約 395,756 件
https://w.atwiki.jp/legends/pages/4883.html
黒服Y 21 スコープに空を舞うサンタを捉える 引き金にかける指にそっと力を入れる スナイパーライフルから銃弾が放たれるが 同僚「やはり当たりませんね」 命中率は芳しくない もともと狙撃は得意でもないし スナイパーライフルを空に向けて撃ったってなかなか当たらないだろう Y「うりゃ」 隣を見るとYが変な掛け声とともに発砲したとこだった 銃口の先をたどって見るとどうやら当たったようだ そして見たことを後悔した 同僚「…あの筋肉の塊は撃ち墜としてもいいんですか? 一応組織の戦力ですが……」 Yがこちらを振り向いて答える Y「逆に聞こう。天使の舞う空、えせサンタが飛ぶ空、アレが犇めく空、1番見たくないのは?」 同僚「……すいません、駆除の続きをどうぞ……」 視線の先では「兄貴」と呼ばれるものが墜ちていく しかも、尻を押さえながら 考えちゃ駄目! 何故あんな格好で落ちて行くのかなんて考えないで! 止まって私の想像力! 思考を止めるために片付けに専念しましょう、そうしましょう 撃っても当たらないのだから撃つだけ無駄ですしね Yなら都市伝説の能力を使って当てることが出来…… 確か以前Yから聞いた都市伝説の能力はオートポインター(カッコ悪いから止めろとは言っておいた)だった 照準がやたら正確になるだけだよ、と彼自身も言っていた そして彼が今構えているのは二連式の猟銃で、装填している弾丸は一粒弾のはず 狙いが正確なだけであんなに遠くの筋肉塊のアレを撃つなんて芸当が出来るのか そもそも射程圏外ではないのか Yの能力が、都市伝説の能力が、明らかに強くなっている? 普段の態度も仕事も相変わらずで、特に変わったことはなかったけれども Y「さ、もう行こうか、同僚。後はあの可愛い天使達が何とかするだろうし」 考えている途中にYの声が割り込んだ 何故可愛いを強調するのだ 同僚「えぇ、そうですね」 何かあったのだろうか それを私には話してはくれないのか それとも話せないような理由があるのか 何かあったという確証があるわけじゃなく、ただの杞憂かもしれない 問いただしても曖昧な事ばかり言って、否定も肯定もせず、あなたはごまかすのでしょうが Y「やっぱり荷物要らなかったでしょ?」 同僚「そうでしたね」 自分達のいた痕跡などを消してYの後を追いかける 前を行くその背中はいつもどおり、少し頼りない感じがした 前ページ次ページ連載 - 黒服Y
https://w.atwiki.jp/legends/pages/1845.html
【上田明也の探偵倶楽部】 ベッドで思い切り寝込んでいる男性。 恐らく高熱が出ているのだろう、氷枕をしている。 まあ俺のことである、今俺は風邪を引いているのだ。 「こんにちわ皆さん、最近自分のここの所の生活がアニメ化できそうでわくわくしている上田明也です。 でも主人公と言うよりラスボスな気もして悶々しています。 探偵兼殺人鬼という厨二病全開過ぎて死にたくなる二足のわらじを履いているし行けると思うんですけどね。 まあ探偵の仕事、なんていっても依頼が来るのなんて週に一、二回ほどです。 しかも、都市伝説で仕事を終わらせてしまうのでお金も手間もかからないと。 殺人鬼の仕事なんてさらなりって奴です。 仕事ですらない。 何を言いたいかって言うとすごく暇なんですよ、ええ。 そんな暇なときはどうしているのかって? テレビかネットでも見て時間を潰すに限りますよ。」 誰かに語りかけるように独り言を呟く。 これを行わないと自分の日常が始まらない気がするのだ。 「マスター、生きてますか?」 いきなりの寝室のドアを開けて飛び込んでくる幼女、俺の契約している都市伝説「ハーメルンの笛吹き」である。 彼女の手の上には緑色のおかゆがこんもりのっかったお椀があった。 「うわ、やめろお前がおかゆなんて作るんじゃ……。」 「つべこべ言わずに食えよおらぁ!」 どうやら俺の昼食らしい。 「うに゛ゃああああああああ!?」 病人という存在の弱さとおかゆに有らざる苦みを口中で噛みしめながら俺はそのまま意識を絶った。 ああ、幾ら都市伝説を使いこなしても駄目な物は駄目なんだなぁ……。 【上田明也の探偵倶楽部5~真夜中の赤い砂嵐~】 あの悪夢のようなランチタイムから一体何時間経ったのだろう? 俺が目を覚ますとまず最初に時計を確認した。 真夜中の十二時。 なんということだ、12時間も眠ってしまっていたらしい。 酷く喉が渇いた。 腹も減っている。 体中が痛い。 頭はまるで捻子を突っ込まれたようだ。 思えば、あの謎の黒服達に追いかけられている夢を見てからずっとそうだ。 只の風邪ではないのだろうか? 「メルー、メルゥ?」 掠れた声で我が愛しの都市伝説を呼ぶ。 「うへへ、……これ以上食えません。」 隣で熟睡していた。 幼女の都市伝説が隣で寝ている。 どんな悪戯をしても問題無いだろう。 成る程、ロリコンたるこの俺にとっては風邪さえ引いていなければ中々魅力的な状況だっただろう。 今すぐ押し倒してこの天使のような頬や この世の美をすべてそこに集約した尻などを好きなだけ愛でてから 本丸に突撃するのも中々どうして魅力的だったろう。 「残念ながら俺も食えません、と。」 意味が違うわ、と一人ボケ突っ込みをしながら俺は冷蔵庫まで比喩じゃなく這っていった。 冷蔵庫を漁ると すっかりカラカラになったトマト ポカリスエット――――――恐らくコレを飲むべきなのだろう 安物の粉チーズ ケチャップ マヨネーズ ソーセージ 鯵の干物 が入っていた。 「ああ………。」 十二時間を無駄に過ごしてしまった後悔を噛みしめながらポカリスエットを胃袋にそそぎ込む。 カラカラに渇いた喉やもう何も入っていない胃袋が急な来訪者に驚いて活動を始めた。 それにしても腹が減る。 スパゲティをゆでることにした。 台所の隅に転がっていたタマネギを適当にバラバラに切り刻む。 カウンターに捨て置かれていたニンニクの欠片なども適当な感じで細かくしておこう。 フライパンにオリーブオイルを引いてゆっくりと暖める。 ジュゥワアアアア! ニンニクと一味唐辛子を入れて炒めると美味しそうな香りが立ち上ってきた。 麺の方も中々上手そうに鍋の中で踊っている。 眠りすぎて腐り落ちそうな頭が作り替えられていく。 鍋の中のゆで汁をお玉一杯、よりちょいと少なめにフライパンに入れる。 油とお湯が混ざって白濁し始めた。 麺の様子を見ると丁度芯が残っている固ゆでの状態だ。 ここで麺をフライパンの中に突っ込む。 白濁した液体と麺は絶妙な具合で絡む。 ここで火を止めてナンプラーと鯵の干物を刻んだ物も混ぜ合わせる。 アンチョビの代わりにはならないだろうが無いよりはマシだ。 皿を出して盛ると中々悪くない出来だった。 箸でにゅるにゅると噛みしめると何とも言えない幸せな気持ちになれる。 「中々良い出来だぞ、上田明也。お前もやれば出来る子じゃないか。」 自分で自分を褒めてから何とも言えない寂しさを噛みしめた。 「……寝るか。」 自分に言い聞かせるように独り言を呟いてから寝室に向かう。 まだ自分の体温が残るベッドに潜り込んで瞳を閉じた。 ちなみに我が探偵事務所はあまり広くないので基本的にメルとは添い寝である。 身体が冷えるので湯たんぽ代わりにメルを引き寄せた。 「だからもう食べられないってヴァ………。」 夢の中でも何か喰っているらしい。 本当におめでたい奴である。 「喰っちまうぞ。」 「うわ、ハンバーグが追いかけてきた!?」 メルが急にうなされ始めた。 ハンバーグに追いかけられる夢って大して恐ろしく思えないぞ。 「………今度こそ寝るか。」 俺はまぶたを閉じて頭の中を空っぽにした。 どれくらい時間が経ったのだろう。 時計を見るとベッドに入ってから30分ほど経過していた。 ―――――――――――眠れない。 仕方ないので隣に寝ている幼女に襲いかかろうかとも思ったが ニンニクまみれの口で襲いかかっても只の嫌がらせだ。 それは自分の美学に反する。 適当にテレビやらネットでもして時間を潰すとしよう。 自分の部屋に入るとテレビをつけて深夜の通信販売番組をながめる。 いかにも吹き替え翻訳っぽい声が面白いのだが結局は同じ番組の繰り返しなのですぐ飽きた。 次はパソコンのスイッチをオンにした。 ヘッドフォンをつける。 何か面白いニュースはないかと探し回ってみる。 「お、俺のニュースじゃないか。」 様々な犯罪についてまとめたサイトの中でハーメルンの笛吹き関係の物を見つけた。 中々噂に尾ひれが付いている物である。 どうやらこの国の人間には俺が警察組織の幹部の子供だと思われているらしい。 どこぞの漫画でもあるまいに警察幹部の子供が悪い奴ばかりみたいな物の見方はやめて欲しい物だ。 しばらくニュースサイトを見て回っていると画面上にいつの間にか知らないウインドウが出てきていた。 タブブラウザを使っているのでリンクで飛ぶときにウインドウが出る事なんてありえない。 カチッ! 試しにそれをクリックしてみる。 「あ/か Yes or No」 「おおこわいこわい。」 都市伝説の赤い窓ではないか。 この町はネットサーフィンものんびりできないらしい。 イエスもノーも押さないで放置しておく。 都市伝説などという物は関わらないに越したことはないのだ。 どうせ放っておけばそのうち消えるだろう。 「スーパーハッカーだかスーパーハカーだかと仲良くなっておけばこういうのも簡単に解決してくれるのか?」 あくまで自分の能力は最低で最高なこのアナログ世界におけるものでしかない。 ひとたび電波だの電子だのネットだの言われてしまうとどうしようもないのだ。 やれやれだ。 自分の無力さを噛みしめながら椅子に背中を預けて目を閉じる。 おっ、良い感じで眠たくなってきた。 キーーーーン なんだ、この妙な音は? どうやら後ろから聞こえているようだ。 くるりと後ろを振り返ってみるとテレビが砂嵐になっていた。 そうだ、さっきからつけっぱなしにしていたのだ。 テレビを消そうとテレビに近づくと画面の奥から何か妙な物が見えてくる。 「今日の死亡予定者 上田明也 左門恭二 下田憂晴 右衞門絹 本日の死亡予定者は以上です。」 「なんですと?」 迷うことなく村正を手にとった。 新品だったがテレビをざっくりと斬りつける。 テレビに刃物が食い込むか否かの瞬間、テレビから真っ黒な手が伸びてくる。 それはテレビを壊されてすぐに消えるかと思った。 どうせあんな手だけでは殺せまい、俺はそう思っていた。 ところがだ。 手は俺を狙うことなく“真っ直ぐに”パソコンへ向かった。 俺は自らの判断の甘さを恥じた。 黒い手が狙って居たのはそれだったのだ。 カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ 「――――――しまっ!」 「赤い部屋は好きですか? ニアYes or No」 パソコンの画面は真っ赤に染まった。 「野生の都市伝説が連携とか聞いたことねえぞおい!?」 ベゴン! ベゴン!ベゴン! ベゴベゴベゴベゴベゴ!! 部屋につぎつぎと赤い手形が付く。 どうやらやってしまったらしい。 「っざけるなよ!」 目の前のパソコンを切り刻んで破壊する。 だが赤い手形は増え続けている。 もうパソコンをどうこうしても駄目らしい。 部屋を出ようとした次の瞬間に扉が閉まった。 どうあってもここに閉じ込める気だ。 「つまりだ。」 そのことから、俺は一つの推論を得た。 ビュン! いきなり鉈のような物が俺めがけて振り下ろされる。 いや、鉈ではない。 鉈のような雰囲気のする何かが、と言うべきだ。 「――――――危ねえ!」 間一髪でそれを躱すと鉈が落ちてきた方向を見る。 「……何も居ない?」 確かに、赤い部屋は被害者を血塗れにして殺すがその方法は指定されていない。 つまり血塗れになるならば何でも良いのだろう。 スパッ そう思っていると腕が裂けて非常に良い勢いで血が流れ始めた。 まずい、対策を打たないと……。 