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「二回戦突破、おめでとう」 「あ、ありがとうございます……」 特盛りカツ丼メガVer 靖子にメールで呼び出された先で、京太郎を待ち構えていた聳え立つ肉の山。 どうしてこんな物が東京にもあるのだろうと、京太郎は絶望しながらも箸を手に取った。 「……で、二回戦の内容だけど。凄いじゃないか、これ。まるで宮永照だな」 「は、はぁ……流石に、そこまでは。偶々引きが良かっただけですし」 「いや、誇っていいよ。運と言っても実力の内だ」 あの試合の後、こうも褒められたのは初めてかもしれない。 照れる京太郎だが、一口噛んだカツから滲み出る肉汁にこれでもかと言う程の現実を押し付けられた。 「……」 その様子を隣で眺める靖子。 横目で見る京太郎の印象は―― 直下判定 00~30 中々、やるようになった 31~70 しかし、どうにも腑に落ちない 71~99 じゅるり 中々、やるようになった 「中々、やるようになった」 彼に可能性を感じて拾った靖子だが、二回戦を一位突破で迎えるとは予想していなかった。 気紛れで拾い上げた石ころは何かの原石だったらしい。今では一番注目されている雀士と言ってもいい。 こうなったら最後まで付き合ってやろうじゃないか。 隣で懸命にカツ丼を口に放り込む京太郎を見つめながら、靖子はそう思った。 ――無意識にした舌舐めずりの意味は、まだ誰にもわからない。
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ちゃんと体重あるんだな、先輩――いや、当然だけど。 今日の「怜係」の役目として、怜をおんぶして廊下を歩く京太郎は、そんな感想を抱いた。 「いーつもすまんなぁ」 「それは言わない約束でしょう、ばーさんや」 「誰がばーさんや、誰が」 「いて」 ぺしり、と頭を叩かれる。 軽いツッコミ程度のもので痛みはちっとも感じないが、それでもいい音を響かせるのは関西人としての才能か。 「確かに、ウチ病弱やけど……」 「ほーら、またそういうアピール。部長に怒られますよ」 「あー、確かに竜華にどやされるのは勘弁やわ。どこのオカンやって感じだし……」 「だーれがおかんや、だれが」 噂をすれば影。 廊下の曲り角から、千里山麻雀部部長の清水谷竜華が姿を現した。 「げっ」 「露骨にイヤそうな顔すんのやめい……須賀くんも、あんま怜を甘やかさんといてな?」 「え、でも怜係ってそういうものだと先輩が……」 「……とーきー?」 「ひゅーっ」 「下手な口笛で誤魔化せると……?」 「京ちゃんあとヨロシク!」 「あっ!」 「待てやーっ!」 ハリウッドよろしく京太郎から飛び降りる怜。 そのまま先程の気だるげな様子をまるで感じないスピードで階段を降りて行く。 それを、鬼もかくやといった顔で怜を追いかける竜華。 「ぜんっぜん元気じゃねえか……」 尚、この後案の定すぐに息を切らした怜が竜華に捕まり。 ついでに、京太郎も一緒に説教を受けることになるが、それはまた別の話だ。 【1~30】 「京ちゃんと付き合うことになったんだっけか――おめでと、りゅーか」 「あは、ありがとな」 下校時刻となり、活動を終えた麻雀部。 夕日も沈み、すっかり暗くなった部室に、竜華と怜の二人だけが残っていた。 「で、話はそれだけ? 京くん待たせてるし、早く帰りたいんやけど」 「いや、京ちゃんのこと誘惑したのかと思ってな? そのやらしいりゅーかボディで」 「なんやそれ」 怜の台詞に、思わず吹き出す竜華。 「それに、『京くん』か。随分露骨になったもんやな」 「やめーや、そういうの――いくら京くんにアプローチしかけて、尽くスルーされとったからって。そんな身体張ったギャグはいらんよ?」 「っ!」 「『ウチもみんなに置いていかれていたから、京ちゃんの気持ちがよくわかる』――だなんて、よー言えたなぁ。京くんとは違ってズルしてるクセに」 「……そんなこと、ない! ウチはちゃんと、京ちゃんのことを思って」 「どーだか、京くんはちゃんと人のこと見てるからな。私を選んだのがその答えや」 「……!」 ぎりっ。 苦虫を噛み潰したような表情で、怜は歯軋りした。 