約 2,471,769 件
https://w.atwiki.jp/fushimi_eroparo/pages/326.html
http //yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1291723688/75-78 「落ち着け桐乃! 俺達は兄妹だぞ? 兄妹でんなことできるわけねえだろ!?」 「なんで!? そりゃ結婚はできないかも知れないけどさ、あたしはそれでも構わないし だから……い、いいじゃんセックスぐらいさ!」 「よくねぇよ!!」 まさかの妹からのガチ告白だけでも、心臓一回止まりかけたのに さらにセックスのお誘いまでされた。 な、何を言ってるかわからねーと思うが、俺にもさっぱり分からない。 し、しかし兎に角、俺は今、コイツの兄貴として最後の一線を越えないよう踏ん張るしかない。 「……兄貴は、あたしのこと嫌い?」 な、泣き落としは卑怯だ。女って卑怯だ! 「き、嫌いじゃねぇよ……」 「妹としてじゃなく、女としてだよ?」 「……お前は充分魅力的だって」 「それって客観的に見て? あんたから見て?」 「んな事っ…」 「一番大事なことじゃん! あたしは、三十四億人の男から好きって言われても嬉しくない!」 地球の男性全てかよ!? 「アンタに好きって言われなきゃ……アンタがあたしの身体でムラムラしなきゃ、嬉しくないっ!」 「ムラムラって……わっ、バカ野郎!?」 だわっ?! 抱きつくな! む、胸が当たる…… 「ねえ……あたしの身体じゃ兄貴はダメなの?」 「だっ…ダメな訳ないだろが! め、メチャメチャドキドキしているっての!」 「じゃあいいじゃん。あたしが抱いていいって言ってるんだよ? 据え膳食わぬはっていうしさ」 くそっ、まだ言いやがるか!? そりゃ俺だって男の子だよ、雄だよ、可愛い女の子いたら抱きたいよ! それが妹でもな! けど妹じゃねぇかよ! できるわけねぇだろ! どうコイツを説得したらいいんだよ!? コイツは兄妹で結婚できなくてもセックスはできる、そう主張しているんだが…… 確かに理屈はそうなんだが……その部分じゃ反論できない訳で、じゃあつまりだ、他のリスクって言うと…… 「よくねぇ…よくねぇよ……そりゃお前、確かに兄妹でセックスしちゃいけねぇって法律はないけどな そういうコトってつまり、さ……その、子作りだろ? お前にその重み、背負わせられねぇよ」 「いいよ、一人で育てる。兄貴に迷惑かけない」 「ふざけんな! 万が一、億が一そうなったらお前一人に背負わせさせるかよ!」 ……って、そうじゃねぇだろ、俺!?! 自分で問題提起しておいて、助け船出すってどんなマッチポンプだ!? 「も、もしそうなったら親父やお袋を哀しませるだけじゃねぇ。 生まれてくる子供だって、十字架背負わせてしまうんだぞ?」 「……じゃあ、避妊ちゃんとすればいい? ピルも飲むし、ゴムも付ける。 それなら兄貴、あたしを抱いてくれる?」 そこまでして抱かれたいか、フツー!? ……いや、そうなんだな、そこまで思い詰めてるんだ、コイツは。 「そういう問題じゃ…」 「そういう問題じゃん。リスクの話してんでしょ?」 桐乃は俺のシャツを握りしめて、抑揚なく言った。 突き放されたような、諦めたような……俺の本来の目的で言えば、それで満足すべきなのに なのに、俺はそれが非道く、勘に触った。 「……じゃあ何か、俺はお前を孕ませるのが怖くて手が出せないってのかよ」 「そ、そんな事…」 「俺がシスコンだってお前知ってんだろが。俺がお前を抱きたくないと思うか? ハッ! 抱きたいに決まってるだろ! ああ抱きたいね! 世界一可愛い妹とセックスしたい、変態兄貴だよ、俺は! まいったか!!」 お、おーい……何言っちゃってんの、俺? 「けどよ、俺もお前もまだガキだろうが。その上、兄と妹じゃ、 俺はお前も、お前とのガキにも、全然責任が持てないんだよ! それだけはどうしようもねぇだろうが! だから少し待っとけつーの!!」 「あ、兄貴……」 「ば、バカ、泣くなよ……」 「だって……ビックリしたし。兄貴がそんなにあたしとのこと真剣に考えてくれたなんて」 うん、俺も自分の本音にビックリした。 「わかった。兄貴との子供は我慢する。でもお尻でするなら大丈夫だよね?」 妹の発言にはもっとビックリした。 . 「――ということがあったのです」 手錠を填められた俺は、三つ年下の女の子に絶賛懺悔中。 「……変態」 かつてない程、冷たく、短い言葉があやせたんから発せられましたよ? 絶対零度ハンパじゃねぇ!? 「つまりお兄さんは、ついに桐乃との一線を越えてしまったと」 「越えたといいますか、ギリギリで踏み留まってるといいますか。 アウトとセーフの間、ちょうとセウトみたいな……」 「アウトです」 ですよねー。むしろ初体験がアナルセックスって道踏み外してますよねー 「お兄さん、埋められる場所ぐらいは選ばせてあげますよ?」 埋められるのは確定かよ!? 「……はぁ。桐乃の様子がおかしいから、何かあったとは思ってましたけど まさか、お兄さんがここまで節操の無い変態だとは思いませんでした。犬畜生以下ですね」 「面目ない……つーか、アイツそんなに様子がおかしかったの?」 「常時、頭に花が咲いてます。そんな状態が1週間も続けば私じゃなくてもおかしいと感じませんか? それで桐乃を呼び出して、問い詰めたら……揉み合いになって……それで……桐乃の、下着の中に……」 ゴトン、と全身を真っ赤にしたあやせが、床にあるモノを落とした。 「こんなモノを入れているなんて!!」 「……だって、広げないと挿れるの大変なんだぜ」 と、あやせから目を逸らしつつ、床を転がるピンク色のアナルバイブと再会。 俺と桐乃がアキバのムフフなお店で購入したものである。 「こ、こんなモノを桐乃に入れさせるなんて……お兄さんが、変態なのは分かっていましたけど それでも桐乃の事は一番大事にしてくれる人だと……そう思っていたのにっ!!」 「あ、アイツのこと大事にしてるから挿れてんだぞ!? これのお陰で最近じゃ俺のリヴァイアサンも 軽々飲み込むようになってだなぁ、アイツはもうケツでなきゃ感じられないぐらいに……い、いや、ナンデモアリマセン」 「……お、お兄さんの性欲から桐乃を守る為には……桐乃を守る為なら……」 ひえー…なんかブツブツ言ってるよ!? ああ、終わった。完全に埋められた、俺。 あやせに埋められて生きていく事ができようか? いやできまい(反語) そんなのホリ・タイゾウかホリ・ススム君でもなければ無理だわホイ! 「お兄さん!」 「は、はい!」 「……私が、お兄さんの性欲を受けとめます。お兄さんが私で満足してくれれば、桐乃にはもう手を出せないでしょう?」 「え? あやせの尻に突っ込んじゃっていいの?」 「そんな変態みたいなことできるわけじゃないじゃないですか!!」 そんな変態みたいなことを貴方の親友がしているんですが。実の兄によって。 「じゃ、じゃあまさか、あやせのオマ…」 「死ねぇええぇぇぇえぇぇぇぇ!!」 あ、今日は白か……グフッ 「それ以上破廉恥な事を言ったら、殺しますよ?」 「ごめんないさい、調子に乗りすぎました」 あやせに蹴り飛ばされて、着地しながら土下座に入るこの俺の動き! 世界選手権があったら金メダルは確実だと思うぜ! 「だ、だがな、あやせ……俺はもう桐乃のケツ穴っていう快楽をすでに知ってしまったんだ。 お前が何を考えているかわからねえが、ハンパなもんじゃ俺の性欲はおさまらないぜ!(キラッ」 まあ桐乃にも内緒のラブリーマイエンジェルコレクションには週一でお世話になってるんだけどね! 「う…そ、そうですか、お兄さんはもう変態という枠では収まらないHENTAIですね。 で、でも、あ、アソコはダメです。そんなお兄さんに捧げたら、どんな風に壊されちゃうか想像もつきません!」 お前の中で俺はどんな鬼畜調教師になってるんだよ…… 「じゃあドコの穴に突っ込めばいいんだよ?」 「あ、穴っ!? げ、下品なこと言わないでください!!」 「マン●もア●ルも言っちゃ駄目って言ったのはあやせじゃないか。 ん~……そうだな、でも人間にはもう一個あったな、穴」 「ひっ…」 ……そうガチで怯えられると凹むんですけど。 いや、俺も相当アレなセリフを言ったのは分かってるよ? 分かってるけど、ここ一週間で俺も随分性癖を開発されたといいますかね、不可抗力、不可抗力。 「口で抜いてくれ、あやせ!」 「死んでください」 . 「芋づる式ってのは恐ろしいもんがあるよなー」 「何のことでござる?」 沙織が俺の愚息を乳房で挟み、動かしながら訊ねてきた。 俺の部屋で一心不乱にパイズリに勤しむ沙織を見て、なんて爛れた生活もとい性活を送ってるんだろうと思うヤツもいるだろう。 けどな……俺はコイツの密壺の味は知らないんだぜ。つまり沙織は処女なんだ。 結局、あれからあやせと似たような事を他の奴らから受けて、現在に至る。 んで、沙織の場合はパイズリ担当。 「んーなんでもねぇよ」 と、沙織の乳首を挿むクリップに結んだ紐を引っ張ってパイズリの速度を調整する。 ふ…馬を自在に操るジョッキーってのはこういうもんなのかね。 「あ、兄貴……綺麗にしてきたよ」 下半身を露出させた桐乃が部屋に入るなり、ケツ穴を広げて見せてきた。 「手で広げなくても、お前のアナルはもう開きっぱなしでバイブで蓋しないとどうにもなんねえだろうが。 つーか、俺が一々チェックしなくても、お前が雑にケツ穴洗う訳がないって分かってんだよ」 大方、俺に菊門見せて興奮しているんだろう。 「ちょっと待て。お前、部屋から体操服持ってこい」 「体操服? どうすんの?」 「沙織に着せる。そんでピチピチムチムチの沙織の胸マンコ犯す」 「きょ、京介氏はスペシャルでござる!? リガミリティアの勝利も間違いなしでござるよ!?」 「本当に……ロクでもない事を考えさせたら天下一ね。 一度貴方の頭の中を透視してみたいわ。さぞかし愉快な淫虫が巣くっているのでしょうね」 バスタオルで髪を拭きながら、黒猫がコチラを睨んでくる。 「そう誉めるなよ。またお前の髪で扱いて欲しくなるだろ?」 「洗ってきたばかりなのに冗談じゃないわ!」 「いや、濡れた髪の感触はそれはそれで……それに、お前なんか興奮してね?」 「それは、貴方の妹がお風呂場で……その、不浄の穴を洗うだけで一度いたしたからよ」 ほうほう、つまり桐乃がよがる姿を見て興奮したと? 「とんでもない兄妹だわ。前世はサキュパスに違いないわね」 ふいに携帯のコールがかかる。かけてきたのは…… 「よう、あやせか?」 「あ…ちゅぷ…お兄さん……ちゅる……今、お仕事終わりました……ちゅる……」 ふ…あやせのヤツ、我慢仕切れずに俺の声を聞きながら自分の指を舐めているらしい。 「おう、今から家こいよ。俺達しかいないからよ。たっぷり喉の奥に突っ込んでやるぜ」 「もう…んちゅ…お兄さんの変態は…ちゅ…治りませんね……んふ……」 「あ、そこにブリジット居るか? いるなら一緒に連れてこいよ」 ブリジットのふにふにした足の裏で亀頭を擦られるのは、あやせにイラマチオするのとはまた別の良さがあるのだ。 「兄貴ー、体操着持ってきたよ」 桐乃が俺の横に座る。ただしケツを向けて。 「でも先にあたしのケツマンコ使ってからじゃないと貸さないから」 これだよ。俺とセックスするようになってから、多少は従順になったとはいえ、相変わらずの我が侭っぷりである。 仕方ない、指四本まるまる飲み込むまでに広がった桐乃の菊穴を 俺のゴルディオンハンマーでぶち抜いて、綺麗なピンク色の腸肉を引っ張り出してやるとするか。 まあ、こんな感じなわけで、俺は誰の処女を奪うこともなく 清い交際をみんなと続けているわけだ。 何がかおかしい気がするんだが、一体何がおかしいんだろうな。 おわれ
https://w.atwiki.jp/racspeedrun/pages/56.html
エースオールスキップ(英 Early Ghost Station)はPS3版限定のバグであり、 ラチェット&クランク4thの中で革命的なバグです。 原理 ロードする際、PS2版と異なり、PS3版は先にファイルをロードしてから難易度選択画面が表示されます。 しかしながら、難易度選択の際に△ボタンでキャンセルする事が出来ます。 見た目はロード前のファイルのままですが、既にロード後のファイルにワープしています。 これを利用し、エース・ハイドライト戦の状態のファイルからロードを行い、 新しいファイルを読み込んだ後、難易度選択でキャンセルし、エースを倒すと、 最後の惑星ゴーストステーションから始める事ができます。 このバグのおかげで世界記録が45分から1日で11分まで縮まり、現在は6分台まで短縮されています。 あまりにも大きなバグ故に、NG+のカテゴリはこのバグを許可するNG+と、禁止するNoEGSに分けられました。 やり方 1.エースと戦えるファイル(ファイル1とします)と、 チャレンジモードに入ったばかりのファイル(ファイル2とします。)を用意します。 2.ファイル1でエース戦に入り、その状態でファイル2をロードし、 難易度選択で△ボタンでキャンセルし、そのままエースを倒します。 3.戦闘後、キャンプ地にワープします。、そのままアリーナの練習コースをクリアすると、 ゴーストステーションに行く事ができます。 注意点 このバグはPS3版限定です。現時点ではPS2でやる方法が見つかっていません。 アリーナの練習コースをクリアせずともゴーストステーションに行く方法もありますが、 複雑な為、きちんとした手順がわかるまで省略します。
https://w.atwiki.jp/fushimi_eroparo/pages/289.html
