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http //pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1316537661/783-801 暗闇はやっぱり苦手…いつも、わたしの忘れた記憶を呼び起こさせる……… 『さようなら』とメールした後、それでもわたしは更に、闇を求めて目を閉じた。 「お母さん、わたしね………」 『あやせ、あなたは良い子でしょう、何で言う事が聞けないの? わたしはあなたをそんな子に育てた覚えはありません』 「………でも、わたし」 お母さんの悲しそうな顔、いけない 「ごめんなさい、ごめんなさい。お母さん、ごめんなさい」 お母さんを悲しませたらいけない、いけない 『あやせは本当に良い子ね、お母さんとても嬉しいわ』 おもちゃもいらない、お菓子もいらない、おねだりなんてしないもん 「バイエル、弾ける様になったの」 「先生がね、新垣さんは頑張り屋さんだって褒めてくれたの」 「お父さんがプレゼントしてくれたご本、もう全部読んだよ」 だから 今度、お父さんとお母さん……わたしを動物園に連れて行って…… 「お父さん、お仕事頑張ってください。ちゃんと、わたし、お留守番出来るから」 わがまま言わない……… 絶対、わたし……泣かない…… 『新垣さん、一緒に帰らない?』 「え?」 髪を染めてる女の子、不良だ!仲良くしちゃいけない 『あやせちゃんに一目置いてんだよね、あたしって。あん(た)あやせちゃんに 勝手に親近感抱いてるって言うかさ、ぶっちゃけ迷惑だった?』 …………… 『ほら、あやせ、こうすると美人度上がるっしょ?あやせは黒髪が綺麗だし、スタイル も良いから、絶対に似合うと思ったんだよね、ほんとバッチリ。それにさ、メイクだけじゃなくて、 服もピッタリじゃん。まぁその服あたしのだけどね、にゃはは』 「桐乃さん、有り難う」 『ちょっとぉ、どんだけ他人行儀、あんた?うちら、もう親友でしょ!』 「う、うん……あ、ありがとう、桐乃」 『って何で(驚)?せっかくメイクしたのにさ………。あ~じゃぁさ、ほら、ほら、 やり方教えてあげるから自分でやってみぃ、ね?』 本当に、本当に、ありがとう桐乃 「お母さん、わたし、モデルのお仕事したいの!」 お母さんの悲しそうな顔…… それでも……わたしは 「学業と両立させます。ちゃんと責任感を持って一生懸命に頑張るから。 だからお父さん、お母さん認めてください!」 『やったじゃん!あやせ。まぁこれからはライバルだから、敵同士…だかんね! な~んてね………冗談、冗談、心配いらないって、全部、あたしに任せとけって!』 ライバル……なんて、敵同士なんて絶対にならない、なる筈ないよ、桐乃 でも 『俺は高坂京介------そっちは?』 『あやせ、結婚してくれ』 『------冗談だと分かっててもさ、ほんとごめんな』 「-----いってらっしゃい、お兄さん」 さようなら、お兄さん 『あやせ、、、、これが本当のあたしなの』 「お兄さん、わたし、桐乃よりも可愛くないですか? 桐乃よりもわたし魅力ない、、、ですか? わたしなんかじゃ桐乃よりも…すき…になれないですか?」 『俺が見た中で、あやせのウエディングドレスが一番似合ってたし、一番綺麗だ』 『あんた、、、あたしの気持ち知ってる癖に、、何でこんな酷い事すんの? うちら、ずっと一番の友達だったのに!!絶交した時、京介が仲直りさせてくれた時、 約束したでしょ、それなのに、、、裏切ってさ、あたしの気持ち裏切って!!!』 『あやせちゃん、しっかり、きょうちゃんを捕まえててあげなさい。 わたしね、あやせちゃんなら、きょうちゃんと一緒に幸せになれると思ってるんだ。 きっとね、わたしって、きょうちゃんが黒猫さんとお付き合いした時に、あの時に 応援してしまったから、多分………あの時点で、もう』 『自分の心に言い訳しすぎて、その言い訳に結局、自分自身が説得されちゃった。 誰かを好きって気持ちにも賞味期限があるんだ、きっと。 だから、わたしはずっと勇気がなかった、情けないよね、め! だよ。 だから、あやせちゃんは、こんなお姉ちゃんになっちゃ、ダメだよぉ? だから、あやせちゃんは今の自分の気持ちを、ちゃんと大切にしてあげなさい』 『よし、じゃぁ付き合うか。何か照れくさいな……ってこれじゃダメだ! 俺の馬鹿!、馬鹿!、馬鹿!大切な事を忘れるなんて本当に、情けねぇ。 え?あ~こっちの事だよ、気にするなって。 別に、おまえにSMプレイを強要してるわけじゃねぇって、おい! 彼氏に向かって初めて言う台詞がそれかよ! あ?……い…き』 『なり、、お、おまえ…滅茶苦茶、大胆だな……全然嫌じゃねぇけど。 えっと………………何だっけ?あ、そうだ! 俺ら、付き合うって決めた以上は、俺はずっとおまえの彼氏でいるつもりだからな! でも俺は、自分で言うのもなんだが、ヘタレのシスコンで、致命的に鈍いときてる。 だ、だから自虐プレイじゃないんだって(汗) こんな俺だけどよ、あやせの為にもっと、ちゃんとした立派な彼氏になるから! あやせを必ず幸せにするから、だからさ……何だ…とにかく、これからよろしくな』 『あやせ好き、あやせ愛してる、俺はあやせのものだ』 『ああ、ずっとずっと好きだ、ずっと前から好きだ』 『あやせ、これからはいつでも好きな時に来てくれて良いからさ。 いや違うな、俺がいつでも来て欲しいから渡すよ』 *** *** *** 「はぁはぁ」 俺は息をきらせて、走っていた。 ついさっき、俺が感傷的に、色々な事を追憶していた時に、加奈子から電話があったの だが……… 『京介、ひっさしぶり!じゃーん』 「よぉ、本当に久しぶりだな、元気してたか?」 『京介、誰か男紹介してくれよぉー。加奈子にはいつも超お世話になってんだろお? だから、少なくとも、おまえよりもイケメン限定で!』 「おいおい、いきなり何を言い出してるんだ、おまえ…訳分からん奴だな」 『ばっくれんなよ。ネタはちゃんと上がってるんだっつーの。 しかも、加奈子をダシに使いやがって、おまえらどんだけお盛んなんだョ(笑)』 加奈子は、俺とあやせが付き合った事を最初から知っている。 そして、一番最初に祝福してくれたのも加奈子だった。 こいつは案外(と言うと悪いが)良い奴で、今回の件で分かる通り、あやせとも仲が良いし、 桐乃ともちゃんと今まで通りに付き合ってるらしい。 加奈子が俺の存在をどういう形で捉えてるのかは分からないが…あやせがどれほど 加奈子のお陰で救われたのかは容易に想像出来る。 「へ?」 『おいおい、もうとぼけんなって。しっかし、あやせがねー意外過ぎるつーか、 イヤ、意外なのは京介の方か。イヤ、セクハラマネージャーだからむしろ当然だナ』 どうやら、加奈子の話を聞く限りでは、あやせは親に、今夜は加奈子の家に泊まると 言って嘘をつき、その口裏を加奈子に合わせて欲しいと頼んだ(命令した)らしい。 考えてみれば、あやせはまだ高校生なのだ。門限ってものがある。愚かにも、俺は 桐乃と喧嘩して、妹を家に残し、自分が頭を冷やしに外に出てきた感覚で考えていた。 「……………………まぁーな」 『ったく、頼んだ本人の携帯には繋がらないしよぉー。とにかくちゃんと誤魔化した かんな。京介が伝えとけよ。いちゃつきやがって、幸せを加奈子にもお裾分けしろっ』 「本当にいつも有り難うな。おまえにゃ、マジで感謝してっからよ」 どう考えても、そんな素敵な夜になるとは思えないのだが……加奈子に余計な心配を かけたくはないから、こう言うしかなかった。 何であやせの奴は、俺に『さようなら』とメールした癖に、門限の時間になっても、 帰宅しなかったんだ? あやせの携帯にかけたが、当然繋がらない。 『このままわたしを置き去りにして……………今、わたしを見捨てたら、 本当に、本当に、、わたしは何をするか分かりませんよ、お兄さん』 さっき、部屋であやせが言っていた言葉を思い出す。 俺が勝手に信じていただけで、あやせは本当に、俺に見捨てられたと思っていたのか? とにかく俺は急いで部屋に戻ると、ドアを開けたのだが………… 多少は、期待していた俺の希望は見事に裏切られ、部屋の照明は消えたままで、 辺りはしんと静まりかえっていた。 当然、あやせも、あやせの靴や大きなバックや歯ブラシなんかも……ここにあやせが 実存した事を本質的に証明するものは、何ひとつ残っていなかった。 俺がプレゼントしたチョーカーを除いては……。 あいつは本当に………親にも、加奈子にも嘘をついて何処かに行ってしまった。 俺は無意識に、そのチョーカーをポケットに突っ込むと、部屋を飛び出した。 あやせが行きそうな所を考えながら走り出したのだが全くと言って良いほど 検討がつかなかった。 あやせの知り合いに確認しようにも、そんな人物は誰一人、思い浮かばない。 俺はあやせの事が、性格云々じゃなくて………本当に何も分かってなかった。 分からないなんてレベルじゃない、あいつの事を何も知らなかったんだ。 加奈子に何度も連絡しようかどうか迷ったが、多分それは余計な心配をかけるだけで 何の解決にもならないと直感して辞めた。 あやせが言った通り、刹那的にでも抱いてやれば良かったんだ。 あいつに、ちゃんと捕まえててやるなんて偉そうな事を言って、結局心どころか あいつの身体さえ……掴み損ねて、あやせは消えた。 さっき誘惑してきた時のあやせが思い浮かぶ。 あの目も眩みそうな美貌で、理性さえ麻痺させる媚態に満ちたあやせの顔と あいつと喧嘩した時、他の男の話をして俺を嫉妬で狂わせようとした時の声が 頭の中で共鳴して、どんどん悪い事を、嫌な事を、最悪の事を考えそうになる。 俺はなるべく別の事を考えようとして、結局さっきの追憶の続きをはじめた。 麻奈実が学校を休んだ時、桐乃が突然留学してしまった時、黒猫が俺に 別れを告げて転校してしまった時……… 麻奈実の時は、桐乃に相談したんだった。 桐乃が留学した時は、黒猫が色々気を遣ってくれた。 黒猫が失踪した時は、麻奈実に相談しようとして結局、桐乃に助けられた。 俺はあいつらの為にいつも頑張ってきたつもりだったけど、実はあいつらに いつも助けられていたんだ。 俺は、誰にかけるのかも分からず、ポケットの中の携帯を掴もうとした………… 多分掴んでいれば、また泣き言を言った筈だ、いつもの様に………間違いなく。 でも携帯の代わりに俺が掴んだのは偶然にも、チョーカーだった。 無意識に、あやせが持って行ってしまった手錠の代わりに、右の手首にチョーカーを巻く。 俺は頭の中で何度も反芻する 麻奈実が居なくなった時、麻奈実を信じて自分で行動してたら? 桐乃が留学した時に、桐乃を信じて自分で行動してたら? 黒猫が失踪した時に、黒猫を信じて自分で行動してたら? チョーカーを眺めながら、あやせが握っていてくれた右手を思いっきり握りしめると 微かに温もりを感じる。 あいつは言った 『わたしは………自分から……居なくなったり……しない』 と……。 あやせが消えた今こそ、あいつを信じるんだ。もうあの時とは違う。 あやせの為に、追憶した過去の為にも……今度こそ、絶対に失うわけにはいかない。 それは奇跡や宿命なんて大げさなものではない………とても静かで、優しくて、 暖かい予感みたいなもの、俺があやせを好きになった理由そのものなのだ。 もう二度と戻らない(戻れない)"もしも"が、俺の中で本当に過去のものになった事を その瞬間に実感した。 その事実は俺をとても切なく、悲しい気持ちにさせたが、立ち止まってるつもりは もう無かった。 だから…………俺は静かに歩き出した。 *** *** *** どれくらい時間が経ったのだろう……わたしは目を閉じたまま眠っていた。 『おまえは何もしない、そして俺は必ず戻ってくるから…さ』 『さようなら』と自分でメールした癖に、京介さんの言葉が頭の中を何度も過ぎる そして、その思い出が強烈に、わたしの後ろ髪を引く。 悲しいと吠える癖に、構って貰うと尻尾を振ってしまう、まるで寂しがり屋の犬みたいに。 それが漠然と思い浮かんだ、自分のイメージ。京介さんに手錠をされてエッチな事を された時、チョーカーをプレゼントされた時から、、、あの時も全然嫌じゃなかった。 そして、わたしは………。 わたしがもっと素直で良い子なら、お兄さんは頭を撫でてくれたのかな? 「………ワ…………ン…」とかすれた小さな声を出して苦笑した。 "猫"なら、彼女はきまぐれだったのかな?と何の意味も無く、、ふと考える。 それにやっぱり猫の方が可愛い気がして、ちょっぴり嫉妬………したけど……… 今日一日……彼女と電話で話していた時の京介さんの顔が一番楽しそうだった。 そして、それはわたしが好きな京介さんの顔だった。 わたしは 幼い頃に、飼っていた青い小鳥の事を思い出す。 あの時、桐乃の手を強く掴んだ事を思い出す。 あの時、京介さんの腕を指が食い込むほど握りしめた事を思い出す。 好きという感情が抑えられない、失う事を恐れて自分から壊してしまいそうになる…… 小鳥を籠から出して逃がした様に、 桐乃の趣味を認めて自分の友情を押しつけるのを辞めたように、 だから、今度は、京介さんを自由にしてあげよう………… もう、こんなわたしの事なんて、どんなに嫌らわれて、拒否されて、振られても、 きっとわたしは京介さんに対して、感謝以外の感情は、何も残らないのだから。 だから、なるべく笑って、さよならしよう…わたしの大切な人をこれ以上傷つけない為に。 京介さんとの思い出があれば、沢山泣いても、きっといつかは笑顔になれるから……… でも……突然、眩しい光に照らされる。唖然としていた、わたしを大きな手が引き寄せる。 まるで、光そのものが強い意思を持っていると錯覚をするほど、優しくて、確かな温もりが わたしの身体を、優しく包み込んだ。 「……………やっと捕まえた」とクローゼットのドアの先から声が聞こえた。 『どうして………?』と言おうとしたが、強引に……今までに無いほど…強引に…… 抱き寄せられて、口を塞がれた。 ついさっき決心した事を言おうとしたけど、彼の本気の力で押さえつけられた わたしは何も出来なかった。 お互いの歯が何度かぶつかるほど激しく口唇を押しつけられる、わたしの舌が 何度も貪られる……唾液も、吐息も…わたしの全部が京介さんに吸い取られてしまう。 身体が熱くなって、意識が麻痺してきたわたしは、吸い取られた言葉の事も忘れて、 危うく、自分から京介さんを何度も求めようとしてしまった……。 どれくらいの時間が経ったのか、やっと押さえつけていた手を緩めてくれて、 唇を強引にわたしに押しつけるのも辞めてくれたのだけど(でも唇同士はふれたままで) 腰に手を回されて、半ば強引に京介さんの膝の上に座らされた。 だから京介さんの声は音と言うよりも、触れたままの、唇から振動で伝わる。 「俺はおまえの言いたいことが分かってるつもりだ。でもそれだけはダメだ。 その代わり、おまえがして欲しい事なら、"儀式"でも何でもしてやる! もうカッコつけるのは辞めた……からさ」 あんなに我が侭を言って、いつも困らせて…だからこんな風になる事を………… 期待なんてしてなかった、でも京介さんはわたしを見つけてくれた。 そして、ここまで言ってくれてるのに……こんなに求めてくれてるのに………… "でも"わたしは……。 「最初は、同情で付き合った癖に!本当のわたしの事はずっと、見て無かった癖にっ! さっきだって、わたしを見捨てた癖に!だからもう遅い、、全部、遅いんだから!!!」 まだ足りない、やっぱり足りない………いくら求めても、求めれば、求めるほど カラカラに渇いて、余計に欲しくなって…………際限がどうしてもない…………だから そう思った時、そう言おうとした時、わたしの渇いた心を、わたしの頬を雫が濡らした。 京介さんは何も言わず、音も立てず静かに泣いていた。 ただ、わたしに触れたままの唇が微かに震えだして、その震えは段々大きくなって ついには肩まで揺らしながら、号泣した。 男の人がこんな風に、人前で泣くなんて、信じられなかった。 沈黙した嗚咽は、わたしから完全に言葉を奪って、ただ彼を何とかし(てあげ)たい と思う動機と暖かい涙を、わたしに与えた。 同時に、わたしは京介さんのしょんぼりした背中が好きだった記憶が蘇る。 ヘタレでも、情けなくても、シスコンでも……鈍くても、エッチで浮気性でも それでも構わない…だから、わたしは別に、欲くて、求めてただけじゃない……… 不器用で歪な、"まごころ"だけど………あなたに、ずっと、ずっとあげたかった。 *** *** *** 俺は何で泣いてるんだろう?原因も分からず、ただ羞恥心もプライドも無く、 俺はあやせの前で、嗚咽していた。 桐乃の前で何度か泣いた事が微かに頭を過ぎったけれど、もうそれが理由で今のこの涙を 止める事は、どうしても出来なかった。 あやせは何も言わなかった。ずっと黙って、ただ俺の背中をさすってくれていた。 それでも泣きやまない俺に対して、彼女は…………… 「ちゅっ……ぺろ……レロ…むちゅ…ベロ……」 最初はキスされているのかと思ったが……そうじゃなかった。 あやせは、唇を押しつけると舌を出して、俺の頬を、頬に流れた涙の雫を舐めだした。 必死に、何度も、何度も、何度も…………滑稽な筈なのに、俺の胸は熱くなり…… ますます涙が止まらなくなったが、それでもあやせは、俺の頬が全部あやせの唾液に 変わるまで、決して辞めなかった。 俺はやっと「ありがとう」と言い、あやせの髪と頬を横から撫でた。 「京介さん、それ好き…だ、だから、もっと………してっ………く…ださい」 さっきは、桐乃にするみたいに頭を撫でる事をあれほど拒絶したのだが、今回は 何故か、ごく自然にあやせに触れる事が出来たし、彼女の嬉しそうな笑顔を見て…… 俺の変な拘りが、このあやせの笑顔を曇らせてたのかも知れないと反省した。 「俺はあやせとずっと一緒に居たい。もう理屈も理由もないんだ。だから……さ……」 「ねぇ、京介さん、何でわたしがクローゼットの中にいるって分かったんですか?」 「本当に何の理屈も理由もない。ただ居て欲しいと………信じただけだ。 まぁ………鈍い俺だから何度か回り道したし、おまえを随分待たせちゃったけどな」 「わたしを信じてたのに、さっきは何で泣いたの?結局、振られると思って悲しくなった んでしょ?本当に信頼してたら……」 「麻奈実がさ、さっき話してた赤城と付き合う事になりそうなんだ。 そして俺の妹とはちゃんと良い兄貴になるって話してきた。 黒猫とも、ちゃんとある約束している。 俺には本当にあやせしか居なくなった。 だから泣いたのかは分からないけどさ………こんな話って、やっぱ俺って情けないよな」 「そうですね、凄くみっともなくて、情けないから、ほっとけなくなっちゃいました…… ………わたし」 「実際、不安だったのかもな。おまえの言う様に、最初は、あやせが危なっかしくて 心配で付き合う事にした。そして、俺の勝手なイメージでおまえの事を見てた。 さっき、おまえを捜し回って、走り回ったけど、でも俺はあやせの事を何も 知らなかったって痛感させられた。 だからおまえに、見た目だけとか、身体だけでも良いって言われた時に……… 俺は何も言えなくて、ちゃんと反論も出来なくて、あやせを余計に傷つけた。 だからその事については謝るよ。変に誤魔化したり、カッコつけたりして、すまなかった」 「でもさっきは見捨てたわけじゃない、おまえを信じてたつもりだったんだ」 これだけの事を言う為に、本当に、随分遠回りしたが、やっと言えて良かった。 「そんなに、わたしを信じてるなら、わたしのコトがちゃんと分かってるって言うなら、 わたしが今して欲しいコ・ト・…当ててください。当ったら仲直りしましょう、ね?」 ウインクして、魅惑的な顔になったあやせが、挑発する様に俺にクイズを出した。 俺はさっきしたみたいに強引にキスする、もう自分が風邪だった事なんてすっかり 忘れていた。理屈も、理由も、クイズも関係なく……純粋にしたいから、した。 