約 8,649 件
https://w.atwiki.jp/mtgflavortext/pages/5588.html
ドレッズの心の半分は、出て行きたがっていた。 Dreads had half a mind to leave. オデッセイ 失ったものなんて知らなくてもいいさ。 You won't know what you're missing. 第9版 よく学んだ頭には、学問だの知識だのが重く詰まっている。自分の重みで崩れてしまいそうだ。 ――ラクァタス大使 "The educated mind is heavy with lore and knowledge. It's also the most likely to collapse under its own weight." ――Ambassador Laquatus 第10版 基本セット2010 彼に残されたのは、何を失ったのかを理解できるだけの記憶だった。 He was left with just enough memory to understand what he had lost. 基本セット2011 基本セット2014 【M TG Wiki】 名前
https://w.atwiki.jp/bakiss/pages/246.html
すっかり寝静まった夜更けの町。その静寂を破って、石畳の道を蹴るいくつもの蹄の音が響く。 「そっちへ逃げたぞ。追えっ!」 教会から「異端の徒」として追われる二人組の「切り裂き魔」――バズとロザリィは、馬を駆って追ってくる聖騎士の一団から逃れようと、曲がりくねった街路を脇目も振らず駆けていた。 複雑に入り組んだ狭い街路を何度も曲がって進むうち、背後に聞こえる蹄の音は次第にその数を減らし、やがて全く聞こえなくなった。 「ぼっちゃま。大丈夫っスか?」 やや長めの金髪の毛先を立てるようにして頭の後ろでまとめ、白いブラウスに黒いベストと丈の短い黒いスカートを身につけて、網目の粗いタイツに踵の高い靴を履いた気の強そうな 顔立ちの少女、ロザリィが、走る速度を緩めて振り返り、少し遅れて駆けてくる常人並みの体力しか持たない主人を気遣うように言った。 この華奢な体つきをした少女が、手術道具一式を納めた重い鞄を手に苦もなく疾駆することができる理由を知っている者は少ない。 ぼっちゃま、と呼ばれた人物――白い外套に同じく白いフードを被り、目の部分だけをくり抜いた木の仮面を顔に付けて、蛇が巻き付いた意匠の杖を握り締めたバズは、 診察・執刀の際の助手であり、こうした時の護衛役でもあるロザリィに追い付きながら、息を弾ませて答えた。 「ええ、大丈夫……です。ここまで来れば……もう、彼らも……」 追っては来ないでしょう――そう言いかけたバズの前に、路地を別の方向から進んで先回りしていた、勇猛で知られる聖騎士の隊長が馬を駆って忽然と現れた。 突然のことに凍りつくバズ。 聖騎士の隊長は、馬上で腰の剣を抜き放つと叫んだ。 「神に背く異端の徒、アスクレピオスめ。神妙に縄につくがいい!」 叫び終わると同時に、バズの顔を覆っている木の仮面目がけて鋭く剣を打ち込む。 乾いた硬い音を立てて、仮面が二つに割れた。月の光に照らされて露わになった仮面の下の素顔を見て、隊長は一瞬目を疑った。 (子供――!?) そう、バズ・ディレイルはまだ子供といっていい年齢だった。 あどけなさが残る顔立ちに、心の奥まで見透かされるような深い光を湛えた双眸。隊長自らが振るった剣が付けた、雪に覆われた尾根のように白くくっきりとした鼻梁を横切る 一筋の傷から赤い鮮血が流れ出して、少年の頬を静かに伝い落ちた。 予期しない事態に一瞬我を忘れた隊長の脇腹に、斜め下方から強烈な打撃が加えられた。 「がふっ…!」 猛烈な痛みが走り、息ができなくなる。完全に不意を突かれた格好になった隊長は馬上から転げ落ち、石畳の地面に倒れて意識を失った。 音もなく隊長の後ろに回り込んで先程の蹴りを放ったロザリィが、真剣な面持ちでバズを見つめる。 「ぼっちゃま…今のうちっス」 その眼差しを受け止めて、バズがゆっくりと頷いた。 「こんなことをするのは気が進みませんが……顔を見られたからには、仕方がありません」 しばらくの後。町外れにある廃屋の一室で、麻酔の効果で眠る隊長が横たわっている寝台を前に、 バズとロザリィが手術の用意をしていた。二人とも一切言葉を発さない。器具の冷たい音だけが響く 室内には、一種異様なほど張り詰めた空気が漂っていた。 やがて、沈黙を破ってロザリィがバズに声をかけた。 「ぼっちゃま。準備OKっス」 その言葉を聞いて顔の傷に止血処置を施したバズが振り返り、深刻な表情で頷いた。 二人組の切り裂き魔を追っていた聖騎士の隊長が行方知れずになってから十数日後。 町外れの道をどこかぼんやりした様子で歩いている隊長を、教区内の見回りをしていた 二人の隊員が見つけた。隊員たちは十日以上行方がわからなくなっていた上官に駆け寄ると、口々に声をかけた。 「隊長!ご無事だったんですね」 「アスクレピオスの奴らはどうなったんですか」 しかし、隊長は当惑したように首を振って、言った。 「アスクレピオス……?すまないが、私には何のことだか……」 そう答える目の前の男に、凛々しく勇猛な聖騎士隊長の面影はなかった。 ロボトミー――バズが隊長に施術したのは、脳の一部を切除して記憶を失わせると同時に、 被術者の性格までも変える禁断の術式だった。 自分たちを追い詰めた人物の記憶を葬り、教会という権力の手を逃れて、バズとロザリィは 今日も旅を続ける。教会が認める「正当の医学」では救えない傷病者たちを助けるために。
https://w.atwiki.jp/changerowa/pages/328.html
雨は止まない。 戦場に零れた血と涙を全て洗い流しても、一向に止む気配はない。 水滴が地面に叩きつけられ弾ける音が絶えず響く。 吹きすさぶ風は肌を冷やし、参加者の体温を容赦なく奪い去る。 悪天候の中を突っ切るは一台の自動車。 ハンドルを握った青年、桐生戦兎が考え込むのは病院に残して来た仲間達。 自分達が街に行っている間、危険人物に襲撃されていないだろうか。 何も問題が起きなければそれに越したことはないが、いつどこでなにが起きてもおかしくないのが殺し合いだ。 撃退したにしろ脱出したにしろ、三人とも無事であってくれと願う他無い。 (…ん?ちょっと待てよ?) 仲間の安否を思う戦兎の胸中に、ふと生まれる疑問。 病院を出発する前、もしナナ達だけでは対処し切れない危険人物が襲ってきた際にどうするかを話し合ったのは覚えている。 そうなった場合は脹相が二人を抱えて飛んで逃げ、戦兎達との合流を目指す。 しかし危険人物の襲撃が無くとも、病院からの移動を迫られる理由が一つあるではないか。 禁止エリアである。 聖都大学附属病院があるのはD-2とD-3の丁度境目の位置。 この内D-2は二回目の定時放送で新たな禁止エリアに指定された。 病院全体が丸々禁止エリア内にある訳でないが、放送前に比べれば動ける範囲は限られるだろう。 行動範囲が制限された場所に留まり続ければ、本当に危険人物が襲来した際に不利な状態での戦闘ないし逃走を余儀なくされる。 燃堂はともかくナナと脹相がこの点を全く考慮しないとは考えにくい。 となるとまだ禁止エリアが機能しない時間帯、放送の直後に病院を発った可能性は高い。 (本当に移動したとして、問題は行き先か……) 「そろそろ着きそうだな」 隣で発せられた声に、思考に耽っていた戦兎も意識を引き戻される。 杉元の言った通り進行方向上に見えるのは白亜の建造物。 甜花以外は既に訪れた為、見覚えのある施設へ戻って来たのだ。 死闘と呼ぶに相応しく死んでしまってもおかしくは無かった、というか杉元に至っては本当に一回死んだDIOとの戦い。 最上の結果とは言えずとも生きてまた合流場所へ戻れたのには、大なり小なり安堵があった。 「あそこで、ナナちゃん達が待ってるんだ……」 後部座席から病院を見つめる甜花だが、緊張が声に滲み出ているのは気のせいではあるまい。 殺し合いに乗っていない仲間達との再会は嬉しい。 けれどDIOに洗脳され散々迷惑をかけたのを思えば、罪悪感と後ろめたさで心が重くなる。 だからといって今更逃げるつもりも無い。 自分のやったことに向き合うと決めた以上、ナナと燃堂にもちゃんと謝らなくては。 「……」 甜花の隣にいる神楽もまた表情に元気が見当たらない。 自分達は当初、胡蝶しのぶの救出を目的にして街へ向かった。 そのしのぶが一緒でない以上、当然ナナ達からそれを聞かれるだろう。 悲鳴嶼がいない今、何があったかを知るのは神楽一人。 道中、こちらに気を遣って戦兎達からしのぶの件を聞かれなかったもののずっとそのままとはいかない。 神楽とて永遠に隠し通す気は無いし、それは悲鳴嶼としのぶへの筋が通らないと分かっている。 ただそれでも、悲鳴嶼から悪くないと言われても、己の罪を告白せねばならないのに重苦しさを抱くのは致し方無い事だ。 各々考えている内に宣伝カーは病院前に到着。 自動車をデイパックに仕舞い、すっかり見慣れた病院内へ足を踏み入れた。 無事合流場所に帰って来た訳だが、仲間達が顔を見せる気配は無い。 暫く待ち、名前を呼んでみても誰も出て来ない。 沈黙に包まれたロビーがいやにこちらの不安を煽り、甜花の心配が顔に現れる。 未だ眠り続ける善逸を抱える腕にも自然と力が入っていく。 「も、もしかして、何かあったのかな……?」 「いや、それにしちゃ綺麗過ぎだ」 「俺もそう思う。放送前に出発した時と何も変わってないのは不自然だしな」 ロビーを油断なく見回しながらも、襲われた可能性は低いと考えるのは二人の男。 杉元と戦兎、共に戦闘経験豊富な彼らの目には、ナナ達が病院でアクシデントに見舞われたとするのは不自然に思えた。 とはいえ警戒を完全に解くには気が早い、それぞれ歩兵銃とガンモードのドリルクラッシャーを構えておく。 仮にこちらへ害を為す者が飛び出して来たなら、引き金を引くのに躊躇はない。 (襲われて脱出した可能性は低い。ってことはやっぱり…) 禁止エリアに指定された為、今後の安全を考えて病院を出た。 そうなると戦兎達が戻って来た時に居場所を伝えられるよう、メモか何かを残しているはず。 但し簡単に目に付く場所には置いていないだろう。 戦兎達や善良な参加者ならともかく、殺し合いに賛同する者へ知られる危険性もあるのだ。 堂々と自分達の居場所を記しては、襲いに来てくださいと言っているのと同じ。 ではどこに置いたか、ナナの視点に立って考える。 禁止エリアから外れた部屋、戦兎達ならば気付けるだろう場所。 条件に当て嵌まり、可能性が高いところに心当たりがあった。 「あいつらがどこに行ったのか、手掛かりが残してある部屋が分かった。ちょっと行って来る」 「なら俺も一緒に行くぜ桐生。コソコソ隠れてる奴がいないとも限らねぇ」 襲撃者の可能性はほぼ無いと言っても、万が一というものがある。 DIOに負わされた傷が未だ重く残る身では、如何に戦兎だろうと連戦は厳しい。 同行を申し出た杉元も万全とは言い難いが、不老不死の肉体故にある程度傷も回復済み。 戦兎一人で行かせるよりはまだ安全。 同じく疲弊の大きい三人はロビーに残し、もしもの時は急いで病院から離れるようにと伝える。 「そんじゃ見て来る。多分すぐ戻って来れるけど、そっちも気を付けてくれ」 「う、うん……。あ、あの…!ちゃんと、戻って来てね……?」 ほんの少し離れるだけ。 分かっていても甜花の不安は消えない。 最初にPK学園を訪れた時、一人で来訪者の対応に向かう戦兎の背を見送った。 思えば正気を保ったままで戦兎と話したのはあれが最後。 そこからは貨物船に連れ去られ、大切な全てを狂わされたのだ。 だからだろうか、一時でも戦兎が離れて行くのが堪らなく心配なのは。 また何か悪いことが起こってしまって、折角助けてもらえたのも無に帰すのではと、自らの想像で心を恐怖させるのは。 大丈夫だと言ってロビー奥の廊下へ進む男達を見送り、二人の少女と一匹の獣が残された。 「……」 「……」 沈黙。 彼女達の間に会話は無く、甜花の腕の中で小さな寝息が音を立てるのみ。 チラ、と隣に立つ女を横目で見る。 PK学園にいた時はそれどころではなく余裕も無かったが、綺麗な人だなと思う。 眩しいオレンジの髪、大胆に谷間を曝け出した胸、それを下品と感じさせないプロポーション。 千雪や夏葉にも負けず劣らずの、魅力的な年上の女性。 尤も精神は体の持ち主とは別人。 神楽と、そう呼ばれていたこの人物について甜花はほとんど知らない。 分かるのは殺し合いに乗っておらず、先の戦いで大事な人を亡くした事くらいか。 (何を話せば良いんだろう……) こちらを全く見ない彼女から発せられる、非常に重苦しい雰囲気。 甜花を拒絶する意図は無くとも、気軽に声をかけるのは憚れた。 下手な慰めは却って相手を傷付け、無意味に怒らせるだけ。 それならこのまま無言を貫いた方がマシではないだろうか。 何より甜花は洗脳されていたとはいえ、立場的にはDIOの味方だった。 神楽が死を嘆いていた者を殺した男と一緒にいた少女、事情があったとはいえ良くは映らないと思う。 そう考えると益々罪悪感が募り出す。 貨物船に連れ去られた時、もっと必死に抵抗してれば洗脳されずに済んだのではないか。 ナナや燃堂、善逸が阻止しなかったら自分は本当に戦兎を殺してしまっていた。 現実にそうならなかったと言っても、一歩間違えれば取り返しの付かない事態と化したのは本当だ。 それに洗脳されていた時の自分はDIOからの質問に、馬鹿正直に全部話したのも今考えると後悔しかない。 戦兎達の情報は元より、甘奈を始めとする283プロのアイドルの名まで出す始末。 本当に、自分は一体何をしていたんだろう。 今更悔やんだ所で仕方ないと言っても、思い浮かぶのは皆への申し訳なさと自分自身への怒り。 「ピカ…ピ~カ~…?(あれ…ここ病院…?)」 会話は無く鬱々とした空気を壊すような声。 前足で寝惚け眼を擦り、ぼんやり辺りを見回すと自分の居場所がすぐに分かった。 数時間前に出発した施設に戻って来たらしい。 「ピカ……」 ぱちりと、現状を理解し意識も寝惚け半分から脱却。 病院にいるということは、自分達は撤退に成功したのだろう。 残念ながら全員無事にとはならなかったが。 悲鳴嶼行冥はいない、自分を庇った鬼殺隊の仲間は戻って来れなかった。 彼が息絶える瞬間はこの目でハッキリと見た、あれは何かの間違いなどと現実逃避は出来ない。 残酷な現実から目を逸らすにはもう、人間の死を味わい過ぎてしまっている。 どれだけ仲間が殺されても歩き続けねばならない、歩みを止めれば鬼は殺せない。 悲しみはある、悔しさはある、怒りだってある。 その全てを火にくべる薪に変えて進まねばならない、鬼殺隊とはそういう世界に生きる者なのだから。 それでもまた一人、自分の前から誰かがいなくなった事実は。 仲間の死とはいつだって、刃のように容赦なくこちらの心へ痛みを与える。 「あ、えっと…お、おはよう……」 「ピカ?」 控えめな声に見上げれば、こちらを覗き込む顔。 PK学園でDIOと一緒にいた女の子だ。 確か戦兎が心配していた、甜花と言う名前の少女。 洗脳が解かれてからは一緒に戦ったが、自己紹介などをしている暇は無かった。 正気な状態で話すのはこれが初めて。 と、そこで自分が甜花に抱きしめられているとようやく気付く。 ぎこちない笑みを浮かべるのもそこそこに、甜花は申し訳なさそうな顔を作る。 小さな獣と目を合わし、不思議がる反応に構わず頭を下げた。 「あの…さっきは、ごめんなさい……。いっぱい傷つけようとしちゃって……」 PK学園で斬月に変身し、善逸を殺そうとしたのは記憶に新しい。 奇跡的にか或いは互いの実力差故か、一撃も掠らずには済んだ。 だからといってそれでチャラになりはせず、申し訳ないことをしたと思う。 「ピ、ピカ。ピカピ~カ~」 謝罪された善逸はと言うと、少し慌てたように首を横に振る。 確かに何度も斬られたり撃たれたりしたし、攻撃を受けている間は恐くてしょうがなかった。 けれど一発も命中しなかったのだから、そう長々と引き摺る気は無い。 何より甜花がこちらを殺そうとしたのは、DIOに洗脳されたから。 責められるべきは原因を作ったDIOであって、被害者である甜花に文句をぶつけるのはお門違い。 その点は善逸も理解しており、大丈夫だと身振り手振りて伝える。 「……うん。あの、本当に、ご、ごめんなさい…。あ、あと、ありがとう……」 言葉は分からないが、何を伝えたいかは何となく分かった。 自分がやったことを今一度噛み締めて謝罪を、それに感謝を口にする。 「そ、それと、あの……悪いのは甜花だけど、でも…なーちゃんの体にえっちなことは、もうしないでね……?」 「ピガッ!?」 邪な目的があってっではなく、偶然とは分かっている。 そもそも先に襲い掛かった自分が悪いのは十分承知。 それでもやはり妹の体、それも尻を触られるのは抵抗があった。 姉畑のような身勝手な行動では無いので、そう強く咎めはしなかったが。 「ピ、ピカー…ピカピ~」 一方の善逸も不可抗力とはいえ甜花を大いに怒らせた瞬間を思い出し、あからさまに目を泳がせる。 だがそれも束の間、ライドウェア越しの柔らかさがまだ前足に残っている気がして、ついだらしなく顔を緩めてしまった。 「鼻の下伸びてんぞオイ」 呆れた声色の指摘は、それまで黙っていた神楽から。 