約 68,953 件
https://w.atwiki.jp/jidoubunkorowa/pages/195.html
「《クレイジー・ダイヤモンド》!」 東方仗助の手にビジョンが重なり、そのままに胸から血を流す少女に触れる。 民家の中、室内に広がった出血量を考えれば、そして虚ろに開かれた目を見れば、その少女が死んでいるという判断は十人が十人ともするだろう。 それでももしかして、という思いで仗助は少女に触れ続ける。 するとどうだろうか、死体から胸に開いた銃創が消えていくではないか。服の損傷も共に戻っていき、まるで時間が逆に戻るかのように。傍から見れば眠っているようにしか見えなくなった。 だがそれでも、少女が息を吹き返すことはない。 いくら《クレイジー・ダイヤモンド》がどんな物も治せる超能力、スタンドでも、死者だけは生き返せない。 そのことは仗助本人が一番良くわかっている。 つい先日も、祖父を助けられずに、冷たくなっていくその肉塊を前に歯噛みしたばかりだ。 それでも、いや、だからこそ仗助は少女を助けようとする。 いわばこれは一つの儀式だった。目の前で親しい人を助けられなかったのに、また顔見知りを助けられないことに対する。 「――悪ぃな由花子、もう少し早く来てれば。」 別にそんなに親しくもなかった、むしろ苦手な部類だった同級生が、祖父の時と同じように体温を失っていくのを、仗助はそうして見送った。 「やれやれ、だぜ……」 民家にあった布団を敷くと、その上に由花子の死体を寝かせて、シーツをかける。 イカれたやつではあったが、なにも死ぬことは、ましてや殺されていいようなやつでは無かった。 であるからして、仗助としては下手人に一つ気合を入れる必要がある。そう思い改めて由花子が倒れていた場所へと戻る。彼女がどうやって殺害されたかは簡単に推理できた。犯行現場には明らかに銃痕があったからだ。窓ガラスの割れ方から見ると、おそらくは外からの銃撃を受けて殺された、と死んだ祖父のように警官になった気で考えてみる。 では問題はどこから銃を持ってきたか?だ。 (銃なんて簡単に手に入るわけがねえ。てことは、《バッド・カンパニー》みたいなスタンドか?) そもそも仗助が由花子の死に自分の想像以上に動揺したのは、彼がこの間戦ったスタンド使いにある。 祖父の死の遠因となったその男、虹村形兆。男はミニチュアの軍隊のスタンド《バッド・カンパニー》を操り、ある目的のために数多の人間の命を奪ってきた。 最終的に仗助の目の前で死んだので彼ではないと思う――死んだ人間が生き返ることなどありえないのだから――が、似たような武器を操るスタンド使いが存在する可能性は頭に大きくある。 あのツノウサギとかいう変なスタンドに一発くれてやろうとし、失敗してこの無人の謎の空間に囚われて以来、時折聞こえる銃声がその危惧を肥大化させている。 そのとき彼は見つけた。手に銃を持ち、首には首輪を付けられて街を歩く少女を。 いわゆるピストルを両手で持って、キョロキョロと辺りを見渡しながらこちらへと歩いてくる。 「……冷静になれよ、仗助。あの子が殺ったとは限ンねーぜ。」 飛び出しそうになった身体を抑えて、仗助は呟いた。 いくら銃を持っているからと言って少女が殺したという証拠は何もない。それに、部屋につけられた痕は連射されたもののようにも見える、拳銃ではああはならないだろう。もっとも、仗助の知識にあるそれは件の《バッド・カンパニー》によるものだけなのだが。 とにもかくにも、話を聞く必要がある。犯人ならば殴るし、そうでないのなら話を聞く。どのみちこの殺し合いで最初に出会った他人だ、会ってみるほかない。 仗助は部屋を後にするとキッチンへと移った。玄関から出て正面から鉢合わせるよりあるかどうかはわからないが勝手口から出て後ろを抑えた方が良い、そう判断してドアを開けたところで、テーブルの上にデカデカと寝そべるそれにギョッとした。 「ライフルだと? なんでこんなもんが家ん中にあるんだ?」 黒光りするそれはどっからどう見てもライフルだった。それこそ《バッド・カンパニー》の歩兵が持っていたような、仗助は名前を知らないがアサルトライフルに属するものだ。民間用ならば例外はあるがそんなことを知らなくても、それが連射できそうな武器だということはわかる。 問題は、なぜそれが家の中にあるか、だ。 「な〜〜んか、思い違いをしてる気がするぜ。違和感っつーか……」 数秒考えた末にそう言うと、仗助は勝手口から出た。わからないことだらけのところに更にわからないことが増えたが、まずは例の少女だ。見失うわけにはいかない。 仗助は家から出ると、狭い路地を抜けて少女の後ろを取り声をかけた。 「あの〜〜、もしかしてなんスけどアンタも巻き込まれた――」 「……っ!?」 「――人っスか?」 銃を両手で持ったまま振り向きざまに放たれたハイキック。 何か武道をやっているらしくもあるそれを、経験と筋力差で片手で押さえ込むと、仗助は何もなかったかのように話を続ける。 そして同時にほぼ白だと断定した。 咄嗟に銃ではなく蹴りを選ぶのは殺し合いに乗っていないからだ。単に蹴り慣れているのかもしれないがそれにしては素人っぽい、にわか感のある蹴りだ。つまりたぶん、この女の子は殺っていない。なにせこうして片足を掴まれ不安定な体勢であってもなお強い視線を向けても銃口をこちらに向かせないのだから。 「あ、おれ東方仗助っス。もちろん殺し合いなんてやるわけないっスよ。」 明らかに年下だが一応敬語で名乗る。よく考えたらこんな近くで突然後ろから、見知らぬ年上の男子に声をかけられたらビビるよなという反省と共に、手を離してやり自由にする。二三歩あとずさられるが、相変わらず強い視線を向けては来るものの逃げも戦おうともしない。そして少女は口を開きかけて、パクパクと動かして、閉じた。 小さい声だ、と思った。緊張して声が出ないのだろう。そう思って仗助は少し近づきながら声をかけようとして。少女の視線の変化に気づく。なぜかはわからないが、少女の目はとても悲しいものに変わっているように見えた。目にこもる、いわゆるメンチのような気合は感じるのだが、なぜかこもっている感情が別のものに見えた。それと同時に察する。少女の口の動きに変化があった。それは仗助の地元でカツアゲにあっているやつがする、独特な口の動きだからだ。 「ごめんなさい」、そう声が出ずに言う、アレだった。 (あの喉のアザ、こいつは。) 喉のあたりに置いた手にも目が行って気がつく。少女の喉にはアザがあり、手はそのアザを抑えている。いや、掴んでいる。手の強ばりを見るにかなりの力がこもっていると察した。 そのアザを《クレイジー・ダイヤモンド》で治しながら、仗助はバツの悪い顔で言った。 「あー……驚かせて悪かったっス。そういえば、この、ほら、コレあるんで、筆談にしてもらって良いスか?」 トントンと首輪をつつきながらそう言うと、少女はコクンと首を縦に振りながら口を動かした。しかし、治したはずのその口から言葉が出ることはない。 「じゃあ、なんか書くもんもってくるんで、ちょっと待っててください。」 らしくない敬語言っちまってるなと思いながら、仗助は家へと戻った。そして勝手口の扉を閉めると、壁を殴りつけようとして、止めた。 「声を出せねぇ女の子を拉致って殺し合いさせるとかよぉ……杜王町でも見たことねぇレベルの下衆だぜ、クソっ。」 代わりに吐き捨てるように言うと、手近な鏡の前に立って髪を整えた。家の外に人を待たせてるのに、物に当たってそれを直してというのは、ましてあんな女の子の側でやるのはできなかった。 仗助はなんとなく、本当に直感的にあの少女から心の傷を感じ取っていたのだ。仗助自身も、母の朋子も、家族を失ったときはああいう雰囲気だった。杜王町にスタンド使いを増やしていた虹村兄弟も、纏う空気にさみしさがあった。大切な誰かを失った人間には、同じような匂いがまとわりつくのだろうか。辛気臭えのはなしだな、と呟いて、いまいちキマらないままの髪で、仗助はメモ帳とボールペンを見つけると家を出た。 「待たせちまってすみません。じゃあ、あそこのサ店で話聞かせてもらってもいいスか?」 二人で近くのカフェに入る。テーブルや床に転がる銃にギョッとしながら、一番入り口から遠い席に座ると、情報交換がはじまった。 ──紅絹 「くれない、きぬ?」 ──もみ、です 「なんか頭良さそうな名前っスね。」 少女、紅絹が書き、仗助がそれを読み、また書く。ときおり頭の悪いことを言いながら、仗助はなんとか話を聞きだしていく。 まとう空気は悲しげでも、ショートカットで地味ながら整った顔をしているからか、それとも出会い頭の蹴りのせいか、なんとか変に気負わず接せている。その甲斐あってか、筆談にしてはスムーズに会話が進む。とはいえ、わかったことなどほとんど無かったが。 「じゃあ、紅絹ちゃんも気がついたらあそこで変なウサギの話聞いてたんスね?」 こくり、と頷く紅絹に相槌を打つと、仗助はしばらく無言で考え込んだ。 はっきり言って手詰まりだ。仗助がここに来てから得た以上の情報は何も無かった。あまりの手がかりのなさにこれからどうすればいいかの指針も立てられない。 そしてそれ以上に、紅絹との接し方がわからず戸惑っていた。 仗助はリーゼントに改造制服という不良そのものな外見に加えて、ハーフのために身長もある。だが別に不良というわけではないと自分では思っていた。たしかにプッツンするところはあるが、授業態度もそこそこ真面目で、外見からは想像しにくいほどに普通の高校生である。ではそんな男子高校生が線の細い年下の女子中学生に気を配って円滑にコミュニケーションできるかというと、NOだ。割と女子からの好感度が高い方の彼であっても、さすがに相手が悪い。 そもそも紅絹は失語症のため、並大抵の人間では会話が成り立たない。