そう思った俺はすぐに窓ガラスを壊して部屋を出ようとした。 「赤い部屋と言っても所詮は部屋。 つまりだ。 部屋じゃなくなればあいつは俺に手出しをすることは出来ない。」 バリーン! 華麗に窓ガラスを割って地上2階から飛び出す俺。 下に停めてある誰かのワンボックスカーに飛び降りる………、てあれ? 俺が飛び出した先には先程まで見ていた真夜中の町の風景は無かった。 「赤い部屋は……好きですか?」 広い部屋。 西洋風の広い部屋。 すこし違和感を挙げるとすれば調度も壁も真っ赤な所ぐらいか。 それが異常すぎる事態なのだが。 しかし俺はそれよりも部屋の奥の暗闇から覗く瞳の方が恐ろしい。 暗闇の奥に紅く光る瞳。 あれは一体何なのだ? 「赤い部屋は、本来人々のネットに対する希望や夢を詰め込んだ場所でした。」 悲しげな声が響く。 「何時からだったんでしょう、人々がネットに対して怒りや恨みなどの暗い感情をぶつけ始めたのは。 そうやって私は赤い部屋になったんです。 ここにはそういうネットを通じて人々がはき出したくらぁい感情のたまり場。 だから真っ赤に真っ赤に染まってしまった。 あなたもそうやって暗いところを覗き込もうとしたんでしょう? だから死ぬの。 間違いなく死ぬ。 深淵を覗く物はまた深淵に覗かれている。 それを忘れて貴方は人々が無限に繋がりあうこの電脳世界の暗い場所を見てしまった。 人々の悪意によって貴方は死ぬ。 私のせいじゃない、私にそれは止められない。 ――――――――――――死んで。」 ザクリ 肉が裂ける音がして自分の身体から血が流れ出る。 今度は足か、逃げることも出来ない。 どうやら俺は異世界に連れて行かれてしまったらしい。 異世界にジャンプできる都市伝説なら助けに来てくれるのだろうが……そんな都市伝説俺は契約していない。 無力な物だ。 こうやって対策を考えている内にどんどん血は流れ出していく。 まずい、これは死ねる……! 死ねる、が、まあ良い。 死ぬなら徹底的にあがいてからの方が良い。 すると案外幸運は転がってくる物だ。 「赤い部屋って、どんな都市伝説か知っている?」 「知ってるに決まっているじゃねえか。 被害者は血塗れで死ぬんだろ?」 「正解。だから貴方は即死しない。ゆっくりゆっくり血を流して死ぬ。 人間は本当に脆い。しかしそんな人間の思念が……、私を変えた。 私はもっと良い物として生まれたかったのに……。」 「良い物になることが喜びなのかい?」 「――――――あたりまえじゃない!」 「良い存在になるのが君の喜びなのか。」 「そうだよ。」 俺はわざとらしくため息をついて遠くにいる赤い部屋の主を挑発した。 「――――――――――――くだらねえ。」 こうなれば後は勢いだ。見せてやる、上から目線性悪説。 「全ての人々から喜ばれ愛される善なる存在?良い人?明るいインターネットの未来? バーカ、俺はそんな下らない物認めないぞ信じないぞ。 良い存在?善良なる存在?誰が決めた?誰が決める? それを決められるのは誰なんだ?そうだよ、お前だって解っているだろう? ………そうだ、それは決められない。 お前の価値を決定するのはネットに関わる人々全てなんだよ。 万人共通の幸福や万人共通の正義なぞ有るわけがない。 人は誰しもが不完全で不公平な自分だけの秤を数千年前――――お前が生まれるずっと前からだ、 プラップラプラップラ振り回してきているんだ! お前の在り方を勝手に歪められた? 冗談は休み休み言えという物だ。 世界に存在する全ての物は互いに影響を与えあいながら生きているんだぞ? そんな中で純粋培養された揺るぎない存在などあり得るはずがない。 お前の最初の願いですら恐らく誰かによって設定された物であってチッポケなお前自身の願いなど……」 どんな台詞も締めが肝心。 「――――――――――――――――――端から無かった。」 キリッ いかにも俺は格好良い台詞を言いましたよって顔をするのが肝要。 「……………うぅ、でも私は!」 それでも何か言おうとする赤い部屋の主。 しかし言葉は続かない。 「なんだ!なんだっていうんだ!答えられるか? いいや、お前は答えられないね! お前は自分という存在について自分で考えたことがない。 何になりたいかは考えても己が何であるかは考えてもみていなかった! そんなお前が答えられるわけゴォッッフウウウウウウウ!!!」 俺は勢いよく吐血した。 辺りがドンドン真っ赤に染まっていく。 DANDAN身体冷えていく! ……駄目だ、死ぬわこれ。 「…………大丈夫?」 赤い部屋の主がこちらに近づいてくる。 あ、意外と美人だ。 ロリコンじゃなければ……、いや、俺ロリコンだったっけ? うん、あれは合法ロリだ。 そういうことにしておこう。 「大丈夫なわけ無いだろうが!あと少しで死ぬわ! お前のせいだ!どうしてくれる! そうやってお前は何人もの人間を殺してきたわけだ。 俺もその中の一人になるってか?そうだろうな、俺の命は只今消失しそうだからな!」 「私のせいじゃない!そういう風に貴方達がしたんでしょう? 私は………。私は人を殺したくなんて無いし赤い部屋をもっと楽しいところにしたかった!」 「貴方達って誰だよ!人間か?下らないね、それこそ下らない。 人間程度に左右されてんじゃねえぞ!」 怒鳴りつける。 こちらが普通の人間じゃないと解っているらしいしついでに脅してみよう。 ちなみに彼女が俺に左右されているのに人間に左右されるなと説教されているのはかなり理不尽だ。 「ひぅうッ!」 ビクッとなった。 割と可愛い声しているじゃないか。 「まったく、俺を殺す割には大したことのない奴じゃないか。 楽しいところにしたいなら楽しいところにすればいいじゃねえか! 他人なんて関係無い!もっと!もっと自分で楽しいこと探してみろよ! 他人から与えられる物だけを娯楽として享受するような人格に、知性に、本物の娯楽なんて味わえない。 結局大事なのは自分だろうが! それともあれか?人間に依存する形でしか存在できない都市伝説だから人間の思うとおりにしか動けないってか? それなら誰か良く解らない噂じゃなくて俺に依存してみる気は無いか? きっと楽しい物が見られるぜ?」 立ち上がって赤い部屋の主を抱き寄せる。 赤い瞳、青みがかった髪、白い絹のワンピース。 なんだなんだとても可愛いじゃないか。 まあ合法ロリの範囲だ。 「もう一度言おうか、俺に頼ってみろよ。」 耳元でささやく。 細い首筋と滑らかな肌が触れていて心地よい。 「う、う、うるさぁい!」 もう半狂乱気味にわめく赤い部屋の主。 人間と話したことがあまりなかったのだろう。 しかし俺も時間がない。血がない。仕方がないし仕方もない。 彼女に対して仕上げを行おう。 「でもな、聞いてくれ。ここからが………、大切なんだ。」 「どうせなんか説教するんでしょう?ていうか何よ!なんでそんだけ血を流しているのに死なないのよ! おっかしいんじゃないの?死ぬんじゃないの?馬鹿よ!アンタ馬鹿!知らない、私は何も知らないんだあ!」 「そうだ、その通りだ。俺は馬鹿だよ。お前の言うとおりだ。」 「………え?」 「俺、子供の時はそこそこ良いところのお坊ちゃんとして育って居てさ。 家族も優しかったし友達も沢山いたしそこそこ幸せに過ごしていたんだ。 でも、都市伝説と契約する為にそれら全部捨てちゃった。 将来は弁護士にでもなってから親父の会社継いで人の数倍幸せな生活しようと思っていたのにだ。 なんでだと思う?」 「………あんたが馬鹿だからじゃない。」 「そう、そうなんだよ。でも………。」 おぅふ、マジで意識がなくなってきた。 ここからが勝負だ。 「でも?……でもどうしたのよ? 死んだの……?ねぇ、何か話してよ………。」 よし、良い感じで心配している。 このまま少し死んだふりしていれば良い。 おお、良い感じに傷がふさがり始めた。 出血死のタイミングはこいつが握っているんだからこいつに殺したくないって思わせれば上出来だ。 「……ああ、気を失っていたのか? どこまで話したっけ? そうだ、俺が馬鹿だという話だ。 その通り、お前の言うとおりに俺は筋金入りの馬鹿なんだ。 でもな、それでも欲しかった物がある。 たとえ馬鹿と言われても、どんなにねじ曲がった手段でも、目指す物がある。 愚かで結構、邪悪で結構、弱者で結構、なんであっても結構だ。 でも、譲れない物があった。お前にはあるか?俺にはそれがあるんだ。」 「な、何よ?」 「そうだな、愛………かな?」 おおくさいくさい。 うわ、赤い部屋の主も固まってる。 引いてるよこれドン引きされてるよ。 高校の頃ロリコンがばれかけた時と同じくらいやばいってばこれ。 しかしここで幼女とか言ったら呆れられる、それは冗談じゃなく俺の死に繋がる。 まったく困った話だよ。 「………愛なの?」 聞き返してきた。 どうやらまだなんとか俺は生きていて良いらしい。 「ああ、愛だね。都市伝説の力を俺が求めたのも全部それだよ。 俺はね、他人の心の痛みがわからないんだよ。 どれだけ必死になっても全く解らない。 言葉としては解るんだよ? でも実感としては解らない。 そんな俺には心の底から安穏とできる居場所なんて無かった! 他人の痛みが解らない人間だから他人に理解して貰えないなんてルールはないはずだ! 狂ってるよな、狂ってる。でも逆に考えればそんな自分の心の痛みを解ってくれる恋人がいればそれは何にも優先する。 だから、お前も俺と一緒に来ないか?」 「………今、恋人居ないの?」 「居ない。なってくれるか? なってくれるとすごく嬉しい。」 おお、外道外道。 返事はない。 代わりに契約書のようなものが目の前に落ちてきた。 すでに二つの都市伝説と契約しているけれど……、何故だろう。 俺の器はまだ広がる気がするんだよ。 サインに自らの名前を書く。 全身の血管が膨張していくような感覚だ。 脳髄が揺さぶられて内蔵一つ一つがひっくり返っているんじゃないか? ああ、吐きそうだ。酷い嘔吐感に俺は襲われて居るのか。 しかし、それでも、未だ俺が正気を失うことはない。 正気なんてとっくに失っていたか? それにしてもまだ自分が化け物じゃないって解る、良いことだ。 それにしてもどこまで都市伝説を突っ込めば俺の身体は破裂するんだ? 「ところでお前をなんて呼べば良い?」 名前というのは大事だ。 「好きにすれば?」 ぶっきらぼうに返事をされた。 ははは、愛い奴め。 他人に名前を任せるのは自らの在り方を決定されるような物だというのに。 「そうか、じゃあお前は今日から茜さんだ。とりあえずこの部屋から出してくれ。 愛しているぜ。」 やった俺、よく頑張った。 「ん、解った……。感謝してよね。」 かくしてこの俺上田明也は都市伝説の助け無しで赤い部屋からの生還に成功したのであった。 厳密には赤い部屋自身の能力で帰って来たのだが細かい所は良いんだよ。 【上田明也の探偵倶楽部5~真夜中の赤い砂嵐~ fin】 朝、目が覚めると俺は思いきり自室の椅子で眠っていた。 ネットゲームでいうと寝落ちだ。 面倒な事件もひとしきり区切りがついたのでとりあえず自分にナレーションをすることにした。 「……と、いうお話でした。 メルにはばれていません。 ばれたら修羅場です。 つーか俺の身体ってなんなんでしょうね? 知らない間に勝手に都市伝説に対する容量が増えているとかね。 俺は身体があると言うよりは生体都市伝説運用装置とでも言った方が良い状態みたいだしさ。 ほんとうにやっていられませんよ。 次回の上田明也の探偵倶楽部は豪華三本立て! オムニバス形式のお話を予定しております。 それじゃ来週もまた見て下さいね? じゃんけんポーン! グーの貴方はチョーラッキー! うふふふふふー……、ガクリ。」 カタ ヴィーン…… 急に目の前のパソコンが動き出す。 「あ/か」 まただ。 どうやらまだ俺を眠らせてくれないらしい。 「あなたは私のことが好きですか?」 やれやれ、といった感じで肩をすくめると俺はとりあえずイエスを押した。 【上田明也の探偵倶楽部 続く】
https://w.atwiki.jp/legends/pages/3472.html
