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浮遊大陸アルビオン。 一定のコースで周回浮遊し、2つの月が重なる夜にトリステインの港町、ラ・ロシェールに最接近する。 ラ・ロシェールから見える下半分を常に白い雲に覆われた姿は美しく同じ名を持つ国家『アルビオン』は『白の国』と呼ばれ親しまれてきた。 始祖ブリミルの子供の1人が興したこの国は聖地奪還という大儀を掲げる貴族達の反乱により長い内乱状態にとなり、外見はそのままに国土は荒れ果てた。 国王を失いながらも勝利したアルビオン王家は内乱で荒廃が進んだ国内を立て直すために、新国王ウェールズは精力的に活動しようとしていた。 王女として認められ、父親の領地を回復したティファニア王女もそれを手伝おうとしている。 その水面下で…空を永遠に漂う白い国に隠された暗い闇は、二つに分かれようとしていた。 「アンタらはここで何をやってんだい!! 今がティファニア様のお手伝いをするべきじゃあないのかい!?」 王都ロンディニウムの片隅にある古い酒場に怒声が響いた。 アルビオン建国と同時期に開店したという店内には様々な服装の百近い人間が肩を寄せ合い、千年以上も昔から残る固定化を掛けられたアンティークが並べられている。 ここ百年程度に作られた椅子やテーブルに混じって並ぶそれらのせいで、目の利く者が見れば余りの年代のばらつきから気持ち悪さを感じる店のカウンターの真ん中で、妙齢の女性が張り上げた声だった。 コートで体をすっぽりと覆った女性の名はマチルダ・オブ・サウスゴータ。 王が変わると同時に表舞台に立ったテファニア王女を先王から匿い続けてきた女性は、サウスゴータの町の太守に戻ることは未だ出来ていない。 今はモード大公となったテファニアの最も信頼厚き家臣としてモード大公家に、アルビオン王家に仕えていた。 「だが断る。わしはアルビオン王家の為に働く気は一切ない」 彼女から少し離れた店の隅から、随分と草臥れた服の老人が言葉を返す。 老人を鋭く睨みつけるマチルダの口からは舌打ちが漏れた。 上等の生地を使い仕立てられた服を数十年に渡り着続けるその老人のことは、今店内にいる者は誰もが知っていた。 エルフの愛人を作り、その間に娘を作った末に兄に処刑されたモード大公。 その大公に直接仕えていた者たちの中で最も年長でモード大公の信頼厚い人物がその老人だったからだ。 老人の言葉に店内の2割以上の人間が頷いた。 彼や彼と意見を同じくする者には、アルビオン王家への恨みを捨てる事は納得できない事だった。 「わしが今更貴族と呼ばれ、平民共に嫌々へーこらされる為にティファニア様を匿ってきたと思っているのか!? わしはモード大公に受けたご恩を返す為に生き恥を晒しながらティファニア様を匿い続けてきた! 単純だがただそれだけの理由だッ!」 老人は立ち上がり、店の客達の中でも老人のような一部の人間にだけ許されたアルビオン建国当時に作られたと言うこれまたみすぼらしい木のジョッキをテーブルに叩きつけた。 「そのわしがモード大公を殺し、奥方までも…更には、ティファニア様まで殺害しようとしたアルビオン王家に尻尾を振れるものかッ!!」 「気持ちは痛いほどわかる。しかしティファニア様はアルビオン貴族の、いや…王家の一員となられた。ウェールズの王党派しかおらぬハヴィランド宮殿にお一人で行かせるわけには行くまい」 マチルダの隣に座るアルビオン王国の魔法衛士隊の制服…翼を広げた竜の意匠が施されたマントを身に着けた壮年の男が言う。 熱くなろうとする老人を冷ややかに見つめ、諭すような口調で言うその男もモード大公縁の者には違いはない。 だがその男はマチルダと同じくモード大公が存命していた頃はまだ若く、その分モード大公への気持ちよりティファニアを案ずる気持ちが強かった。 「荒廃した国を立て直すことをティファニア様も望んでおられるのだろう。我々はそれに従うべきではないのか!?」 先ほど頷かなかった残りの人間達が皆一様にその言葉に賛同し、非難がましい眼を向ける。 この店内にいるのは全て彼らの同志であり、居合わせる者達の六割の意思はアルビオン王家に忠誠を誓うか否かのどちらかに定まっていた。 残りの四割、若手を中心とした層や優秀な者達は賛成とも反対とも付かない態度を示している。 今この店にはモード大公家縁の者達が一堂に会していた。 彼らは今日この日、この場で話し合うことで、王族の一員となったティファニアを助ける為にアルビオン王家に心底から仕えるべきか否かを決断しようとしていた。 「荒廃した国を立て直すことと王家を後押しするかは別の話しだ! 内乱を防ぐ事が出来なかった王家に実権を握らせる必要はない」 「フン、だがティファニア様はその王家の一員となられ、ハーフエルフであることも暴露してしまった。お守りするにはウェールズ陛下を立てる方が都合がよいのではないか?」 「それは…ウェールズ陛下がティファニア様を利用する気がなければの話しだ!」 「貴族派が消えたとはいえ、王権が弱まったのは確かなのだ。今これ以上弱まればどうなるかわからないのか? 枢機卿閣下や聖女様がいつまでも頼れるかはわからんのだ。 もうハーフエルフであることは暴露してしまったのだ。諸侯は、動揺している。これ以上の王家の衰退はティファニア様の身を危うくするぞ」 王家にエルフの血が混ざったことを聖女が肯定している。 教会上層部の意見もプッチ枢機卿の手によって肯定することで満場一致となっており目立った批判は出ていない。 だが今まで逆の教えを受けてきた貴族や平民達の間には反対する声も確かにあるのだった。 しかもそれは、国外だけの話ではなかった。 「王党派もティファニア様に対しては一枚岩ではない。支えられるのは我等だけなのだ。たとえ軽んじられようともな」 付け加える声がどこかから上がった。 ウェールズを主と仰ぐ王党派の貴族は、貴族派の裏切りに始まり、滅びる寸前の逆転、他国の駐屯を許す現状に、王党派の中には内乱を共にくぐり抜けた者しか信用しないという風潮があった。 そんな彼らにとって異分子でしかない王弟でありながら王家に逆らい処刑されたモード大公を父に、これまでのブリミル教の教えやハルケギニアの歴史からすれば宿敵であるエルフを母に持つティファニア。 そのテファにモード大公からの忠誠を尽くすモード大公家縁の者は軽んじられていた。 「幸いにしてウェールズ陛下はテファニア様の味方と見ていい。あの方を立ててゆけば大公家はアルビオンの重臣となる。 我等にはパッショーネで学んだ地球の学問がある。ネアポリス伯爵家がどのようにして発展したかも知っている。当然だ…我々がボスを影で支え、組織の政務を担ってきたのだからな」 自分こそがネアポリス伯爵家を、伯爵家と一体となったパッショーネをのし上がらせたと言う自負に満ちた言葉に店にいた者達の殆どが頷いた。 モード大公家縁の者達の中でも若者達が集まる店の奥のボックス席。杖で決着を付けねばならぬ状況に陥った際の為に保険として呼ばれた牛男もこれには頷かざるを得なかった。 彼らモード大公縁の者達はパッショーネに早くから参加し、そこで地球の学問に触れた。 代々下級役人や官僚、軍人を勤める貴族の血統。 父祖の姿を見て育てられた彼らの身体、精神の下地が知識の吸収を早めた上、実行にあってはハルケギニアの実情に合う手法を選ばせていた。 ガリア、ゲルマニア、トリスティン等の国から得た人材も加わったが、麻薬以上の利益を齎す真っ当な収入源を作り上げた功績は無視できない。 例え画期的で非常に合理的な手法を取ろうとしても、ハルケギニアで受け入れられるとは限らない。 大きな利益を上げられるだろうとと内乱中のアルビオンで貴族派、王党派の双方と商いを行うことを決めた際も 他の商人達を抑え、貴族派と王党派双方から大きな利益を上げられたのは、彼らが商船の乗組員としてアルビオンからの亡命者達を説得したお陰であった。 亡命者達がいなければ他の商人達がもっと利益を挙げていたであろう。 同時に貴族であった頃に培われた矜持に突き動かされ、民衆と共に残った者達は民衆に施しを与え結果的に民衆から人気を得ている。 更に内乱に乗じアルビオンの主要な産業である毛織物や木綿などに携わる職人、王家の庇護にあった畜産農家と彼らの所有する希少な品種。 ハルケギニア一の産出量を誇る風石の採掘に関わって来た労働者、利用法を研究開発する技術者やレキシントン号の設計者等を流出させ、保護したのも彼らの案であった。 特にその中でも確保された職人達は、ジョルノのゴールド・エクスペリエンスによって増やされた家畜やより品種改良された綿を使い良質で、 これまでハルケギニアには存在していなかった地球のファッションを取り入れた服飾を作り上げてネアポリス伯爵家に多大な貢献をしている。 風石に携わってきた者やレキシントン号の設計者も最近合流したコルベールと共に新技術を多数盛り込んだ船『オストラント号』を作り上げようとしているという。 「今は耐える時なのだ! 我らが尽力すれば、王党派とて我らを重臣として扱わざるを得なくなる! それがモード大公家の取るべき道だ!」 カウンターの上に立ち上がらんばかりの勢いで熱弁を振るう賛成派の男に先王への恨みから反対していた者達は、旗色悪しとみてそれまで黙りこくっていた一団に顔を向けた。 ボックス席に陣取る彼ら。縁の者達の若手を中心としたその一団は意見を求められているのを悟り、代表格の男…というか牛の顔色を伺った。 注目を集めながら牛がもったいぶる様に殊更ゆっくりに席から立ち上がる。 彼らの参加するギャング、パッショーネのボスの信頼厚きと思われている牛、ラルカスはボスを真似して冷めた声で言う。 「私から意見を言う前に2、3聞かせてもらおう」 「ん?」 「貴公等は何者だ?」 尋ねられた者達は怪訝そうな表情を見せた。 名を聞かれたのではなさそうだが…一人が答える。 「私はトーマス・イーストウッド。アルビオン王国モード…」 牛はもういいと不機嫌さを隠そうともせず首を横に振った。 トーマスと名乗ったアルビオン王家を支えるべきだとの意見を持つ男は、ラルカスの仕草の中に呆れたものを見て取り不愉快そうな顔をした。 ラルカスはそれを無視して意見を表明していない若手の一人を指差す。指された青年は立ち上がり…一点非の打ち所もないジョジョ立ちを決めた。 「私はトレス。ボスの命令でティファニア様を護衛するチームを率いている」 満足げに牛は頷いた。 牛だけではなく、その周囲に座る若者達と少数の議論の参加に消極的だった様々な年代の者達も力強く頷いていた。 モード大公の生きていた時代幼かった彼らや能力があっても大公に重く用いられなかった者、何よりジョルノ・ジョバァーナに忠誠心を持つようになった者にとっては、既にモード大公家やアルビオン王家は忠誠を尽くす相手ではなくなっていた。 そうした者達の筆頭であるミノタウロスの体にトリスティン貴族であった脳を持つラルカスは冷たい鉄のような硬い声で尋ねた。 2mを超える体格と牛の頭が凄みをより強め、今更パッショーネを踏み台にしてアルビオンがどうこうと言う貴族らに対し湧き上がる怒りが魔力のオーラとなって体から吹き上がっていた。 「もう一度聞こう。貴公等は何者だ? 返答次第では我々とは手を切らなければならないだろう。勿論我々からは傷つけないし監視したりもしないことは約束する」 「…私は」 返答に悩み、視線を避けるモード大公縁の者達をラルカスは見渡していく。 睥睨するラルカスの姿に彼らは要らぬ覚悟を強いられた… 牛や若者らの無言の圧力に圧されながらモード大公縁の者達の二割がアルビオン人である、大公家に仕える人間である、ティファニアに…と応えた。 だが多くの者達が、考えに考えた末に今はパッショーネだと結論をだした。 パッショーネと答える事ができなかた一部の者達と嘘っぽい者達と牛達は話し合い、手を切る決断をした。 その十数名は牛と組織から離れる際の契約を交わす。 パッショーネについては忘れることを条件に、ジョルノが指示していた額の恩給を貰うことが粛々と決められた。 恩給はこの場で…密会の為に奥に用意された個室で渡される事が決まり、彼らは道を別つことを決めたパッショーネの構成員達の様々な感情の浮かんだ視線の中を抜けて、個室へと入っていった。 個室には、既にラルカスに金の管理を任されている者がいた。 牛と同じく、縁の者ではないと紹介された人物で、コートと帽子を目深に被り人相を隠した者をこの場に集まった者は信用していなかったがそれを口にする者はいなかった。 予定が大幅に変えられ、組織から離れる事になった彼らは大恩あるモード大公より、貴族としてよりも犯罪組織に過ぎないパッショーネを選んだ彼らの気持ちがわからずにいた。 そんな彼らに彼女は杖を抜き、震える体を叱咤してあらかじめ唱えておいた魔法を使った。 その声を聞き、気持ちを沈めていた彼らは驚愕し叫ぶように彼女の名を呼んだ。 「ティファニア様!?」 「ご、…う、ううん。皆、今までありがとう…でも、たとえ貴方達でもジョルノの敵になるのは…ゆ、許せないの!」 微笑み、そして怒ったような顔でティファニアは内側の激情を現すように力いっぱい杖を振り下ろす。 かげろうのように、空気がそよぎ、室内の空気が歪む… それがおさまった直後、個室の扉が外から開かれた。 扉を開き、慌しく個室の中へ入ってきたのはティファニアにとっては家臣の枠を超えた、姉でもあり母親でもあるようなマチルダだった。 ティファニアは入ってきた家族に笑顔を向ける。若干の疲れが滲むテファの表情に、マチルダは眉根を寄せた。 「この人達のパッショーネに関する記憶は全部消したわ」 「ティファニア。アンタ…」 「姉さん…ごめんなさい。わ、私。大公家の名誉とかはあんまりよくわからない。お母さん達のことを知っていた陛下は、し、死んじゃったし」 自分の叔父に当たる人物であり、ウェールズの父でもある先王のことを口に出すテファは、不安や悲しみや…恐怖で震えていた。 数日中にも死にそうだった先王が死んでしまった時の事。 自分を見て怒りを漲らせ、そのまま死んでしまった際の王の顔を思い出したのか杖を指が白くなるほど強く握り締めていた。 だがティファニアは驚愕するマチルダの視線を受け止め、目を逸らさず真っ直ぐに見つめ返していた。 言葉にし難い何かを感じ取り個室に駆け込んできたマチルダは諦めたようにため息をついた。 