「それもして欲しいコトですけど、一番じゃないから………ハズレですね。 やっぱり……わたし達って相性悪いのかなぁ。残念です…ねぇ、京介さん?」」 こいつがずっと"京介さん"としか呼ばない事に違和感を感じた。 "儀式"なのかとも考えたが、俺に髪を撫でられている、あやせにはもうそんな気配は 微塵も感じられなかった。本当にただ、ただ美しい俺の彼女だった。 「んじゃ、また尻ぶった叩くか……アレはあやせのお気に入りだからな」 やっと余裕が出てきた俺は、何とか冗談を言ったつもりだったのだが…… 「それもして欲しいコトですけど、一番じゃないから………ハズレ」 冗談とも本気とも取れぬ態度に対して、いささか俺の理性は、失われ始めて…… やっぱりあやせの言う様に、俺らが変態なのは、間違いないのかも知れない。 変な性癖に目覚めないか心配した将来の不安は、既にリアルな懸念に変わっていた。 「もう本当に強情ですね、京介さんの、、が、わたしにずぅっと当たってるのにっ! それとも処女厨なのは…………冗談だった事が、実は的を射てましたか? はぁ~でも、良いんです……それでもわたしの気持ちは変わりませんから。 あなたがどんな変態でも、応える自信……わたしにはちゃんとありますからっ!」 こいつが何を言ってるのか皆目検討はつかないが、何か相当ヤバイ匂いがするのは 確実に分かった。 「あ、あのさ、、おまえがもう"儀式"を求めてないのは、何となく分かるんだけど それって結局どういう事だったのか、教えてくれないか? それが分からないと、ちゃんとクイズに答えられないと言うか……」 『…桐…………3つ……の……処女………………』と耳打ちされた。 「ははは……あ、あやせさん、そんなの、おかしいですよ!って言うかさ。 キ○ガイみたいなフリをするのは、もう良いからね!だ、だ、だから本当の事を言おうぜ。 俺ら、ちゃんとした恋人だろ?全く……冗談ばっかり、どっちが変態だよ、もう(戦慄)」 あやせは無言で、さっき隠れていたクローゼットから、最近よく持ち歩いている 大きなバックを取り出すと、おもむろに俺に中身を見せる。 ………メイド服、ブラウンのウッグ、眼鏡があった(様な気がするだけの事にしておく) 「もし、わたしが無理やり儀式実行したら、京介さんは、わたしの事が嫌いになって 逃げ出して、わたしの事を捨てましたか?正直に言ってくださいね? わたし……絶対に、もうどんな些細な嘘も、誤魔化しも、許すつもりないから……」 「一回全力で逃げ出して、それでもおまえがやるって言うなら付き合ってやったと思う。 あやせは困ったちゃんなのは分かってるけど、同情以外の感情があるのは今なら分かる。 ぶっちゃけおまえが、NTRの話しなくなったのは儀式とか言い出してからだもんな。 おまえと別れるくらいなら、おまえが他の男の話をするくらいなら、もう超変態で あやせと一緒に何処までも堕ちるやるさ」 半分は本気で、半分賭けで………俺はそう言った。 さっきみたいに、いくら諭してもダメなんだ、あやせを全部受け入れて、もしこいつが 傷つくなら、俺も一緒に痛みを感じてやる。 俺の彼女が堕天使で、地獄の案内人………だとしても、もう離れるつもりはない。 もう、絶対にあやせを一人にはしないって決めたんだ。 でも同時に、『とても静かで、優しくて、暖かい予感みたいなもの』を今なら 信じられる気がした。 「ふふ、京介さん……良いコ・ト・しましょう?もうしちゃいましょう……ねっ?」 そう言った時のあやせの笑顔は純真で、清純で、純粋でとても気高く感じられて、 本当に天使を見たら、こんな気分になるのかもなと俺は、不思議な感慨に耽った。 どうやら、何とか………賭けには勝てたらしい。 何でこいつは、あんな悪魔の発想する癖に……こんなに可愛く笑えるんだよ、全く。 「本当に、儀式はもう良いのか?」 「儀式ならもう終わりました。魔法ならちゃんと、京介さんにかけられちゃった…から」 こっちだって、ずっと魔法も、あやせ菌にもかかりっぱなしだったんだ。 でもあやせには伝わってなかった。だからこれからは、今からはもう照れは捨てて 全部あやせの望み通りにしてやろう。 誰かに聞かれて見られたら恥ずかしくて、死にたくなる様な事でも平気でやってやるさ。 「そっか…………分かった。で、おまえのお気に入りの手錠はどうする?」 あ~ついに、こいつとするんだなと考えると緊張で声は上ずるし、さっきは別れるか どうかの瀬戸際だったのに、今はあやせが目を潤ませて、頬を高揚させてる姿を見ると、 更に俺に胸や臀部を押しつけてる状況を鑑みると、自然の摂理で当然痛いほど硬くなる。 「もう!お兄さ…(ん)…あっ、京介さんは…本当に、何も分かってないんですねっ!」 そういう事か…全く、、、何でそんなに俺に魅惑の魔法を重ねがけしようとするんだ? 「可良いな、あやせは…良いんだぜ?おまえが癖で言ってしまう"お兄さん"のままでさ。 おまえしか見てないんだから………今更、何ズレた心配してるんだよ、ったく」 「……ご、ごめんなさい……で、でも、でも……………」 「手錠はプレイで使うなら良いけど(もう立派な変態だ)、今は必要ないで良いんだな? 心はちゃんと繋がってる。今は…身体は身体同士で繋がりたい、、、で合ってるか?」 恥ずかしそうに、ぎこちなく、でもしっかりとあやせはコクリと肯いた。 こんな最高に可愛い彼女が相手なんだから、今だけは、俺も全力で"男"にならなきゃな。 俺はキスしながら、あやせをお姫様だっこしてベットに運ぶ。 何でだろう、あやせの裸なら本当に何度も、何度も見た筈だが……… DVD事件の時は、自分で全裸になってたし(長時間クローゼットでそのままだった) あやせの部屋ではいきなり下半身を脱がせたのに、今は服を着たままのあやせを 目の前にしているだけで、今までと比べものにならないくらい興奮して、緊張して 完全硬直しちまった、やっぱ情けねぇ………。 自称"男"改め、単なる童貞小僧に成り下がった俺は、キョトンとした表情で見ていた あやせに 「ふふ、良いですよ…ほら…………ボク………お姉さんとエッチなお勉強しましょう? ほらぁ……こっちにおいで」 と誘われた。
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http //yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1288544881/209-215 放課後にほぼ日課となっているゲーム研究会へ顔を出しをし、黒猫と瀬名ちゃんを眺めて英気を養ってから受験勉強をする為に長居をせずに家路に着いたわけだが。 ウチの目の前に制服姿の見知った女の子が二人居るのを見つけた。 一人はラブリーマイエンジェルことあやせたん、もう一人は年上である俺に敬意を払わない糞ガキこと加奈子で共に妹の"表"の友達だ。 桐乃と遊びに来たのだろうか、目の前を素通りするのも何なので挨拶でもしようと近づくとどうも様子がおかしい事に気がつく。 あやせが加奈子の襟首を掴んで塀に押し付けてるって言うか加奈子の足浮いてね? 「ちょ……あやせ!加奈子の首締まってるじゃねーか!?」 おいおいマジかよJCの絞殺の現場目撃とか有り得なくね?ここ日本だよね?大阪民国でもないぞ!? 「あら、お兄さん。こんにちは」 あやせは俺に気付いたのか加奈子から手を放して俺に笑顔で挨拶をしてくれた。たった今まで同級生の首を締めてたとは思えない豹変っぷりだ。 最近、俺と話すときに警戒する様な顔だけでなく社交辞令なのかも知れないが笑顔も見せてくれる様になったが、今はその笑顔が逆に怖い。 加奈子は本当に首が締まってたのかケホッケホッと苦しそうに咳き込んでいた。 「ちょっと待っててくださいね、今加奈子をしつけてる所ですから」 一瞬にして笑顔から般若の様な表情を浮かべ加奈子に向き直る。 いや、あやせさんそれは躾けるというよりこれからトドメを刺すって顔してますよ! 「ま、待った!それ以上やったら加奈子が死んじまうぞ?」 あやせから加奈子を助ける為に俺は二人の間に割り込んだ。 あやせを加奈子に近づけさせないように両手を広げると、俺の制服の裾を引っ張られる感覚に気付き振り返ると加奈子が涙目で俺の足に縋りついてきた。 俺の事を見下してた加奈子が俺に縋りつくって相当怖かったんだろうな……。 「お兄さんどいてそいつ殺せない」 ちょ、この子今○すとか言ってませんでしたー?あやせさん怖えー、あやせさんマジ怖えーよ。(大変怖かったので2回言いました) 「お、落ち着けってあやせ。加奈子がいくら糞ガキだからって○すのは不味いと思うぜ。もしするにしてもここじゃ近所迷惑だから公園にでも行こうぜ、そこでどうしてこうなったのか俺が聞いてやるからさ。それから加奈子の処遇を考えても良いんじゃないか?」 あやせの形相が親父並に恐ろしかったから、目を若干逸らしながら必死に説得した。 「それもそうですね、ここでやったら桐乃にも迷惑が掛かりますし、分かりました場所を移動しましょう」 俺の説得が功を奏したのか、何とかあやせの凶行を抑えることが出来た。 「な、それじゃ加奈子も一緒に―――」 って、加奈子がちゃっかり逃げようと忍足で数メートルほど離れていた。 「かーな゛ーこー」 そうあやせが加奈子に呼びかけると加奈子はビクッとヘビに睨まれたネズミの様に硬直した。 「逃げたら社会的に抹殺するから、タバコ吸ってたの学校にチクられたいの?」 あやせがそう脅迫すると加奈子は「ひっ」と短い悲鳴を上げて尻餅を付いた。 逃げようとした加奈子も加奈子だが、あやせさんマジ容赦ねえ。俺は加奈子に駆け寄り声をかけた。 「歩けるか?俺も付いて行ってやるから落ち着ける所で話そうぜ」 そう言って俺は加奈子に手を差し伸べそのまま加奈子が逃げないようにこいつの手を引いて公園まで3人で移動した。 まるで小学生みたいな加奈子の手を引いて歩くのは犯罪臭がして気が引けるがあやせに任せたら加奈子の手に痣が付きそうだったから仕方無く俺が引っ張って行った。 近所にある小さくて人があまり居ない公園に着くと、加奈子をベンチに座らせ俺は横にある手すりに腰掛けた。 あやせは加奈子の逃亡を警戒しているのか加奈子の手前に立ち睨みを利かせている。 「で、どうしてあんな事になってたんだ。やっぱりあやせがあんなに怒るって事は桐乃の事なのか?」 とりあえず事経緯を聞き出そうと俺から話を切り出す。 「そ、そうなんです!この子が桐乃のオタク趣味を知って、あろうことかそれをネタに桐乃を強請ろうとしたんですよ!」 「ちがっ、加奈子そこまでしようとは……」 あやせの主張に反論しようとした加奈子だったがあやせにキッと睨まれて口を噤んでしまった。 「あちゃー、加奈子にもバレちゃったのかー」 あやせにバレた時点で加奈子にもバレる日が来るんじゃないかとは思っていたがここまで話がこじれる事になるとは。 「まあまあ、落ち着けってあやせ。大体何があったのかは想像出来るが一応加奈子からも話を聞かせてくれ」 このままだとあやせの一方的な糾弾になりそうだったので、先手を打とうとしたのだが。 加奈子はあやせの殺気に圧されたのか涙を流して俯いている、このままだと話をするのが困難そうだから加奈子を落ち着ける為に俺が一肌脱ぐことにした。 「おい、加奈子。泣くなって俺はお前の味方だ、俺の顔見覚えあるだろ。ほら、マネージャーとしてイベント会場まで一緒に行っただろ」 そう言って俺は加奈子のマネージャー役をやって居た時のように前髪をかき上げて見せた。 顔を上げた加奈子は目を丸くし俺の顔見て「あっ」と声を漏らした。この分だとマネージャー時には俺が桐乃の兄だという事には気づいていかなったみたいだ。 「か、加奈子は……悪くないもん……」 心を許せる味方が出来て安心したのかどうにか加奈子は口を開いてそれだけ呟いた。 「はっ、開き直り?あんたは悪徳政治家かっつーの!。桐乃をあんなに落ち込ませて世の終わりみたいに狼狽させた癖に」 あやせの怒りが有頂天になったのか若干桐乃の口調が移ってるぞ。 「いやいや、いくら加奈子でもそこまで腐ってないしこいつなりの言い分もあるんじゃないか。責めるのはそれを聞いてからでも遅くないだろ」 加奈子をフォローしつつ、何とかあやせを黙らせる。 「桐乃の趣味を知ったら誰だって驚くもんな、俺だって最初は家にあんなのがあっても桐乃の持ち物だとはとても思えなかったしあの趣味に否定的って意味ではあやせも同じだろ?」 「それはそうですけど……でも!桐乃を脅そうとするなんて絶対許せません!」 あやせに桐乃の趣味がバレた時の事を引き合いに出してあやせの同意を得ようとしたんだが、どうも「脅し」という部分がキーワードみたいだ。 「その脅したってどういう事なんだ加奈子?」 「気安く加奈子とか呼ばないでよ。あんたも加奈子に嘘ついてた癖に」 嘘ついたって身分を偽ってマネージャー役やってた事か。 「いや、あれはあやせに頼まれて仕方無く……いや、隠してたのは悪かった。すまん!」 「まあ、自分からバラしてくれたからそれはもう良いけどよー。桐乃もあやせも加奈子にだけ黙ってるって酷くねぇ?こっちだってダチだと思ってつるんでたのによー」 そうか、加奈子は自分にだけ隠し事されてたのに腹を立てて喧嘩になったわけか。 「それで、カッとなってクラスの奴らにバラされたくなかったら金出せよって言っちまったわけよ」 「そっかー、腹がたってつい酷い事言っちゃたってわけか―――ってそれ完全にイジメっ子のそれじゃねーか!恐喝は犯罪だぞ」 女子の仲良しグループのイジメがエゲツないとは聞いてたが、これはひでぇ。 ん?だが待てよ。 「いや、ちょっと待てよ。仮に加奈子がクラスメイトに桐乃の趣味の噂を流しても桐乃が否定すれば誰も信じないんじゃないか?」 確か前にあやせに桐乃の趣味がバレた時もクラスメイトは信じないだろうって言ってたよな。 「もちろんです。桐乃は学校ではそんな素振り全然見せてませんから噂だけで信じろという方が無理です」 だよな。俺も廊下に例の物が落ちてた時は桐乃は真っ先に持ち主候補から除外したしな。 「でも、加奈子は桐乃があの……えっちなゲームを嬉しそうに抱えてる所を隠し撮りしてたんです!」 うわ、それは言い訳不可能だ。エロゲのパッケージって裏は大体イベントCGで埋まってるからなー。 「もちろん、真っ先にその画像が入ったケータイを取り上げて削除したんですけど。この子はSDカードにも保存しているとか言うのでそれを末梢しようとした所でお兄さんに邪魔されたんです」 なるほど、それであやせは加奈子を末梢しようとしてたわけか。 「よし、あやせ。加奈子を締めてもいいぞ。俺が許す」 「ちょ、あんた今さっき加奈子の味方だって言ってよな!?」 おっと、加奈子の所業が余りにも酷かったからつい口が滑ってしまったが、一応俺は加奈子の味方だと言ってしまったんだよな。 「すまんすまん、前言撤回だ。お尻ペンペンくらいで許してやってくれ」 加奈子が何言ってんだこいつって顔をしているが、躾と言ったら尻叩きと相場が決まってるからな。 「そうですね、見える所に跡が残ったら後々面倒ですしね」 うん、そうそう流石あやせさんはよく分かっていらっしゃる。それもイジメっ子の台詞だけどね!? 「く、二人とも覚えてろよー!」 そう加奈子は悪態を付くが観念したのか先程とは違い逃げようとはしなかった。 「桐乃は加奈子に甘いから謝ったらそれで許してくれるかも知れないけど、悪い子にはお仕置きが必要だよね」 そう言って加奈子ににじり寄るあやせさんは何処か恍惚とした表情を浮かべていて、加奈子はビビったのかベンチから立ち上がって壁まで後ずさった。 「加奈子、何で逃げようとするの。悪いのは加奈子の方だって本当は分かってるんだよね?」 「だって、なんかあやせ怒るといつも怖いし……痛ッ!加奈子の髪の毛引っ張らないでよ!」 加奈子の二本に束ねられたお下げの片方をあやせが掴み、自分がベンチに座った膝の上に加奈子をうつ伏せに跪かせ、加奈子は膝枕よりは土下座に近い格好になる。 「はいはい、加奈子ごめんなさいしましょーねー」 「ちっ、ガキ扱いしやがってお尻ペンペンくらいで反省なんかしてやるかよ」 加奈子の奴、この期に及んでまだ悪態をついてやがる。あまりあやせを怒らせるなよどうなっても知らんぞ。 「あれ?何か言ったかなー?」 ほら、あやせさんが般若みたいな顔になってるぞ、お前の頭の位置からは見えないから分からないかも知れないがな。 と、思ってるうちにあやせが左手で加奈子の腰辺りをフォールドしながら唐突に加奈子のスカートをパンツごとずり下ろした。 「なっ」「な、な、何してんだよ!?」 俺と加奈子の声が同音の声を上げた。加奈子の小ぶりだが張りのある柔らかそうな尻が目の前で晒される。てか、もう少しで見えんじゃねーの?赤さん貼った方が良くね? パァーン!と目が覚める様な音がしほぼ同時に加奈子が「い゛」と短い悲鳴をあげる。 あやせが加奈子のパンツを下ろしてから間髪を入れずに1発尻に平手を打ちつけたのだ。 「悪い子にはお仕置きしないとね」 あやせは自分に言い聞かせる様にそう言うが、心なしか顔に恍惚の表情が浮かんでるんですが。 「か、加奈子は悪くないもん……」 おいおい、火に油を注ぐ様な事言うなよ。前から馬鹿だと思ってたが加奈子って命知らずだな。 と思っているとバシン!と言う音と共に加奈子の「アッー!」という悲鳴が聞こえた。 こう言っちゃなんだが仕方ないね。 「ごめんなさい。もうしないから許してくださぃ」 2打目の攻撃は流石に加奈子も堪えたらしい尻が手の形に腫れ上がってやがる、初めから素直に謝ってたら痛い目を見ずに済んだのにな。 「加奈子ォ、ごめんで済んだら警察はいらないんだよ。それに桐乃の受けた心の痛みはこんな物じゃ無かったんだから!」 未だ怒りの収まらないご様子のあやせ様はそう簡単に許してくれるはずもなく。 パンッ!パパパパパンッ!とリズミカルなケツドラム音が響いた。 「痛い!痛い!痛くて死ぬー!」 既に手形が付くほどに腫れていた尻にこのスパンキングを食らっては加奈子も限界みたいだ。そろそろ止めてやらねーとな。 俺は、まだ叩こうと手を振り上げたあやせの手を掴んで止める。 「おっと、そこまでだ。流石にこれ以上やると病院行きになっちまう」 見ると桃の様に白く瑞々しかった加奈子の尻がまるで林檎みたいに赤く腫れ上がっている。生意気な加奈子に灸を据えるのは良いが流石にやり過ぎたな。 「私に触らないでください!通報しますよ!」 いやいや通報されかねないのはどっちかと言うとあやせの方だからね?可哀想に加奈子は余りの痛みで放心状態じゃねーか。 「いやだね、これ以上やると加奈子が死ぬかも知れない。だから変態と罵られようが通報されようがこの手は離さない……!」 思えば、あやせに殴られたり蹴られたりはされたが俺からあやせたんにスキンシップしたのは初めてじゃなかろうか。どうせなら不意に伸ばした手と手が触れ合って「あっ」てな状況が良かったな。 「ずるいですよお兄さん、これじゃ私が悪者みたいじゃないですか。シスコンな上にロリコンだなんて救いようのない変態ですね」 ぐほっ、あやせの罵倒は骨身に沁みるぜ。加奈子はロリかも知れんが、あやせたんが好きな俺ってロリコンだったのか?我ながらショックなんだけど。 「ふぅ、分かりました。もう加奈子をぶったりしないからいい加減手を放してください。いつまでも加奈子のお尻を変態の目に触れさせるわけにも行きませんから」 「うおっとすまん!いや、全然視姦なんかしてないからな。俺はどっちかというとおっぱいのが好きだしな」 俺が慌てて手を離すと、あやせは痛みでぐったりした加奈子のパンツとスカートを元の位置に引き上げた。 ふと、さっきから黙ってる加奈子が心配になって俺はこいつに声をかけた。 「おい、加奈子生きてるかー」 返事が無いただの屍のようだ。 加奈子が気絶しているからか、あやせは不意に独白し始めた。 「私、加奈子に嫉妬してたのかも知れません。桐乃は加奈子がコスプレ大会に出てからこの子を溺愛する様になってて、それなのに加奈子は桐乃を裏切るような事して」 あやせが暴走したのはどうやら加奈子にジェラシーを感じていたかららしい。 