【上田明也の探偵倶楽部after.act9~修行開始~】 「この男をブチ殺せ♪」 「ハァァァァァァァァァ?!」 「何だ?文句あるのか笛吹」 「文句しかないんですけどぉぉぉぉっ?!」 「愛美さん、流石に殺しちゃマズいと思うの」 「そーだ!そーだ!」 わらわらと集まった契約者達。 子供が多い。というか子供だらけ。 ガキのお守りには慣れているのでそれは良いのだが子供達に言った愛美さんの台詞が問題だった。 それにしても望が殺しちゃ不味いと言ってくれるとは思わなかった。 お兄さんちょっと感激。 「じゃあ、お前はどうしたいんだ?」 「え?俺はねー、のぞみんとそこの女の子と一緒に(パァンッ ナンデモナイデスヨハイ」 「ミナワに手出すなよ!?出すなよ!?」 「ご主人様・・・」 「誰かそこのリア充爆破させてくれ」 「アンタ妻子持ちでしょ・・・」 「まだ生まれてないから妻『子』じゃないもんねー!!」 「ふざけてないで先に進めてくれ」 あの突っ込み役が龍一少年か。 素のスペックはこの面子(除く都市伝説)で恐らく一番高いだろう。 それにしても……苦労させられそうだなあ。 主に俺に。 「じゃあこうしよう?」 愛美さんがアイテムバッグからネコミミを取り出す。 ま、まさかそれを付けてくれるのか? 愛美さんのネコミミなんて見たらやる気を出さざるを得ない。 あれ? 俺の方に来た? まさか? まさか? まさかの俺featネコミミ 「テンション上がって来たにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」 「変態だー!?」 「元からでしょ」 「私の許可した範囲内の方法でこの男からネコミミを奪い取れ」 「・・・それだけで良いのか?」 「そんなの楽勝じゃない?」 「みー簡単なの」 その通り、簡単だ。 この中の可愛い女の子の誰か一人が 『ネコミミチョウダイお兄様?』 とか言って潤んだ瞳で懇願してきたら俺はこれを簡単に譲り渡す自信がある。 「ルールは簡単だ 『都市伝説との連携禁止』 つまり「都市伝説か契約者、どちらか片方が傍に居なければ使えない能力」の使用は全面禁止 望の様に単独でも使用可能な能力は一応認めるが極力使うな そして、連携は認めんが、助け合いは好きにしろ ただし、他人を助けた結果自分がどうなっても文句は言うな」 「無茶苦茶じゃねぇか!?」 「体力や体術と言った基礎が出来て無い状態で都市伝説に頼っても碌な事にならん まずは基礎を固める為の方法だ」 「でも、単純な追いかけっこじゃ体力は付いてもそれだけじゃない?」 良いことに気がついた。 流石望ちゃん、愛してるぜ。 「その点は心配要らん ここ、フヴェルゲルミルの平均レベルは150~200 ダンジョンの中では規模も難易度も最高レベルだ つまり、お前達のいう「楽勝な追いかけっこ」とやらは この広大なダンジョン全体を逃げ回る笛吹を、何時何処から現れるかわからない高レベルモンスターを相手にしながら 都市伝説との連携無しで切り抜ける物と言う訳だ」 流石愛美さん、さえてらっしゃる。 滅茶苦茶愛してるぜ。 「みー!」 さぁ、始めようかと言った所でビシッと綺麗に手が上がる 何あの可愛いナマモノ。 お持ち帰りたい。 「・・・花子さん、だったな 何か質問か?」 「みー、わたしたちにとっても、けーやくしゃたちにとっても、協力することはとても大切な事なの だけど、このおいかけっこじゃそれができないの それはどっちにとってもよくない事だと思うの」 「フム・・・成る程、良い意見だ」 「みー?」 「だがな、一人一人が強ければ初めて共闘する相手とでも連携は取れる だが、個々の能力が低ければどうすれば良いかわかっていても実行に移す事はできない 寧ろ足を引っ張り合うだけになってしまう、それこそ良く無い事だろう?」 「みー・・・」 「心配しなくても、その点は後でいやと言うほど鍛えさせてやるさ・・・ 笛吹、お前は好きに能力を使って構わんぞ」 「良いのか?」 「死なない程度に殺すつもりでやれ・・・でなければ意味が無いからな わかったら行け お前が走り出してから20秒後にコイツらを行かせる」 「了解!」 俺は迷わず洞窟の中に駆け込む。 辺りにはモンスターが喜ぶ香水を振りまきながら洞窟の奥までできるだけ走り続ける。 モンスターのうなり声が聞こえてくるので多分俺の望むようにモンスターが引き寄せられているはずだ。 第一に殺気。 第二に敵意。 再思のまもなくご臨終。 「―――――ッ!」 でも俺には故郷に妻と子がいるので死ぬ訳にはいかない。 直感に任せて身をよじると俺のせっかく伸ばしていた髪の毛が数本落ちた。 ちょっと振り返ってみたがまだ敵の攻撃圏内に俺は居ない……? 「って、ちょっと待てぇえええええええええええ!!??今の何、今の何だ!?都市伝説使用禁止っつったろ!?」 「みー、花子さん、何もしてないの」 『刀を抜刀する勢いで衝撃波飛ばしただけだろ』 「だけじゃねぇっ!!??それは達人級かそれ以上の化け物が使うような技だろっ!?一介の高校生が使うもんじゃねぇよっ!?」 『俺は刀は使わないからよく知らないけど。龍一は将門様から稽古つけてもらってるから。将門様が使うのを見て覚えたんじゃないか?』 「見よう見まねで覚えられる技じゃないっ!!??つーか、祟り神に稽古つけてもらうとか何その死亡フラグに思えなくもない無茶振りっ!?」 俺の周りは何時から人外魔境になったのかと。 そのうち龍一とやらも俺の親父と同じように座ったまま跳躍し始めるに違いない。 ところで喋りながら走ったら疲れてきた。 其処にもう一度さっきの抜刀術――勝手に飛び飯綱と名付けておこう。 俺は慌てて真横に飛び退く。 丁度モンスターも周りに集まってきた。 「………失せろ」 それらを、睨みつける 消えろ、と 龍一はやや威圧するように、睨み、そう告げた 「…あれ?」 まもののむれはにげだした! 経験値稼げないからちゃんと倒せよ……。 「まあ良い、そろそろ暗闇には慣れていただけたかな?」 だがこの一瞬の隙で充分だ。 耳栓を付けて口を開ける。 俺は懐からスタングレネードを取り出して安全ピンを外して投げた。 投げた方向から急いで目を背ける。 “人間”には耐えられない大音響と光の洪水が辺りに広がる。 愛美さん相手だと使っても大して意味がなかったので余っていたのだ。 ……よし。 完全に“人間”は沈黙している。 だから今俺に襲いかかれるのは……! 「そうだよなあ!都市伝説にはこの程度の攻撃は効かないからな!」 「その巫山戯たネコミミは奪わせて貰うの!」 そう、――――都市伝説だ。 「やはり来たか、みぃみぃ少女。俺の膝の上で眠れ。」 狙い通りだ。 大量のトイレットペーパーが俺に向けて伸びる。 「一対一で戦おうと思うな。自分は常に相手より弱いつもりで作戦を練れ。」 トイレットペーパーなんて軽い物ならば俺の能力の餌食だ。 正宗から発生した斥力がトイレットペーパーの軌道を滅茶苦茶にかき乱し、絡ませる。 「み!」 「吹き飛べ!」 斥力を花子さんと俺の間に発生させる。 花子さんの小さな身体はとてつもない勢いで吹っ飛んでいった。 このままではそこら辺の壁と激突、中々痛いだろうが我慢して欲しい。 そう思った瞬間、花子さんの身体を誰かが受け止める。 「予想外の復活の早さだな。」 「…………。」 龍一だ。 スタングレネードからこんなにも早く回復してきたらしい。 俺は村正と正宗を抜き放つと村正の引力で龍一の身体を引きずり寄せようとする。 狙い通りこちらに引っ張られてくる龍一。 ここで村正を蜻蛉切としての本来の姿、槍に戻す。 俺は正宗を真上に投げ上げてから両手で槍を持ち直し、龍一に真っ直ぐ突きを放った。 村正の力で習ったこともない槍術を使えるのがありがたい。 俺の槍が龍一を捉えたと思った瞬間だった。 龍一の移動速度が一気に上がる。 「――――加速した!?」 龍一は村正の引力を利用してさらに距離を詰めてきたのだ。 「ふうむ、裂邪きゅんとノゾミーが来ない辺り、あいつらはモンスターに手間取ってるのか? それとも俺が隙を見せたところでポルナレフよろしく暗殺しようとしてるのか。 どっちだろうなあ?」 交差する剣戟。 飛び散る火花。 龍一君、只の日本刀のくせになんで都市伝説と五分の戦いしているのだ。 「なぁ、お前はどう思うよ?」 引力と斥力が交互に入れ替わる不安定な足場の中、それでも龍一は俺に食らいつく。 不味い、このままだと俺が切られる。 「…………。」 「無口だな、嫌になるぜ。もっとおしゃべりしようぜ!」 赤い部屋の能力で大量の釘を口から吐き出す。 必殺・含み針。 龍一はそれを……あえて顔面で受けた!? 少しばかり動揺したその隙を龍一は見逃さない。 彼は容赦無く俺の右腕を切った。 これ以上近づかれていると不味い、俺は龍一の腹を思い切り蹴飛ばして後ろに下がった。 「みい!?」 「おいおい驚くなよ花子さん、契約者なら切られた腕くらいすぐ繋がるさ。」 そう、確かに俺は右腕を切られた。 だが俺はその切断と同時に引力を操り、神経血管筋繊維の全てを再接続したのだ。 そしてサンジェルマンの傷薬をかければ全て元通りである。 「見たまえよ龍一君、これが強いと言うことだよ。」 額から血を流す龍一に向けて高らかと宣言する。 そう、これが強いということだ。 相手が何をしようと気にしない。 相手の行為の全てを無為に帰す。 こうして自分の果てしない大きさを相手に見せつけるのが強さだ。 「君は血を流すのだろう? 戦う度に血を流し続けるのだろう?一人で! そんなんじゃ何時か痛みで君は動けなくなるよ。 いっそ化け物に、俺みたいな化け物になれよ。 楽だぞ、すごく楽だ。迷いも悲しみも何もかもなくただ自分の望みのままに動く化け物に……!」 「買って嬉しいはないちもんめ!」 「おっと、あぶな……!?」 物陰から出てきた望が大量の硬貨で出来た鎖を俺に向けて繰り出す。 咄嗟に躱してすかさず彼女を殴り飛ばそうとしたその瞬間だった。 「ネコミミもらっ……!」 「裂邪バリアー!」 「うぎゃああああああああああああ!」 恐らく俺の隙を突いてネコミミを取るつもりだったのだろう裂邪くん。 俺に殴られそうになった望が彼を咄嗟に盾にしてしまった。 そして吹っ飛ばされた裂邪くんの影から望が再び攻撃を仕掛ける。 「【どけえええええええええええええい】!」 腹の底から空気を振り絞ってありったけの声を望に叩き付けた。 「うるさいわね!」 「――――チッ、はないちもんめの操作能力を自分に使ったか!」 意外だ、望は俺の大声を至近距離で聞いても気絶しないらしい。 まあ表情が歪んでるのを見るとかなり効いてはいるようだが。 異常による命令を無視したのも考えるとこれは都市伝説能力か。 ネコミミに伸びる望の手をすかさず捕まえる。 力で敵うとは思えないので暴れられる前に赤い部屋の釘でで彼女の靴をその場で釘付けにして俺と花子さんの間に立たせる。 「みっ!水で流せないの!」 「その洪水は使ってくれるなよ!流石に俺でもちと厳しい。」 「あ、あんた私を人質に使ったわね!」 「HAHAHA!戦闘中だからなあ!」 村正を持った腕が俺の意志と無関係に動き始める。 再び龍一が俺に斬りかかってきたのだ。 なんとかそれを受け止める。 「チッ、予想以上にやるなお前ら……。」 正宗の放つ斥力でなんとか彼を仰け反らせると俺はモンスターを呼びながら再び逃走を開始した。 【上田明也の探偵倶楽部after.act9~修行開始~fin】
https://w.atwiki.jp/legends/pages/2592.html