彼女が行為を抱く青年は少女漫画に出てくるようないい男なのでそのあたりなんとかなっているし、周りの人も優しい人が多いのでなんとかやっていけているが、本来は断じて殺し合いに参加できるような資質ではないのだ。 ──東方さんはこれからどうしたいですか? 「おれは、銃の音がする方を調べたいっスね。人と会うならそれしかなさそうなんで。」 ──いっしょにいっていいですか? 「それは……危ないっスよ。ここにでも隠れてたほうが……」 ──なら、二手にわかれませんか ──探している人がいるんです だが資質があろうとなかろうと、選択はしなくてはならない。 紅絹が選んだのは、行動。安全な場所に隠れるのではなく、自分と同じように巻き込まれているかもしれない家族を探しに行くことだった。 筆圧の強さからその意思の強さを感じて、仗助は言葉をなくした。 正直に言えば、紅絹は足手まといだ。口の聞けない女の子を守って動けるほど仗助は器用ではない。だが彼女の思いは大切にしたいし、なにより隠れていても由花子のように撃ち殺されかねない。 それでも悩んでいる仗助の耳に、銃声が届いた。 近い。そして大きい。 由花子のことが頭によぎった直後なのもあって、必然彼女を撃ち殺した犯人が撃ったのかもしれないと気になる。 ──今の音をしらべたいです 「わかったス。ただし、おれも着いていきますよ。」 少し考えて仗助はそう答えた。 迷っていれば更に死人が増えるかもしれない。もうあんな思いはゴメンだった。 適当に保存の効く食べ物や飲み物を漁ると、仗助はレジにいくらかの金を置いて喫茶店を出る。二人でしばらく歩くと、赤い霧の合間から赤く点滅する光が見えた。それが交番のパトランプだと仗助が気づくのと、紅絹が走り出したのは同時だった。止めようとして交番の前に倒れる人に気づいて、紅絹を追い越して駆けつけた。 「《クレイジー・ダイヤモンド》!」 それが血塗れで倒れている子供だと分かるより早く仗助はスタンドを使う。バッサリと斬られている傷口が治っていく、苦しげな顔が一転して柔らかくなる。それに安堵したところに聞こえてくるのは、荒くなった息。目の前の少年が息を吹き返したか? そう思った仗助の視界の端で何かが倒れた。 「紅絹ちゃっ──なにっ!?」 慌てて抱えあげようとして驚く。交番の中には、更に血塗れの人間が倒れていた。よく見れば一人ではない。女子らしき子供二人に、男性二人の計四人。らしき、というのは、一人は顔面が性別が一目でわからないほどにギタギタにされていたからだ。 「くっ、《クレイジー・ダイヤモンド》! 全員治すぜ!」 思わず覚えるのは吐き気。それを気合いで耐えると、紅絹を含めた五人を治す。が、誰一人として動くことはない。紅絹は精神的なショックによるものだろうが、あとの四人はそうではないというのはやる前からわかっている。それでもやるだけのことはやった。 死体が四つに、大怪我を負った子供が一人に、気絶した子供が一人。同級生が殺された姿を見たあとに出くわすには中々にヘビーなものだ。 「やれやれだぜ……」 「……あの、すみません。おれは風見涼真です。さっきは助けてもらってありがとうございました。それで、三つ聞きたいことがあるんですがよろしいでしょうか?」 愚痴る言葉を遮る声が聞こえた。顔を上げると、さっき治した少年が立っていた。 イケてるという自負がある仗助からしてもイケメンだとわかるような顔が、真剣に仗助を見つめている。これスタンドのこと聞かれんのかなあと思った。 「おれもだ。色々聞かせてもらいてえんだが、悪ぃが急いでるんでな……それで、リョーマ、聞きたいことってのはなんだ?」 「ありがとうございます。一つ、さっきおれを治したのはあなたですか。二つ、それは怪我をした人間以外にも使えますか。三つ、あなたに自分を守る護身術などの経験はありますか。」 「お、おお。隠してもしかたねえか、こりゃ……さっきのはおれっつーか、おれのスタンド《クレイジー・ダイヤモンド》の力だ。まあ、超能力だと思ってくれ。怪我でも壊れたもんでも直せるが、死者を生き返らせたりはできねぇ。護身術ってほどじゃないが、スタンドってので戦えるぜ。」 テキパキと聞いてくるリョーマに面食らいながら答える。いやに落ち着いているのでスタンド使いかと疑ったが、出して見せた《クレイジー・ダイヤモンド》にまるで視線を向けないので、相手を測りかねる。 「わかりました。それでは申し訳ありませんが、おれ、私と同行してもらえませんか。近くに銃と刀で武装した通り魔がいます。さっき襲われて、私が保護していた方には警察署に一人で逃げてもらっています。彼女を早急に保護する必要があります。」 「マジかよ……つまり、殺し合いに乗ったやつに襲われて、女の子逃して戦って殺されかけたってことだよな。」 「はい。そして、暴徒は少なくとも二人います。その交番で亡くなっている四人は、おれが暴徒から逃げている時には既に亡くなっていました。」 コイツ『アレ』を見ておいてこんなに冷静なのかよと、仗助は心の中で思った。さっきの大怪我を治してから数分と経たないうちに冷静に情報交換してくる涼馬に、引くほどの凄みを感じる。 よくよく見れば、涼馬は仗助よりも明らかに年下だった。ハーフなのでタッパのある仗助よりもたいていの同世代は背が小さいので気づくのが遅れたが、おそらくは中学生ぐらいだろう。 「年下が覚悟決まってんのにブルってるわけにはいかねーよなあ。《クレイジー・ダイヤモンド》!」 仗助は交番に入ると、遺体に一度手を合わせて、スタンドで奥の扉をぶち破った。慌てて見に来る涼馬をよそに中を漁ると、お目当てのものを見つけて戻る。その背後で壊れた扉がひとりでに元通りになるのを見て目を丸くしている彼の横を通り抜けると、交番の脇にあったバイクに持ってきた鍵を入れた。 「この子は紅絹。さっき会った子だ。置いてくわけにもいかないから連れてく。リョーマ、この子の後ろに乗れ。」 「三人乗りですか……わかりました。」 (ようやくふつうっぽいリアクションが出たな。) 「彼女が向かったのはこの道を真っ直ぐです。今ならそう遠くに行っていないはずです。」 「OK。しっかり掴まってろよ。」 涼馬が立ち乗りして、気絶している紅絹ごと仗助の肩に手を置く。エンジンをかけると、仗助はバイクを走らせた。 「そういやまだ名前言ってなかったな。東方仗助だ。」 「風見涼馬です。保護していた方の名前は宮美三風。中学一年生で、身長はおれより低くて、制服を着ています。髪は黒です。通り魔は、仗助さんと同じぐらいの身長で白髪です。上は黒のインナーと柄もので……やつです!」 「会うの早すぎんだろ!」 走り出して会話が始まった、と思ったら直ぐに涼馬は叫んだ。ツッコみながらも仗助も《クレイジー・ダイヤモンド》を出す。涼馬が今言ったのと全く同じ特徴を持つ人影が、霧の彼方の道の先に見えたからだ。 「このまま跳ねる。」 「え。」 「安心しろ、治すから。」 人影はバズーカのようなものを構えた。 「ちょっと待てなんでバズーカ」 言い終わるより早く、発射されたRPGを回避するために《クレイジー・ダイヤモンド》で無理矢理バイクの軌道を変える。気絶した紅絹と涼馬の三人乗りなので無茶苦茶な動きはできないが、ギリギリで躱して近くの民家に突っ込むだけですんだ。 迫る壁を殴り抜け、バランスを崩して和室を三人で転がる。二人を《クレイジー・ダイヤモンド》に庇わせながら仗助は身体を走る衝撃に身悶えした。 「いってぇ〜〜〜! な、なんでバズーカなんか持ってんだアイツ! 日本だろ!」 「東方さん、来ます!」 身体に痺れが走るのもおかまいなく、学ランの背中が引っ張られる。ぶん、という音ともに、目の前に刀が振り下ろされた。 誰の刀だ?と思ったところで、腹に蹴りが入り、後ろにいたらしい涼馬ごと吹き飛ばされる。馬にでも蹴られたのかと言うぐらい重い一撃に、たまらず吐く。それはどうしようもない隙だった。 うずくまって完全に無防備になった背中を仗助は晒す。ちょうど首を落とされる罪人のような格好だ。その首筋になんの躊躇もなく刀が振り下ろされた。そして、その刀が当たる寸前で、急速度で首筋から遠のくのを、涼馬は見た。 「ぐっ……はぁ!」 「ぜーっ……ぜーっ……へへ、一発は一発だぜ……」 刀を振り下ろしていた男が、突然何かに殴られでもしたかのように腹をくの字に折って、仗助が突入してきた壁から外へと飛んで行ったのだった。 「リョーマ、こいつはおれがタイマンする。『女の子』を頼んだぜ。」 「……! はい。おれたちはさっきのところの近くにいます。」 なんとか立ち上がると、仗助はそう言い残して壁から出た。頭のいい涼馬なら、これで意味を察して逃げてくれるだろう。 ふらつきながらも、涼馬は紅絹をおぶり家の中の戸を開けた。それを見送ると、仗助は前を向く。殴り飛ばした男の姿は、無い。 瞬間、響いた発砲音を、仗助は《クレイジー・ダイヤモンド》に持ち上げさせた瓦礫で応える。近くのビルの二階から、先程の男が銃を向けていた。 「別にお前が由花子を殺したかはわかんねえけどよお、人にいきなりバズーカ撃ってくるようなやつは焼き入れられても文句は言えねえぜ?」 睨む仗助に答えるように、男も殺意のこもった視線を向けてくる。 東方仗助と雪代縁の戦闘が始まった。 仕切り直してからの先手を取ったのは縁だ。ライフルをフルオートで連射する。その弾丸を隣家の壁を殴り抜けて家へと入り躱すと、同じように民家にトンネルを作りながら仗助は接近を試みた。 仗助は縁を時間停止できるスタンド使いの可能性も考えて行動している。先程のバイクで横転してから刀で斬りつけられるまでにかかったのは五秒ほど。その間に走って距離を詰められるとは考えにくい。もしそれができるなら、相手は100メートル走のメダリストか何かだろう。 ──縁の生きていた時代にオリンピックがあれば間違いなくメダリストになれていただろうから、その意味では仗助の考えは当たっている。 「ドラァ!」 掛け声一発、仗助は穴を開けた壁から縁のいるビルへと突入、しない。すぐさま《クレイジー・ダイヤモンド》で直す。予想通りに発砲音が壁の裏でしたのを聞きながら、ビルの入り口から突入した。 「ちぃ!」 「ようやく射程距離だぜーっ! ドララララァ!」 弾丸が切れたのか投げつけてきた銃を殴り壊しつつラッシュを仕掛ける。壁を壊すことを囮に距離を詰める作戦は完全に目論見通りだった。 誤算があるとするならば、その距離は縁の間合いだということだ。 「虎伏──」 《クレイジー・ダイヤモンド》のラッシュが、縁に地に伏せるような下段の構えですかされる。それは単なる偶然だが、仗助にとっては最悪の偶然だ。 仗助は一つ大きな勘違いをしていた。 縁はスタンド使いなどではない。 体系的に言えば、彼の父の若かりし頃と同じく技術によって鍛え上げられた人間だ。 先程の斬りつけも、RPGを発射してから即座にダッシュして躊躇いなく斬りつけた、ただそれだけのことだ。 ただそれだけができるほどだから、雪代縁は十代で清の裏社会を渡り歩き、二十代にしてマフィアの頭目とまでなったのだ。 そして最も単純な理由。 縁が頼みにするのは銃でも爆弾でもない。己が仇敵を殺すために磨き上げた倭刀術だ。 「──絶刀勢!!!」 「──ララララ『憎』ラララ『恨』ララ『怒』ラ『忌』『呪』『滅』『殺』『怨』」 背後に回り込む動きは、超神速。投げつけられた銃に目が行っていたところに気づいたその動きに、ラッシュの向きを変える。が、間に合わない。生身でスタンド並の速さで動いている、それを認識するより先に、背中に強烈な熱を感じた。 (あちぃ! なんだ、スタ……ン……) 火や熱を操るスタンドか?そう思うより先にすべきことは、宙に切り上げられた身体をスタンドでガードすることだった。だがそれは酷な話だろう。今自分が斬られたことすら、まだ仗助はわかっていないのだから。 「轟墜刀勢!」 落ちてきた仗助に下から倭刀が突き立てられる、串刺しにされたまま地面に叩きつけられ、仗助は絶命した、 【0140 住宅地とその近くの公園】 【桜木紅絹@天使のはしご1(天使のはしごシリーズ)@講談社青い鳥文庫】 【目標】 ●小目標 ??? 【風見涼馬@サバイバー!!(1) いじわるエースと初ミッション!(サバイバー!!シリーズ)@角川つばさ文庫】 【目標】 ●大目標 生き残り、生きて帰る。 ●中目標 どこかに拠点を作り、殺し合いに巻き込まれた方を保護する。 ●小目標 紅絹を連れて交番まで戻る。 【雪代縁@るろうに剣心 最終章 The Final映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】 ●大目標 人誅をなし緋村剣心を絶望させ生地獄を味合わせる。 ●中目標 警察署へ向かい緋村剣心と首輪を解除できる人間を探す。 ●小目標 三風について行く。 【脱落】 【東方仗助@ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
https://w.atwiki.jp/naianakikaku/pages/1543.html
「……蒼さん、何かあったの?」 通学路でアオイと出くわしたトキコが一番に発したのは、困惑の声だった。 スザクと同じ顔立ちの彼女だが、性格の違いがダイレクトに現れており、スザクが炎なら彼女は川のような雰囲気を纏っていた。 しかし、今朝の彼女は明らかに様子がおかしい。 「あ、あら、トキコさん、おはようございました……」 「……ちょ、ホントに大丈夫?」 虚ろな目の下には濃い隈、いつもなら綺麗に整えられて流れるような白く長い髪は乱れに乱れ、制服も上の空で身に着けたのが丸分かりの酷い有様だった。極めつけは持っているもので、 「!? あ、蒼さん、それ鞄じゃないよ?」 「……あら。なぜわたくしは扇風機を……?」 ――――どう考えても正常な精神状態ではない。以前のスザクや自分とは別の意味で危ない。それだけは確かだった。 「あ、あのさ、今日は休んだ方が良くない?」 「そういうわけにも……行きませんわ。姉様がいるかも知れませんもの……」 「って言っても……あれ、そういえば鳥さんは?」 いつもなら連れ立っているはずのスザクがいない。思えば、見てすぐ感じた違和感はそれだったのだろう。 「…………それ、が……」 アオイの言う所では、スザクは昨夜、夕食の後で突然家を飛び出し、それから連絡が取れなくなっているのだという。残されたアオイは姉の帰りを今か今かと待ち続けたものの、結局スザクは帰って来ず、夜が明けてしまったのだとか。 「……それで、学校に来れば鳥さんが来るかも知れない、って?」 「ええ、そうですわ……」 声にもまったく覇気がない。見れば、精神状態が体調にも跳ね返ったのか顔色が死人もかくやという状態になっている。 と、その腹が小さく鳴る。 「!? あ、蒼さん……朝ご飯、食べた?」 「え? ……そういえば、何も……お腹、空きました……」 言うや否や、ふらふらと崩れ落ちてしまった。いくらなんでも極端だろう……などと思ってもこれが現実だ。考えてみれば、性格的にしっかりしていたのため気にしなかったが、アオイの姉依存は常識を超えている。心配が高じてこうなってしまったのだろうが、このままでは冗談抜きで命が危ない。 (ど、どうしよう) 困り果てていたそこに、紛れて声がかかる。 「あれ? トキコと……ど、どうしたんだ!?」 聞きなれた声を発したのは、黒い髪を背中まで伸ばしてまとめた、同級生の少年。 「あ、一角君!」 「あぁ、シスイさん、こんばんわ……」 「朝だよ今は! って、本当にどうし……うわっ、何だその顔!?」 動揺しきりのシスイに、トキコは簡潔に事情を説明する。 状況を了解したシスイは、 「と、とりあえず何か食べさせないと……あ、あのレストラン今からやってるかな?」 「時間がちょっと早いけど……この際仕方ないよ」 近くを通った同級生に伝言を頼み、二人はアオイを抱えてこの間も行ったレストランを目指した。 ―――扇風機は、とりあえず置いておいて。 偶然とはいえ (姉妹揃って、問題は多かった) (衝動抱えの姉、依存症の妹) (……本当にこれで大丈夫なのか) (揃っていれば、何とか)
https://w.atwiki.jp/magamorg/pages/2130.html
直感と偶然の奇跡 コモン 水/火 5 呪文 ■自分はカード名をひとつ言う。相手は自身の山札をシャッフルする。その後、相手の山札から1枚目を見る。それが言ったカードと同じ名前のカードであれば相手のマナゾーンにあるカードを全て墓地に送り、相手のバトルゾーンにあるカードを全て手札に戻す。その後、自分は更にカード名をひとつ言う。その後、相手の手札を1枚見ないで選び捨てさせる。それが言ったカードと同じ名前のカードであれば相手の手札を全て捨てさせる。 (F)全てを直感に委ね、運命を信じる。それが漢だ! 作者:アポロヌス 代理作成:まじまん オレのテスト~w コーライルと合わせたら強かったり?マナがとても必要ですが… 評価 11/26.変更を受け付けました。 まじまん
https://w.atwiki.jp/naianakikaku/pages/2084.html
彼がその光景を見てしまったのは、本当に偶然だった。 久しぶりの外出に目的はなく、グライダーで一通り飛び回った帰り道。 ストラウル跡地を通った時に、赤黒いものを見つけたのだ。 眼を凝らせばそれは、自らの血の海に溺れるキリだったのだ。 慌ててその場に降り立つと、既に彼は衰弱しきっていた。 体に無数の切り傷、刺し傷。誰の仕業かは容易に想像できた。 声をかけると僅かに目を開いた。 意識はある。助かるかもしれないと彼はキリに手を伸ばした。 「…いい…。」 かすれた声をキリは発した。聞き間違いかと思うほどに、弱い声だった。 「小生の、ことは…いい。貴方は、今一度、身を隠し…。」 「そんなことできるもんか!今、応急処置を…。」 彼は連絡を取ろうと、一度その場を離れようとした。 不意に何かにぶつかったのは、その直後だった。 振り返りざまに何もないところで、額を思い切りうったのだ。 ふらつきながらそこを確認したが、やはり何も見えない。 結界か何かか?だとしたらここから動けないじゃないか。 彼は焦り出す。ここから動けないなら、この場で処置を施すしかない。 彼は服の中にしまいこんだメスを取り出した。 次の瞬間、彼はそのメスに活目せざるを得なかった。 今取りだしたばかりの新品のメスが、その変化がすぐにわかるほどの速さで錆び出したのだ。 突然の出来事に驚いた彼は、しかし急がないとと別のメスを取り出す。 ところがそのメスも空気に触れるなり変色し、もろくなっていった。 彼の思考は既に冷静な判断を欠いていた。 取り出す手術道具は皆たちどころに錆び、脆く崩れていった。 地面には新たに銀と赤銅が入り混じったスペースが出来上がっていた。 とうとう手元の道具は、朽ち果て尽くした。 「どうして…。」 その一言さえも、喉から絞られるようにしてしか出なかった。 今、目の前で一つの命が果てようとしているのに。 結界を張られて身動きが取れず、応急処置もできなくなってしまった。 彼はゆっくりと、細い息を吐く男を見た。 「…もう、いいと、言ったで…ありましょう…。」 細切れの言葉を紡ぎながら、キリは吐き出した。 「小生は、もう、長くない…。貴方に、お願いが、あり、マス…。」 「『主を任せた』なら、お断りだよ!僕にはそんなことできない!」 彼は肩につかみかかりながら叫んだ。 「弱気になるんじゃない!君らしくもないじゃないか!」 せめて、一秒だけでも、意識を保ってくれ。その一秒で、助かるかもしれないんだ。 しかし彼のそんな思いも空しく、空に消えて行くだけだった。 その男は、不意に笑い、もう声にならない声を発した。 最期の言葉と確信したのだ。 姿は虚空に溶けだし、先は長くないことを悟った。 待ってくれ。そう叫ぶ彼に罪悪感を覚えながら。 しかし最早これしかできないと。 頬に、気持ちの悪い雨が落ちた。 次第にそれは、滝のように強くなっていった。 足元の器具に、錆なんてひとつもついてなかった。 目の前の血の海に、最早あの人の姿は、なかった。 「主を…、百物語組の皆を…よろしく、お願いします、「第二の主」…。」 偶然と突然に捧ぐ やがて彼…千尋は、パートナーであるミサキに発見され、 その血だらけの足で、秋山家へと向かったのだった。