「でも、それって加奈子と同じじゃね?あいつも桐乃とあやせだけで秘密を共有してたのを仲間はずれにされたと思って意地悪しようとしたみたいだし。似たもの同士もっと仲良くやれよ」 あやせは加奈子と自分が似ていると言われて驚いた様な顔をしていたが、一瞬思案する表情を見せた後に独白するように呟いた。 「似ている、そうかも知れませんね。加奈子の事を馬鹿な子だと思ってましたけど、私もまだまだ子供だったみたいです」 うんうん、あやせもたまに見せる子供っぽい部分が萌えるんだよな。でも一つ突っ込ませてくれ。 「BA・加奈子って駄洒落かよ!まあ、そういう事だから桐乃と3人で仲良くしてやってくれよ。加奈子も聞いてるんだろ?」 あやせと二人で会話をしていたが、加奈子そろそろ起きてる頃だと思い俺は声を掛けた。あの3人が一緒じゃないとダメだしな。 「ちぃ、バレてたのか。ヒデェよな二人して加奈子のお尻を散々叩いたり視姦してやがってよ」 加奈子はもそもそと起き上がってあやせと俺を睨んで今までの仕打ちに不平を漏らした。 「おい!誰が視姦したってんだよ!?中学生の尻くらいじゃ全然興奮しないっての!」 あやせのは別だけどな!雑誌の水着写真には何回もお世話になりました。本当にありがとうございました。 「なんだとぉてめー。くぅ、ケツが痛くて反撃出来ねぇ」 加奈子は俺に仕返しに拳でも振るうつもりだったのかも知れないが、尻の痛みでそれどころじゃないらしく尻をさすりながら恨めしそうに俺に涙目の視線を向けた。 「そうそう、あやせ。加奈子にごめんなさいしような。いくら加奈子がいけない事をしたとしてもあれはやり過ぎだ」 「そうですね、確かにやり過ぎました。ごめんね加奈子、私どうかしてたみたい。加奈子も私達の大事な親友だもんね、隠し事したり信じてあげられなくてごめんなさい。こんな私だけどまだ友達で居てくれるかな?」 あやせは自らの行いを恥じたのか少し顔を赤らめていたが、素直に加奈子に謝ってくれたみたいだ。 「ちっ、本当はさっきの仕返しに一発ぶってから許そうかと思ったのによ。そんなに良い子ブッた謝罪されちゃ仕方ねーな、許してやんよ」 良かった、加奈子もあやせと仲直りしてくれたみたいだ。あやせが加奈子の首締めてた時はどうなるかと思ったが何とかなって安心したぜ。 「あー、忘れる所だった。加奈子さんよ、お前もうちの妹にごめんなさいしないとな。あいつアレで打たれ弱い所あるからさ、今頃枕濡らして泣いてるかも知れん」 「そりゃーいーけどよ、尻が痛くて歩けないからお前加奈子をおぶってってくんね?」 今回は怪我人って事で大目に見るが。加奈子、お前が俺に要求する時の顔って召使でも見るかのごとき物扱いなのどうにかしろよな。 「あーそうだったな、尻が痛いんだったな。ウチまではおぶってってやるよ。ウチに付いたら湿布でも貼ってやろうか確かリビングに常備されてた気がするし」 そう言って俺は加奈子に背を向け手を後ろに回して片膝を付いた。俺がおぶる体勢を取ると待ってましたと加奈子が俺の背中に体重を預けてくる。 こいつ小さいからかすげぇ軽いな、これなら後で加奈子んちまでおぶって行っても平気かも知れん。 「よし、肩に手を回して落ちない様にしろよ。そうだ、あやせもうち寄ってくか?」 あやせも二人の仲直りを見届けたいだろうと思い声を掛けてみたが。 「あ、私そろそろ門限が近いからご遠慮させてください。それじゃ加奈子また学校でね。お兄さんもさようなら」 あやせは、空の夕焼けと腕時計を見比べ慌てた様子で、家路に急いで行った。公園の時計を見ると既に6時を回っていた。 そういやあやせは結構厳しい家の子なんだよな。俺も加奈子を背負いつつなるべく急いで家に帰った。 「加奈子、尻出せよ」 「えー、自分で脱がせば?このロリコン」 「ちっ、生意気な奴だな。仕方ねー、おいしょっと」 「よーし、んじゃこの辺か?」 「ちょ、いきなりそんな所触るなよ痛ぇっての」 「おっと、すまん。もう少し慎重にやるな。どら、こんな感じか」 「あー、そこそこ。気持ちーー。あー、これ癖になるかも」 俺がリビングで加奈子とお医者さんごっこをしていると、不意にリビングのドアが開かれ誰かが入ってきた。 「ちょ、あんたこんな所で何やってるのよ!!?あれ?加奈子……?あんた人の友達になんて事してくれてんのよ!?この変態!ロリコン!」 誰が入ってきてもこの状況は不味かったのだが、寄りにも寄って今一番遭遇してはいけない人物だった。 「き、桐乃か?ご、誤解だ!いやー、これには深いわけがあってだな……」 「問答無用!」 あべし!慌てて言い訳しようとしたが顔面に桐乃の飛び蹴りが命中し言い訳をキャンセルされた。 数分後、そこには並んで土下座をする二人の姿が在ったと言う……。 終わり
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http //yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1289713269/347-350 一時間は経ったか。 体も瞼も鉛のように重いくせに、俺は眠れずにいた。 時計の一秒一秒を刻む音が耳障なのは、眠れないときの嫌なパターンだった。 「…ねぇ」 ああ、っくそ、明日普通に出勤日なのに。 「ねぇ、おきてるんでしょ?」 だいたい三日連続で泊り込んだら普通次の日休みじゃね? 「ねぇったら…っこの!」 ッゴッ! 突然後頭部を襲った激しい痛みに俺は飛び上がった。 手元に転がる投げ付けられた物を見て驚愕する。 「てめぇ、殺す気か!?」 信じられるか?この女、ジャ●プを人の頭めがけて投げやがった! リノは悪びれもせず「ふんっ」と鼻を鳴らし、 「あんたがシカトするからでしょ?」 と切り替えしてきた。 「寝てただろうが!」 「嘘!寝息無かった」 「お前さっきまで寝てたんじゃねぇのかよ!」 「だれかさんが興奮して見つめてくるから怖くて寝た振りしてたの」 「誰が興奮だこのマセガキ!」 「見つめてたのは認めるんだ?」 ぐ…痛いところを…。 言葉に詰まると、リノはにんまり笑った。 相変らず、苛立ちを覚える顔だ。 「知るか。明日早いんだ、寝かせろ。」 再びコタツの中に体を埋める俺。クッションを枕代わりに彼女の反対方向を向く。 数秒とおかずリノが話しかけてきた。 「ねぇ、眠れないから面白い話してよ」 …出た。 面倒な女の一番面倒な無茶振り「面白い話してよ」。 彼女ならともかく何故こんな子供相手にそんな気を使わねばならないのか。 無視して寝ようと思うと、背後から再びゴソ、という音がしたので急いで振り向いた。 「…あ」 思ったとおり、リノの手にはジャ●プが握られていた。 …危なかった。 怒りをこめて睨みつけると、ばつが悪そうにジャンプを手放し、作り笑いを浮かべた。 「ね、ねぇ、さっきさ妹がどうとか言ってなった?」 「妹?」 「『お前を見てると妹を思い出す~』的な事言ってたジャン」 聞いてたのか、こいつ。 俺の話なんざまったく聞いてないものだとばかり思っていたからすこし驚いた。 「どんな子だったの?」 うるさいと言って煙に撒こうとするも、リノは執拗に聞いてきた。 この調子だと朝まで粘られそうだったので、仕方なし妹のことを説明した。 物凄い美人で、スタイルが良く、勉強は県下トップで、陸上部のエース…まるで俺が嘘をついてるみたいだ。 「なにそれ、エロゲ?」 「え、エロゲ?」 「…なんでもない続けて」 「続けても何も、中二のころに親父と喧嘩して、それで家を出て行ったきりだ。」 「家出したの?」 「…ああ、多分。よくしんねーけどあいつの大切なもんを親父が捨てたらしい」 ボリボリと頭をかいて、リノとは反対方向に寝返りをした。 リノの続きをせかす声が消えた。が、耳を澄ます気配だけは消えてないように思えた。 「お袋が言うには、いかがわしい物だったんだと」 「なにそれ」 「よくしんねーけど、エロいアニメとかのDVDとか人形とか…チラ見しただけだから良く憶えてねぇ。 でもアレがあいつにとって家を飛び出すほどのお宝だったなんてな、未だに信じらんね」 美人で、優秀で、同年代の誰よりも垢抜けていた妹。 その趣味が同年代の女子からもっとも忌み嫌われる類のものだとは、誰にもいえなかったに違いない。 一体何を間違えてあんなものに手を出したのか想像も付かないが、おそらく、桐乃は―――― 「あたしさ、」 静寂を破って、リノが口を開いた。 「家で居場所無かったんだよね。」 「虐待でもされてのか?」 言ってから、なんて無神経なんだろうと自分を呪った。 リノは気にしたそぶりも見せずに続けた。 「そんなんじゃないんだけどさ、お父さん厳しい人であんまり自由にさせてくれないっていうかさ」 そりゃ、おまえ、高校生でそんな茶髪にしてりゃ目くじらも立てられるだろ…と突っ込もうとしたが、 話の腰を折りそうなので黙っておいた。 「なんか、親の思ったとおり以外のことは全然させてくれないというか、私は人形じゃねー!って思ってさ」 「だから家を出たのか?」 だとすればとんだ自己憐憫だ。明日躊躇無く少年課の窓口に放り込んでやる。 だがリノは首を振った。 「あたしが追い詰められたときにさ、誰も助けてくれなかったんだよね。友達も家族も。お母さんはお父さんの言うことを 聞け、って人だったし、兄貴は幼馴染の彼女に夢中で私になんて興味ないみたいだったし、相談できる友達もいなくてさ、 私って一人ぼっちなのかなって。」 ふふ、と思い出し笑いをするようにリノが笑った。 「したら普通落ち込むじゃん?でもあたし、なんか怒りがふつふつ湧いて来てさ、だったら一人でいきてやらーって」 「それで公園で野宿とか笑えねーぞ。」 「最初のうちは上手く行ってたんだってば。友達の家を泊まり歩きながらバイトして、お金ためて」 「友達頼ってんじゃん」 「だから暫くして住み込みで働かせてくれるお店見つけて、お酒作ってたよ」 「っちょ」 たまらず振り向いてしまった。 仮にも現職の警察官を前に未成年が風営法違反の暴露だと!? 「おまえ、自首してんのか!?」 「別に変な事してたわけじゃないって。そこのママさん凄くいい人だったし。学校も行かせてくれたよ?」 いやすっごくイイ人ってのは未成年雇って酒作らせたりしねぇよ。 っくそ、明日書類に書くことが増えたな…。 「あ、そうだ、働きながら書いてた携帯小説が小説の編集者の目に留まってさ、あたし小説出したんだよね」 「はぁ?小説?」 こんなまとも小説の感想文書けるかもどうか怪しいような奴がか? 「「妹空」ってタイトルなんだけど知らないかなぁ~。けっこう売れたんだよ?」 あぁ~…なんか警察学校にいたころ聞いたような… 「同僚が爆笑しながら読んでたな…」 「はぁ!?爆笑?アレの何処を笑えたっての?!」 「しらねーよ、俺が読んだんじゃねぇんだから…、 てかそんな有名な本出してんならお前いまごろどっかの豪邸に住んでんじゃねーのか?」 「…お金なんてもらってないよ。盗作された。」 今日道端で100円落としちゃった、とでもいうかのように、あっけらかんと言った。 公園でのやり取りから、それが嘘でないことだけは分かった。 「で、一昨日お店も借金残してママが逃げちゃった。」 …無残というか無様な話である。 もしリノの目じりに雫が溜まっていなければ、これだけのことがありながら強かに態度を崩さないこの少女にうすら怖さすら感じるところだった。 必死に溜め込んだものを押し殺そうとしている。多分こいつは、桐乃と凄く似ている。 「さ、こんどはあんたの番。」 「え?」 「あたしにだけ恥かかせる気?」 「恥って、……わかったよ。何が聞きたいんだ?」 「自分で考えろっての…そうだなぁ」 天井をみて考えるそぶりを見せた後、嬉しそうに振り向いた。 「ねぇ、なんで警察官になったの?あんた全然そんな感じしないんだけど」 「うるせぇ…どういう意味だ。」 「なんか迫力が無いって言うか地味って言うか…」 「本当に意味を言った!?」 しかも迫力は兎も角、地味ってなんだ地味って。 これでも少しは気にして同僚に勧められたメンズFU●GE買って勉強をしてるんだぞ!? 「で、どうして?」 「ッチ、」 少し気恥ずかしいので、またリノに背を向けた。 「妹が家を出て行ってから家の雰囲気が悪くなってな、」 「また妹?」 …わるかったな。 それから10分ほど、身の上話をする羽目になった。 親父がしゃべらなくなったこと、お袋がやせたこと。 家に居ることが耐えられなくなり、東京の警察官採用試験を受け、全寮制の警察学校に入ったこと。 親父が予想外に喜び、卒業後に絶対にあったほうが良い、と言って乾燥機能付きの洗濯機を送ってきたことまでベラベラと吐かされた。 喉がカラカラだ。 リノは半ば無関心そうに「ふーん」と言うだけだった。 こんどこそ寝るつもりで俺は瞼を閉じたのだが、そうは行かなかった。 「ねぇ、最後にさ」 妙に神妙な声で、ぽつりぽつりと、リノが言う。 「ん?」 「聞きたいこと、もう一つだけあるんだけど…」 俺は諦めるように溜息を吐き、続きを促した。 どうせ断っても聞いてくるに決まっているからだ。 「あんたさ、――――妹のこと、嫌いなの?」
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http //pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1303394673/621-627 「高坂! 合コン行こうぜ!」 俺の親友である赤城浩平から突拍子もない誘いがあったのは昨日のことである。 受験生の分際で、同じく受験生である俺を合コンに誘うとはどういう了見だよ。 もっとも、受験での息抜きが必要だと俺は思っていたので、渡りに船とばかりに 赤城の誘いを受け入れた。 一応言っておくが、『赤城の誘いを受け入れた』という部分だけを抜き出すのは 厳禁だからな! そして翌日。 俺は合コン会場で赤城からとんでもねえことを言われた。 「相手は何と女子大生!」 「はぁ?」 「そして俺たちも大学生!」 「今、何と?」 赤城のヤツ、俺たちを大学生と言うことにして、女子大生との合コンを セットしたらしい。 「お前、そうだと知っていたら―――」 「来なかっただろ? だから今教えた」 「お前がこんな策士だったとは意外だぜ。褒めて遣わす」 「有り難き幸せ」 「うっせ。ところで大学生同士の合コンってコトは酒が出るのか?」 「あー、それはない。今日の店は酒が出ねえから」 こうなったら腹を括るか。受験の息抜きってコトでな。 俺と赤城のほかヤロー三人の合計五人が合コン会場の店に入って暫くすると、 少しばかり目立つ感じの女子大生五人組がやってきた。 「初めまして~♪ ヨロシクお願いしま~す」 目立つ感じだけあって、綺麗で垢抜けた感じの女(ひと)揃いだ。 それにしても赤城のヤツ、一体ドコで知り合ったんだよ? ん‥‥‥? 端に居るあの女、帽子を目深に被ってロクに顔も見えねえ。 ははーん。さては人数合わせのために、強制連行されてきたんだな。 俺も似たような状態だから文句も言えんが。 そんな俺の怪訝な視線を感じ取ったのか、女子大生の一人が話し出す。 「ごめんなさい。この娘、合コン慣れしてないから、恥ずかしがっているんです」 やはりそうか。ご愁傷様。 「ホラ! 帽子取って!!」 端から二番目に座っている娘がその娘の帽子を奪い取ると、 帽子の下に隠されていた長い黒髪と清楚な表情が晒された。 ―――おお、あやせ、あなたは何故あやせなのか? さてココで俺の脳内に、エロゲばりの選択肢が現れた。 1.『あれ? あやせじゃないか!?』 2.『すっげー可愛い!』 3.『初めまして。俺は高坂京介』 1を選んだら、合コンで男女が知り合いだったなんて雰囲気悪くなるだろう。 サークルクラッシャーなんて誹りを受けた俺にとって、合コンクラッシャーの 称号が追加されるのは何としても避けたい。 2を選んだらどうなるか? 俺はあやせを知らないと言う前提でのセリフだが、 この状況であやせが俺の意図を酌み取ってくれる保証はない。 そのケースにおいて『通報しますよ!』と言う展開が恐ろしい。 結局、3を選ぶしかあるまい。これならあやせだって、 『俺とあやせはこの合コンで初めて合った』という芝居を俺がしているコトに 気付くはずだ。 「初めまして。俺は高坂京介」 「は、初めまして。新垣あやせと申します」 よし。選択肢は正解のようだ。 挨拶もそこそこに、合コンは早くもツーショットコースに突入した。 その途端、あやせは速攻で俺の隣にポジションをキープして来やがった。 「こ、高坂さん? ココ、いいですか?」 「あ、ああ、もちろんだ」 お互いに作り笑いしながらの会話が痛々しい。そしてヒソヒソ話が始まった。 「(お兄さん? どういうつもりですか? 大学生だなんて!)」 「(お前こそ、女子大生ってどういうことだ? 何歳誤魔化しているんだよ!)」 「(わ、わたしは人数合わせでモデル仲間の娘に無理矢理誘われたんです!)」 「(ちょっと待て! モデル仲間だと? あの娘たち、幾つなんだよ?)」 「(わたし以外はみんな高3です)」 「(げ、マジ!? 俺たちと同い年かよ)」 「(皆さんも高3なんですか!?)」 はぁ‥‥‥。お互い、騙し騙されとはな。呆れてモノも言えねえ。 俺たちも甘く見られたもんだな、と思いつつ、赤城の方を見ると 「オイ、高坂。新垣さんといい雰囲気じゃないか。上手くやれよ」 などと暢気な様子。シアワセな赤城が羨ましいぜ。 そんな赤城が入れた茶々の言葉に、あやせの顔は真っ赤になった。 それから合コンは、お調子者赤城の奮闘により、盛り上がって幕を下ろした。 そしてツーショットコースで成立したカップル同士で、自由行動となった。 当然、俺は‥‥‥あやせと自由行動という運びに。ああ、怖ええええ! 「まったくもう! 信じられません!!」 俺との自由行動の中、ウソを吐かれるのが大っ嫌いなあやせは甚くご立腹である。 「大学生だなんて、わたしを騙そうなんて!」 「騙すって‥‥‥! そもそも騙せてないし、騙せるわけ無いだろ」 「言い訳なんて聞きたくありません」 「お前だって、女子大生だと騙そうとしていたじゃないか」 「あれは! あれは‥‥‥。もう知りません!!」 あやせは、消え入りそうな声での反論もそこそこに、俺を放って駆け出した。 おい、待てよ! の俺の呼びかけを無視したあやせは人混みに消えた。 相変わらず聞く耳を持たない女だな。もう放っておくか、とも思ったが、 今回の責任の一端はウソで塗り固められた合コンをセットした赤城の片棒を 担いだ俺にもあるわけで、あやせをこのままにしてなんかおけない。 人混みをかき分けていくと、何やらチャラい様子の男に話し掛けられている あやせがいた。 「どうしたんだ、あやせ?」 「あ、彼氏サンが居たんだね。ゴメンね!」 チャラい様子の男はそう言うと、人混みに消えていった。 「何だか、おかしな人に声を掛けられました」 「この辺には怪しげなスカウト紛いのヤツがいるらしいからな。気をつけろよ」 「はい‥‥‥ありがとうございます」 「礼なんて要らない。そもそもこんなことになったのは俺にも責任の一端が」 「当然じゃないですか! 全部、お兄さんのせいです!!」 あれえ? このシチュエーションでは感謝のキスじゃないのかよ? 堅すぎるガードはいけませんよ? あやせさん。 「罰として、これからわたしに付き合って貰います。まずはあのお店です」 げ。桐乃と同じパターンじゃねえか。荷物持ちか? 何か強請られるのか? どっちにしろ最悪だぜ。 そんなあやせに引っ張り込まれた店―――コスメショップはヤローが入るのは 小っ恥ずかしい場所である。店内を見回すと当然若い女性ばかり。 俺はもう、溶けて無くなってしまいたい気分だ。 「なああやせ、何でこの店なんだよ? 男の俺にはキツ過ぎるぞ」 「特に理由はありません。罰ですからね」 何だよそれ? 理由も無しに引っ張り回すのかよ? 桐乃並みだな。 