やって来た他の黒服たちに、死体の処理などを任せ2人はその街を立ち去っていた。 能力によって読み取った情報を本部に伝えた所、此方に来て詳しく話せと言われたからだ。 「や~。ビックリしましたねぇ」 「そうだな。《七人みさき》何て大物が居たなんてな」 「いえ。それもですけど、ビルの方ですよぉ」 「そっちか……」 話し合う《残留思念》の黒服ことS-No.560と、担当契約者である《女の勘》の女性。 初めは大量の死体に注意を奪われていたのだが、暫らくしてそれ以外にも気を向けるようになった。 ふと、少し離れた建物に目をやると眼前のソレと同じ位とんでもない物が在った。 ビルのフロア1つが、そっくりそのまま消し飛んでいたのだ、まるでだるま落としの様に。 「あれも、《七人みさき》の仕業なんですよね。大丈夫ですかねぇ」 「何がだっととと」 不意にSが声を上げる、これは彼らの現在の状態が原因に有る。 移動のために、女性の運転するバイクに2人乗りをしており、先程はカーブで少しばかりバランスが崩れたのだ。 妙齢の女性である《女の勘》の契約者に、後ろから抱きついている黒服の姿は、一部の人間には羨望の対象になるかもしれない。 「えと、ですね。今の現状って、他にも厄介な事があるでしょう。その上に、《七人みさき》じゃないですかぁ」 「大丈夫だろう。他の件は兎に角、《七人みさき》に関しては対策を思い付いたからな」 Sのその言葉に女性は驚いた。大勢の人間を一度に相手取り、ビルの階一つを消し飛ばした《七人みさき》。 詳しくは分らないが、その戦力がかなり高い事は簡単に想像することが出来た。 それをどうやって、倒すつもりなのだろうか? そんな女性の疑問に気付いたSが、補足するように声をだす。 「あぁ。対策っつても、本当に効果が有るか分らんけどな。 ヒントを出すとしたら《七人みさき》に取り込まれるのは《七人みさき》に"殺された人間"だけって事だな」 「それってどう言う……」 ダーン、ダーン、ダーン、ダン、ダン………………… 突然、ボールの弾む音が、女性の言葉を遮るように聞こえて来た。 それも、全く音が小さくなる気配が無い。バイクはそれなりのスピードで走っているのにだ。 音のする方に、Sが眼をやるとそこには、 「《ドリブルババア》かよ。厄介なのに会っちまったか?」 「っちょ、私達2人とも戦闘は専門じゃ無いですよ!? しかもバイクに乗ってる最中ですしぃ」 バスケットボールをドリブルしながら自分達と同じ速さで走っている老婆がいた。 老婆はバイクの真横にピッタリと張り付きながら、2人に向かってニタリと笑う。 《ジェットババア》や《100キロババア》等の亜種として知られるのが、この都市伝説だ。 だが、その2つと《ドリブルババア》には、大きな違いが有る。それは、ボールをぶつけて来ると言う事だ。 ボールを受け取ればハンドルから手が離れ、無視すれば体に当てられバランスを崩す。どう対処しても質の悪い都市伝説である。 「大丈夫だ。1人ならキツイかも知れんが、幸い今は2人いる。お前はそのまま運転を続けてろ。俺が処理する」 「そ、そうですか。分りましたぁ」 女性は運転に集中するために、《ドリブルババア》から目を離して前方を見直す。 一方Sは、女性の体から片手を離しスーツの内側から何かを取り出した。それは、片手に収まるサイズらしく見る事は出来ない。 「さて、こいつで如何にか出来るか?」 確認するようSは、手の中のソレをいじる。そして、睨みつけるように老婆を見やった。 「ハーイ! 若いの、元気してるかい!!」 「…………」 老婆とは思えないテンションで、《ドリブルババア》が喋りかけて来た。 まぁ、バスケットボールをドリブルしながらバイクと併走する様な、ハッスル婆ちゃんだ可笑しくは無いかも知れない。 「どうしたんだい?! 黙っちゃって、返事ぐらいしなよ!!」 「……いや。テンションの高い、婆さんだと思ってな」 行き成りのハイテンションに驚き、黙ってしまったSが、《ドリブルババア》の2度目の言葉に、呆れたように答える。 運転をしている女性も、同じように呆れて居るのが感じられた。 「さて。見逃してくれ、と言いたい所だが、どうせ無駄なんだろう?」 「そーの通りさ。んじゃ、喰らいなぁ!!」 そう言うと同時に、老婆はボールを投げつけようと腕を振りかぶった。 「断るに決まってんだろう。思念開放」 握っていた手を開き、Sはそう告げた。 開けられた手からは、金属製の何かが数個バラバラと零れ落ちる。 それは……使用済みの銃弾だった。 「そんな物で、何をする気だい?」 突然のSの行動にタイミングを逃され、ボールを投げる姿勢のまま止まっていた老婆が怪訝な表情を浮かべる。 銃弾は《ドリブルババア》に当たる事も無く、後方へと流れて行く。意味のある行動とは思えなかった。 今度こそ、ボールをぶつけ様とした。が、それは叶わなかった。 何故ならば、遥か後方へと流れ去って行った筈の弾丸が、《ドリブルババア》を背後から撃ち抜いたのだから。 背後からの不意打ちにより、バランスを崩した《ドリブルババア》はボールを取りこぼしてしまった。 「何、だい?! どういう事だい、これは」 驚愕と困惑の混じった声を出す、《ドリブルババア》。 無理も無いだろう。何の変哲も無い、捨てる様にばら撒かれた銃弾が自分に向かって襲い掛かる等普通では考えられない。 だが、その普通では無い事を起こすのが都市伝説の力……なのだ。 ここで、《残留思念》と言う都市伝説に付いての、簡単な話をしよう。 この能力は、言うなれば思念(記録)を読み取る力の事だ。そこには、生物・無生物の関係は無い。 さらに無生物の場合は、込められた思念を開放する事によって、それを実現させる事が出来るのである。 そして、今回Sが使ったのは、かつて都市伝説を攻撃するために使用された銃弾であり。 そこには、都市伝説を攻撃すると言う思念がこびり付いていたのだ。 故に、その思念を開放された銃弾は《ドリブルババア》を狙い攻撃したと言う事だ。 「よし! 今のうちだ、全速力で引き離せ!」 倒すまでには行かなかったが、銃弾に怯み老婆が動きを止めた事を確認したSは、女性にしがみ付き直しそう言った。 それに返事をする事無く、女性はバイクのスピードを限界まで上げる。 これで、バイクと《ドリブルババア》の距離は大きく離されていった。 「はぁ、失敗かい。ま、良いさ次の獲物を狙うとするかね。おぉ、痛い」 遠ざかって行くバイクを見送りながら、《ドリブルババア》は諦める様にそう言い。 銃撃による痛みに顔を顰めながら姿を消していった。 《ドリブルババア》を撃退する事は出来たが、別の都市伝説に襲われる可能性が無いとも言い切れない。 2人の乗ったバイクは、急ぐように目的地である組織へと走っている。 続く
https://w.atwiki.jp/legends/pages/5125.html
10 そして 色々あったがもう金曜だ、早いな 何だかここ最近は都市伝説絡みの出来事が多い この町に越してきた四月から動いてはいたものの進展は無かった 四月に人面犬のおっさんとその仲間に出会えたのは良かったが、その後はさっぱりだ 空七の一件も大家さんの一件も「怪奇同盟」の盟主さんに挨拶する件も進展は殆ど無かった それが九月に入って一気に動き出しそうな気がする 高奈先輩と友達になったことがそれを予感させて仕方がない 不思議な話だ、もしかしたら四月からの行動が今につながっている? まさかな そして一気にといえば美人さんとの出会いも増えた、気がする 具体的にはやっぱり高奈先輩との出会いだったり「ヒーローズカフェ」の店員さんだったりする 商業の女子に心が砂漠になったときや合コンの数合わせで参加したときの顛末に比べたら凄い進展だ もしや本当に“ツキ”ってヤツが俺の方向に向き始めたのだろうか まさかな ただし、だ 今になって一番不安なのはこの後のことだ 良いことが起これば漏れなく悪いことも起こる、という格言がある 実際、最初に高奈先輩と出会えた後日、俺はなんか変なの(組織の変なの)に絡まれてしまった いやあえらい目にあったぜ、あの夜は 俺の予感が正しければ、そろそろ悪いことが起きるのではないか あのなんか変なのに追い回された一件は決して小さい出来事ではないぞ 用心には用心を重ねた方がいいに決まっている、現に今もうっすらと赤マントのニオイがするからな そう、赤マントだ 四月頃から学校町内で都市伝説を見ることはあった 何せここは学校町だ、都市伝説を目撃する確率は決して低くない だが最近は幾らなんでも増え過ぎじゃないか、他の人が目撃しててもおかしくない 気になるのは今の時点でニオイを感じるという一点だ 俺の知る限り、徘徊性の都市伝説は日中と人っ気のある場所は避ける 実際この学校町にしても、都市伝説を見る時間帯は圧倒的に夕方と夜が多い 夕方はともかく、日の出ている内に目撃したことはほとんど無かった じゃあこの赤マント臭は何なんだろうね 立ち止まる 今、俺は東区にいる あのなんか変なのの一件以来、夜間の散歩はしていない してはいないんだが、東区の散策は下校のついでに続けていた そして今は夕方だ、つまりもう都市伝説が出没してもおかしくない時間帯だ まさか、近くに赤マントがいるのか? 俺は感覚を開いてニオイをよく確認しようとした 「助けてくださぁーい!」 悲鳴だ 今のは確かに女の子の悲鳴だ 距離は近いぞ、丁度この近くから聞こえたはずだ 直前まで考えていた内容の所為でまさか赤マントが出たのかと疑問がよぎる いや、そんなことは現場を確認すれば一発で答えが出る 俺の足は既に動いていた 声の聞こえた場所へ走る 「助けてぇぇー!!」 曲がり角に入ったとき、俺は悲鳴の主を見つけた 恐らく転んだのだろう、道路に倒れて手で顔を覆っていた おさげロールというべきかドリルな髪が目を引く制服姿の女の子だ そして女の子の前にいるのは――赤マントじゃねえか!! 奴らは二体いるぞ 気色悪いことに手をわきわきさせながら、徐々に女の子に対して距離を詰めていた 迷う理由など全く無い、俺は速歩でこちらに近い方の赤マントに近づいた 奴らがこちらに気づいた気配は無いが当たり前だ、俺は気合で気配を閉じている 夕方とはいえまだお天道様は沈んでないんだ、悪いことができると思うなよこの野郎 「 跪け 」 肩を手で叩くと同時、赤マントの体は膝から地に崩れる 余所見している猶予など無い、崩れた赤マントの脇をすり抜けてもう一体へ間合いを詰める 後ろから胸ぐらを掴むように手を回すと同時に腰の辺りを装束ごと引っ掴んだ 慌てた様に赤マントは身を捩るが逃がす積りなど無い、引き寄せながら足を払い、そのまま後方へ投げ飛ばした 赤マントの悲鳴を聞いたがそんなものは無視だ 女の子に近寄り、肩に手を掛けて膝裏に手を滑り込ませた 「ひっ、ひィィィっ!?」 「ちょっ、ごめんね! 逃げるよ!!」 女の子をお姫様だっこで抱き上げるとそのまま前方へ疾走 抱き寄せて分かったがこの子は契約者じゃない、普通の一般人だった ニオイだ、契約者特有のニオイが無い、あと体重軽いな!? 一瞬余計なことが頭をよぎったが、振り払う 今は赤マントから逃げるぞ 先程の場所よりも開けた十字路に出た 後ろはどうだ、奴らの気配は――無い、ニオイも無い 今回も上手く逃げられたんだろう、警戒するに越したことは無いがひとまず安心だ 「あのー……、君、大丈夫? 立てる?」 「……こ、怖かったですの」 女の子は全身がふるふる震えて涙目になってる 血の気が引いているのを見るに余程怖かったんだろう 「立てるかな、よっ」 「きゃひっ、あっ、ご、ごめんなさい! まだ、無理ですのー……」 足からゆっくり下ろしたが膝が凄く震えている、確かに無理だ 「ちょっと待ってね、おぶるから。よっ」 「あう、ご、ごめんなさい!」 素早く立ち位置を変えて女の子をおぶった まさか施設時代の救護実習で学んだ技術がここで活きるとはな 「あの、ありがとうございます。あの変な人達に追い掛けられて、怖くて、転んで」 「あ、あー……、そうだったの」 彼女は凄い大声で助けを呼んでいたが、俺以外に人を見なかったな そもそも都市伝説が徘徊しているときって人の気配がかなり薄くなることが多い 東区は閑静とはいえ一応は住宅街だから悲鳴を聞いて誰かが来てもおかしくないんだが 「あれだよ、ほら! 最近はなんか変質者が多いみたいだから、大通りを通った方がいいよ!」 「うぅぅー、気をつけますの……。でもアルバイトに遅れるからよく近道を通ってましたの……」 「……アルバイト?」 「はい、五時からですの……」 五時かー、おぶってるから時計を確認できないけど勘が正しければもうすぐ五時じゃないかな? 「……バイト先まで送ろうか?」 「えっ? あっ、あのっ、すいません! よろしくお願いしますのっ!」 OK、女の子の頼みは引き受けるのが、ほら、男としてなんかアレだ 話を聞けば、バイト先というのが東区のかなり奥の方にある喫茶店らしい 「商業高校の方ですの?」 「うん、早渡脩寿って言います、よろしくね」 「私はコトリーと申しますの! 高校一年生ですの!」 「マジかっ!? てっきり中学生だと思ったけど!! てか俺とタメだよ!? 敬語使わなくてもいいよ!?」 「まあそうでしたの!? でも私は普段からこういう話し方ですわ!」 女の子の制服は東区高校のでも東区中学のでも無いので別の区の中学かと思ったぜ 話を聞けば辺湖市新町の高校に通ってるらしい、背丈からして中学生だと判断したが甘かったな コトリーちゃんは先程よりも大分落ち着いたらしい、素の彼女はかなり朗らかな女の子のようだ 「ちょっと急ぐね」 「あう、お願いしますの!」 いくら変質者(赤マント)に襲われたとはいえバイトに遅刻はまずいよね コトリーちゃんを抱え直すと足を速め、東区の奥へと急いだ □■□ 前ページ / 表紙へ / 次ページ