「こんなことをさせるために守って来たんじゃあないんだけどねぇ…」 「でも私が今出来ることって、これくらいだから……ジョルノの為にも頑張らないと」 ニヤリと、マチルダの背後で牛が笑った。 身に着けた短剣がそれを見られないように意識を奪い去り、直立不動の姿勢をとる。 インテリジェンスソードである短剣…『地下水』もラルカスの行動には賛成していた。 パッショーネは内乱に陥ったアルビオンを食い物にしてハルケギニアで大きく発展した。 これからはアルビオンが復興した際にパッショーネの息のかかった店舗が大通りに立ち並び、仲間の貴族を増やしていくことだろう。 その為にはこの店に集まるモード大公家縁の者達の力が必要だった。 モード大公家縁の者達の中にはテファが表舞台に立ったことで動揺が広がっているのは都合が悪い。 そう考えたラルカス達はティファニアに多少悪い方向に誇張した事情を説明して来て貰い、パッショーネに参加しながら未だに国家や王家に忠誠を誓う者達の姿を見せて、 テファの虚無、記憶を消す魔法を使わせた。 ティファニア達に組織への忠誠心を再教育する為の第一歩としては上々だ。 ジョルノの耳に入った後のことを考えると、嫌な汗が湧き上がってくるが…必要なのだとラルカスらは信じていた。 「テファが牛にたき付けられてこんなことをしてるってこと、ジョルノの奴知ってるのかねぇ?」 マチルダはその日、他の者達と朝方まで飲んだくれた。 モード大公家縁の者達が集会を開いている頃トリスティンに戻ったジョルノ・ジョバァーナは倒れたと言うカトレアに会いに彼女の領地に到着していた。 カトレア自身は直ぐに起き上がろうとしたらしいのだが、彼女がずっと病弱で床に伏せってばかりいたことを知る周囲の人間が大事をとらせて領地に帰らせたのだった。 領地であるラ・フォンティーヌ領の小さな屋敷を訪ねたジョルノは、野手溢れる庭園に通され…少し厳しい目をしたカトレアと面会していた。 重い空気を嫌ってか庭や屋敷のあちらこちらにいるカトレアに拾われた動物達も今は姿を隠している。 共にアルビオンに渡った者達の中では唯一ジョルノと共に戻ってきたペットショップがいつでもジョルノを守る事が出来、邪魔にならない位置で羽を休めていた。 カトレアが庭園に姿を見せた時、ジョルノはカトレアの体が大事無い事を知ってか届けさせた書類の処理を始めていた。 以前学園で会った時と同じように書類を処理していくジョルノを見ながら、テーブルにティーセットを載せた盆を置いてカトレアは対面の席に座る。 すぐに話しださずにカトレアはジョルノの仕事が一区切り付くのを待った。 学園の時もそうだったが、彼女にはなんとなく雰囲気でその瞬間がわかるのだった。 ジョルノの方もカトレアが待ってくれている事に感謝しながら、書類を流し読みしていった。 アルビオンに行き、少し滞在しただけだったがジョルノの判断を必要とする書類は溜まっていた。 組織をより強固にする為に仕事を細分化したり平民や貴族を教育し、事務担当にしようとしているがまだまだ十分ではないせいだ。 その上全く関わりがない他国の内乱で荒稼ぎするのももう終わり。 アルビオンの内乱が終結したことを受けて、パッショーネはアルビオンへ人材を向ける必要に迫られている。 それはパッショーネを他国内に浸透させる為に尽力していたアルビオンの元貴族達をテファニアの元へと向かわせて対応した。 荒れたアルビオンを建て直すのは困難らしく、それでもまだ足りていないようであるし、他の国も…特にトリスティンの戦力が不足していた。 にも関わらず、ジョルノは王都で仕事を任せていた男を一人、次はないと釘を刺して左遷することを決めた。 トリスティン国内でも長い歴史を持つ居酒屋の一つである『魅惑の妖精亭』をやりすぎて閉店に追い込んだというその男の後任にはその男を止めようとした女を抜擢し、今後の動きを考える。 トリスティン内のレコンキスタに賛同していた貴族を取り込む。 あるいは、マザリーニに売りその後釜にパッショーネの息のかかった者を配置するか、そうした人物達の部下に潜り込ませておきたいと言うのが現在トリスティンにおけるパッショーネの思惑だ。 だがネアポリス伯爵家と親交のある家のリストを思い起こしても、空く役職に就任するのに適した人物の数は少なかったし、彼らの所に潜り込ませる人材も心許ない。 人材不足に対処するために平民へ学問を学ばせていたが、一定の成果が挙がるにはもう少し時間がかかる。 報告通り、予定より苦しいが元々その家に仕えている者達の中にいる部下達に負担をかけるしかないらしい。 人手不足で悲鳴が上がる反面、各国から届く報告には以前直接会い金を渡した者達を中心に良い報告も上がっていた。 実験的に全国の貴族出身の者を集め父や祖父に持つハーフやクオーターの平民に魔法を教えゲルマニアで狂ったように研究に没頭しているコルベールの部下に回しているらしく、彼らが何を生み出してくれるか楽しみだった。 そのコルベールが、20年前にロマリアとトリスティンの密約の下で行われた大規模な異教徒狩り…『ダングルテールの虐殺』に関わっておりその生き残りから復讐の嘆願が届いているのは悩ましいことだが。 組織を頼ってきた女傭兵…今はワルドの裏切りを聞き、メイジへの不信感を持ったアンリエッタが結成させようとしている銃士隊の隊長に内定が決まった女性への対応を指示してジョルノは手を止めた。 「倒れたと聞いた時はまた病が再発したのかと思いました」 「心配させちゃったかしら…」 書類整理が一段落し、口を開いたジョルノに謝ったカトレアは視線を落とした。 細い声で少し恨みがましくカトレアは言う。 「ルイズやテファのことを聞いたわ」 「スマン」 数万人にも及ぶ貴族派のメイジと傭兵を消し飛ばし聖女になったルイズ。 全く別の世界でこれまで生きてきたのに王女になってしまったテファのことを言われたジョルノはあっさりと頭を下げた。 頭を下げた相手にカトレアは驚き、困りきった表情で首を横に振った。 「ごめんなさい。私ったら…ジョナサンを見て、なんとなく、貴方にとっても予想外だったって言うのはわかったのにね」 「相変わらず貴方は勘が鋭いですね。今回の件については、僕が甘かった」 苦笑するジョルノに疲労の色を見て取ったカトレアは心配そうに言う。 「少し疲れてる見たいだわ。休めないの?」 「まだラルカス達がこそこそしてますからね。ガリアとゲルマニアに行って早めにアルビオンに戻らなければいけません」 言葉の端々に、静かな怒りを覗かせるジョルノを恐れてカトレアは膝に置いた手を強く握り締めた。 カトレアがテファを養女に迎える話が、ウェールズやマザリーニ達によって二国の関係を強める為のものとして使われたことに引け目を感じていた。 それを察したジョルノは微笑んで安心していいと軽い調子で言う。 「ルイズにはポルナレフさんを付けてきました。それにサイトもいる。あの二人ならそう悪い事にはならないでしょう」 「あらあら、信頼しているのね。少し妬けちゃうわ」 重い空気を吹き払おうと言うかのように、カトレアの明るい笑い声があがった。 笑い声を聞いて彼女が飼っている動物達が何匹か顔を出す。 近くの木の陰から、熊が顔を出したのにはジョルノも驚いたようで呆気に取られた顔で熊を見る。 「可愛いらしいでしょ? 皆、もう出てきても大丈夫よ」 「そうですか…?」 然程興味なさそうに言うジョルノに、カトレアはちょっぴり残念そうにして擦り寄ってきた熊の頭を抱えた。 何処か得意げな顔でカトレアに擦り寄る熊や鳥を小突きながら、ジョルノは仕事をする手を止めて暫くゆっくりと時間を過ごそうとした。 それを邪魔するようにペットショップが二人の間を飛び、ジョルノに警戒を促した。 ジョルノも見上げ、近づいてくる小さな点…見覚えのある人物を乗せた老いたマンティコアの姿を視界に入れた。 蝙蝠の翼を持つ赤い毛皮をした人面のライオンに動物達が本能的に恐れ、カトレアの背に隠れた。 尻尾に生えたサソリのような毒針が、そして人面の口に3列に並ぶ鋭い牙が日の光で光っていた。 いっそう動物達を恐れさせながら、砂埃を巻き上げてマンティコアが二人の傍に降りる。 巻き上がった砂埃が突然吹いた突風によって吹き飛ばされるとトリステイン魔法衛士隊の制服に身を包んだ小柄な人物、 カトレアの母親であり現在魔法衛士隊の一つマンティコア隊に復帰したカリーヌ・デジレにジョルノは立ち上がりカトレアから一歩下がった位置で会釈をした。 カリーヌも会釈を返す。 「ありがとう伯爵。貴方が来て下さってカトレアも喜んでるわ。一緒にお迎えできなくってごめんなさいね」 「いいえ。貴方のご活躍は私の耳にも届いております。お忙しいようですね」 「貴方こそ、(アルビオンの)ゲルマニア領の重要な所領を一つ戴いてお忙しいのではなくて?」 「もう知ってらっしゃいましたか」 カトレアと揃って苦笑するジョルノ。 カリーヌはそれに白々しさを感じて微かに眉を動かした。 「アルビオンに残した遍在二人が今朝聞いた話よ」 アルビオンに居座るゲルマニアとガリアは早速アルビオンの領地を自分の物として貴族に分け始めていた。 カリーヌはその行動とそれに対しても大きく出られないトリスティンに義憤を感じていた。 仮面と帽子に隠れ多少わかりづらい怒りを感じられたが、ジョルノは薄く微笑んだままだった。 皇帝がレコンキスタの首領を討ったネアポリス伯爵に与えた領地は風石の鉱山や森林を有する土地だが、アルビオン領と接していたりと問題も多い。 逆に考えるならだからこそネアポリス伯爵に与えられたのだと言う事もできるのだろう。 「ゲルマニアに二人、トリスティンに三人…年は取りたくないわね。昔程精神力が続かなくって困ってるわ」 顔の下半分を覆う鉄の仮面をつけた母親がため息混じりに言うのを見てカトレアが笑った。 予定が詰まっているのか、カリーヌは席に着こうとはせず幾分強い口調でジョルノに言う。 「伯爵、貴方に二つお願いがあるのだけどよろしいかしら?」 「…それはもしや」 ジョルノはそれに何か思い出すように少し間を置いて返事を返す。 「エレオノール嬢と婚約者のバーガンディ公爵とのことでしょうか?」 外国人に過ぎないジョルノがもう知っていたことに然程驚いた風も無くカリンは頷いた。 「お姉さまがどうかしたの?」 「それは…」 療養中の為か、まだ知らされていなかったらしいカトレアが首を傾げる。 カリーヌが仮面越しにもわかる苦りきった表情で言う。 「バーガンディ公爵から婚約を破棄したいという話が来ているのよ」 「え……お母様、あ、あんなに頻繁に手紙のやり取りをされるくらい仲がよろしかったのにですか?」 「ええ、本当にどうなさったのかしら」 「ジョナサン、貴方何か知ってらっしゃいます?」 わざわざ傍に来て尋ねられたジョルノは頭を振った。 三人とも困惑した表情を見せていた。 一人だけは気付いていないのか分かっていて言っているのか分からないといった意味でだったが。 「…見当がつきませんね。彼と少し話して可能なら考え直させましょう。(無理強いしても離婚するのが落ちですから)それでよろしいですか?」 「ええ、ええ伯爵、ありがとう」 「もう一つをお伺いしましょうか」 「ルイズのことよ……ロマリアから私宛にアンリエッタ王女とゲルマニア国王の結婚を支持するよう打診があったわ。聖女様のことは我々にお任せを、という一文付でね」 「まぁ…!」 「貴方なら何か彼らとの窓口があるのではなくて?」 ルイズやカトレアと良く似た、だが凄みのある眼差しを向けられるジョルノには、公爵夫人が言うとおり幾つか伝手がある。 一つは言うまでも無い相手、ルイズにレコンキスタへ虚無を使わせ聖女に仕立て上げたエンリコ・プッチ枢機卿。 二つ目はロマリアのパッショーネが懇意にしている有象無象の聖職者達。部下達の伝手でもあるため少数のまともな聖職者から俗に塗れた者まで様々だ。 三つ目は、テファの孤児院にいた少年達が何名かロマリアにいる。本人の優秀さに加え、ジョルノが援助した為貴族や聖職者の師弟を押し退けようとしている。 反発も受けているようだが、最後には孤児達が勝つものだとジョルノは信じていた。 「これに関しては余りお役に立てません。ネアポリス伯爵家が懇意にさせていただいている聖職者の方々ならご紹介できますが、ラ・ヴァリエール公爵家程…ましてやマザリーニ枢機卿程のものではありません」 二つ目を選んだジョルノを見つめながら、カリーヌは黙したままだった。 カトレアの疑うような視線がジョルノの頬を撫でたが、最近富に真っ黒になっているような気がする髪が風に揺れるだけであった。 「戦勝パーティ会場でルイズさんを聖女にしたグロスター枢機卿はマザリーニ枢機卿とは十年来の仲だそうですよ」 「……プッチ枢機卿との会談を用意していただけるかしら」 首を横に振って言うカリーヌにジョルノは動揺を見せずに怪訝そうな顔を作った。 「最近枢機卿になったばかりの? あの方に然程の権限はありません。ルイズさんのことをお願いするには適当な方とは思えませんが」 「そうね。でも、閣下は法皇様の信頼も厚くガリア王とも懇意にされているそうだわ。そんな閣下なら説得できると思わない?」 少しずつ迫りながら言う伯爵夫人から凄みを感じてカトレアが喉を鳴らした。 感情の昂ぶりに、カリーヌは魔力のオーラを身に帯びていたが、ジョルノは目も逸らさなかった。 「申し訳ありません。私はプッチ枢機卿とは非公式に一度お会いしたに過ぎません。余り懇意にさせていただこうとは思いませんしね」 「というと?」 末の娘ルイズよりも一つ下だったはずだが…汗一つかかない若造に内心感心しながらカリーヌは聞き返した。 「黒い噂を耳にしましてね。顔が広いようですが、その中には盗賊達の姿も見受けられます」 「それでも構わないわ」 マンティコア隊の隊長に復帰した事により往年の凄みを取り戻しているのか、ジョルノの目にはカリーヌの態度は何時に無く迷いが無いように見えた。 その盗賊がジョルノだという事に気付いているのかは判断が付かなかった。根負けしたような素振りでジョルノはため息をつく。 「…わかりました。微力ながら協力しましょう」 「……ありがとう伯爵」 礼を言うカリーヌは瞬きもせずジョルノの挙動を見つめていた。 二人の間に走るただならぬ雰囲気を感じ取ったカトレアは胃の辺りを押さえた。 To Be Continued...