https://w.atwiki.jp/ws_wiki/pages/10258.html
PI/SE24-27 カード名:“偶然”? 美遊 カテゴリ:キャラクター 色:青 レベル:1 コスト:0 トリガー:0 パワー:4500 ソウル:1 特徴:《マスター》?・《魔法》? 【永】 経験 あなたのレベル置場のカードのレベルの合計が2以上なら、このカードのパワーを+X。Xはこのカードの正面のキャラのレベル×1000に等しい。 【自】 アンコール[あなたの山札の上から1枚をクロック置場に置く] (このカードが舞台から控え室に置かれた時、あなたはコストを払ってよい。そうしたら、このカードがいた枠にレストして置く) 大丈夫、気にしてないから。むしろ… レアリティ:R 15/01/13 今日のカード
https://w.atwiki.jp/ws_wiki/pages/9919.html
IM/S30-095 カード名:偶然の再会 冬馬 カテゴリ:キャラクター 色:青 レベル:2 コスト:1 トリガー:1 パワー:8000 ソウル:1 特徴:《音楽》? 【自】 この能力は1ターンにつき2回まで発動する。他のあなたの《音楽》?のキャラが手札から舞台に置かれた時、そのターン中、このカードのパワーを+1000。 なんだ、765プロじゃねーか レアリティ:C
https://w.atwiki.jp/anirowakojinn/pages/2521.html
深夜の公園の街灯の下で、二人の学生が支給品の確認をしていた。 一人は、教師だと言われても全く違和感のない、『威風堂々』という四字熟語の似合う男子中学生。 一人は、小学生だと言われても全く違和感のない、『ちんまり』という擬音の似合う女子高生。 男子中学生の名は手塚国光。 女子高生の名は小早川ゆたか。 手塚は少女の怯えた様子と純粋さを見て、また、ゆたかは少年――正直彼を『少年』と表記するのは違和感がゲフンゲフン――の実直さを見て、 互いに『殺し合い』に乗っていないことをすぐに理解する。 ならば共に行動しない理由はないと、二人はベンチの上で支給品を広げていた。 そして、ゆたかはここで初めて己の支給品を目にする。 それは、意外な、しかし、あまりにもなじみ深いものだった。 「こなたお姉ちゃんの携帯電話だ……」 黒いカラーリングに、四角いフォルム。 そしてアニメヒロインの待ち受け画像は、まぎれもなく従姉こなたの愛用携帯電話。 「これで外と連絡できたりは……しないよね」 「それができたら『殺し合い』として成り立ちません」 手塚はにこりともせず、眉間にしわを入れて答えた。 「……そ、そうだよね」 ちなみに、その表情は手塚の地顔であり、ゆたかに苛立ったわけでは決してない。 しかし、しょぼんと沈んだゆたかを見て、流石の彼も誤解を招いたと気づく。 「しかし、電話を支給したからには、どこかにかけられる仕様かもしれません」 とフォローを入れた。 ちょうどそのタイミングだった。 ぶるる、という震動がゆたかの手をはしった。 「きゃうっ……!」 場違いに、女の子の高い歌声が響く。 ――みっ、みっ、ミラクル、みっくるんるん アニメ声の着メロが鳴り響き、手の中で携帯が震える。 ゆたかの心臓が、ばくんばくんと限界量まで大きく鳴った。 手塚も、表情こそ変わらないが動揺しているようだった。 着信には『携帯電話A』としか書かれていない。 この着信の電波の先には、誰がいるんだろう。 行方不明のこなたを心配したそうじろうがかけているとは思えない。 電話の主は、他の参加者か、……もしかして、もしかすると主催者か。 手塚のように友好的な人か、もしかすると危ない人かもしれない。 危ない人だったらどうしよう……。 「俺が代りに出ましょうか」 手塚の声で、ゆたかは我に返った。 そうだ、危ない電話かもしれないけど、ここは電話を取らないといけないところだ。 情報を手に入れることは、こなたやみなみたちを探すために必要なのだから。 「ううん。わたしが出る! それぐらいしたいからっ。 お姉ちゃんにちゃんと電話を渡せるように、ちゃんと管理したいから」 あの暗闇の中で、手塚が声をかけてくれなかったら、 ゆたかはずっと座り込んで怯えていたままだったと思う。 だから、ゆたかも動けるように、誰かの役に立つようになりたい。 せめてできることから、少しずつ成し遂げていきたい。 ……とはいえ、もし危険人物だったらどう話したらいいんだろう。 いや、そもそもゆたかには、危険人物と安全な人の見分け方も分からないのだけど。 「偽名を使えばいいのではないでしょうか?」 もう一人の『彼』が、そう助言してくれた。 「そんなことをして、先方の信頼を損ねるんじゃないか?」 手塚が生真面目な顔で反論する。 「信頼できそうな相手だったら、改めて名乗り直せばいいんです。 関係を切る時に偽名だと言っておけば、借りた名前の人にも迷惑をかけません。 私の主も、少々胡散臭い仕事を引き受ける時など、たまにそうしています」 その重く低い声は、こういう場数を踏むことに慣れている感じがした。 だからゆたかは、『彼』の言うことを信用しようと思った。 嘘をつくことには心が痛んだけれど。 勇気を出して、『通話』ボタンを押す。 「はい、もしもし……」 『もしもし。良かった、繋がった。 どうか落ちついて、警戒しないで聞いてください。 僕は殺し合いなどするつもりはありません』 穏やかな口調の、男の人の声だった。 その誠実そうな声に、少しだけゆたかの緊張がゆるむ。 『僕は夜神月といいます。東応大学の法学部一回生です。 父が警察庁の刑事局に勤務していて、僕自身も警察官を志望しているので、 多少は非常時の心得があります。 とは言っても、この状況では身分を証明するものなどありませんが』 警察官志望。 だからこんな状況でも冷静なのだろうか。 名乗ってくれたのだから、ここはゆたかも名乗るところだ。 参加者名簿の中から、とっさに使う名前を探す。 これにしよう、と思った。 ぱっと見で『その名前』を選んだのは、名字に親近感を覚えたからだった。 昨年新婚したばかりの、大好きな姉の新しい名字と同じ読み方。 「私は、鳴海歩(あゆみ)です。高校生です。 ……でも、夜神さんは、どうしてわたしに支給された電話にかけられたんですか?」 ゆたかの問いかけを聞いて、夜神青年は少しだけ黙った。 言うことをまとめているような、間。 『実は僕の支給品も鳴海さんと同じ携帯電話だったんです。 電話帳を見た限り、一件だけ電話番号が登録されていまして。 もしや、他の参加者にも携帯電話が支給されているのではないかと思って、こうして電話したんです』 「そうだったんですか。……えっと、乗ってないってことは、夜神さんは、知り合いを探すために、電話をかけたんですか?」 『それもあります。僕の友人も一人、この実験に参加していますから。 しかし、一番の目的は、仲間を集めることです。 この実験を止め、主催者を逮捕する為の仲間を集めたい。 警察官を目指す者として、いや人として、こんな人の命を何とも思わない所業を許せない。』 青年の声には、真摯な決意がこもっていた。 その言葉に、ゆたかは胸を打たれる。 ゆたかは、『生き残れるのは一人だけ』と聞いただけで怖くなって、座り込んでしまった。 でもこの人は、全然希望を捨てていない。 夜神さんは、“呪い”なんて恐ろしいものを見た直後に、あの主催者を倒そうと考えたのだ。 そして即座に仲間集めを考え、こうして携帯でゆたかに呼びかけてくれたのだ。 ひょっとしたら、殺し合いにのっている人にかかるかもしれないのに、 仲間を集める為に、勇気を出して電話したのだ。 その行動力を、ゆたかはすごいと思う。 この人は、すごい人だ。 ゆたかは、青年に対する尊敬の目盛をぐっと上げる。 『どうか僕に協力してもらえないでしょうか』 誠実そうな声だ。 ゆたかは、この夜神という人に協力したいと決める。 でも、ここにはゆたかの他に手塚と、それと『もう一人』いる。 決めるにしても、まずは彼らと相談したい。 ただ、それでもゆたかのスタンスを表明しておくぐらいはしたい。 交渉や約束事なんてゆたかにはさっぱりだけれど、この場でそれぐらいは言ってもいいんじゃないか。 「私も、殺し合いなんてするつもりはありません」 だからゆたかは、そう言った。 『ありがとう。そういう勇気ある人がいることを、心強く思います。 そこで、鳴海さんが信用のおける人だと分かったところで、ひとつお尋ねしたいことがあるのですが……』 彼から心強いと思われるほどのものをゆたかが持っているとは思えないけれど、答えられることがあるならとても嬉しい。 何を聞かれるんだろうと、緊張だけでなく期待で胸をどきどきさせ、 『貴女は、ナルミキヨタカ氏の御親族の方でしょうか……?』 ひゅっと、息を呑んだ。 どうして、その名前がここで出てくるのだろう。 ナルミキヨタカ。 それは、あまりにも唐突な、しかし、耳慣れた名前だった。 その名前の人はゆたかにとっても、『家族』といっていい間柄なのだから。 