生真面目を体現した悲鳴嶼の仲間にしては随分、俗物的な性格のようだ。 「とりあえずタマを潰しといた方が良いと思うアル」 「ピカ!?(え゛!?)」 「えぇ…!?そ、そこまでしなくても……」 まさかのバイオレンスな提案に、揃って顔を引き攣らせた。 善逸に至っては姉畑を前にした時とは別の意味での下半身の危機。 全身を青くして突然変異を思わせる見た目と化すも神楽は平然と続ける。 「男なんて基本はぶら下げたタマで物事を考える生き物って姉御が言ってたネ。おらっ、お前も隠したマスターボールを見せてみろヨ」 「ピガアアアアアアア!?(ひぎいいいい!?引っ張らないでえええええ!!)」 「ひゃっ…!そ、そんなとこ引っ張っちゃ、ダメだよ……」 雨音に負けじとロビーに響き渡る汚い高音は、戦兎達が戻って来るまで続いた。 ○ 「宇宙船…?」 「ああ。どうやら放送が始まってすぐそこに向かったみたいだ」 そう言って戦兎が見せるのはナナが書き残したメモ。 これを見つけたのはまだ悲鳴嶼達が病院に来る前、ナナが斉木楠雄との接触を果たした部屋だ。 戦兎達なら気付けて、尚且つ他の者には簡単に見つからない場所。 条件に当て嵌まるとしてナナが選んだ置き場所で、無事にメモを発見。 記された内容は戦兎が予想した通り、病院の一部が禁止エリア指定されたので、安全性を考慮し移動する旨。 新しい合流場所には北西に存在するフリーザの宇宙船。 余り距離が離れておらず、何より主催者の一人、ハワードの肉体と関係があるだろう施設である。 有益な情報を手に入れられる可能性もあると踏んで宇宙船に向かったのだろう。 (まぁそんな簡単に大事な情報は見つからないだろうけどな) 体のみとはいえ主催者に繋がる重要な記録を、会場の一施設に保管してあるとは考え辛い。 情報は全て抹消されているか、恐らくは知られた所で何の問題にならないものしか残されていない。 しかし距離の近さと念の為に調べて損は無いとの考えだ。 移動先に宇宙船を選んだ理由は十分理解出来る 何にしてもナナ達の移動先は分かった。 安堵する甜花達を尻目に杉元は今後の動きを尋ねる。 「で、こっからどうする?俺らもすぐ柊達を追うか?」 「…いや、合流が遅れるけど一旦病院で休むべきだと思う」 DIOとの戦闘で負った傷は未だ深く刻まれており、全員体力の消耗も激しい。 宇宙船に向かう道中でトラブルが起きないとも言い切れない以上、少しでも万全の状態に近付けておいた方が良い。 加えて降り続ける雨も問題だ。 サッポロビールの宣伝カーは移動の足としては問題無くとも、雨風を凌ぐ効果は期待出来ない。 現代で販売されている自動車と違い、瓶型のボディを被せただけの宣伝カーには窓ガラスが無いのだ。 おまけに車体の後ろには遮る物が見当たらず、後方確認には打ってつけだが今の天候では困りもの。 病院への移動中にも車内は雨で濡れ、全員口には出さなかったが寒く感じた。 特に神楽は肌を大きく露出した格好の為、無意識にか冷えた両腕を擦っている。 よってここは病院で暖を取り体力を回復させるべきとの判断を下す。 一部が禁止エリアに指定された施設で不安はあるものの、他の施設へ移動し時間を消費するよりは聖都大学附属病院に留まる方がマシだ。 それに放送前ならともかく、放送で一部が禁止エリアに指定された施設へ進んで行きたがる者はそういない。 病院が襲撃される可能性は高くない筈。 何より病院に来るだろう神楽の仲間、広瀬康一の存在も無視できない。 ナナのメモに康一の名が出ていなかった為、三人が病院を発つまでの間にも康一は来ていないらしい。 方針不明の巨大な虫の追跡に苦戦しているのか、何か別のアクシデントに見舞われたか。 前向きに考えるなら雨のせいで遅れているだけで、どうにか病院に向かってる最中かもしれない。 いずれにしろもう少し待ってみて無事病院に到着するなら良し、もし来なければ様子を見に行く事も検討する。 その場合はナナ達と合流する組と康一を迎えに行く組で、二手に分ける必要があるが。 「とりあえずこんな感じで動こうと思うけど、皆はどうだ?」 「う、うん。大丈夫……」 「ピカ…ピカチュウ……(しのぶさんが心配だけど…もしかしたら自力で来るかもしれないか……)」 「…私もそれで良いアル」 康一の安否は気になるし、こっちから探しに行きたいとも思う。 彼だけでなくゲンガーも心配だ。 同行者二人だけでなくカイジまで死に、今どんな状態になってるのか見当も付かない。 放送で名前が呼ばれなかったからといって、絶対的な安全が保障されるとは限らないのだから。 だが戦兎の言う通り、すぐに動けるほど体力的に余裕はない。 このような状態で一緒に来てくれと言うのは流石に抵抗がある。 自分一人で探しに行くにしても疲弊したまま向かった所で、もし向こうで戦闘が起きたら却って足手纏いになるだけ。 何より勝手な単独行動を取った末にしのぶを殺した件を考えると、神楽と言えどもここは大人しく皆と共にいるべきと自制心が働き出すのだ。 不安は尽きないが康一とゲンガーを信じて休む事にする。 「それなら全員手当てした方が良いだろ。場所が場所だ、道具にゃ困らねぇ」 杉元も皆と同じく休憩に異論はない。 アシリパと共に極寒の北海道を駆け抜けた男だ。 要所要所での体力回復の重要性はこの中で一番に理解している。 休むと決めたら休む、但しその間にもやれる事は全て手を付け次の戦いに備えるのが吉。 何せDIOを始めとして障害は多い、この先も激戦が予想される以上事前の準備に手は抜けない。 まずは最初にやるべきは傷の手当て。 杉元自身は妹紅の体の恩恵で放って置いても治るが他の者は違う。 「悪いな杉元。手間かけさせちまって…」 傷の処置に最も長けている相手に任せるのは間違っていない。 されど杉元一人に負担が圧し掛かるのには申し訳なさを抱く。 当の杉元は気にした風も無くからからと笑って、「謝んなよ」と返し包帯や消毒液を取りに行こうと背を向け、 (いや、わざわざ探しに行かなくてもいいか?) 思い直しデイパックを見やる。 確か悲鳴嶼としのぶは一回目の放送が始まる少し前まで病院にいた。 ならその間、治療に必要な道具を入手しそれぞれのデイパックに入れた可能性は高い。 実際、最初に戦兎の手当てをした際、幾つかの道具が持ち出された形跡があった。 それが悲鳴嶼達の手によるものだとしたら、回収したデイパックに残されているのではないか。 一々取りに行かなくてもデイパックから出した方が手っ取り早い。 悲鳴嶼のデイパックを降ろして、特に躊躇もせず中を開く。 そこに予期せぬものが入っているとも知らずに。 「……」 デイパックの中からこちらを覗くソレを前に、杉元は表情を消す。 いや、厳密には覗くという表現は間違いだ。 何故なら彼女の瞳は閉じられ、杉元の姿を映しはしないのだから。 こういう状態になったモノを見るのは初めてではない。 むしろ感覚が麻痺する程に見過ぎているくらいだ。 大きな動揺はない、されど疑問は生まれる。 何故、悲鳴嶼のデイパックに少女の死体が入っているのか。 街に行く前の情報交換で悲鳴嶼が語った内容に、少女の死体を確保したとは一言も無かった。 首輪が装着されたままなら、脹相が首輪を回収した相手とも違う。 実は死体に性的興奮を抱く性癖の持ち主で、不審がられない為に隠していた? その可能性も無くは無いが、悲鳴嶼は仲間思いで生真面目な人間という印象が強い。 刺青囚人達のようなアクの強さとは無縁な気がする。 では何故死体を回収したのか、そもそもいつ死体を仕舞ったのか。 脹相と会った時でないなら考えられるタイミングは一つのみ。 恐らく、少女の正体と何が起きたかを悲鳴嶼以外に知っている人物も一人しかいない。 「杉元?」 「悪い桐生、今は俺に話させてくれ。…神楽」 「な、なにアルかいきなり…」 デイパックの中を覗いたと思えば明らかに雰囲気が一変。 困惑する戦兎には悪いが彼への説明は後に回させてもらう、先に用があるのは別の仲間だ。 急に名前を呼ばれた彼女も困惑を隠せない様子。 疑問の浮かぶ表情は次に放たれた言葉で凍り付く事になる。 「青い帽子を被って、髪の毛の先がこう…巻いてる女の子と会ったか?」 「え……」 心臓がいやに大きく跳ねた。 一瞬呼吸が止まり、ひゅっという音が耳に残る。 杉元から告げられた特徴、それとぴったり一致する人物を神楽は知っている。 知らない筈が無いのだ。 横では甜花も神楽と同じような顔。 腕に抱いた善逸が首を傾げるのにも気付かず、サァッと青ざめた。 甜花はともかく神楽の反応は予想通り。 どうして知ってるんだとか聞かれる前に答えを見せる。 ロビーの椅子に横たわる少女。 純白を通り越し死人の如き青白い肌は、彼女から魂が抜け落ちた証拠。 瞼と口は閉じられたまま、未来永劫開かれはしない。 それでも少女が浮かべる表情に苦痛の色は見当たらない。 心の底からの安堵を顔に出した理由を知るのは少女と、少女に生かされ、今はもう同じ場所へと旅立った男だけ。 「この子は……」 「悲鳴嶼の鞄に入ってた」 短く告げられた杉元の言葉はより混乱を齎し、しかし戦兎の頭脳は即座に正体へ行き着く。 悲鳴嶼が心配していた行方知れずの仲間。 PK学園で合流した時の悲鳴嶼と神楽の妙な態度。 自分達と別れて再び会うまでに何かが起きた。 答えは自ずと導き出される。 「もしかして、胡蝶しのぶなのか…?」 「ピカ……?(え……?)」 戦兎が何を言ったのか、善逸にはすぐに理解できない。 だって今口にしたのは探している仲間の名前で。 手遅れになってる可能性もあったけど、どうにかDIOの所から逃げれた筈の人で。 なのに戦兎は、死んでいる女の子を見て彼女の名前を出した。 それじゃあつまり、結局彼女は助からなかったんじゃあないか。 自分はまたしても遅すぎたってことじゃあないか。 「ピカ……ピカチュウ……(なんだよそれ……何でだよ……)」 煉獄が死んだ。 悲鳴嶼が死んだ。 しのぶも、善逸と再会する事無く死んでしまった。 彼らは元々死人、鬼との戦いで既にこの世を去った筈の亡霊。 だから帰るべき場所へ帰っただけと、そんな薄情に割り切れない。 ただ悔しかった。 もし自分が別の行動を取れていたら、もっとちゃんとやれていたら。 彼らがこの地で命を落とさず、元いた所へ帰れたかもしれない。 彼らの帰還を皆が喜んでくれる、そんなもしもの光景は二度と現実にならない。 それが悔しくて、悲しくて、双眸から絶えず雫が伝い落ちていく。 大声は出さない、しのぶの傍へ寄り添い小さな体を震わせる背中に、誰もかける言葉が見つからなかった。 「……神楽」 名前を呼ばれ顔を向ける。 自分を見つめる戦兎の目に、責める意思は宿っていない。 ああしかし、何を言いたいかは分かった。 「分かってるネ…。全部、話すアル」 いずれ自分の口から伝えねばならない、罪の告白。 今がその時なのだろう。 →
https://w.atwiki.jp/changerowa/pages/330.html
← ○ 甜花に案内され移動したのは食堂スペース。 戦兎が傷の手当てを受けている間、何か使える物が無いかと神楽・善逸と共に付近の部屋を探索したとのこと。 善逸を抱えながら甜花は食堂を訪れており、ここでちょっとした発見があったのだ。 「ここにいっぱい入ってて……」 戸棚を開けると中にはカップラーメンがギッチリと詰まっている。 病院の食堂に健康食とは言い難いインスタントの食品。 ミスマッチな組み合わせだが、殺し合いの施設に一々常識を求めるのも無意味。 温かい食事が取れるなら不満は無く、水を入れたやかんをガス台で沸騰させる。 現代日本出身の戦兎と甜花、天人の襲来で文化が異様に発展した江戸に住まう神楽からしたらごく当たり前の技術。 明治・大正時代の日本に生きる杉元と善逸は興味津々の様子だ。 「大したもんだな未来」 「ピカー……」 コップに注いだ水道水を飲みながら呟く杉元の横では、ガス台の火を善逸がぼんやり眺める。 湯が沸騰し独自の音を鳴らすと、蓋を半分ほど開けたカップ麺に熱湯を注ぐ。 塩味と味噌味だが、パッケージに記されたのは甜花には見覚えの無いメーカーだった。 4分経過し蓋を開けると各々箸を付ける。 「ん…!美味い…!」 最初はどんな食べ物か分からなかった杉元も、麺類と分かれば試しに啜ってみる。 感想は口にした通り。 蕎麦やうどんとはまた違った食感の麺と、濃い味ながら食欲を刺激するスープ。 雨で冷えた体が瞬く間に火照り、温かいどころか熱くなるも箸を動かす手が止まらない。 「ピカ!」 「おお、悪い悪い。火傷しないようにしろよ」 膝に乗せた善逸のことをつい忘れてしまっていた。 軽く息を吹きかけ麺を冷ましてから食べさせてやる。 ちゅるちゅる啜ると顔が綻んだ辺り、味には文句なしの様子。 スープを口に付けた際に悲鳴が上がったのはご愁傷さまだ。 舌を火傷したらしい善逸に水を飲ませる。 「ごっそさんアル。もう一個もらうネ」 「そんなに食って大丈夫なのか?」 「大丈夫ヨ。こいつは胸だけじゃなく腹にも脂肪やった方がバランス良いネ。女はドラム缶みたいになってからが本番アル。カロリー制限なんてクソ食らえヨ」 「体の持ち主本人が聞いたらキレるだろそれ…」 あっという間に完食し、謎の理論で二つ目のカップ麺にお湯を注ぐ。 フリーダムな神楽ををオレンジ髪の女本人が見たら何と言うやら。 落ち込んで食欲が全く無いよりはマシではある。 「ふふっ……」 小さな笑い声に横を見やると、戦兎の視線に気付いた甜花が途端に慌て出した。 「ご、ごめんなさい…!」 「いや別に怒ってないぞ?」 「あ、うん……」 怒ってないと言われ安心したのか、恥ずかし気に目を泳がせながら理由を口にする。 「あの、ね…まだ大変なことになってて、みんなもたくさん痛い思いをしたって分かってるけど、でも…また戦兎さんと一緒にいれて…みんなとご飯食べてるのが何だか嬉しくて……そ、それで……」 「良いことじゃねぇか」 最後の方は照れくさくなったのか小声になった甜花を肯定する声。 善逸にスープを飲ませながらあっけらかんと言ったのは杉元。 金塊争奪戦は刺青囚人や金塊を狙う他の一派、時には大自然の猛威との目まぐるしい戦いの連続。 しかしいつだって食事の時は殺伐とした空気を忘れ、北海道の恵みの味を堪能したものだ。 殺し合いでもそれは変わらない。 今が異常事態であるのは十分承知、DIOや主催者が未だ健在なのを忘れたつもりはない。 されど飯を食う時は食材への感謝も込めて、味を楽しみ残さず食べる。 「ヒンナヒンナ」 残ったスープを飲み干し何時もの言葉を言う。 神楽の真似では無いけれどまだ腹には余裕がある。 「今度はこっちの…オソマ味(味噌味)でも食ってみるか」 「よく分かんねぇけどその言い方やめとけ」 何となく下品なものを感じたのか戦兎が冷静にツッコむ。 二人のやり取りを見て、甜花はもう一度クスリと笑みを零した。 ○ 食事を終え、最初に食堂を出たのは神楽と善逸。 戦兎から霊安室の場所を聞き、もう少ししたらしのぶに会いに行くつもりのようだ。 元々の仲間と、故意で無くとも殺した本人。 二人の頼みを断る理由も無く、霊安室が何処にあるかを教えた戦兎は食堂を出る背を見送った。 「俺も見張りに戻る。何かあったら知らせる」 「良いのか?今度は俺が代わっても…」 「別に大丈夫だ。気を張ってる方が逆に落ち着く。それにお前らは色々積もる話もあるだろ」 元軍人故かこういう役割の方が性に合っている。 何より二人きりで話したいことだってあるだろう。 一度戦場に放たれれば鬼神の如き戦いぶりを発揮するが、同時にオトメな一面も持ち合わせるのが杉元という男。 少女世界を愛読してるだけあって気の遣い方も上手かった。 ひらひらと手を振り杉元も出て行き、食堂には戦兎と甜花が残される。 二人で話したい事があるのは本当のようで、口火を切ったのは甜花だ。 「戦兎さん…!えっと、お話したいことがあるんだけど…良い、かな……?」 「ん、ああ。どうした?」 どこか緊張している様にも見える甜花を急かさず、彼女のペースで話すのを待つ。 やがて彼女の中で纏まったのか、深呼吸して口を開く。 「戦兎さん…助けてくれて、ありがとうございます……」 「いや、元はと言えば俺がDIOを止められなかったからで……」 「も、もし…!あの人のところにずっといたら、甜花はどうなってたか分からなくて…なーちゃんの体で酷いことを、もっといっぱいしてたかもしれなくて……」 もしもまだDIOに洗脳されていたら、きっとあの男に命じられるまま誰かを傷付けたのは間違いない。 本当に人を殺してしまい、取り返しの付かない事態になった可能性だって十分にある。 有り得たかもしれない光景を思うと、助けられた今でも恐くて堪らない。 でもそうはならなかった。 甜花を決して見捨てようとはせず、諦めずに戦った人がいたから。 「だから、もう一回ちゃんと言わせて…?たくさん酷いこと言ったり、傷付けたりしてて…本当にごめんなさい……!甜花のこと助けてくれて、また約束してくれて、ありがとう……」 「…ああ、どういたしまして」 くしゃっと笑って返した戦兎に甜花も安心を覚える。 最初に会った時と変わらない、彼を信じてみようと思えた笑み。 きっと本当に嬉しそうなその顔を見たからだろう。 もう一つの言いたかった事を迷わず口に出来たのは。 「戦兎さん、あの…さっきみんなに話してくれたこと、なんだけど……」 「ああ…」 どれを指すかは察しが付く。 旧世界で犯した罪、青羽を殺した件だと。 「恐くなったか?」 「えっ?ち、違うよ…!びっくりしちゃったのは本当だけど、でも…!