約 16,329 件
https://w.atwiki.jp/aresenakaga/pages/10.html
コメントプラグイン @wikiのwikiモードでは #comment() と入力することでコメントフォームを簡単に作成することができます。 詳しくはこちらをご覧ください。 =>http //atwiki.jp/guide/17_60_ja.html たとえば、#comment() と入力すると以下のように表示されます。 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/aresenakaga/pages/5.html
更新履歴 @wikiのwikiモードでは #recent(数字) と入力することで、wikiのページ更新履歴を表示することができます。 詳しくはこちらをご覧ください。 =>http //atwiki.jp/guide/17_117_ja.html たとえば、#recent(20)と入力すると以下のように表示されます。 取得中です。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4356.html
谷口「皆さんは人の生命という物を、どうお考えですか?」 谷口「人道的な意味でいうならば、大切な物。生物的な意味でいうならば、自己維持や増殖の総称」 谷口「倫理的な観点から言えば、人の命とは何よりも重要なものであり侵すべきではない絶対的なもの、ということでしょう」 谷口「命は大事なもの。だからそれを維持し、支える物も全て大事で重要なもの」 谷口「食料であったり、それを手に入れるためのお金であったり、あらゆる行動を執るための手足であったり」 谷口「もっと直接的なものを言うならば、臓器なども」 谷口「たとえば肝臓。肝臓をなくしてしまうと体内の毒素を分解できず、人は徐々に生命を失っていきます」 谷口「食料。金銭。四肢。臓器。それらに執着を持つことは生命の保持に執着する生物として当然の欲求です」 谷口「では人が生命への執着を捨て、死を望んだなら。やはりそれら全ては不要なだけの物になり下がるのでしょうか?」 谷口「今回ご紹介するお話は、そういった類のお話です」 谷口「ふほほwww」 鶴屋「うるさいにょろ! 誰だか知らないけど夜中に人の部屋でなにをごそごそと……って、なんであんたが私の部屋に!?」 谷口「へひん、やべえ、こそこそ忍んでたのにとうとう見つかってしまったにょろ!」 鶴屋「人のキャラ作りパクルな! 『にょろ』 は私が10年の苦心の末に編み出したアーキタイプの集大成なんだ! 安易にマネしたら訴えるにょろよ!」 鶴屋「って、おま、なにやってんの!? 夜中に人の部屋に忍び込んでると思ったら私の下着かぶってやがる!」 谷口「ああん、僕のひそかな楽しみが鶴屋さんに知られてしまった! 恥ずかしい! ゲスゲスゲスwwww」 鶴屋「てめぇ、ちょっと尻出せ!」 ~~~~~ 冷たい風が俺の頬をなでていく。世知辛い世の中に適応できなかった俺をあざ笑い厳しい言葉をぶつけるように肌を打つ冬の風が俺の涙までも奪い去っていく。 ぽっかりと風穴が空いた胸の中心をもえぐりとるように、空っ風は吹きつける。 くすんだ色のビルの屋上。暗い灰色の曇り空。その狭間で柳のようにゆらゆらと揺れながら立ち尽くす俺は、ぼーっと、呆けたように、目もくらむ眼下の光景を眺望していた。 ここから飛び降りれば、きっと俺は楽になれるんだ。きっとすごく痛いだろうし、それに、とても恐ろしい。でもそれは一瞬のことだろうし、これからも何十年もだらだらと続いていく苦難の人生に比べればはるかに楽なことで、慈悲深いことなのだろう。 心だけでなく身体からも芯が抜けてしまったかのように、おぼつかない足取りで俺はビルの屋上の端に立った。 遺書をそろえて靴を脱いだ。花束を墓前に供えるようにそうすることが自殺者のこの世で最期の礼儀作法に違いと思ったから。俺はテレビや漫画なんかを見よう見真似で、そっと靴を揃え、その上に白い封筒を載せた。 自分の魂が一足先に身体から抜け出し、天使の輪っかが頭上に浮遊するようにその場でゆらゆらと漂う感覚。ふわふわと魂が、今の俺の行動を逐一見下ろしている。 自分で自分の行いが客観的に伺える。これからビルの頂上から飛び降りようという直前に自分の靴を神経質なまでに整理する自分が、とても滑稽だった。 「よし」 自分を鼓舞するように小さくつぶやくと、俺はコンビニで買ってきたウィスキーの小瓶をぐっとあおり、のどの焼けるような痛みをこらえながら空を見上げた。 この世の見納めがこんな曇天なんて。ついてない。まさに俺の人生そのものじゃないか。いや、だからこそ、こんな空模様の下で逝けることが幸福なのかもしれないな。 思えばついてない人生だった。誰かのせいというわけじゃない。全ては俺自身のせいなんだ。自業自得ってやつさ。 苦しいとか辛いとか、嫌だとか面倒だとか。そんなことばっか言って非生産的で怠惰で反社会的で周囲を気にしない馬鹿な生活を送ってきた俺にふさわしい人生の終焉だ。 目を閉じれば家族や仲間たちのまぶしい笑顔、暖かい体温が記憶の断片からよみがえってくる。それらを思い出すたびに飛び降りを思いとどまりそうになる。 しかし無残で無慈悲な冷たい風が、そんな俺の甘えた思考をねじり取り、吹き飛ばしてくれる。 俺は目を開けた。 いい感じで酔いが回ってきた。頭の奥のあたりがヒリヒリと恍惚感に熟れている。悪くない。今なら気分よく死ねそうだ。 迷いはない。未練はあるが、もういい。もういいんだ。ショートカットの女の像が俺の頭の中で何事かを呼びかけていたが、それも俺の耳には届かなかった。 さあ。飛ぼう。 「お待ちください」 突然のことだったので、ひどく驚いた。不意をつかれたとはいえ、誰もいないと思い込んでいたビルの屋上に俺以外の人間がいたなんて。意外だった。 「どうも。お久しぶりです。僕のこと、覚えておいでですか?」 肩越しに振り返った俺は、わずかに酔いが醒めていくのを感じた。このにやけ顔には覚えがある。 