が見えた。案の定、乳首が目立つ。 別に恥ずかしさは覚えない。指先でそっと触れると、きゅうと肩が狭まり妙な感覚を覚えた。 多少問題だが特になにか対処をする訳でもなく、そのままボタンをしめ終えた。 ズボンは背丈が変わっていないおかげで、すんなり着れた。足がいくらか細くなったのでどこか違和感はあるが、この程度は気にするものではない。 使い古した紺のエナメルを抱え、静かに階段を降りていく。 元々、起きるつもりだった時間でも母は寝ているので、当然一階は静まりかえっていた。リビングには寄らずに洗面台へ直行する。 「ぐおおおぉ」 「ひっ!」 突然父さんのいびきが聞こえ、阿保な声をあげてしまった。 今ので母が起きてこないか心配になったが、どうやらその気配はない。 優「息子が大変な時によ…」 リビングのドアを見つめながら悪態をつく。 洗面台で長い髪を改めて見つめ、上からそっと撫でた。昨日の風呂の様子を思いだす。 なるべく下をみないように手早く体を洗った。シャンプーは、汚れが落ちればいい、と適当な薬用シャンプーしかなかったため、妹のを拝借した。 何故、そうまでして今の自分が髪をいたわるのか不思議だった。 おかげで、髪は蛍光灯に反射して綺麗に輝き、男の時の物とはかけ離れていた。 それでも嫌な気持ちがしないのは何故だろう。 髪を、これまた妹から借りたゴム(というのだろうか)で後ろに一つに縛った。 完全に適当だったが、鏡に映った姿を見る限りでは、いつも見ている妹のそれと変わらない。問題なさそうだ。 こう見ると、髪形まで同じでまるで妹だ。 鞄を肩に背負い靴を履く。あまりに時間は早いが、コンビニで時間を潰せばいいだろう。朝飯も諦めた。 どこか緩く感じる靴の踵を、玄関のタイルで突き、ドアノブに手をかけた時だった。 「…何してるの?」 手の動きがとまった。妹の声だ。 振り返る事が出来ずに沈黙が流れた。 第三話 終