恐いなんて思ってない、よ……!」 戦兎が過去に人を殺した事がある。 衝撃の告白を受けて驚きこそしたが、彼を恐怖し拒絶するなんてとんでもない。 話している時の戦兎は苦しそうで、自分の罪を心から悔いているように見えた。 悪い人なら、残酷な人なら本心からあんな顔はできない。 「戦兎さんが甜花や、みんなのことを守ってくれるのは嬉しくて、でも…戦兎さんにだって助けてくれる人は、やっぱり必要だから……」 昔よりも自分に自信を持てるようになった。 プロデューサーが同行せずとも、一人で仕事に挑戦するようになった。 甜花だけではきっとそんな風に変われなかった、甘奈と千雪がフォローしてくれて、プロデューサーが支えてくれたから。 自分一人では踏み出せなかった舞台へと、皆のお陰で立つ事が出来た。 戦兎も同じだ。 誰かを守るために奔走するヒーローも、一人ぼっちではヒーローじゃいられない。 万丈龍我、石動美空。 彼の話に出て来た人達が、彼を絶対に見捨てなかった仲間がいたから。 桐生戦兎は今でも仮面ライダービルドなんだ。 「甜花は、まだまだ頼りなくて、ダメダメな所もいっぱいだけど…」 ナナのように、明るく振舞いながらも冷静に物事を考えられる判断力はない。 杉元のように、DIOとも正面切って堂々と戦える程に強くはない。 「それでも、戦兎さんの力になりたいって気持ちは、変わらないから…。戦兎さんの、くしゃって笑った顔…甜花も好きだから……あ!す、好きっていうのは、変な意味じゃなくて…!」 慌てて弁明する甜花に笑みが零れる。 笑うなんて酷いよと口を尖らせるも、そこに本気の怒りは無く。 悪い悪いと返されれば、ちょっぴりむくれてしまうけど。 だけどやっぱり、こうして彼のくしゃっとした笑みを見れるのが、心の底から嬉しかった。 ○ 「何か違う気がするんだよなぁ…」 食堂を後にして間もない頃、誰に向けるでもない疑問が口を突いて出る。 腰に差した日本刀は戦兎から譲渡された得物。 これの何が違うかと言うと、まずは刀の持ち主が誰かを説明せねばなるまい。 土方歳三。 新選組の副長を務めた、日本で知らぬ者はほとんどいないだろう人物。 歴史的にもメジャーな男と杉元は面識がある。 何せ土方もまた金塊争奪戦に参戦した一人。 同胞の永倉新八、刺青囚人の牛山辰馬らと共に時に杉元達とは別で刺青人皮を収集する老剣士。 土方の魂そのものと言っても過言ではない愛刀、和泉守兼定こそ杉元が現在腰に差した刀。 なのだが、何故か杉元はこの刀に違和感を覚える。 具体的にどこがどうとは説明出来ない。 ただ直感的に、これは自分の知る土方の刀とは違う気がするのだ。 「俺の知ってる土方とは別の奴が使ってた、とか?」 戦兎から説明された並行世界の話を思い出す。 ひょっとするとその別の世界出身の、杉元とは関係の無い土方が使っていた刀ではないだろうか。 どっちにしても今は自分の武器として使わせてもらうのに変わりは無いが。 「……」 鞘から引き抜き刀身を眺める。 女の、まだ二十歳にもなっていない少女の首を落とした刃。 今になって後悔だの罪悪感だのを抱きはしない。 必要なことだった、それだけの話だ。 しかし戦兎にその役目をさせなかったのは、自分が言い出しっぺだからという単純な理由では無いのかもしれない。 人を殺すことに人間らしい罪悪感を抱く彼と、相棒であるアイヌの少女を重ねたからか。 心から信頼できる相手だと思う。 最も死なせたくない人間だと、心の底から思う。 だからこそ、自分と同じ側には来て欲しくない。 人を殺すのが当たり前の世界に浸かって欲しく無かった。 北の大地を駆け、動物を狩って美味い料理を食べ、アイヌの女の子として平穏に暮らす。 それだけで良い筈だ。 彼女を戦士として仕込んだウィルクが許せなかった。 戦って守るという選択肢に追い込んだキロランケを認められなかった。 何よりも、彼女を人殺しに堕とそうと目論んだ尾形を殺したい程に憎んだ。 戦兎も、甜花も、善逸も、神楽も。 自分とは違う、たとえ人を殺してしまっても人間らしさを失わない者達。 戻れる道を失った自分とは、違う。 アイヌの少女の成長を間近で見た脱獄王はこの地におらず。 少女が共に地獄に落ちる覚悟を見せた狙撃手との戦いは、まだずっと先の話。 本当の意味で相棒と共に踏み出した未来も、杉元は知らない。 言い表せぬ心のつっかえを感じ、されど己の役割は見失わない。 意識するのは手にした武器。 牙を突き立てるは数多の敵。 盾となるは死なせたくない仲間達。 殺すべき相手は見誤らない、抱いた殺意に揺るぎはない。 故郷で干し柿を齧った青年はもういない。 ここにいるのは不死身の杉元なのだから。 【D-3 聖都大学附属病院/夕方】 【桐生戦兎@仮面ライダービルド】 [身体]:佐藤太郎@仮面ライダービルド [状態]:疲労(大)、ダメージ(大・処置済み)、全身打撲(処置済み)、ジーニアスフォームに1時間変身不能 [装備]:ネオディケイドライバー@仮面ライダージオウ、ドリルクラッシャー@仮面ライダービルド [道具]:基本支給品、サッポロビールの宣伝販売車@ゴールデンカムイ、しのぶの首輪 [思考・状況] 基本方針:殺し合いを打破する。 1:暫く休んだらフリーザの宇宙船に向かう。 2:甜花を今度こそ守る。一緒に戦うなら無茶しないようにしとかねぇと。 3:広瀬康一が病院に来なければ、様子を見に行く為に別れて動くべきかもしれない。 4:斉木楠雄が柊の中にいたのか?何故だ?何か有用な情報を得られればいいのだが… 5:佐藤太郎の意識は少なくとも俺の中には存在しないということか? 6:他に殺し合いに乗ってない参加者がいるかもしれない。探してみよう。 7:首輪も外さないとな。となると工具がいるか。 8:エボルトの動向には要警戒。桑山千雪の体でおかしな真似はさせない。 9:柊に僅かな疑念。できれば両親の死についてもう少し詳しいことが聞きたい。 10:柊から目を離すべきでは無いと思うが…今はどうにもできないか。 [備考] ※本来の体ではないためビルドドライバーでは変身することができません。 ※平成ジェネレーションズFINALの記憶があるため、仮面ライダーエグゼイド・ゴースト・鎧武・フォーゼ・オーズを知っています。 ※ライドブッカーには各ライダーの基本フォームのライダーカードとビルドジーニアスフォームのカードが入っています。 ※令和ライダーのカードは少なくともゼロワンは入っています。他のカードは後続の書き手にお任せします。 ※参戦時期は少なくとも本編終了後の新世界からです。『仮面ライダークローズ』の出来事は経験しています。 ※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。 ※ジーニアスフォームに変身後は5分経過で強制的に通常のビルドへ戻ります。また2時間経過しなければ再変身不可能となります。 【杉元佐一@ゴールデンカムイ】 [身体]:藤原妹紅@東方project [状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、霊力消費(中)、再生中、一回死亡 [装備]:神経断裂弾装填済みコルト・パイソン6インチ(6/6)@仮面ライダークウガ、三十年式歩兵銃(3/5)@ゴールデンカムイ、和泉守兼定@Fateシリーズ [道具]:基本支給品×5、神経断裂弾×27@仮面ライダークウガ、ラッコ鍋(調理済み・少量消費)@ゴールデンカムイ、ライズホッパー@仮面ライダーゼロワン、鉄の爪@ドラゴンクエストIV、青いポーション×1@オーバーロード、黄チュチュゼリー×1@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド、ランダム支給品×0~1(確認済) [思考・状況] 基本方針:なんにしろ主催者をシメて帰りたい。身体は……持ち主に悪いが最悪諦める。 1:病院で見張りをする。 2:あのカエル(鳥束)、死んだのか…。 3:俺やアシリパさんの身体ないよな? ないと言ってくれ。 4:なんで先生いるの!? 死んじまったか……。 5:不死身だとしても死ぬ前提の動きはしない(なお無茶はする模様)。 6:DIOとヴァニラ・アイスには要警戒。一応空条承太郎も。 7:精神と肉体の組み合わせ名簿が欲しい。 8:何で網走監獄があんだよ…。 9:この入れ物は便利だから持って帰ろっかな。 10:本当に生き返ったのかよ!?蓬莱人すげえッ! 11:ラッコ鍋は見なかった事にしよう…。 [備考] ※参戦時期は流氷で尾形が撃たれてから病院へ連れて行く間です。 ※二回までは死亡から復活できますが、三回目の死亡で復活は出来ません。 ※パゼストバイフェニックス、および再生せず魂のみ維持することは制限で使用不可です。 死亡後長くとも五分で強制的に復活されますが、復活の場所は一エリア程度までは移動可能。 ※飛翔は短時間なら可能です ※鳳翼天翔、ウー、フジヤマヴォルケイノに類似した攻撃を覚えました ※鳥束とギニュー(名前は知らない)の体が入れ替わったと考えています。 ※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。また自分が戦兎達よりも過去の時代から来たと知りました。 【我妻善逸@鬼滅の刃】 [身体]:ピカチュウ@ポケットモンスターシリーズ [状態]:疲労(大)、ダメージ(大・処置済み)、精神的疲労(大) [装備]:なし [道具]:なし [思考・状況] 基本方針:殺し合いは止めたいけど、この体でどうすればいいんだ 1:もう少ししたら霊安室に行く 2:お姉さん(杉元)達と行動 3:しのぶさんも岩柱のおっさんも、また死んじゃったんだな…… 4:煉獄さんも鳥束も死んじゃったのか…… 5:無惨を警戒。何でアイツまで生き返ってんだよ!? 6:……かみなりの石?何かよく分からない言葉が思い浮かぶ… [備考] ※参戦時期は鬼舞辻無惨を倒した後に、竈門家に向かっている途中の頃です。 ※現在判明している使える技は「かみなり」「でんこうせっか」「10まんボルト」の3つです。 ※他に使える技は後の書き手におまかせします。 ※鳥束とギニュー(名前は知らない)の体が入れ替わったと考えています ※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。また自分が戦兎達よりも過去の、杉元よりも未来の時代から来たと知りました。 ※肉体のピカチュウは、ポケットモンスターピカチュウバージョンのピカチュウでした。 【大崎甜花@アイドルマスターシャイニーカラーズ】 [身体]:大崎甘奈@アイドルマスターシャイニーカラーズ [状態]:疲労(大)、ダメージ(大・処置済み)、服や体にいくつかの切り傷(処置済み)、戦兎やナナ達への罪悪感、決意 [装備]:戦極ドライバー+メロンロックシード+メロンエナジーロックシード@仮面ライダー鎧武、PK学園の女生徒用制服@斉木楠雄のΨ難 [道具]:基本支給品、デビ太郎のぬいぐるみクッション@アイドルマスターシャイニーカラーズ、甘奈の衣服と下着 [思考・状況] 基本方針:殺し合いには乗らない 1:戦兎さんの…力になりたい……。 2:皆に酷いことしちゃった……甜花…だめだめ……。 3:ナナちゃんと燃堂さんにも……謝らなきゃ……。 4:なーちゃん達…大丈夫かな……。 5:千雪さんと、真乃ちゃんのこと…戦兎さんならきっと……。 [備考] ※自分のランダム支給品が仮面ライダーに変身するものだと知りました。 ※参戦時期は後続の書き手にお任せします。 ※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。 ※ホレダンの花の花粉@ToLOVEるダークネスによりDIOへの激しい愛情を抱いていましたが、ビルドジーニアスの能力で正気に戻りました。 【神楽@銀魂】 [身体]:ナミ@ONE PIECE [状態]:ダメージ(大・処置済み)、疲労(大)、膝に擦り傷(処置済み)、銀時と新八の死による深い悲しみと動揺、精神的疲労(極大)、悲鳴嶼としのぶへの罪悪感(大)、脹相に対し不信感(小) [装備]:魔法の天候棒@ONE PIECE、仮面ライダーブレイズファンタステックライオン変身セット@仮面ライダーセイバー [道具]:基本支給品、スペクター激昂戦記ワンダーライドブック@仮面ライダーセイバー [思考・状況]基本方針:殺し合いなんてぶっ壊してみせるネ 1:やっぱりまだ死ぬわけにはいかなアルな… 2:新八…皆… 3:康一とゲンガーはやっぱり心配ヨ… 4:メタモンの野郎…今度会ったらただじゃおかないネ 5:あの虫(グレーテ)は…… 6:DIOが仮面ライダーとかどうとか言ってたみたいだけど…何か色々話しそびれたネ 7:私の身体、無事でいて欲しいけど…ロビンちゃんの話を聞く限り駄目そうアルな 8:銀ちゃんを殺した奴は絶対に許さないネ 9:さっきの記憶は何なんアルか…… [備考] ※時系列は将軍暗殺編直前です。 ※ナミの身体の参戦時期は新世界編以降のものとします。 ※【モナド@大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL】は消えました。カメラが破壊・消滅したとしても元に戻ることはありません。 ※仮面ライダーブレイズへの変身資格を受け継ぎました。 ※放送の内容は後半部分をほとんど聞き逃しましたが、アルフォンスから教えてもらいました。 ※アルフォンスからダグバの放送が起きた事を聞きました。 ※ナミの肉体の影響で『突風(ガスト)ソード』を使えるようになりました。今後他の技も使えるかもしれません。 【兄弟ラーメン@仮面ライダーカブト】 地獄兄弟の矢車想と影山瞬が作中で食べていたカップ麺。 兄貴塩と弟味噌の二種類がある。 仮面ライダージオウにも登場、その時は極兄貴塩と極弟味噌だった。 【和泉守兼定@Fateシリーズ】 新選組の鬼の副長、幕末のバーサーカー土方歳三の愛刀。 会津兼定11代目の作。 129 檀黎斗の憂鬱 投下順に読む 131 Fight King Real 時系列順に読む 124 すべてがそこにありますように(前編) 桐生戦兎 141 自由の代償(前編) 杉元佐一 我妻善逸 大崎甜花 神楽
https://w.atwiki.jp/changerowa/pages/329.html
← ○ 神楽の話が終わり、病院内には数度目となる沈黙が訪れた。 定時放送の直後、一人離れた神楽と追いかけた悲鳴嶼。 終ぞ善逸と再び会えなかったしのぶとの間に何が起きたのか。 全容を知った一同は、何を発すべきか即座には浮かばない。 数分か、或いは数十秒か。 ゆっくりと、しかしハッキリ聞こえるように問い掛けるのは戦兎だ。 彼の言葉を皮切りに沈黙は再び去って行く。 「悲鳴嶼は、何て言ってたんだ?」 「…私に謝ってたネ。自分がもっとちゃんとしてればって。……んなわけねーダロ。私が、馬鹿やったせいヨ…」 最も怒り狂い、復讐に走っても不思議の無い男は神楽を許した。 そればかりか悪いのは自分の方だと言って頭まで下げたのである。 確かに状況を聞けば、悪意があってしのぶを殺したのではない。 新八を含めて四人の仲間の死を一辺に知らされ、それでも冷静さを保てと言うのは流石に酷というもの。 けれど、神楽がしのぶを手に掛けたのは紛れも無い事実。 そう簡単に自分を許せはせず、だから償いとして悲鳴嶼が生きて帰れるように尽力するつもりだった。 結果は先の戦いの通り、すぐ傍にいながらDIOに殺されるのを防げなかったが。 「あ、あの…!神楽、さんは、悪くないよ……」 乾いた声で己を責める神楽に、異を唱える者。 先程からずっと顔色の悪い甜花に視線が集まる。 注目されているのに思わずビクリと震えるも、意を決したように口を開いた。 「悪いのは……甜花、だよ……」 「は…?何言ってるネ?お前はあの時いなかったアル」 「ち、違う、の…!甜花、本当はしのぶさんと…会った事があるから……」 どういうことだと目で訴えられ、甜花はたどたどしく説明する。 まだDIOの洗脳下にあった時、PK学園を訪れた参加者がいた。 しのぶとデビハム、二人との間にいざこざがあり戦闘に発展したのはハッキリ覚えている。 姉畑の乱入で二人が逃げた後も学園での一騒動後、再びしのぶ達と遭遇。 デビハムは自分達の目の前で壮絶な最期を遂げ、しのぶは姉畑に連れられ姿を消した。 きっとそれから間もなく、神楽が語った通りの出来事が起きてしまったのだろう。 「甜花が襲ったりしなかったら、しのぶさんはちゃんと病院に戻ってたはずで……。で、でも…甜花のせいで、そうならなくて……。だか、ら、しのぶさんが、し、死んじゃったのは…甜花の……せい……」 「…馬鹿も休み休み言えアル。お前は全然悪くないダロ」 「え……」 罪悪感で泣きそうになる甜花に返って来たのは、呆れを大いに含んだ否定。 ポカンとして顔を上げると、何を言ってるんだと言いたげな目の神楽が自分を見ている。 「悪いのはお前じゃ無くて、あのDIOだかイボだか言う野郎じゃねーカ。女をコマしてやりたい放題なんざ少年ジャンプ追放ヨ、ヤンマガにでも行ってるがヨロシ」 「え?えっと……で、でも……」 「でもも何も無いアル。どう考えたってお前を洗脳してたイボのが悪いネ」 尚も自分を責め兼ねない甜花にピシャリと言い放つ。 甜花がしのぶと既に会っていたのは驚きだが、その件で責めるつもりは神楽に全く無い。 粗方の事情は察していたがやはり悪いのはDIOではないか。 