お前……古泉か? 「はい。あなたの高校時代からの友人にして、つい先日まで同じSOS団の団員だった古泉一樹です」 グレーのスーツを肩にかけ、ダブルカフスのカッターシャツ。地味な色合いのネクタイに光る控えめな銀のネクタイピン。その商社マンのような姿が、不思議と古泉には似合いすぎるほど似合っていた。 「……何か用か? 残念だが、俺は忙しいんだ」 しばらく互いに視線を交し合った後、俺は苦笑まじりにそう言った。別に忙しくはないが、今この決意を誰かに抑止されるのはとても不愉快なことだと思った。 てっきり古泉は俺の飛び降りを思いとどまらせようと現れたのだと思っていたのだが、どうやら俺の予想は外れていたようだ。 「そう警戒しないでください。別に僕はあなたの決意を覆そうと思ってここにきたわけではありませんよ」 何の企みもないといった様子で、古泉はつかつかと俺の目の前まで歩み寄ってきた。 古泉に無理矢理屋上の中心まで引きづられるかもしれないと懸念したが、それは杞憂に終わった。古泉は胸ポケットから取り出した一枚の紙切れを俺の眼前に差し出した。 「あなたがそこから飛び降りようと思ったのなら、あなたの中に、それに見合う都合があってのことでしょうし、僕にそれを否定する権利はありません」 慇懃な態度の古泉の手から、俺は紙を受け取る。長方形のそれは厚紙で作られた、ごくごく一般的な名刺だった。 そこには、少しばかり格式ばった字体で古泉の肩書きが記されていた。 「……総合、プランナー?」 満足げに、古泉はそれを肯定してうなづいた。 「はい。今僕は、あらゆる物事をプロデュースさせていただく、トータルプランナーを生業とさせていただいております」 プランナー? 企画者? 確か、披露宴とか葬式とかの進行を企画する人のことだったっけ。 「その通りです。さらに私どもトータルプランナーは、あらゆる物事をよりすばらしいものに演出するお手伝いをさせていただいております」 ふん、と鼻を鳴らして俺は古泉に名刺をつき返した。そのプランナーが、これから飛び降りる俺に何の用があるってんだ? 金ならないぜ。 そう。金がないんだ。俺は自嘲気味にそう繰り返した。 俺は定職に就くこともなくふらふらし、ずっとニートやってきたボンクラだ。収入がないから貯金なんてありゃしない。 それだけならまだしも、中学の頃の友人である国木田が会社を興す時に借りた借金の連帯保証人になっちまって。今じゃ会社の経営に失敗して夜逃げした国木田の多額の債務を肩代わりする身だ。 家族に迷惑かけてる身で、さらにいわれのない、目が飛び出るほどの借金を作っちまったダメ男。 こんな俺に何を期待する? 生きていれば生きているだけ、蔓延する厄病のように害をまきちらす腐れ人間だぜ? 取り柄といえば健康なことくらいだ。学も無いコネも経験もない。俺には何もない。人様に役立てることなんて何もないんだ。 「だからいいのですよ」 俺は一瞬言葉につまり、ムッとした表情で古泉を見返した。世に絶望して死を決意した俺でも、こう言われると腹が立つんだな。 「身体は健康そのものなんでしょう? だったら何も言うことはございません」 どこからともなく取り出した電卓をタンタンと叩き、素早い手つきで古泉はそれを俺に見せた。 「この金額です。あなたの抱えている負債。あなたがご家族に抱いている後ろめたさを払拭するに値する金額。そしてあなたのご家族が今後何不自由なく暮らしていける額。これだけの額をご用意させていただきます」 唖然とする俺に向かって、古泉は感情の読めないニヤニヤ笑いを浮かべたままささやいた。 あなたの臓器を買い取りましょう。 目が覚めると、そこは白い壁に囲まれた病室だった。薬品くさい布団から身を起こすと、浅黄色のカーテンが風に翻った。 「お目覚めですか? ご気分はいかがです?」 とても爽やかだ。いい気分だぜ。 「それはよかったです。これから人生にピリオドを打とうと言う大切な時に気分がすぐれないのでは、未練が残りますからね」 部屋の隅のクローゼットに自分の衣服が収納されているのに気づき、俺はシンプルなガウンを着替えた。 「お約束通り金融会社には僕から負債を返金しておきますし、ご遺族にも残金をお渡ししておきますよ。あなたは、何も思い残すことなく気の済むように命を絶っていただいて結構ですよ」 目はすっかり冴えてしまった。しかし未だに夢の中にいるような心地だった。 いっそのこと、手術が終わった時点で安楽死させてくれりゃ、俺も楽でよかったのに。 「はっはっは。勘弁してくださいよ。臓器摘出だけでも危ない橋だというのに、その上、自殺幇助にまで手は出したくないですよ」 言えてるぜ。ま、自分の死に場所くらい自分で決めるさ。 俺と古泉は静かに窓外に目を向けた。空は、もうすっかり晴れていた。 「キョン! キョンじゃないか! こんなところにいたのか、探したよ!」 またあのビルに向かおうと思い、街道をふらついていた時のことだった。まるでテレビかラジオの向こう側の音のように身近に感じられなかった町の雑踏から、俺のあだ名を呼ぶ声がする。 俺のあだ名を指名してくるってことは、昔馴染みの知り合いか。この面倒な時に、一体誰だよ。 「ごめんね、本当に、ごめんね!」 息を弾ませて俺の背に追いついてきた人物を見て、俺は驚いた。そこにいたのは、俺に多額の負債をおしつけて蒸発したと思っていた中学時代からの知人、国木田だった。 生に執着を失い全てのことに無関心になっていた俺の心に、懐かしい感情、怒りが湧いてくる。こいつさえいなけりゃ、こいつさえいなけりゃ……! しかしその憤懣も、汗だくで微笑む国木田の笑顔の前に霧散してしまった。 「会社を立て直すための資金を集めるために金策にあちこち駆け回ってたんだ。キミに連絡するのをすっかり忘れていてね。ずいぶん迷惑をかけちゃったんだじゃないかと思ってる」 申し訳ないという様子で、国木田は荒い息を整えようともせずに背負い袋から茶封筒をひとつ取り出した。 「こんなのでキミにかけた迷惑を償いきれるとは思っていないけど、せめて僕にできるお詫びだよ。とっておいて」 茶封筒をあけると、そこには札帯のついた札束が5つほど入れられていた。 ……く、国木田? おま……これは? 「迷惑料だよ。とっといて。キミには本当にすまないことをしたからね。例の借金は、全部僕が自分で返したから。もうキミに心配はかけさせないよ」 何がなんだか分からず、俺はさっきまでとは違った意味で呆け、目を点にして立ち尽くしていた。 「僕の狙い通り、我が社で作った商品が市場で大きな反響を得てね。特需といってもいいくらいの莫大な資本ができたのさ! そのおかげで会社は軌道にのるし、株価も跳ね上がるし。いいこと尽くめだよ!」 これも全ては僕の会社興しに賛同して借金の連帯保証人になってくれたキミのおかげだよ!と言って、感極まった国木田は観衆の視線も気にならないという感じで男泣きに泣いた。 「だからね。そんなキミに、是非ともうちの会社の副社長になってもらいたいんだ!」 真っ青な空の下、俺の頭はますますシェイクされたようにこんがらがっていった。 俺はなりふりかまわず走っていた。身体がだるい。やはり臓器摘出の影響だろうか。息が上がるのが早い。 借金持ちだった俺は携帯も解約してしまっている。だから古泉に連絡をしようと思えば家に帰るか、最近じゃさっぱり見なくなった公衆電話を探すしかないのだ。 ようやく緑電話を発見した俺は、ふるえる手で10円玉を2,3枚投入し、焦りながら番号をプッシュした。 『もしもし、あなたの生活をきらびやかに彩るトータルプランナー、古泉一樹でございます』 こ、古泉か!? 俺だ。 『おやおや。どうされましたか? ずいぶんと慌てた様子ですが』 単刀直入に言おう! お前に出してもらった金はそっくり返すから、俺の臓器を返してくれないか!? 『唐突なお話ですね。一体何があったのですか?』 少し困惑気味の古泉に、俺は最初から事情を説明した。最初からといっても、偶然国木田と再会して借金を返す目処がついて就職先も決まったから死にたくなくなったってだけの説明内容だが。 俺が全てを話し終えてからも、古泉はしばらく電話の向こう側で黙りこくっていた。 『あのですね。あなたのおっしゃりたいことも分かりますよ。死ぬ意味が全て帳消しになったから、死にたくなくなった。だから生きるために臓器を返してもらいたくなった、と言うのでしょう?』 その通りだ。都合の良いことばかり言って申し訳ないんだが、腹に脱脂綿の詰まっている俺の身体じゃ、長くは生きられない。早いところ臓器を元に戻してもらいたいんだ。 『無理を言わないでください。僕も趣味でこんなことやっているわけじゃないんですよ。ちゃんと需要があって、その希望にあった物を用意して品を揃え、信用の名の下に取引する。返してください、はいそうですか、で通用することじゃないんですよ』 予想外の古泉の反応に俺は狼狽した。いや、よくよく考えてみればそれが当然なのかもしれない。臓器の密売なんて一般人の俺でも知ってるレベルの重罪だ。そこに個人の私情など挟めるはずもないに違いない。 いかに相手が長年の友人である古泉であっても、たかが友情ごときでどうこうできる問題じゃないのだろう。なんせ、下手を打てば手が後ろに回ることになりかねない事なのだから。 「それでも、それでも俺は生きたいんだ! 頼む古泉、俺の内臓返してくれ!」 ふぅ。と受話器越しに古泉のため息が聞こえた。あきれてるんだろうな。あきれればいいさ。とにかく俺は生きていたんだ。輝かしい未来が突然やってきたんだ。こんなところで死ねるかよ。 『あれはまっとうな取引じゃなかったことくらい、あなたも承知されているでしょう』 ああ。臓器密売なんて公にできる話じゃないしな。 『ですから、返してほしくなったから返してね。であっさり済ませられる話じゃないんですよ。僕にも顧客からの信頼というものがありますし』 お前には悪いと思ってる。本当にすまない。だが、俺だって命にかかわる一大事なんだ。引けないことは分かるだろ? 『仕方のない人ですね。まったく。それじゃ、こうしましょう。あなたが顧客として、自分が売りに出した臓器を買い戻す。客として商品を買う分には、問題ありませんからね』 ああ。古本屋に本を売ったけど、やっぱり手元に置いておきたくなったから改めて買い戻すみたいなものか。分かった。買おうじゃないか。 ふぅ。と、また古泉のため息が電話の向こうから聞こえてきた。 『あなたね。簡単にそう言いますが、分かってるんですか? 臓器各種はけっこうな値がするのですよ?』 お前から受け取った俺の腸、肝臓、膵臓、腎臓などの代金は、合計1億だったな。それを全部つぎ込むぜ。 『1億で買った物を1億で売ったら、純利益がないじゃないですか。手間賃や手術料、そっち方面への上納金などを含めても、1億ぽっちじゃ到底及びませんよ。話になりません』 じゃ、じゃあ、いくらあったら足りるってんだよ? 一応、国木田から500万もらったから、1億500万までなら出せるぜ。 『庶民にとっては大金でも、500万なんて屁の一発でふっとぶ端下金ですよ。そんなの、業者に払う手間賃にもなりません』 そ、そんな……じゃあいくらならいいって言うんだよ!? 『1億5000万。あなたと僕の仲です。割引に割引し、さらに勉強して、その値段で結構ですよ』 ば、馬鹿な! ニートで中流階級家庭の俺に、あと4500万も用意できるわけないじゃないか! 『1億500万なら、そうですね。肝臓と小腸大腸くらいは売ってあげられそうですよ。何せ若い男性の最高に健康な臓器ですからね。もっとも需要の高い、値段の張る商品なのですよ』 足が、ふるえる。頭からサーっと血が引いていくのが感じられる。受話器をつかむ指先も、5本全てがわなわなと痙攣している。 頭が痛い。耳が痛い。指が痛い。首が痛い。胸が痛い。腕が痛い。腹が痛い。内臓が痛い。足が痛い。きりきりと痛い。 体中から血が噴出しているような幻想にとらわれ、俺は力なく両膝をついた。 『死ねばいいじゃないですか』 笑いをこらえるようなくぐもった声で、古泉はそう言った。 死ぬ? 俺が? 何で? どうして? 死ねばいい? いやだ、死ぬのは、いやだ! 生きたい! 