http //yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1289713269/522-538 俺と桐乃は雨を伝って やっぱり傘を持ってくれば良かった。 俺は夕方の街中、書店の軒先で一人うなだれていた。 天気予報で降るのは分かっていたんだけど、部屋の窓から曇天を仰ぎ見るに、さっさと戻ってくれば大丈夫だろうとタカをくくって油断しちまったんだよなー。 ちょいとマンガ雑誌を買いに家を出てから書店へと向かい、購入してから他の雑誌を立ち読みしていたのが致命となったのか。 店を出ようとしたら、 「……これだよ」 ザーと空から落ちてくる無数の雨粒。 どうみてもすぐにやむ気配は無く、逆にこれから終日降りしきる勢いを感じさせる。 ついてねえな。走って帰っても絶対ズブ濡れになんぞこれ? 「しゃあねえ、近くのコンビニにでも走ってビニ傘買うか」 それでも辿り着くまでにだいぶ濡れちまうことになるだろうが、傘無しで家に戻るよりはマシだ。 俺が意を決して店先から走りだそうとした矢先、目の端に見慣れたヤツがひっかかった。 テクテクと、こちらへと近づいてきているそいつは傘の中に頭が隠れてしまっているが、ライトブラウンに染め上げられた髪は長く背中へと伸びており、両肩から前にも、金糸の帯のように胸元へと下りている。 艶やかでストレートな髪だが、ちょいとハネてるところが本人の性格を表している特徴とも言えるだろう。 また、スレンダー気味ではあるが均整のとれた体とスラッと伸びている足は雨煙で遮られている中でもはっきりと存在感を保っている。 すぐに誰かは理解出来た。 ほぼ毎日顔を突き合わせているんだから間違えたくても間違えねえよ。 どうやらソイツもどこかへ出かけていたらしく、今から家に帰ろうとしているんだろう。 ちょうどいいね。これでビニ傘を買うお金も浮いて、雨にも濡れずに俺も家へと帰れることになったぜ。なんせ俺はソイツと同じ家に住んでいるからな。 おっと。こっちには気付いてねえみたいだ、通り過ぎようとしてるよ。 俺は声をかけた。 そいつ――すなわち、俺の妹に。 「おーい桐乃」 ピタリと足が止まって、傘の中から俺の顔を覗いてくる。 うん、気付いたみたいだ。帰りでかち合うなんて珍しいが、おかげで助かったぜ。 俺はにっこりと笑いかけ片手をあげて桐乃に手招きをした。 桐乃はにっこりと笑わずに無表情のまま俺を無視して歩き出した。 「おい!?」 華麗にスルーしようとしてんじゃねえよ、コラ! 俺は更に大声で桐乃を呼ばわる。 「桐乃ー。お~い!」 「………………」 てくてくてく。 「桐乃さーん! こっちこっち、ここにお兄ちゃんがいるよ?」 「………………」 桐乃は俺の声が聞こえていないのかガン無視で通りすぎていく。 いや聞こえてないわけねーだろこのやろう! 足だって急に速くなってるしよ! なんだって呼びかけに答えてくれないわけよ!? 人が困ってんのにこの態度。こいつ小学校で道徳教育受けてないんじゃないのか? 「こーら桐乃、人が呼んでんの無視ってんじゃねえ!」 置いていかれたらたまったもんじゃないので、俺は駆け出して桐乃の傘へと入る。 「うげ。許可なく入ってくんな!」 第一声が『うげ』ってなんだよ、相変わらず口が悪いなオマエ。 「呼んでもオマエが反応しねえからだろ。てゆーか聞こえてんのにどうして俺を無視する!? 傘忘れて困ってたんだから助けてくれたっていいだろ? 足早に通り過ぎて行くなよな」 「うっさいなあ、アンタがこんな往来で大声出すからじゃん。恥ずかしい」 「だったら最初から俺を傘に入れてくれればよかったんだよ。そしたら大声出す必要も無いんだし」 「あ~ウザ。フン、ずっと濡れて帰れば」 桐乃は突如方向転換して俺を雨の中へと置いてけぼりにする。 あわてて追いすがり、 「分かった! もう文句言わないから、傘に入れてくれよ。な?」 「もう入ってるじゃん。……なんでアンタと相合傘しなきゃいけないわけよ。誰かに見られたら超イヤなんですけどォ~」 そっぽを向いて髪をいじくっている妹様は、どうやら俺と相合傘するのがご不満のようだ。 たかが一緒の傘に入って帰るだけだろ。それによく見りゃ周りに人通りもほとんどねえんだから自意識過剰だっつの! だがそんなことを愚かにも口にはしない。置いてかれてずぶ濡れになっちまいたくねえからな。 なわけで俺はもう一度手を合わせて桐乃に頼み込んだ。 「頼むよ桐乃、このとおり! 家までいいだろ?」 「へ~、そんなに妹のアタシと相合傘したいんだアンタ。……シスコン」 …………ぐ。怒っちゃダメ、怒っちゃダメよ俺。 「ま、まあタマにはな」 「はぁ~あ、ど変態の兄貴を持つと苦労するわぁ。――ま、そこまで泣いて頼んでんなら仕方無い。特別に入れてあげる、感謝しなさい?」 泣いて頼んではいないけどな。 「ほらぁ、ボサっとしていないで傘持ってよね」 「へいへい分かったよ」 からかいつつも、どうやら一緒の傘に入るのは了承したようだ。桐乃から傘を受け取って、俺たちは家路へと歩き始める。 天空から落っこちてくる雨はさっきよりも勢いを増して土砂降りだ。 こりゃマジで助かったわ。良いタイミングで現われてくれたことには隣を歩いている妹に素直に感謝を捧げよう。 その妹は「濡らさないでよ」とかぶつくさ言いながら、肩が触れるくらいの距離で俺と歩を共にしている。 淡く香水の良い匂いが漂ってきて、背中がどうにもこそばゆい。 う~~、相合傘か……。――――って!? 桐乃と同じように自意識過剰になってどうするよ? ええい、落ち着け俺! にしても。 香水もそうだが桐乃のヤツはあいかわらずキメた格好をしている。オシャレしてどこへ行ってたんだか。 そぅっと横目に流し見ていると、 「なにチラチラ見てんのよ。キモ」 「見てねーよ」 「ウソ。見てたじゃん」 くっ……。こういうことに関しては女ってめちゃくちゃ鋭いよな。 「別に。ただ、雨の日なのにどこ行ってたのかと思ってな」 「気になるんだ?」 なんだそのまるで俺が妹の行動を逐一気にして仕方が無いって感じに受け止めたようなイントネーションの『気になるんだ?』は。 おまえのことなんか知るか! ちょっとだけ、なんとなく興味をひかれただけだっつの。 「あんたこそ傘も持っていかずに何やってたのよ?」 「しょうがねえだろ、買ってすぐ戻ろうと思ってたのに降りだしちまったんだからさ。ったくツイてねえよ」 「ドジィ~」 ニカァと俺の横やや下から白い歯を見せてくる桐乃は、俺が傘を忘れて困っていたことが嬉しいらしい。イヤなやつだ。 うるっさいよ、ばーか。オマエだってけっこうドジなとこあるくせによぉ。ぺっぺ! ――とは、傘を借りてその身を保護してもらっている俺としては言えないので、代わりに口を尖がらせるだけに留めておいてやった。大人の対応というヤツだな、うん。 「で。どんな本買ったの? マンガ?」 「ああ。ただの週間雑誌だよ。読み終わったら貸してやろうか?」 「うん、読むけど。――アンタ先々週号とか買ってないじゃん。たまに買わないとかやめてよね、話分かんなくなっちゃうじゃん」 「だってたまたま別のとこで読んじまってたし」 「だってじゃない。ちゃんと買うの! 分かった?」 「わーったわった」 基本的には買っているんだけど、俺って数タイトルくらいしか読まないから、たまたまコンビニ立ち寄ったときとかにパラパラ立ち読みってこともあんだよな。 桐乃はそれが気にいらないらしい。 読みたければ自分で買えと言いたいとこだが、女の子が少年漫画の雑誌を手にするのはちょいと抵抗感あんのかもな。 エロゲーやらアニメは買っているくせに、こういうとこは変に女の子らしい。 そういえば、コイツって買うには色んな方法があるって言っていたけどどうやってんだろね? 未だに謎である。店で普通に買ってるんだとは思うけど? まぁ知らないままでいよう。聞いちまって恐ろしいことだったりしたら俺の神経がやられちまう。触らぬ妹の秘密にタタリ無しだ。 俺と桐乃はそれからも、とりとめのない会話をして帰り道を歩いていく。 「明日も降るのかな? 雨」 「ん~、最近天気崩れやすいかんな。降るんじゃねえの? なんだよ、明日もまた出掛けんのか?」 「気になるんだ?」 なんだそのまるで俺がオマエに付いて行きたがってると勘違いしてそうなイントネーションの『気になるんだ?』は。 「普通に聞いただけだろが!」 「はいはい。……別にどこも行かないわよ。雨の中とか歩くの超ヤダしぃ。髪だってまとまらなくてイラつくもん」 ふぅん。 にしては普段と変わらねえくらい綺麗な髪してると思うけど、俺には分からんようなレベルで気にしてんだろうな。 「今日だってアタシが家に帰るまで降りださないで欲しかったのに、降っちゃうとかありえなくない?」 いくらなんでもお天気様にまでオマエの都合に合わせろなんて、ありえなくない? 「そりゃ災難だったな」 適当に同意を入れつつ。 そういや逆に質問を返されちまって聞けなかったけど、 「けっきょくオマエこんな遅くまで、どこ遊び歩いてたんだよ?」 季節がら日が沈むのが早く、雨も手伝ってか歩いているうちに周囲はかなり薄暗くなってきていた。 「ププッ。なぁ~にぃ? やっぱ気になってんだ」 「んなわけねぇだろ。オマエが喋りたそうにしてっから話振ってやったんだよ」 「は? 勝手に捏造しないでくれる? ――まあいいや、そんなに知りたいなら教えてあげる」 目元をゆるませ、桐乃はとても楽しそうな笑みを浮かべて残りの言葉を口にした。 「アタシ、今日デートしてきたから」 「あ?」 デ、デートだ!? 誰と……だよ? 「街で買いものしててぇ~、カラオケとかも行って超楽しかったし」 今日一日のことを思い返しているのか、目を細めてエヘヘーなんてしまりの無い声を出して笑んでいる。 桐乃の交友関係は広い。俺の知らないところでも多くの友人がいて、猫をかぶりまくって外面の良いコイツには言い寄ってくる野郎もそれなりにいるらしいことは、桐乃の親友である、あやせからも聞いている。 彼氏なんていねえのは分かっているが、ちょっと会って遊ぶくらいの相手はいても不思議ではない。 「誰とデートしてたか知りたい?」 俺の知っているやつってことかソレは? 「………………誰だよ?」 俺はぶっきらぼうに聞き返した。 「え~~教えて欲しいんだ? めっちゃ可愛い妹のデート相手が誰なのか」 「チッ。てめえが聞いてきたんだろ」 「そーゆー態度じゃ教えてあげない」 ご機嫌良さそうに答えをはぐらかしている桐乃に俺はだんだんとイラついてくる。 こいつがどこの誰となんていちいち気にしたって仕方ねえだろ。コイツ自身のことなんだからよ。そう普段は心底思っているはずなんだが、どうやら今の俺は違うらしい。 「いいから。早く言えって」 ムキになってやんのーと口に手を当ててほざく妹の仕草が、どうにもムカつく。 押し黙ったまま促すとようやく桐乃は誰なのかを口にした。 「……あやせ」 「あ、あやせ?」 「そだよん。ここんとこ忙しかったから、たまにはデートしよってあやせとは約束してたもん。だから今日は二人だけでずっと一緒に遊んでたんだー」 「…………」 ……んなこったろうと思ったよ。ケッ、あーあつまんねえオチだったぜ。 俺はひとり悪態をつきながらも、このつまんねえ話の締めくくりに安堵しかけた。 が、 「あんたアタシが男とデートしてるとことか想像しちゃったんだぁ」 ムスッとした俺の顔が気に入ったのか桐乃はなおも指差して俺のことをからかう。 「……普通そう思うのが当然だろ」 「ま、そだけどね~。――だって超カンペキなあたしに吊り合うような人ってなかなかいないじゃん? 友達と遊んでる方が楽しいし」 面白くもねえ話を吐き続ける桐乃は楽しそうだ。 俺は「ああそう」と素っ気なく興味ないと答えながら雨の音に集中するが、それでも桐乃は話すのをやめない。 どうやら俺に自分がいかにモテるか、どういう男じゃなければ相手にしないか語りたいらしい。 「でもぉ~アタシだったら超セレブとかでも引く手あまた? あやせんとこのパーティに呼ばれた時とかなんて、若くてかっこいいのにすっごい大きな会社の役員やってる人とかもいてさ。 そういう人たちからも色々名刺も貰ったりして? 正直困るくらいなんだよねぇ」 ピチャリと濡れたアスファルトから靴に水が染みこんできて嫌な感触を伝えてくるが、俺は強く足を踏み込み、ボソリと妹の名を呼ばう。 「桐乃」 「お金あればいいってわけじゃないけど、人並み以上の甲斐性くらいは無くちゃ男は駄目よね」 「桐乃」 「あとなんといっても優しくなきゃ完全アウト。冷たい男とかマジありえないし暴力とか論外。そうそう、この前なんか街で、」 妹が口を動かして更に言葉を続けようとしたとき、 「黙れって。……るせえよ」 「……ッ……!?」 歩みを止めて、俺は低い声で唸るように桐乃の言葉を遮断した。 桐乃はビクリと固まって、笑みが消えた口は少し開いたままに、目を見開いて不安そうに俺を見つめている。 「…………俺にそういうつまんねえこと、話してくんな」 それだけ言って、俺はふいっと視線を桐乃の顔から外したが。 即座に後悔が胸の内から襲ってきた。 な、なに俺は、妹相手に凄んでんだよ? こいつは別に俺を罵倒して貶しているわけでもなく、ただ単におしゃべりしてただけじゃねえか。 それでも言い様の無い不快感が沸きあがって乱暴な言葉を吐いたことには変わりは無い。 「な、何よ。……怖い顔して。ば、ばっかじゃん……」 こわごわと俺への文句を紡ぐ桐乃へ向き直り、俺は素直に頭を下げて謝った。 「……わりい。いきなりキツい言い方してすまなかったよ」 「う、うん」 謝ったあと、また二人で雨の中を歩き出すが、気分は天気と同じ色に変わっちまっていた。 ぐっぎゃああああああああ! 桐乃の言うとおりだ。バカじゃねえの俺? 意味も無く空気悪くして息苦しくさせてんじゃねえっつうの! 居心地の悪さに包まれてしまっているが、桐乃も俺もお互いが居ない場所へ立ち去ることが出来ない。 俺と桐乃は二人、一つの傘に入って、まるで閉ざされている空間に縛り付けられているみたいだ。 なわけで、ここで取れる俺の選択肢は一つしかないってことだな。 「なあ桐乃よ」 「…………なに?」 「ゴメン! マジ悪かった! 許して、ね!?」 この気まずさを直すために取った俺の行動は、妹への全力平謝りだ。 情けないなんて思わないね、立ち直りの早さっつうか気持ちの切り替えやすさは俺の美点だ。現状取りあえず出来うる、最大限の努力をしてると自負しよう。 まぁ、自分でやっちゃたことへの尻拭いってだけの話なんだけどさ。 「超怖かったし。サイテー。バカ」 桐乃は半目で俺の方を睨んでくる。 「反省してる」 「……分かってんなら別に、いいけど。あんたの今の姿、なんか女の子傷つけてホイホイ謝っちゃうとことか、マンガとかにも良く出てくる最低DV男じゃん?」 痛いところついてきやがるな。 俺の心境もまさにそんな感じだから、後悔して素直に謝っているんだよ。 しかしそれを面と向かって言われてしまえば、悪いのは俺かもしんねえけど、けっこ傷つくんだぞ? 「どうせ俺はオマエがさっき言ってたようなのとは違うしな。