居たたまれなくなった俺が落ち着きも無くキョロキョロしていると、 店内に貼られているポスターに目が留まった。 そこは見慣れた、そして今、俺と一緒に居る黒髪の美少女が写っていた。 「あやせ、あのポスター‥‥‥」 「見られちゃいましたね。わたし、キャンペーンガールのお仕事を頂いたんです」 「すげえじゃないか」 「ありがとうございます」 『ねえ、あの娘、あやせちゃんじゃない!? あのポスターの!』 『ウッソ!? マジ?』 そんなヒソヒソ声が店内のあちこちから聞こえ始めた。 「お兄さん! 逃げましょう!」 「え? ちょ、」 あやせは俺の手を取って走り出すと、手を取られた俺も一緒に走り出した。 女の子、それもこんな美少女と手を繋いで街中を走るなんて、 俺の人生のキャッシュには収録されてないもんな。 そんな得難い経験をしつつ暫く走った俺達は、建物の壁に背中をもたれて 息を切らせていた。 「まるで映画のワンシーンみたいですね、お兄さん」 「そ、そうだな‥‥‥」 俺のキャッシュを漁っても、エロゲのワンシーンしか出ないのが情けなかった。 ‥‥‥‥‥‥ 俺は今、あやせの家の前に居る。俺にとっては伏魔殿と言うべき場所である。 何しろ、行く度に手錠かけられるわ、階段から落ちるわでロクなことがない。 本当なら来たくもなかったのが、あやせを独りで家に帰すのも気が引けたので、 男の責任としてあやせを送ってきたわけだ。 「お兄さん、送っていただいて、ありがとうございます」 「ああ、今日は済まなかったな」 「ホントですよ! もうあんなウソに荷担しないでくださいね」 「わかったよ」 「それと‥‥‥今日は助けてくれてありがとうございます」 なんだ。やっぱり感謝してくれていたんだ。安心したぜ。 「お兄さん、目を閉じてください」 「え?」 「お願いですから‥‥‥目を閉じてください」 キタ―――――ッ!! 俺の頭の中には『(俺+あやせ)×感謝=キス』の公式が浮かんでいた。 目を閉じて、内心ニヤニヤ顔面デレデレな様子であやせのキスを待っていると、 「えいっ♪」 ムニュ 「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」 あやせは俺の両頬を左右に引っ張った。やりやがったな、このアマ。 チキショー! 騙されたぜ。 「キスすると思ったんじゃありませんか? 変態ですね」 「あのなあ、この状況ならドラマでも漫画でもアニメでもラノベでもエロゲでも キスする場面だろうが! 騙しやがって!!」 「きゃ、大声出さないでください。通報しますよ!」 お前、前世は頭にドクロの髪飾りでも着けた悪魔だったろ! などと伏魔殿の前で伏魔殿の住人に言えるはずもなく、俺は言葉を飲み込んだ。 そんな俺に対して、伏魔殿の住人の口から吐いて出た言葉は、 「もう一度目を閉じてください」 「何で!?」 「お兄さんの変態属性を診断するためです!」 「変態属性って、お前!」 「いいから目を閉じてください。さもないと防犯ブザー鳴らしますよ」 「わかったよ。もうどうにでもしろよ! ハイハイ、目を閉じましたよ!」 チュ 俺の唇に何やら温かく柔らかいモノが触れた。え‥‥‥。 目を開くと、あやせの清楚な顔が俺の目に大写しになっていた。 ええええええ‥‥‥‥!! 狼狽する様子の俺を余所に、あやせははにかみながら言葉を紡いだ。 「本当‥‥‥お兄さんったら、すぐに騙されるんですね。ちょろ過ぎですよ」 「お、お前、今、何を!?」 酷く混乱し、酷く狼狽する俺とは対照的に冷静な様子のあやせは、 清楚な表情を赤らめながら、俺に問いかける。 「わたしの口が何をしたかを、わたしの口から言わせるんですか?」 つまり、“口づけ” “接吻” “チュー” 要するに “キス”をしたってこと!? マジ? マジ?? マジ??? 俺、何時フラグをあやせに立てていたわけ? 「お兄さん。今日はありがとうございました。それでは失礼します」 そう言い残すとあやせは、伏魔殿に向かって歩み始めた。 取り残された俺は、ある想いに耽っていた。 『ブチ殺します』 この言葉から始まったあやせに対する俺の恐怖心。 その恐怖心は顔面ハイキック、手錠、ライターで補強されていった。 だが‥‥‥もしかするとあやせは、俺を騙し続けているのだろうか。 そして俺は騙され続けているのかも知れない。 そして俺は、伏魔殿の中に消えて行くあやせの後ろ姿に向かって言ってやった。 大ウソ吐きのあやせさん。 あなたの口から、いつか必ず本当のことを言わせて見せます。 ってな。 『騙し・騙され・騙しあい』 【了】
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http //pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1308729425/96-111 燦々と降り注ぐ灼熱の日差し。 焼けた砂浜は柔らかい白。 打ち寄せる波は透き通る青。 夏で、海だった。 「兄貴ー、こっちこっちー!」 俺がぶらぶらと散歩をしている間に着替えを済ませた妹が、 ビーチパラソルの影から飛び出してくる。 黒のビキニと白の素肌のコントラストが眩しい。 「どお、似合ってる?」 「ああ、可愛いぞ」 妹は顔を綻ばせ、波打ち際に走り出す。 「競争だよっ」 俺はジーンズとTシャツを脱ぎ(水着は元々穿いてきていた)、妹の背中を追いかけた。 結果は惨敗。 くるぶしを海水に浸し、涼に気を緩めた俺を、水飛沫の洗礼が出迎える。 「あははっ、兄貴ってば、走るの遅すぎィ。食らえっ」 「うわっ、マジやめろって……こんにゃろ」 俺は水飛沫を返しつつ、猛攻を避けつつ、妹との距離を詰めていく。 そして――。 「悪さをするのはこの手か?」 「やっ、離してよぉ。もうしないからぁ」 言葉とは裏腹に、妹は抵抗する素振りを見せない。 濡れたライトブラウンの髪が、妹の額に張り付いていた。 それを取り払ってやりながら、ごく自然に、唇を合わせた。 「んっ……はぁ……っ……」 軽く舌を絡ませる。 交わした吐息は、夏の空気よりも熱く湿っていた。 妹は銀色の橋架を指先で切りながら、 「……海の味がした」 これまた詩的なことを言う。 俺は原因を言ってやった。 「お前にさんざ海水をぶっかけられたからな」 「あはっ、それもそうだよね」 妹は無邪気に笑い、俺の胸に抱きついてくる。 普段なら優しく頭を撫でてやるところだが……露出した肌と肌の触れあいが、否応なく性欲を刺激する。 俺は……。 1.せっかく海に来たんだ。泳がなくてどうする。 2.りんこへの愛を抑えることはできない。 ――ここまでエロゲ。 しすしすスペシャルファンディスクの主人公と義理の妹りんこりんの物語である。 一応訊いとくが、まさか俺と桐乃の物語だと勘違いしてたヤツはいねえよな? 「どっち選ぶの?」 と桐乃が催促してくる。 そう慌てるな。 俺は淀みなくマウスを動かし、1番を選択した。 「……………なんで?」 「そりゃあ、海に来たんだから、泳がなくちゃ損だろうが」 というのは建前で、2番からは危険な香りがプンプン漂ってくるからである。 妹と一緒にエロゲーのHシーンを鑑賞したところで、死ぬほど気まずいだけ。 一年前はそう思っていた。 が、ここ最近、特に俺たちの肩書きが兄妹と恋人(←new)に更新された一時間ほど前からは、 一年前とは別の意味で、Hシーン回避に全力をかけている俺がいる。 「でも、なんでこんなところに選択肢があるんだろうな」 大抵のファンディスクは一本道じゃないか、と素朴な疑問を口にすると、桐乃は不満げに唇を尖らせて、 「エロゲーにも色々あるでしょ? 純愛ゲーとか抜きゲーとか。 しすしすはどっちかって言うと純愛ゲーで、Hシーン飛ばしてる人も多いんだよね。 そういう人に配慮したんだと思う。 あたしには理解できないケド」 あのー、エロゲって基本、男性向けですよね? 妹萌え成分を日常描写から補給するのはまだ理解できるとして、 女のお前がHシーン見て何が楽しいんだよ。 お前もしかしてアレか、主人公に自己投影して、ヒロインを犯す気分を味わってるのか……。 と訊くまでもなく、桐乃は答えを言ってくれた。 柳眉をいっぱいに逆立てて。 「Hシーン飛ばす人は、しすしすの魅力を何も分かってない! だってだって、快楽に身悶えするりんこりんの表情、ホンットに超可愛いんだよ!?」 オーケー、お前の魂の叫びはとくと伝わった。 だがもうちっと声のトーンを抑えような? 家に親父やお袋がいたら、確実にすっ飛んできてたぞ。 それからしばらくは平穏な日常描写が続いた。 主人公とりんこりんは色々な場所に出かけ、夏を目一杯満喫した。 作中に漂う雰囲気的に、エンディング間近といったところで、 「もっと早くにプレイすれば良かった」 と桐乃が呟く。 「このファンディスクが発売されたのはいつなんだ?」 「先月の初めくらい、かな」 「意外だな。お前がしすしすの続編を一ヶ月も積んでたなんてよ」 「んー……色々と忙しかったからね」 リアの来日に偽装デート、コミケ遊覧に御鏡襲来と、確かにイベント盛りだくさんだったな。 でも、それとなく時間を見つけてプレイすることは出来たんじゃねえか? 「あ、あたしは……兄貴と一緒にやりたかったの。 しすしすはたくさんあるエロゲの中でも、特に思い入れのある作品だし?」 「桐乃……」 俺はじんと来ていた。 傍から聞いてりゃトチ狂った兄妹と思われても仕方ないが、今更恥も外聞もねえ。 桐乃可愛いよ桐乃。 内心の倒錯的な愛情を紳士的な台詞に変換し、 「なかなか構ってやれる暇が作れなくて悪かった。 でも、お前も遠慮すること無かったんだぜ」 いつもみたく部屋に飛び込んで来て、 『エロゲーしよっ!』と俺を引きずって行けばよかったんだ……。 いや、ここ最近は偽彼氏事件が尾を引いて、険悪なムードが続いていたんだっけか。 桐乃はディスプレイに視線を戻し、 「……夏、もうすぐ終わっちゃうね」 ゲーム内時間は、八月の終わり。 現実時間は、八月の半ばを過ぎたあたり。 常日頃からニブチンと叩かれてやまない俺も、このときばかりは言外の意図を察したさ。 「何言ってんだ。 夏休みはまだ二週間近くも残ってるじゃねえか」 遊園地に海にプールに花火大会に流星鑑賞、夏の風物詩を楽しむ時間に不足はねえよ。 この主人公の受け売りみたいでイヤだが、 「行きたいところがあるなら言え。 どこでも連れてってやる」 「どこでも?」 「ああ、どこでもだ」 「じゃあ、海がいい。 撮影の時に使った水着、何着かもらってて、それが超可愛くてさぁ――」 桐乃の話に相槌を打ちながら、俺はマウスをクリックする。 街での買い物を終えた主人公とりんこりんは、手を繋いで帰路を歩む。 流れるはひぐらしの清音、背後に伸びる影法師は細く長く。 『いつまでも一緒だよ』と最後に互いの想いを確かめ、画面が暗転、Endの三文字がフェードイン。 佳境もなく、劇的なオチもなく……。 そんな、純愛日常モノのファンディスクにしてはありきたりの最後を予想していた。 結果から言う。 エロゲはやはりエロゲだった。 帰宅した主人公とりんこりんは、買い物袋を床に置き、一息吐いたところで見つめ合った。 『ねえ……あたしたち最近、シてなくない?(←りんこりん)』 そりゃそうだ。 Hシーンに繋がりそうな選択肢は徹底的に避けていたからな。 どうせ今回もH回避用の選択肢が用意されているんだろう、とクリックを続けると、 『あたし、もう我慢できない(←りんこりん)』 『俺もだ。好きだ、りんこ(←主人公)』 最後の最後の不可避H……だと? おい待て、性欲に溺れるのはやめろ! 俺の心の叫びも虚しく、画面にはピンク色のエフェクトがかかり、立ち絵は美麗CGに変化する。 流石は本編で初H経験済みの二人とあって、 あれよあれよという間にりんこは生まれたままの姿に早変わり。 ゴクリ、と喉を慣らす音が重なった。 マウスにかけた指先が止まる。 「先、進めないの?」 「いいのか、進めても」 俺の本能の箍が最後まで壊れない保証はできねえぞ。 あと無意識でやってるのか知らんが、内股をもじもじと擦り合わせるのはよせ、 それ女の扇情的な仕草ランキング審査委員特別賞を受賞するレベルの仕草だから。 桐乃は平静を装っているのがバレバレの声音で、 「こ、ここからが良いトコでしょ。 あたしに言わせれば、なんで今まで避けてきたの、って感じ」 「……分かったよ」 どうなっても知らねえからな。 俺は設定で『オートモード』を選択する。 よほど溜まっていたらしく、前戯もそこそこに主人公は挿入を開始した。 『匂い立つ雌の匂いに目眩がした。 濡れそぼった茂みを掻き分け、秘蜜の源泉たる割れ目を探し当てる。 軽く腰を突き出しただけで、一物はいとも容易く呑み込まれた。 ぴっちりと絡みつく肉襞は、喩えるなら飢えた獣だ。 一刻も早く精を絞り尽くさんと、蠕動の妙絶にて一物を攻め立ててくる。(←主人公モノローグ)』 『あぁっ……いいよっ……兄貴、もっと動いてっ……もっと激しくしてぇっ……!(←りんこりん)』 序盤からクライマックスである。 文章やCGからは目を逸らせても、如何ともしがたいのがエロボイスで、 りんこりんの艶やかな嬌声を聞かされてリアルの一物が反応しないヤツは、 聖人君子か不能者くらいだろうよ、と俺は誰ともナシに言い訳する。 つまるところ、俺は勃っていた。 それとなく片膝をついてテントを隠し、バレてないよな、と隣を見れば、 桐乃はハァハァと呼吸を荒くしてりんこりんの肢体に魅入るでもなく、 顔を真っ赤に上気させ、両手を内股に挟み込み、切なげな呼気を漏らしてこちらを伺っている。 ああ、クソ。 ただでさえ理性が飛びかけている時に、反則行為の三点セットときたもんだ。 心頭滅却すれば火もまた涼し、と故人は言ったが、そいつ結局焼死してて説得力に欠けるから困る。 「しても、いいよ?」 と不意に桐乃が言った。 目的語不在の言葉に、想像の両翼は自重を知らずに羽ばたき始める。 「兄貴も男だし、あ、あんまり我慢するのも体によくないと思うし」 それにさ、と桐乃は俯いて言う。 「さっきも言ってたじゃん。 あたしたちの他に誰もいないときは、恋人らしいことをするって……」 親は日帰り旅行で不在。 俺たちは家に二人きり。 傍らには清潔なベッド。 恋人っぽいことをするには絶好のシチュエーションだ。 これ以上は望めない。 またしても心の悪魔が囁く。 今犯さずしていつ犯す? 心も体も準備万端、押せば倒れる脆さを晒す女を前に、逡巡はどこまでも無価値だぜ? ……応とも。 まったくもってお前の言うとおりだ。 今まで何を悩んでたんだか、自分が馬鹿らしくなってくるね。 理性よさらば。 本能よこんにちわ。 俺は桐乃に覆い被さりかけ――。 「してもいいよ……キス」 ――目を瞑り、薄桃色の唇を突き出す妹の姿を見た。 え?……キス?キス、だけ? あー……あっはっはは、そうですよね、いや、うん、分かってたよ、 恋人らしいことと言えば、チューに決まってるじゃないか、もちろん俺は最初からそのつもりだったさ。 とまあ白々しい言い訳はここまでにして、たとえキスでも、 俺たちの肩書きを鑑みれば、栄えある背徳的行為第一号には変わりない。 緊張と興奮に脳髄が痺れた。 が、次の瞬間には、俺は桐乃の唇に、自分のそれを押し当ててていた。 「んっ……」 妹とキスしている。 非現実的な現実は、不思議とあっさり飲み込めた。 舌先で閉じた唇を割り、桐乃の舌を探し当てる。 「っ……ぁ……ふぁ……」 ここまでされるのは予想外だったんだろう。 桐乃は驚きに大きく目を見開きながらも、 数秒後には、自分から舌を絡めてきてくれた。 淫靡な水音が響く。 唇と一緒に唾液を吸い、舌で口蓋を蹂躙する。 このとき既に俺の脳味噌は完全に出来上がっていて、 手は桐乃の後頭部から、着々と胸へと南下しつつあった。 ヤバイ。止まらねえ。 桐乃も止めろよ。 許すのはキスだけで、最後までするのはイヤなんじゃないのかよ。 指先が至上の弾力に触れる。 「あっ……」 さあ平手打ちしろ。渾身の力で俺を突き飛ばせ。 果たして桐乃はピクリと身動きしたのみで、 ああ、なんてこった、暴走は看過されちまった。 もはや俺を阻むものは何も無い。 俺はそっと桐乃に体重をかけ、本格的に南方侵略を開始した。 その時だった。 「ただいまー。桐乃、京介、二階にいるのー? お母さん帰ってきたわよー」 脳裏を過ぎるは、最悪の未来。 まぐわう息子と娘を目撃したお袋は、まず絶句し、次に親父の名を叫び、最後に卒倒するだろう。 俺たちは迅速かつ的確に行為の証拠隠滅を完遂した。 即興のコンビネーションは血の繋がりが成せる業か。 トントン。 「入るわよー?」 「は、はぁい」 「桐乃ー、京介どこにいるか知らない?……って、あんた桐乃の部屋で何してるの?」 「桐乃に勉強見てくれって頼まれてさ。 夏休みの宿題で難しいところがあったみたいで……な、桐乃?」 「そっ、そうなの! 理科の先生が超意地悪でさあ、有り得なくらい難しい宿題を出してきたんだよね」 お袋はジト目で俺たちの顔を交互に見遣り、 「ふぅん、桐乃が京介に宿題を手伝ってもらうなんてねえ……いつ以来かしら」 これ以上追及されたらボロが出る。 そうなる前に、と俺は訊いた。 「お袋たち、帰りは遅くなるんじゃなかったのか?」 「それがねえ、あの人、急に職場から呼び出さちゃって、 一人で温泉を楽しむのもアレだし、帰ってきたのよ」 なるほど、さっきから親父の気配を感じないのはそのせいか。 幸いなことにお袋に長居するつもりはなかったようで、 「京介、あんた桐乃に勉強教えてあげるのはいいけど、変なことしちゃダメよ」 と釘を刺して出て行った。 俺は桐乃と顔を見合わせ、深い深い息を吐く。 お袋は冗談で言っていたのだろうが、ついさっきまで俺たちは「変なこと」の真っ最中だったのだ。 「ふふっ、危ないトコだったね」 ここで笑えるお前の胆力に感心するよ。 ピンク色のムードはどこへやら、緩慢な空気が流れる。 桐乃はおもむろに唇に人差し指の腹を当てると、 「さっきの……ファーストキスじゃなかった、って言ったらどうする?」 「別に……どうもしねえよ」 お前も中学三年生だ。 兄妹関係が冷え切っていたときに、 彼氏の一人や二人いたとしても、今更怒りやしないさ。 「ぷっ、兄貴ってば、すっごい顔が強張ってる」 「うるせえ」 「あたしのファーストキスを奪った誰かに嫉妬してるんだ?」 こいつめ、なんでこんなに嬉しそうなんだ? 俺の心をナイフで抉るのがそんなに楽しいのか。 「やっぱり忘れちゃってるんだね」 何を。 「小さい頃に、キスしたこと」 誰と誰が。 「あたしと兄貴が」 マジで? 「うん。今日みたいに、あたしと兄貴がお留守番を任されたことがあって、 そのときに二人でテレビ見てたら、ちょうど昼ドラが流れてたの。ドッロドロのやつ」 止めろよ、当時の俺。 なぜ桐乃の目を覆って子供アニメのビデオをセットしてやらなかったんだ。 「そんなに過激なシーンは無かったよ。 あっても、精々キスくらい。 それでね、あたしもあんたも、その頃は全然そういうことを知らなくて、 二人で実際にやってみない?ってことになったの」 「どっちが言い出したんだ?」 「……あ、あんたに決まってるじゃん」 怪しい。 が、今言及すべきはそこじゃない。 「それがお前のファーストキスか」 「うん。でも、あたしが言うのもなんだけど、あんなのはファーストキスのうちに入らないと思う。 半分、遊びみたいなものだったし、あんたは次の日には忘れちゃってたし……」 なぜ恨めしげな目でこちらを見る。 俺は言った。 「それじゃあ、実質的なファーストキスはさっきの、ってことでいいのか」 「うん。そだね……それでいい」 桐乃はクスリと笑い、冒頭のりんこりんの台詞に準えて言った。 「……ソースの味がした」 これまた散文的なことを言う。 俺は原因を言ってやった。 「昼飯に焼きそばを食べたからな」 「あはっ、それもそうだよね」 それから俺たちは、ひとつ約束事をした。 次に恋人らしいことをするときは、事前に歯を磨いておこう、ってさ。 おしまい! 続くかな~?
