約 301,119 件
https://w.atwiki.jp/mars2011/pages/55.html
第三話 カシマの里 導入 王の召喚 PC達一行は王代カイン=セド=ペリエから呼び出しを受ける。4ヶ月にも及ぶ綿密な調査の結果、リカーテ=キラが魔族だったのではないかという疑惑があるらしい。また、その魔族が雷絶霊石を狙っていたことから、その加工方法や特性に関する調査のためにマク王国末期にフェイランドに亡命してきたカシマ人の末裔が住む王族直轄領、カシマの里に調査に行くように司令を受ける。 王代「リカーテは魔族かもしれないという調査結果がある。 奴が動向を気にしていた雷絶霊石というものがどういったものか、 有効な活用法について早急に調査をせねばならない。 前回リカーテと接触したクィントにはカシマの里へ行って調査をしてもらいたい。 勇爵村の諸君にも調査の協力をお願いしたい」 第一幕 カシマの里 カシマの里についてはこちら 里に到着すると、里長フランシス=カシマより簡単な里の紹介を受けたあとに宿屋にて一泊する。 里に向かう前に、前回もらっていた雷絶霊石のインゴットは5つに分割してもらって、調査に使えるようになっている。 カシマの里は思ったよりも広く、一日あたり、一人一箇所の調査が精一杯であることが分かる。 里長からの説明を聞いた限り ・里長(の家) ・濃厚地帯 ・鍛冶場 ・カシマノヤシロ ・宿屋 ・温泉 ・学問所 ・書庫 ・古戦場 あたりが調査の対象になりそうだと見当をつける。 1.1 調査1日目 さっそく一日目の調査を開始する一行。ビル、トゥウの二人は地元の人から情報を得るために温泉に向かう。 カシマの里ではかつてカシマ戦役とよばれる魔族との戦いがあり、当時の様子を示した文献が書庫にありそうだということ、そして雷絶霊石で出来た刀が奉納されているであろうことを教えてもらう 学問所に向かったナビィだったが、そこにいたゼン師範は雷絶霊石については何も知らなかった模様。というよりも魔族との戦のために里の主要な人間はみな出払っており、情報を持ってそうな人間は少なそうであることが分かる。 里長のもとに向かったクィントもヤシロに奉納された刀についての情報をもらい、里長のはからいで実物を見せてもらえるように取り計らってもらうことを約束する ビル&トゥウ:温泉 ビル: エスタ・ラウ出身の旅人と会話。魔族との戦について古文書があるのでは。 トゥウ: 里人と会話。ヤシロに刀があるのでは ナビィ:学問所 ゼン師範: 雷絶霊石なんぞ知らん。 クイント:村長宅 刀:ヤシロにあるので神主に話をしておく リカーテ: リカーテについては知らないが魔族についての情報なら書庫にある。 ただ古カシマ語がわからないと読めないし読める人も出払ってしまっている。 1.2 調査2日目 前日の調査からヤシロにある雷絶霊石のカタナの実物を確認しに行こうかという話となり、全員でヤシロに向かう。 ヤシロの管理をしている管理主に案内されて折れた刀を拝見する。 カタナの銘は波太刀”ハバタチ”。過去のカシマ戦役で実際に使われたカタナであることが分かる。 調査の結果、たしかに雷絶霊石で出来ているらしいこと、現在は魔力や霊力を宿していないことが分かる。 このカタナはさらに昔にあったという方な天穂切”アマホギリ”というカタナを模倣して作られているらしいことも分かるが、 どちらのカタナについてもその詳細は調べることが出来なかった。 カタナについて他に里の中で詳しい人がいないか調査をすると、鍛冶屋の息子であるカイトという青年が良く来ているらしい。 彼はハバタチを作った刀鍛冶の子孫だということも教えてもらえる 全員: ヤシロ 管主登場。 ヤシロの中で折れた刀を見せてくれる。銘は波太刀(はばたち)。 シバから移り住むより昔前に作られた。 冶金の結果は雷絶霊石ぽい。折れた理由は過去の戦で使われたとか。 詳しくは書庫か鍛冶場で。 波太刀は天穂(あまほぎり)のコピー。天穂切はシバ王国にあるかもしれない、という話 ビルとクイントが見た感じ 実用品の刀&実際になにかを攻撃したっぽい痕>波太刀 魔法はかかっていない。神主も喜んでいる。 波太刀の刀鍛冶の子孫のカイト君がよく見に来る。 1.3 調査3日目 全員で鍛冶場に向かう。 カイト家の鍛冶場に向かうものの、そこにカイトの姿はなかった。 代わりに応対したソウタという男はカイトの父親であると自己紹介する。 彼はカタナの製作には興味がなかったため、刀鍛冶であった先代と対立して現在の鉄砲の弾丸作成の仕事を始めたらしい。 そのため、当時はあったであろうカタナの製法については何一つ継承していないという。 それに対して、カイトは先々代になついていたとのこと。 カイトの行方を確認するも、昨日から姿を見ていない上に、立ち寄りそうな場所の心当たりもないらしい。 ここで得られる情報は他になさそうだと帰ろうとする一行に対してソウタは霊石のインゴットの欠片が欲しいという。 調査に使えるかもしれないと、欠片を渡すことに一行は同意する そして次の日、クィントの姿がなくなっていることに一行は気づくことになる 全員 鍛冶場 ソウタ・カナジ(39) 刀に興味がない。刀鍛冶だった父に反発して独立。父はすでに他界。 インゴット渡して調べてもらう。 カイトくん(19)は昨日から見てない。 カイトくんはじいちゃんの子 その日の夜 知覚判定を強いられるPCたち。 - 成功度の低いクィントが吊るされる。 朝起きると、クィントがいない 1.4 調査4日目 クィンとがいないことに気がつく一行。相談の結果、それぞれ分かれて調査を継続することに。 トゥウとナビエはこれまでの調査に加えて、カイトおよび失踪事件の心当たりが無いか、里の人間に聞いて回ることに。 古カシマ語を読むことのできるビルが書庫の調査に向かうことに。 トゥウは里長と会話をするがカイトおよび失踪事件について特に分からず。 また、里長がインゴットの欠片を欲していることが分かるが、肝心のインゴットを持ったクィントが疾走しているため対応できず。 書庫に向かったビルは目ぼしい読み物をいくつかピックアップするものの読み込むには時間がかかりそうだと判明する。 初日は魔族についての文献を調査する。 魔族と呼ばれる存在はさらにその配下として配下の人間である魔神やモンスターである魔獣を使役していることが分かる。 カシマの里の北西側にある古戦場でかつておきた魔族との戦い、カシマ戦役。その戦いで魔族の使役されていた大型魔獣バグザブネーという名で知られていること。そして勇者の血を引くものは魔族の金色の瞳を判別できるらしい。 鍛冶屋に向かったナビエだが、トゥウと同様にカイトや失踪事件についての詳しいことは分からなかった。鍛冶屋のソウタは昨日預かったインゴットを弾丸に加工したが、やはり鉱石に宿っていた魔力は失われていた。弾丸はナビエが預かることに。 一方その頃、クィントは何処ともしれぬ暗闇の中で気がつく。自分が吊るされていること、アイテムの類が奪われていることに気がつく。その彼にどこかからか伸びてきた触手のようなものが迫ってくる。必死にソレを押し止めるクィント……。 その晩、トゥウがさらわれてしまう。 トゥウ →里長 クィントがいなくなったが最近失踪事件とかなかったか - カイトくんいなくなったね。父親と喧嘩してたね。 ...ちなみに、インゴットを持っているようだね..分割して渡せると聞いているが... - なんで - 興味があって - 嘘発見 - ニヤニヤしているが嘘ではなさそう「ベッドで旅をしたい」 ビル →書庫 ビル 書庫の書物(全部、古カシマ語) ・カシマ戦役 ・カタナ ・カシマの里の歴史 ・魔族について 魔族 .. 金色の瞳をしているらしいがそれがわかるのは勇者の血を引く者 魔人 .. 魔族配下の人間 魔獣.. 魔族配下の獣 第二次魔王討伐戦の時 魔王の斥候部隊が各地で暗躍 そのうちの一人がフェイランドに来ていてカシマ戦役で戦って討ち取られた。 その際大型の魔獣バグザブネーが召喚されとても強い。ツライ。魔族は金色の目をしているらしい。 ただし、目の色を判別できるのは勇者の血を引く者のみ。 ナビエ → 鍛冶場 インゴットが5発の弾丸に。失敗作との由。 カイトくんはまだ帰らず。 クィント → 行方知れず ツルに吊されている クィント「くっころ」ツルをがんばって押さえて体力-2 胸元に潜り込んでくるツル。先端がてらてら光っている。 @宿 勇者の片割れ(ウォーレン)の瞳が金色になってた せいかくも入れ替わってた 宿屋で情報共有 知覚判定を強いられるPCたち。 - 成功度の低いトゥウが吊るされる。 1.5 調査5日目 昨日と同じようにトゥウがいないことに気がつく。 ビルはもう一度書庫に向かい、カシマ戦役について調べるが、とくに目立った情報を得られず。 ナビエが古戦場に向かうと、そこには植物のツルのようなもので高所に吊るされたクィント、トゥウ、カイトの姿だった。 彼らを助けようと、近づくナビエの前にリカーテが現れる。彼はナビエを牽制して、彼らの開放と引き換えに、雷絶霊石のインゴットや勇爵村にいるウォーレンの身柄を差し出すように言う。 ナビエは判断を一時保留して宿に戻ることにする その晩、クィント、トゥウの二人はリカーテと会話をする。 魔族と人間の関係や、勇爵村の土地になにか秘密があるのか、気になることはあるものの、要領は得ず。 その日の夜にビルがさらわれる 朝起きると、トゥウがいない ビル →書庫 1012年ごろ、フェイランドの軍隊が魔族と戦った ナビエ →古戦場 かかしのようなもの? クイントとトゥウとカイトが2m以上上にツルでツルされている ナビィが近づくと三人とのナビィの間にリカーテが現れる トゥウ →行方知れず クィント →行方知れず リカーテの条件: ・無条件で一人解放 ・残りのインゴットぜんぶでもう一人解放 ・ウォーレンを渡せばもう一人解放 一回帰るナビィ トゥウとクイントは2点ずつ疲労 クイント「目的はなんなんだ」 リカーテ「目的は言えないがきみたちをこうしていることに意味がある」 リカーテ「大事なんだよ、人間はね・・・フフ」 トゥウ「あなたは勇爵村には来れない?」 リカーテ「そう」 トゥウ「なんで?」 リカーテ「わたしが魔族だから、かな・・・」 トゥウ「なにかわかったらメモしておきます」 リカーテ「よろしく」 1.6 調査6日目 翌日にナビエがもう一度、古戦場に向かうと昨日の三人とビルが吊るされていた。 答えを保留するナビエに業を煮やしたリカーテはツルに命じて4人に明確に危害を与えようとする。 ナビエは無条件開放の条件でクィントを、クィントはインゴットの残りと引き換えにトゥウを開放する。 開放されたトゥウは手持ちのナイフでツルに攻撃を試みると、あっさりとツルからビルを開放することが出来た。ビルも呼び出した格闘家の助けを借りてカイトを助けることに成功する。 続いて、リカーテが呼び出しておいた魔物と戦闘になるが、リカーテは手に入れたインゴットを持って早々に逃亡する。魔物も一行の活躍により危なげなく退治される。 終幕 帰還命令 王代よりの帰還命令を受けて一行は王都に帰還する。 調査内容を王代に説明すると、雷絶霊石をシバ王国より輸入する算段をたてるという 宿屋に帰って回復 GM「なにかひとつ書庫で調べられる」 ビル:カタナを調べる⇒片刃の曲刀である/刀の歴史(剣への移行により廃れた)// 威力は高いが折れやすい/波太刀はカシマ戦役のときに魔族との戦いで折れた/波太刀は尺の長い刀 魔族の力を無効化して斬ることができた 捕まっていたときのリカーテとの会話を共有 里長に勇爵村をプッシュ 王代 「雷絶霊石はシバ王国と交易して手に入れよう」 アフターセッション CP 3点取得 真なる力2/LV1入手 効果は次回までにGMより通達
https://w.atwiki.jp/ncbr/pages/14.html
第三話 小高い丘の頂に、赤い野球帽は独り佇んだ。 特に望んでここへ来た訳ではない。見慣れない教室から一歩踏み出した途端、この場所に景色が丸々摩り替えられたのである。 突然の現象に驚きはしたものの、空間転移を自在に操る彼にとって別段不思議なことでもない。 いましがた彼が宥めていた少女は別の場所へ飛ばされたらしく、傍らにその大きなリボンは見えない。 それどころか、辺りを見回せど人の姿は一切認められなかった。 やれやれと肩を竦め、赤帽の少年――ネスは深い溜息を吐き出す。 悪夢、としか表しようもない。アイツ――口にするのもおぞましい――が帰ってきた。 あまつさえ、大衆の眼前で、人道を外れた行為をやってのけたのである。 ギーグとの闘い以来姿を眩ましたものだから、アイツの悪行は『死んで詫びた』という形に落ち着けてやっていた。 あれからほんの数ヶ月。こうも早くに自分の甘さを悔いる破目になろうとは。 思えば、悪夢のはじまりにはいつもアイツが居た。 ついさっきまで、家族で食卓を囲み、パパや妹と一緒にママの手作りハンバーグに舌鼓を打っていたというのに。 ギーグをめぐる騒動に巻き込まれたのも、元を辿ればアイツのダメ人間振りが原因だった。 今回は食事の最中。あのときは安眠妨害されたっけか。 怪しく光る首輪を撫でながら、ネスは再度大きな息を洩らす。 異物感満載だったそれは、今や体温に馴染んでしまったようで、指先に触れる生温かさがまた別の不快感を醸し出した。 受難、という甚だ歳相応とはいえない語が脳裏を過る。思い返せばこの一年、碌な目に遭わなかった。 ひょんなことから騒動に巻き込まれ、その度に収拾を着けさせられてばかりいた。 おかげですっかり他人の尻拭いが得意になってしまったものである。 とはいえ、いつまでも不遇を嘆いても居られない。こうなった以上、やらなくてはならないことはごまんとあるのだ。 尤も、それがあまりに多すぎて、何から手を付けて良いか悩ましいところではあるが。 ――彼は既に、自分が最終的に為すべきことを理解していた。 ポーキーのことは憎らしいが、彼がこの“ゲーム”の敷設を取り仕切っているとは考え難い。 ギーグの一件でも、所詮彼は事態を煽動した賑やかしに過ぎない。 すべてを収めた後、ブタ箱にぶち込めば(尤も政府の狗共が救いようの無いことは 警察組織の前例があるので完全にはアテにできないが)済む話である。 ……いや、あの肥大したケツに伝説バットのフルスイングSMASH一発くらい見舞っても罰は当たらないだろうが。 問題は、裏で糸を引く後ろ楯。かような数の人間を瞬時に呼び寄せる芸当を持つ存在、よもやただの道化では済まない。 個人なのか、組織立った連中か。新手のサイキックか、はたまたインベーダーの仕業なのか。 いずれにせよ、厄介な相手には相違ない。こちらとて万全の準備を整えなければ如何ともし難いだろう。 その為には、目先の問題を片付けていく必要が出てくる。八つのメロディもジャイアントステップからである。 そこでまず思い至るのが、同志を募ること。 いままでもそうであったように、一人では脱することの困難な窮地も、仲間と協力し合えば乗り越えられるやも知れない。 共に旅した友人らの他に、奇特な力を漂わす者、歴戦の猛者といった風格の者の姿もあった。 ――実際のところ、呼び集められたのは手を携えるに心強いばかりの者達である。 だが、ネスの心中には一抹の不安があった。 誰もが手を取り合い、主催者を討つべく団結してくれる。そう信じたい気持ちは確かにあった。 しかしながら彼は、田舎育ちの少年らしい、ただ無垢なばかりの心の持ち主ではない。 希望的観測より遥かに強く、他の参加者に危害を加えようと目論む輩が現れることを懸念して止まない。 どんなに素晴らしい力を持とうとも……否、力あるからこそ、とするのがより正確だろうか。 悪心に囚われる人間は、いつ如何なる場所にも姿を現すものなのだ。 皮肉にも、彼が長きに渡る旅を通じて学んだことのひとつである。 理由は十人十色だろう。 たとえば、私欲の赴くまま“願い”を叶えようとする者。 たとえば、ただ生き延びたい一心で、他者を蹴落とさんとする者。 たとえば、大切な人を失ったショックのあまり、自失に走る者―― どれを取っても、至極自然な思考といえよう。 人には理性というものが備わっている。それが人のアイデンティティであり、強みでもある。 しかし、このような理不尽に身を置けば、たちまち抑制が利かなくなることはままあるのだ。 人の心は脆い。僅かな隙さえあれば、本能と欲望に容易に支配される。 そのことは、この場に居る誰よりも、彼こそがよく知っていると評して過言で無い。 彼とて“自分の場所”をめぐり、マジカントでの試練に打ち克って、初めていまの“強さ”を手に入れたのだ。 