約 50,319 件
https://w.atwiki.jp/chaos_headss/pages/31.html
「ど、どうぞ……あがって」 「お邪魔しま~す。 って、あ~ただいまかな? たはは」 タクによって開かれた部屋の入り口。 鉄製の扉がギギギって開いていくと、あたしはそこに家主よりも一足先に飛び込んでいく。 入って最初に感じたのは、果物みたいないい香り。 これがもし他の女の子の匂いとかだったら即浮気調査開始~なんだけど、それが部屋に備え付けられた消臭剤のものだとわかるとあたしはすぐに安心していくの。 最近、タクもずいぶんかっこよくなっちゃったからな~。 用心しとかないと他の子に取られちゃうもんね……。 「あ、もしかして掃除した? なんだか綺麗になってる」 「う、うん、簡単にだけど。 好きなとこ座ってて、いま飲み物出すから……」 「うん、ありがと~。 じゃあ、ここ座るね?」 タクが冷蔵庫を開けていくのを横目で見ながら、あたしはもはや自分にとって定位置になってる場所。 チリ一つ無いソファーの上に腰を下ろしていくの。 やっぱり~恋人が座るところだからかな? それはとってもフカフカできもちよくて、休みの日にでも干しておいてくれたんだろうな~というタクの気遣いが感じられた。 あたしってもしかして、すっごく愛されてる? な~んて、これはちょっと調子に乗りすぎか、たはは。 「えっと……紅茶でいい?」 「あ、うん。 なんでもいいよまかせる~」 あたしが背もたれに寄りかかりながらくつろいでいると、タクが冷蔵庫の中から紅茶のペットボトルを取り出していく。 そしてそれをこちらへ手渡す――なんてことはせずに、近くの棚から取り出したピカピカのコップに注いでくれるの。 少し前だったらポンとそのまま渡されてただろうけど、最近女の子への気遣いができるようになったタクにもうあたしは嬉しくなっちゃうんだ。 あ、これはやっぱり梨深ちゃん愛されてるんじゃないかな~? ビシビシ。(照れてる) 「はい梨深。 制服にこぼさないように気をつけてね……」 「うん、ありがと。 いや~タクもずいぶん女の子への気遣いできるようになったよね~、えらいえらい」 「そ、そんなことないよ。 これも全部梨深のおかげだし……」 「たはは、謙遜しない謙遜しない。 でもほ~んと、部屋も綺麗になってるし見違えたよ? 最初にあたしが入ったときとはおおちがいだよ~」 手渡された紅茶に口を付けながら、あたしは最近自分の家のように身近になっているタクの部屋を見回していく。 ちょっと前まではゴミの山だった床。 コンビニの袋やエッチなマンガ本が山ほど積まれていたそこは、今はチリ一つ落ちてないピカピカの床が顔を覗かせてたの。 視線を上に向けていくと、そこにはパソコンの脇でニコっとした笑顔を向けている星来ちゃん。 ……三人に増えてます。 これだけはやっぱりタクのお気に入りみたいだね、たはは。 でもでも、そこにはもう飲みかけのペットボトルなんか一切置いてない。 キーボードの周りも念入りに拭き掃除したのか新品同様に光ってて、愛する星来ちゃんの笑顔をいつもより輝いてるように見えたんだ。 今度は上――ロフトになっているベッドを見ていく。 昨夜あたしがいた場所でもある、かな……。 エッチなゲームの箱だらけだったベッド。 そこも今はすっかり片付いていて、ちゃんと人二人が寝れるくらい広く眠れるようになっているの。 どうして二人寝れるって知ってるかっていうと――ま、まあそれはいいじゃん。 ビシビシ!(照) 「あたしも少しは手伝ったけど、ほんと偉いね。 タクやればできるんじゃん、見直しちゃった~♪」 「ま、まあ僕も梨深のおかげでまともな生活を送るようになったから。 七海のやつも片付けろ片付けろうるさかったし、し、仕方なくだね……」 「あ、もう……ビシィッ!ダメだよそんなこと言っちゃ。 ナナちゃんはタクのこと心配して言ってくれてるんだから、ヒドイこと言っちゃダ~メ!」 「あう……ご、ごめん」 だいぶ女の子にも優しくできるようになったけど、ナナちゃんへの態度はあいかわらずみたい。 まあ家族ならではの気安さもあるんだろうけどね。 念のためお仕置きに頭をビシィッとチョップしてあげると、タクはちょっと気恥ずかしそうにしながら「まあ、か、感謝はしてるよ…」な~んてツンデレの常套句を口にしていくの。 「あいつも最近みょ~に僕にかまってオーラ出して困ってるんだ。 うざいだけだっていうのに……ま、まあかわいそうだから相手してやるんだけどね。 ふひひ」 ……わかってる。 あたしはちゃんとわかってるよ、タク。 あなたはほんとは誰よりも周りの人のことを考えられる人なのに、ただそれを素直に表現できないだけなんだよね? ナナちゃんもそんなタクの良いところ、知ってるんだよ。 妹だもん、あたしでも嫉妬しちゃうときとかあるんだよ? 弱いのに優しくて、人嫌いなのにおせっかいで――そんなあなたに梨深ちゃんは毎日ドキドキしちゃってま~す。 ビシィッ! って、ちがうよね。 そいう話じゃなくて、タクの部屋もずいぶん住みやすくなったね~って話をしてたんだった。 たはは(汗)。 当時はあたしも別に気にしてなかったけど、やっぱり女の子を呼ぶにはふさわしくないきちゃな~い部屋だったと思う。 それが今はこうして綺麗に掃除されてるのってとってもいいことだと思うし、それはそのまま部屋主であるタクの心境の変化ともいえるよね。 最近はほんとに女の子への細かい気配りもできるようになってきたし、元々がイケメンオタクさんだもん。 これはあたしじゃなくても惚れちゃうよね~って感じかな。 って、オタクなのはかわらないんかい! ビシビシ!(つっこんでるつもり) 「そ、それでさ梨深。 あの~、えっと……」 「ん~、なぁにタク? なにかおもしろい情報でもあった?」 「うん、ブラチューついに三機種同時移植……って、そうじゃなくて、あ、あのね」 ちょっとタクのこと考えすぎちゃったかな。 ほっぺが熱くなってきちゃった……。 顔を隠すために近くにあった雑誌なんか読んでると、タクはソワソワとして落ち着かない感じに話しかけてくるの。 あ、ちなみに読んでいる雑誌の表紙は星来ちゃんね。 タクの影響かもうあたしもすっかりこっちの世界に染められちゃってて、今じゃ一緒にアニメエイトに行けちゃうくらいのオタクさんになっちゃったんだ。 まあほら、やっぱり夫婦って好みが似ちゃうっていうし……あははは、ビシビシ!(自分で言って照れてる) 「なぁに~タク。 なんかお願い、とか?」 「よ、よくわかるね。 学校でもずっと我慢してたんだけど、言いずらくて……」 「え、え、当たっちゃった? なんだ~早く言ってよ。 あたしはタクの彼女さんなんだから、なんでもしてあげるよ?」 自分で言ってて嬉しくなっちゃう。 タクの彼女……かぁ♪ それにしてもなんだろう、タクがやけに挙動不審さん。 まあいつもそうだけど(笑)。 さっきからチラチラチラチラ、ソファーに座ってるあたしのふともものとこ覗き見てる感じなの。 何かシテ欲しいことでもあるのかな……? な~んて、ほんとは全部わかってるんだけどね~。 たはは。 「梨深……あ、あのさ(ソワソワ)」 「どうしたの~タク。 あたしのふともも~、そんなに気になる?」 「……わかって言ってるよね? イ、イジワルしないでよ。 いつものアレやっていい……?」 「ふふ、いいよ♪ ほら~こっちおいで?」 タクの子犬のようにすがってくる目を見て、仕方なくあたしから折れてあげる。 このウルウルした瞳向けられちゃうと弱いんだよね~あたし。 しょうがないな~もう……。 読んでいた雑誌をパサリと閉じていくと、あたしは自分のふともものとこをポンポンと叩いてあげる。 途端に目をキラキラさせて立ち上がる拓巳くん。 あ、これは飛び掛ってくるかな……。 「り、梨深……りみぃぃぃぃぃぃ♪」 「きゃっ!? ちょ、ちょっとタク……」 予想どおり、タクが襲い掛かってくる――もとい、あたしのふとももに顔を覆いかぶせてきた。 そう、彼はいわゆる『ひざまくら』をせがんでいたの。 もっともタクの場合は最初に顔を乗せてくるから、ちょっと健全じゃないんだけどね? でもあまりの勢いだったからおどろいちゃった……。 ずっと我慢してたのはわかるけど、ちょっとは加減して欲しいなぁもう。 あたしは膝の上に乗った顔を優しく撫でてあげると、どこかケガとかしていないか念のため確かめていく。 「も、もう危ないでしょタク~、あたしのココはソファーじゃないんだよ? どこか打ったりしなかった?」 「う、うん平気。 僕にとってここはどんな枕よりもフカフカでスベスベで……んんん♪ さ、最高の抱き枕なんだからへっちゃらだよ~。 ふひひ」 「褒めてもなんにもでないよ? ほんとにタクは甘えんぼさんなんだから……ビシィッ!」 「あうーあうー、梨深かわゆす。 梨深たんビシィかわいいよぉ……♪」 あたしの膝の上で赤ちゃんみたいに甘えていくタク。 あんまりにもだらしないんでまた頭をビシィっと叩いてあげる(もちろん優しくね)と、タクはもっとも~っと嬉しそうに顔をトロけさせていくの。 もうそれが星来ちゃんに悶えてる時よりも萌え萌え~って感じの表情で、あたしは心の中で彼女に勝利した喜びにガッツポーズを決めちゃった。 星来敗れたり~って! 二次元好きの彼氏相手にこれ以上嬉しい瞬間はないと思う。 だって妄想の中の恋人に勝てたんだもん、これは星来ちゃんさよならフラグかな~。 「あ~スベスベ。 この絶対領域がたまりませんほんとうにありがとうございました、ふひひ……」 「ほんとにタクはあたしのひざまくら、好きだよね~。 毎日毎日せがんできて、今日も学校でず~っとあたしのココ、見てたよね?」 「う、うん見てた。 梨深の絶対領域まくらは最強だからね……これに頭を乗せられるだけで僕は勝ち組さ。 ま、負け組乙。 んんん♪」 「ん……く、くすぐったっ! ちょ、ちょっと触るのはなしだよタク……エッチ!」 「ふひひ、こ、これなんて15禁お触りシュミレーション……」 やっぱりタクってエッチだと思う。 絶対領域フェチさんだからしょうがないのかなぁ……。 頭と顔を擦り付けてくるだけじゃ飽き足りず、あたしのふともものとこをサワサワ撫で回してくるの。 ニーソックスとスカートの合間の空間をこう、いやらしく嘗め回すようにって言えばいいのかな。 ちゃんとここからここまでで何センチって決まってるらしくて、最近は毎朝登校するときに直されてるんだ。 タク本人に、ね。(恥) 「ん~ん~、梨深たんの絶対領域最高。 この世界に一体だけの限定梨深フィギュア、い、一生僕だけのものだ。 ふひひひ♪」 「…………あ……」 と、あたしがタクとのラブラブ生活を振り返っている矢先――聞こえてきちゃう嫌な言葉、聞き捨てならない単語。 あ~あ、せっかくいい気分に浸ってたのに……台無しだね~もう。 たぶんまたいつもの独り言なんだろうけど、せめてあたしの聞こえないようちっちゃく言ってくれないかなぁ……。 は~い、ここから梨深ちゃんのグチタイム入りま~す。 やっぱり昔のオタクさんだった頃のクセって、なかなか抜けないのかな。 タクはたまに――ほんと時々なんだけど、こうしてあたしをモノ?扱いするときがあるの。 まったく失礼しちゃうよね~(怒)。 前にもなんかフィギュア棚の前に立たされて、新しい嫁を紹介するよ~って写真をパシャパシャ撮られたことがあった。 あれってもしかして、タクのフィギュアコレクションにあたしも加えられたってこと? 展示物扱い? 一分の一フィギュアをタダでゲットだ~♪とかなんとか喜びながら、あたしの頭を愛おしそうに撫でてきたんだけど……あそこはビンタしていいとこだったのかな。 あの時はほんと、タク、これ以上妄想しちゃダメ……って言いたくなっちゃったよ~(泣)。 他にも他にもね? なんかやたら布地の少ない変なコスプレさせられたこととかあって……。 ブラチューのキャラクターのだったと思うんだけど、なんか胸元とかグアーって開いちゃっててすごくエッチだった。 しまいにはこれが重要なんだ!って首輪まで付けさせられちゃって、夜の渋谷をお散歩だ~って外を連れ回されたこととかあったんだ。 あの時は本気で自分が着せ替え人形としてしか見られてないんじゃないか…ってちょっぴり切なくなっちゃったくらいだよ~(涙)。 でもでも、中でも一番許せなかったのがアレ! アレだけは絶対許せない! いくらあたしがピンクだからって、キスの直前に星来た~ん♪とか間違えて抱きついてきたこと! あれはほんと許せなかったんだよ~むおおおおお思い出したらムカついてきたぁぁぁぁっ!!! あれ、あたしじゃなかったら絶対ブチ切れてると思う。 というか、今もプンプンなんだけどね!(怒) 思い出してみると……あ、なんかこれ完璧にあたし星来ちゃんの代わりっぽい? あたしタクの2、5次元彼女? タクのそういう趣味は嫌いじゃないし――というかむしろあたしも答えてあげたいんだけど、それでもやっぱり限度はあると思うんだよね。 だからこういう時、あたしはストレス解消することにしてる。 もちろんタク本人で、ね。 元々タクが悪いんだもん。 これはお互いモヤモヤしたきもちを残さないようにする、恋人同士の処世術みたいなものだと思うんだ。 そんなにあたしのことフィギュアだとか星来ちゃんだとかいうなら――生身の人間だっていうこと、その身体で思い知らせてあげる。 たはははははははは♪ 「梨深たん梨深りみ、この絶対領域は、ぼ、僕だけの」 「タク、頭ジャマ。 というかいいかげんしつこいよ? どいて」 「え? あ、も、もうすこし堪能させて……」 あいかわらずあたしの絶対領域に顔をスリスリしていたタク。 ……幸せなのも今のうちだよ? あたしはその頭をちょっと乱暴に押しのけていくと、無言のままソファーの下に降りて両膝を床に付けていく。 「り、梨深? どうしたの……?」 タクはあたしの様子が変わったことに気が付いたみたい。 キョトンとした表情であたしの行動を見守ってくると、ソファーに寝ていた身体を起こしてそこに座りなおしていくの。 ……好都合だね。 もしかして、なにされるかわかってるんじゃないのかな? 「動かないでね、タク。 手元が狂っちゃうから……」 「……っ!? ちょ、ちょっと梨深、何して……や、やめて」 ちょうど目の前に来たタクのズボン、そこにあたしは遠慮なく手をかけていく。 抵抗されたけど関係ないね。 普通こういうことをされれば男の子は喜ぶんだろうけど、タクはこういうとこだけは変に真面目で自分の意思とは無関係にされることを極端に嫌がるの。 でも、だからこそお仕置きの意味があるわけで。 あたしはズボンを抑えようとした彼の手をパチンと叩くと、それをズルリと膝下まで降ろしていってしまう。 続けて少しだけ膨らんでるトランクス(ほらやっぱり期待してる)にも手をかけていっちゃうと、それも一気に降ろしちゃって――中から大きくなったおちんちんを取り出していく。 「や、やめてよ。 今日は梨深とイチャイチャしたいだけで……せ、せめて星来たんの見てないとこでしてぇぇぇらめぇぇぇぇ!」 何か上で色々言ってるけどやめない。 というかむしろ逆効果かな、そのセリフは。 いつもならフィギュアをどこか見えないとこにしまってからシテるんだけど、前々からそれ、気に入らなかったんだよね~。 あたしはやめる気なんかないよ、タク? そんなかわいい声出してもダメ~(笑)。 あたしの目の前でピクピク震えているおちんちん。 これが拓巳くんのおちんちんです。 先っぽの亀頭のとこは半分以上皮をかむってて、まるで本人の今のきもちを表しているみたいにいじらしいの。 そして同時に、イジメてみたくもなるんだよね。 こんなおちんちんしてるタクが悪いと思う。 あたしはお口をあ~んと開けていくと、先っぽの亀頭のとこをチュポリと咥え込んでいく。 そしてすぐにチュルル…!と吸ってあげる。 「あうっ! あ、あぁぁぁ……」 途端に喘いでいくあたしのタク。 悲鳴に似たうめき声が耳に心地いいの。 この音色だけでさっきの無神経な言葉なんて許せちゃったけど、あたしはもっと彼の喘ぎを聞きたくて口の中で舌を動かしてあげる。 まずは亀頭を皮から開放してあげなきゃなんだけど、ちゃんと言葉でも責めてあげないとね~。 「ん……タクのおちんちん、あいかわらず恥ずかしがり屋さんだね。 あたしがお口の中で剥いてあげるね?」 「うぅ……や、やめ、て、やだ」 「どうして? 子供おちんちん、ムキムキされるの恥ずかしいんだ~? タクかわいい♪」 「り、梨深ぃぃぃ……」 タクがこの大人じゃないおちんちん(包茎、だっけ?)を気にしているのは知ってる。 オタクさんだった頃からずっと気にしてるみたいで、これもきっと三次元嫌いになっちゃったきっかけであることは間違いないと思うな。 だからあたしはあえてそれを指摘してあげて、タクの恥ずかしがるとこを責めていくのが大好き。 たはは、これじゃ腹黒いって言われちゃうのも仕方ないかな~(汗)。 あたしは口の中で舌を淫らに動かしていき、バナナの皮を剥くみたいに――タクの包茎おちんちんを外に出させてあげる。 「うあぁ……そ、それらめぇぇぇ」 「どうして、きもちよくない? 舌でこうやって剥いてあげて……先っぽレロレロ~って」 「く、くすぐったい! 梨深の舌がツンツンしてきて……あぁ!」 舌先がこそばゆいみたい。 ちょうどいいや、さっきふとももを撫でられたお返しになるし。 あたしはそのままゆっくりとゆっくりと、丁寧に亀頭の皮をめくっていくと――最後にグっと口を突き出して完全におちんちんを露出させてあげる。 そしてまた皮が戻らないよう、根元をしっかりと押さえながら口を引き抜いていくと……真っ赤でトマトみたいな亀頭が姿を現してきたの。 タクのおちんちん。 あたしだけの、タクのおちんちん……。 「はぁ……ほらタク、キレイに剥けたよ? えっと、包茎っていうんだっけ、これ」 「……梨深のイジワル。 僕が気にしてるの知ってるくせに、わざと言ってるよね……」 「ふふ、なんのことかな~?」 あたしはそうとぼけるとまたおちんちんを咥えていく。 上目遣いでタクを見ながら、代わりに目でその質問にこう答えてあげるんだ。 うん、そうだよ。 だってタクがイジメられてる時の顔、あたしすっごく好きなんだもん。 だからもっともっと激しくシテあげる。 もう、おちんちんがあたしのクチビルを見ただけで大きくなっちゃうようにしつけてあげるね……。 「ちゅぷ……んぅ、んん……」 剥いたばかりの亀頭に舌を絡ませながら、あたしはそのまま前後へと頭を揺すっていった。 音を立てながら激しくしゃぶってあげると、それだけでタクはもうおとなしくなっちゃうのを知ってるから。 ソファーに座っているタクの下半身に、制服姿のあたしがむしゃぶりついていく……。 「ん、ん、ん……どうしたのタク。 もう抵抗しないんだ?」 「だ、だって舌が、梨深の舌がにゅるって絡み付いてきて……あぁぁっ!」 やっぱりまだ慣れないのかな。 あたしがお口の中でおちんちんを刺激してあげると、タクはグっと歯を食いしばって苦悶の表情をあげるだけだった。 そのままジュポジュポって奥まで吸い付いてあげると、もう身体中をプルプルさせて泣きそうな顔になっていくの。 もしかして、もうイっちゃいそうなのかな? まだ五分も経ってないんだけど……。 「ひぃ……う、っくぅぅぅぅ!」 「……ね、タク。 もしかしてもう出ちゃいそうなの? なんかつらそうだけど~」 「い、いやま、まだ、平気。 ここ、これくらいでぇぇ……」 「え~そっかな。 なんか目がウルウルしてるよ? 梨深たんのお口の中に出しちゃいそうだ~って言っちゃいなよ~ほらほら」 「く……ぼ、僕はそんなに早くない。 そ、早漏じゃない早漏じゃないんだぁぁぁぁ」 う~ん、強情だなぁ。 女の子に早くイカされちゃうの、屈辱とか……なのかな? まだまだ全然って感じのこと言ってるけど、もう出ちゃいそうなのバレバレなのに。 かわいいタク。 腰もなんかガクガクしてきちゃってるし、ちょっと気を抜いたらドピュってしちゃうんじゃないかな~。 さっきからあたしのお口の中、ネバネバしてきてるし。 これってきっとタクのおちんちんから出てるお汁のせいだよね……。 このままお口の中でおもいっきり射精させてあげてもいいんだけど――う~ん、それじゃあお仕置きにならないしな~。 「ちゅぽ、ちゅぽ、ちゅぽ……ん、ん~」 「あ、ダ、ダメ梨深! やっぱりもう、で、出ちゃ、出ちゃうぅぅぅぅ!!!」 タクがあたしの頭を抑える。 これはこのままお口に出させろ!ていう意思表示かな? あーそういえば肉便器とかって言われたこともあったっけ。 このままあたしの口に排泄したいとか、そんな失礼なこと考えてるのかな~? お口の中でおちんちんがピクピク震えていったけど――気が変わちゃった。 あたしはそこからクチビルをチュポンと引き抜いていく。 「はい、おしまい」 「……へ?」 呆然、って感じのタク。 射精できるって思ってたのにこれはキツイよね? でも女の子をフィギュア扱いする悪いタクにはこれくらいしたっていいはず。 あたしは射精直前のおちんちんを指でもてあそびながら(もちろん出ちゃわない程度に)彼をしつけていく。 「だって、嫌だって言ってたよね? タクが素直じゃないからイカせてあげませ~ん、残念でした」 「そ、そんな……ここまでして?」 「うん、ここまでして。 ど~せあたしのこと肉便器とか罵ってたよね?心の中で。 その仕返し」 「し、してたけど……ここまできてオアズケですかぁ。 そ、それともオシオキですかぁ? もしかして両方ですかぁぁぁぁ!!!」 「はいはい、あたしにわからないネタを言わないよ~に……って、あ~あれだっけ、ジョジョだっけそれって? まあとにかくダ~メ、たはは♪」 「ひ、ひどい、ドSすぎるよ梨深。 でもジョジョネタはわかってくれて嬉しい……」 射精させてくれそうなところでのこのオアズケにタクはしょんぼり。 もうこんな感じ→(´・ω・`)。 まぁ自分でもイジワルだとは思うんだけど、あたしは星来ちゃんじゃないしね。 なんでもかんでもタクの好きにさせちゃったら妄想の中の彼女と同じ。 だからタクにはしっかりと見てもらうの。 二次元じゃない、本物の女の子としてのあたしを見てもらいたいから……今度は彼の上着に手をかけていく。 「へ……な、なに、梨深」 「動かないで。 服、脱がせてあげるからジっとしてて……」 あたしは有無をも言わせない瞳でタクを見つめていく。 してることはエッチだけど、これが真剣なことだってわかってくれたみたい。 あたしが制服を脱がしていくのを彼はただされるがままになってくれるようだった。 まあ、抵抗してもむりやり脱がしちゃうんだけどね。 まずは上着。 制服のブレザーの前をゆっくり開いていくと、それをなるべく丁寧に脱がせていってあげる。 シワになっちゃわないようにしながらね。 そしてそれを脱がすと次にワイシャツ。 胸のボタンに指を絡ませていく。 一つ一つ、プチプチ…って外していると、何でか知らないけどタクの顔が真っ赤になってるのに気がついたの。 なんだか脱がされるのがくすぐったそうな、恥ずかしいような――そんな感じの顔。 あ、これってもしかして……。 「はぁはぁ……ん……」 「なに~タク~、そんなハァハァしちゃって。 ひょっとしてあたしに脱がされて興奮してるとか? へんたいだ~♪」 「……っ!? ち、ちがうよ! 興奮とかそんなんじゃ、な、なななない」 「うわ、すっごく慌ててる。 じゃあなんで顔真っ赤なの?」 「こ、これはその……女の子に脱がせてもらうなんて、エ、エロゲーには意外とないシチュエーションだな~って思って。 それでちょっとドキドキしちゃっただけ!」 「……それっておんなじことだよ。 タクは女の子に服脱がされるのが大好き…っと。 梨深ちゃんのタクメモに書いちゃいました~♪」 「か、書くなこのピンク! ていうかですね、なんで脱がされてるの僕。 こ、これはいい痴女梨深さんですね、わわわわかります」 呂律が回らなくなってきてる。 あたしに服を脱がされるたび、挙動不審になっていっちゃうタク。 こういう時とくにそう思うんだけど、タクってただツンデレさんなだけなんじゃないかと思うんだよね~。 三次元女氏ねとか言ってたのもただ素直になれなかっただけで、いざこうしてあたしに責められるとこんなに怯えちゃうんだもん。 たはは、ただのツンデレだ~♪ ビシィ調教日記 後編 へ続く 名前 コメント すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/sousakurobo/pages/176.html