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http //yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1289713269/685-689 「何よ、これ。」 桐乃が擦れた声で呟く。俺が今まで見たことの無い表情で。 怒りか、悲しみか、そのどちらの感情なのか、その目からは読み取ることができない。 「何の真似よ…これ。」 桐乃が一歩後ろへ後ずさる。ガタンと扉にぶつかる音が響く。 そのままその場に倒れてしまいそうな。 「いや、待て桐乃!誤解だ!これは事故なん―――」 「嘘つかないで!」 ビリビリビリ。桐乃の声が部屋にこだまする。俺の弁解を遮るように。 「バカにしないで!あんた今その黒いのに―――」 そこで、一瞬言い淀む。そして、そのまま下を向き、消え入りそうな声で呟く。 「――黒猫に…キスをしようとしたじゃない。」 ――――っ! 俺はキスをしようとしていたのか?確かに黒猫の唇には惹かれていた。 だが、顔を近づけてはいないはず…いや、分からない。本当に分からない。 頭が真っ白になるとは、正にこのことだろう。 「…ふっ、黒猫も黒猫よ。何、駄目って?バッカみたい」 そう言って口元は笑おうとしているように見えた。だが引き攣った唇は 意図した形を作ることができず、桐乃は顔をさらに埋める。 肩が、震えているような気がした。 「桐乃…」 泣いているのか? 「うるさい!」 桐乃はキッと俺を睨み叫ぶ。 「この変態!!あーあ、あんたら似合いのカップルよ! そのままラブホでもどこでも行けば!?じゃあね!!」 踵を返し、桐乃が部屋を飛び出した。まるで、何かから逃げるように。 「おい!待てよ!!」 慌てて俺は追いかける。追いかけながら考える。あの表情の意味を。 なんでここまで怒るんだ?親友を取られた気がするからか? 「おい!桐乃!!開けろよ!話を聞いてくれ!!」 「うるさい!あっち行け!」 俺は祈るようにドアを叩く。ここで引き下がったら、何かを失う気がした。 何を?分からない。ただ、これまで築き上げてきたもの全てを失う気がした。 だから桐乃、開けてくれ…頼むから開けてくれ… 1時間後、俺は呆然とした状態で自室に帰っていた。結局、そのドアが開かれることはなかった。 情けない話だが、その時の俺は、傍からみて抜け殻そのものだったのだろう。 「…ごめんなさい。」 意外なその一言にハッとして振り向く。見ると黒猫が肩をすぼませ俯いている。 つーか何でおまえが謝るんだよ!確かにこの状況を作ったのはおまえだ。 けど、悪いのはキスをしようとした俺だろうがよ! そう――そう言おうとしたのに、何も…何も喋れないんだよ。言葉が出てこないんだよ。 少し長い沈黙のあと、 「…帰るわね。」 そう一言呟き、黒猫は俺の部屋をあとにした。 ――数日後。 あれから俺は桐乃と一言も会話できていない。今まで何度も喧嘩してきた俺たちだが、 今回はいつもと違うような気がする。あいつは俺と顔を合わす度に、ビクッと体を震わせ視線を外すんだ。 まるで、何かに怯えているように。 「はぁ、どうすりゃいいんだよ。」 俺はため息をつき、天井を仰ぐ。そういえばあれから黒猫とも会っていない。 あいつはあいつで相当落ち込んでるだろうな。普段から毒舌振りまいてはいるが、人一倍責任感の 強いやつだからなぁ。 沙織ならどうするかな。…そうじゃん!なんで今まで気づかなかったんだろう。あいつに相談してみよう! そう思った矢先、 ピリピリピリ 突然メールの着信音が部屋に響いた。誰だ?沙織か?恐る恐る携帯を開く。差出人は…黒猫だった。 「三時に駅前のカフェに来て頂戴」 「あれからあの子とは話をできたかしら?」 手をつけてないホワイトモカを前に、黒猫が切り出した。 「いや、全く。…今回ばかりはホントお手上げだよ。」 「そう…」 そんなやりとりの後、俺たちは黙り込んでしまう。店内には静かなカントリーミュージックが流れていた。 この穏やかな店内を見てると、先日の出来事が嘘のようにさえ感じてしまうな。 「あいつ、おまえを取られるのがよっぽど怖かったんだろうな。」 なんとなしに俺が呟くと、黒猫が驚いたようにこちらを見据え、そして呆れたような口調で言った。 「はぁ…あなたは、本当に何も分かっていないようね。察しが悪いにも程があると言うものだわ」 「ふん。どうせ俺は頭の悪い鈍い男だよ。」 そうは言ったものの、黒猫の言いたいことも少しは分かる気がする。こいつは兄を取られるのが怖いとでも 言いたいのだろう。それも少なからずあるかもしれない。たぶんその両方。兄と親友。その両方がいなくなる。 そんなことを危惧し、あいつは怯えているのだろう。 「…沙織に相談してみるか。」 「そうね。けどその前に―――」 窓の外に目を向けていた黒猫がこちらに向き直る。 「寄ってもらいたいところがあるの。」
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Venus Blood DATA パラメータ内容 DATA ブランド Dualtail(旧DualMage) 発売年月日 04/20/2007 体験版 あり(335MB) 修正ファイル なし ディスクレス 可能 攻略可能ヒロイン 3人 回想モード CG Hシーン 音楽 ENDING CG数 102枚(差分なし) Hシーン数 70個 音楽 BGM10曲 歌1曲 音声 女性のみフルボイス(早乙女綾 咲ゆたか 深井晴花 千房こまめ 和葉) 音量調整 ボリューム調整対応 キャラ毎の音量調整非対応 スキップ 未既読対応(ctrlはスキップショートカットキーで強制スキップではない) バックログ バッグログ中の音声再生対応 右クリック ウインドウ消去 ホイール ログ対応 セーブ数 50個 クイックセーブ あり オートセーブ なし 攻略済みデータ あり(saveフォルダ内同名ファイルに上書きしてください) 攻略ページ あり(攻略チャートではなく、あくまでヒントページです) 2ch感想置き場 あり 備考 一周最短30分。最長3時間程度。バッググラウンドで動作。触手ゲー パラメータ内容 キャラの状態 瀕死(※) 衰弱 疲弊 普通 隷属 洗脳 快楽 エナジー 主人公の体力のようなもの。調教に必要。最大値5000 スートラ 調教によって得られる金銭のようなもの。エンド条件。この数値の1/4程度が休憩での回復量になる 調教 キャラごとに設定されている調教回数。合計値が一定以下で数ターン後強制ゲームオーバー 深度 キャラごとに設定されている調教進行度。1-5の五段階。上がれば上がるほど調教が増加 堕落 キャラごとに設定されている調教進行度兼クリアボーナス値。高ければ調教時のスートラの上昇値も増加 ※死亡することはない。キャラの調教が回復するまで不可能になるペナルティのみ。
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http //pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1308729425/96-111 燦々と降り注ぐ灼熱の日差し。 焼けた砂浜は柔らかい白。 打ち寄せる波は透き通る青。 夏で、海だった。 「兄貴ー、こっちこっちー!」 俺がぶらぶらと散歩をしている間に着替えを済ませた妹が、 ビーチパラソルの影から飛び出してくる。 黒のビキニと白の素肌のコントラストが眩しい。 「どお、似合ってる?」 「ああ、可愛いぞ」 妹は顔を綻ばせ、波打ち際に走り出す。 「競争だよっ」 俺はジーンズとTシャツを脱ぎ(水着は元々穿いてきていた)、妹の背中を追いかけた。 結果は惨敗。 くるぶしを海水に浸し、涼に気を緩めた俺を、水飛沫の洗礼が出迎える。 「あははっ、兄貴ってば、走るの遅すぎィ。食らえっ」 「うわっ、マジやめろって……こんにゃろ」 俺は水飛沫を返しつつ、猛攻を避けつつ、妹との距離を詰めていく。 そして――。 「悪さをするのはこの手か?」 「やっ、離してよぉ。もうしないからぁ」 言葉とは裏腹に、妹は抵抗する素振りを見せない。 濡れたライトブラウンの髪が、妹の額に張り付いていた。 それを取り払ってやりながら、ごく自然に、唇を合わせた。 「んっ……はぁ……っ……」 軽く舌を絡ませる。 交わした吐息は、夏の空気よりも熱く湿っていた。 妹は銀色の橋架を指先で切りながら、 「……海の味がした」 これまた詩的なことを言う。 俺は原因を言ってやった。 「お前にさんざ海水をぶっかけられたからな」 「あはっ、それもそうだよね」 妹は無邪気に笑い、俺の胸に抱きついてくる。 普段なら優しく頭を撫でてやるところだが……露出した肌と肌の触れあいが、否応なく性欲を刺激する。 俺は……。 1.せっかく海に来たんだ。泳がなくてどうする。 2.りんこへの愛を抑えることはできない。 ――ここまでエロゲ。 しすしすスペシャルファンディスクの主人公と義理の妹りんこりんの物語である。 一応訊いとくが、まさか俺と桐乃の物語だと勘違いしてたヤツはいねえよな? 「どっち選ぶの?」 と桐乃が催促してくる。 そう慌てるな。 俺は淀みなくマウスを動かし、1番を選択した。 「……………なんで?」 「そりゃあ、海に来たんだから、泳がなくちゃ損だろうが」 というのは建前で、2番からは危険な香りがプンプン漂ってくるからである。 妹と一緒にエロゲーのHシーンを鑑賞したところで、死ぬほど気まずいだけ。 一年前はそう思っていた。 が、ここ最近、特に俺たちの肩書きが兄妹と恋人(←new)に更新された一時間ほど前からは、 一年前とは別の意味で、Hシーン回避に全力をかけている俺がいる。 「でも、なんでこんなところに選択肢があるんだろうな」 大抵のファンディスクは一本道じゃないか、と素朴な疑問を口にすると、桐乃は不満げに唇を尖らせて、 「エロゲーにも色々あるでしょ? 純愛ゲーとか抜きゲーとか。 しすしすはどっちかって言うと純愛ゲーで、Hシーン飛ばしてる人も多いんだよね。 そういう人に配慮したんだと思う。 あたしには理解できないケド」 あのー、エロゲって基本、男性向けですよね? 妹萌え成分を日常描写から補給するのはまだ理解できるとして、 女のお前がHシーン見て何が楽しいんだよ。 お前もしかしてアレか、主人公に自己投影して、ヒロインを犯す気分を味わってるのか……。 と訊くまでもなく、桐乃は答えを言ってくれた。 柳眉をいっぱいに逆立てて。 「Hシーン飛ばす人は、しすしすの魅力を何も分かってない! だってだって、快楽に身悶えするりんこりんの表情、ホンットに超可愛いんだよ!?」 オーケー、お前の魂の叫びはとくと伝わった。 だがもうちっと声のトーンを抑えような? 家に親父やお袋がいたら、確実にすっ飛んできてたぞ。 それからしばらくは平穏な日常描写が続いた。 主人公とりんこりんは色々な場所に出かけ、夏を目一杯満喫した。 作中に漂う雰囲気的に、エンディング間近といったところで、 「もっと早くにプレイすれば良かった」 と桐乃が呟く。 「このファンディスクが発売されたのはいつなんだ?」 「先月の初めくらい、かな」 「意外だな。お前がしすしすの続編を一ヶ月も積んでたなんてよ」 「んー……色々と忙しかったからね」 リアの来日に偽装デート、コミケ遊覧に御鏡襲来と、確かにイベント盛りだくさんだったな。 でも、それとなく時間を見つけてプレイすることは出来たんじゃねえか? 「あ、あたしは……兄貴と一緒にやりたかったの。 しすしすはたくさんあるエロゲの中でも、特に思い入れのある作品だし?」 「桐乃……」 俺はじんと来ていた。 傍から聞いてりゃトチ狂った兄妹と思われても仕方ないが、今更恥も外聞もねえ。 桐乃可愛いよ桐乃。 内心の倒錯的な愛情を紳士的な台詞に変換し、 「なかなか構ってやれる暇が作れなくて悪かった。 でも、お前も遠慮すること無かったんだぜ」 いつもみたく部屋に飛び込んで来て、 『エロゲーしよっ!』と俺を引きずって行けばよかったんだ……。 いや、ここ最近は偽彼氏事件が尾を引いて、険悪なムードが続いていたんだっけか。 桐乃はディスプレイに視線を戻し、 「……夏、もうすぐ終わっちゃうね」 ゲーム内時間は、八月の終わり。 現実時間は、八月の半ばを過ぎたあたり。 常日頃からニブチンと叩かれてやまない俺も、このときばかりは言外の意図を察したさ。 「何言ってんだ。 夏休みはまだ二週間近くも残ってるじゃねえか」 遊園地に海にプールに花火大会に流星鑑賞、夏の風物詩を楽しむ時間に不足はねえよ。 この主人公の受け売りみたいでイヤだが、 「行きたいところがあるなら言え。 どこでも連れてってやる」 「どこでも?」 「ああ、どこでもだ」 「じゃあ、海がいい。 撮影の時に使った水着、何着かもらってて、それが超可愛くてさぁ――」 桐乃の話に相槌を打ちながら、俺はマウスをクリックする。 街での買い物を終えた主人公とりんこりんは、手を繋いで帰路を歩む。 流れるはひぐらしの清音、背後に伸びる影法師は細く長く。 『いつまでも一緒だよ』と最後に互いの想いを確かめ、画面が暗転、Endの三文字がフェードイン。 佳境もなく、劇的なオチもなく……。 そんな、純愛日常モノのファンディスクにしてはありきたりの最後を予想していた。 結果から言う。 エロゲはやはりエロゲだった。 帰宅した主人公とりんこりんは、買い物袋を床に置き、一息吐いたところで見つめ合った。 『ねえ……あたしたち最近、シてなくない?(←りんこりん)』 そりゃそうだ。 Hシーンに繋がりそうな選択肢は徹底的に避けていたからな。 どうせ今回もH回避用の選択肢が用意されているんだろう、とクリックを続けると、 『あたし、もう我慢できない(←りんこりん)』 『俺もだ。好きだ、りんこ(←主人公)』 最後の最後の不可避H……だと? おい待て、性欲に溺れるのはやめろ! 俺の心の叫びも虚しく、画面にはピンク色のエフェクトがかかり、立ち絵は美麗CGに変化する。 流石は本編で初H経験済みの二人とあって、 あれよあれよという間にりんこは生まれたままの姿に早変わり。 ゴクリ、と喉を慣らす音が重なった。 マウスにかけた指先が止まる。 「先、進めないの?」 「いいのか、進めても」 俺の本能の箍が最後まで壊れない保証はできねえぞ。 あと無意識でやってるのか知らんが、内股をもじもじと擦り合わせるのはよせ、 それ女の扇情的な仕草ランキング審査委員特別賞を受賞するレベルの仕草だから。 桐乃は平静を装っているのがバレバレの声音で、 「こ、ここからが良いトコでしょ。 あたしに言わせれば、なんで今まで避けてきたの、って感じ」 「……分かったよ」 どうなっても知らねえからな。 俺は設定で『オートモード』を選択する。 よほど溜まっていたらしく、前戯もそこそこに主人公は挿入を開始した。 『匂い立つ雌の匂いに目眩がした。 濡れそぼった茂みを掻き分け、秘蜜の源泉たる割れ目を探し当てる。 軽く腰を突き出しただけで、一物はいとも容易く呑み込まれた。 ぴっちりと絡みつく肉襞は、喩えるなら飢えた獣だ。 一刻も早く精を絞り尽くさんと、蠕動の妙絶にて一物を攻め立ててくる。(←主人公モノローグ)』 『あぁっ……いいよっ……兄貴、もっと動いてっ……もっと激しくしてぇっ……!(←りんこりん)』 序盤からクライマックスである。 文章やCGからは目を逸らせても、如何ともしがたいのがエロボイスで、 りんこりんの艶やかな嬌声を聞かされてリアルの一物が反応しないヤツは、 聖人君子か不能者くらいだろうよ、と俺は誰ともナシに言い訳する。 つまるところ、俺は勃っていた。 それとなく片膝をついてテントを隠し、バレてないよな、と隣を見れば、 桐乃はハァハァと呼吸を荒くしてりんこりんの肢体に魅入るでもなく、 顔を真っ赤に上気させ、両手を内股に挟み込み、切なげな呼気を漏らしてこちらを伺っている。 ああ、クソ。 ただでさえ理性が飛びかけている時に、反則行為の三点セットときたもんだ。 心頭滅却すれば火もまた涼し、と故人は言ったが、そいつ結局焼死してて説得力に欠けるから困る。 「しても、いいよ?」 と不意に桐乃が言った。 目的語不在の言葉に、想像の両翼は自重を知らずに羽ばたき始める。 「兄貴も男だし、あ、あんまり我慢するのも体によくないと思うし」 それにさ、と桐乃は俯いて言う。 「さっきも言ってたじゃん。 あたしたちの他に誰もいないときは、恋人らしいことをするって……」 親は日帰り旅行で不在。 俺たちは家に二人きり。 傍らには清潔なベッド。 恋人っぽいことをするには絶好のシチュエーションだ。 これ以上は望めない。 またしても心の悪魔が囁く。 今犯さずしていつ犯す? 心も体も準備万端、押せば倒れる脆さを晒す女を前に、逡巡はどこまでも無価値だぜ? ……応とも。 まったくもってお前の言うとおりだ。 今まで何を悩んでたんだか、自分が馬鹿らしくなってくるね。 理性よさらば。 本能よこんにちわ。 俺は桐乃に覆い被さりかけ――。 「してもいいよ……キス」 ――目を瞑り、薄桃色の唇を突き出す妹の姿を見た。 え?……キス?キス、だけ? あー……あっはっはは、そうですよね、いや、うん、分かってたよ、 恋人らしいことと言えば、チューに決まってるじゃないか、もちろん俺は最初からそのつもりだったさ。 とまあ白々しい言い訳はここまでにして、たとえキスでも、 俺たちの肩書きを鑑みれば、栄えある背徳的行為第一号には変わりない。 