自らの心に巣食う悪魔。その存在を、視覚、聴覚、そして全身を蝕む痛みを通じ理解し尽した人間など、彼くらいのものであろう。 たしかな信念の下に正義を貫く強さ。それは、限界を超越したストイズム。 それを手にしたからこそ解る。人間とは、どうしようもなく不確かな生き物なのだ。 ――だからこそ、世の中はおもしろいのだが。 ともあれ、協力者を集めることは絶対条件だ。 多様な思いの錯綜するこの場所で心からの信頼関係を築くことは容易でない。 そういう意味では、気心の知れた友人らとの合流を第一に考えるべきなのだろう。 ……だが、その考えはすぐに憚られる。 たしかに彼の目的は、この“ゲーム”を潰し、おそらく控えているであろう黒幕を討つことである。 強大な力を振り翳し悪をはたらく連中は、何としても除かなければなるまい。 現に犠牲者を出してしまっている。これを指を咥えて見逃すほど、彼は寛容な男ではない。 されど、それはあくまで最終的な目的に過ぎない。 ざっと地図を眺めたところ、この島にはそこそこの広さがあるようだ。 寂しがり屋のポーラからテレパシー通信がないところを鑑みると、一部の超能力は封じられていると見て間違いない。 加えて首輪の制約がある今、不用意にテレポートを試みる気には到底なれなかった。 この島の中から超能力抜きに、たった三人の仲間を捜し当てるのは、あまりに効率が悪い作業。砂粒の中から胡麻を浚うようなものだ。 そんな悠長なことをしていては、どれだけの犠牲者が出るかと考えるとぞっとしない。 このふざけた催しに誰かの命が奪われるなど、決してあってはならないことだ。 友人らのことは気懸かりだが、同時に、彼らの強さを彼はよく知っている。 ムの修行を積んだプーには、誰より強い精神力と、熊をも倒す武術がある。超能力も達者で、ネスが心配するのも忍びない程だ。 唯一PSIを持たないジェフは、凡俗には及びもつかない頭脳の持ち主。囚われたネス達を単身救った度胸と行動力も脱帽ものである。 ポーラだって、か弱いフリして男顔負けの豪腕だ。そのうえPSIも得意なのだから、ときに相手になる輩に同情さえしてしまう。 彼らなら、各々なんとかこの窮境を切り抜けてくれるだろう――そう信じるしかない。 いま優先すべきは、ひとつでも多く、悲しみの種を取り除くこと。 復讐の矛先は、この最悪の場を創り出した狂人ただ一人で良いのだ。 ひと通り思案した後、ネスはザックの中身をチェックし始めた。 記憶に間違いが無ければ、中には武器となるグッズが収められている。 PSIを用いての闘いには自信があるが、それのみでは消耗に耐え切れないだろう。 おそらく長丁場となるこの闘いを乗り切るには、肉弾戦の手段がまず不可欠である。 まさか使い慣れたバットが都合良く入っているとは思えないが、無いよりはマシな物が飛び出すことを切に願う。 おもむろに突っ込んだ手に掴んだグッズを勢いよく引き抜く。そして。 ……ジャン! などと胸中戯けてみせた。 精神的な余裕こそ無かったが、こんなときにもユーモアを忘れないのが彼の取り柄である。 否、激情に流されてユーモアを忘れたとき、彼は自分自身を見失ってしまうことだろう。 取り出したのは、一本の剣だった。柄には美麗な紋章の刻まれた宝珠が埋め込まれている。 諸手でしっかと握り締め、軽く一振り……したつもりだったが、あまりの重量感に思うように制御できない。 プーはよくもこんな代物を使いこなすものだ、と改めて感服させられる。 しかしながら、手にしているだけで体の奥からなにか温かな力が湧き起こる気がする。 たとえるなら、心に希望の火が灯るような――そんな感覚だ。 不思議な力の恩恵を感じたところで、剣をザックへ仕舞っておく。 扱い切れないこともあるが、一番の理由は他者にいたずらな警戒心を与えることを避ける為だ。 仮に闘う破目になったとて、武器を取る間の一太刀にやられるほど軟なつもりはない。 取り出すまで存在に気付かなかったように、片していれば重さも感じないのだから、この状態が最も都合が良いのである。 あとは、先程見た地図の他にコンパスや照明器具などの生活用品や水の入ったボトル、食料のパン類が収められていた。 最低限のサバイバルに必要な物資が揃っている。地図によれば市街地も存在し、野宿を嫌う者も住に困らない。 飲食物への細工が疑わしいが、用意された量を見るにあたりその可能性はかなり薄いと言えた。 二日、或いは多く見積もって三日分。即座に餓死する可能性は有り得ないが、長期滞在には不充分。 思うに……参加者同士で奪い合え、という意図だろう。 生かさず殺さず、孤島という監獄に閉じ込めた人間に、否応無しの殺し合いを迫る。まさに最悪を冠するに相応しいゲームである。 脳髄から腐り切った輩の考えそうな、陰険にして残酷な罠。その事実に虫唾の走る一方で、ネスはどこか安堵する。 ――これで、何の躊躇いも無く、黒幕を徹底的に叩き潰すことを決意できたのだから。 目的は定まった。荷物のチェックも完了した。二の足を踏む理由はもはや何も無い。 いま居るのはエリア1――島の北西端に位置する丘陵である。 コンタクトには劣るが、お陰で向かう方向は容易に決めることができる。 隣接するエリアにある住宅街は島最大の拠点。ひとまず他の参加者を発見できるはずだ。 軽く眼を閉じ、右手でつばを掴んで帽子を深く被り直す。 友人の安否。果ての無い道程。そしてまだ見ぬ巨悪の存在―― どこを取っても憂慮は募る一方だが……彼の心には、それを上回る正義がある。 身形を整えたネスはゆっくりと眼を開く。その瞳には、一点の曇り無く燃える意志の炎が宿っていた。 【ネス@MOTHER2 健康状態:良好 武装:なし 所持品:支給品一式 封印の剣 現在位置:B2 エリア1 第一行動方針:住宅街へ移動 第二行動方針:無駄な争いを阻止する 第三行動方針:首輪の解除法及び脱出法の模索 第四行動方針:戦力を募る 基本行動方針:ゲームの破壊 最終行動方針:黒幕の打倒(ついでにポーキーはブタ箱送り) 備考:出会う相手にはひとまず警戒する。特に緑帽の中年に注意 】
https://w.atwiki.jp/ncbr02/pages/23.html
第三話 ◆KakvhZnUVg 小高い丘の頂に、赤い野球帽は独り佇んだ。 特に望んでここへ来た訳ではない。見慣れない教室から一歩踏み出した途端、この場所に景色が丸々摩り替えられたのである。 突然の現象に驚きはしたものの、空間転移を自在に操る彼にとって別段不思議なことでもない。 いましがた彼が宥めていた少女は別の場所へ飛ばされたらしく、傍らにその大きなリボンは見えない。 それどころか、辺りを見回せど人の姿は一切認められなかった。 やれやれと肩を竦め、赤帽の少年――ネスは深い溜息を吐き出す。 悪夢、としか表しようもない。アイツ――口にするのもおぞましい――が帰ってきた。 あまつさえ、大衆の眼前で、人道を外れた行為をやってのけたのである。 ギーグとの闘い以来姿を眩ましたものだから、アイツの悪行は『死んで詫びた』という形に落ち着けてやっていた。 あれからほんの数ヶ月。こうも早くに自分の甘さを悔いる破目になろうとは。 思えば、悪夢のはじまりにはいつもアイツが居た。 ついさっきまで、家族で食卓を囲み、パパや妹と一緒にママの手作りハンバーグに舌鼓を打っていたというのに。 ギーグをめぐる騒動に巻き込まれたのも、元を辿ればアイツのダメ人間振りが原因だった。 今回は食事の最中。あのときは安眠妨害されたっけか。 怪しく光る首輪を撫でながら、ネスは再度大きな息を洩らす。 異物感満載だったそれは、今や体温に馴染んでしまったようで、指先に触れる生温かさがまた別の不快感を醸し出した。 受難、という甚だ歳相応とはいえない語が脳裏を過る。思い返せばこの一年、碌な目に遭わなかった。 ひょんなことから騒動に巻き込まれ、その度に収拾を着けさせられてばかりいた。 おかげですっかり他人の尻拭いが得意になってしまったものである。 とはいえ、いつまでも不遇を嘆いても居られない。こうなった以上、やらなくてはならないことはごまんとあるのだ。 尤も、それがあまりに多すぎて、何から手を付けて良いか悩ましいところではあるが。 ――彼は既に、自分が最終的に為すべきことを理解していた。 ポーキーのことは憎らしいが、彼がこの“ゲーム”の敷設を取り仕切っているとは考え難い。 ギーグの一件でも、所詮彼は事態を煽動した賑やかしに過ぎない。 すべてを収めた後、ブタ箱にぶち込めば(尤も政府の狗共が救いようの無いことは 警察組織の前例があるので完全にはアテにできないが)済む話である。 ……いや、あの肥大したケツに伝説バットのフルスイングSMASH一発くらい見舞っても罰は当たらないだろうが。 問題は、裏で糸を引く後ろ楯。かような数の人間を瞬時に呼び寄せる芸当を持つ存在、よもやただの道化では済まない。 個人なのか、組織立った連中か。新手のサイキックか、はたまたインベーダーの仕業なのか。 いずれにせよ、厄介な相手には相違ない。こちらとて万全の準備を整えなければ如何ともし難いだろう。 その為には、目先の問題を片付けていく必要が出てくる。八つのメロディもジャイアントステップからである。 そこでまず思い至るのが、同志を募ること。 いままでもそうであったように、一人では脱することの困難な窮地も、仲間と協力し合えば乗り越えられるやも知れない。 共に旅した友人らの他に、奇特な力を漂わす者、歴戦の猛者といった風格の者の姿もあった。 ――実際のところ、呼び集められたのは手を携えるに心強いばかりの者達である。 だが、ネスの心中には一抹の不安があった。 誰もが手を取り合い、主催者を討つべく団結してくれる。そう信じたい気持ちは確かにあった。 しかしながら彼は、田舎育ちの少年らしい、ただ無垢なばかりの心の持ち主ではない。 希望的観測より遥かに強く、他の参加者に危害を加えようと目論む輩が現れることを懸念して止まない。 どんなに素晴らしい力を持とうとも……否、力あるからこそ、とするのがより正確だろうか。 悪心に囚われる人間は、いつ如何なる場所にも姿を現すものなのだ。 皮肉にも、彼が長きに渡る旅を通じて学んだことのひとつである。 理由は十人十色だろう。 たとえば、私欲の赴くまま“願い”を叶えようとする者。 たとえば、ただ生き延びたい一心で、他者を蹴落とさんとする者。 たとえば、大切な人を失ったショックのあまり、自失に走る者―― どれを取っても、至極自然な思考といえよう。 人には理性というものが備わっている。それが人のアイデンティティであり、強みでもある。 しかし、このような理不尽に身を置けば、たちまち抑制が利かなくなることはままあるのだ。 人の心は脆い。僅かな隙さえあれば、本能と欲望に容易に支配される。 そのことは、この場に居る誰よりも、彼こそがよく知っていると評して過言で無い。 彼とて“自分の場所”をめぐり、マジカントでの試練に打ち克って、初めていまの“強さ”を手に入れたのだ。 自らの心に巣食う悪魔。その存在を、視覚、聴覚、そして全身を蝕む痛みを通じ理解し尽した人間など、彼くらいのものであろう。 たしかな信念の下に正義を貫く強さ。それは、限界を超越したストイズム。 それを手にしたからこそ解る。人間とは、どうしようもなく不確かな生き物なのだ。 ――だからこそ、世の中はおもしろいのだが。 ともあれ、協力者を集めることは絶対条件だ。 多様な思いの錯綜するこの場所で心からの信頼関係を築くことは容易でない。 そういう意味では、気心の知れた友人らとの合流を第一に考えるべきなのだろう。 ……だが、その考えはすぐに憚られる。 たしかに彼の目的は、この“ゲーム”を潰し、おそらく控えているであろう黒幕を討つことである。 強大な力を振り翳し悪をはたらく連中は、何としても除かなければなるまい。 現に犠牲者を出してしまっている。これを指を咥えて見逃すほど、彼は寛容な男ではない。 されど、それはあくまで最終的な目的に過ぎない。 ざっと地図を眺めたところ、この島にはそこそこの広さがあるようだ。 寂しがり屋のポーラからテレパシー通信がないところを鑑みると、一部の超能力は封じられていると見て間違いない。 加えて首輪の制約がある今、不用意にテレポートを試みる気には到底なれなかった。 この島の中から超能力抜きに、たった三人の仲間を捜し当てるのは、あまりに効率が悪い作業。砂粒の中から胡麻を浚うようなものだ。 そんな悠長なことをしていては、どれだけの犠牲者が出るかと考えるとぞっとしない。 このふざけた催しに誰かの命が奪われるなど、決してあってはならないことだ。 友人らのことは気懸かりだが、同時に、彼らの強さを彼はよく知っている。 ムの修行を積んだプーには、誰より強い精神力と、熊をも倒す武術がある。超能力も達者で、ネスが心配するのも忍びない程だ。 唯一PSIを持たないジェフは、凡俗には及びもつかない頭脳の持ち主。囚われたネス達を単身救った度胸と行動力も脱帽ものである。 ポーラだって、か弱いフリして男顔負けの豪腕だ。そのうえPSIも得意なのだから、ときに相手になる輩に同情さえしてしまう。 彼らなら、各々なんとかこの窮境を切り抜けてくれるだろう――そう信じるしかない。 いま優先すべきは、ひとつでも多く、悲しみの種を取り除くこと。 復讐の矛先は、この最悪の場を創り出した狂人ただ一人で良いのだ。 ひと通り思案した後、ネスはザックの中身をチェックし始めた。 記憶に間違いが無ければ、中には武器となるグッズが収められている。 PSIを用いての闘いには自信があるが、それのみでは消耗に耐え切れないだろう。 おそらく長丁場となるこの闘いを乗り切るには、肉弾戦の手段がまず不可欠である。 まさか使い慣れたバットが都合良く入っているとは思えないが、無いよりはマシな物が飛び出すことを切に願う。 おもむろに突っ込んだ手に掴んだグッズを勢いよく引き抜く。そして。 ……ジャン! などと胸中戯けてみせた。 精神的な余裕こそ無かったが、こんなときにもユーモアを忘れないのが彼の取り柄である。 否、激情に流されてユーモアを忘れたとき、彼は自分自身を見失ってしまうことだろう。 取り出したのは、一本の剣だった。柄には美麗な紋章の刻まれた宝珠が埋め込まれている。 諸手でしっかと握り締め、軽く一振り……したつもりだったが、あまりの重量感に思うように制御できない。 プーはよくもこんな代物を使いこなすものだ、と改めて感服させられる。 しかしながら、手にしているだけで体の奥からなにか温かな力が湧き起こる気がする。 たとえるなら、心に希望の火が灯るような――そんな感覚だ。 不思議な力の恩恵を感じたところで、剣をザックへ仕舞っておく。 扱い切れないこともあるが、一番の理由は他者にいたずらな警戒心を与えることを避ける為だ。 仮に闘う破目になったとて、武器を取る間の一太刀にやられるほど軟なつもりはない。 取り出すまで存在に気付かなかったように、片していれば重さも感じないのだから、この状態が最も都合が良いのである。 あとは、先程見た地図の他にコンパスや照明器具などの生活用品や水の入ったボトル、食料のパン類が収められていた。 最低限のサバイバルに必要な物資が揃っている。地図によれば市街地も存在し、野宿を嫌う者も住に困らない。 飲食物への細工が疑わしいが、用意された量を見るにあたりその可能性はかなり薄いと言えた。 二日、或いは多く見積もって三日分。即座に餓死する可能性は有り得ないが、長期滞在には不充分。 思うに……参加者同士で奪い合え、という意図だろう。 生かさず殺さず、孤島という監獄に閉じ込めた人間に、否応無しの殺し合いを迫る。まさに最悪を冠するに相応しいゲームである。 脳髄から腐り切った輩の考えそうな、陰険にして残酷な罠。その事実に虫唾の走る一方で、ネスはどこか安堵する。 ――これで、何の躊躇いも無く、黒幕を徹底的に叩き潰すことを決意できたのだから。 目的は定まった。荷物のチェックも完了した。二の足を踏む理由はもはや何も無い。 いま居るのはエリア1――島の北西端に位置する丘陵である。 コンタクトには劣るが、お陰で向かう方向は容易に決めることができる。 隣接するエリアにある住宅街は島最大の拠点。ひとまず他の参加者を発見できるはずだ。 軽く眼を閉じ、右手でつばを掴んで帽子を深く被り直す。 友人の安否。果ての無い道程。そしてまだ見ぬ巨悪の存在―― どこを取っても憂慮は募る一方だが……彼の心には、それを上回る正義がある。 身形を整えたネスはゆっくりと眼を開く。その瞳には、一点の曇り無く燃える意志の炎が宿っていた。 【ネス@MOTHER2 健康状態:良好 武装:なし 所持品:支給品一式 封印の剣 現在位置:B2 エリア1 第一行動方針:住宅街へ移動 第二行動方針:無駄な争いを阻止する 第三行動方針:首輪の解除法及び脱出法の模索 第四行動方針:戦力を募る 基本行動方針:ゲームの破壊 最終行動方針:黒幕の打倒(ついでにポーキーはブタ箱送り) 備考:出会う相手にはひとまず警戒する。特に緑帽の中年に注意 】 第二話 投下順 第四話 第一話 時系列順 第四話 オープニング ネス 『対峙する思い(前編)』