生と死は人が一度しか体験できないものだ。 それ以外の全てはその人間がどう生きるかによって何度でも体験できるようになり、また、一度も体験できないものでもある。 言うなれば、この世で生と死こそがあらゆる人間に平等に与えられる唯一の始まりと終わりであるといえる。 そして死だけが人にとって、永遠に未知である領域なのだろう。 概念的に理解は出来ても、それが本当はどうなのか?という本質的な理解をする事は出来ない。 だから人は死に夢を見る。 ある者は死の先にはあらゆる災厄から解放された幸福な世界があると想像し、ある者は死の先には厄の塊のような救いようの無い暗黒の世界があると想像した。 だが、所詮、死は未知の領域でしかない、何故ならば、そこから行って帰ってきた人間はいないのだから。 どれだけ、人間が想像しようとも、仮説、夢想、妄言の域を出ないのである。 だから人は死を恐れる。 ならばだ。 もし、人間が一度しか無い筈の死を何度も経験したとしたら、その時、その人間は何を感じ、何を思うのだろうか? 支竹幸三郎著 「魂論」序説より CR ―Code Revegeon― capter1 「Beelzebub of grudge」 THE MAIN STORY 前編 第七機関統治区域にあるとある山岳地帯。 そこを三機の蒼白の機体が走っていた。 その内、二機は大きな翼の生えた黒い鋼機の両肩に手をかけ運び、最後の一機は全長3mほどの金属のブロックを手に持っている。 「隊長、鋼獣がそちらに向かいました、警戒してください。」 無線越しに三機の鋼機に報告が入る。 「了解だ、各員、我々は下層へ向かう、遅れるなよ。」 「「了解。」」 隊長機が先行して山を下り始める、下に見えるのは森林地帯だ。 彼らの目的はこの山岳を抜けた先にある地下施設、そこの地下通路を抜け海に出て、そこに待機している潜水艦への自身の収容である。 それが、第七機関直属組織『イーグル』戦闘部隊αチームが受けたブラックファントム捕獲作戦の最後のミッションだった。 発端はほんの15分ほど前の話である。 鋼獣を唯一単独で圧倒する正体不明の鋼機、コードネーム:ブラックファントムの捕獲作戦が『イーグル』主導で行われた。 綿密かつ数百度におけるシュミレーションをし、ついに行われたそれは、様々なイレギュラーの影響を受けながらも現場スタッフであったαチームが臨機応変に対応し、 計画通りブラックファントムのシステムをハッキング、遠隔操作で緊急停止システムを起動させる事でブラックファントムを行動不能にする事に成功する。 これは、『汚物処理屋』などという汚名を被せられていた『イーグル』の汚名を返上するに値する成果だったといえるだろう。 だが、運命は悪戯を好むものであり、全てが終わるだろうと思ったその時に問題が発生する。 何者かにαチームを回収する予定だった大型輸送機が撃墜されたのだ。 その撃墜からほんの数秒後に司令部からαチームの隊長であった、『α1』シャーリー・時峰に無線通信が入る。 輸送機を撃墜したのは人類の敵、鋼獣が自分たちのいる方に時速300kmの速度で向かっているという一報だった。 司令部はシャーリーにその鋼獣の衛星写真を送信した。 その写真に写っている鋼獣は、飛行型であり鳥獣のような形状しており、背中に円形のようなリングを背負っている。 そして何よりも特徴的なのは九つに分かれた巨大な尾で、その一つ一つが強く発光している。 この鋼獣はいまだかつて、政府が接触した事のないまったくの未知の鋼獣であった。 これはブラックファントムを直接に回収に当たっていたαチームにとって最悪の事態といっても過言では無いだろう。 鋼機と鋼獣のスペック差は大きい。 この作戦の半年前、20機もの鋼機が、たった一機の鋼獣により傷一つ付けられず壊滅させられた過去がある程だ。 現在αチームが使用している蒼白の鋼機、S-21 アインツヴァインは最新鋭機であり、機関でも前線ではまだ使われていない代物だ。 この機体はエネルギー増幅源ディールダインを採用しており、総合的にかつての鋼機の約5倍近くまで性能を底上げさせたまさに革命的なスペックを持つ機体でもある。 だが、それをもってしても鋼獣と闘う事は無謀といえると想定されている。 『α8』秋常譲二がこの捕獲作戦開始の数刻前に鋼獣天狼に手傷を追わせるに成功したが、これは天狼がもっとも情報を多く入手していた鋼獣であり、また奇襲からの攻撃に偶然成功したからに過ぎない。 しかし、今回、αチームを追ってきている鋼獣は正体不明、姿かたちから判断できる以上の力はまったくをもって未知な敵である。 基本的に不利な戦いを行う時は、相手の情報をどれほど持っているかが勝機を分ける。 相手に可能なこと、不可能なことを考察し、それに対しての対抗策を講じる。 これが己よりも強者と戦う時の基本である。 だが、今回の敵はそれすら行わせてくれない。 つまりは、それとの戦うという事は必然、自殺しにいくようなものだといってもの決して過言では無いだろう。 そんな過酷な状況の中、αチームに課せられたのはブラックファントムとα8を連れて、鋼獣から逃げきり、新しくイーグル司令部が設置した回収ポイントに向かうという任務であった。 とはいえ、望みは皆無というわけでは無かった。 鋼獣は強大な機体性能を持つが、その反面、電子兵装がほとんど発達していないとこれまでの戦闘経過から結論付けられている。 鋼機に搭載されている光学迷彩を使用しつつ、退却を行えば、例え時速300kmで迫ってくる敵が相手でも逃げ切れる可能性はあるとは言えた。 だがここで問題となるのは二つである。 一つ目はブラックファントムの存在である。 今回の作戦の捕獲対象である、正体不明の漆黒の鋼機ブラックファントム。 おそらくは1世紀ほど前の鋼機をベースに作られたそれは、現在の最新鋭機を遥かに上回る不可思議な能力を持っている。 その能力に使われているテクノロジーの調査を行い、量産化にこぎつけることが出来れば、人類は鋼獣に大きな反撃の一手を得ることが出来る。 幸い鋼獣の性能は圧倒的ではあるが確認されている数は少ない。 一体一体の能力は強力だが広域消滅させるような兵装は今の所確認しておらず、人類に決定的な打撃を与えるというのはまだまだ時間がかかるだろうと目されていた。 このブラックファントムを機関に持ち帰る事が出来れば、それを調査し兵器化する時間はあるという事である。 つまり、この機体は人類が鋼獣に打ち勝つ為の希望なのだ。 だが、ここで捨てて逃げてしまったのならば、行動不能に陥っているブラックファントムは確実に、今、αチームを追ってきている鋼獣に破壊されてしまうだろう。 そうなってしまえば、αチームが行った事は何だ? 唯一、鋼獣に対抗できた戦力を自ら相手に献上し破壊させ、進んで滅びの道へと進んだようなものなのだ。 だから、なんとしてもこの機体は『イーグル』に持ち帰らなければならない。 αチームの隊員の命よりも重要な事といえた。 二つ目はα8、秋常譲二の存在だった。 秋常譲二はブラックファントム捕獲の作戦行動前に無断出撃を行い妖魔との戦闘を繰り広げた。 これに関しては秋常譲二に後々、相応の罰が与えられる予定であったが機関の上層部の目にある事実が入った事で彼に大きな価値を見出させる。 鋼獣・天狼と交戦した結果、天狼に小さな傷を与える程度のダメージを与えることに成功した事だ。 これはブラックファントムの謎のテクノロジーを使わずとも鋼機で鋼獣にダメージを与えることができたという唯一にして無二の例の為、 その戦闘データを解析、考察を行えば、ブラックファントムの未知のテクノロジーを調べるよりも現実的かつ早期に対鋼獣の戦術を組む事ができることになる。 ある意味まったくを持って未知のテクノロジーであるブラックファントムの解析して兵器化するというモノよりもそれは現実的な対抗策と言えた。 それゆえに、α8の回収も重要なのだ。 そして何より、αチームの隊長であるシャーリー・時峰は部下思いの隊長である事で有名である。 そして、単なる部下思いというにはそれは余りに度が過ぎている事でも有名な人間あった。 5年前、シャーリーがまだ、第七機関軍に所属していた頃、第四機関であった紛争に送り込まれた際、 たった一人の仲間を救う為にすべての仲間にリスクを犯させた過去があった。 結果、その行動はシャーリーの部隊に大打撃を与え、シャーリーは責任問題から罪を問われた過去がある。 冷静沈着であり、あらゆる状況の中でも柔軟かつ的確な判断をする事が出来、 鋼機のパイロットとしても一流という稀有な人材である彼女が汚物処理屋などといわれるある種の吐き貯めに来る事になったのはこういう背景があったからである。 彼女は今までどのような任務であっても仲間を見捨てる事はしなかった。 正確には、出来ないのだ。 利害問題を考慮した上で確率が低かろうとも、必ず全員が助かる方法を選択する。 それが、シャーリー・時峰という一人の人間であった。 だからこそ彼女はこの最悪の事態において、全員が助かる方法を即時に模索する。 そうして彼女はいくつかの逃走案を組み立て、部下たちに実行させた。 一つめは天狼との戦いで半壊したα8の機体の解体作業だ。 パイロットであるα8秋常譲二は既に機内で意識を失っている状態にある。 機体の損傷も目に見えてひどく、まともな機動が出来ない状態だと言えた。 そのため、まずコックピットブロックのみを切り離し、それをα6に持たせ、持ち運ぶ事にさせた。 次に問題となるのはブラックファントムの運搬方法である。 この機体に関しては安易に解体するというわけにはいかない。 この機体のすべてを手に入れることが今回の目的なのだ。 だが光学迷彩もなく、形状からして非常に目立つ機体であるこの機体を鋼獣の目から隠して移動するというのは困難を極める事であった。 これを回避するための最低条件は常に鋼獣の動きをモニターし、先手、先手と動く必要がある。 そこで空圧砲を持って待機していたα4にはその待機場所で待機したまま、敵の動向をモニターするように命令を送る。 α4のS-21はステルス性に特化させた特殊装備になっている。 鋼機本来の持ち味である機動力を大きく削ぐようにはなっているものの、電子兵装は他の鋼機を遙かに凌駕するものであった。 対ブラックファントム戦にはこのステルス能力をふんだんに駆使する事で、あの歪な眼光に捉われる事なく空圧砲を命中させる事に成功した。 つまりはα4は安易に退却行動をとらせるよりもその場でその高質なステルス性を駆使して鋼獣をやり過ごさせた方が生還の可能性が高いとも言える。 そして、それは鋼獣の動きをモニターすること出来るという事にも繋がり、無線通信において、α4に鋼獣の動向を探らせようという寸法だ。 これは人工衛星からの情報を司令部越しに受け取る等といった方法よりもずっとラグがなく動けるのが大きい。 シャーリー・時峰は一分足らずでこれだけの作戦を組み上げたのだ。 そうしてα1、α5、α6の三機による、ブラックファントムとα8を連れた、退却作戦が開始された。 ――山岳地帯森林部、目標の基地までの距離残り10km 「しかし、何時までたっても奴はここから離れませんね、そろそろ諦めていい頃だと思うのですが…。」 山岳地帯下層の森林部、そこにαチームは森林を隠れ蓑にして潜んでいた。 αチームの上空には一機の鳥獣の形を模した機械が飛行している。 背中に大きな円輪を背負っているのと、9つに分かれた尾が特徴的でその尾の内、6つが激しく発光しているのが特徴的だった。 『イーグル』司令部からの報告にあった新手の鋼獣だ。 「まったくだα6、攻撃をしてこないという事から我々を発見したという事では無いのだとは思うが、 それにしてもここでの待機時間が長い。普通ならばそろそろ別の所にいってもいいものだ。」 α4から鋼獣がこちらに向かったとの報告を受けたシャーリー達は下腹にある森林地帯へと逃げ込んだ。 ここならば森の木々が陰になって、機体を隠してくれるという算段があったからである。 木々の影に隠れれば、ブラックファントムの漆黒の機体もそれなりの迷彩効果を帯びる事になる。 これが、まったく同じS-21 アインツヴァインであったならば、カメラを赤外線モードに切り替えられ、即座に発見されただろう。 だが、鋼獣にはそのような能力がない、それは過去のデータから明らかになっていることだ。 だがシャーリーには一つの懸念がある。 あれはデータには無い未知の鋼獣であるという事だ。 そう、鋼獣の索敵能力が低いという根拠はかつてのデータからの推測でしかないのであってあの鋼獣までもがその枠に収まりきるのかどうか不明なのだ。 つまりは可能性としては鋼獣に高い索敵能力が備わっている可能性もある。 だが、それだとおかしい点も一つある…何故、攻撃してこない? 「ほんっとに、めんどくせぇな、あれに弾丸をぶち込みたくなってくるぜ。」 嫌悪の意を示してα5が言う。 「我慢しろ、こういうのは何時でもじれったいもんだよ、根比べに負けるのはお前も嫌だろう?」 「へいへい。」 α5は口では愚痴を言うものの実際にその愚痴を行動におこすことはしない人間だと3年ほどの付き合いで理解している。 この男が、冷静でいる為に、自身に抑制をかける為に、戒めとしてある種暴言じみた愚痴を零すのだ。 「しかし、こうも近くで飛び回られると、下手な身動きが取れませんね、持久戦になるとこちらが不利です。」 「そうだな、奴が何を根拠にここから離れないのかさえ理解することが出来れば、それを元に対策を立てられるのだが…。」 結局はこれなのだ、あの鋼獣は何かを探知してい、自分たちがいる大まかな位置を理解している。 これは自分たちの上空から離れずに旋回して探し回っているという点からほぼ疑いようが無い。 だが、それは何故だ?これまではそのような例はまったく無かった。 それは一体―― 「―――教えてやろうか?」 その時、聞きなれない声がシャーリーの耳に届いた。 いや、知っている声だ、だが、それは聞きなれた自分の部下たちの声で無い。 暗く淀んでいるような声。 ああ、そうだとシャーリーはその声を誰が発したのかを理解する。 そうして一息を入れて、シャーリーは聞きなれない声を発した者に問い返した。 「君はそれを知っているのかい?ブラックファントム…。」 「知らなきゃ、教えてやろうなんて文句は吐けない、違うか?」 行動不能になった漆黒の鋼機、ブラックファントム、そのスピーカーから声が発せられる。 その言葉には何か含みがあるのが感じられた。 「なるほど、だが、ただでというわけでは無いんだろう?」 シャーリーはため息交じりに言う。 「そうだな、この機体のフリーズ状態を解除してくれたら、教えてやるというのはどうだ、この緊急事態だ、高官どもも進言すれば解除してくれるかもしれない? ついでにあいつも片づけてやろう、ここにいる人間全員が生きて生還万々歳という奴だ。悪い話じゃないだろう?」 茶化すようにブラックファントムは告げる。 「てめぇ、立場わかってんのか!」 α5が怒鳴りつけるように言いながら、鋼機の右腕に握られた、アサルトライフルの銃口をブラックファントムに向ける。 それも滑稽だと笑ってブラックファントムは言う。 「ハァー、状況を把握出来ていないような奴と無駄口する趣味は無いんだ、いいか?そこの脳無し、俺はシャーリーと話しているんだ。」 「この――」 ブラックファントムに煽られα5は怒りを露にする。 だが、そんなα5を遮り、侮蔑するように―― 「黙れ馬鹿、いくらやつらの探知能力が低いとは言え、大声を出せば流石に気づかれるぞ?」 α6は釘を刺した。 「おお、相方は話がわかるようで…。」 「ぐっ。」 それを受けてα5は押し黙る。 「それにしてもだ、ブラックファントム、取引というのは信用の下に行われるのを知っているかい?」 シャーリーがブラックファントムに苦笑まじりの口調で問う。 「何が言いたい?」 「私は君を信用していないという話だよ、それにおそらく私ごときが進言した所で解除の容認などしてくれる事はないだろうな、私達に君を捕獲しろといった人間達はね、 各機関への体裁とプライドを守るためにこんな無茶な任務をやらせているんだ、そんな人間達がそうそう容易に折れてくれると思うかね?」 事実だった。 もしこれで、ブラックファントムをキャッチ&リリースしたというものならば、他機関から第七機関とブラックファントムの繋がりを示唆される要因になりさらに立場が悪くなってしまう。 今回のこの無茶な作戦は、第七機関の身の潔白を証明するための作戦でもあるのだ。 「ふん、やりもしないで、諦めるなんて愚者もいいところだな。」 ブラックファントムは呆れたように呟いた。 「だが、まあ、我々も背に腹は代えられなくなってきている。我々の方から進言はしてみるよ、それで一応の手は打ってくれないかね。」 出来る限りの譲歩だった。 いや、これ以上の事をシャーリーは出来る権限を持っていない。 つまりはこれがシャーリーの出来る限りを尽した誠意と言えた。 「はぁー、はいはい、わかったよ。」 シャーリーはブラックファントムがそれをあっさり承認したことで少々拍子ぬけした。 こちらからは最大の誠意だったとはいえ、理不尽な物言いだったのは間違いないのだ。 「俺も命が惜しいからな、出血大サービスという奴だ、まず奴らはなんでここにとどまっているかという話だったな?」 「ああ、そうだ。」 ブラックファントムはそこに一息を入れた。 「それはな、奴らがこの機体に惹かれているからだよ。」 「それは一体どういう意味だ?ブラックファントム。」 「言葉通りさ、シャーリー・時峰。奴らはこの機体の大体の居場所を探知する事ができる、 ただ結構範囲はアバウトで半径5kmぐらいで…だったかな。 お前らの記録に残っているだろう、俺と奴らの戦いはこちらからけしかけた回数よりもあちらからけしかけて来た方が多いのは、これっておかしいと思わないか? 奴らの探知能力は低い、だが、何故かこいつは見つけられる。それはつまり、奴らは俺の機体の大体の居場所を特定できる能力を持っているからという事なんだよ。」 シャーリーは息を呑む。 「それはつまり――」 「そうだ、そうなんだ、そうなんだよ、俺たちがここでずっと息を潜めていても奴はここから離れるなんて事は無いという事だ。」 「ブラックファントム、聞きたい事がある。」 α6が迫るようにブラックファントムに尋ねる。 「なんだ?」 「我々の状況は把握できた、それにあなたは我々よりも奴らの情報を多く持っているようだ。 そこであなたに一つ聞きたい事があるのだが、我々の上空を飛んでいる鋼獣の事を知っているか?」 「そりゃあ、見えてるからな。」 「いや、そういう話をしているのではなくてだな。」 困ったような口調でα6言う。 α5はそのやりとりを見て腹を抱えて笑った。 「黙れ、ゲンジ。」 若干の怒気を込めてα6はα5に言う。 「いや、だってよぉ、ぐはは、今のはねぇぜ、ぐははは。」 「からかいがいがある奴らだなぁ…。」 その光景を眺め、周りには聞こえないようにブラックファントムは静かに呟いた。 それを見てシャーリーは溜息交じりにブラックファントムに言う。 「頼むからあまり部下で遊ばないでくれ、ブラックファントム、それで実際の所、あの鋼獣の能力に関して知っている事は無いか?」 「ん?ああ、しかし、お前ら、それも知らないのか、どうりでのんびりこんな所で隠れてるわけだな…。」 また、それかとシャーリーは思う。 彼は先ほどの戦いにおいても、我々にそんな事も知らないのかなどという台詞を吐いた。 それはつまり、機関の上層部は彼らの正体に関して知っているという言葉の裏返しであると考えられる事でもある。 だが、今はその意味に関して深く考えている場合では無い、それは生還してから行うべき事だ。 「そうだ、私たちは残念ながら、知らされていないんだよ、だから君が知っているのならば、少しだけでも生き残る確率を上げる為にも教えてほしい。」 ブラックファントムは少し考えるようにして間を置いた後、答えた。 「そうだなぁ、お前らのデータバンクの中では奴のコードネームは焔凰(えんおう)という。」 「焔凰?」 「そうだ、三獣神機、鳳凰のレプリカにして、UHの中でも数が少ない飛翔種機神疑似型、それが焔凰だ。鋼獣の中でもレアな機体だ。俺も存在は知ってはいたが初めて見たよ。」 「ちょ、ちょっと待ってくれ。」 α6が慌てた声をあげる。 「お前は一体、奴らの事をどれだけ知っているんだ?それに俺達のデータバンクのコードネームだと?それは本当は俺達がその情報を知っているという事なのか?」 それをブラックファントムはふん、と鼻で笑った。 「俺からすれば、お前らが知らなすぎてびっくりなんだがな、俺が知っているのなんてこの機体のデータバンクにあるぐらいの情報だよ、 といってもお陰さまでOSが凍結されて、今は閲覧できなくなっているがな。」 そこで更なる追及をしようとしたα6をシャーリーは止める。 「気になる話は多いが、それは後で聞かせてもらおう、今は時間が無い、奴の性能に関して知っている事を教えてくれ。」 「そうだな、何から話せばいいか、まあ、名は体を表すといったように、焔、つまり奴は炎を使う鋼獣だ。