https://w.atwiki.jp/legends/pages/4345.html
ギザ十と幽霊少女とご先祖様と組織の狗 04 毎度の事ながら、奴らが現れるのは突然だ。 例えば、部屋から出ようとドアを開いた瞬間に、何となく目線を向けた場所に、路の角を曲がった先に。 或いは、朝早くに起こされて眠気眼で大きな欠伸をした後に目を開けた次の瞬間。 奴ら『黒服』は、まるで人の意識の狭間から湧き出るかのように突然目の前に現れる。 漆黒のダークスーツに、漆黒のサングラス、ぴくりとも動かない口元は感情が欠落しているようで、冷たく虚ろな印象を他人に与えている。 いつものように現れたいつもの格好をした『黒服』、しかし俺はそこに少しの違和感を感じた。 「おはようございます、今日はお早いお目覚めですね、貴方はいつも休日は昼頃まで寝ていると我々は認識していましたが」 いつもの『黒服』と同じような無感情な話し方、しかし違う 今まで俺の前に現れていたやつと比べ明らかに声が高い、そして。 「お前、もしかして背が縮んだ?」 今までの『黒服』は俺より頭一つ分大きかったのだが、此奴は若干、俺よりも背が低い。 「人間は基本的に背が伸びる事はあっても、そうそう縮むことは無いと思いますが…」 「お前、人間じゃないじゃん、都市伝説じゃん」 「『もと』人間の、『半』都市伝説です」 「あんま変わらないだろ……、しかし、だとすると今までの奴とは別人か? 前の奴はどうした」 「ええ、その事で今日は寄らせていただいたのです、実は前担当の者が現在療養中でして、貴方の担当が私に移り変わったのでその報告を、と」 「療養中……?」 何か嫌な予感がする。 「はい、昨夜、謎の都市伝説が突如現れ、我々『組織』に宣戦布告をし、襲いかかってきたのです、その強さは凄まじく、一撃で我々『黒服』を消滅させ、手に持った刀の一振りで山すら粉砕させてしまいました」 「…………」 「どうやら、新種の伝説のようで未だ正体は不明ですが、妙な仮面に派手なマフラー、近未来的なデザインのスーツを着用していた事から、特撮やアニメ、ゲームの類から派生した者だと我々は考えています」 嫌な予感的中、そして『組織』の推測、的外れすぎワロタ どう考えても特撮でもアニメでもゲームでもなく、俺と糞餓鬼とロリ婆の共同黒歴史ノートから発生した、中二病設定の太郎さんです、本当にありがとうございました。 前ページ次ページ連載 - ギザ十と幽霊少女とご先祖様と組織の狗
https://w.atwiki.jp/legends/pages/4796.html
ゲーム王国編 第五話 【私亡確認】 初めて至村さんと出会ってから一ヶ月。 戦い方を教えてやると言われ師事していた時から約三週間。 至村さんは今日も公園に来なかった。 「何かあったのかな」 「だろうな」 「アメにも何があったかわからないの?」 「てめえと一緒に行動してる俺にわかるわけねえだろうが」 「匂いとか」 「匂いでわかんならてめえもわかるはずだ、契約者」 この三週間で『人面犬』との関係も若干変わり、『人面犬』にはアメという名前をつけた。 最初は永六輔のような声をしていたからロクスケと呼ぼうとしたんだがめっちゃ怒られた。 じゃあ浅田飴だと言うと呆れたような口調でアメでいいとのこと。だから『人面犬』のフルネームは浅田アメだ。 その代わりというか何というか、アメもこちらを契約者と呼ぶようになった。 信頼の表れと取っていいものかどうか。 「で、今日はどうする気だ?」 「別にいつも通りかな。後一時間くらい待って来ないようなら帰ろう」 「帰りに都市伝説と遭わなきゃいいけどな」 「怖いこと言うなよ……」 ちなみに、あれから都市伝説と三回ほど戦っている。 最初が『口裂け女』で、次が『トイレの花子さん』、昨日が『首無しライダー』だ。 都市伝説相手の戦い、というか喧嘩すらしたことがないもんだから怖くて怖くて仕方がない。 昨日なんておしっこチビるかと思った。……いや、思っただけであって実際に漏らしたりはしてないよホントに。いやいやマジでマジで。思わぬことが起きたらビックリするのは当たり前のことじゃん? いきなり首が無い人見たら驚くに決まってるじゃない。人じゃなかったんだけどさ。あくまで比喩的な表現でチビると言っただけであって、実際は足が震える程度だよ。そうそう、めっちゃ足が震えただけ。決して漏らしたりなんかしてないッスよ。確かに悲鳴を上げて逃げ出そうとした情けない自分を認めるけどさ、漏らすわけなんかないじゃない、嫌だなあ。それでもなんとかかんとか撃退できたんだからそのくらいどってことないよ、うんうん。ほとんどアメが戦ったことも認めるよ、遠くから石投げつける程度しかできなかったしね。それとおしっこ漏らすとは話が違うんじゃないかなあと思うわけよ。戦いの役に立ってないこととおしっこ漏らすことはイコールで結んじゃあダメなんだよ。役立たずが皆、おしっこ漏らすわけじゃないでしょ? そういうことを言いたいわけ。わかる? 「てめえは少し自衛のために戦いに慣れとくべきなんだよ」 「うーん、別に逃げれば死なないからいいんじゃない?」 ◆ □ ◆ □ ◆ 「死んだよ」 「そうか」 西区にある小さな喫茶店――江良井と錨野のふたりは奥の席に座っていた。 利発そうな少年が運んできたコーヒーを一口飲み、一息吐く。 「きみが原因なのは言うまでもないとは思うけど」 「ああ」 「あの日〈組織〉との戦いを終えた僕らがきみらの戦いを止めることが出来たのは本当に偶然だった」 「ああ」 「あの時点ですでに重傷。両手両足はもとより臓器に至っては全滅――この一ヶ月、僕らに出来たのは痛みと苦しみを取り除くだけだった」 「安らかに逝けたのか?」 「多分、きっと」 一月前、〈組織〉との戦闘が終わってすぐに、高城が自らの能力である『アメリカ村』が強制的に解除されたのを知った。 おっとり刀で駆けつけた彼らが見たものは血塗れになって横たわる新居と、顔色ひとつ変えずに立つ江良井。 高城が咄嗟に『アメリカ村』を発動させて〈ゲーム王国〉の面々を異界に匿った。 都市伝説とはいえ、イリアスも左半身をやられている。 〈組織〉の黒服をひとり屠った後の黒服の撤退までは錨野の描いた絵の通りに進んだものの、江良井の復活と参入は予想外であった。 病院へ運ばれた新居の状態は言うまでもない。 「病院に無茶を言ってまだ霊安室にいる。生前からの希望は遺体はその辺に捨てといてくれと言われていたが、法律上は流石にそうはいかない。本人の希望通り、火葬のみで結構。遺骨はぼくらが連れて行く。そこで江良井くん。きみが搬送し、きみが火葬場まで連れて行くんだ。それが新居忠を殺した男の義務だ。――嫌だとは絶対に言わせない」 いつも身に纏う飄々とした空気がない。 悲しみと怒りと別の感情と。 〈ゲーム王国〉の仲間、新居忠の死は錨野にとってどれだけのものなのか。その心中は本人にしかわからず、錨野は語らない。そして江良井も問おうとしない。 「俺は葬儀屋だ。依頼が入れば動く」 「そうか……いや、そうだったね。きみはいつも――いや、今言うことじゃないか」 自分のコーヒー代をテーブルに置き、錨野が立ち上がる。 「遺体の引き取りは今から……そうだね、準備もあるだろうから三時間後で結構。それじゃ、また後で」 それ以上何も言わず、振り返らず錨野は立ち去った。 葬儀屋という仕事に就いてから何度も見た光景。 ひとりになった者の背中――しかし、今の錨野は似て非なるものだ。 彼にはまだ仲間がいる。 対して江良井は―― ◆ □ ◆ □ ◆ 「お、元気してたか、バカ息子。一ヶ月も顔見せないから熊に食われたのかと思ったぞ」 「お蔭さんでな」 「お前のことだからどうせまーたロクでもないことに巻き込まれてるとは思ったけどよ、あんまり俺を巻き込むなよ」 「会社から電話がいったそうだな」 「当たり前だろ。従業員が連絡なしで三日も四日も無断欠席なら普通の会社なら心配するだろ」 「で、お前は何と答えたんだバカ親父」 「お尻ピリピリ病にかかりまして、しばらく入院してるんです。面会謝絶と言われてるのでお見舞いは結構です。いつもいつも愚息がご迷惑をおかけしてすみません、だけど?」 「殴られる覚悟は出来たか?」 「おいおい、父親を殴るなんてとんでもない息子だな。大体何日も無断欠勤するお前が悪い。悲しいなあ、父さんはそんな風に育てた覚えはないぞ」 「育てられた覚えもない」 「――で、若返ったのはそのゴタゴタが原因か?」 「そうだ」 「また面倒臭いことしやがって。お前はナイスミドル向けじゃないな。チョイ悪親父はブームを過ぎたかに見せかけて今まさに盛り上がろうとしてるんだぞ? この俺を中心に」 「……もう喋るな」 疲れたように頭を抱える江良井。 新居から逃げられた翌日に会社に出向いた江良井が上司から聞いたのは奇病に罹ったせいで出勤できなかったとの言葉であった。 犯人は言うまでもなく実の父。 四日ぶりに出社した日から今日まで同僚を含めて妙に温かい眼で見られたのはそのせいだった。 もっとも、都市伝説絡みで無断欠勤をせざるを得ない場合は過去にも何十回もあり、その都度父親の虚言で免れているのだが。明らかな作り話なのに未だに会社ではバレた様子がないのが不思議である。 「んで、今日は何の用だ?」 「ここ最近この町で何かおかしなことはなかったか?」 「別になーんにも。この町にしてはいつも通りさ。どこかしこで暴れる連中がいたり、表沙汰にできない人死にが出たりは日常茶飯事だ。そう言えばここ最近『山崎渉』の落書きは見ないな」 「そうじゃなく……上手く言えないが、この町がこの町じゃないようなことはないか?」 「言いたいことが良くわからねえな。今のお前が巻き込まれていることがそれか?」 「確信は持てないが」 「何かあれば〈組織〉の連中が動くだろうよ」 「動いていないから問題なんだ」 江良井と新居が戦った同日、錨野達は〈組織〉と戦っていた。 早々に撤退して以来、〈組織〉の動きはないと言う。 錨野達に対する警戒を緩めたか。 ――否。〈ゲーム王国〉建国を掲げる連中を見逃すほど〈組織〉は甘くない。 〈ゲーム王国〉と〈組織〉の間で何らかの密約が交わされたか。 ――否。穏健派ならいざ知らず、彼ら過激派は密約など交わしはしない。 共通の敵を江良井に定めたか。 ――否。〈ゲーム王国〉は江良井を敵とすればどうなるか知っているし、〈組織〉も第一級監視対象者である江良井に対して敵との認識はしない。 別の案件を抱えて手一杯の状況か。 ――否。以前姿を現したA-№102のナンバーから察するに彼が所属しているのは、たとえ〈組織〉全体が動いていても独自の行動が許されている異端のグループである。別の案件で手一杯ということはありえない。 