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/ | i …という振りで中断、 i i さんざん待たせたのに… / i スマン / ド、 ありゃウソだった / rァノ二`ヽ\ ,.. '" ,. ────────{ ` イ-‐- 、巛\___ ,.. -<\_ / でも まあ` T´r ___ i 弋 ~"ノ //\_> 9 / 風邪気味+仕事で正直エロネタ考えられなかったっていうか、ヾi Vr V ミミ ,r''/ ', ヽ、_ { i 彼女に対してそういう状態でマジのエロとか…さ、 ト、‘== ' / r‐ '" ヾ、ー-- ニ、 i 書けないっていうか、こちらとしても誠意を持ってエロしなきゃならんから…) \== / ___ T ー<ミ ) i その分別の世界でアレするんで… ノ 、、`ー- '" / `T ー- 、ヽ こらえてくれー゙` ,,;;;; / _,. -、 フ ヾ、 ー- 、) \_ ______{ . `{ !_ ! / i }= ,. '⌒ //{ r‐‐ ニ= 、  ̄ i V /ヽ. V/ ̄ ,..ィ< ; | \ ( ))、 | / ( / ヽ i ) ノ.ヾ\  ̄ ヾ_ / __ i o / ヽ\ , - ' ,r‐ァ- !ー ヾ\ / ;r= '" , /| )) f⌒ 、 `'" _,/ / .| //| ', T\  ̄ . / | / / i \ .\ ヾ''゙ / | / / ! ヾ ヘ ...、 ___,.... '' | /r- / ..... i i Y 長期休暇編5日目に唐突に初出。 雪華綺晶が見覚えがある模様。 エロ漫画家。同僚に岸辺露伴がいる。
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2st、本体価格20万以上の原付一覧 YAMAHA GEAR / NEWS GEAR /GEAR C 価格 \211,050(パーキングスタンド付\221,050)/\221,550(グリップヒーター付\232,050)/\211,050 最高出力 3.7kW[5.0PS]/8,000rpm 乾燥重量 84(88)kg/91kg/84kg 燃料タンク/オイルタンク容量 9.0L/1.4L カタログ燃費 51.0km/l(30km/h定地走行テスト値) SUZUKI MOLLET、HONDA TOPIC(廃盤)と共にビジネススクーターとして販売された。 ビジネス仕様のため巨大な燃料タンクと大きなリアデッキが特徴。また、2stとしては低速型。 前輪は12インチホイールを使用しており、比較的路面の段差に強い。 NEWS GEARは新聞配達仕様で、前カゴなどを標準装備。 GEAR Cはハンドルをパイプタイプに変更、カラーバリエーションを増やしてストリート仕様としたもの。 この車種に対するコメントをどうぞ。 名前 コメント すべてのコメントを見る 会社でろくにメンテもされずメーター一回転したまま放置してあったものに乗ってみました。加速はよくいいですが最高速度が50km/h程度しか出ません。 -- (名無しさん) 2007-03-17 04 02 51 SUZUKI ストリートマジックⅡ (絶版)2007年3月現在、新車は流通在庫が残っているのみ。 価格 \235,200 最高出力 5.3kW[7.2PS]/6,500rpm 乾燥重量 80kg 燃料タンク/オイルタンク容量 6.4L/1.1L カタログ燃費 54.0km/l(30km/h定地走行テスト値) 原付どころかバイクで唯一の跨るタイプでAT操作のバイク。 ZZと同じく原付最高の最高出力を誇り、かなりの加速力がある。 プチ三角木馬で乗り心地は劣悪だが、12インチの極太タイヤのお陰でオフロードも平気で走れる。 ただしスクーターエンジンのため、あまり段差には強くない。また雨にも弱いのが欠点。 この車種に対するコメントをどうぞ。 名前 コメント すべてのコメントを見る
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http //psnprofiles.com/GiornoXX トロフィーレベル 6 PS3ゲームソフトプレイ数 12本 PS3DL専用ソフトプレイ数 8本 PSVITAゲームソフトプレイ数 0本 PSVITA DL専用ソフトプレイ数 1本 合計 21本
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【ジョルノ】 体力 :25 攻撃力:14 防御力:14 経験値:135 アイテム所持率:普通 タイプ:人間・裏切り者・新入り・ジョースター 能力 ・アイテムをカエルに変化させるぞ。 ←・→:次の敵
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あ、ありのまま今起こったことを説明するわ! わ、私は先日プッチ枢機卿閣下とお話しする機会があった。 お母様と一緒にお会いする機会があって、その時私が何か悩んでいる事に気付かれた枢機卿閣下は、私と二人で話す機会を持ってくださった。 敬虔なブリミル教の信者として枢機卿閣下のお誘いを断るなんて選択肢はない。 私は何故か気をつけろと母さまから警告されて枢機卿閣下に、ここ最近起こった使い魔召喚から始まった出来事を説明し、懺悔した。 枢機卿閣下は私を赦し、励ましの言葉をかけと祝福をして下さった。 新しく使い魔になった小鳥にまでよ。ちょっぴり、感激したわ。 ネアポリス伯爵は何故かそのことを詳しく聞かせて欲しいって言うから、私は伯爵を部屋に招いた。 本塔ならこんな時間に殿方を部屋に招くなんて淑女のすることじゃあないっていうのは理解しているわ。 でも、今日学院にこられた姫殿下のことも聞きたかった。 ネアポリス伯爵が宣言したとおり姫様はこの学院に来られた。 それはもしかしたら、ゲルマニア皇帝との結婚の話だって本当なのかも知れないって思うには十分だったわ。 その事は他人には絶対に、いいえ…身内にだってまだ相談できなかった。 だから夜分、私は伯爵を部屋に招く事にした。母さまやちい姉さま…伯爵とよく一緒にいるテファ達もいない。 伯爵にプッチ枢機卿閣下との事を説明してあげて、姫様の事を聞こうとした時だった。 私の部屋の扉がノックされた。 誰だと思う? 私は母さまかと思ってビクビクしてたわ。でも開くと、ローブで顔を隠した人が入ってきた。 それは…姫様だった! なんと、昔遊びのお相手を勤めさせていただいたことを姫様は覚えていてくださって、私のところに姫様が忍んで来て下さったの! しかも姫様は土くれのフーケを捕らえたことを直々に誉めてくださったわ! 私のことを、こんなゼロの私を一番のお友達だって言ってくださったの! シュヴァリエとか舞踏会の主役だったとか、そんなちゃちなものじゃない! 貴族として、こんな誇らしいことはないわ! 姫様と私はひしと抱き合い、幼い頃泥だらけになって宮廷の中庭で蝶を追いかけたこと、ふわふわのクリーム菓子を取り合ってつかみ合いになったこと、アミアンの包囲戦と呼んでいる一戦。 懐かしい思い出を語って私達は笑いあったわ。 でも姫様は、途端に現実を思い出して酷く沈んだ表情を私にお見せになった。 そして何かに気付き、反応に困る私に姫様は言う。 「でもごめんなさい。もしかして私お邪魔だったかしら?」 歓喜に震え、姫様の表情に動揺する私に、姫様は先程の何故か謝罪された。 私は首を大げさに首を横に振り姫様に駆け寄った。 「邪魔だなんて!姫様、いつ何時であろうとそんなことはありえませんわ!」 「だって彼、貴方の恋人なんでしょう? いやだわ私ったら、つい懐かしさにかまけてとんだ粗相をしてしまったみたいね」 「彼?」 姫様がネアポリス伯爵…ジョナサンを姫様が示したのを見て、私は慌てて頭を振った。 すっかり忘れられていたジョナサンは微動だにせず姫様を見下ろしていた。 「ち、違います!ジョナサンとは「ジョナサン?まあ、すると貴方があのネアポリス伯爵ね。 先日貴方のところで仕立てていただいたドレス、とても素晴らしい出来だったわ」 名を聞いて伯爵が誰か気付き、お褒めの言葉をかける姫様にジョナサンは、口元に笑みを浮かべていた。 でも、姫様にせっかく声をかけていただいたのにあんまり嬉しそうには見えなかったわ。 「ありがとうございます。ですが姫殿下、私とミス・ヴァリエールは本当にただの友人です。 親しくはさせていただいてますが、彼女の名誉のためにもお間違いなさらぬようお願いします」 ジョナサンの説明に理解を示される姫殿下、私は安堵して息をついた。 姫殿下は私に優しい目を向け、ジョナサンを見る…私を違和感が襲った。 「わかったわ。ルイズ、よくも悪くも話題に上がる方ですものね。ネアポリス伯爵、私のお友達のことよろしくお願いしますわ」 「?はい、公爵夫人やカトレア様からも頼まれてますからね」 「まあ!あのお二人からそう言われているなんて、もうヴァリエール家の方達ともお会いになられたのね!」 「あ、あの…姫様?」 な、何だか、物凄く勘違いされてるような気がするわ。 ジョナサンもそれに気付いて姫様に声をかける。 「姫殿下、私達は本当にそんな関係ではないんです。ルイズとは出会ってからまだ一月も経っていませんし、私は外国人です」 「素敵ですね。私にもそんな経験がありますわ。そう…あのラグドリアンの湖畔で過ごしたあの時を…ルイズも覚えてないかしら? 貴方に身代わりを頼んだ時のことよ」 「あ、あの時ですか!?」 ラグドリアン湖とはトリスティン王国とガリア王国に挟まれた内陸部に位置するハルケギニア随一の名勝とされる湖のことだ。 その湖は人間のものではなくハルケギニアの先住民である水の精霊のものとされている。 湖底に城と街を作り、独自の文化と王国を築いているといわれているが、水の精霊達は数十年に一度トリスティン王家との盟約の更新を行う以外に湖底よりでることはい。 だから殆どの人間は水の精霊を目にする事は無い。 おおよそ六百平方kmもあり比較的高地に位置する湖の澄んだ湖水と緑鮮やかな森が織り成す美しい光景に、人間以外の美しい精霊の存在があるのではと空想するだけだった。 ルイズは記憶に残る自然の豊かな色彩を思い出す。 三年前のラグドリアン湖畔…ルイズには思い当たる節があった。 太后マリアンヌの誕生日を祝い、トリスティン王国は二週間にも及ぶ大園遊会を開いた。 それが半ばを過ぎた頃から、ルイズは毎夜アンリエッタに影武者の役を命じられたことがあった。 そしてこの状況…あの時にまさか…そう考えながら相づちをうつ私には、昔を懐かしむ姫様に向けられるジョナサンの視線から柔らかさが消えていくのがわかったわ。 「アン、リエッタ…姫殿下。何度も言いますが私達は」 「わかっていますわ。貴方達二人はただの友人、そうですわね」 その通りなんだけど、どうしてかしら? 不安過ぎるわ。 ジョナサンと噂があるとしたらテファかちい姉さま、いいとこモンモランシーくらいなものなのに。 あぁ、すぐに姿を消した人もいたけど…どちらにせよキュルケの例もあるし、ゲルマニア貴族は手が早いのかしら? 恩義は別として、ちい姉さまには距離を置くように言った方がいいわね… でも伯爵は、エレオノール姉さまの婚約者のバーガンディ伯とも懇意にしているらしいし…困ったわ。 それはともかく、私はこの話題から離れようとして姫様に別の話を振る。 「でも感激です。姫様がそのような昔のことを覚えてくださっていただなんて……わたしのことなど、もうお忘れになっていてもおかくありませんのに」 姫様は私の言葉に溜息をつきながらベッドに腰掛けた。 深い憂いを含んだ言葉が、姫様の薔薇色で彩られた唇から漏れた。 「忘れるわけないじゃない。子供の頃は毎日が楽しかったもの…何の悩みとも無関係で。