しのぶが死んだのだって実際に手を掛けたのは自分であり、甜花の罪を問うのはおかしいだろう。 「ピ、ピカ!(あ、あの!)」 また一人、声を張り上げ会話に入り込む者が現れた。 涙の痕が残る顔で、善逸は自身の思いを皆に告げる。 「ピカ…ピカチュウ!ピカピ!(俺も、二人は悪くないと思う。しのぶさんの事は悲しいし悔しいけど、でも、二人を責めるのは何か違うっていうか…。うまく言えないけど、あんまり気に病まないで欲しい!)」 善逸もまた、事情を知って神楽を責める気にはなれなかった。 悪意を持ってしのぶを殺したのなら怒りを見せただろうけれど、現実にはまるで違う。 しのぶ殺害を強く後悔し今も自分を責める彼女をこの目で見ては、怒れる筈が無い。 甜花にしたってそうだ。 悪いのは彼女を洗脳したDIO、もっと言えば殺し合いを始めたボンドルド達だろうに。 人語を話せないのがもどかしい。 しかし善逸の必死な身振り手振りで何を伝えたいかは察してもらえたらしい。 「……うん。あの、ありがとう……」 「…でも私は……」 神楽はまだ納得した様子が無い。 そんな彼女へ、黙って様子を見ていた戦兎が話しかける。 「やっぱり、すぐには自分を許せないか?」 「当たり前ヨ。そんなん簡単に納得できる訳無いアル…」 「そうか……。まぁ、気持ちは分かる」 「気休めなんて――」 いらない、言葉は急に途切れ最後まで続かない。 自分を見る戦兎の顔が真剣そのものだったから。 「…俺も、前に人を殺したことがあるんだ」 「えっ……」 衝撃の告白だった。 神楽も、甜花も、善逸も目を見開き戦兎を見る。 ただ一人、杉元だけは意外そうにしながらも余計な口は挟まず黙って続きを促す。 皆の視線を集めながら戦兎は静かに語り出す、過去に犯した大きな過ちを。 それはまだ三都がパンドラボックスを巡り戦争をしていた頃。 今でこそ頼れる仲間だが、当時は北都の仮面ライダーとして戦兎達とは敵対関係にあった猿渡一海、それに彼の舎弟である北都三羽ガラスとの戦い。 終わりの見えない戦争を一刻も早く終わらせるべく、スクラッシュドライバーを手にした万丈が北都へ侵攻しようとした時だ。 防衛ならまだしも侵略には猛反対の戦兎は万丈を止める為に、彼と一海達との戦闘に乱入。 しかし当時のビルドではスクラッシュドライバーの変身者達や、スマッシュの強化態であるハザードスマッシュには歯が立たずに苦戦。 焦る戦兎は禁断のアイテム、ハザードトリガーに手を出してしまう。 それがどんな結果を齎すかも知らずに。 ハザードトリガーとは万能強化剤により使用者の戦闘力を爆発的に高める、ビルドの拡張システム。 使用すればハザードレベルを大幅に上昇させる反面、大きなリスクも存在する。 戦闘が長引けば脳が強化剤の刺激に耐え切れず理性を失う。 そうなれば最早変身者の意思は関係無い、敵味方の区別なく目に映る全てを破壊する殺戮マシーンと化すのだ。 ビルドとして戦い慣れていた戦兎とて、ハザードトリガーのデメリットからは逃れられない。 暴走状態となったビルドは万丈を叩きのめし変身解除に追い込んだ。 悲劇はここからだ、尚も暴走の止まらないビルドの次の標的は北都三羽ガラス。 内の一人、青羽へと必殺の蹴りを叩き込み、直後どうにか万丈が制止に入った事でようやく暴走は治まった。 既に手遅れだったが。 「あの時は戦えないどころか飯もロクに食えなくてさ…。色んな人に迷惑かけちまった」 「……それから、どうなったアルか?」 青羽を殺した精神的なショックは余りにも強く、戦兎はビルドとしての戦いを放棄。 万丈が一人で戦いに行くのを見ても、再起の兆しは微塵も存在せず。 更には罪悪感で青羽の幻を見て取り乱す程に追い詰められていた。 だが殺し合いでの戦兎からはそういった様子は見られない。 打倒主催者を強く決意し、DIO達にも果敢と戦いを挑む、正義のヒーローを体現した姿。 一体どうやって立ち直れたのか。 「死にたいぐらい痛くて、苦しくても、戦うしかなかったんだ…」 記憶を奪われ、創られた偽りのヒーローだったとしても。 守るものがあるから、信じた正義の為に戦う。 自分達を欺き裏切った男に言った言葉を、その男からそっくりそのまま返されたのだ。 どれだけ逃げたくても、自分の信じた正義だけは裏切れず戦兎は再びビルドドライバーに手を伸ばした。 何より戦兎は一人では無い。 戦兎を消滅させてハザードフォームの暴走を止めるよう懇願されても、断固として拒否した美空。 再び暴走した戦兎を、スクラッシュドライバーを使いこなし決死の思いで止めた万丈。 仲間の存在が、まだ残っているものがあるから戦兎は仮面ライダービルドである事をやめなかった。 新世界を創り青羽を含めた多くの人の死が無かったことになった今でも、犯した罪を忘れた日は一度も無い。 「神楽、胡蝶の事を吹っ切るのは相当難しいと思う。けど自分にまだ残ってるものがあるんだったら、それを投げ出して後悔する羽目にはならないで欲しい。…俺も何かが違えば、そうなってたかもしれないからさ」 尤も再起の切っ掛けを作ったのがそもそもの元凶である男なのには、今でも苦い思いが抑えられない。 「……」 自分にまだ残っているもの。 銀時と新八が死んで、カイジ達が死んで、悲鳴嶼が死んで銀時の肉体も失われた。 取り零し続ける自分にまだ残っているもの、戦う理由はあるのか。 そんなの、沢山あるじゃあないか。 この地で出会った仲間、広瀬康一とゲンガーはまだ生きている。 殺し合いの打破を共に志した彼らを存在を無視し、自暴自棄になどどうしてなれようか。 自分の体だってそうだ。 オレンジ髪の航海士を本人の元に戻さなければ、ロビンに一生顔向けできない。 死んでしまった彼女へしてやれる事は残されていなくても、彼女の仲間を助けるチャンスはまだ失われていない。 何よりも、自分が帰らなければ誰が銀時達の死を伝えられると言うのか。 万事屋銀ちゃんに一匹残された定春はどうなる? もう二度と帰って来ないのに、いつかひょっこり戻って来ると有り得ない希望を妙に持たせるのか? 銀時の盟友であるロン毛は事情を察するかもしれないけど、それでも死んだとはっきり伝えるべきでは? 『こんな僕らの力でも必要としてくれている人がいる』 『僕らにも守れるものが今ある』 『いつだって、何かを守るために僕らは強くなってきた』 『きっと僕らは、また一つ強くなれる』 思い出すのは嘗て新八が言ってくれた言葉。 最初の放送の後で冷静さを失った自分を落ち着かせてくれた、忘れられない大切な記憶。 ああそうだ、戦兎の言う通りじゃないか。 自分は確かに多くを失った、だけどまだゼロではない。 罪悪感と喪失感は容赦なく心を痛め付け、今だって痛くて泣きそうだ。 だけどまだ残っているものがある、守りたいと思える人がいる。 戦う為の、拳を振るう理由が自分にはある。 「そうアルな……私はまた忘れてたみたいネ……」 つくづく情けない己に苦笑いが浮かぶも、そこに自暴自棄の色は無い。 完全に吹っ切れたかと言えばそんな訳はなく、きっとこの先も蝕まれる痛みと付き合わねばならないのだろう。 だがそれは戦いを止める理由にはならない、止めるつもりもない。 「ごめん、もう大丈夫アル」 明るい、とまではいかないが幾分光を取り戻した瞳。 神楽の様子に場の空気も和らぐ。 「あー…ちょっといいか?」 少々遠慮がちにその空気へ割って入る声。 バツが悪そうに頭を掻きながらも、重要な話なのか瞳は真剣味を帯びている。 後回しにするよりは今の内に言うべきと判断したのか、杉元が話し始めた。 「水を差すようで悪いけどよ、早目にはっきりさせときてぇ。…胡蝶はどうするつもりだ?」 「どうするって……そりゃここに置きっぱなしには…」 そうじゃねぇと戦兎に返し、自分の首を指でトントンと叩く。 杉元が何を言いたいのかが瞬時に分かり、思わず顔が強張った。 「おい杉元、それは…」 反論の言葉が口を突いて出るも、現実的な思考が待ったを掛けた。 首輪なら脹相が既に入手しており、合流時に譲って貰えば良い。 しかし首輪を多く手に入れるのは決して悪い考えとは言えない。 首輪の解除には首輪のサンプルを解析し、どういった構造になっているかを知る必要がある。 当然、サンプルとなる首輪は多い方がより成功の確率を高められるだろう。 もし一つ目の解析に失敗しても、もう一つあれば問題無い。 仮に首輪一つで解析に成功した場合であっても使い道は残されている。 モノモノマシーン、首輪の投入と引き換えに何らかの道具を提供する主催者が設置した機械。 殺し合い促進の為に置かれた装置を使うのは余り気分が良いものではない。 だがDIOやエボルトが健在であり、未だ全容の分からない主催者との戦いも控えている状況だ。 戦闘の助けとなる武器や道具を入手する機会を、一時の感情のみで捨て去れば後々困るのは自分達の方ではないのか。 新たな首輪を手に入れるメリットは大きい。 但ししのぶの首を斬り落とすという、避けては通れない作業を行う大前提の上でだが。 「ピカピ……」 善逸が小さな体を震わせ、動揺を露わにするのは無理もない。 幾ら首輪が必要だとはいえ、仲間の死体を更に傷付ける真似をするのだから。 正確にはしのぶ本人の体ではないものの、どうやったって抵抗は大きい。 善逸の様子に戦兎の中では、しのぶの首輪は手に入れるべきではない方へ傾く。 彼女の仲間の前でこんな話をするだけでも酷だろうに。 やはりしのぶの首輪は必要ない、既に脹相が手に入れたものだけで十分。 杉元にそう返そうとし、 「ピカ…ピカチュウ(分かった……)」 重々しく、されど肯定するように善逸が頷いた。 「良いのか…?首輪を手に入れるには胡蝶の……」 「ピカピー、ピッピカチュウ。ピカ…(正直滅茶苦茶嫌だけど、でも必要な事だって俺も分かるし…。それに多分、しのぶさん本人もそれで良いって言うと思うから…)」 鬼との戦いとは、無惨との戦いとは犠牲無しで終わらせられる優しいものでは決してなかった。 煉獄が上弦の参に殺されたように。 無惨との決戦で柱を含めた多くの隊士が命を落としたように。 彼らの死を悲しむのは誰も否定しない、しかし死者に足を取られるのは良しとされない。 折れた刀を手放し、遺された刃を拾い上げ突き立てるのを死者は憤慨するだろうか。 否、逝ってしまった自分達でも役立てれるならと喜びを見せるだろう。 しのぶもきっと同じだ。 生きる仲間の為に首輪が必要と知れば、仮の体となった少女へ申し訳ないとは思うだろうけれど。 感傷で拒否するより、生きている者達の為に首輪を手に入れる選択を望むはず。 「ピカァ…ピカ……(俺に気とかは遣わなくて大丈夫…だから……)」 何と言っているのかは分からないが、伝えたい事は分かった。 最もしのぶの首を斬るのを拒否するだろう少年がそう言うのであれば、神楽も甜花も口出しできない。 戦兎もまた暫しの沈黙を挟み、ややあって承諾する。 「……分かった。じゃあ少し、席を外して来る」 しのぶの死体を抱き上げ、善逸達に背を向ける。 流石に皆の見ている前で首を斬る訳にはいかない。 どこか別の部屋で首輪を手に入れる、そしてその役目は誰に言われるまでも無く戦兎が引き受けた。 死体の破壊に抵抗が微塵も無いと言えば嘘になる。 しかし首輪のサンプルを手に入れねばならない以上、遅かれ早かれこうなると分かっていた。 決して進んでやりたいものではない、だが他の者に押し付けるつもりも無い。 やけに重く感じる足を一歩一歩進める背が、廊下の奥へと消えて行き、 「いや、それは俺がやる」 いつの間にか横に並んだ少女が、戦兎の歩みを止めた。 「杉元…?」 「最初に首輪の話を持ち出したのは俺だ。なら俺がやるのが筋ってもんだろ。それにまぁ、俺のが慣れてるしな」 何でもない風に言う杉元に一瞬言葉が詰まる。 杉元が明治時代の元軍人だとは聞いた。 PK学園での戦闘でDIOを撃ち殺した事から、殺しに躊躇を抱かない男だとも察しは付く。 戦兎の世界で起こったパンドラボックスが絡んだ戦争とは違う、超常の存在が介入しない教科書に載っている戦争を経験した男だ。 だから「慣れている」との言葉にも納得はいく。 だからといって、じゃあやってくれと気軽には任せられない。 手を汚す役目だけを押し付け自分は首輪だけを手に入れるというのは、流石にどうなのか。 自分がやるから大丈夫だと返答を口にしかけ、 「桐生」 名前を呼ばれ、再び口を噤む。 こちらを射抜く真紅の瞳から目を逸らせない。 威圧されてはいない、怒気や殺気など以ての外。 ただ話を聞かねばならないと思わせる力強さが、戦兎の瞳を捉えて離さない。 「お前は、やらない方がいい」 「――――」 杉元は知っている。 いや、最初に会った時から分かっていたのかもしれない。 桐生戦兎は善人で、信用できて、殺し合いを肯定する馬鹿な真似はしない男。 ただ根本的な部分で自分とは違うのだろうと。 自分のみならず、金塊の争奪戦に関わった大半の人間と違う。 人を殺す、杉元ならば即座に実行に移せるソレへ戦兎はきっと躊躇する。 さっきの話を聞いて確信に変わった。 人を殺した事実を重く受け止める戦兎を、甘いだの何だのと吐き捨てる気は毛頭ない。 だって、その反応こそが正しい在り方だろうから。 異端なのは日露戦争が終わって尚も、銃声と怒号が犇めくあの地へ心を置き去りにした自分の方だから。 なればこそ、今から戦兎がしようとしているのはきっと、彼がするべきではない。 誰よりもその役目を果たすのに相応しいのは、人の死に慣れ過ぎた自分だ。 死体を破壊するのだって、刺青人皮を剥いで来た自分で十分だろう。 多くは語らない。 けれど短い言葉にどれだけの重みが込められているのか。 こちらを見上げる白髪の少女、見下ろす位置にありながら戦兎は不思議と対等に視線をぶつける男の姿を一瞬幻視した。 ○ 「悪い、押し付けちまって……」 「だから謝んなくていいって。こっちは気にしてねぇんだからよ」 よく謝る奴だとつい呆れ笑いが浮かぶ。 気にしていないのは本当だ、だからそっちも引き摺らなくて良いのに。 現在彼らがいるのは一階ロビーから離れた場所に位置する部屋。 入院患者の遺体を一時的に保管する霊安室である。 しのぶをこの部屋に運び、杉元が彼女の首を斬り落とし首輪を回収。 ベッドに寝かせられた遺体に黙祷を捧げ、目的は果たした。 なのだが戦兎は自分がする筈だった首を斬る作業を杉元にやらせたのに、申し訳なさを抱いているらしい。 こうまで気を遣われるというか、謝る奴は自分の周りではほとんどいないので何処か新鮮な気分。 というか若干の居心地の悪さを感じる。 良くも悪くも自分の周りは切り替えが早い連中が多い。 このままずっと引き摺られるのも困るので、一つ提案を口にする。 「代わりにって言うのも変な話だが、こいつを貰っても良いか?」 「それをか?…まぁ別に良いけど」 戦兎からの承諾も得たソレを腰に差す。 元々は戦兎のデイパックにあった三つ目の支給品。 しのぶの首を斬るのにも使った刀は、杉元が知る男が振るっていた名刀。 これを譲ってくれと言ったのにそう深い理由は無い。 歩兵銃もコルト・パイソンも弾の数には限りがあり、炎の弾幕とて霊力の消費を考えれば無制限には放てない。 武器がもう一つあって損は無いし、刃物を使う機会は何かと多いと考えてのこと。 前々から持ち歩いている三十年式銃剣でないのは残念だが、そこは仕方ない。 「これでもまだ気にしてるってんなら、首輪を外してくれりゃそれで良いさ」 「…ああ。そっちは任せてくれ」 自身の首を指さす杉元へ力強く頷き返す。 何はともあれ首輪は手に入った、後は実際に外せるか否かの問題。 主催者に握られた命を解放し、連中との戦いに備える為にも首輪解除は必須だ。 ならここからは頭を切り替えねばと、霊安室を出てロビーに戻る。 帰って来た二人を見ても、あれこれ追及する者はいなかった。 ただ無言で視線を寄越す善逸に一度頷き、向こうも言葉無く首を縦に振った。 「後回しになっちまったが、まずは全員の手当てが先だ」 悲鳴嶼のデイパックからはしのぶの死体以外に、予想通り傷の処置に必要な道具一式が見つかった。 提案に反対する者はいない。 と言っても異性のいる前で肌を曝け出すのは双方にとって流石に気まずい。 よって一人ずつ別の部屋に移動し手当てを受ける事となった。 「よろしくお願い、します……」 「おう」 診察室で制服の上を脱いだ甜花にテキパキと処置を施す。 肌を晒け出した少女を前にしても、杉元から邪な感情は一切感じられない。 真面目な顔で包帯を巻き、精神は男でも体は女なのもあって、妹の下着姿を見られる抵抗感はある程度薄れていた。 「あ、あの、杉元、さん……」 「ん?どうした?」 外見は自分と近い年頃の少女でも佇まいや口調から恐らく大人の男性と判断。 恐る恐るさん付けで話しかけると、特に不審には思われず反応してくれた。 「えっと、ありがとうございます……」 「…?手当てしてることか?」 「そ、それもだけど、あの、甜花のこと助けに来てくれて……」 思えばこの少女とまともに会話をするのはこれが初めてだ。 最初にPK学園を訪れた時から互いの存在は把握していたものの、呑気に会話をしてられる状況では無かった。 甜花が正気に戻ってからも姉畑の乱入やDIOの復活やらで、双方自己紹介の余裕も皆無。 これまで杉元から見た甜花という少女は思考をおかしくされ、DIOに心酔していた時が大半。 病院に戻って来てからようやっと素の彼女を見れた気がする。 「礼なら俺より桐生に言ってやれ。