〈ゲーム王国〉を泳がせている最中か。 そう考えるのが可能性として一番高い。 「どうでもいいけど俺が巻き込まれるのだけは勘弁してくれよ」 「文句はあいつらに言ってくれ」 「ところでよ、今度ニコ生主やろうと思うんだけどどう思う?」 「知るかアホ」 ◆ □ ◆ □ ◆ 新居の火葬が終わった後も、〈ゲーム王国〉は動きを見せなかった。 火葬に立ち会ったのは錨野ただひとり。 火葬場から立ち上る煙を見上げ、何を思ったのか。 誰も何も言わず、錨野が口を開いたのは葬儀の金額を払い終えてからだった。 「四十九日が終わり次第、ぼく達はきみの敵となる」 「そうか」 「最初からそうすべきだった。ぼく達の――いや、ぼくの覚悟が足りなかった」 錨野は語りだす。 自らの思いを、新居が骨となった今。 「この町における何者にも勝る最善は敵対しないことだと思っていた。この町は怖い。祟り神や笛吹き、寺生まれ、三国時代の猛将、魔法使い、影使いや変身ヒーロー――今では話もあまり聞かないが――最強の主婦もいる。名前を挙げればキリがないが、ぼく達は彼らとは関わらずに水面下で事を進める予定だった。だがそうはいかない。江良井卓――きみがいるからだ。ぼく達……というよりは、ぼくがこの町で何かをする上できみだけは避けて通れない存在なんだ」 「過大評価だ」 「敵にならないのであればそれでよかった。だが、ぼく達のような異分子はこの町で誰かの敵にならなければならない。それがきみなんだよ。そういう風にできているのさ。この町――あえて括弧つきで呼ばせてもらおう――『学校町』の意思によってだ」 「『学校町』の意思とやらに俺が選ばれたとでも言うのか?」 「いや、違う。彼らこそが『学校町』そのものなのさ。皆は違うと言うだろう。だが、この町の害意に対して彼らはどうして戦う? 何かを守るため? 誇りのため? そこに戦いがあるから? 与えられた任務だから? 快楽に浸りたいから? 気に入らないから? どれも違うね。彼らこそが『学校町』だからだよ。彼らが『学校町』だから彼らは戦うのさ」 「……」 「異変に対して素知らぬ態度で何も知らぬ一般人のようにただ過ごしていればいい。次の朝にはいつも通りお日様は東から昇る。きみも知っている通り、この町は国の内外問わず各機関から目をつけられている。放っておけば彼らが終わらせてくれるのにどうして自分達の手で決着をつけるんだい? 『学校町』に住む彼らには戦わないという選択肢があるのにそれを選ばないのはどうしてだい? 一般人は『学校町』に意思はないと言うだろう。本当のところはどうだかなんてぼくにもわからない。だがね、ぼくは思うのさ。『学校町』が彼らを生み出したんじゃないかってね」 「自分を守るためにか?」 「いいや。『学校町』が『学校町』であるためにさ」 町の意思。 何かの比喩でそう言う者はいるだろう。 だが錨野は本気で言っている。 錨野風に表現するならば『学校町』は己の意思を持っていると。 俄かには信じられない話だが、ありえないと江良井が一蹴しないのは江良井もまた感じているからなのか。 信じられぬことが罷り通るこの町なら意思があってもおかしくはないと。 「ハワード・フィリップス・ラブクラフトの名前を聞いたことは?」 「クトゥルー神話なら読んだ」 「彼の綴った物語の中に『ネクロノミコン』と呼ばれる書物がある」 「知っている」 「それはラブクラフトが作り出した空想上の書物さ。どんな巨大な図書館にも置いていない」 「……大英図書館にもな」 「その通り。彼は世間に想像上の本が現実に存在すると思わせることに成功した数少ない者のひとりなのさ。彼の素晴らしさはそれだけじゃない。『アーカム』に向かおうとする者だって現れた。存在しない本や町を求めてだ。彼が綴る物語により、たくさんのモノが現実味を帯びた。そう、まるで――」 「――都市伝説のように、か」 「さて、ここまで言えばぼくの目的もわかってきただろう? 『学校町』はどこにある? 千葉県? 埼玉県? それとも東京? もっと言おう。学校町は通称にしか過ぎない。いつから、誰が呼び始めたのかもわからない。じゃあ、この町の本当の名前は? 今、僕らが立っているこの場所の正確な住所は?」 今この場に存在するが世界中のどこにも存在しない町――学校町。 だからこそ錨野は括弧をつけたのか。敬意の証に。 「『学校町』は存在しない町だ。だが、ぼく達がいるこの場所は『学校町』に間違いがない」 「だからお前達は『学校町』を〈ゲーム王国〉に書き換えるのか」 「違うね」 静かに首を振る錨野。 己の高揚を隠さず。だが、強く。 「現存しない国を現存させる。存在しないものが存在した時、世界はどうなるのかが知りたい。それだけだ」 「ラブクラフトはシェアワールドという形を取ることにより己の創作物を都市伝説に近づけた。お前のしていることは――」 「――ラブクラフトの一歩先だ」 無から有を生み出す奇跡は都市伝説で行える。 それとは限りなく似ているが限りなく異なる奇跡は可能なのか。 ラブクラフトの一歩先と錨野は口にした。 彼の眼には学校町がどのように見えているのか。 「そのためにはね、江良井くん。きみはぼくの敵じゃなければダメなんだ。ぼくにとっての『学校町』はきみなんだよ。遅いと笑われてしまうかもしれないが、ようやく覚悟ができた」 正面から江良井の目を見据え、 「ぼくはきみの敵だ」 ――敵となる宣言。 対して、江良井の答えはひどくシンプルなものであった。 「そうか」 この瞬間、錨野は江良井の敵となり、江良井は錨野を敵と認めた。 老若男女区別なく、一切の容赦なく。 総ての敵を殺害する男――江良井卓が錨野蝶助を敵と看做した。 そして、物語は動き出す。 ◆ □ ◆ □ ◆ 「なあ。あんた、〈ゲーム王国〉の人間だろ?」 至村賢が声をかけられたのは陽が落ちるか落ちないかというくらいの夕方。 彼らの仲間が死に、ひとりで火葬を終えたリーダーの下へと向かう最中のことであった。 「〈組織〉所属の契約者って言えば用件はわかるな?」 やや恰幅の良い男――年齢は三十代であろうか――は口元にどこか野卑な笑みを浮かべて至村の前方に立っている。 「……用件はわかった」 「そりゃ良かった。場所はここでいいな?」 「かまわない」 「そう固くなるなよ。俺は金堂摩沙彦。能力は――自分で判断してくれ。〈ゲーム王国〉さんよ」 黒の手袋をはめる金堂。 その指先からは白い筋のようなものが見える。 「……〈ゲーム王国〉じゃない、俺は至村賢ってんだよ」 「ちなみにあんたの能力は?」 「企業秘密だ」 前方の金堂へと同じくらいの警戒心を後方にも向ける。 金堂の武器はほぼ間違いなく手袋に装備された斬鋼線だろう。となると警戒すべき都市伝説は『首なしライダー』か『ピアスの穴から出る白い糸』だ。 どちらかが囮で油断したところをもうひとつの本命での攻撃に繋がるはずだ。 微かに聞こえてくるバイクの駆動音は味方か、都市伝説か。 「俺はお前さんだけを倒せばいいのか?」 「あんたらの敵は沢山いるが、あんたの敵は俺ひとりだ。――俺の能力、見当はついたようだが甘く見てるとあっさり死ぬぜ」 「そいつは怖いな」 ゆっくりゆっくりとふたりの距離が縮まる。 金堂の射程距離がどれだけのものなのか、至村の射程距離がどれだけのものなのか、どちらも間合を計りつつ近づく。 至村の間合まであと一歩のところで金堂が動いた。 「いくぜ、至村賢!」 「来い、金ど――え、あ……」 「一丁あがり」 血も噴かず傷もつかずその場に崩れ落ちたのは至村であった。 見るまでもなく、その顔は死の色に染まっている。 あっけなく決着はついたのだ。 「ご苦労様でした」 「これで契約破棄っと」 「契約を続けなくていいのですか?」 「使いどころのない都市伝説だって説明したのはあんただぜ? こうして結果が出ただけ良しとしてもらいたいな」 「まあいいでしょう。十分とは言えませんが『志村けん死亡説』のデータが取れたのは僥倖でした」 どこからともなく現れた黒服から渡された契約書にサインし、彼が元々契約していた都市伝説との再契約を済ませる。 このためだけに本来契約していた都市伝説との契約を破棄し、『志村けん死亡説』と契約していたと知れば至村は何を思うだろうか。 〈ゲーム王国〉と戦闘後、〈組織〉がしたことは戦闘時にいた〈ゲーム王国〉の面子の徹底的な調査と監視であった。 電話の盗聴は元より、彼らが使用した通信の徹底的な監視。 彼らの能力全てを知ることは出来なかったが、彼らのメンバーは調べ終えた。 メンバーは全部で六人。うち、江良井が殺した新居を除くと五人。 その上で立てられた作戦――〈ゲーム王国〉メンバーの殺害。 金堂摩沙彦を受け持つ黒服、A-№107に割り当てられたのは至村賢の殺害であった。 A-№107が入手できたのは顔写真と名前、身長、体重――表層的な情報のみであり、何と契約しているのかは全く不明。 そこで利用したのが使いどころのない都市伝説『志村けん死亡説』である。 都市伝説の中で使い道のないものは多々存在するが、『死亡説』もそのひとつ。何しろ、使うにあたって相手が同姓同名でなければ意味がない。 だから己の担当する嘱託契約者、金堂に契約させて拡大解釈により同音異語でも発動可能にした。元から契約している都市伝説を契約破棄させたのは多重契約で金堂が飲まれるのを危惧したためだ。 「俺の仕事は終わりだな?」 「今回の報酬です」 「はいどうも。それじゃ、また何かあったら呼んでくれ」 「どちらへ?」 「風呂だよ風呂、泡風呂」 「そうですか」 「人ひとり殺した金が泡風呂一回分ってのは悲しいなあ。今度からもうちょっとイロつけてくれよ」 「考えておきましょう」 立ち去った金堂を見送ることもせず、横たわる至村の遺体を少し調べたA-№107もまた現れた時と同じように姿を消した。 ただ遺された至村を見つけたのは他の誰でもない江良井であった。 一般人がするのと同じように至村に近づき声をかける。 とはいえ、至村の顔色を見て事切れていると判断できたのは、数多くの敵を屠ってきたからであり、葬儀屋として数多くの遺体を見てきたからである。 このまま放置するか否か――この町では人死は珍しくない。 ただの殺人であれば警察の管轄だが、少しでも都市伝説が絡んでいれば事情は変わる。 江良井は至村の死因が何に拠るものか見当がつかないでいた。 「人、殺し……?」 その迷いがあったから――少年と『人面犬』に出遭った。 続 前ページ次ページ連載 - 葬儀屋と地獄の帝王
https://w.atwiki.jp/legends/pages/2901.html