セレブでもなきゃ優しくもねえよ。……ほっとけ」 少しふて腐れながら言い放つと桐乃はケラケラ笑いだした。 「ップハハ! あんたが怒ったのって――やっぱり嫉妬しちゃってたんだ! やだぁ、シスコンきんもぉ~~! ククク」 「は!? なわけねーだろ!」 「じゃ、どうして怒ってたってのよ?」 「そ、それは――」 自分でもなんであそこまで機嫌悪くなっちまったかなんて分からねえのに答えようが無かった。 「クスクスクス。正直に吐いちゃえば? 妹がデートしてると思って嫉妬したんでしょぉ~? んでアタシがモテんのが気に入らなかったんだ? 自分はモテないしねー。あ~かわいそ」 ……答えようが無いと思ったけど、見つかったぜ。 なぜならクソ妹様が嘲弄する姿にと~ってもムカついたからだ。 「へっ、知るか。おまえが至近距離でやかましく、くっちゃべってたからじゃねーのぉ!」 「な! あんたの方がそばにいるんでしょ! 傘忘れて、捨てられたみたいに憐れにつっ立ってたのを拾ってあげた恩を忘れたの!? ありえないんですケドー!?」 「勝手に話作ってんじゃねえよ。オマエ俺が声かけたのにスタスタ歩いて行っちまいやがったくせに」 「え? アンタに声かけられたら誰だってそうするでしょ?」 「おい、やめろ! なに人を『常識知らないバカ人間』みたいに見てんの? 泣くぞ俺!?」 「泣けば?」 「…………グス。う゛わぁ~~~~~~ん、桐乃がいじめるよぉぉぉ!」 「ちょっ!? こ、このバカ兄貴! 大きい声出さないでよ! 本気で泣く、普通!?」 「ひぃぃぃぃん。乱暴で生意気で性格ブスなうえマル顔のクソ妹がいじめるぅぅぅ!」 「ぶっとばすわよクソ兄貴ぃぃぃぃぃッ!」 ドゴスッ! (←全力のニーキックがわき腹にヒットした) 「おぐぅぅ……。オ、オーケー妹よ、調子乗りすぎてた。もう大丈夫だから二発目を構えるのやめて!?」 「たくアンタはもう。フン! 次言ったらマジで殺すから! バーカ」 「はぁ~~。……あいよ」 殺されるのは勘弁だからな。 いつのまにか、さっきのような重い空気は霧散して消えて無くなって、代わりに俺と桐乃は自然に軽口を叩き合っていた。 そんなやりとりを続けながら、すっかり暗くなった雨が振り続ける道を、俺たちは歩く。そろそろ家も近い。 と、そのとき前方から一台の車が走ってくるのが見えた。かなり早いスピードだ。 桐乃は気に留めていないのか、俺に顔を向けて八重歯をのぞかせながら、ばーかばーかとまだ言っている。あぁうぜえ。 「だいたいアンタはさー。もっとアタシに優し――――、きゃッ!?」 桐乃の方が車に近かったので俺は腕を取って桐乃を引っ張り、体を入れ替える。 スピードが乗った車はそのまま真横を走り抜けていき、水溜りから大きく飛沫を俺たちに降りかけていった。 とっさに傘を突き出したが、俺の膝辺りから下はベショリと濡れてしまう。 「この大雨ん中、スピード出しすぎだっつうの。電柱にでもぶつかっちまえ」 くそ、ハイドロプレーニング現象なめんなよ? あ~あズボンが濡れちまったよ。 「あ……」 「ん? 桐乃、オマエもどっか濡れたか?」 「ふ、ふぇ!? え、あ……う、う、」 桐乃は目をぱちくりさせて何やらもごもごと唇を動かしている。 よく聞き取れないので顔を近づけてみると、 「ッ!? か、格好つけんな、ばぁか! キ、キモいのッ!」 「んな!? Σ(゚Д゚;)」 突然耳元で桐乃が大声で叫んだので俺は思わずたたらを踏む。 「い、い――いつまで腕掴んでんのよ、変態! 放せっ!」 「おわっとと!? おま、落ち着け桐乃」 「は、放してよ! このバカ! スケベ! ――――ッ!?」 とまあ俺の体勢が崩れかけているところへ桐乃が両手で俺を押すもんだから? そのまま重心は屹立姿勢を維持する制御を失って、俺は今さっき雨中を飛ばしていた馬鹿が水を跳ね上げた水溜り方向へと腰から落ちていった。 泡を食ってしまっていたので、掴んでいた桐乃を放す信号を脳から送ることも出来ず、そのまま二人で一緒に……、 バシャ――――ン! 背中と腰から、じわぁと水が染み込んでくる嫌な感触。 とっさに傘を持っていた手で桐乃を支えたが、桐乃は俺の上で「あたた」と呻いている。 「お、おい。大丈夫か?」 「う、うん」 「なら、早くどいてくれ!」 今も服が水を吸ってどんどん重くなっていっているんだよ! めちゃくちゃ冷たくて寒いってッ!? ようやく立ち上がったが、時既に遅しで俺はほぼズブ濡れ状態。 桐乃も雨に打たれてしまい俺ほどではないが悲惨な状況だ。まとまらないとクサしていた髪は雨でコーティングされて外灯の光に輝いて、ぽたぽたと水滴を落とす。 一瞬、艶やかな印象を受けて思わずドキリとしたが、直ぐに恨みがましく俺は桐乃に非難の声をあげた。 「おまえなー。いきなり押してくんなよな。見ろよこれぇ!」 うっええええええ! 背中から水を含んだ服がぴたぴた肌にひっついてきて、超気持ち悪いぃぃぃ! 「そっちこそ! あ、アンタが放さなかったから濡れちゃったじゃん。もーう、最悪!」 「だーから支えてやったじゃん。んだよ自分のことばっか」 「う、うるさい! アタシもう帰る!」 桐乃はそう言うと俺の手から離れていた傘を拾い上げ、さっさと歩き出した。 俺を置いてね。ひどくね!? 「チッ。待てって。ナチュラルに俺を置いていくんじゃねえ!」 「もう! 入ってくんな!」 「ヤダね。もしこれで風邪引いたらオマエのせいだかんな。はぁ~あ、買った雑誌も濡れちまったしよぉ」 へこむ。こんなことなら買いに行くんじゃ無かったぜ。 うなだれながら俺は水分を含んで重くなった服をなんとかしようと絞ってみるが、余り効果はなさそうだ。 「………………あの。ご、」 「桐乃、悪いんだけど俺やっぱ先に走って帰るわ」 家はもう近いし、走れば数分もかからない。妹の足に合わせているより、もういっそのこといち早く家にたどり着いて着替えた方が得策だと俺は決断した。 「んじゃな。オマエも早く帰って来ねえと風邪引いちまうかもしんねえぞ」 ぞわわと悪寒が走る体を腕で抱きながら桐乃にそう言いつけ、俺は傘を抜けダッシュで家へと戻っていった。 背後で小さく「……ばか」と呟き声が聞こえた気もするが、どうせ文句が言い足りないってダケだろうぜ。 その後、家に帰った俺はお袋に呆れられつつ、さっさと着替えを済ます。 数分後に帰ってきた桐乃も、風呂場に直行して、出てきたらさっぱりしてるようだった。 なんか雨に濡れちまったことをギャーギャー言ってくるかなぁと思っていたが、そんなことはなく食事中もいたって普通の態度。 ま、うるさくないから良いんだけどよ。 それから、寝ようと階段を上がる俺に「ねえ」と声をかけて来た。 「………………」なかなか次の言葉が出てこないが黙って待っていると、 「……マンガ、読んだら持って来て」 それだけ言って桐乃はリビングの方へ戻っていった。 へーいへい。 俺は心の中で適当に相槌を打って部屋に戻る。 寝る前に水に濡れてよれよれになってしまったマンガを少し読んでから、ベッドに入ってその日は終わりを迎え。 そして翌日、俺と桐乃は仲良く風邪を引いた――。 目が覚めた瞬間から妙に頭も体も重たかったんだよな。熱を測ってみたら、三十八度二分まで体温が上がっていてびっくりだぜ。 やっぱ昨日の雨に濡れちまったのが原因だと思われる。 あ~~~~~ぐぞぉぉ! 頭イデェよぉぉ。 病院に行こうかと思ったが、外は昨日から未明まで降っていた雨のせいで気温は大きく下がっている。 無理して病院へ行くより、風邪薬を飲んで静かに寝ていた方が良さそうだ。 お袋に風邪薬を持ってきてもらい、そこで桐乃も風邪を引いていることを聞いた。 なんだよ、あいつも結局風邪引いちまったのかよ、だらしねぇなぁ。 「あんたは傘忘れてったおバカさんだからしょうがないけど、あの子までねぇ」 うっせババア。 事情は話していなかったので、お袋は俺がうっかりと傘を忘れて、やむなく一人走って帰ってきたと思っている。まあ半分以上はその通りなんだが。 細かい経緯を説明したところで風邪を引いてんのに変わりは無いし、言葉を出す気力も無いので俺はゲホゲホと咳きを吐きつつ、再び眠りについた。 それからひとしきり時間が経って、次に目が覚めたのは、数時間後。 熱を測りなおしていないから正確には分からんが、朝よりはだいぶ下がったようで楽な感じを受ける。 俺はのそのそとベッドから起きだして、階段を下り、リビングへ向かった。 カチャリと扉を開けて中に入っていくと、桐乃を発見する。 パジャマ姿。おでこには冷却シートを貼り、部屋から持ってきたのか毛布に包まって、ソファに座りテレビを観ている。 観ているのは当然、アニメな。 「あれ? お袋は?」 「お昼くらいに出かけた。今日、お稽古事の集まりがあるって言ってた」 画面から目を離さずに桐乃が答える。 ふーん、だからオマエ堂々とここでアニメを観てられるってわけね。 「つーか。熱ある子供放っておいて出かけるか? 愛情ねえなー」 「違うって。アタシが行かせたの。子供じゃないんだし大丈夫だから行ってきてって。――楽しみにしてたっぽかったのに、自分の都合じゃないのに行けなくなっちゃうとか、可哀想じゃん」 「……あっそ」 お優しいこって。どーせ俺は親のことも考えてあげられない子供ですよっと。 「体調の方も、もう良くなってきてるしね」 あんま大丈夫そうな格好には見えねえが、アニメ鑑賞するくらいには良いんだろう。 「なぁ、飯とか食ったか?」 少し腹が減ってるから、何か食いてぇんだけどなー。 問いかけながら俺は椅子に座って、食事をするテーブルに倒れこむようにして上半身をくっつける。 う~~、冷た気持ちいい。 「……お粥あるから、それ食べた」 なんだあんのか。顔をずらしてコンロの方を向くと鍋があったのでそれだろう。 俺が立ち上がってコンロの方に行こうとすると、 「あっためてあげる。……待ってて」桐乃はリビングからキッチンに入ってきながら予想だにしなかった言葉を口にした。 「ぅぇぁ?」 思わず意味不明な声をあげてしまう。 「何よ? ……食べたくないの?」 「いや、食うけど……」 「じゃあ、大人しくそこに座ってなさいよ」 桐乃はすげなく言いながら、コンロの火をつけてお粥の入った鍋を温めだす。 おかしい。桐乃のやつがおかしい。どういうつもりだコイツ? 妙に優しい態度に俺はとまどうが、頭の痛さとダルさから、桐乃の行動に納得いく答えを見出せないまま、言うとおり席につく。 コトコトと音を立ててお粥が温まっていく間、俺は手持ち無沙汰に、キッチンに立つ桐乃の後姿を眺めることにした。 髪は整えておらず、若干寝癖がついて、いつものハネッ毛がさらにハネていた。まあこれは……、俺もだが。 いつもは身だしなみをきっちりとしているコイツの油断した姿を見ているようで、どこか微笑ましい。 あと、料理をあまりしない桐乃がキッチンに立っている姿は、新鮮味と不思議な気持ちがない交ぜになって、風邪で機能がダウンしている俺の頭に心地よく響いた。 なんかこういうのも、割と良いもんだな。 思わず、にへらぁと口元が緩む。 「不気味に笑って見られんの、キモいんだけど……」 ふいに俺の方へと顔を向けた桐乃が冷めた目で言ってきた。 「ッ!」 おまえが似合わんことするからじゃねえかよ、ケッ。 バツの悪さに顔をそらす。 ただ、やっぱせっかくの妹の珍しい光景だし? もうちっとは見ておいても良いかもしれない。と、顔を戻して再び桐乃をすがめ見ると、 「……っ? お、おい。大丈夫か」 両手をカウンターのふちについて桐乃は頭を下げてうなだれていた。 「平気だって。ずっと横になってて起き上がっちゃったから、ちょっと立ち眩みしただけだし。――お粥、もう温めなおしたから、座って待ってて」 ふぅと軽い息を吐いて俺を制すが、どうにも弱々しい雰囲気だ。鍋を持つ手も震えていて、見ているこっちがはらはらしてしまう。 「おま、もういいから休んで寝てろって。俺が食うもんなんだしよ」 桐乃に近づいて、後は俺がすると手を伸ばそうとしたが、また「あたしがやるからッ」と制された。 何をこいつはムキになってんだよ。ワケがわかんねえぞ? 普段はぞんざいに俺をアゴで使って自分はお姫様然としているくせによ。 おまえも風邪引いてんだろうが。 体力落ちてんだったら危なっかしいことはよせってえの。 「ほら、さっさと座っててよ! 持っていくから」 なかばキレ気味な声で桐乃は俺をブンブンと手振りで追いやる。 「分かった分かった。なんでもいいから早くしてくれ」 「なにそれ、ムカつく」 どうして素直に言うこと聞いてるのにムカつかれなきゃならないんでしょうかねぇ? ああ頭イテ~~、ぼうっとする。 熱を出した体じゃ突っ込みを入れる元気も起きてこねえよ。 肩をすくめて席に座りなおすと、桐乃は棚から俺の茶碗を取り出して鍋と一緒に持ってきた。 どういう気かは知らねえけど、食事の世話をしたらしい桐乃に内心どこか高揚する俺。 へっ。 なんか魂胆でもあんのかもだが、ぶっちゃけ悪い気はしねえからな。 ダルい体を椅子にもたれさせて桐乃が用意してくれるのを待つ。だが、桐乃の次の行動で俺はまた椅子から体を起こすハメになった。 「おいおいおい。あ、アブねえぞ!?」 「だ、大丈夫だから!」 どうしてこんなことやってんのか、桐乃もやっぱ熱で頭が働いてないんじゃねえのか? 鍋の中の粥を茶碗へそのままダイレクトに移そうとしてるよこのバカ妹! 片手で茶碗を支えて、もう片方で鍋を持っているが、それが重いのか明らかにプルプルと腕が震えている。 イヤな予感しかしなかったね。んで妹へ感じた予感ってやつは大抵の場合、高確率で当たっちまう。 「桐乃! お、おタマ使え――、」 俺が発した言葉を言い終わらぬうちに桐乃は鍋を持つ手の力がユルんだのか、傾き加減を間違えたのか。 今々、コンロで温め直されたばかりのお粥がどばぁっとテーブルへとこぼれ、 「――熱ッ!?」 反射的に伸ばしていた俺の手にかかっちまった。 「…………あ、あ。……あんた……」 俺がとっさに払った手を押さえながら、桐乃は気が抜けたような声をだしている。 何か言ってやりたいと思ったが台詞が出てこず、俺はとりあえず火傷になるといかんので、水道の蛇口をひねって手を冷やした。 冷水が手を覆って流れていくと、熱もそれに委ねられて一緒にシンクへと落ちていく。 そこまでたいした熱さじゃなかったから火傷にはなりそうにないな。 もうちょいだけ冷やしときゃ大丈夫だろう。やれやれだぜ。 「……だいじょう…ぶ、なの……?」 呟くような声が背中からかかる。 