https://w.atwiki.jp/ebungeibu/pages/51.html
タイトル:名も無き戦士 第三話:閃拳 体が動かない・・・・ 指一本も動かす事ができない・・・・ のろのろと見上げる。ニヤニヤ笑っている女の顔が見えた。 「なんだい、もう降参かい?」 「少し・・・・休ませてくれ・・・・」 「だらしないねぇ。アタシの若い頃はこの倍は練習したもんだよ」 本当かよ・・・・もし本当なら、なんて化け物だ。 「まあ、しょうがないか。無理な訓練は返って筋肉を痩せさせちゃうからね。今日はここまでにしよう」 言うなりリックの母さん・・・・ライラは右手で俺の首根っ子を掴むや、軽々と持ち上げて肩に担いだ。 あれだけ動いた後でもこのパワーかよ・・・・・確かに化け物だ。 キャンプの真ん中の焚き火の前に、無造作に俺を放り出した。 「いてて・・・・もう少し丁寧に扱ってくれ」 「何言ってんだい。文句があるなら自分で歩いて戻ってきな」 言うと自宅でもあるテントに潜り込み、何やらごそごそした後で。 一抱えもある、巨大なアンテロープの足を2本持って来た。 「昨日、たまたま手ごろなの見つけたんでね、仕留めて持って来たんだよ」 俺は目を丸く見開いてその巨大な肉塊を見つめた・・・・・ 足がこのサイズって事は、本体はかなりでかい。 ベテランの冒険者でさえ、容易には倒せないはずだ。 ライラは手早く下ごしらえをすると、これも大きな鉄串を通し、器用に焚き火の上でくるくると回しだした。 徐々に香ばしい香りが辺りに漂い、あちこちのテントから難民が顔を出す。 「ああ、みんなやっとくれ。でもこっち側のはうちらで平らげるから、そっちのだけね」 子供たちが喚声を上げて走り寄る。大人たちも久しぶりのご馳走に群がった。 「ああ、まだだめだよ、十分火が通ってからにしとくれ」 「ライラ、いつもすまないね」難民の老婆が丁寧に頭を下げた。 「いいっていいって、行くところのなかったうちら親子を受け入れてくれたんだ。その礼さ」 ライラに手渡されたナイフで肉を削っては頬張りながら、俺は、なるほど、リックたちも色々あったんだな・・・・と考えた。 たっぷり食べると、今度は睡魔が襲ってきた。 「鍛えて食って寝る、これで若いうちは体ができるもんさ。さ、とっとと帰ってぐっすり寝るんだよ」 半ば追い出されるように難民キャンプを出た俺は、難民キャンプに行っていたとは判りにくいようにあちこち寄り道をしてから闘技場にある部屋に向かった。 「今日はいつもより激しかったな・・・・いつもこんなんじゃさすがにもたな・・・・」 文句を言い終わる前に、深い眠りに落ちた・・・・・ 翌朝は軽い筋肉痛で目が覚めた。 あれだけ体を動かした割りには、痛みが軽い。 「いくらかは・・・・強くなってるのか?」 防具を引っ張り出すと、獣脂を持って外に出る。 日課になっている鎧磨きだ。 これをしっかり行わないと、革鎧はすぐガチガチに硬くなってひび割れをする。 硬く脆くなった革鎧はもう防具の用を成さない。 そうならないように、毎日の鎧磨きは欠かせない。 ふと、周りが妙に騒がしい事に気がついた。 通りかかった興奮気味の若い男を呼び止め、 「おい、何かあったのか?」 「ああ、また難民の盗人が捕まってね。闘技場で闘士と戦わされる事になったらしい」 「なんだって!」 俺は鎧を手早く片付けると、急いで闘技場に向かった。 「・・・・・ライラおばさん?」 闘技場の真ん中に、だぶだぶのローブを着て立っているのは、間違いなくライラだ。 「モールの肉を盗んだらしいぞ」 嘘だ・・・・・巨大なアンテロープさえ仕留める人が、モールの肉なんか盗むわけが無い。 恐らく・・・・ 「おばさん!」大きな声で呼びかける。 こっちを向かずに軽くウィンクする。ああ、やっぱりそうか・・・・ ライラの正面には・・・・・ 残忍な笑みを浮かべたゲールが立っていた。 「ヘヘヘ・・・・女を殺すのは久しぶりだぜ。できりゃもうちっと若い方が良かったがな」 「おやおや、こりゃ試合じゃないのかい?アタシは試合に勝てば放免してやるって聞いたんだけど」 ゲールがゲラゲラと笑い出す。 「ガハハハハハ!俺に勝てる気でいやがるとはな! いいことを教えてやろう。俺様のは魔法のかかった強力な剣だ。 お前に与えられたのは、今にも折れそうなガラクタだ。 どうやって勝つつもりだ?え?」 「その前に、ひとつ聞いていいかい?」 「はぁ?なんだよ?」 「あんた、難民の男の子を殺した事あるかい?」 「おお、そんなの何回もあるぜ。つい一ヶ月前にも一匹殺ったとこ・・・・・」 ゲールは絶句した。 目の前の難民の年増女が、急に凶悪極まりないドラゴンに見えたからだ。 「そーかい、そーかい、やっぱりあんたかい。 その子はね、アタシの一人息子だったのさ。 こりゃ、たっぷり念入りにお礼をしなきゃねぇ」 言うと同時に、着ていたローブをバリバリと一気に引き裂いた。 ローブの下からは、真紅のジャケットとホットパンツに包まれた、年齢を感じさせない引き締まった肉体が現れた。 「さ、かかってきな」 「おい・・・あれは・・・」 「ああ、間違いない・・・・生きていたのか」 客席がざわめく。年配の常連客が叫ぶ。 「閃拳のライラ!復帰戦か!」 「な、なんだ?」 客席の異様な雰囲気にゲールがたじろぐ。 「閃拳?」 俺は興奮気味の客の一人に問いかけた。 「なんだあんた知らないのか?20年くらい前のスターだよ。 素手の格闘術で、無敵の40連勝を成し遂げた闘士だ。 羅刹衝って技知ってるか?ライラの得意技だったんだが、彼女の羅刹衝はアレンジされててな。 手と両足に闘気を纏って撃つのさ。 羅刹衝は特殊な歩法で間合いを一気に詰め、そのスピードを乗せた一撃を相手に叩き込む技だが、彼女の場合は移動速度が通常の数倍、さらに闘気を拳に込めて撃つんだ。 一撃で巨大なゴーレムでも粉砕すると言われたものだ。 その技に、ついたあだ名が”閃拳”。 まさに、一瞬で相手を葬る、当時最強の格闘士と言われたもんだ」 「へえ・・・・・ライラおばさんが・・・・」 「あんた、誰かは知らないが有名人らしいな・・・・だがこのゲール様の敵じゃねえ」 剣と盾を構える。剣からはかなり強い魔力の波動が流れ出す。 「アタシもおしゃべりはあんまり得意じゃないんでね。とっとと終わらせるよ」 ライラの姿が消える。ゲールとて腐ってもベテラン闘士。盾を構えつつ右後方に飛び退る。 盾に激しい衝撃。反射的に突き出した剣は空を切り、今度は左足に激しい衝撃を受けて倒れた。 な、なんだこいつ、姿も動きもさっぱり見えねえ!なんでこんな化け物が難民の中にいるんだよ! ゲールは心の中で驚くとともに焦りを覚えた。 全く当らないのでは、せっかくの魔法の剣も意味が無い。 「ほら、待っててやるから、早く起きな」 「クソッ、馬鹿にしやがって」 毒づきながらも立ち上がり、剣を構える。 またもやライラの姿が消える。今度は裏をかくつもりで左後方に飛び退りながら左前面を剣で薙ぎ払う。 「はい、残念でした。こっちだよ」 背後から声がする。振り向くより早く即頭部に強烈な打撃。意識が頭からすっ飛んでいく。 かろうじて失神は免れたが、頭がクラクラして狙いがつけられない。 「弱いものいじめは趣味じゃないんだ。さて、派手に負けてもらおうか」 「言って・・・・やがれ・・・・俺だってここで終わらねぇぞ!」 叫ぶと同時に盾を投げ捨て、剣を両手で持って構える。 「なるほど、その剣は・・・・細身だったから気がつかなかったけど、両手剣に軽くなる魔法をかけて片手で扱っていたのね。 ふん。それを両手で持ったくらいでこのアタシに勝てると思ったかい?」 「目にもの見せてやるぜ・・・・」 ま、これでとどめだけどね・・・・と心の中でつぶやきながらライラは跳躍した。 いや、跳躍しようとした。 何か鋭いものが背中に刺さった感じがした。矢ではない。もっと小さなものだ。 なんだ?と思った瞬間に急に足から力が抜け、がっくりと膝をついた。 「?!?!??」 「ヘヘヘ・・・・馬鹿め、油断しやがったな」 「な・・・何を・・・・・・した・・・・」 舌がうまく回らない・・・・呂律がおかしい。 「俺様はな、こう見えても人気者なんだ。友達だってたくさんいるんだぜ? 中には、猛毒を仕込んだ刃を自在に操る暗殺者もいるんだ」 「毒・・・・・ひ、卑怯者め・・・・・」 何だ?何かが宙を切って飛んだように見えた。 そしてその瞬間、ライラががっくりと膝を突いた。 「ライラおばさん?」 俺は何があったのかよくわからなかったが、ライラがピンチになったのだけはわかった。 「ケッ、ゲールめ。いくら往年の名闘士とはいえ、年増ごときに負けるとは情けないヤツだ」 観客席の2階から急いで駆け下りてくるのは黒ずくめで目つきの鋭い男。 「処刑ショーを台無しにされちゃお歴々の不興を買うからな・・・・俺は俺の仕事をやったんだ、ゲール、てめぇもちゃんと自分の仕事しろよな」 「ほっほう、おぬしの仕事とはなんじゃ?」 はっ、と振り向く。いつのまにか小柄な老人が背後に立っていた。 「なんだジジィ。老いぼれにゃ用はないんだよ」 老人を無視して立ち去ろうとするが、老人がするりと前に立つ。 ふぇっふぇっふぇっと、人をからかうように笑う。 「てめぇ・・・・何もんだ」 だらりと両手を下げる。一見無防備に見えるが・・・・ 「ワシャ、ただのご隠居さんじゃよ。ほう・・・・おぬし暗殺者じゃったか」 「ジジィ、何者か知らねぇが、それ言ったらタダでは帰れなくなるのはわかってるな?」 「タダで帰れないのは、はてさて、どっちじゃろうの?」 「てめぇ!」 一気に仕掛けようとして、足が止まる。 目の前の老人が、急に巨大な竜に見えたのだ。 「さて、それではワシはワシの仕事をするかのう」 老人が軽く腰を落として構える。 男は逃げる事も、この老人を倒す事も不可能である事を悟った。 「毒・・・・・ひ、卑怯者め・・・・・」 「何言ってやがんだ。難民ごときの処刑ショーに、ルールなんざ必要ないんだよ」 投げ捨てた盾を拾いつつゲールが嘲笑する。 「にしてもなんて化け物ぶりだ・・・・巨大なドレイクさえ即死する毒なんだがな」 「ゆる・・・・さん・・・・・おまえ・・・・だけは・・・・・・」 「もう立ってるのが精一杯の難民風情が!」 「おまえ・・・・殺す・・・・これで・・・・十分・・・・」 今にも倒れて息を引き取りそうな様子のライラの全身から、いきなり大量の闘気が噴出した。 老人が、はっ!と闘技場を見る。 「いかん、ライラ・・・・・今それを使うのは・・・!」 「な・・・・何?」 狼狽するゲール。その目の前から再びライラの姿が消えた。 今度はまばゆい閃光とともに。 とっさに胸前に盾と剣を構える。歴戦の戦士の勘だ。 今までとは比べ物にならない衝撃。 盾がひしゃげた。 盾を構えていた左腕が砕けた。 左腕の下で構えていた魔法の剣が折れた。 鎧の胸当てが破裂した。 肋骨が数本砕けた。 ゲールの体が宙を舞い、闘技場の壁に激突してめり込んだ。ぴくりとも動かない。 「ち・・・・くしょう・・・・あさ・・・・かった・・・・」 ゲールが立っていた場所にライラが立っていた。大きく両足を踏ん張り、右拳を突き出した姿で。 そのまま、ゆっくりと前のめりに倒れた。 ああ・・・・リック・・・・・アタシの大事な子・・・・・リック・・・・・アタシのたからもの・・・・・ 闘技場の歴史に名を残せし閃拳のライラ。 その波乱に富んだ人生は、闘技場の土の上で静かに幕を下ろした。
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/2173.html
82 名前:忍と幸人 第三話[] 投稿日:2011/04/11(月) 21 23 36 ID vZqUPmGs [2/11] 3 誰かが捨てていったらしい――そこら辺に転がっていた週刊誌を流し読みしていると、二階の一室が乱暴に開かれた。中から出てきたのは、あの女と幸人の二人だ。大方の予想通り、女は濃い化粧をバッチリと決めている。幸人も口紅を塗る等の軽い化粧をさせられたみたいで、見る限りでは女の子そのものだった。これから仕事に向かうのだろう。 気だるそうに女が階段を降りていく。幸人は一言も喋らずに後を追う。その顔は母の背中を眺めているが、目は力無さげに半分閉じている。どこか遠くを見る様な視線だ。 「スイッチ」が切り替わっている。これからその体を弄ばれるから、感覚を司る神経をみんな切り離してしまったのだ。幸人はそれを体現する様に全身を脱力させている。今彼の目の前に私が現れても、思い切り抱き締めたとしても、彼は私を認識してはくれないだろう。ゼンマイ人形みたいに私を素通りしていくだけなのは目に見えている。 国道沿いに二人が歩いていく。 距離を保つ事を意識して尾行する。夕闇の訪れはまだ少し浅いが仕方ない。 帰宅ラッシュの時間帯なのも気掛かりだ。私のすぐ傍を幾つもの車両が矢継ぎ早に通り過ぎていくが、すぐに走り去ってくれるのならともかく、信号に捕まって渋滞されてしまうと尾行もやり辛くなる。 パトカーが視線の端を過ぎて行った。女も幸人も平然としている。 コツコツと歩く。時折電柱に身を隠して様子を伺うが、二人はどうも黙りこくったままみたいだ。楽しく談笑するとは思えないが……一言も口を利かないで淡々と歩く様はどうにも不気味だ。 足が痛むのだろう、幸人は偶に足を止める事もあるが、やはり母に咎められるのを恐れてか、すぐに遅れた分を早足で詰める。身売りに連れ出される娘そのままの絵面だ。昼間は路上で花を売り、夜は路地で春を売る「花売り娘」を髣髴とさせた。 その背中を歯軋りしながら見つめる。エンジンの唸り、タイヤと路面の擦れる音に包まれている内に、脳が熱気を発している様に感じ始めてきた。 視野を二人の背中にガッチリと固定する。些細な異変も見逃す事が無い様、監視を怠らずに続ける。僅かな見落としが、そのまま仕留め損なう原因になるのかもしれないのだから。 83 名前:忍と幸人 第三話[] 投稿日:2011/04/11(月) 21 25 28 ID vZqUPmGs [3/11] 国道沿いのレジャー施設、コンビニ、カーショップ……次々に通り過ぎる。それ程時間は経っていないが、一体どこに向かうつもりなのだろうか。 ここら近辺に性風俗店は無いはずだから、「出勤」するなら車やバス、タクシーを用いるのがセオリーだろうが、仮にも公安委員会に届け出をしている正規の店に所属しているのなら、子供を連れたままの出勤なんて許されないだろう。必然的にどこかで客と待ち合わせる形になるはずだが……。 もしかしたら、待ち合わせの場所で客の車に乗り込み、さらに別の場所に移動するのかもしれない。そうなるとそれ以上の追跡は断念しなければならない。せいぜいできるとしたら、その車のナンバーを書き留める事ぐらいだが、そのナンバーの解析を合法的に行うのなら国家権力に頼らなければならなくなる。 警察には依頼したくない。となると、策が尽きてしまう。逢引する相手の顔を携帯で撮影しておくつもりではあるが、それもどこまで役立てられるかが疑問になってくる。あの女には私が満足する形で懲らしめてやりたい。その為にも、警察に動いてもらうのはまだ後に回したい。 今後の段取りはこの尾行で分かった情報を元に組んでいく。なるべく長引く事が無い様に短期で終わらせる。 「……む?」 足を止めて、電柱に隠れる。二人が横断歩道前で立ち止まったのだ。その横断歩道は国道を横切り、渡った先の近くには森の中へと続く薄暗い道がある。そこが目的地なのか。 信号が青になった。二人が歩道を渡り始めた。すぐに追いたいが、この信号が一旦赤になって、次に青になるまで待たなければならない。今の内に下手に渡ろうとすれば、二人に近づき過ぎてしまう。 赤になった。また車が右へ左へと走りだす。交差する車の影の向こうに見える二人の背中がどんどん遠くなる。間も無く見失ってしまった。 気持ちが逸るが、歩行者用信号はまだ青にならない。二人が暗闇に消えて時間が経っている。気持ちが少しずつ焦っていく。 ようやく青になったのを見た私は、少しでも早く追いつこうと思い切り地面を蹴った。 停車した車の前をすぐさま横切り、森の中へと駆け込む。