【ある秋の話】 ゾクッ・・・ (裂邪 おいお前ら! 今のわかったか!? (シェイド 何ナノダ、コノ禍々シイ「エナジー」ハ・・・ (バク ・・・「夢の国」だバク。 (ウィル いよいよ動き出したみたいでい! (ミナワ 大変ですよご主人様! 「夢の国」といえば、ものすごく強い都市伝説の一つです! (ウィル 強ぇなんてモンじゃありやせん! ありゃ「地獄」そのものだぜい! (バク 『パレード』に巻き込まれたら最後、もうこの世には戻ってこられないバク! (シェイド ドウスル裂邪? 戦イニ出向クカ? (裂邪 慌てるな! (裂邪 他の契約者が既に動いている。 厄介事には巻き込まれたくない。 (四天王 他力本願!? こんなことが数回あったそうな。 【マッドガッサーの話】 (裂邪 なんか、男が女になったり、女が男になったりする事件が相次いでるってきいたんだが。 (ウィル そいつぁ「マッドガッサー」の仕業でい。 (ミナワ あ、私もそれ聞いた事あります。 会ったことはありませんけど。 (シェイド 何者カガソウイウ効果ノアル「ガス」ヲ撒キ散ラスラシイナ。 (裂邪 この町は本当に都市伝説だらけなんだな; (バク あと、女になるガスを女があびたら、ヤらしい気持ちになるそうだバク。 (裂邪 へぇ、ヤらしいねぇ・・・ (裂邪 ミナワ、ちょっと出かけよう。 (ミナワ へ? どこへですか? (シェイド 待テ貴様、犯罪ダゾ? 【団体さんの話】 (ミナワ えっ!? ご主人様、今何と仰いました!? (シェイド 「組織」モ「首塚」モ知ラントハメデタイ奴ダナ・・・ (裂邪 え? なになに? 俺そんな悪いことしたの? (ウィル 「組織」ってのは、都市伝説専門の警察みたいな感じだと思って下せえ。 (バク 「首塚」は平将門が率いている「組織」の敵対勢力のようなものだと聞いたバク。 (ミナワ この町では他にも「怪奇同盟」とか、かなり多くの団体があるんです。 (裂邪 へ~、結構あるんだな。 (裂邪 ・・・もしかして、俺の世界征服の夢って厳しいのか? (四天王 かなり。 【油断ならない話】 (裂邪 「一に褒められ二にふられ、三に惚れられ四に風邪」・・・って知ってるか? (ミナワ えっと・・・確か「くしゃみ」、でしたよね? (裂邪 あれって都市伝説か? (シェイド 原義上ハ、ソウナルダロウナ。 (裂邪 ふ~ん・・・・・・ (四天王 ドキッ! (ミナワ ご主人様、これ以上はホントにお体がもちませんよ!? (ウィル 正気になってくだせぇ旦那ぁ! (バク 少しは自分の事も考えるバク! (シェイド 今度コソ貴様ヲコノ手デ消スゾ!? (裂邪 な、何だよお前ら!? 【お化け屋敷 1】 (担任 ―――というわけで、このクラスの文化祭の出し物は「お化け屋敷」に決定しました。 (一同 イェ~イ! (担任 内容はどうするんだ? (男子A 人魂! (女子A 死神! (男子B 化け物! (担任 いやもっと現実的なものにしろよ; (裂邪 先生、今出た奴全部用意できますが? (男子C さっすが裂邪! (女子B 黄昏クンかっこいー! (担任 じゃあ頼むぞ黄昏。 (裂邪 ―――ということで、お前達に協力してもらうことになった。 (ウィル お安いご用でい! (獏 待てこらクソ主ィ! (シェイド オ前ニトッテ我々ハ何ナノダ!? (ミナワ 皆さん大変そうですね・・・; 【お化け屋敷 2】 ボッ・・・ (男子A うわ! 人魂!? コロシテヤル・・・ (女子A キャー! 死神!? グアォ~! (男子B うお! 象の化け物!? (男子A お前スゲェな! でもどっからあんなの持ってきたんだ? (裂邪 トップシークレットだ。 (獏 (あんのヤロォ・・・) (シェイド (イツカアイツヲコロシテヤル・・・) 残念な事に校長にボツられたそうな ...Fin 前ページ次ページ連載 - 夢幻泡影
https://w.atwiki.jp/legends/pages/4351.html
ある少女は、学校町あるマンションの洗面台で、髪を洗っていた。 その少女の髪は長い茶髪で、彼女自身それは自慢の髪だ。 顔立ちは日本人ともいえるが、どちらかといえば西洋人の顔だろうか? だがそれは些細なことで、その『美少女』には関係が無かった。 そしてその少女は、髪を洗いながら、目をつぶりながらボソッと呟いた。 「だるまさんがこーろんだ」 所で、『だるまさんがころんだ』という話は知っているだろうか? 髪を洗いながら「だるまさんがころんだ」と呟いて鏡を見ると、顔の青白い不健康そうな顔の女が肩越しにこっちを見ている……という都市伝説だ。 そして少女は目を開けて鏡を見る。 そこには、肩越しにこちらを見ている女の姿があった。 少女も見かえし、鏡に右手を伸ばす。 ずるとその右手は鏡の中に入り込み、女の首を掴んだのだ。 「――――ッ!?」 鏡の中の女は、あまりに予想外な出来事に驚き、先ほどとは全く違う、ギョッとした目で少女を見ている。 「おいおい、都市伝説が都市伝説を見抜けなくてどうする? 暇つぶしにやったら本当に出るとは思わなかったな。これぞ東洋の神秘ってヤツか?」 少女は鏡の女の中の顔を、じろじろと見ながら感想をずばずばと言っていく。 「まあ俺みたいになれば、都市伝説の力の気配も消せるしな。お前みたいなマイナー都市伝説が騙されるのも無理無いが」 鏡の中の女は『失礼な! 最近は結構人気なんだぞ!?』とでもいうかの様に手をジタバタと動かしている。それでも少女の手は離れず、それどころか強く握っていっている。 「苦しいか? 死にそうか?」 鏡の中の女は目で頷き、少女はあっさりと手を話す。 『な、何よアンタ!? アンタみたいな都市伝説聞いたことが無いぞ!?』 慌てながら鏡の奥に避難する女を見ながら、少女は律義に答えてやる。 「俺を知らないなんて悲しいな。まあ拠点はアメリカだったしな。お前が知らないのも無理は無い」 少女は先程まで首を絞めていた手をひらひらとふって、洗面台に座った。 「まああれだ、すまなかったな。俺の暇つぶしで死にかけたからな。お詫びに話相手にでもなってやろうか?」 『誰がなるかバカっ!!』 鏡の中の女は、あっかんべーをしながらどんどんと鏡の奥に逃げて行ってしまう。 「そう恥ずかしがるなって」 少女はニヤリと笑いながら、鏡の中に一歩踏み込んだ。 「今帰った」 しばらくすると、急に煙のような霧が部屋の中に入り込み、人の形を作り出す。 ファントムだ。 「ん、お帰り」 少女――――DKGは、鏡の中から顔をだしながらそう言ってやった。 「おお!?」 あまりに予想外な出来事に、ファントムは腰を抜かし、DKGは指を刺しながら笑った。 突如抱きつかれた後、二人は無事に契約した。……何故かファントムの男が婚姻届にサインを! と言ってきた時はパニックになりかけたが、そんな紙は思い切り引き裂いてやった(婚姻届を破るのは犯罪です。良い子も悪い子もまねしないでね)。 二人の関係は恋人などではなく、ただ契約した仲というだけだ。お付き合いの返事は、そういうのはお互いをもっと知ってからにしようという、あまりアメリカ育ちとは思えない反応だった(別に恥ずかしがったわけではなく、流石に一日も経っていないのに早すぎるというだけだ)。 そのはずなのだが、ファントムの男はあれからDKGの為に様々な環境を整えた。 まず、ファントムの男はDKGについて『何も殺したくない=普通の生活をしたい』と勝手に考えたらしく(当たっているのだが)、日本のハイスクールを紹介してきた。彼自身もそこに通っているらしく、一緒に通いたいです! とファントムの男のしつこい要望からだった。 その後は協力関係にある都市伝説達や公共機関さえ操る『組織』にかけ合い、彼女の身分を作らせるという、壮大な事をやってのけた。 それを聞いた時、ん? お前ってフリーって言ってなかったか? と聞いてみると、 「組織のトップとか総理大臣とか、結構顔広いんです」 思わず、お前一体何者だ!? と聞いたら、 「そういえば名前言ってませんでしたね。本条(ほんじょう)雄介(ゆうすけ)です」 と言ってごまかした。 そして時は現在に至る。 「何で鏡の中から何ですか!? あれですか、そんなにドラゴンナイトが気に入ってるんですか!! それとも龍騎の方ですか!?」 「どっちもすきだ安心しろ。それに俺が鏡に入っていたのはお前みたいな痛い理由じゃない」 「それじゃあ何ですか」 「友達作りだよ」 そう言って鏡の中から跳んで出てきた。その手には、胸倉が掴まれた女性の姿もある。 「誰ですか!? どこのどちら様ですか!?」 「いや、みりゃ都市伝説って分かるだろ」 「それはわかりますよ!? 分かりますけど鏡から出てくる系の都市伝説って苦手なんですよ!!」 「そういう問題か?」 「ミラーモンスターに比べれば幾分かマシですけどね!」 そういうとファントムは仮面を外し、黒くワックスで形を整えた髪をした、少し顔のいい人間の姿――――本条雄介の姿に戻った。 「まああれだ。こいつは暇つぶししてたら出てきたから、どうせならこっちで初の友達でもゲットしようかと思ったんだ」 「首を掴むって友達を作る対応じゃないでしょ!?」 ようやくその女性が話しだし、DKGは手をひらひらと振る。 「仕方ないだろ。お前を殺そうという意思が無いと、そっちに入れないからな」 「殺す気満々でしょうが!!」 「安心しろ。半分嘘だ」 「半分は本気じゃん!!」 DKGと女性のガールズトークに、雄介はやれやれと呆れる。 「それはあれでしょう。彼女の能力は『殺すためならどんな事もやってのける』事なんですから、それを応用しないと鏡の中に入れなかったんじゃないですか?」 「そういう事だ。まあ頭の中で『殺す』と呟けばそれで充分なんだけどな」 はっはっは、とDKGと雄介は笑い合い、鏡の女はそれを睨みながら、 「リア充爆発しろぉ!!」 鏡の中に再び逃げた。 「ま、出会いはあれだからな。仕方ないか」 「というより、あの人ネラーですか」 「ん? ちなみにあれはどういう意味だ?」 「『現実(リアル)を充実している奴は、さっさと爆発して消えてしまえ』という嫉妬を意味する言葉です。ちなみに『末長く爆発しろ!』っていうのは、主にカップルに対して祝う、素直になれない人の言葉ですね」 「日本語ってのはよくわからないな」 「というより、最近の若者の造語ですから、教科書には出ませんよ」 「そうか、覚えておく」 DKGはソファに転がり、テーブルの上に置いてあった本を読み始める。 「……『PGM ヘカートⅡ』か、いいな」 「あれ? 契約してからは亜音速どころか、素手で光線銃出せるようになってませんでしたっけ?」 「それとこれは別だ」 人を殺す事を拒絶しているDKGだが、武器は別だ。 武器とは職人の魂であり、大切に扱っていれば絶対に裏切らない物……らしい。 実際彼女の使っている武器は、自分で作っているもので、職人とかあまり関係が無い気がすると、雄介は思う。 「『何も殺さない』とか言っておきながら、そういうのはお好きなんですね」 「何事もビジュアルは大事だろ。木の枝よりナイフの方がかっこいいのと同じだ」 こんな美少女が、銃器を構えている方がイケない気がするのだが、そこはあえて黙っておく。 「おっとそういえば、あなたの生徒手帳、貰ってきましたよ」 雄介はキッチンに立ち、高校の生徒手帳を持っている手で振っている。 「投げろ」 だが取りに行くのが面倒くさいのか、本を読みながらそんな事を言ってきた。 もしかしたら雄介の配慮もあるのかもしれないが、そういうのは良くないと思っている。 「私は、投げていいものはボールと髪飛行機だけと思っています」 「投げナイフとダーツは?」 「危ないから、駄目じゃないかなぁ?」 目をそらす雄介。 間違いない。それだけは、考えついていなかったのだろう。 「まあそんな事言ってる間に取りに来たわけだがっと」 生徒手帳を雄介から奪い取り、パラパラと中身を見る。 その中で、気になるものがあった。 「……おい、今すぐこれは冗談と言え」 「へ?」 DKGは震えていた。 「何で俺の名前が『本条 薫(かおる)』になってるか言ってみろ!」 「うひゃあ!?」 怒りで。 「薫はあれだ、俺が考えたからいいだろう。だけど、何だよ本条って! 名字の方は大文字と言ったはずだろ!」 「だってー、それネーミングセンス無さ過ぎますよ。それにDKGのDとKに沿ってるみたいで嫌なんですよ……」 「俺がそうなるようにしたんだ! 余計な気遣いは迷惑だ! ジャパニーズ『有難迷惑』だ!」 なんかニュアンス違うような? と雄介は思ったが、それより大事な事を言う。 「だってDはドライ、Kはキラーですよ? 薫という名前は僕の好みなので許しましたけど、Dのつく名字は嫌だったもので」 本当は、薫の名前も嫌なんだったとDKGは思う。 何故なら、薫に触れた途端、雄介の表情が曇ったからだ。 それも無理は無いと思う。何故ならキラーが意味するのは、『殺人者』なのだから。 だが、自分の意見も入れてあげたかった。だから、そんな冗談で変えられるような部分を削ったのだろう。 ほんの数日で人の事をここまで分かるという事は、自分も人らしく慣れているのだろうか? 人を殺すことで、満たされたいと願いながら殺すあの頃とは、変わっているのだろうか? 「……ちなみに、何で本条?」 「ほら、あれですよ。結婚しても名字で呼ばない対策――――」 次の瞬間、雄介は暗い空を舞った。 「……信じた俺がバカだった」 瞬間変身で何とか助かった雄介を見ながら、呟くのであった。 ……続いてもいいカナ?