俺は、生きたい! あの日、ビルの上で死のうとしてたのは、あれはただの気の迷いだったんだ! そう、ヤケ酒を飲んで酔って、ついついあんな馬鹿げたことしちまっただけなんだ! 俺は死にたくないんだ! あなたもつくづく、調子の良い人ですね。と古泉が哂った。 ニートで負債をかかえて家族に迷惑をかけたから死ぬ、止めてくれるな、と喚いていたのは酔った勢いなのですか? 酔いが醒めて冷静になっていれば、事態を好転させられるだけの良案が思い浮かんでいたというのですか? 確かに死んで責任をまっとうしようなんて言い逃れは酔いのもたらす逃避思考だったのかもしれませんが、結局はなんとかしようと思えば、今のように身体を売るかそれに準じる何かをしなければいけなかったわけじゃないですか。 むしろあの場に僕が現れてあなたに臓器提供の話を持ち込んであげたから、本当に本当のバッドエンドにならずに済んだんじゃないですか? なのに、その臓器を買い戻すために大枚をはたく? また新しい負債を発生させようと言うのですか? ふふふ。結局は、ほら。あれですよ。あなたが死ねば万事解決するんですよ。 「それでも俺は、死にたくないよ!」 あらん限りの力を振りしぼった俺の声は、料金切れで自動的に通話の切れた受話器の向こうには届いていなかった。 俺は、人目もはばからず声をあげて泣いた。 まるで曇り空のあの日に逆戻りしたようだ。ゆらゆらと、さながら幽鬼のような足取り。呆けた頭。だらしなく弛緩した腕。 生に絶望してビルを登ったあの日。しかし、今は違う。死に抗うため、生に執着して、でもそれが叶わなくて、力およばず、力なく。ふらふらと。 気づくと、俺はあの病院の前に立っていた。斜陽が、まるで病院の白亜を巨大な地獄への門のように彩っていた。 ここで俺は臓器を抜き取られた。変わりに脱脂綿を腹の中に詰められた。まあ、それは俺が自分で望んだことだから誰にも文句は言えないのだが。 きっともうここには俺の内臓も、古泉も、いないだろう。ここに来たからといって奴の足取りが知れるはずもない。でも、再度古泉に連絡をとる勇気もなく。 ああ。腹が痛い。 「おや? どうされましたか?」 頭上から聞き覚えのある声がふってきた。それも、ごく最近聞いた声。この声は…… 「ずいぶんとしょぼくれて、どうされました? もうとっくにお亡くなりになったとばかり思っていたのですが?」 病院の2階の窓から、夕日に溶暗したように黒々とした古泉の顔がにゅっと突き出されていた。 突然、俺の身体に底をついていたはずのエネルギーが蘇ってきた! 腕に、足に、腹に、頭に、爆発しそうなほどの熱が、沸騰する! 気づくと俺は駆け出していた。病院の扉を突き飛ばすように開き、獣のような勢いで階段を駆け上る。痛みなど感じない。ただ、狂おしいほどの何かが、俺の内部で渦を巻いて猛っていた。 「古泉!」 視界が狭くなるような幻覚の中、俺は古泉がいたであろう部屋の前まで駆け上っていた。そこは大きな会議室のような部屋であろうと、閉じられた扉の規模からして想像がつく。 金属製のドアノブを乱暴にゆすってみるが、しっかり施錠された扉は容易には開かない。 『どうされました? 忘れ物ですか?』 扉の向こうから古泉の声が聞こえる。間違いない。古泉はここにいる。ということはもしかして、俺の身体の一部もこの向こうにあるのか!? 「頼む古泉、開けてくれ! 助けてくれ!」 あらんかぎりの声を張り上げる。死ぬか生きるかの瀬戸際だ。世間体なんて微塵も感じない。 『臓器の件ですか? それについては電話でお話していた通りですよ。1億5000万はご用意できたのですか?』 「ない。そんな金、逆さに振ったって出てきやしないさ。でも、それでも、俺の臓器を戻してくれないか?」 『おやおや。ずいぶんなことをおっしゃられる。代金もないのに、商品をよこせと? これは恐喝か強盗と解されてもしかたないことではないでしょうか?』 「違うな。俺はクーリングオフに来たんだ。強盗じゃなくて客だ」 『またまた。うちは取引から7日過ぎていなくても、クーリングオフは受け付けていないのですよ』 「なら力づくでもクーリングオフさせてもらうまでだ」 『ここへ押し入るつもりですか? 馬鹿な真似を。たとえここへやってきて臓器を取り戻したとしても、それをあなたの体内へ戻す医師がいなければ意味がないでしょうに』 「それでも、俺はやる! その時はその時だ! 臓器を取り戻すことで少しでも生きることへの可能性が生まれるのなら、俺はなんだってやってやる!」 『………。やれやれ。あの日、ビルの上に立っていたあなたはあんなにも弱弱しくて、ビルの上から飛び降りなくても死んでしまいそうな外見をしていたというのに。今はこんなにも生き生きと、生を望んでいらっしゃる』 「ああ、そうだ。あの時の俺はどうかしていた。絶望っていう一過性の毒にやられて、完全に頭がいっちまってた。だが、今なら言える! 俺は生きていたいんだ、と!」 しばらく、俺と古泉は、扉をはさんで黙り続けていた。こうしていると、目の前の分厚い扉も紙のように薄っぺらく、まるで手を差し出すだけで突きやぶれそうな気がしてくる。 『覚悟はあるのですか? もう、絶対に自殺などしない、寿命が尽きるその日まで、あがき続けると』 「ああ! もちろんだ!」 渾身の力をこめた俺の主張。最高に熱のこもった、熱をこめた声が、扉のむこうへ浸透して行った。古泉にその叫びは……伝わっただろうか。 『……分かりました。その言葉を、信じましょう。さあ。こちら側へいらしてください』 静かな古泉の声とともに、すっと巨大な扉が開いて行く。 ああ……明るい……白く、明るい光が……開き行く扉の向こうからさしてくる……まるで、そう。俺を別天地へといざなうかのような………え? 扉が完全に開ききったところで、パンッ!と乾いた破裂音がした。俺の頭上に、火薬くさい紙の束がふりそそぐ。 「遅かったじゃないの! まったく、なにやってたのよ、待ちくたびれちゃったわ!」 そこには、クラッカーの筒を持ったハルヒが立っていた。え? ハルヒ? なんで……ここに? よく見るとハルヒだけじゃない。俺のよく知っている人たちが大勢、大挙して扉の向こうに立っていた。 