確かこの先はハイキングコースになっていたと思ったが、その手前に公園がある。二人がいるとしたら公園周辺になるだろうか。 84 名前:忍と幸人 第三話[] 投稿日:2011/04/11(月) 21 27 29 ID vZqUPmGs [4/11] 公園に着いた。この森の中の公園はなかなか広大で、端から端まで何百メートルとある。その脇の木陰は「よろしくやる」には打ってつけだろう(男の同性愛者による待ち合わせがここで行われているとの事で結構有名らしい。彼らもそのまま仲良くやってしまっているのかもしれない)。 木々がざわめき、風が吹いた。結構強くて生温い。その風に音が乗ってこないかと期待して耳を澄ましてみるが、何もそれらしい物音は聞こえてこない。 「まだ」なのか、それとも音源が遠いのか……。 周囲を睨み、辺りを探してみる。闇はますます濃くなっていく。夜目が利く者達を羨ましく思う。 広い野原の中、薄暗闇の中、闇雲に足掻く。耳に入るのは風の音ばかりだ。ただ彷徨うばかりで時間を浪費するだけ。 粘り強く木と木の合間を縫って歩くが、人影らしいものは無い。 見当違いだったのだろうかと思う様になってきた。或いは、どこかで私が付けていた事がバレて姿を眩まされたのか……。 額を拭う。汗でびっしょりだ。今夜もきっと寝苦しい夜になるのだろう。吹く風は温くて不快感をより煽るばかりで少しも気持ち良くない。 幸人はどこに行ってしまったのだろう……。 薄い闇に囲まれて人恋しさが募ったのだろうか。少し心許無くなってきた。 最初から警察に通報するという手段に踏み切ってしまえば随分楽だったのにと、ふと思う。が、そう思えてもなお、それをする気になれない自分に笑ってしまう。 私はこんなに頑固だっただろうか。それとも、狂ってしまっただけか……。 ……いや、元々私は狂っていたのだろう。きっと。 私は狂っているのだ。小さな子供に抱いたのは庇護欲ではなく、彼の全てを独占しようとする黒い欲望なのだ。彼の綺麗な顔立ちとか弱さ、私に甘えてくるあの魔性の頬笑みに惑わされ、踊らされているのだ。あの子を汚す者達に抱いた憎しみは嫉妬だったのかもしれないとすら思える。 二十を迎えた女が、年端のいかない少年に惹かれた――前にニュースで女性教諭が教え子と関係を持ったという事件を報じていたが、今の私はまさにそれだろう。もし私が幸人に抱いている感情が外部に知られたら、きっとニュースで嘲笑された女教師と同じ視線を向けられるに違いない。 もう自分は引き返せない事を自覚する。いや、引き返すつもりにもならないのだ。 85 名前:忍と幸人 第三話[] 投稿日:2011/04/11(月) 21 30 16 ID vZqUPmGs [5/11] 体を起き上がらせる。全身が熱を持ち、汗腺から蒸気が放出されている。 胸に燃える何かに身を委ねた気がした。それは何故か、とても気持ちが良い。炎に焼かれる苦しみが快楽になった様な……不思議な感覚だった。 また強い風が森の中を通り抜けた。 舞う木の葉と塵の中、両目が見開く。今度の風は私に情けをくれたのか、ゴォッという音の中に微かな人の声が聞こえた。 慌てて振り返ると、そこには数人……六、七人の男達がいた。 まさかと思った。私は草木に紛れ、その後を追った。 彼らが向かった先は公園のトイレの背中、そのまたしばらく進んだ所だった。大きな木が目印代わりにそびえ立っている。 そこに、幸人とあの女がいた。 男達はあの女と話をしているみたいだが、ここからではよく聞き取れない。交渉をしているのか? 男達が何かを手渡した。金だろうか。女は何やら満足そうにその場から離れ、こちらに向かってくる。さっと身を隠すと、あの女はそのまま私の傍を素通りした。家に帰るつもりなのか……念の為、注意深く監視するが、何事も無く消えて行った。 幸人と男達に視線を戻す。よく見えないのでじわじわと近寄っていく。物音を立てない様に細心の注意を払う。 携帯を録画モードに設定する。まだ距離が離れており、男達も幸人に気を取られているのもあって、音には気が付かれなかった。風の音が誤魔化してくれたのもあるかもしれない。 気を取り直して距離を詰める。男達は幸人を囲んであれこれと話し掛けているが、幸人の反応が薄いので、段々まだるっこしくなってきている様子だ。 「いいや、このままやっちまおう」 男達が幸人に手を掛けた。一人はシャツを捲り、一人はズボンをずらす。手が空いた男達は自分のジッパーを降ろして陰茎を露出させている。 携帯のライトを光らせる。男達は一様にビクッと肩を跳ね上げた。 「今、記録させてもらっている。お前達、自分が何をしているか、分かっているな?」 携帯をポンポンと叩き、録画している事を強調する。男達は慌てて股関を隠すがもう遅い。 86 名前:忍と幸人 第三話[] 投稿日:2011/04/11(月) 21 33 01 ID vZqUPmGs [6/11] 「何だお前は!」 一人が気丈に食い掛かってきた。 「その子の……友達だ」 活力の見出せない目をしたままの幸人を見つめ、そう返す。私が見えていないはずはないのだが、何一つと反応を見せてくれない。分かってはいたが少し悲しい。 「その子が夜な夜な大人達の慰み者になっているという噂を聞いたので、尾行させてもらった。これをバラされたくなければ、私の言う事に従ってもらおうか」 連中の目線が私の携帯に集中する。ある者はうろたえ、ある者は眉間に皺を寄せてこちらを睨んでいる。 じわじわと、私の死角に回ろうとする奴がいるのを視界の端で捉える。威嚇程度にこちらも睨みつけてやると、その動きをピタッと止めた。こいつ、私の隙を突いて携帯を強奪しようとしていたのか? 「さぁ、どうする? 私としては寧ろ穏便に済ませたいというのもあるのだが、それもお前達の返答次第だぞ」 面子をざっと眺める。どこにでもいそうな面だ。特別に変態そうな顔をしているわけでもないし、犯罪者とは到底思えない、ごく平凡な顔だ。年齢層はおよそ二十代か三十代程で、中肉中背、本当に特徴らしい特徴が見られない容姿だ。 私の脅かしにどう出るだろうか。まぁ、こちらは図体がでかいとは言え一人の女で、向こうは複数の男だという事を考えればオチは予想できるが。 男達が目配せをしているのを見て、どうも予想通りの事の運びとなりそうだと思った。 静かに草を踏みしめて、ゆっくりと私の目前に展開する。私を頂点とした、扇形の並びになった。その形を保ったまま、さらにこちらに近寄ってくる。その顔は血気盛んと言うよりも、引くに引けない切羽詰った感の溢れるものだった。 それなりに喧嘩慣れしている奴もいるらしい。さっき、私に食い掛かってきた男だ。こいつは他の奴らよりも少しだけ肉が付いているみたいだ。 「アンタの要求は呑めないね」 そいつが言った。 「今ここでその携帯を壊してしまえば証拠は残らないだろう?」 確かにその通りだ。この携帯の録画データを消されれば、それでもう物的証拠はこちらには残らない。 お前達にそれができるかは知らんが。 87 名前:忍と幸人 第三話[] 投稿日:2011/04/11(月) 21 35 25 ID vZqUPmGs [7/11] 一人の男が木の棒を手に殴り掛かってきた。私はそれを腕で受けとめ、空いている右の拳を思い切り顔面に打ち込んでやると、そいつはまるで風船人形みたいに宙を舞った。背中から受け身も取らずに落下し、じたばたと悶える。 奴らはその光景に随分怯んだみたいだが、なかなか根性はあるらしく、正面から挑んできた。 一人の胴に蹴りを入れる。その脇に備えている奴の繰り出してきた拳を止め、頭突きを見舞う。背後から首に巻き付いてきた腕には、そいつの脇腹に肘鉄を喰らわして振り払った。それぞれが紙切れみたいに散っていく。 周囲を確認しようとしたその瞬間、頬に痛みが走ると同時に視界が揺れた。さっき私に怒鳴り散らした、あの男の一撃だった。 まともに入ってしまった。やはりこの男は他の奴らよりかは強いみたいだ。 視界がチカチカするが、持ち直す。 「アンタ、随分と強いねぇ。それに、なかなかのべっぴんさんときた」 ヘラヘラ笑っている。相当の自信家であるらしい。 「俺はこいつらと違って喧嘩には慣れている。アンタは体はデカいが所詮は女――」 勝手に一人語りを始めている。隙だらけだ。 羽織っていた迷彩のジャケットを奴の眼前に投げつける。視界を失ったその一瞬を突き、力一杯、奴の股間を蹴り上げてやった。 「んぉっ」 断末魔が聞こえた。 魂が抜かれた様に地面に伏すのを確認し、奴の頭に被さったジャケットを剥ぎ取る。そこには、泡を蟹の様に吹き、白目剥いて気絶している顔があった。 馬鹿め、油断するからだ。 埃を払い、ジャケットを羽織り直す。生き残った二人はやり合う気概も無くしたか、顔を青ざめて震えていた。その奥にいる幸人は相変わらず、興味も無さそうにこの場を傍観していた。 「まだやるか?」 指の骨を鳴らす。二人はブンブンと首を振った。
https://w.atwiki.jp/jhs-rowa/pages/143.html
君に届け(I for you) ◆j1I31zelYA 神崎麗美から、菊地善人に。 越前リョーマから、バロウ・エシャロットに。 秋瀬或から、我妻由乃に。 高坂王子から、天野雪輝に。 天野雪輝から、我妻由乃に。 碇シンジから、綾波レイに。 そして。 ×××から、越前リョーマに。 × × × 「菊地さん、久しぶりっス」 とことこ、と。 茶髪の少年から菊地たちをかばうような位置取りに歩みを進めると、試合前のスポーツマンよろしくぺこりと一礼。 「神崎さんのこと、間に合わなくてすいません」 「それはいい。むしろ助かった……もっとも、状況はまだヤバいけどな」 「みたいっすね」 後は任せろと言わんばかりに、射るような眼差しを少年――バロウ・エシャロットに向ける。 そんな越前に続いて現れたのは、合流する予定だった二人のもう一人――綾波レイと、菊地には初対面となる少年。 「どういう状況? 杉浦さんは?」 「神崎……マジかよぉ……」 どうやら神崎とは面識があったらしく、沈痛な視線をその遺体に向けている。 本来ならば再会を喜び合いたいところだが、あいにくと正面にいる敵は、既に何人もの人間を殺している異能者だった。 「杉浦たちはこの近くに待たせてる。そこにアイツと戦える仲間もいる。 いったんそこまで走るぞ。あのバロウはヤバ――」 「させると思ったの?」 冷淡な声が菊地の望みを断つ。 同時に、バロウの掲げた砲身から巨大な鉛玉が飛び出した。 ドン、と重たい破裂音を後にひいて、一メートルほどの鉛玉が四人を蹴散らさんと突進する。 「…………!」 「クソッ…」 「う、腕から大砲ぉ!?」 激突までのわずかな時間。 菊地は歯噛みをし、初めて目の当たりにする高坂と綾波になすすべはなかった。 しかし、 「高坂さん、しばらく借りるよ」 越前は、いつの間にかその左手に金属バットを手にしていた。 「ふっ!」 そのフォームは、テニスでリターンエースを取る時のそれ。 左腕が輝きを放ち、巨大な弾丸をバットの芯でとらえ、返す。 次の瞬間。バロウの立っていたすぐ手前で、地面の破砕音が響いていた。 「…………え?」 ギリギリの位置で“鉄”が地面と爆ぜ、風圧に気圧されながらバロウが目を見開く。 「……ってー。やっぱ“百錬自得の極み”が無いとキツイね」 「越前……お前『テニス部』じゃなかったっけ?」 「同感だけど今は突っ込むな! 今のうちに仲間ってのを呼んでこい!」 今だけは高坂が菊地を急き立て、近くにいるらしい仲間の元へ急がせようとする。 バケモノじみた能力には怖じ気づきかけたけれど、マリリンと戦った時のように『Neo高坂KING日記』を使って越前をサポートすれば、時間かせぎぐらいはできるはずだと思った。 しかし、動揺から脱したバロウはそれを許さない。 “鉄”の衝撃で尻もちをつきながらも、右手をかざして唱えた。 「“旅人(ガリバー)”!」 その声を起点とするように、一瞬で地面を光る網目模様が駆け、 「のわっ!」 ――網目の一角、リョーマをのぞく三人が立っていた地点を取り囲んで“壁”が生えた。 時間にしてほんの0.5秒足らずで、“蓋のついた壁”は“箱”として閉じる。 菊地たち三人は、それだけで“箱”の中に隔離されてしまった。 「菊地さん!?」 リョーマは慌てて壁へと駆けより叩いたが、“箱”は分厚い石材か何かのように、内側の一切をシャットアウトする。 「心配しなくていいよ。ボクの神器なら簡単に壊せる。もっとも――」 腕からふたたび“鉄”の神器を出現させて、バロウが淡々と説明した。 その巨大な砲身を“箱”に向け、狙いを定めて。 「そうなった時、中の三人は無事じゃ済まないだろうけどね」 「ふーん。そういうこと、するんだ」 それが意味するのは、リョーマを先に始末してから一方的に残りの三人を虐殺するのでも、 逆に三人を集中的に狙ってリョーマの反撃を封じるのでも、どちらも自由にできるということ。 実質的に人質を取ったといっていい状況に、バロウを見据える眼光が鋭くなる。 「四人も一気に殺せるって時に、植木くんに邪魔をされても困るからね。 ……そもそも君たちは仲間を呼んで、多対一でボクを倒すつもりだったんだろ? 手段を問わないというならお互い様だと思うけど」 「あ、それもそっか」 「え……納得した?」 「でも、まだまだだね」 リョーマは己のディパックを地に落とし、テニスボールを数個つかみだして、構える。 「オレなら、そこは『全員かかってきやがれ』って言うよ」 「君、生意気だよ」 苛立ちを顔にあらわすバロウだったが、視線は目の前のリョーマ自体ではなく、別のところに向いていた。 先ほど、撃ち返された“鉄”が着弾した跡へと。 苦々しく、嫌な思い出でもあるかのように。 「こいつ、もしかして……」 ◆ 我妻由乃は、雪輝日記を持っていた。 つまり、天野雪輝がちょっとやそっと距離を空けようとも、補足することは容易い。 結論を言えば、天野雪輝は未だ我妻由乃に追われ続けていた。 未だに殺されていないのは、最後の命を燃やして遠山金太郎が突撃をした、それだけの間にかせいだ“距離”のおかげ。 しかし、それでも。 誰よりも愛しい少女の呼び声が、何よりも冷たい温度を持って、雪輝の背後から降りかかる。 「どうして、ユッキー?」 たとえば遠山金太郎が残した功績のひとつは、ミニミ機関銃による狙撃の機会を奪ったことだろうか。 いくら我妻由乃といえど、姿勢を維持して反動を殺さなければ撃てないそれを追走しながら連射するには無理があった。 追撃される側だったマリリン戦とは違い、追撃して仕留める側となれば、その武装はそこまで優位ではない。 だから、かろうじて殺されずに逃げ続けている。 「どうして、私を愛してるのに、私の“願い”を邪魔するの?」 一万年ぶりに得た『友達』の犠牲に、おそらく意味はあった。 最大の証拠に、今の雪輝は死ぬわけにいかないと必死になって走っているのだから。 ここで殺されてしまえば、『ともに星を見に行く』という願いが叶わなくなるから。 『行けよ』という友の言葉に、背中を押されたから。 しかし、それでもなお、疲れを知らぬとばかりに駆ける追手との距離はつきはなせない。 「ここで逃げることに意味なんてないじゃない。 私を殺して最後の一人を目指すならまだしも、そうしたくないんでしょう?」 念を押すような有無を言わせない声に、雪輝は逃げながら叫び返した。 「僕は、君と二人の未来が欲しいからだよ! 君にとって、僕はたくさんいる『雪輝』の一人かもしれないけど。 僕にとって、我妻由乃はただ一人の人なんだ!」 叫んだことの答えは、拳銃の発砲音を持って返された。 雪輝に語りかけたのはあくまで心を折る為であり、対話する意思は無いということか。 一発目の弾丸は、ちょうど雪輝が横断した路上のガードレールに阻まれて金属音を立てる。 しかし二発目の弾丸が、踏み出そうとした雪輝の右足を強く掠めた。 「ぐぅっ……!」 熱と痛みに足をすくわれ、前のめりに膝をついた。 それを狙っていたのか、由乃は温存していたスタミナを使いきるように加速を果たす。 これまで日記所有者やその配下を葬ってきたように、同じ殺戮が雪輝へと振りかかる。 振り向き、日本刀を振り上げながら疾駆する由乃を、雪輝はスローモーション映像のように目に焼き付けていた。 「僕は、君のことを愛してるんだ……」 「私は、愛してなんかいない」 冷徹な眼差しが見下だしながら、日本刀が振り下ろされる。 雪輝は、無力だった。 「その言葉は、聞き捨てならないな」 ――だからこそ、雪輝を救うのは誰かの助けでしか有り得ない。 下方向から振り上げられた刃が、由乃の日本刀を受け止めていた。 ギィン、と金属同士のぶつかる音。 