出来ればあの何も分別のなかった頃に戻りたいわ」 「姫様……もしや、お悩みとは姫様のご結婚のことでは」 どう声をおかけするか迷った挙句、ジョナサンが教えてくれた結婚のことに触れると姫様が息を呑んだ。 言葉もなく私を見る姫様に、臣下の分を弁えないこととはわかっていたけど問おうとした私を、ジョナサンが冷たい目をして私を止めた。 暇様は少し時間をかけて天を仰ぎ、ゲルマニア皇帝との縁談話が進んでいることを私に教えてくださった。 「席を外しますね」 「構いませんわ。貴方はどうやらもう知っておいでのようですし」 こんな時だけ鋭い貴方のミスまでは知りませんが、とでも言いたげな顔をするジョナサンを怒鳴りつけそうになったけど… 姫様の前、私はグッと堪えたし、ジョナサンも黙ったまま一歩引いて部屋に留まった。 それを待って、姫様は私たちに悩みを打ち明けだした。 * アンリエッタがルイズにとうとうと語りだしたのは、ジョナサン=ジョルノから内密に教えられていたゲルマニアとの政略結婚の話だった。 要約すれば隣国アルビオンで起こっていた貴族達の反乱は成功間近で、アルビオンのテューダー王家を今にも打倒しようとしている。 レコンキスタを名乗る反乱軍が勝てば、次に矛先を向けるのはトリステインであることは明白である。 彼らが掲げるのは『貴族の集まりによる非民主型の共和制』と『ハルケギニアを統一し、聖地を奪還する』ことだからだ。 それについてジョルノ個人としては全く気にかけていなかったが、トリスティンはそうもいかない。 彼らの敵、それも王家にとっては従兄弟を殺した相手。殺したいと思うのは当然なのだろう。 だがトリスティンには攻め落とす所かレコンキスタに攻められた時一国で立ち向かうことも覚束無いのだ。 ゲルマニアと同盟を結ぶ為の政略結婚としてアンリエッタがゲルマニアに嫁ぐことになったことを考えると、それは間違いないのだろう。 話を聞いていくうちにジョルノがアンリエッタに敵意を持ち始めた事に気付いたのか、ルイズがジョルノをちらちらと見る。 本題は此処からだった。 ゲルマニアと比べれば劣る国力しか持たないアルビオンのレコンキスタは、この結婚を妨げる為血眼になってあるものを探しているとアンリエッタが言い出したのだ。 ルイズのところにアンリエッタが来た時点で、なんとなくこうなるだろうなと考えていたジョルノはこんな時ポルナレフさんがいれば茶番劇に飽きた観客よろしく談笑するんだがと嘆いた。 だがポルナレフは昼前にトリスティン紳士達とおっぱいについて熱く語りすぎてカリンに並んで反省させられているためここにはいなかった。 勿論、亀をジャン・ジャックとか言う貴族の隣に置くだけでなく、亀の中でマチルダに夕飯も没収されて正座させられている。 やれやれとジョルノはルイズの表情を窺った。 ルイズも予想はついているのかもしれないが、その答えを王女自身の口から聞かなければ信じられないとばかりに、顔を青くしながら問いかけた。 アンリエッタは悲しげに頷いた。 その顔は、自分に非が無い事を、あるとすればちょっぴり運がなかった程度にしか考えてないことを主張して止まない表情だった。 「おお、始祖ブリミルよ…この、この不幸な姫をお救い下さい……」 いつの間にか立ち上がっていたアンリエッタは顔を両手で覆うと床に崩れ落ちた。 芝居で行っているならまだマシだが、芝居っぽさは欠片もなかった。 本心からアンリエッタは自身の不幸を嘆いているようだった。 こうなれば臣下であるルイズにはアンリエッタにそれが何か尋ねるしかなくなってしまい、そして…ルイズは危険な任務につくことになる。 結婚し同盟を締結しようと裏で手を回すくらいだ。 敵の手にあるか、それともアルビオンの王党派の元になければ既にどうにかしてしまっている。 どちらにせよアンリエッタは、なし崩しにルイズを内戦中のアルビオンに向かわせようとしているのは明白だった。 蚊帳の外に置かれた形のままジョルノは対応策を考えていた。 「では、姫さま、わたしに頼みたいことというのは…」 「無理よ!無理よルイズ!わたくしったら、なんてことでしょう!混乱しているんだわ! 考えてみれば、貴族と王党派が争いを繰り広げているアルビオンに赴くなんて危険な事、頼めるわけがありませんわ!」 「何をおっしゃいます!たとえ地獄の釜の中だろうが、竜のアギトの中だろうが、姫さまの御為とあらば、何処なりと向かいますわ! 姫さまとトリステインの危機を、ラ・ヴァリエール侯爵家の三女、ルイズ・フランソワーズ、見過ごすわけにはまいりません!」 一番簡単な手はこの場でルイズを気絶させる事だ。 アンリエッタにはルイズに死ねと言うのかとでも言えばどうとでもなる。その後、テファの魔法で記憶を消す。 手紙に関してはアンリエッタを護衛してきたメイジ達が命を賭ければいい。 こんな女の為に命を賭けさせるなんて心が痛むが、仕事だと思って諦めてもらうしかない。 ルイズも忠誠心だけなら彼らと同等以上なのだろうが、ジョルノがルイズを止めるのはルイズに対する気持ではない。 自分に好意を見せるカトレアや、いいワインが手に入ったから飲みに来ないかとか、今度狩りに行こうぜッとか困っている事は無いかとか… 何かにつけて息子扱いしようと手紙を送ってくるヴァリエール公爵への恩義からだ。 今のところ敵対しているし、親らしい親というか家族扱いしようとするような者がいたことがないのでどう接したらいいのか対応に困っているが、余り不利益にならない程度ならルイズの世話位はするべきだとジョルノは考えていた。 そう考えて、このうんざりするような茶番劇の観客を努めるジョルノを置いて二人はいよいよ燃え尽きるほどヒートッしていた。 「姫さま!このルイズ、いつまでも姫さまのおともだちであり、まったき理解者でございます! 永久に誓った忠誠を、忘れることなどありましょうか!」 「ああ、忠誠。これが真の友情と忠誠です!感激しました。私、あなたの友情と忠誠を一生忘れません!ルイズ・フランソワーズ!」 涙を流しながらまた抱き合いそうな二人に、ジョルノはやれやれと歎息した。 ルイズの肩をつつき、ジョルノは言う。 「ルイズ、別に貴方が行く必要はありません」 「な、何を言ってるのよ!? 姫様は私を信頼して話してくださったのよ!? それとも貴方が」 「ウェールズ王子がそんな手紙を受け取るような相手なら、手紙を既に破棄している可能性が高いでしょう」 自分達が負けた後どうなっていくか想像力が多少でもあるのなら、愛する者が不利益を被るそんな手紙を後生大事に持ったまま死地に突っ込むわけが無い。 ジョルノはそう言ったが、二人は…ルイズは辛うじて反論した。 「そ、そんなことはわからないじゃない! 大切に何処かにしまってあるのかもしれないでしょう!」 「では手紙をレコンキスタのでっち上げということにすればいい」 「どういう意味よ?」 「ゲルマニア皇帝はアンリエッタ王女の愛情を望んでこの結婚をするわけじゃないってことです」 わかってはいた、だが改めて自分などどーでもいいと言われたアンリエッタはショックを受け息を呑んだ。 自分がただのお飾りで、ちやほやされていてもただの外交の道具の一つに過ぎない扱いを受けている事を、アンリエッタは拒否していた。 王族としての責務をまだ納得できていない様子のアンリエッタと彼女を気遣うルイズへとジョルノは言葉を続けた。 「ゲルマニアは軍事同盟締結と始祖の血統を欲しがっている。アンリエッタ王女、貴方方が望んでいるのも軍事同盟の締結だ。だから殿下が他の男を愛している位でこの話を蹴る事は無い…」 あらかじめ謝罪するなり美辞麗句を並び立てるなりしながら手紙の事を告白しておく。 そして手紙の事を言われても無視するなり偽造文書だとでも言ってもらえばいいとジョルノは言った。 なんなら、貴方の筆跡を真似られる人物をもでっち上げてしまってもいいでしょう、とも。 それを聞かされるルイズの顔は怒りで真っ赤にしていった。 「そんな…アンタ、姫様にウェールズ殿下への気持を裏切ってゲルマニアの皇帝に媚を売れって言うの!?」 激昂するルイズの言い分は、可能な限り好意的に考えればわからないでもない。 もし、仮にだが…誰かがブチャラティ達に『仲間の為にディアボロに傅いて美辞麗句をうんざりするほど言いながらトリッシュを売れ』って言ったらどうする? ルイズにとってのアンリエッタが、ジョルノにとってのブチャラティ達に当たるのかどうかは知らないし、もしブチャラティ達がそんな立場だったならこんな無様な姿は見せなかっただろうが。 ちょっぴり想像したジョルノの雰囲気が少し変わったからか、ルイズ達は怯えたような態度で微かに退いた。 だがルイズは、そうさせる気持が勇気か蛮勇かは理解しないまま、弱気を払いジョルノへ言う。 「絶対にダメよ! そんなことをしたらどうなると思うの? 姫様とこのトリスティンはハルケギニアの歴史の中で一生嘲笑われることになるわッ! ブリミル教徒として、永遠に消えない穢れを負い、ゲルマニアに傅かなければならなくなるわ! 誰も知らなくても、私達自身が忘れないッ。始祖と私達の子孫達に対して顔向けできなくなるわッ!」 「ルイズ…いいのです」 顔を真っ赤にして叫ぶルイズにアンリエッタは力なく項垂れて首を振った。 諦めたような顔でアンリエッタはジョルノに目を向けようとしたが、視線をあわせられずにまた視線を下へと向けた。 「ネアポリス伯爵、貴方の献策に感謝いたしますわ。貴方のお陰で同盟は確実に成ることが決まりましたわ」 アンリエッタはそれだけ言って肩を震わせる。 部屋の灯りに照らされてスカートに落ちる雫が光っていた。 諦めてしまった主人であり大事なお友達の姿に、ルイズは耐えることなどできず跪くアンリエッタの前に膝をつき両肩を掴んだ。 「姫様、いけません。それだけはッ! それだけは絶対にいけませんッ! せめて私に時間をくださいませ! 私が手紙を持ち帰るか、失敗するまで時間をくださいませ!」 「ルイズ…あぁ、貴方は、本当に私の大切なお友達なのですね」 「姫さま! 先程確かめたばかりの事をもうお忘れになったのですか!? このルイズがいつまでも姫さまのおともだちであり、まったき理解者であると!永久に誓った忠誠を!」 「ルイズ…」 「姫様…!」 先程言った言葉などすっかり忘れて感極まったアンリエッタとルイズは、再びひしと抱き合う。 ギーシュ辺りがいれば二人を可憐な華か何かに例えるのだろうが、ジョルノはその光景を見て自分の感じていた違和感に気付いた。 アンリエッタはトリステインでは『トリスティンがハルケギニアに誇る可憐な一輪の花』と言われているらしいが、ジョルノの目には花に交じって、可憐な花の振りをして誘われた虫を食い殺すヒメカマキリ科の昆虫…ハナカマキリに見えた。 花の姿に擬態しているのは身を守る為でもあるらしいし、彼らは彼らで優秀な狩人なのだが、それ位性質が悪そうだった。 公爵への義理は果たしたような気がするのだが、ジョルノは一応関わってしまった者として最後に打てる手を打つ。 「止めても無駄なようですね」 「勿論よ」 「ではルイズ。密命ですから公爵夫人に説明できませんが、出し抜く自信があるんですね?」 「も、勿論よ」 今この学院に母がいることを思い出し、青ざめたルイズから視線を外したジョルノは扉へと向かって歩いていく。 ルイズがアルビオンに行くと知ったらヴァリエール公爵夫人がどんな行動に出るかを考えれば、放っておけば多分失敗するだろうし、今の所ご指名を受けたのはルイズだけだ。 暗に命令されているのかもしれないが、ジョルノもそこまでお人よしでもなかった。 「では、頑張ってくださいね」 「ま、待ってください…!」 「ちょ、ちょっと、ジョナサン…ここまで聞いたのよ! あ、貴方も」 「…殿下。僕はには言わなかったことにして、貴方の魔法衛士隊隊に命じることを薦めます」 ルイズの言葉を遮って、ジョルノはアンリエッタへと素っ気無い言葉で、今食堂を遍在を使ってピカピカに磨いているワルドを始めとする魔法衛士隊隊の者を勧める。 アンリエッタの第一印象は余り好きではない、にしてもそれはポリシーから来る忠告だったのだが、アンリエッタは首を振って拒否した。 