奴の姿を見てみてくれ、さっきと違う所があるのに気付かないか?」 そう言われてαチームの三人は、上空の焔凰に機体のカメラを向ける。 「いや、特別なにも変わっている様子はないが…。」 α6は焔凰を見つめて、呟く。 だが、何か違和感があるのは確かだった。 虹色で大きな二つの翼に、鋭角的でその嘴だけで相手の体を貫けそうな頭部、背中に大きな円輪を背負っており、その尾には9つの内、8つの光る大きな尾羽がある。 この中で何がおかしいのだろう、α6は考える。 だが、その違和感に最初に答えたのはα5だった。 「尾の光ってる数が違うな、たしかさっき見たときは6本だったが、今は8本光っている。これがなんか意味あんのか?」 「一番、意外な奴が答えたな、頭はアレだが感覚は鋭いタイプの人間という事か…。」 「てめえ、あんまり人馬鹿にしてると本当に撃つぞ。」 α5はブラックファントムに向けたアサルトライフルの引き金に指をかけさせる。 そんなα5を遮るようにシャーリーは銃口をブラックファントムから逸らさせた。 「α5、よくできた御苦労だった、だから黙れ。」 「た、隊長~。」 落ち込むα5を苦笑してブラックファントムは言う。 「奴の特性はな、太陽光を吸収しそのエネルギーをディールダインで増幅し尾羽というエネルギー貯蔵庫に蓄える事だ。 一本の尾羽に発電所が一日に作り出す程度のエネルギーが蓄えられるんだそうだ。そしてそのエネルギーを熱線として吐き出す。これが焔凰の能力だ。 奴は俺達の大体の位置を把握している、だが明確にどこにいるかまではわかっていない、そこで奴が何をしようとしているかわかるか?」 シャーリーの背筋にぞくりと悪寒が走る。 それは他の二人も同じようで、押し黙ってしまった。 「奴はな、9つの尾に蓄えられたエネルギーを全て解き放つ事で俺らごとここら一帯すべてを焼き払うつもりなんだよ。」 αチームの上空を飛行する鋼獣焔凰、その象徴たる尾の中で光を帯びていないものは残り1つであった。 「ブラックファントム…あと残り時間はどれほどある?」 シャーリー時峰はブラックファントムに問う。 「さあな、ただ、さっきから奴を見てたが大体5分で一本分のチャージが出来るみたいだ、 あとはフルチャージにはあと4分ぐらいと言った所だな。」 「隊長、4分ではこの荷物を持ってここから射程圏外に逃げるのは無理です。」 α6の声には焦りの色が見えた。 この男は普段は常に冷静さを保っているように見えるが、窮地に弱い。 「わかっている、落ち着け!ブラックファントム、奴に何か弱点はないのか?」 「知らないよ、機体がまともに動けば、データバンクからデータを覗く事も出来るが お陰さまで今は無理だ、俺の知ってる情報なんてうろ覚えなレベルだ。だが、可能性ぐらいならば、示唆できる。」 「可能性?」 「奴の特徴はエネルギー貯蔵庫たる九つの尾だ。だが、その尾にこそ突くものがあると思わないか?」 あっ、と納得したような声を上げたのはα6だった。 「そうか、光っている尾が膨大なエネルギーの貯蔵庫なのならば、その尾を破壊する事が出来るかも知れない。 あの膨大なエネルギーで奴自身をも自滅させる事が出来るかもしれない。」 「まあ、そういう事だ。」 「他に何か知っている事は無いか?」 シャーリーはいつもと変わらぬ口調でブラックファントムに尋ねる。 「無いよ、あとはまあ、せいぜい頑張ってくれ、俺はここで見物させてもらうよ。」 もう、どうでもよさそうな口調で答える。 「感謝する、ブラックファントム、先ほどは君の事を信用できない人物だと評した事をここで謝罪させてもらうよ。君がいなければ我々はここで滅びを待つだけだった。」 ブラックファントムは意外な事を言われ驚いた様子を見せ、少し間を置いたあと、苦笑いした。 「やめてくれ、俺はただ、死にたくないだけだ。」 「それでも、ありがとう、凍結解除の進言はしておいたよ、だが、申し訳ないが彼ら受け入れないだろうと思う。それに関しては私から謝罪させて貰う。」 シャーリーは感謝の意をこめて、ブラックファントムに告げた。 「隊長、残り2分30秒です。」 急かすようにα6が言う。 「了解した、さて、諸君、我々には時間がない、細かい作戦を練っている暇もない、だが、やることは明白だ。 あの上空で我々を見下している下衆を焼き鳥にしてやるというそれだけの事だ。 今まで諸君らと様々な任務を行ってきた、そして私と諸君らであらゆる任務を成功させてきた、それは誇るべき事だ。そして我々の行うことはそれをまたやるだけでいい、簡単な事だろう?」 「当然。」 「楽勝。」 二機の鋼機が武器を構える。 「ならば、我々はその存在の名の元に、謳おう。その誇りの証明として、謳おう。」 イーグルの聖句、それはイーグルの創設者、黒峰玄武が組織の在り方を示すために作られたものだ。 「我らは気高き鷹なり。」 だが、玄武の死後、そのあり方を歪められてしまい、その玄武の理念を体現する組織としては成り立たなくなってしまった。 「あらゆる厄災から弱者を守る聖者の爪を持つものなり」 灰色から黒とよばれるような任務ばかりを押し付けられるようになり、それでついた蔑称が『汚物処理屋』であった。 「あらゆる悪を見逃さぬ、絶対なる監視の目を持つものなり」 ありとあらゆる侮蔑や屈辱に晒され続け、どのような目的を持って創設されたかを知っている外部の人間など数えるほどしかないだろう。 「故に我ら、世界の悪を正義の名の元に滅する」 だが、その黒峰玄武が掲げた理念は、その志は、まだここに残っているのだ。 どれほど汚されようと、どれだけ堕とされようと、それだけは、その高貴なあり方だけは誰に変える事は出来ない。 「「「我らの名は鷹、この世界の僕にして、守護者なり!!!」」」 イーグルという組織は、それだけは、その高貴なあり方だけは、どんな苦境に立とうとそれだけは守ってきた。 タイムリミットは2分。 勝率10%にも満たない戦いだ。 だが、彼らはそれを苦としない、信じているのだ、自らの勝利を…。 「さあ、行くぞ、各員、溜まってるものを全部吐き出して来い。」 そして、『地に堕ちた正義の味方』と『鋼獣・焔凰』との戦いの幕が開けた。 To be continued ↓ 感想をどうぞ(クリックすると開きます) +... 名前
https://w.atwiki.jp/multiple/pages/339.html
裏表トリーズナーズ(前編)◆GOn9rNo1ts シーン0 表(裏):表裏一対(Railgun Mad) 二人はコインの裏表。 決して相容れない二つのカタチ。 少女と男。 日本人とアメリカ人。 表の世界の学生と裏の世界の殺人狂。 21世紀を生きる現代人と20世紀を渡る過去人。 片割れが用いるのは己の肉体、人の手によって作られた数多くの道具。 外なる凶器をその手に握り、狂気によって人間を殺す。 「俺が殺すのは、殺して楽しいのはぁ、緩みきった奴よ、分かる? 自分は絶対安全な所にいて、次の瞬間自分が死ぬかも知れないってこれッッッッッッッッぽっちも考えてない奴だ!」 もう片方の身に宿るのは異能のチカラ、開発と努力によって得た超能力(レベル5) 内なる自分だけの現実(パーソナルリアリティ)を雷電に変え、信念を持って不殺を誓う。 「――――それでも私は、きっとアンタに生きて欲しいんだと思う」 彼が愛した女のため、そして自身の欲望のために全殺戮を担うゲーム肯定派。 彼女が恋した少年、そしてこの地で会った恩人達の意志を継ぐゲーム否定派。 どちらが表でどちらが裏か、そんなの誰にも分かりゃしない。 綺麗な想いを持ってる方が表(善)、汚い望みを抱く方が裏(悪)? ルールに則り人を殺す方が表(正)、逆らって足掻く者が裏(誤)? そんなことはどうだっていいんだ、問題じゃない。 性別も特徴も思想だって違うけれど、彼らは同じコイン(人間)というモノ(者)じゃないか。 どちらの模様が表か裏かなんて、そんなの決められるなんて神様くらい。 勝手に決めても良いけれど、それは自己満足だってことは頭の隅にでも留めておいて欲しい。 さて、前置きはこのくらいにして。 二人を乗せてコインは回る、運命(さだめ)も回る。 物理法則に従って宙を舞う。神の気紛れに従い世界を舞う。 静かに迫り来る無表情な地面まで、無言で迫り来る無慈悲な現実まで。 回り狂ってしまいにゃ落ちる。 落ちた先にあるのは表(天国)か、はたまた裏(地獄)か。 それこそ正に――――神のみぞ知る。 裏(表):神はサイコロを振らない(Only Ronely Destiny) ◇ ◇ ◇ シーン2(裏) 表(裏):馬鹿騒ぎ前日譚(Before BACCANO!) 1931年、12月30日。 その日の俺は上機嫌だった。 なんでかって?決まってる。楽しい楽しいパーティだからな。 今まで色々世話になった叔父貴にも挨拶は済ませたし、これで何の憂いもなくぶっ放せるって訳だ。 まあ、元々憂いなんてこれーーーーーっぽっちも抱いちゃ居なかったがな。 真っ白なタキシードも頂いたし、もうあそこには用はねえ。 鼻歌を吹いて、仲間と一緒に目的地に向かうバスに乗り込む。 回りの奴らも皆浮かれてやがった。まるでサンタクロースを待ってるガキみたいにな。 ヘラヘラ笑いながら自分のチャカを何度もポケットから入れたり出したりしてる奴。 お偉いさんのディナーに出す時みたいに何本ものナイフをぴっかぴかに磨いてる奴。 近くの仲間と馬鹿で愉快なジョークを言い合ってゲラゲラ笑い合ってる奴ら。 俺もルーアと一緒に浮かれて浮かれて浮かれまくって、そしたらやっと駅に着いた。 「なあラッド、ホントにやるのか?今からでも遅くねえ、やっぱり……」 「なにふざけたこといってやがるんだ、フー? 目の前のご馳走どもを喰わないなんて、客として失格だぜ」 列車に乗り込む間も俺のボルテージは上がりっぱなしだ。 誰を殺す?何人殺す?どうやって殺す?楽しい妄想が脳内を駆け回る。 幼なじみのチキン野郎は今でもびびってるようだったが、そんなの関係ねえな。 ホームにたどり着き、哀れな犠牲者達を見定める。 さあて、どいつが『旨そう』かな…… 「ひょっとしたら、列車の中で結婚式でもやるのかな」 「ハッピーウェディングだね!」 頭が鶏並みに軽そうな馬鹿カップルどもがいた。カウボーイの格好なんざしやがって何時代の人間だお前は。 ハッピーウェディング?ああ、てめえらの骸の上で愉快に愉快に踊ってやるよ、今から楽しみにしてろ。 何も考えてねえような幸せそうな顔に、パチリと一つスイッチが入った。 「我々はシカゴペイサージュ交響楽団のものです。楽団の楽器はデリケートですので……」 「………………」 俺たちとのコントラストが引き立つ黒服どもがいた。どっかのすげえ楽団のメンバーらしい。 てめえらが今夜奏でていいのは楽器じゃなくて悲鳴だけだ、精々良い声で泣いてくれよ? 一号室に入っていく金持ちどものすかした態度に、俺の頭はもう一つバチンと音を立てた。 「おら、ドニー。早く行くぞ。後ろがつっかえてんじゃねえか」 「おお、分かった、多分」 「多分じゃねえ!早く行け!」 ぼろい服を着たガキどもがいた。なんだありゃ、でっけえやつだな。 まあ、相手がどんなやつでも殺して殺して殺すだけだがな。 自分たちが絶対に殺されるはずがないと思ってるんだろうな、と考えるとパチバチパチンと無数のスイッチが入る。 「全員が笑顔になれる、素晴らしい案だと思いますよ!」 「い、いやでも、この列車は……」 糸目のあんちゃんと老夫婦がなにやら話し込んでやがる。 切符とか料金とかの単語が耳に入るが、もしかすると…… 「だったら尚更買わせてください!」 やっぱり、糸目が老婦人からチケットを買おうとしているみてえだった。 馬鹿な奴だ、この列車は俺たち専用の貸し切り殺戮パーティーの会場だって言うのによお。不運な糸目の邪気のない笑顔を見て、パチリとスイッチを入れ直した。 「どうしたの、ジャッカローゼ?」 「…………乗るの止める」 不幸な奴が居るかと思えば、ここには幸運な奴もいやがったみてえだな。なあ帽子の兄ちゃん。 なんで止めたのか興味はねえが、てめえは大事な大事な一つしかない命を守ったんだからよお。拍手喝采だ。 ま、いつかどこかで俺に出会わないことを神様とやらにでも祈ってブルブル震えとけ、ってなあ! そして、列車はニューヨークに向かって動き出したってわけだ。 このフライングプッシーフットってのは悪趣味なもんでよお、正に成金趣味な代物だ。 なんでも基本構造はイギリスの王国列車を真似たもんらしくて、車輌の側面には彫刻みてえな装飾が施されてる。 ハッ、こんな豪華列車、それも一等客室に乗る奴らはどんだけ頭が緩んでるんだろうなあ。 きっと、静かで平穏な夜をロマンチックに過ごす、とかバターみてえな頭で考えてるに違いないのさ。 残念でした!テメエらはただのご馳走だ。 俺の脳味噌も胃袋も心までパンパンに満たしてくれる極上の獲物。それだけがてめえらの存在価値なのさ! さあ、今から始まる愉快なショー。死ぬまでその目に焼き付けとけよ、お客様! ってなかんじで最高の夜が始まる……はずだった。 ザーザーと、ぶっ壊れたラジオみてえに灰色の記憶が再生されていく。 くるくる、狂狂とここに来てからの記憶がノイズ混じりに回っていく。 ノイズの度にぶれる映像、俺の頭が内側からガンガン鳴っている。 どこからともなく込み上げてくる吐き気。ストレス性のものに違いねえ。 なんだこりゃ。ここからは見せられねえ、ってか? 俺の弱っちい心が必死になって俺自身を守ろうとしてんのか? 深層意識とやらがこれ以上の踏み込みを恐れてやがるってのか? 「舐めんな」 これを見なきゃ先に進めねえだろうが。ボケなすが。 ぶっ壊れた蓄音機みてえに、不快な音を混じらせながら記憶が進む。進めさせる。 『全員■■めた■な。■が君■を集めた■ラーミ■とい■者だ 』 黒く暗転した視界、起きたとたんに始まる馬鹿げた催しの説明。 居たのは俺と、ディーンとグラハムと、そして《ノイズ》と。 『な■お前。つまり■達を■し合■■て自分■高みの見■っての決め込むつも■かい。いい■え。そういうの』 ここにいる全員を殺せ、そういった糞野郎の顔が二重三重にぶれていく。 愉しみを邪魔された怒りを持って、そいつを最初の犠牲者に決定、執行。失敗。 『ラッ■・■ッソか。後■■居る■は君■婚■者の■■■・■■■■か』 背後から聞こえる、気の抜けるような爆発音。ザーザー。ノイズが強くなる。 振り向くと《ノイズ》。 ザーザー。 そこには《ノイズ》。 ザーザー。 血を流した《ノイズ》。 ザーザー。 《ノイズ》が《ノイズ》。 ザーザー。 《ノイズ》《ノイズ》《ノイズ》ルーアは《ノイズ》《ノイズ》死んだ。 ザーザー。 俺の目の前で。 ザーザーザーザー。 『……だ…………………い………す……………………………………き 』 ――――――――ルーアは、死んだ。 ザーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーープツン。 『バッ……バカヤロウっ!死ぬんじゃねえよ。俺に殺される前に死ぬなんてありえねえだろうが。おいっ!きいてんのか! 』 急に克明になる映像。灰色から彩りを増していく世界。 さっきからうるさかったノイズが消えて無くなった。へっ、ざまあみろだ。 自分の言葉が三流の役者みてえにはっきりと聞こえて来る。下手すぎて聞いちゃいられねえ。 映画みてえに最期の言葉を吐き出すルーア。がむしゃらに叫ぶ俺。 これはなんだ?できの悪い舞台か、質の悪い悪夢か、歪んだ妄想か? そんなわけあるか。現実なんざ、こんなモンだ。 いつ死ぬかなんて、俺たちにゃ分からねえ。一日後、一時間後、もしかしたら一分後かもしれねえ。 だからこそだ。そういう現実を分かってるからこそ、俺は俺で居られる。 そのことを全く理解してねえ奴らの腐った頭に鉛玉をぶち込むのが一番楽しいと、実感できる。 ルーアは死んだ。どうしようもなく、徹底的に決定的に、死んだ。 いや、殺された。 パチパチパチパチパチパチン! 頭のスイッチが小気味よく鳴り響く。 殺意が溢れる。熱く漲ってくる。 ぽっかり心に空いた喪失感を埋めるように。隠すように。 ひたすらに怒りが、憎しみが、俺の世界を埋め尽くす。 その矛先はギラーミン、一生こいつの名前は忘れねえ、ギラーミンに向かっていった。 だが、あいつはここにはいなかった。どこか遠くで俺たちを嘲笑ってやがる。 そして標的が消え去り、行き場を無くした矛先は、爆発した。 火傷顔と殺りあった。それを邪魔してくれやがった二人組に砲弾をぶち込んだ。 でっけえ十字架を持ったメイドを殺そうとして逃げられた。そこでようやく、俺は『覚醒』 したことに気付いた。 腕が刀になる女、宇宙人、馬鹿でけえロボットを操るガキと殺り合って、卑怯者を嘲笑った。 電気女やらサングラス男やら腕が再生する怪人やらを相手に派手に暴れちぎった。 鳥みてえに空を飛ぶガキを打ち落としたと思えば、そのガキはグラハムの坊やのことを知ってやがった。まあ死んじまったが。 馬鹿でけえ劇場で黒服とその連れを殺そうとして、失敗した。 あほくせえ玉男を、不意を突いてぶっ殺してやった。 宇宙人と刀女と殺りあってる最中にあの仮面野郎に手足をもぎ取られた。 おかしかったのはここからだ。 『そう、あの子は最期まで優しかったのね――』 『ラッド。貴方がどう思っても構わないけれど、私はあすかを誇りに思うわ――』 『先に逝った人達に、胸を張れる生き方が出来たのだから――』 電気女も人形も、俺を憎んでやがるくせに、それでも俺を殺さない。 玉男をぶっ殺したのに、仲間だったはずこいつらは俺を傷つけようとさえしねえ。 自分が殺されるリスクを恐れて、玉男の仇をとるのを諦めたのか? 『仇はとるわ。でも……殺してなんか、あげない』 ……ありえねえな。あの二人はどっちも俺を殺す機会があった。 こちとら、あの憎たらしい仮面野郎に芋虫みてえにされちまってたからなあ。 文字通り、手も足もでねえ、って訳だ、ヒャッハッハッハッハ! ……じゃあ何故だ?先に逝った奴らに胸を張れる生き方、とやらをするためか? 分からねえ、俺にはあいつらの考えてることがさっぱりわからねえ。 ただ一つだけ言えることは。 『先に逝った、ね……。さて、ルーアが惚れた俺はどんな奴だったかな』 ちょっとは頭が冷えたってことだな。 再生し終わるまで時間もあったし、俺はちょっと冷静になって考えてみることにした。 復讐を止める気はもとよりこれっぽっちもねえさ。 ただ、俺よりも年下のガキンチョが俺よりも冷静に考えてるってのが気に食わなかっただけだ。 俺だって、冷静に考えて考えて考え抜いて、それで最善の結果を出してきたのが常だったからな。 まず、今更ながら気付いたことが一つ。 あの糞野郎の言いなりになってもメリットなんぞねえ。 決闘だかなんだかしらねえが、この首輪がある時点であいつが約束を守るはずがねえ。 他の奴らを全員ぶっ殺して最後まで残っても首が破裂して終わり。 万が一決闘なんざ実際にやっても、それはあいつが絶対勝てるように仕組んだ出来レースになるに違いねえのさ。 こちとら最低で最悪なマフィア組織の一員だったからよ。口約束が信用できないなんざ百も承知だ。 じゃあ、なんで俺はこのゲームに乗った? いつも計算高くギリギリの範囲で殺し続けてきた俺が、なんでこんなイカサマゲームに嵌っちまった? 今なら分かる。俺は目の前にぶり下げられたエサに食いついた馬鹿魚だったってな。 ここに来た俺は完全に冷静さを欠いてた。 殺意ゲージは振り切れるどころかぶっ壊れて、限界をぶっちぎって回転した。制御不可能って言葉がよく似合う。 零%から百%に、百から千に、千から万に。もはやただの苦しみだ。 婚約者を失い、愛に飢え、負の感情だらけの俺の世界。 俺は紛争地帯の飢餓で苦しんでるガキみてえに腹が減った。 俺はエサに、俺の生き甲斐でもあり趣味でもある『殺し』に食いついた。 考えてみろ、腹を極限まで空かした状態で目の前にあるのはエサだ。 空腹は最高の調味料、とは良く言ったもんだ。俺は食って食って食い尽くした。 普段の俺みてえに選り好みしてる暇なんぞ無かった。空腹を満たすため、心に空いた空白を埋めるために。 俺は必死にそれに食らいついた。それがここのマナー(ルール)だったからな。 どんな不味くても、俺の口に合わなくても、喰わなきゃやってられなかった。 やけ食いってやつだ。俺らしくもねえ。 その餌に針が刺さってることも無視して、俺は馬鹿な魚みてえにただ目の前のエサを喰ったのさ。 食いつけば食いつくほど、俺(魚)はどんどんバッドエンド(陸)に近づいてくってのにな。 俺はルーアが死んだって現実を、弱っちい心の何処かで認めたくなかったのかも知れねえ。 ルーアのためとほざいておきながら、馬鹿正直に糞野郎の言葉を鵜呑みにして一直線に突っ走りやがってよお。 ハッ、笑えるぜ。今まで計算尽くで殺して殺して殺し尽くしてきたこの俺が、一人の女の死で俺自身を見失っちまうとはな。 ……天国でも地獄でもどっちでも良い。待ってろよ、ルーア。 絶対テメエの仇はとってやる。あのギラーミンって糞野郎を爪先から髪の毛一本まで殺し尽くしてる。 そのためなら、手段を選ばねえ。 そこまで考えてようやく、意識が浮上する。 くるりくるりと回りながら、記憶の海の深淵から抜け出していく。 楽しいパーティーに向かうまでの記憶が、俺の回りを逆巻いてから散り散りに散っていく。 パチンと記憶の気泡がはじけ、細かい残滓が無意識下へと還っていくのが見えた。 糞ったれなパーティの記憶が、透明な泡となって静かに上へと向かう。 俺もそれに追随するように、ただひたすら上へと、昇っていく。 上から降り注がれる光が徐々に強さを増し、現実の到来を予想させる。 茫洋から明瞭へ、纏まりのない不透明な意思が力強く明確な意志へと変化する。 暗転、そして再び暗転、目の前に夜の帳が落ちてきた。 夢と現実の狭間で、俺は壊れそうなルーアの笑顔をみた気がした。 『……ラッド』 それはとても美しくて、可愛らしくて、愛しくて。 『頑張って』 殺したいほど、愛したい顔だった。 裏(表):空騒ぎ後日談(After Genocide) ◇ ◇ ◇ シーン2(表) 表(裏):鬼の居ぬ間に洗濯(When the Demon's away, the Cat will play) ゴミの山を、ひたすら突き崩す。 細かな破片を掻き分け、大きな瓦礫は出力を絞った電撃の槍で撃ち貫く。 病院のなれの果てというだけあって、全貌はまさに「山」といった感じだ。 こんな大質量の中から真紅のローザスミスティカが見つかったのは運が良かった。 願わくば、アレも見つかってくれますように…… 「……っくしゅん!」 訳の分からない薬品の臭いがツンと鼻を刺激する。危ないモノで無ければいいのだが。 ゼロによって放たれたハドロン砲により吹き飛ばされたのは一階部分のみ。 