それはしばらくの鍔迫り合いを演じた後、刃を雪輝からそらすように横に払われる。 「秋瀬くん……!」 「秋瀬、或っ……!」 「頃合いからいって、そろそろ再会があるとは思っていたけどね」 木製の刀身に、黒曜石の刃を埋め込んだ鋸のような剣。 それが、秋瀬或が右手に持つ最後の支給品にして、天野雪輝を守るために戦うという意思表示だった。 「邪魔を、するなっ……!」 ふたたび切りかかる日本刀を鋸の刃で受け止め、秋瀬はその背中でかばう雪輝に問いかけた。 「雪輝君、改めて聞こう。――望みは、決まったかい?」 間髪いれず、雪輝は答える。 「僕は、由乃と星を見に行きたい! ――叶える道が見えなくても、ワガママでも、絶対にそうしたい!」 そう宣言した時。 瞬きするほどの間だけ、秋瀬或が悲しげな微笑を浮かべる。 それを、背中を向けた雪輝に見せることはない。 「なら、僕はその“願い”を叶えるために力を尽くす」 宣言して、憎悪の眼で睨み据える我妻由乃を意に介さず、ただ雪輝に告げた。 「我妻さんはボクが止めるよ。今は逃げてくれ」 「それは……」 それは、ついさっき遠山金太郎に言われたことと同じ要求。 だからこそ、雪輝は目をみはって実行を躊躇う。 しかしだからこそ、数瞬で決断をすると踵を返して逃走を再開した。 遠山金太郎の時には言えなかった言葉を、後ろへと呼びかけながら。 「助けを……絶対に、助けを、呼んでくるから! だから、持ちこたえてくれ!!」 天野雪輝は、友達を見殺しにして泣きもしない人でなしだと自認している。 それでも、我妻由乃のようにほかの人間を『駒』だとは思えなかった。 新たな友によって、生かされたのだから。 彼のおかげで、“願う”ことができるようになったのだから。 だから、それが厚かましくとも、無関係な人間を巻き込む行為だろうとも。 友を救うためならば『助け』だって探しに走る。 ◆ 神崎麗美は、最後に『ごめんね』と言った。 小さな声だったけれど、リョーマたちに向けた謝罪なのかさえも確かではないけれど。 それでも、あんな状態だった少女が、あんな状態から可能性を見せたのだ。 別に越前リョーマは、困っている人を片っ端から助けて回るような正義の味方ではない。 それでも『柱』を名乗るなら、影響を与えた人に対して責任があることぐらいは分かっている。 最後の最後で、『撃たなくてよかった』と思わせてくれたのだ。 その思いにこたえないわけにはいかない。 だから今は、仲間を守る。 「ねぇ……この“箱”って時間がたったら消えてくれたりしないの?」 仲間を閉じ込めた“箱”の上に立って全方位を警戒するように見渡し、リョーマが尋ねた。 「僕に聞いても意味ないと思うけど……こんな使い方をしたことがないから分からないね。期待しない方がいいよ」 「あっそう」 淡々と事実を答えて、『ドン!』とバロウの腕が更なる“鉄”を打ち出した。 それだけならば、威力はあれど単純な直線攻撃に過ぎない。 しかし、 「また来た……!」 どういうわけか、“箱”から見て両側面からも同じ打球が迫り来ている。 全ての攻撃を視界におさめ、リョーマは跳躍した。 “箱”から飛びおりざま利き腕を“百錬自得”のオーラで包み、まずは左側方から迫る打球を横殴りに返球。 バロウめがけて打ち返すと、一瞬で自らの両足へオーラを『移動』させた。 「その技……左腕以外にも使えたんだね」 「人にもよるけど、ね!」 オーラを纏った両脚で加速を果たし、正面からの砲弾へと対処。 オーラの位置を左腕へと戻して、打ち返す。 さすがに非現実的なことやってるなぁという自覚は出てきたけれど、それが却って幸いしたのか、いい加減に修羅場慣れしてきたのか、神崎麗美のマシンガンのような萎縮はなかった。 そのまま一気に右側面からの“鉄”をリターンして、ついでに“箱”の裏手へと回り込もうとしていたバロウの進路にぶつける。 足を踏み出した地点を“鉄”が掠めて、バロウは身をひねり己の半身をかばうようにした。 「ちっ!」 前後左右からの“鉄”による挟撃が失敗して、舌打ちをひとつ。 どうやらバロウは謎の“多方向からの攻撃”を得意戦術としているらしかった。 それが証拠に、バロウを進路妨害するように“タメ”をつくって攻撃をぶつけると、目論見の達成が遠くなったように苦々しい顔をする。 だからリョーマも、なるべくバロウを動かさないような返球を心掛ける。 鉄球が体をかすめ続けたことで、バロウはすでに細かなダメージの蓄積を見せていた。 ボロボロに汚れたダッフルコートを羽織り、息を切らせる。 「ただの人間にしては、しぶといじゃないか……もっとも、そんな攻撃なんかいつまでも続かないよ。 掠めるような打球ばかりで、殺意が無い」 しかし、戦況そのものはバロウが圧倒的に有利。 リョーマのあがってきた息の乱れも、重たくだらりと垂れた腕も、全身をつたう尋常ならざる量の汗も、それを如実に示していた。 どういう仕組みかほぼノーリスクで多方向の鉄球を呼び出せるバロウに対し、リョーマは駆けつけて“箱”の破壊を防がねばならないのだから。 加えて、バロウの一撃は当たりさえすれば致命傷になるのに対して、リョーマには相手を殺す意思までは持てないことがあった。 自分の力を殺人に使うことを良しとしない精神もあったし、神崎麗美の一件で殺す重さを実感してしまったことがある。 しかしどこかで決定打を当てなければ、ずっとこのままでは“箱”の中にいる菊地たちが酸欠になってしまう。 「やっぱり君も“甘い”んだね。本当にうんざりする」 そんな葛藤は、バロウにとって理解しがたいものだったらしい。 次の攻撃を見計らうように間をおいて、吐き捨てるように言った。 「前にも会ったよ。君と同じように、仲間を守ろうとして自分の命を危険にさらすようなお人よし。 そいつも、最後までボクを殺さないように気を使って、甘っちょろい説得の言葉を吐いてきた」 その『お人好し』のことが、よほど気にらなかったのか。 そいつを否定することで、邪魔をする存在をすべて否定しようとするかのように、バロウは疑問を投げかけた。 「どうしてみんな、切り捨てるってことができないんだろうね。 いくら欲しいものがたくさんあるからって、自分が死んだら何も叶えられないじゃないか。 最短距離の道を選んで、全部大事にしたいなんて理想は捨てる。幸せになりたなら、そうするしかないんだよ」 「幸せになりたいから、アンタは殺し合いに乗ったんだ」 「そうだけど?」 それがどうした、それ以上の理由は語ってやらないとばかりに、バロウがみたび右手を大砲に変えようとする。 しかし先んじてリョーマは動き、その右手が変化する前にテニスボールをぶつけていた。 痛そうに手首をおさえるバロウへと、静かに問答を続ける。 「じゃあ聞くけどさ、最短距離で、現実的に、そうするしかないやり方で、夢を叶えようとしてるアンタは――」 「――どうしてそんなに面白くなさそうな顔してるの?」 ぴくり、とバロウが表情をひきつらせた。 いや、楽しく人を殺すのも問題あるんだけどさ、と前置きして、さらに言う。 「ベストの道を選んだわりには、ずいぶんと辛気臭そうな顔してるじゃん。 そんな顔して歩いてきて、楽しい?」 日野日向は、その目を見て自分たちとは違う生き物だとみなした。 月岡彰は、その顔を見て絶望に浸かりきっていると評した。 植木耕助は、その態度を見てこんな奴から犠牲者を出してたまるかと憤った。 越前リョーマは―― ――なんかしんどそうだなと、そんな風に思った。 殺し合いのように世界の暗部で行われていることではなかったけれど、全国のテニスプレイヤーと試合をしていれば色々な奴らとも出会う。 コンプレックスだとか高すぎる目標に抑えつけられて、好きなことをまっすぐに楽しめない奴とか。 三連覇をすることばかりに必死になって、その為なら心を鬼にして、イバラの道を歩いているつもりになっていたヤツとか。 人殺しとひとくくりの問題にするのは失礼だけれど、彼らの印象とも少し似ていた。 自分の身をボロボロにしてでも意地を通すヒトはいるし、目的の為なら手段を選ばないヤツだっているけど、きっとこいつはそういうのとは違う。 世の中楽しいことばかりではないし、我慢や妥協だってあることは知っているけれど、こいつの『楽しくなさそう』はそういうのとも違う。 人を殺すことを嫌々こなしているというより、自分の能力を使っている時さえどこか投げやりに見える。 自分を救いたいのに、手段を見失っているヤツだ。 そのバロウを説得したというお人好しが、助けたくなったのも分からないではない。 「ふざけないでよ。目的を達成するのが楽しいだって?」 こいつは、潰さなければいけないヤツだ。 そういう認識を、バロウもまた手にしていた。 バロウにとって、能力とは母親を傷つけた罪そのものであって、必要がなければ使うどころか目に触れることさえ嫌なものだ。 バロウにとって、夢を叶えるということは、母に存在を許されるという贖罪であって。 絶対に成し遂げなければいけない悲願であって。 どいつもこいつも、 お前は人間として生きていけるとか、 人を犠牲にするなんて許されないとか、 勝手なことばかり言う。 「君にひとつだけ言ってなかったね。 そいつは、手塚って呼ばれてたよ」 やっぱり、と。 リョーマは、そんな風に呟いていた。 そうでなければ、こんな唐突に語り始めるきっかけに乏しい。 いや、そこまで論理的に予想していたわけでなく、推測だったのだけれど。 これまでにも、神崎麗美から『跡部を殺した』と告白された一件があった。 それに、部長はどうして死んだんだろうとか、考えていたこともあった。 「ふーん。それで」 こんなヤツに殺されたのか、とは不思議と思わなかった。 神崎にとっては不本意だろうが、先に彼女と出会っていたおかげかもしれない。 あるいは、きっと。 手塚をあざけったバロウが、この上なく苦々しい顔をしていたからだろう。 大事なのは、部長が馬鹿にされているとかそういう表層のことじゃない。 もっと本質を、見極めろ。 「その時、部長はアンタに、なんて言ったの?」 斬りこむ。 「君はこれから死ぬのに、教える意味がない」 「これから死ぬ予定なら、なおさら教えてくれたっていいじゃん。死なないけど」 「これから死ぬなら、なおさら満足させてなんかやらない」 その態度だけで、察することぐらいはできた。 きっと部長は、こいつにも厳しくて優しかったんだろう。 とはいえ、リョーマは手塚ほど自己犠牲精神にあふれた人格者ではない。 怒っている。 冷静でいられる自分がこわいぐらいには、怒っている。 とりあえずぶっとばして泣かせて膝をつかせたいぐらいには、怒っている。 でも、『部長を殺したヤツに出会ったらどうするか』なんて、とっくに決めていた。 「ま、いいか。オレがアンタを止めたら、その時に教えてよ」 「そんなことができるなら、理由どころか、僕の過去を丸ごと教えたっていいさ」 バロウもまた、怒っている。 一度は完全に否定したヤツが、また目の前に現れたようだったから。 また邪魔されたことに、怒っている。 「オレは、殺し合いに乗った相手に――」 「ボクは、ただの人間なんかに――」 「「絶対に負けないって、とっくに決めてる!!」」 二つの宣言が重なり、それぞれの武器が構えられた。 バロウが新たに行使したのは、“鉄”よりもさらに凶暴な性質を持つ神器。 「“唯我独尊(マッシュ)”!」 凶暴な立方体の“顔”が、あぎとを開いてリョーマに突進。 その脇を固めるように、数発の“鉄”が再現されて繰り出される。 ホッチキスのようにカチカチと開閉される顔は、初見でも『噛みつかれる』と恐怖させるのに十分なものだ。 「でも、遅いよ!」 でも、だからこそ攻略法が閃くのも一瞬のこと。 標的への到達速度ならば、砲弾の形で放たれる“鉄”の方が早い。 “風林火陰山雷”の『雷』を発動。 動くこと、雷霆のごとし。 先に“鉄”をさばいて返球し、最後の“鉄”の一球を“唯我独尊”の“口の中”へと叩き込んだ。 倍返しの威力を持った“鉄”は“口の中”の牙と激しく衝突し――それでも最終的には、噛みくだかれる。 しかしそれでも、“唯我独尊”はその一撃を攻撃終了とみなしたのか、相打ちのように消失した。 「ちぇっ……攻撃は通らないんだ」 「一面への破壊力なら、“鉄”よりはるかに上だからね……心が折れた?」 「まさか!」 そしてバロウは休む間も与えず、さらなる“顔”と“鉄球”を呼び出す。 速攻で片づけたいのは向こうも同じかと推測し、越前は地を駆けながら攻略を思案しはじめた。 ◆ 「くそっ……神崎の支給品の中にも、使えそうなものは無しか」 “旅人”の中に閉じ込められた菊地たち三人は、必死に脱出策をめぐらせていた。 神崎麗美のディパックまでもを検めてみたものの、“旅人”の壁をぶち破って脱出できるような支給品は無し。 いや、綾波レイには心音爆弾という隠し武器もあったのだが、この場でそれを使えば確実に菊地と高坂を道連れにしてしまうだろう。 早く脱出しなければ、外側にいる越前が殺される。 その焦燥が三人の胸を焼き焦がし、無力感は爆発しそうになっていた。 そんなもどかしい時間だった。 ザザッと、ノイズのような音が壁の中で反響したのは。 高坂が、歓喜の声をあげたのは。 「よっしゃああぁぁぁぁ! 予知が来やがったぜ!」 「予知……それ、未来日記か!?」 「『Neo高坂KING』日記だぜ! 数分後に『越前がバロウの作った壁をぶち破る』って書いてあるぞ!」 「本当?」 「ちょっと待て! 画面を見せてくれ」 未来日記の予知の確実性は、菊地ならば『友情日記』の一件で知るところである。 携帯電話から予知画面を確認して、菊地の頬にたちまち喜色がさした。 「よし、各自でここにあるだけの装備を持って、壁が崩れたと同時に突貫だ。 まず越前の無事だけは確保するぞ。壁をぶち破る瞬間までは生きてること確定だからな。 これでシンジの時の二の舞は避けられる」 安堵したところを、気が緩んで。 ――口を滑らせたとしか、言いようがなかった。 いずれ聞かせる話とはいえ、この場で明かしてしまうことは、綾波レイを動揺させる以外の何をも期待できない。 「いま、碇くんのことを言った?」 しかし、ひとたび露見させてしまえば、ごまかすなど到底無理な話だった。 綾波レイが、こればっかりは聞き逃せないとばかりに、 暗闇でも分かるほど、鋭く強い目つきで菊地を見据えていた。 ◆ 「うおおおおぉぉぉぉっ!!」 “百錬自得の極み”と“十球同時打ち”を用いて鉄球をさばいたリョーマは、最後の一打を上空へ向かって打ちあげた。 直後、ひと飛びに己自身を跳躍させ、くるくると体を丸めて宙返りするような不可思議な動きで飛翔する。 「自分の打った弾に、追いついた!?」 あらたな動きを見せたことにア然とするバロウをめがけ、その剛球は放たれた。 超(スーパー)ウルトラグレートデリシャス大車輪山嵐。 技名は恥ずかしくて口に出せたものではないが、好敵手の遠山金太郎から模倣した大技だ。 超最大級に重いスマッシュの打撃。 その破壊は風圧だけで周囲にあったすべてを吹き飛ばし、近くを浮遊していた“唯我独尊”でさえも突風で軌道をそらした。 バロウもかろうじて直撃は避けたものの、余波だけで宙を舞って後ろの巨木へと背中から激突する。 「ちぇっ、そのまま当てるつもりだったのに……」 いくらリョーマに殺意が無いとはいえ、体のギリギリを鉄球が掠めても動じないことから察しはついていた。 もしかしなくても、こいつの体は頑丈だ。 きっと、鉄球の一発や二発をぶち当てられたところで死ぬことはない。 ボールをぶつけて相手を吹っ飛ばすようなプレイスタイルなんて普段はあまりガラでもないけれど。 (ウソつけドライブAを打ってたじゃないかというツッコミが聞こえた気がする) それでも、相手を傷つけずに解決できる段階は通り越してしまった。 想いがあるだけではダメで、力で潰すだけでもダメなことがあって。きっとそれが今だ。 「なんて威力だよっ……でも残念。ひとつ取りこぼしてる」 風圧に襲われる前に、放物線を描いて飛来していたらしい。 上空から降りかかるように、“唯我独尊”が牙をむいて迫っていた。 「やばっ――」 「空中では身動きが、とれないよね?」 「……とれる!」 空中で身をひねり、スマッシュを打つフェイントをかける時の要領で方向転換。 かろうじて“口”に挟まれることだけは回避したものの、開閉する上顎に鈍く右腕を強打された。 「ぐぁっ……」 骨に、ヒビくらいは入ったかもしれない。 冷静に分析した次の瞬間には、地面にたたき落されていた。 土埃をのんでゲホゲホと咳きこみながら立ち上がるのと、大車輪山嵐に飛ばされて叩きつけられたバロウが立ち上がるのはほぼ同時だった。 