「確かに貴方はゲルマニア貴族ですが…ヴァリエール家から、何より私のお友達から信頼された方でもあります。それに今までの言葉もルイズのみを案じての事」 ルイズが間の抜けた声を出してジョルノを見る。 あらかじめ用意しておいた「私としてはどちらでもいいんだけどポルナレフさんがどうしてもアンタの事を頼むって言うからな」とポルナレフのフォローをすると、ルイズは複雑な表情をした。 「ふふ…だから、今だけだとしても貴方は信頼できる方ですわ」 「…貴方が僕にこういった仕事を頼むということは、貴方が思っているよりも遥かに大きな借りを僕に作ることになります」 「借り…?」 アンリエッタは意味深な言葉と感じ、細い眉を寄せた。 それは、この仕事の対価は例えば民衆や一部の貴族にとても人気のある彼女との係わり合いから、ジョルノに都合がよい法を作る手助けをさせようとかってことで、彼女の祖国が今よりちょっぴり変えられてしまうきっかけを作ることになるということだったのだが… アンリエッタはジョルノのあくまでも穏やかな視線。 当然のようにお飾り?いいや物は使いようですと自分を利用し、自分の背負っている国家を狙う若いギャングの情熱に燃える目を…勘違いしてまだ涙の乾いていない頬を羞恥で赤くした。 (!そういえば昔エレオノールが言っていたわ。ツェルプストーに代々恋人を盗られているとか…理解したわ。 あぁ、私も愛していない皇帝へ嫁いだ後年下の伯爵に弄ばれてしまう運命なのね) 『バタフライ伯爵夫人の優雅な一日』 などの作者が書いた碌でもない本の内容を思い出しながら、アンリエッタは今後自らの身におきるであろう悲劇的な妄想に浸りわなわなと震えた。 気品のある顔立ちに、陶酔の色を浮かべるアンリエッタをルイズとジョルノは不思議そうに見る。 (でも仕方ないんだわ。ここで私がはいと言わなければルイズの身が危うくなり、ひいてはトリスティンが戦火に巻き込まれるのですから) 「構いませんわ…功績を挙げた者には分け隔てなく報いるのは当然の事ですから」 アンリエッタに対し無礼だと憤るルイズを止めて、日中アンリエッタと共にエンリコ・プッチ枢機卿と会談を行ったマザリーニが聞けば頭を掻き毟りそうな言葉を吐いたアンリエッタは手の甲を上にして手を差し出した。 だが、何か勘違いしているらしいと気付いたジョルノは不愉快気に手を拒み、背中を向けた。 「この任務を達成してこそ、お手を許される資格を得るものと考えます」 失礼に当たるのはわかるが、詳細を聞くのはルイズに任せ、何か勘違いしているらしいアンリエッタから離れ、ジョルノは部屋を後にする。 向かうのは自分の部屋。 オスマンに頼み、男子寮に用意して貰った宛がわれた部屋には最初からあったもの以外には何もなかった。 亀の中でやりたい事は済ませてしまうので、すぐに引き払うかもしれない部屋に自分の痕跡を残すような事は行っていなかった。 部屋の中にいる慣れ親しんだ気配に、ジョルノはすっかり慣れてしまった魔法の照明をつけた。 夜闇に部屋が浮かび上がり、カーテンも開けずにベッドに腰掛ける胸が尋常じゃなく大きなエルフの姿も目に入った。 「テファ?」 「ジョルノ、お帰りなさい。少し時間をもらえるかしら。相談したいことがあるの」 「はい。なんでしょうか?」 思いつめた表情を見てある程度予想はついたが、ジョルノはテファに先を促す。 できればマチルダにもいて欲しいと思ったが、ワルド達と一緒に食堂を掃除している亀の中だ。 「カトレアさんから娘にならないかって言われた話なんだけど…」 カトレアを治療した時の報酬として、ジョルノはテファの味方になることをヴァリエール公爵に頼んだ。 その応えとして公爵が用意した礼の一つが先日カトレアから打診された養女になる話だった。 ヴァリエール家ではなくカトレアの家にしたのはヴァリエール家程には注目を集めないだろうと、彼らは判断したからだろうとジョルノは好意的に考える事にしていた。 「…私、カトレアさんに返事をする前にアルビオンに行きたいの」 「……まさかって感じですが、テューダー王家の人間に会いたいとか言うつもりですか?」 彼女が言っていることを確かめるようにテファの真剣な目を見返してジョルノは尋ねた。 目的を聞かれ、驚いた顔を見せてテファは返事を返す。 「そ、そうだけど…駄目かしら?」 「危険なのはわかりますよね?」 「うん、もうすぐ滅んでしまうんだって言うのも、わかってるわ。だけど、ジョルノとなら叔父さんの所へ行って帰ってくるくらいできちゃう気がするの」 少し照れたような顔をして厚い信頼を向けてくるテファを意識の外へ置いて、少し返事に間を置く…偶然か?それとも運命なんてものが存在するのか?と益体も無い事を考えながら、結局ジョルノは承諾することにした。 後でマチルダに叱られるかもしれないし困難な頼みごとだったが、普段と変わらぬ口調でジョルノは言う。 「ちょうど行く予定が出来ました。でも、貴方は亀の中に入っていてください。それが守れるならお連れしましょう」 パッと輝くような笑顔を浮かべ礼を言ってくるテファにそっけない態度を取ってジョルノはまた部屋を出て行く。 食堂で反省させられている亀と、相談しておかなければならない…内戦で荒廃した浮遊島のことを思い浮かべ、ジョルノは気を引き締めた。 そしてそれとは別に、『『烈風』カリン、ヴァリエール領での働きを認められマンティコア隊への復帰要請を受諾』との一報への対応を書き付けた手紙を外へと投げる。 外で待機していた組織の者の使い魔が手紙を咥えて去っていく。 魔法衛士隊隊の服を千年近くに渡り作り続けている老舗へ、カリンの魔法衛士隊の服が運び込まれた事やそんなことになった背景などの情報が即座に手に入る程度にトリスティン内の情報網は構築されようとしていた。 * その頃、エンリコ・プッチ枢機卿は学院の生徒の一人、マリコルヌの部屋でずぶずぶと頭にディスクを入れて顎に手を当てた。 マリコルヌの部屋は他の貴族達と比べると幾分質素だった。 家族からの小遣いが少なかったりするのだろうが、プッチにはそんなものは関係ないし調度品には全く見るべきものは無いようだった。 部屋の中央で部屋の主人であるマリコルヌが目を開いたまま倒れている…プッチは頭からマリコルヌの記憶ディスクを引き抜いた。 マザリーニ相手には同席した奴が邪魔でできなかったが、相手が一人ならこうした方が速いのだから当然の事だった。 「ふむ…ペットショップの仕業と考えるのが妥当な線なのだろうな」 プッチは考え事をしながら適当に記憶ディスクを投げてマリコルヌの体にめり込ませる。 記憶ディスクは脂肪たっぷりの背中に突き刺さり、頭へ向かいながらずぶずぶと沈んでいく。 次第に目に輝きが戻っていくマリコルを見下ろしながら、プッチは一枚のディスクをスタンド『ホワイトスネイク』から受け取った。 どんな生き物にでも効果を及ぼす強力な『命令』を下す『命令』のディスク。 ハルケギニアの魔法にも『制約(ギアス)』と言う魔法があるが、それより少し無茶なことが出来る便利な能力だ。 制約(ギアス)のように条件をつけることもできなくもない上に、後ろに吹っ飛んで破裂しろ、とかこの場に訪れる者を射殺しろ、最近では夕飯の後美味しいコーヒーを入れて来いと鬱陶しい主人に命令してみたこともあった。 それは置いておくとして、プッチはそのディスクをマリコルヌの頭へと突き刺した。 「あれ? …僕、どうしてこんな所で寝転がってるんだ?」 ちょうど気がついたマリコルヌは前後の記憶が曖昧になっているらしく困惑した表情で顔を上げる。 プッチ枢機卿は慈愛に満ちた表情を浮かべ迷える子羊…子豚かもしれないが、に声をかけた。 「それは私の知った事じゃあないが。君は私に悩みを懺悔してスッキリし、私をとても信頼するようになったんじゃあないか?」 「ん? ああ…! す、枢機卿閣下。そうです。お陰で気分が良くなりました! ありがとうございます。これで、グヴァーシルのことも」 「それは良かったな。で、私の頼みも聞いてくれないかね?」 立ち上がるのも忘れ、普通なら同じ部屋にいることもありえない高位の聖職者へと感謝を述べるマリコルヌの言葉をプッチは遮る。 「な、なんでしょうか?」 「私の友人、ネアポリス伯爵がもしかしたらアルビオンに行く事になるかもしれなくてね、君の使い魔君をサポートにつけたいと考えているんだが」 「は? あの戦争中のアルビオンですか? そ、それは…」 「ん?」 渋ろうとしたマリコルヌに、プッチ枢機卿は笑みを浮かべたままちょっぴりだけ顔を近づけた。 それだけでマリコルヌは動揺し、頭を垂れた。 「す、すいません枢機卿! ぼ、僕の使い魔はただの平民なんです。な、何のお役にも立てません。って言うかむしろいた方が危険です!!」 「そんな事はわかっていて言っているんだ。借りる事自体は構わんのだね?」 ただの学院の生徒と枢機卿。はい、と答えるしかない力関係を理解するマリコルヌは存分に使ってやってください、と返事をするしかなかった。 プッチ枢機卿は丁寧に礼をいい、部屋を後にする。 そして、マリコルヌから奪い去っておいた"使い魔の主人”としての能力を自分の頭に突き刺した。 沈み込んでいくうちに使用可能となる能力を使い、使い魔と共有した視界には、この男子寮の廊下が見えている。 気に入ったとばかりに笑顔のままディスクをゆっくりを引き抜き、プッチ枢機卿はマリコルヌの使い魔の方へと歩き出した。 薄暗い廊下をほんの一、二分程歩いただろうか。 すぐに、プッチ枢機卿の視界にはちょうど戻ってきたらしい追い出されていたマリコルヌの使い魔、サイトが学院のメイドに手を振っている姿が見えた。 背中に剣を背負った日本人、サイトに向かって歩き出しながら、プッチは頭からまた一枚ディスクを取り出す。 ディスクに刻まれているのはウィンダールヴ。 プッチを召喚した教皇によりプッチの肉体に刻まれた能力だけを、円盤の形にして取り出したものだった。 そうして、プッチは代わりに懐からまた一枚のディスクを取り出して頭に突き刺す。 そちらに刻まれた能力名は『ガンダールヴ』、今日懺悔を聞いてやったブリミル信者の使い魔だった哀れな小鳥の頭から奪い去った能力だった。 小鳥にはもう主人に服従する使い魔としての本能しか残されていないだろうが、プッチの心には何の痛痒もなかった。 どーせあんな小鳥にはこの能力は豚に真珠を与えるが如き無駄な行為で、持っていようがいなかろうが関係ないからだ。 人の良さそうな笑顔を浮かべ、プッチはサイトに話しかける。 「もう公爵夫人の折檻からは開放されたのかね?」 「あ、はい! ってアンタは…?」 「これは失礼した。私はエンリコ・プッチ。君やポルナレフと同じく地球から連れてこられた口さ」 「え? そうなんすか!?」 「災難だったね」 「いやぁ参りましたよ。まさかちょっとふざけただけだったのに食堂で反省とか…ったく、あの貧乳おばさん。師匠やジャン・ジャックって人まで一列にならばせるんっすよ」 「ははは、それは凄い光景だな」 間抜けなのか案外度胸があるのかそのあたりはよくわからないが、同じ地球出身者と聞いて安心した様子のサイトにプッチは頼みごとをする。 今回の折檻でズタボロになったサイトの服を用意し、怪我の治療も手を回しておくと言ったのが効いたのか快くサイトはそれを承諾する。 そんなサイトの頭にゆっくりとヴィンダールヴのディスクが入っていく。 「ジョナサンの手助けをしてやってくれ。彼は私の友人の息子でね。彼もとても大切な友人になるかもしれないのだよ」 「あ、…ああ! これで俺もドラゴンライダーなんだろ!? なら、任せてくれよ!」 「頼んだよ、何せミセス・カリーヌを出しぬかなくっちゃあならないんだからね」 伝説の生き物、ドラゴンだろうがマンティコアだろうが乗りこなせるというプッチの説明を受け、はしゃぐサイトを深い笑みを浮かべてプッチは見守る。 鞘に入れられたままのデルフリンガーが警鐘を鳴らそうとするが、鞘に入ったままでは何も言う事はできなかった。 To Be Continued...