「ああ、どうにかな。おまえの方は?」 「ん。……どこも」 火傷を負ったところは無かったらしい。 安心と同時に軽い怒りが沸いたが俺は黙って手を水に当て続け、その後ろで桐乃はテーブルにこぼれたお粥を拭いて、後始末をもくもくとやっているようだった。 そろそろ良いだろ。と蛇口を閉めて手を確認したら、うっすらと赤色に変色している。 ちぃとだけジンと痛みがあっけど、気にしなきゃ知覚しねえ程度のもんだ。 こっちより頭の痛みの方がよっぽど早く治ってほしいね。 シンクから顔をあげてテーブルの様子を見ると、すっかり片付け終わって、茶碗にはお粥が新しく盛られている。桐乃が用意したものだ。 席について、 「これ、食べていいのか?」 桐乃はコクンと頷いて「手、見せて」と言う。 手の色を見てから少し眉をしかめて、冷蔵庫から保冷剤(あの中身がジュルジュルしてるやつ)を持ってきて隣の席へ座る。 次いで、俺の手を引っ張って、持ってきたそれを静かに当てた。 「痛くない?」短い問い。 「――――え? ん……あ、ああ。あんまり当てられ続けっと、逆に、冷たすぎるくらい……っす」 「そ」短い応答。 保冷剤で冷やし過ぎないようにと、優しい手つきで火傷しかけた箇所を丁寧に撫ぜる桐乃は、何か溢れてきそうなものを必死に我慢しているようにも見える。 食事は用意するわ、こんな介護みたいなことをするわ。それに、なんだかすげえ哀しそうにも見える。 ――ど、どうしたんだコイツ!? 変なものでも食ったのか? このお粥に怪しい薬物でも混入していたとか? スプーンですくって口に運ぶが、味はたいして分からない。塩をもうちょっと入れて欲しいくらいで、見るからに変哲もないお粥だが、俺は半ば本気で変なモンが入ってんのかと疑った。 「おまえ、風邪で頭どうかしたんじゃねえのか?」 だってこんな俺の乱暴な問いに対しても、 「……バカじゃん」 覇気の無い、か細い声を口にするだけ。 思わぬ献身的な対応を俺は信じられないもののように見ていた。 やがて俺は粥を食い終わるが、桐乃はまだ俺の手を熱心に保冷剤で冷やしたり撫でたりしている。 「もういいって」 ぶんぶんぶん。 まるで駄々っ子のように頭を振って俺の言うことなど聞かない。 つか、充分冷やしてくれたんで既に痛みなんて無いってーのにさ。 それでも桐乃は必死で、真剣で、それを俺は止める術が無いかのように、しばし桐乃の行為に身を任せた。 いつ雨が降るのか降らないのか、昨日ちょうど家を出る前に仰いだ空のような微妙な空気の中、俺たちは会話をする。 「桐乃。オマエやっぱりまだ熱があんだろ?」 「無いし」 「嘘つくなよ。さっきだって少しフラついてたからこぼしちまったんじゃねーのかよ」 「………………ちょっと前に測ったら……七度一分だったし」 微妙なラインだな。 微熱と言えそうも無いくらいの微熱だが、 「風邪は風邪じゃねえか。治りかけなんだから慣れねえことしてねえでソファで寝ッ転がってろよ」 暗に俺はもういいからってことを含めたつもりなんだが、桐乃にはうまく伝わることがなく。 「るさい、シスコン。……可愛い妹が手当てしてやってんのに、なにが不満なわけ?」 ぼそぼそとしゃべって顔をさっきよりも俯かせてしまった。 ほとほと困り果てる俺。 だってそうだろ? 普通だったらもっとこう元気があるというか、噛み付いてくるというか俺の意思なんて蹴っ飛ばすくらいの勢いなのに……。 俺は桐乃の顔を見つめた。 こっちの方が罵倒する言葉を辛辣に吐いてくることも無く、普段より全然可愛い。だが俺はどこかで、こんな桐乃は可愛くねーよとも思っている。 チッ。未だにガンガン不快な音が頭の中で鳴り響いていて俺の風邪は治っていない。 きっとそのせいで意味の分かんねえこと考えちまってんだろうぜ。 じゃねえと俺は普段から桐乃のことを――。 「………………」 少し会話が途切れたタイミングで、俺は手を引いた。 「おかげで痛くなくなったよ。ありがとな」 「ん」 「粥も美味かった」 「アタシが作ったんじゃ……ないけど」 いじけてしまっているような桐乃のすげない台詞。表情も相変わらず暗いままだ。 少し溶けて、柔らかくなった保冷剤を指の腹なんかで陰気にツツいてやがる。 ……ほ~~う、桐乃。テメェいつまでそんな態度してるつもりだ? お、こら? だんだんと我慢がならなくなってきたぜ。 妹がどうしてこんな落ち込んでいるのか分からないが、それを黙っているような性格を俺はしていないからな。 今までもそうだった。世話を焼いたり、メチャクチャな要求に涙を飲んできたのは――、〝そういう顔〟をさせるためじゃねえんだよ! ベシッ! 「あイタッ!?」 いつもとは逆だ。 桐乃が怒って俺に手を出すんじゃなく、俺が怒って桐乃へ手を出した。 俯いちまっている頭にチョップを叩き込んだら桐乃は驚いたように俺を見てくる。 「似あわねー真似してんじゃねえよ桐乃。いつもいつもクソ生意気な態度見せてやがんのに、なんだその体たらくは?」 「な? ……は、はぁ!?」 「はあ? じゃねえよ。さっきからその態度はどうなんだって言ってんだよ! おまえが落ち込むのなんざしょっちゅうだけどなあ、だが俺を目の前にしてそんな顔されてっと我慢がならねえんだよ! 風邪で弱っちまったからかどうか知んねえけど、なんだってそんな風になっちまってるんだ!? おら、聞いてやっからさっさと俺に話してみやがれ! そんなんなっちまってる原因をよ!」 俺はそれだけ一気にまくし立てて最後に――「ケッ、シスコンなめんな!」――とふんぞり返った。 ケホケホッと蛇足で咳きが出て、いまいちシマらなかったのが俺らしい。 そんな俺の顔を桐乃は呆けたようにのぞき込んでいる。 そして次に表情を変えたときは、さっきまでの消沈しているような気配は無くなって……、 「キモ! キモキモ! このシスコン! 妹に手をあげるとかマジさいてーッ!」 「あー、そりゃ悪うござんしたね~え」 「こ、こんのぉぉぉ――ッ! ムカつくムカつく、……ムカつくッ!」 俺に叩かれた頭をさすりながら対兄貴用に特化してるんじゃねえかみたいな感のあるお決まりの常套句を連呼して。 桐乃はいつもの可愛げない、クソ生意気な妹様へと戻っていた。 俺が望んだように……。 ――十数分後。 俺たちはリビングのソファに座って話を続けていた。 「おー痛て。――おまえなぁ、百回も叩き返すとかありえなくね!? しかもきっかり回数かぞえて。どんだけ執念深いんだよ」 「るさい! かよわい女の子に手を出したアンタが悪いんだかんね。これで勘弁してあげてんのをむしろ感謝しなさい」 「手を出すって……。そんなエロいことした憶えねーよ。……かよわくねえし」 「あ゛あ゛? なんか言ったアンタ!」 「なんでもないから噛み付こうと八重歯見せてくんな!? 怖いから!」 ったく元気になったかと思えばこの勢いだよ。やっぱもう少し大人しい方が可愛いげがあって良いんじゃねえの? 自分のしたことに、ほんのちょっとだけ後悔。 苦笑を漏らしつつ、俺は桐乃に聞きそびれていた本題を切り出した。 「で? 桐乃、どうなんだよ?」 「何が?」 「だからさ、おまえが落ち込んでたのって、どうしてなんだ?」 「む……」 理由を聞くとクッションを胸に抱いて口ごもり、恨めしそうに桐乃は俺の顔を睨んできた。 「話してみろよ。さっきも言ったが聞くまではそばを離れねえかんな。俺に解決できる悩みかは知んねえけど、それでも、」 「一度っ……だけだからね!」 桐乃が言葉を遮った。 俺の方を見据えて下唇を押し上げてとても複雑な顔をしている。 「一度、だけ言うから……。ちゃんと聞かなきゃ……殺すから」 「あ、ああ」 緊張しているのか、決意を秘めた目は潤んで顔も若干赤い。 それが熱の為だけじゃないのはなんとなく理解できた。伝染するように俺へも緊張は伝わり、胸がドキドキする。 桐乃は何を言う気なのだろう。 すーはーすーはー。 深い息を二度ほどついて、桐乃は口を開いた。 「ご、ごめんなさい! 昨日、突き飛ばして風邪引かせちゃって!」 「!」 クッションを抱え持ったまま俺に頭をさげる桐乃。 桐乃の言葉が瞬間豪雨のように降り注ぎ、心臓が一瞬止まったかのような錯覚を覚える俺。 「そのこと気にしていたのか、おまえ」 あんま凄いことが起こると逆に流暢に口が動くモンなんだな。 「だってアンタ、『風邪引いたらオマエのせいだ』って言ってたし、あたしもそうだと思ったから……」 「にしたってあそこまで落ち込むなんてよ」 「そ、そんな落ち込んでないけどッ! …………でも反省はしてる。お粥こぼしちゃったのも、風邪ほとんど治ってたから油断してたせいだし。それで……火傷させちゃったし」 「………………」 だからか。 俺が風邪引いたのも火傷を負いかけたのも自分のせいだと考えて。 その通りと言えなくも無いのかも知れねえけど、そうなるように行動しちまったのは俺の選択だ。 なのにコイツは誰よりも責任感が強いから。 風邪で弱った心と体に、その二つが強く圧し掛かったように感じちまったんだろうか? ……バカ桐乃め。 俺はさとすように桐乃に言ってやった。 「いいって。誰のせいってもんでもないだろ。さかのぼれば俺が傘忘れなかったらよ、オマエだって風邪引いちまうこともねえんだから。俺の責任って言えなくもないだろ?」 「そうだね」 肯定しやがった!? そこは『ううん、違うのアタシが悪いの』とか言うもんじゃねえの――!? しょぼくれてても、こんな殊勝な態度に出ててもやっぱ桐乃は桐乃だなぁ、なんか安心したよチクショー! 「でも、今回は。アタシの責任ってことで、いい」 再度自分に非があると告げて、それから桐乃は拗ねたように、 「…………謝ったからね? もう言わないから!」とクッションに口を隠しながら言い終えた。 最初は耳朶に響いた桐乃の言葉に心底驚いたが…………、そっか。オマエ俺のこと、心配してくれてたんだな。 俺は力なく「分かったよ」と答えて、なんとなく口の端を緩めてしまう。 後から考えるに、きっと桐乃の言葉というか俺に対する気持ちに、こそばゆく感じちまってたんだろうぜ。 「なにニヤけてんの? キモ」 「うっせ」 風邪はまだ治っていないはずだが、妙に心地良く。 俺は妹としばらく雑談を交わすことにした。 「そういやオマエ、薬はちゃんと飲んだのか? 熱も七度一分とか言っていたけど、ベッド抜け出してずっとここにいたんじゃねえだろうな?」 「子供扱いしないでよね。ちゃんと飲んだもん。――そういうあんたこそどうなのよ?」 「……そういや、俺どうなんだろ?」 朝よりは良くなってはいると思うんだけどなー。熱測ってないから分かんねえや。 「は~。自己管理出来て無いのはどっちよ。ちょっと待ってて」 桐乃はそう言うと戸棚から体温計を持ってきて「はい」と手渡してくる。受け取って耳に当てて測る。ピピッと音が鳴って液晶の数字を確認してみると、 「七度四分か。まぁまぁ下がってきたな」 「アンタ最初はどれくらいだったの?」 「八度くらいだっけかな? おまえは?」 「七度八分……」 「へっ。勝ったな」 「どうして勝ち負けになっちゃうのよ、熱で頭が沸いちゃって変になっちゃってんじゃん?」 桐乃はおかしそうに笑んで、俺から体温計を受け取り元の場所に戻した。 ついでに冷蔵庫からヨーグルトを二つ持ってくる。 「はい」とフタまで開けてくれて俺に差し出す。 「サンキュー」礼を言って受け取る俺。 なんだろうねコレ。 本当に熱のせいで変になっちまってんのか、俺と桐乃はいつもよりもずっと、なんというか、素直に会話をしていた。 と、テーブルに置かれていたBlu-rayのパッケージが目に入った。 「ところでオマエさ、なんのアニメ観てたんだ?」 「今年の夏公開だったやつ。昨日買ってきたから」 「ふぅん。…………おもしれえの?」 「なに? 観たいの?」 頬を掻きながら首肯した。 「へー、珍しい。んじゃあ途中まで観たけどアタシももう一回観たいし、最初っから再生してあげる。ふふん~、言っとくけど作画チョー良いから!」 桐乃は俺が興味を示したのがご満悦なのか、ニヤっと得意そうに口角をあげて、リモコンを操作してアニメ上映を開始する。 風邪を治すにゃあ、そろそろ自分の部屋へ戻って布団被って、もう一眠りするのが良いのだろうが。 もう少し、このアニメが終わるくらいまでは……、ここで妹とだべっててもいいんじゃねえかな? だってよ、なんか、なんとなく、もったいない気がするんだよ。 「ほらぁ。いつまでもヨーグルト食べてないで。始まるよ? オープニングもカッワイイしカッコいんだからねっ」 「わーったよ」 そして俺たちはリビングで二人、ソファに座ってアニメ鑑賞を始めた。 テレビ画面に展開されていく物語を追いつつ、時折、途切れ途切れに短い会話を挟んでいたが、時間が経つにつれてそれも減っていき。 そして俺は、いつの間にか眠っていたらしい――。 「…………ん、んん」 目が覚めて薄ぼんやりとした視界がひらける。 窓の外から夕陽の茜色が陽炎のように差し込んで部屋を染めていた。 えっ…と……。ここって? 見慣れたどうってことのないリビングのはずだが、どこか穏やかで暖かい静謐を湛えている場所に迷い込んだような錯誤を覚える。 長いこと寝ちまったようで感覚がブレてんのかも。 と。 カチ、カチと音がしているのに気がつく。 顔は動かさないまま目だけを向けると、桐乃がソファに座ってノーパソをいじっているのが見えた。 俺が起きたことに気付いたようで、チラリとこっちを見、そしてまたディスプレイに視線を戻す。 「あれ? アニメ、もう、終わっちまったのか……」 「とっくだって。あんた半分も観終わらないうちに眠ってんだもん」 時計を見ると確かに映画一本余裕で観終わるくらいに針が進んでいた。 「……そか、悪い。また今度、観せてくれ」 「別に気にしてないし」 すげなく答えながらマウスをクリックしている桐乃。 言葉の額面通り本当に気にしていないのか、それともやっぱり途中で寝ちまった俺に怒っているのか、どっちなんだろうな。 小さくあくびのような息を吐きながら俺はまた目をつむりそうになった。 やけに気持ち良く。そこで初めて、肩までしっかりと布団がかけられて全身が暖かく包まれていることに気がついた。 リビングも暖房が保たれており部屋全体が暖かい。 まだ覚めきらないぼうっとした頭をかかえたまま、俺はぽつりと桐乃に問うた。 「これ、おまえが?」 注意深くなければ気付かないほどの仕草で桐乃は頷く。 更になんとなく額に手をやり、「ん?」