緊張と興奮に脳髄が痺れた。 が、次の瞬間には、俺は桐乃の唇に、自分のそれを押し当ててていた。 「んっ……」 妹とキスしている。 非現実的な現実は、不思議とあっさり飲み込めた。 舌先で閉じた唇を割り、桐乃の舌を探し当てる。 「っ……ぁ……ふぁ……」 ここまでされるのは予想外だったんだろう。 桐乃は驚きに大きく目を見開きながらも、 数秒後には、自分から舌を絡めてきてくれた。 淫靡な水音が響く。 唇と一緒に唾液を吸い、舌で口蓋を蹂躙する。 このとき既に俺の脳味噌は完全に出来上がっていて、 手は桐乃の後頭部から、着々と胸へと南下しつつあった。 ヤバイ。止まらねえ。 桐乃も止めろよ。 許すのはキスだけで、最後までするのはイヤなんじゃないのかよ。 指先が至上の弾力に触れる。 「あっ……」 さあ平手打ちしろ。渾身の力で俺を突き飛ばせ。 果たして桐乃はピクリと身動きしたのみで、 ああ、なんてこった、暴走は看過されちまった。 もはや俺を阻むものは何も無い。 俺はそっと桐乃に体重をかけ、本格的に南方侵略を開始した。 その時だった。 「ただいまー。桐乃、京介、二階にいるのー? お母さん帰ってきたわよー」 脳裏を過ぎるは、最悪の未来。 まぐわう息子と娘を目撃したお袋は、まず絶句し、次に親父の名を叫び、最後に卒倒するだろう。 俺たちは迅速かつ的確に行為の証拠隠滅を完遂した。 即興のコンビネーションは血の繋がりが成せる業か。 トントン。 「入るわよー?」 「は、はぁい」 「桐乃ー、京介どこにいるか知らない?……って、あんた桐乃の部屋で何してるの?」 「桐乃に勉強見てくれって頼まれてさ。 夏休みの宿題で難しいところがあったみたいで……な、桐乃?」 「そっ、そうなの! 理科の先生が超意地悪でさあ、有り得なくらい難しい宿題を出してきたんだよね」 お袋はジト目で俺たちの顔を交互に見遣り、 「ふぅん、桐乃が京介に宿題を手伝ってもらうなんてねえ……いつ以来かしら」 これ以上追及されたらボロが出る。 そうなる前に、と俺は訊いた。 「お袋たち、帰りは遅くなるんじゃなかったのか?」 「それがねえ、あの人、急に職場から呼び出さちゃって、 一人で温泉を楽しむのもアレだし、帰ってきたのよ」 なるほど、さっきから親父の気配を感じないのはそのせいか。 幸いなことにお袋に長居するつもりはなかったようで、 「京介、あんた桐乃に勉強教えてあげるのはいいけど、変なことしちゃダメよ」 と釘を刺して出て行った。 俺は桐乃と顔を見合わせ、深い深い息を吐く。 お袋は冗談で言っていたのだろうが、ついさっきまで俺たちは「変なこと」の真っ最中だったのだ。 「ふふっ、危ないトコだったね」 ここで笑えるお前の胆力に感心するよ。 ピンク色のムードはどこへやら、緩慢な空気が流れる。 桐乃はおもむろに唇に人差し指の腹を当てると、 「さっきの……ファーストキスじゃなかった、って言ったらどうする?」 「別に……どうもしねえよ」 お前も中学三年生だ。 兄妹関係が冷え切っていたときに、 彼氏の一人や二人いたとしても、今更怒りやしないさ。 「ぷっ、兄貴ってば、すっごい顔が強張ってる」 「うるせえ」 「あたしのファーストキスを奪った誰かに嫉妬してるんだ?」 こいつめ、なんでこんなに嬉しそうなんだ? 俺の心をナイフで抉るのがそんなに楽しいのか。 「やっぱり忘れちゃってるんだね」 何を。 「小さい頃に、キスしたこと」 誰と誰が。 「あたしと兄貴が」 マジで? 「うん。今日みたいに、あたしと兄貴がお留守番を任されたことがあって、 そのときに二人でテレビ見てたら、ちょうど昼ドラが流れてたの。ドッロドロのやつ」 止めろよ、当時の俺。 なぜ桐乃の目を覆って子供アニメのビデオをセットしてやらなかったんだ。 「そんなに過激なシーンは無かったよ。 あっても、精々キスくらい。 それでね、あたしもあんたも、その頃は全然そういうことを知らなくて、 二人で実際にやってみない?ってことになったの」 「どっちが言い出したんだ?」 「……あ、あんたに決まってるじゃん」 怪しい。 が、今言及すべきはそこじゃない。 「それがお前のファーストキスか」 「うん。でも、あたしが言うのもなんだけど、あんなのはファーストキスのうちに入らないと思う。 半分、遊びみたいなものだったし、あんたは次の日には忘れちゃってたし……」 なぜ恨めしげな目でこちらを見る。 俺は言った。 「それじゃあ、実質的なファーストキスはさっきの、ってことでいいのか」 「うん。そだね……それでいい」 桐乃はクスリと笑い、冒頭のりんこりんの台詞に準えて言った。 「……ソースの味がした」 これまた散文的なことを言う。 俺は原因を言ってやった。 「昼飯に焼きそばを食べたからな」 「あはっ、それもそうだよね」 それから俺たちは、ひとつ約束事をした。 次に恋人らしいことをするときは、事前に歯を磨いておこう、ってさ。 おしまい! 続くかな~?
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http //yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1281447547/63-75 5巻4章 桐乃視点 アメリカにて その2 ホテルの一室―― あたしと兄貴はベッドに入り、壁を背もたれがわりにして寄り添いあっていた。 寝るにはまだ少し早い時間帯。窓の外から時々車の走る音がしてくるけど静かな夜、あたしたちも静かに時間を過ごしていた。 兄貴はむっつりと黙り込んでいたが、やがてあたしの方に顔を向けてポツリと呟いた。 「なあ桐乃、お、俺――」 「あんたの言いたいことは分かってる。だけど、今更もう遅いじゃん。それにあたしは別にいいっていってんでしょ」 「いや、しかし今からでも――」 「くどい! 往生際が悪いなぁ! だいたいもうこれからするって時まで来て何言ってんの? いいからさっさと諦めなさいよね」 まったく、さっきから二~三回このパターンを繰り返しているし。 「~~~~~チッ、分かったよ。じゃあ、……そろそろいいな?」 「う、うん。でも、あたし初めてなんだからちゃんとリードしなさいよね?」 「俺だってそんな慣れてねえっつの」 「はぁ? あんた黒いのとさんざヤってたんでしょ?」 「そりゃそうだけどよ、ほとんどは黒猫のやつが――おれはただ言われるままに動いてたダケっつうか。ぶっちゃけ、あんま覚えてない」 「はっ、なっさけな~。まぁいいわ、あんま期待してないし、そんなもんでしょうね」 「う~る~せ~。いいからホラ? 始めるぞ?」 「うん。………イイよ」 兄貴の片手がユルリと動いていき、そしてあたしの―― ――あたしの…………ノーパソの電源ボタンを押した。 ウィーンと駆動音が鳴り、ディスプレイにOSが立ち上がっていく画面が映し出される。 そう、あたしたちは黒いのと兄貴が作ったというノベルゲームをやろうとしているのだ。 陸上の強化プログラムから離脱する手続きをして、いよいよ明日の便で日本へ帰ることになってんだけど、退寮手続きも終わって寮に泊まるわけにもいかなくなっちゃったから、兄貴が泊まっているホテルで一晩過ごすことにしたんだよね。 もうご飯も食べたしお風呂にも入った。んで、あとは寝るだけなんだけど、まだ眠くもなんないからくだんのゲームを今からやってみようってことになったわけ。 「――なぁ、やっぱ今からでもフロントに頼んで別の部屋取ってもいいんじゃね? それかツインの部屋に変えてもらうとか」 「まーだ言ってるし。だから言ってるっしょ? 明日の飛行機の時間まで寝るだけなのに、別部屋取るなんてもったいないじゃん。あたしがここ来た時間だって遅かったし。 フロントにだってこの部屋でって伝えてあるんだから遅いっつの。今から部屋用意してくれって言ったって、イヤな顔されて掃除もしてない誰が泊まったかも分かんないような汚い部屋あてがわれるのがオチだっつーのぉ」 いっきにまくし立てて反論を封じる。 「それとも何? 一緒の部屋だからってあたしにやらしいことでもする気? うひぃ~こわ~。寮に泊まったときも、あたしが寝てる隙にエッチなことしなかったでしょうね?」 「しねえよっ!」 「ふん、どうだか~」 「あとあんまくっつくなよ、暑っくるしいだろぉ」 「しょうがないでしょ。ノーパソなんだし、こうしないと画面見れないじゃん」 なんか前にも似たような会話したことなかったっけ? と、喋ってる間にOSが立ち上がってデスクトップ画面に切り替わる。もうゲームはインスコ済みであとはアイコンをクリックして始めるだけ。 ちなみにノーパソは膝の上。サイドテーブルってもんがこの部屋にはなくてベッドの枕元に小物を置けるくらいのこじんまりとしたテーブルしかなかったからだ。 なわけでベッドの上に二人並んでこうしてゲームをしてるってこと。 「だいたい時間的には五時間もあれば終わる感じだ」 兄貴がゲームの概要を説明し始めた。 「一応ルートは三ルートあって、話の出だしは主人公が悪夢を見始めるとこから――」 ゲームの概要を「ふんふん」と一通り聞いてった感じ、いかにも黒いのが好きそうな話だ。 あたしも嫌いな類じゃないかな。 「ふーんなるほどね。ストーリーはちっと面白そうじゃん?」 「ま、後は実際やってみるこったな」 「そうね。さーてどんな厨二病な世界が飛び出して来るんだか」 あたしはアイコンをクリックしてゲームを開始した。オープニングに切ない感じのメロディが流れ、なんだか悲壮感がただよってきそうな絵が現れる。 兄貴の説明どおり、物語冒頭、主人公の少年が悪夢にうなされて夢の中で死者の国へと迷い込んでいく様子が描かれている。 ふぅむ……。前に読んだ同人誌も暗い感じだったけどこれもなんか雰囲気暗い。 このゲーム、コンテストかなんかに出したのよね? まったく、もうちょっと明るく作んないとユーザの食いつき悪いんじゃない? そんな感想を抱いている間にもカチ、カチッとマウスをクリックして物語を読み進めていく。この辺はガッツリとエロゲーやってるからお手のものよね。 「……ねぇ?」 「なんだ?」 「あの黒いの、あたしとゲーム作りたがってたってほんと?」 ゲームを進めながらあたしは兄貴に聞いた。 「あぁ。直接言葉に出しゃあしてねぇけどよ。ほら、前に集まって遊んだときもそんなこと話してたろ? きっとそうだと思うぜ」 「そか……」 黒いのの顔が浮かんできて嬉しくなった。 厨二病でいつも何かしらのサムいネタ織り交ぜてあたしを嘲弄しながら話してくるアニメの趣味も服の趣味も合わない肌が白くて綺麗な黒髪のストレートでコスプレ衣装が似合っててすっごい可愛い顔。 あたし、あやせと同じくらいあいつのことが好……、き、きらいじゃないんだよね。絶対言ってやんないけど。 でも――、 「でも…さ?」 「ん?」 「あたし誰にも、なんにも連絡してなかったから……その」 何ヶ月も連絡しなかったあたしをどう思ってるんだろ。 正直なところ少し怖かった。ここで勝つまでは誰とも連絡取らないって自分で決めた『縛り』だったけど、相手から見ればずいぶん勝手きわまり無い理由だ。 しかもけっきょく勝てなくてずっと連絡しなかったわけだし。 連絡する手段が無かったわけじゃなく、一方的にあたしが無視した形だもん。 「あたしのこと嫌いに――」 「んなわけねーだろ」 言い終わる前にあたしの言葉はかき消された。 「あいつらがそんなこと思うかよ! そりゃ連絡がつかなかったことには怒ったりもしたさ。でもな、そんなことでおまえのこと嫌いになったやつなんざ一人もいねえよ! 黒猫も沙織も――あやせだっておまえのこと嫌いになったりなんかするかよ! 逆にあいつらの内の誰かが、『たかが数ヶ月程度』連絡つかなかっただけでおまえは嫌いになんのか? 違うだろ? おまえもあいつらも、そんなやつじゃないって自分が一番知ってるだろうがよ」 真正面を向いてそう言い終えると兄貴は何かに気付いたようにふいっと顔をそむけて、最後に「ふん」と言った。 「………そっか。そうだよね。うん、そだよね」 そっか。兄貴に言われるまでも無いことだった。あたしの友達はそんな子たちなわけないじゃん。 それはあたし自身が一番よく分かってることだった。 「あんたもたまには良いこと言うじゃん」 「チッ。たまにかよ」 不満そうなこと言ってるわりにはなんだか嬉しそうじゃん。プククッとあたしは笑いをかみ殺す。 分かってんのよ? ……あたしのこと必死に励ましちゃってガラにもなくテレてんでしょ。はぁ~あ、テレんなら別の言い方すりゃいいのに、しょぼ過ぎ~。 だけど、さ。いちお~、あり―― 「――がと」 声には出さず心の中でだけお礼を言おうとしたら、つい言葉がもれ出てしまった。 「あん? なんか言ったか?」 「な、なんでもないっつうの!」 チッ。聞こえてんじゃないわよ。恥ずかしいじゃん、こっち顔向けんな。あとさっきツバ飛んだし! きったなぁ~。 ムスッとしながらゲームを続けていると、「そういやぁさ」と今度は兄貴が話を振ってきた。 「アメリカのハンバーガーって大きいって聞いてたけどそうでもねえんだな」 「あー。あたしは寮生活だし、カロリー気になるから外でもあんまファーストフードは食べなかったけど、お店にもよるんじゃない? 有名なとこは世界どこいっても一緒って感じ?」 「なるほどな。てっきり三倍くらいでけーのが出てくると思って腹空かせてたのに拍子抜けだったぜ。へっ、アメリカもたいしたこたあねーな」 「プッ。なにそれ」 それからあたしたちはやいのやいの言い合いながらもゲームをしていった――。 カチ、カチ。 「ん? なんかまた知らない単語出てきたんですケド~? これって何?」 「あ~それは主人公が――なんだっけかな、確か死者の国でも死者だって気付かれずにすむ神器の名前かな」 「あいっかわらず邪鬼眼が全開なネーミングね、頭痛くなってきた」 「アイテムの裏設定とかはクリア後のオマケ特典でたっぷり見れるようになってっから、しっかり読めよ? 作品はちゃんと目を通さないと批評すべきじゃないんだよな、理乃先生?」 「うぇええええ! 厨二設定があたしを全包囲してるっ!?」 カチ、カチ。 「ところでさぁ。これってゲーコンに出したんでしょ? 結果はどうなったの?」 「クックック。聞いて驚け、掲示板で今現在も絶賛大盛り上がり中だぜ!」 「え、ウソ!? コレそんな超評価高いの?」 「あぁ。……クソゲー的な意味でな」 「ブハッw だと思ったwww」 カチ、カチ。 「てか聞いてよ!? あたしの好きなアニメ、こっちでもやってたんだけどさぁ。声優がクソ過ぎて殺意覚えたわ。あんな野太い声の女の子がどこにいるんだっつーの! しかもさぁ、たいしたことないような暴力シーンも適当な絵でごまかしてんのよ? 隣のチャンネルに変えればバカスカ銃撃戦でグロいシーン流してて子供も見れるくせにさ、アニメだけ変に改悪してんの! マジなめてると思わない? ねぇ聞いてんのっ!?」 「……グェ。俺に言われても知んねーよ、てか首を絞める…な………」 「あれ? あんた何青くなってんの? キモ」 カチ、カチ。 「こっち来て観光とか行ったか? ほら、自由の女神とかさ」 「まさかニューヨークがどこにあるかも知ってないとかじゃないでしょうね? なんで大陸横断してまで自由の女神見に行くのよ。バカじゃん?」 「………ちょっと言ってみただけじゃん」 カチ、カチ 「あっち帰ったらさ、買えなかった新作のゲーム買いに行くからついてきてよ」 「あん? おまえ前に俺が買ってきてやったやつもまだクリアしてないんだろ? そっち先にやれよ」 「『おにぱん』も『カス妹』もやるけど、欲しいのっ! まだ特典付きが残ってるはずだし。いい? 分かった!?」 「あ~はいはいっと。で? 今度は何買うつもりなんだよ?」 「んふふ~、先月はいっぱい出てるから全部買うわよ。ざっと五タイトルくらいね」 「…………桐乃さん、パネェっすね」 「あ、あとブログで見たんだけどさ、アイスカップに入った冷やし妹パンツってやつ売られてるんだってさ。あたし恥ずかしいからあんたそれ買ってみてよ」 「おまえは俺を変態にする気マンマンですかっ!?」 「は? 元から変態じゃん、自覚無かったのあんた?」 カチ、カチ。 「ここのエフェクトちょっとカッコ良かっただろ」 「うん、けっこ良かったかも。ねぇ、このゲームって黒いのがほとんど作ったんだよね?」 「んあ? まぁそうだな。俺はたいしたことしてねえし、最終的な直しとブラッシュアップをさっき話した黒猫の友達とやった以外は、CGもシナリオも、あとスクリプトって骨組みみたいなんも黒猫のやつ一人だな」 「そっか。へー凄いじゃん」 「ほー、おまえが素直に黒猫のこと認めるとはね~」 「な、何よ? 悪いっての?」 「いいえ~別に」 ゴスッ! 「あいっつぅ、わき腹を! ~~おまえなぁ」 「フン! あんたがウザいこと言ってっからっしょ」 ――カチ、カチ。 とりとめもない会話をしながらもゲームは進んでいき、気付けばシナリオも終わりに近づいてきていた。 主人公の少年は死者の国で想い人抱きかかえて逃げている。しかし後ろからは追っ手がすぐそこまで迫ってきているといったシーンだ。 「あーこいつら助からないんじゃない? フラグがめっちゃ立ってるし」 「まぁまぁ。あともうちょいなんだから、いいから進めてみろよ」 言われるままにゲームを進める。 いよいよ主人公は追い込まれ、想い人を強く抱きかかえるがどうしようもない状況。