その上、この殺し合いの場にはいない、全く無関係そうな人なのだから。 成実きよたか。 ゆたかの姉、成実ゆいこと旧姓小早川ゆいと、中学生の時から付き合っていて、 昨年めでたく結ばれた、ゆたかの義理の兄。 どうしてこの人は、これだけの会話で、このタイミングで、お義兄さんの名前が分かったの? 疑問がゆたかの頭を埋める。 ゆたかが『ナルミ』と名乗ったから間違えた? いや、それはない。名簿にはちゃんと『鳴海』という字で書いてあったし、青年はちゃんと名簿を呼んでいる風だった。 もしかして、この人は義兄の知り合い? でも、それにしたってゆたかの声を聞いただけで分かるのはおかしい。 ここはぜひとも、その理由を教えてもらわなくては。 だからゆたかは、質問をあっさりと肯定した。 「はい、成実きよたかは、わたしのお義兄さんです」 通話器の向こう側で、少しだけ沈黙が降りた。 「そうだったんですか。勇気がいったでしょうに、よく話してくれました。 その告白に感謝します」 感謝されてしまった。 別に、そんなに勇気の要る答えではなかったけれど。 「あの、どうして――」 ピー、ピー、ピー 携帯から警告音が鳴り響いた。 びくっとして、携帯の画面を見る。 そこには、『バッテリーが切れました。充電してください』の文字。 そして、すっからかんになった電池の目盛。 「あ、ごめんなさい。携帯の電池が……」 日頃から、アニソンの着メロ視聴やネットでの情報収集目的で頻繁にパケット通信をしているこなたである。 その電池は、平均的な女子高生の持つ電話よりも消費されているし、その分電池が切れやすくもなっている。 きっと、ここに呼ばれる直前まで、お姉ちゃんが携帯を使っていたんだろう。 ゆたかはそうと理解する。 でも、困った。 すると、夜神が気を使ってくれた。 『では、改めて充電ができましたらそちらの都合のいい時にかけてください。 近くに充電ができそうな場所はありますか?』 こちらからいつでもかけていいというのは、申し訳ないけどありがたい。 ただ、問題はどこで充電ができるかということで……。 「はい。えっと、充電器も持ってないから、充電器がある場所は……」 相談するように、『彼』と手塚を観る。 『彼』は「その機械は初めて観るので、充電の仕方までは分かりません」とシンプルな答え。 「デパートに行けばあるんじゃないですか?」 そう助言したのは手塚だ。 ……確かに、デパートならモノには困らないだろう。 コンビニも確実に置いていそうだけど、少々遠い。 「……デパートに行ってみようかと思います。ここからエリア二つ分ぐらいの近さなので」 夜神月に伝えた。 『分かりました。道中の方は大丈夫ですか? 電話口にお仲間がおられるようですが……』 「大丈夫です。仲間が二人もいるので ……あう、もう本当に電池が危ないので、後で紹介しますね」 『分かりました、では、それまでお互いに無事でいましょう。 大丈夫です。たとえあなたが何者だったとしても、僕たちはあなたを仲間として受け入れます』 また少し分からないことを言われて、通話は切れた。 ☆ ☆ 「……偽名を訂正できなかったけど、大丈夫かなぁ」 『彼』が即座に答えをくれた。 「また次の機会に訂正すれば大丈夫でしょう。 この短時間で、本物の『鳴海歩』さんに誤解や迷惑がある確率も低いはずです。 それよりも、なし崩し的に協力関係が成立してしまったことが少々気にかかります」 「でも……悪い人には思えませんでしたよ?」 少々分からないところもあったけど、ゆたかを安心させるよう優しくしてくれた人を、疑いたくない。 でも、『彼』の考え方はゆたかよりシビアだった。 「騙すことに長けた人物ほど、人に好印象を与えるものです。 旅の道中では、好意的に接する連中の方が危険な場合が少なくありません」 「はう……。でもそんなこと言ってたら、わたし、誰を信じたらいいのか分からなくなりそう」 『彼』のいうことも本当なんだろうとは思うけれど、それでも人を疑いの目で見るような真似は苦手だった。 しかし手塚がきっぱりと言い切った。 「信じることと疑わないことは違います。 小早川さんが信じたい人ならそうすればいい。 その分俺と陸が、油断せずに見ていればいいだけのことです」 何の迷いもなく、なすべき課題を挙げるように当たり前に言った。 そうだ。ゆたかには仲間がいる。 一人では難しいことでも、手塚や『彼』は手を貸してくれる。 手塚への感謝と安心感で、胸がぎゅっと熱くなった。 目つきが鋭くて一見怖そうに見えるけれど、 さっきからゆたかを気づかってくれて、頼もしい人だと思う。 無表情で冷静な、しっかり者の親友を思い出した。 彼女もよく誤解されるけれど、本当はとても優しいのだ。 「うん……ありがとう、手塚くん」 そして、仲間はもう『一人』。 「では、デパートに向かいましょうか。 私としても、シズさまたちを探すのに、場所を変えるのはやぶさかではありません」 「うん、陸くんもありがとう」 『彼』――手塚に支給された喋る白い犬は、笑っているように優しい顔をしていた。 親友の飼っているハスキー犬のように、抱きついてみたいと思ったのは内緒だ。本人が嫌がりそうだから。 「あ……」 移動中、電池の完全に切れた携帯電話を見て、ゆたかがぽつりとつぶやく。 「充電器探さなくても、公園なら公衆電話があったんじゃないかな……」 【D-6/公園出口/一日目深夜】 【小早川ゆたか@らき☆すた】 [状態]健康 [装備]陵桜高校制服 [道具]基本支給品一式、不明支給品0~2 泉こなたの携帯電話(電池切れ)@らき☆すた [思考] 基本:殺し合いなんてしたくない 1・どうして夜神さんは、お義兄さんの名前を知ってたんだろう……? 2・携帯電話を充電する為に、いったんデパートへ向かう。 3・こなたお姉ちゃんやみなみちゃん、田村さんたちに会いたい。 4・携帯を充電して夜神さんに電話する。 ※夜神月を信用しました。 ※主催者が『清隆』と名乗っていたことは、竹内理緒の爆死のショックで忘れかけています。(指摘されない限り思い出すことはなさそうです) ※夜神月の携帯電話の番号を記憶していないので、携帯電話が充電されるまでは月と連絡を取ることができません。 【手塚国光@テニスの王子様】 [状態]健康 [装備]青学レギュラージャージ、参加者探知機 [道具]基本支給品一式、不明支給品0~1 陸@キノの旅 [思考]基本:殺し合いには乗らない。部長として、部員を責任もって保護。 1・小早川さんと共にデパートへ向かう。 2・不二、菊丸、越前と合流する 【陸@キノの旅】 シズの連れている白い大型犬。 楽しくて笑っているかのような、愛きょうのある顔が特徴。 (本人は、『地顔であり別に楽しくて笑っているわけではない』と強調する) 自称『シズ様の忠実なる従僕』。言葉を話す。 ※支給品の携帯電話には、一件だけ他の携帯電話の番号が登録されています。 (支給された他の携帯電話も、そうなっている可能性があります) ☆ ☆ 「なんだ、結局知らない相手だったか」 伊万里ががっかりした声をあげる。 「しかし、ゲームに乗っていない人と連絡がつけられたのは収穫です。 こんな状況では、まず仲間が必要ですから。 特に、主催者の妹さんならば、何らかの事情を知っているはずです。 肉親にこんな目に遭わされてショックを受けているでしょうが、だからこそこの『実験』を共に止めさせたい」 不満そうな伊万里をなだめつつ、月は内心でほくそ笑んでいた。 互いの知り合いのことを話しながら支給品を確認していたのだが、途中でまず電話をかけてみてはどうだと提案してきたのは伊万里だ。 電話先の相手が沢村だったらどうすると伊万里がさんざん急かしたのでかけざるを得なくなったのが本当のところだが。 とはいえ、相手の充電が切れそうだったこと――電池切れを知らせる音が聞こえていたから嘘ではないだろう――を考えると、結果的に電話しておいて正解だったことになる。 そう、“主催者の妹”と接触を持てたのだ。 ――もしや、鳴海清隆氏の御親族の方でしょうか……? そう尋ねた時、鳴海歩は驚愕したように息を呑んだ。 単に、主催者の名前を出されたというだけでは、あんな悲鳴のような呼吸はしない。 あれは『痛いところを突かれた』『大いに心当たりがある』人間の反応だ。 それに、単に偽名を名乗っていたなら、その後の質問を肯定する理由がないのだ。 『主催者の親族だ』という発言が嘘だったとして、それで彼女の得になる要素などどこにもない。 そこまで大胆な嘘はすぐに化けの皮が剥がれるし、嘘が大きくなるほど喪われる信用も大きい。 どんな馬鹿でもそれぐらいの計算はできる。 そもそも偽名で『鳴海歩』を使ったという可能性自体が低い。 名簿の中から適当な名前を見つくろって、鳴海歩を引き当てる確率は69分の1 ――明らかな女性名に限定したとしても、29分の1だ。 仮に、鳴海歩の関係者が恣意から名前を騙ったのだとしても、鳴海歩を陥れるような言動をするはず。『鳴海歩』の身分で好意的に接する必要もない。 ――はい、鳴海清隆は、わたしのお兄さんです。 つまり、この発言が真実である可能性は、限りなく高い。 ということを、関口伊万里に話した。 しかし伊万里は感心するかと思いきや、 「そんな断定していいのか? もしかしたら、たまたまその子の兄貴が主催者と同性同名だったのかもしれないぞ?」 「いや、いくら何でもそこまで偶然が重なったりしないでしょう。 『清隆』なんて、珍しい名前じゃないけど、ありふれた名前でもありません」 「そうか?」と伊万里はあごに指をあて、納得いかなそうに考えている。 霊長類が、野生の勘で何かを嗅ぎ取った時のような顔だった。 「では伊万里さん、情報交換の続きをしましょうか」 「分かった。さっさと済ませて施設を回るぞ!」 