「もう、死ぬなんて軽々しく言っちゃダメですよ!」 朝比奈さん? なんで、これ、え? パーティー会場? え? え? 「死というものを曖昧にしか実感していなかった彼に時間を与え冷静さを取り戻させ、改めて明瞭な死を感じさせる。そこでクランケ自らに生への執着を抱かせる。見事な演出。さすがプランナー」 長門? なに言ってんだ、古泉の隣で? 扉の中から押し寄せる知人や家族たちに率いられ、放心状態の俺はパーティー会場の中へ連れ込まれる。 200人規模で会議が開けそうな広い部屋に、「生還おめでとうパーティー」 とヘタクソな字で書かれた大きな垂れ幕が吊り下げられている。 ここに至って、ようやく薄ぼんやりと俺は事の次第を理解し始めたのだった。 「いかがでしたか? プランナー古泉の企画は」 何故かお神輿の上にかつがれて上下に揺さぶられている俺は、どっと疲れが出たのを露骨に顔に出しながら、「最悪だったよ」 と答えてやった。 しかし内心では、まんざらでもないな……と少し思っていた。 「分かっているとは思いますが、安心してください。全ては僕の企画したプランです。あなたの内臓を摘出したというのも嘘ですよ。あなたのお腹の中には脱脂綿ではなく、ちゃんと自慢の臓器が詰まっているのでご安心を」 もうそれが分かっただけでも十分だよ。さっさと帰らせてくれ。今日はとっとと眠りたい気分だ。 「まあまあ、そういわず。全てが僕のプランだったわけですが、ひとつだけ真実もあるのですから」 そう言う古泉の隣で、はにかみながら手を振っていた国木田を見て、俺も思わず笑い返してしまった。これからよろしく頼むぜ、社長。 なんだかんだ言って、楽しいひと時だった。結局途中から俺の生還パーティーではなくただの同窓会になってしまったのだが、それはそれで文句ない。 古泉にずいぶん酷いことを言ってしまったが、悪かったな。騙されてたとはいえ。 「いえいえ。気にしていませんよ」 こんな時は、古泉のこのニヤケ顔もありがたく映る。そう言ってもらえると助かる。 「さてさて。これで僕の今回の仕事は完了です。それでは、最後にこれを」 そう言って、古泉は一枚の紙切れを俺に差し出した。以前同じように差し出した名刺よりも、薄く、大きな紙だ。 「今回のプランの総額ですよ。いろいろと手間がかかってしまったので、この金額になってしまったのですが、まあいくらか引かせていただいているのでご心配なく」 再び俺の腹に、きりきりとした鈍痛が走る。……え、これ、俺が払うの? その請求書に書かれていた金額を見て、また死にたくなってきた。 ~~~~~ 鶴屋「尻出せや!」 谷口「ほひぃん! かかか鰹節だけは、鰹節だけはッ!」 鶴屋「往生せぇやあああぁぁああぁぁ!」 谷口「アッー!」 おわり
https://w.atwiki.jp/prowres_technic/pages/156.html
スレ番号 この技どんな技? 質問番号 135 レス番号 140 参考 キャトル・ミューティレーション ホーデス・ミン、ポイズン澤田、ポイズン澤田BLACK、ポイズン澤田JULIEの必殺技。 【注 色々名前があるが今は何だ?元新日本P練習生。ちなみに後藤達俊と同期。】 相手を座らせた状態で、背後から相手の両腕を両脇に抱えクラッチ。胸から腹で相手の首を抑えるようにして前方回転。ブリッジして決める拷問技。 名前の由来は家畜(特に牛)の目、内臓などが切り取られたように無くなった死体が見つかる怪現象をさす「キャトルミューティレーション」より。 MyWiki版プロレス技wiki より転載、修正 関連するリンク 名前 連絡事項
https://w.atwiki.jp/sazanami-x/pages/160.html
https://w.atwiki.jp/teitoku_bbs/pages/1876.html
527 :トゥ!ヘァ!:2013/08/14(水) 20 26 58 イムカ専用KMF装備 内臓複合火器「ヴァール」 ある日イムカが突然言い出した「火力が足りない」と。 なにを言い出すイムカさんと部隊のメンバー… 特に整備をしているマザーナンバーの面子はイムカに尋ねた。 そうしたところイムカは 「今使っている装備じゃあ火力不足だと感じた」 「キャノン砲とマシンガンを両手に持つと火力はあるが近接戦が出来ない」 「持ち替えるのにタイムラグが……」 など言っていた。 しかし彼女もそうは言ったが我儘を言いたいわけではないく今の装備には十分満足している模様。 ただ少し足りないと思ってしまったことを口に漏らしてしまっただけらしい。 彼女は「別にこれはただの独り言だから気にしないで良い」と言ったがそうは問屋が卸さないのがネームレス。 マザーナンバーのトップを預かるグロリア婆さんを始めとした整備班連中が黙っていなかった。 曰く「パイロットが不満を感じているようでは一流の整備士は名乗れない。これじゃあマザーナンバーの恥だ!!!」と言うらしい。 なんだかとんでもない連中に火を付けてしまったイムカ。 もはや後悔しても遅い状況に悩んでいいのか喜べばいいのか悩んだと言う。 そして婆さんや合法ロリ(笑)のコネなどもフルに使い出来上がったのが「ヴァール」である。 内臓複合火器「ヴァール」 大型の質量剣(MVSよりも長くギャラハッドのエクスカリバーよりも小さい)に リニアカノンとマシンガンを合わせた複合武器。 刃渡りは約2.8m。リニアカノンの威力はオルレアン相手だろうとも正面から 打ち破れる威力のモノを。マシンガンの弾薬はアサルトライフルと共通の規格である。 この反動の大きく大剣染みた装備を扱うためイムカの乗る機体には各関節の強化を独自に行っている。 この武装をイムカにドヤ顔で見せつけた整備班の変人共曰く 「あの時のイムカは逆に頭下げてお礼言ってきたから思わずこちらが申し訳なくなってしまった」と答えている。 この装備を使用し始めたイムカの戦果は劇的に上がっていったと言う。 イムカの代名詞のような武装である。
https://w.atwiki.jp/mtgflavortext/pages/9331.html