貼っついていたもの取って見ると、熱冷まし用の冷却シートだった。 「えっと、これも?」 「……こんなとこで寝てたんじゃ、また風邪悪くするじゃん。それでアタシにうつされたって困るんだけど」 抑揚の無い声で相変わらず俺の方を見ないで興味なさげにしているが。 ………………そっか。………………そっか。一度、二度と俺は静かに頷いた。 目が覚めたときに暖かいと感じた原因は布団や暖房だけじゃ無かったようだ。 寝ている俺に布団を持ってきてかけるのも、熱冷ましのシートを貼るのも、……そんでアニメ観終わっても部屋に戻らず、ここにノーパソ持ってきてんのも。 桐乃がそんなことする理由は。 いや、どうしてだなんていちいち考えんのはもういいだろ。 似合わない行動なんてのは十分承知してんだ。俺も……桐乃も……。 それでもというなら、全部風邪のせいにでもしといてくれよ。なんなら昨日の雨に濡れちまったせいでも、俺が傘を忘れたせいでも。 理由付けなんてどうでもいいさ。 とにかく俺は手を差し伸べる。逆光となっている夕陽を介したままじゃ、桐乃の顔は見づらいから。 「桐乃。ちょっと、こっち来い」 呼ぶと桐乃は「偉そうに命令すんな」と呟いたが、ノーパソのディスプレイから目を離して、俺のそばへきてくれた。 ゆっくりと伸ばした手で桐乃の頭に触れる。 柔らかい髪の毛の感触が手に伝わった。 「……っ!? な、な。……や、やめてよ……、あたしのこと……バカにしてんの?」 「するわけねえだろ」 頭を撫でると、指と指の間から髪の毛がクシャリクシャリとゆるやかな音を出す。 「おかげでだいぶ楽になったよ」 俺は桐乃の顔を見つめて言った。 自然と口をついて出たのは感謝の言葉だった。 桐乃もイヤそうなことを口にしたが手を払い落すこともなく、俺の目を見て。やがて静かに、「…………うん」と囁いた。 少し嬉しそうに微笑んで、首肯する桐乃。 髪留めをしていないので、前髪が垂れていつもより大人しい印象を受ける。 「オマエの方は。熱、ちゃんと下がったのか?」 俺は頭を撫でていた手を滑らして、そんな桐乃の前髪をかきあげ、額に手を置いた。 すると桐乃も俺の額に手を伸ばしてきて、 「そっちこそ。まだ残ってるんじゃない?」 お互いがお互いの額に手を当てて、なにか大切な約束事を交わして誓いを立てているように相手の熱を感じる。 正確にどれくらいの時間かは分からないが、俺たちはしばらくそのままの姿勢でいた。 「昨日、傘入れてくれてありがとな」 もっと何か話すべきことがあるように思えたが、俺は昨日のちょっとしたことに対して桐乃に礼を述べた。 「おかげで、風邪引いちゃったじゃん。……ばか」 「はは、そうだな」 しかも兄妹仲良く二人してだ。 仲の悪い兄妹である俺と桐乃はつまらないことに関してはずいぶんと相性が合うんじゃねえの? そう、今の俺と桐乃もきっとそのつまらないことの延長なんだろう。 なんて変なことを考えていると、桐乃が心を読んだように言う。 「変なこと考えてんじゃないっつの」 「すまん」 「……ばか」 どうバカなんだろうな俺って。 二つの音をつないだ罵倒の言葉だが、桐乃が俺に言うに限って、それは様々な意味を持つ。この先も、その意味を言い当てることに俺は苦労すんのかね? それでもいいと、俺は〝ばか〟なことを考える。 一人苦笑していると、桐乃が「ねえ」と幽かな声で俺を呼んだ。 少しの沈黙があって。 あのね、と桐乃は言葉を紡いだ。 「さっき、ね。言いそびれたんだけど。昨日、車から護ってくれたの……ちゃんと分かってるから。あと、お粥こぼしたときもかばってくれて。……兄貴が、優しくしてくれてんの、けっこう……その、いつも――」 たどたどしく言葉を紡ぎ、薄藍が混じる瞳を揺らめくように彷徨わせてはいても、それでも最後は俺をしっかりと見て、 ――「いつも。う、嬉しかったり……してる、から」 ……桐乃の顔を、俺はどんな顔で見ているんだろうな。 また沈黙が俺と桐乃の間に横たわりかけたが、かろうじて「そか」となんとかそれだけを口にした。 「じゃ、じゃあ。アタシ、もう部屋に戻るね」 桐乃は照れくさそうに顔を赤らめて俺の額から手を放し、ソファを立ってリビングを出ていく。 なんか言わねえと。 そう思ったが結局俺は桐乃の後姿を黙って見送り、階段をトントンと小気味良く上がっていく音を聴きながら、胸へと響いた桐乃の言葉を反芻していた――。 桐乃がリビングから去って少ししてから、俺もそろそろ部屋に戻ることにした。 頭痛も発汗も収まり、風邪はほぼ治っていると言える。 はは、気持ちよく寝れたおかげかもな。 布団を持って戻ろうとすると、テーブルの上にノーパソが残っていることに気がつく。 「桐乃のヤツ忘れていきやがったのか」 まぁあとで取りに来るつもりだったのかもしんねえけど。しょうがねえ、届けてやるか。 今日は色々と世話をしてもらったことだしな。 手にノーパソを抱えて階段を上がり、妹の部屋の前までやってくる。 そこで、さっきまでのやりとりが脳裏をよぎって俺はなんだか気恥ずかしくなった。 あらためて考えると……、かなり恥ずかしいことをしてたんじゃねえの!? お互いにおでこに手を当てあってさ。 白昼夢でも見ているような時間だった。 ただ、それでも桐乃と交わした言葉は、幻でもなんでもなく確かに俺の胸へと残っている。 だからってわけでもねえけどノーパソを届けるついでに、ややタイミングを逃してこっ恥ずかしいが、さっき桐乃がリビングを出て行ったときに言えなかった言葉を、俺は言おう思う。 カァっと頬が熱くなってくる。胸がドキドキもして落ち着かない。 ハ、緊張とかじゃねえって! きっとまだ完璧に治ってなくて、体調も頭の働きも本調子じゃないんだと思うぜ? だってさ……、 ガチャリ ノックすんの忘れてたくらいなんだもん。 「へ?」「え?」 目の前に桐乃が居た。まーいるよね。部屋戻るって言ってたんだから。 ただ事態はそれだけじゃ無かったわけだ。 いや、俺がノックを忘れたのも悪いんだけどさー、桐乃だって鍵かけ忘れてたわけなんだよな? 見られたくねえなら鍵をちゃんとかけとけばいいんだよ。そう思うだろ? 今さら言ってもしゃあねえかもだけど。 桐乃のやつは風邪で汗かいたんで、下着を替えようとでもしたんだろう。俺も実はけっこう汗掻いててノーパソ届けた後に体でも拭こうと思ってたし。 で、桐乃が腕を交差させて服を脱いでいるまさにその瞬間、俺がドアを開けたんだな。 あ~~。ん。まぁ、簡単に言うとだな…………。 妹の着替えシーン、ばっちり覗いちゃったゼ?(キラッ☆) 「あ、あああ、アンタ………あ、アンタ…………」 ヒクヒクと口の端を持ち上げつつ俺を呼ぶ桐乃は、風邪でもここまでならんだろうってくらい顔を紅潮させていく。 目尻からは早くも兄が妹に課した羞恥に対して涙が溢れつつある。 や、やべえええええ!? こ、こここれはヤバイ!? どうしよう! どうすればいい? 動転してしまって混乱しかけたが、俺はここに来た目的を思い出した。 ノーパソを届ける。 それと……、それと桐乃が俺へ示してくれた気持ちに対する返答を聞かせるために、俺は妹の部屋へ来たんだと。 そ、そうだよ。それを言わなきゃ! 言わなきゃいけねえだろ!? 聞け、桐乃! これが俺の気持ちだ! 嬉しいって言ってくれたことへの飾ることが無い返事だ! 聞いてくれ、俺の素直な言葉をよ――――――ッ! 俺は親指を立てて桐乃に言い放った。 「あ、あの。――俺も嬉しいぜ。桐乃?」 ………………………………なんか違くね!? これだと俺は桐乃のハ、ハダカ覗いちゃって喜んじゃってるみたいじゃね!? マズイ、非情にマズイ。 俺はこれまでの経験則から危険信号を感じ取り、とにかく一刻も早くこの場を離れることにした。 もう手遅れかもしんねえけど。 「き、桐乃ちゃん。ノーパソ。ここに置いとくからね? そ、それじゃあね?」 ノーパソを床にそっと置いてから俺はドアをパタンと静かに閉めた。 ガタガタガタガタガタガタガタガタ。 震える全身をなんとか動かして逃避行が始まる。 自分の部屋はダメだ! カギかからねえから直ぐに処刑される。 一階へ降りていき、どこへ逃げこむか考えようとした矢先、ドガン! と二階から轟音。 たぶん俺の部屋のドアが昇天っちまったんだと思う。さらば、オマエのことは忘れない。 って、んなことよりも!? やべー、やべーよ俺。まだ死にたくねえよ~~!? すぐにドンドンドンと階段を下りてくる恐ろしい存在を感じ、俺は脱兎のごとくその場を離れ。 逃げ込んだ先は、風呂場だった。 お湯がたまっていない浴槽へ逃げ込みフタをして、恐怖から逃れるように耳を塞ぐ。 ドキドキ、ドキドキ。 一分、三分、五分………………。 「に、逃げ切ったか?」 外へと逃げたと勘違いでもしてくれたんだろうか? 俺はおそるおそる浴槽のフタを静かに開け、 「……なんでそういっつもいっつもアンタは、アンタはぁぁぁ~~~~………!」 阿修羅と目が合った。 真っ赤に染まりきって憤怒の形相で俺を見下ろし、手にハンドシャワーを持っている。 「待て! 桐乃! おま、それをどうする気だ!? 病み上がりの人間に何を!?」 答えが返ってくることは無く。 俺は自らの袋小路となってしまった浴槽の中で煩悶しながら、あのリビングでのやり取りはやっぱり夢か幻だったんじゃねえの? と考えていた。 シャワーはもちろん、冷水だったよ……。 ――数日後。 図書館で勉強をした帰り。 俺は家路の途中、コンビニに寄って買い物をしていた。 レジで会計を済ませてからドアをくぐると、そこで空の様子に気がつく。 「あーあ、またかよ」 鈍色の空からはパラパラとした時雨が落ちてきていた。 ここんとこ雨が多くねえ? 寒いんだから、勘弁してほしいぜ。 白い色のため息をつきながら、コンビニで買ったペットボトルをバッグの中に放りこんで、がさがさしていると、 「……?」 目の前に傘が差し出される。 ゆっくりと顔を上げる俺。 綺麗で長く伸びた足と均整のとれた体つき、そして遠目でもわかるライトブラウンの明るい髪と、ちょいと気が強そうに俺を睨んでくる整った顔立ち。 俺は傘を差し出しているそいつの名を呼ぶ。そいつ――すなわち俺の妹の名を。 「桐乃」 ……おまえ、なんでここにいんの? いきなり妹の桐乃が目の前に現われたことに少し戸惑うが、すぐに理由をしゃべってくれた。 「あんたまた傘忘れたの? たく。帰ってたらな~んか冴えない顔があると思ったら。朝からテレビでも降るっつってたじゃん」 「え? あ、ああ。――そう、だな」 「はぁ~~~~、ほんと世話を焼かせないでよね」 なるほど。この前と同じように、どうやら桐乃もどこかへ出かけていた帰りらしいぜ。 ただ、そんときと違うのは俺を見つけて、んで雨も降っているから……、 「ほら。帰るよ」 桐乃は照れているのか怒っているの分からない表情で俺を上目づかいで見上げ、くるりと振り返って歩き出す。 「あ、えと」 「なにやってんの? 置いてくよ」 …………へっ。置いていかれたらたまらんな。 「おう。待ってくれって」 駆け寄り、傘の中へと入る。 「いや~~助かった。さすが俺の妹」 「うわぁ~~なんかそれヤダ。せめてさすが俺のご主人様じゃないとぉ」 「俺はオマエの召使いになった憶えはねぇよ!」 「ん~。じゃあさー、」 「じゃあもなんもねえ――ッ!」 「もぉ、文句言ってないでさっさと傘持って。入れたげんだからそれくらいしなさい」 「……へいへい。了解しました」 ほんと可愛くねえ妹だこと。 笑いながら傘を受け取り、そして俺と桐乃は、雨の中を歩き出す。 そうそう、この前と違うことがもう一つあったわ。 傘は忘れたわけじゃ無く、 俺はバッグの中の折り畳み傘を使う気がなくなったってことだ――。 br() br() br()
https://w.atwiki.jp/fushimi_eroparo/pages/364.html
http //yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1293190574/594-601 「あ゛あ゛ー、もうドコなのよ!」 リビングで我が妹様が荒れている。 どうやら携帯が見つからないらしい。 完璧超人に見えて、たまに抜けた姿を晒すんだよな、コイツは。 「ちょっと、ボケっとしてないで探したらどうなのよ!?」 うげー、チョー威丈高。探してやる気なんて全然出てこねー。 だけど探さなかったら、この荒れっぷりが延々と続くことになるから ここはサクッとケリを付けてしまおう。 俺は自分の携帯を取り出すと、桐乃の携帯をコールした。 ピリピリピリ‥‥‥と呼び出し音。 「アタシの携帯‥‥‥!?」 ソファーの隙間に挟まっていた桐乃の携帯が見つかった。 「ふーん、タマには使えること、やってくれるじゃん」 麻奈実から教わったのを実践しただけなんだけどね。 でもコイツの前で麻奈実の名を出すとまた不機嫌になるから黙っておこう。 つーか、相変わらずイレギュラーなことには対応できないんだな、コイツ。 「褒美にアタシが買った靴を見る権利をあげる!」 なんじゃそりゃ。見せびらかせたいのなら最初からそう言え。 それにしても、また靴を買ったのか。 ふーん、なかなか動きやすそうな靴でいいんじゃねえの? アスリートのオマエにはピッタリだろ。 昨日から降っていた雨も上がり、昼過ぎには青空がのぞいていた。 麻奈実と合う約束があったので、桐乃の目を気にしながら家を出た。 いっとくが、デートじゃないからな。 「きょうちゃーん」 待ち合わせ場所の公園に着くと、麻奈実の甘ったるい声が耳に飛び込んできた。 「おーし、ドコに行く?」 「あたしはどこでもいいよ」 相変わらず自己主張が弱いな。 この公園でブラブラしようなんて言ってもいいのかよ? 「じゃ、ここでブラブラするか?」 「うん、いいよ!」 マジかよ‥‥‥ 桐乃に、公園をブラブラするだけの提案なんかしたら、 1.蹴られる 2.殴られる 3.口汚く罵られる の選択肢(複数選択可)が出てくるところだぞ。 「うわ、こりゃひどい」 雨上がりの公園は所々ぬかるんでいた。 足下を気にしながら小径を進み、モノレールが見えるベンチに二人で座った。 「なんか久しぶりだねえ」 「そうか? つい最近もここに来なかったか?」 「ええー? 最近は来てないよ。だれか他の女の子と間違えてるのお?」 地雷? 地雷なのか? この状況って!? 恐る恐る麻奈実の表情を見たが、いつものほんわかした笑顔だった。 これが桐乃だったら‥‥‥考えただけでも恐ろしい。 