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最後の宴から一夜明け、アルビオン王党派の滅びの時は刻一刻と近づこうとしていた。 昨夜の内に老王が亡くなったことは誰にも知らされず、最早起き上がることすらままならないと貴族たちには伝えられていた。 貴族達はそれに涙しながら戦の準備を進めている。 亡命した者達を助ける為に落ち延びよと命じられた少数の者達は、ジョルノ達を運んできた船と乗り切らぬものは亀に乗り込み、ここを発とうとしていた。 慌しく王党派の貴族達が行きかう中ジョルノは足を止めていた。 壁に持たれかかって眠る貴族の横で、壁に掛けられた巨大な絵画を見上げている。 壁にもたれかかったまま眠っているのは、昨晩案内を買って出た貴族だった。 城内を粗方散策できたのはいいものの、日は昇りきりもう直ぐに貴族派が攻め込む時間までかかってしまったジョルノの顔色は少し悪い。 波紋呼吸により食事等は必要ない為朝食も辞退していたが、疲労の色は隠せなかった。 勿体無いなと、これから始まる戦の中で略奪や破壊を受けるであろう歴史ある建物や美術品を見て零したジョルノは、礼拝堂へ向けて歩き出した。 礼拝堂では既に、ルイズとワルドの婚儀が始まっているはずだった。 始祖ブリミルの像が置かれた礼拝堂で、ウェールズ皇太子は新郎と新婦の登場を待っていた。 参列したのは亀とペットショップ。それにサイトだった。 亀の中では、テファ達が興味津々と言った表情で礼拝堂を飽きることなく眺めていたり、浮かれたポルナレフが既に酒宴を始めている。 周りに、他の人間はいない。 皆、戦の準備と脱出の準備でで忙しいのであった。 ウェールズも、すぐに式を終わらせ、アルビオンを脱出するつもりであった。 国王の死はまだ伏せられている。 もう起き上がることも困難になったと偽りを告げ、今はまだ王党派の旗印としての役目を果たしている。 ウェールズは皇太子の礼装に身を包んでいた。 王族の象徴である明るい紫のマントとアルビオン王家の象徴である七色の羽がついた帽子を被っている。 これから死地に赴く貴族達の傍らで行われる婚儀に、ステンドグラスを通り抜け青や赤に染まった光で浮かんだ表情には憂いが見えた。 扉が開き、ルイズとワルドが現れた。足取りの軽いワルドと異なりルイズは、呆然と突っ立っている。 ワルドに促され、ウェールズの前に歩み寄っても、それは変わらなかった。 ルイズは戸惑っていた。今朝方早く、いきなりワルドに起こされ、ここまで連れてこられたのだった。 死を覚悟した貴族達がこれから婚儀を行うという二人に暖かい眼差しを送り、去っていくのが、ルイズを激しく落ち込ませていた。 フーケとの戦いの折、勝てないとわかっていても、ポルナレフ達の静止も振り切り巨大なゴーレムに立ち向かった事などルイズはまるきり覚えていなかった。 深く考えず、まだ半分眠ったような状態のルイズの様子に気付いたポルナレフは眉を潜めた。 そこに少し疲れた様子のジョルノが音も立てずに入室し、亀を持ったサイトの隣に腰掛ける。 「おい、遅かったじゃねぇか。何やってたんだ?」 「昨日言ったじゃないですか。逃走経路の確保です…しかし、妙ですね」 「何がだ?」 「…あ、それ俺も思った」とサイトが小声で言う。 「また食堂で正座する気なのかあの人?」 小声で囁かれたものだったが、聞こえていたらしく浮かない顔をしたルイズに「今から結婚式をするんだ」と言って、アルビオン王家から借り受けた新婦の冠をルイズの頭に載せていたワルドの動きが一瞬固まった。 新婦の冠は、魔法の力で永久に枯れぬ花があしらわれ、なんとも美しく、清楚なつくりであった。 「ああ、なるほど」 ポルナレフが頷き、まだ少し要領を得ないらしいテファにマチルダが意地悪く口の端を持ち上げて説明をはじめた。 「テファ。ある所に長女がいき遅れて、次女は最近まで嫁の貰い手なんて望めない体だった貴族のおっさんがいた。だけどそのおっさんにはまだ、溺愛してる適齢期間近の三女がいたんだとするよ?」 「う、うん」 「溺愛してなくても普通貴族なら家の酒蔵にはその時に振舞う娘が生まれた年のワインがズラリ。その時に着る服も準備済み。ウェディングドレスとかだってどうするか考えてあるってのは珍しくない話なのさ」 「ええ…」 なんとなくわかってきたのか、苦笑いを浮かべながらテファが頷いた。 「そんなおっさんが愛娘の結婚式を勝手に挙げられたら……」 あぁ怖い怖いとマチルダは自分を抱きしめて体を震わせた。 それにジョルノが補足する。 トリスティンの貴族同士の結婚には家同士の結びつきを強める等の役割があった。 ワルドの出世に、その高い実力だけでなくヴァリエール家の三女と婚約しているという事実が大いに貢献している。 戦う能力だけを見ればトリスティンはおろかハルケギニア中のメイジの中でもワルドは有数の力を持っているだろう。 だが六千年と言う歴史あるこの国には、実力だけでは正しく評価されないこともままあるのだった。 結婚を大々的に公表し、その結びつきが強固なものであることを宣言できれば、ワルドの下にはまた少なからず配慮があるだろう。 ウェールズ殿下にという名誉は得られるかもしれないが、今というタイミングで行うメリットは少ないのだとワルドに聞こえないようにジョルノは耳打ちした。 サイトがステンドグラスで着色された赤や緑の光に照らされるルイズに見惚れながらほーっと何度も頷いた。 会場の片隅で交わされるそうした会話を耳にしながら、ルイズの黒いマントを外しやはりアルビオン王家から借り受けた純白のマントを…新婦しか身につけることを許されぬ、乙女のマントをまとわせるワルドの指先は震えていた。 しかもそのようにワルドの手によって着飾られても、ルイズは無反応だった………ワルドはそんなルイズの様子を、肯定の意思表示と受け取ることにして式を進めた。 始祖ブリミルの像の前に立ったウェールズの前で、ルイズの隣に並んだワルドは一礼した。ワルドはいつもの魔法衛士隊の制服を着ていた。 ウェールズの視線がいつの間にか本当にしていいのかね?と問いかけるものに変わっているのに気付いたワルドは、大きく喉を鳴らした。 「か、構いません」 「では、式を始める」 王子の声が、ルイズの耳に届く。でも、どこか遠くで鳴り響く鐘のように、心もとない響きであった。 ルイズの心には、深い霧のような雲がかかったままだった。 「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、そして妻とすることを誓いますか」 ワルドは重々しく頷いて、杖を握った左手を胸の前に置いた。 その視線は近い未来、自分に降りかかる苦難を見据えているのか悲壮な覚悟が見え隠れしていた。 「誓います…!」 おお、とこの後のワルドの運命を確信しているサイト達から余りの紳士らしさに感嘆の声が上がった。 「無茶しやがって…」とサイトが零す中、にこりと笑って領き、トリスティン貴族の立派な姿に感銘を覚えたウェールズは、今度はルイズに視線を移した。 「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……」 朗々と、ウェールズが誓いのための詔を読みあげる。 今が、結婚式の最中だということに、ルイズは気づいた。 相手は、憧れていた頼もしいワルド。二人の父が交わした結婚の約束。幼い心の中、ぼんやりと想像していた未来。それが今、現実のものになろうとしている。 ワルドのことは嫌いじゃない。おそらく、好いてもいるのだろう。でも、それならばどうして、こんなに気持ちは沈むのだろう。 滅び行く王国を、目にしたから? ルイズも望んでいた立派な貴族としての姿であるはずの王党派貴族達を…死地に向かう彼らを目にしたから? 杖を捧げた者に従い、今生の宴を楽しみ勝つ見込みのない戦いへ向かう誇り高いアルビオン貴族達の姿がルイズの心を揺さぶっていた。 「新婦?」 ウェールズがこっちを見ている。ルイズは慌てて顔を上げた。 式は、自分の与り知らぬところで続いている。ルイズは戸惑った。どうすればいいんだろう? こんな時はどうすればいいんだろう…誰も教えてくれない。 「緊張しているのかい? 仕方がない。初めての時は、ことがなんであれ緊張するものだからね」 にっこりと笑って、ウェールズは続けた。 「まあ、これは儀礼に過ぎぬが、儀礼にはそれをするだけの意味がある。では繰り返そう。汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、そして夫と……」 ルイズは気づいた。誰もこの迷いの答えを、教えてはくれない。 自分で決めねばならぬのだ。 ルイズは深く深呼吸して、決心した。 ウェールズの言葉の途中、ルイズは首を振った。 「新婦?」 「ルイズ?」 二人が怪訝な顔で、ルイズの顔を覗き込む。ルイズは、ワルドに向き直った。 悲しい表情を浮かべ、再び首を振る。 「どうしたね、ルイズ。気分でも悪いのかい?」 「違うの。ごめんなさい……」 ワルドは安堵のため息をついた。 ため息と共に、いつの間にか浮かんでいた汗に気付いたワルドは額をポケットから取り出したハンカチで拭う。 「日が悪いなら、改めて……」 「ごめんなさい、ワルド。私やっぱりできないわ」 苦笑していたウェールズは首を傾げた。 「新婦は、この結婚を望まぬのか?」 「そのとおりでございます。お二方には、大変失礼をいたすことになりますが、わたくしはこの結婚を望みません」 ワルドはそこで、ハッとした。 今ココで何故彼女に結婚を申し込んだのか…これからの方が、もっと、更に結婚なぞ望めない状況にトリスティンが置かれると考えたのではなかったかと自分に問いかけ、居住いを正す。 ウェールズは困ったように、首をかしげ、残念そうにワルドに告げた。 「子爵、誠にお気の毒だが、花嫁が望まぬ式をこれ以上続けるわけにはいかぬ」 しかし、ワルドはウェールズに見向きもせずに、ルイズの手を取った。 「……緊張してるんだ。そうだろルイズ。きみが、僕との結婚を拒むわけがない」 「ごめんなさい。ワルド。憧れだったのよ。もしかしたら、恋だったかもしれない。でも、今はわからないわ。こんな気持ちのまま私は…」 するとワルドは、今度はルイズの肩をつかんだ。その目がつりあがる。 表情が、いつもの優しいものでなく、冷たいトカゲか何かを思わせるものに変わった。 熱っぽい口調で、ワルドは叫んだ。 「世界だルイズ。僕は世界を手に入れる! その為に君が必要なんだ!」 豹変したワルドに怯えながら、ルイズは首を振った。 「な、何を言っているの? ……わたし、世界なんかいらないわ」 ワルドは両手を広げて、ルイズに詰め寄る。 ポルナレフはそんな友の姿を悲しげに見つめた。 何かを焦っているように、ルイズらより人生を積み重ねたポルナレフの目には映っていた。 「僕には君が必要なんだ! 君の能力が! 君の力が!」 その剣幕に、ルイズは恐れをなした。 優しかったワルドがこんな顔をして、叫ぶように話すなんて、夢にも思わなかったルイズは後退る。 「ルイズ、いつか言ったことを忘れたか! 君は始祖ブリミルに劣らぬ、優秀なメイジに成長するだろう! 君は自分で気づいていないだけだ! その才能に!」 「ワルド、あなた……」 ルイズの声が、恐怖で震えた。ルイズの知っているワルドではない。何が彼を、こんな物言いをする人物に変えたのだろう? まだ憧れていた婚約者を信じる気持ちがルイズの頭に疑問を浮かべさせたが、豹変したワルドの表情からはその理由はうかがい知ることはできなかった。 余りにも必死すぎるとワルドの剣幕を見かねたウェールズが、間に入ってとりなそうとした。 「子爵………、君の覚悟は真に立派だった。だが…残念だが君はフラれたのだ。ここは潔く……」がワルドはその手を撥ね除ける。 「黙っておれ!」 ウェールズは、ワルドの言葉に驚き、立ち尽くした。 再びワルドはルイズの手を握った。ルイズはまるでヘビに絡みつかれたように感じた。 「ルイズ! きみの才能が僕には必要なんだ!」 「わたしは、そんな、才能のあるメイジじゃないわ」 「だから何度も言っている! 自分で気づいていないだけなんだよルイズ!」 混乱したルイズはワルドの手を振りほどこうとした。 しかし、物凄い力で握られているために、振りほどくことができない。苦痛に顔をゆがめて、ルイズは言った。 「そんな結婚、死んでもいやよ。あなた、私をちっとも愛してないじゃない。わかったわ、あなたが愛しているのは、あなたがわたしにあるという、在りもしない魔法の才能だけ。 ひどいわ。そんな理由で結婚しようだなんて。こんな侮辱はないわ!」 ルイズは暴れた。ウェールズが、ワルドの肩に手を置いて、引き離そうとした。しかし、今度はワルドに突き飛ばされた。 突き飛ばされたウェールズの顔に、赤みが走る。立ち上がると、杖を抜いた。 「うぬ、なんたる無礼! なんたる侮辱! 子爵、今すぐにラ・ヴァリエール嬢から手を離したまえ! さもなくば、我が魔法の刃がきみを切り裂くぞ!」 ワルドは、そこでやっとルイズから手を離した。どこまでも優しい笑顔を浮かべる。しかしその笑みは嘘に塗り固められていた。 「こうまで僕が言ってもダメかい? ルイズ。僕のルイズ」 ルイズは怒りで震えながら言った。 「いやよ、誰があなたと結婚なんかするもんですか」 ワルドは天を仰いだ。 戦の直前というには奇妙な程周囲は静まり返っていた。 「この旅で、きみの気持ちをつかむために、随分努力したんだが……」 両手を広げて、ワルドは残念そうに首を振った。 「こうなってはしかたない。ならば目的の一つは諦めよう」 「目的?」 ルイズは首をかしげた。どういうつもりだと思った。 ワルドは唇の端をつりあげ、禍々しい笑みを浮かべた。 「そうだ。最早、隠す必要もないかな…この旅における僕の目的は三つあった。その二つが達成できただけでも、よしとしなければな」 「達成? 二つ? どういうこと?」 