つまり、そこから上は自重により倒壊しただけで消滅はしていない。 時々顔を覗かせる患者用のベッドや、原型を留めている椅子や机がその証拠だ。 ある程度検分すると、次は3,4メートル離れた山へと分け入り再度同じことを繰り返す。 これはあれだと分かるものは結構少ない。塵やら砂やらを被って余計に判断が付きにくい。 破損して、かろうじて液晶画面からノートパソコンだと分かるモノはまだ良い方だ。 ちらちらと目の端に見える、潰れてしまったため何か判断の付かない精密機械。 いくらするんだろう、と関係ないことを考えた。いけないいけない。集中しなければ。 新たな盛山に手を突っ込み、邪魔な廃棄物をどかしていく。 「……!?いったあ……」 ガラスか何かで少し手を切った。絆創膏が落ちていないか現金に探してしまう。 ぽたり、と少しだけ流れた血に思わず笑えてくる。 あの仮面とやり合った時は、どれだけ血を流しても身体がボロ雑巾みたいになっても戦い続けたというのに。 やはり人間は窮地に追い込まれると感覚が麻痺してしまうものなのだろう。 そう、あれは正しく窮地だった。絶体絶命、風前の灯火という言葉が似合う。 仮面の男の圧倒的な力に、為す術もなく戦闘不能に追い込まれた私達。 戦いなんて対等なものではなく、もはや作業の領域に入っていたはずだ。 どちらの、とも、何の、ともあえて言わないけれど…… 「……あの時、一体何があったのかしらね」 少しすると傷は塞がってしまった。まるで自分たちの世界の 肉体再生(オートリバース)だ。 自分の中の何かが変わってしまったのだと思うが、何が変わってしまったのかまでは理解が追いつかない。 ただ、それを不気味だ、とか嫌だ、とか考えてはいけない。そう思っている自分がいる。 あくまでも只の直感だけれども。女の勘ってやつだ。 肉体が滅びかけ、死の螺旋の中に墜ちていたあの時、確かに声が聞こえた。 「美■を■けて……ア■ァロ■……」 何と言ったのか所々が朧気で、そもそも夢だったのかも知れない。 力強く、それでいて繊細な手が奈落から私を引き寄せ、代わりに墜ちていった気がする。 意識の片隅に見覚えのある泣きそうな顔が有った気もするし、無かった気もする。 恐らく、あの時に自分はどこか変わってしまった。その結果一命を取り留めた、と言ったところか。 まあ儲けものだ、と考えてしまうのは感覚が麻痺してきた証拠なのかも知れない。 アルターやらローゼンメイデンやら魔王やらなんやら。 意味の分からないモノが多すぎて、逆にどんなことでも素直に受け止めている自分がいる。 こんなモノなんだ、と。一種の思考の放棄かも知れないけれど。 流石に、自分の身体までそうなるとは予想も付かなかったが。 ……もしも学園都市に帰れたら、検査でも受けなければいけないかも知れない。 右手をみると心電図と思しき画面が真っ二つに割れていて、少し嫌な気分になった。 さて、頭ではなく手を動かそう。 探す。希望を持って。 探す。懇願を抱いて。 こんなこと、勝手な望みなのかも知れない。 何を悠長な、と、あの殺人鬼には馬鹿笑いを持って迎えられるかも知れない。 それでも、今の自分には必要なのだ。 ここじゃなくても手に入る、とか。 あるはずがない、とか。 理性が囁いていたが、ここまで来て諦めがつかない。 ただの意地、大いに結構だ。 せめて、時間までは……………あれ? 「……あった?」 確かに、それらしきものが回りの瓦礫から独立して存在している。 恐るべきことに、本当に恐るべきことに、原形を留めている。 やはり塵芥を被り、いささか形が歪んではいるものの全壊とはほど遠い。 いや待て、喜ぶのはまだ早い。重要なのはこれそのものじゃない。 中身を伴っていなければただのガラクタ。何の役にも立たない。 むしろ希望から絶望へと落とされる分、余計に酷い。 だから落ち着け、クールだ、クールになれ御坂美琴。 はやる心を抑えながら、少し傾いたその筺を手で無理やり押し開ける。 こればかりは、電撃を使うわけにはいかない。中身を傷つけると本末転倒だ。 開けた先、目に飛び込んでくる…… 「……マジで?」 中身が……ある。ちゃんと、ある。 喜びよりも驚きの方が勝っているのはどうにかならないもんか、と他人事のように思った。急いで取り出し、確認。うん、全然使える。 この仄暗い悪夢のような舞台にも、希望はあった。 神様、ありがとう。そう祈らずには居られない。 小躍りしそうになる身を抑えながら、ふと視線を横にずらすと。 「……もう一つ?」 すぐ近くに、同じ筺が転がっている。 もしかすると……やっぱり。 中身を確認。優先度が低かった方の捜し物が、落下の衝撃で横たわっている。 なんという幸運。作為すら感じる運の良さに、もはや寒気すら感じてくる。 今まで、あいつを引き継いだみたいに運が悪かったから。 だから、今更その反動が返ってきているのだろうか。 「……って、何考えてんのよ、私」 頭に入ってきたナイーブな感情がもどかしい。 今は、そんなことを考えている時間じゃない。 ラッキースケベな事態に陥らないように、事は早急に済ます必要がある。 馬鹿みたいなことを馬鹿みたいに考えながら、私は早速作業に移った。 裏(表):鬼に金棒(Power Up!) ◇ ◇ ◇ シーン1 表(裏):殺生問答(Kill Or Live?) 「なあ、自分は死なないって思ってるか?」 空は暗く、星は瞬き、一日の終わりが近づいてきている。 この殺し合いが始まってから18時間以上が経過し、生まれた骸は半数を優に超してしまった。 生き残りはおよそ20余り。あと一日もあればけりが付くに違いない。 そんな中、廃墟と化した元病院に二つの影が何も言わず存在していた。 背が低く、若干丸みを帯びた女らしい人影。『超電磁砲』御坂美琴。 瓦礫にもたれかかりピクリとも動かない人影、『殺人狂』ラッド・ルッソ。 神秘、アヴァロンを身に宿した超能力者と、魔酒により不完全な不死者となったマフィア崩れ。 二人は互いに何も喋らず、お互いの傷が癒えていくのをじっと待っていた。 そして、両者の傷が完治して小さい方の影が動き出そうとしたその刹那、かけられた一声。 いつものように、獲物に嬉々として語るわけでもなく。 それでいて、悲しみや怒りは抱いていないその表情。 ただ純粋に疑問として発せられたその声を、御坂美琴は無視することが出来なかった。 「これっぽっちも、思っちゃいないわよ」 唇を震わせながら自然と答えを返していた。 理由は明白。彼女は本当に、これっぽっちも自分が死なないなんて思っていなかったからだ。 この瞬間に至るまで、何度命の危機に晒されてきたことか。 大きな風にその身を掬われ、地面と正面衝突した。当たり所が悪ければ脳内出血などで死んでいたかも知れない。 柄の悪い不良に襲われた。砂鉄の壁すら破壊するあの拳の一撃を受ければ、内臓破裂は間違い無しだ。 あの義手の男を倒した……いや、殺したときだって、衛宮さんがいなければ死んでいたのは自分だった。 その後も、今目の前に座っている殺人鬼に殺されかけたり、奇抜な髪型をした男に銃を向けられたり、休む暇もない。 ナインに殺されそうになった時も、今は亡き真紅とあすかがいなければどうなっていたか。 そして、先程の戦闘。 死にそうだった、等というレベルではない。 自分は確かにあの戦闘で死んだ、はずだった。 確かに感じた死の実感。 体内から消え去っていく生命の灯火。 冗談みたいに流れていく己の血潮。 満身創痍。起死回生の一撃も効かず、ただ意識を飛ばされた。 一種の臨死体験に近い経験が鮮明に身体に刻み込まれている。 死なない?ありえない。 己は本来なら既に数度は死んだ身。 何人もの命を犠牲にして運良く生き延びてきただけのことだ。 そう、何人もの命を犠牲にして…… 「で、それがなんだっていうのよ?」 少し入った暗い気持ちを誤魔化すために逆に質問を返す。 そもそも、この男に関してどうすればいいのか彼女は決めあぐねていた。 間違いなく殺し合いに乗っている存在。放置してはおけない。 しかし、さっきからこの男は何やら考え込み自分をガン無視する始末だ。 こうも無防備な相手に電撃を打ち込むのは、何というか気分が乗らない。 いっそのこと襲いかかってくれた方が気が楽になるのだが、コイツは思案に暮れっぱなしだ。 時間は惜しい。今こうしている合間にも誰かが誰かに襲われているかも知れないのだから。 そこで、完全に身体が癒えたのを見計らってアプローチをかけようとしたその時。 意外にも向こうの方からそれはやって来た。しかもまだ友好的もの、だ。 意図のつかめない質問。だけど、彼女の頭にキュピーンと電撃が走る(もちろん比喩である)。 言うならば、ある種の予感を感じたのだ。 「いやよお、ちーとばかし思うところがあって悩んでんだよなあ、俺」 風向きが変わる、予感を。 「どういうこと?」 「だからよぉ、このままここにいる奴ら全員ぶっ殺してもあのギラ-ミンって野郎にたどり着けるのか…… 俺の中でその辺が曖昧になってきちゃってるわけよ、マジで」 この男は、迷っている。 切っ掛けは些細なものかも知れない。 だが、思考になんらかの綻びが出来たのならば、必ずそれはどんどん大きくなっていく。 ならば、今の美琴にできることは、それを広げること。 この殺し合いは無意味なものだという認識を、相手に与えること。 自分はナインに唆され、一度は乗ってしまった身だ。 そして、それが間違いだと知ったからこそ、柔軟に対応できる。 ただ相手の考えを否定しても反発を生むだけ。 緩やかに、そして正確に相手の理論の隙を突く。 どんな狂人でも、行動に何らかの意味があるはずなのだ。 殺し合いに乗った人間も、様々な理由によってそうした、そうせざるを得なかったのだろう。 元の世界に帰りたいから。 好きな望みを叶えたいから。 ただ、殺したいから。 本当ならば、知り合いでもない限りその思考を辿るのは困難。 人間は互いを完全に理解することなど不可能だし、それが赤の他人ならば尚更だ。 しかしこの男、ラッド・ルッソに関しては違う。 ヒントはオープニング。記憶力がそこそこあり、場を見極める能力があり。 そして、彼と同じような『片割れ』を持っているものならば誰でも理解できる、その心情。 きっと彼は、自分の大切な人を殺した主催者に復讐がしたいのだ、と。 「例え最後の一人になっても、あんたの願いは叶わないわよ」 彼もようやく気付いたらしい。このゲームの異常性に。 何の断りもなく突然拉致された参加者達。 首輪が一切の反抗を無効化し、逆らう者には死、あるのみ。 生き残れるのは一人のみ、生き残った者はギラーミンと決闘し、勝ったならば願いを一つだけ叶えられる。 どんな馬鹿でも、しないだろう。 主催者がどんな馬鹿でも、自分が殺される危険のあるレールを敷く、はずがない。 これがまだ、生き残った者の望みを叶えてやる、というものだけならば変わったかも知れない。 しかし、決闘だ。それに勝ったならば、全ての参加者を甦らせることさえ可能だという。 実際に蘇りという奇跡が出来るか出来ないか、というのはここでは問題にならない。 そもそもの前提として、そんなリスクを背負う必要性がギラーミンには存在しない。 名誉回復?ここにいる全員を気付かれず拉致し、命の選択権を握っている時点で勝負は既に付いている。 なのに、わざわざ殺し合いなんて手間のかかることをやらせ、生き残った一人と闘って勝利するなんてまどろっこしいことをする必要は皆無だ。 あまりにも、ギラーミンの理論は破綻し尽くしている。 おかしすぎて逆に気付かない、その理屈。 今ゲームに乗っているのは、それに未だ気付いていない馬鹿か、あるいは…… 「ああ、十中八九あの野郎の決闘とか言うのはブラフだろうな。 殺し合いに乗るメリットはこれっぽっちも存在しねえ。どっちにしろ死んじまう。 ……だが、ここで問題が一つ生まれちまうんだよなぁ」 「…………なによ」 「果たして、てめえらみたいにこのゲームに反抗したとしてよ。 『本当に脱出、そしてあの糞野郎をぶっ殺せるのか』ってとこだ」 あるいは状況を冷静に、冷酷に判断できる切れ者なのだろう。 「俺の知り合いにグラハムって坊やが居てよお。俺とは別の方向にぶっ壊れてやがるんだ。 あいつの手にかかれば、どんな機械もイチコロってな。車やら、下手すりゃ列車でも解体しちまう馬鹿なのさ」 ラッドの言いたいことが、嫌なほど分かってしまう。 一方通行という反則じみた力を持つ知り合いが参加しており。 また彼女自身も最高の電撃使い(エレクトロマスター)だからこそ。 分かってしまう。理解してしまう。 「破壊のために生きてるあいつが参加してる、っつーことはよ。 そのレベルの奴でもこの首輪は外せねえ、ってことの裏返しだよな?」 ラッドは一つ勘違いしている。 単純な技術だけじゃない。超能力でも、アルターでも、恐らくここに呼ばれたものの中に首輪を解除できる力を持った人間はいない。 わざわざそのことを指摘するつもりなんかこれっぽっちも無いけれど。 仮に、殺し合いを肯定する人間が全員居なくなったとする。 それから、どうすればいい? 24時間以内に一人も死ななければ、全員の首輪が爆破されるという。 タイムリミットは、たったの一日。 彼女のように能力のあるものだけじゃない。この男のように、首輪解除に何の役に立たない人間は確実にいる。 というか、普通に考えればその手の人間の方が大いに決まってる。 下手をすれば、生き残っているのは自分以外誰も首輪解除の役に立たない人間かも知れない。 そうなれば、詰み。ゲームオーバー。勝率0%だ。 出来ることと言えば、一日に一人だけ殺して残りの大多数を生かすことだけ。 それだって、増えていく禁止エリアを考えると四日も持たない。 誰だって死にたくない。誰が好んで犠牲になどなろうか。 もしもそうなったら、誇りも何もかも捨てて大抵の人間は死にものぐるいで殺し合う。 正しく主催の思う壺。だが、なんとしても生きたいと思う意志を否定することが出来ないことも確か。 知り合いのために自ら死を選ぶ聖人だっているかもしれない。 だけれど、それは何の解決にもならない。残されたものの気持ちを考えると逆効果にもなりかねない。 結局、全員死ぬか一人だけ生きるかだけの違いだ。 この男はそのことを懸念している。 自分と、そして他の殺し合い否定派と組んでも意味がないのではないかと。 只の馬鹿じゃない。理論的に考えて、それで殺し合いを続けるべきか否か、悩んでいる。 (これは……どう答えるべきかしらね) 下手な慰みは恐らく逆効果。 彼は馬鹿っぽい言動とは裏腹に頭が切れる。 適当なことを言っても、すぐさま論破されてしまうだろう。 「力を合わせればなんとかなります」なんて言った日には殺されること請け合いだ。 ならば、ここで言うべきことは…… 「まだ情報不足よ。他の生き残り達と合流して情報を交換しなきゃどうにもならないわ」 とりあえず保留とすること。これぐらいしかできない。 時間稼ぎだと思われようが、本当にそうなのだから仕方ない。 いくらか推測は立ててあるものの、今は纏まりのないただの妄想だ。 故に、とりあえず引き延ばす。 今は駄目でも、他の対主催と出会えば活路が開けるかも知れない、という希望を含ませながら。 「はん、そんなこったろうと思ったぜ。 結局テメエも一人じゃ何も出来ない他人頼みか」 喉元まで出かかっていた反論の言葉をぐっと押さえ込む。 ここでいがみ合ってもこちらに得はない。 出来る限りは、この男を味方にする努力をするべきだ。 「で、どうするってのよ」 挑発を無視する形で会話を継続する。 一体どうするというのか。 主催は信用できない。脱出派も信用できない。 この状況で、彼はいかなる選択をとるつもりなのだろう。 警戒は怠らず、相手の反応を待つ。頬に一筋の冷や汗。 向こうが持っているのは一本の槍のみ。いざとなれば対応できるが…… 仲間は、欲しい。 切嗣さんと一緒だった時。 真紅やあすかと一緒だった時。 私はかけがえのない一時を得ていた。 誰から何処から襲われるか分からないこの世界。 もう孤独は嫌だった。一人は嫌だった。誰かが死ぬのも嫌だった。 こんな男でも、話し合って、協力して、共にハッピーエンドを迎えたい。 仲間を殺した憎い仇でも、殺し合いなんてしたくない。 温すぎる想いかも知れないけれど、もう人が死ぬのは沢山だ。 「コインかなんか、持ってねえか?」 そんな私の気持ちを知ってか知らずか、運命は回り出す。 確かな変化を持って、うねりを上げて襲いかかる。 望もうと望むまいと、それは私を捕らえて放さない。 逃げられないなら、飛び込んでいくしかない。 「おお、すまねえな。えーと、こっちが表でこっちが裏ってことで。 ……てめえは、どっちを選ぶ?」 私は自分の手で、幸せな未来を切り開く。 「表」 表にしたことに意味なんて無い。 ただ、今はそういう気持ちだった。 そして、二分の一の闘いが幕を開ける。 ♂♀ 貴方は運命というものを信じるだろうか。 「表が出たらてめえに付き合ってやるよ」 目に見えない不確かなもの。それを信じる気があなたにはあるだろうか。 「裏が出たら?そんときゃ皆殺し再開だ、そんじゃ行くぜ」 彼女は信じた。彼はどうなのか分からない。 コイン(運命)がくるりくるりと宙を舞う。 それは大して高くは飛ばなかったかも知れないけれど。 落ちるまでの時間はひどくゆっくり、緩慢なものだった。 「ああ、そういやよお、一つ聞き忘れてたわ」 焦らすように跳ねるわけでもなく。 ドラマチックに回転するわけでもなく。 地面に落ちて、それでおしまい。 「お前、まさか口だけ野郎って事は……ねえだろうなぁ!」 男が低体勢で地を駈ける。 一息で僅かな距離を詰め、目の前の少女に接近する。 一切の迷いもなく。欠片の躊躇もなく。 シュレディンガーの猫は未だ箱の中。 表か裏か、観測するまで両者は均衡し続ける。 ラッド・ルッソは約束を破らない。 ただ、約束は未だ果たされていないだけだ。 彼は、御坂美琴が今までどのような変遷を経てきたか知らない。 彼女が学園都市序列第3位『超電磁砲』と渾名されていることも。 ここでどれほどの化け物達と闘いを繰り広げてきたか知らない。 彼女と共有した時間はほんの僅かでしかないから、仕方のないことだろう。 戦闘になってからでは遅いのだ。彼女がどれほど「使える」かを知る必要がある。 そんな打算も含めて、ラッドは先程の言葉を確かめたかった。 『自分が死なないだなんて、これっぽちも思っていない』 (本当にそう思ってんなら、目の前の「敵」を警戒しない、なんてことはありえねえよなあ!) 銃弾のように、拳が大気を貫いていく。 可愛らしい超電磁砲の顔に暴力の塊が向かって行く。 踏み出した一歩の先、突き出した腕の目の前、眩い閃光が彼の視界を覆い。 「……合格だ」 そして、殺人狂は一瞬早く放たれた電撃によって夢の世界へと旅立っていった。 「……馬鹿みたい」 実は、殺す気など無かったのだろう。 本気で殺すつもりなら、彼は槍を使っていたはずだ。 そんなことに今更気付いて、美琴はラッドの寝顔を覗き見る。 どこか満足そうなその顔に蹴りの一発でも叩き込みたかったが、自制。 そして、彼と自分自身を見て、比べて。 溜息をつきながら、とあるものを探しに瓦礫の中へと消えていった。 裏(表):陽気なギャングが運命を回す(Turning Point) ◇ ◇ ◇ 時系列順で読む Back タイプ:ワイルド(後編) Next 裏表トリーズナーズ(後編) 投下順で読む Back 忘れてはならないもう一人 Next 裏表トリーズナーズ(後編) Back Next あなたに会いたくて 御坂美琴 裏表トリーズナーズ(後編) あなたに会いたくて ラッド・ルッソ 裏表トリーズナーズ(後編)
https://w.atwiki.jp/heisei-rider/pages/215.html