「すごいね……ここまで止められるとは、思わなかった」 ふぅ、と息を吐くバロウ。 どちらも、いっそう傷だらけ。しかし、疲労困憊ではリョーマのほうが格段に濃い。 「でも、次で終わりだよ。いくら偉そうなことを吼えたって、力で敵わないなら何の意味も無い」 「にゃろう……」 右腕の痛みを無視して、思考を冷静にしていく バロウの攻撃の手数は、時間が経過するごとに増えていくらしい。 そろそろ、バロウを一撃で仕留めるか“箱”から三人を解放するかしないとまずい。 これ以上の手数を増やしてしまえば、“箱”がどうにか消えてくれたとしても、次の瞬間に全方向からの“鉄”で死なせるようなことになってしまう。 かと言ってバロウの攻撃を“箱”にぶつけてしまっても、その衝撃で中にいる菊地たちが―― ――“一面への破壊力なら” 「あ……そっか」 思いついてしまえば、簡単なことで。 あとは、成功するかどうかだった。 「これで、終わりだよ」 バロウの方も、戦況が長引いて助けが駆けつけてはまずいのだろう。 この一撃で決めるとばかりに、正面と左右から鉄球の群れと“顔”が雪崩かかった。 “鉄”はリターンできるのだから、返しようのない“顔”だけを出せばいいのにとも思ったけれど、 どうやら“顔”だけで総攻撃をかけるといった器用なことはできないらしい。 “無我”のオーラを頭に移し、“才気煥発の極み”を発動。一瞬で計算式を作り上げる。 オーラを足に戻して光速で疾駆し、鉄球の中から相互に軌道干渉できる打球だけを選んで打ち返していく。 “手塚ゾーン”ほど完璧には軌道を操ることはできないが、それでも打球にカーブをかけて、別の打球を妨害させるぐらいはできた。 鉄球同士がぶつかり合って軌道をそらし合うわずかな間、勝負を決める一瞬が待つ。 残っていた正面からの“鉄”を、まっすぐに打ち返す。 そして、遠山金太郎のステップをコピー。その打球へ、脚力を総動員して追いつき―― ――リョーマの動きを追尾しきれずまごついている“唯我独尊”の背部、口と反対側の面へ向かって打った。 「何を――!?」 本来ならば、“箱”に到達するまえ、さっきまでリョーマがいた地点であぎとを閉じるはずだった“顔”が、少しだけ押し出されて。 “旅人”の壁を、一面だけ粉砕した。 「やった……」 埃の舞い上がる“箱”のあった場所を確認して、会心の笑みが浮かぶ。 三人が壁際に立っていたら巻き込まれたかもしれないが、そこは高坂にも未来日記があったのだから、予知を見てくれたと思いたい。 あとは、バロウにとにかく一撃を入れてしまえば―― 「“百鬼夜行(ピック)”!」 ――勝てる戦いだと、思っていた。 “箱”を破られて焦ったバロウが、普段なら使わない神器を解放しなければ。 それは、前回の戦いで、植木耕助を屠ろうとして、碇シンジを仕留めた凶器と同じ。 その武器の速さは“鉄”の比ではないほどに疾く、破壊力もいっそう上回る。 六角柱の鋭い杭が、リョーマの胴体をえぐるように迫っていた。 (しまっ――) ひときわ重い打球を打って崩れた体勢から、左右に飛ぶなどできるはずがなく。 どん、と常人には耐えきれぬ一撃が、胴を打ち抜いていた。 ◆ 「越前、無事か!?」 菊地にはジグザウエル、高坂にはクロスボウガン。 手に手に神崎の遺品を持って突入した菊地たちの視界は、 デジャブを以って、迎えられることになった。 「まさか、ただの人間がボクに神器を四つも使わせるなんてね。 でも、最終的な結果は変わらないよ。彼は死んだ」 そこには、体をくの字にして力無く転がる越前リョーマの姿。 「ッ貴様ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 碇シンジを殺された。 神崎麗美を殺された。 たった今、また新たに仲間を殺された。 いとも簡単に、こんなヤツに。 いくら菊地善人でも、冷静さを保つことなど不可能だった。 怒りにとりつかれ、何発もジグザウエルの引き金を引いていく。 バロウは冷淡な目でそれを見て、“威風堂々(フード)”の盾を出現させた。 さんざんに手こずらされた『手塚の置きみやげ』は始末したけれど、こうも五月蠅くされては植木を呼んでしまいかねない。 ここはふたたび“旅人”で閉じ込めてから、“鉄”で三人まとめて始末しよう。 “威風堂々(フード)”の盾から流れ弾に気を付けて顔をのぞかせ、 拳銃を撃ち続ける菊地の姿と、泣きそうな顔で越前とやらをゆさぶる高坂の位置を確かめる。 ――ひとり、足りない? そのことを、やっと疑問に思ったとき。 『見えない誰か』が、横殴りの当て身をバロウに充てていた。 「なっ!?」 完全に油断していたことと、相手の姿がまったく『見えなかった』という誤算から、面白いようにその当て身は決まり、バロウはぐるぐると転がったのちにマウントポジションで倒される。 衝撃で背負っていたディパックの口が外れ、支給品である絵筆や画材や軽いマントが地面へと投げ出される。 同時に、そのもう一人の体を隠していた『透明なマント』も剥がれ落ちた。 “威風堂々(フード)”が解除されて、その姿が他の二人の視界にも開けた。 「綾波……」 仰向けに倒れたバロウにのしかかり、綾波レイがベレッタM92をバロウの額にあてていた。 「あなたは、許せない」 表情の宿らない顔から、絞り出すような声が漏れる。 綾波レイが、バロウ・エシャロットを殺す。 菊地は、それを止められなかった。 杉浦綾乃の『先生』として、仲間を『ヒトゴロシ』にしてはならないと、頭では理解していて。 更に言えば、バロウが近距離戦の備えをしているかもしれない以上、綾波のそれは命を危険にさらす行為だと理解していて。 それでも、自分が同じ立場だったら、同じことをしたのではないかと。 そんな葛藤を、持ってしまった。 だから、菊地は制止ができない。 しかし、制止の声はあがった。 「撃ったらダメだ!!」 もう聞けないかと思っていた声を、全員が聞いた。 「えち、ぜん、くん……?」 「そんな……確かに“百鬼夜行”は当たったのに」 口でも切ったのか、血を吐き出しながら。 越前リョーマが、必死に上体を起こしていた。 ◆ “百鬼夜行”は、確かに回避不能だった。 だから、リョーマは金属バットで六角柱の先端を受け止めながら。 風林火山の“風”の技を使って、『自分から後方に吹き飛ばされ』ていた。 かつて、真田弦一郎と初めて対決した際に、超火力の打球から同じ手段で身を守ったように。 金属バットはへし折られ、衝撃でしばしの間だけ意識を持っていかれて。 それでも致命傷は、回避していた。 その取り戻した意識で、リョーマが綾波を止める。 かつて、己が綾波レイから制止されたように。 バロウもまた、可能性を持っている一人だと、対峙するうちに理解できてしまったから。 「確かにそいつは、自分のためにもう何人も殺してるんだろうけど……殺した方がいいって言う人もいるかもしれないけど! でもそいつも、救われたがってるから……神崎さんの時と同じだから、綾波さんが撃ったらダメでっ゛……」 最後の方は言葉をとぎらせ、呼吸の止まっていた反動で咽る。 綾波は、そんなリョーマを見て、安堵したように肩を落とした。 しかし、それでも。 「ごめんなさい。それは、できない」 人を殺してはいけないとか、復讐は許されるのか否かとか。 そんな、人が成長するにつれて身につける倫理観が歯止めをかけるには、綾波はまだ幼すぎた。 彼女は、見た目ほどの年月を生きていない。 許せないという感情しかなかった。 立ち上がらせてくれた仲間の制止をも振り切って、引き金へと指をかける。 リョーマは、“百鬼夜行”のダメージが尾を引いて、動けない。止められない。 引き金にかかった指が、引かれて。 「ちょっと待ったぁ!!」 ふたつのことが、同時に起こった。 ひとつは、ただ一人だけ、高坂王子が制止に動いたこと。 至近距離からでは撃ちにくいクロスボウガンを捨て、バロウがディパックからこぼした『大きな布』を走りながら拾い。 その布で、バロウを覆って綾波の視界から隠し、同時に綾波を押しのけた。 それ自体は、バロウの視界をふさいでとっさの反撃を防ぎつつ、布で縛り上げてしまおうという作戦。 しかし、いまひとつの出来事が起こる。 殺されると直観したバロウが、せめてもの道連れにと、ゼロ距離から“百鬼夜行(ピック)”を放とうとしていたこと。 どうにかして綾波に抑えつけられていた体勢から右手を動かし、撃たれながらでもその体を打ち抜こうとした。 だから、それが起こったのは同時。 高坂が“百鬼夜行”の直撃を受けて吹き飛び。 バロウが、高坂に支給品である“死出の羽衣”をかぶせられて、その姿をくらませた。 【???/一日目 午後】 【バロウ・エシャロット@うえきの法則】 [状態]:左半身に負傷(手当済み)、全身打撲、疲労(大) [装備]:とめるくん(故障中)@うえきの法則 [道具]:基本支給品一式×2(携帯電話に画像数枚)、手塚国光の不明支給品0~1 基本行動方針: 優勝して生還。『神の力』によって、『願い』を叶える 1:??? [備考] ※名簿の『ロベルト・ハイドン』がアノンではない、本物のロベルトだと気づきました。 ※『とめるくん』は、切原の攻撃で稼働停止しています。一時的な故障なのか、完全に使えなくなったのかは、次以降の書き手さんに任せます。 (ただし、使えたとしても制限の影響下にあります。次に使用できるのは2時間以後です) ※死出の羽衣の効果で、F-5以外のどこかのエリアに移動しました。次の書き手さんに任せます。 ※同人誌制作セット@ゆるゆりの画材がF-5の現場付近に散乱しています。 ◆ 戦況は、膠着していた。 「さて、これで、雪輝君が『一万年後』の住人だという説明は終わったけれど」 戦いながら語り続けて、秋瀬或は一息をはさんだ。 日本刀を、もう何十回と鋸状の剣でいなしただろうか。 その黒曜石が、刃にあてられてひとつ欠けた。 「それでもなお、君は雪輝君を『守る』というのかい? サバイバルゲームを勝ち抜いて神様になったところで、雪輝君は絶望するだろう。 君の『守る』はただの押し付けでしかないんだよ」 お前の『雪輝を失いたくない』は欺瞞でしかないと。 そう糾弾して、秋瀬或は打ちおろすような一閃を放った。 バックステップで避ける我妻由乃の髪が尾を引いて、髪のひと房が剣のさびになる。 「問題ないわ。だってこのゲームを開いた神様は、デウスよりずっと強い力を持ってるもの」 初めて、我妻由乃が秋瀬或の言葉に答えを返した。 「それなら今度こそ、全てを0(チャラ)にすることだってできるかもしれない。 そうすれば、二人で幸せになれるじゃない」 「……それは、雪輝君が望む幸せの形とは違う気がするよ。もういい」 剣戟を交わし、 交錯して、 回避して、 ステップを踏んで踊るように場を巡っていた二人のうちの片方が、遊びを終わらせるように後退して距離をとった。 「我妻さん……君を刺激しないためとはいえ、どうして僕が、基本的に君と雪輝君の交際を容認して、一時は応援さえしてきたか、分かるかい?」 「ユッキーの機嫌を損ねたくなかったからでしょう?」 「それもあるけど、それだけじゃない」 その一瞬で、秋瀬或は身に纏う空気を一変させる。 視線が、鋭く研がれた氷の刃のように。 冷たく、冷たく、どこまでも冷たく。 それは、秋瀬或が生まれて初めて、私怨から他者に殺意を向けた瞬間だった。 「君の方が、雪輝くんのことを、僕よりも愛していると思ったからだよ」 そこだけは、勝てないと認めていた。 歪んではいても、本物だと思っていた。 『我妻由乃は最終的に雪輝を殺すつもりではないか』と勘違いしていた時も、 雪輝への愛情自体には偽りが無いかもしれないと、どこかで信じていた。 「だから素直に人を愛せない今の我妻さんを、容赦するわけにはいかないな」 (ハッタリか?) その気迫に由乃は驚き、しかし冷静さは崩さない。 秋瀬或は、基本的に雪輝の意思を尊重する。ならばここで由乃を殺しまでするとは思えない。 しかし今の秋瀬は、後から雪輝にいくら恨まれようとも、由乃を生かしておくわけにはいかないという鋼の意思を宿しているようにも見える。 それが由乃をひるませるハッタリなのか、判断する材料はない。 両者の戦闘力そのものは、拮抗している。 ささいな怯えでも、それが反映されるだけで勝機は大きく遠のくことだろう。 だが、しかし。 それでも。 『雪輝をも殺せると言い張っている』分だけ、今の由乃の方が有利だ。 我妻由乃は、思いついていた。 秋瀬或が、条件反射的に隙を見せてしまう、その手段を。 刀剣を構えて疾駆し、弱点でもある『雪輝日記』をめがけて突きの構えを取る秋瀬。 そんな彼を前にして。 胸ポケットから、雪輝日記を取り出す。 ただ、それだけ。 (雪輝君……!?) 雪輝日記は、無差別日記と組み合わせない限り、きわめて貧弱な予知性能しか持たない。 天野雪輝の行動をしか予知できない日記だ。 つまり――我妻由乃がそれを使う時は、天野雪輝を利用した作戦を立てる時でしか、ありえない。 それは、我妻由乃と天野雪輝を長く観察し続けてきた、秋瀬或だからこその隙。 『その日記が機能するとき、雪輝は由乃に利用されている』という条件反射。 この場に、天野雪輝が戻ってきたかもしれない。 天野雪輝を利用した、一発逆転の秘策が発動したかもしれない。 有り得ないと分かっていても、このまま踏み込むのが上策だと理解していても、思考にノイズが走る。 集中力が『雪輝のいるかもしれない』周囲へと拡散される。 我妻由乃は、それを待っていた。 もう片方の手に握っていた、凶器を振るう。 秋瀬は片足でブレーキを踏んで回避しようとするが、遅い。 斬、と。 日本刀が一閃した時に、秋瀬或の右手首から先がすっぱりと切り落とされていた。 ◆ 「わたしの、せい……?」 「ちげぇよ……バカ」 腹部を、痛々しい形に変形させて。 息も絶え絶えの高坂は、それでも否定した。 菊地善人の助けで上体を起こして、血を吐きながらも綾波を見上げて。 「お前をかばったわけじゃなくて……上手く言えねぇけど。 たとえ、さっきのがなくても、お前じゃなくても、とびだしてた気がするんだよ。 ……あの状況じゃ、どのみち殺すかどうかになって……止めてた……。 バカなこと、したぜ…………」 だからこれはオレの責任だ、と高坂は認めた。 ふだんの高坂なら失敗の責任を自分でかぶるなんてことはしないけれど。 それでも、綾波レイのうろたえるさまを見て、自分を責めさせるのは良くないと、そんな風に気が利いてしまった。 「だったら、どうして……?」 それはつまり、あくまでバロウの命を助けるために、あの場に乱入したということ。 神崎麗美を殺したバロウに対して、高坂が命懸けでそこまでする義理は全くさっぱりなかったはずだ。 ずいぶん、長いこと黙ってから。 残された最後の呼気を吐き出すようにして、高坂は言った。 「なんか……アイツが救われることを否定したら。 …………雪輝も、救われない気がしたんだよ」 多くの人間を殺して、恨まれている。 それは、高坂が大嫌いな、あの少年も同じだった。 高坂は、ツインタワービルに突入する以前の時点で、彼の動向を詳しく把握していない。 ただ、両親を殺されたショックで殺し合いに乗ったらしいとか、ぼんやりと聞いている程度だった。 それでも、あのバロウと似たような行為をしたらしいぐらいのことは、把握していたから。 救われたがっているだけの、殺してはいけないヤツだと聞いて。 バロウの無様な姿を見て、雪輝のことを思い出して。 気が付いたら体が動いていた。 「勘違いするなよ……オレは別に、雪輝を救いたいなんて、思っちゃいねぇんだ……」 思いがけないことを言われて、黙りこむしかできない三人へと。 へへっと、力なく笑った。 「……ただ、救われてもいい……ぐらいには、思ってた」 それで、残った命の大半を燃やしつくしたらしい。 長いこと仲間だった二人への別れの言葉は、とても簡素なものだった。 「だから、まぁ……せいぜいがんばれや……仲良くやれよ」 「はい」 「うん」 綾波がまた座りこんでしまわないように、リョーマが綾波の手を繋いでいた。 それを高坂は、羨まし気に見ていた。 顔をうつむけている綾波に、せめて高坂が生きてる間に顔を上げさせてやりたいと思ったのか。 菊地があえて、別れの時間を壊す覚悟で言葉をかけた。 「止めなかったオレも同罪だ ……でも、さっきみたいな無茶はやっぱりやめてくれ。でないと、シンジも浮かばれないさ」 「碇君が……?」 菊地は綾波の耳元へと顔をよせ、先刻は伝えきれなかったことを伝える。 それは、碇シンジが、人生で最後に遺した言葉だった。 「え……」 後悔に包まれて暗くなっていた綾波レイの面差しが、驚きにつつまれていく。 