お前をずっと心配してて、助けるのに一番張り切ってたしな」 「え、あ、そ、そうなんだ……」 離れている間も気に掛けて貰えたのは純粋に嬉しい。 そこまで自分の事を考えてくれていたと聞くと、少々照れくさくもある。 恥ずかし気に目をあっちこっち泳がせる甜花の処置を終え、次の仕事に取り掛かった。 やがて全員の手当てが済むと一行は再びロビーにて顔を突き合わせる。 甜花から話したいことがあると言われ、こうして腰を落ち着け聞く体勢に入った。 その前に戦兎以外の面子とは改めて自己紹介もしておく。 DIOに操られなければ彼らとももっと早くから親交を深め合えたのだろうけど、言った所で今更な話だ。 甜花が話すのはDIOの元にいた時に何があったか。 もしかしたら戦兎達にとって必要となる情報があるかもしれないし、何より甜花自身が伝えておかねばならない事実がある。 自分の犯した間違いを語るのは楽ではないが、意を決して一つずつ説明していく。 ナナの運転する車で戦兎達が学園から逃げた後。 一回目の定時放送が終わり少し経ってから、PK学園にやって来たしのぶとデビハムの二人と戦闘になった。 先程話した時よりも細かく説明する。 自分はメロンを被った仮面ライダーに変身し、貨物船と共にデビハムを相手取った。 「甜花がデビハムと…」 「う、うん。あのベルトで、色々変身できたから……」 思ったよりも戦極ドライバーを使いこなしているらしい甜花に、戦兎は複雑な心境だ。 彼女が変身する必要がないよう守ろうとしたのだが、結局は戦いへと引き摺り込んでしまった。 先の戦いで決意の言葉を聞いた為、もう戦うなと水を差すつもりは無いが。 複雑ではあれどそれ以上話の腰を折らずに続きを聞く。 戦闘はDIOがエターナルに変身し猛威を振るい優勢に持ち込み、貨物船が二人にトドメを刺そうとしたのだと言う。 その直後だ。 別の意味でDIO以上の危険人物、姉畑支遁が乱入したのは。 「いきなりあの人が出て来て……それで、貨物船、さんを……甜花にも…う、うぅ……」 「あー…無理しなくていいぞ大崎。何があったかは大体分かる」 色んな意味でショッキングな光景を思い出してか、目尻に涙を浮かべガタガタ震える。 嫌悪と恐怖がこれでもかと顔に現れた甜花へ杉元が助け船を出す。 反応だけで姉畑が何をしたのか察しが付く。 杉元同様に姉畑の異常性を知っている善逸もまた、顔を青くし縮こまっていた。 「先生のことだ、大方あのデカい猿とウコチャヌプコロしたんだろ。無理に話さなくていい」 「グスッ、うん……え?ウコチャ……え?」 「んなヤベー奴だったアルか、あのネオアームストロングジェットアームストロング大猿王銃(キングコングガン)は」 「その長ったらしい名称は何なんだよ…」 姉畑に関して詳細に語るのは甜花の精神衛生上良くないので次に移る。 しのぶ達が撤退した後、残された姉畑はDIOと二人きりで話をし、そこで具体的に何が起きたかは甜花も知らない。 ただ次に見た時にはもう象の下半身を持つ怪物へ変貌しており、貨物船を捕まえ逃走。 何をされたのか怒り心頭のDIOと共に貨物船を追いかけ、再びしのぶとデビハムに遭遇。 今度はもう一人、氷を操る青髪の少女の姿もあった。 「ヴァニラ・アイス…それがあの女の子の名前なのか?」 「う、うん。部下だってDIOさ…あの人は言ってたよ……」 「承太郎って奴はまだ分からねぇが、もう一人はこれでハッキリしたな」 空条承太郎とヴァニラ・アイス。 最初に会った時DIOが口にした二名の内、後者の正体は判明した。 DIOの部下、つまり自分達にとっても相容れない敵。 ヴァニラとはPK学園で交戦経験のある杉元からも皆に説明をしておく。 校舎内で戦った時に見せた能力についてだ。 曰く、髑髏のような口に自らを飲み込ませ姿を消し、壁や床を削り取る謎の攻撃。 姿が見えない間は気配が完全に消失しており、五感を総動員しての回避は非常に困難。 但し向こうも敵の姿は見えておらず、片っ端から攻撃するしかない。 敵の撃破を確認する為に髑髏から顔を出した瞬間のみ、攻撃を当てられる。 弱点があっても強力無比な能力の持ち主だ。 加えて戦兎達を凍らせた力も使う危険な相手がDIOの部下。 DIOの脅威がより一層高まったのを嫌でも感じ取った。 甜花の話に戻る。 しのぶがどうやってDIOの元から逃げたのか。 そしてデビハムと貨物船の最期、どちらも戦兎達には意外な内容だ。 DIOかしのぶに殺されたと考えていたデビハムは自害を選び、おまけにしのぶと姉畑を逃がしたのも彼。 行動の真意も本人が死んでしまった以上、問い質すのは不可能。 二回目の定時放送が流れた後はPK学園に戻り、そこからは全員が知っている通り。 ただDIOは次の目的地として街から南東に位置する地下通路に向かうつもりだったとのこと。 何故地下通路を選んだのかは安易に予想が付く。 新たに導入された殺し合いを促進させる設置物、モノモノマシーンを利用する為だろう。 禁止エリアに阻まれ遠回りを余儀なくされる網走監獄よりは、地下通路の方がスムーズに行ける。 デビハムと貨物船に加え、悲鳴嶼と姉畑、更には鳥束の首輪も回収されたに違いない。 貨物船を殺し使用権を得ているのもあって、DIOは計6回もモノモノマシーンが使用可能。 ただでさえ厄介な相手が今以上に戦力を強化するのは全員にとって悩みの種に他ならない。 阻止したい気持ちは山々だがナナ達をほったらかしにも出来ない。 悔しいが今は体力の回復と仲間達との合流を優先、戦力を整えてから改めて対策を考えるべきだ。 これでDIOと共にいた際の動向は全て話し終えた。 しかし甜花にはまだ言わねばならない事が残っている。 むしろこれから話すのが本題と言っても良い。 「あのね…最初の放送で空助って人が言ってた、誰がどの体になってるか分かる名簿を見たの…」 精神と肉体の組み合わせ名簿。 参加者を殺した者のみが手に入れられるボーナス支給品は、貨物船が入手したらしい。 戦兎と杉元は直接現場を見ていないが、貨物船は教室で鳥束を殺害している。 手に入った名簿を主であるDIOに献上し、甜花も一応確認の為にと名簿を見た。 そうして知ったのは甘奈以外にも知っている人物が巻き込まれているという、決して望まない事実。 「千雪さんと、真乃ちゃんの名前があって……」 真乃の体に入った精神の名に甜花は聞き覚えが無い。 ダグバなる人物は戦兎達にも初耳で、残念ながら詳細な情報は得られなかった。 せめて殺し合いに否定的な人物であると願うばかりだ。 問題は前者、千雪の体に入っている参加者の方。 「甜花…それは間違いないのか?」 「う、うん……。その、戦兎さんが前に教えてくれたエボルトって人、じゃなくて、宇宙人が千雪さんの…体に入ってる、みたい……」 思いもよらぬ情報に言葉を失くし頭を抱える。 「最っ悪だ」と普段の口癖を言える余裕は無く、ため息すら出せない。 エボルトが戦いとは無縁の一般人の肉体に入っている可能性を、微塵も考慮していなかったと言えば嘘になる。 しかしだ、よりにもよって甜花と同じ事務所の、所属するユニットも同じで縁の深いアイドルがエボルトに与えられた体。 最悪どころの話ではない。 組み合わせを考えた主催者へふざけるなと怒鳴り付けてやりたい気分だった。 「そんなにヤバいアルか?その厨二くせー名前の天人は」 「…ああ。俺が知る限りじゃ間違いなく最悪の相手だ」 「や、やっぱり……千雪さんの体で殺し合いに……!」 直接会っていなくとも、戦兎の反応を見ればどれだけ危険な存在かが分かる。 そんな男が千雪の体を使って参加者を殺して回っているかもしれない。 想像するだけで気絶しそうなくらいにショッキングな光景だ。 どうしてあんなに優しい、自分と甘奈が本当の姉のように慕っている人の体をそんな風に扱うのか。 不安と怒りと悲しみで意識せずとも顔が歪む。 「いや……エボルトが殺し合いに乗っているとは限らないと思う」 意外な所から否定意見が飛ぶ。 発したのは戦兎、エボルトの危険性を最も知る男にも関わらずエボルトは殺し合いに乗っていないと言う。 知っているからこそと言うべきか。 「アイツがロクでもねぇのは本当だ。けど、自分の状態を軽く見て考え無しに動くような馬鹿でもない」 エボルトという男は非常に狡猾である。 10年以上も地球に潜伏し、嘘と真実を交えて信頼を作り、自らの立場をのらりくらりと替え、己の望む方向へと人間達を掌で転がす。 ジーニアスフォームの力で感情を植え付けてしまってからは計画に遊びを入れる傾向が多く見られたものの、用意周到さと臨機応変に対応するアドリブ力の高さは健在。 何よりあの男は必要とあれば敵である戦兎達に手を貸す柔軟性も持ち合わせている。 最上やキルバスが起こした事件の時が分かり易い例だ。 そのような男が石動惣一よりも非力な女の体にされた現状で、馬鹿正直に優勝を目指すだろうか? 可能性は低い。 エボルトの立ち回りの上手さを考えれば戦兎や殺し合いに反抗する者を利用し脱出を目論むか、仮に優勝するにしてももっと慎重に動く筈。 むしろ今のエボルトは千雪を最悪の状態で人質に取っているようなもの。 素直に殺し合いに乗るよりも、迂闊に千雪の体へ手出し出来ない現状を有効活用する方へ舵を切るだろう。 例えば自分の首輪解除を戦兎に要求したりだとか。 「まぁそういう奴だから、確実に殺し合いに乗ってるとは言い切れねぇ」 「つっても警戒するに越した事はない相手だろ?悪知恵が働く分、下手に暴れられるより面倒な野郎だな」 渋い表情で言う杉元に戦兎も同意する。 体が千雪である以上、戦って倒すという方法でどうにかなる相手では無い。 敵対者には容赦ない杉元と言えども、甜花の前でいざとなれば自分が殺すなどとは口にできなかった。 体を取り戻すのは殺し合い当初から考えていたがエボルトの情報を得て、より重要性が増した。 いずれ向こうから接触を図りに来るだろうが好都合。 殺し合いに乗っていないかもしれないとはいえ、千雪の体でおかしな真似に出ない保障も無い。 監視の為にもエボルトをなるべく早く発見したいところだ。 「甜花、エボルトの事は俺に任せてくれ。アイツに好き勝手馬鹿な真似はさせたりしない」 「…うん、分かった。戦兎さんのこと、信じてるから……」 DIOの言葉に安心を得た時とは違う。 偽りの愛情ではない、本心から戦兎を信じられる。 不安が消えたわけではなく、だけど甜花は知っているから。 桐生戦兎は優しくて、誰かの為に戦える本当のヒーローのような人だと。 「なぁ大崎、その名簿って今も持ってたりするか?」 組み合わせ名簿があれば誰の体が参加しているかが一発で分かる。 アシリパや白石の体が巻き込まれているのを危惧する杉元としては、甜花の手元に名簿があるなら見せて欲しいと頼み込む。 戦兎や善逸も同様だ、仲間の体が無事か否かは確認しておきたい。 「あ、その…甜花は持ってなくて……他の人の名前も、ちゃんと覚えてない……」 名簿はDIOが所持したまま、記載されていた名前も全てをはっきりとは覚えていない。 見れないのは残念だが甜花を責める真似は誰もせず、別の機会に見ればいいと話は落ち着いた。 伝えたい内容はこれで全てだ。 話が終わり肩の力を抜いたからだろう、どっと疲れが甜花を襲う。 思わず椅子に深く腰を沈めた時、くぅと可愛らしい音がお腹から聞こえた。 「あ……。あ、あの、こ、これは…その…」 「何あざとい反応してんだオメーは。ニセコイどころかエセコイじゃねーカ。マガジンのラブコメにでも帰れコノヤロー」 「ピカピ~…(何でそんなに厳しいのこの人…)」 空腹を訴える音を鳴らしてしまい、羞恥で顔が真っ赤に染まる。 微笑ましい姿の甜花へ神楽が向ける態度は何故か辛辣だった。 それはともかく殺し合いが始まってから入浴や睡眠は取ったが食事はまだなのだ。 腹が減るのはごく自然なことだろう。 「まぁ話も一段落着いたし、何か食べて休んで良い頃合いかもな」 「それなら丁度……いや何でもねぇ!なにも無かった!」 「急にどうした…?」 デイパックを開きかけ、慌てて取り繕う杉元に訝し気な目を向ける。 話す気は無いのか目を逸らし何でもないと言い張るのには、困惑するしかない。 とはいえ杉元がそんな反応をするのは無理もない話だ。 悲鳴嶼のデイパックに入っていた鍋。 それを温め直して食べようという提案は、鍋の正体に思い直し無かった事にしたのである。 以前白石や尾形、谷垣にキロランケと五人で食べたラッコ鍋。 あれの香りに中てられてしまい色々と、本当に色々あった。 正直あの時に起きた事は永遠に忘れてしまいたい。 神楽に疑いの目を向けられた悲鳴嶼と脹相がどことなく余所余所しい態度だったのにも納得がいく。 きっと彼らはラッコ鍋を食べ、嘗ての自分達と同じ目に遭ったに違いない。 果たして二人が未遂で終わったのか、はたまたイクとこまでイってしまったのは本人達の名誉の為にも気にしないでおこう。 とにかくラッコ鍋の恐ろしさを知っているが故に、ここにいる面子に食べさせられはしない。 善逸はまだしも、女である甜花と神楽、女の体の自分がいて心身共に男なのは戦兎一人。 もしもあの時と同じ事が起きてしまえば、流石に気まずいとかでは済まない事態に発展しかねない。 ラッコ鍋のせいで殺し合いに反抗する陣営が崩壊などとなっては目も当てられない。 かと言って捨てる気にもなれない、ラッコ鍋という料理自体には何の罪も無いのだから。 デイパックの奥深くに封印しておくのが吉だろう。 「い、いや、あれだな!折角なら体があったまるもんとか食いたいよな!」 「それなら、丁度良いのがある…かも……」 誤魔化す為に言った温かい食事。 それに当て嵌まるものを甜花は見付けていた。 →
https://w.atwiki.jp/narumiayumu/pages/52.html
森。 木々が生い茂り、草木が地面にコーティングされているかのように一面に広がっている。 小鳥のさえずりはなく、聞こえるのは風で木の葉がゆれる音のみ。 普通の森にならいるはずの虫の鳴き声もなく、巷ではよく聞くひぐらしの鳴き声もない。 「ハヤテ~、マリア~。どこにいるのだ~」 ツインテールにまとめた鮮やかな金髪、発育の悪い小さな体、 いや、貧相とでもいうのだろうか。胸を見ればわかるというもの。 そんな一人の小さな少女が森の中をとぼとぼと歩いていた。 三千院ナギ。とある大金持ちの一人娘である。 この暗闇の中で一人でいることは怖い以外の何者でもないとナギは思う。 普段ならここまで怖がることもなく、虚勢を張ることも出来るのだが。 だが、場所が場所だ。今までのとは格が違う。 自分の執事でありナギの想い人である綾崎ハヤテ、メイドのマリアがいない。 いつもはそばにいる頼りになる二人がいないことはナギにとっては大きな不安となり纏わり付く。 「殺し合い?何だそれは?なぜ私が巻き込まれなきゃいかん!」 ふざけたゲームに強制的に参加させられることに憤りを隠しきれないナギ。 ナギの気持ちは正しい。誰だっていきなり殺し合いをしろと言われて不満に思わないはずがない。 「こんな暗いところで、一人は嫌だ……ハヤテ~、マリア~」 いくら学校を飛び級して高校に入っているとはいえまだ13歳。 この状況で平常心を保てる方が難しい。 なまじ、頭がいいだけにこの状況も理解でき、現実逃避をすることもできない。 かといって、怖くないかといえば嘘になる。 「誰かいないのか~、誰か~」 目には涙を溜め、いつもの勝気な顔は鳴りを潜めている。グスッと鼻をすすり、絶望に満ちた表情。 普段のナギを見ている人からすれば想像もつかない顔だ。 「誰か~……お願いだから、誰か~」 何度も誰かいないか、と呼ぶナギの姿は見ていて痛ましい。 それにこの行為は逆に殺し合いに乗っている人を呼び出してしまう可能性もある。 ナギはそれにまだ気付いていないがとても危険だ。 「無理だ……こんな暗い場所で一人は無理だ。それになぜスタート地点がこんな森なんだ! せめて、遊艶地とかデパートにすればいいものを……! おい、主催者不公平だぞ!せめて……街中がよかったぞ……」 デバイスの地図を見る限りに、この島には市街地がある。 他にも西洋風の街に廃村。森の中に飛ばされるよりはましだ、と言わんばかりにナギはここには居もしない主催者に抗議の言葉を放つ。 届くはずもない言葉――ナギもそれぐらいはわかっているのだが言わずにかいられなかったのだろう。 「ここまで私が願っているのに誰も現れないとは………」 目尻に溜まった涙が一滴ナギの頬を落ちる。これ以上は限界だと言っているかのように。 実際のところもう許容範囲を超えて、ナギの心は悲鳴を上げていた。 「すまない、すこしいいか?」 「うおっ!!だ、誰だ!」 ナギの後ろから出てきたのはブレザーの制服を着た茶髪の青年。 腰に差している太刀がナギの恐怖を煽る。 こんな人に後ろから声をかけられれば驚いて逃げてしまうかもしれない。 「驚かしてしまったようだな、すまない」 だが、すぐにフォローするこの礼儀の良さを見るとこの人は悪くないと印象に受ける。 ナギもそれを受けて、目の前の人が自分に危害を加えるのに現れたのではないと悟った。 「全く!いきなり後ろからは驚くじゃないか!まぁ……謝ってくれたからいいが」 「ははっ、悪かった。俺も配慮が足りていなかったらしい。精進しないとな」 頬を膨らましてプンスカと怒るナギに冷静な対応をする青年。 爽やかな受け答えから青年が大人びていることがよくわかる。 「俺の名前は棗恭介。恭介で構わない。君は?」 「私は三千院ナギだ。私もナギでいいぞ!」 自己紹介から始まり、お互いの知り合い、お互いが初めて会った人だということなどを交換していく。 