公開した支給品をせっかちにディパックへ戻しながら、伊万里が気合いのこもった声を上げる。 ☆ ☆ (ふふ……どうやら運はこの僕に味方しているようだ……!) 伊万里に向けたにこやかな仮面の下、心の中で大きく口の端を吊りあげて笑う。 これほどの強運を持った参加者は他にいないだろう。 ゲーム開始から一時間も立たずに、一級重要人物と連絡を持てたのだから。 ただし、ここまでご都合主義のような幸運に恵まれて、疑わないほど月も愚かでは無い。 実際、不可解な部分もある。 (……話した限りでは取るに足りない相手のようだったが……) 鳴海歩が何らかの『役割』を期待して送り込まれたのだとしたら、余りにも頼りない人材だと言わざるを得ない。 言葉はたどたどしく緊張に満ちていたし、何より声の質があまりにも幼い。 高校生だと言っていたが、第一印象では小学生かと錯覚した。 だが、主催者に送り込まれた人材だからと言って、有能な相手だとも限らない。 鳴海清隆はこの企画を『運命の為の、意味ある戦い』だと言っていた。 ならば、参加者に問われるのも単純な頭脳と戦闘力ではなく、 例えばこの“口づけ”のようなオカルト要素や、その他の実力と無関係な要素かもしれない。 (……あるいは、同行者がいたようだから、そちらが本物の『鳴海歩』で、少女は影武者 ……いや、それはないな。いくら何でも、『大人』が二人いるのに子どもに影武者をやらせるなんて非現実的すぎる) そう、携帯の充電について尋ねた時、電話の向こうで『鳴海歩』と誰かの会話が漏れていた。 ゆたかは二人仲間がいると言っていたし、実際聞こえてきた声も二人分。 電話越しにとぎれとぎれにしか聞こえなかったが、低く落ちついた男の声と、それよりも更に低く老繪な声。 微かな声だったが、低く見積もっても二十代以上の人間の声だった。 プロファイルできる推定年齢は二十代か三十代といったところか。 そしてもう一人は、四十代以降の成人男性。 ……幼い少女の外見なら、逆に警戒されることもなく駒を集められるのだろう。 ろくな話しも聞き出せないまま電池が切れたことは残念だったが、機会はいくらでもある。 こちら側の余裕を示して信用を得る為にも、敢えて『そちらの都合のいい時にかけてくれ』と言った。 その間に、こちらは会場内を探索し、月なりの仮説を立てておくとしよう。 それに、『鳴海歩』から情報をしぼれるだけしぼり取るには手札が揃ってからの方が良い。 まずは関口伊万里から、情報を聞きだす。 もし、『鳴海歩』が鳴海清隆の回し者だったら、利用できるまで利用する。 そして殺す。 罪人に加担するものとして、粛清する。 逆に、兄の鳴海清隆と敵対するものだったら、利用できるまで利用する。 そして妨害する。 必要なら殺す。 罪人の身内などに先を越されることは、月のプライドが許さない。 【A-1/森の中/一日目深夜】 【夜神月@DEATH NOTE】 [状態]健康 [装備]なし [道具]携帯電話(ガーベージコレクトのコード@よくわかる現代魔法) 基本支給品一式、不明支給品0~2(確認済み) [思考]基本・手段を問わず生き残り、その上で鳴海清隆を殺す。 1・これはついている……! 2・関口伊万里から鳴海清隆の情報を聞きだす。 3・それが終わったら、各施設を探索する。まずは近くにある研究所を目指す。 4・自らの生存に有利な情報を集める。Lと協力するかは状況しだい。 ※鳴海歩がジョーカーとして参加している可能性を考えています。 ※小早川ゆたかの名前を『鳴海歩(あゆみ)』だと思っています。 【関口伊万里@スパイラル・アライヴ】 [状態]健康 [装備]はやぶさ号@スパイラル・アライヴ [道具]基本支給品一式、不明支給品0~2(確認済み) [思考]基本・雨苗の好きにはさせん! 1・気のせいか? 夜神月がにやついてるように見える…… 2・沢村を探す。雨苗が死ぬのも断固阻止する。 3・とりあえず月について施設を探索する。 ※参戦時期はアライヴ5巻、雨苗に別れを告げられた直後です。 ※当たり前ですが、浅月香介を、『アライヴ』の浅月香介(『推理の絆』から二年前の時点の浅月香介)だと思っています。 【ガーベージコレクトのコード(with携帯電話)@よくわかる現代魔法】 人間の瑣末なゴミ記憶(ガーベージ)を抹消するコード。 多人数の人間が一斉に機動すれば、増幅効果によってその場にいる人間の記憶を全て永久に抹消できる。 ……のだが、本ロワのように携帯電話一個程度では、使用者が 「頭がすっとして前向きになる(瑣末な記憶を忘れてしまう副作用)」程度の効果しか得られない。 Back 022そんな感覚 投下順で読む Next 024なくしたもの 探しにゆこう Back:00241cm 小早川ゆたか Next [[]] Back 00241cm 手塚国光 Next [[]] Back:010さあ皆さんご一緒にあの台詞を 夜神月 Next [[]] Back 010さあ皆さんご一緒にあの台詞を 関口伊万里 Next [[]]
https://w.atwiki.jp/suproy/pages/239.html
そして偶然が連鎖する バトルロワイアルの海に投げ込まれた、ゲッター線という名の石。 それによって波紋が広がるかのように、ゲッターの種子は広がっていく。 それが偶然を引き起こし、新たな戦いを呼ぶ…… 今、ここでもゲッター線発現による影響があった。 「ウオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」 響き渡る、魔神皇帝の咆哮。 光子力反応炉の出力が急激に上昇し、暴走を促す。 「ぐっ、何だ!?この機体、一体何が起きている!?」 そのあまりのパワーに、ヴィンデルは機体を制御するだけで精一杯だった。 その周りで、ハロ達がけたたましく騒ぎ立てる。コクピット内を所狭しと跳ねまくる。 『ゲッターダ!!』『ゲッターゲッターゲッター!!』『オーオゲッター、ゲッターゲッター♪』『ガッツ!ガッツ!ゲッターガッツ!!』 「ええい、黙っていろ!!」 その騒ぎ方は、それまでと違い明らかに尋常ではなかった。 高すぎるテンションで狂ったように暴れまわる。そして連呼される「ゲッター」という謎の言葉。 しかしヴィンデルにとって今はそれどころではなかった。 (何だこの機体は……!?マニュアルにない力を秘めているとでも言うのか!?) 咆哮はさらに激しさを増す。まるで、機体が意思を持っているかのように…… 『タタカウタメニ、トビダセゲッター!!』『ホエロリュウノセンシヨ~♪』『オレハボインチャンガスキナンデナ』 「ええい、やめろ!騒ぐなっ!!」 必死に制御してる中、小さなハロが顔やら操縦桿の周りを飛び回られるのは鬱陶しい以外の何者でもない。 ヴィンデルの注意がそれた、その瞬間―― 「いかん、コントロールが!?」 マジンカイザーは、ついにヴィンデルの手を離れ勝手に動き始めた。 方向を変えると、そのまま今来た道を戻り走り始めた。 『走リダセ、フリムクコトナク!!』『今ガソノ時ダ!!』『インドウヲワタシテヤルゼエエエエ!!!』 ハロ達はさらに激しく暴れ始める。まるでカイザーとハロ達の意思が同調しているかのように。 さすがにヴィンデルにもその異常に気がついた。 「お前達、さっきから何を……」 『黙レ!!!ソシテ聞ケ!!!』『イイカラボクノイウトオリニスルンダ!!!!』 「は、はい……」 普通ではない鬼気迫る勢いに、ヴィンデルはまたしても怖気づいてしまった。 どうやら植えつけられた負け犬根性は簡単に消え去るものではなかったようだ。 そんな彼らを他所に、カイザーは大地を爆走する。何かに呼ばれているかのように。 (どこへ連れて行くつもりだというのだ……?とにかく、何とかして止めなくては……) 『師匠!ココヤ、ココデンガナ!』 「案内ありがとね~、ハロちゃん。にしてもすごいね……何があったんだろ、これ」 ミオとアクセルの目前には、数十mにも及ぶであろう巨大なクレーターが広がっていた。 「爆発……いや、自爆の跡、か……」 呟くアクセル。それまでに得られた情報からすると、その可能性が高いだろう。 ヴィンデルの情報を知るというピンクハロが案内した場所、それはジャスティスの自爆跡。 ジャスティスが謎の黒いロボットと戦い、そして機能停止したハロ達の埋められている場所でもあった。 しかしヴィンデルがそこに墓標代わり(?)に立てたはずのジャスティスの残骸は綺麗さっぱりなくなっている。 無論、そんなことをミオとアクセルは知る由もない。 ――アクセルは、ハロから聞き出した……いやミオに聞き出してもらった情報を整理する。 クレーターの周囲は激しい戦闘の後が見て取れた。大きく抉られた地面、焼き尽くされ焦土と化した草原。 ヴィンデルの乗っていた機体にここまでのパワーがあるとは思えない。 (ヴィンデルの戦った敵というのは相当な怪物だったようだな。 そして今、奴はその怪物に乗っている……ということか) 舌打ちする。ヴィンデルを止めるべく行動する彼にとって、厄介な事態ではある。 だが、彼は今一度考え直す。このままヴィンデルと無理に戦う必要があるかどうか、だ。 (奴ならばゲームからの脱出を最優先……いや、あのユーゼスの持っている未知の技術を奪取することを考えるかもしれん。 そのためにユーゼスの打倒を目指して、策謀を張り巡らすだろうな…… いくら力を手にしたとしても、あの男が積極的にゲームに乗るような直接的手段を選ぶとは思えん) ヴィンデルの考えそうなことは大体予想できる。皮肉なものだが。 いずれにせよ、ゲームを脱出するにはやはりユーゼスを出し抜くしかない。 ヴィンデルの野望を阻止する意志は変わらない。最終的には決着を付けることになるだろう。 だが、アクセルはヴィンデルとの一時的共闘もやむを得ないのではないか……そう思い始めていた。 