それは、仲間を失おうとしていたばかりの少女には、唐突すぎて、大きすぎて、重すぎた。 驚くばかりで、咀嚼できずに、ただ言葉を頭で反響させるしかできない。 しかしそれでも、顔を上げさせるというだけの効能は確かにあった。 高坂はそれを見て、少しだけほっとしたようだった。 リョーマはそれを、興味深そうに見ていた。 そんな、あとは臨終を見送るはずだっただけのわずかな時間。 どんな因果律の采配が起こったのか。 「高坂……?」 天野雪輝が、その場に現れた。 呆然と、立ち尽くしていた。 ◆ その時、ぼやけていた高坂王子の視界が、くっきりと定まった。 雪輝だった。 天野雪輝がいた。 情けなさそうなバカ面を、ぼけっと晒して立っていた。 力の入らなくなっていた体が、執念を注ぎ込まれたかのように活力を取り戻す。 言葉さえ惜しむように身振り手振りで、菊地に連れていくようにと指示した。 天野雪輝の元へ。 何を言いたかったのだろう。 確かに高坂王子は、天野雪輝を探して、問い詰めようとしていたはずだ。 たしか、この殺し合いはどういうわけだと、そんなことを問い詰めたかったはずだ。 いや、違う。 何か言うよりもまず、コイツには『こう』してやるのがいいんだ。 両脇を、菊地と越前とに支えられて進み出る。 天野雪輝の姿が、目の前にあった。 ――ドゴ 拳を握って、殴るだけの力がどこにあったのか。 熱い一撃が、雪輝の頬を横殴りに撃ちぬいていた。 「友達(ダチ)が死にかけてんだから……もっと、泣きそうな顔、しろよ……」 言えた。 殴れた。 そのことを、満足するように、もう一度だけ拳をつきあげて。 それが、本当の本当に最期になった。 拳が、握られたまま、だらりと垂れ落ちる。 死にかけの人間に殴られたと思えないほどに無様によろけて、天野雪輝は尻餅をついた。 「あ………あぁぁ………」 誰かに殴られたのは、それこそ一万年ぶりだった。 思い出させる。 遠くにぼやけてかすんでいた記憶が、よみがえる。 この痛みと熱を、雪輝は知っている。 ――やりたい放題やっといて泣くんじゃねぇ。テメェは自分の都合で友達(ダチ)を殺した悪党だろうが。 最後の最後で、雪輝のことを友達だと認めていた。 その拳は、一万年の時を越えて、ふたたび届いた。 「あの時はっ……! 『泣くんじゃねぇ』って言ったくせに!」 雪輝が、泣くことはなかったけれど。 その顔は、誰もがそう見えるほど、『泣きそうな顔』だった。 ◆ 「僕の友達を……秋瀬君を、助けてください!!」 天野雪輝が最初にしたことは、土下座だった。 それはもう、完璧なまでにかしこまった土下座だった。 「おい、お前は殺し合いに乗ってたはずじゃ……」 日野日向から聞いた情報は、菊地に雪輝を警戒させてあまりあるものだったけれど。 「もう、高坂さんが殴ったよ」 「……それもそうか」 越前の言葉で、それも霧散する。 高坂が殴った理由は、雪輝を反省させる為というより、高坂らしい行動をした結果の産物だろうけれど。 それでも、その時に交錯した高坂と雪輝の表情は、警戒をとくに足りるものだった。 「急ぐんでしょ。案内して」 「おい、越前。お前はまだ怪我が」 「もう平気っスよ。だいたい話してる時間も勿体ないんだし」 「わたしは越前君と行く……さっきの責任はあると思うし、混乱もしてるけど。 でも、もうこれ以上、失うことだけは嫌だから」 「分かったよ、俺も……いや、まず植木を引っ張ってくる。オレ一人が付いて行くより役に立てるだろうし。 それに全部が終わったら、こいつらを埋葬することもできるからな。 なんなら、綾波は杉浦に任せても……」 「いい、落ち着いたら、植木君から碇君のことを聞きたいけど。 今は聞いても、また動けなくなって足を引っ張るかもしれないから。 それに、さっきの放送の後に、越前君たちについて行くって決めたから」 「越前……」 その名前に聞き覚えがあるらしく、雪輝は思いがけず反応を見せた。 「君……もしかして、コシマエくん?」 【F-5 南東部/一日目 午後】 【菊地善人@GTO】 [状態] 健康 [装備] デリンジャー@バトルロワイアル [道具] 基本支給品一式×2、ヴァージニア・スリム・メンソール@バトルロワイアル 、図書館の書籍数冊 、カップラーメン一箱(残り17個)@現実 、997万円、ミラクルんコスプレセット@ゆるゆり、草刈り鎌@バトルロワイアル、 クロスボウガン@現実、矢筒(19本)@現実、火山高夫の防弾耐爆スーツと三角帽@未来日記 、メ○コンのコンタクトレンズ+目薬セット(目薬残量4回分)@テニスの王子様 、売店で見つくろった物品@現地調達(※詳細は任せます)、 携帯電話(逃亡日記は解除)、催涙弾×1@現実、死出の羽衣(6時間後に使用可能)@幽遊白書 基本行動方針 生きて帰る 1:急いで植木たちと合流し、綾波レイたちの元へ再合流。 2:落ち着いたら、綾波に碇シンジのことを教える。 3:次に仲間が下手なことをしようとしたら、ちゃんと止める [備考] ※植木耕助から能力者バトルについて大まかに教わりました。 ※ムルムルの怒りを買ったために、しばらく未来日記の契約ができなくなりました。(いつまで続くかは任せます) ◆ 我妻由乃の持つ『雪輝日記』に、本当に予知のノイズ音が走った。 「由乃ぉっ!!」 名前が呼ばれるのと、ほぼ同時。 高速でテニスボールの弾丸が放たれ、我妻由乃の武器を持つ手を強かに直撃した。 「いたっ……」 日本刀を取り落しそうになり、かろうじて堪える。 しかしその動作は、今度は我妻由乃にとっての隙となるものだった。 秋瀬或が、動く。 『まだ切られた右手が柄を握っている刀剣』を左手でつかみあげ、二撃目を叩きこもうとしていた。 雪輝日記のある、左手に向かって。 (ハッタリ、じゃない……?) 一瞬で視線をめぐらせ、状況を把握。 逃げ出したはずの雪輝が、拳銃を手に駆け寄ってきている。 そんな雪輝に並ぶように、細長い棒を掲げてボールを撃とうとする少年。 それを援護するように拳銃を構える、白髪の少女。 秋瀬は片手を失っても、なお危険。まさに雪輝日記を破壊しようとしている。 この状況でそれでもなお殺そうと粘るとしたら、 まるで『ユッキーに対してこだわっている』みたいだった。 そんなことは無い。 雪輝への思いを否定する考えが、撤退を決断させた。 「……次は無いわよ」 「由乃っ!!」 くるりと踵を返して逃亡する背中を、雪輝の叫びが突き刺す。 「必ず! いつか君を迎えに行くから!!」 【F-5南西部/一日目・午後】 【我妻由乃@未来日記】 [状態]:健康、見敵必殺状態、 [装備]:雪輝日記@未来日記 来栖圭吾の拳銃(残弾0)@未来日記、詩音の改造スタンガン@ひぐらしのなく頃に、真田の日本刀@テニスの王子様、霊透眼鏡@幽☆遊☆白書 [道具]:基本支給品一式×5(携帯電話は雪輝日記を含めて3機)、会場の詳細見取り図@オリジナル、催涙弾×1@現実、ミニミ軽機関銃(残弾100)@現実 逆玉手箱濃度10分の1(残り2箱)@幽☆遊☆白書、鉛製ラケット@現実、不明支給品0~1 、滝口優一郎の不明支給品0~1 基本行動方針:真の「HAPPY END」に到る為に、優勝してデウスを超えた神の力を手にする。 0:一時撤退。 1:雪輝はしばらく泳がせておく(出会えば殺す) 。 2:秋瀬或は絶対に殺す。 3:他の人間はただの駒だ。 ※54話終了後からの参戦 ※秋瀬或によって、雪輝の参戦時期及び神になった経緯について知りました。 ◆ 「あー……………疲れた」 「さっきは平気って……」 「運動が終わったら一気にくるタイプなんスよ。 綾波さんも……考えること多いけど、まずは休憩して」 「うん……」 天野雪輝が学校の保健室から調達してきた救急セットで、喪失した右手から血を止めて。 初めて見る顔の少女と少年が、秋瀬の元へ歩み寄ってきた。 「はい」 差し出されたのは、テニスボールらしきただの球体だった。 脇の下にでもはさんで、止血の手助けに、ということらしい。 どっかと腰かけ、そして力尽きたのか、そのままごろんと仰向けに寝ころぶ。 少女がそばに控えるように座ると、少年の手当をする為らしく、救急箱を取って薬品と湿布を見つくろい始めた。 「ありがとう。君は……」 天野雪輝が、先んじて答えた。 「越前リョーマ君だよ。遠山の、友達」 「まだその話はぜんぜん聞いてないけどね」 越前リョーマ。 何度も聞いたことのある、名前だった。 ここに至るまでに、色々な人物から。 釣り目がちの大きな瞳が、秋瀬或をじーっと見上げる。 どうやら、疲れて寝ころびながらでも、詳しい事情を聞きたい意思はあるらしい。 「そうか……それなら、説明しないといけないね」 幾つかの出来事を、思い返す。 手塚国光の、遺言を受け取ったこと。 真田弦一郎から、忠告を受けたこと。 月岡彰の、宣言を聞いたこと。 遠山金太郎から、叱咤されたこと。 跡部景吾から、情報を得たこと。 「君に、伝えたいことがあるんだ。たくさんの人たちから」 × × × そして。 みんなから、越前リョーマに。 【高坂王子@未来日記 死亡】 【残り 21人】 【F-5南西部/一日目・午後】 【天野雪輝@未来日記】 [状態]:右足にかすり傷 [装備]:スぺツナズナイフ@現実 、シグザウエルP226(残弾4) [道具]:携帯電話、学校で調達したもの(詳しくは不明) 基本:由乃と星を観に行く 1:越前リョーマに、遠山のことを話す 2:僕は助けを求めても、いいのか…? ※神になってから1万年後("三週目の世界"の由乃に次元の壁を破壊される前)からの参戦 ※神の力、神になってから1万年間の記憶は封印されています ※秋瀬或が契約した『The rader』の内容を確認しました。 【秋瀬或@未来日記】 [状態]:右手首から先、喪失(止血中) [装備]:The rader@未来日記、、携帯電話(レーダー機能付き)@現実、セグウェイ@テニスの王子様、マクアフティル@とある科学の超電磁砲、リアルテニスボール@現実 [道具]:基本支給品一式、インサイトによる首輪内部の見取り図(修復済み)@現地調達、火炎放射器(燃料残り7回分)@現実 基本行動方針:この世界の謎を解く。天野雪輝を幸福にする。 1:越前リョーマに、知り合いのことを話す。 2:天野雪輝の『我妻由乃と星を見に行く』という願いをかなえる [備考] 参戦時期は『本人の認識している限りでは』47話でデウスに謁見し、死人が生き返るかを尋ねた直後です。 『The rader』の予知は、よほどのことがない限り他者に明かすつもりはありません 『The rader』の予知が放送後に当たっていたかどうか、内容が変動するかどうかは、次以降の書き手さんに任せます。 【越前リョーマ@テニスの王子様】 [状態]:疲労(大)、全身打撲 、右腕に亀裂骨折(手当て中) [装備]:青学ジャージ(半袖)、太い木の棒@現実、ひしゃげた金属バット@現実 リアルテニスボール(ポケットに2個)@現実 [道具]:基本支給品一式(携帯電話に撮影画像)×2、不明支給品0~1、リアルテニスボール(残り3個)@現実 、自販機で確保した飲料数種類@現地調達、 S-DAT@ヱヴァンゲリオン新劇場版、壊れたNeo高坂KING日記@未来日記、『未来日記計画』に関する資料@現地調達 基本行動方針:神サマに勝ってみせる。殺し合いに乗る人間には絶対に負けない。 1:秋瀬或の話を聞く。 2:疲れた……秋瀬らの話を聞きがてら休息する。 3:バロウ・エシャロットには次こそ勝つ。 4:ちゃんとしたラケットが欲しい。 [備考] NEO高坂KING日記はバロウの百鬼夜行によって破壊されました。 【綾波レイ@エヴァンゲリオン新劇場版】 [状態]:疲労(小) 、傷心 [装備]:白いブラウス@現地調達、 第壱中学校の制服(スカートのみ) 由乃の日本刀@未来日記、ベレッタM92(残弾13) [道具]:基本支給品一式、 天野雪輝のダーツ(残り7本)@未来日記、第壱中学校の制服(びしょ濡れ)、心音爆弾@未来日記 、隠魔鬼のマント@幽遊白書 基本行動方針:??? 1:自責と後悔……今は、越前君の手当て 2:天野雪輝らに、高坂のことを話さないといけない 3:今は、越前と行動。もう誰も失いたくない? 4:落ち着いたら、碇君の話を聞きたい。色々と考えたい 5:いざという時は、躊躇わない…? [備考] ※参戦時期は、少なくとも碇親子との「食事会」を計画している間。 ※碇シンジの最後の言葉を知りました。 【マクアフティル@とある科学の超電磁砲】 秋瀬或に支給。 実在する南アメリカ(アステカ)の刀剣「マクアフティル(macuahuitl)」 12世紀頃~16世紀ほどまで使用されていた。 アステカ魔術師のショチトルが携行している武装。 木製の刀身の両側面に細かい石の刃をいくつも並べ、ノコギリのように『引き切る』構造をしている。 超電磁砲9巻にも使用者ごと登場しており、佐天涙子の危機を救っている。 Back ルートカドラプル -Before Crysis After Crime- 投下順 Next 四人の距離の概算 Back ルートカドラプル -Before Crysis After Crime- 時系列順 Next ルートカドラプル -Before Crysis After Crime- 菊地善人 錯綜する思春期のパラベラム(前編) ルートカドラプル -Before Crysis After Crime- 天野雪輝 中学生日記 ~遠回りする雛~ ルートカドラプル -Before Crysis After Crime- 綾波レイ 中学生日記 ~遠回りする雛~ ルートカドラプル -Before Crysis After Crime- 高坂王子 GAME OVER ルートカドラプル -Before Crysis After Crime- 越前リョーマ 中学生日記 ~遠回りする雛~ ルートカドラプル -Before Crysis After Crime- 秋瀬或 中学生日記 ~遠回りする雛~ ルートカドラプル -Before Crysis After Crime- 我妻由乃 狂気沈殿 ルートカドラプル -Before Crysis After Crime- バロウ・エシャロット こどものおもちゃ(Don t be)
https://w.atwiki.jp/xhobbycode/pages/33.html
第三話ハンドアウト レイヤード達はstage3へと到達する。 同時にエンフォーサー達はバベルの電子頭脳に存在するバグ=リベレーターの掃討を開始した。 エンフォーサー側の総大将は上杉・ルシファー・謙信 リベレーター・人類側の総大将は香住了護 Stage3だけではなく、全stageで今、戦いが始まる。 英雄武装RPG キャンペーン「英雄会戦」第三話 「電子戦場 ”川中島”」 その力で、伝説を作り上げろ 龍造寺龍姫用ハンドアウト コネクション:上杉・ルシファー・謙信関係:敵意分野:歴史 キミはstage3へと到達する。 今回は事故もなく、「マタ・トワ」、「紅雅」と共に到着することができた。 しかし、そこは戦場であった。 時代遅れの騎馬隊が飛行機の爆雷や、鉄砲、はたまた疲れを知らないアンドロイドの軍団によって敗北しつつあった。 このままでは、キーパーを倒しstageを突破することもままならないだろう。 PC②用ハンドアウト コネクション:七罪の主関係:敵意分野:ベクター キミは七罪の主とゲームをしていた。 それはバベル内でのチェスというべきものだ。 七罪の主はエンフォーサーすべてを駒とし、キミはわずかなリベレーターを駒としていた。 本来であれば、「龍造寺龍姫」と「マタ・トワ」がいることでキミが圧勝するはずだった。 そう「悪性領域 京都」の事件が起こらなければ このままでは負けることとなる。 キミは禁断のジョーカーを取り出すことになりそうだ。 マタ・トワ用ハンドアウト コネクション:武田勝頼関係:好意分野:歴史 キミは「龍造寺龍姫」、「紅雅」と共にstage3へと到達した。 そこは戦場で、時代遅れの騎馬隊が敗走していた。 騎馬隊の司令官は「武田勝頼」、香住了護の代わりに指揮を取っているという。 香住了護に何が起きたのか、それを知るためにも彼に協力する必要がありそうだ。 PC④用ハンドアウト コネクション:電子戦場 ”川中島”関係:興味分野:危険区域 キミは「電子戦場 ”川中島”」に存在する住人のひとりだ。 この世界で生き残るためには強くある必要がある。 そして、今、エンフォーサーとリベレーターが大きな戦いを始めている。 これはキミの名を大きく売り出すチャンスではないのだろうか? 特に敗北濃厚なリベレーター側についたら最高だ。 さぁ、楽しくなってきたぞ?