「きょーちゃん」 「何すか――おわ、急に乗っからないでくださいよ」 「ええやん別に。減るもんでもないし」 「ま、まぁ……そうですが」 「仲ええなぁ、二人とも。ホント」 【31~60】 「怜ぃっ!!」 「なんや、やかましい。ウチ、病弱なんでそういうのは勘弁な」 「茶化すなやっ!! 一体どういうつもり!? 京くんは、ウチの彼氏なのに――」 「あー、バラしてもうたのか、京ちゃん。部長にはナイショって言ったのに。マジメやなぁ」 パタン。 竜華の怒りもまるで意に介さず、怜は呑気に読んでいた本を閉じた。 「言っとくけど、先に手を出してきたのは京ちゃんやで。まぁ、ウチも努力はしたけどな?」 「……ウソ」 「嘘のようなホントの話っちゅーヤツや。可哀想になあ、京ちゃん。かなり溜まっとった」 「ウソや、そんな話。聞きとうない」 「先に突っ込んできたのはどっちやねん。それに、竜華にも問題はあるんよ?」 「……」 「大方、高校生のうちはプラトニックな関係を――だなんて、考えてたんやろうけどな。京ちゃんも健全な高校生だったっちゅーことで」 「怜ぃ……っ!!」 激昂しながらも、図星を突かれた竜華は反論することが出来なかった。 以前の怜の発言に悔しさを感じ、そういった行為を『お預け』にしてきたのは事実だったからだ。 「『京くんはちゃんと人のこと見てる』……だっけか? まぁ、確かにその通りやね。自分ばっかの竜華よりも、ウチは京ちゃんのこと考えとる。だから京ちゃんもウチに甘えてくれたんやろうね」 「誘惑しといてぬけぬけと……!」 「私よりもずっと立派なもん持っときながら活かさなかったのは誰? そんな身体張ったギャグはいらんよ」 「このっ!!」 乾いた音が室内に響く。 頬を痛々しい赤色に染め、唇の端から血を流しながらも、怜は余裕の表情を崩さなかった。 「大体、なんやねん。付き合っときながらキスの一つもなしって」 「怜が! アンタさえいなければ!!」 「もう後の祭りやね。うち、絶対竜華に負けないもん貰ったもん」 怜の白い手が、そっと下腹部を撫でた。 「……ウソ、やろ?」 絶句する竜華に、怜は何も答えず。 ただ、優しく微笑んだ。 【61~98】 「ほら、そんな顔しないできちんと食べないと。お腹の子も保たんよ?」 「いーっぱい食べないとなぁ……。幸せやろ、怜の大好きなもの使ったからなぁ。うちもさっき摘み食いしたし」 「ああ吐くなんて勿体ない! なに考えとんねん!!」 「……ああそっか、産気づくと吐気が辛くなるんだっけ? ごめんなぁ怜、ほっぺ痛かったやろ?」 「あは、ありがとな。怜のそういうとこ、大好きやで」 「勿論、京くんの次に――やけど」 「……にしてもいいなぁ、赤ちゃん。私も頑張ってもらわないと」 「男の子なら竜太郎、女の子なら京華がいいかな?」 「なぁ、怜――どう、思う?」 【ゾロ目】
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真っ白な部屋。 俺と、ベッドと、名前も知らない女の子。 それだけしかない部屋の中。 いつからここにいるのかは分からない。 「お食事の時間ですよーぅ」 「ぁあ、う……」 ただ、目が覚めた時は既に全身が麻痺しているような状態で。 喋ることすら難しいのに自分が生きているのは、彼女のお陰ということしか分からない。 「ほーら、食欲が無くてもしっかり食べないと良くなりませんよー?」 スプーンと、流動食の入った皿を渡される。 「ぁ、ああ……」 腕が震える。スプーンを掬えない。 上手く口まで運びきれず、胸にベタベタ零れる。 「あー、仕方ないですねー」 そうすると、彼女は困ったように眉を八の字に曲げて、自分から皿とスプーンを取り上げる。 そのまま流動食を口に含むと、まるで鳥の親が雛に餌を与える時のように。 口から口へと、強引に流し込んでくる。 「……ぷはっ、まだまだありますからねー。おかわりしますー?」 いつもいつも、こうやって。 排泄の世話すら、嫌な顔一つせず。 まるで、自分がいないと生きていけないと、刷り込ませるように。 「早く良くなりますように。私も応援してますからー」 それが、いつになるかは分からない。 だけど、例え俺が外に出られる日が来るとしても。 この人は、いつまでも側にいるような気がした。 【献身】