終始リラックスした空気で情報交換は行われていた。 「なんにせよ、恭介がいれば安心だな。さぁ行くぞ、こんなゲームに乗る奴を倒しに!」 人と出会えて少し前まで消沈していたナギはもうどこにもない。 いつも通りの勝気な顔を取り戻している。 (最初に会った奴が恭介でよかった。待っていてくれハヤテ、マリア。 私は大丈夫だから。信頼できる人に会える平気だから。 だから……無事で生きていてくれ。今、探しに行く……) 最初に会った参加者が恭介みたいな頼りになる青年であったことからナギは浮かれていた。 傍目から見てもはっきりわかるぐらいに。頬は緩み、目に貯めていた涙はもうない。 「その必要はない。だってさ――」 それ故にナギは気付かなかった。恭介の眼が変わったことに。 優しさが秘められた眼がどす黒い光に染められた瞬間を。 「ナギ、お前は今すぐ死ぬんだからよ」 「え――」 瞬間。 恭介が腰にさしていた太刀を抜き放ち、横薙ぎに一閃振るう。 その様は疾風の如く。見事と呼べる一撃だった。 恭介によって振るわれた太刀はナギの腹に吸い込まれていき、肉を断ち、骨を砕く。 そのまま太刀は薙ぎ払われ、血が辺りに飛び散る。 「……っ……」 二人の間にあった和やかな空気が霧散し、今や血生臭い地獄のように成り果ててしまった。 恭介は無言でデイバッグからメモ用紙を取り出し、血で濡れた太刀を拭く。 その無表情に淡々と作業を行う恭介の姿は殺人人形のようだ。 「う――あ、ああ……」 数瞬遅れて呻き声が辺りに響いた。 太刀による一撃が浅かったのだろうか、ナギはまだ生きていた。 最も、声に出せないくらい痛いのか、ビクビク震えるだけでナギの口からは呻き声しかでない。 玉のような汗がナギの顔を伝う。鮮やかな金髪は腹からの出血で染まり赤と金が混ざり、 とある快楽殺人者である奇術師が見れば美しい、と称したであろう。 「い、――い。い、ぁ……た、い」 唸り声をあげながら悶え苦しむナギに依然と涼しい顔をする恭介。 両者の状態は歴然であり、ナギの死はもはや避けられない。 恭介は太刀を抜き今度こそナギの息の根を止めようと動く。 「止めだ……」 そして恭介がナギの前に立ち、太刀がナギの首にめがけて振り下ろされる……! 「っ!」 いや、振り下ろされなかった。何かを予測したのか恭介は後ろに跳び、後退する。 その恭介が跳んだ瞬間、小さい“ナニカ”が風を切りながら恭介がいた場所を切り裂いた。 そして、その小さい“ナニカ”が再び恭介の首筋に向かう。 「させねえ!」 恭介は首筋に迫る“ナニカ”を手に持った太刀で弾き落とすが“ナニカ”は止まらない。 “ナニカ”は軌道を立て直し、太刀を持った右腕に迫るものの、見切ったのか安々と躱す。 いや、躱したかに見えた。 「ッ!……これはやられたな……」 いつの間にか恭介の右腕には大きな裂傷が刻まれていた。 恭介は初めに疑問に思った。確かに躱したはず、と。 なのになぜ自分の腕に裂傷がと考えたが即座に気づく。 “ナニカは二つ重なっていたのだ” それが答えである。 恭介の右腕に近づく直前に“ナニカ”が分離し二重に恭介に襲ったのである。 二つの“ナニカ”は戻る。 森の奥から現れた青年の手に。 青年の身なりは珍しいものだった。 赤の軍服に身を包み、青年の両眼からは太陽が燃えるような怒りを感じる。 「その子から離れろ……!」 シン・アスカ――戦争に巻き込まれて家族を失い、軍人になった青年である。 ◇ ◇ 時はシンがスタート地点に飛ばされた時間に遡る。 「畜生……畜生畜生畜生畜生畜生畜生ぉおぉおぉおおおお」!」 シンはこのゲームに大きな怒りを感じていた。 何の罪もない人をこんなゲームで弄ぶ主催者に。 そして、 「ちっくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」 人を救うために軍人になったのに何もできなかった自分に。 「人一人救えなくて何が軍人だ!無様にも……程があるッ!!」 力があったはずなのに何もできない自分。助けようと動こうとしなかった自分。 涙を流しシンは嘆いた。 「まだだ……まだこの島には助けを求めている人がいるんだ。こんな戦いとは無縁の人の命が。 俺がここで悔やんでてどうする、他の奴等より戦いに慣れている俺が! 一人でも多く救って、元の平和な日常に返してやるんだ!」 自分に救える限り、人を救おう、と。 「俺みたいに“血”で汚れている奴はいい、でもそんなのとは無縁の命はなくさせない!」 例え自分の命をかけてでも人を護ろう、と。 「そうだろ……ステラ」 かつてシンが救えなかった、愛していた存在、“ステラ・ルーシェ”を思い浮かべながら シンは誓った。 そしてシンは感傷にふけるのを止め、デイバックの中から名簿を取り出す。 「俺以外には……誰もいないか。レイがいれば心強かったんだけどな。 仕方ないか、名簿には書かれてないんだ。俺一人しか……ここにはいない」 シンは乱暴に名簿の冊子を閉じデイバッグの中に投げ捨てる。 次に自分に何が支給品として配られたかをチェックする。 いくら軍人とはいえ丸腰では心許ない。せめてナイフぐらいは入っていて欲しいとシンは願った。 「これは……」 最初にデイバックの中から出てきてシンの手に握られているのは六角形の金属、核鉄。 使用者の本能に反応して武器へと変える超常の産物。 武器としては当たりの部類に入る。 「モーターギア……自由自在に操れるチャクラムか。それなりに使えそうだな」 シンはモーターギアの核鉄をとりあえずしまい他には何かないかチェックする。 「銃は、ないか」 他にめぼしい物はなかったのか、デイバッグの中身を漁るのを止め、核鉄だけを出して腰のベルトに捻じ込む。 さてこれからどこへ向かうかと考えていたところにシンの耳に女の子の声が聞こえた。 「誰かの声が聞こえる。行ってみるか」 シンは耳を澄まし、声の震源地の方向へ向かう。 向かった先で見たものは。 恭介がナギを斬りつけた光景だった。 「……!武装錬金!」 シンの言葉を受けて核鉄が二つのチャクラム――モーターギアに変わる。 そしてモーターギアを“二枚重ね”にして射出する。 ――明らかにあの男は乗っている。シンは即座に恭介の黒い情念に気づいた。 シンの“二枚重ね”の小細工の結果、恭介は一度目は躱すが二度目は躱せなかった。 直前で二つに分けてモーターギアを動かしたためである。 「その子から離れろ……!」 シンは警告として一度だけ言葉を恭介にかけるが、恭介に降参の気配はない。むしろ徹底抗戦する構えにも見える。 「二度は言わないッ!」 シンは手に持ったモーターギアを飛ばす。 二つのモーターギアが空中を縦横無尽に翔け、恭介を斬り殺そうと迫る。 「同じ手は……通用しねえ!」 恭介は右から勢いよく迫るチャクラムを太刀で弾き、正面から来るのはしゃがんで躱す。 そして勢いよく立ち上がりシンに迫る。 「死になぁ!」 「そんな程度で!俺を殺せると思うなぁああああ!」 シンは片方のモーターギアを高速で手に戻し恭介の太刀による一撃を受ける。 そして、一方のモーターギアを恭介の背後から飛ばす。 「これで!」 シンは背後からの攻撃は躱せない、そのまま恭介の背中に突き刺さると考えていた。 だが恭介は予測していたのか身体を90度回転させながらシンの背後に回り込む。 「このままだとお前が受けることになるぜ!」 「ッ!」 シンは直前まで迫ったチャクラムを横に跳ぶことで躱し、恭介もシンと反対側に跳ぶことでチャクラムを避ける。 再び、シンは両手にチャクラムを身につけて恭介に迫る。 恭介も手に持った太刀で応戦する。 キンキンキンと連続した金属音が森に鳴り響く。 「大人しく、倒れろッ!」 シンの下段からすくい上げるようなパンチを恭介は太刀を斜めに構えることで受け流す。 シンの拳を流した勢いで恭介は太刀でシンの額に一直線で突きを放つ。 「モーターギア!」 「またかよっ!厄介な武器だな、おい!」 シンは両手のモーターギアを外し、迫る太刀にぶつからせる。 それによって太刀の軌道がずれ、シンは間一髪で太刀による一撃を躱す。 再び金属音が鳴り響く。何分続いただろうか、それとも何秒?それはもはや当人たちも分からない。 命をかけた戦いにそんなのを気にする余裕などない。 「どうした、勢いがなくなってきてるぞ!」 「はっ、お前の方こそ!そんな程度で俺を殺れると思うなッ!」 恭介の息が上がってきた。 一方のシンはまだまだ余裕だと言わんばかりに容赦なく恭介の隙を攻め立てる。 恭介はただの学生だ。 軍人であるシンとは地力と格が違う。 段々と、恭介の身体には裂傷が生まれ、動きも鈍くなっていく。 時に弾き、時に受け、時に流す。それもおろそかになりつつある。 「これで、終いにしようか」 シンは後ろに下がり、少し距離をとる。 そこからロケットのように加速しながら恭介に迫る。 だが、恭介に慌てた様子はない。むしろ、余裕にも見える。 その自信は何か。その自信の出所はすぐにわかった。 「かかったな」 ニヤリ、と恭介は笑った。シンは不可解な表情をするがもう遅い。 シンは大きな木の幹につっかかりドテンと音を立てながら転んでしまった。 恭介の狙いはシンをここにおびき寄せることだった。 疲れた振りをして、シンを油断させる。そして、木の幹が多いこの場所にうまく誘導させ、転ばせる。 結局はシンの油断が隙となり、木の幹に引っ掛かり転んでしまうハメになったのである。 「終わるのはお前だよ」 恭介は今までその力をどこに隠していたんだと言いたいぐらいに俊敏にシンに迫り太刀を振り上げる! (モーターギア!駄目だ!転んだときに落としてしまった。操るよりあいつの刀が俺を裂く方が早い! 俺は終わるのか?こんな所で?) ここからだよ! 考えても考えてもこの窮地を抜ける方法は思い付かない。 シンはそれでも最期の一瞬まで考える。生き抜くための手段を。 でも思い付かない。完全に手詰まりだった。 (畜生!まだだ!まだ!) 刃がシンの頭上に迫る。シンは思わず目を閉じ、これから自分の身に起こるスプラッタな惨劇から目を背ける。 奇跡でも起こらない限りシンは死ぬ。 そう。 “奇跡でも起こらない限り” トスッ。 何かが刺さる音がシンの耳に入った。 そして、何時までも太刀による斬撃がこないことを訝しみ、目を開けると。 「がっ!っゥう!」 「外れた、か」 恭介が肩を抑えて呻き、ナギが後ろで不敵に笑っていた。 シンにとっては驚きである。ナギはもう死んでいると思っていたからだ。 「んだよ……!それはっ!」 「ス、ペツナ、ズナ、イフ。刃を飛ばす事ができる代物ら、しいな」 ナギが途切れ途切れに言葉を発する。 恭介は舌打ちをして肩に刺さったナイフの刃を無理やり取り出す。 「分が悪い。ここは退散させてもらうぜ!」 恭介は捨て台詞を言い残し、この場からの退却をしようとシン達と反対の方向へ走り出す。 「待て!」 「待てと言われて待つ奴がいるか!それよりいいのか? あいつ、相当弱ってるぜ!」 「くそ……!」 シンは恭介を追いたいが追えない。ナギがいるためだ。 このまま、ナギを放っておけば確実に死んでしまう。 故に、シンは恭介を追うのを止め、ナギの方へ走る。 「おい、傷口を見せろ!応急手当をするから、早く!」 シンがそう言いながらナギの元へ駆けるがすでに遅し。 ナギは立っていることが辛いのかその場にバタンと倒れてしまった。 「まだだ!血を止めればまだ!」 「もう……いい。わ、たしは、手遅れだ」 「そんなこと言うな!俺は……今まで人を救えなかった!! マユの時も!!!ステラの時も!!!!だから今度こそ助けるんだ! 諦めるな!」 涙をぼろぼろと流し急いでナギの出血を止めようとするシン。 そんなシンにナギは優しく微笑み、シンの震えた手をしっかりとした強さで握る。 「だから、気に、する、な。私はゴホッゴホッ…… お、まえが助、けに来て、くれた、だ、け、でもう満、足だ。 後な、お、願い、が、ある。聞い、て、くれ、ない、か」 「何でも聞くから!何でも!!だから死ぬなよ……」 泣きじゃくるシンをあやし、包み込むように、ナギは喋る。 「名前は……」 「えっ?」 「お前、の名前だ」 「シン……シン・アスカだ」 「そうかシン……伝言を、つた、え、て欲、しい。わ、たし、の名、前は、三千院ナギっ…… マリ、アに、は、いままで……ありがとう、そして御免って」 「そんなの、自分で伝えてくれよっ!なぁ!」 「ハヤテには――――」 「わかったから、必ず、必ず伝えるから!だから!」 「ぁぁ――シンみたいないい奴だったら……安心して、任せら、れる」 ナギの目が閉じていく。死がナギを包み込んでいく。 「ありがとう――――シン」 ゴトリとナギの手が地に落ち、命が消えた。 ナギの目はもう二度と開かない。ナギの口からは何も言葉を発さない。 「ああ、ぁ、ああ、ああああああああああああああああああ!!!!! ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」 そして一人の男の慟哭が森に響いた。 【三千院ナギ@ハヤテのごとく!死亡】 【F-1南部/一日目・深夜】 【シン・アスカ@機動戦士ガンダムSEED DESTINY】 【状態】疲労(中)、精神疲労(大) 【装備】モーターギア@武装錬金 【持ち物】支給品一式、不明支給品1~2(重火器はない) 【思考】 0.―――――― 1.自分の命をかけてでも人を救う。 2.ハヤテとマリアに伝言を伝える。 ※参戦時期は少なくともアスラン撃墜後です。 ※近くにナギのデイバッグ、遺体、不明支給品0~2、スペツナズナイフの柄が落ちています。 【モーターギア@武装錬金】 中村剛太の武装錬金。2つで1セットのチャクラム。 特性は生体電流を充電し、速度・角度・回転数を事前にインプットしての射出。 攻撃力は全武装錬金中でも最低クラスだが、創造主の使用法一つで戦術の幅は大きく広がる。 またチャクラムを装着することも出来、両拳に装着することでのナックルダスターモード、 足首に装着することでのスカイウォーカーモード、 足裏に装着することでのマリンダイバーモードなどに応用することが出来る。 制限により切れ味が幾らか鈍くなっている。 【スペツナズナイフ】 見た目は円筒形をしており、グリップ部とシース部に分けられる。 シースは金属製で、装着したままでも警棒のように使用できる。 グリップ内部に30cmほどの強力なスプリングを備えており、鍔の位置に配置されたレバーを押すことで刀身を前方に射出することができる。有効射程は10m前後。 周囲に気付かれぬよう離れた標的を倒したり、近接戦闘時の奇襲として有効な武器と考えられている。 ◇ ◇ 俺は走る。あいつらから逃げるために。 あの状況であの軍服の奴と戦うのは無謀にも等しい。 それに、手痛い反撃をくらって戦闘の続行が厳しいのもあるがな。 「はぁ……まさかこんな序盤からしくっちまうとはな。情けねえ」 止血はしたもののナイフが刺さっていた肩は焼けるように痛い。 あのチャクラムみたいな物に傷つけられた傷も決して浅くはない。 右腕の裂傷は特にひどい。あの軍服野郎、今度会ったらただじゃおかねえ。 「無様だな、たがが一回戦闘があっただけでここまでボロボロになるとはな」 軍服野郎が強かったのもあるが、それにしてもあの時の自分は油断があったはずだ。 甘さがあったはずだ! だから最初のナギを斬りつけた時も一撃で殺れなかった。 軍服野郎を追い詰めた時も早くナギに止めを刺さなかったからやられたようなものだ。 こんなんじゃ……理樹を護れない。 「鈴……お前はもう逝っちまったもんな」 あの開幕式での出来事は思い出したくもない。 自分の妹が殺される光景なんて! 「でも、まだ理樹は生きている……」 護らねえと。あいつはまだ弱い。鈴の死に耐えれるほど強くはない。 今頃はどこかの施設の隅で怯えているに違いない。 「皆、殺して、理樹だけは生かすんだ!」 真人も、謙吾も、三枝も。二木も。 誰が立ち塞がろうと全員叩き潰すだけだ。 それに。 本当に生きて帰れるのは今となっては理樹だけなんだ。 鈴は死んだんだ!もう……死んだんだ。 それに俺らが優勝したって意味がない。 俺らはもう死んでいるようなもんだから。 「とりあえず、どっか安心して休めるところに行かねえとな。こんな状態で戦えるわけねえよ」 どこで身体を休めようかと考えていた時、俺の視界に何かが映った。 「人影……」 誰だ? あれは…… 「理樹!」 あの黒髪。そして俺と同じ制服。 理樹だ! よかった、よかった、よかった! こんな早くに会えて!今の俺はボロボロだけどそんなのどうでもいい。 理樹が無事だった、それだけで俺は十分だ。 痛い身体を無視して俺は走り出す。 「おい、理樹。無事でよかっ――」 あれ何で喋れないんだ?腹が痛いんだ? どうして―――― 俺は理樹に銃で撃たれたんだ? パンっと軽い音が耳に入る。 ああ、俺撃たれてるんだなぁと人事のように思った。 俺は遅かったのか。理樹はもう狂ってしまったんだ、鈴が死んだことで。 畜生、理樹を護れないで。 兄貴分として失格だな。 謙吾。真人。三枝。 理樹を止めてやってくれ、後は頼むぞ。 本来は優しい奴なんだ。きっと、わかってくれるはずだ。 理樹。 人を殺すのはこれっきりにしてくれ。これ以上自分を傷つけるのはやめるんだ。 人殺しを許容した俺が言える立場じゃねえけどな。ははっ、言葉にしねえとわかんねえか。 最後の力を振り絞って。 「り……き……や…………め」 パン。 ◇ ◇ あはは、まずは一人殺した。 