「おにいちゃん、まってようぉ―――」 その声のした方を見ると、小さな男の子をその妹と思われる女の子が 追いかけていた。 男の子は女の子の声を無視するかのように走り続けていた。 「なんだよあの男の子、意地悪だな」 「うふふふふ‥‥‥。そういえば小さい頃、似たようなことがあったよねぇ」 思い出し笑いだろうか。麻奈実が何やら笑いながら話を始めた。 こいつの話、特に昔話は俺が覚えてないようなこと満載なんだよな。 嘘は入ってないはずだが、正直半分以上は理解不能だ。 さて今日はどんな昔話になるやら。 「おにいちゃん、まってよぉ―――」 背後から桐乃ちゃんの声がする。 でもそれを振り切るかのようにきょうちゃんは足を速め、 手を引っ張られているあたしも足を速めた。 「ちょっと、きょうちゃん、かわいそうだよぉ!」 「いいんだよ、あんなヤツ。ほっとこうぜ!」 「でもぉ‥‥‥」 きょうちゃんは、お兄ちゃん子の桐乃ちゃんがいつもべったりなのが嫌なのかな。 走り続けると、追いつけない桐乃ちゃんはその姿が小さくなっていった。 どのくらい走った後だろう。 「あれ? 桐乃ちゃんはぁ‥‥‥?」 「え!?」 「どこにもいないよぉ!?」 きょうちゃんは足を止めて周りを見回したけど、桐乃ちゃんはいない。 「桐乃? 桐乃? 桐乃ぉ―――!?」 きょうちゃんは急に慌てだして、桐乃ちゃんを探し始めた。 あたしも一緒に探した。 小さな子には広すぎる公園の隅々まで探したけど見つからない。 きょうちゃんは涙目になって、桐乃ちゃんの名前を叫びながら探し続けた。 どれだけ時間が経ったのかな。 桐乃ちゃんを背負ったきょうちゃんのお母さんが公園にいた。 「きょうちゃん! きょうちゃん! 桐乃ちゃんこっちぃ!!」 桐乃ちゃんを探して泥だらけになったきょうちゃんを呼んで、 おかあさんと桐乃ちゃんに会わせた。 「京介、ダメじゃないの、ちゃんと桐乃の面倒を見なきゃ!」 泣き疲れて眠っている桐乃ちゃんを背負ったまま、 きょうちゃんのお母さんは、きょうちゃんを叱りつけた。 「ごめんなさい‥‥‥」 きょうちゃんはうつむいて、大粒の涙をこぼしていた。 「そんなことあったっけ?」 普通にそんな言葉が俺の口から出てきた。 「あったようー。覚えてないの?」 「全然。いやマジで」 見事にこいつの昔話の内容は、俺の記憶には無いんだよな。 放っておくと昔話モードに突入するから、切り上げさせよう。 「なんか食べに行くか? 昔話のお礼ってワケじゃないがおごってやるよ」 「うん!」 俺と麻奈実はぬかるんだ小径を戻って公園をあとにした。 「ただいまぁー」 麻奈実との食事を終えて帰宅した俺は玄関に入り、儀礼的にあいさつをした。 返事は―――もちろん無い。 リビングに入ると桐乃がソファーに座っていた。 ―――チッ、いんのかよ。 忌まわしい感情を込めて言おうとした言葉を飲み込んだ。 「ねぇ‥‥‥」 桐乃が弱々しい声で話しかけてきた。 「なんだよ?」 「‥‥‥ありがとね、探してくれて‥‥‥。アタシ知らなかった」 なんだ、今朝の携帯のことか? 今頃お礼を言うなんて何のつもりだ。 ていうか、コイツがお礼を言うこと事態が異常だろ。 まあなんにせよ、お礼を言われるのは悪い感じじゃないけどな。 「あんなの、どうってことねえよ」 「‥‥‥そう、なんだ‥‥‥」 「それに麻奈実のおかげでもあるし」 「じゃあ、地味子にもお礼を言って」 はぁ??? 地味子、もとい麻奈実にお礼だぁ? 本格的にどうしたんだ? 俺の妹様は?? 困惑している俺をよそに、桐乃はリビングを出て自分の部屋に行ってしまった。 ワケわからん。いくら考えても答えが出るはずも無いので諦めて 俺も自室に戻ろうとリビングを出ると、 玄関にある泥だらけになった俺の靴が目に入った。 「仕方ねえ、洗うとするか」 自分の靴を拾い上げようとしてふと見ると、 玄関の隅に泥だらけになったもう一足の靴。桐乃が買ったばかりの靴だ。 買ったばかりで、見せびらかすくらいのお気に入りだろうに、 一体どこを歩いてきたんだ? 我が家の読モ様は。 『おばあちゃんの昔話』 【了】
https://w.atwiki.jp/fushimi_eroparo/pages/64.html
俺の名前は高坂京介この春から三年生になった普通の男子高校だ。 妹の桐乃にエロゲーをやらされたりアニメを見せらされたりこの前の休日には同人誌即売会という所に連れて行かされ、 またメイドさんの同人誌を一冊買ったのだがけしてメイド萌えではないしオタクではない。 今は一学期が始まって2週間がたち四時間目が終了して昼休みに突入した所だ。 背伸びをしてわりと近い席に座っているクラスメイトの赤城に昼飯を誘ってみる。 「赤城、昼飯一緒に食わないか?」 「悪いこれから部室に行ってミーティングなんだ。」 「ミーティング?」 「練習試合が近いからな。また、今度誘ってくれ。」 「あぁ、分かった。」 それじゃ1人で学食で昼飯だな、混まないうち行くか。 そんな訳で教室を出て早歩きで行く事数十秒で学食に到着。 食券券売機でたぬきうどんの券を買ってそれをカウンターまで持っていき中に居るおばちゃんに渡すとあっという間に出来上がった、 たぬきうどんをトレーにのせて座る席を探していると一番奥の端に座っている見知った後ろ姿を発見した。 黒猫だ。 1人で食うのも味気ないし黒猫の居るテーブルにお邪魔するか。 テーブルに近づくにつれ黒猫の後ろ姿を見て2週間前の事を思い出した。 2週間前の朝、一学期初登校で麻奈美と一緒に雑談を交わしながら学校へ向かっている途中で 見覚えのある後ろ姿を見つけ早足で追いかけそいつを顔を覗き込んだ。 「・・・あら」 そいつとはつい最近会ったばかりで・・・ 「おはようございます、先輩」 黒猫だ!! 「なんで!!お前がうちの学校の制服を着ているんだ。コスプレか?!」 「・・・なんでと言われるとこれから先輩と同じ学校に通うからよ。」 なっ・・・これから同じ学校・・・だとぉ~~~。 俺は黒猫の発した言葉で驚きで思考がストップしてしまい・・・。 「失礼するわ、先輩。」 黒猫が行ってしまったのにも気付かずその場で立ちすくみ麻奈美に声を掛けられて 「きょうちゃん。」 「・・・・」 「きょうちゃんってば」 「あ、あーなんだ麻奈美。」 「もぉ~、ぼぉ~としてたけど大丈夫?」 「ん、大丈夫だ。」 実は大丈夫ではないんだけどな、びっくりしてな。 「きょうちゃんと話していた女の子新入生?お知り合い?なの。」 「知り合いというか俺の友達でもあるし桐乃の友達でもある。」 「桐乃ちゃんの?」 「あー、詳しい経緯は教えられないけどな悪いな。今度教えてやるから。」 「うん、分かった。」 それにしてもどうして黒猫はここの学校に入学してきたんだ?疑問だが朝から心臓に悪いビックリ仰天ニュースだぜ。 その後、学校に着いてクラスわけの掲示板を見ると麻奈美とは別々のクラスになっていてガックシとなった。 その日の放課後、俺は1人で帰る事になり校門を出た所で1人で立ってある黒猫を見つけた。 「よぉ、今帰りか?」 「・・・ん」 「朝はビックリしたぜ、お前がこの学校の新入生でいるとは思わないしよ。」 「・・・っふ、あの時の兄さんの驚いた顔はなかなかの傑作だったわ。写メで撮って作品のネタにしたかったわ。」 「勘弁してくれよ。」 作品のネタだとぉ~それこそ完成した物を桐乃が見たら兄の威厳?が下がるし沙織は大爆笑に違わない。 写メで撮られなくって良かったぜ。 それはそうと朝から疑問に思っている事聞いてみるか。 「なんでお前この学校に来たんだ?家から近いから選んだのか?あ、もしかして俺が居るからとかいうんじゃないよな~?」 後半は冗談めいて言ってみると黒猫は上目遣いで少し頬が赤くなっていて。 え、軽い冗談で言ったつもりなんだがその反応をみると少なからず俺に好意を持っているのか?もしそうなら正直に言えば嬉しいが・・・。 「・・・兄さん、実はここを選んだ理由は・・・」 もしかして本当に告白?イベントCGゲット?ヤバイ!!なんか顔が赤くなってきたぞ。 「・・・自宅から近いからよ。それ以外の理由はないわ。」 「やっぱりそっちか!」 「・・・っふ、なにを想像していたの。もしかしてイベントシーンが発生とか思った訳、とんだ思考の持ち主だわ。」 「ぐぅ。」 少しは想像してしまったので言い返せない。 頬を赤くしたのは演技か?お前、女優に向いているんじゃないか。 「そ、それよりこの学校に来るなら事前に教えてくれても良かったに。」 「教えたわ。」 「いつ、何処でだ。」 「・・・2ヶ月前・・・」 2ヶ月前?何かあったか? 「あの女へ渡すプレゼントの事でカフェで会った時に「2ヶ月後に呼び方を変えるから。」と言ったはずだわ。」 そういえばそんな事を聞いたが当時は、何だか分からなかったがこの事だったのか。 「そういう事かよなるほどな。」 あっさり納得する俺もどうだがな。 「それじゃ帰るか。」 「待って。」 歩きだそうしたら呼び止められて、 「これから兄さんの家にお邪魔したいのだけど良いかしら?」 「別に構わないげど桐乃に用でもあるのか?」 「・・・っふ、そうよ。」 ?、別に断わる理由も無いし、ただ桐乃への用事が気になるげどな。 「んじゃ行くか。」 「ええ。」 家に着くまで黒猫との会話は先輩らしくこれから起こる学校の行事についていろいろ教えた。 歩く事数十分で家に着き玄関を開け2人して中に入り黒猫をリビングの前で待たせ俺だけ中に入ると 制服姿の桐乃がソファに腰掛け携帯をいじっている。 一応の礼儀で挨拶するが帰って来る事は無いだろうな。 「ただいま。」 「おかえり、兄貴。」 やっぱないだろうって!!嘘だろ桐乃の奴すぐ返事したし、それもちゃんとこっちを見ながらだぞ。 「なに呆けた顔してんの、キモイんだ・・・け・・・ど・・・。」 桐乃は突然立ち上がり驚いた顔で俺の方をいやその後ろを見ている。 「・・・お邪魔するわ。」 黒猫が入って来たのか。 「な、な、なんで!あんたが兄貴の学校の制服を着ているの!コスプレ!?」 「兄妹で同じことを言うのね、呆れるわ。それにコスプレではなく今日から兄さんと同じ学校に通うからよ。」 「嘘・・・だってあんた何も言ってなかったじゃん!!」 「・・・嘘ではないし、いちいちあなたに言う必要はないわ。私が何処の学校に行くか自分で決める事でしょう。」 「そうだけど何でよりにもよって兄貴と同じ学校にしなくても良いじゃん。」 「・・・っふ、羨ましいと思っているのね。それとも嫉妬かしら。」 「な、ななな、何でそういう事になるのよ!」 「違うのかしら?・・・顔が赤いわよ。」 「違うに決まっているじゃん。顔が赤いのはあんたが変な事いうからムカついているのよ。」 桐乃が言い淀んだり強く否定するとまた黒猫の漫画のネタになりかねぞ。 「・・・っふ、そういう事にしておいてあげるわ。」 「その言い方本当にムカつく、さっさと帰れクソ猫。」 桐乃は仁王立ちで親父譲りの眼光で黒猫を睨むが黒猫の方を見ると軽く受け流している感じだ。 「あたなに言われなくても帰るわ。・・・兄さん、また明日学校で。」 「あー、そこまで送るぞ。」 玄関を出て門前まで来た時に黒猫が振り返って。 「ここで良いわ。」 「そうか、近くまで送るぞ。」 「・・・結構よ。それよりこれから御機嫌取りでしょう。」 桐乃はリビングでふてくしてるからな、何とかしないと平凡な生活を送る事が出来んし厄介事が増えるのは勘弁して欲しい。 「そうだな、精精がんばるさ。」 「ええ、・・・兄さん・・・これから一年間宜しくお願いするわ。」 「あいよ。」 この時の帰り際、微かに微笑んだ黒猫の顔が印象的だった。 と、これが2週間前の出来事だ。 思い返しいるとテーブルに着き黒猫とは向かい合う形で椅子を少し引いて座る。 「相席良いか?」 「・・・先輩、その台詞は座ってから言うのはおかしいわよ。」 「駄目か?」 「・・・別に・・・構わないわ。」 黒猫のお許しがでたので早速ハシを割って食べ始めつつ黒猫の手元を見る。 「今日は弁当なんだな。」 「・・・ええ。」 「それってお袋さんに作ってもらっているのか?」 「・・・違うわ。いつも私が作っているわ。」 マジかよ!驚きだぜ。 「いつもというと毎日だろ作るの大変なんじゃないか?」 「・・・もう慣れたから大変ではないわ・・・」 「大変じゃないって言うけどたいしたもんだぜ、後輩とか関係なしで尊敬するよ。」 この言葉には嘘はない。 つい先日こいつの書くイラストや作品を見たがあの時のパーティーよりもまた上手くなっていたから努力した事が分かる。 俺も頑張って受験勉強するか。 改めて弁当を見ると俺の好物があるじゃないか。 「その卵焼き一つくれないか?好きなんだよ。」 「・・・・」 「駄目か?」 「・・・仕方ないから一つあげるわ。」 やったぜ、早速貰うか。 ちょっと待ってくれ、なぜ黒猫がハシで卵焼きをつまんで俺の方に向ける。 「あ~ん」ってしろというですか?恥ずかしいけどここは我慢するがそのハシは黒猫が使った物だろう。 そのーなんだーか、か、間接キスをする事になるんだが黒猫は気にしないのか? 「・・・要らないの?・・・」 「!!いや要るぞ、うん。た・食べるぞ、あ~ん・・・ん!!美味いぞ。味付けもあまり甘くない所が良いし好きだぞこれ。」 「・・・そう、ありがとう。」 うつむいてしまったから顔は見えないが耳が赤くなっている事はツッコミをしても良いのか? いやいや止めておこうまた変な思考と言われるオチだ。 「なあー俺達、間接キ「うるさいわ、早く食べなさい低脳先輩。」・・・はい。」 「・・・私達はもう子供ではないわ。たかが、か、か、かんかんかん、間接キスぐらい・・・そう、間接キスなんかで動揺しないし気にもしなしいわ。 分かった、先輩。」 お前、十分動揺しているじゃないか。 言葉カミカミだぞって言いたいがここは素直にしたがっておくか、 いつもは無表情の黒猫が今は真っ赤な顔で照れている姿を見れて得したしな。 「分かった分かったもう何も言わないから飯食おうぜ。」 「・・・分かれば良いわ。」 数分後、2人とも食べ終わったので残り時間は桐乃の事を話題にしたら毒舌をする黒猫の話を聞いていたが どっちもどっちという感じだった。 五時間目開始5分前のチャイムが鳴った。 「チャイムが鳴った事だし教室に戻るか。」 「・・・ええ。そうね。」 椅子から立ち上がりトレーを持ったが正面の黒猫はまだ座っていたが遅れて立ち上がった。 「・・・先輩、放課後・・時間あるかしら?」 「別に大丈夫だが。買い物か何かか?良いぜ付き合うぞ。」 「・・・そうではないわ。実は・・・人生相談があるの。」 「・・・・・」 はい?ちょっと待ってくれ、俺の耳がおかしくなったのか?桐乃の次は黒猫が俺に人生相談だと、 マジ!?どんな内容か分からないし断るか?でもなー黒猫にはいろいろ世話になっている事だし一回ぐらいならな。 厄介事じゃなければ良いけどな。 「・・・ごめんなさい、今の話、聞かなかった事にして。」 「!!待った待った、直ぐに返事をしなかったのは悪かった。驚いたからで嫌だとは言ってないぜ。その人生相談引き受けた。」 「・・・それじゃ放課後に先輩の教室に行くわ。」 「分かった、待っている。」 「先輩、・・・ありが・・・とう。」 「・・・・・・・」 今の黒猫は表情そのーなんだー照れくさそうではにかんだ表情は凄く可愛かった じゃなくていつもは無表情で無愛想の奴がこんなに可愛いわけがない。 完