https://w.atwiki.jp/sxrumble/pages/20.html
結末へ向けて、紡がれる希望。 あなたのよく知る未来へ向けたその布石。 すべてはただ、あなたの信じた未来の足場を固める行為。 石橋は叩いてこそ固まるのだ。その橋は真ん中を渡れ。 第三話 諦めるつもりがないなら決戦だ ふわりと舞うならそれはきっと、無邪気の体現。 御前様ふわり。早坂桜花の横をふわふわと舞う パピヨンの元へ現状の報告をした帰り道。その報告はもはや義務や取引といった関係を持つのか微妙なところであったが、桜花は自身の手元に彼から投げられた「ドクトル・バタフライの核鉄」がある限り、この行為を当然として続けていた。 もはやパピヨンが報告を望んでいるのかどうかも計り知れない。が、この不条理と理不尽が硬直した今という状況を鑑みた時も何かすがる思いもあったのだろう。 また、報告という行為は、思考を張り巡らせ極限の深みまでの思考を試みる桜花にとって、彼女に安定した冷静さをもたらす結果を生んでいた。物事を整理して話すという行為は、時に着眼を客観として見るからである。 桜花はあくまで現状を整理し、打破するポイントを必死に探ろうとしていた。 山道を下り、並木道を抜け、学園で秋水と落ち合う段取り。 だが、そんな確認する必要もない簡単な行程の中で、桜花はふと足を止めた。 脇道の人影に気づいたからである。御前様が驚きで愕然としている分だけ、桜花は冷静に相手を見据えることができた。代わりに御前様が相手に指を向け、驚きをアクションする。 「オ、オメーは!?」 「オヒサシブリ。そしてそっちの人は、ハジメマシテで、いいのかしら?」 目の前にいる少女。ヴィクトリア・パワード。 その接触を誰が予想できたであろう。腹黒い彼女もこれには予想外であった。 いや、可能性は実現可能として考慮していた。だが、それは暗躍する存在としてであり、まさか単身で桜花に接触をしてくるとは予測できなかっただけ。 「あなたが、その可愛らしい武装錬金の創造者、ハヤサカオウカね。ねえ、突然で悪いんだけどパピヨンの所へ案内してもらえないかしら?」 拒否不許可の声色が響き、僅かすらも相手の意志を伺おうとはしない漆黒の声が命令を唄う。壊れてしまった人間の表情ではありえない、心があるからこその固い意志。そむけられない別格の敵意。 「ヴィクトリア・パワード」 ホムンクルスという存在を前にして。桜花は御前様のみの武装という今の不完全な武装状態を、無動作で全ての篭手を創造し完全武装できるように、心で信念と同調を図った。 桜花は対決を覚悟し、そして同時に自身を強く苛む。核鉄所持者としての自覚が足りていなかったことを深く後悔する。周囲に対する警戒のつもりで御前様を武装していたが、それはつまり自身が核鉄所持者と触れまわるようなものだからだ。この銀成市内でならそれも許容されるだろうという確信に近い甘えが 、油断に直結した。そして油断は死に直下する。 覚悟を諦めと言うなら、桜花は覚悟を決めた。戦闘への決意。それでも相手を無駄に刺激しないよう、強引に口だけを開く。 「本当に突然ね。パピヨンへの道案内、断ればどうなるのかしら?」 「武装解除で、一人の戦士長が生き埋めになるでしょうね」 即答は予想外へ投げられ、その勢いが手かがりを結ぶこととなる。閃きとは線であり、つまりそれが過去を紡ぎ答えを描くのだ。ヴィクトリアの投げ上げた言葉は、状況を把握するには十分すぎる言葉だった。いわば火渡戦士長失踪の原因がヴィクトリアであるという自白を前にしたのだ。桜花ならば全てを深読みし、現状を描く全ての答えすら言葉として脳を駆け巡ったことだろう。 だがその申し出、意図が桜花にはさっぱりと掴めなかった。そこで桜花は、思考を整理する時間稼ぎの意図も込め、先に気にかかるささいなことを訊ねることにした。 「あなた、確か一緒にいるだけで気分が悪くなるほど、錬金術の全てが嫌いなのではなくて?」 「そうね。だからあなた。調べた中じゃ、錬金の戦士から一番遠い錬金の戦士。ホムンクルス・パピヨンとの繋がりも噂されている。それからあなたのことは色々聞いているわ」 ヴィクトリアの声に無自覚に込められた響き。―――このひとはわたしとおなじ、あの眼ができないひと。それでもこの世界に生きているひと。だけどわたしはひとでなし。それでもわたしはひとでなし。 桜花についての大体の情報は、ムーンフェイスから入手していた。 それでも、ヴィクトリアはさきほどの桜花の質問に対する回答になっていない言葉しか言葉として吐かない。 なぜここに来たのか。なぜパピヨンに会いに来たのか。なぜ彼女は企み動いているのか。 ただひとつ確かなこと、皆を幸せにするつもり、ではない。 火渡の命が天秤にかけられ、さらには相手の意図も把握できない状況。桜花に拒否権はない。 「警戒の意味も含めて、御前様は武装解除しないわよ」 それが答え。恭順の意思表示。ヴィクトリアはそれをせめてもの強がりだと理解し、嫌味で笑う。 「ええ、私もそれぐらいは譲歩してあげるわ。我慢してあげる」 あらあらでは済まされないかもしれない取引だろう。それでも今は、利用されちゃうのも仕方ないと桜花は思う。 最大限の譲歩の駆使。来た道を戻り、ヴィクトリアを蝶々の隠れ場へ案内しようと桜花の決意。 それに続く会談が、どれほどの布石となるかを知る者は少ない。 だが結末へ向けた賽は、こうして投げられる。 どれだけ賽が積まれようとも、川を渡れ。 交差した先にこそ、運命は地獄を這い上がり立ちふさがるのだから。 それは長旅ではない。急ぐ必要もなく辿り着く運命の近似値。 そこにいるもの、三名。ヴィクトリア・パワード。早坂桜花とエンゼル御前。そして、パピヨン。ここはパピヨンの秘密の研究所。 「ヒサシブリ、研究は進んでいるようね」 「――…貴様か。招いた覚えはないが、何のようだ?」 その出会いはどこか物語的で、とてもどころではなく不自然な出会いだった。作為があるとすればヴィクトリアの意思。軽く嫌味たらしいヴィクトリアの望みによる結論か。 パピヨンは、話を聞こうじゃないか、とは言わなかった。言うわけがなかった。 誰も彼も、不機嫌を隠しながら晒け出しながら手探りの模索を続ける。 ヴィクトリアにも、そんな時期があったのかしら、どうかしら。 前置きは不要だとヴィクトリアは空気を読み、さっさと本題に入ることにした。 「ママに言われて、あなたに渡すものがあったの。本当は白い核鉄を渡すときにあなたも来ると思ってたんだけど、来なかったからね」 運命すらもあざ笑うかのように笑うヴィクトリアに対し、パピヨンの顔がさらなる不快色で染まる。そんなパピヨンに向けて、ヴィクトリアは一つの紙束と“何か”を投げつけた。 それは、後に運命を変えることになる大切なものとなる、望みの種。 希望につながる糸を生む種を投げつけたヴィクトリアは、自身の言葉をもってそれを否定する。 「今となっては意味を成さないでしょうけど、ね」 パピヨンの不快感は、漆黒を超えた。 「…これで貴様はオレに何をしてもらいたい?」 「別に。ただママがあなたに渡したがってたから。だから、利用するかしないかは、貴方次第よ」 人から与えられた選択肢が、蝶々に突きつけられた。 それはDr.アレクの研究の一部。そしてもう一つ。シリアルナンバーL(50)の核鉄。かつての使用者の名を、アレキサンドリア=パワード。 少し、結果論の話をしよう。 いかに天才とは言え、ほんの2ヶ月ほどで、精製不可能とまで言われたものをゼロから創造るコトは可能だろうか?その答えは、天才じゃなくたって判るだろう。『そんなコトあってたまるか』。 彼らの世界がそれほど甘い世界ならば、今頃錬金術は皆の為になってるし、賢者の石だってとうの昔に完成している物語が描かれたことだ。しかし、あなたのよく知る未来を考えてもらいたい。白い核鉄は二ヶ月で完成した。パピヨンが、完成させた。 結果論を理解するには、過程を導くことが求められる。 この結果論を紡ぐには、ある仮定的手がかりが必要であった。 二か月という期間で求められるのは、研究にかける時間の短縮と、そして材料。 さかのぼれば、白い核鉄の精製方法そのものは残っていた。あとはベースとなる黒い核鉄をつくるだけ。だが、黒い核鉄の製法はもう100年前に失われている。それが問題。 無から白い核鉄を精製することは、困難を極める。故に、2か月という期間で白い核鉄を精製することは不可能と言えるのだ。 もう少し整理してみよう。 そもそも白い核鉄とはなんだ。 賢者の石の精製。錬金戦団は長きに渡る研究の果てついに100年前、シリアルナンバーⅠ~Ⅲの核鉄をベースにして3つの試作品を造り上げた。それが―――黒い核鉄。 その黒い核鉄を基盤に開発されたのが、黒い核鉄の力を全て無効化する、白い核鉄。 つまり核鉄から黒い核鉄は造られ、黒い核鉄から白い核鉄は造られる。 加えてもう一つ。カズキの胸にあった試作品の核鉄。それは黒い核鉄の力を制御し通常の核鉄と同じ力に戻す試行型。つまり、それを逆に考えれば、理論上は試作品の核鉄から黒い核鉄の精製方法も見えてくるであろう。 鍵はヴィクトリアが握っていた。 結果論から考えたとき、結末へ向けて“誰の核鉄も欠損させず”物語をピリオドへ繋ぐには、パピヨン謹製白い核鉄の材料となる核鉄が必要となる。ここに、物語上、宙に浮いた核鉄がひとつあった。それが、アレキサンドリア=パワードの核鉄。 結果論から考えたとき、結末へ向けて“最短研究開発速度で”物語をピリオドへ繋ぐには、パピヨン謹製白い核鉄の礎となる研究資料が必要となる。ここに、物語上、宙に浮いた研究資料がひとつあった。それが、アレキサンドリア=パワードのデータ。 全ては、アレキサンドリア=パワードの死を未来に繋ぐ存在が鍵を握る。 物語の構成美を結論点に見据えたとき、全ての扉が開かれるためには、ヴィクトリアの鍵が必要だったと言える。 言ってみれば、パピヨンにとって目の前にお膳立てが整った状況である。 ここまできたら黒い核鉄の完全なる精製方法なんて必要ない。今ここに、Dr.アレクの研究資料が投げ託された。黒い核鉄のベースとなる核鉄までも、併せて投げ託された。 もはや白い核鉄が託されたといっていい状況である。 これだけ揃っていれば、パピヨンにその意志さえ固まれば、黒い核鉄も白い核鉄もできるだろう。 なぜか。 なぜなら彼は馬鹿じゃないのだ。 ましてや彼は、蝶・天才なのだ。 研究の一部があれば完成させるのは可能である。そんなことは既にパピヨンが蝶野攻爵として人間であった時にも成しえている道だ。 ヴィクトリアが投げたのは物語の分岐点であった。自由な蝶々の前に、人から与えられた選択肢が突きつけられたと言ってもいい。 それは、ピリオドの日まで不機嫌でい続けるには十分すぎるほどの選択肢。それでも。 たとえ人に利用されるのが大嫌いだとしても、今は仕方なかった。パピヨンに、選択の余地は無かった。『なぜかって?』 それはあの日から何度も確認した約束があるから。 ―――“約束忘れるなよ”。 それがどれほど気に食わないプレゼントだとしても、今、優先するべきは彼とのあの約束だ。諦めるわけにはいかない。 蝶々は顔をしかめ、不機嫌を露骨に醸し出した。まるで、武藤カズキ以外の人間にかつての名を呼ばれた時のように、不機嫌。 「どうするんだ、パッピー?」 「…五月蝿い」 やることなんて決まっているじゃないか。わざわざ問うまでも、なく。 彼は武藤カズキを諦めない。 時間にすれば五分にも満たぬやりとり。ただ、核鉄と資料を投げ渡すだけの会話。ヴィクトリアはパピヨンの揺るがなさをいつもの自虐的笑みで笑い飛ばす。 「これでママの用は済んだわ、じゃあね」 そう言うと、ヴィクトリアはふっと消えた。恐らく常に歩きながらも足元に伸ばしていたアンダーグラウンドサーチライトに退避したのであろう。 「貴様も、用が済んだなら消えろ」 パピヨンの言葉に突き放されるように、桜花もパピヨンの秘密ラボを後にする。 御前様が唖然とするまでもなく、このとき目の前で起きていたやり取りの本質を早坂桜花は理解できずにいた。時間をかけて考えればわかったことかもしれないが、この翌日に全てが動き出すのだから、そんな余裕もなかった。 これからの桜花にできることは、せめて今の彼女にできることをするということとなる。 ―――もしも今…、津村さんの心が閉ざされた今……、すぐ外に武藤クンがいたら絶対に助けてくれるんだろうな…って。 そう思ったら…ね……。 でもそれができないから問題。だって代わりなんて、いないのだから。 桜花は運命を呪わない。静かに顔をあげて、そして胸に秘めた意志を強く固める。 「ええ、“敵”の状況整理は済んだみたい。近いうちに、仕掛けてくるわ」 ヴィクトリアを今は“敵”と形容して桜花は戦意を込める。電話の相手は弟・秋水。 「わかった、姉さん。俺も一旦戻るよ」 行方をくらました再殺部隊を探す為、秋水はまず戦士・千歳を探していた。 だが、ブラボーの所に彼女はいなかった。他もいくつかあたっては見たがわからなかった。 だが、それもそのはずかもしれない。だって彼女も再殺部隊なのだ。 再殺部隊はいったいどこに消えたのか。 彼が思うに、再殺部隊は消えたのではない。なぜなら、その気持ち、なんとなく彼にはわかるから。 「俺は帰ってきたぞ、武藤」 再殺部隊の埋伏。それはきっと、自身を見つめなおす為の行為。秋水には既に乗り越えたその段階。 刀を素振る。空を斬る。既に十分伏していた身だ。暫くぶりだ。 さあ、準備は出来ているぞ。 始まりの予感はこうして、戦争の幕を舞台裏で飾る。 アンダーグラウンドサーチライトの一室で、ヴィクトリアはママの味を齧る。 「これで、とりあえず後始末の段階は終了ね」 核鉄とは将棋の駒のようなモノだ。そんな前提を無視し、ヴィクトリアは自身の核鉄をひとつ確保すると、他の核鉄は安易に託し与えた。『なぜそんなものをわざわざむざむざと誰かに渡してしまう?』 答えは簡単。これから起こるホムンクルスの一斉蜂起すらも、彼女にとってはどうでもいい話なのだ。それでは彼女の真意はどこへ? さて、彼女の真意はどこへ行く。 月のみぞ知るか、さらなる深みが隠されているのか。 「むーん、大体の準備は整ったかな。しかし彼女もなかなか面白いことを考える」 ムーンフェイスが一人、久し振りの月夜の散歩を終えて顔を出す。他のムーンフェイスは何処へか。 考えれば、答えは一つ。『月は世界中に顔を出すものだろう? 』 つまりそういうことである。ヴィクトリアがわざわざ彼を求めたのもそういうことだ。 一斉蜂起に求められしは、導きの月 月が30、再び顔を出した。欠けることのない満面の笑みで。 彼は帰ってきて前を見据えた。曇りのない眼で。あの眼の彼はもういない。 少女は上を向いた。足元を固める段階は終わったのだから。 それは同時に、殲滅戦の幕明けも意味していた。 決戦だ。 誰も彼も、俯きうなだれる中で。 それでも、誰一人として。 諦めるつもりはない。 ならば、決戦だ。 夏も終わった日、誰も知らない決戦が幕を開ける。 望んだのは、あなたたち。 そして、わたしたちもそう。 今ある力を使いこなせず、過ちを重ねて。 またひととばけものがしょうとつする。 (第四話「夜が明けたら決断を要す」へ続く) web拍手 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/nekodaruma/pages/24.html
□ねこだるま第三話□ 神無家の家でトーコは猫だるまをころがしながら言った 「あーあ。いつき君と仲良くするにはどうしたらいいんだろう」 「ねぇ、ねこだるま恋のおまじない教えてよ」 ねこだるまは無言だ。 「やっぱりねこだるまも困ってるんだね」 「いつきくんのどこが好きかって?もちろん顔だよ~ 可愛くて綺麗な顔してるからね~」 この子はねこだるまから何をきいてるのか。独り言と妄想癖がありそうだ。 「いつきくんはわたしのことどう思っているのかな」 「スマートフォンほしいなぁ ケータイも古いし… そうだ明日いつきくんのアドレス きいてみよう!」 「ねこに電話してみよう」 リリリ… つながる音がした 「はいもしもし…」 「猫!」 「トーコか。なんの用?」 「あのね、明日いつきくんにメール聞こうとおもうんだ。」 「いつきくんに?それは無謀じゃないかなぁ」 猫だるまを棚の上において電話に集中することにした。 「そんなことないよ、一緒にメール聞こうよ。柔もいっしょにさ」 柔は猫とトーコの共通の男友達である。 別に柔道が得意とかそんなことはない。 柔は可愛い顔をしてるのと穏やかな性格なので橙子たちと仲良くあそんでいる。 次の日柔と猫とトーコで集まっていつきに合うことにした。
https://w.atwiki.jp/trpgken/pages/1778.html
メタリックガーディアンRPG トゥーレノコウボウ 第三話 『志(クレド)の証憑』 ハンドアウト 阿南烈波 コネクション ケリー・グレイ 関係 任意 あなた達を乗せた船は無事トゥーレのレジスタンスの本拠地べリングス市へとたどり着いた。 一息つけることとなったあなたはケリー・グレイの案内で市街を散策することにした。 エルゼ・グライマー コネクション レイア・ヴァルフレア 関係 任意 あなた達を乗せた船は無事トゥーレのレジスタンスの本拠地べリングス市へとたどり着いた。 船から降りたあなた達を亡国の王女レイナ姫は美しい笑顔で歓待した。 レイ・フルカワ コネクション リード・ヴェルサード 関係 任意 あなた達を乗せた船は無事トゥーレのレジスタンスの本拠地べリングス市へとたどり着いた。 しかしあなたの頭の中は先の戦闘で再会したマリアと、相対したリード・ヴェルサードのことで埋め尽くされていた。 ゲン・イガラシ コネクション マリ・シマノエ 関係 任意 あなた達を乗せた船は無事トゥーレのレジスタンスの本拠地べリングス市へとたどり着いた。 あなたは久方ぶりにトゥーレで共に戦っていた傭兵仲間と再会することができた。 名前 コメント