暁に起つ(前編) ◆MiRaiTlHUI 夕方ともなれば、参加者を照らす太陽も、暁となって徐々に沈んで行く。 天道総司と名乗った青年は、何処か虚ろな瞳で、沈みゆく太陽をぼんやりと眺めていた。 海堂直也は別段何か下らない事を言う訳でもなく、黙々と歩を進めるだけだった。 ここには車もなければ、人もいない。空っぽの街を染める夕焼けには、何処か寂しさを覚えるものだ。 暁の不気味な寂しさと、妙な空気のざわつきが、名護啓介の心を焦らす。気は緩められない。ここは戦場なのだ。 落ち着かない気持ちを宥めて、何ともない風を装って、名護は先陣を切って歩く。 F-4から東京タワーへ向かうには、直線ルートでは不可能だ。例え迂回する事になっても、F-5を通らねばならない。 人を率いる者として、自分が三人の代表となって先頭を歩くのは当然だと思うし、その行動自体に間違いは無かったと思う。 例え何かがあったとしても、例えば、敵に襲われたとしても、自分が先陣を切って三人で共闘すれば、負けはないと思う。 だけれども、名護の胸の奥で芽生えた、焦慮にも似た危機感は、そんな理屈で押し殺せるものではなかった。 筆舌に尽くし難い、異様な圧迫感を肌で感じたのは、調度名護の眼前に一人の男が現れてからだ。 「君は」 名護は脚を止め、前方に現れた軍服の男に一言、そう問うた。 この質問に意味など無いと言う事に、既に本能で気付いていたのかも知れない。 男の表情を見たその瞬間から、名護の胸中の警報はけたたましい程に鳴り響いていたのだから。 だけれども、それが何故か、と問われても、上手な言葉で答える事など出来よう筈もない。 超常の力などは一切持たぬ名護ですら感じ取れる程に、眼前の男が放つ気配は異様だった。 下手に奴の間合いに踏み込めば、その殺気で以て縊り殺されるのだろうという確信が湧き上がる。 戦うのであれば、一瞬たりとも気は抜けない。でなければ、自分達はこの戦いで生き残る事など出来やしないだろう。 それは警戒心か、はたまた恐怖心か。何にせよ、それは圧倒的な危機感となって、名護にそんな確信を与えた。 夕暮れの空を厚い雲が覆って、名護ら三人と、眼前の男、この場の全員に暗い影が落ちる。 表情さえ窺い知る事が難しくなった仄暗い闇の中で、海堂が緊迫に満ちた声を発した。 「おいおっさん、あいつぁ、やべえぞ」 「おっさんと呼ぶのはやめなさい……不愉快だ」 「バッキャロー! んな事言ってる場合じゃねえんだよ!」 先程までの余裕などはかなぐり捨てて、海堂が上ずった声で叫んだ。 名護とて馬鹿ではない。海堂に言われずとも、目の前の男の気迫には気付いている。 それが、殺し合いを否定するまともな男が発する筈のない、「殺気」の類である事にも、だ。 名護らの不安と恐怖を煽る様に強風が吹いて、厚い雲は風に流され、再び日の光に照らされる。 夕焼けに照らされた男の顔は、無表情に、しかし、その瞳は獣の様にギラついていた。 懐から取り出した一本の小さな箱を、軍服の男は眼前で掲げ。 ――ARMS―― アームズ。兵器を意味する英単語が静寂の街中で鳴り響いた。 ガイアメモリは男の首輪から男の体内へと取り込まれてゆき、見る間にその姿が変じてゆく。 肥大化した筋肉はくすんだ血の様にどす黒い赤に染まり、その身体を銀色の鎧が包み込んでゆく。 剣にナイフ、銃器といった単純な兵器が全身に纏わりついたその姿は、まさにアームズの名に相応しかった。 赤い顔面を半透明の仮面が覆い隠して、仮面の下から露出した白の瞳が、ぎょろりと三人を睨んだ。 ◆ 疲れた身体を休めるのもそこそこに、天道総司と乾巧は警視庁の食堂に訪れていた。 警視庁というと、東京の警察を総括する広大な施設だ。ともすれば、当然の様に食堂の規模も大きい。 厨房に直接向き合う形のカウンター席と、いくつかの長テーブルや丸テーブルが規則的に並んでいた。 カウンター席に座らされた巧の眼前に、大盛りのチキンオムライスが乗せられた皿がすっと差し出される。 わざわざこの場所で巧を待たせ、その間に天道が腕によりを掛けて作った渾身のオムライスだった。 巧はやや戸惑った表情を浮かべるが、天道に一言「食え」と言われると、何も言わずにスプーンを手に取り、食べ始める。 恐る恐ると言った様子で最初の一口目を口に運び――二口目からは、ガツガツと食べ始める。 そんな巧の姿を満足げに眺めながら、天道は自分の分のオムライスを一口食べて、自信ありげに頷いた。 ふわふわのオムで包まれたチキンライスの味は、濃すぎず薄過ぎず、絶妙なバランスであった。 相変わらず、完璧な料理だ。そんな自負を抱きながら、天道は巧に問うた。 「どうだ、美味いか」 「ああ」 「そうか」 無愛想ではあるが、美味しそうにオムライスを頬張る巧を見ていると、何処か嬉しくなる。 料理とは、誰かを幸せにする為のものだ。食べた人を笑顔にする料理こそ、天道が真に求める料理であるのだ。 そして、自分が作った料理をこんなにも美味しそうに食べる奴が、悪人である訳がないというのも、天道の持論だった。 考えても見れば、巧は半ば強制的に食堂まで連れてこられたが、嫌な顔はしていても、拒否はしなかった。 終始「かったるい」だなんて言ってはいるけれど、天道にはそれが、ただ不器用なだけの様に思えた。 表向きには人当たりの悪い無愛想な男ではあるが、根っこの所は、優しい男なのだろう。 そんな乾巧に、天道は無意識の内に親近感を覚えていたのかもしれない。 「お前、こんな所に連れて来られてまで料理って、随分と図太い神経してるんだな」 「ああ、体調を整える上で、食事以上に優れた手段はないからな」 そして何よりも、と続けて、天道は人差指で天井を差し、のたまった。 「おばあちゃんが言ってた。食べるという字は、人が良くなると書くってな」 巧は何も言わずに、オムライスを食べ続けていた。 天を差した指を降ろし、天道は自分のオムライスを食べながら考える。 今ここで乾巧に食事を振舞ったのは、確かに体調の回復が一番の目的である。 厨房の野菜はどれも厳選して選び、調理に使った食材も、栄養を第一に考えて作った。 どういう訳か食材はどれも新鮮で、白米に至っては今朝炊かれたばかりとしか思えない輝きを放って居たのは幸いか。 大ショッカーのせめてもの恵みか、それとも今朝まで普通に使われていた食堂なのか、それは結局分からず終いだが。 「美味かったぜ、ごちそうさん」 やがてオムライスを綺麗に平らげた巧が告げたその言葉は、気持ちがいいくらいに爽やかだった。 連戦続きの疲労や、殺し合いの不安すらも、忘れているのではないかと思う程、気持ちのいい表情だった。 そんな表情も出来るんだな、と思いながら、天道は一言「ああ」と答え、自分のオムライスも平らげた。 暫しの無言が続くが、やがて巧が、意を決したように天道へと振り返って、問う。 「なあ天道、お前には夢ってのは、あるか」 「何だ、藪から棒に……変な質問をする奴だ」 「悪かったな、変な質問をする奴で」 あからさまに気分を害した様子で、巧は表情を顰めた。 天道はやれやれと言った様子で嘆息一つ落とし、巧に向き直る。 「逆に聞くが、お前にはあるのか」 「ああ、あるね。とびっきりでっかい夢が」 「何だ、聞かせてみろ」 「世界中の洗濯物が真っ白になるみたいに、皆を幸せに出来たらいいと、思ってる」 それを聞いた途端、天道は拍子抜けした気がした。 大の大人が、自信ありげに大きな夢があると言うのだ。 どんな野望かと思って問うてみれば、返って来たのは子供の様な夢。 思わず返す言葉を失って、その大きな瞳で以て、巧をぼーっと見詰めてしまう。 だけれども、それを告げる巧の表情には、やはり陰りはなかった。 ポケットから取り出した、園咲霧彦のスカーフぐっと握り締めて。 自信を持って、迷いもなく。心の底から、こいつはそう願っているのだ。 なるほどこの男に料理を振舞ったのは、間違いなどでは無かったと思う。 一拍の間をおいて、天道の表情にも元の冷静さが戻っていって、そんな天道に巧は再び問うた。 「お前は、どうなんだよ」 「俺も、お前と同じ様なものだ。友に誓った夢がある」 「そうか。聞かせて貰ってもいいか」 胸中で、今はもう居ない加賀美新を思い描いて、小さく、しかしゆっくりと頷いた。 今は亡き友との誓い。友の前で豪語した、天道総司の戦う目的。 妹を守りたいという願い以前に、天道が希った、人としての強い想い。 「アメンボから人間まで、地球上のあらゆる生き物を守り抜いてみせる……俺が、この手でな」 それを聞いた途端、巧がぽかんと口を開けっ放しにした。 多分、こいつも先程の自分と同じ様な心境で、言葉を失ったのだろうと思う。 やはり、天道総司と乾巧は似た者同士であるのだと心中で思いながら、天道は続けた。 「どうした。スケールがデカ過ぎて言葉すら失ったか」 「……お前、よくそんな臭い台詞を堂々と言えるな」 「お前に言われたらお終いだ」 呆れた様に言う巧に、天道は憮然として言い返した。 ともあれ、これで天道の中では一つの確信が持てた。 この男は、信頼に足る男だ。どんな状況でも、自分の軸を見失わない強い男だ。 仲間を集めて大ショッカーを打倒するのであれば、こんなにも心強い仲間はそうはいない。 気に食わない点は多々あるが(主に自分に似ている所など)、それでもこいつは、揺るぎない仲間足り得る。 それが分かったなら、これ以上の長居も、言葉すらも不要とばかりに二人は立ち上がった。 最早十分休んだ。食事も摂った。ならば、こんな所で悠長に休んではいられない。 命を護る為には、自分達が動き出さねばならないのだから。 ◆ 強さを数値に置き換える事が出来るのであれば、桁違いという言葉が真っ先に思い浮かぶ。 それはそのまま、目の前の怪人と自分達の強さの桁が、一つくらい違っているという事だ。 普通戦いと言うものは、何らかの目的があって、それを成す為に勝利を求めて力を振るう。 精神的な拠り所となる強い何かが無ければ、戦う力など生まれよう筈もないからだ。 天道総司の姿をした自分は、戦う理由としては十分過ぎる程の憎しみを掲げている。 海堂直也と名護啓介は、多分、守る為だとか、そんな下らない理由の為だと思う。 だけれども、目の前の怪人からは、そういう理由らしい理由が感じられなかった。 憎しみによる破壊でもなく、守りたいが故の戦闘という訳でもない。 ただ戦いたいから戦っている。ただ力を求めて戦っている。 そんな気がして、彼は目の前の怪人の事を、狂っている、と思った。 例え歪んでいようとも、明確な目的を以て行動している自分に、目の前の敵の事など理解出来る筈も無かった。 「駄目だ……今の僕らじゃ、こいつには勝てない」 結果を悟ってしまったダークカブトが、ぽつりと呟いた。 アームズドーパントの力を異様なまでに引き出し振るう奴は、今の自分の身の丈に合った敵ではない。 海堂が変身したライオトルーパーは猛然と殴りかかるが、敵に碌な打撃すら与えられず、いなされ、カウンターを叩き込まれた。 バーストモードとなったイクサも果敢に挑むが、その攻撃は全て左腕の巨大な剣で受け止められ、反撃の一撃を叩き込まれた。 さっきからそれの繰り返しばかりで、どんなに頑張っても、状況はこちらに転びはしなかった。 「チックショウ、この野郎が!」 ライオトルーパーが、右太腿に携行していたアクセレイガンを引き抜いて、踊り掛かった。 我武者羅な軌道を描いて振り下ろされた一撃は、今度はアームズドーパントが握り締めた巨大なシールドソードに阻まれた。 先程まで背に背負っていた巨大なそれは、盾としても申し分の無い、先端の砕けた大剣だった。 アクセレイガンの一撃を容易く受け止めた大剣は、そのままライオトルーパーの胸部装甲を切り裂いて、数歩後退させる。 間髪いれずに左腕の大剣を突き付ければ、それは巨大な機銃となって、圧倒的な速度で弾丸を打ち出した。 ズガガガガガガ、と炸裂音を響かせて、ライオトルーパーの身体が遥か後方へと吹っ飛んでゆく。 「貴様……!」 イクサが憤慨した様子で、口元から排出された形態電話を手に取った。 すかさずそれのボタンを打ち込んで、変わった電子音声を響かせる。 ――ラ・イ・ジ・ン・グ―― 青と白の携帯電話はけたたましい警報音を鳴らし、イクサが最後のボタンを押し込もうと指を伸ばす。 しかし、それよりも早く動いたのは、それによる危機感を覚えたのであろう、アームズドーパントのだった。 即座に突き出された機銃から放たれたのは、先程のガトリングとは違う、一発の銀色の弾丸。 それはイクサの指が携帯電話のボタンに触れるよりも速く、携帯電話に着弾。そのまま液状に拡がった。 「何!?」 それは溶かした鉄の様で、イクサの携帯電話を包み込むと、すぐに硬化した。 狼狽するイクサを尻目に、アームズドーパントがガトリングを連射しながらイクサの間合いに飛び込む。 太陽の紋章を描いた胸部装甲が超高速・高威力で以て放たれた機銃によって爆ぜ、抉られ、苦しげな呻きを上げる。 されど容赦などしてくれよう筈もなく、懐に飛び込んだアームズドーパントは、右腕の大剣でイクサを上段から叩き斬り。 左腕の機銃を再び大剣へと変化させて、よろめくイクサを横一閃に斬り裂いた。 「ぐあっ……!」 倒れ伏したイクサを踏み躙って、今度は彼方で起き上がったライオトルーパーに再び銃口を向ける。 「……ンの野郎ぉぉ!!」 猪突猛進。駆け出したライオトルーパーは、機銃など恐れぬ様子で突貫する。 馬鹿かあいつは、と思って、ダークカブトはすかさずアームズドーパントの機銃をクナイガンで射撃した。 高威力の機銃故、僅かなブレはそのまま大きなブレとなって、明後日の方向へとガトリングは放たれる。 アームズドーパントはすぐに斉射をやめ、その機銃をダークカブトへと向けた。 まずい、と思って、腰のスラップスイッチを叩こうとするが。 「でかした天道ぉぉぉぉぉ!!!」 それには及ばず、敵の懐に飛び込んだライオトルーパーがアクセレイガンを叩き付けた。 きぃん! と音を鳴らして、それはシールドソードに受け止められるが、攻撃はそれで終わりでは無い。 踏み躙られたイクサが、脚の下からイクサカリバーの赤い刃をアームズドーパントに叩き付けたのだ。 一瞬怯んで力が緩んだ隙に、ライオトルーパーが右上段からハイキックを叩き込む。 それは左腕が変化した大剣によって弾き返されるが、今度はガンモードとなったイクサカリバーが下方から照準を定めていた。 流石に対処し切れずに、イクサカリバーから放たれた銀の弾丸はガトリングの如き勢いでアームズドーパントの装甲を炸裂させる。 たまらず後退したアームズドーパントに、イクサとライオトルーパーは、二人同時に正拳突きを叩き込んだ。 しかしそれはさほど効いている様子でもなく、アームズドーパントは一歩後退しただけに過ぎない。 「仮面ライダーの力とはこの程度か」 低く、唸る様な声に、この場の空気が緊迫する。 やっとの思いで通した攻撃なのに、こいつには碌に効いてすらいないのだ。 だというのに、イクサとライオトルーパーは、一歩も身を引かずに、構えを解こうともしない。 そんな光景を見ていて、ダークカブトは、言い知れぬ不快感を覚えた。 普通は戦わない。普通は逃げる。普通は命が惜しい筈だ。 それなのに、何故にこいつら仮面ライダーは。 「どいつもこいつも……!」 どれだけ傷め付けても立ち上がった剣崎一真を思い出して、ヒステリックな呻きを漏らした。 気に入らない。こいつらはどういう訳か、どんなに傷ついても、逃げる道を選ぼうとはしない。 命と引き換えに、自分よりも強い敵に立ち向かって行くこいつらが、どうしようもなく苛つくのだ。 或いは、それは情緒不安定な彼の、一種の発作のようなものだったのかもしれない。 何故、と問われても応える事など出来ないが、気付いた時には、クナイガンを携え、駆け出していた。 そうだ、見せつけてやればいい。無意味だという事を、仮面ライダーの力などまやかしだと言う事を。 「うわあああああああああああああああっ!!!」 絶叫と共に突貫して、まずは手始めに、クナイガンを一閃、二閃。 直線射線上に佇んでいたイクサとライオトルーパーを、背中から叩き切った。 後ろからの攻撃などに対処出来る筈も無く、二人は訳も解らぬ内にもんどりうって倒れた。 そんな二人に、これ以上の興味は無いと言う様に返す刀でアームズドーパントへと斬り掛かる。 勢いは怒涛。滅茶苦茶な動きで、無理矢理にクナイガンを叩き付ける。 当然何度繰り返そうが、銅色の短剣は黒金の大剣に阻まれ、攻撃は通らない。 終いには、ダークカブトの攻撃の合間を掻い潜って、アームズドーパントの大剣がその銅を抉った。 めきりと嫌な音を立てて、ヒヒイロノカネが凹み、亀裂が走る。 吹っ飛ばされた身体は、しかし、後方のイクサによって受け止められた。 「スタンドプレイは止めなさい! 一人では無理だ!」 「うるさい! 仮面ライダーが何だっていうんだ! どんなに足掻いたって無駄じゃないか!」 ダークカブトの絶叫が響いて、その拳はイクサの顔面へと叩き込まれた。 まさか味方に対するガードの姿勢など、万全である訳が無い。イクサは再び殴り倒された。 そんな光景を見るや、呆れた様に息を吐いたアームズドーパントを見て、ダークカブトの頭に血が昇る。 全てが不愉快だ。仮面ライダーも、意味のない破壊を撒き散らす戦闘狂(バトルマニア)の怪人も。 どいつもこいつも壊してやりたい。滅ぼす為の、意味のある破壊を、この手で――! 「バッカお前、状況解ってんのかこのバカ、バカッ! バカタレが!」 ライオトルーパーがダークカブトの肩を掴んで、口煩く罵詈雑言を吐き掛ける。 煩わしい、と感じたダークカブトは、有無を言わさずに斧と片手に振り抜いた。 イオンの刃を思いきり叩き付けられたライオトルーパーの胸部が派手に爆ぜて、仰け反る。 更にもう一撃と、今度はその腹部のベルト目掛けて、横一閃に斧の一撃を叩き込んだ。 ダークカブトのアックスは、誰にも阻まれる事無くライオトルーパーの腹部を抉り―― 「テ、メェ……!」 火花を噴き出しながら、バックルを叩き壊されたベルトがアスファルトへと落ちた。 最早使い物にすらならなくなったスマートバックルが、ぶすぶすと黒い煙を上げる。 生身を晒した海堂直也の頬を、ダークカブトの拳が打ち付けて、その身体を遥か後方へと吹っ飛ばした。 仮にも仮面ライダーに殴られたのだ。ただで済む訳もなく、海堂直也の身体はそのままぐったりと動かなくなった。 今がそんな事をしている場合ではないと言う事になどは、混乱したダークカブトではもう考える事すらも出来ない。 元々彼は情緒不安定なのである。当初から全てを敵だと判断しているのだから、こうなるのも無理はなかった。 いざとなったら、二人に仮面ライダーの無力さを知らしめた後で、クロックアップで逃げたっていい。 どうとでもなるのだから、やりたいようにやればいいではないか。それは、そういった安直な判断であった。 こうして苛立ちも最高潮に達した時、ダークカブトの眼前へと迫って居たのは、赤い体躯の怪人だ。 思わず構えたダークカブトのアックスを、左腕の大剣で弾き返して、アームズドーパントは右の大剣でダークカブトを叩き伏せた。 肩口から装甲が派手にひしゃげて、身体が壊れる嫌な音が響いたと思ったら、今度は左の大剣で掬い上げられた。 ヒヒイロノカネなど容易く引き裂いて、ダークカブトの身体は宙へ舞う。 「仲間割れなどしている余裕は、無かった筈だが」 その声には、静かで、しかし熱い、確かな怒りが感じられた。 強者の誇りを持つが故、弱者に舐められたと感じた時には、きっと許せないのだろう。 それがどれ程崇高な感情であるかなど、ダークカブトには理解出来なかったし、しようとも思わなかったが。 宙を舞うダークカブトが、地面に叩き付けられようとした時、急迫したのは凄まじい連射性を誇る機銃の弾丸だ。 ダークカブトを徹底的に破壊しようと構えられた銃口から、怒涛の勢いで放たれた弾丸は黒き装甲を派手に爆ぜさせる。 アスファルトへしたたかに打ち付けられるが、そんな痛みも、機銃による痛みに比べればマシかと思った。 圧倒的な斉射は収まらず、アスファルトに無数の穴を穿ちながらダークカブトの命を刈り取ろうと唸りを上げる。 「くっ、そぉ……!」 何でこうなるんだよ、と心中で毒づきながら、歯噛みする。 何もかもが上手くいかない。何をやっても自分は失敗する。 それは、自分が世界にとっての邪魔者だからか? だから、世界はこうまでして自分を排除しようとするのか。 そんな事を考えるとたまらなくなって、一滴の涙が頬を伝った。 結局、何をしたってこの自分に居場所などはないのだ。 ならば破壊するしかない。壊すしかない。滅ぼすしかない。 それしか、残っていないというのに―― 「ゴ・ガドル・バの力をたたえて死ね」 死刑宣告と、ダークカブトの変身解除は同時だった。 あまりの過負荷に耐えられなくなったヒヒイロノカネが、粒子となって消失したのだ。 世界だけでなく、カブトの鎧までが、この自分を拒絶しているように思って、思わずアスファルトを殴る。 そんな彼に向かって狙い定められるは、グレネードランチャーと化したアームズドーパントの左腕だった。 ランチャーから放たれた砲弾は、どん! と音を響かせて、大気を震撼させる。 これで終わりか、と流石の彼も死を覚悟して瞳を閉じるが。 「総司君っ!」 そんな両者の間に割り込んで来たのは、イクサだった。 両腕を広げ、その身体で以て、迫るグレネードランチャーを受け止めたのだ。 派手な爆音と、灼熱の爆風が、イクサの装甲で巻き起こって、そのまま地へと崩れ落ちる。 とうとうイクサの装甲も限界を迎え、生身を晒した名護啓介は、しかし満足そうな表情で振り向いた。 口元からは僅かに血を流して、脚だって小刻みに震えている。平気で居られる訳が無い。辛いに決まっているのに。 それなのに、こんなにボロボロになってまで、したり顔で微笑む彼が理解出来ずに、思わず声を荒げてしまう。 「何で……どうして僕なんかの為にっ!?」 「俺は、君と良く似た男を知っている。彼もまた、君と同じ様に、悩み、苦しんでいた」 なんだよそれ、と思わずには居られなかった。 何処の世界に、こんな自分程酷い人生を送った人間がいるというのだ。 何も知らない癖に知った風な口を利く名護啓介に、どうしようもない怒りが込み上げる。 だけれども、その怒りは不思議と、先程まで感じていた憎しみの怒りではなかった。 この感情が理解出来なくて、それが新たな苛立ちを呼んで、もう一度アスファルトを殴る。 ちゃき、と音がして、今度はそんな二人をアームズドーパントの機銃が狙いを定めていた。 今度こそ、終わりだ。今からレイに変身したって、間に合う訳が無い。 ここで名護と二人揃って死ぬのか、と思うと、心の奥底で、言い知れぬ恐怖心が芽生えた。 まだ自分は何も成し遂げて居ないというのに、こんな所で死ぬのか、と歯噛みする。 ――が。 「いけませんガドルさん! 勝敗は決しました! これ以上は最早、勝負ではありません!」 「――!?」 今度は、金色の小さな龍だった。 ガドルと呼ばれた男のデイバッグから飛び出したそれが、機銃を弾いて叫ぶ。 しかしアームズドーパントは意に介した様子もなく、飛び出した金の龍を、右の大剣で殴り飛ばした。 ぎゃふんと情けない声音を発して、吹っ飛んで来た金の龍を、名護がその手で掴み取る。 「君は、渡君の……!」 呼び掛けるが、金の龍――タツロットは答えない。目を回して、気絶している様子だった。 今度こそ邪魔者の居なくなったアームズドーパントは、再び機銃を二人へと向けるが、二度ある事は三度ある。 イクサ、タツロットと続いて妨害され続けて来たアームズドーパントの行動を、三度目に掣肘するのは。 「らぁああああああああああああああああっ!!!」 何処となく蛇らしい身体的特徴を持った、灰色の異形だった。 見た事もない灰色の怪人は、後方からアームズドーパントへと組み付き、唸りを上げる。 我武者羅に組み付いた灰色を、アームズドーパントは振り落とそうとするが、そう上手くは行かない。 灰色は、しぶとくアームズドーパントにしがみついて、その行動を封じていた。 「おい、天道に、名護のおっさん! ここは俺様に任せて、お前らぁ逃げろ!」 「直也君!? 無謀な真似はやめなさい! 君一人で勝てる相手ではない!」 「いいか、俺様にかかりゃなぁ、足手纏い二人を助けるくれぇは朝飯前なんだよ! ここぁ大人しく俺様に任せて、お前らはすっこんでろっての、この役立たず共が!」 海堂の声でそう叫んだ灰色が、アームズドーパントに振り払われ、大剣を叩き付けられる。 ならばとばかりに、オルフェノクの力で具現化させたナイフを取り出して、海堂はそれを受け止める。 だけれども、付け焼刃の戦術で歴戦のアームズドーパントの攻撃を裁き切れる訳が無かった。 右のシールドソードで灰色のナイフを払われ、左の大剣で袈裟斬りに身を斬り裂かれる。 大きく仰け反り、その場で倒れ伏した灰色には目もくれず、アームズドーパントは再び二人に機銃を向けた。 「ンのヤロ、させるかよぉおおおおおおおお!!!」 しかし、海堂のしぶとさもさるもの。 すぐに起き上がり、今度は我武者羅に機銃にしがみ付いて、その銃口を逸らさせる。 そんな海堂の灰色の身体に、シールドソードが振り下ろされて、海堂の姿勢ががくりと落ちた。 その痛みに、立つ事すらままならない様子だった。地に膝を付けて、それでも機銃を離そうとはしない。 これでは無理だ。どう頑張ったって、勝てる訳がない。逃げなければ、海堂はこのまま死ぬだけだ。 名護はそんな海堂を救おうとしたのだろう、もう一度立ち上がって、イクサナックルを構えた。 イクサナックルを掌に打ち付けようとするが、そうやって構える名護自体が、既に満身創痍。 馬鹿かこいつは、と思って、気付いた時には、そんな名護の肩を強引に引っ掴んでいた。 「馬鹿なの!? 勝てる訳ないじゃないかっ!!」 「それでも、直也君を見捨てる事は出来ない。離しなさい、総司君!」 「どうして! どうして君ら仮面ライダーは、どいつもこいつもそうやって!」 