血は滴る。血は示す。血はすべてを貪り、血のみが残る。 ――大峨の詠唱 "Blood drips. Blood sings. Blood devours all and only blood remains." ――Ogre chant 神河物語 【M TG Wiki】 名前
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/4664.html
https://w.atwiki.jp/83452/pages/12537.html
―――――――――――――――――――――――――――――― ――――――――――――――――――――― ――――――――――――――― ――――――― 手術は無事成功し、唯の状態は急速に回復へと向かっている。今は術後の経過入院で様子を見ている状態だ。 「はあ、夜はやっぱり暇だよー。皆が病院にお泊りしてくれたら楽しいんだけどなー」 面会時間が終了すると当然みんな帰ってしまうので、夜は暇で仕方ない。消灯時間も過ぎているので本当は 寝なければならないのだが、どうも目がさえてしまっている。 「うーん、図書室で借りた絵本でも読もうかな」 ベッド横に置いてある電気スタンドのスイッチを入れて、絵本を開く。タイトルは『ブロスと愉快な仲間たち』だ。 「さーて、どんなお話なのかなーって、あれ? なんだろこの紙」 絵本を開くと、1ページ目に地図が挟まれていた。地図の裏には『いつかキミがこの病院にいることがどうしても 耐えられなくなったとき、この地図を頼りに異世界へ脱出してごらん』と書かれていた。 「異世界かあ……冒険だね! 面白そう!」 地図に示された場所はトランスターミナル内の森の奥で、唯の好奇心を存分に刺激した。 「ようし、上着来てー、お菓子もってー、唯隊員しゅっぱつ!」 善は急げとばかりに唯は病室を飛び出した。廊下は既に消灯されていて薄暗いが、それが余計に冒険心をくすぐる。 「でも外に出るにはどこから行けばいいんだろ? エントランスから出て行ったらさすがに看護師さんにばれちゃうよね」 悩みながらもとりあえず廊下を進んでいくと、病室とは少し毛色が違う雰囲気のドアから看護師が出てきた。 唯は咄嗟に物陰に隠れてやり過ごす。 「危ない危ないばれちゃうトコだったよ……でもあの看護師さんが出てきた部屋はなにかな? 秘密の通路があったりして」 好奇心にまかせて唯はその部屋に入っていった。しかし、期待したような通路はなく、そこは普通の病室のような部屋だった。 唯一のベッドには、ごてごてとした機械に繋がれた男性患者の姿があった。 「あ、ご、ごめんなさい! 普通の病室だとは思わなくって! 勝手に入っちゃいました……」 慌てて唯は謝罪し頭を下げる。 「あれ、もしかして、唯ちゃん?」 聞き覚えのある声がして、唯は頭をあげて男性患者の顔に視線を合わせた。 「え? あ……ヤスヤス先生!ど、どうしたの! なんか、凄そうな機械にいっぱいつながれてるけど……」 「いや、ちょっとね、人工心臓うめこんじゃったんだよ。あはは……」 どうということもないという風に、ヤスオは笑顔をこぼした。 「人工心臓って……大丈夫なの? ヤスヤス先生」『人工心臓』という言葉の響きに唯は急に血の気が失せた気がした。 「ああ、大丈夫。すこぶる調子がいいくらいさ。いや、まあ、ちょっとしんどいんだけどね。『調子はいいけど超しんどい』なんてね」 そう言って笑うヤスオの表情は優しげだった。 「唯ちゃんは、どうしてこんなところに?」 「えっと……ちょっと、冒険に……」 「冒険?」 「うん、地図を見つけたの。それで、その地図に描かれた場所にちょっと行ってみようかなって。この建物から出てすぐのところにある森の奥なんだけど」 「……冒険か……それ、明日にする訳にはいかない?」 「明日? どうして?」 「明日なら、僕も一緒にいけるかなって思ってさ」 「え、で、でもヤスヤス先生、こんなにたくさんの機械に繋がれてるのに大丈夫なの?」 「大丈夫だよ、明日、そうだな、中庭あたりで待ち合わせしよう。11時、11時を一分過ぎても僕が来なかったら、 悪いんだけど唯ちゃん一人で行ってくれるかい?」 ヤスオの体調は心配だが、本人がこう言っているのだし、それに冒険の旅は一人でするよりも二人でした方が楽しそうな気がした。 「うん、わかった。11時だね。中庭の大きな木の下で待ってます」 「うん、約束」ヤスオは右手の小指を唯の方へと差し出した。 「えへへ、約束!」 唯は指切りを交わした後、笑顔で自分の病室へと帰った。 5月22日 夜11時まであと5分弱、といった時間にヤスオは現れた。 「ヤスヤス先生! 来てくれたんだね」 「あたりまえだろ、唯ちゃん。約束したんだから」 ヤスオの足取りはしっかりしたものだったが、胸の前に妙なハンドルが付いている。まるで手回し式で氷を削るかき氷機に ついているようなハンドルだ。ヤスオはそのハンドルを右手でくるくると回転させながら唯の方へと近づいてきた。 「ヤスヤス先生、その胸についてるの、なんですか?」 「これ? これは、あれだよ、今はやりの手回し式補助人工心臓。名前は『モーリー』っていうんだけどね。『モーリーで元気モリモリ』、なんちゃって」 「あはは、手回し式の心臓なんて聞いたことないよー」 「いやいや、本当なんだけどね。実際このハンドル回すのやめちゃったら、僕死んじゃうから」ヤスオはなんでもないことのように話すが、その内容は正直言って唯には驚愕だった。 「え、う、嘘! 大丈夫なの? そんな状態で出歩いたりして」 「大丈夫だよ、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけで良いから、僕も冒険してみたいんだ」 そういうヤスオの顔はまるで幼い少年のようなあどけなさだった。 「うーん、わかった。でもちょっとでも体調が悪くなったら言ってね」 「ああ、そうするよ」 とりあえず、唯とヤスオは地図に従って歩き始めた。冒険の旅の始まりだ。と言っても、所詮は病院の敷地内 でのことなので、目的地にはほんの十数分で到着してしまったのだが。 