そのとき起きるはずもない彼女が目を覚まし主人公に微笑を見せたかと思うと――、 グシャ! 驚愕の目で想い人を見返すが、その目にはもう何も映らない。 朝。日に日にやつれていく主人公を心配した幼なじみが起こしに来るが、主人公は起きようとしない。 じれて布団をめくると、そこには惨殺された骸がただ転がっていた。 そして画面はブラックアウトし赤くENDのマーク。 「何よこれ、やっぱバッドエンドってやつじゃん!」 「まぁそうだな」 「はぁ~。なんか悲しいっていうかエグかったしぃ。あたしは予備知識あったからいいけどさ、他のユーザだったら泣くわよ?」 「俺もそう思う。てかおまえ涙目になってんなよ。ほら、ハンカチ」 ズビビビッ! 鼻をかんで「うっさいなぁ」と毒づいたら兄貴はげんなりした顔で見てた。 「グス。そういや三ルートあるんだっけ? じゃあ、中にはハッピーエンドもあるんだよね?」 「ないよ」 「ないの!?」 全部バッドってなんなのよそれ、びっくりだっつの――ってなんか複雑そうな顔をしてんけど、何? 「……俺もそう思う。でもこれがやりたかったんだと」 「は~ん。ったくこんなだからワナビ抜け出せないっつうのよ。あたしだったらそうね、最後は愛の力でいろいろ全部吹っ飛ばしてハッピーエンドね」 「それおまえの書いたレイプ小説じゃん。しかもなんだよいろいろって? 話が破綻しなくね!?」 「いいんだって! ユーザーはとにかくスッキリしたいもんなの。 えーと、そうカタルシスよ、カタルシス!」 「そんなもんかね」 「そーいうもんなの」 「ま、そこらの感想は帰ったら黒猫とたっぷり話すといいぜ。あいつもおまえの感想聞きたがってるはずだ」 「うん。そだね」 それからしばしエンディングの曲を聴きながら、無言のときが流れた。 なんか日本を発つ前にあたしの部屋でゲームしたこと思い出すな。なんていうかうまく言えないけど、とにかくあったかくて心地良い時間――。 チラリと横にいる兄貴の顔を見てみると、ちょうど兄貴のやつもあたしの方を向いて目が合った。 ついプイッと顔をそらしてしまう。 ちょ、こっち向かないでよ! なんか今更になって二人でくっついてゲームしてんのが恥ずかしくなってくんじゃんか。 あたふたと視線をさ迷わせると、時計が目に付いた。もうけっこう遅い時間である。ゲーム始めてから数時間たってんだもんね、当然か。 ノーパソをパタンとたたんで、 「そろそろ寝よっか」 「ウェッ!? え? あ、ああ。ほんじゃ毛布だけでも貸してくれよ、俺は床で寝るからさ」 「はぁ? 土足で歩くような床にあんた寝たいの? よっぽど卑屈な精神構造してんのね」 「ちげーよ! えーと、なんちゅうか……だからぁ」 なんか言いよどんでいる。なんとなく言いたいことは分かるんだけど無視。 「い、いいから! 寮んときだってそうしたんだし、変な病気とかになられてもこっちが迷惑だし? い、いっしょのベッド使わせてあげるつってんだからありがたく感謝しなさいよね!?」 「寮んときはもう一つベッドがあったのに使わせなったじゃねーかよ」 「あったりまえじゃん。あんたみたいなヤツを勝手に友達のベッドに寝させるわけ無いでしょ? 常識でものを考えなさいよね」 「その常識ヒドく俺にキツくね!?」 兄貴の言い分はほっといてあたしは手刀でシュッとベッドのシーツに折り目をつけた。 「あんた、ここからこっち来ちゃダメだかんね! 分かった? それと、なんかエッチなことしたらコロスから、マジで」 「……またかよ。俺、仰向けにもなれないくらいのスペースなんだけど?」 「横向きで寝ればいいじゃん」 「あの~桐乃さん? それじゃ俺、寝返りすっとベッドから落ちそうなんスけど?」 へ? なに言ってんのあんた? 「落ちたくなかったら寝返りしなきゃいいじゃない」 「マリーアントワネットみたいなこと言ってんじゃねぇよ!」 「あ~も~うっさい。さっさとしなさいよね。明日起きられなくなっちゃうじゃん」 「………ぐ。へ~へ~分かったよ。んじゃさっさと寝んぞ」 そう言うと兄貴は観念したのか、髪の毛をクシャクシャしながら背中を向けて、ベッドにつけた折り目の向こうで大人しく横になった。 あたしも背中を向けて横になる。 「電気、消すから……」 「……おう」 パチッと枕元のライトを消し部屋を暗くすると、とたんに静寂が襲ってきて秒針が時間を刻む音が聞こえてくる。 ……うう、喋ってるときは平気だったけど――こうして黙っていると背中から微かに伝わる熱を妙に意識する。 き、聞こえてないよね? あたしの心臓の音とか。 とにかく寝よ。そう思ってギュッ目を閉じ、「カチ、コチ、カチ、コチ」と時計の音を聴いて何も考えず眠気を手繰り寄せようとした。 ――眼をつむってたから正確な時間は分からないけど、十分か二十分。 しばらく身動きもせずに眠ろうとしてたんだけど――、はぁ。まいったな、全然眠くなんないじゃん。 背中にある熱がどうしても気になる。 暑苦しくなるような熱じゃない。冬の朝、布団の中にいるような、包み込まれて小さい頃に戻ったように心配ごとに無縁でいられるような、そんな熱をあたしは感じてた。 「……ねぇ? 起きてる?」 「あぁ」 自然と口が動いてた。なに話しかけてんだろ、あたし。 「あの――、あの、さ。あんたがここに来たのって、エロゲーしにきたんだよ…ね?」 言ったあとになって思った。あたし何聞いてんだろって。なんて答え……、期待してるんだろって――。 「エロゲーは……、ついでだ」 「え?」 「おまえに会いに来たんだよ」 「―――――…………そか」 これ以上ない答えだった。 ……って、妹相手に恥ずかしいこと言ってんじゃないわよ。 「シスコン」 「るせ」 そっか。ふ~ん、そか。あたしがいないの寂しくて、心配して、会いに来たん…だ。 「なぁ?」 「………なに?」 「おまえの――おまえの足引っ張っちまって……いや、なんでもねえ。忘れてくれ」 「ん……」 兄貴が言いたいことは分かった。あたしが留学やめたの、気にしてんだ。 陸上のことは考えると悔しくて仕方無い。みんなには黙って、親にもわがまま言って反対押し切ってまで来たのになにも成果がなかった。 結局あたしは挫折して、今ここにいるわけなんだし。 でも、そのことで兄貴が責任を感じるのは筋違いでしょ。 確かに『帰ろう』って言ったのは兄貴だけど、あたしはあたしの意思で、帰ることを決めたんだから。 あたしがそう思ってるの知っているから、だから口を止めたんでしょ? 自分でも分かってんじゃん……、ばか。 それに――それに、『帰ろう』って言ってくれたの……、『おまえがいないと寂しい』って言ってくれたの……、嬉しかったし。 硬く強い、絶対だったはずのあたしの決意をあっさり壊しちゃって、日本に帰ろうって決めさせるくらいに嬉しかったんだ。マジでさ……。 それからあたしも兄貴も喋らなくなった。 目をつむっていたけど相変わらず睡魔はやって来ない。いつのまにかまた少し時間が流れたみたいだった。 気付くと、スゥスゥと背中から寝息が聞こえてくる。 兄貴、もう寝たのかな? 悟られないようにそぉっと寝返りして、兄貴の方へ向き直ってみた。 背中が静かに上下している。どうやらほんとに寝てるみたい。 「ねぇ、あに……き」 返事は返ってこない。あたしは片手を伸ばして背中をつついてみる。 あったかい。 まいったな。なんか、あたしヤバイ。全然寝れないし、なんか――なんか今夜おかしい。 「んん……む」 と、いきなり声がして背中が倒れてきた。 「っ!」 とっさに手を引っ込めようと思ったが、間に合わずに巻き込まれて背中の下敷きとなった。 起きたのかとあせったがどうやら寝返りをうっただけっぽい。スゥスゥと変わらず寝息を立てている。 ちょ、ちょっと驚いちゃったじゃん。 ていうかベッドから落ちるとか言ってたくせにこっちに寝返りしてんし! あたしがつけた折り目も越えてんじゃん! う~。背中に挟まった手を抜きたいけど気付かれるかな? どうしよ。 少し顔を上げると兄貴の顔が見える。暗くてよく分かんないけどすっかり熟睡しているみたいだ。 なに境界線越えてきてんのよ。やっぱ妹襲っちゃう気なの、このシスコン。 もう片方の自由な手で、兄貴の鼻先をツンツン触ってみる。鼻息がなんかくすぐったい。 今度は「フゥ~」っと顔に息をはきかけてみる。 「起きない…な……」 次に頬っぺたを人差し指でクリクリしてやった。少し顔を揺らしたが、変わらず寝入っている。 へへ、おもしろー。次は鼻でもつまんでやろっかな~。 「…………ん? ……ヘッ!? え、え? な……なっ!?」 なにやってんだああぁぁ、あたしいぃぃっ! そん時になって初めて気がついた。こうして手で兄貴の顔いじってるってことは、兄貴が仰向けになったからであり、――ということはそれだけ距離がつまっているということであり……。 ボンッ、という音がしそうなほど急激に顔が紅潮した。 ぐ、ぎががががが、がぎぎ! ば、ばばばっっかじゃん、ああああたし――ッ!? ま、まずい。 あたし今なんか変だし。これ以上はとにかくまずい! えっと、ええ~と、なんとか手を引っ込めないとね! そう、手をそろぉっと――って!? 「ちょ、ちょっと! 何しようとしてんのあたし? ちょっと! ネェ!?」 あたしはイタズラしていた手を『そろぉ』っと兄貴の肩に置いた。アニメやマンガなんかで、ヒロインがお姫様抱っこされて肩にしがみついてるみたいな感じで。 な!? ほんとに何やっちゃってんのよ、あたし? こ、これ以上はダメ! 絶対ダメだからね!? 必死に抵抗したけど、『何がダメなワケ?』と言わんばかりに頭の指令を裏切ったからだは、そのままモゾモゾと頭をもう一方の肩に乗せた。 すぐそばで規則正しい寝息がしてくる。 やばいやばいやばいやばい、あたしやっぱおかしいってぇぇっ……! なんなのこれ、どっかで魔道士があたしにメダパニでもかけてんの? それに、背中ごしだった熱を全身に感じて、その熱がうつったように自分も熱くなる――。 なのに、こんなに熱くて密着してんのに、兄貴はあたしの頭のすぐ近くでスヤスヤ寝てる。起きそうなそぶりも見せない。 なんで起きないのよ、鈍感にもほどがあるんじゃない? いや、今起きられたら困るケド! でもこんなんなってんのに起きないってやっぱおかしくない? それともあたしだけそう感じてるってこと? いやだから起きられたら困るんだってば! ああああああぁぁぁっ、自分でも何考えてんのか分かんないし! と、とにかく起きないでよね! あたしが離れるまで、起きたら許さないからねっ? で、さっさと離れれば良いって分かっているのに、あたしはなぜか両腕にキュッと少し力をいれた。 ――――~~~~~~~~~~ッッッッ! だ、抱きついちゃってるよおおぉぉぉ、あたし! あ、ああ兄貴にぃ~~~~~っ!? なんなのよぉもう~。心臓の音すごい聴こえてくるしからだ熱いし息も上手く出来ないし! 兄貴の匂い、すごく間近でする…し……。 「……スン…スン。ゃ、ゃだ。あたしキモい」 はぁ……はぁ……。やだ。なんか、こんなの…今日おかしいよあたし……。 なんでこんなことしちゃってんのよ、あたし? そ、そもそも同じベッドで寝てんのは一晩過ごすだけなのに他の部屋取るのがもったいなかったってダケで。 あと兄貴なんだから別にへ、平気って思ったのと。それと、その――あんま認めたくないけど、嬉しくていっしょにいたかったってのもある…のかも……。 で、でも! もし、仮に、万が一、そうだとしても! こんな抱きつくようなこと!? 兄貴なんてなんでもないじゃん。グズだしスケベだし変態だし。 ただちょっとあたしにキモいこと言ったり、ウザいことしたりしてたくらいでさ……、 『ああ。おまえがどんな趣味持ってようが、俺は絶対バカにしたりしねえよ』 あたしの秘密知ってもバカにしないって言って人生相談聞いて、 『――友達、作るか』 友達作るの手伝って、 『だから俺が一緒に参加すんのは無理だって――ああもう、そんな睨むんじゃねえよっ。わーったって……ええっと』 オフ会について来て、 『桐乃――俺に任せろ』 お父さんからあたしの趣味を必死に護って、 『いいか、よく聞け、俺はなあ――妹が、大ッッ……好きだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――っ!』 あやせとの仲直りの為に頑張って、 『……桐乃さん……お友達来てるんすから、相手してあげた方がいいと思うっすよ……?』 黒いのとのケンカを仲裁して、 『……分かった。俺が一緒に行ってやるよ』 小説書いたときも色々ついてきて、 『…………いや。……ヨーグルト、食う?』 インフルエンザにかかったとき心配して、 『――ありがとよ、桐乃』 あたしの〝プレゼント〟泣くくらい喜んで、 『俺は、おまえの兄貴だしな。ま、しょーがねえ』 『約束しただろ。おまえが帰ってくるまで、護ってやるって。だから、捨てない。たとえおまえの頼みでもだ』 あたしの大切なもの、『捨てろ』って言ったのに、ずっと護ってやるって言って、 『一緒に帰ろうぜ』 『おまえがいないと寂しいんだよ!』 人生相談終わっても、心配してアメリカまで飛んできて、寂しがって、自分勝手にあたしを連れ戻しに来た。ただそれだけじゃん。 …………………………………………いや、違うよね。 自分で分かりきってんじゃん。 〝ただちょっとそれだけのこと〟をしてくれたから、だからあたしは……すごく感謝してて、嬉しがってんだ……。 特にここ数日は、ちょっとくやしいけど、兄貴が側にいるの、すっごく嬉しいって、感じてる。 凹んでるときに優しくされたら誰でもそうじゃんって、卑怯じゃんって思うかもしんないけど。でもさ、上手く言えないけど、そういうのって誰かでも、誰でもじゃないんだよね。 落ち込んでたときもそうじゃないときも、そばで何か言ってくれた、してくれたのは、誰かじゃない……。嬉しいって思ったのは、誰でもじゃない……。 …………あたしがこんなことしちゃってる理由はそういうことなのかな。絶対知られたくない理由だけど。 てゆーか知られたら恥ずかしすぎて悶死するっつの! そ、それに今日はテンションが変な方向にいってて、むしろそれが理由の九割? だから、これは普段のあたしじゃないからしょうがないっていうか、ちょっとおかしくなってるっていうか、そういうことなワケで………。 ――も、もうちょっとダケ、こうして……よっかな? 顔のすぐそばからスゥスゥと寝息がする。 妹の懊悩など知りもしないで、あいも変わらず兄貴のやつはおもいっきし寝入っている。 「プッ」 ちょっとニブすぎ? そういや、初めて人生相談したときもあたしがひっぱたくまで起きなかったしねぇ、あんた。 ちょうど一年ほど前の兄貴の部屋での出来事を思い出し、あたしはちょっと可笑しくなった。 ………………。 あたしさぁ、一年前はあんまりあんたのことは兄貴だって思わなかったんだ。 思えなかった。ううん、思おうとしなかったってのが正しいかな。ケンカなんてする以前の関係だったしね。 だってあんた、いつもあたしに無関心で、やる気なさそうで、あたしを見ようともしてなかったし。 あたしはあんたのこと、ちょろっとは見てたんだよ? 陸上始めたきっかけだって――あんたは忘れちゃってるっぽいけどさ……。ま、覚えてろってのが無理だろうケド。 でさ、あんたがそんな感じだったし、あたしもそんなあんたに「どうでもいいや」て思うようになっていって――。 それがこの一年で関係が変わって。 そりゃあ表面上はそんな変わってないかも知れないし、あんたが本当はどう思ってるのかなんて分かんないけどさ。 けど、少なくとも今はあんたのこと――『あたしの兄貴』だって、思ってるよ。 あんたの、兄貴のしてくれたこと感謝してるし、いっしょにいて悪くないな~って思ってんだ。 ……あんたは、あたしのことどう思ってんの? やる気なさそうな顔は相変わらずだし、あんま話しかけてこないから、どう思ってんのかよく分かんないじゃん。やっぱきらってんの? でもそれじゃあ、あたしを心配だって言う気持ちとか、寂しいって気持ちはどこから――考えるまでもないか……。 兄妹だから――、あたしが兄貴の妹で、兄貴はあたしの兄貴だからだよね。 日本を出発する前に、あたしの部屋で言ってたよね、『俺は、おまえの兄貴だしな』って。こっちに会いに来てくれた日も、『おまえは俺の妹だ!』って。 ふふん。それにぃ~、兄貴はシスコンだもんね~。妹のあたしが可愛いくてしょうがないのっかな、バカあにきぃ? ププッ……。 そんなことを考えながら兄貴の胸が緩やかに上下するのを感じていたとき、あたしの胸の奥底で、何かがコトリと揺れた―― ……じゃ…、もしあ…し…妹じゃ……かっ…ら…? 「う……ん、んあぁ~」 無意識に兄貴を強く抱きしめてた。 うめき声がして今度こそ起きた――と思ったけど違った。寝苦しいと感じたのか、兄貴はまた寝返りをうって背中を向けた。 ……そろそろと手を戻し、あたしもからだの向きを変えまた背中合わせになる。 あ、危なかったぁ。絶対アウトだと思った。てかあれは気付くでしょ普通。どんだけ安眠なのよコイツ? いや気付かなかったから助かったんだけどさ。 あれ……って…………。 あっ~~、やっぱ今夜のあたし、変だ。前髪をクシャクシャして考えを無理やり吹き飛ばす。 なんか、つまんないこと考えちゃったし。はぁ、もう寝て忘れよ。寝て起きて、さっさと忘れよう! 布団を首までひっかぶって眉間にしわを寄せるくらい眼を閉じ、ようやく寝付いたのはそれから一時間ほど経ってからだった。 