https://w.atwiki.jp/anipicbook/pages/1380.html
全ての漫画はこちら
https://w.atwiki.jp/fushimi_eroparo/pages/141.html
http //yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1266820218/130-145 俺の幼馴染がこんなに不人気なわけがない 麻奈実の部屋の前に到着した。外観は以前来たときと何も変化は無い。 俺ははやる心を落ち着かせながら閉じられた襖を軽くノックする。木製のドアではしない小さく鈍い反響音がした。 あえて名乗ることは避けて反応を待ってみたのだが返事は無い。どうやら本当に誰とも会いたくないらしい。 「……麻奈実、俺だ」 少し声色が低くなった気がする。チッ、やっぱり緊張してやがるな俺。 この緊張を何とか取り除くために麻奈実の反応を待ってみることにした。 「…………」 しかし俺の声に反応は返ってこない。部屋の中に人の気配は感じるので、麻奈実が居ることは間違いないと思うのだが、いかんせん襖越しからは今まで麻奈実からは感じたことも無いようなプレッシャーを感じる。 なんだなんだ、今まで普通だと思ってたが実はこいつニュータイプかなんじゃねぇのか? 麻奈実の無言がこれほど怖いもんだとは思わなかったぜ。 でもなぁ、最近の俺はいろいろとお疲れではあるけれども、それに応じて経験値もたくさん積んでいたわけよ。 こうやって相手が拒絶してるときってのは、ストレートに俺自身の気持ちをぶつけて相手にどうして欲しいか伝えるのが一番なんだよ。 「単刀直入に言う。麻奈実、俺はお前の顔が見たい。部屋の中から出てきて、話をさせてくれないか?」 ただしこれには一つ難点がある。 事と場合によって、俺の恥ずかしさがマックスになっちまうってことだよちくしょう! おそらく今の俺の顔は完熟トマトと見間違えるほど真っ赤に違いない。 こんな顔を麻奈実に晒すのもあれだが、これで麻奈実が部屋から出てきてくれるのなら安いもんだろう。 やっぱ素直って大事だよな。こっちが本音を出せば、意外と相手も素直に自分の気持ちを見せてくれるもんだぜ。 しかしどうもその俺の考えかたは、今回ばかりは少々短絡的過ぎたらしい。 「…………やだ。部屋から出ない」 本日ようやく麻奈実から始めての返事が返って来た。 久しぶりに聞いた麻奈実の声は、すごく弱々しくて、それでもどこか心に一本の堅い芯が通ったような声をしていた。 なるほど。さっきから幾度どとなく感じてはいたものの、こうして麻奈実の声を直に聞いて改めて確信した。 こいつは重症であると。 だが返事が来たのは良い兆候、まずは一歩前進である。 「そうか、お前の気持ちはわかった。じゃあ部屋からは出なくて良い。代わりに俺をお前の部屋の中に入れて話をさせてくれ、頼む」 本当は部屋から出して一階に居る田村家の面々にひとまず麻奈実の無事を確認させたかったが、俺が次にお願いしたこの内容でも今は十分である。 それに麻奈実はどちらかと言うと押しに弱い。こういった譲歩という形で頼めば、受け入れてくれる可能性も高いだろう。 しかし俺の希望的観測はいとも簡単に崩れ去った。 「……絶対やだ。もし無理矢理入ってきたら、例えきょうちゃんでも許さない」 ぐっ……! 1HIT! あぁ~、これは……まずい。麻奈実のやつ、俺に対しても怒ってやがるな。 さっき言ったただの「やだ」に「絶対」が付きやがった。 今起きている状況は、麻奈実の人生の中で類を見ないレベルの悩みだったのだろう。 それなのに本物の家族を除いて一番近しいであろう存在の俺が、アメリカに行っていたという理由があったとしても、ずっと連絡をしなかったのはいけなかった。 まずはそこから謝るべきだったな。 「麻奈実、俺にもいろいろあってな。今日までまったく連絡できなくて悪かった。本当にすまない。……麻奈実、怒ってるか?」 「…………。もういいよ、きょうちゃん」 「ゆ、許してくれるのk―――」 「もういいから、早く帰ってくれないかな? 許すとか許さないとか、もうどうでもいいから」 ぐはっ……! 2HIT! そうですかそうですか。なんだ、俺も麻奈実の顔を見たくなくなっちまった。ここまで怒った麻奈実の顔を見るなんて怖くて仕方がない。 もうどうすれば良いんだろう。麻奈実からここまで強い言葉のボディブローを喰らうことになるとはな。本当に麻奈実の言うとおり帰ろうかな……。 俺はどうかならないもんかと考え黙って沈んでいると、襖の奥から麻奈実が俺に言葉をかけてきた。 「きょうちゃんだって私と同じなんでしょう? ……もう、私のことなんかどうでもいいんでしょ? じゃあ、無理に私たち仲良くする必要無いよね。だって、私たち……」 3HIT! 4HIT! 5HIT! 死んでしまいそうです。もう死にかけですよ、俺。しかもその上さらにとどめのコンボの準備までしてやがる。 麻奈実がここまで怒っているのは見たことが無い。いやまぁ実質見てないのだが。これでもし暗い表情の麻奈実まで視界に入っていたら、俺の精神ダメージはとっくにゲージが赤一色になっている。 エコーが掛かった叫び声と共に倒れこんじゃうよ。YOU LOSEって文字が見えてくるよ。 「私たち……所詮はただの幼馴染だし」 全てが飛んだね。さっきまでの俺の心の余裕は全て飛んだ。何がYOU LOSEだバカヤロー。そんなこと言ってる場合じゃねぇってこれは。 元々ふざけるつもりは無かったけど、最近お疲れ気味かと思われていた俺はどうやら脳内でストⅡを展開させる余裕があったらしい。 そんな余裕、さっさと切り捨てて俺の全力をぶつけなきゃいけない事態だったてのによう。 「麻奈実っ! …………黙れ」 それだけは、言っちゃだめだろうよ。俺が何日も連絡しなかったことがお前にとっての地雷なら、今のお前の言葉は俺にとっての核弾頭だ。 「お前が学校に来なかった今日一日、俺が何を考えていたと思う? お前が遅刻でも良いから、さっさと学校に来ねぇかなぁって考えてたんだよ! それでもしお前が来たら、何を話そうか考えてたよ。 どうせいつもしてるようなどうでもいい会話と大して変わらない内容だろうってのに、それだけで俺の学校での一日はしっかり潰せてました。あぁ、大学受験控えた受験生が何してんだよって話さ」 お前は俺に何て言ったか覚えているか? 『所詮は、ただの幼馴染』だと? まさかさっき俺が言った一行を、よもやお前に送る羽目になるとは思わなかったよ。 「たかが幼馴染、されど幼馴染だ。俺はお前と幼馴染でいれて、それを所詮なんていう言葉で片付く関係だと思ったことはねぇ」 「…………」 今のお前にはすかした言葉に聞こえるかもしれねぇが、それが本心なんだから仕方ねぇだろう? 悪いけど恥ずかしいこと言って照れる暇も無いね。 もう何もお前には言わせねぇよ。仮に何か言っても聞く耳もたねぇな。 だって俺の知ってる麻奈実じゃねぇんだもんよ。麻奈実じゃないやつの言葉を冷静に待っているほど今の俺は大人じゃないぜ? 「……良いか、お前は勘違いをしている。実を言うとな、俺は麻奈実がずっと学校を休んでいたのも、こうして部屋に篭り続けていたのも、……一人そうやって悩んでいたのも、俺は今日はじめて知ったんだ」 「えっ……?」 「いろいろあってな、なんつー間の悪い偶然か。たちの悪い悪戯なんじゃねぇのって言いたくなる。お前が休み始めた日から、俺もずっと学校休んでたんだ」 「ほ、ほんとにっ……?」 部屋の中に居る麻奈実が喰いついてきた。やっぱり麻奈実は俺があいつの現状を知っていながらずっと放置していた思っていたらしい。 やれやれ、俺も意外と麻奈実に信頼されてなかったんだな。 「本当だっての……まったく。お前が何日も学校休んだってのに、俺がお見舞いに来ない時点でおかしいって気づけよ」 俺が苦笑いを浮かべながら毒づいた。お前のピンチを見過ごして平然と過ごせるほど安い関係じゃねぇよ、幼馴染ってやつはさ。 「俺はお前が、今何に悩んで何に苦しんでいるのかわからない。ひょっとしたら今のお前を救う事は俺に出来ないかもしれない。だがな、それでも抗う! お前に来なくて良いと言われても毎日様子を見に来るし、お前が部屋から出てこなくても外から話しかけるし、お前が俺を一切無視して話に反応しなくても居続ける。 そしてその時は、そんな俺のことをいくらやっても無駄なのに馬鹿な奴だと鼻で笑えば良い。その鼻で笑った瞬間だけでも、お前は笑っているんだろう? 悩みを忘れて、苦しみは薄れ、麻奈実は笑っているんだろう? それなら俺は、その瞬間が来ただけで満足だ。なんせ俺の大事な幼馴染が笑ってくれてるんだからな。俺もいっしょに笑ってるだろうよ。 ……さぁ、逃げ場所は作ったぜ! 話したくなけりゃお前は無視していい。全部俺の独り言になるだけだ。麻奈実よ、今お前は一体何に苦しんでいるんだ? もし良ければ俺に話してくれないか?」 ここまで長々しい大演説をしたのは生まれてはじめてだ。 平たく言えば、あれだ。ここ最近はずっと黒猫におせっかい焼いて、つい先日は桐乃のためにアメリカまでおせっかいを焼きに行って、本日は幼馴染におせっかいを焼こうというわけだ。 まったくお前の言うとおり、最近の俺は優しすぎるな。 こんなおせっかい、昔ならお前にしか焼かなかっただろうに。 おかげで火力が足りなくて、麻奈実に焼いている分のおせっかいが生焼けになっていたらしい。 だけどこれからは安心しやがれよ。真っ黒こげの消し炭になるまでたんまり焼き続けてやるからな。 一気に強火で。それでダメなら、何日、何十日、何百日とかけてもとろ火でじわりじわりと。 アメリカからの帰国疲れなんて今はとっくにどこか遠くへ飛んでいる。まぁ後々その疲れに麻奈実への看病疲れという利子まで付いて戻ってくるだろうがそれも問題ない。 高校での生活に馴染めた可愛らしい後輩と、アメリカで一人無茶をしていた生意気な妹と、いつも俺の隣で微笑んでくれる大切な幼馴染。 これだけ役者が揃えば、俺のいつもの平穏な生活は戻ってくる。 俺の休養はそれからでも遅くは無いはずだ。 「…………」 「…………」 襖を挟んだ俺と麻奈美の間にはしばしの沈黙が流れた。 どうやら長期戦の様相を呈してきたようだと、臨戦態勢に入った俺はひとまず廊下に座って次にかける言葉を考えようとしたとき、予想外の事態が起こった。 「……きょうちゃん」 不意に襖が揺れる気配がして、まさかと思って目を見開いて注視すれば、するすると襖が流れるように半分ぐらいまで開き、そこから麻奈実が控えめな声とともに顔をのぞかせていた。 「麻奈実……」 久方ぶりに俺の目に映った幼馴染の姿はひどく悲痛な姿であった。 俺の顔を見るやいなや視線を下に落としてうつむき加減になる。部屋に電気を点けていないせいか顔色も普段の麻奈実の三倍は暗い。廊下側にある窓の明かりがかろうじて麻奈実の顔をかすかに照らしている状態だ。 ほとんど食べ物を口にしていないせいか、身体つきも幾分かやせ細っている気がする。いつもと変わらないのは眼鏡だけだった。 そして、目元から枝分かれして、一体いくつ流れているのかわからないほどの涙の跡があるのがはっきりとわかる。 ロックは麻奈実が部屋から出るのは風呂とトイレの時だけだと言っていた。風呂にはおそらく毎日入っているだろう。 つまりは、この涙の跡は今日付いたもの、今日流した涙ということだ。 「……あんまし、じっと見ないで。今、私きっとひどい顔してるから、恥ずかしい……」 「……気にすんなよ。お前の顔を見れただけで少し安心した」 本当は逆だった。むしろちょっと不安になっちまった。今日何度目だろう、ここまで麻奈実を不安になったのは。 髪の毛が少し乱れていたのは寝ていたからだろうか。襖と麻奈実の隙間からいつもしっかりと押入れに片付けてあるはずの布団が、この昼間の時間帯から敷かれていた。おそらく万年床の状態になっているのだろう。 「……えへへっ。そう言ってもらえると、少し嬉しいな」 「そうか。そりゃ良かったよ」 そう言って、暗がりで麻奈実から垣間見えた笑顔がとても扇情的だった。 何となく今の麻奈実を直視すると目頭が熱くなってしまい、ようやく念願の麻奈実を見れたというのに思わず目を逸らしてしまった。 「……ねぇ、きょうちゃん」 「な、なんだ?」 俺がしばらく黙っていると、麻奈実の方から話しかけてきた。顔を見せてくれただけで初日にしては上出来と考えていたが、どうやら麻奈実は俺に伝えたいことがあるらしい。 やはりこれから話してくれる内容は麻奈実が引き篭もりなった原因なのだろうか。 「あの……ごめんね」 「ヘッ、気にすんじゃねぇって。お前におせっかい焼くのは、俺がしたいからやってるだけで……」 「うぅん違うの。そういうことじゃなくてね……」 すごく話しづらそうにしている麻奈実の姿を見ていて俺の方がもどかしくなった。 それでも今は俺が耐える時と心の中ではわかっていたのだが、次に麻奈実の口からでた言葉は俺の心を抉らざるをえなかった。 「……本当にごめんなさい。私、正直今までと同じようにきょうちゃんと接していいのか、本気で悩んでる。……どこまであの言葉を信じていいのか、わからなくなっちゃった」 今にも泣きそうな顔をしてる麻奈実に、また俺は麻奈実から顔を逸らしていた。 「…………そうか」 昔なら手放しで信じていたということか。「なっちゃった」っていうことは、以前の麻奈実ならさっきの俺の言葉も信じていたというのだろう。 