「ここ、みたいだね」唯が辺りを見回すが、特に変わったところはない。森の奥で、少々開けた原っぱのように なっているだけだった。ここが、地図に描かれていた異世界というやつなのだろうか。 「唯ちゃん、こっちこっち、大発見だ」 「え?」 「これ、この穴、たぶん防空壕だよ」ヤスオが示した場所には直径1メートルくらいの穴がぽっかりと開いていた。 それはまるで異世界への扉のように唯には思えた。 「ちょっと暗いな、明かりがないと中には入れないかも」 「あ、大丈夫ですよ、懐中電灯持ってきたから」唯はポケットからペンライト型の懐中電灯を取り出し、穴の中を照らしてみた。中は結構広いようだ。 唯は懐中電灯で照らしながらその穴の中へと入って行った。ヤスオもハンドルをくるくる回しながらそれに続く。 「まるで、秘密基地みたいだな。そういえば子どもの頃、空き地に作った秘密基地のなかでマンガ読んだりしたなあ」ヤスオは昔を懐かしむようにつぶやいた。 「私も私も! 幼馴染の友達と、妹といっしょにダンボールで秘密基地作ったことあります」 唯とヤスオは隣同士で壁に寄り掛かる形で地面に座り込んだ。 「はは、今思いだすと、すっごくくだらないんだけど、ガキんちょだったときは楽しくてしょうがなかったんだよね」 「私も、すっっっごく楽しかった。日常にありがとうって奴ですね」 「日常にありがとう?」 「うん、私、病気になってから生きてるってことに感謝するようになったの。『明日はもう生きられないかも』って思いながら過ごすと、 一日一日がどんなに大切で、貴重で、特別なのかがよくわかるんですよ。そういうのに気付くと、過去の何でもなかったような日常も、 とっても大切なものだったんだって思えるようになったの」 生と死は表と裏なのだ。死を意識するからこそ、生きていることを、日常を謳歌することができる。 「私ね、高校の軽音部に入ってるんです。病気にかかる前は毎日ギー太弾いてたの」 「ギー太?」 「あ、ギターの名前。私ギターに名前つけてるの」 ちょっと変わったセンスだけど、唯には不思議と似合っている、とヤスオは思った。 「部活中にお菓子食べたりお茶飲んだりする、ちょっと不真面目なクラブなんだけど、そういう軽音部の友達と 過ごす日々ってね、いざ失くしそうになってみると……途端にとてもとても愛おしくなってくるの」 唯は両手を組んで胸に当て、朗らかに微笑んだ。 「そっか、えらいな唯ちゃんは、僕はこんな状態になるまで日常の大切さに気付けなかったよ」 「こんな状態?」 「そう、胸にハンドル付けた状態ね」 ヤスオは右手でハンドルを回転させながら左手の親指で胸を指し示した。 「僕のこのハンドルね、さっきも言ったけど、こうやって回し続けてないと死んじゃうんだ。つまり『生きたい』と思ってるから 回してるわけ。そうやって考えると生きてるってすごいことなんだなって思うよ。普段は何も意識しなくても心臓は勝手に動い てくれるわけだからね。今すぐにでも死んでしまいたいって思ってる人の体の中でもやっぱり心臓は動いてるんだよ。何かが 心臓を動かしてるんだ。その『何か』とは何だろうって考えてみると不思議にならない? 僕はさ、その『何か』ってやつは、 唯ちゃんの言うような『何でもないけど大切なもの』って奴だと思うんだ」 ヤスオの言葉にこくりとうなずくと唯はまっすぐにヤスオを見た。 「でもねヤスヤス先生、そうやって大切なことに気付くのと同時に、自分がすごく嫌な人間に思える時があるんです。 先生ならわかると思うけど、ドナーが現れるのを待つってことは、誰かが命を落とすのを待つってことでしょ。 自分が生きるために誰かが死ぬのを望むなんて、心臓をくれた人にすごく申し訳ないなってたまにすごく落ち込む時があるの」 唯のその言葉に、ヤスオは急に血相を変えて叫んだ。 「唯ちゃん! それはちがうよ! 絶対ちがう!」 思わず大声になってしまい、ヤスオは慌てて声を低くした。 「僕が保証する。唯ちゃんに心臓をくれた人は、間違いなく心臓をあげてよかったって喜んでるはずだよ……たぶん、天国で」 「どうして『たぶん』なの?」 「いや……天国でたぶん喜んでるだろうなって意味。日本語って難しいよね……『ヘブンでたぶん』なんちゃって」 そう言って笑いかけたヤスオの表情が途中で固まった。眉間にしわがより脂汗が浮いている。 ヤスオの異変に気付いた唯が心配そうに顔を覗き込んだ。 「先生大丈夫?」 「ちょっと……疲れちゃったかな」 ヤスオは緩慢な動作でのそりと起き上った。 「残念、僕の冒険はここで終ってしまった。ちょうどお迎えも来たみたいだし」 「お迎え?」 突然、穴の中に強い光がさした。唯が穴の入口の方を見るとスーツの男が大きな懐中電灯をもって覗きこんでいた。 「ごめんねキョウヤくん、お手を煩わせて」 「いえ、こんなところにいたんですね、さあ、帰りましょう」 ヤスオにキョウヤと呼ばれたスーツの男は疲れたような声音で言った。 「ねえ、唯ちゃん」 「なに? ヤスヤス先生」 「僕の冒険はここで終っちゃったけど、君の冒険はこれからもずっと続いて行くことを祈ってるよ」 「……ありがとう、先生」 「じゃあね、唯ちゃん」 ヤスオは少々ふらつきながらも、キョウヤに傍らで支えられながら歩き出した。 6月8日 今日も唯は病院のベッドの上でマンガを読んでいた。退院まであとほんの数日だ。唯自身はいますぐ学校にいっても 問題ないと考えているのだが、主治医の話では退院後もゆっくりと体を慣らしていかなければならないらしい。 コンコンと、ふいに病室のドアがノックされた。唯は「どうぞ」と答える。 「こんにちは」 「……こんにちは」 ノックの主はあの夜にヤスオを迎えに来た男、キョウヤだった。今日はスーツではなく、医者が着るような白衣を着ている。 「ちょっといいかな?」というと、キョウヤはそばの丸椅子をベッド脇に引き寄せ、ゆっくりと腰をおろした。 唯は軽くうなずいた後、読んでいたマンガをぱたりと閉じた。 「なに読んでたの?」 「マンガです。『BECK』っていうやつ」 「『BECK』? ああ、僕も読んだことあるよ。