苛立ちも頂点に達すれば、この身体も勝手に震えるものだ。 名護の肩を掴んだ腕は、怒りと、理解し得ぬ憤りと、良く解らない感情とで、震えていた。 名護といい海堂といい、さっき戦った剣崎とか言う奴も、だ。 仮面ライダーはどいつもこいつも、自分の命を投げ出す様な真似ばかりする。 別にそれ自体は構わない。死を望むというのなら、望み通り殺してやればいいだけだ。 だけれどもこいつらは、そうやって牙を剥いた筈の自分をも救おうとしているのだ。 それがどうにも理解出来なくて、彼はどうしていいのかわからなくなった。 混乱する彼の気持ちを知ってか知らずが、今度は海堂が絶叫する。 「おい天道! お前今、どうしてっつったな!」 元気そうに叫ぶが、本当なら、今の海堂にはこうして口を利く余裕だって無い筈なのだ。 アームズドーパントの機銃を無理矢理上部へ向けるが、そんな海堂の身体を、右腕の大剣が弾き飛ばす。 蛇の皮膚だか装甲だかは、大剣の刃に容易く切り裂かれて、爽快なくらいの打撃音と共に数メートル吹っ飛んだ。 だけれども、海堂はすぐに立ち上がって、もう一度アームズドーパントに組み付いて、叫ぶ。 「俺様にもなぁ、天道、お前みてぇな、どうしようもねえ馬鹿な仲間が居たんだよ!」 「だから……!? それが何だっていうの……!?」 「そいつはなぁ、くっだらねえ事で悩んで、苦しんで、くっだらねえ戦いで死んじまった!」 蛇の顔にも似た海堂の顔面に、重たいシールドソードが叩き込まれた。 うぶっ、とか、そういう情けない声を上げて、海堂は思わず機銃から手を離した。 そんな海堂目掛けて、今度はアームズドーパントの機銃による斉射が撃ち込まれる。 今までは受け続けて来た攻撃はどれもライダーの装甲越しにだったが、今は違う。 海堂は今、その身体に、直接弾丸を撃ち込まれて居るのだ。痛くない筈がない。 弾丸の嵐は容赦なく海堂の身体を吹っ飛ばすが、しかし、それでも海堂は立ち上がる事をやめはしなかった。 「人類を滅ぼすだの何だの言っちゃ居たが、結局、あいつは……最後の最後まで、誰かの為に戦った! ……ほんとはなぁ……俺ぁ、そんなあいつが、ずっと羨ましかったんだよ! 憧れてたんだよ!」 海堂直也の声は、一言紡ぎ出す度に、震えていた。 怒りの震えか、武者震いかは、はたまたそのどちらもなのかは、解らないけれど。 海堂が変じた灰色の異形は、人間よりもずっと逞しくなってしまった拳を握り締める。 そんな海堂の姿に、言い知れぬ気迫を感じて、思わず黙ってしまった。 尚も絶叫を続ける海堂の声は、先程とは打って変わって、重たく感じた。 「なのに、なのに俺ぁよぉ……そんなあいつの死に様に、なんっっっにもしてやれなかった! 木場も、照夫も……俺ぁ結局、誰も守れちゃいねぇ。ただ、指を咥えて見てるだけしか出来なかった!」 今にも泣き出しそうな声音で絶叫して、海堂はその身体を奮い立たせる。 走り込んで行くが、今度はそんな海堂の腹に、巨大な大剣による一撃が叩き込まれた。 言葉は最後まで告げられず、海堂は堪らず倒れ伏して、震える灰色の指を、ぐぐぐと握り締める。 アスファルトと言えど、異形となった力の前にはただ蹂躙され、指の形に砕けてゆくだけだった。 海堂は砕けたアスファルトで出来た砂利を、思いきりアームズドーパントへと放り投げる。 目潰しのつもりだろうが、相手もまた異形。人間の喧嘩戦法などが通用しよう筈も無い。 意にも介さず歩を進めるアームズドーパントに対して、海堂は再び立ち上がった。 「けどなぁ……そんなのはもう、終わりだ! 終わりにしてやる! 俺ぁここで、変わるんだよ!」 「直也君……」 「もうこれ以上、俺様の目の前で誰一人傷付けさせねぇ! 誰一人だって、殺させやしねぇ! 嗚呼そうさ……俺ぁ守るんだ! 今度は俺が……みんな、この俺様が、守り抜いてやるんだよ!」 それは海堂直也という一人の“人間”の、決意の絶叫だった。 そんな海堂に返されたのは、言葉でも何でもなく、大剣による袈裟斬りだ。 思いきり振り下ろされた大剣を、しかし今度は、灰色のナイフで受け止める。 僅かに驚愕した様子のアームズドーパントをよそに、海堂は我武者羅なキックを突き出した。 それを受けて数歩後じさるアームズドーパントの懐へと、海堂は追撃とばかりに飛び込んだ。 灰色のナイフと、シールドソードが激突して、がら空きになった胴へ、左腕が変じた大剣が叩き込まれる。 よろめく身体を根性で支え、それでも海堂は、アームズドーパントに組み付いて、絶叫した。 「おい名護ぉ! 小野寺と、響鬼のおっさんは言ってたよな!? 仮面ライダーは、人を護る為に戦うって!」 「……ああ、そうだ! 俺達仮面ライダーは、人々を護る為、命を賭して戦う正義の戦士だ!」 海堂の絶叫に応える為に、名護もまた、暑苦しい程の絶叫で返した。 アームズドーパントに組み付いた海堂の影に、仄暗い光が浮かんで、その中に海堂の表情が見える。 ぼんやりとしていて良くは見えないけれど、名護の答えを聞いた海堂は、不敵に口端を吊り上げていた。 どうして。どうして海堂は、笑っていられるのだろう。今だって、痛くて、辛くて、苦しい筈だ。 もう今にも倒れ伏して、殺されたって可笑しくないのに、それなのに海堂は、不敵に笑っているのだ。 理解など、とうに越えている。不可解過ぎる事象に対する疑問が、津波の様に押し寄せる。 だけれども、絶叫を続ける海堂と名護の間には、何の疑問も存在してはいない。 それが余計に不可解で、また、不愉快でもあった。 「良く言ったぜ、名護ぉ……ああ、そうだよ……仮面ライダーってのぁつまり、正義の味方だ」 満足げに鼻を鳴らした海堂は、しかしシールドソードによる一撃で吹っ飛ばされてしまう。 だけれども、もう倒れはしない。二本の脚は強く大地を踏みしめて、しっかりと構える。 言い知れぬ気迫が、これまで以上に海堂からは満ち溢れていて、思わず固唾を飲んだ。 それは、アームズドーパントすらも黙って見守る程の、戦士たる圧倒的な気迫。 「なら、もうお前らだけに戦わせる訳には、行かねえよなぁ……だって、今から俺も、なるんだからよぉ――!」 やがて海堂は、大きく息を吸い込んだ。脚は肩幅以上の感覚で踏ん張って、腰は据えて。 右の腕は左肩よりも高く、指まで真っ直ぐに掲げ、左の腕は拳を作り、腰元まで引いて。 子供時代に、誰もが憧れたヒーローのようなポーズを気取って、海堂は声高らかに宣言した。 「みんなを護って、世界だって救っちまう、誰よりもカッコ良い正義の味方に――仮面ライダーに!」 仮面ライダーとは、つまり、そういうものだ。 悪の魔の手から人々の命を救い、世界を覆う陰謀から、この世の平和を守ってみせる。 理不尽な暴力を振るう悪が居る限り、彼らは何度だって蘇り、正義の心を炎と燃やして悪に立ち向かう。 死ぬかもしれないし、負けるかもしれない。勝てる確証なんて、いつだって何処にだってありはしない。 だけれども、護りたいという熱い願いが炎となって燃え滾る限り、そんな恐怖などはすぐに消し飛ぶ。 それこそが、仮面ライダーだ。それこそが、護る為に力を震える、正義の戦士の有るべき姿だ。 今この瞬間、海堂直也はまさしく仮面ライダーの名を名乗るに相応しい真の戦士となったのだ。 そして、そんな海堂が取った構えは、奇しくも護る為に戦った、初代仮面ライダーと同じものであった。 「見ろ、総司君。あれが、きみが理解出来ないと言った、正義の仮面ライダーの姿だ」 そう告げる名護の表情は、真剣そのものだった。 こいつらは、本気で、何の冗談も無しに、正義の味方になるつもりなのだ。 そんな馬鹿二人を見ていると、不思議と心の奥底で、何かが震えるような気がした。 未だに仮面ライダーの名にしがみついて、馬鹿馬鹿しい行いを続ける愚者への怒りか。 それとも、彼の狂行に感化されたこの心が、未だ感じた事もない感情を抱いているのか。 今はまだ前者だと思う。だけれど、不思議と目の前に居る仮面ライダーを否定する気には、なれなかった。 「馬鹿ばっかりだ……どいつも、こいつも」 消え居る様なか細い声で、ぽつりと呟いた。 視線の先では、再び海堂とアームズドーパントが戦闘を再開している。 どんな攻撃を繰り出したって、全身兵器の完璧な戦術が相手では通用しない。 一撃叩き込まれる度に、海堂の身体は軋みを上げて、苦しそうな呻き声を漏らして。 それなのに、海堂は何度だって立ち上がって、何度だって強大な敵に挑み掛かってゆく。 「お前らぁ、いつまで、突っ立ってやがんだ……とっとと、逃げろっちゅーとろーが……! 折角、カッコつけたんだからよぉ……なぁ、最後まで、カッコ、付けさせてくれよぉ」 紡がれる言葉は最早、息も絶え絶えといった様子だった。 解って居た。いくら格好付けた所で、本当はもう限界なのだ。もう、戦える筈もないのだ。 それなのに海堂は馬鹿みたいに格好付けて、自分達二人を逃がす為にたった一人で立ち上がり続ける。 馬鹿だ。馬鹿としか言いようがない。そんな行動の何処に、どんな意味があるというのだ。 そこから理解出来ずに、最早言葉も失って、暫くはぼーっと眺めていた様に思う。 名護はそんな海堂に背を向け、立ちつくす自分の横に並ぶと、不意にその肩を掴んだ。 「行こう、総司君。ここは直也君に任せるんだ」 「へえ、直也君を見捨てる訳には行かないんじゃなかったんだ」 「……彼は今、その命の炎を燃やし、正義を行おうとしている」 「…………」 そこで、気付く。 この肩に置かれた名護の手は、震えていた。 遥か遠くを見詰める名護の表情は、震えていた。 悔しさに、怒りに、苛立ちに、そして、自分の無力に。 打ちひしがれる気持ちを堪えて、それでも名護啓介は、この肩を掴む。 ぐぐぐ、と、変な力が込められて、戦闘直後のこの身体が僅かに痛んだ。 だけれど、そんな名護の姿を見てしまったからには、もう何も言えなかった。 名護は、まるで自身に言い聞かせるように、ゆっくりと口を開く。 「直也君は今……正義を、行おうとしているんだ……!」 震える声で、ゆっくりと、しかし力強く、そう言った。 夕陽の光を受けて、名護の頬に光が走った気がしたが、良くは見えなかった。 頬を流れた光は、一滴の水滴となって、漆黒のアスファルトに落ちると、すぐに乾く。 名護や海堂がどうしてこんな行動に出るのか、彼には理解出来なかった。 結局、誰も彼の疑問には答えてくれていないではないか。 仮面ライダーとは何だ。泣くくらいなら何故逃げ出す。 数々の疑問は胸中で渦を巻いて、彼の精神が再び不安定になってゆく。 何故だ、どうしてなんだ。頭を掻き毟って、荒く息を吐き出し、行き場の無い苛立ちを吐き出す。 そんな彼の気持ちを察知したのか、デイバッグからは一匹の蝙蝠が飛び出した。 彼の周囲を旋回するのは、最後に残った変身手段――レイキバットだ。 「どうやらこの俺の力が必要なようだな、総司」 「レイキバット……解って居るなら、僕に力を貸せ!」 「ふん……いいだろう。行こうか、華麗に、激しく」 彼の腹部に巻かれた黒のベルトに、レイキバットは収まった。 全てを凍て付かせる雪の結晶が、冷気を伴って彼の周囲を舞う。 しかしそれも一瞬でだ。冷気と結晶は、すぐに白き装甲として再構成される。 それは、未確認生物である雪男を、そのままライダーにしたような外見だった。 名護の済むキバの世界とはまた異なるキバの世界に存在する戦士――仮面ライダーレイだ。 レイは名護啓介の身体を担ぎ上げると、一瞬だけ海堂とアームズドーパントへと振り向いた。 海堂は未だに勝ち目の無い戦いに興じて居て、今だって大剣に蹂躙されている最中だった。 「直也君……! 君の正義は、絶対に忘れない! 絶対にだ!」 そんな海堂に向かって、レイに担がれた名護が、声を大にして叫んだ。 恥ずかしいくらいの絶叫だけれど、名護はきっと、恥ずかしいなどとは思ってはいないのだろう。 それはこれから散りゆく海堂への激励のように聞こえて、レイはやはり、言い知れぬ苛立ちを覚えた。 自分達だけ逃げるというのに、これから死ににゆく仲間にそんな言葉を送る事に意味などある訳もない。 先程まで仲間だの見捨てられないだの言っていた事を考えれば、全くもって不可解な連中だと思う。 ともあれ、この姿になった以上、長居は無用だ。戦闘をしたって、勝てる見込みはないのだから。 名護を抱えたレイは、向かう先などは考えず、我武者羅に駆け出した。 065 魔皇新生♪ルーツ・オブ・ザ・キング(後編) 投下順 066 暁に起つ(後編) 065 魔皇新生♪ルーツ・オブ・ザ・キング(後編) 時系列順 066 暁に起つ(後編) 056 3人×3人×3人(後編) 名護啓介 066 暁に起つ(後編) 056 3人×3人×3人(後編) 海堂直也 066 暁に起つ(後編) 056 3人×3人×3人(後編) 擬態天道 066 暁に起つ(後編) 055 強敵金カブ(後編) 天道総司 066 暁に起つ(後編) 055 強敵金カブ(後編) 乾巧 066 暁に起つ(後編) 055 強敵金カブ(後編) ゴ・ガドル・バ 066 暁に起つ(後編)
https://w.atwiki.jp/souku/pages/285.html
《前編》/《後編》 《遅延》《公開済》SNM000182 シナリオガイド 公式掲示板 大怪獣復活の兆し!? 絶空の孤島へ向かえ! 担当マスター 村上 収束 主たる舞台 空京>孤島ゴアドー ジャンル 冒険 参加者募集開始日 参加者募集締切日 アクション締切日 リアクション公開予定日 2009-08-17 2009-08-19 2009-08-23 2009-09-02 リアクション公開日 2009-09-03 サンプルアクション 星槍を手に入れる! + ... ▼プレイヤーの意図 強いアイテムを手に入れたい! ▼キャラクターの目的 星槍を手に入れる! ▼キャラクターの動機 他人を蹴落としてでも聖槍を手に入れたい! ▼キャラクターの手段 地下通路から侵入する。 ホブ子なんて相手にしてられねぇっての。 とにかく、さっさと星槍を持ってる奴を探し出して奪い取る。 持ってるのが寺院じゃなくて生徒でも構わない。 「その星槍、俺の物にする!」 だから、他の連中がピンチだろうが何だろうが関係ないな。 大怪獣復活を阻止する! + ... ▼プレイヤーの意図 華麗に戦闘を決めたい! ▼キャラクターの目的 大怪獣復活を阻止する! ▼キャラクターの動機 単なる怪獣ではなく、大怪獣はさすがに危険だと思った ▼キャラクターの手段 正面口を皆で突破する。 その際にスキルをガンガン使う。 とにかく大怪獣の復活ってのはマズそうだ。 寺院の狙いなんてロクなもんじゃないだろうからな。 そのため学校間の争いをしてそうな奴らはしかりつけて みんなで団結して鏖殺寺院に挑みたい。 「大怪獣を復活させちゃ駄目だ!」 エメネアのために星槍を取り戻す! + ... ▼プレイヤーの意図 チューをゲット! ▼キャラクターの目的 エメネアのために星槍を取り戻す! ▼キャラクターの動機 彼女に本当のキスを教えてあげたいね ▼キャラクターの手段 深い密林地帯を越えて裏口から神殿へ侵入する。 槍を取り返す前に疲弊するのは、なるべく避けたいからね。 神殿に侵入したら寺院の連中や、星槍を自分のものにしようとしている連中から星槍を取り戻してエメネアに返してあげよう。 同じ目的の人と協力できそうなら連携したいな。 「ふふ、キミもチューをゲッツりたいのかい?」 チューじゃ満足できねえなぁ! + ... ▼プレイヤーの意図 ずるくセコく賑やかしがしたい! ▼キャラクターの目的 チューじゃ満足できねえなぁ! ▼キャラクターの動機 星槍とチューは対価ではないと思ったから ▼キャラクターの手段 「おい、姉ちゃんチューだけで星槍取り戻せってのは ちょっと調子が良すぎねぇか?」 といってチューは前払いで、後払いでもっと凄いことを要求します。 無論それは嘘でチューだけしてもらったら逃走。 「あばよ、こんな物騒な島で戦ってられるかよ!」 逃げる途中で敵にやられるなどの結果は、真摯に受け止めたいと思います。 ねばってもチューしてもらえなかったら、腹いせにセクハラ発言連呼して自分の尻を叩きながら逃げます。 その他補足等 [部分編集] 【タグ:000182 SNM 冒険 孤島ゴアドー 村上 収束 遅延公開済】
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/2222.html
前編・後編に分かれています。 ジャンルは後編で制裁系・家族・性描写・虐待ありとなります。 『ゆっくり贅沢三昧・前編』 知り合いの飼っているゆっくり霊夢と魔理沙が子供を多く作りすぎたため 里親を募集していた。 通常、ゆっくりブリーダーの教育を受けたゆっくりは繁殖を抑制することが出来るが その親霊夢と魔理沙は2世である。 野良と比べ人間社会への協調性は高いが世代を経て伝言板ゲームの様にゆっくりとそれは失われていく。 ペットに興味があった私だが動物アレルギーがあったため飼えないでいた。 そこにゆっくりの里親を頼まれたものだから悪い話ではなった。 饅頭に対するアレルギーはなく、またペットショップで購入すると日本円で5万~20万はザラのゆっくりだ。 それをまとめて2匹も無料でわけてくれ感謝までされる。 断る理由がなかった。 それが、こんな悲劇になるだなんて誰が予想できただろう。 「ゆっくちちていっちぇね!」「ゆっきゅりー」 プチトマトサイズの赤ちゃんゆっくり霊夢とゆっくり魔理沙。 えーと、ゆっくりしていってねと返せばいいんだったな。 「ゆっくりしていってね!」 ネットで聞きかじった程度のゆっくりの知識はもっている。 2匹をペット用のケージから出すと居間で自由にさせる。 「ゆっ!」「おにーさんはゆっくりできるにんげんだね!」 ゆっくりの意味が何を指すのかはわからないが、ともかく第一印象は良さそうだ。 さっそくお菓子を与えることにする。 「君たちがお兄さんのお家に来たお祝いだよ」 そう言うと2匹に柔らかい白と赤のマシュマロを盛って出してあげた。 「ゆゆっ!おいちちょーなたべものだよ」 「こんにゃのみゃみゃにももらったこちょないよ」 二匹が喜んでいるので私も嬉しい。 「「むーちゃむーちゃ、ちあわちぇー!」」 この時、最初の間違いを犯してしまった。 あまり幼いうちから美味しいものを与えると飼いゆっくりにとって後に悪影響になるのだ。 それが”普通”のごはんと認識してしまう。 「ちろいやわやわおいちーよ!」 そう言うのは赤まりさ 「あかいやわやわのがおいちーんだよ!」 どっちも味は同じで色が違うだけのマシュマロなのに、赤れいむは赤いほうが美味しいと言う。 2匹は言い争いながら白いのと赤いので分けて食べた。 「ゆっ、しろいやわやわのほうがすくないよ、おにーさんしろいのをもってきちぇね!」 「まりちゃばかりずりゅいよ、おにーさんれいむにはあかいやわやわもってきちぇね!」 どちらも同じなのに、それを主張する2匹は可愛くて ついつい言われたとおりマシュマロのおかわりをとりにいってしまった私。 この時、2つ目の間違いを犯してしまった。 言えばお兄さんはお菓子をもってきてくれる物 それが”普通”そう認識してしまうのだ。 それでも、最初のうちは何も問題は起きなかった。 プチトマトサイズの2匹では戸棚に登ることも出来ないしお皿一枚テーブルから落とす力もない。 花瓶に体当たりをしても弾かれるのは赤ちゃんの方だ。 だから、とてもゆっくりしたペットとの共同生活を送れていた。 2週間後・・・ 2匹はソフトボールサイズの子ゆっくりになっていた。 この頃、子れいむがそこら中におしっこをするようになっていた。 「しーしーでるよ、れいむのしーしーでるよ!」 トイレは新聞紙の上でやりなさいと言っているが、そもそも原因は私が飲ませたオレンジジュースだ。 2匹はジュースをたいそう気に入り、毎日のように飲んでいる。 「まにあわにゃいよ!」 じょろろろろーーーーーーー! 放物線を描いて、フローリングの床におちょこ2杯分程度の少量の砂糖水を放出する。 汚いものではなく、また量も通常の動物と比べては少ないし、饅頭であるこの子達にとっては 命に関わる問題なので注意はしても特に厳しくすることはなかった。 子まりさもオレンジジュースを好んで飲むが、水上で生きれる本能をもつまりさ種は 水の怖さを初めからある程度知っていて水分の過剰摂取を自重する。 だから、お漏らしをするのはいたって子れいむの方だ。 しかし、子まりさの方はもっとひどい。 「うんうんでるよ!まりさうんうんでちゃうー!」 これも、体内の古い餡子を排出しているだけなので汚いものではない。 だから、あまり厳しく接したことはなかった。 「すっきりー♪」 「こらこら魔理沙、うんうんがでるのは仕方がないが後始末はちゃんとしなさい」 「ゆっ!、おにーさんはまりさのうんうんたべてもいいよ! まりさはおなかすいたからおかしをもってきてね!」 まったく、れいむもまりさもしょうがないなぁ。 だが、魔理沙が霊夢のおしっこを「ぺーろぺーろ」舐めとっているので まあ別のを片付けているのだからいいか、と納得してしまう。 今日はアイスクリームのクッキーサンドを食べさせてあげよう。 「ゆゆ!おにーさんれいむをばかにしないでね!」 なぜか、れいむが怒っている。 「れいむは、ぷりん・あらもーどがいいっていったはずだよ!」 「ぷんぷん」と声に出してプクーっと膨れている。 「まりさはあいすさんどでいいんだぜ、とってもゆっくりできるんだぜ」 「むーしゃむーしゃ」 そういえば、確かにれいむにプリンアラモードを食べさせてあげるって言ったな。 間違っていたのは私の方だ。 れいむに「ごめんね」と謝ってコンビニへと走った。 プリンアラモードを買って家に帰ると荒れたれいむがお皿を割っていた。 「おそいよ!ちんたらゆっくりしないではしってね!」 ちょっとカチンときたけどペット相手に頭に来るのもなんなのでれいむに買ってきたものを与える。 すると、まりさが文句を言い出した。 「おにーさん、まりさのぶんがないよ!」 そう言って私の足にポヨンポヨンと体当たりをしてくるまりさ。 さすがに、しつけ方を間違えたかな・・・と不安になっていると 見てるそばかられいむは「しーしーでるよ!」 まりさは「うんうんでるよ!」 その後片付けに追われた。 ゆっくりが家に来て1ケ月。 2匹は十分な栄養をとっていたことでバスケットボールサイズの成体へと成長していた。 もう、すでに教育は不可能な段階である。 これも、私が仕事に追われてしまいここ数週あまり相手を出来ないでいたからであった。 「ゆっ、れいむたちとあそんでくれないおにーさんはのうなしだね!」 「おにーさんがのうなしだから、まりさがれいぞうこまでかりにいってるんだぜ!」 いつの間にか2匹はつがいになっていて まりさは冷蔵庫へ狩を行っていたんだそうだ。 私があげる餌以外にも冷蔵庫の中身がちょくちょく消えていたのはこれが原因であったことを知った。 私が家にいない時間が多かったため2匹は大いに退屈をして それを解決するために”スッキリ遊び”というのを覚えたそうだ。 2匹は私の目をはばからずに「すーりすーり」とほおずりをするやいなや 粘着質の体液が放出され息を荒げていく。 「まりしゃぁぁ、れいみゅのまむまむがきもちいーよ!」 「れいみゅぅぅ!ぺにぺにからなにかくるぅ!でちゃうー!んほぉぉぉぉぉぉおおお!!」 「「すっきりー」」 あっけにとられていた私を横目に2匹は性交を果たす。 れいむの頭からニョキニョキと茎が伸びてきて5つの実をつけた。 居間の隅をみると新聞紙や雑誌を口でちぎり重ねた巣が出来ている。 妊娠したれいむのためのものだろう。 まりさは「かりにいってくるんだぜ!」と言って勝手に私の冷蔵庫へ れいむは 「おにーさんはれいむがあかちゃんをうむしごとをして まりさはかりにいってるんだから、なにかしごとをしてね!ばかなの?にーとなの?」 と罵声を浴びせてくる。 舌が肥えてしまったれいむは、すでに一流店のスイーツでなくては食してくれず。 コンビニ製なんてもってのほか 私はそのためにたびたび隣町まで買出しに行かされた。 多めに買っておいても冷蔵庫から勝手に魔理沙がひっぱりだして勝手に食べてしまう。 赤ちゃんが生まれたら、この苦労は2匹から7匹へと3倍以上になるのか・・・ そう思うと表情が曇りため息がでた。 隣町からの帰路、トボトボと歩いていた。 「もし、そこのお兄さん、ゆっくりの事でお困りじゃないですか?」 突然、声をかけられた。 その男、名を虐待という。 その男に全てを見透かされているような気になった私は つい、これまでのいきさつを男に話した。 「ふむふむ、つまり2匹に教育を行う・・・それと、去勢に不要な子の駆除」 「あの・・・おいくらになるんでしょうか?」 ゆっくりブリーダーが手がけると無料同然のゆっくりでもペットショップで数万円で売れる。 つまり、プロへの依頼はそれなりに値段と期間がかかるものなのだ。 特に成体な上に我侭三昧となると難易度は隠しモード級であろう。 去勢にしても病院へ行かなくてはいかない。 しかし・・・ 「いいえ、お代は結構です!」 その瞳に、いっぺんの曇りなく 金色の野に降り立った救世主のようであった。 『ゆっくり贅沢三昧・後編』に続く 過去の作品:ゆっくり繁殖させるよ! 赤ちゃんを育てさせる 水上まりさのゆでだこ風味 作者:まりさ大好きあき このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/tasidokami/pages/65.html