恭介の“ニセモノ”の始末。 そういえば、郷田の言ってたことを思い出して名簿を見たけどそこには僕以外の名前が五つあった。 恭介に真人、謙吾、葉留佳さん。風紀委員長である二木さんもなぜかいた。 まぁ僕のやることは変わらない。僕の邪魔をする人は全員殺すだけ。 それに“ニセモノ”の始末もしなくちゃ。 あの時、虚構世界を脱出しその後、僕はナルコレプシーを発症した。 病院で目覚めた後、僕は恭介達がバスの爆発により炎に包まれて死んだことを朧気ながらに覚えている。 “あの爆発で恭介達はもう死んだ” ここにいるのは“ニセモノ”だ。きっとそうだ、そうに決まっている。 だって“ホンモノ”は死んだんだ、生き返るなんてありえないじゃないか。 だから別に殺してもいい。どうとも思わない。 むしろその“ニセモノ”が存在していることが腹立たしい。 “ホンモノ”が死んだのに何で生きてるの?ってね。 優勝を目指すのと同時に“ニセモノ”の始末もしなくちゃいけない。 待ってなよ、郷田真弓。この銃でぐちゃぐちゃのぎたぎたにしてあげる。 楽しみだなぁ、どんな顔で苦しんでくれんだろうなぁ。 きっと銃で撃たれたら悶え苦しんだ声で泣いて哀願するんだろう。 殺さないでくださいって。 でもだめだめ!許されないことだよね、それは。 鈴のうけた痛みを何十倍にして返してやるんだから! ふふっ、ははは。 「ははははっははっはあっははっはっははっっはあはははははは!」 【棗恭介@リトルバスターズ!死亡】 【G-1/1日目・深夜】 【直枝理樹@リトルバスターズ!】 [状態]:健康 、激しい怒りによる自制心と判断力の欠如、狂気の片鱗 [装備]:冥加@永遠のアセリア、S W M60 チーフスペシャル(2/5) [道具]:支給品一式、不明支給品0~4、予備弾50 [思考・状況] 基本:郷田真弓を殺す 1 郷田真弓を殺す。そのために優勝する 2 仇をとったら鈴が一人で悲しまないように死ぬ。 3“ニセモノ”の始末もする ※Refrain、虚構世界から一回目の脱出後からの参戦。 ※名簿のリトルバスターズメンバーは全て“ニセモノ”と認識しています。 ※近くに棗恭介の遺体が放置されています。 【冥加@永遠のアセリア】 永遠神剣の位は第六位。刀型の永遠神剣。 【S W M60 チーフスペシャル】 ステンレス製のリボルバー。高威力の.357マグナム弾を使用できる。 BACK Noir ou blanc 時系列順 NEXT 稟の燈と歌うゴスロリ女 BACK Noir ou blanc 投下順 NEXT 稟の燈と歌うゴスロリ女 GAME START シン・アスカ NEXT メメント・モリ-罪と罰と贖いの少年- GAME START 三千院ナギ GAME OVER GAME START 棗恭介 GAME OVER BACK 独り 直枝理樹 NEXT
https://w.atwiki.jp/anirowakojinn/pages/880.html
森。 木々が生い茂り、草木が地面にコーティングされているかのように一面に広がっている。 小鳥のさえずりはなく、聞こえるのは風で木の葉がゆれる音のみ。 普通の森にならいるはずの虫の鳴き声もなく、巷ではよく聞くひぐらしの鳴き声もない。 「ハヤテ~、マリア~。どこにいるのだ~」 ツインテールにまとめた鮮やかな金髪、発育の悪い小さな体、 いや、貧相とでもいうのだろうか。胸を見ればわかるというもの。 そんな一人の小さな少女が森の中をとぼとぼと歩いていた。 三千院ナギ。とある大金持ちの一人娘である。 この暗闇の中で一人でいることは怖い以外の何者でもないとナギは思う。 普段ならここまで怖がることもなく、虚勢を張ることも出来るのだが。 だが、場所が場所だ。今までのとは格が違う。 自分の執事でありナギの想い人である綾崎ハヤテ、メイドのマリアがいない。 いつもはそばにいる頼りになる二人がいないことはナギにとっては大きな不安となり纏わり付く。 「殺し合い?何だそれは?なぜ私が巻き込まれなきゃいかん!」 ふざけたゲームに強制的に参加させられることに憤りを隠しきれないナギ。 ナギの気持ちは正しい。誰だっていきなり殺し合いをしろと言われて不満に思わないはずがない。 「こんな暗いところで、一人は嫌だ……ハヤテ~、マリア~」 いくら学校を飛び級して高校に入っているとはいえまだ13歳。 この状況で平常心を保てる方が難しい。 なまじ、頭がいいだけにこの状況も理解でき、現実逃避をすることもできない。 かといって、怖くないかといえば嘘になる。 「誰かいないのか~、誰か~」 目には涙を溜め、いつもの勝気な顔は鳴りを潜めている。グスッと鼻をすすり、絶望に満ちた表情。 普段のナギを見ている人からすれば想像もつかない顔だ。 「誰か~……お願いだから、誰か~」 何度も誰かいないか、と呼ぶナギの姿は見ていて痛ましい。 それにこの行為は逆に殺し合いに乗っている人を呼び出してしまう可能性もある。 ナギはそれにまだ気付いていないがとても危険だ。 「無理だ……こんな暗い場所で一人は無理だ。それになぜスタート地点がこんな森なんだ! せめて、遊艶地とかデパートにすればいいものを……! おい、主催者不公平だぞ!せめて……街中がよかったぞ……」 デバイスの地図を見る限りに、この島には市街地がある。 他にも西洋風の街に廃村。森の中に飛ばされるよりはましだ、と言わんばかりにナギはここには居もしない主催者に抗議の言葉を放つ。 届くはずもない言葉――ナギもそれぐらいはわかっているのだが言わずにかいられなかったのだろう。 「ここまで私が願っているのに誰も現れないとは………」 目尻に溜まった涙が一滴ナギの頬を落ちる。これ以上は限界だと言っているかのように。 実際のところもう許容範囲を超えて、ナギの心は悲鳴を上げていた。 「すまない、すこしいいか?」 「うおっ!!だ、誰だ!」 ナギの後ろから出てきたのはブレザーの制服を着た茶髪の青年。 腰に差している太刀がナギの恐怖を煽る。 こんな人に後ろから声をかけられれば驚いて逃げてしまうかもしれない。 「驚かしてしまったようだな、すまない」 だが、すぐにフォローするこの礼儀の良さを見るとこの人は悪くないと印象に受ける。 ナギもそれを受けて、目の前の人が自分に危害を加えるのに現れたのではないと悟った。 「全く!いきなり後ろからは驚くじゃないか!まぁ……謝ってくれたからいいが」 「ははっ、悪かった。俺も配慮が足りていなかったらしい。精進しないとな」 頬を膨らましてプンスカと怒るナギに冷静な対応をする青年。 爽やかな受け答えから青年が大人びていることがよくわかる。 「俺の名前は棗恭介。恭介で構わない。君は?」 「私は三千院ナギだ。私もナギでいいぞ!」 自己紹介から始まり、お互いの知り合い、お互いが初めて会った人だということなどを交換していく。 終始リラックスした空気で情報交換は行われていた。 「なんにせよ、恭介がいれば安心だな。さぁ行くぞ、こんなゲームに乗る奴を倒しに!」 人と出会えて少し前まで消沈していたナギはもうどこにもない。 いつも通りの勝気な顔を取り戻している。 (最初に会った奴が恭介でよかった。待っていてくれハヤテ、マリア。 私は大丈夫だから。信頼できる人に会える平気だから。 だから……無事で生きていてくれ。今、探しに行く……) 最初に会った参加者が恭介みたいな頼りになる青年であったことからナギは浮かれていた。 傍目から見てもはっきりわかるぐらいに。頬は緩み、目に貯めていた涙はもうない。 「その必要はない。だってさ――」 それ故にナギは気付かなかった。恭介の眼が変わったことに。 優しさが秘められた眼がどす黒い光に染められた瞬間を。 「ナギ、お前は今すぐ死ぬんだからよ」 「え――」 瞬間。 恭介が腰にさしていた太刀を抜き放ち、横薙ぎに一閃振るう。 その様は疾風の如く。見事と呼べる一撃だった。 恭介によって振るわれた太刀はナギの腹に吸い込まれていき、肉を断ち、骨を砕く。 そのまま太刀は薙ぎ払われ、血が辺りに飛び散る。 「……っ……」 二人の間にあった和やかな空気が霧散し、今や血生臭い地獄のように成り果ててしまった。 恭介は無言でデイバッグからメモ用紙を取り出し、血で濡れた太刀を拭く。 その無表情に淡々と作業を行う恭介の姿は殺人人形のようだ。 「う――あ、ああ……」 数瞬遅れて呻き声が辺りに響いた。 太刀による一撃が浅かったのだろうか、ナギはまだ生きていた。 最も、声に出せないくらい痛いのか、ビクビク震えるだけでナギの口からは呻き声しかでない。 玉のような汗がナギの顔を伝う。鮮やかな金髪は腹からの出血で染まり赤と金が混ざり、 とある快楽殺人者である奇術師が見れば美しい、と称したであろう。 「い、――い。い、ぁ……た、い」 唸り声をあげながら悶え苦しむナギに依然と涼しい顔をする恭介。 両者の状態は歴然であり、ナギの死はもはや避けられない。 恭介は太刀を抜き今度こそナギの息の根を止めようと動く。 「止めだ……」 そして恭介がナギの前に立ち、太刀がナギの首にめがけて振り下ろされる……! 「っ!」 いや、振り下ろされなかった。何かを予測したのか恭介は後ろに跳び、後退する。 その恭介が跳んだ瞬間、小さい“ナニカ”が風を切りながら恭介がいた場所を切り裂いた。 そして、その小さい“ナニカ”が再び恭介の首筋に向かう。 「させねえ!」 恭介は首筋に迫る“ナニカ”を手に持った太刀で弾き落とすが“ナニカ”は止まらない。 “ナニカ”は軌道を立て直し、太刀を持った右腕に迫るものの、見切ったのか安々と躱す。 いや、躱したかに見えた。 「ッ!……これはやられたな……」 いつの間にか恭介の右腕には大きな裂傷が刻まれていた。 恭介は初めに疑問に思った。確かに躱したはず、と。 なのになぜ自分の腕に裂傷がと考えたが即座に気づく。 “ナニカは二つ重なっていたのだ” それが答えである。 恭介の右腕に近づく直前に“ナニカ”が分離し二重に恭介に襲ったのである。 二つの“ナニカ”は戻る。 森の奥から現れた青年の手に。 青年の身なりは珍しいものだった。 赤の軍服に身を包み、青年の両眼からは太陽が燃えるような怒りを感じる。 「その子から離れろ……!」 シン・アスカ――戦争に巻き込まれて家族を失い、軍人になった青年である。 ◇ ◇ 時はシンがスタート地点に飛ばされた時間に遡る。 「畜生……畜生畜生畜生畜生畜生畜生ぉおぉおぉおおおお」!」 シンはこのゲームに大きな怒りを感じていた。 何の罪もない人をこんなゲームで弄ぶ主催者に。 そして、 「ちっくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」 人を救うために軍人になったのに何もできなかった自分に。 「人一人救えなくて何が軍人だ!無様にも……程があるッ!!」 力があったはずなのに何もできない自分。助けようと動こうとしなかった自分。 涙を流しシンは嘆いた。 「まだだ……まだこの島には助けを求めている人がいるんだ。こんな戦いとは無縁の人の命が。 俺がここで悔やんでてどうする、他の奴等より戦いに慣れている俺が! 一人でも多く救って、元の平和な日常に返してやるんだ!」 自分に救える限り、人を救おう、と。 「俺みたいに“血”で汚れている奴はいい、でもそんなのとは無縁の命はなくさせない!」 例え自分の命をかけてでも人を護ろう、と。 「そうだろ……ステラ」 かつてシンが救えなかった、愛していた存在、“ステラ・ルーシェ”を思い浮かべながら シンは誓った。 そしてシンは感傷にふけるのを止め、デイバックの中から名簿を取り出す。 「俺以外には……誰もいないか。レイがいれば心強かったんだけどな。 仕方ないか、名簿には書かれてないんだ。俺一人しか……ここにはいない」 シンは乱暴に名簿の冊子を閉じデイバッグの中に投げ捨てる。 次に自分に何が支給品として配られたかをチェックする。 いくら軍人とはいえ丸腰では心許ない。せめてナイフぐらいは入っていて欲しいとシンは願った。 「これは……」 最初にデイバックの中から出てきてシンの手に握られているのは六角形の金属、核鉄。 使用者の本能に反応して武器へと変える超常の産物。 武器としては当たりの部類に入る。 「モーターギア……自由自在に操れるチャクラムか。それなりに使えそうだな」 シンはモーターギアの核鉄をとりあえずしまい他には何かないかチェックする。 「銃は、ないか」 他にめぼしい物はなかったのか、デイバッグの中身を漁るのを止め、核鉄だけを出して腰のベルトに捻じ込む。 さてこれからどこへ向かうかと考えていたところにシンの耳に女の子の声が聞こえた。 「誰かの声が聞こえる。行ってみるか」 シンは耳を澄まし、声の震源地の方向へ向かう。 向かった先で見たものは。 恭介がナギを斬りつけた光景だった。 「……!武装錬金!」 シンの言葉を受けて核鉄が二つのチャクラム――モーターギアに変わる。 そしてモーターギアを“二枚重ね”にして射出する。 ――明らかにあの男は乗っている。シンは即座に恭介の黒い情念に気づいた。 シンの“二枚重ね”の小細工の結果、恭介は一度目は躱すが二度目は躱せなかった。 直前で二つに分けてモーターギアを動かしたためである。 「その子から離れろ……!」 シンは警告として一度だけ言葉を恭介にかけるが、恭介に降参の気配はない。むしろ徹底抗戦する構えにも見える。 「二度は言わないッ!」 シンは手に持ったモーターギアを飛ばす。 二つのモーターギアが空中を縦横無尽に翔け、恭介を斬り殺そうと迫る。 「同じ手は……通用しねえ!」 恭介は右から勢いよく迫るチャクラムを太刀で弾き、正面から来るのはしゃがんで躱す。 そして勢いよく立ち上がりシンに迫る。 「死になぁ!」 「そんな程度で!俺を殺せると思うなぁああああ!」 シンは片方のモーターギアを高速で手に戻し恭介の太刀による一撃を受ける。 そして、一方のモーターギアを恭介の背後から飛ばす。 「これで!」 シンは背後からの攻撃は躱せない、そのまま恭介の背中に突き刺さると考えていた。 だが恭介は予測していたのか身体を90度回転させながらシンの背後に回り込む。 「このままだとお前が受けることになるぜ!」 「ッ!」 シンは直前まで迫ったチャクラムを横に跳ぶことで躱し、恭介もシンと反対側に跳ぶことでチャクラムを避ける。 再び、シンは両手にチャクラムを身につけて恭介に迫る。 恭介も手に持った太刀で応戦する。 キンキンキンと連続した金属音が森に鳴り響く。 「大人しく、倒れろッ!」 シンの下段からすくい上げるようなパンチを恭介は太刀を斜めに構えることで受け流す。 シンの拳を流した勢いで恭介は太刀でシンの額に一直線で突きを放つ。 「モーターギア!」 「またかよっ!厄介な武器だな、おい!」 シンは両手のモーターギアを外し、迫る太刀にぶつからせる。 それによって太刀の軌道がずれ、シンは間一髪で太刀による一撃を躱す。 再び金属音が鳴り響く。何分続いただろうか、それとも何秒?それはもはや当人たちも分からない。 命をかけた戦いにそんなのを気にする余裕などない。 「どうした、勢いがなくなってきてるぞ!」 「はっ、お前の方こそ!そんな程度で俺を殺れると思うなッ!」 恭介の息が上がってきた。 一方のシンはまだまだ余裕だと言わんばかりに容赦なく恭介の隙を攻め立てる。 恭介はただの学生だ。 軍人であるシンとは地力と格が違う。 段々と、恭介の身体には裂傷が生まれ、動きも鈍くなっていく。 時に弾き、時に受け、時に流す。それもおろそかになりつつある。 「これで、終いにしようか」 シンは後ろに下がり、少し距離をとる。 そこからロケットのように加速しながら恭介に迫る。 だが、恭介に慌てた様子はない。むしろ、余裕にも見える。 その自信は何か。その自信の出所はすぐにわかった。 「かかったな」 ニヤリ、と恭介は笑った。シンは不可解な表情をするがもう遅い。 シンは大きな木の幹につっかかりドテンと音を立てながら転んでしまった。 恭介の狙いはシンをここにおびき寄せることだった。 疲れた振りをして、シンを油断させる。そして、木の幹が多いこの場所にうまく誘導させ、転ばせる。 結局はシンの油断が隙となり、木の幹に引っ掛かり転んでしまうハメになったのである。 「終わるのはお前だよ」 恭介は今までその力をどこに隠していたんだと言いたいぐらいに俊敏にシンに迫り太刀を振り上げる! (モーターギア!駄目だ!転んだときに落としてしまった。操るよりあいつの刀が俺を裂く方が早い! 俺は終わるのか?こんな所で?) ここからだよ! 考えても考えてもこの窮地を抜ける方法は思い付かない。 シンはそれでも最期の一瞬まで考える。生き抜くための手段を。 でも思い付かない。完全に手詰まりだった。 (畜生!まだだ!まだ!) 刃がシンの頭上に迫る。シンは思わず目を閉じ、これから自分の身に起こるスプラッタな惨劇から目を背ける。 奇跡でも起こらない限りシンは死ぬ。 そう。 “奇跡でも起こらない限り” トスッ。 何かが刺さる音がシンの耳に入った。 そして、何時までも太刀による斬撃がこないことを訝しみ、目を開けると。 「がっ!っゥう!」 「外れた、か」 恭介が肩を抑えて呻き、ナギが後ろで不敵に笑っていた。 シンにとっては驚きである。ナギはもう死んでいると思っていたからだ。 「んだよ……!それはっ!」 「ス、ペツナ、ズナ、イフ。刃を飛ばす事ができる代物ら、しいな」 ナギが途切れ途切れに言葉を発する。 恭介は舌打ちをして肩に刺さったナイフの刃を無理やり取り出す。 