ギターのリュースケってキャラが格好いいんだよね」 「あの、なんの用ですか?」 「特別用があるわけでもないんだけど、ヤスヤス先生がよろしく伝えてくれって言ってたもんだからさ」 『ヤスヤス先生』という言葉を聞くと、唯は二、三度瞬きをした。 「今どうしてるんですか? ヤスヤス先生、あれから病室に会いにいってもどこにもいなかったんですけど」 「いま日本のあちこちに行ってるみたいだよ」 「あちこちでなにしてるの?」 「さあ、そこまで深く聞かなかったから、わからないや」 「……そっか」唯は少し声の調子を落として呟き、残念そうにうつむいた。 キョウヤは間をつなごうと辺りを見回し、ふと唯が手に持っている漫画に目をやった。 「『BECK』好きなの?」 「好きですよ」 「そっか、軽音部だもんね」 唯は少し驚いてキョウヤに向き直った。 「何で知ってるの? ヤスヤス先生に聞いたんですか?」 「いや、聞く暇なんてなかったよ。僕ね、人の心が読めるんだ。独身だけに読心術、なんちゃって」 「変な人ー」 唯は小さく笑みをこぼした。 「じゃあ、私がギターにつけてる名前は? 心が読めるんならわかるよね?」 「うーん、ヘンドリックス?」 「ブッブー不正解」 「変だなぁ、ヘンドリックスだけに変だぞ。あ、わかった『ギー太』だ」 「え、うそ……まさか。でまかせで言っただけだよね? それともやっぱりヤスヤス先生に聞いてたんでしょ」 唯は目を丸くした。 「まさかマッカーサー、でまかせで負かせ」 「あはは、やっぱり変な人だ」 唯はついに声をあげて笑いだした。 「そんな変な人からひとつお願いです!」 キョウヤは深く息を吸い、厳かな口調で言った。 「君の心臓の音、聴かせてくれないかな?」 戸惑う表情を浮かべた唯に、キョウヤは慌てた様子で付け加えた。 「いや、もちろん服の上からでいいから」 「それは気にしないけど」 唯はベッドの上で正座すると、パジャマのボタンを外しキョウヤに体を向けた。 「……失礼します」 キョウヤはひとつ咳払いすると、聴診器をゆっくりと唯のはダリ鎖骨下あたりに当てた。 気管を通る呼吸の音に混じり、心臓が鼓動を刻むリズミカルな音がキョウヤの鼓膜を震わせた。 耳を澄まし、じっと心臓の音に聞き入るキョウヤの目からひとすじの涙がこぼれた。唯が不思議そうに首を傾げた。 「どうして……泣いてるんですか?」 ――― Report 大東泰雄(安田ヤスオ)の臓器・組織等は日本各地のレシピエントに移植された。 左腎臓 レシピエント名:梶山元子 肝臓 レシピエント名:本山信二 右下肢 レシピエント名:沢向亮介 両上肢 レシピエント名:森島健伍 心臓 レシピエント名:平沢唯 脳 レシピエント名:京谷貴志 唯「――――っていうSSを書いてみました! 入院中ヒマだったので!」 和「いや……心臓病って……あんた、たしか盲腸で入院したんじゃなかったかしら?」 唯「そうだよ。盲腸だけにもう、超痛い、なんちゃって」 和「……」 和「ところで、心臓がビヨーンとなる病気ってなによ」 唯「原作のヒロインは拡張型心筋症なんだけどね、拡張型心筋症は体への負担を考慮してある程度の 就労制限はかけた方が良いものの立派に働くこともできる病気なんだ。当然、病状の進行具合によって は辛い闘病生活をしいられている人もいるんだけど、SSの中での私のように発病後すぐに心臓移植が 必要というわけでもないんだよ。当然、患者によって個人差はあるけどね。まあ、無用な誤解を避ける ためにもSS内で病名を明言するのはやめておいたんだ」 和「そ、そう……(意外と考えてるのね)」 和「それはそうと、あんた水嶋ヒロのファンだったの? 『KAGEROU』の二次創作なんて書いちゃって」 唯「うん、天道総司の頃からのファンだよ」 和「へぇ、知らなかったわ……(天道総司ってなにかしら?)」 唯「私のSSを読んだだけではヤスオの境遇とかがわからなかっただろうから、興味がわいたんだったら 和ちゃんも『KAGEROU』を試しに読んでみると良いよ。巷では文章が下手だって言われてるけど、 私の書いたSSよりは当然上手だし、難しい表現が無いから子供でも読めるよ。 さらに言うなら、水嶋ヒロ物語、私小説として読んでみると意外と面白いと思うよ」 和「そう、じゃあ気が向いたら読んでみるわ」 唯「内臓が無いぞう、なんちゃって おわり!」 戻る
https://w.atwiki.jp/83452/pages/12534.html
1 2 元ネタ KAGEROU 2011/03/27 http //hibari.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1301231251/ 戻る 名前 コメント すべてのコメントを見る まあまんまだし、買わなくてもいいと思うよ 発想は好き -- (名無しさん) 2012-07-21 02 37 47 微妙だな -- (名無しさん) 2012-06-18 21 21 27 こういうの嫌いじゃないぜ -- (名無しさん) 2011-04-13 09 59 02 MURIGAARUDAROU -- (名無しさん) 2011-04-13 09 10 35 オチいらね -- (名無しさん) 2011-04-07 00 30 35 へー、こんな内容なのか てか最後キョウヤに脳うつしたのか?さすがに脳はムリじゃ -- (名無しさん) 2011-03-29 20 12 57 別に最後なくてもよくね?と思った -- (名無しさん) 2011-03-29 18 37 09 この文体とか劇中劇オチとかどっかで見た気がするんだけど思い出せん。 けいおんと何かのクロスオーバーSSだったと思うんだけど・・・。 -- (名無しさん) 2011-03-29 13 08 25 はぁ。そういう感じなのか・・・・まあ今度読んでみるか。 -- (通りすがり) 2011-03-29 08 12 02 無料でSS読んでる時にこう言われちゃ、買うしか無いか…… -- (名無しさん) 2011-03-29 07 48 59