田代まさし「獄中で見た景色、あのころの家族の夢」 今年の6月に元タレント・田代まさしが3年半ぶりに出所、7月には都内でトークライブを行ったことを本サイトでも伝えた。 田代氏は04年に二度目の覚せい剤所持が発覚して逮捕・投獄、約3年半の刑期を終えて黒羽刑務所を出所した。 その後、雑誌『創』主宰のイベント等に出演するものの、これといって大々的な復帰の話は聞かない。 では、現在田代氏は一体どういう生活を送っているのだろうか。 我々取材班は東京某所を訪ね、獄中生活と現在の胸中について語ってもらった。 ──出所されてから3ヶ月が経ちましたが、体調はいかがですか? 【田代】 体調も良くなって、やっと人間らしくなってきました。 "シャバボケ"といって、長年刑務所に入っていた人が出てくると社会に適応するまで3ヶ月程かかるそうなんですが、ようやく自分も現実に慣れてきたと思う。 今は毎日散歩をしたりテレビを見たりして自宅療養しています。 ──刑務所ではどんなことを考えていましたか? 【田代】 とにかく辛くて、何も考えられなかった。一刻も早くここを出たいと思っていました。 それほど人間的な環境ではありませんでした。 一番辛かったのが、刑務所は夜9時就寝なんですが、僕は夜型人間だったので全く眠れなかったこと。 テレビは夜2時間見られるんですが、9時になると一斉に消されるので寝るしかない。 しかも、一時間おきに見回りが来るのですぐ目が覚める。 中には、北朝鮮の兵士みたいに大きな足音を立てる看守がいて、これがムカつくんですよ。 忍者みたいに足音を忍ばせて歩くような優しい人もいたけど、それでも寝つきは良くなかった。 仕方ないので睡眠薬をもらって寝るようにしました。多いときには5錠も飲んで......だんだん減らして、最後は1錠で眠れるようになりましたが。 ──夢は見ましたか? 【田代】 幸せだったころの......家族の夢は、よく見ました。皆で海外旅行に行ったり、かみさんとケンカしている夢。 あんなことで怒らなきゃ良かったな、って思いましたね。 ──日中はどういう生活でしたか? 【田代】 風呂は1日おきとか、とても規則正しい生活だった。 平日は朝6時半に起床して、朝食後に工場へ出かけて作業をしていました。僕が入った工場は、障害者や老人や政治家などが入るような所だったんです。 どうやら、目立たないように、と気を使ってもらえたらしくて。でも、障害者が多かったので、仕事が単純作業で辛かった。 紐を通したり、袋を折ったりを延々と繰り返すだけで、時間が過ぎるのが本当に遅く感じました。 ──他の受刑者は田代まさし本人だって気がついていましたか? 【田代】 印象的だったのは、『この刑務所に田代まさしが入ったの知ってる?』と聞いてくる受刑者がいたこと。 僕の胸には『田代』とはっきり名前が書いてあったので、『俺がそうなんだけど』と返したら、『違う。あの昔歌手だった田代まさしだよ』と言われた。 その時、ひげもそって頭坊主で眼鏡もしてないので解らなかったのかもしれない。 もしくは刑務所生活のせいで、形相が変わってしまったのかな、ってショックでした。 そうかと思ったら、ずっと話したことがない同じ年代の受刑者がいたんですが、彼が出所する2日前にね、『大ファンでした、握手してください。 もっと話したかったんですが、ご迷惑かと思って。これからも頑張ってください』と言ってきたり。 他にも、若い受刑者で『出所したら、償いのために100キロマラソンやりましょうよ』なんて、僕の復帰案を考えてくれた人もいました。 ●月給900円、独居房でひとり過ごす日々 ──映画のシーンであるような、カマを掘られたり、というようなことはなかったんですか? 【田代】 僕は独居房だったからそういう心配はなかった。でも、オカマの男性がいて、すごく気に入られましたね。 刑務所を出たら七夕に会いましょうよ、ってしつこく言われて......。結局連絡は取らなかったけど。 ──体罰等はありましたか? 【田代】 体罰はなかったけど、威圧的な看守はいました。怒られたことは一回ありましたね。刑務所って朝飯は一品しかおかずが出ない。 前の日にメニューが張り出されるんだけど、次の日の朝のおかずが塩辛だった時があって。 僕は塩辛が食べられないので、『嫌だなあ』と思っていたら、前日の晩ご飯にでっかい厚揚げが出た。 『これを食べないで残しておこう』と思い、隠しておいて朝になってそれをご飯と一緒に食べてたら、看守に見つかって。 そのまま取り調べ室に連れていかれ、その後に所長や副所長全員にこっぴどく怒られた。 罰として、半年無事故証を剥奪されて、月給900円のうち500円を罰金として徴収されました。 ──半年無事故証というのは? 【田代】 受刑者にはランクがあって、入った時はみんな4等級です。無事故、無違反を続けていると徐々に昇級できるようになって、待遇も変わる。 たとえば、3等級まで上がるとお菓子が食べられたり。刑務所には月に一回だけお菓子が食べられる日があるんです。 それくらいしか楽しみがないので、食べられないと本当にショックだった。刑務所は飯が不味いですからね。 "くさい飯"というけれど、本当に臭い。麦と白米の半々のご飯なんだけど、独特のにおいがする。 トイレがすぐ傍にあるせいかもしれないけど。 ──休日や年末年始はどう過ごしていたんですか? 【田代】 工場は土日が休みで、その他に、年末年始・お盆・ゴールデンウィークも休みがもらえた。 大体は本を読んで過ごすか、寝ていました。 大晦日は12時まで紅白歌合戦を見せてくれる。年越し蕎麦は出るけどお湯がぬるくて......。 年末年始は3日間くらい休みで、ちょっといい映画が放映される。食事もおせち料理が出るんだけど、それが中途半端なものばかりで、逆にシャバが恋しくなりました。 ──刑務所の中で読んで印象に残っている本は? 【田代】 感動したのは、リリー・フランキーの『東京タワー』。僕のお袋が九州出身で、しかも僕が売れかかったところでお袋が死ぬ、という設定がリンクして、ほろっとしてしまった。 ──薬の禁断症状や性的衝動はなかったんですか? 【田代】 食事の時に配られるお茶に"精力を減退させる薬"が入っているという噂があって......そのせいかは解らないけれど、3年半いる間、オナニーも含めてそういう気は一切起こらなかったですね。 薬の禁断症状も一切起こらなかった。僕がかかった病気は水虫くらい。3年半の間に、完全に薬は抜けました。 刑務所の中でも薬物講習があって、自由参加だったので受講してみたけれど、あまり役に立たないものだった。 むしろ、薬のことを忘れてるのに何故もう一度思い出さなくてはいけないのか、と逆効果だった。 出所会見の時に、『病院に行ったほうがいいよ』と言う人もいたけど、せっかく薬が抜けたのになぜまた薬と向き合う必要があるのか。薬を絶つのは最終的には己自身だから、施設に頼るのは納得いかない。 覚せい剤のせいで迷惑かけた人の顔がたくさん浮かんできて、今は目の前に薬を出されても捨てる自信がありますね。 * * * 刑務所の中で薬は抜けた、とはっきりと言い切った田代氏。確かに、出所直後の会見に比べて顔色も良くなり表情や声も安定し、テレビで活躍していたころとまではいかないが、ずいぶん回復したようにも見える。 それでは、そもそも何故、田代氏は覚せい剤に手を染めるようになっていたのだろうか......。 後編につづく http //www.cyzo.com/2008/10/post_992.html
https://w.atwiki.jp/magichappy/pages/537.html
▼ The Emissary (San d'Oria) ゲルスバ野営陣、高台の集落にいる Warchief Vatgitを倒してこい。 北サンドリア / バストゥーク領事館 通常時 + ... Helaku 私が、領事のヘラクだ。 領事への紹介状は持ってこなかったのか? まあ、せっかく来たんだから、観光でもして いけばいいだろう。 Baraka バストゥーク領事館へようこそ。 サンドリア国籍の場合 + ... Helaku ようこそ。 私が、バストゥーク領事のヘラクだ。 Baraka サンドリアの方ですか? ここはバストゥーク領事館。バストゥークからの 冒険者に、いろいろな世話をするところです。 ウィンダス国籍の場合 + ... Helaku ようこそ。 私が、バストゥーク領事のヘラクだ。 Baraka ウィンダスの方ですか? ここはバストゥーク領事館。ウィンダス領事館 なら、入口を出て向かい側に見える建物です。 Danngogg ヘラク領事に御用なら、奥の部屋へ 行くといい。 Helaku 紹介状を持った冒険者か。 ちょっと今手が離せないのだ。悪いが、 先に領事館員とでも話をしておいてもらえるかな? Shakir 本国から依頼を受けてきた方ですね? 詳しいことは領事のヘラク様に聞いてください。 Baraka 本国から依頼を受けてきた方ですね? 詳しいことは領事のヘラク様に聞いてください。 Lion へえ、そうなの……。 わかったわ、どうもありがとう。 Lion はるばるバストゥークから来たのね? 私はライオン。旅の冒険者よ。 Lion もう、誰かに聞いたのかしら? ここの獣人オークたちは、北西にあるゲルスバを 前線基地として、この国を虎視眈々と狙っている ようね。 Lion オークたちは、とても凶暴な性格で、 道行く人々を襲ったり、子供をさらったりして サンドリアの住民に脅威を与えているわ。 Lion ただ、ひとつ気になることがあるの。 Lion もともと、オークの連中は、それほど 頭が良くないんだけど、だんだんと高度な武装を するようになってきたらしいの。 Lion もしかすると、オークたちの裏で 何者かが糸を引いている可能性もあるってわけ。 Lion とにかく、早く奴らの企みを暴いて、 何らかの手を打たないと、この国は危険だわ。 Lion 聞くところによると、サンドリアの 王室内では、何かとゴタゴタが多いらしいけど、 もっと外に目を向ける必要があるはずよ。 Lion この先、いろいろ大変だと思うけど、 あなたも頑張ってね。それじゃ。 Helaku ようこそ。 私が、バストゥーク領事のヘラクだ。 Helaku 遠いところを御苦労だった。 まずはサンドリアの現状について、簡単に説明を しておこう。 Helaku ここサンドリアから、北西の方角に ゲルスバ野営陣という、オークの集落がある。 Helaku 奴らは、ゲルスバを前線基地として サンドリアへの侵攻を企てているようなのだが、 どうも腑に落ちぬところがある。 Helaku そもそも、オークの奴らは獣人。 大した知能を持ってる訳ではない。頭の悪さは ヴァナ・ディールで1、2を争うだろう。 Helaku ところが最近は、奴らの武装が だんだん高度なものになりつつあり、飛び道具や ワナなども使うようになってきた。 Helaku どうやら何者かが、裏で獣人たちを まとめているのではないか、と思われるのだが 詳しいことは、まだ判っていない。 Helaku 本来ならば、すぐにでもゲルスバへ 向かってほしいところだが、ミッションの管轄は 当然、サンドリア王国ということになる。 Helaku まずはドラギーユ城へ出向き、宰相の ハルヴァー(Halver)殿から、正式にオファーを 受けてほしい。 Helaku この建物から出ると、右前方に大きな 城が見えるだろう。そこがドラギーユ城だ。 くれぐれも粗相の無いようにな。 Helaku この建物から出ると、右前方に大きな 城が見えるだろう。そこがドラギーユ城だ。 くれぐれも粗相の無いようにな。 ドラギーユ城 通常時 + ... Halver ここはドラギーユ城だ。 王族が生活する場所でもある。 静粛に、粗相のないようにな。 Halver バストゥークからの冒険者か。 特別任務に対して、名乗りを上げてくれたことに ついて、まずは敬意を表する。 Halver だが、我々サンドリア王国は バストゥークやウィンダスと、仲良しごっこを するつもりなど毛頭ない。 Halver だいたい、何の取り柄もない奴らが 誇り高き我々エルヴァーンと肩を並べようなどと 思っている事が、鼻持ちならんのだ。 Halver そうかと思えば、生意気なチビやら 使えないデクの坊、猫に毛の生えたような奴まで しゃしゃり出て……ああ、嘆かわしい! Halver まあ、小言はそのへんにして…… Halver では、特別任務を通達する。 サンドリアの北西にある、ゲルスバ野営陣へ 出向いてもらいたい。 Halver ゲルスバ野営陣の中腹あたりに、 高台の集落と呼ばれる場所があるのだが、 その集落のボスであるWarchief Vatgitを 倒してきてほしいのだ。 Halver 集落の場所だが、ゲルスバ野営陣に 入って少し進むと、1本の川があるのだが、 その川を渡ってすぐ、東のガケの上に 集落が見えるはずだ。 Halver 任務完了の報告をするのなら、 自国の領事館へ行け。ここはおまえのような 者が、何度も来るところではないからな。 Halver そもそも、たかがオークども相手に 我がサンドリア王国が出ていく必要もなかろう。 冒険者ふぜいが小金を稼ぐには良いだろうがな。 Halver 何度も同じ事を言わすな。早く行け。 北サンドリア / バストゥーク領事館 Helaku ハルヴァー殿から、正式なオファーを 受けたようだな。気を付けて行ってこいよ。 ゲルスバ野営陣 [Your Name]は、Warchief Vatgitを倒した。 称号:ウォーチーフ レッカー 北サンドリア / バストゥーク領事館 Helaku 御苦労だったな。ケガはなかったか? Helaku ハルヴァー宰相から聞いたんだが、 Warchief Vatgitを倒しに行ったらしいな。 Helaku たくさんの冒険者がゲルスバ野営陣に 任務で出かけていくんだが、たいがいの奴らは 高台の集落で、撤退してくることが多いんだ。 Helaku ともかく、よくやってくれた。 領事としても誇らしい限りだ。礼を言うぞ。 Helaku サンドリア王国には、 [Your Name]を冒険者として承認するよう 私から話を通しておくからな。 Helaku さあ、残る国はウィンダスだけだ。 この先、なにが待ち受けているか判らないが、 充分、気をつけていくんだぞ。 Helaku さあ、残る国はウィンダスだけだ。 この先、なにが待ち受けているか判らないが、 充分、気をつけていくんだぞ。 ▲ バストゥークを離れて(前編) バストゥークを離れて(サンドリア編)(前編) バストゥークを離れて(ウィンダス編)(後編) ■関連項目 バストゥークミッション Copyright (C) 2002-2012 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
https://w.atwiki.jp/kskani/pages/200.html
上と、下(前編) ◆S828SR0enc 加持にとって、人っ子一人いない夜の街というのはさほど重苦しいものではない。 使徒の襲来や、あるいはセカンドインパクトという悪夢の前では無人の風景など大したものではないからだ。 だというのに、 (気味が悪いな……) なのはの後を行く加持の心には、言い知れぬ薄ら寒い感覚があった。 無人の街。 立ち並ぶ建物の一つ一つを見るならばごく普通の街そのものなのに、人の息遣いがまったくしない。 常ならば夜中でも誰かがいてしかるべき警察署も、明かり一つなく静かに夜に佇んでいる。 当り前のものが当たり前でない様というのは、思ったよりもぞっとするものだった。 「…………」 「…………」 なのはも先ほどから口をきかないのは、この奇妙な不安のためだろうか。 闇夜に浮かぶ警察署の壁面のポスターには空気に似合わぬ能天気さで、『交通安全』だの『森林保護』だのと書かれている。 その黄色や緑色の文字や絵の明るさがかえって気分を落ち着かなくさせた。 「……誰も、いませんね」 ちらりと警察署の中を覗き込んだなのはが意気消沈したように言う。 「もともとホテルに行くつもりだし、大丈夫ですよ」 元から期待してなどいなかった。何も問題はない。 不安を織り交ぜた表情のままに歩き出したなのはを追って、加持も夜の街を進んでいく。 警察署の扉に張られた『子供の安全を守ろう!』というポスターが悲しげに風に揺れていた。 あまり変わり映えのしない街ではあるが、地図のおかげでおおよその位置の見当は付けることが出来る。 この調子なら六時前にホテルにたどり着けるだろうと思いながら、加持は地図を指でなぞる。 そうやって歩き続け、B-4とB-5の境目あたりまで来たときだった。 「え?」 突如として先を行くなのはが、がくんと首を上に傾けたのだ。 思わずつられて空を見る。 未だ夜を色濃く残した暗い空を背景に、巨大な影が『飛んでいた』。 「……はぁ?」 加持の口から呆けた声が漏れる。 彼の常識に合わせてみれば、空を飛ぶのは鳥か飛行機か化け物くらいだ。 だというのに今彼らの頭上を横切ったのは、どこからどうみても「頭に翼の生えた人間」だった。 とっさにもしかしたら巨大な鳥に捕まった人間かもしれない、などと思うが、そんな話があるはずもない。 使徒という明らかに非常識な存在とかかわりが深いとはいえ、にわかにお伽噺の世界に放りこまれたかのようで加持は混乱する。 ゆえに、次に起こったことについての反応が遅れてしまった。 「すみません、加持さん!」 未だ空を見上げて衝撃を隠せない加持の横を、なのはが叫びながら駆けていく。 そして彼の見ている前で何事かを呟いた彼女は、地面を勢いよく踏み切ると同時に『飛んだ』。 「…………」 「あとで必ず行きますから、先にホテルに向かっていてください!」 何やら焦ったようになのはが言うが、加持はその衝撃に言葉もない。 加持をちらりと振り返る彼女の足はすでに付近の家々の屋根よりひとつ高いところにある。 そして先ほど影が飛んで行った方向に向きを変えると、宙を泳ぐ魚のように迷いなく西へと飛んで行ってしまった。 しばし、静寂がおちる。 加持がゆっくりとため息のように細い声をもらし、再び歩き始めるまでに五分近く時間は流れていた。 それほどの衝撃だったのだ。 「おいおいおいおい、聞いてねぇよ……」 ただものではないと思っていたが、空を飛ぶ人間だったとは。 嘆息すると同時に、先ほど彼女に手を出さなかった自分の判断を褒めたい気分だった。 あの調子では、たとえばATフィールドじみたバリアーなども使えたりしてしまうかもしれない。 性格に難ありで、しかしスペックは期待以上。 喜ぶべきか、それとも泣くべきかという気持ちだった。 「あーあ」 少し考え、結局喜ぶのも泣くのも後回しにすることにした。 今の自分は銃を隠しているとはいえ一人きりだ、余計な行動をとる理由もない。 言い知れぬ予感を胸に、加持はホテルに向かうべく足を東に向けた。 ◆ ◆ ◆ 空に上がった瞬間、なのはの思考から加持のことはほとんど消えていた。 無力な一般人、保護すべき人物を危険地帯に置き去りにする。 「時空管理局の」高町なのはならば絶対にあり得ない行動だ。 だが今の彼女にその意識はない。 彼女の心を占めるのは、先ほど自分たちの上を横切った謎の影だけだった。 (もしかしたら、もしかしたら……!) なのはの心が焦りに叫ぶ。 先ほどの影に魔力らしき反応は感じられなかった。とはいえ、一瞬の交錯だから確実とは言えないが。 しかし、それは置いておいても、空を飛んでいたのは小柄な人影。少女のような体躯。 もしかしたらそれは、なのはが探し続けているヴィヴィオではないか? (早く、早く……!) なのはは飛ぶ。 先ほどの人影が明らかにヴィヴィオより背が高いとわかっていても。 その魔法にかかわる十年に及ぶ経歴において大きな損失をしたことのないなのはの、数少ない傷。 愛娘ヴィヴィオを奪われ、それを止められなかったというあの事件は、予想以上に彼女の心のトラウマとなっていたのだ。 