「アクセルさん、なにぶつぶつ言ってんの?」 「……いや、何でもない。考えるのは後だ……そろそろ放送の時間だからな」 時計を見ると、第三回の放送まであと2,3分という時間になっていた。 (もうこんな時間か……マシュマーさんやプレシアは無事かな……) 仲間の身を案じるミオ。その時、抱えているハロが突然喚き立てる。 『ハロ!ハロ!ナニカガセッキンチュウ!!師匠、テキガキマッセ!!』 「えっ!?わかるの!?」 「ミオ、レーダーに反応がある!物凄いスピードで一直線に向かってくるぞ!」 二人は反応のした方向に振り返る。何かがこちらに向かって、凄まじい勢いで爆走してくる。 「何か来るよ!?」 『ヴィンデルヤ!!』 「何ッ!!」 ハロの口走った言葉に、アクセルの目が見開かれた。 「く、くそっ!何故止まらん!!!」 『我ヲハバムモノナシ!!』『ダッシュ!!ダッシュ!!ダンダンダダン♪』 「黙れぇぇぇぇぇぇ!!!」 猛烈な勢いで走るマジンカイザー。パイルダーの中にヴィンデルの絶叫が響く。 二人の機体の位置は、ちょうどカイザーの進行線上にある。 あの巨体とスピードで突っ込んで来られては、装甲の薄いこちらの機体は…… 「いきなり仕掛けてくるつもりか!?まずい、かわせミオ!!」 「うわわわっ!?」 考える間もなく、カイザーが突っ込んでくる。 紙一重で回避するガンダム……しかし、ボロットの反応速度ではそれに対応しきれない。 「ダメ、よけられな……」 超合金ニューZαの弾丸が直撃する。脆いスクラップは容易に砕け散った。 バラバラになったボロットの残骸が、辺りに散らばる。 「ミ……ミオォォ―――ッ!!!」 衝突により勢いが削がれ、カイザーはそのまま転倒した。 「はぁ……はぁ……止まった、か……あのガラクタに感謝、だな」 そのガラクタが実は人が乗っていたロボットだとは、制御に必死だった彼は気付いていなかった。 結果的に爆走は止まった。転倒のショックか、制御はかろうじてヴィンデルの手に戻ったようだ。 とはいえ光子力反応炉の出力は依然上昇したままであるが。 ハロ達も今の衝撃か、はたまた暴れすぎてオーバーヒートでもしたのか、一時的に機能を停止していた。 おかげでパイルダー内は先程までの喧騒が嘘のように静まり返っていた。 「落ち着いた、ようだな……」 ハロに付きまとわれた彼がこれだけ静かな時間を過ごせたのは、このゲームが始まって以来かもしれない…… が、状況はそんな静寂を長くは許してくれなかった。 「ヴィンデル……それに乗っているのはヴィンデル=マウザーか!!」 (フフフ……それにしても、また出会うことになるとはな) 倒れたカイザーの前に立ちふさがる、クロスボーンガンダム。 その声に、彼はあくまで平静を保ち受け答える。 「フ、アクセル=アルマーか……まだ生きていたようだな」 だが、カイザーの突進でミオを殺された今のアクセルに、その対応は適切とはいえなかった。 「ヴィンデル……お前はもう少し賢い男だと思っていた……」 「何?」 アクセルは完全に誤解していた。しかしそれも無理もない。 いきなりの不意打ちを食らい、味方を問答無用で殺されたのだ。 言い訳のしようがない……いやそれ以前に、ヴィンデルにはその自覚すらないのだが。 「やはりお前を放置するわけにはいかん……お前の殺戮も野望も、俺が止める……!!」 「何だと……!?まさかお前、記憶が……?」 クロスボーンガンダムが戦闘態勢に入る。 (確かにとんでもない怪物だ……だが、あのむき出しの目立つコクピットさえ狙えば……) マジンカイザーのタックルで破壊されたボスボロット。しかし、完全に破壊されたわけではなかった。 タックルの衝撃で頭部が外れ、宙を舞う。そしてクレーターに落下し、そのまま中心部へと転がり落ちていった。 そして…… 『師匠!シッカリ!師匠!シッカリ!」 「い……たぁ……あぁ、死ぬかと……思った……」 とりあえず、お約束のセリフを呟くミオ。 あれだけの攻撃でしっかり生き残るのはお笑いロボットの特権、という奴だろうか…… しかしパイロットまではそうはいかない。吹っ飛んだ衝撃で身体をあちこちぶつけている。 (効いたなぁ、あの体当たり……さしずめ、ダイナマイトタックル、ってとこ?いたた……) 幸い軽傷ではあったものの、その衝撃のせいで意識が朦朧とする。 『師匠!!師ィィィィィ匠ォォォォォォォォ!!!』 「いや、死んでない……って……」 ハロの絶叫に突っ込みを一つ入れると、そのまま彼女は気を失った。 【アクセル・アルマー 搭乗機体:クロスボーンガンダムX1(機動戦士クロスボーンガンダム) 現在位置:B-3 パイロット状況:記憶回復、ヴィンデルへの怒り 機体状況:右腕の肘から下を切断されている シザー・アンカー破損、弾薬残り僅か 第一行動方針:ヴィンデルを倒す 最終行動方針:ゲームから脱出 備考:ミオは死んだと思っている】 【ヴィンデル・マウザー 登場機体:マジンカイザーwithハロ軍団 パイロット状況:パイロット状況:全身打撲、アバラ骨数本にヒビと骨折(応急手当済み)、 頭部裂傷(大した事はない) やや気力低下したものの回復中 機体状況:良好 現在位置:B-3 第一行動方針:強力な味方を得る、及び他の参加者と接触し情報を集める 第二行動方針:戦闘はなるべく避けるが、相手から向かってくる場合は容赦しない 最終行動方針:主催者を打倒し、その技術を手にする 備考1:コクピットのハロの数は一桁、現在一時的に機能停止中 備考2:暴走時のマジンカイザーは真ゲッターの現れたC-1に向かっていたと思われる 備考3:実はボロットを破壊したことにまだ気付いていない】 【ミオ・サスガ 支給機体:ボスボロット(マジンガーZ) 現在位置:B-3 パイロット状態:気絶 機体状況:頭部のみ、それ以外は大破 第一行動方針:マシュマー、プレシアの捜索。主催者打倒のための仲間を探す 最終行動方針:主催者を打倒する 備考1:ブライガーのマニュアル(軽く目を通した)、 ピンクハロを所持 備考2:大破したボディの残骸及び無傷のビームショットライフル(エネルギー少)がカイザー・X1の周りに派手に散らばっている 備考3:ボロットの頭はクレーターの中心部に転がった】 ゲッター線の発現によって二つの偶然が起こり、その二つが交錯して、因縁の二人を引き合わせた。 そしてその接触は、新たな偶然を引き起こす。 「何機か集まっているようだな……ならば……!」 狂気を秘めた薔薇の騎士が、アクセル達の存在を感知した。 今、漆黒の悪魔王が飛び立つ。彼らの抹殺に――そして全てを滅ぼすために。 そこで破壊されたボスボロットの残骸を見た時、果たして彼は何を思うだろうか――? 【マシュマー・セロ 搭乗機体:ディス・アストラナガン(第3次スーパーロボット大戦α) 機体状況:Z・Oサイズ紛失 少し損傷 パイロット状態:激しい憎悪。強化による精神不安定さ再発 現在位置:B-3 第一行動方針:ハマーンの仇討ちのため、皆殺し(ミオ、ブンタを除く) 最終行動方針:主催者を殺し、自ら命を絶つ】 【二日目 17 59】 今、魔神と魔王が邂逅しようとしている。丸い悪魔が眠っている、この地で。 第三回放送よりわずか1分前。 この土壇場にきて、B-3の地に嵐が荒れ狂おうとしていた。 前回 第187話「そして偶然が連鎖する」 次回 第186話「艦長のお仕事」 投下順 第188話「5分前」 第191話「リョウト」 時系列順 第192話「放送(第三回)」 前回 登場人物追跡 次回 第180話「ハロと愉快な仲間達」 アクセル・アルマー 第193話「変わる心 ~戦いの果てに~」 第173話「Last Boss」 ヴィンデル・マウザー 第193話「変わる心 ~戦いの果てに~」 第180話「ハロと愉快な仲間達」 ミオ・サスガ 第193話「変わる心 ~戦いの果てに~」 第182話「悼みの情景」 マシュマー・セロ 第193話「変わる心 ~戦いの果てに~」
https://w.atwiki.jp/thsmwiki/pages/73.html
大会情報 第4回東方サッカー偶然カップ 主催者 #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (まぐれ当たり)まぐれ当たり 開催予定日 予選会8/3から 一次リーグは予選会終了1週間後ぐらい 募集開始 風神録WEB体験版リリース後 募集終了 予選会8/1 23:59:59まで その他未定 大会形式 予選会→24チームの一次リーグ→8チームの決勝トーナメント 参加方法 サイト内アップローダーにチームデータをアップ 特記事項 参加は1人1チーム 以下、大会ルール 使用するバージョン 2-18-0 試合時間 予選会 30分一本勝負 一次リーグ 45分一本勝負 決勝トーナメント 前後半30分 レベル制限 スタメン合計363以下。しかし352以下を推奨 最大レベルは40まで。一人でも41以上が居たら失格 使用禁止キャラクター 無し(コスト制による総枠制限あり。詳しくは主催者サイトにて) 使用禁止アイテム 無し(一部例外あり) 参加者の皆さんへ 風神録体験版Normal以上をクリアできた人だけ参加可能(マジです) 予選会・一次リーグ・決勝トーナメントは違うチームでの参加が可能です 質問・意見・要望 最終更新: 2007年06月12日17時51分03秒
https://w.atwiki.jp/churuyakofu/pages/177.html