「ん……うにゅ」 ううん~、そろそろ朝かな? 日の光なのか閉じた瞼の外からじんわりと明るさを感じて、あたしは眠りから覚めようとしていた。 んあ~なんかすごい気持ちいいー。抱き枕をギュッと抱きしめる。 メルルちゃんの抱き枕ってやっぱいいなぁ。なんかあたしまで抱きしめられてるって感じがするよぉ。 あったかくって、良い匂いがして、フワフワでさ――、フワ……。 ………………ん? あれ? こんな感触だったっけ? なんかいつもより硬い? それにおヘソの下辺りになんかゴツゴツ当たってるし。 「ん、んぁ~」 メルルちゃん、変な声も出してるし。 えーとえーっと……、あたしは今アメリカで~、兄貴が迎えにきて~。 「――――――っ!!」 急激に覚醒して顔を跳ね上げた。 ガンッ! 「いった!」「あいって~! な、なんだぁ!?」 頭の鈍痛を押さえて、目を開くとそこには兄貴の顔があった。 ――鼻がぶつかるくらいの超至近距離に。 「…………………………」 「…………………………」 お互いしばし無言。 えっと、なんていうか、あたしは兄貴に抱きついてて、兄貴の両手があたしの腰の方に巻きついてて、足なんかも絡みあってて、パジャマも少しはだけてて……、は、はだけ…て、てえぇ~~。 「あ、あ~。お、おはよう?」 兄貴の顔は青く、あたしの顔は赤く変色していく。 「こっ! こ、こ、こここのっ! こ、こここっ」 「ま、ままま待て! 落ち着け桐乃! 俺は、ただっ、寝てただけで――」 「~~~~こっっのぉぉド変態ぃぃっ! 死ねっシスコンッ!」 ドゲシッ! 「ぐはぁ――っ!」 おもいっきりヘッドバットをブチかましてつきとばしてやった。兄貴はそのままベッドから勢いよくころがり落ちる。 「あ痛っづぅ~~!」 「あ、あああんた、あたしにな、ななななな何をしてくれちゃってんのよぉ!?」 「誤解だって桐乃! おお、俺だって今起きたばっかだっつの! 冷静に話し合おう、な? な? なっ?」 まさか、お、おおお腹に当たって、ゴツゴツしたアレって、アレって―――――ッ!? カーッと全身が熱くなる。 「問答無用ぉぉぉぉ! この変態シスコン強姦魔ぁぁぁっ!」 「だから違うって! 話を聞けよ桐乃!」 「何が違うってのよ、寝込み襲うなんてサイッテー! ケダモノッ! 畜生っ! ミジンコッ! ミドリムシッッ!」 ベッドの上からおもいっきしケリの連打を浴びせてやる。 兄貴は手で庇いながら「ちげぇ」とか「話聞け」とか言ってっけど知ったこっちゃないっつ~~~~のぉぉ! 「いて、いててて。マジ痛えからやめろって! そ、そういうおまえだって俺をなんかと間違って抱きついてたじゃねーかよぉ! 昨日も俺が寝た後に何やってたんだか」 ――なっ!? な、なななな! ま、まさかコイツ!? 「お、その顔。やっぱなんかやってたんだろ。どーせ携帯ゲーム機か何かで遊んでたんだろうがよ。それで寝ぼけたんじゃねーの?」 ハッタリが当たったと思ってんのか、なんだか得意そうなツラしてくれちゃってる。 もう、こいつ○○しちゃっていいよね? 「………ふ、ふふふ。あんたは今、踏んだらいけない超特大地雷を、おもいっくそ踏んづけたのよぉッ!」 バッッッッチ――――――ッン! 「ひっぱたくよ!」 ホテル中に響き渡るくらいの勢いでひっぱたいてやった。 「あいってぇ――――ッ!」 頬を触って涙目になってる。ザマミロ。 「おまえなぁ毎度毎度ひっぱたいてから言うんじゃねーよ!」 「じゃあ『ひっぱたいた』なら使っていいの?」 「どこのプロシュート兄貴!?」 「なにジョジョネタで誤魔化そうとしてんのよこの変態っ!」 「おまえなんでそんな顔真っ赤になってんの!? 地雷って俺そこまで変なこと言った?」 「ううううううるさいっ! いいから死ね! 今死ねぇぇぇぇ!」 ギャーギャー騒いでたらホテルのボーイが何事かとやってきて、結局このケンカ騒ぎはうやむやに終わった。 その際、兄貴の顔を見てなにやらニヤニヤしてたのが気に食わなかったけど。 そろそろチェックアウトの時間がせまっていた。 朝の騒ぎのせいかどうかは知んないけど、夜中のあれは頭からどっかいっちゃったみたいだ。 今は普通だけど、また何かの拍子に――ま、いいや。もしそうでも、そんときはそんときだよね。 なことを考えてると、 「もう時間だし、そろそろ出るか。おい桐乃、ちゃんと支度はすんだか?」 トランクケースを持った兄貴が聞いてきた。 「うるさいなー。出来てるっつーの、強姦魔」 「だから違ぇって! お互い寝ぼけてたってことだろ、忘れろっ」 「う~。今朝のこと誰かに喋ったら許さないからね」 「言えるかよっ! 妹とベッドでだ、抱き合ってたなんてシャレにもなんねえっつのぉ!」 それはそれで何か――いや、なんでもない、フンッ。 言い合いながらも兄貴は忘れ物が無いかとベッドの下とかドアの裏とかをたびたび覗いて確認している。 「うっし、忘れもんはねーよな」 「ハ、無いって。しきりに確認すんの旅行初心者みたいでダサいからやめてくんなーい」 「おめぇはなぁ。ん……? 桐乃、これおまえの携帯充電器だろ?」 「あ……」 「…………」 ジトォ~っとした目であたしを見てくる。 「なにキモい顔向けてんのよっ い、今から片付けようとしてたの!」 「分かった分かった」 てな具合で部屋を出るまで朝っぱらから兄貴とギャーギャー、ギャーギャー。 でもなんていうか、悪い気分じゃないんだよね、これ。 「さーて帰るとすっか、日本によ」 「うんっ」 部屋を出てフロントへと向かう。 「くっそ~まだ頬が痛え」 「あんたが悪いの。それよりホラ、飛行機の時間だってあるんだしちょっと急ぐよ、兄貴!」 あたしは、兄貴の服のすそを掴んで小走りに歩き出した――。 おまけ 京介視点? 「ん、んぁ~」 もう朝なんだろう。俺は眠りの海底から浮上しようと、海面近くをユラユラ漂っていた。 ただ、今朝はやけに心地いい。俺のリヴァイアサンも元気はつらつとしているしな! 布団もあったけえし、なんかこうスベスベしてて肌触りもいい。 せっかくだからもうちっとこのまま寝てたいぜ。 ガンッ! 「いった!」「あいって~! な、なんだぁ!?」 いきなり顎にするどい痛みがはしって俺の願いはむなしく掻き消えた。 顎の痛みを押さえながら、なにごとかと目を開くと、そこには桐乃の顔がある。 ――鼻がぶつかるくらいの超至近距離に。 「…………………………」 「…………………………」 お互いしばし無言。 あ~、なんていうかだな、桐乃のやつは俺に抱きついてて、俺の両手はなぜか桐乃の腰から服の中に侵入して素肌を直に触っていて、足もこう絡みあってて、か、考えたくねえがアレは桐乃の下っ腹に押しつけるように密着してて……。 「あ、あ~。お、おはよう?」 恐ろしい現実を目の当りにしながらも、俺は取りあえず、妹様と朝の挨拶を交わそうとコミュニケーションを試みてみた。 が、そんな俺の紳士的態度は功を奏さず、桐乃の顔がみるみる真っ赤に染まっていく。からだもなんかブルブル震えだした。いっぽう俺の顔は、自分じゃよく分からねえが真っ青になっていってるだろう。 だってさ……、ゴクリ。これから行われる、惨劇が怖いもん……。ブルブル。 「こっ! こ、こ、こここのっ! こ、こここっ」 「ま、ままま待て! 落ち着け桐乃! 俺は、ただっ、寝てただけで――」 「~~~~こっっのぉぉド変態ぃぃっ! 死ねっシスコンッ!」 ドゲシッ! 「ぐはぁ――っ!」 桐乃の全力のヘッドバットをおもいっくそブチ込まれ、俺はゴロゴロ転がりながらベッドから突き落とされた。 「あ、あああんた、あたしにな、ななななな何をしてくれちゃってんのよぉ!?」 桐乃はベッドの上から憤怒の形相で髪を逆立て、ギリリッと歯を鳴らし噛み殺そうとするかのように俺を見下ろしている。 こ、怖ぇぇぇっ~! 痛みよりも恐怖が先に立つ。 「誤解だって桐乃! おお、俺だって今起きたばっかだっつの! 冷静に話し合おう、な? な? なっ?」 なんとか怒りを静めようと低頭平身して言い訳を口にしようとするが、 「問答無用ぉぉぉぉ! この変態シスコン強姦魔ぁぁぁっ!」 ――後はもうあれだ、どんなに弁明しようが聞く耳を持たれない魔女裁判の如き光景が部屋で繰り広げられていった。 最終的に、ホテルのボーイが駆けつけるくらい騒ぎ立てちまってから、ようやく桐乃のやつも怒りを収めた。 ただよ、ボーイの野郎が俺の顔を見ながら哀れみの目でニヤリと肩を叩いたのは気に食わなかったけどな。 変な勘違いしてんじゃねえだろうな、おい!? とまあ、日本に帰る日だってのに朝っぱらから俺と桐乃はやかましく騒いでたわけなんだが。 俺の独善で行動し、妹の事情なんて知ったこっちゃ無い自分勝手な俺は、情けなく桐乃のやつに泣きついた甲斐があったかなとか思ったわけだ。ひでー目にあったというのにさ。 つまり――こういうのもさ、まぁ悪い気はしねえなってこった。 「さーて帰るとすっか、日本によ」 「うんっ」 帰り支度も済んで、俺たちは部屋を出てフロントへと向かう。 「くっそ~まだ頬が痛え」 フロントへ向かいながらケンカの最中にひっぱたかれた頬をさすっていると、 「あんたが悪いの。それよりホラ、飛行機の時間だってあるんだしちょっと急ぐよ、兄貴!」 桐乃はそう言って俺の服のすそを掴み一歩先を歩き出すと同時に、ちょっと振り返る。 ………………………………………………。 チッ。むかつくことこの上ないが、振り向いた桐乃の顔は―― 頬が痛えの忘れちまうほど、すんげ~可愛かったよ。
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http //yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1289713269/675-679 ふと時計を見ると3時を少し過ぎたところだった。 さっきから俺達は、とある店の前で順番待ちをしている。 落ち着いた佇まいの外観と、お嬢様然とした内装。そして外にいても微かに匂ってくる甘い香り―――。 忘れるはずもない。前回の偽装デートの時にも行った、あのスイーツショップだ。 別に来る予定は無かったんだが、少しばかり小腹が空いちゃってさ。そん時にたまたま近くにあったから寄ったって訳だぜ。 なにも桐乃が行きたそうにしてたからだとか、そんな理由では断じてない。 まあそんな事はさて置いて、まだ呼ばれるまで時間がかかりそうなので、俺は改めて周囲へと意識を向けてみる。 この前とは少し違い、今日は大勢のカップル達で賑わっている。確かあの時はカップルなんかほとんど居なかったんだが、 何かのイベントでもやってるのだろうか? ともあれ、そんなカップル達は仲睦まじく言葉を交わし、またはお互いにじゃれあったりして、あまーい空気が場に充満している。 もっとも、俺達も傍目には同じように見えているんだろうけどな。へへ。 そんなくすぐったい思いで桐乃を見ると、向こうも俺を見ていて、がっつりと目があった。 「な、なに?」 桐乃の顔が見る間に赤く染まっていく。と、 「もっとこっち来いよ」 「は?」 「いいから」 ぐいっと強引に桐乃の体を引き寄せる。 「あ、あんた…?」 「嫌か?」 「別にそういうんじゃないケド…」 少し俯きながら桐乃が身を寄せてくる。 甘い空気にあてられたのか、それとも何か別の事なのか…。ともかく桐乃の顔を見た瞬間、こうすること以外の選択肢は消えていた。 どうしてだかは自分でも良く分からねーんだ。まるでバカップルみたいだが、それでもいいさ。 むしろ、そう見ろってなもんだぜ。ただし、誰でもって言うわけにはいかないが。 「…ところで今回は大丈夫だろうな?」 「なにが?」 「この前の加奈子みたいに、俺達の事知ってる奴に会っちまわないかって事だよ。あいつはアホだったから良かったけどよ」 これだよ。こんな状況を知り合いに見られるのは非常にまずい。 一応は、この関係ってのは極一握りを除いては秘密のままなのである。 だけど 「あーそれなら平気」 俺の心配をよそに、ひらひらと手を振って桐乃が即答する。 「加奈子以外であんたの事知ってるのなんてあやせとランちんくらいだから。あやせは仕事だし、ランちんは予定があるって 言ってたし、だから大丈夫」 と言う事だった。 なるほど。確かにそれなら「そこら辺」はそんなに警戒する必要もないのかもしれない。 俺の方にしても、桐乃の事を知っているのなんて麻奈実やゲー研の連中以外にゃいないし、こっちも特に問題は無いはずだ。 麻奈実が一人でこんな店にくるとも思えないし、野郎どもならなおさらだしな。 まあ、部長ならラブタッチの「彼女」と一緒に来たりする可能性も無きにしも非ずだが、いくらなんでもさすがに無いだろう。…と信じたい。 「だけどさあ」 だが俺は、それでも一抹の不安を言葉にする。 そこまでの知り合いじゃなくても、学校の奴らや近所の誰かに見られたりしたらどうする? 前回だってそういうのでかなりビビってたよな、お前。 もし誰かに見られて、そっから話が広がって、それでバレたりでもしたら―――。 「別にいいよ」 俺の心をあたかも見抜いたかように制して、桐乃が言った。 「そりゃ見つからないに越した事はないけど、もしバレたらそれはそん時だから。そんなの最初から覚悟してる事だし」 「お前…」 その言葉に胸が熱くなった。 まったく、お前って奴は本当に凄いよ。それに引き換え、いつまでたっても俺は情けねえ。 後悔はしないとか言っておきながら、実のところは俺が一番ビビってたんだ。 くそったれ。本当に馬鹿だよ。いいぜ、今改めて言ってやる。例えこの先どんな――― 「それに、どうせ誰も信じないだろうしね。あんたみたいな地味面があたしの彼氏だなんてさ~。最悪、イザとなったら あんたに無理やり連れてこられたって事にすれば良いしぃ」 おいコラ!俺の感動を返せ! てかそれ言う?普通言わないよね!?今までやったどのエロゲーにだって、こんな場面でそんな落とし方するシーンなかったけど! あーいかん。やる気が一気に無くなってきた。どっかのとある主人公並みに臭い台詞吐こうと思ってた矢先だし、余計にダメージがでかいわ。 「ねえねえ、それよりもさ」 「あん?」 なに?お前まだ俺になんか言ってくんの?いっとくけど今の俺のライフはゼロよ。 「あれ、もう一回見せてよ?」 期待に満ちた桐乃の瞳だった。 はあ…仕方ねえな。 「ほらよ」 渋々手を差し出す俺。何の変哲もない手である。ただ一点、その指先を除いては。 「へへっ。おそろおそろ」 嬉しそうに桐乃が自らの手を重ねてくる。 その指先には、俺のと同じ指輪が光っていた。 ペアリング、というヤツらしい。 ここに来る前に寄ったアクセサリーショップで桐乃が選んだ物だ。 プレゼントしてやるつもりではいたにも関わらず、内心はどんな高い物買わされるかとドキドキだったんだが、 意外にも桐乃が選んだのはそう高くもないこれで随分とホッとしたもんだ。 その代わりにその場ではめる事を強制されたけどね。 はっきり言っておくが、恥ずかしいったらないんだぜ。 普段アクセサリーなんて着けない俺にしてみたら、まずこういうのを着けるって事自体になんか抵抗がある。 しかもいきなりお揃いで、さらにそれを見せっこだしな。恥ずかしいってレベルじゃねえぞ! まあ、だからって別に嫌だって訳じゃねーけどな。 俺と桐乃の関係をこれ以上ないくらいに表してる物だし、恥ずかしいけど嬉しいよ。 それに、さっきから周りの野郎どもが俺達(主に俺)を、驚きと若干の嫉妬が混じった視線で見てくるので、それが少しばかり心地良いしね。 へっ、どうだ。俺の桐乃は可愛いだろ。はっきり言って世界一だぜ。 でも変な目で見たらブッ飛ばすかんね。ペッペッ。 と、なんだかんだで復活してきた俺であったが 「イブの時もピアス買ってもらったけどあれは半分取材だったし、だからこれって初プレゼントじゃん? 超嬉しいし、ずっと大切にするから。その……ありがとね、きょうすけ」 重ねた指を絡ませながら桐乃が呟いた。 一瞬、魂が抜けてしまったかと思った。 今のそれ、お前反則だろ。場所が場所じゃなけりゃ、今すぐに抱きしめてやりたかったよ。 「あ、ほら。あたし達の番じゃない?」 名前を呼ばれたのにも気付かなかった俺を、桐乃が店内へと引っ張って行く。 落とされたり持ち上げられたり、本当にいつもいつもこいつには振り回されてばっかりだ。 でもいいさ。いつまでだって振り回されてやんよ。 * * 「結局食べきれなかったかあ」 「てかありゃ無理だろ」 店を出てプラプラと歩きながら、俺達はさっきの感想を口にする。 頼んだのはカップルセットとかいう、やたら馬鹿でかいパフェとドリンクのセットメニューだった。 どうやらカップルしか頼めないらしく、お陰さまでストローやスプーンが二本刺さってたりして、量以外にも相当な代物だったよ。 実際いろいろとあったんだが……まあ今それを話すのは止めておこう。 「完食したら記念品もらえたのにさ。なんでもっと頑張んなかったの?」 「俺を殺す気かよ」 「今日は仕方ないけど、次、次は完食だかんね?」 「…へいへい」 口の中に残る甘ったるさにウンザリしながら、俺は相槌を打つ。 でもお前、残念がってる割には随分と笑顔じゃんかよ。 相変わらず意味わかんねえけど、それなりに頑張った甲斐もあったのかもな。 「さて」 一つ背伸びをして気持ちを切り替える。 「それじゃあ最終目的地にいくか」 と――― 「…桐乃?お兄さん?」 あ、俺死んだな。