https://w.atwiki.jp/legends/pages/2465.html
喫茶ルーモア・隻腕のカシマ 憂国者 輪とボクサーが仲良く遊んでいるのを見つめる視線が二つ 白髪混じりの口髭を綺麗に整えた中年の男 そして、眼鏡をかけた神経質そうな男の二人だ どこからともなく現れ、輪とボクサーに向かい歩を進める 明確な目的を持った、迷いのない足取り 「輪廻転生の都市伝説だな?」 口髭の中年が問い掛ける 白い軍服を着た二人は、紛れも無く旧日本軍・海軍所属の将校 輪とボクサーは、慎重に観察しながらも相手との距離を測る 眼鏡の男が言葉を継ぐ 「君に恨みはないが、訳あって同行してもらう」 「同行?……そんなこと、誰が許すってんだよぉ」 「そちらの君には関係の無いこと……そして、拒否権は無い」 眼鏡の男が、チラとボクサーを見やり言う……が 「ボクは、貴方達について行く理由も無ければ、この町から離れる気もない!」 輪もまた、自分の意志を伝える 「だ、そうだ……どうする?このまま帰るかヤりあうか……」 「ならば、仕方あるまい……力ずくで奪うまでよ」 張り詰めた空気が、場を支配する * 「待っていただこうか」 緊迫を破る声……だが、口調は穏やかで自然と皆の視線が男へと移る カシマだ 「貴様……カシマ……か?」 「おぅ、カシマさんいいところに来たなぁ」 「カシマさん、この人たちがボクを連れ去ろうとしているんだけど」 ふぅ、と息を吐きながら輪も声を掛ける 「遅れてすまない……夢見が悪くてな……さて、話は大体聞かせてもらった、手を引いてもらえないだろうか」 カシマがやんわりと提案し、口髭の中年が答える 「カシマよ……輪廻転生を護る意味など無いだろうに」 「確かに……」 「流石はカシマだ、話が早くて助かる」 「ワタシには輪廻転生を護る意味も必要も無い……」 「では、引き渡して頂こう」 「断る」 「……済まない、もう一度言ってくれないか……よく聞き取れなかった」 「断ると言った」 「何故だ?」 「ワタシが護っているのは、都市伝説ではない……この少年個人──輪個人だ」 「ふん、詭弁だな」 「ワタシが語るは真実のみ」 静寂が辺りを包む 「ふはははは! 相も変わらず生真面目な男だな!」 「ワタシはこういう冗談は好きではありません、艦長殿……ご無沙汰しております」 カシマは頭を下げながらも警戒を解かない だが、艦長と呼ばれた口髭の中年からは既に先程までの威圧感は無く 柔和な表情で言葉を吐きだす 「久しいな、カシマよ」 「あの時以来となりますから……」 「そうだな、時の流れは早いものだ……その後、具合はどうだ?」 「一時は消えかけましたが、今では契約者を得る事ができました」 「そうか……契約したか」 「今のワタシにもまだ護れるものがあると、恥を忍んで生き永らえております」 「それで、その少年だが……お前が護る程の価値があるわけだな?」 「はい」 「そうか……では、諦めよう」 無言で付き従っていた眼鏡の男が一瞬だが顔をしかめる 「宜しいのですか、艦長」 「構わん」 「では、我等の行く末はどうされるおつもりですか?」 「他を当たるか……いや、いっそのこと幕を引くのも一つの選択肢と言えよう」 「諦めると?」 「既に、我等が何かを変えられる様な時代ではないのかもしれぬよ」 「……潮時、ですか」 「そうよな、潮時だ」 「分かりました……その旨、兵員にも伝えて宜しいですか?」 「頼む」 眼鏡の男はきびすを返そうとするが、カシマと視線が合い足を止めると 眼鏡の位置を直し、言う 「カシマ……あの時の事、よもや忘れてはおるまいな?」 語気の鋭い詰問に、カシマは困った様な顔で言葉を返す 「副官殿、以前にもお答えしましたが自分は」 「貴様の答えなど訊いてはおらん、憶えていればそれで良い!」 遮る様に言い放つと、今度こそ踵を返して去っていった 「すまんな、アレも悪い男ではないのだがな」 「……」 「さて、カシマよ……大方の想像は付いているだろうが……」 「艦長殿らも都市伝説としての存在が消えようとしている……と?」 艦長は、カシマから少年へと視線を移し 「カシマが消えかけたという話は、今聞いた通りだが……君も知っているな?」 自分へと向けて発せられた言葉に、輪は頷く 「うむ、我等もカシマ同様"今の日本は平和か?"という都市伝説だ…… そして、我等もまたカシマの言った通り、カシマ同様に消えようとしている……時代の流れよな」 輪廻転生の力があれば、輪廻転生の力を自分達に取り込むことが出来れば 自分達が消えようとも、輪廻し転生出来るのではないかと考えた 出来るかどうかは分からない……だが、彼らはそう考えたのだという * 「もし、輪廻転生が人々を恐怖におとしいれるだけの者であったなら 我等は躊躇い無く、この案を実行するつもりでいた」 だが、そこにカシマが立ちはだかった 「我等と端を同じくするカシマが護るというのだ…… ならば、我等もまた彼を護る側におらねばなるまい」 そう言って、深々と頭を下げ 「我等の都合で迷惑を掛けた事、許されざる事かとは思うが 私も多くの部下を預かる身、簡単に彼らの消失を受け入れるわけにもいかず……どうかご容赦頂きたい」 と、輪へと謝罪した 「艦長さん、頭を上げてください……ボクのことを諦めてくれるなら良いんです」 「ご容赦頂けるか……」 「……でも」 続く言葉を待つ 「ボクのことは諦めてもらわないと困るけど、存在を諦めるのはまだ早いと思うんだ」 「……では……まだ、我等にも出来ることがあると?」 「例えば活動の拠点を広島や長崎とかにするのは?」 「ふむ、確かに……だが、それならば既に行っている」 「じゃあ地道にインターネットで工作するのは?」 「インターネットか……確か前にも……そう、先程の眼鏡の副官だが…… あやつが諜報活動に利用したことがあったのだが……」 どうも、説教臭いせいか食いつきが悪かったらしい 他にも、暗号板かと思い入り込み…… やたらと食いつきが良いと思ったら、何やら精神的外傷を受けたこともあったらしい その後しばらくの間 "馬鹿な、この私が艦長とだと?!" "裏2ちゃんねるだと?……しまった!罠か!!" "現代の婦女子は腐っている……これ以上読んでは、精神が……" 等々、医務室のベッドで毎晩うなされていたらしい 「嗚呼……書き込む板の選択を誤ってしまったんだね……」 「そうか……選択を誤っていたのだな」 「たぶんその話、暗号板じゃなくて801板だと思うんだよね」 「801板……確かに暗号の様だな……危険なのかね?」 「不用意に入り込むと精神が汚染されると言われていて、もう都市伝説レベルだよ」 「ふむ、その様な危険な所があるとは……気を付けるとしよう」 「うん、一度失敗してもまだ二度目も三度目もあるよ」 「不思議と説得力を感じるものだな……実感が伴っているという事か」 「まぁ……何度も繰り返して来ているからね……」 「……そうか、そうであったな……すまぬ」 「いいんだよ、今は凄く幸せだからね」 「よし、また皆で模索して行くとしようぞ」 「頑張ってね」 「ああ、ありがとう……さて、出港の準備をするとしよう」 「すぐに発つの?」 「着いたばかりだ、数日は休息と準備に充てる事となろう」 「そっか、じゃあまた会えるかもね」 「その時はまたご教授願おう」 「ははは、またね艦長さん」 「また会おう、少年……では、カシマ、そちらの青年も元気でな」 敬礼するカシマに背を向け歩き出す 艦長は去り行く途中、 思い出した様に踵を返し、声を張り上げる 「おっと、言い忘れていたが!輪廻転生の少年を捜索している内に気付いたことがある! このところ、何物かにより都市伝説が立て続けに負傷させられている! 同じ通り魔により負傷したと思われる都市伝説は全て少年型の都市伝説だった! 少年も気を付けるのだぞ!良いな!」 「わかったよ~!忠告ありがとうね~!」 大きく手を振り応える 「少年の都市伝説を狙った犯行か……」 「気を付けるって言っても、携刀しておくことくらいかなぁ……」 カシマと輪は視線を交わし、思案する 「謎の通り魔ねぇ……意外とどっかですれ違ったことのあるヤツだったりするんだよなぁ」 ぎょっとする二人、だが…… 「でもよぉ……考えたってしょうがないよなぁ……頭使うと疲れるから嫌だぜぇ」 ボクサーが発したのんきな一言に掻き消される 「む、もうこんな時間か……朝稽古はこれまでにして引き上げるとしよう」 「そうだね……じゃあ、今夜またルーモアで!」 「うむ」 「よっしゃ!今夜は宴会だもんなぁ!」 「逢魔ヶ刻からだからね、ボクサーさん遅れないでよ」 「おぅ!今日の為にかなり絞って来たからなぁ!」 「じゃあね!」 今夜はマスターの帰還を祝い、関係者を招いての宴会が催される 規模は小さいが、マスターとサチと輪が用意した軽食と 皆が持ち寄ったお酒で、楽しい時を過ごす事が出来るだろう それを思うと、輪は自然と高揚するのを感じていた 三人はそれぞれの道へと散っていく 近づきつつある雨雲に、ある種の予感を抱きつつも 誰もが春の柔らかい日差しに心を遊ばせていた * 前ページ次ページ連載 - 喫茶ルーモア・隻腕のカシマ