どうやら俺は麻奈実の信用を失うようなことをしたらしい。ちくしょう、高二のときの麻奈実に会えなくなった事件以来、幼馴染とはいえ言葉選びには行き過ぎないよう気をつけていたつもりだったんだがなぁ。 あいにく今のところ俺の記憶にはそれに該当するような出来事や発言は記憶が無く、明日麻奈実の家に来るまでに思い当たる節をいくつか考えておこうと思った。 「それは、たぶんお前が謝ることじゃねぇよ」 そして今もなお自己嫌悪に満ちた空気で表情を曇らせる麻奈実を励ましておく。 そこまで到って、俺は何も言えなくなっていた。 心の中でこれほどの大事になっているにも関わらず、初日から麻奈実の顔を確認し、これだけ話すこともできたことに僅かながら満足感を抱いていたからだ。 それに家へ帰ってからの課題もできた。やれやれ、いつもと変わったことを思い出すのは簡単だが、いつもの変わらぬ日々を思い出すってのはなかなか難しそうだ。ついでに親父にでも引き篭もりの一般的な対処法でも聞いておこうか。これは田村家のためにだが。 しかしなによりも、俺の言葉が今の麻奈実に信頼を受けていないのがつらくて仕方なかった。一秒でも早く信頼を取り戻したい。 そう考えると、いつもの授業の難易度よりも高い宿題だってやる気になっていた。 ……今日はもう帰るかなぁ。これ以上一日にいろいろ詰め込むのは麻奈実にも良くないかもしれない。エロゲとかでもそうだろ? そう思って、顔をもう一度麻奈実の方へ向けると、今にも泣きそうな顔からいつの間にか麻奈実は俺の顔色を覗いながら不安そうな表情になっていた。 「……きょうちゃん、大丈夫?」 そりゃ俺のセリフだっての。なんだ麻奈実のやつ、じぃーっとこっちを見やがって。どうせならいつもみたく擬音を口に出してくれ。見られてたのに全然気付かなかった。 「すっごく怖い顔してる」 「えっ、あっ? そ、そうか?」 いかんな、真面目な顔をしていたせいでそれを見た麻奈実が勘違いし脅えてしまっている。咄嗟に顔を崩して笑って見せるが、どうにも麻奈実はずっと心配そうな顔をしている。 これはまずい。このタイミングで帰るとは言いづらくなってしまった。別に帰りたいわけではないのだが、今日はここらが潮時というやつだ。 しかし今このタイミングで俺が帰ると言えば、麻奈実に、そして俺にもどこかもやもやとしたものが心の奥に残ってしまう。 何か食べ物が歯に挟まったようなむずがゆさを感じていた俺なのだが、おどおどとしていた麻奈実が数瞬の後、急に意を決したかのように半開きの襖を全開にしたもんだから、そんな気持ち悪さは一瞬でどこかへ飛んでいってしまった。 「きょうちゃん、私の部屋入る?」 「えっ?」 ゆっくりと、それでいて穏やかな口調で、まるでいつもの麻奈実が帰ってきたんじゃないかと錯覚して、俺は呆けた声を上げてしまった。 俺の眼前にいる麻奈実の顔は、少し無理をしているのは見て取るようにわかったが、確かに笑っていた。 正直なところ、麻奈実の突然の変化に一体何が起きたのか、俺の頭の処理速度では整理できずにいた。それでも必死に言葉だけは紡いだ。 「は、入っていいのか?」 「うん、いいよ。それより今日一日私と話したかったんでしょう? 何を話すつもりだったの~?」 散らかっててごめんねと言いながら、万年床を和室の隅の方へと動かす麻奈実を一瞥しつつ、部屋の中を見回してみる。 久しぶりに見た麻奈実の部屋に大した変化は無く、和室とマッチした卓袱台やタンスに三面鏡、それぐらいしか目立った家具の無いがらんとした部屋。 ただ一つ違うところといえば、麻奈実の部屋にいつも光を差し込む窓がカーテンによって完全に締め切られていたことだけだった。 「ねぇ、きょうちゃん」 カチンッという音ともに、部屋の電気に灯りがともる。 気付いたら麻奈実は和室とはやや不釣合いな可愛らしいクッションを敷いて、襖のところで呆然としていた俺を得意の上目遣いで見つめていた。 「それで、わたしと何を話すつもりだったの?」 なんとなく察しがついた。なぜ俺を部屋に入れてくれたのかということ。 そして、この幼馴染のお人好し加減に俺は呆れて苦笑してしまう。 なんとも馬鹿らしい話なのだが、こいつは俺がさっきまで浮かべていた真剣な表情を、自分の説得がうまくいかなくて俺が落ち込んでると思い、俺を元気付けるため一度は「絶対やだ」とまで宣言しておきながら俺を部屋に入れようとしているのだ。 ついさっき信用できないとまで言ってのけたこの俺をだ。 自分がひどくつらい思いをして、引き篭もりをしている真最中だというのに。 やれやれ、こいつにまでお人好しでおせっかい焼きと言われる俺はどれだけ善人なんだか。 「ハッ、いつもと変わらねぇ、くだらない話さ。強いていつもと違う話なら、お互いなんで休んでたんだよっていう話で盛り上がるのを考えてた」 せっかくだから、その厚意にあずからせてもらうとしよう。俺は麻奈実の部屋に足を踏み入れて、麻奈実と対面するように座り込んだ。 「もしお前が今日学校に来てたら、ちょうど俺と同じ日から同じ日まで休んでたことになるわけだろ? そしたらお前が『凄い偶然だよね~』とか言って、笑ってくれるんじゃねぇかって考えてたんだよ」 「あはは、私なら言いそうだね~」 「なっ、そうだろ? それで遅れた分の勉強会を開いてくれるのを期待したり、他にもいろんなこと話したりして笑うんだろうな~ってよ」 「それだけで今日一日が潰れちゃったの?」 「そうだよ。ヘッ、悪いかよ」 「うぅん、きょうちゃんらしいなぁ~って思った」 「おいおい、それは褒められてるのか?」 「……ところでさ、きょうちゃんは何で休んでたの?」 久しぶりにする麻奈実との普通の会話で、こんな状況でもやはり嬉しくなってしまう。 あぁ俺はなんて単純な構造をしているんだか。 「俺が休んだ理由か? まぁ、いろいろと大変なことがあったわけよ。実はな―――」 ついつい自然な流れで話が進んでいく。さっきまで麻奈実が俺を部屋に入れるのを頑なに拒んでいたことなどすっかり忘れてさっていた。 俺の目の前で絶叫した麻奈実。 俺の頬にひやりとした液体があるのを感じた。 それは今しがた絶叫した麻奈実の口から飛んだツバでもなく、麻奈実の瞳のはしに溜まった涙でもなく、俺からでた冷や汗であった。 なぜ、こうなってしまったのだろうか。俺の心を焦りが支配する。 そして、どうして俺は今……、 「―――ということがあったのさ」 俺はついつい麻奈実との会話に夢中になっていた。だからこそ、今しがた話したこともほんの大した内容ではないと思っていた。 「…………えっ?」 しかし麻奈実は俺のその言葉を聞くと途端に怪訝そうな表情になった。俺もそれに気付いて、軽快に紡いでいた話を一旦止めていた。 「……あれっ? 俺、なんかおかしいこと言ったか?」 不意に止まった話の流れに、俺は少し戸惑いながら麻奈実に問いかけた。 「……きょうちゃんが休んでいた理由って、アメリカに居る桐乃ちゃんを心配して、その日のうちにアメリカまで行って、桐乃ちゃんを説得してつい昨日連れ帰った。……っていうこと?」 「あ、あぁ。確かにそう言ったが……」 俺がさっき言った内容を復唱する麻奈実。その麻奈実の声はどこか震えていた。 何だ、まさかこれも何かの地雷だったか? まさか自分も苦しんでいるのに、俺が桐乃を優先して助けたことに嫉妬しているとでも言うのか? ……いや、ありえん。 第一麻奈実がこんな状況になってるのを知ったのは今日になってからだとさっき話したし、麻奈実は自分がつらいときでも他人が同様に苦しんでいるなら、平気で他人を助けてしまおうとする奴なのだから。 俺はこのとき、そう心で結論付けていた。 「……ごめん、きょうちゃん」 一度そう言って、麻奈実はうつむいた。謝っているので頭を下げたつもりだったのかもしれない。 そうしてうつむき加減の麻奈実の身体ががたがたと震えていた。まるで何かの禁断症状が出たかのようだった。 「ま、麻奈実!?」 俺は驚いて麻奈実の傍まで近づいき肩を支えようとした。だけど、その手を麻奈実に軽く弾かれてしまった。 そしてゆっくりと顔を上げた麻奈実と目が合って、麻奈実の口が開いた。 「さっき私、きょうちゃんを信用できないって言った。それでね、今の話を聞いて思ったの。あぁ、やっぱり私は間違ってなかったんだって」 そのとき俺が目にした麻奈実の双眸は、今まで俺が見たことないほど悲哀と憎悪のこもった色をしていたような気がした。 「今言ったこと、うそでしょ?」
https://w.atwiki.jp/fushimi_eroparo/pages/79.html
「は?意識不明っ!?」 つい大声を出してしまうが仕方がねえよ。 こんなわけの分からない事を聞かされればな。 学校も終わり麻奈美といつものように他愛の無い話をしながら帰ってきたら、 いつも暢気な顔をしているおふくろの表情が明らかに違う。 んで気になって訊ねてみればこれだ…。 なんでもアメリカで桐乃が車に轢かれたらしい。 しかも相手の車は逃げて、桐乃は意識不明だと言う。 「外傷が無いのが不幸中の幸いかしら…」 まったくだ………別にあいつの心配をしてるわけじゃないからな? というのは今回はよそう。 いくら仲の良くない兄妹とは言え家族に事故があれがいくら俺でも心配はする。 「でね、その意識不明ってのもお医者様の話ではすぐに目を覚ますだろうって。 ただしばらく激しい運動は控えたほうが良いって事らしいの。 だからこっちに帰ってきてもらうつもりなんだけど。 明日からアメリカへお見舞いも兼ねて、様子を見に行くつもりなんだけど、京介も付いてきてくれないかしら?」 そう言うおふくろの言葉を聞いて大分安心した。 意識不明なんて言うからどうしたものかと思ったが、別に深刻なものでもないらしい。 ったく、先にそっちを言えってんだ。 まあ学校も少しぐらい休むのもいいし、桐乃の事もたいした事じゃないと分かればだ……初めての海外を楽しむのも悪くないだろう。 「ああ、俺はいいけどな。 親父はどうするんだ? 仕事を休むわけにもいかないだろう?」 「あの人は警察官だからね~、流石にね」 「まあそうだよな。 わかった、麻奈美にでも説明して学校を休む事を先生に伝えてもらうよ」 俺の妹は近くにいても俺の平穏な生活という物を壊してくれるが、遠く離れていても変わらないらしいな。 へっ、数ヶ月それなりにのんびりとできただけでもいいか。 それにらしくないとは思うが、最近はあの騒がしい日々も若干懐かしくもある。 観光がてらあいつを迎えにいってやるとしようじゃないか…。 ・ ・ ・ ・ 桐乃の病室前、病院からは連絡が来て意識は既に戻っているらしい。 無事なのに越したことはないが、こうもあっさりだとなにか釈然としないものがあるのも確かだ。 そんな事を考えている間におふくろはドアを開け病室へと入っていったため、俺もその後に続いく。 中に入ると桐乃はベッドの上で半身を起こした状態で、ドアの開く音に気づいたのか首だけを回し、こちらを振り向いた。 「えっ!?おかあさん!?なんでこっちに居るの~?」 「何言ってるのよこの子は…、娘が病院に運ばれたと聞いて放っておく親がいるわけないでしょうが…」 入るなりそんな会話を交わしながら俺とおふくろはベッドの横に据えてあるイスに腰掛ける。 うちの両親は俺にはどうか知らないが桐乃には甘いしな。 俺が倒れた時に同じように言ってくれる事を祈ろう。 「も~別に来なくてもよかったのに~、大袈裟にしすぎだって」 恥ずかしいのか耳を赤くし、やや早口でそんな事を言う桐乃。だがわざわざアメリカまで飛んできた俺たちにその物言いはないだろう。 病み上がりだろうが少しくらい文句を言っても流石に罰は当たるまい、無事だったから言えるってことでもあるしな。 「おい、こら。 他に言うことはないのか? 心配かけてごめんなさいとか、ありがとうございますとか…」 俺の言葉にいぶかしげにこっちを見てくる妹、そんなに兄貴の事が嫌いか、お前は? 涙が出てくるぜ。 「…………おかあさん、さっきから気になってたんだけど……………」 だが…????いや、これは何か様子がおかしい。 いくら嫌われているとしてもこの眼は……そう… 俺が嫌な予感に身を震わせると桐乃はこうのたまったのだ… 「……………この人誰?」 「ふと思いついた」第2弾でした。 プロローグ部のみでこの後は 兄の記憶だけ無くしてしまった桐乃。 寂しさを感じつつも、もともと仲の良い兄妹ではなかったからと自分を誤魔化し自然に任せようと考える京介だが 桐乃の方はそうでないらしく、自分の知らない事があるのは気持ち悪いからと積極的に記憶を取り戻そうとする。 すると必然的に2人はいつも一緒にいるようになり、その様子はまるでデートをしているカップルのようであった。 記憶が戻るなら、とそんな状況に京介は流されるが、兄妹の接し方という記憶の無い桐乃は京介を兄と見ることができずに 1人の男として見てしまい…… ……という構想なんですけど、次回は20XX年世界が核の炎に包まれた頃の予定です。 「……………この人誰?」 「あの・・・いま付き合っている人はいるんですか?好きなんです付き合ってください。 ・・・あれ私何をいってるんだろ?」 困惑する母と京介。 事故にあった桐乃は兄という記憶は無くなってしまったが京介への恋心は残っていた。 母はこれを兄弟愛と勘違いして桐乃の記憶が戻るまでは京介に桐乃のお願い通りに恋人の役をするように命じる。 だが兄弟という血縁の禁忌を忘れてしまった桐乃の京介へのアピールはとどまるところを知らない。 夕暮れの病室。ついに京介をベットに押し倒し京介のベルトに手をかけた桐乃。 そのとき病室のドアが開き桐乃を心配して渡米してきたあやせが乱入。 京介の運命はいかに? 次回「妹と?妹の友達と?それとも3p?」
https://w.atwiki.jp/anipicbook/pages/1393.html
全てのゲームはこちら
https://w.atwiki.jp/karishooterwiki/pages/2080.html
三重県,鈴鹿市 住所三重県鈴鹿市西條町字馬渡381-2 交通近鉄鈴鹿線 三日市駅から南へ徒歩10分 料金不明 設置タイトル 営業時間9:30 ~ 24:00 駐車場 TEL059-384-0300 URLhttps //twitter.com/sw_skiptown 地図Google Yahoo! 備考2013年3月17日に閉店していました。 最終更新日2021年1月21日