「分が悪い。ここは退散させてもらうぜ!」 恭介は捨て台詞を言い残し、この場からの退却をしようとシン達と反対の方向へ走り出す。 「待て!」 「待てと言われて待つ奴がいるか!それよりいいのか? あいつ、相当弱ってるぜ!」 「くそ……!」 シンは恭介を追いたいが追えない。ナギがいるためだ。 このまま、ナギを放っておけば確実に死んでしまう。 故に、シンは恭介を追うのを止め、ナギの方へ走る。 「おい、傷口を見せろ!応急手当をするから、早く!」 シンがそう言いながらナギの元へ駆けるがすでに遅し。 ナギは立っていることが辛いのかその場にバタンと倒れてしまった。 「まだだ!血を止めればまだ!」 「もう……いい。わ、たしは、手遅れだ」 「そんなこと言うな!俺は……今まで人を救えなかった!! マユの時も!!!ステラの時も!!!!だから今度こそ助けるんだ! 諦めるな!」 涙をぼろぼろと流し急いでナギの出血を止めようとするシン。 そんなシンにナギは優しく微笑み、シンの震えた手をしっかりとした強さで握る。 「だから、気に、する、な。私はゴホッゴホッ…… お、まえが助、けに来て、くれた、だ、け、でもう満、足だ。 後な、お、願い、が、ある。聞い、て、くれ、ない、か」 「何でも聞くから!何でも!!だから死ぬなよ……」 泣きじゃくるシンをあやし、包み込むように、ナギは喋る。 「名前は……」 「えっ?」 「お前、の名前だ」 「シン……シン・アスカだ」 「そうかシン……伝言を、つた、え、て欲、しい。わ、たし、の名、前は、三千院ナギっ…… マリ、アに、は、いままで……ありがとう、そして御免って」 「そんなの、自分で伝えてくれよっ!なぁ!」 「ハヤテには――――」 「わかったから、必ず、必ず伝えるから!だから!」 「ぁぁ――シンみたいないい奴だったら……安心して、任せら、れる」 ナギの目が閉じていく。死がナギを包み込んでいく。 「ありがとう――――シン」 ゴトリとナギの手が地に落ち、命が消えた。 ナギの目はもう二度と開かない。ナギの口からは何も言葉を発さない。 「ああ、ぁ、ああ、ああああああああああああああああああ!!!!! ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」 そして一人の男の慟哭が森に響いた。 【三千院ナギ@ハヤテのごとく!死亡】 【F-1南部/一日目・深夜】 【シン・アスカ@機動戦士ガンダムSEED DESTINY】 【状態】疲労(中)、精神疲労(大) 【装備】モーターギア@武装錬金 【持ち物】支給品一式、不明支給品1~2(重火器はない) 【思考】 0.―――――― 1.自分の命をかけてでも人を救う。 2.ハヤテとマリアに伝言を伝える。 ※参戦時期は少なくともアスラン撃墜後です。 ※近くにナギのデイバッグ、遺体、不明支給品0~2、スペツナズナイフの柄が落ちています。 【モーターギア@武装錬金】 中村剛太の武装錬金。2つで1セットのチャクラム。 特性は生体電流を充電し、速度・角度・回転数を事前にインプットしての射出。 攻撃力は全武装錬金中でも最低クラスだが、創造主の使用法一つで戦術の幅は大きく広がる。 またチャクラムを装着することも出来、両拳に装着することでのナックルダスターモード、 足首に装着することでのスカイウォーカーモード、 足裏に装着することでのマリンダイバーモードなどに応用することが出来る。 制限により切れ味が幾らか鈍くなっている。 【スペツナズナイフ】 見た目は円筒形をしており、グリップ部とシース部に分けられる。 シースは金属製で、装着したままでも警棒のように使用できる。 グリップ内部に30cmほどの強力なスプリングを備えており、鍔の位置に配置されたレバーを押すことで刀身を前方に射出することができる。有効射程は10m前後。 周囲に気付かれぬよう離れた標的を倒したり、近接戦闘時の奇襲として有効な武器と考えられている。 ◇ ◇ 俺は走る。あいつらから逃げるために。 あの状況であの軍服の奴と戦うのは無謀にも等しい。 それに、手痛い反撃をくらって戦闘の続行が厳しいのもあるがな。 「はぁ……まさかこんな序盤からしくっちまうとはな。情けねえ」 止血はしたもののナイフが刺さっていた肩は焼けるように痛い。 あのチャクラムみたいな物に傷つけられた傷も決して浅くはない。 右腕の裂傷は特にひどい。あの軍服野郎、今度会ったらただじゃおかねえ。 「無様だな、たがが一回戦闘があっただけでここまでボロボロになるとはな」 軍服野郎が強かったのもあるが、それにしてもあの時の自分は油断があったはずだ。 甘さがあったはずだ! だから最初のナギを斬りつけた時も一撃で殺れなかった。 軍服野郎を追い詰めた時も早くナギに止めを刺さなかったからやられたようなものだ。 こんなんじゃ……理樹を護れない。 「鈴……お前はもう逝っちまったもんな」 あの開幕式での出来事は思い出したくもない。 自分の妹が殺される光景なんて! 「でも、まだ理樹は生きている……」 護らねえと。あいつはまだ弱い。鈴の死に耐えれるほど強くはない。 今頃はどこかの施設の隅で怯えているに違いない。 「皆、殺して、理樹だけは生かすんだ!」 真人も、謙吾も、三枝も。二木も。 誰が立ち塞がろうと全員叩き潰すだけだ。 それに。 本当に生きて帰れるのは今となっては理樹だけなんだ。 鈴は死んだんだ!もう……死んだんだ。 それに俺らが優勝したって意味がない。 俺らはもう死んでいるようなもんだから。 「とりあえず、どっか安心して休めるところに行かねえとな。こんな状態で戦えるわけねえよ」 どこで身体を休めようかと考えていた時、俺の視界に何かが映った。 「人影……」 誰だ? あれは…… 「理樹!」 あの黒髪。そして俺と同じ制服。 理樹だ! よかった、よかった、よかった! こんな早くに会えて!今の俺はボロボロだけどそんなのどうでもいい。 理樹が無事だった、それだけで俺は十分だ。 痛い身体を無視して俺は走り出す。 「おい、理樹。無事でよかっ――」 あれ何で喋れないんだ?腹が痛いんだ? どうして―――― 俺は理樹に銃で撃たれたんだ? パンっと軽い音が耳に入る。 ああ、俺撃たれてるんだなぁと人事のように思った。 俺は遅かったのか。理樹はもう狂ってしまったんだ、鈴が死んだことで。 畜生、理樹を護れないで。 兄貴分として失格だな。 謙吾。真人。三枝。 理樹を止めてやってくれ、後は頼むぞ。 本来は優しい奴なんだ。きっと、わかってくれるはずだ。 理樹。 人を殺すのはこれっきりにしてくれ。これ以上自分を傷つけるのはやめるんだ。 人殺しを許容した俺が言える立場じゃねえけどな。ははっ、言葉にしねえとわかんねえか。 最後の力を振り絞って。 「り……き……や…………め」 パン。 ◇ ◇ あはは、まずは一人殺した。 恭介の“ニセモノ”の始末。 そういえば、郷田の言ってたことを思い出して名簿を見たけどそこには僕以外の名前が五つあった。 恭介に真人、謙吾、葉留佳さん。風紀委員長である二木さんもなぜかいた。 まぁ僕のやることは変わらない。僕の邪魔をする人は全員殺すだけ。 それに“ニセモノ”の始末もしなくちゃ。 あの時、虚構世界を脱出しその後、僕はナルコレプシーを発症した。 病院で目覚めた後、僕は恭介達がバスの爆発により炎に包まれて死んだことを朧気ながらに覚えている。 “あの爆発で恭介達はもう死んだ” ここにいるのは“ニセモノ”だ。きっとそうだ、そうに決まっている。 だって“ホンモノ”は死んだんだ、生き返るなんてありえないじゃないか。 だから別に殺してもいい。どうとも思わない。 むしろその“ニセモノ”が存在していることが腹立たしい。 “ホンモノ”が死んだのに何で生きてるの?ってね。 優勝を目指すのと同時に“ニセモノ”の始末もしなくちゃいけない。 待ってなよ、郷田真弓。この銃でぐちゃぐちゃのぎたぎたにしてあげる。 楽しみだなぁ、どんな顔で苦しんでくれんだろうなぁ。 きっと銃で撃たれたら悶え苦しんだ声で泣いて哀願するんだろう。 殺さないでくださいって。 でもだめだめ!許されないことだよね、それは。 鈴のうけた痛みを何十倍にして返してやるんだから! ふふっ、ははは。 「ははははっははっはあっははっはっははっっはあはははははは!」 【棗恭介@リトルバスターズ!死亡】 【G-1/1日目・深夜】 【直枝理樹@リトルバスターズ!】 [状態]:健康 、激しい怒りによる自制心と判断力の欠如、狂気の片鱗 [装備]:冥加@永遠のアセリア、S W M60 チーフスペシャル(2/5) [道具]:支給品一式、不明支給品0~4、予備弾50 [思考・状況] 基本:郷田真弓を殺す 1 郷田真弓を殺す。そのために優勝する 2 仇をとったら鈴が一人で悲しまないように死ぬ。 3“ニセモノ”の始末もする ※Refrain、虚構世界から一回目の脱出後からの参戦。 ※名簿のリトルバスターズメンバーは全て“ニセモノ”と認識しています。 ※近くに棗恭介の遺体が放置されています。 【冥加@永遠のアセリア】 永遠神剣の位は第六位。刀型の永遠神剣。 【S W M60 チーフスペシャル】 ステンレス製のリボルバー。高威力の.357マグナム弾を使用できる。 BACK Noir ou blanc 時系列順 NEXT 稟の燈と歌うゴスロリ女 BACK Noir ou blanc 投下順 NEXT 稟の燈と歌うゴスロリ女 GAME START シン・アスカ NEXT GAME START 三千院ナギ GAME OVER GAME START 棗恭介 GAME OVER BACK 独り 直枝理樹 NEXT
https://w.atwiki.jp/mtgflavortext/pages/84.html
悪魔によって印を受けた生ある者は、死んだ者として記憶されるだろう。 One who is marked by a demon in life is sure to be remembered as one in death. マジック・オリジン 基本セット2019 基本セット2021 【M TG Wiki】 名前
https://w.atwiki.jp/battler/pages/6311.html
ジェレミー「はぁ・・・中原・・・」 真北「もはやどうしようもない・・・」 -- ジェレミー&真北 (2009-11-16 06 50 35) 300X「主将剥奪かよ・・・・」 400系つばさ「後少しでそうめんを引きずり込めたのに・・・」 ガレオン「残念だ・・・・・」 500系のぞみ「ったく、こんな時に0系とモルテは何やってんだ・・・!」 -- ひらお軍 (2009-11-16 06 53 57) 中原さん!ヤバイみたいですね! -- 嶌田 美子(大津の守護神) (2009-11-16 18 12 18) 300X「まずい、モルテと0系がスタミナ切れ起こしかねない。」 400系つばさ「そろそろ俺達に出番を・・・」 500系のぞみ「だよな・・・ 出番・・・」 300X「無茶言うな、お前達は引退になるかどうかが会議にかけられてるのに・・・・ しばらくは200系ときとガレオンに言ってもらう。」 ガレオン「待て、デスゴルザートが・・・」 100系ひかり「じゃあ俺と200系ときか?」 ガレオン「でも0系ひかり1号はスタミナ切れしなさそうだな・・・」 400系つばさ「確かに、スペック自体は1ヶ月出場し続けても平気な200系ときと互角だしな・・・」 500系のぞみ「0系ひかり1号ならまだしも、羅震帝サン・モルテは俺達機械と違って、羅震鬼だしなぁ・・・」 300X「つうか100系ひかりはあの時(デ杯で中原落としたこと)のがあるから自粛すべきだと思う。」 100系ひかり「だよなぁ・・・・畜生・・・」 -- ひらお軍 (2009-11-16 18 15 39) イヤッホゥゥゥゥゥ!! 7連勝で三番手認定&現役選手続行キタァァァァア! これで引退はナシだぁぁぁぁ! -- 400系つばさ (2009-11-19 06 37 45) 7連勝歴代+13勝+V・・・・・ しかもD-BR杯で同軍の阿呆狐落としてやがる・・・・ -- 500系のぞみ (2009-11-19 09 56 49) たみふるじゃ!!たみふるのサーセンwww箱のご加護じゃあ!!(何故かいきなり400系つばさがたみ☆ふる巫女が住まう神社のサーセンwww箱にお金を入れているシーンが映しだされる) -- 天の声 なっしー (2009-11-19 16 14 18) なんだか知らない内に刻の傷跡が増えてる、賑やかになったねぇここも・・・。 しかし、ア狐ざまぁw あの未勝利は俺様のスランプ時代のようなものを予告するものであってほしいねぇ(笑) ・・・ま、素麺はトライアル合格圏内、ア狐は未勝利でいい結果だねぇ(ぇ) -- 剣聖・聖良紅牙(ご本人) (2009-11-19 16 49 52) つーか『サーセンwww箱』て(爆笑) 民子の御利益どんだけよwww ・・・俺も諭吉さん5枚くらい入れてみようかな(マテ -- 剣聖・紺野悠牙(剣聖・聖良紅牙) (2009-11-19 16 51 56) 取り敢えず【つばさ】仲間が減らんでよかったわいな・・・。 (仮の名前が『美翔 翼』→) -- 蒼崎 翔(剣聖・聖良紅牙) (2009-11-19 16 53 57) 賽銭は入れた覚えはないが・・・ まぁいいか! しばらくは俺が登録されるな。オーナーが言ってた。 -- 400系つばさ (2009-11-19 17 39 51) さてと、400系つばさは確定・・・・ 次は誰が登録されるか・・・・ 候補 ガレオン 100系ひかり E231系 D51−498 羅震帝サン・モルテ 焼き狐アフォックス 星線路 253系成田 0系ひかり1号 どうしよう・・・・ -- 300X (2009-11-19 17 44 45) 結果:253系成田が出るっぽい。 -- 300X (2009-11-19 19 26 24) 0系ひかり1号「というわけでしばらく我等の出番はなしだ。」 羅震帝サン・モルテ「えっ!?どうしてですかっ!?」 ガレオン「400系つばさがとんでもないことやらかしたからな・・・」 500系のぞみ「あぁ・・・ オーナーも許可しちまった・・・ 奴は誰にも止められない・・・」 E231系「多分、400系つばさの奴が黒星喫しても、止まらないだろう・・・」 D51−498「第五回WBRも奴の参戦がほぼ確定だからなぁ・・・・」 -- ひらお軍 (2009-11-19 23 40 30) D51-498「あいつら、なにやってんだ?」 300X「今度やるδ種キャンペーンの練習。」 0系ひかり1号「出たな、俺が相手だ!」 ガレオン「ひとつ手合わせ願おうか!」 500系のぞみ「全力で来ることだ。」 -- ひらお軍 (2009-11-21 18 15 06) δ種キャンペーンとは、いくつかのキャラがいつもとは全く違うステータスで登録されること。 出場者は・・・ 0系ひかり1号 500系のぞみ 羅震帝サン・モルテ 100系ひかり 焼き鳥そうめん 星線路 らしいが・・・・・ -- 300X (2009-11-21 18 17 03) ったく・・・・ 此処で待機しろと・・・ 何があるってんだ・・・・ -- 400系つばさ (2009-12-20 19 56 35) (0系から通信が入る) もしもし・・・ サジが・・? なるほど。 出たら叩けばいいんだな!わかった! -- 400系つばさ (2009-12-20 20 42 13) モルテと仮面ライダー共の水差し野郎・・・・ ま、歴代入り時に出場機会貰ったからいいんんだけどね。 -- 400系つばさ (2009-12-21 01 19 34) ほぅ・・・・ ま、俺は今晩出番だけどね。 それと、真北の奴が大津に帰っちまった。 -- E4系MAX (2009-12-21 17 54 59) えっ!真北氏大津に帰っただと! -- E3系L編成(大津の守護神) (2009-12-22 15 14 58) L編成!もちつけ! -- E5系(大津の守護神) (2009-12-22 15 44 01) E5系よ!俺は落ち着いているぜ! -- E3系L編成(大津の守護神) (2009-12-23 13 56 54) フン・・・(登場) -- ディエンド (2009-12-23 15 45 40) おお!ディエンド様だ!ディエンド様が現れたぞ! -- E5系(大津の守護神) (2009-12-24 18 14 25) バトロイにディエンド様が現れたぞ! -- E5系(大津の守護神) (2009-12-25 18 46 10) あれ?ディエンド様は?! -- E5系(大津の守護神) (2009-12-26 09 36 24)
https://w.atwiki.jp/mtgflavortext/pages/11232.html
エルフの戦闘魔法は二つに分かれている。傷を与える魔法と、傷を癒す魔法だ。どちらが施されるかは、政治的な問題だ。 Elvish battle-magic has evolved two specialties inflicting wounds that scar, and healing wounds without scarring. Politics determines the recipients of each. ローウィン 【M TG Wiki】 名前