ルイズは不安に慄きながら、尋ねた。心の中で、考えたくない想像が急激に膨れ上がる。 ワルドは、皮手袋に包まれた右手を掲げると、人差し指を立ててみせた。 「まず一つはきみだ。ルイズ。君を手に入れることだ。トリスティンは混迷を極めていくだろう。そんな中での結婚など、とても難しいだろうからね。しかし、これは果たせないようだ」 「当たり前じゃないの!」 次にワルドは、中指を立てた。 「二つ目の目的は、ルイズ、君のポケットに入っている、アンリエッタの手紙だ」 ルイズははっとした。 「ワルド、あなた……」 「そして三つ目……」 ワルドの『アンリエッタの手紙』という言葉で、すべてを察したウェールズが、杖を構えて呪文を詠唱していた。 怒りに燃えるポルナレフが亀の中からマジシャンズ・レッドを出していた。 しかし、ワルドは二つ名の閃光のように素早く杖を引き抜き、呪文の詠唱を完成させた。 ワルドは、風のように身を翻らせ、ウェールズの胸を青白く光るその杖で貫いた…………はずだった。 青白く光る杖が突き刺さった大きな虎ほどもある巨大な火トカゲがウェールズを弾き飛ばしていた。 尻尾の炎から火竜山脈のサラマンダー(火トカゲ)だということにルイズは気付いた。 キュルケが使い魔とするサラマンダーと実に良く似ていた。 「な、なんだと…?」 理解し難い出来事にワルドが呟き、「き、貴様……、『レコン・キスタ』……」 突然出現したサラマンダーに弾き飛ばされて死に損なったウェールズの放ったエアニードルが、呆然としたワルドの頭を貫く。 額を貫かれたワルドの姿が消滅した。 「ゴ、ゴールドエクスペリエンス…!」 ジョルノの代わりに亀の中でポルナレフが呟く。 「ワルド子爵。ポルナレフさんに免じて…今ならまだ性質の悪いジョークとしてあげますよ?」 柱に隠れているワルド本体に流し目を向けて、席から立ち上がったジョルノが言う。 その視線はゾッとするほど冷たく、どこか見下しているように見えた。 「あなたの人生の為に言っておきますが、無駄はやめた方がいい」 ジョルノの視線が向かう先にある柱に、皆の視線が集まっていく。 柱の影から杖を構えた三人のワルドが姿を見せる。 どれが遍在か見分けが付かぬポルナレフはマジシャンズ・レッドの目を世話しなく動かしどれか本体かを見極めようとしていた。 「無駄ではない! 僕には果たさねばならないことがある。これはその為に必要なことだ」 「馬鹿言わないで!姫様を、祖国を裏切ってこんな卑劣な真似をすることのどこが…」 「祖国の為だ!」 ワルドはルイズの非難に目を血走らせ、威圧するような鋭い声で反論した。 打たれたように体を震わせてルイズは困惑した表情を作った。 「祖国の為ですって?」 「そうだ!トリスティンは今…征服されようとしている」 苦虫を噛み潰したように言うワルド。 その表情を見かね、ワルドの行動に怒りとショックを受けたポルナレフが尋ねる。 「ど、どういうことだよ?」 「兄弟、君は『パッショーネ』という名を聞いたことはないか?」 尋ねたポルナレフは、返された質問に絶句した。 知っているも何も、そのパッショーネのボスは他ならぬジョルノであった。 「パッショーネ?」 ルイズの呟きに、ワルドは眉間にしわを寄せたまま頷いた。 「このアルビオン発祥の新興の犯罪組織だ。奴らは、一年にも満たない内に急速に勢力を伸ばしている。 マザリーニ枢機卿はレコンキスタの撃退こそ急務だとお考えだが、僕はそうと思えない。奴らの浸透する速さは、桁が違う。組織を形作るシステムがまず我々より一段も二段も上なんだと僕は感じている」 語りながらもゆっくりと足を動かし、狩をする獣のように機会を狙うワルドの視線がウェールズから逸れる。 「奴らの影響力はもう侮れないものになりつつある…(我々が草の真似事をすること自体異例のことだが)調査を行った僕の部下は運がよければ川で発見された。残りは、今も消息がわからない」 「ふざけてんじゃねぇ!」 そこに、蚊帳の外に置かれようとしていた列席で叫ぶサイトの言葉が響いた。 「ルイズはてめえを信じていたんだぞ! 婚約者のてめえを……、幼い頃の憧れだったてめえを……」 「……何もわからぬ平民如きが口を挟むな! 便所のゴミ虫以下の下郎がトリスティンの置かれた状況を理解しているとでも言うのかッ!?」 憤ったサイトに侮蔑の視線と言葉の刃を突き刺したワルドは息を荒げ、血を吐くような表情でジョルノを睨みつけた。 一方のジョルノは常と涼しげな表情だった。 『そういえばそんなこともありましたね』とでも思ってんじゃねぇだろうなと事情を知るポルナレフ達は疑念の篭った視線を向けていたが、何の動揺もジョルノの態度からは読みとることはできなかった。 「奴らは先日、麻薬を合法的に商う為の法案を通した。伯爵、貴方も他の許可と一緒に申請されたものだ」 「そうなのですか? 服飾や科学等の僕の好奇心を満足させてくれるもの以外は執事達に任せきりですから…ああ、そういえば、薬を商う許可を取ったとか聞きましたが」 しれっと言うジョルノをどう思ったのかは知る由もないが、ワルドの顔は更に険しさを増した。 「既に、! それほどの影響力を持つのだ。奴らは! レコンキスタは…まだ貴族の枠に入る者達だ。その熱狂はわが国の膿を出すのに有効だ」 「その為に忠誠を捨てたの?」 「僕が杖を捧げたのは国家と今は亡き国王陛下だ。決してこの段になってラブレターの回収を命じるような小娘じゃあない!」 「ワルド! その陛下に……申し訳が立たねーと思わないのか!?」 「娘をゲルマニア皇帝の嫁にされトリスティンを盗賊共に蹂躙されるよりはましだ!! これが成れば、姫はあんな下郎に嫁ぐこともなくなるだろう…ルイズ! 君もそれを望んでいるはずではないのか!?」 信じられないと言う顔をするルイズに、苦しげに言うポルナレフに痛いところを突かれたワルドは怒鳴り返す。 痛みを堪えているような、自分を嘲笑うかのような…険しい表情に浮かぶ感情が何か、周囲からは最早伺いしれぬものとなっていた。 「アルビオン貴族共の好きにさせぬ為には、トリスティン貴族たる僕に力と功績が必要なのだ…ウェールズ殿下、我が祖国の為に覚悟を決めてもらおう」 ゲルマニアと同盟を結ぶ為に姫を差し出すことに協力していたルイズの傍らにいるウェールズに、ワルド達は一斉に杖を向ける。 ジョルノに生み出されたサラマンダーがルイズを庇うように前に移動する。 ワルドの言うとおり決裂を望む気持ちと、自分と姫がどれ程の思いでそれを決めたのかと滾る怒りに杖を持った手を震わせて、ルイズは俯いていた。 生き残ったウェールズが凛々しく杖を構えワルドと対決しようとする。 右手を光らせたサイトとポルナレフの意思で、マジシャンズ・レッドがその間へと立ち入ろうとしていた。 本体の杖を大蛇に変えて毒牙で噛み付かせようかようかヤドクカエルを破裂させ毒液塗れにしようか迷いながら、ジョルノも波紋呼吸で徹夜での疲れも癒えつつある体からスタンドを出す。 だがその時、今正に戦いが始まろうとした瞬間に、ポルナレフがルイズの様子が変わったことに気付いた。 「ルイズ?」 俯いていたはずのルイズの体が、いつのまにか力なく揺れていた。 視線も定まっておらず…呼びかけたポルナレフの声も届いていないのか、何の反応も示さずに何事か呟いていた。 戦いが始まろうとしているのか、外から響く大砲の音に紛れて、ルイズの声が礼拝堂に響いた。 「エオルー…スーヌ・フィル……ヤルンサクサ、オス・スーヌ・ウリュ・ル……………ラド」 ハッとして、今正に対決しようとしていたワルドとウェールズも手を止める。 呟くルイズから感じ取れる何か、メイジだからこそ感じ取れるものなのかルイズの姿に畏怖を感じた二人に一瞬遅れてジョルノ達もそれに気付き、ルイズを見る。 ワルドの裏切りによるショックだとか、そんなチャチなもんじゃない。 彼女以外の意思が、彼女を操り杖を振り上げさせた。 城の壁の向こう…敵へと。 「ベオーズス・ユル・…スヴュエル・…カノ・オシェラ。ジェラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル…………エクスプロージョン」 その日、その場にいた全てのメイジが怖れを感じると同時に、アルビオンに一瞬だけ太陽が生まれた。 * 今か今かとその一瞬の太陽を待ち望んでいたプッチは、遠くに見えるその輝きを見て賭けに勝ったことを理解して嬉しそうに目を細めた。 「君との約束どおり、既に私の援助はしておいたよ。ジョルノ・ジョバァーナ。ミス・ヴァリエールの限界ギリギリのエクスプロージョン、受け取ってくれたまえ」 一歩間違えれば死ぬほどの消耗、何万人にも及ぶ虐殺…自分で選ぶ事も出来ずにそれを行うルイズの今後などこれっぽっちも気にしない口調だった。 それもそのはず、プッチにすればこれは、魔法が使えるようになりたいという彼女の願いを叶えただけの…言わば善行であり、一石二鳥とついでにジョルノへの援助をやってもらったに過ぎなかった。 プッチ枢機卿は呟きながら、ガリア王ジョゼフの記憶ディスク、王家の秘宝である香炉とルビーを仕舞ったトランクへと確認するために使用していた望遠鏡を仕舞いこむ。 「アンタの言っていた通りになったな」 若干苦いものを含ませた声に、プッチ枢機卿は笑顔で返した。 「あぁ、賭けではあったがね。予定していた時間通りで何よりだ。ゲルマニアの艦隊はどうかね?」 「トリスティンとの関係もあるから手間取ったが…どうにか来るべきレコンキスタとの戦いに備えた訓練と称して集められた艦隊が既にアルビオン領空内を進んでいる」 スーツに身を包んだミノタウロス…ラルカスが答える。 プッチ枢機卿が他の枢機卿を使って行った裏交渉に応じたゲルマニア皇帝は少数の艦隊をアルビオンへと向かわせていた。 その交渉には留守を預かるラルカス…パッショーネも関わっている。 「ベネ! とでも言ったところかな。この後は『亡命してきた貴婦人達の涙を拭いさることこそ貴族たるものの務め』とでも言ってくれたまえ。彼女らが要請したと言う形が望ましかったが、あいにく未だに王家は生き残っているようだ」 白々しい口調で言うプッチ枢機卿に、ラルカスは頷いた。 この謀をジョルノには伝えることができていない…いや、伝えてはいなかった。 ジョルノが聞けば、激怒するかもしれないとラルカスは報告など考えることを止めていたのだった。 この賭けに勝つことはよりパッショーネの力を強めることになりジョルノの為になると、ラルカスは信じていた。 確認の意味を込めて、もう一度ラルカスは尋ねた。 「プッチ枢機卿、本当に、! 本当にあそこに聖女様がいるのか?」 「勿論だ。あれこそ正しく始祖の起こした奇跡! 我らは敬虔なブリミル教徒として泥沼の戦場を納めて聖女様をお救いしなければならない!」 芝居がかったしかし……信仰心溢れる、熱狂的なブリミル信者達の鏡にでもされそうな程の熱烈な言葉だった。 同じ調子の言葉を、今頃今回の件で表にでるつもりのないプッチ枢機卿の代わりに計画した者として動き回っている哀れな枢機卿も吐いていることだろう。 だがラルカスはそれだけでは納得しなかった。胡散臭そうな表情で再び尋ねる。 「…一つ疑問なんだが、何故聖女様とわかるんだ?」 「それは勿論私がお会いしたからだ。その時のことを他の枢機卿に言った所、間違いないとおっしゃってね。こんな大事になってしまったのだよ」 実際は困ったような顔をするプッチ枢機卿が他の枢機卿を動かしたと言うことを知るラルカスは不満そうに鼻を鳴らした。 この男以外の誰にガリアとロマリアの重い腰をあっさりと上げさせられるというのか。 いつかは敵となるのだろう枢機卿の手回しの早さにラルカスはジョルノに対するモノとはまた別の恐ろしさを感じていた。 内政干渉の誹りを受ける行為を二強国に足並みをそろえて行わせるなど今表舞台で奔走しているグロスター枢機卿には……ラルカスはそれ以上の考えを打ち切り、今は動く時だと判断した。 「では私はこのままガリア、ロマリアの艦隊とアルビオンを攻略する為の手回しを済ませてこよう」 「よろしく頼む。ジョナサンは君のような有能な部下を持って幸せだな」 「世辞はいらん。私は組織の利益になると考えただけだ」 普段ジョルノといる時の本能など全く感じさせぬ乾燥しきった声で答え、ラルカスは部屋を後にする。 見送ったプッチ枢機卿は教徒を呼びつけ2,3アルビオン攻略の為の命令をしてから、熱いコーヒーを用意するように命じた。 教徒が教皇の信頼厚き枢機卿の命を受け、目を輝かせて退室した後、プッチ枢機卿はベッドの上に地図を広げた。 プッチ枢機卿の手回しにより他の枢機卿の名で聖女奪還の為アルビオンへと進行しているロマリア艦隊としてジョゼフの記憶ディスクを置く。 更に要請を受けたという形で動き出しているガリア艦隊とゲルマニア艦隊代わりに、たった今トランクに仕舞った土のルビーと教皇の記憶ディスクを並べて状況を確認する。 「先遣隊の到着までは急がせて一日と言ったところか、あの光を見て本気になったロマリアの艦隊と引きずり込まれたガリアとゲルマニアの総攻撃も遠からず始まる。 ゲルマニアに配慮して何も聞かされていなかったトリスティンが何か行う前に終わらせたい所だが…マザリーニなら軍を動かす準備を終えていても不思議はないか?」 少し考えてどうでも良くなったのか、プッチ枢機卿はそれらを適当にトランクに押し込み、鍵を閉めた。 思えば、プッチ枢機卿にとってはこんなことをしている場合ではなかったのだ。 「ジョナサンなら、憤りつつ退くしかあるまい」 (終生のパートナーである)使い魔まで預け私に相談したルイズの信頼を裏切る行為を行うなどと瞬時には思わぬだろう。 気付いた時には数手遅れている…憤りと共に機を失ったジョナサンは恐らく、ワルドを倒し退くのがいいところだろうな。 ジョナサンにとって貴族派は、ルイズの虚無で何割かを失い、混乱に陥って壊走しようとする腹を突くほど程赦せない相手ではない。 加えてジョナサン自身にも軍を攻撃する手など無い。