ゆえに、一パーセントでもそれが彼女の大切な娘である可能性があるのなら、なのははそれを追わずにはいられない。 自分の矜持をかなぐり捨ててでも守りたいものが、今のなのはにはあった。 しかし、そんな彼女を嘲笑うかのように、体からは力が抜けていった。 がくん、と宙を飛ぶ速度が下がる。口からせわしなく荒い息が漏れ、こめかみを汗が伝う。 「……っ、なんでぇっ……!?」 悲鳴のような声を喉が上げた。 この島に来た時から感じている魔力の不足、それが如実になっていた。 いつもならば何の苦もなく飛べる距離、飛べる速度であるのに、なのはの体は言うことを聞いてくれない。 全身に汗が滲み、空気の抵抗によって手足や胸が痛む。 主催の力によって制限された魔法、そしてデバイスの補助なしでの飛行はあっという間になのはの体力を奪いつくしていた。 「う……っくぅ……」 加えて、先をいく人影の複雑な飛行軌道もなのはを消耗させていた。 何かを探しているのか、不規則に曲がり、くねり、ターンしたと思ったら上昇し、また下降する。 近未来的なミッドチルダにて過ごしていたために完全な暗闇に慣れていないなのはにとって、それを闇の中で追うのはただ事ではなかった。 ぐるりとビルを半周するように動いた時など、危うくバランスを失って堕ちるかと思った。 そうしてなのはの速度が落ちていくというのに、人影はさらに速度を増している。 今にも西の空に消えそうな月を追いかけるかのような人影は、そこだけ切り取ればロマンチックでさえあった。 もちろん今のなのははそれどころではないのだが。 「はっ……はぁ……」 呼吸も荒く空を行くなのは。その汗の流れる頬を、時々南の天地を焼く極光が輝かせた。 すさまじい轟音とともに空を貫く光。森の木々をなぎ倒しながら進む光線。 そういったものを飛行中になのはは何度も目にし、耳にした。 そのたびになのはは本能的にそちらに向かおうとし、そしてぐっと目をつぶってまた人影を追う。 またひとつ、またひとつと「管理局のエースオブエース」らしからぬ自分が積み重なっていく。 自己嫌悪が膨れ上がる今の彼女を支えているのは、ただ愛娘への思いのみだった。 (ヴィヴィオ……ヴィヴィオぉっ……) 彼女は飛ぶ。 うっすらと明るさを取り戻し始めた世界を、かすかに瞳を潤ませて。 守りたいものを守るために、悲鳴を上げる体を必死に行使して、西の空を飛ぶ。 それでも、いつかは限界が訪れる。 突如として体の自由が利かなくなり、飛行速度がゼロになる。 半ば意識を失うようにして、力尽きたなのははゆっくりと学校の中庭に落ちた。 彼女の着地地点が柔らかな草の生い茂る花壇であったことだけが、不幸中の幸いだった。 「……っ」 ぼふ、と音をたててなのはの体が草の上に横たわる。 口からははぁはぁと荒い息しか漏れない。見上げれば、空にあの影はない。 思わず、ぽろりと涙が瞳からこぼれた。 (私、何をバカなことをやっているんだろう……) ヴィヴィオかもしれないと希望にすがって、ごく普通の人間である加持さんを置き去りにした。 人影を追うことに夢中で、あちこちで起こった戦いの跡を見逃した。 そして今、力を使い果たし、何もできないままにここに倒れている。 (情けない……) ぽろぽろと涙が頬を伝う。 時空管理局に勤め幾多の戦績を誇ってはいても、彼女はその実まだ十九歳の女性にすぎないのである。 いつも当たり前に使いこなせた力を失い、友は行方知れず、守るべき者がいるというのに何もできない。 ここにいるのは管理局の高町なのはではない。ただの高町なのはだ。 そしてその高町なのはは、なのは自身が思っているよりもちっぽけな、ただの人間だった。 「…………」 小さく涙をこぼしながら、なのははゆっくりと起き上がる。 不安に打ちのめされてはいても、彼女の心根には歩こうとする強さがある。それが彼女を立ち上がらせていた。 涙に潤む視界を振り払うように、彼女はぐるりと中庭を見回す。 そして、あまりにも不吉な「それ」に気がついた。 「……え?」 南側の、教室の一室。机と椅子とが雑然とならんでいるだけの部屋。 その部屋の真ん中になにか真っ赤なものが散らばっており、そこから飛び散ったであろう赤で窓が塗りつぶされていた。 体より先に、足が動く。 その教室の窓には、幸いと言うべきか鍵がかかっていなかった。 ペンキのような赤が飛び散っていない窓を選び、がらりと引く。 教室の中には、濃厚な血のにおいが充満していた。 「うっ…………」 なのはの顔がゆがむ。 教室の中央にあったのは、誰がどう見ても肉の塊だった。 真っ赤な血を纏わせ、流した、ぶよぶよしたピンク色の内臓と黄色い脂肪、そして白い骨と筋肉の塊。そうとしか言いようのないもの。 「それ」が纏わりつかせた服の切れ端と思わしき布だけが、かつて「それ」が人間であったことを証明していた。 「ひ、ひどい……」 幾多の、時には世界規模の危機にかかわってきたなのはでも、初めて見るような無残な死体だった。 重い何かが何度もその体を押しつぶしたかように、その肉塊はぐちゃぐちゃに歪みきっている。 頭蓋骨と思わしき砕けた骨に絡みつく短い髪と、血まみれの服の残骸から、かろうじてそれが男であっただろうことが読み取れた。 なのはの心に小さな安堵と、大きな絶望が生まれた。 安堵は「それ」が明らかにここに呼ばれた仲間ではなかったため、絶望はこうしてすでに死者が出ているためであった。 なのはの瞳から、一度は止まった涙が再びほろりとこぼれる。 それは不安からくるものでも絶望からくるものでもなく、後悔からくるものだった。 「ごめん、ごめんね……」 なのはは小さく謝り、泣いた。 ひょっとしたら、自分がヴィヴィオを探すのではなく人助けを優先していたのなら、彼は助かったかもしれない。 魔法の行使に躊躇いを持たず、最初から空に上がって怪しい人がいないか探していたら。 あるいは、自分が加持とともにホテルに向かわず最初からこちらに向かっていたら。 こんな場所で、こんな無残に死ぬことはなかったのかもしれない。 このような非常事態にあっても、なのはの根底は変わらない。 苦しんでいる人がいるならば自分がどうなろうと力になってやりたい、それがなのはの信念だった。 例え自分がそのために傷つこうと、人を助けられるのが嬉しかった。 だから、助けられたかもしれない人を助けられなかったという事実は、なのはの心の深いところを痛めつける。 静かに涙をこぼしながら、なのははそっとその遺体に近づく。 異臭が立ち上り、胃がひっくり返りそうな姿になってしまってはいるが、この人もかつては普通の人間だったのだ。 もしかしたら、将来を夢見る学生だったのかもしれないし、子供を愛する親だったのかもしれない。 その体を、このまま無残に冷たい床にばらまいておくわけにはいかないと思った。 「すみません、こんな、でも……」 小さくあやまりながら、なのはは室内に置かれていた「もえるゴミ」と書かれたごみ箱を取り上げる。 一度教室から出て中身をすべて捨て、水道でそれを洗う。 廊下にはべっとりとした血の足跡が玄関まで続いていた。「彼」を殺した殺人者のものだろう。 だがそれにはかまわず、なのはは教室に戻る。何かが麻痺したかのように、血も異臭も気にならなかった。 そして何度も謝りながら、「彼」の残骸をごみ箱のなかに流し込んでいく。 「ちょっとだけ、ちょっとだけ我慢してくださいね」 なのははゴミ箱を窓から外に出し、自身も中庭へ戻る。 中庭には誰かが出しっぱなしにしたのか、大きなスコップがごろりと転がっていた。 それを持ち上げ、花壇の土を掘っていく。 骨の折れる作業ではあったが、土が柔らかかったためにさほどの時間もかからず、人一人入れそうな穴が開いた。 そっと、慎重な手つきで「彼」をそこに流し込む。 直接埋めるのはためらわれたので、あらかじめ近くの教室から失敬したカーテンで遺体をくるみ、土をかけていく。 そうして出来た小さな墓に、花壇に咲いていた赤い花を添えた。 「ごめんなさい、こんなことしかできなくて…… でも、せめて、どうか安らかに眠ってください」 墓に手を合わせ、途端に力尽きたようになのははその場に座り込んだ。正直、体力も気力も限界だったのだ。 見上げれば空はすでに太陽がその姿を現し始めたのか、夜の黒から昼の青へと色を変えつつある。 校舎ごしに差し込む生まれたての陽光が、なのはと小さな墓を薄紅色に照らしていた。 「私……」 思わず、つぶやきが漏れる。 「私、守るから。みんなを守るから」 墓の下の「彼」に言っているのかは、自分自身でもわからない。 「ヴィヴィオも、加持さんも、この殺し合いに巻き込まれた人たちみんなを、守るから。守れるように、頑張るから」 それは、なのはの心の一番奥から出てきた言葉だった。 守りたい。 みんなを守りたい。 誰にも死んでほしくない。 ヴィヴィオも、フェイトちゃんも、スバルも、加持さんも、まだ見ぬ人たちも、全て。 そして、あの場所に帰りたい。 それがなのはの望みだった。無力を嘆いていても、なのはの心の奥はいつもそう願っていた。 そしてそれが出来るかもしれないだけの力を、なのははその胸の中に確かに秘めているのだ。 「探さなきゃ……」 ここで無力に打ちひしがれている暇なんかない。 ヴィヴィオを、みんなを探し出し、守る。 今は疲れきっていて体が動かないけれど、もうしばらく休んでいけばある程度回復できるだろうから。 そうしたら、飛んででも、走ってでも、ホテルに向かおう。 加持さんや、まだ知らない人たちが自分の助けを待っているかもしれない。ヴィヴィオも、近くにいるかもしれない。 「…………」 明け方の空をぼんやりと眺めながら、なのはは今は傍にいない相棒を思った。 「彼女」の名を思い出し、心に刻む。そうして立ちあがり、少しずつ歩いていきたい。 「不屈の心は、この胸に」 それが誰でもない、高町なのはなのだから。 ◆ ◆ ◆ 明け方の空は、雲一つないこともあって場違いなほどに美しかった。 とはいえ、そんなことに感傷を覚えるほどに小砂という少女は純粋ではない。 それよりもよっぽどの重大事が、彼女に起こっているのだから。 「おえっぷ……」 色気もなにもない声を出し、小砂は空を行く。正直言って吐きそうだった。 『小砂君、大丈夫か?』 「この顔色みて、平気だと思うわけ―――ううっ」 なれない上下運動。見慣れない緑色の塊。 加えて、人探しのために曲がったりくねったり、昇ったり降りたりを繰り返した飛行の軌道。 おまけに、砂漠に生きる彼女には物珍しい、鉄筋の組み込まれた家々に時折混ざる高い建造物。 『ふむ、君は一度平衡感覚のテストをしたほうがいいかもしれないな』 「んなこと言ってる暇があるんならちょっとは気遣って飛べ―――うぷっ!」 はっきりと言おう。人探しのために空を飛んでいながら、途中から小砂は意識が朦朧としていた。 ぶっちゃけ、市街地など見ている暇はなかった。 それよりもこみ上げる吐き気を抑えなければ、空を飛びながら胃の中身を撒き散らすという恐ろしい現象を起こしてしまう。 他人の迷惑など大して考えない彼女でも、空からそんなものが降ってくる光景というのは非常に気色悪かった。 「この依頼、私には不向きだったかも……」 口を手で押さえながら、小砂は市街地を見下ろす。夜が明け始めうっすらと太陽が出てきたため、ずいぶんと視界はよくなった。 それに二時間近く飛んでいたので、吐き気というかこの不安定感にもようやく慣れ始めていた。 『人影はなし、か』 「どれだけの人間がここにいるかって話だしねー……っていうかさぁ」 『ん?』 「これ、人が建物に隠れていたら意味なくない?」 飛び始めてよりの疑問を口にすると、頭上の翼兼ネコミミはしれっとこう言ってのけた。 『だからこその君だ。なんのために私が君をこうして飛ばしていると思う?』 「……日向冬樹を探すため、でしょ?まぁ他にも人を見つけるように頼まれてはいるけどさ それと何の関係があるわけ?」 『私は飛ぶ、君が見る。そういうことだ』 その言葉を少し噛み砕いてみる。 別にネブラにだって眼はある――先ほどのタママとの戦いを思えば明らかだ。 そのネブラが飛ぶ役で、自分が見る役、ということは――― 「ねぇネブラ、まさかだけど私に建物の中を透視しろとか言ってない、よねぇ?」 『? そのまさかだが』 「やっぱりかぁっ!」 透視しろ、というか、はたから見て中に人がいるのを分かれ。 それがネブラの意図らしい。 自分には人の心情を理解するのは専門外だから、同じ人間の君ならわかるだろう、と。 「無茶言うなって!人間は外から見て中を慮るなーんてことは普通出来ないの! まして日向冬樹なんて全然知らない人間のことなんか、ぜんっぜんわかんないんだから!」 『おや、そうだったのか? それでは私も人類の相互理解に対し少し認識を改めねばならないということなのか? 』 「あったりまえでしょうが!っていうか―――」 『待て、小砂君。人だ』 小砂を遮って、硬い声が飛ぶ。 翼の先が器用に湾曲し、ひょいと指の形になって前方をさす。と同時に、少し高度が下がる。 見れば、四角くて真中が開いた建物――地図で確認するに「小学校」の中庭と思わしき場所に、人がいた。 空を見上げながら、ぼんやりと物思いにふけっている。 「あれ、はどう見ても女だよね……」 『そうだな、日向冬樹ではない』 「冬月さんが言っていた、えーっと『惣流・アスカ・ラングレー』は確か茶髪の女だよね…… あ、でも明らかにあの女は十五歳じゃないな、もっと年上だから違うか」 『どうする?声をかけるか?』 あー、という声が小砂の口から洩れる。明らかに渋っている音だと自分でもわかるような声だ。 「やめとく。っていうか声かけたくない」 小砂の視界に入るその女性は、身につけた白い衣服の前面を真っ赤に染めていた。 見れば、近くにはスコップと中が真っ赤になった青い箱、そして小さく盛り上がった土がある。 人を殺して埋めて、その事実に自分でも呆然としている。 それが、小砂がその女に対して抱いた印象だった。 「とりあえずもう少しこの辺を見て回って、それからあの店に戻って、冬月さんに報告、かな。もう五時過ぎちゃったし」 『そうだな、では少し飛ばすぞ』 ひらりとネブラの翼がはためき、小砂の体が再び上昇する。 先ほどは西に向かって飛んだが、今度は東に向かっての飛行だ。太陽のおかげで東の空も昼の色を取り戻しつつある。 「そういえばさ、さっきのでっかいあの水たまり」 『……海か?』 「あれってさ、売ればいくらくらいになると思う?とりあえず百人くらいは一生遊んでくらせるよね、確実に」 『?』 B-1の陸の切れ目で見た、果てのない水たまり――海を思いながら、風の中に紛れ込む。 そうして、大地に座り込むかつての空の覇者の頭上を、小さな砂の民にすぎぬ小砂の翼は、軽々と越えていった。 【B-2 小学校・中庭/一日目・明け方】 【高町なのは@魔法少女リリカルなのはStrikerS】 【状態】疲労(大)、悲しみと決意 、制服が血まみれ 【持ち物】基本セット(名簿紛失) ディパック ハンティングナイフ@現実 コマ@となりのトトロ 【思考】 0.ヴィヴィオをはじめとしたみんなを守りたい。誰にもこれ以上死んでほしくない 1.しばらく休んで体力を回復し、ホテルに向かい加持と合流する 2.ホテル、デパート方面に向かい仲間を増やし、ヴィヴィオやほかのひとの情報を得る 3.フェイト……?大丈夫……だよね 【B-3 市街地上空/一日目・明け方】 【小泉太湖(小砂)@砂ぼうず】 【状態】健康、ちょっと気分が悪い 【持ち物】ネブラ=サザンクロス@ケロロ軍曹、IMIミニウージー(9mm口径短機関銃)@現実 ディパック、基本セット 【思考】 0.生き残る 1.「日向冬樹」を探して保護する。もう少しB-3周辺を探索する 2.「川口夏子」と合流する 3.「碇シンジ」、「惣流・アスカ・ラングレー」、「加持リョウジ」、「ケロロ軍曹」、「ガルル中尉」を探して接触する 4. 第一放送が終わったらB-7の『ksk喫茶店』に戻り、危険人物のことなどを報告する 5.「水野灌太」、「雨蜘蛛」には会いたくない。「水野灌太」の存在だけはきちんと確認したい 6.「日向冬樹」が死亡した場合には、ネブラの協力を得るために"闇の者"達を討伐する ※『長い茶髪を頭の横で縛った、白い服の女』を危険人物と認識しました ※【B-2】小学校の中庭に墓が一つあり、日向冬樹の遺体が埋葬されています ◆ ◆ ◆ 時系列順で読む Back 犯罪! 拉致監禁○辱摩訶不思議ADV! Next 上と、下(後編) 投下順で読む Back 犯罪! 拉致監禁○辱摩訶不思議ADV! Next 上と、下(後編) 君、死に給うこと勿れ 高町なのは 君が残した光 加持リョウジ 上と、下(後編) 腹黒! 偽りの共鳴 小泉太湖(小砂) 師匠と、弟子
https://w.atwiki.jp/jojost/pages/83.html
番外編「キーボードクラッシャーナガト」(前編) その日俺が部室の扉を開けるとハルヒ、古泉、はおらず、いるのは何やら漫画を読んでいる花京院と、 メイド姿でお茶を注ぐ朝比奈さん、 そしていつも通りの無表情で、ただし紙に印刷された活字ではなくパソコンの画面を眺めている長門の三人だった。 「キョン・・・遅かったですね」 「谷口に付き合わされてな・・・ハルヒは?」 「今日はまだ来てないみたいです~」 ちゃちゃちゃっちゃーちゃっちゃっ 花京院が読んでいた漫画の単行本から目を離してこっちを向いて言ってくる。 それに返事を返しながら我らが団長のハルヒの所在を尋ねたところ、 朝比奈さんが俺の質問に答えてくれる。古泉については聞かないのかって?・・・ヤロウの事なんて聞いてどうする。 「どうぞ~」 俺がそんな事を考えながら空いてる席につくと、朝比奈さんが俺にお茶を淹れてくれた。 うーむやっぱりメイド服似合ってるな~。眼福眼福。 「一樹が来てないんですけど、キョンは何か知ってますか?」 ちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃっちゃー ずずーっとお茶を啜っていると再び漫画から目を離して俺の方に顔を向けた。 どうでもいいけどコイツは古泉の事をファーストネームで呼ぶ。 超能力者どうしの共感ってやつだろうか。 「知らないな・・・何か用事でもあるんじゃないか・・・」 ひょっとするとまた何所か不機嫌ななったハルヒのせいで生まれた閉鎖空間の後始末に追われてるのかもしれない。 まあどうでもいいが。 「これの続きを貸す予定だったんですけどね・・・」 っと言うと花京院は読んでいた漫画の背表紙を見せくる。岸辺露伴の「ピンクダークの少年:星屑十字軍編」だ。 現在、少年ジャンプで好評連載中の漫画で、俺もちょくちょく読んでる。 そういえばハルヒも好きだって言ってたな。朝比奈さんは絵柄が嫌いらしいが。 「・・・古泉って漫画なんて読むんだな・・・」 「かなり好きみたいですね・・実は結構オタクかも知れません・・」 ちゃっちゃっーちゃっちゃっーちゃちゃちゃちゃっちゃっ~ 古泉がオタクかぁ・・・あの「爽やかボーイ」なイメージとまるで似合わんが・・でも最近は隠れオタクっていうのも多いって話だが。 って・・・なんださっきから流れてる妙なBGMは。 音の方向を見るとパソコンのモニターを凝視して、キーボードをせわしなくカタカタと操作している。 顔はいつも通りの無表情だが、どこか真剣というか、切羽詰っているような雰囲気を出している。 あまりにも常態から外れた長門の様子に、一瞬面食らってしまう俺だったが、 気を取り直して長門の見ているパソコンのモニターを横から窺う。すると・・・ 「・・・・・マリオワールド・・・・?」 「そう・・・・・」 なんと長門がやっているのはあの懐かしのマリオワールドだった。 そういえば俺も小さい時にやったなぁ・・・・。 個人的にはマリオコレクションの方が好きだったが・・・んっ?何かこれおかしくないか? 何でこんなにブラックパックンが多いんだよ・・・ってうわ、こんな所に隠しブロックおいたら通り抜けできな・・・ ちゃらちゃらちゃらちゃらちゃっちゃっ 「・・・・・・」 「・・・・・・」 いや、これイロイロとおかしいだろ・・・難易度とか・・・ というかマリオワールドにこんな面あったか? 「ああ・・・それ僕が作ったんですよ・・・」 いつの間にか俺の背後まで移動してきていた花京院が笑いながら言う。 「作った?」 「ええ・・・最近の電子機器の性能はすごいですからね・・・ マリオワールドのデータをベースに僕が改造したオリジナルマリオです」 「難易度がおかしいぞ」 「普通のマリオなんかしたって面白くないじゃないですか」 花京院が不思議の国のアリスのチェシャ猫みたいな意地の悪い笑みを浮かべる。 またか。コイツの悪い癖だ。ゲーマーとして普通じゃない領域に踏み込んで すでに三千光年ぐらいの距離に到達してしまっているコイツは、 俺達(谷口、国木田など)に「これ、面白いですよ」とか和やかな微笑みを浮かべながらフツーに 「星をみるひと」とか、「シャドウゲイト」とかシステムとか、バランスとか、 難易度とかが色々と狂ったゲームを貸し付けてくるの。 そんでもって翌日に「何だあのクソゲーはっ!」と怒鳴りつけてやると、 まるでしてやったりというような悪戯に成功した餓鬼みたいな顔をする。 本当に性格が悪い。 「大丈夫ですよ・・・クリアはできます。一通り僕がクリアしてますから」 お前は家でいったい何をしているんだ?そーとーな暇人だな。 そのくせコイツはテストとかで平然と学年上位に食い込んでいるから本当に腹が立ってくる。 ちゃらちゃらちゃらちゃらちゃっちゃっ また一人のマリオが散ったようだ。 長門の方に目をやると、早々とコンティニューし直して凄まじいスピードでやり直しをしている。 いつぞやのコンピュター研の時以上に真剣な眼差しだ。 長門がここまで熱くなっているのを見るのは初めてじゃないか? ちゃらちゃらちゃらちゃらちゃっちゃっ おっ、また死んだらしい。それにしてもここまで長門を苦戦させるとは・・・ 花京院、なんてものを作ってるんだオマエは・・・ ちゃらちゃらちゃらちゃらちゃっちゃっ また死んだらしい。そう言えばコイツ自分でクリアしたとか言ってたな。 長門にもクリアできない奴をどうやってクリアしたんだよコイツは・・・ ちゃらちゃらちゃらちゃらちゃっちゃっ また死んだようだ。何か死ぬペースが速くなってきていないか? ちゃらちゃらちゃらちゃらちゃっちゃっ おいおいまた死んだぞ。まさか長門にかぎって集中力が切れるなんてことは・・ ちゃらちゃらちゃらちゃらちゃっちゃっ 心なしか長門の表情に影ができたような気がする。・・・ヤヴァイ。 すごくヤヴァイ、何だか知らないがとても嫌な予感が・・・・ ちゃらちゃらちゃらちゃ・・・ ド グ シ ャ ア 何か変な音がしたな。恐る恐る目をやると、 めちゃくちゃになったキーボードに、それにめり込んだ長門の指が見えた。 (後編続く)