外の世界で幻想と化した物が、最終的に行き着く幻想郷。 だが幻想郷に来るモノは、物ばかりというわけでもない。 【偶然が重なった必然】 魔法の森にある店、香霖堂。 この店の店主こと森近霖之助は、今日も商品を仕入れに無縁塚へと赴いていた。 普段は一人で黙々と進むはずの道中だが、今日は珍しく霖之助に話しかける者がいる。 「いつもこんな道を歩いてんのか……? もやしっ子だと思ってた香霖も結構体力あるんだな」 声をかけたのは、人間の魔法使い、霧雨魔理沙。 霖之助の昔なじみにして、香霖堂の儲けにならない常連である彼女。 一度くらい見ておいても損はないだろう、と言ってついて来たのはいいが、すでにその疲れを隠そうともしていない。 「僕としては、どこへ行くにも足を使わないで飛んでいく君や霊夢のほうがよほど不健康だと思うんだがね」 「その分弾幕ごっこで汗を流してるから問題ないぜ」 こんなやり取りもいつものことだ。 無縁塚に到着した霖之助は、早速落ちているものを吟味し始める。 たまごっち。これは一時期随分な数が落ちていたが、今ではほとんど見ることはない。 似たように、かつては大量に仕入れていたが、今では見かけなくなったものが目に付く。 これらはすでに大量に在庫があるため、目をくれることはない。 なにか珍しいものや新しいものはないか。 そう思って探していた霖之助だったが、 「うわっ!? なんだなんだ!?」 魔理沙の声で探索を一時中断することになる。 「どうかしたかい? 魔理沙」 「こ、香霖! い、い、今なんか変な声が聞こえたんだ!」 よほど驚いたのか、尻餅をついたまま虚空を指差す魔理沙。 「とにかく落ち着くんだ魔理沙。それで、どんな音が聞こえたんだい?」 「あ、ああ。なんか歌声みたいな感じだったぜ。時計がどうとか……。 あ、気をつけろよ香霖! ちょうどその辺だ!」 歌と聞いて、霖之助の記憶にピンと来るものがあった。 魔理沙が言う場所に立ち、必死に止めようとする魔理沙を手で制して耳をすませる。 ……今は……もう……動か…… 確かに聞こえた。が、これは別に驚くようなことではない。 魔理沙を安心させるべく、霖之助は口を開いた。 「そうか、魔理沙は知らなかったのか。 それなら無理もないが、これは別に怖がることじゃないよ。 最近はあまりなくなったが、これは歌が幻想入りしているんだ」 「歌が幻想になる? 誰もその歌の存在を知らなくなったってことか? そんなことがめったにあるとは思えないんだが?」 「まあ最後まで聞きたまえ。 そもそも歌というのは元となる歌詞や音程が一緒でも、歌い手によってかなり印象のかわるものだろう? 声の高い人が歌うのか、低い人が歌うのか。歌いやすいリズムや抑揚だって違ってくるだろう。 かつてはある代表的な歌い手のものとして認識されていた歌が、世代交代やその歌い手の死などによって新たな歌い手の ものとなる。 時が経つにつれ、以前の歌い手がどのようにその歌を歌っていたのかを覚えている人間は減っていく。 そうして忘れ去られた、『かつてそれが標準だった歌い方』が幻想となって無縁塚に訪れるんだよ」 「はあ、なるほどな。それにしても人騒がせな幻想入りだぜ」 「まあそう言うものじゃないよ。結局のところ、これらの歌もほとんどが誰の耳に届くこともなく消え去っていくんだ。 むしろ、誰かが一生懸命歌っていた、そんな歌の最後に立ち会えてよかったというべきだろうね」 結局その日はたいした収穫もなく、霖之助も魔理沙も自宅に戻ることになった。 その夜、霖之助はなかなか寝付けなかった。 理由は明白。昼間無縁塚で聞いた歌が気になるのだ。 『今はもう動か……』、ここまで聞こえたその歌。 おそらくこの後、動かない、と続くのだろう。 幻想入りするほどに人々に親しまれた歌。その歌は、何かしらの道具が壊れたことを歌っている可能性が高い。 一体何についての歌なのか。最終的にこの歌はどういう結末を迎えるのか。 道具を扱う者として、知識人を自称する者として、あの歌が気になって仕方がない。 ……ダメだ。 夜中に歩き回るのは危険だが、あの歌を知らないまま生きていくほうがよほど体に障る。 決心したら後は早い。最低限の用意を済ませ、霖之助は無縁塚へと急いだ。 「確か……この辺だったな」 昼間と夜中とでは、同じ景色でも印象ががらりと変わるものだ。 数十分間かけて捜し歩いた後、ようやく霖之助は歌の聞こえる場所を探り当てた。 ……嬉しい……ことも……悲しい……ことも…… 低い男の声だ。 歌詞からすると、どうやらまだ歌の途中。 座り込んで目を閉じ、なんとか聞き取れる程度のその歌に耳を傾ける。 音は昼間よりやや小さくなっていた。明日には消えているかもしれない。 間に合ってよかったという安堵と、丸1曲聞き取れるだろうかという焦燥。 その2つの想いが、より霖之助の聴覚を鋭敏にする。 一旦歌が途切れた。 おそらく後半部分だったのだろう。ある人物の死期を悟った時計が、その逝去を告げたという歌。 さあ、これから前半だ。 どういう経緯でこの時計がその人物と知り合ったのか。 誰かから送られたのか。自作したのか。ふと気に入って購入したのか。 少なくとも言えることは、この人物は時計をとても大切にしていたということだろう。 でなければ、主の死に反応するなどという芸当には到底至らない。 それから数分が経過した。 しかし、一向に歌が始まる気配はない。 まさか、今のが最後だったのだろうか。 昼間もっときちんと聞いておけばよかった。 いや、せめてあと何分か早く店を出ていれば……。 悔恨で折れそうになる心を何とか保ち、霖之助はひたすら待ち続ける。 ……大……きな……のっぽ……の…… 聞こえた! 音の大きさから言って、正真正銘これで終わりだろう。 待っていてよかった。それとも、最後の聴衆に応えてくれたのか。 とにかく、これがおそらく最後のチャンスだ。 一字一句たりとも……聞き逃してなるものか……! ……そ……の……と………け…………ぃ…………… この歌の最後の1回が、今終わった。 先ほど聞いたのはやはり後半部分だったようだ。 全部通して聞いてみれば、実にありふれた内容と言える。 主と共に産声をあげ、常に人生を共にした時計。 大切にされた時計は、最初だけではなく、その最後までも愛する主と共にした。 よくある話。 大事に使い続けた道具が、魂を持つという話。 日本ではままある話だ。 それなのに……どうして…… こんなにも涙が止まらない…… 頬を伝う涙と閉じた目をそのままに、霖之助は考えを巡らせる。 おそらく、あの歌にこめられた想いが、自分の心を打ったのだろう。 低くて包み込むような、熟年の男の歌声。 名を知る由もないが、この歌い手が心底敬意を払って歌っていたことが伝わってきた。 惜しいことだ。あれほどの歌い手が、外の世界では幻想と化したとは。 いや、それは違うか。 外の世界では、おそらく新たな歌い手がこの歌を歌っているのだろう。 その新しい歌い手は、自分が今聞いた歌い手に勝るとも劣らぬほどに、この歌を愛しているに違いない。 ならば、先ほどの歌い手が幻想になったとしても、嘆くことはない。 想いを引き継ぐ者がいてくれるのだから。 真相はわからないが、これほどの歌が簡単に忘れ去られるとは思えない。 と言っても、自分にできることは外の世界の人間たちを信じることだけだが。 そして、霖之助はそっと目を開けた。 徐々に暗闇に慣れた目が、周囲の景色を映し出す。 その視線の先、こうして腰を下ろしていなければ見逃していただろう位置に、あるものが見えた。 「あれは……もしや」 近づいてみると、それはいわゆるGrandfather Clockと呼ばれる、成人男性より大きな振り子時計。 年季こそ入ってはいるが、傷はよくみなければわからない擦り傷程度。表面はきれいに磨かれ、異様な程に高水準の保存状態といえた。時計の針は12時59分を指している。 偶然にしてはあまりに出来過ぎなこの状況。 興奮に震える手をそっと当て、この時計の名を調べる。 「……『おじいさんの古時計』。やはり……そうなのか?」 もし、できることなら手元に置きたい。 値打ちがどうのこうのという問題ではなく、この時計がまさしくあの歌の時計ならば、こんなところで朽ち果てさせるわけにはいかない。 手を優しく当てたまま、そっと時計に話しかける。 「……もし、君が良かったら、僕の店でまた時を刻んでくれないか……? あれほどの想いが籠められた君に、僕の人生を見守って欲しいんだが……」 言った後で我に返る。 物言わぬ時計に話しかけるなど、自分は何をしているのだろうか。 例え魂が宿っていたとしても、積極的にはそのことを悟らせないだろうに、と だがその時、 カチッ ボオォォーーーーーーーンンン…… 時計の針が確かに動き、時を告げる音が響き渡った。 振り子は動いていない。 ましてやねじなど巻いていない。 霖之助は、ただそっと触れただけだというのに。 「……は、はは、はっはっはっは!」 考えてみれば、昨日から今までの経緯は異常だ。 たまたま連れてきた魔理沙が、幻想入りした歌を聞きつけた。 ほんの一節しか聞いていない歌が気になって仕方なかった。 先延ばしにせずに来てみれば、消え行く歌の最後の1回に間に合った。 目を開ければ、普段なら見逃してしまいそうな位置にある時計が目に入った。 そしてこれだ。 動かぬはずの時計が、まるで霖之助の呼びかけに応えるかの如く一度だけ音を上げた。 これはもう偶然なんかではない。いや、偶然であってなるものか! 彼は僕のもとに現れるべくして現れたのだ! ならば僕も応えよう! 誠心誠意を持って君を整備し、この命尽きるまで君と共にあろう! 霖之助の笑い声が、いつまでも無縁塚に響いていた。 そうして、その時計は香霖堂で再び時を刻み続ける。 新たな主も、その時計を大事にし続けた。 そんなある日。 「それにしても、こいつはこの店に似合わず随分立派なものだな。 一体どこでこんな逸品を見つけてきたんだ?」 「ん? この大時計かい? コレは外の世界に住む、ある人物が――――」 あんなに誇らしそうに話す霖之助は後にも先にもなかったと、後に慧音は語った。