行おうとしても準備をしている間に敵も逃げるだろう。 「DIOなら、笑って静観するだろう」 DIOにとって小娘一人、アルビオン一国がどうなろうが知ったことではない。 まぁ、そもそもあんなアホ共の所にDIOが行くわけが無いか。 支配するなら戦争なんぞ終ってからでいい。 DIOに傅くのが王族か貴族か、その程度の違いに過ぎないのだ。 二人の男に対する持論を一人呟き、プッチ枢機卿はトランクの中から一枚のディスクを取り出した。 「ジョルノ・ジョバァーナはどうする…? この私の贈り物に一手遅れるのか、元々無関係な話だからと敢えて逃すのか?」 プッチ枢機卿の頭にマリコルヌから奪い去ったディスクがずぶずぶとめり込んでいく。 半ばまで沈み込んだディスクの能力が発動し、プッチ枢機卿に遠く離れた場所を見せる。 マリコルヌの使い魔であるサイトの視界に広がる光景。 あり難いことに、そこにはジョルノ・ジョバァーナの姿がきっちりと映っていた。 「これは運がいい。神は私にこれから起る出来事を見守れと仰せだ」 遠く離れた戦場の光景を眺めるプッチ枢機卿の顔に笑顔が広がる。 彼がDIOの血統か、ジョースターの血統か。この件は一つの判断材料になるはずだとプッチ枢機卿は期待していた。 プッチ枢機卿と…いや、サイトとジョルノの目があった。 偶然ではない。 ポルナレフの亀がルイズの元へと走る中、ワルドらが今だ呆然とする中その視線は、サイトではなく明確にプッチ枢機卿へと注がれていた。 列席から少し歩きだしたところで足を止め、消滅した艦隊の向こうで穂先だけ消えてしまったレキシントン号を見つめていた。 その冷めた眼差しに胸をドキドキさせるプッチ枢機卿の目の前で…ほんのちょっぴり前まで教会の天井だった石材の成れの果てが重力に惹かれるままに落下していく。 サイトが悲鳴を上げて下がるのを鬱陶しく思いながら、プッチ枢機卿はそれを奇妙に思った。 素人考えと言われればそれまでだが、ルイズの魔法の余波で崩れたのなら敵軍に近い壁から崩れる方が自然な気がした。 落下したのはルイズの魔法の範囲の外にある無事な天井だった。 サイトはそんなことには注意を払わずにルイズを心配して駆け出していた。 「サイト、アズーロを呼べ」 有無を言わさぬ口調に、走り出そうとしていたサイトは足を止めた。 反射的にサイトは声の主へと視線を向けるのを避けた。 今命令した相手、ジョルノと視線を合わせれば、気圧されると感じたゆえだった。 だが振り向かずとも、冷水を浴びせかけられたかのようにサイトの頭から血が下がっていた。 「サイト」 一瞬後、もう一度名を呼ばれたサイトは右手の紋章を光らせて、アズーロを呼んだ。 ジョルノの動向を観察したいだけのプッチ枢機卿は、視線が逸れたことに若干不満を感じたが… その代わりに、疑問への答えがサイトの、プッチ枢機卿の前に現れていた。 落下していく石材が、重力に逆らい舞い上がっていく。 空中で細かく分かれて崩れた壁から差す日の光、半分ほど消えてしまったステンドグラスから差す色取り取りの光が一瞬前まで石材であった生き物達を照らしていた。 このアルビオンに生息する毒を秘めた無数の虫達のようにも、地球の虫にも見える。 「プッチがルイズを利用して介入したと言うなら、それはそれで利用すべきだ」 サイトのいる場所が微かに揺れた。 何かが鳴動しはじめ、動揺するサイトが顔を左右に振る。 忌々しく思うプッチ枢機卿の耳に、ジョルノ・ジョバァーナの鋭い言葉が届いた。 「ジョルノ、どうするつもりだ!?」 声が聞こえたのだろう、マジシャンズ・レッドでルイズを抱え上げ、亀の中に仕舞いながらポルナレフが叫んだ。 「この動揺が収まる前に、クロムウェルを始末します」 「なっ…」 その言葉にワルドとウェールズが我に返り、杖を構えた…突如ワルドは悲鳴を上げた。そして、三体の偏在が姿を消す。 何が起きたのかわからぬウェールズは呆然と杖を向けたまま、ワルドが消えた場所を見つめている。 何が起こったのかいち早く理解したポルナレフはジョルノに目を向けた。 「お前、杖を何に変えたんだ?」 「大蛇です。体長は十メートルってところでしょうか」 自分の杖だった大蛇に襲われている裏切り者の姿を想像し、少し同情心が沸いてきたポルナレフが苦笑いを浮かべる。 杖だけを生き物にしたわけでもない、とは言わずに薄く笑みを浮かべたジョルノは近づいてくるアズーロの羽ばたきを耳にして、歩き出す。 「本当はこんなことに使うつもりじゃあなかったんですが…」 サイトの視界にある様々なものが蠢く。 教会のシンボル。無くなった天井を支えていた柱。並んでいた椅子。 全てが生命を持ち空を舞い、ジョルノの意思によって飛び去っていく。 恐らくは、敵軍へと殺到していくのだろうと考えながら、プッチは戦慄いた。 「既に。昨夜一晩かけて…既に、ニューカッスル城へ満遍なく生命エネルギーを叩き込んであります…」 アルビオン王家に最後に残されたニューカッスル城が、百年以上の歳月が生み出した様々な曰くを持つ部屋が。 古き時代に決闘で付けられた傷を残す柱。歴史に名を残す芸術家が生み出した彫刻。絵画。タペストリーが。 今は亡き人々が丁寧に扱ってきた家具が。幾人もの王侯貴族達が婚儀の際に歩いた赤い絨毯が…全て生物へと姿を変えていく。 拘束されたまま目を見開くワルドと、ルイズと同じく亀の中へと収容されながら何事か叫ぶウェールズ。 ウェールズにはこの城に数え切れぬ程の思い出があったかもしれない…だが! それすらも飲み込んで、ジョルノが一晩かけて丹念に叩き込んだ生命エネルギーが、ジョルノのスタンド能力が生命を生み出していく。 ポルナレフもサイトも数え切れぬほどの虫達が蠢く様に恐怖し、足を止める中…ジョルノは言った。 「ほんのちょっぴりだ。この城一つ程度の世界を…僕のゴールド・エクスペリエンスが作り変え、全てが貴族派に襲い掛かる。その隙を突くぞ」 慈悲などの暖かな感情など一切感じられぬ凄みに息を呑みながらサイトはただ頷いて混乱に陥ろうとするアズーロを操り、ジョルノと亀を乗せ羽ばたかせる。 澄み切っていた空では虫の群れでできた帯状の黒雲が、貴族派の船にかかろうとしていた。 To Be Continued...
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4stMT、本体価格20万以上の原付一覧 HONDA Monkey / GORILLA 価格 \204,750/\210,000 最高出力 2.3kW[3.1PS]/7,500rpm 乾燥重量 58/62kg 変速機構 4段リターン(クラッチレバーあり)燃料タンク容量 4.5/10L カタログ燃費 90.0km/l(30km/h定地走行テスト値) 長い長い歴史を持つ、カブ系横型エンジンの小さなバイク。 愛好家が思い思いの改造を施すことでも有名で、100万円以上かかっているカスタム車も珍しくない。 実用性から言えば8インチのタイヤ、895mmの短い軸間距離のため、長距離向きとは言えない。 しかし、頑丈なエンジンと造りのしっかりした車体で、バイクそのものは長時間の巡航にも耐えられる。 GORILLAは9Lの大型タンクを装備し、ハンドルの折り畳み機構を廃止したモデル。原付の中では屈指の航続距離を誇る。 この車種に対するコメントをどうぞ。 名前 コメント すべてのコメントを見る Ape50 / Ape50デラックス 価格 \210,000/\220,500 最高出力 2.7kW[3.7PS]/7,500rpm 乾燥重量 75kg 変速機構 5段リターン(クラッチレバーあり) 燃料タンク容量 5.5L カタログ燃費 90.0km/l(30km/h定地走行テスト値) コンペティションモデルの輸出車XR80Rを元に作られたファンバイク。 兄弟車に100ccエンジン搭載のApe100がある。 積載も収納も皆無だが、豊富なアフターパーツとストリート系のデザインで人気が高い。 前輪のフェンダーは形だけで用を為していないため、雨天や悪路面では顔面などへの泥/水等の跳ね上がりに注意が必要。 ノーマルのほか、各部にメッキパーツを配したデラックスがある。 この車種に対するコメントをどうぞ。 名前 コメント すべてのコメントを見る モンゴリのように末永く付き合えそうなバイクです。 -- (アペ乗り) 2006-07-28 22 20 42 XR50 モタード 価格 \252,000 最高出力 2.4kW[3.3PS]/8,000rpm 乾燥重量 79kg 変速機構 5段リターン(クラッチレバーあり) 燃料タンク容量 5.7L カタログ燃費 86.0km/l(30km/h定地走行テスト値) Ape50を元にXR250モタード風の外装、前後ディスクブレーキなど豪華な装備を奢ったモタード風ファンバイク。 同様にApe100から派生したXR100モタードもある。 収納・積載は全くなく、オプションで小さな荷台をシート後方に設置できるのみ。 オフ指向ということでエンジンは低速寄りに設定されているが、原付としては高いブレーキ性能を誇る。 この車種に対するコメントをどうぞ。 名前 コメント すべてのコメントを見る XR50motardはとても便利ですしカッコイと思いますよ。 -- (*1) 2011-06-07 18 06 45 マグナ50 価格 \315,000 最高出力 2.9kW[3.9PS]/8,000rpm 乾燥重量 87kg 変速機構 4段リターン(クラッチレバーあり) 燃料タンク容量 8.0L カタログ燃費 105.0km/l(30km/h定地走行テスト値) 現行唯一の原付アメリカン。 原付にしては大柄で、重さとサスの良さで安定性が高い。 また、カブ系エンジンのため燃費の良さには定評。 足つき、すわり心地が良い上、大容量タンクで航続距離が長い。 ただし、重さと非力さが災いして原付最低クラスの加速力で非常に坂道に弱い。 キックスターターがないため、バッテリー切れを起こしたら押し掛けをする必要がある。 この車種に対するコメントをどうぞ。 名前 コメント すべてのコメントを見る マグナサイコー -- (マグナ中坊) 2012-09-24 23 27 44 実燃費は20km/l前後。 -- (名無しさん) 2009-02-16 16 35 44 SUZUKI GS50 価格 \208,950 最高出力 3.7kW[5.0PS]/8,500rpm 乾燥重量 69kg 変速機構 4段リターン(クラッチレバーあり) 燃料タンク容量 8.0L カタログ燃費 95.0km/l(30km/h定地走行テスト値) 4stMT原付では最高の出力を維持しつつ、実燃費55~60km/lとハイパフォーマンスを誇る4stスポーツ。 大きすぎず小さくもない車体サイズと燃費の良さ、タンク容量の大きさで長距離走行に向いている。 キャリアがないため、積載性がないのが欠点。 発売開始からまだ日が浅いので、これからの社外パーツの増加に期待。 この車種に対するコメントをどうぞ。 名前 コメント すべてのコメントを見る 過積載気味でもしっかり走ってくれる安心感。トルクが素晴らしい -- (名無しさん) 2014-08-20 01 34 43 3速の加速が魅力。CDIを交換しなくても振り切るメーター。 ウィンカー等を外すだけでちょっとしたレースに出られますw CDIを交換すれば大変なことにw -- (!) 2009-10-25 16 58 14 ものすごく乗りやすいです☆燃費、中古車市場の価格から言っても原付MT入門にぴったりでは? -- (くらっち) 2006-08-13 17 45 08 大容量タンクと高燃費で、300km以上は気にせず走れます。リザーブに切り替えてからも予備タンク(2L)で100km走れるのはガス欠の恐怖知らずです。どこまで走るんやGS君!と称えてあげたい働き者です。 -- (GSのり) 2006-06-18 22 58 18 つ5段リターン(クラッチレバーあり) 残念ながら4速です。幻の5速がほすぃ -- (GSのり) 2006-06-08 22 42 13 実勢価格が15~6万円に達してるのも魅力では!? -- (hirorin♂) 2006-06-04 02 33 05
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原付の登録手続 購入関係の抜粋版です(転入、廃車は除いています) なお、市区町村によって手続きや必要書類が異なることがあります。 正確なところはお住まいの市区町村役場に問い合わせてください。 所轄登録場所 現住所のある市区町村役場 必要書類 新規登録 登録者の印鑑 販売証明書 譲渡(同市区・ナンバー継続) 登録者の印鑑 譲渡証明書(※旧所有者の押印が必要) 譲渡(廃車済) 登録者の印鑑 譲渡証明書(※旧所有者の押印が必要) 廃車証明書 譲渡(ナンバー変更) 登録者の印鑑 譲渡証明書(※旧所有者の押印が必要) ナンバープレート ※廃車証明書が無い場合車台番号の拓本でも可。 ※手数料はかかりません。 ※参考リンク バイク・原付手続き情報局 電子印鑑
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名前:ドラゴンも裸足で逃げ出すジョルノ 総経験点:0 レベル:1 消費傾向:戦争調停 年齢:25 性別:男 クラス:騎士 ジョブ:盗賊 才覚:2 魅力:1 探索:3 武勇:5 HP:14 器:2 回避:10 配下:6 スキル 修羅/補助/自分/なし/戦闘中、自分の攻撃によって戦闘不能が発生した場合、もう一度行動できる 神の指/割り込み/単体/〔探索〕:トラップレベル+9/希望を1点消費。判定に成功するとそのサイクル中対象トラップを無効にできる アイテム だんびら 甲冑 乗騎 魔道書 ダガー 使い魔 好き:ひらひらした服、ねこみみ 嫌い:親、自分語り